PDF版 - 日本生態学会

The 60th Annual Meeting of the Ecological Society of Japan (ESJ60) 第 回 日本生態学会大会講演要旨集
2013 年 3 月 5 日(火)∼ 9 日(土)
グランシップ(静岡県コンベンションアーツセンター)
日本生態学会大会企画委員会
日本生態学会第60回大会実行委員会
学 会 ⻑
松⽥ 裕之
⼤ 会 会 ⻑
増澤 武弘
企画委員⻑
陀安 ⼀郎
実⾏委員⻑
⼩南 陽亮
第60回 日本生態学会大会
講演要旨集目次 大会の講演要旨は携帯電話でも閲覧できます
http://www.esj.ne.jp/meeting/i-abst/index.html
●第 17 回宮地賞・第 6 回大島賞・第 1 回鈴木賞受賞記念講演...........................1
●シンポジウム・企画集会 ................................................................................................17
●一般講演・口頭発表
............................................................................................................69
●一般講演・ポスター発表
...................................................................................................139
●高校生ポスター発表.........................................................................................................367
日本生態学会第60回大会実行委員会
〒 422-8529 静岡市駿河区大谷 836 静岡大学教育学部
http://www.esj.ne.jp/meeting/60
第 17 回 日本生態学会宮地賞受賞記念講演
グランシップ中ホール(A 会場)
3 月 8 日(金)12:00 ~ 13:15
1
2
植物揮発性物質が駆動する生物間相互作用ネットワークの解明
塩尻 かおり(京都大学 白眉センター)
植物は食害されると誘導反応を引き起こす。その誘導反応の一つに揮発性物質(匂い)の放出がある。
演者は、この誘導性の匂いが様々な生物に幅広く影響を与えていることを実証してきた。そして、食
物網は、植物の匂いに媒介された生物間相互作用に支えられたものであることを示唆した(右図)。以下、
主な成果を述べる。
(1)匂いが媒介する植物と昆虫の相互作用
(図の中層):植物-植物を食べる虫 2 種-
その虫に寄生する寄生バチ(天敵)2 種の 2
つからなる食物連鎖において、虫の食害を
受けた植物から誘導的に生産される匂いは
食害する虫の種に応じて異なっており、そ
の虫の天敵を特異的に誘引することを示し
た。さらに、同時に複数の植食者が食害し
た場合におこる匂いの変化に伴う、天敵の
行動変化を明らかにした。そして、植食者
はそれらの相互作用を考慮して産卵場所を
選択していることを明らかにした。これらの結果に基づき「植物揮発性物質が媒介する生物間相互作
用ネットワーク」という概念を提出し、これまでの生物間相互作用研究・群集生態学に新たな視点を
与えた。
(2)匂いが媒介する植物と植物の相互作用(図の下層):被害植物からの匂いが隣接する健全な植物の
誘導反応を引き起こすという現象(植物間コミュニケーション)を世界に先駆けて、野外で実証した。
さらに、同一個体内においても、匂いを介したシグナル伝達が使われていることを明らかにした。植
物個体の一部に食害あるいは病気などの感染が起きた際に、全身的な抵抗性が成立する。これまでの
研究では、植物体内のシグナル伝達が全身抵抗性を引き起こすと言われてきた。本実証は、植物での
全身抵抗性は体内のシグナル伝達だけではなく匂いを介したものもあることを示した。また、個体ご
とに匂い成分の構成比が異なることに注目し、コミュニケーションは同一遺伝子個体(クローン)間
で他個体(異なる遺伝子個体)間よりも強いことを実証した。これは、植物が自己と他個体とを香り
情報で区別できることを示唆しており、植物の自己認識メカニズムの研究の新たな視点となるもので
ある。
現在はこれらの研究成果、視点をもとに、生物多様性の維持における植物の匂いの重要性の解明と、
植物の匂いを利用した農業技術開発に取り組んでいる。
3
大規模長期生態学のすすめ
中村誠宏(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)
新たな研究テーマをどうやって探せばいいのか?若手の研究者は常々悩んでいる.新たな研究は奇
跡的に浮かんだアイデアから生まれることは稀で、既存のデータや考え方をベースにして生まれると
言われているが、どうしたらいいのだろう?私たちは研究テーマを考える際に研究論文を読むが、そ
れだけでは良いアイデアに繋がらない.論文には研究の失敗例やそれを実行する際の苦労は載ってい
ないし、また隠れているまだ産声を上げていない研究のシーズもなかなか見あたらない.なぜなら、
ほとんどの論文は完結した成功例しか書かれていないからである.しかし一方で、たくさんの人(研
究者)に出会って彼らから生の声を聞き、他人の経験を自分のモノにする機会があったならば、実現
性がありかつ独創的な研究テーマが見つかるかもしれない.大規模長期生態学は、
「人と出会う場」(写
真 1)、そして「研究をする場」を提供してくれる.そのことにより、一人ではできなかった新たな研
究に取り取り組むことができる.
研究者が一人で研究テーマを考え抜くことはもちろん重要なことではあるが、一方で「人との出会い」
も研究テーマを考える際にとても重要なことである.この講演では、新たな研究を考える際にこの両
方を意識して進めてみてはどうだろうか?ということを提
案する.そこで、講演者がこれまで大規模長期生態学のア
プローチによって行ってきた研究を紹介する.大規模長期
生態学のキーワードとして、長期観測、研究サイト・ネッ
トワーク研究、大規模操作実験の 3 つを挙げる.長期観測
とネットワーク研究から時空間的パタンが検出でき、そこ
から仮説をたてて大規模操作実験による仮説検証型の研究
に繋げていくことができる.
講演者は環境省主導で行っている「モニタリング 1000 プ
ロジェクト」や JaLTER(日本長期生態学研究)に関わる研
国際長期生態学ネットワーク会議(ILTER
会議)の苫小牧ケクスカーションの様子.
この様な会議で様々な国の研究者と出会う
ことができる.
究者や技術職員との出会いから様々な研究に巡り会えた.
たとえば、長期観測からドングリの豊凶パタン、ネットワ
ーク研究からブナ葉の食害の緯度勾配パタンが見えてきた.
それらパタンと温度との因果関係(メカニズム)を検証す
るため、林冠木(ミズナラ、カンバ)を暖める大規模操作
実験を行っている(写真 2).これらは一人の研究者だけで
は得られない、大規模長期生態学による共同研究だからこ
そ得られた成果である.このように個人経営から脱去する
ことで新たな研究テーマへの道が開けるのかもしれない.
4
電熱ケーブルによるミズナラ林冠木の土壌
の温暖化実験.土壌の温暖化により雪が解
けている.
多様な種間関係が生物多様性を支える
舞木昭彦(龍谷大学理工学部環境ソリューション工学科)
地球上には多種多様な生き物たちが生息している。しかし、その生物の多様性がどのように維持さ
れているのかは、いまだ解き明かされてない生態学に残された大きな謎の一つである。わたしは、こ
れまで見過ごされてきた「生物種間相互作用の多様性」が生態系を支えるうえで鍵となっている可能
性を主張する。
1972 年に発表されたロバート・メイ博士の理論によれば、自然界で見られるような複雑な生物群集
は維持されにくい。しかし、明らかに現実の生態系では非常に多くの生物種が複雑な相互作用を保ち
つつ共存している。この理論と現実のギャップは、その後数 10 年にわたり生態系の維持の仕組みを解
明しようとする膨大な研究の発展へとつながった。食物網の構造を個体群動態の安定性と結び付ける
研究がその代表といえる。それらの多くは、メイの理論には仮定されていない現実的なネットワーク
構造を考慮することで多種共存を説明しようとするものである。また、近年では食物網研究と同じよ
うに、共生関係の群集ネットワークについても盛んに研究され始めている。しかし、複雑な群集が維
持されやすいことをはっきりと示す研究はこれまでほとんどない。
従来の研究の共通点は、ある特定の種間相互作用からなる群集に注目している点にある。しかし、
自然生態系では多様な生物種が存在するだけではなく、それらの生物種の間に多様な関係が成り立っ
ている。人間社会でもそうであるように、敵対・競争・協力関係が自然生態系の中にも存在し、それ
らは一つの群集内で混在一体となっている。わたしは、そうした多様な種間相互作用が群集の維持と
どのような関係にあるのかを数理モデルにより解析した。主に 2 つのことがわかった。[1] 群集内で異
なる相互作用タイプが偏りなく混ざっていることで群集は維持されやすい [2] 異なる相互作用タイプが
偏りなく混ざっていると、種数が多くかつ関係を結んでいる種ペアの数が多いほど、つまり複雑な群
集ほど、維持されやすくなる。これらの結果は、
「多様な生物種と同時に多様な種間関係が存在してこそ、
生態系が支えられる」ことを意味しており、生物多様性それ自体の持つ性質が、自身を支える鍵とな
っていることを示唆している。この成果から生態学に新しい視点を提供できればと思う。
5
6
第 6 回 日本生態学会大島賞受賞記念講演
グランシップ中ホール(A 会場)
3 月 8 日(金)13:15 ~ 14:05
7
8
樹木の成長と分布に対する温暖化の影響評価
-中部山岳における取り組み-
高橋耕一(信州大学・理学部)
地球温暖化の植生分布への影響が懸念されている.日本は山岳環境のため植生は標高傾度にそって
変化する.中部地方では標高が上がるにしたがい,落葉広葉樹林から常緑針葉樹林,そしてハイマツ
林へと変化する.標高傾度にそった植生変化は温度と関係しているため,温暖化は植生分布を変化さ
せる可能性がある.私はこの影響評価を行うために,中部山岳の乗鞍岳(標高 3026m)において研究
を行なってきた.
まず標高傾度(800 ~ 3026m)にそった植生構造を詳細に調べた.低い標高では樹木の幹には風雪な
どによる物理的ダメージを受けていた個体はなかったが,高木限界付近から高木限界(2500m)にかけ
て物理的ダメージのあった個体の割合が増加していたことから,風雪による撹乱が高木限界の形成に
重要であることが示唆された.
過去の樹木の成長と気象の関係から樹木の成長に対する気象条件の影響を標高傾度にそって調べた.
その結果,冷涼な高い標高ほど,夏の気温が高いと成長が増加していたため,温暖化は高い標高の樹
木の成長を高めることが示唆された.
さらに,過去の成長 - 気象の関係から統計モデルを構築し,これに大気大循環モデルによる気候変化
予測シナリオを代入することで,温暖化の樹木の成長に対する予測を行い,高い標高ほど温暖化によ
って成長が増加する傾向が予測された.
もし高木限界や森林限界の形成の主要因が低い気温による成長阻害であれば,発達した樹林帯から
高木限界にかけて高木種の樹木の成長は減少することが予測される.調べた結果,樹林帯の上部から
高木限界にかけて,標高差わずか 150m の間で樹高は約 1/3 に大きく減少するものの,成長率は減少し
なかった.一方,冬期の強風などの撹乱によって死亡率は増加していたことから高木限界の形成には
低温よりも撹乱が重要であることが示された.つまり,たとえ樹木の成長が温暖化によって増加しても,
撹乱による死亡率が高いために高木限界の標高は上昇しないことが示唆された.
温暖化によって標高傾度にそった植生分布は上昇すると考えられてきたが,少なくとも高い標高域
の植生はそうはならないことが,野外調査に基づいた研究から明らかになった.植生への温暖化の影
響予測を行うためには,更新動態の諸過程にどのように気象条件が影響しているかを解明する必要が
あるだろう.
9
アリと共生するアブラムシのコストとベネフィット
八尾 泉(北大院・農・昆虫体系学教室)
共生は,本質的にはプラス-プラスの関係である。しかし,共生関係の構築には,一方の(あるい
は両方の)パートナーに制約が生じるために,系統的に近縁の関係にありながら,あるものは共生関
係を結び,あるものは共生しないという多様性が多くの生物群で見られる。
アブラムシは,植物の篩管液を吸汁する植食性昆虫であり,一定時間の吸汁後,お尻から「甘露
(Honeydew)
」という液体状の排泄物を出す。甘露には糖やアミノ酸が含まれており,周囲の昆虫を引
きつける蜜のような役割を示す。アリは,甘露を目当てにアブラムシのコロニーを訪れ,アブラムシ
のお尻から直接採餌したり,または葉に落ちたものをなめたりする。アリがアブラムシの周囲にいると,
テントウムシなどのアブラムシの捕食者は撃退され,アリはアブラムシのボディーガードのような役
割を担っている。
アリは優秀なボディーガードであるが,アブラムシの仲間でアリと共生する種は意外に少ないこと
が報告されている。アブラムシがアリをボディーガードとして雇うには,いくつかのハードルを越え
なければならないからである。そのハードルの一つに,アリと共生すると,アブラムシの体サイズや
胚子数が減少するという「アリ随伴のコスト」が挙げられる。さらにアリ随伴のコストが生じる生理
的要因として,随伴アリがいるとき・いないときで,アブラムシの甘露排出行動と甘露内化学成分が
可塑的に変化することも明らかになってきた。
本講演では,北海道石狩市の海岸草原に分布するカシワ上で見られる Tuberculatus quercicola (カシワ
ホシブチアブラムシ)と随伴アリの Formica yessensis (エゾアカヤマアリ)の共生関係に焦点を当て,
野外操作実験に基づいたアリ随伴のコストとベネフィットそして甘露分析について説明する。
アリ随伴のコストの発見は,なぜアリと共生するアブラムシは少ないのか?という問いに対する一
つの答えとなり得るだろう。さらにアリは形態形質だけではなく,アブラムシの移動・分散にも影響
を与え,その結果としてアリと共生するアブラムシの集団遺伝構造はメタ個体群的な特徴を示すこと
が最近明らかになった。アリと共生するアブラムシと,アリに頼らないアブラムシのそれぞれの生き
方を探索することは,多くの生物で見られる共生関係の深遠な理解につながっていくだろう。
10
第 1 回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)
受賞記念講演
グランシップ中ホール(A 会場)
3 月 8 日(金)14:05 ~ 14:50
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化学物質の " 安全 " 濃度を野外の生物群集から推定する
岩崎 雄一(東京工業大学大学院理工学研究科)
人為的な活動によって環境中に排出される化学物質が生物・生態系に及ぼす影響(生態リスク)を
低減することは,環境基準の設定が例として挙げられるように環境政策上の重要な課題として扱われ
ている。このような政策的要求を受け,化学物質の生態リスク評価は室内毒性試験から得られる個体
の生存や繁殖等への影響を援用することで行われている。限られた時間内に観察される単一の種への
影響を評価する室内試験は比較的安価で高い再現性を持つ一方で,室内試験結果から野外の個体群や
群集への影響を予測することが困難であることは古くから指摘されている。
そこで,私はこれまでに,水生生物の保全を目的とした水質環境基準が設定された亜鉛に着目し(淡
水域の基準値:30 μ g/L)
,この基準値前後での野外影響を明らかにするために,休廃止鉱山周辺の河
川を対象として亜鉛濃度が底生動物群集に及ぼす影響を調査してきた。その結果,基準値の 2 ~ 3 倍
程度の亜鉛濃度は底生動物群集の種数に顕著な影響を及ぼさないことが示唆された(図)。環境基準の
目的が水生生物の個体群の存続であるという観点から,底生動物の種数をその指標と考えた場合,本
研究の結果から基準値は予防的であることが示唆される。また,同様に英国,米国,日本の金属汚染
河川における約 400 地点での野外調査結果を用いて,亜鉛,銅,カドミウム,マンガンの金属が底生
動物の種数に顕著な影響を及ぼさない閾値濃度(安全濃度)を推定した。得られた推定値は,信頼区
間は大きいものの,各国の基準値等と重複しており,野外調査データからそれら基準値の信頼性を補
完する結果を提供できた。
化学物質の生態リスク評価の分野において,野外調査に対する評価は高くない。もちろん,野外調
査も万能ではないが,以上の研究結果が示すように,慎重な調査計画や適切な統計手法を用いることで,
室内試験結果を基にする生態リスク評価結果の信頼性を評価・補完できる情報を提供できる。室内毒
性試験結果から自然条件下における生物・生態系への影響を正確に予測することが困難であることを
考えれば,野外の生物群集の応答を調査・モニタリングしていくことは実質的に効果的な管理を実施
していく上で不可欠であろう。
13
イトトンボの種内多型の進化とその副産物
高橋佑磨(東北大・生命科学)
種内の遺伝的多型は、野外観察のみで遺伝子頻度の時空間的変異を定量化できるため、進化学や生
態学において古くから盛んに研究されてきた。これらの研究が自然選択の理解をはじめ、多様性の維
持機構や種分化の初期過程などの理解に大きく貢献してきたことは言うまでもない。しかし、多様性
の維持機構のような一般的な機構でさえ、決定的な実証例は驚くほど少ない。因果性を担保できない
断片的な状況証拠は、選択の機構と一対一で結びつくものではないためである。
トンボ目では雌にのみ遺伝的な多型を示す種が高い割合で存在し、雄に似た表現型をもつ型と雄と
は異なる色彩を呈する型が共存する。このような雌の多型は、繁殖を巡る雌雄の利害の対立に対する
雌の対抗適応として生じ、負の頻度依存選択によって集団中に維持されると考えられている。私は、
雌に 2 型を生じるアオモンイトトンボにおいて多型の進化・維持機構の実証を試みた。本研究では、
多角的検証により、選択の引き金となる行動的基盤と選択の結果としての遺伝子頻度の動態との因果
性を一直線に結びつけることで負の頻度依存選択の検証を試みている。
雄の配偶者選好性を調べたところ、各個体は自信の交尾経験に依存して数時間だけ選好性を偏らせ
ることがわかった。集団レベルでは、交尾経験後の雄において多数派の型を選好する割合が一時的に
増加した。結果として、多数派の型は雄のハラスメントによって産卵や採餌を妨害されやすくなり、
少数派の型の相対適応度が高くなった。野外個体群では、世代を通じて型比が周期的に振動している
ことが観察された。したがって、本種の多型は頻度依存的なハラスメントによって生じる少数者有利
の効果により集団中に維持されているといえる。分子生態学的解析を行なったところ、色彩遺伝子は
中立遺伝子と比べて集団間変異が著しく小さく、色彩遺伝子に対する負の頻度依存選択の存在が裏付
けられていた。一連の研究は、複数の状況証拠の因果性を担保しながら、多様性の維持機構としての
負の頻度依存選択を実証した数少ない例である。
さらに本研究から、種内多型が進化する過程において個体の平均適応度の増加を通じ、個体群動態
が変化している可能性が示唆された。進化的変化の副産物として生じる人口学的動態へのインパクト
の理解は、生物の分布や豊富さ、絶滅リスクの理解や、種多様性の進化を理解する重要な発見をもた
らすと期待される。
14
熱帯林の土壌酸性化と植物・微生物の適応戦略
藤井一至(森林総合研究所)
森林のバイオマス生産は水と土壌養分という、しばしば両立しない要因に依存している。降水量の
多い熱帯林では風化、栄養塩の流亡を通して“湿潤地土壌の癌”とも言える土壌酸性化が進行し、バ
イオマスの低下を引き起こすことが知られてきた。しかし、土壌中のプロトン収支を観測したところ、
強酸性土壌においてもなお、植物・微生物は栄養塩を吸収するために積極的に酸(有機酸・炭酸など)
を放出し、土壌を酸性化していることを発見した(図中①)。熱帯強酸性土壌という栄養塩欠乏条件に
対する植物・微生物の様々な適応機構の存在によって栄養塩循環が促進され、熱帯林の高いバイオマ
ス生産が維持できることが示された。
土壌の酸性化は植物へのリン供給量を減少させること
が知られてきたが、特定の樹木は根から有機酸を放出す
ることで土壌中の難溶性リンを獲得できる。キナバル山
の熱帯山地林では、樹木根がリン欠乏土壌において多量
の有機酸を放出していることを解明した(図中②)。有機
酸は微生物によって速やかに分解されるため寿命は数時
間に過ぎないが、リン欠乏土壌では分解を上回る量の有
機酸放出によって根のごく近傍の“根圏”土壌からの養
分吸収を効率化していた。岩石・土壌の風化程度(リン
の供給量)および低リン土壌環境への適応機構の有無が
植生分布に影響するだけでなく生態系の炭素フローを制
御し得ることが示された。
酸性条件では一般に微生物活性も低下することが知られているが、白色腐朽菌は酸性土壌で特異的
に有機物分解を促進する酵素を生産していることを発見した。酸性の腐植堆積層において高い活性を
示すリグニンペルオキシダーゼは植物リター中の難分解性リグニンの溶解を進め、土壌水中へ有機酸
を含む溶存有機物を多量に放出する。従来、無機イオンが主体と思われてきた熱帯林の栄養塩循環に
おいて、溶存有機物もまた栄養塩循環の駆動力となり、養分流出を抑制する機能を果たしている。
熱帯土壌に代表される栄養塩の欠乏条件における植物・土壌の多様性及び相互作用が果たす物質循
環機能を解明し、将来の気候変動や攪乱(火災・耕地化)に対する生態系の応答予測や植生・土壌の
多様性・地域性に配慮した生態系管理技術に応用したい。
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日本生態学会 60 周年記念シンポジウム
日本生態学会の 21 世紀の歩みと
ロードマップの提示
グランシップ中ホール(A 会場)
3 月 6 日(水)9:30 ~ 12:30
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日本の長期生態研究確立までのやや長い道のり
― JIBP から JaLTER まで ―
中静 透(東北大学)
長期生態研究は、1)進行の遅い現象、2)希でエピソディックな現象、3)変動の大きな現象、4)
複雑な相互作用をもつ現象などで特に重要といわれているが、近年は地球環境問題の観測としても、
重要な意味をもつ。現在では国際的ネットワークもあり、日本にも優れた長期生態研究サイトが整備
されてきたが、ここに至るには 1970 年代後半からのやや長い道のりがあった。1964 年から 1974 年の
10 年間続いた IGBP(国際生物学計画)は、日本でもとくに生態系の生産力の推定などで大きな成果を
あげた。また、この研究のためにいくつかの研究サイトが整備されたが、残念なことにこれらの研究
サイトの多くは IBP で築き上げた研究体制を維持できなかった。一方、米国では 1980 年に US LTER(長
期生態研究ネットワーク)が結成され、IBP で基礎ができた生態研究をさらに発展させる方向性を明
確に打ち出した。さらに、米国内での体制を整えた後、地球規模での問題解決の重要性から、1993 年
に米国以外の国にネットワークを広げ、ILTER へと発展させた。日本にも US LTER や ILTER からの参
加の打診があり、アジア地域のネットワークづくりにも貢献したが、国内体制の整備は遅れ、日本の
LTER 組織が正式に発足したのは 2006 年、ILTER に加盟したのは 2007 年になってからであった。現在
は ILTER でも積極的な役割を担っている。ただ、米国では NEON(米国生態観測ネットワーク)がさ
らに大規模な形で 2012 年から動き始めており、こうした先進的な研究に対して日本がどのような独自
性を打ち出してゆくのかが大きな問題となっている。
19
日本生態学会の世界展開-特に、アジアへの働きかけについて
中野伸一(京都大学)
日本生態学会(ESJ)の世界展開は、1960 年代から始まる。1957 年に国際地球観測年が開催され、
1965 年には国際生物学事業計画(IBP)が発足した。ESJ は、1969 年には IBP を促進するために陸水生
物学に関する共同利用センター化の検討を始めた。これが現在の京都大学生態学研究センター(CER)
創設につながるのだが、CER 創設の 1991 年には DIVERSITAS(生物多様性国際共同研究計画)も設
立された。1992 年に、CER が窓口となって日本として提案した「共生生物圏:生物多様性を促進する
生態複合」が国際生物科学連合(IUBS)、環境問題科学委員会(SCOPE)
、UNESCO に採択されたこ
ともあり、生物多様性研究を日本が主導的に進めるために、DIVERSITAS に積極的に関わることが検
討された。こうして発足したのが西太平洋アジア生物多様性ネットワーク(DIWPA)である。ESJ は、
DIWPA 発足後はその努力をよりアジアに向けてきたのかもしれない。2003 年には、東アジア生態学会
連合も設立されている。DIWPA は、これまでに数多くの国際会議を開催し、国際野外生物学コースに
よるキャパシティ・ビルディングも行ってきた。また、基準化された手法でサイト横断的観測を行う
DIWPA - IBOY(国際生物多様性観測年)も行った。さらに、ニュースレターや本の出版も行っている。
ESJ のアジア展開として近年顕著なものは、アジア・太平洋地域生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)
である。AP-BON は、地球規模での生物多様性観測ネットワーク(GEO-BON)と連携しながら、これ
までに国内外で 5 回の国際ワークショップを開催し、昨年、アジアの生物多様性に関する本も出版した。
今回は、DIWPA と AP-BON の活動を振り返りながら、生物多様性研究に関する他の活動との関わりや、
将来的な展望を紹介する。
20
Linking community dynamics and nutrient cycling: the role of competition
MIKI, Takeshi (National Taiwan Univ.)
Nutrients such as nitrogen, phosphorus, and iron are essential resources for primary producers (plants and
phytoplankton) and microbial decomposers (bacteria and fungi) in ecosystems. The theories of resource
competition and ecological stoichiometry address that the availability of these resources affects the population
dynamics and interspecific competition, structuring the community of plants and microbes. These theories predict
how ecosystem properties such as productivity and nutrient cycling determine the community properties such as
species richness and species abundance distribution. At the same time, these theories also provide mechanistic
insights into how community properties can regulate ecosystem properties (i.e., biodiversity-ecosystem function
relationship). One of the emerging directions in community ecology is to provide a practical solution to other
fields of ecosystem sciences (e.g. macroecology and global ecosystem modeling) for more quantitative description
of the roles of (1) resource competition and other-interspecific interactions, (2) biodiversity, and (3) feedback
between community dynamics and nutrient cycling, in structuring ecosystem. This will help to better project the
dynamics of populations, communities, and ecosystems in a directionally changing world.
21
Integrations of modeling ecosystem services and land use changes
LIN, Yu-Pin (National Taiwan Univ.)
Ecosystem services are the benefits that humans derive from dynamics of ecosystems which strongly depended
on changing land-use/cover patterns locally, regionally and globally. Consequently, the land-use/cover patterns
may be responded to the dynamics in the ecosystems and their services. Therefore, to ensure sustainability of
ecosystem services and environmental resources, it is necessary to understand and quantify changes of land use/
cover patterns and ecosystem services induced by complex interactions between natural processes and social
drivers. However, numerous land-use/cover models have been widely studied and developed to simulate patterns
and consequences of land-use/cover changes for various purposes. Recently, advanced models for predicting
ecosystem services are rapidly being developed and upgraded by multidisciplinary researchers. Accordingly, to
develop user-friendly integration models of land-use/cover and ecosystem services using technical base tools such
as models in geographic information systems (GIS) becomes an ensure issue for effectively evaluating scenarios
for decision-makers in sustaining ecosystem services. Therefore, the aims of this study are to (1) review and
evaluate land-use/cover models, (2) review and evaluate ecosystem services models, (3) present one case study in
integrating a land use model and an ecosystem services model in GIS platform.
22
Disaster resilience and coastal ecology
NAKAOKA, Masahiro (Hokkaido Univ.)
The coastal areas of northeastern part of Japan were heavily impacted by the recent earthquake and tsunami on
March 11th, 2011. How can ecologists contribute to enhance resilience of coastal ecosystems, and help local
human societies to rehabilitate after the disaster? As for natural science, we can quantitatively assess impacts of
the catastrophic event by comparing ecological data taken before and after the event. For example, based on the
data taken by “Monitoring Site 1000 Coastal Ecosystem Project”, we revealed that the impacts of tsunami varied
greatly among different localities, different habitat types, and even among different depths within a single habitat.
The obtained knowledge can be used for evaluating which parts of coastal ecosystems are sensitive to catastrophic
disturbances like tsunamis, and for estimating their recovery speed. A further challenge to ecologists is to develop
a way to effectively utilize our science-based knowledge for decision-making processes of coastal human
communities and societies, such as by making rehabilitation plans of coastal biodiversity, and by promoting
effective restoration projects of marine resources. Some ongoing attempts include to plan marine protected
areas (national parks) to enhance recovery of largely damaged habitats (such as seagrass beds) from remaining
local populations, and to establish marine aquaculture systems considering metapopulation structure (larval
connectivity) of target populations.
23
24
シンポジウム
S01
先端技術で野外生態学を革新する: 「誰でも次世代シーケンス」の
時代で独自路線を歩むために
S02
生態学的リスクからみた原発と再生可能エネルギー
S03
Plant-insect responses to global environmental changes: from physiology to
evolution
S04
植生のリモートセンシング
S05
Scaling up the impacts of resource pulses from individuals to ecosystems:
toward theoretical advances of temporally-dynamic community ecology
S06
気候変動に対する土壌生態系応答 −グローバルおよび地域スケー
ルにおけるモデル予測と現場研究のギャップを探る−
S07
Impacts of overabundant deer on ecosystems and feedback effects on their
life-history
S08
Winter climate change: its significance in plant-soil system
S09
多面的機能に配慮した水田の自然再生
S10
標高傾度の中にある、隠れた遺伝的多様性
S11
絶滅回避の進化研究の展開
S12
生物のクローン性:クローン増殖による分散と局所環境変化への応
答からその有効性を考える
S13
小宇宙としての南極湖沼生態系:極限環境からつなげる現象と理論
25
26
S01-1
S01-2
趣旨説明: 「情報革命」のなかで野外生態学者だからこ
ツールの融合で挑む植物ー土壌微生物の相互作用研究:
そできること
バイオマーカー、CARD-FISH、メタゲノム
東樹宏和(京大・地球環境)
潮雅之(京大・生態研センター)
趣旨説明ではまず、早足で進む解析技術の進歩についてレビュー
する。次世代シーケンシングは国内外の生態学研究室において急速
に普及して来ており、生態学における標準的なツールとして定着し
ようとしている。こうした現状にあって次世代シーケンシングを始
めとする先端技術で生態学に新しい風を吹き込むには、技術の特性
を知悉するだけでなく、生態学者としての知識と経験を総動員して
将来を展望する必要がある。本シンポジウムでは、研究対象と研究
手法の面で多岐にわたる講演者が話題提供を行う。個々の講演を楽
しんでいただく前に、今回話題に上る先端技術が何を生態学者に提
供してくれるのか、企画者の視点からの展望を述べたい。
森林において植物 - 土壌間の相互作用は、樹木群集の組成や森林
生態系内の物質循環を規定する重要な要因と考えられてきた。特に
ここ数年、Nature, Science, PNAS といった主要な学術誌で植物 - 土壌
間の相互作用と森林樹木の多様性に関する研究が相次いで発表され
たため、この相互作用が一層注目を浴びている。それらの研究によ
ると、植物 - 土壌間の相互作用を駆動しているのは土壌に棲んでい
る微生物群集である可能性が高く、そのため、森林生態系において
土壌微生物を調査・研究することが森林生態系動態の理解に大きく
貢献すると考えられる。しかしながら、土壌微生物の多くは肉眼で
捉えることが出来ず、かつ著しく多様性が高いため、マクロな生物
を相手にする生態学に比べ対象生物の検出方法が研究を制限するこ
とが多い。
本発表では、講演者が今まで行なってきた熱帯山地林やツンド
ラでの植物 - 土壌相互作用に関する研究を紹介しながら、どのよう
な研究手法をどのように用いてきたかを、その利点と不利点を挙げ
ながら解説したい。まず、熱帯山地林で行なってきた研究では、微
生物の脂質バイオマーカー、土壌酵素活性分析について紹介する。
次にツンドラ生態系の研究を紹介し、狙った分類群の微生物を顕
微 鏡 下 で 染 め 分 け る Catalyzed reporter deposition fluorescence in situ
hybridization (CARD-FISH) について解説する。また、現在まさに進
行中である環境微生物群集(細菌+古細菌)のメタゲノム解析に
ついても予備的な結果を示したい。最後に、植物 - 土壌間の相互作
用研究において未解決かつ重要な問題を紹介し、バイオマーカー、
CARD-FISH、メタゲノムといったツールを組み合わせることでそれ
らの問題をどのように解くことができるか、具体的な展望を述べたい。
S01-3
超並列 DNA シーケンサ対応網羅的メタゲノミックバー
コーディングシステム Claident の設計と実装
S01-4
ータベースの再構築と定量方法の開発
田辺晶史(京大・地球環境)
鏡味麻衣子(東邦大・理)
湖沼・海洋に潜む多様な菌類の検出と機能の定量化:デ
「次世代シーケンサ」と呼ばれているいくつかの超並列 DNA シー
ケンサは、生物学の様々な分野で革新をもたらしている。生態学に
おいても、RNA-Seq や RAD マーカー法によって、様々な表現型形
質の遺伝的基盤の解明などに役立っている。今のところ、このよう
な還元主義的研究を除けばその影響は限られているが、今後は移出
入量や有効集団サイズの推定などにも応用が進んでいくだろう。
群集生態学においても、超並列 DNA シーケンサは革命的な進展
をもたらす可能性を秘めている。というのも、
微生物群集から得た「メ
タゲノム」を超並列シーケンサで解読し、DNA バーコーディングと
組み合わせれば、かつてない規模のデータを容易に得られるように
なるからである。従来は大型生物群集で行われてきた仮説の検証が、
「数桁」大きなサンプルサイズ・反復数のデータによって行えるよう
になることで、議論に決着がついたり、これまで検証できなかった
仮説が検証可能になるかもしれないのである。このほか、新奇微生
物の探索やプランクトン幼生の局在調査、糞メタゲノムに基づく食
性の推定にも大きく貢献するだろう。水生生物であれば、溶存 DNA
断片から大型動植物の生息調査も可能になるかもしれない。
このように大きな可能性を持っている網羅的メタゲノミックバー
コーディングだが、実際に生態学の研究に応用するには様々な技術
的問題が残っている。これらは「バイアス」「定量性」「誤同定・同
定不能」に集約できる。本講演では、演者が開発している網羅的メ
タゲノミックバーコーディングシステム Claident における上記問題
への対処方法を概説し、その上で現在の超並列 DNA シーケンサを
用いた網羅的メタゲノミックバーコーディングの可能性と限界につ
いて論じる。
陸上と異なり、水界生態系の食物網や物質循環では菌類は無視さ
れてきた。近年、分子生物学的手法を用いた解析により、湖沼や海
洋において多様な菌類の存在しうる可能性が明らかになりつつある。
また、ツボカビを介した物質流 (Mycoloop) を含め、菌類が水界の物
質循環において担う機能の重要性も見えてきた。しかし、野外にお
いて菌類の生物量と機能を評価する万能な方法は存在しておらず、
未だ定量化は困難を極める。特に、種名と対応した DNA データの
登録数が圧倒的に少ないため、次世代シークエンサーを用いて DNA
解析を行ったとしても、環境中から得られた DNA 情報だけでは、ど
のような機能をもつ種がどれだけいるのか把握しきれないだろう。
菌類は、ウィルスやバクテリアに比べ大きいため、微生物のなか
では観察は比較的容易である。培養も不可能ではない。そこで、私は、
培養・観察といった古典的手法と DNA 解析の併用により、種名と
DNA 情報の合致したデータベースを再構築し、機能の評価も含めた
多様性解析を行いたいと考えている。データベース構築に際しては、
顕微鏡で観察できるような種は Single-Cell PCR 法を適用し、観察
が困難な種については様々な釣菌法・培養法により検出することか
ら始めたい。ある程度データベースができれば、次世代シークエン
サーを用いて解析した場合にも、検出された菌類の分類群と機能(分
解・寄生・共生など)を把握した形で多様性を評価できると考えて
いる。また、菌類の生物量や機能の定量化については、FISH 法、定
量 PCR 法にくわえて、抗体(モノクローナル抗体)用いた手法の適
用を試みている。本講演では、最先端の分子生物学的手法と共に、
観察・培養といった古典的手法を併用することで、野外では困難を
極める微生物の機能の定量化がどの程度可能になるのか、議論した
い。
27
S01-5
S01-6
土壌共生菌がつくりだす 森林の多様性: 大規模移入操
タイトル : 先端技術(環境 DNA,次世代シーケンス)を
作実験と最先端分子同定技術の融合
使って生態学を変えていくには?
門脇浩明(京大・地球環境)
土居秀幸・高原輝彦(広島大・サステナセンター)
・源利文(神戸大院・発達)
同じ餌や生息場所を利用する植物の種と種の間では、競争が起こ
る。理論的には、競争能力に差があれば、かならず強い種が弱い種
を絶滅させる。しかし、森林における植物の多様性は、そうした弱
者切り捨ての原理だけでは説明できないほど多様であり、安定であ
る。近年、このパラドクスを解決する新しい仮説として、地下に棲
んで植物の根と共生する菌根菌が植物群集の共存に貢献している可
能性が指摘されている。すなわち、地下の菌根菌が織りなすネット
ワーク (common mycelial network) が異なる植物個体の根どうしを地
下菌糸で物理的につなぐことで、植物間の競争を緩和する。こうし
た競争関係 ( 負の効果 ) と共生関係 ( 正の効果 ) の調和こそが緑豊か
な森林を形作っているのかもしれない。現在、発表者らは、この「菌
根共生仮説」を検証するため、大規模野外移入操作実験と最先端分
子同定技術を融合させるアプローチによって、生態系をまるごと土
からつくって菌根ネットワークを実験的に再現・解析している。外
生菌根性樹種とアーバスキュラ - 菌根性樹種の 2 つの菌根タイプを
材料として、菌根菌に感染した苗木とまだ感染していない実生を順
序立てて移植する実験デザインによって、菌根菌のマッチング効果
が実生の成長率に与える影響を解析する。適切な菌根菌が苗木から
実生へ感染することで、実生の成長率は飛躍的に向上することが予
想される。今後はこの成果によって、菌根ネットワークを含めた厳
密な格子モデルに基づいて森林の遷移確率を計算でき、未来の森林
の姿を描くことができるだろう。今回は予報である。
生態学は,「網さえあればできる。」と言われてきた。しかし,実
際の生態学は先端技術が新たな発見を生み出し,新たな生態学の領
域を開拓してきたことは言うまでもない。分子生物学的手法,遺伝
学的手法,安定同位体などの化学分析などの先端技術が進展させた
生態学の分野は枚挙にいとまがない。特に近年における次世代シー
ケンスなどの分子生物学的手法の進展は,生態学の研究方法に大き
な改革をもたらしつつある。本講演では,先端技術の中でも,我々
の研究グループで開発を進めている,環境 DNA 手法について紹介
する。この手法は,水中に浮遊している DNA 断片(環境 DNA)を
定量 PCR 法やシーケンサーによって測定することで生物の生息状況
を推定できる。環境中の DNA 情報は従来バクテリアやウィルスを
同定する際に広く使われてきたが,近年では脊椎動物などの分布調
査に応用されつつある。我々は環境 DNA を用いて,生物量や侵入
生物の分布を調べる方法の開発を進めており,将来的には環境 DNA
手法を生態学の理論を解明する新たなツールとすることを狙ってい
る。これら先端技術を使って生態学を変えていくには,どのように
生態学の理論を真に捉えるか,技術によってどのような側面を明ら
かにしていくかを検討していくことが重要になってくる。その点に
ついて,将来の展望を議論したい。
S01-7
S02-1
土壌生物群集のめくるめく超複雑ネットワークに生態系
ヤマトシジミにおける福島原発事故の生物学的影響
動態の真髄を見る
大瀧丈二(琉球大・理)
東樹宏和(京大・地球環境)
福島第一原子力発電所の損壊では、大量の放射性物質が環境に放
出された。この事故が動物に与えた生物学的影響を評価するための
迅速で信頼性のある実験系はこれまでに考案されていない。本論文
では、日本で一般的なシジミチョウであるヤマトシジミ(Zizeeria
maha)に対してこの事故が生理的および遺伝的な障害を与えたこと
を明らかにする。我々は、第一化の成虫を 2011 年 5 月に福島地域で
採集したが、その一部には比較的軽度の異常が認められた。第一化
の雌から得られた子世代 F1 に認められた異常は重度が高く、それは
孫世代 F2 に遺伝した。2011 年 9 月に採集された成虫の異常は、5 月
に採集されたものと比較して重度が高かった。非汚染地域の個体に
対する低線量の外部被爆および内部被曝により、同様の異常が実験
で再現された。これらの結果により、福島の原子力発電所に由来す
る人為的な放射性核種がヤマトシジミに生理的および遺伝的な障害
を与えたと結論される。
土壌中の生物群集は、生態学者が地球上で遭遇する最も複雑で全
体的理解の難しいシステムの一つである。ひとつまみの土の中でさ
え、数え切れない種数の難培養性生物が存在する。ひとつの森の中
でいったい何種の真菌や微生物、節足動物がいるのかを問うても、
種数の桁さえ推定できていないのが現状である。まして、その生物
群集内の種間相互作用ネットワークの構造と安定性を評価すること
など、これまでは夢物語にさえなりそうになかった。しかし、次世
代シーケンサーを始めとする新しい多様性探索ツールの登場によっ
て、この状況は打開できる可能性がある。講演者らは、次世代シー
ケンシング(大規模 DNA 配列決定)とネットワーク理論を融合さ
せることにより、地下生態系の生物間ネットワークを一挙に解明す
る手法を開発した。植物とその根に共生する多様な真菌類の共生を
対象とした研究では、数日程度の野外調査を基礎として、数十種の
植物と数百種の真菌の共生ネットワークを解明することに成功して
いる。興味深いことに、推定された種間ネットワークの構造は、こ
れまで地上や水域の生物群集で報告されてきたネットワークの構造
と異なる特徴を有していた。この成果によって、生物群集における
新しい型の多様性維持機構を提案できる可能性があり、実証と理論
の両面からさらなる研究を進めている。戦慄を覚えるほどの超多様
性に敢えて挑むことではじめて見いだせる生態学の基礎原理がきっ
とあるはずである。未知の多様性が眠る微生物群集は、理論の検証
に不適な「複雑すぎる」系から、標準化された手法で群集構造を調
査できる「最適な系」へと変貌しようとしている。解析技術が整っ
た今こそ、基礎生態学の根本的な問いに挑戦し、生態学の裾野を拡
げていきたい。
28
S02-2
S02-3
福島県高放射線量地域のゴール形成アブラムシに多発す
駿河湾の生物相:その変貌と浜岡原子力発電所
る形態異常と遺伝的影響
加藤 真(京大・地球環境)
秋元信一(北大・農)
遠州灘から駿河湾西部にかけて、白砂青松の遠浅の海岸が続いて
おり、砂浜とその沖に続く細砂底は、特徴的な砂地の生物相をはぐ
くむ場所として知られていた。遠州灘と駿河湾を隔てる御前崎には、
泥岩が露出しており、特徴的な磯の生物群集が存在していた。とこ
ろが、御前崎の西に位置する砂丘の上に、浜岡原子力発電所の建設
が計画され、1976 年に 1 号機が運転して以降、現在、5 基の原子力
発電所が建設され、現在に至っている(うち、2 基は廃炉が決定し、
3 基は東北地方太平洋沖地震後の官邸からの要請を受けて、停止中
である)。この地域の海岸に生息する生物や打ち上げられる貝殻を約
50 年間にわたって見てきた経験などをもとに、生物相の変遷とその
原因について考察する。
この海域の生物相は、岩礁上のホンダワラ類やアラメ、ワカメな
どの海藻類の繁茂と、砂浜潮間帯のチョウセンハマグリやフジノハ
ナガイ、キンセンガニ、砂浜潮下帯のヒナガイ、ベンケイガイ、ダ
ンベイキサゴ、ミクリガイ、ミオツクシ、カズラガイ、ヤツシロガ
イ、ボウシュウボラ、泥岩中に穿孔するニオガイ、カモメガイ、シ
オツガイ、イシマテなどの生息によって特徴づけられて来た。しか
しこの 20 年ほどの間にこの海域の生物相は大きく変化した。もっと
も顕著な変化は、磯の海藻の消失と、砂浜海岸の貝類相の衰亡である。
かつては普通に見られた打ち上げ貝のうち、オオモモノハナ、アリ
ソガイ、ザルガイ、イセシラガイ、シドロ、トウイト、ミオツクシ、
シチクガイなどは近年、ほとんど見られなくなった。この海岸周辺
ではこの時期に、砂浜海岸のコンクリート護岸の建設、突堤の建設
に伴う漂砂系の変化、大井川などの流入河川へのダム建設に伴う砂
供給量の減少、浜岡原子力発電所からの温排水の放出が見られた。こ
れらの外因を分析しつつ、生物相の変貌の原因について考察したい。
福島第一原子力発電所の事故によって広範囲に飛散した放射性物
質が生物にどのような影響を及ぼすかを客観的に評価する試みは、
現在、喫緊の課題である。本研究では、放射線に影響されやすいと
考えられる生物を用いて、形態的変異に焦点を絞って調査を行った。
アブラムシ科ワタムシ亜科のヨスジワタムシ属 Tetraneura に注目し、
越冬卵から孵化してくる1齢幼虫の形態を、福島県川俣町の集団(空
間線量 4 μ Sv/h)、北海道の集団、千葉県柏の集団の間で比較した。
さらに、原発事故以前に採集された多量の博物館標本との比較を行
った。
アブラムシは春から秋まで無性生殖的に増殖し、常にメスの腹部
には成長中の胚子が含まれる。福島の孵化幼虫は、原発事故以来、
初めての有性生殖の結果出現した世代であり、それまでの無性生殖
の過程で蓄積されてきた遺伝的変異が特定の個体に集積されている
可能性がある。また、孵化幼虫(1齢幼虫)に注目しているために、
成虫まで到達できない虚弱個体や形態異常が検出できる可能性があ
る。孵化幼虫は、体長が約1mm で、孵化後ハルニレの新葉に閉鎖
型のゴール(虫こぶ)を形成し、その中で成長・繁殖する。
福島の集団では、北海道や柏の集団と比べて、高い頻度で形態異
常が見いだされた。捕食によらない死亡個体の割合も高かった。形
態異常はいくつかのカテゴリーに分類できたが、この中で高度に異
常を示す個体が約 1% 含まれた。これらは、2つの分岐した腹部、
脚状突起、腫瘍状組織によって特徴づけられた。軽度の異常として
は、脚部の萎縮、成長途中での付属肢の欠損が含まれた。全体として、
福島の集団では 10% の個体に異常が認められた。ところが、無性生
殖によってゴール内で産出される第二世代には、全く形態異常が認
められなかった。世代間の差から、「原因物質」の作用の仕方を考察
する。
S02-4
S03-1
再生可能エネルギーの急速な発展と保全の課題 : スペイ
Global warming effect on plant-insect interactions in
ン・ナバラ自治州の場合
northern forests
安渓遊地(山口県大・国際文化)
Masahiro Nakamura (Hokkaido Univ.)
山口県と姉妹自治体のスペイン・ナバラ自治州は、1992 年のリオ
デジャネイロ会議のあと、再生可能エネルギーの導入に取り組んだ。
1994 年の州都パンプローナ周辺の山地を手始めに 2005 年までに 33
か所に約 2000 基の風車を建て、2002 年に畑のワラを燃やすバイオ
マス火力発電所が稼働、2007 年には太陽光を集め、溶融塩を利用し
て日に 15 時間の発電をおこなう装置が稼働している。現在は、原発・
石炭石油火力・大型ダムに依存せずに、再生可能エネルギーの電力
に占める割合は 80%と EU のトップランクにあり、エネルギー自給
自治体をめざしている。一方、政府主導で拙速に導入した結果、鳥
類の衝突死もまた多発し、2000 年 3 月からの 1 年間で、猛禽類 472 羽、
シロエリハゲワシ Gyps fulvus 443 羽、その他の鳥類 7185 羽、コウモ
リ類 749 匹の死亡が確認された(日刊紙 Diario de Noticias 8/5/2002)。
これらの経験を日本に引きつけて考えるなら、自治体単位での取り
組みの大切さ、学会や自然保護団体との協働によるゾーニングの必
要性が指摘できよう。
コメントと全体討論
これらの4本の発表に引き続き、飯田哲也氏(NPO 環境エネルギ
ー政策研究所所長)を迎えてコメント「エネルギーの地域分散化・
分権化をめぐる世界の趨勢と日本の現状」をお願いし、2013 年 1 月
の「世界自然エネルギー国際会議」(アブダビ)や2月の「第2回
世界コミュニティパワー国際会議」(山口県宇部市)の成果について
も紹介していただく。フロアをまじえた総合討論では、1)生態学
的な事実関係の確認をふまえて、2)福島原発震災の生態学的・社
会的位置づけを共有し、3)今後のエネルギー政策のあり方および
アジア・アフリカへの原発輸出計画などについても視野に入れつつ、
生態学会および研究者の社会的役割についての認識を深めたい。
Current accelerated climatic warming is largely caused by emission of
greenhouse gases into the atmosphere. Experimental warming can be an
effective approach to directly test the effect of temperature elevation on
ecological processes with less confounding factors. Within forests, most
biological activities and species diversity are concentrated on the canopy
of mature trees rather than in the understory. In this presentation, I report
the result of a three-year experimental warming of mature oak trees (20m
in height) using heating cables. For better understanding a mechanism how
global warming affects plant-herbivore interactions at the canopy, field
experiments were conducted to warm separately above- and blow-ground
parts of mature oak trees (climax species). Furthermore, to determine
different responses of other tree species (pioneer species) to global warming,
I conduct experimental warming of mature birch trees. These experimental
results showed that soil warming decreased canopy herbivory of oak trees
but increased canopy herbivory of birch trees through changes in leaf traits.
However, branch warming did not affects leaf traits and herbivory of both
tree species. To predict the effect of global warming on plant-herbivore
interactions, we should consider different responses of tree species with
different strategies.
29
S03-2
S03-3
Changes in the anti-herbivore characteristics of leaves in
The insect outbreaks as responses to human-driven
woody species after a long-term CO2 exposure
changes of forest composition
Yoko Watanabe (Hokkaido Univ.)
Sawako Matsuki (Iwate Univ.)
Elevated atmospheric CO2affect the growth and physiological traits
of forest trees. Many studies have revealed the changes in leaf quality
such as increase in CN ratio and increase in defensive chemicals of trees
grown under elevated CO2. These changes might induce the changes in
the relationship between plants and herbivores. In this study, the changes
in phenology and traits of sun leaves of Siebold’s beech (Fagus crenata )
grown at Free Air CO2 Enrichment (FACE; ca. 500 ppm) system between
2003 and 2011 have been investigated. Here I report the results in 2011. The
timing of leaf emergence of young beech trees at FACE was not changed
compared to that at control site. Leaf mass per area (LMA) of beech leaves
was highest at mid-June at both sites. Before mid-June, there was no
significant deference in LMA between FACE and control. However, after
mid-June, LMA of beech leaves at FACE was higher than those of control.
Concentration of condensed tannin and total phenolics of leaves taken after
mid-June at FACE were higher significantly than those at control. These
results suggest that elevated CO2 would induce changes in the leaf quality
after mid-June after 9 years of CO2 exposure.
Not only climate change but human-driven change of forest composition
also can be a trigger for insect outbreaks in forests. Emperor moth (Saturnia
japonica ) is a common species in Japan. The outbreak of this species had
been rarely reported in the past.
In Hokkaido, however, it has been reported that the outbreak of emperor
moth has continued more than 7 years in deciduous broad-leaf tree forests,
especially in pure and mature monarch birch stands established after
artificial forest fire occurred about 100 years ago. On the other hand,
there is no report of that monarch birch are suffering emperor moth’s
herbivory and the outbreak of emperor moth hardly occurred in Tohoku area
nevertheless emperor moth and monarch birch distribute in Tohoku also.
Our experiment demonstrated significant higher performance of emperor
moth larvae feeding mature monarch birch leaves than those feeding other
species and immature monarch birch leaves. Our questionnaire survey
clarified that the habitat of emperor moth is expanding recently in Hokkaido.
These results may indicate that the expanding of emperor moth’habitat and
pure and mature monarch birch stands established after artificial forest fire
have caused the outbreak of emperor moth in Hokkaido.
S03-4
S03-5
Tree decline after serious insect defoliation in a northern
Latitudinal cline and phenotypic plasticity of a host plant
secondary forest
in resistance to herbivores
Yasuyuki Ohno (Hokkaido Forestry Research Institute)
Kaisa Heimonen (Univ. of Eastern Finland)
Increase of herbivorous insect attack is one of the predicted impacts
of climate change on forests. This has a potential to cause tree decline
(i.e. crown dieback and mortality). Therefore, assessing tree responses
to the severe insect defoliation is important to estimate the impact of
environmental changes. In Hokkaido, monarch birch trees were severely
defoliated by larvae of emperor moth for the first time in 1991. Since then,
the area suffering the damage has expanded to a wide range of Hokkaido.
To clarify the responses of monarch birch after the defoliation, the presence
or absence of refoliation after the defoliation and the degree of crown
dieback over a 7-year period at an individual tree scale (46 individuals)
have been observed. In the study site, the outbreaks of emperor moth were
observed in late July of each year from 2006 to 2008. Severely defoliated
individuals refoliated in mid August (in midsummer) of the each year.
However, the mortality of trees increased in the trees refoliated from 2009
to 2011. This implies that refoliation after defoliation do not always benefit
defoliated trees. Combined effects of severe defoliation and ongoing climate
change may deteriorate tree function through the mismatch between leaf
phenological traits and the environment such as air temperature.
The warming climate will extend the distribution and increase
herbivorous insects because temperature limits the ranges of most insect
species and has a direct effect on insect development. The ability of trees
to adapt to new herbivory pressure requires genetic variation in resistance
within and between tree populations as well as phenotypic plasticity. We
micropropagated 26 silver birch genotypes originating from six provenances
(60 °-67 °N) in Finland. The genotypes were planted at common gardens,
located in southern, central and northern Finland. There were overall
differences between the provenances in their susceptibility to herbivores
showing increasing trend towards higher latitude provenances. There was
a significant interaction between common garden site and provenance.
There were no significant differences between the genotypes within each
provenance. Our results suggest that most of the genetic variation in
resistance is found between populations. High latitude seedlings are less
resistant to herbivores than low latitude. Different provenances are preferred
at different environments. The non-significant differences among genotypes
within provenances in their intensity of leaf damage suggest high individual
variation in resistance within a tree population.
30
S03-6
S04-1
Evolutionary response to environmental changes in plant-
現在,および今後の植生関係の衛星観測についての概説
herbivore interaction
本岡毅(JAXA)
Tommi Nyman (Univ. of Eastern Finland)
衛星観測というと、インターネット地図のような空中写真が有名
であるが、他にもさまざまな種類のセンサが開発され、植生観測に
活用されている。例えば近年では、空中写真を撮るようなセンサだ
けでなく、樹高を測るためのレーザー高度計や、大気中の二酸化炭
素を測る分光計、熱帯域を頻繁に調べるために雲を透過して地表面
を見ることができるマイクロ波レーダーなども多く活用されている。
40 年間も蓄積され続けているデータもあり、長期的な解析も可能と
なってきている。今後も国内外で多くの地球観測衛星の打ち上げが
計画されており、衛星データの蓄積や多様化は一層進み、同時に、
植生のリモートセンシングも新たな研究が開拓されていくと考えら
れる。本発表では、植生観測に用いられる衛星リモートセンシング
技術の概要と、最近の解析事例を紹介する。また、国内外で進めら
れている今後の衛星計画についても紹介する。
Due to the rapid anthropogenic changes in global climate and ecosystems,
it is needed to understand how these perturbations will influence central
biotic interactions. The possible consequences of global environmental
degradation can be obtained by studying how past climatic shifts have
influenced diversity in plants and in insect herbivores. Especially the
dramatic changes in global climate during the Cenozoic provide multiple
possibilities for the mechanisms by which climatic shifts may drive diversity
dynamics in plants and insects. Recent studies combining paleoclimatic
reconstructions suggest that variation in global climate determines the
distribution, abundance and diversity of plant clades and, hence, indirectly
influences the balance between speciation and extinction in herbivore
groups. However, available evidence suggests that positive and negative
responses of insect diversity are lagged in relation to host-plant availability.
Hence, although habitat loss and climate change may lead to extinctions in
many plant groups, effects on insect diversity may become evident only over
much longer time spans. The predicted large-scale movements of whole
ecosystems may nevertheless lead to inconvenient surprises, following the
emergence of novel competitive and parasitic associations in transitional
communities.
S04-2
S04-3
リモートセンシングによる植生分類
植物機能のリモートセンシング ―細胞から植生へ,2
村上拓彦(新潟大)
次元から3次元へ―
広域にわたる植生分布状況を把握するためにリモートセンシン
グ(人工衛星,航空機)データの画像分類がよく行われる。画像分
類の原理は,土地被覆毎に異なる分光反射特性に依拠している。植
生の分光反射特性は,高い近赤外域での反射率と低い可視域の反射
率の組み合わせが特徴である。従来型の画像分類手法には,教師無
し分類(K-mean 法,ISODATA 法など)や教師付き分類(最尤法な
ど)がある。特に最尤法は最も採用されている手法と言えるであろ
う。ちなみにこれらの手法は全てピクセルベース分類であるが,ピ
クセルの集合体を分類の最小単位とするオブジェクトベース分類も
盛んに行われるようになっている。この背景には 1999 年に登場した
高分解能衛星 IKONOS がある。高分解能データでは従来均一とみな
していた空間を詳細に捉えることが可能になった反面,これまで考
慮する必要のなかった空間の不均質性に分類を乱される事態が生じ
るようになった。オブジェクトベース分類は植生のパッチ構造のマ
ッピングに適した分類手法である。これは人間の認識系に近い分類
アプローチともいえる。その他,ニューラルネットワーク,CART 法,
SVM(サポートベクタマシン),Random Forest など近年発達してき
た機械学習なども取り込みつつ日々新しい分類手法が試されている。
センサも数バンドのマルチスペクトル型のものから多バンドのハイ
パースペクトル型まで多様である。特に,人工衛星搭載型のセンサ
において,従来型のバンド構成から少しバンドが増えたものが登場
している。エンドメンバー法も植生を対象としたリモートセンシン
グで特徴的なアプローチである。赤色域と近赤外域で構成される特
徴空間では植生(V)
,土壌(S),水域(W)が三角形の頂点に対応
するかたちで分布する。これらの頂点をエンドメンバーとして植生,
土壌,水域の混合状態を評価することができる。
大政謙次(東大)
植物は、種や器官によって異なる特徴ある3次元空間構造をも
ち、また、その機能は、環境との相互作用で、空間的に異なってい
る。蒸散や光合成、成長といった基本的な生命活動に関係する機能
も、この空間的構造の影響を受ける。このため、植物計測の分野で
は、細胞レベルあるいは器官レベルの状態を、生育環境を破壊する
ことなく、2次元、さらには3次元的に計測する手法の開発が行わ
れてきた。航空機や人工衛星からの広域リモートセンシングでも、
地球観測研究の発達によって、より多くの植物機能に関する情報を
得るための研究が盛んに行われている。ここでは、筆者らが行って
きた可視・近赤外分光反射、熱赤外、クロロフィル蛍光、距離ライ
ダーなどの画像計測・リモートセンシング研究について、細胞から
植生へ、2次元から3次元への視点で簡単に紹介するとともに、リ
モートセンシングによって植物機能に関する情報を取得する際の幾
つかの問題点について述べる。文献などの詳細については、下記の
サイトを参照されたい。(研究論文)http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/joho/
Omasa/papers2010311.html( 著 書・ 解 説 )http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/
joho/Omasa/books20090123.html
31
S04-4
S04-5
森林の垂直構造(LAD)の計測と解析
光学リモートセンシングを用いた葉形質の推定
細井文樹(東大)
中路達郎(北大)
植物のもつ 3 次元構造は光合成などの機能と密接に関わっており、
その生命活動の維持においてきわめて重要な役割を果たしている。
植物の 3 次元構造を表す指標として、しばしばその垂直構造を表す
指標である高さ毎の葉面積密度(LAD:Leaf Area Density)が用いら
れる。この LAD の垂直分布を得るため、我々はスキャニングライダ
ーを用いた VCP(Voxel-based Canopy Profiling)法を開発した。この
方法は、対象を取り囲む測定位置の設定、レーザービーム入射角の
最適化、得られた点群データのボクセル化とレーザービームの葉に
対する接触頻度の計算、非同化器官及び葉傾斜角の補正というプロ
セスによって、LAD の垂直分布を算出するものである。本方法は最
初に孤立木に適用され、平均絶対誤差率 17.4%という正確な LAD プ
ロファイルが得られた。次に本方法は広葉樹群落に適用され、その
LAD 精度が設置したコドラート毎に異なり、レーザービームが十分
に到達しているコドラートでは高い精度の LAD プロファイルが得ら
れた。またレーザー入射角度によっても精度に違いがみられた。さ
らに本方法は広葉樹群落の季節毎の LAD プロファイル測定にも活用
され、本方法により、広葉樹群落の季節毎に異なる特徴的な LAD プ
ロファイルを得ることが可能であることが示された。広葉樹群落の
LAD 算出で明らかになった誤差要因に基づき、LAD の誤差を見積も
る指標として、ライダーのレーザービーム照射に関する設定と、対
象木の構造パラメータとを関連させた Laser beam coverage index Ωを
考案し、Ωによって広葉樹群落の LAD 推定誤差を見積もることが可
能であることが示された。また計測条件が互いに異なる可搬型及び
航空機搭載型ライダーにおいても、共通に本指標が適用可能である
ことが示され、本指標Ωが一般性の高い実用的指標であることが示
された。
植物からの反射を分光観測する光学リモートセンシングは、葉の
展開や落葉といった形態的なフェノロジー、あるいは窒素やクロロ
フィルといった葉の形質の評価に利用されている。従来の研究の多
くは、特定の 2 ∼ 3 波長における反射情報から推定された形質を個々
に利用するが、近年、連続多波長の反射情報を観測・解析することで、
複数の葉形質を同時に推定し、新たなニーズに応えようとする研究
が注目されている。例えば、熱帯林の事例では、可視∼短波長赤外
波長の連続スペクトルが、窒素や水分、色素類をはじめセルロース、
リグニン、フェノールといった有機化合物の同時推定に有効である
ことが示された。これらの形質は、養分状態や防御物質といった生
態学的研究にも有用だが、熱帯林では樹種判別にも有効な情報とな
るため、生物多様性の把握などへの活用も注目されている(Asner &
Martin 2010; Tollefson, 2011)。では、このような葉形質の推定が、立
地の異なる東アジアの森林でも有効だろうか。その可能性を調査す
るために、今回、冷温帯∼熱帯の森林で試料を採取し、形質の推定
精度について検討した。およそ 200 樹種を対象に、成木の樹冠最上
部で葉の反射スペクトルを計測し、7 種の形質を分析した。その結果、
0.4 ∼ 2.5 ミクロンの反射情報から作成した Partial Least Square 回帰
モデルの推定誤差(rRMSE)は、窒素や LMA で 11%程度であり、
その他の形質も 25%未満であった。この誤差水準は熱帯林樹種にお
ける報告と同様のレベルであった。本講演では、形質の種類や植生
帯による推定誤差の比較結果等を紹介し、形質のリモートセンシン
グにおける課題や展望について議論したい(なお、本研究の一部は
環境研究総合推進費戦略的研究開発領域 S-9 および科研費基盤(A)
20255014 の支援を受けて実施した)。
S04-6
S04-7
リモートセンシングを利用した落葉広葉樹林の炭素収支
野生鳥獣管理問題とリモートセンシング
に及ぼす温暖化の広域影響評価
望月翔太(新潟大)
斎藤琢(岐阜大・流域圏)
人間と野生動物との軋轢が各地で生じている。野生動物の適切な
管理、保全に対し、動物の生息空間を評価する事が重要である。動
物は移動するため、一定の範囲における様々な環境要因を検討する
ことになる。つまり、野生動物の保全・管理にはリモートセンシン
グ技術が欠かせない。本発表では、リモセン技術を利用した野生鳥
獣問題について、獣害管理と自然再生という視点から研究事例を紹
介する。ここから、野生鳥獣問題に対し、リモセン技術が有する役
割について議論する。
獣害管理では、ニホンザル由来の農作物被害軽減を目的とした生
息地管理について紹介する。新潟県新発田市に生息するニホンザル
地域個体群を対象に、現在と過去の生息地利用を比べる事を目的と
した。過去から現在まで、どのような土地被覆の変化がニホンザル
の分布拡大を引き起こしたのかを考察する。現在の土地被覆情報は、
2007 年に撮影された ALOS/AVNIR-2 を使用し、過去のそれは 1978
年に撮影された LANDSAT/MSS を使用した。2 時期の衛星画像から、
過去から現在までの森林や土地利用の変化を抽出し、それとニホン
ザルの分布との関係を明らかにした。
自然再生では、新潟県の佐渡島で行われているトキの再導入プロ
ジェクトについて紹介する。動物の再導入を計画する際、動物がど
のような環境を好むかを評価し、優先して再生するエリアを抽出す
る事が重要となる。しかし、再導入候補地では、動物の情報が乏し
い事が多い。そのため、他地域の情報を外挿する事で、候補地の評
価を行う必要がある。このような場面でも、リモートセンシング技
術は効果的である。本研究では、中国トキの営巣情報を用いて、佐
渡における営巣適地を抽出することを目的とした。野生トキの営巣
情報と中国陝西省を撮影した LANDSAT/ETM+ を使用してトキの営
巣場選択を評価した。その結果を佐渡島に外挿する事で、再導入候
補地の抽出を試みた。
気候変動が森林生態系炭素収支に及ぼす影響を検討することは,
森林生態系機能の維持管理や大気への二酸化炭素フィードバックを
評価する上で喫緊の課題である。温帯広範に優占する落葉広葉樹林
では,その群落フェノロジーが光合成による炭素吸収および呼吸に
よる炭素放出の季節変化に大きな影響を与える可能性を有する。こ
のため,温暖化が進行する気候変動下における落葉広葉樹林炭素収
支を知るためには,群落フェノロジーの環境応答特性を解明し,温
暖化による群落フェノロジーの変化が落葉広葉樹林の森林生態系炭
素収支にどのような影響を与えるのかを評価することが重要となる。
デジタルカメラ画像や分光放射計測によって得られるリモートセン
シング情報は,得られたデータを指標化することで,展葉・落葉の
タイミングや葉面積指数のような群落フェノロジーの時空間分布の
推定が可能であり,炭素収支研究に必要な多くの情報を供給する。
ここでは,乗鞍岳中腹に位置する高山スーパーサイト(36°08’N,
137°25’E, 1420 m a.s.l.)を中心に展開している炭素動態計測,高空
間分解能気象モデル,生態系モデル,地上・衛星リモートセンシン
グを有機的に組み合わせたプロットスケールから流域スケールの炭
素収支研究を紹介するとともに,その中でのリモートセンシングの
有用性について紹介する。
32
S05-1
S05-2
Consumer adaptation to pulsed resources: integrating
Variable timing of a subsidy produces negative effects for
physiology, behavior, and landscape ecology to
a riparian consumer
understand how individuals capitalize on ephemeral
Laurie Marczak (The University of Montana)
resource superabundance
Rapid growth in response to prey abundance may be induced by
environmental variability associated with resource subsidies. These periods
of high resource abundance may occur at different points in recipient
consumers’development through variation in emergence patterns of prey
between years or across a landscape. Spiders living in riparian areas are
subject to frequent, episodic bursts of aquatic prey (subsidies). I examine
how variable timing of subsidy abundance intersects with life history
scheduling to produce different outcomes for individual spiders (Tetragnatha
versicolor). Spiders fed at very high rates grew fastest but also showed
evidence of increased mortality risk during moulting. T. versicolor is
capable of exhibiting strong growth compensation-individuals suffering
initial growth restriction were able to catch up completely with animals
on a constant diet utilising the same amount of food. Spiders that received
an early pulse of resources did worse on all measures of development and
fitness than spiders that received either a constant supply of food or a late
pulse of resources. Importantly, receiving large amounts of food early
in life appears to actually confer relative disadvantages in terms of later
performance compared with receiving subsidies later in development.
Jonathan B. Armstrong (University of Washington)
Foraging ecology provides a foundation for understanding how the
temporal characteristics of resource subsidies mediate their ecological
effects. Pulsed subsidies may push recipient consumers to the asymptote
of their functional response, where digestive capacity constrains foraging
opportunity. Here I present case studies from coastal watersheds of Alaska,
USA, where spawning salmon generate pulsed subsidies for commercially
and culturally important consumers. I summarize three different tactics
that increase the foraging opportunity of consumers. Juvenile coho salmon
exhibit behavioral thermoregulation, exploiting thermal heterogeneity in
streams to increase their digestive capacity. Dolly Varden employ phenotype
flexibility, increasing the size of their digestive organs during the resource
pulse and atrophying organs during the inter-pulse period. Lastly, wideranging consumers including rainbow trout, grizzly bear, and Glaucouswinged gulls extend the duration of the resource pulse by tracking spatiotemporal variation in salmon run timing. These results emphasize that
habitat heterogeneity and intra-specific diversity can have strong positive
effects on the ability of consumers to exploit pulsed subsidies.
S05-3
S05-4
The importance of resource pulse timing to the response
Population- and community-level impacts of pulsed
of stream ecosystems
subsidies in Bahamian islands: theoretical challenges of
Takuya Sato (Kyoto University)
resource pulses
Pulsed resource subsidies can have pronounced consequences for
communities and ecosystem processes through the responses of recipient
consumers. Theory has predicted that seasonal timing of the pulsed
subsidies can be a critical component that determines the intensity of the
cascading effects of the subsidies. However, the most empirical studies
of subsidy effects have been done over very short-time scales, and less
is known about the importance of subsidy timing in natural systems. We
conducted a large-scale field experiment to test if the seasonal timing of the
terrestrial invertebrate input into streams affects consumer responses to the
subsidy, which can have cascading consequences for whole communities
and ecosystem functions. We found cutthroat trout responded strongly to
the invertebrate pulse in the early period (June to August), but responded
less to the pulse during the late period (August to October). While these
consumer responses seemed not to alter the trophic cascade strongly in
either period, we found evidence of enhanced nutrient recycling by cutthroat
trout in pulsed treatment reaches during the early period. Given the temporal
changes in water discharge and temperature, our results suggest the temporal
context of physical environment would be important to determining the
effects of subsidy timing.
Gaku Takimoto (Toho University)
Pulsed inputs of resource subsidies have profound consequences on
population and community dynamics. Motivated by field examples
from Bahamian islands and other systems, I explore theoretically the
consequences of temporally-dynamic inputs of resource subsidies.
Mathematical models show that two aspects of temporal heterogeneity,
timescale and timing, are fundamentally important to understand outcomes
of pulsed resource subsidies. Timescales of subsidy inputs determine
whether behavioral, demographic, or evolutionary mechanisms of
consumers respond to pulsed resources, and affect subsidy effects on
consumer demography and community dynamics. Timing of subsidy
inputs affects whether temporal heterogeneity of subsidy inputs increases
or decreases consumer fitness. What timing of resource pulses augments
or reduces consumer fitness may depend on what fitness component (e.g.,
foraging traits, time to maturation, or energy reserve) is altered by a resource
pulse. Furthermore, timing of subsidy inputs can determine whether
resource subsidies stabilize or destabilize community dynamics. Scaling up
the effect of pulsed resources from individual to population, community,
and ecosystem levels may provide a great opportunity to advance ecological
theories.
33
S06-1
S06-2
気候モデルの将来予測は、どれくらい信頼できるか?
気候変動下の土壌炭素モデルのあるべき姿 -- ここに気づ
横畠徳太(国環研)
けばもっと良くなる
近年の研究によって、20 世紀後半以降の全球的な地表気温上昇は、
人間よる温室効果ガス排出が原因である可能性が高いことが明らか
にされている。今後どのように温室効果ガスが排出され、いかなる
気候変動が起こり、人間や生態系にどのような影響が及ぶのかは、
非常に複雑であり、不確実性の大きな問題である。このため、起こ
りうる事柄を幅広く明らかにし、様々なリスクを想定した上で、我々
が地球温暖化にどう対応するかを考える必要がある。
気候変動予測はまず、今後想定される社会の姿に基づき、人間に
よる温室効果ガス排出量を推計する。これは、世界の国々での経済
活動をシミュレートすることで行う。排出された温室効果ガスは、
大気・陸域・海洋の間を循環することで、大気中での濃度が決まる。
この過程を計算するのが物質循環モデルであり、土壌を含む生態系
における炭素・窒素の物質交換過程(光合成や呼吸など)に関する
知見が、非常に重要な役割を果たす。大気中の温室効果ガス濃度が
増加すると、地表から熱が宇宙空間に逃げにくくなることで(温室
効果)、地表の温度が上昇する。これにより大気の水蒸気量や風の場
が変わることで、降水が増えたり減ったりと、様々な変化が生じる。
この過程を表現するのが、気候モデルである。気温や降水の変化に
よって、生態系での光合成や呼吸が変わることで、さらに温室効果
ガス濃度が変わるなど、様々な相互作用が生じる。
この講演では、将来予測の現状と動向について、気候モデルの関
わる話題を提供する。最新モデルでは、温室効果ガス濃度の増加に
より気温や降水がどのように変化すると予測されるのか。またモデ
ルの信頼性は、現在の気候や過去の気候変化の再現性によって評価
されているが、そもそもモデルはどれくらい信頼できるものなのか。
さらにここでは、土壌や生態系のプロセスが気候に及ぼす影響につ
いての重要性についても紹介し、議論の機会を提供したい。
伊勢武史(兵庫県立大)
「地球温暖化対策は待ったなし」などと言われるが、そもそも将来
の地球の温度が、いつ・どの程度変化するかが分からなければ、有
効な対策は立てられない。そこで用いられるのが気候のシミュレー
ションモデルであり、そのなかで生態系の物質循環は重要なプロセ
スとして位置づけられている。森林や土壌の変化や人為的な土地利
用などは将来の温室効果ガス濃度を通して気候に影響を与え、ひる
がえって気候の変動は生態系に影響を与えるというフィードバック
が存在するためである。しかし現状では、炭素循環モデル中の土壌
有機炭素のダイナミクスは十分に表現されているとはいえない。大
気中に存在する炭素量のおよそ2倍が土壌中に蓄積され、特にその
多くの部分は永久凍土の崩壊などの激変が予測される北極高緯度圏
に存在していることを考えると、土壌炭素の挙動のモデル化は気候
変動予測の高精度化に非常に重要である。
そこで本講演では、気候変動の研究者の立場から、(1)土壌炭素
をモデル化する意義、(2)将来予測に有用なモデルに求められてい
ること、そして(3)明示的に扱うことでモデルが「もっと良くな
る」プロセスについて扱う。土壌炭素をモデル化する意義のひとつ
は、生態系のメカニズムを定量的に再現することで将来の変化を予
測することにある。そのようなモデルに求められるのは、気候変動
に強い影響を及ぼすプロセスを的確に再現することである。その一
例として、大量の土壌炭素が蓄積されている亜寒帯における永久凍
土・土壌炭素・気候変動の三者が関わるダイナミクスを再現する試
みを紹介する。
さらに、フィードバックの概念を明確に示すことにも重点を置く。
たとえば、単に「土壌」といってもその内部には泥炭の蓄積と永久
凍土の形成などのフィードバックが潜んでいるのだから、このよう
な複雑なフィードバックの「入れ子構造」を解説し、地球システム
内で土壌生態系の果たしている役割を認識する。
S06-3
S06-4
黄砂発生源としての草原:ユーラシアの真中で考えた
シベリアタイガの中のメタンホットスポット −永久凍
篠田雅人(鳥取大)
土がの融解が引き起こすもの−
ユーラシア大陸の温帯草原はハンガリーから北東中国まで東西に
広がり、南の砂漠地帯に隣接している。温帯草原では、近年、気候
の乾燥化や人為的インパクトにより砂漠化が進行しているが、この
プロセスは風食と深くかかわり、日本への黄砂飛来の増加との関係
についても指摘されている。黄砂が日本に飛来するまでの過程は、
発生、輸送、沈着に大きく分けられるが、正確な飛来予測のために
は、発生過程の十分な理解が不可欠である。従来、黄砂発生研究は
砂漠地域を中心としていたが、砂漠化が進行する植生地域も研究の
重要性が高まってきた。「春の枯れ草や土壌水分が黄砂(ダスト)発
生にどう影響するか」という疑問に答えるため、日蒙米独共同プロ
ジェクト、ダスト−植生相互作用観測が行われている。黄砂発生の
起こりやすさは、黄砂が舞い上がり始める風速(臨界風速)で指標
化することができる。黄砂発生の臨界風速と地表面状態の関係から、
黄砂発生の起こりやすさの分布図(黄砂ハザードマップ)を作成し、
最終的には、このハザードマップと天気(風速)の短期予報を組み
合わせて、黄砂発生リスクの評価が可能となる。温帯草原を支える
土壌は肥沃ではあるが、その多くはシルト質の氷河性レス(風成塵)
を母材としているため、植生が失われると侵食に脆く、それを基盤
とする乾燥地農業、遊牧などの生業は危機に瀕する。このような背
景から、生態過程と風食過程を統合したモデルを構築し、モンゴル
草原においてここ 10 年ほど蓄積してきた現地観測データ(地表面状
態・風食)を用いて統合モデルの検証を行い、草原の持続性評価を
行っている。
高階史章(秋田県立大)
永久凍土地帯は北半球の陸域の 2 割を占める重要な土地被覆であ
る。永久凍土は熱的に微妙なバランスの上に成り立っているため、
温暖化などの気候変動の影響を受けやすい。氷を大量に含む永久凍
土が熱的な攪乱を受け、地下氷の融解を伴う地盤沈下により形成さ
れる独特の地形のことをサーモカルストと呼ぶ。東シベリア・中央
ヤクーティアの永久凍土 - タイガ森林地帯には、過去の森林攪乱に
伴う永久凍土融解で形成された、沼地及び草地からなる窪地状のサ
ーモカルスト地形(アラス)が点在している。本研究は、一般的に
メタン(CH4)の吸収源とされる森林中にパッチ状に点在するアラ
スにおける CH4 放出を定量化し、その存在が地域の CH4 収支に与え
る影響を評価することを目的として実施した。
その結果、アラス沼地及び近傍の湿潤草地は CH4 の大きな放出源
であり、その放出は湛水状態の変動により制御されていることが明
らかになった。衛星画像より同地域(6909 km2)の土地被覆を分類
して試算したところ、同地域の土地被覆の数 % に過ぎない湖沼及び
沼地近傍草地からの CH4 放出が森林による CH4 吸収を大幅に上回っ
ており、同地域はアラスの存在により正味の CH4 放出源となってい
ると推測された。
アラス内は傾斜が緩く、降水・蒸発散の変動により沼地面積及び
それに伴う CH4 放出量は大きく変動する。そのため、同地域の気候
変動に対する CH4 収支の応答の予測には、水分状態の変化(主に湿
潤化・乾燥化)の高精度な予測が必要と考えられる。
今後の気候変動に伴って新たなアラス形成が起これば同地域から
の CH4 放出量は増加する(正のフィードバック)。アラスは一度形
成されるとその影響は長期的と考えられるため、森林攪乱後の回復
過程とアラス形成の引き金となる因子の解明が今後求められる。
また本講演では、インドネシア・熱帯泥炭農地の多量 N2O 放出に
ついても報告する。
34
S07-1
S07-2
Impact of population irruption of sika deer on vegetation
A long term study on the population change of sika deer,
and feedback effects on their life history on Nakanoshima
Cervus nippon, and the vegetation dynamics on Kinkazan
Island, Hokkaido
Island, northern Japan
*Koichi Kaji (Tokyo Univ. of Agr. & Tec.), Masami Miyaki (Rakuno Gakuen
Univ.)
*Seiki Takatsuki (Azabu Univ.), Masato Minami (Azabu Univ.)
The sika deer (Cervus nippon ) population on Nakanoshima Island (5.2
km2), Hokkaido showed repeated irruption which imposed irreversible
changes on the vegetation. The sika deer reached to the first peak (52.5deer/
km 2) in 1984 and the second peak (83.5 deer/km2) in 2001 that was 1.6
times higher than the first peak. The population relatively remained stable at
45-59 deer/km2 during 2008-2012. Under heavy grazing and browsing, deer
eliminated dwarf bamboo during the first irruption and plum yew during
the second irruption, thereafter fallen leaves were an important food in all
season. The deer herd exhibited density dependent changes in life history
trait, such as delayed sexual maturity, lower calf recruitment, and lower
body mass. The body mass of adult female ( ≥ 3 yrs old) was related to
pregnancy rate, which decreased as body mass decrease. The sika deer herd
can tolerate long resource limitation due to the ability to utilize alternative
resources and change life history trait of body mass and reproduction. This
phenotypic plasticity is the main factor that the deer population continues to
sustain high deer density under severe resource limitation.
Kinkazan Island, northern Japan, is an example of a habitat of an
overabundant sika deer population. It has been inhabited by the deer for
over 300 years and the vegetation is heavily affected. Forest structure is
deformed, and undergrowth is poor. A dwarf bamboo, is replaced by an
unpalatable ericaceous shrub. The deer population density fluctuates 4050 deer/km2. According to overabundance, the deer are in a malnutritional
condition. The body weight is smaller by 30-40% than the deer on the
mainland. The pregnancy rate is around 50%, while it is over 80% on the
mainland. The first pregnancy begins at around 5 years old while it usually
begins at two years old on the mainland. The antlers are thinner and lighter
than those of the mainland population. After 1980, at least two“die-offs”
occurred, but the population did not“crash”but bottomed at around 20
deer/km2. The forest regeneration is blocked because of lack of young trees.
Ridges are deforested and invaded by grasses, which consequently attract
deer as feeding grounds. They were firstly dominated by tall grasses, and
were gradually replaced by a lawn grass. The deer fed on fallen leaves of
deciduous broad-leaved trees during winter, which was observed even in the
1980s.
S07-3
S07-4
Effects of food quality and availability on food habits,
Population dynamics of sika deer, habitat changes and
body size and pregnancy rate of sika deer: comparison of
life history traits of sika deer on Boso Peninsula, central
the two contrasting habitats, Nikko and Ashio areas Japan
*Takayuki Seto (Tokyo Univ. of Agr. & Tec.) , Koichi Kaji (Tokyo Univ. of
Agr. & Tec.)
Masahiko Asada (Chiba Biodiversity Center)
In Boso peninsula, evergreen broad-leaved forests zone, sika deer
population has expanded its distribution since 1970s. The center of
distribution reached to 30-40 deer/ km 2 by 1991. Associated with the
population increase, jaw size of calves and body mass and fat reserves
of females decreased. However, no obvious mass mortality occurred.
Evergreen leaves and acorn were the primary food in winter of Boso deer.
The both evergreen leaves had relatively high and stable crude protein
contents throughout the year. The annual acorn production did not affect the
deer density. The fecal nitrogen of the Boso population was lower than that
of the northern population in the deciduous broad-leaved forests in summer,
while higher in winter. Thus, the magnitude of the seasonal fluctuation
was relatively smaller in the Boso population than those in the northern
population. The density dependent pregnancy rate was found in adult
females and it decreased when the deer density exceeds 15 individuals/ km
2
. The age-specific survival rate has not been obvious difference between
calves and adults. The most sensitive parameter to increasing density
was reproductive rate firstly, followed by survival rate, which is opposite
sequence in northern sika population and other cervids.
Nikko and Ashio areas of central Japan are contrasting habitats in food
quality and availability for sika deer (Cervus nippon ). In Nikko area, main
understory is Sasa nipponica , which has high nutritive value but low height
and small biomass under overgrazing. In Ashio area, main understory is
Miscanthus sinensis , which has low nutritive value but high height and large
biomass. Ashio herd has smaller body size and body mass in both sexes
and lower pregnancy rate than those in Nikko herd. Deer densities were 22
and 147 deer/km2 in Nikko and Ashio areas, respectively in winter of 1996.
Owing to pest control, present density has been reduced to 13 and 20 deer/
km2 in Nikko and Ashio areas, respectively. Winter food in Nikko area was
S. nipponica , accounted for 70% of rumen contents in usual, but this ratio
fell when snow cover was deep or deer density was high. Winter food in
Ashio area was M. sinensis , accounted for 80% of rumen contents, and this
ratio was relatively stable despite of the changes in deer density and snow
depth. These results suggest that quantity habitat in Ashio area can maintain
higher carrying capacity with smaller body size than the quality habitat in
Nikko area.
35
S07-5
S08-1
Impacts of overabundant white-tailed deer on ecosystems
Introduction: Why we should study winter climate change.
and feedback effects on their life-history
Makoto Kobayashi (Yokohama National Univ.), Koyama Lina (Kyoto Univ.)
Steeve Côté (Laval Univ.)
The extent of snow cover over the northern hemisphere reached about
50% (in February 1972). At maximum, 55% of the terrestrial area of the
northern hemisphere is seasonally frozen ground. Recently, plant-soil
systems in these ecosystems have been more frequently subject to decreased
snow cover and warmer temperatures during winter. Consequently, the
change in winter conditions is likely to influence the organisms that
constitute plant-soil systems (e.g. plants, soil fauna, and soil microbes)
and the associated biogeochemical cycles. Furthermore, winter climate
change can affect the species interactions that maintain the biodiversity in
terrestrial ecosystems. However, winter has received much less attention by
researchers than the so-called growing season.
In this symposium, we summarize the current knowledge in winter
ecology and also the results of recent manipulative experiments on winter
climate. Finally, we would like to discuss the importance of taking the
effects of winter on plant-soils systems into consideration to predict the
future of terrestrial ecosystems.
Deer have expanded their range and increased dramatically in abundance
worldwide in recent decades. By foraging selectively, deer affect vegetation
dynamics and succession. Cascading effects on other species also occur. We
studied overabundant white-tailed deer (Odocoileus virginianus ) introduced
on Anticosti Island (Quebec, Canada). We assessed whether chronic
browsing contributed to a decline of the quality of deer diet, and evaluated
the impacts of reduced diet quality on body condition and reproduction.
Rumen nitrogen content declined through time. Body mass of males and
females also declined. The probability of conception increased through time,
but litter size at ovulation declined, resulting in a similar total number of
ovulations. We hypothesize that the density-dependent effects observed on
body mass might have been exerted through habitat degradation. Our results
suggest that following a decline in habitat quality, females modified their
life-history strategies to maintain reproduction at the expense of growth.
Such modifications may contribute to maintain high population density
despite negative effects on habitat. Ecologists should actively participate in
efforts to understand, monitor, and control deer impacts on ecosystems.
S08-2
S08-3
Winter climate, plant traits and nutrient cycling
Impact of snowpack decrease on net nitrogen
Cornelissen J.H.C. (Vu Univ., the Netherlands)
mineralization and nitrification in forest soil of northern
Japan
Hideaki Shibata, Yuko Hasegawa, Tsunehiro Watanabe, Karibu Fukizawa
(Hokkaido Univ.)
The decrease in snowpack amplifies soil freeze-thaw cycles and decreases
the snowmelt water supply to soil. This study examined how snow decrease
affects the N mineralization and nitrification of forest soil in northern
Japan by conducting an in situ experimental manipulation of snowpack and
laboratory incubation studies of soil with differing moisture, temperature
and freeze-thaw magnitude. For the incubation studies, surface mineral soil
was collected and incubated using the resin-core method during the winter.
In the field, there were two treatments: 50% and 100% snow removal, in
addition to control plots. The 100% removal of snowpack significantly
increased net N mineralization and marginally decreased the net nitrification
in soil with the increase in freeze-thaw cycles. However, the net nitrification
rates decreased in spite of the increase in ammonium-N availability. The
results indicate that winter climate change, which alters the snowpack
regime, would strongly impact N biogeochemistry through the increase
in ammonium availability for plants and microbes, whereas it would be
unlikely that the nitrate loss from surface soil would be enhanced.
36
S08-4
S08-5
Nitrous oxide emissions from soil in relation to winter
Winter photosynthesis by evergreen broad-leaved trees
climate
in a deciduous temperate forest
Yosuke Yanai, Yukiyoshi Iwata, Tomoyoshi Hirota (NARO)
Yoshiyuki Miyazawa (Kyushu Univ.)
In northern regions, spike-like N2O emissions from soils are observed
in early spring. During this period, snow melting can cause soil thawing,
depending on the presence of a frost layer, i.e., the air temperature and
the thickness of snow cover in early winter. Soil freezing is a known
factor inducing soil denitrification. Our in-situ snow cover manipulation
experiment in Hokkaido, Japan, revealed a large N2O flux and increased
N2O concentration with decreasing O2 concentration in the surface soil
layer immediately after and before the snow-melting period, respectively.
This was observed in a treatment plot with deep soil frost formation by
snow cover removal until mid-winter. However, in our two-year (20082010) observation at this plot, greater maximum soil frost depth did not
always result in larger N2O flux. Therefore, we speculate that snow cover
and snowmelt water in early spring play important roles in stimulating N2O
production as a heat insulator and gas diffusion barrier, respectively, thus
creating warm and anoxic microsites in the frozen surface soil layer.
In warm temperate forests, there expands evergreen broadleaved tree
species in Japan. These species retain leaves even in winter, and are
situated in warmer environments than winter deciduous tree species. Winter
photosynthesis is thought to increase with the progress of global warming as
a major response of the forests to the increasing air temperature. Although
instantaneous rates of leaf-level gas exchange have been measured, previous
studies did not evaluate how winter and annual photosynthetic carbon gain
change with increasing air temperature at leaf- and canopy-scales.
Japan islands offer a model system to conduct climatic research due to the
wide gradient of latitude and temperature. Comparison at multiple places in
Japan will provide information about the response of photosynthetic carbon
gain to increasing air temperature in winter and growing season, and the
phenology under climiateic changes.
In this presentation, I will show the air temperature-photosynthetic
carbon gain relationship at leaf- and canopy-scales for weather stations in
Japan from Hokkaido to Okinawa and show how increasing air temperature
along the geographical gradient influences winter and annual carbon gain by
evergreen broadleaved tree species.
S09-1
S09-2
1.長野県佐久地方の伝統的農法“稲田養魚”
2.トキをシンボルとした環境保全型農法の取組み効果
小関右介(長野水試佐久支場)
西川 潮(新潟大・朱鷺自然再生学研究セ)
水田で稲とともに魚を育てる稲田養魚は、限られた土地でより多
くの食料を生産する有効な手段であり、アジアを中心に世界の国々
で行われている。日本でも、内陸県を中心に戦前まで、稲作と同時
にコイを養成する稲田養鯉が盛んに行われていたが、戦後の農薬の
普及と新たな養鯉方式(ため池方式および流水方式)の発展にとも
なって衰退した。江戸末期(1840 年代)から 100 年以上にわたって
鯉(佐久鯉)の一大産地であった長野県佐久地方でも、稲田養鯉は
1960 年代に終焉を迎えた。しかし、稲田で魚を育てる文化と技術は、
1978 年に始まった水田利用再編対策(米生産調整のための転作振興)
の下で稲田フナ養殖へと受け継がれ、今日まで実践されてきた。最近、
この佐久の稲田養魚に対して、食の安全・安心や農地の環境保全な
どの観点から関心が高まっており、稲作や水田生物群集に与える影
響について実証的知見が集まり始めている。本発表では、そうした
最近の知見を紹介し、稲田養魚という伝統的農法が水田地帯の生物
多様性に与える影響について考察したい。
赤沼宏美,遠藤千尋,大脇淳,金子洋平,小林頼太,櫻井美仁,
田中里奈,中田誠(新潟大・朱鷺自然再生学研究セ),齋藤亮司(サ
ンワコン)
水田は農作物の栽培の場として機能するだけでなく,かつて氾濫
原湿地を利用していたさまざまな野生生物に棲み場や餌場を提供す
る。近年 水田は,その代替湿地としての重要性が見直され,農業生
産と生物多様性の再生の両立を念頭に置いた環境保全型農法の取組
みが各地で進められている。
佐渡市では,2008 年度より開始されたトキの再導入事業に合わせ
て,水稲農業に水田の生物多様性再生を軸とした「朱鷺と暮らす郷
づくり」認証制度が導入された。「朱鷺と暮らす郷」米の主な認証基
準は,従来と比べ農薬・化学肥料を 5 割以上低減したうえで,1)
ふゆみずたんぼ(冬期湛水),2)江(水田脇の深溝),3)魚道,4)
ビオトープ(水田に隣接した非耕作湛水田)といった「生きものを
育む農法」のいずれかに取組むことである。2012 年現在,全島の 20
%以上の水田で「朱鷺と暮らす郷」米の栽培が進められている。本
発表では,野外調査を通じて,佐渡島における現行の環境保全型農
法の取組み効果を検証し,操作実験を通じて新たな環境保全型農法
について検討した結果について報告する。
全島と平野部における 400 水田に及ぶ野外調査の結果,無農薬・
無化学肥料栽培(無々栽培)は生物多様性向上に効果的であるものの,
一定量以上に農薬・化学肥料を低減してもその効果は明瞭ではない
ことが示唆された。また,「生きものを育む農法」のなかで最も取組
み面積が大きいふゆみずたんぼは生物多様性向上効果が小さいのに
対し,二番目に取組み面積の大きい江の設置は夏冬ともに水棲動物
の種多様性向上に効果的であることが示された。最後に,畔草管理
や水管理に基づき,コウチュウ類やクモ類といった水田の指標生物
の生息個体数を増加させる取組みについて紹介する。
37
S09-3
S09-4
3.冬期湛水・有機栽培における稲、土、生きもの
4.能登の省力型農法“乾田不耕起直播農法” 伊藤豊彰(東北大・院・農)
小路晋作(金沢大・地域連携推進セ)
冬期湛水は多様な目的で実施されているが、宮城県の蕪栗沼、伊
豆沼周辺では、代替湿地(ねぐら利用)創出によるハクチョウやマ
ガンの保全、水田内の水生生物保全、安心な米の生産を主目的とし
て冬期湛水・有機水稲栽培が行われている。蕪栗沼周辺(2003 年開
始)の“ふゆみずたんぼ米”は、生きものブランド米や地域ブラン
ド清酒の原料として、高い評価を得ている。本報告では、冬期湛水・
水稲有機栽培を持続性の高い生産技術とするための基礎資料を得る
ために、その特徴と課題を明らかにした。冬期湛水・有機栽培の玄
米収量は、隣接圃場に設置した慣行栽培(地域慣行の農薬、化学肥
料などの管理)に比べて、85%(蕪栗沼周辺水田、2005 ∼ 2006 年)、
81%(伊豆沼周辺水田、2006 ∼ 2008 年)
、84%(東北大学附属フィ
ールドセンター、2008 ∼ 2010 年)に低下したが、冬期非湛水の有
機水田に比べて増加する傾向があった。冬期湛水・有機水田では、
長い湛水期間と易分解性有機物(有機質肥料、抑草用の米ぬか)の
施用により慣行水田よりも栽培期間中の土壌還元が早期に発達し、
土壌リン酸の有効化が早まり、土壌窒素の無機化量が増加した。一
方、メタン放出量は増加した。前2者は水稲栽培上有利な特徴であ
るが、後者の解決は課題である。冬期非湛水の有機水田に比べて冬
期湛水水田で雑草発生量が少ない例(伊豆沼周辺)が見られた。し
かし、機械除草等を行わないと減収要因となり、イヌホタルイの繁
茂はカスミカメムシ類による品質低下(斑点米)を助長した。冬期
湛水・有機水田では、慣行水田に比べてイトミミズ類が増加し、水
生生物の種類と個体数が有意に増加した。冬期湛水・有機栽培の持
続性を高めるためには、優れた面(土壌養分有効化量と生物量の増加)
を維持しつつ、有機栽培と共通する課題(雑草抑制、メタン放出抑制)
を解決する必要がある。
近年,北陸地方では水稲の不耕起 V 溝直播栽培の普及が進んでい
る.直播栽培では乾田への播種後,6 月から 9 月まで湛水して夏期
の落水処理(中干し)を行わない.また,慣行栽培で用いられる苗
箱施用殺虫剤を使用しない.このような水管理や農薬施用方式の違
いは,水田の生物相や多様性に影響を及ぼすものと考えられる.そ
こで講演者らは 2010 年から 2 年間,石川県珠洲市の直播栽培 4 圃場
と慣行栽培 4 圃場において調査を行い,栽培様式の違いが水生昆虫,
稲株上の節足動物,および水田雑草におよぼす影響を調べた.本講
演では,主に水生コウチュウ・カメムシ目について結果を報告する.
直播水田では水生コウチュウ・カメムシの密度が高く,コウチュ
ウの種数が多かった.また,希少種のマルガタゲンゴロウ,ゲンゴ
ロウ,クロゲンゴロウ,ミゾナシミズムシが出現した.指標種分析
により,直播水田ではチビゲンゴロウ等 7 種が,慣行水田ではゴマ
フガムシ等 2 種が指標種として抽出された.直播水田の指標種 7 種は,
慣行水田で中干しが行われる 7-8 月に幼虫の個体数がピークに達し
たことから,繁殖期を通じて水田が湛水されていることが,直播水
田において密度が高い原因の一つと考えられた.また,直播水田の
指標種は慣行水田においても優占しており,これらが慣行水田での総
個体数に占める割合はコウチュウで 70%,カメムシで 77%であった.
以上の結果は,省力型農法として開発された直播農法が,水生昆
虫の重要な生息・繁殖場所として機能していることを示す.希少な
水生昆虫類が生息する能登において,直播栽培の普及は地域レベル
の種多様性やアバンダンスを高めうる.ただし,農法の違いに対す
る反応が種ごとに異なった点を考慮すると,直播水田だけではなく,
直播と慣行の両栽培法が混在することが重要といえる.
S09-5
S09-6
5.生態系サービスを活用した環境保全型水田における
6.田んぼで洪水は防げるか ‐ 田んぼダムの可能性と技
害虫防除
術的課題 ‐
稲垣栄洋(静岡農林技術研)
吉川夏樹(新潟大・農学部)
水田は生物多様性の豊かな場所である。しかし農業生産の面から
は、生物の豊富さが害虫の発生量の多さとなることは避けたい。農
耕地や農地周辺の生態系は、土着天敵による害虫抑制やポリネータ
ーによる送粉など、さまざまな生態系サービスを提供している。近
年では環境保全型農業や総合的害虫防除の進展から、土着天敵の働
きに注目が集まっており、欧米では、農業に有用な生物種や生態系
サービスの保全・活用に着目した「有用生物多様性」の研究が進め
られている。 演者らは、深刻な水稲害虫であるアカスジカスミカメの天敵を調
査した結果、コモリグモがアカスジカスミカメの重要な捕食者であ
ることを明らかにし、周辺環境や水稲栽培の作業がコモリグモの個
体数に及ぼす影響について調査を続けている。その結果の1つとし
て、水田を囲む畦畔の面積や畦畔管理の方法が、コモリグモの保全
に重要であることを明らかにしている。
本稿では、管理技術によってコモリグモが保全される事例として、
水田前作のレンゲの栽培がコモリグモの個体数に及ぼす影響につい
て紹介したい。静岡県の3地域を対象に2ヵ年に渡り調査した結果、
レンゲを栽培している水田では、他の水田と比較して春のコモリグ
モの個体数が多かった。水田では耕起作業を行い、入水して代かき
や田植えを行うことから、水田内のコモリグモが減少することが懸
念されるが、耕起や入水など撹乱が行われると水田内のコモリグモ
は畦畔に逃避し、その後、夏期になると再び水田内に侵入した。そ
のため、レンゲを栽培していた水田では、水稲栽培期間を通してコ
モリグモの個体数が多かった。レンゲはもともと緑肥作物であり、
化学肥料の普及した現在では、栽培はほとんど行われていない。し
かし生態学的な視点からは、レンゲ栽培は土着天敵を保全し生態系
サービスを高めるという新たな価値があると評価できる。
近年、集中豪雨発生の増加によって、全国で大規模な水害が頻発
しており、今後、物的・人的被害による経済的損失の増加が予想さ
れる。河川改修や治水施設の増強等の対応策が継続的に実施されて
いるものの、短期内での課題解決は財政的・技術的に困難である。
こうした状況を踏まえ、新潟県では豪雨による洪水の緩和対策とし
て、「田んぼダム」の取組が行われている。田んぼダムとは、水田
耕区の排水孔を装置化して落水量を抑制することによって、水田の
貯留機能を高め、豪雨時における水田地帯からの流出量のピークを
平滑化し、下流域の洪水被害を緩和するものである。水田の洪水調
節機能を人為的に操作できる点に基本的特徴があり、これまで多
面的機能の一つとして評価されてきた水田の洪水調節機能(志村、
1982;早瀬、1994)とは異なる。
土地利用、排水方法、地形勾配等の流域特性によって異なるが、
筆者らの試算によると、概ね 30%以上が水田の流域で効果が認めら
れ、取組水田 10a 当りの年間洪水被害軽減期待額は 1,000 円∼ 17,000
円にのぼる。2011 年 7 月末に発生した新潟福島豪雨災害では、新潟
市白根地区(流域面積 7,460ha、取組面積 2,900ha)で大きな効果が
発現され、約 12 億円の被害軽減をもたらした。
既存の水田を洪水緩和の装置として利用する田んぼダムは、環境
負荷が小さく、即効性の高い対策であるが、多数の農家の協力が不
可欠である。農家の参画を促す仕組みの整備が強く求められている。
38
S10-1
S10-2
山岳アリの標高傾度にそった遺伝的多様性
北方針葉樹トドマツの標高に沿った適応的形質とその遺
上田昇平(信大・山岳総研)
伝変異
最終氷期が終わってから約 1 万年の間,日本の山岳生物は山岳地
域ごとに隔離され,それぞれ独自の進化を歩み,山域ごとに固有な
遺伝的分化を引き起こしつつあると考えられる.その一方で,水平
方向だけではなく垂直方向に沿った環境の違いも,山岳生物の適応
進化に影響を与え,標高上下間での生態的・遺伝的分化を引き起こ
す可能性が指摘されている.現在,山岳生態系は,人間活動に伴う
地球規模の温暖化の影響を受け消失の危機にあると考えられており,
山岳地域という環境下において遺伝的分化がどのように引き起こさ
れたかを解明することは急務である.しかし,中部山岳地域におけ
る動物群集の遺伝的多様性の詳細を検証した研究はない.そこで,
我々は,アリ類を指標生物として,中部山岳地域における山域間お
よび標高間の遺伝的多様性の実態を探ることを目標とし,研究をス
タートさせた.
最初に,我々は,乗鞍岳においてアリ類の種ごとの垂直分布を調
査し,遺伝的多様性の解析に用いる指標種を選定した.その結果,
幅広い標高分布範囲を持つ山岳性のシワクシケアリが指標種として
選定された.次に,我々は中部山岳地域の広域から採集したシワク
シケアリを用いて分子系統樹を作成し,遺伝的分化の地理的パター
ンを検証した.その結果,単一種と考えられてきたシワクシケアリ
の中には複数の遺伝的系統が存在すること,および,それぞれの系
統は標高ごとに分化していることが明らかになった.さらに,我々
は,発見された遺伝的系統間に生殖隔離があるか否かを検証するた
め,生殖隔離に関与する形質である体表面炭化水素の化学分析をお
こなった.その結果,より高標高域に分布するアリ系統は,体表面
炭化水素の分化も伴っており,生殖的に隔離された「種」の可能性
が高いことが示された.
石塚 航(東大・総合文化)
亜寒帯気候に属する北海道では,針葉樹トドマツ(モミ属,Abies
sachalinensis )が代表種として森林を構成し,標高差 1,000m 以上の
幅広い垂直分布を示す.その中央山岳地域に広がる東京大学北海道
演習林では,標高間相互移植試験や標高間の人工交配苗を用いた次
代検定試験が 1970 年代に開始されており,樹木で自然集団の標高適
応の実態に迫ることができる貴重な試験となっている.本発表では,
生育する標高環境,もしくは遺伝的背景の違いによってトドマツが
どのように応答するか調べたこれまでの研究を概説し,本種の標高
適応に関連する形質とその遺伝変異について考及する.
相互移植試験ではまず,移植個体のパフォーマンス(成長・生存)
を計測し,自生環境において各集団が有利なパフォーマンスを示し
ていることを実証した.続いて,試験の生存個体の一部から枝葉を
採取して耐凍性評価を行い,秋の低温馴化(耐凍性獲得)や成長休
止タイミングといったフェノロジー(季節性)に標高クラインが認
められることを実証した.さらに,次代検定試験で育つ人工交配苗
の一部が繁殖を開始したため,開放受粉種子を採種し,その種子か
ら得た苗を F2 とみなした共通圃場試験を新たに行った.F2 群が示す
苗高,フェノロジー,耐凍性といった諸形質値の分散と親の遺伝子
型組成との対応を調べ,相互移植試験から示唆された適応的形質の
変異が確かに遺伝的基盤の変異に基づくことを確かめた.一連の研
究から,北方針葉樹のトドマツは高標高集団ほど成長期間は短く,
成長量も少ない一方で,耐凍性獲得時期が早い傾向があり,低標高
環境よりも,気候条件の厳しい高標高環境での生育に有利だとまと
められた.成長と抵抗性の間のトレードオフ,標高傾度に沿って変
化する選択圧,これらが局所環境への適応進化に深く関わったのだ
ろうと考えられた.
S10-3
S10-4
標高傾度にそった水生昆虫類の流程分布と遺伝的特性
ヤマホタルブクロにおける花サイズの標高間変異と遺伝
東城幸治(信大・理 , 信大・山岳総研)
子流動
河川棲水生昆虫類では、水温や流速、河床の礫サイズなどといっ
た微環境に応じた棲み場所の細分化が比較的顕著に認められる。こ
のため、「棲み分け理論」のよいモデルであるとして扱われてきた。
とくに本邦の水生昆虫相は、東アジア・モンスーン地域の豊かな水
環境をベースとした高い種多様性に加え、大きな海洋プレートが衝
合することでの激しい地殻変動により複雑な地形が発達・変遷して
きたような立地面にからも、より細かなニッチ分割やそれに伴う適
応放散が生じてきたものと考えられる。
中でも、ヒラタカゲロウ科 Heptageniidae 種群では、上 - 下流方向
における(標高傾度に応じた)流程分布、また、川岸から流心に向
かう(流速に応じた)ニッチ分割などが顕著に認められ、極めて短
い流程内においてさえも多数の近縁種群が棲息するようなことがし
ばしば認められる。このヒラタカゲロウ類を対象に、千曲川水系(5
河川:千曲川、犀川、高瀬川、梓川、奈良井川)の広域的流程にお
ける個体群構造を明らかにするとともに、その遺伝的構造との関連
性を比較検討した。
四季を通じて実施した定量調査による種群リストを基にしたクラ
スター解析や NMDS 解析の結果、5 河川ともに、ヒラタカゲロウ類
の流程分布の傾向はよく似た傾向を示した。また、ヒラタカゲロウ
Epeorus 属内の近縁 2 種であり、源・上流域のスペシャリスト種(キ
イロヒラタカゲロウ E. aesculus )と上・中流域に広域分布するジェ
ネラリスト種(マツムラヒラタカゲロウ E. l-nigrus )間での遺伝的構
造の比較を行ったところ、それぞれが有する個体群構造の特徴によ
く合致した遺伝的構造をもつことが明らかとなった。
長野祐介(信大・理・生物)
植物集団間の適応分化は、地理的な環境の違いに対する適応と集
団間の遺伝子流動に影響される。一般に、遺伝子流動は集団間分化
を阻害する。しかし、遺伝子流動が存在する中でも、ある形質に対
して地域特異的な選択圧が強くかかれば、その形質状態は地域適応
として集団中で維持されるだろう。本研究では、短い距離で急激な
環境変化をもたらす標高傾度に着目し、標高間での花サイズの地域
適応と遺伝子流動について評価した。
ヤマホタルブクロは、中部山岳域の幅広い標高帯に生育しており、
マルハナバチ類が主な送粉者として知られている。マルハナバチ類
は標高によって分布種組成が変化することが知られており、幅広い
標高帯に分布するマルハナバチ媒植物の花形質に対して標高ごとに
異なった選択圧を与えていることが予測される。
本講演では、ヤマホタルブクロの花形質における標高間変異を検
出し、その変異が送粉者による選択圧の変化によって生じているの
かを操作実験によって検証した結果について報告する。中部山岳 3
山域の標高 700~2300m の 7 地点で花サイズと訪花マルハナバチ相及
びその形態サイズを調べ、GLMM 解析を行った結果、花サイズの変
異に対する地点ごとの平均ハチサイズの影響が支持される一方で、
標高傾度そのものの影響は認められなかった。また、操作実験によ
り送粉効率が花とハチのサイズマッチングに影響されることが示さ
れた。一方、標高間で中立遺伝子マーカー(SSR)の分化があるか
を評価したところ、標高間での顕著な遺伝的分化は見られず、遺伝
子流動の存在が示唆された。
これらの結果から、遺伝子流動が存在する中でも、標高間での生
物間相互作用の変化によって、花形質の多様化が導かれていること
が明らかとなった。
39
S10-5
S10-6
オサムシにおける高度勾配上の適応と種分化
標高万能植物ミヤマハタザオにおけるトライコームおよ
曽田貞滋・土屋雄三・小沼順二(京大・理)
び光受容体遺伝子の集団間分化
日本列島で著しい種分化を遂げたオオオサムシ亜属の特徴として,
体サイズの変異が大きく,同所的に生息する種間では明確な体サイ
ズ差があることが挙げられる.この体サイズ差は,機械的な生殖隔
離をもたらしている.一方,本亜属の種内の体サイズ変異は,生息
地の緯度,高度,年平均気温との相関を示しており,異なる季節環
境への適応が体サイズを規定する主要因であることが示唆されてい
る.四国に分布するシコクオサムシは,海岸付近から 1900 mの山岳
地帯まで分布し,4つの亜種に分類され,亜種間の体サイズの変異
が著しい.4 亜種のうち,四国西南部の低所から標高 1000 mを越え
る高所まで分布する亜種トサオサムシは,山地の上部を中心に標高
数百mから 1900 mまで分布する他の3亜種よりも大きい体サイズを
持つ.亜種間の分布境界は,河川や急峻な地形等の地理的障壁に対
応している.相対的に低標高に生息する亜種トサオサムシと高標高
に生息する亜種イシヅチオサムシの生息環境の違い,生活史の違い
を調査し,適応的分化の生態的要因を考察した.同じ亜種の組み合
わせにおいて,実験室内の温度依存的幼虫発育の比較,亜種間交雑
による体サイズの遺伝に関する実験の結果から,体サイズの可塑性
と亜種間の遺伝的差違に関する考察を行った.オオオサムシ亜属の
交尾においては,雌雄の体サイズの適合が重要である.室内実験に
よって,雌雄の体サイズ差と交尾成功率の関係を明らかにして,集
団間の体サイズ分化が生殖隔離に及ぼす効果を予測した.連続的な
高度勾配上における体サイズの分化によって,種分化が生じる可能
性に関して考察した.理論的に,一様な高度勾配の上での連続的な
体サイズ分化から種分化が起こる可能性は低いと予測されるが,高
度勾配上に分散障壁となる急峻な地形が存在することによって,低
所・高所の集団間の遺伝的分化が促進され,種分化につながる可能
性が示唆される.
平尾 章(筑波大・菅平セ)・恩田義彦(理研)・清水(稲継)理恵(チュ
・清水健太郎(チューリヒ大)
・田中健太(筑
ーリヒ大)
・瀬々 潤(東工大)
波大・菅平セ)
シロイヌナズナ属野生植物であるミヤマハタザオ(Arabidopsis
kamchatica subsp. kamchatica )は,極めて幅広い標高帯に生息する.
これまでに,野外集団のデモグラフィーが標高に沿って変化してい
ること,さまざまな形質が標高間で遺伝的に分化していることが明
らかになってきた.本研究では標高適応の遺伝的背景を明らかにす
るために,開花および被植防衛に関連する 8 つの遺伝子(GI, HEN2,
DFL2, GL1, MAM1, TTG1, CRY1, PHYB )を対象に適応遺伝子を探す
候補遺伝子アプローチを試みた.
各遺伝子約 400bp の配列を対象に,中部地域の標高 30-3000m に
分布する 24 野外集団に含まれる塩基多型を,各集団 20 個体の DNA
を混合して第二世代シーケンサー 454 GS Junior を用いて塩基解読す
ることで並列的に探索した.ミヤマハタザオは異なる 2 つの交雑親
種に由来する異質倍数体であるため,交雑親種の違いに由来する相
同遺伝子(ホメオログ)を判別するパイプライン(データ解析手順)
を構築した.その結果,トライコーム(葉や茎の毛状突起)形成制
御遺伝子 GL1 および光受容体遺伝子 CRY1,PHYB において,集団
間で著しく対立遺伝子頻度が異なる塩基多型サイトを見出した.こ
れらの対立遺伝子頻度は集団の標高と相関しており,標高適応を担
っている遺伝子である可能性が高い.今後の展開として,体系的な
相互移植実験を組み合わせた適応研究の新たな方向性についても議
論したい.
S10-7
S11-1
標高による遺伝的分化の特性を考える
導入:絶滅回避は進化の第 1 法則!?
田中健太(筑波大・菅平セ)
吉村仁(静岡大学)
この講演では、進化生物学の研究フィールドとしての標高傾度が
持つ魅力や展望について総括を試みる。
標高傾度は緯度と並んで、生物の適応進化全体の様相に影響を
与える環境要因である。標高方向の温度変化は水平方向に比べて約
800 倍速く、短い空間距離の中で激烈な環境傾度が生じる。また複
数の山域を調査することで、標高傾度の反復が容易に得られる。標
高傾度が持つこれらの特徴は、移住・分散履歴の影響を受ける中立
的な遺伝構造から、ゲノム上の特定の部位に働いた自然淘汰を区別
する上で、大きな長所となる。
頻繁なジーンフローがある空間スケールの中で自然淘汰が働い
た場合、地点間でゲノム全体がシャッフルされる中で自然淘汰が働
くゲノム上座位だけが顕著に遺伝的分化するという状況が生じう
る。これは自然淘汰の検出に極めて有利である。一方で、ジーンフ
ローの効果が自然淘汰を上回れば、不適応な遺伝子の流入である
migration load(移住荷重)によって適応進化そのものが阻害される
かもしれない。また、標高傾度に固有な特徴として、低標高帯は山
域間が空間的に連続しているのに対して高標高帯は不連続であるこ
と、高標高から低標高へのジーンフローの方がその逆よりも起こり
やすいことと言った、標高帯間の非対称性がある。これらの点が生
物の適応進化に与える影響は興味深い。例えば、高標高への適応の
方が低標高への適応よりも移住荷重が少ないために容易だろうか?
標高方向の適応進化を担う遺伝的変異は、低標高では山域間で共通
で、高標高では山域ごとに固有だろうか?さらには、標高に沿って
広域に分布する種とそうでない種がいることもこうした問題と関わ
っているのだろうか?
最後に、こうした標高研究を推進している中部山岳地域大学間連
携事業(JALPS)の取り組みについて簡単に紹介する。
従来の進化の総合学説では、自然選択プロセスによって適応度の
より高い生物個体が勝ち残り、適応度の低い個体が競争に負け消え
ていくと考えている。個体群の存続(絶滅をしないこと)を前提し
て、どの戦略(形質・遺伝子型)が相対適応度が高いかを考えている。
そのため、環境の変化・変動に対して生物個体群が絶滅するか存続
できるかという、もう1つの自然選択の問題はほとんど扱われて来
なかった。ところが、地質時代を通して恐竜や三葉虫など多くの生
物種が絶滅してきたことは有名である。これらの絶滅は、本来不確
定で予知できない環境の大きな劇変によって引き起こされたとする
のが一般的である。そして数少ない生物がその環境変化の中を生き
残り、絶滅を避ける形質を進化したと考えられる(吉村仁「強い者
は生き残れない」(新潮選書 2009)。環境の変化・変動に対する絶滅
回避の適応進化は、もっとも重要な自然選択プロセスであり、進化
の第 1 法則とみなせるはずである。そして、存続を仮定した従来の
より高い適応度の進化は、第2法則とみなすことができる(吉村仁「な
ぜ男は女より多く産まれるのか ‐ 絶滅回避の進化論」ちくまプリマ
ー新書 2012)。本シンポジウムの導入として、幾つかの例をあげて、
これら2つの進化法則の違いを説明する。
40
S11-2
S11-3
社会性昆虫の繁殖システムの進化
シロアリの女王フェロモンとコロニーの維持機構
松浦健二(京大院・農・昆虫生態)
山本結花(京大院・農・昆虫生態)
アリ・ハチ、シロアリなど真社会性昆虫のコロニーの血縁構造、
ひいてはメンバーにとっての包括適応度利益は、その繁殖システム
に大きく依存する。近年、社会性昆虫の新たな繁殖システムの実態
が次々と明らかになっており、繁殖システムの多様性をもたらす進
化的要因について関心が高まっている。特に、複数のアリとシロア
リにおいて、女王が産雌単為生殖で次の女王を生産していることが
明らかになっており、次世代への遺伝貢献を巡る雌雄間の対立が、
繁殖システムの進化に大きな影響を与えていることが示唆されてい
る。アリの新女王の単為生殖生産とシロアリの単為生殖による女王
継承(AQS)システムは、一見似ているように見えるが、その結末
は大きく異なる。アリでは、女王側の利己的戦略として新女王が単
為生殖で生産され、雄アリは次世代に遺伝子を残す術を失い、激し
い性的対立を伴った進化的袋小路となる。このような種では、繁殖
システムに地理的変異があることが知られており、元の有性生殖で
女王生産をしている集団も見つかっている。一方、シロアリの AQS
は創設女王の次世代への遺伝的寄与を維持するだけでなく、近親交
配回避や末端融合型オートミクシスによる劣勢有害遺伝子の排除を
通じて王や他のメンバーにとっての利益をもたらし、コロニーレベ
ルでも有利に機能している。そして、一旦 AQS が起源すると、地
理的変異を残さず集団中に一気に広まっていることが分かってきた。
また、AQS システムのシロアリでは、単為生殖で生まれた子が、女
王フェロモンによる抑制を回避して女王分化していることが分かっ
ており、これには母系ゲノムのインプリンティングが関与している
可能性が高い。シロアリでは、次世代への遺伝貢献を巡るゲノムレ
ベルの対立が、より長期安定なコロニー存続を可能にする繁殖シス
テムの進化をもたらしたという新たな仮説について議論する。
アリやハチ、シロアリのような社会性昆虫は、驚くほど組織的に
振る舞うことで、地球上で最も繁栄した生物となっている。その社
会を支えるのは、フェロモンをはじめとした様々な化学物質である。
例えば、シロアリの巣内では採餌、防衛、巣仲間認識、カースト分
化といった様々な場面でフェロモンが機能している。
その中でも、高度に社会性を発達させた真社会性昆虫では、繁殖
と労働の分業が発達しており、現役の女王はフェロモンによって他
の雌個体が女王に分化して産卵するのを抑制している。近年、講演
者らは、ヤマトシロアリの女王フェロモンの成分が2 - メチル1 - ブ
タノールと n - ブチル n - ブチレートの2つの揮発性物質であること
を特定した。女王フェロモンが特定できたことにより、その機能に
関する様々な操作実験が可能となり、それなしでは不可能であった
様々な謎解きに道が拓かれた。まず、女王フェロモンと全く同じ揮
発性物質が卵からも放出されており、この卵揮発物質はワーカーが
卵を育室に運搬・保護する際の定位フェロモンとしても機能してい
ることが示された。また、女王が複数存在している巣の中では、女
王フェロモンが女王間の産卵シグナルとして働き、コロニーレベル
の卵生産量の調節に重要な役割を果たしていることが明らかになっ
た。さらに、卵保護に必須のワーカー唾液腺リゾチーム量の生産調
整や抗菌作用など、女王フェロモンはシロアリの巣内で多面的な機
能を果たしている。
本講演では、シロアリの女王フェロモンの特定以降、講演者らの
研究グループによって次々に解き明かされた女王フェロモンの機能
とその進化プロセスについて総括したい。女王フェロモンはシロア
リの巣社会が健全に存続する上で不可欠な役割を担っている。社会
性昆虫の巣社会の維持に女王フェロモンがどのように関わっている
のか考察する。
S11-4
S11-5
子を産まないオスに意義がある!? 無性型と競争する
有肺類の鏡像個体群の存続と適応進化
有性型の存続戦略
浅見崇比呂(信州大・理)
小林和也(京大院・農・昆虫生態)
動物界では一般に、内臓が左右反転した集団は進化していない。
対照的に巻貝では、内臓を含む体全体が左右逆に発生する鏡像種が
進化した。巻貝のほとんどのグループで、交尾器は、右巻では首の
右側、左巻では左側にある。このため、右巻と左巻の交尾は物理的
に難しい。交尾個体のどちらもが同時に雌雄二役を果たして精子を
交換する有肺類(カタツムリ・ナメクジ類)では、求愛・交尾にい
くら時間をかけても、逆巻変異体と野生型が交尾できなかった例が
数多く報告されている。したがって、他の要因がないかぎり、正の
頻度依存淘汰により、集団は右巻か左巻のどちらか一方に固定する
と予測される。これは、巻貝の種の 9 割以上が右巻であり、交尾し
て繁殖するグループでのみ左巻がくり返し進化した事実と合致する。
ところが、有肺類では、右巻と左巻が共存する左右二型種も繰り返
し進化した。東南アジアに分布するマレイマイマイ Amphidromus 属
の左右二型種では、ほとんどの地域で左巻と右巻が共存する。自然
状態で右巻と左巻の交尾がランダム交尾よりも高い頻度で観察され
た事例から、右巻と左巻が選択的に交尾する可能性が示唆されてき
た。しかし、他の巻貝と同様にマレイマイマイでも、求愛・交尾を
当初から観察するのが困難なため、互いを選別するか否かはもとよ
り、物理的に難しいはずの右×左をどのようにして達成するのかは
まったくわかっていない。タクミマレイマイマイを用い、全暗条件
で赤外線微速度撮影を継続することにより、求愛・交尾行動の撮影
に成功した。結果として、同じ巻型どうしでも、異なる巻型どうし
でも、他の有肺類で報告されてきたような複雑な求愛ステップを経
ずに交尾することがわかった。交尾行動のパターンから、異なる巻
型どうしの場合には、相手の巻型(交尾器の位置)を認識した上で
交尾を達成していると考えられる。
なぜ多くの生物は有性生殖を行うのだろうか?
有性生殖生物は、子供に遺伝子以外の貢献がないオスへ資源を投
資しなければならないため、全ての資源を娘に投資できる無性生殖
生物に比べて、増殖率が半分になる。また、有性生殖を行うと母親
は自分の遺伝子の半分しか子供に伝える事が出来ないが、無性生殖
生物は自分の遺伝子を全て子供に伝える事が出来る。
これらのコストが存在するにもかかわらず、有性生殖が多くの真
核生物で広く行われるという矛盾から、なんらかのベネフィットの
存在が予測されている。しかしながら、全ての有性生殖生物が上述
のコストを支払っているわけではない。もしコストが小さいのであ
れば、わずかなベネフィットだけで有性生殖は進化しうる。
今回、有性生殖のコストについて再考し、既存の理論をまじえな
がらどのような条件下で有性型が存続可能か検討する。
41
S11-6
S12-1
6 年生周期植物の適応戦略
時空間的に不均一な環境はいかにクローナル増殖を有利
柿嶋聡(静岡大)
にするか
1 年を越える決まった周期で一斉に繁殖し、死亡する周期生物は、
その大量発生(一斉開花)と周期性から多くの人々の興味を集めて
きた。このような生物に、植物では最長で 120 年周期を持つイネ科
のタケ・ササ類、動物では 13・17 年周期を持つ北米の周期ゼミが代
表として挙げられる。しかし、このようなきわめて長い周期を持つ
生物の生活史の進化を明確に説明することは難しいのが現状である。
そこで、キツネノマゴ科イセハナビ属(Strobilanthes )の周期植物に
着目し、周期的一斉開花の進化を存続戦略という視点から考察する。
コダチスズムシソウ(別名セイタカスズムシソウ、S. flexicaulis )
は沖縄本島から台湾にかけて分布する多年生植物である。長期間の
野外調査から、コダチスズムシソウは沖縄本島で 6 年周期の一斉開
花・一斉枯死を繰り返していることが明らかとなった。そこで、6
年周期の一斉開花が存続戦略としてどのように働いているのか、本
発表では特に一斉開花の維持機構や、近縁で毎年開花する複数回繁
殖型種オキナワスズムシソウ(S. tashiroi )との生殖隔離機構に注目
福井眞(農環研)
生物の繁殖には遺伝的に同一な個体を生産するクローナル繁殖と、
組換え等を伴い新たな遺伝的組成の個体を作り出す繁殖様式がある。
これらの繁殖様式の長所は菌類の増殖に端的にあらわれる。つまり、
生息環境が好適であれば、クローナル増殖により旺盛な繁殖をおこ
ない、不適とあれば有性繁殖によって多様な遺伝組成を持つ次世代
個体をつくり、場合によっては胞子による長距離分散をする。種子
植物の一部が獲得したクローナル繁殖についても好適環境の空間的
な広がりがアドバンテージを生む。社会性を持つアリのコロニー形
成においても、周辺環境の資源が潤沢であれば、新女王が一から新
たにコロニーを作るよりも分峰のほうがコロニー形成の確率は高い
だろう。これらに共通するポイントは、それぞれの生物および生物
集団が固着性であるという点だ。周辺環境がおおよそ同じ環境であれ
ばクローナル繁殖によって安定して次世代を生産することができる。
他方で、これらの繁殖様式をもつことは分散戦略の問題として捉
えられ、理論的な解析がなされてきた。個体あるいは生物集団への
直接的な撹乱を考慮した場合、クローン繁殖よりも長距離分散によ
って撹乱の影響を免れる戦略が選択される場合がある。しかし長距
離分散によって定着した移住先が生息に適しているかどうかは問題
とされてこなかった。そこで生息環境の異質性を考慮にいれ、生息
環境に対して選択圧がかかる場合のシミュレーションを行い、クロ
ーナル繁殖を有利に選択させる要素を検証した。種子植物のいくつ
かを例にとり、シミュレーション結果の妥当性を議論する。また、
本講演で挙げられる他の生物、コロニー、細胞(ガン)集団につい
ての生活史特性をふまえ、クローナル繁殖をおこなう生物の共通性
についての議論の土台を提示する。
して行なった研究を紹介し、議論する。
S12-2
S12-3
種子植物の繁殖戦略(種子 vs. クローン)と空間遺伝構造
雌雄が単為生殖を行うウメマツアリのコロニー分布構造
荒木希和子(京大)
大河原恭祐(金沢大)
植物の中で、種子繁殖とともにクローン繁殖を行うクローナル植
物は、様々な分類群において独立に、また種子繁殖のみを行う種か
ら進化してきたとされ、その様式や程度もさまざまである。クロー
ン繁殖によって作られた子孫は一般に種子よりサイズが大きく、親
から栄養を受けて成長するなどの特性により種子実生に比べて生存
率が高い。一方で、分散能力は、他の媒介者を通じて散布される種
子に比べて、親の周囲の狭い範囲に限られる。
また、クローン繁殖によって作られた子供は、遺伝的に親と同一
なので、親と似ている環境には広がりやすいと考えられる。つまり
局所環境が均一であれば、クローン個体が拡大するが、資源の不均
一な配置や撹乱などの環境変化はクローン増殖を妨げる。したがっ
て、種子植物におけるクローンの拡大は、その種の繁殖様式につい
ての戦略(種子とクローン子孫の割合)、クローン子孫株(ラメット)
の分散能力ならびに親の周囲環境の時空間的不均一性に左右される。
多年生植物の集団は、その生育地の現在の環境のみならず、過去
の環境変化とそこで働いた選択圧、共存する個体や種との競合など
を反映した構造を持っている。空間遺伝構造もそのような構造の一
つであり、集団の空間遺伝構造から、種の繁殖戦略(種子繁殖とク
ローン成長の割合)と環境の時空間的変動との適合をある程度知る
ことができる。
本発表では、ユリ科を中心に、種子繁殖とクローン繁殖への投資
の異なる植物種の空間遺伝構造を調べ、環境の空間的不均一性と攪
乱頻度を変化させたシミュレーションの結果生じる空間構造と比較
し、さまざまな繁殖戦略(クローン繁殖の程度)がどのような生育
地微環境の不均一性に適応的かについて議論する。
社会性昆虫であるアリでは、コロニーの空間的拡大は重要な生活
史戦略の1つであり、特に資源をめぐる種間競争に有効である。複
数の女王の分巣による多巣化は、そうしたコロニー拡大のための特
徴であり、その社会構造は多女王多巣性とよばれる。しかし多女
王多巣性は産卵する母親女王や父親の個体数が極端に増加するた
め、社会性にとって重要なコロニーメンバー間の血縁性の低下など
のデメリットも生まれやすい。フタフシアリ亜科のウメマツアリ
Vollenhovia emeryi では、女王は未受精卵から発生し、受精卵からは
不妊カーストであるワーカーが発生する。さらに雄は受精卵から雌
ゲノムが消失することによって半数体で発生する。この雌雄がそれ
ぞれ単為生殖を行う特異な繁殖様式には注目すべき点が多いが、そ
の進化的意義として女王や雄、特に女王を無性的に生産することに
よって、姉妹コロニー間またはコロニー内の分巣間の血縁性が維持
できることが挙げられ、この繁殖様式の進化にはコロニー拡大戦略
が背景にあることが考えられる。演者は金沢市近郊の海岸林で、ウ
メマツアリの個体群についてコドラートセンサスと行動観察を行い、
そのコロニーの空間分布を調べた。またマイクロサテライト法によ
って、それらコロニー集団の遺伝的構造も調べた。その結果、ウメ
マツアリの個体群は局所的に分布したコロニー集団によって構成さ
れ、各コロニー内のワーカーは遺伝的に近い傾向がみられた。この
ことはコロニー分布が拡大しても女王の単為生産によってメンバー
間の遺伝的近似性が維持されていることを示唆している。さらに同
じ調査地で類似した生活史形態を持つ他種のアリのコロニー分布も
同時に調べ、ウメマツアリコロニーの分布との関係を解析した。こ
の結果から単為生殖様式と他種との種間関係、特にウメマツアリの
生態的優位性について考察を行った。
42
S12-4
S12-5
環境攪乱下において短距離拡散が有利になる条件につい
目にみえない菌類のクローナルな生き方:主に病原菌を
て:コロニー成長におけるコロニーの分割比と分散距離
材料とした分子生態学的研究に関する話題
のトレードオフを焦点に
広瀬大(日本大)
中丸麻由子(東工大)
菌類は菌糸体もしくは酵母として生活する微生物である。いずれ
の生活型においても、恐らく菌類の殆どの種はクローン増殖する能
力を有する。例えば子嚢菌類の多くの種では、有性生殖と共に無性
繁殖が発達しており、菌糸体による栄養成長に加え分生子とよばれ
る無性胞子を分散させることにより分布を拡大させている。いわゆ
るキノコを形成する担子菌類においても、菌糸体は無性的に増殖す
ることが可能である。
微小であり観察できる表現型が少ないことに加え、単相と重相の
世代を持つ種が存在することなどから、菌類は個体性の判断や連続
性の把握が難しい生物である。そのため、交配型因子や体細胞不和
合性、病原性、薬剤耐性などの生理学的マーカーや、近年では核酸
をターゲットにした分子マーカーをツールとすることにより、個々
の種の生活史や繁殖戦略の解明を目指した個体群レベルの研究が行
われてきた。特に分子マーカーは、高解像度で遺伝子型を決定出来
るだけでなく、基質中から分離培養することの出来ない菌種におい
ても菌糸の検出を可能としたため、近年よく用いられている。
本講演では、まず菌類の生活様式、特に生活環、性、繁殖様式、
栄養獲得様式、基質の特異性などを簡単に説明する。次に、研究例
が多い主に病原菌におけるクローナルな生き方の実態解明を目指し
た分子生態学的研究を紹介したい。
生物では、親と子が同じ場所に留まる場合もあれば、親とは異な
る場所へ子を拡散させる場合もある。環境撹乱下ではリスク回避の
ために拡散が進化的に有利であるという。しかし一部の生物では、
環境撹乱下であっても非拡散である。では、非拡散が進化する条件
は何であろうか。コロニーを単位とする定着型生物は環境撹乱下に
おいても非拡散であり、コロニーを分割させて親コロニーと子コロ
ニーに分かれ、親コロニーの近くに定着する。一方、拡散する生物
は少数個体で拡散する場合が多い。そこでコロニーサイズを4種類
にわけ、サイズを成長させ、最大のサイズ(サイズ4)になると分
割するとした。分割比として2:2分割戦略(コロニー分割後の親
と子コロニーのサイズがほぼ変わらない)と1:3分割戦略(親子
のサイズ差が大きい)の2つの戦略を仮定した。
基本モデルではコロニー間の闘争は無く、場所を巡る競争のみと
し、コロニーサイズ依存の死亡率を仮定した。死亡を免れると、す
ぐに次のコロニーサイズへ推移するとした。小さなコロニーの死亡
率が他のコロニーサイズの死亡率と比べて非常に高い時は 2:2 分割
戦略が有利になり、撹乱頻度の高い環境においても有利になるとい
う結果となった。
次に、コロニーが死亡を免れてもすぐには成長せずに同じサイズ
の状態のままである確率を導入した。すると小コロニーの成長が他
のサイズに比べて非常に遅い時に、2:2分割戦略が有利になる事
を示した。
3つ目に、分巣先に既にコロニーがある場合に場所を巡ってコロ
ニー間闘争が生じる場合と基本モデルを比較し、基本モデルのほう
が2:2分割戦略にとって有利になる事を示した。
よって、シンプルな基本モデルを基にして、様々な現実的な仮定
と非拡散のコロニーが有利になる条件との関係を明らかにした。
S12-6
S13-1
ガン細胞の生長における時空間パターン
南極湖沼をモデルとした現象・理論・実証の統合を目指
杉原洋行(滋賀医大)
して
腫瘍とは、① DNA に変化のある、②一つの自己再生産細胞に由
来するクローン性の細胞集団であり、③ゲノム不安定性により DNA
変化が蓄積し、進化していく。そのうち、ゲノム変化の蓄積が目立
たず、生長が頭打ちになるのが良性腫瘍。一方、がん(悪性腫瘍)
は指数関数的に生長する過程で多くの変異を蓄積し、最後は長距離
分散に似た「転移」に至る。したがって、腫瘍の中で生物の「クロ
ーン性繁殖」と「遺伝的変異を伴う長距離分散」に似ているのは、
良性腫瘍とがんの転移である。生長の自律性が獲得されるがんの原
発巣では、環境の撹乱の影響は大きくないが、転移が成立するかど
うかには組織環境が大きく影響する。良性腫瘍の場合、どこまで大
きくなってプラトーに達するかは、環境や遺伝的素因によって決ま
る生長関数のパラメータによって変動すると考えられる。また、パ
ラメータによっては、良性と悪性の中間的な、ゆっくりと、しかし
着実に生長し、クローン性進化により悪性度を増すような腫瘍、い
わゆる「早期がん」になることもある(未分化型早期胃がん)。この
進化の過程では、腫瘍内の DNA 変化の空間分布をマップすることで、
変化の起こった時間順を推定することができる。しかし、形態的に
がんと言える腫瘍の中にも、振舞いは良性腫瘍に近く、ほとんど進
行がんにならないもの(分化型早期胃がんの約 70%)や自然治癒す
るもの(3倍体の神経芽細胞腫)が存在する。また、抗がん剤によ
る癌の治療では、ゲノムの安定な正常細胞もがん細胞も著減させて
は回復競争をさせることを繰り返し、DNA の修復能力の低いがん細
胞を淘汰する戦略をとるが、一方で治療抵抗性のがん細胞の進化を
誘発することになる。それぞれの例にみられるクローン生物とがん
との意外な共通性が、表面的なものか本質につながるものかについ
て話題を提供したい。
田邊優貴子(東大・新領域)
シンプルな生態系である南極湖沼についてのバックグラウンド、
また、このフィールドをモデルとして現象・理論・実証をつなげる研
究を展開していく、という本シンポジウムの趣旨について説明する。
コメンテーターとして、甲山隆司氏(北大・院・環境)と占部城
太郎氏(東北大・院・生命)を迎える。
43
S13-2
S13-3
南極湖沼というフィールド ~水中の光環境と湖底植物
光資源を巡る競争と植物群集のビルドアップ:南極湖底
群集の光吸収特性~
藻類マット構造と光吸収・防御スペクトルの進化
工藤 栄(極地研)
佐々木 顕(総研大・先導)
南極大陸の露岩域にある大部分の湖沼はおよそ 1 万年前に創出さ
れたものである。これらには氷により物理的に地表がはぎ取られた
無生物状態からの一次遷移過程にある生物現象が繰り広げられてい
る。その中に生を営むモノに問えば、「いかに生物が無生物状態の生
息可能環境にたどり着き、定着し、生活をはじめ、そして生態系を
構築していくのか?」また、「生物活動、エネルギー獲得と物質循環
などがどのように生息環境を変質させ、たとえば、湖沼遷移を導い
てゆくのか?」といった問題の答えを教えてくれる可能性を秘めた
フィールドといえる。日本の南極観測の拠点である昭和基地近傍に
あるいくつかの露岩域の一つには、およそ 20㎞四方の比較的狭いエ
リアに 50 以上の湖沼がある。これらはほぼ同一の気候環境や経過時
間をもつにもかかわらず、湖内に築き上げられている群集には普遍
的な共通性と湖ごとに異なる多様性が認められる。普遍性にはその
エリアの湖沼で生き続けるための生物として必須の能力、多様性に
は問題解決に生物が見つけたいくつかの方策や湖固有の環境特性へ
の適応現象が見出されるはず、その先には?
湖という扱いやすい閉鎖性と独立性の高い生態系の特質を生かし、
相互比較を通じたこうした研究ができるフィールドが南極湖沼であ
る、と信じて研究してみるのは、いかがだろうか?
本講演ではその一例として、希薄な栄養と有機物、周年を通じた
低温や紫外線強度の強い日射ゆえ、氷雪融解水をたたえた湖にはプ
ランクトン藻類がほとんど存在せず、湖水は純水と匹敵する透明さ
を示す。それでも集水域から融け水とともに入り込むシルトや溶存
物質で、湖水はその湖ごとに光吸収・透過特性の違いがある。ベン
トス藻類の生育する湖底付近に到達する光エネルギー組成と光吸収
特性の多様性を生物応答の必然性という観点から考察してみる。
低温、貧栄養、暗黒の冬期、強光をあびる夏期という極限的環境
にさらされる南極大陸の淡水湖では、湖底にシアノバクテリアと緑
藻からなる特異な底生光合成生物マット群集(藻類マット)が形成
される。藻類マット表面のバイオフィルムはマットからの栄養塩類
の流出を防ぎ、オレンジ色を呈する藻類マットの表層には光防御物
質が集中し、その下の緑色層で活発な光合成が行われている。この
ように、各層が分化した生態機能を果たす藻類マットの層構造は、
微生物によるニッチ構築物とみなすことができる。特に、強光にさ
らされる表層の微生物が光防御に高い投資を行うという「利他行動」
により、下層に生息する微生物の活発な光合成が可能になっている。
我々は、このような群集構造が、光資源を巡る微生物間の競争の結
果として形成されると考え、その形成過程と平衡状態を解析するた
めの数理モデルを構築した。
微生物のそれぞれの種がもつ、波長特異的な防御色素の吸収スペ
クトルと光合成色素の光吸収スペクトルを明示的に取り入れて、マ
ット上層の群集の光適応、それによって決まる下層群集の光環境、
そのもとでの下層群集の適応というように、上層から下層にカスケ
ード的に群集形成が行われる仕組みを数理モデルを用いて解析した。
微生物の光合成速度が、入射光スペクトル、藻類のもつ防御色素の
吸収スペクトルと光合成色素の吸収スペクトルによってどう決まる
かを、光合成システム PS2 が closed、open、damaged の3状態を遷
移するとしてモデル化し、捕集した光子数と、暴露エネルギーの関
数として純光合成速度および微生物の増殖率を定義した。これらの
仮定のもとで、防御・光合成の吸収スペクトルそれぞれを自由に選
べるときの進化的安定な群集について解析し、南極淡水湖底の藻類
マット構造と比較する。
S13-4
S13-5
藻類色素の光吸収スペクトルを用いた数理モデルによる
南極湖沼における植物群落の空間分布パターン形成に関
南極湖底藻類マットの群集形成及び呈色構造の解明
する数理モデル
水野晃子(国際水研)
池田幸太(明治大・先端数理)
南極の湖沼群では、湖底に繁茂する底性藻類やコケ類、バクテリ
ア等がマット状群集を形成することが知られている。この湖底群集
マットは色素層を形成し、上から順に黄色、黄緑、緑、深緑となる。
この色素パターンは、表面の藻類がカロテノイド類などを多く含み、
下層の藻類がクロロフィル類を多く含むことで生じる。表層のカロ
テノイド類は、藻類が強光による光合成阻害を防ぐために持つもの
であると考えられており、下層の藻類は、表層の藻類のカロテノイ
ド類によって強光が弱まることで活発に光合成できることが分かっ
ている。なぜこのような一見互恵的にもみえる鉛直方向の色素保持
パターンが、競争的な群集で見られるのだろうか?
我々は、この湖底藻類群集マットの色素層構造の形成メカニズム
を明らかにするため、光合成に関連する生化学を基礎とした光合成
速度を求めるモデルを構築した。このモデルにより光合成と光防御
に使われる2種類の色素の最適な色素吸収スペクトルを求めてきた。
(結果の詳細は本シンポジウム全発表の「光資源を巡る競争と植物群
集のビルドアップ:南極湖底藻類マット構造と光吸収・防御スペク
トルの進化」にて紹介)。
次に、この基本モデルを使って実際の藻類が持つカロテノイド類、
Scytonemin, MAA などの光防御色素やクロロフィル、カロテノイド
類の光合成色素の吸光スペクトルパターンを用いてより現実的な解
析を行い、藻類マットの存在量パターンを、競争シミュレーション
の結果と比較した。光防御色素であるカロテノイド類、Scytonemin,
MAA は、順に防御する波長が短くなるが、これらの3つの環境光
の強さに対する鉛直パターンを解析した。また、実際の湖沼群では、
湖底群集マットはさまざまな硬さ、厚さを持つため、この微細なパ
ターンの違いが、どのような環境要因によって左右されているのか
について解析を行った。
南極のスカルブスネス露岩域における湖沼には多様な生態系が存
在し、蘚類、藻類、藍藻類を含む複雑な植物群から構成された尖塔
状の植物群落が形成されている。この植物群落は、直径 40cm、高さ
60cm にも達するコケ坊主と呼ばれるものや、茗荷筍のようなものを
含む。この植物群落が存在する地帯を俯瞰すると、ある深さの範囲
において、群落は深さとともに大きくなり、一定範囲内に含まれる
群落数が変化する様子が観察される。植物群落単体の大きさが変化
する原因は特定されていないものの、構成種である蘚類、藻類、藍
藻類が強光環境下で示す特性の違いによるものであると考えられて
いる。実際、対象としている湖沼における藻類や藍藻類は強光によ
る生長阻害を示す一方、蘚類からはそのような生長阻害は起こりに
くいことが先行研究によって明らかにされている。一方、大きさや
個体数密度の変化が、植物群落の空間的配置にどのような影響をも
たらすのかについては研究が行われていない。植物群落は尖塔状の
形をしているため、側面部では単位面積辺りの放射照度が低くなる
ため、藻類や藍藻類にとって有利な環境に働く。さらに、藻類や藍
藻類から蘚類に栄養分が提供されている可能性が指摘されている。
これらの事実を総合的に考えると、植物群落内における共生関係が
存在すると理解できるため、群落の個体数密度が大きいほど、この
共生関係を有効利用していると考えられる。つまり、空間配置を調
べることで、植物群落全体としてその環境にどのように適応したの
かを示す指標を得ることができるであろう。そこで本研究では、植
物群落の空間的な配置、湖沼の深さ、環境要因がどのような関係に
あるのか、数理モデルを用いて明らかにする。
44
S13-6
S13-7
移動境界問題としての藻類マットモデル:パターン形成
室内実験から読み解く南極湖底藻類の光合成と色素合成
と光を巡る競争
誘導の光波長依存性
吉山浩平(岐阜大・流域圏)
田邊優貴子(東大・新領域)
藻類マットに見られる空間構造は、植物プランクトンのそれと似
ているようで実は異なる。水中において、光は水表面より供給され
深度とともに減衰し、栄養塩は深水層または底泥から拡散により上
方へと供給される。その結果、光と栄養塩を必須資源として増殖す
る植物プランクトンの空間分布は、乱流拡散と相まって顕著な鉛直
方向異質性を示す。植物プランクトン鉛直分布に関して、パターン
形成や鉛直的棲み分けによる多種共存、分化適応に関する理論は近
年発展を遂げており、理論を検証する実験的試みも進んでいる。一
方、藻類マット中でも光は上方から、栄養塩は下方から供給される、
同様の空間異質性が見られる。ところが、水中と異なり、藻類マッ
トは水表面や底といった固定された境界を持たず、その広がりは増
殖・死滅・分解・水中からの粒子の沈降により、時とともに変化する。
そのため、藻類マットの鉛直構造は、境界の位置が固定された植物
プランクトンの場合と異なり、境界が動的に変化する「移動境界問題」
として定式化される必要がある。これまで、藻類マットの形成過程
を表す理論モデルは存在しなかった。本研究では、湖底や河床に見
られる藻類マットの形成に関する新しい数理モデルを紹介する。数
理モデルの構築では、藻類マット各部分が、増殖・分解により増減し、
その総和として藻類マットが成長するという基本プロセスのみを考
慮する。新しく得られたモデルの解析から、藻類マットのパーシス
テンスと多種の共存可能性に関する結果を紹介する。
南極の夏季における約2ヶ月間にわたって、南極湖底の藻類マッ
ト群集の光に対する応答について研究を行った。現場環境での測定
結果から、湖氷の消失によって水中の光強度が急増し、湖底藻類群
集の光合成活性が急激に低下した。しかし、光エネルギーがそのま
ま高い状態で持続したにもかかわらず、光合成活性は徐々に回復し、
光合成活性低下から20日後には湖氷消失前と同レベルまで上昇し
た。藻類群集の色素分析によって、光増加に伴い、藻類群集表面の
光防御色素・紫外線防御物質の含有率が高くなっていることが明ら
かになった。藻類群集が色素機能・光合成・マット構造によって巧
みに、白夜・極夜・湖氷環境といった激しい光変動が生じる南極湖
沼環境に適応的に応答していることが示唆された。
このフィールドでの研究結果と数理モデル研究に対する実証、さ
らにモデル構築のためのパラメータ採取として、現場、および、実
験室において光環境制御実験を行った。現場実験では、湖底から採
集した藻類マットを湖面で培養し(自然条件下と同じ水温・光環境)、
光透過特性の異なる4つの光学フィルターによって光環境をコント
ロールし、光合成応答と色素合成を調べた。室内実験では、大型ス
ペクトログラフを用いることにより、320 ∼ 660 nm にかけて 20 nm
間隔の単色光を、国内に持ち帰った藻類マット、および、そこから
単離した藻類培養株に対して照射し、現場実験と同様に光合成応答
と色素合成を調べた。これらの実験により、南極湖底藻類の光合成
特性と色素合成誘導の詳細な光波長依存性を明らかにすることを試
み、現場で捉えた現象と、その理論的説明のためのモデル構築へと
つなげることを目指した。
45
46
企画集会
T01
新世代エコフィジオロジー:お題「リズム」
T02
湖沼生態系のレトロスペクティブ型モニタリング技術の開発
T03
海洋島から外来哺乳類を駆除するとおこること:物質循環と群集構
造の変化
T04
耕作放棄地の生態学∼生態系管理の実現に向けて∼
T05
個体の視点から構成する空間個体群動態
T06
針葉樹人工林における生物多様性の回復にともなう生態系機能の変化
T07
Eco-evolutionary feedback 研究の今後を考える
T08
サンゴ礁生態学:植物生態学とのアナロジー
T09
ニッチ構築としての動物の建築物
T10
生態学と政策・制度をつなぐコミュニケーションと社会システムの
作り方
T11
大攪乱から学ぶ群集生態学: 1000 年に 1 度の災害は沿岸域生態系に
何をもたらしたか?
T12
カルタヘナ議定書にある「生物の多様性の保全及び持続可能な利用
への影響」はどのように評価できるのか?
T13
移動分散の進化論∼進化生態学はどこまで明らかにしたのか∼
T14
きのこる 3: キノコをめぐる冒険
T15
里地の生態系再生に向けた総合的外来種駆除
T16
生態系サービスの総合的な指標化 ―気候変動対策と生物多様性保
全のトレードオフ解消に向けて―
T17
熱帯雨林における生物多様性 MRV を確立するために
47
48
T01-1
T01-2
リズムと生態学−はじめに−
概年リズムのエコフィジオロジー
宮竹貴久(岡大院・環境生命)
沼田英治(京大・院理)
世界はリズムに満ち溢れている。
心地よいと感じるビートと旋律、求愛の唄や神経刺激のパルス、
あなたの細胞の中で時刻を刻んでいる時計、代謝によって空腹を覚
えるフェイト、池の中で日々垂直運動するミジンコ、潮目を読んで
溢れ出す大洋の卵たち、春になるとなんだかウキウキする気持ち、
秋になるとリンリンと鳴く虫、数年に一度地上に現れるセミ、数十
年に一度しか咲かない花、、、世界はリズムに満ち溢れている。
けれども、生命科学の探索の手が及んだリズムは、まだ 1 日を刻
む時計とせいぜい季節を読む時計くらい。でもエコロジカルな世界
はとてもさまざまなリズムに満ち溢れている。
生態学と生理学が、理論生物学をも巻き込んですぐにでも融合で
きる分野のひとつが、「リズム」である。今日の集会では、日頃必ず
しもリズムを専門としていない人たちも含めて、大喜利よろしく「リ
ズム」というお題を振ってみた。
生物が織りなす様々なリズムについて生態学者と生理学者につい
て語っていただき、理論生物学者にはリズムどうしの相互作用に理
論からの斬り込み方についてお話しいただく。
リズムに満ち溢れた新たな生態学の世界が見えることを期待して。
世界はリズムに満ち溢れている。
およそ1年の周期をもつ内因性の生物リズムである概年リズムは、
1957 年に冬眠をする哺乳類で発見され、その後渡り鳥などさまざま
な生物で報告されてきた。無脊椎動物では、全世界の温帯地域に生
息するヒメマルカツオブシムシという昆虫の蛹化に概年リズムが見
られることが 1958 年に示された。演者らは、1996 年以降、この虫
の概年リズムを研究してきた。その結果、この虫の蛹化のリズムは、
自律振動性、周期の温度補償性、環境に対する同調性という生物リ
ズムの代表的な3つの性質のすべてを示した。さらに、短日におい
た幼虫を短期間だけ長日にさらすことによって得られた位相反応曲
線から、この概年リズムは概日リズムと位相反応はよく似ているが
それよりずっと長い周期をもつ振動体(概年時計)によってもたら
されることが明らかになった。そして、この概年リズムによって季
節変化に対応して適切な季節に蛹化していることも示したが、「他の
多くの昆虫が光周性によって季節変化に対応しているのに、なぜこ
の種は概年リズムを使っているのか」は明らかではない。そこで、
この謎を解明する手始めとして、高鍋(宮崎県)、大阪、仙台、札幌
という地理的に離れた個体群の概年リズムの性質を実験室で調べた。
その結果、概年リズムを同調させるために長日と短日を区別する臨
界日長に地理的変異が見られたが、一般の光周性の臨界日長に見ら
れる地理的変異より小さかった。さらに、これら4つの個体群を大
阪の自然条件で飼育したところ、いずれもまったく同じ時期に蛹化
した。これらの結果から、本種が幅広い地域に分布を広げた背景に、
異なる気候条件でも概年リズムによって適切な季節に蛹化できる性
質があると考えている。
T01-3
T01-4
プランクトンから見たリズム
リズムを主題に生理学と生態学をつなぐ
吉田丈人(東大院・総合文化)
近藤倫生(龍谷大・理工)
リズムとは周期的な反復であり、プランクトンはさまざまなリズ
ムに囲まれて生きている。時間スケールの短いリズムには、概日リ
ズムがある。プランクトンにとって昼と夜の環境は大きく異なり、
それに対する生理応答(走光性)の結果、日周鉛直移動が見られる。
1mm ほどの生物が数 m もの水深を毎日潜り浮上する行動である。昼
は、捕食や有害な UV を避けるために深い層に移動し、夜は、餌が
豊富で高水温の浅い層に移動する。日周鉛直移動は、光の変化や捕
食者カイロモンにより引き起こされるが、生物時計にも影響を受け
ることが知られている。
時間スケールのより長いリズムとして、概年リズムがある。水域
の生態系は、一般に、季節的に変化する環境に大きく規定される。
温度や光の季節変化に直接・間接に応答して、プランクトンは明瞭
な「季節遷移」を毎年見せる。春には、植物プランクトンが大増殖
してブルームを形成し、それを食べて動物プランクトンが増える。
やがて植物プランクトンは食われたり沈降したりして減少する。夏
には、窒素同化をする藍藻が増えてアオコの発生をもたらしたりす
る・・・など。この概年リズムに対して、プランクトンは、生活環
を調節するなどの適応を見せる。
環境要因の外的な変化により引き起こされるこれらのリズムに対
して、生物の内的な作用から発生するリズムもある。例えば、捕食 被食の生物間相互作用によってつくられる個体数振動は、明確なリ
ズムをもつ。このリズムに対しても、プランクトンは、さまざまな
生理的適応を見せる。
このように、プランクトンから見たリズムの代表に上の3つがあ
るだろう。異なる周期のリズムに応じて、プランクトンは、行動・形態・
生活史など個体内部の「生理」を変化させて適応する。複数のリズ
ムにどう適応するのか、至近要因の進化、予測可能なリズムと確率
的な変動など、生理と生態のはざまで興味深い問題が見えてくる。
群集生態学において、数理モデルは重要な役割を果たしてきた。
多くは、実際に観察される生物の特徴を数理モデルに組み入れ、そ
の帰結を調べることで、現実の生態学的過程やパターンを理解する
ことを目指す。過去の研究では、生態学的な巨視的特徴をモデルに
組み込み、その帰結を探るモデリングが盛んであった。だが、最近
になって、生物の個体レベルの生理学的過程や行動を考慮したモデ
リングが注目されつつある。このような個体レベルの過程を考慮に
入れたモデリングは、時としてそれを考慮に入れなかった場合とは
全く異なる振る舞いを示す。では、これらの個体レベルの過程を考
慮に入れた数理モデルの予測は、我々の観察しているどの生態学的
パターンと、そして、どの程度関係があるだろうか。本講演では、
これらの異なるモデリングが、同一生物群集の異なる時間・空間ス
ケールにおける特徴を説明する可能性について議論したい。そのた
めに、生物個体群がもつリズム、すなわち世代時間、と我々の観察
時間の時間スケールに依存して、生物群集の振る舞いがいかに違っ
て理解されうるかに注目する。古典的な群集生態学のモデリングで
は出生と死亡によって駆動される個体群動態を考慮することが普通
であった。だが、より短い時間スケールで観察されるパターンにつ
いては、出生・死亡の代わりに、同化・呼吸という生理学的過程、
あるいは移出・移入という個体レベルの行動によって駆動される個
体群動態を考慮すべきかもしれない。特に、極端に短い時間スケー
ルでの群集パターンを理解するための道具として、移出・移入とい
った行動のみによって駆動される生物群集動態モデルを提案し、そ
こから導かれる予測とそれらが成り立つ条件について論じる。
49
T02-1
T02-2
イントロダクションー湖沼生態系のレトロスペクティブ
動物プランクトン情報を用いた湖沼生物群集の復元
型モニタリング
* 牧野渡,大槻朝,石田聖二,占部城太郎(東北大・生命)
占部城太郎(東北大・生命)
湖沼の動物プランクトンは、植物プランクトンによる基礎生産を
魚類等の高次栄養段階へ伝達する機能を持つ。大型の動物プランク
トンが卓越する湖沼ほど生態効率が高く透明度も高い傾向があるた
め、動物プランクトンの群集構造は湖の環境状態の有効な代替指標
となり、そのため古生態学的解析にも古くから用いられてきた。た
だし既存の方法では、湖底堆積物中の動物プランクトン遺骸を定量
的に解析して過去の群集組成を復元するため、遺骸が残らない生物
は取り扱えない、堆積物中に残った場合でも外部形態による同定が
不可能であれば利用できない、遺伝的多様性の解析ができない、こ
とが方法論的問題点として残っている。そこで本プロジェクトで
は、動物プランクトン群集組成の高度化復元のために、動物プラン
クトンが産出する休眠卵を積極的に利用することを提唱する。例え
ば、堆積物中に遺骸は残らないが、実際の湖では屢々卓越するヒゲ
ナガケンミジンコ類の休眠卵は、外部形態では種判別できないため
利用されてこなかったが、DNA バーコードを応用すれば種判別が可
能となるだろう。また遺骸の定量解析が可能なミジンコ類について
も、休眠卵の遺伝子を解析すれば、種内の遺伝的多様性の経年変化
や、遺骸の外形では困難であった種判別も可能となるであろう。本
講演では、過去群集復元にかかるこれら分子生態学的方法を開発し、
実際の湖沼堆積物解析に応用した結果を紹介する。具体的には、人
為影響の少ない山岳湖沼(羅臼湖、ニセコ大沼、ミクリガ池)では、
ミジンコ類とヒゲナガケンミジンコ類の双方で、過去 100 年間の種
組成に変化は見られないこと、逆に人為影響のより大きな平地湖沼
(阿寒湖、渡島大沼、木崎湖)では、ミジンコ類とヒゲナガケンミジ
ンコ類の双方で、出現種や種内系統が交代していること、を立証する。
過去100年の人間活動の高まりによる生態系変化は、人間社会
の持続性に対する脅威になると懸念されている。この脅威を回避・
緩和するためには、生態系変化の迅速な検出と対策のための生態系
モニタリングが必要である。しかし、景観・水資源・生物資源など
人間社会に様々な生態系サービスを提供している湖沼生態系では、
生物や水質の観測・観察に多大な労力が必要であり、あらゆる湖沼、
特に高山など辺境地の湖沼を日常的にモニタリングすることは人的・
経済的に不可能である。さらに、これまでの生態系モニタリングは、
深刻な変化やその兆しが顕在化されてから開始されることが多く、
事前データがないため、保全目標となる変化前の生態系の原風景や
対策に不可欠な変化要因の解明を確かな精度で特定できないことが
多かった。このような湖沼生態系モニタリングがかかえる問題を克
服するアプローチの1つは、湖沼の湖底堆積物を用いて生物群集や
集水域環境の変遷をレトロスペクティブ(事後回顧的)に把握する
ことであろう。その方法として DNA や化学情報など最新技術の有
効性について考えたい。
T02-3
T02-4
堆積物の色素・遺骸を用いた湖沼の植物プランクトン動
堆積物の有機物・安定同位体を用いた湖沼と集水域環境
態の復元
の復元
* 槻木玲美,加三千宣(愛媛大・上級セ)
* 兵藤不二夫(岡山大・異分野コア),大元皓平(岡山大・理)
近年の人間活動の高まりにより、湖沼生態系は様々な点で変容し
てきた。しかし、定期的な観測が実施されている湖沼は限られ、生
態系がどのように変容してきたのか、保全目標の設定に欠かせない
人為攪乱に対する影響評価は多くの湖沼でなされていない。そこで
本研究では、モニタリング手法の一つとして過去の情報が得られな
い湖沼でも、湖底堆積物中の色素やプランクトンの遺骸を分析し、
プランクトン変動を復元することで、人為的影響を受けやすい平地
湖沼(北海道阿寒湖・渡島大沼)と山岳湖沼のような自然豊かな生
態系(北海道ニセコ大沼・羅臼湖・富山県ミクリガ池)で過去 100
年間にどのような変化が生じたのかを明らかにした事例を紹介する。
さらに、従来の分析手法では情報が得られなかった藻類と動物プラ
ンクトン間の食う−食われる関係について、クロロフィルの誘導体
ステリルクロリンエステル類(SCEs)色素を用いて両者の被食―捕
食関係を推定する新たな解析を試みた。
堆積物中の色素や遺骸から藻類とミジンコ類の変動を復元した結
果、平地湖沼の阿寒湖では周辺の観光地化が進んだと思われる 1950
年代に藍藻類や緑藻類が大幅に増加し、富栄養化が進行したことが
示唆された。動物プランクトンに関しては、1950 年代以前は、大型
サイズの Daphnia が豊富にみられたが、それ以降、減少し、逆に小
型サイズの Bosmina が増加していた。さらに漁獲データから、1950
年代にワカサギも大幅に減少していることから、阿寒湖では富栄養
化した時期に基礎生産から動物プランクトン、魚類まで生物群集が
大きく変化したことが明らかとなった。一方、山岳湖沼のニセコ大
沼やミクリガ池では 1980 年代後半以降、藻類とその稙食者であるミ
ジンコ類が共に増加傾向にあり、辺境地にある自然豊かな湖沼でも
大気経由の栄養塩負荷の影響と思われる富栄養化が進行しつつある
ことが示唆された。
近年の人間活動の増大は、地球上の多くの湖沼の富栄養化や集水
域の土地利用の変化、そしてより広域に及ぶ大気汚染を招いている。
これら環境変化の多くは湖沼の堆積物に記録されており、その解読
は生態系の保全の具体的目標の設定のために重要である。
本研究では、人為影響の程度やその種類(生活排水や大気降下物
など)が異なると考えられる北海道東部と南部、本州中部の山岳湖
沼(それぞれ羅臼、ニセコ大沼、ミクリガ池)及び平地湖沼(それ
ぞれ阿寒湖、渡島大沼、木崎湖)を対象とした。それぞれの湖沼の
過去 100 年分の堆積物について、植物プランクトン生産速度や窒素
負荷の指標として炭素窒素同位体比を、集水域からの陸上有機物供
給やその植生の指標としてリグニン由来フェノールを測定した。さ
らに、集水域や広域からの鉱物の流入や人為起源の重金属負荷の変
化を捉えるため、微量元素分析及びストロンチウムと鉛の同位体分
析を行った。
これらの分析の結果、平地湖沼では富栄養化を示す炭素窒素同位
体比の変化、山岳湖沼では窒素降下物由来と考えられる窒素同位体
比の減少が見られた。また、各湖沼のリグニンフェノールの組成に
顕著な経年変化は見られなかったが、湖沼間では集水域の植生を反
映した違いが見られた。山岳湖沼では鉛などの微量元素濃度の増加
や、排出規制を反映したと考えられる減少が見られた。一方、山岳
湖沼においても、高い鉛濃度が見られるなど人間活動の影響が現れ
ていた。さらに、いくつかの湖沼において、ストロンチウム同位体
比から湖沼に供給される鉱物の供給源が変化したこと、鉛同位体比
から鉛の供給源に大きな変化があったことが明らかとなった。今回
の発表では、これらの環境変化が生じた時期やその地理的な違いの
要因について考察を行う。
50
T02-5
T03-1
堆積物中の花粉を用いた湖沼・集水域植生の復元
海洋島における外来生物駆除のインパクト:なぜ物質循
* 佐々木尚子(京都府大・生命環境),林竜馬(琵琶湖博)
環なのか
湖沼生態系の変化の原因を探るためには,植生をはじめとする周
辺環境の変化を知っておく必要がある。湖底堆積物中に含まれる花
粉は,過去の植生の指標として,主に古生態学や古気候学の分野で,
数千年∼数万年スケールの長期的な植生変動を解明するために用い
られてきた。しかし,とくに日本においては,数年∼数十年スケー
ルの事象を扱う生態学にはほとんど応用されていない。本研究では,
湖沼生態系の変化のバックグラウンド情報として,堆積物中の花粉
を用い,過去 100 年間の周辺植生の復元を試みた。
210
Pb および 137Cs によって年代決定された,北海道の 4 湖沼(羅臼
湖,阿寒湖,ニセコ大沼,渡島大沼)ならびに本州中部地方の 2 湖沼(木
崎湖,立山ミクリガ池)の堆積物から花粉を抽出し,同定・計数した。
また花粉組成と比較するため,環境省の自然環境 GIS データを利用
して,各湖沼の周辺植生の組成を計算した。
現在の植生に由来すると考えられる堆積物表層の花粉組成と,植
生図から求めた植生の組成は概ねよく対応し,ハイマツ群落に囲ま
れた羅臼湖,トドマツ・エゾマツ林が多い阿寒湖,ダケカンバ林の
多いニセコ大沼,ミズナラ林やカラマツ・スギ植林地が多い渡島大沼,
アカマツ・コナラ二次林が多い木崎湖,ハイマツやアオノツガザク
ラなどの高山植生に覆われたミクリガ池というように,各地点の植
生の特徴を反映した花粉組成が得られた。時系列的な変化をみると,
平地湖沼である渡島大沼と木崎湖では,堆積物上部でスギ花粉の増
加がみとめられた。これは,戦後の拡大造林を反映した変化である
と考えられる。一方,平地湖沼のうち阿寒湖とそのほかの山岳湖沼
では,過去約 100 年間の花粉組成や年間花粉堆積量に大きな変化は
みとめられず,周辺植生には変化がなかったことが示唆された。
可知直毅(首都大学東京)
T03-2
T03-3
栄養塩環境から見た小笠原の陸域生態系の特徴
外来ほ乳類の駆除は島の植生に何をもたらすか:海鳥を
* 平舘俊太郎,森田沙綾香(農業環境技術研究所)
介した影響
陸域生態系においてどの生物種が構成メンバーとなりうるかは、
生物の分布要因以外にも、その生態系で利用可能な資源の量や質に
も大きく依存する。ここで資源とは、光、水、空気、栄養塩などが
挙げられるが、海洋島である小笠原諸島ではとくに栄養塩が陸域生
態系を規定する資源要因となっている可能性が考えられる。これは、
小笠原諸島では独特の地質のために栄養塩の存在量にもともと偏り
がある、他の陸域生態系とは海を挟んで長距離はなれているために
物質のやりとりが極めて限られている、個々の島の面積が小さい、
極めて長期間(∼数千万年)の風化によって不溶化あるいは溶脱さ
れた栄養塩は利用可能量が極端に少なくなっている、といったこと
に起因する。
陸域生態系を制限する栄養塩としては、植物の多量栄養素である
窒素 (N) とリン (P) が取りあげられることが多い。実際に小笠原の土
壌を調査したところ、P の利用可能量が極めて限られている場所が
確認される一方で、逆に P が異常に富化されている場所も部分的に
見つかった。この富化された P は海鳥の糞に由来するものと考えら
れた。すわなち、小笠原の陸域生態系は海洋生態系と海鳥を介して
密接につながっていると捉えることができ、これは海鳥の天敵であ
る肉食哺乳類が分布していなかった小笠原諸島の際立った特徴と考
えられる。小笠原諸島に生育する植物の無機栄養元素含量を調査し
たところ、P が富化された場所では、シマホルトノキ、アカギ、シ
マグワなど植物体中の栄養塩濃度が高い植物種が分布していること
が、逆にこれらの種は貧栄養的な土壌環境にはほとんど分布してい
ないことが明らかになった。このように、小笠原諸島では生物活動
と栄養塩循環が互いに密に関連している様子が解明されつつあり、
外来生物の動態も、栄養塩循環との関係で解明されることが期待さ
れる。
* 青山夕貴子(東北大学),川上和人(森林総合研究所)
2007 年、南硫黄島の自然環境調査が 25 年ぶりに実施された。南
硫黄島は、小笠原諸島で唯一有史以来人間の永住記録がない島であ
る。この調査により、クマネズミなどの侵略的外来生物が生息して
いないことが確認され、人為がおよぶ前の生態系が残されているこ
とがわかった。特に、海洋島ほんらいの生物間相互作用や生物進化
の場である生態系が維持される原動力として、複数種の海鳥の役割
が大きいことを実感した。
海洋島の在来の生物群集は、侵略的外来生物によって大きな影響
を受ける。また、生物群集の構成や生物間相互作用は、生態系にお
ける物質収支や循環と互いに強く関連している。そのため、定着し
た外来生物は、その生態系内で新たな生物間相互作用を形成すると
ともに、その生物間相互作用を介して生態系の物質の収支や循環に
も影響をおよぼす。例えば、ネズミなど外来哺乳類による海鳥の捕
食は、単に海鳥の個体数を減少させるだけでなく、海鳥の排泄物や
遺骸を介した栄養元素の生態系外からの持ち込み量も減少させる。
さらに、侵略的外来生物が、生態系の中でその生態的地位を確立し
ている場合、これらの外来生物を駆除することは新たな生態系攪乱
となる。
この企画集会では、外来生物の駆除を大規模な野外実験ととらえ、
野生化したヤギとクマネズミにより大きな攪乱を受けた小笠原諸島
の無人島を主な対象として、ヤギが駆除された後、植生回復や海鳥
の営巣行動等を介して生態系の物質収支や循環がどのように変化す
るかについて、現地調査の結果を報告する。さらに、それらの変化
が生物群集の構成にどう影響しうるかについて、数理モデルにより
解析した結果を紹介する。
※これらの研究は、科学研究費基盤 (A)「海洋島における外来生物
の駆除が生態系の物質循環に与えるインパクト」(代表者:可知直毅、
2010 ∼ 2012)の資金援助を受けて実施した。
集団繁殖する海鳥は繁殖地の生態系に対し大きな影響力をもつ。
外来ほ乳類による海鳥個体数の激減は、海鳥による重要な生態系機
能を喪失させた。近年、多くの海洋島で外来ほ乳類の駆除が行われ
ているが、生態系の正常な機能の回復には、海鳥個体群の回復が不
可欠である。
小笠原諸島では約 15 種の海鳥が繁殖している。海鳥は踏みつけや
掘り返しによる物理的撹乱や糞による栄養塩供給によって植生に影
響を与えるが、これらの機能の種間差は評価されていない。本研究
では、小笠原の主要な繁殖種であるクロアシアホウドリ、オナガミ
ズナギドリ、カツオドリを対象に、植生への影響の種間差を明らか
にすることを目的とした。
まず物理的撹乱の影響を評価するため、海鳥繁殖地にエクスクロ
ージャー(EX)を設置し海鳥の物理的影響を排除して、1∼2年経
過後の植被率の変化と地上部バイオマスを対照区と比較した。その
結果、植被率には大きな違いがみられなかったが、オナガミズナギ
ドリとカツオドリでは EX の地上部バイオマスが有意に大きかった。
次に土壌への影響を評価するため、各種の繁殖地及び繁殖地外の
土壌硬度、土壌中の有効態リン酸(P)
、pH を比較した。その結果、
クロアシアホウドリ繁殖地は他に比べ土壌が硬かった。P はオナガ
ミズナギドリとカツオドリ繁殖地で非常に高い値を示したが、クロ
アシアホウドリ繁殖地では繁殖地外と有意な差はなかった。オナガ
ミズナギドリ繁殖地の土壌 pH は他に比べ有意に低かった。
以上の結果から、海鳥の植生への影響は種により顕著な差がある
ことが示唆された。外来ほ乳類駆除後、海鳥繁殖地の拡大が見られ
ているが、外来ほ乳類による環境改変等により、駆除後に分布拡大
した種が攪乱前の繁殖種と異なっている可能性がある。正常な生態
系機能の回復には、種間差を考慮し海鳥繁殖集団の分布拡大を管理
する必要がある。
51
T03-4
T03-5
外来ほ乳類駆除後の草地生態系の変化:野外データによ
外来生物駆除後の生態系の変化:コンピュータシミュレ
る解析
ーションによる解析
* 畑 憲治,郡 麻里,高岡 愛,可知直毅(首都大学東京)
吉田勝彦(国立環境研究所)
海洋島における外来ほ乳類駆除後の生態系機能の回復の程度は、
生態系内の物質循環のプロセスと強く関係する。これらの関係は、
駆除前の植生の退行、駆除後の海鳥の営巣の回復、駆除後の植生タ
イプ、地形などの複数の生物的、非生物的要因を介して生じる可能
性がある。さらに、この物質循環のプロセスと生物的、非生物的要
因との関係には、単純な一対一の関係だけでなく、間接的相互作用
を含む複雑な関係も含まれる可能性がある。
これらの可能性を検証するために、外来ほ乳類であるヤギの駆除
から約 10 年経過した小笠原諸島の草地生態系において、植生の地上
部バイオマス−土壌栄養元素量(炭素、窒素、リン)−生物的、非
生物的要因(ヤギ駆除前の植生の退行の有無、海鳥の営巣の有無、
ヤギ駆除後の植生タイプ、地形)の関係を間接的な相互作用も含め
て評価した。
地上部バイオマスは、土壌栄養元素量と正の相関を示した。また、
ヤギ駆除前に裸地化した場所では、裸地化しなかった場所よりも地
上部バイオマス、土壌栄養元素量が小さかった。土壌栄養塩量は、
海鳥の営巣が見られた場所、駆除後にコウライシバが優占する植生
においてが高かった。尾根では、斜面や谷と比較して土壌中のリン
の含有量が高かった。海鳥の営巣は、コウライシバ植生、尾根に偏
っていた。
パス解析の結果、ヤギ駆除前の植生の退行の有無は、地上部バイ
オマス、土壌炭素、窒素量に直接的、間接的に影響した。また、土
壌栄養元素量に対して、海鳥の営巣の有無が直接的に、地形、駆除
後の植生タイプが海鳥の営巣を介して間接的に影響した。
以上の結果から、ヤギ駆除後の海洋島の草地生態系の一次生産や
栄養元素の循環は、ヤギ駆除前後のイベントや地形との間に存在す
る複雑な直接的、間接的相互作用と関係していることが示唆された。
多くの海洋島の例に洩れず、小笠原諸島でも外来生物による自然
生態系の悪化は大きな問題となっている。そのため小笠原諸島では
ヤギ、ネズミをはじめとする外来生物の駆除事業が行われている。
しかし外来生物の駆除自体が現在の生態系に対する撹乱に他ならず、
生態系内の物質循環のプロセスを介して在来生物に悪影響を与える
可能性がある。もし、外来生物駆除後の生態系変化が事前に予測で
きれば、在来生物になるべく悪影響を与えないような駆除シナリオ
を提示することが可能となる。そこで本研究では、小笠原諸島の生
態系の物質循環を再現する数理モデルを作成し、外来生物駆除後の
生態系変化を解析した。このモデルには生態系を構成する生物と物
質循環に関する主要なプロセス(競争や捕食―被食などの生物間相
互作用、糞、リター、遺骸などのデトリタスの風化、分解の過程など)
を可能な限り導入した。このモデルを用いていくつかの島を想定し
たシミュレーションを行ったところ、実際の植生の面積比をよく再
現できた。そしてこのモデルを用いて、ある島からヤギとネズミを
駆除するシミュレーションを行い、駆除後の生態系変化を解析した。
その結果ヤギとネズミを同時に駆除した方が植生や動物のバイオマ
スの回復効果が大きいことが明らかとなった。しかしその場合、ほ
ぼ全島森林化するか草原化するか、どちらか両極端の結果になるこ
とが多く、その後の生態系変化が予測しにくいことが示唆された。
この結果は、外来生物は駆除すればそれで終わりではなく、その後
もモニタリングを継続し、順応的な管理を行っていくことが必要で
あることを示している。
T04-1
T04-2
半自然草原における植食性昆虫の減少メカニズムー放棄
景観がかえる耕作放棄の影響~カエルとゾウムシを例に~
と圃場整備による影響ー
* 黒江美紗子(九州大・理),佐藤孝,金田吉弘,蒔田明史(秋田県立大・
生物資源)
* 内田圭,丑丸敦史(神戸大・人間発達環境)
複数の環境を利用する生物にとって、耕作放棄による農地の土地
利用変化は正にも負にも影響しうる。耕作放棄による草地の出現が、
水田と草地の境界域を増加させる一方で、森林と水田が隣接する環
境の減少を引き起こすためである。正負どちらの影響をもたらすか
は、対象生物がどのような環境の組み合わせを選好するかに加え、
景観要素の配置が重要となるだろう。
本研究は、景観要素の配置が大きく異なる平野と中山間地を対象
に、水田を利用するトノサマガエルおよび水稲害虫イネミズゾウム
シが、耕作放棄地から受ける影響について明らかにする。稲作が盛
んな秋田県の中山間地と平野を対象に、まず始めに、対象生物の放
棄地の利用状況を調べるため、様々な地点から採取した個体の安定
同位体比分析を行った。その結果、カエルとゾウムシの両対象生物
において、C4 植物を多く含む放棄水田に近い個体ほど炭素の同位体
比の値が高くなった。次に、観察された生息数と土地利用構造の関
係を一般化線形モデルにより解析した。その結果、耕作放棄がカエ
ルの生息数に及ぼす正の効果は平野に限定されており、中山間地で
は周辺水田面積の減少に伴い負の影響が強くなった。一方、イネミ
ズゾウムシは、耕作放棄から常に正の影響を受けていたが、その正
の効果は平野よりも、周辺の森林面積が増加する中山間地のほうが
大きくなった。
これらの結果から、両生物とも草地と水田の組み合わせを利用し
てはいるものの、耕作放棄が生息数に対し正負どちらの影響をもた
らすかは、景観の配置に加え、どのような景観要素が存在するかに
依存することが明らかとなった。
半自然草原において、土地利用形態の変化が引き起こす生物多様
性の減少とその要因の解明は世界的なテーマとなっている。伝統的
な土地利用は多様性を維持する一方で、管理放棄 (under use) と過剰
利用 (over use) はハビタットの消失のみならず、その質の変化により
多様性の減少を引き起こすことが警鐘されてきた。多くの研究が土
地利用形態ごとの植物と植食性昆虫の多様性ついて報じているもの
の、生物多様性の減少メカニズムについては未解明の課題となって
いる。そこで本研究は、土地利用形態の変化に伴う環境変化が引き
起こす植物群集の多様性減少が、植食性昆虫群集の多様性減少を引
き起こすメカニズムの解明を目的とする。
本研究は、兵庫県南東部の畦畔草地および、長野県木曽郡開田高
原の採草地において、植物および植食性昆虫(チョウ類、バッタ類)
の 3 生物群集を対象とし、土地利用形態(伝統的管理地、管理放棄地、
集約的管理地)ごとに多様性を比較した。さらにそれぞれの生物群
に影響を与えている要因を統計モデルにより推定した。
結果から、人為管理の頻度が変化することで植生高が変化し、そ
れに伴い植物の多様性は低下することが明らかとなった。植食性昆
虫は、植物多様性が高い箇所において高くなる傾向があった。畦畔
草地と採草地は、管理方法の異なる環境であるが、土地利用形態の
変化は生物多様性の低下を引き起こす主要因のひとつであると考え
られる。本研究結果は、生物多様性の高い半自然草原を維持するた
めの、管理頻度および植生高を推定することが可能であることを示
唆した。
52
T04-3
T04-4
イノシシの増加と耕作放棄地:その相互依存性の検証
絶滅危惧植物への影響から耕作放棄地を仕分ける
* 長田穣,宮下直(東大・生物多様性)
* 大澤剛士,神山和則(農環研),三橋弘宗(兵庫県立大)
現在、日本全国でシカやイノシシといった大型哺乳類が個体数を
増やし分布拡大している。これらの野生動物は森林植生や農作物に
深刻な被害を引き起こすため、その個体数に影響を与える環境要因
が盛んに調査されてきた。「耕作放棄地」はその一つとして報告され、
いくつかの大型哺乳類では耕作放棄地を頻繁に利用し、個体数指標
(発生被害数や目撃数)と耕作放棄地率が正に相関することが知られ
ている。これは、耕作放棄地が大型哺乳類にとって好適な餌場や休
憩場所となるためと考えられ、離農による耕作放棄の増加が大型哺
乳類の増加につながっているのではないかと推測されている。一方
で、大型哺乳類による農業被害を受けた農家が耕作をやめてしまう
という事例も多く、大型哺乳類の増加が逆に耕作放棄の増加につな
がっている可能性も否定できない。「耕作放棄地」が大型哺乳類の個
体数を増加させているのか、それとも大型哺乳類の個体数が増加し
た結果なのか。本研究では、千葉県房総半島のイノシシを用いて、
この双方向の影響について分離できるように解析し検証する。
状態空間モデルを用いた解析結果から、耕作放棄地は個体数だけ
でなく、イノシシの個体群成長率とも正の相関傾向があることが示
された。これは、個体数指標と耕作放棄地の正の相関に対するこれ
までの説明を根拠づけるものである。また、一方でイノシシの目撃
率が高いところほど有意に獣害による耕作放棄が多くなるというこ
ともアンケート調査の解析から明らかになった。以上のことから、
イノシシの増加が耕作放棄を引き起こし、耕作放棄の増加がイノシ
シの増加を引き起こすという悪循環(正のフィードバック)が存在
する可能性が科学的に初めて裏付けられた。
農業生態系は人間活動によって改変された生態系であるため、耕
作放棄が農業生態系に及ぼす影響には、少なくとも 1)「生物多様性
第二の危機」と呼ばれる人間活動の減少による環境劣化 (Under use
crisis) と、2) 利用圧の低下による環境復元 (Habitat recovery) の 2 種類
が考えられる。つまり、耕作放棄地は生物多様性に負の影響を及ぼ
す場合と、正の影響を及ぼす場合の両方が存在している可能性があ
る。これまで画一的に捉えられがちであった耕作放棄地が農業生態
系における生物多様性に及ぼす影響について、それが内在する複数
の影響ならびに、どの地域がどんな影響を及ぼしているのかを明ら
かにすることができれば、今後も広がっていく可能性が高い耕作放
棄地を管理していくための指針に役立つ情報を提供できる。
そこで本研究は、日本全国を対象に、耕作放棄が広がっている地
域と、”元”普通植物種 23 種(元来全国に広く分布していたが、現
在は分布域の大部分で絶滅の危機に瀕している)の分布域の関係か
ら、少なくとも絶滅危惧植物に正の影響を及ぼしていない“だめな”
耕作放棄地を抽出することを目的とした。評価の単位は約 10km 四
方の区画(2 次メッシュ)を採用し、メッシュ内の耕作放棄面積に
加え、圃場整備状況、農地の利用状況といった各種農業活動の空間
分布と、”元”普通植物種の分布の関係を検討した。結果、大規模な
圃場整備を経験した農地には、放棄を含む農地利用状況に関係なく、
絶滅危惧植物が分布できなくなっている可能性が示唆された。
得られた結果をもとに、耕作放棄地と絶滅危惧植物の関係を表す
概念モデルを構築し、耕作放棄が絶滅危惧植物にもたらす影響を区
分けしたい。
T05-1
T05-2
個体群動態モデルの第一原理導出
離散空間上の個体ベース個体群動態
穴澤正宏(東北工業大学・工)
佐藤一憲(静岡大学・工)
個体群の動態や個体群間の相互作用を考察する際は、個体群レベ
ルの動態モデルを現象論的なモデルとして仮定することが多い。し
かし、このような現象論的なモデルでは、個体間の相互作用などの
個体レベルの過程が個体群レベルの動態にどのように関係している
のか、はっきりと理解することができない。一方、個体ベース・シ
ミュレーションでは、個体レベルの過程を細かく設定できるものの、
さまざまなパラメータ値で解析することが難しいことから、個体レ
ベルと個体群レベルの関係を統一的に理解するのが難しい面がある。
しかし、最近、ある程度理想化された状況を設定することにより、
個体間の資源をめぐる競争など、個体間の相互作用に基づいて、第
一原理的かつ解析的に個体群レベルの動態モデルを導出することが
可能になってきた。
この講演では、離散的なパッチ(サイト)に生息する 1 種、また
は競争関係にある 2 種を仮定し、個体群動態モデルや種間競争モデ
ルの第一原理導出について、分かりやすく紹介する。講演のポイン
トは以下のようになる。 ①個体レベルの過程をどのようにモデル
化して個体群動態モデルを導出するのか? ②個体の空間分布や個
体間の資源をめぐる競争を特徴づけるパラメータは、導出された動
態モデルにどのように反映されているのか? ③導出されたモデル
を使うと、異なる様々な動態モデルの関係がどのように統一的に理
解できるようになるのか? ④ 2 種間の競争の結果(勝敗、共存)
や共存のしやすさは、個体の空間分布の特徴(集中度、2 種間の相関)、
個体間の競争のあり方、パッチ内の資源量にどのように依存するの
か。また、時間が許せば今後の課題についても議論したい。
生物集団のダイナミクスは,それに属する個体の出生や死亡の起
こり方によって決まる.また,出生や死亡の起こり方は,個体が生
息する物理的な環境に影響されるし,他種あるいは同種の他個体と
の相互作用によっても変化する.ここでは,まず,それらの複雑に
絡み合った様々な要因がないときに,「空間」が単一種個体群のダイ
ナミクスに与える影響を考えよう.また,個体は,現実には連続的
な空間上に生息しているが,数理的な取り扱いが比較的容易になる
ように,近似的に格子空間のような離散空間上に生息しているもの
と仮定する.このとき,他個体との空間をめぐる競争がおこなわれ
た結果として現れる空間パターンには,果たしてどのような違いが
出てくるのだろうか.また,数理的側面からの捉え方にはどのよう
な違いがあるのだろうか.これらの問題に答えるために,これまで
に行われてきた離散空間上のダイナミクスの研究をいくつか紹介す
る.特に,ペア近似によって,個体群密度・平均混み合い度・クラ
スターサイズ分布・侵入スピードといった指標を比較的精度良く求
められることを示す.
53
T05-3
T05-4
連続空間上の個体ベース個体群動態
個体の空間分布:数理モデルとデータ科学の狭間を歩む
高須夫悟(奈良女子大学・理)
点過程
個体群動態の理解は、単に学術的な興味のみにとどまらず、病害
虫の防除、感染症対策、生物資源の持続的利用と保全といった、実
用的な諸問題への応用が期待できる古くて新しい問題である。個体
群は生物個体の集まりであるから、その動態、すなわち個体数の時
間変化は、各個体がどのように子供を産み、どのように死んでゆく
かが決まれば原理的には個体ベースの過程として再構成できる。多
くの場合、個体群はよく混ざった集団ではなく、空間上の様々な分
布様式(集中、過分散)を示す。自らの分布様式が自らの動態の行
方を大きく左右することは、空間生態学が広く認知されるようにな
った昨今では周知の事実である。
空間構造を持つ個体群動態の数理的研究には様々なアプローチが
ある。本講演では、連続空間上の個体群動態に注目する。連続空間
上の個体群動態は、各個体が近隣個体との距離に依存する相互作用
を経て、出生と死亡を繰り返すモデルとして再現できるが、これは、
数理的には一定のルールに基づき点が点を生成して消滅する点過程
と見なすことができる。個体分布としての点パターンの記述は、点
の密度(1 次空間構造としての個体密度)に加え、2 つの点から構成
されるペアの密度(2 次空間構造としての 2 個体間距離の関数であ
るペア相関関数)など、が用いられる。点パターンの動態を個体密
度とペア密度の連立動態として表現する数理的アプローチは近年熱
い注目を集めている。
本講演では、いわゆるロジスティックモデルを連続空間上の点過
程として再現した先行研究を例にとり、点パターン動態を数理的に
取り扱う手法について解説する。点パターンの定量化とその統計量
の動態が鍵を握る。空間個体群動態の研究において先行する離散空
間上の個体群動態(いわゆる格子モデル)との類似点や、そもそも
点パターンの定量化とは何であるのかという、空間分布の認識に係
る根本的な問題についても触れる予定である。
島谷健一郎(統計数理研究所)
T06-1
T06-2
趣旨説明
スギ人工林における間伐強度が種多様性の回復および炭
清和研二(東北大 院農)
素固定量に及ぼす影響
生物の空間分布データを扱う上で、点過程は、個体の空間分布デ
ータのモデリングに留まらず、諸々の空間データ解析において、基
本的な数理的枠組みを提供する。例えば、領域 ( コドラート)ベー
スのデータは点過程モデルを領域で積分することで定式化できるし、
最近では、presence-only data に対する推定においても、その統計的
根拠を与えることに利用されている。ここでは、そのような点過程
について、基本的な考え方と、何がどう難しいかの解説から始め、
後半では、特定のモデリングと、点分布データ以外への応用につい
て紹介する。
* 根岸幸枝,清和研二(東北大 院農)
近年、放置され荒廃する針葉樹人工林が増加しており、生物多様
性や生態系機能の回復を目的として、人工林に広葉樹を導入し針広
混交林化することが注目されている。その 1 つの方法は間伐である
が、その効果の解析には長期モニタリングが必要である。本研究では、
間伐後 9 年目の調査結果を報告する。
試験地は 1983 年植栽のスギ人工林である。2003 年 (20 年生 ) と
2008 年 (25 年生 ) に無間伐、33%間伐 ( 弱度間伐 )、67%間伐 ( 強度
間伐 ) の 3 段階で間伐を行った。(1) 樹高 1.5m 以上の高木・亜高木・
低木 ( 株立ち矮性を除く ) の広葉樹の種数、個体数は強度、弱度、無
間伐の順に高い傾向にあった。しかし、多様度指数 (Shannon 指数 )
は強度間伐区においてミズキが優占したため 3 つの処理区間で有意
差は見られなかった。(2) 林分材積成長量はスギだけで見ると無間伐、
弱度、強度の順に高かった。逆に広葉樹だけで見ると強度、弱度、
無間伐の順に高かったが、スギと広葉樹を合わせてもスギだけのと
きと同じ傾向になった。これらのことから、間伐強度を強くすると
針広混交林となる可能性は高まるが、林分材積成長量は減少し、樹
木の炭素固定量は減少するというデメリットが考えられた。(3) 木材
生産の観点から広葉樹と針葉樹両者の収量 - 密度図 (Y-N 曲線 ) を作
成し、針葉樹だけでなく林分全体としての収穫予測方法を検討した。
54
T06-3
T06-4
スギ人工林における種多様性と水源涵養機能
間伐強度の異なるスギ人工林における栄養塩の循環
* 清和研二,国井大輔,深沢遊(東北大 院農),林誠二(国立環境研究所)
* 林誠二,渡邊未来,越川昌美(国立環境研究所),渡邊圭司(埼玉環境セ・
東北大フィールドセンターのスギ人工林試験地において、広葉樹
の混交の程度が土中への水の浸透速度にどう影響するのを解析した。
立木の 3 分の2を間伐し広葉樹が多数侵入した強度間伐区、3 分の
1を間伐し下層にだけ草本や広葉樹が侵入した弱度間伐区、対照区
の無間伐において、真下式土壌透水性試験器を用いて A 層表層 (05cm) の土壌を採取して測定した。浸透速度は無間伐区で最低であっ
た。弱度間伐区では無間伐区の約 1.2 倍であったが、強度間伐区で
は約 2 倍になった。無間伐の混み合った人工林では林床に植生がほ
とんどないため、雨滴が直接土壌を叩くことによって土壌が細かく
粉砕され、土壌表層に土膜(クラスト)が形成されるため土壌への
水浸透が悪くなることはよく知られている。しかしこの試験地では
両間伐区とも地表面の植生被度はほぼ 100% であり物理的な被覆効
果の違いではないと考えられた。むしろ、強度間伐によって侵入し
た草本や広葉樹が地下部に隙き間なく根を張り、また、落葉を大量
に供給することによって、土壌動物を増やし、土壌中の空隙を増や
していったためだと推測された。例えば、草本の種多様性が高いと
土壌中の細根密度が高くなり、細根密度が高いと土の容積密度が減
り、その結果、水浸透速度が大きくなった。また、広葉樹の種数が
多いと林床の落葉の種数や現存量も多くなり、土壌の空隙を増やし
水浸透能を高めた。多分、広葉樹の落葉量や種数が多いとミミズな
どの土壌動物の量が増え、結果的に土壌の容積密度を減少させたた
めだろう。これは針広混交林化、すなわち種多様性の回復が水源涵
養機能の発達を促していることを強く示唆している。このような森
林では大雨が降っても 水は地表面を流れないで土中に浸透し、水
は土壌中をゆっくりと下降し時間をおいて河川に流れ出すため洪水
を防ぐ効果も大きいと考えられる。
森林の生態系機能の一つとして水質浄化機能がある。これは、本
来貧栄養で維持された自然植生の栄養バランスの許容範囲内で、大
気降下物等による外部からの栄養塩負荷の吸収、循環によって発揮
されるものである。しかし、近年、大都市周縁の山地森林生態系で
は、大気降下物由来の慢性的な高窒素負荷による窒素過剰(窒素飽和)
状態が顕在化し、さらに、針葉樹人工林における間伐遅れによる林
分の過密化が、それを助長している可能性が高い。適切な森林管理は、
窒素飽和を改善する可能性を有する一方、その検討事例は極めて少
ない。
本研究では、下層植生の発達構造の違いが、スギ人工林の窒素動
態に及ぼす影響を把握するため、異なる間伐強度(無間伐、1/3 間伐、
2/3 間伐)で管理されている試験林を対象に、野外調査や水文解析を
行った。その結果、無間伐区、1/3 間伐区ともに、表層土壌の間隙水
中に硝酸イオンの高濃度集積が見られる一方、2/3 間伐区では、土壌
深さ方向全般に亘って常に硝酸イオン濃度が低く、根圏土壌からの
硝酸イオン溶脱量も無間伐区に比べ 3% 程度(積雪期を除く)と
推定された。また、2/3 間伐区では草本類とともに浅根性のミズキ
(S. controversa )を主とした木本類の顕著な混入が生じ、これら下層
植生による単位面積当たりの最大窒素吸収量は、無間伐区の約 6 倍
となった。本結果は、夏期に多雨を生じる温暖湿潤気候条件下での、
スギ人工林による栄養塩循環(水質浄化機能)の維持促進とそれを
活用した窒素飽和現象の改善には、強度間伐による種多様性の回復
(針広混交林化)とそれに伴う栄養塩吸収に係る根系の有効深度の多
様性確保が、重要であることを示唆するものとなった。
国立環境研究所),多田千佳,深澤遊,清和研二(東北大 院農)
T06-5
T06-6
間伐強度の異なるスギ人工林土壌における O 層の変化と
間伐強度の違いが土壌細菌叢に与える影響
A 層上部の特性
* 渡邊圭司(埼玉環境セ・国立環境研究所),渡邊未来,林誠二(国立環
境研究所),多田千佳,清和研二(東北大 院農)
* 榎並麻衣・菅野均志・清和研二・高橋正・南條正巳(東北大 院農)
森林の持つ多面的機能を回復、維持させる目的で、間伐等促進法
の施行や森林環境税の導入が行われ、全国各地で人工林の間伐が促
進されている。しかしながら、人工林の多くは未だ間伐遅れで荒廃
した状態が続いており、例えば関東近郊の森林では渓流水中の硝酸
態窒素濃度が高く、窒素飽和の問題が顕在化している。一方で、適
切な森林管理は(間伐等)、窒素飽和を改善する可能性を有すること
も報告されている。
森林土壌中の窒素動態には(例えば硝化や脱窒)、土壌細菌が深
く関わっていることは周知の事実であるが、間伐が森林土壌細菌叢
に与える影響およびそれに伴う土壌中の窒素動態の変化に関しては、
極めて知見が少ない。森林土壌における細菌の DNA を対象とした
菌叢解析では、一般的に気候区分の違いや地域差などによらず土壌
細菌叢は比較的似た傾向を示す。言い換えれば、土壌細菌叢は環境
パラメーターの影響を受け難く非常に安定している。それでは、間
伐区および無間伐区のような下層植生や硝酸態窒素濃度が大きく異
なる森林土壌においても、細菌叢は同じような組成を示すのであろ
うか?
本講演では、スギ人工林における間伐強度の違い(強間伐区およ
び無間伐区)が土壌細菌叢に及ぼす影響をクローン解析により調べ
たので紹介し、間伐が森林生態系に与える影響について土壌微生物
の視点で論じたい。
近年、針葉樹人工林において種多様性の回復を目的とした森林管
理が推進されている。間伐によるスギ人工林への広葉樹の導入は針
広混交林化を進める手段の一つであるが、適切な間伐強度や、種多
様性回復に伴う生態系機能への効果の検証が求められている。本研
究では、3 段階の間伐強度(無間伐、弱度間伐、強度間伐)のスギ
人工林において、間伐から 8 年後の O 層と A 層上部の土壌、土壌浸
透水の採取および化学分析を行い、土壌特性の変化を検討した。
スギ人工林土壌への間伐の影響は O 層で顕著に見られた。間伐強
度の増加に伴い O 層に含まれるスギ葉の減少および広葉樹と草本の
増加、分解が進んで形態が判別し難い画分の割合の増加、そして Ca
等の元素濃度の上昇傾向がみられた。O 層直下から採取した浸透水
の多くが A 層上部 15 cm を通過した土壌浸透水よりも量および成分
濃度が倍以上であり、間伐強度の増加と水溶性陽イオンおよび溶存
有機態炭素の増加が対応する傾向であったことから間伐の影響を強
く受けた O 層からの溶出成分の大部分が A 層上部で付加もしくは消
費されることが明らかになった。しかし、A 層上部の土壌 pH の上
昇傾向が僅かであったことから、土壌 pH 上昇の要因の一つである
交換性陽イオン存在量の増加や他の土壌特性への間伐の影響ははっ
きりとしなかった。本試験地において間伐強度の増加によるスギ落
葉量の減少と林内環境の急激な変化は、面的には O 層組成の変化と、
広葉樹葉や草本だけではなく分解されにくいスギ葉の分解を促し、
A 層上部の土壌 pH の僅かな上昇を引き起こしたと解釈できる。一方、
各分析値は間伐強度が増すほど処理内のばらつきが大きい傾向であ
ったことは、間伐が林内環境の不均一さ(局地性)を増すことを示
唆する。この時期に変異に富む土壌環境が創出される効果について、
今後は多様な樹種の共存を促す視点からの評価も必要である。
55
T06-7
T07-1
スギ人工林における林床植生と土壌保全機能
フィールドで群集生態 - 進化フィードバックに挑む
* 上野満(山形県森林研究研修セ)
* 内海俊介(北大・FSC)
森林に対する社会的要望が、木材生産から公益的機能の発揮へ大
きくシフトする中、維持管理が行き届かないスギ人工林に広葉樹を
侵入させることで、公益的機能の高い森林へと誘導する気運が高ま
っている。しかし、スギ林に広葉樹が侵入することにより、また、
広葉樹の侵入を目的とした森林管理において、いかに公益的機能が
変化するかを示した研究例は少なく、森林管理と公益的機能の関係
示すデータを蓄積する必要がある。
林内のある地点において土壌浸食の発生を抑制し、土壌が安定し
ている状態を維持することは、森林の公益的機能を維持するための
要である。本研究では、スギ林への広葉樹の侵入による公益的機能
の変化を評価する目的で、林相の違いと植生被覆が土砂の移動量に
与える影響について調査した。
スギ林における間伐は、林床植生の植被率を高め、林床における
植生構造を多様化させることに貢献した。一方、土砂受け箱により
表土の移動量を測定した結果、間伐林分における土砂の移動量は減
少傾し、さらに、時間の経過にともない低木の木本類が発達するこ
とで、土砂の移動量はさらに減少する傾向が見られた。また、広葉
樹林における表土移動量は、林床植生の被覆度に影響し、必ずしも
スギ林に比べ全体量が少ないとはいえない。土砂の移動量は、林床
植生や低木類の植被率が大きく関与しており、森林の表土攪乱の抑
制は、広葉樹林・スギ林に関わらず、植生による林床被覆が重要で
ある。
生物群集内における種間相互作用は生物の進化に影響を及ぼす。
一方、生物の進化もまた種間相互作用の強さや方向を変更し、生物
群集の構造に波及する。すなわち、生物群集の生態学的動態(種組
成や相対個体数の変化)と構成種の進化的動態(遺伝子頻度や遺伝
形質頻度の変化)の間には相互依存的な作用が存在すると予測され
る。とりわけ、同種集団内に遺伝的変異が十分に存在するような形
質の場合には、種間相互作用の変化によって自然選択の強さや方向
が大きく変更された結果、迅速な形質進化が生じ、生態学的な動態
と進化的な動態とが比較的短時間の同じ時間スケールで互いに影響
しあう。これらの概念は、21 世紀の生態学・進化生物学を切り開く
方向性を示し、現在も高い注目を集めている。また、生態系保全の
実践的な視点からも、無視することのできないプロセスであること
が指摘されつつある。
しかし、生態学的な動態と進化的な動態の相互依存性についての
証拠は断片的であり、野外環境における普遍性の検討にはほとんど
手がつけられていない。したがって、フィールドでこの問題にチャ
レンジすることは進化生物学と群集生態学の統合のためのフロンテ
ィアだと言える。
本講演ではまず、陸域のヤナギ上の昆虫群集をモデル系としてわ
れわれがフィールドで明らかにしてきた群集生態―進化の相互依存
性について紹介する。特に、多種系群集を扱う際に留意すべき概念
についても整理しながら進める。次に、フィールドで行われてきた
その他の先行研究も概観したうえで、従来のアプローチの問題点や
未着手のポイントを整理する。最後に、これから生態―進化フィー
ドバック研究を幅広く行っていくための方向性を議論したい。
T07-2
外来種で進化生態 ー外来植物の急速な進化と植食性昆虫
T07-3
Eco-evolutionary feedback ーワムシ - 藻類系を用いた
へのフィードバックー
実験研究ー
* 深野祐也(九大・理・生態),土居勇人(農工大・農),西出雄大(生物
* 笠田実(東大・総合文化),吉田丈人(東大・総合文化,JST さきがけ)
研),矢原徹一(九大・理・生態)
本研究では、ワムシと藻類からなる捕食者 - 被食者系において具
体的な生態と進化のフィードバック関係を明らかにするため、連続
培養装置を用いた長期培養実験により、個体群動態と進化動態(遺
伝子型頻度の変化)の両方を観察した。被食者には、増殖力と捕食
抵抗性に関してトレードオフをもつ藻類2株を用い、異なるトレー
ドオフパターンをもつ藻類ペア間を比較することによって、進化的
なトレードオフの違いが個体群動態と進化動態にどのような影響を
与えるのかを評価した。その結果、トレードオフの具体的なパター
ンが、進化動態と個体群動態の両方に影響を与えることがわかった。
しかし、このトレードオフパターンと個体群および進化動態の関係
は、そのメカニズムを直感的に解釈することが困難なほど複雑であ
った。特に、増殖力に大きな違いのある藻類ペアでは捕食抵抗性が
少しだけ強い藻類が優占し、捕食抵抗性に大きな違いのある藻類ペ
アでは増殖力が少しだけ高い藻類が優占するという結果は、単純な
予想とは異なるものであった。さらに、たとえ同じ藻類ペアであっ
ても、定性的に異なる2種類の個体群および進化動態が見られた。
本発表では、理論研究との比較によって、これらの一連の実験結果
を生みだしたメカニズムに関して議論する。さらに、本企画集会の
趣旨でもある、生態と進化のフィードバック研究における今後の課
題と発展の方向性についても議論する。
地球温暖化や狩猟・漁業、生息地改変などの人間活動は、生物の
環境や生物間の相互作用を大きく変化させる。近年、このような大
きな生態学的な変化に対して、生物が短いタイムスケールで急速に
進化させることが数多く報告されている。さらに、生態学的な相互
作用の変化によって引き起こされた急速な進化的変化は、逆に生態
学的な相互作用に影響を与えるだろう。実際、個体群動態や群集構造、
食物網など様々なレベルの生態学的相互作用が、急速な進化―生態
学的フィードバックの影響を受けていることが最近の研究で明らか
にされつつある。
外来生物は原産地と異なった物理的・生物的環境を経験している
ため、侵入先で様々な形質を急速に進化させていることが報告され
ている。一方で、その急速な進化が、生態学的な相互作用に対して
どのような影響を与えているかはほとんど検証されていなかった。
本講演では、外来生物における急速な進化―生態フィードバックの
ケーススタディとして、我々が行なっているブタクサとブタクサハ
ムシの系を紹介したい。この研究でわれわれは、天敵がいない環境
に侵入した外来植物がどのように防御戦略を急速に変化させてきた
かを調べてきた。さらにこのような防御戦略の急速な変化が、植食
性昆虫の生態学的相互作用、特に食草利用パターンに影響を与えう
ることがわかってきた。最後に、進化―生態フィードバック研究に
おける外来生物の有用性と、外来生物管理において進化―生態フィ
ードバックを認識することの重要性について議論したい。
56
T07-4
T08-1
理論的アプローチから生態 - 進化フィードバックを解き
はじめに:サンゴの個体・群集・生態系の基本構造につ
明かす
いて
* 山道真人(コーネル大)
向草世香(JST さきがけ,長大・水産,琉大・熱生研)
伝統的な理論生態学では、しばしば生態と進化の時間スケールが
異なると仮定し、個体数の変動と遺伝子頻度の変化を切り離して考
えてきた。これはモデル解析を容易にするうえでも役に立つ仮定で
あったが、近年の実証研究によって進化が迅速に起こりうるという
点が明らかになってきたため、両者の変動を同じ時間スケールで考
慮する必要が出てきた。
本発表では、理論的アプローチが生態と進化のフィードバックを
解き明かすことに貢献した研究の例として、プランクトンの捕食者 被食者個体群動態を挙げる。コーネル大学の研究グループでは、理
論生態学者と実験生態学者が協力し、被食者における対補食防御形
質の迅速な進化が個体群動態に与える影響を、十数年に渡って研究
してきた。彼らは決定論的な微分方程式による動態の予測だけでな
く、複数のメカニズムからもっともよく実験データを説明できるも
のを選び出す統計的解析も行った。さらに、生態と進化が個体数変
動に及ぼす影響を定量化する手法を開発した。この手法はプランク
トン以外のさまざまな系に対してもちいられ、迅速な進化の相対的
な重要性を検出するために役立っている。これらの研究の歴史を振
り返った後、今後の生態 - 進化フィードバック研究において、理論
研究と統計的手法が果たす役割について考えてみたい。
サンゴは動物でありながら、陸上植物と似通った生活史を送る。
サンゴと植物の比較を通じて、陸域と海域での生態学的現象の統一
的な理解を進めることを本企画は目標としている。そこで、まず、
サンゴの生活史、群集や生態系の構造を紹介する。
サンゴは、生活史の初期はプラヌラ幼生として海中を浮遊分散す
る。数日から数週間でポリプ(個虫)に変体し、岩盤に固着した後
はその場所から動くことはない。ポリプを自己分裂によって増やし
て群体を形成していくことで個体は成長する。サンゴが植物になぞ
られる最大の理由は、「褐虫藻」と呼ばれる渦鞭毛藻類が細胞内共生
しているためである。サンゴは栄養分の多くを褐虫藻の光合成産物
に依存しており、群体の成長には光が欠かせない。したがって、サ
ンゴ群集では植物群落や森林と同様に光を巡る競争が重要になる。
その一方で相違点もある。サンゴは群体動物であるがゆえに、植
物のように根、幹、葉、といった機能の分化や休眠のステージがない。
そのため、例えば枝状サンゴの枝が折れても、条件さえ整えば枝は
岩盤に再固着し、成長して大きくなることができる。有性生殖と同
様に、群体の破片化による無性生殖も成長の様式の1つである。また、
群体の一部が死に、個体のサイズが小さくなることも頻繁に起こる。
このことから、群体のサイズは可変性が高く、サイズと年齢は必ず
しも一致しない。
サンゴの群体形は、種によって大まかに決まっており、枝状、テ
ーブル状、塊状、被覆状などさまざまである。サンゴが岩盤を覆う
ことで複雑な海底景観がつくりだされ、魚やカニ、エビ、ゴカイな
どいろいろな生物へ棲み場所、隠れ場所を提供する。また、栄養塩
の乏しい亜熱帯海域ではサンゴの出す粘液は重要な栄養素の1つで
もある。このように、サンゴは、サンゴ礁生態系の生物生産と生物
多様性の根幹を担う重要な生物である。
T08-2
T08-3
光合成と環境応答:光合成をおこなうことの利点と危険性
造礁サンゴの分子生態学的アプローチ:植物研究との比較
中村 崇(琉大・理)
井口 亮(琉大・熱生研)
熱帯・亜熱帯域は,強い日差しを受けながら生育する植物の楽園
ともいえる一方,日中の強い紫外線や植物体の光合成能を超えるよ
うな過剰光によって引き起こされる酸化ストレスへの効果的対応が
重要となる環境でもある.さらに,海中(サンゴ礁域)に目を移す
と,比較的栄養塩が少なく透明度の高い環境で進化を遂げてきた動
物 - 植物体間の共生関係が比較的多くみられる.その中でも,主に
海底に固着して生活する造礁サンゴ類やシャコ貝・ホヤなどの共生
宿主に注目が集まっており,近年の気候変動や沿岸域での開発の影
響を受けた,共生関係の破綻として現れるサンゴの白化(サンゴ体
内の共生藻密度低下や共生藻あたりの光合成色素量減少をともなう)
現象などについて,生理学的研究が盛んにおこなわれている.サン
ゴ礁域にはその他,非固着性や移動能力の高い宿主・植物体間での
共生関係が存在する.例えば,体長数センチほどの海産無腸類の一
種である Convolutiriloba longifissura は,単細胞藻類 (Tetraselmis spp.)
を体内に保持している.この種は日中,サンゴ群体や底質の表面な
どに静止して,体内の共生藻の光合成を促すと考えられる“サンニ
ング(藻が存在する軟体部を葉状に広げて光を受ける)”行動をとる
ことで知られている.その一方,夏季の晴天時などには強光を避け
るように日陰へ移動する事例が観察され,環境に応じて積極的に移
動する共生体として注目を集めつつある.本講演では,光による酸
化ストレスを受けやすい環境下での植物体との共生関係が宿主の死
亡リスクを増大させてしまう可能性について述べるとともに,いか
にしてそのリスクを低減しているのかを中心に議論を進めたい.
サンゴや植物のような固着性生物は、一度定着した生息環境にお
いて、様々な環境の変化に曝されつつも、巧みにその生活史を維持
しながら、集団を形成・維持している。これまで、サンゴ、植物に
おいて、自然選択に対して中立な分子マーカーを用いた遺伝的多型
解析により、集団構造、遺伝子流動、遺伝的多様性パターンを把握し、
その集団の維持・形成機構を探る研究は多く行われている。近年で
は、次世代シーケンサーによる塩基配列取得技術の急速な発展に伴
い、様々な遺伝子情報が容易に利用できる状況になり、ある環境へ
の適応に関わる機能遺伝子の同定とその時空間動態の把握も、主流
になりつつある。申請者らは、琉球列島沿岸のサンゴ礁海域に普通
に見られるコユビミドリイシを対象に、琉球列島全域における遺伝
子流動パターンと、体内に共生する褐虫藻の遺伝子型分布パターン
を調べた。その結果、コユビミドリイシは数百kmに渡って、高い
遺伝子流動を維持していること、コユビミドリイシに共生する褐虫
藻の遺伝子型はクレード C のみが見られ、他海域で報告されている
ような、ストレス耐性がより高いクレード D への変化は生じにくい
可能性が示唆された。一方で、コユビミドリイシの同所的集団を用
いた共通環境実験では、ホストであるサンゴ側の遺伝子型の違いに
よって、成長及びストレス耐性が大きく異なることが示された。こ
の結果は、中立マーカーでは捉えられない、表現型に関連した遺伝
的多型が集団内で維持されていることを示唆する。本講演では、サ
ンゴの分子生態学的アプローチによる代表的な研究例を、講演者ら
の研究成果も交えながら取り上げ、植物の同アプローチによる研究
例と比較しながら、両者の類似点・相違点を踏まえて、固着性生物
における環境適応パターンについて議論したい。
57
T08-4
T08-5
サンゴ群集の時空間動態モデリング:植物群集との対比
サンゴと植物:似ているが、群集と個体群の特性は大き
* 熊谷直喜(琉大・熱生研),向草世香(JST さきがけ,長大・水産,琉大・
熱生研)
く違う
酒井一彦(琉大・熱生研)
造礁サンゴ類は生態系基盤を構成し、撹乱や生物間相互作用によ
る群集動態が見られるため、その群集動態メカニズムもまた陸上植
物のアナロジーとして捉えることができる。一方、サンゴ群集は台
風や夏場の高水温などにより高頻度の大規模撹乱を受けやすい。そ
のため、サンゴ群集の時空間動態プロセスを理解するには、撹乱履
歴と生物間相互作用の影響を同時に評価することが望ましい。そこ
で本研究は、撹乱履歴の異なる 4 定点方形区(各 5 × 5 m)におけ
るサンゴ群集の 4 年間の調査結果に基づき、生物間相互作用がサン
ゴ群集の時空間動態プロセスに与える影響を推定した。相互作用は
同所的空間(一辺 12.5 cm の格子内)からの影響と、周辺空間(周
囲の格子)からの影響とを分離し、種群内・種群間で空間範囲のモ
デルを比較した。さらに Dynamic occupancy model を用いた階層ベイ
ズ法により生残率・増加率の変動を推定した。
影響の空間範囲の最適モデルは同種群内と他種群とで異なってい
た。周辺空間からの生残率・増加率への影響は全般に同種群内で大
きく、いずれも正の効果だった。成長の速いミドリイシ類や藻類で
は周辺空間の影響を含むモデルが適合し、藻類は撹乱により生じた
空き地における生残率・増加率の上昇が顕著だった。一方、ミドリ
イシ類はいったん撹乱を受けると生残率・増加率は大きく減少した
ため、占有率の回復にはより長い時間が掛かる見込みである。しか
しミドリイシ類はサンゴ群集の主要な構成種群にも関わらず、他の
造礁サンゴ類よりも周辺空間への増加率が高かった。すなわち、サ
ンゴ群集の動態は極相の森林群集よりも、むしろ遷移初期の森林群
集や草本群集に類似していると考えられる。講演では両者の特徴を
対比させることで、陸海の固着性生物の時空間動態メカニズムにつ
いて議論する。
ここでは、サンゴと植物の個体群および群集レベルでの相違点で
あろう点を挙げることで、議論の材料を提供する。
サンゴに休眠ステージがないことが、植物と個体群動態の差異を
生じさせると考えられる。サンゴは典型的なメタ個体群を形成する
ので、攪乱を受けて個体が大きく減少したサブ個体群が回復するた
めには、近隣のサブ個体群に成熟した個体が存在し、そこから攪乱
を受けた場所に幼生が分散し、加入に成功することが不可欠である。
サンゴでは、植物の埋土種子のような休眠ステージにある個体から、
個体群が回復することは起こり得ない。サンゴでは、幼生の分散範
囲内のサブ個体群が同時に攪乱を受けて成熟個体が大きく減少すれ
ば、メタ個体群のネットワークが機能しなくなる可能性が高い。
熱帯林で、群集動態および生物多様性の維持機構として注目され
ている中立的な過程は、サンゴ群集では成り立たないという見解が
ある(Dornelas, 2006, Nature 440:80)。実際に沖縄のサンゴ礁では、
波浪による物理的攪乱がない場合は、枝の長い樹枝状種が丈の低い
他のサンゴの上に成長し、光を遮り水の循環を低下させることで競
争排他して優占となり、決定論的に遷移が進行することが多い。こ
れはサンゴが、石の骨格を塊として持つことが大きく影響している
と思われる。しかしこれら種は、成長は速いが幼生による新規加入
は少ない。小規模の攪乱が恒常的にある、または大規模攪乱の後には、
幼生加入数が多い丈の低い、枝の短いサンゴが多種共存する。これ
らの種の間では、確率論的な共存が起こっていると思われる。確率
論的な過程と決定論的な過程が入れ子的に作用しているのであれば、
それはサンゴでは比較的個体サイズが小さく物理的攪乱が全個体に
大きく作用しうることと、個体の生存期間が比較的短いことによる
ものと思われる。
T09-1
T09-2
森の動物の棲み家としてのキツツキの樹洞
鱗翅目昆虫のニッチとしての鳥の巣
椎名佳の美(北大・生物圏科学)
那須義次(大阪府農政室・病害虫防除グループ),* 上田恵介(立教大・理)
キツツキは繁殖やねぐらをとるためにほぼ正円形の入口を持つ穴
を樹木につくる。また、キツツキは体サイズによって大小異なるサ
イズの穴を腐朽などの状態が異なる樹木につくりだす。樹木にでき
たこのようなキツツキの穴や菌類の腐朽作用によってできる多様な
形状の樹洞とよばれる空間は、森に棲む動物の棲み家として不可欠
な空間資源であることが知られている。樹洞を利用する動物は、鳥
類や哺乳類・両生類・爬虫類・昆虫と多岐に渡り、営巣やねぐら、
隠れ場所、休息場所、採食活動に樹洞を利用する。そのなかで自ら
樹洞をつくる動物はキツツキなどのごく一部に限られ、多くの動物
は自ら樹洞をつくれず既存の樹洞を二次的に利用する。そのため樹
洞をつくるキツツキは、二次的に樹洞を利用する動物の生息や行動
に影響を与えている。本発表では、キツツキによる樹洞の構築やそ
の利用可能性について、また実際にどのような動物によって利用さ
れているのか、これまでの事例をもとに紹介する。
さらに、キツツキ(一次樹洞生産者)と既存の樹洞を利用する動
物(二次樹洞利用者)は、樹洞の供給と利用を通して相互に関係し
合いネットワーク(ネストウェッブ)を形成する。これら二者の相
互関係は森林環境によって変わるものと考えられるが、単純に利用
者の体サイズと樹洞サイズの関係で特徴付けられたり、あるいは二
次利用者の積極的な樹洞の乗っ取り行動や泥や樹液を用いた樹洞の
リフォームによって特徴付けられたりする。本発表では、北海道の
針広混交林で樹洞利用を調査した結果や先行研究から、これらの地
域におけるキツツキとキツツキの樹洞を利用する動物との相互関係
について特徴を考察したい。
鳥は巣を造ることによって環境を改変し,その構築物である巣は
他の生物に新たなニッチを提供している(生態系エンジニア)。鳥の
巣を多くの動物が繁殖場所,蛹化場所および越冬場所として利用し
ている。たとえば鱗翅目昆虫は現在までに 9 科 16 種の鳥の巣から 5
科 27 種が記録されている.市街地の鳥の巣にはケラチン食性の強い
イガとコイガなどのヒロズコガ科と穀類食のカシノシマメイガとコ
メノシマメイガなどのメイガ科が主に発生する.これらは衣類や食
品の害虫でもある.里山と森林では,巣内にケラチンと枯れ草があ
れば,ケラチン食性のマエモンクロヒロズコガ,フタモンヒロズコ
ガなどのヒロズコガ科とマルモンヤマメイガといったメイガ科,マ
ルハキバガ科やミツボシキバガ科などの枯葉食性の蛾が発生する.
一方,昆虫食性で巣内に枯れ草がないアオバズクやブッポウソウの
巣ではヒロズコガ科の中でもキチン食性の強いウスグロイガとクロ
スジイガが発生する.このように鳥の巣の鱗翅類相の違いは,巣が
市街地にあるかないか,そして鳥の食性と鱗翅類が利用できる餌資
源(巣材や堆積物)の違いに関係している.とくにフクロウ類はヒ
ロズコガ科に豊富な餌と住処を提供し,鱗翅類は巣内を清掃し毎年
の巣利用を助けていると推測された.コウノトリの巣は大量の枯れ
枝と土からなる特異なものであるが,羽毛,ヒナの羽鞘屑,食べ残し,
ペリットや糞などの動物質が豊富に集積している.この巣アカマダ
ラハナムグリ,シラホシハナムグリなどの腐肉食者と,草の根土ご
と受動的に運ばれてきたナメクジ類,ミミズ類,ワラジムシ科のワ
ラジムシやマルムネハサミムシ科のヒゲジロハサミムシなどの腐食
者や捕食者が巣内に共生し,腐食連鎖を形成していることが判明し
た.このように鳥は巣場所を多くの動物に新しいニッチとして提供
し、相利的共生関係を含め、複雑な色もと連鎖のネットワークを京
成している。
58
T09-3
T09-4
リーフシェルターをめぐる生物間の相互作用:場所資源
昆虫にとってのクモの網:デストラップとしての建築物
は余っているのか?
中田兼介(京都女子大)
福井晶子(日本野鳥の会)
リーフシェルターとは,鱗翅目幼虫やハダニの幼虫が糸をつづっ
て作るリーフロールやアブラムシがつくるゴールなどのことである.
リーフシェルターは,それをつくった生物だけでなく,同種の異個
体をはじめ,自らはシェルターをつくる能力のない生物,たとえば
カメムシ,ハサミムシ,チャタテムシや陸生貝類などにも利用され
る.これまで研究報告ではシェルターの再利用率はどれも 60% 以上
である.
多様な生物がリーフシェルターを再利用するので,リーフシェル
ターがあると寄主植物上の種多様性や個体数が増加する傾向がみら
れる.リーフシェルターを利用する生物間の関係は,主に空間資源
を介した間接的で共生的な関係と考えられる.さらに,成虫による
産卵場所の選択および幼虫によるシェルターを作る葉の選択が,リ
ーフシェルターの非一様分布を促す.リーフシェルターの提供は,
空間資源の不均一化をもたらすため多種共存メカニズムの1つとい
えるだろう.これらのことから,リーフシェルターを作る生物は
Allogenic ecosystem engineer として他生物の空間資源の利用に影響を
与え,寄主植物上にニッチを構築していると考えられる.
ではなぜシェルターは再利用されるのか?その理由はいくつか考
えられる.まず,リーフシェルターを利用する生物は,乾燥,日射,
捕食,寄主植物の被食防御といった死亡要因を軽減でき,しかもこ
れらの利益は多様な生物に共通なこと.次に,既存のシェルターの
再利用は構造物を加工するコストが省けること.また,空間資源(物
理構造)は,食物資源と異なり,劣化しにくい再利用可能な資源で
あること.さらに,構造物の加工に適した場所の不足が考えられた.
これらの点について既存研究を紹介しつつ,議論を深めたい.
動物の建築物は、環境変化に応じて柔軟にその特徴を変える事が
でき、また一度作られると一定の時間その効果を持続させる事がで
きる。クモの作る円網は定期的に再建築され、その度に外的内的状
況に応じてサイズや形が調整される建築物である。この点で円網は、
一度成立すると長期間同じ状態を保つ形態形質と、迅速に環境に反
応できるが瞬間的な効果しか持たない行動形質の中間的特徴を持つ
と言える。
餌捕獲のためのトラップが円網の主要な機能である。このため餌
の昆虫にとっては、網とその上で待つクモを認知し回避する必要が
あり、クモを含む網の視覚的特徴はクモと餌の関係を考える上で重
要である。実際、クモの体色に種内変異が見られるギンメッキゴミ
グモ Cyclosa argenteoalba では、体色のうち銀色部の面積が大きく、
目立つ個体の網には餌があまり衝突しない。一方、円網にはしばし
ば隠れ帯と呼ばれる紫外線領域の光をよく反射して目立つ構造物が
作られる。餌昆虫は、ある種のクモの隠れ帯に誘引される場合があ
る事がわかっている。一方、ギンメッキゴミグモでは誘引の効果は
見られず、被捕食リスクの増大に応じて隠れ帯が大きくなる事から、
本種の隠れ帯は対捕食者防御の機能を持っている事が示唆される。
目立つ事でクモの輪郭をぼやかせたりサイズを大きく見せるなどが
そのメカニズムだと考えられる。このことから、本種では目立つ事
について、採餌効率と被捕食率に関してトレードオフが見られるだ
ろう。実際、体色の銀色部分の比率と隠れ帯のサイズの間には弱い
ながらも負の相関が見られ、目立つ体色を持つ個体は網を目立たせ
る事を避けていると思われる。クモは自らの視覚的特徴の一部を網
に担わせる事で、形態形質の持つ可塑性の低さを補償しているのか
もしれない。
T10-1
T10-2
世界市民会議 World Wide Views の実践からみる市民参
生物や文化の多様性を扱う教材「宇宙箱舟ワークショッ
加のあり方と対話の場の可能性
プ」の実践を通じて、生態学の伝え方を考える
* 黒川紘美(日本科学未来館),池辺靖(日本科学未来館),寺村たから(日
水町衣里(京大 iCeMS)
本科学未来館),佐尾賢太郎(日本科学未来館)
生物多様性に関わる課題が議論される機会が増えている。それぞ
れの地域でよりよい解決方法を模索するには、科学者をはじめ、様々
な分野の専門家が市民と共に議論を重ねることが必要である。しか
し、多様なバックグラウンドを持つ人々の間で、「生物多様性」と
いう概念を共有することは非常に難しい。それは「生物多様性」が
抽象的な概念で、目で見たり、手で触れたりすることができないも
のであるということも1つの要因となっているのではないだろうか。
「生物多様性」の概念を具体的なイメージとして共有することは、多
様な人々と問題意識を共有し、建設的に議論を進めるために必要な
過程であると考える。筆者は、「生物多様性」の理解を助ける、と同
時に、互いの視点を尊重できるような対話力の育成に資する教材「宇
宙箱舟ワークショップ」の開発に携わった。「もしも今、地球外惑星
に移住しなければならないとしたら、誰を連れていきますか?」と
いう極端な問いを参加者みなで議論しながら、生物多様性の概念を
学ぶことを目指した教材である。宇宙という日常生活とは違った状
況設定にすることで、普段の生活の中では見えにくい社会的な問題
にも触れる事ができる。主には、小・中・高等学校の学校教員や博
物館などで教育プログラムを実施している担当者に教材が活用され
ることを目指して開発された。生物間のつながりや人間の価値観は
絶対的なものではなく、環境によって変わり得るものである、とい
うことをこの教材を使用したワークショップの参加者に気づいても
らえるような設計になっている。2010 年秋より、京都大学の教職員
と小中高等学校の教諭などが協力して、開発を続けており、これま
でに、博物館での子ども向けイベントや大学教職員による出前授業
といった機会を利用して、複数の実践を行なってきた。今回の発表
では、教材の開発過程を紹介し、その実践例を報告する。
物流や社会システムなどが国家の枠を超えて不可分となっている
現代において、生物多様性の消失は地球規模で対処していくべき課
題である。2010 年、生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)で
採択された愛知目標では 2020 年までに達成すべき目標が設定されて
いるが、経済的・文化的な相違がある中、実現は容易ではない。また、
COP において議論の主体となるのは政策担当者や研究者、NPO など
であるが、決定された政策の影響を受け行動する必要があるのは各
国市民一人ひとりである。
世界市民会議 World Wide Views(WWViews)は、地球規模課題に
対する世界市民の意見を COP の場に届けようという試みである。デ
ンマーク技術委員会の呼びかけで始まったもので、2012 年 9 月 15 日、
生物多様性をテーマに日本を含む 25 の国と地域の人々が参加して実
施された。WWViews の特徴は、専門家ではない“ふつうの”市民が
各国で 100 人ずつ集い、世界共通の資料と設問をもとに世界共通の
手法で議論するということである。参加者は年齢、性別、職業など
が概ねその国の縮図となるように集められた所謂「ミニ・パブリクス」
であり、人々の意見は投票という形で全世界から集約された。生物
多様性条約事務局や日本政府環境省からは、会議結果とその意義に
ついて一定の評価を得たほか、議論中の会話やアンケートの分析結
果から、参加者自身にも変化が生まれたことがわかってきた。一方
で、参加者に提供する情報や提言文書にある種の偏りがみられるな
ど、問題点も多い。
本発表では、WWViews の実施を例に地球規模課題に対する市民参
加のあり方やコミュニケーション手法、議論の前提となるべき知識
の内容と提供方法、必要なフレームなどについて議論したい。
59
T10-3
T10-4
生物多様性保全の資金確保に関与するツールの現状と生
環境保全における異分野コミュニケーション:13 部局か
態学の貢献
ら構成されるカワバタモロコ増殖・放流連絡会議を例に
* 千葉知世(京大地球環境学舎),西田貴明(MURC)
田代優秋(徳島県立佐那河内いきものふれあいの里ネイチャーセンター)
本発表では、生物多様性保全にかかる合意形成という課題の中で
も、とりわけ保全に必要な資金の確保とそのための費用負担配分に
焦点をあて、そこでの生態学の役割について議論する。
環境保全費用の負担については、応責負担・応因負担・応益負担・
応能負担といった原則が存在するが、とりわけ自然保全にかかる費
用負担については、準拠すべき原則が確立しておらず、どのように
費用負担を配分するかはその時々の状況によって決定される。生物
多様性や生態系サービスは公共財的な性質を有することから、これ
までその保全にかかる費用は主に公的負担によってまかなわれてき
た。しかし公的負担には、受益と費用負担の関係性の曖昧さ、政府
財政の悪化による予算確保の危うさといった問題が存在する。公的
負担のみならず、市場メカニズムを用いて保全資金を獲得する経済
的手段も活用されてきたが ( 例えば農産物の認証制度やエコ・ツー
リズムなど )、現状としては規模が十分でない。
こういった状況の中で、今後、必要となる保全資金の動員を活発
化させるためには、まず保全に必要なコストを合理的に算出し、費
用負担に対する社会的合意を促進していくことが重要である。さら
に、生物多様性や生態系サービスの経済的価値を評価して、その効
果を提示することが試みられてきた。近年では、環境経済学の手法
である仮想評価法 (CVM) を用いて、実際の保全活動の評価に活用さ
れた事例も増えてきている。しかし、不確実性が伴う生物多様性保
全の保全資金の動員根拠を議論する際には、コスト算出、経済的価
値評価において、生態学的知見が十分に繁栄された手法開発が必要
である。また、限られた資金を効果的に活用するためには、優先し
て保全すべき重要地域を明らかにしていくことが求められ、その基
準化も検討されるべきである。
生物多様性の保全において,根源的課題として利害対立が未だ生
じている.生物多様性の保全は,人々の持続的で健全な暮らしのた
めに達成すべき要件と捉えられている.一方で,関係者間で利害が
複雑に絡み合う実際の“保全の現場”では,生物や自然を巡る多様
な価値観や主義・主張を持つ関係者と協議しながら,物事を前進さ
せなければならない.このため今後求められるものとして,異なる
背景を持つ利害関係者同士が合意を形成する過程で交わされる公式・
非公式を含めたコミュニケーション活動(異分野コミュニケーショ
ン)に関する実務的な技術の蓄積であろう.そこで本報告では,徳
島県の産官学民 13 部局による異分野コミュニケーション活動を通じ
て実現された新しい希少種保全の枠組みについて紹介したい.
徳島県では,すでに絶滅したと考えられていた小型淡水魚カワバ
タモロコが再発見されたものの再び野生絶滅する危険を回避するた
めに,県立水産研究所において親魚の増殖に努めてきた.こうした
保全活動を行政機関が公共サービスとして実働し続けることは難し
い.今後は,新たな公共として多様な主体の連携を基盤とした自然
が守られる社会の仕組みが必要であろう.そこで,カワバタモロコ
を不可侵な生物ではなく,自由に利活用できる県民の財産として“自
然資源”に位置づけ,誰もが関われる公平な“参加の機会”を設け
た「徳島県希少野生生物の保護及び増殖に関する協定書」を策定した.
策定にあたっては,教育機関,民間企業,土木系行政部局,自然保
護系行政部局,研究機関,民間環境団体が参画して異分野コミュニ
ケーションが行われ,生態学的に定義される生物多様性の考えは「尊
重すべきひとつの価値観」と捉えることが実利的であった.
T11-1
T11-2
蒲生干潟の 20 年:底生動物群集の長期経年変動と津波
水田の大型動物に対する津波の影響評価−宮城沿岸部の
による影響評価
水田を例に−
* 金谷 弦(国環研),鈴木孝男(東北大・生命)
* 向井康夫(東北大・生命),鈴木朋代(東北大・理),岩渕 翼,牧野 渡,
占部城太郎(東北大・生命)
津波は、沿岸生態系を大規模かつ広域的に攪乱する。東日本大震
災により仙台市沿岸は 7m を超える津波に襲われ、七北田川河口に
位置する蒲生潟(蒲生干潟)も甚大な攪乱を受けた。震災に伴う物
理的攪乱と環境変化は、蒲生潟に生息する底生動物にも大きな影響
を及ぼした。
2011 年夏の調査で、ヨシ原や海浜植生の流失、さらに軟泥の流失
に伴う底質の砂質化が確認され、震災前に確認された 79 種の底生動
物のうち 47 種が、絶滅または絶滅に近い状態まで減少したことが確
認された(金谷ら 2012 日本ベントス学会誌)。一方、震災前からの
優占種である 5 種の多毛類と 2 種のヨコエビは、ほとんどが周年繁
殖する日和見種であり、新たに生じた裸地干潟に他種に先駆けて加
入し急速に個体群を回復していた。
蒲生潟では、90 年代から 2000 年代半ばにかけ、多定点での底生
動物調査が毎年行われていた。これらの群集データを用い、「津波に
よる変化」と「津波前 20 年間の経年変化」を多変量解析により比較
した。その結果、潟のベントス群集は 1990 年代に大きく変化したの
ち、震災前まで安定して推移し、津波により再び大きく変化した。
群集類似度を比較すると、津波による変化よりも 90 年代の変化の方
がより大きかった。90 年代の蒲生潟では、七北田川の河道拡幅によ
り塩分が上昇し、優占種の組成が劇的に変化した。一方、震災によ
る塩分変化は小さく、震災前と同様の優占種が速やかに個体群を回
復したため、群集構造の変化は比較的小さかった。2012 年春には、
二枚貝の新規加入が多数確認されるなど、蒲生潟の生物相は震災前
の状態へと戻りつつある。
本研究結果は、日和見種が優占する汽水域のベントス群集は攪乱
後の回復が比較的早いこと、また、河川改修のような人為的環境改
変は、時として巨大津波よりも大きなインパクトを汽水域のベント
ス群集に及ぼす可能性があることを示唆している。
かつて水田は、後背湿地や扇状地などの自然湿地を改変すること
により造成されてきた。水田は食物生産の場であるだけでなく、季
節的に安定した変動をする広大な二次的湿地でもあり、自然湿地に
もともと生息していた生物の、重要な代替生息地として機能してき
たと考えられている。
東日本大震災に伴う津波により、東北地方の沿岸域の水田は海
水の流入、ヘドロの堆積、瓦礫の流入、地盤の沈下など様々な程度
の被害を受けた。宮城県の被災水田面積は、県内の総水田面積の約
11.5% にのぼるとされている。しかし、干潟などの自然生態系と異
なり、被災水田の一部はすでに耕作可能な状態まで人為的に復旧さ
れている。本研究では、人為的管理が強く行われている水田生態系
に生息する大型水生動物相に対する津波の影響評価を目的とし、宮
城県沿岸域の被災地域の水田で調査を行った。
調査は 2012 年 5 月下旬から 7 月上旬の、水田の田植えから中干し
までの期間に 6 つ地域で、Suzuki & Sasaki (2010)に準拠した市民参
加型の調査手法を用い、1mm メッシュの網で採集可能な大型水生動
物を対象として行った。各地域では、被災後 2012 年までに復旧され
耕作が行われた水田 3 筆と、その水田の近隣にある被災しなかった
水田 3 筆の水生動物相を調査し、比較することで津波の影響評価を
試みた。
結果、調査を通じて約 110 分類群の大型水生動物が確認され、種
組成は地域により異なっていた。地域別に見ると、総分類群数には
被災水田と対照水田で一貫した傾向は認められなかったが、生活史
を通じて水生生活を送る分類群は被災水田で少ない傾向にあった。
これらの結果より、水田の水生動物への津波の影響は、動物の生活
様式により異なることが示唆された。
60
T11-3
T11-4
津波による海岸砂丘の景観レベルでの変化とその要因−
新しい潮間帯はどうなっているか−広田湾・小友浦を中
岩手県の海浜を例に−
心に
* 島田直明,昆野絋士(岩手県立大・総合政策)
* 松政正俊(岩手医科大・生物),木下今日子(岩手大・三陸復興)
東日本大震災によって引き起こされた津波や地盤沈下によって,
沿岸域では甚大な被害を受け,海岸部の砂丘植生や防潮林にも多大
な影響を与えた。海岸砂丘に生育する種にとってはハビタットの消
失や変質に繋がっていると考えられる。そこで本報告では,岩手県
の海岸砂丘を取り上げ,ハビタットの消失つまり景観レベルでの変
化について整理し,その要因について考察した。
岩手県の津波前後の空中写真および現地調査から,津波による海
岸砂丘の面積や幅の増減について確認した。この砂丘面積・幅の増
減を,津波の遡上高・沈降という震災に関する要因,河川の有無・
湾の内外など砂浜の位置に関する要因,防潮堤などの人工物の有無
などの人工的な要因などとの関係について整理した。
砂丘面積・幅は,岩手県南部ほど大きく減少する傾向があった。
大船渡市吉浜などでは,海岸砂丘および背後の防潮林が消失し,防
潮林や耕作地であった砂丘の後背地に砂浜が見られるようになった。
釜石市根浜海岸では,鵜住居川河口に発達していた砂嘴が消失し,
砂嘴から連続する砂丘の幅も減少した。これらの場所では沈降が約
60cm,津波の遡上高は 15 ∼ 19m であった。
一方,岩手県北部では,海岸砂丘が大きく減少したところは少な
い。田野畑村明戸などは防潮林が津波により,ほとんど倒されたり,
流失したりしたものの,海岸砂丘の幅は大きく変化していなかった。
これらの場所では沈降が 10 ∼ 20cm,津波の遡上高が 20m 以上と大
きい地域であった。岩手県北部で砂丘が減少したのは普代村普代,
岩泉村小本浜などであった。これらの場所は津波の遡上高が 20m 前
後と大きく,海岸砂丘の減少に津波の影響が少なからずあることが
窺えた。
これらのことから岩手県の海岸砂丘の減少は,沈降による影響が
大きく,次いで津波の大きさが影響していることが窺えた。
新しい潮間帯は(1)海と陸の間の自然あるいは人工の障壁が津
波によって取り除かれること、
(2)地盤沈下等により陸域(潮上帯)
が潮間帯へと移行することによって生じたと考えられる。これらの
影響を明確に区別することは難しいが、三陸沖の大地震による津波
の高さは岩手県から宮城県北部のリアス式海岸湾奥で高く、地盤沈
下等の下向きの地殻変動も同地域で大きかったことが知られている。
この地域では海と陸の境界の変化が特に大きかったと推定される。
岩手県の宮古湾津軽石川河口干潟、山田湾織笠川河口干潟、大槌
湾鵜住居川河口干潟、宮城県の追波湾北上川河口干潟および長面浦
では、平成 23 年の大地震・大津波以前にもベントスに関する調査を
実施していたが、鵜住居川河口干潟の全域と、北上川河口干潟およ
び長面浦の干潟の一部は津波によって消失した。しかし、それらの
地域の陸側には比較的大規模な新たな潮間帯も形成されている。ま
た、岩手県の広田湾・小友浦は干拓地であったが、津波で堤防が破
壊され、現在ではその海側が潮間帯となっている。
比較的大規模に新たな潮間帯が形成された地域は津波による被害
が大きかったところでもあり、平成 23 年中には本格的な調査を実施
できなかった。しかし、同年 10 月には、沿岸・河口域のベントスは
生息していなかったはずの小友浦でも、ムラサキイガイやマガキと
いった内湾や汽水域の付着性ベントスが認められている。平成 24 年
には岩手県内の新しい潮間帯において本格的な調査を実施すること
ができ、アサリ、イソシジミ、オオノガイなどの埋在性二枚貝やカ
ワゴカイなどの多毛類も多く生息することが明らかになった。一方、
浮遊幼生期をもたない直達発生のホソウミニナは新しい潮間帯では
認められていない。本報告では特に小友浦を中心に新しい潮間帯の
概要を報告し、大撹乱がもたらす影響を一般化するための一助とし
たい。
T11-5
T11-6
大津波による海浜植生の質的変化と回復ポテンシャルの
津波という大規模攪乱が砂浜海岸エコトーンに残した影響
推定
* 富田瑞樹(東京情報大),平吹喜彦(東北学院大・教養),菅野 洋(宮
城環保研),原 慶太郎(東京情報大)
* 早坂大亮(国環研),川西基博(鹿児島大・教育)
2011 年 3 月の巨大津波による撹乱は多様な撹乱体制のなかでも低
頻度・大面積・高強度なものと考えられるため,様々な生物群集や
沿岸域生態系への影響と,その後の変化を明らかにすることが重要
である.本研究では,砂丘や後背湿地などの生態系からなる砂浜海
岸エコトーンのなかでも海岸林に注目して,巨大津波が与えた影響
について報告する.
砂浜海岸が卓越する仙台市の南蒲生において,海岸林を横断する
帯状区を津波後に設置し,樹木群集の種組成とサイズ構造を,死亡
幹についてはさらに損傷様式を記録した.また,帯状区における堆
砂深度を測定し,津波前と津波後の地表面高を航空レーザー測量で
求めた.
海岸林は帯状区のほぼ中央で運河によって海側と内陸側に区分さ
れ,海側には高比高の砂丘上に若齢クロマツ林が,内陸側には低比
高の砂質台地と後背湿地の混合域にマツ・広葉樹混交林が成立して
いたが,津波後の前者では生存幹はほとんど見られず,後者では櫛
状の残存林域が確認された.損傷様式を比較すると,高比高の若齢
クロマツ林では傾倒・曲げ折れが多かった一方,低比高のマツ・広
葉樹混交林では根返りを含む様々な損傷様式が確認された.堆砂深
度は海側の帯状区東端で数十 cm と深く,帯状区東端に隣接する旧
堤防背後では地表面高の減少が顕著だった.また,帯状区東端には
洗掘によって破壊された旧堤防のコンクリート片が散乱していた.
一方,内陸側の堆砂深度は数 cm と浅かった.海側の若齢クロマツ
林ではハリエンジュを除く広葉樹の実生や稚樹はほとんど確認され
ず,今後の遷移・更新には,サイトスケールでは定着基質や地下器
官など,景観スケールでは残存林パッチの分布が強く影響すると考
えられた.
本研究では、2011 年 3 月に発生した東北沖大震災津波による海浜
植生への生態影響について、津波前後の同一地点でモニタリングし
た結果を報告する。併せて、津波後の植生の回復ポテンシャルを推
定するにあたり、地形、堆積物の改変程度についても調査した。調
査は、青森県南部∼岩手県央部に成立する人為的影響度の異なる複
数の砂質海岸で行った。津波前後で海岸砂丘植生の比較を行った結
果、ハマニンニク、コウボウムギやハマニガナなど、特に、砂丘前
面に生育する植物が、津波による砂の持ち去りの影響を受け個体群
が減少した。ただし、種組成変化の質は海岸間で明確に異なり、自
然性の高い海岸では津波前後で種組成に変化は見られなかったが、
海岸整備を含む人為的影響の強い海岸では、植生が破壊された立地
に、ヘラオオバコ、オオマツヨイグサ、ヨモギ、エノコログサなど
の人為改変に対し強い耐性をもつ非海浜性の植物が侵入し、種組成
が大きく偏向した(Hayasaka et al. 2012a)
。この結果は、人為的イン
パクトの低い自然性の高い海岸は、津波に対する耐性や植生の回復
力が高い一方、人為的影響の強い海岸は、植生がまばらで裸地環境
が多く、砂の持ち去りや堆砂などの影響を受けやすいため、当該津
波の引き波の際にこれら植物の種子が砂丘表層に堆積したことで、
非海浜植物が多く侵入したと考えられる。スマトラ沖地震津波の事
例でも、津波により植生が破壊された立地(植生ギャップ)に非海
浜性の植物が侵入する傾向が見られたことから(Hayasaka et al. 2009;
Hayasaka et al. 2012b)、津波に対する植生の初期動態のパターンは、
気候帯や種構成に関わらず共通であることが示唆される。
61
T11-7
T12-1
地震・津波の生態系への影響を広域スケールで比較する
カルタヘナ議定書におけるリスク評価の実施義務
* 山北剛久(JAMSTEC),山田勝雅(国環研),島田直明(岩手県立大・
上田匡邦(神戸大・院・国際協力)
総合政策),富田瑞樹(東京情報大)
カルタヘナ議定書が定める事前通告に基づく合意手続(AIA 手続)
が実効的に機能するためには、リスク評価とリスク管理の実施が不
可欠である。そこで、本講演では、主に、この AIA 手続と輸入国の
決定に先立って実施されるリスク評価手続について国際法上の視点
から解説する。第 1 に、なぜリスク評価が必要とされるのか。まず、
その理論的な基礎の一つであると考えられる「予防的アプローチ」
の概念について触れ、カルタヘナ議定書における AIA 手続の内容と
リスク評価の位置づけを検討する。次に、カルタヘナ議定書の AIA
手続と現在改定作業中のリスク評価に関するガイダンス文書の交渉
経過を紹介し、このガイダンス文書がどのような意義を有するのか
国際法上ありうる論点を整理して、提示する。
このガイダンス文書の策定には、科学、国際法、政治の要素が複
雑に絡み合い、各締約国や関係する主体の立場には大きな隔たりが
ある。従って、オンライン・フォーラムやアドホック技術専門家グ
ループでの議論の行方がどうなるか、また、それらの結果が今後ど
のようにガイダンス文書に反映されるのか、動向を注視してく必要
がある。さらに、より根本的な問題として、途上国も含め、いかに
してリスク評価の国内的実施を確保していくのかなどの課題もある。
東日本大震災が沿岸生態系へ及ぼした影響について、様々な調査
が行われ生物群集への被害も報告されている。知見が蓄積されつつ
ある今、情報を集約し、震災の影響を一般化することが課題である。
被害の規模と範囲、再生の可能性、地盤や底質改変による二次的な
変化を把握することで、震災が地域の生態系全体へ及ぼす地誌的な
影響を評価できる。そのため本研究では、福島県から青森県まで 90
地点の植生・ベントスの震災後の調査データを集約し、被害の大小
やタイプと立地や地理的関係を比較する。解析には本集会の演者ら
の調査データを用いると共に、各地点の状況と今後の論点について
アンケートを実施した。特に生態系の被害について無被害を含む 4
段階、元の生態系への回復可能性について大・小・無しの3段階の
評価によって比較した。
アンケートの結果、ベントス調査を行った干潟・岩礁 48 地点中、
多くで中程度の被害が見られ、3 割で大規模被害が、2.5 割で小規模
な被害がみられた。回復可能性については、壊滅的な被害を受けた
場所以外は、多くの場所で回復はするが、回復に数十から数百年か
かると判断される場所もあった。また、地盤沈下や塩分集積、護岸
工事などにより、不可逆的な変化が起こり別の生態系へ変化する場
所も多くみられた。震災による生態系への影響について今後考える
べき論点として、群集全体の変化と地誌的評価、津波と地盤沈下の
影響の分離、従来の撹乱の研究との比較、堆積物・流入物の影響、
回復可能性の評価、希少種の変化、十分なアセスメントの無い広範
囲の沿岸整備への懸念などが挙げられた。発表では、さらに地図上
での地理的特徴と被害の大小との関係の比較、調査の実データの解
析を通じ、今後の論点についてデータを用いた検証が可能かどうか
検討する。
T12-2
T12-3
細菌群集の多様性の評価 - マクロ生物の多様性の評価と
種の保全活動を通してみた生態系保全・リスク評価
の比較
道越祐一,松田裕之(横浜国大・環境情報)
横川太一(愛媛大・CMES)
遺伝子組み換え(GM)生物による環境や人間の健康に意図せざる
影響を「完全」に防ぐのは難しい。今後、新たな GM 生物が開発さ
れ続ければ、いずれいくらかの生物は生態系に拡散し、GM 生物の
野生化や野生個体群との交雑など、新たな生態リスクを引き起こす
可能性がある。新たな生物種の侵入は、既存の生態系を少なからず
変化させ、ときに爆発的に個体数を増加させ、在来種を危機に追い
やる可能性がある。ある環境に依存している生物種の場合、新たな
侵入生物の出現は、捕食、競合のみならず、生態系を攪乱し、生息・
生育環境の悪化を招く可能性も考えられる。
リスクをゼロにできないという観点から、発展途上にある以下に
示すテーマについて、議論を行いたい。
①想定される生態リスクにはどのようなものがあるか?
②野外で GM 生物および交雑体は発見できるのか?
③ GM 生物が侵入、交雑した場合のハザードは何か?
④ GM 生物に対する生態リスク評価の展望
自然環境における選択や進化を伴わない「改変された細菌」の自
然環境への侵入が及ぼす影響を体系的に理解するためには,まず,
現生態系が保持する細菌群集の多様性および生態系機能について観
察する必要がある.次に,「改変された細菌」の導入によって起こる
細菌群集への影響を評価することが重要である.
環境中の細菌群集の多様性を観察できるようになってきたのは 21
世紀に入ってからである.この比較的若い「細菌群集の多様性研究」
について考え始める際に,マクロ生物の多様性に関する知見を基に
理解を深めようとするのだが,その応用がうまくてきていない.応
用できない大きな理由は以下の 4 点である:1)種というマクロ生物
での分類が細菌に適用できない,2)マクロ生物と比べ極端に培養が
難しい(環境細菌の約 99% は未培養),3)環境中の細菌群集の生理
状態,代謝様式の測定が容易でない.さらに,4)細菌群集の多様性
の規模がマクロ生物を対象とした多様性よりも桁違いに大きい.こ
のような,細菌とマクロ生物との大きなギャップにより,細菌の多
様性に関する普遍的な知見の獲得,あるいは評価に繋がるパラメー
ターの設定ができていない.つまり,現状では,観察を主体とした
環境細菌群集の多様性解析によるアプローチは,社会的に信頼され
かつ科学的に健全なリスク評価方法を提示できていない.
本講演においては,マクロ生物の多様性評価との相違,マージで
きること,また理論的解析から得られている知見を紹介し,細菌多
様性研究の生態リスク評価への応用の可能性について議論したい .
62
T12-4
T13-1
遺伝子組換え作物の生物多様性影響評価の現状と課題
動物による種子散布を中心とした植物の種子散布戦略
水口亜樹(福井県立大・生物資源)
北村俊平(石川県立大・生物資源環境)
カルタヘナ議定書を実施するための国内法として、日本にはカル
タヘナ法がある。日本で遺伝子組換え生物を使用するには、カルタ
ヘナ法にもとづいて「生物多様性影響評価」を実施する必要がある。
その評価方法は、主にファミリアリティ(宿主植物についてその環
境下での使用経験がどのくらいあるかという考え方。例えば日本で
のイネはファミリアリティが高いと考える。)と実質的同等性(元の
宿主植物と遺伝子組換え植物を比べて組換えた形質以外の部分が同
じかどうかという考え方。個々の適応形質についての統計学的有意
差の有無で判断されることが多い。)の考え方にもとづいている。つ
まりファミリアリティが高く、実質的に同等であれば悪影響は無い
と判断される。これは、米国やカナダなど諸外国で採用されており、
国際基準を満たす考え方であった。ところが、ここ数年の組換え技
術の進歩に伴い、ファミリアリティの低い作物以外の植物を宿主と
したものや、環境ストレス耐性など適応度に関わる形質を高めたも
のが開発されてきたため、これらの考え方のみでは不十分であるこ
とが、多くの研究者によって指摘されている。最近では、外来種の
侵入リスク等を評価する際に用いられてきたようなフレームワーク
の構築が各国でなされており、定式化されつつある。こうしたフレ
ームワークに従うには、悪影響が有るか無いかといったこれまでの
二者択一的な判断ではなく、どんな悪影響がどのくらいある可能性
があるかといった定量的な評価が必要である。本講演では、上述の
ような現状について紹介した後、演者が取り組んできた定量的な評
価研究の事例を挙げる。遺伝子組換え生物の生態リスク評価研究に
取り組む生態学者は日本では少ないので、会場から多くのご意見を
頂き、新たなアプローチや考え方を模索したい。
種子散布(seed dispersal)とは、種子が親植物から離れ、運ばれ、
地表に落下し、そこに定着する過程であり、固着性の植物が移動で
きる数少ない局面の一つである。種子を保護する果実の多種多様な
色、形、大きさは、植物の散布戦略を反映していると考えられ、散
布媒体によって、水や風による物理的散布、植物が自力で種子を射
出する自動散布、動物に種子を運ばせる動物散布などに大別される。
中でも動物散布は、裸子植物と被子植物の多くに共通した特徴であり、
あらゆる散布戦略の中でもっとも効率が良い方法だと考えられる。
ある植物個体にとって、ある特定の種子散布者の有効性は、その
植物個体の適応度への貢献度と定義することができ、Schupp(1993)
の総説において、結実木への訪問頻度、訪問あたりの消費果実数、
果実食動物の口や腸内での種子への影響、散布された種子が生き残
り繁殖個体へとなる確率、という研究手法の枠組みが提示された。
近年、散布者となる動物の行動を詳細に記録する手法の精度が向上
したことで、野外で種子が散布されやすい場所や種子散布地そのも
のを特定することが可能になってきた。さらに分子生態学的手法の
発展により、散布された種子や定着した実生の親個体を推定するこ
とが可能となってきた。その結果、どの動物が種子散布者として役
だっているのかを定量的に評価することが可能になりつつある。
本発表では、まず、近年、明らかになってきたトカゲ、陸ガメな
どの爬虫類やミミズ、ナメクジ、カマドウマ、甲虫などの無脊椎動
物など‘意外な’動物たちの種子散布者としての生態系機能を明ら
かにした研究を紹介する。次に古くから研究事例が蓄積されている
主に鳥類、哺乳類、アリ類などに散布される植物を対象として、動
物による種子散布の有効性を評価した最新の研究成果について紹介
する。
T13-2
T13-3
分散を促す繁殖行動と分散によって促される繁殖行動
移動分散の進化モデルで明らかにされたことと、これか
廣田忠雄(山形大・理)
ら明らかにすべきこと
すべての生物種は何らかの形で分散する。しかし、分散の形式や
距離・時期には、種内・種間に大きな変異がある。分散には様々な
コストがかかる一方、分散によって回避できるリスクも複数ある。
これらのコストと利益のバランスの変異が、様々な分散タイプを生
じていると考えられる。本講演では、代表的な要因として繁殖行動
を例に、分散の進化に与える影響と、分散形態から受ける影響を考
察する。
繁殖行動が分散の種内変異に影響する例に、モンシロチョウの性
特異的な分散がある。モンシロチョウのオスは生まれたパッチの周
辺に留まるが、メスは交尾後数 km にわたって分散する。性特異的
な分散を説明する理論は、近親交配の回避などを考慮したものが主
流だったが、メスが分散前に必ず交尾するモンシロチョウにはこれ
が当てはまらない。そこで新たなモデルを構築し、分散前交尾と環
境変動が性特異的な分散を促すことを示した。
冬季の繁殖様式が、分散の種間変異を生じた例として、ナワヨツ
ボシオオアリ ( 以下ナワヨツ ) とヤマヨツボシオオアリ ( 以下ヤマヨ
ツ ) がある。ナワヨツは日本の南部、ヤマヨツは北部に側所的に分
布している。ナワヨツは新女王が結婚飛行を行い、生まれたコロニ
ーから長距離分散するが、ヤマヨツは新女王がコロニーに留まるた
め巣移住を通じて短距離しか分散しない。室内実験を通じ、両種と
もワーカーと共存することで女王の越冬生存率が高まることを示し、
寒冷環境で越冬しなければならないヤマヨツで新女王の非分散が進
化した可能性を示した。
また分散形態によって、繁殖戦略が影響を受けた例としてヒラタ
シデムシ亜科の触角噛み行動を紹介する。本分類群では、腐肉食か
ら土壌動物食への進化に応じて、飛翔種から非飛翔種が進化したと
考えられている。この分類群では、繁殖行動にも大きな変異があり、
特に触角噛み行動には、飛翔する祖先種から、飛翔しない派生種ま
で連続的な変化が見られる。
入谷亮介(九大・院・数理生物)
「生き物は、どうして移動するのだろうか?」これに究極回答を与
えるのが、
「移動分散の進化論」である。移動分散(Dispersal)とは、
あらゆる生物に普遍的に見られる形質の 1 つである。Dispersal は集
団間の遺伝子流動を引き起こし、集団の構造を改変する、生態学に
おいて重要な現象の 1 つである。
Dispersal という言葉を耳にして、いったいどのような「移動」を、
おのおの想像されるであろうか。その違いが多くの混乱を引き起こ
しているのが現状である。たとえば Dispersal は、渡り鳥やオオカバ
マダラに見られるような Migration(移動)との区別がきちんとされ
ていない。これらの定義は、進化生態学の文脈においては、どのよ
うに適切に区別されるべきなのであろうか?本講演においては、こ
の点をまず解説する(ただし、講演者の解釈を説くまでであり、必
ずしも一般的な定義回答を与えられるとは限らない)。
ま た、Dispersal の 研 究 は、 実 証・ 理 論 と も に 蓄 積 が 多 く、
Dispersal の進化や生態学的意義に関しては、すでに様々な知見が得
られている分野である。いったい、なにが判っていて、今後どうい
ったことを明らかにすべきなのであろうか? このことを、理論的観
点から、いくつかの数理モデル(飛び石モデル、島モデル、分散カ
ーネルの進化モデル)の解説や分析を通じて、議論する。
最後に今後の展望として、これまでの実証研究における移動・移
動分散へのアプローチ、理論研究における仮定などに関する分析的
批判を行なうと同時に、本企画集会において提供された知見の総括・
議論を行なう。
63
T14-1
T14-2
トビムシからみたキノコ
菌類を利用する植物、菌類に擬態する植物 送粉を達成
中森泰三(横浜国立大学)
するための特殊な方策
人々の視覚や味覚を楽しませてくれるキノコ。その多様な形質が、
キノコを摂食する哺乳類や節足動物などの野生動物に与える影響に
ついてはあまり知られていない。キノコ食動物は多岐にわたり、キ
ノコ形質の影響は動物群の性質によって異なると考えられる。キノ
コ食動物の中でも小型なトビムシは、キノコの二次代謝物組成とい
った形質だけでなく、キノコ各部位の形質や顕微鏡的な形質にも影
響を受けると考えられ、キノコ形質の生態意義を探るうえで興味深
い生物群である。しかしながら、キノコ食トビムシの生態について
はほとんど研究されてこなかった。
本研究では野外調査により、トビムシの種により野外で摂食する
キノコの種や部位が異なることを明らかにした。また、室内外の観
察により、数種のキノコにはトビムシに対する致死作用があり、そ
の影響はトビムシの種によって異なることがわかった。たとえば、
ある種のカビ食トビムシは、キノコ毒として知られるα - アマニチ
ンとイボテン酸(一部のテングタケ属菌などに含まれる)に対して
感受性であるのに対し、ある種のキノコ食トビムシはそれらの化合
物に対し耐性を持つ。一方、ヒトには食用とされるスギエダタケに
おいては、キノコ食性の種であってもトビムシは分泌性の微細構造
物に触れると死んでしまう。ところが、トビムシの中にはそのよう
なスギエダタケを好んで摂食する種もあり、摂食様式の違いがスギ
エダタケ上での生死を分ける要因であることが示唆された。
ここでは、これらの研究成果をもとに、トビムシの視点からキノ
コの形質の生態意義について議論する。また、トビムシにおけるキ
ノコ毒耐性機構の解明に向けた網羅的遺伝子発現解析についても紹
介する。
* 末次健司,加藤真(京大・院・人環)
送粉者と被子植物とは、共に多様化したことが示唆されているが、
送粉様式の多様性に関する情報は著しく不足しているのが現状であ
る。植物の中には特殊な匂いを発し、一般には訪花性と考えられな
い昆虫を送粉者として利用しているものもいる。そのような植物が
利用する昆虫の一つが、菌類の放出する匂いに引き寄せられる者た
ちである。
例えば、酵母が発する発酵臭は、ワイン、日本酒などの匂いの主
要な構成要素であり、我々を魅了するが、その匂いは、人間だけで
なく昆虫に対しても大変魅力的である。そのため、発酵臭に擬態す
ることで、採餌や産卵に訪れる昆虫を騙して送粉を達成する植物が
存在する。また花蜜中には様々な酵母が存在するため、酵母自身が
発する発酵臭が送粉効率を高めている可能性がある。この仮説を検
証するため、鱗片葉に大量の花蜜を貯めることができ、その花蜜か
ら人間にも感知できる発酵臭を生じることがある、ヤッコソウの送
粉様式の調査を行った。その結果、ヤッコソウには主に樹液に訪れ
る昆虫が訪れること、ヤッコソウの花蜜中には特異的な酵母が存在
していることが明らかになり、酵母の存在が送粉効率を高めている
可能性が示唆された。
またキノコ子実体の放出する匂いも多くの菌食性昆虫を引き寄せ
る。ヤツシロラン属の植物は、このようなキノコ臭に擬態すること
で、ショウジョウバエに送粉を託している。キノコ子実体の除去・
付加実験の結果、クロヤツシロランの繁殖成功は、キノコの存在下
で、有意に上昇することが明らかになった。これはキノコの存在が、
周辺により多くの送粉者を呼び寄せる効果を持つ可能性を示唆して
いる。本研究は、花以外の資源に擬態する植物が、近傍にモデルが
あることで、繁殖成功度が高まることを示した初めての研究である。
T15-1
T15-2
伊豆沼・内沼の自然再生に向けてのマガン・ブラックバス・
外来雑草の農地内外の総合的管理ー被害拡大阻止に向け
ハスの関係性
た課題ー
嶋田哲郎((財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)
浅井元朗(農研機構・中央農研)
自然再生の現場において、外来種問題や特定種の増加は大きな問
題である。在来種の駆逐や生態系のバランスをゆがめることで地域
の生物多様性の劣化につながる。宮城県北部にあるラムサール条約
登録湿地の伊豆沼・内沼は、内陸の水田地帯に位置し、面積 491ha、
最大水深 1.6m である。2009 年 10 月に開催された伊豆沼・内沼自然
再生協議会で、これまでの知見をもとに全体構想が策定され、1)
生物多様性の保全と再生、2)健全な水環境の回復、を目標にさま
ざまな取り組みがなされている。
伊豆沼・内沼ではマガン、ブラックバス、ハスの 3 種による沼の
環境悪化や生物多様性への影響が懸念されている。マガンは天然記
念物であり、保護されてきた種であるため、個体数抑制などを目指
した管理には共通認識の醸成が必要である。また、負荷量の科学的
な位置づけ(=現状の把握)が不可欠であり、財団だけでなく大学
や県の研究機関との共同研究による慎重な調査を続けている。オオ
クチバスは、年々減少し、魚類相も回復し始めているものの、低密
度管理を維持するには、現在の防除技術を改良する必要が出ている。
また、根絶できない場合には、その永続的な防除コストをどのよう
に負担していくのかが課題となっている。ハスは観光資源としての
価値が高く、地域と共通認識を醸成し、管理目標を設定することが
必要である。また、300ha 近い群落を管理するには、大きなコスト
が課題となっている。
これらの現状を整理すると、伊豆沼・内沼における生態系管理では、
共通認識の醸成、現状の把握、防除技術、コストの 4 点から、それ
ぞれの種の管理方法を考える必要があることがみえる。財団はこれ
らの管理活動の中核団体として取り組んでおり、技術開発等は大学
と、コストは県や国との協議で、共通認識の醸成のための普及啓発
に取り組んでいる。
外来雑草による作物生産への被害が拡大している。帰化アサガオ
類(Ipomoea spp.),アレチウリ(Sicyos angulatus )などが夏作物で,
ネズミムギ(イタリアンライグラス,Lolium multiflorum )などが冬
作物で雑草害を引き起こしている。これら草種の移入は,主に 1960
年代以降続く輸入穀物への非意図的導入ならびに緑化資材が原因と
考えられ,拡散の原因の一つは里地における管理圧の低下である。
農地内での問題の背景には,農作業の省力(粗放)化と畑作物にお
ける除草剤選択肢不足がある。一方,こうした雑草は休耕地,畦畔,
水路際など農地周辺の里地環境に定着し,それらが農地個体群のソ
ースとなっている場合が多い。雑草の農地内外の移動分散や農地周
辺域での管理については,これまで農学分野ではほとんど研究対象
とはされてこなかった。同種内の農地内(耕地)集団と周辺草地集
団との攪乱への反応と生活史の違いは個体群生態学としても興味深
い主題を含んでいる。
優先すべき,かつ実効性が高いのは侵入初期段階での啓発と徹底
駆除による拡散防止である。メタ個体群を対象とした集落レベルで
の総合的管理とそのモニタリングが求められる。それを支援する情
報収集・発信システム(警戒情報,雑草生物情報データベース,日
本・農地版雑草リスク評価)の構築を開始した。またいくつかの県
において,研究者・普及指導員等が連携した地域レベルの分布の可
視化が試みられている。これらの試行的活動に対し,行政部局を越
えた事業支援を制度化し,研究者・技術者が実行計画に参加するこ
とで得られるであろう先行・優良事例のアウトリーチが今後の課題
である。また,周辺草地の駆除後の望ましい植生への誘導に対しては,
簡易モニタリングによる効果の検証,事例の蓄積が求められる。
64
T15-3
T15-4
愛媛県におけるスクミリンゴカイの総合的駆除の取組み
新たな理論的枠組み「総合的外来種駆除」に向けて
村上裕(愛媛県中予地方局産業振興課)・日鷹一雅(愛媛大・農)
日鷹一雅(愛媛大・農)
スクミリンゴガイ Pomacea canaliculata (Lamarck) は,水稲稚苗を
食害する南米原産の外来生物である.愛媛県においては,1986 年
7 月に松山市,宇和島市の一部において野生化した本種が確認され
た.現在,県下 19 市町中 11 市町で確認されており,平野部水稲地
域を中心に広範囲に分布している.本発表では,愛媛県における近
年のスクミリンゴガイ駆除への取組み状況と,演者らが実施してい
る総合駆除に向けた現地試験(予備試験)について報告する.メタ
アルデヒド剤の薬剤効果試験を現地圃場で実施したところ,48 時間
後の調査では 97.0% であり,発生初期段階の防除効果は高い.しか
し,無処理区と比較して卵塊数の減少が認められなかったことから,
1 回散布では本薬剤に次年度以降の発生量を低下させる効果はない.
2 回散布が有効と考えられるが,水稲の栽培型如何で本剤の使用基
準である収穫 90 日前をクリアすることは困難な場合がある.マーキ
ング個体放逐による本剤の誘引効果では,7 日間の誘引貝数 63 個体,
うち,マークされた貝は 48 個体で誘引率は 9.6% であった.日毎の
誘引数に一定の傾向は認められなかったが,放逐地点から最も近い
地点に誘引される傾向が認められた.また,散布 10 日後以降におい
ても誘殺が認められることから,スポット散布の残効性については
今後検討していく必要がある.本種の総合防除として,スクミノン
2回散布が可能な水稲栽培型の戦略的な取組みの推進,河川を逆流
して分布拡大していることから、水際で阻止する発生予察体制の確
立が挙げられるが,優先すべき防除対策としては,飛び地的に発生
が確認された地域における侵入初期段階での徹底駆除による拡散防
止である.
外来種に関する対策には、本学会だけでなく多大な投資が行わ
れて久しい。ここでは管理圧の強い里地を題材に、外来種問題に
どう取り組むかについて、本集会の演者らの事例も交え、triage と
treatment を意識した現場対応に結びつく総合的な枠組みについて考
察する。外来種へのトリアージについては、55 回大会において小池
(2008) が身近な天気予報のような外来種の分布拡大予想のための予
察システム「外来生物分布拡大予報」構築を提案している。ここでは、
疫学の全国展開というよりは、末端医療寄りに実際的な外来種に対
して treatment(治療)を入れた駆除のあり方について、水田生態系
を例に試論を行う。この集会の前報告で愛媛県中予地方におけるス
クミリンゴガイの総合的駆除の構築を試みたが、このプロジェクト
を始めたのは、愛媛県下だけでなく暖地の水田生態系では、トリア
ージ的に本種が優先するという判断をしたからである。例えば生物
多様性えひめ戦略 (2012) では本種のリスクについて以下の事由から
喚起を促している。 1)分布拡大は止まらない。2)生物多様性(日
鷹ら 2007)や栄養塩循環(Carlson et al 2003)への撹乱。3)農
業被害は防除圧にかかる経費、労力も含め甚大。4)伝統的な農村
や水辺の風景を害する景観有害種(村上・日鷹 2013)。5)
「稲守貝」
と呼び(宇根 2003)、水田雑草防除手段としての利用意思は絶えな
い。総合防除は、病害虫に対して社会的に広く認知され、国や国際
機関と自治体に予察と防除のシステムが構築され既に半世紀に及ぶ
歴史があるが、外来種にはついてはこれからである。IPM の歴史を
参考にしながら、地方を主体とした官民も問わない、トリアージの
3T(残るは tranport「処理」)のような総合的な駆除システムを発展
させることが急務であるが、種や個体群、生物多様性の状況など現
場の特性についての整理が肝要である。
T16-1
T16-2
生態系サービスの総合的な指標化について
陸域の生態系サービス(供給・調整)のための基盤情報
伊藤昭彦(国環研)
整備について
生態系は多様なサービスを人間社会にもたらすため、そのベスト
ミックスに配慮した管理利用が求められる。特に、気候変動に対す
る温室効果ガス吸収と森林破壊に対する生物多様性保存といった、
異なる環境問題に対応した生態系の最適利用を考える上では、生態
系サービスを総合的に指標化して意志決定に寄与することが生態学
者の重要な社会貢献課題となっている。そこで、このような問題に
対応したプロジェクト「気候変動対策と生物多様性保全の連携を目
指した生態系サービス評価手法の開発」を、本企画集会の講演者を
中心として環境省環境研究総合推進費課題として実施している。そ
こでは、生態系の現地・リモセンでの観測、生態系モデル、そして
社会経済要素を考慮した指標化、そして地理情報システムを導入し
たシステム化を担当する研究班によって研究が進められており、そ
の内容を紹介して会場の参加者とともに問題点や今後の課題を議論
したいと考えている。本講演では、プロジェクト全体の構成と方向
性を説明するとともに、講演者の主担当である生態系モデルを用い
た生態系機能の詳細なマッピングについて紹介する。本プロジェ
クトでは釧路流域圏、横浜市内の緑地帯、そしてマレーシア・ラ
ンビル付近をテストサイトに設定しており、それぞれ周辺域を含め
て 1km メッシュでの生態系機能マッピングを行えるシステムを開発
した。各メッシュでは生態系のガス交換や物質循環を統合的に扱え
るモデル(VISIT)によって環境条件の空間変動を考慮したシミュ
レーションが実施される。その出力情報を観測情報とともに用いる
ことで、従来よりも信頼性の高い生態系サービス指標に基づく評価
が可能になる。このような評価システムを、生物多様性に配慮した
REDD+ などのトレードオフ要因を含む対策立案や実施に役立てる方
策について議論する。
三枝信子(国環研)
生態系が人間社会にもたらす公益的機能(生態系サービス)は多
岐にわたっており、複数の生態系サービスが相互に補い合う関係に
ある場合もあれば、一つをとると他のサービスが損なわれるという
関係(トレードオフ)にある場合もある。例えば、気候変動の緩和
を目的として森林による大気中二酸化炭素吸収能力の強化をはかる
活動を進めることは、森林面積の減少をくい止め植林を促すことに
よって、大気質の調整サービスと林産物の供給サービスの向上を同
時にはかることが可能である。一方、天然林の伐採と人工林の拡大は、
生物多様性保全に関わる生態系サービスを損なうおそれがある。
変動する気候下にあるアジア太平洋地域の生態系に対し、各種の
生態系サービス間の相補またはトレードオフの関係を適切に評価す
る手法を確立することは、気候変動への適応と生物多様性保全の両
立をはかる各種の対策を検討しその効果を監視する上で必要不可欠
の課題である。本講演では、アジア太平洋地域の陸域生態系の気候
調整サービスとバイオマス供給サービスの定量化に焦点を当て、近
年普及しつつある陸域生態系の各種観測ネットワークとデータベー
スに基づいて生態系の二酸化炭素吸収(放出)機能の変化と地上バ
イオマスの変化をモニタリングする手法の確立に向けた研究の成果
を報告する。特に、陸域の熱・水・二酸化炭素収支の観測ネットワ
ークや長期生態学研究ネットワークに基づく炭素収支広域評価、地
上観測とリモートセンシングに基づくバイオマス広域評価に関する
研究を、日本(特に北海道)および東南アジア(特にボルネオ)の
テストサイトを対象として複数の研究グループと共同で実施してき
た結果と今後の課題を紹介する。
65
T16-3
T16-4
生態系サービス指標を用いた評価研究事例
衛星リモートセンシングによる生態系機能の広域評価
庄山紀久子(国環研)
鈴木力英(国環研)
(1) 生態系サービス指標を用いた評価研究事例
土地利用・被覆変化は生態系機能・サービス供給に影響すること
から、土地被覆図を基に複数の生態系サービス指標を算出する GIS
評価システム(InVEST 等)が提案され、国や地域レベルの評価に用
いられるようになってきた。一方でこのような評価システムは、精
度の高い土地被覆データや生物物理量推定値の入力を必要とする。
本発表では研究プロジェクトで集積された詳細な土地被覆、炭素収
支、バイオマス量推定値や生物分布データを用いた生態系サービス
指標の精度向上について紹介する。さらに、このようにして算出し
た指標は人々が生態系サービスを社会的価値として評価・認識する
場合、どのように用いられ得るのだろうか。環境経済学の分野で用
いられる顕示選好法・表明選好法によって評価した事例を紹介する。
(2) 空間情報を用いた生態系サービス評価ツールの活用手法
生態系サービス評価において、地域住民にとっての優先事項は地
域の社会・経済活動の活性化である。本講演では、現在開発中の「生
態系サービス統合評価ツール」について、その概要と適用事例を紹
介する。同ツールは、既存の生態系サービス評価ツール InVEST と
木質バイオマス評価ツールをベースとしており、オープンソースの
QuantumGIS を基盤として個別の生態系サービス評価機能をプラグイ
ンとして追加する方針としている。行政機関、企業等において地域
の生態系管理計画の策定における意思決定を支援することを目的と
しており、土地利用と生態系サービスに関する過去の推移、将来シ
ナリオを提示し、そのトレードオフについてステークホルダー間で
議論と評価を行うことを目指している。横浜市、釧路川流域圏をテ
ストサイトとして自治体や有識者とのディスカッションを通じ、生
態系サービス評価の効果やシステムに対する要求条件の分析を行っ
ている。
生態系機能やサービスの地理的広がりやその時間変化を知ろうと
した場合,一般に衛星観測によるデータを利用することが多い。し
かし,衛星からは生態系機能 / サービスを直接的に測ることはでき
ないので,それらを推定するためのプロキシー ( 代理指標 ) を衛星
観測より得ることになる。そのプロキシーは大きく分けて 2 種類あ
る。一つは,土地被覆分類とその分布の地図化である。地表面を森林,
草地,裸地,農業地域などに分類し,その分布を地図上に表現する
ことによって,各種生物の生息域,さらには生態系の特徴や機能の
分布を把握することができる。もう一つのプロキシーは植生物理量
である。森林の葉面積指数や地上部バイオマスは,森林の一次生産
機能や炭素固定量を知る手掛かりとなる。
本研究プロジェクトでは釧路川流域とマレーシアのサラワク ( ボ
ルネオ島 ) をテストサイトとして,衛星データから生態系機能 / サ
ービスに関するプロキシーの推定を行った。釧路川流域では,衛星
ASTER のデータを使って,まず土地被覆を分類し,生態系の分布の
特徴を明らかにした。また,同時に ASTER からは葉面積指数など,
ALOS/PALSAR からは森林地上部バイオマスの分布といった植生物
理量を地図化した。以上のような衛星データから導出された情報は,
生態系サービス評価ツール「InVEST」に入力され,釧路川流域の生
態系サービスの分布推定に利用される。一方,サラワクではプラン
テーション開発について,年ごとの拡大の様子を Landsat や ALOS/
PALSAR のデータを用いて明らかにした。開発によって,現地の地
域社会はパームオイルの収穫という生態系からの供給サービスを受
けることになるが,一方で自然林や二次林の消失は,高い生物多様
性を失うことに繋がる。このようなサラワクにおける生態系機能 /
サービスの変化を評価するための基礎的な情報を衛星データに基づ
き作った。
T17-1
T17-2
自動撮影カメラによる哺乳類多様性広域評価手法の開発
音声録音データを用いた鳥類多様性評価の可能性
鮫島弘光(京大東南研)
藤田素子(京大東南研)
中 大 型 哺 乳 類 は 熱 帯 林 の 生 物 多 様 性 の 豊 さ の 象 徴 で あ り、 そ
の保護は社会的な支持を集めやすい。このため持続的森林管理、
REDD+、生物多様性オフセットなどの熱帯林保全プロジェクトにお
いて、中大型哺乳類の多様性調査を実施してプロジェクトの保全効
果を可視化することは、プロジェクトへのさらなる投資を促進し、
ひいては愛知ターゲットの達成に寄与すると考えられる。また多様
性の状況を把握できれば、プロジェクトの管理システムにフィード
バックされることによって、その保全効果の改善に寄与しうる。し
かし森林管理スケールでの哺乳類の広域調査方法としては従来、巣
のカウントによるオランウータンの調査、地形が比較的平坦かつ動
物の生息密度が高い場所で可能なライントランセクト法が行われて
いるのみであり、ほとんどの動物種は対象にできなかった。
そこで我々は自動撮影カメラを用いた哺乳類の広域調査手法を開
発し、ボルネオの 4 か所の択伐コンセッション(800-1500km2)、ス
マトラのアカシアプランテーションを対象にフィージビリティスタ
ディを行ってきた。これらの結果、十分なデータを得るために必要
なカメラの台数、プロットの適切な配置の仕方、必要努力量などが
明らかになってきた。また得られたデータの解析から、各コンセッ
ションの動物相の特徴、伐採によるインパクトの違い、小面積で残
された保護区の効果などが明らかになり、森林管理に対する具体的
な提言も可能になった。さらに生息地モデルを応用した管理シナリ
オごとの将来予測、保護区の設置に伴う機会費用の損失も考慮した
最適な保護区選定プロシージャの構築も行った。本手法が東南アジ
ア熱帯林の管理の中で広く適用されれば、熱帯雨林における生物多
様性の保護がより効果的・効率的に実現されると考えられる。
鳥類は生物多様性の指標生物として有効であり,その多様性を広
域的に評価することは熱帯林保全およびその管理計画を立てるうえ
で重要である.鳥類の多様性調査では,ポイントカウント法などの
直接観察が一般的に行われる.しかし,インドネシアの林業コンセ
ッションにおける我々の研究から,調査者の同定能力の違いに結果
が大きく左右されることと,事後の検証可能なデータとして扱えな
いなどの問題点があることが明らかになった.それを予防するため
には,複数の調査者の参加や十分な反復調査が必須となり多大な労
力がかかる.しかしながらインドネシアの熱帯多雨林では高い同定
スキルを持った調査者が不足しており,広域にわたる長期的なモニ
タリングは事実上困難である.近年,野外における音声録音や解析
の技術的な進歩により,野外で録音した音声から生物多様性評価を
行う試みも始まった.音声を用いるメリットは,同時に複数の地点
において長期的にデータを取得することが容易である点,データの
保存や検証が可能であり客観的なデータとして扱える点などが挙げ
られる.しかし,大量の音声データを耳で同定することは極めて難
しく,同定能力の違いも影響するため,機械的に鳥類種を識別する
システムの開発が必要になる.我々は,このシステムの開発に向け
たステップのひとつとして,チメドリ科の鳥類のさえずりを機械的
に識別する試みを行った.また音声録音法をポイントカウント法と
比較し,鳥類多様性の評価における音声録音法の有効性について議
論する
66
T17-3
T17-4
樹木群集組成を用いた生物多様性モニタリング手法の開発
衛星データを用いた樹木群集組成指標値による生物多様
今井伸夫(京大農森林生態)
性の広域モニタリング
田中厚志(京大農森林生態)
生物多様性モニタリングの指標生物には、①高い指標性(種数や
組成が他分類群のそれと高い相関)②低い調査コスト③容易な同定
④広域かつ長期に繰り返しモニタリングできる、等の要件が求めら
れる。これまで多くの指標種・分類群が提案されてきたが、これら
の項目全てを満たすようなものはなかった。リモートセンシングの
地上調査と同時に比較的安価に調べられ、かつ森林の構造を直接反
映する“樹木群集”は有力な候補分類群である。しかし、樹木群集
のどの値(種数、群集組成など)が生物多様性指標として適当なの
か分からない、同定が難しい等の問題がある。そこで、樹木群集を
用いた効果的なモニタリング手法の開発を目的に、① 2 つの代表的
な指標(種数と群集組成)の指標性評価②同定の負担軽減策の検討
(同定する個体の下限直径を上げて(10 → 20cm)数を減らす、同定
時の分類階級を上げる(種→属レベル))を行った。 ボルネオ島内
の 3 つの民間森林管理区(サバ州で 2 か所、東カリマンタンで 1 か所)
のそれぞれにおいて、原生林∼裸地までまんべんなく半径 20m の円
形プロットを 60 個設置した。樹種数は、伐採林と原生林で大きな違
いはなかった。一方、群集組成の指標(NMDS 分析で得られる各プ
ロットの 1 軸値)は、バイオマスと高い正の相関を示した。森林の
劣化とともに増える種群(先駆種)および減る種群(極相種)の両
方の効果を取り込んでしまう“種数”よりも、森林劣化に対して線
的な反応を示す“群集組成”の方が有効な指標であることが示された。
また、下限直径 20cm、属レベル同定での調査でも、通常調査(10cm、
種レベル)と同様の結果を得られることが分かった。さらに本手法は、
通常調査より調査本数を約 60%、同定用標本の採取個体数を約 98%
低減でき、大幅な同定省力化も達成できることが分かった。
近年、REDD+ や森林認証などに代表されるように、土地管理プロ
ジェクトにおいて生物多様性に配慮が求められるようになった。こ
れらのプロジェクトのように、対象地が国レベルあるいは伐採コン
セッションレベルの広域な面積を有する場合、生物多様性について
も、広域に渡りその時間変化を評価しなければならない。このよう
な課題に対してはリモートセンシングによるモニタリングが有効で
あるが、生物多様性の広域評価方法はまだ確立されていない。共同
研究者により、自然林からの商業伐採によって森林劣化が進行して
いる東南アジアの熱帯降雨林において、樹木群集組成が森林劣化度
と高い相関関係を持つことが明らかとなった。従って、樹木群集組
成を生物多様性指標とし、それを衛星データによって評価できれば、
生物多様性(の変化)は広域にモニタリング可能となる。国レベル
の広域を対象とする際には、Landsat などの中解像度の衛星データが
有効と思われる。伐採による熱帯降雨林の劣化度は、一義的には、
伐採対象となる極相種のバイオマス低下とパイオニア種の増加によ
って樹木群集組成に反映される。このため、樹木群集組成は地上部
バイオマス、林冠の不均質性、林冠葉の活性などに反映されると考
えられる。これらのパラメータと相関のあるデータを衛星画像から
抽出し、生物多様性の広域評価を行った。まず、熱帯低地林の地上
部バイオマスと相関の高い LandsatTM の band7 を用いて森林劣化の
程度を示す森林植生層化図を作成し、各層化クラスに多数の調査候
補地点をランダム発生させることによって、様々な劣化度の森林に
効果的に地上調査プロットを配置する方法を開発した。この地上調
査から得られた樹木群集組成指標値と衛星画像から抽出したデータ
をモデル化することで、樹木群集組成を指標値とした生物多様性の
広域評価方法を開発した。本講演ではこれらの結果を報告する。
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一般講演・口頭発表
3月 7 日(木)
生態系管理
動物群集
外来種
植物個体群
動物と植物の相互関係
進化
数理
保全
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口頭発表 3 月 7 日(木) B 会場 14:30-15:30
B1-01
B1-02
環境 DNA を用いた魚類の在不在判定による遡河行動の
阿武隈山地北部の高放射線量地帯の野生動物モニタリング
石田健(東京大・農生命)
モニタリング
福島第一原発事故により高線量地帯となっている、原発から北西
方向約 10 ~ 40km の 20km 四方の地域において、2011 年 7 月 ~2012
年 12 月に 13 回現地調査し、ガラスバッヂによる放射線量測定、鳥
類スポットセンサスと録音機による動物モニタリング、ウグイスの
捕獲調査等を実施した。ガラスバッヂでは、異なる予測線量当量の
地点、微環境に約 2 ヶ月間設置後、70cm 線量当量 (mSv) として定
量された。鳥類スポットセンサスは、2011 年 7 月 (3 分間)、8 月、
2012 年 5 月と 6 月(以上 5 分間)の日の早朝を主とし、姿と声で
確認した種と個体数を記録した。録音は、2011 年 7 月 ~8 月は 6 地
点、2012 年 2 月 ~8 月は 12 ~ 6 地点にモノラルマイクを出し防水ケ
ースに納めた IC レコーダを設置し、日の出前後などにタイマー設定
し連続録音した。2012 年 6 月に 18 地点、7 月に 7 地点に防滴ケース
で保護したステレオ録音の IC レコーダを設置し、晴天の日の出前後
のタイマー録音を行い、線量の異なる多地点の可能な限り揃った条
件での鳥類モニタリングを試みた。バッヂにより地上約 1m と地際
(~10cm) で測定したγ線量当量は、文科省・大阪大学等の発表して
いる周辺の線量分布に該当した。スポットセンサスにより 45 種の鳥
類を記録し、最も出現頻度が高かったのはウグイスだった。文科省
等による線量当量の分布、区分に対応して集計した範囲では、空中
放射線量とウグイスやヒヨドリ等の出現頻度が対応する傾向はみら
れなかった。録音によるモニタリングデータによって、2012 年は 3
月 10 日前後から、ウグイスのさえずりが確認された。録音データは、
分析途上にあり、可能性についてのみ論じる。2011 年 8 月中旬に換
羽中のウグイスの雄 4 個体、10 月に雌 1 個体、2011 年 7 月と 8 月に
ウグイスを 9 個体捕獲した。換羽前の羽毛によって、個体の被曝量
が推定できる可能性がある。
* 山中裕樹(龍谷大),源利文(神戸大)
ここ数年、魚類などの大型水棲動物を対象として、環境水中に浮
遊する DNA 断片 ( 環境 DNA) の回収・分析による生物相の推定技術
が急激に発展してきた。従来から行われている採捕や観察といった
手法では調査者の採捕技術や努力量の違いによる推定のバラツキが
あり、その補正が困難である。一方で環境 DNA による推定では調
査現場での作業は水を汲む事だけであり、調査におけるバラツキが
小さいと考えられ、しかも小さな労力で実施できる手法として注目
されている。
本研究ではダム等の河川横断構造物が魚類の河川内移動に与える
影響のモニタリングに環境 DNA 技術を応用することを目指し、そ
の可能性を示すべく淀川水系を対象として調査を実施した。琵琶湖
南端から大阪湾に至る約 70km の区間で計 15 地点、7 月から 10 月ま
で毎月1回の採水を行った。対象区間には上流から南郷洗堰 ( 魚道
無し )、天ケ瀬ダム ( 無し )、淀川大堰 ( 有り ) の 3 つの河川横断構
造物があり、魚類の河川内移動への影響が考えられた。対象種は海
域と河川域とを回遊するアユ、ボラ、スズキの 3 種で、ミトコンド
リアのチトクローム b 遺伝子領域をターゲットとする種特異的なプ
ライマーを設計し、種ごとの在不在の季節的な変化をリアルタイム
PCR によって分析した。
結果、ボラとスズキは淀川大堰の下流地点で 8 月にのみ検出され
た。また、アユは 7 月に南郷洗堰と天ケ瀬ダムの下流地点で、8 月
には天ケ瀬ダム下流地点とダム湖内で、そして 9 月には天ケ瀬ダム
から約 10km 下流の地点で検出された。近接した地点でも検出の有
無に違いがあることから、環境水中の DNA が一方向に流れて拡散す
る流水環境においても、環境 DNA によって検出される種は採水地
付近の魚類相を反映していると考えられた。これらの結果をもとに、
環境 DNA による魚類行動のモニタリング方法を確立することの有
用性と、考慮せねばならない問題点について考察する。
B1-03
QR コード樹木番号札を利用したさいたま市荒川河川敷
B1-04
都市部における希少植物の保全とその意義−埼玉県和光
河畔林における植生調査およびその活用
市におけるヒロハアマナ、タマノカンアオイ、カワモズ
* 若山 正隆(東大・院・農),古橋 光弘,山口 綾子,佐藤 正人(浦和自
クの保全ー
然観察会),大澤 元(自然観察指導員埼玉),中村 純子,西ノ原 章浩,
今井 利和,関口 春男(浦和自然観察会),高橋 勝緒,高橋 絹世(和光・
緑と湧き水の会),太田 和夫(元埼玉県立自然史博物館)
* 高橋絹世,高橋勝緒,渡辺康三,竹内綾子,赤松祐造,飯島孝通(NPO
和光・緑と湧き水の会)
序:都市部に残存する小規模な緑地にも絶滅危惧種等の希少植物
を見出すことができる。埼玉県和光市は東京都に接する都市化の進
む地域であり、開発と自然環境の保持の両立が重要課題となってい
る。和光・緑と湧き水の会では、この地域での緑地および湧水地の
環境調査や保全、身近な自然の大切さを広める活動を十数年続けて
いる。本報では、このような都市部の緑地や湧水地で見出された種々
の希少植物のうち、下記の3例について、市民との触れ合いの中で
の保全の在り方を報告する。
ヒロハアマナ:全国の絶滅危惧 II 類に属し、和光市谷中地区の草
原に生育していたが、1997-99 年の宅地開発により草原は消滅した。
この開発中球根を含む土壌を採取し、和光樹林公園等に移植し保存
を図った。現在、林間の約 500㎡に良く生育している。2005 年には、
原生地付近の古民家園の庭に再移植し生育している。
タマノカンアオイ:絶滅危惧種であり、埼玉県の保護条例指定種
となっている。2008 年、和光市「新倉ふれあいの森」で約 10 株の
自生が認められ注意深く保護している。
カワモズク:1998 年、和光市白子地区の湧水群で発見された埼玉
県絶滅危惧種。その生育環境を調べ、水質、水温、日照、底質など
の条件がそろう湧水の流れに生育することがわかった。2011 年白子
地区「大坂ふれあいの森」で湧水の流れを整備し、多数のチャイロ
カワモズクが繁茂した。
まとめ:以上の事例は、都市部にあって開発に伴いやむなく移植
保護を行い残存した例、注意深く保護・観察を続けているもの、お
よび環境の整備により生育が促進された事例を示した。この他、当
会はイチリンソウやヤマブキソウなどの多くの貴重植物を周囲の生
態系と共に保全する活動を続けている。
植生調査における毎木調査では従来、樹木番号札としてプラスチ
ック製の番号テープ等が利用されてきた。これらの番号は多くの場
合 1 年程度で調査を完了させ、その調査に従事した者の間で調査の
際には必要なものだが長期間の利用を考慮したものでないことが多
い。また樹木番号に関する地図や資料を持っている者にとっては重
要な番号ではあるが、これ以外の者にとっては重要性が薄い。この
ため既に毎木調査がなされている場所であっても研究グループが異
なり、以前の調査者が不明であれば新たな調査が必要となる。さら
に以前の植生調査の記録をもとに再調査を実施しようとした場合、
文献上の記載は解釈されたデータであることが多く、該当する林域
は分かっても詳細にどの範囲で行ったかを絞り込むことは難しく、
樹幹ベースの詳細な経年変化を知ることは難しかった。
演者らは埼玉県さいたま市秋ヶ瀬公園内の河畔林において約 15 年
前に毎木調査を含む植生調査を実施し、更に経年調査として 2011 年
から再調査を実施している。前述の樹木番号札の問題点を考慮し、
また今後の再調査を念頭に、樹木番号札として QR コードをつけた
ラベルテープを利用し、樹木情報管理を開始している。本発表では
この方法の有効性と利用活用について、特に調査地が公園という立
地環境を活かした活用法について報告する。
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口頭発表 3 月 7 日(木) B 会場 15:30-16:30
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B1-06
モンゴル放牧地においてイネ科叢生草本が草本群集に与
アセンブリー・ルールによる植物群集の予測:ニホンジ
える facilitaition
カによる被食下の極相植生
* 小山明日香(東大・農),吉原佑(東北大・農),Jamsran, U.(モンゴ
小池文人(横浜国大・環境情報)
ル農大),大黒俊哉(東大・農)
ニホンジカの増加により,北海道から九州までの奥山から里山に
至るさまざまな地域で植生が変化しつつある.シカが食べる植物に
は明らかな嗜好性の差があり,シカが少なく被食圧が低い状態でも
頻繁に食害される植物種と,被食圧が高まった状態でのみ被食され
る植物種が存在する.このような選択的な被食は植物の種どうしの
競争関係に影響を与え,植生が変化する.
この研究ではシカの嗜好性も植物種の種特性のひとつとして取り
入れることにより,極相の植物群集をアセンブリールールで予測し
た.屋久島(亜熱帯林∼照葉樹林)と北海道(夏緑林上部∼北方林下部)
の2つの地域を対象にし,植物の種特性としてシカの嗜好性のほか
に最大高と耐陰性を測定した.
群集予測の結果から,あるひとつの植物種の優占度は,競合する
他種が消失することにより被食圧とともに上昇するが,当該の種が
食害を受けるレベルになると優占度が低下するのが一般的なパター
ンであった.
被食圧の変化に対応した植物群集の変化は,優占種に対するシカ
の嗜好性によって成りゆきが大きく異なった.優占種が高嗜好性で
食害を受けやすいケースでは,被食圧の上昇とともに林相が交代し
た.その中で,より高い高度にみられるような群集が成立すること
もあり,また嗜好性が低く食害されにくい外来種による陽樹林が成
立することもあった.
他方で極相林の優占種の嗜好性が低くシカの食害を受けにくい場
合は林相の変化が少なく,被食圧の上昇と共に構成種が順次欠落し
て行った.ただし,競合種の消失により不嗜好性の陽性植物の優占
度がいったん上昇する現象もみられた.
中程度の被食圧下で山奥の高い標高の地域にみられる植生と類似
した群集が成立するケースもあるため,現存する植生の中には,過
去のシカ食害を重要な要因として成立したものが存在する可能性が
ある.
乾燥地草原では人間の過剰な土地利用により土地荒廃が進行して
いる。facilitation(生物間の正の相互作用)は、生態系機能や植生の
維持・回復に有効な、生態機能をいかした環境修復ツールとして期
待される。放牧草原では、灌木や不嗜好性草本が栄養塩供給や被食
回避作用をもつことで嗜好性草本の生育を促進させるようだ。一方、
嗜好種が facilitation 作用をもつ場合、嗜好種にかかる放牧圧に伴い
その作用が変化するかもしれない。
モンゴル草原に分布する嗜好性のイネ科叢生草本 (Achnatherum
splendens ) は facilitation 作用をもつことが期待されるが、過度な放牧
利用により株の縮小・衰退が生じている。本研究は、被食されるイ
ネ科叢生草本が facilitation 機能をもつか、その機能がイネ科叢生草
本にかかる放牧圧に伴い変化するかを検証した。
弱・強放牧圧域において、A. splendens の株サイズ、株が形成する
3 ハビタット(株上,株際,株外)に出現する植物個体数、種数お
よび被食の有無を測定した。その結果、株上・株際で嗜好種の個体
数が増加,被食率が低下し、A. splendens は被食回避作用を示した。
また、A. splendens の株サイズは強放牧圧域で小さくなり、株サイズ
の縮小とともに株上の嗜好種個体数および種数が減少した。
このように、モンゴル草原において嗜好性のイネ科叢生草本は
facilitation 機能をもち放牧地植生の維持に寄与しているが、過剰な放
牧利用によりイネ科叢生草本およびその機能が消失する可能性があ
る。本結果は、放牧地管理を考える上で facilitation 機能および機能
を有する種の保全の重要性を示している。
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小笠原諸島媒島におけるノヤギ駆除前後の土地被覆変遷
プロセスベースドモデルによる森林管理の生態系サービ
パターン
スへの影響評価
* 郡 麻里,畑 賢治,高岡 愛,可知直毅(首都大・院・理工・生命)
* 大場真,林希一郎,ダカール アンビカ(名大・エコ)
小笠原諸島北部の聟島列島・媒(なこうど)島は、かつて人が持
ち込んで放置したヤギ(以下、ノヤギ)による植生の食害と踏圧に
よる地表撹乱が激しく、ノヤギ完全駆除後の現在においても土壌浸
食が続いており、一部は基岩が露出した状態にある。さらに、媒島
の草地にはオガサワラビロウやタコノキなどの木本植物の残骸が確
認できることから、本来は森林が成立していたことがうかがえる。
Hata et al (2007) を参考に、どのような撹乱履歴の立地に現在どの
ような植生が成立しているか、および今後の植生の定着・回復の可
能性を把握するため、1)過去に撮影された4年代の空中写真を幾
何補正し、地理情報システム (GIS) 上で土地被覆の比較を行い、2)
現地調査(植生、土壌、海鳥営巣痕跡等)をランダム地点および
25m グリッド上において実施し、GPS 座標で対応させることで画像
判読の地上精度確認を行い、3)東京都による砂防・植生回復事業
の際に得られた LiDAR 航測による詳細な地形情報を活用し、微地形
の起伏が土地被覆の変遷と現存植生にどのように影響しているかを
一般化線形モデルで解析した。
ノヤギ駆除後の植生(草地)の被覆面積は若干増加傾向にあった
ものの、10年後以降の増加が見られず、一方で裸地の面積にも変
化が見られなかった。すなわち、一度赤土が露出した急傾斜地にお
いては植生は新たに定着しにくいことが判明した。イネ科草本につ
いては高岡ら(2011)が各 GPS 地点の土壌を用いた栽培実験により
潜在的植生回復力について検討しているが、地形を考慮すると、む
しろ土壌の垂直方向の物理的浸食が植生回復を困難にしている状況
が示唆された。今後も定期的に地表計測を行えば、将来のオオハマ
ギキョウなどの希少植物の定着可能性、樹木個体群の存続可能性、
海鳥の再定着の可能性やその影響などをより定量的に推定すること
が可能となる。
様々な森林管理・保全シナリオの元での森林生態系サービスを、
森林モデル、コスト計算モデル、持続性評価指標によって評価した。
拡大造林によって植林され標準収穫期を迎えた人工林の問題が俎
上に載せられ久しいが、その解決の糸口として森林生態系が持つ生
態系サービスを評価することは重要であると考えられる。しかしミ
レニアムエコシステムアセスメントなどで示された生態系サービス
は、統合評価のフレームワークを与えていないため、統合的な解決
のためのシナリオの選定や施策提言がしにくいという問題を抱えて
いる。
著者らは、様々な森林シナリオの元での森林生態系サービスを量
的にモデルで推定を行い、かつそのシナリオ実施に必用な資源投入
( コスト、労働力、土地 ) を推定した。これらの計算結果を元に、著
者らが別に提唱している、ライフサイクルアセスメントを持続性評
価のために修正した占有時間指標 (Occupancy Rate Time) を用いシナ
リオの統合評価を行った。ケーススタディの対象として、愛知県豊
田市内、旧旭町、旧稲武町の森林を選んだ ( 人工林 11,300 ha, 天然林
3,600 ha)。また占有率計算に必用な境界としてこの旧2町を選んだ (
土地、労働力、炭素蓄積能力 )
その結果、間伐や人工林更新などが主に炭素蓄積に関して有意に
効果を持つことが理解されたが、資源投入を考慮するとその効果が
低減されることが分かった。またこのシナリオでは土地利用が占有
されたままとなる。不採算人工林の天然林への転換や間伐材の有効
利用 ( 火力発電所における石炭代替混燃 ) などを行うことによって、
現状維持より有効な持続可能性シナリオが占有率より示唆された。
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口頭発表 3 月 7 日(木) B 会場 16:30-17:00
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簡単な数理モデルによるレジームシフトの説明
生物間相互作用を考慮した魚類群集の資源管理モデリング
加藤元海(高知大・黒潮圏)
* 黒田啓行(水研セ・西海区水研),McAllister, M.(UBC),Parkinson,
E., Johnston, T., Askey, P.(BC Ministry of Environment)
生態系の状態が突発的に大きく変化を起こす現象は、レジームシ
フトと呼ばれている。その例として、湖沼における突然の富栄養化、
海洋においてはサンゴ礁の消滅や漁獲の大変動、陸上においては森
林の消滅や砂漠化などが挙げられ、陸域水域を問わずさまざまな生
態系で起こりうる。最近は、レジームシフトという現象は徐々に生
態学者の間で知られるようになってきているが、数理を主な手法と
している研究者以外には、
(1)なぜ状態の変化が「突発的」なのか、
(2)
なぜレジームシフト後の系状態の回復は困難なのか、に関する理論
的な「仕組み」はあまり知られていない。ここでは、レジームシフ
トを説明する数理モデルのうち最も単純なものを用いて、上述した
(1)状態変化の突発性と(2)状態回復の困難さに加えて、(3)どう
いう条件の時にレジームシフトが起こるのかについて、なるべく数
式を使わずに図を用いて説明することを試みる。ここで紹介する数
理モデルと図による解説は、「レジームシフト:突発的に起こる生態
系の大変化」
(加藤元海 2012, 海洋と生物 34(4), 376-380)を基にした。
漁業や遊漁(釣り)に関する資源評価は、単一魚種を対象に行わ
れる場合が多い。被食−捕食関係などの種間相互作用を考慮した資
源評価モデルの開発も進んでいるが、相互作用を定量化するデータ
や知見の不足などにより、現実の資源管理に積極的に生かされてい
るとは言いがたい。
本研究の対象であるカナダ西部のクーニー湖は大型のニジマスが
釣れることで有名で、遊漁は地域の重要な産業である。ところが、
周辺流域におけるダム建設などにより、大型ニジマスの餌であるヒ
メマスの資源量が低下したため、湖への栄養塩添加やヒメマスの産
卵場整備、ニジマスの遊漁管理などが 20 年近く実施されている。し
かし、これらの管理施策は経験的かつ同時的に行われているため、
各施策の効果を定量的に評価することは難しかった。一方、様々な
調査が毎年実施され、産卵場の親魚数など個体群動態に関する長期
データが利用可能である。そこで、ヒメマス−ニジマス系の資源管
理を対象に、被食−捕食関係を明示的に取り入れた資源評価モデル
を構築し、各管理施策の効果を定量的に評価することとした。資源
評価モデルでは、両種の年齢別個体数と体サイズの時間的変化をモ
デル化し、生活史や遊漁活動に関するパラメーター値は過去の時系
列データから推定した。
解析の結果、現在の管理施策はニジマスの遊漁を今後も概ね持続
できそうなものであることが明らかになった。しかし、管理に対す
る有効性や役割は施策間で異なることも判明した。さらに、大型ニ
ジマスの資源量を現状以上に増加させるためには、ニジマスの産卵
場整備など新たな施策の必要性も示唆された。
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口頭発表 3 月 7 日(木) C 会場 14:30-15:30
C1-01
C1-02
密度効果がもたらす群集レベルでの帰結:密度―体サイ
撹乱がメタ群集の移入 - 絶滅ダイナミクスに及ぼす影響
ズ関係に注目して
* 福森香代子(国立環境研),George Livingston,Mathew Leibold(テ
キサス大)
* 森照貴(土研・自然共生研究セ),齊藤隆(北大・FSC)
生息地の撹乱は、さまざまな空間スケールで生物群集の動態に影
響を与えることが知られている。ある限られた空間のなかの群集、
つまり局所群集は、生物の移動分散によって他の局所群集と空間的
につながり、メタ群集を形成する。メタ群集内で生息地の撹乱が起
きると、いくつかの局所群集では種が絶滅し、近隣の局所群集から
種が移入してくるため、撹乱の強度に応じてメタ群集全体の種構成
は変化すると考えられる。また、局所群集間の環境の違いや生物の
移動分散の程度などによっても生物の種構成は影響される。
本研究は、生息地の撹乱が環境異質性のあるメタ群集に与える影
響を、繊毛虫のマイクロコズムを用いて実験的に検証することを目
的とした。5 × 5 の格子状にペトリ皿を配置し、明と暗の 2 つの環
境においてそれぞれ優占する 2 種の繊毛虫を用いた。撹乱強度は、
異なる数の局所群集を絶滅させることにより 4 段階に操作した。
撹乱がないメタ群集では、繊毛虫の種構成は環境の効果によって
ほぼ説明されていたのに対し、撹乱強度が増加するにつれ、環境の
効果が減少し、残差(環境でも空間配置でも説明できないばらつき)
の割合が増加した。また、種構成が空間配置によって説明される割
合は、中程度の撹乱で最大化した。最後に、このようなパターンを
もたらす要因について考察する。
群集の形成プロセスを明らかにすることは、群集生態学における
主要なテーマである。古くから種間競争などの生物間相互作用は、
群集の形成プロセスに影響を及ぼすと考えられてきた。しかし、種
間競争の帰結となる明確な競争排除が、実際の群集で観察されるこ
とは少なく、群集の形成プロセスに対して、競争がどのような影響
を及ぼすのかに関しては明確に示されてこなかった。さらに、同じ
餌資源を巡っての種間競争は、潜在的に競争関係となりえる種群の
合計バイオマス(つまり、同じギルドに属する種群の合計バイオマス)
に依存すると考えられ、群集が飽和状態に近いほど、競争の重要性
が増すと考えられる。そこで、本研究ではギルド分けが簡便な河川
底生動物群集を対象に、撹乱の強度に応じて密度が変化することに
着目し、密度に依存して変化する競争の度合いが群集の形成プロセ
スに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
調査は北海道沿岸域を流れる 30 の山地小河川で行い、採取された
底生動物を 4 つのギルドに分けた(藻類食者・有機物収集食者およ
び破砕食者・有機物濾過食者・捕食者)。藻類食者に属する種の分布
パターンは大きく異なり、①どこにでも出現する種、②撹乱の強い(種
群の合計密度が低い)場所のみに出現する種、③撹乱の弱い(種群
の合計密度が高い)場所のみに出現する種、④明確な傾向が見られ
ない種、の 4 つに分類された。藻類食者に属する種群が多くなるほ
ど競争が強くなると考えられたが、種群の合計バイオマスが増加す
るほど、③に該当する種の個体サイズが低下していたのに対し、①
に該当する種の個体サイズは変化しなかった。つまり、優占種の密
度が高くなることで、群集が飽和に近付き、希少種が負の影響(体
サイズの低下もしくは種の排除)を受けることが示唆された。
C1-03
C1-04
食物網における誘導防御の役割:諏訪湖サンプルを用い
アミノ酸窒素同位体比を用いた、陸域分解系における土
た安定同位体解析の結果から
壌動物の資源利用解析
* 坂本正樹(富山県立大),永田貴丸(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター),
君島祥(信州大),花里孝幸(信州大),Chang Kwang-Hyeon(Kyung
Hee Univ.)
* 陀安一郎,長谷川尚志,由水千景(京大・生態研セ),力石嘉人,小川奈々
子,大河内直彦(JAMSTEC)
陸上生態系で生産された有機物のうち、生食連鎖で動物に利用さ
れる以外の大部分は腐植分解プロセスを経て土壌有機物として蓄積
される。土壌圏に生息する動物は、枯死したばかりのリターから、
分解プロセスの中間段階の有機物、また土壌そのものを利用するこ
とで生存している。一方、土壌動物の餌となる資源は目視すること
が難しいため、何らかの指標を用いて特定することが必要となる。
いままで、炭素・窒素安定同位体比や放射性炭素 14 などの手法を用
いて研究が行われてきたが、本研究では近年利用が広がっているア
ミノ酸窒素安定同位体比(特にフェニルアラニンとグルタミン酸)
を用いて解析を行なった。
アフリカ及びアジア熱帯の C3 植物からなる森林及び C4 植物から
なる草原で採取された、食性の異なるシロアリとミミズを測定した。
その結果、バルク窒素同位体比の大きく異なる分解初期利用種と分
解後期利用種でアミノ酸間の窒素同位体比の差はほとんどなかった。
これは、腐植食性の土壌動物に特有のパターンかもしれない。また、
キノコと共生するキノコシロアリについて測定したところ、餌とな
る植物リターからキノコへの変換パターンは、グルタミン酸の窒素
同位体比の上昇を伴わないものであった。いずれにせよ、陸域分解
系における土壌動物の資源利用解析に新たな可能性を示すものであ
った。
本発表では、温帯森林で採取された中型土壌動物の分析結果を加
え、アミノ酸窒素安定同位体比を用いた今後の土壌生態系解析手法
について検討を加える。
多くの生物は,捕食者や競争者が放出する化学物質や,攻撃など
による物理的な刺激からその存在を認識し,形態や行動,生活史特
性を変化させる.中でも,捕食者に対する可塑的な防御は,誘導防
御と呼ばれる.誘導防御を含め,表現型可塑性の研究は近年,
「進化」
や「生態系機能」と関連させることで急速に発展してきた.遺伝子
群やタンパク(分子機構,進化プロセス),生体内の物質・エネルギ
ー収支(コスト−ベネフィット),種内競争(自然選択による進化),
個体群動態(系の安定化)などがその代表である.
その一方で,個々の種の様々な環境への可塑的戦略が,野外群集
の動態や物質循環にどの程度寄与しているかはよくわかっていない.
その理由として,多くの種の生態学的特性が不明で知見が断片的で
あること,複数の生物的・非生物的要因が複雑に関係しあうことな
どが挙げられる.
本研究では,「捕食者の餌選択」と「生態系内の物質循環」を決
定する要因として,誘導防御の機能的役割を明らかにすることを目
的とした.諏訪湖生態系を対象とした安定同位体解析を行った結果,
捕食者(ノロという捕食性ミジンコ)が防御形態の餌生物(ニセゾ
ウミジンコ)をほとんど利用していないことが明らかになった.また,
食物網における特定のリンクが遮断されることで,植物プランクト
ンから魚類(ワカサギ)までの物質・エネルギーの流れに,2つの
異なるルートが形成されることがわかった.
74
口頭発表 3 月 7 日(木) C 会場 15:30-16:30
C1-05
C1-06
シロアリ 3 種の雑種コロニーにおける共生原生生物群集
植生二次遷移過程における、クモ群集及びエサ供給量の
の変化
変化と同位体食物網の関係
北出 理,來栖 嘉宏(茨城大・理)
* 原口岳,陀安一郎(京大生態研)
シロアリ類の後腸内には共生原生生物の群集が存在し、その種組
成はシロアリの種に特異的である。日本のヤマトシロアリ属の種で
は、10-13 種の原生生物が確認されている。これまでの研究で、ヤ
マトシロアリとカンモンシロアリの有翅生殖虫(王・女王)を人為
的にペアにして巣を創設させると、交配して雑種コロニーをつくり、
子供であるワーカーに両親から原生生物が伝達されることが分かっ
た。さらに、ワーカーは初め両親種に特異的な種を併せ持つが、時
間経過とともにヤマトシロアリが本来もつ組成へ変化した。共生原
生生物の群集組成に安定的な種の組合せが存在することが示唆され
る。
本研究では、ヤマトシロアリ、カンモンシロアリ、アマミシロア
リの 3 種を用いて 3 通りの雑種コロニーと 3 通りの同種コロニーを
創設させ、原生生物組成の変化を調査して先の現象の一般性を検証
した。創設後 80、160、230 日後に、1 コロニーあたり 5 個体のワー
カーを調べ、各種原生生物の有無を検査した。各コロニーの組成の
類似性は対応分析で評価した。
ヤマトとカンモンの同種コロニーは、野外コロニーと同じ組成の
ままほぼ組成の変化がなかった。これに対し、ヤマト×カンモン、
ヤマト×アマミの雑種コロニーでは、創設後、ヤマトの野外コロニ
ーの組成に次第に収束していった。アマミの同種コロニーでは、創
設後 80 日の時点で本来持っていた原生生物 1 種が失われており、そ
の後その組成から変化しなかった。カンモン×アマミの雑種コロニ
ーでは、初めコロニー間で組成のばらつきがとくに大きかったが、
230 日後にはアマミの同種コロニーもしくはカンモンの野外コロニ
ーの組成に近づいた。さらに創設 700 日後の種組成と群集構造のデ
ータをあわせ、大規模な群集の混合を経た後の共生微生物群集の挙
動と組成の決定要因について議論する。
クモ類は植物体上で優占する捕食者である一方で、植物体外から
相当量のエサの供給を受けている。先行研究から、低木層上のクモが、
双翅目などの土壌から羽化した昆虫を捕食しており、このようなエ
サが腐食連鎖由来の資源供給となっていることが示されている。水
生昆虫の増大に対して水平円網を作るクモが特に増加する例のよう
に、特定のエサ資源の増大はそれを好む捕食者の増大を引き起こす
ことが予測されるが、低木層のクモ群集組成に腐食連鎖由来の資源
流入の増大が影響を及ぼす事は立証されていない。本研究では、伐
採後の植生遷移過程において生じる生食・腐食連鎖由来のエサ資源
可給性の変化とクモの機能群・種組成変化が、クモによるエサ資源
利用にどのように影響するのかを検討する。
クモのエサ組成を解析するために、伐採後の林齢の異なる 5 調査
地でそれぞれクモ、双翅目、樹上トビムシ、植食昆虫の炭素窒素安
定同位体比を分析した。調査地ごとのソースミキシングによって求
めたエサ寄与率を、その場のエサ可給性、クモの機能群、クモの種
毎の優占時期によって説明するモデルから、植生遷移過程でのエサ
供給量の変化・クモ群集変化の両要因の影響を解析した。その結果、
植生遷移に伴って双翅目の可給性が増大し、これに対応して双翅目
寄与率の増大と植食昆虫寄与率の減少が起きていた。機能群・種ご
との優占時期によって各エサの寄与率は異なり、特に遷移後期種は
初期種に比べて双翅目寄与率が高く、植食昆虫寄与率が低いことが
分かった。つまり遷移後期には、遷移後期に増大するエサ資源 ( 双
翅目 ) を多く利用する種が優占していた。これは、植生遷移過程に
おけるクモの種組成変化が、双翅目供給の増大というエサ環境の変
動に対する応答として生じていることを示している。
C1-07
C1-08
君と出会う日のために:テントウムシにおける生態的形
訪花性昆虫群集をオスとメスにわける
質置換
岸茂樹(東大院・農)
* 鈴木紀之(東北大・生命科学),大澤直哉(京大森林生態)
オスとメスは性役割が異なるため、同種内でも資源利用様式が大
きく異なっていることが多い。このような事例はこれまでに多く報
告されてきたけれども、性に応じた資源利用様式の違いが生物群集
全体にどのような影響をもたらすのかわかっていることは少ない。
そこで本研究では、オスとメスという性の違いが生物群集ネットワ
ークの構造や安定性にどのような影響を与えているか調べた。
2012 年の 5 月から 10 月に、東京大学弥生構内において訪花昆虫
と開花植物を調査した。訪花昆虫を見つけ取りによって採集し、そ
の個体が訪花していた開花植物を記録した。採集した昆虫の種と性
を分類することにより、オスとメスそれぞれの訪花昆虫群集を得た。
そして訪花昆虫群集と開花植物のネットワーク構造を訪花昆虫のオ
スとメスそれぞれについて解析し、ネットワークの特性を比較した。
その結果、訪花昆虫のオスのネットワークとメスのネットワークは
大きく異なっていた。たとえば入れ子構造はオスよりもメスのネッ
トワークに強く見られた。発表ではその他に見つかったいくつかの
ネットワークの特性の違いについて指摘する。最後にオスとメスが
生物群集ネットワークに果たす役割について考察する。
負の種間相互作用は形質置換をもたらしうるが、その反面、一方
の種の絶滅(競争排除)を引き起こすこともある。どのような条件
が形質置換の実現には必要なのだろうか? 本研究では捕食性テン
トウムシを対象とし、「種間相互作用が生じる前に、資源利用形質が
ある程度特殊化していた可能性」に着目した。
ナミテントウとクリサキテントウは本州では同所的に分布してお
り、前者はジェネラリストで後者はスペシャリストである。クリサ
キは飼育下ではさまざまなエサを食べられるものの、野外ではマツ
類につく捕まえにくいアブラムシに特殊化している。先行研究によ
って、繁殖期にナミから受ける負の効果(繁殖干渉)がクリサキの
特殊化を促進したことが示唆されている。
そこで本研究では、ナミのいない南西諸島においてクリサキの食
性幅と資源利用形質を調べた。その結果、南西諸島個体群ではマツ
類だけでなくさまざまな生息環境を利用していることが明らかにな
った。ただし、南西諸島個体群の資源利用形質は本州のクリサキと
ナミの中間的な値を示した。
亜熱帯ではアブラムシ全般の密度が低いため、クリサキは比較的
安定的な資源であるマツ類のアブラムシにある程度依存しているの
かもしれない。そのため、ナミとの種間相互作用が生じる前に、マ
ツ類のアブラムシに資源利用形質を適応させていた可能性がある。
これは「2 種の形質があらかじめ異なっている場合に形質置換が促
進される」という理論の予測を定性的に支持するものである。
75
口頭発表 3 月 7 日(木) C 会場 16:30-17:30
C1-09
C1-10
マレーシア山地林における林道建設がフン虫の群集構造
エッジ効果は季節によって異なるか?ゴミムシによる検証
に与える影響
* 大脇淳,金子洋平(新潟大・朱鷺セ),池田紘士(森林総研)
* 新納雅裕(広島大・総合科学),保坂哲朗(首都大・都市環境),奥田敏統,
山田俊弘(広島大・総合科学),Nur Zati Akma biriti Mustafa(FRIM)
二次林と耕作地が入り組む里山では、林縁が豊富に存在するた
め、里山の生物群集を理解するためには、林縁に対する生物の反応
を理解する必要がある。温度、日当たり、湿度などの環境条件は、
気温の高い真夏ほど林内と開けた場所で差があると考えられ、これ
と関連して以下の 2 つの仮説をたてた:(1)森林性の種は、暑い夏
は林外に出ないが、涼しい春や秋には林外で活動する個体が増える、
(2)草地性の種は、夏になると暑さを避けて林内に入る個体が増え
る。以上の仮説を検証するために、林縁から草地と林内にそれぞれ
22.5m までひいたトランセクトを設置し、6 月上旬、8 月下旬、10 月
下旬の 3 シーズン、ピットフォールトラップによってゴミムシ類を
調査した。
合計 34 種 448 個体のゴミムシが採集された。ゴミムシの種構成は
6 月上旬と 8 月下旬は似ていたが、10 月下旬は他のシーズンと大き
く異なっていた。種数、個体数は、6 月上旬と 8 月下旬には草地の
林縁から約 5 m地点に明瞭なピークを形成したが、10 月下旬には林
縁部にピークを形成した。予想に反して、森林性の種は、最も暑い
8 月下旬には草地側でも捕獲されたが、6 月上旬と 10 月下旬には林
縁を境に草地側ではほとんど捕獲されなかった。草地性の種は、ど
のシーズンでも草地の林縁に近い場所にピークを形成したが、8 月
下旬は林内でほとんど捕獲されなかった。2 シーズンである程度の
個体数が捕獲された 3 種について種レベルで見ると、2 種は出現パ
ターンがシーズンによって異なっていた。以上の結果より、当初の
仮説は棄却され、捕獲パターンはむしろ予想と逆であった。これら
の結果は、ゴミムシ類は夏の高温を避けて生息環境を変えることは
なく、彼らの行動は餌量や越冬場所など他の要因に左右されている
ことを示唆している。
熱帯林での伐採は択伐が主流である。択伐時に造られる林道は生
物多様性へ影響を及ぼすと言われているが、この影響を研究した例
は少ない。フン虫は哺乳類の糞をエサや育児の場として利用する。
フン虫が糞を土壌に埋設する行為は、糞の中に含まれている種子を
散布したり、土壌状態を改善することが知られている。またフン虫
は森林の変化に非常に敏感なため、指標生物としての役割も担って
いる。そこで、本研究は択伐林内の林道や集材所がフン虫の群集構
造にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。
調査はマレーシア、ペラ州テメンゴール森林保護区で行った。保
護区内の集材所、基幹道、搬出道、および森林内(集材所または基
幹道から 10 m 森林に入った場所、搬出道から 10 m 森林に入った場所、
集材所または基幹道から 30 m 森林に入った場所、搬出道から 30 m
森林に入った場所、集材所、基幹道、搬出道のいずれかの場所から
60 m 森林に入った場所)に、計 95 個のピットホールトラップを設
置し、フン虫の種構成と個体数密度の調査を行った。
今回の調査で 2 科 11 属 39 種 1286 頭のフン虫が採取できた。フン
虫の個体数、種数ともに基幹道や集材所、搬出道に比べ、森林内で
有意に大きかった。しかし、森林内でも集材所または基幹道から 10
m しか離れていないトラップでは基幹道や集材所、搬出道と有意な
差はなかった。
集材所または基幹道はその周辺の森林のフン虫の個体数、種数に
影響を及ぼすことがわかった。調査地内の集材所と基幹道の占める
面積は 3% であるが、影響のあった搬出道と基幹道から両脇 10 m を
入れると、14% になる。生物多様性保全のためには、伐採強度だけ
ではなく、林道密度についても考慮する必要がある。
C1-11
C1-12
森林環境が大型ハナムグリ類の生息に与える影響
鳥取砂丘における哺乳類の空間利用―痕跡調査とカメラ
大澤正嗣(山梨森研)
トラップ法を用いて―
アオカナブンは高標高地に多く、カナブンは低標高地に多いこと
はよく知られている。今回、様々な標高で、甲虫を捕獲する機会が
あったので、それらを用い大型ハナムグリ類の棲み分けに関連する
要因(標高や森林環境に関する要因)について解析した。
ナラ枯れを引き起こすカシノナガキクイムシを捕獲するトラップ
を県内 3 1林分に設置した。トラップは、衝突版式バケツトラップ
に誘引剤としてケルキボルア剤およびエタノールを付けたものを使
用した。6 月から 8 月の 2 ヶ月間、コナラ林内にセットし、甲虫を
捕獲した。その中から、5 種の大型ハナムグリ:シロテンハナムグリ、
ムラサキツヤハナムグリ、カナブン、アオカナブン、クロカナブン
を選別し、頭数をカウントした。森林環境として、標高とコナラ等
に関する要因(コナラ林面積、コナラ密度、コナラ直径、腐朽材量)
を調査した。
その結果、カナブンは低標高地に生息していたのに対し、アオカ
ナブンは高標高地まで生息していた。シロテンハナムグリは低標高
地に、ムラサキツヤハナムグリは高標高地まで生息していた。別の
調査での捕獲状況から、特にムラサキツヤハナムグリは高所まで生
息することが確認された。コナラ等に関する要因もこれら 5 種の大
型ハナムグリの個体数に影響を与え、棲み分けに関与していると思
われた。
* 呉妍菲,小山里奈(京大・院・情報)
日本最大級の砂丘である鳥取砂丘では、1950 年代から行われた防
風林の植林の影響を受けて、外部から植物が侵入し、砂丘の草原化・
森林化が進んでいる。さらに近年ではキツネ、イノシシをはじめと
する哺乳類の痕跡が多く見られ、シカやタヌキなどの動物の目撃情
報も得られている。一方、今まで鳥取砂丘に生息している哺乳類全
般を対象とした研究はほとんどない。哺乳類による砂丘の空間的・
時間的利用を明らかにするために、本研究では、人工除草が行われ
ていない鳥取砂丘西部において調査を行った。
2012 年 4 月から、月に一回痕跡調査を行った。調査地全体をほぼ
均等に観察できるよう総延長約 6.1km のルートを設定し、ルート上
で見られた哺乳類の痕跡の画像と位置情報を記録した。また、哺乳
類の活動する時間帯と行動を明らかにするために、2012 年 8 月下旬
から調査地内に 11 台の赤外線センサーカメラを設置し、センサー検
出範囲内に出現した哺乳類のビデオを撮影した。その結果、痕跡調
査では、イノシシとキツネの足跡と糞が多く見られたが、季節によ
って痕跡の数は大きく異なった。痕跡の分布は全体としては汀線と
防砂林の間の調査地中部に集中していた。センサーカメラによりキ
ツネ、イノシシ、アナグマ、シカ、ネコなどが撮影された。カメラ
の設置場所や季節にかかわらず、キツネが最も多く撮影された。シ
カ、アナグマの映像はそれぞれ 9 月、10 月以降に得られ、時期およ
びカメラ設置場所によって撮影される種構成が異なる傾向が見られ
た。また、昼間に比べると、夕方から夜明けまでの時間帯に撮影さ
れた哺乳類が明らかに多かった。結果から、哺乳類は砂丘の空間を
選択的に利用していると考えられる。また、哺乳類の活動には時間
的なパターンがあり、季節的にも変化していたと言える。
76
口頭発表 3 月 7 日(木) D 会場 14:30-15:30
D1-01
環境 DNA 技術を用いた外来種モニタリング手法の開発
D1-02
* 高原輝彦,土居秀幸(広島大・サステナセンター),源利文(神戸大院・
−面積関係に着目して
外来種ブラウントラウトが魚類群集に与える影響:種数
発達)
* 長谷川功(北海道区水産研究所),森照貴(自然共生研究センター),山
﨑千登勢(北海道大学環境科学院)
我々はこれまでに、自然環境中に生息する魚類の在 / 不在および
生物量を、採捕や目視などを必要とせず、わずか数リットルの水を
調べるだけで評価できる手法の開発に成功した。この手法は、湖沼
や河川で採取した水に浮遊・存在している魚のフンやはがれ落ちた
うろこなどから溶け出た DNA 断片(環境 DNA)を定量 PCR 法など
により測定することで魚類の生息状況を推定できる。そこで、この
環境 DNA 法がため池に生息する外来種にも適用可能かどうかを検
討するため、2011 年 10 月から 12 月に広島県の内陸部および瀬戸内
島嶼に点在するため池 70 面におけるブルーギルの侵入状況につい
て調べた。各池のブルーギルの在 / 不在は、表層から採取したサン
プル水 1 リットルに、ブルーギルに特異的な DNA 断片(ミトコン
ドリアのシトクロム b 遺伝子の一部)が溶存していたかどうかで判
定した。その結果、70 のため池のうち 19 面でブルーギルの DNA が
検出され、そのうち目視観察によってブルーギルの生息が確認でき
た 9 面の池すべてで DNA が検出された。また、DNA が検出された
池 19 面のうち、島のため池は 4 面のみであった。これは、島 - 大陸
モデルから予測されるように、島のため池では内陸よりもブルーギ
ルの侵入が少ないことを示唆している。以上のことから、環境 DNA
法を用いることで、わずか 1 リットルの水に含まれる DNA 断片から、
ため池におけるブルーギルの侵入状況を簡便かつ迅速に推定可能で
あることが明らかになった。
外来種が引き起こす諸問題の中で、生物多様性の喪失は喫緊の課
題の一つである。生物多様性の最も基本的な指標である種数は、(調
査区域の)面積の拡大に伴って増加することが知られており(種数
―面積関係)、魚類群集においても広く観察されるパターンである。
しかし、面積の増加に伴う種数の増分に対して、外来種が及ぼす影
響に関する知見はこれまで示されてこなかった。そこで、本研究で
は、2009 年夏に北海道千歳市を流れるママチ川に設けた 48 調査区(長
さ 18 ∼ 179m;平均幅 1 ∼ 7m)で実施した魚類相調査のデータセッ
トを用いて、外来サケ科魚類ブラウントラウト(Salmo trutta )が「い
る」調査区(35 調査区)と「いない」調査区(13 調査区)で、種数
−面積の関係を比較した(ただし、ブラウントラウトは稚魚と成魚
で別カテゴリーとした)。その結果、ブラウントラウトの存否に関係
なく調査区内のカテゴリー数は面積が大きくなるにつれて増加した。
ただし、ブラウントラウトが「いる」調査区のカテゴリー増加率は
「いない」調査区よりも小さかった。つまり、外来種であるブラウン
トラウトがカテゴリー数の増分を抑制することが示唆され、生物多
様性の喪失はより大きな空間スケールで顕在化する可能性が考えら
れた。
D1-03
D1-04
オオクチバスの産卵行動を誘導する人工産卵装置の開発
沖縄島における淡水性カメ類の分布
中井克樹(琵琶湖博)
嶋津信彦
オオクチバス Micropterus salmoides は、全国各地に拡がり、多くの
水域で激増し、生物多様性や漁業に甚大な被害を与えている侵略性
の高い外来種であり、外来生物法の定める特定外来生物に指定され
ている。人工産卵装置とは、本種が仔(卵・仔魚・稚魚)を保護す
る繁殖習性を利用して繁殖個体を誘引し産卵を誘導、卵塊や仔魚を
回収するための装置である。
この装置の原型は、宮城県伊豆沼で開発され画期的成果を収めた。
その仕様は、籠状のプラスチックトレイを2枚合わせ一辺 50cm 程
度の正方形にしたものを本体とし、その底面に砂利を敷き、水底に
設置する「直置き式」であった。しかし、この装置を導入した他の
水域でバスの産卵が誘導されない事例が相次いだ。そこで演者らは、
他の水域からの知見を総合し、新たな仕様として「吊り下げ式」装
置を試行したところ、直置き式装置の有効性が確認できなかった水
域においてバスの産卵の誘導が見られたため、以後、吊り下げ式装
置の改良を継続している。
初期の吊り下げ式装置には、透明度の低い水域や水位変動の大き
な水域における設置が困難であるという弱点があった。これを克服
するため、透明度が低く水位変動の大きいダム貯水池において、網
場(あば=流木防止フェンス)や取水ポンプ筏など、岸から「沖出し」
され水位変動を受けない施設に装置の係留する試験と、岸から沖方
向へ網場状に伸ばした網フェンスの先端に装置を係留する試験とを
行った。その結果、どちらの試験でも岸から 10 m以上離れた位置に
係留した装置にオオクチバスの産卵が誘導された。
このことは、通常は湖岸沿いに産卵適地を探索すると推測される
オオクチバスが、沖出し施設に出会った場合、オス、メスともに沖
側へと遊泳し、係留された装置を見つけるとそこに産卵を行うこと
を示唆している。このように吊り下げ式装置は、水域の特性に応じ
て沖出し施設に係留することが有効であると考えられる。
現在、沖縄島に分布する淡水性カメ類は、在来のリュウキュウヤ
マガメ(以下、ヤマガメ)、以下外来のセマルハコガメ、ミナミイシ
ガメ、クサガメ(以下、外来イシガメ科 3 種)、アカミミガメ、およ
びニホンスッポンの計 6 種である。また、ヤマガメと外来イシガメ
科 3 種との交雑個体もそれぞれ見つかっている。本研究では、文献・
現地調査により同島におけるこれらの分布を明らかにし、外来イシ
ガメ科 3 種の分布がヤマガメ生息地に拡大する可能性を考察する。
文献調査では、地域誌など 83 報のほか新聞記事から淡水性カメ類
の分布記録を抽出した。現地調査では、2010、2011 年に延べ 326 水
系において目視で分布を確認した。
ヤマガメは、名護市や本部半島などの北部、特に大宜味村塩谷と
東村平良を結ぶ県道以北の国頭地域に分布が集中していた。また、
県人口の約 8 割が住む中南部では北部から違法に持ち込まれたとさ
れる個体の記録も多く確認された。外来カメ類および交雑個体は、
いずれも中南部に分布が集中していた。多くの交雑は、北部から中
南部に持ち込まれたヤマガメと外来イシガメ科の間で生じていると
考えられる。外来イシガメ科 3 種は、名護市や本部半島でも見つか
っているが、国頭地域では確認されていない。しかし、ミナミイシ
ガメは、ヤマガメとの交雑個体が国頭地域で見つかっており、同地
域にすでに分布している可能性がある。アカミミガメは、外来イシ
ガメ科 3 種より広域で確認されたが、国頭地域では極めて限定的な
分布であった。一方、ニホンスッポンは、食用・養殖目的で北部に
持ち込まれており、国頭地域でも比較的広く分布していた。外来イ
シガメ科 3 種は、現在ペット利用が主であるが、例えば漢方用の需
要が増加し、島内で養殖されるようになれば、ニホンスッポンと同
様にヤマガメの主な生息地である国頭地域にも持ち込まれ分布を拡
大する可能性がある。
77
口頭発表 3 月 7 日(木) D 会場 15:30-16:30
D1-05
D1-06
グリーンアノールの総合防除に向けて−薬剤を用いた捕
都 会 の ヒ キ ガ エ ル に 何 が 起 き た か -Population
殺及び忌避の試み−
Admixture in Urban Toads-
* 戸田光彦・高橋洋生・秋田耕祐・中川直美・鋤柄直純(自然研)
* 長谷和子(東大院・広域システム),二河成男(放大・教養),嶋田正和
(東大院・広域システム)
小笠原諸島におけるグリーンアノールの防除では、多数の粘着ト
ラップを樹幹に設置することにより地域的な密度低減化が達成され
たものの、防除対象地域からの完全排除には至っていない。本研究
では、対象空間からアノールを完全に排除する技術の確立を目指し、
薬剤および熱を用いた燻蒸の有効性を検討した。
まず、市販の殺虫剤 4 種をアノールの背面に塗布して効果を比較
する実験を行ない、フェンプロパトリンが有効であることを確認し
た。また、高温耐性評価実験により、本種は 50℃以上の空気に 10
分間以上曝されると致死することを確認した。これらの結果を踏ま
えて実施した燻蒸実験では、野外に設置した温室(H195 × W143 ×
D73 cm)に薬剤を 1-20 μ m の微粒子にして充満させ、内部のアノ
ールの致死率を調べた。フェンプロパトリン剤を 90 秒間噴霧した条
件では、対照として水を用いた条件と比べて有意にアノールの致死
率は高かった。この際、個体の移動を制限した場合の致死率は高か
ったものの、移動を制限しなかった場合の致死率は 4 割程度にとど
まった。ただし、本種の活動が停止する夜間に薬剤を噴霧すること
で致死効果が上昇する傾向があった。温室内の気温は夏期の日中に
は 55℃を超え、薬剤を使わなくても、温室内上部に固定したアノー
ルが高い割合で致死することが確認された。また、薬剤による特定
場所からの排除効果を確かめるため、フェンプロパトリン剤・市販
のヘビ用忌避剤・植物性の芳香剤(ハッカ油)を飼育個体に提示す
る試験を行ったが、明瞭な忌避効果は確認されなかった。
今後、アノールの侵入・定着の段階や地域の特定及び防除目的に
応じて、薬剤やトラップ、遮断フェンス等の異なる技術を適切に組
み合わせた「総合防除の立案」が重要であると考えられた。
東京都内には自然分布であるアズマヒキガエル(Bufo japonicus
formosus )と 100 年以上前に人為的に移入されたと思われるニホン
ヒキガエル(B. japonicus japonicus )の2系統の日本産ヒキガエル
が混在している。このような進化的起源を共有する2つ以上の系
統が 2 次的に接触する事により形成された混成個体群(population
admixture)では、系統間での交雑を介して個体群内での遺伝的多様
性が増強され、局所適応を促進するなど短期間での新規形質の獲得
を可能にする事が知られている。
本発表では、人為的 2 次接触により都内のヒキガエル混成個体群
にどのような変化がもたらされたのか、mtDNA とマイクロサテライ
トを用いた遺伝子頻度の解析(交雑による遺伝的撹乱)と幼生の生
存率を比較した実験結果とを用いて、都内の混成個体群では幼生の
生存率が高い移入系統の遺伝子型へ置き換わりが進んでいる現状を
報告する。また、繁殖行動についても、特に都内の小さな池に高密
度で繁殖を行う混成個体群において抱接雄以外からの受精(extra-pair
fertilization)が頻繁に起こっていることも報告する。
現在地球上で人為的影響に晒されていない原初の地域は殆ど残っ
ておらず、都市における人間の活動が及ぼす環境への影響は、既に
地球レベルの問題となっている。世界人口の半数以上が集中すると
される都市における進化生態学は、人間と野生種との共存可能性を
探る事に繋がり、今後重要さは増していくと考えられる。発表では、
研究報告と合わせて都市生態学の今後の展望についても語りたい。
D1-07
D1-08
霞 ヶ 浦 に お け る カ ワ ヒ バ リ ガ イ の 分 布 拡 大 の 現 状:
外来昆虫ブタクサハムシの移入地環境への適応:全国各
2006-2012 年の比較
地における光周性の地理的変異
* 伊藤健二(農業環境技術研究所),瀧本岳(東邦大・理学部)
* 田中幸一(農環研),村田浩平,松浦朝奈(東海大・農)
特定外来生物カワヒバリガイは 1990 年代初頭に揖斐川を含む木
曽川水系と琵琶湖・淀川水系に侵入・定着が報告され、関東地方で
は 2005 年に群馬県の大塩湖と茨城県の霞ヶ浦で生息が報告されてい
る。その後も新たな地域での生息報告が相次いでいることから、現
在も本種の分布拡大が進行していることはほぼ間違いないと考えら
れる。しかし、本種が侵入した後の分布・密度の経年変動について
十分な情報がなく、現在も拡大が続いているのか、密度は増大傾向
にあるのかなどについては不明な点が多い。
カワヒバリガイの分布拡大の現状を明らかにすることを目的に、
関東最大の湖である霞ヶ浦の湖岸全域を対象に定量調査を行った。
また、霞ヶ浦における分布拡大速度の推定と将来予測を行うために、
2006 年に行った湖岸全域の調査結果 ( 伊藤 2007) との比較を行った。
調査は湖岸 1km ごとに一回、湖岸 5m の範囲を 1 人 10 分間の探索を
行い、そこで得られたカワヒバリガイの個体数を密度の指標とした。
調査の結果、2012 年には霞ヶ浦湖岸の約 8 割でカワヒバリガイの
生息が確認され、採集個体数は 2006 年に比べて平均で 3.8 倍に増加
していた。2006 年と 2012 年の分布を比較すると、2006 年の生息地
から約 11km 離れると定着確率が半減することが示された。この推
定値を元に 2012 年から 6 年後の分布を推定すると、2018 年には霞
ヶ浦の湖岸全域にカワヒバリガイが定着することが予測された。
外来生物が移入地に定着し分布を拡大するためには、移入地の環
境に適応しなければならない。移入地の環境は原産地とは異なるた
め、適応の過程で特性が変化することがある。北米原産の外来昆虫
であるブタクサハムシは、1996 年に千葉県で発見されたが、その後
急速に分布を拡大し、現在までに沖縄県を除く全都道府県で発見さ
れた。このように急速に分布を拡大したため、本虫の移入時の生活
史特性は、各地域の気候や寄主植物のフェノロジーに適していると
はかぎらず、移入後に生活史特性が変化する可能性がある。
ブタクサハムシは、短日により成虫の生殖休眠が誘導される。演
者らはこれまでに、本虫における生殖休眠誘導に関する光周性が、
日本に移入後に変化した可能性の高いこと、全国数地点で採集した
系統について地理的変異があることを報告した。この傾向をさらに
確認するため、北海道から鹿児島県まで全国各地で採集した系統に
ついて、光周性を調査した。その結果、全国的な傾向としては、高
緯度地点で採集した系統ほど同一日長における休眠率(休眠個体の
割合)が高いことを確認した。しかし、個々の系統における結果を
詳しくみると、全国的傾向からはずれる場合があった。たとえば、
北海道(苫小牧)の系統は、東北北部(弘前市および盛岡市)の系
統より休眠率が低かった。この要因として、各地に移入してからの
経過年数や移入経路、寄主植物のフェノロジーの違いなどが考えら
れる。
78
口頭発表 3 月 7 日(木) D 会場 16:30-17:15
D1-09
D1-10
関東地方で拡散を始めた国内外来種リュウキュウベニイ
エゾタンポポの謎:なぜセイヨウタンポポに駆逐される
トトンボ
のか?
苅部治紀(神奈川県立博物館)
* 西田隆義(滋賀県立大),橋本佳祐,西田佐知子,金岡雅浩(名大),小
玉愛子(苫小牧市博),高倉耕一(大阪市立環境研)
リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion a. ryukyuanum は、東南ア
ジアに広く分布する種の中国南部から台湾、南西日本にかけて記録
される亜種である。国内での分布は鹿児島県以南の九州、琉球列島
とされていたが、近年北上傾向が顕著で、熊本県、宮崎県などに分
布を拡大している。
ところが、2006 年に本来の分布地から遠く離れた神奈川県横浜市
鶴見区の企業ビオトープで本種が確認された。同地の個体群は当初
「ベニイトトンボ C. nipponicum(環境省RL準絶滅危惧種)」として
記録されていたもので、筆者の調査によってその実体が明らかにな
った。
本種の長距離移動記録はないことから、人為的移入が生じたもの
と考え、ビオトープの造成経緯を調査した。その結果水草は静岡県
の圃場からの移植のみで、九州などの既知分布圏からの移植はなく
移入の経緯は不明である。一方 2005 年ころにやはり横浜市内で熱帯
魚店から購入したホテイアオイから本種が発生したという報告があ
り、2009 年に横浜市南部の個人宅で、ハス鉢からの大発生が確認さ
れた。これらは水草由来の移入と考えられる。
その後の調査で、横浜市旭区 (2011 年 )、同鶴見区 (2012 年 ) で本
種がそれぞれ1メス確認、新たに鎌倉市でも発生しているという情
報がある。さらに、2011 年に東京都新宿区での発生事例も報告され、
首都圏ではすでに本種は定着初期の段階を経て、拡散期に入ったも
のと考えられる。
なお、本種の自然北上域では、本種とベニイトトンボとの競合が
生じ、後者が絶滅する事例もあることから、2010 年から予防的な駆
除に着手し、2 年間で 1500 頭あまりを駆除したが、顕著な抑制には
至っていない。
本種は、今後さらに分布を拡大する可能性が高いので、とくに首
都圏において監視をするとともに、生態系被害が生じるのかどうか
を注視していく必要がある。
われわれはこれまで、外来タンポポからの花粉干渉を受けるか受
けないかが、在来タンポポの盛衰を決めることを実証してきた。こ
れまで扱ってきた在来タンポポは、いずれも有性生殖種であり、外
来タンポポから花粉干渉を受けることは理解できる。しかし、在来
のエゾタンポポは無性生殖であり、花粉媒介は本来必要ないはずで
ある。それにもかかわらず、エゾタンポポは在来タンポポの中でも
圧倒的に劣勢で、北海道では外来タンポポに駆逐されて、ほとんど
の地域で絶滅状態になっている。エゾタンポポが絶滅したと推定さ
れる地域では、エゾタンポポと外来タンポポの雑種が痕跡的に見つ
かる。これらの結果は、エゾタンポポが花粉干渉を受けほとんど絶
滅したが、雑種が一部残存したという仮説で説明できる。そこで、
この仮説について検証した。
苫小牧市近郊にわずかに残存するエゾタンポポ自生地において、
1)周囲の外来タンポポの割合が増えると、エゾタンポポの結実率
は低下するか、2)外来・在来タンポポの花粉を混ぜて人工授粉さ
せると、エゾタンポポの結実率は低下するか、3)エゾタンポポの
柱頭において外来タンポポの花粉管は胚まで伸長するか、について
調べた。その結果、いずれについても、外来タンポポの花粉干渉を
否定する結果となった。
この一見、予想外の結果については、以下のように考えることが
できる。エゾタンポポのほとんどは外来タンポポから花粉干渉を受
け、ほとんど絶滅してしまった。しかし、花粉干渉を受けないタイ
プも少数存在し、現在残っているのはほとんどがそのタイプである。
したがって、現時点で調査するとエゾタンポポは花粉干渉を受けな
いという結果になる。この推論は、花粉干渉においても“過去の亡霊”
が出現し、適切な除霊が必要なことを示唆している。
D1-11
環境の異なる路傍植生における群落構造と外来植物出現
の関係
* 紺野由佳,宇野由何子,塩見正衛,山村靖夫(茨城大・理)
外来植物の侵入は在来植物種の生存と植生の多様性にとっての大
きな脅威になっている。外来植物の多くは、撹乱依存性の陽地性植
物である。踏みつけや刈り取りなどの撹乱がある路傍の植生は、特
に外来植物の侵入を受けやすいと考えられる。本研究の目的は、路
傍植生において、光条件や水分条件などの環境要因が外来植物の侵
入の程度と群集構造に与える影響を明らかにすることである。調査
は茨城県常陸大宮市「緒川ふれあいの森」内の路傍植物群集で行っ
た。この調査地では、年に 1、2 回草刈りが行われている。調査区は
2010 年に明るい尾根・暗い谷、2011 年に暗い尾根・明るい谷の 4 ヶ
所に設置し、草刈り前と草刈り約 1 ヶ月後の 2 回調査した。各調査
区に道路に沿って長さ 20 m の線上に、20 cm × 20 cm のコドラート
100 個を連続して設置した。コドラートごとに植物を地際で刈り取
り、種ごとに分け乾燥重量を測定した。また各調査区において土壌
の含水率と無機態窒素を測定し、全天写真をとり開空率を求めた。
草刈り前と後の両方において、明るい調査区で外来種の種数の割
合が高かった。バイオマスでは、草刈り前は明るい谷区・暗い尾根
区で外来種の割合が高く、草刈り後は明るい谷区で高かった。外来
種は明るい環境に侵入しやすく、水分条件が良い場所では、撹乱後
の再生が速いと考えられる。それぞれの種の「有」・「無」データに
より、Sǿrensen の類似商を用いて、各調査区間の類似度を、BrayCurtis の類似度指数を用いて、群集内・間の種の出現パターンの類
似度を調べた。草刈り前では、外来種は群落構造に大きな効果を表
さなかったが、草刈り後では、効果があったと考えられる。
79
口頭発表 3 月 7 日(木) E 会場 14:30-15:30
E1-01
E1-02
植物の匂いを介した血縁認識
異なる標高における植物の温度感受性評価
* 塩尻かおり(京大・白眉),Richard Karban(UC Davis,Entomology),
唐 艶鴻(国環研)*,李瑞成(中国科学院・大学院),広田 充(筑波大学),
羅 天祥(中国科学院・チベット研究所)
植物は傷ついた別個体の植物から放出される匂いを受容すること
で、植食者に対する抵抗性をもつことが知られている。これは植物
間コミュニケーションと呼ばれ、これまでに10種以上の植物で確
認されている。
縁者らは、野生のセージブラシ (Artemisia tridentate ) を用いて、植
物間コミュニケーションの研究を行ってきており、放出される匂い
は個体によって著しく異なっていること、そして、この匂い類似度
と血縁度の間に正の相関関係があることを報告してきた (2009. 同
学会盛岡大会 )。さらに、同一遺伝子個体(クローン)の匂いを受
容した場合、別遺伝子個体の匂いを受容したときよりも、抵抗性が
高く植食者の被害を受けにくくなることも明らかにした(Ecology
Letters.2009)
。これらの結果は、セージブラシが自己の匂いを認識し、
誘導反応を引き起こしていることを示唆している。
そこで、血縁度と匂い類似度の相関から、セージブラシが匂いで
血縁認識をおこなえるという仮説のもと、2年間にわたって以下の
2つの野外実験をおこなった。1)ある個体株の別の枝に血縁の遠
いクローン株と血縁の近いクローン株の匂いを24時間受容させ、
3・4ヵ月後のその枝の葉の被害率を調べる。2)血縁度のわかる
2個体間で一方の個体から匂いをとり、それをもう一方の個体にそ
の匂いを24時間受容させ、3・4ヵ月後の受容個体の被害率を調
べる。この結果、血縁度の高い組み合わせで、被害率が低くなった。
さらに、我々はセイタカアワダチソウ(Solidago altissima )においても、
全く同様の結果を得た。
これは、植物間コミュニケーションの適応的意義を解明する一つ
の重要な手がかりであるだけでなく、植物が血縁を匂いで認識する
という植物の新たな能力を明らかにした研究である。
温帯地域植物の展葉時期(葉展開のタイミング)は、春先の気温
変化によって変化する場合が多い。同じ程度の温度変化に対しても
展葉時期の早まりまたは遅延の時間は植物の種類や生育環境の気象
条件によって異なり、すなわち、展葉時期の温度感受性が異なる。
標高の高い場所に生育する植物は、標高の低い場所の植物に比べ、
生育期間が短い。従って生育期間中さまざまな資源を効率的に利用
するため、高標高植物の展葉時期の温度感受性は高く、少ない温度
の変化に対しても展葉時期の素早く変化が可能であれば有利と考え
られる。一方、高標高のところでは、気温環境の変化が常に大きい
ために、無駄な応答を避け、展葉時期の温度感受性が低い可能性も
考えられる。しかし、実際の展葉期と標高の関係はどのようになっ
ているかについては、まだ明確にされていない。また、標高分布の
広い植物種は、適応している温度環境が広いために、限られた標高に
分布する種と比べ、展葉時期の温度感受性が低いことも予想される。
本研究では、以上のような仮説を検証する。我々は、2006 年から
2012 年までの間、チベット高原の当雄で標高 4300m から 5200m に
分布する 40 種の草本植物の展葉時期について連続観測を行った。そ
の結果、同じ斜面に生育する植物の展葉時期の温度感受性は種によ
って大きく異なり、高い標高に生育する種は展葉時期の温度感受性
が高い傾向がみられた。一方、標高分布範囲の広い種は気温の年変
動に対する温度感受性が低下する傾向も示された。
このような結果に基づき、温暖化に伴う異なる標高の植物展葉期
の変化が高山植物群落の種多様性の変化や植生の標高方向への移動
にどのような影響を及ぼすかついて議論を展開する。
E1-03
E1-04
河川沿いに生育するパイオニア性樹木オオバアサガラ:
北海道におけるエゾマツの種子発芽タイミングの地理的
地表の撹乱頻度に対応した生育型の変化
変異
* 新井千乃,定平麻里,近藤博史,酒井暁子(横浜国大・院・環境情報)
生方正俊(森林総研・林育セ),田村明・阿部正信・上田雄介・山田浩雄(森
林総研・林育セ北海道)
石崎智美(新潟・理)
オオバアサガラは山地の渓流沿いや林縁に分布する先駆種である。
シカ不嗜好性植物であることから、これまで樹型を含めた種特性に
ついて研究されており、単幹のまま生育する場合と萌芽幹を生産し
て複幹となる場合が知られている。本研究ではオオバアサガラの個
体群維持戦略を明らかにするために、そうした形態的可塑性に注目
した。
丹沢山地西部の砂防堰堤周辺に自然分布する集団を対象に調査を
行った。その結果、1) 単幹型は、オオバアサガラ以外の種も多く分
布する河床からの比高が最も高い安定した立地に多く出現した。こ
の樹形の個体は、セーフサイズに達する樹齢 5 年程度までは複幹型
に比べて成長が遅いが、それ以降は速く、10 年・10m 程度までは相
対的に樹高が増す傾向にあり、その後は直径成長は続けるものの樹
高は頭打ちとなって多くの個体が繁殖を行っていた。2) 複幹型は、
どの微地形タイプにも分布するが、他種の出現頻度が低い河床部に
近い立地において優占度がより高い傾向にあった。この樹形の個体
は、樹齢 5 年程度までの成長は速いが、その後の成長速度は上がら
ない。標準繁殖開始樹高は約 3.5m と低く、しかし繁殖に至る個体の
割合は低い。
以上の結果からオオバアサガラは、安定した立地では、樹高成長
に優先的に資源投資を行って、他個体よりも有利な光条件を得てか
ら繁殖を始めると考えられた。一方、撹乱頻度の高い河床部に近い
立地では、損傷修復の必要性および他個体との競争圧が低いため、
上伸成長よりも萌芽幹形成を優先させると考えられた。このように
オオバアサガラは、定着した場所の撹乱頻度に対応して表現型を適
応的に変化させる戦略によって個体群を維持していることが示唆さ
れた。
マツ科トウヒ属のエゾマツ(Picea jezoensis )は、北海道、サハリ
ン、千島列島に広く天然分布し、北海道では針広混交林を構成する
主要な針葉樹である。近年になり、天然林のエゾマツ資源の劣化が
指摘され、資源回復に向けた様々な取り組みが行われるようになっ
てきており、発表者らは、地理的変異の研究や人工造林に関係する
各種技術開発に取り組んでいる。エゾマツ天然林の保存方策や人工
造林の種苗の配布区域を策定する際には、地理的な遺伝変異に関す
る情報が必要である。エゾマツの地理的変異を解明する研究の一環
として、北海道内の天然分布域全域から 15 集団を選定し、集団ごと
にそれぞれ 10 個体から球果を採取した。昨年の球果および種子の形
態の解析では、明瞭な集団間差は見られず、集団内変異が大きいこ
とを報告した。今回は、採取した種子の発芽過程を調査した。アル
コール選別、流水処理後の種子の発芽率は全体の平均が 52% だった。
集団別発芽率は、最高 72% から最低 34% まで差があり、集団間に
有意な差が検出された。発芽試験開始 4 日目までに全発芽種子のう
ち 77% が発芽し、この期間の発芽数の少ない集団は、最終的な発芽
率も低い傾向が見られた。
80
口頭発表 3 月 7 日(木) E 会場 15:30-16:00
E1-05
E1-06
四国中標高域の天然林における埋土種子組成と垂直分布
外来植物ミチタネツケバナにおける複数回移入の影響:
* 酒井敦(森林総研・四国),下村明子(高知大・理),三宅尚(高知大・理)
過去から現在までの集団遺伝構造の変化から解く
埋土種子集団は森林の撹乱後の植生回復に貢献している。本研究
では四国暖温帯上部の天然林における立地別、土壌深度別の埋土種
子組成を調べるとともに、埋土種子の調査方法による組成の違いや
得失を明らかにした。
調査は四国森林管理局管内の市ノ又渓谷風景林で行った。主な
構成種は尾根にヒノキ、ツガ等、斜面にモミ、アカガシ等である。
2012 年 4 月に尾根、斜面中部、斜面下部の 3 カ所からそれぞれ 5 カ所、
計 15 カ所を選び、1カ所から層別(0-5cm、5-10cm、10-15cm)に 3
点、計 45 点の土壌サンプルを採集した。サンプルサイズは 20cm ×
20cm × 5cm(2L)である。採集した土壌サンプルはプランターに
入れて温室に置き、発芽試験法により埋土種子数を推定した。また、
別途に上記 15 地点で 0-5cm 層を採集した。径 2mm 以上の種子を目
視で選別し(直接検鏡法)、2mm 未満の種子は土壌を 50% 炭酸カリ
ウム溶液に浸した後遠心分離器にかけ、上澄みから実体顕微鏡を使
い選別した(比重選別法)。
発芽試験法により推定された埋土種子数は尾根で 21 種 2290 個 /㎡、
斜面中部で 24 種 1205 個 /㎡、斜面下部で 28 種 1715 個 /㎡だった。
種数は斜面下部が有意に多く、埋土種子数は尾根が有意に多かった。
種子数はヒサカキが最も多く、カギカズラ、イイギリ、オンツツジ、
サルナシと続いた。土壌が深くなるに従って種数、種子数が減少す
る傾向が見られ、尾根の種子数では有意差が見られた。直接検鏡法
+比重選別法では、カギカズラなど微細な種子が検出できなかった
が、モミやアカシデなど発芽試験法では出てこなかった樹種が検出
された。検出にかかった労力を計算したところ、直接検鏡法+比重
選別法は1L 当たり 10 人・時以上かかったが、発芽試験法では 2 人・
時以下だった。発芽試験法は労力が比較的かからない上に微細種子
の検出力が高いと言える。
* 松橋彩衣子(東北大・生命),工藤洋(京大・生態研),牧雅之(東北大・
生命),Angela Hay, Miltos Tsiantis(Oxford University),酒井聡樹(東
北大・生命)
外来植物の新環境における分布拡大過程を明らかにすることは、
植物の分布決定への理解につながる。外来種が侵入に成功する要因
の一つに、複数回移入の影響が挙げられる。異なる侵入系統同士の
交配により遺伝的多様性を高まり、新環境への適応に貢献すると言
われている。それでは自殖性植物において、複数回移入はどのよう
な影響をもたらすのだろうか。本研究は、近年日本に侵入し急速に
分布を拡大した自殖性越年生草本ミチタネツケバナ ( アブラナ科 ) に
着目し、複数回移入の影響の解明を目的とした。
日本中の集団を対象に、(i) いくつの侵入系統がどのように分布を
しているか、過去から現在で分布はどう変化したか、(ii) 各系統はど
のような性質を持っているかを検証した。(i) を明らかにするために
87 地点 563 個体と貯蔵標本 44 個体を SSR マーカー 9 座を用いて集
団構造を推定した。また、(ii) を明らかにするために 58 地点の 94 個
体から種子を採集し同一環境下で栽培し形質を測定した。
現在日本では、東北、関東、北陸・関西に異なる3つの侵入系統 (
北、東、西系統 ) が分布を広げていた。過去の分布との比較の結果、
関東ではあとから入った東系統が分布を広げ、先に入った西系統は
分布縮小していることが示唆された。また、形質測定の結果、北・
東系統は厳しい冬に適したフェノロジーを、西系統は穏やかな冬に
適したフェノロジーを持っていることが明らかとなった。これら系
統間の形質の違いが、関東における分布の入れ替わりに影響したの
かもしれない。複数回移入により各系統の分布拡大・系統間競争が
起こることで、広範囲において遺伝的多様性を維持し、環境適応し
たことが示唆された。
81
口頭発表 3 月 7 日(木) F 会場 14:30-15:30
F1-01
F1-02
草原利用におけるヤギとヒツジの比較生態
コナラ種子の化学形質は実生の大きさと防御形質に引き
藤田昇(地球研)
継がれる
草原を利用した家畜飼育において、ヤギはヒツジと比べて、樹皮
までかじって樹木を枯死させるとか草本の地下部まで食べて害を与
えるとして、草原を衰退させる悪者となっている。それが本当かど
うかを確かめるためにモンゴルの草原において、ヤギとヒツジの比
較飼育実験を行った。実験は、異なる植生で小面積の柵に数日間飼
育した餓えた状態で植生にどのような被害を与えるか、ヤギとヒツ
ジの体重がどう変化するかを調べる方法を用いた。
前々回の大会では、小低木が混じる草原において、ヤギは小低木
の葉を、ヒツジは草本を好むことを報告したが、今回はその実験の
1 年後の植生の被害状態と小低木が混じらない草本だけの草原で行
った新たな飼育実験結果を報告する。
2010 年夏に小低木(Caragana )が混じるステップ地帯の草原で
100 平方メートルの柵に 1 ないし 2 頭のヤギとヒツジを 6 日間飼育
した結果、小低木の葉と草本はほぼ食い尽くされた。ヤギとヒツジ
を柵外に出してから柵を残したまま 1 年後に植生の回復を調べると
小低木の葉はほぼ 100%回復したが、多年草の地下部を食べられた
部分は回復せず、かわりに 1 年草(Artemisia annua )が出現した。多
年草の被害はヤギとヒツジでは差がなく、それおぞれ 1 頭と 2 頭で
は差があった。
2011 年夏に同じステップ地帯の小低木がなくなって草本だけの衰
退した草原で、200 平方メートルの柵にヤギとヒツジそれぞれ 2 頭
づつ、ヤギとヒツジ各 1 頭の計 2 頭の 3 つの条件で 3 日間飼育した。
3 日間で草本を食い尽くすという遊牧民長老の予測に反して、草本
はよく残り、家畜の体重減は少なかった。ヤギには全く体重減は見
られなかったが、ヒツジはイネ科ハネガヤ属(Stipa )の優占度に左
右され、ハネガヤ属の少ない柵では体重が減少した。ヤギと同居さ
せたヒツジも同様であった。
* 島田卓哉(森林総研・東北),柴田銃江(森林総研・東北)
【目的】大きさや化学成分などの種子形質には,著しい種内変異が
存在することが知られている.種子形質の変異は実生の形質に影響
すると想定されているが,実際にはこうした影響は種子サイズや発
芽時期といった見える形質でしか確認されていない.そこで,種子
の化学的形質が実生の形質に影響するかどうかを,コナラ種子を用
いて検証した.
【方法】岩手県盛岡市で採取した健全なコナラ種子 120 粒の種皮を
取り除き,子葉のうち一方を播種し,もう一方を化学分析のサンプ
ルとした.子葉間では成分にほとんど違いがないことは先行研究で
確認している(Takahashi & Shimada 2008).播種した個体は温室内で
生育させ,本葉展葉後に採取し,部位別に乾燥重量および化学形質
を測定した.種子および実生の化学形質として,タンニン含有率お
よび非構造性炭水化物含有率を測定した.
【結果・考察】種子形質間の関係を解析したところ,タンニン含有
率と種子サイズおよび非構造性炭水化物含有率との間には明瞭な負
の相関が,種子サイズと非構造性炭水化物含有率との間には正の相
関が認められた.ついで,発育ステージ間の関係を解析したところ,
実生重量は,種子サイズの増加に伴って増加し,種子のタンニン含
有率の増加に伴って減少することが示された.同様に,本葉の数は,
種子のタンニン含有率が高いほど減少した.また,実生全体のタン
ニン含有率は,種子の非構造性炭水化物含有率が高いほど低くなる
ことが判明した.以上の結果は,サイズだけではなく種子の化学的
形質が,実生の大きさや防御形質に影響を与えることを示している.
すなわち,種子形質は,Seed fate への直接的な影響のみならず,実
生の形質を介した複層的な影響を植物個体の生存過程に及ぼすこと
が示された.
F1-03
F1-04
花外蜜腺植物における光と土壌水分環境に応じた異なる
イチジク属植物の花の匂いの地理的変異と集団間の遺伝
防御戦略の適用
的変異
* 山尾僚(佐大・農),波田善夫(岡山理大),鈴木信彦(佐大・農)
岡本朋子 *(JT 生命誌研究館),蘇智慧(JT 生命誌研究館)
これまで、植物はある特定の防御形質に依存して身を守っている
と考えられていたが、近年多くの植物種において防御形質を複数備
えていることが報告されている。植物の防御戦略を理解するために
は、それらを如何に組み合わせて身を守っているのかを明らかにす
る必要がある。本研究では、トリコーム(物理的防御)、腺点(化学
的防御)、花外蜜腺と食物体(生物的防御)、被食耐性といった複数
の防御形質を備えるアカメガシワを材料とし、主要な生育場所(開
放地、林縁部、ギャップ)の光および土壌養水分環境に応じた防御
戦術の変異を調べた。その結果、明るく土壌水分が少ない開放地では、
トリコームと腺点を発達させていた。一方、半日蔭で土壌水分がや
や豊富な林縁部では花外蜜腺を、暗く土壌水分が豊富なギャップで
は食物体を発達させており、それらの生育地では開放地よりも多く
のアリが来訪していた。ハスモンヨトウ幼虫に各生育地由来のアカ
メガシワの葉を与えた結果、開放地由来の葉で林縁部とギャップ由
来の葉よりも摂食量と成長率が低く、物理・化学防御形質による効
果が高いと考えられた。一方、各生育地におけるアリ除去実験の結果、
アリによる植食者排除効果は開放地よりも林縁部とギャップに生育
する株で高いことが判明した。人為被食処理実験により各生育地条
件下で被食耐性能力を評価したところ、林縁部環境で最も高かった。
次に、アカメガシワ実生を用いて光条件と土壌水分条件を人為的に
操作した栽培実験を実施した。その結果、アカメガシワは光および
土壌水分条件に応じて可塑的に各防御形質への投資量を変化させる
ことが明らかとなった。これらの結果は、アカメガシワが生育地の
利用可能な資源の種類や量に応じて各防御形質の組み合わせを可塑
的に変化させ防御を達成していることを示している。
イチジク属植物 ( クワ科 ) は約 800 種が生育し、その多くが種特
異的なイチジクコバチ ( イチジクコバチ科 ) によって送粉されてい
る。イチジクコバチは送粉の報酬として、幼虫期の餌をイチジクか
らもらうため、両者は相利共生の関係にある。イチジクは花から種
ごとに特徴的な匂いを放出し、イチジクコバチを花へ誘引すること
が知られている。すなわち、花の匂いは両者の繁殖を支える重要な
形質であるといえる。
イチジク属の中でも、雌性両全性異株の種の多くは、パッチ状に
生育し、それを送粉するイチジクコバチはパッチ内で移動すること
が多く、広く分散することが少ないと考えられている。すなわち、
このような種の場合、たとえ広域に分布していたとしても、実際に
は遺伝的に分断したいくつかの集団に分かれ、花の匂いにも地理的
な変異が起きている可能性がある。
本研究では台湾と日本に生育する雌性両全性異株のオオバイヌビ
ワとオオバイヌビワコバチを対象に、マイクロサテライト 8 領域を
用いて集団間の遺伝的交流の程度を調べた。また、各個体群で花の
匂いの捕集および分析を行った。その結果、オオバイヌビワは台湾
- 石垣島 - 沖縄島の間で、それぞれゆるやかな遺伝的な分断がみられ
たものの、台湾内では遺伝的な分断が見られなかった。また、花の
匂いに関しても、遺伝的な分断が見られる集団間で同様に違いが見
られた。一方、オオバイヌビワコバチは集団感での違いがほとんど
みられなかった。これらの結果から、オオバイヌビワコバチは集団
を越えて繁殖を行っているか、もしくは近年になって急速に分布域
を拡げたために、遺伝的な分化がまだ起こっていないと考えられる。
今後は行動実験によって、異なる集団の花の匂いに対してオオバイヌ
ビワコバチが選好性を示すかどうかについて検証を行う必要がある。
82
口頭発表 3 月 7 日(木) F 会場 15:30-16:30
F1-05
F1-06
ヒサカキの雄に偏った花食害と植物の性が 2 種のシャク
ススキに発生した 2 種の病理菌類の空間動態 :Ustilago
ガに与える影響
と Naemacyclus
* 辻 かおる,京大理
* 鈴木亮(筑波大・菅平セ),鈴木智之(信大・山総研),細矢剛(国立科
博),齊藤由紀子(国立科博),保坂健太郎(国立科博),出川洋介(筑波大・
菅平セ)
雌雄異株植物では花の形質が雌雄で異なることが多い。そのため、
花食性昆虫の適応度が雌雄の植物上で異なること、雄または雌の植
物に対する選好性を持っていること、が予想される。そこで、雑居
性雌雄異株植物ヒサカキの花食者とその採餌パターンを明らかにし
た。ヒサカキの花は、鱗翅目 4 科 7 種、花蕾ゴールを形成するタマ
バエ科 1 種、カスミカメムシ科 1 種、アブラムシ科1種により食害
されていた。鱗翅目は蕾を齧っており、花食者の中では最も花にダ
メージを与えていた。雄花は雌花に比べより多く齧られていたが、
雌木より有意に多く雄木に寄生していたのはソトシロオビナミシャ
ク一種のみであった。さらに、ヒサカキの性が花食性鱗翅目に与え
る影響を調べるため、花と葉を食害している 2 種の広食性シャクガ、
ウスキツバメエダシャク(以下ウスキ ) とナカウスエダシャク(ナ
カウス)の飼育実験を行った。ウスキは主に葉を食害しており、ヒ
サカキの性は適応度、選好性ともに影響を与えていなかった。一方、
ナカウスでは、雄木では雌木よりも多くの花を食害し、成長が早か
った。これらの観察・実験から、ヒサカキでは、雌花より雄花がよ
り食害されていること、この雄花に偏った花の食害は、複数の花食
性昆虫によりもたらされていることが明らかとなった。
野生植物には多くの病原菌が寄生するが、伝播過程や生活史につ
いては未知のものが多く、基礎的知見が限られている。本研究は、
日本全国に身近な植物であるススキに発生した 2 種の病原菌につい
て、その発生の時空間パターンを報告する。
標高 1360m に位置する菅平高原実験センターでは、約 80 年間草
原(ススキが優占)を維持している。この草原で、ススキに対し既
知のクロボキン U. kusanoi の感染と、未知な病原菌による顕著な感
染が確認された。形態的特徴および、分子系統解析の結果に基づき
未知の病原菌は子嚢菌門リティズマ目 N. culmigenus であると同定さ
れた。本種は、ススキでの感染および日本での発見が初記録となる
新宿主新産菌類であった。
2011 年 6-7 月に、センター草原内 60 x 100 m の範囲で 1m2 の調査
区 6000 個を設け、各調査区の 2 種の有無を調査した結果、ススキが
存 在 し た 5729 区 の う ち、Ustilago が 987 区 (17.2%) と Naemacyclus
が 2708 区 (47.3%) で見られた。空間自己相関解析により、2 種のパ
ッチサイズは 13 m と 33 m であり、両種の分布は空間的に無関係で
あることが分かった。また、2 種の病徴は、6 月初旬から現れ 7 月に
ピークに達した。さらに、菅平周辺のススキ草原 11 か所で調査した
結果、前者は 9 か所、後者は 1 か所(センター内)で発見された。
以 上 の 結 果 は、Ustilago は 広 範 囲 に 低 頻 度 で 感 染、Naemacyclus
は 1 か 所 に 高 頻 度 で 感 染 と い う 対 照 的 パ タ ー ン を 示 し て い る。
Naemacyclus のススキ感染は、現段階では菅平の草原 1 か所でしか確
認できていないが、類似の病徴を発見された方は情報を寄せられた
い。
F1-07
F1-08
植食者に媒介される植物の病気のダイナミクス
一対多相利共生における宿主と共生者の共進化動態
* 仲澤剛史(台湾大・海洋),山中武彦(農環研),浦野智(ペコIPMパ
江副日出夫(大阪府大・院理)
イロット)
1個体の宿主と複数の共生者個体の間の相利共生(一対多相利共
生)は、種子捕食送粉共生系やマメ - 根粒菌共生系などで典型的に
みられる。このような系は宿主のみがパートナー選択が可能である
という非対称性から不安定になりやすいと予想される。しかし実際
の相利共生系は長期間安定に存続しており、かつ、宿主へ全く貢献
しない共生者(寄生者)も共存している。今回の研究では、このよ
うな系が宿主の共生者選択の不完全さによって維持されていると考
え、宿主の共生者選択にコストがかかると仮定した簡単な数理モデ
ルを用いて、宿主と共生者の形質の共進化動態を数値的に解析した。
その結果、以下のことが明らかになった。
(1) 宿主と共生者の形質は周期的に振動した。これは、宿主の共生
者選択によって共生者の変異が減少し、それによって共生者選択の
利益が減少すると、共生者選択が弱まるので再び共生者の変異が増
加する、というサイクルを繰り返すからである。(2) 共生者選択をま
ったくしない宿主が出現した。これは、コストをかけて共生者選択
をする宿主によって共生者の協力度がある程度以上に保たれる結果、
共生者選択をしなくても相利共生の利益が得られるからである。共
生者選択をしない宿主は、共生者選択をする宿主に対するフリーラ
イダーと見なすことができる。(3) 外部から共生者の流入を加えた場
合、系の振動は大きく抑制されうる。これは、流入があると共生者
の変異がそれほど減少しないため、共生者選択の利益が保たれるか
らであると考えられる。
多くの植物は植食性昆虫を介して病気に感染する。植物の病気の
ダイナミクスを理解するため、本研究では消費者−資源(植食性昆
虫−植物)相互作用と病気感染プロセスを組み合わせたシンプルな
数理モデルを提案する。モデルでは、病気は「感染昆虫」→「未感
染植物」と「感染植物」→「未感染昆虫」と双方向的に媒介される
と仮定した。モデルを解析した結果、以下のことがわかった。(1)
植食者が未感染植物を好んで利用すると、病気は存続しやすい。(2)
植食者が感染植物を利用する傾向が強い場合、双安定状態が生じて、
システムは初期条件に応じて病気が存在する状態と存在しない状態
のどちらかに収束する。(2)の結果は特に重要である。なぜなら、
たとえ初期の侵入が難しくても、病気がいったん定着すると存続し
続けることを示唆する。したがって、初期の侵入条件に着目した R0
域値ルールに基づく病害管理は必ずしも成功しないかもしれない。
このような状況は、感染によって植物の餌としての質が向上し、植
食者が感染植物を好んで利用するとき、つまり植食性昆虫と病気の
間に間接的な互恵関係があるときに生じる。本研究の結果は、植物
の病気をうまく管理するためには生態学と疫学のアプローチを組み
合わせ、植物―病気―植食者(媒介者)の三者間の相互作用を考え
ることが重要であることを示す。
83
口頭発表 3 月 7 日(木) F 会場 16:30-17:15
F1-09
F1-10
種特異的な送粉者が促す植物の多種共存と多様化
タンガニイカ湖のなわばり性藻食シクリッド類の多種共
* 川北篤(京大・生態研),加藤真(京大・地球環境)
存:メタゲノミクス解析を用いたシクリッド類の藻食性
植物の種多様性は,系統群間で一様ではなく,種数の多い系統も
あれば,同じような年代に起源していても種数がはるかに少ない系
統も存在する。系統群ごとの種数の違いはしばしば多様化率の違い
によって説明され,多様化率に違いをもたらす形質(左右相称花,
動物媒花,自家不和合性など)は鍵革新と呼ばれる。しかし,種の
多様性はそれぞれの系統群の植物が生育することのできる地理的範
囲に制限されるため,その範囲内における「種の収容力」に近づく
につれて多様性は頭打ちになるはずである。よって,もしある系統
群において新しく獲得した形質が,その系統群全体の地理的範囲を
広げたり,地域ごとの種数を増加させることによって「種の収容力」
を高めるように働くならば,こうした形質は高い種多様性をもたら
すであろう。コミカンソウ科コミカンソウ連では,種特異的なハナ
ホソガ属(ホソガ科)のガによって送粉される植物は,そうでない
ものと比べて種多様性が高い。本発表ではコミカンソウ連において
種の多様性に影響を及ぼすと考えられるさまざまな要因を検討した
上で,ハナホソガによる送粉が植物の生殖隔離を促し,各地域に共
存できる種数を増加させることによって,系統群全体の種多様性に
貢献していると考えられることを示す。鍵革新は種分化率そのもの
を高める場合もあるが,「種の収容力」を増加させることで種多様性
を高める場合も少なくないのではないだろうか。
における特殊化と種間の多様化の解明
* 畑啓生(愛媛大・院・理工),田辺晶史(京大・院・人環),山本哲史(京大・
院・人環),大久保智司(京大・院・人環),東樹宏和(京大・院・人環),
宮下英明(京大・院・人環),幸田正典(大阪市大・理),堀道雄(京大・
院・理)
生態系の一次生産者とその消費者との間には、込み入ったネット
ワーク関係が見られる。陸上では被食防衛を獲得する植物と、それ
をかいくぐる植食者との共進化が両者の適応放散を促し、地球上の
生物多様性を生み出してきた。水域生態系では一次生産者は藻類で、
私たちはこの藻類と、それを利用する藻食魚とのネットワーク関係
をアフリカの古代湖、タンガニイカ湖で調査した。湖の南端、ザン
ビア国カセンガ岩礁域では、14 種に及ぶ藻食性シクリッド類がなわ
ばりを争いながら共存している。それらシクリッド類の藻園となわ
ばり外から藻類を採集し、またシクリッド類の胃内容物を採集し、
16SrDNA 領域を用いてメタゲノミクス解析を行い、塩基配列ベース
で藻類の組成を明らかにした。
湖岩礁域では、光合成生産者として緑藻類、珪藻類および藍藻類
が優占し、計 234OTU が見られた。各種シクリッドと、その藻園の
藻類とのネットワークには有意な入れ子構造が見られ、全てのシク
リッド種の藻園となわばり外に生育するジェネラリストが 15OTU、
1 種の藻園のみに出現するスペシャリストが 50OTU で、スペシャリ
ストの藻類が生育する藻園にはジェネラリストの藻類も生育してい
た。各種シクリッドと胃内容物の藻類とのネットワークにも有意な
入れ子構造が見られ、特定の種特異的な藻類のみに依存しているシ
クリッド種はなかった。シクリッドは藻園の藻類を主要な餌資源と
していたが、一方で緑藻類は胃内容からは検出されず、利用されて
いなかった。これらの結果から、水域の生産者藻類と藻食者との間
の複雑なネットワーク関係について論じる。
F1-11
Phylogenetic history and network structure of a specialized
pollination mutualism on oceanic islands (Phyllanthaceae:
Glochidion ; Lepidoptera: Gracillariidae: Epicephala )
*David Hembry, Atsushi Kawakita (Kyoto University), Lesje Atkinson,
Chang Guo, Erica Newman, Bruce Baldwin, Rosemary Gillespie
(University of California, Berkeley)
84
口頭発表 3 月 7 日(木) G 会場 14:30-15:30
G1-01
G1-02
Analysis of nuclear microsatellites reveals new insights
繁殖干渉は性の維持をもたらすのか?:セクハラを巡る
on genetic divergence between the common oak tree
性拮抗的共進化の理論的解析
Quercus crispula and the shrub-type Q. crispula var.
川津一隆(京大院・農)
horikawae in Japan
繁殖干渉は異種間の配偶を巡るあらゆる種類の負の相互作用と定
義され,近縁種間の棲み分けや寄主特異性の違いを説明する要因と
して注目を浴びつつある.この繁殖干渉に注目して性の維持問題を
考える場合,オスが不在の単為生殖生物からは干渉が発生しないた
め性の維持に有利に働くと予想される.しかしながら,そのために
はオスが単為メスに対して強くセクハラを行うことが必要となり,
そのような一方的なセクハラはオス繁殖成功の低下につながるため
性の維持に有利な繁殖干渉は進化しにくいと考えることもできる.
本講演ではセクハラの効果に関する上記のような矛盾を解消する
ために,有性系統に特異的なセクハラを巡る性拮抗的共進化の存在
に着目した.有性生物ではセクハラのコストを下げる抵抗性がメス
にとって有利になるため,オスのセクハラ形質との間に性拮抗的選
択圧が働き両形質は高い値に進化,維持されることになる.一方で
オスが不在の単為系統ではメス抵抗性に対する選択圧は存在せずに
集団中から失われることになる.そこで,このセクハラを巡る性拮
抗的共進化を考慮した数理モデルを作成して解析を行ったところ,
確かに性の維持のためには単為メスに対して非対称に働くセクハラ
コストが必要となるが,有性系統における性拮抗的共進化の進行に
よってその条件を満たしうることが明らかとなった.さらに非対称
なセクハラコストが進化可能な条件では有性系統に単為系統が侵入
することが不可能なために,両系統間で側所分布が形成されること
が分かった.これらの結果は,個体群生態学のトピックである繁殖
干渉を進化生態学の観点から考える事で,種間レベルでの性の維持
問題だけでなく地理的単為生殖などの性の維持に関わる諸問題の解
決にもつながることを示している.
*Maldia Lerma (FFPRI), Kanazashi Ayako (FFPRI), Matsumoto Asako
(FFPRI), Ueno Saneyoshi (FFPRI), Tsumura Yoshihiko (FFPRI)
Quercus crispula var. horikawae is a shrub-type oak restricted on
steep mountain slopes in heavy snow regions of Japan. It is recognized
as a variety of Q. crispula . It has usually smaller leaves and denser hairs
on abaxial leaf surface than Q. crispula . They are are classified as two
distinct taxa but their genetic relationship remains unclear. We assessed
the genetic structure of populations of the two taxa in order to clarify their
genetic relationship. We collected samples from paired populations in
each locality (19 populations in 9 localities, n = 575) and 5 independent
natural populations of Q. crispula as reference and genotyped at 32 nuclear
microsatellite loci. Genetic differentiation between taxa was low (F ST =
0.056), but results of Principal Coordinate Analysis, model-based Bayesian
clustering, and phylogenetic analyses agreed on genetic diversification of
the two taxa, including detection of ecotypes. However, the two taxa formed
as one genetic cluster when a closely related species Q. serrata was included
in separate similar analyses, confirming that Q. crispula var. horikawae is a
subset of Q. crispula .
G1-03
G1-04
生活史戦略としてのヒトの閉経およびゲノム内コンフリ
細胞性粘菌の化学物質を利用した利他行動の進化モデル
クトから理解する周閉経期諸症状:その数理モデル
* 内之宮光紀(九大・シス生),巌佐庸(九大・理)
Francisco Ubeda(Royal Holloway),* 大 槻 久( 総 研 大 ),Andy
Gardner(Oxford)
キイロタマホコリカビ (Dictyostelium discoideum) は通常は単細胞
で生活しているが、バクテリアなどの餌が不足すると多数の細胞が
集まり胞子を飛ばすための器官である子実体を作る。子実体は次世
代に子孫を残す胞子と胞子を支える柄の部分に分かれている。柄は
子孫を残せないため、子実体形成は一種の利他行動である。子実体
は単独の系統によって作られることが多いが、複数の系統が混ざっ
て作る場合もある。細胞が胞子と柄に分化する際には DIF-1 と呼ば
れる化学物質が重要な働きをする。DIF-1 は胞子になる細胞から分
泌され、細胞が柄に分化するのを促す。子実体形成の進化に関する
多くの理論研究は、胞子と柄の比率は系統で固定されているとし、
DIF-1 などによる調節メカニズムを考えてこなかった。
本研究では子実体形成における胞子と柄の分化に関して、DIF-1
を考慮した数理モデルを紹介する。このモデルでは時間とともに胞
子と柄の比率は一定の値に落ち着き、これは細胞の初期状態には依
存しない。また、総細胞数を増やしても胞子と柄の比率は一定に保
たれる。これらは実際に観察されている現象と一致する。次に、こ
のモデルを用いて DIF-1 の分泌と DIF-1 に対する感受性がどのよう
に進化するかを調べた。DIF-1 の分泌にコストがかかるとすると、
単一の系統で子実体を作る場合には最適な胞子と柄の比率を保ちつ
つ、DIF-1 の分泌を減らして感受性を高めるように進化する。しか
し、複数の系統が混ざって子実体を作ることがあると、より多くの
DIF-1 を分泌して相手を柄に分化させるような系統が進化する。こ
のとき、感受性は低下しており、胞子と柄の比率は単独で子実体を
作る場合とほとんど変わらない。
雌が死亡前に繁殖をやめてしまう閉経は、哺乳類ではヒトと一部
のハクジラでのみ知られている特異な現象である。Cant らの繁殖コ
ンフリクト仮説によれば、雌偏向分散が引き起こす個体間の血縁度
の非対称性により、老齢雌にとっては自ら繁殖せずに同集団の雌の
繁殖を手伝うことが有利になる。ヒトの女性の閉経は、その前段階
に女性ホルモン量の激しい変動が起こる更年期および周閉経期を伴
う。閉経が適応だとしたら、なぜ閉経への移行はスムーズに起こら
ないのだろうか。
本研究ではその原因としてゲノム内コンフリクトの影響に注目し
た。雌偏向分散、もしくは雄に偏向した強い繁殖の偏りの存在化では、
母親由来と父親由来の遺伝子の間で遺伝子レベルの血縁度の非対称
性が生まれ、母親由来遺伝子は閉経を遅らせることが、反対に父親
由来遺伝子は閉経を早めることが、包括適応度上有利になると予測
される。このゲノム内コンフリクト、特に遺伝子座内コンフリクト
の帰結をゲームモデルを用いて理論的に解析した。
第一のモデルではエストロゲン量を制御する遺伝子座における対
立を考えた。高いエストロゲン量は排卵直前の LH サージを早く引
き起こすので月経周期を早め、結果として女性の妊性を下げる。反
対に低いエストロゲン量は月経周期を遅らせ、やはり妊性の低下に
つながる。解析の結果、妊性を保とうとする母親由来遺伝子とそれ
を低下させようとする父親由来遺伝子のコンフリクトは、表現型レ
ベルにおいてエストロゲン量の不安定な変動をもたらすことが分か
った。
次に、この遺伝子の発現量を戦略とする量的モデルを分析した。
その結果、二つの遺伝子間で最適発現量のピークが大きく離れてい
る場合には、母親由来遺伝子の発現が完全に抑制される可能性が示
唆された。
85
口頭発表 3 月 7 日(木) G 会場 15:30-16:30
G1-05
G1-06
繁殖干渉による生殖前隔離の進化
適応進化による個体群過程の改変:イトトンボにおける
* 山口諒(九大院・シス生),巌佐庸(九大・理)
性的対立とその克服
生物種間において、種間交雑はしばしばメスの繁殖成功度の低下
をまねき、ときには一方の種を絶滅に導く。メスがオスの形質に対
して選好性を持つ種の場合、この繁殖干渉を避けるように、自集団
のオスへのより顕著な選好性を進化させ、生殖前隔離に強化が生じ
る。本研究は、オスの二次性徴形質が類似している、異所的に存在
した二種を仮定し、その分布域が重なった後における、形質とそれ
に対応するメスの選好性の共進化について量的遺伝モデルを用いた
解析を行った。オスの形質は種間の認識を明確にする方向へと進化
し、そのシフト量はメスの選好性が中程度に強い場合に最大となる
ことがわかった。平衡状態はオスの形質に対する自然選択と性選択
のバランスによって実現されるとともに、常にメスの選好性が先行
した。またこの結果は、メスが選好性のみを進化させ、オスとの共
通形質に変化がみられない場合に、性的二型の進化を示唆するもの
であった。さらに本講演では、以上の繁殖的形質置換が完了せずに、
絶滅に至ってしまう場合の条件についても検討する。
* 高橋佑磨(東北大・生命),Erik Svensson(ルンド大・生態),河田雅
圭(東北大・生命)
短い時間スケールで生じる進化動態と個体群動態との相互作用は、
Eco-evolutionary dynamics として知られ、理論的にも実証的にもその
存在が明らかになりつつある。しかし、実際には、ゆっくりとした
進化を含むあらゆる進化的変化は、個体の生活史形質の変化を通じ
て個体群のパフォーマンス(生産性など)に影響しているはずである。
たとえば、性選択による形質の過剰な発達が個体群や種の絶滅リス
クに影響している可能性などが示唆されている。一方、多型や個性
といった種内の多様性の進化は、様々なリスクの分散を通じて個体
の絶対適応度を増加させ、個体群の生産性や個体群の恒常性を増加
させると予測されている。本研究では、雌に色彩多型を示すアオモ
ンイトトンボ属の2種を用い、多型の進化が個体群のパフォーマン
スに与える影響とその機構を検証した。先行研究により、本属の雌
の多型は雄からの性的ハラスメントに起因する負の頻度依存選択に
よって個体群中に維持されていることが知られている。そこで、型
頻度の地理的変異を利用し、多様化の程度とハラスメントリスクの
関係を調べたところ、多様度の高い(型比に偏りのない)個体群で
は、単型の個体群や多様度の低い個体群よりも個体あたりのリスク
が低くかった。個体あたりの絶対適応度は多様度の高い個体群で最
も高かった。野外の実験個体群において型比を操作したところ、野
外個体群と同様、型比に偏りのない場合に平均絶対適応度が最大に
なっていた。個体群密度は、多様度の高い個体群において最大にな
る傾向が認められた。これらの結果は、性的対立への対抗適応とし
て進化した種内の種内多型が、ハラスメントリスクの分散を通じて、
個体群の適応度(生産性)を増加させ、個体群過程に影響すること
を示している。
G1-07
G1-08
ウロコガイ上科二枚貝類における共生性の進化と赤血球
ミジンコの可塑性は何によって決まるか:種間・種内ク
の獲得
ローン間・齢間にみられる誘導防衛形態の比較
* 後藤龍太郎(東大・大海研),加藤真(京大・人環)
* 永 野 真 理 子( 東 大・ 総 合 文 化 ), 吉 田 丈 人( 東 大・ 総 合 文 化,JST
PRESTO)
他の生物に依存して生きる寄生・共生生物は、あらゆる生態系に
普遍的に存在し、しばしば著しい多様化を遂げている。そして、こ
れらの生物の多様化機構として重要だと考えられているのが、宿主
の乗り換え(宿主転換)に伴う種分化である。宿主転換については、
陸上では植食性昆虫を中心に膨大な知見があるものの、海洋生物で
の理解は依然として遅れている。
ウロコガイ上科 Galeommatoidea は、浅海を中心に 600 種以上に多
様化を遂げた小型の二枚貝のグループである。多くの種は他の動物
の体表や巣孔で居候して暮らす共生生活を営む。上科全体での宿主
の範囲は極めて広く、節足動物、環形動物、棘皮動物、刺胞動物、
腕足動物など 9 動物門にも及び、高次分類群レベルでの宿主の多様
性は海洋生物の中でずば抜けている。本研究では、ウロコガイ類を
様々な宿主から網羅的にサンプリングし、18S, 28S, H3, COI の4遺
伝子を用いた分子系統解析を行うことによって、この二枚貝類の共
生様式の進化と寄主転換による多様化のパターンを調べた。その結
果、ウロコガイ類は、系統的に非常に離れた分類群間であっても繰
り返し寄主転換を行いながら多様化を遂げてきたことが明らかにな
った。一般に寄生生物の宿主転換の範囲は系統的に近い宿主間で限
られることから、ウロコガイ類の宿主転換パターンは非常にユニー
クなものであると考えられる。
また本研究の過程で、ウロコガイ上科の1種アケボノガイが軟体
部に赤血球を豊富にもつことも明らかになった。他のウロコガイ類
はヘモシアニンを呼吸色素として持ち、ヘモグロビンを含む赤血球
は持たない。分子系統解析の結果から、この赤血球はアナエビとの
共生の進化に伴って獲得されたことが示唆された。そのため、この
赤血球はアナエビの嫌気的な巣孔環境への適応である可能性が高い。
ミジンコ(Daphnia 属)は、捕食者カイロモンに反応して明瞭な
防衛形態を発現することから、表現型可塑性のモデル生物として注
目されてきた。ミジンコに対する捕食圧は、一般的に、捕食者の捕
食様式によって体サイズ依存的に決定される。そのため、体サイズ
の大きいミジンコは、より大型の餌を選好する視覚捕食者の魚に対
して、より大きな可塑性を示すと予想される。一方、体サイズの小
さいミジンコは、口器サイズに依存して小型の餌を選好するフサカ
幼虫に対して、より大きな可塑性をもつと予想される。しかし、実
際には、ミジンコの体サイズは種間だけでなく、種内であってもク
ローン間や齢間で異なる。そこで本研究は、体サイズの大きいミジ
ンコ(D. pulex )と小さいミジンコ(D. ambigua )の 2 捕食者(フサ
カ幼虫と魚)に対して示す形態形質の可塑性を、種間・クローン間・
齢間のレベルで比較し、ミジンコの可塑的防衛と体サイズの関係を
評価した。可塑性の大きさを種間で比較すると、どちらのミジンコ
種も魚よりフサカに対する可塑性が大きく、フサカに対する可塑性
の大きさは2種間で違いがなかった。また、ミジンコは齢により段
階的に体サイズが大きくなるので、齢が進むにつれて魚に対しては
可塑性が大きくなり、逆にフサカに対しては可塑性が小さくなると
予測される。しかし、どちらの捕食者に対しても、2種のミジンコ
ともに、齢段階と可塑性の大きさには相関関係がみられなかった。
以上から、ミジンコの可塑性は体サイズに依存して決まる捕食圧に
単純に従うのではなく、種毎や齢毎に特異的に決まっていることが
明らかになった。
86
口頭発表 3 月 7 日(木) G 会場 16:30-17:00
G1-09
G1-10
ミジンコの誘導防御におけるリアクションノームの多様
アノールトカゲにおける温度適応形質の遺伝基盤の解明
化過程
* 赤司寛志,カディス ディアス アントニオ,牧野能士,河田雅圭(東北大・
生命)
* 宮川一志(基生研),杉本直己(北大・院環境科学),井口泰泉(基生研,
三浦徹(北大・院環境科学)
地球温暖化の影響により、世界中のトカゲの集団が大量に消失す
ることが危惧されており、温度適応は生物多様性維持に欠かせない
と考えられる。しかし、爬虫類の形態や行動における温度適応機構
の知見は蓄積しつつあるものの、温度適応に関与する生理機能につ
いては研究が浅く、温度適応機構の遺伝的基盤は未だ解明されてい
ない。さらに、爬虫類は日光浴など行動的に温度ストレスを緩和さ
せることから、代謝や至適体温の分化など、生理機能の温度適応は
生じにくいという説があり、温度適応の遺伝的基盤の研究は困難で
あると考えられる。
キューバに生息する系統的に近縁なアノールトカゲ 3 種(Anolis
allogus , A. homolechis , A. sagrei )は、形態や行動が類似しているにも
かかわらず、微環境を違えることで同所的な生息を可能にしている。
この3種は、微環境間で生じた異なる温度環境下で種特有の体温を
維持していることから、温度適応に関わる生理機能を分化させてい
る可能性が高く、温度適応機構の遺伝的基盤を解明する上で有用で
あると考えられる。そこで、本研究ではこれら3種をモデルとし、
トランスクリプトーム解析により、異なる温度条件下で発現量が変
化し、さらにその変化の仕方が種間で異なる遺伝子を検出すること
により、異なる温度環境への適応に関わる遺伝子を特定することを
目的とした。まず、3 種を 26℃または 33℃で 5 日間維持した後、各
個体の脳、肝臓、皮膚から mRNA を抽出、精製した。そして、各組
織における遺伝子発現を網羅的に解析するために次世代シークエン
サー (Illumina HiSeq 2000) を用いて RNA-seq を行った。解析結果か
ら熱ショックタンパク、抗酸化物質、エネルギー代謝などに関する
候補遺伝子が検出された。発表では、これらの候補遺伝子の機能を
ミジンコ属(genus Daphnia )の多くは、捕食者の放出する物質(カ
イロモン)を感受すると、可塑的に頭部の形態や殻刺の長さを変化
させ、防御形態を形成する。これらの防御形態は、近縁種間で様々
に異なっており、それぞれの種が異なる環境や捕食者に適応した結
果であると考えられる。このようにミジンコ種間において多様な防
御形態が進化してきた背景としては、種内においても防御形態やそ
の形成頻度に遺伝的なバリエーションが存在し、それが捕食者の有
無に応じた生殖隔離とその後の種分化につながったことが予想され
る。本研究では、日本国内複数箇所より採集したミジンコ Daphnia
pulex より確立した系統を用いて、このようなバリエーションが実際
に個体群ごとに存在するかを調べた。地理的に離れた池から採集し
た6系統について、環境要因(カイロモン濃度)と表現型(防御形
態の形成率など)の関係(リアクションノーム)を比較したところ、
これらは「大きな防御形態を高頻度で作るグループ」と「あまり大
きな防御形態を作らず、その頻度も低いグループ」の二つに分かれ
ることがわかった。ミトコンドリア DNA を用いた分子系統解析およ
びマイクロサテライト解析の結果、これら日本の二つのグループは、
それぞれ独立して北米より侵入した個体群に由来し、遺伝的に完全
に分化していることが明らかとなった。一方でグループ内において
も若干のリアクションノームの差異が確認でき、移入後においても
それぞれの環境に応じて進化した可能性も予想された。
ふまえて結果を報告する。
87
口頭発表 3 月 7 日(木) H 会場 14:30-15:30
H1-01
H1-02
形質進化と群集動態の相互作用がもたらす超長周期律動:
ヒトの配偶者選択の文化進化:ヒノエウマの迷信はヴォ
進化的ヘテロクリニックサイクル
ルバキアと似ている
田中嘉成(国環研・環境リスク)
* 巌 佐 庸( 九 大・ 理・ 生 物 )・CInthia M. Tanaka(Univ. San Paulo,
Brazil)
比較的近年、生物の適応的表現形質の進化が生態学的な時間スケ
ールで起こり、個体群や群集の動態に影響を与えることが、実験的
にも理論的にも明らかにされている。しかし、生態学的動態と進化
動態の相互作用によって、生物群集動態の時間スケールが大きな影
響を受けるかどうかは知られていない。
本研究は、3 栄養段階の直鎖型食物網において、中間種の対捕食
者形質の適応進化と群集の生態学的動態との相互作用によって、ど
ちらかの動態だけからは予測されない非常に長周期の群集動態が生
じうることを数値シミュレーションと理論的な解析で示唆した。3
栄養段階モデルでは、基底種(生産者)と中間種(1 次消費者、植
食者)の(早い)動態と、上位種(2 次消費者、捕食者)の(遅い)
動態の時間スケールが大きく異なるとき、上位種のトップダウン効
果が作用するときと作用しないときの 2 つの不安定平衡点を連結す
るヘテロクリニック軌道が生じ、カオス性を伴うティーカップアト
ラクタがもたらされることが知られている。
本研究では、中間種の対捕食者形質が進化的に変化し、それに伴
って上位種の中間種に対する捕食効率が時間的に変化すると仮定し
た。形質の適応度コストが十分に小さいとき、上位種が減少して基
底種と中間種の律動が支配するフェースと、上位種によるトップダ
ウン効果が作用する安定なフェースが、非常に長い周期で交互に現
れる現象が見られた。このような超長周期変動(進化的ヘテロクリ
ニックサイクル)は、形質の進化がない生態学モデルでも、種間相
互作用がない進化モデルでも生じえない。進化速度(遺伝分散量)
を非常に大きく設定すると、上記の現象は消失することから、表現
型可塑性や学習などの早い形質シフトでは進化的ヘテロクリニック
サイクルは起きないと考えられる。
1966 年には日本での出生数が大きく低下した。これはヒノエウ
マの迷信によるものである。60 年に一度訪れるヒノエウマの年に生
まれた女性との結婚を避ける配偶者選択と、その迷信により予想さ
れる娘の苦労を避けるべくヒノエウマ年での出産を控える親の選択
行動の結果である。本研究ではこの不合理な配偶者選択が広がる要
因を知るため、この現象を文化進化の力学モデルにより解析した。
Believer と Nonbeliever のタイプがあり、いずれになるかは子供のと
きに受けた親の影響により決まるとする(垂直伝播)。[1] 子供に対
する影響が父母のいずれが強いか、[2] ヒノウエマの年での出産を避
けるかどうかを父母のいずれが決定するか、[3] ヒノウエマ年での出
産の回避に失敗する率、などにより、文化進化の結果が異なる。
モデルの解析によると、母親の影響が強い(母系)場合にはヒノ
エウマ迷信が集団に固定する。これに対して父親の影響が強い(父系)
場合には迷信は消滅する。父母ともが影響をもつ場合(たとえばメ
ンデル遺伝)には、初期頻度によって消滅するか固定するかのいず
れかになる。
この結果は、迷信の広がりに影響する要因を考えると理解できる。
迷信は、Believer 男性が配偶相手を見つけにくいために子の数が減る
コストと、Believer の親がヒノエウマ年での出産を避けるために娘の
繁殖成功が改善されるというベネフィットの影響をうける。子供が
母親の B/N を受け継ぐ場合には、男性は伝播する能力がないために
迷信のコストが存在せず、ベネフィットだけを享受する。そのため
母系伝播する場合にはヒノエウマ迷信が確実に広がり固定する。こ
れは、ヴォルバキアが細胞質不和合を引き起こすことで広がる現象
と数理的に同じである。
H1-03
H1-04
一般化線形モデルにおける交互作用の意味 -2 次式の場合
基底資源による 2 種類の適応的防御が IGP 系に与える
粕谷英一(九州大・理・生物)
影響
生態学におけるデータ解析に一般化線形モデル(GLM)などが広
く適用され、以前に比べてはるかに複雑なモデルを使った分析が可
能になっている。ある説明変数が目的変数にあたえる影響は、他の
説明変数がどのような値であるかによって異なることも多い。この
ような依存性をはじめ説明変数を単純に独立な形で入れただけでは
説明できない目的変数の変動を扱うのに、実際の使用が簡単なこと
もあり、交互作用(interaction)がよく使われている。
交互作用の変数はそれぞれの説明変数の積を値としており、交互
作用の検出には一般に交互作用の変数だけでなくそれぞれの説明変
数自体(交互作用に対して、主効果 [main effect] と呼ばれる)をも
含んだモデルを使う必要がある。交互作用の変数を含むモデルでは、
説明変数自体の係数(主効果の強さ)は、他の説明変数の値がゼロ
であるときの、問題の説明変数が目的変数に与える効果の大きさと
いう意味となる。そこで、分析者が説明変数自体の係数として期待
した意味と外れてしまう可能性がある。
生態学などでは、説明変数の中間的な値で目的変数が最大値をと
ると考えられることも多く、説明変数の一次の項だけではなく二次
の項も含んだモデルが適切だということもある。説明変数の二次の
項も含んだモデルの場合の、交互作用の意味や交互作用の変数およ
び主効果の変数の意味はほとんど検討されてこなかった。いくつか
の可能性の高いケースを想定して、それらがどのような意味を持つ
のか検討する。また、分野によっては標準的な手順として使われる、
説明変数のセンタリング(サンプルの平均をゼロにしておくこと)
の効果についても述べる。
* 池川雄亮,江副日出夫,難波利幸(大阪府大・理・生物)
被食者が自身の行動や形態を変化させることで捕食を回避する適
応的防御は自然界で普遍的に観察される。例えば、エゾアカガエル
の幼生は、ギルド内捕食者であるヤゴに対しては尾鰭を高くするの
に対し、ギルド内被食者であるサンショウウオの幼生に対しては頭
部を膨らませることによって、捕食を回避することが知られている
(Kishida and Nishimura 2005)。後者はサンショウウオの幼生に対して
のみ防御効果があるスペシャリスト型の防御であるが、前者はサン
ショウウオの幼生にも効果があるジェネラリスト型の防御である。
このように、自然界では型の異なる複数の防御を使い分ける生物が
存在するにもかかわらず、両方の型を考慮した適応防御の理論研究
は少ない。
そこで本研究では、基底資源の適応的防御を考慮したギルド内捕
食系モデル (Nakazawa et al. 2010) を拡張し、2 種類の防御が系の存続、
安定性に与える影響と漸近状態における防御の有無を調べた。その
結果、2 種類の適応的防御の併用はそれぞれの種の存続には影響し
なかったが、それぞれの防御が単独の場合には不安定な 3 種共存状
態を安定化させることが分かった。この効果はギルド内捕食が弱い
ときほど強く働いていた。また、スペシャリスト型防御の効率が十
分に大きければ、3 種共存領域における基底資源の平衡個体数は、2
種類の防御の併用によって、それぞれの防御が単独の場合に比べて、
増加した。逆に、スペシャリスト型防御の効率が小さい場合、基底
資源の平衡密度は減少した。以上の結果より、2 種類の防御の併用
が群集の安定的な存続に寄与していることが示唆された。一方、2
種類の防御の併用が常に基底資源にとって最適であるとは限らない
ことも示された。
88
口頭発表 3 月 7 日(木) H 会場 15:30-16:30
H1-05
H1-06
遺伝子性決定 vs. 温度依存性決定
格子モデルを用いた植物における病原体伝播モデルの解析
* 山田翔一,高田壮則(北大・環境)
* 酒井佑槙(北大・環境),高田壮則(北大・環境)
温度依存性決定(TSD)は、性染色体によって性が決定される遺
伝性決定(GSD)とは異なり、受精卵が分化する過程においてさら
される温度によって、性が決定されるような性決定機構のことであ
る。TSD の適応的意義についてはいくつか仮説があり、その中の一
つが“雌雄の生存率が孵化温度に依存する ( 雌雄が温度依存的適応
度を持つ ) ならば、TSD は GSD より適応的でありうる”というもの
である。Snow skink というトカゲは温度依存的適応度を持っている
ことが示唆されているが、ある地域の個体群では TSD が用いられ、
別の地域の個体群では GSD が用いられている (Pen et al., 2010)。この
ような生物の存在は、温度依存的適応度を持っている生物において
必ずしも TSD が GSD より適応的に有利になるわけではないことを
示している。それゆえ、TSD を用いることが適応的に有利になるには、
温度依存的適応度によるメリットを大きくするような環境が必要で
あると考えられる。そのため、数理モデルを用いて本研究では TSD
が GSD より適応的に有利になる条件について解析する。
本研究においては、TSD を用いる個体群のモデル(T-model)と
GSD を用いる個体群のモデル(G-model)を以下の仮定のもとで構
築する。(1) 孵化温度はある分布をもち、その平均値は世代ごとに変
動する。(2)T-model と G-model の両方において、生存率は孵化温度
依存の関数である。(3)TSD では孵化温度によって性が決定されるが、
GSD では孵化温度によらず性が決定される。これら 2 つのモデルの
個体群成長率をさまざまなパラメーターの下で計算し、比較するこ
とで、どのような条件の時に TSD が GSD より適応的に有利になる
かを解析する。その際に用いるパラメーターは適応度の温度依存性
の強さ、孵化温度の分散の大きさ、そして孵化温度の平均値の世代
間変動の大きさである。
H1-07
H1-08
Ewens 公式に基づいた2つの有効集団サイズ
被食者の防衛応答と個体群サイクルの関係 : 1 捕食者 -2
被食者系の実験とシミュレーション
丹羽洋智(中央水産研究所)
* 鈴木健大(東京大学総合文化研究科広域科学専攻),吉田丈人(東京大
学総合文化研究科広域科学専攻 , JST さきがけ)
Ewens 抽出公式は遺伝的浮動と(中立)突然変異との平衡状態に
ある集団(個体数一定の Wright-Fisher 集団)のサンプリング理論で
あり、標本中のアレル数は Ewens の式(標本数 - アレル数曲線)に
よってその期待値が与えられる。また、多変量 Ewens 分布は十分大
きな標本数で Fisher の対数級数則に漸近する。ここでは、集団サイ
ズが確率変数で与えられる開いた系において、集団サイズ、アレル数、
アレル頻度分布、および、環境変動(あるいは個体群変動)の大き
さの間の統計的関係を、シミュレーションにより考察する。
ランダム環境下、平衡点(環境収容力)のまわりで密度依存的に
個体数が変動する世代重複のない任意交配集団を考える(個体群変
動の相関時間は密度依存の強さの逆数となる)。個体あたり次世代に
残す子の数がポアソン分布する分岐過程に中立突然変異を組み込ん
だ無限アレルモデルで、集団における変異の消長およびアレル頻度
の増減を数値計算すると、頻度分布の裾は対数級数則より重くなり
引き延された指数関数で表され、このとき形状パラメータの値は集
団サイズの幾何標準偏差の逆数に等しい。ある一定数の標本中にあ
るアレル数は、個体群動態により誘導された確率過程となり、この
ときの標本数 - アレル数曲線と同じ関係式を与える Wright-Fisher 集
団の個体数により、Ewens の式に依拠した有効集団サイズ(あるい
は遺伝的浮動の強さ)が定義でき、これは変動する集団サイズの調
和平均と一致する。一方、集団のアレル総数の期待値に対し Ewens
の式が成立するような(標本数を増やした極限に対応する)特徴的
な集団サイズは、環境収容力に一致する。これは、アレル総数の期
待値は環境収容力によって決まり、集団サイズのゆらぎの大きさに
は影響を受けないことを意味し、引き延された指数関数の裾を持つ
アレル頻度分布を用いて確認できる。
誘導防衛などの表現型可塑性は個体群動態を変化させるうるが,
誘導防衛をもつ被食者と捕食者に加え,第 2 の被食者が含まれる
群集の動態はあまり分かっていない.資源を巡って競争関係にあ
るバクテリア (Flectobacillus と Pseudomonas ) と,共通の捕食者であ
る繊毛虫 (Tetrahymena ) の 3 種を用いた実験より以下の結果が得ら
れ た :Flectobacillus は,Tetrahymena を 絶 滅 さ せ る ほ ど の 防 衛 を す
るが,Pseudomonas との資源競争に負ける.一方、Pseudomonas は
Tetrahymena に捕食され,個体群サイクルを示す.3 者が同時に存在
する場合 (FPT 系 ) には,その共存状態は安定な個体群サイクルとな
る.
本研究では,観測されたこれらの個体群動態と表現型可塑性の動
態を説明するための数理モデルを構築した.まず,FPT 系に対応す
る数理モデルを遺伝的アルゴリズムを用いて探索したが,その結果,
Flectobacillus だけではなく,Pseudomonas にも何らかの未観測な誘導
防衛があることが分かった.次に,モデルにおいて,FPT 系の共存
状態が Flectobacillus と Pseudomonas の防衛戦略から受ける影響を調
べた.その結果,Pseudomonas の誘導防衛が鈍くなると個体群動態は
サイクルから平衡状態へと変わったが,Flectobacillus は同様の変化
でそれ自身が絶滅した.以上のことから,Tetrahymena-Pseudomonas
の関係が FPT 系全体の動態を決める一方で,
Tetrahymena-Flectobacillus
の関係は全体の群集動態よりは Flectobacillus そのものの存在の可否
に関係することが示唆された.
89
口頭発表 3 月 7 日(木) H 会場 16:30-17:30
H1-09
H1-10
齢 - サイズ構造モデルにおける不確実性を含む生活史の
空間構造のある個体群の動態予測とモデル選択:ウナギ
個体群に着目して
最適戦略モデル
* 箱山 洋(水研セ / 海洋大),藤森宏佳,児玉紗希江(水研セ)
大泉嶺 *(北大 環境),高田壮則(北大 環境)
限られたデータから将来を予測する上で、用いる統計モデルの選
択は重要な問題である。絶滅危惧種の保全や水産資源の管理などで
は、全体の個体数の変動に主たる関心があるが、その予測には必ず
しも現実的で詳細なモデルが優れている訳ではない。例えば、ウナ
ギは海洋での産卵場を共有し、成長期は各地の河川や沿岸域で過ご
すことから、その個体群は空間構造を持つが、全体の個体数の変動
を予測するのに、モデルに取り入れるべき構造はデータ量に依存し
て異なってくる。では具体的にはどのモデルがよいのか?ここでは、
ウナギを想定した空間構造を考慮したオペレーティングモデル ( 現
実の状況により近い確率モデル ) と、空間構造のない近似確率モデ
ルを構築し、あるデータ量に対して、どちらが予測の上で優れてい
るかを検討した:(1) 対応する決定論モデルについて、どのような
パラメータ領域(近似)で動態式が一致もしくは近くなるのかを調
べて(モデルアグリゲーション)、(2) 各モデルの最尤推定量を構築
し、モンテカルロデータを用いて、AIC(Akaike information criterion)
な ど の 近 似 規 準 や カ ル バ ッ ク ラ イ ブ ラ ー 不 一 致 (Kullback-Leibler
discrepancy) の直接計算によるモデル選択を行い、近似モデルの予測
パフォーマンスを明らかにした。(3) 日本全国の河川湖沼における過
去 50-100 年のウナギ(キウナギ)の漁獲量データから、日本全体・
地域・県・河川湖沼という 4 つの複雑さのモデルを用いて、日本全
体のキウナギ漁獲量の予測を行った。これらによって、現実的なデ
ータ量に対する予測精度の最も高いモデルを明らかにし、また、限
られた予算に対してどの項目を調査し、予測に生かすべきかを判断
することができる。結果については、講演で報告する。
個体群生態学において生活史と個体群動態の関係性を明らかにす
ることは重要な課題である.理論分野におけるその取り組みは決定
論において数学的にどのような評価関数を最大にする生活史戦略が
個体群増加率を最大にするかが示されている.その評価関数とは繁
殖成功度を齢について Laplace 変換したものである.この関数は推
移行列モデルや Mckendrick 方程式の解析から自然に導かれるもので、
Euler-Lotka 方程式を構成するものである.これら二つのモデルは共
に線形であり状態が離散か連続かの違いでしかない.我々は個体群
生態学に用いられるこれらのモデルを線形人口モデル (LDM) と呼ぶ
ことにする.
近年、LDM を用いた実証研究は環境変動の個体群増加率への影響
の解析に注目が置かれている.しかし、環境変動を確率的なノイズ
と捉えた場合、そこにはいくつかの場合が存在する.例えば、有限
の人口のせいで引き起こされるノイズ、毎年の気候によるノイズ、
個々体の採餌、繁殖行動、遺伝などがもたらす潜在的なノイズなど
が考えられる.これらのノイズの原因を実際の野外調査のデータか
ら見分けることは非常に難しい.Pfister(1998) は 30 種類の系統的に
無関係な種について個々の LDM を用いた解析から、最も個体群増
加率に寄与する状態への推移確率は分散が小さい事を発見した.こ
の解析によれば生物は何らかの形で確率制御を行っていることを意
味する.
そこで本研究では個々体が潜在的に持つ成長率のノイズに着目し、
時間、状態ともに連続な LDM を構築した.そのとき、我々は新た
な LDM の表現方法として経路積分による定式化導入し、サイズ成
長が拡散過程に従う場合の評価関数の導出、最適生活史戦略の解析
手法と決定論と確率論の相違を紹介するつもりである.
H1-11
H1-12
最適リアクションノルム: 環境変動は必ずしも表現型可
都市田舎の移動モデルーランダム移動と都市スケールの
塑性を促進しない
影響
* 山内淳(京大・生態研センター),高橋大輔(京大・生態研センター)
* 山村則男,内海力司(同志社大・文化情報)
同一の遺伝子型から環境に応じて異なる表現型が作り出されるこ
とを表現型可塑性といい、環境状態に対するその表現型の関数形を
リアクションノルム(反応規範)と呼ぶ。また特に、その反応が生
物にとって有利な場合を適応的な表現型可塑性といい、その進化は
いくつかのタイプの理論モデルによって解析されている。一つのタ
イプは、環境状態が予測不可能で、なおかつ異なる環境への適応に
トレードオフが存在することを仮定したモデルである。別のタイプ
のモデルは量的遺伝モデルによるもので、それは異なる環境での表
現型が多面発現の効果やリアクションノルムの連続性よって相互に
制約されることを考慮している。これらのモデルは「表現型に可塑
的を持たせること、それ自体にともなうコスト」を考慮していなか
った。そこで、「可塑性を持つことのコスト」を取り入れた最適化モ
デルを定式化して解析を行った。モデルではベースとなる形質値を
作り出すことと、さらにそこから環境に応じて形質値を変化させる
ことにそれぞれ異なるコストが伴うと考えた。また、形質の可塑的
な変化に伴うコストには、ベースからの変化量そのものに応じたコ
ストがかかる場合と、類似した環境の間で形質を変えることでコス
トが生じる場合を仮定した。適応的な表現可塑性は変動環境に対す
る適応であり、直感的には環境変動が大きい方がその進化が促進さ
れると考えられる。しかしながら本モデルの解析により、その予測
は必ずしも正しくないことが示された。環境変動が小さい場合には
稀な環境への対応をあきらめることでかえって表現型の変化が大き
くなる一方で、環境変動が大きくなると様々な環境にまんべんなく
対応しなければならないためにベースライン自体を高めて可塑性を
小さくする場合がある。その結果として、状況によっては環境変動
の増大により表現可塑性の進化が抑制されることも起こりうる。
Yamamura et al. (2012) は、世界の大都市における都会への人口の
集中と田舎への U ターンのパターン、および、モンゴルにおけるウ
ランバートル市域への人口集中を説明するための人口移動の数理モ
デルを構築した。その基本モデルでは、田舎の人口と田舎の自然資
源量を変数とし、田舎と都会の 2 地点の価値の差に比例して、価値
の低い地点から価値の高い地点へ一方的に移動が起きると仮定され
た。田舎の価値は自然資源の豊富さで決まり、それは人口が増える
と減少するとされ、都会の価値は一定とされていた。今回のモデル
では、価値に依存しないランダム移動を加えること、都会の価値を
都会の人口の関数として置き換えたることの2つの拡張を行った。
基本モデルでは、都会の価値が増加するにつれて、田舎のみに人
が住む状態、田舎と都会の両方に住む状態、都会のみ人が住む状態
が実現された。ランダム移動を考慮すると常に両方に人が住む状態
となるが、人口分布のパターンは、基本モデルの結果を滑らかにし
たものになった。また、総人口が増加するとき都会の人口のみが増加
するという基本モデルの特徴も、滑らかになりはしたが維持された。
都会の価値が、人口が少ないときはその増加関数であり多くなる
と減少関数になるという密度依存関係を導入すると、移動の大きさ
を表す定数がある値以上という条件下では、田舎と都会の人口移動
が周期的に繰り返されること ( リミットサイクルの存在 ) が分かっ
た。
90
口頭発表 3 月 7 日(木) J 会場 14:30-15:30
J1-01
J1-02
インドネシアの国立公園における野生生物保護と住民利
インドネシア、北スラウェジ、タラワアン川流域におけ
用の両立を図る−ジャワ島での事例
る水銀汚染調査
* 杉村乾(森林総研・企),Wim Nursal,Age Kridaraksana(国際林研
セ・環),Dones Rinaldi(ボゴール農大・林)
* 森 敬介(国水研),マルクス ラスート(サムラトゥランギ大・海洋水産)
本地域では 1996 年に新しい金の鉱床が発見され、1998 年から小
規模の金鉱石の精練所が作られ、年々増加している。そこから環境
への水銀流出が起こっている。2011 ー 2012 年に川に沿った 3 つの村
を選び、底泥、魚類と餌生物、住民の毛髪の採集調査を行った。3
つの村の概要は次の通りである。Talawaan Dimembe 村(TD):上流
域、精練所集中地区の直下で、人口 2,500 で隣接した他の村との交
流がある ;Talawaan Atas 村(TA):中流域、孤立した農村、人口
900; そして、Talawaan Bajo 村(TB):河口域、孤立した漁村、人
口 1,500。3 つの村の複数の調査地点で、堆積物サンプル 200 個、魚
と餌生物(底生動物)300 サンプル、および人間の毛髪サンプル 500
個を得た。全サンプルの総水銀(THg)と選択したサンプルのメチ
ル水銀(MeHg)を分析した。生物濃縮で重要となる魚類の食性を確
認するために、胃内容物を調べた。
高い水銀濃度を示した魚はすべて肉食魚で、特に TD で高い値を
示したが、他の場所でも確認された。しかし、草食魚の全ては低い
値を示した。TD における底泥と魚の総水銀濃度(THg) の最大値は
1.14 ppb および 1.30ppm であり、その他の 2 つの村(底泥:0.11 と
0.07ppb、魚 0.33ppm と 0.74ppm)より高かった。TD における底泥と
魚の高い水銀値は、精練所からの水銀流出に由来しており、下流へ
いくほど薄まっている。しかし、毛髪の水銀値に関しては、TD(サ
ブサンプルによる平均 THg=1.94 ppm)は TB(2.77ppm)と TA(1.19ppm)
との中間の値を示した。底泥、魚類と餌生物、毛髪の水銀濃度を比
較し、3 つの村における水銀汚染レベルと生物濃縮状況の違い、お
よび住民への影響について検討する。
ジャワ島西部に位置するグヌンハリムンサラク国立公園を調査
対象地に設定し、固有種の保全と地域住民による持続的な森林利用
との両立を図ることを目的とする研究を行った。同公園では、ジャ
ワテナガザル、ジャワヒョウ、ジャワクマタカを指標種に選び、公
園職員が観察した地点を記録しており、その記録をもとにデータベ
ースを構築した。さらに、ジャワヒョウを対象にカメラを設置し
た。また、指標種と周辺住民の森林利用との関係を把握するために、
GPS を併用した調査を行った。
指標種の観察地点と公園の境界線からの距離との関係を解析した
結果、耕作放棄地、人工林、若齢二次林などの二次的自然が主であ
る境界付近において、いずれの種も多く観察された。なかでもジャ
ワクマタカの観察頻度が高かったのに対し、ジャワヒョウはより境
界から離れた地点で頻度が高かった。一方、住民による森林利用の
大半は公園または森林と農地の境界からほぼ 500m 以内において、
家畜の飼料となる草本や燃料用の小枝などを採取する活動がほとん
どであった。
インドネシアの国立公園はアメリカの制度を導入したため、当初
から住民利用の排除を試みていた。いくつかの国立公園におけるゾ
ーニングを確認したところ、一部の利用を認める方向へと法律が改
定された 2004 年以降も、大半の区域で原生的自然を保護、または回
復させることを基本としていることがわかった。しかし、3種の指
標種を合わせると食性の幅かかなり広いことやそれらの生息状況を
見る限り、必ずしも大半を原生的自然として保護する必要はないと
考えられる。天然林を保護しつつ、地域住民の伝統的かつ小規模な
利用を認める制度の方がインドネシアの地域事情により適合してい
る可能性が示唆されたと言える。
J1-03
J1-04
土地被覆変化に伴う生物多様性 / 生態系機能分布の推定
地形修復による在来淡水魚の繁殖環境回復実験ー 2 年目
と新しい保全理論:マレーシア・サラワク州の事例から
の成果ー
* 石井励一郎(海洋研究開発機構),酒井章子(地球研),谷内茂雄(京都
* 西野麻知子(びわこ成蹊スポーツ大),井上栄壮(琵琶湖環境科学研究セ),
辻野寿彦,川瀬成吾,細谷和海(近畿大),大野朋子(大阪府大),前中
久行
大・生態研),山村則男(同志社大・文化情報)
人間による陸域の生態資源利用の持続性を、社会 - 生態システム
に不可欠な 3 要素 (1 ∼ 3) のみからなる単純化したネットワーク構造
をもつ数理モデルを用いて検討した。1) 自然生態系土地被覆の関数
として規定される生態資源 ( 以下「資源」) およびその他の生態系サ
ービス(以下「サービス」)、2) 資源とサービスに依存する地域住民
の効用、3) 地域外社会にこの資源を流通することで経済的利得を得、
その他のサービスには依存しない企業の規模。
以下の 3 つの資源利用形態(i ∼ iii)について各要素の持続条件を
求めた。
i) ローカルに閉じた地域生態系で、資源は住民によってのみ利用
される。
ii) 資源は住民によって直接収穫され、企業は地域住民から購入し
間接的に利用する。
iii) 資源は住民と企業体のいずれからも、直接収穫される。
結果は次の通り:
i): 利用可能な資源、サービス供給ともに、住民は負のフィードバ
ックを受け、両者の持続条件は資源の再生産と収穫の速度から求ま
る。
ii): 住民の効用は直接的資源利用と、売却による間接収入により決
まるので、i) にくらべ資源の収穫が促進されやすくなる。サービス
の減少による負のフィードバックのかかり方が資源の持続条件を規
定する。
iii): 資源は住民と企業体の両者から収穫を受けるが、住民の資源
利用が資源、サービスの減少から負のフィードバックを受けるのに
対し、企業はこれをうけず持続条件は外的要因を必要とする。
iii) の構造を持つ熱帯林減少に対して、企業の木材資源利用に有効
な負のフィードバックを与える動機づけメカニズムをサラワクでの
事例研究から考察した
琵琶湖周辺の湿地帯、「西の湖」で、コイ科等の在来魚とオオクチ
バス、ブルーギルなど外来魚の繁殖環境を調査したところ、水際が
緩やかな傾斜の地域では在来魚仔稚魚が多く、水際が崖状に落ち込
んだ地域では外来魚仔稚魚が多いことが分かった。
そこで、崖状の湖岸をなだらかな地形に修復すれば、在来魚の繁
殖環境の改善につながるのでは?と考え、2011 年 3 月、関係法令の
許可を受けたうえで、「西の湖」の一部の湖岸で地形修復のための工
事を実施した。実験地の幅13m、奥行23m、重機で表土をすき
とることで、緩やかな傾斜を造成した。
工事前年の調査では、実験予定地・対照地では、ともにオオクチ
バス仔稚魚が優占し、コイ科仔稚魚はほとんど採集されなかった。
しかし工事実施後、実験地では、2011 年 4 月下旬にコイ科と思われ
る成魚が目視確認され、5 月上旬には、コイ科魚類の卵が1回の調
査で 390 個、中旬にはコイ科仔稚魚が 25 個体採集され、下旬にはタ
ナゴ科稚魚が 3 尾採集された。一方、対照地では、コイ科魚類の産
着卵がわずかに確認されたものの、仔稚魚はほとんど採集されなか
った。
翌年も同様の調査を行うとともに、実験地、対照地ともに人工産
卵床(キンラン)を設置し、産卵床設置の影響についても検証を行
った。
2012 年は実験地・対照地とも、オオクチバスとブルーギル仔稚魚
が前年より多く採集されたが、実験地のコイ科仔稚魚数は前年とよ
く似た傾向を示した。また実験地・対照地とも、同一地点ではキン
ラン上で多くのコイ科の卵・仔稚魚が採集された一方、外来魚仔稚
魚はほとんど採集されなかった。これらの結果から、水際の形状を
修復することに加え、修復地域に人口産卵基質を設置するなどの手
段を併用することで、在来魚の繁殖環境をさらに改善できると考え
られた。
91
口頭発表 3 月 7 日(木) J 会場 15:30-16:30
J1-05
J1-06
博物館標本と聞き取り調査によって朱太川水系の過去の
ヌマムツの遺伝的多様性と大阪府堺市の河川における個
魚類相を再構築する試み
体群動態
* 宮崎佑介,吉岡明良,鷲谷いづみ(東大院農)
* 松岡悠,平井規央,石井実(大阪府大院・生命・昆虫)
朱太川水系の過去の魚類相を再構築することを目的として、博物
館標本と聞き取り調査を行なった。
美幌博物館、北海道大学総合博物館水産科学館、市立函館博物館、
国立科学博物館において、朱太川水系から採集された魚類標本調査
を行ない、13 種の魚類標本の所在を確認することができた。しか
し、市立函館博物館の 1923 年以前の標本台帳に記されているイトウ
Hucho perryi 標本の所在は不明であった。
また、朱太川漁業協同組合の関係者 18 名に過去の朱太川水系の魚
類相に関する聞き取り調査を行ない、42 種の魚類の採集・観察歴に
ついて情報を得た。同定の信頼性が高いと考えられるのはそのうち
34 種であり、地域の漁業協同組合の保護・増殖の対象種であるかど
うかと、聞き取り対象者が生息量の減少を認識していたかどうかは、
有意に相関していた。カワヤツメ Lethenteron camtschaticum などの氾
濫原湿地を利用する魚類の生息量の減少を指摘する回答者が 12 名い
た。
現在は見られないイトウが過去に確かに生息していたこと、カワ
ヤツメの生息量が急減したことが聞き取りからほぼ確かであること
が判明し、黒松内町の生物多様性地域戦略における自然再生の目標
設定、すなわち「氾濫原湿地の回復」の妥当性が確認された。
多くの人々が関心をもって採集・観察してきた生物種については、
聞き取り調査によって生息量の変化に関する情報を得ることができ
る可能性が示唆された。
ヌマムツ Nipponocypris sieboldii (コイ科,以下本種)は,従来,
カワムツ A 型として扱われてきたが,2003 年に独立種とされた.本
種は主として西日本に分布し,大阪府 RDB では絶滅危惧Ⅰ類にラン
クされている.本研究では,本種の保全のための基礎的な知見を得
るため,野外調査と採集を行い,得られた個体を用いて DNA 解析を
行った.調査は 2011 年 3 月∼ 2012 年 12 月に,大阪府および周辺府
県の河川で,主としてすくい採りによって行った.その結果,大阪
府 4 水系 8 カ所,京都府 2 水系 2 カ所,兵庫県 2 水系 2 カ所,滋賀
県 1 水系 2 カ所,奈良,和歌山,三重,福井,岡山,徳島,香川各
県 1 水系 1 カ所において本種の生息を確認した.遺伝子解析は,大
阪府産 83 個体と他府県産 91 個体から DNA を抽出し,ミトコンド
リア DNA の Cyt b 領域(1,152bp)の配列を決定して比較した.その
結果,29 塩基対に変異が認められ,全体で 23 ハプロタイプ,大阪
府のみでは 18 ハプロタイプが,それぞれ確認された.河川や支流ご
とに固有の変異が認められ,異なる水系間では分化が大きい傾向が
認められた.また,支流ごとに遺伝的な分化が見られた地点もあり,
遺伝的交流の範囲は比較的狭いことが示唆された.さらに,本種の
個体群動態を明らかにするために,大阪府南部の石津川支流におい
て,2012 年 5 月∼ 2013 年 1 月に原則として 2 週間に 1 回,蛍光イ
ラストマー標識を用いた標識再捕獲調査を行った.16 回の調査で計
616 個体に標識し,再捕獲は約 8 カ月にわたってのべ 167 回であった.
捕獲個体の平均体長は初夏から秋にかけて増加し,冬はほとんど変
化しない傾向が認められた.
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東日本大震災後の湧水生態系の回復:水域復活によるイ
ニホンウナギの保全における河口域の重要性
トヨの生息域拡大
* 海部健三(東大・院農),青山潤(東大・大海研),塚本勝巳(東大・大
海研),鷲谷いづみ(東大・院農)
* 森誠一,久米学,西田翔太郎(岐阜経済大),北野潤(遺伝研),鷲見哲
也(大同大)
ニホンウナギは重要な水産資源であるが、その個体数は急減少し
ている。近年になって、本種が陸水に加入する際、河川河口域で初
期の数年間を過ごす可能性が報告された。しかし、この報告は単水
系(児島湾・旭川水系)、単年度(2007-8 年)に限られたものであり、
時空間的な一般性は確認されていない。本研究では、本種若齢魚の
より一般的な成育場を明らかにすることを目的として、児島湾・旭
川水系における複数年にわたる調査を実施し、そのデータを他水系
の既存データと併せて評価した。
2007 年 9 月より 2010 年 8 月まで、岡山県児島湾・旭川水系に計
12 定点(河川淡水域、河川汽水域、湾域)を設け、定量的採集を毎
月行った。耳石から推定した年齢(n=454)は河川汽水域(表層塩分
= 10.1、平均±標準偏差 =4.6 ± 2.1 歳)で最も低く、河川淡水域(淡水、
7.9 ± 2.4 歳)と湾域(17.7、5.8 ± 1.8 歳)ではそれより有意に高か
った。また、加入後 3 年未満の若い個体(n=26)は,河口域のみで
採集された。全長(n=544)は河川汽水域(443.7 ± 115.7mm)で最
も小さく,河川淡水域(518.1 ± 93.0mm)と湾域(558.7 ± 85.9mm)
で有意に大きかった。個体密度は河川汽水域(CPUE:6.4 ± 8.3 尾
/100 筒)で最も高く、河川淡水域(3.3 ± 6.4)と湾域(3.9 ± 7.6)
で有意に低かった。これらの傾向は、調査期間を通じて一致していた。
大分県安岐川で行われた同様の調査からも、河川汽水域上流部で
採集された個体は、上下流域の個体より有意に若く、体サイズが小
さいこと、および最も若い個体(2 歳)が、同水域で採集されたという、
同様の傾向が報告されている。
これらの知見から,河口域は、ニホンウナギの初期成育場であり、
本種にとって保全上重要な水域であると結論できる。
岩手県大槌町は 2011 年 3 月 11 日に発生した大津波により,人口
のほぼ1割の死亡・行方不明と市街地の 85%以上の壊滅という重篤
な被災を受けた。我々は 1990 年代および震災直後からも、同町の湧
水域に生息するイトヨの生態調査を、水文調査を含めて継続してき
た。これらの生息地の環境は大きな被害を受けたが、一方で、倒壊
した市街地跡には地盤沈下と湧水湧出によって新たな水域が広い範
囲で生じた。新しい水域自体は震災当年にも出現していたが、瓦礫
堆積のため現在よりも小規模で水系ネットワークが分断されて湧水
量も少なく、水質は悪化していた。2012 年7月、我々はこの新しい
水域で汽水性ハゼ類とともにイトヨ群を発見し、営巣活動や稚魚の
確認をした。これまで同町には淡水型イトヨが2つの河川流域の湧
水域に定着し、これら河川本流を通して遡河型イトヨが春に遡上す
ることがわかっている。本発表は、今回発見されたイトヨ集団の形
態学・遺伝学的解析を周辺集団と比較し、かつ津波の挙動から、ど
の生息地からどのような経路で進入してきたかを示唆し、新生息地
における生態・生活史を成長や餌および水質環境の検討から現状を
記載する第一報である。本新規集団は淡水型と遡河型などから構成
されていることがわかり、また 12 月になっても降海せずに多くの群
れが残存していた。この集団の起源と実態を解析していくことは、
津波に伴う分布拡散による新規生息地における生物の適応現象を示
す好題材ともなろう。
92
口頭発表 3 月 7 日(木) J 会場 16:30-17:30
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塩性湿地依存性希少ベントスの東京湾での分布特性
東京湾の干潟再生戦略:アサリ個体群の遺伝的構造解析
* 柚原 剛(東邦大・院・理),多留 聖典(東邦大・東京湾セ),風呂田 利
夫(東邦大・理)
を基に
北西滋 (
* 水研セ・瀬戸内水研),川根昌子(奈良女大),風呂田利夫(東邦大),
中山聖子(東邦大),大越健嗣(東邦大),浜口昌巳(水研セ・瀬戸内水研)
東京湾では戦後の大規模な埋立で,干潟上縁部の塩性湿地が消失
し,そこに依存的に生息するベントス種の絶滅危惧化・希少化が進
行している.そこで,東京湾の塩性湿地依存性の希少ベントスの生
態の解明および保全を目的として,生息状況の調査結果から各種の
分布特性と生息規定要因を推定した.
東京湾沿岸部 31 カ所の干潟域の塩性湿地を調査地とした.2010
∼ 2012 年にかけて各調査地で年複数回,マクロベントス種の生息状
況を記録し,確認された種のうち「干潟の絶滅危惧動物図鑑」(日
本ベントス学会,2012)で「準絶滅危惧」以上のカテゴリに指定さ
れている 14 種を解析の対象とした.各調査地の間隙水塩分・底土・
ORP 値を採集,計測し,GIS から各調査地の地盤高・植生面積・調
査地点間の距離を環境要因として求めた.以上の環境要因を説明変
数,各希少種の在・不在を応答変数として,GLM を用いて解析した.
その結果,分布特性の説明モデルとして 6 種が選択された.クリ
イロカワザンショウは塩分(+),ヒメアシハラガニは地盤高(−),
ベンケイガニは地盤高(+),ヒナタムシヤドリカワザンショウは底
質中央粒径値(−),クシテガニは塩分(+)と地盤高(−),ウモ
レベンケイガニは塩分(+)と底質中央粒径値(−)であり,塩性
湿地環境内での種の選好性が示された.またクリイロカワザンショ
ウ,ヒメアシハラガニ,クシテガニは湾奥部から湾東部,ヒナタム
シヤドリカワザンショウ,ベンケイガニは湾奥部から湾西部,ウモ
レベンケイガニは東京湾全域に分布していた.湾東部分布の希少種
は高塩分と低地盤高に,湾西部分布の希少種は泥質と高地盤高に生
息する傾向が示された.東京湾は湾西部に江戸川,荒川,多摩川の
大河川が集中し,河岸地形の形成,淡水流入に伴う塩分差が,塩性
湿地依存希少ベントスの分布に影響している可能性が示唆された.
東京湾では、高度経済成長期に埋め立てなどの海岸開発により、
多くの干潟が失われてしまった。それに伴い、干潟に生息するベン
トス類の減少が危惧されえている。特に、干潟の代表的な生息種で
あるアサリ Ruditapes philipinarum の漁獲量は 1970 年頃の年間 6 ∼ 8
万トンをピークに減少を続けており、その資源の保全・再生は急務
となっている。一般に、干潟ベントス類のほとんどの種は浮遊幼生
期を持ち、浮遊幼生を通じた個体群間の交流が生じていることが知
られている。そのため、本種を適切に保全・再生するためには、各
個体群間の交流の有無とその程度などの情報が不可欠である。本研
究ではマイクロサテライト DNA マーカーを用いて、東京湾におけ
るアサリ個体群の遺伝的構造を明らかにし、保全遺伝学的観点から、
本種のより適切な保護管理策の立案に寄与することを目的とする。
解析は、マイクロサテライト DNA6 遺伝子座を用い、東京湾の主要
生産地を網羅する7個体群(野島公園、羽田、葛西、三番瀬、千葉
ポートパーク、小櫃川、富津)545 個体を対象に実施した。解析の結果、
個体群間の遺伝的分化の程度は非常に小さく(全 FST < 0.0066)、
距離による隔離の効果も認められなかったことから、全ての個体群
間において浮遊幼生を通じた頻繁な遺伝的交流が生じていることが
示唆された。
J1-11
J1-12
SSR マーカーを用いたサクラソウの花型識別の試み
遺伝マーカーを用いた熱帯性海草ウミショウブの地域個
体群維持機構の解明
* 吉田康子(神戸大院農・食資源 C),上野真義(森林総研),大澤良(筑
波大院・生命環境)
* 中 島 祐 一, 松 木 悠( 東 大・ ア 生 セ ),Dan Arriesgado( 東 工 大・
, 練 春 蘭( 東 大・ ア 生 セ ),Miguel Fortes(Univ. of
院・ 情 報 理 工 )
the Philippines),Wilfredo Uy(Mindanao State Univ.),Wilfredo
Campos(Univ. of the Philippines),仲岡雅裕(北大・フィールド科学),
サクラソウ(Primula sieboldii , 2n=24)は北海道から九州及びアジ
ア北東部に分布する異型花柱性の他殖性草本である。現在は個体数
の減少により、準絶滅危惧種に指定されている。野生集団の長期的
な存続に不可欠な種子生産においては、集団内の長花柱花と短花柱
花が同じ比率であることが望ましい。しかし花型は目視によって識
別されるため、調査が開花時期に限定されること、また毎年全ての
個体が開花しないことなどから正確な花型比の把握は困難であった。
そこで本発表では、保全方策確立のための花型比のモニタリングを
目指し、個体の生育状況に左右されない DNA マーカーを用いた花
型識別を試みた。
北海道と長野地域由来の個体を用いた四系交配家系 192 個体を用
いて、連鎖地図の作成および S-locus の位置を推定した。さらに異型
花柱性に関わる形質として、花筒長、柱頭高、葯高、葯長の 4 つの
花器形質の QTL 解析を行った。S-locus から 1cM 以内に座上した 4
遺伝子座について、各座の対立遺伝子と S または s 対立遺伝子との
連鎖関係を推測した。これらの連鎖関係に基づき、野生 163 個体と
園芸品種 54 個体の花型を推定した。
14 連鎖群からなる全長 602.9cM の連鎖地図において、S-locus およ
び各形質の寄与率の高い QTL がそれぞれ連鎖群 7 で検出された。こ
れらの結果は連鎖群 7 に異型花柱性を制御する遺伝子が存在するこ
とを示している。野生個体と園芸品種の花型の識別を試みたところ、
座ごとに推定される花型が異なる個体が見つかるなど、100% の識別
率とはいかないものの、S 対立遺伝子に連鎖した対立遺伝子の有無
で花型識別が可能であることから、217 個体のうち約 8 割の 171 個
体の花型を識別することができた。この結果は DNA マーカーが集
団の花型比のモニタリングに有効であることを示している。
灘岡和夫(東工大・院・情報理工)
海草の分散の程度を繁殖特性とともに推定することは、海草藻場
の保全を考える上で欠かせない。本研究では、フィリピン北西の約
15km のスケールを対象に、マイクロサテライトマーカーを用いた集
団遺伝学的解析により熱帯性海草ウミショウブ(Enhalus acoroides )
の分散の程度の推定、および繁殖特性評価を行った。
45m × 45m のプロット 9 個を設定し、5m 間隔のグリッドの各格
子点上で計 634 個体のウミショウブを採取、解析した。遺伝子型と
解析個体数の比である Clonal diversity は各プロットで 0.69 ∼ 1.00 と
なり、単一ジェネットが見られた個体間の最長距離は 25m であった。
Autocorrelation 解析の結果、個体間の距離と近縁度が相関する例は
少なかった。プロット間の遺伝的分化係数 F ST は -0.002 ∼ 0.121 の値
となり、多くのプロット間で有意な遺伝的分化が示された。アサイ
ンメントテストにより 13 個体が他地点からの移住個体と推定された
が、9 プロットのいずれかに由来するものは 3 個体であった。
以上の結果から、ウミショウブではクローンを形成することは少
なく、個体群の維持には有性生殖が大きく貢献していることが示唆
された。しかし、地点間で遺伝的分化が大きく、ウミショウブの分
散は数 km の距離でも種子・果実等の分散が制限され、長距離分散
の頻度は低いことが示された。
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一般講演・口頭発表
3 月 8 日(金)
生物多様性
動物群集
動物生活史
行動
植物生理生態
群落
進化
分子
物質循環
保全
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96
口頭発表 3 月 8 日(金) B 会場 15:00-16:00
B2-13
B2-14
全国 37 湖沼における純淡水魚類の種多様性と機能的多
定量的な食物網の記載による相互作用強度の評価
様性の時空間的変化
* 中川光(京大院理),竹門康弘(京大防災研)
* 松崎慎一郎(国環研・生物生態系セ),佐々木雄大(東大院・新領域),
京都府由良川中流の優占魚種 7 種とその餌生物の間の捕食被食相
互作用の強さを評価するため、食物網構成種の生息密度および各魚
種の一日あたりの摂餌量と各餌生物の利用頻度を 5 シーズン(4, 6,
8, 10, 12 月)で調査した。各栄養リンクの相互作用強度を「魚体重
1g、1 日あたりの各餌生物の摂餌量」と定義した。また、各魚種の
生物体量に基づき、単位面積あたりの相互作用強度(捕食圧)も推
定した。その結果,年間を通して、7 魚種と 171 分類群との間に合
計 473 の栄養リンクが確認され、そのうち底生動物 165 分類群との
間には 460 のリンクが確認された。各底生動物の出現時期には季節
性が見られ、各季節で 84-101 の範囲の分類群数が観察された。また、
魚類は一部の種が特定の季節に本流部からいなくなるとともに、水
温の関数として推定された体重あたりの摂餌量はどの種でも冬期に
大きく減少した。これらを反映して各栄養リンクは一年の特定の季
節のみ観察されるものが 98.5% を占め、各季節で観察された 140-210
のリンクの強度は季節的に変化した。こうした季節による相互作用
強度の変異は、底生動物の生物体量および体サイズと正の相関を示
したが、個体数とは有意な相関は認められず、魚類の餌選択性が体
サイズや生物体量の大きな分類群に偏ることが、食物網内の相互作
用強度のパターンを決定する原因であると考えられた。各餌生物に
対する魚類の捕食圧は、各魚種の季節的な密度変化を反映して、個
体あたりの相互作用強度よりも大きく季節変化した。これらの結果
をもとに、本発表では、本研究の結果と食物網の相互作用強度の推
定に従来用いられてきた捕食者被食者の体サイズ比に基づく方法に
よる結果を比較する。さらに,野外での直接観察に基づく相互作用
強度推定の利点と発展性についても考察する。
赤坂宗光(東農工大院・農学研)
人為的な生態系改変に対する生物多様性の変化を定量的に評価す
ることは保全生態学の重要な課題である。種数は一般的な多様性指
標であるが、生態系における種間の役割や機能の違いを考慮してい
ない。一方、種の形質の違いを考慮した機能的多様性は、生態系プ
ロセスや機能に関連する有効な指標と考えられている。
一生を淡水で過ごす純水魚類は、淡水生物の中でも脆弱な分類群
であり、わが国でも、レッドリストに記載される種の割合が劇的に
増加している。この危機的状況にもかかわらず、実際にどの程度の
局所絶滅がおこっているのか、機能的多様性がどの程度変化してい
るのかについてはほとんど知られていない。
本研究では、国内 40 湖沼を対象に、過去(潜在的な分布)と現
在(2000 年以降)の在来純淡水魚類相を比較し、種数と機能的多様
性の変化を評価した。魚類相データは、文献や標本資料から収集し、
現在の魚類相については、流入河川の魚類相についても収集した。
出現全種について、資源利用や生活史特性に関する 16 の形質情報を
整理し、機能的多様性を算出した。
結果、現在では、平均すると 28%の種が消失していた。しかし、
流入河川の魚類相を含めると、消失率は 23%だった。これは、湖で
はみられなくなったメダカなどが、流入河川に残存しているためで
ある。機能的多様性も、平均で 25%(流入河川を含めると 19%)減
少していた。種数の変化の大きさと機能的多様性の変化の大きさを
線形回帰した結果、傾きが 0.8 であったことから、機能的冗長性は
低いと考えられた。本発表では、ヌルモデル(ランダムな種の消失
を仮定)を用いて、局所絶滅と機能的多様性との関係について解析
した結果も合わせて紹介する。
B2-15
B2-16
極東域は淡水動物プランクトンの生物多様性のホットス
Genetic diversity of fish communities around Taiwan and
ポットなのか? 全球規模のゾウミジンコの系統地理か
their spatio-temporal variations
ら探る極東域の氷期退避地仮説
* 陳虹諺,岸野洋久(東大・農)
* 石 田 聖 二( 東 北 大・ 生 命 ),Derek J. Taylor(SUNY at Buffalo),
Alexey A. Kotov(ロシア科学アカデミー)
Climate change in conjunction with other human impacts, may ultimately
rearrange the global distribution of marine life. To detect the distortion of
ecosystem, it becomes indispensable to monitor not only some target species
but also whole community. Taiwan is located at a complex convergent
boundary between the Philippine Sea Plate and the Eurasian Plate, and
Kuroshio current runs through the surrounding ocean. By analyzing the
samples from the trawl-net surveys registered in the Fish Database of
Taiwan and the monthly monitoring data at the nuclear power plants in
northern Taiwan, we estimate the α , β , γ - genetic diversity of the fish
community. The database includes 642 species in western Taiwan (10800m below sea surface), 376 species in eastern Taiwan (140-3,879m),
and 332 species in northern Taiwan. We averaged the COI distances as
genetic diversity of 387 targeted fish communities. The low value of the
β diversities of coastal pelagic fish may be due to high gene flow. The
communities of bathypelagic fish had high γ diversities. The samples from
the deep-sea are smaller than the others. This may be the cause of the small
value of α diversity and large value of β diversity of the community.
約 10 万年周期の氷河期サイクルが北半球の生物相に劇的な撹乱
をもたらした。しかし氷床は東アジアに広がらなかったため、極東
域は比較的に温暖湿潤な環境を維持してきたと考えられる。北半球
の温帯から寒帯にかけて広く分布するミジンコ種 Daphnia rosea sensu
lato (i.e., Daphnia dentifera ) の全球規模の系統地理学から、日本には多
様な遺伝系統がのこされ、日本の個体群間では明瞭な地理的構造が
あることが明らかになった (Ishida and Taylor 2007)。極東域のそれぞ
れの地域が氷期退避地として多様な系統が分化し、遺伝的多様性を
創出する場として機能している可能性がある。そこで、全球の温帯
から寒帯にかけて広く分布する別のミジンコ種 Bosmina longirostris
についても同様に全球規模でサンプリングを行い、系統地理のアプ
ローチで遺伝解析をした。本種は 8 つのミトコンドリア遺伝子の系
統群を構成することが分かった。日本には 5 つの系統群が存在し、
そのうち1つは日本に固有な系統で、1つは日本とサハリンに固有
な系統、2つは日本とシベリアに固有な系統、残りの1つは北米か
らシベリア・ヨーロッパにかけて広く分布する系統であった。日本
を含む極東域に固有な系統が多いことから、極東域の氷期退避地仮
説を支持し、極東域の湖沼が氷河期サイクルを通じて多様な淡水動
物プランクトンの系統を維持してきたことを示唆した。
97
口頭発表 3 月 8 日(金) B 会場 16:00-17:00
B2-17
B2-18
Comparison of Species Composition and Abundance
豪雪地において埋雪されたニホンザル糞の生態学的役割
of the Bee Assemblages, Collected by Window Traps,
を考える―糞虫の視点から
among Four Types of Forests in Noto Peninsula, Japan
* 江成広斗(宇都宮大・農),小池伸介(農工大・農),坂牧はるか(宇都
宮大・農)
*Priawandiputra, W., Barsulo, C. Y., Nakamura, K. (Kanazawa University),
Permana, A. D. (Bandung Institute of Technology)
食糞性コガネムシ ( 糞虫 ) は、野生動物の糞を移動・分解し、種
子の二次的散布者として、更には糞から土壌への窒素循環を促進す
る分解者としての生態学的役割を担う。一方、一年の大半、雪で土
壌が覆われる多雪地において、糞虫の活動期間は著しく制限される。
糞虫非活動期において、哺乳類の糞は分解されることなく、雪中に
保存される。春になって、蓄積された冬季の糞は一斉出現するが、
それらがどのように利用・分解されるのか(もしくはされないのか)
は、これまで不明であった。そこで本研究では、多雪地に生息する
ニホンザル (Macaca fuscata ) を対象に、春に大量出現する埋雪糞の生
態学的役割を明らかにすることを目的とした。2012 年 5 月に、ニホ
ンザルの埋雪糞を誘因餌としたピットフォールトラップを白神山地
北東部の異なる複数の森林パッチに設置し、埋雪糞を利用する早春
の糞虫群集を定量評価した。その結果、7 種の糞虫が埋雪糞を利用
しており、そのうちヒメスジマグソコガネ (Aphodius hasegawai ) の出
現頻度は顕著に高かった。今回得られた結果は、春季に大量出現す
る埋雪糞に関しても、糞虫により効率的に分解されている可能性が
あること、更には多雪地にみられる糞虫群集の季節変化 ( 春に糞虫
各種の出現頻度がピークを迎え、その後徐々に減少 ) を説明する可
能性があることを示唆していた。
Noto Peninsula was designated as Globally Important Agricultural
Heritage Systems (GIAHS) in 2011 for its satoyama landscape and
traditional culture. Noto’s satoyama is well-known for rich biodiversity. In
this study, bees (Hymenoptera: Apiformes) were selected as a biodiversity
indicator for Noto’s satoyama forests. Bees were collected monthly from
May to October in 2009 and 2010, using window traps placed at canopy
and ground levels, from 11 forest sampling sites, including 2 evergreen
forests, 1 sugi plantation, 2 deciduous forests and 6 (3 pairs of managed
and unmanaged) red-pine forests. Results were: (1) a total of 426 bee
individuals, belonging to 25 species in 6 families, were collected; (2) bee
species richness, abundance, and diversity were highest in the red-pine
forests; (3) these values were also higher at canopy than at ground in most
forests; (4) no significant difference was found in these values between the
unmanaged and managed red-pine forests; and (5) forest types determined
dominance of particular bee species, e.g. Bombus diversus showed a
positive association with red-pine forests, while Andrena kaguya was
abundant in deciduous forests.
B2-19
B2-20
小流域における水生昆虫群集の種多様性維持に果たす湧
国土規模の鳥類分布決定要因:景観の異質性が影響する
水環境の重要性
時空間スケールの解明
* 渡辺のぞみ,根岸淳二郎(北大・環境),布川雅典,中村太士(北大・農)
* 片山直樹(農環研),天野達也(ケンブリッジ大),山北剛久(JAMSTEC),
小松功武(東大・農),高川晋一(NACS-J,),植田睦之(バードリサーチ),
宮下直(東大・農)
生物多様性の脅威となる人為的インパクトから生物群集・生態系
を効率的に保全するには、生態系の現況把握および生態系における
生物多様性の維持機構を解明することが不可欠である。流域内には、
地表流や土壌浅層部からの水が卓越する『非湧水河川』と、扇状地
末端部で地表面に出現し深層地下水が卓越する『湧水河川』が混在
している。水文過程の異なる 2 つのタイプの河川は、水生生物にと
って物理的に異なる生息場環境を有し、流域内における生物多様性
の維持に貢献している可能性がある。本研究では、両河川タイプの
物理化学特性および水生昆虫の群集構造から、流域スケールにおけ
る種多様性維持に果たす湧水環境の重要性を明らかにすることを目
的とした。
北海道十勝川支流音更川流域(流域面積:740 km2、流路延長:
94km)において、各河川タイプ(湧水・非湧水)を 7 河川ずつ選定
した後、28 の調査区間(上下流区間 / 河川)を設定した。各調査区
間において 2011/12 ∼ 2012/12 の期間中、複数回にわたり物理環境
変量・水質の計測、水生昆虫の採取および河川縦横断測量を行った。
また、表層水を採取し、水の安定同位体比分析を行った。各河川の
物理化学特性と水生昆虫の群集構造を明らかにするため、物理化学
変量に対して主成分分析を、水生昆虫の分類群数(在・不在データ)
に対して非多次元尺度法を行った。さらに、流域における湧水・非
湧水河川の存在比の違いによる種多様性の変化を明らかにするため、
実測データをもとにシミュレーション解析を行った。
流域内の種多様性は、水生生物にとっての生息場環境が物理的に
異なる河川群が存在することによって維持されており、河川タイプ
の違いによる生息場の物理化学環境特性はその流域の地形や水文過
程と強く関係していることが示唆された。
生物多様性国家戦略 2012-2020 では、生物多様性の維持及び回復
を長期目標として掲げている。目標達成には生物多様性を決めるプ
ロセスを国土スケールで明らかにする必要がある。特に森林、農地
や草地など土地利用モザイクから生じる景観異質性は、種多様性の
保全に重要な役割を果たす。しかし景観異質性の影響や空間スケー
ルの種間差は定量化されておらず、土地利用計画のための知見とし
ては不十分である。本研究は、我が国で繁殖する鳥類 57 種を対象と
して各種個体数に景観異質性が与える影響を明らかにする。解析は
環境省モニタリングサイト 1000 森林・草原および里地調査の 314 地
点を用いた。目的変数を各種の個体数 ( 対数 )、説明変数を気候 ( 年
平均気温、年降水量、蒸発散量 )、景観 ( 局所森林率 (50m)、森林率、
多様度指数 ) 及びこれらの 2 次項とした同時自己回帰 (SAR) を行っ
た。景観要因は半径 500m ∼ 10km のバッファを発生させ当てはまり
の良い物を選択した。ここで森林率が中程度または多様度指数が高
いときに個体数が最大になる種を景観の異質性が正に影響する種と
定義した。それ以外の影響は負、また変数が選択されない場合は影
響なしとした。結果、景観異質性の影響は全 57 種中 27 種で正、26
種で負、4 種で無しだった。また広域種・狭域種 ( 定義:第 6 回自然
環境保全基礎調査の確認メッシュ数 300 以上・未満 )、普通種・希少
種 ( 県別レッドリストでの準絶滅危惧以上の指定が 15 県未満・以上
) の比較も行った。どちらも景観異質性が正に影響した割合は前者が
54%(25/46 種 )、後者は 18%(2/11 種 ) だった。結果をもとに、種間差
の原因や近年の里山景観の変化が鳥類に与える影響について議論す
る。
98
口頭発表 3 月 8 日(金) B 会場 17:00-18:00
B2-21
B2-22
鳥類における景観異質性への応答の多様性と生態特性と
中部リニア新幹線計画帯のシダ植物多様性の過去 30 年
の関係
間の変遷
* 直江将司(東大・農),片山直樹(農環研),天野達也(ケンブリッジ大),
* 佐藤利幸・田中崇行・松浦亮介
宮下 直(東大・農)
昨年(2012 年)リニア新幹線の予定コースが公表された。東京か
ら名古屋にかけてほぼ直線的に 250 kmのベルトとなる。ここでは
南北約 30 km、東西へ 250 kmの範囲で、過去(1900 年から 1985 年)
のシダ植物多様性資料(倉田・中池、1976-1996)を基準に、佐藤ら
(1996-2012)の調査資料を整理し、約 30 年間でのシダ植物相の変遷
を比較する。このコースは、水平的にも垂直的にも暖温帯から冷温
帯への移行帯(エコトーン)を含み、植物多様性が高く、日本で唯
一の大陸要素(ヒマラヤ・シベリア)の遺存植物(シダ植物)が確
認されている。開発は慎重になされるべき運命のコースである。シ
ダ植物は日本に 1250 種群、700 種群が分布資料となり、中部地域に
は約 400 種群、リニア予定ベルトには約 280 種群が報告された。新
調査では約 210 種群が確認された。種数は 75%に減っている。新追
加種群は約 30 種(?)であり、100 種が姿を消した可能性がある。
10 kmx 30 kmの範囲での東西比較を行うと、とりわけ名古屋東
部および東京西部において、消失危惧される種群は 50 種および 110
種を超え、人為的な都市化がシダ植物の減少を促した可能性がある。
一方山梨県中央部や長野県南部では 20-30 種群の新侵入や追加記録
ができた。この 30 年間でのシダ植物群移動の大気候の影響も示唆さ
れる。過去と現在で同種群数が記録がなされた岐阜・山梨では、50
%が共通で、25%づつが消失と追加がある。シダ植物は 30 年間で
30%あまりの種構成変遷(Species assembly dynamics) を行うのかも
知れない。今後、リニア新幹線完成には 20 年以上を要すことから、
ゆるやかな植物変遷であってほしいと願う。なお 30 年前のホットス
ポットが消えて全域がなだらかな種数分布となった現実がある。岐
阜・長野の県境の保全が急務である。 現代は人為による「第六の大量絶滅時代」であり、生物多様性の
保全が喫緊の課題となっている。生物多様性低下を減少させる直接
的な手段としては、生物多様性ホットスポットを見つけ保全するこ
とが第一歩である。しかし、気候変動や土地利用の変化によってホ
ットスポットは今後大きく変化する可能性がある。そのため、生物
多様性の「入れ物」として機能する景観構造・気候の役割を明らか
にすることが、人間活動と調和のとれた保全計画やその実践を推進
するうえで必要不可欠である。しかし、景観要因については景観異
質性が生物多様性に正の影響を与えることが指摘されるなど、その
影響が単純ではないことが指摘されている。さらに、対象生物の生
態特性によっても景観要因への応答は異なるだろう。
そこで本研究では日本の国土スケールでのデータが豊富な鳥類を
対象に、景観要因、特に景観異質性に対する応答、またその応答と
生態特性との関わりを明らかにする。さらに、各種鳥類と景観要因
との応答から分布予測を行い、種の分布の重ね合わせから日本にお
ける鳥類のホットスポットを提示する。鳥類データは、環境省の自
然環境保全基礎調査におけるセンサス、アンケート、文献記録デー
タを用い、MaxEnt で解析した。基礎調査のデータは解像度が低い(10
㎞メッシュ)在のみデータであるが、国土の約 70% で調査されており、
希少種を含む多種での解析が可能であり、また現実的なホットスポ
ットを求められる。説明変数は景観要因として森林率、水田率、市
街地率、景観のシンプソン多様度、気候要因として年平均気温、年
降水量を用いた。解析結果を元に、景観異質性と鳥類の応答、また
ホットスポットとの関係を議論する。
B2-23
B2-24
サラシナショウマの種内 3 型の遺伝的分化と交雑
哺乳類のゲノム構造と環境適応能力
* 楠目晴花(信州大院・工・生物),市野隆雄(信州大・生物)
玉手智史(東北大・院・生命),河田雅圭(東北大・院・生命),牧野能士(東
北大・院・生命)
サラシナショウマは生態的な特徴(分布標高,花期,花の香りな
ど)から TypeI,TypeII,TypeIII の 3 つのタイプに分けられる(Pellmyr
1986)
.TypeI は高標高に生育する大型のタイプで,マルハナバチ
類などを主な送粉者としており,8 月半ばから 9 月半ばまで開花す
る.TypeII は中標高以下の林縁に生育する大型のタイプで,花は強
い芳香を放ちチョウ類を送粉者としている.8 月の終わりから 9 月
まで花を咲かせる.TypeIII は低∼中標高の暗い林床に生育する小型
のタイプで,ハエ類やマルハナバチ類を送粉者としており,9 月の
半ばから 10 月半ばまで開花する.生殖隔離をもたらすようなこれ
らの形質における差異はタイプごとの遺伝的分化を示唆する.一方
で,Yamaji et al.(2005)は核リボソーム DNA の ITS 領域の配列から,
全国のサラシナショウマを地理的なまとまりのある 7 つの遺伝子型
に区別した.しかし,送粉型と遺伝子型の関連性は明らかになって
いなかった.また,垂直方向の送粉型の分化と水平方向の遺伝子型
の分化の関連性や送粉型間の生殖隔離についても検証されていない.
そこで本研究では,核リボソーム DNA の ITS 領域に基づいたリボ
タイピングから送粉型と遺伝子型との対応関係を明らかにした.さ
らに,AFLP 解析によってサラシナショウマの送粉型間の遺伝的分化
と交雑の有無を検証した.その結果,3 送粉型は Yamaji et al.(2005)
の 7 つの遺伝子型のうちの 3 つと 1 対 1 で一致した.また,AFLP
解析によっても 3 送粉型が遺伝的に分化していることがわかった.
一方,TypeI と TypeIII,TypeII と TypeIII の間には交雑個体がわずか
ながら確認されたことから,これらの間の生殖的な隔離は不完全で
あることが示唆された.
生物の生息範囲の制限要因を明らかにすることは進化的制約メカ
ニズムの理解だけでなく生物多様性の保全にも重要である。生息範
囲は環境要因と遺伝的要因によって制限され、特に遺伝的要因につ
いてはゲノム中の遺伝的変異が重要であると考えられている。遺伝
的変異の創出機構の一つとして重複遺伝子が着目されており、近年
ショウジョウバエ属において多様な環境に生息している種ほどゲノ
ム中の重複遺伝子が豊富であることが示された。しかし、この傾向
が他の分類群でも観察されるかは明らかではない。さらに重複遺伝
子は全ゲノム重複由来の Ohnolog と小規模重複由来の SSD gene が存
在することが知られているが、ショウジョウバエ属は全ゲノム重複
を経験していないためこれらの重複遺伝子の影響は明らかでない。
そこで本研究では全ゲノム重複を経験した種において同様の傾向が
観察されるかを検証し、さらに、環境適応能力に対する Ohnolog と
SSD gene の影響を明らかにすることを目的とした。本研究では全ゲ
ノム配列が既知である哺乳類16種を用いた。重複遺伝子について
はデータベースから取得したタンパク質をコードしている全遺伝子
に対し相同性検索を行うことで同定した。Ohnolog と SSD gene につ
いては、ヒトで既知である Ohnolog と SSD gene とオーソログな関
係にあるものを候補とした。生息環境多様性指数は各種の生息範囲
内の気候データを基に算出した。その結果、ショウジョウバエ属と
同様に哺乳類において重複遺伝子の割合と生息環境多様性の間には
有意な正の相関が観察された。また、重複遺伝子である Ohnolog と
SSD gene のうち、SSD gene のみが生息環境多様性と正の相関があっ
た。これは多様な環境への適応において SSD gene が Ohnolog よりも
重要な役割を果たしてきたことを示唆している。
99
口頭発表 3 月 8 日(金) B 会場 18:00-18:30
B2-25
B2-26
東日本の細胞性粘菌の観察スケールにより異なる群集動態
交雑のカギをにぎる信号の消失: ヤモリ属数種の鳴き声
足立隼(徳島大・ヘルスバイオサイエンス)
による種認識機構
個体群と種とは生態学における基本概念であるが、その区別は未
だ曖昧である。個体群動態と種の動態の違いを解析するため、伊豆
半島部から本州にかけての領域と北海道における野外の細胞性粘菌
をモデル群集として調査した。その結果、細胞性粘菌個体数の 7 割
程度は Polysphondylium pallidum, Dictyostelium purpureum, P. violaceum
という3種の汎存種が占めた。冬場は細胞性粘菌の個体数は少なか
ったが、夏場は P. pallidum が極相種となり冬場の10倍程度の個体
数を示す一方、春や秋は D. purpureum, P. violaceum その他の少数種
の割合が高くなった。主成分分析により発生が遅く夏場の極相種と
思われる P. pallidum と発生が早く先駆種と思われる D. purpureum/P.
violaceum の間ではニッチの分化が見られた。
各個体群を個体数によりランク付けしたメタ群集の分布は Hubbell
の中立説とよく合致した。細胞性粘菌のメタ群集の空間的スケール
は 10 m 四方以下の土壌で観察された。ところが 18S rDNA 配列によ
る遺伝学的な各種を個体数によりランク付けした分布は中立説と合
致せず、中立的な個体群と適応的な種の動態には別々の選択が働い
たことが示唆された。また ITS の解析により、調査された領域では
北海道から伊豆半島の付け根にまで至る群集と、南伊豆の群集に区
別された。南伊豆の細胞性粘菌は遺伝的には別種程度の隔たりがあ
り、高温耐性を示した。以上の結果は、南伊豆の群集は過去に島で
あったことを反映した地理的隔離による種分化の途上にあり、個体
群動態と種動態の違いを解析できる興味深いフィールドであること
を示唆している。中立説がよく当てはまるとされている被子植物の
種は実際には個体群のプロットになっている可能性が考えられた。
城野哲平(京大,理)
同所分布する近縁種間では、異種との繁殖干渉による適応度の低
下を避け、種の独立性を維持するために、配偶相手を正確に認識す
るためのシグナルがしばしば進化する。日本に分布するヤモリ属 8
種は、分布が重なっているにも関わらず交雑しない種の組み合わせ
がある一方で、自然交雑を起こしている種の組み合わせも存在する。
生殖前隔離としての求愛シグナルの種間差が、このような交雑状況
の違いを生み出しているのではないかという仮説を検証するため、8
種の鳴き声構造を比較した。その結果、4 種が種特異的な規則正し
いパタンの鳴き声で求愛し、残りの 4 種は規則的なパタンのない鳴
き声で求愛することが分かった。また、交雑しない種の組み合わせ
6 組中 4 組では、両種が共にそれぞれ種特異的なパタンの鳴き声を
示した。一方、交雑する種の組み合わせ 4 組では全てにおいて、片
方の種が種特異的な鳴き声をもっていたが、他方の種はパタンのな
い鳴き声だった。これらの結果から、種特異的なパタンの鳴き声を
もつヤモリ属ヤモリは、鳴き声を種認識に用いていることが示唆さ
れた。鳴き声にパタンのない種は種を区別できないため、交雑が生
じると予測された。この予測を検証するため、種特異的なパタンの
鳴き声をもつ種とパタンのない鳴き声をもつ種を用いて、メスに対
するオスの求愛の鳴き声のプレイバック実験を行い、メスの鳴き声
の選好性を調べた。その結果、種特異的な鳴き声の種のメスは全て
自種オスの鳴き声を選好した一方で、パタンのない鳴き声の種のメ
スはそのような選好性を示さなかった。以上の結果から、鳴き声の
種特異的パタンは種認識シグナルとして機能していることが証明さ
れ、鳴き声にパタンがない種は種認識能を失っていることが示唆さ
れた。先行研究における 7 属 20 種全ての鳴き声が規則正しいパタン
をもった構造であることから、規則正しいパタンの鳴き声がより祖
先的な形質であると考えられた。
100
口頭発表 3 月 8 日(金) C 会場 15:00-16:00
C2-13
C2-14
半島マレーシア中小河川における外来魚の現状
外来魚は侵略的なのか侵入的なのか? - 半島マレーシア
* 山下奉海,鹿野雄一,佐藤辰郎,島谷幸宏(九大工)
中小河川の事例 鹿野雄一 *,山下奉海,佐藤辰郎,島谷幸宏(九大工)
東南アジアの淡水域には、多くの外来魚が導入されている。導入
された外来魚は、在来魚を駆逐することで地域の生物多様性を劣化
させ、ひいては人々に経済的損失をもたらすといわれている。既存
の文献やデータベースでは、マレーシアの半島マレーには 12 種ほど
の外来魚が定着していると報告されている。しかしこれらの報告の
多くは、ある一時期の限られた地域の断片的な情報をもとにしてい
るものであり、現状で半島のどこにどのような外来魚が存在してい
るかの詳細は明らかとなっていない。したがって、今後半島マレー
の淡水生態系に対する外来魚のインパクトをはかるうえでは、広域
的な視点での外来魚分布状況を整理する必要がある。
本研究では、半島マレー淡水域での外来魚の分布状況を整理す
ることを目的に、半島広域の中小河川 35 地点で魚類調査を行っ
た。調査の結果、既存研究で報告事例のある外来魚 5 種(Carassius
auratus 、Gambusia affinis 、Poecilia reticulata 、Oreochromis niloticus 、
Pterygoplichthys sp.) と 報 告 事 例 が な い と 考 え ら れ る 外 来 魚 3 種
(Poecilia sphenops 、Ancistrus ranunculus 、Rhinogobius giurinus ) が
確 認 さ れ た。 こ の う ち O. niloticus は 9 地 点、P. sp. は 7 地 点、P.
reticulata は 6 地点で確認され比較的出現頻度が高かった。
本研究では、今冬に半島マレーの別地点で同様の調査を行う予定
である。発表では、その結果も併せて報告する予定である。また、
半島マレーでの外来魚の分布状況と地理条件、生息環境、水質など
の関係についても簡潔に報告する予定である。
半島マレーシアの中小河川における外来魚(ティラピア類,プレ
コ類,グッピー類など)について,それが「侵略的」に生息するのか「侵
入的」に生息するのかを検討する.ここで「侵略的」とは,他種を
競争や捕食により排除して移入すること,「侵入的」とは環境が変化
し元来の生物がいなくなったため生じた生態的ニッチに競争なく移
入することとする.半島マレーシアを広域的に定量調査した結果,
汚染された河川では外来種が圧倒的に多く,比較的きれいな河川で
は多少の外来種はいるものの在来種が多かった.本発表では調査デ
ータと統計解析をもとに,半島マレーシアの中小河川における外来
魚の生態的な侵略性・侵入性について議論する.
C2-15
捕食者 - 被食者のメタ個体群構造を決める連結性と最上
C2-16
位捕食者:ため池の外来種と在来種の事例
persistence of intgraguild prey in a productive environment?
* 跡部峻史(東大・農),武田勇人(筑波・医),黒江美紗子(九大・理),
Toshiyuki Namba (Osaka Pref Univ, Grad School of Science)
Can ddaptive foraging by intraguild predator promote
長田穣(東大・農),宮下直(東大・農)
The prevalence of intraguild predation in productive environments has
long been puzzling ecologists. Adaptive foraging by the intraguild predator
is one of the probable hypotheses that explain the coexistence of the
intraguild prey and predator in productive environments. Krivan and Diehl
(2005) considered a model of intraguild predation, assuming an adaptive
foraging rule in which the intraguild predator feeds on the less profitable
resource only if the more profitable one is rare. Although the adaptive
omnivory enlarged the persistence region of the intraguild predator, it could
not facilitate persistence of the intraguild prey.
In this talk, I investigate a similar model to that examined by Krivan
and Diehl. However, instead of assuming adaptive diet shift by including
or excluding the less profitable prey or resource into the menu, I compare
the dynamics of models with different profitabilities of the intraguild prey
and resource to the intraguild predator. I will show that exclusion of the
intraguild prey can never occur even in highly productive environments
if it is the more profitable to the intraguild predator and that extinction of
the intraguild predator may result if it feeds on a great amount of the less
profitable resource.
パッチ状の生息地に共存する生物群集では、パッチ間の移動分散
とパッチ内の種間相互作用により個体数が決定されると考えられる。
しかしながら、パッチ連結性がもたらす間接効果を含めた個体数決
定機構を野外において実証した研究は少ない。こうしたプロセスを
理解することは、パッチ状に分布する生息地に侵入した外来種の管
理の在り方を考えるうえでも重要である。
本研究では、岩手県一関市のパッチ状に分布するため池群におい
て、外来捕食者ウシガエルと在来被食者ツチガエルの個体数データ、
および両種幼生の共通の捕食者と考えられるコイの在不在データを
解析することにより、以下の 4 つの問いを検証した。1.ため池の連
結性は外来ウシガエルの個体数に正の効果をもつか。2.ため池の連
結性はウシガエルを介して、ツチカエルの個体数に負の影響を与え
ているか。3.コイの存在はウシガエル幼生に負の影響を与えてるか。
4.コイの存在はウシガエルを介して間接的にツチガエルに正の影響
を与えているか。解析の際、両種カエルの発見率を考慮した階層ベ
イズモデルを用いた。また、野外調査で見られるパターンの因果関
係を明らかにするために、コイによるウシガエル・ツチガエル幼生
への捕食圧を比較する室内実験をおこなった。一連の調査から、生
息地の連結性と上位捕食者の存在が、外来捕食者 - 在来被食者のメ
タ個体群構造に及ぼす影響を明らかにする。また、パッチ状に分布
する外来種の管理方法について考える。
101
口頭発表 3 月 8 日(金) C 会場 16:00-17:00
C2-17
C2-18
観測誤差を考慮した推移確率行列の新しい推定方法と実
寄生虫群集の変異性を探る――特に、ニホンウナギの生
データへの適用
活史多型に着目して――
* 深谷肇一(北大院地球環境),J.A.Royle(USGS),奥田武弘(NRIFSF),
仲岡雅裕(北大院 FSC 厚岸臨海),野田隆史(北大院地球環境)
* 片平浩孝,長澤和也
自然界には寄生虫がついていない生物はいないと言われるほど、
すべての生物にとって寄生虫はありふれた存在である。宿主一個体
に複数種の寄生が見られることは普通のことであり、宿主はいわば
「寄生虫をのせた乗り合いバス」のごとく、それぞれの個体で異なる
寄生虫群集を有している。
これら群集の種組成や多様性を知ることは、寄生虫学における課
題の一つであるとともに、生態系を構成する生物群集全体の成り立
ちを真に理解するうえで必要不可欠である。しかしながら我が国で
は、寄生虫相の解明が未だ途上であることに加え、個々の寄生虫や
特定の分類群に限定した生態研究が好まれてきた。そのため、複数
の分類群を扱う群集生態学的取り組みは全く進展していない現状に
ある。
そこで我々は、国内における研究の布石として、寄生虫相研究が
比較的進んでいるニホンウナギをモデル宿主に選び、調査を進めて
いる。本研究では、愛媛県愛南町の御荘湾およびその流入河川に生
息するニホンウナギの消化管と鰾から得られた内部寄生虫 17 種(吸
虫 8 種、条虫 4 種、線虫2種、鉤頭虫3種)を対象に、個々のニホ
ンウナギにおける種多様性パタンを明らかにすることを目的とした。
調査地のニホンウナギは、4タイプの生活史型(河川で生活、河
口域で生活、一度河川で生活したのち降河し湾で生活、一度も淡水
域に入らずに湾で生活)を示すことが明らかとなっている。これら
生活史型間で寄生虫群集を比較したところ、1)移動性の高い生活
史の個体ほど多くの寄生虫種が出現する、2)河川に比べて湾で生
活する個体のほうが複数の寄生虫に寄生される傾向が認められた。
生活史多型は様々な生物で見られる現象であるが、複雑な生活史を
もつ他の宿主生物においても、本結果同様それぞれの生活史型に対
応した寄生虫の群集パタンが成立しているかもしれない。
群集動態を表す方法の一つは、各種の相対頻度の変化を推移確率
行列によって表すことである。推移確率行列は永久方形区に設置さ
れた多数の固定調査点において種の入れ替わりの頻度を測ることで
得られるため、主に固着性生物群集を対象に実データからの推定が
行われてきた。しかし推移確率の推定値は、観察の度に同一の場所
が正確に再測定されないという観測誤差があるとバイアスが生じる
ことが知られている。本研究では、複数状態動的占有モデルの枠組
みを用いた、固定調査点の継続調査に基づく推移確率行列の新しい
推定方法(統計モデル)を提案する。モデルでは各調査点における
種の占有状態とその推移という生態学的過程と観測過程が明示的に
考慮され、パラメータとして推移確率行列、観測誤差率、種の占有
状態や観測誤差の有無が推定される。シミュレーションを用いた試
験の結果、この方法では観測誤差がある場合でも推移確率の推定バ
イアスはほとんどないことが明らかとなった。
さらに、観測誤差が推移確率の推定とそれに基づく群集動態の予
測に及ぼす影響を明らかにするため、本研究で提案する推定方法と
従来の推定方法を北海道東部太平洋沿岸の 25 サイトで 10 年間得ら
れた岩礁潮間帯の固着性生物群集データに適用し、結果を比較した。
その結果、本研究の方法を用いた場合、従来の方法を用いた場合と
比べて種の存続確率が高く推定される傾向があり、その結果、群集
の回転率や撹乱からの回復速度が低く評価されることが明らかとな
った。このことから、実データによる推移確率行列の推定において
観測誤差の無視は誤った結論につながる可能性があり、複数状態動
的占有モデルの枠組みを用いることでより正確な推論が期待される
ことが示唆される。
C2-19
C2-20
藻場における捕食圧の南北比較:魚類の初期成長の「緯
南のシカは早く産む? - ニホンジカに見られる季節繁殖
度間補償を補償する」
の地域変異 -
福田温史,上村泰洋,木下光,水野健一郎,* 小路淳(広島大・生物生産)
小泉透,森林総研
高緯度に生息することにより生じる負の影響を,遺伝的に高い成
長能力を適応進化させることにより補償する「緯度間補償」が変温
動物において報告されてきた.魚類では近年,同一の種・系統群に
属する種であっても高緯度の集団ほど初期成長が遺伝的に速いこと
が明らかにされている.その一方で,高い成長パフォーマンスを示
す個体では,捕食者との遭遇確率が増えるために生活史初期におい
て被食により死亡する確率が高まることを実証した研究例もある.
本研究では,自然環境における稚魚への捕食圧を南北で比較する
ことにより,高緯度域で成長率が高くなる「緯度間補償」をさらに
補償しうるメカニズムを群集生態学的側面から考察する.魚類の生
活史初期における重要な生息場の一つとされるアマモ場をフィール
ドとして,稚魚への捕食圧を南北比較した.2010 年 2-8 月に 13 ヶ所(鹿
児島∼北海道)のアマモ場において魚類採集網(目合い 5mm)を用
いて 100m2 のエリア内に分布する魚類を捕獲し(各地くり返し 4 回),
その胃内容物を調査した.魚類群集はその種組成により岩手県以北
と宮城県以南の 2 つのクラスターに区分され,北ではカジカ類,ギ
ンポ類などが,南ではメバル類,フグ類などがバイオマスで優占した.
魚食性魚類の単位面積当たりバイオマスは北側で大きく,それらの
胃内容物における魚類の出現頻度も北側で有意に高かった.以上の
結果から,我が国周辺のアマモ場では,稚魚に対する捕食圧が北方
で高い可能性が示唆された.
シカ科は一年の特定の時期に限定して繁殖をおこなう季節繁殖動
物であるが、その様式には、種により、また同一種でも生息場所に
よっていくつものバリエーションがみられる。
北中米に生息するオジロジカは、分布の北限(北緯 60°)と南限(南
緯 15°)の緯度差が 75°にもなる。北緯 30°を超える地域の個体群は、
秋に交尾し春に出産するが、緯度が下がるにつれてこのパターンは
明瞭ではなくなり、熱帯系亜種では出産期が通年にいたることが報
告されている。
ニホンジカはベトナム(北緯 14°)からロシア沿海地方(北緯 50°)
にかけて分布しており、国内に限っても慶良間列島(北緯 26°)か
ら北海道(北緯 45°)にいたる広い地域に生息している。オジロジ
カとはいかないまでも分布域の緯度差は大きく、繁殖にもなんらか
の地域変異が生じていることが期待される。これまで、静岡富士地
域、熊本県南部、兵庫県北部で合計 313 個体の胎児重量を計測した。
胎児重量は、Mitchell and Lincoln(1973)に方法にしたがい胎児齢(日
齢)に変換し、妊娠期間と捕獲月日より出生日を推定した。また、
同様の調査を行った北海道道東(Suzuki et al., 1996)および千葉県房
総(Asada and Ochiai 1996)の報告を用いて、九州から北海道にいた
る出産パターンを比較した。この結果、出産日の中央値は、千葉(5
月 15 日)、兵庫、熊本(5 月 22 日)、静岡(5 月 30 日)、北海道(6
月 17 日)を暖かさの指数が低くなるにつれて遅くなる傾向が見られ
た。同様の傾向はマウンテンシープやトナカイでも報告されており、
出産時期を餌の質や量が最良となる季節に同期させることによって
新生児の生存率を高くするための適応であると考えられた。
102
口頭発表 3 月 8 日(金) C 会場 17:00-18:00
C2-21
C2-22
36 年ぶりに巣立ったトキの生態
逆方向性転換の進化条件:低密度仮説の検証
永田尚志 *・中津弘(新潟大・CTER)
* 桑村哲生(中京大国際教養)・鈴木祥平(琉球大亜熱帯島嶼科学)・門田
立(水研セ西海水研)
トキの再導入を目指して 2008 年秋に放鳥されてから 5 年目の
2012 年に放鳥トキの3つがいが8羽の雛を巣立たせた。佐渡島の野
生下で幼鳥が巣立ったのは 38 年ぶりであった。野生絶滅前の佐渡島
では研究者も含めた人の入山が規制されていてトキの生態は断片的
にしかわかっていなかった。今回は、3巣の雛の観察からわかった
繁殖生態の断面を報告する。2012 年の 24 営巣うち、3 巣でヒナが孵
化して 8 羽の幼鳥が巣立った。ヒナの孵化後 29 ∼ 35 日までは雌雄
いずれかが巣に残り、ヒナが小さいうちは抱雛し、大きくなってか
らは傍の枝で見守っていた。ヒナの餌要求量が増加する巣立ちまで
の 8 ∼ 15 日間は両親とも巣から離れて採餌に出かけるようになった。
親は、巣に戻った直後と滞巣中に複数回の給餌を行うが、吐き戻し
で給餌を行うため、実際の給餌量はわからない。育雛期間中に両親
が採餌している餌種は、ヒナが小さいうちは小型の餌が多い傾向が
みられ、成長速度が最大となる 16 ∼ 18 日齡以降にドジョウなどの
大型の餌の採餌が多くなる傾向はみられたが、季節の進行に応じて
ドジョウ、カエルからミミズ、昆虫類へと餌生物も変わっている。
巣立ちビナは、地面をつついて採餌行動をするものの、巣立ち後 2
週間はほとんど自力で餌を取れずに親からの給餌に依存していた。
巣立ち後、2 ∼ 4 週の期間には両親の半分ほどの効率でミミズや昆
虫を採餌ができるようになるが、両親に餌乞いを行い、たまに給餌
されていた。この時期に給餌を行うのは雄の場合が多く、雌は幼鳥
からの餌乞いを拒否することが多かった。巣立ち後 4 週間を過ぎた
幼鳥は、成長の 7 ∼ 8 割程度の効率で採餌が可能になった。2012 年
現在、雌あたりの繁殖成功度は 19%(3 ♀ /16 ♀)に過ぎず、中国
野生個体群(卵あたり 67%)には届かない。再導入個体群を確立す
るためには、繁殖成功度の改善が必要となる。
魚類における性転換の進化は、配偶システムのタイプに応じて決
まることが理論的に予測されてきた。たとえば一夫多妻では、雌か
ら雄への性転換(雌性先熟)が進化すると予測され、その際、グル
ープ内の最大・最優位個体のみが雄に性転換するケースが多いこと
も知られている。しかし最近になって、これまで雌性先熟とされて
きた一夫多妻のサンゴ礁魚類(ホンソメワケベラなど)において、
雄から雌へ逆方向に性転換することが、水槽内2雄同居実験および
野外雄独身化実験により確かめられた。独身にした雄が自分より大
きい雄と出会い、社会的劣位になったときに逆方向性転換したので
ある。一夫多妻魚の自然個体群で、雄が配偶者を失って独身になり
やすいのは、低密度条件においてであり、逆方向性転換はそのよう
な状況において自然選択されてきた繁殖戦術だと考えられる(低密
度仮説)。
この仮説を検証するため、ホンソメワケベラを対象とした野外実
験を実施した。沖縄県瀬底島のサンゴ礁で約 100m × 250m の調査域
にいた全ハレムを捕獲し、うち半分では雌をすべて除去して雄を独
身にし、残り半分では最大雌以外の雌を除去してペアにした。すな
わち、独身雄が移動すれば、他の独身雄とも、ペアの雌雄とも出会
う可能性があるという、低密度個体群で起こりやすい状況を作り出
し、独身雄を追跡して移動と配偶者再獲得戦術を観察した。その結果、
独身雄は、(1)他の雄、雌または幼魚の加入があれば、移動せずに
それらとペアになった。(2)移動した場合は、もっとも近くにいた
独身個体とペアになった(より近くにペアがいてもそれには合流し
なかった)。そしていずれの場合も、(3)雄同士のペアになった場
合にのみ、小さい方が雌に性転換した。以上により、逆方向性転換
は低密度条件で配偶者を消失した際の配偶者再獲得戦術のうちの1
つであることが示唆された。
C2-23
C2-24
琵琶湖周辺の水田地帯における 2 倍体および 3 倍体フナ
水温上昇がサクラマスの生活史と個体群動態に及ぼす影響
の季節的出現消長と当歳魚の成長
* 森田健太郎(北水研),玉手剛(東北水研),黒木真理(東大総博),永
沢亨(北水研)
* 中野光議,三品達平,渡辺勝敏(京大院理)
地球温暖化に伴う気温上昇が動物個体群におよぼす影響の予測に
ついて非常に多くの研究がある。一般には,対象種に特異的な適温
度帯の変化から,分布域や個体数の変化を予測したものが多い。し
かし,変温動物である魚類などでは,水温は全ての生理現象を左右
する環境因子であり,生活史過程(成熟年齢,回遊行動など)の変
化を介しても個体群動態に大きく影響すると考えられる。
本研究では,北日本の漁業対象種であるサクラマスを例に,北海
道から鳥取県までの 22 個体群を対象とした野外調査に基づき水温と
生活史過程の関係をモデル化し,温暖化に伴う水温の上昇がサクラ
マスの個体群動態に及ぼす影響について数値シミュレーションした。
サクラマスの生活史には,川で一生を過ごす残留型(通称ヤマ
メ)と海へ回遊する降海型の二型がある。野外調査の結果,川で生
まれた稚魚は 1+ 歳で海に下るものが大半であるが,水温が低い川で
は 2+ 歳で降海する個体が一定の割合で出現することが明らかになっ
た。また,降海年齢が 2+ 歳の個体の割合は,降海時より海洋生活期
を終えて河川に産卵遡上したサクラマス親魚の方が高く,2+ 歳で降
海した方が海洋での相対的な生存率が高いことが示唆された。一方,
雄は海へ下らずに 0+ で性成熟して残留型となる個体が多く出現し,
雄の残留型の出現率は水温が高い川ほど高くなった。
これらの野外における生活史過程と水温の関係を考慮したサクラ
マスの生活史モデルを構築し,個体群動態の数値シミュレーション
を行った。その結果,水温が上昇するに従い,①残留型となる雄の
割合が増えるため漁業対象となる降海型サクラマスの資源量が減る,
②降海年齢が単純化するため環境確率性の影響を受けやすくなりサ
クラマスの資源変動の幅が増加する(例:極端な不漁年が生じる等),
が予測された。
従来、日本に生息するフナ Carassius auratus の中で、ギンブナ C. a.
langsdorfi は主に3倍体の雌からなる雌性発生種であり、交雑起源だ
と考えられてきた。しかし近年、遺伝学的な手法を用いた研究により、
3倍体のフナは多起源であり各地で平行的に2倍体の種から生じて
おり、同所的に生息する2倍体と同種であることが示唆されている。
またフナの生態に関する従来の研究により、2倍体と3倍体は異な
る生態をもつことが示唆されている。以上の知見よりフナは、種の
倍数性多様化による生態的多様化として進化生態学上重要な現象を
もつ可能性がある。本研究は、琵琶湖に生息するフナについて各倍
数体間の生活史の相違を明らかにすることを目的に行った。
琵琶湖沿岸の水田地帯に位置する水路とビオトープ池、およびヨ
シ帯において周年を通してフナを採捕した。さらに個体ごとに遺伝
学的な手法を用いて倍数性を判定し、鱗の年輪を用いて年齢査定を
行った。その結果、2倍体と3倍体間で水田地帯における季節的出
現消長が異なり、3倍体は冬期に水田地帯に残留する個体が多いこ
と、雌の繁殖時期が早いことが明らかになった。成長速度については、
3倍体の方が比較的速いことが示された。仔稚魚を含む当歳魚につ
いては、水路等の各調査地において各倍数体間で出現する個体数や
季節的な移動様式が異なることが明らかになった。
以上の結果により、フナは各倍数体間で生涯繁殖成功度や雌の繁
殖戦略、当歳魚の好む生息場所等の生活史が異なっていることが示
唆され、倍数性の多様化が生態的多様化をもたらしていると考えら
れる。
103
口頭発表 3 月 8 日(金) C 会場 18:00-18:15
C2-25
カイメンとカイメン埋在性二枚貝における水流を介した
相利共生関係
* 椿玲未(京大人環),加藤真(京大人環)
ホウオウガイはカイメンに埋在して生活するという特殊な生態を
持つ二枚貝である。ホウオウガイの寄主特異性は極めて高く Spongia
sp. 一種のみをホストとして利用し、調査した全ての Spongia sp. に
はホウオウガイが共生していたことから、両者は絶対相利共生関係
にある可能性が示唆された。ホウオウガイはカイメンと共生するこ
とで捕食を回避できるというメリットがある一方、カイメンがホウ
オウガイとの共生から得るメリットは不明である。そこで、私はホ
ウオウガイが濾過済みの海水をカイメンの体内に排出していること
に着目し、カイメンはその強い水流を利用して体内の水循環を効率
的に行っているのではないかと考え、両者の起こす水流について調
査を行った。その結果、カイメンの水溝系はホウオウガイの排出す
る水を受け入れる特殊な構造になっており、ホウオウガイから取り
込まれた水はカイメンの体内をめぐった後カイメンの特定の出水孔
から排出された。次に、カイメンがどの程度ホウオウガイからの水
流に依存しているのかを明らかにするために、カイメン全体をめぐ
る水量とホウオウガイが排水する水量を調べて比較した結果、カイ
メン体内に取り込まれる水の内半分以上はホウオウガイの排水由来
であった。そして、ホウオウガイが排水した後の水にカイメンの餌
となる植物プランクトンがどの程度残されているのかを調べた結果、
半数以上の植物プランクトンは濾過されず排出されているというこ
とが明らかになった。これらの結果から、カイメンとホウオウガイ
の関係はホウオウガイが一方的に利益を得るだけでなく、カイメン
がホウオウガイの水流を利用して自ら水流を生み出すコストを節約
し、またホウオウガイから十分に餌を含んだ海水の供給を受けると
いう、水流を介した相利共生関係にあることが明らかになった。
104
口頭発表 3 月 8 日(金) D 会場 15:00-16:00
D2-13
D2-14
捕食者存在下における適応的ランダム探索戦略
鱗食性シクリッドが示す左右非対称な捕食行動の獲得過程
* 阿部真人,嶋田正和(東大・広域システム)
* 竹内勇一(名古屋大・理,学振 SPD),堀道雄(京都大・理),小田洋一(名
古屋大・理)
古くから動物の探索行動パターンは単純なランダムウォークでは
なくその合間に低頻度で直線に近い運動が挿入されるという報告が
ある。近年、それがランダム探索戦略の一つである Lévy walk のパ
ターンであることが主張されている。Viswanathan et al.(1999) は数理
モデルを用いて Lévy walk が目標物の位置情報がない状況下で探索
効率を増加させることを示し、適応の観点から Lévy walk のパター
ンを説明した。しかし、実証研究においては実際の動物が Lévy walk
を示さない可能性を示唆するなど議論が分かれているのが現状であ
る。その原因の一つに実データに対する解析手法が確立していない
ことが挙げられるが、他の要因として探索効率そのものを適応度に
換算する点に問題があることも考えられる。Lévy walk は対象物が何
であるかに関わらず遭遇率を高めるため、採餌だけのベネフィット
だけでなく天敵による捕食リスクといったコストの両面を考える必
要があるが、先行研究ではそれが考慮されていない。
本研究では、従来の Lévy walk の探索効率のみに焦点をあてた目
標物 - 探索者のシミュレーションに捕食者を導入し、捕食者存在下
における最適なランダム探索戦略について解析した。さらに捕食者
も探索行動することを想定し、その場合の最適なランダム探索戦略
を調べた。その結果、捕食者密度が高い状況下では Lévy walk より
もランダムウォークの方が適することが明らかになった。また、探
索者が目標物を発見することが適応度増加に直結するかどうかとい
った生活史の影響の解析した。これらの結果から、探索者の生活史
や捕食者の行動によって決定される最適なランダム探索戦略につい
て議論し、今後の実データ解析との関連も述べる。
行動の左右性(利き)は、ヒトの利き手をはじめとして脊椎動物
で幅広く見られる現象であり、生存上有利に働くと考えられている。
では、行動の左右性はどのように獲得されるのだろうか?行動を制
御するのは脳であり、行動の左右性を発現する神経回路の形成や働
きは、遺伝的要因に依存するとともに、発達過程における学習によ
って影響をうけると考えられる。しかし、明確な規則性は明らかに
されていない。
左右性のモデルとして有名な鱗食魚 Perissodus microlepis は、他の
魚の鱗をはぎとって食べる。本種の口部は左右で大きさが異なり、
口が左右一方にねじれて開く。これまでに、この口部形態の左右非
対称性は捕食時の襲撃方向と対応することが、成魚を対象とした野
外調査・行動実験から示されていた。一方で、口部形態の非対称性
は遺伝形質で稚魚でも見られるものの、捕食行動の左右性の獲得過
程は不明であった。
そこで、様々な発達段階の鱗食魚(稚魚期∼若魚期∼成魚)を野
外で採集して、胃内容分析を行い、摂食していた鱗の形状を精査し
て捕食行動の左右性を推定した。もし捕食行動の左右性が、遺伝的
に決定されるのであれば、発達初期から片方の体側の鱗しか摂食し
ていないと予想される。他方、行動の左右性が学習で獲得されるの
であれば、発達初期は両体側の鱗を摂食しているが、成長とともに
襲撃方向間の捕食成功率の差を学習し、片方の体側の鱗のみに偏る
であろう。
分析の結果、標準体長 35mm 以上の個体は専ら鱗を摂食していた。
そして、鱗を食べ始めてすぐから口部形態に合った体側由来の鱗を
摂食していたので、捕食行動の左右性は遺伝的な影響を受けている
と示唆された。また、稚魚期から若魚期では、口部形態と合わない
鱗を若干摂食していた個体も見られたので、学習効果で行動がさら
に偏ることが考えられた。
D2-15
D2-16
実験下におけるテナガツノヤドカリの捕食者と捕食数の
捕食者のリスクを学習して営巣場所を改善するダイトウ
季節変化
メジロ
坂田直彦,* 古賀庸憲(和歌山大・教育・生物)
* 堀江明香,高木昌興(大阪市立大・理)
和歌川河口干潟に生息するテナガツノヤドカリは、繁殖期が 10 月
まで続くにも関わらず、体サイズやハサミの大きい個体が雌雄とも
7 月に激減する。また、繁殖期の前半にはオスの大型個体はハサミ
が相対的に大きく、性内二型が見られるが、その傾向は 7 月以降消
失する (Koga et al. 2010)。これらの現象が起こる理由として、夏以降
捕食圧が高くなり、ヤドカリの大型個体が選択的に捕食され、その
後の雄は成長してもハサミは小さいままだと考えた。そこで、テナ
ガツノヤドカリの捕食者と捕食圧の季節的変化を室内実験により調
べた。その結果、ヤドカリを捕食するカニはオウギガニ、イシガニ、
タイワンガザミであることがわかった。オウギガニによる捕食数は
少なく、季節変化も見られなかった。イシガニは年間を通して干潟
に生息し、夏に捕食数が最大になった。タイワンガザミは稚ガニが
8 月から定着して、秋から冬にかけて捕食数が最大になり、12 月に
は和歌川河口干潟で捕獲できなくなった。しかし、イシガニは、夏
にヤドカリの大型個体を好んで捕食すると予測したが、そうではな
かった。ヤドカリの大型個体が選択的に捕食されなかったのは、室
内実験での環境が自然条件とは異なっていたからであろう。よって、
今後は野外での観察も行う必要がある。先行研究でテナガツノヤド
カリの大型個体消失の原因として、夏にかけて捕食数が増加するイ
シガニが、ヤドカリの大型個体を捕食した可能性が考えられる。ヤ
ドカリを多く捕食する理由としては、イシガニの繁殖期が夏で、こ
の時期のイシガニの餌条件が変化することが考えられる。また、ヤ
ドカリのハサミが大きくならない理由として、夏から冬にかけて捕
食圧が高く、大きなハサミを持つことでリスクが高まるためと考え
られる。
捕食圧は生物の行動に強く影響する選択圧である。捕食を回避す
る行動の発達には、捕食回避能力に劣る個体が捕食されて個体群か
ら除かれるという進化プロセスが重要だと考えられているが、餌動
物もそれほど単純ではなく、捕食されそうになった経験をもとに危
険な状況を学習し、行動を改善することが近年報告されている。し
かし、捕食−被食関係はおおむね複雑であり、自分ではなく子のみ
を襲う捕食者や、狙われる状況が異なる何種もの捕食者が存在する。
複雑な捕食リスクの違いを餌動物はどの程度見分けられるのだろう
か。
我々は、沖縄県大東諸島に生息するダイトウメジロという小鳥を
対象に、巣を襲う捕食者への対捕食者行動(巣場所選択・捕食者へ
の警戒)を個体レベルで調査してきた。大東諸島は海洋島であり、
メジロの巣を襲う捕食者はクマネズミとモズだけである。捕食率と
巣場所の関係をみると、両捕食者とも周囲から見えやすい巣を襲う
傾向がある一方、低い位置の巣はネズミに、高い位置の巣はモズに
襲われやすい傾向があった。両種の捕食を避けるには、中程度の高
さに隠された巣をつくることが必要となる。巣場所を選ぶ雄親の年
齢と巣場所の関係を調べたところ、若い雄より年長雄の方が巣の隠
れ度合い・巣高ともに高く、3 歳以上の雄はネズミとモズ両方の捕
食を避けられる中程度の高さに巣をかけていた。
若い親が捕食されやすい場所に巣をかけてしまうのは、捕食者の
認識が不十分だからではないかと考え、両捕食者の剥製を親に提示
する実験を行った。モズへの警戒強度は親の年齢間で違いがなかっ
たが、ネズミへの警戒強度は若い親の方が弱く、若い親はネズミを
捕食者として認識できていない可能性がある。ダイトウメジロは、
繁殖経験を積むことで捕食者のリスクを認識し、年齢と共に営巣場
所を改善できると考えられた。
105
口頭発表 3 月 8 日(金) D 会場 16:00-17:00
D2-17
D2-18
首の運動と映像記録からみる潜水性海鳥の採餌行動
鳥・虫の目から見た紫外線の世界
* 小 暮 ゆ き ひ さ, 佐 藤 克 文( 東 大・ 大 海 研 ),Francis Daunt(CEH,
UK),綿貫豊(北大・水産)
浅間茂(千葉生態系研)
鳥・昆虫・クモなどは、より波長の短い紫外線を認識できること
が分かっている。どのような世界を見ているのかを知るために、い
ろいろな生物の近紫外線写真を撮影した。
白い花はあまり紫外線を反射しないが、多くの黄色い花は強く反
射する。キンポウゲ科のある黄色い花は、花弁の表層とその下のデ
ンプン層の間隙によって紫外線を反射するという報告 (2011.Silvia 他
) がある。サボテンの花は花弁全体が紫外線を吸収しているものが多
い。ウツボカズラの捕虫嚢は紫外線を反射する種が多いが、その反
射する種だけに、ウツボカズラに生息するカニグモがいる。草木の
実は熟して色が変化しても、ほとんどの種で紫外線反射はあまり変
化がなかった。果実の表面に白い酵母菌がつくと、強く紫外線を反
射するようになる。紫外線反射は、その果皮に含まれる色素の化学
成分によって異なる。
ハチの警戒色である黒色と黄色の縞模様は、紫外線写真でその違
いははっきりしない。紫外線とあまり関わりなく、黒色・黄色が警
戒色として働いている。昼間活動するクモは黒色と黄色の縞模様が
多いが、黄色は紫外線を強く反射した。またクモの隠れ帯は紫外線
を強く反射することから、クモの補食者から姿を隠す働きがあると
思われる。
構造色と紫外線の関わりについては、鳥・チョウ・クモなどの
構造色による波長の短い青色は、紫外線の波長と連続性があり、当
然紫外線反射が見られた。構造色で紫外線だけを反射するキチョウ
(1972.Ghiradella) の報告があるが、他にもいくつかのシロチョウ科で
確認できたので報告する。
ペリカン目ウ科の海鳥であるヨーロッパヒメウは、足の水掻きに
より最大 40 メートル程潜水し底性魚類を捕食する。デジタルスチル
カメラをヒメウに装着したこれまでの研究から、砂底ではイカナゴ
を捕獲し岩礁域ではギンポを捕獲するなど、複数の採餌環境でそれ
ぞれ異なる餌種を利用していることが明らかになっている。しかし、
デジタルスチルカメラのサイズ ( 質量 72g、直径 21 mm、長さ 122
mm) では、体重 2 kg 前後のヨーロッパヒメウに他の行動記録計と同
時に装着する事が難しい上、撮影間隔が最短 4 秒と摂餌の瞬間を捉
える事が難しかった。本調査ではスコットランド・メイ島にて 2012
年の繁殖期間中、ヨーロッパヒメウの親鳥 10 羽に、小型ビデオロガ
ー ( 質量 41g、直径 22 mm、長さ 80 mm) と小型加速度記録計 ( 質量
9g、直径 12 mm、長さ 45 mm) を背中と首に同時に装着した。ビデ
オロガーの記録時間が 1.5 時間と短く、また加速度記録計の動作不
良もあり、4 個体からはデータが得られなかったが、残り 6 羽のう
ち 5 羽よりそれぞれ 1 回の採餌旅行中の全潜水について、1 羽では
採餌旅行中の一部の潜水について、映像および加速度記録が得られ、
海中で餌の魚を捕獲する瞬間の動きを捉えることが出来た。映像に
は砂底や岩礁等、複数の採餌環境を利用している様子が映っていた
が、そのいずれの環境においても魚を捕らえる瞬間には、8-10 Hz の
一定の周波数で首を前後に動かしていた。砂底でイカナゴを採餌す
る場合には 1 回の潜水中に複数回の首の動きが見られるのに対して、
岩礁域でギンポやカサゴなどを捕食する場合には海底で飲み込まず
に、捉えた魚をくわえたまま浮上し水面にて嚥下していた。このこ
とから岩礁域に比べて砂底の方がより効率よく捕食できる採餌環境
であると考えられる。
D2-19
D2-20
なぜフクロウの巣は汚いのか?その適応的な理由
ビデオカメラ付首輪を用いたツキノワグマの採食生態学、
* 朝日健斗(北大院環境),外山雅大(北大創成),佐々木健志(琉大資料
事始め
館),坂本洋典(玉川大),小高信彦(森林総研九州),小泉逸郎(北大創成)
後藤優介(立山カルデラ砂防博物館)
鳥類の多くは雛が排泄する糞を巣外へと捨てることで巣内衛生を
保つ.これにより捕食者の誘因や寄生虫の繁殖などを防ぎ,高い繁
殖成績を得るといわれている.しかし,樹洞営巣性のフクロウ類は
糞の除去を行わず,糞尿の堆積・腐敗によるアンモニアガスの蔓延
やウジなどの発生が顕著である.この一見劣悪とも思える巣内環境
は,捕食リスクや寄生虫などのストレス負荷を高め,雛の成長に負
の影響を与えている可能性がある.逆に,特異的な巣内環境を作り
出すことで,特定の生物を誘因・除去し,繁殖成績を高めているの
かもしれない.本研究では,人為的に巣内の糞を除去することで,
巣内環境や雛のコンディションに与える影響を調べ,フクロウが巣
内衛生を行わない理由を明らかとすることを目的とした.
2012 年 6~7 月に沖縄島やんばる地域において巣箱を 80 ヵ所に設
置した.リュウキュウコノハズク Otus elegans が営巣した 20 巣中 10
巣を実験巣とし,糞の除去操作とあわせ巣内環境と雛の外部形態な
どを 4 日ごとに記録した.同時に,巣箱内外の生物相と雛体表部に
おける寄生虫の個体数も記録した.親鳥の営巣放棄や雛への直接的
な影響を避けるため,除去操作を含む人的負荷を最小限にした.
当初の予測に反し,糞の除去を行った実験群で雛のコンディショ
ンが低く,巣立ちまでの日数が長かった.実験群ではハジラミなど
の外部寄生虫やカ・ブユなどの吸血性昆虫が多かった.また巣内環
境が高アルカリとなるにつれ,それら寄生率・侵入率が低下した.
以上より「糞尿の堆積によって巣内が高アルカリ環境へと改変され,
それが外部寄生虫・吸血性昆虫の忌避要因となり,結果的に雛のコ
ンディションを高くする」という巣内“非”衛生の適応的意義が示
唆された.
本研究では 2010 年 10 月に捕獲された雌成獣(61kg)のツキノワ
グマ(以下“2010 ♀”とする)および 2011 年 7 月に捕獲された雄
成獣(72kg)のツキノワグマ(以下“2011 ♂”とする)の 2 頭に新
しく開発した小型,堅牢のビデオカメラ付き首輪を装着し,映像に
よる行動解析の有効性を検証した。調査地は,中部山岳地の一郭,
立山カルデラ周辺(標高 1000~1700m 付近)である。ハンドリング
時の不動化麻酔が行動に与える影響を考慮して,タイマー制御によ
り放獣から一定時間以上経過した後に撮影を開始する設定とし,任
意の撮影期間が終了した後にタイマー式脱落装置を作動させ回収し
た。その結果、2010 ♀で 2 日間、計 4 時間 46 分、2011 ♂で4日間,
計 5 時間 59 分の映像が得られた。なお,首輪には行動軌跡を記録す
るため GPS ロガーを付加している。映像からはクマの移動行動につ
いて、大きく移動する「歩く」,探餌や探索などの「ゆっくり歩く」,
移動を伴わない「止まる」に区分した。その上で「鼻を 1 秒以上対
象物に接近させる」「鼻を高く掲げ上下する」等の匀嗅行動,「周囲
を見回す」確認行動,および採食行動等を識別し、各行動の継続時
間を 1 秒単位で算出することで行動及び採食に関する定量評価を試
みた。採食物については草本類では種レベルで同定が可能であり、
かつ部位(葉柄のみ採食、葉身を採食等)の判別も可能であった。
これにより、各採食品目ごとの採食頻度、採食所要時間等の算出が
可能となった。また,2011 ♂については他個体との交尾と思われる
乗駕行動や,他個体と行動を共にする様子が撮影されている。映像
による行動記録は現時点では撮影時間が短いという課題はあるが,
これまでツキノワグマでは困難であった,採食生態に関する検討を
可能にし、さらには繁殖行動,社会行動といった基礎的な生態に焦
点を当てた研究を行うために有効な手段であることが示唆された。
106
口頭発表 3 月 8 日(金) D 会場 17:00-17:45
D2-21
D2-22
ニホンザルは何を手がかりにして、群れのまとまりを保
次世代シーケンサーを利用したシロアリの兵隊分化を引
っているか?
き起こす遺伝子の解析
* 杉浦秀樹(京都大・野生動物),下岡ゆき子(帝京科学大・生命環境),
* 前川清人(富山大院・理工),矢口甫(富山大院・理工),重信秀治(基生研)
辻大和(京都大・霊長研)
社会性昆虫のうち,形態や役割が最も特殊なカーストとしてシロ
アリの兵隊が挙げられる。兵隊は二次的に失った数種を除いて全種
が保有し,シロアリの進化の過程で最も最初に獲得された不妊カー
ストであるとされる。唯一の役割は巣の防衛であり,職蟻からの分
化過程で特徴的な武器形態を発達させる。兵隊分化は,職蟻の幼若
ホルモン(JH)量の上昇が重要で,JH を職蟻に投与することで人為
的に誘導できる。ただし,自然条件下での兵隊分化は稀な現象であ
るために,分化前から個体を特定し,JH 量の上昇とその後の変化を
もたらす要因を解析できた例は無かった。
近年我々は,系統的に祖先的なネバダオオシロアリ Zootermopsis
nevadensis において,生殖虫による創設直後の初期巣では,最初に 3
齢に脱皮した個体が常に兵隊に分化することを明らかにした。この
個体は,他個体よりも生殖虫からの栄養交換を顕著に多く受けてい
た。これは,兵隊分化前の個体を特定できた初ケースである。そこで,
分化前に特異的に発現する遺伝子を網羅的に探索することを目的と
し,次世代シーケンサーを用いた RNA-seq を行った。その結果,最
初に 3 齢に脱皮した個体は,巣内で 2 番目に生じた 3 齢個体と比較
して,頭部と胸腹部のいずれにおいても,キイロショウジョウバエ
のリポカリン Neural Lazarillo のホモログ(ZnNLaz )が顕著に高い発
現を示した。次に,
ZnNLaz の RNAi を行った結果,コントロール(gfp ,
DDW)と比較して,兵隊に分化する個体の割合は著しく減少し,多
くの個体が 4 齢に脱皮した。ショウジョウバエでは,NLaz がインシ
ュリンシグナル経路を抑制することが知られるため,シロアリの兵
隊分化過程における本経路の関与が強く示唆される。関連因子の発
現解析の結果も踏まえ,兵隊分化の生理的な背景を議論する。
動物は、どのようにして、群れのまとまりを維持しながら移動し
ているのだろうか?例えば、魚の群れでは、自分のごく近くの数頭
との近接を保つように、自分の動きを合わせていて、非常に同調性
の高い動きをすると考えられている。一方、ニホンザルのような、
安定したメンバーで集団を作る霊長類では、一見したところ、それ
ぞれの個体が好き勝手なことをしており、同調性は高くない。それ
でもバラバラになることなく、群れとしてのまとまりを保って移動
している。群れがどのようにまとまりを保っているかを探るため、
野生ニホンザル 1 群を対象に観察を行った。
対象は宮城県金華山島に生息する、約 40 頭のニホンザルの 1 群
である。この群れの成体メスを対象に、2 個体を同時に個体追跡し、
GPS により個体の位置と対象個体の周囲 20m にいる個体数を記録し
た。
第一に、自分の近くにいる仲間を手がかりに、仲間との近接を調
整している可能性がある。自分の周囲 20m 以内の仲間の数が少ない
ほど、10 分後には増える傾向があった。やはり近くにいる仲間を手
がかりに、近接を調整していると言える。
第二に、群れの全体的な広がりも手がかりにしている可能性があ
る。追跡している 2 頭の距離が離れるほど、10 分後にその距離が縮
まる傾向があった。この距離変化は、自分の周囲 20m の個体数だけ
では説明できなかった。森の中ではお互いの動きを直接見ることが
難しい程に離れている場合(例えば 40m 以上)でも、距離が近づく
傾向は一貫して観察された。
遠くにいる個体を直接、手がかりにしているというよりは、周辺
部から中心部へ向かうために、このような動きが起こっているのだ
ろう。ニホンザルは自分の周辺の個体に加えて、群れの中での自分
の位置を把握し、移動を調整していると考えられる。
D2-23
穿孔性甲虫ニホンホホビロコメツキモドキによる共生酵
母の垂直伝播と菌園の創設
* 土岐和多瑠(東大院農),高橋由紀子(東大院新領域),富樫一巳(東大院農)
昆虫(栽培者)と菌(被栽培者)の栽培共生において、菌園の迅
速な創設は重要である。菌園の創設過程は社会性昆虫(ハキリアリ、
キノコシロアリ、養菌性キクイムシ)でよく知られているものの、
非社会性昆虫においては未解明の部分が大きい。我々は、竹の節間
内で酵母を栽培する非社会性昆虫ニホンホホビロコメツキモドキに
ついて、菌園の創設初期段階を調べた。メス成虫は、産卵時、腹部
に有する菌嚢から産卵管を介して酵母を卵の末端と節間内表面に接
種していた。孵化幼虫の存在下、節間内の至る所で酵母の増殖が見
られた。これらの結果は、産卵管が酵母の垂直伝播に重要な役割を
果たすこと、幼虫が菌園の創設に大きく貢献していることを示唆し
ている。
107
口頭発表 3 月 8 日(金) E 会場 15:00-16:00
E2-13
E2-14
野外操作実験による樹木の温暖化への応答:コナラにお
光合成誘導反応の制限に及ぼす高 CO2 環境の影響
けるトランスクリプトーム解析
冨松元・唐艶鴻(国立環境研・生物)
* 宮崎祐子,門田有希(岡山大・院・環境生命),中路達郎,日浦勉(北大・
自然環境下では光強度は時間的に大きく変化する。特に、光照射
に対する光合成速度の増加過程(光合成誘導反応)は、植物の炭素
獲得効率に強く影響する。この光合成誘導反応は様々な環境条件下
で変化し、高 CO2 環境下での加速が報告されている。しかし、高
CO2 環境下での光合成誘導反応の応答過程、メカニズム及び生態学
的意義については不明なところが多い。そこで、気孔を開放したま
まのシロイズナズナ変異体(SLAC1-5)とその野生株(WT)を供試
することで、光合成誘導における気孔制限と生化学制限を分離抽出
し、高 CO2 環境による光合成誘導反応の加速メカニズムを評価した。
供試植物は、上記シロイヌナズナ2種(SLAC1-5 と WT)を3つ
の CO2 濃度環境下(400、700、1000 μ mol mol-1)で約1カ月間生
育させた。光合成誘導反応は、生育 CO2 濃度と同じ CO2 濃度条件
下で、光強度を 20 から 800 μ mol mol-1 へと上昇させることで計測
した。また、異なる2つの CO2 環境下(400 と 700 μ mol mol-1)で
生育させたシロイヌナズナ2種を、それぞれ同じ CO2 濃度(400 μ
mol mol-1)で計測することで、高 CO2 環境に対する植物馴応の影響
抽出を試みた。
その結果、シロイヌナズナ2種の最大光合成速度の 50%に達する
ま で 要 す る 時 間 は、WT が 123.9 秒、48.6 秒、35.2 秒、SLAC1-5 が
84.7 秒、51.1 秒、45.2 秒( そ れ ぞ れ 400、700、1000 μ mol mol-1)
となり、CO2 濃度の増加にともなって光合成誘導反応が加速した。
また、気孔と生化学の両制限を伴う WT は、主に生化学制限に律速
されている SLAC1-5 と比べて、高 CO2 に伴う加速が大きかった。
さらに、光合成誘導反応の高 CO2 順応が WT でのみ認められたこと
から、高 CO2 馴応に対する気孔の重要性が示唆された。
苫小牧研究林)
温暖化等の環境変化は、樹木の生理反応を通して個体の維持等に
影響を与えると想定される。一方、温暖化に対する樹木の応答反応
は様々で、これまでに想定されていない反応も含め、全体像を捉え
ることは困難である。そこで本研究では、温暖化処理を行った際に、
生理反応の初期段階として起こる遺伝子発現の変化を明らかにする
ため、複数の時期から採取した複数の器官において網羅的遺伝子発
現解析を行った。
温暖化実験は北海道大学苫小牧研究林のコナラ成木 3 個体 OTCC
(Open Top Canopy Chamber、2m 四方の透明アクリル板で樹冠上部の
一部を囲う)を設置することで行った。OTCC 内部は OTCC 外部と
比較して日中の平均気温が 1.17 度上昇していた。OTCC 内部(温暖
化処理)と同個体の OTCC 外部(コントロール)からそれぞれ葉、芽、
雌花、雄花(開花直後のみ)を 2012 年 6 月∼ 7 月に採取し、遺伝子
発現解析試料とした。採取した試料は次世代シーケンサー Illumina
HiSeq 2000 を用いて de novo トランスクリプトーム解析を行った。
マッピングされたリードを用いて DEGseq(Wanget al. 2010) により発
現解析を行い、温暖化処理と無処理の間で発現に差のある塩基配列
を抽出した。さらに BLAST プログラムを用いてデータベース(DDBJ/
EMBL/GenBank)上の既知遺伝子との相同性検索を行った。その結果、
温暖化処理により、光合成関連遺伝子や花粉管伸長関連遺伝子等の
発現が高く、花成制御遺伝子等の発現は低く制御されていた。今後、
これらの遺伝子の発現挙動を詳細に解析することで、温暖化に対す
る様々な応答反応の全体像を捉えていく予定である。
E2-15
E2-16
対流圏オゾン濃度勾配 (FACE) に沿ったダイズ群落の葉
落葉樹・常緑樹における葉光合成速度の変動と光・水利
面積、窒素、葉群光合成速度の変化
用―どんな環境要因が森林樹木の光合成を制限するか?
* 及川真平 ,Elizabeth A Ainsworth
* 吉村謙一(京大・生態研),森千佳(奈良女子大・人間文化),小南裕志
(森林総研・関西),深山貴文(森林総研・関西),石田厚(京大・生態研)
きれいな空気は人間の健康、豊かな生活を支える食糧供給や自然
保護にとって不可欠である。しかし、世界中のあらゆる地域で空気
の汚染が進行している。オゾンはその強力な酸化力により、作物・
林産物や自然植生へのダメージが危惧されている汚染物質の代表格
である。現在、対流圏オゾン濃度は 35 ∼ 40 ppb(産業革命前の 2 倍)
に達し、今後 50 年間でさらに 20% 上昇すると予測されている。汚
染を食い止める努力も欠かせないが、同時に農業・林業における栽
培品種・方法の改変、感受性の高い野生種や地域の保護といった対
応も必要であろう。こうした背景の中、汚染物質のさらなる増加が
農地を含む生態系のプロセスに及ぼす影響について理解が求められ
ている。本研究では、開放型ガス付加実験施設 FACE において、9
レベルのオゾン濃度下(最低 37 ppb、最高 116 ppb [ 日中の平均 ])
でダイズを育成した。ダイズはオゾン感受性が高い作物として知ら
れる。特に感受性の高い品種 Dwight と低い品種 IA-3010 を対象とし
た。濃度勾配を設けたのは、各特性に対するオゾンの影響が生じる
閾値濃度を検出するためである。オゾン濃度上昇が地上部の乾物生
産、葉群内の葉面積、光強度、窒素濃度の分布に及ぼす影響、そし
てそれらの光合成速度に対する重要性を解析した。Dwight の乾物生
産、葉面積そして窒素吸収量はオゾン濃度上昇に伴い直線的に低下
した。一方 IA-3010 では低下が見られなかった。両品種共、個体光
合成速度の一貫した低下は検出されなかった。高濃度オゾン下の乾
物生産の低下は光合成速度の低下に依らないことが示唆される。な
ぜ光合成速度は低下しなかったのか ? 乾物生産、葉面積、窒素吸収
量と光合成速度の間のオゾン応答の相違はどのように説明されるの
か ? 以上の疑問について、地域のダイズ栽培法の特徴と併せて議論
する。
気孔の開閉は葉内二酸化炭素濃度に大きく影響を及ぼすため、個
葉の光合成速度は光環境とともに水分環境に対しても依存する。光
合成と光・水・温度といった環境要因の関係についてはこれまで数
多くの研究が行われ、モデル化されてきた。野外では光環境は1日
周期で変動するのに対して、水分環境は降水から次の降水までのお
よそ1週間程度の周期で変動し、温度は1年を周期に変動する。また、
光環境が変動するとその変動に対して瞬時に光合成が変動するのに
対して、降水に対して光合成速度はそれほど早く反応しない。その
ため、本研究では光・水・温度環境とともに光合成もモニタリング
することによって、光合成速度の時系列変動が環境要因の変動に対
してどのように反応するのかに注目して、光合成速度と環境要因の
関係を記述することにした。
光合成速度の季節変化としては温度の低下とともに光合成は低下
するが、冬季にたまにみられる暖かい日には光合成の上昇がみられ
ず、温度に対して早い反応を示しているわけではなかった。光合成
の短期的な変化としては降雨直後の光合成速度は高く、乾燥にした
がって低下する傾向がみられた。このように光合成速度の変動には
周期性の異なる各環境要因の変動が相互作用をもちながら影響して
いることがわかった。
108
口頭発表 3 月 8 日(金) E 会場 16:00-17:00
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積分球を用いた細い葉および針葉の分光反射率・透過率
葉色を決める要因―新葉と古葉の色比較から―
の測定方法
山崎一夫(大阪市環境科学研)
* 野田響(筑波大・生命環境),本岡毅(JAXA),村上和隆(筑波大・生
植物の新葉と古葉は、アントシアニンあるいはベタレインによる
赤色を帯びることが多い。この赤色の適応的意義に関して、さまざ
まな仮説が考えられてきた。その中でもとくに重要なものは以下の
2 つである。(1) 赤色の色素は、葉の細胞を紫外線による障害などか
ら守る生理学的機能をもつ。(2) 赤色は植食性昆虫に対する防御的な
機能をもつ。しかし、新葉と古葉において、どちらの要因が重要で
あるかは不明である。今回、新葉と古葉の色彩を比較することにより、
新葉と古葉の色彩に作用している選択圧が異なっているかどうかを
検討した。植物種内において新葉と古葉に同じ選択圧がかかってい
るなら、両者の色彩は同じになるはずである。
近畿地方を中心に、30 種の樹木と 50 種の草本植物において、新
葉と古葉の色彩を記録し検討した。その結果、新葉が緑色の樹木で
はほとんど例外なく古葉は黄色であった。しかし、新葉が赤色の樹
木には、古葉は赤色になる種と黄色の種があった。草本植物におい
ても同様の傾向があったが、新葉が緑色で古葉は赤色の種も存在す
る点が異なっていた。以上のことから、新葉と古葉に作用する選択
圧は異なっている場合がかなり存在すると推測された。植食性昆虫
相とその食害量は春と秋で大きく異なるため、葉の色彩の選択圧と
して重要なのかもしれない。ただし、一年生草本が結実期に全体が
赤くなった後に枯死するようなケースでは、赤色の色素は生理学的
な機能をもつであろう。
命環境),奈佐原顕郎(筑波大・生命環境),村岡裕由(岐阜大・流域圏セ)
植物の葉の分光特性(分光反射・透過率)は、葉の生理生態学的
機能を決定する色素・水分含量などの生化学的形質や解剖学的構造
を反映したパラメータである。また同時に,群落内の光環境の推定
やリモートセンシングによる群落構造推定においても欠かせない。
従って,個葉の分光特性を正確に測定することは,植物生理生態学
および植物群落のリモートセンシングにおいて重要である。正確な
個葉の分光特性測定には積分球による方法が適している。ところが,
積分球のサンプルポートよりも十分に大きい面積の葉であれば通常
の測定が可能だが,細い葉(イネ科草本の葉や針葉)の場合,葉の
ふちから入射光が漏れてしまい,測定精度が損なわれてしまう。こ
のような場合,入射光が当たる面に対して,光が漏れる「隙間」の
割合を光強度で重み付けして推定することができれば,葉の分光特
性は推定できる。これまで,様々な方法で隙間面積の推定が試みら
れてきたが,それらの方法は,緑葉の測定のみで有効な方法である
か,光の強度での重み付けがなされていなかった。そこで,本研究
では,若葉や緑葉,黄葉を含むほとんどの葉が 400 nm 付近において
非常に低い透過率を示すことを利用し,葉と濾紙を組み合わせて積
分球で測定することで隙間の割合を推定し,細い葉の分光特性を測
定する方法を開発した。アオキの葉について(1)元の形状の葉と
(2)細く切った葉片について,それぞれ通常の方法と新たに開発し
た方法で測定したところ,
(2)により得られた値は(1)の値と非
常によく一致しており、この測定方法が妥当であることが示された。
E2-19
E2-20
越冬形としてのロゼットシュートにはなぜ茎がないの
茎の力学的特性と寿命の関係:バイケイソウの開花茎と
か?
偽茎の比較
* 種子田春彦(東京大),古水千尋(Monash 大),梅林利弘(Utah 大),
* 顧 令爽(帯畜大 畜産生命)紺野 康夫(帯畜大 畜産生命)
館野正樹(東京大)
はじめに : 林床に生育している多年生草本には、栄養成長期には
地上茎がなく、根出葉からなるロゼット型(広義)の地上部を形成し、
繁殖期へ移ると、開花茎となる地上茎を伸長させるものがある。バ
イケイソウは、これと似て、栄養成長期には根出葉のみからなる地
上部を持つが、その根出葉が偽茎を形成する点で、他の植物と異な
っている。バイケイソウには繁殖期には開花茎を持つが、花茎を持
つという点を除ければ外観からは偽茎と区別できない。そこで、偽
茎と開花茎での力学的特性と寿命の関係の違いを調べ、両者の関係
を検討する。
材料と方法 : バイケイソウの偽茎と開花茎について、寿命、茎の
弾性率、倒伏安全係数を測定した。
結果 : 寿命は偽茎より開花茎のほうが長かった。偽茎は 7 月初め
には枯れて、その後倒伏した。一方、開花茎は秋に枯れ、その後、
少なくとも 11 月終わりまで立っていた。弾性率と倒伏安全係数は開
花茎のほうが大きかった。
まとめ : 開花茎は偽茎より寿命を長くして、偽茎が枯れたあとも、
開花、結実、種子散布をしなくてはならない。とくに、種子散布は
枯れたあと行なう。葉を展開してから種子散布が終わるまでのあい
だに起きるであろうことに耐えて直立しつづけるには、高い倒伏安
全係数が必要であり、大きな弾性率によって実現しているものと考
えられる。一方、高い安全係数を必要としない偽茎は、茎への投資
を少なくしながら葉を高い位置に保ち、林床で他の植物の下になる
こと避けているものと考えられる。
背景 ロゼットシュートは、茎の節間が極端に短くなり地表面付
近に葉を生やす形態を持つ。この顕著な茎を持たない形態は、雪や
枯れた葉に埋まりやすいため冬の低温から葉や成長点を守ることが
できるという利点があるとし、越冬形のひとつに分類されている。
ロゼットシュートを越冬形として持つ草本種は、温帯から寒帯、高
山帯まで広く分布している。このうち、温帯では、亜寒帯や寒帯・
高山帯と異なり、冬の寒さも穏やかであり、低温が分布の制限要因
ではない可能性がある。このような場所では、茎を持つ高茎のシュ
ートで越冬する個体があれば、光競争の結果、ロゼットシュートの
茎の無い形態は排除される可能性が高い。そこで、温帯では、冬季
に顕著な茎を持つことが原因で何らかのストレスが起こり、高茎の
シュートが侵入できない状況にあると予想される。
結果と考察 本研究は、道管液の凍結融解によって道管内に生じ
る気泡が水輸送を阻害する木部閉塞現象に注目した。木部閉塞現象
は、道管直径が大きい植物では深刻な通水阻害をもたらすことや、
道管液の凍結融解は0℃付近の気温で起きることから、温帯であっ
ても必ず影響があると考えた。栃木県日光市でセイタカアワダチソ
ウの種子を7月に蒔いて花期を遅らせ、高茎のシュートを栄養生長
のままで冬を迎えさせた。最低気温が ‐ 4℃にまで下がった11月
終わりから茎の通水能力は低下し、12月中旬にはほぼ通らなくな
り、1月中旬までには全個体が枯死した。一方でロゼットシュート
の葉柄木部では、12月中旬でも木部閉塞現象は起きていなかった。
このことは、葉と茎とで木部閉塞現象への抵抗性を比較した結果か
らも支持された。そこで、セイタカアワダチソウでは、高茎のシュ
ートが冬季に深刻な木部閉塞現象を起こすために、顕著な茎を持た
ないロゼットシュートが越冬形として温帯域でも進化した可能性が
示唆された。
109
口頭発表 3 月 8 日(金) E 会場 17:00-18:00
E2-21
E2-22
根粒菌との共生関係が窒素固定植物 ( ミヤコグサ ) の成
流水の乱流成分が水生植物の生長要因に及ぼす影響
長特性に与える影響
* 井倉貴人(埼玉大院・理工),浅枝隆(埼玉大院・理工)
* 中田望(首都大院・理工),可知直毅(首都大院・理工)
水の流れは、自然生態系の水生植物の形態および成長過程、分布
を規制する主要な要因である。生態系内の静水・流水中の水生植物は、
洪水や水位変動による水の流れによって様々な規模のストレスを受
ける。本研究では、強さの異なる乱流速度での水生植物のストレス
の応答を観察し乱流ストレス耐性を調べ生長の変化を比較した。
実験では、砂 10㎏を敷いた 57L 水槽に水 40L を入れ、栄養塩とし
て 5%のホーグランド溶液を加えた。振動格子を用いて水を撹拌し、
3 種類の強度の等方性乱流を作成し、4 週間実験を行った。研究対象
としては、沈水植物のホザキノフサモと浮葉植物のアサザとヒシを
用いた。分析は、オーキシン (IAA) および酸化酵素活性、クロロフ
ィルなどの関係性を調べ、さらに、細胞壁の糖類をペクチン、へミ
セルロース、セルロースに分画し定量を行った
アサザとホザキノフサモは、高い乱流速度で植物伸長および IAA
濃度が減少し、そして IAA oxidase の増加がみられた。異なる乱流成
分における植物伸長と IAA 濃度および IAA 酸化酵素活性には密接な
関係があることが示唆された。また、Peroxidase、Cytokinin oxidase
の酸化酵素活性は Midle・High の乱流条件で時間経過につれ増加し
た。高い乱流速度条件下では 3 種類の植物の正常な代謝活性が抑制
される可能性がある。また、浮葉植物は水中に生育する沈水植物より
も乱流ストレスに対処する戦略を有することが示唆された。
根粒菌との共生関係により大気中の窒素分子を利用できる窒素固
定は、貧栄養土壌での植物の成長や生存に有益な機能であると考え
られてきた。また、窒素固定における炭素消費の計算上のコストは
比較的大きいため、窒素固定機能には植物の成長に対してメリット
だけでなくコストもあることが示唆されてきた。近年、窒素固定機
能発現についての分子生物学的、生理学的理解は進んでいる。しかし、
この機能が野外の多様な環境下で生活している窒素固定植物の成長
や生存に対しどのような効果をもたらしているのかは、具体的に検
証されてこなかった。我々は窒素固定植物ミヤコグサを用い、植物
が野外で体験し得る土壌窒素濃度条件、光条件の下での成長特性を
比較検討してきた。本講演では、窒素固定機能を持つことで窒素固
定植物の成長特性がどのような影響を受けるのか検討する。
根粒菌との共生関係により、窒素固定個体の窒素獲得量は環境条
件に関わらず増加した。根粒の形成に伴い根のバイオマス増加が妨
げられ、葉面積あたりの窒素含量およびバイオマスが大きくなる傾
向が見られた。その窒素獲得量増加および形態的特性の変化がバイ
オマス生産の増加をもたらしうる条件は低窒素濃度かつ高光強度の
条件に限られていて、土壌中の窒素濃度が高い場合および光強度が
弱い場合は、根粒菌との共生によりバイオマス生産は低下する傾向
が見られた。この背景には、一度根粒菌との共生関係が築かれると、
窒素固定活性が低下しても窒素固定と関連する構造及び機能を、非共
生時の状態に戻すことができないことが影響しているかもしれない。
これらの結果は、根粒菌との共生関係は、野外に生育する窒素固
定植物の成長や生存に対して常に有益な機能であるとは言えない可
能性を示している。
E2-23
E2-24
光合成不適期間の効果を組み込んだ最適葉寿命モデルの
葉寿命を入れた植物生産のスケーリング理論
数理解析
* 菊沢喜八郎,MJ Lechowicz(McGill, U.),清和研二(東北大)
* 関元秀,高田壮則(北大・地球環境)
代謝スケーリング理論の発展とともに、アロメトリー式のべき定
数が注目されているが、代謝量のレベルを決める規格化定数もまた
重要である。本研究はアロメトリー式の規格化定数に着目し、規格
化定数に葉寿命を導入することによって、葉寿命理論とスケーリン
グ理論を統一し、一次生産と相対成長率を葉寿命で表そうという試
みの第一報である。Kikuzawa (1991) の葉寿命理論から、植物の生産
速度(一次生産)を表す公式を導いた。それによれば、一次生産は
葉寿命(の逆数)と葉量によって表される。アロメトリー理論によ
れば葉量は植物個体重のべき乗によって表されるので、結局、一次
生産は葉寿命と個体重によって表され、葉の光合成能力とは無関係
である。また相対成長率は葉寿命に反比例することが予測される。
後者は、実験結果によって、ほぼ裏付けられている。
葉寿命は植物種によって様々で、また同一種でも生育環境が異な
れば葉寿命が異なることが知られている。Kikuzawa(1991) のモデル
では、個木が同時につけておける葉の総数に限度があり、また各葉
の炭素同化性能が経時劣化すると仮定される。さらに、個木が展葉
∼落葉の期間【葉寿命】と落葉∼展葉の期間【インターバル】の2
つを生活史戦略として有しているとし、それによって個木の生涯炭
素収支が最大化される戦略を最適戦略と呼ぶことにする。このモデ
ルで個木が生涯炭素収支を最大化するためには、同化性能がゼロで
はないがある程度低下してしまった段階で既存の葉を落とし、即座
にまたは間隔をおいて代わりの新鮮な葉を展開することになる。葉
の一日の純光合成量がマイナスになる冬季や乾季【光合成不適期間】
が存在しない熱帯雨林のような環境では、最適インターバル値がゼ
ロであることが自明で、Kikuzawa(1991) はこの環境下で最適葉寿命
を算出する公式を得た。一方、光合成不適期間が存在する季節性環
境下での最適葉寿命・最適インターバルを得る数学的手法は確立さ
れずにいた。我々は「光合成不適期間が終わるまで待ってから(つ
まり春になってから)展葉する」など、妥当と思われるいくつかの
インターバル決定戦略を検討し、各インターバル決定戦略下で個木
生涯収支を最大化する葉寿命を算出する方法を開発した。本講演で
は、現実的なパラメーター範囲内での網羅的な数値計算の結果を紹
介し、「年に複数回展葉する」戦略や、「光合成好適期間の最中に葉
を付け替える」戦略が時として「冬直前に落葉し春先に展葉する」
戦略よりも個木生涯収支を大きくすることを示す。
110
口頭発表 3 月 8 日(金) E 会場 18:00-18:15
E2-25
樹形のパイプモデル理論における F(z)-C(z) 関係に関す
る一考察
小川一治(名大・生命農学)
単木の樹冠頂部から深さ z での非同化重量を C (z )、また、z まで
の積算葉量を F (z ) とした場合のパイプモデル理論における F (z )-C (z )
関係が既報の4樹種(ヒノキ (n =5)、スギ (n =6)、カラマツ (n =20)、
シラベ (n =16))の層別刈り取りのデータを用いて吟味された。
F (z )-C (z ) 関係は非直角双曲線式で全 C (z ) 域において近似され、そ
の曲線の初期勾配はグラフから判断して F (z ) が一定となるまでの
C (z ) 域において直線とみなされ、本解析においては比パイプ長に相
当すると考えた。この比パイプ長は個体間でばらつき、両対数軸上
で比パイプ長と生枝下高幹直径の2乗と正の傾き ( 巾指数 ) を持つ
巾乗関係で近似された。
この比パイプ長の単木サイズ依存性を考慮すると、単木葉量と生
枝下高幹直径の2乗との相対成長関係における巾指数は理論的に1
より大きくなることが誘導された。従って、単木葉量と生枝下高幹
直径との相対成長関係における巾指数の値は通常2より大きくなる
と言える。
しかしながら、この相対成長モデルでは、実際のデータで調べて
みると、単木葉量と生枝下高幹直径の2乗との相対成長関係におけ
る巾指数の値は1から有意な差は認められず、単木葉量は生枝下高
幹断面積に比例する傾向にあった。このことは、パイプモデルの樹
木への有効性を示す証拠と言える。
また、単木間での比パイプ長の差の生物学的意味についても考
えてみた。その結果、単木間での比パイプ長の差は同じ非同化部重
C (z ) での積算葉量 F (z ) の違いに相当することとなり、林木個体間の
相対的な葉量の違いを示し、林分の林冠構造を示す1つの示数とみ
なすことができると推論された。
111
口頭発表 3 月 8 日(金) F 会場 15:00-16:00
F2-13
F2-14
Is species variation of tree size structure in a large-scale
Forest structure and biomass of the Terra-firme forests in
tropical forest plot maintained in quasi-equilibrium state?
the central Amazon
*Kohyama, T.S. (Hokkaido Univ.), Potts, M.D. (UC Berkeley), Kassim, A.R.
(FRIM), Ashton, P.S. (Harvard Uni.)
Rempei SUWA, Takuya KAJIMOTO, Moriyoshi ISHIZUKA (FFPRI, Japan),
Alberto C. M. PINTO, Marcio R. M. AMARAL, Fernando da SILVA, Adriano
J. N. LIMA and Niro HIGUCHI (INPA, Brazil)
Relative scarcity of juveniles is often attributed to the decline of
population in the community of forest trees. However, such properties as
high longevity, high growth rate and low fecundity promote populations
with low juvenile frequency in an equilibrium state. The theory of vertical
foliage partitioning suggests the the difference in tree size structure among
species contributes to stable coexistence.
To examine whether or not inter-specific variation in tree size distribution
reflects demographic differentiation, we analysed census data of abundant
365 species (with 100 or more trees > = 2 cm in trunk diameter) in the
50-ha plot of Pasoh Forest Reserve in Malaysia. We examined how the
observed size distribution in terms of maximum diameter and skewness
is related to demographic rates over around 5 years of census interval,
by comparing the observed distribution and the projected equilibrium
distribution from demographic rates.
We found that the observed inter-specific variation in size distribution
was associated, to a fair extent, with demographic properties, thus the
foliage partitioning mechanism may contribute to the stable coexistence in a
species-rich tree community of tropial rainforest.
The biomass of old growth forests have been well studied around Manaus
in the central Amazon compared to those at the other Amazonian regions.
Castilho et al. (2006 in For Ecol Manage) suggested that the forest biomass
increased with elevation in this region. Although the forests distributes from
ca. 20 m to 160 m in elevation, the forest biomass has not been studied at
a low elevation ( < ca. 90 m) in this region. In the present study, 21 plots
(60 x 60-m2) were established considering a wide range of elevation (ca.
40 - 130 m) around Manaus. In each plot, all trees whose diameters at
breast height DBH > 10 cm were sampled. Small trees (5 < DBH < 10
cm) were also sampled within a subplot (20 x 60-m2) in each plot. For all
sample trees, DBH were recorded. The DBH - tree height H relationship was
also investigated for at least 30 individuals in each plot. The biomass was
estimated with allometric model which was previously developed near the
present study site. In this presentation, the relationship between topography
and biomass will be discussed. The topographic information was obtained
from the digital elevation file of SRTM data.
F2-15
F2-16
亜高山帯 3 樹種の幹の肥大成長に対する温暖化の影響評価
豊橋市葦毛湿原の植生変化とその復元 ー 37 年間の
* 高橋耕一(信州大・理),奥原勲(信州大・院・工学系研究科)
成果ー
標高傾度にそった樹木の成長に対する温暖化の影響を明らかにす
るために,中部地方の亜高山帯で優占する針葉樹シラビソ (1600 ∼
2200 m a.s.l.),オオシラビソ (2000 ∼ 2500 m a.s.l.),そして落葉広葉
樹ダケカンバ (1600 ∼ 2500 m a.s.l.) について,年輪年代学的手法を
用いて調べた.分布上限と下限における,年輪幅と年輪内最大密度
のクロノロジーを月平均気温と月降水量から予測する重回帰モデル
を作成した.ただし,年輪内最大密度はダケカンバについては調べ
なかった.調べた計 10 クロノロジーのうち,3 種の分布下限の年輪
幅は気象データとの相関が低かったため,これらの関係はモデル化
できなかった.中部地方では,2100 年までに年平均気温は約 3 度,
年降水量は約 100 mm 増加することが,計 18 通りの気候変化シナリ
オ(6 種類の大気大循環モデル x 3 種類の温室効果ガス排出シナリオ)
から予測されている.温暖化の 3 樹種の成長に対する影響を調べる
ために,年輪幅と年輪内最大密度の予測モデルを 18 通りの気候変化
予測シナリオを用いて計算した.その結果,オオシラビソの分布上
限と下限の年輪幅と年輪内最大密度は 2100 年までに増加した.この
増加率は温室効果ガス排出の多いシナリオほど高かった.一方,温
室効果ガス排出シナリオに関わらず,シラビソの年輪内最大密度と
ダケカンバの年輪幅は 2100 年までに変化はなかった.したがって,
この研究では温暖化に対する幹の肥大成長の応答は 3 種で異なって
おり,そして肥大成長の応答は年輪年代学的なモデルによって予測
可能であることを示した.
中西 正(愛知県専門調査員)
葦毛湿原 ( 第1湿原 ) の植生については 1976 年に調査を始めた。
永久枠を設置しての群落調査と植生図を作成し、時間をおいての比
較によりその遷移を捉えた ( 基礎調査 )。1988 年からは、この変化
を戻せるか ( 植生の復元が可能か ) を見るために面積を限ってツル
ヨシ群落、ヌマガヤ群落、イヌツゲ群落、ネザサ群落等の除去を行い、
遷移後退を試みた(回復実験)。その後、1991 年からは、より広い
面積での群落除去(小規模実験)を行い、一定の成果を得た。これ
らの結果をもとに 1995 年から湿原全体の植生回復施策に入った。
植生回復施策の実施に当たっては、一度に広い面積は行わないこ
ととした。全体を 7 区画に分け、そのうちの半分で群落の除去を行
った。年間 2 回の作業で、1回の作業では湿原の1/14 に手を加えた
ことになる。この作業に当たるのは市民で、
「ボランテイア養成講座」
を受講した人とした。この講座は自然の仕組みや植生回復の知識を
得るためのもので、10 回程度で構成した。これによって、意思統一
ができ、作業が丁寧に行われたと思われる。
基礎調査の段階ではシラタマホシクサ群落は減少しており、イヌ
ツゲ群落のような木本群落は増加していた。そのまま手を加えなけ
れば、近いうちに湿原全体が木本群落に変化するであろうと推測で
きる状態であった。しかし、植生回復施策に入ってからはシラタマ
ホシクサ群落の減少は止まっている。この結果は植生回復作業の成
果と言える。
第1湿原の近くには第2湿原、第3湿原があり、ここでは植生回
復の作業を行っていない。この第2、3湿原で群落面積の変化を見
ると、遷移によって草本群落が極端に減少していた。この第2、3
湿原での変化と第1湿原の結果を比較することによって植生回復作
業の成果はより明確になると考えられる。この成果と今後の問題点
を論じたい。
112
口頭発表 3 月 8 日(金) F 会場 16:00-17:00
F2-17
F2-18
農業用小水路・支線水路における植物の出現特性と環境
陝西省北部、黄土高原草地における群集構造の空間分布
要因
* 塩見正衛(放送大・茨城),山村靖夫(茨城大・理),陳俊(西北農林科
技大・動物),中野隆志(山梨環境科学研),楊云貴(西北農林科技大・
動物),紺野由香(茨城大・理),胡遠彬(西北農林科技大・動物),高寧(西
北農林科技大・動物)
* 松本さおり(新潟大院・自然科学),石田真也(国環研),高野瀬洋一郎
((株)グリーンシグマ),久原泰雅(新潟県立植物園),紙谷智彦(新潟
大院・自然科学)
黄土高原の乾燥地草地植生の空間構造を理解するために,陝西省
神木県 (39°00´ ∼ 39°03´N,109°44´ ∼ 109°53´E;年降水量
300 ∼ 400 mm,年平均気温 6 ∼ 8°C) の代表的な 4 つの草地景観を
選び,2012 年 7 月下旬調査を行った。4 調査地は: ①調査地 L1:標
高 1271 m の丘陵南西斜面の百里香自然草地 ( 荒地 ),②調査地 L2:
標高 1215 m に位置するやや乾燥した平坦な軽度放牧地 ( 放棄耕地 ),
③調査地 L3:標高 1208 m のやや湿潤で平坦な禁牧地 ( 放棄耕地 ),
④調査地 L4:標高 1213 m の砂地で Artemisia ordosica 生育の自然植生。
調査方法は,1 調査地 2 本の 50 m ライン上に 1 調査単位 25 × 25
cm の正方形を 2 列に並べ,計 800 個の調査単位 ( 総面積は調査地ご
とに 50 m2) で,出現した種名を調査単位ごとに記録した。
結果は次のとおりである:① 4 つの景観の 3 か所は共通種が少な
く,種構成の非類似性が高かった ( 放牧の有無だけが異なる L2 と L3
は共通種が多く,種構成の非類似性は低かった )。②自然植生よりも,
放棄耕地の草地の種数が多かった。③ 1 単位の区画サイズで見ると,
種数の分布は区画間でランダムであった。区画サイズを大きくする
にしたがって不均一性が高くなった。L4 を除いて,区画サイズが 16
単位以上では空間的不均一性は変化せず,種数は群集内では区画サ
イズがほぼ 16 単位の群れを構成していた。なお,L4 では,空間的不
均一性が一定になるのは,より大きな面積であると考えられた。
水田地帯の農業用水路は、1950 年代以降の圃場整備に伴い、土水
路からコンクリート水路への構造転換を中心とした改修が実施され
てきた。また、農業用水は、河川から取水されて水田や再び河川ま
で到達する間、規模の異なる 3 タイプの水路 ( 幹線、支線、小水路 )
を階層的に流れる。従って、現在の農業用水路網は、各水路の構造
や階層の組み合わせにより多様な環境が創出されていると考えられ
る。日本では、かつての水田雑草を含む多くの水湿生植物の減少が
懸念されている。今後、これらの植物の効果的な保全のためには、
水田圃場だけでなく農業用水路においても水湿生植物の出現パター
ンを明らかにする必要がある。
本研究は、農業用水路の構造と階層の組み合わせの違いが、水路
内に出現する植物の種数及び種組成に与える影響を明らかにするこ
とを目的とした。
調査は越後平野中西部の農業用水路 151 本で行った。連続する
1m2 の調査区を小水路で 10 個、支線水路で 60 個ずつ設置し、初夏
と秋に各調査区内に出現した水湿生植物の種名を記録した。各水路
の構造、水路高、幅、水深及び土厚を記録し、水路内の浚渫作業 (
江ざらい ) の有無に関する聴取り調査を行った。
調査の結果、計 82 種の水湿生植物が出現した。水路間の種組成の
類似性を明らかにするため NMDS を用いて水路を序列化した。その
結果、土水路間では種組成が類似する一方、コンクリート水路間で
は種組成が多様であった。コンクリート水路では、各要因が水湿生
植物に与える影響を明らかにするため、GLMM を用いた解析を行っ
た。小水路と支線水路で結果の傾向は異なり、小水路では秋季水深、
支線水路では初夏水深が出現種数に負の影響を与えていた。これら
の結果をもとに、水湿生植物の生育地として望ましい水路環境につ
いて検討する。
F2-19
F2-20
温帯性針葉樹の植生帯での位置づけ−森林動態,古生態
東アジアの暖温帯落葉広葉樹林の新たな群落分類体系
資料からの考察
* 大野啓一(元横国大)・宋 鍾碩(韓国安東大)
* 高原 光(京都府大・生命環境),大住克博(森林総研・関西),平山貴美子,
吉良 (1949) が提唱した暖温帯落葉広葉樹林帯は照葉樹林帯と冷温
帯落葉広葉樹林帯の推移帯に位置し,温かさの指数は 85℃・月以上
あるが寒さの指数は− 10℃・月以下にあるため常緑広葉樹が生育で
きない領域とされている.この森林帯に分布するコナラやアベマキ
を主体とした森林植生はこれまでの群落分類体系ではブナクラス,
コナラ−ミズナラオーダーのイヌシデ−コナラ群団に位置づけられ
ていた.朝鮮半島には対応する森林帯として暖温帯落葉広葉樹林帯
南部と同北部 (Yim & Kira 1975) があり,そこに分布するモンゴリナ
ラ,アベマキ,コナラを主体とした森林植生は,極東ロシアを含め
た群落分類体系ではモンゴリナラクラス,トウハウチワカエデ−モ
ンゴリナラオーダーのダンコウバイ−モンゴリナラ群団にまとめら
れている.最新の群落分類体系では日本のブナクラスに所属するコ
ナラ−ミズナラオーダーとサワシバ−ミズナラ群団,ミヤマザクラ
−ミズナラ群団,イヌシデ−コナラ群団の 3 群団は上記のモンゴリ
ナラクラスに移されている (Krestov et al. 2006).中国では暖温帯落葉
広葉樹林帯に対応する森林植生として揚子江下流域ではファベルコ
ナラ−トウコナラオーダー (Suzuki et al. 2003) が,黄河中下流域では
アベマキクラス,アベマキオーダー (Tang 2010) が報告されている.
本研究では日本のブナクラス,韓国のモンゴリナラクラス,中国の
アベマキクラスの種組成を比較し,暖温帯落葉広葉樹林帯に分布す
るナラ類を主体とした森林植生の群落分類体系を見直した.さらに,
東アジアの暖温帯落葉広葉樹林に関し新たな群落分類体系の構築を
試みた.
佐々木尚子(京都府大・生命環境)
従来の植生帯論では,日本列島の温帯域に分布している温帯性針
葉樹の位置づけは明確ではなく,中間温帯林や特殊な立地に成立す
るマイナーな構成要素として認識される場合が多かった。しかし,
近年の古生態学的研究成果から,温帯性針葉樹が人間活動の活発に
なる以前には広く優占していた地域がある。1000 年前以前には,西
日本の日本海側地域ではスギが優占する針葉樹林が拡がっていた(高
原,1994)。内陸域の京都盆地では常緑広葉樹にスギ,ヒノキ科,コ
ウヤマキが混生していた(佐々木ほか,2011 など)。また,大阪平
野では,常緑広葉樹とスギ,ヒノキ,コウヤマキ,モミなどが高率
で混生(パリノ・サーヴェイ,1998;辻本・辻,2002;北川,2008
など)し,伊豆半島ではスギ,コウヤマキが優占していた(叶内,
2005)。木材利用の面からみれば,古墳時代や古代にはヒノキ,コウ
ヤマキなどが建築材料などとして大量に使われてきた(島地・伊東,
1988,鈴木,2002 など)。また,琵琶湖湖西では,アカマツ,コナ
ラなどから構成される二次林が放置された後の過去 10 年間では,ス
ギ,ヒノキの新規加入率が高くなっている(大住,未発表)。このよ
うに人間活動の活発になる以前の暖温帯の植生は,現在の植生に比
べて,はるかに多様な温帯性針葉樹が多く混生する森林であり,近年,
放置された二次林にも温帯性針葉樹が増加している。このような古
生態や森林の動態から,以下の疑問を提起したい。1.現在の冷温
帯下部に偏って分布する天然スギ群集は残存個体群ではないか?2.
西南日本の暖帯林の極相は,針広混交林(照葉樹+温帯性針葉樹)
ではないか?3.歴史的に針葉樹資源を使い尽くした後を見て、暖
帯林=照葉樹林と理解しているのではないか? 113
口頭発表 3 月 8 日(金) F 会場 17:00-17:15
F2-21
アジアのブナ林・ナラ林の世界的位置づけ
* 藤原一繪・原田敦子(横浜市大.院・生命ナノシステム科学)
・志栄・王林・
王正祥・湯茜・尤梅海
東アジアの温帯に広く分布するブナ類およびナラ類林について、
植物社会学的に比較し、まとめた。日本のブナ林については、福
嶋 (2007) が研究史を詳細に記載している。またミズナラ林は星野
(1998)、
コナラ林は鈴木伸一 (2002)が体系化している。これらは個々
にデータ比較が行われているが、中国、ロシア、韓国などから発表
されているデータとの比較や、東アジア全体の落葉広葉樹林の位置
づけはまだ論じられていない。そこで、2002 − 2010 年に収集した
中国のブナ林・ナラ林の植生調査資料に、日本・韓国・ロシアの既
発表資料を加え、5161 資料 ( ブナ林 1088、ナラ林 4073)を総合常
在度表で比較し、整理した。その結果、ブナ林は地域ごとの特異性
が強く、それぞれ独立した植生単位を成立させていた。中国のブナ
林は冷温帯林のモンゴリナラ林と分布を異にし、暖温帯の山地帯を
中心に分布し、常緑広葉樹を伴う林分が多い特徴が見られた。韓国
鬱陵島のタケシマブナ林は固有種を多く有し、日本のブナ林とも異
なるクラスになると考えられた。ナラ林は韓国、中国北部∼東北部、
ロシア極東地域に分布する冷温帯のモンゴリナラ林、乾燥地域のリ
ョウドウナラ林、中国中部低山地および韓国低地の暖温帯に分布す
るアベマキ等のナラ類林が区分された。中国と韓国のナラ林はブナ
林との相違が明瞭であったが、日本のナラ林は特徴的な種群を持た
ず、ミズナラ林はブナ林との共通種を持ち、韓国済州島のミズナラ
林も含め、いわゆるブナクラスにまとめられた。しかしコナラ林は
共通種が限られ、韓国低地のアベマキ林、北京周辺のモンゴリナラ
林と共に、さらなる検討が必要である。これらの特性を世界のブナ・
ナラ林と比較し、類似性、相異性を整理した。2012 年韓国モッポで
開催された第 55 回国際植生学会シンポジウム講演発表資料を基盤
に,検討を進めた結果を報告する。
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形質解放によるオサムシの大型化:繁殖干渉からの解放
イトヨにおける異なる海水適応能の進化とその遺伝基盤
と大きい餌への適応
* 石川麻乃(遺伝研・生態遺伝),北野潤(遺伝研・生態遺伝)
* 奥崎穣(京大・理),曽田貞滋(京大・理)
同種集団の地理的変異は、現在受けている淘汰を反映している。
中でも、近縁な 2 種が異所的な地域よりも同所的な地域でより大き
な形態差を示すことを形質置換あるいは形質解放という。前者は 2
種が共存することで形質差が大きくなり、後者は単独分布すること
で形質差が小さくなる現象である。これらの地理的パターンは共存
域での資源競争あるいは繁殖干渉から生じるが、形質解放の場合は
単独分布域での環境要因も関係する。本研究では、九州で著しい大
型化を示すオオオサムシ亜属の小型種ヒメオサムシを材料として、
近縁種と餌に注目して、体サイズの地理的パターンが生じるプロセ
スの解明を試みた。まず、ヒメオサムシは大型の近縁種オオオサム
シがいない地域でのみ大型化していた。また系統解析の結果、大型
ヒメオサムシは小型ヒメオサムシから分化しており、大型化は形質
解放と見なされる。次に、体サイズの異なるヒメオサムシとオオオ
サムシの繁殖干渉を観察した。その結果、ヒメオサムシの体サイズ
が大きくなるほど、オオオサムシとの交尾と精包形成が高頻度にな
った。近縁種共存域でヒメオサムシの体サイズが小型に維持されて
いる原因は、オオオサムシとの繁殖干渉であると考えられる。さらに、
幼虫の餌であるミミズの体サイズとその捕食成功を調査した。その
結果、大型ヒメオサムシの分布域では、ミミズの体サイズが非常に
大きかった。そして、幼虫の捕食成功率は、ミミズに対する幼虫の
相対的体サイズの増加によって増加した。また成虫と 1 齢幼虫の体
サイズには正の相関が見られた。そのため、単独分布域でヒメオサ
ムシの体サイズが大型になる原因はミミズの大きい体サイズであり、
大きい幼虫(卵)を産む大きい体サイズが適応的であると考えられる。
以上のことから、ヒメオサムシの大型化は、繁殖干渉からの解放と
大きい餌への適応によってもたらされたと推測された。
生物は、外的刺激に応じて適切に形や行動、生理状態を変えるこ
とで、変動し続ける環境に対応している。このように同じ遺伝的背
景から環境条件に応じて異なる表現型が生み出される現象は『表現
型可塑性』と呼ばれ、多くの生物が示す性質として知られてきた。
さらに、近年ではこの表現型可塑性が生物の多様な形質の進化に重
要な役割を果たすと示唆され、注目を集めている。しかし、さまざ
まな生物種で表現型可塑性の生理制御機構が明らかになる一方、「表
現型可塑性の獲得や喪失が、そもそもどのような遺伝的変化によっ
て進化するのか」という根本的な問題は全く明らかにされていない。
そこで、本研究では、近年進化学のモデル生物として注目されてい
るイトヨ Gasterosteus aculeatus の集団間における塩分変化応答性の違
いに注目し、その差を担う分子生理機構と遺伝基盤の解明を試みた。
祖先集団である海型イトヨは川と海とを回遊し、淡水から海水まで
多様な塩分変化への対応能力を持つ一方で、河川や湖などの淡水域
に進出した淡水型イトヨは淡水から海水への急激な塩分変化に対応
できず、死に至る。マイクロアレイを用いた全トランスクリプト発
現解析により、海水へ移行した際に見られる脳内の遺伝子発現変動
を調べると、海型イトヨで発現レベルが上昇する一方、淡水型イト
ヨでは発現上昇しないホルモン関連遺伝子が複数個見つかった。こ
れらの遺伝子は他の魚類で浸透圧調整に関与することが知られてお
り、海型イトヨと淡水型イトヨの塩分変化応答性の違いに寄与して
いると示唆される。さらに、海型イトヨと淡水型イトヨの F1 個体を
用いて、同様に海水移行実験と候補遺伝子の発現変動解析、アリル
特異的発現解析を行い、塩分変化応答性の違いに寄与する候補遺伝
子の絞り込みと、その遺伝基盤の探索を行なっている。今後は、得
られた候補ホルモンの投与による機能解析を行う予定である。
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ブンブク類(ウニ綱)における捕食者との共進化とその
行動形質における進化的キャパシターの探索:HSP90
適応放散
の遺伝変異緩衝効果の測定
齋藤礼弥(神奈川大・院・理),金沢謙一(神奈川大・理)
* 辻野昌広(岡山大・RCIS),吉井大志(岡山大・理),高橋一男(岡山大・
RCIS)
ブンブク類は,一般に堆積物中でのみ生活するウニ類であるが,
ヒラタブンブク類は特殊な腹側の形態を持ち,腹両側の長い棘によ
り,堆積物表面への急速な脱出と堆積物への急速な埋没が可能であ
る.水槽実験では,堆積物中に潜っているヒラタブンブクに対して,
水流を起こして堆積物表面の砂を少しずつ洗い飛ばすと,ウニは腹
側の大きな棘を駆使して,それよりも速く潜ることで洗い出しを防
ぐ.実際に石川県能登島では,ヒラタブンブクが,嵐により堆積物
表面が撹乱を受ける中,堆積物に深く潜り洗い出しを避けており,
冬に海底撹乱が頻繁に起こる隠岐諸島の海域では,冬の時期を経て
もウニの個体数が減少しない事が観察された.この腹側の特殊な形
態を持つヒラタブンブク類は,始新世に出現し,それはウニ類を捕
食する巻貝トウカムリ類の出現時期と一致する.ヒラタブンブク類
とトウカムリ類は,現在は同所に生息しないが,中新世までは共に
熱帯の浅海域に生息していたことが化石記録から分かっている.ヒ
ラタブンブク類の特殊な形態は,対捕食者戦略として発達したと考
えられる.実際に捕食実験を行ったところ,砂中のヒラタブンブク
はトウカムリが接触すると,砂表面に脱出して逃げた.しかし脱出
が成功したのは,10 個体中 1 個体であった.体長の 2 倍程あるトウ
カムリの最初の攻撃で覆い被されると,ウニは逃げる事が出来ずに
捕食された.しかし,始新世ではトウカムリ類とヒラタブンブク類
はほぼ同サイズであり,その場合は逃げる機会があったと考えられ
る.しかし,中新世にはトウカムリ類は,ヒラタブンブク類の約 3
倍のサイズに達し,もはやこの戦略は通用しなくなったと思われる.
一方で,対捕食者戦略として発達した腹側の特殊な形態により,ヒ
ラタブンブク類は現在の様々な海底環境での生活に適応し,大繁栄
している.
進化的キャパシターとは、遺伝的な変異が表現型に与える影響を
緩衝することで、集団中に遺伝的変異を維持し、それを一度に顕在
化し自然淘汰に曝す事で、迅速な進化を促進する機能を持つ概念的
な機構である。
進化的キャパシターの候補となる分子の一つに、分子シャペロン
の一つである HSP90 が挙げられる。先行研究により、HSP90 の機能
阻害が、形態形質における遺伝的変異を増大させる例が知られてお
り、HSP90 が形態形質の遺伝変異を緩衝する機能を持つ可能性が示
唆されている。近年の研究により、HSP90 の機能阻害が行動形質の
環境変異を増大させる効果を持つことが観察されており、このこと
は HSP90 が行動形質の遺伝変異にも影響する可能性を示唆している。
本研究では、HSP90 が行動形質の遺伝変異の緩衝機能を持つかど
うかを検証するため、キイロショウジョウバエを材料として、Hsp90
の発現抑制および HSP90 の機能阻害が歩行活動の遺伝変異に与える
影響を測定した。
HSP90 阻害の効果を検証するための遺伝変異としては、人為的に
導入されたゲノム欠失に基づいた遺伝的変異と、野生型系統間の自
然遺伝変異の 2 つを用いた。Hsp90 の発現抑制には、RNA 干渉法を
用い、HSP90 の機能阻害には抗生物質であるゲルダナマイシンを用
いた。歩行活動は、恒温恒暗条件下でアクトグラフにより記録した。
キイロショウジョウバエは概日リズムを持ち、自然環境下では 1 日
2 回(日の出前後と日没前後)活動活性が高くなることが知られて
いる。そこで行動形質の指標として、歩行活動の概日周期と活動活
性が高まる時間帯における行動的反応(活動ピークの高さと尖度)
を用いた。これらの実験の結果より、HSP90 が行動形質の進化的キ
ャパシターとして機能しうるかどうかを論じたい。
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アリ共生はアブラムシの翅と飛翔筋を減少させる
アリによるアブラムシへの「目印」とアブラムシによる
八尾泉(北大院・農・昆虫体系)
アリへの化学擬態
Tuberculatus 属アブラムシは,主にコナラ属樹木の葉に寄生し,本
属の成虫は全て有翅虫になることが知られている。しかしながら,
アリ共生型の T. quercicola と T . sp. A は,ほとんど飛ばないことが集
団遺伝構造と野外トラップ実験から明らかになっている。本研究で
は,野外操作実験を通して,共生アリがアブラムシの飛翔器官の形
成と維持に及ぼす影響を調べた。アリ共生型アブラムシ T. quercicola
をクローンで増殖させ,Y 字形に分かれたカシワのシュートに同数
ずつ導入し,アリ随伴・非随伴の2条件で飼育した。測定個体は,
成長に伴う飛翔筋分解を避けるために羽化後2日以内の成虫を用い
た。飛翔器官発達の指標として,中胸長,翅面積,中胸面積そして
飛翔筋面積の 4 形質を測定・比較した。測定した形質の統計解析には,
体長で補正した共分散分析を用いた。その結果,アリ随伴下アブラ
ムシの飛翔器官 4 形質は,非随伴下のそれらに比べて有意に減衰し
ていた。アリ随伴下の T. quercicola は捕食者から守られていること
を考慮すると,飛ぶ必要性は少ないと考えられる。そのため飛翔器
官への栄養投資を割き,代わりに甘露生産増大や胚子数増加に投資
していると示唆される。
* 遠藤真太郎(信州大院・総工),市野隆雄(信州大・理)
アブラムシとアリは相利共生関係の例として有名であるが、アリ
は時に共生アブラムシを捕食してしまうことも知られている。この
現象は、アリによるアブラムシのまびきや、タンパク餌の補充など、
アリコロニー内の栄養の需給バランスの変化によって発生すると考
えられてきた。しかし、アリは多数の個体からなるコロニーで捕食
活動を行うが、アブラムシに随伴するか捕食するかという判断を個々
のアリワーカーがどのように下しているのかという至近要因は明ら
かになっていなかった。
これについて、Sakata (1994) は、アリがアブラムシに何らかの目
印を付けることで、アブラムシを選択的に捕食していることを状況
証拠から示唆した。本研究では、アリの巣仲間認識物質である体表
炭化水素(CHC)がこの目印物質である、という仮説を立て、検証
を行った。
クロクサアリ随伴環境で飼育し、新しく産まれたヤノクチナガオ
オアブラムシ1齢幼虫の体表には、アリの CHC が付着していた。ま
た、このアブラムシやアブラムシ体表から抽出した CHC を塗布し
たダミーに対して、アリは捕食や攻撃しにくかった。このことから、
アリは随伴したアブラムシに対して自らの CHC で目印を付け、その
CHC が巣仲間による捕食を抑制することで、あまり甘露を提供しな
いアブラムシを選択的に捕食していることが明らかになった。
一方で、ヤノクチナガオオアブラムシもアリの捕食に対して対抗
進化している可能性がある。各齢期のアブラムシをアリ非随伴環境
で飼育し、脱皮した個体の CHC を分析した。その結果、3齢以上の
アブラムシではアリによく似た組成の CHC を自ら生合成しているこ
とが明らかになった。これは、アリの目印を自ら作ることで捕食を
回避する化学擬態だと考えられる。
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アリ類の触角形態の性分化における遺伝子発現制御
アジア産カブトガニ類に外寄生するカブトガニウズムシ
* 笹 千舟(北大院・環境),宮崎 智史(富山大・理),東 正剛,三浦 徹(北
類 (Ectoplana spp.) の分子系統
大院・環境)
西田伸(宮崎大・教育文化)
社会性ハチ目は生活史における雌雄の役割が大きく異なり,性的
二型が顕著であることが知られる.特にアリは嗅覚に依存した個体
間コミュニケーションを行うことから,伝達される情報や行動様式
の性差を反映するように触角形態に顕著な性差が見られる.アリの
社会性進化においてこのような性的二型形質の獲得は極めて重要で
あり,その発現機構を解明することで,社会性ハチ目における社会
性維持機構の理解に繋がると期待される.そこで本研究では,アリ
の中でも形態の性的二型が特に顕著なトゲオオハリアリ Diacamma
sp. を用い,触角形態の性分化に関与する遺伝子の探索及び発現解析
を行った.
本種の雌は 12 節から構成される L 字型の触角を,雄は 13 節から
構成されるムチ状の触角を有する.これまでの筆者らの組織形態学
的解析から,成虫で最も顕著な性差は触角第一節長に見られ,この
性差は 4 齢幼虫期に生じることが明らかになっている.そこで,4
齢幼虫の触角原基における性決定遺伝子及び形態形成遺伝子(計 10
遺伝子)の発現量を real-time 定量 PCR を用いて解析し,雌雄で比較
した.その結果,性決定遺伝子 doublesex ( 雌型アイソフォーム ) や
昆虫の付属肢基部を形成する homothorax が雌で多く発現し,性決定
遺伝子 doublesex ( 雄型アイソフォーム ) や昆虫の付属肢中位部,遠
位部を形成する dachshund , Distal-less が雄で多く発現していた.こ
れらの結果より,性決定遺伝子が下流の形態形成遺伝子の発現部位
を調節することで,触角の発達を性特異的に制御していることが示
唆された.
宿主−寄生者間の共進化およびそれに伴う種分化は様々な生物群
間で観察されている.カブトガニウズムシ類 (Ectoplana spp.) は扁形
動物門三岐腸目海棲三岐腸亜目に属するいわゆるプラナリアの一群
であり,アジア地域に生息するカブトガニ類に外寄生する.カブト
ガニ (Tachypleus tridentatus ) にのみ寄生するとされる E. limuli (Iijima
and Kaburaki,1916) と,東南アジア産のカブトガニ類の他の 2 種,
ミナミカブトガニ (T. gigas ) およびマルオカブトガニ (C. rotundicauda
) に寄生するとされる E. undata (Sluys, 1983) が知られている.どち
らも外部形態は非常によく似ており,宿主カブトガニ類の脚基部や
鰓葉に付着する.ウズムシ類のそのほとんどは自由生活者であると
され,本種群がどのように宿主との共生関係を進化させたのか興味
深い.本研究では宿主カブトガニ類と寄生者カブトガニウズムシ類
の共進化および共種分化関係を明らかとすることを目的に分子系統
解析を試みた.試料は宿主・寄生者とも,日本,台彎,フィリピン・
パラワン島,マレー半島南部,東カリマンタン,ジャワ島東部・西
部,スマトラ島北部・中西部から得た.寄生ウズムシ類のミトコン
ドリア DNA・COI 遺伝子における解析では,既知 2 種を明確に区別
することはできず,樹形は地理的分布とほぼ一致していた.一方で
東カリマンタンにおいてほぼ同所的に生息するミナミおよびマルオ
より得られたウズムシのうち,マルオに寄生するもののみが,他と
比較的離れたクレードを形成した.検体数がまだ不十分,かつ様々
な観点からの検討が必要であるが,カブトガニおよびミナミカブト
ガニへの平行的な寄生とともに,マルオカブトガニに特化した集団 /
種の存在の可能性が示唆された.
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タナゴ (Acheilognathus melanogaster ) の遺伝的構造:
地域系統と水系との関連
* 長太伸章(東北大・生命),北村淳一(三重県博)
地理的障害は異所的な分化をもたらす最も大きな要因であり、そ
の規模の大きさから様々な生物に影響を与え地域ごとの生物相の分
化をももたらす。純淡水魚は淡水域内でのみ移動分散が可能なため、
海や陸地といった地理的障害が隔離機構として特に大きく機能して
いる。そのため、日本列島の淡水生物相の成立過程や影響を及ぼし
た地史的イベント、地形などを明らかにするのに適している。日本
列島では、フォッサマグナや中部山岳地帯を境に多様性が豊富な西
日本で多くの魚種で遺伝的構造が明らかとなり、古くから成立して
いた琵琶湖や環伊勢湾の特殊性、氷期に陸化した際に瀬戸内海にあ
った河川による分散などが示されている。しかし、東日本では分布
する種数の少なさもあり研究の蓄積が少なく、地史の効果などはあ
まり明確になっていない。
タナゴ Acheilognathus melanogaster は関東から東北にかけての太
平洋側に分布するため、東日本の太平洋側の水系間の関係や生物相
の成立を推定する上で適した種である。また、タナゴ類は産卵基質
として淡水二枚貝が必須なため水質汚濁や河川改修の影響を受けや
すく、さらに外来魚による捕食などの影響もあり、近年急速に数を
減らしている分類群である。本種も絶滅危惧 IB に指定されており、
ESU の設定など面からも地域集団間の遺伝的多様性や分化を解明す
る必要がある。
本研究ではミトコンドリアと核の複数遺伝子に基づいた系統地理
解析を行い、東日本における本種の遺伝的構造を明らかにした。そ
の結果、本種では核遺伝子の分化はほとんど見られなかった。しかし、
ミトコンドリアの遺伝子では東北と関東で遺伝的に大きく分化して
おり、さらに福島県の太平洋側の集団も小さいものの遺伝的な分化
がみられた。これらの分化は地史を反映した水系との関連があると
考えられる。
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二枚貝から見た福島県沿岸における放射性ストロンチウ
オオミズナギドリの越冬海域と尾羽の水銀濃度
ムの分布
綿貫豊 *・山下愛(北大水産)・石塚真由美・池中良徳・中山翔太・石井
千尋(北大獣医)山本誉士・伊藤元裕(国立極地研)・桑江朝比呂(港湾
空港技研)
* 苅部甚一,田中敦(国環研),栗島克明(WDB(株)),木方展治(農環
研),柴田康行(国環研)
海洋生態系においてさまざまな汚染が拡大しており、有機水銀汚
染の時・空間変化のモニタリングは重要課題の一つである。ところ
が外洋域では、その濃度が薄かったり、対象生物がまちまちであっ
たりして、海域ごとの比較が困難である。海鳥は生物濃縮によって
環境中水銀濃度のわずかな変化もとらえ、その摂取量と組織中の水
銀濃度には相関がある。特に、羽根は水銀を多く蓄積し、サンプリ
ングと保管が容易な点からよく使われている。海鳥は越冬海域で主
な羽根を換羽するが、越冬海域がよくわからないため、羽根の汚染
がどこの海域の汚染を反映するのかはっきりしなかった。本研究で
は、オオミズナギドリの越冬海域をバイオロギング手法によって特
定し、その尾羽を3カ所の繁殖地で採取し、その水銀濃度を測定し
た。各個体は、オオミズナギドリは南シナ海、アラフラ海、ニュー
ギニア北部海域のいずれかで越冬し、南シナ海で越冬した個体の尾
羽根の水銀濃度(3.1ppm)は他の海域(0.8~1.5ppm)より高かった。
窒素安定同位体比で調べた栄養段階が高い個体ほど水銀濃度が高い
傾向があったが、この海域間の差は栄養段階の違いでは説明できな
かった。繁殖地間の差はなかった。本研究は、海鳥の移動追跡と組
織の汚染物質測定によって、測定が困難な外洋域における海洋汚染
の海域間の違いが推定できることを示唆する。
2011 年 3 月の福島第一原子力発電所(原発)事故によって、放射
性セシウムとともに放射性ストロンチウム(Sr-89、90)が、大気の
みならず海洋にも直接放出された。しかし、その放射性ストロンチ
ウムの環境中の存在量および挙動は不明である。そこで本研究では、
環境中の物質を一定期間濃縮、保持する二枚貝から、福島県沿岸に
おける放射性ストロンチウムの分布を明らかにすることを目的とし
た。
調査は 2011 年 6 ∼ 8 月、2012 年 5 月に茨城県∼青森県の太平洋
沿岸で行った。採取した二枚貝は軟体部を酸分解、海水は濃縮後に
Sr 分離を行った。放射能はベータ線を低バックグラウンド 2 πガス
フローカウンターで測定して算出した。
2011 年の二枚貝 Sr-90 は、福島県広野町(原発から南に 23km)で
0.17 ± 0.07Bq/kg、 南 相 馬 市( 北 29km) で 0.038 ± 0.009Bq/kg、 茨
城県大洗町(南 128km)で 0.012 ± 0.004Bq/kg、青森県東通村(北
445km)で 0.017 ± 0.004Bq/kg であり、同時に測定した放射性セシ
ウムと同様に原発に近くかつ南側で高い傾向があった。2012 年の福
島県の二枚貝 Sr-90 は、原発南側で高いがどの地点も前年より減少し
ていた。海水 Sr-90 は、2011 年の福島県いわき市(南 48km、0.021
± 0.002Bq/kg)と相馬市(北 37km、0.026 ± 0.001Bq/kg)で類似し
ていた。二枚貝の見かけの Sr-90 濃縮率(二枚貝 / 海水)は、いわき
市で 2.9、相馬市で 1.2 となり、原発南側で高かった。以上の結果は、
原発由来放射性ストロンチウムの生物への蓄積、及び原発北側より
も南側への拡散傾向が強かった可能性を示唆している。
H2-15
H2-16
ヒノキ・スギ人工林における降雨の樹冠遮断損失の物理
拡大造林による樹種改変とその大気環境影響
過程
* 松永壮(北大苫小牧),中塚誠次(NTT データ CCS),佐伯いく代(北
大苫小牧,自然研),日浦勉(北大苫小牧)
* 齋藤隆実(名大・水循環セ),松田洋樹(九大・福岡演),小松実紗子(千
葉大・園芸),篠原慶規(九大・農),大槻恭一(九大・福岡演)
大気は気候と密接な関係にあり、両者は表裏一体といっても過言
ではない。気候の温暖や寒冷は大気温の高低そのものであるし、降
水や雲は大気中に含まれる水の存在量や状態を反映したものである。
つまり、大気は気候を介して森林に大きな影響を与えている。しか
しそれだけではなく、森林もまた大気へ影響を与えているのである。
その代表的なものは、1960年代に研究が始まった生物起源有機
ガス (Biogenic Volatile Organic Compound: BVOC) である。BVOC は主
に森林樹木の葉から放出される有機ガスで、大気中で起こっている
様々な化学反応を経て気候の温暖化や寒冷化に深く関わっていると
考えられている。BVOC には様々な種類があり、それぞれ異なる気
候影響を持っている。また、BVOC の放出には高い樹種依存性があり、
その放出量や種類は樹種によってかなり異なっていることが分かっ
ている。つまり、森林に生育する樹種が変わったとき、BVOC を介
した森林による大気(気候)への影響も大きく変化することが推測
される。日本国内では、終戦後の1940年代後半からスギやヒノ
キの人工林が多く造林され、既存のミズナラやコナラ、常緑広葉樹
と入れ替えられた。現在では国内森林の葉重量のうち40%以上を
スギとヒノキが占めている。スギやヒノキが放出する BVOC はミズ
ナラやコナラおよび常緑広葉樹など既存の樹種が放出するそれとは、
その放出量と種類いずれにおいても大きく異なることが分かってき
た。本研究では、森林簿や生物多様性システムを基に推定した現在
の BVOC 放出と、潜在自然植生などを基に推定した拡大造林以前の
BVOC 放出を比較し、人間活動による大規模な森林への改変が大気
環境にどのような変化をもたらしたのか、定性的な推定を行う。
森林の樹冠に降った雨水の一部は、林床に到達することなく大気
に還る。この降雨の遮断損失は森林を取り巻く水循環の中で大きな
割合を占めている。日本の森林の約 4 割は針葉樹人工林で、ヒノキ
とスギはその代表種である。しかし、これら針葉樹林の遮断損失量
を 1 年以上の期間、精度よく定量した例は多くない。また、観測例
が少ないので遮断損失の過程は十分に検討されていなかった。そこ
で本研究では、同齢のヒノキ・スギ人工林で遮断損失量を定量する
とともに、蒸発量の理論値と比較し遮断損失の物理的過程を明らか
にすることを目的とした。
観測は福岡県飯塚市の弥山試験流域にて行った。流域内は樹冠の
成熟した 41 年生の人工林だった。同じ標高のヒノキ林分とスギ林分
に約 9 m四方の調査区をそれぞれ設置した。樹冠通過雨量は転倒式
雨量計 19 個で観測した。また、樹幹流量は樹幹流を大型バケツに集
め貯水量の変化から求めた。これを調査区内の 5 個体で観測した。
さらに、調査区から約 320m 離れた開けた場所で微気象観測を行った。
観測は 2010 年 6 月から 2011 年 12 月までの 19 ヶ月間行った。解析
はヒノキ 131 降雨、スギ 121 降雨について行った。
その結果、観測期間中の積算降水量は 4284 mm であった。通過雨
量はヒノキ(65.3%)でスギ(67.9%)より少なく、逆に樹幹流量は
ヒノキ(9.1%)でスギ(5.6%)より多かった。結果として遮断量は
ヒノキ(25.6%)とスギ(26.4%)で有意差はなかった。降水量に対
する遮断量の割合はほぼ一定で、これは降雨強度が大きくなるほど
遮断損失の速度が大きくなる現象(降雨強度依存性)と関係していた。
蒸発量の理論値は観測値の約 40% を説明した。結果から、降雨中に
未知の過程で遮断損失が起きていることが示唆された。
118
口頭発表 3 月 8 日(金) H 会場 16:00-17:00
H2-17
H2-18
日本海側森林土壌における硫酸イオンの蓄積と越境大気
日本での食飼料生産に関わる養分フローと国内肥料資源
汚染の影響
の賦存量
* 高橋純子,東 照雄,田村憲司(筑波大・生命)
* 三島慎一郎((独)農環研),松八重一代(東北大院・工),木村園子 D(農
工大・農),江口定夫(農環研),白戸康人(農環研)
【背景と目的】近年,大陸からの越境大気汚染による日本海側森林
土壌への硫黄負荷が懸念されている。そこで,硫酸イオン現存量と
土壌の化学性について,日本海側と対照地 ( 利尻島および内陸部 ) を
比較するとともに,硫黄安定同位体分析を用いた蓄積硫酸イオンの
起源の特定を行い,越境大気汚染の影響を明らかにすることを目的
とした。
【調査地および方法】日本海側から 13 地点,対照地から 8 地点の
黒ぼく土を選定し,層位別土壌試料を形態別硫酸イオン量および化
学性の分析に供試した。また,抽出した硫酸イオンを硫酸バリウム
として回収し,質量分析器を用いて同位体比δ 34S(‰ ) を測定した。
【結果】硫酸イオン現存量は,日本海側で平均 6.7mmol kg-1,内陸
部で平均 2.4mmol kg-1 と有意な差が認められ,さらに日本海側では
土壌 pH が低く,交換性 Al 量が多い傾向が認められた。一方,吸着
母体となる Al,Fe 量については地域間に有意な差は認められなかっ
た。硫酸イオンのδ 34S(‰ ) は,内陸部で平均 +4.9‰となり,日本起
源の石油のδ 34S (-0.9‰ ) と陸上生物起源硫化水素のδ 34S (+6.0‰ )
の中間の値であった。日本海側については,海塩寄与率の既存デー
タから非海塩性硫酸イオンのδ 34S を算出したところ,平均 +6.6‰
となり,内陸部と有意な差が認められた。この値は,内陸部のδ 34S
と中国起源硫黄酸化物のδ 34S (+7.8‰ ) の中間値であり,越境大気汚
染物質が混入している可能性が示された。内陸部と日本海側の硫酸
イオンの現存量とδ 34S の差が全て海塩性硫酸イオンと中国起源の硫
黄酸化物に起因すると仮定すると,中国起源の硫黄酸化物の寄与率
は,利尻島で 6 ∼ 10% と少なく,東北地方・新潟県で 4 ∼ 52%,北
陸地方で 26 ∼ 78% と推算され,日本海側の南地域ほど越境大気汚
染の影響が強いことが示唆された。
【はじめに】食飼料生産のされる農地土壌は窒素 (N)・リン (P) と
言った自然生態系での物質生産の制限要素となる栄養塩類がふんだ
んに人為的に投入され、またその基盤である土壌中に膨大な栄養素
を蓄積している特異な環境である。また農地土壌は人が最も積極的
に管理してきた生態系であり、その面積は国土の 12%を占めること
から、農地の帰趨とともにその栄養塩類の管理状況の帰趨は、食糧
安全保障とともに日本の生態系管理に大きなインパクト、即ち河川
汚濁・湖沼の富栄養化・放棄に伴う外来性植物の侵入の易化、を与
える可能性を持っている。本研究では、1980 年から 2000 年までの
日本における化学肥料・家畜ふん尿堆肥を通じた栄養塩類管理の結
果、土壌環境と食飼料生産はどう変わってきたか、その傾向を概観
する。また、2000 年に関して、日本の 7 地方別における栄養塩類管
理の違いと土壌の栄養塩類の肥沃度の違いについて報告する。
【材料と方法】農地の栄養塩類管理 ( 化学肥料と家畜ふん尿堆肥の
施用 ) と作物生産、土壌中の栄養塩類 ( 可給態 N・P) の動態は「土
壌環境基礎調査 ( 定点調査 )」の個票を用いて推計した。化学肥料、
家畜ふん尿堆肥、生産された作物は N,P 量に変換した。
【結果と考察】農地全体での生産性を見ると、N,P 量で見た作物生
産量は化学肥料と家畜ふん尿堆肥による N,P の施用が減少傾向であ
るにもかかわらず 5 回の調査で変動が少なかった。投入が少なくな
ったにもかかわらず、可給態 N は変化が少なくほぼ一定であった。
可給態 P は増減が激しく、傾向はつかみにくい。N,P の投入と可給
態 N,P の量との関係はないように見られた。そのため、環境影響の
リスクを把握するためには短期的な投入と生産による N,P の収支と
長期的な可給態 N,P の変動を考慮する必要がある。
H2-19
H2-20
地中生息性ミミズが土壌炭素動態に及ぼす影響
冷温帯広葉樹林における土壌呼吸に対する土壌生物呼吸
* 金田哲(農環研),米村正一郎(農環研),児玉直美(農環研),和穎朗太(農
の寄与率の変動と制御要因
環研),大久保慎二(自然農法センター)
* 友常満利 , 増田莉菜(早稲田大・院・先進理工),吉竹晋平(岐阜大・流圏セ),
安西理(早稲田大・院・先進理工),小泉博(早稲田大・教育)
地中生息性ミミズであるサクラミミズが土壌呼吸速度に及ぼす影
響を室内実験にて評価した。その結果、対照区(ミミズ未投入)と
比較しミミズが土中にいると土壌呼吸速度が増加し、ミミズを土中
から除去すると一時的にミミズの効果が無くなり、その後土壌呼吸
速度が低下することを明らかにした。
ミミズは、有機物を摂食し分解することで土壌炭素の無機化を促
進することが明らかになっている。その一方で、ミミズは団粒を形
成し団粒内の有機物分解を遅延させることで土壌炭素を蓄積させる
事が報告されている。つまりミミズは有機物分解を促進させる効果
と遅延させる効果の 2 つを有している。しかし未だ、ミミズが土壌
炭素動態に及ぼす影響、およびそのメカニズムは十分には明らかに
なっていない。そこで、広く日本に分布するサクラミミズを地中生
息性ミミズのモデル生物とし、ミミズの分解促進効果と遅延効果を、
培養期間中にミミズを除去することで評価した。処理区は、実験開
始後 20 日間のみミミズ 1 個体を土で培養しその後除去する区と、ミ
ミズを投入しない土のみの区の 2 つを設けた。土は、1mm 以下の沖
積土 20g(乾土)を培養瓶に詰め、最大容水量の 60% に調整した。
実験は 15℃で行った。定期的に土壌呼吸を測定することでミミズの
効果を評価した。ミミズ投入時を実験開始日とし、ミミズが土中に
いた実験開始 20 日後までは、ミミズ処理により土壌呼吸速度が増加
した。ミミズ除去後ミミズ処理による効果が一時的に無くなったが、
実験開始 111 日後頃からミミズ処理により土壌呼吸速度が定常的に
低下した。実験開始後 20 日まではミミズの摂食活動等により土壌呼
吸速度が増加し、111 日以降はミミズによる団粒形成の効果が強く
なり土壌呼吸速度が低下したと考えられた。
土壌呼吸(SR)に対する土壌生物呼吸(HR)の寄与率の変化
が森林生態系の炭素収支に与える影響を明らかにするため、トレン
チ法と多項回帰式を用いて、HRの寄与率の季節変化と年変化を測
定した。また、土壌温度(ST)や土壌水分(SWC)が呼吸量と
寄与率に与える影響を明らかにするため、これらが上昇した時の呼
吸量と寄与率を推定した。
STとSWCの上昇は、呼吸量と寄与率に対して異なる影響を与
えた。即ち、STの上昇はSWCと比べてより大きな呼吸量の増加
を引き起したが、SWCの上昇はSTと比べてより大きな寄与率の
減少を引き起こした。このような寄与率の大きな変化は、HRと根
呼吸のSWCに対する応答性の大きな違いに起因している。これら
の結果は、STとSWCの両方が同時に変化する野外環境において、
呼吸量や寄与率が複雑に変化することを示唆している。一般的に、
ある年の森林生態系のHR量を算出するために、他の年に推定され
た寄与率が利用される。本研究においては 2010 年と 2011 年の年平
均寄与率に大きな差は見られなかったが、シミュレーションの結果
から、STやSWCが高い年には年平均寄与率はより低くなること
が示された。そのため、大きな気候変動の際には、①年平均寄与率
が大きく変化すること、②異なる年に推定された寄与率を利用する
と、算出されるHR量に誤差を生じることが予想された。また、本
研究においてSTの上昇は、従来通り土壌有機物の分解を促進させ
るが、SWCはSTと分解速度の関係やSRに対するHRの寄与率
を大きく変化させることが明らかになった。したがって、森林生態
系におけるより正確な炭素循環・収支を明らかにするためには、S
WCの変動や土壌有機物の分解速度とSWCとの関係を明らかにす
ることが重要である。
119
口頭発表 3 月 8 日(金) H 会場 17:00-18:00
H2-21
H2-22
陸域最大の炭素・窒素プールの安定化機構:Part 1 土
耕作放棄後の植生 / リター / 土壌の炭素増減パターン
壌団粒の階層構造から読み解く
下田星児 * 農研機構・北農研・芽室
* 浅野眞希,和頴朗太(農環研)
土壌有機物(SOM)は陸上生態系で最も大きな炭素・窒素プール
であり、生元素の供給源として生態学的に重要である。しかし、根
や分解者の生育に必須な土壌孔隙を形成する団粒構造と SOM の関係
については不明な点が多く、生元素の動態や地下部の生物多様性を
理解する妨げになっている。団粒構造と SOM の相互関係について「粒
径の大きな土壌団粒は細根や菌糸により維持され、その内部に存在
する微細な団粒は、粘土鉱物や腐植物質などの集合体から形成され
る」という団粒階層構造の理論が提案され、結晶性粘土鉱物を主体
とする土壌を対象に様々な研究が行われてきた。本研究では、非晶
質鉱物および SOM 含量が高い火山灰土壌に対し団粒階層構造理論
の検証を行い、SOM 安定化機構との関係性を評価した。
茨城県のアロフェン質黒ボク土を供試し、粒径サイズの違いによ
る、有機・無機集合体の物理分画を行った。各画分の TOC、TN 含量、
δ 13C、δ 15N、⊿ 14C 値、固体 13C- NMR、比表面積、選択溶解法に
よる Fe,Al,Si,可溶性炭素・窒素の測定、SEM 観察を行った。
粒径サイズ分画の結果、2 μ m 以下の画分に TOC、TN および、
非晶質鉱物の約 80%が分布していた。また、粒径が小さい画分ほど、
C/N 比が低下し、15N が富化するとともに、芳香族炭素含量が減少し、
⊿ 14C 値が上昇した。以上の結果および団粒の分散強度試験から得
られた結果から、① 2 μ m 以下の土壌粒子が接着剤として働き、強
固なマクロ団粒が形成される、②微細な土壌粒子の主体は、微生物
由来の窒素に富む有機物と非晶質鉱物・Al, Fe イオンが強固に結合
した有機・無機集合体である、③この有機・無機相互作用が火山灰
土壌の高い炭素蓄積と多孔質性を可能にしていることが示唆された。
一般に、耕作放棄地は、雑草枯死後の有機物が土壌へ供給される
ため、炭素吸収源と仮定されることが多いが、IPCC の LULUCF 分
野のガイドラインでは、国際的なデータの不足から、耕作放棄に伴
う炭素量変化を評価していない。発表者が、過去に行った継続の管
理休耕地と放棄地の定点調査と多点調査では、西日本では耕作放棄
後に土壌炭素量が減少する場所が多いことが分かっている。耕作放
棄と作物(水稲)栽培継続時の土壌炭素量を比較するため、西日本
29 地点の水田に隣接する放棄地において土壌採取を行い、リター量
などの計測を行った。放棄伴い土壌の仮比重は大きく変化するため、
水田の仮比重を基準として、0-30cm 層の土壌炭素量を評価した。
放棄後の炭素量は、大きく増加する地点もあったが、6 割以上の
場所で減少した。放棄年数が長期化すると増加する傾向にあり、放
棄後 20 年以上の地点では、約 8 割の地点で炭素量は増加した。放棄
後 5 年以下では、ほとんどの地点の土壌炭素量は減少しており、放
棄後の植生の回復が緩慢な場合は、炭素供給が進まずに土壌炭素量
の減少が大きくなることが示唆された。
土壌炭素量の鉛直分布を見ると、表層増加型・下層減少型が半数
以上を占めた。0-5cm 層は放棄後に増加しやすいが、10cm 以下の層
の土壌炭素量が増加する地点は 2 割程度しかなかった。放棄後の雑
草の根量や地上部乾物重は放棄年数と関連せず、表層堆積リター量
は放棄年数が長いほど多くなる傾向が見られた。0-5cm 層の土壌炭
素量の増加に、表層堆積リターが寄与している可能性がある。リタ
ー自体の炭素含有率は 42% 程度で、放棄年数に関わらずほぼ一定で
あった。また、人為的管理(草刈・耕起)を行った地点は、土壌炭
素量の増減幅が小さかった。
H2-23
H2-24
陸域最大の炭素・窒素プールの安定化機構:Part 2 土
コナラ二次林の土壌微生物呼吸量の推定
壌有機物はどこに蓄積されるのか?~比重分画と同位体
* 新谷涼介(龍谷大・理),嶋田裕介(),宮浦富保(龍谷大・理)
トレーサー法から見えること~
序論 生態系純生産(NEP)は、純生産量(Pn)と、土壌呼吸量
(SR) 中に含まれる従属栄養生物による CO2 放出量(HR)との差で
定義される。しかし SR 中から植物根の呼吸量(Rr)を分離し,HR
のみを測定する方法はいまだ確立されていない。本研究ではコナラ
二次林内において HR の測定方法を考案し、NEP を精度よく推定す
ることを目的とした。
方法 コナラ二次林内に中心区画 50cm × 50cm=250㎡を残して周
囲に幅 30cm,深さ 40cm の溝を土壌に掘り、溝に防根透水シートを
敷き詰めた上で植物根を取り除いた土壌を埋め戻すことで、植物根
の除去エリアを作成した。これを HR-site と呼んだ。HR-site の内側
と外側で、赤外線ガス分析計を用いて土壌表面からの CO2 放出量を
測定した。また、測定エリア周囲の樹木に関して、毎木調査とリタ
ーフォールの採集を行い、積み上げ法を用いて Pn を推定した。
結 果 2011 年 の コ ナ ラ 二 次 林 に お け る 年 間 総 SR 量 は 10.4tC・
ha-1・yr-1、年間総 HR 量は 6.0tC・ha-1・yr-1 となった。この結果から、
SR 中の HR は約 6 割であるとわかった。毎木調査、リターフォール
測定により算出した Pn は 6.4 tC・ha-1・yr-1 であった。Pn から HR を
差し引いた結果、コナラ二次林における NEP は 0.4 tC・ha-1・yr-1 となり、
プラスの値を示した。
考察 今回の研究で SR 中に含まれる HR は全体の約 6 割である
事が分かった。しかし植物根の除去を行った事で、土壌中の微生物
に影響を及ぼしている可能性がある。また土壌中の植物根、微生物、
有機物は密接に関係し合っている為、どの方法を用いても何らかの
問題点が発生すると考えられる。正確に NEP を算出するには、複数
の方法を用いて異なる条件下での測定を行い、その結果を照らし合
わせていく必要がある。
* 早川智恵(農環研),和穎朗太(農環研),稲垣善之(森林総研)
<背景と目的>
土壌に供給された有機物は、主に微生物による分解(代謝)作用
を受けると同時に、化学的吸着や物理的隔離といった土壌団粒や鉱
物粒子との相互作用を繰り返す。これにより、サイズや化学的性質
の異なる有機・無機集合体が形成されるため、土壌有機物の大半は
1.8 g mL-1 以上の中∼高比重の土壌粒子(団粒)として蓄積すると推
測されている。しかし、供給された有機物が中∼高比重画分として
蓄積する速度は明らかではない。比重分画法と安定同位体トレーサ
ー法を組み合わせることで、比重の異なる土壌団粒への有機物の移
行割合を定量評価することを目的とした。
<方法>
表層土壌(黒ぼく土)に 13C 標識グルコースを添加・培養し、低
比 重( < 1.8 g mL-1)、 中 比 重 (1.8 − 2.5 g mL-1)、 高 比 重 ( > 2.5 g
mL-1) 画分に分画後、それぞれの画分の回収量、同位体比、全炭素濃
度を測定した。
<結果と考察>
分画された土壌の炭素量は非晶質鉱物を主体とする中比重画分で
85% と最も多く、植物リターを主体とする低比重画分で 10%、高
比重画分で 5% と最も少なかった。一方、添加した 13C- グルコース
のうち、30 日間で CO2 に無機化された割合は 49% であった。土壌
に残留した 13C は低比重、中比重、高比重画分にそれぞれ、37%、
13%、0.8% であった。短い培養期間では、低比重画分に存在する微
生物バイオマスに多くの割合の 13C が残存したと考えられる。また、
一次鉱物を主体とする高比重画分に比べ、中比重画分において 13C
の濃度と回収率が高かったことから、黒ぼく土では、非晶質鉱物が
有機物の蓄積に大きく寄与していることが示唆された。
120
口頭発表 3 月 8 日(金) H 会場 18:00-18:30
H2-25
H2-26
畑地土壌からの N2O ガス排出削減 − 新しい技術の必要
黒ボク土圃場での土壌水分が N2O 発生に与える影響
性と可能性
* 寺本卓央(筑波大・生物),岸本(莫)文紅,大浦典子,江口定夫(農環研),
廣田充(筑波大・生命環境系)
* 内田義崇,秋山博子(農環研)
農業分野が排出する温室効果ガスは、日本では国全体の 2 ∼ 3%
だが、他分野同様、出来るだけ温室効果ガスを出さない努力が求め
られている。一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)は、化学肥料や有
機物として投入される窒素などを発生源とする温室効果ガスであ
り、一般的には窒素投入量と比例して発生量が多くなる。そのため、
N2O は施肥量を減少させることによりある程度削減できると考えら
れる。しかし現代農業では高い収量を維持するために多量の窒素肥
料が用いられており、施肥量を減少させることにより N2O 発生量を
削減するのは現実的に難しい。
近年の研究により、施肥量削減以外の方法で N2O を削減する技術
が進歩している。例えば、N2O を無害なガスである N2 に還元する遺
伝子、またその遺伝子を有する微生物を用いることによりダイズ畑
の N2O 発生を削減できることが明らかになった。N2O を発生する微
生物には、N2O のみを発生するものと、N2O をさらに N2 に還元する
ものが存在する。ダイズ畑では収穫前後に根粒が土壌中で分解され、
根粒菌による N2O 発生が起こるが、N2O を N2 に還元する遺伝子を
強化した根粒菌をあらかじめダイズに接種することによって、収穫
前後の N2O 発生を削減できることが明らかになった。この微生物を
用いた N2O 削減はダイズ畑以外にも応用の可能性があるが、世界レ
ベルでの普及のためには様々な障害があり、将来のさらなる研究が
期待される。
さらに、硝化抑制剤入り肥料や、被覆肥料などを用いたり、土壌
団粒サイズを大きくしたりすることによっても N2O 発生削減効果が
期待される。N2O 発生は土壌微生物活性や土壌物理性と深く関わっ
ており、そのメカニズムは非常に複雑である。そのため、N2O 削減
のためには異分野の科学者の交流が不可欠である。
121
口頭発表 3 月 8 日(金) J 会場 15:00-16:00
J2-13
J2-14
長期消長データに基づく水生植物の絶滅リスク評価とた
霞ヶ浦における抽水植物帯の減少要因:水位操作に伴う
め池の保全優先順位付け
基盤侵食の可能性の検討
* 石田真也,角谷拓,竹中明夫(国環研),赤坂宗光(農工大・農),下田
西廣淳(東京大・農学生命科学)
路子(富士常葉大・社会環境),角野康郎(神戸大院・理),石井禎基(姫
路獨協大・医療保健),高村典子(国環研)
霞ヶ浦では 1996 年以降、霞ヶ浦開発事業の計画にもとづく水位管
理が実施され、従来よりも高い水位(標高 1.1 ∼ 1.3mYP)が年間を
通して維持されるようになった。この水位は、現存する典型的な抽
水植物帯の地盤の標高(約 1.1mYP)と同等かやや高い比高にあたる
ため、地盤の侵食をもたらす可能性がある。本研究では、抽水植物
帯の衰退の程度と特徴を明らかにするため、国土交通省および(独)
水資源機構によって取得されたデータを提供していただき、解析を
行った。
湖岸の 34 定点で測定された抽水植物帯の幅(護岸から汀線までの
距離)の変化を分析した結果、1997 年から 2010 年までの 13 年間に、
9.54 ± 7.71m(平均±標準偏差)の減少が認められた。また植生帯
の幅の減少量と、各地点における波高の指標値との間には、有意な
正の相関が認められた。
抽水植物群落の面積変化を分析した結果、1992 年から 2002 年ま
での間に顕著に減少していたのは、比高が低く静穏な場所に成立
するマコモ群落(1992 年の 43.05% のみ残存)やヒメガマ群落(同
51.40%)であった。
現地調査の結果、抽水植物帯の湖岸側の端部において、基盤の土
砂が流出し、ヨシ等の抽水植物の根茎が絡まりあって辛うじて残存
している状況が、多くの地点で確認された。またそのように基盤の
土砂が失われた抽水植物帯端部は、台風などで強い波浪が生じた後
に流亡する場合があった。
現在の霞ヶ浦では、「水利用と湖の水辺環境との共存を模索する」
ことを目的とした「水位運用試験」として、水位をさらに上昇させ
る(1.3mYP の期間を長くする)管理が行われているが、この管理は
湖岸に残存する植生帯のさらなる衰退をもたらすことが予測される。
(発表内容の一部は既報:保全生態学研究 17(2)141-146, 279-282)
ため池に生育する水生植物には、絶滅危惧種に指定されている種
が多い。一方で、これらの種が生産する種子は、数十年に渡る寿命
を持つことが知られている。そのため、ある時点で水生植物の地上
個体群が消失したとしても、それが直ちに局所個体群の絶滅に繋が
るわけではなく、外的要因の変化に伴って地上個体群が再生するな
ど、その消長は年ごとに変化する。したがって、これらの水生植物
の絶滅リスクを推定するためには、長期に渡って観測された消長デ
ータが必要となる。
本研究では、1974 年から 2011 年まで断続的に調査されてきた東
広島市西条地区一帯のため池群(計 416 池)における水生植物相の
記録を統合・データベース化し、この期間におけるそれぞれの池で
の各種の消長パターンを得た。その上で、このデータから推計した
地上個体群の消失・再生確率および既存情報から得られた種子の寿
命を考慮し、個体群存続可能性分析により各種の池ごとの絶滅リス
クを算出した。
その結果、当該地のため池群における水生植物の絶滅リスクは、
現行の絶滅危惧種のみならず、普通種とされるものの中でも大きな
値をとる種が存在することが明らかとなった。本研究ではさらに、
新たに開発した多種の絶滅リスクを効果的に減少させるように生育
地の保全優先順位付けを行うツールを用いて、優先的に保全すべき
ため池を選択し、結果を地図化した。
長期消長データの活用により、実効性が高い保全戦略を構築する
本アプローチの枠組みは、地域・生物群問わず幅広く応用すること
が可能である。
J2-15
J2-16
保護区は絶滅リスクをどのくらい減らせるか? :維管束
相補性解析による自然再生優先度の地図化 - レッドリス
植物を対象とした全国評価
ト鳥類を事例として
* 角谷拓,竹中明夫(国立環境研),矢原徹一(九州大学)
* 吉岡明良(東大・農),赤坂宗光(農工大・農),角谷拓(国環研)
保護区の設置とその適切な管理は、生物の絶滅を防止し、生物多
様性の喪失を食い止める上で最も重要な保全策の一つである。先に
行われた生物多様性条約 COP10 においても、保護・保全地域を、陸
域及び内陸水域の 17%、また沿岸域及び海域の 10%にまで拡充する
ことが国際的に合意された。しかし限られた時間や資源の下で効果
的な保全を実現するためには、単に保護区面積の拡充するというだ
けでは不十分であり、広域的な視点から総合的に計画を策定する必
要がある。そのためには、既存の保護区の効果の定量的な評価や効
率的な空間配置の検討を行うことが欠かせない。
国内における主要な保護区制度である国立・国定公園は国土面積
の約 9.1%(特別地域は 7.3%)を占めている。本研究では、レッドデ
ータブック編纂のために日本植物分類学会と多数の専門家の手によ
り収集・構築された絶滅危惧維管束植物データベースを用いて、そ
こに登録された 1610 種・分類群を対象に、国立・国定公園がそれぞ
れの種・分類群の局所個体群サイズの減少を防止する上でどの程度
の成功確率(以下、保全効果)を持っているかを全国スケールで評
価することを目的とした。
分析の結果、国立・国定公園の特別地域全体の保全効果は 20% 程
度、最も規制の厳しい特別保護地区では 60% 程度であることが示さ
れた。この結果は、既存の国立・国定公園は維管束植物の絶滅リス
クの低減に一定の役割を果たしていることを示している。しかし一
方で、新たに開発した多種の絶滅リスクを効果的に減少させるよう
に保全地域の優先付けを行うツールを用いた分析から、保護区の空
間配置を最適化した場合であっても、上記の現実的な保全効果の下
では、陸域 17% の保護区面積により維管束植物全体の絶滅リスクを
十分に低減するのは困難であることが示唆された。
生物多様性の再生を行うべき場所を優先順位づけし、地図化する
ための方法論は保護区設置の試みに比べて十分に確立していない。
本研究では、対象生物群集の過去と現在の分布データを基に相補性
解析を行うことで、再生の空間的優先順位づけを行うためのフレー
ムワークを提案する。
本フレームワークとは、現在と過去のデータから、対象生物各種
の「いなくなった地点」のデータを得て、その相補性から各対象地
点の再生ポテンシャルを評価するというものである。すなわち、種
の減少が見られた地点の中から、より多くの種が減少した、あるい
は ( 減少が見られた種の中で ) 希少な種が喪失した地点群が、ポテ
ンシャルが高い再生候補として選択される。ただし、多様な種が喪
失した地点は、現在も再生が非常に困難な人為的負荷を受けている
可能性もあるため、優先順位づけの際に各地点の再生の困難さをコ
スト ( 減点対象 ) として考慮する必要もある。
このフレームワークの応用例として、1978 及び 1998 年に 20km メ
ッシュ単位で得られた日本全国の繁殖鳥類分布データを用いてレッ
ドリスト鳥類群集の再生優先順位を地図化したところ、山間部だけ
でなく水辺にも優先度が高い地点が多いこと、7 メッシュが 2010 年
時点の法定自然再生事業の対象地域を含んでいることが示された。
また、市街化の程度をコストとして考慮することでトキの再生が試
みられている小佐渡地区の優先順位が向上する等、より現状に即し
た優先順位づけが行われたことが示唆された。
その簡便さから、本研究のフレームワークは再生対象種群の減少
要因に十分な知見がない場合に、戦略的な再生を順応的に行う際の
暫定目標を提供するものとして有効であることが期待される。
122
口頭発表 3 月 8 日(金) J 会場 16:00-17:00
J2-17
J2-18
耕作放棄と農地整備が餌生物を介して高次捕食者サシバ
延縄漁業おけるアホウドリ類の混獲分布に影響する要因
の分布におよぼす影響
* 井上裕紀子(国際水研),Phil Taylar(BirdLife International),岡崎誠
(中央水研),Richard Phillips(BAS),Henri Weimerskirch(CEBC,
CNRS ), Javier Arata ( INACH ), Graham Robertson ( AAD ),
David Gremillet(CEFE, CNRS),南浩史(国際水研)
* 藤田剛,直江将司,宮下直(東大・農)
人の管理によって維持されてきた系では、開発などの過剰利用だ
けでなく利用の減少も生物多様性消失に繋がる可能性がある。その
典型例のひとつである農地生態系は、氾濫原や草地の生物の重要な
代替生息地とされるが、農地整備などの集約化と農業人口減少によ
る耕作放棄が急速に進んでおり、これら双方の影響解明が急務だと
考えられる。そこで演者らは、日本の特徴的な農地景観、谷津田の
代表種である猛禽サシバとその餌生物カエルに注目し、耕作放棄の
進む中国地方北西部を対象に、耕作放棄および農地整備との関係を
調べた。
調査では、14 の谷津田にサシバ行動圏と大よそ同じ面積の調査区
画を 43 設置し、サシバ生息の有無とカエル密度、農地の配置や植生
などを記録した。耕作放棄と農地整備がカエルを介してサシバにお
よぼす影響を評価するため、1. サシバの有無とカエル量の関係と、
2. カエル量と水田面積や農地整備との関係を、一般化線形混合モデ
ルによって解析した。
各区画の農地に占める耕作放棄地の割合は 0-71% で、サシバの食
物になるような体サイズのカエルとして、主にトノサマガエルとモ
リアオガエルが確認された。サシバは、これらのカエル2種の多い
場所に生息する傾向があったが、とくにトノサマガエルとの関係が
強かった。そのトノサマガエル密度は、水田面積が広く農地整備さ
れていない場所で高い傾向があった。一方、モリアオガエル密度は、
農地整備とは関係しておらず、周囲に森の広がる場所で高くなる可
能性が考えられた。
以上から、中国地方北西部の谷津田では、耕作放棄による水田の
減少と農地整備が主にトノサマガエルなどの減少を介してサシバを
減少させている可能性が考えられた。発表では、このようなパター
ンが生じた機構を議論するとともに、他地域でどのような可能性が
考えられるかを検討する予定である。
個体数の減少が懸念されるアホウドリ類およびミズナギドリ類は、
しばしば遠洋延縄漁船に偶発的に漁獲される。これら外洋性海鳥の
混獲を防ぐためには、どのような状況で混獲が起きているかを予測
することが必要不可欠である。これまでに、海鳥の分布密度と、漁
船の分布を重ね合わせ、漁船の海鳥に対する干渉が指摘されてきた
が、海鳥の分布と混獲数が実際どのように関連しているかを解析し
ている例は少ない。本研究では、遠洋延縄漁船で混獲されるアホウ
ドリ類について、まず、トラッキングデータと海洋環境、コロニー
からの距離などとの関係から、南半球の分布密度を推定した。次に、
予測した分布密度、生活史ステージ、混獲回避措置、投縄が夜間に
行われる割合などが、それらアホウドリ類の混獲数にどのように影
響しているかを検討した。
アホウドリ類の分布は、水温およびクロロフィル a に関連してい
た一方で、水深や底斜度とはあまり関連していなかった。コロニー
からの距離は、生活史ステージ(繁殖鳥か非繁殖鳥か)とその種の
移動範囲によって関連度合いが異なった。アホウドリ類の混獲数に
水温などの海洋環境が影響していた。混獲回避措置を導入した場合、
混獲数は少なくなった。分布密度が高いほど混獲数は多くなるモデ
ルが選択されたが、係数が非常に小さく、分布密度以外の要因がよ
り影響している可能性があるかもしれない。
J2-19
J2-20
音声録音によるオガサワラヒメミズナギ繁殖地の探索
チュウサギ Ardea intermedia の保全を目的とした水田
管理方法の考察
* 川上和人(森林総研),堀越和夫(小笠原自然文化研),鈴木創(小笠原
自然文化研),Matthew McKown(UCSC),Peter Pyle(IBP)
* 李美花(京大・地環),夏原由博(名大・環境),森本幸裕(京園大・バ
イ環),柴田昌三(京大・地環)
オガサワラヒメミズナギドリは、ミッドウェイ諸島で 2 例、小笠
原諸島で 6 例しか確実な記録がない世界的希少種である。過去 20 年
間に小笠原でしか記録がないため、現在の主な生息地は小笠原と考
えられている。ただし、ここでの記録は全て死亡個体または保護個
体であり、野生下での生息状況は不明である。本種の保全のためには、
好適な繁殖環境および繁殖地を解明する必要がある。このような背
景から、小笠原諸島におけるオガサワラヒメミズナギドリの生息地
の探索を行った。
我々はまず、本種の過去の生息地を明らかにするため、母島石門
および南島にて発見された海鳥の骨を精査した。この結果、前者で
は 134 個体のうち 1.5%で、後者では 46 個体のうち 43%が本種と考
えられた。母島石門は高木湿性林に覆われ、過去にはミズナギドリ
類の繁殖地だったと考えられる。南島は低木および草地に覆われ、
現在も多数の海鳥類が繁殖している。両地点で見つかったことから、
この鳥は森林から草地までの多様な環境で繁殖していた可能性があ
る。
次に、現在の生息地を明らかにするため、父島属島の海鳥繁殖地
に音声録音装置を設置した。ミズナギドリ類は、繁殖地で夜間に種
特異的な声で鳴くため、本種の繁殖期と考えられる冬期に調査した。
比較には、1990 年代前半にミッドウェイで録音された鳴き声を用い
た。その結果、東島にて本種の声が記録された。このことから、本
種はこの島において繁殖している可能性がある。東島では、侵略的
外来種ノヤギ、クマネズミおよびトクサバモクマオウの駆除が行わ
れたが、外来植物であるギンネム、ジュズサンゴが現在も繁茂し環
境が大きく変化している。この鳥の保全のためには、これらの外来
植物の管理が必須である。
チュウサギは田んぼを餌場として利用しているため、水田耕作(農
法)の影響を受けやすく、農業の集約化と農薬の影響により全国的
にチュウサギが激減した時期があった。近年は化学肥料、農薬の使
用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業(環境保全型農
業)の取り組みがなされてきおり、次第に広がりをみせつつある。
環境保全型農業がチュウサギの生息環境に影響を与える可能性があ
ると予測されるが、これまでにこの関係を詳細に研究された事例は
少ない。本研究では、環境保全型水田を含む複数の水田タイプにお
けるチュウサギの餌生物量を比較し、チュウサギの保全を図る上で
有効な水田管理方法について考察を行った。
調査対象地は、滋賀県高島市安曇川コロニーを中心とした農業地
帯に設定した。この地域では、現在、農薬・化学肥料の使用量の大
幅な削減や不使用という、チュウサギ保全のみならず生物多様性の
保全面で非常に重要な取り組みを実施している区域が存在する。調
査期間は、2012 年 5 月から 8 月とした。各調査地(慣行農業、環境
保全型農業、土水路を有する水田環境等)において、水生昆虫類、
魚類、両生類などの生物量を調べるとともに、チュウサギの個体数、
水田の湛水状況、農薬・化学肥料の使用状況、田植えの日にち等を
記録した。
その結果、水田内の水生昆虫の生物量は季節間で異なる変化が見
られ、これは農法ごとの水田管理と関係があると考えられた。多様
な水田管理を行うことは、チュウサギの保全に影響を与えるものと
推測された。
123
口頭発表 3 月 8 日(金) J 会場 17:00-18:00
J2-21
J2-22
絶滅リスクの空間分布を評価する:アフリカ―ユーラシ
カメラトラップを用いた多雪地人工林の哺乳類相評価
アフライウェイの水鳥への適用
* 江成(坂牧)はるか(宇大・里山科学セ),江成広斗(宇大・里山科学セ)
* 天 野 達 也(Univ. Cambridge),Tamás Székely(Univ. Bath),
William J. Sutherland(Univ. Cambridge)
針葉樹人工林内は植生が単調で、野生動物の餌資源となる植物が
少ないため、野生動物の生息地としては低質であるとこれまで考え
られてきた。しかし、多雪地に生息するニホンザルは、冬期に若齢
スギ人工林を採食場所や休息場所、および移動経路として積極的に
利用していることが、発表者らの研究で明らかとなった (Sakamaki &
Enari 2012. Forest Ecology and Management , 270:19-24)。そこで、本発
表では、夏期および秋期を対象に、冷温帯多雪地である白神山地に
おけるスギ人工林を利用する哺乳類相を、自動撮影カメラを用いて
評価した。評価対象の哺乳類は、ホンドタヌキ、ホンドテン、トウ
ホクノウサギ、ニホンザル、ニホンカモシカ、ツキノワグマとした。
2012 年 6 月から同 10 月下旬まで、若齢スギ人工林(林齢 40 年未満)
および壮齢スギ人工林(林齢 40 年以上)、広葉樹一次林および広葉
樹二次林において、各林分に 3 か所ずつ合計 12 か所の調査区を設定
し、各調査区に 3 台ずつ合計 36 台の自動撮影カメラを設置した。そ
の結果、総撮影枚数は 1082 枚、有効撮影枚数は 270 枚となり、ツキ
ノワグマおよびニホンカモシカの撮影頻度が多かった。これらの結
果を用いて、本発表では各林分の哺乳類相を、特にスギ人工林に着
目して紹介する。
生物多様性の効率的な保全を行うためには、生物の絶滅リスクが
高い地域を特定することが重要である。これまでの研究では主に、
絶滅危惧種の多い地域を特定する取組みが行われてきた。このよう
に種を単位とした評価では、各種の分布域内での絶滅リスクの空間
的ばらつきは通常無視される。しかしながら、生物にとって脅威と
なる要因はしばしば種の分布域よりも小さな空間スケールで作用し
ており、各種の分布域内での個体数減少パターンを明らかにするこ
とができれば、その駆動要因の特定や、より詳細な優先保全地域の
抽出が可能となるであろう。
本研究では、International Waterbird Census(IWC)のデータを利用
することによって、水鳥各種における絶滅リスクの空間分布を全球
スケールで評価することを目的とする。IWC は、1967 年から全世界
の 25,000 以上の調査地で約 700 種の水鳥を対象として行われている
個体数調査である。本発表では、この研究の第一段階としてアフリ
カ−ユーラシアフライウェイのデータを用いて、個体数減少の空間
分布パターンを種ごとに評価した取組みを紹介する。個体数の時空
間変動は、階層モデルを用いて定量化した。1度×1度のセルを評
価の最小単位とし、同一セルに含まれる調査サイトは同じ個体数変
化を示すと前提した。各サイトでの観測個体数の期待値は、サイト
効果、分布全域で共通の年効果、各セルに特有な年効果、空間自己
相関項の合計で表した。このモデルを各種の観測データに適用する
ことで、各セルにおける個体数変化を定量化し、地図化を行った。
J2-23
J2-24
栃木県における住民参加型獣害対策モデル地区事業の現
フチトリゲンゴロウ幼虫期における餌生物としてのトン
状と課題
ボ類幼虫の重要性
* 桜井良(フロリダ大学大学院),松田奈帆子(栃木県自然環境課),丸山
* 佐野真吾(神奈川県博),北野忠(東海大・教養),苅部治紀(神奈川県博)
哲也(栃木県自然環境課)
フチトリゲンゴロウ Cybister limbatus は、国内では南西諸島に分布
する大型のゲンゴロウである。本種の生息地は極めて限られ、個体
数も少ないことから環境省 RDB では絶滅危惧Ⅰ A 類とされた。ま
た 2011 年には種の保存法の国内希少野生動植物種に指定され、保全
のための生態学的知見の解明が必要とされている。本研究では本種
の幼虫期に着眼し、生息地の種組成と、実際に幼虫が捕食する餌生
物を調べるとともに、飼育下において異なる餌生物を与えた場合の
幼虫の成長と、各餌の成分を調べた。
生息地の種組成は、マツモムシ類が全体の約 50%、次いでトンボ
類幼虫が約 30%を占めた。しかし、マツモムシ類は小さいうえに動
きもすばやく、フチトリゲンゴロウの幼虫がマツモムシ類を取り逃
がす様子を多数回確認したため、餌としては好適ではないと考えら
れた。次に、餌生物を捕食しているフチトリゲンゴロウの幼虫の個
体数と捕食された餌生物の種類を調べたところ、いずれの齢期にお
いても餌生物の約 80% がトンボ類幼虫であった。
また飼育下において、トンボ類幼虫とカエル類幼生をそれぞれ飽
和状態で与えた場合の、蛹化のための上陸までの日数と羽化後の体
長を調べた。その結果、上陸までの日数は、トンボ類幼虫を与えた
場合で 21 ∼ 24 日であり、カエル類幼生を与えた場合の 25 ∼ 26 日
よりも早かった。さらに羽化後の体長もトンボ類幼虫を与えた個体
では 37.6 ∼ 38.5㎜であり、カエル類幼生を与えた場合の 35.4 ∼ 37.1
㎜よりも大きかった。それぞれの餌生物の成分分析においても、ト
ンボ類幼虫はカエル類幼生と比較して含水率が低く、たんぱく質・
脂肪・炭水化物が多く含まれており、栄養価が高かった。 これらのことから、トンボ類幼虫はフチトリゲンゴロウの幼虫期
において重要な餌生物であると考えられた。
栃木県は、2007 年には野生鳥獣による被害量が全国で 3 番目の多
さを記録する等、鳥獣被害が深刻な地域である。県の環境森林部自
然環境課では、野生動物との軋轢の解消のために、獣害対策モデル
地区事業を 2010 年度から実施している。当事業では、県内で特に被
害の多い地区をモデル地区に指定し、専門家による講習会や住民参
加型の集落点検等を行い、住民主体の対策を促進することを目的と
している。本研究では、当事業の効果を質的・量的に調査した。具
体的には、3 つのモデル地区(鹿沼市深程、那須塩原市百村本田、
日光市明神)で、地区住民への聞き取り調査と活動の参加者へのア
ンケート調査を実施し、事業に対する感想や活動が地域に与えてい
る効果について調べた。更に、事業を 1 年以上行っている深程と行
政による被害対策が行われてこなかった近隣地区で全戸アンケート
調査を実施し、住民の意識や行動に違いがあるか調査した。
聞き取り及び活動参加者へのアンケート調査の結果、モデル地区
事業が地域住民が野生動物問題について共に考え、議論し、対策を
実施するための機会を提供していること、一方で活動の持続可能性
が課題であることが分かった。また、モデル地区と近隣地区でのア
ンケートの結果、モデル地区の住民の方が被害対策をすることへの
自信が高いこと(p < 0.05)、また被害対策に関する知識が高いこと(p
< 0.1)が分かった。
行政主導でスタートしたモデル地区事業だが、住民が主体の持続
可能な取り組みにしていくためには、地区における野生鳥獣対策専
門の住民組織の創設や、宇都宮大学と栃木県が共同で育成に取り組
んでいる里山野生鳥獣管理技術者養成プログラムの修了者が、対策
の専門家として積極的に地域の取り組みに携わることが期待されて
いる。
124
口頭発表 3 月 8 日(金) J 会場 18:00-18:30
J2-25
J2-26
モウソウチク林伐採後 7 年間の植生の構造と種組成の
再発見種フジタイゲキの繁殖戦略と保護対策
変化
* 山田辰美(富士常大・社会環境),杉野孝雄(NPO 静岡自然博ネット)
* 鈴木重雄(立正大・地球環境),菊池亜希良(マレーシア工科大),中越
フジタイゲキは静岡県特産のトウダイグサ科の多年草で、富士山
麓で採取された標本を基に、1920 年に新種として記載された貴重種
である。環境省のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅰ A 類(CR)に
指定されていたが、今年度の環境省第4次リストでは絶滅危惧Ⅱ類
(VU)に変更された。これはここに発表するフジタイゲキの再発見
と保護対策の成果に因るものである。
1.分布の再発見と局在性:静岡県植物誌(1984)には静岡県の伊豆、
東部、中部に 10 か所ほどの産地が記録されているが、次第に自生地
が消失し、1960 年代以降は確認されなかった。それが 1996 年に島
田市の富士山静岡空港事業用地において発見され、その後、掛川市、
菊川市で相次いで新産地が見つかったが、既存の産地では確認でき
ないままである。
新産地はいずれもお茶の名産地にあり、自生地は茶園にひくため
の草刈り場(茶草場と呼ばれる)である。静岡県の茶産地ならでは
の採草地で昔ながらの草刈りが毎年実施されている数少ない場所で
あり、希少性や地域の片寄り、自生地面積の小ささなどの分布局在
性の一端を説明できる。
2.フジタイゲキのフェノロジーと繁殖戦略:開花・結実期にお
ける草高や根系の形態等の比較から、ススキ・ネザサとの競合に勝
つ繁殖戦略について検討した。さらに、アリに頼る種子散布方法と
根系で継代する栄養生殖の実態を観察した。採草地に適応した生態
であり、里山の生物多様性のメカニズムが再認識された。
3.保護対策とその成果:新産地 3 か所におけるモニタリングと
保護活動の他に、富士山静岡空港とその周辺における自然保全区域
への導入とその後の維持管理により、現在約 1000 株が保全されてい
る。これらの継続的な保護対策は富士山静岡空港の自然環境モニタ
リングとして実施されており、これによってフジタイゲキの絶滅の
信和(広島大・国際協力)
竹林拡大が里山の植生分布に大きな影響を与えていることから,
放棄竹林の広葉樹林等への転換や適切な管理手法の開発が求められ
ている.本研究では,島根県大田市のモウソウチク林と隣接する広
葉樹林において,地元 NPO が 2005 年から行っているモウソウチク
伐採に併せて行った調査より,伐採後 7 年間の植生回復過程を示し,
伐採の効果と植生変化を明らかにする.
調査は非伐採竹林(A),伐採竹林(B),モウソウチクが侵入しつ
つある広葉樹林(C,D)にそれぞれ 10 m 四方の固定調査区を設定し,
出現植物種の被度と全木本の胸高直径の記録を,2005 年の伐採前か
ら,2012 年まで毎年行った.このデータより,各時期各調査区の胸
高断面積合計,Shannon-Wiener の多様度指数を求め,各種の被度を
もとに DCA による序列化を行い,その変化を検討した.
伐採後の 2006 年から 2008 年にかけて,B 区のモウソウチクの胸
高断面積合計が増加し続け,高さもタケ以外の木本を越え,放置を
継続すれば,モウソウチク林が再生すると考えられる状況となった.
2008 年以降は,毎年,再生したモウソウチクの除去を続けたため,
2012 年には新たに発生したモウソウチクはササ状の 1 本のみとなり,
継続的な除去によって,モウソウチクを駆逐することが可能なこと
を確認した.種多様性は,伐採区で大きく変動したほか,A 区にお
いても 2009 年に多様度指数の上昇がみられた.これは,調査区外の
竹稈が伐採されたことにより,林床の光環境が改善したことが要因
であると考えられた.種組成は,DCA1 軸に沿って,B 区,A 区,C 区,
D 区の順で並んだ.これは,伐採跡地・竹林・広葉樹林の順であった.
B 区における伐採は,植物種組成を竹林から伐採跡地に変えたに過
ぎず,広葉樹林への転換は進んでいなかった.
危機は減少したと言えよう。
125
126
一般講演・口頭発表
3 月 9 日(土)
動物個体群
植物繁殖
種子散布
遷移・更新
景観
127
128
口頭発表 3 月 9 日(土) C 会場 9:30-10:30
C3-27
C3-28
繁殖干渉は本当に頻度依存か?マメゾウムシでの実験的
独占仮説を調べる - 隣接する湖におけるミジンコ個体群
検証
の遺伝構造の比較から -
* 京極大助,大野秀輔,曽田貞滋(京大・理・動物生態)
熊谷仁志 *,牧野渡,占部城太郎(東北大・生命)
独占仮説は、高い分散能力を持つ生物が局所個体群間で異なる遺
伝子組成を持つという逆説的な現象の成立機構として提唱された。
ミジンコ (Daphnia ) など循環単為生殖を行う生物では、創始者個体
のうち局所ハビタットの環境に適した個体がまず単為生殖で急速に
増加し、ついで有性生殖により多数の休眠卵を残す。この過程が繰
り返されれば迅速な局所適応が生じ、ハビタットに創始者由来の強
固な遺伝子組成が形成されることになる。その結果、新たな少数個
体の移入があっても遺伝構造への影響は無視できるほど小さくなる
という。この独占仮説によれば、近隣湖沼間では遺伝子流動が小さ
いばかりでなく、交雑可能な近縁種でさえ新規ハビタットで局所個
体群が成立し難いことを示唆している。この可能性を検証するた
め、山形県民の森にある畑谷大沼とそれより 800 mほど離れた荒沼
で Daphnia の個体群動態と遺伝子構造の解析を行った。解析にあた
っては、2011 年 4 月 ~12 月の期間、毎月 1 回の頻度で調査を行い、
マイクロサテライト 9 座とミトコンドリア 12SrDNA を用いて両沼の
Daphnia 個体群の遺伝子構造を調べた。調査の結果、いずれの沼で
も D. dentifera とその近縁種である D. galeata が同所的に出現してい
た。遺伝子解析の結果、畑谷大沼では両種は交雑していること、D.
dentifera では両沼間で共通のハプロタイプが分布していることが分
かった。これらは、両湖沼間での遺伝子流動と異系統の交雑による
共存の可能性を示唆しており、独占仮説ではうまく説明出来ないこ
とが伺われた。
C3-29
C3-30
個体群の単位を探る:遺伝的均一性と個体数同調性の関係
移動分散を考慮した地域スケールでのニホンジカの個体
小泉逸郎(北大・創成)
群動態の推定
“個体群”とは“ある地域における生物個体の集まり”と定義され
ており、生態学上最も重要な基礎単位である。例えば、生存率、成長率、
絶滅率などの主要パラメーターは個体群をベースとしており、また
集団遺伝学的には個体群(任意交配集団)とは進化の最小単位と考
えられている。しかしながら、実際の生物は複数の生息地間を移動
しているため、個体群の境界が明瞭でなく個体群動態や局所適応を
どのスケールで扱えばよいのか確立した基準がない。個体群の実体
を理解するためには、多数の地域で個体数変動や生活史変異を調べ、
さらにそれらが個体の移住によってどのように影響されているかを
調べる必要がある。本研究では、北海道空知川のオショロコマ(河
川性サケ科魚類)を対象に申請者が過去 15 年にわたり採集してきた
データを解析する。
30 支流個体群を対象としたマイクロサテライト DNA 解析の結果、
明瞭な“距離による隔離”の効果がみられ、5-10km 離れた個体群
間では有意な遺伝的分化が認められた(F ST=0.02 程度)。逆にいえば
5km 以内のスケールでは個別の支流に生息していても遺伝的には均
一な個体群といえる。次に、支流間で個体群動態(デモグラフィー)
がどれほど一致しているか、また距離の効果が認められるか、につ
いて 18 個体群における 6-15 年のデータを解析した。結果、距離の
効果は認められず 20-30km にわたって弱い同調性(r = 0.2-0.3)を示
した。移住が多く遺伝的分化が認められない近接個体群間でも、個
体数変動の同調性は引き起こされておらず、各支流個体群が独自の
デモグラフィーを持っていた。また、産卵時期などの生活史形質も
個体群間で異なったが明瞭な地理的グループは認められなかった。
以上から、現実の個体群は非常に複雑であり、注目する特性により
個体群の単位は異なると考えられた。
* 岸本康誉,藤木大介,坂田宏志(兵庫県大)
近年、ニホンジカの分布域の拡大と、それに伴う農業や自然植生
の影響の拡大が多くの地域で報告されている。このような状況のも
と、被害の軽減や予防を目的としてニホンジカの捕獲計画を策定す
るためには、個体群レベルでの本種の移動分散を定量化することが
重要である。そこで、本研究では、兵庫県で 1999 年から 2011 年ま
での 13 年間にわたり収集された捕獲と密度指標に関するデータを
用いて地域スケール間の移動分散を考慮した個体群動態を推定した。
捕獲データとしては、狩猟と有害による捕獲数を用い、密度指標に
ついては、出猟時の 1 日あたりの平均目撃数である目撃効率と、尾
根線上の 1km あたりの平均糞塊数である糞塊密度を用いた。それぞ
れ、狩猟メッシュや市区町単位で得られたデータを、10km × 10km
メッシュ単位で集計し解析に用いた。解析にあたっては、地域スケ
ールでの個体群動態を推定する状態空間モデルを基本として、周囲
8 メッシュとの密度差により移動分散が起こることを仮定した移動
に関する拡散係数を組み込んだモデルを構築した。さらに、景観要
素による移動の違いを考慮するために、移動については、隣接メッ
シュ間の森林の接延長に比例すると仮定した。また、同じデータセ
ットを用いて、移動を考慮しないモデルを構築し、移動の有無によ
る増加率や個体数などの他の推定値の違いを比較した。
推定の結果、移動ありと移動なしのいずれのモデルにおいても、
十分な収束が得られた。しかし、推定値は、モデル間で異なり、移
動を含めたモデルでは、移動を含めないモデルより、増加率が高い
一方で、個体数が低くなった。これらの結果を踏まえ、本講演では、
ニホンジカの個体群管理を進めるにあたっての移動を考慮した推定
と捕獲計画の設計の重要性について議論する。
129
口頭発表 3 月 9 日(土) C 会場 10:30-11:30
C3-31
C3-32
宿主 2 種を寄生するゾウムシコガネコバチの個体ベース
寄主と外来寄生者の生息適地モデルによる分布予測:オ
モデル:Baldwin 効果
オミノガとオオミノガヤドリバエ
* 嶋田正和,中山新一朗,笹川幸治,柴尾晴信(東大・総合文化・広域)
* 石井弓美子,今藤夏子,高村典子,高村健二,田中嘉成
19 世紀末に J.M. Baldwin(1896) は「有機的選択」概念を提唱した
が、これは生理的適応や学習行動による適応が進化的適応を推進す
るもので、ボールドウィン効果と呼ばれる。我々は寄生蜂ゾウムシ
コガネコバチが、宿主アズキゾウムシ jC 系統とヨツモンマメゾウム
シ hQ 系統の 2 種の匂いを学習し頻度依存捕食することで、3 者実験
系で宿主 2 種に交代振動が発生し、永続性が高まることを発表した
(Ishii and Shimada 2012, PNAS)。これは成虫蜂による産卵学習行動で
ある。これに対して、寄生蜂が自分の育った宿主での幼虫期 / 羽化
期の匂い学習も、攻撃する宿主への選好性を高める可能性があるが、
本種ではまだ報告されていなかった。
本実験では、jC、hQ、及びブラジルマメゾウムシ C107 系統(対照)
の 3 種を生育宿主として寄生させ、そこから育って出た蜂を羽化し
た豆と一緒に 48 時間放置した。その雌蜂 1 匹につき jC と hQ を 1:1
で十分に与え 8 時間寄生させた結果、生育宿主の匂い学習によって
娘蜂の選好性の増加が有意に検出された。すなわち、親世代に寄生
された宿主から出た娘蜂は、羽化した宿主の匂いを記憶・学習して、
次に宿主を探しに出る時にその学習を頼りに同じ宿主を探す継代効
果が示された。この結果を受けて、既に発表してきた個体ベースモ
デル(Shimada et al. 2011, 2012)を改良し、Baldwin 効果が導入でき
るようにして解析した。その結果、Baldwin 効果は仮想の新規宿主
にも迅速に適応でき、従来にはない迅速な適応の動態が解析できた。
この予測は、野外で報告されている寄生蜂の新規宿主への迅速な適
応を説明できるだろう。
新たな天敵の侵入は、侵入先の生態系へ壊滅的な影響を与える可
能性がある。オオミノガは関東以南の日本全国に分布する普通種で
あったが、オオミノガの捕食寄生者であるオオミノガヤドリバエが
日本に侵入した 90 年代後半から九州などで個体数が激減し絶滅状態
になったとされるが、その実態は明らかでない。本研究では、20112013 年の日本各地でのオオミノガとヤドリバエの分布調査を行い、
日本国内におけるオオミノガとヤドリバエの分布を明らかにした。
さらに、オオミノガとヤドリバエの在・不在情報から生息適地モデ
ルを作成し、それぞれの潜在的な分布を推定した。分布調査の結果、
オオミノガヤドリバエは、オオミノガの分布北限近くまで日本全国
に広く侵入して分布していた。しかし、生息適地モデルによる解析
の結果、オオミノガとオオミノガヤドリバエの分布北限は、両者と
も冬の気温などによって規定されており、オオミノガ分布域のうち、
オオミノガヤドリバエが侵入できない地域がある可能性が示唆され
た。
C3-33
C3-34
マハゼ Acanthogobius flavimanus の耳石解析~モデル
選択による Sr/Ca 変動パターン分けの試み
琵琶湖のコイの遺伝子型に応じた生息地利用の違い
* 内井喜美子(東大・総合文化),奥田昇(京大・生態研),小北智之(福
井県立大・海洋),馬渕浩司,西田睦(東大・大気海洋研),川端善一郎(地
球研)
上村了美(国総研)
東京湾の再生を評価する場合、釣りの対象として人気のあるマ
ハゼの回復がひとつの指標となる。マハゼは冬に深場で産卵・ふ化
し、春に浅場で着底、夏にかけては主に浅場で成長し、秋には繁殖
のために徐々に深場に移動すると言われている。しかし、近年は産
卵場所が減少するなどしており、繁殖生態や初期生態が変化してい
る可能性が示唆された。そこで本研究では、2009 年から 2011 年の
間に東京湾から採集したマハゼ 150 個体について、耳石の微量元素
分析(Sr/Ca)を行い、ふ化から着底までの初期発生の時期に成長
したと考えられる部分に着目して、変動パターンを解析した。耳石
の Sr/Ca は生息環境の塩分を反映し、塩分が高いほど Sr/Ca が高くな
ると言われている。解析では、目的変数を Sr/Ca 値、説明変数を耳
石の中心からの距離とし、解析ソフト R を用いて一般化線形モデル
(GLM) を推定し、AIC によるモデル選択を行った。モデル式は一次
式(y=ax+b)とし、選択された式によって、a > 0 の場合は上げ(塩
分の高い所へ移動)、a < 0 は下げ(塩分の低い所へ移動)、a=0 は一
定(塩分の変化はほとんどなし)として、パターンを分けた。先述
のように「深場でふ化、浅場で着底」の移動であれば、東京湾の塩
分環境から、「下げ」のパターンを示すと考えられるが、これに当て
はまる個体は約 52%であり、これとは異なる移動を行う「上げ」は
20%、「一定」は 28%であった。生息場所ごとにみると、多摩川上
流の個体はすべて「下げ」の典型的なパターンを示したのに対し、
他の場所では複数のパターンが混在しており、この混在は異なる場
所でふ化した個体が集まっていることを示していると考えられた。
日本のコイ (Cyprinus carpio ) 個体群には、日本固有の在来系統と、
ユーラシア大陸から導入された外来系統が混在している。外来系統
の導入が約 100 年前に始まったと考えられる琵琶湖においては、水
深が深い湖北地域には在来系統が優占し、浅い湖南・湖東地域では
外来系統の出現頻度が増加するという、湖盆形状に応じた在来系統
と外来系統の分布の違いが報告されており、両者の間には、生息場
所の選好性に違いがあることが窺える。本研究では、沖合、沿岸、
内湖、河川という多様な環境を持つ琵琶湖において、在来系統と外
来系統がどのような生息場所を利用するのかを、炭素および窒素安
定同位体比分析を用いて評価したので、その結果を報告する。
130
口頭発表 3 月 9 日(土) C 会場 11:30-11:45
C3-35
ウナギ標識コホートの生態過程
立川賢一・中島敏男(流域総合研究所)
【目的】 ウナギ資源が危機的状況に陥った主な原因の一つとして、
生活場所破壊が挙げられる。しかし、河川におけるウナギ資源に関
する生態的知見は乏しい。私達は、ウナギの生残や成長などの生態
過程を知るためにウナギのコホート(同年齢個体群)を標識放流し、
長期間追跡調査した。
【方法】 当歳の養殖ウナギを高知県物部川の河口から上流方向
約3km地点で、2000 年に右胸鰭を切除した 7977 尾(00 群)と、
2001 年に左胸鰭切除の 7989 尾(01 群)を放流した。平均全長は、
00 群は 34cm で、01 群は 22cm であった。河口から堰まで約7km
の流域で、川漁師に依頼して木製トラップを設置し、標識ウナギを
再捕した。7年間の現場調査以降、現在まで情報収集してきた。
【主な結果と考察】 1)生残過程:00 群の再捕尾数は、放流年
の 94 尾から 6 年後の 1 尾まで年々減少し、それ以降の再捕はなか
った。再捕尾数の 7 年間の瞬間減少率は 0.34 であった。一方、01 群
は、放流年の 2 尾から 5 年後の 34 尾まで再捕尾数は年々増加した
が、これは漁具選択性によると考えられた。その後、再捕尾数は年々
減少したが、2008 年と 2009 年は再捕がなかった。これには濁水等
の河川環境悪化などが影響していた。10 年後に2尾と、その翌年に
1 尾の再捕があったものの、2012 年は再捕がなかった。2005 年以降
2012 年までの瞬間減少率は 0.21 であった。放流後 11 年間定住した
個体がいた。 2)成長過程:01 群ウナギの平均全長は、5 年後に
34.5cm となり、放流時の 00 群とほぼ同じとなった。 3)考察:
当歳ウナギの放流によりウナギ資源への添加が期待される。ウナギ
資源回復の目的で生残率や成長率を高めるには、ウナギの住める生
活環境に河川を取り戻すことが喫緊の課題である。
131
口頭発表 3 月 9 日(土) E 会場 9:30-10:30
E3-27
E3-28
エゾヤマザクラ当年枝における花芽生産のサイズ依存性
タケ・ササ類の開花更新に関する研究の現状と課題
長谷川成明(北大・低温研)
蒔田明史(秋田県大・生物資源)
樹木の枝系は当年枝の繰り返しによって構成されている。多くの
樹木において当年枝は葉を支え光合成において大きな役割を果たす
と同時に、繁殖器官を生産している。このような成長と繁殖という
トレードオフ関係にある二つの活動は、枝系を構成する様々なサイ
ズの当年枝の間でどのように分担されているだろうか。本研究では
エゾヤマザクラを材料に、当年枝のサイズと、生産される花芽の数
の関係性を明らかにし、樹木の成長と繁殖の生活史戦略の観点から
考察した。
エゾヤマザクラ (Prunus sargentii ) は本州中部以北および北海道に生
育する落葉高木種である。2010 年 5 月に北海道大学キャンパス内に
生育する 3 個体のエゾヤマザクラ個体の枝系各 1 本をランダムに選
択し、枝系の先端から当年枝が 50 本以上含まれる分岐までを調査対
象として、2010 年から 2012 年にかけて追跡調査を行なった。
1) 当年枝長と葉芽の数の間には直線的な関係が見られたが、当年
枝長と花芽の数の間には頭打ちの関係が見られ、全ての芽に占める
花芽の割合は枝長が 5cm 以下の当年枝では高いものの、それより長
い当年枝では低くなることが明らかになった。2) 葉芽は 1 つのみで
花芽を複数つけるサイズの小さな当年枝が多く見られた。このよう
な当年枝は繁殖のみに特化し、加えて、このような当年枝からは翌
年も同様の当年枝が生じる確率が高いことが明らかになった。
これらの結果からエゾヤマザクラではサイズの小さな当年枝が繁
殖に、大きな当年枝が成長に機能分化していることが示された。こ
の機能分化は、効率的に空間を占有しながら繁殖量を増加させるエ
ゾヤマザクラの繁殖戦略であると考えられる。
世界で 70-110 属生育していると言われているタケ・ササ類は、そ
の多くが長寿命一回繁殖性であり、しかも開花時には広範にわたっ
て同調して開花すると言われている。さらに、しばしば密生した群
落を形成し、その一斉開花は植生にドラスティックな変化をもたら
し植生動態に大きな影響を与えている。こうしたことから、タケ・
ササ類の開花更新について関心はもたれてきたものの、開花がいつ
どこで起こるか予想できないこと、また、地下茎を介して広がる植
物なので、個体性が明瞭でないことなどからその研究は進んでこな
かった。しかし、近年、分子生態学的手法の進歩などによって急速
に知見が蓄積している。そこで、本発表では、タケ・ササ類の開花
更新に関する研究史を振り返り、以下の項目にわけて研究の現状と
今後の課題について考えてみたい。
1.タケ・ササ類の開花枯死と植生動態
2.開花周期と回復過程
3.多様な開花様式(一斉開花 vs 部分開花)とジェネットを意識
した開花の記載方法
4.クローナル成長様式の違いがもたらすもの
5.タケ・ササ類の系統・進化
これらをもとに、今後タケ・ササ類の開花に遭遇した時に留意す
べき事項についてもまとめておきたい。
E3-29
E3-30
Demand-driven resource investment in annual seed
自家不和合性の初期進化:雄側と雌側の識別遺伝子の完
production by perennial angiosperms
全連鎖は必要か?
*Ida Takashi, Harder Lawrence (University of Calgary), Kudo Gaku
(Hokkaido University)
酒井聡樹(東北大・生命科学)
In the self-incompatibility (SI) system, male and female S alleles are
tightly linked to prevent self-fertilization of pollen and pistils having the
same S alleles. Is such a tight linkage necessary for the initial evolution of
SI? We theoretically examined whether male and female S alleles stably
co-exist in a population without a tight linkage, assuming gametophytic SI.
Consider Sm and Nm alleles for the male locus and Sf and Nf alleles for
the female locus. The cross between pollen having Sm alleles and pistils
having Sf alleles is incompatible, whereas other crosses are compatible.
Pollen having Sm alleles and ovules in the pistils having Sf alleles suffer
from survival cost due to resource consumption for recognition. We found
that Sm and Sf alleles stably co-exist with moderate linkage due to the
cost of having Sf alleles. This is because parents having Sf alleles but a
homozygote of Nm alleles cannot avoid self-fertilization and suffering from
survival cost, and hence Nm alleles are selected against. Thus, Sm alleles
spread because ovules, not pollen, having these alleles spread. We suggest
that, if Sm and Sf alleles stably co-exist, mutations enhancing their linkage
are selected for, leading to their tight linkage.
The limits of annual seed production in angiosperms have long been
recognized as alternative restriction by either pollination success (pollen
limitation) or resource provision to seed development (resource limitation).
This expected dichotomy between pollen and resource limitation is based on
assumption that reproductive resources are fixed. Although this is reasonable
for semelparous species, iteroparity can ease the constraints on reproductive
output per breeding season, if resources can be either mobilized from
past storage or borrowed against future performance. These options allow
enhanced reproductive investment in response to unusually good pollination.
Our presentation shows the demand-governed reproductive investment by
manipulating both resource supply capacity and resource demand using
perennial herbaceous species. Such contingent resource allocation may
eliminate a simple dichotomy between pollen and resource limitation.
Instead, flexible reproductive investment allows iteroparous perennials to
participate maximally in current reproduction following superior pollination,
which may translate physiological cost to demographic cost, or conserve
resources for future reproduction following poor pollination.
132
口頭発表 3 月 9 日(土) E 会場 10:30-11:15
E3-31
E3-32
種子散布能力が異なるクサトベラの二型~地形と出現頻
ヤマガキの果実を利用する鳥類の種子散布特性とヤマガ
度の関係~
キ周辺の植生
* 栄村奈緒子・宮田和裕・上田恵介(立教大・理)
・酒井美由紀・傳田哲郎(琉
* 船越昇,桜谷保之(近畿大・農)
海岸植物のクサトベラには、果実形態の異なる二型が同所的に存
在する。一方は水に浮くコルク質と鳥が食べる果肉質を持つコルク
型、他方は果肉質のみを持つ無コルク型である。果実型は個体によ
って一定し、葉緑体と核 DNA の計 1892bp の配列に型間で違いが見
られない。この形態の違いから、二型の種子散布能力は異なると予
想される。種内の個体間で種子散布能力が異なり、それらが同所的
に見られる植物は今までに知られておらず、適応的意義は明らかで
はない。そこで、この二型の海流と鳥による種子散布能力と、異な
る環境における二型の出現頻度を比較して、これらの適応的意義に
ついて考察した。
海流散布能力の比較は、海水での各型の果実 390 個の浮遊率から
調べた。その結果、コルク型は 5 ヵ月にわたって約 90% が浮遊し続
けたのに対して、無コルク型は実験開始後直ちにほぼすべてが沈ん
だ。鳥散布能力の比較は、果肉糖度、果実サイズ、糞分析から調べた。
果肉糖度と果実サイズはコルク型 1207 個、コルク無型 629 個を計測
したところ、糖度は無コルク型のほうが有意に高かったが、サイズ
に違いがなかった。糞に含有する種子数は無コルク型のほうが多い
傾向が見られた。したがって、二型の海流と鳥による散布能力は異
なることが示唆された。
二型の出現頻度は国内 19 島 88 集団で、各集団の約 50 個体から算
出し、地形毎(崖、岩場、浜)に比較した。その結果、コルク型は浜で、
無コルク型は崖で出現頻度が高かった。崖は浜よりも海から隔離さ
れているため、海流によるコルク型の移入が困難なのかもしれない。
崖では鳥、浜では海流というように、地形ごとに主な種子散布者が
異なるため、崖では鳥散布能力に優れた無コルク型、浜では海流散
布能力に優れたコルク型の適応度が高くなり、出現頻度が高くなっ
たと考えられる。
発芽した場所から移動せずに一生を過ごす植物は、次世代を残し、
分布を広げるために種子を散布する。そのために種子とそれを包む
果肉や果皮は、風・水・動物などの力を利用することができる様々
な形態を発達させてきた。動物の中でもとりわけ果実食の鳥類は種
子散布に大きく貢献しており、その種子散布量は鳥類の訪問頻度と
滞在時間に関係していると考えられる。
本研究では、近畿大学奈良キャンパス(奈良市中町)において最
も利用鳥種が多いと報告されており、果実が大きいため採食に時間
がかかるヤマガキ(Diospyros kaki var. sylvestris )を調査対象とした。
ヤマガキは果実内の種子が大きく、周りのゼリー状物質が哺乳類の
咀嚼をすり抜ける効果もあるため、主な種子散布者は哺乳類である
と考えられているが、本研究ではヤマガキの種子散布に対する鳥類
の役割を解明した。
調査は、近畿大学奈良キャンパスに自生しているヤマガキを対象
に行った。ヤマガキの胸高直径を測定し、ヤマガキの幹を中心とす
る半径 5m の円内に生育している木本植物の個体数・胸高直径を記
録した。ヤマガキの果実成熟期に各個体の結実数を目視で計測し、
樹下に種子トラップ(半径 40㎝、面積 0.50㎡)を 6 個ずつ設置した。
その後、種子トラップ内の鳥類の糞の数と落下している種子(果実)
数を種ごとに計測した。また、果実成熟期の午前中にヤマガキに来
る鳥類の種と個体数を定点調査で記録した。この時、ヤマガキに来
た鳥類が果実のみを利用しているのか果実内の種子ごと利用してい
るのかも確認した。
植生調査においてはヒサカキが最も多く確認された。種子トラッ
プ内には周辺植物の種子(果実)が最も多かったが、鳥類の糞も確
認できた。また、鳥類調査では 2013 年 1 月現在、7 種 82 個体の訪
問が確認され、ヒヨドリ、メジロ、シジュウカラ、ハシブトガラス、
エナガ、シロハラでは採食行動が確認された。
球大・理)・安藤温子・井鷺裕司(京都大・農)
E3-33
果実の香りの多様性とその適応的意義を探る
* 米谷衣代(京大・生態研),直江将司(東大・農),高林純示(京大・生態研)
動物による種子散布は、植物が果肉を動物に提供する代わりに種
子を運んでもらうという共生的な生物間相互作用である。この場合、
散布する動物の特性(果実の好み、行動範囲など)と果実の形質が
種子散布に影響するとされている。これまで、種子散布者である鳥
類は主に色覚を利用して餌である果実を探していると考えられてき
たが、近年、人間以上の鋭敏な嗅覚を持つことが明らかになってきた。
そのため、もし多様な果実の香りとその特異性が特定の好適な種子
散布者を誘引するならば、果実の香りの多様性は、種子散布者との
共進化の結果として説明できるかもしれない。しかし、種子散布の
研究において、香りという形質に注目した研究はほとんどない。本
研究の目的は、果実の形質と散布者との共進化関係を解明する研究
に、香りという新しい方向性を示すことである。我々は、茨城県北
茨城市、小川群落保護林と周辺の森林群集において動物散布の植物
約 20 種を対象に果実の詳細な香りを分析した。調査は 2011 年 10 月
と 2012 年 6 月から 11 月にかけて定期的に行った。1種あたり 3 −
5 個体から果実を採取し、香りを捕集、ガスクロマトグラフ質量分
析計で分析の後、構造を推定した。本発表では、多変量解析により、
種間、種内の香り成分の組成の比較を行った結果を発表する。全体
の傾向として、各植物の果実の香り成分の構成比や量(香りの質と
量)が同科の種間であっても異なる。一方、同じ属に属すニガイチ
ゴとクマイチゴから放出される成分はほとんど同じであった。しか
し、成分全体の総量に対する各成分の割合が異なる傾向がみられた。
このように、系統的に近いほどよく似た香り成分が放出されている
可能性があるが、各成分の割合が異なる可能性が示唆された。さらに、
果実の香りと果実の質の関係を解析し、果実の香りが果実の質を種子
散布者に示すシグナルとして働く可能性を検討した結果を報告する。
133
口頭発表 3 月 9 日(土) G 会場 9:30-10:30
G3-27
G3-28
セイタカアワダチソウの個体群動態モデルを用いた二次
樹木更新サイトとしての枯死木の利用率と樹種組成との
遷移の解析
関係
池田浩明(農環研)
* 井上太樹(北大・環境科学),吉田俊也(北大・FSC)
耕作放棄地における二次遷移については、多数の研究がある。し
かし、それらの研究は放棄年数の異なる立地の植生を比較したもの
が多く、同じ場所で長期的に植生遷移を追跡した研究は少ない。そ
こで、同一圃場で耕作放棄試験を行い、植生を調査するとともに、
出現したセイタカアワダチソウの個体群動態モデルを構築し、競合
種であるクズの侵入時期を変えた数値実験を行った結果を報告する。
茨城県つくば市農業環境技術研究所内の圃場(20 m × 30 m;前作
は大麦)を 1995 年 5 月 18 日に耕起し、耕作放棄した。0.5 m × 0.5
m の方形区(N=10)で毎年 5 月、11 月に植生調査を行い、セイタカ
アワダチソウのシュートを当年生実生、非開花個体、開花個体別に
計数した。このデータを用いて、セイタカアワダチソウの非開花個体、
開花個体の 2 生活史段階に基づく、密度効果とクズの被覆による抑
制を組み込んだ推移行列モデルを構築し、クズの侵入パターンを変
えた数値実験を行った。
耕作放棄後の優占種は、放棄 1 年目でオオイヌタデ・ブタクサ・
メヒシバ、2 年目でアレチマツヨイグサ・ブタクサ、3 年目でアレチ
マツヨイグサ・ツルマメと変化したが、4-7 年目はセイタカアワダチ
ソウが、7 年目以降はクズが安定して優占した。植物の出現種数は、
放棄年数が増大するほど減少したが、放棄 12 年目以降は安定した。
セイタカアワダチソウは、放棄 1 年目には出現しなかったが、放棄
2 年目に 4 個体の当年生実生が出現した。これ以降、年々被度が増
大したが、放棄 5 年目をピークにその後減少した。
数値実験の結果、クズが遅れて優占する場合、クズが出現しない
場合に比べて、セイタカアワダチソウの開花個体は 1/7、非開花個体
は 1/2 に低下した。また、クズが先に優占する場合、セイタカアワ
ダチソウは増殖できないことが示唆された。
倒木は、北方林を中心としていくつかの樹種にとって更新サイト
として機能しているが、樹種によって倒木への依存度は異なること
が知られている。また、更新サイトとしての倒木の質(以下、倒木
の質)は、倒木の生物的・非生物的な環境によって変化するため、
倒木の質は空間的異質性を持つ。このことから、倒木の質の違いが、
樹種間での倒木への依存度の違いを通して林分の樹種組成に影響を
及ぼしている可能性が考えられる。そこで、本研究では、倒木への
依存度が異なる Abies(依存度が低い;トドマツ)と Picea 類(依存
度が高い;エゾマツ、アカエゾマツ)を用いて、林分における倒木
の質と樹種組成との関係を評価した。調査は北海道北部に位置する
北海道大学雨龍研究林および中川研究林の複数の長期観察林で行っ
た。合計 14 の観察林内に 0.25 ha の調査区を設置し、樹高 2 m 以上
の Abies、Picea 類を対象に更新サイト(倒木 or それ以外)を記録し
た。Abies の倒木更新個体の割合を、その調査区における倒木の質
の指標とし、各調査区の樹種組成との関係を検討した。各調査区の
Abies、Picea 類の分布状況を見ると、Abies は全ての調査区で存在量
が多くなっている一方、Picea 類は約半数の調査区で分布ゼロ、ある
いは存在量が極めて少なかった。各調査区における倒木の利用状況
(全個体のうち倒木更新した個体の割合)は両グループで大きく異な
り、Abies では 0-58% と、ほとんど倒木を利用していない調査区が
あることが明らかとなった。一方、Picea では 36-100 % と、どの調
査区においても倒木がよく利用されていた。また、倒木の質と Picea
類の混交量との関係には明らかな正の相関が認められた。以上から、
倒木の質が倒木依存種の分布の制限要因となり、林分の樹種組成に
影響を及ぼしている可能性が示唆された。
G3-29
G3-30
渓畔林稚樹の成長特性の種間差と個体 vs.個体の「勝敗」
亜高山帯性針葉樹の実生消失過程に及ぼす積雪環境の影響
* 星崎和彦,高橋智士,田中裕志(秋田県大・生資),柴田銃江(森林総
* 杉田久志(森林総研),高橋利彦(木工舎「ゆい」),市原 優(森林総研・
東北),長池卓男(山梨森林総研)
森林樹木の多種共存機構について、環境に対する種の反応に基づ
くニッチ分割説と個体の同一性を基礎に置く中立理論の間で論争が
続いている。前提の異なるモデルが共存を説明することから、種レ
ベルの理論と個体レベルの理論の間にはミスマッチがあると考えら
れる。本研究では稚樹の更新過程を対象に、各樹種の成長特性で局
所スケールの隣接個体間の競争がどの程度説明可能か検討した。
奥羽山系の渓畔景観にベルトランセクトを設けて稚樹センサスを
2回行い、位置座標と光条件を記録した。本数の多い 10 種の光−成
長曲線を比較した結果、①暗条件での成長に有利な種、②暗い環境
でも光の増加に伴い成長速度が増加する種、③明るい場所に分布が
偏り成長速度の大きな種という、落葉広葉樹に一般的なニッチ分割
が認められた。
各稚樹の隣接個体との局所的競争では、各種の対戦相手には偏り
が大きかった。隣接個体の成長速度との関係をもとに局所対戦の「勝
敗」を決定した結果、勝敗が光−成長曲線から予想されるランキン
グに一致した割合(予想的中率)は概して低く、樹種レベルではヤ
マハンノキが 0.93、ブナとオヒョウが 0.67 と 0.62、他は 0.0 ∼ 0.3
であった。個別の種ペア(対戦数の多いもの)でも多くが予想的中
率 0.6 未満で、多くの種はヤマハンノキやブナが近傍に不在の場合
には「番狂わせ」を頻繁に起こしていた。
以上の結果は、ニッチの種間分離は確かに認められるものの、競
争排除は概して起きにくいことを示唆する。この一見矛盾する現象
は、競争するのは種ではなく個体であることに起因すると考えられ
る。競争の結果は個体差がもたらす不確実性や、競争に強い種の不
在(更新制限)に強く左右され、多種共存は中立理論的な過程で実
現しているといえる。
積雪の少ない太平洋側地域と多雪な日本海側地域との間で植生に
顕著なちがい ( 植生背腹性 ) がみられることは日本の植生の特徴であ
り、積雪環境は日本の植生分布の成立ならびに植生変遷を考える上
で重要な要因である。本州の亜高山帯では植生背腹性がとくに明瞭
であり、積雪が多くなるにつれてコメツガ、シラビソが劣勢になる
一方で、オオシラビソは優勢になる ( 今西,1937;鈴木,1952;杉田,
2002)。 しかしながら、積雪環境の実測データに基づく定量的解析は
行われておらず、多雪環境下でコメツガが劣勢になるメカニズムは
明らかにされていない。そのメカニズムとして「積雪下で蔓延する
菌害 ( 雪腐れ病 ) が針葉樹の種子・実生ステージの死亡 ( 定着阻害 )
をもたらしており、樹種間の菌害抵抗性のちがいにより阻害程度が
異なる」という仮説が提唱されている ( 杉田,2002)。本研究は、積
雪環境が種子・実生ステージにおける針葉樹の消失過程に及ぼす影
響を解析し、積雪量に応じて定着阻害が生じているかを検証した。
調査地として中部地方の富士山、金峰山、北八ヶ岳、御嶽山、志
賀高原、東北地方の早池峰、八幡平の7山8林分を選定し、積雪環
境として根雪日数の観測を行った。各林分において、実生発芽まで
( 種子期 )、発芽後当年生秋まで ( 当年夏期 )、当年生秋から翌春融雪
まで ( 当年冬期 ) のそれぞれのステージについて亜高山帯性針葉樹の
死亡率を算定した。種子期と当年夏期では根雪日数と死亡率との間
に明瞭な関係がみられなかったが、当年冬期にはコメツガ、Abies(
オオシラビソ、シラビソ ) ともに根雪期間の長い林分ほど死亡率が
高い傾向がみとめられ、コメツガのほうがその傾向が明瞭であった。
この結果は、実生が最初に経験する積雪季を乗り切れるか否かによ
って定着の成否が決まっている可能性を示している。
研東北),沖慎司,松下通也(秋田県大・生資)
134
口頭発表 3 月 9 日(土) G 会場 10:30-11:15
G3-31
G3-32
遷移における植生・リター発達が実生加入およびシード
ブナ実生が長期間生き残る条件
バンク形成に与える影響
西本 孝(岡山県自然保護センター)
* 江川知花,露崎史朗(北大・環境科学院)
ブナ林では繰り返し訪れる豊作の翌年には多くブナの実生が発生
する。実生がその後、どのような経緯を経て生き残っていくのかに
ついては、十分な研究が行われていない。
これまでの研究から、実生が生き残るためには光環境が整ってい
ることが必要であることが明らかになった。当年生実生は、ササ稈
密度が高い場合、ほとんどが秋までに枯死するが、稈密度が 10 本 /
m2 以内であれば多くが生き残る。その後ブナ実生は、ブナ樹幹下を
避けてブナ以外の樹幹下で長期間生き残る傾向がある。ササの下の
光環境はブナ実生が長期間生残するための必要条件ではあるが、十
分条件であるかどうかについて検討した。
岡山県北部の若杉原生林で標高 1000m 付近に設定した2つの調査
区(30m × 30m)で、林冠構成種やブナ実生の位置とササ稈密度や
光環境(日平均積算光量子量)との関係を 2007 年から追跡調査した。
2012 年に発生した当年生実生はおよそ 10000 本 /ha と多かったが、
秋にはそれぞれ 39%、27% までに減少した。生残率とササ稈密度と
の間には、調査区 1 では有意な相関関係が認められたが、調査区 2
では認められなかった。ブナ以外の樹幹が大部分を占める調査区 1
では長期間生残するブナ稚樹があり、生き残った場所はブナ以外の
樹幹下であった。その場所ではササの稈密度がブナ樹幹下に比較し
て高く 4 から 10 本 /m2 程度であった。長期間生残する稚樹は、この
3 年間では生残率は高かったが、生長量が横ばいで、死亡原因が大
木の落枝に巻き込まれた物理的なものであった。ブナの葉の SPAD
値は、ササの上に出たブナの低木とササの下の稚樹とは有意な差が
認められたが、稚樹と 2006 年に発生した実生との間には有意な差が
認められなかった。
チシマザサの下では長期間生残できる光環境があり、その光を利
用して長期間生き延びる個体があるが、成長してササの上に出るだ
けの十分な光環境ではないことが明らかになった。
大規模撹乱後の遷移では、多種の種子移入、実生定着を経て地上
部植生が発達する。さらに、移入種子の一部は、未発芽のまま生存し、
シードバンクを形成する。遷移の進行に伴い、地上部植生とシード
バンクの種組成はしばしば変化するが、変化が引き起こされるメカ
ニズムはこれまで明らかになっていない。本研究では、撹乱から 30
∼ 40 年が経過した遷移進行中の湿原において、植被・リターの発達
が地表面および地中にどのような環境変化を引き起こすのか、また、
それらの環境変化が個々の種の実生定着及びシードバンク形成にど
のように作用するのかを野外実験から検討した。
北海道サロベツ湿原泥炭採掘跡地内の植生・リターの発達状況の
異なる複数のサイトにおいて、植生調査およびシードバンク組成調
査を行った。次いで、播種実験により優占種の実生定着成功を比較
した。さらに、移入種子の発芽率およびシードバンク形成確率、種
子の移動パターンを種子の埋土実験および散布実験より比較した。
植被・リターの発達に伴い、地表面の光合成有効放射量、地表面
および地中の温度日平均および日変動幅は減少した。遷移の進行し
たサイトでは、植被・リターによって地表面が強く被陰され、耐陰
性の低い種の実生定着が制限されていた。また、地上部植生中に種
子サイズの大きな種の出現が増加していた。一方シードバンクでは、
リターの増加に伴い、種子サイズの小さな種がリター下で長期間生
存するようになり、それらの種のシードバンク形成が進んでいた。
一般に、種子サイズの大きな種は耐陰性が高い。これらより、地上
部植生では、遷移の進行とともに種子サイズが大きく耐陰性の高い
種が優占する傾向にあるが、シードバンクでは種子サイズの小さな
種が優占するようになり、その結果、地上部植生とシードバンクの
種組成の変化がもたらされると結論した。
G3-33
関東周辺のブナ年輪幅変動における寒冷域での増加と温
暖域での減少
* 小出大,持田幸良(横国大・環境情報)
生長量は生物の活力度を測る指標の一つであり、環境変動による
個体の定着や死亡に先立って変化する動的な要素と言える。そのた
め生長量の変動は、特に樹木などの寿命の長い固着性の生物におい
て、気候変動などによる変化をいち早く検出する際に有用と言える。
そこで本研究は、冷温帯を代表するブナを対象に、関東周辺の分布
下限から上限において年輪コアを採取し、過去 100 年間の生長量変
動を解明することを目的とした。
調査はブナの標高分布域の上限から下限にかけて設置した6つの
サイト(雲取山 ( 高 )、雲取山 ( 低 )、丸岳、天城山 ( 高 )、天城山 ( 低 )、
加波山)において行った。
各調査サイトごとに、DBH:15~75cm の健全なブナを 8~10 個体選
出し、年輪コアを採取した。また 4 つの GCM から各調査サイトの
気候値を算出し、6サイト全てのデータを含めて年輪幅と気候値と
の関係を、GLMM を用いて解析した。
結果として、過去 100 年間のブナ年輪幅は、最も寒冷な雲取山
( 高 ) サイトの調査地では増加傾向にあったが、温暖な丸岳、天城
山 ( 高 )、天城山 ( 低 )、加波山においては減少傾向にあり、気温傾
度に沿って全く異なる傾向が見られた。中間的な気温域である雲取
山 ( 低 ) サイトでは、顕著な年輪幅の増減は見られなかった。また
GLMM におけるモデル選択の結果、冬季平均気温の2乗項を含むモ
デルが選択され、冬季平均気温に対して年輪幅は一山型に変化した。
気温域によって年輪幅変動が異なると言う結果は、同じ種であっ
ても、温暖化の影響が気温域によって全く異なる事を示唆している。
低温域では生育期間の延長や低温ストレスからの解放、高温域では
乾燥ストレスの増加などが要因として考えられた。
135
口頭発表 3 月 9 日(土) H 会場 9:30-10:30
H3-27
H3-28
静岡県に茶草場として成立する半自然草原の変遷と多様
北部九州における窯業の持続性と自然資源の分布
性評価
* 林珠乃,市原猛志,丸谷耕太,内田泰三,横山秀司,山下三平(九産大・
景観研)
* 楠本良延(農環研),稲垣栄洋(静岡農林技研),岩崎亘典(農環研),
平舘俊太郎(農環研),山本勝利(農環研)
かつては国土の 3 割以上の面積を有していた半自然草地の減少が
著しく、草原に依存する動植物が絶滅の危機に瀕している。そのよ
うな中で、東海地方の茶産地では、良質茶の栽培を目的として、茶
園にススキの敷草を施す農法が行われており、その資材源としての
半自然草原(茶草場)が大面積で維持されている。研究対象地であ
る掛川市東山地区では茶園 182.4ha に対し、129.6ha の茶草場が存在
していた。茶園面積の約 71%に達する広大な半自然草地が維持され
ていること明らかになった。
茶草場の種多様性維持、特に在来種の多様性に与える影響の大部
分が土地改変であることが GML を用いた Variation partitioning から
明らかになり、在来植物の多様性は土地利用に関する歴史性が反映
されていることが示された。土地改変を受けておらず刈取りにより
長期間維持されている草地に生育する種群としてタムラソウ、ワレ
モコウ、ツリガネニンジンが抽出された。抽出された種群による茶
草場の多様性評価も紹介したい。当該地域の半自然草原の変遷を解
析した結果、茶生産が導入される以前から農耕地周辺に維持されて
いた草原(主に役牛・役馬のまぐさ場、緑肥や屋根材の採集地とし
て利用)が燃料革命以後も茶草場として利用されてきた実態が把握
された。
茶草場の変遷や種多様性の維持機構が明らかになり、茶草場の事
例は地域の野生生物資源を利用することにより茶生産が維持され、
また、その茶生産が貴重な半自然草地である茶草場を守っている事
実が明らかになった。
地域の産業及び生活と風土との相互作用によって形成され、有形・
無形の多様な要素によって構成される文化的景観は、豊かな地域性
を有し生物多様性の維持に重要な役割を果たすと考えられることか
ら、近年注目が集まっている。これまで、農林水産業が核となって
形成される里山景観等の文化的景観の構成や変遷についての研究が
多く行われてきた。身近な自然資源を活かした第二次・第三次産業
もまた、独特の景観を呈すると考えられるが、これらの産業を基と
した文化的景観に関する研究は少ない。
窯業は、特に陶磁器等の工芸品を生産する産地において、地域独
自の文化を理解するために欠かせない産業である。北部九州の窯業
は、伝統的には山から陶土や燃料を獲得し河川の水力を利用するこ
とにより生産を行ってきたが、民芸運動や燃料革命などの社会環境
の変化に伴って、その生産構造は地域独自に推移してきた。本研究
では、北部九州の窯業の里の文化的景観に焦点を当て、地域資源の
分布と利用および景観の空間構造の変化を明らかにすることを目的
とした。
福岡県朝倉郡東峰村は、小石原焼を産する窯業の里である。1669
年に皿山地区で開窯して以来、周辺の山地から原土と薪を採集し、
地区の中心を流れる河川の水力を利用して陶土を精製して陶器の生
産が行われてきた。1950 年代から活発となった民芸運動と燃料革命
を受けて、窯元数が増加すると同時に、水力や薪に依存しない工法
が多く採用されるようになった。
一方、東峰村から約 9km 南東に位置する大分県日田市小鹿田皿山・
池ノ鶴地区では、江戸期とほぼ同数の窯元により、地域の自然資源
を活かした伝統的な工法で現在でも窯業が営まれており、文化財保
護法の重要文化的景観として選定されている。
これら二つの窯業の里の土地利用の変遷について報告し、景観構
造の共通性と独自性について考察する。
H3-29
H3-30
明治初期資料に見る里山ランドスケープ類型化の試み
縄文以降の人間活動の履歴が哺乳類の分布パターンに与
佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)
えた影響
里山地域においては市民参加による管理なども試みられており、
管理指針の策定には過去の生態系についてのより具体的なイメージ
が必要となる。里山と言っても植生も管理も全国同一ではなく、地
域差がある。千葉が「はげ山の文化誌」で示したアカマツの疎林、
あるいは「武蔵野の雑木林」などナラ林の世界がどの程度の広がり
を持つイメージなのかを明らかにすることを目的とした。
本研究では明治前期産業発達史資料として刊行された勧業寮編纂
の「明治 7 年府県物産表」により全国的な里山生態系の類型化を試
みた。特に、材料として森林生態系への依存の高い菌類に着目し、
中でも情報量が多く、さらに必要な生態資源の異なる 5 つの菌に着
目した。1) マツタケ マツ科樹種と共生、鉱質土壌内で菌根を形成し、
林床まで強度に利用された環境を必要とする 2)シイタケ 本来は
シイの倒木腐朽菌。明治 7 年頃はナラ類のホダ木に鉈目を入れてつ
くる半栽培的段階。 3)ハツタケ 同様にマツ科樹種と共生、特に
若い林分によく出現する。土壌についてはマツタケより要求が低い
4)マイタケ ミズナラなどの巨木の根際に発生。当時は栽培不可
5)イワタケ 岩尾根などに生える地衣類
これらの各都道府県の産出量を調べ、上位府県を調べると、イワ
タケをのぞいて分布傾向ははっきりと分かれ、関西 - 中国地方を中
心に A マツタケ地域が、関東から東北にかけての A’ハツタケ地域、
太平洋岸から九州にかけて B シイタケ地域が、東北から中部にかけ
て C マイタケ地域が区分できた。なお、イワタケについては高山を
有する都道府県に点在し、低標高地域を区分する上記の類型とは別
な傾向を示した。これらは A 関西などの草山型里山、A´ 関東の切
替畑などのアカマツ林 B ナラ類薪炭生産地域、C ミズナラなどの
奥山がひろがる地域に対応するのではないかと考えている。
* 深澤圭太(国環研),赤坂卓美(北大院・農)
太古の昔から続く人間活動の歴史は、生物多様性のパターンを形
作った 1 つの要素である。日本においては、人口分布および自然資
源利用の形態は時代とともに大きく変化したことが知られており、
生物相に対する人間活動の影響はそれぞれの時代で異なっていた可
能性がある。
本研究では、森林の改変や狩猟などの人間活動と強い関係がある
陸生哺乳類を対象に、人間活動が全国分布に与えた影響を時代別土
地利用タイプ別に推定した。現在の哺乳類の分布として、「環境省第
5 回自然環境保全基礎調査 種の多様性調査」における属レベル・2
次メッシュ単位での発見 / 未発見を、時代別の人間活動の指標として、
「遺跡データベース(奈良文化財研究所提供)」から得た遺跡の密度
分布を用いた。遺跡から読み取れる土地利用のタイプとして、集落・
製鉄(たたら場)・製陶(窯)の 3 種類を考慮した。
ロジスティック重回帰分析の結果、中世∼近世の製鉄・製陶がト
ガリネズミ属やモモンガ、ヤマネなどの森林性小型哺乳類に対して
強い負の効果を与えていたが、タヌキ、キツネ、イタチ属、イノシシ、
ノウサギ属に対しては正の効果が検出された。また、キクガシラコ
ウモリ属、アブラコウモリ属、クマ属、ニホンカモシカ、リス属に
ついては、古墳時代 ( 約 1500 年前 ) の負の効果が検出された。これ
らの効果は、より最近の人間活動を考慮してもみられた。現代の土
地利用による負の効果はそれ以前のものに比べると総じて低かった。
過去の土地利用の履歴は、現在の土地利用の影響よりも強く哺乳類
の分布を規定し、かつその影響は長期間残存する可能性が示唆され
た。
136
口頭発表 3 月 9 日(土) H 会場 10:30-11:15
H3-31
H3-32
農地の景観構造と農法がカエル類の個体数及び餌組成に
指標植物を用いた長距離ライントランセクト法による日
与える影響
本の里山評価
* 馬場友希,大澤剛士,楠本良延,田中幸一(農環研)
* 小林慶子,小池文人,菅原のえみ(横浜国大・環境情報)
水田においてカエル類はイネ害虫を捕食する天敵であり、環境保
全型農法の効果を表す指標として有効性が高い生物群である事が示
されている。このカエル類の密度は農法の違いのみならず、個体の
移入や餌資源の流入を介して、周辺環境からも影響を受けると考え
られる。したがって、カエル類の持つ生態的機能を利活用するには、
農法と景観がカエル類の密度にどのように影響するかその仕組みを
理解する必要がある。
演者らは、上記の農法と周辺環境がカエル類に与える影響を明ら
かにするために野外調査を実施した。栃木県塩谷町において、周辺
景観が異なる慣行栽培水田 7 筆と特別栽培水田 ( 殺虫剤不使用 )10 筆
を対象に、畦畔見とり法によりカエル類の個体数を記録した。周辺
景観については、GIS を用いて水田の縁から周囲 50m、100m、200m
以内の森林や構造物等の景観要素を抽出し、各要素の面積を算出し
た。景観要素と農法(特栽 vs 慣行)を説明変数、水田内のカエル密
度を目的変数とする一般化線形モデルを構築し、AIC に基づく総当
たりのモデル選択により、最も説明力の高いモデルを特定した。
主要な種はトウキョウダルマガエル、ニホンアカガエル、ニホ
ンアマガエルの三種であった。解析の結果、種によって密度の規定
要因が異なる事が分かった;トウキョウダルマガエルの密度は周囲
200m 以内の森林面積、放棄水田、構造物から負の影響を受け、特栽
農法から正の影響を受けていた。一方、ニホンアカガエルの密度は
50m 以内の森林面積から正の影響を受け、ニホンアマガエルの密度
は周囲 200m 以内の森林面積や放棄水田面積から正の影響を受けて
いた。周辺環境からの影響は個体の移入、あるいは餌資源の流入に
由来すると推測される。後者の可能性を検討するため、胃内容物分
析により、カエル類の餌組成の空間変異も明らかにしたので、その
結果も併せて報告する。
里山景観における伝統的な人間活動の消失に伴い、伝統的な里山
景観をハビタットとする生物が減少しつつある。伝統的な里山景観
をハビタットとする生物を保全するためには、どこに伝統的な里山
景観に存在していた生物的自然が残っているのかを示すことが必要
だが、日本の国土全体をカバーできるような大きな空間スケールで、
里山景観の生物的自然を評価するための確かな情報は存在しない。
本研究では、広域的なスケールで指標植物を用いて里山景観の生物
的自然を直接的に評価することにより、日本全域の里山景観を評価
することを目的とした。 2 次メッシュごとの地被の組成によって分類して里山景観を抽出
し、その中から 80 の里山景観を選定して調査地とした。各調査地に
は 10㎞の長距離トランセクトを設定し、トランセクト内の歩行可能
な道を踏査して指標種の在不在を記録した。指標種には、伝統的な
里山景観を生育地とする草本種(草原性の指標種としてススキクラ
スの標徴種から 16 種と水田性の指標種としてイネクラスの標徴種か
ら 10 種)を選定し、これらが多く出現する地域を、伝統的な里山景
観に存在する生物的自然が残る地域とみなした。
草原性の指標種の出現は、東北の太平洋側(北上・阿武隈山地)、
フォッサマグナ、九州北中部および瀬戸内帯で多く、北海道北東部
および中央部、関東平野および関東西部山地で少なかった。水田性
の指標種は、東北の日本海側(奥羽山脈と出羽・飯富山地)および
フォッサマグナと、近畿三角帯を除く西日本で多く、北海道中央部
を除く北海道と関東平野で少なかった。草原性の指標種と水田性の
指標種が共に多く出現する地域は、九州の北中部および瀬戸内帯と
フォッサマグナに見られ、あまり出現しない地域は、北海道北東部
と関東平野および関東西部山地で見られた。
H3-33
東日本の高山植物分布に対する気候変動の影響予測
* 野村実希(東北大・理),中静透(東北大・生命),小黒芳生(東北大・生命)
世界規模の気候変動が予測されており、これにより自然環境にも
様々な影響が起きると考えられている。その中でも高山は特に気候
変動に脆弱な環境である。日本と同緯度の世界の山岳においては、
高山植物は標高 2500~5000m に分布しているが、日本においては
1500m( 八甲田山 ) という低い標高でも高山植物が存在している。こ
れは多雪や世界的にもまれな強風といった気候条件によるところが
大きい。
気候変動に伴い高山植物が減少すると予想できるが、適応策を練
るうえで種や環境 ( 山地 ) の脆弱性に関する情報が必要である。そ
こで日本の代表的な高山植物について現在の分布データから統計モ
デルを構築し、気候変動シナリオに基づく高山植物の分布変化を確
率的に予測することが本研究の目的である。高山は詳細な調査が困
難な環境であるので、取得が比較的容易な在・不在データを用いて
簡便なモデルを作ることを目標とした。
標高、地質、気候を考慮し、東日本の 10 個の山系を調査地とし、
1 山系につき 25~91 地点で、観察された種名、土壌の基質、地形、
周辺の植生の高さを記録した。調査地点は、登山道中心に合計 439
地点である。得られたデータの内、20 地点以上で観察された 56 種
について解析を行った。
分布に影響を与える要素として気温、降水量、積雪深、土壌の基質、
地形、周辺の植生の高さなどを考慮し植物種ごとに統計モデルを作
った。
IPCC 第四次報告書のシナリオから将来の気温、降水量、積雪深を
推定し、土壌の基質、地形は現在と同様であると仮定した。また、
周辺の植生の高さについて高山植物の統計モデルと同様にモデルを
作り、得られた予測値を用いた。
これらの結果を用いて、(1) 森林限界上昇による草原植生の衰退、
(2) 積雪 ( 量、期間 ) の減少による雪田植生の衰退、の 2 点に注目し
て考察を行う。
137
138
一般講演・ポスター発表
3 月 6 日(水)10:30-17:30
群落
植物個体群・菌類
植物生理生態
植物生活史・繁殖
遷移・更新
景観・都市
動物と植物の相互関係・送粉
進化
生物多様性
動物群集
動物生活史・繁殖
動物個体群
行動
保全
生態系管理
外来種
物質循環
139
140
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-001
P1-002
木曽山脈天龍川における山地渓畔林の分布,種組成と立地
霧ケ峰高原車山の亜高山帯風衝地における階状土地形の
* 深町篤子,星野義延(東京農工大院)
群落構造
木曽山脈天龍川流域の山地渓畔林の分布や種組成に関する報告は
これまでにないため,渓畔林の植物地理的な知見を蓄積することを
目的に植生調査を行った.
木曽山脈天龍川支流のうち 11 河川を踏査し,5 河川においてサワ
グルミやシオジが優占する 14 林分で植生調査を行った.また,中部・
関東地方における既報の渓畔林の植生調査資料を用いて本地域の渓
畔林の種組成と比較し,種組成の植生地理学的な特徴を考察した.
与田切川にはまとまった渓畔林を確認できたが,それ以外の支流
で確認した渓畔林はいずれも小規模であった.渓畔林に常在度が高
かった種は,オシダ,イトマキイタヤ,イワシロイノデであった.
本地域における渓畔林は,種組成からヤマタイミンガサ−サワグル
ミ群集(CP 群集)とシオジ−ミヤマクワマラビ群集(FD 群集)の
大きく 2 つのタイプが認められた.CP 群集では,長野県東部や群馬
県の CP 群集でもみられるルイヨウボタンやラショウモンカズラな
ど,中国や沿海州にも分布するような種が多く含まれた.FD 群集で
は,東京都の FD 群集や秩父のイワボタン−シオジ群集(CF 群集)
でみられるギンバイソウ,テバコモミジガサなどの襲速紀要素とさ
れる種は少なかった.また,多次元尺度法によって序列化した結果,
木曽山脈天龍川流域における CP 群集は長野県東部や群馬県の CP 群
集と類似度が高く,FD 群集は他地域の FD 群集だけでなく,CF 群集,
ヤハズアジサイーサワグルミ群集との類似度も高い傾向にあった.
日本固有の分類群が多く含まれる襲速紀要素の現代のフロラ形成
には,太平洋側気候を重視する説と西南日本外帯の堆積岩地を重視
する説があるが,本調査地域はどちらも当てはまらない.このこと
が襲速紀要素の出現の少なさと関連すると考えられた.
* 宮本隆志(信大院・農),大窪久美子,大石善隆(信大・農),尾関雅章,
浜田崇(長野県環保研)
階状土とは周氷河地形である構造土の一種である。階状土は植生
が定着した前面と礫などが露出した上面で構成されており、凍結融
解作用によって移動する斜面物質が、植生に移動制限されることで
形成されると考えられている。本研究の主な調査地である階状土に
関する知見の多くは高山帯または高緯度地域で実施されており、植
生が大きく異なる霧ケ峰高原車山のような中緯度低標高の亜高山帯
における研究はほとんどない。そこで本研究では特殊な条件成立し
ている車山の階状土の植生を調査し、その群落構造や保全の必要性
について検討する事を目的とした。
本研究は霧ケ峰高原車山周辺に点在する階状土群において実施し
た。2 つの階状土群につき約 3 本のライントランセクトを設定し、
その中に 40 前後の 1m × 1m のコドラートを階状土の上面と前面に
分けて設置した。調査は主に植生調査を 2012 年に実施した。
植生調査の結果、ニッコウザサやアキノキリンソウ、ヒゲノガリ
ヤスなどといった亜高山帯における風小草原の構成種が多くの地域
で共通して出現した。Raunkiaer(1908) の休眠型での生活型組成は、
全ての地域で半地中型や地中型の植物が 70% 以上とススキ型草原の
特徴と同じであった。また、上面と前面の種組成には大きな差がみ
られなかった。一方、一部の地域では積算優占度や植被率において、
前面より上面が有意に高かった。これらの地域は上面への植生の侵
入・定着が何らかの要因により阻止され、階状土としての形状、植
生が良く保たれていると考えられた。一方、上面と前面の植被率な
どに有意な差がなかった地域では、階状土の形状・植生が余り保た
れていないと考えられた。発表では、より詳しい階状土の群落構造
について調査結果を示し、その現状について評価する。
P1-003
P1-004
蘚苔類群落の形態の違いがノキシノブの前葉体および幼
格子モデルによる風散布植物の共存メカニズムの検証
胞子体の定着に与える影響
* 鈴木佳祐(静岡大・院・工),伊東啓(静岡大・院・工),柿嶋聡(静岡大・
創造院),守田智(静岡大・工),上原隆司(静岡大・創造院),泰中啓一(静
岡大・創造院),吉村仁(静岡大・創造院)
* 水野大樹(千葉大・院・園),竹崎大悟(千葉大・園),百原新,沖津進
(千葉大・院・園)
ほとんどの陸生植物系において種の多様性は非常に高く、自然界
での競争種の共存は極めて普遍的である。しかし理論研究において、
複数競争種の系では最も優れた種のみが生き残り、他の種は全て排
除され絶滅してしまうことが示されている。この理論と現実の隔た
りを埋めるべく、従来の格子ロトカボルテラ競争モデルに植物の定
着率を加えたモデルを作成しシミュレーションを行った。その結果、
多種の共存は種子散布方式(ローカル相互作用とグローバル相互作
用)のいずれかに関わらず、種子の定着性がそれぞれの種毎、そし
てそれぞれの格子点毎に違うことで可能になるということが示され
た。必要条件としての種毎の違いに加え、さらに場所毎の違いが加
わることにより定着場所の多様性が増すことで多種の共存が可能に
なったのである。さらにこのモデルでは、従来のモデルでは起こり
得ない強弱関係の逆転が起こることがわかった。パラメータで優れ
る種が絶滅し、劣っている種が生存することも珍しくなく、この事
実からパラメータとして優れていることよりも定着率の高い場所が
多いことが重要であることが示唆される。すなわち強いことだけで
なく、適応することが種の生存戦略として重要であるということで
ある。また共存可能種数は様々なパラメータの大きさに依存し、相
対的に制限される。本研究では 10 種でのシミュレーションを行って
いるが、最大 6 種までの共存状態を作り出すことができた。このモ
デルは植物の多様性、特に温帯林の多様性についても応用できると
考えられ、さらなる発展が期待できるだろう。
着生シダ類のノキシノブが,乾燥しやすい環境の樹幹上でも生育
できる要因を明らかにするため,着生植物の定着に影響を与えると
考えられている樹皮の構造と,保水効果や種子を固着させる作用が
ある蘚苔類群落に着目して調査した.
樹皮にひび割れがあるウメと,樹皮が平滑なモチノキで,それぞ
れの樹幹上に着生するノキシノブと蘚苔類群落の被度の関係につい
て,方形区調査を行った.
ウメの樹幹では,蘚苔類が分布していない方形区にも前葉体が生
育していたが,モチノキの樹幹では蘚苔類が分布していない方形区
には前葉体はほとんど生育していなかった.蘚苔類の被度が 60% 程
度までは被度の増加に伴って前葉体の定着率は高くなったが,それ
以上の方形区では定着率が下がる傾向が見られた.幼胞子体の定着
率はウメ,モチノキの樹幹ともに蘚苔類の被度と正の相関が見られ
た.前葉体の定着率は苔類(ウロコゴケ類)の被度と正の相関がみ
られたが,幼胞子体の定着率は蘚類の被度と相関が見られた.
ウメの樹幹では,割れた樹皮の隙間にシダ類の胞子が保持される
ことや,コルク層に保水効果があると予想されるため,蘚苔類がな
い場所でも前葉体が定着可能であると考えられる.一方,モチノキ
の樹幹では,シダ類の胞子は雨水によって流出しやすく,定着が困
難であると考えられる.そのため,蘚苔類群落の葉の隙間に胞子が
引っ掛かることで定着している可能性がある.前葉体は蘚苔類との
競争に耐えながら生育していると予想されるが,前葉体より低い位
置で群落を形成する苔類群落では競争の影響が小さくなるため,前
葉体が定着しやすいと考えられる.一方,厚みのある蘚類群落内で
は前葉体の初期生長が阻害されることや,苔類群落内で定着した前
葉体が幼胞子体を形成する間に蘚類群落へ遷移するため,幼胞子体
の定着率は蘚類群落で高くなったと考えられる.
141
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-005
P1-006
富士山南斜面亜高山帯におけるニホンジカによる被害状況
森林 - 草原境界での光環境変化がエコトーン形成に与え
* 遠藤幹康(東邦大・理),中嶋祐子(横浜国立大・環),丸田恵美子,瀧
本岳(東邦大・理),梨本真(中央電力研)
る影響
* 竹内雅人・工藤彰斗・斉藤拓也・堀良通(茨城大学),安田泰輔・中野
隆志(山梨県環境科学研究所)
近年、ニホンジカの行動圏が高標高まで拡大していると言われて
いる。富士山南斜面では夏季は亜高山帯でもニホンジカをよく見か
ける。富士山は他の高山と異なり、火山噴火後遷移の途上にあるため、
ニホンジカの影響が高まれば、遷移が妨げる可能性がある。シカは
高標高で生息するものではないため低標高ほど被害が大きいと予測
できる。そこで本研究ではニホンジカによる樹木への被害を標高別
に評価することを目的として、標高の異なる 3 地点 (2350 m、2025 m、
1785 m) に 20m × 30m のコドラートを作成し毎木調査を行い、森林
の組成を調査した。それと同時に剥皮部を長方形に近似し、面積を
測定した。
植生調査の結果、1785 m では常緑針葉樹のウラジロモミが山地帯
の落葉広葉樹と混生していた。2025 m ではシラビソが優占種になり、
亜高木層では落葉広葉樹のダケカンバ、ナナカマドが混生していた。
2350 m ではカラマツ、トウヒが林冠木として生育しており、シラビ
ソは亜高木が多く林床にはシラビソ稚樹が多く存在したため、遷移
の途中だと考えられる。
剥皮はナナカマドとシラビソに多く見られ、枯死要因一つとして
10% を占めていた。シカによる被害は、低標高ほど多く、低木が存
在しないほど深刻であった。このことから、低標高ではすでにシカ
の食害が森林の更新を妨げている状態に達していると言える。さら
にシカの高標高での増加が進めば亜高山帯森林の更新をも妨げるこ
とが予測される
異なる植物群落間の境界をエッジと呼び、エッジを挟んだ群落が
混ざり合ってできた移行帯をエコトーンと呼ぶ。草原と森林の境界
におけるエコトーン形成は、境界の光変化が関与している可能性が
高い。ただし、草原と森林の境界においては、必ずしもエコトーン
が形成されるわけではない ( 中山 2010)。エコトーン形成は、草原か
ら森林に向かう光強度の変化率によって説明できる可能性を示唆し
ている。本研究では「エコトーン形成に必要な環境条件は 2 つの植
物群落間における光強度の緩やかな変化である」という仮説を検証
することを目的とする。
調査地は、富士山北西麓に位置する野尻草原 (1260 m) である。青
木ヶ原樹海に面した場所で、林縁の形状から相対光量子密度の変化
が急な場所 (Line01) と緩やかな場所 (Line02) を選択した。Line01 と
Line02 において、草原と森林の境界を中心とした 50 m のトランセク
ト上に、50 cm ごとに 0.1 m × 1 m のコドラートを設置して植生調査
を行った。調査対象は草本種及び樹高 1.3 m 以下の木本種とし、植
物種の出現の有無を記録した。光量子密度は各コドラートで植生の
上部で測定した。
Species response curves(Huisman-Olff-Fresco models) を用いて、相対
光量子密度に対する各植物種の分布域ポテンシャルを推定した。各
トランセクトにおいて相対光量子密度の変化と各植物種の分布域ポ
テンシャルを照らし合わせることで、各植物種のトランセクト上で
の分布幅を推定した。
Line02 の方が、中程度の光強度における分布域ポテンシャルの重
なる分布幅が大きかった。このことは、草原種と森林種の混生でき
るスペースは広いことを意味し、エコトーン形成に適した環境であ
ると考えられる。本研究は仮説を支持する結果となった。
P1-007
P1-008
デジタルカメラ画像の RGB 解析による、草原植物群落
富士山高山帯における蘚苔類の分布
の季節変化の観測
* 丸尾文乃(総研大・極域),増澤武弘(静大・理),伊村智(総研大・極地研)
* 井上智晴(早稲田大・院・先進理工),永井信(JAMSTEC),小泉博(早
稲田大・教育)
蘚苔類は変水性であること、有性生殖と無性生殖を頻繁に行うこ
となどの特性をもっているため、被子植物や裸子植物などが生育で
きない極域や高山地域などでも生育することができる。そのため、
蘚苔類は高山帯植生の重要な構成要素となっている。本研究では、
日本の最高峰であり日本有数の広い高山帯を有する富士山の高山帯
に生育する蘚苔類の植物相を把握することを目的として調査を実施
した。富士山の富士宮ルート(静岡県側)の標高約 2600m 以上の斜
面において標高 200m ごと、および山頂付近においてサンプリング
を行い、46 点の標本を得た。この結果、8 科 12 属 18 種(未同定含
め)が確認された。ギンゴケのように山頂付近に特異的に出現する
種がいくつか確認された一方で、ヤマコスギゴケ、ハリスギゴケの
ようにどの標高にも広範に確認される種もあった。出現種数は標高
が上がるにつれ減少していくが、一転して山頂付近で最高値を示し
た。富士山の斜面はほとんどがスコリアで覆われ、ところどころに
岩場が点在するが、岩場が蘚苔類の主な生育地となっている。富士
山山頂付近で出現種数が多いのは、比較的安定していると考えられ
る岩場が多いためであると考えられる。岩場が多いということは蘚
苔類の生育可能な環境が多様であると思われる。また、山頂付近に
存在していると報告されている永久凍土からの水分の供給があるた
め、山頂付近は水分環境が良いと考えられる。このため、山頂付近
は斜面に比べ蘚苔類の生育に適した環境であり、出現種数が多いの
だろう。
また、蘚苔類の生殖に着目し、富士山の各標高ごとの有性生殖器
官の発現と胞子体の有無を調べた。
気候変化や人為的な土地利用変化 ( 過放牧など ) は、草原生態系
のバイオマスや着葉期間に年変化をもたらすと予測される。そのよ
うな植物の生態現象の変化は草原生態系の炭素収支に影響を与える
可能性があることから、それらの季節変化を長期継続的に観測する
取組みが今後重要になってくると考えられる。そこで本研究では、
展葉や枯死のタイミングといった葉群フェノロジーや植物バイオマ
スの季節変化の継続的な観測を低労力かつ低コストで実現するため
の新しい手法として、デジタルカメラによる定点撮影画像の RGB 解
析に着目した。
日本の中部山岳地域に位置する草原 ( 岐阜県高山市 ) に自動定点
撮影カメラシステムを設置し、2011 年 4 月から 12 月にかけて草原
の地表面を毎日撮影した。そして、得られた撮影画像から赤・緑・
青 (RGB 値 ) のデジタルナンバーを抽出し、RGB 値に基づいた植生
の指標である GEI 値を算出した。同時に、植物体地上部及び地下部
バイオマスの計測と地表面の分光植生指数 (NDVI 等 ) の観測を約 1
ヶ月間隔で実施した。そして、GEI 値と植物群落の季節変化との対
応関係を調査した。
その結果、葉群フェノロジーの季節変化のタイミングにあわせて
GEI 値は変化した。GEI 値と地上部バイオマスとの間には分光植生
指数と同様に正の直線関係(R 2 = 0.80, p < 0.05)が認められた。また、
一部期間(6 月から 9 月)に限って、地下部バイオマスと GEI 値と
の間に正の相関関係(R 2 = 0.99, p < 0.01)が示された。以上の結果は、
本手法を用いることで、植物体の刈取りなどの破壊的作業を行うこ
となく、葉群フェノロジーや植物バイオマスの季節変化を連続的に
推定評価可能であることを示唆した。今後は、カメラの劣化などに
伴う長期観測の不確実性の評価とその対応策の検討が必要である。
142
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-009
P1-010
地殻変動が活発な急峻な山岳地において断層が渓谷の地
立山室堂山における消雪傾度に沿った雪田植生の変化
形・樹木分布に与える影響
鈴木智博(富大院理工),初鹿宏壮(富山県環境センター),飯田肇(立
山カルデラ砂防博),川田邦夫(富大名誉教授),和田直也(富大極東地研)
* 常木大樹(横浜国立大学),北川涼(横浜国立大学),酒井暁子(横浜国
立大学)
地球温暖化による気候変化は、消雪時期の変動を引き起し、高山
植生の構造と機能に大きな影響を与えうる。このような影響を検出
し評価するためには、非破壊的な手法で長期的に植生の構造を観察
記録していく必要がある。本研究は、高山植生の長期モニタリング
の始動にあたり、地形を介して生じる消雪時期の違いに対応した雪
田植生の空間変化を明らかにする目的で行った。
調査は富山県立山連峰の室堂山北向き斜面 ( 標高 2409m ∼ 2568m)
において実施した。長さ約 100m の帯状調査区を 5 本、斜面下部の
平地から上部にかけて設置し、各調査区には 10m 間隔で 10 点の調
査定点(合計 50 点)を設定した。各定点において温度ロガーを地下
5cm に設置し、消雪時期の推定を行った。また、採土円筒管を用い
て土壌を採取し、その特性を調べた。さらに、ポイント・インター
セプト法を用いた植生調査を 2010 年から 2012 年にかけて実施した
(1m × 1m の正方区画内 100 ポイント(10cm 間隔))。
消雪時期は、稜線部・平地から谷地にかけて、また斜面下部から
上部にかけて遅くなる傾向が見られた。谷地の深部では融雪・降雨
時に沢が形成され、表層が流出し礫質な土壌となっていた。このため、
消雪時期の遅い立地ほど、乾性で炭素・窒素含有量の低い土壌が形
成されていた。冗長分析(RDA)の結果、ショウジョウスゲやコイ
ワカガミ等は消雪時期が早く発達した土壌に、ヒロハノコメススキ
やキンスゲ等は消雪時期が遅く礫質で貧栄養な土壌に出現する傾向
が強いことが分かった。これらの結果は、地形を介して生じる消雪
時期の空間変異は、水の動きに伴う土壌攪乱の大小にも大きく関連
しながら植生の構造に影響を及ぼしていることを示唆している。
日本は地殻変動が活発な地域であり、特に山岳地域の谷底部では
断層が数多く存在する。断層がある場所は基盤岩が破砕されること
により亀裂や急崖が生じ、地表で生育する樹木にとって厳しい地形
環境となる可能性がある。しかし断層と植生との関連性を論じた研
究は非常に少ない。
そこで本研究では、地殻変動の活発な神奈川県丹沢山地西部西沢
集水域の V 字谷内にて、断層の有無を記録し、地形測量および谷底
部から比高 10m 未満に出現する樹木位置の測量を行った。10m 間隔
のプロットに分け樹木分布と断層有無および V 字度、斜面傾斜、斜
面形状(上下方向で凸・凹型)との対応を検討した。
1) 調査地の谷底周辺は急斜面(平均 48 度)で覆われ、流路際には
土壌・樹木は分布せず岩盤が露出している.断層があるプロットでは、
谷の断面形はより鋭い V 字状になり、樹木分布下限が高くなる結果
が得られた。
2) 樹木組成を検討した結果、断層の有無によって DCA 第 1 軸の
座標値が有意に異なっており、断層があるプロットでは先駆的性質
を持つ樹種が出現しやすい傾向が見られた。
3) 多様度指数(H’
)を説明する変数には V 字度、斜面形状、土壌
分布下限比高に加えて断層有無が選択され、断層が有るプロットで
は多様度が有意に小さいことが分かった。
以上の結果から、断層の存否は谷底部付近の斜面の形状に影響し、
また断層の存在によって局所的に地表の不安定度が増すことで、植
生に影響を及ぼすことが示された。本研究によって、断層が微地形
レベルにおける樹木の群集構造や空間分布、種構成を決める重要な
要因であることが初めて明らかとなった。
P1-011
P1-012
北海道北部の天然生針広混交林における主要な立木の枯
渓畔林樹木群集における幹肥大成長量の20年間の階層
死形態とその要因
別変動
* 佐藤剛,井上大樹(北大・環境科学),吉田俊也(北大・研究林)
* 杉浦大樹,星崎和彦(秋田県大・生物資源),星野大介(国際農研セ),
松下通也(秋田県大・生物資源)
枯死木は他の生物種へのハビタットの提供、炭素貯留・物質循環
など、様々な形で森林生態系へ寄与している。これらの機能を考え
るうえでは枯死木の量に加えて形態・サイズ・材密度などの質的な
特性が重要である。自然撹乱は一時的に大量の枯死木を林内に供給
するが、林分構造の変化による微気象の変化、虫害の増加など撹乱
後の枯死要因にも影響することから、枯死木の量や質は撹乱を契機
に長期的に変化することが予想される。本研究では、北海道北部の
天然生林において 2004 年の大型台風による風倒撹乱が枯死木の量お
よび質的な組成に与える影響を明らかにすることを目的とした。北
海道大学雨龍研究林に 3ha のプロットを設置し、2002 年・2005 年・
2007 年・2012 年に毎木調査 ( 胸高直径・枯死形態 ) を行った。さらに、
2012 年には枯死木サイズと心材腐朽の有無を調べた。期間中に供給
された、トドマツ枯死木の量は 75.7m^3/ha であり、撹乱期間 (2002
∼ 2005) は 11.5m^2/ha/yr、撹乱直後 (2005 ∼ 2007) は 11.0 m^2、撹乱
数年後 (2007 ∼ 2012) は 4.0 m^2 と、撹乱直後にも相当の枯死量が認
められた。枯死形態の割合を見ると、期間内で折れが 70% から 40%
と減少したのに対し、立ち枯れが 3% から 48% と増加していた。根
返りは撹乱直後に 34% と最も高い値を示した。心材腐朽を持つ枯死
木の割合は 79% から 48% に減少した。この様に、供給される枯死
木の形態は期間によって異なり、撹乱からの時間経過とともに変化
することが示唆された。
樹木は様々な環境要因の影響を受け、個体数や成長量を変化させ
る。それらの要因が樹木に与える影響は群集で異なると考えられて
おり、種ごとの環境要因に対する感受性の違いから森林の動態が検
証されてきた。また、個体ごとの環境要因に対する感受性の違いの
検証により森林の動態の仕組みをさらに明確にできるが、群集レベ
ルで種間および個体間の感受性の違いを比較した研究は限られる。
そこで、本研究では個体数の変化や成長量の変動に関する個体間の
違いを群集レベルで定量化した。
岩手県奥羽山系にあるカヌマ沢渓畔林試験地には豊富な種木種が
共存しており、同じ土地条件で樹木の成長量の変動を群集レベルで
検証する上で適している。本発表では毎木調査が毎年行われている
1.0ha プロットの 9 年間 (2003-2012) のデータから、本数の多い林冠
木 6 種 ( サワグルミ、ブナ、ミズナラ、カツラ、イタヤカエデ、ト
チノキ ) を対象に個体数の変化を解析し、そのうち上層の個体を対
象に成長量の変動を解析した。
個体数の変化では個体群動態や階層変化において種間で違いがみ
られた。特にサワグルミでは高成長、多死亡、多加入という特異的
な種特性がみられた。また、6 種の成長量の変動パターンを年間・
年内および個体間・個体内のばらつきの違いによって分類したとこ
ろ、種ごとに異なる傾向がみられた。特にイタヤカエデでは全ての
ばらつきが大きく、サワグルミでは全てのばらつきが小さくなる傾
向がみられた。このように、個体数や成長量を変化させる要因に対
する感受性の違いは種間で異なると考えられ、今後は環境要因を含
めた感受性の違いを検証していく必要があると考えられる。
143
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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中国内蒙古自治区額済納の胡楊林の生育環境が林分構造
格子点法による龍谷の森の観測
に与える影響
* 清水裕輔(龍谷大学・理工),倉地奈保子(平岡森林研究所),宮浦富保
(龍谷大学・理工)
* 李暁剛(岡大・環境),張国盛(内蒙農大・林),李玉霊(河北農大・生
態),王林和(内蒙農大・生態),吉川賢(岡大・環境)
本研究の調査場所は、龍谷大学が滋賀県大津市の瀬田キャンパス
隣接地に所有する約 38ha の実習林(通称、龍谷の森)である。龍谷
の森はかつて里山として近隣の村民に利用されていた森であり、ア
カマツ群落とコナラ群落とヒノキ人工林が混在する雑木林である。
10 年ほど前はアカマツが優占種だったが、マツ枯れの影響により現
在ではコナラ優占の森となっている。また、2009 年秋よりナラ枯れ
が侵入し、今後の森林環境の変化が注目されている。本研究では龍
谷の森の植生の変遷を客観的に評価し、植生環境を決定する要因を
推定することが目的である。そのため、龍谷の森の全域に等間隔に
プロットを設定する手法を採用した。
龍谷の森全域に緯度と経度それぞれ 2 秒(1/1800 度;東西約 50m、
南北約 61m)間隔にプロット(これを格子点と呼ぶ)を設定した。
格子点は全部で 127 地点である。それぞれの格子点の中心から半径
5m の範囲にある、胸高直径 1cm 以上の木本の樹種と胸高直径を測
定した。調査面積は 5m × 5m ×π(≒ 78.5m2)× 127 地点で、合計
が約 10,000m 2 = 1ha であり、龍谷の森のおよそ 1/40 の面積である。
調査は 2009 年と 2010 年、2012 年の 9 月から 12 月にかけて実施した。
2003 年撮影の航空写真より作成された相観植生図と、本研究の
2009 年の毎木調査結果を比較し、森林植生の時間的な変化を推定し
た。その結果、2003 年に面積割合にして森のおよそ半分を占めてい
たアカマツ群落が 1 割程度に減少し、その多くがコナラ群落に変化
している一方で、ヒノキ人工林はほとんど分布を変えていなかった。
また、2009 年と 2010 年、2012 年の毎木調査結果を比較したところ、
アラカシの出現個体数と存在量が他の種に比べて大きく増加してい
たことから、現在はコナラ優占の森が、将来的にアラカシ優占の森
へと変遷することが考えられる。
オアシスとは、砂漠の中で局所的に出現する「乾燥地でありな
がら水のある」特殊な環境である。オアシスで植物が利用する水の
ほとんどは河川水と地下水であり、比較的安定な水環境で生育して
いる。しかし、中国北部の額済納オアシスの地下水はそこを流れる
黒河の水量に左右されている。近年、中流域での人口増加と農業
開発によって、流量が大きい減少し、オアシス内の胡楊(Populus
euphratica )林は慢性的な乾燥ストレスを受けて、衰退が進んでいる。
本研究は、乾燥ストレス下での胡楊林の維持メカニズムを解明
するために、オアシス内の胡楊林に 100m × 100m の永久プロット
を設定し、2009 年、2010 年、2011 年、2012 年に毎木調査(木の位
置、生存高、樹高 2m 以上の木の DBH と枝張り、枯死高)を行った。
2010 年には地形と土壌 EC を測定した。
樹高の頻度分布より、樹高 2 m以上(成木)と以下(幼木)の二
つの個体群が一つの林分に共存していることが明らかとなった。成
木の個体数は比較的安定しているが、幼木の個体数は年によって大
きく変動した。しかし、幼木の個体群から成木の個体群(林冠層)
に移行する個体は限られていた。SADIES で分析したところ、胡楊
の生残個体も新出個体も EC 値との間に正の関係を示した。成木、
幼木、稚樹はいずれも窪地を避けるように集中分布をしていた。そ
の結果、成木+幼木、稚樹、EC 値はいずれも同所的分布を示し、分
布域が重なっていた。
したがって、胡楊は塩類集積地を好んで生育しているような印象
をうけるが、塩類が生育に有利に作用することは少ないと考えられ
る。本種は水たまりに落ちた種子が岸辺に吹き寄せられた後発芽す
る場合が多く、生育適地の解明のために地形要因をさらに検討する
必要がある。
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モミ ‐ イヌブナ天然林における 50 年間の動態変化と個
蛇紋岩地・黄柳野における樹木群集と環境要因との関係
体間競争の関係
* 樋口恵吾,渡辺洋一,岡田知也,中川弥智子(名大院生命農)
杉山ちひろ(横浜国立大学・院)*,吉田圭一郎(横浜国立大学),若松伸彦(横
浜国立大学),比嘉基紀(北大・院・農),酒井暁子(横浜国立大学)
蛇紋岩は Ni や Mg を多く含む超塩基性岩で、その土壌は貧栄養と
なり低木群集が成立することが知られている。愛知県新城市の黄柳
野地方にも蛇紋岩が点在しているが、その植生は蛇紋岩地に多く生
育するツゲやジングウツツジの他に、海辺に多いウバメガシや暖温
帯二次林で見られるようなサカキ、ソヨゴなどが狭い空間内に偏在
しており、特異な樹木群集が見られる。そこで本研究では、特に土
壌水分や養分といった土壌環境や光環境に注目し、樹木の空間分布
を決定する要因を明らかにするために、毎木調査と環境調査を行っ
た。
2011 年 8-9 月に 150m × 200m のプロット内に、幅 5m のトランセ
クト 4 × 5 本を 50m 間隔で格子状に設置し、トランセクト内で 10m
おきに 5m × 5m のコドラートを設けた(合計 128 個、3200m2)。毎
木調査では、胸高直径(DBH)1cm 以上の樹木を対象とし、DBH、
樹種を記録した。また、各コドラート内に 2m × 2m の調査区を設置
し、その中に生育する樹高 30cm 以上の樹木(稚樹)を対象とした
毎木調査も行った。環境調査では、コドラート内において、光、土
壌含水率および被植率を測定した。また、同じ範囲内においてリタ
ーと土壌を採取し、リターの乾重と土壌中の礫比率の測定、土壌の
化学分析を実施した。
コドラートからは、合計 3872 幹、3198 個体を含む、32 科 46 属
56 種の樹木が出現した。幹数でみると、ツゲが全体の 29.3%、ウバ
メガシが 10.8% とこの 2 種で全体の 4 割を占めており、ツゲとウバ
メガシの密度が高い森林であることが明らかとなった。本発表では、
樹木群集の分布パターンと光、土壌養分、リター量といった環境要
因との関係を調べることで、樹木分布を決定する要因について検討
する。
森林の遷移や更新サイクルを実証的に解明するためには,長期的
観察による研究が必要である.また,樹木の動態には個体間競争が
関わっていることが知られている.そこで本研究では,モミ・イヌ
ブナ天然林を対象に,50 年間の森林動態における個体間関係の役割
を明らかにすることを目的とする.
仙 台 市 鈎 取 山 の 150 × 25m の 調 査 区 に て,1961 年,1981 年,
2011 年に記録された個体の樹種,生死,DBH,樹高,位置のデータ
を使用して解析を行った.共同研究者らの先行研究によると,調査
地の森林は過去 50 年間で,イヌブナを含む落葉広葉樹の胸高直径階
分布が L 字型から unimodal に移行し,一方常緑針葉樹(モミ)の優
占度が増加している.そこで個体の枯死や成長量への周辺 5m 以内
の隣接個体の影響を検討した.
GLM で解析を行った結果,樹種に関わらず生死は自己サイズに依
存し,小さい個体ほど死亡確率が高かった.また,隣接個体を針葉
樹高木(> 5m),針葉樹低木(< =5m),落葉樹高木,落葉樹低木に
分けたところ,樹種に関わらず生死は針葉樹低木の胸高断面積合計
に関係し、イヌブナでは周囲に針葉樹低木の現存量が大きいほど死
亡率が上昇した.このことは、遷移の進行を促す要因として,上層
にある大径木よりも近傍小径個体との光獲得競争が重要であること
を示唆する.一方モミでは針葉樹低木の現存量が大きいほど死亡率
が下がる傾向にあった.耐陰性が高いため個体間競争の影響が弱く,
生死には微地形など他の空間的要因が影響していることを示唆する.
144
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-017
P1-018
霧ヶ峰高原における小丘の斜面方位の違いと草原組成と
The effect of Cd on bacterial abundance in different type
の関係
of soils
* 藤間竣亮(千葉大・園芸)
*Hou, L.B., Yanagisawa, Y., Nakamori, T., Kaneko, N. (Yokohama Natl
Univ.), Fujii, Y. (Univ. Human Env.), Kamitani, T. (Shizuoka Inst. Env.
Hyg.), Ono, K., Yasutaka, T. (AIST)
霧ヶ峰高原には江戸時代以降の採草利用で維持されてきた半自然
草原が広がっているが、1960 年代頃から採草利用は停止しており、
草原内には低木林が形成されつつある。特に、現存する森林周辺部
で樹林化が進行していることが既存研究で示されている。しかし、
霧ヶ峰高原には小丘地形が点在しており、小丘の南北斜面で成立す
る植生が異なることが確認されている。南北斜面で成立する植生の
違いは斜面方位による立地環境条件の違いを反映していると考えら
れ、植生遷移の進行にも関係があると考えられる。しかしながら、
斜面方位の違いと植生遷移との関係を考察した研究はほとんどない。
本研究では霧ヶ峰高原に点在する小丘地形を対象として、南北斜面
の違いがもたらす立地環境条件と植生の群落構造との関係を明らか
にすることを目的とした。
小丘地形の南北斜面に成立する植生を調査したところ、南側斜面
ではヒゲノガリヤス、ニッコウザサ、ホソバヒカゲスゲを中心とし
た群落が成立し、北側斜面にはススキ、ヨツバヒヨドリなどの高茎
草本を中心とする群落が成立しており、南北斜面で異なる群落が成
立していることがわかった。生活型組成や遷移度を用いて解析を行
ったところ、南側斜面の方が北側斜面よりも遷移が進行しており、
より安定した群落が成立していることがわかった。しかしながら、
立地環境調査として、有効土層、土壌含水率、土壌硬度を測定した
ところ、北側斜面の方が南側斜面よりも土壌が厚く、硬度はより低
い値を示し、土壌含水率はより高い値を示した。このことから、北
側斜面は南側斜面よりも植物の生育に適した環境であることが示唆
された。現在は、草原内における樹木のシードソースが限られてい
るが、今後植生遷移が進み、北側斜面における樹木のシードソース
が確保されれば、小丘地形の北側斜面の遷移進行は、南側斜面より
も早く進む可能性があることが考えられた。
Cadmium (Cd) is a toxic heavy metal that influences soil ecosystems,
especially the sensitive microorganisms.
Natural soils likely have different properties, and most studies have
focused on a single soil type, making it difficult to generalize regarding the
impact of metal bioavailability (relating to microbial activity) on microbial
diversity and function.
To investigate the effect of Cd on bacterial abundance in different soil
types, we collected five types of soil (OECD artificial soil, brown forest
soil, andosol, sand, and gray lowland soil) that were not contaminated with
cadmium, air-dried, and passed through a 2-mm sieve before use. The premoistened soils were incubated for 1 week with 25% of the water-holding
capacity (WHC) of each soil; then, Cd (0, 5, 15, 50, 150, 400,1000 and 3000
mg/kg) were added to samples and incubated for 2 weeks at 50% WHC. The
soil bacterial abundance after incubation with Cd was analyzed using a realtime pcr assay.
We found that adding Cd significantly reduced the bacterial abundance.
Different soils also showed differences in abundance with increasing Cd
concentration. The effect of Cd on bacterial abundance in different soil types
is discussed.
P1-019
P1-020
乗鞍岳,森林限界移行帯におけるオオシラビソ変形樹の
Self-thinning exponents of partial organs and aboveground
形成過程
mass of mangrove Kandelia obovata stands.
* 前田久美子,丸田恵美子(東邦大理),澤田晴雄(東大愛知演習林)
*M. Kamara, M. Kamruzzaman, R. Deshar, S. Sharma, A. Hagihara (Univ.
of the Ryukyus)
北アルプス南端に位置する乗鞍岳の森林限界移行帯 ( 標高約 2450
m) はオオシラビソ (Abies mariesii ) から形成されるが、ここでは環
境ストレスを受けて樹型が著しく変形している。乗鞍岳は日本海型
気候で冬季の積雪が多く、4 月初めの最深積雪は 3~4 m ほどになる。
積雪に保護されている 3 m 以下の部位の幹は順調な成長を行えるが、
樹高 3 m 以上に成長すると、冬季の強風や雪の沈降圧、強光ストレ
スなどにより枝・葉が損傷して変形する。そこで本研究ではオオシ
ラビソの樹型を分類し、その形成過程と樹型が変形することの生態
的意味を解明することを目的とする。
40 m × 40 m の調査区内で、オオシラビソの毎木調査 ( 樹型タイプ,
樹高,胸高直径,樹齢,葉量 ) を行い、樹型タイプを若木 ( 樹高 2 m
以下 )・成木 ( 樹高 2 m 以上 ) に分類した。さらに成木は積雪面より
上の幹の本数と変形度合いによって 5 種類に分類した。成木のうち
積雪面より上に幹を出している樹高 3 m 以上のものは、ほとんど幹
が変形樹となっていた。そのうち旗型は積雪面より上に 1 本幹を持
ち、幹の片側の枝葉を欠いているものとした。複数幹型は積雪面よ
り上に複数の幹を持っているものと定義した。
オオシラビソは積雪面の高さに至るまでは変形化しないが、積雪
面より上にでると幹は環境ストレスの影響が蓄積し、樹齢に伴って
葉量が減少し劣化・枯死する。しかしそれを補うように積雪面付近
の側芽が上方に成長し、主幹に代わって成長を始める。これが旗型
から複数幹型への樹形形成の過程である。これらの若い幹は積雪面
より上に形成されており、ほとんどの幹が球果を結実する。このこ
とから、オオシラビソは球果をつける幹を確保するため、積雪面よ
り上に幹をつくり、最初の幹が枯損しても、積雪面より上の幹を繰
り返し再生させているということができる。
Using Weller’s allometric model, the self-thinning exponent α x of a
partial organ x in overcrowded Kandelia obovata stands in Okinawa, Japan,
was studied over eight years. The self-thinning exponent α x was calculated
on the basis of the coefficients θ x and δ x obtained from the allometric
relationships of mean tree height H(=g θ X.w θ X) and mean organ mass
density d(=g δ X.w δ x) to mean organ mass wX. The self-thinning exponent
α x was estimated to be 1.40 for stem, 1.53 for branch, 1.01 for leaf, and
1.40 for aboveground. The φ x-value ( φ X=1-( θ X+ δ X)) was not
significantly different from 2/3 for stem, branch, and aboveground, i.e., α
x=3/2. Thus the self-thinning exponents for stem, branch and aboveground
are not different from 3/2. On the other hand, the φ x-value was also not
significantly different from 3/4 for stem and aboveground, i.e., α x=4/3.
Therefore, the self-thinning exponent for stem and aboveground is not
significantly different from 4/3. The φ L-value for leaf was not significantly
different from 1.0. The self-thinning exponents of partial organs except leaf
and branch of K. obovata followed both the geometric and the metabolic
model.
145
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-021
P1-022
ブナの葉形・材質の地理的変異と気候条件・遺伝系統と
Local scale genetic structure of Abies mariesii populations
の関係
in a heavily snowy subalpine ecosystem in central Japan
* 伊藤圭佑(名大院・生命農),戸丸信弘(名大院・生命農)
*Qian, S.H., Mori, A.S., Ota, A.T. (Yokohama National Univ.), Kaneko, S.
(Fukushima Univ.), Mimura, M. (Kyushu Univ.), Saito, W., Mizumachi, E.,
Isagi, Y. (Kyoto Univ.)
自然集団における形態形質の変異は、過去の分布変遷や遺伝子流
動、遺伝的浮動などによって生じる遺伝的変異を背景に、生育地の
環境条件による自然選択や表現型の可塑性などの様々な要因が絡み
合って形成される。日本に全国的に分布するブナは、遺伝的に日本
海側と太平洋側で大きく分化しており、形態的にも多くの変異を持
つことが過去の研究より明らかにされている。本研究では、日本全
国のブナ集団を対象に、葉形と材質の変異の地理的傾向を明らかに
し、SSR 遺伝子型から推定された種内系統および生育地の気候条件
と葉形・材質の変異との関係について検討することを目的とした。
分布域を網羅する 19 集団 188 個体から落葉を計 20150 枚採取し、葉
面積、葉形指数(葉身長 / 葉身幅)、円形度を測定した。また、その
うち 12 集団 240 個体からコアサンプルを 1 つずつ採取し、全乾密
度、動的ヤング率、年平均肥大生長量(ARW)を測定した。解析の
結果、葉形全てで緯度・経度に沿った変異がみられた。気候条件の
影響を補正したパーシャルマンテル検定の結果、遺伝距離と葉面積
に基づく距離には強い相関がみられ、系統関係を補正した系統独立
比較(PIC)の結果、葉面積と日照時間には相関がみられた。葉の大
きさは遺伝的に強く固定されているが、生育地の環境に応じて可塑
的にも変異することが示唆された。一方、材質では全乾密度のみ経
度に沿った変異がみられ、ヤング率と ARW は明瞭な地理的傾向は
みられなかった。パーシャルマンテル検定の結果、遺伝距離と全乾
密度に基づく距離には相関がみられ、PIC の結果、全乾密度と夏季
の日照時間には強い相関がみられた。この結果は、全乾密度は遺伝
的に弱く固定されているが、生育地の環境に対して大きく可塑的に
変異することを示唆していると考えられる。
As subalpine ecosystems are suffering series of changes caused by global
climate change, many subalpine tree species are threatened and gradually
becoming locally extinct. A. mariesii , recognised as the foundation species
in a subalpine ecosystem which receives extraordinarily heavy winter
snowfall in central Japan, is maintaining its populations by showing
highly plastic morphologies across different sites. Considering the high
morphological variations of A. mariesii that revealed by earlier data, this
study aims to unearth the genetic responses of A. mariesii populations to
heterogeneous environmental conditions at the local scale. Six populations
from both heavily and less snowy sites were sampled using 6 microsatellite
markers. We observed high genetic diversity in A. mariesii populations.
Analysis of Molecular Variance suggested that most genetic variation was
partitioned within populations. No Isolation By Distance patterns were
detected for all pairwise comparisons between populations, and gene
flow among A. mariesii populations was also likely to be restricted due to
asynchronous snowmelt timing across the sites.
P1-023
P1-024
中間温帯針広混交林における大径木の空間分布と立地
シデコブシとタムシバ、それら種間雑種の実生の空間分
* 村田晴紀,松井淳(奈教大),辻野亮(京大霊長研)
布と消長
地形は樹木の分布を決定する環境要因のひとつである。現在見ら
れる樹木の分布と地形の関係は、斜面の位置や形状で異なる土壌の
性質、攪乱の頻度などが樹木の生残や生長に影響を与えることで生
じる。長寿で巨大に生長している大径木の立地はその個体ないし、
種の生残や生長に関する環境条件をよく反映しているものと考えら
れる。大径木は森林生態系において重要な役割を持つが、日本にお
ける大径木の種構成、密度、空間分布についての知見はあまり見ら
れない。
本研究では、原生的な自然が残る奈良県大峯山系の中間温帯針広
混交林 25 ha で、大径木 ( dbh 80 cm 以上と定義。) の分布する地形
を GPS と 10 m メッシュの DEM を使って調べた。また、同じ地域内
4 ha で 10 cm ≤ dbh < 80 cm の成木が分布する地形を調べることで、
現在の大径木の分布が成立するプロセスを考察する。
25 ha の範囲に 14 種 308 本 ( 12.3 本 / ha ) の大径木が出現し、胸高
断面積 ( BA ) は 274.34 m2 ( 10.97 m2 / ha ) であった。このうちツガが
約半数を占め、次にトチノキ、ミズナラと続いた。大径木の密度は
dbh ≥ 10 cm の樹木全体のわずか 2.5% となったが、BA では 25.7% を
占めていた。
大径木の分布する環境を解析した結果、ツガはどの地形にも偏っ
ておらず、トチノキは緩傾斜、凹地形に多く、ミズナラは急傾斜、
北向き斜面に多かった。また小中径木については、大径木とは異な
った分布をする樹種が認められた。
* 谷早央理(名大院・生命農),玉木一郎(岐阜森文ア),鈴木節子(森林
総研),戸丸信弘(名大院・生命農)
シデコブシとタムシバはモクレン科モクレン属コブシ節の近縁種
であり、これまでの研究では 2 種間で雑種を形成することが明らか
となっている。しかし、成木を対象とした種間交雑の研究では、シ
デコブシを種子親とする雑種個体やシデコブシとの戻し交雑個体は
確認されていない。したがって、成木に至るまでの間に何らかの生
殖隔離が存在し、一方向的な交配が起こっている可能性が示唆され
ている。生育の初期である実生期は死亡率が高く、その動態は光や
土壌水分などの生育環境の影響を受けると考えられていることから、
実生の段階で淘汰を受けて交配の方向性が形成される可能性がある。
そこで、本研究ではシデコブシとタムシバ、それらの種間雑種の実
生の消長を調査し、種や雑種間で実生の生残や生育環境に違いがあ
るか検証することを目的とした。
調査はシデコブシとタムシバが同所的に生育する愛知県瀬戸市で
行った。2012 年 6 ∼ 10 月に月に一度の間隔で樹幹長 30cm 未満の実
生を対象として生残の追跡調査を行い、相対光量子束密度(rPPFD)
と土壌体積含水率を測定した。また、マイクロサテライト遺伝子座
を用いて遺伝解析を行い、実生の遺伝子型クラスを同定した。
調査の結果、実生の死亡数は 8 月に最も多くなり、種間や当年生
か非当年生かによって実生の生残率は異なった。実生と環境要因と
の関係については、光環境と土壌体積含水率ともに種間や当年生か
非当年生かによって差が認められた。したがって、シデコブシは湿
地、タムシバは乾燥地に生育するという知見と一致した。今後さらに、
遺伝子型クラス別に分類した種間雑種個体を含めて実生の生残に影
響を与える要因を検討し、雑種の環境適応や実生の芽生えの段階に
おける交配の方向性について考察する。
146
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-025
P1-026
ハイマツの伸長成長に影響を及ぼす気候要因のハビタッ
花形態変異のメタ個体群における時空間動態
ト特異性
中川さやか *,伊藤元己(東大・院・総合文化・広域)
* 雨谷教弘,工藤岳(北大院・環境),金子正美(酪農大院・環境)
虫媒花の花形態は、訪花昆虫の誘引効率の差異を介して適応度に
直接影響することから、一般に強い安定化選択を受けていることが
期待される。そのため、花形態に集団内変異がある種は、花形態の
適応度への効果を検証するとともに、安定化選択の予測に反して変
異が存在しているメカニズムを研究するのに最適な材料である。キ
ク科の「花」は、合弁の花(小花)が集合した花序(頭花)である。
この小花には舌状花と筒状花があり、通常、「花」の周辺部は舌状花
である。しかしながら、長野県天竜川中流域支流にのみ分布する二
年生草本のツツザキヤマジノギク Aster hispidus var. tubulosus (以後、
ツツザキ)は、周辺部に舌状花から長い筒状花までの変異(以後、
花タイプ)が集団内に存在する。本研究では、自生地における各花
タイプの頻度を把握すること、さらに、花タイプの違いと結実率の
関係を明らかにすることを目的とし野外調査を行った。3 年間の分
布調査の結果、ツツザキは河川敷にパッチ状に分布したメタ個体群
を形成しており、パッチ微環境は不均一であること、そして、各花
タイプの各パッチにおける出現頻度が異なることが明らかとなった。
さらに、花タイプの頻度がパッチ微環境や年によって説明されるか
どうか解析した結果、開空度が低いパッチほど、また、年が経過す
るほど筒状花タイプの頻度が低くなることが明らかとなった。他方、
開空度が低いパッチでは筒状花タイプの結実率が低くなることが明
らかとなった。本発表では、これらの結果をふまえて集団内の花形
態変異の頻度の変化について議論する。
気候変動の影響は高山環境で特に顕著で、温度環境や積雪量を変
化させる。日本の高山帯で大きなバイオマスを占めるハイマツの分
布は積雪環境との関連性が強く、その変化はハイマツの成長や分布
の変化を引き起こし、他の植物にも影響を与えると考えられる。日
本の高山植物群落は風衝地群落、ハイマツ群落、雪田群落に大別で
きる。風衝地群落と雪田群落の中間に位置するハイマツ群落は、気
候変動への応答が風衝地側と雪田側で異なると考えられる。本研究
は、風衝地と雪田に隣接したハイマツの伸長量成長に作用する環境
要因の違いを特定し、航空写真に基づいたハイマツ帯の分布変化を
明らかにする事を目的とした。
大雪山国立公園のヒサゴ沼周辺(風衝地側)と五色ヶ原(雪田側)
で過去 20 年分のハイマツの伸長量を測定した。大雪山系では近年、
雪解け時期の早期化やチシマザサの分布拡大が報告されている。ハ
イマツの伸長に関わる要因として、前年と当年の夏の平均気温、平
均日照時間、雪解け日、春の平均気温、ハイマツ帯からの距離、パ
ッチサイズ、方位を説明変数とした一般化線形混合モデルにより解
析を行った。航空写真の解析は、1977 年と 2009 年のカラー写真か
らハイマツを抽出し、32 年間の分布域の変化を求めた。
航空写真の解析から、風衝地側(25ha)と雪田側(50ha)の双方
でハイマツの植被面積は約 14%増大していた。ハイマツの枝伸長は、
雪田側では前年夏の気温が正に、パッチサイズが負に作用していた。
一方、風衝地側では前年夏の気温・日照時間が正に作用していたが、
当年春の気温が負に、ハイマツ帯からの距離が負に、パッチサイズ
が正に作用していた。どちらのハビタットも、雪の吹き溜まる東側
で伸長量が大きいことが明らかとなった。夏の温暖気候は成長を促
進するが、春先の温暖化は風衝地側で負の効果をもたらす原因とし
て、耐寒性の早期消失の可能性が考えられる。
P1-027
P1-028
立山のハイマツ群落におけるリターフォール量の空間変異
ブナ枝葉における形態の地理的変異に伴う光獲得戦略の
* 立島 健(富大院・理工),和田直也(富大・極東地研)
変化
* 望月貴治(静岡大・農),斎藤秀之(北海道大・農),楢本正明,水永博
己(静岡大・農)
低地に比べ人間活動の直接的な影響が少ない高山帯は,地球温暖
化等の気候変動の影響を検出しやすい場所である。この特性を活か
し,気候変動が高山生態系にどのような影響をもたらすのかを評価
するため,日本の高山帯で広く優占しているハイマツの生産力に着
目した。本研究では,長期的なモニタリングを視野に入れ,非破壊
的な測定が可能なリターフォール(植物体からの落下物:以下 LF)
量を調べ,リターフォール量の空間変異がどのような要因によって
引き起されているのかを明らかにすることを目的とした。
本研究では,富山県立山山地の標高の異なる5つのハイマツ群落
を対象とした。各調査地において,林床に円筒状のリタートラップ
(直径約 20cm:以下 LT)を 10 個設置し,定期的(1 ∼ 2 週間に 1 回)
にリターを回収した。本発表においては,2011 年の夏季(7 月)か
ら秋季(10 月)に回収した LF と,10 月から翌年の消雪期まで越冬
させて回収した LF を年間量として扱った。回収した LF を器官毎に
分類し,乾燥重量を測定した。また,LT の真上に位置していたハイ
マツの枝について,その主幹の長枝(年枝)について伸長量を測定し,
同時に短枝(針葉)の最大葉齢を記録した。さらにその主幹の根際
周辺の土壌水分を測定した。また,LT 周辺に分布していたハイマツ
の枝先端部に温度ロガーを取付け,消雪日を推定した。これらの値
を用いて,針葉の LF 量の空間変異に及ぼす要因を検討した。
針葉 LF 量は,年枝伸長量と有意な正の相関を示し,また最大葉齢,
土壌水分,消雪日と有意な負の相関を示した。針葉の最大葉齢が若く,
年枝の伸長成長の高い葉層下では LF 量が多く,土壌水分が多く消
雪日の遅い立地では LF 量が少なかった。これらの結果は,乾性で
消雪時期が早い生育地での旺盛なハイマツの生長を示唆していると
考えられた。
ブナは日本に広く分布し、その個葉サイズは地理的に変異するこ
とが知られている。その変異は、葉が数十枚集まった枝葉の構造や
樹冠全体の構造に影響すると予想できる。樹冠構造は物理的な支持
構造とともに樹冠内の微気象を決定するので、個体の適応戦略を反
映していると考えられる。そこで本研究では、個葉サイズの地理的
変異が枝葉の受光特性に及ぼす影響を定量化し、そのメカニズムと
適応意義を明らかにすることを目的とした。調査は、紫尾山 ( 鹿児
島県出水市 )、富士山 ( 静岡県富士宮市 )、苗場山標高 900m、標高
1500m( 新潟県湯沢町 )、黒松内(北海道黒松内町)の 5 林分で行った。
3~5 個体を選び主軸の長さ約 50㎝の枝葉を樹冠上部、中部、下部か
らそれぞれ 2 ∼ 3 本ずつ採取し、その位置での相対照度を測定した。
Smolander(1994)の方法により入射角別の遮光面積と枝の総葉面積
の比 SPAR を測定した。それより回転角にともなう SPAR の変化率
αや全方向から見たときの SPAR の平均値 meanSPAR を算出した。
その他に個葉面積、SLA、当年枝長、節間長を測定した。サンフレ
ックの受光特定を評価するため、枝葉の画像に複数の円を仮想し、
その円の遮光率を数段階の円の大きさについて算出した。meanSPAR
は、一般に相対照度と負の相関があり、これは樹冠上部で枝葉内の
自己被陰が大きいことを示し、この傾向は個葉サイズの小さい個体
群で顕著であり、この個体群は、上部で強光を避ける構造になって
いると考えられる。枝葉の遮光面積の角度依存性を表すαは、一般
に相対照度と負の相関があり、樹冠上部ほど立体的な構造になって
いた。この傾向は個葉サイズの小さい個体群で顕著であった。紫尾
山は他の個体群と異なり低相対照度でのαの低くかった。
147
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-029
P1-030
佐渡島およびその周辺地域におけるミズナラの遺伝的構
亜熱帯林やんばるにおける外生菌根菌群集の季節変化
造と系統関係
* 松岡俊将(京大・生態研セ),阪口瀬理奈(京大・生態研セ),川口恵里
(京大・理),広瀬大(日大・薬),大園享司(京大・生態研セ)
高橋もなみ(新潟大・院),阿部晴恵,本間航介,崎尾均(新潟大・農)
外生菌根菌は,ブナ科など森林で優占的な樹木の根に感染し,外
生菌根を形成することで宿主植物と相利共生的な養分交換を行って
いる.外生菌根菌の種多様性は,多くの林分において宿主の多様性
を大きく上回る.多種共存メカニズムの一つとして,外生菌根菌群
集の時間的 ( 季節的 ) な変化が指摘されている.しかし,従来の菌
学的・分子生物学的手法では菌根サンプルが多い場合の同定が困難
であったため,複数年にわたる継続的な外生菌根群集の調査例は非
常に限られている.加えて,これまでの研究の中心は温帯以北の森
林であり,アジア地域の熱帯・亜熱帯林における外生菌根菌の多様性・
群集動態に関する我々の知見は未だ乏しい.
本研究では沖縄県本島北部の亜熱帯林において外生菌根菌群集の
季節変化を解明することを目的とした.2009 年 7 月から 3 カ月おき
に 2 年間計 8 回,菌根を含む土壌ブロックを採集した.各土壌ブロ
ックから菌根を選び出し,Roch 454 シーケンサーを用いたメタゲノ
ミクスにより菌類のバーコーディング領域 (rDNA の ITS) の塩基配
列を決定した.得られた配列は 95% の配列相同性に基づき操作的分
類群 (OTU) にまとめた.各 OTU はデータベースと比較することで
分類群を特定し,外生菌根菌の OTU を抜き出した.
得られた 121,580 配列は,1029 OTU にまとまった.外生菌根菌は
このうち 179 OTU であった.主要な分類群はベニタケ科 (64 OTU),
イグチ科 (32 OTU),イボタケ科 (30 OTU),フウセンタケ科 (23 OTU)
であった.季節によって外生菌根菌 OTU 数に違いはなかった.さら
に,分類群ごとの出現パターンについての解析結果も報告する.
佐渡島の植物相は本州日本海側と比較して特殊であると言われて
おり、その中でも国仲平野を挟んだ大佐渡と小佐渡の 2 つの山地で
植物相が異なることが特徴的である。これまで佐渡島の植物につい
ては島の気候要因との関連性を調べられてきたが、分子系統地理学
的に調べられた例は少ない。また、佐渡島は本州との間にある佐渡
海峡が海深 200 m以上であることから、第三紀末期から本州と接続
していないと言われている。しかしながら、佐渡島には重力散布型
種子のブナ科をはじめ、本土との接続性を示唆する多くの植物種が
分布している。本研究は、佐渡島における植物種の地史的要因を明
らかにするため、両地域に広く分布するミズナラ Quercus crispula を
対象に佐渡島と本州新潟県内の 4 集団計 72 個体を採取し、cpDNA
の非コード領域をもとに各種の系統関係および nSSR の解析を行った。
nSSR による遺伝的多様性の解析からは、佐渡と本州新潟県内の
集団は遺伝的分化が見られなかった(GST =0.012, FST =0.015)。また、
STRUCTURE 解析でも各集団の差は見られなかった。しかしながら、
検出された変異をもとにハプロタイプネットワークを構築した結果、
各集団のハプロタイプはそれぞれ異なる傾向を示した。島内でも、
北部の大佐渡と南部の小佐渡で構成するハプロタイプが異なってい
た。地史的な影響もふまえて、今後はより詳細な調査・解析を行う
必要性がある。
P1-031
P1-032
ミズキ実生から分離された内生菌の病原菌抵抗性
春日山原生林の外生菌根菌相
* 加藤さや,深澤遊,清和研二(東北大院・農)
* 和中愛由,栢下美穂,古澤慶,乾久子,菊地淳一(奈教大)
植物組織内部に病徴を現さずに生息する菌類を内生菌と呼ぶ。一
部の内生菌は病原菌抵抗性など宿主植物の生存・生長にプラスとな
る効果を与えることが知られているが、森林樹木の更新に内生菌が
与える影響についてはよくわかっていない。森林生態系において、
成木下で同種実生の死亡率が他種実生に比べ高い現象は、樹木の更
新動態を説明する仕組みとしてよく研究されており、その要因とし
て樹種特異的な病原菌が同種実生を枯死させることが知られている。
一方、成木下で他種実生の生存・生長が周辺環境に比べ良くなる可
能性についてはほとんど検討されていない。本研究では、内生菌に
よる他種実生への病原菌抵抗性の付与が他種実生の生存率を高めて
いる可能性を検証するため、ミズキ実生の内生菌の種組成に対する
近接する成木の影響および内生菌の病原菌抵抗性を明らかにするこ
とを目的とした。
同種(ミズキ)および異種(ウワミズザクラ)の成木下で発芽
したミズキ実生の葉から培地上で内生菌を分離し、形態観察および
DNA 分析によって同定した。結果、32 分類群が分離され、そのうち
14 分類群が 10% 以上の高頻度で分離された。中でも Colletotrichum
spp. は他の分類群に比べて圧倒的に高頻度で分離され、特にミズキ
成木の下で発生頻度が高かった。ウワミズザクラの実生における先
行研究でも、Colletotrichum spp. の発生頻度はミズキ成木下で高く、
その大部分を占めた C. anthrischi の培地上における病原菌抵抗性が確
認された。ミズキ実生から分離された Colletotrichum spp. についても
種の同定を進め、他の高頻度種とともに病原菌抵抗性の評価を行っ
た結果を紹介する予定である。
春日山原生林は、この 1200 年間ほとんど人の手が入っていないた
め、外生菌根菌と共生するイチイガシやウラジロガシ、ツクバネガシ、
モミなどの大木が多く生育している。子実体の調査により(姜 2005
等)、外生菌根菌の多様性が高いと考えられているが、菌根による外
生菌根菌相の調査例はない。外生菌根菌の多様性を明らかにするた
めに、春日山の広い範囲に散在するアカガシ、アラカシ、イチイガ
シ、ウラジロガシ、コナラ、ツクバネガシ、ツブラジイ、アカシデ、
イヌシデ、ミズメ、モミ、ツガの大木(主に胸高直径 80 cm 以上)
計 45 本の周辺からコアサンプラーを用いて 400 ml の土壌を採取し、
外生菌根を採取した。実体顕微鏡下で菌根のタイプ分けを行った。
44本のサンプルの 13678 の菌根チップを調べたところ、1 サンプ
ルあたり平均 10 タイプの菌根に分けられた。また1 ha の調査区か
らコアサンプラーを用いて 100 個のサンプルを採取し、それらにつ
いても菌根のタイプ分けを行った。1サンプルあたり平均 5 タイプ
の菌根が見られた。1 ha の調査区のサンプルについては約 1/4 につ
いて DNA の抽出及び塩基配列の解析が終了している。その結果ベ
ニタケ科やイグチ科の菌根菌が多く検出されたが同じ調査区で子実
体も見られた種数は5種にすぎず、地上部の子実体による外生菌根
菌相とは大きく異なる菌根菌が地下部には多数存在していることが
示唆された。今後、塩基配列の解析数を増やして、地下部の菌根に
よる外生菌根菌相の多様性を明らかにしたい。
148
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-033
P1-034
サビキンの有性世代における媒介者誘引メカニズムにつ
北極に分布する黒紋病菌の胞子散布とその制限要因
いて
* 増本翔太(総研大・極域),内田雅己(極地研),東條元昭(大阪府大・生命),
伊村智(極地研)
* 本田 薫,三宅 崇(岐阜大・教育)
キョクチヤナギ黒紋病菌は Rhytisma 属の寄生性真菌類である。本
菌の子実体はヤナギの生葉上で成長し、落葉上で成熟する。本研究
では、北極という非常に厳しい環境に生育している本菌の生態を明
らかにする一環として、生活環の重要な過程である子実体の成熟と
子のう胞子の散布について調査し、それらを制限する環境要因につ
いて考察した。
2012 年 6-7 月にノルウェー・スピッツベルゲン島・ニーオルスン
で調査を行った。子実体の成熟過程を雪解け直後から定期的に顕微
鏡下で観察した。同時に、子実体の成熟に水分が与える影響を明ら
かにするために、未成熟な子実体を自然乾燥状態、高湿度状態およ
び直接水に接触している状態 ( 接水状態 ) で培養した。一方、胞子
の散布に関してはワセリンを塗布したスライドガラスをヤナギの葉
の周囲に設置して胞子を捕集し、散布状況を調査した。
結果、雪解け直後の子実体は未成熟であり、約 2 週間後に成熟した。
一方、培養実験では、接水状態のみ 5 日程で子実体が成熟し、子の
う胞子を散布することが確認された。子のう胞子の散布は雨天時に
見られ、降雨量と散布量には正の相関が認められた。
本菌は、短い着葉期間に感染して子実体を十分に成長させなけれ
ばならない。そのため、雪解けからヤナギの展葉までに子実体が成
熟するために十分な水の供給を得ること、その後の展葉期間中に胞
子を散布させるために水の供給を得ることが必要である。調査地域
は、基本的に乾燥しているため、液体として供給される水は通常雪
解け水か雨水に限られる。このため、雪解け水と降雨は、子実体の
成熟と子のう胞子の散布に大きな影響を及ぼし、本菌の分布を大き
く制限していると考えられた。
菌類の中で担子菌の 1 つの目を形成するサビキンは、世界で 7000
種以上の報告がある絶対寄生菌で、植物に対し寄主特異性を持つ。
サビキンは、有性生殖によって交配型の異なる配偶子が接合し受精
する。この過程では、配偶子の運搬を昆虫に依存している。昆虫は
柄子蜜と呼ばれる蜜状物質に誘引されサビキンの精子器に訪れ、そ
の際に配偶子を運ぶ。サビキンの中には形態や香りまで花に似せて
昆虫を誘引する種も知られており、まさに花に擬態している。これ
らの形質は、何らかの方法で寄主を操作することで寄主に花で発現
する形質を発現させているかも知れない。そこで、サビキンの有性
世代における匂いと蜜に焦点を当て、これらの形質の発現に寄主が
関与しているかを調べている。誘引物質である匂いと蜜に関して、
花(寄主)とサビキン(寄生者)を比較して調べた。匂いでは、花
とサビキンの精子器から揮発性物質を採集・同定し、花と精子器の
匂いに類似性があるか調べた。花と精子器で類似した物質は検出さ
れなかった。よって、サビキンは媒介者への誘引物質として匂いを
利用している可能性が低いことが示唆された。蜜では、蜜腺形成に
関与する CRABS CLAW (CRC) 遺伝子がサビキンの柄子蜜部位で発
現しているかを調べた。ナシに感染しているサビキンの柄子蜜部位
では、ナシの CRC 遺伝子が発現していた。よって、ナシに感染して
いるサビキンは、寄主の遺伝子を操作して柄子蜜を発現させている
可能性が高いことが示唆された。
P1-035
P1-036
知床羅臼岳の標高経度に沿った内生菌類群集の変化
冷温帯落葉広葉樹の光合成生産力のフェノロジー ―生育
* 阪口瀬理奈,松岡俊将(京大生態研),川口恵里(京大理),森章(横浜
国大),大園享司(京大生態研)
型による違いと光・温度環境の影響-
庄司千佳(岐阜大・応用生物),梁配平(岐阜大・応用生物),村岡裕由(岐
阜大・流域圏セ)
標高傾度に伴う生物群集の変化はよく知られているが内生菌の研
究例は少ない。内生菌は無病徴の生葉に感染している菌類の総称で
あり、二次代謝産物によって宿主の適応度へ影響を与える菌類や、
潜在的な病原菌、落葉後に分解菌となる菌類を含んでおり、生態学
的に重要なグループである。内生菌群集は標高傾度に沿って変化す
ることが示唆されているが、宿主樹木ごとの変化パターンは調べら
れていない。本研究では次世代シーケンサを用いたメタゲノミクス
で 2 樹種間の内生菌群集の標高傾度に対する応答を比較した。
2010 年 7 月、 知床羅臼岳西斜面の針広混 交林において標高 50
∼ 800 m に お け る 23 プ ロ ッ ト の ト ド マ ツ (Abies sachalinensis var.
sachalinensis ) とダケカンバ (Betula ermanii ) から各 3 葉、合計 138 サ
ンプルを採取した。菌類特異的なプライマーを用いた semi-nested
PCR 法 で ribosomal DNA (rDNA) の internal transcribed spacer 1(ITS1)
領域を増幅し、Roche 454 Titanium にてシーケンスした。その結果
113,949 配列が得られ、95%相同性閾値にて操作的分類群(Operational
Taxonomic Unit: OTU)にまとめ、1169 OTU が得られた。
内生菌 OTU 組成は宿主間及び標高クラス間で有意に異なった。宿
主間で内生菌群集の標高傾度への応答は異なった。また、ダケカン
バに選好性がみられる科として Taphrinaceae を、宿主選好性がない
科として Xylariaceae を検出した。
フェノロジーとは植物においては展葉・紅葉・落葉・開花のよう
に季節の移り変わりに伴う状態の変化をいう。植物の生育型や生育
段階によってフェノロジーが異なる場合があり、それは与えられた
環境の下で生産を高めるための戦略であると考えられている。
本研究では、葉の光環境、個葉光合成能力(クロロフィル含量)、
形態(葉のサイズ)に着目し、落葉広葉樹の光合成生産力のフェノ
ロジーを明らかにすることを目的とした。岐阜大学高山試験地(標
高約 1400m)の冷温帯落葉広葉樹林において、林冠木(ミズナラ、
ダケカンバ)と低木(オオカメノキ、ノリウツギ)を対象として調
査を行った。ミズナラについては陰葉と陽葉に分け、さらに陽葉に
ついては温度の影響を調べるために開放型温室を設置した(温室葉)。
以上の植物について、各樹種 3 − 5 本のシュートの葉の枚数とサイズ、
クロロフィル含量、光環境を季節を通じて測定した。
[結果(1)]低木の展葉(葉面積拡大、クロロフィル量増加)は
高木よりも 20 日程度早かった。これは春に林床が明るいうちに光合
成生産を高める効果がある。
[結果(2)]ミズナラの陰葉は陽葉に比してクロロフィル含量の
季節的増加が早く、紅葉が遅かった。これは林内の光不足下での光
合成生産に寄与する。
[結果(3)]ミズナラの温暖化葉は陽葉よりも展葉が数日早く、
紅葉は数日遅れた。さらに季節を通じてクロロフィル量がやや高か
った。温暖化はミズナラの光合成生産量を増加させる可能性が示唆
された。
以上の結果より、落葉広葉樹林を構成する樹木の光合成生産力は、
生育型の違いや森林内の光環境の季節的変動に応じた葉の光合成能
のフェノロジー特性によって特徴付けられることが示唆された。
149
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-037
P1-038
Seed germination cues of pioneer tree species with
鉱山跡地に生育するクサレダマ Lysimachia vulgaris に
different seed sizes
おける Cd 及び放射性 Cs の蓄積への内生細菌の影響
Qingqing Xia*, Kenji Seiwa (Tohoku Univ.)
* 中村隼人,山路恵子(筑波大院・生命環境)
Seed germination is usually enhanced by environmental cues of higher
red:far-red ratio or temperature fluctuation. Seed germination shows less
dependent on light and a positive relationship with temperature fluctuation
with increasing of seed sizes, which ensures germination in optimal soil
or litter depths in gaps.However, little support for this hypothesis has been
found in forest communities.In this study, we examined seed germination
of 20 temperature hardwood species from northern Japan and explored the
relative importance of the red: far-red ratio(R:FR ratio) and temperature
fluctuation for seed germination that differ in seed sizes. We conducted four
R:FR ratios(0.0, 0.1, 0.4, 1.0) and two temperature fluctuations (20℃ and 0
℃ ) by using temperature- and light-controlled incubators. In addition, we
also conducted field experiment, in which seeds were buried in soil with
different depth for 9 species with different sizes. R:FR ratio and temperature
fluctuation diminished with decreasing the soil depth, while R:FR ratio
showed a rapid drop compared with temperature fluctuation. R:FR ratio
was more important trigger of seed germination for small-seeded species,
whereas seed germination was facilitated by high diel temperature compared
with high R:FR ratio for large-seeded species.
植物を利用した汚染土壌修復の課題の一つとして、修復効率が悪
いことが挙げられる。微生物の中には、植物の成長や汚染物質の吸
収を促進させるものが存在することが知られており、これらを利用
することで土壌修復の効率化が期待できる。調査地とした鉱山跡地
の土壌には、高濃度の重金属が含まれており、福島第一原子力発電
所からおよそ 100 km の距離に位置するため、放射性 Cs による土壌
汚染も懸念される。このような特殊な環境下に生育している植物の
中で、高濃度に Cd を根に蓄積させることが確認されているクサレ
ダマ(Lysimachia vulgaris L.)に着目し、本植物の Cd 及び放射性 Cs
の蓄積に与える内生細菌の影響を明らかにすることを目的とした。
鉱山跡地より土壌及びクサレダマを採取し、放射性 Cs 濃度を測定
した。土壌から放射性 Cs が検出され、表層に特に高濃度で存在して
いた。クサレダマに関しては、葉、茎、地下茎及び根の全ての部位
から放射性 Cs が検出され、地上部への移行が確認された。根から分
離された内生細菌の中に、Fe キレーターであるシデロフォアを産生
し、CdCO3 及び CdS を可溶化する能力を有した菌株の存在が確認さ
れた。また、放射性 Cs 汚染土壌を混合した培地に生育させた分離菌
株をイメージングプレートに露光し、オートラジオグラフィーを行
った結果、放射性 Cs を蓄積している菌株の存在が示唆された。
以上のことから、クサレダマの Cd 及び放射性 Cs の蓄積に根の内
生菌が促進的に関与している可能性があると考えられた。また、シ
デロフォアを産生する内生細菌の存在により、クサレダマの生育促
進へも関与している事が示唆された。
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P1-040
水生・湿性植物 55 分類群の沈水状態における光合成炭
貧栄養地に生育する常緑広葉樹と落葉広葉樹の栄養塩経
素源
済の比較
* 山ノ内崇志,石川愼吾(高知大・院)
* 宮島良太,山村靖夫(茨城大・理),中野隆志(山梨県環境研)
沈水状態にある水生植物は、水中の遊離炭酸(CO2*)濃度の低
さや拡散速度の遅さのために、慢性的な光合成炭素源不足の状態に
ある。これに対する適応として水生植物は様々な炭素濃集機構を
持ち、その一つに重炭酸イオン(HCO3 − )の利用がある。水生植
物の HCO3 − 利用能力には種間差があり、CO2* のみを利用する種群
と CO2* に加えて HCO3 − を利用できる種群とに大別できる。また、
CO2* と HCO3 − の濃度は水域によって大きく異なるため、これらは
水生植物の分布および群落組成を規定する最も重要な要因の一つと
なっている。現在、日本産水生植物の約半数は絶滅危惧種であり、
炭素源についての情報は保全のためにも重要である。しかし、炭素
源に関する研究の多くは欧米で行われており、日本産の種に関する
情報は乏しい。本研究では、野外において沈水状態での生育が見ら
れた水生・湿生植物 55 分類群について pH 推移実験を行い、上記の
いずれの種群に属するかを判定した。
全体的な傾向として、浮葉・抽水葉を持つ水生植物の大部分と湿
生植物は CO2* のみを利用し、また、ほとんどの沈水植物は HCO3 −
を利用できると判断された。炭素源についての情報がある 18 分類群
のうち、16 分類群については先行研究での報告と一致した。フトヒ
ルムシロとオヒルムシロは、先行研究では CO2* のみを使用するこ
とが報告されていたが、本研究の結果では、CO2* 濃度が低い条件下
での光合成速度が HCO3 − 濃度に影響され、特に十分に高い HCO3 −
濃度(約 10 mM)のもとでは CO2* 濃度がほぼ 0 でも炭素吸収が認
められたことから、弱いながら HCO3 −利用能力を持つと考えられた。
ミズオオバコは極めて低い CO2* 濃度でも光合成が可能であったが、
光合成速度は HCO3 −濃度にほとんど影響されなかった。このことか
ら、本種が HCO3 −の利用とは異なる炭素濃縮機構を持つ可能性が示
唆された。
富士山北麓の標高 1000m 付近の剣丸尾溶岩の上にはアカマツ林が
広がっている。この地域は気候的には落葉広葉樹林が成立する冷温
帯であるが、森林の亜高木・低木層には常緑広葉樹が優占しており、
落葉広葉樹はまばらに出現する。林床は未だに溶岩が露出し、土壌
は未発達であり、常緑広葉樹の優占は土壌栄養条件と関連している
と予測される。そこで本研究では、常緑広葉樹・ソヨゴと落葉広葉樹・
ミズナラの窒素とリンの動態を比較し、貧栄養な冷温帯において常
緑広葉樹が優占している原因を探ることを目的とした。
アカマツ林内から、定期的にソヨゴとミズナラのシュート、土壌
を採取した。葉サンプルは葉齢別に、葉面積を測定後、乾燥機にて
約 70℃で乾燥させ、乾燥重量を測定した。これを粉末状にし、全窒
素量と全リン量を測定した。得られたデータより全窒素濃度、全リ
ン濃度、単位面積当たりの窒素量・リン量、落葉時の窒素・リン回
収率、窒素・リンの葉群の回転率を算出した。また土壌中の有効態
窒素・リン濃度の季節変化を測定した。
土壌栄養量は、一般的な山地と比べて、有効態窒素・リン共に乏
しかったことから、土壌は貧栄養状態にあると言える。落葉時回収
率は、樹種間では落葉樹のミズナラよりも常緑樹のソヨゴの方が、
栄養塩間では窒素よりもリンの方が、回収率が高かった。また両樹
種の回転率は、樹種間では落葉樹のミズナラよりも常緑樹のソヨゴ
の方が、栄養塩間では窒素よりもリンの方が低い値を示した。
以上より、貧栄養な地域に生育する植物は栄養塩をより回収する
戦略をとり、回収能力は落葉樹よりも常緑樹の方が高いこと、ミズ
ナラとソヨゴでは栄養の損失が低いのはソヨゴであり、栄養を保存
的に利用していることが示唆された。
150
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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キナバル山山地熱帯降雨林における地質条件と葉構造の
小笠原乾性低木林に生育する樹木の乾燥ストレス耐性の
関係
比較
* 辻井悠希,小野田雄介,北山兼弘(京大・農)
* 奥野匡哉(京大・生態研),才木真太朗(京大・生態研),吉村謙一(京
大・生態研),中野隆志(山梨県・環境研),石田厚(京大・生態研)
貧栄養土壌への適応として、樹木は厚く頑丈な葉を生産する。厚
く丈夫な葉構造は葉寿命の増加に貢献し、葉寿命の増加によって樹
木体内の栄養塩の滞留時間が増加して栄養塩の利用効率は高まる。
一方、葉構造への投資は、構造体(高分子有機物)の合成、二酸化
炭素の拡散抵抗の増加、栄養塩再吸収効率の低下、などを通して樹
木にとってコストともなる。したがって、栄養塩傾度に沿った葉の
構造(特に解剖学的特性)を評価することは、貧栄養土壌への樹木
の適応をコストとの関係から考える上で考える上で非常に有効な手
段になる。
本研究は、キナバル山山地熱帯降雨林の地質条件の異なる3サイ
トでおこなった。これらのサイトでは、気候やフロラが同じであるが、
初期条件の地質の違いにより土壌 P 可給性が異なることが分かって
いる。これらのサイトにおいて、優占樹種の林冠の生葉を各種3個
体から採集し、それらについて LMA、強度、繊維量(NDF)などを
測定、光学顕微鏡で葉切片の解剖学的特性を観察した。
その結果、土壌 P の低いサイトでは、高いサイトに比べ LMA が
有意に大きく、それに伴い強度が有意に増加する傾向が見られた。
葉中の構造物の割合である NDF(乾燥重に対する%)は、サイト間
で有意な差が見られなかった。したがって、樹木は土壌 P 可給性の
低下に対する適応として、葉中の乾燥重当たりの構造物の濃度(%)
を保ったまま LMA を増加させることで、強度を高めていることが
示唆された。解剖学的特性についての結果も報告する。
小笠原諸島は、亜熱帯の中では降水量が少なく、また、尾根部で
は土壌が未発達である。このような場所では、乾燥ストレスにさら
され、樹高 2m 前後の乾性低木林が成立する。この林分を構成する
木本種は、葉厚や材密度など、形態的に多様であるため、乾燥スト
レス耐性もたらす仕組みも多様であると考えられる。そこで、本研
究では、小笠原の乾性低木林に生育する、シマイスノキ、シャリン
バイ、テリハハマボウ、ムニンネズミモチ、ハウチワノキを対象に、
乾燥強度の異なる、6 月、7 月、9月、12 月に水バランスを測定し、
その季節変化を明らかにした。
最も強い乾燥が 7 月に発生し、5 種ともに、水ポテンシャル、光合成、
気孔コンダクタンスなどで極端な低下がみられた。比較的乾燥が穏
やかな 9 月には、光合成、水ポテンシャルは、雨期である 6 月と同
じような値に回復したが、通水性に関しては、回復した種と回復し
なかった種が現れた。気孔コンダクタンスは比較的低いままであっ
た。
また、材密度が 5 種の中で最も高いハウチワノキは、水ポテンシ
ャルが -5 MPa まで減少したが、材密度が最も低いテリハハマボウは
-2 MPa までしか減少しなかった。しかし、この 2 種の光合成の値は
5 種の中で特に高かった。また、材密度は水ポテンシャルと負の相
関が、Amax と Gmax では正の相関がみられた。
このように、小笠原の乾性低木林では、7 月に最も強い乾燥スト
レスがかかり、そのストレスを様々な仕組みで乗り越えていること
が示唆された。また、形態的な特性と、生理的な特性が密接に関わ
っていると考えられる。これらの種の生理的な乾燥耐性と、その形
態との関連性を紹介する。
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山地帯における常緑広葉樹ソヨゴの光合成活性の季節変化
安定同位体比を用いた乾燥地植物の吸水における主根・
* 木村一也,丸田恵美子,山崎淳也(東邦大・理),中野隆志(山梨県環
境科学研究所)
不定根・葉の役割の解明
* 青木万実(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大院・生資),楊霊麗,吉
川賢(岡山大院・環境),張国盛,王林和(内蒙古農業大学)
常緑広葉樹の多くは冬季の強光・低温・乾燥ストレスによって冷
温帯への分布が制限されているといわれている。しかし、主に暖温
帯に生育しているソヨゴの一部は、1,000 m 以上の山地帯における
アカマツ林などの林床で落葉広葉樹と混交して生育している。寒冷
地では冬季のストレスのため光合成を行えず、また、落葉広葉樹林
の林床に生育する常緑広葉樹は被陰のため夏季に光合成を行えない
といわれている。そのため、寒冷地の常緑広葉樹は光合成を行える
時期が非常に限られることが予測される。そこで、ソヨゴが冬季の
山地帯においてどの程度のストレスをうけ、またどの程度の光合成
を行っているのかを明らかにすることを目的とした。富士山北麓の
山梨県環境科学研究所 ( 標高 1020 m) 内のアカマツ林を調査地とし、
光強度の異なる林縁と林床に生育するソヨゴの光合成速度と光化学
系Ⅱ活性 (Fv/Fm)、色素含有量を測定した。
林縁・林床ともに、秋季の Fv/Fm は低下していたものの、光合成
は十分に行っていた。一定の温度下でサンプル保存後に Fv/Fm の値
が回復していたことから、この低下は光阻害というよりも、主とし
てキサントフィルサイクル色素による熱放散に伴うダウンレギュレ
ーションを行っていたためと考えられる。冬季は、林縁・林床とも
に光合成を行っていなかった。林縁では光阻害により多少のタンパ
ク質の分解が起こっているのに対し、林床では熱放散や系Ⅱ複合体
のリン酸化によって光量子の吸収を抑制していたため、ダメージを
回避していたものと考えられる。また、林床において夏季は落葉広
葉樹による被陰のため光合成を十分に行っていなかったことより、
光合成を行える時期が極端に制限されていることがわかる。従って、
熱放散や系Ⅱ複合体のリン酸化をすることで、早春に気温が安定し
た時即座に回復し、光合成時期を確保していることが考えられる。
利用可能な水資源量が限られている乾燥地に生育する植物にとっ
て水の獲得や保持は重要な問題であり,そのためのメカニズムは多
様である.そのメカニズムのひとつに,主幹から地表面を這うよう
に匍匐枝を伸ばし,主幹からは地下水面近くまで主根を,匍匐枝の
途中からは土壌浅層に不定根を伸ばす形態的適応が挙げられる.本
研究は主根と不定根の吸水における役割の解明を目的とする.その
ため,中華人民共和国内蒙古自治区・毛烏素沙地の優占在来種であ
る臭柏 (Sabina vulgaris Ant.) の匍匐枝の基部∼不定根間と不定根∼先
端間の樹液流速度を Heat Ratio 法を用いて測定した.さらに,匍匐
枝先端の枝内の水,土壌水,地下水,降水,結露水の酸素安定同位
体比(d18O)の時間変化を測定し,照合した.樹液流速度の測定結
果から,降雨前は夜間に主根から匍匐枝先端側への水の流れがある
ことが分かった.したがって,土壌浅層が乾燥しているときは土壌
深層の主根が吸水して匍匐枝先端にまで供給していることが示唆さ
れた.このとき,不定根からも吸水しているかどうかや土壌深層か
ら浅層への根を介した水の輸送 (hydraulic redistribution,HR) がおき
ているかどうかについては d18O のデータから考察する予定である.
一方,降雨後は匍匐枝先端への流れ,匍匐枝から主根への流れがあ
ることが分かった.つまり,降雨により土壌表層の水分量が多くな
ると,不定根から吸水して主根側と匍匐枝先端へ供給しており,土
壌表層から深層への HR の可能性も示唆している.以上より,土壌
深層からの吸水は主根が行い,土壌浅層からの吸水は不定根によっ
て行われることが分かった.より吸水源を明確にするためには同位
体比を使って考察を進める必要がある.
151
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-045
P1-046
酸素安定同位体比分析に基づく熱帯樹木の高解像度年輪
アオキのテーブル型樹形の形成様式 ~ シュートのサイ
指標の構築
ズ・空間配置に基づく解析 ~
* 桐山貴衣(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大院・生資),高梨聡(森
林総研),小杉緑子(京都大院・農),中塚武(名古屋大院・環境)
* 片野 高志(茨城大・理),山村 靖夫(茨城大・理)
樹木は単純なモジュール構造を積み重ねることによって、その地
上部を成長させていく。多くの高木種は成長に伴い樹高やバイオマ
スを大きく増加させていくが、森林下層に生育する耐陰性の低木種
はしばしば異なる成長様式を持ち、弱光条件下で光を効率よく獲得
するための樹形を示す。アオキ (Aucuba japonica ) は温帯に生育する
典型的な林内低木の一つであり、平坦な樹冠を持つテーブル型の樹
形を示すことが多い。枝に残る芽鱗痕から各部の齢を調べることが
可能である。本研究は茨城県常陸大宮市の 1 年を通して暗い光条件
の常緑針葉樹林と、秋から春にかけて明るい光条件を経験する落葉
広葉樹林の 2 つの調査地に生育するアオキの各年枝の長さ、水平か
らの角度、伸長方向を測定することによって、幹、枝の 3 次元構造
を再現し、その樹形形成の様式・機構の解析を行った。
常緑樹林、落葉樹林の両方において、アオキの樹冠の外側に向か
う枝は内側に向かう枝よりも有意に長く、水平からの角度は有意に
小さいという結果を示した。また、母枝から出た対生枝のうち、長
い方の枝の水平からの角度が小さい傾向にあった。アオキは水平方
向外側の空間獲得へより多くのコストを回し、さらに少ないコスト
で内側の空間を埋めつつ葉をつける枝の高さの差を小さくすること
で、横に広がったテーブル型樹形を形成していると考えられる。また、
枝長が短い個体は分枝率も低く、各枝の高さの分散は枝長が長い個
体よりも小さかった。このことから、光合成産物が少ない条件でよ
り平坦な樹形を持つことが示唆された。
樹木の年輪中のセルロースの酸素安定同位体比 (d18O) はその樹木
が吸っている水の d18O と葉から輸送されてきたスクロースの d18O に
よって決まる.葉で合成されたスクロースの d18O は吸っている水の
d18O や相対湿度の環境要因と,葉温,気孔コンダクタンス,葉面境
界層コンダクタンス,カルボニル基と水の酸素原子交換率といった
植物の生理要因によって決まる.年輪気候学の分野では,吸水源の
d18O が降水の d18O と等しく,植物の生理要因の時間変化がないもの
と仮定し,降水の d18O が気温や降水量と関係があることを利用して
年輪セルロース中の d18O から古気候を復元する研究が行われてきた.
しかし,湿度や降水量が変化すると植物の生理要因もそれに応答し
て変動する.
そこで本研究では,過去約 20 年分の微気象データ ( 環境要因 ) と
樹冠上の二酸化炭素・水蒸気フラックスおよび樹冠内の層別ガス交
換パラメータ ( 生理要因 ) の揃う半島マレーシア・パソ熱帯雨林に
生育する樹木の円盤試料中のセルロースの d18O を測定し,過去の環
境変化に対して植物の生理要因がどのような応答をしていたのかを
抽出する.
ただし,パソ熱帯雨林は緩やかな乾季・雨季はあるものの一年を
通して気温変化が小さいため,樹木は明確な年輪を持たない.そこで,
円盤セルロース試料を細かく切り分けて d18O を測定することで得た
高分解能の季節変動を,湿度,気温,降水量の季節変動やエルニー
ニョなどの気象現象の年々変動と照合することで高解像度年輪指標
を構築した .
P1-047
P1-048
常緑林床草本オオバジャノヒゲの光合成・呼吸特性の季
光・低温ストレスに対するクマイザサの生理的応答
節変化と物質生産
* 橋口惠(北大・環境科学院),小野清美,原登志彦(北大・低温研)
* 澤畑 直行(茨城大・理),山村 靖夫(茨城大・理)
クマイザサ (Sasa senanensis ) は、北海道の冷温帯落葉広葉樹林の
林床に広く分布する代表的な多年生植物である。落葉樹林の林床植
物は、林冠の樹木が落葉する秋から冬にかけてと、融雪時期から林
冠の樹木が展葉を始めるまでの春には、低温下で過剰な光にさらさ
れる。そのような環境条件では、光と気温の関係から光ストレスが
引き起こされると考えられる。しかし、このような林床に優占する
ササは枯死することなく越冬し、春にはまた新しく展葉する。本研
究では、クマイザサが秋から冬にかけて増大するストレスに対して、
生理的にどのような応答をするのかを明らかにすることを目的とし、
クマイザサを用いた栽培実験を行った。
ストレス応答に関係する色素量の季節変化を調べた結果、早秋か
らの気温の低下に伴い、キサントフィルサイクルの色素量や脱エポ
キシ化の割合が増加する傾向が見られた。また、クロロフィルあた
りのβ - カロテン量も増加する傾向が見られ、過剰光エネルギーを
活発に熱放散している可能性が示された。一方、雪に覆われ積雪深
が深くなると、キサントフィルサイクルの色素量やクロロフィルあ
たりのβ - カロテン量が減少する傾向を示した。また、脱エポキシ
化の割合は積雪後すぐに減少し、その後積雪下でその値が維持され
る傾向を示した。これらのことから、クマイザサでは、積雪前に色
素の応答が起こるが、その応答が積雪下でそのまま維持されるので
はなく、光ストレスが積雪によって減少した後、その状態が外気よ
り暖かく暗い積雪下で維持される可能性が高いことが分かった。
温暖帯の落葉広葉樹二次林には多くの常緑草本種が生育している。
林床の光環境が林冠木の着葉と落葉によって季節的に大きく変化す
るもとで、これらの常緑性植物の純生産は夏に低く、秋から春の時
期に高いことが知られている。しかし、光合成や呼吸の季節変化か
らそれを裏付けた研究は少ない。そのため、本研究では林床の常緑
草本オオバジャノヒゲ(Ophiopogon planiscapus )の成長とともに、
光合成と呼吸速度の季節変化を詳しく調べ、物質生産過程を解析す
ることにより、常緑の林床草本の生活史特性を解明することを目的
とした。
調査は毎月 20 個体をサンプリングし、葉長、葉幅から葉面積、葉
の乾燥重量のアロメトリー式を求め、野外に生育する標識個体の葉
面積及び葉重量、個体重の季節変化を追跡した。また、毎月ラミー
トを採取し、実験室において、光―光合成関係を葉齢別に、温度―
呼吸関係をラミート毎に測定した。
オオバジャノヒゲの物質生産過程は 5 月から 10 月にかけての発
達相と 11 月から 4 月にかけての生産相の二つの相に分けられた。発
達相においては、純生産の値が負もしくは低い値を示し、葉の枯死
量も多くなり、日積算光量子から求めた光合成生産量においても負
の値を示した。生産相においては、純生産が大きく正の値を示し、
LMA の値も全ての葉齢において大きく増加し、発達相にはいると減
少を始める。また、貯蔵根量も 3 月から 4 月にかけて増加し、発達
相においては減少した。光合成活性は当年葉、1 年葉共に夏は低く、
冬から春にかけて増加する傾向がみられ、呼吸速度は季節的な温度
順化を示した。以上の結果より常緑林床草本の生活史特性について
考察する。
152
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-049
P1-050
カラマツの長枝葉と短枝葉の光合成及び環境ストレス応
青森県ヒバ天然林ヒバ実生の内生菌の関与した Al 解毒機
答の季節変化
構の解明:Al 解毒物質の解析
* 石森和佳,小野清美,長谷川成明,隅田明洋,原登志彦(北大・低温研)
* 清水美希,山路恵子(筑波大学 生命環境)
カラマツ (Larix kaempferi ) は東北地方南部・関東地方・中部地方の
亜高山帯から高山帯に分布している。日当たりのよい乾燥した場所
が生育に適し成長が速い為に、北海道の代表的植林樹種である。針
葉には乾燥・低温・強風に適応した形態と機能があると考えられて
いて、温暖な地域でも寒冷地でも常緑のものが多い。日本に自生す
るマツ類ではカラマツは唯一の落葉針葉樹である。またカラマツは
異型葉性であり、春先に一斉開葉する短枝葉と順次開葉をする長枝
葉の 2 種類の葉をもつ。
本研究では落葉針葉樹カラマツの落葉時期を決定する環境要因を
調べる為、葉の光合成速度、窒素含有量、クロロフィル含有量を測
定した。また、環境ストレス応答の季節変化を調べるために光化学
系Ⅱの最大量子収率 (Fv/Fm )、クロロフィル a/b、カロチノイド含有
量を測定した。材料として低温科学研究所敷地内に植えられている
カラマツ 5 本を用いた。サンプリングは 6 月中旬から 11 月下旬まで
毎月 2 回行った。
10 月下旬に短枝葉から黄葉が始まり 11 月下旬に完全に黄葉し、
短枝葉が長枝葉よりも先に落葉した。光飽和での光合成速度は 6 月
中旬から 10 月上旬まで長枝葉で短枝葉よりも高くなる傾向が見られ
たが、10 月下旬以降は短枝葉の方が高くなる傾向が見られた。また、
黄葉したものではほぼ光合成速度は 0 であった。Fv/Fm は 10 月まで
長枝葉・短枝葉ともに 0.8 を超えていたが、黄葉とともに値は下が
り落葉直前には値は 0 に近くなった。乾燥重量あたりの窒素含有量
には長枝葉と短枝葉での大きな違いはなかった。黄葉とともに窒素
含有量は低下し落葉直前時には黄葉前と比べると約 40% にまで減少
した。
本発表ではクロロフィル含有量、カロチノイド含有量の測定結果
も合わせて、カラマツ葉の環境ストレス応答と落葉について異型葉
による違いもあるかを含めて議論する。
調査地の青森県ヒバ天然林に生育するヒバ実生は、植物に生育阻
害作用を示す Al を多く含有し、Al 解毒機構を有することが示唆さ
れている。植物の Al 解毒機構の一つとして、カテキン・有機酸との
結合による Al の無毒化があり、実生もカテキンを産生することがわ
かっている。既往の研究から、実生地際部に内生する Phomopsis 属
糸状菌が実生のカテキン量を増加させることが確認されている。
本研究では、実生胚軸部の内生菌が関与する Al 解毒機構の解明を
目的とし、調査地に生育する 2 年生実生を対象に、含有 Al、カテキン、
有機酸濃度の測定、胚軸部からの内生菌分離、Al とカテキンの局在
部位比較を行った。
実生の含有 Al、カテキン濃度は他植物の報告と比べて高く、根に
多く確認された。根では Al、カテキン量ともに乾燥重量と正の相関
を示し、皮層に多く局在していた。Al 解毒機構への関与が報告され
ている有機酸は検出されなかった。実生胚軸部からはカテキンを誘
導する可能性の高い Phomopsis 属糸状菌及び黒色の内生糸状菌が分
離され、ヒバ実生は、胚軸部の内生菌感染が関与した、カテキンに
よる Al 解毒機構を有することが示唆された。しかし、0、100、500
μ M の Al を添加した水耕培養液を使用し、最も高頻度に出現した
黒色内生糸状菌の実生への接種試験を 10 日間行ったところ、未接種
区と比べ、接種区の実生のカテキン含有量は増加しなかったため、
黒色内生糸状菌の感染は、短期間では実生のカテキン含有量に影響
しないことがわかった。よって、カテキンによる Al 解毒機構に関与
する内生菌は Phomopsis 属糸状菌である可能性が示唆されたが、水
耕培養液を使用した接種試験では短期培養しかできないという問題
点もある。現在長期培養を考慮に入れ、検討中である。
P1-051
P1-052
スーダン紅海沿岸域に生育するマングローブ植物
キク属植物の細胞内と細胞外に存在するフラボノイドの
(Avicennia marina (Forsk.) Vierh.) の樹形と葉の水利用
各種環境ストレスへの応答
特性の関係
* 上原歩(農工大・院・連合農),岩科司(農工大・院・連合農,科博・植物)
* 笠間融(三重大院・生物資源),松尾奈緒子(三重大院・生物資源),中
島敦(和歌山大・システム工),吉川賢(岡山大院・環境),縄田浩志(地
球研)
植物が合成するフラボノイドは様々な環境ストレスに対し、防御
物質として機能することが知られており、これまでに抗酸化活性や
紫外線の遮蔽などが報告されている。ほとんどの植物は細胞内にフ
ラボノイドを蓄積するが、いくつかの植物では細胞外(表皮の外)
に侵出させており、これらは紫外線防御や抗菌機能を持つ。これら
のフラボノイドの機能は蓄積箇所によって異なると考えられている
が、ストレスに対する応答が同じなのか、そうでないのかは知られ
ていない。
キク属植物(Chrysanthemum )は海岸や山地の岩場など、日当りの
良い環境に生育することから乾燥や紫外線などのストレスにさらさ
れている。これまでに演者らは日本産キク属植物の葉の細胞内およ
び細胞外に存在するフラボノイドを同定したが、今回はこれらの各
種環境ストレスに対する化学的な応答を検討する。
植物材料として、海岸に生育するアシズリノジギク、シオギク、
山地に生育するリュウノウギク、そして両者に生育するチョウセン
ノギクを用い、自然環境下でこうむると考えられるストレス(塩、
乾燥、紫外線)を栽培環境下で処理し、形態およびフラボノイドの
質的量的変動を対照区と比較した。その結果、いずれの種も物質の
質的な変化は認められなかった。量的な変動については、細胞内で
は一部の物質を特異的に増加、細胞外では特に塩および乾燥処理に
よってメチル化されたフラボノイドを一様に増加させる傾向がみら
れた。以上より、葉の細胞内と細胞外に存在するフラボノイドのス
トレスに対する応答は異なることが明らかとなり、細胞内では抗酸
化活性や紫外線の遮蔽物質として機能し、一方、細胞外では疎水性
の高い物質が乾燥や塩ストレスに対して応答したことから既知の作
用だけでなく、葉の水分保持にも機能していることが推察された。
スーダンの紅海沿岸域は高温且つ降水量の少ない環境であるため、
海水の塩分濃度が他の海域に比べて高い。こうした地域に生育する
マングローブ樹木の Avicennia marina は地際近くからいくつかの枝を
水平方向に伸ばし、樹高の低い形態をしている。また、不定根を伸
ばし、伏条更新することもある。また、同一の林分内でも個体サイ
ズが異なっている。このような樹形や個体サイズがこの地域の高温・
少雨・高塩分環境における生存戦略であるならば、樹形や個体サイ
ズによって葉の水利用特性に違いがあると考えられる。そこで本研
究では、スーダン紅海沿岸・ドンゴナーブ地区に自生する Avicennia
marina の高木 3 本、矮小木 3 本の枝の先端についている葉の光合成
速度や炭素安定同位体比 (d13C) を測定し、葉のガス交換特性や樹形
との関係を調べた。その結果、光飽和時の光合成速度は個体サイズ
による違いはみられなかった。しかし高温且つ降水量の乏しい環境
であるにも関わらず、他の降水量が多い地域と同程度のガス交換特
性であった。また、枝の先端の葉の d13C は枝の長さと正の相関があ
った。このことから枝が長いほど水利用効率が上昇することが示唆
された。
153
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-053
P1-054
アクアポリン RsPIP2;1 過剰発現ユーカリにおける成長
小笠原テリハハマボウの水利用戦略と乾燥立地への適応
や光合成機能への影響
才木真太朗 *,京都大学 生態学研究センター
* 北条謙弥(京都工繊大),河津哲(王子製紙・森林資源研),前島正義(名
古屋大・生命農学),半場祐子(京都工繊大)
小笠原諸島は火山活動により海中から隆起した海洋島であり、大
陸と陸続きになった歴史を持たない。そのため島の成立時には陸生
の植物が全く存在しておらず、他の陸地から植物の種子が散布され
島に到着し、定着し種分化が起き、現在の小笠原諸島の植物相が成
立したと考えられる。さらに、小笠原の夏の降水量は同緯度の沖縄
に比べて半分と少なく、降水は主にスコールか台風によって起こる
ため年間降水量の変動も大きいため植物は乾燥しやすい環境で生育
してきたと考えられる。
小笠原諸島に生育する固有種テリハハマボウは海流によって運ば
れてきたオオハマボウが起源で、オオハマボウが適応放散した結果
島の土壌が深く湿潤な谷部から土壌が浅く乾燥した尾根部にかけて
樹高を最小 1m から最大 16m もの幅で変化させながら広く分布して
いる。乾燥勾配に沿ってテリハハマボウの形態特性(樹高、木部道
管サイズなど)、生理特性(葉の水ポテンシャル、枝の通水量など)
を比較した。
乾燥勾配に沿って土壌は浅く樹高は低くなり葉は厚くなり幹の
木部道管の大きさは小さくなる傾向がみられた。Predawn の葉の水
ポテンシャルは夏の 7 月で最も低く、土壌の浅いところでは特に低
かった。これは 7 月が最も乾燥している時期であること、土壌の
浅いところがより乾燥しやすいことを示している。7 月に測定した
Midday の葉の水ポテンシャル、Amax、gmax の値は乾燥勾配に関係
なくほぼ一定であった。
以上から、土壌の浅いところでは夏の短い期間の乾燥による制限
を受けて形態の変化が起きているのだろう。大会ではさらに乾燥勾
配に沿った枝の通水性についても考察していく。
ユーカリは製紙原木として現在最も広い栽培面積をもつ植物であ
り、その種類は数百種類と言われており、遺伝的多様性に富む植物
である。中国、インド、ロシアなどの発展途上国における人口増加
の懸念から紙の需要増大が予測され、作付面積の増加と同時に面積
当たりの生産量の増大、すなわち高成長性が求められる。そこで、
水透過性と CO2 透過性を有するとされる膜局在型タンパク質のアク
アポリンに着目し、先行研究ではアクアポリンを過剰発現させた形
質転換体において、成長速度 (Aharon et al. 2003) と光合成速度の向上
(Hanba et al. 2004;Flexas et al 2006) が報告されており、植物の高成長
性を実現できると示唆されている。本研究では二十日大根由来のア
クアポリン RsPIP2;1 を導入した形質転換ユーカリ 2 系統 (PIP2-10、
PIP2-9) と、非形質転換体とを用いて成長や光合成機能について比較
し、アクアポリン導入の有用性について考察した。ユーカリの成長
については 45 日間での枝の伸長、幹の直径の増大、樹高の増大につ
いて測定したが、形質転換系統と非形質転換系統に有意な差はみら
れなかった。また、光合成能力については十分に展開した任意の 1
枚の葉を選び、Li-6400 を用いて光 - 光合成曲線を得たが、これに関
しても、形質転換体と非形質転換体に有意な差はみられなかった。
P1-055
P1-056
日本に生育するカヤツリグサ科植物のダウシフォーム根
異なるリン可給性の熱帯林における優占樹木の実生成長
形成に土壌リン濃度は影響するか
速度と個体レベルの資源 ( 光、リン、窒素 ) 利用効率
* 枡田元気,(広大院・生物圏),白川勝信(高原の自然館),和崎 淳(広
大院・生物圏)
青柳亮太(京大・農)*,北山兼弘(京大・農)
東南アジア熱帯林で優占するフタバガキ科の樹木では、光の利用
戦略が多様化しており、耐陰性や成長速度が同所的に共存する種間
で大きく異なることが知られている。一方で、リン・窒素といった
ミネラルの利用戦略が、土壌の可給性の変化と共にどう変化するの
か、ほとんど分かっていない。しかし、フタバガキ科の多くの種が
土壌タイプに特異性を示すことが経験的に分かっており、フタバガ
キのミネラルの利用戦略は、それらの可給性の変化と共に動的に変
化すると考えられる。そこで本研究では、リン可給性の異なる森林
で優占するフタバガキを対象に、成長に対する資源利用戦略(生産
効率、吸収効率)について調査を行った。
リン可給性の大きく異なる2つの森林 ( 富栄養、タワウ国立公園;
リン欠乏、デラマコット森林保護区、マレーシア、サバ州 ) で、ギ
ャップ / 林冠下のフタバガキ実生を対象に調査を行った。2011 年 10
月から半年毎に 1 年間センサスを行い、相対成長速度を調べた。ま
た、実生の掘り取りを行い、葉・茎・根のリン・窒素濃度を測定した。
そこから、個体レベルの生産効率 ( バイオマス増加速度 / 葉のリン・
窒素量 ) と吸収効率 ( リン・窒素同化速度 / 根バイオマス ) を計算した。
富栄養の森林で優占する種は、リン欠乏の森林に比べて、相対成
長速度が高かった。葉のリン濃度は、リン欠乏の森林ではギャップ
下で低下したが、富栄養の森林では高まった。葉の窒素濃度は、両
森林共にギャップ下で高まった。また、同じ成長速度の場合、リン・
窒素の生産効率は富栄養の森林で高い一方、吸収効率はリン欠乏の
森林で高かった。富栄養の森林では、葉の栄養塩濃度、生産効率が
上昇することで高い成長速度を示すと考えられた。一方、リン欠乏
の森林では、吸収効率が高まることによってリン欠乏による成長速
度の低下を防いでいることが示唆された。
ダウシフォーム根とはカヤツリグサ科植物にみられる特殊な形状
の根で、側根に対して無数の根毛が密生した房状の構造をとる。ダ
ウシフォーム根の特徴として、水耕栽培実験下では低いリン濃度に
反応して形成されることや、土壌中の難溶性金属態リンを溶解する
有機酸や有機態リンを分解する酸性ホスファターゼの根からの分泌
能が通常の根よりも高いことが知られている。しかし、実際の土壌
中ではリター由来の有機物の多い土壌表層にダウシフォーム根が有
意に多く分布することがわかっているが、ダウシフォーム根の形成
が実際の土壌のリンの濃度や形態にどのような影響を受けているか
よくわかっていない。また、これまでダウシフォーム根に関する研
究は西オーストラリアの低リン土壌に自生する種を中心に行われて
おり、日本に自生する種に関する研究はほとんどない。そこで、本
研究では広島県および岡山県に分布するカヤツリグサ科植物 13 種を
対象とし、植物体およびこれらが生育する地点の土壌を採取し、ダ
ウシフォーム根形成の有無と植物体リン含有率および土壌有効態リ
ン濃度 (Bray Ⅱ法 ) を調べた。その結果、ノグサ (Schoenus apogon
Roem. & Schilt.)、イガクサ (Rhynchospora rubra (Lour.) Makino)、ナキ
リスゲ (Carex lenta D. Don) の 3 種で採取時にダウシフォーム根形成
が確認され、これらの採取地における土壌有効態リン濃度は他の 10
種が生育する土壌よりも低かった。さらにナキリスゲ 1 種を対象に
広島県南部の 14 地点において同様な調査を行うとダウシフォーム根
形成の有無や数は調査地点によって異なっていたため、土壌有効態
リン濃度、土壌全リン濃度、土壌 pH といった土壌特性から検討し
た結果について報告する。
154
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-057
P1-058
落葉広葉樹稚樹の形態的・生理的特性の季節変化が林床
長短期塩分ストレスに対するヒルギダマシ(Avicennia
marina (Forsk.) Vierh.)の葉の炭素・酸素安定同位体
での光合成生産量に与える影響
比の応答
* 山田晃嗣(岐阜大・応用生物),村岡裕由(岐阜大・流域圏セ)
* 齋木拓郎(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大院・生資),野口よしの(兵
庫県大),宮田慎吾,谷口真吾(琉球大・農),山中典和(鳥取大・ 乾地研)
山田晃嗣 ( 岐阜大・応用生物 )、村岡祐由 ( 岐阜大・流域圏セ )
林床に入射する光は林冠上と比較して非常に限られており、林床
植物の成長には効率的な受光と光合成生産が重要である。本研究で
は、落葉広葉樹林の林床に生育する落葉広葉樹 3 種の稚樹の受光体
制 ( 葉の配向 ) と光合成特性が、光環境の季節変化に対して季節ご
とに馴化するという仮説を立てて、野外観測とモデルシミュレーシ
ョン (Y-Plant) により個体レベルの光合成量を検討した。
2012 年 5 月中旬から 9 月上旬に岐阜県高山市の冷温帯落葉広葉樹
林の主要樹種であるミズナラ、オオカメノキ、ウリハダカエデの稚
樹 10 個体ずつを対象とした。約 2 週間おきに各個体の植物体地上部
の構造的特徴 ( 葉身と葉柄、茎のサイズと配向 ) を計測し、さらに光
環境の解析のために全天写真の撮影を行った。また同様の稚樹 3~5
個体を対象として光―光合成曲線の測定を行った。
稚樹の光環境は林冠木の展葉とともに減少した。各稚樹の葉面の
配向は全個体において季節変化がみられ、展葉期には多くの個体で
東側への配向がみられた。オオカメノキの最大光合成速度 5 月に最
も高く、ミズナラでは 7 月中旬が最も高くなり、ウリハダカエデで
はほとんど変化がなかった。
Y-Plant モデルを用いた解析により次の結果が得られた。(1) 各測
定日の形態を全ての調査日の光環境に対して適用して受光量を計算
すると、5 月下旬から 6 月上旬までの葉の配向の変化は受光量を増
やした。その後の形態変化は受光量にほぼ影響を与えなかった。(2)
各測定日の光―光合成曲線を全ての調査日の光環境と形態に適用し
て光合成生産量を計算すると、どの調査日の光環境に対しても、ミ
ズナラとウリハダカエデは 9 月の光―光合成曲線が最も効率的であ
り、オオカメノキは 7 月の光―光合成曲線が最も効率的であった。
長期平均的な水利用効率を反映する葉の有機物の炭素安定同位体
比 ( δ 13Com) と長期平均的な気孔コンダクタンスを反映する葉の酸素
安定同位体比と茎内水の酸素安定同位体の差 ( ∆ 18Oom) が塩分ストレ
スに対してどのように応答するのかを解明するため,ヒルギダマシ
の稚樹に 0,1,3%NaCl 溶液を与える実験を琉球大学農学部ガラス
室で行った.さらに,沖縄県うるま市洲崎の高塩分区と低塩分区に
生育するヒルギダマシの成木を対象に,葉のδ 13Com と∆ 18Oom を測定
した.ヒルギダマシの稚樹のδ 13Com は塩水付加後に展開した葉では
高濃度処理個体ほど高くなったのに対し,塩水付加前に展葉した葉
では濃度間で差がなかった.また,∆ 18Oom は塩水付加前に展開した
葉では濃度間で差がなかったのに対し,塩水付加前に展開した葉で
は高濃度処理個体ほど低くなった.一方,瞬間的な光合成速度と気
孔コンダクタンスは展葉時期に関らず高濃度処理個体で最も低かっ
た.したがって,水利用効率や気孔コンダクタンスは塩分ストレス
に応答していたが,葉の展葉時期によっては安定同位体比に反映さ
れない事が分かった.野外の高塩分区と低塩分区のδ 13Com と∆ 18Oom
を比較すると平均値には差がなかったが,ばらつきは低塩分区の個
体の方が大きかった.これは,低塩分区の個体の方がサイズが大き
いため,通水抵抗が大きいことに起因すると考えられた.
P1-059
P1-060
熱画像と茎熱収支法を用いたクズ (Pueraria lobata ) の
窒素安定同位体比を用いた土壌塩類集積地における塩生
ラメット間の水移動の定量化
植物と土壌間の窒素循環の解明
* 神山 拓也,田中 隆文,山内 章(名大・農)
* 小瀬雄太(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大院・生資),岩永史子(九
州大・演習林),エリジャン・マイマイティ,山中典和(鳥取大・乾地研)
ラメットが連結しているクローナル植物は、ラメット間で水分を
相互分配することが知られているが、非破壊的にその量を測定した
報告は少ない。これまで、茎中の水流量を定量的に評価するために
は、茎熱収支法が用いられてきた。そして、私達は、茎熱収支法を
応用し、熱画像によって茎の中の水移動を視覚的に捉え、その画像
解析により蒸散流量を定量化できることを明らかにしてきた。本研
究では、この手法を用いて非破壊的かつ定量的に生理的統合による
水流量を測定し、その水による生理機能向上効果を調べることを目
的とした。ポットを用いて 6 対 (12 個体 ) を生育させ、ラメットの
連結した区としていない区を 3 対ずつ設け、両区とも片方のポット
の土壌を乾燥させた。そして、ラメット間の水移動量を上記の手法
により視覚化、定量化し、その水による生理機能向上効果を水消費量、
葉身水ポテンシャル ( Ψ )、気孔コンダクタンス (gs)、蒸散速度 (Tr)、
光合成速度 (Pn) を計測することにより調べた。片方の土壌が乾燥し
ていくにつれ、ラメットの連結した区の湿潤条件下のラメット ( 湿
潤ラメット ) から乾燥条件下のラメット ( 乾燥ラメット ) へと水流量
が 0 から 3 mg s-1 まで増加していき、その様子を視覚化することに
成功した。また、ラメットの連結した区の湿潤ラメットの水消費量
は、連結していない区のラメットの値に比べて 2 倍以上大きかった。
さらに、ラメットの連結していない区の乾燥ラメットのΨ、gs、Tr、
Pn は、両区の湿潤ラメットの値に比べ著しく低下したのに対し、連
結した区の乾燥ラメットは、それらと同程度の値を示した。以上よ
り、片方の土壌が乾燥していくにつれ、ラメットの連結した区の湿
潤ラメットから乾燥ラメットへの水流量が増加し、その水によって、
その乾燥ラメットの生理機能が向上することが明らかとなった。
近年,乾燥地において土壌塩類集積による植生の荒廃が深刻な
問題となっているが,こうした地域は植物の利用可能な窒素量も極
めて少ない.そのような環境でも生育できる塩生植物を植生の修復
に利用するため,それらの窒素吸収メカニズムの解明が重要な課題
となっている.本研究では,植物体の有機物中の窒素安定同位体比
(d15N)がその植物の窒素吸収源の d15N を反映していることを利用し
て,中国新疆ウイグル自治区の北西に位置するアイディン湖(塩湖)
付近の塩分の析出状態や植生が異なる 4 サイトにおいて塩生植物の
葉と周辺土壌の d15N を測定し,それらの窒素利用様式について考察
した.
その結果,Tamarix- hispida では葉の d15N が土壌中の全窒素の d15N
とほとんど同じ値かやや低い値であったのに対し,その他の 4 樹種
では葉の d15N が土壌の全窒素の d15N よりも高い値であった.これら
の傾向と土壌中の塩分濃度には関係がなかった.したがって,本調
査地の T. hispida 以外の塩生植物は土壌塩分濃度に関わらず,d15N の
高い窒素プール(アンモニア態窒素)を利用していることがわかった.
それに対して,T. hispida は d15N の低い窒素プール(硝酸態窒素)と
d15N の高い窒素プール(アンモニア態窒素)の両方を利用しており,
両者の寄与率は生育環境によって変動する可能性が示唆された.
155
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-061
P1-062
最大樹高の異なる広葉樹 15 種のシュート解剖特性・成
光合成速度が高い種は窒素吸収速度も高いだろうか?
長パターンの比較
* 岩瀬祐也,上田実希,彦坂幸毅(東北大・生命)
* 齊藤わか(京大・森林生態)・長田典之(京大・フィールド研)・北山兼
弘(京大・森林生態)
植物は炭素や窒素を用いて新たな葉を構築するが、この炭素は光
合成により同化したものであり、窒素は主に根で吸収したものであ
る(古葉からの転流も含まれる)。光合成速度が高い種においては同
化される炭素量が多く、葉へのバイオマス分配も多いと考えられる
ため、相対的に窒素が薄まり、ひいては葉窒素濃度も低くなると考
えられる。しかし、実際には光合成速度が高い種は葉窒素濃度も高
い。これは光合成の生化学的メカニズムからすれば当然だが、先述
の新葉構築メカニズムからすると疑問が残る。この疑問を解決する
ため、「光合成速度が高い種は根における窒素吸収速度も高いのでは
ないか?」という仮説の下、研究を行った。
本研究では落葉木本4種・常緑木本4種・一年生草本2種・多年
生草本2種を用いて、最大光合成速度、葉窒素濃度、根表面積、器
官ごとのバイオマス分配などを測定した。無機窒素吸収速度は、根
切片にアンモニウム態あるいは硝酸態の 15N を与え、吸収量を測定
することで決定した。
その結果、光合成速度が高い種はアンモニウム態窒素の吸収速度
も高いという結果が得られた。また、対象種からオオオナモミを除
いて解析を行うと、光合成速度とアンモニウム態窒素吸収速度の間
の相関は強くなり、硝酸態窒素吸収速度とも相関が検出された。
本研究より、光合成速度が高い種は根における窒素吸収速度も高
いということが分かった。しかし、光合成速度が高い種が葉窒素濃
度も高い理由は高い窒素吸収速度以外にもあると考えられる。
樹高成長は樹木の光獲得のため重要である。一般に、同じ光条件
の幼樹では遷移初期種の方が後期種より樹高成長速度が大きく、同
一種内では樹高の増加とともに樹高成長速度は減少する。樹高成長
速度は樹冠最上部のシュート伸長量に相当する。シュートを構成す
る細胞のサイズが大きくなるか数が増えることによって、シュー
トは大きくなる。大きな細胞は細胞壁量に対し内腔が広く低密度の
材になるが、耐乾性は低い。そのため、幼樹より水ストレスが大き
くなりやすい成木では、シュートの細胞が幼樹と比べ小さくなる
(Woodruff et al. 2008)。このような細胞レベルの変化がシュート伸長
量と対応している可能性があるが、シュート形状 ( 長さ・直径 ) や
材密度等と細胞の量や質との関連、その種間差は不明である。発表
者らは以下の仮説をたてた。
①樹高成長速度に対応して、低木種では高木種よりも急激に樹高
に沿って細胞が小さくなり、この結果シュートが小さくなる。
②同程度の最大樹高をもつ種間においては、幼樹では遷移初期種
の方が後期種よりも大きな細胞で大きなシュートを作るが、成木で
は細胞サイズ・シュート形状に差はなくなる。
京大上賀茂試験地に共存する 15 樹種を対象として、各種の幼樹か
ら成木の約 10 個体について、樹冠最上部シュートの長さ・直径・材
密度、葉・枝の表皮と維管束の細胞サイズ・数を計測した。
この結果、①シュート形状・材密度、細胞サイズ・数は、低木種
より高木種で急激に樹高に沿って変化した。②幼樹・成木の両方で、
シュート形状、細胞サイズ・数には種の耐陰性による差がなかった。
発表ではこれらの結果について考察するとともに、細胞サイズ・数
からシュート形状や組織の空隙率を予測し、細胞の性質と樹高成長
の関係を議論する。
P1-063
P1-064
高 CO2 における競争環境で適応的な性質は何か:シロ
高緯度北極に生育する地衣類の水利用と光合成活動の解明
イヌナズナジェノタイプ間の競争実験
* 井上 武史(総研大),工藤 栄(総研大,極地研),内田 雅己(総研大,
極地研),田邊 優貴子(東大),小杉 真貴子(極地研),井上 正鉄(秋大),
神田 啓史(極地研)
* 今野晋太朗,小口理一,尾崎洋史(東北大・生命),松島野枝(国立環境研),
河田雅圭,彦坂幸毅(東北大・生命)
高緯度北極に生育する地衣類の光合成活動は生育可能期間の水制
限下にあると指摘されているが、野外環境下での水利用と光合成活
動の実態は明らかでなかった。本研究は高緯度北極ニーオルスン東
ブレッガー氷河後退域の無雪期間において優占地衣類 5 種の着生基
物の違いや地衣体外部・内部形態差による水環境の差と光合成活動
の関係解明を目指した。調査域の無雪期間には微量の降雨が 1 週間
程度の間隔で生じ、降雨停止から数日で大気中湿度は低下し、ほと
んどの地表構成要素中の自由可動水が失われていた。降雨後数日間
は、表面積 / 乾重の大きな樹枝状地衣 4 種は夜間から早朝の弱い光
環境で、周期的に湿度飽和となる大気から水蒸気を獲得し含水比を
高めて光合成を行っていた。これに対し、最も湿潤な環境をつくる
クラストに広い面積で着生する固着地衣 Ochrolechia frigida は着生基
物から水が供給され、日中の強光時にも光合成が保たれていた。吸
水状態での地衣類の光光合成応答性は共生藻の特徴が強く表れ、樹
枝状地衣 4 種は弱光適応型、O. frigida は強光適応型の応答を示した。
樹枝状地衣 Cladonia 属の共生藻は地衣体表面に配置され、低含水比
でも光合成を停止させないのに対し、樹枝状地衣他 2 種の共生藻は
保水効果をもたらす上皮・下皮構造に囲まれた髄層中に配置され、
光合成が停止する含水比は Cladonia 属の共生藻に比べ大きなもので
あった。また O. frigida の共生藻は上皮構造によって大気側が遮断さ
れ、低含水比時で最も光合成を停止させない性質を示した。以上の
結果より、無雪期間乾燥化進行時での地衣類の光合成活動は外囲水
環境への接し方とその調和的な共生関係によって営まれているもの
と結論される。
大気中の CO2 濃度は増加している。CO2 の上昇によって、植物は
光合成が促進されるなどの影響を受ける。とくに C3 植物では、成
長や適応度の増加の傾向がみられるが、その応答は種や条件によっ
て大きく異なる。そのため、将来の生態系の種組成は大きく異なる
だろう。
本研究では、高 CO2 における競争において重要な性質の探索を目
的とした。野外などでは他個体との相互作用の影響があるため、孤
立状態で高いパフォーマンスを示すものでも、競争下で有利になる
とは限らない。そのため、孤立個体の高 CO2 への応答だけでなく、
競争環境での応答も多く研究されており、CO2 上昇によって競争の
結果が変化することが分かっている。このような先行研究の多くは、
2 種を競争させた研究である。2 種間の競争実験も重要であるが、2
種間に様々な性質の違いがあり、どの性質が競争で重要なのかを知
ることは難しい。そのため、本研究ではシロイヌナズナの 20 ジェノ
タイプの種子を 10 個ずつポットにランダムに蒔き、人工気象室を用
いて二つの CO2 濃度×二つの栄養塩濃度で生育する競争実験を行っ
た。そして、そのような競争的な環境下で勝った個体がどのような
性質をもっているか調査する。ジェノタイプごとの性質は、孤立で
生育した個体の成長解析データやガス交換データを用いる。
生育実験は終了し、現在は競争に勝った個体・負けた個体を識別
するためのジェノタイピングを行っている。本研究では、それぞれ
の環境で競争に勝ち残る上でどのような形質が重要かを解析した結
果を報告する。
156
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-065
P1-066
雌雄異株植物において開花フェノロジーの性差はなぜ存
風媒草本ブタクサの開花時期と草丈にかかる選択圧
在するのか?
* 中原 亨,深野祐也(九大・シス生),矢原徹一(九大・理)
* 松久聖子,丑丸敦史(神戸大・人間発達環境)
動物媒の花では、媒介者を通じた花形質への自然選択がさかんに
研究されているが、風媒花の形質にかかる自然選択の研究はほとん
どない。本研究では、風媒花・雄性先熟・自家不和合性一年草ブタ
クサ Ambrosia artemisiifolia を材料として、形態形質とフェノロジー
形質にかかる選択圧の測定を試みる。本発表では、種子生産 ( メス
適応度 ) の測定結果にもとづいて、「雌花開花日が遅い方が(繁殖開
始サイズを大きくする点で)種子生産が大きい」「開花開始日のサイ
ズが大きい(草丈が高く草幅が広い)ほうが種子生産が大きい」と
いう 2 つの仮説を検証する。我々は、実験集団として圃場にブタク
サの鉢植えを等間隔に並べて栽培し、7~10 月の間に形態形質 ( 草丈・
草幅・茎の直径・最大葉の長さ ) と、フェノロジー形質 ( 花芽形成日・
雄花開花日・雌花開花日 ) を測定した。開花期終了後は種子を回収し、
各個体で生産された種子の総重量と個数を記録した。さらに、測定
した各形質値を説明変数、種子重量や種子数を応答変数とし、GLM
を用いて選択勾配分析を行った。解析の結果、雄花開花日・雌花開
花日はメス適応度に有意に影響しており、開花日が遅いほど種子生
産が減少するという方向性選択が見られた。一方で、背丈・草幅な
どの形態形質は種子生産に影響していなかった。また、種子生産と、
開花時の草丈・草幅の間には相関はなかった。これらの結果から、
上記の 2 つの仮説は支持されなかった。今後は父系解析を行い、「オ
ス適応度の点では雄花開花日は早い方が適応的である」「オス適応度
の点では草丈が高く草幅が狭いほうが適応的である」という仮説を
検証する。
雌雄異株植物の性的二型性の中で、繁殖特性における開花スケジ
ュールについては、あまり研究が進んでいない。本研究は、モチノ
キ科モチノキ属の3種であるソヨゴ、イヌツゲ、ウメモドキを対象に、
開花スケジュールの特質において、特に個花の寿命と開花の同調性
になぜ性差が生じるのか、花のディスプレイサイズと訪花数の関係
に注目して明らかにすることを目的とした。
一般的に、メスは、ディスプレイサイズに対する訪花数が加速も
しくは比例増加することが多いため、長い寿命の個花を高い同調性
によって開花させ、大きなディスプレイサイズを維持することが適
応的だと予測される。一方オスは、ディスプレイサイズに対する訪
花数が頭打ちになるために、短い寿命の個花を低い開花同調性によ
って入れ替えるのが適応的だと予測される。これらの仮説を検証し、
ディスプレイサイズに対する雌雄の繁殖成功も確認した。開花スケ
ジュールは、個花の寿命、開花の同調性に加え、一日あたりの最大
開花数、開花開始、開花継続期間も調べた。
開花スケジュールの性的二型性は、予測どおり、雌は長い個花の
寿命&高い同調性、雄は短い個花の寿命&低い同調性であった。デ
ィスプレイサイズに対する訪花数(シュートあたり・花あたり)は、
メスは比例増加・一定、オスは減速増加・減少であり、予測どおり
であった(ソヨゴとウメモドキ)。雌雄の繁殖成功については、ディ
スプレイサイズに対する結果率は増加(ソヨゴとウメモドキ)、花粉
の持ち去られ量(ウメモドキのみ調査)は減速増加であった。以上
の結果から、開花スケジュールの性的二型性は、雌雄それぞれにと
って適応的であると考えられる。
P1-067
P1-068
Contribution of root-tubes in the regeneration of Lithocarpus
一回繁殖型多年生植物オオウバユリにおける繁殖戦略の
glaber
集団間変異
Elias Thiam*, Yushi Takaoka and Tsuyoshi Yoneda, Kagoshima University
* 田中絢子,早船琢磨,大原雅(北大・院・環境科学)
Abstract
Lithocarpus glaber (L glaber ) has an unusual feature with root-tubes
(Yoneda et al. 2009) and shows good capabilities of regeneration (Wang
et al. 2007) and competition. We examined living strategy of L. glaber at
seedling stage, especially. The purpose was to determine the biological
function of root-tubes under stressful conditions. Experiments were
conducted at the nursery of Kagoshima University in Korimoto campus.
Two and three-years old seedlings were used during 6.5 and 9.3 months,
respectively. They were distributed into the following four treatments:
control (Cl), tube cut (Tc), shoot cut (Sc), shoot and tube cut (STc) before
planting under different light conditions for each category. Root-tubes had a
positive effect on life history strategy while the presence of shoots could act
negatively. Survivals of Cl and Sc tended to be higher in all sites. Seedlings
previously grown in stressful sites exhibited different adaptation capabilities
and survival rates. A positive correlation could be detected between sizes of
storage organs (root-tubes) survival rates and growth rates. Root-tubes and
thick coating of seeds could be major factors regulating adaptability of L.
glaber under stressful conditions.
Key words: growth, root-tubes, shoots, sprouting ability, survival, weight
オオウバユリは、長い栄養成長期間を経た後一度の開花、結実で
枯死する一回繁殖型多年生植物である。オオウバユリは花による種
子繁殖と伴に、地中での娘鱗茎形成による栄養繁殖も行う。これまで、
北海道各地の集団の繁殖特性を調査したところ、開花個体サイズが
小さく(個体当りの花数が少ない)遺伝的多様性が高い集団と、開
花個体サイズが大きく(花数が多い)遺伝的多様性が低い2つのタ
イプの集団が存在すること、さらに一回繁殖型であるにもかかわら
ず、この特徴は集団として毎年維持されていることが分かった。そ
こで本研究は、両タイプからそれぞれ3集団を選択し、各集団で開
花個体サイズと遺伝的多様性が維持されている要因を明らかにする
ことを目的として行った。遺伝的多様性が異なる要因として、種子
繁殖に着目し、送粉昆虫による花粉の移動距離、実生数、実生の遺
伝的多様性の調査を行った。花粉の移動距離の計測には蛍光パウダ
ーを疑似花粉として用い、また、遺伝的多様性の評価には SSR マー
カーを用いた。その結果、開花個体の遺伝的多様性が高い集団がよ
り送粉距離が大きく、実生数も多かった。しかし、実生の遺伝的多
様性に関しては、集団間で明瞭な差異は認められなかった。
遺伝的多様性が高い集団は、開花個体サイズは小さいものの、比
較的集団サイズが大きい特徴を示す。従って、送粉者がより多くの
個体を訪れることにより花粉の移動が生じ、多くの他殖種子が生産
されることで、開花個体の遺伝的多様性が高く維持されていると考
えられる。一方、開花個体サイズが大きい集団では、比較的集団サ
イズが小さいため、昆虫による花粉媒介も低頻度と考えられる。従
って、種子繁殖による次世代個体の生産が少ないため、もう一方の
繁殖様式である栄養繁殖がより集団維持に寄与していることにより
遺伝的多様性が低い可能性が考えられる。
157
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-069
P1-070
生育地の分断化がオオバナノエンレイソウの集団維持に
シロダモにおける成熟雌雄の分布と稚樹の出現密度
及ぼす影響 ~開花個体密度と花粉動態及び繁殖成功の
* 秋保開祉(新潟大・農),紙谷智彦(新潟大院・自然科学)
関係に着目して~
人為的な開発による生育地の分断化は、一時的に植物集団の個体
数を減少させるだけではなく、種子生産量や遺伝的多様性の低下な
ど、集団維持に影響を及ぼす。本研究の対象種のオオバナノエンレ
イソウは落葉広葉樹林の林床に生育する虫媒の多年生植物である。
また、北海道に生育するオオバナノエンレイソウは自家和合集団と
自家不和合集団が地域分化しており、自家不和合集団は日高・十勝
地方に生育する。十勝地方は 19 世紀後半から農地開発が行われ、オ
オバナノエンレイソウが生育していた森林の多くが伐採されたため、
森林は幾つかの林に孤立・分断化し、オオバナノエンレイソウもそ
のような林に残存している。先行研究から、個体数の少ない小集団
では個体数の多い大集団に比べて種子生産量が少なく、さらに開花
個体、種子、実生の各生活史段階の遺伝的多様性も低下することが
示されている。これは、個体数が少ないことで訪花昆虫を誘引する
魅力が低下し、花粉流動量が低下したことに起因すると考えられる。
そこで本研究は、開花個体密度の違いによる花粉動態や繁殖成功を
調査し、開花個体から種子へ生活史段階の進行に伴う種子生産量や
遺伝的多様性低下の要因を解明することを目的とした。開花個体密
度の違いによる直接的影響を調べるため、生育環境や訪花昆虫相が
同じ集団内に開花個体密度の高い「高密度区」と開花個体密度の低
い「低密度区」の 2 つの調査区を設定し、それぞれで花粉移動距離、
昆虫の訪花頻度、結果率、結実率を調査した。
その結果、低密度区では高密度区よりも、訪花頻度、結果率、結
実率が顕著に低いことが明らかになった。従って、自家不和合性で
孤立・分断化したオオバナノエンレイソウ集団では、開花個体数の
減少により訪花昆虫への魅力が低下し、個体間での花粉流動が低下
することで、充分な種子生産が行われなくなっていると考えられる。
シロダモ (Neolitsea sericea ) は雌雄異株の植物で、虫媒花粉が雄株
から雌株への一方向であり、雌株のみが種子散布に寄与する常緑高
木である。これまで、雌株は雄株からの距離が概ね 30m 以内で効率
良く果実生産を行い、パッチ状群落を形成することが明らかになっ
ている(Arai & Kamitani 2005)。本研究は、シロダモが生育域を拡大
する過程で、成熟雌雄の位置が稚樹密度に及ぼす影響を明らかにす
ることを目的とした。
調査地は新潟市の砂丘上に造成されたクロマツ海岸林で、西端が
角田山の自然林に接しており、シロダモは鳥散布によって海岸林へ
侵入し生育域を拡大している。そこで、角田山から 1.3、2.7、3.7、
5.1、8.6km の5地点に 10m × 125 mの稚樹調査区を設置し、5m ×
5m の調査枠に区切った。各調査枠に出現したシロダモは樹高および、
樹高が 2m 以上の個体の胸高周囲長を測定した。また、稚樹調査区
を含む 30m × 145m の成熟個体調査区を設置し、開花期に成熟雌雄
を判別し位置を記録した。雌株については果実数をカウントした。
その結果、林分単位で雌株数と積算果実数の間に有意な相関があ
った。また、雌株数が増加すると稚樹密度は指数関数的に明瞭に増
加した。一方で、雌株の果実数はサイズ(胸高周囲長・樹高)との
相関が無く、十分な成熟サイズに達しているにも関わらず、果実が
無いまたは少ない雌株があった。そのような個体の近くには、しば
しば雄株が無かったことから、成熟した雌株の果実数は成熟した雄
株からの距離が制限要因になっていると考えられた。
以上の結果から、林分レベルにおいてシロダモの稚樹密度は成熟
雌株本数から推定が可能であるが、果実生産は雄株からの距離によ
る制限を受けるために、成熟雌株のサイズには依存しないことも明
らかになった。
P1-071
P1-072
大台ケ原衰退林におけるトウヒの遺伝構造と繁殖に及ぼ
雌雄異株低木ハナイカダの生活史戦略
す立木密度の影響
* 戸塚聡子(新潟大・自),本間航介(新潟大・農),崎尾均(新潟大・農)
* 渡辺崇史,大原雅(北大・院・環境科学)
* 金森たみ子(三重大・生資),大江未奈美(三重大・生資),前田亜樹
(三重大・生資),中井亜理沙(三重大院・生資),津田吉晃(Uppsala
Univ.),石田清(弘前大),木佐貫博光(三重大院・生資)
植物集団において,花粉飛散による遺伝子流動は,集団の遺伝的
多様性に大きな影響を及ぼす.また,風媒性樹木においては,立木
密度が花粉飛散に影響を与える.奈良県大台ケ原では,かつて東部
の高標高域を広く覆っていたトウヒ林の立木密度が顕著に低下する
など,森林の衰退が深刻である.本研究では,大台ケ原で立木密度
が異なる 2 つのトウヒ林分において,成木の遺伝構造ならびに立木
密度がトウヒの他殖率などに及ぼす影響を調査した.立木密度が比
較的高い林分(約 1.2 ha)と,比較的低い林分(約 1.5 ha)で,合計
23 個体の母樹それぞれの,半径 30m 内における,トウヒ成熟個体だ
けの局所的な立木密度と,林冠に到達している全樹木の局所的な立
木密度を測定した.母樹からそれぞれ 30 個の種子を発芽させた実生
について,8 遺伝子座でマイクロサテライト解析を行い,他殖率,2
親性近親交配率を算出した.また,種子の父親を推定し,花粉飛散
距離を算出した.調査区のトウヒ成熟木について同様のマイクロサ
テライト解析を行い,遺伝構造を調べた.局所的なトウヒ成熟木の
立木密度と他殖率の間には,いずれの林分においても相関がみられ
なかった.局所的な全樹木の立木密度と他殖率との間も相関は認め
られなかった.また,両林分ともに 2 親性近親交配は確認できなか
った.一方,花粉飛散距離には林分間で差が認められ,飛散距離は
疎な林分の方が密な林分よりも長かった.成木の空間遺伝構造につ
いては,疎な林分ではランダムな遺伝構造であり,密な林分では約
35m 以内で正の,約 75m 以上で負の遺伝構造がみられた.このよう
に立木密度は花粉流動に影響を及ぼすものの,繁殖成功のパラメー
ターには顕著な影響はみられなかった.
158
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-073
P1-074
センダングサ属における繁殖干渉の実態と分布変遷に関
雌雄異株植物ヒメアオキの群落拡大様式の性差 ‐ 雌雄の
わる要因について
光合成と伏条特性の検討から
吉崎雄宏(滋賀県大・環境)
* 高尾実可子,蒔田明史,松下通也(秋田県大・生物資源)
近年、植物において外来種による在来近縁種の駆逐には、外来種
による繁殖干渉(花粉干渉)が大きく影響していることが指摘され
るようになり、実証研究も少数の種でなされている。本研究では、
センダングサ属のアメリカセンダングサ、コセンダングサ種群、セ
ンダングサの系における、繁殖干渉の実態を実験と野外調査によっ
て調べた。
アメリカセンダングサ、コセンダングサ種群(コセンダングサ、
コシロノセンダングサ)、センダングサを栽培し、人工的に他種の花
粉を付け、結実率が低下するかどうかを調べた。また、野外で自生
している個体の結実率と周囲に生育する近縁他種の割合との関係を
調べた。以上の調査から、各種間における繁殖干渉の有無、影響の
強弱を考察した。
実験において、センダングサにアメリカセンダングサの花粉を付
けた時、センダングサの結実率が低下したため、センダングサはア
メリカセンダングサから繁殖干渉の影響を受けている可能性が強く
示唆された。
雌雄異株植物では、雄と雌とで繁殖にかけるコストが異なると言
われており、一般に繁殖コストは雌のほうが大きい場合が多い。こ
の繁殖コストの雌雄差が、成長などの個体群動態における雌雄差や
性比の偏りをもたらすと考えられている。ヒメアオキは匍匐形態を
とる雌雄異株の常緑低木種で、積雪の圧力などにより地面に接地し
た茎から発根することができ、クローン繁殖によって群落を形成す
る。本調査地である十和田湖甲岳台ブナ林では、1995 年におきたチ
シマザサの一斉開花・枯死により林床が明るくなった後、ヒメアオ
キの群落が広がったと考えられる。本研究ではヒメアオキの性判別
調査、幹のバイオマス測定、および挿し木実験により伏条特性を雌
雄で比較し、群落拡大様式に性差が見られるか検討した。
林内に 20 m 四方のプロット 3 つを設置し性判別を行った結果、全
てのプロットにおいて性比の偏りが認められ幹数は雌よりも雄のほ
うが多かった。資源配分における雌雄差を明らかにするため、葉(当
年葉・一年葉)
・シュート・繁殖器官へのバイオマス配分を測定した。
その結果、当年葉では有意差が認められなかったのに対して、一年
葉では有意な雌雄差が認められ、雌のほうが雄よりもバイオマスが
大きかった。
この結果から、雌のほうが雄よりも葉が多くついていることが示
唆され、雌の大きな繁殖のコストを補っていると考えられる。さら
に挿し木実験の結果、根の本数・長さに有意な雌雄差が見られ、雄
のほうが多く発根し、雌よりも根が長かった。また、挿し木で測定
した最大光合成速度は雄のほうが雌よりも有意に大きかった。これ
らの結果より、雌よりも雄の方が伏条により容易にクローン繁殖で
きることが示唆され、強い幹性比の偏りをもたらしていると考えら
れる。
P1-075
P1-076
開放型チャンバーによる温暖化実験がコナラ樹冠上部に
クロモの繁殖器官ごとの生育特性と種内競争
おける種子の発達に与える影響
川畑幸樹(滋賀県立大・環)
* 中村こずえ(鳥取大・院・農),佐野淳之(鳥取大・農・森林生態系管理)
クロモ Hydrilla verticillata (L.f.) Royle.( トチカガミ科 ) は、種子の
他に 2 種類の栄養繁殖器官 ( 殖芽と塊茎 ) の計 3 種類の繁殖器官を
持つ沈水植物である。殖芽は水中茎に形成され、塊茎は地中に形成
される。また、2 種類の栄養繁殖器官が同一個体に形成されること
はない。つまり、殖芽だけを形成する殖芽タイプと塊茎だけを形成
する塊茎タイプに分けられる。また、種子は殖芽タイプの個体にの
み形成され、塊茎タイプには形成されない。本研究では繁殖器官ご
との生育特性と 2 種類の栄養繁殖器官間での種内競争の有無を野外
実験プールを用いて検討した。
3 種類の繁殖器官をプールで栽培し、ひと月ごとに刈り取りを行
った。茎長や花の有無などフェノロジーの記録や繁殖器官の形成量、
層別乾燥重量を測定した。種子タイプの初期の成長速度は栄養繁殖
タイプに比べて著しい小さくなった。種子は栄養繁殖器官に比べ圧
倒的に小さく、それが原因だと考えられる。殖芽タイプと塊茎タイ
プの間には形態的な差が見られた。殖芽タイプのシュート長は長い
がシュート数は少なく、塊茎タイプのシュート長は短いがシュート
数は多かった。初期の成長速度が劣っていた種子タイプも 8 月以降
は他の 2 タイプと同等の現存量となった。また、種子タイプの繁殖
器官の形成量は他の 2 タイプに比べて多かった。従来、種子の結実
は稀であるとされていた。しかし本実験では種子タイプで種子が大
量に結実した。種子は結実条件が厳しいが、繁殖器官としては優秀
であると言える。また、塊茎タイプに比べ殖芽タイプは切れ藻が多
かった。
種内競争の有無を検討するために、殖芽と塊茎を密度を変えて混
植した。殖芽タイプが混合群落上部に卓越し、塊茎タイプを被陰した。
1 個体あたりの塊茎の形成量は塊茎タイプの植え付け密度が小さい
ほど少なくなった。これは高密度の殖芽タイプに被陰されたためだ
と考えられる。
今日、地球温暖化が深刻化しており、温度上昇に対する生態系の
応答を明らかにする研究が求められているが、温度上昇と種子生産
の関係についての研究はほとんどない。これらの関係を明らかにす
ることは、地球温暖化が樹木の更新に与える影響と種子を利用する
捕食者への影響を考えるうえで重要である。とくに種子サイズは、
種子と種子食者の関係において、また種子の更新初期段階において
重要であり、種子サイズは環境要因に影響を受けるといわれている。
そして、樹木の樹冠上部では、光合成や蒸散が活発に行なわれると
ともに、開花、結実、種子散布などの繁殖活動が行われている。そ
こで本研究では、樹冠部分での種子生産に着目し、温度上昇と種子
生産の関係を明らかにすることを目的とする。
林冠観測用ジャングルジム内のコナラ 3 個体の樹冠に、温暖化を
想定した Open Top Canopy Chamber(以下 OTCC と記述)をそれぞれ
1基ずつ設置して実験を行った。OTCC 内と OTCC 外(以下 control
と記述)のシュートに着生していた種子の長さと幅を 2 週間ごとに
計測した。また、それぞれの樹冠直下に設置したシードトラップを
用いて落下種子を定期的に回収し、サイズを測定した。
着生種子の長さは、種子が急速に成長する 8 月において OTCC で
control より有意に大きかった。また、コナラ 3 個体のうち虫害率が
高かったコナラでは落下した虫害種子の長さと幅が OTCC で control
より有意に大きかった。これらのことは、温度上昇によって発達中
の種子の成長速度が速くなり、サイズが大きくなることによって、
虫害を受けても発芽能力を失わない種子が増え、コナラの更新に有
利に働くことを示唆している。
159
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-077
P1-078
距を複数持つことの適応的意義 花内で蜜量をばらつか
エゾリンドウにおける、花の開閉運動の日変化と季節変
せる戦略か?
化の繁殖成功への影響
* 安藤美咲(東北大・理),板垣智之(東北大・生命),酒井聡樹(東北大・
生命)
* 冨里祐介,板垣智之,酒井聡樹(東北大・院・生命)
隣花受粉を防ぐために植物は、蜜量をばらつかせる戦略を進化さ
せている。ポリネーターは蜜量のばらつきを嫌う傾向があり、こう
した花序から早く立ち去ることが知られている。
これまでの研究は、花間での蜜量のばらつきにのみ着目していた
が、一つの花内で蜜量をばらつかせるという戦略も考えられる。一
つの花に複数の距をもつ種があり、一つ一つの距が蜜源である。距
間で蜜量がばらついていると、ポリネーターが一つの花内でばらつ
きを感知し、その花への訪花のみで立ち去るかもしれない。結果と
して、花間でばらつきがある場合よりも、ポリネーターを早く立ち
去らせることができるかもしれない。
本研究では、花内の距間で蜜量がばらついているかどうかを解析
した。さらには、花あたりの距の数が違う種間でばらつきの程度に
違いがあるのか、同種の雄期・雌期間でばらつきの程度に違いがあ
るかのかを調べた。調査には、オダマキ・トリカブト・イカリソウ
の 3 種を用いた。そして、袋掛けにより訪花を防いだ花の各距ごと
の蜜量を測定した。
結果は以下の通りであった。イカリソウ(距の数 4):ばらつき大
オダマキ ( 距の数 5):ばらつき大 雄期ばらつき<雌期ばらつき
トリカブト(距の数 2):雄期雌期共にばらつき小
トリカブトでばらつきが小さい。これは、距の数が少ないとばら
つかせる効果が小さいためであろう。オダマキの雌期のばらつきが
大きいのは、隣花受粉を避けるため、ポリネーターを早く立ち去ら
せる戦略が進化していると考えられる。雄期では、滞在が短すぎる
と花粉持ち去り数が減ってしまうため、ばらつきを小さくしてある
程度滞在時間を長くしていると考えられる。
以上から、花内で蜜量をばらつかせるという戦略があること、そ
のばらつかせる程度は距の数や雄期と雌期によって異なることがわ
かった。
植物の中には、開花期間中に花弁を開閉させる種が存在する。開
き具合 (openness) も異なり、閉じている状態から完全に開いている
状態まで取りうる。このような種の花弁の開閉は気温などの環境要
因やバイオリズムに依存して起こるといわれている。しかし野外で
は、同一の花序内に、様々な openness の花が混在している状況がみ
られる。
こうした花序のディスプレイサイズは、各花の openness に大きく
依存していると考えられる。ディスプレイサイズはポリネーターの
誘引に関わる。openness の異なる花が混在することは、ディスプレ
イサイズを制御する戦略なのだろうか。本研究では花序内の各花の
openness の違いが繁殖成功にどのような影響を与えているのかを明
らかにすることを目的とする。そして、エゾリンドウを用いてポリ
ネーターの訪花行動と種子生産に花の openness が与える影響を調べ
た。
その結果、花序内における openness の大きな花の数、その花序へ
の訪問数との間に有意な正の相関がみられた。花序内での花選択に
関しては、openness が高い花ほど有意に訪花されやすいことが分か
った。生産種子数は、受粉期間の平均の openness が高い花ほど有意
に大きかった。これらの結果から、openness が大きい花は、花序へ
の誘引、および花序内での自身への誘引という 2 段階で影響を与え
ていることが分かった。また、花序内で大きく開いた花が訪花され
ることから、openness の低い花が同時に花序内に存在すること隣花
受粉を制限していることが示唆された。以上からエゾリンドウの花
序内での花の openness のばらつきは、openness の大きい花の存在で
ディスプレイサイズが大きくなるほどに増える訪花数と、openness
の低い花の存在で隣花受粉を抑えることから生じている形質である
と考えられる。
P1-079
P1-080
Phenological traits of the mangrove Rhizophora sylosa
標高傾度に応じたシダ植物の生活史特性
Griff. at the northern limit of its biogeographical distribution
* 田中崇行(信州大学総合工学系研究科),佐藤利幸(信州大学理学部)
シダ植物は多くの固有な分類群を持った祖先的な分類群であるた
め、植物の進化や生物地理的な側面に関する多くの情報を有する。
また、胞子分散や受精に動物を介することがないため、シダ植物の
分布は他の植物に比べて、非生物的な要因と強いつながりがある。
それゆえ、シダ植物は分布・種構成・多様性と非生物的な要因との
関係やそのパターンに関して多くの情報が蓄積している。一方でそ
れらとシダ植物の生活史形質に関しての研究はほとんど行われてき
ておらず、繁殖様式の差異が種の個体群動態や分布パターンへどう
影響するかなどの不明な点が多い。シダ植物の繁殖には「有性生殖」
「無配生殖」「栄養繁殖」の大きく分けて三つあり、分布の範囲に着
目した研究はいくつか行われたが、繁殖様式と分布の範囲には差が
ないことが報告されている。しかし、受精を介さずに単為生殖によ
り胞子体を生じる無配生殖種は、より厳しい環境で生息できること
が示唆されており、繁殖様式と分布の範囲よりもむしろ、繁殖様式
と標高傾度との関連性が予想される。
そこで本研究では標高傾度に沿ったシダ植物の繁殖様式と季節性
のパターンの解明を目的とした。中部山岳において、道路脇から林
床内にかけて約 1ha のシダ植物相調査を約 3000 地点行った。標高
100m 毎で整理し、標高毎で出現したすべての種数に対する各生殖様
式を持つ種の割合、各季節性の種の割合を算出した。その結果、標
高が上がるにつれ、シダ植物の無配生殖種の割合が減る一方で、有
性生殖の割合が増える傾向が見られた。また、季節性は標高が上が
るにつれ、夏緑性の割合が増え、常緑性の割合が減る傾向を見出した。
*M. Kamruzzaman, S. Sharma, M. Kamara, A. Hagihara (Univ. of the
Ryukyus)
The vegetative and reproductive phenology of the subtropical mangrove
species Rhizophora stylosa was investigated at Manko Wetland, Okinawa
Island, Japan. We assessed phenology using litterfall data over four years.
Kendall’s coefficient of concordance, W , revealed that the monthly
changes in leaf and stipule litterfall were strongly and significantly
concordant among years. Leaf litterfall was significantly correlated with
monthly maximum wind speed and monthly day length, and stipule litterfall
was significantly correlated with monthly mean air temperature and relative
humidity. Branch litterfall showed no clear monthly pattern and correlated
well with monthly maximum wind speed. The W values revealed that most
reproductive organs in litterfall had significant monthly trends. Flower
and fruit litterfall were significantly correlated with monthly day length
and monthly mean air temperature, respectively. The average development
periods from flower buds to flowers, fruits, and mature propagules were
approximately 2-3 months, 4-5 months, and 11-12 months, respectively.
Except for branches, all vegetative and reproductive components of litterfall
had approximately one-year cycles.
160
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-081
P1-082
印旛沼の富栄養化とオニビシの繁茂-培養実験によるヒ
急峻な山岳地では樹は傾いている:斜面の方位・角度、
シとオニビシの成長特性の検討-
土壌深に対する樹種による形態的反応の違い
* 赤堀由佳,鏡味麻衣子(東邦大院・理),吉田丈人(東京大・総合文化),
西廣淳(東京大・農学生命科学)
* 定平麻里(横浜国大),北川涼(横浜国大),酒井暁子(横浜国大)
斜面において樹木の主幹は斜面下方向に傾いている。幹傾斜につ
いて、これまで光環境に着目した研究が行われてきたが、それ以外
の要因も幹傾斜に影響する。また幹傾斜は種毎に異なるが、どのよ
うな種がどのような反応を示すかについて、同じ地域に分布する多
くの樹種を対象にした比較研究は行われていない。
我々は、丹沢山地にて、優占的な 10 種(イロハモミジ、チドリノ
キ、サワシバ、クマシデ、イヌシデ、アカシデ、フサザクラ、ブナ、
イヌブナ、ケヤキ)を対象に、斜面傾斜、方位、土壌深、DBH、樹
冠面積と幹傾斜の関係を調べた。
種をランダム効果に入れた GLMM の結果、幹傾斜の説明要因とし
て斜面傾斜のみが選択され、急斜面ほど幹傾斜が増大するとの全体
的な傾向が示された。しかし、同じ斜面傾斜であっても幹傾斜は種
によって異なり、土壌の薄い場所に分布する種、最大 DBH の大きい
種は幹傾斜が大きい傾向にあった。(この傾向は系統的に独立であっ
た。)また、生育範囲が広い種(様々な斜面傾斜、方位、土壌深に分
布する種)で幹傾斜が大きい傾向があった。
種内の幹傾斜を決める要因は種毎に様々であったが、幹のサイズ
と斜面傾斜が決定要因として選択されている種が多く、そうした種
では、DBH が大きいほど、急斜面ほど幹が傾く傾向にあった。
株内に複数の幹を持つ場合の各幹の傾きは、フサザクラでは株内
の相対サイズが大きいほど・チドリノキは小さいほど、イヌブナで
は株内他幹とは独立であった。このことは、個体全体での葉群配置
戦略における萌芽幹の機能が 3 種で異なることを意味する。
印旛沼は千葉県北西部に位置する富栄養湖である。以前繁茂して
いた浮葉植物のヒシは 1980 年を境に姿を消し、近年オニビシが大繁
茂している。ヒシがオニビシに交代した頃、湖水の全リン濃度が急
激に減少した。このことから、優占種の交代は栄養塩濃度に関係が
あると考え、異なる栄養条件下で培養実験を行い、ヒシとオニビシ
の成長特性について検討した。
印旛沼で採取した両種の種子を、富栄養条件(1980 年以前と仮定)
と貧栄養条件(1980 年以降と仮定)にリンと窒素濃度を調整した 90
L タンク内で培養した。各種について、発芽した種子を 2 個体ずつ
タンクに入れ、次の種子を生産するまでの 5 ヶ月間培養した。各種、
各条件について 6 タンクずつ繰り返しを設けた。
実験の結果、貧栄養条件では最終バイオマスはオニビシの方が高
かった。特にヒシの成長は著しく悪く、展葉率(種子から芽生えた
個体のうち展葉に至った個体の割合)も低かった。ヒシはオニビシ
に比べて種子が小さいため、水面に到達し葉を広げるまでに水中の
栄養塩をより多く必要とすると考えられる。そのため 1980 年以降の
全リン濃度の減少と伴に、ヒシの展葉率が下がり、貧栄養条件でも
葉を展開し成長できるオニビシへと交代したのかもしれない。
富栄養条件においても、最終バイオマスはオニビシの方が高かっ
た。ただし、オニビシの種子に白い膜のようなものが付着し、展葉
率が低くなった。また開始時から 9 日間の初期成長速度はヒシの方
が高かった。1980 年以前の富栄養条件では、ヒシの方がより多くの
個体が種から葉を早く展開できるため、オニビシの成長を上回り優
占していたのかもしれない。
P1-083
P1-084
三方湖のヒシ2系統間における成長特性の比較
クローナル植物集団におけるジェネットサイズ決定要因
の RAD-Seq を用いた解析
* 五十住遥(東京大・総合文化),西廣淳(東京大・農学生命),吉田丈人
(東京大・総合文化)
辻本典顯,荒木希和子(京大・生態研),永野惇(京大・生態研,JST・
さきがけ),工藤洋(京大・生態研)
アオコが発生するような富栄養の湖沼で、浮葉植物のヒシ(Trapa
japonica )がアオコに代わって大規模に増える事例が、複数知られて
いる。福井県に位置する三方湖においても、近年、ヒシが分布を急
激に拡大した。ヒシの急増の原因は未解明であるが、本研究では、
ヒシの遺伝的多型に注目した。近年に三方湖に持ち込まれたとされ
るヒシ(「導入型」)は、過去に湖から隔離され栽培されてきたヒシ(「在
来型」
)と遺伝的に異なり、種子の形態にも差異が見られる。そこで、
富栄養環境でより適応的な成長特性を有するヒシ「導入型」が、ヒ
シ「在来型」に代わって大規模な群落を形成したという仮説を設定し、
それを検証するための実験を行った。
三方湖にて採取されたヒシの種子を用いて、2012 年 5 月 7 日から
2012 年 10 月 2 日の間、栽培実験を行った。種子はその形態から、
「在
来型」および「導入型」に選別した。また、栽培の条件には中栄養
環境と富栄養環境を設定した。栽培期間の終了後にヒシを回収し、
同化器官(葉)、非同化器官(茎・水中根・根)、種子の各部位ごとに、
乾燥重量を計測した。また、種子数も計数した。
その結果、種子数、種子重量、非同化器官重量、総重量は、いず
れも「在来型」と「導入型」の間に差は見られず、いずれの型も富
栄養環境において中栄養環境より高い値を示した。そのため、ヒシ
はいずれの型においても、富栄養環境でより成長することが示唆さ
れた。一方、同化器官重量は、富栄養環境で栽培された「導入型」
がとりわけ高い値を示し、
「導入型」は「在来型」に比べ富栄養環境
で葉の生産が盛んであり、富栄養環境により適応的である可能性が
示された。「導入型」と「在来型」の成長特性の差異について、より
詳細な分析を引き続き行いたい。
クローナル植物は有性繁殖に加えて栄養器官からのクローナル成
長を行う。親ラメットがクローナル成長によって娘ラメットを生産
することで、遺伝的個体 ( ジェネット ) は占有面積を広げていく。そ
のため、ジェネットは生理的に独立した複数のラメットから構成さ
れる。したがってクローナル植物の適応度を、個々のラメットサイ
ズのみならず、ラメット数や占有面積 ( ジェネットサイズ ) によっ
ても評価する必要がある。ジェネットサイズは齢 ( ジェネットが定
着してからの経過年数 ) や生育環境にも影響されうるが、本研究で
は各ジェネットの遺伝的性質がジェネットサイズの決定要因となる
可能性について検証した。
クローナル植物であるコンロンソウ (Cardamine leucantha ) の集団
に 20m × 20m の調査プロットを設置し、ジェネット構造を推定した。
1m の格子点上に存在する 394 ラメットについて、14 の SSR マー
カーを用いてジェノタイプを特定した結果、集団内に 197 ジェネッ
トが見つかった。そのうち9ラメット以上含む6つを大ジェネット、
1ラメットのみで見つかった 164 を小ジェネットとした。ジェネッ
トを識別した各ラメットについて、花数、葉数および草丈などの形
質を調査した。さらに、クローナル成長に関わる形質 ( 娘ラメット
の生産量・適応度など)を調べるために、これらのラメットを外的
条件を揃えた共有圃場に移植した。また、各ジェネットの遺伝的性
質をより詳細に把握するため、RAD-Seq 解析を行った。今回は大小
のジェネットに属するラメット間で、野外におけるラメットの形質
を比較した結果、および RAD-Seq の結果について報告する。
161
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-085
P1-086
ササは単独ジェネット小面積開花でも更新しうるのか?
非撹乱型複合萌芽戦略 - アカガシにおける成長に伴う萌
* 大倉知夏,松下通也,井上みずき,蒔田明史(秋田県立大院)
芽機能の変化 -
ササは長寿命で広範囲にわたって開花・枯死する特異的な生活史
を持つクローナル植物とされている。しかし、小面積での開花もし
ばしば観察される。複数ジェネットが開花する一斉開花とは異なり、
小面積開花は少数ジェネットによるものと報告され、一般にあまり
結実しないため、実生更新は稀であると考えられている。ただし、
結実することもあるため、小面積開花がササの更新、さらにはササ
の生活史にとってどのような意味をもつのかを明らかにする必要が
ある。そこで本研究では、1)小面積開花における開花域と周囲の非
開花域のジェネット構造と種子生産について明らかにし、2)実生更
新の可能性について検討していく。
調査地として秋田市近郊の 5 か所を設定した。ジェネット構造を
明らかにするため周囲の非開花域を含めて開花地を格子状に区切り、
その格子点に近接する稈から葉をサンプリングし、マイクロサテラ
イト多型解析を行った。また、各格子点に 2 × 2m の調査区を設定
し開花稈密度、非開花稈密度、花序密度、結実率を算出した。さら
に生産された種子の遺伝解析をし、親稈と比較して自殖率を算出し
た。実生更新の可能性を検討するため、実生が確認された 1 調査地
に実生プロットを設置し、実生本数や地上高、光条件の測定などを
行い、応答変数を実生本数、説明変数を開花稈密度、非開花稈密度、
結実率、光条件とする GLM で解析した。
結実率は平均 8.8% であったが、調査地間でばらつきが見られた。
開花稈密度と結実率には正の影響が見られた。実生の発生は 1 調査
区のみで確認されたが、その調査区では平均で 13.1 本 /4㎡、多い場
所では 81 本 /4㎡確認された。実生本数には開花稈密度と結実率が正、
非開花稈密度では負の影響がみとめられた。これらの結果とジェネ
ット構造の結果から小面積開花での実生更新の可能性について考察
する。
* 瓜生真也(横国大・院・環境情報),武生雅明(東農大・地域環境),磯
谷達宏(国士舘大・地理)吉田圭一郎(横国大・教育),酒井暁子(横国大・
環境情報)
樹木における萌芽には様々な適応的意義がある。各個体は成長段
階や環境条件に応じて適切な萌芽生産を行うことにより、最適な株
構造を維持していると考えられる。本研究では暖温帯極相種アカガ
シ Quercus acuta を対象に、環境や成長に伴う萌芽機能の変化を解明
することを試みた。
静岡県函南原生林にて、常緑樹優占林分(600m)、夏緑樹優占林
分(800m)、移行林分(700m)の3林分に各1ha の調査区を設置し
た。調査区内のアカガシについて主幹の胸高直径(DBH)と各萌芽
の基部周囲長を測定した。主幹 DBH および標準繁殖開始サイズに基
づき、生活史段階を若木(DBH < 25cm)と成木(≥ 25cm)に区分し、
2005 年から 2012 年の主幹 DBH における相対成長速度と成長量を求
めた。
アカガシの萌芽は個体の損傷とは無関係に生産されていた。若木
は主幹断面積に対して様々な相対サイズの萌芽幹を生産していたの
に対し、成木では主幹よりも明らかに小さな萌芽幹を持つ株構造で
あった。主幹の成長量は、若木では萌芽個体よりも未萌芽個体のほ
うが高かったが、繁殖開始サイズに到達すると萌芽・未萌芽個体で
差がなくなった。標高の上昇に従い、相対成長速度は増加する一方、
800m 調査区での繁殖個体率および成木萌芽個体率は、600m、700m
調査区よりも低かった。若木段階での萌芽は閉鎖林冠下での生産力
の確保や生存率を高めるために機能し、成木段階での萌芽は生息適
地における後継稚樹の維持に貢献すると考えられる。
P1-087
P1-088
樹冠構成種の異なる林床における OTC を用いた野外温
萌芽特性の異なる樹種における地下貯蔵物質 -個体サ
暖化実験がブナ稚樹に与える影響
イズおよび伐採前後での変動-
* 黒川結一(鳥取大・院・農),佐野淳之(鳥取大・農・森林生態系管理)
* 村尾未奈(東農大・院),藤原栞(東農大),正木隆,壁谷大介(森林総
研),佐藤明(東農大)
気候変動が生物のフェノロジーに与える影響が危惧されている。
落葉広葉樹林の林床における稚樹の生存にとって葉フェノロジーは
重要である。他樹種より開葉の早いブナは、他樹種の樹冠下が稚樹
の生育適地であるといわれている。そこで、気温上昇がブナ実生の
葉フェノロジーと冬芽長にどのような影響を与えるのか、その影響
は上層環境によって異なるのかを野外温暖化実験により検証するこ
とを目的とした。
調査地は鳥取県鳥取市扇ノ山の標高 1152 m に位置するブナ二次
林および耕作放棄地である。2009 年 10 月に調査地周辺で採取した
ブナ種子を鳥取大学構内で育てて、実験に用いた。温暖化実験装置
は気温上昇性能の異なる 2 種類の形状の上部開放型温室 (Open top
chamber) を用いた。2011 年 7 月にブナ樹冠下と他樹種樹冠下および
全天下の 3 種類の上層環境に、2 種類の形状の OTC を 4 ペアずつ設
置し、それぞれの OTC 内に稚樹を 4 個体ずつ移植した。葉フェノロ
ジーについては 2012 年の春と秋に 2 ∼ 4 日ごとに調査した。展葉
期に葉サイズを測定し、落葉期に葉の変色面積の変化を目視で 6 段
階に分けて評価した。上層環境の評価として、2012 年の春に林内の
OTC 上で全天空写真を 2 ∼ 4 日ごとに撮影した。冬芽長については
2012 年 10 月に測定した。
2012 年の成長期間における 2 種類の形状の OTC 内の日平均気温
差は、ブナ樹冠下で 0.20℃、他樹種樹冠下で 0.11℃、全天下で 0.57
℃であった。気温上昇が冬芽長に与える影響は上層環境によって異
なる傾向がみられた。また、気温上昇によって平均葉寿命はブナ樹
冠下で 3.5 日、他樹種樹冠下で 2.6 日、全天下で 2.1 日長期化した。
これらの結果から、異なる上層環境と気温の変化に対するブナ稚
樹の葉フェノロジーと冬芽長の応答について考察した。
近年,慣行的な里山管理が行われなくなったことで高齢化した広
葉樹二次林が増加している.若齢での萌芽再生を繰り返すことで維
持してきた森林は,一度高齢化すると萌芽能力が低下して元の状態
に戻すことは困難とされているが,その科学的根拠はまだ十分では
ない.そこで本研究では,里山林における萌芽再生機構を明らかに
するために,萌芽再生能力の異なる樹種に着目し,その地下貯蔵物
質の変動を調べた.調査は茨城県北茨城市の小川学術保護林周辺に
ある,伐採から 25 年程度経過した広葉樹二次林の2林分で行い,そ
のうち1林分は 2011 年の秋から冬に皆伐された.対象樹種はカスミ
ザクラとコナラの単幹個体でそれぞれ DBH が大∼小のサイズクラス
から 24 本ずつ選び,2011 年から 2012 年の春∼冬の各季節に粗根か
らサンプルを採取した.持ち帰ったサンプルから可溶性糖分とデン
プンを抽出し,そこに含まれる非構造性炭水化物(TNC)濃度の定
量を行った.その結果,個体サイズを考慮しない季節変動は可溶性
糖分で両種とも同じような傾向を示したが,コナラではデンプンが
秋に減少する傾向が顕著にみられた.個体サイズによる変動はコナ
ラの小個体を除き,カスミザクラは個体サイズの増大とともに TNC
濃度が減少するがコナラでは増大する傾向があり,それは特にデン
プン濃度で顕著となった.また,伐採による影響は両種ともに TNC
濃度がやや減少する程度で,大きな変化は生じなかった.これらの
結果から両種ともに高い萌芽能力を持つが,地下貯蔵物質量が個体
サイズに依存し,伐採によってもこの傾向が変化しないことが示唆
された.伐採直後の萌芽枝発生には地下貯蔵物質量が影響すること
から,萌芽更新を目的として伐採する場合は伐採前の林分状況を把
握しておくことが必要だと考えられる.
162
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-089
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山口県上関祝島の植物と植生
暖温帯二次林における、種子散布量と実生群集の年変動
山田直季(滋賀県立大・環境生態)
* 大谷奏恵,遠山千景,岡田知也,中川弥智子(名古屋大・生命農)
山口県熊毛郡上関町の特異な生態系について,日本生態学会はた
びたび要望書を提出するなどその保護に取り組んできた.上関の植
物と植生については,これまで上関原発計画地のある長島の田ノ浦
を中心に調査してきたが,今回その対岸 3.5km にある祝島の植物相
と植生を調査したので報告する.植物相の調査では,祝島全域を対
象とし採集と標本の作製を行い,南(1988, 97)などにより近年記録
された種をあわせてリストを作成した.その結果 380 種が記録され
た.これを岡(1953)および真崎(1969)によるリストと比較した
ところ,種の入れ替わりがあり,今回記録されず祝島から消えたと
考えられる種が約 70 種あった.その内訳は陽地に生育する草本がほ
とんどを占め,耕作放棄や二次林の遷移が進んだため絶滅した種が
出ていると考えられた.植生の調査では,5 ヶ所に調査区を置き毎
木測定を行った.島の東斜面にある二次林のプロットでは,林冠木
の直径が 20 ∼ 40cm で,カゴノキ,ヤブニッケイ,ケグワ,ハゼノ
キ,ヤブツバキ,タブノキ,ムクノキなどが多く,ケヤキ,ムクロジ,
アキニレも出現した.落葉樹の割合は断面積比で 40 ∼ 50%であった.
この斜面の大部分はかつて畑であったが,これらの林は急斜面のた
め薪炭林として利用されていたと考えられる.山頂近くの緩斜面に
ある,現在の祝島で極相に最も近いと考えられるプロットでは,林
冠木のスダジイの直径が 40 ∼ 70cm で,スダジイが断面積比で約 80
%を占め,落葉樹は 10%に満たなかった.低木層以下は少なく,ス
ダジイや高木種の稚樹も少数しかみられなかった.これらの林では
薪炭利用が行われていた時にも林冠木が伐られることは少なかった
が,柴刈は行われていたためにこのような構造になっていると考え
られる.
樹木の生活史において、種子や実生といった初期段階は特に死亡
率が高く、成木の分布や種の多様性を決定する時期であるため、散
布された種子群集や実生群集の動態を解明することは重要である。
また、樹木の種子生産にはマスティングがある種が多く存在するた
め、これらの動態解明には長期観測が必要である。さらに、光など
の環境要因は、実生定着制限として働くと言われているが、種子散
布制限と比較した相対的な強さは、暖温帯二次林においてあまり研
究されていない。そこで本研究では暖温帯二次林において、種子と
実生群集の構造と動態を調べ、実生定着を制限する要因を解明する
ことを目的とした。
愛知県瀬戸市の二次林において、5 つの各プロットにシードトラ
ップと 4m2 実生コドラートを 9 ∼ 16 個設置し、2009 年 5 月∼ 2011
年 11 月にかけて木本種子散布量調査とリター量調査を、2010 年 5
月∼ 2012 年 11 月にかけて当年生の木本実生調査を行った。さらに、
2010 年∼ 2012 年着葉期において、各コドラートにおける光量も計
測した。非計量多次元尺度構成法(NMDS)を用いて、種子群集と
実生群集、プロット間、観測年間での種組成の類似性を明らかにした。
また、一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて、主要樹種の種子
密度や光環境やリター量が実生定着の年変動に与える影響を解析し
た。
散布種子の種組成は、プロット間や観測年間で異なり、ウリカエ
デなどの種におけるマスティングが見られた。また、種子群集と実
生群集で種組成が異なることから、種子が発芽するまでの期間に制
限が働いている可能性が示唆された。GLMM の結果、光環境が一部
の種の実生密度に影響を与えていた。本研究の結果は、今後ナラ枯
れに伴う高木枯死の影響で光環境が変化することにより、二次林の
更新動態に影響が及ぶことを示唆している。
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マレーシア・サラワク州における原生林と焼畑休閑林の
伊南川における大規模河川攪乱が山地河畔林に与えた影響
埋土種子集団
* 新国可奈子(新潟大院・自然),本間航介,崎尾均(新潟大・農)
* 浅野 郁(名古屋大・農),中川弥智子(名古屋大・農)
埋土種子集団は、地上部の環境変化に応じて植物群落を形成する
潜在的能力をもち、さまざまな植物群落の維持や更新にとって重要
な役割を果たしている。多くの熱帯地域では焼畑農業が伝統的に行
われており、休閑林を含む二次的な森林が陸上植物の保全や再生に
果たす役割が近年注目されているため、熱帯雨林における埋土種子
集団の生態的、生理学的な基礎情報の蓄積が必要不可欠である。ま
た一部の熱帯地域においては近年の集約的な焼畑農業や代替作物へ
の移行などによって、休閑期間が縮小または拡大している傾向にあ
り、このような休閑林での植物種の多様性に与える影響が懸念され
ている。そこで本研究では、ボルネオ島に位置するマレーシア・サ
ラワク州で、原生林と焼畑休閑林における埋土種子集団の組成の特
徴を明らかにするとともに、焼畑農業の休閑期間の違いが埋土種子
集団の組成に与える影響を検討することを目的とした。
調査は、ランビルヒルズ国立公園の原生林とその周辺の焼畑休閑
林において 2012 年 8~11 月に行った。原生林、焼畑後 20 年以上放棄
されている休閑林 ( 古 )、および焼畑後約 10 年間放棄されている休
閑林 ( 新 ) の 3 サイトから土壌サンプルを深さ別に採取し、シェー
ドハウス内で発芽試験を行い、発芽個体を形態的特徴により分類し
た。その結果、合計 116 種 756 個体が発芽した。本発表では、原生林、
休閑林 ( 古 )、休閑林 ( 新 ) の土壌中に含まれていた埋土種子の密度
や種組成について、それらに影響を与える要因とともに解析、考察
する。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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佐渡島における歴史的な人間活動が植生に与える影響
Relative importance of mycorrihzal- and pathogenic-
* 宮島(新潟大・農),川西(鹿児島大・農),崎尾(新潟大・農)
fungi on seed and seedling fate of two hardwood species
半自然草地は人間活動によって森林への変化が押しとどめられ維
持されてきた。しかし現在は遷移の進行により森林化が進んでいる。
本研究では、かつて佐渡島大佐渡地域で広範囲に行われた林間放牧
に着目し、昭和期以降の植生の分布変化,現在の植生及び歴史的背
景を地理情報科学、生態学、歴史学の 3 方面から統合的に明らかに
する。
調査地には,大佐渡地域内からドンデン山地区と大倉越地区を
選定した。方法は空中写真解析,植生調査及び歴史資料・聞き取り
調査の 3 つを行った。空中写真解析では GIS を使用して 1976 年と
2006 年の空中写真から草地面積を比較した。また,現地調査では草
地区,灌木区,森林区に分けた植生調査を実施した。そして歴史的
資料・聞き取り調査では図書館や市役所,各集落等で行った。
島内の牛の飼養頭数は 1960 年の 6630 頭を境に徐々に減少してい
る。これに対し,聞き取り調査及び関連資料から 1950 年以降の農業
の機械化の影響を大きく受けていることが示唆された。さらに,空
中写真の解析による草地の面積は、30 年間でドンデン山地区、大倉
地区でそれぞれ 16.3ha、2.8ha から -8.0ha、-2.4ha の大幅な減少とな
った。一方植生調査では、草地区では嗜好性のあるシバやオオウシ
ノケグサが上位の頻度を占める一方、高茎草本であるススキも上位
を占めていた。さらに、灌木区では嗜好性のあるイタヤカエデが上
位の頻度を占める一方、不嗜好性のハナヒリノキやレンゲツツジが
上位を占めていた。以上より、昭和 30 年以降の農業機械化が林間放
牧を衰退させた大きな要因となり、現在も遷移を進行させているが、
遷移途中の森林の種組成に放牧による影響があることが示唆された。
affected by light condition and distance from conspesifics
*Wulantuya (Tohoku Univ.), Fukasawa Y., Seiwa K.
Microbes crucially affect on growth and survival of plant species, shaping
the community structure. In this study, we estimated relative importance
of symbiotic-microbes (e.g., arbuscular mycorrhizal fungi: AMF; ectomycorrhizal fungi: ECMF) and antagonistic-microbes (e.g.,pathogenic fungi)
on plant performance for two hardwood species, Quercus serrata , and Acer
mono by sowing the seeds in both forest understories and gaps. In forest
understories, seeds and seedlings mortality was higher beneath conspecificcompared to heterospecific-adults in A. mono , due to severe attack of
pathogenic fungi. In gaps, seedling growth and survival were usually greater
in the forests dominated by conspecific- compared to heterospecific-adults
in both the species, because of the higher percentage of root colonization
by AM-and ECM fungi for Q. serrata and A. mono seedlings, respectively.
The results suggest that relative importance of pathogenic- and mycorrhizalfungi change according to light conditions (gaps vs. understory). Influence
of mycorrhizal-fungi may also change according to presence or absence of
conspecifics.
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北海道北部のササ掻き起こし地におけるミズナラ実生
大峯山系亜高山帯における環境条件の違いによる針葉樹
の分布と動態
稚樹の生残と生育
* 朝田一平,吉田俊也,北大・環境科学
* 山本美智子,松井淳(奈教大),辻野亮(京大霊長研)
北海道では 1960 年代後半からササが優占する無立木地を成林化
するために、重機を用いた「掻き起こし施業」が広く行われている。
しかし、掻き起こし地では多くの場合カンバ類が優占し、種多様性
が低い。そのため、施業の応用範囲を広げるために、その他の樹種
の育成方法を確立することが望まれている。本研究では、生態系の
キーストン種であり、林業的にも有用であるミズナラを対象として、
掻き起こし地における実生の生育状況を把握し、定着に影響する諸
要因を明らかにすることを目的とした。既存の調査結果によると、
掻き起こし地においてミズナラ実生は、ミズナラ成木の樹冠直下よ
り、むしろ少し離れた樹冠エッジ下に多く分布していたことから、
実生の生残・成長は成木から適度な距離の箇所で促進されるという
仮説を検証した。北海道大学雨龍研究林の施工年の異なる(2、3、9
年生)掻き起こし地において、人口播種により定着したミズナラ実
生の生育状況を成木からの距離別で調査した。一方、当年生の掻き
起こし地において、実生の定着に影響すると考えられる要因を、同
じく成木からの距離別に調査した。光強度は成木からの距離につれ
て増加、リター量、堅果の散布量は減少していた。野ネズミの個体
数は成木に近いほど多く、そこでは多くの堅果が掻き起こし域外に
持ち去られていた。実生の葉の被食率は、成木からの距離につれて
減少する場合がみられた。しかし、このような差が見られたにも関
わらず、実生の高さは、いずれの林齢においても、成木からの距離
による違いは見られなかった。より詳細な解析は今秋に設定した播
種実験の結果を待つ必要があるが、生物的要因を含む複数の相互作
用が、かき起こし地におけるミズナラ実生の生残・成長を決定づけ
ていると考えられた。
大峯山系弥山周辺のシラビソやトウヒが優占する亜高山帯では、
ニホンジカの個体数密度の増加に伴いシラビソの更新の阻害が起こ
っている。これは、剥皮によって成木が枯死することに加え、林床
環境の改変によって実生の定着が阻害されることが原因と考えられ
る。また、シラビソと共に優占するトウヒの稚樹への食害や生育環
境への影響も明らかになっていない。そこで本研究では、シラビソ
とトウヒの稚樹の生残や生育へ影響を与える環境要因を明らかにす
るため、調査を行った。
弥山周辺の約 100 ha の範囲内に、10 m × 10 m の区画を 40 箇所設
置した。環境要因として、区画毎に斜面方位、最大傾斜、地形、森
林タイプ、5 m × 5 m 毎に開空度、GLI(Ground Light Index )、地表
平滑性、枯死木と倒木の量、林床タイプを記録した。また、区画内
の成木(dbh 5 cm 以上)と稚樹(樹高 50 cm 以上、dbh 5 cm 未満)
の樹種、dbh、樹高、樹幹の剥皮率を計測し、稚樹は頂枝の成長量も
計測した。
区画毎の個体数の幅は、シラビソは 0 ‐ 110 個体、トウヒは 0 ‐
21 個体だった。シラビソの稚樹は 16 区画、トウヒの稚樹は 37 区画
に出現し、全区画をあわせて、シラビソは 298 個体、トウヒは 240
個体生育していた。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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太平洋型ブナ林の更新動態
湿原域における放棄牧草地の植生遷移を決定する要因
* 志澤理帆,依田悦子,遠藤幹康,木村一也,前田久美子,丸田恵美子(東
邦大・理)
* 柴田昌俊(北大・農),森本淳子(北大院・農),三島啓雄(北大院・農),
比嘉基紀(北大院・農),志田祐一郎(北大院・農)中村太士(北大院・農)
ブナ (Fagus crenata ) は九州から渡島半島に至る冷温帯に分布する。
太平洋側のブナ林は、気候的な理由により更新が困難であるといわ
れているが、その原因は明らかではない。1994 年から山梨県・神奈
川県境の三国山 (1343m) の北東斜面の天然ブナ林において、ブナ実
生の消長を追跡調査してきた。過去 4 回の豊作後の発芽個体は数年
で全て枯死したが、2007 年の大量結実後の発芽個体は 2012 年でも 1
割程生存している。そこで、本研究では太平洋型ブナ林における実
生の生存条件を明らかにする事を目的とした。この斜面上のコドラ
ート (12 × 30m) を、地形やギャップの有無などの違いから、上部・
中部・下部の 3 区画に区切った。実生の生存率は、下部で特に低か
った。これは、下部には林冠ギャップがなく暗かったためと推定さ
れる。下草被度は上部で最も高く、下部に行くにつれて減少し、地
表光量子密度は逆に高かった。下草上の散乱光透過率は、上部に行
くほど高いため、上部ほど明るく草本層が繁茂しやすいと考えられ
る。上部は過去の林冠ギャップ形成により明るくなったことで実生
の生存率を高めたが、一方で草本層の繁茂により実生が被陰されて
近年は生存率が低下している。調査の結果、実生が生存しやすい環
境は、林冠ギャップ形成後のまだ下草が繁茂していない時期である
という事が推定できる。また、2012 年 9 月にシードトラップを設置
し、落下種子量を測定した結果、落下種子総量は 206 個 /m2 であった。
2012 年は大量結実年といえる事から、今後はこの実生の消長につい
ても調査していく必要がある。
北海道東部ではかつて多くの自然湿地が牧草地に転換されたが、
過疎化と高齢化により休耕・放棄される牧草地が増えつつある。将
来の湿地再生・保全には、放棄牧草地の植生遷移とその規定要因の
解明が重要である。本研究では、放棄年数の異なる放棄牧草地で植
生構造を明らかにし、植生遷移に影響を与える環境要因を検討した。
北海道東部の標津川下流において、営農中及び耕作停止後 5 年、12 年、
14 年、25 年が経過した牧草地、残存湿地で 2m × 2m の方形区を設
置し、植生調査と地下水位の測定を行った。また調査区周辺の植生
面積割合を、環境省の1/2.5 万の植生図より算出した。
調査の結果、調査地では放棄年数の経過とともに湿生植物の種数
が増加した。また、地下水位も上昇傾向にあった。放棄直後には湿
生一年生草本の優占度が高かったが、年数が経過した調査区では湿
生多年生草本と低木の優占度が増加した。高木性樹木は、全ての調
査区でほとんど出現しなかった。また牧草種は、全ての放棄調査区
に比較的高い被度で出現した。非計量多次元尺度構成法による序列
化の結果、放棄牧草地の植生は放棄年数の経過とともに、撹乱が少
なく、湛水ストレスの高い環境に出現するヨシまたはホザキシモツ
ケが優占する群落に移行する傾向が認められた。
以上の結果から、湿原域における放棄牧草地の植生遷移の初期は、
湿生植物の増加、牧草の残存、草本群落あるいは低木群落の持続と
いう特徴を有すると考えられる。牧草地は放棄に伴う地下水位の上
昇で湿性植生に遷移すると考えられるが、牧草地の植生要素も数十
年間は残存すると考えられる。
P1-099
P1-100
管理放棄された都市近郊二次林における自然発生的な萌
北海道渡島駒ケ岳におけるシラタマノキ種子の散布と発芽
芽枝
* 野村七重・露崎史朗(北大・環境科学院)
* 吉田幸弘(京都大・農),北山兼弘(京都大・農)
種子の内生動物散布による移動はよく調べられているが、散布後
の発芽動態については不明の点が多い。北海道南部に位置する渡島
駒ケ岳 (1131m) に自生するシラタマノキは中腹 (680m) において約
8,700 粒 /m2 の種子を生産している。ウサギのフン中には発芽可能な
シラタマノキ種子が含まれていることが確認されている。しかし、
その実生は野外ではほとんど確認されていない。そこで、種子生産
と実生定着のギャップをうめるために、シラタマノキの散布と発芽
特性を明らかにすることを目的として以下の実験を行った。
駒ケ岳中腹に 2 × 1m のプロットを 30 個設置し、ハビタット別に
フンの分布を調べた。2012 年 8 月と 10 月に種子を採取し、発芽試
験を行った。光 2 条件 ( 日長 18、0 時間 )、水ポテンシャル 6 条件 (0
∼− 4MPa)、低湿処理 2 条件 (0、1 ヶ月 ) を組み合わせ、計 24 条件
( 温度はすべて 25℃ /5℃ (18h/6h)) を設けた。実験開始より日長 18 時
間条件のものは毎日、日長 0 時間条件のものは 4 日おきにグリーン
ライトのもと、発芽数を確認した。
フンはシラタマノキパッチ内及び裸地に多く分布していた。種子
の発芽は最低で 5 日を要し、1 ヶ月でおおむね完了した。発芽率は
暗処理下で有意に低く、水ポテンシャルが− 0.5MPa を上回ると低く
なり、低湿処理は不要であった。以上のことから、シラタマノキ種
子は光要求性発芽であり、自然種子散布においては、光と水分の条
件が整えば積雪前でも発芽できる一方で、ウサギに捕食された種子
はフン中で越冬するため、フンの分解とともに発芽が誘導される可
能性がある。さらに、野外で実生がみられない要因は高い水ポテン
シャルにより発芽が抑制されていることが示唆された。駒ケ岳は軽
石火山灰に覆われ、乾燥状態が持続される傾向にあり、降雨が長期
間継続するような期間にのみ発芽を行うと考えられる。
「里山」と呼ばれる日本の都市近郊二次林は、持続可能な森林資源
利用をしてきた森林として、また生物多様性保全の場として、近年
注目を集めている。都市近郊二次林は小面積皆伐を繰り返してきた
という履歴を持つ森林であるため、成長の速いパイオニア種と共に
萌芽更新しやすい樹種が多く存在し、必然的に萌芽更新の重要性は
高いと言える。
萌芽更新とは萌芽枝を用いた幹更新のことである。伐採などの主
幹損傷の際に発生するシュートだけでなく、主幹損傷なしに主幹地
際付近や地下部から発生するシュートも同様に萌芽枝と呼ぶ。この
うち自然発生的な萌芽枝は、実生から成木に至るまで幅広い成長段
階において発生するものであるため、樹木の更新において重要であ
ると言える。
自然発生的な萌芽枝は高木性の樹種でも報告例はあるものの、一
般的には高木性の樹種よりも低木性の樹種でよく見られるとされて
いる。しかし、萌芽枝数の多少や有無の種内差、種間差が何から生
じるのかについては、研究例が少ない。
一方で管理放棄された都市近郊二次林においては、主幹損傷なし
で発生する「自然発生的な萌芽枝」を用いた萌芽更新の重要性は、
主幹損傷による萌芽更新以上にますます高くなると言える。
そこで、管理放棄された都市近郊二次林において、
1:どのような樹種が自然発生的な萌芽枝を発生させているのか
2:低木種コバノミツバツツジについて、親株の大きさや光環境
と萌芽枝の発生との間にどのような関係があるのか
3:亜高木種ソヨゴについて、実生段階での萌芽枝の形態や生態
学的な役割はどのようなものなのか
という3点を通して自然発生的な萌芽枝の特性を把握する。そし
てそこから、管理放棄された都市近郊二次林の将来の植生に影響を
与えうる、自然発生的な萌芽枝を用いた萌芽更新について検討する。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-101
P1-102
長野県上伊那地方の水田地域における景観スケールでの
モンゴル草原における時空間的に異質な植生資源の衛星
群落の構造と種多様性
画像を用いた定量化
* 渡辺太一(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信州大・農)
* 柿沼薫,岡安智生(東大院・農),宮坂隆文(慶大・政メ),ジャムスラ
ンウンダルマー(モンゴル農大),大黒俊哉,武内和彦(東大院・農)
二次的自然を代表する水田地域においては,様々な景観要素に多
様な群落が成立している。これらは相互に関係しており,保全を図
る際には一つの景観スケールとしてとらえるべきである。しかし,
水田地域の景観スケールにおける群落構造や立地環境との関係性を
明らかにした研究はほとんどない。また群落型相互の関係性を扱っ
た研究も少ない。本研究では長野県上伊那地方を事例として,景観
スケールにおける群落構造と立地環境との関係性を明らかにし,群
落保全の基礎的知見を得ることを目的とした。
調査地区としては立地環境として地形や土地利用,圃場整備状況
の異なる 9 地区が選定された。各地区は土地利用状態を反映するよ
う 500m 直径の円形区で設定し,その面積約 20ha を一景観スケール
として定義した。植生調査は事前調査において出現種数が多く,景
観スケールの立地環境との関係性が予想された 5 タイプの景観要素
(水田,休耕地,畦畔,法面,道路)に成立する群落 1㎡を対象に実
施した。調査プロットは各地区に設定した 25m メッシュの交点から
選定し,各調査地区で約 90 プロット,全地区で計 850 プロットの植
生資料を収集した。群落データは TWINSPAN によって類型化し,各
群落型と立地環境との関係について考察した。
全プロットは 16 タイプの群落型に分類された。各群落は,全地
区で広く分布するタイプや,特定の景観要素及び立地環境に分布す
るタイプが認められた。山地部の法面にはススキやトダシバ,ヒメ
シダの優占する群落が特徴的に分布し,構成種にはカワラナデシコ,
希少種のスズサイコなど草原性植物が多数含まれた。平野部の水田
では,ウキクサの優占する群落型が特徴的に分布し,構成種にはイ
トトリゲモやシャジクモなどの希少な水湿性植物が多数含まれた。
大会当日は,さらに各群落型の種組成の特性を踏まえた考察を行う。
乾燥地では降雨と地形によって創出された植生資源の空間的異質
性が、家畜にとって干ばつ時のバッファーとして働くため、その定
量化は管理上重要である。本研究では、群落タイプを考慮して二時
期(平年と干ばつ年)の衛星画像解析を実施することで、資源植生
の時空間的異質性を評価する。
調査対象地はモンゴルのマンダルゴビとした。18km × 18km の
調査地を設定し、調査地内を 1km ごとに区切った交点でコドラー
ト(20m × 20m)を設置し出現種および被度を記録した。得られた
植生データを用いて、クラスター分析によるグループ化および指標
種分析を用いて各グループの指標種を特定した。ALOS 画像(2010
年 7 月 31 日撮影)を利用し、オブジェクト指向分類により分割し、
NDVI 値に基づいて、クラスター分析により得られた群落タイプに
分類した。また干ばつ年にあたる 2009 年の画像と平年並の 2010 年
の二次期を比較して、降雨に対する各群落の応答を NDVI 値の差分
により評価した。
現地調査の結果、植生は主に4つに区分され、それぞれの群落タ
イプは (1)Caragana 群落(マメ科低木)(2) Allium 群落(双子葉草本)
(3) Achnahterum (イネ科叢生草本)(4) Reaumuria (塩性低木)となっ
た。衛星画像解析の結果、調査地の 70% を Allium 群落が占め、残り
の3つの群落は占める面積が小さかった。また、干ばつ年と平年の
2時期の植生量を比較したところ、どの群落も干ばつ時に植生量が
減少したが、谷筋に出現する Achnahterum 群落は比較的多い植生量
を占め、干ばつ時に利用可能な貴重な資源であることが示唆された。
本研究により、群落タイプを考慮した資源の空間的異質性の評価の
重要性が示された。
P1-103
P1-104
中山間農地の森林組成の違いが森林性のカエル個体群に
水田環境の時空間的異質性がアシナガグモ類 4 種の個体
与える影響
群維持に与える影響
* 佐藤ひかる,星崎和彦,蒔田明史(秋田県大・生物資源),黒江美紗子(九
州大・理)
* 筒井優(東大・農),宮下直(東大・農)
水田は灌水、中干、稲刈りといった農作業や稲自身の成長に伴っ
てその環境が変化するため、時間的な異質性が高い。また、水田は
田面、水路、畔という構成要素から成り、さらに森林などが隣接す
ることで空間的な異質性が高くなる。水田の時間的異質性は、田面
が時間の変化に伴い、他の環境と比べ好適な環境にも不適な環境に
もなりうるので、生物は時間的な変化に対して田面とその他の環境
を利用して個体群を維持していると考えられる。そのため、空間的
異質性は時間的異質性の高い水田環境に対して、影響を与えること
が推測される。空間異質性は生物に対して、各環境が餌生物の提供
や避難場所など異なった機能を持ち、水田の構成要素と森林が組み
合わさることで新たな生息場所として機能するなど生物の個体群維
持に正に影響する可能性がある。しかし、水田の時間的異質性に対
して空間的異質性が生物の個体群維持に与える影響はよくわかって
いない。
そこで本研究は水田環境で比較的多く見られるアシナガグモ類 4
種を対象に、それらが時間的異質性に対して生息環境を変化させ、
森林が隣接したより異質な空間に対して個体群維持に正の影響を受
けるかどうか明らかにすることを目的とする。調査は栃木県塩谷町
の森林が隣接する水田、隣接しない水田の田面、水路、畔、また森
林が隣接する場合は林縁でアシナガグモ類 4 種の密度をスイーピン
グまたは目視で求めた。調査時期は 7 月(間断灌水)、9 月(稲刈り
前)、10 月(稲刈り後)に行った。この調査によって時間的な変化
に対してアシナガグモ類 4 種のそれぞれの各環境における密度の変
化と、水田に森林が隣接することでアシナガグモ類 4 種の密度に与
える影響を解析した。それらの解析結果から水田環境の時空間的異
質性がクモ類の個体群維持に与える影響を考察する。
日本の中山間農地では水田と森林が組み合わされた景観が維持さ
れており、この景観構造が複数の環境を利用する生物 ( カエル、ト
ンボ等 ) の多様性に貢献してきた。森林景観の変化に伴い広葉樹林
が減少しスギ人工林が増加してきたが、スギ人工林は階層構造や林
床植生が乏しく、鳥類やほ乳類から利用されにくいことが報告され
ている。そのためカエル類でも水田の背後にスギ人工林が広がる場
合と広葉樹林が広がる場合では、生息できる種や個体数が異なる可
能性がある。しかしながら森林組成の違いがカエルの数に与える影
響を明らかにした研究はほとんどない。本研究では、中山間農地の
背後に広がる森林タイプ ( スギ人工林/広葉樹林 ) ごとの面積の違
いが水田で観察されるカエル成体や卵塊の数を左右することを示す。
隣接するスギ林と広葉樹林の面積割合が異なる沢沿いの農地 21 箇
所を対象に、モリアオガエルの成体と卵塊数、ヤマアカガエルの卵
塊数をルートセンサスにより調査した。観察された卵塊および成体
数を目的変数に、局所環境と周辺林面積 ( 水田から 2km まで ) を説
明変数に含めた一般化線形モデルを解析した。どちらのカエルも周
辺林の総面積だけを用いたモデルよりも、森林タイプを考慮したモ
デルの方があてはまりが良かった。モリアオガエルは広葉樹林面積
から正の影響を受けており、周辺 700 ∼ 900m の範囲の森林が最も
重要であった。ヤマアカガエルはスギ林面積から正の影響を受けて
おり、400 ∼ 500m の範囲が最も重要であった。
これらの結果から、種ごとに異なる範囲で異なる森林を利用して
いることが示唆される。中山間農地に生息するカエル類の多様性を
維持するためには、周辺林面積だけでなく生息域内の森林タイプに
も着目することが重要であろう。
166
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-105
P1-106
保残帯における木本植物のリクルートに対し、マトリク
徳島県の竹林はどこまで拡大するか?
スが与える影響を探る
* 竹村紫苑,荒井祐作,鎌田磨人(徳島大・工)
* 星野彰太,中静透(東北大学・生命科学)
近年、各地で急速に竹林の分布拡大が進んでいる。竹林の拡大は、
生物多様性の低下や里山景観の劣化を引き起こす原因となり、早急
な竹林管理が必要になっている。そこで本研究では、徳島県全域を
対象地として竹林が拡大する場所を定量的に予測し、優先的に竹林
管理を行うべき場所を広域的な視点から選定するための手法を検討
した。
竹林の拡大可能域の推定には次の環境要因を用いた。年間降水量、
最深積雪量、年平均気温、氷点下月累計、表層地質、斜面傾斜角、
斜面方位、TPI:地形単位を示す指標、母体からの距離である。そし
て、1970 年代と 2000 年代の 2 カ年の空中写真から竹林の分布域を
判読し、30 年間で竹林が拡大した領域を抽出し応答変数とした。竹
林拡大予想モデルは MaxEnt を用いて構築した。それぞれの環境要
因は単独でモデルを構築した後に、その中で説明力の高かった環境
要因を用いて最終モデルを決定した。最後に、得られた竹林拡大モ
デルを用いて徳島県における 2030 年、2060 年、2090 年の竹林拡大
予測図を作成した。
その結果、氷点下になる月が少なく、竹林の母体からの距離が近い、
堆積岩類の場所でかつ開けた斜面・尾根の中腹・浅い谷の地形にお
いて、竹林が拡大しやすいことが明らかとなった。モデルの適合性
を示す AUC は 0.974 であり、十分な精度のモデルを得ることができ
た。
竹林拡大予測図から、徳島県は山地部の低温な気候帯や急峻な場
所を除き、潜在的に竹林が拡大しやすい場所であり、2090 年には現
在の 2 倍以上に竹林が拡大することが示された。中でも太平洋側の
小松島市、鳴門市、美波町、徳島市、阿南市において特に竹林の急
速な拡大が予想され、これらの地域は優先的な竹林管理が必要とな
る場所である。このように竹林拡大モデルの構築は優先的に竹林管
理を行うべき地域の選定に有効なツールとなる。
生息地の分断・縮小は、生物多様性消失の主な要因の一つである。
分断化の影響を軽減するための手段として、分断化された生息地間
をコリドー ( 生態的回廊 ) でつなぐという方法が知られている。東北
地方のブナ林には保残帯 ( 原生林を伐採した際、伐採地の間に幅 30
− 50 mで帯状・網目状に残された原生林 ) が存在し、近年その形状
から保残帯がコリドーとして機能し、生物多様性保全にも貢献する
ことが期待されている。保残帯のマトリクス ( 周辺の土地利用 ) に
は様々な種類があり、それぞれマトリクス内のポリネーターや散布
者の種組成が異なると予想される。
この研究では、マトリクスや樹木の種類によって、保残帯内の実
生が受ける影響に違いがあるか?を明らかにすることを目的とし、
青森県八甲田山周辺のマトリクスが異なる保残帯において、樹木の
毎木調査・密度調査を行った。また調査プロットを中心とした半径
300m、1000m 以内の土地利用 ( 原生林+保残帯、人工林、二次林、
放牧地 ) の割合を算出し、種ごとの実生密度との関係を GLMM で解
析した。
その結果、ほぼ全ての種で母樹となる高木や低木の個体数が実生
密度と正に相関していた。風散布植物は、原生林からの距離と負の
相関をもったが、鳥散布植物は種によってその反応が異なっていた。
マトリクスの影響は散布形式にかかわらず種によって異なった。こ
れらの結果から、一般に保残帯内に母樹が存在することの影響は大
きいが、風散布植物はそれに加えて原生林由来の花粉密度や種子供
給の問題をもつ可能性が推測された。鳥散布植物については、主な
散布者の行動やその範囲などを種ごとに検討する必要がある。また、
マトリクスの違いに起因する伐採後から調査時点までの光環境の変
化が実生の定着に大きな影響を与えていた可能性もあり、今後詳細
な検討が必要である。
P1-107
P1-108
水田におけるオオヒシクイとコハクチョウの好適採餌環
都市化とチョウ類幼虫 - 捕食寄生者系
境の比較
* 阪根浩平,小池文人(横浜国大院 環境情報)
* 松隈詩織(新潟大学・自然科学),向井喜果(新潟大学・農),布野隆之(兵
庫県立 人と自然の博物館),望月翔太,石庭寛子,石間妙子,関島恒夫(新
潟大学・自然科学)
節足動物は生態系の重要な構成要素である一方,大量発生は樹木
の食害などの被害を及ぼす . チョウ類幼虫などの植食性の節足動物
の個体群制御では捕食寄生者(寄生蜂や寄生バエ)が重要な生態系
調節サービスを担っているが,都市では上位の捕食者の欠落が起き
ているとの指摘がある.この研究ではチョウ類幼虫とそれに対する
捕食寄生の系を考え,この系への都市化の影響を解明することを目
的とした.
調査は 2012 年 5 月∼ 10 月までに都市から里山に至る 4 つの異な
る景観(埋立地,市街地,耕作地,里山)に調査地を設定した.ラ
インセンサス法によりチョウ類幼虫の食餌植物の探索とチョウ類幼
虫の採集を行い,発見したチョウ類幼虫を飼育して寄生率の調査を
行った.また,黄色粘着トラップによる捕食寄生蜂類の捕獲調査も
同時に行った.食餌植物 - チョウ類幼虫 - 捕食寄生者の出現と景観
との関係を把握するために,植生図を利用して「都市化率」と「樹
林草地比」を算出した.それらに季節を加えて説明変数とし,探索
距離あたりの食餌植物出現,食餌植物あたりのチョウ類幼虫の出現,
チョウ類幼虫あたりの捕食寄生,黄色トラップによる捕食寄生蜂数
を目的変数として,一般化線形モデル(GLM)により 3 者系に影響
する要因を探索した.
チョウ類幼虫 - 捕食寄生者の系は都市化に対する明瞭な反応を示
した.一般的にチョウ類幼虫出現率と捕食寄生率は広域スケールの
里山で高い場合が多かったが,都市で出現率が高い種もあった.例
として,ナミアゲハの食餌植物であるミカン科は里山の耕作地に多
かったが,ナミアゲハ幼虫は食餌植物あたりでは都市に多く出現し,
ナミアゲハの捕食寄生率は広域スケールの里山で高かった.人為的
防除の影響も考えられるが,都市より里山で個体群制御が強く働い
ていることが推測された.
渡りを行う水鳥は、世界規模で絶滅の危険性が懸念されている生
物の1つである。このような渡り鳥の個体数を減少させる主な原因
として、繁殖地、中継地、越冬地における生息環境の悪化が挙げら
れている。渡り鳥であるオオヒシクイは、環境省指定の準絶滅危惧
種で、日本で越冬する。本種は国内でも新潟県の福島潟を最大の越
冬地として利用し、潟とその周辺の水田を採餌環境として利用して
いる。しかし近年、福島潟周辺の水田地帯で圃場整備や商業地開発
が進んでおり、これらの事業が本種の分布や越冬個体数に甚大な影
響を与える可能性が高い。そこで本研究では、福島潟周辺の水田に
おけるオオヒシクイの環境選択性を明らかにすることで、圃場整備
等の事業が本種の分布に与える影響を明らかにするとともに、環境
選択モデルを周辺水田に外挿して地図化することで、開発事業のハ
ザードマップを提示することを目的とする。また、オオヒシクイと
並んで越冬数の多いコハクチョウについても同様の解析を行うこと
で、両種の包括的な保全策を提案する。
2009 年度の越冬期間に毎月 2 回、福島潟から半径約 5km 圏内の水
田においてラインセンサスを行った。センサスでは、両種の群れサ
イズを計数し、利用していた水田の湛水率、耕起の有無、二番穂の量、
水田の区画面積、標高を記録した。また、GIS を用いて、水田から
福島潟までの距離、道路までの距離、集落までの距離、バッファ内
の水田面積、森林面積、集落面積などの景観要因を算出した。統計
解析は 2 段階で実施した。景観要因のみを用いた MaxENT を行い分
布規定要因を特定し、好適生息地マップを作成した。次に、利用水
田の個体数を目的変数、各環境要因を説明変数とする GLM を行い、
群れサイズを規定する要因を解明した。
167
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-109
P1-110
都市部小河川における護岸状況と鳥類相との関係
札幌市街地における鳥類分布と将来予測―NDVI を用い
* 浅利悠介(千葉大・園芸),相澤章仁,小林達明(千葉大院・園芸学)
て―
都市部の小河川において周辺の土地利用と護岸の工法が鳥類の種
多様性に与える影響を評価すべく、千葉県松戸市の小河川を対象に
鳥類調査を行った。周辺の土地利用を農地型と都市型の 2 つの型に、
護岸を緑化型、中間型、コンクリート三面張り型の 3 つの型に分け、
これらを併せて 6 つの型に分類し、それぞれに 2 箇所ずつ調査区間
を設け、1 区間あたり 5 地点の調査地点を 100 m置きに設定した(計
60 地点)。観察方法は半径 30 mを範囲とした 5 分間のスポットセン
サスとし、出現種と個体数、および出現した位置が水面、内側(河川敷、
堤防斜面)、外側(堤防上部、周辺市街地など)のどこであったかを
記録した。
鳥類調査の結果、40 種の鳥類が観察された。護岸の型別に分ける
と、内側では種数が多い順に緑化型、中間型、コンクリート三面張
り型となったが、水面と外側では護岸と鳥類の種数の間に関係性は
見られなかった。また、土地利用の型別に分けると、水面、内側、
外側の全てで農地型の方が都市型より種数が多いという結果になっ
た。このことから、護岸の緑地は護岸を直接利用しない鳥類の分布
には影響しないこと、周辺の土地利用は河川とその周辺を利用する
鳥類の分布に影響することが分かった。また、出現頻度が少ない種
が現れた土地ほど重要性を高く評価する Habitat Specificity を計算し
たところ、小河川を型別に見たときの傾向は種数のものと変わらな
かったが、区間ごとの差が顕著となり、種数が多い区間には出現頻
度の少ない種が集中しやすいことが分かった。これは、出現頻度が
少ない種の大半は生活環境が限られている種であることを意味する。
この様な種が出現する環境の増加を目指すことが、全体の多様性を
維持・向上させるために有用であることが示唆された。
* 中島 夕里,山浦 悠一,赤坂 卓美,愛甲 哲也,三島 啓雄,森本 淳子,
中村 太士
現在、世界人口の半数以上は都市に居住しており、都市の生物多
様性を高める事が近年求められている。生物多様性の指標として鳥
類は優れているとされ、その分布は街路樹・庭木・公園などの緑の
分布が規定要因となっている。そこで、本研究では北海道札幌市で
鳥類分布と緑の分布の関係を明らかにし、鳥類分布予測モデルを作
成した。更に、札幌市の都市緑地計画から 4 タイプの緑地生成シナ
リオを作成し、各シナリオで鳥類分布を予測した。
調査対象地域は、政令指定都市で多くの鳥類が観察されている
札幌市街地とした。鳥類調査は、2012 年 5 ∼ 7 月に行った。100m
× 100m の平方区画内で目視とさえずりから種を記録した。出現鳥
類は森林性鳥類・草地性鳥類・都市性鳥類・水性鳥類の 4 つのグ
ループに区分した。緑地状況は、植物の光合成活性の指標である
NDVI(Normalized Difference Vegetation Index: 正規化植生指数;10m 解
像度 ) を用いて、1) 区画内の NDVI 合計値 2) 周辺 NDVI 合計値 3) 山
塊からの距離 4) 樹林地面積 5) 緑地の連結性の有無 6) 周辺河川の有
無を算出した。これらの説明変数を用いて、4 つの機能群の種数を
応答変数とした回帰モデルを作成した。鳥類分布予測シナリオを作
成する為、札幌市の【みどりの基本計画】を参考に仮想緑地を作成し、
得られたモデルを用いて鳥類分布を予測した。
解析の結果、都市性鳥類は緑地状況と有意な関係がみられず、水
性鳥類は 6) のみ有意に正の影響を有していた。また、森林性鳥類で
は 1)3)、草地性鳥類では 1)3)5)6) を用いた予測モデルがベストモデ
ルとして選択された。そして、森林性鳥類は 4 シナリオ間で大きな
違いがみられなかったが、草地性鳥類は都心部にも緑地を創出する
事などで種数が増加する事が明らかになった。
P1-111
P1-112
Epidemic dynamics of a vector-borne disease on a rural-
生息地の連結性が繁殖期鳥類の分布に与える影響~生息
urban star network with commuters: The Update
地の連結性は生息地面積の効果を上回るか?~
*Mpolya E. A (Sokendai), Yashima K (Meiji Univ.), Ohtsuki H (Sokendai),
Sasaki A (Sokendai)
* 松葉史紗子(東大・農・生態環境調査室),加藤和弘(東大・農・生態
環境調査室)
都市の生物多様性を向上させる上で、生息地を取り囲む環境は、
生息地そのものの保全と同等かそれ以上に重要である可能性が指摘
されている。これは生息地を取り囲む環境の違いによって、生息地
の孤立化・断片化が生息地内の生物に及ぼす影響が大きく変化しう
るためである。
本研究では、特に都市域において生息地の孤立化を緩和する手法
とされる緑道を取り上げ、緑道との接続の有無が繁殖期鳥類の種多
様性を高めるのかを明らかにし、生息地の面積および植生による寄
与度と比較することを目的とした。
2012 年 4 月から 6 月に神奈川県と千葉県において、緑道と接続し
ている樹林地 18 地点、接続していない樹林地 31 地点で鳥類の分布
を調査した。調査方法はルートセンサス法を採用し、100m ごとに区
切ったルートを面積に応じて設置し、調査期間内で各ルート 3 回ず
つの調査を実施した。各調査樹林地における観察種数を従属変数と
し、樹林地面積、樹林地内の植生階層構造、緑道との接続の有無を
独立変数として一般化線形モデルを構築し、各独立変数の相対的重
要度を算出した。
鳥類調査では 29 種 5234 個体が観察された。モデルでは、緑道と
の接続の有無は、樹林地内の鳥類の分布に正に寄与していたが、そ
の寄与度は樹林地面積と比べると 3 分の 1 程度であった。
168
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-113
P1-114
Effects of habitat reduction and heat islands to Mecopoda
草地性節足動物群集の季節変化:草地自体の植生と周辺
nipponensis
景観の変化に対する反応
*H. Kiyokawa, M. Kiyoshima, Y. Takeda (Toho University), M. Nagumo
(Hokkaido University), M. Hasegawa (Toho University)
* 弘中豊,小池文人(横浜国大・環境情報)
草地における節足動物群集には様々なギルドの種が含まれ,草地
生態系において重要な機能を担っている.草地生態系には里山丘陵
地の樹林に接した半自然ススキ草原や都市に造成された芝生など,
様々な草地があり,また春から秋にかけて季節によっても草地生態
系は変化する.この研究では,さまざまな都市化傾度のもとにある
多様な草地生態系を対象に,節足動物群集の食物網に関するギルド
構造を比較した.
調査地は神奈川県内の都市から山地に至る 27 地点とし,5,7,8,
10 月にスウィーピング法で節足動物を採集して食性(肉食性,植食
性,雑食性,腐食性)と体長(小型・中型・大型)を基にギルドタ
イプに分けた.また植物の優占種と葉群構造により局地的な生態系
を調査するとともに,周辺の土地利用にて立地する景観を評価した.
各地点の各季節を 1 群集として扱い,主成分分析を用いて節足動物
のギルド構造の類似関係を調べた.またその類似関係と局地的な植
生・広域の景観・季節との相関を調べた.
一般的に,春にはどの草地生態系においても比較的小型の雑食者
が多い生態系が存在した.森林の多い地域の安定した半自然草地で
は季節の進行ととともに大型の肉食者が多い生態系に移行したが,
都市景観では他と比較して比較的小型の雑食者が多い状態が継続し
た.具体的には,森林が優占する景観内の半自然草地では,5 月に
中型雑食者が多く,7 月に大型雑食者・腐食者が増加し,8 月には大
型肉食者が増加した.農地景観では,5 月から 7 月にかけて特にエ
ノコログサ属が優占する草地で大型植食者が増加し,8 月には様々
なギルドタイプが増加した.都市景観では,5 月には特にセイタカア
ワダチソウが優占する草地で中型雑食者が多く,7 月にかけて様々
なギルドタイプが多くなるが,8 月から 10 月にかけて減少し,代わ
りに小型雑食者が増加した.
Greater heat stress and habitat loss concertedly increases extinction risk
of organisms living in the fragmented urban habitats; while evolutionary
response by the threatened organisms give chance to survive these recent
and rapid environmental changes. Therefore, it is important to reveal factors
responsible for dividing the fate of threatened organisms, either extinction
or survival, in fragmented habitats within urban heat island.
We selected a katydid, Mecopoda nipponensis , as study species to
examine impact of urban heat island on local extinction or population
persistence due to rapid adaptive evolution to heat stress. Study area is
located in urban and rural area east of Tokyo metropolis, one of biggest city
of the world.
Species distribution modeling detected that higher night time temperature
and shorter forest edge length were major environmental factors that limit
the local distribution. However, laboratory experiments conducted to detect
if rapid evolutionary gain of heat tolerance enable local M. nipponens
population to survive in urban heat island using katydids collected in urban
and rural sites allowed to sing in five temperature regime (from 19 to 31 C
with 2C interval) did not show any signature of rapid evolution.
P1-115
P1-116
モンゴルの放牧地に生育する低木 Caragana の遺伝的多
中部地方の高山帯に進出したニホンジカの食性:八ヶ岳
様性とクローン構造
と南アルプスの事例より
* 高橋昌也(東北大・農),吉原佑(東北大・農),陶山佳久(東北大・農)
* 鏡内康敬,高槻成紀(麻布大学・獣医)
家畜の過度な放牧は、しばしば植生の劣化を招くことが問題と
なる。モンゴルの半乾燥地域を中心に生育するクローナル植物の
Caragana microphylla(マメ科:以下カラガナ)は、この地域におい
てしばしばパッチ状の群落を形成する代表的な低木である。その生
育は放牧圧の影響を強く受け、重牧地では成長が抑制されることが
知られている。このような成長抑制が繁殖成功にまで影響を及ぼす
ならば、長期的にはこの種の遺伝的劣化を招く可能性が危惧される。
そこで本研究では、放牧圧が摂食対象植物に及ぼす遺伝的影響につ
いて基礎的な調査を行うこととし、軽牧地および重牧地におけるカ
ラガナパッチのクローン構造および遺伝的多様性を調べた。
調査地は、ウランバートルから南へ約 100km 離れた草原地帯とし
た。井戸に隣接し、家畜密度が高い場所を重牧地、井戸から離れて
家畜密度が低い場所を軽牧地とした。軽牧地と重牧地にそれぞれ 3
つの調査地を設け、1 つの調査地につきそれぞれ 4 パッチのカラガ
ナ群落を調査対象とした。1 つのパッチからは異なる 8 方向の辺縁
部から計 8 サンプルの葉片を採取した。各パッチの直径は 0.8-5.0 m、
パッチ間の距離は 0.5 -5 m、調査地間の距離は 500-1000m、軽牧地
と重牧地の間の距離は約 3km である。
本研究で開発したマイクロサテライト DNA マーカーを用いて、
まずパッチのクローン構成を調べた。その結果、調査した計 24 パッ
チのうち、21 パッチが 1 クローンのみで構成されており、残りの 3
パッチは近接するパッチのクローンが入り込んだ2あるいは3クロ
ーンで構成されていた。また、近接した 2 パッチが 1 つのクローン
で構成されているケースも4組あった。これらの構造や多様性には
、軽牧地と重牧地の間で顕著な違いは認められなかった。
高山環境にまで進出したシカ(ニホンジカ,Cervus nippon )は,
一年中高山帯にいるわけではなく,雪解けの始まる 6 月頃から 11 月
頃までは亜高山帯上部から高山帯に至る高山環境を利用するが,冬
期は低標高地を利用する季節移動をすることがわかってきた(泉山・
望月 2008)。しかし,食性については,定量的な調査・分析は行わ
れていない。そこで,本研究では,季節ごとの山地帯,亜高山帯,
高山帯のシカの食性を,糞分析により明らかにすることを目的とし
た。中部地方の2ヶ所の山岳地帯(八ヶ岳の硫黄岳周辺,南アルプ
ス北部の仙丈ヶ岳周辺)で新鮮なシカの糞を採集し,光学顕微鏡に
よりポイント枠法で定量分析して,以下の結果を得た。
1)八ヶ岳の山地帯では,季節により差はあるもののササ(13 ∼
56%)が重要であった。これに対して亜高山帯と高山帯では,ササ
以外のグラミノイド(47 ∼ 56%)が高い占有率をとり,ササは 1%
未満と山地帯とは大きな違いがあった。
2)南アルプス北部では,山地帯,亜高山帯,高山帯のいずれで
もササは 1% 未満であり,ササ以外のグラミノイドがとくに高山帯
で大きな占有率をとった(35 ∼ 43%)。双子葉植物の葉が山地帯(11
∼ 26%)と高山帯(12 ∼ 19%)で,また針葉樹の葉(2 ∼ 5%)と
シダ葉(1 ∼ 13%)が亜高山帯で比較的高い占有率を示した。また,
山地帯では,秋(9 月)と冬(3 月)に支持組織(ともに 30%)が,
秋(9 月)と初冬(11 月)に種皮・果実(13% と 9%)が高くなった。
以上の結果から,高山帯に進出したシカは低標高のシカとは大き
く異なる食性をもつようになったこと,季節により利用する食物が
変化することが明らかになった。
169
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-117
P1-118
隣接する2個体の遺伝子型が同じか異なるかによって、
開放型チャンバーによる温度上昇がコナラ(Quercus
serrata Thunb.)に与える影響 ~樹冠における葉の被食
食害後の植物の応答は変化するか?
* 深町美智(首都大・理),可知直毅(首都大・理),鈴木準一郎(首都大・理)
とシュート成長様式の 2 年間の比較~
食害された植物が防御反応を示すことは知られている。一方、隣
接する個体が食害されると、未だ食害されていない個体も食害前防
御を示す可能性がある。植物では地下茎などの接続により同じ遺伝
子型の個体が隣接して分布することが多い。そのため、食害された
個体から同じ遺伝子型の隣接する個体に、食害情報が伝達され、そ
れに応答できれば、有利となる可能性がある。そこで、隣接個体の
遺伝子型と食害が植物の成長量に及ぼす影響を栽培実験により検討
した。
材料の植物には、イタドリを、植食者にはハスモンヨトウを用いた。
一鉢に2本の地下茎を植え、一方を操作個体、他方を評価個体とし
た。以下の3処理、操作個体と評価個体の遺伝子型が同じか異なるか、
操作個体の食害の有無、評価個体の遺伝子型、を設けた。65日間
の栽培後、各鉢の操作個体のみに食害を2日間加え、植食者を回収
した。さらに7日間栽培し、植物を刈り取り、乾燥重量を求めた。
3処理間で評価個体の重量を比較した。操作個体に食害がないと
大きい傾向が見られ、操作個体と評価個体の遺伝子型の異同による
差はなかった。一方で、評価個体の個体重には、評価個体の遺伝子
型によって差がみられた。そこで、評価個体の遺伝子型ごとに、操
作個体の食害と操作個体と評価個体の遺伝子型の異同について比較
した。その結果、ほとんどの遺伝子型の評価個体で、操作個体が食
害されない場合に、個体重が大きい傾向が見られた。また、全ての
遺伝子型の評価個体で、評価個体と操作個体の遺伝子型が同一でも
異なっても、個体重に有意な差は見られなかった。以上より、隣接
する個体の食害に対して、隣接個体の遺伝的背景に関わらずイタド
リは応答し、成長量が変化すると考えられる。
* 三島大(鳥取大・院・農),佐野淳之(鳥取大・農・森林生態系管理)
地球温暖化が進行し、生態系や樹木に与える影響が懸念されてお
り様々な研究が行われている。温暖化による影響は未知な部分が多
く、新たな知見を得るためには温度上昇に対する生態系の応答を確
かめる野外操作実験が重要である。そこで本研究では、コナラ林内
に設置された林冠観測用ジャングルジムで開放型チャンバー(Open
Top Canopy Chamber)を用いて 2 年間の温暖化実験を行い、温暖化
がコナラの葉やシュートに与える影響を調べ、温暖化に対する成長
器官の対応様式を明らかにすることを目的とした。
高さ約 18 m に位置する樹冠の枝を囲むように OTCC を設置した。
OTCC 内の温度上昇は、2011 年で約 0.1 ∼ 0.7℃、2012 年で約 0.1 ∼
0.9℃であった。IPCC(2007)は今後約 0.2℃上昇すると予測しており、
本結果は今後の温度上昇を表していると考えられる。
2011 年 に は す べ て の OTCC 内 で 三 次 伸 長 枝 が 確 認 さ れ た が、
control で は 三 次 伸 長 枝 は 確 認 さ れ ず 二 次 伸 長 枝 ま で で あ っ た。
OTCC 内では、シュート長と基部直径、葉面積が control に比べて増
加した。一次伸長枝の食害度は control の方が高く、二次伸長枝の食
害度は OTCC の方で高かった。
2012 年には三次伸長枝は発生せず、2011 年に比べ、シュート長や
葉面積は減少傾向を示したが、基部直径が増加した。2012 年の雌花
数と堅果数が、2011 年より多かった。したがって豊作年では資源を
成長より繁殖に投資すると考えられる。
これらより、温暖化はコナラの伸長成長を促進させ、コナラはよ
り明るい空間を獲得し、得た資源を繁殖に利用しているといえる。
そのため温暖化の進行によって、コナラは残しやすくなる可能性が
あると考えられる。
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哺乳類相の地域差によるイルカンダ(マメ科)送粉様式
Flower visitation patterns of bees and wasps through
の変異
flower color, morphology, and nectar traits
* 小林 峻(琉大・院・理工),傳田哲郎(琉大・理),真柴茂彦(大分県),
岩本俊孝(宮崎大・教育文化),伊澤雅子(琉大・理)
* 龍野瑞甫,大澤直哉(京大・農・森林生態)
We surveyed flower visitation pattern of bees and wasps in Nara and
Kyoto in 2011 and 2012. We observed five species of Apidae and eight
species of Vespidae at the flowers of 81 species of plants in 38 families.
We measured color for bee, brightness for bee, shape (dish to bowl,
bell or funnel, brush, flag, tube), size, nectar guide, nectar volume, and
nectar concentration as floral characters. Wasps visited green flowers
more frequently than bees. Furthermore, the visitation pattern of wasps
was influenced by interactions between flower shape and size. Apis
mellifera visited green flowers more frequently than Apis cerana japonica .
Bumblebees and Tetralonia nipponensis were tended to visit flowers with
high concentration and much nectar than the other species in 2012. This
was because these bees could feed on nectar of azalea easily by their long
tongue.
イルカンダ Mucuna macrocarpa は九州から東南アジアにかけて不連
続に分布するマメ科の木性蔓植物である。本種は explosive pollination
と呼ばれる特殊な送粉様式を持ち、堅い 2 枚の花弁(竜骨弁)が裂
開することで初めて、雄蕊・雌蕊が露出し花粉が放出され、他家受
粉が可能となる。竜骨弁は自然には裂開せず、そのままだと花は結
実することなく枯れてしまう。これまでの調査により、沖縄島では
オリイオオコウモリ Pteropus dasymallus inopinatus が特異的にイルカ
ンダの花を裂開し、花の諸形質もコウモリ媒シンドロームに当ては
まることが確認されている。ところが、植物食のコウモリが生息せず、
本種の分布北限にあたる大分県蒲江においても、イルカンダの花が
裂開し、結実することが確認された。蒲江における花の形態や夜間
に強い匂いを出すという特徴は沖縄島と同じであった。蒲江におけ
る訪花動物の直接観察と自動撮影調査の結果、オリイオオコウモ
リに代わってニホンテン Martes melampus およびニホンザル Macaca
fuscata が裂開を行っていることが明らかとなった。ニホンテンはオ
リイオオコウモリと同様に夜間に訪花し、口先を花弁の間に押し込
み旗弁を持ち上げることで花を裂開していたが、ニホンザルは日中
に訪花し、両手を使って花弁を開くことで花を裂開していた。ニホ
ンザルでは、裂開した花を花序からもぎとる、あるいは、裂開しな
いまま噛みちぎるなど、負の影響を与える行動も多く観察されたが、
訪花頻度はニホンテンよりも圧倒的に高く、花の裂開数も多かった。
これらのことから、イルカンダは分布の北限である蒲江において、
コウモリとは全く異なる習性のニホンザルと新たなパートナーシッ
プを構築しつつあると考えられる。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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ハクサンハタザオの有毛型と無毛型に対する食害の頻度
セイタカアワダチソウの花に関わる生物間相互作用
依存性
* 池本美都(京大生態研),大串隆之(京大生態研)
* 佐藤安弘,川越哲博,工藤洋(京大・生態研)
植食者による食害は、より多い植物種が選択的に摂食されること
によって、複数の植物種の共存を促進しうる。このような相互作用
は群集レベルの現象として研究されてきたものの、植食者か植物種
内の多型に対して同様の餌選択を行うならば、被食防衛形質の多型
の維持に寄与する可能性がある。
演者らのこれまでの研究により、有毛型は無毛型に対して少数派
のときにハムシに食害されにくいことが示唆されている。本研究で
は、他の植食者との相互作用も検証するために、ハクサンハタザオ
のトリコーム有無の遺伝的二型(以下、有毛型と無毛型)の相対頻
度を変えて共通圃場に移植し、各植物の成長・繁殖と植食者の密度
を記録した。
花期の初めには、アブラムシがハクサンハタザオを食害した。こ
のとき、無毛型が多い区画では、無毛型よりも有毛型上でアブラム
シ密度が高く、有毛型の花・果実数が無毛型よりも少ない傾向が見
られた。しかし、これらの傾向はプロット間でばらついていた。また、
有毛型が多い区画では、有毛型・無毛型間でアブラムシ数に一貫し
た違いはなく、繁殖成功にも顕著な違いは見られなかった。
さらに、花期の終わりにはモンシロチョウがハクサンハタザオを
食害した。しかし、チョウの産卵数は、有毛型・無毛型の相対頻度
とは関係なく、無毛型上でより多かった。この結果と対応して、チ
ョウの幼虫数と食害された葉の数は無毛型で多い傾向が見られた。
以上の結果から、少なくとも本研究の範囲では、アブラムシとチ
ョウの 2 種類の植食者について、有毛型・無毛型の頻度に依存した
食害の確たる証拠は得られなかった。アブラムシに関しては、密度
の異質性が有毛型と無毛型の頻度によるものなのか閉鎖系での更な
る検証が必要である。チョウに関しては、より広い空間スケールで
の検証が必要な可能性がある。
多年生植物は長い寿命の中で、生物的、非生物的なさまざまな要
因の作用を受けている。植物が過去に受けた作用の履歴効果を検出
することは困難であるが、近年の研究で、年を経ても過去の相互作
用の影響が植物の形質を変えることが明らかになってきた。たとえ
ば、過去に一度行われた窒素肥料の施肥は、数年後の植物の生長を
促進させる。また、数年間食害を受け続けた植物は、1年間だけ食
害を受けたものより、サイズが減少する。しかし、こういった過去
の食害の効果が花形質に与える影響については、未だ明らかではな
い。花形質は植物の繁殖成功に重要なものあり、また当年の葉の食
害は花形質に負の影響を及ぼすことが知られている。そこで本研究
では、多年生植物の花形質に対する過去の葉の食害履歴の効果を検
証した。
2010 年と 2011 年の 2 年間、京都大学生態学研究センターの実験
圃場にて、操作実験を行った。材料は多年生草本であるセイタカア
ワチソウとその植食性昆虫アワダチソウグンバイとした。食害履歴
の効果として (1) 持ちこしの効果 (carryover effect) と (2) 集積の効果
(cumulative effect) を検証した。2011 年、
「持ちこしの効果」の検証の
ため、2010 年にグンバイを接種した株と、非接種の株の花の大きさ、
花の枝数、総バイオマスに対する花重を比較した。その結果、いず
れの形質においても処理間で違いはみられなかった。次に、
「集積の
効果」について検証するため、1 年目 (2010) に食害を与えた株と 1
年目と 2 年目 (2010 ∼ 2011) に食害を与えた株の花形質を比較した。
その結果、食害を 2 年受けた株では、花の大きさ、花の枝数、総バ
イオマスに対する花重が減少した。
以上から、セイタカアワダチソウの花形質に対する食害履歴に関
し、持ちこしの効果からは有意な影響は検出されなかった。一方、
集積の効果は負の効果を及ぼすことがわかった。
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エゾシカの食害と森林属性との間の関係について -野
DNA バーコーディング法を用いたネズミ科 3 種の糞中
幌森林公園を中心にして-
植物残渣の推定
* 佐々木正人,並川寛司(北教大・札幌・生物)
* 白子智康,石澤祐介(中部大院・応用生物)川本宏和,田崎里実,上野
薫,南基泰(中部大・応用生物)
シカによる食害の強さは対象植物の密度だけでなく,視覚的な遮
蔽という森林の持つ属性等にも影響される.本研究は,相対的にシ
カ密度の低い道央の江別市に位置する野幌森林公園を中心とした地
域で,食害の強さと林分属性との間の関係について明らかにするこ
とを目的に行った.
札幌市とその南東部に位置する四市で,食害を受けた個体(食害
個体)の数と森林属性との間の関係について予備的な調査を行った.
対象とした地域のシカ密度は 1 km2 当たり約 3 頭で,食害の顕著な
知床岬では 100 頭を超えるのに比べ著しく低かった.食害個体の数
は,林分下層(高さ 3 m 未満)の植被率の増加に伴い少なくなる傾
向が見られた.この原因として,対象地域ではシカ密度が低いこと
から,物理的に移動が制限されたり,採餌対象が遮蔽されたりする
ような林分で採餌することが稀であることが挙げられる.
野幌森林公園(0.9 頭/ km2)において,遊歩道や作業道等の脇(林縁)
および林内に設定したルート(総延長 46.8 km)で,食害個体の位置
を記録した.また,森林属性(林分高,樹冠疎密度等)から林分を
類型化し,その分布から対象地域を 4 つのゾーンに区分して食害密
度(ルート 100 m 当たりの食害個体数)を比較した.4 つのゾーン
のうち自然林,人工林を問わず林分高が約 15 m 以下の林分型が優勢
なゾーンで食害密度が最も高かった.また,食害を受けた全個体の
3 分の 1 に当たる 213 個体はオオウバユリで,上に示したゾーンで
もオオウバユリが最も高い食害密度を示した.同じ調査地で,オオ
ウバユリの食害個体数と生育密度との間に一定の関係が見られない
ことが示されていることから(伊藤未発表),シカの採餌が,林分高
の低い林分の縁でより頻繁に行われていることが予想された.
日本全域に広く分布する代表的な小型哺乳類であ るアカネズ
ミ (Apodemus speciosus )、 ヒ メ ネ ズ ミ (A.argenteus )、 ヤ チ ネ ズ ミ
(Eothenomys andersoni ) は生態系ピラミッドの最下層に位置し、国内
に生息する動物種の生物多様性維持において重要な存在である。こ
れら 3 種の餌資源推定は、これまで顕微鏡を用いた胃内容物もしく
は糞中残渣の気孔や表皮細胞の観察による種同定によって行われて
きた。しかし、この方法では粉砕・消化によって形状が変化してい
るため餌資源の種同定は困難であり経験則が必要となることから、
日本におけるネズミ類の餌資源の種同定には至っていない。また,
胃内容物を調べるためには調査個体を殺傷する必要もある。
そこで本研究では経験則を必要とせず調査個体を殺傷しない、確
実なネズミ類の餌資源同定法として DNA バーコーディング法を利
用した糞中植物残渣推定法の開発を目的とした。国内各地でネズ
ミ科 3 種の捕獲調査により糞を採取し,植物残渣の DNA を抽出、
rbcL 遺伝子領域を決定後 BLAST 検索し、餌資源を推定した。解析
の結果、アカネズミからソヨゴ (Ilex pedunculosa : 相同性 98%)、ヒ
メネズミからアセビ (Pieris japonica :99%)、ヤチネズミからクマイチ
ゴ (Rubus crataegifolius :99%)、3 種からセイヨウバクチノキ (Prunus
laurocerasus :98%) 等が推定された。さらに、BLAST 検索によって推
定された植物種の rbcL 遺伝子領域の多くは、捕獲地点周辺に自生し
ている植物種と一致していた。このことから DNA バーコーディン
グ法による餌資源の推定は実用性の高い手法であるといえる。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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Impacts of browsing by sika deer on the insect community
スキーゲレンデにおけるムラサキツメクサの繁殖生態.
of post-cutting coppice woodlands
2 招待されるハチと無銭飲食するチョウ
* 藤森雄大(東大・新領域),鈴木牧(東大・新領域)
* 船本大智,得田奈央子,藤浪理恵子,横井智之,渡辺 守(筑波大学・生物)
Increase in the density of sika deer (Cervus Nippon) has had a significant
impact on the forest ecosystem of Japan. Among many studies on the deer
impact, few have examined the impact onto forest communities at early
successional stages, where functional diversity of insects could be extremely
high. In this study, we aimed to describe deer-induced changes of earlysuccessional plant-and-insect communities at various trophic levels. The
studies were conducted at secondary forests in southeast Boso Peninsula,
where deer density had been high. We collected insects using FITs, and
surveyed ground-layer vegetation inside and outside of deer exclosures. We
also took same datasets at another site where deer had not existed for long.
Plant biomass was significantly higher inside the exclosures than outside,
though plant species richness was not significantly different between
inside and outside of the exclosures. Species richness of insects outside
the exclosures was higher than that inside exclosures. Strong correlation
was found between species richness of parasitic wasps and that of all other
insects. However only weak correlation was found between species richness
of predacious insects and that of herbivore insects. From these results,
insects of higher trophic levels are expected to be more strongly influenced
by deer.
冷温帯のスキーゲレンデに侵入したマメ科外来種のムラサキツメ
クサは、春から秋にかけて多くの花序を形成し、花粉媒介者を利用
した有性生殖による種子繁殖を行なっている。訪花する昆虫類と花
粉媒介の関係を調べるため、長野県白馬村のスキーゲレンデを調査
地に選び、2012 年8月上旬の晴天・微風時に(のべ 2 日間)、8 時か
ら 15 時の間に調査を行なった。ムラサキツメクサの花に訪れた昆虫
類を見つけ次第直ちに採集し、室内に持ち帰って同定した。各昆虫
類の口吻長を測定すると共に体表に付着していた花粉を同定し、ム
ラサキツメクサの花粉数を計測した。また、花筒長を測定すると共
に、BCG 試験紙を各花の蜜腺まで挿入して蜜を浸み込ませ、蜜量を
計測した。ムラサキツメクサに訪花した昆虫は 12 種(ハナバチ類4
種、チョウ類5種、甲虫類2種、ハエ類1種)で、トラマルハナバ
チとモンキチョウの訪花頻度が高かった。ムラサキツメクサの花粉
はハナバチ類の体表に多く付着しており、シロスジヒゲナガハナバ
チが最も多く、次いでトラマルハナバチ、ミヤママルハナバチ、ア
カガネコハナバチの順になった。一方、チョウ類とハエ類、甲虫類
にはほとんど付着していなかった。トラマルハナバチとミヤママル
ハナバチ、そしてすべてのチョウ類の口吻長は花筒長よりも長かっ
た。各花の現存蜜量は0∼ 0.9 μlとばらつきがみられたが、花序
の開花段階や花序内での開花位置による明確な違いは認められなか
った。これらの結果から、ムラサキツメクサにとっては、訪花個体
数と付着花粉数が共に多いトラマルハナバチが招待された送粉者で
ある一方、モンキチョウは訪花個体数が多いものの蜜だけを吸って
花粉媒介をしない無銭飲食者であると考えられた。
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堅果への虫害は森林性ネズミによる持ち去りにどのよう
スキーゲレンデにおけるムラサキツメクサの繁殖生態.
な影響を及ぼすのか?
1 花火師ムラサキツメクサの花形成の競演
* 柏木晴香,梶村 恒(名大院・生命農)
* 得田奈央子,船本大智,藤浪理恵子,横井智之,渡辺 守(筑波大学・生物)
森林には様々な樹種の堅果が存在し、虫害を受ける場合も多い。
貯食散布者であるネズミと健全堅果の関係は、かなり調べられてき
た。しかし、虫害堅果は、餌としての魅力は低いものの、ネズミに
持ち去られているかもしれない。さらに、昆虫に胚軸や幼根を摂食
されなければ発芽可能であり、森林の更新に寄与しうる。したがって、
虫害がネズミによる堅果の持ち去りにどのような影響を及ぼしてい
るのかを解明することは、貯食散布の“現場”における有効性を考
える上で重要である。
そこで、樹種 ( クリ、ミズナラ ) と昆虫の産卵孔・脱出孔の有無
( 健全、軽度虫害、重度虫害 ) から分類した計 6 種類の堅果を用い
て、野外のネズミに対する供試実験を行った。堅果の組み合わせを
変えて餌台に静置し、樹種間、虫害程度間、樹種および虫害程度間
で持ち去り率を比較した。また、餌台の前に赤外線センサーカメラ
を設置し、その画像から持ち去り順序、ネズミ種を確認した。さら
に、堅果の一部に小型発信機を装着し、供試一晩後に追跡した。堅
果が発見できた際は、散布先のデータ ( 散布距離、埋土深、捕食状況、
貯蔵様式、林床環境 ) を記録した。
今回の実験では、アカネズミ、ヒメネズミ、スミスネズミが堅果
を持ち去り、それぞれの選好パターンは同様になった。すなわち、
クリ健全 = クリ軽度虫害>クリ重度虫害>ミズナラ軽度虫害>ミズ
ナラ重度虫害>ミズナラ健全となった。クリの場合、アカネズミと
ヒメネズミでは、健全堅果が最長 55m も散布されたが、虫害堅果は
10m 以内であった。また、埋土深は虫害程度に関わらず、5cm 以下
と浅い傾向が見られた。スミスネズミでも、虫害堅果が近距離に多
かったが、比較的深く埋められる事例が確認された。これらの結果
から、ネズミは虫害堅果を識別して持ち去ることが実証されると同時
に、散布距離や埋土深を微妙に変化させていること等が示唆された。
長野県白馬村一帯で開発されているスキーゲレンデには、斜面崩
壊を防ぐために様々な種類の牧草が繰り返し吹き付けられてきた。
播種された牧草の多くはイネ科草本であるが、マメ科の外来種であ
るムラサキツメクサもみられ、複数の株が集まったパッチを形成し
て広範囲に定着している。そこで、本種の定着要因を明らかにする
ため、花序形成の戦略を調査した。本種の一次シュートは地表部か
ら斜めに伸びた後、上に向かって成長する。一次シュートは葉を5
∼6枚生じ、先端部に 1 個の花序を形成するまで伸長を続ける。ま
た、一次シュートの葉腋からは二次シュートが斜めに伸び、葉を2
∼3枚生じながら一次シュートと同様に上に向かって成長する。そ
の先端部にも 1 個の花序が形成される。全ての花序の自然高はほぼ
同じだったため、株全体は柄の無い傘を逆にした様な形を示し、株
の上部に花序が散在した状態になっている。調査の結果、株あたり
の一次シュート数が増えると、二次シュート数も増加した。シュー
ト数が増えると株の全葉面積は大きくなり、株の占有体積は増加す
る。したがって、シュート数が多い株ほど葉面積と占有体積が大きく、
花序数の多い株となっていた。一方、花序当たりの花の数に大きな
違いは認められなかった。花序は球状で、下部から開花を始めてい
くが、その順序は片側に偏って盛り上がるように咲いたため、花序
の日齢に関わらず、開花部分は常に花序の頭部に位置していた。開
花した花の大きさはほぼ一定で、花序の日齢と共に開花数は増加し
たため、花序の見かけ上の体積は増加していった。これらの結果か
ら、本種は上空に向かって大きな赤紫の花序を呈示し続けることで、
訪花昆虫を誘引していると考えられた。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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周年結実性のアコウ果実の一年を通した利用パターンは
エゾシカの高密度化による植生破壊は,ヤブサメの生息
ヤクシマザルと鳥で異なる
地利用に影響を与えるか?
浜田飛鳥(京都大・霊長類)
* 上原裕世(酪農学園大学院・野生動物),玉田克己(道総研・環境科学
研究センター),梶光一(東京農工大・農),吉田剛司(酪農学園大学院・
野生動物)
屋久島には、ヤクシマザル、ヒヨドリ、メジロなどの果実食動物
が生息している。イチジク種子散布者としての霊長類の重要性は熱
帯ではすでに明らかにされているが、温帯での研究はまだ行われて
いない。本研究では、一年を通して非同調的に結実し様々な大きさ
の動物種に採食されるという特性をもつイチジクの一種であるアコ
ウ果実を対象とし、屋久島に生息する動物群集の果実利用の季節的
な変化とその要因を明らかにすることを主な目的とした。調査は鹿
児島県熊毛郡屋久島町の西部林道川原地区で、2011 年 9 月から翌年
9 月までの毎月約 10 日間行なった。調査はアコウの定点観察と鳥類
のセンサス、アコウ及びその他の種のフェノロジー調査を行なった。
得られたデータから、動物群集の果実の利用に季節的な変化が見ら
れた。アコウ果実を最も多く利用していた種はヤクシマザルとヒヨ
ドリで、果実消費量はそれぞれ 91%、4% を占めていた。一般線形
モデルによる解析結果から、ヤクシマザルはアコウの結実本数が少
ない時、アコウ以外の種の結実本数が少ない時、そして気温が高い
時に、1 本当たりのアコウ果実の利用が増加する傾向にあり、ヒヨ
ドリは気温が低い時に 1 本当たりのアコウ果実の利用が増加する傾
向にあることが明らかになった。ヤクシマザルは食物資源の乏しく
なる冬になると、森林内に低密度でしか存在しないアコウ結実木を
探すための移動によるエネルギー損失を抑えて、容易に発見できる
葉などの低栄養な食物を食べることを優先させるためこのような結
果になったのだと考えられる。ヒヨドリは冬に昆虫食から果実食へ
と切り替えるため、アコウ果実の利用が増加したと考えられる。また、
ヒヨドリによるアコウ果実の利用はヤクシマザルの存在によって抑
制されていることも明らかになった。
シカ類が森林植生に与える影響は,世界各地で報告されている.
国内でもニホンジカ(以下,シカ)の森林植生に与える影響を考慮
して,個体数管理の必要性が問われるとともに,シカがもたらす植
生改変について非常に着目されるようになった.一方で鳥類など,
他の生物相へ与える負の影響に関してはいくつか報告されているの
みで,依然として知見は少ない.
本研究では,シカによる植生改変の影響を受けやすいとされる藪
性鳥類のヤブサメを調査対象種とし,シカが高密度に生息する環境
において,植生改変がヤブサメの生息地利用に与える影響を把握す
ることを目的とした.
調査地はシカが高密度に生息する,北海道洞爺湖町に位置する中
島である.過去の調査結果より島内において,飛来して間もない 4
月中旬期にヤブサメが確認された地点から 10 地点を選択し,鳥類調
査では 2011 年 4 月中旬から 7 月下旬にかけて各地点に録音機を設置
し,早朝のヤブサメの囀りを記録した.また植生調査では同期間,
10 日おきに植生の種・植生高・被度を記録した.
2010 年には,シカによる植生改変が著しい島内でもヤブサメの繁
殖は確認されていた.しかし音声解析結果より,4 月下旬から 5 月
上旬にかけて囀りが確認された場所であっても,その後に繁殖せず
いなくなる地点が確認された.これらを踏まえ,植生調査情報とヤ
ブサメの生息の有無について,関連性の高い条件を統計分析にて予
測した.
その結果,ヤブサメは他の藪性鳥類と異なり植生の種や高さによ
る影響は少なく,一方で植生被度により大きく影響されることが判
明した.本発表では,植生とヤブサメの生息地利用について要因解
析の結果を報告するとともに,シカが植生改変を介してヤブサメに
与える影響について更に考察を進める.
P1-131
P1-132
シカの樹皮剥ぎがヤナギ上の植食性昆虫群集に与える植
ネズミモチと潜葉性昆虫間の拮抗関係 - ラマスシュート
物を介した間接効果
の利用は最適な戦略なのか -
* 田中幹展(北大・環境科学院),中村誠宏(北大・中川研究林)
* 箕浦哲明,綾部慈子,肘井直樹(名大院・生命農・森林保護)
近年の研究から、哺乳類による食害が植物の可塑的な形質変化を
引き起こし、他の植食者によるその後の食害に影響を与えることが
明らかになってきた。これまでの研究では、植物の形質変化は植物
個体内で均一に生じるとしたものがほとんどであった。しかし、植
物の形質変化は植物個体内の空間により異質である可能性がある。
本研究では哺乳類による食害として、シカによるヤナギへの樹皮剥
ぎに注目し、野外調査と野外実験によりこの問題に取り組んだ。
研究サイトは北海道北部の天塩川沿いの河畔林とした。ヤナギ個
体内の空間的に異質な反応として、ヤナギ下部の萌芽枝の生産とそ
の葉形質の変化、およびヤナギ上部の葉形質の変化に注目した。野
外調査の結果、シカ樹皮剥ぎはヤナギの補償生長を誘導し、萌芽枝
の生産を促進することが明らかになった。人工的な樹皮剥ぎによる
野外実験を行った結果、野外調査の結果と一致し、樹皮剥ぎにより
萌芽枝の生産が促進されることが示された。人工的な樹皮剥ぎを行
ったヤナギの葉の化学形質および昆虫の食害率を調べた。その結果、
萌芽枝の葉はヤナギ上部の葉に比べ、タンニンなどの防御物質の含
有率が少なく、エサとしての質が高かった。また、萌芽枝の葉の質
は樹皮剥ぎが強いほど高く、それに伴い昆虫による葉の食害率も高
くなることが明らかになった。一方、ヤナギ上部の葉は萌芽枝の葉
とは逆の反応を示した。ヤナギ上部では樹皮剥ぎ強度が強いと葉の
タンニン含有率が高くなり、エサとしての質が低下することが明ら
かになった。またそれに伴い、昆虫の食害率は低下することが明ら
かになった。
これらの反応は樹皮剥ぎがヤナギの維管束系を破壊することより
ヤナギ内の物質輸送を阻害することが原因のひとつだと考えられた。
本研究の結果は、ある食害は植物の空間的に異質な反応を引き起こ
し、その後の食害の空間構造に影響を与えることを示唆する。
常緑樹は、たびたび春先の新葉(春芽)以外に、ラマスシュート
と呼ばれる新葉を遅れて展開する。ラマスシュートは、高栄養とい
われる一方で、補償作用として展開するため、量的、時空間的に不
安定な資源でもある。そのため、植食性昆虫にとっては一見好適な
餌資源にみえるラマスシュートは、その不安定さから、資源競争を
高め、個体群の成長を抑制するかもしれない。本研究では、こうし
たラマスシュートが、植物と植食性昆虫間の拮抗関係をもたらす一
要因である可能性を検証する。
本研究では、モクセイ科常緑樹のネズミモチを利用する潜葉性昆
虫 Phyllocnistis sp.(鱗翅目:ホソガ科)を対象とした。葉の栄養、
防御特性、生産量と、本種メス成虫の産卵場所選択および幼虫の適
応度指標(羽化成功率と体サイズ)を調査した。
その結果、ラマスシュートは、同時期の春芽よりも防御特性が有
意に低く、しかも高栄養であった。メス成虫は、発生初期には春芽を、
発生中∼後期では、新規に展開されるラマスシュートを利用してい
た。こうした利用資源のシフトは、幼虫の生存のためであると考え
られる。一方、ラマスシュートの資源量は、常に春芽より少なかった。
春芽利用時には産卵が葉の片面にのみに、ラマスシュートでは両面
によくみられることから、ラマスシュートの利用は資源競争を激化
させている可能性がある。実際、春芽利用個体と比較して、ラマス
シュート利用個体の適応度は減少していた。また、羽化成功率の低
下は葉の両面利用に、体サイズの減少は葉面積の減少に起因してい
た。ラマスシュートの量は少ないため、両面利用率が増加するだけ
でなく、小さい葉も利用せざるを得ず、結果、適応度の減少が生じ
たものと考えられる。以上より、ラマスシュートは、幼虫の生存に
は有利である一方、資源競争により個体群全体の成長を抑制してい
る可能性があることが示唆された。
173
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-133
P1-134
2 種の植食性昆虫が誘導するウマノスズクサの補償成長
地下部植食者に起因する植物のダメージは水分供給の様
* 橋本洸哉,大串隆之
式により変化するか?
植食者の食害が誘導する植物の補償的な再成長は、被食に対する
植物の耐性反応の代表である。近年の研究から、植食者に誘導され
る植物の反応は、食害する植食者の種によって大きく異なることが
わかってきた。しかし、植物の耐性反応も植食者の種によって左右
されるかについては未だに議論が続いている。
ウマノスズクサは日本に自生する多年生草本で、2 種のチョウ(ホ
ソオチョウとジャコウアゲハ)の幼虫の寄主植物である。これまで
の研究から、ウマノスズクサは 2 種のチョウのどちらの食害を受け
ても、その後、著しい再成長をすることがわかっている。
本研究の目的は、ウマノスズクサの再成長の強さが食害を与える
種に左右されるかを明らかにすることである。特に、(1.)2 種のチ
ョウの間で被食レベルはどのように異なるか?(2)再成長パターン
はどちらのチョウの食害を受けたかによって異なるか?(3)再成長
パターンに違いが観察された場合、それはどのようなメカニズムに
よるものか? に注目して室内実験をおこなった。
その結果、ホソオチョウの方がジャコウアゲハより与える被食レ
ベルが小さかったこと、食害レベルが低いホソオチョウによる食害
を受けたウマノスズクサの方が、食害レベルが高いジャコウアゲハ
の食害を受けたウマノスズクサより、補償成長が大きいことが分か
った。このことから、両種の与える被食レベルの違いが補償成長の
程度に影響を与えることが示唆された。さらに、ジャコウアゲハの
方がホソオチョウよりも多くの側芽(成長点)を消費することも明
らかになった。再成長の強さは成長点の数に依存するため、ジャコ
ウアゲハによる葉の食害は大きい一方で、再成長できる成長点が大
幅に減少したため、ホソオチョウに比べて再成長の程度は小さくな
ったものと推察された。
* 角田智詞,可知直毅,鈴木準一郎(首都大・理工・生命)
降水の量やパターンの変動は、植物への直接的影響に加え、土壌
湿度を変化させ、土壌棲の植食性昆虫(植食者)の分布を介して間
接的にも影響しうる。そこで、仮説「植食者による植物のダメージは、
水分供給の様式により変化する」を、同一の鉢で植物と植食者を育
成する 3 要因(水分供給の総量と頻度、植食者の垂直分布)の栽培
実験で検討した。
植物にはヘラオオバコを、植食者にはドウガネブイブイ幼虫を用
いた。水分供給総量には多と少の 2 条件を、水分供給頻度には高と
低の 2 条件を設けた。各供給総量内では、頻度による全実験期間の
供給水量の差はない。27 日間の栽培後、1 匹の植食者を加え、さら
に 28 日間育成した。植食者については、5 条件(植食者がいる層が
土壌の上層、中層、下層、移動制限無し、植食者無し)を設定した。
55 日後に刈取り、乾燥重量を求めた。
供給総量が多い条件と、土壌の下層では、土壌湿度は高かった。
土壌湿度の変動は低い供給頻度で大きかった。植物重に対する、供
給の総量と頻度、植食者の 3 要因の交互作用は有意だった。供給総
量が多いと、植物重は大きく、植食者の存在下では両供給頻度で減
少した。植食者が上層にいると植物は小さく、同様の傾向が移動制
限無し条件でも見られた。一方、供給総量が少ないと、植食者の存
在下で植物重の減少は、高頻度のみで見られた。移動制限が無いと、
給水頻度により植物重は異なり、高頻度では上層条件、低頻度では
下層条件とほぼ等しかった。
土壌湿度が高いと、植物の成長は大きかった。また、土壌湿度が
低く、変動が大きいと、植食者が土壌の下層へ移動した可能性が大
きい。このため、水分供給様式に起因した土壌湿度の違いに応じて、
植物の成長と植食者分布が変化し、植物のダメージが異なったと考
えられる。
P1-135
P1-136
水田地域を構成する多様な環境がチョウ類群集及び植物
印旛沼における昆虫類・クモ類に見られるオニビシ葉の
との関係に及ぼす影響
利用
* 不破崇公(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信州大・農)
* 中西奈津美,高木 俊,鏡味麻衣子(東邦大・理)
二次的自然を代表する里地里山の荒廃が進み,そこを生息地とす
るチョウ類の多くが地域絶滅や絶滅の危機に瀕している。これらの
中には局所生息地を有する種もおり,生息・生育環境の保全・保護
に向けた詳細な分布や生息環境の把握が重要である。またチョウ類
は優占する帰化植物を重要な餌資源として利用しているとも考えら
れ,在来植物との関係の保全も問題なっている。本研究では,調査
ルートのピッチを細分化することで,水田地域におけるより詳細な
環境要素とチョウ類群集及び植物との関係を把握し,チョウ類の保
全計画に資することを目的とした。
調査は比較的良好な里地里山の残存する長野県上伊那地方の水田
地域において,中山間地(A,B,C,D)および市街地(E,F)の
基盤整備の有無が異なる 4 つの立地条件,計 6 ヶ所で実施した。群
集調査にはルートセンサス法を用いた。各ルートは,総延長 2km を
25m 間隔で 80 区画に分割し,目撃したチョウ類の種数,個体数を記
録した。チョウ類の吸蜜行動を目撃した場合に種名と個体数,植物
種名,位置,また区画を構成する環境要素を記録した。調査時期は
2012 年 5 月中旬から 10 月上旬,月 2 回,計 10 回行なった。
その結果,総出現種数は中山間地 A,B,C,D 地区の順に 44 種,
47 種,41 種,40 種,市街地 E,F 地区では 19 種,17 種を記録した。
中山間地では地域内で局所生息地を有すると考えられるオナガシジ
ミやヒメシジミ,オオムラサキ,オオヒカゲ,絶滅危惧Ⅰ B 類に指
定されているヤマキチョウを記録した。ヤマキチョウを除くと,こ
れらの確認個体数は少なかった。発表では,これらの種が出現した
環境要素や分布集中区画の吸蜜植物等の要因について考察する。
陸域と水域の生態系は、互いに生物群集の構成やエネルギー流入
等に影響を与え合う。境界に生育する浮葉植物は、陸域の捕食者が
水域で葉上の生物を捕食する際の足場や、葉上を羽化・採餌に利用
するトンボ目の陸域への流入源となると考えられるが、浮葉植物が
陸水域双方を移動する生物に対し与える効果についてはほとんど調
べられていない。
本研究では、オニビシが陸水域双方へ流入する生物に与える影響
を明らかにするために、オニビシ葉上で見られる植食性昆虫ジュン
サイハムシとヒシヨコバイ、捕食者のアメンボ・コモリグモ・トン
ボ目に注目し、(1)葉上被食者個体数が多いことで陸域から葉上へ
進入するクモ個体数が増加するか(2)オニビシの存在により、ト
ンボ目成虫の個体数及び種数が増加するか、検証した。
調査は 7 月から 10 月まで月 1 回、西印旛沼沿岸部の 13 地点にお
いて、コドラート法及び定点観測で行った。コドラート内のオニビ
シ葉被度・葉上生物個体数、岸からの距離、5 分間に見られたトン
ボ目個体数を計測した。
被度はアメンボ以外の葉上生物個体数に対し正に影響した。クモ
個体数に対しハムシ個体数は正の関係が見られたが、アメンボ個体
数は負の関係が見られた。トンボ目について均翅亜目の種数はオニ
ビシ有地点で多く、7 月については個体数も多く見られた。不均翅
亜目ではオニビシの有無により種数・個体数に差は見られなかった。
オニビシが高被度の時、クモを含む葉上生物が多く見られた。し
かしクモによるハムシの捕食が観察できなかったことから、クモが
ハムシ捕食者のアメンボを捕食することによるハムシの増加が推察
される。これはオニビシの存在によりクモが水域へ進出でき、葉上
の生物群集に影響している可能性を示す。また、陸域へ流入する生
物の多様性維持を助けることが示唆された。
174
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-137
P1-138
異なる送粉者相に対応したタカクマヒキオコシ群(シソ
ギフチョウ属 2 種の産卵数・食草密度の年変動とその
科)の花筒長変異
要因
星野佑介,堂囿いくみ(学芸大・教育),鈴木和雄(徳島大)
* 脇坂茜,安斎和樹,佐藤衣里,林田光祐(山形大・農)
植物の花形質は地理的変異が見られることが多い。環境が場所に
よって異なるとき、花形質への選択圧の強さや方向が地域ごとに変
化し、花形質の地理的な変異がもたらされると予想される。
シソ科ヤマハッカ属タカクマヒキオコシ群は、筒状の花の長さに
地理的な変異が見られる(4-12mm)
。送粉者は 2 種のマルハナバチ
であり、この 2 種は口吻長と生息標高に違いが見られる。ミヤママ
ルハナバチは口吻が短く(8-12mm)
、山地性であるが(800-1500m)、
トラマルハナバチは口吻が長く(10-17mm)、低地から低山地(1001200m)に生息する。タカクマヒキコシ群の花筒長分化に影響してい
る環境要因は、標高による送粉者相の違いであると考えられる。そ
こで本研究では、標高と送粉者相が花筒長分化にどのように影響し
ているか明らかにすることを目的とした。調査は兵庫県氷ノ山周辺
において、標高の異なる集団において(2010 年・11 集団、2012 年・
8 集団)、花筒長・マルハナバチの訪花頻度・自然受粉による種子生産・
1 回訪花による種子生産(送粉効率)を測定した。
その結果、花筒長は標高が高くなるほど短くなる傾向がみられた。
2 種のマルハナバチの訪花頻度は集団によって異なっており、ミヤ
ママルハナバチは高標高集団でのみ見られたが、年変動が大きかっ
た。自然受粉による種子生産は、花筒の長い低標高集団で高い傾向
があった。また、自然受粉による種子生産は、盗蜜者の訪花頻度が
高いと低くなる傾向があった。1 回訪花による種子生産は、花筒長・
送粉者種による違いは見られなかった。集団間の花筒長分化には 2
種の送粉者の訪花頻度が関係していると考えられる。
里山を代表する昆虫であるヒメギフチョウ(以下:ヒメ)とギフ
チョウ(以下:ギフ)は、それぞれ落葉性多年草であるトウゴクサ
イシンと常緑性多年草であるコシノカンアオイを食草とする。2 種
は、近年の二次林の管理・利用の衰退等により絶滅が危惧されてい
て、環境省のレッドデータブックに記載されている。本研究では 2
種の産卵数と食草密度の年変動とその要因を検討することを目的と
し、混生地で 2009 年から 2012 年にかけて調査を行った。
2 種の混生地である山形県最上郡鮭川村に、2009 年に 16m2 の調
査区をヒメ・ギフ生息地に各 12 か所、2010 年にはギフ生息地にさ
らに 6 か所設置した。2012 年までの 4 年間で、春に産卵数の計測と
食草密度の調査として株数・葉数 ( コシノカンアオイの場合は新葉・
古葉数 )・葉柄の直径の計測を行い、2009 年と 2011 年には加えて秋
にも食草密度の調査を行った。
産卵数と食草密度の 4 年間の変動は 2 種で大きく異なっており、
特にヒメの変動が大きかった。ヒメの産卵数は前々年から前年にか
けての食草の増減率が高いと増加する傾向があり、食草密度は前年
秋の食草の残存率と相関関係が認められた。このことから、ヒメの
産卵数の変動は前々年から前年にかけての食草の増減率で説明が可
能であり、食草密度の変動要因は前年秋の食草の残存率と考えられ
た。それに対し、ギフの産卵数は食草の増減率とは関連が認められ
ず変動要因は明らかにできなかったが、食草密度は前年春の古葉の
量が翌年の新葉の量を決める主な要因であると考えられた。以上よ
り、混生地においてヒメとギフの産卵数の年変動が大きく異なる要
因のひとつとして、落葉性と常緑性という両種の食草の異なる性質
が産卵数と食草密度の相互関係に違いをもたらしていることが考え
られた。
P1-139
P1-140
The effects of a gall insect on abundance and performance
The effects of different histories of organic paddy fields
of two herbivore species through host plant response on a
on abundance of aquatic organisms and aboveground
chestnut tree
arthropods through development of rice plants
*Triyogo, A (UGAS Iwate Univ., Gadjah Mada Univ.), YASUDA, Hironori
(Yamagata Univ.)
*Trisnawati, D.W. (UGAS, Iwate Univ.), Yasuda, H. (Yamagata Univ.)
Recent agriculture which depends on synthetic pesticide, herbicide, and
fertilizer caused several ecological problems such as loss of biodiversity.
While, organic farming without chemicals is considered to preserve the
biodiversity. However, further studies are still needed to understand the
potential role of organic farming on supporting sustainable rice production.
In order to understand how the history of organic cultivation impacts on
biodiversity in paddy fields, soil, aquatic organisms, and aboveground
arthropods, and rice plant development were investigated in the organic
paddy fields with different histories such as 5, 10, and 20 years old. Results
indicated that the benefits of organic farming on soil nutrient, abundance of
aquatic organisms and aboveground arthropods were higher 10 or 20 years
old than 5 years. But rice plant productivity in 20 years old was lower than
5 and 10 years, and it may be due to less number of mechanical weeding
which could help on nutrient cycling process. Our results emphasized that
although older organic paddy field have high biodiversity and huge nutrients
in soil, technical management such as mechanical weeding would be
important for supporting rice plant production.
Morphological, phenological, and nutritional changes occur in plant as
responses to herbivory attacks can affect the other herbivores. In order to
understand the effects of gall-inducing insect, changes of plant characters
due to parasitism of the stem gall wasp, Dryocosmus kuriphilus, in chestnut
leaves, Castanea crenata, were investigated. The relationship between
numbers of galls and leaves showed positive in May. Leaves emerged
earlier on galled shoots in May showed higher in leaf number, however,
these leaves rapidly dried up. From May to July, leaves emerged from galled
shoots were toughness and thick. Galled leaves had more nutrition in May
and June, but were no significant in water content, and this relationship was
reversed in July. The number of aphid, Myzocallis kuricola, on galled leaf
was significantly higher in May and June, but decreased at the end of July.
Laboratory experiments showed that fecundity and bodyweight decreased
rate of the aphid were higher in May and June when on the galled leaf.
In contrast, the aphid performance decreased in July on galled leaf. Our
findings indicated that leaf traits changed by gall initiation were responsible
to the performance of aphid as the subsequent herbivore.
175
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-141
P1-142
餌資源制限下における落葉が代替餌としてエゾシカ個体
九州大学伊都キャンパス内林床移植地におけるポリネー
群に与える影響
ションネットワーク構造の解析
* 吉澤遼(東京農工大・農),近藤穂高(北海道大・農),池田敬,梶光一
(東京農工大・農)
* 寺本健太郎,桒田康輔,矢原徹一(九大・生態研)
自然界における生物間相互作用の解析に有効な方法として、ネッ
トワークのモジュール性解析がある。この方法を用いて、ネットワ
ークの持続性に重要なハブ種を、ネットワーク構成生物種の中から
特定することができる。本研究ではこの方法をポリネーションネッ
トワークに適用した。この適用に当たって、季節変化に伴ったネッ
トワーク構造の変化にも注目した。九州大学伊都キャンパス内にあ
る林床移植地において、デジタルカメラによるインターバル撮影に
よって、昼夜を通じて、どの花にどの昆虫がどの程度訪問するかを
記録した。調査は、樹木類 43 種について、2011 年 3 月から 8 月ま
で行った。観察されたポリネーターは 146 種類であった。得られた
データから、樹木類の開花フェノロジーを基にして調査期間を 4 つ
の季節に区切り、各季節のネットワークと4季節をまとめた全ネッ
トワークについて解析を行い、モジュールを検出した。さらに、モ
ジュール内依存性とモジュール間連結性という2指標を用いてハブ
とコネクター ( モジュール間をつなぐ働きを持つ種 ) を特定した。各
季節のネットワークはモジュール性を持ち、クサイチゴやゴンズイ、
サンゴジュ、タラノキなどの植物種が季節的ハブとして検出された。
さらに、コネクターとして複数の植物種とポリネーター種が検出さ
れた。コネクターであるポリネーター種は活動期間が長く、複数の
季節においてハブ種の植物を訪花していた。そして、全ネットワー
クで検出されたハブ種は、4 つすべての季節から選ばれ、各季節で
はハブまたはコネクターとしての役割を担っていた。これらの結果
から、ネットワークの持続性においては、各季節のハブ種とともに、
各季節をつなぐ活動期間が長いポリネーターの維持が重要であると
考えられる。
近年、ニホンジカの餌資源である林床植生が減少し、餌が極度に
制限された生息地においてもシカの高密度状態が維持されており、
そのような生息地では代替餌として落葉の利用が報告されている。
落葉は安定的に供給されかつシカによる採食の影響を受けにくいた
め、高密度状態の維持に寄与している可能性が考えられる。そこで
本研究では、シカの生息数と主要餌植物の変化が長期間モニタリン
グされている洞爺湖中島において落葉の栄養学的な評価を行い、代
替餌としての落葉がシカ個体群に与える影響を検討した。調査地で
の主要餌植物は 1980 年代前半まではササだったものの強い採食圧に
より消失し、その後ハイイヌガヤと落葉に変化したが 2000 年代前半
にはハイイヌガヤの消失により、現在では落葉のみとなっている。
そこで本研究は過去の主要餌植物及び現在の餌植物である落葉の栄
養価を分析するとともに、粗蛋白質含量と熱量及び利用可能量から
栄養学的環境収容力を算出した。
落葉は夏季に CP 含量が他の餌資源より高く NDF 含量が低いこと
から夏季は非常に高質な餌資源であると示唆された。また秋∼冬季
は CP 含量が低下するもののシカの体重維持に必要な要求量は満た
し、また熱量の高さからシカ個体群の維持に貢献すると考えられた。
落葉の栄養学的環境収容力は、利用可能量は少ないが高質な夏季に
低く、多いが低質な秋季に最大になった。そのため落葉の利用は体
重維持のための餌資源としては特に秋季に有効であるが成長や育児
等で必要な栄養は通年で欠乏すると示唆された。これらの結果から
餌資源制限下において落葉は重要な餌資源となっており高密度状態
を維持する代替餌として影響している可能性は高いが、蛋白質不足
からシカ個体群に負の影響を及ぼすものと示唆された。
P1-143
P1-144
三宅島火山灰堆積地における遷移初期種のイズアオドウ
シカの食害が引き起こす森林動態のレジームシフト
ガネによる食害比較
* 阿部友樹,中静透 東北大学生命
* 守容平(筑波大・生物資源),上條隆志(筑波大・生命環境),橋本啓史
(名城大・農)
ニホンジカの個体数増加や分布拡大により、農林水産被害や自然
植生破壊が深刻な問題となっている。こうした被害への防除として、
シカを物理的に排除する防鹿柵の設置を行い、その後の経過モニタ
リング調査が積極的に行われてきた。その中でシカによる食圧から
開放されたとしても、その林床のタイプによってその後の経過が異
なることが報告されている。ミヤコザサ林床では、ササが生長し他
の植物種を被陰させてしまうことで、更新を抑制することが報告さ
れている。一方でスズタケ林床では、スズタケの密度によって実生
の生存率は変化するとも報告されている。また実生の生存率や生長
の度合いは光環境の影響を受けていることから、防鹿柵の設置の影
響を考えるには林床のタイプと光環境の二つを考慮することが必要
と考えられる。
本研究では奈良県大台ケ原の林分において防鹿柵内にプロットを
設置し、全天写真から光の透過率 (SOC) を求め、それに対するササ
と木本の生長における優劣関係を明らかにした。またササの高さ、
出現頻度、Basal Area の変化についての20年分のデータから、防鹿
柵の設置が木本種の回復に有用であるかを検討した。
スズタケ林床では強い光強度のもとで木本優勢の結果となり、ミ
ヤコザサ林床では光に関係なくササ優勢という結果となった。
この結果から、スズタケ林床では林冠木が倒木しギャップが形成
されれば更新が促進されるため、柵設置が更新へ有用と考えられる。
一方のミヤコザサ林床では光環境によらず木本種の回復が阻害され、
柵設置だけでは更新が促進されないため、レジームシフトが生じて
いることが示唆された。
一次遷移初期において、窒素固定植物は有利であり、リターを通
じて生態系発達促進の役割を担う。一方、葉の窒素濃度が高い植物
は生態化学量論的観点から植食性昆虫に選好されやすいと考えられ
る。本研究の調査地である三宅島は 2000 年に大噴火し、陸上生態系
が大きな攪乱を受けた。噴火被害地において、オオバヤシャブシ、
ハチジョウイタドリ、ハチジョウススキが多くみられ、そこではコ
ガネムシ科イズアオドウガネの大量発生も報告されている。本研究
ではこれらの先駆植物に対するイズアオドウガネの選好性を安定同位
体比分析とカウントデータをもとに明らかにすることを目的とした。
調査は 2012 年 7 月に行った。島内に 10 のルートを設定し、対象
種の植被率、食害率を調べ、対象植物種別にイズアオドウガネのカ
ウントを行った。また、ルートごとに対象植物種とイズアオドウガ
ネを採集し、安定同位体比分析を行った。
植物の窒素濃度に関しては、要因を種、地点とした二元配置分
散分析と Bonferroni 型多変量解析を行った結果、ヤシャブシ・イ
タドリ間以外有意な差が見られた (P ≦ 0.05)。選好性に関しては、
Bonferroni 型多変量解析で、ススキが避けられ、イタドリが好まれ
る結果が見られた (P ≦ 0.05)。また、安定同位体比分析の結果、イ
ズアオドウガネのδ 13C の値が C3 植物の値に寄っていたことから、
イズアオドウガネ成虫は、C3 植物を食べていることが明らかとなり、
δ 15N の濃縮係数を考慮した結果、多く地点でイタドリをより選好
していることが明らかとなった。以上より、イズアオドウガネは葉
の窒素濃度が高いオオバヤシャブシやハチジョウイタドリを選好し
ていると考えられる。
176
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-145
P1-146
鳥類のフンと含有種子双方の遺伝解析による果実食鳥の
種子散布におけるホンドタヌキのため糞場の役割
種子散布パターン解析
* 大石圭太(鹿大院連農),熊原典之(鹿大農),畑 邦彦(鹿大農),曽根
晃一(鹿大農)
* 山崎良啓(京大院農),直江将司(東大院農),正木隆(森林総研),井
鷺裕司(京大院農)
ホンドタヌキとニホンアナグマは、特定の場所に糞を排泄して「た
め糞場」を形成する。一つのため糞場を複数の個体が利用すること
によって、周辺の個体間でコミュニケーションを図っていると考え
られている。ため糞場では、糞に含まれた大量の種子が発芽し、実
生群が形成される場合が多い。そのため、彼らは種子の二次散布者
となりうるが、実生が定着する可能性は、ため糞場が形成された環
境に左右される。そこで、25ha の森林で彼らのため糞場の捜索及び
その立地条件と植生調査を行った。また、一ヶ所に大量の糞と種子
が存在するため糞場は、糞虫や野ネズミなどの種子食性動物の格好
の餌場となり、野ネズミにより種子がより遠方に運搬される「三次
分散」の可能性も期待される。ただし、ネズミは天敵であるタヌキ
やアナグマの糞のにおいを避けることが観察されている。そこで、
ため糞場の餌資源としての利用可能性を検討するため、種子を含ん
だ新鮮なタヌキの糞を人工のため糞場に設置し、糞の分解過程と訪
問した動物、種子の消失を目視および赤外線センサー付きカメラで
観察した。
その結果、ため糞場は、計 31 ヶ所確認され、立木密度が低く、林
床の光環境が悪くなく、実生が定着しやすい尾根部に多かった。そ
のため、タヌキとアナグマは、種子の二次散布者となりうることが
明らかとなった。また、人工のため糞場への野ネズミの訪問と種子
利用のピークは糞虫による糞の分解が進み、糞の形が完全に崩れた
後であったことから、糞虫による糞の分解が野ネズミによる種子利
用を促していることが明らかとなった。しかし、調査のセッション
によっては、糞が完全に崩れる前から野ネズミは少なからず訪問し
ており、野ネズミに対する糞のにおいによる忌避効果は完全なもの
ではなく、むしろ物理的効果によって種子の利用を妨げると考えら
れた。
鳥散布種子の散布パターンは、遺伝解析による種子や実生の母樹
推定により再現することができる。しかし、従来の遺伝解析手法では、
解析サンプルの種子散布鳥を特定することは困難であった。そこで、
鳥類のフンとフン含有種子の遺伝解析により種子の散布鳥と散布距
離を同時に解明する手法を確立し、種子散布距離の散布鳥による違
いを明らかにすることを研究の目的とした。
調査は 2011 年 8 − 11 月に小川学術参考林 ( 茨城県 ) でミズキ果
実とそれを利用する果実食鳥を対象に行った。結実木下にビニール
シートを設置しサンプル回収し、鳥類のフン (49 サンプル ) とそれ
に含有されるミズキ種子 (44 種子 ) について遺伝解析した。種子散
布鳥の特定のため、DNA バーコーディング領域である mtDNA CO1
領域のシーケンスを行いデータベースと照合した。種子散布距離の
推定のため、SSR マーカー 6 座を用いて遺伝子型を決定し結実木の
遺伝子型と比較した。
フンサンプルは、35 サンプル (71 %) でシーケンス配列を得ること
に成功し、7 分類群の果実食鳥類を特定できた。特定できた分類群
は、ツグミ属 sp1( シロハラ、マミチャジナイ )、ツグミ属 sp2( ツグ
ミ、クロツグミ )、アオバト、キビタキ、アオゲラ、ヤマガラ、イカ
ルであり、結実木への訪問の直接観察と良く一致した種構成であっ
た。含有ミズキ種子は、43 種子 (98 %) で遺伝子型を特定でき散布距
離を推定することができた。以上より遺伝解析による散布者と散布
距離の同時推定は種子散布研究において有効な手法であるといえる。
しかし、多くの含有種子の散布距離は非常に短く、散布者間での散
布距離の有意な違いは検出されなかった。散布者間の違いをより詳
細に解析するためには、解析サンプル数の増加や同種成木から離れ
た地点でのサンプリングが必要であると考えられる。
P1-147
P1-148
一般的な被食型散布樹種とは異なる果実形態を持つケン
アリ散布型スゲ属2種の散布者選択:長距離散布者 vs
ポナシの種子散布と発芽特性
短距離散布者
* 小林峻大,林田光祐(山形大・農)
田中弘毅 *・鈴木信彦(鹿大連農,佐大連農)
ケンポナシは、クロウメモドキ科の落葉高木であり、果柄部が甘
く肥厚する特異的な果実形態を持つが、哺乳動物の糞から種子が多
数見つかっていることから、被食型散布樹種と考えられている。一
般的な被食型散布樹種は種子を包む果肉によって発芽を抑制してお
り、動物の被食による果肉除去が発芽を促進する。しかし、ケンポ
ナシは種子を包む果肉がないため、果肉除去とは異なる発芽促進効
果として、被食が種皮へ物理的損傷を与える可能性が考えられる。
本研究では、ケンポナシの種子散布者を明らかにした上で、被食さ
れた種子と人為的に種皮へ傷をつけた種子を用いた発芽実験によっ
て、ケンポナシの発芽特性を検討した。
ケンポナシの樹冠下に落下した果実を食べにくる動物を自動撮影
装置によって撮影し、各動物種の利用頻度を計測した。さらに、そ
の周辺にて動物の糞を採取し、糞に含まれるケンポナシの種子数を
数えることで、主な種子散布者を推定した。発芽実験は室内と野外
にて行い、動物の糞から採取した種子(以下、被食種子)と落下し
た果実から採取した種子(以下、落下種子)の発芽率を比較した。
また、室内ではカッターで種皮へ傷をつけた種子(以下、傷つけ種子)
と傷をつけていない種子の発芽率も比較した。
自動撮影装置と糞分析の結果から、ケンポナシの果実は多くの哺
乳動物に利用されており、糞中の種子出現率が高かったタヌキとハ
クビシン、個体数が最も多く確認されたニホンザルが散布者として
重要であると考えられる。被食種子と落下種子の発芽率は室内実験
ではともに 5%未満であり、野外実験でも被食種子 6%、落下種子
16%となり、被食による発芽促進効果は認められなかった。しかし、
傷つけ種子は 50%前後の種子が発芽したことから、ケンポナシは被
食とは異なる種皮への物理的損傷、例えば河川の氾濫による攪乱に
よって種皮に傷がつき、発芽が促進すると推測される。
植物の利用する種子散布者は非常に多様であり、種子形質や親形
質の異なる植物種間で散布者構成が著しく異なる。散布者構成は環
境変化に伴う分布拡大速度や個体群の存続に直接的に影響するため、
近縁種間における散布者構成の違いがどのような進化要因により生
じたのかは非常に興味深い。先行研究により、様々な要因が散布者
構成との関連で議論されてきたが、植物種間における最適な散布パ
ターンの違いという要因は、その重要性にも関わらず、野外におけ
る散布パターンの定量化が困難なため検証されていない。
アリに種子散布を依存する「アリ散布植物」は、他の動物に種子
散布を依存する植物と比べ散布距離が著しく短いため、野外での散
布パターンの把握に適している。また、アリの種間で散布距離や散
布場所に違いが見られるので、散布者構成の進化要因を検証する上
で適した材料である。
本研究では、アリ散布植物であるヒカゲスゲとモエギスゲの形質
が散布者構成に及ぼす影響を調べ、親植物の生育環境を両種間で比
較した。その結果、ヒカゲスゲは散布距離の長いアリ種、モエギス
ゲは散布距離の短いアリ種による種子散布を促進する種子形質と結
実フェノロジーをもつことが明らかになった。また、モエギスゲの
方がヒカゲスゲより植生被度が低い場所に生育することが判明した。
これらの結果から、競争者の少ない場所に生育するモエギスゲでは、
好適地を逸脱するリスクを抑えるために散布距離の短いアリ種に特
殊化した可能性、および、競争者の多い場所に生育するヒカゲスゲ
では、好適地逸脱という長距離散布のコストよりも、競争の回避や
空間的なリスク分散といった長距離散布の利益の方が大きく、散布
距離の長いアリ種への特殊化が進んだ可能性があると考えられた。
177
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-149
P1-150
エゾリスの貯食行動がオニグルミの分布に与える影響
捕食者が相利共生系に及ぼす影響についての数理的研究
* 森井渚(千葉大・院・園),沖津進(千葉大・院・園),南佳典(玉川大・
農),大宮正博,金井秀明(玉川大・寒冷地研)
* 孫思墨(大阪府大・理),芳賀敦子(大阪女子・理),難波利幸(大阪府大・理)
リス属によるオニグルミ堅果の貯食行動は,様々な場所に貯食さ
れた堅果が食べ残されることにより,発芽の機会を得るため,水流
および重力散布に頼るオニグルミの分布拡大に貢献しているといわ
れている.しかし貯食された場所が生育に適した立地でなければな
らない.そこで本研究は川沿いの林内において,オニグルミの立木
位置のマッピング,樹齢調査により,どのような経路で分散したか
を明らかにすることで,エゾリスによる貯食行動がオニグルミの分
布拡大に影響を与えているか検討した.
調査地は北海道東部に位置する玉川大学弟子屈演習林で,調査地
の南側に釧路川が西から東へと流れている.川の流れに対して垂直
方向に約 150m,幅約 200m,高低差約 10m の範囲の林で調査を行った.
川から約 100m の地点までは川と同じ標高で,湧水によりところど
ころ沼地があり,釧路川に向かって小川が流れている.この沼地か
ら約 50m の斜面が釧路川と並行にある町道まで続く.調査地を川か
らの距離(川に対する標高)で① 0~100m(0m),② 100~125m(0~50m)
,
③ 125~150m(5~10m)の 3 つの範囲に分類し,それぞれの地点に生
育するオニグルミの樹齢を計測した.
調査地ではエゾリスによるオニグルミの食痕が発見されたため,
エゾリスが散布に関与していることがわかった.オニグルミは沼地
と小川以外の場所に点在し,平均樹齢は① 43.1 年,② 35.4 年,③
22.2 年であった.調査地は 1980 年代から行われた釧路川の河川改修
後にできた場所であるため,それ以降,リスによる散布が可能にな
ったことが推測される.よってエゾリスが①の堅果を②へ運搬し,
②の堅果を③へと運搬することで,もっとも川に近い①に生育する
オニグルミを母樹として,段階的に川から離れた方向へと分布を拡
大させたと考えられる.
捕食者が相利共生系に及ぼす影響についての数理的研究
* 孫 思墨(阪府大・院・理)、芳賀 敦子(阪女大・理)、難波
利幸(阪府大・院・理)
種間相互作用は生物群集の構造や動態を決定する重要な役割を果
たすが、捕食や競争と比べて相利についての数理モデルの研究は遅
れている。その理由には、相利を記述する Lotka-Volterra モデルでは
個体数が発散することがあるため、相利の効果を抑える要因を組み
込む必要があることや、相利関係にある2種と捕食や競争の関係に
ある他種の存在により相利の結果が変わることなどがある。
本研究では、植物と相利者の2種系に相利者を捕食する捕食者を
加えることの影響を数理モデルを使って調べる。植物は独立栄養で
内的自然増加率は正だが、相利者と捕食者は従属栄養で内的自然増
加率が負であると考え、相利者が提供するサービスにはコストがか
かると仮定する。そして、Lotka-Volterra 型のモデルで群集が複雑に
なる効果を調べ、次に相利の効果が飽和する影響を調べる。
植物と相利者の2種系では、相利の効果が小さい時には相利者が
絶滅しても、相利の効果が大きいと2種共存が実現する。相利の効
果が大きすぎると2種の個体群密度は発散するが、相利にかかるコ
ストが大きければ相利者が絶滅し植物だけが存続する
この2種系に捕食者を入れた3種系では、相利がなければ捕食者
が侵入できない場合や、相利の効果が小さければ相利者も存続でき
ない場合でも、相利の効果が大きくなると3種の共存が実現する。
特に、相利の効果が中程度の時には、2種の植物−相利者系が発散
する時でも3種の安定な共存が実現する。ただし、相利の効果がさ
らに大きくなると、コストが小さければ3種の個体群密度が発散し、
コストが大きければ、捕食者、相利者の順に絶滅する。
相利の効果が飽和する非線形性の影響についても報告する。
P1-151
P1-152
花の見えやすさ ( 花色・大きさ ) がマルハナバチの定花
アリを撃退する送粉者:アリ植物オオバギ属の送粉戦略
性に与える影響::人工花を用いた閉鎖系実験
* 山崎絵理(京大生態研),乾陽子(大阪教育大),酒井章子(地球研)
* 辻本 翔平(富山大・理),石井 博(富山大・理)
熱帯地域では、アリと密接な相利共生関係をもつ「アリ植物」と
呼ばれる植物が存在する。アリ植物はアリに営巣場所や食物を与え
る一方で、植食者からアリによって守られる。アリは植物の防衛に
役立つが、繁殖においては、アリが植食者だけでなく送粉者までも
追い払うために、アリに送粉を妨害されるというジレンマが存在す
る。本研究では、東南アジアに分布するアリ植物オオバギ属がどの
ようにこのジレンマを解消しているのか調べた。アリ植物オオバギ
属は、花序で採餌・繁殖を行う Dolichothrips 属のクダアザミウマ科
昆虫によって送粉される。多くのクダアザミウマが肛門からアリな
どの天敵に対する忌避物質を分泌することに着目し、オオバギ属の
送粉を担うクダアザミウマがアリ忌避物質を持つかどうか調べた。
まず、オオバギ属の共生アリが送粉を妨害するかどうか確かめる
ため、花序でアリ除去実験を行った。アリを花序から除去しても、
対照区とクダアザミウマの個体数は変わらなかったことから、アリ
はアザミウマによる送粉を妨害しないことが示唆された。次に、実
験室内でアリとクダアザミウマを出会わせるバイオアッセイを行っ
たところ、アリはクダアザミウマをほとんど攻撃せず、クダアザミ
ウマから逃避する行動がよく見られた。この時、クダアザミウマが
尾部を高く持ち上げ、肛門から液滴を分泌するのが確認された。ま
た、この分泌物のみを抽出してアリに与えたところ、対照実験と比
べてアリの逃避行動が頻繁に見られた。以上の結果から、オオバギ
属の送粉者クダアザミウマは肛門からアリ忌避物質を分泌し、アリ
からの攻撃を回避していることが示唆された。オオバギ属では、こ
のようにアリを撃退できる昆虫を送粉者とするようになったことで、
アリとの密接な共生関係を安定的に維持できるのかもしれない。
多くのポリネーター種において、同等量またはそれ以上の報酬を
持つ花が周りにあるにも関わらず、個体毎に特定の種類の花を連続
して訪花する傾向 ( 定花性 ) が報告されている。定花性が生じる原因
として有力な仮説に探索イメージ仮説がある。この仮説は、1 種類
の花の探索イメージを用いて花を探す事で、見つけにくい花を効率
的に見つけられるため、定花性が生じるとするものである。この仮
説が正しければ、花の見かけが定花性の強さに影響する事が予想さ
れる。特に、探索イメージは作業記憶 ( 短期記憶 ) で形成される情
報であるため、花の見かけは、「好みとは独立に、直前に訪れた花と
同じ種類の花に訪れる傾向」に影響を与えるだろう。しかし、花の
見かけと訪花順序の関係を調べた研究はほとんどない ( ただし Ishii
& Masuda 投稿中 )。そこで本研究では、花色と花の大きさを花の見
かけに影響する要因とし、これらが定花性にどのような影響を与え
るのか、人工花を用いた実験で検討した。
実験では、青、黄、水色に着色した、直径 2、4、6㎝の球体の人
工花を用いた。いずれかの大きさの花を 2 色ずつ使用し、花の大き
さや色の組み合わせを変えて実験を行う事で、これらの要因がマル
ハナバチの訪花順序にどう影響するのか調査した。各花色間および、
背景 ( 緑 ) と各花色の間のコントラストは、ハチの錐体細胞感度を
元に算出した。
その結果、特定の花色への選好性は、花が小さく、花色間のコン
トラストが大きい時に強くなった。一方、直前に訪れた花と同じ種
類の花に訪れる傾向は、コントラストが大きい時に高まった。
以上の結果は、花が小さい時ほど、ハチが特定の色の探索イメー
ジを利用して花を探している事や、大きな花色間コントラストほど
短期記憶の探索イメージに干渉することを示唆しており、総じて、
探索イメージと定花性の関連を支持している。
178
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-153
P1-154
蜜報酬の偏在がスズメガの花選好性に及ぼす影響
How do pollinator fauna and return-visits by bees differ
* 廣田峻,新田梢,安元暁子,矢原徹一(九州大・理)
between a color-changing and a noncolor-changing
花形質は送粉者との相互作用によって進化したと考えられてきた。
特に,花色や花香といった誘引形質は送粉者の選好性に関連づけら
れる。その一方で,送粉者は誘引形質と蜜報酬を関連づけて学習でき,
それに伴い形質に対する選好性は生得的なものから変化する。誘引
形質に多型がある場合,早い時間帯に訪花する送粉者の訪花頻度に
よって,遅く訪花する送粉者の選好性が変化する可能性がある。
キスゲ属のハマカンゾウとキスゲはそれぞれアゲハチョウ媒,ス
ズメガ媒に適応した花形質を持っている。ハマカンゾウは朝開花し
夕方閉花するという昼咲きの形質を持ち,花香が非常に弱い赤い花
をつける。キスゲは夕方開花し翌朝に閉花するという夜咲きの形質
を持ち,甘く強い香りの黄色の花をつける。本研究では,ハマカン
ゾウ 24 株,花色・花香に多型のある F2 雑種 12 株の混生集団におい
て,昼行性のアゲハチョウが夜行性のスズメガの選好性に与える影
響を調べるために,3 つの条件でスズメガの選好性を観察した。
その結果,アゲハチョウとスズメガが自由に訪花できる環境でス
ズメガは黄花を選好したが,昼の送粉者の影響を排除し全ての花に
花蜜がある環境では,集団中に優占する赤花を選好した。さらに,
アゲハチョウによる花蜜の枯渇を再現した,ハマカンゾウの花蜜を
取り除いた実験集団において,スズメガは花色には有意な選好性を
示さず,形態形質である花冠の向きや奥行きに対する選好性がみら
れた。
以上のことから,スズメガの選好性はアゲハチョウの訪花頻度に
加えて,それ以外の環境要因も大きく左右されることが示唆された。
昼咲きから夜咲きへの進化過程を明らかにするためには,スズメガ
による選択だけでなく,それ以外の要因についても考慮する必要が
あるだろう。
species in Weigela ?
*Miki Suzuki (Univ. of Tsukuba)
Floral color change has been suggested to benefit plants by manipulating
pollinators, but this trait appears hardly prevalent among angiosperms.
One possible explanation for this discrepancy is that the strategy of color
changing plants may be favored under specific conditions. My preliminary
survey shows that floral color change yield a benefit of attracting bees that
return preferentially to more easily exploitable plants. Under conditions
where benefits of enhancing exploitability cannot outweigh the costs of
doing so, however, noncolor changing plants may be more advantageous.
In this study, to explore such possibilities, I compared visitor frequencies
and taxa for individual plants between a color changing and a noncolor
changing species in Weigera which grow in different habitats in Japan.
Moreover, to examine whether color changers receive more return visits
by bees than noncolor changers, I glued numbered tags on thoraxes of
foraging bumble bees on the plants, and measured the individual visitation
rates for each focal plant for three days after the gluing. Based on the data
derived from these observations, I will discuss the difference in pollination
conditions where floral color change could be selected for and against.
P1-155
P1-156
Interference competition between native dandelion and
同所的に生育するサクラ属 2 種における花粉を介した遺
its hybrid with alien congener (Taraxacum): insights from
伝子流動の違い及びそれに影響を与える要因の評価
foraging behavior of pollinator
* 松本雄太(岐大院応生),鶴田燃海(岐大応生),向井譲(岐大応生)
* 呉 馥宇(九大・理),川口 利奈(九大・理),矢原 徹一(九大・理)
日本には、9 種のサクラ野生種 ( バラ科サクラ属:Cerasus ) が自生
している。分布域は種によって異なるが、エドヒガン、ヤマザクラ
のように分布域が広く、重なる種も存在し、同所的に複数の近縁種
が生育している場合もある。しかし、これまでのサクラ及びその近
縁種の遺伝子流動の研究は単一の種を対象としたものが多く、遺伝
子流動を種間で比較した研究例は見られない。遺伝子流動は個体間
距離、個体間での開花フェノロジー、個体サイズなどの要因によっ
て影響を受ける。また、サクラは種間で開花フェノロジーや分布の
仕方などが異なる事も報告されている。そのため、種によって遺伝
子流動に影響を与える要因とその影響力が異なる事が考えられる。
そこで本研究では同所的に生育するエドヒガン、ヤマザクラにおけ
る遺伝子流動に影響を与える要因を比較し、種による要因とその影
響力の違いの解明を目的とした。
両種が混在して生育する滋賀県高島市マキノ町におよそ 25ha の調
査地を設定した。調査地内にはエドヒガン 38 個体、ヤマザクラ 123
個体の他、キンキマメザクラ 24 個体のサクラが生育している。核
SSR マーカー 6 座を用いて、2011 年に試験地内のエドヒガン 7 個体、
ヤマザクラ 8 個体から採取した計 449(20 ∼ 48/ 個体 ) の種子の父性
解析を行い、遺伝子流動を両種で比較した。また、目的変数にある
花粉親由来の種子数、説明変数に遺伝子流動に影響を与える要因と
して、個体間距離、開花フェノロジー、個体サイズ、周辺の同種個
体密度を用い、一般化線形モデルを構築することにより、これらの
要因が遺伝子流動に与える影響についての検討を行う。
Alien species might disrupt the mutualistic relationships between plants
and animals. In the aspect of pollination, when co-occurring alien species
with larger flower show extensive overlap in flowering phenology, they
may compete for service of share pollinators. The reduction in pollinator
visitation of native species results in a decrease in reproductive success. In
Japan, the agamospermous hybrid between native dandelion (Taraxacum
japonicum ) and alien congener (Taraxacum officinale ) became the stronger
competitor for pollination to native one in the field. To better understand
the reproductive interference, we observed the foraging bouts of honey bee
(Apis mellifera ) in mixed-species artificial arrays of natives to hybrids.
Honey bee showed the relatively high-preference for hybrid dandelion, but
variation in flower constancy. The bee foraging pattern suggests that the
competition for pollinator between native and hybrid dandelion may be
caused by both exploitation (hybrids draw pollinators away from natives)
and interference (loss of pollen and stigmatic surface by interspecific
pollination). Beside, the incomplete constancy probably lead to naturally
occurring back-crossing hybrids in the field.
179
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-157
P1-158
種間比較に基づくカンコノキ属-ハナホソガ属共生系の
土地利用と作物生産 ~ 統計資料によるポリネーション
維持機構の解明
サービスの評価 ~
* 古川沙央里,川北篤(京大生態研)
* 宇野 正人(東北大院・生命),小黒 芳生(東北大院・生命),佐々木 雄大(東
大・新領域),滝 久智(森林総研・森林昆虫),中静 透(東北大院・生命)
生物種間の共生系は自然界に広く存在し、しばしば生態系の維持
に欠くことのできない役割を果たしている。しかし、相手から過剰
に資源を搾取する個体が進化的に有利であるため、共生系は潜在的
に不安定であると考えられる。そのため、共生系を安定的に維持す
る何らかのメカニズムの存在が予想されており、様々な実証研究が
行われてきた。共生系の維持機構の一つとして、カンコノキ属 - ハ
ナホソガ属送粉共生系では、過剰な搾取を試みる個体に制裁が加え
られる仕組みが知られている。カンコノキ属の一種ウラジロカンコ
ノキは、ハナホソガ属の一種に送粉されており、送粉者であるハナ
ホソガは幼虫期にウラジロカンコノキの果実の中で一部の種子を食
べる。ハナホソガが一つの花により多くの卵を産んだ場合、ウラジ
ロカンコノキは種子を残せなくなると考えられるが、ウラジロカン
コノキは複数の卵が産まれた花を選択的に中絶することで、過剰な
搾取をするハナホソガに制裁を加えている。カンコノキ属にはウラ
ジロカンコノキの他にも多くの種が存在し、それぞれが異なる種の
ハナホソガと共生関係にあるため、本研究では本州に広く分布する
カンコノキにおいて、同様の制裁機構が存在するかどうかを調べた。
選択的中絶を行うウラジロカンコノキでは、ハナホソガは雌花あた
り 1 卵しか産まないが、カンコノキでは雌花あたり 2 回以上産卵す
る場合がほとんどであった。一花あたりの産卵数の頻度分布を見て
も、カンコノキでは卵の数が 2 個のものが多く、卵数が 1 個のもの
が多かったウラジロカンコノキとは産卵パターンが異なっていた。
またカンコノキは花粉制限が強く、受粉した雌花を中絶せずに大半
を果実にしていた。ウラジロカンコノキとは異なりカンコノキでは
選択的中絶がおきていない可能性が高く、選択的中絶とは別の維持
機構の存在が考えられる。
ポリネーションは食糧供給において重要な生態系サービスの一つ
である。作物によっては、野生のポリネーターによるポリネーショ
ンサービスを有効活用する必要がある。先行研究におけるポリネー
ションサービスの評価は局所的に行われたものが多く、様々な環境
傾度におけるポリネーションサービスの評価は未だ不十分である。
この研究では、農林水産省による作物統計、環境省による土地利
用の統計、国土交通省による気候データの統計を用いて、ポリネー
ションサービスを評価することを目的とする。統計資料を用いるこ
とで、間接的ではあるが、多地点の、同時期のデータが得られ、一
貫した条件でポリネーションサービスの評価を行う事ができると期
待される。作物の単位面積あたりの収量を目的変数とし、気候条件(年
平均気温、夏期の降水量、降雪量)、地形条件(土地起伏度)、作付
面積に加えて、地域の土地利用(ポリネータの生息環境を想定、森
林面積、人工林面積、里山指数)、を説明変数として加法モデルによ
る解析を行った。
全体的な傾向として、作物の種類や栽培方法によって、それぞれ
の気候条件に対する依存性のほか、さまざまな土地利用と作物の単
位面積あたりの収量の関係が見られた。単位面積当たりの収量は、
多くの作物で森林面積が負の効果をもっていたが、里山指数は正の
効果を持っていた。また、施設栽培の作物と露地栽培のものなどで
も土地利用に対する依存性に違いが見られた。今後の検証が必要で
はあるが、森林はポリネーションサービスだけでなく、生産性を減
少させる害虫などの生息地となる効果も持ち合わせている可能性が
ある。同時に、里山指数に代表されるような土地利用の多様性が、
ポリネーションや、病害虫を抑制する効果などによって、作物の収
量を挙げる可能性がある。
P1-159
P1-160
花形質から送粉者相は予測できるか?
盗蜜者がもたらすオオバギボウシへのマルハナバチの訪
* 平岩将良(神戸大・人間発達環境),新庄康平,掛谷知世(富山大・理),
長谷川雅美(東邦大・理),石井博(富山大・理),丑丸敦史(神戸大・
人間発達環境)
花行動の変化
* 山田歩,瀧本岳(東邦大・理)
植物−送粉者の送粉相互作用は盗蜜者や競争者など第三者の影響
を受けていることが明らかになってきている。たとえば、盜蜜者に
よる送粉者への植物報酬(花蜜)の低下が送粉者の訪花行動を変化
させ、植物の適応度にも影響を与えることが示されている。しかし、
盜蜜者がもたらす報酬の低下や送粉者の訪花行動の変化を定量的に
記載した研究は限られている。本研究ではオオバギボウシの花冠に
生息するアザミウマが盗蜜者として機能していることに注目し、ア
ザミウマの盜蜜が花蜜量をどの程度減らすのか、また、アザミウマ
の盜蜜によって送粉者であるマルハナバチの訪花行動がどのように
変化するかを調べた。事前調査から、自然条件下でアザミウマのい
る株の一花内のアザミウマ個体数は平均 19 個体であった。花蜜をキ
ャピラリーで除去したオオバギボウシの花冠に 0 − 21 個体のアザミ
ウマを入れて袋がけを行い、4 時間後の花蜜回復量を測定した。そ
の結果、花内のアザミウマ個体数が増加するほど花蜜回復量は低下
し、自然条件下に対応する一花内アザミウマ個体数(19 個体)での
蜜回復量は 0.04 μ l であった。つまりアザミウマに盜蜜された株の
花蜜量は低く、無報酬の状態に近いと考えられる。そこで、接着剤
で花序内の花全ての蜜腺を覆ってアザミウマによる盗蜜を模擬した
無報酬株を作り、蜜腺を覆っていない報酬株と比較してマルハナバ
チの花序内訪花行動がどのように変化するのかを調査した。マルハ
ナバチは無報酬株を訪花すると、花序内での総訪花回数が減少した。
花序内での総訪花回数の減少は訪花数と再訪花数の減少につながっ
ていた。これらの結果から、アザミウマの盜蜜によって、オオバギ
ボウシにおける隣花受粉と同花受粉の生じる確率が低下する可能性
があると考えられた。
虫媒花植物における花形質は、それぞれの種の送粉者に適応して
進化してきたと考えられ、その植物の送粉者を予測するのに利用さ
れてきた(例:送粉シンドローム)。一方で、特定の植物に訪花する
送粉者相は、生育地の昆虫相や植物相にも影響を受けると考えられ
る。これまで、対象植物の花形質とその場の昆虫・植物相のいずれ
が送粉昆虫相決定に強く影響しているかについては十分に研究がさ
れていない。ここでは、「送粉者相の決定要因としての花形質の頑健
性」や「送粉者相により強く影響を与える花形質」を明らかにする
ことを目的に研究を行った。
本研究では、立山高山帯の送粉系のデータを用いて、複数の花形
質を対象に、どの送粉者機能群の訪花を促進、また制限しているの
かを明らかにし、個々の植物の花形質から送粉者相の予測を行った。
さらに、花形質のみの予測力と昆虫相や植物相を考慮した予測力と
を比較し、花形質が予測力にどの程度影響を与えるのか検証を行っ
た。
調査は 2010 年と 2011 年に立山高山帯で行い、開花している植物(69
種)に訪花した昆虫を機能群(マルハナバチ、カリバチ、ハナアブ
等)に分けて記録した。今回は、花形質として、花蜜の露出の有無、
花粉の露出の有無、花向き、花序タイプ(集合 or 独立)、花弁色の 5
項目を用いた。
これらのデータを用いて、送粉者機能群ごとに応答変数に訪花数、
説明変数に全ての花形質、植物・昆虫のアバンダンスを組み込んだ
訪花数予測フルモデルを作成した。フルモデルの予測力と各説明変
数を抜いたモデルの予測力を比較する(モデル選択を行う)ことで、
送粉者相決定における花形質の頑健性や各花形質の相対的な重要性
について検討を行った。
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高山帯立山において柱頭付着花粉相は送粉者によって変
赤紫色の花は夜行性送粉者の誘引に効果的か? - オシ
化するのか?
ロイバナの花色の多型とスズメガ類の訪花パターン
* 日下石碧(神戸大・人間発達環境),新庄康平(富山大・理),石井博(富
山大・理),丑丸敦史(神戸大・人間発達環境)
* 新村芳美,梶田忠(千葉大・理)
高山帯において花粉媒介を行う昆虫種群は限られ、大型のハナバ
チであるマルハナバチ類と小型のハエやハナアブなどのハエ目昆虫
が卓越し、それぞれが多くの種に訪花することが報告されている。
これまでの高山送粉系の研究では、マルハナバチ類とハエ類が訪花
する植物では花形態や開花フェノロジーに差がみられることが明ら
かにされている。しかし、実際にそれぞれの昆虫種群によってどの
程度の送受粉が行われているかについて群集レベルで研究された例
は少ない。そこで、本研究では開花終了後の柱頭付着花粉に着目し、
植物各種について訪花昆虫相データと柱頭付着花粉種相を調査し、
マルハナバチ類とハエ類がそれぞれ自種花粉をどの程度媒介してい
るかを明らかにすることを目的とした。
本研究は 2011 と 2012 年の 8 月中旬に中部山岳国立公園内の立山
周辺で調査を行った。調査地に自生する 35 種の植物の柱頭を各 20
個ずつ採取し、それぞれの柱頭に付着している花粉種を同定・計数
した。また、各種についてつぼみを 5 個ずつ採取し、花粉・胚珠数
を計数した。また 2011 年に、それぞれの植物種について訪花昆虫相
を調査した。
その結果、柱頭に付着する自種花粉の割合は昆虫群間で差がなく、
訪花昆虫数に依存していることが明らかになった。それぞれの植物
の自種花粉率は 44.5 ∼ 94.7% であった。これまでマルハナバチ類な
どの大型のハナバチは送粉効率が良いとされてきたが、ハナアブや
その他のハエ目の送粉効率と差がなく、互いに十分な送粉能力を有
していると考えられる。
発表では 2 年間分の柱頭付着花粉の種組成のデータも用いて議論
する。
被子植物における爆発的とも言える花の多様化は、植物と特定の
動物の生物間相互作用(共進化)の産物であると考えられており、
特定の送粉者とそれを利用する植物の相互作用は、植物の多様化の
歴史で 平行的に成立している。同じ送粉者を利用する植物は、分類
群が異なっていても共通した表現形質群を持つことが知られ、この
現象は、「送粉シンドローム」と呼ばれている。送粉シンドロームの
中でもスズメガ媒花は、送粉効率の高い夜行性のスズメガに適応し
ており、夕咲き、長い花筒、甘い芳香、淡い色の花色といった形質
群を持つ。本研究で対象とするオシロイバナはメキシコ原産の多年
生植物で、スズメガ媒花特有の形質群を備えており、実際にスズメ
ガによって送粉されることが報告されている。ところが、オシロイ
バナでは、スズメガ媒花では通常見られない赤紫色の花が集団中に
高い頻度で見られる。夜行性のスズメガを誘引する際、赤紫色の花
は発見されにくく不利であると考えられるが、オシロイバナがどの
ようなメカニズムで集団中に白色・赤紫色・黄色 という多様な花色
を維持してきたのかは分かっていない。そこで本研究では、送粉者
の誘引への貢献度が花色ごとに異なるという作業仮説を検証するこ
とを目的とした。白花・赤紫花・黄花株を同数ずつ、格子状に配置
した実験区で観察を行ったところ、オシロイバナには夜行性のスズ
メガだけではなく、昼行性のスズメガも訪花することが分かった。
昼行性のスズメガは花色に関係なくランダムに訪花していた一方で、
大多数の夜行性のスズメガは白色や黄色の花を選択的に訪花してい
た。しかし、一部の夜行性のスズメガは、赤紫色の花を連続して訪
花していたことから、赤紫色の花も夜行性のスズメガの誘引に貢献
している可能性が示唆された。今後、未学習のスズメガを用いた実
験等で、更なる検証を行いたいと考えている。
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魚類の量的形質の遺伝的基盤:フナ類の体高に着目して
Taming cytoplasmic incompatibility in Wolbachia -infected
* 児玉紗希江(放送大 / 水研セ),箱山 洋(水研セ / 海洋大),松本忠夫(放
送大)
Callosobruchus analis
*Numajiri, Y. (Univ. of Tsukuba), Y. Toquenaga (Univ. of Tsukuba), N. I.
Kondo (NIES)
魚類のプロポーションは遊泳能力と対捕食者防御に影響する。流
線型であれば遊泳能力が高くなる一方で、捕食者の口の大きさより
も体高が高いと食べられにくくなる。予測できない変動環境では形
質の可塑性が進化しやすいことから、遺伝的に同一でも捕食圧など
の環境やコンディションによって体高形質が可塑的に変化する可能
性がある。餌条件が悪い場合には、対捕食者よりも採餌の効率を高
める遊泳能力を優先するかもしれない。そこで本研究では、無性生
殖個体が存在するフナ類 (
Carassius auratus ) に着目し、野外調
査および室内実験から、体高形質の遺伝的基盤および環境(密度)
に対する可塑性を調べた。無性型フナは三倍体の全メスであり、そ
の子供は全て親のクローンであるため、同一の親魚から生まれた姉
妹間の形質変異はすべて環境分散である。まず、13 地域の野生個体
群のデータを用いて、無性型フナの体長と体高について調べた。体
長と体高の関係は直線的であり、体長によらずフナの体型はある程
度相似的であった。体高 - 体長比の平均と分散は地域間で有意に異
なり、地域の環境条件の違いや集団内の遺伝的変異の大きさの違い
を反映していると考えられる。次に、6 地域の親からそれぞれ遺伝
的に同一な 6 系統の子供たちを作出し、環境(飼育密度:高/低)
および系統が、体高 - 体長比に与える影響を実験的に調べた。二元
配置の分散分析の結果、体高 - 体長比の平均値は系統間で有意に異
なり、低密度のほうが高密度よりも体高 - 体長比が大きかった。結
論として、野外の地域個体群間で見られる体高 - 体長比の表現型に
見られる変異は、遺伝と環境の両方に影響を受けて決定されている。
実験では密度(餌条件)によって、体高 - 体長比が可塑的に変化す
ることが示された。
Wolbachia is a bacterium that induces cytoplasmic incompatibility (CI)
resulting in increased mortality of host offspring when infected males
mate with females uninfected by the same Wolbachia strain. Theoretical
models predict that the Wolbachia strain inducing the highest CI level
overwhelms others that induce lower CI levels within a host population.
However, intermediate CI levels are widespread because the hosts evolved
countermeasures for moderating CI levels. If this scenario is correct,
novel Wolbachia strains should cause higher CI levels than those share
coevolutionary history with their host.
We tested this hypothesis by injecting novel Wolbachia strains to
Callosobruchus analis infected with Wolbachia in natural conditions. Weak
CI levels were observed when naturally infected host males were mated
with uninfected host females cured with antibiotics. High CI levels were
observed when naturally infected females were crossed with males injected
with a novel Wolbachia strain. Conversely, CI levels were moderated when
the injected males were mated with females that once infected with the
novel Wolbachia strain but cured with antibiotics. Our results support the
scenario that Wolbachia CI levels were tamed in the history of Wolbachia host interaction.
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Independent evolution of egg-brooding behavior in
複数の核遺伝子による多足亜門の系統解析
medaka fishes
* 宮澤秀幸,蘇智慧(阪大・院理,JT 生命誌研究館)
*Daniel Frikli Mokodongan, Shingo Fujimoto (TBRC Univ. Ryukyus),
Rieko Tanaka, Nobutoshi Mizuno (Nagoya Higashiyama Zoological Park),
Kazunori Yamahira (TBRC Univ. Ryukyus)
The evolution of parental care has been a focal subject in behavioral
ecology for decades. Many female medaka fishes (family Adrianichthyidae)
deposit eggs on submerged plants or other material and lack parental care.
However, at least three medaka species in Sulawesi, an island in the Malay
Archipelago, exhibit maternal care: females cover their egg clutches with
their extended pelvic fins until they hatch. Sulawesi harbors 16 endemic
medaka species, suggesting that they have diverged within the island.
However, the phylogeny and reproductive behaviors of the Sulawesian
medaka fishes have not been examined comprehensively; therefore, when
the pelvic-fin brooding behavior evolved during this diversification is not
clear. Field and laboratory observations of 13 Sulawesian medaka fishes
revealed that pelvic-fin brooding occurs in at least four species. Molecular
phylogenies based on mitochondrial DNA sequences revealed that these
four species are separated into two distant clades, suggesting that the unique
pelvic-fin brooding behavior evolved independently more than once during
the diversification of Sulawesian medaka fishes.
複数の核遺伝子による多足亜門の系統解析
○宮澤秀幸 1、蘇智慧 1,2
1 阪大・院理、2 JT 生命誌研究館
多足亜門は、ムカデ綱、ヤスデ綱、コムカデ綱、エダヒゲムシ
綱の 4 綱からなる。近年の分子系統学の研究により、節足動物門に
おける多足亜門の単系統性や各綱の単系統性についてはおおむね支
持されている。しかし、綱間と綱内の目間の系統関係については明
確になっていない。本研究では3つの核タンパク質遺伝子 (DPD1、
RPB1、RPB2) を用いて、多足亜門の系統解析を行った。これまでに、
ムカデ綱から 4 種、ヤスデ鋼から 10 種、コムカデ鋼とエダヒゲムシ
綱からそれぞれ 2 種ずつのサンプルを得て、その 3 遺伝子の塩基配
列を決定した。推定されたアミノ酸配列を用いて、最尤法とベイズ
法による系統解析の結果、コムカデ鋼が最初に分岐し、エダヒゲム
シ綱、ヤスデ鋼とムカデ鋼がクラスターを形成することが判明した。
この結果はミトコンドリア遺伝子や他の核遺伝子による解析結果と
大きく異なるが、エダヒゲムシ綱、ヤスデ綱とムカデ綱の 3 綱が単
系統群 Monomalata をなすとする、Sharov (1966) による仮説と一致す
る。ムカデ綱内部では、ゲジ目が最初に分岐し、次いでイシムカデ
目が分かれ、オオムカデ目とジムカデ目が姉妹群を形成する結果が
得られた。また、ヤスデ鋼内部では、唇顎類、前雄類と畸顎類の 3
分類群の単系統性が強く支持された。これらムカデ鋼とヤスデ綱内
部の目間の系統関係については、形態に基づく見解と概ね一致する。
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エゾアカガエル幼生における高尾化の遺伝機構の解明
キューバ産アノールトカゲ属の四肢における筋骨格形態
* 岩渕裕子(東北大・院・生命),北野潤(遺伝研),牧野能士(東北大・院・
生命),岸田治(北大・FS センター),西村欣也(北大・院・水産科学),
森司(日大・生物資源),河田雅圭((東北大・院・生命)
と行動生態の関係
* 安西航(東大・院理),大村文乃(東大・院農),Cadiz Diaz Antonio,
河田雅圭(東北大・院生命),遠藤秀紀(東大・博物館)
生物の表現型は遺伝的要因のみに支配されているのではなく、外
部環境の変化に応答し臨機応変に形質を変化させる。エゾアカガエ
ル幼生 Rana pirica はオオルリボシヤンマ Aeshna nigroflava のヤゴに
曝されると尾高を高くする(高尾化)。これは水生昆虫に対するカエ
ル幼生の一般的な可塑的防御形態である。一方エゾサンショウウオ
Hynobius retardatus 幼生に曝されると高尾化に加え、頭部を膨らませ
る(高尾+膨満化)特有の可塑的応答をする。各々の誘導形態は各々
の捕食者に対する防御形質として機能するが、ヤゴ誘導性の高尾形
態ではサンショウウオ幼生への防御効果は薄い。ここからエゾアカ
ガエルはヤゴ等の水生昆虫への高尾化とは独立に、サンショウウオ
幼生への防御形質を進化させたと考えられる。しかし各々の高尾化
の遺伝的機構が未解明の為、各捕食者に対する高尾化形質の獲得機
構を言及はできない。表現型可塑性の遺伝機構を理解することは、
表現型可塑性の獲得や喪失の機構、ひいては新規環境への生物の定
着可能性を解明する上で重要な知見である。そこで本研究では各捕
食者によって誘導されるエゾアカガエル幼生の高尾化の遺伝的機構
の解明を目的とした。エゾアカガエルの cDNA ライブラリを作成後、
マイクロアレイ解析を行った。通常個体に対してサンショウオ幼生
に曝した個体とヤゴに曝した個体の尾部で各々発現量が変化した遺
伝子を検出し、Gene Ontology 解析を用いてその遺伝子群の機能を体
系付けた。その結果、サンショウウオ幼生に曝した個体ではイオン
輸送関連の遺伝子が、ヤゴに曝した個体ではヒストン様遺伝子が発
現量変化しており、各々の高尾化は異なる機構で生じていることが
示唆された。
トカゲ亜目は種数が比較的多い系統であり、その形態にも生息環
境にも大きな多様性がみられる。しかしながら、形態と行動生態の
関連性における報告は乏しく、特に力学的な研究例はほとんどない。
カリブ海の島々を中心に適応放散しているアノールトカゲ属 (Anolis )
は地表から樹上まで多様な環境に生息し、環境に適応して外部形態
の多様化がみられる。また頭を持ち上げて喉袋を膨らませるディス
プレイがオス特有にみられ、オス同士の縄張り争いやメスへの性的
アピールなどの効果があると考えられている。本研究では、キュー
バ産の異なるニッチに適応した 2 種のアノールトカゲを用いて、四
肢の筋骨格形態の力学的な評価を通して、種間および雌雄間の比較
を通して生息環境およびディスプレイとの関係を検証した。
種間比較の結果、地上を走り回る種では膝および足関節の伸筋が
発達し、地面を強く蹴る走行への適応と考えられた。一方、樹上を
生活の中心とする種では上腕および大腿の後引筋が発達し、木に登
る際に体重を支持するための適応だと考えられた。これらから、生
息環境の違いが四肢の筋骨格形態の違いに影響していることが示唆
された。また雌雄間を比較した結果、樹上の狭い環境に生息する種
のオスでは肘の伸筋が、地上の広い環境に適応した種のオスでは上
腕の内転筋が、それぞれメスに比べて発達していることがわかった。
このことから、オス特有にみられるディスプレイの姿勢の維持が体
を支えている前肢の筋骨格形態に影響を与えていること、そこで生
じる性的二型は種間で傾向が異なっていること、そしてその種間の
違いは生息環境の違いと関係していることが示唆された。
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系統進化に伴うニッチの変化は日本におけるツツジ属ミ
シマホルトノキにおける生育環境に応じた遺伝構造と分
ツバツツジ節の多様化を促進したのか?
化維持要因
* 渡辺洋一(名大院・生命農),阪口翔太(京大院・農),戸丸信弘(名大
院・生命農)
* 須貝杏子(首都大・牧野標本館),鈴木節子,永光輝義(森林総研),村
上哲明,加藤英寿(首都大・牧野標本館),吉丸博志(森林総研・多摩森
林科学園)
東アジアの温帯に分布するツツジ属ミツバツツジ節 (Rhododendron
sect. Brachycalyx ) は日本で特徴的な多様化を遂げた分類群であり、
開花時期などのフェノロジーの違いや落葉・常緑などの生活形の差
異が認められる。日本と韓国の一部で 28 の種・変種が認識されてい
るが、それぞれの種の分布は北海道から九州の温帯に分布する種や
日本海側の多雪地に分布する種、九州・沖縄の温帯・亜熱帯に分布
する種などさまざまで、分布が限られた地域固有種も複数存在する。
また、先行研究により、ミツバツツジ節は日本に分布する種のみで
単系統群を構成することが確認されており、日本で多様化が生じた
と考えられている。
それぞれの種は異なる分布域を示すため異なるニッチを有すると
考えられるが、ニッチの変化は進化プロセスとどのように関連して
いるのだろうか?そこで、①核の翻訳領域 (2,000bp) と葉緑体の非翻
訳領域 (4,000bp) の塩基配列に基づいた集団遺伝学的なアプローチに
よる系統関係の解明、②生態ニッチモデリングを用いて気候条件に
基づいた現生系統のニッチの推定と祖先形質の復元を行った。これ
らの解析により、系統進化に伴うニッチの変化および系統間のニッ
チ分化の関係を明らかにし、日本におけるミツバツツジ節の多様化
と適応放散のプロセスの関係を解明した。
海洋島で一般的な進化現象の 1 つとして,島内の異なる生育環境
に適応した生態的種分化が挙げられる.生態的種分化は,地理的障
壁による遺伝的隔離なしに,異なる生育環境間での分断化選択と同
系交配を促進する交配前隔離によって引き起こされる.小笠原諸島
は,東京から約 1,000km 南に位置する海洋島である.1 つ 1 つの島
の面積は比較的小さいが,複雑な地形に対応して様々な植生がモザ
イク状に配置しており,複数の生物群において生態的種分化が報告
されている.
小笠原諸島に固有なシマホルトノキは,湿性高木林から乾性低木
林まで幅広い環境に生育しているが,環境ごとの形態的差異は報告
されていない.そこで,シマホルトノキ 19 集団 639 個体を用いて
24 遺伝子座の EST-SSR マーカーによる集団遺伝学的解析を行った.
さらに,シマホルトノキが島の中で様々な環境に生育している父島
において,開花期調査と土壌水分量,植生高の測定を行った.
その結果,父島列島内における生育環境間の遺伝的分化(0.005 ≤
F ST ≤ 0.071)は,生育環境内の遺伝的分化(0.001 ≤ F ST ≤ 0.070)より
大きく,父島・母島列島間での遺伝的分化(0.033 ≤ F ST ≤ 0.121)よ
り小さかった.父島列島内では,空間構造とは独立して,生育環境
に対応した遺伝的分化の存在が明らかになった.さらに,父島の遺
伝的に分化したグループ間では,開花期にずれがあり,土壌水分量
と植生高にも差がみられた.これらのことから,シマホルトノキに
おいて,父島列島で 2 つの遺伝的に分化したグループが側所的に分
布しており,それらの間では開花期のずれにより遺伝子流動が制限
されていた.生育環境の違いが分断化選択を引き起こしているかは,
さらに検討する必要がある.
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ボルネオ島キナバル山の亜高山帯における El Nino の乾
Microevolution of mitochondrial DNA in Japanese
燥による自然選択:Leptospermum recurvum の葉形質
populations of Daphnia pulex
多型と生理特性
*Sou, M., Ishida, S., Ohtsuki, H., Makino, W., Urabe, J. (Tohoku Univ.)
* 安藤聡一(京都大・農),兼子伸吾(福島大・理工),井鷺裕司(京都大・
農),北山兼弘(京都大・農)
Daphnia pulex complex is composed of nine species. One of these
species, panarctic D. pulex , has the widest distribution in the northern
hemisphere. It has recently invaded into Africa and New Zealand. However,
this species lacks strong genetic regionalism in spite of the worldwide
distribution. It is also distributed in Japan and named“Mijinko”as one of
representative zooplankton species. In the 59th ESJ meeting, we reported
that Japanese populations of panarctic D. pulex reproduced by obligate
parthenogenesis and consisted of only a few lineages. To examine their
evolutional or historical origin, we collected samples from various regions
in Japan (total 33 ponds) and reconstructed Bayesian phylogeny based
on the mtDNA sequences (1838bp) including 12SrRNA, putative control
region, tRNA-Ile, tRNA-Gln, tRNA-Met and ND5. We also determined
genotypes of these specimens using 13 microsatellite loci. We found total
four lineages. Among these, two lineages consisted of several haplotypes
recorded only in Japan. Comparison of the mtDNA sequences suggests that
these two lineages have genetically diverged in Japan after emigrated from
North America at least thousands years ago. The other two lineages are
likely invaded to Japan much more recently.
キナバル山のあるボルネオ島北部は年中多雨であるが、数年に一
度 El Nino による数か月の旱魃が起こる。特に亜高山帯では低地に比
べ旱魃の程度が大きく、植生の形成に強い影響を与える可能性が指
摘されている。亜高山帯に幅広く優占する樹木 L. recurvum には、葉
の毛密度に個体間で表現型多型が存在し、表現型間で分布が異なる。
葉の毛密度は乾燥への適応と考えられ、表現型の分化に乾燥ストレ
スが関係している可能性がある。
昨年度の SSR 解析の報告では表現型間・優占型の異なるサイト間
で遺伝的分化がないことを明らかにしている。今回、共通圃場実験
によって表現型には遺伝的な基盤があることが示唆され、表現型の
分化には遺伝子流動を上回る分断化選択が働いていることが示唆さ
れた。次いで、異なる表現型が混生したサイトで El Nino 時の死亡率
を調べたところ多毛型変異のほうが死亡率が低かった。さらに、ガ
ス交換特性と葉の窒素含量を表現型間で比較したところ、気孔コン
ダクタンスに差はなかったが、多毛型変異のほうが個葉の光合成水
利用効率と面積当たり窒素含量が高く、多毛型変異は葉の窒素投資
を増やし光合成活性を高めることで高い水利用効率を実現している
ことが示唆された。以上から、多毛型変異は少なくとも個葉レベル
の適応によって耐乾性を高めていると考えられる。また、優占型が
異なるサイト間で晴天時の土壌水ポテンシャルを比較したところ、
多毛型変異の優占サイトで水ポテンシャルが低く、El Nino 時には強
い乾燥ストレスを引き起こす可能性が示唆された。以上の結果から、
多毛型変異は乾燥しやすい環境に局所適応した変異であると考えら
れ、El Nino の乾燥ストレスが分断化選択の一端を担っていると考え
られる。
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カワトンボの種間相互作用と繁殖形質置換
チョウセンカマキリの性的共食いによる交尾時間延長が
* 奥山永(京大・生態学研究センター),椿宜高(京大・生態学研究センター)
精子競争に与える影響
近年、種特異的な生理的反応の違いが、近縁種の生息地の好みや
分割に強く影響することが示唆されてきている。特に、外温生物に
おいては、自身の活動性や適応度にまで影響を及ぼす体温の調節を
太陽光によって行うため、生息地の日照条件へ対する適応の違いは、
非常に重要な要因と考えられる。本研究で用いた近縁なトンボ目の
2 種、Mnais costalis と M. pruinosa は、広く日本に生息し、主に北海
道から関東北部にかけて M. costalis が、関東南部、近畿・四国太平
洋側にかけて M. pruinosa が、単独で生息し、両種はまた、中部から
九州にかけて共存する。特に、中部・近畿における共存域では、単
独域において見られるオスの翅色多型が喪失し、M. costalis は橙色
翅型のみに、M. pruinosa は透明翅型のみになる。そして、共存域に
おいて彼らは、日照条件の好みの違いによって、小スケールの生息
地分割を示す。本研究では、彼らの日照条件と関連した生息地分割
が生じる原因に関して、以下の 3 つの仮説の検証を行った:生息地
分割は、① 2 種の元来の日照条件への好みの違いの結果生じている、
②現在の日照条件に関する競争的排除の結果生じている、③過去の
競争的(生殖的)排除の結果生じた形質置換の結果生じている。そ
のために彼らの生息地を 5 つのタイプに分類し、その場所の日照条
件と、彼らの体サイズ形質を測定し、比較した。
結果として、仮説③のみ棄却することができなかった。そのため、
Mnais 属における、日照条件と関連した生息地分割は、過去の競争
的(生殖的)排除の結果生じた形質置換の結果生じている可能性が
高いことが示された。そして、本研究では、この結果に関して、こ
の種に見られる翅色と体サイズの形質置換が、どのように影響して
いるのかに関しても議論する。
* 森本幸太郎,高見泰興(神戸大・人間発達環境)
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特異な形態を持つカメノコハムシ亜科の分子系統と形態
Infanticide revisited: when defending is mightier than
進化プロセス
killing
* 篠原忠(神戸大・人間発達環境),山城考(徳島大・総合科学),高見泰
興(神戸大・人間発達環境)
*Uchiumi, Y., Tomatsuri, M., Toquenaga, Y. (Univ. Tsukuba)
カマキリ類では交尾の際に雌が雄を捕食する“性的共食い”が知
られている。雌は栄養を得られるため性的共食いはベネフィットと
なりうるが、雄は後の交尾機会を失うため、大きなコストを被る。
そのため、性的共食いは性的対立を生じさせていると考えられ、雄
はそのコストを避けるような対抗進化をしている可能性がある。演
者らのチョウセンカマキリを用いたこれまでの研究では、雄が雌に
よる捕食を避ける行動があること、そして性的共食いを伴う交尾で
は交尾時間が延長することを明らかにした。交尾時間の延長は、終
末投資戦略の一部であると考えられる。しかし、それが精子輸送量
や受精成功率の増加に影響を与えうるかは、クモ類での検証例はあ
るが、カマキリ類ではまだわかっていない。
本研究の目的は、性的共食いを伴う交尾時間の延長が終末投資戦
略として適応的であるかを明らかにすることである。そこで、チョ
ウセンカマキリを用いて、交尾時間の延長が精子輸送量と受精成功
率の増加に影響を与えているかを検証した。その結果、交尾時間の
延長に伴い精子輸送量の増加が見られた。しかし、精子輸送量の増
大にも関わらず、受精成功率が増加する可能性は低いことが示唆さ
れた(精子競争の offensive な側面)。次に、交尾時間の延長は雌を
ライバル雄からガードすることにつながるかを検証した。その結果、
交尾中の雌は雄に対して捕食傾向が強く、そのような雌に対する雄
のアプローチ確率が減少した。交尾中の雌に対してライバル雄の横
取りの可能性は極めて低く、雄が交尾中に雌をガードしている可能
性が示唆された(精子競争の defensive な側面)。
以上の結果から性的共食いに伴う交尾時間延長は終末投資戦略と
して、精子競争の offensive な側面ではなく、defensive な側面で適応
的であると考えられた。
Infanticide by male raiders is common in primate species that form onemale multi-female harems. Operational sex ratio is strongly female biased
in the harems and this bias causes infanticide by sexual selection among
males. However, infanticide is observed in animal species, e.g., Lethocerus
deyrollei , where operational sex ratio is strongly biased without harem
structure. Thus, biased operational sex ratio rather than harem structure
can make infanticide evolve. Then why is harem structure so common in
infanticidal primates?
We hypothesize that harem formation is not the cause of but a counter
strategy against infanticide. When infanticide by males is common,
females prefer to form a harem with an alpha male that defend infants of the
females. Using an individual-based model with a haploid genetic system,
we examined the evolution of male infanticide and defending/deserting
harem strategy for varying harem size. Our model demonstrated that
male infanticide always evolved to its maximum degree but the defending
strategy only evolved when each harem had multiple females. Our theory
integrates the evolution of infanticide in animal species with and without
harem structure.
全生物の中でも群を抜いて種数の多い昆虫類は、その外部形態も
きわめて多様である。このような形態の多様性を生み出すメカニズ
ムを明らかにするには、形態の変化に富む分類群を用いた研究が必
要である。カメノコハムシ亜科 Cassidinae は、特異かつ多様な形態
をもつ種を含む大きな分類群である。本亜科は、背面が棘に覆われ
るトゲハムシ類(有棘型)と体の周縁が扁平化したカメノコハムシ
類(扁平型)に大別されるが、棘のないトゲハムシ(無棘型)や、
トゲハムシの生態的特徴とカメノコハムシの形態的特徴を合わせ持
つもの(中間型)なども含まれる。しかし、本亜科の形態進化プロ
セスについてはよくわかっていない。
本研究は、カメノコハムシ亜科の系統関係を推定し、どのように
外部形態が進化したのかを解明することを目的とした。これまで主
に形態形質に基づき系統関係が推定されてきたが、本研究ではより
信頼性の高い系統関係を推定するために分子系統解析を行った。解
析したサンプルは日本産 35 種に加え、データベースに登録されてい
るものを用いた。解析はミトコンドリア DNA の COI と COII および
核 DNA の 28S の塩基配列(合計約 1600 塩基)に基づいて行った。
その結果、本亜科の単系統性が支持され、有棘型は系統樹の基部、
扁平型は先端部に位置し、無棘型や中間型はその間に位置した。また、
形態の進化プロセスを解明するために,得られた系統樹上に形態形
質を復元したところ、有刺型が祖先的であり、そこから無棘型や中
間型を経て、扁平型が派生していることが明らかになった。興味深
いことに、この進化は幼虫の形態や生活史形質の変化に合わせてお
こっている。以上の結果を踏まえ、このような多様化を生み出した
要因についても議論する。
184
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-177
P1-178
イバラカンザシゴカイの色彩多型を決定する要因-宿主
グッピー LWS オプシン遺伝子における遺伝子型と遺伝
サンゴの色彩と捕食者密度の影響-
子発現量の関係
* 市川将永,畑啓生(愛媛大・院理工)
* 酒井祐輔(東北大・生命),大槻朝(東北大・生命),手塚あゆみ(北海
道大・FSC),笠木聡(東京大・新領域),長太伸章(東北大・生命),河
村正二(東京大・新領域),河田雅圭(東北大・生命)
イバラカンザシゴカイはサンゴの骨格内に棲管を形成して固着生
活する多毛類であり、潮下帯から水深 20m に生息し、日本中部以南
のインド−太平洋に広く分布している。本種の鰓冠部には赤、青、
黄など多様な色彩型が見られるが、これまでは色彩型の分類が曖昧
であり、かつ色彩多型の生態的意義や維持機構については不明であ
った。そこで、色彩型の個体群における組成がどのような要因で決
まっているのかを明らかにした。愛媛県南宇和郡室手湾と高知県須
崎市浦ノ内において SCUBA を用いた潜水調査による水中撮影を行
い、写真から鰓冠およびそれを構成する鰓糸における配色パターン
を調べ、配色型を分類し、色については RGB 値を計測した。また、
色彩型の違いを生じさせうる要因として体サイズ、生息水深、宿主
サンゴの分類群と色彩、捕食者の個体密度及び出現種数を調査した。
結果、配色型は鰓冠の上部と下部で配色が切り換わるものや鰓糸
に複数の色を持つものなど 8 タイプに分類された。本種の色は宿主
サンゴと類似傾向にあり、宿主サンゴの色の R 値が高いとき、本種
の色の R 値が高く、宿主サンゴの色の B 値が高いとき、本種の色の
B 値が高いことがわかった。また、捕食者密度が高い場合、本種の
色の R 値が高く、複数の色をもつ個体の割合が高くなることがわか
った。つまり、本種は多様な色の宿主サンゴと類似した色を隠蔽色
としてもつこと、捕食者密度によって適応的な色および配色型が変
わることが考えられる。これらの要因で、この海域では本種の色彩
多型が生じている可能性が示唆された。
グッピー(Poecilia reticulata )は、色覚に種内多型が存在すること
が知られていたが、近年、長波長光の感受に関わる LWS オプシン
をコードする遺伝子が、遺伝子重複により 4 遺伝子座存在している
こと(LWS1 , LWS2 , LWS3 , LWS4 )、そのうち 3 遺伝子座においてア
ミノ酸置換を伴う配列多型があることが確認された。また、原産国
である Trinidad の集団において、各 LWS オプシン遺伝子座について
集団間で異なる選択が働いていることが明らかになった。しかし、
LWS 遺伝子の多型がどのようにオプシンの発現量に影響するのか、
また、どの DNA 領域が色覚あるいは発現量の変異を引き起こすの
かについてはまったくわかっていない。本研究では、重複した複数
の LWS オプシン遺伝子 (LWS1 , LWS2 , LWS3 ) の発現量を測定し、異
なる LWS オプシン遺伝子型をもつ個体間で各遺伝子座の相対発現量
に差異が認められるかどうかを確認した。実験には、沖縄野生個体
の継代飼育により作成した、LWS オプシン遺伝子型に基づく 2 つの
系統を使用し、2 系統間で LWS オプシン遺伝子の発現量比較を行っ
た。また、各 LWS オプシン遺伝子に関してシス制御領域の塩基配列
を読み、注目すべき遺伝的変異があるかどうか解析した。
P1-179
Tribolium 類における Wolbachia 感染の実態
P1-180
チョウセンシマリスにおける冬眠様式の種内変異とその
系統遺伝学的関係
* 角拓人(岡大院・環境生命),三浦一芸(近中四農研セ),宮竹貴久(岡
大院・環境生命)
* 鎌田泰斗(新潟大 自然科学),弘中陽介(エコロジーサイエンス),石
庭寛子(新潟大 自然科学),近藤宣昭(玉川大 学術研究所),関島恒夫(新
潟大 自然科学)
Wolbachia は陸生の節足動物に広く感染する細胞内共生細菌である
(Werren, 1997)。そのうち,昆虫類ではおよそ 66% が感染すると推
定されている (Hilgenboecker et al. 2008)。このようなユビキタスな微
生物の感染動態を理解することは重要である。Tribolium 類では,ヒ
ラタコクヌストモドキ(Tribolium confusum )が細胞質不和合を示し
(Wade & Chang, 1995),Tribolium madens がオス殺しを示す(Fialho
& Stevens, 2000)ことが明らかとなっている。ホストに対する繁殖
制御能力の異なるこの 2 種の Wolbachia だが,wsp と ftsZ の両遺伝
子間で変異が殆ど無いことがわかっている(Fialho & Stevens, 2000)。
さらに,ヒラタコクヌストモドキは 1 種の Wolbachia にしか感染し
ていないと報告されている(Kageyama et al., 2010; Fialho & Stevens,
2000)が,当研究室で維持している採集地・採集時期の異なる 4 系
統のヒラタコクヌストモドキでは少なくとも 2 種以上の Wolbachia
への感染が示唆された。また,昆虫種によっては Wolbachia の体内
における存在濃度が系統ごとに異なることが報告されている
(Mouton
et al., 2007)。ヒラタコクヌストモドキの各系統において,Wolbachia
の体内存在量が異なるのか,またその差によって行動や生活史形質
に違いが出るのかについても発表する予定である。
シマリス属 Tamias に属する 25 種のうち 24 種が北アメリカに生息
しており、チョウセンシマリス Tamias sibiricus 1 種のみがユーラシ
ア大陸東部に生息している。近年の研究で、多くの分岐が見られる
北アメリカのシマリス属と同様に、チョウセンシマリスにも様々な
集団が存在している可能性が示唆されている。既往の研究で、チョ
ウセンシマリスは内因性の概年リズムによる冬眠特異的タンパク質
(HP) の調節により、年周期的な冬眠を制御していることが明らかと
なっている。また、チョウセンシマリスには、冬眠を行うかどうか
といった冬眠発現の有無や HP の構造的な多型などといった冬眠関
連因子の種内変異が報告されている。これらの冬眠特性の種内変異
は、チョウセンシマリスの集団分化に大きく関わっていると考えら
れる。本研究では、冬眠様式の種内変異における系統遺伝学的な背
景を明らかにすることを目的とする。
野生由来のシマリスを恒暗低温条件下で飼育し、冬眠個体(体温
低下が見られた個体)と非冬眠個体(生涯に亘り体温低下が見られ
なかった個体)の類別を行うことで、冬眠様式を決定した。飼育個
体は血液が採取され、ウエスタンブロット法を用いて HP の血中濃
度および HP 多型が決定された。さらに、冬眠様式の種内変異の系
統遺伝学的な位置づけを明らかにするために、ミトコンドリア DNA
CO Ⅱ領域を用いた系統を行った。既往の研究でシマリスの分集団と
その生息地情報が明らかとなっているミトコンドリア DNA Cytb 領
域を用いた系統解析を合わせて行うことで、冬眠様式の種内変異と
生息地の関係を考察する。
185
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-181
P1-182
腹足類殻形態の定量化フレームワーク構築に向けて
遺伝的基盤が協力の進化動態に与える影響
野下 浩司(九州大学 システム生命)
* 伊藤公一,山内淳(京大・生態研セ)
腹足類の殻形態は規則性と多様性をあわせもつ.殻口辺縁部で外
套膜により少しずつ殻体を形成する付加成長を行うため,多くの腹
足類ではらせん状に巻く殻をもつ.“異常巻”と呼ばれる非らせん形
の殻をもつ種であっても,固有の形を有する場合や,一定の成長規
則を示唆するものが多い.一方で,海,陸水,陸上と様々な環境に
生息し,被食 - 捕食関係も多様であるため,多様な“巻き”パタン,
殻口形状,殻装飾や色彩をもつ.こうした特徴のため,これまで腹
足類の殻形態は形態的適応の研究にもちいられてきた.しかし,形
態的多様性を評価するには何らかの数理的なモデルによる定量化が
必要となるが,統一的なフレームワークは未だ存在しない.
本研究では,幾何学的な形態モデルである成長管モデル (Okamoto,
1988) をもちい腹足類の“巻きパタン”の定量化と標本からどのよう
なデータを取得すればよいかの検討を行う.成長管モデルは殻の“巻
きパタン”を殻口の拡大率,規格化された曲率と捩率により記述す
る.そのため,基本的にあらゆる“巻きパタン”を表現することが
できるが,実際の標本からこれらのパラメータを測定することが困
難であった.そこで,Monnet et al . (2009) の測定方法を改良し“成長
軌道”と成長率を測定することで成長管モデルのパラメータを推定
する.この手法により,成長パタンが途中で変化する“異常巻”腹
足類の“巻きパタン”についても同様の定量化が可能になる.
協力行動は、バクテリアから霊長類まで幅広い生物群にみられる
現象である。協力の進化については、生物学においても活発に研究
されてきたテーマであり、ゲーム理論の枠組みからも血縁や互恵性、
ネットワークといった協力の進化にかかわる様々な側面が調べられ
てきた。そうした側面の一つとして、連続的な協力ゲームがある。
これは、戦略が離散的な場合(協力、非協力など)でなく、協力へ
の投資量を連続的に変化させられる場合を考えるもので、その進化
は主に適応ダイナミクスを用いて明らかにされつつある。例えば、
Doebeli et al. (2004) は、進化の過程で協力レベルに分岐が生じる事で、
単一の協力レベルを持つ集団から協力的な個体(協力戦略)と非協
力的な個体(裏切戦略)が進化的に生じうることを示している。
適応ダイナミクスでは、協力レベルが突然変異によって微小な変
化しかしない事を仮定している。しかし、実際の生物ではより複雑
な遺伝子発現の制御機構によって、協力レベルが決定されている場
合が考えられる。例えば、協力レベルは量的制御を行う遺伝子だけ
でなく、協力行動の発現の有無自体を制御する遺伝子によっても決
定されているかもしれない。この場合、発現制御に関わる遺伝子に
突然変異が起こる事によって、協力レベルが大きく異なる個体が生
じることになり、従来の適応ダイナミクスの予測と大きく異なる結
果が得られる可能性がある。
本発表では、このような協力レベルを決定する遺伝的基盤が、協
力レベルの進化にどのような影響を与えるかについて報告する。
P1-183
P1-184
海洋環境データと漁獲量からみた東北沿岸底生性魚類の
メタゲノム解析による熱帯多雨林の葉圏菌類多様性の解明
生息域変化
* 伊津野彩子,山崎理正(京大院・農),田辺晶史,東樹宏和(京大院・
地球環境),Sapto Indrioko(Gadjah Mada Univ.),井鷺裕司(京大院・
農)
* 須田亜弥子(東北大・生命),土居秀幸(広島大・サステナセンター),
成松庸二(東北水研),河田雅圭(東北大・生命)
葉圏菌類は陸上植物に遍在するが、その種多様性や宿主植物との
親和性、宿主植物への機能的影響は未解明である。本研究では、東
南アジア熱帯多雨林における葉圏菌類の多様性及び菌類群集の宿主
植物種間差異を明らかにするために、当地域で生態的・経済的に重
要な樹種である Shorea leprosula ( フタバガキ科 ) と同所的に生育する
他の植物種を対象にメタゲノム解析を行った。
インドネシアの林業会社 PT. Sari Bumi Kusuma が管理するフタバ
ガキ樹木の植栽林分の一部 (4 km2 の範囲 ) において、隣接して生育
する S. leprosula 8 個体と、同所的に生育する他の植物約 5 個体から
成る調査プロットを 4 箇所設置した。植物 1 個体あたり葉 10 枚から
抽出した DNA について葉圏菌類に由来する ITS1 領域を PCR 増幅し、
次世代シーケンサー Ion PGM を用いて塩基配列解読を行った。
得られた 6,052,286 配列 ( 平均長 208bp) はソフトウェア Claident を
用いてフィルタリングを行い、708,056 配列を統計解析に用いた。こ
れらの塩基配列は 97% の配列類似度で 5,896 個の OTU として認識さ
れたが 10%が種同定されたにすぎず、熱帯多雨林の葉圏菌類におけ
る未知の多様性が示唆された。また植物個体ごとの葉圏菌類 OTU 多
様度に植物種間差異は見られなかった一方で、葉圏菌類 OTU 組成は
植物種間で有意に異なっており、植物種ごとに異なる葉圏菌類との
相互作用が存在する可能性がある。S. leprosula に特異的な葉圏菌類
の特定や、葉圏菌類の系統的多様性に見られる宿主植物種間差異に
ついても考察する予定である。
生物の生息域は様々な環境要因によって決定され、環境の変化に
伴い生息域も変化する。特に近年では、温暖化による環境変化が生
物に影響を及ぼすことが懸念され、様々な視点からの情報が必要と
されている。環境変化に伴う生息域の変化は陸上生物において多く
報告されているが、海洋生物に関する研究は大西洋を中心に報告さ
れているだけで、他の海域では十分に評価されていない。なぜなら、
海洋環境変化に対する生物の影響は、陸上に比べ地理的情報や環境
データが少ないために評価が難しい。また、海洋生物は分布域が広
いために定量的な分布の把握は困難である。しかし、環境変化に伴
う生息域の変化を解明することは、生息域に影響を与える要因を決
定すると共に、将来の生息域予測にも役立てることができる。
本研究では、東北及び千島列島沿岸で漁獲された底生性魚類 16 種
の漁獲量データと環境データを照合し、過去 15 年間の分布傾向を調
べ、海水温などの環境変化が分布変化に影響しているかを検証した。
沖合底引き網漁業漁場別漁獲統計のデータを元に、一般化線形モデ
ルによって標準化 CPUE(単位努力量当たり漁獲量)を算出し、そ
れを漁獲に影響を与える効果を考慮した相対的な資源量とした。ま
た、各魚種が塩分、水温、深度等にどのような影響を受けているか
を検証するために一般化加法混合モデルを用いて解析した。各魚種
の分布を決める要因は、いくつかある要因の中でも水温によって変
動していることが考えられるため、漁獲量の高低を示す海域と水温
の関係に重点を置いて解析を試みた。漁獲量データと環境データを
利用し、底生性魚類の生息域を把握することで、環境と各魚種の生
息域変化との関連性を明らかにした。
186
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-185
P1-186
植生回復に伴う機能的多様性の変化:森林の階層構造の
二次林の樹木群集における種および機能形質の局所空間
発達に注目して
分布
* 野村祐紀,小野田雄介,北山兼弘(京大・農)
* 岡田知也(名大院・生命農),松下通也(秋田県大),中川弥智子(名大
院・生命農)
二次遷移の速度や遷移段階に関する情報は、植生管理にとって不
可欠である。二次遷移の研究では種組成の変化に注目することが多
い。しかし、気候やフロラが異なると、出現する種も変わり、種組
成だけから遷移段階を判断することは難しい。遷移は、生活史戦略
を異にする種が交代することによって進行する。そこで、生活史戦
略に関係する形質(葉重 / 葉面積比、葉面積、材密度、など)を指
数に使うことで、遷移の進行度をフロラに関係なく評価できると考
えた。また、森林の遷移では、植生回復に伴う階層構造の発達が光
環境の不均一性を増大させニッチ分割を促し、多様な形質をもつ種
があらわれる可能性がある。しかし、これまでの研究では階層構造
発達の影響は十分に考慮されていない。
そこで本研究では、伐採放棄後の植生回復を、階層構造の発達を
考慮して、機能的形質の面から評価することを試みた。和歌山県有
田川町の皆伐後の 8 年から約 100 年の二次遷移系列に、経過年数が
異なる 8 サイト (20*20m) を設置し、そこに出現する総計 63 種の樹
木の形質を測定した。各種 3 個体を選び、
樹冠の上部から葉を採集し、
葉面積や葉重量を調べた。また、幹から 5cm のコアを採集し、材密
度を求めた。それらの値を用いて、各種のバイオマスで重み付けし
たサイトあたりの形質値(群集平均値)を算出し、その経時変化を
調べた。また、階層構造発達に伴ってニッチ分割が進む可能性を検
証するため、各形質の群集内でのばらつき(機能的多様性)を求め、
その経時変化も調べた。
葉重 / 葉面積比では、群集平均値は放棄後年数と共に上昇し、機
能的多様性は放棄後年数と共に増大した。前者は遷移に伴い方向性
をもって群集構造が変化することを反映し、後者はニッチ分割を反
映した結果だと思われる。本研究では他の形質の群集平均値や多様
性の解析結果も含め、伐採放棄後の植生回復について考察する。
種の局所的な空間分布パターンを明らかにすることは森林群集の
形成プロセスを理解する上で重要であり、K 関数や pair correlation 関
数、mark correlation 関数などの空間的な手法が利用できる。しかし、
種の分布パターンには常に散布制限による空間自己相関の影響が予
想されるため、環境フィルタリングや競争(類似性制限)、散布制限
の影響を分離することは難しい。そこで本研究では、上記の空間解
析において、種のみではなくサイズと機能形質を用いることで、森
林群集に対する環境フィルタリング、類似性制限、散布制限の影響
を検証した。
愛知県瀬戸市の二次林に設置した 10 個の方形プロット(30 × 30
∼ 50 × 50 m)において、胸高直径(DBH)5 cm 以上の木本の種
および DBH、プロット内の座標を記録し、機能形質として葉面積、
SLA(比葉面積)、LDMC(葉乾物含量)、最大樹高を各種につき 1
プロットあたり 1 ∼ 3 個体を選び、測定した。種、機能形質をマー
クとして、それぞれについて mark correlation 関数を推定し、完全ラ
ンダム分布のもとで生成した null モデルとの比較を距離階級ごとに
行った。
完全ランダム分布との比較の結果、すべてのプロットで有意な種
の集中分布が検出されたが(距離約 2 ∼ 18 m)、一部のプロット×
機能形質の組み合わせを除いて、機能形質はランダム分布あるいは
一様分布を示した。このことから、種の集中分布は、環境フィルタ
リングや類似性制限ではなく散布制限によるものであることが示唆
された。
P1-187
P1-188
Genetic Population Structure and Genetic Diversity in
ハゼ類・カニ類からみた球磨川河口域の生物多様性 - 分
the Island Populations of the Ryukyu Five-Lined Skink,
類群によって重要な環境は異なるのか -
Plestiodon marginatus (Reptilia: Scincidae)
* 小山彰彦(九州大院農),乾隆帝(徳島大院工),立道大伸(九州大院工),
鬼倉徳雄(九州大院農)
*KURITA Kazuki (Kyoto Univ.), TODA Mamoru (Univ. Ryukyus), HIKIDA
Tsutomu (Kyoto Univ.)
ハゼ類とカニ類から見た球磨川河口域の生物多様性
- 分類群によって重要な環境は異なるのか 小山彰彦(九大院農),乾隆帝(徳島大院工),立道大伸(九大院工),
鬼倉徳雄(九大院農)
河口域は生物生産性が高く、多くの魚類、無脊椎動物や鳥類など
の生息場として非常に重要な役割を担っている。しかしながら、同
時に河口域は埋め立てや浚渫といった人為的な開発が活発に行われ
る地域でもあり、それに伴い河口域に生息する多くの生物は絶滅の
危機に瀕している。これらのことから、河口域生態系の保全・再生・
管理を実行するための知見の集積は急務である。
河口域に生息する生物の中でもハゼ類、カニ類は塩分変動の激し
い汽水環境である河口域に定住すること、さらに多様な生息場所に
それぞれの種が適応放散していることから、環境指標生物としての
役割が期待されている。しかしながら、多様な環境を持つ河口域に
おいては、1 つの分類群では評価できないハビタットが存在する場
合や、分類群によって重要な環境に差異がみられる場合も考えられ
るため、単一の分類群で生態系評価を行うのはリスクが高い。そこで、
本研究ではハゼ類、カニ類の両分類群にとって重要な環境の差異を
明らかにすることを目的に、日本有数の汽水性ハゼ類、カニ類の種
多様性を持つ球磨川水系の河口域において両分類群の出現パタンと
物理環境特性の関係性を調べた。調査地点は、汽水域上端から前浜
干潟にかけての約 6.5km 区間において河川縦断方向に 15 カ所の調査
ラインを設け、さらに各調査ライン上で地盤高に基づき河川横断方
向へ数箇所設置し、各地点において、物理環境計測および一定区画
内の生物相調査をおこなった。解析の結果、カニ類とハゼ類にとっ
ての重要な環境は異なることが示唆され、特に地盤高におけるその
違いは顕著であった。
The Ryukyu five-lined skink Plestiodon marginatus is a medium-sized
lizard endemic to the Ryukyu Archipelago, Japan. This species is distributed
in most islands of the Okinawa, Amami, and Tokara Island Groups,
including very small islets where almost all other reptiles are absent. In
order to reveal the population structure and the genetic diversity of island
populations, we examined genetic variations of P. marginatus in the
Okinawa Island Group by use of the mitochondrial DNA and microsatellite
data. Results showed that the populations from the northeastern and
souhwestern regions were genetically differentiated from each other. The
genetic variability of island populations became lower as island areas
decreased. Although genetic variability of the populations in small islets was
mostly quite low, their bottleneck indices varied considerably among the
populations. This result suggested that some populations persisted for a long
time, but the others have been recently established or otherwise recently
reduced in size.
187
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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ハバチ上科の種多様性
甲府盆地に分布するシダ植物種構成とその分布様式
* 井坂友一(信州大・院・総工),佐藤利幸(信州大・理・生物)
* 松浦亮介(信州大院・理工),佐藤利幸(信州大・理)
膜翅目は地上で最も繁栄したグループのひとつである.膜翅目は
広腰亜目と細腰亜目に分けられ,前者は約 8500 種が記載されている.
広腰亜目の中でもハバチ上科は最も種数が豊富で,科ごと種数や主
とする食相に違いがある.ハバチ上科は,ヨフシハバチ科(13 種,
シダ植物食),ミフシハバチ科(913 種,被子植物食),Pergidae(442
種,被子植物食),マツハバチ科(140 種,裸子植物食),コンボウ
ハバチ科(205 種,被子植物食),ハバチ科(5721 種,被子植物食な
ど)の6科からなっている.広腰亜目は,膜翅目の系統進化を述べ
る上で重要な基部的位置であるにも関わらず,細腰亜目に比べ系統
学的研究が遅れている.さらにハバチ上科は広腰亜目の中でも最も
多様である.そのハバチ上科内の科間関係を示したこれまでの形態
系統樹と分子系統樹の間には相違があり,また一部科間関係が支持
されているものの不明瞭な部分が多い.
本研究では先行研究にデータを追加し系統樹を再構築した結果,
先行研究で示された分子系統樹の科間関係を支持する系統樹が得ら
れた.さらにハバチ上科の 6 科の種多様性に影響を与える要因を明
らかにするため,得られた分子系統樹に基づき姉妹群比較法により
系統ごと種数の比較を行った.その結果,ヨフシハバチ科とマツハ
バチ科で有意に種数が少なく,その要因は食相であることが示唆さ
れた.食相との関係が示唆されたため,ハバチ上科の 6 科それぞれ
の出現時期を推定し,それらと科ごとの主な食相の出現時期を比較
した.その結果,ミフシハバチ科,Pergidae,コンボウハバチ科の分
岐年代は食相となる被子植物の出現時期と合致したため,食相と関
係を持ち分化した可能性が,一方でヨフシハバチ科,マツハバチ科,
ハバチ科の分岐年代は食相となる植物の出現時期と合致しなかった
ため,食相以外の要因が分化に影響した可能性が示唆された.
植物種の分布と地点ごとの種構成はその環境により特徴づけられ、
特に極端な気候条件は植物の地理的分布を制限すると考えられてい
る。植物の中で、シダ植物は胞子分散の際一切動物の介助がないこ
とから動物と関連した共進化をほとんど行ってこなかった種群と考
えられている。そのため顕花植物と比べてより非生物的条件がその
分布に関与していると考えられている。またシダ植物は多くの残存・
固有分類群を持つ種群のため生物地理学、保全生物学を考える上で
重要な植物群であるといえる。
倉田・中池により日本国内のシダ植物種水平分布がまとめられて
おり、中部地方で種数が極端に少ない地点のほとんどが海岸であっ
たが、一部内陸にも存在した。種数が少ない地点は極端な環境条件
下にあり、多くの種の侵入・定着を阻害している原因を特定しやす
いのではないかと考えられる。内陸性の種数が少ない地点では、シ
ダ植物の分布に対し非生物的要因である気候がどのように関わって
いるか、本研究の調査で確認された 115 種のシダ植物と 9 つの気候
要因に基づき明らかにする。
本研究の目的として、以下の 3 つを上げる;(a) どのような気候要
因がシダ植物種の分布と組成に影響するか評価;(b) 多変量解析によ
って類型化した気候区分ごとにどのような種が特異的に分布してい
るか選別;(c) (b) で選別した種群が盆地内でどのような分布を見せ
るか、また種数が少ない地点に存在している種群の決定からシダ植
物の侵入・定着を阻害する要因が何かを探っていく。
解析の結果、甲府盆地において地点ごとの種数を制限する要因は
高温と冬季の乾燥であった。高温・冬季乾燥域の内、種数が少ない
地点に特異的に存在していた種はスギナ、イノモトソウ、イヌドク
サであった。これらの種は主に甲府盆地の中でも水はけのいい河川
の周囲の地点に多く存在し、乾燥がシダの定着を阻害することが示
唆された。
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P1-192
北海道十勝川流域における河川魚類群集の典型性評価
ハナバチネジレバネの多様性と宿主特異性
* 山本逸生,赤坂卓美,石山信雄,伊藤弘樹,中村太士(北大・農)
* 中瀬悠太,加藤真
護岸や護床などの人工構造物は、水生生物の個体群および種構成
に影響を及ぼし、河川生態系の劣化を引き起こしている。河川生態
系を効率的に保全するためには、河川生態系の現状を評価し、どこ
を優先的に保全すべきかを検討する必要がある。
これまでの生態系評価では、希少性や固有性、上位性など様々な
指標が用いられてきた。その生態系における典型的な種を指標とす
る「典型性」評価は、大きく劣化した生態系の中で最低限保全すべ
き環境を抽出することができる。生態系の現状を把握し保全計画を
立てるには、複数の指標から生態系を評価する必要があるが、これ
まで国内における河川生態系の評価において典型性評価は行われて
いない。以上の理由から本研究は、河川生態系の保全のために魚類
を対象に、1) 河川生態系の典型性評価を行うこと、また 2) 典型性の
観点による生態系の劣化度合いと人工構造物との関係を明らかにす
ることを目的とした。
本研究は、北海道十勝川流域内の計 80 リーチ(1 次河川:20、2
次河川:23、3 次河川:14、4 次河川:14、5 次河川:5、6 次河川:6)
で魚類相と構造物調査を行った。各調査地点の評価は、RIVPACS 方
式を応用して行った。RIVPACS は、各調査地点で得られた種組成を
用いて、本来出現すべき種組成に対する実際の種組成の乖離度(O/E
value)により各調査地点を評価する手法である。尚、今回用いた手
法では、典型種が存在する地点ほど、地点の O/E value は高くなるよ
うに種毎に重みづけをして計算している。
解析の結果、各調査地点の O/E value に対し、護岸率による負の効
果が認められた。また、各次数間の O/E value の値には差があり、1
∼ 3 次の低次数河川と比較して、4 ∼ 6 次の高次数河川の方が高い
O/E value を示した。これらの結果に基づき、河川生態系の保全計画
について議論する。
ネジレバネとは甲虫に近縁なネジレバネ目の完全変態昆虫である。
ネジレバネ目は全種が昆虫寄生性であり、原始的な捕食寄生性のグ
ループを除いて宿主を殺さない昆虫の内部寄生者である。オスの成
虫は目や翅がありメスを探して交尾する自由生活である。一方、メ
スは終生寄生性であり目や触角などの感覚器、翅や脚などの運動器
官を欠き、成虫になっても頭部のみを寄主の体外に出すだけである。
メスは宿主の体外に出した頭部にある育溝と呼ばれる穴を通じてオ
スとの交尾、体内で孵化した幼虫の放出を行う。ネジレバネはメス
から放出された微小な一齢幼虫が自力で移動分散を行い、宿主を探
し寄生する。ネジレバネのみならず、このような分散様式を持った
昆虫において宿主との関係や多様化についての知見は少ない。その
理由として、多様化しているグループや宿主と寄生者の関係が充分
に解明されているグループが少ないことが挙げられる。ネジレバネ
では、膜翅目に寄生するグループが多様化していることが知られて
いる。そこで本研究では、ネジレバネの中で最も多様化しており宿
主の情報も揃っているグループであるハナバチネジレバネについて、
日本産種を中心に、ヒメハナバチに寄生する Stylops 属のネジレバ
ネとコハナバチに寄生する Halictoxenos 属と Eustylops 属のネジレバ
ネ、計21種を用いて分子系統解析を行った。ハチを宿主とするネ
ジレバネのグループでは一齢幼虫は便乗に特化した形態を持ってい
る。花の上で放出された一齢幼虫が別のハチに便乗して巣まで運ば
れ、ハチの卵や幼虫に寄生すると考えられている。花を介した便乗
によって発生する宿主転換や多様化が起きている可能性についても
考察を行った。
188
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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水田生態系におけるネオニコチノイド系殺虫剤の蓄積と
Diversity of fungal communities in riverine biofilms under
生物群集に及ぼす影響
environmental gradients.
* 堂谷紗希(新潟大・自然科学),古田拓也(新潟大・農),大石麻美(佐
渡生きもの語り研究所),柿沼範洋(平成理研),関島恒夫(新潟大・自
然科学)
*Aya Miura, Jotaro Urabe (Tohoku Univ.・Life sciences)
Organic matters with a variety of the origins are discharged into river
ecosystems from the watersheds. These organic matters sustain riverine
food webs by being decomposed and incorporated through microbes and
benthic invertebrate. However, although fungi are an important component
of microbes, little is known on how fungal communities are shaped and thus
change along river gradients. Since it is likely that amount and number of
different organic matters increase toward downstream, we hypothesized that
α -diversity of fungal species also increase along river gradients. Indeed,
this hypothesis was supported when we analyzed fungal communities
grown on cobble surface at various sites of the Natori River (Sendai, Japan)
in fall, 2011. In this study, the same analysis was done with samples
collected in spring, 2012, at the same river system to examine generality
of the hypothesis. Compared with the results in fall, spatial changes in
fungal species diversity along the riverine were not remarkable in spring,
suggesting that factors shaping fungal communities differed between the
seasons. Based on these results with data of water chemistry and land
use and land cover in the watershed, we will ague crucial factors causing
temporal and spatial variations of riverine fungal communities.
ネオニコチノイド系殺虫剤は近年全国的に使用量が増加しており、
特に水稲栽培において多用されている傾向にある。本剤は、神経伝
達物質アセチルコリンの受容体であるにニコチン性アセチルコリン
受容体(nAChR)に対してアゴニストとして作用することが知られ、
その結合性は一般的に脊椎動物に比べて昆虫類で高いことから、農
業害虫の防除として汎用されてきた。しかしながら、アセチルコリ
ンは、単細胞生物から高等生物まで共通する生体維持に不可欠な生
理活性分子であること、さらに近年、ネオニコチノイドルイが哺乳
類の脳機能分化に負の影響を及ぼすことが報告されたことから、ネ
オニコチノイド類の曝露は昆虫類に限らず、生態系を構成する様々
な分類群の生物に影響を及ぼしている可能性が出てきた。
そこで本研究では、ネオニコチノイド系殺虫剤の中でも近年最も
多用されている成分であるクロチアニジンとジノテフランに着目し、
両成分の使用水田と無農薬水田において安定同位体比解析により食
物網構造を明らかにした上で、水田食物網を構成する各生物に対す
る本剤の影響を評価した。その結果、いずれの水田タイプにおいても、
POM と堆積物を基点とし、イトミミズ類および多くの水生昆虫類が
一次消費者、ドジョウとカエル類が二次消費者とする食物網構造が
見られたものの、ネオニコチノイド使用水田では、水生コウチュウ目、
およびトンボ目幼虫が減少することにより、食物網構造が単純化す
る傾向が見られた。本公演では、水田食物網に対する本剤の影響に
加え、各栄養段階に位置する生物のネオニコチノイド蓄積量をもと
に、クロチアニジンとジノテフランの生物濃縮の有無について考察
する。
P1-195
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食肉目における肩甲骨と体幹を結ぶ筋の機能形態学的戦略
インドネシア・サトウキビ農場における土壌管理の違い
* 吹上理勇真(東大・院理),藤原慎一(東大・博物館),河部壮一郎(東
大・院理),遠藤秀紀(東大・博物館)
はリターの糸状菌群集構造を変える
* 三 浦 季 子, 金 子 信 博( 横 国 院・ 環 情 ),Niswati, A., Susilo, F.X.,
Swibawa, IG., Muhajir, U.(Univ. Lampung)
土壌糸状菌は、土壌有機物(SOM)の主な分解者である。熱帯地
域における農地の SOM を管理するには、農地管理が糸状菌の群集
構造やその変化を通して有機物の分解に及ぼす影響を明らかにする
ことが重要である。本研究では、(1)慣行耕起から不耕起への変換、
およびバガス(サトウキビの搾りかす)のマルチが糸状菌のバイオ
マス、群集構造、および糸状菌:細菌バイオマス比に与える影響、
(2)不耕起とバガスマルチの併用効果、(3)糸状菌群集とサトウキ
ビ葉リター分解速度の関係を見出すことを目的とした。試験地は、
インドネシア・スマトラ島ランプン州のサトウキビプランテーショ
ンに設置した。糸状菌のバイオマスと群集構造解析には、それぞれ
PLFA 法および T-RFLP 法を用いた。不耕起区の糸状菌バイオマスは、
慣行耕起区に比べて 2 倍高かった。一方、慣行耕起区にバガスマル
チを施用することで糸状菌バイオマスは約 2.5 倍高くなった。また、
不耕起によって糸状菌の OTU 数が多くなったが、バガスマルチ施用
によって特定の糸状菌種の生育が阻害された。不耕起とバガスマル
チの組み合わせは、糸状菌バイオマスに対し相加あるいは相乗的な
効果は認められなかった。リター分解速度は耕起による影響は認め
られなかったが、バガスマルチによって約 20% 低下することが認め
られた。以上の結果から、不耕起とバガスマルチは糸状菌のバイオ
マスを増やし、糸状菌の群集構造を変化させることが明らかになっ
た。これらの変化は、リター分解に影響する可能性が示唆された。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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チベット高原南部域を中心としたMeconopsis horridula
被食者密度が消費型・非消費型の直接効果に及ぼす影響
の遺伝的多様性
* 和田葉子(奈良女・院・人),岩崎敬二(奈良大・教養),遊佐陽一(奈
良女・理)
* 梅本奈美,森高子(中部大・応用生物),村上哲生(名古屋女子大・家
政学部),王君波,朱立平(中国科学院・青蔵高原研究所),松中哲也,
西村弥亜(東海大学・海洋学部),南基泰(中部大・応用生物)
高山植物は、過去に繰り返された間氷期と氷期に応じて、その分
布は大きく変化してきたと推測されている。ヨーロッパアルプスの
高山植物は、葉緑体 DNA 多型解析によって氷期においても氷床に覆
われなかった山頂や岩峰などをレフュージアとして、後氷期にそこ
から分布を再拡大したと考えられている。しかし、未だチベット高
原の高山植物の分布変遷についての詳細な報告はされていない。そ
こで、チベット高原南部域の M.horridula ( ケシ科メコノプシス属 ) の
系統地理学的解析を行うことにより、チベット高原南部域の本種の
分布変遷を推測した。
チベット南部域において M.horridula 22 集団 134 検体と、アウトグ
ループとして M.racemosa 2 検体を供試試料とした。葉緑体 DNA 非
コーディング領域 (34 領域 ) について PCR を行い、ダイレクトシー
ケンス法により DNA 多型検出を試みた結果、rps16 のイントロン領
域 ) において DNA 多型が検出できたので、最尤系統樹及びハプロタ
イプ・ネットワークの構築を行った。その結果、9 ハプロタイプを
検出でき、最尤系統樹で 3 つのクレードが確認できた。その内、分
岐年代の古いハプロタイプは東部集団で確認され、分岐年代の新し
いハプロタイプは西部 ( 特に南西部 ) で多く確認できた。このことか
ら、東部集団の起源が西部、南西部より古いことが示唆された。また、
今回は限られた地域、サンプル数であったが、遺伝的多様性の高い
地域が三ヶ所確認され、いずれも標高 5000m 付近の比較的湿潤な氷
河周辺もしくは湖、河川周辺であった。
捕食者は栄養カスケードを介して、陸上や海洋の様々な群集にお
いて間接的な効果を及ぼす。この栄養カスケードは、捕食者が被食
者の密度を減少させる消費型効果と、特性を変化させる非消費型効
果によって生じるが、これらの直接効果の強さについて調べた研究
は少ない。また、これらの強さは、資源の質や量、捕食者の捕食方
法などによって決まるとされてきたが、被食者の特性(例えば密度)
に注目した研究はほとんど存在しない。
岩礁潮間帯にすむ藻食性カサガイであるキクノハナガイ
(Siphonaria sirius ) は、 捕 食 者 で あ る 肉 食 性 巻 貝 イ ボ ニ シ (Thais
clavigera ) に対し、活動停止や逃避といった反応を示す。今回、野外
の実験区において、高低 2 段階のキクノハナガイ密度における消費
型と非消費型直接効果の強さを評価した。消費型の実験操作として
は実際の捕食圧に応じてキクノハナガイを段階的に除去し、非消費
型の操作としては実験区内のケージからイボニシの捕食時の匂いを
放出させる処理をおこなった。
その結果、低密度では非消費型効果として、キクノハナガイの活
動率や摂餌率、成長率の低下が見られたが、高密度では非消費型効
果が検出されなかった。軟体動物では一般に飢餓により捕食者回避
行動が抑制されることから、高密度では餌不足のために非消費型効
果がみられなかったと考えられる。一方、消費型効果として、高低
両密度においてキクノハナガイの生存率が増加した。これは除去処
理により種内干渉が弱まったためであると考えられる。以上の結果
から、密度という被食者の特性が、消費型と非消費型直接効果の強
さに影響することが分かった。さらに、藻類相の変化という間接効
果も低密度区のみで検出されたことから、被食者密度は間接効果の
強さにも影響することが明らかになった。
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奈良県内のため池を利用する鳥類群集の解析
山地森林流域における降雨流出と森林施業の複合攪乱が
* 桑原 崇,桜谷保之(近畿大・農)
底生生物群集に与える影響
ため池は水田の灌漑用水を確保する利水施設として人工的な水域
であり、少雨で天然湖沼の少ない西日本の瀬戸内地域や近畿地方の
中部などで多数造られ、重要な止水環境となっている。また、ため
池は、灌漑や池干しなどの人為的攪乱を受けながら長い年月をかけ
て抽水植物群落やヤナギなどの池畔林を形成させることにより、多
様な生物が生息場所や採餌地として利用する環境になった。その中
でも鳥類にとってため池とは、水鳥の生息地や繁殖地である他に、
ヨシ帯を利用する鳥の繁殖地やねぐら、羽毛の汚れや寄生虫などを
落とすための水浴び場、様々な鳥の採餌地など水鳥だけでなく、山
野の鳥にも重要な生息地となっている。
本研究は、ため池を人工的に造成されたものに限らず、自然起源
であっても人為的な改変がなされている池と定義し、ため池を構成
する環境要素や周辺環境に着目し、ため池による鳥類群集の違いと
その要因を解明することを目的とした。
調査は奈良県北西部に位置する 4 地点 12 ヶ所のため池で行った。
調査時期は 2011 年 10 月から 2012 年 12 月に月に 1 ∼ 2 回の頻度で、
朝に実施した。調査方法は基本的に 15 分間の全体を見渡せる位置で
の定点調査および池の周回路のルートセンサスを行い、周回路より
内側で確認された鳥類の種とその個体数、行動、利用環境を記録した。
調査の結果、全体で 14 目 31 科 65 種の鳥類を記録した。それぞれ
のため池を利用する鳥類の種数と個体数は調査地の面積、池の周囲
長に占めるヨシ帯の割合との間に正の相関があり、池と接している
樹林地の長さとの間には負の相関が認められた。この他、調査地ご
との種多様度指数 H’や各調査地間の重複度 C πによる解析を行い、
利用タイプや渡りによる分類、食性、周辺環境などの面から鳥類の
群集構造について考察する。
* 渡邉祐介,境優(農工大・農),布川雅典(北大・農),五味高志(農工大・農)
山地上流域における森林間伐と降雨流出の複合的攪乱が底生生物
群集に与える影響の評価を行った。本研究は、栃木県佐野市にある
東京農工大学 FM 唐沢山内に位置する 3 流域(K2、K3、KR)を対
象とした。植生は 20 ∼ 50 年生のスギ・ヒノキの人工林であり、K2
では 2011 年 6 ∼ 10 月に 50% 列状間伐施業が行われた。間伐と同期
間の 2011 年 7 月に最大日雨量 177.6mm の降雨流出イベント(回帰年:
35 年)が発生した。3 流域について、2011 年 5、8、12 月、2012 年
3、5、7 月に瀬と淵のそれぞれ 3 箇所(25 × 25cm コドラート)で
底生生物を採集した。降雨流出イベント後の 2011 年 8 月では、全て
の流域において同年 5 月と比べて全個体数は 53 ∼ 90% 減少してい
た。2012 年 5 月と 7 月を比較しても同様の減少は見られなかったこ
とから、降雨イベントによる攪乱の影響が考えられた。優占種別で
は、ユスリカ科、コカゲロウ属、オニヤンマの個体数が間伐以降の
期間に K2 で増加していた。ユスリカ科は 2011 年 12 月と 2012 年 3
月において K2 の平均個体数密度は他流域の 4 ∼ 24 倍であった。さ
らに、K2 における瀬のコカゲロウ属と淵のオニヤンマの平均個体数
密度は,2012 年 3 月から他流域と比較して増加し、コカゲロウ属で
は 10 ∼ 58 倍、オニヤンマでは 4 ∼ 34 倍となった。間伐後の K2 で
は樹冠開空度の増加によって日射量が増加するとともに、作業道な
どからの細粒土砂流入と河床堆積が確認された。間伐後の底生生物
群集の応答から、攪乱後の初期段階では砂泥質を選好しかつ 1 世代
の期間が短いユスリカ科が増加し、春季以降は、日射量の増加によ
り藻類食者であるコカゲロウ属が増加したと考えられた。一方、淵
では砂泥の堆積によって、砂泥を好むユスリカ科とオニヤンマが増
加したと考えられた。
190
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-201
P1-202
奄美大島における陸生大型ミミズ類の生態と多様性
Trophic dynamics of lizard communities in Ankarafantsika
* 山根美子,加藤真(京大院・人環)
National Park, Madagascar
野外環境において、陸生大型ミミズ類は土壌の摂食・排糞によっ
て生物的・物理的・化学的な作用を土壌生態系に与えている他、そ
れ自身が昆虫類や鳥類、爬虫類、哺乳類などの重要な餌資源として
の役割も担っている。陸生大型ミミズ類は土壌生態系を構成する極
めて重要な要素であり、生態系全体を考える上でミミズの機能や多
様性の理解は不可欠である。一方で同定に用いることのできる形質
の少なさや形態の可塑性はしばしば分類における混乱を招き、とり
わけ日本を含む東アジアに優占しているフトミミズ科では顕著であ
る。こうした問題は形態観察と DNA バーコーディングを併用する
ことである程度解消できると考えられる。
陸生大型ミミズ類の日本列島全体における多様性や分布の解明は
未だ不十分な状態にあるため、本研究では国内の亜熱帯域のミミズ
相を探る一端として奄美大島を対象に調査を行なった。奄美大島笠
利の森林内において 2012 年 4 月から 10 月にかけて一月おきにコド
ラート調査を行なった。同時に奄美大島および加計呂間島の計 20 地
点で陸生大型ミミズ類を採集した。採集した各個体について双眼実
体顕微鏡による形態観察とミトコンドリア DNA の COI 領域を利用
した DNA バーコーディングを行なった。
結果、フトミミズ科 18 種、ジュズイミミズ科 2 種を得、このほと
んどが未記載種であると考えられた。温帯域における先行研究では
フトミミズ科の腸盲嚢の形状と生活型の間に対応が見られるとして
いる。しかし今回の調査で得られた個体の腸盲嚢はいずれも突起状
であり、リター下から採取された個体に関しても表層種に対応する
指状の腸盲嚢を持つものは観察されなかった。ジュズイミミズ科は
これまで台湾で記録があるものの、国内では九州以南における記録
は無い。今回の報告は南西諸島におけるジュズイミミズ科の初記録
であり、今後国内におけるジュズイミミズ科の伝播を考える上で鍵
となるだろう。
*Kawai, U. (Texas Tech Univ.), Perry, G. (Texas Tech Univ.), Hori, M.
(Kyoto Univ.), Horita, J. (Kyoto Univ.), Mori, A. (Kyoto Univ.)
How human disturbance influences community trophic dynamics have
rarely been studied in open terrestrial ecosystems. We conducted such a
study in a tropical dry forest in Madagascar, focusing 10 species of lizard:
Blaesodactylus ambonihazo , Furcifer oustaleti , Furcifer rhinoceratus ,
Geckolepis maculata , Hemidactylus frenatus , Lygodactylus tolampyae ,
Oplurus cuvieri , Phelsuma kochi , Uroplatus guentheri , and Zonosaurus
laticaudatus . We used stable isotope ratios of carbon and nitrogen to
describe the trophic position of each species, and compared them between
disturbed and undisturbed sites within a small area (3 X 1.5km). We further
documented details of community trophic dynamics between the sites using
community-wise metrics. We found that the trophic positions of some
species shifted dramatically while others are relatively stable. Our results
also suggest a possible relaxation of ecological species packing in disturbed
areas, possibly due to utilization of novel human-introduced carbon sources
by some species such as Z. laticaudatus and H. frenatus . Thus, some
species may play different ecological role in different habitat, and human
disturbance can cause ecological shifts over a small geographic scale.
P1-203
P1-204
長野県上伊那地方の水田地域における直翅目群集の構造
落葉広葉樹二次林における水が入った樹洞にみられる生
と環境要因との関係Ⅲ
物群集の構造
* 澄川元晴(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信 州大・農)
* 伴雄大郎(東京農工大院・農),吉田智弘(東京農工大・農)
近年,農業形態の変化や基盤整備に伴い,水田地域をハビタット
としてきた生物種が減少,絶滅していること明らかになってきてお
り,生物群集構造と環境要因との関係を解明することが保全を考え
る上での課題となっている.本研究では,立地環境が異なる水田地
域において,水田生態系における代表的な昆虫群である直翅目の群
集構造と環境要因との関係を解明し,保全策について検討すること
を目的とした.
調査は 2011 年 9 月から 11 月にかけて,長野県上伊那郡の立地環
境や整備状況が異なる 5 箇所の水田地域(A:市街地・未整備,B:
市街地・整備,C および D:中山間地・未整備,E:中山間地・整備)
毎に設定した 500m 径円内を対象として行った.調査箇所は円内の 4
つの草地形態(畦畔法面,畦畔斜面,空地,林縁)から選定し,形
態毎に 5 箇所ずつ,1 地域につき 20 プロットの 1m 方形区を設置した.
直翅目群集の調査はプロット毎に目視法とスウィーピング法,踏
み出し法およびトラップを用いて実施した.同時に各プロットにつ
いて植生,土壌含水率等の局所的環境要因の調査を行った.また,
景観的環境要因として範囲内の土地利用調査および管理状況につい
ての聞き取り調査を行った.
その結果,総出現種数は 16 種で,総出現個体数は 493 個体であった.
各調査地における出現種数と個体数は A で 9 種 127 個体,B で 9 種
48 個体,C で 10 種 92 個体,D で 13 種 148 個体,E で 16 種 493 個
体をそれぞれ記録した.出現種数は中山間地,出現個体数は未整備
地域で多い傾向があった.TWINSPAN による種群分類の結果からは,
草地形態の違いよりも地域性が強く影響していることが示唆された.
発表ではこうした群集構造と,局所および景観的環境要因との関連
性について,既往の研究結果との相違も含めながら考察する.
水の溜まった樹洞は水生生物の生息地であり、分断された水域と
してパッチ状に分布する。樹洞のサイズや堆積リター量など、様々
な樹洞内部の要因が、生物群集の構成に差異を生じさせることが明
らかにされている。さらに樹洞の形状も、枯死有機物や降雨など外
部からの資源の入りやすさなどに影響し、群集構造を決定する一要
因となっている可能性がある。そこで本研究では、樹洞の開口面積
の違いに注目し、外部からの資源混入の頻度や水の蒸発量などが水
生生物群集におよぼす影響を調査した。
調査は栃木県佐野市の広葉樹二次林において、2012 年の 5 月から
11 月にかけて行った。容量が同じで 底面積と高さが異なる 2 タイプ
のプラスチック製容器を各 12 個、約 2 ヶ月間隔で 3 回にわたって調
査区内のコナラ成木に設置し、その内容物を回収した。採取したサ
ンプル内の水生生物を目視によって形態種で区分した。
本調査の結果、2 タイプの容器間で出現した水生生物の総分類群
数に有意差はみられなかったが、その総個体数は、時期によって広
く浅い容器において多くなる傾向を示した。カ科のなかでは、一方
の容器において個体数が多くなる種も複数みられた。どちらのタイ
プの容器に個体数が多いかはカの種類によって異なっており、生息
地の選好性の差異やすみわけが存在すると考えられた。また、両タ
イプの容器で生物の個体数が平均から突出するサンプルがみられ、
個々の生息地間で群集構造の違いが大きいことが示された。
191
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-205
P1-206
中田島砂丘におけるハビタットと昆虫相
Ecological impacts of the 2011 Tohoku Earthquake
* 遠藤拓洋 明治大学大学院 応用植物生態学研究室
Tsunami on Aquatic Animals in paddy fields
海浜という生息場所は、砂の移動や高温、乾燥、塩水の飛沫など
にさらされる厳しい環境条件下にあり、そのような環境に適応して
きた生物からなる特異な生物群集が成立している。中でも海に棲む
昆虫の大部分は海岸性であり、自然海岸を好む。しかし、現在、我
が国では都市化および産業化に伴う沿岸地域の開発、浸食に伴い、
自然海岸が依然として減少傾向にある。こうした海岸環境について
近年関心が高まってきているが、残存している砂浜海岸の動植物、
特に海岸性昆虫類の分布状況、生態的知見に関した報告は十分では
なく、生息調査およびデータベース化が望まれている。研究では海
岸砂丘における汀線から海岸林までのハビタットごとの昆虫相の差
異を明らかにし、その要因を探ることを目的とした。
研究対象地の中田島砂丘は静岡県浜松市南部に位置し、遠州灘海
岸の海岸砂丘である。近年海岸侵食や飛砂環境の変化により浜崖侵
食をはじめとした砂丘面積の減少、中央部の砂丘地盤の低下が問題
となっている
調査は 2012 年 8 月から 11 月にかけて、中田島砂丘内の始点に汀
線から垂直な 3 本のベルトトランセクト A,B,C( 以下 A,B,C) を設定し、
ベルト上の各ハビタットにおいて、ピットフォールトラップによる
定量的調査および篩、捕虫網を用いた任意調査を行った。ピットフ
ォールトラップでは総計 19 種 80 個体うちコウチュウ目 13 種、カメ
ムシ目 4 種、ハサミムシ目 1 種、アミメカゲロウ目 1 種が確認された。
A,B ともに海岸林を除いてオオハサミムシ Labidura riparia japonica、
オサムシモドキ Craspedonotus tibialis が多く確認できたが、C ではこ
の 2 種はほとんど見られなかった。一方で C の海岸林内では A、B
にない種が確認できた。また、C において連続した海浜植物群落の
面積が小さいことから、この 2 種の生息に連続した海浜植物群落が
関わっていることが伺える。
* 鈴木朋代(東北大・理),向井康夫,牧野渡,岩渕翼,占部城太郎(東
北大院・生命)
P1-207
P1-208
渓流域におけるハリガネムシ類の種多様性と成虫出現の
木崎湖における過去 100 年間の Daphnia 個体群の変遷:
季節性
新古陸水学的アプローチ
* 山本拓弥,渡辺勝敏(京大・院理),久保田仁志(栃木水試),佐藤拓哉
(京大・白眉センター)
* 佐藤琢馬,大槻朝,石田聖二(東北大院・生命),加三千宣,槻木玲美(愛
媛大・上研セ),兵藤不二夫(岡山大・異分野),牧野渡,占部城太郎(東
北大院・生命))
生態系をまたいで起こる資源補償 (subsidy) の時間的パターンは、
受け手の生態系の生物群集や生態系プロセスの動態において重要で
あると予測されている。ハリガネムシ類(類線形動物門)は宿主で
ある陸生昆虫を行動操作することによって陸上生態系から河川生態
系への大きな資源補償を駆動し、河川の生物群集・生態系機能に影
響を及ぼす。その一方で、ハリガネムシ類の種構成が河川への資源
補償に与える影響は分かっておらず、そもそも日本の山間地域での
ハリガネムシ類の種構成の研究もほとんどない。また、資源補償の
時間的パターンに関する理論的研究は多くあるが、その実証的研究
は少ない。そこで本研究は、ハリガネムシ類の種構成と資源補償の
季節性を明らかにすることを目的とした。栃木県の 2 流域 4 河川で、
2010 年 7 月から 11 月にかけて、2 種類のトラップ(水中および水盤
トラップ)を用いてハリガネムシ類の季節的サンプリングを行い、
DNA 塩基配列を用いた種識別に基づき。サイト間で出現種や成虫出
現の季節性を比較した。種識別された 498 個体のうち、ハリガネム
シ類は 6 種、492 個体が認められ、線形動物糸片虫目 (Mermithida) は
4 種、6 個体が見出された。各サイト間でハリガネムシ類の種構成に
有意な差は認められなかった。一方、水中トラップでは種構成と性
比に顕著な採取バイアスが認められた。ハリガネムシ類の成虫の出
現パターンは一方の流域ではパルス的であったが、もう一方ではパ
ルスが不明瞭であった。ハリガネムシ類の成虫出現の季節性につい
てはトラップ間あるいは種間で有意な差はなかった。近隣の流域間
で種構成に違いがないにも関わらず、出現パターンに差異が生じる
プロセスを解明することが今後の課題である。
人為影響を受ける前の湖沼の状態を把握することは、湖の具体的
な保全目標を設定するために必須である。しかし、湖沼では人為影
響が顕在化した後に生物・水質の定期観測を開始することが多く、
かつての生態系や生物群集を伺い知る手がかりは極めて少ない。こ
の困難を克服するため、私達は湖の堆積物に蓄積されている生物・
化学情報を詳細に解析することで、過去の湖の状態を回顧的に再現
できる手法を開発している。木崎湖は長野県大町市の仁科三湖の一
つであり、19 世紀後半以降、国内各地の湖沼からワカサギ、ヒメマ
ス等が放流され内水面漁業が発展した。また、利水のための人為的
な水位変動や集水域の開発に伴う富栄養化が生じた。木崎湖は我が
国の陸水学研究の中心的な湖沼の一つであり、散発的ではあるが高
度経済成長期以前の研究があるなど、過去 100 年に渡る知見が蓄積
されている。これら知見と比較すれば、湖沼堆積物から過去の生物
群集を復元することの有効性を検証することが出来る。この利点を
生かし、私達は木崎湖の湖底堆積物に含まれる動物プランクトン遺
骸を解析することで、そのプランクトン群集の近過去復元を試みた。
動物プランクトンの中で、
Daphnia は魚の選好的な餌生物である一方、
高い摂餌能力を持つため植物プランクトン群集に強い影響を及ぼす
ことから、湖沼のキーストン生物と考えられている。そこで本研究
では、特に Daphnia 類に注目し、その遺骸の定量解析とともに休眠
卵鞘を用いた分子生物学的解析を行った。その結果をもとに、湖底
堆積物から近過去生物群集を復元することの有効性を議論する。
192
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-209
P1-210
Choosing the best or avoiding the worst?
干潟ベントス群集に及ぼした東日本大震災津波の影響と
*Carrasco, L. (Univ. Tsukuba), Mashiko, M. (Univ. Tsukuba), Toquenaga,
Y. (Univ. Tsukuba)
その後の回復状況
* 西田樹生,鈴木孝男,占部城太郎(東北大・生命科学)
南三陸から仙台湾にかけての沿岸地域には多くの干潟が立地して
おり、それぞれ独自の生態系を形成している。それらの干潟生態系
は 2011 年 3 月に発生した東北地方沖太平洋地震と、それに伴う津
波により未曾有の影響を受けた。しかし、その撹乱の程度は干潟ご
とに異なり、浸水高(押し寄せた津波の高さ)が高かった干潟ほど
震災後に種数が大きく減少し、震災前後の群集の類似度も低かった。
本研究では津波により大きな被害をうけた干潟が震災後の2年間で
どのような変化が生じているのか、またそれら干潟のベントス群集
は回復しつつあるのかを検討した。
調査は宮城県塩竈市の桂島、利府町の櫃が浦、松島町の双観山、
仙台市の蒲生干潟、亘理町の鳥の海、福島県相馬市の松川浦鵜の尾
の 6 カ所で行った。各干潟について 2011 年と 2012 年の2回、5 月
から 8 月の間にセンサス調査 ( 市民調査法 ) を行った。この調査では、
8 名以上の市民ボランティア調査者が干潟を調査し、発見した種を
記録した。各干潟について2回の調査の生活型ごとの種数の変化量
と群集類似度(Jaccard 指数と Bray-Curtis 指数)を求め、津波浸水高
との相関を調べた。
調査の結果、浸水高が大きかった干潟では、2011 年には出現しな
かったが 2012 年には出現した新規加入種がより多いことが分かっ
た。そのため、各年の群集の類似度は浸水高がより大きい干潟で低
くなっていることが分かった。このことから、震災でより大きな撹
乱を受けた干潟ほど、ベントス群集の構造がより大きく変化してい
ることが分かった。ただし、干潟によっては 2011 年から 2012 年に
かけて消失した種も存在するため、津波浸水高と種数変化量との間
には有意な相関は見られなかった。
P1-211
P1-212
GPS-TX を用いた夏期のツキノワグマのリアルタイムな
人工林によって断片化された広葉樹林の鳥類多様性 ~
行動追跡、及び追跡個体のアリ捕食者としての行動特性
ランドスケープ構造と液果生産量の効果~
* 安江悠真,青井俊樹(岩手大・農),高橋広和,玉置晴朗,矢澤正人((株)
数理設計研究所),瀬川典久(岩手県立大・ソフトウェア情報)
* 原澤翔太(京大院・農),正木隆(森林総研),滝久智(森林総研),永
光輝義(森林総研),石金卓也(農大),村尾未奈(農大院),前田孝介(農
大),井鷺裕司(京大院・農)
野生動物の行動追跡には、現在、GPS を用いるのが主流である。
しかし、GPS による追跡では、位置情報を蓄積したロガ―の回収が
必須であり、回収には多くの困難が伴う。また、回収に成功した場
合も、追跡個体の利用した場所を知り、現地踏査を行うまでに最低
でも数週間程度のタイムラグがあるため、現地に残された痕跡や糞
などが消失する恐れもある。
GPS-TX( 岩手大学、岩手県立大学、( 株 ) 数理設計研究所共同開発
) は、『スペクトラム拡散方式の通信装置、及び高速同期法』の通信
技術を野生動物の追跡に応用したものである。本システムは、追跡
個体の位置情報を GPS により測位した後、位置情報を直ちに受信局
に送信するため、ロガ―を回収せずに追跡個体の位置を知ることが
できる。そのため、位置特定にかかる労力を大幅に削減し、追跡個
体の現在位置を常に高精度で把握可能である。
著者らは、2011 年 8 月より、岩手県遠野市におけるツキノワグマ
(Ursus thibetanus:以下クマ ) の行動追跡に本システムを適用している。
行動追跡では、クマの利用頻度の高い場所を 3 日以内に現地踏査し、
真新しい糞や食痕等の資料を採集する他、林況や下層植生の様子を
詳細に記録することで、クマが「その場所で何をしていたのか」を
考察することが可能となった。特に、夏期におけるクマの行動追跡
では、追跡個体がアリ科 ((Formicidae( spp.) の社会性昆虫を採食しな
がら徘徊する様子が頻繁に確認され、夏期のクマの餌資源であるア
リ科の資源分布が、クマの移動や採食等の行動に大きく影響してい
る可能性が示唆された。今後は、同調査地においてアリ科の資源量
を環境別に把握し、クマの行動との関連性を詳細に調査する予定で
ある。
森林の断片化が鳥類に与える影響については、主に農地化によっ
て分断化された熱帯林などで盛んに研究されてきた。一方日本にお
いては、天然林が針葉樹人工林によって分断化されている点に特徴
がある。しかし、このような森林景観の改変に対する鳥類の応答反
応はほとんど明らかにされていない。本研究では、針葉樹人工林の
卓越する地域に残存する天然林において、鳥類の生息地選択に係わ
る要因を解明し、鳥類多様性を維持する上で有効な生息地保全方法
を検討する。そこで、森林の局所的な要因(林分構造及び従来の研
究では着目されてこなかった餌資源としての液果生産量)及び巨視
的な森林景観構造(一定範囲内の天然林率や林縁長など)を評価し、
それらが鳥類多様性に与える影響を明らかにした。
調査は茨城県北茨城市及び高萩市で行い、14 か所の広葉樹林に観
測点を設置して 5 ∼ 12 月の毎月、ポイントセンサス法により出現鳥
類を記録するとともに、液果樹木の結実量をカウントした。また観
測点を中心に半径 20 ∼ 30m の範囲で毎木調査を行い、各プロット
の胸高断面積合計やサイズ分布のパラメータを算出し、林分構造を
表す変数とした。景観構造については GIS 上で各観測点を中心に 10
∼ 500ha のバッファを発生させ、各バッファ内の広葉樹林率や林縁
長を算出した。そして、鳥類密度(全体及び機能群別)を目的変数
とし、季節による反応の違いを考慮するため、繁殖期と渡り期に分
けて GLMM 及び AIC に基づくモデル選択によって各変数の効果を
評価した。
193
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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林床リターの混交と林縁からの距離のどちらが土壌動物
異なる季節に設置した人工池における水生昆虫群集の形
群集に影響を及ぼすか
成過程の比較
* 時野谷彩夏(東京農工大院・農),吉田智弘(東京農工大・農)
* 鈴木真裕,平井規央,石井 実(大阪府大院・生命・昆虫)
土壌動物にとってリターは餌資源や生息空間として重要な役割を
果たしており、リターが混交することで土壌動物群集に影響を及ぼ
すことが知られている。また、リターの混交が分解を促進すること
も従来の研究で示されている。隣接する林分の境界域ではそれぞれ
の林分のリターが混交し、その混交割合は林縁からの距離に依存し
て変化している。同様に、日照や含水率などの微気象や下層植生な
ども林縁からの距離に伴って変化しており、土壌動物群集やリター
の分解に影響を及ぼしている可能性がある。本研究では、林分の境
界域における土壌動物群集の分布を決定する要因がリターの混交で
あるのか、それとも林縁からの距離に依存して推移している他の環
境要因であるのかを明らかにするために、リターの混交割合と林縁
からの距離の二つの要素を操作した実験を行った。
調査は栃木県佐野市の隣接しているスギ人工林と落葉広葉樹林の
境界域において、リターバッグ法を用いて行った。林分間の境界と
垂直な長さ 32 m の調査ライン上に、8 m 間隔で 5 地点の調査プロッ
トを設定した。各プロットに、スギとコナラのリターをそれぞれ単
独で封入したリターバッグと 2 種を混交したリターバッグを 2011 年
11 月から 2012 年 9 月まで設置した。回収したリターバッグから土
壌動物を抽出し、リターの含水率と分解率を測定した。
調査の結果、どの調査プロットにおいてもトビムシ目とササラダ
ニ亜目が優占した。土壌動物群集は林縁からの距離で差があり、リ
ターの分解率はリターの混交により促進された。これらの実験結果
から、林床リターの混交が林分の境界域における土壌動物群集とリ
ターの分解率に及ぼす影響を考察する。
水生昆虫類の衰退傾向が顕著になる中で、ビオトープ池の造成や
人工池の設置などによる保全策が行われるようになってきた。演者
らも 2011 年の春に大阪府堺市の「堺自然ふれあいの森」内に人工池
を設置し、水生昆虫群集の形成過程を調査したところ、春∼夏に種
数の増加が見られ、秋には減少に転じたことから、設置する季節の
重要性が示唆された。そこで、2012 年は同じ調査地内に春と夏に人
工池を設置して、水生昆虫群集の形成過程を比較した。
人工池には水道水を溜めたプラスティック容器(約 200 ℓ;深さ
20 cm)を用い、5 月下旬に 6 個(M 池)、7 月下旬に 6 個(J 池)を
それぞれ設置した。水生昆虫のすくい採りは、目合い 0.5 mm のハ
ンドネットを用いて、各池において設置後 5 日目、約 20 日目および
11 月まで原則として毎月 1 回行なった。カゲロウ目とハエ目につい
ては、池の一部をすくい採り、その個体数を面積補正した。
調査の結果、M 池では 30 種のべ約 35,200 個体(5 ∼ 11 月に 9 回
調査)、J 池では 22 種のべ約 27,200 個体(7 ∼ 11 月に 6 回調査)の
水生昆虫が記録された。肉食者では、両池ともに設置 1 ヶ月後にチ
ビゲンゴロウ幼虫とシオカラトンボが優占したが、2 ヶ月以降はシ
オカラトンボの個体数が高く維持されたのに対して、チビゲンゴロ
ウ幼虫はまったくみられなくなった。雑食者(植食者とデトリタス
食者含む)については、フタバカゲロウ属とユスリカ亜科が優占し、
両池で同様の季節的推移を示した。7 ∼ 11 月の期間について比較す
ると、大部分のコウチュウ目、カメムシ目の種の成虫では、個体数
の季節的推移が両池で概ね一致していたが、コマツモムシ成虫など
一部の種を除き、M 池の方が個体数レベルが高かった。これらの結
果より、経時的推移と季節的推移に着目して水生昆虫の群集形成に
ついて考察する。
P1-215
P1-216
ムクドリの集団塒とその環境特性
森林環境がガ類の群集構造に及ぼす影響
* 田谷以生,桜谷保之(近畿大・農)
* 東郷有城(龍谷大学大学院),吉田直子(龍谷大学大学院),藤元信吾(龍
谷大学大学院),小澤元生(龍谷大学大学院),遊磨正秀(龍谷・理工・環境)
ムクドリ Sturnus cineraceus は繁殖を終えると集団塒を形成し、こ
の塒は市街地にも形成され、夕刻おびただしい数のムクドリが塒に
集合する様子はマスコミに取り上げられることもある。塒の周辺で
は鳴き声による騒音や糞の悪臭に対して苦情が発生する。街路樹の
剪定やネット掛け、忌避音、超音波などによる対策が行われているが、
根本的な解決には至っていない。
本研究ではムクドリの集団塒の形成過程や場所、その意義につい
て考察する。2012 年 6 月から 11 月まで奈良市新大宮駅周辺を中心
に調査を行い、樹木や電線に集まる個体数の計測、飛来時刻などに
ついて記録した。さらに塒周辺の花壇において植生を調査し、ムク
ドリによる種子散布の効果について検討した。
その結果、6 月下旬から塒の形成が始まり、11 月中旬まで継続した。
個体数は 8 月上旬にピークに達し、5895 羽を記録した。塒入りは日
没前後に認められ、日没時刻に伴って変化していた。本調査地では
街路樹よりも電線を好んで利用する傾向がみられた。塒直下の花壇
では 10 種 119 個体の植物を確認し、エノキの個体数が最多であった。
塒以外の花壇では8種 33 個体の植物を確認した。
本調査地では街路樹の剪定や超音波を用いた定期的な駆除が行わ
れていた。個体数変化、塒位置の変化と駆除の関係についても検討
する。
都市に出現する猛禽類が本種に与える影響や、都市環境に生息す
るムクドリと人間との関わりのあり方についても議論を深めたい。
かつて里山と言われていた場所は林部と草原のモザイク分布が広
がっており、そこに多くの生物が生息していた。しかし、人の手を
離れ遷移が進む現在の里山ではそのような景観は見ることができず、
遷移や林床の暗化などにより生物多様性の低下が叫ばれている。そ
こで本研究では一次消費者であるガ類に着目し、森林環境の違いが
食性の異なるこれらの群集構造に及ぼす影響について検討した。
本研究は滋賀県大津市にある 3 つの森林を調査場所とした。これ
ら 3 つの森林を周辺環境の違いから 4 つに分類し、計 12 の調査地点
を設けた。これら 12 地点でライトトラップ調査及び植生調査を行っ
た。植生調査では樹高 1.3m 以上の樹木を対象とし、種数、個体数、
胸高直径、開空率、草原面積を測定した。
上記の環境要因及びそれらの標準偏差を用いて主成分分析を行っ
た結果、寄与率 70.3%で主成分 1、2 に分類された。主成分 1 は正に
向かうほど胸高断面積は増大し、樹種数や草原面積、開空率は減少
した。さらに、主成分 2 は正に向うほど樹種数や個体数が増加した。
採集したガ類を幼虫期の食性の違いにより木本食、草本食、多食、
腐食、地衣類食に分類し、これらの種数、個体数を目的変数、主成分 1、
2 を説明変数として重回帰分析を行った。その結果、木本食ガ類の
種数及び個体数、多食ガ類の個体数は主成分 1 と正の相関が得られ、
人為的影響が大きいと考えられる地点で減少した。一方で主成分 2、
つまり樹木の多様性には影響を受けていなかった。また、その他の
食性のガ類はどちらの影響も受けていなかった。
これらのことから、ガ類群集は食性により影響を受ける要因が異
なることが示唆された。よって、森林における生物多様性を保全す
るには、群集により要求する環境の違いについて十分に理解する必
要があると考えられる。
194
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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ヒノキ人工林におけるニホンジカ ‐ 下層植生 ‐ 節足動
Tracking tunnel による熱帯性クマネズミ属のハビタッ
物群集間の関係
ト選好性の推定 -マレーシア半島部のオイルパーム園
* 片桐奈々(名大院・生命農・森林保護),野々田稔郎(三重県林業研究所),
肘井直樹(名大院・生命農・森林保護)
での例-
渡部清孝,奥田敏統,山田俊弘(広島大学),杉本龍志(建設技術研究所),
Noor Azlin, Y.(マレーシア森林総合研究所)
近年、ニホンジカの採食による森林の下層植生の変化・衰退が日
本各地で報告されている。このような下層植生の改変は、森林生態
系内の食物網や生物間相互作用を通して、他の生物や生態系そのも
のに直接的、間接的に影響を及ぼすものと考えられる。しかし、日
本の人工林では、シカの採食が生態系の構造や機能に及ぼす影響は
ほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、人工林におけ
る下層植生上の節足動物に着目し、シカの採食が下層植生の変化を
通して節足動物群集にどのような変化をもたらしているのかを明ら
かにすることを試みた。
調査は、シカが高密度に生息する三重県津市白山町の 42 年生ヒノ
キ人工林で行った。本調査地には、防鹿柵を設置後約 5 年経過した
柵内調査区と、その外側の調査区が設置されている。2012 年 8 月に
各区において、下層植生(植生量・種多様度・物理的構造)と節足
動物群集を機能群(植食者、捕食者、その他、の個体数)ごとに調
査した。シカによる下層植生の変化が節足動物群集にどのような影
響を及ぼしているか解析する際、植生量と種多様度については単位
土地面積当たり、物理的構造については単位植生量当たりというス
ケールで行った。
単位植生量当たりにおいて、シカによる採食は下層植生の物理的
構造を複雑にし、植食者やその他の個体数を増加させていた。また
その結果、それらを餌とする捕食者の個体数を増加させている等が
明らかとなった。土地面積当たり、植生量当たり、いずれの示標に
おいても、シカの採食の影響がカスケード的に上位の栄養段階に及
んでいる可能性が示唆された。
東南アジアではオイルパーム園開発が急増している。森林を伐採
しオイルパーム園を開発すると、開発以前にはいなかったクマネズ
ミ属(Rattus sp .)のネズミ がプランテーションに定着する。オイル
パーム園経営者にとっては、クマネズミ属のネズミはオイルパーム
を食べる害獣であり、それを駆除する方法が模索されている。駆除
のためにはクマネズミ属のネズミの生態学的な特徴を解明すること
がまずは必要である。そこで本研究の目的をオイルパーム園に棲息
するクマネズミ属のネズミのハビタット選好性を明らかにすること
とした。この目的を達するための野外調査を 2012 年 8 から 9 月にマ
レーシア半島、パソ保護林周辺のオイルパーム園で行った。調査地
のオイルパーム園では、2003 年に生物多様性の劣化改善のため園内
の河川沿い 900 mに渡って果樹を含む郷土種 9 種、351 本の樹木の
稚樹が植栽されている。9 年経過した現在、約半数が生存し、最大
19 mの樹高、52 cmの直径をもつ個体も存在する。今回クマネズ
ミ属のネズミに影響を与える要因として①地表被覆(地表に存在す
る下層植生とオイルパームの葉 ) ②植栽木③河川の3つを取り上げ、
3つの要因がクマネズミ属のネズミの密度に影響を与えているかど
うかを明らかにした。方法は Tracking tunnel を用いた。結果として、
地表被覆がある場所はない場所に比べ、クマネズミ属のネズミの出
現頻度が有意に大きいことが分かった。クマネズミ属のネズミはオ
イルパーム園において、地表被覆を天敵を避けるために利用してお
り、選好性があると考えられる。クマネズミ属のネズミのコントロ
ールには地表被覆を除去する事が有効である。
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多摩川支流三沢川源流部におけるトンボの分布と生息環
鳥類群集は防鹿柵の設置により回復するのか?
境要因の対応関係
* 奥田 圭(東京農工大・院・連農),小金澤正昭(宇都宮大・農・演習林)
岩田隆典(明大・農)
シカの問題を抱える多くの地域では,シカの生態系被害対策とし
て、防鹿柵の設置が進められている.しかし,シカがすでに高密度
で生息している地域に防鹿柵を設置した場合,柵内に再生する植生
は高密度化する以前とは異なることが報告されている.そのため,
植生と密接な関係を持つ鳥類群集も同様に,柵内に成立する群集と
シカが高密度化する以前に成立していた群集が異なることが推察さ
れる.そこで本研究では,防鹿柵内に成立する鳥類群集の特徴を明
らかにするため,栃木県奥日光地域のシカ低密度地域(光徳)および,
シカ高密度地域(外山沢),防鹿柵内(高山北麓;防鹿柵設置後 8 年
目)の各地域のミズナラ林に 8 地点ずつ調査プロットを設置し,プ
ロットセンサス法による鳥類調査をおこなった.そして,これらの
地域の鳥類群集組成と,防鹿柵設置後 1 年目に柵内のミズナラ林で
調査されたデータおよびシカが増加する以前の本調査地域のミズナ
ラ林で調査されたデータとを比較し,防鹿柵内に成立している鳥類
群集の種組成の特徴について検討した.なお,防鹿柵が設置された
高山北麓は,防鹿柵が設置される以前,シカが高密度で分布してい
たことが報告されている.その結果,本調査地の防鹿柵内に成立し
ている鳥類群集の種組成は,シカが増加する以前の鳥類群集の種組
成とは大きく異なっており,防鹿柵の設置は鳥類群集の回復に寄与
していない可能性が示唆された.
トンボは、幼虫期をヤゴとして水中で過ごし、選好する水環境に
より止水性の種と流水性の種に大きく分けられる。トンボの分布を
規定する生息環境要因に関する既存研究は、トンボの多くは止水性
の種であるため、止水環境を対象としたものが多い。一方で、流水
環境、特に谷戸の源流部のような小規模な河川を対象とした研究は
少ない。そこで本研究では、谷戸源流部の小河川を対象に、トンボ
の成虫と幼虫の分布と、生息環境要因の調査を行い、これらの関係
性を考察する。
調査は、神奈川県川崎市麻生区黒川の明治大学黒川農場内の自然
生態園および本農場の北部に隣接する谷戸で行った。自然生態園に
は小河川が 1 本流れる。北部谷戸には、谷頭から右岸側、左岸側に
小川が 2 本流れ、多摩川支流の三沢川に流入する。両調査地は、直
線距離で約 300m 離れている。成虫捕獲調査は、2012 年 9 月および
11 月にそれぞれの調査地で各月 1 回ずつ 7 時間小河川に沿って歩く
ルートセンサスにより種と個体数を記録した。幼虫捕獲調査と水質
調査は、自然生態園、北部谷戸の小河川 3 本で行った。幼虫調査は、
タモ網を用い、河床の沈殿物や抽水植物の根本をすくい取り、捕獲
した幼虫の種と個体数を記録した。水質調査は、水温、DO、pH、
COD、アンモニア態窒素の 5 項目の測定を行った。
調査の結果、成虫の種数および個体数は自然生態園で多く、13 種、
77 個体であった。幼虫の種数は、北部谷戸の左岸で多く、5 種が記
録された。どちらの調査地内においても、トンボの分布には種ごと
に特徴があり、それぞれの種の生息地選択に対応して分布している
可能性がある。水質の 5 項目については、調査地間および小河川ご
とに大きな違いは見られなかった。
本発表では、調査地ごとの種組成や個体数、多様度指数を、環境
要因と比較し考察を行う予定である。
195
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-221
P1-222
東北地方太平洋沖地震後の岩礁潮間帯生物群集:帯状分
生態系・代謝過程を考慮した生物濃縮モデル
布の時空間パターン
* 中井信吾(龍谷大・理工),近藤倫生(龍谷大・理工)
* 岩崎藍子,飯田光穂,萩野友聡,阪口勝行,佐原良祐,野田隆史
化学物質は環境中よりも高い濃度で生物体内に蓄積することがあ
る。これを生物濃縮という。生物濃縮の程度を説明する際に重要な
二つの要素がある。一つは餌生物に含まれる化学物質が体内で吸収・
排出される生理学的過程である。もう一つは化学物質濃度が、「食う
食われる関係」によって高次の栄養段階の生物ほど高まる生態学的
過程である。
生物体内の化学物質濃度を説明する過去の数理モデルは、しばし
ば、排出される化学物質濃度が体内中化学物質濃度に比例すること
を仮定している。しかし、体内の化学物質濃度を一定に保とうとす
る恒常性などから、排出される化学物質濃度は体内濃度に対して非
線形となる可能性がある。
生物間の「食う食われる関係」は、現実の生態系では複雑なネッ
トワーク構造を持つ食物網として表される。食物網は 3 種または 4
種の個体群からなるモジュールと呼ばれるサブユニットによって構
成され、それらが多数組み合わさったものである.従ってこのモジ
ュールの性質を知ることは、生物群集の構造と動態を知るうえで不
可欠である (Holt 1997)。
本研究では、IGP モジュールにおける生物間のフロー変化の、各
生物に蓄積する化学物質量への影響を調べた。そこから、食物網構
造とそこでの生態学的位置に依存して、生物中の化学物質量が決ま
る様子を明らかにした。また、生態化学量論の観点からこのモデル
の有用性について議論する。
2011 年 3 月に発生した東北地方太平洋沖地震は大規模な津波と沈
降を伴った。これらによる物理的インパクト・環境の変化は直接的・
間接的および短期的、中・長期的に沿岸生物群集に影響を及ぼすも
のと考えられる。しかしながら地震から 2 年半が経過した今も、地
震後の遷移に関する定量的な知見はまだほとんどない。
岩礁潮間帯では、垂直方向の環境勾配に沿って優占種が帯状に変
化する帯状分布が一般的にみられる。そこで本研究は岩礁潮間帯生
物群集を対象に地震直後(4 か月後)と 16 か月後の帯状分布パター
ンの変化とその要因を明らかにすることを目的とした。
調査は 2011 年 7 月および 2012 年 7 月に岩手県において 5 海岸 23
岩礁で行った。各岩礁では平均潮位をまたいで縦 175㎝、横 50cm を
縦 25cm ごとに 7 潮位に分割し、各潮位で固着生物の被度と移動性
ベントスの個体数を計数した。固着生物は 6 つの機能群(a. 単年藻、
b. 皮相のある大型植物、c. 固着性植物、d. フジツボ類、e. イガイ類、
f. 多毛類)に分けた。帯状分布の変化プロセスを推定するために、
各潮位における 2011 年と 2012 年の各群の被度の変化を従属変数に
高さ、捕食者、2011 年時の被度、2011 年時の裸地、高さと捕食者を
独立変数に重回帰分析を行った。
各群の帯状分布パターンの変化には c 群、f 群で沈下後の潮位で減
少し元の潮位で増加、c 群、d 群、e 群で沈下後の潮位と元の潮位の
両方で増加の傾向がみられた。a 群には潮位に伴う一定の傾向が見
られなかった。重回帰分析の結果、e 群を除くすべての群で 2011 年
時の被度による負の影響が見られ、高さによる正の影響も b,d,f 群に
有意にみられた。これらの結果から一部の機能群では帯状分布パタ
ーンに元の潮位に向かって移行する傾向が見られる一方でその変化
パターンとその要因には機能群間で違いがあった。
P1-223
P1-224
捕食者の生態系エンジニアリングを組み込んだ捕食者―
どの高さを選ぶのか?山形県に生息する小型樹上性げっ
被食者動態
歯類の棲み分け戦略
* 西嶋翔太(東大・農),瀧本 岳(東邦大・理),宮下 直(東大・農)
中村夢奈 *(山形大院・理),小城伸晃(山形大院・理),玉手英利(山形大・理)
生物による物理環境の改変は、生態系や生物群集の構造に大きく
影響するプロセスであるが、生態系エンジニアリングを取り扱った
理論研究は少ない。とりわけ、生態系エンジニアリングと栄養的相
互作用の両方を扱った一般的なモデルはいまだに存在しない。
本研究では捕食者−被食者相互作用に環境動態と捕食者の生態系
エンジニアリング効果を組み込んだ数理モデルを開発し、被食者動
態が生態系エンジニア(捕食者)の個体群動態に与える影響を解析
した。このモデルでは、捕食者の生態系エンジニアリング効果が被
食者への捕食率か自身の生存率のいずれかを高めることを仮定した。
また、被食者の動態はロジステック成長をする系内資源と外部から
供給される系外資源の2種類を考えた。
解析の結果、中程度の生産性で代替安定状態が生じることや、被
食者が系外資源で生態系エンジニアリングが捕食者の生存率を高め
る場合には、生態系エンジニアの密度が時間とともに増加し続ける
というパターンを示すことが明らかになった。また被食者動態が遅
くなると系は大きく振動したが、環境動態が遅くなることでこの振
動は抑えられた。
これらの結果は、(1)生産性の増加は生態系エンジニアの突発的
な増加を招くこと、(2)生態系エンジニアが増加し続けるという動
態は系外資源によって引き起こされること、(3)物理環境の時間ス
ケールが遅いという一般的な性質が生態系エンジニアの個体群動態
の安定化に寄与していることを示唆している。
ヤマネ Glirulus japonicus とヒメネズミ Apodemus argenteus は休眠
場所・営巣場所として樹洞を利用する小型齧歯類である。両種は同
所的に生息していることが知られているが、棲み分けや競争関係に
ついてはほとんど調べられていない。2008 年から山形県中央部にお
いて、ヤマネとヒメネズミのみが利用できる巣箱を地上高 1.5m の位
置に設置し、両種の利用を観察してきた。その結果、ヤマネとヒメ
ネズミの 1 年間の平均巣箱利用率はそれぞれ 1.7% と 6.7% を示し、
ヒメネズミの利用が高い傾向が示された。さらに、テレメトリーを
用いたヤマネの個体追跡では、ヤマネは平均 7.85m 以上の樹上で日
内休眠を行っていた(n=7)
。このことから、2 種は利用する休眠場
所や営巣場所となる樹洞の高さが異なる可能性が考えられる。そこ
で本研究ではこの仮説を検証するために、樹洞の代わりとして 2 種
のみが利用できる巣箱を異なる 3 つの高さ(1.5m、3m、4.5m)に設
置し、各動物の巣箱の利用状況を調査した。調査は 2011 年と 2012
年の 5 月から 11 月に行った。その結果、ヤマネの巣箱利用は春と秋
の2山型を示し、年間を通じて 4.5m の高所の利用が高かった。対し
て、ヒメネズミは秋に巣箱利用が高まり、春の低所利用から秋の高
所利用に移行した。同所的に生息している 2 種は、春から夏にかけ
ては互いに独立した垂直空間を利用し、秋に重複する傾向があった。
しかし、明確な競争関係は確認されなかった。この樹上空間の利用
の違いは、餌資源の季節変化の影響を受けている可能性がある。
196
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-225
P1-226
パネルデータを用いた少子化に関する進化生物学的研究:
濁りによる魚類仔魚の成長・生残の向上
日本人の出産に影響を与える変動要因の探索
大畑亮輔,益田玲爾,山下洋(京大フィールド研)
* 森田理仁,大槻久,長谷川眞理子(総研大・先導科学・生命共生体進化学)
水の濁りが仔魚の成長・生残率を向上させることは経験的に知ら
れており,緑藻類であるナンノクロロプシスを投入し飼育水に濁り
を与えることは,種苗生産の現場において常識となっている.こう
した方法が仔魚の成長および生残を向上させる要因として,ストレ
スの軽減や摂餌効率の向上などの要因が考えられているが,濁りと
仔魚の成長との関係を直接明らかにしようとした研究はほとんどな
い.そこで本研究では,マダイ,クロダイおよびカタクチイワシ仔
魚を対象に,成長・生残率に及ぼす濁度の影響について検討した.
200L の円形水槽に透明区および濁水区を設定し,実験終了時にお
ける成長および生残率を比較した.濁水区にはカオリンを 4 時間ご
とに 1g 投入した.マダイおよびクロダイでは,仔魚が開口してから
10 日間,および 25 日齢から 35 日齢までの 10 日間の 2 サイズにお
いて実験を行った.カタクチイワシについては,開口してから 20 日
間,および 13 日齢から 33 日齢の 20 日間の 2 サイズにおいて行った.
マダイおよびクロダイでは,開口から 10 日間における成長およ
び生残率は,濁度区において透明区に比べて有意に高かった.一方,
25 日齢から 10 日間における成長および生残率は,両魚種ともに処
理区間で差はなかった.カタクチイワシでは,開口から 20 日間に
おける成長および生残率は,濁度区において有意に高かった.一方,
開口 10 日後から 20 日間実験を行った個体では,成長率では両区に
おいて成長の差はなかったが,生残率においては透明区で有意に高
かった.これらの結果をふまえると,河口域や沿岸域などの濁りが
強い海域は,仔魚の好適な摂餌場としての役割を持ち,成育場とし
て高い機能を持つことが示唆された.
出生率の低下により生じる少子化に見られるように,ヒトの繁殖
戦略は進化生物学的に興味深いものである.ヒトの繁殖戦略の研究
方法としては,ある年齢以上の人々がもつ子どもの数を適応度と見
なし,その時点の状況が適応度に与える影響を分析することが成さ
れてきた.しかしこのような方法では,結婚,出産,子育てといっ
た出来事が生じた当時の状況の影響を分析することが困難である.
この点を解決し,意思決定の時間的変遷を解明するには,同一人物
を継続的に追跡して得られたパネルデータの分析が求められる.
本研究では,家計経済研究所が実施した『消費生活に関するパネ
ル調査』のソースデータを用いて,ある年に出産が生じたかどうかに,
その前年と前々年の生活状況の変化がどのような影響を与えている
のかを,一般化線形モデルにより探索した.分析の対象は 28 歳から
45 歳の既婚の女性で,AIC と Akaike weight を指標にモデル選択を行
った.
現時点での主な結果として,年齢の二乗と出産の間には負の相関
が見られた.つまり,年齢が増加するにつれて出産は急激に起こり
にくくなり,ある年齢を過ぎるとそれ以降の繁殖はほとんど見込ま
れなくなるような閾値の存在が示唆された.このことから,初婚年
齢や初産年齢が適応度に与える影響は極めて大きいと考えられる.
また,世帯収入と出産の間には負の相関が見られ,資源量と繁殖成
功の間に正の相関があるとする行動生態学から導かれる予測とは合
致しなかった.しかし,現在社会においては単に収入を資源の指標
として用いることは適切ではないかもしれず,協同繁殖の視点も含
めたより詳細な分析が必要だろう.当日は現在進めている分析の結
果も合わせて議論したい.
P1-227
P1-228
Solar UVB radiation and temperature determine the
同所的に分布するツマグロカジカ属の着底期における初
seasonal change in survivability of an herbivorous false
期生活史の生態学的解明
spider mite
* 山崎彩(北大院環),宗原弘幸(北大 FSC)
*Sudo, M., Osakabe, Mh. (Kyoto Univ.)
Although G. herzensteini and G. intermedius are the farthest related
species in the genus including 6 species, they have similar morphological
characters during juvenile period. We showed from the previous study
using genetic markers that they could be distinguished by the distribution
pattern of the melanophores on the back of the head and the first dorsal fin.
In this study, to clarify the early life history of these species, we collected
the specimens which had settled down the bottom using with a sledge net
during May to October 2011-2012 in south west Hokkaido. Many juveniles
of both species occurred in May, and then decrease sharply. G. herzensteini
was collected more than the other species in May, and disappeared after
August. These results showed that G. herzensteini may migrate toward
the offshore. G. herzensteini prefer deeper habitats during adult, but the
migration was performed after recruitment to sandy bottom. On the other
hand, G. intermedius are thought to grow up in the shallow habitat, because
their adults are observed in same shallow habitat.
Although deleterious effects of solar UVB radiation on mites have been
brought to light, how it affects the population dynamics remains largely
unknown. Brevipalpus obovatus (Tenuipalpidae), an herbivorous mite,
occurs on Viburnum erosum var. punctatum (VEP; a deciduous shrub) only
in autumn. One third of B. obovatus eggs were laid on upper surfaces of
leaves. Oviposition on upper surfaces is beneficial for avoiding predators
residing on lower surfaces. Instead, the eggs are exposed to solar UVB
radiation as well as radiant heat. Therefore, we tested the effects of UVB
radiation and temperature (radiant heat) on egg hatchability under nearambient and UV-attenuated sunlight conditions from May to October 2012.
Although the UV-attenuation significantly improved egg hatchability,
most eggs died regardless with UV treatments due to heat stress in July
and August. A deterministic model based on UVB dose-egg hatchability
response, egg-development parameters and meteorological observation data
showed two survivability peaks, which was higher in October (hatchability =
0.424) than that in June (0.220). This predicted pattern roughly corresponds
with field observation, meaning that solar UVB radiation and temperature
are major determinants of seasonal existence of B. obovatus on VEP.
197
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-229
P1-230
岐阜市におけるデメモロコの生息環境と生活史
カスミサンショウウオの成長に与える温度と光周期の効果
* 古田莉奈,古橋芽,向井貴彦(岐阜大・地域)
* 久木田沙由理,池田咲子,石橋咲子,合田美佳(岡山理科大・総情),
古屋達規(津黒いきもの),中村圭司(岡山理科大・総情)
デメモロコは,琵琶湖と濃尾平野に分布するコイ科魚類であり,
濃尾平野では主に灌漑用のため池やこれに通じる流れのない用水
路の泥底または砂泥底の底層に生息するとされている.しかし,濃
尾平野に生息するデメモロコの分布情報は非常に少なく,生活史に
ついても不明なため,絶滅危惧Ⅰ類(岐阜県レッドデータブック,
2009)に指定されているにもかかわらず保全対策は何もなされてい
ない.そこで,本研究では,岐阜市に生息するデメモロコの生息環
境と生活史について調査した.調査は 2012 年 4 月から毎月 1 回行っ
た.投網と簡易式定置網兼地引網を使用してデメモロコを採集し,
成魚は,DNA を抽出するため右腹鰭を 99.5%アルコールで保存し,
本体を 10%ホルマリンで固定した.幼魚は,全長と体長を測定した
後,99.5% アルコールで本体を固定した.また,水質は多項目水質
測定器を使用して週 3 回程度 pH,DO,導電率,水温を測定した.
また,同所的に近縁種のコウライモロコが生息するため,mtDNA の
チトクローム b 領域の塩基配列を決定することで確実に同定した.
10%ホルマリンで固定した標本の,全長,体長,生殖腺重量,卵数
を計測し,季節的な変化を調べた結果,岐阜市のデメモロコの産卵
期は 6 月から 7 月であり,その時期にやや上流に遡上する傾向が見
られた.また孕卵数は 6 月と 7 月に採集された体重 3 ∼ 9g の 5 個体
で約 1700 ∼ 2400 粒あり,中村(1969)で報告されている琵琶湖産
と大きな差はなかった.8 月以降になると,全長 3cm 程度の幼魚が
採集されるようになった.10 月以降は,調査地で成魚を採集するこ
とができなかった.このことから,成魚は下流に下り,越冬すると
考えられる.
多くの生物は日長や温度といった環境の季節的な変化に反応する
ことによって、成長や生殖を調節する。両生類においても光周期は
幼生の成長や変態に影響を及ぼすことが報告されているが、生態的
に意味を持つ範囲の光周期が幼生の成長や発育を調節することを明
確に示した例はほとんどない。本研究では、カスミサンショウウオ
(Hynobius nebulosus )を材料として光周期と温度が成長および発育に
与える影響を調べた。
2012 年4月に岡山県真庭市蒜山下和でカスミサンショウウオの卵
塊を採集し、孵化した幼生を 10 ∼ 20℃の 16L-8D および 12L-12D の
条件下で飼育した。外鰓が消失した時点で体重と頭幅を測定し、1
日あたりの成長量を算出して飼育条件で比較した。
幼生期間は 20℃、15℃ともに短日条件下で短くなり、野外では秋
に変態が促進されると考えられる。変態時の頭幅は 20℃より 15℃の
方が有意に大きくなったが、光周期間での違いはなかった。一方、
体重は温度間と光周期間の両方で有意な差が検出され、16L-8D と 20
℃で重くなった。一日当たりの体重増加量を求めたところ、温度間、
光周期間ともに違いが認められず、摂食量に依存している結果とな
った。一方、頭幅の増加量は 20℃と 12L-12D で多くなったことから、
体の部位で成長量を変化させており、特に幼生期間が短く体サイズ
が小さくなる短日条件で頭部へより多くの投資をしている可能性が
考えられる。
10℃では飼育開始から 200 日を経過してもわずかな個体しか鰓が
消失せず、変態が強く抑制されると考えられる。生息地では湧水が
常に供給され、幼生での越冬が報告されている。厳しい冬を乗り越
えるためには、湧水によって凍結することのない水中で越冬する生
活史戦略が適応的である可能性が示唆される。
P1-231
P1-232
なぜサケ科魚類は冬に夜行性になるのか:餌資源が活動
ビデオ撮影からわかったダイトウコノハズク給餌物の巣
時間に与える影響
間比較
* 田中友樹(北大・環境科学院),小泉逸郎(北大・創成)
* 岩崎哲也,高木昌興(大阪市立大・院理・動物機能生態)
多くの脊椎動物は昼行性か夜行性に分類される。これらの動物は、
それぞれの光条件に適応しているため、昼行性から夜行性になる(あ
るいは逆)ことはほとんどない。しかし河川性サケ科魚類は、通常
は昼行性であるが、冬季は夜行性にシフトする。この原因として、
温度―捕食者仮説が挙げられている。変温動物であるサケ科魚類は、
冬季(低水温)は代謝が低下し、少ない摂餌量でも生存できる。そ
のため、鳥類など昼行性の捕食者から回避するため、摂餌効率が低
下しても冬季に夜行性化するとされている。一方で他の分類群では、
活動時間のシフトには捕食者以外に餌資源が関与する例も知られて
いる。サケ科魚類の餌となる水生昆虫や陸生昆虫の量も、季節と昼
夜で大きく変動するため、活動時間のシフトに影響している可能性
がある。そこで本研究では野外において四季を通じた調査により、
餌資源がサケ科魚類の活動時間に影響を及ぼしている可能性につい
て検討を行った。
調査は、温度の影響を排除するため水温の安定した河川において
行い、オショロコマの活動時間を調べた。行動観察は四季の昼夜で
行い、活動時間の違いを比較した。また、同時期に流下トラップを
設置し、餌資源量を比較した。
調査河川は年間を通して水温変化が小さかったにもかかわらず、
夏季に昼行性、冬・春季に夜行性という明瞭な変化が見られた。こ
れは行動変化が温度だけで説明できないことを示している。一方、
オショロコマが日中に活動していた季節は陸生昆虫の流下がみられ
たが、日中に活動していない季節には殆どみられなかった。サケ科
魚類は陸生昆虫を好んで食べることが知られていることから、夜行
性化は陸生昆虫の有無が影響している可能性が示唆された。
鳥類の繁殖成績は、繁殖初年度は低くその後高く安定する。この
傾向をもたらす要因は、個体の質、繁殖つがい間のコンビネーショ
ン、場所の 3 側面から解釈が試みられてきた。しかし、これらはい
ずれも互いに関係し合い、分離が難しい。私たちは南大東島におい
て、長期的に個体識別されたダイトウコノハズク個体群の追跡研究
を行なっている。さらに本個体群は極めて高密度で生息し、一度定
着すると一生その場から移動せず、解析に有効な特徴を持っている。
そこで、本研究では 2010-11 年 6-8 月に行なった CCD カメラによる
雛に運ばれる餌内容解析から、3 側面の分離を試みた。
198
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-233
P1-234
里山景観に生息するナミアメンボとヒメアメンボの繁殖
Male-biased sex ratio in N. koshunensis
戦略
*Miyaguni, Y. (Kagoshima Univ.), Sugio, K. (Ryukyu Univ.), Tsuji, K.
(Ryukyu Univ.)
* 髙橋 玄(筑波大・生物),渡辺 守(筑波大・院・生命環境)
In termite species of the family Kalotermitidae, most colonies usually
have a 1:1 sex ratio. However, in the dry-wood termite Neotermes
koshunensis (Shiraki) [Kalotermitidae], we found male-biased sex ratio
for pseudergates, nymphs, alates, and soldiers in the colony. The bias was
not related to the swarming season and to the colony size. Males were 0.91.7% larger than females in head width, thus confirming male-biased sex
allocation in this species. It seemed that the male-biased sex allocation was
not explained by Local Resource Competition model or by Local Resource
Enhancement model. Our results together with the previous studies suggest
that the sex ratio bias in the genus Neotermes is correlated with sex
specificity in colony succession by secondary reproductives (neotenics):
male-biased sex ratio is typically observed in the species with male
neotenics only. We need more information to understand the factor of biased
sex ratio in Neotermes .
筑波山周辺において、春になると里山の池や谷戸水田にはヒメア
メンボが、低地の水田地帯や市街地の修景池にはナミアメンボが飛
来して群れを作って生活している。この地方の谷戸水田は8月上旬
頃に水落としが始まり、8月下旬頃にはすべての水田が乾田となっ
ていた。市街地の池には 1 年を通して常に水が溜まっている。4月
から 10 月にかけてこれらの水域を定期的に巡回したところ、ヒメ
アメンボは 8 月中旬までに水域から姿を消すことが分かった。一方、
ナミアメンボの群れが水域から姿を消したのは 10 月下旬であった。
発見した群れは多くても 100 頭前後で構成されており、15 分以内で
群れのすべての個体を捕獲できた。どの群れも単一種で構成されて
いた。捕獲したメスを解剖し保有していた成熟卵と亜成熟卵、未成
熟卵の数を調べたところ、ヒメアメンボの保有成熟卵数は6月のピ
ークで 20 卵程度で、8月になるとどのメスも成熟卵をもっていなか
った。保有していた亜成熟卵と未成熟卵の数は季節の進行とともに
減少していった。ナミアメンボの群れには長翅型と短翅型の2型が
混在していた。両型のメスとも、保有成熟卵数は 40 卵程度で違いは
認められなかった、亜成熟卵と未成熟卵の保有数は季節の進行とと
もに増加していった。成熟卵の長径と短径を測定したところ、短径
でヒメアメンボの方が大きかった。ヒメアメンボとナミアメンボの
体長差を考慮して卵の大きさを体長に対する相対値で評価したとこ
ろ、ヒメアメンボの成熟卵は短径でも長径でもナミアメンボより大
きくなっていた。なお、ナミアメンボの短翅型の卵は長翅型よりも
短径がやや長く、ずんぐりしている。これらの結果から、ヒメアメ
ンボは大卵少産、ナミアメンボは小卵多産の戦略をもっていると考
えられた。
P1-235
P1-236
セットより単品で?秋のツキノワグマの採食戦略におけ
ナミアゲハの季節多形が生じる要因
る消化生理の非加算的効果
* 古俣慎也,曽田貞滋(京都大・理・動物生態)
* 中島亜美(東京農工大・連大),杉田あき(東京農工大・農),小池伸介
(東京農工大),山﨑晃司(茨城自然博),梶光一(東京農工大)
昆虫の季節的な環境変化への対応の一つとして季節多型があり,
季節変化への適応的反応であると考えられている.しかし,成虫の
季節多型は,成虫期に適応的であるとは限らない.つまり,幼虫期
の適応の副産物である可能性もある.よって,季節多型に見られる
形質の変化を生活史全体から評価することは重要である.
チョウ目アゲハチョウ科のナミアゲハ(Papilio xuthus)では,春
型と夏型が知られている.越冬休眠後の第 1 化では春型が出現し,
それ以降は夏型が出現する.春型は夏型に比べて体サイズが小型で
ある.春型と夏型の出現は幼虫期の日長によって調節されており,
幼虫期に短日条件にさらされると蛹が休眠に入り,休眠覚醒後に春
型が出現する.しかし,越冬世代は短日日長だけではなく,低温も
経験する.成虫の体サイズの季節多型は温度によってもたらされる
かもしれない.
そこでナミアゲハ成虫の体サイズ多型が生じる要因を幼虫期の低
温と越冬休眠という視点から明らかにしようと試みた.温度が発育
に与える影響と蛹の休眠耐性を調べる為に,幼虫の飼育実験・蛹の
過冷却点の測定を行った.
幼虫の飼育実験の結果,蛹化時の体重は日長・温度・性別の影響
を受け,低温の影響で蛹重量は減少した.また,孵化から蛹化まで
の発育期間は,短日条件下で短くなることがわかった.一方,体サ
イズの過冷却点への影響は認められなかった.以上から,冬に備え
安全に越冬する為に,幼虫期間を短くすることが適応的であり,春
型の小型化は,それによる発育期間の制限から生じると考えられる.
秋のツキノワグマは、冬眠に備え脂肪を蓄積する必要があるため、
エネルギー摂取を最大化させる採食行動をとっていると考えられる。
野生下では、秋に多種ではなく 1 種の食物を中心に採食しているこ
とが観察されているが、同所的に多種の食物資源が分布する森林で
は、その行動の要因として探餌効率ではなく消化生理の効率が考え
られる。
消化生理において、2 種を食べた時にその合計よりも消化効率が
プラスまたはマイナスになる非加算的効果が多くの動物で報告され
ている。本研究では体内滞留時間(GRT)の異なる 2 種を採食した
場合のクマの消化生理、特に消化率および可消化エネルギーを体組
織に変える効率の非加算的効果を検証した。
秋田県阿仁マタギの里熊牧場でミズナラ堅果およびキウイを、そ
れぞれ単独、交互の 3 パターンで 10 日間自由給餌する採餌実験を行
った。各実験には成獣オス 3 頭を用い、GRT 及び消化率の測定をし、
また、実験の前後には体重を測定した。
交互に採食した場合の GRT は、GRT の短いキウイ、長い堅果の中
間の値となった。消化率は、全ての個体で繊維類(NDF)の消化率
はプラスの非加算的効果がみられたが、可溶無窒素物(NFE)は非
加算効果がみられなかった。消化率は一般的に GRT が長いほど高く
なるため、消化に時間のかかる NDF の消化率でプラスの非加算的効
果が見られたと考えられた。一方、NFE は GRT の長短に関わらず消
化率が維持されたが、それは秋のクマが炭水化物を吸収する能力を
上昇させているからだと考えられた。可消化エネルギーを体組織に
変える効率は、3 頭中 2 頭で加算的効果、1 頭でマイナスの非加算的
効果が見られ、2 種よりも 1 種を採食する方が効率良い可能性が考
えられた。
199
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-237
P1-238
アカギツネのファミリー間での食性比較
ヒミズ(食虫目:モグラ科)の生活様式と天敵に対する
* 安生浩太(北大・環境科学),浦口宏二(道立衛生研),齊藤隆(北大・
FSC)
反応性
* 松山龍太,林文男’(首都大・生命)
動物の食性を知ることは、その生態の理解を助けるだけでなく、
他の種との競争関係、被食者への影響の大きさ、疫病や寄生虫の伝
搬などを理解するうえで有用な情報をもたらすため、これまで様々
な生物種において食性分析が行われてきた。しかし、それらの研究
の多くは種や地域を対象とした比較的大きなスケールで行われたも
のであり、集団内での食性の違いもあまり考慮されてこなかった。
このため食性に関わる要因分析は、比較的大きなスケールの環境比
較にとどまることが多かった。そこで、本研究ではファミリーとい
うより小さなスケールに着目してキツネの食性を比較し、食性に影
響を与えている局所的な環境の違いについて解析した。
北海道根室半島で同じ年に繁殖した9つのキツネのファミリーで
食性を調べたところ、9つのファミリー全体では、多くの先行研究
と同じく、ヤチネズミ属のネズミが主要な餌品目だった。しかし、
ファミリー間で比較したところヤチネズミ属のネズミを食べている
ファミリーと食べていないものの 2 カテゴリーに食性が大別された。
また、食性を巣周辺の環境と比較したところ、従来の研究でよく使
われてきた環境指標である特定の環境の占める面積比率には食性と
の関連性は見られなかったが、より小さなスケールで環境比較を行
うと、巣から最寄りの道路までの距離が短く、開けた場所と接する
ササ原が巣周辺に多いほどヤチネズミ属のネズミを多く食べるとい
う傾向が見られた。このように、本研究では局所的な環境の違いが
食性に影響を与えている可能性が示され、これまであまり考慮され
てこなかった小さなスケールでの食性分析の必要性が示唆された。
ヒミズ Urotrichus talpoides は食虫目モグラ科の日本固有の哺乳類
である.この動物は本州の森林やその周辺に生息しており,林床の
腐葉土層にトンネルシステムを作って,主に昆虫類やミミズ類など
を捕食している.ヒミズはトンネルシステムに依存的な生活をして
いるため,野外での直接行動観察が困難である.そこで本研究では,
東京都西多摩郡檜原村で 2010 年 4 月から 2011 年 11 月の間に捕獲し
た本種 26 頭を,坑道を模した飼育容器に導入し,活動パターン,坑
道や巣穴の利用様式,採食様式,さらに天敵に対する反応について
観察を行った.この飼育容器は 30 × 30 × 4.5 cm の石こうで作った
もので,坑道の入口から巣穴までの距離を 3 段階に分け,奥の巣穴
へ向かうにつれて,巣穴までの距離が長くなるように作製した.上
面は透明のアクリル板で覆い,夜間に弱光の下でトンネル内の行動
をビデオ撮影により記録した.ヒミズの天敵としては,フクロウ(声)
とアオダイショウおよびジムグリ(実物)を用いた.天敵を呈示し
ない条件下では,8 日間連続して夜間の録画を行った.天敵を呈示
させた条件下では,飼育容器に導入して 5 ∼ 8 日目(後半 4 日間)
にフクロウの鳴き声を聴かせた実験と,網袋に閉じ込めたヘビ類を
坑道外に 2 時間置いた 実験を行った.ビデオ録画から,トンネルシ
ステムの各場所における休息,活動,摂食,排泄の頻度を比較した.
ヒミズは活動と休息を頻繁(一晩に平均 5.1 回∼ 33.3 回)に繰り返
した.全観察時間中,活動していた時間の割合は 15.4% ∼ 40.2% で
あった.巣穴の使い分けも認められた.天敵の呈示実験では,しかし,
活動性や巣穴の利用様式に顕著な変化は見られなかった.
P1-239
P1-240
気温がツバメの抱卵と繁殖回数に及ぼす変化
性的不能と認識されたオスは浮気される - シジュウ
* 小松直哉(東京都市大学),北村亘(電力中央研究所),小堀洋美(東京
都市大学)
カラによる受精保険仮説の実験的検証
* 油田 照秋,乃美(北大・環境科学院),小泉 逸郎(北大・創成)
地球温暖化が生物季節に与える影響に関して多くの研究が行われ
ている。植物では開花の早期化や紅葉の遅延などが報告されている。
また動物では、渡りの時期の変化などの鳥類に対する影響が主に明
らかにされてきた。しかし、渡り以外で気温が鳥類の行動に与える
影響を調べた研究は少ない。繁殖、特に抱卵は鳥類の生活史の中で
重要なステージであり、温度による変化が予測されるが温度が抱卵
行動に与える影響は明らかとなっていない。本研究では、千葉県の
牛舎で繁殖しているツバメを対象に、気温が抱卵行動や繁殖回数に
与える影響を明らかにすることを目的とした。
抱卵行動と気温の関係性を調べる為、2006 ∼ 2011 年の間に調査
地にできたツバメの巣の抱卵日数と抱卵期間中の気温を比較した。
また温度により抱卵時間がどのように変化するのか調べる為、2011
年にできた産卵後 10 日前後の巣を対象とし、ビデオカメラを使い
抱卵時間を調べ、温度ロガーで計測した巣の内外の温度と比較した。
次に繁殖回数と気温の関係性を調べる為、個体識別を行い各つがい
の繁殖回数を調べ、年毎の 2 回繁殖の割合を算出し、気温と比較した。
ツバメの抱卵日数は気温が上がるごとに短くなった。2006 年以外
で有意な差がみられ、最も変化の大きかった 2008 年では気温が 1℃
上昇するごとに 0.4 日短くなった。またビデオカメラを用いた観察
により、ツバメは巣内の温度が高いと抱卵時間は短く、低いと長い
ことがわかった。しかし、繁殖回数と気温との間に有意な関係性は
なかった。
本研究で得られた気温によって抱卵日数が短くなるという結果は、
鳥類の繁殖期間が短くなることに繋がる。( 本研究では明確な傾向は
見られなかったが ) 一回の繁殖が短くなると繁殖回数も増えると予測
され、気温の変化が個体群動態に影響を及ぼす可能性が考えられる。
社会的に一夫一妻性の鳥類の 9 割以上でメスがパートナー以外の
子供を残す、「つがい外父性(Extra-pair paternity)
」という現象が確
認されている。しかし、その行動の多様性や適応的意義は多くの研
究者が 30 年近く研究を続けているが未だ不明な点が多い。オスに
とってつがい外父性は直接的に繁殖成功の増加に繋がるが、メスに
とっての適応的意義については未解明のままである。優良遺伝子仮
説や遺伝的適合仮説については実証例があり、ある程度の支持され
ている。一方、パートナーの性的不能を補うという『受精保険仮説
(Fertility insurance)』は、理論的には成立するが実証が極めて困難で
あり理解が進んでいない。本研究では受精保険仮説を検証するため、
シーズン中に複数回繁殖するシジュウカラ個体群の特徴を活かし野
外実験を行った。まず1回目繁殖で卵を偽卵と交換し、オス親に問
題があり卵が孵化しなかった、とメスに認識させた。そして同ペア
の 2 回目繁殖とコントロールペアのつがい外父性率を比べ、メス親
が受精成功率をあげるために他のオスとつがい外交尾をしているか、
について明らかにした。結果、実験ペアのつがい外父性率 (27.7%)
はコントロールペア (15.8%) に比べ有意に高かった。また、実験ペ
アのつがい外父性率は過去の同個体群や先行研究と比べても高い値
であった。この結果から、シジュウカラのメスはつがい相手が性的
不能な場合、卵を確実に受精させるための保険として、つがい外交
尾をしていることが考えられ、これは鳥類のつがい外父性の適応的
意義の一つだということが示唆された。本研究は、過去 30 年近くに
わたるつがい外父性の適応的意義の研究において、その仮説の一つ
である「受精保険仮説」を実験的に検証した初めての例である。
200
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-241
P1-242
乱婚をする生物でも協力的な雄は多くの見返りを得るか:
クラッチサイズのシーズン変化:複数回繁殖するシジュ
ヤツメウナギ雄の協力的造巣行動と繁殖成功の関係
ウカラにおける新しいパターン
* 山崎千登勢(北大・環境科学院),小泉逸郎(北大・創成)
* 乃美大佑,油田照秋(北大・環境科学院),小泉逸郎(北大・創成)
繁殖時の巣作り(造巣行動)は、子の保護を目的として行われる
一般的な行動である。例えば魚類では、サケの仲間はメスが産卵床
(巣)を、トゲウオの仲間はオスが巣を造成する。これらの造巣行
動は一般的に雌雄のどちらかが行い、もう一方の性は巣作りに参加
しない。また、同性内、特にオス同士で協力して造巣する例は様々
な分類群を見わたしても非常に少ない。しかし、本研究の対象生物
であるヤツメウナギは複数の雌雄が協力的に石を運び産卵床を造り、
そこで入り乱れて複数回の交尾(乱婚)を行う。多い時には数十匹
の個体がひとつの産卵床で数百回の交尾を繰り返す。しかし、複数
の雄が協力行動を行う中で、雄は自身の努力量に見合った利益を得
ているかは不明である。本研究では、協力的な雄がより多くの利益(繁
殖成功)を得ているという仮説を立て実験を行った。2012 年 4 ‐ 6
月に北海道大学苫小牧研究林内の実験水槽を用いて繁殖行動の観察
を行った。実験には個体識別をしたシベリアヤツメの雌雄 4 個体(雄
3、雌 1)を用いた。造巣の為に運んだ石の数と交尾回数を個体毎に
記録した。各交尾で放卵された卵はスポイトで採集し数を数えた。
実験の結果、卵を出さない産卵行動が多数行われていること、雄は
受精の際に 2 種類のスニーキング行動を行うことがわかった。また、
石運び数と総交尾回数の間に正の関係が認められた。さらに、スニ
ーキングの受精率が高いと仮定すると、協力的な雄ほど獲得卵数が
多くなることが明らかとなった。以上のことから、ヤツメウナギは
基本的に乱婚であるが、雌が雄の協力行動に応じて交尾や排卵を調
節している可能性が示唆された。
中高緯度で繁殖する鳥類では餌資源量の季節変化が大きいため、
繁殖開始のタイミングとクラッチサイズ(一腹卵数)の調節が重要
になる。一般的にシーズン中に 1 回だけ繁殖する種・個体群では餌
量のピークに合わせて繁殖を開始するため、クラッチサイズは繁殖
開始時が最も大きく、その後単調減少する。一方、シーズン中に複
数回繁殖する種・個体群では餌量のピークより早く繁殖を開始する
ため、クラッチサイズが繁殖シーズンの中盤にピークを迎えた後減
少する。しかし、気候やハビタットによっては複数回繁殖者であっ
てもシーズンを通して単調減少する例が報告されており、一概には
このパターンがあてはまらないと考えられる。
本研究の調査対象である苫小牧のシジュウカラ個体群は同緯度の
ヨーロッパの個体群と比べ複数回繁殖率が高く、繁殖シーズンが長
いことが明らかになっている。これはフェノロジーの違いや餌量の
ピークが 2 回あるなど餌資源量が多い期間が長いためであると考え
られている。このような環境ではクラッチサイズはどのようなシー
ズン変化を示すのだろうか?本研究ではこの個体群について過去 3
年間のデータを用いクラッチサイズのシーズン変化を調べた。
その結果、2 回目の繁殖ではクラッチサイズが 1 回目より小さく
なるものの、期間中は 1 回目でも 2 回目でも一定であった。これは
複数回繁殖者における一般的なパターンとは異なるものであり、か
つ苫小牧の個体群に特徴的なパターンといえる。本発表では孵化率
や巣立ち率といった基本的な繁殖パラメーターの他に雛の体重やふ
蹠長などのデータを1回目と2回目の繁殖について比較し、この新
しいパターンを生ずるメカニズムについて考察する。
P1-243
P1-244
スギ人工林におけるヤマガラの給餌行動―育雛餌メニュ
スズメの営巣密度と孵化率の関係
ーに関わる要因―
加藤貴大(立教大・理),松井晋(立教大・理),三上修(岩手医科大・
共通教育),上田惠介(立教大・理)
* 近藤 崇,肘井直樹(名大院・生命農・森林保護)
鳥類では一般的に,1巣中の卵のほとんどが孵化することが知ら
れている.しかし,スズメ目鳥類であるスズメ Passer montanus の孵
化率は非常に低く,6 割程度であることが、近年、報告されている.
産卵にも抱卵にもコストがかかるのに、なぜスズメの卵の孵化率は
こんなに低いのか?これは非常に興味深い現象であるにも関わらず,
その要因についてはまったく分かっていなかった.本研究では,孵
化率に影響する要因として個体間の社会的相互作用に注目した.こ
の点に注目した理由は、スズメは他のスズメ目鳥類と異なり、縄張
りをほとんど持たず、高密度で営巣するため、個体間の相互作用が
大きいと考えられるからである.調査地には巣箱密度の異なる 2 種
類の地域を作成し,営巣密度の違いが孵化率に影響を与えるかを調
べた.
調査は 2012 年 4 月から 9 月に秋田県大潟村で行なった.高密度地
域として,巣箱間の距離が 2m 以下になるように,20 個の巣箱を設
置した.低密度地域では,巣箱間距離が約 50m になるように 38 個
の巣箱を設置した.巣箱設置後は一腹卵数と孵化卵数、未孵化卵数
を確認するために、定期的に巣箱の中味をチェックして、繁殖経過
の観察を行った.
巣箱観察の結果,高密度地域における孵化率は約 5 割(53.2% ,
n=24)であるのに対し,低密度地域では約 8 割(79.7% , n=24)の卵
が孵化した.この結果から営巣密度と孵化率には関係性があること
が示唆された.
一般に、針葉樹人工林は、繁殖期の鳥類の主要な餌資源である鱗
翅目幼虫が広葉樹林と比較して少なく、樹洞営巣者の利用可能な樹
洞も少ないため、それらを利用する鳥類にとっては繁殖しづらい環
境であると考えられる。こうした人工林内でも、どのような条件で
あれば繁殖可能なのかどうかを明らかにするために、スギ人工林内
に巣箱を設置したところ、ヤマガラ Parus varius の繁殖が経年的に観
察された。そこで、繁殖の重要な要素である餌の利用を明らかにす
るため、親鳥が雛に与える餌(育雛餌)および周辺環境に生息する
節足動物の種類と量を調査した。
調査は、愛知県豊田市の名古屋大学稲武フィールドの約 55 年生の
スギ人工林で行った。林内の尾根や沢筋には小面積の広葉樹パッチ
が存在する。巣箱は 2011 年に 20 個、2012 年に 61 個を約 20 m 間隔
で列状に設置し、営巣した巣箱の出入口をデジタルビデオカメラで
7 − 11 時間連続撮影した。画像から、育雛餌を鱗翅目・膜翅目幼虫、
直翅目、クモ目、その他に分類・計数し、体長を測定した。餌の分
類群ごとに作成した回帰式を用いて体長から乾燥重量を算出し、育
雛餌のバイオマスとした。周辺環境の節足動物については、採餌場
所としての利用が考えられるスギと広葉樹について、月 1 回の頻度
でそれぞれビーティング法とクリッピング法により樹上の節足動物
を採集し、育雛餌と同様の解析を行った。
その結果、餌メニューでは、おもに鱗翅目・膜翅目幼虫を利用す
るつがいと、鱗翅目・膜翅目幼虫と直翅目の両方を利用するつがい
が観察された。これまで、ヤマガラが育雛餌として直翅目を高い割
合で利用することは知られていない。本発表では、直翅目を利用し
た要因を、各つがいが繁殖した時期と育雛餌のサイズ、スギ・広葉
樹上から採集された餌動物の構成・サイズから検証する。
201
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-245
P1-246
マイクロサテライト解析を用いた和歌山県千里浜におけ
土壌動物の金属応答性遺伝子を用いた重金属暴露評価
るアカウミガメの複数父性の検討
* 柳澤幸成,Libo Hou,中森泰三,金子信博(横浜国大・院),藤井芳一
(人間環境大),神谷貴文(静岡環衛研),小野恭子,保高徹生(産総研)
* 鶴田祐士(大阪府大・生命・昆虫),松沢慶将(須磨水/日ウミガメ協),
平井規央(大阪府大・生命・昆虫),亀崎直樹(須磨水/日ウミガメ協),
石井実(大阪府大・生命・昆虫)
重金属による生態影響は暴露量とその毒性に依存する。したがっ
て、重金属の生態リスク評価において、暴露量を定量的に把握する
ことが重要である。重金属は土壌中において様々な存在形態をとる。
全ての存在形態の重金属が毒性に寄与するのではなく、生物が利用
可能である遊離イオンのみが毒性に寄与すると考えられており、そ
の割合は土壌性質や付加された重金属の存在形態、さらにはエイジ
ングの状態により異なる。また、生物が暴露する遊離イオン態金属
量は生物の取り込み経路などの生理生態学的特性に依存すると考え
られる。この生物利用可能量に着目した生態リスク評価方法が国際
的に求められているが、日本の土壌特性や生物利用可能性を考慮し
た重金属類の生態リスク評価を行なった研究は極めて少ない。また、
バイオマーカーは生物が実際に暴露した量を測る指標として有力視
されているものの、土壌動物での適用例は少ない。
そこで本研究では、カドミウムを対象として、日本の一般的な自
然土壌における生物利用可能性を考慮した実暴露量を把握すること
を目的とし、土壌動物を用いてカドミウム応答遺伝子を指標とした
毒性試験でそれらの関係を明らかにする。
試験には、日本の一般的な自然土壌 4 種(砂質土、黒ボク土、森
林褐色土、灰色低地土)と OECD 人工土壌を用いて、含水量を各土
壌の容水量の 50% とし、段階的に異なるカドミウム濃度の汚染土壌
を作成し 1 週間静置した。その後、試験土壌に土壌動物を投入し 2
日間あるいは 1 週間暴露した。暴露した土壌動物の RNA を抽出し、
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を用いてカドミウム応答遺伝子
の発現量を測定した。また、個体レベルの影響も観察した。
講演では、土壌特性と暴露量、有害影響の関係性について議論する。
ウミガメ類の配偶システムの解明は、生物学的関心にとどまら
ず保全の観点からも重要である。野外では、雌が複数の雄と交尾す
るところが度々観察されているが、これを裏付けるように、最近
の遺伝学的研究では多くの種や産卵地において複数父性(multiple
paternity)が確認されている。ただし、その程度は一定ではなく、ま
た産卵地ごとに異なる可能性が示唆されており、より多くの産卵地
でこの現象の有無や程度を調べる必要がある。
日本は北太平洋唯一のアカウミガメ(以下本種)の繁殖地であり、
保全上重要な役割を担っているが、日本へ産卵回遊する個体群では
未だ複数父性現象は確認されていない。そこで本研究では、本種の
複数父性について調査することでその配偶システムを明らかにし、
また遺伝的多様性の保全に関する基礎資料を得る目的で、日本の主
要産卵地の一つである和歌山県千里浜において調査を行った。
まず、2012 年に産卵した母親とその子供から DNA サンプルを採
取するとともに、母親の体サイズや孵化率を記録した。その後、採
取した DNA サンプルを用い、4 つのマイクロサテライト遺伝子座で
遺伝子解析を行った。
その結果、日本の調査地においては初めて、本種の複数父性を確
認することができた。
講演では、各産卵巣の複数父性の有無や程度と、野外調査で得た
上記データを用いて複数父性が本種個体群にとってどのような意義
をもたらすかについて考察を行う。
P1-247
P1-248
冬眠中に確認されたコキクガシラコウモリの発情
タンガニイカシクリッド N. obscurus の社会構造
* 佐藤 雄大,関島 恒夫 新潟大(自然科学)
* 田中宏和(大阪市大・理),武島弘彦(東大・大気海洋研),安房田智司
(新潟大・理),武山智博(大阪市大・理),西田睦(東大・大気海洋研),
幸田正典(大阪市立大・理)
冬眠は哺乳類に属する多くの目において確認されている生理現象
で、低体温・低代謝の状態が数日から数週間にわたって維持される
ことが特徴である。一般的に、冬眠に伴うこのような生理的変化は、
多大なエネルギー消費を要する繁殖行動を阻害することが多く、特
に、配偶子形成を促進する性ホルモンの産生および分泌は、冬眠期
に行うことはできないと考えられてきた。著者らは、2011 年 6 月よ
り毎月 1 回の頻度で、コキクガシラコウモリを対象に、生殖器の外
部形態にみられる特徴の季節的変化を調べることで、本種の繁殖サ
イクルを明らかにする調査を行ってきた。その結果、温帯棲コウモ
リの一般的な発情期とされる 8 ‐ 10 月に加え、1 ‐ 2 月に捕獲され
たオス個体の 50%、メス個体の 20% から発情の兆候が確認された。
また、同時期にサーモグラフィを用いて越冬生態を調べた結果、観
察個体の 55% が、10 日間以上の冬眠を行っていたことが分かった。
先行研究では、温帯域に生息し、かつ冬眠を行うコウモリは、冬眠
期に配偶子形成を行うことはできないと考えられている。本種が冬
眠期に配偶子形成を行っているとすれば、性ホルモンの産生、分泌
に関わるプロセスにおいて、他の温帯棲コウモリにはない生理メカ
ニズムを獲得している可能性が高い。そこで著者らは、本種の冬眠
期における発情をさらに高い精度で明らかにするため、2012 年の冬
期に、冬眠が確認された個体を対象として、生殖器の組織顕鏡およ
び性ホルモン濃度の分析を行い、配偶子形成の有無を調べた。本ポ
スター発表では、冬眠個体から採取した生殖器の組織顕鏡および性
ホルモン濃度の分析結果を示すことで、温帯棲コウモリでは初とな
る冬眠時発情の実態を明らかにするとともに、冬眠期において発情
を可能にする生理的メカニズムについて考察する予定である。
多くの脊椎動物の子育ては両親または片親のみで行われるが、い
くつかの動物ではヘルパーと呼ばれる親以外の個体が子育てに参加
することが知られている。この繁殖様式は協同繁殖と呼ばれ、哺乳類、
鳥類では多くの報告があるが、魚類ではアフリカのタンガニイカ湖
に生息するカワスズメ科魚類数種が知られるのみである。このカワ
スズメ科魚類では他にも協同繁殖を行なっている種が存在する可能
性がある。今回演者らはその一種である Neolamprologus obscurus を
対象にその社会構造を調べ、本種が協同繁殖を行なっているかどう
かを検討した。
同湖本種の生息場所で各個体を個体識別し、行動観察した。その
結果、大型オス個体がそれぞれ複数のメス個体の縄張りを取り囲む
形で縄張りを持ち、かつそれらの約半数のメス個体のなわばり内に
は、複数の小型個体が観察された。これらの小型個体は、縄張りが
重複するメス個体と共に縄張りの防衛や維持を行なっており、ヘル
パーであると考えられた。また、マイクロサテライトを用いた遺伝
子解析から血縁度を調べた結果、縄張りが重複する小型個体と雌雄
個体間では、縄張りが重複しない個体間と比較して血縁度が高いこ
とが分かった。以上から、本種は一夫多妻の血縁ヘルパー型協同繁
殖を行なっていることが示唆された。また体長、縄張り位置、血縁
度の結果から、幼魚は成長後、メスの方がオスよりも早く出生縄張
りから分散し、早く繁殖を開始すると考えられた。さらに、本種は
今までに知られている協同繁殖を行なう種とは系統的に異なってお
り、本族では協同繁殖様式が少なくとも 4 回、進化してきたことが
示唆された。
202
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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P1-250
Collective Philopatry
国後島および択捉島におけるヒグマの mtDNA ハプロタ
*Mashiko, M., Toquenaga, Y. (Univ. Tsukuba)
イプの分布および系統
Philopatry is an optimal strategy for securing reproduction at the
promising natal places. It is observed at the population level as well as
the individual level. Such collective philopatry is well known in seabirds
breeding colonies, but actual rate of philopatry cannot be quantified
because this philopatry is caused by the limitation of breeding sites. On the
other hand, herons and egrets form annual breeding colonies on abundant
resources such as trees or bamboo thickets. Here we examined the rate of
philopatry of heron colonies around Ibaraki Prefecture where 143 colony
sites were recorded in the last half century. We categorized them into 54
lineages by clustering those that were consecutively established within 6 km
radius. Twenty out of 54 lineages (44%) showed perfect philopatry using
exactly the same site consecutively for more than a year. Sixteen out of 54
lineages moved colony sites more than once. We estimated focal points of
attraction for those 16 lineages and calculated deviations between those
points from the centroids of lineage trajectories. Distances between centroids
and focal points for randomized lineage trajectories were significantly larger
than the real lineage trajectories. We concluded that even moving colonies
were philopatric and insisted on remaining the same colony sites.
* 伊藤哲治(日大・生物),中村秀次(日大・生物),小林喬子(農工大・農),
中下留美子(森林総研),増田泰(知床財団),Andrey Loguntsev(Nature
Reserve Kurilsky),大泰司紀之(北大・博物館),佐藤喜和(日大・生物)
国後島および択捉島は、北海道の北東に位置する島々であり、各
島でヒグマ Ursus arctos が約 300 頭、約 650 頭 ( 約 5 ∼ 10km2 当り 1
頭 ) 分布すると推定されている。
北海道のヒグマには、ミトコンドリア DNA(mtDNA) のコントロ
ール領域約 700 塩基に 17 のハプロタイプがあることが報告されて
おり、分子系統的に3つのクラスター A、B、C に分類されている
(Matsuhashi et al. 1999)。クラスター A は北海道の中央部から北部に
分布し、西アラスカおよびユーラシア大陸に広く分布するグループ
に近縁なこと、クラスター B は知床半島およびその基部にかけて
分布し、東アラスカのグループに近縁なこと、またクラスター C は
渡島半島から石狩平野の西部にかけて分布し、北アメリカのヒグ
マに比較的近縁なことが明らかになっている (Matsuhashi et al. 1999;
Korsten et al. 2009)。
本研究は、国後島および択捉島のヒグマの分子系統を明らかにす
ることを目的とし、2009 年からおこなわれている両島でのヒグマ生
態調査により採集された体毛および体組織を用いて、コントロール
領域約 700 塩基の mtDNA 解析をおこなった。その結果、両島で共
通のハプロタイプが 1 つ、択捉島ではさらに 1 つのハプロタイプが
認められ、それらのハプロタイプはクラスター B に属していること
が明らかとなった。両島のハプロタイプがクラスター B に属してい
たことは、両島が、知床半島と地理的に近いことに関係しており、
今後、千島列島のさらに北方および樺太島のヒグマの系統の情報が
求められる。
P1-251
P1-252
糞 DNA 解析を用いた函館山キタキツネ Vulpes vulpes
schrencki の個体数推定
イラガ科 2 種の繭生態
* 古川真莉子(京大・農・昆虫生態),西田隆義,松山和世,日高直哉,
中西康介(滋賀県大・環境科学),松浦健二(京大・農・昆虫生態)
* 天池庸介(北大院・理),村上貴弘(北教大函・環),増田隆一(北大院・理)
イラガ Monema flavescens は日本・朝鮮半島・中国・シベリア南東
部に自然分布している在来種である.一方,近縁種であるヒロヘリ
アオイラガ Parasa lepida は 1980 年以降に関西地方で爆発的に発生し
た外来種である.両種は食性をはじめ,越冬段階,天敵など似た生
態を持っているが,繭の形質には大きな相違がある.イラガは固く
て頑丈な繭を形成する一方,ヒロヘリアオイラガは薄く偏平な隠蔽
度の高い繭を形成する.また,イラガの繭は様々な斑紋を有する.
本発表では,同所的に生息するイラガとヒロヘリアオイラガの繭期
における捕食率と,イラガの繭の斑紋と捕食率との関係を検証した.
大阪,京都,滋賀の計 5 地点にて公園などに植栽された樹木を対象
に調査を行った.各調査株において,繭の形成数やそれらが付着し
ていた高さ,枝太さ,枝の分枝回数,繭の向きを記録した.繭の痕
跡をもとに羽化や死亡などの状態を記録した.また,イラガの繭の
模様について,模様の鮮明さ,褐色の割合,模様のパターンなどを
記録し,繭の長径と短径を計測した.
ヒロヘリアオイラガはほとんどの繭が鳥類の捕食によって死亡し
ていた.一方イラガは鳥類と寄生蜂が主な死亡要因であったが,死
亡率はヒロヘリアオイラガよりも低かった.イラガの斑紋と死亡要
因との関係を調べたところ,斑紋が明瞭な繭は鳥類による捕食が少
なく寄生蜂による捕食が多かった.これらのことから,ヒロヘリア
オイラガは隠蔽度が高いにも関わらず,鳥類に選択的に捕食され,
同所的に生息するイラガの捕食率が低下していたと示唆された.ま
た,イラガの繭の明瞭な斑紋は鳥類に対して捕食者回避に正の効果
があることが示唆された.
本研究の目的は、糞を用いたマイクロサテライト DNA 解析により、
北海道函館山に生息するキタキツネ Vulpes vulpes schrencki の個体識
別および個体数を推定することである。さらに、得られたマイクロ
サテライト遺伝子型のデータにより、集団内の遺伝的多様性の動態
を考察する。函館山は、標高 334 m、周囲約 9.5 km、面積約 3.26 km2
と極めて小さな山であり、そこではキツネの生息が確認されている。
しかし、そこは海と市街地に囲まれた陸繋島であり、その生息地は
孤立していると考えられる。函館山のような閉鎖環境下に生息する
野生生物の生態や遺伝的多様性を解明することは保全生態学上意義
がある。分析に用いた糞サンプル(計 150 個)は、2009 年から 2011
年にかけて各登山道から採集した。まず、キツネの糞であることを
確認するために、ミトコンドリア DNA の D-loop 部分配列をもとに
設計された種特異的プライマーを使用して遺伝子増幅法(PCR 法)
を行った。その結果、119 個の糞でキツネのものと判定された。そ
れらの糞についてキツネのマイクロサテライト 9 遺伝子座位の PCR
法を行い、119 個中 82 個で遺伝子型を決定した(遺伝子型決定率
68.9%)。この遺伝子型決定率は、糞 DNA を用いた先行研究と比較
しても比較的高い値であった。さらに、糞の性判別を行うために、
キツネ性染色体上の ZFX/ZFY 遺伝子の塩基配列をもとに PCR プラ
イマーを新たに設計した。その PCR 分析の結果、71 個の性判別に成
功した(性判別率 59.7%)。3年間にわたって採集された糞サンプル
のデータに基づき、函館山のキタキツネ個体群サイズおよび遺伝的
多様度の動態を解析し、地理的に隔離された生息地における個体群
の構造を検討する。
203
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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P1-254
一般気象要素のみを用いた新しいマラリア媒介蚊生育評
マガンの状態依存採餌と小麦食害問題 ~太っているマ
価モデルの開発
ガンが小麦を食べる?~
* 加我拓巳,太田俊二,柏田百代(早大・人間科学)
* 熊谷麻梨子(酪農学園大院・酪農),牛山克巳(宮島沼・水鳥湿地センター),
山舗直子(酪農学園大院・酪農)
マラリア感染症の唯一の媒介蚊であるハマダラカ (Anopheles ) の生
育は水温や土壌水分量などの気候条件に強く影響されることが分か
っている。しかし、多くのハマダラカ種が混在して分布しているモ
ンスーンアジア域では、温度特性が種ごとに大きく異なることと、
各種の気候要因と分布の関係性が不明瞭であったことの 2 つの問題
から、モンスーンアジア域でのハマダラカ各種の時空間的な分布は
十分に分かっていなかった。そこで、私たちはモンスーンアジア域
のなかで重要なマラリアベクターとして知られている An. sinensis 、
An. minimus 、An. dirus 、An. culicifacies の 4 種に関して、各種の時空
間的な分布を予測することを目的として気候学的要素と生理生態学
的要素を組み合わせた新しい媒介蚊生育評価モデルを開発した。こ
のモデルは各種一般気象要素から熱収支モデルと水収支モデルを用
いてハマダラカの生育に重要となる水温と土壌水分量を日単位で計
算し、それらの値をもとにハマダラカの生育を日単位で記述できる
点に大きな特徴がある。このモデルに各種ごとの生育可能な温度の
閾値や発育速度などのパラメータを入力し、各種それぞれの生育可
能期間や年間世代数をモンスーンアジアの各地点ごとに計算した。
得られた各種ごとの生育可能期間や年間世代数から各種の季節的消
長や潜在生息可能域などを求め、実測データや他のモデルの結果と
比較を行った結果、ハマダラカの時空間的な分布をうまく予測する
ことが出来ていることが分かった。この新しい媒介蚊生育評価モデ
ルは、生態学的要素を今後さらに導入することが出来れば、様々な
地域での現在から将来までの連続的なハマダラカの動態の予測が可
能となるだけでなく、マラリアリスク研究における生態学的モデル
の基礎として活躍が期待出来るだろう。
P1-255
P1-256
mtDNA と msDNA 解析に基づく、エゾヤチネズミ個体
標識再捕獲法と遺伝的手法によるエゾヤチネズミ個体群
群の遺伝構造 - 時間と空間、2つのスケールの観点から -
の移入率の推定:異なる手法から得られる推定値の信頼
* 杉木 学(北大・環境科学院),石橋 靖幸(森林総研),齊藤 隆(北大
SFC)
性の検討
* 山田敏也(北大・環境科学院),齊藤隆(北大・FSC)
生態学的要因を反映するスケールにおいて、遺伝的空間構造を把
握する事は、「個体群」の理解の一助になると考えられる。先行研究
において、北海道に生息するエゾヤチネズミのミトコンドリア DNA
のコントロール領域(674 bp)を用いた集団遺伝学解析が行われた。
その結果、局所スケール(石狩の森林 2km)における地理的距離と
遺伝的距離の関係には雌雄間で差があることが解った。分散をよく
行う雄では分化の程度が低く、集団全体の構造は均一であった。一方、
定住性である雌では、分化の程度が高く、「距離による隔離」のパタ
ーンを示すことが解った。しかし、エゾヤチネズミは年間で個体数
変動があり、また分散パターンも同じとは限らない。よって、この
集団の遺伝的空間構造の把握のためには、一年だけの結果では不十
分である。そこで、本研究では、3年間の遺伝的空間構造を比較した。
3年間のデータを解析した結果、地理的距離と遺伝的距離の関係に
おいて、雄では、毎年、安定して遺伝的分化の程度が低い傾向が見
られた。この事から、雄の分散は年に関係なく安定して行われており、
遺伝子流動の力が遺伝的浮動の力を常に上回っていることが示唆さ
れた。一方、雌では、毎年共通して分化の程度が雄よりも大きいが、
「距離による隔離」のパターンは見られない年があった。つまり雌で
は定住性により、遺伝的浮動の効果が強く反映される。しかし、分
散の程度が年によって異なる事で、遺伝的浮動と遺伝子流動のバラ
ンスが変化する事が解った。以上の結果から、このスケールにおけ
るエゾヤチネズミ集団は雄が安定して集団内の遺伝子の交流の役目
を担うのに対し、雌の遺伝子流動と遺伝的浮動の効果のバランスが
異なることで、雌雄全体での構造が毎年変化すると考えられる。
動物個体群の移入個体数の推定方法は、標識再捕獲法と遺伝的手
法に大別される。どちらも広く用いられている手法であるが、同様
の結果を得られるかについては、ほとんど検討されていない。そこ
で本研究では、これらの方法から得られる推定値の信頼性を検討す
るために、2012 年の 6~8 月に、北海道・石狩のエゾヤチネズミ個体
群を対象に、1 週間おきに計 5 週のサンプリングを行い、これらの
方法を用いた移入個体数の推定と比較を行った。標識再捕獲法では、
各週の新規捕獲個体から体重を基準に移入個体を判定し、各週の移
入個体数を推定した。遺伝的手法として、アサイメントインデック
ス(AI)を用いた。AI は、任意交配集団の遺伝子プールから、その
個体の対立遺伝子の組み合わせが生じる確率を表す。各個体の AI は、
4 種類の任意交配集団を仮定して算出した。その値を基に移入個体
を判定し、各週の移入個体数を推定した。標識再捕獲法による各週
の移入個体数は、2 週目:オス 10 頭・メス 10 頭、3 週目:オス 12 頭・
メス 10 頭、4 週目:オス 14 頭・メス 12 頭、5 週目:オス 28 頭・メ
ス 5 頭であった。標識再捕獲法では、捕獲率が 100% で、新規捕獲
個体を移入個体と出生個体に区別可能な時、その移入数は真の値で
ある。本研究では、捕獲率は高く(約 80%)、移入個体と出生個体が
区別可能であったことから、標識再捕獲法による移入数は信頼性の
高い結果であると言える。AI による移入個体数は、メスではいずれ
の仮定でも標識再捕獲法とほぼ同じであったが、オスでは違いが見
られた。これは、仮定した任意交配集団に移入個体が混在してしま
った場合、本来は移入個体であっても、AI が高くなり、移入個体と
判定されない為であると考えられる。
204
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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滝上で平行進化した陸封型ヨシノボリ類と祖先回遊集団
琵琶湖流入河川におけるオオアユ・コアユの次世代貢献度
の遺伝的分化と遺伝子流動
* 伊藤琢哉,松村健太郎,吉田直子,仲島佑美,森洋希,藤本信吾,小澤
元生,小澤真帆(龍谷大院・理工・環境),満尾世志人,丸山敦,遊磨正
秀(龍谷大・理工・環境)
* 山﨑曜(京大院・理),鹿野雄一(九大・工),渡辺勝敏(京大院・理)
沖縄県西表島の滝上にはハゼ科の淡水魚,キバラヨシノボリ(以下,
キバラ)が生息する.最近の mtDNA に基づく系統解析から,各滝
上のキバラ集団は,近縁で川と海を回遊するクロヨシノボリ(クロ)
が,滝の形成よって陸封されることで,独立に生じたと推定されて
いる.我々は陸封に関連する適応がキバラ集団と祖先回遊集団であ
るクロとの間に強い分岐選択をもたらし,平行的に生態的種分化を
引き起こしたと考えた.そこでまず各キバラ集団とクロ集団の間の
遺伝的分化と遺伝子流動を調査することにより,それらの生殖隔離
の強度や集団構造を調べた.
同所的な生息地を含む 6 河川 9 地点からキバラ 8 集団とクロ 3 集
団,計 343 個体をサンプリングし,9 つのマイクロサテライト領域
を解析した.固定指数 Fst から,各キバラ集団とクロ集団の間には
明瞭な遺伝的分化が存在することが示された.クロでは解析した 3
集団間で有意な分化が認められない一方,キバラでは集団間で明瞭
な遺伝的分化が認められた.またベイズ帰属性分析から,サンプル
全体は河川ごとのキバラ集団とクロ全集団の計 7 グループに分けら
れ,キバラとクロが同所的に分布する地点においても交雑個体はま
ったく確認されなかった.これらの結果は,各キバラとクロの間に
は強固な生殖隔離が発達していることを示唆する.キバラでは滝上
で生活史を完結するために卵が大型化しており,卵サイズへの分岐
選択が生殖隔離機構の発達に関与した可能性がある.またクロは仔
魚期に海を介して分散するため,河川をまたいで単一の遺伝的集団
を形成する一方で,キバラは各滝上に隔離されて河川間で移動分散
がほぼ無いため,それぞれが遺伝的に独自性の高い集団を形成して
いると考えられた.
魚類の中にはアマゴとサツキマスのように河川残留型と遡河回遊
型の種内多型をもつ種がおり、このような種は琵琶湖においても確
認されており、アユ Plecoglossus altivelis altivelis もその1つである。
アユは本来、海と河川を行き来する、両側回遊型の生活史を持つが、
陸封された個体群もある。琵琶湖のアユもその1つで、大きく2つ
の集団にわけられ、河川で産卵し、その仔魚が琵琶湖に降河し、幼
魚期に川へ遡上し成長する琵琶湖を海の代わりとした生活史をもつ
オオアユと産卵のときだけ河川を利用し、琵琶湖内で成長するコア
ユの2型がある。
また、琵琶湖における安定同位体比の研究では、窒素安定同位体
比が流入河川より湖内のほうが高いことが知られており、これを測
定することで、河川で採集された個体でもそれがそれまで河川で生
息していたものか、湖で生息していたものが遡上してきたものかの
区別をすることができる。
本研究ではこの安定同位体比の違いを利用して、河川に産卵され
たアユ卵の安定同位体比を測定し、その卵の親がオオアユかコアユ
かを特定することでオオアユ、コアユの次世代への貢献度を明らか
にすることを目的とした。
調査は琵琶湖流入河川のうち 7 河川で 2010 年の 9、10 月に行った。
採集した卵を分別する基準として、姉川の河口で採集したコアユの
卵巣と河川で採集したオオアユの卵巣の安定同位体比を用いた。
結果として、オオアユは再生産には大きな貢献度がないことが確
認された。しかし、オオアユの貢献度が比較的高い河川も存在する
ことから、今現在、貢献度の低いオオアユを保護し、その貢献度を
あげることで、全体の産卵量の増加も期待でき、琵琶湖のアユを守
る上で、今後オオアユの保護も重要になっていくと考えられる。
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P1-260
遺伝的構造からみたケフサイソガニとタカノケフサイソ
死体発見能力の高いシデムシが競争多種の死体発見を促
ガニのメタ個体群の違いについて : 東北地方太平洋沿岸
進しかつ繁殖を阻害する
での解析
* 伊藤美信,長谷川雅美(東邦大・理)
* 勝部達也(東北大・理・生物),牧野渡,鈴木孝男,占部城太郎(東北大院・
生命科学)
資源発見能力の高さと資源利用における競争力の異なる 2 種の相
互関係を明らかにするため、死体を利用する腐食性昆虫(オオヒラ
タシデムシ・クロシデムシ)を用いた野外実験を行った。ラットの
死体を用いた予備的な観察から、以下の 3 点が示唆された。1) オオ
ヒラタシデムシはクロシデムシより早く死体に到着する。2) オオヒ
ラタシデムシの誘引量が多い死体程クロシデムシが早く死体に誘引
される。3) オオヒラタシデムシの誘引量の多い死体ではクロシデム
シが死体を繁殖に利用できない。
予備調査の結果を踏まえ、オオヒラタシデムシの採餌がクロシデ
ムシの死体発見を促進するが、繁殖成功を阻害すると仮説を立て実
験を行った。実験ではオオヒラタシデムシの誘引量を 4 段階に制限
した 100 g と 25 g のラットを使用した。これらのラットをクロシデ
ムシが活動する夜間に経時的に観察し、クロシデムシの誘引される
までにかかった時間と誘引後の繁殖行動有無、幼虫数を記録した。
この結果、オオヒラタシデムシの誘引量を減らした死体では、クロ
シデムシの死体への到着も遅くなった。また、死体に誘引されたク
ロシデムシの繁殖確率はオオヒラタシデムシの誘引量、クロシデム
シが死体発見までに要した時間、ラットサイズの影響を受けた。ク
ロシデムシは 100 g ラットでは必ず繁殖を行ったが、25 g のラット
では発見までに時間を要した死体程、オオヒラタシデムシによるク
ロシデムシの繁殖確率を低下させる効果が大きくなった。クロシデ
ムシの幼虫数をラットのサイズごとに分けて解析した結果、100 g ラ
ットではオオヒラタシデムシの誘引量を増やした死体で幼虫数が減
少する傾向が見られた。
以上の結果より、オオヒラタシデムシの死体の採餌は、死体の質
を変化させクロシデムシの死体発見を促進する一方で、資源量の減少
を通してクロシデムシの繁殖を阻害していることが明らかとなった。
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災で発生した津波は干潟のベント
ス群集に甚大な影響を与えた。撹乱を受けた個体群は現在回復過程
にあると考えられるが、干潟の生物群集は局所個体群でのみ成立し
ているのではなく、幼生の分散を通じて近隣の局所個体群との間で
メタ個体群を形成していると考えられる。そのため、回復過程にあ
る局所個体群における津波生存個体と津波後の新規加入個体との遺
伝的な類似性は、異なる局所個体群からの幼生加入・定着の規模に
応じて変化すると予想される。主に生存個体の繁殖により局所個体
群サイズが増加すれば、津波生存個体と津波後の新規加入個体の遺
伝子組成は類似し、逆に、異なる局所個体群からの移入による影響
が大きければ異なると考えられる。また同じ湾内でも、外湾寄りの
干潟と内湾寄りの干潟とでは、他個体群からの移入のしやすさも異
なるだろう。全国の干潟で最も一般的なカニ類であるケフサイソガ
ニ(Hemigrapsus penicillatus )と、その近縁種タカノケフサイソガニ(H.
takanoi )は、その寿命(3 年)や分散様式(浮遊幼生分散)は同じだが、
ケフサイソガニが外湾寄りの干潟、タカノケフサイソガニが内湾寄
りの干潟に生息すると報告されている。そのため、定着の規模に応
じて変化する遺伝的な類似性の評価には最適な材料であると思われ
る。そこで本研究では、東北地方太平洋沿岸域の干潟で採取したケ
フサイソガニとタカノケフサイソガニの遺伝子構成を年級群ごとに
比較し、大津波からの回復過程における他個体群からの移入の貢献
度の相対的重要性を種間で比較する。
205
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-261
P1-262
東京湾におけるホソウミニナの遺伝的集団構造
マイクロサテライトマーカーを用いたスクミリンゴガイ
* 伊藤萌(東大・大海研),上村了美(国土技術政策総合研究所),小島茂
明(東大・大海研)
の微所的集団構造
* 山本翔(奈良女子大院),岩口伸一(奈良女子大・理),川根昌子(奈良
女子大・共生セ),遊佐陽一(奈良女子大・理)
日本の沿岸・干潟の代表的な巻貝であるホソウミニナ(Batillaria
attramentaria = B. cumingi )は、ミトコンドリア DNA の部分塩基配
列の解析から、黒潮と対馬暖流に対応して遺伝的に異なる 2 つのグ
ループから構成されており、各グループもさらに細かく分化してい
ることが示されている(Kojima et al., 2004)。このような地理的な
遺伝的差異は、直達発生ために分散能力が低く,過去の環境変動な
どで集団が容易に隔離されることで生じたと考えられ、他の多くの
水棲無脊椎動物がプランクトン幼生期を持ち、海流などによる分散
によって分布域拡大や他集団との遺伝的交流が可能であるのとは異
なる特徴である。しかしながら,本種では人間の商業活動に伴った
他地域への移入も起こっていることから(Miura et al., 2006 ; 大越 2004)、現在の集団の遺伝的構造に人間活動が影響していることも考
えられる。
本研究では東京湾および周辺域のホソウミニナ個体群について、
ミトコンドリア CO Ⅰ遺伝子の部分塩基配列およびマイクロサテラ
イト遺伝子座増幅プライマー(マイクロサテライトマーカー)を用
いて解析した結果、ミトコンドリア遺伝子とマイクロサテライトで
異なる遺伝的構造が示された。
スクミリンゴガイ Pomacea canaliculata は南米原産の淡水巻貝であ
る。現在、世界中に分布を広げつつあり、水稲や在来水生植物等を
加害して寄生虫の中間宿主となることなどから、世界・日本の侵略
的外来種ワースト 100 に選定されている。このような問題の多い外
来種の集団遺伝構造を解明することは、個体群管理の観点からも重
要である。
本研究では、マイクロサテライト 4 座位を用い、数十 m から数十
km スケールにおける本種の集団遺伝構造を解析した。約 20 km 離れ
た奈良県奈良市と橿原市の 2 地域それぞれにおいて、隣接する水田
3 枚およびその排水路のセットを 2 地点で設定し、各水田または水
路で 2011 年生まれの個体を約 20 個体採集した。その後、奈良市と
橿原市の地域間・地域内の 2 地点間・地点内の水田水路間・水田水
路内の個体間において、AMOVA(分子分散分析)および F st 値を用
いて集団遺伝構造を評価した。
その結果、地域間・地点間・水田水路間のすべてにおいて、有意
な遺伝的階層構造がみられた(p < 0.001)。特に橿原市では、隣接
する水田および水路間の F st 値中、大部分の組み合わせにおける F st
値が有意に 0 より離れていた。これらのことから、隣接する水田水
路間における微所的な集団遺伝構造が明らかになった。
畦による水田間の移動の制限に加え、低い越冬生存率(奈良市で
は 1%以下)によるボトルネック等により、水田ごとに遺伝的差異
が生じた結果、微所的な集団遺伝構造がみられたと考えられる。こ
のような微所的集団構造は、各水田にほぼ独立したメタ個体群が存
在することを意味し、水田単位での個体群管理が少なくとも短期的
には現実的であることを示唆する。
P1-263
P1-264
伊勢湾周辺におけるトウヨシノボリとトウカイヨシノボ
個体ベースモデルを用いた感染症の空間的拡大の研究
リの集団構造
* 内田さちえ(奈良女院,人間文化),高須夫悟(奈良女,理)
* 古橋芽,古田莉奈,向井貴彦(岐阜大・地域)
感染症の数理モデルは、感受性(S)・感染(I)・隔離(R)の3つ
のコンパートメントに分けて考える SIR モデルをはじめとした集団
レベルで記述された微分方程式モデルに基づくものが多い。本研究
では、個体レベルの相互作用の総体としての集団レベルのダイナミ
クスの振る舞いに注目する。個体の視点に基づき、感染症の個体群
動態ならびに感染パラメータの進化動態に迫ることを試みる。特に、
空間個体群動態が感染症の拡大に及ぼす効果に注目した解析を行う。
本研究の個体ベース SIR モデルのアルゴリズムは以下の通りである。
個体は連続空間上の点として表され、各個体は S, I, R いずれかの状
態をとる。I 個体は個体ごとに感染率、免疫獲得率、病毒性を持ち、
S から I ヘの遷移は、S 個体の近傍の I 個体が持つ感染率と S 個体へ
の距離に比例して起こり、I から R への遷移は、各 I 個体が持つ免疫
獲得率によって起こる。S 個体は各状態の個体が局所密度に依存し
た出生を行うことで補充され、S 個体と R 個体は局所密度に依存し
た死亡率で、I 個体は局所密度依存死亡率+病毒性で消滅する。モデ
ルに含まれる本質的なパラメータは、局所密度の関数として出生率・
死亡率を決める個体間競争が及ぶ距離、新規出生個体への分散距離、
ならびに、感染が及ぶ距離である。本研究では、個体ベース SIR モ
デルの空間個体群動態の振る舞いを、各状態の個体数と6つのペア
密度の動態として表すことで、感染の空間的広がりならびに感染率
や病毒性などの感染パラメータの進化動態を解析する。
トウヨシノボリとトウカイヨシノボリは止水域を好むハゼ科の淡
水魚で,トウヨシノボリは琉球列島を除く日本全国に,トウカイヨ
シノボリは岐阜県,愛知県,三重県の伊勢湾・三河湾周辺にのみ分
布している.東海地方には両種が生息しており,生息環境が類似し
ているが,日本列島に広く分布するトウヨシノボリと東海地方固有
のトウカイヨシノボリでは分散能力などに違いがあると考えられる.
そこで,本研究では両種の遺伝的集団構造を調査し,比較した.また,
トウヨシノボリは琵琶湖産アユの放流に混入することで人為的に分
布が広がっていることから,琵琶湖産トウヨシノボリの侵入状況に
ついても検討した.
トウヨシノボリは伊勢湾周辺と琵琶湖周辺の約 90 地点で採集し,
mtDNA の ND5 領域の部分塩基配列約 1000bp を決定した.ハプロタ
イプ系統樹を推定した結果,琵琶湖周辺の個体を含む mtDNA グル
ープ(琵琶湖系統)と,伊勢湾周辺の個体のみで構成されるグルー
プ(伊勢湾系統)に分けられた.琵琶湖系統に含まれる個体は,伊
勢湾周辺ではため池やダム湖といった人工的な環境に多く見られた.
一方,伊勢湾系統の個体は,濃尾平野の河川や水路に多く見られた.
このことから,伊勢湾周辺の琵琶湖系統は人為的な移殖に由来する
と考えられる.また,伊勢湾系統には明確な地理的変異が見られな
かった.
東海地方固有のトウカイヨシノボリも同様の方法で塩基配列を決
定し,ハプロタイプ系統樹を推定したところ,複数の地域集団に分
けられることが示された。トウカイヨシノボリは丘陵地のため池に
多く分布し,各地域集団の分布は,同様に東海地方の丘陵地に分布
するウシモツゴの地域集団の分布と類似していたことから,両種が
同じ歴史をたどってきたことが示唆された.
206
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-265
P1-266
ノネコはフンのにおいから他個体の情報を得る
ホソヘリカメムシ Riptortus pedestris の配偶者選択に
おける適応的意義
* 谷あゆみ(九大・生態研),石原茜(京大・野生研),粕谷英一(九大・理),
村山美穂(京大・野生研)
* 洲崎雄,香月雅子,宮竹貴久(岡大院・環境・進化生態),岡田泰和(東
大院・総合文化・広域システム),岡田賢祐(岡大院・環境・進化生態)
動物は同種の他個体の情報を見た目・におい・鳴き声など様々な
手段によって受け取っている。そのなかでもにおいは長く残ること
が多く、個体同士が近くにいなくても情報を得られるという点で重
要な働きをもつ。においを発するものとしては尿や皮脂腺からの分
泌物と比較して、フンは視覚的に目立ちにおいが長時間持続しやす
いという点で重要な役割を持つと考えられている。哺乳類ではフン
の構成成分において性別や食物、健康状態、繁殖状態と相関したフ
ンの成分の違いがあるとする研究は多数ある。これに対して、実際
に動物がフンに対して異なる反応をするかを観察した研究は飼育下
の家畜動物における少数の報告のみである。自然環境下でフンが他
個体の情報を得るためにどのように利用されるかを見るには、野外
においてフンの生産者や嗅ぐ側の要因、生産者と嗅ぐ側の関係がフ
ンへの反応にどのように影響するかを調べることが有効である。そ
こで本研究では、自然環境下でフンへの反応にどのような要因が影
響を与えているかを野外実験により検証する。
ノネコ Felis catus は高密度下で餌資源が充分にある時には、餌場
を中心としてグループを形成する。またグループ内には性別や体重、
年齢や血縁度の違う個体が集まっている。そのためもし他個体の情
報を得るためにフンを利用しているならば、これらの要因によって
反応が異なる可能性がある。しかし実際にフンへの反応にどのよう
な要因が影響するかはわかっていない。
本研究では自然環境下でフンへの反応に影響する複数の要因とし
て、グループ内個体のフンか外個体のフンか・嗅いだ側の性別や年
齢、体重・生産者側の性別や年齢、体重・両者の関係(同性か異性か、
血縁度)を考え、これらの要因の影響を見ることでノネコが実際に
フンを利用している可能性があるかを検証する。
メスの配偶者に対する選好性は、オスの性形質の形成に対する強
力な選択圧である。様々な分類群で、メスは、配偶者を選択する際、
オスの質の指標として複数の形質を用いていることが報告されてい
る。この形質には、オス間競争に関係するものも含まれる。しかし、
メスの複数の形質に対する選好性と適応度との関係を詳細に調べた
研究は多くない。繁殖成功度の高いオスと交尾することで、メスは
直接的 / 間接的な利益だけでなく、コストを受けることもある。い
ずれの場合でも、オスの形質は、自身の交尾成功度が有利になるよ
うに選択圧がかかる(前者の場合は魅力形質、後者の場合は固執形
質と呼ばれる)。したがって、これらのオスの形質が、メスの選好性
と適応度に与える影響を詳細に調べる必要がある。
そこで、本研究では、オスが誇張された後脚を用いてメスを巡る
闘争を行うホソヘリカメムシ Riptortus pedestris において、配偶者と
してメスが選択するオスの形質と、配偶者選択によってメスがどの
ような利益やコストを受けているかを調査した。その結果、メスの
選好性はオスの闘争能力と負の関係を示し、求愛率と正の関係を示
した。また、魅力が高いオスと交尾したメスは、寿命が低下した。
一方で、半きょうだい解析から、メスの選好性に遺伝変異が見られた。
したがって、オスの求愛行動は、メスを操作するセクシャルハラ
スメントとなっているが、子に遺伝的な利益が存在するため、魅力
形質としても機能していると考えられる。以上の結果から、本種の
メスが配偶者選択によって受ける直接的なコストと、遺伝的な利益
について議論する。
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盗葉緑体が光合成ウミウシの走光性に与える影響
Who is the most successful sire?: Male reproductive
* 宮本彩加(奈良女子大・理),酒井敦(奈良女子大・理),中野理枝(琉
球大・理),遊佐陽一(奈良女子大・理)
success of Bornean orangutans in a semi-wild population
*Tomoyuki Tajima
嚢舌亜目ウミウシの中には、餌の海藻から葉緑体を取り込んで体
内に保持して光合成に利用する能力(盗葉緑体能)をもつものがい
る。盗葉緑体能のメカニズムについての研究は数多くなされている
が、嚢舌類ウミウシにとっての盗葉緑体の意義や盗葉緑体がウミウ
シに与える影響については未解明のままである。そこで本研究では、
盗葉緑体がウミウシに及ぼす行動学的な影響を解明するため、嚢舌
類ウミウシ 5 種の走光性、およびうち 1 種において葉緑体の有無が
走光性に及ぼす影響、の 2 点を調べた。
まず、片側から約 320 μ mol m-2 s-1 の白色光を照射して光勾配を
設けたI字型アクリル容器を用いて、5 種のウミウシの走光性を調
べた。その結果、光合成能の高いハマタニミドリガイとチドリミド
リガイ、ヒラミルミドリガイでは、いずれも正の走光性を示した。
対照的に、光合成能の低いアオモウミウシは走光性を示さず、同じ
く光合成能の低いミドリアマモウミウシは負の走光性を示した。ま
た、容器内の実験個体の位置から算出した最適光強度は、高い方か
らハマタニミドリガイ、チドリミドリガイ、ヒラミルミドリガイ、
アオモウミウシ、ミドリアマモウミウシの順となった。この順は、
光合成能の高低および生息環境での光強度の順とほぼ対応すること
から、ウミウシは盗葉緑体に光合成を効率よく行わせるために最適
な光強度を選択すると考えられる。
次に、ハマタニミドリガイを用いて、体内に健全な葉緑体がない
飢餓個体の走光性を、葉緑体を保持している非飢餓個体と比較した。
その結果、飢餓個体も正の走光性を示したが、非飢餓個体に比べて
最適光強度が低下した。このことから、少なくともハマタニミドリ
ガイでは、葉緑体の有無が走光性に影響する可能性がある。
オランウータンのオトナオスには、一般的に頬ヒダなどの二次性
徴の発達した優位形態(優位オス)と、二次性徴の無い劣位形態(劣
位オス)の 2 タイプが存在することが知られている。スマトラオラ
ンウータンでは、こうした劣位オスが繁殖に成功していることが知
られている
(Utami et al., 2002)
。
一方で、
ボルネオオランウータンでは、
メスの受胎可能性の高い時期には、劣位オスが交尾に成功していな
い可能性が近年指摘されている(Knott et al., 2010)。本研究では、行
動観察と遺伝解析を用いて、ボルネオオランウータンの劣位オスの
配偶行動が実際に繁殖成功に結びついているのか調べた。2010 年か
らボルネオ島マレーシア領サバ州にあるセピロク・オランウータン・
リハビリテーションセンター周辺において野外調査を行った。個体
追跡による直接行動観察をオス 4 頭(優位:1 頭、劣位:3 頭)とメ
ス 4 頭について行い、近接時間、交尾、性器検分について記録をした。
また母子 5 ペアを含む 22 頭から DNA 試料を非侵襲的に採取し、11
領域のマイクロサテライトマーカーを用いて父子判定を行った。父
子判定した 5 頭のうち、2010 年以前に生まれた 3 頭の父親は追跡し
たオスの中にはいなかったが、2011 年以降に生まれた 2 頭の父親は
追跡していた優位オスであった。この 2 頭の母親に対して劣位オス
は配偶行動を行っていたが、結果的に繁殖には成功していなかった。
これは劣位オスの交尾が受胎の可能性の低い時期に起こっていたこ
とを示唆している。本発表では、オランウータンのオスがメスの排
卵周期を察知できる可能性についても検討する。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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危険なときには蓋をしろ:フタモンアシナガバチにおけ
協同繁殖するクリボウシオーストラリアマルハシにおけ
る捕食リスクに応じた巣の防衛構造の調節
る給餌同調と配偶者への信号
* 古市生,粕谷英一(九大・生態)
* 野 間 野 史 明( 北 大・ 環 境 ),Andrew F. Russell(University of
Exeter)
さまざまな動物で、子への捕食を防ぐために、防御構造を持つ巣
を建造することが見られる。子の捕食される確率を減らすという機
能ゆえ、防御構造はどの巣でも同様に作られていると考えられてい
ることは多い。しかし防御構造を作ることには、巣材の採集や処理
に必要な時間やエネルギー、巣内の気温といった子の成長環境への
悪影響などのコストが存在する。捕食リスクが低いにも関わらず、
防御構造を作ることは避けるべきである。そこで本研究では、動物
は捕食リスクに応じて、巣の防御構造を作る程度を調節しているか
検証した。
フタモンアシナガバチの女王は、春から初夏にかけて 1 頭で巣作
り子育てを行う。女王は、幼虫の餌や巣材などを採集するために巣
を離れる必要がある。しかし巣を留守にしていると、他巣の同種の
メスに、巣にいる蛹を捕食されることがある。他巣のメスは、巣に
飛来し、繭を破り、蛹を引き抜き捕食する。この時期、女王が巣材
(植物の繊維と女王の唾液の混合物)を繭表面に塗り付けることが見
られる。繭上の巣材は、蛹への捕食を防ぐ防御構造であり、捕食リ
スクに応じて量が調節されている可能性がある。
繭上の巣材の量が増加するにつれて、他巣のメスが繭を破ること
にかかる時間が増加した。一方で、蛹から羽化した働きバチが、繭
を破り出てくることにかかる時間も増加した。この結果は、繭上の
巣材は、蛹への捕食を防ぐ機能がある一方で、新生働きバチにとっ
て繭からの脱出の障害となるコストを伴う防御構造であることを示
唆している。さらに、繭上の巣材の量は、捕食をあまり受けていな
い巣では少なく、捕食を多く受けた巣ほど多くなっていた。以上の
結果は、女王は、晒されている捕食リスクに応じて、巣の防御構造
を作る程度を調節していることを示唆している。
協同繁殖は自身以外の子の世話(ヘルピング)が見られる繁殖シ
ステムである。ヘルピングを説明する要因として血縁選択が良く知
られているが、繁殖個体と血縁関係にない個体のヘルピングは血縁
選択だけでは説明がつかない。一方、社会的威信(social prestige)
仮説は、子の世話は世話個体の配偶者としての質を示す正直な信号
として機能するとしている。社会的威信仮説のもとでは、世話個体
は血縁選択によって得られる利益に関わらず、将来の配偶者を得る
可能性を高めるために子の世話へ投資を行うとされる。オーストラ
リア南東部の乾燥地帯に生息する協同繁殖鳥類、クリボウシオース
トラリアマルハシにおいて、子の世話が将来の配偶者への信号とし
て機能する可能性について調べた。本種では成鳥の性比はオスに偏
っており(1.8:1.0)、オス間で配偶をめぐる競争が強いと考えられる
ため、繁殖オス及びヘルパーオスによる繁殖メスへの信号に着目し
た。32 群れによる 49 回の繁殖を調査し、群れ構成個体の巣内雛へ
の給餌頻度およびヘルパーと繁殖個体の血縁度を決定した。オスが
巣内雛への給餌によって繁殖メスの配偶機会を上昇させているとす
ると、(1) 給餌のための巣への飛来を繁殖メスと同調させる、(2) 群
れ内の競争者が多いとき信号の強調のために給餌頻度が上昇する、
(3) 将来の配偶可能性が高いオスヘルパーはそうでないオスヘルパー
に比べ、給餌頻度が血縁選択による間接適応度に基づく予測よりも
高くなる、ことが予測される。観測された個体の給餌頻度の全体的
傾向は血縁選択の予測とよく合致したが、給餌行動には社会的威信
の予測に部分的に整合する側面も見られた。この結果をふまえ、ヘ
ルピングの進化における社会的威信と血縁選択の役割について考察
する。
P1-271
P1-272
ツチガエルにおける危険音とにおいに対する同種他個体
誰に grooming すべきか?-ニホンザルのオス間提携モ
の反応
デル-
* 佐藤海(九大・シス生),吉村友里(九大・シス生),豊田晋司(九大・
生資源),粕谷英一(九大・理)
* 関澤麻伊沙(総研大・先導科学),大槻久(総研大・先導科学),佐々木
顕(総研大・先導科学)
被食者にとって捕食回避のために捕食者の存在を知ることは重要
であり、同種他個体からの手がかりを利用することは効果的な手段
の 1 つである。捕食者の存在を示す手がかりは 1 つではなく、複数
存在する場合があり、複数の手がかりを利用することでより効果的
に捕食回避できる可能性がある。しかし同種他個体からの複数の手
がかりを利用して捕食回避をしている例は知られていない。
ツチガエル Rana rugosa は捕食者から攻撃を受けた際に、捕食回避
効果のある分泌物を出し、その分泌物は特有のにおいを有している。
このにおいを嗅いだ他のツチガエルは活動を抑制することが分かっ
ている。また、捕食者から物理的な拘束を受けた場合には、特有の
鳴き声(危険音)を出すことがある。
ツチガエルのにおいと鳴き声は捕食者に攻撃された際に生じるた
め、他のツチガエルにとって、どちらも捕食者の存在を示す手がか
りになりえると考えられる。また、それぞれの手がかりは捕食の危
険についてツチガエルにとって異なる情報となっている可能性があ
る。さらに 2 つの手がかりが両方とも存在するときには、より切迫
した危険のような、単独の手がかりとは別の情報をツチガエルに与
えている可能性がある。そこで、室内実験により、(1) ツチガエルが
においと鳴き声という 2 つの手がかりを利用しているのか、(2) にお
いと鳴き声というそれぞれの手がかりに対するツチガエルの反応は
同じものなのか、(3) においと鳴き声という 2 つの手がかりが両方あ
る時にはそれぞれが単独であるときと比べてツチガエルの反応はど
のようなものかを、検討した。
霊長類の毛づくろいには社会的役割があり、毛づくろいを介して
相手個体との親和性を高めることができる。この社会的毛づくろい
によって得られる利益のうち重要なものは、群れ内の争いの際、親
和性の高い個体に援護してもらえる、あるいはその個体と連合して
闘うことができるというものである。つまり、群れ内での争いにお
いて連合を形成する場合、どの個体と親和性を高めておくかが重要
である。では、どの個体にどれくらい毛づくろいをすれば良いのだ
ろうか。
そこで、血縁関係のない個体同士を想定し、毛づくろい量をどの
ように分配するかについての数理モデルを作成してシミュレーショ
ンを行った。各個体は、毛づくろいに一定量の時間を費やすことが
でき、それを自分以外の個体それぞれへの毛づくろいにどのくらい
割り振るかを戦略として持つ。個体間には持っている力により優劣
があり、資源を巡る闘争が発生した場合は、力の強い方が勝つとす
る。今回のモデルでは、二個体間で闘争が行われている際に第三者
が参入し、事前により多くの毛づくろいをしてくれた個体に味方す
るとした。どの 3 個体が闘争に参加するかはランダムに決まり、勝
利した個体は全ての資源量を、引き分けなら両者が資源量を半分ず
つ獲得できるとした。シミュレーションでは、ランダムな毛づくろ
い戦略を初期値とし、闘争後に各個体の獲得資源量が一定量を下回
った場合は、その都度毛づくろいの分配量に微小な変更を加える学
習アルゴリズムを採用した。発表では、このシミュレーションにより、
最終的にどのような毛づくろい戦略の傾向が出現するのかについて
議論したい。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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新潟県における積雪がイノシシの行動に与える影響
ハクセンシオマネキ Uca lactea 巣穴をめぐる、オス同
士の闘争
* 清水晶平 1, 望月翔太 2, 山本麻希 1(長岡技術科学大学院・生物 1, 新
潟大学院・自然科学 2)
:* 小泉智弘(和歌山大・教),古賀庸憲(和歌山大・教)
イノシシ (Sus scrofa ) は足が体重と比べて短いため、雪が深いと活
動が困難となり、積雪 30cm 以上の日が 70 日を超える北陸∼東北地
方には生息できないと考えられていた(阿部ら,1972)。しかし、積
雪量が 4m を超える 新潟県十日町市では、1995 年頃からイノシシの
生息痕が報告されている(藤ノ木,2010)。新潟県では 1978 年には
イノシシの生息は確認されなかったが(環境省,1980)、2003 年に
生息が確認され、2005 年に 8 万円だった農業被害が、2010 年には
4300 万円に達している。そこで本研究は、新潟県に生息するイノシ
シの行動に積雪が与える影響を評価し、今後の分布域拡大における
積雪の影響について考察した。
2009 年 7 月から 2011 年 2 月までの 87 の捕獲地点について、林縁、
河川、耕作放棄地、竹林、都市部、鳥獣保護区、積雪量などの地形
情報を GIS アプリケーションを利用して抽出した。2009 年と 2010
年の積雪の傾向は類似していたので、2 年の地形情報のデータにつ
いて積雪前(9 月∼ 11 月)と積雪後(12 月∼ 2 月)に分け、二項分
布を仮定した一般化線形モデルを作成した。また、捕獲地点と捕獲
されていない地点(ランダムポイント)の地形情報についても同様
のモデルを作成し、イノシシの捕獲地点に関係する環境要因につい
て調べた。
積雪の前後で、イノシシの捕獲地点の地形情報に違いは見られな
いことから、イノシシは積雪量が 250cm 以上ある場所においても冬
期、定着していることが明かになった。一方、捕獲地点は林縁や保
護区に近かったことから、狩猟者が捕獲しやすい場所で実施してい
る人為的バイアスがかかっている可能性が示唆された。本結果と過
去の積雪量と被害の拡大状況、捕獲効率等の結果から、今後のイノ
シシの分布拡大に積雪が与える影響について考察を行う。
資源をめぐる闘争は多くの動物で見られ、一般に体サイズや先住
性が勝敗に影響する。シオマネキ類でも巣穴をめぐる闘争で同様の
傾向が見られる。昨年度、ハクセンシオマネキ Uca lactea のオスの
巣穴をめぐる闘争行動を調べたが、データ数の面で不十分だった。
そこで、紀ノ川河口干潟において 2012 年の 6 月から 10 月に、オス
の巣穴所有者と侵入者の闘争を繁殖期と非繁殖期に分けて観察した。
この結果についてロジスティック回帰分析を行なったところ、繁殖
期は 96 例中 83 件で所有者が勝利し、非繁殖期では 46 件中 45 件で
所有者が勝利と、どちらの時期でも闘争への影響が有意だった。し
かし、体サイズ ( 甲長 ) においては、所有者よりも侵入者の方が大
きい場合、繁殖期では 54 件中 9 件で侵入者が勝利し、非繁殖期では
26 件中 1 件で侵入者が勝利と、繁殖期のみ甲長サイズが闘争に有意
に影響した。
これは、繁殖期には交尾に必要とする巣穴の価値が上がって侵入
者が動機づけされ、侵入者が自分よりも巣穴を奪いやすい小さな個
体を狙うことに起因するのではないかと考えられる。一方、非繁殖
期には侵入者にとっての巣穴の価値が下がり、闘争のモチベーショ
ンが下がることが原因ではないかと考えられる。また、甲長の大き
い個体ほど闘争に勝利したことから、甲長の高さが目の高さに比例
しており、ハクセンシオマネキは目の高さによって相手サイズを計
測していると推測される。今後は、カニの目の高さや個体群密度の
変化が闘争行動に及ぼす影響について、調査を行う予定である。
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飼育ハンドウイルカにおける闘争後親和行動の機能
モウコガゼルの長距離移動は季節移動型か遊動型か?
* 山本知里(長大院),森阪匡通(京大),滝導博(宮島水),古田圭介(須
磨水),森貴久(帝科大),天野雅男(長大院)
* 今井駿輔(鳥取大 農),伊藤健彦(鳥取大 乾燥地研),衣笠利彦(鳥
取大 農),恒川篤史(鳥取大 乾燥地研),篠田雅人(鳥取大 乾燥地研),
B.Lhagvasuren(WWF Mongolia)
持続的な群れを作る動物の中には、闘争後に親和行動を行うこと
で、闘争によって悪化した関係を修復するものがいる。持続的な群
れで生活するハンドウイルカも闘争後に親和行動を行うが、その機
能は明らかではない。本研究では、闘争後に起こる親和行動 ( 同調
遊泳、コンタクトスイミング、ラビング ) に、闘争を行った個体間
の関係を修復する機能があるのかを明らかにする事を目的とし、須
磨海浜水族園のハンドウイルカ 5 頭が行った闘争と親和行動を解析
した。
闘争の当事者 ( 攻撃個体と被攻撃個体 ) 間、攻撃個体と第三者 ( 闘
争を行わなかった個体 ) 間、被攻撃個体と第三者間の組み合わせに
おいて、闘争後とそれ以外の時で行われた親和行動の回数を比較し
た。次いで、各組み合わせにおいて、親和行動の有無、闘争の継続
時間、闘争中の当事者の立場の交代、当事者がオトナかコドモか、
当事者間の親密さを示す指標のうち、どの要因が再闘争の発生に最
も影響を与えるかを、一般化線形混合モデルを用いて検討した。
全ての組み合わせで、親和行動の発生回数は闘争後の方がそれ以
外の時より多かった。いずれの組み合わせでも、親和行動が行われ
る事は再闘争の発生に最も強い負の影響を与えていた。
これらの結果から、ハンドウイルカは闘争後に当事者間や当事者
と第三者間で親和行動を行う事によって、再闘争発生の可能性を低
減している事が示唆された。本種において、このような親和行動は
良好な個体間の関係の維持に、重要な役割を担っているものと考え
られる。
モンゴルの草原地帯に分布する、中型草食動物のモウコガゼルは
年間約 1000 km を超す長距離移動をする。ただし、その移動パター
ンは、夏と冬の特定の地域を毎年行き来する季節移動型ではなく、
特定の季節行動圏や移動経路を持たない遊動型に近い数例が報告さ
れている程度で、種全体としての移動パターンは明らかになってい
ない。そこで、モウコガゼル分布域の広域で衛星追跡した 22 個体を
用いて、モウコガゼルの移動パターンの解析を行った。移動パター
ンは、各個体の夏と冬の位置をそれぞれ始点にして、その後1年間
の始点と各時期の位置間の直線距離の変化から類型化した。その結
果、移動パターンは個体により、季節移動型、遊動型、両者の中間
型に分けられた。また同一個体でも始点が夏の場合と冬の場合では、
結果が異なり、夏を始点にすると季節移動型になった個体が多かっ
たのに対し、冬を始点にすると、遊動型や中間型になった個体が多
かった。これは多くの個体が前年の夏に利用した場所に、次の年の
夏も戻ってきたが、冬の利用場所は年により異なったことを意味す
る。また同一個体でも、年により移動パターンが異なる場合が観察
された。これは植物量や積雪などの環境条件の年変動が影響したた
めと考えられる。モンゴルの降水量や積雪量は年変動が激しく、と
くに冬季には積雪地域や積雪期間の年変動が大きい。そのため冬の
利用場所の年による変化が大きい可能性がある。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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他種のカエルの鳴き声に対するトノサマガエルの反応
ダイトウコノハズクによる隣接個体と未知個体の判別 * 福元修斗(九大・シス生),吉村友里(九大・シス生),粕谷英一(九大・理)
~”dear enemy effect”の検証~
カエルでは同種他個体に情報を伝達する際、音声シグナルが大き
な役割を担っている。繁殖期における同種メスの誘引や同種オスと
の競争に使われる鳴き声 advertisement call は特に注目され、これま
で多くの研究がなされてきた。しかし、カエルの鳴き声の研究の多
くは同種の鳴き声に対する反応に焦点が当てられており、種間の生
殖隔離を除けば、他種の鳴き声に対する反応を調べた研究は無い。
カエルでは同所的に複数種が存在していることが多く、他種の鳴
き声を聞く機会も多い。同所的に存在する種とは捕食や競争など様々
な種間関係が生じる。関係を持つ種の情報を得ることは利益がある
ため、他種の鳴き声に反応することが十分考えられる。例えば捕食
者の鳴き声を聞くと捕食回避行動をとり、被食者の鳴き声を聞くと
捕食行動をとる可能性がある。そこで本研究では、カエルの他種の
鳴き声に対する反応が同所的な種の鳴き声を聞いたときと異所的な
種の鳴き声を聞いたときで異なるかを検証した。
実験装置にトノサマガエルを入れ、無音状態にした後に他種の鳴
き声(シュレーゲルアオガエル・ヌマガエル・ツチガエル・ウシガ
エル)を再生し聞かせ、その様子をビデオ撮影した(プレイバック
実験)。また、鳴き声の代わりにホワイトノイズとサイレントを用い
たコントロールも行った。無音状態での活動量と鳴き声を聞いてい
るときの活動量を比較したところ、同所的に存在する種であるシュ
レーゲルアオガエルとツチガエルの鳴き声を聞いているときは活動
量を低下させた。一方、ウシガエルとヌマガエルの鳴き声及びホワ
イトノイズやサイレントの実験では活動量の低下は見られなかった。
したがって、トノサマガエルは同所的に存在する他種の鳴き声に対
して活動量を低下させることが示された。
* 井上千歳(大阪市大・院理・動物生態),中岡香奈(大阪市大・院理・
動物生態),高木昌興(大阪市大・院理・動物生態)
縄張り維持には利益がある一方でコストも伴う。縄張り保有者に
とって、すでに縄張り境界が決まった隣接個体は、自身の縄張りへ
の侵入リスクの少ない比較的安全な敵である。そのため、不可侵で
ある隣接個体と潜在的な侵入者を区別して防衛行動を変えることは、
防衛コストの軽減に役立つと考えられる。声を学習する鳴禽類では、
既知の隣接個体と未知の侵入者を声で区別して防衛行動を変えるこ
とが知られているが、声を学習しないとされているフクロウ類では
よくわかっていない。
ダイトウコノハズクは沖縄県南大東島に固有のフクロウである。
我々の研究により縄張り防衛に用いられる雄の声は個体特有である
ことが分かっている。雄は経年的に同じ縄張りを維持し、その縄張
りは帯状の樹林地内に一列に近接して並んでいる。そのため隣接個
体との相互作用は大きく、隣接個体と他の侵入個体を判別して防衛
行動を変えることは、本種でも防衛コストの軽減につながると考え
られる。そこで我々は野外で録音再生実験を行い、本種が隣接個体
と潜在的な侵入者である未知個体の声を判別できるのか、また隣接
個体の声と縄張り位置の組み合わせを判別できるのか検証した。
実験は、2011 年 4-5 月に南大東島で行った。対象雄に対して、縄
張り境界位置から隣接雄および未知雄の声を再生した。再生位置は、
隣接雄が通常位置している方向(通常)と、対象雄を挟んでその逆
側の方向(逆)の 2 つである。再生後、対象雄の鳴き返しの有無を
記録した。反応の有無に影響を与える要因の解析から、隣接雄より
未知雄の声、また通常より逆位置の場合に、反応個体数が多くなる
ことが分かった。
以上より、本種は隣接雄と未知雄の声を判別し、その位置に応じ
て縄張り防衛行動を変えていると考えられた。
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変動環境下における採餌行動
背擦り木に残された体毛の遺伝子解析により明示された
* 伊東啓(静岡大・院工),上原隆司(静岡大・創造院),守田智(静岡大・
工),泰中啓一(静岡大・創造院),吉村仁(静岡大・創造院)
ヒグマの背擦り行動
小泉沙奈恵 *,伊藤哲治(日大・生資),浦田剛(浦幌ヒグマ調査会),小
林喬子(農工大),間野勉(道環境研),佐藤喜和(日大・生資)
多くの生物は、自らが捕食されるリスクの下で、採餌行動をとら
なくてはならない。本研究では、簡単なモデルを作成し、変動する
環境が採餌行動にどのように影響を与えるのか数学的に解析する。
今日まで、生活史では算術平均が大きな役割を持っているとされて
きた。しかし、環境が変動する条件の下では、幾何平均から導かれ
る幾何平均適応度が大きな意味を持つことが知られている。そこで
本稿では幾何平均を考慮に入れながら環境がどのように採餌行動戦
略に影響を与えるのかを検証する。「食料は無いが安全な巣」と「食
料がある捕食の危険がある巣の外」が存在し、巣の外の餌量と捕食
者が変動する場合の最適採餌行動時間を求めた。結果は、採餌行動
における算術平均・幾何平均両方の適応度から導かれる最適戦略が、
従来の餌量、捕食者数だけでなく、環境の発生確率によっても大き
く振る舞いを変えることが分かった。そして、採餌行動においては
幾何平均最適採餌時間が算術平均最適採餌時間よりも短くなること
が非常に一般的であり、強いことが確認されたうえで、その逆は弱
くはあるが環境の条件次第で見られることが分かった。
210
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ニホンザル自然群と加害群の行動圏利用の比較~神奈川
モズの雌による雄への餌乞い:育雛能力の査定
県の例~
* 遠藤幸子・鈴木俊貴(立教大・理)
* 海老原寛,高槻成紀(麻布大院・獣)
他者に餌をねだる行動(餌乞い)は、主に子が親に給餌を促す文
脈で研究され、繁殖期にみられる雌による雄への餌乞いについては
ほとんど着目されてこなかった。雌は自分で餌をとることができる
にも関わらず、なぜあえて雄に対して餌をねだるのか。この行動は、
単に空腹状態を示す子による親への餌乞いとは、全く異なる機能を
もつ可能性がある。モズ Lanius bucephalus の雌は巣作り完了後から
産卵期にかけて、つがいの雄に頻繁に餌をねだる。雌にとって、産
卵前に雄の給餌能力を評価することは、自身の繁殖投資量(産卵数)
を適切に調節する上で有利にはたらくだろう。本研究では、モズの
雌は産卵前に雄に餌乞いをすることで、雄の将来の育雛能力を査定
するという仮説を検証した。産卵前の雌の餌乞いによく給餌した雄
ほど、抱卵期には雌に、育雛期には雛に対してよく給餌する傾向が
みられた。また、餌乞いによく給餌した雄とつがった雌ほど、より
多くの卵を産む傾向がみられた。これらの結果から、モズの雌は産
卵前に雄に対して餌乞いをすることにより、その後の雄の給餌能力
を査定し、それに応じて産卵数を調節することが示唆された。
サル(ニホンザル)は本来、森林に生息するが、現在は人間の生
活圏内に進出している。その原因として、拡大造林に伴う広葉樹林
の減少や農地の増加、農村の過疎化などの生息地の変化が挙げられ
る。こうした生活環境の変化に対して、サルは生活を変化させてきた。
その変化の内容を解明するため、神奈川県丹沢東部の農地を利用し
ない群れ(自然群)と農地を利用する群れ(加害群)の群落利用を
比較した。ラジオテレメトリ法により群れの位置を把握し、GIS 上
で植生図を用いて解析を行った。また、サルの林縁利用を明らかに
するために、道路や草地などと森林の境界から内外 50m を林縁とし、
その利用率を調べた。自然群は初夏・晩夏・晩冬・春には針葉樹林
の利用が多く、森林利用のうち 40% 前後で林縁を利用していたが、秋・
初冬は広葉樹林の利用が多く、林縁の利用は 10% 前後となった。自
然群は食物状況がよくない季節は、林縁のマント群落をうまく利用
して生活しているが、林内の食物供給量が増える秋には、広葉樹林
内で堅果類を採食していると思われる。一方、加害群は年間を通し
て広葉樹林の利用が多かった。森林利用の 50% 前後は林縁を利用し
ており、そのうち 50% は農地に近い林縁(50m 以内)を使用してい
た。加害群は農地を利用するため、群落利用の季節変化が少なかった。
また、林縁の利用も季節変化が少なかったのは、林縁を農地を利用
する際の隠れ場所にしているためであると思われる。以上のことか
ら、加害群のサルは、農地の利用を自らの生活に取り入れ、行動圏
内の群落利用を変化させていたと考えた。このことから、サルは環
境の改変に対する可塑性が大きいことが確認された。
P1-283
P1-284
アゲハ類における精子の授受と活性
琵琶湖流入河川におけるアユの産卵適地
武藤直樹(筑波大・生物),* 滝 若菜(筑波大・院・生命環境),渡辺 守(筑
波大・院・生命環境)
* 小澤元生,小澤真帆,稲井拓人,東郷有城,伊藤琢哉(龍谷大院・理工・
環境),満尾世志人,遊磨正秀(龍谷・理工・環境)
蝶類のオスは、交尾時にメスの交尾嚢に精包というカプセルを注
入し、精子はその中に含まれている。精子には有核精子と無核精子
という二型が存在し、交尾終了後、両型の精子とも、受精管を経由
して受精嚢へと移動していく。これまでに、無核精子の役割として
さまざまな仮説が提出され、そのひとつに、有核精子が交尾嚢から
受精嚢まで移動するのを助けるという説がある。もしそうなら、有
核精子自身の活性が高ければ、無核精子は少なく済むはずである。
そこで、本研究では、有核精子の活性と受精嚢に到達する精子数と
の関係を明らかにすることを目的とした。まず、ナミアゲハを用い
て精子移動の経時的変化を調べたところ、交尾終了後6時間で受精
嚢まで到達したのは無核精子のみで、有核精子はそれに遅れて到達
していた。交尾終了後 24 時間経過すると受精嚢へ両精子の移動は完
了している。次に、メスの生涯交尾回数がどちらも約3回であるナ
ミアゲハとクロアゲハを用いて、両精子の注入数と、交尾終了後 24
時間経った受精嚢に到達した数、交尾嚢に残存している数を調べた。
有核精子の注入数はクロアゲハが多く、無核精子ではナミアゲハが
多かった。受精嚢まで到達した数は有核精子と無核精子で2種に違
いは認められなかったが、交尾嚢に残存していた精子数は有核精子
でクロアゲハが多く、無核精子でナミアゲハが多かった。交尾終了
後 24 時間経ったメスの受精嚢に存在する有核精子を顕微鏡下で動画
撮影し、回転活性と精子長を測定したところ、クロアゲハの有核精
子はナミアゲハより有意に長く、活性が高い傾向にあった。有核精
子の活性が高ければ、無核精子が少なくても受精嚢まで到達できる
に違いない。それがクロアゲハとナミアゲハの無核精子の注入数の
差として表れたと考えられる。
アユ (Plecoglossus altivelis altivelis ) は両側回遊型の生活史を持ち、
内水面漁業上重要な種であるため滋賀県でも、積極的に研究や保護
が行われてきた魚である。琵琶湖に生息するアユは陸封型であり、
春から夏にかけて成長目的で河川を遡上するオオアユと秋に産卵目
的で河川を遡上するコアユが存在することが明らかにされている。
本種における産卵生態については多くの研究報告があり、産卵量に
おいては滋賀県の水産試験場がコアユの資源予測として、毎年産卵
の主要な 11 河川で産卵調査が実施されている。
本研究では琵琶湖流入河川において、河川内のどのような場所が
次世代の再生産に寄与する産卵場となっているのか、また各瀬内に
おいてどのような箇所が産卵に適しているのかを検証するために、
2012 年 9 月 ~11 月において産卵調査及び河川の環境要因調査を行っ
た。河川内での産卵調査においては滋賀県マキノ町を流れる知内川
で、河口から最も近い位置にある瀬から、産着卵を確認しつつ上流
に移動し最上流産卵場までのすべての瀬で調査を行った。また瀬内
においてどのような箇所が産卵に適しているのか検証するために、
琵琶湖に流入する河川の中で比較的産卵量の多い 15 河川を対象に、
各河川の河口から上流に向かって最初に出現する瀬で産卵調査を行
った。
2012 年度における産卵量は過去 10 年間における平均産卵量の約
6%程度であることが報告されており、非常に産卵量の少ない年で
あった。本調査においても、産卵量が極めて少なく瀬内でも局所的
な産卵の偏在化が見られ、産卵が確認できた箇所と確認できなかっ
た箇所が平年と比べより明瞭に表れており、アユが選択している産
卵場所がより明確に表れている事が考えられる。本発表ではこれら
の結果と次世代再生産に関係する場所の特徴を踏まえ議論していく。
211
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-285
P1-286
溜池におけるオオバン(Fulica atra ) の採餌生態
Individual dietary specialization: ヒグマの食性特化に
与える資源と性の影響
* 稲田麻里(弘前大・院・農学生命),佐原雄二(弘前大・農学生命)
* 小林喬子(農工大・農),間野勉(北海道立総合研究機構),南川雅男(北
大・地環研),梶光一(農工大・農)
近年、生物の採餌生態に関わる研究において個体レベルでの研究
が実施されるようになった。個体が個体群の食性ニッチよりもより
狭い、またはそこから外れたニッチを持つことを食性特化(Individual
dietary specialization)と定義し、生物の生態的・進化的理解に重要な
要素とされている。特にジェネラリストはその生態学的可塑性から
個体間の食性の多様度が高いと言われているが、個体の食性特化を
定量的に示している研究や採餌資源に影響を与えると考えられてい
る個体の性・齢などの内因的要因また資源の重要性についてはあま
り知られていない。
そこで本研究ではジェネラリストであるヒグマ(Ursus arctos )を
対象とし、体組織の中で最も長期的(数年間)な食性情報を蓄積し
ており、個体の食性特化を議論するのに適したタイムスケールであ
る骨コラーゲンの窒素安定同位体比および炭素安定同位体比を用い
て、ヒグマの食性特化を定量的に示し、性と採餌資源(特に副次的
資源)が食性特化に与える影響について検討した。
その結果、性の影響については、オスよりもメスの方がより食性
が特化していることが明らかとなり、これは性による行動圏サイズ
の差異、体サイズの違いによる栄養要求量の差異が関係していると
考えられた。また資源の影響については、ヒグマの主要採餌資源で
ある植物質よりも副次的資源である陸生動物質(シカ)の利用が多
い個体ほど食性が特化していたこと、シカの利用可能量が多い地域
の方が少ない地域よりも個体の食性特化が大きかったことより、食
性の特化に副次的な資源の影響が大きいことが明らかとなった。
P1-287
P1-288
構造化された集団における文化進化
キタゾウアザラシの採餌行動:繁殖後回遊と換毛後回遊
* 田村光平(東大・院理),井原泰雄(東大・院理)
の比較
文化は,古典的には「非遺伝的手段を用いて伝達される情報」と
して定義され,ヒトの特異性として挙げられることも多い.集団中
の遺伝的構成の時間変化を進化とよぶが,これになぞらえて,集団
中の文化的構成の時間変化を文化進化とよぶ.文化進化の理論は
1980 年代に定式化されて以来,現在まで人類学を中心に,文化の多
様性とそれを生み出す認知バイアスの理解に大きく貢献してきた.
情報伝達は構造によって規定される.構造には,空間的なもの,
社会的なもの,文化的なものなどがある.このような構造による情
報伝達の局所化は,文化の多様化を促したり,大域的なパターンを
生み出すこともある.様々な文化の分布パターンが何によって決定
されているか理解することは,人類学の中心課題のひとつである.
本発表では,日本における様々な文化形質の分布が,方言の類似度,
空間的近接性,環境要因のいずれによって決定されているかを自己
回帰の手法を使って解析した結果について報告する.
* 安達大輝(総研大),Patrick Robinson(カリフォルニア大・サン
タクルズ),高橋晃周(総研大,極地研),Chandra Goetsch, Sarah
Peterson, Daniel Costa(カリフォルニア大・サンタクルズ),内藤靖
彦(極地研)
採餌回遊を行う潜水生物にとって、回遊期間中に良い餌場まで到
達することは重要である。しかしながら、これまでは自然環境下で
の採餌行動と位置データを同時に記録し、実際に彼らが良い餌場に
到達しているかどうかを検証することは難しかった。そこで、本研
究では、カリフォルニア沿岸で繁殖するキタゾウアザラシ雌の下顎
に小型加速度記録計、及び頭に衛星トラッキング装置を装着し、採
餌回数と位置データを同時に取得した。そして、コロニーからより
遠く離れた餌場まで移動する換毛後回遊とより近場で採餌する繁殖
後回遊の間で、採餌回数に違いがあるかどうかを検証した。従来か
ら示唆されているように、換毛後回遊ではより遠くまで移動し、採
餌を行っていた。また、一日の採餌回数は、両回遊とも回遊中期(i.e. 繁
殖地からより離れた場所)で最大となった。しかしながら、一日の
最大採餌回数は繁殖後回遊(1191 回)と換毛後回遊(1296 回)の間
で、顕著な違いは見られなかった。及び、一日の平均採餌回数もまた、
繁殖後回遊(606 回)と換毛後回遊(664 回)の間で顕著な違いは見
られなかった。移動コストを支払ってまで遠くまで行く(i.e. 換毛後
回遊)理由として、より良い餌場に辿り着くため、ということが考
えられるが、本研究において、一日の採餌回数に違いが見られなか
った理由として、採餌効率(i.e. gain function)が両回遊共に頭打ち
になっているということが考えられる。このことは、彼らが主に採
餌を行う北太平洋移行帯の中深層生態系は、最大採餌効率を保つこ
とができるほど餌が豊富であることを示唆しているのかもしれない。
212
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-289
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キタキチョウの雄の精子生産速度と注入精子数
ツキノワグマの夏期の行動に対する食物資源の影響
* 小長谷達郎(筑波大・生物),渡辺 守(筑波大・院・生命環境)
* 根本唯(東京農工大学院・連合農学),杉田あき(東京農工大学院・農),
小坂井千夏(神奈川県博),小池伸介(東京農工大・農),山崎晃司(茨
城県自然博),梶光一(東京農工大・農)
一般に蝶類の雄は羽化後まもなく交尾が可能であるといわれてき
た。例えば、モンシロチョウの雄は羽化当日に交尾可能であり、そ
の際には雌の再交尾を抑制するのに充分な量の精包と、雌のもつ全
ての卵を受精させるだけの精子を雌に注入している。しかし、全て
の蝶類の雄が羽化後すぐに交尾できるわけではなく、キタキチョウ
の夏型雄では羽化直後の交尾活性が低い。これまで、雄の性成熟が
遅れる昆虫において、その原因を精子の大きさに挙げた研究が報告
されており、ショウジョウバエの仲間では、長い精子を生産する種
ほど雄の性成熟が遅れるという。キタキチョウの有核精子は他種に
比べて長いので、精子生産に時間がかかり、それが羽化直後の交尾
活性の低さに関係しているのかもしれない。本研究では、室内羽化
させたキタキチョウの様々な日齢の夏型雄を交尾させ、注入した精
包の重さと精子数、雄体内に残存していた精子数を測定した。また、
未交尾雄を直接解剖して、保有精子数を測ることも行なった。交尾は、
数頭の未交尾の雌雄をケージ内に同居させて行なった。羽化翌日の
雄の交尾活性は低く、40 頭中 1 頭しか交尾を行なわなかった。注入
した精包の重さは 0.47 mg、含まれていた有核精子束は 7 本、無核精
子は 51000 本だった。注入精包重量や保有精子数は、雄の日齢とと
もに増加したが、羽化後 10 日ほど経つと、注入精包重量や精子生産
量は上限に達した。精子は、保有量に関わらず常に一定の割合で雌
に注入されていた。これは、老齢の雄ほど多くの精子と大きな精包
を生産・注入できることを意味するので、雌が複数回交尾して精子
間競争が生じるなら、ある程度老齢になった雄の方が有利になる可
能性が高い。したがって、若い夏型雄の交尾活性が低いのは、充分
な量の精子や精包を生産できるまで待つ戦略であると考えられた。
これまで、ツキノワグマ(Ursus thibetanus )の行動生態に関する
研究は、人里へのツキノワグマの出没が社会的に重要性が高いこと
から、出没が増加する秋に焦点を当てたものが多くなされてきた。
夏期は、ツキノワグマにとって繁殖期に当たる。また、この時期は
春からの腎周囲脂肪の低下が底を打つ時期であり、この時期に子育
てを行うツキノワグマにとって、この時期の食物資源量の多寡が、
仔の初期死亡率に繋がっている可能性が高い。このように、夏期は、
ツキノワグマの生活史において重要な時期であると考えられる。
アメリカクロクマ(Ursus americanus )やヒグマ(Ursus arctos )で
は、主に食物資源が行動に影響を与えていることが報告されている。
ツキノワグマにおいては、秋期の重要な食物資源である堅果が不作
の年には行動圏や集中利用域間の距離を増加させることや、秋期に
は堅果が優先する林分を集中利用域として選択し、堅果が不作の年
には様々な堅果樹種の林分を選択するようになることが報告されて
いる。
本研究では、足尾日光地域において GPS 首輪を装着したツキノワ
グマの夏期の行動と食物資源量との関係、及び生息地選択について
解析を行った。
P1-291
P1-292
蛍光標識を用いたカシノナガキクイムシの飛翔距離推定
動物搭載型記録計から明らかになったオオミズナギドリ
* 本田美里,山崎理正(京大院・農),伊東康人(兵庫農技総セ)
の飛翔特性
近年日本国内でナラ枯れと呼ばれるブナ科樹木の集団枯死現象が
問題となっている。その原因となる菌類を保持、媒介するカシノナ
ガキクイムシ (Platypus quercivorus) の穿孔様式や繁殖生態が明らかに
されつつあるが、その移動分散生態については不明な点が多い。被
害地での防除にあたり、飛翔距離など移動分散に関する基礎情報の
把握が求められる。本研究ではカシノナガキクイムシを蛍光標識す
ることによってその移動分散生態を解明することを目的とした。
調査は 2008 年に初めてナラ枯れの発生が確認された京都府東部の
ミズナラとクリが優占する二次林で行った。2010 年に枯死したミズ
ナラが集中している 3 サイトで、枯死木の穿孔部を覆うように蛍光
付着管を 2011 年 7 月に取り付けた。蛍光付着管はカシノナガキクイ
ムシの脱出成虫が内部を通過した際に粉末状の蛍光塗料が付着する
ような構造を持たせたものである。また蛍光塗料はサイトごとに異
なる色 ( 赤、黄、緑 ) を使用し、蛍光付着管は各色とも合計 500 個
をカシノナガキクイムシの羽化脱出が終了する 2011 年 10 月中旬ま
で設置した。その後調査区内を踏査し、当年被害木の樹幹上と地際
に堆積したフラスで蛍光塗料の有無を確認した。
調査対象とした 2011 年の被害木 85 本中、蛍光塗料が検出された
のは赤 12 本、黄 9 本、緑 10 本だった。検出位置から算出した飛翔
距離は最小 8m から最大 517m だった。蛍光塗料の検出確率を予測す
るため一般化線形混合モデルを構築した結果、最適モデルでは検出
確率は飛翔開始地点からの距離に依存することが示された。検出確
率の予測曲線を円周で補正した結果、カシノナガキクイムシの到達
頻度のピークは飛翔開始地点から 120m 付近に存在しその後緩やか
に減衰する形をとった。この結果から直近には飛翔しないカシノナ
ガキクイムシの移動分散生態が示唆された。
* 米原善成,塩見こずえ,佐藤克文(東大・大海研)
オオミズナギドリ (Calonectris leucomelas ) は東アジアで繁殖するミ
ズナギドリ目の海鳥である。これまでの研究から、胃内容物にカタ
クチイワシが多く見られる一方で、採餌旅行中に 1m を超える潜水
は稀であることがわかっている。また、ミズナギドリ目海鳥はアス
ペクト比が高く、滑空に適した翼を持ち、飛び立ちは苦手であると
一般的にみなされている。そのため、海面に浮かびながら水面直下
の餌をついばむように捕らえていると考えられてきたが、実際にど
のように餌となる魚群にアプローチし捕獲しているのかは知られて
いない。
そこで、本研究ではオオミズナギドリがどのように採餌を行って
いるのかを調べるために、2012 年 8 月∼ 9 月に岩手県船越大島にお
いて、育雛中の成鳥 10 羽に動物搭載型ビデオカメラ (18g、径 20 ×
26mm、長さ 52mm) を装着し、再捕獲して装置を回収した 8 羽から
映像記録を得た。他に、本種の採餌旅行中の行動を調べるために、
動物搭載型記録計 (8.6g、径 12㎜、長さ 46㎜ ) を 15 羽に装着し、11
羽から 3 軸の加速度と深度記録を得た。その結果、1 個体から採餌
中の映像が得られた。この個体は、空中から直接水中に飛び込み、
浅い潜水によって水中の魚群を確認し、すぐに飛び立ち数秒の短い
飛翔によって逃げる魚群を追跡した後、再び潜水することを繰り返
し、表層を泳ぐカタクチイワシを捕らえていた。また、加速度と深
度データにおいても、潜水と飛翔が繰り返される様子が記録されて
おり、7Hz 以上の高周波で羽ばたいて海面から離陸することがわか
った。これらのことから、オオミズナギドリの離陸能力は従来考え
られてきたように低くはないことが示唆された。
213
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-293
P1-294
イワワキオサムシにおける雄の戦略的射精と父性獲得
アフリカゾウ(Loxodonta africana )における移動パタ
* 丸山航(神戸大・人間発達環境学),高見泰興(神戸大・人間発達環境学)
ーンの理論的検討
雌が複数の雄と交尾すると,雄が受精を巡って争う精子競争が生
じる.精子競争において雄は多くの精子を投資した方が有利である
が,精子の生産は有限である.そのため雄にとっては,状況に応じ
て投資量を調節することが適応的であると考えられる.
Parker の理論によると,雄は未交尾の雌よりも既交尾の雌により
多くの精子を投資すると予測される.しかし,様々な動物の投資様
式をメタ解析した研究では,この予測は支持されない.これは,種
によって精子競争の様式や程度が異なるからであると考えられる.
例えば,Engqvist と Reinhold の理論では,雄の交尾した順番が受精
獲得に影響する場合,その優先性の程度によっても雄は投資調節を
変えると予測される.
本研究で用いるオオオサムシ亜属は,多様な交尾器形態,精子束
二型,精包置換など,様々な興味深い特徴をもつことから,交尾行
動の進化を比較研究する上で良い材料である.そこで本研究は,ま
ずこの亜属のイワワキオサムシを用いて,雌の交尾経験に応じて雄
が精液量をどのように調節するかを調べた.その結果,雄は未交尾
の雌よりも既交尾の雌により多くの精子を投資することが明らかと
なり,Parker の理論による予測と一致した.しかし,精子束数に関
しては,精子数とはやや異なる反応が示唆された.これは,精子数
の調節において,精子束のサイズや束当たりの精子数を調節してい
る可能性を示唆する.そこで,精子束のサイズを測定し,雌の交尾
経験に応じて輸送する束のサイズを変えているか検証した.また,
P2 値(2 個体の雄が雌と交尾した時の後の雄の受精獲得率)を測定
することで,このような雄の投資調節が適応的であるかを,Engqvist
と Reinhold の理論に基づいて検討した.
* 水野佳緒里,大槻久,佐々木顕,長谷川眞理子(総研大・先導科学)
アフリカゾウは季節の変化などによって離合集散を行う。資源が
豊富な雨季では、大集団を形成し移動するが、その際に若齢個体は
老齢個体についていく傾向にある。このような老齢個体の魅力は知
識に関連していると考えられる。実際、ゾウは資源の場所に関する
知識を持つ可能性があるという報告や、知識を蓄積するという報告
がある。
本研究では、コンピュータシミュレーションを用いて、老齢個体
についていく個体(follower)と、ついていかずに自らの知識のみ
を利用する個体(non-follower)について、どのような条件でどちら
が有利になるかを検討した。モデルでは、複数の”サイト”(餌場)
を仮定し、各個体はサイトの場所に関する知識を持つと仮定する。
follower は、知識を多く持つ最老齢個体についていくことで、サイト
に関する知識を新たに獲得できる。知識を多く持つと、サイトの消
失に対応でき、有利である。しかし、follower は他個体と同一のサイ
トを訪れるため、強い資源競争にさらされる。一方、non-follower は
サイトの知識を新たに得ることはできないが、資源を独占すること
が可能である。
シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 結 果、follower の 割 合 が 一 定 以 下 の 時 に、
follower の資源獲得量が non-follower よりも大きくなり、そうでない
場合は non-follower の資源獲得量の方が大きくなった。また、知識
の獲得量を確認した結果、follower の方が non-follower よりも 5 倍大
きかった。本結果から、follower と non-follower 間には負の頻度依存
選択が働いており、集団中における follower の割合が小さい時にの
み、老齢個体について行くことが適応的であることが示唆された。
今後はこの結果を用いてゾウの集団サイズの季節変動の要因を調べ
たい。
P1-295
P1-296
メジャーワーカーが足を引っ張る移巣行動
オオシロアリにおいて兵隊特異的に分化する唾液腺のプ
古川竜司(山形大・理)
ロテオミクス
適切な営巣場所の選択は、餌資源と配偶者の獲得や、捕食を回避
する上で重要である。また巣移住時には、新たな巣場所への迅速な
移動も捕食回避に欠かせない。本研究では、分巣や撹乱で巣移住の
機会が多いヤマヨツボシオオアリを対象に、巣場所の選好性と移巣
時間を調べた。
二者択一実験で選好性を検証した結果、本種は他コロニーばかり
でなく、巣仲間の痕跡も避け、痕跡のない巣場所を有意に選択した。
巣仲間の痕跡と他コロニーの痕跡の比較では、有意な差はなかった。
先行研究では、house-hunting ant が他コロニーの痕跡を避け、巣仲間
の痕跡を好む一方、アミメアリは巣仲間の痕跡も他コロニーの痕跡
も好むことが分かっている。そのため、巣仲間の痕跡に対する回避は、
本種が初めての報告となった。このように、同種他個体の痕跡に対
しては反応に大きな種間変異があることが分った。
巣移住におけるカーストの役割を比較するため、コロニーの構成
を変えて、移住に要する時間を測定した。大型ワーカーを除き、女
王と小型ワーカーのみで移住した場合、通常の構成のコロニーと所
要時間に差はなかった。しかし、小型ワーカーを除き、女王と大型
ワーカーだけで移住した場合、通常の約 5 倍の時間がかかった。小
型ワーカーは、実験開始直後から積極的に探索をはじめ、巣場所を
発見すると他個体を先導する行動が頻繁に見られた。一方、大型ワ
ーカーは、前巣を失っても女王の周辺に留まり、なかなか自発的に
動き出さなかった。このように、巣移住では小型ワーカーに決定権
があり、大型ワーカーは女王の護衛役に徹することが示唆された。
* 箕浦るん(北大・理),阿部太亮(北大院・環境),渡邊大(北大院・環
境),三浦徹(北大院・環境)
社会性昆虫のシロアリでは,形態や行動の異なるカースト間で,
分業と協働を行うことで社会行動を構築している.カースト分化の
過程での外部形態や行動の顕著な変化に関しては研究が蓄積してい
るが,フェロモンコミュニケーションや防衛物質の分泌に関わる外
分泌腺の分化に関しては未解明な部分が多い.外分泌腺の一つであ
る唾液腺は,シロアリの職蟻では,材の消化酵素であるセルラーゼ
などの分泌器官だが,兵隊では消化に寄与せず,その機能は不明で
あった.そこで本研究では,兵隊分化に伴う唾液腺の機能的変化を
明らかにするため,オオシロアリ Hodotermopsis sjostedti を材料とし,
以下の解析を行った.
まず,職蟻と兵隊の唾液腺を単離し形態を比較したところ,兵隊
の唾液腺は職蟻より肥大化していること,更にパラフィン切片によ
る内部構造の観察から,兵隊の唾液腺には分泌物質を蓄積する構造
が多く見られた.これらのことから,兵隊の唾液腺では特異的タン
パクを発現している可能性が示唆された.そこで,タンパク質二次
元電気泳動(2D-PAGE)を用いて唾液腺において兵隊特異的に発現
するタンパクの同定を行った.その結果,兵隊の唾液腺特異的に発
現するタンパク質が複数存在することが明らかとなった.以上より,
兵隊の唾液腺は職蟻とは異なる機能を持つと考えられる.発表では
LC-MS/MS を用いた兵隊特異的タンパクの同定結果から,兵隊の唾
液腺の機能について考察したい.
214
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-297
P1-298
細菌界における捕食に対する逃避行動:糸状性光合成細
草刈時期がスズサイコの繁殖成功及び遺伝的多様性に与
菌の滑走運動について
える影響
* 諸星聖,松浦克美,春田伸(首都大・生命)
* 中浜直之(京都大院・農),内田圭,丑丸敦史(神戸大院・発達),井鷺
裕司(京都大院・農)
捕食 - 被食の関係は動物・植物においては広く知られている。細
菌界においても細菌を食べる細菌は存在し、現在までに少なくとも
5 門 15 科から発見されている。しかし捕食に対する逃避行動は知ら
れていない。本研究では細菌界における捕食に対する逃避行動の存
在を示すことを目的とした。
我々は、バイオマットと呼ばれる微生物群集内の種間相互作用を
研究する中で、糸状性光合成細菌が高濃度のプロテアーゼ存在下で
溶菌し、プロテアーゼ生産菌の餌となることを確認した。そこでこ
の系を用いて逃避行動を検証した。
試験管内に、光合成細菌を軟寒天培地に懸濁して封入し、その上
からプロテアーゼを軟寒天培地に添加し重層した。プロテアーゼは
Bacillus licheniformis 由来のものを使用した。この試験管を 55℃・光
照射下で培養した。培養後、プロテアーゼ層に近い部分の光合成細
菌の細胞密度は減少し、プロテアーゼ層から離れた部分の細胞密度
が上昇した。また上層からプロテアーゼを抜いた条件では、この現
象は見られなかった。これらの結果から、糸状性光合成細菌はプロ
テアーゼを感知し、反対方向に移動すると考えられた。
糸状性光合成細菌を顕微鏡下で観察すると直線的な滑走運動を示
し、時折進行方向の前後が転換した。この方向転換がプロテアーゼ
により影響されると考えられる。
本研究により、ある濃度のプロテアーゼに対する逃避行動が存在
することがわかった。プロテアーゼ生産菌及び運動性を持つ細菌は
多く知られているため、この現象は細菌界に広範囲に見られるかも
しれない。
スズサイコ Vincetoxicum pycnostelma は国内では伝統的棚田畦畔や
河川堤防などをはじめとする半自然草原に生育する多年生草本であ
る。本種は近年の耕作放棄や圃場整備、開発などによる半自然草原
の減少によって生息地を急速に減少させており、環境省レッドリス
ト (2012) において準絶滅危惧種に選定されている。本種の生育する
半自然草原は、1 年に数回の草刈りおよび火入れといった人為的攪
乱によって維持されている。草原性希少種の保全には、攪乱の時期
および頻度がそれらの種の繁殖および遺伝的多様性に及ぼす影響を
解明する必要がある。しかしながら、特に遺伝的多様性に注目した
研究は非常に少ない。
本研究では、草刈り時期および頻度の異なる 11 地域のスズサイコ
集団において、結実量の調査とマイクロサテライトマーカーによる
遺伝解析をおこなった。結実量の調査の結果、7 月から 8 月にかけ
て全面的な草刈りをおこなっていた集団では、それ以外の時期に草
刈りをおこなった集団に比べスズサイコの結実量が低かった。一方、
6 月にかけて草刈りをおこなっていた集団や、7 月から 8 月にかけて
選択的に一部を刈り残した集団ではスズサイコの結実量は高くなっ
ていた。スズサイコの開花期と重なる夏季の草刈りはスズサイコの
結実にとって負の影響を与えるため、スズサイコの保全をおこなう
際は 7 月から 8 月にかけての全面的な草刈りを避けることが非常に
重要であるということが示唆される。さらに本発表では遺伝解析結
果の比較により、スズサイコの繁殖および遺伝的多様性の維持に好
適な草刈り時期についても議論する。
P1-299
P1-300
マイクロサテライトマーカーを用いたナガレホトケドジ
侵略的外来種ウシガエル Rana catesbeiana が在来大型
ョウの遺伝的多様性の解析
水生甲虫に与える影響
* 猪塚彬土,平井規央,石井実(大阪府大・生環)
西山裕 *,西原昇吾,須田真一,鷲谷いづみ,東京大学大学院農学生命科
学研究科
ナガレホトケドジョウ Lefua sp. はタニノボリ科に属する日本固
有の純淡水魚である.本種は山間の河川の上流域を生息場所とする
が,人為的影響による生息環境の悪化により各地で個体数が減少し
ており,環境省の絶滅危惧 IB 類にランクされている.本研究では
本種の遺伝的集団構造を解明するためにマイクロサテライト分析を
行い,適切な管理単位を設定するための知見を得ることを目的とし
た.生息調査およびサンプリングは,2011-2012 年に大阪府北部から
兵庫県東部にかけての加古川,武庫川,猪名川の 3 水系計 20 支流に
おいて行った.得られた計 301 個体の体表粘膜から DNA を抽出し,
Koizumi et al. (2007) および小出水ほか (2008) においてホトケドジョ
ウ L . echigonia の塩基配列を基に設計された 6 組のプライマーセット
を用いてマイクロサテライト分析を行った.その結果,各水系,各
集団に固有のアリルが複数認められた.集団間の遺伝的差異は,190
の組み合わせのうち,ペアワイズ F ST 値において 131 組,R ST 値にお
いて 46 組の各水系の集団間,集団内において,有意な遺伝的分化が
認められた.個体群を 3 水系に分けて分子分散分析を行った結果,3
水系間での遺伝的変異が全個体群における遺伝的変異の約 13% を占
め,水系間での遺伝的な分化が示された.Nei の遺伝距離に基づく
近隣結合樹では,3 水系から得られた 20 集団は 3 つのクレードを構
成し,一部の集団を除いて水系ごとに分岐した.主成分分析において,
第 1,第 2 主成分は,それぞれ変異の 42%,27% を説明し,それら
の得点を基にした散布図では,近隣結合樹と同様に,ほぼ水系ごと
に 3 集団に分かれた.以上のように,本種は水系ごとに遺伝的なま
とまりをもつことから,これらを管理単位として保全を行うことが
適当であると考えられる.
ゲンゴロウやクロゲンゴロウなどの在来大型水生甲虫は生物多様
性の高い水辺環境の指標種であり,かつては普通種として広く分布
していたが,近年急激に個体数が減少している.特にゲンゴロウ属は,
我が国で確認されている 8 種中 7 種が環境省版レッドリストで準絶
滅危惧(NT)以上に指定されるなど危機的状況にある.減少要因と
しては,開発や水質悪化,侵略的外来種の影響などが複合して作用
していると考えられるが,最近の研究でウシガエルの胃内容物から
ゲンゴロウが発見され,ウシガエルは直接の捕食によって大型水生
甲虫に負の影響を及ぼすことが疑われている.
本研究では,ウシガエルがため池に生息する大型水生甲虫の個体
数に与える影響を検討するため,今でも生物多様性の高いため池が
数多く残されている岩手県北上川水系久保川流域で調査を行った.
この地域では伝統的な農業形態や土地利用・管理が維持され,久保
川イーハトーブ自然再生協議会によって侵入したウシガエルの排除
活動が行われている.
調査は 2012 年夏と秋に環境要因の違いが幅広くなるよう選定した
129 カ所のため池において手製のペットボトル製トラップを用いて
行い,大型水生甲虫の種と個体数,植被度等ため池の環境要因,ウ
シガエルの在・不在を記録した.
池ごとのゲンゴロウとクロゲンゴロウの捕獲個体数を目的変数,
ウシガエルの在・不在と池面積,植被度,各池から半径 1km 圏内に
存在するため池の数を説明変数として一般化線形モデルを用いて統
計解析を行ったところ,ウシガエルが存在する池では上記 2 種の捕
獲個体数が有意に少ないという結果が得られた.したがって,ウシ
ガエルは在来大型水生甲虫に負の影響を与え,その個体数減少要因
の 1 つであるということが示唆され,自然再生事業としてのウシガ
エル排除の妥当性が示された.
215
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-301
P1-302
愛媛県における在来種ヤリタナゴと国内移入種アブラボ
チュウヒの保全が湿地性生物の保全に果たす役割
テの交雑
* 先崎理之,山浦悠一(北大農・院)
* 松葉成生,畑啓生(愛媛大・院理工)
生態系に生息する全ての生物種の把握と保全には,莫大な時間と
コストがかかる.このため,より安価で容易な代替的手法をもちい
て生物多様性を保全するのが一般的である.中でも,アンブレラ種
の保全により生物多様性保全を図る手法は主要な代替法である.し
かしながら,アンブレラ種の保全による生物多様性保全の有効性は
明確ではないので,これを検証する研究が必要とされている.
アンブレラ種と生物多様性の関係を検証した従来の研究は,アン
ブレラ種の在・不在のみに着目してきた.しかし近年,アンブレラ
種の生息地には,長年利用され繁殖成績が良い高質な生息地と,あ
まり利用されず繁殖成績が悪い低質な生息地があることが分かって
きた.従って,アンブレラ種の生息地の質と生物多様性の関係を明
らかにすることができれば,アンブレラ種を用いた生物多様性保全
がより効果的に行えると考えられる.
湿地生態系は,今日もっとも危機的で保全が望まれる生態系の一
つであるが,これまで,湿地生態系のアンブレラ種と生物多様性の
関係は調べられていない.本研究では,2012 年夏季に北海道胆振地
方の低地にある 2 ∼ 93ha の 29 の湿地で,アンブレラ種であるチュ
ウヒの繁殖の有無,湿地性の鳥類,草本類の種多様性を調べた.こ
れらにより,チュウヒが繁殖する湿地としない湿地での鳥類と草本
類の種多様性を比較した.また,チュウヒの繁殖成績とこれらの種
多様性の大小の関係も検討した.
本報告では,これらの結果に基づき,チュウヒの保全が湿地性生
物の多様性保全に有効かどうかについて議論したい.
コイ科タナゴ亜科は生きた淡水二枚貝の鰓内に産卵し、仔魚は貝
内で成長する特異な生態を持つ。タナゴ亜科アブラボテ属のヤリタ
ナゴ(Tanakia lanceolata )とアブラボテ(T.limbata )は、姉妹種であ
り、2種の人工交配による F 1は妊性を持つことが知られるが、両
種の自然交雑は稀である。しかし、愛媛県松山平野では、生息する
アブラボテが他地域からの移入であり、在来のヤリタナゴに対する
遺伝子浸透が生じている可能性が示唆された。ヤリタナゴは環境省
のレッドデータリストで準絶滅危惧種に指定される希少種であるた
め、2種が交雑しているのであれば、現状を把握しヤリタナゴの生
息域保全が重要である。
そこで、本研究では、松山平野を流れる河川及び湧水池にて網羅
的にタナゴ類の分布調査と採集を行った。また、中四国地域のタナ
ゴ類の系統を示すために近隣他県においても2種の採集を行った。
採集したタナゴ類は形態的解析として幾何学的形態測定及び、有孔
側線鱗数、臀鰭分岐軟条数の測定を行った。また、遺伝的解析とし
て mtDNA のチトクローム b 遺伝子の部分配列の決定と系統樹の作
成、マイクロサテライトによる系統解析を行った。
分布調査から松山平野では2種の分布域は非常に局所的で、見つ
かったヤリタナゴの分布域にはいずれもアブラボテが侵入している
こと、ヤリタナゴの分布域は減少傾向にあることがわかった。分子
系統樹からは松山平野に生息するアブラボテは地理的に離れた福岡
県西部の個体群と同一クレードに分けられ、そこからの移入である
事が確認できた。また、形態的解析と遺伝的解析の比較から2種の
中間形態を持つ個体や、形態的特徴と遺伝子型が一致しない個体も
みられた。このように表現型と遺伝子型の不一致から両種の交雑と
遺伝子浸透が生じている事が示唆された。
P1-303
P1-304
無葉緑植物ホンゴウソウの保全-生育環境の解明と移植
野辺山高原における在来植生保全のための群落構造とそ
の可能性-
の遷移状況の把握
* 宮崎萌未,金行悦子(広島大・院・生物圏),小倉亜紗美(広島大・国際セ),
中坪孝之(広島大・院・生物圏)
桑畑亜矢子(信州大・農)
野辺山高原にはズミなどの湿生林群落やススキ群落で構成される
在来植生に、絶滅危惧種ⅠB類のアサマフウロや準絶滅危惧のサク
ラソウなどの希少植物が自生し、これらは草原性植物として生物多
様性保全の立場からも重要な種群である。
しかし、2005 ∼ 06 年にかけて行われた前回の調査 ( 花岡・大窪 )
では、オニゼンマイや外来植物などに加えて、ミヤコザサやハシバミ、
ズミ、カラコギカエデなどの木本種が 130㎝以下の草本層で大きく
優占しており、今後も遷移とともに土壌の乾燥化が進行し、在来の
草原植物の減少することが指摘された。本研究では、前回の調査対
象地の中でまだ継続研究が行われていない相対的に乾生的な 4 つの
群落型を調査対象地とし、遷移進行に伴う群落構造の変化を解明し、
在来群落保全のための植生管理を検討する基礎的知見を得ることを
目的とした。
調査は 2005 ∼ 06 年に A ∼ D の 4 サイト ( 群落型 ) に設置された
54 プロット (2 m× 2 mの方形区 ) において実施した。各プロットに
おいて植生調査および立地環境調査 ( 相対光量子密度・土壌含水率 )、
各サイトにおいて毎木調査を行った。
その結果、全サイトにおいての総出現種数は 160 で、前回の 169
種よりも増加した。そのうちの 44 種が木本種で、9 種が外来植物で
あった。遷移状況の一つの指標となる遷移度、外来植物やミヤコザ
サの出現頻度、また木本層において胸高断面積と優占度が前回より
も高く、一方でアサマフウロやサクラソウ、スズサイコやサクラス
ミレなどの貴重な在来植物の出現頻度は低い結果となった。一方、
土壌含水率は前回より減少しており、本調査地においては乾燥化や
遷移が進み、在来群落構成種に影響を与えていることが示唆された。
発表ではさらに深く考察を加え、有効な植生管理についても言及する。
ホンゴウソウ Andruris japonica (Makino) Giesen は、葉緑素をもた
ない菌類従属栄養性の植物で、環境省のレッドリストでは絶滅危惧
Ⅱ類(VU)に指定されている。しかし、生態については未解明な部
分が多く、その保全に関する研究も皆無である。2010 年に広島県呉
市の一般廃棄物処分場予定地でホンゴウソウの群生が確認され、早
急に保全対策を講じる必要が生じた。そこで本研究では、ホンゴウ
ソウの生育環境の把握を行うとともに、本種の移植の可能性につい
て検討した。
調査地は、コナラ、クロキ等が優占する二次林で、低木層にはヒ
サカキ、リョウブをはじめとする多様な植物が生えていた。2012 年
4 月、7 月、8 月に、2010 年にホンゴウソウの生育が認められた場所
を横切って 20m のラインを引き、それに沿って 1m × 1m のコドラ
ートを設け、環境要因の測定を行った。その結果、光環境及び土壌
水分との関係は明瞭ではなかったが、ホンゴウソウの生育している
コドラートでは、リター層が厚いという傾向が認められ、リター層
内にホンゴウソウの地下部が繁茂しているのが確認された。地上部
は 7 月から 9 月にかけて観察されたが、地上部の発生は 2010 年に地
上部が認められた場所の周辺に多くみられた。
上記の結果をもとに、ホンゴウソウ個体群をリター層ごと移植す
ることを試みた。2012 年 6 月に、過去に発生が認められた場所のリ
ター層を林床植物ごと 40cm × 40cm のブロック状に切り出し、約
150m 離れた廃棄物処分場建設予定地外の類似の場所に移植した。そ
の結果、7 月には移植ブロック内に地上部が発生するのが認められ、
この方法により移植できる可能性が示された。発表では、本種が利
用している炭素源及び窒素源の解明を目的とした安定同位体比分析
の結果についても報告する。
216
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-305
P1-306
さとやまにおけるニホンミツバチの訪花活動量と採餌ハ
「伊那盆地における田んぼの水生昆虫の群集構造は何に影
ビタットの季節変動
響されているか?保全には何が必要か?」
* 藤原 愛弓,西廣 淳,鷲谷いづみ(東大院・農)
* 榊原有里子(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信州大・農)
比較的良好な里地里山(さとやま)が残されている北上川水系の
小河川、久保川流域(岩手県一関市)において、自然再生推進法に
則って「久保川イーハトーブ自然再生事業」が民間主導で取り組ま
れている。この事業では、管理放棄された山林や棚田などを明るい
落葉広葉樹林や湿地として再生し、さとやまの生物多様性保全と多
様な生態系サービスの再生に寄与することを目標としている。
本研究では、久保川流域で実施されてきた自然再生事業のニホン
ミツバチ ( 以下ミツバチ ) による生態系サービス向上への寄与の評
価に向けて、ミツバチの採餌ハビタットと訪花活動量の季節性を調
査した。2011 年と 2012 年に自然再生事業地を中心に多様なランド
スケープを通るように設定したルートセンサスにより、ミツバチが
訪花する可能性がある開花植物種(文献等から定義)と開花パッチ、
植物が生育するハビタットタイプ (「落葉広葉樹林」
「スギ植林地」
「畦
畔・休耕田」「畑地」「道路・河川沿い」に分類 )、ミツバチの訪花個
体数を調査した。
その結果、調査ルート沿いには訪花可能植物が合計 339 種確認さ
れ、そのうち 51 種で実際に訪花が確認された。開花パッチ当たりの
訪花確認個体数を目的変数とした一般化線形モデル(調査ルート長
でオフセット)で分析した結果、月とハビタットの交互作用が有意
であり、(P < 0.0001)、採餌に利用するハビタットが季節的に変動
していることが示された。
5 − 6 月は草刈り管理が継続されている「畦畔・休耕田」、7 − 8
月は間伐管理が行われた「落葉広葉樹林や林縁」での訪花が多く認
められた。スギ植林地では季節を通じて訪花はほとんど確認されな
かった。これらの結果は、ミツバチが関与する生態系サービスにと
って、異なるランドスケープ要素が複合したさとやまにおいて、植
生管理で創出される明るい環境が、採餌場所として重要であること
を示唆する。
水田をハビタットとする水生昆虫の減少が問題となっているが、
群集構造の解明など、基礎的知見の蓄積も不十分な現状である。本
研究は、長野県上伊那地方を事例にし、水田地域における水生昆虫
群集と立地環境条件との関係を解明し、これらの具体的な保全策を
検討することを目的とした。水生昆虫群集を基盤整備の有無、市街
地と中山間地という 4 つの異なる立地環境や地域単位で比較すると
共に、水田とその周辺環境や管理を含めた一筆単位、入水口や排水
口などの特異な微環境毎、という大から小の三つの条件スケールに
おいて考察をすすめた。
水生昆虫群集調査は、2011 年においては 5 月 21 日∼ 8 月 15 日に
5 調査地域で、2012 年においては 5 月 27 日∼ 8 月 19 日に 8 調査地
域において水田 10 筆(1 筆につき 3 地点)で水生昆虫の捕獲調査を
実施した。調査時期は 2 年とも、5 月後半および 6 月前半、6 月後半、
7 月前半、7 月後半、8 月前半で、回数は全 6 回実施した。また調査
面積は、畦から畝の間の幅約 0.2m の空間を横 2m で一方向に(0.4㎡)
掬い取りを実施した。また、立地環境調査として、土地利用や植生、
聞き取り等の調査を実施した。
各地域の水管理と地域毎の水生昆虫の個体数変動を比較すると、
中干しの実施時期と水生昆虫群集の個体数の減少時期が重複してお
り、中干しが一時的な水生昆虫群集の個体数の減少に影響している
と考えられた。また、各水生昆虫の種特性をみると、生活環を全う
するために必要な環境スケールは種毎に異なっており、様々なスケ
ール条件での検討が必要であることが示唆された。本研究において
は平地に位置する市街地と、丘陵地や低山地の中山間地における水
田の水生昆虫群集では、構成種群が異なっていた。よって、平地と
丘陵地などの異なる立地環境条件下で保全対象地を複数設ける必要
性が挙げられた。
P1-307
P1-308
対馬と東濃地域に隔離分布するヒトツバタゴ集団間の遺
DNA バーコーディングを用いた糞分析に基づく、絶滅
伝的文化
危惧種アカガシラカラスバトの食物構成とその季節変化
* 加藤大輔(名大・農),渡辺洋一(名大院・生命農),戸丸信弘(名大院・
生命農)
の解明
* 安藤温子(京大院・農),鈴木節子(森林総研),堀越和夫(小笠原自然
文化研究所),鈴木創(小笠原自然文化研究所),梅原祥子(小笠原自然
文化研究所),村山美穂(京大・野生動物研究センター),井鷺裕司(京
大院・農)
ヒトツバタゴ (Chionanthus retusus ) はモクセイ科ヒトツバタゴ属の
落葉広葉樹であり、中国南部から台湾、韓国、日本にかけて分布し
ている。環境省によるレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されて
おり、東海地方に固有もしくは準固有の植物種群「東海丘陵要素」
の構成樹種でもある。また、日本における分布は長崎県の対馬北端
と愛知県・岐阜県の東濃地方に限られ、特異な隔離分布をしている。
対馬の生育地には 1000 個体以上が生育しているが、東濃地方には
150 個体ほどしか残存しておらず、東濃内でも生育地は連続してい
ない。孤立した小集団は大集団に比べて遺伝的多様性が減少してい
ると言われており、遺伝的多様性の程度は種や集団の絶滅に影響を
与えていると考えられている。以上のことから、ヒトツバタゴの保
全策を検討する上で、集団の遺伝的多様性と遺伝的構造を把握する
必要がある。ヒトツバタゴの遺伝的多様性に関する研究はアロザイ
ムを用いたものがあるが、多型性の高い核マイクロサテライト (SSR)
を用いればより詳細な遺伝情報を得られる可能性がある。本研究で
は絶滅危惧種ヒトツバタゴの保全の基礎情報として、東濃集団の分
布状況を把握すること、核 SSR を用いて遺伝的多様性と遺伝的構造
を明らかにすることを目的とした。対馬集団から 50 個体、東濃集団
からは採取可能な 143 個体の試料を採取し、核 SSR 7遺伝子座を用
いて遺伝子型を決定した。集団遺伝学的解析および STRUCTURE 解
析を行った結果、東濃集団は対馬集団に比べて遺伝的多様性が減少
しており、集団間では大きな分化が確認され、東濃内に 2 つの異な
るクラスターが存在する可能性が示唆された。
絶滅危惧動物の食性解析は、その生態解明と適切な保全策を講じ
る上で不可欠である。糞分析は、非侵襲的な食性解析手法として広
く用いられてきた。しかし、ハト目のように砂嚢で種子を粉砕する
鳥類においては、糞に含まれる組織片から採食植物を同定すること
が非常に困難である。そこで発表者らは、特定の DNA 領域の塩基
配列を用いた種同定システムである、DNA バーコーディングに着目
した。本研究では、小笠原諸島の固有亜種であり、絶滅危惧種 IA 類
に指定されているアカガシラカラスバト Columba janthina nitens を対
象に、DNA バーコーディングを用いた食性解析を行った。
葉緑体 trn L P6loop をバーコード領域に設定し、次世代シーケンサ
ーを用いたアンプリコンシーケンスによって、アカガシラカラスバ
トの糞に含まれる植物の塩基配列を決定した。得られた塩基配列を、
小笠原諸島に生育する種子植物約 230 種を対象に作成したデータベ
ースと照合し、採食植物の同定を行った。
DNA バーコーディングを用いた糞分析の検出能は、顕微鏡による
分析よりも明らかに高いことが示された。特に、組織断片が糞に残
りにくく、顕微鏡による同定が困難な植物は、DNA バーコーディン
グのみで検出される傾向にあった。アカガシラカラスバトは、クス
ノキ科やアコウザンショウなど特定の在来種を選択的に採食する一
方、外来種を高頻度で採食していることが示唆された。また今回の
発表では、アカガシラカラスバトの食物構成の季節変化、並びに生
息地における結実状況と食物選択の関連についても評価する予定で
ある。
217
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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P1-310
静岡県中西部の伝統的な農地景観における草本群集の構
絶滅危惧水生植物ホソバヘラオモダカの繁殖生態
造: 棚田畦畔と茶草場の重要性
* 新鍋宏将,角野康郎(神戸大院・理)
* 丹野夕輝(静岡大・農,岐阜大・院・連農),山下雅幸,澤田 均(静岡大・農)
静岡県中西部の伝統的な棚田と茶草場には多くの草原性草本種が
生育している。しかし、近年、棚田と茶草場は急激に減少しており、
その保全が急務である。適正な保全戦略を立てるためには、群集構
造を深く理解する必要がある。そこで本研究では、種多様性の空間
パターンを調査し、環境条件および分散プロセスが植生に及ぼす影
響を推定した。
2012 年 7 月から 12 月に、静岡県菊川市倉沢から島田市神谷城ま
での範囲(3km2)で調査を行った。棚田 2 ヵ所と茶草場 15 ヵ所に、
コドラート(2.25m2)をそれぞれ 5 ∼ 20 個設置し、コドラート内の
出現草種、開空率、土壌の体積含水率を測定した。20 万分の 1 表層
地質図および土壌図をもとに、各コドラートの表層地質と土壌のタ
イプを特定した。
Additive diversity partitioning の結果、生育地タイプ間 - β - 多様性、
場所間 - β - 多様性は観測された種多様性のそれぞれ 31% と 46% を
説明した。この地域の草本種の高い種多様性は、生育地タイプ間
と場所間のβ - 多様性に起因することが分かった。MEM(Moran’s
eigenvector maps) の結果、3 つのスケール(40m 未満、60 ∼ 180m、
300m 以上)の MEM 変数が選択された。Variation partitioning の結果、
生育地タイプ、表層地質と土壌のタイプおよび 60 ∼ 180m スケール
の MEM 変数が植生に強く影響していた。β - 多様性を維持するた
めには、棚田と茶草場ごとに、表層地質や土壌が異なる場所を保全
すべきだと考えられた。また、草本種の分散プロセスを確保するた
めには、これらの生育地間の距離を 60 ∼ 180m 以内に保つ必要があ
ることが示唆された。
ホソバヘラオモダカはオモダカ科ヘラオモダカの変種で兵庫県南
部にのみ分布する。近年個体数の減少が著しく 2012 年環境省レッド
リストでは絶滅危惧種 IA 類 (CR) とされている。過去の研究例は少
なく、その生態や減少要因については分かっていない。本研究では
母種であるヘラオモダカとともに繁殖生態について研究を行った。
圃場にてホソバヘラオモダカとヘラオモダカを栽培し、経時的な
花茎数、花数及び最終結実集合果数を記録した。花茎数では両者に
差はなかったものの、ホソバヘラオモダカは一株当たりの花数が少
なく、1 花当たりのそう果数も少ないため 1 株当たりの種子生産数
は平均 7200 粒とヘラオモダカの平均 14800 粒に比べておおよそ半分
となった。ホソバヘラオモダカの種子生産能力がヘラオモダカより
も劣っていることが示唆された。
交配システムを調べるために (1) 放置 ( コントロール )、(2) 同花内
での人工受粉 ( 自家受粉 )、(3) 同個体の別の花との人工授粉 ( 隣家受
粉 )、(4) 他個体の花との人工授粉 ( 他家受粉 )、(5) 袋掛け、(6) 開花
前の花を除雄して袋掛けの 6 条件で 1 花当たりの結実数を記録した。
結果はホソバヘラオモダカは (1)9.8、(2)5.8、(3)6.0、(4)7.1、(5)9.0、
(6)0.2、 ヘ ラ オ モ ダ カ は (1)15.0、(2)7.9、(3)7.3、(4)6.2、(5)15.3、
(6)1.1 となった。どちらも (2) の処理 ( 自家受粉 ) で結実が見られた
ことから自家和合性が確認された。(5) の袋掛けを行った処理は (1)
のコントロールと並んで高い結実数を示したことから自動自家受粉
を行っていることが示唆された。これらから両者ともに生育地では
自家受粉が卓越していると考察した。またホソバヘラオモダカとヘ
ラオモダカを人工交雑させた条件 ( 変種間交雑 ) でも結実が確認さ
れた。変種間において生殖隔離はなく、交雑が可能であることが示
された。
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和歌山県沖ノ島におけるタイワンジカのハビタット選択
マメナシ局所集団における遺伝子流動と繁殖に関わる要因
に観光客が与える影響
* 牧村郁弥(岐大院応生),鶴田燃海(岐大応生),今井淳(岐大院農),
加藤珠理(森林総研),向井譲(岐大応生)
* 松本悠貴(徳島大・総合科学),山城考(徳島大・院・ソシオ・アーツ・
アンド・サイエンス)
マメナシは愛知県・三重県の湿地周辺等に自生するバラ科ナシ属
の落葉小高木である。近年の都市開発等により生育地は孤立し個体
数は減少しており、環境省により絶滅危惧Ⅰ B 類に指定されている。
各生育地では実生がほとんど見られないが、約 0.3ha の範囲に 32 ジ
ェネットが生育する三重県の多度自生地では多数の実生が存在し、
天然更新が期待される数少ない自生地とされる。本研究では、マメ
ナシ全体の保全を目指して、多度自生地における花粉を介した遺伝
子流動を把握し、また遺伝子流動に影響を与える要因の推定を行う
事を目的とした。
多度自生地内の成木より、2009 年および 2011 年に、それぞれ 4
個体(ID: t02, t21, t38, t47)と 6 個体(ID: t02, t21, t26, t27, t31, t47)
から合計 543 種子を採取し、核 SSR マーカー 9 座により遺伝子型を
決定した。Cervus により花粉親の推定を行った。繁殖に影響を与え
ると考えられる、個体間距離、血縁度(Relatedness)
、自家不和合性、
個体サイズ等の要因を説明変数とし、ある花粉親由来の種子数を応
答変数とした一般化線形モデルを構築した。そして AIC を基準とし
たモデル選択を行って繁殖に影響を与える要因を探索した。
多度自生地外の 2.0 ∼ 7.1km の範囲に散在する孤立個体との交配
は、花粉親が決定できた 538 種子中 12 種子(約 2%)であり、交配
のほとんどが自生地内で完結していた。集団内の遺伝子散布につい
ては、近距離で自家不和合性対立遺伝子が重複しない個体とより交
配しやすいと推定され、近距離の交配が優占していた。加えて、わ
ずかながら個体サイズ等も影響を及ぼすと推定された。
218
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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岩手県と福岡県における育雛期サシバの給餌動物種およ
貯水ダムの出現が河川内有機物に与える影響の評価
びその重量の地域差
* 坂東伸哉,河口洋一(徳島大・工),大串浩一郎(佐賀大・工),野崎健
太郎(椙山女大・教),野口剛志,手塚公裕(佐賀大・工),濱岡秀樹(水
産研),関島恒夫(新潟大・農)
* 神水彩花(岩手大・院・農),東淳樹(岩手大・農),板谷浩男((株)
緑生研究所),鈴木篤博((株)緑生研究所),金子健太郎((株)緑生研究所),
伊関文隆(希少生物研究会)
サシバ Butastur indicus は主に谷津田を含む中山間地域で繁殖する
猛禽類で減少傾向が著しい。水田の転作や耕作放棄の進行により,
本種の生息地機能が低下しつつあることがその要因の一つと考えら
れている。本研究では,本種の育雛期における給餌動物の地域差を
把握するため,福岡県と岩手県において比較を行い,その違いを明
らかにすることを目的とした。
本研究では,岩手県花巻市の二か所,福岡県糸島市の一か所の繁
殖巣を調査対象とした。営巣木に小型カメラを設置して録画した映
像を解析し,映像上で給餌された動物の体長を計測し,重量を推定
した。
給餌回数割合は,岩手県ではカエル類が高いのに対し,福岡県で
は多足類・昆虫類が高かった。これは,営巣地周辺の環境の差異と
食物動物の発生消長の違いが影響していると考えられる。また,岩
手県では給餌回数割合が高いカエル類が給餌重量割合においても 5
割を占めたのに対し,福岡県では給餌回数割合の低いカエル類が 6
割を占め,給餌回数割合の高い多足類・昆虫類はともに 1 割に満た
ず,回数と重量の割合が逆転した。つまり,給餌重量の面からみる
と,福岡県の繁殖巣は岩手県よりも給餌効率が悪いといえる。また,
福岡県の繁殖巣では,岩手県と比べて雛一羽あたりの給餌重量が少
なく,岩手県では見られなかった兄弟殺しが確認され,給餌量が不
足している可能性があった。栄養面から見ても多足類・昆虫類は給
餌動物としては利用価値が低い分類群かもしれず,今後の研究が必
要である。また,巣立ちまでの日数は福岡県の方が長かった。
どちらも例数が少ないため一般的な地域差とは言い切れないが,
給餌面において,岩手県は福岡県よりも育雛において有利である可
能性が推察された。
ダム建設は下流の有機物動態を変化させ、河川生態系に影響を及
ぼす。ダムが付着藻類や堆積有機物等の河川栄養基盤に及ぼす影響
については、これまでにも複数の研究が行われてきた。しかし、こ
れらはダム運用後からの調査であり、ダム湖出現前後にあたる試
験湛水の開始前後で比較を行った研究はほとんどない。本研究は、
2010 年 10 月に試験湛水を開始した嘉瀬川ダム(佐賀県)の上下流
を対象に、試験湛水前後で付着藻類、堆積有機物等に生じる影響を
量的・質的に評価した。
調査は、試験湛水開始前(湛水前)の 1 年間に 11・4・7 月の季節
で 3 回、試験湛水開始後(湛水後)の 2 年間に同季節で 6 回実施した。
調査地は、ダム上流に 1 地点(St.1)、下流に 3 地点 (St.2,3,4) 設置し、
付着藻類、堆積有機物 FPOM、流下有機物 FPOM(1 μ m ∼ 1mm)・
CPOM(1mm ∼ 16mm)を採取した。付着藻類は、Chl-a 量、種組成
の同定により評価し、堆積有機物は、強熱減量、炭素・窒素安定同
位体比(δ 13C・δ 15N)により評価した。
付着藻類の Chl-a 量は、湛水後に St.3 で顕著に高くなった。また、
種組成では、St.2 で湛水後に藍藻の割合が増加した。この要因として、
試験湛水開始に伴う放流量の制御により、下流での攪乱が減少した
ことが挙げられる。堆積有機物 FPOM のδ 13C・δ 15N の結果から、
St.2 の湛水後 4 月でδ 15N が顕著に高い値となった。この要因として、
ダム湖内で発生する植物プランクトンが考えられる。湛水後の 4 月
で、ダム湖内の Chl-a 量が最大であったことから、ダム湖内での植
物プランクトンの活発なブルームにより溶存態窒素が減少し、プラ
ンクトン自体のδ 15N が高くなり、それらが下流に流下したためと
考えられる。
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里山公園における市民の活動前、活動後の変化
水田雑草は環境評価指標生物として有効か?伊那盆地に
* 伊藤邦泰(明大院・農),倉本宣(明大・農)
おける基礎的研究
* 松下遼太(信州大院・農),大石善隆,大窪久美子(信州大・農)
水田環境は多くの水生生物のハビタットとして重要であるが,近
年は,かつての普通種の減少や絶滅が危惧されている貴重な二次的
自然である.水田地域の保全策を検討する場合には優先して保全す
る水田の評価手法や選抜が必須となる.しかしながら水田環境の生
物相は複雑で,その環境評価手法は開発されておらず、指標種によ
る簡易な手法の開発が期待される。発表者らは,水田雑草には環境
変化に敏感なウキクサやウキゴケなどの種の存在が知られているこ
とに注目し,これらを指標種とした水田環境の評価手法の開発を目
指している.そこで本研究では,水田雑草の生育状況および分布に
与える環境要因の影響を把握し,水田雑草についての環境指標性を
検証した.
調査地には長野県伊那盆地北部における立地環境の異なる水田
地域を 10 地区選定した.地区の特徴が包含される 20ha(500m ×
500m)内において,水田 40 筆を選出し,1 筆を 1 プロットとした.
調査方法については,各地域における水田内に生育する水田雑草の
分布を調査した.立地環境調査としては,各地域のプロット毎に本
田内の水質および冬季の土壌含水率を測定した.また各地域におい
て土地利用状況を踏査調査し,管理や農事歴,土地改良史について
は関係者に聞き取りを実施した.解析は大(地区レベル),中(100
㎡コドラートレベル),小(水田 1 筆レベル)の 3 つのスケールで評
価し,総合的な水田雑草の指標性を検証した.
出現種では,絶滅危惧種は 12 種であった.そのうちの 7 種は沈
水植物で,4 種が浮遊植物であった.全出現種は希少種および共通
種,強害草種の 3 タイプに分けられた.また,出現傾向の要因とし
て,標高や市街化,水分環境の他,地理性の影響がみられた.今後は,
水田雑草の環境評価値を設定し,伊那盆地における環境評価モデル
を試みたい.
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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冷温帯下部の一流域における里地里山のトンボ群集構造
湿原の縮小を決める局所的な要因とそのメカニズム
は何によって決まるか?
* 山口紘史(東北大・生命)佐々木雄大(東大・新領域)彦坂幸毅(東北大・
生命)中静透(東北大・生命)
* 荒川諒(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信州大・農)
近年、里地里山地域における生物多様性の低下が問題となってお
り、特に水辺環境をハビタットとするトンボ類については、流域内
での土地利用や農業形態の変化等の影響を受け、種の減少や絶滅が
引き起こされている可能性が考えられる。そこで本研究では一流域
内におけるトンボ類群集の保全策を検討するため、トンボ類群集の
構造と立地環境との関係を明らかにすることを目的とした。調査地
は長野県伊那盆地の新山地区で、代表的な土地利用を含む直径 500m
円を 6 地域選定した。トンボ類の調査は、各地域約 200m のルート
を 10 本設置し、ルートから半径 5m 以内に出現したトンボ類を記録
するルートセンサス法で行い、2012 年 5 月∼ 10 月まで各月 2 回調
査した。全地域の総出現種数は 8 科 38 種で、トンボの環境指数 ( ト
ンボの環境指数 2007 に準拠 ) の値は 120 だった。本指数は一般にや
や自然度の高い池では約 90 ∼ 110 で、調査地域はトンボ類にとって
良好な環境が保たれている場所であると評価された。TWINSPAN 解
析の結果、全ルートは河川や水田、湿地、池などの各水環境が隣接
する 5 グループに分割され、出現種はサナエトンボ科やトンボ科ア
カネ属などルート上の水環境によって 6 群に分割された。調査地域
のような里地里山においては、点在する豊富な各水辺環境がトンボ
類の種数を維持していた。その中でも、草刈りが行われる湿地では
ハッチョウトンボ等が出現など、人為的な管理が良好な環境を創出
していることも考えられた。また、各種群においてルート上に隣接
する樹林や畦畔でも出現していた。このことから、各水辺環境に隣
接する樹林や畦畔は、採餌や成熟の場としての役割がある一方で、
日陰になる空間を作り出し、一部のトンボ類にとって重要な隣接環
境と考えられた。
湿原は環境変化や温暖化の影響に対して脆弱であるといわれてい
るが、湿原の縮小に関する基礎的知見は十分ではない。実際の湿原
の縮小は空間的に不均一に起こっており、局所な縮小の変異の大き
さと空間スケール、そして縮小現象の環境依存性を知ることは、湿
原の縮小プロセスを考える上で極めて重要である。本研究では縮小
程度が異なる場所の環境条件の違いを明らかにし、縮小メカニズム
を推測することを目的とした。
調査は、青森県八甲田山系の標高 570 ∼ 1286m にある標高の異な
る 5 つの湿原で行った。湿原の縮小度の環境依存性を明らかにする
ため、縮小度をもとにプロットを設定し、標高、pH、EC、傾斜、冬
期の地温、地下水位について現地調査を行った。縮小の有無と関連
して、湿原および周辺の植生の種組成と環境要因の関係を調べるた
め CCA を行った。また湿原の縮小を引き起こす環境要因を調べるた
め、湿原縮小の有無を応答変数にして GLMM を行いモデル選択を行
った。
CCA を行った結果、縮小の有無による種組成の違いは見られず説
明率も低かった。これは、特定の種の侵入が湿原の縮小を引き起こ
しているわけではなく、他の要因によって決まっていることを示唆
している。標高・傾き・凸凹度・EC・pH を説明変数とした GLMM
の結果、傾きと凸凹度を入れたモデルが採用された。この結果から、
微地形の違いが縮小を決める大きな要因であることが明らかになっ
た。また凸凹度と雪解け日は強い相関があり、雪解け日は平均水位
や過湿期間・生育期間と相関をもっていた。これらの結果から、①
局所的な地形の違いが雪解け日のずれを生み、②雪解けが早いとこ
ろは水位の低下や生育期間の増加が起こり侵入植物の生育に有利な
環境条件になり、③徐々に侵入種が定着・成長することで湿原が縮
小する、という縮小メカニズムが推測された。
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地方小都市・駒ケ根市の緑地及び孤立林における指標植
水田の放棄とエサ生物のフェノロジーがサシバの生息に
物を用いた生物多様性評価
与える効果
* 藤原望海,大石善隆,大窪久美子(信大・農),渡辺太一(信大院・農),
佐々木邦博,上原三知(信大・農)
* 福島央,黒江美紗子,直江将司,藤田剛,宮下直
近年、我が国の生物多様性を損なう要因の一つに二次的自然の減
少が上げられる。二次的自然の一つである谷津田では、農地整備や
宅地化などによる分断化に加え、大規模な耕作放棄が進んでいる。
谷津田の適切な管理はそこを主な生息地とする象徴種であり、高次
捕食者であるサシバの保全につながると考えられるが、耕作放棄が
サシバを含んだ食物連鎖にどのような影響を及ぼすかについての科
学的知見は乏しい。
本研究では、サシバの分布境界である秋田市周辺と分布中心の佐
倉市周辺において、サシバとその主な餌のカエルの分布調査を行っ
た。分布境界に近づくにつれ気候が寒冷になり、カエルの発生ピー
クは分布中心よりも遅れて、生息数も少なくなっていることが予想
されるため、分布境界の秋田ではサシバの生息が可能な餌量の下限
に近いと考えられる。したがって、耕作放棄のサシバへの影響は佐
倉よりも秋田で大きいと予想された。
仮説検証のため、佐倉と秋田で 1) サシバの在不在がカエル個体数
と関係があるか 2) それらのカエルの密度が放棄田と耕作田で異なる
かを、季節変化の違いも含め、解析した。加えて、放棄の影響を明
確に示すため 3) 実際の放棄地がすべて耕作地だったとした場合に
期待される潜在的なカエル個体数と実際の個体数の比較も試みた。
佐倉ではカエルの個体数が多い谷津でサシバが生息し、特にトウ
キョウダルマガエルの個体数がサシバ生息の説明に重要とする傾向
があった。佐倉、秋田ともに放棄田では、カエル個体数が少ないこ
ともわかった。加えて、佐倉に比べ秋田はカエル成体の発生ピーク
がやや遅く、密度は佐倉より大きい傾向があった。
以上から、耕作放棄がカエルを減少させ、その結果サシバも減少
させている可能性があること、そして分布境界では発生時期の遅れ
などによって、サシバが利用できる餌資源量が減少するため、耕作
放棄の影響をより受けやすい傾向があると考えられた。
生物多様性国家戦略 2010 以来、地域における生物多様性保全の実
践を図るため、地方自治体の市町村単位での戦略の策定が求められ
ている。本研究は地方小都市の長野県駒ヶ根市を事例地として、指
標種を用いた植物種の生物多様性を評価する手法を検討し、また保
全上重要な緑地の選定および保全策を提案することを目的とした。
調査地は市内の社寺林や河畔林、段丘林において面積 1ha 以上の
孤立緑地が 10 ケ所選定された。なお、全調査地は標高 900m 以下に
位置し、植生帯としては夏緑広葉樹林帯の下部にあたる。
指標植物種には、微環境の影響を受けやすいとされるシダ植物、
湿潤な条件に適応した着生植物、種子散布能力の低いアリ散布植物、
自生地の環境変化の影響を受けやすいラン科植物が選定された。分
布調査は各調査地を踏査しながら、これらの指標植物の出現の有無
が記録された。同時に立地環境条件として、岩場や石垣などの微地形、
二次林パッチの有無等を記録した。また、空中写真を用いて各調査
地の面積および、河川や山林からの距離を算出した。
各指標植物の種数と環境要因との関係についてステップワイズ変
数選択を用いて重回帰分析を行った結果、アリ散布植物の種数は、
面積および二次林パッチの増加にともなって増加する傾向がみられ
た。シダ植物の種数は川からの距離が近いほど増加し、ラン科植物
も川からの距離と二次林パッチの有無が種数に影響している。着生
植物の出現種数は少なく、モデルの構築にはいたらなかった。
これらの結果より、大面積の緑地は生物の保全にとって重要であ
るが、その緑地内の環境についても配慮する必要があることが示唆
された。本研究より、複数の指標生物を用いることで多角的に都市
の生物多様性を評価することができ、より効果的な保全計画につな
がることが期待される。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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外来種オオカワヂシャと在来種カワヂシャの生育環境の
半島マレーシア熱帯生産林において、伐採残渣は小型哺
比較:河川の水位と水没期間に注目した出現環境の比較
乳類の多様性を増加させた
* 松原 豊,酒井聡樹(東北大・院・生命科学)
* 吉田 聡,山田敏弘,奥田敏統(広島大・総)
急速に分布拡大する外来種がどのような環境に侵入するのかとい
うことは、今後の侵入予測や、希少在来種への影響などの点で注目
されている。また外来種と近縁な在来種は、ニッチが重複しやすい
ために生育環境を奪われる可能性がある。そのため、在来種との競
合関係の把握は重要である。
河川の水辺環境に生育する種の場合、洪水などの撹乱に注目して
生育環境を解析する必要がある。しかし、撹乱に注目した種間の生
育環境の比較研究は少ない。そこで我々は、河川水辺環境に出現する、
外来種オオカワヂシャと在来種カワヂシャの生育環境を比較した。
調査は、オオカワヂシャが比較的最近侵入したとされる関東地方
の鬼怒川流域と、より以前に侵入したとされる関西地方の淀川・大
和川流域にて行った。河川岸に垂直なライン状コドラートを作成し、
コドラート内に 1m2 のサブコドラートを設け、開花個体数と微環境
を計測した。近隣の水位観測所の水位データから、生育期間中の水
没期間や水位・水没回数のデータも得た。両地域で種子を採取し、
実生を用いた生育実験も行った。
その結果、関東地方のオオカワヂシャは水没回数が多いと出現し
にくいが、関西地方では水没回数に関わらず出現することがわかっ
た。関西地方では、カワヂシャよりも長期間水没する場所に出現す
る傾向を示した。生育実験では、関東地方のオオカワヂシャは水没
期間や回数が増加すると成長量が減少するが、関西地方のオオカワ
ヂシャにはそのような傾向が見られなかった。
これらの結果から、オオカワヂシャは、関東地方と関西地方とで
生態的に分化している可能性が示唆された。侵入して間もない関東
地方では撹乱に十分に耐えることができず、侵略性もやや低いとい
える。一方、より古くに侵入した関西地方では撹乱に耐える侵略性
を獲得しており、カワヂシャの生育に悪影響を及ぼしていると結論
される。
森林生態系において、倒木は小型哺乳類の営巣場所や餌場を提供
するなど重要な役割を持っている。しかし熱帯では択伐が行われた
後、倒木が長期にわたり減少することが知られており、倒木に依存
した小型哺乳類の多様性が減少する恐れがある。一方、伐採木の林
冠部や巻き沿い木などの伐採残渣は哺乳類の多様性を向上させる可
能性があるが、その取扱いに関する規制は存在しない。そこで我々は、
半島マレーシア北部の択伐林において、伐採後林内に放置された伐
採残渣が小型哺乳類の多様性向上に貢献するかどうか確かめること
を目的として調査を行った。
調査は 2012 年 8 月に、マレーシア・ペラ州に位置するテメンゴー
ル保護林において行った。調査区には 2010 年の伐採の際に発生した
伐採残渣が残置されている。これらの伐採残渣に対し 1 台ずつ、計
18 台の自動撮影装置を取り付け、コントロールとしてそれぞれの伐
採残渣から 25m 以上離れた地上に自動撮影装置を 17 台設置し、10
日間撮影を行った。自動撮影装置に写った個体を種、または属レベ
ルでカウントし、伐採残渣有・無群間で種数、シャノン・ウィーナ
ーの多様性指数 (H’)、各種の出現回数の比較を行った。
結果、残渣無群に比べて残渣有群の方が種数、多様性指数ともに
有意に高かった。このことは伐採残渣が小型哺乳類の種多様性を向
上させることを示している。さらに、出現した小型哺乳類の各種の
出現回数を 2 群間で比較すると、11 種類中 7 種が残渣有群で、1 種
が残渣無群で有意に多く出現していた。残渣有群の出現が多い種の
多くは餌資源や営巣に倒木を利用する種や樹上性の種であり、残渣
無群の方が多く出現した種は地上性で地下に営巣する種であった。
これらのことから、長期的に天然の倒木の減少を抑制する低インパ
クト伐採等と合わせて伐採後に伐採残渣の管理・活用を行うことで、
小型哺乳類の多様性保全が効果的に行えるといえる。
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ウツセミカジカの生息場所の物理的環境条件
徳島県のブナ林に対する気候変動の影響のシミュレーシ
* 小澤真帆,伊藤琢哉,吉田直子,小澤元生,稲井拓人(龍谷大院・理工),
遊磨正秀(龍谷大・理工)
ョン実験
* 森健介(兵庫県立大・シミュ学研),伊勢武史(兵庫県立大・シミュ学研)
魚類などは,成長段階によって生息場所を変えているといわれ,
様々な成長段階での生息環境を把握することが重要である.ウツセ
ミカジカ (Cottus reinii ) は琵琶湖固有種であり,分布上重要種とされ
ているが,その小型個体の生息場所についてはまだ知見は乏しい.
そこで,河川に生息するウツセミカジカが各成長段階でどのような
物理的環境の生息場所を選択しているのかを明らかにし,本種の生
活史全体を支える環境を備えた河川のあり方を究明することを目的
とした .
琵琶湖流入河川である和田打川下流部で行った.調査域として,
物理的環境が多様な区間 (48.5m) を設定し,水深,流速,底質を測った.
採取したウツセミカジカは体長 , 全長を測り , 各成長段階の生息場所
の選択性を,Ivlev の選択指数により解析した.
ウツセミカジカの小型,中型個体は 60㎝ / 秒以上の流速の速い場
所を選択していた.底質については,各成長段階で異なる礫サイズ
を生息場所として利用していた.地図による河川環境と本種の分布
の比較でも,小型個体が,より流速の速い場所を生息場所として選
択していることが明らかになった.
また,2011 年 9 月 2 日と 9 月 21 日に台風による河川環境の変化
があったため,その変化の前後で生息場所の比較をした.そして,
2011 年 11 月以降に行われた河川の改修により起こった環境の変化
と,その変化によってウツセミカジカの生息場所がどのように変化
したかについて報告する.
221
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-325
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佐渡固有のツチガエル近縁種における空間分布と遺伝的
外来種駆除に伴う混獲の実態と対策:捕獲場所と時期に
構造
着目した具体的な混獲軽減策の提言
* 山中美優(東大・農),小林頼太,関谷國男(新潟大・超域),宮下直(東
大・農)
* 高屋浩介(北大院環境科学),阿部豪(兵庫県立大),佐鹿万里子(北大
院獣医学研究科),金子正美(酪農学園大),小泉逸郎(北大院環境科学)
サドガエルはごく最近記載された佐渡固有種であり、トキのエサ
動物としても注目されている。その分布は佐渡島の水田を中心に、
不連続に広がっている。サドガエルは幼生のまま越冬するため、水
田の中干しや冬期乾田などの乾田化が分布の制限要因として考えら
れ、生息地の縮小、分断化を引き起こしていると考えられる。一方、
佐渡島ではトキと共存する自然共生社会を形成する活動の一環とし
て、冬期湛水や江(水田の周囲の溝)の設置などの環境保全型農業
が推奨されている。こうした活動は、サドガエルの個々の生息地の
質を高めるとともに、生息地間の連結性を高める可能性があると考
えられるが、そのためには個体群を維持し増加させるうえで効果的
な保全・再生の場所を空間明示的に特定する必要がある。
本研究では、景観遺伝学的な手法を用いて生息地間の分断化の程
度や生息地の質を評価することで、環境保全型農業によるサドガエ
ルの保全、生息地の再生に役立てることを最終的な目標とする。空
間遺伝構造は、近過去の絶滅や再定着、分布の拡大縮小などの歴史
を反映した総体であるため、上記の評価に適していると考えられる。
材料として、2012 年 6 月に佐渡島で採取したサドガエル 24 集団 288
個体を用い、マイクロサテライト 7 座位においてフラグメント解析
を行い、Nei の F 統計量や、個体の遺伝構造のクラスタリング、距
離に重み付けをした分子分散分析などを用い、サドガエル集団の遺
伝構造を推定する。さらに遺伝構造と地形や土地利用などの地図情
報を照らし合わせて移動分散の障壁となる景観要因を類推する。
生物多様性に影響を与える外来種への対策は、世界中で実施され
ている。特に捕獲による駆除が一般的に行われているが、対象種以
外を捕獲する「混獲」が懸念される。混獲問題は水産学では盛んに
研究されているが、外来種に関する知見はほとんどない。混獲が在
来生態系や対象種の捕獲に影響を与えている可能性もあるが、それ
を評価するためのデータは少なく、科学的な実態解明が不可欠であ
る。本研究では、日本の侵略的外来種ワースト 100 に選定されてい
るアライグマを事例として混獲についての基礎的な情報を提示した。
また、混獲を減らすための効果的な対策についても考察した。
対象地域は、継続的にアライグマの捕獲が行われている北海道野
幌森林公園とした。捕獲には箱ワナが使用された。本研究では北海
道森林整備公社の 2009 ∼ 2011 年のデータを使用した。調査地は早
期の対策により、北海道内の他地域と比較してアライグマの生息密
度が低いため、他動物の混獲が多いと考えられる。
合計 9.252 トラップナイトにより捕獲された生物の個体数はのべ
707 個体(同一個体の複数回捕獲を含む)であった。しかし、対象
であるアライグマは 45 頭であり、捕獲全体の 94%が混獲であるこ
とが明らかになった。哺乳類ではタヌキの混獲頻度(148 回)が最
も高かった。一方、カラス(204 回)、ヒヨドリ(91 回)など鳥類の
混獲も目立った。解析の結果、アライグマと異なる場所や時期に混
獲されている種が存在することが明らかになった。つまり、捕獲の
場所や時期を考慮することにより、混獲を減らすことができる可能
性がある。今回の結果により、多くの混獲が明らかになっただけで
なく、混獲を減少させる余地があることが示唆された。
P1-327
エゾシカ (Cervus nippon yezoensis ) のハビタット選択
P1-328
の季節変化によってバイカモ類の生育は妨げられるか?
現状 -ダムは水温上昇を加速させるのか-
* 青谷克哉(酪農学園大学院・野生動物),日野貴文(酪農学園大学院・
野生動物),吉田剛司(酪農学園大学院・野生動物)
* 竹川有哉(徳島大院工),河口洋一(徳島大院工),谷口義則(名城大理工)
世界遺産・知床の冷水性サケ科魚類を脅かす水温上昇の
近年、温暖化が魚類群集に及ぼす影響に関する研究は予測から実
証に移っている。イギリスでは 20 年間の実測データから、気温・河
川水温の上昇とサケ科魚類幼魚の密度減少が報告された。日本の年
平均気温も 100 年間で約 1.15℃上昇しており(気象庁)、冷水性魚類
への影響が懸念される。さらに、上流域における森林伐採やダム設
置といった人為的改変が、温暖化による水温上昇に拍車をかけると
考えられるが、国内の研究例は少ない。
本研究の対象地である知床半島には冷水性魚類のオショロコマが
生息している。同地域は世界における同種の分布南限にあたること、
砂防・治山ダムが 300 基以上設置されていることから、温暖化や人
為的改変が水温上昇に及ぼす影響を調べる対象モデル系として適し
ている。本研究では、1999 − 2001 年と 2006 ∼ 11 年間に知床半島
の西岸 15 河川、東岸 26 河川を対象に、ロガー式水温計による夏季
の水温計測、エレクトリックショッカーによる魚類調査、物理環境
調査を行ってきた。
知床半島の西岸河川と東岸河川で 8 月の平均水温を比較した結果、
西岸は東岸と比べて全体的に高かった。これは、8 月の日照時間、
平均気温が西岸は東岸と比べて高いことが影響していると考えられ
た。河川ごとに比較すると、西岸ではダム密度の高い川で水温が高
く、ダムがない川では水温が低かった。東岸では全体的に水温が低
く、ダム密度との関係性は明瞭ではなかった。これらのことから日
射による水温度上昇がダムの存在により加速している可能性が示唆
された。そこで、水温上昇を引き起こす要因についてより詳細な検
討をするため、水温を目的変数に、物理環境データと GIS から抽出
できる景観データを説明変数とする統計モデルによる解析を行った。
その結果についてはポスター発表で報告する。
シカの採食・踏圧による陸生植物への影響は研究が多い一方で、
水生植物における知見は限られ、その影響把握さえ十分に検討さ
れていない.本研究では,近年エゾシカの生息数が増加している北
海道西部の千歳川水系ママチ川において,絶滅危惧Ⅰ B 類 ( 環境省
2012) に指定されているバイカモ類・チトセバイカモに対するエゾシ
カによる影響の有無,影響に介在する要因を検討した.
エゾシカによる影響の有無を検証するため,エゾシカの進入を阻
む構造物を用いた操作実験を行った.並んだ 2 つのバイカモ類のパ
ッチのうち片方にシカの侵入を防ぐネットを設置し,2012 年 8 月か
ら 2013 年 2 月まで両パッチの茎長の平均を比較した.さらに自然環
境下におけるバイカモ類の茎長に介在する要因を検討するため,52
箇所のバイカモ類のパッチを対象に茎長の平均,水深,半径 1m 以
内の倒木の有無,水面での光量を計測し,GLM を用いて要因分析し
た.
操作実験の結果,エゾシカの侵入を阻む構造物を設置したパッチ
では対照区に比べ有意に茎長が長く (12 月,P < 0.05),エゾシカが
茎長を短くしていることが示唆された.また,自然環境下において
バイカモの茎長は,水深が深く,倒木がある場所で有意に長く ( 共
に P < 0.01),一方で光量による有意な影響はなかった.これは調査
地であるママチ川は閉鎖林冠下を流れるため,光量に差はなく,水
深が深く付近に倒木が有る,つまりエゾシカの採食・踏圧を受けに
くいパッチでは,バイカモの生育が良いと考えられる.発表では自
動撮影カメラを用いたエゾシカの河川利用の季節変化のモニタリン
グ結果と合わせて考察する.
222
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-329
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野辺山高原の異なる地点における絶滅危惧種アサマフウ
東京都町田市の里山におけるニホンアカガエルとトウキ
ロの訪花昆虫
ョウダルマガエルの餌資源利用について
* 近藤綾希子(信大院・農),大窪久美子,大石善隆(信大・農),四方圭
一郎(飯田美博)
八木愛(麻布大院・獣)
・福山欣司(慶応大・生物)
・戸金大(明治学院大)
・
高槻成紀(麻布大院・獣)
虫媒による花粉のやりとりで受精を行う植物にとっては、生育場
所に適切な送粉昆虫が訪れることが種子繁殖を行う上で重要である。
アサマフウロ(Geranium soboliferum Komar.)は八ヶ岳や浅間山周辺
などに限られた分布を示す草原性植物で、環境省版 RDB では絶滅危
惧Ⅰ B 類(EN)、長野県版 RDB では準絶滅危惧(NT)に指定され
ている。遠藤ら(2003)による昆虫排除実験で、本種は虫媒による
他家授粉を行っていることが明らかになった。その際、訪花昆虫の
90% 以上を膜翅目が占めており、特に外来種であるセイヨウミツバ
チが多くみられたことから、野辺山高原における本種の送粉系が在
来種も組み込まれた従来の多様性をもつものであることを確認する
必要性が指摘された。本研究は、本種の訪花昆虫相、開花フェノロ
ジー、結実率を調べ、野辺山高原において本種の種子繁殖を支える
送粉系について考察することを目的とした。3 年間の訪花昆虫調査
結果によって、野辺山高原のアサマフウロはハチ目ではハナバチ類
(コシブトハナバチ科・コハナバチ科・ムカシハナバチ科・ミツバチ
科・ハキリバチ科・ヒメハナバチ科)と、スズメバチ科・ドロバチ科・
ジガバチ科・ベッコウバチ科・ヒメバチ科・アリ科、ハエ目ではハ
ナアブ科チョウ目ではセセリチョウ科・シロチョウ科・ジャノメチ
ョウ科、その他カメムシやゾウムシなどで構成される訪花昆虫相を
もつことがわかった。特にコシブトハナバチ科とコハナバチ科はほ
ぼすべての調査地点で毎年確認されていたことから、野辺山高原の
種の安定した送粉において重要であると考えた。また、結実率は年
毎の訪花量の全体の傾向に合わせて増減していたことから、確認さ
れた訪花昆虫種群が送粉機能を有していることが示唆された。
谷津田と雑木林が隣接する里山はカエル類にとって重要な生息地
であり、しばしば複数種が生息する。複数種のカエルの資源分割を
解明するために、東京都町田市の里山でニホンアカガエル ( 以下、
アカ ) とトウキョウダルマガエル ( 以下、ダルマ ) の食性を 2010 年
と 2011 年の 2 年間調べた。また、アカとダルマの捕獲地点から生息
地利用についても調べた。2011 年には餌資源に対する選択性をみる
ために、餌供給量を掃除機とスウィーピング法で小動物を採集し、
餌資源供給量を調べた。アカはおもに草地と林縁、ダルマは水環境
を利用していた。食性は、アカもダルマもクモ、鱗翅目幼虫をよく
利用していたが、食性の類似性は、2010 年も 2011 年も 0.4 ∼ 0.6 で
違いが大きいことがわかった。両者の食性のおもな違いは、アメン
ボやエビ・カニ類といった水生生物がダルマのみから出現し、アカ
ではミミズやムカデ類、ヨコエビといった土壌動物の割合が大きか
ったことである。また、ダルマはアリを多く食べていたが、アカは
アリを忌避した。こうした違いは、アカは餌動物を探して動くが、
ダルマは餌を待ち伏せして、目の前に現れた餌動物をなんでも食べ
る傾向が強いためと考えられる。アカとダルマは同じ里山内でもミ
クロハビタットを違えることで、異なる餌資源を利用していると考
えられ、異なる環境が隣接している里山は、この 2 種の共存を可能
としていると考えた。
P1-331
P1-332
ヤクシカは何を食べている? ‐ 胃内容物を用いた食性解
モンゴル・フスタイ国立公園に生息する大型草食獣 2 種
析‐
の生息地利用・食性の比較と森林への影響
* 黒岩亜梨花(九大・生態),田川哲(環境省屋久島自然保護官事務所),
布施健吾,三村真紀子,矢原徹一(九大・生態)
* 大津綾乃,高槻成紀(麻布大・院・獣)
フスタイ国立公園は現存する唯一の野生馬であるタヒが復帰に成
功した公園である。タヒは 1960 年代には野生下で一度絶滅してしま
ったものの、動物園に残っていた個体の繁殖などを経て 1992 年に
16 頭をフスタイ国立公園に導入し、順調に個体数を回復して現在で
は 300 頭以上となっている。また同国立公園にはアカシカも生息し
ている。同所的に生息する複数種の動物が同じ資源を利用する場合、
資源をめぐって競合関係となる可能性が生じる。同時に草食獣が増
加すれば、群落への影響においても問題が起こる可能性がある。そ
こで、大型草食獣であるタヒとアカシカの生息地利用・食性などの
資源利用と、彼らが公園内の森林に与える影響を明らかにすること
を目的とした。生息地利用と食性の結果から、タヒはおもに草原を
利用し、イネ科などの単子葉類を採食するのに対して、アカシカは
森林をよく利用し、単子葉類の他に樹木の葉などの双子葉類も採食
していたことがわかった。このことから、資源利用においては両種
の競合の可能性は低いと考えられた。森林への影響は同国立公園内
の、アカシカの多いフスタイ山周辺とアカシカの少ないシュブーン
峠の 2 カ所において、生息地利用や森林構成木の枯死率、若木の採
食状態を調べた。その結果、フスタイ山周辺では森林構成木の枯死
率が 72.2%、若木の被食率が 77.2% と高かった。一方シュブーン峠
では影響は小さいと予測したが、樹木の枯死率が 52.2%、被食率が
71.6% とフスタイ山同様高い結果となり、今後森林を維持していく
ためには早急な対策が必要であるということがわかった。
日本各地でシカの個体数増加によって林床植生の消失・農林業被
害などの問題が生じている。このため、対策立案のためのさまざま
な調査が行われ、シカの食性についても各地で調査されている。し
かしこれまでの食性調査の多くは野外観察に基づいており、正確に
種を把握できていない可能性がある。また胃内容物を用いた研究で
は種同定が困難であり、大きな分類での評価しかできていない。そ
こで本研究では屋久島に生息するヤクシカを材料とし、胃内容物サ
ンプルについて DNA による種同定を行うことでヤクシカの餌の種
特定を試みた。
調査は屋久島で行い、屋久島猟友会および林野庁の協力を得て 31
サンプルを回収した。回収したサンプルは冷凍保存をして大学に持
ち帰った。CTAB 法により胃内容物から直接 DNA を抽出し、rbcL と
psbA-trnH の二つの DNA 領域を PCR により増幅した。その後 TOPO
TA Cloning Kit を用いてクローニングを行い、シーケンサーにかけ配
列を得た。得られた配列を NCBI および独自に作成いただいた屋久
島植物 DNA データベースを用いて BLAST 検索し種を同定した。
シカ 1 個体から得たサンプルでそれぞれの DNA 領域で 96 個の配
列を決定した。この配列から 98%の塩基相同率で同定できたもの
は rbcL で 12 種、trnH で 7 種であった。このように、胃内容物から
DNA 配列を決定し餌植物種を同定することができた。しかし、高い
BLAST ヒットが得られない配列も多数あった。今後は屋久島に生息
する餌候補植物の配列情報を増やし同定精度をあげるとともに、よ
り多くのシカ個体について分析を行う。
223
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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同所的に生息するウミニナ属巻貝 2 種の空間分布
母系・両系DNAマーカーを用いた日本沿岸に生息する
* 廣瀬公子・伊藤萌(東京大学大学院・新領域),上村了美(国土技術政
策総合研究所),山本智子(鹿児島大学・水産),小島茂明(東京大学大学院・
新領域)
スナメリの遺伝的集団構造の解明
* 會津光博(九大・比文),西田伸(宮大・教育),楠見淳子(九大・比文),
田島木綿子(科博),山田格(科博),天野雅男(長大・水産),荒谷邦雄(九
大・比文)
ウミニナ属 (Batillaria ) は日本の干潟の代表的な巻貝である。奄
美大島以南の南西諸島にはリュウキュウウミニナ B. flectosiphonata
が 分 布 す る と さ れ て お り、 ミ ト コ ン ド リ ア COI 遺 伝 子 に 基 づ く
分子系統解析から、リュウキュウウミニナと姉妹種のウミニナ B.
multiformis との間には明瞭な遺伝的分化がみられるが、その差異は
他のウミニナ属の種間でみられる差異と比べてかなり小さいことが
報告されている (Kojima et al., 2003)。両種は殻の形態変異にオーバ
ーラップが見られるため、同所的に生息している地域では殻形態に
よる種判別が困難である(廣瀬ほか 2012 年度日本貝類学会大会)。
しかし、マイクロサテライトに基づいた解析の結果から、両者は生
殖的にほぼ隔離された別種であることが示唆された(廣瀬ほか 2012 年度日本ベントス学会大会)。
本研究では、同所的に生息する干潟における各種の空間分布を明
らかにすることを目的として、奄美大島北部に位置する坂下川河口
干潟で採集調査を行った。干潟全域にわたって緯度経度一秒ごとに
地点をプロットし、そのうちウミニナ属の集中する 25 点を調査地点
とした。各調査地点、コアを 3 つ設置し、コア内のウミニナ属を上層、
中層、下層と分けて採集した。両種は殻形態による種同定が困難な
ため、ミトコンドリア DNA の塩基配列を基に種判別を行った。その
際、簡便に両種を判別するために、マルチプレックス PCR 法を用い
た 2 種のミトコンドリア DNA の簡易識別法を開発した。本発表では、
これらの手法を用いて同所的に生息する干潟における各種の空間分
布を解析した結果を報告する。
スナメリ (Neophocaena phocaenoides ) は沿岸性の小型鯨類であり、
日本沿岸個体群に関しては、分布の不連続性、頭骨形態の差異、お
よび mtDNA コントロール領域 (345bp) の解析により少なくとも 5 つ
の地域集団 ( 仙台湾∼東京湾、伊勢・三河湾、瀬戸内海∼玄界灘、
大村湾、有明海・橘湾 ) の存在が示唆されている。本研究では両系
遺伝するマイクロサテライト DNA(MS-DNA) と、mtDNA コントロ
ール領域のより長い配列 (853bp) を用いた解析を行うことで、雌雄の
遺伝情報に基づいた日本沿岸個体群の遺伝的構造の解明とその形成
史の解明を目指した。MS-DNA 解析において各個体の集団への帰属
性を推測する STRUCTURE 解析を行ったところ、集団数は 5 と推定
され、これまでの地域集団を支持する結果が得られた。mtDNA 解析
では先行研究と同じく瀬戸内海∼玄界灘集団 vs 大村湾集団を除いて
集団間に有意な分化が見られ、MS-DNA と mtDNA でほぼ同様の結
果が得られた。また、MS-DNA でのみ地理的距離と遺伝距離に有意
な正の相関が見られ、雄に依存した遺伝子流動の可能性が示唆され
た。中国沿岸の本種個体群に関する先行研究と本研究より検出され
た mtDNA ハプロタイプを比較したところ、日本沿岸個体群のハプ
ロタイプは大きく 2 つのクレードを形成し、これらのほとんどは日
本固有であった。一方で、これらのクレードは中国沿岸個体群のハ
プロタイプからなるグループを挟むように位置し、中国沿岸個体群
との複雑な系統関係が示唆された。特に有明海・橘湾集団が保有す
るハプロタイプは日本の両クレードに加えて中国グループ内にも見
られ、他地域集団とは異なる形成史を経ている可能性が示唆された。
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SNSで見る日本人の動物ニュースへの反応
北海道十勝地方幕別町におけるエゾシカのコリドーと景
* 田村成実(明治大院・農),倉本宣(明治大・農)
観構造
■はじめに
人が動物に対して持っている意識や態度である「動物観」は、生
命倫理や動物の権利に対する意識、宗教の違いや歴史によって土地
ごとに異なるといわれている。文化の差異が大きな欧米人と日本人
の動物観は特に差があるとされる。動物観の研究は、1970 年代から
欧米で取り組まれてきた研究であるが、日本ではまだ日が浅く、多
くの知見を集め、現在の日本人が持つ動物観を探ることは、将来の
研究のためにも急務である。SNS( ソーシャル・ネットワーキング・
サービス ) を用いると、ユーザーのニュースに対する反応を早急に
得ることができる。今回は、2012 年に国内で起こった動物に関わる
ニュース ( 以下、動物ニュース ) に対する SNS 上での反応を集め、
日本人は動物ニュースに対してどのように考える傾向があるのかを
考察する。
■研究方法
(1)動物ニュースの選定
読売新聞社提供の読売新聞記事データベース、「ヨミダス歴史館」
を用い、2012 年1月1日から 12 月 31 日に掲載された記事を「動物」
でキーワード検索した。その中でも、全国版掲載の 1000 字以上の記
事を大きな取り扱いの動物ニュースとして選定し、カテゴリーごと
に分類した。
(2)SNS の反応
(1)で選定した動物ニュースを、facebook、twitter、mixi の 3 社で
どのような反応がなされているか検索し、反応数とユーザーの感想
の言葉を計測する。
■予想される結果
選定された動物ニュースは、ペットの問題、外来種問題、生物多
様性、クマ牧場での事故、トキやコウノトリの保全、動物園でのパ
ンダ誕生のニュースなど多岐にわたる。日本人の動物観は欧米と比
べて、情緒的とされている。対策や科学性について議論するよりも、
記事に付属する写真等に対して「かわいい」や「かわいそう」など
の感覚的な言葉を用いる傾向があると考えられる。
大熊勳(帯畜大・野生動物管理)
エゾシカ Cervus nippon yesoensis ( 以下,シカ ) が頻繁に利用する移
動経路の解明は,個体数管理技術の向上において重要である.本研
究では,北海道十勝管内幕別町の山地,河畔林,防風林に自動撮影
カメラを設置し,林分内におけるシカの移動を調査した.得られた
データから撮影頻度を算出し,局所環境要因,景観構造および周辺
の農作物との関連性を調べた.
その結果,各カメラサイト周辺の森林面積合計との間に正の相関,
山地との距離,河川までの距離との間に負の相関が示された.森林
タイプごとに撮影頻度を比較すると,ビートの収穫期において河畔
林で頻度が高まった.これらの結果から,河畔林がシカの主要な移
動場所として利用されていることが示唆された.
224
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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保護区の設定か共存か? ‐ 人工林の集約度に対する鳥類
生物多様性に貢献する出光興産 ( 株 ) 愛知製油所の企業
の反応 ‐
緑地
* 吉井千晶(北大・農),山浦悠一,曽我昌史,澁谷正人,中村太士(北大院・農)
* 川本宏和,田崎里実,石澤祐介,白子智康,上野薫(中部大・応用生物),
味岡ゆい(中部大・現代教育),橋本良樹(出光興産(株)愛知製油所),
南基泰(中部大・応用生物)
近年、同一景観内で資源生産と生物多様性保全をいかに両立させ
るかが大きな注目を集めている。多様性の損失を最小限に抑えた資
源の生産方法について、Green et al. (2005) は、同一の土地で資源生
産と多様性保全の両機能を発揮させる「土地の共有(Land Sharing)」
戦略と、資源生産と多様性保全の場を分離し、各々の土地利用を専
門化させる「土地の節約(Land Sparing)
」戦略を提唱した。作物収
量の増加に対して生物個体群密度が凸型に減少する際には土地の共
有、凹型に減少する際には土地の節約戦略が優れることを彼らは理
論的に示した。この議論に基づいて、本研究では、人工林において
木材収量に対して鳥類の個体数がどのように変化するのかを明らか
にし、森林景観での鳥類の保全戦略について議論する。
鳥類調査と毎木調査を北海道のトドマツとアカエゾマツ人工林、
天然林の計 25 か所で行った。鳥類の機能群毎の個体数を応答変数、
各調査区の植栽針葉樹の胸高断面積合計を説明変数とし、最小二乗
法を用いた一次・二次回帰モデルを用い、植栽針葉樹量と鳥類の個
体数の関係をモデル化した。
本調査地では、植栽針葉樹量と混交広葉樹量の間に負の関係がみ
られた。多くの鳥類機能群の個体数が植栽針葉樹量の増加に伴い線
形減少し、土地の共有―節約戦略に優劣関係はみられなかった。既
往研究では、土地利用の集約に対する生物個体群の反応は凸型か凹
型に二分され、共有・節約戦略のどちらが保全上優れるかという二
極化した議論が行われてきた。本結果は、生物多様性保全に配慮し
た森林景観の管理を行う際には、線形の反応も考慮に入れ、木材収
量と多様性以外にも社会経済的背景や気候や地形等の地域的な要因
を考慮する必要があることを示唆する。
愛知県では人と自然が共生する社会の構築を目指すための行動計
画として平成 21 年に「あいち自然環境保全戦略」が策定された.そ
の戦略の一つとして,既存の企業緑地などをハブ・コリドーとして
利用しエコロジカルネットワークを構成するという新たな提案がな
された.本研究では,愛知県知多半島の臨界工業地帯にある出光興
産 ( 株 ) 愛知製油所の企業緑地に生息している動物調査及びネズミ
類の遺伝的多様性及び餌資源調査を実施した.
2011 年 12 月から 2012 年 11 月の期間,企業緑地内に 14 台のカメ
ラを設置して撮影回数をカウントした.また,ネズミ類の捕獲調査
ではシャーマントラップを 9 地点各 10 台ずつ設置し,2 ヵ月ごとに
捕獲した.捕獲されたネズミ類の毛もしくは指より全 DNA を抽出し,
ミトコンドリア DNA の D-loop を増幅して,遺伝的多様性を評価した.
餌資源については糞中食物残渣から DNA バーコーディング法を用
いて種同定を行った.
カメラトラップ法ではタヌキ,ニホンノウサギが特に多く,両種
共に撮影回数は日没から日の出までが多く,ヒトが活動している日
中にはほとんど撮影されていなかった.また、カラス,キジ,イエ
ネコ,ハクビシンなどの生息も確認された.ネズミ類は、アカネズ
ミ,ハツカネズミ,ニホンジネズミの計 10 個体が捕獲された.企業
緑地内は森林帯となっているが,ネズミ類の種構成をみると低地帯
に生息するネズミ類が多くなった.また遺伝的多様性については、3
つのハプロタイプが確認でき主要なハプロタイプである 6 個体は緑
地全域で確認された.糞中食物残渣からキク科,ケシ科などが確認
できた.今後も調査を継続し、生物多様性に配慮した企業緑地管理
法を提言していく予定である。
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P1-340
群集の機能的多様性を人為インパクト評価に用いる:亜
イワナ及びそのエサ資源への放射性セシウム蓄積:福島
熱帯林の森林管理を例として
県大沢川と群馬県大谷山流域における事例
* 真栄城亮(琉球大・理),楠本聞太郎(琉球大・理),藤井新次郎(琉球
大・理),塩野貴之(琉球大・理),久保田康裕(琉球大・理)
岡田健吾,岩本愛夢,境 優,五味高志(農工大院・農)
福島第一原発事故によって環境中へ放出された放射性 Cs がイワナ
へ蓄積する実態を把握するとともに、エサ資源となる生物の放射性
Cs 濃度との関係について検討した。調査は福島県大沢川(流域平均
空間線量 1.0-1.9µSv/h: 文科省 2012/6/28 航空機モニタリング)と群馬
県大谷山流域(流域平均空間線量 0.2-0.5µSv/h:2012/5/7 同)で行った。
2012 年 8 月と 11 月に各流域 50m の流路区間において、イワナおよ
びエサ資源である陸生と水生生物を採取した。捕獲したイワナの胃
内容物を採取した。放射性核種はゲルマニウム半導体検出器を用い
て分析した。捕獲したイワナは大谷山流域で 47 尾、大沢川で 59 尾
で、当歳魚(平均体長 64.3mm)、満1歳(同 97.6mm)、満2歳(同
137.8mm)、および3歳以上の個体(同 190mm)であった。捕獲個体
の 24%(25 匹)について放射性核種分析を行った。イワナの筋肉の
放射性 Cs 濃度(Cs-134+Cs-137 Bq/kg-dry)は、大谷山流域では 1 歳
で平均 570、2 歳で平均 619.5 であった。また大沢川では 1 歳で平均
2390、2 歳で平均 3674 だった。これらの結果から、どちらの流域に
おいてもイワナには放射性 Cs が蓄積しており、特に 2 歳以上で高く
なる傾向が見られた。胃内容物は夏期、秋期ともにカゲロウやトビ
ケラ等の水生昆虫が多く見られた。夏期にはカマドウマ科やクモ目
などの陸生生物、秋期にはワラジムシ目やアカガエル属などの採餌
傾向が見られた。岩本ら(2013)からカマドウマやカエルの放射性
Cs は高いことが報告されていることから、エサ資源の嗜好性と採餌
量、年齢による代謝の違いなどがイワナ体内の蓄積量に影響を及ぼ
すと予想された。今後、体内に摂取した放射性 Cs の生物学的半減期
なども考慮したモデルによる解析も行う。
植物群集の機能的多様性と機能特性は、森林管理などの人為イン
パクト評価に利用できることが示唆されている。私たちは琉球列島
の皆伐跡二次林およびリュウキュウマツ植林後の放棄林を含む亜熱
帯常緑広葉樹林において、機能的な豊かさ、機能的均一性および機
能的分化などの機能的多様度指数を利用してそれを検討した。
機能的多様度指数は、(i) 原生林 (ii) 皆伐跡二次林 (iii) リュウキュ
ウマツ植林地の間で大きく異なっていた。しかし、種多様度指数は
3 つの森林タイプ間での大きな相違は見られなかった。機能的な豊
かさ(FRic)は、二次林と植林地で原生林より有意に低かった。機
能的均一性 (FEve) は二次林で原生林や植林地より有意に低かった。
機能的分化 (FDiv) は二次林と植林地で原生林より有意に高かった。
これらの相違は森林管理手法の違いが機能的多様性の変化に繋がっ
たこと、管理された森林の構成種間で機能的な空間におけるニッチ
分割・ニッチ占有率のパターン変化があったことを示している。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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森林 - 渓流生態系食物網における放射性セシウムの生物
谷戸田に隣接する下部谷壁斜面の昆虫相の特徴と草原管
濃縮:福島県大沢川と群馬県大谷山流域の事例
理による影響
* 岩本愛夢,岡田健吾,境 優(農工大院・農),根岸淳二郎(北大院・地
球環境),布川雅典(北大院・農),五味高志(農工大院・農)
* 徳永元(明治大・院・農),倉本宣(明治大・農)
谷戸田に隣接する下部谷壁斜面の草原は適湿から過湿への移行帯
であり、田への日照確保を目的とした草刈りなどによる影響で植物
の多様性が高いことが明らかになっているものの、動物、特に影響
を受けやすいと思われる昆虫においては詳しく調査がなされていな
い。里山の昆虫相の保全と水田に対する害虫対策としての観点から、
下部谷壁斜面の昆虫相を明らかにする目的で、横浜市緑区の市民の
森にて捕獲調査を行った。今回はカメムシ目とコウチュウ目に絞っ
て検討する。
谷戸田に隣接する下部谷壁斜面草原の特徴を明らかにするために、
雑木林内の草原や湿地など合計 6 つの調査地を選定した。調査地に
は 2m × 14 mの調査区を 2 つ設定し、下部谷壁斜面の草原では 8 月
末に草刈りを行う管理区と行わない放置区をそれぞれ設定した。昆
虫の捕獲調査はスィーピングとピットフォールトラップの二つの手
法で行った。2 つの捕獲調査は可能な限り、前日に雨が降っていな
い晴れの日に、8 月から 11 月まで月に一回の頻度で行った。スィー
ピング調査は、調査区の横を歩きながら捕獲網を 40 回、一つの調査
地につき合計 80 回振り、捕獲した昆虫の種と数を記録した。ピット
フォールトラップ調査では、内径 7.5cm、深さ 10cm の塩化ビニル管
を一つの調査区に 4 つ、4m 間隔で地面に切り口が地面と同じ高さに
なるように埋設した。通常は蓋部分を上にし、調査の際には穴の部
分を上にして、約 72 時間放置した。その後、塩化ビニル管に落ちた
昆虫の種と数を記録した。環境調査として 9 月から 11 月までの各調
査地の平均草高と気温、12 月に一週間の積算日射量を測定した。
スィーピング調査では全調査区合計でカメムシ目 58 種 2993 個体、
コウチュウ目 30 種 341 個体を捕獲し、ピットフォールトラップ調査
ではコウチュウ目 22 種 249 個体を捕獲した。
発表では環境との関係も明らかにする予定である。
福島第一原発事故で環境中に放出された放射性 Cs による、森林 渓流生態系内を構成する底生生物や陸生昆虫、両生類、リターなど
の汚染実態を把握するとともに、食物網構造と生息環境に関連した
生物濃縮について考察した。本研究は福島県二本松市東和地区大沢
川流域(地表 1m 平均空間線量 1.0-1.9 μ SV/h:文部科学省航空機モ
ニタリング 2012.6.28 時点)と群馬県みどり市大谷山流域(地表 1m
平均空間線量 0.2-0.5 μ SV/h:同 2012.5.7 時点)で行った。どちらも
スギ・ヒノキ人工林を主体とした流域で、各流路 50m の流路区間お
よび河川から両岸 20m の河畔域斜面を調査対象とした。放射性核種
については、ゲルマニウム半導体検出器を用いて分析した。生物の
放射性 Cs 濃度(Cs-134+Cs-137 Bq/kg-dry)は、いずれの流域もカエ
ル類(大沢川流域:5118-11179;大谷山流域:721-1647)で高い傾向
があり、サワガニ(大沢川流域:4688;大谷山流域:1090)やカマ
ドウマ科(大沢川流域:7135;大谷山流域:658)なども高くなる傾
向があった。このように、栄養段階が高く、地表付近を生息環境と
している種は、放射性 Cs 濃度が高くなることが示唆された。ただし、
同じ地表性生物であるオサムシ科(大沢川流域:1624;大谷山流域:
263)は濃度が低い傾向を示す場合もあり、各生物種の炭素・窒素安
定同位体比から、餌資源内容の推定、生息環境の選好性などを考慮し、
放射性 Cs 汚染の生物濃縮過程を評価していく。
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ヤギ駆除後の海洋島において、海鳥の営巣型による土壌
GIS を用いた名古屋市緑地におけるコウモリの飛翔活動
の違いが植物の成長に及ぼす影響
の分析
* 高岡愛,畑憲治,郡麻里,鈴木準一郎,可知直毅(首都大・理工)
鈴木孝拓,大場真,林希一朗(名大エコ)
野生化したヤギの食害・踏圧により植生が後退した海洋島におい
て、ヤギ駆除後の植生回復の程度には、植生の種組成だけでなく土
壌の物理化学的な特性が関係すると考えられる。土壌特性に影響す
る要因として、(1) 海鳥の営巣の有無、(2) 過去の植生の退行の程度、
(3) 現在の植生タイプ、(4) 地形等が挙げられる。特に、海鳥の営巣は、
窒素やリンといった栄養塩の土壌への添加や踏みつけを通じて、植
物の成長を支える土壌特性を変化させると考えられる。また、海鳥
の密度と営巣地の選好性は、土壌への栄養塩添加の程度に違いを生
じさせる可能性があり、土壌を介した植物の成長への影響が予想さ
れる。
そこで、本研究では、「海鳥の営巣密度と種による営巣地の選好
性の違いは、土壌を介し、植物の成長に影響を及ぼす」という仮
説を野外の土壌を用いた栽培実験により検証した。ヤギ駆除後から
約 10 年が経過した小笠原諸島の媒島の土壌を対象とし、土壌特性
に影響すると想定される地中営巣性のオナガミズナギドリ (Puffinus
pacificus ) と地上営巣性のカツオドリ (Sula leucogaster ) の営巣密度の
違いが、植物の成長に与える影響を調べた。営巣している海鳥種や
営巣密度が異なる 96 地点から採取した土壌を用いてギョウギシバ
(Cynodon dactylon ) を 18 日間ポット栽培し、収量を測定した。
海鳥の営巣地の土壌で栽培した植物の収量は、営巣地でない土壌
で栽培した植物の収量より大きい傾向があった。しかしながら、営
巣している海鳥種や営巣密度の違いによる収量の違いは、見られな
かった。以上の結果は、植物の成長が、海鳥種や密度の違いよりも
海鳥の営巣の有無とより強く関係していることを示唆する。
都市域における生物多様性評価手法開発の一環として、環境指標
種としてコウモリ類に着目し、その採餌のための飛翔活動の空間的
選択性について研究を行った。
2012 年 4 月から 12 月にかけ名古屋市緑地部においてコウモリ ( 主
にアブラコウモリ Pipistrellus abramus) の飛翔活動分布をラインセン
サス法により調査した。2 ルートで週 1 ∼ 2 回、バッドディテクタ
ー(Pettersson 社 D200, Ultra Sound Adviced 社 Mini-3)を用い、アブ
ラコウモリの帯域である 45kHz でモニターし、鳴き声が聞こえた地
点で GPS により記録した。記録データは調査範囲 50 m メッシュご
とに集計し、集計期間内のメッシュ内遭遇回数を合計しそれを調査
日数で除算した遭遇頻度、1 調査日にメッシュ内遭遇回数が 1 回以
上の場合 1 とカウントしそれを調査日数で除算した遭遇確率を定義
した。
飛翔活動の選択性について統計モデルを作成するため、メッシュ
における環境変数を GIS を用いて次の 6 環境変数により分析した。
平均照度、標高・傾斜 (10 m グリッドデジタル標高モデル、国土地
理院 )、10m 土地利用 ( 細密数値情報、国土地理院)、平成 18 年度建
物用途別現状調査 ( 名古屋市 )、IKONOS2( 日本スペースイメージン
グ ) のマルチスペクトル画像解析によるオープンスペースと水場の
面積、NDVI 平均値。
その結果、オープンスペース、水場の面積と飛翔活動とにおいて
正の相関が、NDVI 値と負の相関がみられ、飛翔活動に適した開放
的な空間的要因が大きく影響されていることが示唆された。日本に
おいて唯一の住家性のあるアブラコウモリであるが、人間活動との
関係性は今までそれ程明らかにされてこなかった。今回の都市部に
おける選好性モデリングは、開発による影響や人間活動との共存の
ための一資料として活用が期待される。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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学習放獣後のツキノワグマの行動と利用環境
The distributions of Nyctereutes procyonoides
* 後藤明日香(新潟大学),望月翔太(新潟大学),山本麻希(長岡技術科
学大学),村上拓彦(新潟大学)
and other mammalian with land use changes by
Maxent
*Li Rui (Graduate School Engineering, Nagoya University),
Makoto Ooba, Kiichiro Hayashi, Ambika Dhakal (EcoTopia
Science Institute, Nagoya University)
The urbanization with the land use changes was very remarkable in
Nagoya city during the 20th century. These changes have many effects on
ecological system.The objective of this study was to identify the relationship
between the distributions of mammalian and the land use changes. In this
study, GIS was used for the comparative analysis of land use changes in
1950s, 1970s, and 1990s, especially in the forest area, paddy filed area and
park area. Meanwhile, we used the presence only data of mammalian in
Nagoya city and the environmental predictors that affect the occurrence
of the species such as climatic, geographic, and land use variables (e.g.,
porosity and circularity of green area distribution) by the Maxent model.
The Maxent modelling predicted the species probability distribution and
generated its map.In the expected results, after comparative analysis of
land use changes and comparison with species potential distribution area,
we can more clearly grasp the tendency of land use change and effects on
mammalian in Nagoya City. It is thought that these results are utilizable for
the measurement and policy decisions about conservations of the regional
ecosystem and biodiversity.
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ボルネオ島の択伐林における音声録音による鳥類調査手
Effects of marine protected areas: do the whole
法の開発
species recover?
* 丸山晃央(京大農),藤田素子(京大東南ア研),Mohammad Irham
(RCB-LIPI),神崎護(京大院農)
* 高科直(九州大・システム生命),舞木明彦(龍谷大・理工),巌佐庸(九
州大・理)
本 研 究 で は、 東 南 ア ジ ア 熱 帯 域 に 生 息 す る チ メ ド リ 科
(Timaliidae )14 種のさえずりを機械的に識別することを目的とした。
熱帯における鳥類の多様性調査では、直接観察 ( ポイントカウント
法など ) が一般的である。しかし調査者の能力や環境要因の違いに
結果が大きく影響されることから、経年変化や環境による群集の違
いを正確に判断することは難しい。本研究の最終目標は、野外に設
置したレコーダーで収録した音声データを解析するという、生物多
様性調査法の開発である。これにより、客観性の高い群集の経年変
化の解析や異なる環境における多様性の比較が可能になると期待さ
れる。チメドリ科は特徴的なさえずりをもつ種群である。藪などを
生息環境とし、疎林から原生林まで生息種が変化するために、環境
の違いを検出しやすい。音声はインドネシアのボルネオ島、中央カ
リマンタンにある択伐コンセッションの択伐林や保全林において、
wav 形式で録音した。十分な音声データが得られなかった種につい
ては、ウェブ上の音声データも使用した。MATLAB を用いて、各音
声データの持続時間、ケプストラム、自己相関の3つの特徴量を計
算した。解析に使った音声データは、前処理として一節 ( 繰り返し
の一つの単位 ) を抜き出して、セミの声などの雑音を除去したもの
である。音声データの識別には、パターン認識手法として識別能力
の優秀な学習モデルのひとつであるサポートベクターマシンを用い
た。各種 4~10 サンプル程度の音声データを学習用データとテスト用
データに分け、サポートベクターマシンで学習させた後、テスト用
データを識別させ、正答率を各種ごとに比較した。その結果、種に
よっては、8 割以上の高い正答率で識別することができ、機械的な
識別が種の同定に有効である可能性が示唆された。
世界的に数多くの漁業資源が資源管理の失敗等に起因して減少の
一途を辿っている。この事実は漁業資源管理において,これまで行
われてきた管理手法だけでは不十分であるということを示唆する。
新たな資源管理手法として,海洋保護区の導入が近年注目を集めて
いる。海洋保護区の導入は,漁場の一部を禁漁区とすることで,不
意の乱獲や,環境の不確実性に対して緩衝作用を持つと期待されて
いる。ところが海洋保護区の導入が生態系にどのようなインパクト
を与えるかという事に関する科学的な知見は未だ不十分である。本
研究では,個体群動態を予測するのに有用である数理モデルを用い
て,海洋保護区の導入が被食 - 捕食系の個体群動態に与える影響を
解析し,そこからどの種を保護すべきであるかということに関して
も言及してゆく。
海洋保護区の導入によって被食 - 捕食系の個体群動態が受けるイ
ンパクトは,種の栄養段階や,どの種を保護し,どの種を漁獲する
かという組み合わせ(以下,この組み合わせを管理計画と呼ぶ)に
大きく依存することが分かった。捕食者は管理計画によらず,海洋
保護区の漁場に占める割合が高まるほどその個体群サイズが増加し
た。一方で被食者の個体群サイズは,海洋保護区内で被食者のみを
保護する場合に限り増加し,それ以外の管理計画においては,海洋
保護区の割合が高まるほど個体群サイズを減少させ,場合によって
は局所的な絶滅さえ引き起こす可能性があることが分かった。被食
者の減少はトロフィック・カスケードに起因しており,このことか
ら海洋保護区の導入において,
(何を保護し何を漁獲するかといった)
管理計画の重要性や生態系内の種間相互作用に着目する必要性が示
唆される。
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伐採木の選定方針が針広混交林のササ密度と樹木更新量
Bayesian estimation of temporally varied age-
を決定づける
structured population model of bluegill sunfish
* 辰巳晋一,尾張敏章(東大院・農)
* 柴田泰宙(横浜国大・環境),岩崎雄一(東工大・理工),松田裕之(横
浜国大・環境)
択伐施業における伐採は、木材を生産すると同時に、林床の光環
境を改善して次世代の樹木の更新を促すことを目標にする。しかし、
北海道中央部の針広混交林では、光環境の改善によってササが増加
し、かえって更新が阻害されてしまうことも多い。これら「伐採(林
分構造)」「ササ密度」「更新量」の三要素は、それぞれ空間的なばら
つきが大きく、各要素間の相互作用は時間的な遅れを伴うことも少
なくない。そのため、伐採が将来的なササ密度と更新量に与える影
響を統一的に予測することはこれまで困難であった。本研究では、
一般化状態空間モデルを使って、三要素の状態の空間的・時間的な
違い・変化を明示的にモデリングし、推定した。
推定の結果、針葉樹にはササを抑制する効果がある一方、広葉樹
にはその効果が認められなかった。また、針葉樹のササ抑制効果は
胸高直径が約 25cm のときにピークになり、それ以上大きくなると
減少した。ササ密度が更新量に与える負の影響は、広葉樹よりも針
葉樹に対して大きかった。また、その負の影響は数十年の遅れを伴
うと推定された。総じて、針葉樹の小中径木の減少はササを増加さ
せ、そのササの増加がさらに将来的な針葉樹の減少につながるとい
う、正のフィードバックの存在が示唆された。択伐施業における伐
採木の選定では、なるべく針葉樹の小中径木の保護に配慮すること
が、継続的な木材生産と林分構造の維持につながると考えられた。
Invasive species, such as bluegill sunfish, have been recognized as one
of the most major threats to freshwater ecosystems and their managements
have been intensively conducted in Japan. Population modeling can be a
useful tool to accomplish such management needs, for example to select
effective control measures. However, the population modeling has been
rarely used in such context, even if life history information and monitoring
data on abundance are available. One of the likely reasons is the difficulty
in estimating parameters necessary for the population models from field
data. Hence, in this study, we aimed to 1) estimate parameters of an age
structured population model of bluegill sunfish by using Bayesian method
and 2) predict population dynamics under different management strategies.
To this end, for the parameter estimation, used available data on abundance
of bluegill sunfish in the Hyco Reservoir (North Carolina USA) from 1979
to 1986.
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エゾシカ (Cervus nippon yesoensis ) の高山植物に対す
Microrefugia としての風穴地の分布予測 ―高山植物群
落への寄与―
る採食圧ハザードマップの作成
* 下川部歩真(北大・農),山浦悠一,赤坂卓美(北大院・農),佐藤友徳
(北大院・地環),志田祐一郎,山中聡,中村太士(北大院・農)
* 松本明日(酪農学園大学院・野生動物),日野貴文(酪農学園大学院・
野生動物),吉田剛司(酪農学園大学院・野生動物)
microrefugia とは、気候変動の際、生物の生息適地が減少する中で
局所的に残存した小面積の生息適地を指す。過去の気候変動の際、
広域的に生息環境が不適となった地域内に散在する microrefugia が、
生物の存続およびその後の分布拡大に寄与したと考えられている。
microrefugia の候補地は、間氷期の現在では低温が保たれる場所とさ
れるが、そのような場所としては風穴地が知られている。風穴地に
は低標高でも高山植物が存在することがあり、その群落は氷期から
遺存したものとも考えられている。一方、風穴を含め microrefugia の
分布については未発見地が多く存在すると考えられ、その詳細は明
らかになっていない。
本研究では、風穴地が多く存在するとされる北海道北見地方を中
心とする地域を対象とし、野外調査により取得した風穴地の位置情
報を用いて、風穴地の分布を統計モデル maxlike で解析・予測した。
また、野外調査により発見した高山植物の存在する風穴地と高山植
生の分布について図示と標高の比較を行った。
解析の結果、風穴地の存在には周辺の地形の最大傾斜角と曲率、
表層地質が影響を与えており、谷沿いの地形に風穴地が存在するこ
とが示唆された。予測の結果からは、地域内に多くの風穴地が散在
している可能性が示された。また、野外調査により、34 か所中 9 か
所の風穴地に高山植物であるコケモモとイソツツジのいずれかが存
在することが確認できた。さらに、高山植物が存在する風穴地は、
高山植生の分布域と比較して低標高で離れた地点にも存在すること
が確認された。本研究の対象地域では、風穴地が散在することにより、
高山植物の生息適地が空間的に広く存在している可能性がある。
エゾシカの生息は植生へ大きな影響を与える.特に環境変化に弱
い高山植物が分布する高山地帯ではエゾシカの生息が高山植物の絶
滅を引き起こす可能性がある.北海道内においてエゾシカの個体数
増加に伴う生息分布の拡大により,西部に位置する樽前山(1,041m)
では高山植物への被害が予想される.そこで高山植物を対象とした
「エゾシカ被害予測ハザードマップ」を作成した.
ハザードマップは指標種分布域,エゾシカの痕跡,自動撮影装置
を用いた個体数指標等を GIS 上で組み合わせて作成した.まず踏査
により指標種分布域を特定した.指標種の定義は「個体群が小さい,
もしくは分布地点が限定されている種」とした.次に樽前山の森林
限界以上の高標高域を 33 プロット(500 × 500m)に分けて 2012 年
5 月末から 11 月までエゾシカの痕跡の踏査を行なった.また各プ
ロットに1台自動撮影装置(センサーカメラ・トレイル D55IR,Ltl
Acorn 5210 B)を各 20 日間設置した.これらのデータを組み合わせ
てエゾシカによる植生被害が予想される指標種分布域を危険度「低
∼高」に分類した.
エゾシカの痕跡は山頂付近を除くほぼ全域,25 プロットで確認さ
れた.自動撮影装置で森林に隣接する 12 プロットでエゾシカが撮影
された.作成したハザードマップから,エゾシカの植生被害危険度
が高い指標種分布域は低標高,森林に近接していた . 樽前山におい
ては北西部と南部の指標種分布域の危険度が高く,これらの指標種
分布域の変化をモニタリングする必要がある.今後は他の高山でも
活用可能にするためハザードマップの作成手順の簡略化についても
検討する.
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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炭素循環の視点からみた冷温帯コナラ林の管理とエネル
アユの美味しさは川の環境によって変わるのか ?
ギー利用の検討
* 上村嘉彦(徳島大・工),河口洋一(徳島大・工),野崎健太郎(椙山女
学園大・教育)
* 松下華代(早稲田大・教育),友常満利(早稲田大・院・先進理工),坂
巻義章(早稲田大・理工総研),小泉博(早稲田大・教育)
貯水ダムは社会基盤整備として重要な役割を持つが,一方でダム
下流の河川生態系の劣化や生態系サービスの低下を引き起こしてい
る.特に「アユ」は,ダム設置により漁獲量が減った,味が悪くな
ったと指摘され,その結果,人と川の疎遠化といった問題も引き起
こしている.ダム設置によりアユの食味が低下したことを報告する
事例はあるが,アユの食味と餌生物である藻類や,ダムの有無との
関係を明らかにした研究はない.本研究では,ダムがアユの食味に
影響しているかを明らかにし,アユの食味に影響する河川環境要因
を抽出することを目的とする.
調査は新潟県佐渡島のダムのある川とない川(各 4 河川)で,
2011・2012 年度の夏季に,アユと藻類の採取,物理環境の計測を行
った.アユは食味試験(アユ料理専門店で塩焼きにし,9 項目(姿,
食前香り,身の硬さ,身の香り,脂分,こく,わた,わたのにおい,
総合)を,被験者 (20-70 代 各年代 5 名 計 30 名 ) により 5 段階で評価)
及び,安定同位体比測定(δ 13C・δ 15N)を,藻類はクロロフィル a 量,
種組成同定,及び安定同位体比測定を行った.
2 回の食味試験の結果は同じ傾向を示し,両年ともダムのある川
が全体的に高評価を得ていた.しかし,ダムのある川は評価の最も
高い川と低い川が見られ,評価のばらつきが大きかった.一方,ダ
ムのない川では評価のばらつきは小さかった.食味評価にはアユの
体サイズが影響しており,体サイズが大きいアユ(最大で 20cm 程度)
は食味に関する複数の項目で評価が高かった.アユと藻類の関係で
は,藻類に占める藍藻綱の割合とアユ肥満度の間に負の相関が見ら
れ,個体数密度と藍藻綱の割合に正の相関,クロロフィル a 量とア
ユの全長に正の相関が見られた.
今回の発表では,これらの結果を主とし,考察される事項につい
て報告する.
日本には定期的な管理が行われてきた里山と呼ばれる二次林が多
く存在し、生物多様性の観点からその重要性が再認識されている。
しかし、これらが炭素循環に与える影響については十分な研究がさ
れていない。本研究では、対照(C)区、下草刈り(UH)区、下
草刈り・落ち葉搔き(LR)区を設け、里山の代表的管理が冷温帯
コナラ林の炭素循環に与える影響について調査した。各区の生態系
純生産量(NEP)を算出するために、純一次生産量(NPP)と
土壌呼吸速度(SR)を測定した。SRはトレンチ法のデータを用
いて根呼吸と土壌生物呼吸(HR)に分離した。さらに、管理収穫
物(下草・落葉)はバイオ燃料としてのエネルギー利用を検討した。
管理の結果、NEPはC区で最大値を示したが、UH、LR区も
共に正となった。また、NPP、SR及びHRは、C区と比較して、
UH、LR区では減少した。これは下草除去や土壌生物活性の低下
に原因があると考えられる。即ち、管理により生態系の炭素固定能
力は低下するが、CO 2 の放出量も減少すると言える。エネルギー
利用による炭素放出を考慮すると、UH区のNEPは正に留まるが、
LR区はほぼ 0 となった。バイオ燃料による化石燃料削減はNEP
に正の効果を及ぼすが、収穫物の燃焼による負の効果も及ぼす。こ
の負の効果は、HRの減少や化石燃料削減といった正の効果を上回
ることがある。これらの結果から、下草刈りや落ち葉搔きを行っても、
森林は炭素のシンク又はニュートラルな存在として機能しうること
が明らかになった。但し、管理強度が強いほどNEPには負の影響
を与えるので、伐採等を含めた管理を行う場合、長期間で炭素収支
が正になる周期を判断する必要がある。以上のことから、里山的な森
林管理は、エネルギー資源の獲得の面でも有用であると考えられる。
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静岡県菊川市の伝統的な農地景観における外来雑草ネズ
青森県津軽地方に生息するノスリの羽を用いた重金属モ
ミムギの侵入と定着
ニタリング方法の検討
* 根岸春奈・丹野夕輝(岐阜大院・農,静岡大・農)
・山下雅幸・澤田均(静
岡大・農)
* 竹谷栄亮(弘前大・理工),野田香織(弘前大・理工),渡辺泉(農工大・
農),坂有希子(弘前大院・農),東信行(弘前大・農)
伝統的な管理が行われている農地景観は,生物多様性が高く,希
少種など固有の種も多いことから,保全上の価値が高い。静岡県菊
川市の棚田も伝統的な農地管理と多様な生育環境からなり,多様な
草本種が生育している。しかし,近年,その一部で要注意外来生物
ネズミムギ Lolium multiflorum Lam. が確認されており,棚田全体へ
の拡散が危惧されている。適切な管理を行うために,ネズミムギの
分布状況や侵入を受けている生育環境を把握する必要がある。本研
究では,ネズミムギの分布と植生および土壌水分との関係を調査し
た。
調査は菊川市上倉沢の棚田(10.1ha)で行った。この棚田には復
田年次の異なる 1999 年復田と 2011 年復田,および休耕田がある。
2011 年 7 月,2012 年 1 月∼ 2 月に棚田畦畔,休耕田,棚田内の農道
および周辺道路端で一定間隔ごとに,コドラート (50 × 50cm) 内の
ネズミムギ被度を調べた。2011 年 11 月に植生調査と土壌採取を行
った。分布調査の結果,2011 年復田畦畔と道路端の一部において高
い被度でネズミムギが確認された。GLM 分析の結果,ネズミムギ被
度と出現草種の種数,最大草高との間に負の相関が認められた。一方,
ネズミムギ被度と土壌含水率との間には相関がなかった。これらの
ことから,ネズミムギは生育期間中に被陰をされにくい環境に定着
しやすいことが示唆された。
生体組織中の微量元素は生物の諸条件を反映しており、生体情報
を与える指標となり得る。猛禽類は食物連鎖の中で上位に位置して
いる為、その個体の生体情報のみならず、生息域の環境情報をも反
映する。また、検体を殺傷する必要がなく同一個体から幾度も採取
が可能である為、鳥類の元素蓄積を評価する指標として羽根の有用
性が高い。既往研究において水銀は初列風切羽 1 番 (P1) が最も高い
濃度を示し、その後順を追って徐々に減少し 8 番 (P8) で最低値を示
すと、9 番 (P9) と 10 番 (P10) の羽で増加する事が知られている。つ
まり換羽の時期が部位ごとに異なるので、同一検体の羽であっても
羽毎に蓄積されている重金属元素の変動が大きいことを考慮する必
要がある。この研究では既に明らかとなっているトビの初列風切羽
における水銀の変動と、他の重金属元素の変動とを比較し、その動
態を解明する事を目的としている。
青森県津軽地域の路上で採取されたノスリ (Buteo-buteo )2 検体を用
いた。一方は初列風切羽と次列風切羽、及び胸元・腹部の羽と筋肉
を用いた。他方は初列風切羽と尾羽、及び首元・胸元・腹部の羽と
肝臓・筋肉を用いた。採取した羽は羽弁と羽軸とを分けて洗浄した後、
硝酸を用いてマイクロウェーブ分解し、ICP-MS を用いて計 29 元素
の測定を行った。
分析の結果、羽毎による濃度の有意な相関が認められたのは Mg,
Al,V,Fe,Pb の計 5 元素の間である。また、Zn は部位毎に段階的
な変動を示す結果となっている。水銀は ICP-MS 分析では検出され
なかったので、水銀計を用いて測定し得られた結果と ICP-MS で得
られた結果との比較をする。
229
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-357
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青森県岩木川のダム下流域における河川水及び POM、
圃場整備地域における水田生態系の保全 - 用水路を活用
水生生物中微量元素の分析
した魚類の生息地再生 -
* 馬場里美(弘前大・理工),野田香織(弘前大・理工),河野冬樹(農工
大院・農),渡邉泉(農工大・農),工藤誠也(弘前大院・農),井上博元(弘
前大院・農),東信行(弘前大・農)
* 石間妙子,村上比奈子,福島純平,松島一輝,関島恒夫(新潟大・自然科学)
津軽半島西部を流れる岩木川の上流には銀、銅、鉛、亜鉛などを
採掘していた旧鉱山施設があり、河川生態系への影響が懸念されて
いる。旧鉱山施設は採掘時の掘削ズリや精錬過程で発生する鉱滓等
からなる堆積場(土捨て場)であり、その堆積場から染み出した重
金属が目屋ダムへ流れ込んでいる。実際に今までの調査で堆積場直
下及びダム放出水の流入口のカジカ大卵型 (Cottus pollux ) からは高
濃度のカドミウムや銅、亜鉛が検出されている ( 東ら,2012)。近年
既存の目屋ダムを再開発する津軽ダムの建設中であり、完成後は旧
鉱山施設が水没してしまうため、直接または食物網を通して下流の
生態系の影響が大きくなることが予想される。本研究では、岩木川
の河川水を数地点で採取し、水と懸濁物質の微量元素分析によって、
旧鉱山施設及びダムが岩木川流域に及ぼす影響と、その範囲を調べ
ることを目的としている。
河川水の採取は 2012 年 6 月と 10 月に行い、フィルターでろ過し
溶存体と懸濁物質に分けて分析した。分析は ICP-MS で 28 元素の多
元素同時測定をした。
結 果、 溶 存 体 の 元 素 で は 他 の 地 点 に 比 べ て 6 月、10 月 と も に
Mg,Ca,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Cd,Pb が旧鉱山施設の堆積場があった湯ノ
沢川で最も濃度が高かった。その中で、Cu,Zn,Cd,Pd は特に高い濃度
を示した。同族元素である Zn と Cd では、河川水、懸濁物質ともに
似た挙動が見られた。季節的な変動としては、6 月の数値が全体的
に高い傾向があった。これは雪解け水による影響であると予想され
る。6、10 月の Ca と Sr では湯ノ沢川だけで比が異なっており、自
然由来の他に鉱山廃水の中和剤による影響があると示唆された。
圃場整備による水田環境の悪化が懸念される中、近年では、環境
保全型農業の実施や魚道の設置などによる水田生態系の保全が行わ
れるようになっている。しかし、これらの保全策は、取り組み面積
が未だ限定的であることに加え、保全対象生物の供給源の分布や移
動ルートが考慮されずに実施されることが多いため、必ずしも効率
的な環境再生が遂行できているわけではない。そこで本研究では、
近代圃場整備が実施された新潟平野の水田地帯において、魚類を保
全対象とした戦略的な水田環境の再生計画を提案することを目的と
し、水田への魚類の移動ルートを特定するとともに、供給源である
用排水路の魚類分布を予測した。
新潟平野の水田では、水田と排水路間の水位差が大きいことから、
排水路を介した水田への魚類の遡上はほとんど不可能な状態だった。
さらに、排水路における魚類の種数や生息密度は、水路の物理構造
や河川との距離および連結性によって異なっていた。この結果は、
排水路を魚類の供給源と考えて水田での生息地再生を行うためには、
まずは水田−水路−河川間の落差を解消する必要があるだけでなく、
それらの保全策を効率的に実施できるエリアを特定する必要がある
ことを示唆している。一方で、これまでに供給源として重要視され
てこなかった用水路からは、現状のままでも多くの魚類が水田へと
侵入しており、用水路も水田への魚類供給源として十分に機能して
いることが明らかとなった。ただし、用水路の魚類組成によって水
田へ侵入する魚類の組成も大きく異なっていたことから、用水路を
供給源とする生息地再生を行う場合にも、効率的な保全が可能なエ
リアを特定する必要があるといえる。これらの結果を踏まえ、本発
表の最後には、新潟平野の用排水路における魚類の分布予測図を提
示し、戦略的な魚類保全計画を提案したい。
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異なる水分条件下における内生細菌の海浜植物コウボウ
環境 DNA 分析の実用化:野外で使える前処理法の検討
ムギ成長に対する促進効果
* 中貴文(龍谷大・理工),源利文(神戸大・人間),門司和彦(地球研),
丸山敦(龍谷大・理工)
* 松岡宏明,園部愛美,山路恵子(筑波大・生命環境)
近年、環境中に浮遊する DNA 断片(環境 DNA)の解析を行う
ことで、生物の在・不在やバイオマスを推定する試みが生態学の実
証研究におけるブレークスルーとして注目される。水域でも、魚類
や両生類を含む幅広い生物群を対象とした研究が報告されている
(Minamoto et al. 2012 など)。しかし、水域に生息する生物を対象と
して環境 DNA 分析を行う際に採られてきた従来の手法は、保存や
濃縮などのプロセスにおいて、野外での本格調査には不向きな点が
多く見られる。そこで我々は、様々な現場に適用できる簡便な環境
DNA 分析法を確立すべく、幾つかの手法の比較検討を行った。実験
1では、環境 DNA 濃縮段階における最適な濾紙の選定を目的とし、
各種濾紙の環境 DNA 回収量の比較を行った結果、グラスファイバ
ー濾紙 GF/F でポリカーボネート濾紙 0.2 μ m メッシュ並みの回収が
できた。実験2では、各種グラスファイバー濾紙の間で DNA 回収
量を比較し、GF/F が最も多くの DNA を回収できることが分かった。
実験3では再濃縮および DNA 抽出段階の処理方法として、フェノー
ル抽出とエタノール沈殿の組み合わせ(以下フェノール処理と呼ぶ)
と限外濾過での DNA 回収量の比較を行い、フェノール処理でも同等
の DNA を回収できた。実験4では、冷蔵庫などの設備がない場所
でも濾紙上のサンプルを安定保存させる目的で、試料水を濾過した
フィルターをエタノール処理する方法を試行し、DNA の分解が十分
に抑制されることを確認した。以上4つの実験結果より、環境 DNA
分析を水域に広く適用するためには、グラスファイバー濾紙 GF/F で
濾過した直後にエタノール処理を行い、フェノール処理を行うこと
で、従来法と同等以上の高精度の分析が簡便に行うことが可能であ
ると考えられる。
波崎海岸でのコウボウムギ (Carex kobomugi Ohwi) 実生の生存率は
極めて低い。その枯死要因は乾燥である可能性が示唆される。そこ
で本研究では、水分変動条件下において、コウボウムギ実生の生育
応答と、植物生育を促進する細菌株の接種効果を明らかにすること
を研究目的とした。
調査地から採取したコウボウムギ種子と砂質土壌を使用前に滅菌
し、接種試験を行った。水分条件として現地、7月の土壌含水率を
参考に、湿潤区(8.9%)、現地区(10.1%)、及び乾燥区(11.0%)を
培養開始時の水分添加量を変えることで設定した。さらに、これら
3 条件区に細菌をそれぞれ接種した計 6 処理区を設けた。接種菌と
して、シデロフォア産生菌株である Bacillus sp. を 108CFU/ ml に調
整して接種した。8 週間培養後、植物体を回収し、乾燥重量、根長、
及び植物体無機含有量(P、Fe、Mg、Ca、K、及び Na)を測定した。
非接種条件下では乾燥区において、根長の増加、および地上部重
量増加が確認された。細菌株を接種することで、どの処理区も非接
種区に比べて、特に地下部の成長が促進される傾向にあった。また
細菌接種により地下部 Fe 濃度は増加したが、水分処理区間では差が
なかった。一方、地下部 Ca の増加は細菌接種区の乾燥区でのみ確認
された。他元素での有意差はみられなかった。以上のことから、乾
燥条件下においてコウボウムギは根の形態を細分化することで吸水
効率を増加させている可能性が示唆された。また乾燥強度が高まる
につれて、内生細菌の根の成長といった促進的な作用は減少するが、
地下部 Ca 濃度が増加することから内生細菌が乾燥ストレス下でコウ
ボウムギ実生の無機栄養成分としての Ca の取り込みに関与すること
が示唆された。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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犬を用いたセイヨウオオマルハナバチ巣の探索例
都市近郊における外来植物の分布
* 藤本伸也(帯広畜産大・畜産),紺野康夫(帯広畜産大・畜産)
* 崎尾萌(東京農工大学農学府),星野義延(東京農工大学)
セイヨウオオマルハナバチ (Bombus terrestris 以下セイヨウ ) は特
定外来生物に指定されており、野生化した個体群の撲滅が急がれて
いる。そのため、春先に冬眠から覚めたセイヨウ女王を捕まえて駆
除する活動が積極的に行われている。しかし、この活動によってセ
イヨウの個体数が減少したかは明らかでない。セイヨウは 1 シーズ
ンに数十から数百匹の新女王を産生するため、生殖個体が生まれる
前に巣を発見することも駆除の有効な方法と思われる。しかし、主
に地中に営巣するマルハナバチ類の巣を探索することは困難であり、
有効な発見方法が確立されていなかった。
近年、日本とイギリスにおいて探索犬を用いたマルハナバチ巣の
探索が研究されており、一定の成果を上げている。しかし、それら
の既往研究には詳細な探索犬の訓練方法や野生巣探索方法が記述さ
れていなかった。そのため、本研究では、探索犬の訓練、野生巣の
探索を行い、探索犬の訓練方法、野生巣探索方法を詳細に記述し、
マルハナバチ巣探索犬育成方法の 1 例を報告する。また、本研究では、
犬の年齢、性別、犬種において既往研究で使用された犬とは異なる
犬を使用し、マルハナバチ探索犬の適性についても考察した。また、
1 種のマルハナバチ巣の匂いを犬に覚えさせ、野外探索を行った結
果、犬は 3 種のマルハナバチ巣と 3 種のアリ巣を発見した。既往研
究において、1 種の巣の匂いを覚えた犬が複数種の巣を発見できる
ことは明らかにされていたが、何の匂い成分を頼りに探索を行って
いるかは明らかでなかった。そこで、今回の探索結果から、犬が探
索の手がかりとしている匂い成分を推定するための予備的な実験を
行った。
府中市は東京の都市近郊にあって緑地が比較的残された都市であ
る。府中市では 1970 年代に植物相に関する調査が行われているが、
近年の市域全体の植物分布の報告はないものの過去に記録のない植
物が観察され、これまで稀であった外来植物の分布拡大が報告され
るなど植物相に変化が生じている。本研究では府中市での植物分布
を把握して、近年増加傾向にある外来植物の分布傾向を明らかにす
ることを目的とした。
調査は町丁目を単位とした区画に府中市域を区分して行い、出現
したシダ植物以上の植物の種名(下位分類群名を含む)と開花・結
実の有無を記録した。なお、面積の広い緑地は区画を分けて別に記
録した。解析は 2004 年から「府中の植物を記録する会」が継続して
きた調査の結果を加えて行った。府中市には、多摩川によって形成
された多摩川低地 ( 低地 ) や立川段丘 ( 台地 ) などの異なる地形が分
布するとともに東京都立浅間山公園などのまとまった緑地も存在す
ることから、これらの地域区分も考慮して解析を行った。
府中市全体で出現した植物の総種数(種以下の分類群も含む)は
1048 種で、外来植物は 308 種、外来植物率は 29.2%であった。区画
ごとの出現種数と出現外来種数の平均はそれぞれ 151 種、52 種であ
り、各区画の面積と出現種数との間に有意な正の相関がみられたが
(r=0.19, p=0.027) 各区画の面積と出現外来種数との間には有意な相関
はみられなかった (r=0.08, p=0.34)。外来植物率はどの区画において
もほぼ同じで約 34.6%であったが、まとまった緑地の区画における
割合は約 23.1%と低い値になった。外来植物率と人口密度の間には
有意な相関がみられた (r=0.30,p=0.0004)。出現種数と出現外来種数は
低地と台地の区画の間で有意な差はなかったが (p > 0.05)、外来種
数率は低地で有意に低くなった (p=0.27)。
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野辺山高原における絶滅危惧種アサマフウロ及びサクラ
北海道苫小牧市に新規定着したカササギの分布と生息環
ソウ群落と外来植物との関係
境選択
* 西澤太貴(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信州大・農)
* 村山 恒也,藤岡 正博
長野県野辺山高原では湿地や草原が点在し,絶滅危惧Ⅰ類に指定
されているアサマフウロや準絶滅危惧のサクラソウ等の希少草本植
物が自生するが,近年,要注意外来植物に指定されているハルザキ
ヤマガラシ等の外来植物の侵入・定着が問題となっており,ことが
指摘されている(宮原ら,2010)
。今後,外来植物の希少草本群落へ
負の影響が懸念されるが,これらについての詳細な分布の現状は明
らかにされておらず,希少群落の特性や生育立地環境条件の把握も
十分には行われていない。
そこで本研究では,2012 年の春から秋季にかけて信州大学農学部
野辺山 AFC ステーション内において,希少草本群落と外来植物群落
双方の分布状況及び環境条件を解明する目的で,アサマフウロとサ
クラソウ、および外来植物 5 種の分布地点を,現地踏査をしながら
記録した。また,調査地内の複数地点において,アサマフウロ群落
の特性および外来植物の影響を把握するために,植物社会学的植生
調査を実施した。
その結果,各種の分布は周囲の土地利用による影響を大きく受け
ており,生育地の条件は各々異なるというということが明らかとな
った。しかし同時に,アサマフウロはハルザキヤマガラシやメマツ
ヨイグサといった外来植物と生育地が重複する割合が高いという結
果も得られ,これらの外来植物は要求する立地環境条件がアサマフ
ウロと類似している可能性が高いと考えられた。植生調査において
も,分布調査の結果とほぼ同じ傾向がみられた。また,野辺山 AFC
ステーションにおけるアサマフウロ群落は,ミヤコザサやススキと
いった在来植物群落に加えて,採草地から逸出したカモガヤ等の外
来牧草群落においても形成されているということも明らかとなり,
これらの種との間に生育地をめぐる競合関係にある可能性は十分考
えられた。
カササギ Pica pica は、北半球の温帯域に広く分布するスズメ目カ
ラス科の鳥類で、季節による渡り行動はせず、雑食性で主に地上で
採食をする。国内では 1590 年代に移入記録のある九州北部にのみ定
着していたが、北海道苫小牧市には 1990 年代から新たに定着した。
同種は、海外や九州北部では農村に多いのに対し、苫小牧市ではほ
ぼ住宅地に生息している。その理由として発表者らは、積雪によっ
て地上採食が困難となる冬期に、餌資源を意図・非意図問わず人に
よる給餌に頼っている結果ではないかと考えた。そこで、行動観察
と安定同位体比からカササギの採食環境と餌資源の解明をめざす研
究を始めている。本発表では分布範囲と採食環境の季節変化につい
て報告する。
調査は、森林原野を除く苫小牧市内を対象に 2012 年 5 月から隔月
で行っている。分布範囲は市中心部を除く住宅地にほぼ限られてお
り、分布範囲内の多寡も含めて季節変化はなく、2011 年に行われた
先行研究の結果ともほぼ同様であった。全調査域を回った 5 月と 9
月ではそれぞれ 183、243 個体を確認した。5 月から 11 月までの出
現環境は、住宅地や公園・学校で 70% 以上を占めた。採食における
微細環境では、どの調査期でも人為的に管理された草地が最も大き
な割合を占めていたが、7 月から 11 月にかけてそのような管理草地
の利用は約 30% 減少し、代わって住宅や住宅地内の舗装地を含む無
植生の地面の利用が約 37% 増加した。大きな環境分類に関しても、
11 月には住宅地での採食の割合が 7 月の 2 倍で約 30% 増加したのに
対し、草地の多い公園や学校では同期間に約 20% の減少が見られた。
これらの結果から、春から夏のうちは公園や学校、秋には住宅地へ
と餌場をシフトさせている傾向がある。発表では、人家での人為由
来の餌資源利用がさらに増えると予想される 1 月の調査結果につい
ても報告する。
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ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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イタドリ移入と地上部撹乱が草本群集の収量におよぼす
ザリガニのアリー効果と水草の水生昆虫に対する捕食軽
影響は、構成種によって異なるか?
減効果
* 坂部尚隆,可知直毅,鈴木準一郎(首都大)
* 西川知里,西嶋翔太,宮下直(東大・農)
イタドリの移入と地上部の撹乱による草本群集の収量への影響が
群集の構成種により異なるかを栽培実験により評価した。イタドリ
が移入した群集では、構成種数が減少する。また、一般に、地上部
の撹乱は収量を減少させ、その程度は、種により異なると示唆され
ている。以上より、『イタドリ移入と地上部撹乱が収量に与える影響
は、群集の構成種により異なる』という仮説を、イタドリの個体重
および群集収量から検討した。
20 × 20 × 15cm の鉢に 18 個体の草本を植えた群集に、イタドリ
を移植し、地上部を撹乱する実験を行った。群集構成種には、それ
ぞれ3種のイネ科とマメ科の草本を用いた。25 日間の栽培後、イタ
ドリ移入処理として地下茎を植えた。また、地上部をハサミで刈り
取る処理を撹乱とした。処理の後、55 日間栽培し、地上部は種別に、
地下部はイタドリとその他に分けて刈り取り、乾燥させ重量を求め
た。これを、①イタドリの移入の有無、②地上部撹乱の有無、③草
本群集の構成(6 種類の個体群、同じ科の 3 種で構成された 2 種類
の群集、2 科 6 種からなる群集)の 3 要因について比較した。
イタドリ移入と撹乱が収量に与える効果は種により異なった。群
集構成によっても、草本地上部の重量は異なり、マメ科に比べイネ
科の草本は軽い傾向が見られた。一方、イネ科群集に移入したイタ
ドリの重量は、
マメ科群集の場合に比べ有意に大きかった。このため、
イタドリを移入した鉢の収量には種構成による差がなかった。また、
構成種数が違うと草本各種の地上部重量は変化した。マメ科草本で
は、マメ科よりもイネ科と混植すると収量が増加する傾向が見られ
た。以上より、イタドリ移入と地上部撹乱は草本群集の収量に影響し、
影響の程度は、群集構成により異なると考えられる。
新たな生息地に侵入した外来種は、低密度な状態を経た後に個体
数を急激に増加させることがある。この原因として、外来種のアリ
ー効果によって創出される、個体数の2つの代替安定状態間での転
移が挙げられる。
本研究ではアメリカザリガニを対象として、外来種の環境改変効
果によってアリー効果が生じることを示す。アメリカザリガニは湖
沼で急激に増加し、水草や水生動物を激減させる侵略的外来種であ
る。私達が取り組んできた実験と数理モデルから、(1) 水草の減少は
ザリガニの水生昆虫に対する捕食率を高めること、(2) ザリガニには、
水草を減少させることで自身の採餌効率を高めるというアリー効果
が働くこと、(3) ザリガニのアリー効果が代替安定状態を創出するこ
とが予測されている。この予測にもとづき「ザリガニの密度が高く
なる→水草と水生昆虫の生存率が低くなる→ザリガニの成長率が高
くなる」という仮説を水槽実験で検証した。
実験の結果、ザリガニの個体数が多いと水草は全滅したが、ザリ
ガニの個体数が少ないと水草は残った。また、ザリガニの個体数が
多いほど水草の隠れ家効果が小さく、ヤゴの生存率が低かった。さ
らに、水草を入れなかった水槽ではザリガニの個体数が多くなるほ
どザリガニの成長率は低くなったが、水草を入れた水槽では逆に、
成長率は高くなった。実験材料の安定同位体比分析の結果、水草の
ザリガニに対する貢献度は低く、ザリガニは個体数が多いほどヤゴ
に依存していた。以上の結果から、ザリガニの個体数が多いと水草
が大きく減少してヤゴに対する捕食軽減効果が小さくなり、ザリガ
ニからヤゴへの捕食効率が高まることでザリガニの成長率が高まる
というアリー効果が働くことが示唆された。
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西ジャワ州の国立公園に侵入する木本性移入種の評価
沖縄島倉敷ダムにおけるオオクチバスの生活史特性:餌
鹿児島大学 大学院 生命環境科学専攻 工藤芳文 *,鈴木英治,Zaenal
Mutaqien, Atih Sundawiati
が少ない環境における特異な成長パターン
* 石川哲郎,木田耕太,立原一憲(琉大理)
インドネシアの熱帯林は世界的な生物多様性の高い森林があり、
いくつもの保護区が設定されている。しかしそこでは伐採などに
よる森林劣化問題と同時に、移入種による多様性の低下も懸念され
る。そこで我々は西ジャワ州のグヌンハリムン・サラク国立公園で、
森林の劣化が進んだコリドー区域に侵入している木本移入種 3 種
Maesopsis eminii、Calliandra calothyrsus、Bellucia pentamera の 分 布 状
況を調べた。幅 10 mのベルトトランセクトを東西に長いコリドーの
主尾根に沿って1本、南北に 3 本、合計 13.3km 設定した。3 種の樹
高 1.3 m以上の DBH と座標を測定し 50 mごとに全種の林冠の被度、
林冠の高さを記録した。結果 M. eminii、C. calothyrsus、B. pentamera
はそれぞれ 284 本、 2987 本、そして 53 本が記録され、胸高断面積
合計は 21.4㎡ 、7.7 ㎡、0.089㎡ だった。主尾根の東西ラインでは M.
eminii が多く全体的に分布し、C. calothyrsus は集中分布を示した。
コリドー外の集落に通じる南北ラインには、比較的 C. calothyrsus が
多かった。M. eminii は被食型動物散布で遠くまで散布され、成長も
速い高木であるためコリドー内部の林冠で優占する可能性を持つ。
一方、C. calothyrsus は機械的散布により母樹近くに散布される低木
で、林床に高密度の実生群を形成し萌芽も多く集落付近に密生する
が、天然林への影響は少ない。B. pentamera は近年侵入したと言われ
る種であり、まだ個体数が少なかったが、動物散布を行うためこれ
から内部への侵入が懸念される。
新たな環境に導入された外来種は、原産地では見られない生活史
特性を示すことがある。沖縄島倉敷ダムにおいて特定外来生物オオ
クチバスの生活史特性を調べたところ、特異な成長パターンが観察
されたので報告する。
2009 年 10 月∼ 2012 年 6 月に採集した 1,560 個体の年齢を査定し,
年齢と標準体長(SL)の関係を詳細に解析した。その結果,倉敷ダ
ムのオオクチバスの成長様式は大きく 2 パターンに分けられた。多
くの個体が 2 歳以降,約 200 mm SL で成長が停滞し,5 歳までに死
亡する一方,少数の個体では,最大で 466 mm SL まで成長を続け,
最長 12 歳まで生存することが分かった。
1,475 個体の胃内容物を解析した結果,倉敷ダムのオオクチバス
は,魚類を主に捕食しており,特に小型のハゼ科(主にゴクラクハ
ゼ)およびサンフィッシュ科(オオクチバス,ブルーギル)の魚類
が重要な餌料となっていることが分かった。これらの魚類の重要性
は,成長に伴い変化し,いずれの年齢群においても 200 mm SL を境
に主要な餌生物がハゼ科からサンフィッシュ科へと変化した。
成長が停滞するサイズと餌生物が変化するサイズ(200 mm SL)
が一致したことから,倉敷ダムで観察された特異な成長パターンは,
餌料環境と密接な関連があると思われる.一般的に,大型のオオク
チバスは,大型甲殻類や小∼中型の魚類(∼ 150 mm)を捕食するが,
倉敷ダムでは,大型の甲殻類がほとんど生息しておらず,小∼中型
の魚類も少ない.すなわち,倉敷ダムでは,200 mm SL より大型の
オオクチバスにとって適切なサイズの餌がサンフィッシュ科魚類し
か存在しないため,十分な量のサンフィッシュ科魚類を摂餌できた
一部の個体のみが大型・高齢になる一方,多くの個体は餌不足のた
め成長できず,短命で死亡すると考えられた.
232
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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P1-370
マレーシアエンダウロンピン国立公園における外来種ア
フイリマングース駆除による絶滅危惧種の回復過程:奄
メリカクサノボタンの分布特性とその決定要因
美大島における長期モニタリングによる評価
* 福 盛 浩 介( 首 都 大・ 都 市 環 境 ), 保 坂 哲 朗( 首 都 大・ 都 市 環 境 ),
Mazlan Hashim(マレーシア工科大学),沼田真也(首都大・都市環境)
* 深澤真梨奈(東大・農),亘悠哉(日本森林技術協会),深澤圭太(国環
研),西嶋翔太(東大・農),山田文雄(森林総研),阿部愼太郎(環境省),
南雲聡(鹿児島県),宮下直(東大・農)
アメリカクサノボタン (Clidemia hirta (L.)D.Don) は、中米原産の熱
帯性の低木である。世界中の熱帯域に分布拡大し、外来種としても
認識されている。外来種の侵入は国立公園などの自然保護区域でも
報告があり、国立公園における課題となっている。マレーシア国内
の国立公園内においても C.hirta の分布は確認されているが、その分
布状況や定着を促す攪乱要因については議論が少ない。
本研究は、半島マレーシア南部に位置するエンダウロンピン国立
公園にある車両搬入用の林道と観光用トレイルを調査対象とし、生
息状況と林道整備が生育に影響を与える影響について検討した。生
息状況は、沿路、林内に生息する C.hirta の個体数を計測し、個体数
密度 (/㎡ ) で評価した。林道整備による攪乱度合いとして林冠開空
度を全店写真を用いて評価した。公園内での C.hirta 生息個体数は、
林道が最も多く、トレイル、林内と減少していた。C.hirta と光環境
の関係については、明るい環境を好むことが報告されているが、本
研究の結果から林冠開空度の 20%を超える地点では減少傾向を示
し、
C.hirta は林冠開空度が 7% ∼ 8% を頂点に集中して生育していた。
20% を超える地点ではシダ科植物との競合に負けて個体数が減少し
ていることが考えられた。林冠開空度は道幅の影響を強く受けるた
め、本種の管理指標として道幅を活用できる可能性がある。
外来種の駆除活動を持続的に行うためには、科学的根拠に基づい
たわかりやすい目標基準を設定することが重要である。しかし、多
くの場合で外来種侵入以前の在来生態系の情報が欠落しており、明
確な目標基準の設定は難しい。本研究では、外来種対策の有効性を
定量的に評価する方法として、長期モニタリングから在来種の環境
収容力を推定する方法を提案する。
奄美大島では多くの固有種を回復させるために、2000 年から環境
省による外来種マングースの根絶事業が実施されている。本研究で
は 2003~11 年の 4 時期で調査を行い、固有種 4 種(アマミノクロウ
サギ、アマミハナサキガエル、オットンガエル、アマミイシカワガ
エル)の回復過程を評価した。まず、観察個体数を目的変数とした
一般化線形混合モデルを解析し、マングースの減少により全4種が
増加したことがわかった。次に、個体数変化率に対する密度効果の
影響を非線形混合効果モデルで解析したところ、アマミイシカワガ
エル以外の 3 種で環境収容力が検出された。最後に、推定された環
境収容力を用いて回復の達成度を評価したところ、2011 年の個体数
は全体としては環境収容力の 90%以上に回復していたが、局所レベ
ルでは対象地点のうちの約半分が環境収容力の 50%以下であった。
今後はマングース密度のさらなる低下を目指すと同時に、達成度の
低かった地域での固有種の回復を重点的に調べることが重要だろう。
P1-371
P1-372
分布解析によるアライグマを中心とした中型哺乳類の種
外来アライグマと在来フクロウの種間関係:樹洞をめぐ
間関係の推定
る資源競争
* 小井土美香(東京大・農),長田穣(東京大・農),栗山武夫(東京大・農),
浅田正彦(千葉県・生物多様性センター),宮下直(東京大・農)
* 小林章弥(北大院・環境),外山雅大(北大・創成),小泉逸郎(北大・創成)
外来の哺乳類の中には、ねぐらや営巣場所として樹洞を利用する
種が数多く存在する。そのような種は、樹洞の利用を介して在来の
樹洞営巣性鳥類に何らかの影響を及ぼしていると考えられる。この
ような樹洞を介した種間関係は、在来生物の保護・管理のために重
要な情報であるが、今まで評価されてこなかった。本研究では、外
来の樹洞利用哺乳類と在来の樹洞営巣性鳥類との樹洞をめぐる資源
競争について、外来アライグマと在来フクロウを例に検討した。ア
ライグマは夜行性であり、季節によっては日中の大部分を樹洞で過
ごすため、フクロウと資源利用形態が大きく重なる。本研究では、
大型樹洞が十分に存在する北海道の野幌森林公園において、両種の
樹洞に対する選好性を明らかにし、それらを比較することで潜在的
な競争関係を評価した。合計 383 個の樹洞を観察したところ、アラ
イグマ 36 個、フクロウ 32 個の利用が確認された。両種ともに非常
に多様な形状(入口の大きさ、地面からの高さ、深さ etc.)の樹洞
を利用していた。両種の樹洞選好性を比較したところ、大きな重複
が見られた。また、フクロウが利用していた樹洞をアライグマが利
用するというように、両種が同じ樹洞を利用する例も観察された。
以上より、アライグマはフクロウの潜在的な競争相手となりうるこ
とが示唆された。特に、樹洞の利用可能量が制限されるような森林
では、フクロウに対する顕著な影響が見られると考えられる。また、
アライグマは幅広い形状の樹洞を利用していた。特に高さに関して
は、樹上 18m 付近の樹洞の利用が確認され、アライグマの高い木登
り能力が示された。アライグマの日和見的な樹洞利用と高い木登り
能力は、本種がフクロウのみならず多様な在来樹洞営巣性鳥類に影
響を与える可能性を示唆している。
アライグマとハクビシンはそれぞれ北米、東アジア原産の外来の
中型哺乳類である。アライグマやハクビシンが引き起こす問題とし
て、人家や寺社への侵入、人獣共通感染症の媒介や農作物被害など
があげられ、各地で捕獲事業が行われている。さらにカエル類やカ
メ類などの在来種の捕食を通した生態系への影響も懸念され、食痕
や胃内容調査に基づく影響評価がされてきた。しかし、類似したニ
ッチをもつと予想される在来種(タヌキ)との競合についてはあま
り着目されてこなかった。食物や生息地をめぐる競争により在来種
の生息密度の減少や局所絶滅が起こる可能性を考慮すると、外来種
が在来種に与える影響を早急に評価する必要がある。
そこで本研究では、1980 年代以降に両種が定着・分布拡大してい
る千葉県を対象に、在来種(タヌキ)への外来種(アライグマとハ
クビシン)の影響を、在来種の生息密度を外来種の生息密度と周辺
の景観構造により説明する一般化線形 ( 混合 ) モデルを構築すること
で明らかにした。対象とした地域は、タヌキ・アライグマ・ハクビ
シンが同所的に生息し、様々な景観構造を含む千葉県南部の3市町
(いすみ市・大多喜町・勝浦市)である。3種の生息密度指標として
CPUE(捕獲努力量)を、大字ごとの捕獲数と罠の設置位置、設置日
数から算出して用いた。周辺の景観構造は、罠の設置位置から一定
距離圏の、森林・耕作地・道路・市街地面積等を用いた。
233
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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外来ニジマスの流域内分布パターン - 生活史との関係 -
海岸マツ林と河畔林におけるニセアカシアの種子生産
* 金澤友紀代,山崎千登勢,田中友樹,高屋浩介(北大・環境科学院),
小泉逸郎(北大・創成)
* 岡本健太,松下通也,蒔田明史(秋田県大・生物資源)
北米原産のマメ科高木種であるニセアカシアは、鉱山跡地の治山
緑化や蜜源植物、肥料木などの目的で導入された。しかし、過去の
植栽地から逸出することによる在来生態系への影響が懸念されてい
る。ニセアカシアはクローナル植物であり栄養繁殖と種子繁殖を行
う。ニセアカシアの侵入が見られる生態系を管理するためには、こ
の両方の繁殖特性を明らかにする必要がある。今回の研究では、ニ
セアカシアの侵入が著しい海岸マツ林と河畔林を対象として、種子
生産について調査した。海岸マツ林と河畔林では、撹乱の頻度や強度、
ニセアカシアの生育環境や栄養繁殖の状況など様々な違いがあると
考えられる。本研究では埋土種子と結果率に着目し、この二つの生
態系での種子生産に違いがあるのかを明らかにすることを目的とし
て、光条件や局所密度が種子生産に影響するかを検討した。
調査対象は、秋田市にある秋田県立大学周辺の海岸マツ林内の 7
集団と雄物川中流域の河畔林 5 集団とした。埋土種子量を調べるた
め、各集団でランダムに選定した対象木の樹冠下 4 方位から 20 cm
× 20 cm × 5 cm の土壌サンプルを採取し、土壌中の種子を数えた。
結果率を求めるため、6 月に 4 m 程度までの高さで枝を 10 本程度選
定し花数を数え、10 月にさやを採取し数えた。また、さや中の種子
の状態も観察した。10 m 前後の高らからもさやを採取し種子の状態
を観察した。枝の位置の光条件を相対光量子束密度により評価し、
局所密度を対象木の半径 15 m 以内の同種の胸高断面積合計とした。
その結果、河畔林の方が、埋土種子量と結果率ともに有意に高い
値を示した。埋土種子量に対しては光条件と対象木の幹サイズ・局
所密度が、結果率には光条件が影響していると示唆された。今回の
結果から生態系の違いによるニセアカシアの種子生産について考察
する。
ニジマスは世界の侵略的外来種ワースト 100 に指定されているサ
ケ科魚類である。日本においては釣魚として高い人気があり、全国
の河川に放流されている。一方で、希少魚であるイトウを含め在来
生態系に悪影響を与える例が報告されており、今後は状況に応じて
駆除などの個体数管理を行う必要がある。ニジマスを効果的に駆除
するためには、どのような環境に多く分布しているのかを知ること
が重要である。しかし本種は季節によって生息場所を変えることが
知られており、特に冬期の分布は不明な点が多い。いくつかのサケ
科魚類では冬期に局所的な生息地に集合することが報告されており、
もしこれが外来ニジマスにも当てはまれば効果的な駆除に役立つと
考える。本研究は異なる季節において分布や個体群構造を調べるこ
とにより、ニジマス管理に有効な情報を提供する。
調査は 2012 年夏期(7 ∼ 9 月)と冬期(12 月)に北海道音更川の
10 支流において行った。それぞれ 200 ∼ 400 メートルの調査区間を
設け、電気ショッカーを用いて採捕を行った。捕獲した個体は体長
と体重を記録し、一部持ち帰って性別を調べた。
夏期は 10 支流中 9 支流にニジマスが生息しており、捕獲個体数は
2 ∼ 44 匹であった。一方冬期は 4 支流で個体数が激増し、通常は見
られない異常な密度となった(捕獲個体数:84 ∼ 447 匹)。他 5 支
流は捕獲数が変化しないか減少していた。また、夏期はほとんどの
支流で性別がオスに偏っていたが、冬期は性別がメスに偏るか 1:1
に近づいた。
以上から、冬期には多くのメス個体が支流へと移入してくること
が示唆された。個体群増加に関わるメス個体を、冬期の捕獲によっ
て効果的に間引けることが期待できる。支流によって個体数増加の
程度が異なることから、今後はそれに関わる環境要因を調査する予
定である。
P1-375
P1-376
The kin recognition behaviors and genetic structures
of 8 Argentine ant (Linepithema humile ) super
colonies in western Japan
都立水元公園「復元池」におけるアメリカザリガニの生
息環境選好性
* 真野佑亮(明治大・院・農),倉本宣(明治大・農)
*Kazuki Sato (Hokkaido univ. of education), Hironori Sakamoto
(Tamagawa univ.), MIdori Kobayashi (Kobe univ.), Mamiko Ozaki
(Kobe univ.), Seigo Higashi (Hokkaido univ.), Takahiro Murakami
(Hokkaido univ. of education)
アメリカザリガニ (Procambarus clarkii ) は雑食性で在来の生態系へ
の被害の事例が多く報告されるようになった外来種である。そのた
め、本種駆除の取り組みが重要課題となっている。
外来生物の駆除と制御を考える際には、侵入地における好適生息
場所や餌生物・天敵・在来競争者の空間的分布パターンと移動性等
の影響を考慮することが重要である。駆除と制御では人為的な方法
だけではなく、自然の力が重要であり、本当の生態系のバランスを
作りだすといっても過言ではないからである。
本研究では、東京都葛飾区水元公園水産試験場跡地内の復元池に
おいて、人工的に改変された池内でのアメリカザリガニの生息環境
の調査を行い、環境要因の違いにより分布に偏りがあるかを明らか
にすることを目的とした。
調査は池内の環境を目視で 10 箇所のハビタットタイプに分け、タ
イプごとにお魚キラー 5 個の計 50 個を設置し、地点ごとのアメリカ
ザリガニ捕獲数と性比を記録した。また、環境要因の調査としてお
魚キラー設置箇所の水温、水深、泥の深さ、蛇篭 ( 護岸 ) までの距離、
水草の被度、樹木による被陰の有無を記録した。
調査の結果、蛇篭 ( 護岸 ) 近くで捕獲数が最大であった。続いて
多かったのが、樹木による被陰のある箇所とガマの密生した箇所で
あった。蛇篭は石が積まれた護岸であるため、石の隙間がアメリカ
ザリガニにとって好適な隠れ家になっており、ガマが密生した箇所
は、サギなどの鳥類からの捕食やカムルチーなどの大型の魚類の侵
入が困難なので、捕食者から身を守るための隠れ家となっていると
考えられる。
本発表では,アメリカザリガニの生息が確認された地点の詳細な
環境要因との考察を行う予定である。
The main aim of this research is that the relationships between kin
recognition behaviors and genetic structures of critical invasive ants,
Argentine ant (Linepithema humile ) in western Japan. The North Argentinaderived small ant species has high fecundity and aggressiveness, then it
gives giant impact against native ecosystem. Now, it has been widespread
and established unicolonial over 6,000 km long from Spanish to Italia. Since
1993 the ants has invaded in Hiroshima, and expanding in western Japan.
In this study we assessed kin recognition behaviors among 8 Argentine ant
populations and estimated relatednesses using CAP-PCR. Workers of Kure
population had kin recognition abilities, however, rest of the populations
had no effective aggressive behaviors even over 300 km away from its
colonies. Although the estimated relatednesses in longer settled populations
were reached nearly 0, most populations had shown about 0.3. These data
indicated differences with European Argentine ant populations, and should
discuss evolutionary and ecological aspects of its Japanese populations.
234
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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霧ヶ峰高原における外来種オオハンゴンソウ群落への刈
オオハンゴンソウ(Rudbeckia laciniata L.)の生育と
取り及び抜根処理の影響と分布状況
元素含有量
* 内山輝美,大窪久美子,大石善隆(信州大・農)
* 髙川優(北里大院・獣),仲川友里絵(北里大・獣),福村愛里沙(北里
大・獣),馬場光久(北里大・獣),杉浦俊弘(北里大・獣)
長野県霧ヶ峰高原では、近年、特定外来生物に指定されているキ
ク科多年生草本のオオハンゴンソウ Rudbeckia laciniata L. が強清水湿
原や霧ヶ峰スキー場付近で大群落を形成しており、早急な管理対策
が必要とされている。本研究では前年度に強清水湿原において落合
ら (2011) が行った本種の刈取り及び抜根処理の効果を検証すると共
に、分布状況についてより詳細かつ広範囲に渡って調査を行い、今
後の管理対策への基礎的知見を得ることを目的とした。
実験は在来種の優占する群落にオオハンゴンソウが侵入している
群落型Ⅰと、本種の優占する群落型型Ⅱの 2 群落型において、各々、
年 1 回刈取り区および、年 2 回刈取り区、抜根区、無処理区の 4 処
理区を設け、反復数 3 プロットで合計 24 プロットで 2011 年の夏季
から 2012 年の秋季にかけて実施した。各プロットにおいて植生調査
および相対光量子密度と土壌含水率、土壌硬度の測定を立地環境調
査として実施した。なおプロットの面積は 4㎡とし、各調査は中心
の 1㎡内で実施された。分布調査は霧ヶ峰スキー場内及び強清水か
ら沢渡間、霧ヶ峰ドライブインから車山ビジターセンター間、同ド
ライブインから踊場湿原間の道路沿いにおいて GPS レシーバーを用
いた踏査を行った。
オオハンゴンソウの相対積算優占度は、群落型Ⅰにおいては年 1
回刈取り区を除く全ての処理区で、群落型Ⅱにおいては全ての刈取
りおよび抜根処理区において減少した。オオハンゴンソウの分布調
査では、新たに沢渡にて分布が確認された。また別途報告のある踊
場湿原でも本種の分布を確認した。本種の分布は局所的であり、集
中的な分布が確認された区域は強清水湿原と霧ヶ峰スキー場、およ
び両所を結ぶ道路間であった。
本大会では実験に伴う群落構造の変化や立地環境との関係につい
て、より詳細な考察を行う。
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多摩川における外来樹木キササゲ(Catalpa ovata G.
リュウキュウマツの年輪を用いた亜熱帯域の環境復元―
Don)の訪花昆虫相
酸素安定同位体比の分析から―
* 蝶名林涼(明大院・農),倉本宣(明大・農)
* 飯島 友(千葉大院・園芸),庄建治朗(名古屋工業大),中塚武(名古屋大)
キササゲ(Catalpa ovata G.DON)は中国原産の落葉高木で、日本
においては薬木として植栽されたほか街路樹としても利用されてお
り、逸出した個体が河原を中心に野生化している。分布拡大が懸念
されているものの、生態学的研究は行われていない。また、大型の
花を多数開花させることから、在来種の花粉媒介を阻害するなど、
在来生態系内の相互作用を攪乱する可能性も考えられる。そこで本
研究では、キササゲの繁殖における訪花昆虫の影響および利用実態
を明らかにすることを目的とし調査を行った。
調査は 2012 年 7 月∼ 9 月にかけ東京都あきる野市二宮付近の多摩
川河川敷で行った。訪花昆虫の調査として、キササゲに訪花する昆
虫を採集し同定したのち、ビデオカメラで訪花する昆虫を継続的に
撮影した。次に送粉形態の調査のため、キササゲの花序に不織布に
よる袋がけ試験を行い、送粉を防止した上で、通常の花序との結実
数を比較した。また、自動同花受粉や不織布を通り抜けられる昆虫
による影響を調査するため、袋がけと除雄を行い、結実の有無を調
査した。
調査の結果、キササゲへの訪花昆虫の大部分はハナバチ類であっ
た。体表への花粉の付着が確認されたのはヒメハラナガツチバチと
ツルガハキリバチとセイヨウミツバチの 3 種であり、前 2 種で多く
が占められた。袋がけ試験では、袋がけ内においても結実が確認さ
れた。また、袋がけ内においても除雄花では結実が確認されなかっ
たことから、キササゲは自動同花受粉の傾向を持つことが示唆され
た。
このため、キササゲの生育地においてはハナバチを送粉に利用す
る植物種への影響に留意する必要があると考えられる。また、キサ
サゲは送粉を行わなくても種子繁殖をしうる可能性を持つことから、
訪花昆虫の貧弱な地域においても栄養繁殖だけでなく種子繁殖を考
慮に入れた分布拡大予測を行う必要があると考えられる。
熱帯・亜熱帯林など明確な季節を欠く一年中温暖・湿潤な環境下
の樹木は,明瞭な年輪を形成しないため,これらの年輪を古気候・
古環境復元の代理データとして用いることは難しいとされてきた.
近年,樹木年輪セルロースの酸素安定同位体比(δ 18O)は,相対湿
度や降水量の水文環境に反応することが報告されており,不明瞭な
年輪であっても,δ 18O の測定によって水文環境の年々変動を復元
できる可能性がある.本研究では,亜熱帯域の沖縄本島,南大東島,
小笠原諸島父島に生育するリュウキュウマツ Pinus luchuensis を用い
て,年輪セルロースδ 18O の分析を行い,不明瞭な生長輪がリュウ
キュウマツの年輪であるのか,また,亜熱帯域の年輪による水文気
候環境復元の可能性を検討した.
沖縄本島,南大東島,父島において年輪コアを採取した.年輪コ
アは薄片を作成し,リグニン,ヘミセルロース,脂質,色素を除去
して,板状のセルロースを抽出した.これらを実体顕微鏡下で,形
成層から等間隔に切り分け,同位体質量分析システムを用いてδ 18O
を測定した.δ 18O で示された変動は,実体顕微鏡で観察した年輪
コア断面,および採取場所に最も近い気象観測所で観測された相対
湿度の年々変動と比較した.
年輪セルロースから得られたδ 18O は,それぞれ周期的な年々変
動を確認できた.δ 18O のピークが,みための生長輪の境目にあたり,
年輪であることが確認できた.晩材から早材への移行があいまいな
個体もδ 18O の年々変動が確認でき,リュウキュウマツは年輪セル
ロースδ 18O の変動によって,年輪の特定が可能であることがわか
った.年輪幅の大きな個体では相対湿度との詳細な比較が可能であ
り,島ごとの年輪セルロースδ 18O と亜熱帯域の水文環境の対応を
考察する.
235
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
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水域の脱窒を支配する環境因子 ―干潟と淡水湖の比較―
霞ヶ浦における脱窒に対する溶存有機物の影響
* 大沢雄一郎,宮内龍大郎,千賀有希子(東邦大・理)
* 宮内龍大郎,大沢雄一郎(東邦大・理),野原精一,広木幹也(国環研),
千賀有希子(東邦大・理)
汽水域や淡水域の閉鎖性水域において栄養塩の流入に伴う富栄養
化が問題視されている。栄養塩の 1 つである窒素は、微生物が担う
脱窒を経て水域から取り除くことができる。脱窒速度を支配する環
境因子が明らかにできれば、閉鎖性水域における富栄養化を制御で
きると期待される。本研究では、汽水閉鎖性水域として谷津干潟を、
淡水閉鎖性水域として霞ヶ浦を対象に脱窒活性と環境因子との関係
を統計解析により考察した。また、これまで考慮されてこなかった
溶存有機物成分が脱窒に与える影響についても解析を行ったので報
告する。
脱窒活性はアセチレン阻害法で測定した。環境因子として、pH、
温度、酸化還元電位、塩分(電気伝導度)、溶存酸素、粒度組成、含
水率、強熱減量、亜硝酸、硝酸、アンモニア、リン酸、クロロフィル a、
溶存有機炭素と腐植物質吸光度を測定した。また、溶存有機物成分
を三次元励起蛍光スペクトル法で測定し、PARAFAC 解析を行った。
脱窒活性と環境因子の回帰分析には統計ソフト R を用いた。
谷津干潟では、脱窒の基質である硝酸、亜硝酸および有機物(強
熱減量)と正の相関が得られた。また、溶存有機物成分との解析に
より、チロシン様およびトリプトファン様物質と良い相関が得られ
た。これらの有機物は脱窒に大きく関わっていると考えられた。さ
らに、植物プランクトンのクロロフィル a と正の相関がある地点で
は、植物プランクトンが微生物分解され生成した有機物成分と良い
相関が得られた。この結果は植物プランクトン由来の有機物が脱窒
に強く影響する事を示している。一方、霞ヶ浦では脱窒活性と基質
との間に相関はなかった。従って、常に基質が高い富栄養化水域で
は基質の変動は脱窒にほとんど影響しないと推察された。霞ヶ浦の
脱窒と溶存有機物成分の解析は検討中である。
脱窒は微生物による窒素浄化過程 (NO3 − → N2) であり、富栄養化
の影響を受けやすい水域でその把握が急がれている。これまで脱窒
を支配する多くの環境因子が研究されてきたが、基質である有機物
との関係、特に有機物の質を考慮した研究例はほとんどない。本研
究では脱窒と有機物の関係を明らかにするために、霞ヶ浦における
脱窒活性の変化と有機物量の変化を比較し検討を行った。また有機物
の添加培養実験を行い、有機物の質が脱窒に与える影響を考察した。
脱窒活性の測定は霞ケ浦の堆積物と底層水に NO3 − を添加したア
セチレン阻害法で行った。有機物量の指標として底層水の溶存有機
炭素 (DOC) と堆積物の強熱減量 (IL) を測定した。有機物添加培養実
験にはグルコース (Glu)、フェノール (Phe)、チロシン (Tyr)、キニー
ネ (Qui)、フタル酸 (Pht) を用い、添加した NO3 −が脱窒し得る 100 倍
および 1000 倍の炭素量を添加した。
全体を通して脱窒活性と DOC および IL に相関は見られなかった。
堆積物の IL は約 50~80% であり、霞ケ浦の堆積物には有機物が豊富
に存在することが分かった。従って、脱窒が進行するのに十分な有
機物が存在するため、脱窒活性と有機物の間に相関が見られなかっ
たと考えられた。有機物添加実験では、両炭素量とも Glu、Tyr、Pht
添加の脱窒活性は増加するか同程度だった。一方 Phe、Qui 添加の脱
窒活性は減少した。Glu、Tyr、Pht は Phe や Qui と比べて単結合が多
いため脱窒細菌に利用されやすいと考えられた。従って有機物の結
合エンタルピーの違いが脱窒を支配すると推察された。この結果は、
有機物の質として、分子量よりもむしろ構造の違いが脱窒に影響す
ることを示している。
P1-383
P1-384
森林土壌の窒素無機化速度に対する pH と C/N 比の影響
冷温帯落葉広葉樹林において降雨イベントが土壌呼吸に
* 山田高大(京都大・農),藤井一至(森林総研),舟川晋也(京都大・農)
与える影響
背景 土壌中の N 無機化プロセスは生態系の物質循環において重要
である。N 無機化においては、高分子化合物の分解(脱重合)とア
ンモニア化成の 2 つのプロセスが律速段階となりうる。耕地土壌で
は一般的に脱重合が N 無機化を律速するが、森林土壌における N 無
機化の律速要因は明らかではない。森林土壌の N 制限・酸性環境で
は糸状菌が優占するため脱重合が促進されると考えられ、耕地土壌
とは異なりアンモニア化成が N 無機化を律速する可能性がある。本
研究では、森林土壌の N 無機化速度に及ぼすアンモニア化成能の影
響を解析し、N 無機化の律速要因を解明した。
材料と方法 京都 3 地点、岩手 3 地点、タイ 1 地点の森林 7 地点の
表層土壌(0-10 cm)を用いた。脱重合能とアンモニア化成能を調べ
るため、カゼイン溶液、アルギニン溶液(140 mg N kg-1 )をそれぞ
れ土壌に添加し、60% 圃場容水量・25℃条件で培養実験を行った。
カゼイン添加土壌の K2SO4 抽出 N 量、アルギニン添加土壌の KCl 抽
出無機態 N 量の純増加速度をそれぞれ脱重合能、アンモニア化成能
の指標とした。
結果と考察 カゼイン添加実験の結果、脱重合能は耕地土壌に比
べて森林土壌で高かった。森林土壌間では、京都の強酸性土壌にお
いて脱重合能は高かった。アルギニン添加実験の結果、アンモニア
化成能は土壌 C/N 比が高くなるほど低下した。脱重合能とアンモニ
ア化成能を比較すると、C/N 比の低い岩手・タイの弱酸性土壌では
耕地土壌と同様に脱重合が N 無機化を律速することが示された。一
方で、京都の強酸性土壌では脱重合能が高く、アンモニア化成能が
低かった。特に C/N 比が高くアンモニア化成能が低い土壌では脱重
合能がアンモニア化成能を上回り、耕地とは異なる特徴を示した。
以上より、C/N 比の高い酸性森林土壌ではアンモニア化成が N 無機
化を律速しうることが示された。
* 安西理(早稲田大・院・先進理工),中一友香(早稲田大・教育),根村
真希,友常満利(早稲田大・院・先進理工),小泉博(早稲田大・教育)
土壌中の微生物、植物根が生産する CO2 が地表面に放出される現
象を土壌呼吸という。土壌呼吸の制御要因については多くの研究が
行われ、地温や土壌含水率との相関が明らかになっている。一方、
降雨が与える影響については十分な研究がされていない。乾燥地帯
では Birch Effect という降雨による土壌呼吸速度の上昇が知られてい
るが、湿潤な地域における研究例は不足している。そこで本研究で
は比較的湿潤な日本の冷温帯落葉広葉樹林において降雨が土壌呼吸
に与える影響を明らかにすることを目的とした。
観測は早稲田大学軽井沢試験地の落葉広葉樹林で行った。2011 年
4 月から 12 月まで毎月 5 日程度の土壌呼吸速度の連続測定を行い、
自然降雨下での土壌呼吸速度の解析を行った。また、8、9 月に蓄圧
式噴霧器を用いた人工降雨実験を行い、降雨が土壌呼吸に与える影
響を観測した。
乾燥時に 5 mm の連続降雨があった 10 月では土壌含水率の若干の
上昇に伴い土壌呼吸速度の上昇が確認された。一方、2 日おきに 12
∼ 14 mm の連続降雨があった 6 月、乾燥時に 15 mm の連続降雨があ
った 7 月とも、土壌含水率は降雨に伴い大きく上昇したが、土壌呼
吸速度への影響は見られなかった。人工降雨実験では 10 mm の降雨、
20 mm の降雨のどちらも土壌呼吸速度への影響は確認されなかった。
連続降雨量の少ない場合には水分条件の改善による土壌微生物活性
の上昇の影響により土壌呼吸速度が高くなるが、多い場合には CO2
の流去水への溶解、土壌表面の雨水による被覆に伴うガス拡散の停
滞といった負の要因により土壌呼吸速度が変動しなかったものと考
えられる。今後、降雨による影響の理解を深めるためには、土壌構
造の把握や土壌深度別の CO2 濃度分布の連続測定が必要であると考
えられる。
236
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-385
P1-386
土壌の理化学性がリョウブの重金属蓄積へ及ぼす影響
汽水湖における森林から魚類への物質循環
* 東 亜紗子,竹中 千里(名大院生命農),小林 元男(元愛知県森林セ)
* 山岸明日翔,中山貴将,柳井清治(石川県立大・生物資源環境)
リョウブは先行研究において、葉に Co、Cd、Ni、Zn を高濃度に
蓄積していることが明らかとなっている。また、リョウブの葉中 Co
濃度は、土壌中 Co 濃度の傾向に依存しないことが示された。これよ
り、重金属蓄積の特性は、生育している土壌の化学特性によって異
なることが考えられる。そこで、本研究では生育土壌の土壌 pH を
変化させることによって、リョウブの重金属蓄積にどのような影響
を与えるかを明らかにすることを目的とした。
対象地は、愛知県新城市の竹ノ輪 ( 母岩が蛇紋岩、土壌 pH 6.5、
Co 濃度 36 μ g/g) と上吉田 ( 母岩が結晶片岩、土壌 pH 4.3 、Co 濃度
4.3 μ g/g) の異なる 2 地点の二次林である。2011 年 6 月 28 日に竹ノ
輪からリョウブの苗を土壌ごと採取してポットに入れ、野外で栽培
し、pH 低下実験 (2011 年 9 月から 1 年間 ) を行った。pH 低下区は、
0.01 M 硫酸を理論上、上吉田の土壌 pH と同様の値になるよう 3.5 L
添加した ( 約 50 ml/ 回 )。コントロール区では水道水を与えた。実験
終了後、ポットの土壌と植物体を回収し、土壌については pH(H2O)
と形態別元素濃度 (Tessier の連続抽出法 ) を、植物体については硝酸
分解後、元素濃度を ICP-AES で測定した。
pH 低下区の土壌 pH は 5.8 までしか下がらなかった。土壌中 Co 濃
度は、どの画分も pH 低下区とコントロール区ではほとんど変化が
なかった。しかし、葉中 Co 濃度は、コントロール区 (10 μ g/g) と比べ、
pH 低下区 (28 μ g/g) では有意に高くなった。ポットの土壌の Co の
存在量 230 mg に対し、葉の Co 蓄積増加量が 5 μ g と非常にわずか
であることから、硫酸添加による一時的な pH 低下がリョウブの Co
吸収に影響を与えたと判断できる。
近年,森川海のつながりを重視した生態系管理の重要性が認識さ
れてきたが,その繋がりを示す具体的な研究事例は極めて少ない.
筆者らは森林と水域が密接に繋がる汽水域の生態系に注目し,安定
同位体比により陸ガニ類を介した森林から湖生態系への物質循環の
解明を試みた.調査地として福井県と石川県境に位置する北潟湖と,
その湖岸に位置する面積 3ha の照葉樹天然林(鹿島の森)を選定した.
この森には陸ガニ類(アカテガニ,クロベンケイガニ)が多く生息
しており,夏季の夜に水辺でゾエアを放出し,それを求めて多くの
魚類が集まる場所となっている.
研究方法として,安定同位体比分析により食物連鎖構造の解明を
行うとともに現地観測・実験を並行して行った.森林内ではリター
トラップを用いて一次生産量を算出し,方形枠を用いて陸ガニ類の
密度と生物量を計測した.次に実験室内で陸ガニ類の飼育実験を行
い,落葉の摂食率を求めた.また放仔時期には岸辺に集まる魚類を
計測するため,暗視スコープ付のカメラを設置した.同時に投網に
より魚類を捕獲し,その種類と個体数,そして体長・湿重などを測
定した.安定同位体比測定分析用サンプルとして陸ガニ類と放仔直
前の卵,落葉,昆虫類および土壌動物類を採集し,さらに湖で捕獲
された魚類とともに乾燥後粉砕し,分析を行った.
この結果,陸ガニ類の安定同位体比は -26‰ ( δ 13C),6‰ ( δ
15N) 前後であった(以下同順).餌源となる落葉は -30‰,0‰前後
の値を示すことから,陸ガニ類は落葉だけではなく動物類も利用し
ていると考えられた.一方,放仔直前の卵は -28‰ ,3‰前後の低い値
であった.魚類の中では,ボラ類が -21‰,7‰と魚類の中では最も
低く,ゾエアが多く観察された胃内容物の測定結果と一致していた.
この安定同位体比分析と実験結果から,森から魚類までの物質移動
経路について考察を行う.
P1-387
P1-388
水生動物における食物連鎖に伴う脂肪酸の同位体効果の
湿原生態系の炭素循環と環境要因の関係
解析
井上 晃 **1、黒川 紘子※ 1,彦坂 弘毅※ 2,福澤 加里部※ 3,柴田 英
昭※ 3,中静 透※ 1(※ 1 東北大院・生命・植物生態,※ 2 東北大院・
生命・機能生態,3 北大・北方生物圏フィールド科学センター・森林圏
ステーション)
* 荻野修大,高澤綾,藤林恵,相川良雄,西村修(東北大学・工)
脂肪酸の炭素安定同位体比に着目した食物網解析手法は,従来の
バルクの安定同位体比を用いた方法と比較して,より詳細に食物網
を解析できると期待されている。しかしながら食物連鎖に伴う各脂
肪酸の炭素安定同位体における同位体効果は未だ明らかにされてお
らず,同化した餌と動物の脂肪酸の炭素安定同位体比の関係は分か
っていない.
そこで本研究ではゼブラフィッシュ,マルタニシ,カワニナの水
生動物 3 種類を対象に全ての必須脂肪酸を含む人工飼料テトラミン
と炭素数 18 の必須脂肪酸のみを含む緑藻クロレラを餌として 100 日
間の飼育実験を行った。動物体内の必須脂肪酸の炭素安定同位体比
の経時変化を指数関数で近似し,得られた漸近値と餌との差分から
濃縮係数を算出した。
炭素数 18 の必須脂肪酸ではテトラミン,クロレラそれぞれの実
験系において,ゼブラフィッシュとマルタニシは日数経過に伴い餌
の値に漸近し,同位体効果による濃縮係数は 0‰となった.一方で,
炭素数 20 以上の必須脂肪酸では動物種や餌のタイプによって異な
る結果が得られ,餌に含まれる必須脂肪酸の有無や動物種の体内合
成などに依存して濃縮係数が異なるものと考えられた.カワニナに
関しては、実験初期の段階で脂肪酸の炭素安定同位体比の個体差が
大きく,ゼブラフィッシュやマルタニシと同様の方法では同位体効
果による濃縮係数の算出が行えなかった.そこで実験最終日である
100 日目における脂肪酸の炭素安定同位体比と餌の値との差によっ
て濃縮係数を算出した.その結果ゼブラフィッシュ,マルタニシと
同様に炭素数 18 の必須脂肪酸の濃縮係数は約 0‰と算出された。以
上の結果から、炭素数 18 の必須脂肪酸の炭素安定同位体比は餌と動
物の間で変化が無く,食物網解析における餌資源特定に対して有用
であることが示された.
湿原は低温・貧栄養な環境によりリター及び泥炭の分解速度が低
く、大気中の炭素を蓄積する。しかし、近年の温暖化と窒素性降下
物の増大により、微生物活性の制限要因が緩和され、今後分解速度
が増大し湿原が炭素のシンクからソースへと変わることが懸念され
る。このため炭素放出速度の大小の決定要因を解明することは、湿
原の炭素収支を予測するために重要である。
この研究では温度と栄養条件、植生の異なる湿原間において地上
部純生産速度、土壌呼吸速度、リター分解速度の違いを比較し、炭
素収支に関係する要因を明らかにする。さらに、湿原間の土壌呼吸
速度の温度応答性の違いから、気候変動に伴う炭素収支変化を予測
する基礎とする。
青森県八甲田山周辺の標高 570m ∼ 1250m に位置する 15 湿原にお
いて、地上部純生産速度、リター分解速度、土壌呼吸速度を測定した。
その結果、地上部純生産速度は pH と正に相関している一方、土
壌の無機窒素濃度との間には相関はなかった。また積算地温との間
にも相関はみられなかった。落葉分解速度については、環境条件と
の間に相関はみられなかった一方、落葉の窒素濃度と分解速度に負
の相関があり、落葉のリン濃度と分解速度に正の相関がみられた。
また、葉サイズと分解速度には正の相関がみられた。土壌呼吸速度は、
無機窒素濃度の高い湿原で温度上昇による CO2 放出量の増加量が大
きいことが明らかになった。
以上より、温暖化の影響を軽減するためには、窒素降下物などに
よる富栄養化を抑えることが重要だと考えられる。また、気候変動
による炭素放出量の変化予測においては、その場所の栄養条件と植
生を十分考慮する必要がある。
237
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-389
P1-390
モウソウチク林における放射性セシウム除染方法の提案
不耕起・草生栽培の経過年数に伴う耐水性団粒と土壌炭
-カリウム動態から考える-
素の変化
* 梅村光俊,金指努,杉浦佑樹,竹中千里(名大院・生命農),小澤創(福
島県・林研セ)
* 荒井見和,金子信博,廿楽法(横浜国大院・環境情報),南谷幸雄(埼
玉自然博),渡邊芳倫(近畿大・農)
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大地震により、東京電力福島
第一原子力発電所は壊滅的な被害を受け、大量の放射性物質が環境
中に放出された。放射性物質の中でも 137Cs は半減期が約 30 年と長く、
汚染は長期にわたる問題となる。モウソウチクは主に民家周辺に植
栽されており、竹林の除染が早期復興に向けた課題の一つである。
竹林における放射能汚染調査結果としては、食品であるタケノコの
データがすでに発表されており、イメージングプレート画像による
タケノコ中放射性セシウム (Cs) の分布 ( 箕輪,2011) が、同じアルカ
リ金属であるカリウム (K) の濃度分布 (Umemura and Takenaka, 2012)
とほぼ一致することから、Cs と K の挙動の類似性が推測された。そ
こで、放射性 Cs のタケ植物体内における蓄積特性を K 動態から推
測し、モウソウチク林における除染方法を提案することを目的とし
た。
タケの K 動態に関する調査は、愛知県内のモウソウチク林 3 林分
で行った。稈、枝、葉の現存量は胸高直径からの推定式により算出
し、地下茎、根の現存量は 50 cm の方形区各サイト 5 箇所で地下茎
と根を採取し算出した。2009 年 12 月に各サイトから採取したタケ 1
本の各器官および地下茎、根の K 含有量を分析し、それぞれの現存
量に乗じて K 蓄積量を求めた。
その結果、K はタケの各器官のうち稈に約 46%、地下茎に約 40%
蓄積されており、林分全体における K 蓄積量の 90% 近くが稈と地
下茎に存在することが明らかとなった。また福島の現地調査により、
林床リターからの Cs の溶脱が少ないことなどが明らかになっている
( 金指ら,2012) ことから、これらの知見を総合的に考察し、効果的
な Cs の除染方法を検討する。
世界中の農地で,土壌侵食や土壌有機物の減少による土壌劣化が
生じ,それを抑制するために不耕起農法が諸外国で導入されつつあ
る.さらに,生物多様性が生態系機能を通して生態系サービスの供
給に正の効果があることが認められるようになってきたが,農地土
壌の多様性が持つ効果についての研究は少ない.不耕起化すると撹
乱は減少し,ミミズなどの生態系エンジニアリング生物や植物根に
よる耐水性団粒(WSA)形成などの土壌改変の影響が大きくなるこ
とが明らかとなっている.しかし,それらが不在となっても変化し
た土壌構造は長期にわたって存在するため,変動する生物や雑草で
多様性を評価することは難しい.WSA は土壌粒子単体で存在するよ
りも土壌炭素濃度が高く維持されるために,土壌劣化と密接な関係
を持つ.そこで,不耕起化にともなう WSA を考慮した土壌炭素の
変化を評価する必要があると考えた.2011 年 5 月に,三重県の慣行
農法から不耕起・草生栽培に転換した経過年数の異なる(0,5,10,
15,17 年)ほ場で調査を行った.不耕起が開始されると,土壌炭素
量は土壌深さ 0-25cm で増加し,不耕起開始 5 年の土壌炭素量は 0 年
の 1.2 倍となった.WSA は不耕起を継続して行うと,土壌 0-15cm
の深さで> 2mm が多くなった.雑草現存量は不耕起の経過年数とと
もに増加したが,ミミズ現存量・個体数や根量と> 2mm の WSA と
の相関は認められなかった.したがって,雑草の地上部を持ち出さず,
刈り取ってその場で分解させることが,土壌炭素源として有用であ
り,土壌炭素量を急速に増加させることが可能であることがわかっ
た.また,WSA を評価することで,根や土壌生物の活動による土壌
改変効果を明らかにし,生態系機能を生態系サービスに結びつける
ことが可能であると考えた.
P1-391
P1-392
三宅島 2000 年噴火後の植生発達と植物リター分解及び
Dynamics of radio-Cs during decomposition in a
土壌動物相の関係
mixed deciduous forest in Fukushima
* 菅原優(筑波大・生命環境),上條隆志(筑波大・生命環境),吉田智弘
(東京農工大・農),黛絵美(筑波大・生命環境),門倉由季(筑波大・生
物資源),加藤和弘(東大・農)
*Huang Yao, Nobuhiro Kaneko (Yokohama National University),
Masanori Nonaka (Niigata University)
Due to the nuclear accident at Fukushima Daiichi nuclear power plant
after the great East Japan Earthquake, wide area of land and sea have been
contaminated by radio active isotopes. Among them, radioactive Cesium
is an issues of great concern, because it will be long time recycled in forest
ecosystems. We set fine (0.2 mm) and coarse (2 mm) mesh litter bags
containing 16 g of mixed deciduous leaves (mainly Quercus serrata) at
a deciduous forest in Fukushima, in December 2011. Weight loss, radioCs, total C, and N concentrations were monitored for one year. Radio-Cs
concentration rapidly increased after April and reached its maximum on
October in the both mesh bags, and it was 4 to 5 times higher than surface
soil (0-5 cm) contamination. The coarse mesh bags showed ca. 20% higher
concentration of radio-Cs than that in the fine mesh bags. Fungi are known
as accumulators of K and Cs, thus we hypothesized that fungal growing on
fresh leaf litter translocated radio-Cs from surface soil to litter layer. In the
coarse mesh bags, there were more fungivorous microarthropods than in the
fine mesh bags. Therefore, the fungal grazing by microarthropods may have
enhanced Cs uptake by fungi.
2000 年噴火の大量の火山灰と継続的な二酸化硫黄ガスの影響によ
り、三宅島には発達段階の異なる植生がモザイク状に広がっている。
植生が多様であればその種組成のみならず、それぞれの機能面にも
違いがあると推測できる。特に分解系は、有機物の供給や質に応じ
て大きく変化する。本調査地でも、植生の発達段階に応じて分解系
が異なる可能性が考えられる。そこで本研究では、噴火の被害程度
により植生発達が異なる 11 地点を選択し、植生発達と分解系の関係
を明らかにすることを目的とした。
大きく分けて次の①から④の調査を行った。①植生調査による各
地点の植物種名、被度・群度の記録②リターバッグ法による分解定
数の算出③ハンドソーティング法によるミミズの採取および個体数、
重量の記録④ツルグレン法による中型土壌動物相の採取および個体
数のカウント。
植生調査の結果から合計植被率を算出し、植生発達の尺度とした。
分解定数は必ずしも合計植被率には従わなかったが、合計植被率が
極端に少なかったり、草本が優占したりする地点では値が低かった。
また、合計植被率が増加し樹木の割合が高くなるにつれ、分解定数
も高くなる傾向がみられた。ミミズは合計植被率が低い地点で出現
せず、主に合計植被率が高い地点で採取できた。ただし、地点によ
って個体数と総重量に大きなばらつきがみられた。中型土壌動物相
の個体数は、被害程度が大きく裸地や植物がパッチ状の地点では極
端に少なく、植生発達が中程度の地点で最大となり、噴火の被害を
ほとんど受けていない地点より個体数が多いという特徴がみられた。
238
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-393
P1-394
マレーシア熱帯雨林の原生林と二次林における物質循環
福島県に自生する植物の放射性セシウム集積特性 - 事故
の違いとその要因
後 2 年目の特徴 -
* 段理紗子,黒川紘子(東北大・生命),中川弥智子(名古屋大・生命農),
兵藤不二夫(岡山大・異分野コア),中静透(東北大・生命)
* 杉浦佑樹,竹中千里,金指努(名大院・生命農),緒方良至(名大院・医),
小澤創(福島県林研セ),世良耕一郎(岩手医大・医)
森林生態系において落葉分解は物質循環の一端を担う重要なプロ
セスである。気候・落葉の質・分解者群集が落葉分解に影響を与え
る主な要因として知られているが、どの要因が相対的に重要である
かについての理解はまだ不十分である。本研究では、原生林と二次
林における落葉分解速度の違いとその要因を明らかにする。落葉分
解速度は 2 種類の方法で調べた。まず、原生林と二次林で微環境に
幅のある 16 か所を選び、17 種を用いてリターバッグ法による分解
実験を行った。その結果、17 種の落葉分解速度の平均値は、二次林
より原生林の方で高かった。つまり、落葉分解は原生林で進みやす
い。一方、落葉生産量と落葉堆積量の比による分解速度は、原生林
と二次林で違いは見られなかった。このことは、原生林の環境は分
解が進みやすいが、原生林が生産する落葉は分解されにくい形質を
持っていることを示唆している。次に、落葉分解に影響を与える要
因を明らかにするため、落葉の機能形質、土壌物性、土壌微生物活
性などを説明変数として GLMM 解析を行った。その結果、落葉の強
度、土壌窒素濃度、及び原生林と二次林の違いが選ばれ、最も分解
速度と強い相関を見せたのは落葉の強度であった。このことは、原
生林でも二次林でも生産される落葉の形質から分解速度がある程度
予測できることを示している。さらに、原生林と二次林における微
環境の違いも重要であることがわかった。同じ環境で土壌分解者群
集の呼吸を測定したところ、二次林よりも原生林で高かった。つまり、
二次林よりも原生林で土壌微生物の活性が高く、このことが原生林
での分解の進みやすさに寄与していると考えられた。以上の結果は、
原生林の二次林化に伴う分解速度の変化を予測する際、落葉の形質
だけでなく、土壌環境などの考慮も重要であることを示唆している。
【背景と目的】生態学会第 59 回大会では 2011 年に福島県内で採
取した草本植物の放射性 Cs の集積について調べた結果を報告した。
2011 年はフォールアウトによる大気中からの供給の期間が不確かで
あり、土壌からの吸収以外の要因が植物体中 Cs 濃度に影響を与えて
いる可能性があった。また、土壌に降下した Cs は時間経過とともに
粘土鉱物等に吸着され移動性が低下することが知られている。これ
らを背景として、2011 年と 2012 年で植物中の Cs 濃度を比較を行っ
た。
【材料と方法】2011 年 5 月から 2012 年 11 月にかけて福島県内に
自生する草本 ( 一年生 34 種、多年生 50 種 ) および土壌を採取し、
Ge 半導体検出器または NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータ
ーを用いて放射性 Cs の分析を行った。また、一部の植物試料は硝酸
分解後、PIXE 法または ICP-MS 法により元素分析を行った。
【結果と考察】生活形で分類すると 2011 年、2012 年ともに多年生
種で Cs 濃度が高い傾向が見られた。これは多年生種では事故後の
Cs の移動性が高い時期に地下茎等の組織に Cs が吸収されて成長と
ともに新たに展開する地上部へ移行したこと、一部の種では既に展
開していた地上部に Cs が直接付着したことが考えられる。また、翌
年は土壌からの吸収に加え、残った組織に存在する Cs が地上部へ移
行したためであると推察される。全体の傾向として、同一種におい
て 2012 年では 2011 年と比較して Cs 濃度は 10 ∼ 30% 程度に減少し
ていた。2011 年で高濃度集積個体が見られたドクダミ、セイヨウノ
コギリソウでは翌年でも濃度は下がるものの比較的高濃度に集積す
る個体が見られた。しかしながら、これが種特異的なものであるか
は生育環境の土性等と併せてさらに検討する必要がある。
P1-395
P1-396
冷温帯コナラ林およびアカマツ林におけるリター層含水
冷温帯コナラ林におけるキノコの CO2 放出量とその季
比動態とリター層呼吸の制御要因
節変化
* 増田莉菜,友常満利(早稲田大・院・先進理工),吉竹晋平(岐阜大・
流圏セ),小泉博(早稲田大・教育)
* 三島綾乃(早稲田大・教育),友常満利(早稲田大・院・先進理工),吉
竹晋平(岐阜大・流圏セ),小泉博(早稲田大・教育)
リター層は森林土壌の最上層に堆積しているため、他の土壌層に
比べて温度や水分条件の変動が激しく、それに伴って呼吸速度も変
化していることが考えられる。しかし、リター層の水分状態の連続
測定は困難であり、リター層の乾湿がリター層呼吸速度に与える影
響を定量化した研究は少ない。本研究では長野県軽井沢の冷温帯コ
ナラ林およびアカマツ林においてリター層の含水比と温度の連続測
定を行うとともにリター層呼吸速度を測定し、リター層呼吸の制限
要因および林分間の違いを明らかにすることを目的とした。
含水比は DC − HB センサーを用いた装置を構築し、温度は市販
の測定装置(Tidbit v2)を用いて、両林分で連続測定を行った。また、
毎月林床から採取したリターの温度および含水比を調整し、赤外線
ガス分析計を利用した密閉法を用いて、実験室にて呼吸速度を測定
した。その測定結果から温度−含水比−呼吸速度モデルを月ごと作
成した。
その結果、含水比は両林分において降雨により大きく上昇し、そ
の後乾いていくといったサイクルを繰り返していた。また、コナラ
林のリター層の方がアカマツ林のリター層よりも保水性が大きかっ
た。リター層呼吸速度は含水比が上昇するとそれに伴って大きく上
昇した。また、リター層呼吸量の積算値はコナラ林の方が高かった
が、それは含水比の違いによる影響であると考えられる。さらに R10
や Q10 などの呼吸活性は含水比によって変化し、特に R10 は季節変化
を示し、林分間で値が異なっていた。
これらの結果から、含水比はリター層呼吸の主な制御要因として
働いており、さらにリター層の保水性や呼吸の応答性を通して、林
分間におけるリター層呼吸の違いに影響を及ぼしていることが示唆
された。
キノコは代謝の過程で CO2 を多く放出している。しかし、キノコ
が発生する森林内における明確な CO2 放出量は明らかになっていな
い。また、過去に行われたキノコの呼吸量に関する研究は柄を持つ
軟質菌を対象にしており、枯死木などに生着する硬く柄を持たない
硬質菌の研究例は不足している。そこで本研究では、森林内でのキ
ノコの CO2 放出量を軟質菌と硬質菌の二つの形態に分類し調査した。
調査地は長野県軽井沢の冷温帯コナラ林で、2012 年 5 ∼ 11 月に毎
月調査を行った。調査区 (30 m × 30 m) の中に発生したキノコを対
象にバイオマスと呼吸速度を測定し毎月の CO2 放出量を算出した。
軟質菌のバイオマスは月によって大きく変化し、10 月に最大とな
った。一方、硬質菌は月を重ねるごとに増加し、11 月に最大となっ
た。この様に、キノコのバイオマスは菌の種類により季節性が異な
ることが明らかになった。次に呼吸特性を比較すると、軟質菌は月
によって 10℃での呼吸速度 (R10) は大きく変化したが、温度依存性
(Q10) はどの季節でも 2 前後の安定した値を示した。一方、硬質菌の
R10 は極めて低く、Q10 は高い値を示した。軟質菌と硬質菌では呼吸
特性が大きく異なるため、森林内でのキノコの CO2 放出量を推定す
るためには、形態だけでなく呼吸に関しても二つに分ける必要があ
ると考えられた。さらに、それぞれの菌の月当りの CO2 放出量を検
討すると、軟質菌の呼吸量は 10 月に最大となり、硬質菌は 7 ∼ 9 月
の夏に多くなる傾向が見られた。また、軟質菌と硬質菌の呼吸量は
それぞれバイオマスと気温に影響されていた。最後に、森林内のキ
ノコの年間の CO2 放出量を推定したところ 3.5 gCO2 m-2 yr-1 と見積も
られ、このうち硬質菌が 2 割以上を占めていた。
239
ポスター発表 3 月 6 日(水)10:30-17:30
P1-397
P1-398
生体内元素分析を用いたヨシ原の生物群集における食物
小型チャンバーを用いた草原生態系における土壌呼吸の
網解析
非破壊的な計測
* 佐藤臨(弘大院・農学生命),鎌田帆南(弘大院・農学生命),坂有紀子(弘
大院・農学生命),渡邉泉(東京農工大・農学),東信行(弘大院・農学生命)
墨野倉伸彦(早稲田大・教育),吉竹晋平(岐阜大・流圏セ),友常満利,
龍村信(早稲田大・院・先進理工)田波健太,小泉博(早稲田大・教育)
岩木川下流部の河川敷に広がるヨシ原は、オオセッカ Locustella
pryeri をはじめとする草原性・湿地性鳥類の重要な繁殖地となってい
る。これら小型鳥類は,節足動物を主要な餌として繁殖を行なって
いるが,ヨシ原の生物群集における食物網の構造解析は直接観察で
は限界があり,なおかつ餌生物の食性解析は極めて困難である。また、
火入れや刈取りといった人為的管理によって維持されているヨシ原
は,その攪乱の程度によって節足動物の群集構造に違いが生じてい
ることが既往研究より明らかになっている。
本研究では、ヨシ原の食物網の全体像を把握するため、窒素炭素
安定同位体比分析および微量元素分析を用いた。鳥類(羽毛)・両生
類・無脊椎動物・植物・泥炭土などについて安定同位体比分析を行
なった結果、ヨシやスゲ類など C3 植物を起源とする生食連鎖系と、
その腐植物を起源とする腐食連鎖系、更に水中のデトリタス起源と
考えられるもう一つの腐食連鎖系が見出された。小型鳥類や肉食性
節足動物などの高次消費者はこれらの連鎖系を広く利用しているが、
同属種間においてもδ 13C の値が異なるなど、種レベルでの餌資源
分割の可能性が示された。また、これらの生物に含まれる微量元素
を分析したところ、いくつかの重金属元素で食物連鎖に伴う段階的
な濃縮が見られた。
さらに、人為的管理がこの食物網に与える影響を評価するため、
火入れ・刈取り・放置区の全てに生息する共通種の生体内元素を比
較した。結果、同種間において各区で異なるδ 13C 値を示したこと
から、管理のあり方によって利用できるエンドメンバーが変化して
いると推測され、人為的管理がヨシ原の食物網および物質循環に大
きく影響を与えることが示唆された。
草原生態系は陸上の炭素循環において大きな割合を占めており、
その炭素収支の詳細な評価は地球規模の炭素循環の動向を解明する
上で重要である。草原生態系での土壌呼吸量の推定は一般に刈り取
りによって地上部植物体を除去してから密閉法によって行われるが、
地上部植物体の除去が根呼吸へ影響を与える可能性や、刈り取りが
許されない生態系では使用が難しいといった問題点を含んでいる。
本研究では、植物体の隙間に入る小型チャンバーを用いることで土
壌表面に直接チャンバーを設置し、刈り取りを行わず非破壊的に草
原の土壌呼吸を推定する手法を、技術的な工夫により確立すること
を目的とする。草原生態系としてシバ草原を用い、シバの地下茎の
間に入りかつ測定面積を最大限拡大したチャンバーサイズを検討し、
直径 3 cm の塩化ビニルパイプ製の小型チャンバーを製作した。この
チャンバーで IRGA を用いた通気法による土壌呼吸の測定を行った
結果、一般的な草原の土壌呼吸速度の 5~10 倍程度の大幅な過大評
価をする傾向が見られた。これは測定流量の影響で土壌から過剰に
CO2 が吸い出されたことによると考えられる。これに対し低流量化
を中心とするいくつかの改良を施し、露出土壌を用いて改良した手
法と密閉法の測定値を比較する実験を行った。結果は依然として流
量の増加に伴う土壌呼吸速度の過大評価がみられたものの、最終的
に測定流量 20 ml min-1 以下で密閉法の測定と同程度の値を示す結果
が得られた。また、野外での測定を想定し一連の装置を一纏めにし
た測定システムを製作した。本発表では測定流量の増加に伴う土壌
呼吸速度の過大評価の原因と対策、および草原生態系における非破
壊的土壌呼吸測定方法の実現可能性について議論する。
P1-399
P1-400
冷温帯ブナ成熟林における土壌呼吸の季節変化
熱帯山地林における樹木葉と根のポリフェノール濃度へ
の地形・地質の影響
* 西村貴皓(筑波大・生物学類),飯村康夫(岐阜大・流圏セ),井田秀行
(信州大・教育),廣田充(筑波大・生命環境系)
* 市塚友香,北山兼弘(京大・森林生態)
炭素吸収源としての機能がないとされる成熟林の炭素収支が,近
年注目されている。それは,十分に成熟した森林であっても依然と
して炭素吸収能力があるという報告が相次いでいるからだ(Luyssaert
et al. 2008)。成熟林の炭素吸収能力を解明するには,森林の様々な
CO2 フラックスを把握する必要があり,特に生態系からの CO2 放出
量の約半分を占める土壌呼吸の把握が重要である。成熟林における
土壌呼吸の空間不均一性は把握されつつあるが,その時間変動はよ
くわかっていない。そこで本研究は,成熟林の土壌呼吸の時間変動,
特に季節変動とその要因解明を主な目的とした。
本調査は長野県志賀高原カヤノ平のブナ (Fagus crenata ) 成熟林で
行なった。この調査地ではブナが優占しギャップ - モザイク構造が
顕著である。密閉可能な直径約 30 cm の円筒を 2011 年 10 月に同林
内の固定調査区 (100m x 100m) に 10 m 間隔の格子状に計 121 個設置
し,2012 年 7 月から月 1 回の頻度で土壌呼吸を測定した。本研究では,
多点で同時測定するためにアルカリ吸収法を用いた。同時に,土壌
呼吸にとって重要な環境要因である土壌温度,土壌水分量,および
土壌有機物量を測定した。さらに,植生の樹冠構造を評価するため,
2012 年 10 月下旬に調査区の外周を除いた 81 地点で魚眼レンズを用
いて全天写真を撮影した。
測定の結果,土壌呼吸には明瞭な季節変化が見られ,8 月に最大
となり(3.64 ± 0.76 gCO2 m-2 d-1)10 月に最小(1.61 ± 0.44 gCO2 m-2
d-1)となった。いずれの月も正規分布に近い頻度分布が得られたが,
変動係数(CV)は 7 月が最大で 0.34,8 月が最小で 0.21 となった。
現在,測定地点毎の時間的な変動特性について解析中である。
樹木は、土壌窒素可給性の低下に対して、植食者からの被食を通
した窒素の損失を防ぐため、組織内のポリフェノール濃度を増加さ
せて被食防御を行うことが知られている。ポリフェノール濃度の増
加は主に葉で知られているが、細根においても起こり得る。一方、
ポリフェノールは土壌に加入すると、タンパク質と難分解性の複合
体を形成することで窒素無機化を阻害する可能性がある。そのため、
低窒素可給性の土壌に適応した植物がポリフェノールをより多く生
産し、さらに土壌を低窒素可給性にするフィードバック仮説が存在
する。土壌窒素可給性に対する定常因子として、地形とリン(地質)
が考えられる。一般的に、谷から尾根に向かって局所的に土壌窒素
可給性は低下する。一方、土壌リンは土壌窒素の無機化に関わる土
壌微生物を支配していることから、リン可給性の低下は土壌窒素可
給性の低下につながる可能性がある。また、リン可給性の低下は、
被食を通したリンの損失を防ぐために、直接的に組織内のポリフェ
ノール濃度増加につながる可能性もある。以上のことから、リン可
給性と地形は、樹木の葉と細根のポリフェノール濃度に対して相互
作用する、と考えられる。この仮説を検証するため、ボルネオ島の
キナバル山の山地林(1800m)において、リン可給性の異なる 3 地
質と 2 地形のマトリックス状の 6 サイトにおいて、樹木の葉リター
と細根のポリフェノール濃度を調べた。葉については、各サイトに
リタートラップを置き、5 反復を得た。細根については、各サイト
当たり 25 本のコアー(5cm 深)を採取し、5 本を 1 つにまとめ、5
反復を得た。二元配置分散分析の結果、葉リターと細根中の総フェ
ノール濃度はそれぞれ地形と地質の交互作用を受けることが示され
た。このことは、リン可給性が植物中ポリフェノール濃度を変化さ
せることで、植物土壌間フィードバックに影響を与える可能性があ
ることを示すと考えられる。
240
一般講演・ポスター発表
3 月 7 日(木)10:30-17:30
群落
植物個体群・菌類
植物生理生態
植物生活史・繁殖
遷移・更新
景観・都市
動物と植物の相互関係・送粉
進化
生物多様性
動物群集
動物生活史・繁殖
動物個体群
行動
保全
生態系管理
外来種
物質循環
241
242
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-001
P2-002
多雪山地渓流沿いに成立する森林群落の樹木組成と地形
地質構造に規定される谷床地形と樹木分布パターン : 南
の対応
アルプス亜高山帯二次谷での事例
* 斉藤真人,近藤博史,若松伸彦,酒井暁子(横浜国立大学・環境情報),
鈴木和次郎(只見町ブナセンター)
* 近藤博史,酒井暁子(横浜国立大学・院・環境情報)
これまで多くの渓畔林に関する研究が行われており、樹木の更新
に対する撹乱の重要性や、樹木分布と地形の関係などが明らかにさ
れている。しかし、先行研究の多くが少雪地で行われており、多雪
地の山地渓流沿いの森林については不明な点が多い。そこで本研究
では、多雪山地渓流沿いに成立する森林の樹木組成や樹木分布と地
形の関係を明らかにすることを目的とした。
調査は日本有数の豪雪地帯である福島県只見町で行った。冷温帯
域の 5 箇所の流域に調査区を設定し、各調査区の中に流路から斜面
方向に 10m × 40m のプロットを合計 19 個設置し、毎木調査、基質
の記録、地形測量を行った。
樹木組成に関しては、河川沿いにおいてもブナが優占することが
特徴であり、少雪地の渓流沿いで優占するサワグルミ、トチノキな
どが優占するプロットは限られていた。少雪地では一般的にみられ
るヤマハンノキ、フサザクラなどの先駆性樹種はどのプロットでも
出現しなかった。また、調査地域の中でもより多雪の流域ほど出現
種数が減少し、ブナの優占度が増加する傾向が見られた。
地形と樹木分布の関係に関しては、ブナの出現個体数と比高との
間には関係性はみられず、河川沿いでも優占度が高かった。さらに
は河川撹乱を受けた砂礫地にもブナは定着していた。
これらのことから、多雪地の山地渓流沿いでは、少雪地とは異な
り先駆的な高木種が欠如しており、空いたニッチに斜面の優占種で
あるブナが侵入している可能性が示唆された。
南アルプス・北岳に位置する野呂川源流域 ( 標高 2000-2200m) に
おいて、縦断面方向での河床地形と地質との関係およびそれらと本
渓流域に優占するヤナギ・ハンノキ属樹種の分布との関係を明らか
にした。河床勾配を計測するために河川の縦断測量を行い、同時に
測量地点周辺に出現する各樹種の在不在、地質、河床の状態などを
記録した。地質は、河床に岩盤が露出している場所ではその種類を
記録し、堆積物などで露岩が見られない場所では 5 万分の 1 地質図
幅「市野瀬」を参考に記録した。GIS 上で河川を 20m のセグメント
に区切り、その区間での種毎の在不在データを応答変数、河床勾配、
河床幅、地質などを説明変数とし、GLMM を用いてヤナギ・ハンノ
キ属樹種の出現率を解析した。
本流域では、チャート、スレート、酸性凝灰岩の 3 種類の地質が
確認された。河床勾配は全体的に各地質の性質を反映し、比較的硬
く侵食されにくいチャートの場所では急になり、比較的軟らかく侵
食されやすいスレート、酸性凝灰岩の場所では緩くなる傾向が見ら
れた。特に、チャートの場所から下流側のスレートや酸性凝灰岩に
かけての地質の境界で河床勾配が急になった。その様な場所は、河
川幅も狭く、ミヤマハンノキ、ヤハズハンノキが分布する傾向にあ
った。一方で、地質境界から上流側で河床勾配が緩くなる傾向があ
った。これは、チャートが天然のダムの役割を果たし、上流からの
土砂を堰き止め、その場所が堆積地となりやすいからであると考え
られた。特に本流と支流との合流点の下流側で河床幅が極端に広く
なる傾向が見られた。そのような場所では、オオバヤナギやオノエ
ヤナギが分布していた。
P2-003
P2-004
急峻な山岳地における樹木群集の集合規則 - 系統的多様
キナバル山地林の樹木種多様性:標高・地質・地形によ
性を規定する地形要因 -
る変異
* 北川涼(横国大・環境情報),三村真紀子(九大・理),森章(横国大・
環境情報),酒井暁子(横国大・環境情報)
* 相場慎一郎,澤田佳美(鹿児島大),武生雅明(東京農大),清野達之(筑
波大),北山兼弘(京都大)
日本のような侵食が卓越する地域に発達する複雑な地形構造は、
森林の群集組成に影響を及ぼすことが知られている。地形と森林構
造の関係についてのこれまでの研究で、尾根 - 谷の地形傾度に沿っ
て群集組成が変化することなどが明らかにされた。しかし、多くの
研究は地形傾度上の種組成のパターンや分類された地形単位と森林
群集の対応を記載したものに留まっており、地形傾度上の群集集合
規則に言及した研究は少ない。
そこで本研究では、神奈川県丹沢山地において、急峻な地形に成
立する森林の群集集合規則を明らかにするために、系統的多様性指
標と地形要因の関係を解析した。
その結果、急傾斜、北向き斜面、土壌が浅いといった多くの植物
にとってストレスの高い立地になるにつれて、群集構成種が特定の
系統に制限され、一方、緩傾斜、南向き斜面、土壌の深い立地では、
多様な系統の種によって群集が構成されるという、地形傾度に沿っ
た系統的群集構造の連続的な変化が示された。前者は環境によるフ
ィルタリング効果、後者は競争排除などの生物的要因が群集構造を
規定していることを示唆している。したがって、地形傾度上の位置
によって群集組成が異なる理由は、非生物的環境要因に応じた立地
の選好性によるニッチ分化だけではなく、生物的な要因も含めた異
なる群集形成のプロセスが作用した結果であると考えられる。
また、地形傾度に沿った群集集合規則の変化は確認されたものの、
多くの群集はランダムに近い構造を示すことも明らかになった。こ
れは、種間関係や環境要因などの決定論的なプロセスだけではなく、
先に定着した種の優先効果などの確率に依存したプロセスも群集構
造に影響していると考えられる。
243
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-005
P2-006
大津波1年後に何が生えてきたか ~岩手県沿岸南部の
海浜植生の帯状構造と人為改変の影響
記録~
* 永松 大・平家日向子(鳥取大・地域)
* 鈴木まほろ(岩手県立博物館),岩手県植物誌調査会,岩手県立大船渡
高等学校自然科学部
鳥取砂丘はもともと東西 16km,南北 2km の広さを有し,東側か
ら福部砂丘,浜坂砂丘,湖山砂丘,末恒砂丘の四つに区分されていた。
第二次世界大戦後に大規模な植林活動が進められたが,浜坂砂丘東
部,多鯰ヶ池北方では砂丘地が残され,天然記念物に指定されて多
くの観光客が訪れている(以下,観光砂丘)。観光砂丘では現在,
「草
原化」を防ぐため継続的に除草作業が行われている。観光砂丘の西
側につながる鳥取大学乾燥地研究センター内にも砂丘地(以下,乾
地研砂丘)があり,ここは周辺の植林後,現在まで管理がされてい
ない。海岸そばまで植林された福部砂丘を含め,本研究では,海岸
から内陸に向かって海浜植生の群落構造がどのように変化するかを,
過去の植林との関係から解析した。
調査は鳥取砂丘の観光砂丘(砂丘幅,約 1km),乾地研砂丘(同,
約 200m),福部砂丘(同,約 30m)の 3 ヶ所で行った。各調査地に
それぞれ海岸線から内陸に向けた 3 本の調査側線を設定し,海岸か
ら 10 mごとに方形区を連続して設置し地形調査と植生調査を行っ
た。乾地研砂丘と福部砂丘では植林地内まで調査測線を延長した。
3 調査地の砂丘幅は大きく違っていたが,砂丘地に出現する海浜
植物は,3 調査地ともほぼ同じ種構成であった。ただし,観光砂丘
ではケカモノハシやコウボウムギが,乾地研砂丘ではネコノシタ,
ハマゴウ,カワラヨモギが多く見られ,優占種は異なっていた。乾
地研砂丘では,コウボウムギやネコノシタから,カワラヨモギやケ
カモノハシ,ハマゴウやコウボウシバへと群落が変化する帯状構造
が見られたが,観光砂丘と福部砂丘ではその傾向は弱かった。海岸
林内では,海浜群落はわずかにコウボウシバなどが残っているだけ
だった。健全な海浜植生の維持には,ある程度の砂丘幅の確保と人
の関与の縮小が必要と考えられる。
2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震による大津波の被害を
受けた地域では、津波とその後の人為により、多くの場所で植生が
一度ほぼ完全に消失し、以後も大きく変化しつつある。岩手県では、
津波後の植物相の現状と、今後の長期的な変化を記述することを目
的とし、市民や高校生らによる野外調査を 2012 年から開始している。
2012 年の調査は岩手県沿岸南部(宮古市以南)において 6 月から
10 月の間に実施した。調査地として砂浜・礫浜・岩浜、漁港、河川敷、
住宅商用地跡など 20 ヶ所を選んだ。面積は各 100 平方メートル以上
で、数名で歩き回れる範囲に生えている維管束植物をすべて記録し、
調査時に繁殖器官をつけている種は標本を作成して同定に用いた。
調査の結果、砂浜や住宅商用地など、津波で植生がほぼ完全に消
失した場所では、全記録種数のうち外来植物(史前帰化種を除く帰
化種と園芸種)の種数が占める割合(帰化率)と1・2年草の種数
が占める割合がともに 30%を超え、50%を超える場所もあった。一
方、岩浜や河川敷等では植生が残存しており、帰化率は 0%から 52
%と大きくばらつき、1・2年草の割合は 30%以下であった。
陸前高田市の高田松原では、震災以前に綿密な植生調査が行われ
ているため(鈴木善久 2006・2007)、大津波の前後で植物相の比較
を行うことができる。2005 ∼ 6 年の調査時には砂浜と松林を含む区
域の植物種数が 83、帰化率が 24%、1・2年草の割合が 28%であ
ったが、大津波によって松林を含む全植生がほぼ消失し、1年後の
2012 年には種数 108、帰化率 31%、1・2年草の割合 41%となった。
また、過去に記録のなかった帰化種が津波後に多く記録された。
これらの結果から、津波を受けた土地における1年後の植物相と
津波の影響、また津波以前の植生や立地との関係について考察する。
P2-007
P2-008
森林における多様な種の共存メカニズム:地上 LIDAR
沖積低地水田のミズネコノオの分布を決めているのは?
を利用した森林構成種の光獲得効率と光利用効率の推定
* 嶺田拓也(農研機構・農工研),大澤啓志(日大・生物資源),大久保 悟(東
大・院・農学生命),楠本良延(農環研),山田 晋(東大・院・農学生命),
北川淑子,井本郁子(leaves 技術士事務所)
* 小野田雄介(京都大・農),Jema B Salunga(Utrecht Uni),阿久
津公祐(琉球大・熱帯セ),相場慎一郎(鹿児島大・理工),矢原徹一(九
大・理),Niels P. R. Anten(Utrecht Uni)
日本最大の湿地環境である水田は,水稲を栽培する場としてだけ
でなく,さまざまな生物にも利用されており,農業農村の生物多様
性保全機能を発揮する場として重要である。例えば,主に耕作水田
内に生育する水田雑草と呼ばれる植生にも絶滅危惧種を含む地域の
水辺植生を反映した種群が見られることがある。河川の堆積作用に
より形成された沖積低地(河成低地)は,肥沃で地下水位も高いた
め水田に適しており,古くから水田開発されてきた。沖積低地に展
開される水田の多くは,生産性向上のため,排水改良や大区画化な
どの土地改良が重ねられ,近代的な農業が営まれ,今後とも水稲生
産の中心と位置づけられている。栃木県の鬼怒川中流域に広がる沖
積低地水田には,かつての河川氾濫原に分布していたと考えられる
準絶滅危惧植物のミズネコノオが残存しているが,すべての水田で
見られるわけではない。そこで,食糧生産を担う中核的水田である
沖積低地水田に見られる氾濫原植生の保全の方向性を検討するため
に,沖積低地の約 1.3km ×約 1.7km にわたる約 640 筆の水田を踏査
しミズネコノオの発生の有無と発生量を把握した。そして,ミズネ
コノオの分布水田と旧河道,氾濫平野,低位面,下位面などの微地
形およびダイズやソバなどの転作履歴や耕起体系・除草剤歴を含む
ほ場管理履歴などを重ね,ミズネコノオの分布を規定する要因につ
いての検討を行った。
植物群落には光を巡る一方向競争があり、背丈の高い植物は、上
から差し込む光を先取りし、背丈の低い植物を被陰し、成長を抑制
することができる。しかしその一方で、植物群落には背丈の異なる
植物が共存している。この一見矛盾していると思える現象を理解す
るために、本研究では、共存する植物の光利用戦略に注目した。成
熟した常緑広葉樹林を対象に、光の三次元分布、地上 LIDAR による
葉の三次元分布、非破壊的成長速度の測定を行い、共存している樹
木の光獲得効率と光利用効率を世界で初めて定量化した。背丈の高
い樹木は、低い樹木に比べ、バイオマスあたりの光獲得量(=光獲
得効率)が高かった。一方で、背丈の高い樹木は獲得した光をバイ
オマスに転換する効率(=光利用効率)が低いことが分かった。こ
の光獲得効率と光利用効率のトレードオフにより、樹高の異なる樹
木でも同レベルの相対成長速度をもつことが分かった。本研究の結
果は、サイズに依存した光獲得と利用のトレードオフがあるために、
一方向競争下においても異なるサイズの樹木が共存できることを示
す。
244
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-009
P2-010
北ボルネオ・キナバル山における熱帯下部山地林の 14
ミクロネシア・トラック環礁における海岸植生の種組成
年間の動態:地質と地形による変異
と分布パターン
* 澤田佳美,相場慎一郎(鹿児島大・院・理工),武生雅明(東京農大・
地域環境),北山兼弘(京大院・農)
鹿児島大・教育
ミクロネシア,トラック環礁において,島の海岸植生の分布パタ
ーンと多様性を明らかにすることを目的とし,ウエノ(Weno),ロ
マヌム(Romanum)
,ピース(Piis)の 3 つの島において植生調査
を行った。海岸植生は,1) マングローブ,2) ハマアズキ(Vigna
marina ) − オ オ バ ナ ノ セ ン ダ ン グ サ(Bidens pilosa var. radiata ) 群
落,3) ク サ ト ベ ラ(Scaevola taccada ) − モ ン パ ノ キ(Heliotropium
foertherianum )群落,4) サキシマハマボウ(Thespesia populnea )−
パンダヌス(Pandanus )群落,5) オオハマボウ(Hibiscus tiliaceus )
−シイノキカズラ(Derris trifoliate )群落,6) ウミショウブ(Enhalus
acoroides )群落の 6 群落に区分された。マングローブは主に小河川
の河口や海岸の塩生湿地に成立していた。一方,ハマアズキ−オオ
バナノセンダングサ群落,クサトベラ−モンパノキ群落,サキシマ
ハマボウ−パンダヌス群落は砂浜に,オオハマボウ−シイノキカズ
ラ群落は主に岩石海岸に成立していた。ウミショウブ群落は浅い海
底に成立していた。このように海岸植生の分布パターンは,各島の
地質,地形的要因と大きく関連していると考えられた。また,砂浜
に成立している群落のうち,外来種を多く含むハマアズキ−オオバ
ナノセンダングサ群落は,都市の発達したウエノ島のみで確認され
たことから,人間活動の質によって海岸植生への外来種の侵入の程
度が異なることが予想された。
北ボルネオ・キナバル山の標高 1700m 周辺に成立する熱帯下部山
地林では、土壌養分と地形の植生への相互作用を検討するため、第
三紀堆積岩・第四紀堆積物・蛇紋岩地のそれぞれに尾根・斜面中
部・斜面下部に永久調査区が設置されている。斜面下部における土
壌リンの可給性は、第四紀堆積物>第三紀堆積岩>蛇紋岩の順に低
下する。これらの調査区において DBH5cm 以上の樹木を対象とし
て、1997 ∼ 2007 年の間 2 年ごとに毎木調査を行い、さらに 4 年後
の 2011 年にも再調査した。
本研究では、14 年間の毎木データを基に幹数密度、死亡・新規加
入率の経年変化を明らかにし、その変動パターンを異なる地質と地
形間で比較した。
その結果、エルニーニョによる干ばつ年を含む 1997 ∼ 1999 年
と 2001 ∼ 2005 年の 2 つの期間で、幹数密度と死亡率が大きく変化
する傾向がみられた。1997 ∼ 1999 年では、全調査区において幹数
密度が低下し、死亡率が増加した。この死亡率を地質間で比較する
と、死亡率が高い順に、第四紀堆積物>第三紀堆積岩>蛇紋岩とな
り、また、地質毎に地形間で比較すると、第四紀堆積物を除いた 2
つの地質では、尾根<斜面中部<斜面下部の順に死亡率が増加した。
ここでの死亡個体は、樹種による共通性はないものの、個体サイズ
については小さい個体で死亡率が高かった。2001 ∼ 2005 年は、蛇
紋岩地の 3 調査区で著しく幹数密度が低下し、死亡率が増加した。
この期間に多く死亡した個体は属に共通性があり、3 調査区ともに
Podocarpus であった。また、ここでの死亡率は、斜面下部<斜面中
部<尾根の順に増加する傾向がみられた。
P2-011
P2-012
Relationships between functional traits and the ability
モンゴル草原における未舗装道路放棄後の植生回復
of forest tree species to reestablish in secondary forest
* 衣笠利彦,鈴山幸恵,土橋法子(鳥取大・農),ナチンションホル(岡大院・
環境)
and enrichment plantations in the uplands of northern
未舗装地における車両の通行は土壌と植生に大きなダメージを与
え、特に乾燥地のような厳しい環境では植生の回復を強く阻害する。
未舗装道路放棄後の植生回復については多くの研究があるが、それ
らのほとんどはわだち跡における植生回復を対象としている。しか
し撹乱地に侵入した植物がしばしば地下茎によって周囲に拡大する
ことが知られており、わだちにおける植生回復も周辺植生に影響を
与える可能性がある。そこでモンゴル国の乾燥草原において、未舗
装道路放棄後のわだちにおける植物の侵入・定着と周囲への拡大を
調べた。放棄後 4 年以上経過した未舗装道路とその近隣の現用道路
を対象とし、わだちとその周辺の地上部植物量と植被度を測定した。
調査した現用道路は比較的交通量が少なく、地上部植物量と植
被度への影響が見られたのはわだち部分に限られていた。わだちに
おける地上部植物量と植被度は、道路放棄後 4 年で周辺の草原と
同程度まで回復していた。しかし家畜の嗜好性が低い多年生草本
Artemisia adamsii がわだち跡に侵入・定着し、わだち外に拡大してい
た。この結果は、植物の生産性が低い乾燥草原であっても、車両に
よる攪乱の程度が小さければ、未舗装道路の放棄後比較的短期間で
植物量は回復するものの、わだちに侵入・定着した植物が周囲に拡
大し、周辺植生に影響を与える可能性があることを示している。モ
ンゴル草原では、未舗装道路放棄後に低嗜好性種の A. adamsii がわ
だち跡に定着して周囲に拡大し、草原の牧草地としての質の低下を
もたらすもしれない。
Thailand
Tohoku University:Lamthai Asanok, Hiroko Kurokawa, Masahiro Aiba,
Masatoshi Katabuchi, Tohru Nakashizuka; Kasetsart University: Dokrak
Marod, Prateep Duengkae
We investigated plant functional traits and the factors affecting restoration
success in forest communities that had been restored both by natural
regeneration and enrichment plantations, in abandoned shifting-cultivation
areas within the tropical montane forests in northern Thailand. Sampling
with three different forest management areas: primary forest, secondary
forest, and enrichment plantations. We found that trees within primary forest
tended to have relatively heavier wood and larger seeds than secondary
forest species. The seedlings of the species with high leaf toughness,
large leaf mass area, and wood density tended to be more sensitive to
environmental conditions. Species with larger seeds tended to have a more
limited recruitment that enrichment plantations were more suitable for these
species. Our results suggest that the restoration of primary forest by natural
regeneration is difficult because it is prevented by both environmental
conditions and recruitment limitation. The contribution of these factors was
species-dependent, which could be partly predicted by their functional traits.
245
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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P2-014
Effect of Grazing Pressure on the Structure of Rangeland
八幡湿原における導水路設置による湿原再生に伴う植生
Plant Community in Mongolia
の変化
*Sergelenkhuu JAMBAL (Okayama Univ.), Nachinshonhor G. URIANHAI
(Okayama Univ.), Takashi OTODA (Okayama Univ.), Yoshihiro YAMADA
(Okayama Univ.), Undarmaa JAMSRAN (Mongolian State Agriculture
Univ.) Keiji SAKAMOTO (Okayama Univ.), Ken YOSHIKAWA (Okayama
Univ.)
* 佐久間智子,佐藤克則(中外テクノス(株)),藤井猛(広島県)
八幡湿原自然再生事業では、過去に失われた湿原(霧ヶ谷湿原)
を再生するため、平成 19 年度から平成 21 年度にかけて再生工事が
実施された。再生工事では、湿原内に広く水が廻るよう中央を流れ
る三面張り水路の上流部に取水堰や導水路が作られた。
本研究では、導水路設置による湿原再生に伴う植生の変化を明ら
かにし、導水路設置の効果を検証するため、導水路設置 1 年後に植
生調査と植生図の作成を行い、導水路設置前の結果と比較した。
八幡湿原のある広島県山県郡北広島町八幡地区は、広島県の北西
部に位置し、周囲を 1,000m 級の山々に囲まれた標高 800m 前後の盆
地である。年平均気温は 10℃前後と低く、年間降水量は 2,400mm か
ら 2,600mm と多く、県内でも積雪量の多い地域である。
植生調査は 2011 年 6 月と 9 月に行い、得られた資料から各植物
の最大被度を用いて全層を対象に表操作を行い、群落区分を行った。
植生図の作成は、調査地全域を踏査し、表操作により区分された各
群落を判別するとともにその境界を記録した。現地の記録と 2010 年
及び 2011 年に撮影された空中写真をもとに植生図を作成した。
調査の結果、導水路設置前には、カンボク群落やノイバラ - ハル
ガヤ群落といった乾生群落が広い面積を占めていたが、導水路設置
後には、イ - エゾシロネ群落やミゾソバ - アキノウナギツカミ群落
といった乾性な立地と湿性な立地の中間的な立地に成立する群落が
モザイク状に分布していた。また、導水路の先にできた溜池や導水
路沿いには、フトヒルムシロ群落が成立し、一部でナガエミクリが
生育していた。再生工事区域では、ノイバラ - トモエソウ群落やヨ
モギ群落といった乾生群落が部分的に残っているものの導水路設置
の効果は高かったと考えられる。
The objectives were to clarify whether the effect of grazing pressure on
vegetation coverage changed with plant functional type and its palatability
in different climate. Twenty-one winter camps were selected from Caragana
steppe. Study sites were different in livestock number, proportion of
livestock combination and period of land use. Winter camps were classified
into two groups of north and south by the species construction, but the
boundary lines of each year shifted slightly which indicated the presence
of transit area between north and south. Under the lack of intensive grazing
pressure at 1600m site, vegetation coverage of palatable species in the north
group was higher than the sough group suggesting the keeping of favorable
grassland under suitable climate. Changes in vegetation structure along the
grazing gradient indicated the remarkable changes from unpalatable plants
to palatable grass in both north and south groups.
Key words: grazing intensity, vegetation coverage, palatability, Mongolia
P2-015
P2-016
アマゾン天然林の小地形区分における森林の構造とギャ
畑地境界帯の微地形と管理方法が植生にあたえる影響
ップ動態
* 紺野康夫,滝沢敦子
* 飯田滋生(森林総研北海道),八木橋勉(森林総研東北),諏訪錬平
(森林総研)
,田内裕之(森林総研四国),九島宏道(森林総研多摩),N.
Higuchi(国立アマゾン研究所)
畑地境界帯とは耕地の四方もしくは一方に接した耕地と道路、耕
地と耕地の境であり、草本が生育している場所のことである。畑
地境界帯は在来種を保護するための重要な場所のひとつであり
(Marshall & Moonen, 2002)、希少種の生息地として注目されている (
須賀ほか 2012)。そこで畑地境界帯の植生と境界地内の微地形や除草、
草刈り強度の関係を K-means 法による植生分類によって検討した。
また畑地や牧草地、残存林植生との関係を NMDS 法によるオーディ
ネーションによって求めた。畑地境界帯にどのように植物が生育し、
周辺の植生とどのような関係にあるのかを解析することは、希少植
物の保全や農地景観の生物多様性を保つ上で重要である。
調査は畑地境界帯を 5 つの微地形 ( 上平地、傾斜地、溝、下平地、
平地 ) に分け、北海道帯広市とその周辺にある畑地境界帯のそれぞ
れについて植生調査を行った。また刈り取り頻度などの畑地境界帯
に関する管理方法を、農家と地方自治体に聞いた。K-means 法によ
り畑地境界帯と周辺植生 ( 湿性林、乾生林、畑、牧草地 ) は 13 のグ
ループに分けられ、畑地境界帯が周辺植生と区別されるものである
こと、管理強度により異なる植生を持つことが明らかとなった。ま
た NMDS 法によるオーディネーションでは、畑地境界帯は森林、畑、
牧草地を 3 極とする中間に位置することが明らかとなった。このこ
とは畑地境界植生が森林植物、畑地雑草、牧草地植物の混生として
成立していることを示す。この結果を用いて畑地境界帯の管理方法
を比較評価し、周辺環境との関係を示すことで農地景観の生物多様
性を保つための畑地境界帯のあり方を考察した。
アマゾンの森林の大部分は雨期の増水期に浸水しないテラフィル
メと呼ばれる立地に成立している。テラフィルメの地形は相対的な
標高と傾斜によって、標高の高い平坦地である plateau と”baixio”
と呼ばれる谷地の低部、および両者の間の斜面である slope に大きく
3 区分される。アマゾン地域では地形によって土壌の理化学性が異
なり、地上部バイオマスは底部の baixio で低い事が報告されている。
しかしながら、バイオマスの変異は土壌の理化学性だけでは十分に
説明できていない。
本研究では、ブラジル中央アマゾンのマナウス近郊のテラフィル
メに成立する自然林に設置した 18ha の試験地において、3 地形区分
間で地上部バイオマス、樹木の種組成および林冠ギャップ動態の比
較を行った。
推定地上部バイオマスは、baixio(283 Mgha-1)は、plateau(353
Mgha-1)および slope(343 Mgha-1)よりも小さかった。主要樹種の
種組成は、baixio は plateau および slope と比較して相対的に違いが
大きかった。また、ギャップの形成速度および修復速度のそれぞれ
は、baixio(0.75 %yr-1, 1.09 %yr-1)は、plateau(0.37 %yr-1, 0.43 %yr-1)
および slope(0.31 %yr-1, 0.62 %yr-1)よりも約 2 倍の大きな値を示した。
これらより、地形による土壌の理化学性の違いだけではなく、地形
区分におけるギャップ動態および樹種構成の違いもまた地形区分に
おけるバイオマスの違いに影響していると考えられた。
246
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-017
P2-018
東日本大震災の津波による海岸植物群落への影響 - 市民
宮城県農耕地景観における津波被災傾度に沿った植生分
調査の結果から -
布パターン
* 小此木宏明(日本自然保護協会),朱宮丈晴(日本自然保護協会),由良
浩(千葉県立中央博物館)
* 西村愛子,浅井元朗,渡邊寛明(中央農研)
日本自然保護協会では 2003 年∼ 2007 年にかけて、日本全国の危
機的な砂浜海岸の環境、植物群落の現状を明らかにするために市民
参加により調査を実施した。
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災では地盤沈下、砂浜海岸の流失
などさまざまな海岸の改変が起こり、植物群落にも様々な影響を及
ぼしたと考えられるが、それぞれの海岸で具体的にどのような変化
が生じたかは明らかにされていない。そこで、当時と同じ海岸を同
じ調査方法で調査することにより、震災前後の海岸環境、海岸植物
の変化を明らかすることを目的とした。調査は 2012 年 4 月∼ 10 月
にかけて実施し、青森県から千葉県に至る 141 ヶ所の砂浜海岸で 80
名の市民の協力を得てデータを収集した。
その結果、72 ヶ所で海岸の幅が狭まり、そのうち、11 ヶ所では沈
降、侵食などの理由により海岸そのものが消失した。また 20 ヶ所の
海岸では津波後に後背湿地ができたとの報告もあり、大きな環境の
変化があったことが明らかになった。
今回の調査地点のうち 127 ヶ所の海岸で震災前後に同地点で調査
が行われ、データの比較ができた。指標とした 34 種の海岸植物の各
調査地点での平均出現種数は震災前 6.9 種、震災後 6.3 種と大きな変
化はなかった。また、震災後に植物が出現しなかった海岸のうち、
震災以前から植物がなかった海岸は 4 ヶ所、砂浜が消失した海岸が
5 ヶ所、復興の工事により消失もしくは確認できなかった場所が 2
ヶ所であり、海岸植物群落への津波の直接の影響は少なく、砂浜が
なくならない限り植物は生存していると考えられた。
種ごとに見ると、1 ∼ 2 年生草本のオニハマダイコン(外来種)、
コマツヨイグサ(外来種)、マルバアカザ、オカヒジキの出現頻度が
増加し、多年生草本のハマニガナ、ハマエンドウ、コウボウムギな
どの出現頻度が低下した。
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災により,海岸から 5 ∼ 6km の
内陸地域にまで津波被害がおよび,多くの農地が流失や冠水等の被
害を受けた。被災した農地では津波による直接的な植生被害だけで
なく,瓦礫や土砂の除去,圃場整備や除塩等の復旧作業による頻繁
な撹乱状況が続いている。このような撹乱下にある農地では,外来
種などの競争力の強い種の侵入が懸念される一方で,被災後の放棄
水田では,被災前には見られなかったミズアオイやヒメシロアサザ
など絶滅危惧種の生息が確認されるなど,被災前とは異なる植生が
成立しているとの報告もある。営農に適した植生管理の必要性に加
え,今後,農耕地の景観全体を通した多様な植物相を維持するため
にも,農地の復旧過程における植生の分布パターンの評価が必要で
ある。本研究では,津波被災後の農耕地域における植生分布パター
ンを評価するため,宮城県名取市において,海岸から内陸へ向けて
約 4km にわたって被災程度や管理状況の異なる 62 地点の圃場を対
象に 2012 年 7 月と 9 月の 2 回,植生調査を行った。指標種による植
生タイプの分類を行った結果,4 つのタイプに分類された。被災程
度が軽度で 2011 年から作付けが開始された圃場と,除塩等復旧作業
後 2012 年から作付けが開始された圃場は,両方の圃場が混在する形
で 2 つの植生タイプに分類された。これらは海岸からの距離など被
災傾度に関わらず,作付された作物種により植生タイプが分類され
る傾向が認められた。3 つめはノボロギクを指標種とし 2012 年除塩
や整備作業が進行中の圃場が多く分類された。4 つめに分類された
のはサンカクイを指標種とするタイプで,地盤沈下や浸水等の被災
程度が最も大きい未復旧の農地が分類された。このように,被災後
に発達した植生タイプは第一に被災の大きさにより分類され,その
後は圃場の管理状況によって異なる植生タイプへ発達することが示
された。
P2-019
P2-020
栃木県岩船山に見られるツメレンゲ群落の種組成と生育
冷温帯林におけるブナの衰退 -20 年間の毎木調査の結果
環境
から -
星直斗(栃木県立博物館)
* 山崎理正,金子隆之,高柳敦(京大院・農),安藤信(京大フィールド研)
希少種ツメレンゲ Orostachys japonica (Maxim.) A.Berger はベンケイ
ソウ科の多年草であり,栃木県版レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に
指定されている.栃木県南部に位置する岩船山 (172m) は江戸時代か
ら採石のある岩山であり,県内では限られたツメレンゲ群落の産地
の一つである.本研究はこのツメレンゲ群落の中で遷移段階や立地
環境が異なると思われるものについて,その種組成やツメレンゲの
個体数と生育環境との対応関係について明らかにすることを目的と
した.
Braun-Blanquet 法(1964)を用いた植生調査,群落内のツメレン
ゲのシュート数とロゼット数の記録をした.環境傾度については方
位・傾斜の測定と,群落下の土壌体積の推定を行った.また各調査
区の遷移の度合いを表すものとして「草本層の ( 群落高×植被率 )
+低木層の ( 群落高×植被率 )」を定義し空間占有度とした.調査は
2012 年 10 月 25 日から 11 月 1 日に行った.
得られた 24 の植生調査資料から素表を作成し表操作を行った結
果,調査群落にはマルバヤハズソウ,ハマエノコロ,メガルカヤ,
テリハノイバラ,エゾスナゴケなどが高常在度で出現するほか,種
組成的にまとまりのある複数のグループが見られることが明らかと
なった.この複数のグループは,構成種の休眠芽の位置や先に定義
した空間占有度,土壌体積から,連続した異なる遷移段階に対応し
ていることが推察された.遷移の初期から中期のグループではコケ
や地衣類,1 − 2 年草が,後期では木本や多年草の出現が認められた.
また,ツメレンゲのロゼット数の密度はシュート数の密度と共に
増加する傾向が見られたが,土壌体積の増加と共にロゼット数の密
度は減少する傾向が見られた.露岩地で多く見られるロゼットやシ
ュートは,遷移の進行と共に減少していくことが推察された.
近年,世界各地からブナ科樹木の衰退の報告がある。寿命を迎え
たブナ科樹木が何らかのストレスにさらされ,最終的には菌類や食
葉性昆虫,穿孔性昆虫の攻撃を受けて枯死に至るなど,衰退には複
数の要因が関与していると考えられている。冷温帯と暖温帯の境界
域にあたる京都大学の芦生研究林では,シカの過採食による下層植
生の消失やナラ枯れによるミズナラ大径木の枯死など,今世紀に入
ってから劇的な変化が起こっている。林内で大径木の枯死が目立つ
ブナに注目し,その成長と生残,胸高直径 10cm 以上への進級状況
を解析した。解析には,スギとブナが優占する芦生研究林のモンド
リ谷(16ha)において 1992 年から 5 年毎に 20 年間継続した毎木調
査のデータを用いた。
1992 ∼ 1997 年を 1 期,1997 ∼ 2002 年を 2 期,2002 ∼ 2007 年を 3 期,
2007 ∼ 2012 年を 4 期とすると,スギの胸高断面積合計は 1 期から 4
期にかけて増大し続けたのに対し,ブナの胸高断面積合計は 1 期か
ら 4 期にかけて徐々に減少した。直径の増大に伴う成長量の変化を
考慮した上で比較すると,スギとブナの直径成長量は 1 期から 3 期
にかけて減少し 4 期に増加した。同様のパターンはミズナラやミズ
メなど他の優占種でも見られた。また,スギの枯死確率は直径が細
いほど高くなっていたのに対し、ブナの枯死確率は直径が太いほど
高くなっていた。胸高直径 10cm 以上への新規加入個体数はブナで
は 3 期にピークが見られた。多くの優占種の成長に同様の影響を及
ぼすような長期的な変化が調査地で起こっていること,ブナでは大
径木が枯死しやすい状況が 20 年間続いていること,新規加入はある
ものの胸高断面積合計は減少し続けておりブナは衰退過程にあるこ
とが示唆された。
247
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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中立説のパラメータ推定法の改良と熱帯林群集への応用
異なる地質によって形成される沖積錐上の森林構造の違い
竹内やよい *,印南秀樹(総研大先導科学)
* 若松伸彦(横浜国大・環境情報),金子泰久,米林仲(立正大・地球環境)
群集の多様性や構造を説明するモデルの一つである中立説
(Hubbell 2001) は、特に種多様性の高い熱帯林などの群集で当てはま
りがよく、中立性が棄却できないことがこれまでの研究から示され
てきた。これは、中立モデルの2つのパラメータのオーバーフィッ
トによって中立ではない群集でもこのモデルがよく当てはまる問題
に起因している。従って、中立性検定のためには正しいパラメータ
の推定が必要不可欠である。これまでの中立モデルのパラメータは、
群集の種個体数分布から最尤推定で求められてきた。しかし、使用
するデータは一回のセンサスで得られたものであるため、情報量が
不足している可能性がある。そこで、この研究では時間軸のデータ
を追加することによって情報量を増やし、精度の高いパラメータ推
定を行う新たな手法の開発を行った。ここでは、データを要約する
複数の統計量をもちいてパラメータを推定する Approximate Bayesian
Computation 法を使用した。統計量には、Species richness, Shannon’s
H の他に、時間軸を表す情報として新規種数を用いた。まず、この
手法の有効性を確かめるために、中立な群集のシミュレーションデ
ータを用いてパラメータ推定を行った。Species richness, Shannon’s
H の二つの統計量を用いた際には、パラメータセットが 2 つ推定され、
片方は誤った推定値であった。これは、従来の尤度を用いた推定と
同じパタンである。しかし、新規種数を追加するとパラメータセッ
トは正しい方の1つに収束した。つまり、新たな情報を追加するこ
とで推定が改善された。また、この手法を実際の熱帯林群集に応用
した。得られたパラメータは、これまで推定されてきたパラメータと
は異なる値であった。さらにこのパラメータを用いて中立性検定を行
った結果、中立性は棄却された。
基盤となる地質が異なれば,風化作用や侵食作用が異なり,その
結果,形成される地形も異なる.このような地形の違いは,そこに
成立する森林群落組成に違いをもたらすとされる.谷出口の沖積錐
は,地形の更新が活発なためこのような傾向が顕著に現われること
が予想される.本研究は沖積錐が数多く見られる上高地梓川の支谷
において,沖積錐の地形的な特徴とそこに成立する森林群落組成の
違いを地質毎に明らかにすることを目的にした.
上高地梓川の支谷に見られる沖積錐の面積と斜面傾斜を GIS を用
いて計測した.その上で花崗岩と堆積岩が上流部にそれぞれ卓越す
る沖積錐,および母岩が花崗岩と堆積岩で表層物質の移動が少ない
尾根状斜面に調査プロットを合計 70 ヶ所設定した.調査プロット
では,胸高直径 3cm 以上の個体を対象に毎木調査(100m2)を行い,
表層堆積物の粒度分析を行った.
花崗岩が上流域に卓越する沖積錐は,堆積岩が卓越する沖積錐に
比べ,面積が広く,平均傾斜が緩やかな傾向にあった.花崗岩,堆
積岩の尾根状斜面では,コメツガ,チョウセンゴヨウとダケカンバ
が優占しており,地質による種組成に大きな違いは見られなかった.
花崗岩の沖積錐では,トウヒ,ウラジロモミ,イチイなどの針葉樹
とタニガワハンノキ,シナノキやヤナギ類などの広葉樹種が優占し
ており種組成が多様であった.堆積岩の沖積錐では,広葉樹種のサ
ワグルミ,シウリザクラ,カツラが優占し,針葉樹種はほとんど見
られず,沖積錐では地質によって種組成が異なっていた.表層堆積
物は花崗岩の沖積錐では粒度にばらつきが大きいのに対し,堆積岩
の沖積錐では粒度にばらつきが小さく,特に細粒の堆積物が少なか
った.
地質の違いは,供給土砂の粒度の違いや撹乱頻度の違いを生み出
し,その結果形成される地形が異なり,さらには森林組成の差異が
生まれていると考えられる.
P2-023
P2-024
岩手県沿岸の植生-大津波の影響による変化(1)
本州中部の山地湿原における踏圧排除後の植生変化
* 竹原明秀,千葉麻里奈,佐々木裕子(岩手大・人社),大上幹彦,小水
内正明
* 尾関雅章,大塚孝一(長野県環境保全研究所)
本州中部山岳の山地湿原で生じた踏圧による植生荒廃地において、
踏圧排除後の植生変化を明らかにするため、植生調査を行った。調
査地は、飛騨山脈北部の天狗原湿原(標高 2200m)と上信越高原の
苗場山(標高 2050m)で、天狗原湿原では 1979 年に、苗場山では
2005 年にそれぞれ踏圧により生じた植生荒廃地に設定された帯状調
査区を用いて再調査を行った。再調査は天狗原湿原で 2009 年、苗場
山では 2012 年に実施した。天狗原湿原、苗場山ともに、緩斜面上に
湿原植生が発達しており、キダチミズゴケ、ワタミズゴケ等のミズ
ゴケ類とイワイチョウ、イワショウブ、キンコウカ等からなるイワ
イチョウ−キダチミズゴケ群団が報告されている。天狗原湿原では、
1980 年に木道から湿原への立ち入りを防止するためのロープが設置
されたこと、苗場山では、2005 年に登山道が変更されたことにより、
以後、踏圧が排除されている。
再調査の結果、天狗原湿原では、踏圧排除後も泥炭層の流出や裸
地の拡大、植被率の減少が確認された。とくに泥炭層厚が 10cm 以
下であった調査区では、泥炭層の流出にともなう露岩の進行により
湿原性植物の大幅な減少とヤナギ類の侵入が確認された。苗場山で
は、2005 年の調査時に泥炭層が流出し砂礫地となっていた調査区で、
同様に湿原性植物の大幅な減少とヤマヌカボ、ヒゲノガリヤスの侵
入が確認された。泥炭層厚が 30 ∼ 40cm 残存していた調査区では、
踏圧による線状裸地はひきつづき認められたが、調査区の一部で裸
地内にミヤマイヌノハナヒゲの侵入が確認された。
これらの結果から、中部山岳の山地湿原では、踏圧による植生荒
廃後の自然条件下での植生回復は 30 年程度を経過しても困難である
こと、またその植生変化は、泥炭層の残存状況により異なる傾向を
示すことが示唆された。
東日本大震災(2011 年 3 月 11 日)による生物環境や生物相への
影響は多方面にわたるが,大津波とその後の復旧事業による環境攪
乱は沿岸地域の植生に多大な変化をもたらすことが予想される。そ
こで,岩手県沿岸の植生を明らかにする研究の一つとして,大津波
が到達した地域での植生調査を行った。ここでは大津波発生後 1 年
を経た時点(2012 年 7 ∼ 8 月)での植生状況を報告する。
調査は岩手県宮古市内の赤前地区(水田耕作地),鍬ケ崎地区(市
街地),真崎地区(海岸草原)の 3 ヵ所で,草本群落を主体に 18 ∼
24 の方形区(2 × 2 mを基準)をランダムに設置し,優占度などを
記録した。
赤前地区の水田では海水の浸入により耕作放棄状態となり,残存
する塩分の濃度や堆砂の量,地表の凹凸による乾湿の差異,以前の
耕作管理状況の違いなどによって多様な植生が発達していた。確認
した群落として,コガマ群落,ヨシ群落,ヨモギ群落などの耕地雑
草群落のほかに,ハマアカザ,ホコガタアカザ,ミチヤナギなどか
らなるハマアカザ群落も発達していた。鍬ケ崎地区では優占種が植
分により異なるが,ヨモギ,シロザ,ヒメムカシヨモギなどの路傍
雑草群落であった。特に帰化植物の被度(優占度から換算)は 42%
を占め,栽培植物の逸出も見られた。真崎地区では大津波以前とほ
ぼ同じ植生であったが,新たに帰化植物や海浜植物(ハマイブキボ
ウフウ,オカヒジキなど)が進出し,種多様性が増す結果となった。
これらの結果から,大津波による攪乱 1 年後の植生は多様な植物
からなる多様な群落が成立したといえる。しかし,侵入した植物の
多くは帰化植物や短命性の植物であるため,継続性のある群落であ
ると判断することはできない。同様に耕作の再開や復旧作業に伴う
環境変化により,さらなる植生遷移が起こると考えられる。
248
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-025
P2-026
伊豆半島ヤブツバキクラス域における外来種侵入パターン
奥多摩地域の落葉広葉樹自然林の短期的変遷
村上雄秀(国際生態学セ)
・西川博章((株)ラーゴ)
・勝山輝男(生命の星・
地球博)
森広信子(多摩森林科学園)
外来植物の在来植生への進入パターンの解析のため,日本列島の
ひな型として静岡県伊豆半島における地域植生への外来種の侵入状
況を調査した.2010 年 6 月∼ 2012 年 3 月に植物社会学的な方法に
よりヤブツバキクラス域を網羅的に調査し 323 地点の植生調査資料
を得,137 植生単位(40 群集,92 群落,植林など 5)の植生単位を
識別した.このうち外来種が優占する外来種群落は 24 単位に達し,
全体の 18%を占めた.上級単位別の侵入比率は,木本植生では先駆
林植生であるクサギ−アカメガシワ群団で 33%と最も高く,次いで
ノイバラクラス(30%)であった.森林植生であるヤブツバキクラス,
ブナクラスや自然低木群落であるハマゴウクラスなどには含まれな
かった.草本植生では貧養地多年草群落(100%)が最も高く,セイ
ヨウオオバコクラス(60%),タウコギクラス(50%),シロザクラス(38
%)がそれに次いだ.大形の多年生草原であるススキクラス,ヨモ
ギクラスなどには含まれなかった.攪乱条件との対応では自然攪乱
地である海岸砂丘・海岸断崖・低層湿原では外来種の侵入は限定的
であり,また伝統的な人為攪乱地である耕作畑地・水田にも少ない.
侵入が顕著であるのは近代的な土地改変地に成立するクサギ−アカ
メガシワ群団,セイヨウオオバコクラスや貧養地多年草群落であり,
外来種の侵入には特定の攪乱条件が要因として機能していると推定
される.外来種の侵入にはA:植生の優占種として侵入,B:植生
内の下層に優占種として侵入,C:植生内の混生種として侵入の3
様式があるが,現在,森林林床の不用意な下刈りによりノハカタカ
ラクサに代表されるBタイプの外来種の侵入が進行している.
<本研究は ( 財 ) 新技術開発財団による植物研究助成金(2010,
2011 年度)の支援の基で実施された>
東京都西多摩郡奥多摩町、多摩川の大きな支流である日原側の源
流域には、自然生が極めて高い森林が残っている。そのうち雲取山
山頂近くの亜高山帯林は特別保護区となっているが、その下部の冷
温帯性落葉広葉樹林もまた、太平洋側の地域の冷温帯林を代表する
ものとして貴重な存在である。
この地域の自然林は、ブナ優占林ではなく、ブナ、イヌブナの混
生する多様性の高い森林となる。筆者は 1996 年から準備を始めて、
1997 年から永久プロットを設置して調査を継続してきた。15 年は森
林の変遷にとって短い時間ではあるが、ここに概要をまとめておく。
調査地は、主要区が 0.94 ヘクタール、胸高直径 1 m以上のミズナ
ラの倒木に由来するギャップ区が 0.16 ヘクタールの、合計 1.1 ヘク
タールである。
主要区の高さ 1.3 m以上の樹木の個体数は、1997 年には 1056 個体
だったが、漸減して、2012 年には最初の 65%、689 個体にまで減った。
主に小型個体の枯死・消失が多かったが、大型個体も少数が倒れて
いる。この間、2007 年まではBAの減少はほとんど見られなかった
が、2012 年には 1 割程度減少していた。新規に加入した個体はなか
った。
これに対して、ギャップ区では、個体数は主要区と同じく減少し
たが、その数は最初の 73%と、やや減少率が低い。BAはこの間
に 1 割程度増加しており、増加率は最近 5 年間では減少傾向にある。
新規加入個体は 2 個体あった。
新規加入が少ないのは、ニホンジカの影響が大きいと考えられる。
樹皮剥ぎも多く、樹種によってはこれが原因で枯死したと考えられ
る個体が複数あるが、数の上では原因不明の枯死の方がはるかに多
い。それ以上に林床植生が貧困化しており、樹木の実生は、ごく小
型のものを除いては全く見られなくなった。ギャップ区で新規加入
した個体は、倒木上にあるものであって、林床には将来的に加入す
る可能性のある稚樹は見当たらない。
P2-027
P2-028
ミクロネシア連邦ポンペイ島サンゴ礁型マングローブ林
オオオナモミ群落における個体間光獲得競争における個
における地盤高および冠水頻度の違いが生産量に及ぼす
体アーキテクチャの効果
影響
* 吉中健太(東北大・理・生),彦坂幸毅(東北大・院・生命科学),長嶋
寿江(東北大・院・生命科学),行方健二(東北大・院・生命科学)
* 谷口真吾(琉球大・農),藤本潔(南山大),平田泰雅(森林総研),小
野賢二(森林総研東北),田淵隆一(森林総研),Saimon Lihpai(Pohnpei
State Government)
植物は光合成によりエネルギーを得ているため、光を効率良く得
ることが重要である。個体の形態は光を効率よく獲得するために制
御されている、という仮説のもと、形態と光獲得効率の関係が研究
されてきた。先行研究では、主に林床で孤立して生育する植物が対
象とされていたが、密な群落を構成する植物は研究されていなかっ
た。群落では隣接する個体間で激しい光獲得競争が起こっており、
形態の重要性は大きいと考えられる。本研究では、光獲得にかかわ
る性質として、先行研究でも対象とされていた葉身と葉柄の間のト
レードオフに焦点をあて、葉柄 / 葉身へのバイオマス投資変化が光
獲得競争に及ぼす影響を研究した。
現実に育成したオオオナモミ群落個体の葉と葉柄の 3 次元情報を
記録し、シミュレーションプログラム Y-PLANT 上で群落を再構成
した。さらに、個葉の葉身と葉柄の合計バイオマスを一定とし、葉
柄長を現実の X 倍したときの受光量を調べた。競争環境においてど
のような形態が有利か、という問題は、先行研究で用いられた最適
化理論では解決することはできず、ゲーム理論を用いる必要がある。
そこで、X 倍の葉柄長をもつ集団の中に X − 0.1 倍、X 倍、あるい
は X+0.1 倍の葉柄長をもつ個体が中心に侵入したと想定し、X − 0.1
倍あるいは X+0.1 倍の葉柄長をもったときの中心個体の受光量が X
倍の葉柄長をもつ個体よりも受光量が多い場合は、X 倍の葉柄長は
進化的に安定ではなく、有利な形態(ESS)ではないと判断した。
解析の結果、5 個体中、ESS 解を持ったのは 4 個体であった。こ
の 4 個体の ESS となる X の平均は 1.07 ± 0.40 であった。これは現
実の葉柄長と同じ長さになる X=1.0 に非常に近い。この結果から、
現実の個体は理想に近い戦略をとっていると考えられた。
東カロリン諸島に属するミクロネシア連邦ポンペイ州ポンペイ島
は、直径約 20km の円形型の島を囲む堡礁内側の礁原上にサンゴ礁
型のマングローブ林が大規模に発達している。さらには、島内の一
部の河口域にエスチュアリ型のマングローブ林が成立する。1994 年、
森林総合研究所とポンペイ州政府森林局の連携により、マングロー
ブ林の動態と炭素固定機能を明らかにするため主要なマングローブ
群落内の 2 か所(サンゴ礁型とエスチュアリ型)に 1ha の固定プロ
ットを設置し、マングローブ林の長期モニタリング研究が開始され
た。亜熱帯から熱帯域の潮間帯に発達するマングローブ林の個体サ
イズは、個体の樹齢よりも潮汐の冠水頻度によって変化することが
示唆されている(Fujimoto et al ., 1995)。そこで、マングローブの立
地要因と生産力の関係を検討するため、地盤高とその位置に成立す
る樹種別の現存量、過去 5 回の胸高断面積合計の調査データをもと
に期間成長量を解析した。調査地は 1994 年に設置されたサンゴ礁
型マングローブ林の調査プロット(PC-1; 50 × 200m)である。2010
年 9 月に PC-1 の毎木調査を実施した。地盤測量は 1994 年に行い、
個体ごとの成立位置別に地盤高を算出した。出現樹種は Rhizophora
apiculata 896 本、Bruguiera gymnorrhiza 148 本、Sonneratia alba 32 本の
計 1,076 本である。胸高断面積合計は緩やかに推移する傾向であった。
ポスター発表では、樹種ごとの生産量の違いが地盤高の差異に基づ
く冠水頻度に影響されるかなどの解析結果を報告する。
249
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-029
P2-030
岡山県旭川の河原における竹類の地下茎の分布と土砂の
木曽駒ヶ岳風衝地におけるオープントップチャンバー内
粒径の関係
外の気象要素の比較
* 太田謙(加計学・植物園),波田善夫(岡理大・生地),堀博幸(岡山河
川),清水信夫(岡山河川)
* 浜田 崇,尾関雅章(長野環境保全研),飯島慈裕(JAMSTEC),水野
一晴(京大・アジア・アフリカ地域研)
オープントップチャンバー(OTC)の設置による植生への影響
については,これまで多くの研究がなされてきた.そのほとんどは
OTC と対照区(CTRL)における温度差に注目したものであり,温
度以外の環境要素の比較を行った研究例は非常に少ない.そこで,
本研究では,OTC と CTRL において,気温,相対湿度,風速,光量
子束密度(PAR)の同時測定を行い,それぞれ比較を行った.
調査地は,中央アルプス木曽駒ヶ岳山頂付近の風衝地で,ガンコ
ウラン,クロマメノキ,ウラシマツツジ,イワウメ,ミネズオウな
どが生育している.測定は,OTC と CTRL のそれぞれにおいて,気
温と相対湿度は地上 5cm で 1 分毎の瞬間値,PAR は地上 3cm で 10
分毎の平均値,風速は地上 10cm から 50cm まで 10cm 毎に,30 分か
ら 1 時間の平均値を測定した.測定は 2012 年 9 月 10 日から 13 日の
間に実施した.
測定の結果,OTC 内の気温は期間平均で 0.78℃高かった.特に晴
れた日中は,OTC 内で約 9℃高かった.相対湿度は夜間や曇天時に
OTC 内で高い傾向がみられた.風速は OTC 内で非常に弱く,地上
10cm から 30cm の高さでは CTRL の約 20% 以下の値であった.ま
た OTC のフェンスよりも上にあたる地上 40cm と 50cm においても,
風速の値は CTRL の 6 割程度であった.PAR は両者にほとんど差は
見られなかった.以上の結果から,調査地のような風衝地の場合,
OTC 内で気温が高い理由は,風速の低下による影響が考えられる.
ただ,天候によって気温差がみられることから,測定方法の限界を
含めた測定誤差についてより詳しい検討が必要と考える.
P2-031
P2-032
屋久島の常緑樹の落葉の季節性
葉緑体 DNA の地理的変異から日本海型ブナ林林床構成
* 原田廣子,相場慎一郎(鹿児島大・院・理工)
種6種の分布変遷を探る
本研究では屋久島を調査地とし、照葉樹林帯から針葉樹林帯にお
ける落葉の季節変化を明らかにすることを目的とした。
屋久島の標高の異なる 9 か所の調査地 (170 ∼ 1550m) において、
それぞれ 10 個のリタートラップを設置し、積雪期 (12 月∼ 2 月 ) を
除きおよそ 1 か月間隔でリタートラップに堆積したリターを回収し
た。リターを乾燥させた後、調査地ごとに葉、枝・樹皮、花・実、
その他のカテゴリーに分類し、それぞれの乾燥重量を測定した。乾
燥重量と堆積日数から一月当たりの落葉落枝速度 (g/㎡ / 月 ) を求め
た。葉はさらに種ごとに選別し、種ごとの落葉速度を求めた。ただし、
モミとツガの葉はまとめて重量を求めた。
全リター中の葉の割合はどの標高でも 60 ∼ 80%とほぼ同じだっ
たが、繁殖器官の割合は標高が高くなるにつれて減少する傾向があ
った。枝・樹皮の月ごとの落葉速度は屋久島の 2 か所の気象観測点
の月最大瞬間風速と同じパターンを示した。標高の低い調査地では
春 (4 月∼ 5 月 ) と秋 (10 ∼ 11 月 ) に、標高の高い調査地では秋に落
葉のピークが見られた。落葉広葉樹・常緑針葉樹は秋に落葉のピー
クがあった。常緑広葉樹の多くは春に落葉のピークを示したが、サ
クラツツジ・ヤクシマシャクナゲは秋に落葉のピークがあった。イ
スノキ・ウラジロガシ・モクタチバナは春にも秋にもピークがあった。
このような常緑樹種はこれまでクスノキ科やマンサク科で報告され
ている。
* 蛭間 啓(飯田市美術博物館),佐伯いく代(自然環境研究セ)
日本海型ブナ林の構成種であるショウジョウバカマやタムシバな
どは,中部地方を境として東では日本海側を中心に分布し,西では
太平洋側,日本海側の両方に分布する.本研究は,この分布パター
ンがブナの分布拡大の歴史とどのような関連を持つのかについて,
葉緑体 DNA の変異パターンの情報をもとに考察した.
調査対象種は,上記の分布をもつ日本海型ブナ林構成種 6 種(シ
ョウジョウバカマ,タムシバ,ハナヒリノキ,アクシバ,イワウチワ,
ツルアリドオシ)とした.1 種あたり 20-79 個体の葉のサンプルを採
集し,葉緑体 DNA の非コード領域の塩基配列を解析した.
その結果,すべての種から複数のハプロタイプが検出され,その
多くは地理的に偏った分布を示していた.特に明瞭な地理的構造を
持っていた種はショウジョウバカマ,タムシバ,ハナヒリノキの 3
種であった.うちショウジョウバカマとタムシバは,東北地方日本
海側,北陸,および中部地方太平洋側で同一あるいは近縁のハプロ
タイプが検出された.このようなパターンは,先行研究で報告され
たブナの遺伝的変異パターンと類似しており,ブナと共通する移住
経路をたどったとする仮説を支持するものと考えられた.アクシバ
とイワウチワからは多数のハプロタイプが検出され,ブナと共通す
るパターンをみとめることができなかった.ハプロタイプの多様性
が高いことは,これらの種が最終氷期に分布を極端に縮小せず,一
定規模の遺伝的多様性をもつ集団を維持していたことを示している.
またツルアリドオシは,ハプロタイプの変異量が小さかったため,
検討を見送った.解析対象とした 6 種のハプロタイプの分布パター
ンは,一部にブナと共通の特徴がみられたものの,異なる点も多く
存在した.
この研究は,平成 21,22,23 年度に長野県科学振興会より科学研究
費助成を受けた.
250
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-033
P2-034
博物館 - 高等学校の連携による地域資源の教材化~ブナ
固有種シコクシラベの SSR マーカーに基づく遺伝的変
移植実験を事例として~
異の評価:本州シラベ精英樹との比較
伊藤千恵,小林誠,佐藤一善(十日町市立里山科学館キョロロ),山本岳(新
潟高校),早川靖(安塚高校松之山分校),永野昌博(大分大学・教育)
* 岩泉正和,磯田圭哉,笹島芳信,久保田正裕(森林総研林育セ関西),
大谷雅人,那須仁弥(森林総研林育セ)
新潟県十日町市松之山は、多雪地ならではの里山のブナ林が広が
り、ブナ林を地域資源として観光や教育に活用している地域である。
一方で、ブナ林は 1970 年代以降減少しており、耕作放棄地や荒れた
人工林を元のブナ林へ再生する取り組みも行われている。しかし、
ブナの植樹ニーズが高まりつつも、当地域におけるブナの植樹に適
した時期やサイズに関する定量的なデータは得られていなかった。
同時に、教育資源として活用する学校側も「植えて終わり」ではな
く、より深い地域資源への理解や生徒の主体的な参加を望んでいた。
そこで、地域の高等学校と博物館が連携し、苗畑におけるブナの移
植実験を行い、教材として新たな活用を図った。
実験では、当年性実生と高さ 30cm 程に成長した幼木を、それぞ
れ春、夏、秋に植えた。春の移植作業のみ全校で行い、その後は生
物の授業内で経過観察を行った。その結果、秋植え苗の生存率が最
も高く、春と夏では実生よりも幼木の生存率が高かった。この結果
を受け、生物履修の生徒たちは、春と夏の生存率の低さは夏の暑さ
や水分不足が原因ではないかと考え、全校生徒にわかりやすい形で
まとめた。そして翌年には、夏に生存率を上げる手法(被陰処理、
摘葉処理、未処理)の検討と、他種(コナラ)との比較を行った。
その結果、ブナ、コナラともに未処理に比べ被陰処理をしたものは、
生存率が高かった。また、コナラはブナに比べ生存率が高くなった。
これらの結果は、ブナの植栽を不適な時期に実施する際に活かして
いきたい。
また、生物履修の生徒のアンケート結果は全校生徒の結果に比べ、
里山保全の意識や生物への興味が強くなったと答える生徒が多かっ
た。そのため、一過的な授業ではなく、継続し原因の考察までを含
めた授業が重要と考えられる。
シコクシラベ(Abies veitchii var. shikokiana )は四国中央部の石鎚山、
笹ヶ峰及び東部の剣山の頂上周辺にのみ遺存的に生育するシラベの
固有変種であるが、地球温暖化等の気候変動による集団サイズの減
少が危惧されることから、遺伝資源の保存が重要視されている。本
研究では、遺伝的背景に配慮した当該樹種の保全方法の確立に資す
るため、核 SSR マーカーを用いて集団の遺伝的変異を評価するとと
もに、シラベ母種との遺伝的多様性の比較を行った。
シコクシラベ 3 集団 200 個体と、中部山岳地域で選抜されたシラ
ベ精英樹 25 系統の針葉から DNA を抽出した。他のモミ属樹種で開
発された SSR マーカーのうち適用可能であった 7 マーカーを選出し、
各個体の遺伝子型を決定した。集団の遺伝的多様性や近親交配度を
評価するため、allelic richness(AR )、ヘテロ接合体率(H E)や近交
係数(F IS)等の統計量を算出した。
遺伝的多様性(AR 、H E)は、シラベ精英樹群がシコクシラベより
も高く、シコクシラベの中では剣山が他の 2 集団よりも有意に高か
った。また、シコクシラベ集団の F IS は、石鎚山及び笹ヶ峰では有意
な正の値を示した一方で、剣山では有意なずれは見られなかった。
四国中央部の集団における低い遺伝的多様性は、本州のシラベ集
団と石鎚山集団を RAPD 及び GapC 遺伝子を用いて比較解析した結
果(磯田 2000)と同様の傾向であり、分布の西端にある集団が遺伝
的浮動等の影響をより強く受けたことに起因すると考えられた。今
後は、紀伊半島や中部山岳等に生育するシラベ天然集団との遺伝的
変異の比較を進めていく考えである。
P2-035
P2-036
Competion for light as the determinant of mangroves
Microphysical environmental controls on local variation
zonation in Iriomote island
in dwarf bamboo (Sasa palmata Nakai) distribution in a
阿久津公祐(琉球大学),渡辺信(琉球大学)
cool-temperate deciduous broad-leaved forest in Japan
光環境の違いとマングローブ林の群集構造
阿久津公祐(琉球大・熱帯セ),渡辺信(琉球大・熱帯セ)
植物にとって光環境の違いは群集構造を決定する最も重要な要因
の一つである.地上部に到達する光は直達光と散乱光に二分される
. 直達光は晴れた日に地上まで直線状に到達する光である.散乱光
は曇りの日の光であり、雲によって直達光が乱反射されたものであ
る.地上部に到達する光の量は快晴の日に対して曇天の日はその 1/7
ほどになった.光量以外にも直達光と散乱光には性質の違いがある.
直達光はその直進性ゆえに林冠部が受ける光の量と林床部における
光の量に 30 倍ほどの著しい違いがあったが、散乱光は様々な方向か
ら林内に入射するため、
その差は 7 倍ほどの違いしかなかった.また、
直達光と散乱光には光の質の違い、光の波長領域特性に違いがあり、
光合成に利用出来ない波長である近赤光量に対する光合成に利用可
能な赤色光の割合(R/FR 比)は、直達光に対して散乱光の割合が大
きいほど増加した.曇りの日の方が光の質としては光合成に適して
いるということになる.晴れの日と曇りの日における光環境は量と
質とで正反対の性質を持っている.
マングローブは、汽水域に生息する塩分に対して強い耐性を持つ
樹木である.西表島の船浦湾では特に強光条件である河川前面にヤ
エヤマヒルギが優占し、内陸に進むにつれオヒルギが優占する群集
構造が見られる.船浦湾におけるヤエヤマヒルギとオヒルギが混生
する林内において、光環境を測定し光環境の変化と群集構成の違い
にどれほどの対応関係があるかを今大会では発表する.光環境は直
達光と散乱光条件の違いを考慮し、またマングローブにおいては特
に幼樹の生存率に着目し解析を行った.
*Akaji, Y. (Okayama Univ), Hirobe, M. (Okayama Univ), Harada, M.
(Okayama Univ), Otoda, T. (Okayama Univ), Yamanaka, N. (Tottori Univ),
Sakamoto, K. (Okayama Univ)
Within a 20 × 20-m plot in a cool-temperate deciduous broad-leaved
forest, we examined the local variation in the Sasa palmata distribution
and possible effects of microphysical environmental factors in 1 × 1-m
quadrats. The microphysical environmental factors examined were slope
angle, undulation, and percent gravel on the soil surface. The effects of
these factors on the distribution of dwarf bamboo were analyzed using
three statistical models (GLM, GLMM, and CAR model). Of these, the
CAR model was the only model for which the residuals did not exhibit
significant spatial autocorrelation. The CAR model showed that slope angle,
concave sites, and gravel distribution had clear negative effects on the local
distribution of dwarf bamboo. The findings suggested that steep slopes and
concave sites could cause physical damage via soil erosion and that a high
gravel content could inhibit the elongation of roots and subterraneous stems.
251
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-037
P2-038
多雪地域における絶滅危惧種コケ植物の分布と生育環境
豪州ヒノキにおける集団デモグラフィの地理的変異はど
白崎仁 *(新潟薬大・薬・生物)
のように形成されたのか?
* 阪口翔太(京大院・農),Lynda Prior(タスマニア大),Michael Crisp(オ
ーストラリア国立大),David Bowman(タスマニア大),津村義彦(森
林総研),井鷺裕司(京大院・農)
多雪地域にあたる新潟県およびその隣接地域において、環境省
第 4 次レッドリスト (2012) のコケ植物の絶滅危惧 I 類 (CR+EN) の
コシノヤバネゴケ(蘚類:Dichelyma japonicum )、ミズゴケモドキ
(苔類:Pleurozia purpurea )、ナンジャモンジャゴケ(蘚類:Takakia
lepidozioides ) と、 準 絶 滅 危 惧 (NT) の イ チ ョ ウ イ キ ゴ ケ( 苔 類:
Ricciocarpos natans )、およびオオミズゴケ(蘚類:Sphagnum palustre )
の分布と生育環境を調査した。
環境要因と分布の関連性については、分布や植生の野外調査を続
け、約 12 万件のコケ植物標本の分布情報と、約 8 万件の文献による
分布情報データベースを作成した。分布座標と気象庁 AMEDAS の
地域気象メッシュデータとを連携させて、各分布地点における、年
平均気温、暖かさの指数、夏季と冬季の降水量、最深積雪量、およ
び8月の可能蒸発散量を求め、環境要因に対する分布頻度を算出し
た。これを統計解析によって分布と環境要因の関連性を明らかにし
た。
ミズゴケモドキの生育地は急峻な尾根筋で、比較的積雪が少ない
排水の良い所だが、気温が低くて強く乾燥しない環境で、生育期間
は約4ヶ月ほどである。ナンジャモンジャゴケは多雪地域では谷間
の急崖に生育しており、長期の積雪下で強く乾燥しない環境で、生
育期間は4ヶ月ほどである。コシノヤバネゴケの分布は、8月の可
能蒸発散量と暖かさの指数が比較的低い地域に、イチョウイキゴケ
の生育は、暖かさの指数が比較的高く、積雪の少ない地域に、オオ
ミズゴケの分布は暖かさの指数と8月の可能蒸発散量が比較的低く、
積雪のやや多い地域に限定されていると考えられる。
豪州ヒノキ複合種はオーストラリア全域に分布する針葉樹である.
この複合種は世界で最も耐乾性の高い種を含んでいるにも関わらず,
大陸内陸部での分布は極めて分散的である.本複合種が他の樹種に
比べて火災に脆弱であることを考えると,最終氷期に到来した人類
による火災レジームの改変が本種の分布パターンを生み出した可能
性がある.その一方で,厳しい乾燥化によって最終氷期の大陸内陸
部では砂漠が拡大したと考えられており,そうした気候変動も分布
に影響した可能性がある.本研究では,大陸全域から収集した集団
サンプルを遺伝解析することで,最終氷期における豪州ヒノキ複合
種の集団デモグラフィを推定するとともに,生態ニッチモデリング
(ENM)を用いて最終氷期における古分布を再現した.遺伝解析の
結果,大陸の各山地域には遺伝的に分化した系統が多数分布してお
り,最終氷期を通じて地域集団がその場で分布を維持してきたこと
が明らかになった.しかし ENM の予測から,大陸内陸部では最終
氷期最盛期に分布域が大きく縮小したことが示され,実際にそうし
た地域集団の大半で著しい集団サイズの減少が推定された.より沿
海部に位置していた南部温帯域では,最終氷期の終焉と共に集団サ
イズが拡大したことが示され,このパターンは花粉分析の結果とも
一致した.一方,人類による土地利用の歴史が最も長く,高い火災
頻度に特徴付けられる熱帯サバンナでは,集団サイズは安定してい
たことが示された.これらの結果から,豪州ヒノキの集団デモグラ
フィと分布パターンには人類による火災レジームの改変よりも,最
終氷期における乾燥化がより強く影響したことが推察された.
P2-039
P2-040
老齢二次林の樹木の分布と生存率
琉球列島及びフィリピンにおける海草シオニラの集団遺
* 大野正彦(都健安研セ),大橋毅,菅邦子(元都環科研)
伝構造
人が維持管理してきた二次林(雑木林)は身近な自然として極め
て重要である。都内の林の多くは萌芽更新されず、老齢樹が目立っ
ている。今後の効率的な管理を行うため現状、特に構成樹の動態を
知る必要がある。コナラ・クヌギが優占する台地状の老齢二次林に
おいて 10 m平方区を 93 個設け、樹木の継時的変化を調べ、以下の
知見が得られた。1.生木は 2000 年 3 月、2006 年 6 月、2012 年 4
月で、それぞれ 365、326、298 本であった。2000 年∼ 2006 年で 11
%、2006 年∼ 2012 年で 9%減少し、12 年間で約 2 割の樹木が枯れた。
生木のIδ指数はそれぞれ、0.943、0.940、0.946 と、ほとんど変わ
らず、樹木の分布形態が大きく変化していないことがわかった。2.
樹木の枯死率は平方枠内の樹木密度と相関がなかった。樹木はラン
ダムに枯れていた。3.胸高周囲の小さい(細い)コナラ・クヌギは、
同周囲の大きい(太い)ものに比べ、枯死する割合が高かった。4.
コナラの実生は多数みられるものの、落ち葉掻き等の人為的な管理
区(20 m平方区 4 か所)と未管理区(同)の両区で幼木に生長する
ことはなかった。伐採された樹木が萌芽更新することもなかった。5.
調査地の林は年輪から推定して 80 年ほど経過していた。この枯死率
でいくと、あと、50 年も経たない内に樹木数が半減する可能性があ
る。手立てが必要である。
* 松木悠,中島祐一,練春蘭(東大ア生セ),Miguel Fortes(University
of the Philippines),Wilfredo Uy(Mindanao States University),
Wilfredo Campos(UP Visayas),仲岡雅裕(北大 FSC),灘岡和夫(東
工大院情報理工)
シオニラ Syingodium isoetifolium は、西太平洋からインド洋にかけ
ての熱帯・温帯の沿岸域に広く生育する海草である。本種は地下茎
を伸長させて広範囲に及ぶ藻場を形成し、同所的に生育する他の海
草種とともに沿岸生態系における一次生産や物質循環などに重要な
役割を果たしている。環境悪化が懸念されている東南アジア沿岸域
において、生態系の維持・保全のための適切な対策を講じるためには、
重要な構成要素である海草集団の繁殖様式や遺伝構造を把握するこ
とが不可欠である。本研究では、フィリピン諸島全域を網羅する 22
地点及び琉球諸島(沖縄、宮古、石垣、竹富、小浜、西表)11 地点
において、それぞれ平均 40 サンプルを採集し、マイクロサテライト
マーカー 10 遺伝子座を用いて集団遺伝解析を行った。サンプル採集
にあたっては、10m 以上の間隔を空けてランダムにシュートを採集
した。
各集団のヘテロ接合度の観察地は 0.27 から 0.85、遺伝子座あた
りの平均対立遺伝子数は 1.6 から 4.7 であった。クローン多様性
(Clonal richness) は、フィリピンの集団で多様性が高い傾向にあった。
ペアワイズ F ST で評価した集団間の遺伝的分化は比較的大きく、各
集団が遺伝的に分化していることが示唆された。各集団間で遺伝的
多様性や組成に違いがあったことは、生息環境や環境に応じて有性
繁殖とクローン繁殖の割合が異なることを示唆しているものと考え
られる。
252
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-041
P2-042
異なる繁殖量をもつ個体の空間構造が花粉散布パターン
マクロスケールにおけるミヤコザサ節の分布規定要因~
に及ぼす効果
ミヤコザサ節の分布は積雪深だけで説明できるのか?~
鳥丸猛
* 津山幾太郎(森林総研),堀川真弘(TOYOTA バイオ緑化),中尾勝洋
(森林総研),松井哲哉(森林総研・北海道),小南祐志(森林総研・関西),
田中信行(森林総研)
樹木集団では花粉の移動による遺伝子流動パターンと交配システ
ムによって次世代を形成する種子の遺伝的多様性は大きく影響を受
ける。花粉親としての繁殖貢献度は母樹からの距離と反比例するこ
とがこれまで知られているが、一方、繁殖木の雄性繁殖量(花粉生
産量)が繁殖貢献度に最も影響を及ぼす要因として報告されるケー
スもある。このことは、例えば「花粉生産量は多いが集団内で孤立
している個体」の繁殖貢献度など、雄性繁殖量の個体間のバラツキ
とその集団内における空間構造を同時に考慮することが集団の遺伝
的多様性のより正確な予測に必要であることを示している。そこで、
本研究は仮想集団を用いてシミュレーションを行い、繁殖個体の花
粉生産量、集団内の空間構造、花粉散布パターンが種子の遺伝的多
様性に及ぼす影響を検討した。モデルでは、繁殖個体の花粉生産量
を対数正規分布、それらの空間分布をフォン・ミーゼス分布で規定
した。また、花粉散布パターンには指数ベキ乗分布とフォン・ミー
ゼス分布を用いた。繁殖個体の花粉生産量の空間分布がランダムで
ある場合、花粉生産量の個体間のバラツキが大きくなるほど種子の
遺伝的多様性は低下する傾向が認められた。一方、異なる花粉生産
量を示す個体が集団中で偏って分布している場合、等方向性の花粉
散布パターンを示す集団では種子の遺伝的多様性は個体の空間構造
の影響を受けないが、非等方向性の花粉散布パターンを示す集団で
は異なる花粉生産量を示す個体の空間構造の偏りの程度によって種
子の遺伝的多様性はばらつく傾向が認められた。さらに、本報告で
は花粉の長距離散布の程度、花粉生産量のバラツキ、空間構造の三
者の相互作用による種子の遺伝的多様性の程度を比較し、現実の景
観構造や集団内の空間構造が森林群集の遺伝的多様性に及ぼす影響
を議論する。
少雪地域の林床優占種であるササ属ミヤコザサ節について,分布
域全域を対象としたマクロスケールにおける,分布を規定する気候
要因を明らかにすることを目的とした.
ミヤコザサ節の分布と気候要因との関係解析には,分類樹モデル
を用いた.応答変数には,植物社会学ルルベデータベース(PRDB)
から抽出したミヤコザサ節の在・不在データを用いた.説明変数には,
暖かさの指数(WI),最寒月最低気温(TMC),最大積雪水量(MSW),
夏期降水量(PRS),冬期降雨量(WR)を用いた.構築されたモデ
ルから,現在の潜在生育域と,その中でも好適な地域(適域)を予
測した.モデルの予測精度は,ROC 解析と,PRDB とは独立のデー
タとの比較によって行った.
モデルの精度は良好であった.構築された分類樹モデルから,ミ
ヤコザサ節の分布には,WI と MSW が特に重要な要因であることが
わかった.ミヤコザサ節の潜在生育域は,WI < 102.7℃・月を満た
す地域に限定され,適域は,WI < 84.8℃・月とより冷涼な環境に制
限された.適域の多くは,これまで指摘されていた積雪条件とほぼ
同じ条件(240.9mm < MSW;最大積雪深で 60.2-80.3cm に相当)に
分布したが,他の気候条件(36.7 ≦ WI < 84.8℃・月,WR < 442.7
mm,PRS ≧ 1135.5 mm) に よ っ て は, よ り 多 雪 な 環 境(240.9 ≦
MSW < 513.7mm;最大積雪深で 128.4-171.2cm に相当)まで分布す
ることが明らかになった.
以上から,ミヤコザサ節の分布は,積雪深だけでは説明できず,
WI を軸とした他の気候要因との複合的な条件で規定されることが示
唆された.
P2-043
P2-044
アカガシとツクバネガシの遺伝的混合
熱帯泥炭湿地に生育する Acacia mangium の葉色の変
* 玉木一郎,岡田愛(森林文化アカデミー)
異と成長・個葉特性
コナラ属は種の境界が最も低い分類群の一つであり,世界中で多
くの自然種間交雑が報告されている。本研究では岐阜から愛知にか
けての 15 地域に生育するコナラ属アカガシ亜属のアカガシとツクバ
ネガシのそれぞれ 75 と 178 個体を対象に,葉の 5 形態形質と核マ
イクロサテライト 9 遺伝子座の遺伝子型を調べた。形態形質を PCA
した結果,2 種の形態はゆるやかに連続するが,PC1 と PC2 を同時
に考慮することで,それぞれの種を区別することができた。遺伝子
型データを admixture 解析した結果,6 つの遺伝的クラスターが検
出された。そのうちの 2 つはアカガシに,4 つはツクバネガシに多
く見られたので,それぞれの種における各クラスターに帰属する確
率の和を,アカガシとツクバネガシに帰属する確率とした。それぞ
れの種の 21% と 13% の個体で,自種に帰属する確率が 0.9 以下の
値を示し,遺伝的混合が見られた。観察された遺伝的混合が共有祖
先多型によるものか,または分化後の種間交雑によるものかを明ら
かにするために,移住無しと有りのそれぞれのシナリオのもとで,
Migrate-N によるコアレセント・シミュレーションを行った。ベイズ・
ファクターによるモデル比較の結果,双方向に移住が存在したモデ
ルが支持された。有効集団サイズ(4N e μ)はアカガシ<ツクバネガシ,
世代あたりの移住率(m / μ)はツクバネガシ→アカガシ>アカガシ
→ツクバネガシとなり,集団サイズの大きいツクバネガシからアカ
ガシへ非対称な種間交雑が生じていることが明らかとなった。また,
世代あたりの移住個体数(N em )はツクバネガシ→アカガシで 9.5,
アカガシ→ツクバネガシで 71 個体であった。理論的には,世代あた
り 1-10 個体以上の移住があれば集団間は完全に分化しないとされて
いる。ゆえに,本研究対象種間の遺伝的混合は種間交雑の結果生じ
たと考えられた。
塩寺さとみ(北大・CENSUS),甲山隆司(北大・地球環境)
インドネシア中部カリマンタン州には熱帯泥炭湿地林、熱帯ヒー
ス林といった特徴的な貧栄養土壌を持った森林が発達している。こ
の地域では、幹線道路沿いの伐採・焼畑跡地などの開けた場所に
Acacia mangium が多く見られる。これらの樹木は地元住民による植
林やその後の天然更新によって定着したものであるが、その後、管
理されない状態で放置されている。雨季には冠水し、乾季には泥炭
火災が起こる過酷な環境の影響により、その生育状態は他の地域で
植林されているものと比較するとはかばかしくなく、場所によって
は個体の葉の色に変異がみられ、黄色葉と緑色葉を持つ個体が確認
されている。
そこで本研究では、異なる葉の色を持つ A. mangium について、個
葉の特性、樹木のアロメトリーなどの形態的な特徴、生育場所の土
壌の質などに着目して比較を行った。
黄色葉を持っている A. mangium は、緑色葉を持っている個体に比
べて幹直径が細く、個体全体の葉の数が少なく、成長の阻害が起こ
っていると考えられる。A. mangium の葉のターンオーバーは非常に
早く、緑色葉から黄色葉への変異は容易に起こり、さらにその逆(黄
色葉から緑色葉への変異)も見られることから、葉色は周囲の環境
に敏感に反応しうると考えられる。また、これらの特徴を持つ個体
が同じ場所にかたまって生育しており、幹線道路の左右でさえ、異
なる葉色の個体がみられることから、生育場所への火入れなどによ
る局所的な土壌栄養の改変が A. mangium の葉色の変異や成長に影響
を与えていることが示唆された。
253
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-045
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絶滅危惧種エゾヒョウタンボクの分布に影響する環境条件
海流散布植物テリハボクの分布北限島嶼集団における遺
* 指村奈穂子(東大院農),吉川徹朗(東大院農),古本良(林育セ),池
田明彦(品川区役所)
伝的多様性と 遺伝子流動規模の推定
* 花岡 創(林育セ),Ching-Te Chien,Shun-Ying Chen(TFRI),渡
辺敦史(九州大学),加藤一隆(林育セ)
エゾヒョウタンボクは,主に南千島,サハリン,北海道,本州北
部に生育し,環境省 RDB では絶滅危惧 II 類に指定されている.本
種は,本州北部では風穴地のみに分布しているが,北海道では風穴
ではない場所にも生育している.そのため,風穴地以外での本種の
分布に影響している環境条件を明らかにすることを目的に,2 次メ
ッシュの生育情報を用いて,生育地の解析を行った .
エゾヒョウタンボクの分布と気候条件の関係について,分類樹木
解析を行った結果,まず 8 月平均気温が 17.7 度以下に多くの生育地
が分類された.新潟県の風穴でのミクロスケールでの環境調査にお
いても,同様の条件で個体群の分布が規定されていた.そのため,
北海道において 17.7 度より高い温度に分類された生育地は,風穴か
らの冷気により生育可能になっていると考えられる.次に 17.7 度以
下のメッシュは,8 月全天日射量が 14.5MJm -2 以下に多くの生育地
が分類された.このメッシュを地図上に表現すると南東部の海沿い
地域に偏っており,この地域は夏季に海霧が発生することが知られ
ている.このことから,夏季の日射量は海霧によって抑えられており,
それに本種の生育が影響されている可能性が示唆された .
本州北部においては,現在エゾヒョウタンボクの生育地は風穴地
のみにみられるが,最終氷期前後には海流の流れが現在とは異なり,
本州北部にも海霧が多く発生したと考えられる.そのため,北海道
において現在海霧の発生する地域を地形条件から GLM によって推
定し,そのモデルを本州北部に外挿し,かつての本種の生育適地を
推定した.その結果,東北地方の海沿いに連続的な生育適地が推定
された.現在,東北地方において,風穴地に隔離分布しているエゾ
ヒョウタンボクは,気候条件が変化したことによって分布が縮小し,
風穴地に遺存して分布するようになったと考えられる .
植物の遺伝子流動規模や分布拡大の過程は集団分化や種分化に深
く関わり、特に島嶼においては、植物集団の固有性を形作る主要な
要因となり得る。種子が海を渡って分布を拡大する海流散布植物に
ついては、島嶼間の遺伝子流動を詳細に取り扱った研究は少なく、
あまり知見が蓄積されていない。
テリハボク(Calophyllum inophyllum )は南太平洋州近辺が起源と
言われる海流散布植物で、熱帯・亜熱帯の海岸域に広く分布する。
同種は耐寒性に乏しく、現在は日本の先島諸島が天然分布の北限域
になっている。本研究では、台湾島から沖縄県の宮古島にかけての
ほぼ全ての島から 30~40 個体の試料を採取し、EST-SSR15 座を用い
て遺伝的多様性および遺伝構造を明らかにすることで、海流散布に
よる島間の遺伝子流動の規模を間接的に推定することを試みた。
遺伝的多様性は北限(宮古諸島)に向かうにつれて低くなる傾向
にあり、南部からの分布拡大過程における創始者効果の作用などが
推察された。また、島間の遺伝的分化は低く、Assignment test におい
ても各島の 10~30% の個体が他の集団(島)に振り分けられた。こ
れらの結果から、島間の遺伝子流動がある程度の規模で成立してき
たと考えられ、テリハボクの海流散布による分散能力が高いことが
示唆された。
P2-047
P2-048
エゾエンゴサクにおける主に花器形態に注目した集団間
下水処理水を通水した人工水路における藻類種に及ぼす
比較
マンガン濃度の影響
* 山岸洋貴(弘前大学・白神),藤原久司(株ズコーシャ),本多和茂(弘
前大学・農生)
* 柴山慶行(独立行政法人土木研究所・水環境研究グループ(水質))
エゾエンゴサク(Corydalis fumariifolia subsp. azurea )は北海道に生
育する春植物で、小葉や花器、果実などの外部形態に多様な種内変
異が存在することが知られている。しかし、この多様な変異に関して、
その変異パタンや遺伝的背景は未だ明らかにされていない。これら
を整理し明らかにすることは、種内に多様な形態を持つという進化
の過程やその背景を解明する上で重要である。北海道内の十数集団
を調査対象にしたこれまでの研究から、葉形態の変異は集団内でも
観察され、その集団内での出現頻度は集団間で異なっており、さら
にそれらには地理的傾向があることが明らかになった。道北や道南
の集団では、集団内に大きな変異がほとんど観察されず、一方、道
東および道央の一部の集団では切れ込みや小葉片が多いなどといっ
た変異が高頻度で出現した。本研究ではこれまでの葉形態の調査に
加え、繁殖に関わる花器形態に注目し、新たに複数の形質(花弁お
よび距の長さや形状、蜜腺の長さなど)を計測し集団間比較を行った。
また、かつて Corydalis ambigua として同種と考えられていた本州北
部に生育するオトメエンゴサク(C . fukuharae)に関してもその実態
を明らかにするため、青森、岩手、秋田、新潟の複数集団を加え同
様な調査を行った。これらの結果、両種ともに多様な花器形態が存
在するものの、花弁や距の長さなど計測した部位における集団間の
統計学的な差はほとんど認められなかった。また、両種の分類点で
あると考えられている距の形態や蜜腺と距の長さの相対的な関係つ
いても比較したところ両種の集団間に明瞭な差がなく、原記載と異
なることが明らかになった。さらに葉緑体 DNA を利用した遺伝的
解析においても両種間の差は小さく、分類に関して新たな見解が必
要であることが示唆された。
254
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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河川氾濫原環境における樹木集団の動態シミュレーション
林冠の光環境がチシマザサ一斉更新個体群のジェネット
* 高田壮則・金子有子
動態に与える影響
渓畔林樹種は河川氾濫原環境に生育しており,確率的に台風等に
よる氾濫の影響を受ける特徴的な集団動態を示すことが知られてい
る。そのため、1990 年代より開発されてきた個体群存続可能性分析
(PVA) の標準的手法では、その存続絶滅の評価は難しく、新たな手
法が求められている。その困難さの主な要因は.河川氾濫原の地形
変化を伴う動態であること,また樹種特性による豊凶現象が集団動
態の確率性を引き起こしていることである。そのため、地形変化を
記述する下部構造モデルの上に、樹木集団の確率的動態を記述する
個体群行列モデルを構築・統合することによって初めて将来予測が
可能である。本研究では、統合モデルを開発すると共に,確率的に
起こる豊凶現象と河川氾濫の連動が渓畔林樹種の存続絶滅に与える
影響を解析することを目的とする。
そのため、京大付属芦生演習林のモンドリ谷渓畔域 2.8ha の調査
区において、センサスされたトチノキ、サワグルミの調査データ(1989
年 -2003 年)を用いて、コンピューターシミュレーションを行った。
河川環境の斜面部、段丘部、氾濫原の地形変化を記述するを下部構
造モデルとしては、最も簡単なマルコフ行列モデルを用い、台風の
訪れない平年では単位行列を採用し、台風年では仮想の地形変化に
もとづいた推移行列を採用した。平均 k 年間隔で台風が確率的に訪
れると仮定したトチノキのコンピューターシミュレーションでは、
現在芦生研究林における k =5の台風撹乱の頻度では、集団増加率
は1を割っており、集団の個体数が減少する傾向にあることがわか
った。さらに、サワグルミのコンピューターシミュレーションでは、
個体群行列モデルに影響を与える結実豊作の頻度を考慮して、地形
変化モデルに影響を与える台風撹乱の頻度と結実豊作の頻度との相
互作用が集団動態に与える影響を評価した結果を報告する。
* 松尾歩(秋田県立大・生資),富松裕(東北大・生命科学),山月融心(秋
田県立大・生資),陶山佳久(東北大・農),蒔田明史(秋田県立大・生資)
クローナル植物では、個体群の更新にともないジェネット(遺伝
的に同一な個体)の多様性が低下することが知られている。また、
環境のヘテロ性が、ジェネットの多様性に影響を与えることが報告
されている。しかし、ジェネットの動態を追跡し、環境のヘテロ性
がジェネットの動態に与える影響を実証的に検討した例は極めて少
ない。そこで本研究では、1996 年に一斉更新を開始したチシマザサ
(Sasa kurilensis )個体群を用い、林床の光環境がジェネットの動態に
与える影響を明らかにすることを目的とした。
2005 年、林床の光環境を測定し、開空度で3区分し(ギャップ区:
15%、中間区:10%、閉鎖区:5%)、3 × 3m の調査区を区分ごと
に 2 ヶ所ずつ設置した。2005 年と 2012 年、調査区内に分布する全
稈を対象に、SSR7 遺伝子座を用いてジェネット識別した。
林床の光環境は、7 年間でほぼ変化しなかった。2005 年のジェネ
ット数はギャップ区・中間区・閉鎖区で、それぞれ 47 と 105、49 と
79、15 と 17 だった。ジェネットの生存率は中間区で高く(56%、51%)、
消失率はギャップ区で高く(68%と 88%)、侵入率は閉鎖区で高か
った(67%と 69%)。つまり、林床の光環境が明るいほど、ジェネ
ットが消失する割合が増加し、林床の光環境が暗いほど調査区外か
ら侵入したジェネットの割合が高くなることが分かった。その要因
の1つとして、明るい林床ではジェネット間の競争が強く働いたこ
と、暗い林床では新たなジェネットが侵入できる空間があったこと
が考えられた。
チシマザサ一斉更新個体群では、更新にともないジェネットの多
様性が低下するが、局所的にはジェネットの動態が光環境のヘテロ
性によって変化することが示唆された。
P2-051
P2-052
白山のクロユリ(Fritillaria camtschatcensis )生育地
赤石山脈南部の亜高山帯の外生菌根菌相
における雪どけ時期と開花時期の年変化
* 菊地淳一,中川明宏,乾久子(奈教大)
* 野上達也,吉本敦子(白山自然保護センター)
日本の外生菌根菌相の研究の多くは低地や低山のアカマツ - コナ
ラ林や、シイ - カシ林、モミ林等で行われ、亜高山帯の針葉樹林や
針広混交林の外生菌根菌相の研究は、富士山(柴田 1997, 2006)お
よび秩父山地(Ishida et al. 2007)、志賀高原(Ogawa 1977)等しかな
く、亜高山帯の外生菌根菌相は未知の部分が多い。2011 年 8 月、9
月、10 月初旬の 3 回、赤石山脈南部亜高山帯針広混交林において外
生菌根菌の子実体調査を行った。標高 1000~2400 m 付近までの登山
道を歩き、周辺の外生菌根菌の子実体を採取した。標高の低い場所
ではモミ、ツガ、ゴヨウマツ、シデ類、ミズナラが多く、高い場所
ではシラビソ、オオシラビソ、トウヒ、コメツガ、ツガ、ダケカン
バ、カラマツ等が多く生育していた。約 500 個の子実体を採取し、
FTA カードを用いて DNA を採取した。ITS 領域の塩基配列を解析し、
97% 以上の相同性が見られた場合に同種として判断した。一部未解
析のサンプルも残っているが、これまでに 170 種を越える外生菌根
菌が区別された。種レベルまで同定できたのは半数以下であり、そ
のうち和名のついている種が 30 種を越え、日本新産種も多く残され
ていることが明らかになった。ベニタケ科が 60 種以上で最も多く、
フウセンタケ科が 30 種と多く、イグチ科やテングタケ科が 20 種前
後と多くみられた。また、Chroogomphus sp. となった種は形態的に
は C. tomentosus (フサクギタケ)に似ているが、塩基配列が 7% 程
度異なり、C. tomentosus や C. pseudotomentosus とは別種であると考
えられるなど、新種もまだ多く残されていると考えられる。
白山におけるクロユリ(Fritillaria camtschatcensis )の生育地の地表
面に温度センサーを設置した(標高 2,070 m∼ 2,530 m)。クロユリ
が生育する雪田植生が広がる場所においては、積雪時には地表面温
度はほぼ 0℃で安定しているが、積雪がなくなると急激に温度変化
が見られることから雪どけ時期を推定することができる。調査地の
うち、水屋尻調査地(標高 2,450 m)では、機器の故障により欠測
の年もあるが、1994 ∼ 2012 年のデータがあり、その結果をみると、
雪どけが異常に早かった 1998 年は 5 月 17 日であるが、それ以外の
年は 6 月下旬∼ 7 月上旬で大きな変化はなく、近年、雪どけが急激
に早まっているということはなかった。また、2004 年からの複数個
所での雪どけ時期を比較してみると、その変化はほぼ同調的で、雪
どけが早い年は、どの調査地においても雪どけは早く、雪どけが遅
い年は、どの調査地でも雪どけは遅くなっていた。一方、クロユリ
の開花時期については展望歩道調査地(標高 2,440 m)で、現地調
査を行うとともに、自動撮影カメラを用い、特定した。その結果、
クロユリの開花時期は、雪どけ時期と相関があることが明らかとな
った。水屋尻調査地で雪どけが約 1 か月早かった 1998 年は、展望歩
道調査地では雪どけ日は不明であるが、クロユリの開花は 6 月 29 日
で、その他の年に比べ約 1 か月早かった。1998 年以外の年では 7 月
下旬から 8 月上旬で、近年、クロユリの開花が急激に早まっている
ということもなかった。これまでのところ白山では雪どけ時期やク
ロユリの開花時期について大きな変化は見られないが、地球温暖化
の進行により、高山帯の積雪環境や高山植物の開花フェノロジーが
どのように変化していくかは不明なことも多く、今後も継続して調
査を行っていくことが必要である。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-053
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高緯度北極の氷河後退域における Salix arctica リター
根に居住する菌類どうしの相互作用はホスト植物間の菌
の化学的変化と菌類定着
群集の分化を促すか?
* 大園享司(京大・生態研),広瀬大(日大・薬),内田雅己(極地研),
神田啓史(極地研)
山本哲史 *,佐藤博俊,田邊晶史,日高周,門脇浩明,東樹宏和(京大・
地球環境学堂)
カナダ高緯度北極のツンドラにおいて優占する Salix arctica を材料
に、その落葉・枯死幹の分解にともなう化学的変化と菌類定着との
関係を調べ、分解に果たす菌類の役割を推定した。調査地はカナダ
国ヌナブト準州エルズミア島のオーブロヤ湾付近(北緯 80.5 度)に
位置する氷河後退域である。2003 年 7 月に、氷河末端からの距離(氷
河後退後の年数)が異なり植生・土壌の発達程度に違いの認められ
る 5 立地において試料を採取した。目視により落葉は 3 段階、枯死
幹は 5 段階の分解段階に区分し、実験室に持ち帰って有機物組成、
養分濃度、菌糸長の測定および菌類の分離に供試した。落葉と枯死
幹のいずれにおいても、酸不溶性残渣とアルコールベンゼン抽出物
の濃度は立地間と分解段階間の両方で有意な変動が認められた。全
炭水化物、N, P, K, Ca, Mg の各濃度、C/N 比およびδ 15N は立地間
あるいは分解段階間で有意な変動が認められた。全菌糸長は落葉で
673 ∼ 9470m/g、枯死幹で 537 ∼ 4404m/g であり、分解段階間で有意
な差が認められた。落葉と枯死幹から 4 形態種が高頻度で分離され、
うち 2 形態種の頻度について分解段階間で有意な差が認められた。
全菌糸量と菌類形態種の頻度と、化学成分の濃度とのあいだに有意
な相関関係が認められたことから、菌類の定着と化学的変化との関
連性が示唆された。分離菌株を用いた接種試験により、高頻度で出
現する形態種が落葉の全炭水化物を選択的に分解することが示され
た。
植物は根で菌根菌やエンドファイト(内生菌)と共生している。
菌根菌は土壌栄養をホスト植物へ与え、代わりに光合成産物を得る
相利共生者である。エンドファイトの役割は未だ不明な点が多いが、
近年では菌根菌とは異なる方法で土壌から栄養を集め植物へ渡すか、
もしくは菌根菌が土壌中の栄養を吸収しやすくすることが示唆され
ている。
先行研究では菌根菌どうしはニッチが似ているために競争するこ
とが示唆されている。そのような菌間の相互作用は共生している植
物個体の成長やホスト個体群の成長にも影響する可能性も示唆され
ている。そこで本研究では、菌根菌とエンドファイトの両方を網羅
的に検出し、菌どうしの相互作用について研究した。
同所的に分布する Quercus 属のコナラとアラカシそれぞれの実生
を 247、183 個体の根を採集した。根からの DNA 抽出物をテンプレ
ートに、菌特異的なプライマーで核 ITS 領域を PCR 増幅し、454 パ
イロシーケンサーによって解析した。得られた塩基配列を基に DNA
バーコーディング支援プログラム CLAIDENT を使い生物同定を行っ
た結果、菌根菌が多数検出され、またエンドファイトと考えられる
ものも多数検出された。Checkerboard 指数・Togetherness 指数によっ
て菌間の相互作用を解析した結果、菌根菌とエンドファイトは共存
しやすいことが示唆された。これは、菌根菌とエンドファイトの共
生方法が異なるために、根の空間を巡る競争が少ないためだと考え
られる。また2つのホスト植物間で有意に相互作用の強度が異なる
菌のペアも見つかった。
P2-055
P2-056
異なる光条件下に生育するイチヤクソウの菌根共生と従
納豆菌コロニーのパターン形成に関する研究
属栄養性の季節変化
* 福田千奏,中桐斉之,榎原周平
* 松田陽介(三重大院生資),清水瞳子(三重大生資),森万菜実(三重大
生資),伊藤進一郎(三重大院生資),Selosse MA(モンペリエ II 大学)
光合成による独立栄養獲得と根に共生する菌,菌根菌を介した従
属栄養獲得の両方を通して炭素源を得る植物を混合栄養性植物とい
う.本研究では日本に広く分布する林床植物,イチヤクソウを対象
として異なる光条件下における菌根共生関係と混合栄養性の可塑性
を明らかにするため,根の顕微鏡観察と DNA 解析,葉の安定同位
体比を調べた.コナラ林から明所,暗所ぞれぞれからイチヤクソウ
を 2 か月に 1 度採取した.根への菌糸の感染,定着率を光学顕微鏡
観察により評価した.共生菌の推定はバーコード領域とされる ITS
領域のダイレクトシークエンスを通して行った.周辺の独立栄養性,
菌従属栄養性植物とともにイチヤクソウの葉のδ 13C,δ 15N 安定同位
体比を計測した.イチヤクソウは菌鞘を形成しないアーブトイド菌
根を形成し,菌糸コイルの形成は春から夏にかけて多い傾向にあっ
た.検出された菌の大部分は分類的に外生菌根菌であり,その 84%
はベニタケ属菌であった.菌根化率とベニタケ属菌の出現頻度は暗
所で高い傾向にあった.δ 13C,δ 15N は周辺植物に比べて有意に高く,
炭素源の約 50% を菌根菌に由来すると推定された.両安定同位体比
は光量と負の有意な相関があり,暗所で菌従属性が高くなると示唆
された.以上より,イチヤクソウに定着する菌根菌種と菌への依存
度は光条件により変化すると考えられた.
256
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-057
P2-058
半乾燥地における夏の降雨への外生菌根群集の反応
アカマツ倒木上に発生した変形菌の窒素・炭素安定同位
* 谷 口 武 士( 鳥 取 大 学・ 乾 地 研 ),Michael Allen,Greg Douhan,
Kunihiro Kitajima(カリフォルニア大学リバーサイド校),山中典和(鳥
取大学・乾地研)
体比
深澤遊 *,兵藤不二夫
変形菌は原生動物門に属する単細胞のアメーバであり、土壌中や
枯死木などの植物遺体中で主に細菌や真菌、低分子の炭水化物を摂
食していると考えられている。森林土壌ではアメーバによる摂食活
動が土壌中の窒素無機化の主な要因であるという報告もあり、養分
循環におけるアメーバの重要性が指摘されている。中でも変形菌は
土壌中のアメーバ現存量の約半分を占めるとされ、土壌アメーバの
中でも特に機能的重要性の高い生物群であると考えられる。変形菌
の食性を種レベルで明らかにすることは、物質循環に果たす変形菌
の機能を理解する上で重要である。しかし、アメーバは形態的な特
徴が乏しく、口器の形態などによる食性推定や野外で摂食の現場を
観察することが難しいことから、変形菌の種レベルでの食性の違い
についてはよく分かっていない。本研究では、食物網解析に有用な
窒素および炭素の安定同位体比分析を用い、変形菌の食性について
検討した。
調査は山形市東部に位置する千歳山(標高 471m)において行っ
た。枯死したアカマツ倒木上に発生していた変形菌 2 種(アミホコリ、
ススホコリ)の子実体および、変形菌の食物資源と予想される木材
腐朽菌 2 種(マツオウジ、ヒメカバイロタケ)の子実体と変形菌が
発生していた倒木の材をサンプルとして採取した。これらサンプル
の窒素および炭素の安定同位体比を測定したところ、材の安定同位
体比は窒素・炭素ともにサンプル内で最も低く、それぞれ -6.5~-4.9
‰および -27.3~-25.4‰の範囲にあった。木材腐朽菌では、窒素の安
定同位体比は材とあまり変わらなかったのに対し炭素の安定同位体
比が材に比べ 3~4‰程度高く、過去の研究と同様のパタンを示した。
変形菌では、炭素の安定同位体比は木材腐朽菌とほとんど変わらな
かったのに対し、窒素の安定同位体比が木材腐朽菌に比べ 2~3‰高
く、どちらの種も真菌食であることが示唆された。
乾燥地や半乾燥地では「水」が植物にとって重要な資源であるが、
主に樹木と共生する外生菌根菌にとってもこの水は重要な資源であ
る。外生菌根菌の群集が季節的な乾燥によって変化することや、夏
の乾燥した時期に水を与えると外生菌根菌の感染率が高くなること
が報告されている。しかしながら、この乾燥の時期に与えた水に対
する短期的な菌根群集の応答については報告が少ない。今回調査を
行ったアメリカ、カリフォルニア州南西部では乾燥した夏に季節風
に伴う降雨がある。ここで供給される水は菌根群集を変化させ、宿
主植物にも影響を及ぼす可能性がある。演者らは、年降水量 500
mm のマツ−ナラ林において、2011 年 4 月から 8 月まで、季節的な
乾燥に伴う外生菌根群集の変化を調べた。また季節風に伴う降水の
後、降水の影響を経時的に調べるとともに、さらに水を添加する処
理区を設け、降水の量が外生菌根群集に与える影響について調査を
行った。4 月から 8 月にかけた土壌の乾燥に伴い、菌根菌の種数や
種多様性は減少した。この期間を通じて、優占菌種は Cenococcum
geophilum であった。ミニライゾトロンによる観察から、7 月下旬の
降雨の後、土壌中の菌糸は 1 日後には反応を示していた。菌根群集
については、5 日後には変化が起こり、7 日後に水添加処理区では菌
根の種多様性がピークに達し、14 日後には減少した。14 日後の菌根
群集は、降雨直後、あるいは水添加直後(1 日以内)と類似していた。
このことは水の供給後、水に対する感受性の高い菌根菌の急速な増
加と減少が起こり、土壌が再度乾燥すると、乾燥に適応した菌根群
集に戻る可能性を示唆している。
P2-059
P2-060
内生菌によるドクゼリの Zn 吸収促進及び耐性メカニズ
樹木のフラクタル構造と末端枝サイズの対数正規分布
ムの生態化学的解明
* 小山耕平,才木真太朗,奥野匡哉,石田厚
長田賢志(筑波大学 生命環境)*,山路恵子(筑波大学 生命環境)
対数正規分布は、生態学に広く見られる現象である。これまでの
説明モデル(Broken stick や Sequential breakage = Kolmogorov の連続
破断過程(K 過程))等は対数正規分布を再現できるが、これらのモ
デルが提唱するメカニズムは検証不可能である。そこで、生物系に
おいて対数正規分布の成立過程をデータにより直接検証できる例を
提示する。樹木ネジキ(Lyonia ovalifolia, ツツジ科)の成木1本(樹
高 5 m)に対し、全ての 1 年生枝(去年新しく伸びた枝)のサイズ
(根元直径)を測定した。その頻度分布は右に裾を引いた一山形の分
布であり、直径の対数をとって分布を見るとほぼ左右対象なベル形
の正規分布に近いものであった。これらの結果から、樹木 1 個体の
末端枝のサイズ分布はおおよそ対数正規分布で近似できるといえる。
樹木がもし自己相似性(それぞれの小枝を拡大すると大枝と同じ形
になること)を持つフラクタルであれば、各分岐点における分割の
偏りの強さは階層に依存しないと予測される。このとき破断を繰り
返した最終結果である末端器官のサイズの頻度分布は K 過程と等価
になり、対数正規分布するといえる。一般に K 過程は時間軸方向に
階層構造を持った時系列現象であり、その履歴を辿ることは困難で
ある場合が多いが、枝の分割を繰り返した結果として生成される樹
木の末端枝サイズの頻度分布は、ある空間に同時的に存在する空間
的階層構造であり、全ての破断履歴を調べることができる。また、
その独立性は、各分岐点における分割の偏りの強さ(R)が階層の
深さや破断履歴と独立であることを示すことにより直接検証可能で
ある。発表では、各分割における R の値が階層の深さに依存せず一
定(フラット)になる領域が存在すること、また、ある分岐点にお
ける R の値が、
破断履歴(それまでに通過した分岐点における R の値)
と無相関であることを報告する。
日立鉱山の土壌は精錬所から排出された排煙に含まれていた重
金属によって高濃度の重金属によって汚染されており、植物が自生
するには厳しい環境であることが知られている。このような環境に
も拘わらず、数種の植物が人の手を借りずに侵入していることが知
られている。本研究で着目しているドクゼリもそのような植物の一
つである。このドクゼリは一般的な植物では成長阻害を引き起こす
ほどの高濃度の Zn を根部に蓄積しているにも拘らず、重金属含有
土壌で優占的に生育していることが確認された。既存の研究によっ
て、ドクゼリが重金属汚染土壌において自生が可能であるのは内生
菌の機能によるものであることが明らかとなった。特に Zn が高濃度
で蓄積されていた根部から分離された内生細菌である Pseudomonas
putida はドクゼリの成長促進及び土壌中の Zn 可溶化による Zn 吸収
促進に関与していることが明らかとなった。本研究では P. putida に
よる Zn 可溶化に注目し、P. putida が産生する Zn 可溶化物質を分離、
精製することで同定を行った。その結果、Zn 可溶化には P. putida の
産生する 3 種類の物質が関与しており、これらの物質が同時に存在
するときに土壌中の Zn は可溶化されていることが確認された。しか
し、現状ではドクゼリや土壌中に P. putida の産生するこれらの物質
が存在しているかは明らかではない。本発表ではドクゼリ実生に P.
putida を接種する接種試験を行い、ドクゼリの Zn 吸収量を分析し、
P. putida による Zn 吸収促進を再検証する、さらに、P. putida の産生
している 3 種類の物質の土壌中、もしくはドクゼリ内での存在量を
機器分析を用いて明らかにし、P. putida の関与するドクゼリの Zn 吸
収促進メカニズムを化学的に明らかにする。
257
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-061
P2-062
沖縄県に生育するマングローブ樹種の蒸散特性
植物個体レベルの地上部地下部比調節メカニズムの解析 :
立石麻紀子(鳥大乾燥地研),松本一穂(琉大農),谷口真吾(琉大農),
山中典和(鳥大乾燥地研)
植物ホルモンによるローカルおよびシステミックな調節
* 杉浦大輔(東大・院・理),小嶋美紀子,榊原均(理研 PSC),寺島一郎(東
大・院・理)
マングローブは熱帯から亜熱帯地域の河口汽水域に広がる樹木郡
の総称であり、複雑な生態系を持ち生物多様性が高い。また、津波
被害の軽減効果や生産性が高いことなどからも、現存するマングロ
ーブ林の保護や再生への取り組みが東南アジアを中心に試みられて
いる。マングローブ林の潮汐や塩分濃度などの物理環境条件は場所
によって大きく異なるため、その生理生態学的特性を明らかにする
ためには様々な場所や条件でのデータの蓄積が重要である。特に日
本に生育するマングローブは分布域の北半球高緯度限界ラインに位
置し比較的厳しい生育環境であるが、単木・林分スケールでの蒸散
特性の評価事例は存在しない。そこで本研究では、沖縄本島において、
本地域の主要構成樹種であるメヒルギ、オヒルギの蒸散特性を明ら
かにし、他の地域及び他の樹種との違いを明らかにすることを目的
とした。
本研究は、2012 年 7 月に沖縄県金武町のマングローブ林において、
メヒルギ (Kamdelia obovata )、オヒルギ (Bruguiera gymnorhiza ) の各 5
本ずつで樹液流計測を行った。樹液流速はオヒルギ、メヒルギとも
に観測地の日射に伴って日変化し、オヒルギがメヒルギの約 2 倍大
きかった。樹液流速には潮汐に伴う水位変動の影響は見られず、日
射と良い相関を示した。気孔コンダクタンスの代わりに蒸散量を飽
差で除したもので気孔応答をみたところ、メヒルギでは飽差が増加
しても一定であったが、オヒルギではわずかに低下していた。これ
は本調査地の気温、飽差の日変化が小さく、日中の最大飽差も小さ
いことが一因であると考えられる。また、本研究で得られた日単木
蒸散量は、既存のマングローブ植物の蒸散量に対して比較的小さか
った。今後、さらに長期における観測を行い乾燥期間でも同様の結
果を得られるか検討を行う必要がある。
植物ホルモンの添加実験および内生植物ホルモンの定量結果から、
ジベレリン (GA) とサイトカイニン (CK) などの植物ホルモンが個体
レベルの地上部地下部比の調節に果たす役割を考察した。
発表者のこれまでの研究から、植物個体レベルの葉 / 根比 (L/R)、
葉の厚さ (LMA) や葉面積あたりの N 濃度 (Narea) などの物質分配パ
ターンは、光環境に応じた葉の N 需要および土壌からの N 供給に応
じて、相対成長速度 (RGR) を最大化させるように調節されているこ
とが示唆された。また、数理モデルからは、環境変化や、葉や根の
損傷に応じて L/R を最適に調節するには、葉面積あたりの C 同化速
度と N 吸収速度の比を認識し、新葉の成長速度を制御することで実
現可能なことが示された。
本研究では材料としてイタドリを用い、強・弱光、N 貧・富栄養
条件下で生育させた際の、(1) GA、CK、GA 合成阻害剤を添加した
ときの形態的・生理的形質の変化の解析、(2) 内生植物ホルモンの定
量的解析 ( 理研 PSC と共同研究 ) を行った。実験 (1) からは、GA や
CK によって L/R や LMA が大きく変化し、これらの形態的変化を
通じて Narea や RGR が決定されることが分かった。実験 (2) の内生
植物ホルモンのプレ解析からは、光環境に関わらず葉面積あたりの
GA と葉 / 根比が相関関係を持つことから、GA が個葉のサイズをロ
ーカルに制御し、システミックに葉の枚数を制御することで、最適
な L/R が実現されている可能性が示唆された。当日は、環境変化に
応じた内生植物ホルモンの詳細な解析と、個葉の光合成速度、糖濃度、
硝酸濃度などのパラメーターから、個体レベルの地上部地下部比調
節メカニズムについて議論する。
P2-063
P2-064
カシ類 7 種の葉の寿命と生理特性
冷温帯落葉広葉樹林における野外温暖化実験:ミズナラ
香山雅純(森林総研九州)
個葉の光合成・分光特性・フェノロジーに対する温度環
常緑性のカシ類は、九州の暖温帯常緑広葉樹林における主要な樹
種であり、7 種が分布している。常緑広葉樹の葉の寿命は種間で異
なり、光環境や葉の厚さ、光合成特性や開葉様式などの影響を受け
る ( 菊沢,2005)。カシ類 7 種も種間でこれらの特性は異なっている
ことから、葉の寿命についても種間で異なることが予想される。本
研究は、生育環境の等しい同一地域に植栽されたカシ類 7 種の葉の
寿命を種間で比較し、葉の寿命を裏付ける要因を解明することを目
的とした。
本研究は、宮崎市高岡町内の広葉樹試験地 ( 標高 180m, 1996 年植
栽 ) に植栽されたアカガシ、ウラジロガシ、シラカシ、ツクバネガシ、
イチイガシ、アラカシ、ハナガガシの計 7 樹種を対象とした。カシ
類 7 種は、樹冠の 2 カ所 (4.0 m, 2.0 m) からシュートを選定し、2007
年 5 月よりシュートに着いた葉の枚数を定期的に数えた。また、カ
シ 7 種の林床にリタートラップを設置し、毎月落葉を回収し、葉の
落葉時期との対応を検討した。さらに、葉の寿命に関わる光環境や
シュートの伸長、光合成特性も併せて検討した。
カシ類の葉の寿命は、種間で異なる傾向を示した。例えば厚い葉
を形成するアカガシは、樹冠上部では葉の寿命が長く、2 年後にも
20% の葉が生存していたが、樹冠下部では1年後の秋に葉を一斉に
落とす傾向を示した。一方、薄い葉を形成するハナガガシは、樹冠
上部で葉の寿命が短く、1年後に半数の葉が落葉し、2 年後にはす
べての葉が落葉した。一方、樹冠下部では葉の寿命が長く、4 年後
にも 20% の葉が生存していた。これらの傾向に対して光−光合成曲
線を測定した結果、アカガシは初期勾配の角度が小さく、暗い環境
における光合成能力が低かった。一方、ハナガガシは初期勾配の角
度が大きく、光合成速度が飽和に達する光強度も小さいことから、
暗い環境における光合成能力が高かった。
境の影響
* 村岡裕由(岐阜大・流域圏セ),庄司千佳(岐阜大・応用生物)
,永井信
(JAMSTEC),野田響(筑波大・環境生命)
陸域生態系の炭素循環は地球環境調節の重要な機能であると同時
に,生態系の生態学的機構の根幹をなすプロセスである。気候変動
に対する森林生態系機能の応答や脆弱性の実験的解明と予測は重要
な課題となっている。発表者らは最先端・次世代研究開発プログラ
ムの一環として,冷温帯落葉広葉樹林の炭素吸収・放出過程に対す
る温度環境の影響解明を目指している。本発表では,岐阜大学・高
山試験地(TKY サイト)でミズナラ(Quercus crispula )成木を対象
として実施した野外温暖化実験の経過を報告する。
TKY サ イ ト の 林 冠 観 測 タ ワ ー( 高 さ 約 18m) が 囲 む ミ ズ ナ ラ
成 木 の 樹 冠 の 一 部 を 2011 年 5 月 に 開 放 型 温 室(Open-Top Canopy
Chamber:OTCC)で囲い,温度の上昇(晴天時に約 5 度上昇)がミ
ズナラ個葉の展葉・黄葉フェノロジー,および光合成・暗呼吸速度
の温度反応にもたらす影響の調査を開始した。2012 年には,展葉・
黄葉フェノロジーを,葉長とクロロフィル含量指標(SPAD)の計測,
ならびにデジタルカメラ画像の RGB 解析によりモニタリングした。
また個葉光合成・呼吸速度の温度依存性,ならびに個葉分光特性(光
の透過,反射,吸収率)を季節を通じて測定した。
枝葉の加温は展葉開始日を約 5 日間早め,黄葉を約 5 日間遅らせた。
クロロフィル含量と最大光合成速度(Amax)は季節を通じて温暖化
区の方が高い傾向が続き,8 月上旬の Amax には約 25%の差が生じた。
ただし形態的特性(LMA)には差違は見られなかった。今後は温度
環境の違いが生理生態学的特性への影響を介して林冠スケールでの
光合成生産量に及ぼす影響をモデル解析するとともに,葉群に対す
る温暖化影響を分光観測により検出する手法を検討する。
258
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-065
P2-066
栄養塩の吸収時期が冬緑性草本ヒガンバナの光合成特性
草本植物葉群内における葉間窒素分配のメタ解析
に与える効果
* 彦坂幸毅(東北大・院・生命科学),Niels P.R. Anten(ワーゲニンゲ
ン大),及川真平(東京農大・国際食料情報),神山千穂(統計数理研究所),
Almaz Borjigidai(中国民族大),酒井英光,長谷川利拡(農業環境技術
研究所),廣瀬忠樹(東京農大・国際食料情報)
* 西谷里美(首都大・生命科学),石田厚(京大生態研センター),高市真
一(日本医大・生物),中村敏枝(首都大・生命科学),可知直毅(首都大・
生命科学)
葉群内の光環境勾配に応じてどのように窒素を分配するかは葉群
全体の光合成速度に大きな影響を与える要因の一つである。多くの
陸域物質循環シミュレーション内の葉群光合成モデルは、計算の単
純化のため「葉群内において窒素は葉群光合成速度を最大にするよ
うに分配されている」という仮定をおいている。しかし、実際の植
物葉群内の窒素分配が最適分配とは定量的に異なることが多くの研
究から指摘されている。本研究では、(1)実際の葉群の窒素分配は
最適分配からどれだけずれているのか、(2)温度や CO2 濃度など
の環境条件や群落構成種の特性などが窒素分配に影響するのか、と
いう疑問に答えるために、自然群落・農作物群落・実験群落など約
300 の草本群落で得られたデータを収集し、メタ解析を行った。現
在もデータを収集中であるが、これまでに得られた結果では、(1)
実際の窒素分配は最適分配と高い相関をもつが、その勾配は約 40%
緩やかであること、(2)収穫前後の気温が窒素分配に有意な効果を
もつ一方、CO2 濃度の効果は認められなかったこと、
(3)コムギか
ら収集されたデータが他種のデータと大きく異なる傾向をもつこと
などが明らかとなった。
冬緑性草本であるヒガンバナは,展葉期(関東地方では 10 月から
翌年 5 月)のみならず,葉の無い夏期においても栄養塩の吸収能力
を持つことが明らかになっている。また,栄養塩の吸収時期が個体
の成長に影響することも既に報告した。成長は,物質生産をになう
葉の光合成能力と,葉への資源配分に依存する。本発表では,栄養
塩の吸収時期が葉の光合成能力に与える効果について報告する。
4 月上旬の個体重を指標としてサイズをそろえたヒガンバナを,
施肥の時期を変えた 4 条件下で栽培した;条件 S(夏施肥:6 月中旬
から 6.5 週間施肥),条件 A(秋施肥:10 月上旬から 6.5 週間施肥),
条件 SA( 夏秋施肥 ),条件 C(無施肥)。植物を植えたポットは,雨
天時以外は屋外(川崎市)に置き,必要に応じて潅水した。12 月中
旬に光合成速度を,また,1 月上旬にクロロフィル蛍光の測定を行
った後,葉を採取し窒素と色素(クロロフィル・カロテノイド)を
定量した。
葉面積あたりの窒素量,色素量は,いずれも秋に施肥を受けた個
体(条件 A と SA)
で高く,葉面積あたりの光合成速度も同様であった。
光化学系 (PS)II の最大量子収率 (Fv/Fm) には,条件間で有意差は認
められなかったが,強光下での量子収率(Φ PSII)は,秋に施肥を
受けた個体で高く,特に条件 A では,夜間に凍結した葉においてさ
えも高い値が維持された。夏の栄養塩吸収は,葉への資源分配の増
加を介して成長に正の効果をもつことが示唆されているが,一方で,
秋の栄養塩吸収は,葉の光合成能力を高め,特に,厳冬期の低温に
よる傷害を回避する上で有効であると考えられた。
P2-067
P2-068
強度被陰された落葉広葉樹の苗木における T/R 率、展開
タイ季節林帯における人工林新鮮葉の炭素同位体比およ
葉数および葉の解剖学的構造
び特性値
* 田中 格(山梨県森林総研)
* 酒井正治(森林総研),Thiti Visaratana(タイ王室森林局)
相対光環境 7.4% に強度被陰された落葉広葉樹の 3 年生苗木にお
ける飽和光合成速度、伸長成長量の応答性を検討した。測定樹種は,
ケヤキ、ミズナラ、コナラ、クリ、ブナ、シラカンバ、ミズメの 7
種で,飽和光合成速度,伸長成長量における相対光環境 7.4% の値を
100% の値で除した値(低下度)を指標とした。強度被陰下における
地上部,地下部への物質配分,展開葉数,個葉の解剖学的構造が強
度被陰下の飽和光合成速度,伸長成長量に影響与える重要な因子と
考え,強度被陰下での T/R 率,相対展開葉数(相対光環境 100% で
の展開葉数で 7.4% の展開葉数を除した値),個葉の解剖学的構造と
して葉肉の厚さを測定し,飽和光合成速度,伸長成長量における低
下度との関係を検討した。その結果,1) 強度被陰下の T/R 率と飽和
光合成速度の低下度は高い負の相関が認められたことから,地下部
を中心に物質配分されるほど飽和光合成速度の低下が低く抑えられ
ることが明らかとなり,地上部,地下部への物質配分は飽和光合成
速度に大きな影響与えていることが示唆された。2) 伸長成長量にお
いては,ケヤキ,ブナを除く 5 種では,T/R 率と伸長成長量の低下
度が負の相関,飽和光合成速度の低下度と伸長成長量の低下度が正
の相関を示したことから,飽和光合成速度の応答を介して地上部,
地下部への物質配分が伸長成長量に影響を与えていることが示唆さ
れた。3) ケヤキとブナにおいては,相対展開葉数が大きく,展開葉
の葉肉の厚さが薄いほど伸長成長量の低下が抑えられる傾向を示し
たことから,強度被陰下における地上部,地下部への物質配分より
も相対展開葉数,展開葉の葉肉の厚さが伸長成長量の応答に大きな
影響を与えている可能性が示唆された。
地球温暖化緩和に果たす森林の CO2 吸収能の把握および森林減
少・劣化の回避は、熱帯では緊急の課題であり、森林生態系の炭素
現存量の約半分を占める土壌炭素の分解速度、土壌腐植の起源につ
いて理解することは、地球レベルでの炭素収支を予測する上で不可
欠と考えられている。
本研究では、炭素固定を担い、土壌有機物の供給源である新鮮葉
について、炭素同位体比(δ 13C)、Leaf Mass Area(LMA)、SPAD 値、
C&N 含有率を測定し、それらの樹種間および乾季・雨季間の比較を
行ったので報告する。
試験地はタイ国東北部で、雨季(5 月∼ 11 月)、乾季(12 月∼
翌年 4 月)をもつ季節林である。荒廃草地から人工林に転換して以
降の森林の炭素動態を把握するため設定した、草地 2 種(Imperata
cylindrical(Yk)
、Saccharum spontaneum(Yp))、人工早生樹 3 種(Acacia
mangium
(Aa)
, Acacia auriculiformis(Am), Eucalyptus camaldulensis(Ec))
、
人工郷土樹種1種(Dalbergia cochinchinensis(DcII))
,天然林(Hopea
ferrea(Hf)、Shorea henryana(Sh)、Dipterocarpus tubercuaotus(Dt)) を 対
象とした。2011 年 2 月、2011 年 9 において樹冠上部の新鮮葉を採取
した。
δ 13C 値について乾季と雨季との関係を見てみると,Aa, Am, Dt,
Hf では乾季で高い値を示し、Ec, DcII, Sh では有意差がなかった。前
者は乾季の乾燥ストレスを示唆していた。一方,Yp, Yk は樹木とは
反対に乾季で低い値を示した。樹木の中では、LMA 値と N 含有率(%)
との間に負の関係が認められた。
259
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-069
P2-070
突然変異によって高 CO2 環境に適応的な光合成能力を
Influence of climatic factors on the annual growth of Abies
もつ植物の進化は起こるだろうか?
sachalinensis canopy trees
* 永野聡一郎,河村花愛,千葉元子,尾崎洋史,小口理一,藤井伸治,彦
坂幸毅,高橋秀幸(東北大・院・生命科学)
Takeshi SEKI (FFPRI, Hokkaido)
To understand the dynamics of forest canopy with respect to tree growth
under the ongoing climate change, climatic factors influencing the annual
growth of 13 Abies sachalinensis canopy trees were examined in a cold
temperate forest near Nakayama Pass in southwestern Hokkaido, Japan.
Linear mixed models were used for the analysis, with explanatory variables
of precipitation and mean temperature for periods of seven days and the
temperature sum with a threshold temperature of 5 °C during the growing
season from three years before growth to the end of that in the growing year.
With respect to height growth, precipitation just after bud burst showed a
negative effect on growth each year from two years before growth to the end
of that in the growing year. The mean temperature around the period of the
summer solstice showed a negative effect on growth each year from three
years before growth to the end of that in the growing year. The temperature
sum showed a weak negative effect only one year before the height growth.
These findings suggest that warming during the growing season does not
necessarily increase the vertical crown expansion of this species. For water
use, a negative effect of precipitation just after bud burst suggests that water
deficit does not occur during the earlier stage of height growth.
大気中の CO2 濃度は産業革命以降上昇を続けており、今世紀末に
は 500-1000 µmol mol-1 に到達すると予想されている。CO2 は植物に
とって光合成の基質であり、CO2 濃度の上昇は植物の光合成を増加
させると予想される。しかし実際には、現存する植物では、高 CO2
環境で生育した場合に通常 CO2 環境で生育した場合よりも、高 CO2
濃度下での光合成能力が低下する現象が見られる。では、現存する
植物に突然変異が生じた場合、高 CO2 環境で適応的であると考えら
れる高い光合成能力をもつ植物は進化するのだろうか?
本研究で我々は高 CO2 環境下で高い光合成能力をもつ突然変異体
を単離するため、クロロフィル蛍光の測定を用いた新たなスクリー
ニング系を構築した。EMS で突然変異を誘発したシロイヌナズナの
M2 植物を 800 µmol mol-1 CO2 で 17-18 日間生育した。これらの M2 植
物の光合成の光化学系 II の量子収率を 800 µmol mol-1 CO2 で測定し、
野生型よりも有意に高い光合成能力をもつ植物を突然変異体候補と
して単離した。ガス交換特性の解析の結果、高 CO2 環境下での光合
成速度が有意に高い突然変異体1系統を単離した。これらの結果か
ら、遺伝子の突然変異により高 CO2 環境に適応的な光合成能力をも
つ植物への進化が引き起こされることが示唆された。現在、単離し
た突然変異体の変異原因遺伝子の同定を進めている。
P2-071
P2-072
貧栄養条件下の熱帯林における主要構成樹種の葉の窒素
異なる緯度におけるコナラ林冠葉の温度 ‐ 光合成関係に
再吸収特性
対する温暖化処理の影響
* 宮本和樹(森林総研四国),Reuben Nilus(サバ森林研究セ)
* 山口大輔(東北大・生命),中路達郎,日浦 勉(北大・北方生物圏
FSC),三島 大,中村こずえ(鳥取大・院),佐野淳之(鳥取大・農),
彦坂幸毅(東北大・生命)
土壌条件の異なる熱帯林の森林タイプにおける、樹種間の栄養塩
利用特性の違いを明らかにする目的で、主要構成樹種の生葉と落葉
のサンプリングを行い、栄養塩の再吸収特性を種間および森林タイ
プ間で比較した。今回は窒素に関する報告を行う。調査地は、東マ
レーシア(ボルネオ島)、サバ州ナバワンの貧栄養条件下に成立す
る熱帯ヒース林で、種組成や土壌栄養塩の可給性が異なると考えら
れる2つのタイプの森林(Large crown と Small crown)が隣接して
いる。各森林タイプの優占種について、樹冠部の生葉および落葉直
前の葉をサンプリングし、葉における窒素の再吸収特性を再吸収効
率(Resorption efficiency、以下 RE)と再吸収プロフィシエンシー
(Resorption proficiency、以下 RP)という2つの指標で比較した。RE
は生葉中の栄養塩が落葉までに引き戻された割合 (1 − 落葉の栄養塩
濃度/生葉の栄養塩濃度 ) である。一方、RP は落葉中にどれだけ栄
養塩が残っているかを示すもので、単純に落葉中の栄養塩濃度とし
て表される(ただし、RP が高い=落葉中の栄養塩濃度が低い)。分
析の結果、各樹種の RE は約 40 ∼ 50% の値を示し、森林タイプ間お
よび種間で有意な差は見られなかった。一方、RP は森林タイプ間で
有意に異なり、Small crown タイプの優占種の方が Large crown タイ
プの優占種よりも落葉中の N 濃度が有意に低く、RP が高いことが
示された。また、同一森林タイプ内においては RP に種間差はみら
れなかった。以上のことから、各森林タイプにはそれぞれの N 利用
環境のレベルに応じた特性をもつ樹種によって収斂していることが
示唆された。
植物の多くの性質が温度の影響を受けるが、その応答は温度に対
して直線的でないことが多く、同じ温度上昇でも、もともとの温度
環境によって応答は大きく異なると考えられる。また、異なる温度
環境にはその温度環境に適応したジェノタイプが生育し、互いに異
なる温度応答をもつ可能性がある。本研究では、異なる緯度に生育
するコナラの林冠葉に対して温暖化処理を施し、葉特性と温度−光
合成関係に与える影響がどのように異なるかを調べた。
北海道大学苫小牧研究林 (42°40′N、141°36′E、8 月平均気温
20.7℃ ) と鳥取大学蒜山の森 (35°18′N、133°35′E、8 月平均気温
23.7℃ ) に自生するコナラ成木の大枝をアクリル板で囲み、中の温度
を上昇させた ( 最大+ 4.5℃ )。2012 年 6 ∼ 8 月にかけてそれぞれの
葉についてガス交換測定を行った。
林冠葉が十分に成熟した 8 月には、温暖化処理にさらされた葉の
光合成速度は、苫小牧ではどの測定温度でも若干増加したのに対し、
蒜山では測定温度 35℃のみ若干増加し、それ以下の測定温度では低
下した。苫小牧では生育温度の上昇によって Vcmax の温度依存性が増
加し、それにともない光合成の最適温度も上昇した。一方で、蒜山
では生育温度の上昇にこれらのパラメータは応答しなかったが、高
温で気孔コンダクタンスが相対的に高くなったことにより、なだら
かな温度−光合成曲線へと変化した。
苫小牧・蒜山ともに温暖化処理によって高温での光合成速度が高
くなるように温度応答は変化したが、生育温度の変化に対する温度
−光合成曲線の形の変化は緯度間で大きく異なっていた。これらの
結果は、温暖化が森林の炭素収支へ与える影響は緯度環境によって
違うことを示唆している。
260
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-073
P2-074
葉の構造と気孔を介したガス交換メカニズムの実験的・
野外温暖化実験におけるミズナラの個葉ガス交換特性に
理論的解明
対する温度の影響
* 澤上航一郎,舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)
* 鎌倉真依(奈良女大・共生セ)・村岡裕由(岐大・流域圏セ)・奥村智憲
(京大・エネ科)・小杉緑子(京大・農)
陸上高等植物が成長するには、葉の気孔を介してガス交換を行う
必要がある。つまり、成長に必要な二酸化炭素を取り込むと同時に、
貴重な水の放出を必要とする。植物が気孔を介したガス交換により、
いかに効率良くガス交換を行なっているかを知るには、ガス交換の
際の葉内の二酸化炭素・水蒸気環境を知る必要があるが、現在のと
ころ、それらを直接的に測定する方法は存在しない。本研究では、
ツユクサとキリンソウを用い、表皮を取り除いた状態でガス交換速
度を測定した。ツユクサの葉の高二酸化炭素濃度下での光合成速度
を無傷葉と剥皮葉で比較すると、表側剥皮で 99%、裏側剥皮で 91%
と僅かに剥皮葉の光合成速度が低かった。大気濃度での比較では、
ツユクサの表側剥皮で 108%、裏側剥皮で 99%、キリンソウの裏側剥
皮で 90% であった。蒸散速度の変化を調べると、ツユクサの表側剥
皮で 262%、裏側剥皮で 199%、キリンソウの裏側剥皮で 246% であ
った。光合成速度が殆ど変化しなかったのに対して、蒸散速度は大
きく上昇した。では、葉肉細胞からの蒸散速度は大きいのだろうか
? 葉肉蒸散速度と濾紙からの水の蒸発速度を比較すると、ツユクサ
で 67%、キリンソウで 94% であり、葉肉蒸散速度は水面からの蒸発
速度よりも低いことが明らかとなった。ツユクサとキリンソウの違
いは、葉肉組織の厚さによるものと考えられる。剥皮によるガス交
換速度の変化は、光合成中、葉内に十分な二酸化炭素が行き渡って
いることを示す一方、葉内の水蒸気濃度は植物の生態と葉の構造に
よって異なっているかもしれない。実験結果と同時に、これらの状
態を説明する理論的モデルも示す。
2011 年 6 月に岐阜大学高山試験地で開始された、冷温帯落葉樹の
ミズナラ (Quercus crispula ) を対象とした野外温暖化実験において、
OTCC (open top canopy chamber) 区とコントロール区の個葉ガス交換
特性を調べた。OTCC 区とコントロール区の葉温を比較したところ、
ガス交換測定日(晴天日)の日中の葉温は OTCC 区の方が約 3.5℃
高かったことを確認した。
温暖化処理 1 年目の 2011 年 8 月には、飽和光 (1500 μ mol m-2 s-1)
における個葉光合成速度、気孔コンダクタンス、光化学系 II の量子
収率 ( Δ F/Fm')、光合成電子伝達速度 (ETR) は OTCC 区とコントロ
ール区の間で違いが見られなかったのに対し、温暖化処理 2 年目の
2012 年 8 月には、すべての項目において OTCC 区の方がコントロー
ル区より高い値を示した。2012 年の結果について、8:00-10:00 の測
定値を用いて、飽差 (VPD) と気孔コンダクタンス、葉温と見かけの
最大炭酸同化速度 (V cmax*) または ETR との関係をプロットしたとこ
ろ、同じ VPD や葉温において OTCC 区の葉はコントロール区の葉
よりも活性が高くなっていることが示唆された。また、本発表では、
OTCC 区とコントロール区の葉の気孔密度や個々の気孔開度および
その分布についても比較考察する。
P2-075
P2-076
常緑広葉樹 14 種実生の成長への光環境変動の影響
葉の再生産の指標と落葉樹の特性
河原崎里子 *1,相川真一 2,田内裕之 2,可知直毅 1,石田厚 3(1 首都大,
2 森林総研,3 京都大)
* 宮下彩奈(東大・理),舘野正樹(東大・理)
弱光環境である林床で、植物個体の生存・成長・更新成功を可能
にする戦略は何か。著者らの過去の研究では、冷温帯林の林床にお
ける成長・更新可能性は個体の炭素収支で判定できることが示され
た。
そこで本発表では、個体の炭素収支を判定できる「葉の再生産の
指標」を紹介する。同時に、落葉樹種間の成長可能性の違いを理解
するためにはどのような生理的形態的特性に注目すべきか、またそ
れら特性が成長可能性にどの程度の効果を与えうるのかを議論した
い。
葉の再生産の指標は、葉に関する 4 つの特性(年間の純生産量・
葉重 / 葉面積比・葉寿命)からなる。そこで、主に次の内容を紹介
する予定である:数種の落葉樹種間で、各特性値がどのように異な
るか;林床で実際に得られる光量子束密度と年間の純生産量につい
て
また、著者らは特にブナの成長や更新が可能になる条件について
調査を行っている。ブナが優占を誇る日本海側山地では主に積雪の
影響と考えられる、地形と植生の偏りが見られる。そこで、地形や
上層の林冠状態の異なるあらゆるサイトにおいて、光利用可能性と、
ブナ実生の成長速度や生存率を調査した。ブナの成長・更新可否に
ついて、まずは光環境で説明し得る部分を定量的に示したい。
照葉樹林はギャップ形成により,下層に待機していた高木種の幼
樹の成長が促進され更新すると考えられている。しかし,これらの
幼樹はギャップ形成時に強光に曝される急激な光環境変動により,
葉にダメージを受けるであろう。葉が被るダメージが成長に与える
影響を調べた。シイ・カシ類とイスノキ,クスノキ,ヤブツバキな
ど照葉樹林を形成する 14 種の実生の冬と夏の急激な光環境変動に対
する葉の反応と成長反応を調べた。ポット植えの当年実生を 3 段階
の被陰下(相対照度 6,16,44%)で 9 月に栽培を開始し,一部を冬(発
芽翌年の 1 月)に、一部を夏(同 8 月)に裸地へ移動させ、同 10 月
まで栽培し、葉数の変化と強光阻害の程度(Fv/Fm)を追跡すると
ともに,成長パラメーターを決定した。
裸地に移動させた植物は夏よりも冬の方が強くダメージを受けた。
裸地に出した直後に急激に低下した Fv/Fm が夏はいずれの種も 2 週
間ほどで回復したのに対し,冬は 3 ヶ月程度低下し,そのまま落葉
した種(クスノキ,シリブカガシなど)と,温暖な季節になって Fv/
Fm が回復した種(アカガシなど)があった。夏には落葉はほとん
ど見られなかった。また,夏も冬も暗い被陰区から裸地に移動した
個体の方が強いダメージを受けた。葉がダメージを受ける一方で,
RGR が大きな種は 2 年目葉を多く出葉していた。
我々の前回発表では,終止被陰条件(相対照度 6,16,44%)で
栽培した場合,いずれの光条件においても RGR の種順位はほぼ一定
であることを報告した。光環境の変動があった場合において,被陰
下で成長する場合よりも RGR が大きくなる種,小さくなる種の両方
があったが,RGR の種順位は終止被陰条件とほとんど変わらなかっ
た。
261
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-077
P2-078
マングローブ植物の呼吸根と窒素固定菌の関係 ― 戦略
木部が陰圧下にあっても,再充填中の道管内で陽圧を維
か副産物か
持するメカニズム
* 井上智美(国環研),竹中明夫(国環研)
* 大條弘貴,種子田春彦,寺島一郎(東大・院・理)
マングローブ植物の根圏では窒素固定活性が検出されることが多
い。満潮時に冠水する土壌中で、窒素固定菌はどのように窒素ガス
を獲得しているのだろうか?多くのマングローブ植物には呼吸根が
発達している。呼吸根は、嫌気環境に適応した「酸素供給経路」で
あると考えられているが、空気の約 80% は窒素であり、呼吸根は根
圏への「窒素供給経路」でもある可能性がある。その貢献度を定量
的に評価するため、西表島に分布するマングローブ植物のうち 3 種
(ヒルギダマシ、ヤエヤマヒルギ、オヒルギ)について、根圏の窒素
固定ポテンシャルを測定するとともに、呼吸根を通じたガスの拡散
コンダクタンスも測定して土壌のコンダクタンスと比較した。
流路長と断面積で標準化した拡散抵抗で比較をすると、呼吸根を
通じたガス拡散コンダクタンスは、冠出した土壌よりも 16 ∼ 27 倍
の高い値を示した。仮に流路を 3 センチとした場合、呼吸根経由の
拡散速度は土壌経由の 74 ∼ 85 倍、20 センチでは 43 ∼ 63 倍となる。
各樹種の根平均断面積を加味した呼吸根内のガス拡散速度は オヒ
ルギ ≈ ヤエヤマヒルギ > ヒルギダマシの順となった。一方、各樹種
の根圏における窒素固定ポテンシャルは、ガス輸送能力が高いオヒ
ルギでもっとも高く、ガス輸送能力が低いヒルギダマシでもっとも
低かった。すなわちガス輸送能力と窒素固定ポテンシャルの間に正
の相関関係が見られた。
今後、呼吸根を介したガス供給が根系での消費のどれだけの割合
を担っているのかを呼吸・窒素固定それぞれについて明らかにする。
さらに、多種のマングローブ植物のスクリーニングにより呼吸根の
通導性と根系での窒素固定・呼吸速度との関係を解析し、呼吸根の
窒素供給機能が、酸素供給のために進化した器官の副次的な機能な
のかを検討する。
水ストレス下にある植物の茎では高い陰圧が道管液にかかる.こ
のとき,木部にある気体が,道管表面にある壁孔を通して内部へ引
き込まれ道管内腔を塞ぐことで水の輸送を妨げる.これを空洞現象
と呼ぶ.空洞化した道管の水輸送能力回復には,道管内に入り込ん
だ気泡に陽圧をかけて周囲の水に溶かし込む必要がある.しかし近
年,木部に陰圧がかかった状況でも,空洞化した道管へ水が再充填
されることが多くの植物で確認されている.空洞化した道管への水
の再充填が陰圧下で起こることは,一見すると物理的に矛盾してい
るように感じる.隣接する道管の水には陰圧がかかっているにも関
わらず,再充填中の道管内の水と気体には陽圧がかかっている状況
下では,再充填中の道管内の水が,周囲の陰圧下にある道管へ引き
込まれてしまい,結果として再充填は決して完成しないように思え
る.このことに関して現在,再充填中の道管の壁孔内に気泡が入り
込んだ構造(pit valve 構造)により,道管内の水と陰圧がかかって
いる周囲の水とのつながりが断ち切られるという説が提唱されてい
る.理論的には,再充填中の道管液に掛かる圧力がある程度高くても,
壁孔の構造と壁の親水性から得られる表面張力により,壁孔内の気
泡には陽圧がかからず,気泡は安定して存在できるはずである.
発表者はこれまでに,落葉広葉樹ヤマグワを用いて,再充填中の
道管液に掛かる圧力がある程度高くても,pit valve 構造が維持され
るという結果を実測から得ている.本研究では,陰圧下での再充填
現象が確認されているゲッケイジュを用いた実験から,再充填中の
道管液に陽圧がかかることを確認した.このことに加え,ゲッケイ
ジュにおいても pit valve 構造が安定して存在できる再充填中の道管
液に掛かる圧力を測定することで,再充填過程を通して pit valve 構
造が維持されるかを検証する予定である.
P2-079
P2-080
異なる CO2 濃度で育成したシロイヌナズナジェノタイ
高等植物におけるクロロフィル蛍光による光合成活性測
定の誤差
プの表現型と生息地環境の関係
* 小口理一(東北大・院・生命),Wah Soon Chow(オーストラリア国
立大・生物),寺島一郎(東大・院・理)
* 尾崎洋史,小口理一,彦坂幸毅(東北大・院・生命科学)
植物の形質は、その自生地の環境と密接な関係があると考えられ
ている。すなわち、自生地の環境条件に適していない表現型をもつ
植物は排除され、特定の範囲内の表現型をもつ植物のみが生存でき、
フィルターとなる環境とその対象となる形質の間には相関があるこ
とが期待される。これまでに、野外において環境と形質の関係につ
いて様々な研究が行われてきたが、野外で取得できるデータには限
りがあり、その理解は十分ではない。我々は、世界の様々な緯度・
標高に自生するシロイヌナズナの 44 エコタイプについて二つの CO2
濃度で成長解析とガス交換測定を行い、炭素・窒素・水分の獲得・
利用にかかわる様々な形質を調べた。さらに、各ジェノタイプの生
息地地理環境 ( 標高・緯度・経度 ) と気象環境 ( 気温・飽差等 ) を推
定し、生息地環境と形質の間の相関係数を元に生息地環境と形質の
関係について評価した。生息地環境の違いによる表現型の違いは複
数の形質で見られ、CO2 濃度により相関が検出される場合とされな
い場合があった。例えば、光合成速度と飽差の相関に着目すると、
通常大気条件下での弱光下での光合成速度は一年のうち最も飽差が
低い月の飽差の平均値と負の相関を示したが、この飽差と光合成速
度の関係は高 CO2 条件では有意な相関は見られなかった。一方で、
強光下の光合成速度は CO2 濃度条件に依存せずに飽差の年間の分散
と負の相関を示した。また、これまでの解析では CO2 濃度によって
相関係数の正負が異なる形質は検出されていない。現在、形質と生
息地環境について多変量解析を行っており、その結果もあわせて報
告したい。
光合成は植物の成長を介して全生物の生存を支えており、炭素循
環の担い手でもある。光合成を測定・モニタリングする事は農林作
物の生育状態の観察や将来の大気 CO2 濃度の上昇・温暖化予測に欠
かせない。パルス変調技術(PAM)に代表されるクロロフィル(Chl)
蛍光測定法は、光合成活性(主に光化学系(PS)II 活性)を非破壊
的に短時間で測定できるため、世界的に様々なレベルの分野で利用
されている。
しかし、高等植物を測定する場合、葉の表側から測定光を当てて
蛍光を測るだけのため、葉のどの深さの情報を得ているのか明らか
でない。葉の内部には葉緑体の吸光により、群落と同様に光勾配が
存在する。そのため、葉の表側の葉緑体は十分な光を受けていても、
裏側の葉緑体は十分な光を受けていないという場合が往々に存在し、
Chl 蛍光法に誤差をもたらしていると考えられる。
そこで、本研究では下記の二つの測定法を考案し、Chl 蛍光法に
よる PSII 活性の測定誤差を評価した。一つは葉内に極細光ファイバ
ーをマイクロメートル単位で挿入して行く方法で、葉内の各深さで
Chl 蛍光を測定可能になった。もう一つは、P700(PSI 反応中心 Chl)
酸化還元シグナルを利用する方法で、近赤外域の吸光度の変化を利
用するため、Chl 等の葉の色素による測定光の減衰がほとんど起こ
らず、全葉組織的な光合成活性の測定が可能になった。
ホウレンソウとトウガラシの葉を光阻害処理し、上記の三つの方
法で PSII 活性を測定・比較したところ、赤色測定光を使用している
Chl 蛍光測定装置は光合成活性の過大評価を、青色測定光を使用し
ている装置は過小評価をしている事が明らかになった。それぞれ、
葉の深い部分と浅い部分を測定しているためだと考えられた。
262
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-081
P2-082
ヒサカキ(Eurya japonica )における sun と shade 個
スギ樹冠葉の光合成能力の季節変化
体群間分化 ー葉の形態と光合成
* 飛田博順,北尾光俊,齊藤哲,川崎達郎,壁谷大介,矢崎健一,小松雅
史,梶本卓也(森林総研)
* 見塩昌子,川窪伸光(岐阜大・応生)
現在,スギ人工林のバイオマス蓄積が充実してきているが,経営
上の問題等のため管理不充分な林分が多く残されている。そのため,
長伐期への誘導など,施業法の再検討が必要とされている。適切な
施業法を考える際には,施業に伴う生育環境条件の変化に対するス
ギの成長予測が求められる。しかし,成長予測の上で必要となるス
ギの光合成能力に関する情報は,他の針葉樹や落葉広葉樹に比べて
不足している。そこで本研究では,スギ成木樹冠葉の光合成能力の
季節変化を明らかにすることを目的とした。茨城県の森林総合研究
所千代田苗畑に生育する樹高約 10 m のスギ成木の樹冠上層と下層の
針葉の光合成活性を測定した。測定は約 2 ヶ月間隔で 1 年間,人工
光源付きの針葉樹用チャンバー(LI-6400-18,-22H)を備えた携帯
型光合成蒸散測定装置(LI-6400)を用いて行った。測定には切り枝(シ
ュート)を用いた。実験室内で葉内間隙二酸化炭素濃度と光飽和光
合成速度との関係を求め,25 度での最大炭酸固定速度 (V cmax25) と最
大電子伝達速度 (J max25) を算出した。光合成測定に用いたシュートは,
シュートの投影面積と,軸から外した針葉の投影面積,シュート全
体の重量と針葉の重量を測定した。冬季にも光合成能力を維持して
いることが確認された。針葉の投影面積あたりで表した場合,樹冠
上層葉のほうが下層葉より V cmax25 と J max25 の両方で低い値を示し,冬
季の特異的な樹冠内差異が明らかになった。光合成パラメータの一
年間の季節変動と樹冠内差異に関して,シュートの投影面積あたり
や,乾燥重量あたりでも各パラメータを表現し,光合成能力の評価
手法の妥当性や問題点を考察した。
ヒサカキは、暖温帯の林床、林縁、伐採跡地など、幅広い光環境
に生育する。また種子は、果実食の鳥類により異なる環境に広く散
布される。しかし、種子の生重量は 1mg ほどしかなく、発芽初期の
小さな実生は、蒸散のおこりやすい日なたにおいては水不足の、日
陰においては光不足のストレスを被りやすいと考えられる。著者ら
は、様々な環境に散布された種子が、異なる環境の選択圧下で発芽し,
生長し,成個体が生き残ってきたと予想し、光環境の異なる隣接個
体群間で生じている葉の形態と光合成特性の分化を実験的に解析し
た。
2007 年 5 月に、岐阜市近郊の二次林の林床に生育するヒサカキ 6
個体(shade 個体群)と,隣接する伐採跡地および林道沿いに生育す
る 9 個体(sun 個体群)から,1 個体あたり 6 本の挿し木を作成した。
岐阜大学の実験圃場において、野生 1 個体に由来する 6 本の挿し木
のうち、3本は裸地条件下で、残りの 3 本は遮光条件下(相対光量
子密度 18.5%)で栽培した ( 栽培株と呼ぶ )。2010 年 6 月に、それ
らの栽培株群について、葉の形態と光合成特性を調べた。
その結果,ヒサカキは,sun/shade の由来に関わらず,栽培光条件
に反応して葉の形態と光合成特性で著しい可塑性を持つことが明ら
かになった。しかし,その可塑性の内容は,
sun/shade の由来で異なり,
shade 個体群由来の栽培株群は、葉身が薄くて気孔密度が高く、一方,
sun 個体群由来の栽培株群は、気孔コンダクタンスが同等であるとき
の葉面積あたりの光合成速度が高かった。ヒサカキは,林床と伐採
跡地という極端に光環境の異なる隣接生育地間で,葉の形態と光合
成特性における異なる組み合わせを分化させていると考えられた。
P2-083
P2-084
異なる温度環境で生育させた常緑性と落葉性のブナ科実
Effects of soil water content on soil respiration in a
生 6 種の初期成長と光合成
riparian forest of southern Nevada
* 小林 元(信大AFC・山総研),高瀬雅生(九大院・農),清野達之(筑
波大・環境系),高橋耕一(信大理・山総研)
*Imada, S., Tateno, R. (Kyoto Univ.), Acharya, K. (DRI)
Invasive plants may alter soil microbial community composition and
thus ecosystem nutrient cycling. Tamarix spp. is an invasive tree/shrub
in riparian areas of the western U.S. We examined the spatial variation of
soil respiration in a monotypic stand of Tamarix ramosissima on the lower
Virgin River floodplain, Nevada. Soil samples were collected from 0-70 cm
depths in three different locations; near the river, near the stand edge (6070 m from the river edge) and at 30-40 m from the river edge in the stand
on June, 2012. We also collected soil samples from the surface outside of
the stand where a native shrub species was dominated. Soil samples were
analyzed for basal respiration and substrate-induced respiration (SIR) as
well as soil water moisture, pH, electrical conductivity (EC) and soil organic
matter (SOM) content. Basal respiration and SIR at the soil surface were
significantly higher in the stand than those outside of the stand, suggesting
that soil microbial activity and biomass were higher inside rather than
outside of the Tamarix stand. The basal respiration and SIR decreased with
depth and those at the surface decreased with increasing the distance from
the river. The values were correlated with water holding capacity, pH and
SOM but not with water content and EC.
気温の異なる3試験地(信州,筑波,福岡)において,ブナ科落
葉樹(ミズナラ,コナラ,クヌギ)と常緑樹(シラカシ,アラカシ,
マテバシイ)実生の初期成長および光合成特性を比較した。信州
(伊那),筑波,福岡の3試験地の 2011 年の年平均気温は,それぞれ
11.4℃,14.4℃,16.7℃であった。各樹種の実生1年目の個体サイズ(D2
H)と重量は,福岡試験地が信州,筑波試験地より大きい傾向を示
したが,信州と筑波試験地では変わらなかった。個体サイズと重量は,
それぞれ光飽和下の最大光合成速度と正の相関を示した。最大光合
成速度は,気孔コンダクタンスと正の相関を示した。一方,各樹種
における葉の窒素含量と比葉面積は試験地間で変わらず,両者は最
大光合成速度と無相関であった。細胞間隙の二酸化炭素濃度(Ci)は,
全ての樹種において筑波試験地が信州,福岡試験地より低い値を示
した。一方,葉肉コンダクタンス(光合成速度を Ci で除した値)は,
信州試験地が筑波,福岡試験地より低い傾向を示した。以上の結果
から,筑波試験地と信州試験地の個体サイズと重量が福岡試験地よ
り小さい原因として,それぞれ気孔コンダクタンスと葉肉コンダク
タンスが低いことが挙げられた。筑波試験地の気孔コンダクタンス
が低い原因としては,土壌乾燥による気孔閉鎖が挙げられる。3試
験地とも土壌水分は適潤状態に保たれるよう夕方に適宜灌水を行っ
たが,風通しの良い立地条件に設置した筑波試験地では,夏の高温
時に鉢がしばしば日中乾燥に晒されていた。信州試験地の葉肉コン
ダクタンスが低い原因は,詳しいメカニズムについては不明である
が,生育温度環境の最も低い信州試験地では,二酸化炭素固定反応
系の酵素活性が他の試験地より低い可能性がある。このことについ
ては今後,さらなる検討を行う必要がある。
263
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-085
P2-086
維管束植物の個体呼吸は自己組織化で・・? ー実生
自然群落個体における台風による力学的失敗の解析~従
から巨木の地上 / 下呼吸ー
来の力学指標は実際の倒伏を説明するか?~
* 森茂太(森林研),et al.
* 長嶋寿江,彦坂幸毅(東北大・院・生命)
呼吸は物質とエネルギーの変換であり、生命維持、成長、適応の
プロセスでもある。この呼吸を適応進化の単位である個体で実測す
る意義は深い。しかし、従来の植物個体呼吸は推定が大半であり、
根を含む個体全体の実測は殆ど無い。そこで、我々は数ミリグラム
の実生から樹高33m根回り4mを超える巨木まで、約 500 個体の
植物個体全体を根とともにチャンバーに密閉する方法で個体呼吸を
正確に実測した(1)。材料としたシベリアから熱帯降雨林の維管束
植物(ヒカゲノカズラ類、シダ類、木性シダ類、裸子植物、被子植物)
の個体重量幅はほぼ 10 の 11 乗倍であった。
このサイズスケールで維管束植物の個体呼吸とサイズの関係をグ
ローバルに広く俯瞰した場合、系統間で何らかの差があるのか?も
しも、系統間差があるとすれば(2)、どのような要因によって制御
されているか? Mori et al. (2010) の結果は、植物個体呼吸の物理化
学制御を示唆すると指摘されている(3)。我々は、維管束植物個体
呼吸が自己組織化によって制御されている可能性があると考えた。
(1)Mori S, Yamaji K, Ishida A, et al. Mixed-power scaling of wholeplant respiration from seedlings to giant trees. PNAS, 107:1447-1451(2)
Mulder C, Boit A, Mori S et al. (2012) Distributional (in)congruence of
Biodiversity-Ecosystem Functioning. Advances in Ecol Res, 46:1-88(3)
Atkin O(2010)f1000.com/prime/2712970#eval2376070
多くの植物は、個体密度が高いと隣接個体に反応して茎が徒長し、
このような徒長は光の競争に有利であることが示されている。一方、
隣接個体がいない場合は徒長しないことから、高くなることには何
らかのリスクがあることが示唆されている。その主要なものとして
個体の力学的安定性の低下がある。現在までに様々な力学的指標が
提示され、徒長するとそれら指標で評価した力学的安定性が低下す
ることが示されてきた。しかしながら、このような指標が実際の力
学的失敗を説明するかどうかは、まだ分かっていない。1998 年、台
風5号と7号が宮城県川崎町釜房湖に到来し、湖畔のオオオナモミ
群落において多数の力学的失敗個体が生じた。それぞれの台風到来
後調査を行い、力学的失敗と力学的指標との関係を調べた。
個体を、倒伏個体(群落内にいる状態で茎が垂直線から 90 度以上
曲がっている個体)、折れ個体、無事個体に分け、力学的指標による
ロジスティック回帰を行った。力学的指標は、倒伏安全率(= 茎を
90 度曲げる負荷/実際の葉・果実による負荷)、座屈(茎が自重や葉・
実の重さを支えられず曲がる)安全率、風が当たったときの茎の曲
率半径、風によって茎が曲がり折れることに対する安全率、を用いた。
倒伏 vs. 無事では、すべての指標が有意に力学的失敗を説明した。特
に倒伏安全率は 57% も説明した。一方、折れ vs. 無事では、どの力
学的指標も力学的失敗を説明しなかった。折れのほとんどがネナシ
カズラの根の挿入痕で生じていたことから、折れは偶発的な外部要
因が原因で生じたことが示唆された。これらの結果から、従来の力
学的指標は実際の力学的失敗を有効に説明することが示された。
P2-087
P2-088
広葉樹の通水機能の回復性に木部のキャパシタンスは関
ミズナラの幹の炭素・酸素安定同位体比と肥大成長の長
係するのか?
期変化
* 三木直子(岡大院・環境生命),小笠真由美(東大院・新領域),津田智
和(岡大・農),楊霊麗(岡大院・環境生命),福田健二(東大院・新領域)
鍋嶋 絵里(東京農工大・農)*,久保 拓弥(北大・地球環境),香川 聡(森
林総研),日浦 勉(北大・苫小牧研究林),船田 良(東京農工大・農)
これまで、水分条件の変動下での通水機能を維持する仕組みとし
て、キャビテーション ( 負圧の増大による道管の空洞化 ) に対する
木部の抵抗性の高さや、失水調節や貯水に基づく負圧の緩和による
キャビテーション発生の回避が報告されてきた (e.g. Sparks and Black
1999)。しかし実際には、様々な種においてキャビテーションが回避
しきれずに発生しており (e.g. Miranda et al. 2010)、これらの既存の研
究で指摘されてきた特性だけでは通水機能の維持メカニズムを完全
には説明しきれていない。
我々は近年、木部の抵抗性の低い樹種は木部の回復性の高さに
よって通水機能の損失のリスクを補償する新たな可能性を提示した
(Ogasa, Miki et al. 投稿修正中 )。また同時に、キャビテーション抵抗
性および木部の回復性は、材密度 ( 材の単位体積あたりの乾燥重量 )
による制約下においてキャビテーション抵抗性と木部の回復性にト
レードオフがある可能性も提示した。
材密度が高い種ほどキャビテーション抵抗性が高い傾向について
は、木部の力学的強度の向上の点からこれまで数多く報告されてい
る (Hacke et al. 2001, Jacobsen et al. 2007)。しかし、材密度と回復性の
関係性についてはほとんど明らかにされていない。通水機能の短期
的な回復は空洞化した道管が再び水で満たされること ( 再充填 ) に
より起こることから、材密度が小さい種ほど道管を満たす水が豊富、
すなわち貯水性の指標となるキャパシタンスが大きい可能性がある。
この点について温帯性広葉樹数種を用いて解析した結果を報告する。
年輪を解析することにより、樹木の気象応答を長期にわたり明ら
かにできる。年輪からは肥大成長だけでなく、道管の数や面積など
の解剖学的特性や、炭素・酸素安定同位体比による光合成水利用効
率などの生理特性の変化の推定も行える。これまでにミズナラの成
木を用いて肥大成長と解剖学的特性を解析した結果、年輪内の孔圏
道管の数や面積および孔圏幅が最近の 35 年間で増加傾向にあること
が示された。調査を行った苫小牧研究林では温暖化などの気候変化
が認められているものの、上記の解剖学的変化の要因やメカニズム
については明らかではない。そこで本研究では、解剖学的特性の長
期的な変化のメカニズムの一つとして、炭素・酸素安定同位体比を
用いて光合成に関連する生理特性の変化を復元することを目的とし
た。
2004 年に採取し、1970 年から 2004 年までの 35 年間について年輪
幅および孔圏道管の計測を行ったミズナラ成木のうち 5 個体につい
て、同 35 年間の炭素・酸素安定同位体の分析を行った。各個体の年
輪試料は薄片にして板状のままセルロースを抽出し、各年層を実体
顕微鏡下で孔圏と孔圏外に切り分けて分析試料とした。これらの試
料を用いて分析を行い、孔圏と孔圏外それぞれの炭素・酸素安定同
位体比の 35 年分の変動を明らかにした。得られた結果から、各安定
同位体比の長期変動傾向および炭素・酸素安定同位体比の変動パタ
ーンの違い、また各安定同位体比と孔圏幅や年輪幅との関係などに
ついて解析を行い、孔圏部の長期変化に対して光合成などの生理特
性の変化が関わっているかどうかを考察する。
264
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-089
P2-090
アカマツに吸収された二酸化炭素はいつ、どれだけ呼吸
異なる土壌水分条件下でのカバノキ属 2 種の個体生長と
として放出されるのか?
水分生理特性
* 高梨聡(森林総研気象),檀浦正子(京都大),小南裕志(森林総研関西),
中野隆志(山梨環科研),安間光(京都大),中井裕一郎(森林総研気象)
* 田畑あずさ,小野清美,隅田明洋,原登志彦(北大・低温研)
ダケカンバ(Betula ermanii )とシラカンバ(Betula platyphylla )は,
温帯から亜寒帯地方に生育するカバノキ属の落葉広葉樹である。こ
の二種は葉の形や幹の色などが似通っているが,生育地は光合成適
温域の違いによって寒冷地を好むダケカンバと,温暖な地を好むシ
ラカンバに分けられる。ダケカンバが生育する寒冷地の気候特色に
は「低温」の他に「乾燥」があり,ダケカンバは前年に乾燥処理を
受けることによって,翌年に展開する葉の光合成速度が低下せず,
細長い根を生長させることが明らかになっている。同様にシラカン
バでも,乾燥条件下において根系を発達させていることが知られて
いるが,2 種ともに水分条件変化に対する個体全体への影響は十分
に調査されていない。そこで本研究では,異なる土壌水分条件で生
育したダケカンバとシラカンバの苗木を用いて,光合成機能や水分
生理,個体の生長応答を調査し,二種の生育地を分ける要因として
乾燥の影響があるのかを検討した。
個葉の応答では,乾燥処理個体の最大光合成速度,蒸散速度,気
孔コンダクタンスは 2 種ともに低下し,葉の水ポテンシャルの値は
シラカンバの乾燥処理個体で低下する傾向を示した。個体全体の応
答では,2 種ともに乾燥処理個体の生存率が低下し,基部直径や当
年枝の長さはシラカンバの乾燥処理個体で低下を示した。以上の結
果から,異なる土壌水分条件は 2 種の光合成機能に影響を与える一
方,葉の水分保持や個体生長にはシラカンバのみに影響を与えるこ
とが明らかになった。発表ではこれらの光合成機能応答や形態的変
化の他に,光合成機能低下による光阻害を防ぐための過剰光エネル
ギー防御機能反応や葉寿命の調査結果を加えて,土壌水分条件変化
に対する応答の違いから,カバノキ属二種の生育地を分ける要因に
ついて議論を行う予定である。
植物の葉において光合成によって固定された炭素が呼吸として消
費される他、葉や幹枝や根などに分配される量を把握するには、炭
素安定同位体を用いたラベリング手法が効果的である。従来、葉に
13
CO2 を与えた後、各コンパートメントに分配された有機物から炭素
安定同位体比を測定していたが、近年、赤外光の代わりにレーザー
を用いたガス分析計により、呼吸によって消費される量について連
続的に測定できるようになってきている。本研究では、光合成によ
って固定された炭素が、どのくらい呼吸として消費されていくのか
を明らかにするため、2012 年 9 月に山梨県富士吉田試験地にてアカ
マツ成木 ( 樹高約 20.5m) を対象にラベリング実験を行い、滞留時間
などの評価を行った。アクリル製の閉鎖循環型のチャンバーを幹 4
箇所 ( 高さ C1:15.5m、C2:11.1m、C3:7.3m、C4:3.8m)、根 2 箇所 ( 幹
からの距離 C5:0.9m、C6:3.1m) に設置した。13CO2 の測定には波長ス
キャンキャビティリングダウン方式二酸化炭素安定同位体アナライ
ザー (Picarro Inc., CA USA, G2101-i) を用いて行った。ラベリングの後、
各チャンバーを 10 分サイクルで測定し、キーリングプロットを利用
して、放出される CO2 の炭素安定同位体比を連続観測した。高い同
位体比の 13CO2 の放出は、まず、C1 にて 2 日後の朝から見られ始め、
3 日後には C2、4 日後には C3、5 日後には C4 というように上の方
から順番に見られた。しかしながら、設置状況が良くなかったためか、
根チャンバー(C5、C6)からは検出できなかった。C1 での 13CO2 の
ピークは 5 日後に見られた。
P2-091
P2-092
高 CO2 環境で生育したカバノキ属 3 種の葉群光合成
ヒメツリガネゴケの過重力下における光合成能力と形態
変化
* 渡辺誠,原悠子,伊藤寛剛(北大院・農),高木健太郎,佐藤冬樹(北大・
FSC),小池孝良(北大院・農)
* 竹村香里(京工繊大),蒲池浩之(富大・院・理),久米篤(九大・院・農),
藤田知道(北大・院・理),唐原一郎(富大・院・理),半場祐子(京工繊大・院)
産業革命以降、大気 CO2 濃度の増加が続いており、森林の高 CO2
環境への応答が注目されている。ダケカンバ・ウダイカンバ・シラ
カンバは日本の冷温帯林を代表するカバノキ属であり、陽樹という
類似した特性を持つ。高 CO2 によるこれら成長の速い先駆種の動態
変化は、森林生態系に与える影響が大きい。本研究では、これら 3
種に対して野外条件に近い環境で CO2 付加を行い、葉群の CO2 収支
を比較検討した。
実験は北海道大学北方生物圏フィールド科学センター札幌研究林
に設置された開放系大気 CO2 増加装置を用いて行った。土壌は褐色
森林土で,対照区 (CO2 無付加、370-380 ppm) と高 CO2 区 (500 ppm、
2040 年頃を想定 ) の 2 段階の CO2 処理区を設定した。カバノキ属 3
種の 2 年生苗を 2010 年 6 月から栽培し、3 成長期目にあたる 2012
年に本調査を行った。2012 年 5 月と 11 月に地際直径 (D) と樹高 (H)
を測定した。6 月から 10 月の期間に、3 週間に 1 回の頻度で、各樹
種の樹冠の葉面積指数 (LAI)、光強度、葉の窒素含量を高さ 50 cm 毎
に測定した。2012 年 7 月下旬に各樹種の樹冠の様々な位置で光 - 光
合成関係と窒素含量を調査し、窒素含量を指標とした光 - 光合成関
係のモデリングを行った。得られた光合成モデルと、葉群の高さ別
LAI、光強度、窒素含量を用いて、葉群全体の光合成と呼吸による
CO2 収支を計算した。
2012 年における個体の成長量 (D2H) は、ダケカンバとシラカンバ
では高 CO2 区で有意に増加したが、ウダイカンバでは増加しなかっ
た。また、葉群の CO2 収支に関しても個体成長と同様の傾向が認め
られ、ダケカンバとシラカンバの CO2 吸収 ( 光合成 - 呼吸 ) は高 CO2
環境で増加する傾向を示した。本研究発表では、葉群光合成量の詳
細も報告する。
265
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-093
P2-094
樹木水平枝の軸に沿った力学状態の変遷
低酸素環境下の湿性植物における根呼吸応答と消費酸素
* 南野亮子,舘野正樹(東大院理・日光植物園)
の分配特性
枝は周囲の環境による力学的なストレスに耐えうるものでなけ
ればならない。枝の形態形成における力学的制約の原理に関する仮
説に、弾性相似仮説というものがある。これは荷重による枝の先
端の変位が枝長さに比例する、すなわち変形前の形が同じ枝はサ
イズによらず枝全体での変形後の形が同じになるということであ
る (McMahon and Kronauer 1976)。一方で、枝はどの部分でも荷重に
より生じる応力が一様になるような形態をとるという一様応力仮説
(Metzger 1893) も存在する。著者の過去の研究においても、応力があ
る程度一様になることを示唆する結果が得られている。
本研究では、日光植物園内のブナ・ウラジロモミの水平枝に関し
て、付け根から先端にかけて複数の位置において自重を解放した時
の表面の軸方向の伸びあるいは縮みをひずみゲージを用いて測定し
た。この測定データから自重解放時の枝のそれぞれのセクションに
おける曲率変化を計算し、全体の形の変化に関して枝同士での比較
を行った。曲率変化はどの枝でも付け根で若干大きく、若干付け根
から遠い位置でやや小さく、それより先端に近いところでは先端に
近づくにつれ大きくなっていた。
また、一様応力に関しては、枝に内在する応力も考慮する必要が
ある。枝内部にはあて材と呼ばれる特殊な材が存在し、内部に不均
等な応力を生じさせているといわれている。本研究では、上記の測
定データと過去に得られた枝のヤング率・強度のデータから重力解
放により枝表面に生じた応力を計算し、これを枝の自重により生じ
るモーメントの実測から計算された応力と比較した。これらの応力
のうち、前者はあて材の存在を反映するが、後者は反映しない。計
算の結果では、前者のみが枝の付け根 ( φ> 5㎝ ) において他の部分
よりも極端に大きな値をとっており、この部分におけるあて材の存
在が枝表面の応力に大きな効果を持つことが示唆された。
* 中村隆俊,中村元香(東農大・生物産業)
P2-095
P2-096
8 年間の温暖化実験による湿原植物の群集構造変化
植物標本を用いた過去の土壌環境の推定:ヤブマメとオ
* 神山千穂(統数研・リスク解析戦略研究セ),及川真平(東農大・国際
食料情報),上田実希,彦坂幸毅(東北大・生命科学)
ミナエシを用いて
湿生植物は低酸素土壌に生育するため、根の呼吸で維持される様々
な活性は利用可能な酸素量によって常に律速される。従って、根の
呼吸(酸素消費)特性は、湿生植物にとって低酸素環境への適応戦
略を左右する重要な要素となる。
根の呼吸(酸素消費)で得られるエネルギーは、根の成長・窒素吸収・
根の代謝維持のために分配される。一般に陸生植物では、相対成長
速度(RGR)の高い種ほど、窒素吸収と代謝維持のために投資され
る酸素の配分比率が低く、根成長のための配分比率は高くなること
が知られている。この傾向は、高 RGR 種ほど、根を発達させ地下資
源の獲得・探索能力を高めるためのエネルギー投資戦略へシフトす
ることを示唆している。
しかし、湿生植物における酸素分配特性は、陸生植物にみられる
こうした傾向とは大きく異なる可能性がある。なぜなら、湿生植物
では根で利用可能な酸素量が限られているため、根の発達による酸
素消費量の増加は容易に許容されないためである。従って、低酸素
環境下で高 RGR を発揮するには、酸素消費量を増加させずにより多
くの窒素を獲得する必要がある。すなわち、根成長への酸素配分比
率を下げ、窒素吸収への配分比率を上げなければならない。本研究
では、RGR が大きく異なる3種の湿生スゲ属植物を用いて水耕栽培
を行い、根の成長・窒素吸収・代謝維持に投資される酸素の配分比
率を算出した。
窒素吸収への酸素配分比率は、高 RGR 種ほど高くなり、代謝維持
への配分比率は低 RGR 種ほど高くなった。一方で、根成長への配分
比率は 3 種とも約 10%を示し、陸生植物(25 ∼ 45%)と比べて著
しく低いことが明らかとなった。従って、湿生植物では根の発達が
強く抑制・制御されており、高 RGR 種ほど窒素吸収へのエネルギー
投資を増やす戦略へとシフトすることが示唆された。
* 森田沙綾香(農環研),石田麻里(秋吉台科学博物館),太田陽子(緑と
水の連絡会議),小柳知代(早稲田大),楠本良延・平舘俊太郎(農環研)
地球の平均気温は今世紀中に 1.4 から 5.8℃上昇すると予測され
ており、植物群集が温暖化にどのように応答するかを予測すること
が重要な課題となっている。本研究では、温暖化に対して脆弱な生
態系の一つとされる湿原を対象に、8 年間の温暖化実験を行った。
2004 年 6 月から、青森県八甲田山系に位置する酸ヶ湯湿原において、
3 箇所に 2 基ずつ、合計 6 基の OTC(Open Top Chamber) を設 置し、
植物の生育期間中の気温を約 2℃上昇させた。2011 年に、温度環境
の変化が群集構成種(7 種)の形態、葉のフェノロジー、光合成に
与える影響について破壊程度を最小限にして調べ、2012 年には、生
産性に与える影響を調べるために地上部現存量が最大になる 8 月に
刈り取りを行った。
群集高は、3 箇所すべてで生育期間を通して、コントロール区に
比べて OTC 区で高かった。各種の生長の指標となる葉の高さと葉の
サイズは、禾本型草本 3 種では OTC 区で高く、広葉型草本 2 種や木
本 2 種では違いがなかった。常緑性の葉を持つ 4 種中 3 種で、当年
葉の展葉開始時期が OTC 区で早まっていたが、禾本型草本にはその
ようなフェノロジーの違いは見られなかった。一方で、光合成にお
いては、3 種の禾本型草本のうち 2 種において、OTC 区で光合成速
度が高く、それらは、窒素あたりの光合成速度(PNUE)、葉重葉面
積比(LMA)、窒素含量の変化による影響を受けていた。このこと
から、温暖化に伴う禾本型草本の成長の増加は、フェノロジー変化
によるものではなく、光合成速度の増加による影響を受けているこ
とが示唆された。本発表では、地上部バイオマスや葉面積指数(LAI)、
各種の地上部バイオマスといった量的な変化に関する結果を合わせ、
比較的長期間にわたる温度操作が、湿原植物の群集構造に与える影
響について考察する。
かつての草原を再生するためには、過去の植生とその植生が成
立していた土壌環境を知ることが重要である。植生は、過去の植生
図などから当時を知ることができるが、土壌については当時の土壌
試料がないと判断が難しい。本研究では、植物が土壌環境に応じて
特定の無機栄養元素を土壌から吸収する現象に着目し、過去に採集
された植物標本試料から過去の土壌環境を推定する手法を開発する
ことを目的とする。全国の草原から採取した約 5000 点の植物およ
び土壌試料セットについて解析した結果、ヤブマメとオミナエシで
は、植物葉中リン含量と土壌中有効態リン酸含有量との間に、それ
ぞれ植物葉中リン含量 (%) = 0.0405 ln( 土壌中有効態 P) + 0.0624 (R2
= 0.6129) および植物葉中リン含量 (%) = 0.0589 ln( 土壌中有効態 P) +
0.0242 (R2 = 0.6627) の有意な正の相関関係が認められた。このこと
から、これらの植物のアーカイブ試料が入手できれば、それぞれの
植物が生育していた当時の土壌中有効態リン酸含量が推定できるも
のと考えられた。次に、山口県美祢市の秋吉台科学博物館からヤブ
マメ(採取地:山口県美東町碇荒地、1986 年採取)およびオミナエ
シ(採取地:秋吉台若竹山東、1988 年採取)のアーカイブ試料を恵
与いただき、植物葉中リン含量を測定した。その結果、ヤブマメで
は植物葉中リン含量は 0.262%と高かったことからリンに関して非常
に富栄養な環境で生育したことが、オミナエシでは植物葉中リン含
量は 0.045%と低かったことからリンに関して非常に貧栄養的な環境
で生育したことが推定された。これらの推定は、当時の土壌環境に
関する聞き取りの調査の結果からも妥当であると考えられた。
266
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-097
P2-098
アメリカ西部モハベ砂漠に生育する植物の浸透調整物質
暖温帯広葉樹林に共存する 27 樹種の展葉タイミングと
と季節変動
その種間差に影響する要因
岩永史子(九大演習林),今田省吾,Kumud Acharya(DRI),山中典和(鳥
大乾燥地研)
* 長田典之,徳地直子(京都大・フィールド研)
春における植物の展葉時期は、植物個体の生産性に大きく影響す
る。このため、展葉時期の種間差は、生産性の種間差に直結する要
因であると考えられる。展葉時期の種間差について数多くの情報が
蓄積されつつあるが,その多くは個別研究にとどまっている。近年
では数多くの植物の機能形質の種間差を整理する研究が盛んに行わ
れている。展葉時期をこのような機能形質に関連づけることが出来
れば、実際に展葉時期を調査していない種についても形質データに
基づいて展葉時期を予測できるようになる可能性がある。しかし、
常緑樹と落葉樹をまとめた多数の種を通して、形質と展葉時期の
間に一般的なパターンが存在するのかは不明である。本研究では、
2010-2012 年の 3 年間にわたり京都大学上賀茂試験地に共存する落葉
樹 15 種と常緑樹 12 樹種の展葉時期を調べ、各樹種の葉や枝の形質(光
合成能力、窒素含量、葉重/葉面積比、道管径)、分布域との関連を
解析した。
この結果、種によって展葉時期には大きな差がみられた。芽吹き
の時期は 3 月中旬の種から 5 月中旬の種まで存在しており、平均す
ると落葉樹では 4 月上旬だったのに対して常緑樹では 4 月下旬だっ
た。葉サイズが成熟した時期は、落葉樹では 4 月下旬だったのに対
して、常緑樹では 5 月下旬だった。落葉樹と常緑樹をまとめると、
葉重/葉面積比と面積あたり窒素含量が小さく、重量あたり光合成
能力が大きい葉をもつ種ほど展葉時期が早い傾向が見られた。これ
は落葉樹と常緑樹で展葉時期が異なることに起因していた。落葉樹
と常緑樹を別々に解析すると、落葉樹では道管径が大きい種ほど展
葉時期が遅くなる傾向が見られたものの、常緑樹では展葉時期と調
べた形質の関係はすべて有意ではなかった。以上の結果を元に、展
葉時期の種間差について論じる。
アメリカ西部に位置するモハベ砂漠において、砂漠地帯を貫流す
るコロラド川の河畔で、かつて導入された中国原産の塩生植物・タ
マリスクが広域な単一群落を形成している。外来種のなかには在来
種と比較して旺盛な水消費を示す事がある。モハベ砂漠においても
同様に、急激な植生変化に伴う水資源への懸念や、表層土壌におけ
る塩濃度の変化、動物相への影響などがタマリスクの分布拡大に関
わる事象として高い関心を得ている。本研究ではタマリスクと在来
種 3 種との環境ストレス適応を比較解明することを目的とし、特に
土壌環境と葉内の適合溶質蓄積能について解析を行った。実験材料
はアメリカ合衆国ネバダ州のコロラド川上流域にあたるバージン川
河畔にて、2011 年 5 月から 12 月に葉および土壌の採取を行った。
植物の生葉を採取、純水で 2 分間洗浄、80 度で 48 時間乾燥した後、
粉砕し、葉内陽イオン濃度とベタイン濃度の測定を行った。土壌は
表層 5-15cm の深さで、各サンプル採取個体の根元から採取した。持
ち帰った土壌を・2mm のふるいを通した後、生重と乾重を測定し、
相対含水率を得た。乾燥土壌から 1:5 法にて抽出試料を得、原子吸
光法にて陽イオン濃度の測定を行った。その結果、最も気温の高く
なる夏季(7―8 月)において、土壌相対含水量(g/g)の低下が認め
られた。在来種 3 種の葉内 Na+ 濃度と土壌 Na+ 濃度とに明らかな相
関は認められなかったが、タマリスクの落葉期に土壌 Na+ 濃度の上
昇が認められた。夏季におけるベタイン類の葉内蓄積はタマリスク
で認められず、在来種のアカザ科 3 種において顕著な蓄積が認めら
れた。
P2-099
P2-100
亜熱帯林から亜寒帯林における現存量推定のための相対
スギ・カラマツ若齢造林地でのコンテナ苗個体,普通苗
成長式
個体,天然更新広葉樹の樹形比較
* 石原正恵(北大),宇都木玄(森林総研),田内裕之,永野正弘,安藤信
(京大),宮田理恵(甲南女子高),黒川紘子(東北大),饗庭正寛(東北大),
小野田雄介(京大),日浦勉(北大)
八木貴信,齋藤武史,八木橋勉(森林総研・東北),松尾亨(岩手北部森
林管理署)
造林地造成とは生態学的には大規模攪乱による大ギャップの形成
である。そのため若齢造林地では,大ギャップと同様,植物間に極
めて強い負の相互作用(競争)が働いている。若齢造林地では,種
子由来の新規加入個体や,根株からの萌芽幹などが多数発生し,良
好な光環境を利用して旺盛に成長する。一般に造林地で下刈りなど
の保育作業が必要とされる理由は,これらの天然更新個体からの強
い競争圧で植栽木の成長が妨げられることにある。若齢造林地に出
現する様々な樹種の樹形変異を検討すれば,大ギャップ形成後,そ
こに出現する様々な植物種が,強い競争圧の下で示す成長・物質生
産戦略の多様性を明らかにできる。この多様性は,大ギャップ形成
からの遷移進行,森林動態を規定する重要な要素である。
本研究は,低コスト造林技術の開発のために岩手県北部の若齢造
林地に設けられた下刈り省略試験区で,常緑植栽樹種のスギ,落葉
植栽樹種のカラマツ,天然更新広葉樹4種(試験地で比較的多数見
られた高木樹種のミズナラ,クリ,オオヤマザクラ,ホオノキ)の
樹形を比較し,樹形モデル(Halle et al. 1978 の意味での)や葉寿命
が異なる樹種が同一の競争環境で示す成長戦略の共通点と相違点を
明らかにする。光を巡る競争での優劣は個体の樹高に大きく規定さ
れるので,樹高に対する幹基部直径,樹冠厚,樹冠幅,当年主軸伸
長量の関係を Standardised Major Axis 回帰によって解析する。回帰パ
ラメータを比較し,個体サイズに応じた樹形変異のパターンを,各
樹種の樹形モデルや葉寿命と関連づける。さらに植栽における適地
適木の樹形的側面など,得られた結果の施業省力化への応用につい
ても考察する。
森林は大量の炭素を蓄積しており、炭素循環に大きな影響を与え
ている。森林の炭素蓄積量の推定方法の一つは、調査区内の樹木の
サイズを測り、回帰式(相対成長式)を用いて樹木個体のサイズか
ら現存量を推定し、それを積算して林分全体の現存量を求める方法
である。多数の相対成長式が日本各地で個別に開発されてきたが、
これらの式を別の場所に適用する場合には、現存量推定に大きな誤
差をもたらす。本研究の目的は、既存のデータを統一的に解析する
ことで、日本各地の天然生林に適用可能な汎用性の高い相対成長式
を開発することである。現存量推定には、(1)樹木の直径とともに
樹高を相対成長式に入れるべきか、(2)各樹種の材密度を相対成長
式に入れるべきか、それとも機能群(落葉樹・常緑樹、広葉樹・針
葉樹)別の相対成長式で十分か、を検討した。
日本国内の天然生林で行われた現存量調査で、個体ごとのデータ
が載っている文献を集めた。その結果、1957 ∼ 2012 年に出版され
た 35 文献に、3 つの未発表データを加え、1355 個体(114 種)のデ
ータが集まった。解析には木本性ツルを除き、樹高、各器官の重量、
材密度のデータが揃っており、胸高直径 = 1 ∼ 75 cm の 1116 個体(91
種)のデータを用いた。
複数のモデルを比較した結果、幹現存量の推定には直径と共に樹
高も入れた相対成長式が最も精度が良かったが、地上部現存量の推
定には直径のみの相対成長式もほぼ同程度に精度がよかった。また、
幹現存量および地上部現存量共に、材密度を入れた相対成長式が最
も精度が高く、次いで機能群別の相対成長式、種間共通式の順であ
った。本研究の相対成長式を用いることで、日本各地の天然生林の
炭素蓄積量の推定精度が向上すると期待される。
267
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-101
P2-102
シオジ天然林における23年間の開花周期
養分制限を解除したウダイカンバの資源貯蔵状況 - マス
崎尾均(新潟大・農)
ティング前後の比較
樹木の開花・結実には豊凶の周期のあることが知られている。雌
雄異株樹木に関しても豊凶の周期があり、雌雄で開花が同調するこ
とが指摘されている。しかし、長期的かつ量的な研究データはそれ
ほど多くない。本研究では、冷温帯の渓畔林の落葉高木であるシオ
ジ(Fraxinus platypoda )を対象として 23 年間にわたり開花量を測
定した。埼玉県秩父山地のシオジ林に 0.54 ha のプロットを設置し、
1991 年から 2012 年までシオジの雌雄個体の開花量を調査した。開
花量は全く開花なしのレベル 1 から大量開花のレベル 5 の 5 段階に
分けて、双眼鏡により把握した。シオジは雌・雄・未成熟がそれぞ
れ 29・22・11 個体で調査期間内に性転換は見られなかった。23 年
の調査期間の間に、それぞれ 3・1・6 個体が枯死した。また、調査
開始前と調査終了時に胸高直径を測定した。胸高直径は雌雄個体で
は差がなく、雌雄と未成熟の間に有意な差が見られた。
シオジの開花には明らかな年変動が見られた。調査全期間の開花
レベルの変動係数から雌個体の方が開花の変動が大きいことが示さ
れた。また、雌雄個体ともに年変動に明らかな個体差が見られた。
1990 年から 2001 年までは雌雄の開花が同調する傾向にあり、3 か
ら 4 年に一度ほとんど開花を行わない年が訪れた。これらの翌年は、
雌雄個体ともに大量に開花した。しかし、2002 年以降は年変動のパ
ターンが変化し、雄個体は毎年大量開花を、雌個体は隔年に大量開
花を示すようになった。また、雌個体も年々開花量が増加する傾向
を示した。2002 年以降の開花の変動パターンの大きな変化は長期的
な気候変動が影響している可能性も考えられる。
* 伊藤江利子(森林総研・北海道),長谷川成明(北大・低温研)
,宮崎祐
子(岡山大・院・環境),倉本恵生(森林総研・北海道)
豊凶現象を示す樹種において、養分飽和が樹体内の資源貯蔵に与
える影響を明らかにするため、植栽 4 年後より連年施肥下(110 Kg
N ha-1、24 kg P ha-1、46 kg K ha-1)で育成した 37 年生ウダイカンバ(養
分飽和個体)に貯留された資源量の経年変化を測定した。養分飽和
個体と無施肥で育成した養分制限個体(対照個体、37 年生)の各 10
個体から、2011 年(大豊作年)と 2012 年(凶作年)の展葉開始前
に当年枝・1 年枝・幹木部(辺材)
・幹内樹皮(師部)
・根木部(辺材)
・
根内樹皮(コルク形成層)・雄花・葉芽・雌花芽・種子を採取し、非
構造性炭水化物(NSC)濃度(可溶性糖類・デンプン)をフェノー
ル硫酸法および酵素を用いた加水分解法により、また全炭素窒素濃
度を乾式燃焼法により測定した。
可溶性糖類と全窒素(N)の含有濃度は雄花や葉芽等の梢端部位
で高く、枝や内樹皮で中程度、幹や根の木部で低かった。デンプン
濃度はいずれの部位でも非常に低く、NSC の大半は可溶性糖類とし
て存在していた。養分飽和個体は養分制限個体と比較して N 濃度が
高く、NSC 濃度が低い傾向が認められた。2011 年と 2012 年の差異
は養分制限個体の根木部で顕著に認められた。NSC 濃度と N 濃度の
双方が 2011 年で高かった。両濃度は 2012 年に低下し、養分飽和個
体との有意差が認められなくなった。養分制限個体の根木部はデン
プン濃度が高い部位であるが 2012 年は 2011 年に比較して有意に低
下したが、養分飽和個体よりは高かった。養分制限個体では根木部
を資源貯蔵器官として利用し、豊作年の繁殖投資に貯蔵資源を用い
ることが示唆される一方で、養分飽和個体には資源貯蔵の存在を示
唆する結果が認められなかった。
P2-103
P2-104
海産緑藻エゾヒトエグサの繁殖戦略と配偶子生産
カラマツの結実同調の至近要因
* 富樫辰也(千葉大・海),堀之内祐介,宮下紘樹,青山峻(千葉大・理)
今博計(道立林試)
海産緑藻エゾヒトエグサ (Monostroma angicava ) の繁殖戦略につい
て、特に配偶子の生産に着目した研究を行った。雌雄の配偶子のサ
イズの平均値には大きくはないものの有意な差があるため、これま
で本種の配偶システムは単にわずかな異型配偶とされてきた。本研
究では、配偶子形成過程を詳細に定量化することによって、本種の
繁殖戦略と配偶システムを再考する。エゾヒトエグサは、雌雄異体
で多細胞の配偶体 (N 世代 ) と単細胞で微視的な胞子体 (2N 世代 ) か
ら成る異型世代交代を行う。雌雄の配偶体から得た成熟した配偶子
嚢の一部を、固定したのちサイズを計測し、蛍光色素 (DAPI) で配偶
子の核を染色して配偶子嚢の内部に形成された配偶子の数を調べた。
残った配偶子嚢からは配偶子を放出させた。配偶子の一部は固定し
たのちサイズを計測した。残った配偶子は、PES 培地中 14℃長日
条件下で培養した。配偶子嚢のサイズは、雌のほうが雄よりも有意
に大きかった。1 個の配偶子嚢の内部に形成されていた配偶子の数
は、雌では 32(=25) 個もしくは 64(=26) 個、雄では 64(=26) もしくは
128(=27) 個であった。それぞれの割合は、雌においては、32 個 :64
個≃ 1:9、雄においては、64 個 :128 個≃ 1:9 であった (n=1000)。こ
れらの結果から、1)雌雄の配偶子はともに同調的な細胞分裂を経
て形成され、2)その分裂回数は雌雄で異なり、3)雌雄ともにば
らつきがあることがわかった。これらのデータを基にして予測した
配偶子サイズの分布は、実際の計測結果をとてもよく説明した。エ
ゾヒトエグサは、これらの配偶子を雌雄で組み合わせることによっ
て幅広いサイズの接合子を作り出している。その一部には、雌雄で
大きさのほとんど異ならない配偶子どうしが接合したものも含まれ
ていると考えられる。
カラマツの結実は花芽分化期 (6 月下旬∼ 7 月上旬 ) の気象 ( 気温、
日射、降水量 ) が影響するといわれ、気温が高く、日照時間が長く、
降水量が少ないと、翌年、豊作になると報告されている ( 柳原 1958、
1959、1960、岡田ら 1997)。しかし、これまでの解析では、定量的な
解析はほとんど行われておらず、影響を及ぼす気象因子やその時期
については不明な点が多い。そのため人為的な着花調節技術の開発
にあたっても、対象とすべき環境条件が定まっておらず、操作実験
の妨げとなっている。
ここでは岡田ら (1997) が解析した長野県における 1923 ∼ 1956
年のカラマツ種子採種量データの再解析により、近年 Kelly et al.
(2012)、Smaill et al. (2011) らが指摘している開花 2 年前の気象が、カ
ラマツにおいても密接に関わっている可能性が示されたので報告す
る。
気象要因の解析の前に、種子生産量に及ぼす内生的要因の影響を
調べるため、スペクトル分析による周期性の解析を行った。その結果、
3 年の周期性が認められた。これは 2 ∼ 3 年生の短枝に花を着ける
カラマツ属特有のシュート構造(今・来田 2012)が関係している可
能性を示唆していた。
2 年前と 1 年前の夏季 (6 ∼ 9 月 ) の降水量、EPR( 蒸発散能/降水量 )、
最高気温、日照時間と種子採種量との相関関係を調べた。その結果、
2 年前の 6 ∼ 7 月の降水量、2 年前の 6 ∼ 7 月の EPR、1 年前の 7 月
の最高気温、2 年前の 6 ∼ 8 月の日照時間、1 年前の 7 月の日照時間
と強い相関関係が認められた。2 年前の 6 ∼ 7 月が多雨で、1 年前の
6 ∼ 7 月が高温小雨の条件が重なった場合に、豊作になっていた。
以上の結果から、内生的なリズムと 2 年前および 1 年前の気象条
件が組み合わさることとで、カラマツ特有の結実同調が生じている
と考えられた。
268
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-105
P2-106
阿武隈山地のモミ天然林における花粉と種子を介した遺
ヒサカキの同個体における雌花と両性花の果実・種子生
伝子流動パターンと種子散布量の関係
産の比較
* 大谷雅人(森林総研林育セ),岩泉正和(森林総研林育セ関西)
,矢野慶
介(森林総研林育セ北海道),宮本尚子(森林総研林育セ),平岡宏一(森
林総研林育セ),那須仁弥(森林総研林育セ),高橋誠(森林総研林育セ九州)
* 王けい,戸丸信弘,中川弥智子(名大院生命農)
森林の遺伝的な健全性を評価し,林木遺伝資源の生息域内保存を
適切に行うためには,林分の主要構成樹種において,遺伝的変異が
生活史の各段階の個体にどのように保持・伝達されているかを理解
することが重要である。モミ(Abies firma )は中間温帯の森林の主
要構成樹種のひとつであるが,近年,天然林の分断・孤立化が著し
く,残存集団の保全が急務とされている。本種は結実の年次間の豊
凶差がきわめて大きいことにくわえ,種子サイズが温帯の針葉樹と
しては大きく,しばしば果鱗ごと散布されるため,遺伝子流動の様
態がアカマツなどの他の針葉樹とは異なる可能性がある。本研究で
は,胚と雌性配偶体を併用した高精度の親子解析手法により,モミ
の花粉及び種子を介した遺伝子流動における年変動を分析すること
とした。
福島県いわき市の固定試験地(約 1 ha)では,2002 ∼ 2005 年と
2010 ∼ 2012 年にシードトラップを用いたモミ種子の落下量がモニ
タリングされてきた。凶作年を除く 3 回の繁殖イベント,すなわち
2002 年( 種 子 落 下 量 の 平 均 142.8 粒 /m2),2005 年(125.2 粒 /m2),
2010 年(652.9 粒 /m2)に採取された自然散布種子から,トラップあ
たり 16 ないし 32 粒を選び,SSR12 遺伝子座の遺伝子型を決定した。
これらを試験地内のモミ立木計 327 個体の遺伝子型と照合すること
で,親子解析を行った。今後,試験地外からの移入に由来する花粉・
種子の比率や遺伝的変異,分散距離等における繁殖イベント間の差
異について解析・報告する。
ヒサカキは集団内に雌個体、雄個体および両性個体を共に有する
不完全雌雄異株である。これまでの調査より、雌性繁殖成功が雌個
体は両性個体より高いこと、両性個体と雄個体の単独花粉と混合花
粉を用いた強制他家受粉処理による雄性繁殖成功は雄個体が両性個
体より高いこと、混合受粉処理は単独受粉処理より高いことを明ら
かにした。しかし、以上の結果からは両性個体の存在意義を明らか
にできておらず、その解明は不完全雌雄異株という性表現の起源と
進化における理解を深めることに役立つ。そこで本研究では、同一
個体内に両性花と雌花の両方をつける雌性両全性同株個体に着目し、
強制他家受粉処理によるヒサカキの同個体における雌花と両性花の
果実と種子生産を両性個体と雌個体と比較した。
調査は、名古屋大学の東山キャンパスに広がる二次林の 3 集団を
用いて、2011 年 2 ∼ 12 月に実施した。ここでは、雌個体が 34.6%、
雄個体が 32.5%、雌性両全性同株個体が 23.6% を占めている。自然
状態での観察とともに、雄個体の混合花粉を用いて、雌性両全性同
株個体、両性個体および雌個体における強制他家受粉処理を実施し、
結果率、果実あたりの種子数、果実と種子の乾重を調べた。その結果、
強制他家授粉処理では、種子重以外の個体間には性差があり、同一
個体における雌花と両性花の間には差はなかったものの、雌個体よ
り低く、両性個体より高い値を示した。一方自然状態では、果実重
以外の個体間に性差が認められ、結果率と種子数が同一個体におけ
る両性花は雌花より高く、種子重はその逆であった。以上より、雌
花が混ざる雌性両全性同株個体が両性花のみの両性個体より有利で
あると考えられた。
P2-107
P2-108
極限環境に生育する植物の生育特性
オオバキスミレにおける繁殖戦略の種内変異と遺伝的分
冨田美紀,増澤武弘(静岡大・理)
化の関係性
速水将人(北大・院・環境科学)*,細川一実,木村耕,大原雅(北大・院・
環境科学)
日本の高山帯には、高山の特殊な環境に適応した多くの種類の
植物が分布している。そのうち、北極域周辺から、氷期に氷河の発
達とともに分布を広げ、氷河の後退とともに寒冷な気候環境下の高
山帯に逃げ込んだ周北極要素の植物がみられる。タテヤマキンバイ
(Sibbaldia procumbens )はバラ科タテヤマキンバイ属の多年生草本植
物である。この植物は極めて目立ちにくく、蕚片よりも小さな黄色
の花弁を持つことが特徴である。この植物は周北極要素の植物であ
り、北半球に同心円状に分布しており、日本の高山帯が分布の南限
となっている。
タテヤマキンバイは、南アルプス前岳南東カールにおいて、遅く
まで残雪があるカール底や、高茎草本が優占するが、礫の移動によ
り無植被となった場所に分布していた。
そこで本研究では、タテヤマキンバイの、各環境に対応した生育
特性を明らかにすることを目的とした。調査には、雪解け時期の違
いを利用して、生育可能期間の異なる 3 つの調査区を設置し、各調
査区で採取した種子において、その形態と発芽の特徴について調べ
た。
結果として、タテヤマキンバイの種子は発芽に光が必要であるこ
と、また、種子重量と種子の発芽率は生育可能期間の長さに関係し
ていることが明らかとなった。
スミレ属植物は、1 個体内で開花して他家受粉または自家受粉で
結実に至る「開放花」と、花弁を持たず開花することなく完全な自
家受粉で結実する「閉鎖花」という形態および機能が異なる花を形
成する。しかし、発表者らのこれまでの研究より、北海道に自生す
るオオバキスミレ集団には種内で開放花形成後に閉鎖花を形成する
集団(開放花・閉鎖花集団)と、開放花のみを形成する集団(開放
花集団)の 2 タイプが存在することが明らかになった。さらに、こ
の開放花と閉鎖花の形成様式の違いは、同所的集団内においても認
められた。繁殖特性に関しても、開放花・閉鎖花集団では、開放花
の種子生産が不十分な場合に閉鎖花がそれを補う形で種子生産を行
っている。一方、開放花集団では、開放花のみしか形成しないにも
かかわらず、花を介しての種子繁殖は十分に行われおらず、根茎を
横走させクローン成長を行っている。このように、オオバキスミレ
においては、花の形成様式とともに種内で繁殖戦略が分化している
ことが明らかになってきた。
そこで本研究では、オオバキスミレの種内にみられる繁殖戦略の
分化と遺伝的分化の関係性を明らかにするために、葉緑体 DNA の
非コード領域の配列多型に基づく分子系統樹の構築およびハプロタ
イプ・ネットワーク構造解析を行った。その結果、オオバキスミレ
種内には遺伝的に分化した 2 つの系統群が存在し、その系統群は地
理的距離に関わらず繁殖戦略の分化パターンと一致していた。さら
に、同所的に生育しながら異なる繁殖戦略を示す 2 タイプにも明瞭
な遺伝的分化が見られ、集団内でタイプ間の遺伝子流動が制限され
ていることが示唆された。このことから、オオバキスミレ種内で異
なる 2 タイプの繁殖戦略は、系統的に異なる進化的背景を持つと考
えられる。
269
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-109
P2-110
Evaluation of nitrogen source for seed production in
デュオダイコガミーと自家不和合性がクリの個体内・集
Fagus crenata with isotopically labeled fertilizer
団内の開花フェノロジーに与える影響
*Han, Q. (Hokkaido Research Center, FFPRI), Inagaki, Y. (Dept. Forest
Site Environ., FFPRI), Kabeya D. (Dept. Plant Ecology, FFPRI)
* 長谷川陽一(秋田県大・木高研),陶山佳久,清和研二(東北大院・農)
デュオダイコガミー(個体内の開花パターンが雄花→雌花→雄花)
は、まれな開花様式であり観察例も少ないことから、その繁殖生態
学的意義はよくわかっていない。そこでデュオダイコガミーで自家
不和合性であるクリの開花フェノロジーを、天然更新の二次林にお
いてツリータワーを用いて 8 個体、地上から双眼鏡を用いて 49 個体
で調査した。また、これをデュオダイコガミーで自家和合性である
Bridelia tomentosa の開花フェノロジー(Luo et al. 2007)と比較した。
クリの開花は、Bridelia tomentosa と比較して、集団内の雄花と雌
花の開花時期がより一致していた。さらに、クリにおいて 1 番目と
2 番目の雄花の開花数を足し合わせることで、雌花の開花時期との
一致がより強くなった。一方で、個体内における雄花と雌花の開花
時期もオーバーラップしていた。この様な開花様式は、自家受粉の
頻度を高めると考えられ、実際にクリにおいて自家受粉率が 90% と
高いことがこれまでの研究で明らかになっている(Hasegawa et al.
2009)。
これらのことから、クリは自家不和合性によって自殖による適応
度の低下を回避しつつ、デュオダイコガミーによって集団内の雄花
と雌花の開花時期を一致させることで、個体間の送受粉の頻度を高
める戦略をとっていると考えられた。
またクリでは、雄花と雌花の開花時期が個体内および集団内で集
中する選択がかかっていると考えられ、自家和合性のデュオダイコ
ガミーである Bridelia tomentosa や Acer (カエデ属)に見られる、性
表現の多型(雄個体や雄先熟・雌先熟の個体が混在する)は生じに
くい状況にあると考えられる。
樹木の結実豊凶(マスティング)のメカニズムについて、種子生
産の豊凶変動を植物体内の貯蔵資源の経年変動から説明しようとす
る資源収支モデルなどが知られている。しかし、最近これらのモデ
ルに対しては、「枝レベルでは、種子生産には貯蔵炭水化物(NSC)
よりも結実年の光合成産物が重要である」といった反証結果も報告
されており、マスティング機構を巡る議論は今日も続いている。
われわれは、これまで窒素化合物 (N) と NSC の樹体内の貯蔵機能
に着目し、NSC の配分や貯蔵など生理的現象の解析を通じて、結実
豊凶の機構解明に取り組んできた。その結果、以下のような重要な
事実を見いだした。①種子生産にはその年の光合成産物が利用され、
貯蔵 NSC はほとんど利用されない(Hoch et al, Oecologia, in press)
。
②種子の成長期には、葉や枝が N の貯蔵器官として機能し、そこか
ら N の一部が種子へ転流される (Han et al, Annals Botany 2011)。今回、
種子生産に係わる貯蔵 N と土壌から吸収した N の貢献度を評価する
ために、結実と非結実のブナ3個体ずつを用いて、展葉期に 15N を
含む水溶液を地表面に撒きラベリング実験を行った。その後、定期
的に葉・枝・種子を採取し、それぞれの窒素濃度と 15N 同位体比を
分析した。その結果について報告する。
P2-111
P2-112
異型異熟性はタブノキの繁殖成功を左右するのか?
雌雄異株植物カナムグラ(アサ科)の雌に偏る性比
* 渡部俊太郎(滋賀県大),金子有子(琵琶湖環境科学研究センター),野
間直彦,西田隆義(滋賀県大)
* 岡崎純子(大阪教育大・理科教育)
・金田翔吾(大阪教育大・理科教育)
・
小倉彩湖(大阪教育大・理科教育)・市橋亮(大阪教育大・理科教育)
木本植物は一般に自殖由来の子孫の生存率が極めて低いことが知
られている。このため、木本植物の一部では自家受粉を回避する機
構の一つとして、両性花の雌雄の機能が転換する Heterodichogamy (
異型異熟 ) という現象が知られている。本報告では日本の照葉樹林
の代表種であるタブノキにおける異型異熟性の実態を調査し、異型
異熟性が繁殖成功に関する負の頻度依存淘汰によって維持されると
いう予測を検証する。調査は滋賀県彦根市の犬上川河口部に成立す
るタブノキ林で行った。脚立で枝先を観察することができる4個体
を選び、各個体につき 20 花序にマーキングした。その上で日中3時
間おきに花序内の雄花、雌花の数を計数した。枝先の直接観察がで
きなかった 5 個体については、枝先を切り落として性型を特定した。
また結実期に、花序ごとに果実の数を計測した。花の計数の結果、
タブノキにおいては個体内の花の性型は一致していること、一日の
中で個体の機能的な性が入れ替わることが明らかになった。また個
体の性型として、雄から雌に入れ替わるもの(Morgning Male: MM 型)
と雌から雄に入れ替わるもの(Morgning Female: MF 型)が集団中に
存在することが明らかになった。枝先の観察の結果、犬上川の集団
における MF 型と MM 型の比率は7:2であり、MF 型に偏る傾向
が見られた。また結実数の結果は集団中で小数派であった MM 型で
結実率が高くなる傾向が見られた。異型異熟性が繁殖成功に関する
負の頻度依存淘汰によって維持されるという予測を支持するもので
ある。
これらの結果に分子マーカーによって推定された交配パタンの結
果を合わせて報告したい。
270
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-113
P2-114
一斉開花する森林の地理的パターンはどのように決定さ
モニ 1000 データを用いた樹木の種子生産パターンの
れるか?
解析
* 沼田真也(首都大・都市環境),安田雅俊(森林総研・九州),鈴木
亮(筑波大・菅平),保坂哲朗(首都大・都市環境),Nur Supardi Md.
Noor(FRIM・R&D),Christine Fletcher(FRIM・森林部),Mazlan
Hashim(UTM・地理情報)
* 佐伯いく代(自然環境研究セ),鈴木智之(信大・山岳総研)
樹木の種子の生産量は、年ごとに変動することが知られている。
こうした種子生産の動態は、樹木の実生更新の成功率を左右するだ
けではなく、森林に生息する動物の食物資源量を決定する要因とし
ても重要である。しかし、その変動パターンをとらえるには、長期
の観察が必要であり、我が国ではまだ限られた地域や樹種を対象と
してしか調べられていない。そこで本研究は、モニタリングサイト
1000 森林・草原調査で得られた落下種子データを用いて、広域・多
種にわたる種子生産量の変動パターンを明らかにすることを目的と
した。モニタリングサイト 1000 森林・草原調査では、全国 21 のサ
イトにおいて、2004 年度からリタートラップによる落下種子量の調
査を実施している。これらの調査から得られたデータを用い、樹種
ごとの種子生産量、落下ピーク時期、および変動パターンの地理的
変異について解析した。約 50 種の木本植物を対象に、種子生産量の
変動を調べたところ、高い変動係数を示したのはツガ、アオダモ、
アカシデなどであった。一方、変動係数が小さかったものは、カエ
デ類、サクラ類、ツル性木本であった。堅果、液果、その他の果実
タイプ別に分類して調査区ごとに落下時期のピークを調べてみると、
堅果は、秋季に明瞭なピークを持つことが多いのに対し、液果およ
びその他の果実は、落下時期の年内の変化が大きい傾向にあること
が明らかにされた。豊凶の同調性については、地理的に近い調査区
で年変動のパターンの類似する樹種がみられた一方、地理的距離だ
けでは説明の難しい事例もあった。モニタリング調査を継続するこ
とで、樹木群集の種子生産の動態を把握し、その機構を解明するこ
とに寄与できると考えられる。
東南アジアのフタバガキ林では数年に一度の頻度で多様な樹木が
同調的に開花、結実する一斉開花現象が見られる。一斉開花を通じ
てフタバガキ科を中心に多くの樹木が世代交代するため、東南アジ
ア熱帯林の保全、修復、復元等において極めて重要な現象である。
この一斉開花現象の発生には外的シグナル、すなわち異常気象が関
わっていると考えられており、ボルネオのいくつかの森林では不定
期に発生する異常乾燥と一斉開花の関連性が報告されている。しか
し、東南アジア内でもフロラや気候には地理的変異が大きいため、
一斉開花と異常気象の関連は地域によって異なる可能性がある。本
研究は半島マレーシアの広い範囲で観察された一斉開花が観察され
た 2001 年、2002 年、2005 年に注目し、一斉開花が観察された地域
においてどのような異常気象が発生したのかを検討した。一斉開花
規模(4 段階)の地理的パターンを分析したところ、2001 年では南
西ほど、2005 年には南部で標高が高い地域ほど一斉開花規模が大き
いことが示唆されたが、2002 年には有意な地理的パターンは見られ
なかった。一方、低温、乾燥の地理的パターンはエピソード毎に異
なっていたが、これらの異常気象の発生と一斉開花の規模の関連性
を確認したところ、いずれのエピソードにおいても乾燥、低温と一
斉開花規模の間には有意な関連性は見られなかった。発表では一斉
開花と異常気象の地理的パターンを比較し、一斉開花の至近要因の
地理的変異について考察する。
P2-115
P2-116
ケヤキの種子二型性とハビタット選択
Association of leaf traits with growth and mortality across
* 大山裕貴(東北大・農),清和研二(東北大・農)
43 co-occurring tree species in a Taiwanese subtropical
ケヤキは、結果枝についたまま落下して風により散布される結果
枝種子と種子のみで落下する単体落下種子の二つのタイプの種子を
持つ。結果枝種子の方が単体落下種子より散布距離が長いが、両者
の発芽率や充実率、他殖率にはあまり差が見られない。
一般に大ギャップに依存して一斉更新し、寿命の短い遷移初期種
は散布距離が長い傾向がある。このように、生育立地や更新様式、
生活様式などが散布距離に影響していると考えられる。今回はケヤ
キの生育立地を明らかにし、母樹からの距離別の実生の分布を調べ
ることでケヤキの更新様式を調査し、ケヤキの二タイプの種子の散
布距離の差の持つ意味について考察する。
今回の実験では、宮城県の広葉樹賦存状況調査のデータを用い、
ケヤキの生育立地について調査を行った。解析の結果、傾斜の大き
い環境においてケヤキの出現率や優先度が高い傾向が見られた。ま
た、齢級が高い立地で出現率は高い傾向が見られた。このように、
ケヤキは急傾斜地で高密度に優占するが、平坦地においても林齢が
高い立地ではケヤキが生育していると考えられる。
次に、平地でケヤキの散布距離がどのような意味を持つか実験を
行った。岩手県一関市自鏡山でケヤキの母樹からの距離別にプロッ
トを作り、母樹からの距離による実生の生育の違いを調査した。当
年生実生の密度は、母樹の近くで高くなったのに対し、二年目以降
の稚樹の密度は当年生ほど近くで高くならなかった。稚樹の高さは
母樹の遠くにおいて高くなる傾向が見られた。これらのことから、
母樹の近くには多くの種子が散布されるが、生存率や成長率は母樹
の遠くにおいて良好であると考えられる。従って、平地においては
単体落下種子に比べ遠くへ散布される結果枝種子の方が有利となる
と考えられる。
rainforest
*Yoshiko Iida (Hokkaido University), I-Fang Sun (National DongHwa
University), Takashi S. Kohyama (Hokkaido University)
An assimilative organ, a leaf is expected to play an essential role in the
demographic performance of plant. However, the linkage between species
leaf traits and demographic rates has seldom been detected, possibly due to
the large intraspecific variations in leaf traits throughout life stages.
We examined the associations of leaf traits at two different life stages
with growth and mortality across 43 tree species in a subtropical rainforest,
in northern Taiwan. Four leaf traits (leaf area, specific leaf area, thickness
and succulence) were measured for trees at juvenile and adult stages.
Relative growth rate (RGR) and mortality were estimated as a function of
stem diameter and correlated with leaf traits of juvenile and adult trees at a
range of stem diameters.
Correlations between leaf traits and demographic rates varied with stem
diameter. Some leaf traits showed different trends between life stages.
Leaf traits were more associated with demographic rates at corresponding
life stages. These results suggest that the linkage between leaf traits and
demographic performance varies with life stage, possibly due to stagespecific determinants.
271
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-117
P2-118
樹木の優占度および個体群構造は形質から予測可能か?
雌雄異株植物ヤチヤナギは性転換するのか?
* 饗庭正寛(東北大・生命科学),小野田雄介(京都大・農),黒川紘子(東
北大・生命科学),中静透(東北大・生命科学)
* 井上みずき(秋田県立大・生物資源),石田清(弘前大・農)
植物の性表現は複雑である。ときには、ベニカエデのように5種
類にわかれることすらある。植物の繁殖適応度を考える上で、その
性表現のパタンを明らかにすることは重要である。ヤチヤナギは匍
匐枝によってクローン繁殖する湿地性の雌雄異株の潅木である。変
種関係にあるセイヨウヤチヤナギでは同幹内に雄花序と雌花序が混
在したり、花序内で雄花と雌花が混在したりする例も知られている。
ヤチヤナギはセイヨウヤチヤナギに比べて花序や枝単位での雌雄異
株性がはっきりしているが、年によって幹の性表現が変化したり、
ジェネット単位で見るとラメット間で性表現が異なる可能性がある。
北海道のキモントウ沼、弁天沼、落石岬湿原において 30m*30m の
プロットを作成し、2m の格子点上にある幹の開花の有無とその性を
3 年間観察した。くわえて、観察した幹から葉を採取し、DNA を抽
出し 6 座のマイクロサテライトマーカーを用いてジェネットを識別、
開花ジェネット単位での性表現を推定した。
ラメットが 3 年間で 1 度でも性転換したのは、全 736 幹中 3 幹(0.4
%)であり、キモントウ沼で 2 幹、弁天沼で 1 幹であった。ラメッ
ト間で性表現が異なったジェネットは全 305 ジェネット中、キモン
トウで 5、弁天沼で 4、落石岬で 2 の計 11 ジェネット(3.6%)であ
った(ただし性転換ラメットを含む)。したがって、ヤチヤナギは性
転換を行なうが、その割合は非常に低く、また大部分の開花ジェネ
ットの性も固定的であることが明らかとなった
近年、機能形質を利用した群集構造の解析が盛んに行われ、群集
集合過程の理解が進んでいる。しかし、機能形質と優占度やサイズ
(齢)分布といった個体群レベルの特性の関係については解析例が少
ない。これらの関係の解明は、群集集合過程の理解だけでなく、様々
な攪乱に対する生態系機能の応答を予測するうえでも重要である。
そこで本研究では、モニタリング 1000 事業により公開されている
森林の毎木調査データと、独自に収集した機能形質データ(材密度、
葉重 / 葉面積比 [LMA]、葉面積、種子サイズ)を用いて、これらの
機能形質と優占度およびサイズ分布との関係を検証した。
はじめに、個々の群集(調査地)における各機能形質と優占度お
よびサイズ分布の関係を順位相関により検証し、その後、全群集の
順位相関係数に対して Wilcoxon の符号順位検定を行い、全体のパタ
ーンを検証した。すべての解析は、全種対象、広葉樹のみ、落葉広
葉樹のみ、常緑広葉樹のみの4つのグループごとに行った。
個々の群集レベルでは、すべての形質と優占度の間に有意な相関
の見られる群集が存在した。また、LMA と優占度の相関は、全種対
象、広葉樹のみ、常緑広葉樹のみの解析において有意に正の傾向を
示した。葉面積と優占度の相関は、全種対象、広葉樹のみ、常緑広
葉樹のみの解析において有意に負の傾向を示した。サイズ分布もす
べての形質と複数の群集において有意な相関を示した。また、常緑
広葉樹においては、その相関は有意に負の傾向を示した。
これらの結果は、優占度やサイズ分布といった個体群の特性が部
分的に機能形質から予測可能なことを示している。今後、相関の群
集間での差異に影響する要因の探索や機能形質と個体群の特性の非
線形な関係についても解析を予定している。
P2-119
P2-120
Altitudinal variation in leaf wettability of Arabidopsis halleri
熱 帯 フ タ バ ガ キ 林 に お け る Dipteocarpus
subsp. gemmifera
sublamellatus の葉形変化と葉上着生生物
*Aryal, B. (Kyoto Univ.), Kudoh, H. (Kyoto Univ.)
* 山田俊弘,奥田敏統(広島大学総合科学)
Arabidopsis halleri subsp. gemmifera is a perennial herb that produces
two types of leaves; rosette and cauline. Rosette leaves persist throughout
the life and cauline leaves appear during reproductive period. The surface
feature of leaves related to wettability was studied in 140 individuals
growing in understory (ca. 430m) and semi alpine (ca. 1370m) habitats of
Mt. Ibuki. The cauline leaves of understory plants were highly wettable
compared to the semi alpine plants and showed significant decrease in
leaf wettability with increasing altitudes. However, rosette leaves of both
habitats were highly wettable and showed no altitudinal variations. We also
conduct control experiment to compare these results. The leaf wettability of
cauline leaves under natural and controlled conditions showed similar trend
with altitudes. The same pattern was observed for the rosette leaves under
both conditions. The overall leaf wettability analysis suggested the existence
of two types of leaf wettabilites for the same plants growing in semi alpine
habitat; less wettable in cauline leaves and highly wettable in rosette leaves.
The consistent results obtained from natural habitats and growth chamber
suggested that the difference in leaf wettability is attributable to both
environmental and genetic factors.
熱帯フタバガキ林における Dipteocarpus sublamellatus の葉形変化と
葉上着生生物
* 山田俊弘 、奥田敏統(広島大学総合科学)
熱帯フタバガキ林に出現する Dipteocarpus sublamellatus(フタバガ
キ科)は樹高50mを超える大木となる。この種は、樹高成長に伴
い葉の形を変化させていた。樹高1mほどの個体についた葉の先端
は、極端に尖っていた。葉の幅 / 長さの値は小さく、細長い形をし
ていた。樹高の小さい個体は暗い林床に生えることになるため、陰
葉の特徴である薄い葉をつけていた。それに対し林冠に達した個体
についていた葉の先端部はわずかに尖るだけであった。また葉の形
も丸くなっていた。明るい環境にある葉のため、葉も厚かった。熱
帯樹木に特異的な葉の先端が極端に尖る葉形はドリップチップとよ
ばれ、葉についた雨水などを素早く排水する役を担っていると信じ
られている。小さい個体は、薄い葉を水平に展開する性質を持って
いた。このような葉に水滴が付くと、水はトリップチップのほうへ
流れていた。ドリップチップは排水に役立っているようである。一
方、林冠に達した個体は堅い葉を垂直に近い角度で展開させてい
た。木の葉に水滴がついても、水は葉の基部に流れるだけだった。
Dipteocarpus sublamellatus の葉形の変化は、葉上の水の流れと関係が
あるようだった。Dipteocarpus sublamellatus は暗い林床にいるときは
ドリップチップを発達させることで排水を促し、明るい林冠に達す
ると、葉を垂直に展開することで排水を促しているのだろう。
加えて、排水の適応的な意義も考えた。排水には葉上着生生物を
増やさない役割があるかもしれない。そこで現在行っているタワー
を用いた葉上着生生物の実験も紹介する。
272
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-121
P2-122
茎か?根か?地下茎メリステムのトランスクリプトーム
景観スケールにおける林冠樹木種動態と森林管理シナリ
解析
オとの関連性
荒木希和子(京大・生態研),永野惇(京大・生態研,JST・さきがけ),
中野亮平(京大・院・理),北爪達也(基生研),山口勝司(基生研),西
村いくこ(京大・院・理),重信秀治(基生研),* 工藤洋(京大・生態研)
石田敏 *(東北大・生命),正木隆(森林総研),田中宏(森林総研),中
静透(東北大)
遺伝子発現のパターンは,発生・成長過程や組織によって特異的
に調節されることが知られている.植物の組織は,胚発生初期に地
上部と地下部に大きく分化し,さらに地上部は成長に伴い栄養成長
から繁殖成長に分化する.このような分化にはメリステム内の分裂
組織のアイデンティティを決める遺伝子発現パターンが大きく関与
すると考えられている.クローン植物の地下茎は,地上部を分化さ
せるメリステムを持つ一方で,根と同様に地中を伸長する.
本研究は,地上シュート,根,地下茎のメリステムのトランスク
リプトームを比較し,地上部と地下部の性質を併せ持つ“地下茎”
の特性を遺伝子発現パターンから調べた.コンロンソウ (Cardamine
leucantha ) を材料に,シュート・地下茎・根の先端と葉から RNA を
抽出し,トランスクリプトーム解析を行った.また,cDNA シーケ
ンスで 4 組織の参照配列とする情報を収集した.これらを de novo ア
センブリの結果得られたコンティグに,シロイヌナズナ (Arabidopsis
thaliana ) の情報をもとに機能的注釈づけを行い,解析に供した.発
現パターンを PCA 解析した結果,地下茎は根とシュートの中間に位
置した.また,根と子葉のみに特異的な細胞小器官として知られて
いた ER body が、コンロンソウの地下茎に存在することが確認され
た.したがって,地下茎はシュートに由来・移行するにも関わらず,
組織が形成される場所である土壌環境にも応答した遺伝子発現パタ
ーンを示すことが明らかとなった.
P2-123
P2-124
巨大津波で被災した砂浜海岸エコトーンにおける植生の
Relative importance of pathogenic- and arbuscular-
不均一な攪乱と再生、復興事業への応用
mycorrhizal fungi on seedling establishment in
* 平吹喜彦(東北学院大 地域構想),菅野 洋(宮城環境保全研究所),杉
山多喜子(宮城植物の会),富田瑞樹,原慶太郎(東京情報大 環境情報)
heterogeneous light conditions in a temperate forest
*Bayandala(Tohoku Univ), Fukasawa Y, (Tohoku Univ), Seiwa K(Tohoku
Univ),
東日本大震災の後、「海岸エコトーンという視座」と「立地・生物
の多様性」に着目しながら、仙台市宮城野区南蒲生地区で生態系モ
ニタリングを継続してきた(38°14´N、140°59´E; コアエリアは
16.8ha; 汀線からの奥行きは約 1.2km)。このモニタリングサイトは、
(1) 自然環境・土地利用履歴に関して、仙台湾岸を代表しうる属性を
備えており、また (2) 被災後の後背湿地で、高木性マツ類優占林が
櫛歯状に残存するという、興味深い様相を呈している。本講演では、
(1) 植生の破壊と自律的修復の程度・プロセス、および (2) その結果
に基づく、「自律的修復を尊重した多様性・多機能海岸エコトーンの
創出」に向けた提案を行う。
調査は、既存文献・地図情報の分析、リモートセンシング、野外
踏査により実施した。先ず「前浜、後浜、砂丘頂前方域、砂丘頂後方域、
人工水路(貞山堀)、後背湿地、沖積平野低湿地(水田)という 7 領
域からなるカテナ構造」を識別した上で、個々の領域内の立地(地
盤高、微地形、土壌環境)および植生(植物相、植物社会学的な様態)
について、実態・変遷を解析した。
その結果、(1) 攪乱様態は空間的に不均一で、破壊・自律的修復
の程度に立地が強く影響していること、(2) 高木・亜高木個体の損傷
が著しい反面、草本や林床植物の生存・萌芽再生が随所で認められ
ること、(3) 林冠が消失した領域では、砂丘植物や短命な荒地草本植
物(帰化植物を含む)、ハリエンジュが顕著であること、などが明ら
かとなった。そして、(4) 残存する被災緑地(非森林植生を含む)を
源泉とする復興事業・工事を、戦略的・統合的に推進する必要性を、
モデルを作成して提示した。
森林種多様性を説明する有力な仮説の1つに Janzen-Connell 仮説
(J-C 仮説)がある。これによると、成木の近傍では種特異的な病原
菌や植食者によって同種実生が他種実生より高い死亡率を示し、他
種の実生が更新し高い多様性が実現する。しかし、J-C 仮説は林内
における病原菌のネガティーブフィードバックだけを仮定しており、
ギャップを含めたモデルではない。一方、ギャップでは親木の周囲
の菌根菌ネットワークにより、同種実生の成長が促進されるといっ
たポジティーブフィードバック作用があることが知られている。も
し、母樹近くでギャップが出来た場合、同種を特異的に助けるなら、
母樹周辺に同種実生が分布するようになり、種多様性を減少させる
ようになるだろう、このように種多様性を維持メカニズムの解明に
は病原菌だけでなく菌根菌との相互作用の解析を林内とギャップ両
方で行う必要がある。本研究で、広葉樹 2 種(ミズキ、ウワミズザ
クラ)それぞれの母樹下(林内区)および母樹のすぐ横の木を伐倒
したギャップ区に 2 種の種子をそれぞれ播種し、翌春に実生の病原
菌・菌根菌の感染率ならびに成長、死亡要因を調べた。暗い林内で
は 2 種成木の下では、それぞれの病原菌により、同種実生の死亡は
他種より高かった。一方、明るいギャップでは、アーバスキュラ菌
根菌の感染率が林内より高くなり成長量も大きくなった。ギャップ
でも病原菌の高い感染が見られたが、死亡率が低かったのは菌根菌
による防御が働いているのかもしれない。
273
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-125
P2-126
火山荒原に分布するシモフリゴケの生育立地と環境改善
ブナ孤立林におけるブナ種子生産量の年変動と稔性
機能
井田秀行(信州大・志賀自然教育研/山岳総研)
* 南 佳典(玉川大・農),勝又暢之(玉川大・農),沖津進(千葉大・園)
富士山北西斜面は,しばしば雪崩による大規模撹乱で被害を受け
る.雪崩の流路から外れた尾根地形には植生が半島状に残されるが,
その森林限界線の上昇は表土の不安定性などの過酷な環境要因によ
って極めて遅い.パイオニア種である樹木実生が火山荒原に侵入し
定着するには,より初期に侵入できる植物による定着促進効果が重
要な要因となる.本研究は,定着促進効果が期待できるシモフリゴ
ケによる環境改善機能を明らかにし,遷移段階初期の遷移メカニズ
ムを解明することを目的とする.著者らは,すでに火山荒原に分布
するシモフリゴケによる実生定着促進効果の可能性について発表し
てきたが,今回はとくに地表面温度が過酷になる夏期および冬期に
おける地温変化の影響を中心に検討した.
樹木実生は,基本的にシモフリゴケパッチ内の方が裸地に比べ多
く出現しており,個体サイズでもパッチ内の方が顕著に大きいこと
がわかった.風衝側と風背側を分けて検討した場合,いくつかの例
外を除き個体数に大きな差は見られなかった.しかし,個体サイズ
では風衝側でダケカンバが有意に大きく,カラマツやミネヤナギに
も同様な傾向がみられた.パッチサイズの増加にともなう個体数の
増加は風衝側のパッチ内で顕著であったが,反対に裸地では相関が
見られなかった.地温の変化では,夏期における日較差は風衝およ
び風背ともにパッチ内の方が裸地に比べ小さく,凹地よりも平地の
方でその傾向は大きかった.冬期でもパッチ内の方が温度変化は小
さく抑えられていたが,最低温度は裸地およびパッチともに約 -15
∼ 20 度となった.
シモフリゴケによる定着促進効果は,風衝側と風背側の両方で確
認され,とくに風衝側でその効果が高いことが確認できた.この効
果は,シモフリゴケパッチが形成されていることによる夏期の地温
上昇やそれに伴う乾燥の緩和が大きな要因であると考えられる.
ブナ孤立林では近親交配や自家受粉が増え,健全な種子生産が困
難になっていると考えられるが実態は不明である。本研究では保全
すべき森林の規模や管理のあり方を提言するため,ブナの孤立林分
と大面積林分を対象に,種子の生産特性および稔性を比較し,林分
の断片化がブナの種子生産に及ぼす影響を検討した。
調査地は長野県中北部域の7サイトである。内訳は,周囲数 km
にブナ林のない小面積(1ha 未満)の3林分(小サイト:飯山大深,
聖山,牛伏寺),30ha 以上の大面積でブナが優占する2林分(大サイト:
鍋倉山,カヤの平),両者の中間程度の2林分(中サイト:飯山柄山,
大洞)である。これらにおいて,7∼ 14 年間(1998 ∼ 2011 年)調
べた種子の生産量および稔性を比較した。各サイトでは,開口面積
0.5 平方mの種子トラップを4∼ 27 基設置し,開花期から種子落下
期まで1∼2ヶ月ごとにブナの繁殖器官を回収した。種子は " 充実 ",
" 鳥獣害 "," 虫害 "," 未熟 "," 菌害 "," シイナ " の6つに分別し,
サイトごとに各年の単位面積(1平方m)当たりの数を算出し,そ
の値により比較検討を行った。
その結果,豊作年だった 2005 年と 2011 年の充実率(総種子数に
対する充実種子の割合)は,大・中サイトが約5∼6割と,小サイ
トでの3割未満より高くなっていた。未充実種子では全サイトでシ
イナと虫害がその大半を占めていた。シイナ率では大・中サイトが
1∼2割であったのに対し小サイトが4∼7割と高く,虫害率でも
小サイトの牛伏寺で約4割と特に高くなっていた。
以上から,ブナ孤立林分では大面積林分に比べ充実率が低下する
ことが明らかとなり,断片化による林分サイズ減少はブナの繁殖に
マイナスの影響を与えると考えられた。孤立林分では,少ない花粉
流動が近親交配や自家受粉をより多く発生させるだけでなく,虫害
も発生しやすい状況にあると推察される。
P2-127
P2-128
有珠山 2000 年火口周辺部における植生回復パターン
亜高山帯針葉樹林におけるニホンジカによる剥皮発生に
露崎史朗(北大・院地球環境)
影響する要因
北海道南西部に位置する有珠山 ( 標高 737 m) 北西山麓部において
2000 年 3 月 31 日に始まった噴火は、マグマ活動の終息が 2001 年 5
月 28 日に予知連により確認され、植生回復は 2001 年に始まったと
いえる。ここでは、1977-78 年に噴火した山頂部の回復と比較しなが
ら 2000 年噴火後の植生回復の特徴を報告する。両噴火ともに、噴火
噴出物の主体は、テフラ ( 軽石・火山灰 ) である。調査は、金毘火
口群中の K1 火口周辺において 2001 年秋季に方形区法で、2002 年以
降は、毎年夏季に線状法により行った。植生調査と同時に、微地形
( リル ) と全自動簡易粒径測定装置によりテフラ粒径を記録した。山
頂部における植生変化は方形区法による経年調査をもとに記録して
いる。
2012 年までに約 100 種の維管束植物が記録され、生活型は 1 年
生草本・多年生草本・低木・木本と様々であった。コケの定着は、
2003 年から記録されたが優占するには至らなかった。コケ期を欠く
点は、山頂部と共通である。噴火直後には繁殖に至る一年生草本が
多かったが、数年でほぼ消失した。この点は、一年生草本期を欠落
する山頂部と異なる。ただし、一年生草本の多くは非在来種であった。
噴火直後からオオイタドリ・オオブキなどの多年生草本が優占した。
実生は、多くが軽石上またはリル中に見られた。これらの点は、山
頂部噴火と共通である。ただし、火口下部ではヨシが優占した。木
本植物は、噴火から 2008 年には最大で樹高 3 m に達するドロノキが
みられ、森林化は山頂部よりも早い。
以上のことから、(1) 市街地 ( 温泉街 ) に近接した山麓噴火である
ため非在来種の移入が容易であり、種子供給源が種組成の決定に関
与している、(2) 噴火規模が山頂噴火より小さいため移入・回復が早
い、(3) 実生定着は微地形を利用しなされている、(4) 遷移は耐性モ
デルでより説明される、ことが明らかとなった。
* 飯島勇人,長池卓男(山梨県森林研)
近年増加傾向にあるニホンジカは、高山帯などこれまであまり分
布していなかった場所にも出没し始めている。ニホンジカは森林内
で休息するため、高山帯に近い亜高山帯針葉樹林でもニホンジカに
よる摂食圧が発生していると考えられる。しかし、ニホンジカの摂
食圧が亜高山帯針葉樹林の植生に与える影響については、報告例が
少ない。本研究では、南アルプス国立公園北沢峠付近の亜高山帯針
葉樹林において、標高別に成木、稚樹の摂食状況とニホンジカの糞
粒数を調査した。当該地域はニホンカモシカも生息しているが、自
動撮影カメラの撮影枚数はニホンジカの方が圧倒的に多かった。標
高 2000m 付近および 2500m 付近に、10x40m の調査区を それぞれ
14、11 個設置し、成木(地上高 1.3m の直径 3cm 以上)および稚樹(樹
高 30cm 以上)のサイズ(成木は周囲長、稚樹は樹高)、樹種、剥皮
率(周囲長に対する剥皮部分の割合)を調査した。また、調査区内
の 5x40m の範囲で、ニホンジカの糞粒数を調査した。調査時に枯死
していた稚樹の 89% は剥皮されていた。糞粒数は、標高が高い調査
地で少ない傾向が見られた。稚樹密度は、調査区内の糞粒数が多い
ほど少なかった。稚樹は、樹高が高く調査区内の糞粒数が多いほど
剥皮される確率が高かった。また、調査した樹種の中では、オオシ
ラビソ、コメツガが剥皮されやすく、シラビソ、トウヒが剥皮され
にくかった。一方、成木は、周囲長が短く(細い)、調査区内の稚樹
密度が低いほど剥皮やされやすかった。亜高山帯では、ニホンジカ
の摂食によってまず稚樹が減少し、稚樹の減少に伴って細い成木か
ら剥皮されていくことで、特に小サイズの個体が消失すること、嗜
好性の高い種が優先して摂食されることで、林分の樹種構成が変化
する可能性が示唆された。
274
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-129
P2-130
放置竹林の伐採方法が高木性樹木の更新に与える影響-
兵庫県におけるナラ類集団枯損後の林分構造と種組成
伐採後3年目の成長と生存状況-
山瀬敬太郎(兵庫農技総セ)
小谷二郎(石川農林総研)
ナラ類集団枯損後の植生変化は、立地環境や前植生によって異な
る。本研究では、枯損後の出現種被度に基づき分類した植分について、
出現種数と植被率を比較するとともに、各植分の立地環境との関係
を解析した。
兵庫県内で、2010 年に集団枯損が発生した広葉樹林において、ナ
ラ類の本数枯損率 50%以上の 79 植分に 10 m× 10 mのプロットを
設定し、全維管束植物の階層別の被度(%)を記録した。解析は、
79 植分 107 種の相対優占度行列を用いて、TWINSPAN による植生タ
イプの分類を行い、指標種によって区分されたタイプごとに、全種
数、各階層の種数及び植被率、常緑及び夏緑植物の植被率を比較した。
次に、優占度行列と、79 植分の 5 立地因子(緯度、経度、標高、斜
面方位、傾斜)の属性値を用いて、CCA による序列を行った。また、
5 立地因子のそれぞれについて、TWINSPAN で分類されたタイプ間
で多重比較を行った。
タイプは 8 群(A ∼ H)に分類された。タイプ ABCD はシカ不
嗜好性の種、タイプ EFGH は日本海要素の種を指標種とし、タイプ
AB とタイプ EF は常緑植物の種、タイプ CD とタイプ GH は夏緑植
物の種を指標種として区分された。シカ不嗜好性種と常緑植物を指
標種としたタイプ A とタイプ B は低標高域に分布し、草本層の種数
が有意に少なかった。イワヒメワラビを指標種としたタイプ C は低
標高域に分布し、草本層及び夏緑植物の植被率が高く、草本層の種
数が多かった。タイプ E は緩傾斜に分布し、高木層及び草本層の種
数が多く、高木層及び亜高木層の植被率が高かった。また、チマキ
ザサを指標種としたタイプ G は高標高域に分布し、亜高木層の植被
率は低く、草本層の植被率が高かったが、草本層の種数が多い傾向
はみられなかった。以上のことから、ナラ類集団枯損後の植生と立
地環境に一定の関係がみられたことは、枯損後の植生変化が予測出
来る可能性を示唆している。
背景と目的)西日本を中心に竹林の拡大による地域固有の種の生
物多様性低下が問題視されている。この研究では、放置されたモウ
ソウチク林を周辺広葉樹二次林の構成種による森林へ回復させるこ
とを目的として、3 つの地域の竹林で間伐または皆伐を行い、跡地
での高木性樹木の更新状況を比較した。今回は、伐採後 3 年間での
出現と成長状況を報告する。調査方法)2009 年に、3,800 ∼ 14,600
本 /ha の稈数密度の石川県金沢市内の 3 地域の放置竹林に、20m ×
20m のプロットをそれぞれ 3 つ設け、うち 2 つを皆伐区と間伐区と
した。間伐区では 2,500 本 /ha に仕立てた。伐採前に、プロット内に
2m × 2m の小プロットを 16 個設定し、植被率や地上 1.5m での散光
相対照度を把握したのち、前生稚樹を含め個体識別法によって高木
性広葉樹の生存と成長を伐採翌年から 2012 年まで追跡調査した。結
果と考察)広葉樹の大半は伐採翌年に出現する場合が多く、それ以
降の新規出現は年とともに減少傾向にあった。ただし、ケヤキなど
のように伐採後 3 年目でも多数発生する場合もみられた。皆伐区で
は、伐採後1年目に出現したカラスザンショウ・アカメガシワ・ネ
ムノキなどのパイオニア樹種や草本の生育が旺盛であった。また、
皆伐区では伐採前から存在していた前生稚樹の成長が旺盛になる場
合もあったが、つる類の繁茂が著しく樹木の成長や生存の妨げにな
っている場合がみられた。一方、間伐区では皆伐区ほど成長は旺盛
ではないがサクラ類、アベマキ、クマノミズキなど二次林構成種が
多数発生する傾向がみられた。前生稚樹の少ない竹林では、皆伐は
パイオニア樹種のほか草本やつる類の優占度を高める可能性が高い
ことから、広葉樹林を構成する高木樹種を増加させるためには間伐
の方が効果的と考えられた。ただし、前生稚樹の多い竹林では皆伐
と考えられた。
P2-131
P2-132
静岡県南伊豆におけるモウソウチク林の皆伐による広葉
西オーストラリア乾燥地域におけるユーカリ萌芽更新個
樹林化-持続的に再生竹が刈り取られた林分の事例-
体の成長と親株の役割
近藤晃・加藤徹・伊藤愛(静岡農技研森林研セ)
* 相川真一(森総研),宇都木玄(森総研),小島紀徳(成蹊大・理工)
放任された竹林を皆伐して天然更新等により広葉樹林へ林種転換
することにより、竹林の拡大防止や生物多様性の向上が期待される。
しかしながら、皆伐後における竹林の管理如何では再生竹の繁茂に
よる林種転換の失敗事例が散見される。そこで、モウソクチク林の
皆伐後、再生竹の刈り取りを継続的に行うことがその発生や広葉樹
の侵入に及ぼす影響を検証した。
調査地は静岡県南伊豆町地内の放任されたモウソウチク林で、
2007 年に皆伐され、伐倒した竹稈は全て山腹斜面の等高線方向に棚
積みされた。本箇所において、皆伐後4年間、再生した竹稈のサイ
ズと密度、並びに出現した広葉樹の樹種とサイズを記録した。
その結果、
再生竹の密度は伐採1年後 16 千本 /ha(平均稈高 0.9 m)
であったが、経年的に減少し4年後には新たな発生は認められなか
った。一方、出現した広葉樹の本数密度および種数は、伐採 1 年後
114 千本 /ha と 17 種 /16 m 2 であり、アカメガシワ、カラスザンショ
ウおよびクサギの先駆性樹種3種が全体に占める本数比率は 85%で
あった。その後経年的に種数は増加、先駆性樹種の本数比率は減少し、
4年後には前者が 27 種、後者が 25%となった。
竹林の伐採後は生存している地下茎から再生竹が認められるが、
1回 / 年の刈り取りを3年継続することにより再生竹の発生は途絶
えた。一方、出現した広葉樹の種数や多様度指数が増大するなど種
多様性の向上が認められ、再生竹の持続的な刈り取りは、竹林から
広葉樹林へ林種転換する上で有効な順応的管理と考えられる。
ユーカリ植林は一般に萌芽更新を利用した管理が行われており、
その成長パターンは、産業植林が行われるような生産性の高い土地
では良く研究されている。しかしながら生産性の低い土地、特にユ
ーカリが自然状態では定着できないような乾燥地においては、萌芽
の成長に関する情報はほとんど存在しない。そこで、その様な乾燥
地域における萌芽の成長パターンを解明するため、西オーストラリ
アの乾燥地域に植林された Eucalyptus camaldulensis 林分において伐
採試験を行い、非伐採個体、萌芽更新個体、新規植栽苗の成長を比
較した。調査区に植栽した実生苗は、潅水を行わない場合 2 年以内
に全て死亡した。萌芽個体の生存率は 100%であったが、その高さ
成長は潅水を行った実生苗の半分以下であった。一方、樹冠投影面
積の成長には萌芽個体と潅水した実生苗の間に有意差は認められな
かった。萌芽個体の地上部バイオマス成長速度(6.0 ± 1.3 kg y-1)と、
非伐採木の成長速度(7.8 ± 4.8 kg y-1)の間に有意差は認められなか
ったが、潅水した苗は(17.7 ± 2.6 kg y-1)有意に高い成長速度を示
した。これらの結果は、E. camaldulensis の生存および成長が水の利
用可能性によって制限されていることを示唆している。萌芽個体の
高い成長速度はよく発達した根系と樹冠面積の急速な拡大の両方に
よると考えられる。一般に萌芽更新の主な利点は、貯蔵資源の活用
による迅速な再生と、発達した根系の利用による高い給水能力の維
持と考えられている。我々の結果からは、乾燥した土地においては、
後者がより重要であることが示唆された。
275
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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台風被害と枯死木の頻度分布から見たカシワ林の発達と
The recovery process of degraded forests in two
成熟
conservation areas, West Java
* 堤光平,紺野康夫
Dian Rosleine*, Eizi Suzuki
北海道東部の十勝地方、内陸部には、伐採から萌芽再生途上に
ある様々な発達段階のカシワ 2 次林が存在する。また、人為的攪乱
の程度の少ない林もわずかに存在する。Oliver は林分発達を Stand
initiation stage, Stem exclusion stage, Understory reinitiation stage, Oldgrowth stage の四段階に分けた。そこで、カシワ 2 次林の将来を予測
するために、これらのカシワ林が Oliver の区分のどの発達段階にあ
るかを検討した。調査は様々な発達段階のカシワ 2 次林 5 か所と人
為的攪乱の少ないカシワ林 1 か所で行った。発達段階の区分には、
生木のサイズ分布と枯死木が生木サイズ分布のどの部分から発生す
るのかが重要である。そこで、2002 年に胸高以上の高さを持つ生木
の胸高直径頻度分布を求め、2002 年以降に発生した枯死木の胸高直
径頻度分布を 2012 年に調べた。
若い林では正規分布もしくは L 字型の一山型分布であったのに対
して、林分の発達とともに二山型となった。
枯死木の発生は発達途上にある林では、胸高直径の小さな階級で
多く、最も若い胸高直径分布が正規型である林を除いて、枯死木の
樹種はカシワ以外のものが多かった。一方、人為的攪乱の少ない一
つの林では、最も大きな胸高直径からの枯死木の発生も多かった。
これらの結果から、最も若い林分は、「生育空間の占拠が完了し、
新規の個体は侵入出来ず、他個体の成長を低下させたり枯死させた
りする」という定義の、stem exclusion stage にあると言える。また、
残りの 4 つの 2 次林では、「低木が新しく林床に現れるが、下層の個
体はとても高さが低いので上層とははっきり区別ができる」と定義
される Understory reinitiation stage にあると言える。また、攪乱の少
ない林では old forest の段階にあると言える。
Little is known about recovery process in tropical degraded forest under
different land use history. Therefore, this study will describe and analyze
the recovery process of degraded forests with different land use history and
community structure in Pangandaran Nature Reserve (PNR) and corridor
of Gunung Halimun Salak National Park (C-GHSNP). Forest recovery of
abandoned grasslands in PNR was different with those abandoned plantation
and agriculture in C-GHSNP due to initial vegetation, human disturbance
intensity and management. Early succession was initiated by light tolerant
and wind dispersed species such as Blumea balsamifera and Chromolaena
odorata in PNR and Clibadium surinamense and Eupatorium inulifolium in
C-GHSNP. The exotic species in both areas disrupted species composition.
Teak invaded some grasslands in PNR severely while Bellucia pentamera
and Maesopsis eminii replaced forest species dominance in C-GHSNP.
The grassland in PNR after more than 30 years abandonment developed to
young secondary forest and occupied by Syzygium linneatum , Buchanania
arborescens and Diospyros hermaphroditica . Contrary, natural succession
cannot be relied to recover severely degraded area in C-GHSNP. Therefore,
human intervention by planting native species can be suggested to avoid
invasive species as well as accelerate forest recovery.
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ヤクスギ林における江戸時代の伐採以前の林分構造と現
南米アンデス山系の氷河後退域における標高傾度に着目
在の遷移段階
した植生の変化
* 高嶋敦史(琉球大・農),久米篤,吉田茂二郎,溝上展也(九州大・農),
村上拓彦(新潟大・農)
* 廣田充(筑波大・生命環境系),吉田圭一郎(横国大・教育人間科学部),
長谷川裕彦(山岳地理学研究所),水野一晴(京大・アジアアフリカ地域
研究)
ヤクスギ林,すなわち屋久島のスギ天然林は,江戸時代前後を通
じて強度な伐採を受けている。そのため,現在の林分の多くは,当
時の伐採を免れた数少ない老齢なスギと伐採後に更新した多くの若
いスギが混在する林相を呈している。また,林内には,当時の伐採
の切株がほとんど腐朽せずに残っている。数百年前の林分構造を示
す手掛かりが残るこのような森林は日本国内では希少であり,ヤク
スギ林は人為の伐採活動の影響を長期的に評価できる重要なサイト
といえる。そこで本研究では,ヤクスギ林の中に分散して設けた 5
箇所の固定試験地(計 4.8ha)でスギ切株の計測と 25 年以上に及ぶ
全生立木のモニタリングを行い,伐採以前の林分構造と現在の遷移
段階の推定を行った。その結果,スギ切株には,伐採活動以前から
生育していたと推定されるサイズの大きな集団と,伐採活動後に更
新し,再び伐採されたと推定されるサイズの小さな集団の 2 グルー
プが存在すると判断された。また,現在の林分では,スギやヤマグ
ルマなどの高木種が一貫して数を減らし,一方でハイノキやサクラ
ツツジなどの低木種が増加する傾向がみられた。そして過去と現在
を比較すると,江戸時代の伐採以前は,大径のスギが現在の本数よ
り低い密度で点在するかなり疎な林相であったと考えられた。現在
の林分では,スギを含む針葉樹の間で自己間引きが生じており,今
後も最多密度曲線に沿って本数を減らし,風倒などの撹乱を受けた
場合にはさらに低密度化が進むと推測された。一方,このような遷
移の進行状況には試験地間で差があり,それは立地環境や過去の伐
採強度に拠るものと考えられた。
近年の温暖化による高山帯の急激な変化が懸念されている。特に、
熱帯高山帯では残存する氷河が急速に縮小・消滅しつつあり、周辺
生態系が急変する可能性が高い。実際にケニア山では、過去約 50 年
間で氷河が急速に後退するとともに裸地化した部分に植物が定着し、
植物の分布域の上昇が確認されている(Mizuno 1998, AAAR)。この
ように、熱帯高山帯では温暖化に伴う氷河後退によって、一次遷移
が開始することが知られている。現在進行中の温暖化が熱帯高山帯
に及ぼす影響を理解するうえで、生態系の基盤とも言える植生の把
握は極めて重要である。しかしながら、熱帯高山帯に関するデータ
は少なく知見の空白域となっている。これを埋めるべく、演者らは
南米アンデス山系の氷河後退域を対象として 2012 年より現地調査を
開始した。
2012 年 8 月に南米の赤道直下に位置するボリビアアンデス、チャ
ルキニ峰(5329m)西カールで調査を行った。同峰の山頂付近には
2012 年時点で氷河が残存しており、西カールには形成年代が異なる
モレーンが複数存在していた。本調査では、その中の5つのモレー
ンを選びその上部と下部で植生および礫サイズ等を踏査した。40m
のラインを設置し、2m おきに 1x1m の方形枠を 10 個設置して、枠
内の植被率、出現種数、優占イネ科草本の株数、草丈および穂の有無、
食被の有無、最大礫のサイズを調べた。
植被率は推定モレーン年代との関係が見られた一方で、出現種数
は推定モレーン年代よりもむしろ標高との関係が見られた。また、
モレーン上部と下部では出現種も大きく異なっていた。これらから、
本調査地では標高傾度という要因に加えて、氷河後退とそれによっ
て形成される微地形によって植生が異なることが示唆された。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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本山寺の森(暖温帯針広混交林)における稚樹個体群の
富士山火山荒原の土壌微生物群集に対する基質制限~リ
組成と更新
ン脂質脂肪酸を指標として~
* 松井淳,吉岡真也(奈良教育大・生物),今村彰生,佐久間大輔(大阪
市立自然史博物館),常俊容子(大阪自然環境保全協会)
* 吉竹晋平(岐阜大・流圏セ),藤吉正明(東海大・教養),中坪孝之(広
島大・院・生物圏),増沢武弘(静岡大・理),小泉博(早稲田大・教育)
高槻市本山寺の裏山北斜面(34°55’N,135°37’E,標高 500m)
には、1978 年に大阪府自然環境保全地域に指定された針広混交林が
ある。胸高直径 5cm 以上の毎木調査により指定当時の林相(高槻市
教委 1979)と比較したところ1)ツガやアカガシなどの優占種は大
径木が増え、2)森林全体としての現存量は大幅に増加し、3)幹
数ではリョウブ、クマノミズキなどの落葉広葉樹が著しく減少し、
ヤブツバキ、ヒサカキ、シキミ、ヤブニッケイなどの常緑広葉樹が
増えたこと、4)リョウブは剥皮率が非常に高く、近年の北摂地域
におけるニホンジカ生息域拡大の影響が窺われることなどがわかっ
た。
今回は、下層木の動態に注目し 2011 年に 1.3ha の調査区で高さ
50cm 以上、胸高直径 5cm 未満の稚樹(および低木)の種名、位置、
樹高、胸高直径を記録した結果を報告する。
32 種 3606 本の稚樹と低木が確認された。内訳は常緑広葉樹が 14
種 3258 本(90.3%)、落葉広葉樹が 13 種 262 本(7.3%)、針葉樹が 5
種 86 本(2.4%)であった。
成木の幹数増加が顕著だったヒサカキ、ヤブツバキ、シキミは、
稚樹の幹数でも上位 3 種を占め総幹数の 72.3% に達した。優占種で
あるアカガシとツガの稚樹は多くなかった。落葉広葉樹で本数が最
多だったのはツツジ科低木のコバノミツバツツジ(118 本)であり、
成木が激減したリョウブ、クマノミズキの稚樹はそれぞれ 2 本、4
本と衰退傾向が顕著だった。さらに落葉広葉樹では、ヤマザクラ、
コシアブラ、アオハダをはじめ成木は確認されるが稚樹が見つから
ないものが 16 種あった。
以上のように森林下層でもシカの不嗜好種である常緑樹の優勢と
落葉樹の後退が確認され、遷移の過程に近年のシカ採食圧が加わっ
た変化が起こったと説明できる。
富士山の南東斜面では、火山噴火後の一時遷移系列に沿って特徴
的な島状群落(パッチ状の植生群落)の発達を見ることができる。
著者らはこれまでの研究で、このような一時遷移に伴う土壌微生物
群集の量的・質的な発達プロセスを明らかにした。また、基質(炭
素源や窒素源)の量や質による違いが微生物群集の呼吸活性に影響
していることを示した。本研究では、基質添加実験を通して、基質
の量的・質的な違いが微生物群集のバイオマスや群集構造にどのよ
うな影響しているかを明らかにすることを目的とした。
富士山南東斜面の島状群落間の裸地(遷移初期)およびそのエリ
アに隣接するカラマツ林(遷移後期)から鉱質土層を採取した。実
験室内で 3 種の炭素源(グルコース・セルロース・リグニン)と窒
素源(硝酸アンモニウム)および窒素源(リン酸二水素カリウム)
を単独あるいは混合して土壌に添加した。添加後 0, 5, 15 日後の土壌
に対してリン脂質脂肪酸分析を行い、土壌微生物群集のバイオマス
及び群集構造の変化を明らかにした。
炭素源としてグルコースを用いた場合、遷移後期土壌においては
炭素源のみの添加でもバイオマスがやや増加する傾向が見られたが、
遷移初期土壌においては、炭素源と窒素源と同時に添加することで
微生物バイオマスが増加した。このことから、遷移初期においては
炭素源と窒素源が同時に不足していることが微生物バイオマスの重
要な制限要因の1つであることが示された。また、いずれの土壌に
おいても、炭素源としてセルロースまたはリグニンを用いた場合の
バイオマス増加量は、炭素源としてグルコースを用いた場合と比べ
ると概して小さかったことから、炭素源の中でも易分解性炭素源が
不足していると考えられた。
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Influence of land use history on NDVI in drought year in
水田における雑草種子捕食者および土着天敵コモリグモ
arid land
類の発生量を高める景観要因
*Yanagawa, A., Yoshikawa, S. (Tokyo Institute of Technology), Cho, J.
(Pukyong National University), Kanae, S. (Tokyo Institute of Technology)
* 市原 実,稲垣栄洋,松野和夫,済木千恵子(静岡農林研),水元駿輔,
山口 翔,山下雅幸,澤田 均(静岡大・農),桒原 淳(環境アセスメント
センター)
Drought produces a large number of impacts that affects the social,
environmental, and economical standard of living in arid regions. Assessing
vulnerability for drought is crucial. Legacies of land use activities continue
to influence ecosystem structure and function for decades or centuries or
even longer after those activities ceased. Extreme climatic event affect
community assembly and evolution. We hypothesized that if there is long
history of one ecosystem, vulnerability is low for typical land use and
extreme climate (drought).
We compared the variation of NDVI at the places with different history
of landuse. Rainfed agriculture would be affected by drought strongly;
therefore we focus only on rainfed agricultural land in arid regions. Aridity
index was calculated to abstract the arid region (0.05 < AI < 0.65).
Precipitation and potential evapotranspiration data were from Climatic
Research Unit (CRU), University of East Anglia ver.3.10.01, 2012.
Anthropogenic biomes (Ellis et al., 2010) was served as the historical
landuse data from 1700s. A digital global map of irrigated areas (Siebert and
Döll., 2001) was served for avoiding the area of irrigation.
農地生態系は、種子食昆虫による雑草種子低減や土着天敵による
害虫抑制など、様々な生態系サービスを提供している。これらの有
用生物による生態系サービスの持続的利用のためには、景観スケー
ルでこれらの生物種を保全することが重要である。欧米の畑地にお
いては、農地の景観構造と有用生物種の関係についての研究が進展
しているが、水田におけるこれらの知見は少ない。農地の多くを水
田が占めるモンスーンアジア地域において、土着天敵等の有用生物
による生態系サービスを保全、活用していくためには、水田におけ
るこれらの発生量を決める景観要因を理解することが重要である。
そこで本研究では、水田における種子食昆虫(コオロギ類とゴミム
シ類)および土着天敵(コモリグモ類)の発生量と、周辺景観の関
係について調査を行った。
静岡県西部地域における周辺景観の異なる水田 38 圃場の畦畔に
おいて、2011 年 9 月下旬∼ 10 月上旬に、コオロギ類、種子食ゴミ
ムシ類およびコモリグモ類の発生量を粘着トラップにより調査した。
各水田の周辺半径 100 ∼ 500m 範囲の土地利用を調査し、これらの
生物の発生量と相関の高い土地利用を、重回帰分析により解析した。
コオロギ類、種子食ゴミムシ類およびコモリグモ類ともに、圃場周
辺半径 300m ∼ 500m 範囲における水田畦畔面積率が、これらの発生
量に正の影響を及ぼしていた。本研究より、水田畦畔の面積割合の
高い景観に位置する水田では、これらの種子食昆虫および土着天敵
の発生量が多いことが明らかとなり、これらによる雑草種子低減お
よび害虫抑制の生態系サービスを活用しやすいと考えられた。
277
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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環境アセスメント調査データを用いた配慮書段階におけ
エゾシカの分布拡大における積雪の影響 ー積雪モデル
る陸生脊椎動物重要種の生息可能性評価
より得られた積雪の時空間分布を用いた解析ー
* 阿部聖哉,松木吏弓(電中研・生物環境)
* 濱原和広,宇野裕之(道総研・環境科学研究センター)
・高田雅之(法政大)
平成 23 年に環境影響評価法が改正され、新たに計画段階配慮書の
作成が義務付けられた。計画段階配慮書の作成においては、原則と
して既存資料を用いた簡易な方法により、事業が及ぼす重大な環境
影響を予測する。動植物の項目においては国や県で指定されている
RDB 種などの重要種が予測の対象となるが、二次メッシュや市町村
単位など粗いスケールの分布情報が多く、数 ha 程度の開発事業では
空間スケールが整合しない。本研究では、① 図鑑などの種の生態情
報をもとに生息可能性の高い植生区分を推定する方法と、② 全国の
過去の環境アセスメント調査データから回帰モデルを作成して推定
する方法を用いて、対象地域(電中研我孫子地区構内約 17ha)にお
ける重要種の生息可能性を推定した。千葉県レッドデータブック等
の既存文献では、対象地周辺の重要種は哺乳類 2 種、鳥類 64 種、爬
虫類 5 種、両生類 4 種が記録されていた。まず、図鑑等の生態情報
と植生区分をもとに、各記録種の対象地における出現可能性を推定
した。その結果、哺乳類 2 種、鳥類 33 種、爬虫類 3 種、両生類 3 種
が出現可能性のある種と推定された。生態情報にもとづく方法では、
リストアップされた種の半数以上が生息ありと判定され、対象地域
で記録がないような種も多数含まれていた。次に、全国の過去の環
境アセスメント調査データをもとに、調査ルート周辺 0.5、1、2km
バッファ内の植生区分を説明変数としてロジスティック回帰モデル
を構築した。回帰モデルを用いて生息可能性を補正した結果、対象
地で出現可能性が高いと判定された重要種は、鳥類 5 種のみとなっ
た。既存の分布データよりも細かい空間スケールで重要種の影響予
測を行うためには、過去のアセスメント調査結果の活用が有効であ
ると考えられる。
積雪はエゾシカの行動を阻害し餌資源の利用可能量の低下をもた
らすことから、多雪地域はエゾシカの生息不適地とされていた。し
かし1990年代以降北海道西部の多雪地域に分布が拡大してきて
いる。その要因として生息数の増加による内的要因と、積雪量の減
少に伴う分布制限の緩和による外的要因が挙げられているが、その
プロセスについては明らかでない。
多雪地域へのエゾシカの分布拡大プロセスに対する積雪の影響を
評価するためには、積雪深とその継続期間の変化を空間的に把握し、
分布を制限する積雪条件について明らかにする必要がある。そこで
本研究では AMeDAS データを用いてメッシュ積雪モデルを構築し、
シミュレーションにより得られた積雪の時空間分布とエゾシカの狩
猟者情報を用いて積雪条件の評価を行った。
P2-143
P2-144
仙台湾岸域における東日本大震災被災前後の景観構造変
阿蘇外輪山における希少植物の残存個体群に内在する
化 -衛星リモートセンシングによる解析-
絶滅の負債:草原生植物 5 種を対象とした extinction
* 原慶太郎 ・趙憶・富田瑞樹(東京情報大・環境情報),平吹喜彦(東北
学院大学・地域構想),平泉秀樹(ラムサール・ネットワーク日本)
debt の検出
* 小柳知代(早稲田大),赤坂宗光(農工大),伊勢紀(地域環境計画),
小熊宏之(国環研)
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災時における大津波が、仙台平
野域に与えた景観スケールの影響について、衛星データ(SPOT-5
HRG-2: 2010/10/02,2011/11/02; GeoEye-1 : 2010/04/04,2011/03/24) 等
の解析結果をもとに明らかにし、当該地位の景観再生の方策に関し
て議論する。当該地域には、海側から内陸に向かって、浅海(外浜)、
前浜、後浜、砂丘、運河(貞山堀)、潟湖、後背湿地から水田などの
耕作地、住宅地などが成立していた。貞山堀の土塁には江戸時代か
らマツが植林され、その海岸側および内陸側に後代にマツの植林が
拡げられた。平野部の浜堤上に成立した農村地域には、いぐね(家
久根、居久根)と呼ばれる屋敷林が成立していた。被災地域では、
大津波は前浜では地面表層を攪乱するだけであったが、内陸側のク
ロマツやアカマツを主体とする海岸林は根返りや幹折れなどにより
多くが流出した。津波は防潮堤などで堰き止められ、震災から数日
から数週間にわたって池沼のような状況となった。屋敷林はスギの
高木が優占していたが、浸水した区域では葉が赤変し枯死した。そ
の結果、被災地域では、防潮林のマツ林が微高地の一部を除き消失し、
また、屋敷林でも針葉樹を中心に枯死が進んだ。被災前は長大なコ
リドーの役割を果たしていた海岸林は孤立化が進み、パッチのコア
面積も大きく減少した。かろうじて残存したマツ林や屋敷林などが
野生動植物の貴重な生息地となっており、今後の景観再生にあたっ
ては、モザイク構造の再構築と樹林地の連結性の保持などが重要な
課題として挙げられる。
希少植物の地域個体群を維持していくためには、現在の生育地を
重点的に保全していけばよいのか、それとも更なる生育地を再生す
る必要があるのかを適切に判断する必要がある。本研究では、阿蘇
地域の希少植物 5 種を対象として、生育地面積の減少と個体群分布
域の変化との間に存在するタイムラグ(絶滅の負債:extinction debt)
を検出することで、重点的な保全策をとるべきか、積極的な再生が
必要となるのかを種ごとに検討することを目的とした。半自然草原
に該当する荒地の面積は、1900 年代から 1950 年代にかけて対象地
域の約 70% を占めていたものの、1970 年代以降は約 35% に半減し
ていることが分かった。希少植物 5 種のうち、マツモトセンノウ、
ヒメユリ、ヒゴタイの 3 種は、1990 年代から 2000 年代にかけての
残存個体数が大規模な土地利用変化が起こる前の 1930 年代や 1950
年代の周辺の荒地面積と有意な正の関係性を示し、生育地が減少し
てから個体群が減少(消失)するまでに 50 年以上のタイムラグがあ
ることが示唆された。ヤツシロソウは変化後 1970 年代の荒地面積と
最も有意な関係性を示したのに対して、ハナシノブは、周辺の荒地
面積とは有意な関係性を示さなかった。タイムラグを示した 3 種に
ついては、現状の生育地を保全するのみでは、地域に残存する個体
群を維持することが困難だと考えられ、生育地を積極的に再生して
いくことが望まれる。一方、タイムラグが短かったヤツシロソウに
ついては、現在の生育地を重点的に保全すれば残存個体群を維持し
ていくことも可能であることが示唆された。
278
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-145
P2-146
植物の分布と土地利用:広域調査データを用いた分布解析
鳥類の生物多様性の評価と維持機構に関する研究
* 斎藤昌幸,倉島 治,伊藤元己(東大・総合文化)
鈴木透(酪農大・環境共生)
人間活動に起因する土地利用は生物の分布に影響していると考
えられる。本研究では、国土スケールにおける植物の分布に対する
土地利用の影響を調べた。植物の分布データとして、環境省による
第 6 回・第 7 回自然環境保全基礎調査における植生調査情報のうち
2000 年から 2008 年までにおこなわれた 10,221 地点の調査結果を利
用した。100 地点以上に出現した種を対象として、種ごとに分布モ
デルを構築した。目的変数には各調査地点における対象種の出現の
有無(1/0)を用いた。分布を説明する環境要因には、
土地利用要因(荒
地率、水田率、水田以外の農地率、都市率、二次林率、植林率)、気
候要因(温量化指数、最低気温、夏季降水量、冬季降水量)、および
地形・地質要因(地形区分、地質年代、表層地質、黒ボク土率、河
川の有無)を用いた。また、各環境要因の相対的な重要性(その要
因によって説明される deviance の割合)を算出した。
合計 405 種を解析した結果、気候要因の重要性が平均 45% で最も
高く、次いで土地利用要因の平均 32%、地形・地質要因の平均 23%
であった。土地利用要因のカテゴリー別に重要性を比較すると、二
次林と植林の重要性が他の土地利用より高かった。土地利用は日本
に広くみられる植物の分布に対して、少なくない影響を与えている
ことが示唆された。その中でも、二次林や植林は相対的に大きな影
響を与えていると考えられる。
野生生物との共生を含めた生物多様性の保全を実現するための社
会的枠組みにおいて、生物多様性を質的・面的に評価することが重
要である。また、ある地域における生物多様性の保全対策には1ヶ
所の生物多様性を保全するだけではなく、地域全体の生物多様性の
維持機構を解明し、地域全体の生物多様性を保全することが重要で
ある。生物多様性の尺度は様々な解釈があり、種の豊かさ、絶滅危
惧種、地域固有種などが主な指標となっており、様々な観点での保
全対策が必要であると報告している。また、生物多様性の定量的評
価は対象とする地理的大きさによって、ある 1 つの生態系の多様性
の示すα多様性、ある地域の多様性を示すγ多様性、地域内の複数
の生態系の多様性を示すβ多様性に分けられる。このようにある地
域の生物多様性を保全するためには、ある 1 つの指標・地理的範囲
で示された生物多様性の高い地域だけを保全するのではなく、様々
な指標・地理的範囲で生物多様性を多面的に評価し、その関連性や
階層性といった生物多様性の維持機構を明らかにすることが重要で
ある。
そこで本研究では、北海道江別市において、森林における指標生
物である鳥類を対象として、生物多様性の階層性や関連性、生物多
様性と景観との関連性を評価することで、森林を利用する鳥類の生
物多様性の維持機構を解明することを目的とした。具体的には森林
パッチの景観構造の定量化、鳥類の多様性の把握、生物多様性の階
層性と景観との関連性の分析を行い、鳥類の生物多様性維持機構を
考察した。
P2-147
P2-148
東シベリアにおける湿潤化による永久凍土荒廃とカラマ
地理的に偏った市民データを用いた鳥類の広域分布予測
ツ林変化
* 比嘉基紀(北大・院・農),山浦悠一(北大・農),小泉逸郎(北大・創
成),小野理(道総研・環境研),中村太士(北大・農)
* 飯島慈裕(海洋研究開発機構),A.N. フェドロフ(永久凍土研究所),
阿部このみ,伊勢紀,増澤直((株)地域環境計画)
市民による生物分布調査データは、マクロ生態学分野において重
要なデータソースとなりつつある。しかし、市民による調査は一般
に地理的に偏って行われる。人口の多い地域では同一地点で複数回
の調査が行われるが、人口の少ない山地では調査地点・回数ともに
限られている。この調査データの地理的偏りは、生物分布を推定す
る際に大きなバイアスを生じさせうる。
本研究では、鳥類を対象に観察プロセスを考慮した分布予測モデ
ルを構築し、調査努力量の地理的偏りの補正の重要性について検討
した。分布予測モデルには、生態的プロセス・観察プロセスを区別
した階層ベイズモデルを用いた。北海道立総合研究機構環境科学研
究センターの野生生物分布データベース(鳥類)より抽出した、森
林及び湿地性の一般鳥類 100 種のデータを使用してモデルを構築し
た。データベースの約 4 割は市民による観察データで、調査地点・
回数ともに札幌や小樽、帯広などの人工集中地区に多く偏っていた。
生態的プロセス ( 鳥類分布 ) の説明変数には、森林・草地・湿地の面
積と夏期平均気温、標高を使用した。観察プロセスでは、調査努力
量の指標として、1 回の調査の観察種数を元に区分された各調査時
の調査方法(ポイントセンサス,ラインセンサス,その他)と調査
者(市民,その他)を用いた。また、調査努力量を考慮しない従来
のモデルで分布予測を行い、モデル間・種間で結果を比較した。発
表では、調査精度と調査回数を考慮したことによるデータの地理的
偏りの補正効果について議論する。
永久凍土が広く分布する東シベリアでは、2004 年冬以降、冬季の
積雪と夏季の降水が大きく増加する湿潤的な気候が継続し、永久凍
土表層の融解を伴い活動層内の土壌水分が大幅に増加した。この土
壌湿潤化は、カラマツからなる北方林の生育環境を悪化させ、広域
的に森林の荒廃が進行した。本研究では、ヤクーツク近郊のレナ川
右岸・左岸での衛星データ解析に基づき、湿潤化による水域の拡大
状況と、それによる永久凍土・活動層変化を伴う北方林変化域の抽
出を試みた。
2006 ∼ 2009 年の夏季の ALOS- PALSAR 画像から、ジオコーディ
ングとノイズ軽減の平滑化処理を行った後、マイクロ波の後方散乱
係数の閾値から水域の教師付分類を行い、複数年度の水域分布の変
化を抽出した。また、同期間の ALOS-AVNIR2 画像から、草原と北
方林の教師付分類を行い、同様に複数年度の北方林の変化を抽出し
た。
レナ川左岸は、地下氷が少ない砂質ロームからなる河岸段丘上に
北方林が広がっており、凍土融解に伴うアラス湖沼は少ない。この
地域では、2006 ∼ 2009 年にかけて段丘を刻む谷筋に沿って水域が
拡大し、その谷筋に森林の変化域が抽出された。一方、レナ川右岸
は、凍土氷を多く含む平地が広がり、アラス湖沼の密度が非常に高い。
そこでは、同期間にアラス湖沼の面積が拡大し、湖沼の周囲を囲む
ように、森林の変化域が広がる様子が抽出された。これは、左岸で
は谷や地形的に平坦になった地域のカラマツが選択的に枯死し、右
岸ではアラスの拡大と共に縁辺部のカラマツが倒伏、枯死していた
現地の観察結果ともよく一致していた。以上から、ALOS 衛星デー
タによる、水域・森林変化域を抽出し複合させる手法によって、湿
潤化が永久凍土、森林荒廃をもたらす一連の現象を広域的に捉えら
れる可能性が確認された。
279
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-149
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過去の写真で探る高山植生の変化
黒尊川流域におけるテナガエビ 2 種の動態ー重要文化的
* 下野綾子(筑波大・遺伝子セ),小熊宏之(環境研),米康充(島根大)
景観のなかで
近年、世界各地の高山帯で植物群集の変化が報告されるようにな
った。これらの変化は過去の記録があるからこそ検出できるのであ
り、多くの高山地域では変化の有無を判断する科学的な調査が不足
している。この不足を補えるのは、唯一過去に撮影された写真であり、
写真は調査記録に代わる客観的な記録となりえる。そこで、発表者
らは公益社団法人日本山岳会やマスメディアとの協働で、撮影年月
日の分かる山岳写真を収集し、データベース(http://mountain-photo.
org/)を作成してきた。本研究では、これら過去の写真を活用した植
生変化の解析手法を確立することを目的に、過去と現在の写真比較
から植生変化の定量化を試みた。
収集された写真のうち、木曽駒ヶ岳の風衝草原と八甲田毛無岱の
湿原で 38-39 年前に撮影された写真を例に紹介する。これらの写真
と同じものを撮り直し、新旧の写真画像上で、同一地点と思われる
基準点を複数選定した。この基準点をもとに、新写真に過去写真を
投影する幾何補正を行い、植生の変化しているピクセルを抽出した。
新写真については、カメラのレンズ校正パラメーターおよび数値標
高モデルに基づいて正射投影画像を作成し、変化部分の割合を算出
した。
地上写真に基づいた植生の定量化が確立できれば、環境の時系列
変化の評価において、昔の記録が限られているボトルネックを解消
できる。なお新旧写真の重ね合わせにおいて、レンズの歪みの違い
や撮影地点のずれに起因する誤差が生じるので、詳細な定量化には
それらの誤差を極力抑えるような手法の検討が必要であろう。
* 山下慎吾(魚山研),川村慎也(四万十市教委),田辺義武(しまんと黒
尊むら)
2009 年 2 月,文化庁により四万十川流域(5市町村を含む)が重
要文化的景観として選定された.文化的景観とは「地域における人々
の生活または生業および当該地域の風土により形成された景観地で
我が国民の生活または生業の理解のため欠くことのできないもの (
文化財保護法第二条第一項第五号 )」と規定されているものである.
今回の検討対象地である黒尊川は,流路延長約 34km の河川で,
四万十川の河口から約 32km 地点に合流している.また,四万十川
流域のなかで最も透明度が高い河川であり,重要文化的景観選定区
域のなかでも重点地域に該当する.今回,景観の保全活用を検討す
る過程で,目の前の川でテナガエビなどを採って食べることができ
る状態こそが文化的景観の本質的価値を表象するものであるという
整理がなされ,同時に黒尊川が質の高い学びの場として活用される
ことも期待されている.
そこで,黒尊川流域において,テナガエビ類 2 種に関する基礎情
報の収集と,学びの場としての可能性を探ることを目的として,流
域の方々や興味ある方々,研究者などが一緒になって調査を開始す
ることとした.調査は,2012 年 5 月から 12 月まで月 1 回,黒尊川
の 3 地点において,小型定置網を用いた定量調査を行った.調査の
結果,3 地点間でヒラテテナガエビとミナミテナガエビの出現状況
がまったく異なること,個体数や性比などに明瞭な季節変化がみら
れることなどがわかってきた.また,テナガエビ類の種類やサイズ
によって料理の使い分けがされていること,あるタイミングで大量
に出現する個体群が”ナガセエビ”という名でよばれていることな
ども知ることができた.本発表では,テナガエビ 2 種の出現状況に
あわせて,一緒にフィールド調査にはいることで生じる楽しさにつ
いてもお伝えしたい.
P2-151
P2-152
カンボジアにおける森林減少の要因と歴史
北海道沿岸におけるコンブ藻場の長期変動
* 辻野亮(京都大・霊長研),加治佐剛(九州大・農),湯本貴和(京都大・
霊長研)
* 渡辺健太郎(北大・厚岸),四ツ倉典滋(北大・FSC),仲岡雅裕(北大・
厚岸)
カンボジアでは、1970 年ごろから厳しい森林減少・劣化が起こっ
ている.カンボジアにおける森林消失の歴史を再構築するために,
カンボジアの森林被覆変化とその駆動原因に関連する林業や農業,
人口,土地利用パターン,社会経済状況などの文献と統計情報を調
査した.
1960 年代にはカンボジアの 70%以上が常緑 / 落葉樹林などの森林
に覆われていた.しかし森林面積は,1960 年代初頭に 13.3Mha(国
の面積の 73.3%)から,1973 年の 12.7Mha(70.2%),1992 年には
11.2Mha(62.7%),2006 年の 9.8Mha(54.1%)にまで減少した.そ
のほとんどはおそらく人間の活動によって引き起こされたものと考
えられる.2000 年代の森林破壊の速度は 1990 年代に比べて遅くな
ったが,常緑樹林カテゴリの分布面積減少状況から判断して,森林
劣化は国全体で進行中である.
森林消失の主な直接原因は,1)森林伐採:大規模なコンセッシ
ョンから家族ぐるみの伐採まで,2)農業の拡大,が挙げられる.そ
の他にも,3)戦争,4)人口増加と人口の移動,5)木材や農産
物の国際・国内需要,6)その他(汚職,政策の失敗,経済成長など)
は,間接要因として挙げられる.森林消失の要因は,歴史を通じて
複雑な要因によって構成されてた.
50 年間のカンボジアの森林減少の歴史は 4 つのステージに分けら
れた.1)1960 年代:顕著な消失は起こっていない,2)1970 ∼
1993 年:政治的不安定性とゆるやかな森林消失の段階,3)1990 年
代:戦後復興と国際需要に後押しされた急速な森林減少の段階,4)
2000 年代:ゆるやかな森林減少と急速な農地拡大の段階.
コンブ藻場を含む海藻藻場、アマモ場やサンゴ礁に代表される沿
岸底生生態系は多様な生物の生息場所になると共に、生物生産性等
の生態系機能も高いことが知られている。しかし近年、水温の上昇
が主要因と考えられる磯焼けや白化などにより、その面積が著しく
減少し、それに伴う生物多様性や生態系機能の低下が懸念されてい
る。そのため、これら沿岸生態系の長期変動を把握し、その変動に
対し有効な対策を立てることが急務となっている。本研究では 1970
年代から 2000 年代にかけて行われた環境省による第 2、4、5 回海
域自然環境保全基礎調査および北海道庁による 2 回の漁場調査を元
に、北海道沿岸におけるコンブ類の種多様性とコンブ藻場の面積変
動の解析を行った。沿岸の市町村間でコンブ類の出現種の違いをも
とに類似度解析を行った結果、北海道沿岸では道東太平洋岸、日高
∼噴火湾、渡島∼石狩、石狩∼道北∼オホーツクの 4 つのグループ
に大きく分けられ、特に道東太平洋岸のグループは種多様性が他の
グループよりも高いことが判明した。面積の変動については、調査
主体者が同一の調査に関して比較を行ったところ、多くの地域でコ
ンブ藻場の面積が減少しており、特に道南地域においてその減少が
著しかった。コンブ類の現存量の変動には、初期生活史における水
温の変化が影響を与えることが知られているが、本講演では、独立
行政法人海洋研究開発機構による海洋生物のデータベース BISMaL
に登録されている上記のデータを含むコンブ類出現データを元に、
北海道全域におけるコンブ類の経年変動が、水温および他の環境要
因にどのように関連しているかを検討する。
280
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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水生植物の生育適地とその地理的分布
植生図データから見る北海道の「すぐれた自然地域」の
渡邉園子(広島大・国際協力)
要素の分布とギャップ分析
本研究では、東広島市の西条盆地に多く分布するため池の生態系
の特性を明らかにすることを目的とし、水生植物の生息地としての
ため池の地理的分布構造の評価と、水生植物と各種環境要因の関係、
生息適地について分析を行う。ため池のような地域に点在する生育
地では、その地理的分布パターンや生育地間のネットワークの重要
性は認識されているものの、地域スケールでの具体的保全方法は明
らかになっていない。また、地理的分布構造や生息に適した環境に
関する情報は、保全計画において重要な資料となる。水生植物の生
息地としてのため池の分布構造の分析については、Riplay の K 関数、
水生植物の生息地の環境要因の分析には Maxent を使用する。ため池
の分布構造の解析では、西条盆地のため池は 500m 程度の集中斑を
形成していることを明らかにした。また、水生植物の種の出現傾向
で分けた4つのため池タイプのそれぞれの分布相関を分析、外来種
が出現するため池は多様性が高いため池とは排他的分布をしている
ことなどを明らかにした。水生植物の生息地の解析では、環境変数
として、標高データから算出される環境要因や周辺の土地利用状況、
ため池の形状指数などを変数として使用し、水生植物の分布を規定
する要因の解明と、生育適地モデルの作成を試みた。そして、種毎
に作成した生育適地モデルの変数の比較を行い、それぞれの種の生
態的特性と合わせて空間分布が水生植物の存続に与える影響を考察
する。さらに、生育適地における各種の分布、他の生育適地との分
布構造の相関関係、絶滅危惧種と外来種などの分布、生息適地条件
に着目して、ため池の保全について議論を行う。
* 小野 理(道総研・環境研),三島啓雄(北大院・農),北川理恵(酪農大・
農食環),高田雅之(法政大・人環)
「すぐれた自然地域」は、「北海道自然環境保全指針」(1989北
海道策定)の中で「自然を構成する要素である植物、動物、地形・
地質、景観等の規模や資質に着目すると、その原始性、稀少性、学
術性、景観美等において、他の地域より比較的秀でている自然の地
域」と位置づけられ、全道166か所(73種類821のすぐれた
自然の要素)が抽出された。だが、すぐれた自然地域(以下、地域)
のエリアが特定されていないため、各種分析が困難という課題があ
った。
そこで、植物に関する要素が抽出された地域を対象に、2万5千
分の1現存植生図から要素に該当する群落を選定して地域の要素の
分布を把握するとともに、ギャップ分析を行い地域の法的な保護状
況やその傾向を明らかにすることを目的とした。
研究対象地は、当該植生図が整備済みの北海道東部に位置し、植
物要素(1:森林、2:高山植生、3:湿原、4:海岸植生、5:
分布上重要な植物生育地、6:自然草原の6種類)が含まれる37
か所の地域である。複数の植物要素を持つ地域があり37か所の植
物要素は計64となる。当該地域の周辺の植生図に群落レベルで該
当するものが無かったものを除くと、36か所59要素で群落を選
定し植生図上の広がりが確認でき、要素の分布を把握できた。
ギャップ分析では、自然公園と自然環境保全地域を対象の保護区
とした。保護区への指定状況を要素別に「A:群落のほぼ全体また
は多くが指定、B:群落の一部のみが指定、C:保護区の指定が無
い」の3段階に区分すると、Cの比率は植物要素3で高く、同6、1、
5で低い、保護区の指定がある(AまたはB)場合のAの比率では
同2と5で高く、1で低いなどの傾向が明らかとなった。
P2-155
P2-156
「森は海の恋人」か?:厚岸湖における集水域の土地利用
景観構造がカヤネズミの生息率におよぼす影響
変化とプランクトン群集(予報)
* 澤邊久美子(琵琶湖博物館,名古屋大学大学院),夏原由博(名古屋大
学大学院)
鎌内宏光(北大・厚岸)
カヤネズミの移動性や営巣特性から、本種の生息率は多様な草地
が連続する景観構造が大きく影響すると考えられる。そこで本種の
生息に及ぼす地形及び土地利用の影響を探るため、パッチ状に分布
する草地において、営巣の有無と周辺環境の調査を 2006 年 7 ∼ 8 月
に行った。大阪府堺市の南部丘陵から海側に開ける平野部にかけた
約 12㎞の範囲で 3㎞四方の区画を取り、4 調査区に分けた。各調査
区で 10 カ所以上の草地を選定して、合計 47 調査地点を設けた。草
地の選定は 1/2500 の地形図および現地調査により、一辺 20 m以上
の広がりを持つイネ科草本群落がみられる場所とした。また一つの
植物群落または分断のない草地をパッチとしてとらえた。本種の営
巣の有無と調査地点の草地環境としてパッチ面積、パッチの土地利
用、植物高(営巣植物種のうち群落内の最も高い植物)、草刈の有無
を記録した。調査の結果 47 ヶ所のうち 14 ヶ所で本種の巣が確認さ
れた。4 つの調査区ごとに見ると南部丘陵側が最も多い 8 地点、海
側の平野部では 0 地点であった。また、調査地点のパッチ内全体お
よび、営巣があった場合は巣の周辺で、無かった場合は群落の中で
優占している植物周辺で 1 mコドラートを取り、植生の出現種と被
覆率を記録した。出現種数は 60 種で、最も多く出現したのはスス
キとセイタカアワダチソウであった。営巣に使われた植物種は多年
生草本の 6 種であった。さらに、カヤネズミの生息率に対する周辺
環境の影響を明らかにするため、景観スケールでの環境を用いて
解析を行った。「堺市における緑の現況調査 2001」を利用し堺市内
の土地利用を緑被データから抽出した。それを用いて GIS ソフト
(ArcViewVer.10/ESRI 社 ) で調査地点から複数の半径のバッファを発
生させ、そのバッファ内の土地利用ごとの面積を算出し、それぞれ
の影響を GLMM を使って解析を行った。
陸域と水域の様々な相互作用のなかでも森林と海域との関係性の
解明は、海に囲まれ国土の大部分が森林に覆われる我が国では主要
な研究課題の一つである。「森は海の恋人」等の標語としてその重要
性は広く認識されているが、実証的データは少ない。
生態系操作としての集水域の森林伐採・再生は、伐採と再生が林
分単位で徐々に起る場合には集水域全体では森林の増減はほとんど
無く、従って経時的な水域の反応から土地利用改変の効果を検出す
ることは難しい。しかし北海道では 1) 陸域の人為的改変が殆ど無い
明治以前、2) 大規模な森林伐採を伴う昭和 30 年代頃までの開拓、3)
現在に至る植林事業による森林の回復過程、という経過を辿ってい
る。また近代政府が主導したので開拓当初からの地図や各種統計資
料が利用出来る可能性がある。従って明治以降の集水域における土
地利用改変と水域の経時変化の対比によって集水域の土地利用改変
に対する水域生態系の反応を解明することが可能と思われる。本研
究では道東の別寒辺牛川とその河口湖である厚岸湖及びその集水域
の長期変化を明らかにするための予備調査を行った。
明治 30 年以降の旧版地形図によれば 1940 年代に農耕地が拡大し
たが、林業統計の単位である町村の境界と集水域界が一致しないの
で森林資源量変化の復元は困難と思われた。1984 年以降の流入河川
水質では有機物負荷が漸減した。1978 年以降の厚岸湖の水質は COD
が現在までに約 2 倍になる一方で塩分は低下していた。浮遊珪藻の
種組成は 1948 年と 2003 年の調査で共に出現したのは 7 分類群で、
これは前者の 47%、後者の 5% に相当したが、出現種数が大きく異
なっており分類精度の影響が示唆された。本研究では集水域の変化
は部分的に再現可能だが、水域ではデータが不十分なことが明らか
となった。厚岸湖は閉鎖的汽水湖なので堆積物の解析により水域の
変遷を復元可能と思われた。
281
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-157
P2-158
湖沼堆積物の花粉組成は何を反映しているか?琵琶湖、
森林火災跡地に残された微粒炭等炭化物についての基礎
立山みくりが池、木崎湖における植生-花粉組成の比較
的研究 (2)
と定量的植生復元手法の検討
京都精華大・人文
* 林 竜馬(琵琶湖博物館),高原 光,佐々木尚子(京都府大・生命環
境),兵藤不二夫(岡山大・異分野コア),槻木玲美,加 三千宣(愛媛大・
SRFC),牧野 渡,占部城太郎(東北大・生命)
土壌や泥炭に含まれる微粒炭などの炭化物は,過去の植生や植生
に火が入った履歴を知る重要な手がかりとなるものではあるが,そ
の基礎研究は,まだかなり不十分な段階にある。そのため,たとえ
ば微粒炭が森林火災由来か,あるいは野焼き由来かさえも,まだ容
易にわからない状況にある。本研究は,森林火災から間もない場所
の観察とそこで採取した試料の分析により,森林火災跡地の微粒炭
等炭化物について考察したものである。
調査地は,2012 年 10 月 15 日に森林火災が発生した広島県三原市
深町の森林火災跡地である。2012 年 10 月 20 日にその森林火災から
間もない現場の様子を観察するとともに,微粒炭等炭化物が多く含
まれた地表部の試料を 10 箇所で採取した。それらの試料は,乾重約
0.3 gを常温の室内で水酸化カリウム溶液 (10%・48 時間),過酸化
水素(6%・12 時間)で処理することを中心にして微粒炭等炭化物
を抽出した。抽出した微粒炭等炭化物は,それぞれ1mm,500µm,
250µm,125µm のメッシュの篩を用いて篩分けし,それら4種の篩
に残ったものの量を測定するとともに,プレパラートを作成した。
そのうち,炭化物の表面形態を主に観察したのは 125µm のメッシュ
の篩に残ったもの(125 − 250µm クラス)で,その観察は落射顕微
鏡を用いて主に 400 倍の倍率で観察し,意図的にならないよう順次
100 個の微粒炭を8つタイプと「その他」に分類した。
本研究により,たとえば,微粒炭のタイプ分類のみで,微粒炭が
森林火災由来のものか草原が燃えたことによるものかを判断するこ
とが容易ではないことの理由について考えることができた。また,
森林火災跡地の方が野焼き跡地に比べ,圧倒的に微粒炭等炭化物の
量が多く,またサイズの大きな炭化物の割合が大きいことなどが確
認できた。なお,調査地における炭化物の量の多さは,森林の腐植
層も燃えていることが大きな要因と考えられる。
湖沼堆積物中に含まれる生物遺骸や生物・環境由来の化学物質の
変化を基にしたレトロスペクティブ型モニタリング手法とあわせ、
堆積物中の花粉組成を分析することにより、湖沼生態系に対する周
辺植生変化の影響について明らかにすることが可能である。しかし
堆積物中の花粉組成は、分類群毎に花粉の生産性や飛散性が異なっ
ていることにより、周辺の植生割合を直接的に示すものではない。
本研究では、日本における湖沼堆積物中の花粉組成が反映する植生
の割合についての検討を行った。まず、湖沼堆積物によるレトロス
ペクティブ型モニタリングが検討されている、立山みくりが池と木
崎湖、さらに北海道の 4 湖沼における花粉組成と周辺植生量との比
較を行った。その結果、堆積物中の花粉組成は、特に平地湖沼にお
いて、環境省の自然環境情報 GIS データに基づく各湖沼の集水域内
の植生割合の特徴を反映したものであった。しかし、花粉の生産性
や飛散性の違いにより、花粉組成と周辺植生量の割合には差異が認
められた。そこで、湖沼堆積物中の花粉組成による周辺植生量の定
量的復元手法を検討するため、近年ヨーロッパを中心に研究が進め
られている花粉飛散モデルを基にした REVEALS モデルの琵琶湖堆
積物への適用を試みた。実際の花粉組成ではスギ花粉が植生量と比
べて過大に評価されていたが、花粉生産量の実測値と花粉落下速度
に基づく REVEALS モデルを用いた植生量の推定値は、周辺植生量
とよく対応した結果となった。このことは、この定量的復元手法の
日本での応用の可能性を示している。
P2-159
P2-160
高山帯植生を対象とした国立環境研究所温暖化影響モニ
都市公園のチョウ相に対する緑地周辺の環境要因の影響
タリングの紹介
* 今藤夏子(国環研・生物),伊藤洋(総研大),竹中明夫(国環研・生物)
* 小熊宏之(国環研),井手玲子(国環研)
公園などの都市緑地は、都市生態系において大きな役割を果たし
ていることが予想され、生物多様性に十分に配慮した方法で管理す
ることは重要であると考えられる。本研究は、生態情報が充実して
いて観察しやすく、生活史を通して植物を利用するチョウに着目し、
その多様性に影響を与える緑地およびその周辺の環境要因の関係を
解明することを目的とした。
調査地は、東京都心のおよそ 9km 四方内に位置する大型緑地 8 箇
所(代々木公園、新宿御苑など、7 − 124 ha)および、その周辺の
小型緑地 10 箇所(0.2 − 2.7 ha)とした。大型緑地については 2009
年春から、小型緑地については 2010 年春から 2011 年にかけて決ま
ったルートを歩き、遭遇したチョウの種と個体数を記録した。また、
各緑地およびその周辺の環境要因として、緑地の全体面積、植物被
覆率、植生、食草の有無、緑地間距離、等を調査した。得られた種
数および種多様度を目的変数、緑地の面積や植物被覆率などの環境
要因を説明変数とし、統計モデルを構築して解析した。
その結果、観察されたチョウの総種数は 37 種で、全緑地で観察
されたのはアオスジアゲハ、アゲハ、ヤマトシジミであった。森林
性の種を多く含むタテハチョウ科、ジャノメチョウ科は、全体的に
観察数が少なかった。また、大型緑地の方が、小型緑地よりも種数
や個体数が多い傾向にあったものの、大型緑地、小型緑地同士での
比較については、種数や多様度は面積と有意な相関関係は見られな
かった。小型緑地では、総種数および森林性種の種数に対し、各緑
地の周辺 500m 以内にある 1ha 以上の緑地数が、有意に影響を与え
ていた。このことから、近隣緑地同士がネットワーク化することで、
緑地のチョウの多様性を高めている可能性が示唆された。
高山植物など極めて厳しい条件に生息する高山帯の生態系は、地
球温暖化に対して最も影響を受けやすい生態系の一つとしてモニタ
リングの必要性が指摘されている。植生の活動期間や季節変化(フ
ェノロジー)を始め、長期的な植生分布の変化を広域かつ多点で地
上調査するのは大変な労力が伴うことから、デジタルカメラを観測
点に固定し任意の頻度で撮影を繰り返す、いわゆる定点撮影が観測
手段の一つとして期待されている。このような背景から国立環境研
究所地球環境研究センターでは日本国内の高山帯を対象とし、積雪・
融雪時期や植物の活動を多点で把握することを目的として、市販の
デジタルカメラを山小屋などに常設した定点撮影によるモニタリン
グを開始した。
現在北アルプス4サイト(立山、槍ヶ岳、西岳、蝶ヶ岳)、中央ア
ルプス木曽駒ヶ岳 ( 極楽平 )、利尻岳に常設撮影点を設けた。詳細な
植生フェノロジーの観測にはデジタル一眼レフカメラを用い、山小
屋の営業期間中は1時間おきに RAW と JPEG 画像を同時に撮影する
ほか、槍ヶ岳、蝶ヶ岳サイトには− 40℃までを動作保証範囲とする
監視カメラを用い、冬季間も撮影を継続している。撮影画像はカメ
ラの内部標定と撮影対象の標高データに基づく正射投影を行い、撮
影画像と地形図の重ね合わせを実現させることにより、積雪範囲や
植生群落の面積や標高値を求められるようにしているほか、画素毎
に格納されている RGB 三原色のカウント値を用いた演算処理によ
り植生の展葉時期や紅葉時期を面的に把握することを目指している。
本モニタリングで得られたデータは HP で公開を予定しているほか、
今後さらに観測点を増やし、山岳情報の面的な収集と蓄積を行う予
定である。
282
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-161
P2-162
夏期の都市気候が緑化樹木の光合成・炭素安定同位体比
都市林・熱田神宮林の植生の約 40 年後の変化
に及ぼす影響
* 橋本啓史,今川公揮,都築芽伊(名城大・農),長谷川泰洋(名大・エ
コトピア),滝川正子(なごや生物多様性保全活動協議会)
半場祐子(京都工繊大),籠谷優一(京都工繊大),田中久美子(京都工繊大)
名古屋市街地の都市林・熱田神宮林における前回総合調査(1973
年)時からの森林の構造の変化と植生の遷移を把握することを目的
に 2012 年 9 月に 15 の調査枠で毎木調査と植物社会学的植生調査を
実施した.前回の植生調査時には,その前年の 9 月の台風によって
風倒孔のある林分やそれに伴う林床の光環境の改善によって林縁種
や路傍雑草が繁茂する植生が生じていた.
名古屋周辺の本来の海岸部の極相林はタブノキ−イノデ群集であ
るが,丘陵上などのやや乾燥した立地上では,クスノキ−ベニシダ
群集,クロガネモチ−ジャノヒゲ群集,アラカシ−ナガバジャノヒ
ゲ群集を経て,スダジイ−ヤブコウジ群集が極相林となると考えら
れる.しかし,前回調査時にタブノキ−イノデ群集に区分されてい
た調査枠からはタブノキ−イノデ群集標徴種及び区分種が衰退し,
代わりに低木層にはシイが見られている.
前回調査時にケヤキ自然林と区分された群落でも照葉樹林の構成
種が進出してきており,クスノキ−ベニシダ群集あるいはクロガネ
モチ−ジャノヒゲ群集を経て,やがてスダジイ−ヤブコウジ群集へ
向かって遷移すると予想される.
前回調査時に代償植生のムクノキ群落に区分された調査枠や風倒
孔のあった調査枠では,光を必要とする草本種や林縁種のほとんど
が消えていく傾向にあった.一部はタブノキ−イノデ群集に遷移す
る可能性があるが,多くは高木層にはクスノキが存在し,土壌水分
もやや低いため,まずはクスノキ−ベニシダ群集へと遷移すると考
えられる.
多くの調査枠でスダジイ−ヤブコウジ群集へ向かって遷移すること
が予測されたことは,神宮林の乾燥化を示唆していると考えられる.
都市域の緑化樹木の光合成は、大気汚染やヒートアイランドなど
都市特有の環境の影響を受けている。近年日本の都市域では大気汚
染対策が進み、京都市においては二酸化窒素などの大気汚染物質の
大気中における濃度は漸減あるいは横ばい傾向にある。これに対し
てヒートアイランド化はますます顕著になっており、特に夏期の太
平洋側において、梅雨明け後の晴天がもたらす著しい高温と小雨に
よる影響を強めている可能性がある。本研究では京都市を調査地と
し、梅雨明け後の都市域と郊外、および梅雨期と梅雨明け後の緑化
樹木の炭素安定同位体比およびガス交換測定の結果を比較すること
により、1)夏の都市域における緑化樹木の光合成機能、2)緑化
樹木の光合成機能に対する高温・乾燥の影響 を調べるための調査
を行った。ソメイヨシノの街路樹を用いた調査では、8 月∼ 9 月に
は郊外よりも都市域の方が高温で土壌・大気ともに乾燥傾向にあっ
た。また、郊外と都市域の葉の炭素安定同位体比は顕著に異なって
おり、大気中 CO2 の同位体比ではなく同位体分別が強く影響してい
ることが示された。都市域の方が炭素安定同位体分別は小さく、光
合成速度・気孔コンダクタンスは低かったことから、都市域の高温・
乾燥が長期的な水利用効率の増加をもたらしていること、また気孔
の閉鎖が光合成速度を減少させたことが示された。またトウカエデ、
イチョウ、ソメイヨシノの街路樹ではいずれも、梅雨明け後に光合
成速度・気孔コンダクタンスが共に低下していたことから、梅雨明
け後の光合成速度の減少には気孔の閉鎖が強く影響していることが
示唆された。
P2-163
P2-164
都市環境下での乾燥ストレスに対する街路樹ツツジの光
β多様性評価の都市緑地計画への応用~ turnover vs
合成・成長応答
nestedness ~
* 高田真之(京都工芸繊維大学),半場祐子(京都工芸繊維大学)
* 相澤章仁(横国大院・環境情報),梅木清,小林達明(千葉大院・園芸学)
近年、都市の高温化が進行し人間の活動に支障をきたすとして危
惧されている。この対策として都市では壁面、屋上緑化や街路樹の
設置などの都市緑化による CO2 吸収効果と蒸散による冷却効果を
期待した活動が盛んに行なわれている。しかし、都市部の植物は特
に成育空間や栄養面で制限がかかっており、夏の間、強光や乾燥ス
トレスにさらされる環境で成育することを強いられている。特に乾
燥ストレスは気孔を閉鎖させる要因となるため、CO2 吸収が低下
し、光合成速度の減少を引き起こすことが分かっている。乾燥スト
レスは植物の生育に大きい負荷をかけ、街路樹を設ける意義のひと
つである CO2 の吸収や蒸散冷却効果にも影響し、温暖化の軽減に
寄与するといった望ましい効果が得られない可能性がある。このよ
うな悪環境下における都市の植物の光合成や生育が、乾燥ストレス
によってどのように影響されているかを調べるために、日本におけ
る低木の街路樹の種類では最も多く植えられているツツジ類のヒラ
ドツツジ(Rhododendron × pulchrum)を用いて実験を行った。樹
高約 40cm のヒラドツツジを 1.8L のポットに植え温室内で育て、毎
日 1 回潅水を行ったものと 2 日ごとに 1 回潅水を行ったものに分け、
2012 年 8 月から 11 月まで栽培した。それぞれの条件から 3 個体ず
つ選び、月ごとの樹高、幹の太さと枝の長さを測定し、基部から 8
∼ 9 枚目の十分に展開した 1 枚の葉を選び Li-6400 を用いて光 - 光合
成曲線と A-Ci カーブを得た。特に高温や強光が見られた 9 月におい
ては、樹高の成長率や光合成曲線から得られた最大光合成速度等の
パラメータの低下が、毎日潅水した個体に比べ 2 日ごとに 1 回潅水
した個体に見られたが、10 月には乾燥頻度が成長や光合成パラメー
タに与える影響は顕著ではなかった。
本研究では種多様性の評価、特にβ多様性の評価を都市緑地計画
に応用する手法を提案する。β多様性は群集間の種組成の違いを表
すが、これは群集ごとに出現する種が入れ替わる turnover と種数の
違いに起因する nestedness(入れ子構造)の二つの要素に分けるこ
とができる。このことを用いると、ある地域における種構成のパタ
ーンは①β多様性が低い、② turnover によってβ多様性が高い、③
nestedness によってβ多様性が高い、の 3 つのパターンに分かれ、そ
れぞれのパターンに対応して①ハビタットの量に関する保全策を考
案する、②様々な環境を含む複数のハビタットを総合的に保全する、
③種数の最も多いハビタットを集中的に保全する、という種多様性
保全に向けた緑地計画の指針が得られる。
本研究ではこの評価法を用いて千葉県松戸市で行われている市民
参加による鳥類センサスデータの解析を行った。センサスが行われ
ている 1km メッシュを最小単位とし、松戸市みどりの基本計画を基
に 11 地区、3 地域を上位スケールとして設定した。メッシュ間、地
区間、地域間におけるβ多様性の高低をランダム群集との比較を用
いて明らかにしたところ、水鳥では地域間、陸鳥では地区間のβ多
様性が高く、それぞれの下位スケールでの種数の分散が大きいこと
から、どちらも nestedness によってβ多様性が高くなったことが示
唆された。松戸市の場合、水鳥では種数の多い地域、陸鳥では種数
の多い地区を重点的に保全していくことが鳥類の種多様性を保全し
て行くためには有効であると考えられる。発表では統計モデリング
を用いてこれらの構造をもたらした要因を特定する方法についても
言及する。
283
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-165
P2-166
佐鳴湖流域の生態系:汚濁と流域環境、生態系の関係
都市域の民有緑被構造にゾーニングと市街化年代が与え
* 戸田三津夫(静岡大・工),小野田貴光(静岡大院・工),安立亮一(静
岡大・工),辻野兼範(静岡県立浜松北高校)
る影響
* 土屋一彬,原祐二(和歌山大・環境)
静岡県西部(浜松市)の佐鳴湖は、浜名湖東方に付随する面積 1.2
km2、深さ 2 m ほどの小さな海跡湖で汽水湖である。浜松市中心地
から約5km の距離にあり、周辺が昭和 30 年代以降に急速に市街化
したため汚濁が進み、2001 ∼ 2006 年度には国内湖沼 COD 汚濁度ワ
ースト(COD 年平均値 11~12 ppm)となった。汚濁する以前は好漁
場で遠方にフナを大量に出荷し、地引き網でウナギを漁獲していた
記録がある。昭和に入っても、漁や遊魚は行われ、周辺小中学校で
は遠泳などに利用し、市民向けの水泳場も開設され、周辺の住民は
エビやシジミを採りおかずにしていた。浜松への水運でも重要な役
割を果たし、浜松城の石材は佐鳴湖を経由して運ばれた。
現在の佐鳴湖は COD 値が 8 ppm 程度となり、ワースト 5 を脱し悪
臭の発生や魚の大量死などはない。湖内には 50 種以上の魚類、その
他甲殻類、鳥類も生息し、市民がウナギやハゼ、フナを釣っている
姿をよく見かけ、また、静岡県内有数のウナギ漁場でもある。湖岸
は公園として整備され、周遊路はジョギングや散歩をする多くの市
民がいる。
佐鳴湖は海跡湖であり、水源は三方原台地からの湧水である。し
かし、過去の文献にあるような豊富な湧水は無く、現在の汚濁改善
はひたすら生活排水や産業廃水などの流入負荷の低減により達成さ
れた。今回の発表では、都市近郊の汽水湖としての環境と生態系の
変化について、過去の文献記述、最近の調査データから考察した結
果を示す。また、生態系復元のため行っているヤマトシジミの復活
プロジェクトの成果にも触れる。すでに経代種苗生産が軌道に乗り、
全国的にシジミ資源が減少しているなか、宍道湖の約 3 倍の速さで
成長することと湖内での小規模繁殖などが確認されている。
都市域には河川敷などの大規模な緑地に加えて、住宅の庭などの
小規模な緑地が分布している。近年こうした緑地の生物多様性と生
態系サービスへの貢献が注目されており、なかでも小規模緑地には、
マトリックス空間としての鳥類生息環境への寄与や、ヒートアイラ
ンド現象の緩和などの効果が期待されている。こうした小規模緑地
の多くは民有地に立地しており、その分布は都市計画制度における
用途地域区分(ゾーニング)などの開発規制に規定されていると想
定される。また、小規模緑地の緑被は樹木の成長とともに増加して
きた一方で、建築物の更新や強度の剪定にともない、地区によって
は減少もしてきたことが予想される。そこで本研究では、小規模緑
地の保全・創出方策の発展に寄与することを目標に、用途地域およ
び市街化年代の違いが民有緑被構造にどのような影響を与えている
かを検証した。
対象地は、多様な用途地域や市街化年代を含む大阪府堺市北西部
とした。対象地の緑被構造を把握するために、Worldview-2 衛星の
2011 年 5 月撮影マルチスペクトル画像を用いたオブジェクトベース
の画像解析をおこなった。さらに、地形図などの地図情報を用いて、
抽出された緑被を所有形態などの社会経済的な属性に基づき分類し
た。また、都市計画図および過去 4 時期 (1930 年、1950 年、1970 年、
1990 年ごろ ) の 2 万 5 千分の 1 旧版地形図を GIS 上でデジタイズし、
対象地の用途地域と市街化年代を区分した。解析単位として、複数
のサイズで対象地内にランダムにメッシュを発生させた。そして、
メッシュごとに緑被率などの緑被構造に関する指数を計算し、この
指数を目的変数として用途地域区分および市街化年代の影響を検証
した。その結果、用途地域については、その建蔽率と緑被構造の間
に強い関係がみられた。市街化年代ごとの緑被構造の違いも確認さ
れ、市街化年代を考慮して緑化目標を検討する必要性が示唆された。
P2-167
P2-168
都市生態系における企業緑地の役割:全国8事業所での
夜の訪問者 ~都市孤立林における哺乳類相の調査~
緑地 / 生物相調査~簡易調査ツール性能評価~
* 伊藤信一(静岡大学・教育),小南陽亮(静岡大学・教育)
* 岩渕翼(東北大学),増澤直(地域環境計画),三輪隆(竹中工務店),
飯田慎一(パナソニック),伊藤俊哉(住友林業緑化),浦嶋裕子(三井
住友海上),木村幹子(対馬市),久保達哉(JSR),杉本信幸(味の素),
瀬能靖弘(凸版印刷),高見謙(帝人),竹内和也(三菱地所),竹内恵子(グ
リーン・ワイズ),田畑真理(大阪ガス),寺内孝夫(大日本印刷),永戸
優子(凸版印刷),中村博一(大阪ガス),林豊(清水建設),原口真(イ
ンターリスク総研),原田佳幸(イオンリテール),平井宗男(旭化成),
細見弘明(旭化成),本名浩(帝人),三宅茂(イオンリテール),宮本昌
宏(JSR),矢部明彦(富士ゼロックス),足立直樹(レスポンスアビリティ),
河田雅圭(東北大学),中静透(東北大学)
都市孤立林における哺乳類相の種構成と種間関係を明らかにする
目的で,静岡県浜松市中区に位置する静岡大学教育学部附属浜松中
学校構内の天神森において,赤外線センサースウィッチが内蔵され
た自動撮影カメラを 4 地点に夜間設置して,野生鳥獣の撮影を試み
た.2012 年 9 月 25 日から 2012 年 12 月 4 日の調査期間をとおして,
撮影された写真の総数は 493 枚であった.そのうち合計 121 枚の写
真で種が同定され,哺乳類では,ホンドタヌキ 3 個体の生息が確認
されて合計 76 枚が,ノネコでは 5 個体の生息が確認されて合計で
34 枚,ハクビシンは 1 個体が確認されて 3 枚が撮影された.鳥類では,
キジバトが 6 枚,ムクドリが 2 枚であった.また,夜間の自動撮影
カメラでは撮影されなかったが,本調査地では,外来種のクリハラ
リスの生息が確認された.4 つの調査地点のうち,イチョウの樹冠
下とため糞場において,ホンドタヌキとノネコの 2 種の撮影枚数が
特に多かった.写真の撮影場所と撮影時刻を分析することによって,
ホンドタヌキとノネコの活動場所と日周活動が明らかにされ,2 種
の活動場所と時間が重複している傾向が見出された.本研究により,
都市孤立林では外来種であるノネコの割合が高く,無視できないこ
とが推測された.ホンドタヌキとノネコは,本調査地において高頻
度に撮影されて接触する可能性が高いために,ため糞場や餌をめぐ
って競争関係にある可能性が考えられた.今後,長期間におよぶ調
査を行なうことで,都市孤立林における哺乳類相の種構成と種間関
係をより詳細に解明できることが明らかになった.
284
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-169
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札幌市都市圏の緑地公園に生息する希少種ニホンザリガニ
都市生態系における企業緑地の役割:全国保有地向け土
(Cambaroides japonicus )のモニタリング手法の検討
地評価ツールの開発と適用
* 中野 直哉(酪農学園大学院・野生動物),伊藤志織(札幌市公園緑化協
会),吉田剛司(酪農学園大学院・野生動物)
* 三輪隆(竹中工務店),飯田慎一(パナソニック),伊藤俊哉(住友林業
緑化),岩渕翼(東北大学),浦嶋裕子(三井住友海上),木村幹子(対馬市),
久保達哉(JSR),杉本信幸(味の素),瀬能靖弘(凸版印刷),高見謙(帝
人),竹内和也(三菱地所),竹内恵子(グリーン・ワイズ),田畑真理(大
阪ガス),寺内孝夫(大日本印刷),永戸優子(凸版印刷),中村博一(大
阪ガス),林豊(清水建設),原口真(インターリスク総研),原田佳幸(イ
オンリテール),平井宗男(旭化成),細見弘明(旭化成),本名浩(帝人),
増澤直(地域環境計画),三宅茂(イオンリテール),宮本昌宏(JSR),
矢部明彦(富士ゼロックス),足立直樹(レスポンスアビリティ),河田
雅圭(東北大学),中静透(東北大学)
清涼な水環境を必要とし,環境の変化に弱いとされるニホンザリ
ガニは,近年,都市開発や外来種の侵入等の多くの要因により急激
に生息地を減少させている.今後の保護活動を考えるうえで生息地
の把握は重要な課題であるが,生息地の多くが人手の届かない奥山
などの環境であることが多く市民参加型による生息地調査は活発に
行われてはいない.
本研究では市民参加型のニホンザリガニ生息調査のモデル確立を
目的として,ニホンザリガニの生息が確認されている札幌市平岡公
園において 2008 年より生息個体数調査を実施し,2012 年 6 月には
136 名の大学生を調査者として市民参加型のモニタリング手法につ
いて検討,実施した.本調査では参加型のモニタリング調査の有効
性と今後のニホンザリガニの保護体制について考察した.
5 年間にわたる生息個体数調査から都市開発の影響を受けにくい
と思われる緑地公園内の生息地においても個体数減少が確認できる
沢があった.また,従来の少人数での調査では生息個体の確認でき
なかった調査区域でも確認ができたことから,生息地確認を行うう
えでの本調査の有効性が示唆された.しかし,大人数での調査であ
ったため調査地周辺への踏み荒らし被害も確認できたことから,周
辺環境に配慮した計画策定をする必要がある.
企業保有地の土地利用においては、法規制により緑地の量は確保
されつつあるが、生物多様性への貢献の視点は不十分であった。と
ころが、COP10 開催を契機として、緑地を活用して劣化している都
市の生態系サービスを強化し、地域生態系にも貢献したいという意
識が企業の間に高まっている。そこで、生物多様性の保全を目指し
て積極的に行動する企業の集まりである「企業と生物多様性イニシ
アティブ(JBIB)」の持続的土地利用ワーキンググループと東北大学
は、企業保有地での生物多様性保全への取り組みを推進するための
ガイドライン、土地利用を評価して貢献度を可視化する「土地利用
通信簿 ®」、取り組みの成果を確認するためのいきものモニタリング
シートの3点からなる「いきもの共生事業所 ® 推進ツール」を開発し、
産業界への普及に取り組んできた。それらはいずれも社員参加型で
使える簡便で実践的なツールとすることを目指した結果、多くの企
業保有地に適用され、ユーザーの意見を反映したツールの改良も進
めている。
本稿では、ツールの詳細を解説し、科学的妥当性と実用性につい
て議論する。
P2-171
P2-172
植物と訪花鳥類との相互作用ネットワーク構造:市民モ
イ ラ ク サ(Urtica thunbergiana ) の 刺 毛 形 質 の 表 現 型
ニタリングデータによる分析
可塑性:ニホンジカ(Cervus nippon ) の採食圧の影響
* 吉川徹朗(東大院・農),井鷺裕司(京大院・農)
Phenotypic plasticity of stinging hairs of the stinging
nettle, Urtica thunbergiana : Effects of browsing by
Sika deer.
近年、生物間相互作用のネットワーク構造に注目した研究が進展
している。だがそれらの多くは、単一タイプの相互作用ネットワー
クだけを取り出し、その構造を解明するという方法に拠っている。
だが生態系においては複数タイプの相互作用ネットワークが互いに
合わさり絡みあって存在しており、これらを統合して理解すること
が不可欠となる。
本研究では、鳥類と動物媒花とのネットワークに相互作用タイプ
を組み込んで分析した。神奈川県内の低地林における両者の相互作
用の量的ネットワークを、日本野鳥の会神奈川支部による市民モニ
タリングデータにおける観察記録から構築した。さらに、報告され
た採餌行動(送粉/捕食)を精査することで、この全ネットワーク(鳥
類 24 種・植物 60 種)を、相利的サブネットワーク ( 以下 MS) と敵
対的サブネットワーク ( 以下 AS) とに解きほぐし、それぞれの構造
を分析した。
2つのサブネットワークを比較すると、MS は AS よりも限られ
た種数の鳥・植物種から成立していた。また MS は入れ子度が高く、
スペシャリゼーション(特殊化)およびモジュラー性が低いという
傾向が見られた。MS における主要な鳥類はメジロとヒヨドリの 2
種だが、メジロはほとんどの場合送粉するのに対し、ヒヨドリは送
粉だけでなく幅広い種の花を捕食し、MS, AS の双方で主要な鳥類と
なっていた。ヒヨドリの採食行動は花サイズに依存しており、中程
度のサイズの花で吸蜜・送粉する傾向が見られた。
以上の結果は、鳥類と花とのあいだで相利関係と敵対関係が絡み
あっていることを示しており、その生態・進化を理解するためには
前者だけでなく後者にも注目する必要性を示唆している。またヒヨ
ドリで見られたような可塑的な採食行動が、ネットワーク構造全体
を理解するうえで重要であることも明らかになった。
* 加藤禎孝 a(a: 奈教大自然環境教育センター),石田清 b(b: 弘前大農学・
生命科学),菊地淳一 c(c: 奈教大 教育),鳥居春己(a(a: 奈教大自然環
境教育センター)
多年生草本のイラクサの刺毛は密度や長さなどが環境条件によっ
て可塑的に変化する。この刺毛形質に対するニホンジカの採食圧の
影響を明らかにするため、2012 年 6 月に2つの調査区を奈良公園内
の採食圧の高い場所(高採食圧区)と低い場所(低採食圧区;フェ
ンスで囲まれた竹林)に設定し、人為的に茎頂切除実験を行った。
切除前(6 月)の葉と切除後(8 月)の同じ葉位の葉の刺毛数、刺毛
長、葉面積を測定し、刺毛密度を算出した。
切除前、両調査区間の葉面積には有意差が無かったが、高採食圧
区の方が刺毛数も多く、刺毛長も長く、刺毛密度も高い。葉面積は、
高採食圧区では変化なく、低採食圧区では切除後は有意に小さい。
切除前後で、刺毛密度には有意な差は両調査区とも無かった。刺毛
数は共に切除後の方が有意に少ない。刺毛長は、高採食圧区では裏
面でのみ有意に長かったが、低採食圧区では両面とも切除後の方が
有意に長い。低採食圧区の方が切除に対して強く反応する傾向が見
られた。
高採食圧下の実生個体を低採食圧下で育てると刺毛数等が減少す
る(加藤ら 2012)ことも考慮すると、イラクサはシカの採食圧の変
化に応じて防御反応を効率良く行っていると考えられる。
285
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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葉状体に隠された多様性:苔類を食べるシギアブ科の寄
寄主被害植物の放出する特異的な化合物に対する寄生蜂
主特異性と寄主転換様式
エルビアブラバチの応答
* 今田弓女(京大院・人間・環境),加藤真(京大院・人間・環境)
竹 本 裕 之 *( 静 岡 大・ 技 術 部 ),John Pickett(Rothamsted
Research),Wilf Powell(Rothamsted Research),戒能洋一(筑波大・
生命環境),高林純示(京大生態研)
一般に、蘚苔類を専食する昆虫の種は、被子植物を食べる昆虫と
比べて極めて少なく、しかも寄主植物に対する特異性が低いと考え
られている。ところが、双翅目や鱗翅目の基部には、コケの群生地
に棲息し、特定の種の蘚苔類のみを餌としている種群があることが
確かめられつつある。シギアブ科 Rhagionidae は、ジュラ紀初期に短
角亜目 Brachycera の中で最も初期の放散を遂げたグループの一つで
ある。Kerr(2012) によると本科は 4 つの亜科からなり、日本ではこ
れまでに 6 属約 49 種が知られている。一部の種の幼虫は捕食性であ
ると考えられているが、コケ植物を食べる種の存在も知られていた。
本研究では、日本国内を中心とした 126 地点で 271 個体のシギアブ
を採集し、そのうち 261 個体について寄主植物を特定した。その結
果、葉状苔類の葉状体に潜葉する生活史をもっていることが明らか
になった。さらに、核遺伝子の塩基配列に基づく系統解析によって、
これらの苔類食のシギアブの系統関係を推定した。これらの結果を
もとに、コケ植物に対する寄主特異性、寄主転換のパターンに関し
て推察する。
植物の生産する化学物質は昆虫と植物の相互作用において重要な
役割を担っている。それらの組成は遺伝的要因、成長段階、病害虫種、
環境要因など様々な要因によって変化し、その変化によって昆虫と
植物の相互作用における化学物質の機能も変化する。例えば、植物
‐ 植食性昆虫 ‐ 捕食性昆虫3者による相互作用においては、捕食
性昆虫が餌種の食害する植物の揮発物質に応答するが、非餌種の食
害する植物の揮発物質に応答しないという特異性が報告されている。
我々は寄生蜂エルビアブラバチ(以下エルビ)が寄主とするエンド
ウヒゲナガアブラムシに食害されたソラマメの揮発物質と寄主では
ないマメアブラムシに食害されたソラマメの揮発物質を識別するこ
とを明らかにしてきた。今回、このエルビアブラバチの特異的な応
答を引き起こす化学的要因を明らかにするため寄主、非寄主が食害
した株由来の揮発性物質に対するエルビの応答を調査した。Y 字管
を用いた選択実験において、エルビはエンドウヒゲナガアブラムシ
の食害で特異的に誘導される 6 化合物のうち 3 化合物を単成分で溶
媒のコントロールよりも好み、6 化合物のうち寄主ではないマメア
ブラムシの食害でより多く誘導される 1 化合物を単成分で忌避した。
6 化合物のブレンドに対しては単成分の時よりも低い濃度で応答し
た。また、マメアブラムシ食害株に特異的な揮発物質と寄主食害株
の揮発物質とを混合したサンプルと、寄主食害株の揮発物質を与え
た場合、後者を好んだ。エルビによる寄主食害株の特異的な揮発物
質への応答には、寄主食害株特異的な化合物による誘引的因子と、
非寄主食害株に特異的な化合物による忌避的因子が関与していると
予想された。
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“メス”のイヌビワにおけるイヌビワコバチの再潜入と
富士山のホシガラスはゴヨウマツを貯食する I:貯食した
授粉
種子を盗むのは誰だ?
木下智章(佐賀大・農)
* 西教生,別宮有紀子(都留文科大学)
イチジクと花粉を媒介するイチジクコバチは、授粉/産卵を介し
て、相利共生関係にある。雌性両全性異株(機能的には ”雌雄異株”)
のイチジクでは、
”オス”の木では授粉/産卵が行なわれ、”メス”の
木では授粉のみが行なわれる。その際、イチジクコバチのメスは、
花のうに潜入し授粉と産卵をした後、その花のうの中で死ぬと考え
られてきた。しかし近年、イヌビワコバチを含む一部の種では、産
卵後、メスが再び花のうの外に出てくることがわかってきたが、そ
の意味についてはよくわかっていない。これまでの研究で、”オス”
の木の花のうから出てきたイヌビワコバチのメスは他の花のうに潜
入することはできず、”メス”の木の花のうから出てきたメスは他の
花のうに潜入し授粉を行なうことができることが確認された。
今回の研究では、イヌビワコバチのメスが再潜入し授粉すること
がイヌビワの ”メス”の木に与える影響に注目し、2個目に潜入/
授粉された花のうの種子数・果実重などを調べ、その有効性につい
て議論する。
ホシガラスは秋にハイマツやゴヨウマツなどの樹木の実を貯食す
る。貯食した実は翌年の夏期まで利用するほか、雛の食物としても
使われていると考えられている。貯食した種子を長期的に利用する
ことから、貯食場所の選定はホシガラスにとってきわめて重要であ
る。演者らはこれまで、富士山北麓の森林限界付近においてホシガ
ラスの貯食行動を調査し、林内、パッチ、パッチエリアの裸地、裸
地にゴヨウマツの種子を貯食することを明らかにした。また、貯食
した種子が他の動物にどれくらい横取りされるのかを把握するため
に、林内、パッチ、裸地に種子を埋め、消失率を確かめる実験をお
こなった。その結果、林内は 10 日以内に約 90%以上が、パッチは
20 日以内にすべての種子が持ち去られたが、裸地では 70 日後まで
すべての種子が残っていた。しかしながら、種子を横取りする動物
については不明であった。どのような動物が種子を横取りするのか
を特定することは、ホシガラスの貯食場所の選好性を明らかにする
上で重要である。そこで本研究では、貯食した種子を横取りする動
物を明らかにすることを目的に、自動撮影カメラを用いた持ち去り
実験をおこなった。
実験ではまず、富士山北麓の標高 2380m 地点の林内、パッチ①、
パッチ②、裸地の 4 箇所に市販の松の実を埋め、消失率を調べた(2012
年はゴヨウマツが不作で実験用の種子を十分得られなかったため、
松の実を用いた)。つぎに、林内については松の実を埋めた場所に自
動撮影カメラを設置した。これらの実験結果から、
環境ごとの消失率、
貯食した種子を横取りする動物について考察する。
286
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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地上部と地下部の相互作用の連結:アブラムシが排泄す
富士山のホシガラスはゴヨウマツを貯食する II:ホシガ
る甘露成分に及ぼす根粒菌の効果
ラスの貯食行動はゴヨウマツの遺伝構造にどのような影
* 片山昇(北大・北方圏 FSC),Melissa Whitaker(カリフォルニア大・
Davis),大串隆之(京大・生態研セ)
響を与えるのか?
* 別宮有紀子(都留大),松木悠(東大・ア生セ),西教生(都留大),伊
村智(極地研),練春蘭(東大・ア生セ)
陸域生態系は地上と地下の相互作用で構成され、これらは密接に
関連する。植物は地下で微生物と共生関係を持ち、これらの共生微
生物から供給される資源をもとに形質を変化させる。植物を利用す
る昆虫の生存や成長は、植物形質に強く依存するため、昆虫の個体
群動態を理解する上で、微生物の効果を考慮する必要がある。一方で、
地上の昆虫は土壌に排泄物を添加することで、地下の物質動態を変
化させる。例えば、アブラムシは糖分に富んだ甘露を土壌に落とす
ことで土壌の無機体窒素の量を変化させる。一般に土壌は炭素資源
が不足しており、甘露が入ることで自由生活型の微生物が増える。
その際に土壌の無機体窒素が微生物に取り込まれ、植物が吸収でき
る窒素が減少する。このように地下の共生微生物は地上の昆虫に影
響を与え、昆虫は排泄物を介して地下の栄養塩動態に影響を及ぼす。
生態系が維持される機構を明らかにするためには、地上と地下の相
互作用を連結させて考察する必要があり、そのためには地上の昆虫
が排泄する物質に及ぼす地下の共生微生物の効果を調べなければな
らない。本研究では、ダイズー根粒菌 - アブラムシの系を用いて、
地下の根粒菌が地上のアブラムシの甘露にどのような影響を及ぼす
かについて調べた。アブラムシの個体数は、根粒が着生しないダイ
ズ(R-)に比べて根粒が着生したダイズ (R+) では 1.3 倍多かったが、
これらの間に有意差はみられなかった。これらのコロニーが1日あ
たりに排泄する甘露の糖を調べた結果、R- 植物よりも R+ 植物に寄
生したアブラムシでは、スクロースを 2.7 倍、トレハロースを 4.7 倍
多く排泄した。以上の結果は根粒菌がアブラムシの甘露成分を変化
させることを示し、その効果によってアブラムシが引き起こす生態
系プロセスが改変される可能性がある。
ホシガラス Nucifraga caryocatactes は日本の高山∼亜高山帯に生
息し、ハイマツ Pinus pumila の種子を貯食することでハイマツの種
子分散に貢献していることが知られている。富士山北麓では4∼5
合目周辺にホシガラスが生息するが、ハイマツは分布しない。演者
らのこれまでの研究によって、富士山北麓のホシガラスはゴヨウマ
ツ Pinus parviflora の種子を貯食すること、ゴヨウマツは1合目(標
高 1000m)から森林限界上部(標高 2450m)まで広い範囲に分布し、
標高が上がるにつれ個体サイズが小さくなり、森林限界上部には貯
食起源の稚樹バンクが存在していることなどがわかっている。双眼
鏡による直接観察では、ホシガラスは 1 ∼ 4.5 合目に点在するゴヨ
ウマツ種子を 5 合目森林限界上部にまで運び上げて貯食し、その最
大散布距離は水平方向に 10km、垂直方向に 1500 mに達すると推測
される。これは動物による散布距離としては非常に大きく、ホシガ
ラスの貯食行動はゴヨウマツの分布や更新動態、遺伝構造に大きな
影響を与えている可能性がある。
そこで本研究では、富士山北麓のゴヨウマツの集団遺伝構造に対
するホシガラスの貯食行動の影響を明らかにするために、標高の異
なる5つの地点;Site-1(2450 m)、Site-2(2300 m)
、Site-3(2150 m)
、
Site-4(1850 m)、Site-5(1100 m)からそれぞれ 30 ∼ 60 個体の葉サ
ンプルを採取し、マイクロサテライトマーカーを用いたジェノタイ
ピングをおこなったので、その結果を報告する。
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P2-180
クマ剥ぎが林内植生と光環境に与える影響
天敵との再会に対する多年生の外来植物の適応~ Qst -
* 高橋一秋(長野大・環境ツーリズム),高橋香織(信州大・遺伝子)
Fst 法を用いて~
深刻な林業被害の一つであるクマ剥ぎは、人為的な巻き枯らし間
伐(環状剥皮)と同様の効果を発揮し、広葉樹の侵入を促進する可
能性がある。間伐が難しい奥山の針葉樹人工林においては、クマ剥
ぎが針広混交林化を進める一要因となりうる。本研究では、クマ剥
ぎが林床植物の種多様性と光環境の改善に果たす役割を明らかにす
ることを目的とした。
軽井沢町長倉山国有林のカラマツ人工林に計 10 個の調査プロッ
ト(20m × 50m)を 2012 年 8 月に設置した。プロットに出現する全
ての樹木(DBH > 15cm)の DBH を計測し、クマ剥ぎによる枯れの
状況を記録した。林床の光環境を評価するために、各プロットを 10
個のグリッド(10m × 10m)に分割し、その中心で全天空写真(高
さ 1m)を撮り、相対光量子束密度(rPPFD)を算出した。各グリッ
ドを 4 個の植生枠(5m × 5m)に分割し、出現する木本種の種数お
よ び 被 度(1:0-20%・2:20-40%・3:40-60%・4:60-80%・5:80100%)を階層別(0-0.5m・0.5-2m・2-5m・5-10m・10m 以上)に記録
した。
クマ剥ぎによる枯死木の出現率はカラマツで 10.4%(32 個体)、ヤ
マナラシでは 20%(2 個体)であった。一般化線形モデル(GLM)
による分析の結果、林床の rPPFD は上層の被度とは有意な相関が認
められなかったが、クマ剥ぎ枯死木の個体数とは有意な正の相関を
示した。0-0.5m および 0.5-2m の階層に出現した木本の種数と rPPFD
の間に有意な正の相関が認められた。個々の種の出現頻度と rPPFD
の相関を GLM で分析した結果、0-0.5m の階層では 55 種のうち 8 種が、
また 0.5-2m の階層では 23 種のうち 6 種が有意な正の相関を示した。
以上の結果から、クマ剥ぎは林床の光環境の改善と木本種の種多様
性の向上に貢献することが明らかになった。
* 坂田ゆず(京大院・農),大串隆之,安東義乃(生態学研究センター),
山崎理正,井鷺裕司(京大院・農)
外来生物の定着後の動態を解明することは、生物の新しい環境で
の進化動態を理解する上で重要な手がかりとなる。本研究では、近
年急速に分布を拡大している外来昆虫アワダチソウグンバイ(以下
グンバイ)がその侵入地において、多年生の外来植物セイタカアワ
ダチソウの形質に与える影響を解明することを目的とした。グンバ
イの定着年数の異なる集団間において、(1) グンバイの分布パターン
及び食害率の地理的変異の野外調査、(2) 共通圃場実験による植物形
質(防御形質、成長形質、繁殖形質)の測定、(3) 中立マーカーに基
づく遺伝構造の解析を行った。そして、表現型レベルでの集団間の
遺伝的分化 Qst と中立分子遺伝マーカーに基づく集団間の遺伝的分
化 Fst の比較を行い、グンバイがセイタカアワダチソウの表現型分
化に及ぼす影響を評価した。
野外集団においては、定着年数が長いほど集団においてグンバイ
による食害率が低下する傾向が見られたが、食害率に及ぼす定着年
数の影響は有意ではなかった。これに対して共通圃場実験では、定
着年数が長い集団ほどグンバイに対する抵抗性が有意に高まってい
ることが示された。また、グンバイの食害圧下においてセイタカア
ワダチソウの繁殖形質には差が見られ、定着年数が長い集団ほど花
数・ライゾームの長さはともに有意に大きかった。Fst と Qst の比較
によりこれらの形質の分化は、遺伝的浮動のみでは説明できず、定
着年数の異なる集団間における別々の局所環境に対する方向性選択
により進化したと考えられた。これらの結果から、外来昆虫の侵入
が多年生の外来植物の自然選択圧となり、防御形質に急速な適応進
化が起こっていることが示唆された。
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海洋顕花植物の生態系機能に及ぼす小型無脊椎動物群集
モンゴルの遊牧における季節移動と日帰り放牧
の影響
*Nachinshonhor G.U.(岡山大学)
,Eerdeni(東京大学)
,Jargalsaikhan
L.(Batanical Institute, Mongolian Academy of Science)
)
* 堀 正 和( 水 研 セ ン タ ー・ 瀬 戸 内 海 区 ), 仲 岡 雅 裕( 北 大・FSC),
Matthew A. Whalen(Univeristy of California, Davis),Pamela L.
Reynolds(VIMS),j. Emmett Duffy(VIMS)
冷涼な気候が卓越するモンゴル高原のおよそ 7 割を占める草原は
(Yunatov 1976)、牧草として遊牧に利用されてきた (Tumerjav 1989)。
草原の生産量は降雨量に強く影響されるため (Sala et al. 1988)、年度
により現存量の分布に大きな変化が認められる。そこで、本研究は
家畜の季節移動と日帰り放牧に焦点を当て、草原の現存量が遊牧活
動に与える影響を明らかにすることを目的とする。
モンゴル国の乾燥草原を拠点とする 1 世帯の遊牧民の季節移動を
4 年間追跡し、放牧中のヒツジの移動(日帰り放牧)を 3 年間 GPS
で記録した。遊牧地の現存量は拡張植生指数(EVI)で評価した。遊
牧移動を始める契機や、気候・植生の状態についての判断などにつ
いては聞き取り調査を行った。
草原の現存量が少ない年は、季節移動の頻度が高く、距離も長か
った。現存量が多い年は、季節移動の回数が少なく、移動距離も短
かった。季節移動は草原の現存量に依存していることが示唆された。
日帰り放牧の距離は寒季に短く、暖季に長った。暖季は家畜を放
牧地から離れた水場に連れて行くが、寒季は積雪により水へのアク
セス制限が解消されるためと考えられる。
日帰り放牧の間に採食する時間と距離は寒季より暖季の方が長か
った。暖季は日照時間が長く、温暖で新鮮な牧草が採食できるから
と考えられる。遊牧民は暖季には家畜の体力つくりを目指すが、寒
季は家畜の体力温存に努めるためにできるだけ短い距離の日帰り放
牧を行っていることが明らかになった。
草原の現存量が少ない年は長距離の季節移動し、局所に集中した
利用を避けている。草原の現存量が多い年は季節移動の距離が減少
し、日帰り放牧が強化されている。
沿岸海洋域は陸上生態系と同様に基盤種が卓越し,その基盤種を
中心とした生物群集が形成される生態系である。なかでも海洋顕花
植物のアマモを基盤種とする海草藻場は,高い生態系機能と生物多
様性を有することが知られており,その原動力はアマモ類の高い一
次生産力に依存している。その一方,海草藻場の多種多様な動物群
集はアマモの一次生産に影響を及ぼし,生態系機能に作用すること
が示唆されている。その作用機構をはじめ,基盤種−動物間相互作
用を検証することは,沿岸域の生物多様性−生態系機能関係を解明
するうえで必須とされている。
Zostera Experimental Network (ZEN) は海草藻場の生態系機能や生物
多様性の構造を研究対象としたグローバルな研究ネットワークであ
り,全世界で統一した手法の操作実験を同時に行うことで生態系の
状況依存性や時空間変動を包括した成果を得る活動をしている。本
研究では ZEN の取り組みの一つとして,栄養塩と植食者多様性の相
互作用がアマモ場の生態系機能に及ぼす影響について実証を行った。
ZEN で開発された栄養塩及び植食者密度・多様性の操作手法を用い,
瀬戸内海の ZEN サイトで操作実験を行った。その結果,操作により
植食者の多様性は有意に減少し,さらにその減少の勾配に沿ってア
マモの一次生産が有意に減少した。また,栄養塩操作によってアマ
モの一次生産は減少したものの,植食圧との相互作用は確認されな
かった。これらの結果は,瀬戸内海では動物群集の減少および栄養
塩増大によって海草藻場が衰退する可能性を示唆している。
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DNA バーコーディングによる植食性昆虫ホストレンジ
海藻がアサリに与える影響: 底生微生物を介した間接
の解明
効果
* 岸本圭子,伊藤元己(東大・院・総合文化)
* 宮本康,畠山恵介(鳥取県・衛環研),山田勝雅(国環研),浜口昌巳(瀬
戸内水研)
熱帯林は陸上生態系のなかでもっとも豊かな生物多様性を擁し、
その根幹を支えるのは昆虫類とそれらが利用する植物との関係であ
る。熱帯林の植物と植食性昆虫との関係を明らかにすることが、生
物多様性の実態や森林動態を理解する糸口となるだろう。しかしな
がら、熱帯林では、植食性昆虫の好適な餌資源の密度が高い林冠部
へのアクセスが困難なことや、植物上の昆虫密度が低いため、直接
観察や飼育のような従来の調査方法による寄主植物の特定は極めて
効率が悪く、植物 - 植食者関係は未知であることが多い。そこで、
本研究は東南アジア熱帯雨林に生息する植食性昆虫(甲虫目ハムシ
科)と植物との関係を明らかにするため、灯火採集で集めたハムシ
科成虫からそれらが食べた餌植物の DNA を抽出し、昆虫・植物そ
れぞれの DNA バーコード領域(昆虫では COI 領域・植物は葉緑体
rbcLa 領域)によってハムシ1種あたり(2-12 個体)の寄主植物幅
を調べた。その結果、調査した 11 種のハムシ科成虫のほとんどが複
数の科の植物種を利用する広食性であることが示唆された。なかで
も特に広食の種では、少なくとも 11 科の植物種を利用していること
が示され、これまで比較的よく調べられている地域の広食性昆虫(2-3
科の植物利用)と比べても顕著に多いことがわかった。本研究が提
案する調査方法によって、直接の採餌行動を確認しなくても寄主植
物を特定することが可能になり、より効率的に多くの植物−植食者
関係を明らかにすることができるだろう。
パッチ状の分布は様々なハビタットで普遍的に見られる個体群の
空間構造である.こうした分布様式は,環境の異質性・撹乱・種間
相互作用などにより生み出される.本発表では,中海における二枚
貝アサリのパッチ状分布が,海藻の強い影響下にあることを明らか
にした野外調査・実験の結果を紹介する.
中海のような内湾性の海域では,富栄養化に伴う海藻の大繁茂が
世界的に生じている.そして,繁茂した海藻は海底の貧酸素化を生
じ,その結果,二枚貝をはじめとするベントスの大量死を導くこと
も報告されている.そこで,中海において海藻の有無を人為的に操
作した野外実験を実施し,海藻が海底の酸素環境とアサリの生残に
与える影響を評価した.その結果,海藻は高水温期にのみ,ごく短
期間に海底を貧酸素化させること,それに伴いアサリの大量死が生
じることが明らかになった.では,こうした水温依存的な海藻の効
果はなぜ生じるのか?海藻に覆われた海底では,微生物の餌となる
有機物の負荷が高いことに加え,高水温期には微生物の活性が高ま
る.したがって,海藻がアサリの生残に与える影響は微生物を介し
た間接効果であり,水温依存的な海藻の効果は微生物の活性の温度
依存性であると言える.
一方,海藻の下での貧酸素化は高水温期にのみ生じるものの,常
に生じるとは限らないことが野外調査より明らかになった.海藻は
一ヶ所に留まる限り必ず貧酸素化を生じさせる半面,風や潮汐の影
響で海藻自体が容易に移動する.こうした確率論的な海藻の移動が,
海藻の下で貧酸素化が常に生じるとは限らない原因であることが示
唆された.
以上の結果は,中海におけるアサリのパッチ状分布が海藻の強い
影響下にあること,そして,アサリが生残できるパッチが確率論的
に決まるため,固定したソース・シンク構造が生じにくいことを示
している.
288
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-185
P2-186
気温変化がダケカンバの樹冠葉の食害度に与える影響―標
広食性昆虫の寄主植物利用で植物の系統関係は重要か
高勾配によるパターンと温暖化操作実験を用いた検証―
* 三浦 和美(京大 生態研),大崎 直太(京大 農)
* 簑島萌子(北大・環境),齊藤隆,日浦勉,柴田英昭,中村誠宏(北大・
FSC)
植食性昆虫種の大半を占める狭食性昆虫の寄主植物利用を理解す
る上で、寄主植物の系統的な近縁性の重要性が近年指摘されてきた
(Pearse and Hipp 2009, Rasmann and Agrawal 2011)。その反面、広食性
昆虫の寄主植物利用を理解する上で、その系統的な近縁性の意義に
ついて、ほとんど検討されていない。系統的により近縁な植物ほど
昆虫のパフォーマンスがより似ていれば、寄主植物の系統的な近縁
性は、その広食性昆虫の寄主植物利用を理解する上で、重要である
と言える。そこで、寄主植物の系統的な近縁性が広食性バッタのキ
ンキフキバッタ(キンキ)幼虫のパフォーマンスに及ぼす影響を検
討した。
キンキの生息地に生育する 19 種の植物をキンキ幼虫に単独で与え
て、その生存率を求めた。そして、各植物種の葉の形質を計測した。
(1) キンキ幼虫の生存率や計測した葉の諸形質に系統的な近縁性が
あるのか、Pagel の lambda(Pagel 1999) で Phylogenetic signal を検討し
た。(2) 計測した植物種の形質がキンキ幼虫の生存率に影響するの
か、系統関係の影響を考慮した (Phylogenetic generalized least squares)
重回帰分析で検討した。
そ の 結 果、(1) 検 討 し た 葉 の 諸 形 質 や キ ン キ 幼 虫 の 生 存 率 に
Phylogenetic signal はなく、系統的な近縁性は認められなかった。(2)
植物の葉の硬さと葉の上面軟毛密度がキンキ幼虫の生存率と有意な
相関があった。これらは、植物の系統的な近縁性よりも上記の形質
の方がキンキ幼虫の生存率により重要であること、そして、この昆
虫のパフォーマンスに影響する形質は、植物の各系統で独立に生じ
ている可能性を示唆する。
これまで標高勾配や緯度勾配を用いた研究が多く行われてきた。
しかし、これらの自然実験では複数の環境要因が変化するため、影
響を及ぼしている要因を特定することが困難である。そこで本研究
では、標高勾配におけるダケカンバの食害度の変異が、標高によっ
て変化する主な要因の1つである温度によってもたらされているか
を、温暖化操作実験を用いることにより明らかにした。実験的に温
度を操作することにより、多くの交絡要因を除いて温度の効果を検
証することが可能になる。標高勾配の調査は羊蹄山の 700m, 1000m,
1300m, 1600m の地点で行った。一方温暖化操作実験は、北海道大学
中川研究林内で土壌温暖化区、土壌+枝温暖化区、コントロール区
の 3 つの処理区を設けて、土壌温暖化、枝温暖化の効果を検証した。
標高勾配の調査地と温暖化実験区において、ダケカンバの林冠部に
おける食害度、葉形質(C/N 比、窒素含量、縮合タンニン、総フェ
ノール、LMA)、成長に関わる形質(葉サイズ、枝の長さ)を測定した。
標高勾配の調査において、食害度は標高の増加に伴い減少した。また、
標高の増加に伴い窒素含量、縮合タンニン、総フェノール、LMA は
増加し、C/N 比、葉サイズ、枝の長さは減少した。温暖化実験では、
土壌温暖化は食害度を増加させ、縮合タンニンと総フェノールを減
少させた。枝温暖化は食害度には影響を与えなかったが、縮合タン
ニンと総フェノールを減少させた。食害度は、標高勾配では縮合タ
ンニンによって説明され、温暖化実験では総フェノールと LMA に
よって説明された。以上のことから、標高勾配における食害度の変
異は、土壌の温度が縮合タンニンや総フェノールなどの化学防御物
質を変化させることにより生じていると考えられた。
P2-187
P2-188
ニホンザル高密度地域における 10 年間での植生の変化
ナミテントウに対して毒性を示すマメアブラムシの成分
* 高橋明子,鈴村崇文(京大 WRC),郷もえ(京大霊長研)
分析
宮崎県串間市沖合に位置する幸島は、亜熱帯気候に属し、海岸林
やタブノキ・マテバシイ等が優占する常緑広葉樹林などで構成され
ている。島内約 32ha 中にニホンザル約 110 頭が生息しており、個体
群密度が高い状態が数十年続いている。本発表では、10 年前と現在
の植生の状態を比較し、植生の変化と幸島におけるニホンザルの採
食選択の傾向との関係を考察したい。
植 生 調 査 は 2002 年、2012 年 に 行 わ れ た。 幸 島 全 体 を 25 個 の
100m 四方のプロットに分け、さらに各プロット内に 15 m四方のコ
ドラートを設け、各プロットの代表とした。各コドラートでは、樹
高および階層別の植物種ごとの被度を記録し、2002 年と 2012 年の
データを比較した。ただし、二度の植生調査でのコドラートの位置
は完全には一致していないため、最近傍のコドラート間での比較を
行った。
植生の構成には大きな変化は見られないものの、全体的には種数
の増加が見られた。また、自然植生よりも代償植生において変化が
大きい傾向にあった。これらの結果と既存研究において報告されて
いるニホンザルの採食選択が、どのように植生の変化に影響を与え
たかについて考察する。
* 加茂綱嗣,徳岡良則,宮崎昌久((独)農環研)
ニセアカシアに寄生するマメアブラムシは捕食者であるナミテン
トウに対して毒性を示すが、カラスノエンドウに寄生するマメアブ
ラムシは毒性を示さない。そのため、この毒性の差は植物由来成分
の違いに起因すると考えられる。カナバニンと 2- アミノエタノール
がその毒性物質とする報告があるものの、詳細は不明であった。一方、
自然界にも存在することが近年になって明らかにされたシアナミド
は、ニセアカシアには含まれているがカラスノエンドウには含まれ
ていない。シアナミドは多くの生物種に対して毒性を示すことが知
られているため、この成分が原因物質である可能性が考えられた。
そこで本研究では、ニセアカシアとカラスノエンドウに寄生するそ
れぞれのマメアブラムシ体内に含まれる上記 3 成分を定量するとと
もに、ナミテントウ幼虫に対する毒性を評価した。その結果、いず
れの寄主植物より採取されたマメアブラムシからもカナバニンは検
出されず、2- アミノエタノールは検出されたものの低濃度であった。
一方、ニセアカシアに寄生するマメアブラムシからシアナミドが検
出されたが、カラスノエンドウに寄生するマメアブラムシからは検
出されなかった。また、ナミテントウ幼虫に対し、シアナミドはカ
ナバニンと 2- アミノエタノールの 10 倍から 100 倍の毒性を示した。
これらの結果を総合すると、ニセアカシアに寄生するマメアブラム
シの毒性は、カナバニンと 2- アミノエタノールではなくシアナミド
に起因することが示唆された。
289
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-189
P2-190
飼育試験によるニホンジカの養分要求量の推定
シカの利用強度の違いが開放地の草本植生に与える影響
* 大竹正剛(静岡県・森林研セ),片山信也,佐藤克昭(静岡県・畜技研),
大場孝裕,山田晋也,大橋正孝(静岡県・森林研セ)
高柳 敦(京大院・農)
シカの保護管理計画において、植生の多様性を保つのに適切なシ
カの個体数密度がどの程度であるのかは重要な情報の一つである。
シカの密度と植生との関係については、生息密度が異なる場所での
調査や、シカを囲い込んで密度を固定した調査などが行われてきて
いるが、十分な情報は得られていない。近年、シカの採食行動など
から、シカの影響は生息密度だけでなく、具体的な影響はむしろ利
用強度によって変わってくる例が知られており、シカの影響を考え
る上で利用強度の影響について十分に把握することが重要と考えら
れる。筆者は、防鹿柵を開閉することで利用強度を調整して、シカ
が植生に及ぼす影響を調べてきている。今回は、経年変化について
報告する。
調査地は京都大学芦生研究林上谷の野田畑湿原と呼ばれる開放地
で、そこに 6m × 6m の防鹿柵を 5 つ設置した調査区を設け、6 ∼ 9
月の夏季の間、閉鎖区と開放区(対照区)のほかに月に 2 日、4 日、8 日、
16 日だけ開放する 4 処理区を加え、そこに付加される糞塊数をカウ
ントし、9 月に植生の変化を被度によって把握した。防鹿柵の設置
は 2007 年であるが、2009 年から一定の基準で糞塊調査と植生調査
を行ってきている。
シカの影響を種数で見ると、利用強度が小さいと種数が多い傾
向は見られるものの、明確な差異は見らなかった。その状況は 4
年間にほとんど変わらず、差異が拡大する傾向も見られなかった。
Shannon-Wiener の多様度指数 H’は、利用強度が小さいほど高くな
ったが、4 年間にその違いが拡大するなどの一定の傾向は見られな
かった。しかし、種構成は利用強度の違いに反応して大きく変化した。
開放地の草本群落へのシカの影響は、種間競争、採食耐性などの組
み合わせで変化するため、種数や多様度指数などで評価するだけで
なく、種構成の変化を把握することも大切であることが示された。
静岡県では伊豆・富士地域でニホンジカ ( 以下、シカ ) が増加し,
農林産物被害や自然植生衰退が生じていることから,特定鳥獣保護
管理計画を策定して対策に取り組んでいる.当面の課題は個体数削
減であるが、管理目標を見出す上で、シカと自然植生の関係を定量
的に整理する必要がある。そこで、植生量にボトルネックのかかる
冬期のメスジカの養分要求量の推定を試みた。シカは、富士山西麓
に生息する野生ジカ、及び神奈川県丹沢の飼育ジカを試験に供する
こととし、3ヶ月以上飼育施設 (450m2) にて順化(ヘイキューブ ( ア
ルファルファ ) を飽食の1割増で給餌、水は自由飲水)した。試験
には4頭の成獣メスジカ (39.0-45.5kg) を供し、専用の個飼ゲージに
て1ヶ月以上順化させた。ヘイキューブ、アオキ、ササ、枯葉を単
味で与え続け、6 日目から 3 日間の飼料摂取量、排糞量を測定した。
次にそれぞれの成分分析 ( エネルギー、CP、NDF、ADF) から消化
率を求め、養分要求量を推定した。平均乾物摂取量と乾物消化率は、
ヘイキューブ:984.8DMg/day;55.3%、アオキ:812.9DMg/day;65.1%、
ササ:866.2DMg/day;57.1%、枯葉:403.5DMg/day;41.4%であった。
また吸収したエネルギー量は、ヘイキューブ:9.38MJ/day、アオキ:
8.28MJ/day、ササ:8.85MJ/day、枯葉:2.79MJ kcal/day であった。枯
葉は嗜好性が低く、これを除くと、静岡県に生息するニホンジカの冬
期の摂取エネルギーは概ね 9MJ/day と推定された。
P2-191
P2-192
どんなお花が食べられる? - キク科植物の頭花の形質と
三宅島の火山灰堆積地に侵入した遷移初期種と中大型ミ
花食害の関係
ミズの関係
* 小黒 芳生,酒井 聡樹(東北大学・院・生命)
* 門倉由季(筑波大・生物資源),上條隆志(筑波大・生命環境),橋本啓史(名
城大・農),金子信博(横浜国大・環境情報),菅原優(筑波大・生命環境)
花への食害は、植物の繁殖に悪影響を与える。それでは、植物は
花食害者に対抗するため、どのような性質を一般的に進化させてき
たのだろうか?
これを明らかにするためには、花食害と形質との関係を種間比較・
種内比較の両方で調べる必要がある。もし、花食害と形質との関係
が種間比較・種内比較で一致するなら、種間で見られる形質の違い
は花食害による選択圧によって進化してきた可能性が高いと考えら
れる。一方、種間比較と種内比較で花食害と形質との関係が一致し
ない場合、その形質の種間の違いは花食害以外の選択圧によって進
化した可能性が高いと考えられる。
本研究では、キク科植物18種を用い、種間比較・種内比較の両
方で、5つの頭花の形質(窒素濃度、リン濃度、水分含有率、頭花数、
頭花の直径)と頭花の食害率との関係を調べた。
種間比較では頭花の数が多い種ほど食害を受けやすいという関係
が見られたが、種内比較では一貫した傾向は見られなかった。この
結果は種間では頭花数と食害との間に関係が見られるが、種間の頭
花数の違いはポリネーターなどの他の要因によって進化してきたこ
とを示しているのかもしれない。
三宅島は 2000 年に噴火し大量の火山灰を放出した。火山灰の堆積
が厚い場所では植物体はほとんど残らず一次遷移に近い状態にある。
このような過程において、植生の発達には遷移初期種の侵入ととも
に中大型ミミズのような土壌動物が土壌生成等に効果を与えると考
えられる。またこのような中大型ミミズの個体数は、餌となる遷移
初期種のリターの質に影響すると考えられる。本研究では三宅島の
火山灰堆積地において遷移初期種であるハチジョウススキ、オオバ
ヤシャブシと中大型ミミズの関係を、分布調査と安定同位体分析を
用いて検討する。
遷移初期優占種と中大型ミミズの関係を明らかにするために、ハ
チジョウススキ草原、オオバヤシャブシ単木下、オオバヤシャブシ
低木林においてミミズ、植物、リターの採集を行った。採集された
ミミズおよび葉は、安定同位体分析により炭素窒素安定同位体比を
算出した。
オオバヤシャブシとミミズの個体数に明瞭な関係が見られ、オオ
バヤシャブシ低木林になるほどミミズの個体数が増加した。またリ
ター量はいずれの地点でもハチジョウススキの割合が多かった。安
定同位体分析の結果、C3 植物であるハチジョウススキと C4 植物で
あるオオバヤシャブシではδ 13C の値が異なった。C3 植物のオオバ
ヤシャブシの値は− 29.63 ∼− 28.78‰となり、C4 植物のハチジョウ
ススキの値は− 12.24 ∼− 12.20‰の範囲だった。一方ミミズの値は、
− 24.18 ∼− 15.27‰の範囲であった。以上の結果から、ミミズは多
量に存在するハチジョウススキのリターを摂食しているだけでなく、
窒素固定種であるオオバヤシャブシの質の良いリターも摂食してい
ると考えられる。
290
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-193
P2-194
温帯林における二次散布者としての食糞性コガネムシの
マルハナバチ女王を不妊化し行動を変化させるマルハナ
役割
バチタマセンチュウによって引き起こされるマルハナバ
* 小池伸介,森本英人,小坂井千夏,曽我昌史(東京農工大学),山崎晃司(茨
城県自然博),小金澤正昭(宇都宮大学)
チカースト間の花資源を巡る競合:働きバチの大きさと
採餌行動への影響
果実食動物によって周食型種子散布され、糞に含まれた状態の種
子の 2 次散布者としての食糞性コガネムシ(以下、糞虫)の機能を
評価するために、3 つの実験を行った。1 つ目は、糞虫 3 種(オオセ
ンチコガネ、コブマルエンマコガネ、カドマルエンマコガネ)によ
る、ツキノワグマの糞に含まれた種子(ヤマザクラ、カスミザクラ、
ウワミズザクラ、ミズキ、ヤマブドウ)と直径 2mm、5mm の球形
プラスチックマーカーの土壌内への埋め込みの深さを調査した。そ
の結果、2mm のプラスチックマーカーは 3 種の糞虫とも埋め込みに
成功したが、5mm のプラスチックマーカーと種子の埋め込みに成功
したのはオオセンチコガネのみであった。埋め込む種子の量と深さ
は季節的に変化し、6 月と 7 月はほかの月よりも多くの種子を土壌
内に埋め込んだ。多くの種子は土壌 3-6cm の深さに埋め込まれてい
た。2 つ目は、前述の 5 種類の種子を、ポット内の様々な土壌の深
さごとに設置し、それらの種子の発芽率を測定した。その結果、土
壌 1-4cm の深さに設置した種子の発芽率は、それらよりも深くに設
置した種子や土壌表面に設置した種子の発芽率よりも高かった。3
つ目は、同じく 5 種類の種子を、野外の様々な土壌の深さごとに設
置し、げっ歯類等による持ち去り率を測定した。その結果、土壌表
面に設置した種子の多くは消失したが、種子を設置した土壌が深く
なるに伴い、種子の持ち去り率は低下した。以上の結果より、糞虫、
特にオオセンチコガネは糞を利用する過程で果実食動物によって散
布された種子の 2 次散布者として機能する可能性が高いと考えられ、
糞虫によって土壌内に種子が移動されられることで、種子の発芽促
進とげっ歯類等による持ち去りを抑制する効果が高いと考えられる。
* 角屋絵理,石井博
いくつかの寄生生物は宿主の行動を変化させる。寄生者による宿主の
行動変化は、宿主と他の生物個体の関係に影響を及ぼす可能性がある。
この影響を調べることは、寄生生物が生態系に与える影響を理解する上
で重要である。
マルハナバチタマセンチュウは、マルハナバチの女王を不妊化させる
寄生虫である。感染女王は営巣せず、夏まで採餌を続ける。間接的な証
拠から、感染女王は移動分散しなくなることも示唆されている。このよ
うな感染女王の行動変化は、夏に、局所的に感染女王が多い地域を生み
出し、非感染女王のコロニーから輩出される働きバチとの花資源競合を
引き起こす可能性がある。しかし、感染女王の存在が、非宿主である他
の訪花者に与える影響は調べられていない。
そこで本研究は、マルハナバチ女王のタマセンチュウ感染率、採餌個
体のカースト構成比、それらの空間分布および季節変化、ならびに非宿
主である働きバチの採餌行動と体サイズを調査した。調査は北海道上川
郡の、セイヨウオオマルハナバチが優占する複数の地点で行った。
その結果、概して女王の割合は春に高く、夏に減少するが、春に感染
が確認された場所の近くで、夏になっても女王が非常に高い割合を占め
る場所がみられた。夏に捕獲された女王は、ほぼすべて感染していた。
夏に女王(主にアカツメクサを訪花)が多い場所は、アカツメクサの残
存蜜量が少なく、働きバチによるアカツメクサでの盗蜜訪花が多く、働
きバチの体サイズが小さかった。この場所から女王を除去すると、アカ
ツメクサの残存蜜量が増え、働きバチのアカツメクサへの訪花が増加し
た。
以上の結果から、マルハナバチタマセンチュウがマルハナバチ個体群
のカースト構成を変化させることで、カースト間の花資源競合が生じ、
働きバチの体サイズや採餌行動に影響が及ぶことが示された。
P2-195
P2-196
針葉樹人工林による広葉樹林の断片化がカスミザクラの
中部山岳国立公園立山におけるマルハナバチ各種の花資
交配様式と種子生産およびハナバチ群集に与える効果
源利用スケジュール:マルハナバチは標高間を移動して
* 永光輝義,滝久智,菊地賢,加藤珠理(森林総研),石金卓也,前田孝介(東
京農大)
いるのか?
* 久保田将裕,増田光,居村尚,石井博(富山大・理)
木材生産をおこなう人工林地域で広葉樹林を残すことによって効
果的な生物多様性の保全を図るため、広葉樹林の面積・配置がハナ
バチ類の数量とカスミザクラの結実・交配に与える影響を明らかに
した。
北茨城市と高萩市に設置した 12 ヵ所の調査地のそれぞれに 4 つの
誘引トラップを置き、5, 7, 9 月にハナバチ類を捕獲し、マルハナバ
チとその他のハナバチの個体数と湿重を測定した。また、それらの
調査地の標高、周囲 10, 100ha の広葉樹林率、風媒と虫媒の樹木の胸
高断面積合計を記録した。その結果、マルハナバチの個体数と湿重は、
周囲 10ha の広葉樹林率に非線形に回帰され、中間的な広葉樹林率で
最も多かった。また、その他のハナバチの個体数と湿重は、標高と
周囲 10ha の広葉樹林率に依存し、標高と広葉樹林率が高くなると増
加した。
一方、これらの調査地のカスミザクラは、遺伝的構造がほとんど
なく、ひとつの任意交配集団とみなされた。開花木の位置と幹周囲
を記録し、結実期に 12 母樹から枝を採集した。それらの枝の花序
あたり果実数などを測定した。また、枝の葉と果実の種子の胚から
DNA を抽出し、核 SSR の 9 遺伝子座の遺伝子型を決定した。そして、
母子の遺伝的多様性と近交係数、二親性近親交配、父性相関を推定
した。また、それらの調査地の標高と周囲の広葉樹林率の他、開花
木密度、胸高断面積合計、葉緑素計数値を記録した。その結果、母
子の遺伝的多様性はほぼ同じで、近交係数は子が母より高かった。
花序あたり果実数などと二親性近親交配に与える要因は、はっきり
しなかった。父性相関は開花木密度が低下すると高くなったが、景
観の影響はみられなかった。
日本の高山には、マルハナバチに送粉を依存している植物種が多
い。従って、彼らの花資源利用スケジュールを把握することは、高
山の生態系を理解する上で重要である。
これまでに、Tomono and Sota (1997: Jpn J Ent 65: 237-255) が、乗鞍
岳の調査をもとに、ヒメマルハナバチは亜高山で営巣 / 繁殖し、夏
の間だけ働き蜂が高山へ出稼ぎに行くことを示唆している。しかし、
このパターンが他の山域でも一般に当てはまるのかはわかっていな
い。また、他のマルハナバチ種が、標高をまたいで花資源をどのよ
うなスケジュールで利用しているのかは、詳しく調べられていない。
そこで本研究では、中部山岳国立公園立山において、マルハナバチ
の花資源利用スケジュールを、異なる標高間で比較した。
調 査 は、 立 山 の 山 地 - 亜 高 山 帯 (977-1630m) 及 び 高 山 帯 (24502830m) で、2011-12 年に行った。観察されたマルハナバチの種、カ
ースト、訪花植物種、個体数、マルハナバチが利用する植物種の開
花数を、季節を通じて記録した。
その結果、ヒメマルハナバチはどの標高帯でも、春と秋に繁殖カ
ーストが多く観察された。この結果は、Tomono and Sota (1997) とは
異なり、ヒメマルハナバチがどちらの標高でも営巣していることを
示唆している。一方、オオマルハナバチは、高山帯で初夏に働き蜂
の一時的な個体数増加がみられた。高山帯では、オオマルハナバチ
の繁殖カーストは季節を通じて観察されないことから、初夏に花資
源が少ない山地帯や亜高山帯から移動していることが示唆された。
以上の結果から、マルハナバチの標高をまたいだ花資源利用スケ
ジュールは山域によって異なっており、そのパターンもマルハナバ
チ種によって異なっていることが示された。
291
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-197
P2-198
群集レベルでの花弁サイズと訪花頻度の関係:半自然草
局所的分布種オオママコナの送粉昆虫と花形態の適応:
地の例
ママコナ属におけるポリネーターを介した生態的種分化
丑丸敦史,栗本大輝,日下石碧(神戸大学)
の可能性
一般に、花サイズは花の誘因力に影響し、植物集団中では大きな
花を咲かせる個体ほどより多くの送粉者を誘引することが知られて
いる。花サイズは種間で大きく異なっている (Davis et al 2008)。ノル
ウェーのマルハナバチ類が優占する草原群集での研究では、ディス
プレイサイズの大きな種により多くの訪花が見られたことが報告さ
れている (Hegland & Totland 2005)。しかし、群集レベルで花のサイ
ズと訪花頻度の関係を調べた研究は、他になくこの発見の一般性は
検証されてない。ここでは、日本における半自然草原(里草地)群
集において、花弁サイズの増加に伴う訪花数の増加が見られるのか
研究を行った。
兵庫県宝塚市西谷地区の水田周囲の里草地に生育する植物種 30
種を対象に 2010-2012 年に訪花頻度を調査した。観察前に、1X3m2
の 調 査 枠 内 を 設 け、 そ の 中 の 花 を 計 数 し、15 分 を 基 本 単 位 と し
て 観察 を 行 っ た。 離 散 的 に 分 布 す る 種 に 関 し て は よ り 広 い 範 囲
(1X15~1X100 m2) を対象に調査した。また 2012 年にそれぞれの種つ
いて花弁長をデジタルノギスとスライドガラスを用いて測定した。
解析の結果、里草地群集では花弁サイズの大きな種ほど単位時間
当たりの訪花頻度が低くなっていたことがわかった。また昆虫の機
能群ごとに花弁サイズに対する訪花頻度の関係が異なっていた。こ
こでは、この結果について議論を行う。
* 長谷川匡弘(大阪市立自然史博),楠瀬雄三(高知大)
蜜を蓄えている花筒の長さについては、数多くの分類群でその長
さに対応した口吻を持つポリネーターが存在し、花粉の受け取りや
持ち出しが効率よく行われることから、植物の生態的種分化にとっ
て重要であると考えられてきた。花筒長を介した種分化のモデルと
しては、ダーウィンが提唱した「軍拡競争モデル」に加えて、ポリ
ネーターシフトという考え方も検証されているが、花筒長を介した
生態的種分化過程については明らかになっている例が少ない。本研
究で用いるママコナ属は主にマルハナバチ類が有効なポリネーター
として知られており、花筒の長さはそれらのマルハナバチ類の口吻
長と一致する 10 − 15 mmの範囲のものがほとんどであるが、近年
記載されたオオママコナ(Melampyrum macranthum )は、同属の他
種より顕著に長い花筒を持つ。ママコナ属には花筒長の変異が種・
変種間でみられ、開花性・花色などのその他の花形質は種によって
大きく異ならないため、ポリネーターを介した生態的種分化への花
筒長の効果を検証するには最適な材料であると考えられる。しかし、
オオママコナは限られた地域に特異的に分布し、これまで花形態の
詳細な調査や、生態的な調査が全くされておらず、どのようなポリ
ネーターが送受粉を行うかも明らかになっていない。本研究では、
オオママコナの送粉生態や同属他種も含めた花形態の変異等の基礎
的情報の調査を行い、以下の事項について明らかにした。1)標本
調査、現地調査を行いオオママコナの分布状況及び、紀伊半島にお
ける同属他種(シコクママコナ、ママコナ)の分布状況を明らかに
した。2)オオママコナの花形態について特に花筒長に注目して同
属他種と比較を行った。3)オオママコナ生育地において送粉昆虫
の調査を行い主要なポリネーターを明らかにした。
P2-199
P2-200
情けはハチの為ならず:行動実験から探る花色変化の適
林床性草本ヒメカンアオイとミヤコアオイの繁殖生態:
応的意義
訪花昆虫相と結実特性について
* 牧野崇司(山形大・理・生物),大橋一晴(筑波大・生命環境)
* 根路銘恒次(大阪教育大・大学院),岡崎純子(大阪教育大・理科教育)
被子植物の咲かせる花の色は、咲いてから閉じるまで、ほぼ一定
に保たれることがほとんどである。しかしなかにはニシキウツギの
ように、咲かせた花の色を途中で変える植物が存在する。この花色
変化を呈する植物に共通の特徴として、色変化後の花における花粉
の授受や蜜生産の終了があげられる。変化後の花の役割については
これまで、株を目立たせることで多くの送粉動物を誘引する効果な
どが指摘されている。
花色変化は「空間学習に長けた送粉者の囲い込み」にも役立ちそ
うだ。ハナバチやハチドリなど、花粉をはこぶ動物のなかには蜜の
少ない株の位置を覚えて避けるものがいる。もしある株が色を変え
ずに古い花を維持すれば、蜜を出す若い花との見分けがつかなくな
る。蜜あつめに手間のかかる株も、空間学習の得意な送粉者に避け
られそうである。花色変化はこの事態を回避するための適応ではな
いだろうか? すなわち花色変化を示す植物は、古い花を維持して株
を目立たせ送粉者を誘引する一方で、蜜のありかを親切に教えて彼
らをリピーターとして囲い込み、訪問頻度の最大化を図っているの
かもしれない。
この仮説の検証のため、4.0 m x 5.5 m、高さ 2.0 m のケージの中で
クロマルハナバチと人工花を用いた実験を行った。実験では 3 タイ
プの株(古い花を維持せず落とす「落花型」、古い花を蜜を出さずに
維持する「延寿型」、蜜を出さない古い花の色を変える「変化型」)8
株ずつを並べ、ハチを放し、各タイプへの訪問回数を約 4 時間にわ
たって記録した。なお、変化前後の花色は白・黄・紫から選び、6
通りの組み合わせを試した。
その結果、全ての組み合わせで「囲い込み」の効果が確認された:
延寿型はハチにしだいに避けられたが、親切に色を変える変化型は
繰り返し訪問されていた。なお、色の組み合わせによっては古い花
の維持がハチの誘引に貢献しないことも明らかとなった。
ウマノスズクサ科カンアオイ属(Asarum )植物はアリ散布植物
として知られ、その分散力の低さから種分化研究の材料とされて
きた。材料としたヒメカンアオイ(A. takaoi )とミヤコアオイ(A.
asperum )は、宅地造成や里山の荒廃により個体群が減少している植
物でもある。両者の花形態の違いから繁殖様式が異なるものと指摘
されているが不明な点が多い。ミヤコアオイでは、杉浦 et al. (1999)
がキノコバエの仲間とヤスデ等の地表徘徊性動物が花粉媒介者であ
ると報告している。さらにその遺伝構造から外交配主体であると考
えられている(石田 ,2003)。一方、ヒメカンアオイでは日浦(1978)
が花粉媒介者として地表徘徊性動物の可能性を述べているが詳しい
報告はされていない。
そこで本研究では両種の繁殖生態、特に訪花昆虫相と交配様式を
明らかにするために、大阪府太子町・柏原市、奈良県王寺町のヒメ
カンアオイ 3 集団およびミヤコアオイ 2 集団を用いて次の調査を行
った。(1)訪花動物相を調べるために、24 時間および 12 時間の定
点観察を行った。(2)交配様式を調べるために交配実験を行い、結
果率および結実率を比較した。
その結果、(1)ヒメカンアオイでは訪花を確認した 11 種類のう
ち 8 種が双翅目の飛翔性昆虫であった。一方ミヤコアオイでは 3 種
の訪花が確認され、全て地表徘徊性動物であった。(2)交配実験の
結果、ヒメカンアオイは自動自家受粉では結実が見られなかったが、
人工自家授粉では結実が見られ自家和合性であることが判明した。
ミヤコアオイでは自動自家受粉による結実も見られ、自然条件と自
動自家受粉・人工自家授粉・他家授粉に結実率の差は見られず自家
和合性であることが判明した。この2種では花の形態の違いが、訪
花昆虫相の違いや交配様式の違いを引き起こしているものと考えら
れる。
292
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-201
P2-202
形態と系統の著しい不一致:北海道に産するエゾマイマ
ニジュウヤホシテントウの寄主範囲拡大:葉の新旧で適
イ群の例
合性が異なる新規食草の利用が導く変化
* 森井悠太(東北大院・生命科学),横山潤(山形大・理),河田雅圭,千
葉聡(東北大院・生命科学)
* 菊田尚吾(北大・院理),藤山直之(北教大・旭川),Sih Kahono(LIPI),
片倉晴雄(北大・院理)
オナジマイマイ科は日本の陸貝相を構成する主要なグループのひ
とつで、北海道にはマイマイ属サッポロマイマイのほか、北方系の
グループとしてカラフトマイマイ属、ヒメマイマイ属、エゾマイマ
イ属、タカヒデマイマイ属の 4 属が分布している。近年の系統学的
研究によって、オナジマイマイ科の北方系のグループが互いに非常
に近縁な属である可能性が示唆された。これを受けて、北方系のグ
ループ全 4 属の属間および個体群間の系統関係を推定した結果、中
でもヒメマイマイ属とエゾマイマイ属はとりわけ近縁であることが
示唆された。そこで、両属の関係を詳しく調べるために、さらに多
数の個体を用いて分子系統解析を行った。その結果、核 ITS、ミト
コンドリア 16S rRNA のいずれの領域においても各属の単系統性は
支持されず、2 属が入り交じる結果となった。両属を含むクレード
では個体群の地理的な位置関係が反映されており、属間でのハプロ
タイプの共有も見られないことから、形態的特徴と系統関係の不一
致は過去に複数の地域で生じた交雑によるものと考えられる。また、
両者のマイクロハビタットには違いが見られないにも関わらず、野
外調査や殻形態の解析によっても雑種や中間的な個体が確認されな
いことから、現在では属間での交雑は生じていないと推定される。
したがってヒメマイマイ属とエゾマイマイ属は互いに近縁で、最近
まで交雑を起こすほどであったにも関わらず、現在では明確な形態
的差異や生殖隔離を確立させていると考えられ、陸産貝類における
種分化や生殖隔離の成立過程を探る上で非常に興味深い材料である
といえる。
食植性テントウムシのニジュウヤホシテントウ Henosepilachna
vigintioctopunctata はナス科植物を主な食草として利用しているが、
東南アジアのいくつかの地域では、約 200 年前に南米より導入され
たマメ科の Centrosema molle (以下、マメ)も利用している。これ
までの飼育実験から、新規食草であるマメでは成葉よりも新葉の方
がテントウの餌としての適合性が高いことが経験的に知られている。
一方で、旧来の食草であるナス科植物ではそのような現象は認識さ
れていない。両食草を対象に、飼育条件下での新旧の葉の好適さと
野外での利用状況を調査したところ、マメでは成葉よりも新葉を成
虫は非常に良く好んで摂食し、幼虫の成育も良好であった。さらに、
野外におけるマメの利用も新葉に集中していた。一方で、ナス科植
物では新旧の葉の間で明確な違いは認められなかった。以上のこと
から、新規食草のマメではナス科の食草に比べ好適な部位が限られ
ており、野外ではその部位が選択的に利用されていることが明らか
となった。マメの新葉の成熟はテントウの発育よりも早いため、移
動能力の低い幼虫期においてもマメの新葉への移動が生じていると
考えられる。ナス科植物の利用では確認されなかったマメ上での幼
虫の移動を更に検討するために、マメへの適応状況(新葉上での幼
虫の発育能力)が異なるいくつかの地域集団を用い、幼虫の新旧の
葉の選択行動を調査した。本発表では、両食草の新旧の葉の好適さ
と野外での利用状況に加え、マメへの適応と幼虫の葉の選択行動の
変化について考察する。
P2-203
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雄型雌の幼虫の「大胆さ」はイトトンボ雌二型間の頻度
雌による精子の選択から生じる隠蔽された生殖的隔離:
依存的な体サイズ差をもたらすか?
サッポロフキバッタの事例
* 澤田浩司(福岡県立福岡高校),粕谷英一(九大・理・生物)
* 土屋香織,菅野良一,秋元信一(北大・農)
アオモンイトトンボには雌の体色に二型が存在する。一方は褐色
の雌型雌、他方は青緑色の雄型雌であり、常染色体上の限性遺伝に
よって決定されると考えられる。福岡市近郊では雌型雌と雄型雌の
比が約3対1で安定する傾向にあり、負の頻度依存淘汰によって雌
二型が維持されていると考えられる。そのメカニズムとして頻度依
存的なメス二型間の体サイズ差が考えられる。なぜなら各個体群に
おける雄型雌の頻度と、雄型雌および雌型雌の平均後翅長の差には
負の相関があって、雄型雌の頻度が低い場合には雄型雌がより大き
くなり、大きな雌は産卵数が多いからである。したがって、平衡頻
度より低い型の雌は、体長がより大きくなり産卵数も増加すること
によって有利になると考えられる。
成虫の体長は幼虫時の成長に大きく影響されるので、幼虫の二型
比を変えて飼育した場合の成長速度の差を調べた。福岡市で採集し
た雌からスタートして、1世代飼育して得た雌型雌(F1G)と雄型
雌(F1A)を交尾させた時の幼虫を単独で飼育して得た終齢幼虫を
実験に用い、前者からは雌型雌だけが(F2G1)、後者からは雄型雌
(F2A)・雌型雌(F2G2)ともに羽化した。水槽内で二型比を変えて
終齢幼虫を一緒に飼育したところ、雄型雌および雌型雌の成長速度
の差は雄型雌の頻度と負の相関があり、雄型雌は頻度が低い時に体
長がより大きくなる傾向にあった。一方各タイプの終齢幼虫を羽化
まで単独で飼育したが、成長速度は3タイプ間でほぼ同じだった。
単独飼育した終齢幼虫の行動をビデオに記録したところ、水草を離
れて餌の多い砂底で活動する時間は雄型雌に羽化した幼虫の方が長
かった。このことから、二型の幼虫間で「大胆さ(幼虫が水草を離
れて行動する傾向)」に違いがあり、摂食速度に差をもたらすことが
示唆された。
体内受精を行う動物において,雌が交尾後に雄の精子を精子貯蔵
器官まで移送するか否か,その精子を受精に利用するか否かに関し
て雌による精子の選択と操作が行われている可能性がある。このよ
うな雌による配偶者選択は,集団内での交尾・繁殖形質の一方向的
な進化を引き起こし,異所的な集団間での生殖的隔離さらに種分化
を生み出す要因となる可能性がある。しかし,雌による精子の選択
や操作が行われていても,交尾そのものは正常に行われているよう
に見えるため,このような隠蔽された生殖的隔離を判別するには,
精子が実際に移送されているかどうかを見なければならず,これま
でほとんど認識されてこなかった。
研究対象であるサッポロフキバッタでは交尾の際に雌が激しく抵
抗する傾向があり,その交尾拒否力は地域集団によって大きく異な
る。交尾拒否の激しい雌が見られる集団の雄は交尾を試みる交尾活
力が高く,逆に,交尾拒否の弱い雌が見られる集団の雄は交尾活力
が弱いことが明らかになっている。さらに,交尾活力の強い集団の
雄と交尾拒否力の弱い雌を掛け合わせると,集団内の交配よりもし
ばしば高い頻度で交尾が起こることが報告されている。しかし予備
実験から,交尾行動自体は集団内交配と同様に経過するにも関わら
ず,雌は異所的集団の雄の精子をほとんど受け取らないことが示さ
れている。
本研究では,2つの地域集団を用いて集団内・集団間交配を行い,
雌が受け取った精子数を比較することで,隠蔽された生殖的隔離の
強度を調べた。本種雌の交尾器には顕著な地理的変異がある明らか
になっているため,集団間での交尾器の差異を雌が認識して,精子
の受け取りを決めている可能性がある。交配させた雌雄の生殖器形
質を計測し,雌が受け取った精子数との関係を調べることで,生殖
器形質の差異が隠蔽的な生殖的隔離の要因として働いているか検証
した。
293
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-205
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メダカ野生集団における性的二型の緯度間変異をもたら
A new look at evolution in Galapagos archipelago: petal
す遺伝的基盤
sizes for avoiding visits from nectar robber in Cordia lutea
* 川尻舞子,吉田恒太(遺伝研・生態遺伝),藤本真悟,Daniel Frikli
Mokodongan,山平寿智(琉大・熱生研),北野潤(遺伝研・生態遺伝)
* 坂 本 亮 太( 東 大・ 総 合 文 化 ),Henri Herrera(Charles Darwin
Foundation)
性的二型、即ち雌雄間での表現型の違いは、生物界において広
く見られる現象である。性的二型はしばしば近縁種間や集団間でも
大きく変異しており、雌雄間でのニッチの分割や、種分化に関わる
例も多い。しかし、性的二型多様化の遺伝基盤に関する知見はまだ
少なく、複数の遺伝子が関わるのか、性染色体など特定の領域が重
要なのかなどについては多くが不明である。メダカ Oryzias latipes
complex はメダカ属で唯一の温帯種であり、地理的分布域が広く緯
度間で形態や生活史形質に大きな変異がある。特にオスの鰭長には
大きな集団間変異が存在し、低緯度集団のオスほど尻鰭、背鰭とも
に長く、結果的に性的二型の程度が大きい。また、この性的二型の
程度の緯度間変異は、成長過程における鰭の伸長プロセスの差異に
よってもたらされることが知られている。本研究では、緯度の異な
る2つの野生集団(青森、沖縄)を交配し、鰭の伸長プロセスを解
析し、両野生集団の全ゲノム解読結果に基づいてデザインしたカス
タム SNP アッセイ系を用いて、鰭の伸長プロセスの QTL マッピン
グを行った。講演では、連鎖地図と表現型情報に基づく、候補遺伝
子領域の特定結果について報告する。
花弁は送粉者に対するディスプレイとして機能する。サイズや色,
開花方向などの花弁形質の差異は送粉者の誘引に強く影響し,植物
の繁殖成功の多寡を決定する一因となる。一方で花弁には,送粉者
を引き寄せる機能だけでなく,送粉者の足場としての機能も有して
いると考えられる。特に大型の送粉者は,花を掴み,体重を預け,
姿勢を保持することによって吸蜜を実現している。
そこで我々は,ガラパゴス諸島に自生するムラサキ科植物 Cordia
lutea を材料に,花弁の足場としての機能の検出,および形質進化の
解析を試みる。本研究では,「盗蜜者であるクマバチの生育密度が高
い島では,Cordia lutea の花弁形質がクマバチによって掴まれにくく
なるよう進化し,盗蜜頻度が抑えられている」という仮説を設け,
その検証を行った。
花弁サイズと,クマバチによる Cordia lutea 個体への出現頻度を計
測した結果,クマバチの出現頻度が高い島で,花弁サイズが有意に
大きかった。しかしながら,実際に花に着地し盗蜜した頻度は島間
で異ならず,花弁サイズとの有意な相関関係も示されなかった。と
ころが,花の前でホバリングをしたけれども花への着地が行われな
かった頻度を,ためらい頻度として計測した結果,花弁サイズとの
間に有意な相関関係がみられた。一方,着地後の滞在時間に島間で
有意差は検出されず,花弁サイズが着地後の盗蜜行動に対しては影
響しないと示された。これらの結果は,クマバチによる高い盗蜜被
害を受ける島で,Cordia lutea の花弁サイズが大きくなる進化が生じ,
その結果,花弁を掴みにくくなったクマバチによるためらい頻度が
上昇し,盗蜜頻度が保たれていることを示唆している。
P2-207
P2-208
単細胞生物の個体がとる性比調節戦略:1細胞培養計測
種内変異を取り入れたシミュレーションによる系統樹上
系での珪藻の解析
の形質進化:ネコ科の体サイズ多様化
城川祐香 *,東大院総合文化,嶋田正和,東大院総合文化
* 原野智広・沓掛展之(総研大・先導科学)
Sex allocation is the most successful application of evolutionary game
theory. This theory has usually been applied to multicellular organisms;
however, conditional sex allocation in unicellular organisms is a completely
unexplored field. Observations at the cellular level are indispensable
for an understanding of the phenotypic sex allocation strategy among
individuals within clonal unicellular organisms. The diatom Cyclotella
meneghiniana , in which the sexes are generated from vegetative clonal
cells, is suitable for investigating effects of phenotypic plasticity on sex
allocation while excluding genetic differences. We designed a microfluidic
system that allowed us to trace the fate of individual cells. Sex allocation
by individual mother cells was affected by cell lineage, cell size, and cell
density. Sibling cell pairs tended to differentiate into the same fates (split
sex ratio). We found a significant negative correlation between size of the
mother cell and sex ratio of the two sibling cells. The male-biased sex ratio
declined with higher local cell population density, supporting the fertility
insurance hypothesis. Our results characterize multiple factors that affect
the phenotypic single cell-level sex allocation strategy. Sex allocation in
diatoms may provide a model system for testing evolutionary game theory
in unicellular organisms.
多くの分類群では,体サイズの種間変異を頻度分布で表すと,分
布が右に裾を長く引いた形になる。つまり,極端に小さな種は存在
しないが,極端に大きい種は少数存在する。体サイズの大型化は,
方向性選択による進化の結果だと考えられがちである。しかし、中
立な形質であっても,ランダムな遺伝的浮動による進化が起こる。
一般的に,体サイズが進化するときには,そのサイズに対して一定
の比率で変化していくと想定されている。より現実的には,進化的
変化は変異の大きさに依存すると考えられ,種内変異の大きさは体
サイズに応じて変化する傾向にある。これらの場合,体サイズが大
きくなるにつれて絶対的な変化量が大きくなるため,ランダムな浮
動の結果として,右に裾を長く引いた頻度分布が形成されると期待
される。それゆえ,極端に大きな種が存在していても,種間変異は
中立進化のみで説明される可能性がある。
大きな種の存在が中立進化と方向性選択のいずれの結果なのかを
識別するために,ネコ科に見られる体サイズの種間差を説明する進
化プロセスを推定した。ネコ科の体サイズには大きな種間変異があ
り,イエネコなどの平均体重 10kg 以下の種が多数を占める一方,ト
ラおよびライオンのように約 200kg にも及ぶ種が存在する。表現
型進化のシミュレーションを用いた系統種間比較法(Kutsukake &
Innan, 2013, Evolution)によって,クレード特異的に働く方向性選択
の強さを評価した。平均体重と分散のデータから両者の関係を推定
し,進化1回あたりの体重の変化が変異の大きさに比例するように
スケールを変換した。この手法によって,ネコ科の大型種の進化に
方向性選択が作用したかどうかを検証した。
294
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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ヤスデ類における体サイズ大型化を伴う種分化
生物群集の進化動態における系統間選択の効果
* 田辺 力(熊本大・教育),曽田貞滋(京大院・理)
* 伊藤洋,佐々木顕(総研大・先導科学)
本州、四国、九州には、ババヤスデ科アマビコヤスデ属に属する
体サイズの異なる複数の種が分布している。そのうちアマビコヤス
デは属内ではもっとも小型(体長 3.5 ∼ 4cm)で、本州関東以南、四国、
九州に分布する。アマビコヤスデの分布域内には、より大型(体長
5.5 ∼ 6 c m)の 6 種が生息しており、次のようにいずれも限られた
地域に分布する:未記載種 1(四国)、ホシデアマビコヤスデ(中国
地方)、キベリヤスデ(九州北部)、未記載種 2(九州北中部)、未記
載種 3(九州中南部)、カマトゲアマビコヤスデ(九州南部)。異な
る地域の大型種は、広く分布する小型のアマビコヤスデから独立に
分化した可能性がある.これらのアマビコヤスデ属の種の一部につ
いてミトコンドリア COI-COII 領域の塩基配列に基づく系統推定を行
ったところ、小型のアマビコヤスデから、未記載種 2(九州北中部)
とカマトゲアマビコヤスデ(九州南部)の大型 2 種が独立に分化し
ていることがわかった。他の大型種についてはまだ塩基配列データ
が得られていないが、交尾器形態の違いから同様にアマビコヤスデ
から独立に分化している可能性がある。この仮説が正しければ、体
サイズ大型化を伴う種分化が平行的に数回生じていることになる。
各大型種はアマビコヤスデとしばしば林床土壌中に同所的に見られ、
いずれの種も腐葉土を食することから、生息環境や食性の違いは大
型化の要因ではないかもしれない。本属の分類は遅れており、未知
の大型種も存在するであろう。発表では、追加の塩基配列解析の結
果を含めて体サイズ大型化を伴う種分化パターンについて報告する。
生物群集の長期的な進化史は、放散と絶滅の繰り返しによる種組
成の遷移過程として解釈できる。このような時間スケールにおいて、
群集全体あるいは特定の分類群の平均的形質が適応的に変化する場
合、その全てが各々の系統の適応進化(系統内進化)の総和として
説明できるとは限らない。たとえ各々の系統における形質進化がラ
ンダムであっても、偶然に適応的進化を達成した系統が放散しつつ
外の系統を駆逐することにより、その系統群の平均的形質が適応的
に変化し得る。このプロセスは系統間選択として解釈でき、放散と
絶滅が繰り返される時間スケールに特有のものであろう。本研究は
この系統間選択を解析するために、着目する系統群の平均形質の時
間変化を、(1)系統内進化の効果と(2)系統間選択の効果に分割
する手法を Price 方程式(マルチレベル選択を記述するための一般式)
に基づき考案した。有用性を調べるために、この手法を資源競争モ
デルと捕食被食相互作用モデルにおける長期的進化動態に適用し、
ニッチ形質、栄養段階、突然変異率などの進化的変化を系統内進化
の効果と系統間選択の効果に分割した。また、系にどのような決定
論的、確率論的な作用を加えると、それらの分割結果が得られるの
かについても解析した。本研究の手法は、原理的には実証データに
も適用できる(ただしデータ不足などに起因するバイアスの吟味が
必要)。
P2-211
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葉巻きの効果~潜葉性チョッキリの産卵葉を巻く野外実
「負けぐせ」が武器形質の反応基準を進化させる
験での検証~
* 中山新一朗,岡田泰和,嶋田正和(東大・院)
* 小林知里,河田雅圭(東北大・生命科学)
昆虫の中には、雄同士が自身の持つ武器形質(角や大顎など)を
用いて闘争する種が存在する。それらの多くにおいて武器形質の大
きさの二型が観察されており、その二型は一般的に一定より小さな
雄は小さいタイプの武器形質を、大きな雄は大きいタイプの武器形
質をもつことによって実現されている。武器形質の二型は闘争に代
わる代替戦略(スニーキングなど)のもとで進化しうる可能性が示
唆されているが、それを実際に示した例はない。本発表では、代替
戦略と学習の効果(負けぐせ)が武器形質二型の進化を促進する可
能性に焦点を当てた個体ベースシミュレーションの結果を報告する。
「葉巻き」は植食性昆虫の様々なグループで進化した行動である。
葉巻きは一般的に捕食や寄生回避の効果が考えられているが、具体
的にどのような捕食者・寄生者に対しどのような効果があるのかと
いう実態はほとんどわかっていない。今回研究対象としたイクビチ
ョッキリ類では、葉巻きを作らない種は特定の寄生蜂から高い寄生
圧を受けるのに対し、葉巻きを作る種ではこれらの寄生を免れてい
ることが先行研究で明らかにされている。
そこで今回は、葉巻きの効果を実証することを目的とした。本来
葉巻きを作らない落葉潜葉性のイクビチョッキリの1種について、
産卵された葉を実験的に巻いて野外に設置し、葉を巻かない場合と
生存率や死亡要因・死亡率を比較した。
その結果、葉を巻くことでヒメコバチ科による寄生を完全に回避
できることが明らかになった。また、葉を巻くと卵の捕食によると
みられる死亡も低くなり、全体的な生存率も高かった。しかし一方
で、鱗翅目幼虫が葉巻きに潜り込み葉を摂食することによる死亡が
多くみられ、葉巻きのプラスとマイナス両方の効果が明らかとなっ
た。今回の結果は葉巻きが寄生や捕食回避として進化したことを支
持するとともに、葉巻きをめぐる生物間の複雑な相互作用の実態を
垣間見させてくれるものであった。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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ショウジョウバエにおける寄生蜂抵抗性の進化:抵抗性
伊豆諸島におけるオオムカデ属の分子系統地理
のコストの査定と抵抗性遺伝子の探索
* 脇海道 卓,林 文男(首都大・生命),長谷川 雅美(東邦大・理)
* 滝ヶ平智博(北大・院環境),甲山哲生(北大・院理),木村正人(北大・
院環境)
日本には Scolopendra 属のアオズムカデ (S. subspinipes japonica) と
トビズムカデ (S. subspinipes mutilans) という2亜種が広く分布してい
る。これら2亜種はしばしば共存しており、伊豆諸島では両亜種が
共存する島と単独で分布する島がある。本研究では、これら2亜種
の関係を明らかにするため、ミトコンドリア DNA に基づく系統解析
を行うとともに、両亜種間の形態的差異を調査した。伊豆諸島にお
いて、伊豆大島、式根島、新島、神津島では両亜種が、三宅島、御
蔵島、八丈島ではアオズムカデのみが採集された。トビズムカデは
アオズムカデより大きくなり、相対的に口器が大きい。体サイズで
比べると、単独で生息する八丈島のアオズムカデは、トビズムカデ
と同所的に生息する島のアオズムカデより大きい傾向があった(形
質置換の可能性)。一方、ミトコンドリア DNA 塩基配列(16S, CO1)
に基づいた分子系統解析の結果、両亜種は完全に2つのグループに
分けられ、生殖的に分離した別種であると考えられた。関東地方か
ら御蔵島までのアオズムカデは一つの遺伝集団を形成していたが、
八丈島のアオズムカデには、この御蔵島までの遺伝集団の他に、琉
球列島の遺伝集団が混ざっていることが明らかになった。自然林で
は前者が、人の居住域では後者が生息しており、琉球列島タイプの
ものは最近になって(人為的に)移入したと推定された。八丈島の
アオズムカデは、他の伊豆諸島のものより大型であることは、琉球
列島の遺伝集団のものが大型であることに起因していた。伊豆諸島
の本来のアオズムカデだけを比べると、アオズムカデ単独集団とト
ビズムカデと同所的に生息する集団の間に体サイズの差異はなかっ
た。
宿主 ‐ 捕食寄生者系は共進化・軍拡競争に関する代表的な研究対
象である.捕食寄生では寄生が成功すると宿主は殺されてしまうた
め,宿主は寄生者に対する抵抗性を進化させると考えられるが,寄
生率が高いにもかかわらず寄生者に対する抵抗性を持たない宿主も
多い.これは,寄生者に対する抵抗性にはコストがあり,抵抗性の
獲得が抑制されている可能性を示唆している.
捕食寄生蜂 Leptopilina victoriae はショウジョウバエ幼虫の体内に
産卵し,寄生蜂の幼虫は宿主を捕食して成長し成虫となる.寄生
蜂に対して抵抗性を持つショウジョウバエは,寄生蜂に寄生され
ても生き残ることができる.フタクシショウジョウバエ Drosophila
bipectinata の L. victoriae KK(コタ・キナバル系統)に対する抵抗性
には地理変異があり,インドネシアのボゴール系統,マレーシアの
コタ・キナバル系統は抵抗性を持つが,西表島系統は抵抗性を持た
ない.
本研究では,これらフタクシショウジョウバエ 3 系統をかけ合わ
せた母集団を作成し,L. victoriae KK に対する抵抗性を持つ系統を選
抜した.母集団の抵抗性は約 15% であったが,抵抗性選抜系統では
4 世代で 80%以上が抵抗性を示すようになった.そこで,抵抗性選
抜系統とコントロール系統の生活史形質を比較したところ,選抜系
統で雌の寿命の短縮と雌雄の高温耐性の低下がみられた.これらの
形質は抵抗性獲得のコストであると考えられる.また,AFLP 法に
よる遺伝子多型解析を行い、抵抗性選抜系統に特異的な AFLP 断片
を発見した.
P2-215
P2-216
日本産ササ類における推定雑種分類群を検出する分子マ
祖先形質推定において系統樹の不完全性が及ぼす影響
ーカーの検討
* 川森愛,沓掛展之(総研大・先導研)
久本洋子(東大・千葉演)
系統種間比較法の発展により,系統樹の末端種(外部節)の形質
値を用いて,共通祖先種の形質値を推定する方法が開発されている.
その際,系統樹の情報が不可欠であるが,完全な系統樹を知ること
は難しい.系統樹に不完全性をもたらす要因は大きく分けて 2 つあ
る.1.欠損種による不完全性.外部節の中に絶滅種が含まれている
場合,その種のデータは得られない.また,現生種であっても,生
息地域や生態環境によっては完全なサンプリングができるとは限ら
ない.2.分岐年代の不確実性.種の分岐は過去のどこかで起こっ
たイベントであり,その年代を完全に知ることはできず,分子系統
学的手法による様々な推定に頼らざるを得ない.これらの 2 つの不
完全性は祖先形質推定にも影響を与える.我々はコンピュータシミ
ュレーションにより架空の系統樹を作成し,これらの不完全性の影
響を調べた.完全な系統樹を用いて推定した共通祖先種の形質値を
A とすると,不完全な系統樹を用いた推定値は A の周りにばらつい
て分布する.欠損種数が多くなるほど,また,分岐年代の不確実性
が大きくなるほど,分布の分散は大きくなり,推定精度は悪くなる.
では,分岐年代が不確実な種が欠損した場合,欠損した不確実性は
祖先形質推定にどのような影響をもたらすだろうか.また,欠損種
数が同じであっても,近縁種がまとまって欠損する場合,系統樹の
深い部分(より共通祖先種に近い部分)にある内部節まで失うこと
になる.欠損する系統樹の深さは,祖先形質推定にどのような影響
をもたらすだろうか.これらの課題について検証した結果を報告す
る.
日本列島準固有種であるササ属植物には雑種形成により限りない
中間形や複合体が数多く存在し、外部形態による種の同定が極めて
困難である。しかも、葉緑体遺伝子は母性遺伝をするので、これら
の雑種分類群を検出できない特性を持っている。本研究はササ類の
雑種およびその両親種を検出可能な簡明な核遺伝子マーカーを開発
することを目的とした。
日本海側に分布するチシマザサ節とチマキザサ節植物は広く重複
分布し、両種の中間的な形態を示す推定種間雑種オクヤマザサの存
在が知られている。そこで、北海道、長野県、岐阜県、福井県、富
山県、栃木県、山口県において採集したチシマザサ節(チシマザサ、
ナガバネマガリダケ)とチマキザサ節(チマキザサ、クマイザサ、
イヌクテガワザサ)およびオクヤマザサの計 48 個体について葉から
DNA 抽出精製を行った。採集個体は押し葉標本にし、栄養繁殖器官
の外部形態に基づいて同定した。120 種類のオペロンプライマーを
用いて HAT-RAPD 法によって一次スクリーニングを行い、再現性が
高くチシマザサとチマキザサ節で異なるバンドパターンを示した 6
個のプライマーを選別した。それらのプライマーの増幅配列を基に
STS 化プライマーを設計し、識別バンドのみを検出可能にした。検
出バンドは NewHybrids によるベイズ推定を用いて解析し、種間雑種
(F1、F2)や戻し交雑の識別を行った。その結果、2 種が同所的に生
育する分布地では浸透性交雑が起こっていることを明らかにした。
本方法では STS 化により RAPD 法よりも再現性や識別能が改善さ
れた。また、PCR と電気泳動法のみで識別を行うためコストや時間
が抑えられ、誰でも簡易に行うことが可能となった。
296
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-217
P2-218
異質環境下における学習能力の反応拡散モデル
群集系統関係に対する違法伐採の影響 - カンボジアのコ
川崎 廣吉,* 木村望 同志社大・文化情報
ンポントムプロットを用いて -
ヒトの学習能力には個体学習と社会学習があると仮定する。個
体学習能力を有するものを個体学習者、社会学習能力を有する者を
社会学習者と呼び、これら学習者の増殖と拡散を表す反応拡散方程
式モデルが Wakano et al.(2011) によって報告されている。Wakano et
al.(2011) では環境が空間的に一様である場合について報告されてい
るが、本研究では、ある一定の幅で環境が変化し、かつ同じ環境は
二度と現れない場合について調べた。このような環境のことを異質
環境と呼び、異質環境下で一定時間経過した時の個体学習者と社会
学習者の個体数の変化、分布域の変化、分布拡大速度に注目している。
個体学習者はコストが大きくなるほど生き残りにくくなる。しかし
異質環境下においては同じコストならば、環境の幅が小さい、つま
り環境が次々に変化するほど、個体学習者の分布域が広くなるとい
う結果が得られた。
遠山弘法
P2-219
P2-220
東南アジア熱帯雨林における多孔菌類の種多様性:低緯
日本の天然林の多様性指数
度地域では種多様性が高いのか?
正木隆(森林総研)
カンボジアは国土の 58% が森林で覆われており、低地熱帯林が
現存しているという点で生物多様性のホットスポットである。しか
しながら、カンボジアの森林植物相は、ほとんど研究がなされてお
らず、種同定に基づく森林組成に関する研究を行う事が難しい。例
えば、Kao and Iida (2006) では 80 種が未同定のままであり、Top et
al.(2009)では 243 種の内 36%(88 種)が未同定のまま解析されて
いる。このような状況下で近年、違法伐採が増加しており森林の群
集組成が変化している。本研究では、12 年間で 4 回の計測が行われ
ている 32 箇所のパーマネントプロットにおいて、DNA barcoding に
よる種同定を行い、群衆系統関係に対し違法伐採がどのような影響
を与えるのかを検証した。プロットに生育する樹木から 603 サンプ
ルを収集し、rbcL と matK 領域の配列を決定した。BLAST 検索の結
果に基づき、主要な herbarium で 67 科 322 種を同定した。群衆系統
解析のための系統推定は、ベイズ法を用いた。予測されたとおり、
種多様性、系統的多様性は違法伐採により急激に減少していた。ま
た、違法伐採により群集の組成は、系統的な中立性からずれ系統的
に多様化する事がわかった。そして、群集間の系統的関係を調べると、
違法伐採により常緑林プロットが落葉乾燥林に近くなることがわか
った。これらの事は、長い歴史の中で安定的に維持されてきた群集
組成が、違法伐採により急激に変化させられたことを示唆する。
* 山下聡(森林総研),服部力(森林総研関西),岡部貴美子(森林総研)
日本の天然林の多様性指数
正木隆(森林総研)
Hubbell の統合中立理論は、θ(メタ群集サイズ×種分化率)と m
(移入率)によって局所群集の種多様性が決まるとする。m は調査プ
ロットの面積に依存する一方、θの値は調査面積に依存しないため
森林の多様性を評価するのに適していると演者は考えている。
本発表では、日本全国の老齢・成熟した天然林でθと m を推定し、
θの変動要因を分析する。用いたデータは、森林総研の長期大面積
プロットと環境省の事業「モニタリング 1000」プロットの合計 62
セットである。ここでは TeTame での推定計算が収束した 38 プロッ
トの結果を用いる。
38 プロットのうち、10 プロットではθの推定の当てはまりが悪か
った。これらはスギやヒノキの針葉樹天然林、ほぼブナのみが優占
する冷温帯林、あるいはカンバ類とナラ類の混交した二次林であっ
た。これらは過去に選択的な伐採がおこなわれたか、伐採後間もな
い発達途上にあり、中立性が保たれていないものと推測された。
残りの 28 プロットについて、気象条件(気温、降水量)、地理条
件(緯度、経度)、群集の発達度(全断面積合計、群集内最大木の胸
高直径)、群集の安定性(更新木を欠く樹種の断面積合計、およびそ
の全断面積合計に占める比率)を説明変数、θを目的変数として一
般化線形モデルを構築し、変数選択をおこなった結果、多様性指数
θは平均気温とともに増加する傾向を示し、全断面積合計とともに
減少する傾向を示した。実測値がこのモデルによる推定値よりも過
大だったのは、ウダイカンバ、コナラ、アカシデ、アサダなどが優
占する二次林的組成の落葉温帯林だった。一方、θの実測値が過小
だったのは小笠原の常緑樹林で、大陸という種のソースから隔離さ
れてからの時間が反映されたものと考えられた。
以上の結果から、θは主に平均気温によって左右され、同時に歴
史性を反映する指標であると考えられた。
生物の地理的な分布には古くから興味が持たれており,緯度との
関係は多くの分類群で注目されてきた。菌類では、植物葉圏の内生
菌では熱帯地域で多様性が高い一方,外生菌根菌では中緯度地域を
頂点とするともいわれ、必ずしも低緯度地域で多様性が高いとは限
らない。近年、木材腐朽菌の種多様性に対する関心が高まっているが、
熱帯地域での研究例は少なく、広域での多様性のパターンを評価で
きない。本研究では,東南アジア熱帯地域の原生林である多孔菌類
の多様性を評価したうえで、既存の研究成果を加えて、多様性の緯
度系列に伴うパターンの検出を試みた。
ボルネオ島ランビルヒルズ国立公園の原生林に設置した計 1.4ha
のライントランセクトで 2005 年に二回,多孔菌類の子実体を採集し
た。その結果、合計 105 種が得られた。また、マレー半島パソーの
原生林に設置された 2ha のプロットで 1995 年から 1998 年に 5 回行
われた野外調査の結果を再度整理したところ、パソーでは 5 回の調
査で合計 160 種の多孔菌類の子実体が得られていた。
多孔菌類の種数を記載している野外調査のうち、調査地の緯度、
標高、調査面積に関する情報が得られる研究を探索したところ、20
件が該当し、123 プロットの情報を得ることができた。ランビルヒ
ルズ国立公園とパソーの結果を加えたうえで、緯度と標高を説明変
数とし、種密度(調査面積当たりの種数)を応答変数として、相関
関係を調べた。その結果、中緯度、低標高で種密度が高い傾向が認
められた。
今回認められたパターンは外生菌根菌の例と類似しており、資源
タイプの豊富さで多様性のパターンが説明できる可能性がある。た
だし、解析に用いたデータには偏りがあるため、さらなるデータを
加えていく必要がある。
297
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-221
コーディングの適用法について
P2-222
DNA バーコーディングを適用したユスリカ科昆虫の多
様性の研究 .(2) ユスリカ亜科 Chironomus 属における
COI 塩基配列の種内・種間変異
* 上野隆平,今藤夏子,大林夏湖,玉置雅紀,高村健二(国立環境研・生物)
* 大林夏湖,今藤夏子,上野隆平,玉置雅紀,高村健二(国立環境研・生物)
ユスリカ幼虫は水界生態系における主要な構成員であるにもかか
わらず、形態による同定の困難さから、ユスリカ科として一括され
るか属レベルでの議論がほとんどであり、精度が高い群集解析の手
段がなかった。しかし、近年、種の同定に DNA バーコーディング
を用いた研究の成果が続々と発表されるようになっており、ユスリ
カ幼虫を種レベルで同定する道が開かれつつある。
我々は、昨年度からユスリカの DNA バーコーディング ( チトクロ
ーム c オキシダーゼ I 領域 ) を利用した種同定法の研究を行っている。
その結果、種の同定における DNA バーコーディングの有用性が明
らかになるとともに、注意すべき事柄も見つかった。本報告ではこ
れらについて述べる。現時点で明らかになっている主な事柄は以下
に列挙するとおりである。
1) 形態による同定と塩基配列から導かれる系統は大部分で一致
した。2)Chironomus 属および Tanypus 属で形態により 1 種と同定さ
れた標本から、大きく異なる複数の塩基配列が得られた。特に、C.
nipponensis については低地産のものと高地産のもので塩基配列が異
なっていた。3)DNA 塩基配列データベースと照合した結果、誤同定
と思われる登録が見られた。
なお、塩基配列から種を同定するために必用となる種内・種間変
異の境界の検出やより安価な種判別法への応用については、本大会
の別のポスターで報告される。
双翅目ユスリカ科は淡水無脊椎動物の中で最も多様な科の1つで、
全世界で 1 万種以上の種が記載されている。ユスリカ類は、生活史
の大半を水中ですごし、幼虫は多様な水質環境に生息し、重金属耐
性や貧酸素耐性等を持つ種もいることから、水質の環境指標生物と
しても利用されてきた。一方、種同定は雄成虫の形態分類により行
われ、種固有の形態的特徴の乏しい幼虫・雌成虫では種レベルの同
定に限界がある。そのため、雄成虫の DNA 情報が蓄積されれば、幼
虫・雌成虫の DNA 情報からも種同定が可能になり、水質指標生物
としての有用性も高くなる。これにはまず、雄成虫の形態分類によ
る種同定と当該種の DNA 配列情報の蓄積が必須である。本研究では、
種同定した雄成虫の COI 領域 DNA 情報を蓄積、DNA バーコーディ
ングにより、配列情報から幼虫・雌成虫の種同定を可能とすること
を目的とし、Kimura 2 parameter(K2P)model を用いた雄成虫の平均
遺伝的分岐度を求め、種内・種間変異の解析を行った。本州に分布
する Chironomus 属 7 種の平均遺伝的分岐度は、種内で 2.6%、種間
で 15.8%であり、両者の頻度分布は重複せず、10%より大きい種間
変異を示す場合、別種とみなすことが可能であると考えられた。次に、
DNA 配列データーベース情報を用い、国内外の Chironomus 属 50 種
で解析した結果、平均遺伝的分岐度は、種内で 2.0%、種間は 15.0%
となり、国内の平均値と同程度を示した。しかし、平均遺伝的分岐
度の頻度分布は、種間と種内について重複し、明確な分岐度の閾値
は定義できなかった。
P2-223
P2-224
ブナ林を中心とした菌類・植物共生網の解析と生物相互
ボルネオ島における焼き畑後の森林遷移と生物多様性の
関係データベース
回復過程
* 細矢 剛,保坂健太郎,奥山雄大,大村嘉人,樋口正信,門田裕一,齊
藤由紀子
* 高野(竹中)宏平(東北大),市岡孝朗(京大),中川弥智子(名古屋大),
岸本圭子(東大),山下聡(森林総研),徳本雄史(名古屋大),福田大介,
鴨井環(愛媛大),加藤裕美(早稲田大),永益英敏(京大),市川昌広(高
知大),百瀬邦泰(愛媛大),中静透(東北大),酒井章子(地球研)
DNA バーコーディングを適用したユスリカ科昆虫の多
様性の研究.(1) ユスリカ群集解析のための DNA バー
生物の多様性が維持され、生み出される背景には相互関係が重要
である。菌類は二次生産者として物質循環へ関わるとともに、生き
た生物とも様々な関係を結び、とりわけ植物とは関係が深い。そこ
で本研究では、標本・文献・分子情報などを総合し、菌類と植物が
織りなす共生ネットワーク(共生網)のあり様を可視化するための
予備的な検討を行なうことを目的にブナ林を重点的に調査した。ブ
ナ林は日本の冷温帯の代表植生であり極相林として様々な動植物相
が知られており、標本も多数採集されている。
文献データ、科博の標本データに加え、葉圏および内生菌の菌類
を分離して分子データをもとに同定した実験データの合計 3000 件以
上を収集し、ブナと菌類の間の相互関係を解析した。菌類データは
約 1450 件で、このうち種レベルの同定がなされていて、ブナの部位
(根・葉・枝を含む材の区別)データがあるものは約 200 種で、この
ほか 20 種を超える地衣類があった。文献的に知られている種のうち、
標本が保管されているのはわずか 20 種で、一層の実証的な研究が必
要とされる。部位別にみるとブナ殻斗、葉、材・その他のそれぞれ
から 4、32、170 種が得られた一方、材と葉の共通種は 4 種にとどま
り、部位による基質選好性が見いだされた。葉および根から分離さ
れた菌の分子系統解析の結果では、葉からは子実層を裸出しない子
嚢菌類が主に分離されるのに対し、根からは子実層を裸出する子嚢
菌類が多く出現する傾向があり、乾燥への適応が考えられた。
次に、上記で得られたブナに発生する菌について、ブナ以外のホ
ストを文献データを基に調査し、これらを含めて Cytoscape にてネ
ットワーク解析した。その結果、1232 ノード、1680 エッジよりなる
ネットワーク図が得られ、この中にはハブとなって複数の生物に関
わる複数の菌類・植物の存在が示された。
森林の減少や劣化に伴う生物多様性の減少については多くの研究
があるが、人為攪乱後の森林遷移と多様性の回復過程に関する研究
は少ない。本研究では、低地熱帯域における焼き畑後の森林遷移に
着目し、1) 焼き畑放棄から 3 年未満、2) 5-13 年後、3) 20-60 年後の
休閑林、4) 国立公園内の原生林の調査区を設置して生物多様性を比
較した。多孔菌類・林縁性チョウ類・アリ・腐朽材利用甲虫では焼
き畑放棄後の森林遷移に伴って種多様性の回復が観察されたが、焼
き畑放棄後 20-60 年後の森林においても、その種多様性は原生林に
比べておおよそ 2/3 以下に留まっていた。このことは、人為攪乱後
の森林遷移に伴って種多様性が回復する生物群においても、原生林
のレベルまで多様性が回復するにはかなりの時間がかかることを示
唆している。さらに林縁性チョウ類・腐朽材利用甲虫においては、
原生林からの距離が種多様性に対して有意な負の効果を持っていた。
このことから、森林の回復程度だけでなく、ソース個体群としての
広域原生林の重要性が示唆された。一方で、樹木・小型哺乳類・植
食性コガネムシなどでは、森林遷移に伴った種多様性の上昇は見ら
れなかった。今回の調査区は 5000m2 以下と小さく、哺乳類や飛翔性
甲虫など移動性の高い分類群は土地被覆の効果をあまり受けなかっ
た可能性がある。各調査地における環境指標(樹木種数・合計胸高
断面積・土壌水分量・開空度など)は互いに相関しているケースが
多く分離は簡単ではないが、どのような環境要因が各生物分類群に
とって重要であるかを今後検討していく必要がある。
298
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-225
P2-226
樹木多様性と生産量の関係:天然林生態系プロットのデ
ニワウルシの繁殖特性 - 根萌芽個体の形態的特徴についてー
ータ解析
小川奈保美(日本大学大学院)
* 岩井紀子,渡部賢,澤田晴雄(東大演習林)
生物多様性と生態系機能の関係については、草本植物の一次生
産を対象として多くの研究がなされてきた。森林生態系における一
次生産は、炭素の吸収、蓄積に関わる重要な機能であるが、その樹
木の多様性との関係についての研究は未だ少なく、特に天然林にお
ける長期データの蓄積が待たれている。東京大学附属演習林、生態
水文学研究所が所有する愛知県の研究林(赤津、穴の宮、犬山)で
は、2000 年および 2009 年に 20m × 20m の生態系プロット 32 か所
において、全ての木本の胸高直径と樹高が記録されている。本研究
では、この毎木調査のデータを用い、暖温帯の天然林において、樹
木の多様性が材積変化に与える影響について検証した。調査対象地
における樹種は全プロットで 64 種、各プロットでは8から 26 種確
認され、Simpson の多様度指数は 0.73 から 0.93 であった。また、密
度は 1200 ∼ 3500 本 /ha(2277 ± 559; mean ± SD)、平均胸高直径は
8.42 ∼ 15.31 cm (11.25 ± 1.40)、胸高断面積は 15.3 ∼ 40.4 m2/ha(27.6
± 6.96) であった。各調査年における胸高直径と樹高から総材積を計
算し、10 年間の年平均生長速度を算定したところ、各プロットにお
ける平均値は -7.83 ∼ 9.34 m3/yr/ha (1.86 ± 3.61) であった。各プロッ
トの生長速度を目的変数とし、森林の樹木多様性(樹種、胸高直径等)、
地形(傾斜角、斜面方位、標高等)、地質等を説明変数としたモデル
を用いて変数選択を行い、樹木多様性が生産に与える影響を検証し
た結果を報告する。また、その要因を解明するため、樹種ごとの生
態的特性(成長速度、樹高等)を考慮した解析を行う。
ニワウルシ (Ailanthus altissima ) は、中国原産の落葉高木である。
ニワウルシは世界各国でわが国でも、侵略的外来種として在来生態
系の脅威となる可能性は十分に考えられる。ニワウルシは実生から
の発芽と根から個体を萌芽させる根萌芽の 2 つの繁殖方法を持つ。
本研究では、ニワウルシの分布拡大の可能性を考え、根萌芽特性に
着目し、ニワウルシの根萌芽発生のシステムを解き明かすために根
と萌芽個体の形態的特徴を調べた。
神奈川県藤沢市の日本大学生物資源科学部構内にある、竹林内で
のニワウルシの萌芽個体の毎木調査を行った。また、個体の地下部
を掘り、根を露出させると多くの個体の発芽部分がふくらみ楕円球
状の塊を形成していたため、その塊の最大部の直径や長さを測定し、
その中から更にランダムに選別した塊を解剖し、解剖して形態を観
察した。
毎木調査の結果は、樹高、地際直径共にどのデータとも相関を得
られなかった。楕円球状の塊の大きさは、発芽個体の材積と発芽痕
から見られる萌芽個体の発生本数の 2 つが共に正の相関を得られた。
また、塊の解剖・観察で得られた形態的特徴では、塊が大きくなる
に連れて根の髄部も大きくなり、そこから盛んに萌芽していること
がわかった。
以上の結果から、ニワウルシは根に髄部の発達した塊を形成しそ
こから萌芽すると考えられる。塊の多くは地下 40cm いないに見つ
けられたため、塊形成のきっかけは地中の空隙でないかと考えられ
る。
P2-227
P2-228
微生物群集の系統的多様性の全球パターン
ハルリンドウの生育地環境評価からみた愛知県生態系ネ
* 藤井正典(東大・秩父演習林),伊藤亮太(千葉大・理),平尾聡秀(東
大・秩父演習林)
ットワークの現状と環境教育への利用法提案
* 味岡ゆい(中部大・現教),長谷川友美,藤井一憲,南基泰(中部大・応生)
微生物は極めて高い分散速度を持つため、その地理的分布は局所
的な環境要因によって規定されると考えられてきた。一方で、近年
の研究から、微生物群集の多様性は分散制限や進化履歴の影響を受
けることが示されており、必ずしも環境要因だけで規定されないこ
とが認識されつつある。したがって、微生物の地理的分布における
規則性を明らかにするためには、多様なプロセスの影響について検
証する必要がある。しかし、これまでに報告されてきた研究結果は、
対象とする地域やそのスケールによって様々であり、統一された見
解には至っていない。そこで、本研究では、明確な空間的隔離をも
つ湖沼を対象としたメタ解析を行うことで、全球スケールでの微生
物群集の地理的分布パターンを解明した。
解析に必要な論文データを収集するため、学術文献データベース
Web of Science(Thomson Reuters Inc.)を用いて文献検索を行った。
対象とする環境を、厳密に内陸表層部の溜り水とするため、河川や
地下水、ラグーンから得られたデータは除外した。また、極端な人
為的影響を考慮し、塩田、水産資源養殖場、鉱山跡、工業汚染区、
操作実験区も同様に除外した。加えて、対象とする微生物を、自由
生活性の好気性真正細菌とするために、嫌気層、底泥、湿地、生物
体表面、およびバイオフィルムから得られたデータを除外した。さ
らに、実験方法による偏りを低減するため、解析に利用する塩基配
列は、真正細菌もしくは原核生物のリボソーマル RNA 遺伝子を対象
とするユニバーサルプライマーを使用し、DNA クローニング法によ
って無作為に得られたデータに限定した。本講演では、得られたデ
ータに基づいて、微生物群集の系統的多様性の全球パターンについ
て議論する。
愛知県では 2010 年度より生物多様性条約第 10 回締約国会議で取
り決められた愛知目標に向け、生態系保全・再生を目標とした生態
系ネットワーク構築に取り組んでいる。しかし従来の生態系ネット
ワークは、生物種の生息地環境や種多様性に注目した評価であり、
遺伝的多様性までを考慮した生物多様性の評価とはなっていない。
また愛知県は県民や学校それぞれが生態系ネットワークを念頭に置
いた自然との共生を求めているが、環境教育での具体的な利用方法
の提案は行われていない。愛知県を含む周伊勢湾地域に固有の湿地
環境に加え、水田、樹林地などの普遍的な里地里山環境に生育する
ハルリンドウに着目し、遺伝的多様性の高いコアエリアの抽出、生
育地環境の把握から愛知県内での生態系ネットワークのハブやコリ
ドーとなる地域を検討した。またこれらの結果を環境教育へ利用す
る方法についての提案を目指した。
周伊勢湾地域に生育するハルリンドウ 65 地点について遺伝的多様
性を指標とした場合、愛知県内には東部丘陵・西三河、東三河、知
多半島の少なくとも 3 つのコアエリアがあり、その中でも遺伝的多
様性まで考慮した生態系ネットワークのハブは 2 つの遺伝的グルー
プが確認された東部丘陵・西三河であると考えられた。そのため、
この地域の堆積岩類もしくは深成岩上の落葉広葉樹林や植林地など
の樹林地はコリドーとして重要な機能を有していると示唆された。
東部丘陵・西三河は愛知県が仮想する生態系ネットワーク軸の分岐
中間地であり、遺伝的流動の観点からも重要な地域であった。この
ことから、生態系ネットワークは遺伝的多様性まで考慮する必要が
あることを、遺伝的ネットワーク図を作製し、環境教育で啓発して
いく必要があると考えられた。
299
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-229
P2-230
採草地の管理変化が花の多様性を減少させる : 植生高の
植生環境と周辺土地利用が異なる緑地における節足動物
変化による開花制限
相の比較
* 永田優子,内田圭,丑丸敦史(神戸大・人間発達環境)
富田基史,阿部聖哉,松木吏弓(電中研)
火入れや採草など、人の管理により維持されてきた半自然草原は、
多様な草原性生物が生育する環境である。近年、農村地域のライフ
スタイルの変化に伴う草原自体の利用価値の低下や管理者の高齢化
によって、草原管理の放棄・簡略化 ( 管理頻度の変化 ) が進行して
いる。これまで管理頻度の変化に伴う、植生高や土壌状態などの環
境の変化が植物の多様性を減少させるとされてきたが、多様性の減
少メカニズムについては十分には解明されていない。
本研究では、木曽馬の産地として半自然草原を維持してきた長野
県開田高原を調査地とし、管理の放棄や簡略化に伴う環境の変化が
植物多様性を減少させているという仮説を検証することを目的とし
てきた。昨年までの調査より、管理頻度の変化に伴う植生高の変化が、
多様性の減少と関係していることが明らかとなった。今回は、植生
高の変化が植物の繁殖を制限することにより多様性の減少を加速さ
せているのではないか?との仮説をたて検証を行った。採草のため
伝統的管理 ( 火入れと採草を二年に一度両方行う ) が行われている
草地と、毎年火入れのみ・草刈りのみ行われている草地、管理が放
棄された草地の4つの管理頻度が異なる草地タイプにおいて、植生
高と開花種数を 5 ∼ 10 月に調査し、管理頻度の変化による植生高の
変化とそれに伴う開花種数の減少について解析を行った。
調査の結果、1. 伝統的管理がなされる草地で開花種数が最も高い。
2. 夏以降、草刈り頻度に応じて植生高は減少。3. 植生高の低い ( 高
い ) 所では、開花植物高が高い ( 低い ) 種の開花が制限されることが
わかった。各月において、伝統的な二年に一度の管理頻度である草
地の植生高は、開花種数が最大となる植生高と一致しており、他の
管理では植生高が高く、または低くなりすぎることにより、開花が
制限されることで多様性が減少していることが示唆された。
節足動物は種数・個体数が多くきわめて幅広い環境に生息してい
ることから,緑地環境を指標する生物群のひとつとして利用されて
いる.本研究では,周辺の植生や緑地間の連続性が異なる千葉県我
孫子市と群馬県前橋市の 2 つの地域において,緑地の節足動物相と
植生環境を比較し,緑地環境の評価に利用できる指標種を抽出する
ことを目的とした.
各地域において春季(6 月)・夏季(8 月)・秋季(11 月)の 3 回,
植生環境が異なる調査区(スギ/ヒノキ人工林・アカマツ林・広葉
樹二次林・草地:各 5 地点)にて,ピットフォール法とスウィーピ
ング法を用いて節足動物相の定量調査を行った.また植生環境の調
査として,調査区ごとに上層木被度・植生高・植被率・リター厚・
土壌含水率・土壌硬度を測定した.
ピットフォール法による調査では両地域あわせて 53 種が採取で
き,オオヒラタシデムシ・センチコガネやオサムシ科など肉食性・
腐食性の昆虫やアリ類が大半を占めた.一方,スウィーピング法に
よる調査では両地域あわせて 129 種が採取でき,小型のハエ・ハナ
アブ類・アリ類が多く採取できた.
調査区ごとの採取個体数と植生環境の関係を正準相関分析によっ
て解析した結果,ピットフォール法で採取された種のなかでは,オ
オヒラタシデムシ・センチコガネがリターが厚く湿った環境を好む
のに対し,オオゴミムシ・アリ類がリターが薄く乾燥した環境を好
む傾向が見られた.これらの種は季節を通して採取されたことや比
較的同定が容易であることから,植生環境の中でも土壌環境の違い
を指標する種の候補となると考えられる.一方,スウィーピング法
で採取された種と植生環境のあいだには明瞭な関係は見られなかっ
た.
P2-231
P2-232
琵琶湖南湖における沈水植物と底生動物の分布
キアシナガバチにおける斑紋パターンの地理的変異と単
* 井上栄壮,永田貴丸,石川可奈子(琵琶湖環境科学研究セ),西野麻知子(び
わこ成蹊スポ大)
系統性
* 斎藤歩希(立正大学),大久保真由華(茨城大学)
琵琶湖では、1994 年に観測史上最低水位を記録して以降、南湖で
沈水植物(水草)が大量に繁茂するようになった。このため近年、
船舶の航行障害、湖岸に漂着した流れ藻の悪臭発生や景観悪化、局
所的な湖水の停滞によるアオコ発生などが問題となっている。こう
した状況の中、演者らは、2010 年時点の南湖のユスリカ相について、
コナユスリカ属の 1 種、ウスグロヒメエリユスリカなど、幼虫が水
草に付着して生息する種が多く、オオユスリカ、アカムシユスリカ
など、幼虫が底泥中に生息する種は少なかったことを報告した。本
発表では、2011 年以降の南湖における水草繁茂と底生動物の分布現
況を把握することを目的として実施した 9 定点における調査の結果
を報告する。
水草の採集は、有刺鉄線を長さ約 50cm の金属棒に巻きつけ、ロ
ープを接続した器具を使用した。各定点において、この器具を湖内
に 3 回投げ入れて採集した水草を持ち帰り、種別に乾重量を測定し
た。2011 年 8 月には、9 定点の合計乾重量は 5194.0g となり、うち
センニンモが 47.4% を占め最も多く、次いでコカナダモ 28.7%、マ
ツモ 19.1% の順であった。一方、2012 年 8 月には、9 定点の合計乾
重量は 1329.2g と前年の約 1/4 に減少し、種別では 2011 年比でセン
ニンモが 38.2%、コカナダモが 4.9%、マツモが 9.1% であった。底
生動物についてはエクマン・バージ採泥器(開口部 15cm × 15cm)
で定量採集した結果について報告予定である。
2012 年に水草が減少した要因については、春季の水温が平年より
低く水草の伸長が遅れたこと、夏季の放流量が少なく湖水の滞留時
間が増加したため植物プランクトンが増加し透明度が低下したこと
などが推察される。今後、水草の減少が続くのか、底生動物群集の
変化の有無などについてモニタリングを継続し、動向に注視する必
要がある。
昆 虫 綱 膜 翅 目 ア シ ナ ガ バ チ 亜 科 の キ ア シ ナ ガ バ チ(Polistes
rothneyi )はインドからインドネシアなどの東南アジア,日本を含む
東アジアまで広く分布している.分布域は汎世界的に分布するアシ
ナガバチ属のなかでも広く,大陸や島嶼において地理的に顕著な色
彩の変異が存在することが知られている.これらについては現在ま
でに多くの亜種が設定されている.しかしながら色彩・斑紋の顕著
な変異によって,セグロアシナガバチなどの近縁種と誤同定される
場合も多く,しばしば分類学的な混乱を招いてきた.さらにその色
彩・斑紋の変異パターンが例えば大陸では連続的であるのか,島嶼
においてのみ顕著なのかなどについて検討されてこなかった.スズ
メバチやアシナガバチなど社会性狩蜂の種分類は従来,色彩・斑紋
パターンに基づいてきた.しかし,その変異パターンはアシナガバ
チ属においては一様ではなく,スズメバチ類でも同様のことが報告
されている.よって種と対応した色彩・斑紋の変異パターンをとら
えるためには,種ごとに分布域を網羅した標本の観察や近縁種等と
の詳細な比較を行う必要がある.よってまず,近縁種およびキアシ
ナガバチについて成虫の詳細な形態観察およびミトコンドリア COI
や 16S にもとづく分子系統解析を行い,キアシナガバチが単一種と
して区別できるかを検討した.さらにアジア広域に分布するキアシ
ナガバチおよび近縁種の色彩・変異パターンを地図上にまとめ,変
異の地理的連続性等について関連があるか考察を行った.
300
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-233
P2-234
エゾシカ Cervus nippon yesoensis の長期高密度化が
生物多様性を " 自分ごと " にすることは可能か ? ~科学
食糞性コガネムシの多様性にどのような影響を与える
館での展示と対話による活動
か?―高密度地域洞爺湖中島と湖畔の森林を比較して―
* 寺村たから,石川菜央,西原潔,野副晋,本田隆行,佐尾賢太郎,松山桃世,
豊田倫子,黒川紘美,岡野麻衣子,森田由子,池辺靖(日本科学未来館)
* 赤羽俊亮(酪農学園大学・野生動物),日野貴文(酪農学園大学・野生動物),
吉田剛司(酪農学園大学・野生動物)
生物多様性の消失という地球規模課題を解決するには、課題につ
いて広く一般に理解されることが不可欠だが、その認知度は依然と
して低い。要因として、生物多様性という言葉の意味や保全の重要
性を伝えることに主眼が置かれ、生物多様性を各個人の生活に位置
づける活動があまりなされてこなかったことにあるのではないか。
日本科学未来館では、来館者一人ひとりが、生物多様性が自分の
日常生活と深く関わっていると認識することを目的として様々な活
動を行っている。本発表では、2012 年 9 ∼ 11 月に実施した 2 つの
活動を紹介し、その効果について議論する。
(1) スタッフ(科学コミュニケーター)が来館者へ向け様々な科学
トピックスを紹介する「サイエンス・ミニトーク」の枠組みを利用し、
「地球を食べるわたしたち」というタイトルで、生物多様性と自分の
関係を考える 15 分間の解説トークを実施した。「食」にスポットを
当て、私たちがいかに生態系の恩恵を受けているかを伝えた。また、
来館者の発言を反映しながらストーリーを展開できるように、ホワ
イトボードに絵を描きつつ話を進めるという手法を採った。
(2) 展示フロア内に、科学技術に関する問題について来館者が意見
を書き込み発信する「エンドクサ」というコーナーがある。この中で、
生物の遺伝資源から得られた利益を原産国へ分配することに賛成か
どうか、来館者の意見を問うた。設問の文章を架空のストーリー仕
立てとすることで、生物多様性の知識がなくとも内容を理解できる
ようにした。結果、テーマが難解であるにも関わらず、大人はもち
ろん小学生からも回答を得られ、中には自身の意見を詳細に書いた
回答もあった。
北海道虻田郡洞爺湖町に位置する洞爺湖中島では,エゾシカの個
体数増加により島内の植生や他の動物種が深刻な影響を受けている.
中島は,閉鎖空間であるため,エゾシカの高密度状態が長期間続い
ている特異な環境である.獣糞を餌資源とする食糞性コガネムシ (
以下,糞虫 ) は森林変化の指標生物として用いられている.本研究
では,エゾシカの長期高密度化による糞虫の個体数や多様性に与え
る影響を検証するために,シカの高密度化が長期間続いている洞爺
湖中島とシカ低密度地域である洞爺湖湖畔の森林内の糞虫相を比較
した.
調査地点を中島と湖畔の林内にそれぞれ 3 地点,計 6 地点設定し,
2012 年 6 ∼ 10 月に月 1 回調査した.採集には早川式トラップを用い,
ベイトとなる牛糞は 300g とした.採集した糞虫は種同定し,種別に
個体数を計数しまた,中島と湖畔の多様度を比較するために,地点
毎の種数,Shannon の多様度指数 H’を算出した.さらに,群集組
成を比較するために Bray-Curtis の類似度指数を求めた.調査の結果,
中島では有意に個体数が多く (P < 0.001) 採集された.一方,多様度
指数 H’の値に関しては,有意な差は見られなかった.NMDS で群
集組成を解析した結果,中島はマエカドコエンマコガネとマグソコ
ガネ属 2 種,湖畔はセンチコガネによって特徴づけられた.そして,
Bray-Curtis の類似度指数を用いた種組成の比較から,中島と湖畔で
有意に異なっていた (p < 0.01).以上から,エゾシカの長期高密度
化により洞爺湖中島では,餌である糞の供給量が多いため糞虫の個
体数が多く,さらに糞供給量と下層植生衰退のため群集組成が異な
ることが示唆された.
P2-235
P2-236
水生動物を用いた " 川の健康診断 ":全国および地域スケ
機能的アルファ・ベータ多様性と群集集合則
ールでの試み
片渕正紀(西双版納熱帯植物園)
* 赤坂卓美,森 照貴,竹川有哉,石山信雄,井上幹生,三橋弘宗,河口洋一,
鬼倉徳雄,三宅 洋,片野 泉,一柳英隆,中村太士
環境フィルタリングなどの群集集合プロセスにより機能的多様性
(FD) の不均一な空間分布パターンが生じると考えられている。環
境フィルタリングとは、「群集形成には局所環境が重要となるため、
類似した戦略を持つ生物が近くに分布した結果、空間的に近い生物
同士の機能形質は似た値をとる」という考え方である。したがっ
て、環境フィルタリングによりアルファ FD(群集内の FD)は減少
し、ベータ FD(群集間の FD)は増加することが期待される。しか
し、これまでベータ FD による環境フィルタリングの検出能力を統
計的に検証した研究はなかった。そこで本研究では「ガンマ FD(種
プール全体の多様性)に占めるアルファ FD とベータ FD の割合の比
較」と「ベータ FD の期待値と観察値の比較」という2つの視点から、
シミュレーションによって作成した群集に対して、種の相対頻度を
含まない FD (FDD) と含む FD (Rao) の2つの指標の環境フィルタリ
ング検出能力を検証した。特に以下の3つに状況での検出力の違い
に着目した。(1) 種の相対頻度と形質に相関ある場合の検出力。(2)
扱う形質の数の違いによる検出力。(3) 種プールに満たない種数での
検出力。その結果、種の相対頻度と形質に相関がある場合、Rao で
は散布制限と環境フィルタリングが作り出すベータ FD の大きさを
区別することができなかった。また扱う形質が増えると、どちらの
指標でも環境フィルタリングの検出力が減少した。実際の種プール
に足りていない局所群集を用いても検出力に大きな影響はでなかっ
たが、局所群集の種数が少ないと検出力が減少した。以上の結果に
加えてベータ FD の期待値と観察値の比較から、生態学的な意義の
あるベータ FD のはかり方を議論する。
河川生態系は、人類により最も改変された生態系の一つである。
実際、我が国においても、ほとんどの河川がダム、流路の直線化、
氾濫原の喪失など、何らかの人為的影響を受けており、その結果、
多くの水生動物が減少している。このような状況下において、生物
多様性の保全は、最小限のコストで効率的に行っていくことが欠か
せないが、その施策はほとんど行われていない。野生生物の保全を
考える際、国立公園などの保護区は、本来、野生動物の生息場を保
全する機能を有するため重要な場所となる。しかし、我が国におい
て実際にどれだけの種が保護区によって保全できているのかは明ら
かにされていないのが現状である。
本発表では、まず、全国および地域(北海道など)の 2 つの空間
スケールにおいて、RDB 記載種(全国は環境省 RDB、地域は環境省
および地方版 RDB)を対象に相補性解析を用いて、効率的に保全す
る際に重要な場所(保護区候補地)の選定を行った。次に、保護区
候補地となる場所の特性について検討した。また、保護区候補地と
既存の保護区間で Gap 分析を行い、既存の保護区の果たす機能につ
いても検証した。
この結果、候補地は、両空間スケールとも農地および都市などが
周囲に優占する下流域に多く存在した。また、既存の保護区は、ほ
とんど機能していないことが窺えた。これらの結果は、今後の水生
動物の保全を行う際には、これまでのような人間活動とのすみ分け
という考え方ではなく、利用しながら保全する新たな仕組みが求め
られることを示唆する。本発表では、上記の内容に加え、生態系の
現状評価についても議論する。
301
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-237
P2-238
時空間スケールからみた食物網と生態ピラミッド
ヴェトナム・カッティエン国立公園で捕獲されたネズミ
桜谷保之(近畿大・農・環境生態)
科の DNA バーコーディング法を用いた種同定及び餌資
生態学の教科書には、食物網の図や生態ピラミッドの図が掲載さ
れている場合が多い。しかし、その時間的スケールや空間的スケー
ルは明示されていないことが多い。食物網図の形や生態ピラミッド
の形は時空間スケールで変わるはずである。たとえば、空間スケー
ルが大きくとも、時間スケールが短ければ食物網(連鎖)の上位に
ある猛禽類等の出現頻度は低くなると考えられる。一方、時間スケ
ールが長くとも、空間スケールが小さければ、やはり栄養段階の上
位にある猛禽類等の出現頻度は低下すると考えられる。しかし、生
産者である緑色植物は、少なくとも日本のような陸上生態系では時
空間スケールが小さくとも出現する頻度は高いと考えられる。また、
日本のように四季が存在する生態系では、冬季には大部分の昆虫類
や両生類、爬虫類等が冬眠するため、食物網や生態ピラミッドの形は、
活動期の春から秋とはかなり異なったものになると思われ、さらに
野鳥類の季節的移動の影響もかなり受けると推察される。ここでは、
近畿地方の里山等で行った調査から食物網や生態ピラミッドの時空
間スケールの違いによる変化について報告し、その意義について考
察する。
源調査
* 南基泰,石澤祐介,白子智康,上野薫(中部大院・応用生物),味岡ゆい(中
部大・現代教育),Do Tan Hoa,Tran Van Thanh(カッティエン国立
公園),山田祐彰(農工大院・農学研)
ヴェトナム国内で最大級の熱帯雨林を保有するカッティエン国立
公園は,未だ国立公園内の生物多様性評価などが体系的には行われ
ておらず,特に多様な種が生息していると予測されているネズミ科
についての詳細な報告はない.そこで,国立公園内の合計 17 箇所に
おいて 2011 ∼ 2012 年の間(のべ 42 日間)ネズミ科の捕獲調査を実
施し,DNA バーコーディング法によって種同定及び餌資源推定を行
った.
捕獲された 33 個体は,ミトコンドリア DNA の COI 及び Cytb から,
シナシロハラネズミ Niviventer confucianus ,ヒマラヤクリゲネズミ
N.fulvescens ,クマネズミ Rattus rattus ,ナンヨウネズミ R. exulans ,
アカスンダドゲネズミ Maxomys surifer の 3 属 5 種に同定された.
また,餌資源推定には胃腸内容物より全 DNA を抽出し,植物性
については葉緑体 DNA の rbc L 及び動物性については COI より推定
した.植物由来はツルアカメガシワ(トウダイグサ科),キデナンツ
ス属一種 ( サガリバナ科 ),ハマビワ属一種(クスノキ科),アメリ
カハマグルマ(キク科),コウトウマメモドキ属一種(マメモドキ科),
ウスバヤブマメ(マメ科),ケシ科の 7 種が,動物由来としてシロア
リ科,ミドリゼミ属(セミ科),ウデムシ目の 3 種が推定された.
以上のように,DNA バーコーディング法は種同定や餌資源推定に
有益なツールで,今後はネズミ科だけではなく哺乳類相保全のため
の熱帯林保全指針として活用できることが期待できた.
P2-239
P2-240
環境 DNA を用いてタイ肝吸虫の生態を探る
Unique genetic structure of an arctic-alpine plant, Vaccinium
* 源利文(神戸大院・人間発達環境),中貴文,船津耕平(龍谷大・理工),
神松幸弘(京都大・生態研),川端善一郎(地球研),丸山敦(龍谷大・理工),
Tiengkham Pongvongsa(ラオス国保健省),門司和彦(地球研)
vitis-idaea (Ericaceae), in the Japanese archipelago
*Ikeda, H. (KAHAKU), Yoneda, Y. (Kyoto Univ.), Higashi, H. (Kyoto Univ.),
Brochmann, C. (Oslo Univ.), Setoguchi, H. (Kyoto Univ.)
タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini )による感染症はタイ、カンボ
ジア、ラオスなどの東南アジア各国に広く分布し、その感染者数は
1000 万人近いと見積もられている。タイ肝吸虫のライフサイクルは、
(1)感染者(感染動物)の体内から糞便を介して環境中に卵が排出
され、(2)第一中間宿主の Bithynia 属の貝の体内でセルカリア幼生
となり、(3)第二中間宿主のコイ科を中心とした魚類に感染し、メ
タセルカリア幼生となり、(4)魚類を生食する終宿主(主にヒトを
始めとする哺乳類)に感染するといったものである。感染者の体内
で成虫になると、胆管に入り、胆管がんの原因となる。このような
複雑な生態を示す寄生虫の自然環境中における生態は十分には解明
されていない。そこで、我々は、ラオス国サワンナケート県のチャ
ンポン川流域において、近年急速に発展しつつある環境 DNA(eDNA)
技術を用いて、本感染症にかかわる生物の生態を明らかにするため
の研究を行なっている。eDNA 技術を適用することで、水サンプル
のみを用いて、本感染症にかかわる 4 者(ヒト、魚、貝、吸虫)の
生態を解明できる可能性がある。開発途上国での遺伝子を用いた野
外研究においては、一般に現地でのサンプル保存や解析に困難があ
るが、我々は電源の取れない場所における eDNA 解析法を開発し(中
ほか、本大会)、この地方によく見られるシルトを多く含む水からの
DNA 抽出に成功したほか、魚類 DNA の増幅にも成功した。本発表
ではここまでの成果を概説し、今後の研究展開について議論したい。
Phylogeographic studies revealed that alpine plants, including species
distributing in the Arctic, harboured unique genetic structure in central
Japan, indicating that alpine plants persisted in the Japanese archipelago
throughout Pleistocene climatic oscillations. In contrast, recent long-distance
dispersal cannot be discarded for their colonization history, especially for
species with adaptation to long-distance seed dispersal such as Vaccinium
vitis-idaea (Ericaceae). Here we conducted phylogeographic study based on
chloroplast and nuclear markers and examined the biogeographic history
of V . vitis-idaea in the Japanese archipelago. Widespread alleles were
dominated throughout species’range in both markers. Although these
alleles were also dominated in the Japanese archipelago, unique alleles
were exclusively found in some populations in Japan. Recent long-distance
dispersal could not explain the exclusive occurrence of unique alleles in the
archipelago, suggesting persistent populations of V . vitis-idaea . In addition,
the existence of widespread alleles in the Japanese archipelago indicates that
secondary colonization also occurred in this region.
302
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-241
P2-242
福島県岩瀬郡唐沢山の生物相 I・動物編
福島県岩瀬郡唐沢山の生物相 II・植物・菌類編
* 西村麻利子(神田外語大),飯島明子(神田外語大),木原正博((社)
新聞協会),小林到((株)エヴィット研究所),高橋円,寺田美奈子,中
山聖子(東邦大・東京湾セ)
* 小林到((株)エヴィット研究所),飯島明子(神田外語大),木原正博
((社)新聞協会),高橋円,寺田美奈子,中山聖子(東邦大・東京湾セ),
西村麻利子(神田外語大)
唐沢山は奥羽山脈の南端に位置し、福島県と栃木県の県境に近い
なだらかな高原である。標高 1000 m 弱の山頂部周辺の植生は、ブ
ナなどの落葉広葉樹林や皆伐後に発達した二次林、ススキ草地など、
変化に富んでいる。
唐沢山山頂には学校法人佐野学園の英語研修施設兼宿泊施設、ブ
リティッシュヒルズがある。施設周辺の動物相については、建設
初期の 22 年前に土壌動物と鳥について調査が行われている ( 寺田
1991、1994)。施設職員および利用者の森林生態系に対する認識は低
いものの、ニホンジカやツキノワグマ、キツネなどの目撃情報も多
いため、哺乳類への関心は高い。そこで我々は、この地域の動物相
をできるだけ広く把握・周知することを目的として、2011 年度より
生物相調査を行なってきた。
2011 年度は、春・初夏・夏・晩秋・冬に踏査および定点観測、食痕・
糞の定性調査、赤外線センサーカメラによる自動撮影を行い、陸棲
貝類 36 種、両生類 7 種、爬虫類 3 種、鳥類 61 種、哺乳類 23 種を確
認している。
2012 年度は春・初夏・初秋・晩秋に 2011 年度同様の調査を行っ
たほか、沢の探索を行い、赤外線センサーカメラの新たな設置場所
を模索した。初秋には昆虫類の調査も行った。また 2011 年 5 月から
気温を連続観測しているので、これらの結果を報告する。
この研究は神田外語大学研究助成金の助成を受けて行っている。
唐沢山は奥羽山脈の南端に位置し、福島県と栃木県の県境に近い
なだらかな高原である。標高 1000 m 弱の山頂部周辺にはブナなどの
落葉広葉樹林が広がるが、一部では第二次大戦中に陸軍の施設とし
て利用されていたため、一度皆伐された後で二次林が発達するなど、
変化に富んだ植生が見られる。
唐沢山山頂には学校法人佐野学園の英語研修施設兼宿泊施設、ブ
リティッシュヒルズがある。施設周辺の生物相については、建設初
期の 22 年前に植生調査が行われているが ( 寺田 1991、1994)、施設
職員および利用者の森林生態系に対する認識は低い。このため我々
は、この地域の植物相および菌類相を把握・周知し、かつ 22 年前の
調査結果と比較を行うことで森林生態系の長期変化を明らかにする
ことを目的として、2011 年度より生物相調査を行なってきた。
2011 年度は、春・初夏・夏・晩秋に踏査し、ブナやミズナラとい
った東北地方の森林を代表する種から、ススキ草地、カラマツ、ヤ
ナギ類などの二次林植生を含めて、計 283 種の植物を確認した。菌
類は 10 月 1 回のみの踏査で 32 種を確認した。
2012 年度は春・初夏・初秋・晩秋に踏査を行ったほか、初夏に木本・
草本定性調査を行って植生をタイプ分けし、その一部分で毎木調査
を行ったので、その結果を報告する。また初秋に行った菌類調査の
結果もあわせて報告する。
この研究は神田外語大学研究助成金の助成を受けて行っている。
P2-243
P2-244
グローバルヒストリーとグローバリゼーションのなかの
二つの空間スケールでみたアフリカ熱帯雨林における食
生物多様性
肉目の棲み分け
須賀 丈(長野県環境保全研)
* 中島啓裕(京大・理)
生物多様性の保全と持続可能な利用にむけて,社会の幅広いひと
びとの理解と行動への参加がもとめられている.そのため各地で生
物多様性地域戦略の策定などの取り組みがすすめられている。しか
しこの問題は,全体像が複雑でわかりにくいとされることがある.
たとえば生態学的危機のグローバルな側面とローカルな現実のつな
がりなどである.
その理解の鍵のひとつとなるのが,世界の生物文化多様性と人間
活動のグローバル化との歴史的な関係の把握である.それには近年
研究のすすむグローバル・ヒストリーの視点が実り多い基盤をもた
らしてくれる.環境の生物地理学的な多様性は人類史の初期条件を
もたらした.生物文化多様性はこの多様な環境に適応して生まれ,
人間世界の基礎となった.その後,人間活動のグローバル化ととも
に各地域の社会がたがいにむすびつくようになった.その歴史の大
きな転換点は,農耕起源と語族の拡散(数千年前∼),諸文明間の交
易と疫病の伝播(古代∼),新旧両世界の衝突と融合(16 世紀∼),
産業社会化と自由市場経済のグローバル化(19 世紀∼)などである.
20 世紀に世界経済が急成長した一方,人間のエコロジカル・フット
プリントは地球の環境容量を超えるようになった.
現在の生物多様性の問題は,グローバル・ヒストリーのこの最新
局面で浮上したものである.現在の国際貿易は,途上国の生物多様
性と世界各国の外来種対策への脅威となっている.日本の里山の歴
史と現状もこのような視点から理解できる.近年の里山の利用衰退
による荒廃は市場経済のグローバリゼーションの影響によるもので
ある.日本のエコロジカル・フットプリントは海外に大きく依存し
ている.地域社会や里山の伝統知の再生を,このグローバルな危機
からの復元力の回復として構想することがもとめられている.未来
の世代に選択肢を残すため,世界の生物文化多様性を維持しなけれ
ばならない.
アフリカの熱帯雨林には、ヒョウをはじめとする多くの食肉目動
物が、比較的高い密度で同所的に生息している。先行研究によって、
これら複数種の共存は、体サイズ依存的な食性ニッチの分割によっ
て可能になっていることが示唆されている。しかし、特に多様性の
高い中央アフリカの熱帯雨林では、食性が共通した同サイズの種が
共存することも多く、これらの種の共存機構については十分明らか
にはされていない。本研究では、中央アフリカに位置するガボン共
和国ムカラバ国立公園において、カメラトラップ ( ビデオトラップ )
約 150 台を用いて調査を行い、種間で空間的住み分けが生じている
か検討することとした。ムカラバには、低地熱帯雨林、中標高山地林、
湿地林、サバンナなど多様な環境が比較的狭い地域に含まれており、
ネコ 2 種、ジャコウネコ 1 種、マングース 4 種、ジェネット 2 種、
カワウソ 1 種の生息が確認されている。調査の結果、重複した食性
を持つとされる同サイズの近縁種 ( マングースとジェネット ) は、明
瞭な空間的住み分けを行っていることが明らかにされた。ジェネッ
トとマングースそれぞれ 1 種は、サバンナ及びその周辺の森林に対
する先行性が高く、マングース 1 種は、湿地林においてのみ見られた。
残りのマングース 2 種、ジェネット 1 種は、森林内部で広く見られた。
興味深いことに、それら森林性マングース 2 種は、利用する微小環
境が異なることが示唆された。すなわち、一方の種は比較的開けた
マルミミゾウの通り道で頻繁に撮影されるのに対し、もう一方の種
は藪がちな環境でよく撮影された。マングース 2 種の微小環境の使
い分けは、ゾウという巨大な生態系エンジニアの存在に依拠してい
るともいえ、熱帯雨林のもつ複雑な種間関係を象徴していると言え
る。発表では、撮影されたビデオを紹介しながら、各種の生息地選
好性と種間での空間的棲み分けの可能性について議論したい。
303
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-245
P2-246
大津波は海岸生物にどのような影響を与えたのか:仙台
粘液の安定同位体比分析:早い応答と反復測定の利点
湾沿岸のウミニナ類の生息状況の変化
* 丸山敦,重田雅(龍谷大・理工)
* 三浦収,高知大学総合研究センター
東北太平洋沿岸の地形は変化に富み、干潮時の湾奥部や河口には
多くの干潟が現れる。干潟は海と陸とが交わる場所であり、陸から
供給される豊かな栄養により多種多様な生物の重要な生息場所とな
っている。東日本大震災による大津波は、これら干潟生態系に甚大
な影響を及ぼしたと考えられ、その生物群集への影響について科学
的な影響評価が待たれている。
本研究では、干潟に生息する様々な生物の中でも特に高密度で生
息する巻貝のホソウミニナとウミニナを対象に津波の影響評価の研
究を行った。福島県から宮城県にかけての 5 つの干潟(松川浦・鳥
の海・潜ヶ浦・万石浦・長面浦)で生態調査を行ったところ、松川
浦以外の干潟ではウミニナ類の密度が大幅に減少していることが明
らかとなった。特に、鳥の海・潜ヶ浦・長面浦の調査地点では、ウ
ミニナ・ホソウミニナ共に殆どいなくなっていた。同様に万石浦の
調査地点では、ホソウミニナの密度が以前と比べて約 40 分の 1 にま
で減少していた。それに対して松川浦の調査地点ではウミニナ・ホ
ソウミニナ共に多数生息しており、ホソウミニナについては津波前
の生息密度と比べても有意な減少は見られなかった。
調査地点ごとに津波による被害に違いがあるのは何故だろうか?
ウミニナ類の被害が大きかった鳥の海・潜ヶ浦・長面浦では 5m 以
上の津波が観測され、調査地点周辺のインフラ設備も大きく破損し
ていた。それに対して万石浦や松川浦では、場所によっては大きな
津波が打ち寄せたものの、湾の地形や津波の向きなどの影響により、
調査地点は大きな被害を免れていた。これらのことから、干潟を囲
む陸地の地形や津波の進行方向によって干潟生物の被害の状況が大
きく異なることが明らかとなった。
安定同位体比分析は、食物網解析や移入個体検出などの代表的な
ツールとなった。生物組織内の同位体比は応答に時間がかかるため、
短期的な変動に影響されにくい特性において他手法より秀でる一方、
遅すぎる応答速度が実験環境や季節変動に対応できないという難点
を併せ持ってきた。また、測定は試料生物の死を伴うことが多く、
稀少生物や実験環境に適用しにくい側面もあった。本報告では、水
域生態系の消費者∼高次捕食者として重要な役割を果たす魚類を対
象とした安定同位体比分析において、体表に分泌される粘液を用い
ることを再提案し、その即応性と非致死性をブルーギルの飼育実験
により明らかにした。飼育実験は、滋賀県内のため池で捕獲したブ
ルーギル成魚 20 個体を用い、二段階の水温を用意して行った。同位
体比を均等にした市販の冷凍赤虫(ユスリカ幼虫)を毎日 1 回満足
量与え、粘液を 4 日毎に 7 回(24 日間)、反復採取した。反復採取では、
蒸留水で湿らせたグラスファイバー濾紙 GF/F によって直接拭き取る
ことで試魚へのダメージを軽減できた。窒素・炭素安定同位体比の
個体ごとの変化に対し非線形回帰(代謝モデル)を行った。濃縮係
数は窒素 2.9 ± 1.0‰(平均± SD)、炭素 1.5 ± 0.7‰と求まり、個体
間変異が個体内推定誤差よりも際だった(筋肉の分析にも同様の指
摘がある)。置換速度の指標である半減期は、窒素 6 ± 4 日、炭素 3
± 1 日と求まり、半減期が数ヶ月とされる筋肉、鰭、骨などを用い
た従来法よりも遥かに早い応答を示すことが分かった。反復測定が
可能で応答の早い粘液の安定同位体比分析は、汎用性を大きく広げ
ると期待される。一方、窒素安定同位体比の濃縮係数の個体間変異は、
体サイズと水温によって説明されうることが示唆され(筋肉の分析
にも同様の指摘がある)、野外データの慎重な解釈の必要性も示唆さ
れた。
P2-247
P2-248
河川複雑系食物網の高精度解析 ~アミノ酸窒素安定同
ダム上下流の底生動物群集と水質の関係
位体比からのアプローチ~
* 槙島 みどり((独)土木研究所),小林草平(京都大学),赤松史一,萱
場祐一((独)土木研究所)
* 石川尚人,加藤義和(京大・生態研),冨樫博幸(京大・フィールド研),
吉村真由美(森林総研),由水千景,奥田昇,陀安一郎(京大・生態研)
国内には治水や利水を目的とした約 2800 のダムがあり、ダムの
下流域ではダム放流操作に起因して河川生態系が影響を受けている
と考えられる。河川生態系に対するダムの影響は、流量の安定化や
水温変化、河床材料の粗粒化などさまざまな事例報告がされている。
しかし個別ダムに関する研究が多く、一般性を求めるための事例が
多いとはいえない。そのため、ダム管理の現場では、生態系への影
響を軽減させるためにはどのようなダム操作を行えばよいかなど、
対応に苦慮することが多い。
本研究では、ダム上流の流入河川とダム下流の放流河川における
水質の違いに着目し、底生動物の変化に直接的な影響を与えている
かどうかについて検討を行った。底生動物のデータは、国土交通省
または水資源機構が管轄する全国のダムを対象にダム上流と下流で
行われている生物調査(河川水辺の国勢調査)の結果を用いた。水
質データはダム管理事務所から収集したものを用いた。水生昆虫の
分類群数に関する上下流差の傾向分析を行い、上下流差が大きいダ
ムについて底生動物の上下流差と水質との関係についての評価を行
った。その結果、EPT属数の上下流差と栄養塩濃度の上下流差に
は明瞭な関係が見られないことなどが分かった。
動物のアミノ酸窒素安定同位体比は、その動物の栄養段階を精度
よく推定するのに有効な指標として、近年注目を集めている。しか
しながら、複雑な食物網の解析に対してアミノ酸同位体比を応用し
た例はほとんどなく、この指標が生態系一般に広く応用可能かどう
か、まだ分かっていない。
発表者らは、陸域と水域の境界面にある河川生態系の食物網を
高精度に解析することを目的として、以下の研究を行った。まず河
川生態系の時空間的な環境変動を捉えるために、流域土地利用の大
きく異なる2河川の上下流2地点において、2011年11月と
2012年5月の2季節に野外調査を行った。次に採集した水生昆
虫や魚類、およびこれらの餌資源のアミノ酸窒素安定同位体比を測
定した。その結果、グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体
比から、河川食物網の一次消費者(カゲロウやトビケラ幼虫)の栄
養段階は、生産者(藻類や陸上植物リター)よりも1段階高く、食
性に近い推定値が得られた。一方、肉食性の水生昆虫(カワゲラや
ヤゴ幼虫)や魚類の栄養段階は、単一の餌資源(水域生産者)を仮
定すると、食性からの予測値よりも低く推定された。グルタミン酸
とフェニルアラニンの窒素同位体比は、陸域・水域生産者間で関係
性が異なる。そこで、陸域・水域生産者に由来する食物連鎖の混合
を考慮し、高次捕食者の栄養段階を計算したところ、食性からの予
測値に近くなった。
本研究から、河川生態系のような複数の食物連鎖が食物網を構成
する複雑系の解析に対して、アミノ酸窒素安定同位体比が有効な指
標となることが示唆された。本発表では、特に高次捕食者で栄養段
階が低く推定された結果について考察を加えるとともに、河川間・
上下流間・季節間の比較についても議論したい。
304
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-249
P2-250
地球温暖化が水田の土壌生物に及ぼす影響
アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた琵琶湖産魚類の栄
* 岡田浩明 , 酒井英光 , 常田岳志(農環研),中村浩史(太陽計器),長谷
川利拡(農環研)
養段階推定
* 加藤義和・石川尚人・冨樫博幸・由水千景・陀安一郎・奥田昇(京都大)
水田には様々な生物が生息しているが、それらに対する地球温暖
化の影響を調べた研究は少ない。そこで、茨城県つくばみらい市の
水田に FACE(開放系大気 CO2 濃度増加)装置を設置し、50 年後の
温暖化の条件を想定した CO2 濃度及び水温の上昇が水田の土壌生物
に及ぼす影響を明らかにしようとしている。岩手県で行われた先行
研究によれば、CO2 濃度の増加により、水稲の生育量はもちろん、
土壌微生物のバイオマスも増加することが示されている。本研究で
はさらに、より上位の栄養段階に位置する土壌線虫の密度にも食物
連鎖を介して CO2 濃度などが影響するかを検討している。2011 年は
水稲根量および線虫密度を中心にして調べた。CO2 濃度を現状より
200ppm 高めた「FACE 区」及び対照区である「Ambient 区」を主区とし、
その中に副区として、電熱線により水温を2℃高めた「加温区」及
びその対照区である「無加温区」を設置した。各区から田植え前の
5月及び7,8月に土壌を採取し、水稲根量及び主な線虫種の季節消
長を調べ、一般化線形混合モデルにより、CO2、温度および季節の
影響を調べた。その結果、水稲根重密度は予想通り FACE > Amb、
加温>無加温であったが、有意ではなかった。線虫の反応は種ごと
に異なり、密度がわずかに FACE > Amb となる種はいたが、有意な
違いではなかった。一方、温度の影響は有意で、明らかに加温<無
加温となり、高温で密度が低下する種がいた。なお、CO2 と温度と
の相互作用が有意である種はいなかった。以上により、水稲は CO2
や温度の増加により少しずつ生育が促進されるが、線虫では CO2 増
加の影響は受けない一方、高温により増殖が抑えられる種がいるこ
とがわかった。
従来の食物網解析では、栄養段階(TL)を推定するためのツール
として、生物組織全体(バルク)の窒素安定同位体比(δ 15Nbulk)が
用いられてきた。しかし、バルクによる解析では、一次生産者のδ
15
Nbulk が時空間的に大きく変動する点や分類群によって濃縮係数が違
う点など、いくつかの問題点が指摘されている。近年になって、生
物に含まれる各種アミノ酸の窒素安定同位体比(δ 15NAA)を用いた
TL の推定手法が開発されたことにより、例えば、水域の栄養起源の
みを起点とする食物網においては、TL を正確に推定できるようにな
った。しかし、陸水生態系においては、陸域や水域で生産された多
様な栄養起源を消費者が利用することが一般的であり、δ 15NAA に基
づく TL 推定においても、これらの資源の混合を考慮する必要がある。
本研究では、琵琶湖流域に生息するヨシノボリ類およびアユについ
て、δ 15NAA に基づく TL 推定を行った。生活史に応じて湖内と流入
河川を行き来するこれらの魚種は、水域由来の栄養起源(付着藻・
植物プランクトン)と陸域由来の栄養起源(陸上から流入したリター)
を混合して利用していると予想されるため、これらの資源の混合を
考慮した計算式によって TL を推定した。その結果、河川に定着し
たヨシノボリは、陸域由来の栄養起源にも最大 40%程度依存してい
る点が明らかになった。また、初夏に河川で採集されたアユは河川
の栄養起源でなく、それまで成長してきた湖内の栄養起源を反映し
ていることが示唆された。これらの結果から、魚類の生活史特性を
もとに栄養起源の混合を考慮すれば、δ 15NAA は陸水生態系の複雑な
食物網構造を解明する強力なツールとして活用できることが示唆さ
れた。
P2-251
P2-252
北海道東部地域における繁殖期の鳥類
ミカン畑と魚類をつなぐ硝酸:土地利用が河川生態系へ
玉田克巳(道総研)
及ぼす影響に関する安定同位体解析
北海道の気候は、北部と東部で冷涼であり、鳥類の分布も東西で
異なる種が生息していることが知られている。鳥類の生息状況にか
かる一連の研究よりさらに東に位置する釧路町と厚岸町の落葉広葉
樹林に 6 ヶ所、針広混交林に 12 ヶ所に調査コースを設定し、ライン
センサスを実施した。この結果を用いて、北海道の中部・南東部の
一連の結果と比較することで、東部地域の平野部に生息する森林性
鳥類の特徴を明らかにした。東部で出現率の高かった種は落葉広葉
樹林ではウグイス、ハシブトガラ、ヒガラ、アオジ、キジバト、ツ
ツドリ、センダイムシクイ、ハシブトガラスなどで、針広混交林で
はヒガラ、アオジ、ハシブトガラ、アカハラ、ウグイス、センダイ
ムシクイ、ハシブトガラスなどであった。東部の落葉広葉樹林では
針広混交林に比べてヒヨドリの出現率が高く、針広混交林ではアカ
ハラ、ゴジュウカラ、ウソ、コマドリ、ハリオアマツバメの出現率
が高かった。東部と中部・南東部を比較すると、東部の落葉広葉樹
林では、クロツグミ、アカハラ、ヤブサメ、オオルリ、シジュウカラ、
キバシリ、シメの 7 種の出現率が、中部・南東部に比べて低かった。
針広混交林においては、東部ではヒヨドリ、クロツグミ、ヤブサメ、
オオルリ、イカルの 5 種の出現率が中部・南東部に比べて低かった
一方で、アオバトとウソの 2 種は、東部で出現率が高かった。また、
ミソサザイとルリビタキについては、東部と中部・南東部の出現率
に差はなかった。
* 冨樫博幸(京大フィールド研),加藤義和,石川尚人(京大生態研),尾
坂兼一(滋賀県大),吉村真由美(森林総研),由水千景(京大生態研),
徳地直子(京大フィールド研),陀安一郎(京大生態研),大手信人(東大農)
河川生態系は,多様な生態系機能やサービスをもたらす一方で,
人間活動の影響を受けやすい生態系である.特に近年,人間活動に
よる土地利用,及び河川への過剰な栄養塩負荷が生態系へ影響を及
ぼすことが懸念されているにも関わらず,フィールドワークに基づ
く科学的な検討が十分であるとは言い難い.そこで本研究では,各
種安定同位体比により獲得される生態系情報を活用し,土地利用が
河川生態系の食物網構造へ及ぼす影響を具体的に明らかにすること
を目的に調査を行った.
生物の採集,及び採水は,和歌山県中北部を流れる有田川(全長
: 94km,流域面積 : 468km2)の流程5地点(源頭域から河口域)で
2011 年 9 月と 2012 年 1 月にそれぞれ実施した.有田川の上流域は
森林が 9 割以上を占め,中∼下流域は果樹園(ミカン畑),及び宅地
が広がっている.水質の測定にあたっては各種濃度ベースのモニタ
リングに加えて,硝酸の窒素・酸素安定同位体比を脱窒菌法から測
定した.また,得られた水生昆虫,及び魚類の生物試料は,炭素・
窒素安定同位体比を測定し食物網構造を明らかにした.
いずれの季節においても,窒素濃度,及び硝酸の窒素安定同位体
比は流下過程で上昇し,土地利用に起因する人為起源の窒素負荷が
明瞭に見られた.また,付着藻類の窒素安定同位体比は,硝酸の窒
素安定同位体比とよく一致し,上流から下流に従い上昇していた.
また,付着藻類を餌源とする水生昆虫,及び魚類の窒素安定同位体
比も流下過程で上昇していた.以上のことより,中∼下流域で供給
される人為起源の硝酸がその地域の一次生産者に利用され,食物網
へ転送されていることが明らかとなった.
305
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-253
P2-254
岩礁潮間帯における植食性巻貝類の多種共存機構:摂餌
南極昭和基地周辺の湖沼に生息するクマムシ
痕から見る食い分け
* 辻本惠,伊村智(極地研)
* 山本智子(鹿児島大・水産),豊西敬(鹿児島大・院・水産)
南極に生息するクマムシ群集については数多くの報告があるが、
それらのほとんどは亜南極や海洋性南極地域の陸上環境におけるも
のである。昭和基地が位置する大陸性南極と呼ばれる、南極でもよ
り環境の厳しい地域ではクマムシについての報告は数少なく、中で
も湖沼における報告はほとんどない。クマムシが水域環境でも数多
く生息していることは知られており、海洋性南極のシグニー島とキ
ングジョージ島の湖沼からは、合わせて 16 種が報告されている。昭
和基地周辺の陸上環境ではこれまでに計 8 種のクマムシが報告さ
れているが、水域環境については1湖沼で Acutuncus antarcticus と
Diphascon ongulense の 2 種が報告され、別の湖沼で A. antarcticus と
D. pingue の 2 種の生息が示唆されているのみである。このように、
昭和基地周辺の湖沼に生息するクマムシの多様性は未だ明らかとな
っていない。
本研究では、第 49 次日本南極地域観測隊の夏期間中の 2008 年 1
月にリュツォ・ホルム湾の東岸にあるスカルブスネスで試料採取を
行った。7湖沼において重力式柱状採泥器を用いて湖底植生を採取、
2.5ml チューブに入れ -70℃で保存し、日本に持ち帰った。それぞれ
の試料は常温に戻し融解させた後、実体顕微鏡下で観察しクマムシ
を集めた。クマムシはホイヤー液を用いて固定し、位相差顕微鏡を
用いて形態観察による同定を行った。スカルブスネスの7湖沼の湖
底 か ら は A. antarcticus 、Hypsibius cfr dujardini と Pseudechiniscus cfr
suillus の3種が認められた。A. antarcticus はほとんどの湖沼から検
出され、P. cfr suillus は 1 湖沼のみに見つかった。それぞれの種の南
極における分布と、湖沼環境との関連性を議論する。
陸上生態系における重要な植食者である昆虫類は、特定の餌種や
部位に特化することによって種分化と多種共存を可能にしていると
されている。一方、岩礁潮間帯における主な植食者である軟体動物は、
岩礁上を匍匐しつつ口に入る藻類を全て削りとることから、餌種に
特化することは難しいと思われる。除去実験の結果は植食性腹足類
群集が餌資源に制限されていることを示しており、にもかかわらず
同一の岩礁上に近縁の多くの種が共存することから、何らかの共存
機構が働いていると考えられる。例えば、歯舌が削り取る被覆性藻
類の範囲(深さや形)が種によって異なっていれば、同一岩礁上の
藻類を繰り返し利用できるため、複数種の共存が可能である。本研
究は、藻食性軟体動物の摂餌痕を採取しその種間差を明らかにする
ことによって、岩礁潮間帯における多種共存のメカニズムを探るこ
とを目的とした。
摂餌痕の採取には、歯科治療に利用されるデンタルワックスを使
用した。デンタルワックスを流し込んだ容器に藻食性軟体動物を個
別に入れ、3 日程度飼育して摂餌痕を記録した。レーザー顕微鏡を
用いて摂餌痕の立体像を撮影し、摂餌の深さや幅を計測して種間で
比較を行うとともに、電子顕微鏡を用いて摂餌器官である歯舌を撮
影した。
多板綱と腹足綱に属する 6 科 12 種の摂餌痕を記録した。多板綱
とカサガイ類以外の腹足綱にはそれぞれ明瞭な特徴が見られ、カサ
ガイ類についても、科ごとに歯舌の形態と一致する特徴が見られた。
同一科内でも、各部位のサイズを多変量解析にかけることで種間の
判別が可能であり、削り取りの範囲は種によって異なっていた。また、
摂餌痕の深さや形状から、複数の種間で同一の岩礁を利用できる可
能性が示唆された。
P2-255
P2-256
宮城県金華山島産アズマモグラの消化管における寄生蠕
人為的インパクトによる水生昆虫群集の変化
虫相について
* 吉村真由美(森林総合研究所)
* 石田寛明,横畑泰志(富山大・院・理工),土橋明晃(山形県立山形南高)
アズマモグラ(Mogera imaizumii )は東日本を中心に日本の多く
の地域に生息し、その消化管内寄生蠕虫相は各地で調べられている
が(Yokohata and Abe 1989;Yokohata et al . 1988、1989a、b;Yokohata
and Sagara 1995;Koizumi et al .、2012 など)、それらはすべて本州産
の個体によるものだった。一方、宮城県金華山島は小規模な島嶼で
あり、そこに生息するアズマモグラは、本州のものとは隔離されて
いる。本研究では金華山島で 2005 ∼ 2007 年に捕獲したアズマモグ
ラ 40 頭の腸管から実体顕微鏡下で寄生蠕虫を集めた。
腸 管 内 部 か ら は 主 に 線 虫 種 3 種( 旋 尾 線 虫 類 の Ascarops
mogera 、Protospirura pseudomuris 、毛様線虫類でモグラ類に固有の
Tricholinstowia talpae ;感染率はそれぞれ 7.5%、95.0%、27.5%)およ
び条虫(同、12.5%)、鉤頭虫(同、20.0%)各 1 種であった。線虫
類の種数は本州産のモグラ類に較べて少なく、島嶼隔離の影響であ
る可能性がある。また、大半の宿主個体の腸管漿膜(外側の膜)面
に小結節が多数見られ、内部に微細な幼若線虫が確認された(感染
率 97.5%)。日本産モグラにおいてこのような鉤頭虫および幼若線
虫の報告はみられない。幼若線虫は、BLAST 検索(国立環境研究
所 岡野 司氏による)に基づくと、偶蹄目によく寄生する糸状虫
科(旋尾線虫類)の種に近かった。金華山島にはニホンジカ(Cervus
nippon )が多数生息しているため、何らかの経路でアズマモグラに
感染した可能性がある。
306
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-257
P2-258
沖縄島サンゴ礁群集形成機構解明のための 4 つのアプロ
大津波で被災した干潟におけるベントス群集のモニタリ
ーチ:その弐 機能群構造に関わる環境因子
ングー市民調査法の有効性ー
* 鈴木祥平,河井崇,坂巻隆史(琉球大・亜熱帯)
* 鈴木孝男(東北大院・生命科学),西田樹生,勝部達也(東北大・理),
占部城太郎(東北大院・生命科学)
人為的影響によってサンゴ礁生態系の衰退が危惧される現代にお
いて,魚類の群集構造に影響を与える環境因子を明らかにすること
は,サンゴ礁生態学の主要な目的のひとつである.また,生物と環
境の関係性を研究する際には,同じ生態系機能を持つ種の集合であ
る“機能群”の多様性を考慮することは重要とされている.サンゴ
礁魚類では,これまで主に食性だけで機能群を分類しており,体サ
イズを分類基準に含めた研究は極めて少ない.本研究では,食性と
体サイズによって分類した機能群の構造に影響を及ぼす環境因子を
検討した.
2011 年夏季沖縄本島の沿岸域多点のサンゴ礁斜面上(水深約 7 m)
において魚類相のラインセンサスを行い,種・個体数・全長のサイ
ズクラスを記録した.同時に,物理的(岩盤・礫・砂・泥の基質の
比率,地形の凸凹度,流れの強さなど),化学的(窒素安定同位体比,
炭素率,粒状有機態炭素),生物的環境因子(各形状のサンゴや海藻
などの付着生物の被度)を調査した.環境因子を説明変数,機能群
構造を応答変数として冗長性分析を行い,これらの関係性を可視化
した.その結果,体サイズが小さい機能群ほど環境因子の影響を受
けやすく,全長が 10cm 以下の小型魚類や幼魚では,基質が主に岩
盤質であったり流れが弱かったりする礁斜面を好む傾向があった.
プランクトン食魚類や中型以上の藻類食魚類では,流れが強く地形
が複雑な礁斜面を好む傾向があった.さらに,各サイズクラスの魚
食性魚類の分布は,餌生物となる自分より一回り小さい魚類の機能
群の分布によって決まっている可能性が推測された.以上のように,
魚類の群集構造をより詳細に理解するためには,食性だけでなく体
サイズの観点からも機能群を分類して解析を行うことが必要である
と示唆された.
東北地方太平洋側の三陸海岸から仙台湾にかけての沿岸地域には、
規模はそれほどではないにしても、大小様々な干潟が存在する。こ
れらの干潟は東日本大震災における大津波によって、大小さまざま
な被害を被った。撹乱の規模は大きく3段階に分けられ、甚大な撹
乱を受けた干潟は干潟環境そのものが無くなってしまったため、本
来そこに棲み込んでいた底生動物の多くは消えたままである。中程
度の撹乱を受けた干潟では、残された干潟や新たに干潟になったと
ころに、増殖の早いゴカイ類やヨコエビ類が震災直後に多く見られ
るようになった。一方、ほとんど撹乱を受けなかった干潟では、ベ
ントスの種多様性は高いままで残された。
このように、場所によって被害の程度も異なれば、ベントスの回
復過程もさまざまであることが考えられる。そこで、干潟生物のモ
ニタリングを通して干潟の回復過程を追跡し、全体としての健全さ
を測ることにより、干潟のもつさまざまな機能が充分発揮されるよ
うに監視していくことが必要である。
我 々 は 市 民 参 加 型 の 干 潟 生 物 調 査 法( 鈴 木 ら 2009、Suzuki &
Sasaki 2010)を用いて震災後に三陸海岸から仙台湾にかけての干潟
でベントスの調査を行なった。この手法は、8 名以上が一組となっ
て干潟生物を探索し、各地点の全出現種数から種多様性を、各生物
の発見率から優占種、普通種、少数種を評価するものである。一般
市民による目視調査であるため、見逃されやすい生物種があり、種
の同定が不確かになることもあるが、専門家の協力を得ることで確
実なデータとなりうる。そのため、他地域と比較可能なデータが、
多大な時間を要せず、低コストで得られることは、広域的で長期に
わたるモニタリング調査には有効である。
P2-259
P2-260
沖縄島サンゴ礁群集形成機構解明のための 4 つのアプロ
印旛沼沿岸におけるクモ個体数と陸生・水生昆虫量の関
ーチ:その参 定住性捕食者ギルドの変異性から考える
係:オニビシの繁茂は陸上捕食者への subsidy に影響す
* 宮岡勇輝,鈴木祥平,河井崇,坂巻隆史(琉球大・亜熱帯)
るか?
生態系の中で捕食者は多様な餌生物や生産者によって支えられて
いる.そのため,捕食者の生態情報は,生態系の健全性を評価する
指標として有望視されている.サンゴ礁生態系は生物多様性が高く
複雑であるが,適切な捕食者を調べることでその健全性を評価する
ことができる可能性がある.サンゴ礁域の捕食者の中でも,小型ハ
タ類は個体数が多く捕獲が容易であること,定住性が強く周辺環境
の影響を受けやすいことなどの特徴から生態系の評価基準として適
していると考えた.本研究では沖縄島周辺海域の 36 地点で小型ハタ
類を採集し,同地点で得られた多項目の環境データと合わせて解析
することで,小型ハタ類の生態情報がどのような環境要因を反映し
ているのか調べた.
本調査では 6 種の小型ハタを採集した.それらの出現パターンが
どのような環境要因で説明できるのか調べるため,各種の出現・非
出現の 2 値データを応答変数として一般化線形モデルを用いた解析
を行った.また,各種の優占率がどのような環境要因で説明できる
のか調べるため,優占率比(ある種の個体数 / 他種の個体数)を応
答変数として一般化線形モデルを用いた解析を行った.次に,各個
体の肥満度 relative condition factor Krel=W/aLb を算出しコンディショ
ンの指標とした.Krel の変化がどの環境要因によって説明できるのか,
一般線形混合モデルを用いた解析を行った.これらの解析結果から
小型ハタ類がサンゴ礁生態系の健全性評価基準となりうるか考察し
た.
本研究では生息確率,優占率比,Krel の 3 つのスケールに影響を
与える要因がどの種においても異なるという傾向が見られた.この
結果は,生存,競争,コンディションを左右する条件が異なること
を示している.
* 高木俊,鏡味麻衣子(東邦大・理)
水生昆虫の成虫は陸域捕食者への subsidy として陸上食物網に影響
するが、その移入量や季節変動は、水域の環境変化に依存すると考
えられる。水生植物は、水生昆虫の幼虫に餌や生息場所を提供する
が、一年生植物の場合には繁茂と枯死による大きな季節変化が生じ
る。水生植物の有無は、水生昆虫の陸域への移入量とその変動を介
して、陸域捕食者の動態にも影響すると予想されるが、この間接的
影響についてはほとんど明らかになっていない。本研究では、千葉
県印旛沼で繁茂する一年生浮葉植物オニビシに着目し、オニビシが
水生昆虫を介して陸上捕食者に与える影響を明らかにするため、オ
ニビシ群落および開放水域に隣接する植生上でのクモ個体数と昆虫
量を比較した。
調査はオニビシ繁茂期(8・9 月)と枯死期(10 月)に、沿岸のヤ
ナギ群落 4 箇所(オニビシ 2・開放 2)およびヨシ群落 8 箇所(オニ
ビシ 4・開放 4)で行った。ヤナギ群落では、樹上のクモ個体数を見
取り法により計数し、飛翔昆虫を粘着トラップにより採集した。ヨ
シ群落では、スイーピングにより葉上のクモと昆虫を採集した。また、
月 1 回、船上から採泥器により水生昆虫幼虫を採集した。
水生昆虫(ユスリカ・ヌカカなど)の幼虫は繁茂期のオニビシ群
落で少なかったが、沿岸の成虫はオニビシの有無によらず、オニビ
シ枯死期に多く見られた。一方、陸生飛翔昆虫はオニビシ枯死期で
若干少なかった。また、オニビシ群落沿岸では、枯死期にオニビシ
食者(ジュンサイハムシ・ヒシヨコバイ)の移入が見られた。クモ
個体数は、水生昆虫と同様に枯死期に多く見られた。これらからオ
ニビシの繁茂は、水生昆虫の幼虫の分布には影響しても、陸域への移
入量や捕食者であるクモの個体数への影響は強くないと示唆された。
307
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-261
P2-262
沖縄島サンゴ礁群集形成機構解明のための 4 つのアプロ
沖縄島サンゴ礁群集形成機構解明のための 4 つのアプロ
ーチ:その壱 生態特性により環境と空間の支配度は変
ーチ: その四 定住性捕食者のバイオマーカーからみる
わるのか?
食物網
* 河井崇,坂巻隆史(琉球大・亜熱帯)
* 坂巻隆史(琉球大・亜熱帯),藤林恵(東北大・工),宮岡勇輝,河井崇,
鈴木祥平(琉球大・亜熱帯)
生物群集の形成における環境プロセスと空間プロセスの相対的重
要性について,近年理論・実証研究が共に進められており,特に陸
上生態系における豊富な知見をもとに議論が深まってきている.し
かしながら,開放性がより高い海洋生態系を対象とした実証研究は
非常に少ない状況にあり,群集形成プロセス解明のための議論を進
めるためには,様々な地域における情報の蓄積が求められている.
そこで演者らは,沖縄島サンゴ礁斜面貝類群集を対象として,その
形成における環境・空間プロセスの相対的重要性を評価するための
野外実証調査を実施した.調査に際しては階層的サンプリング法を
用い,沖縄島全域にかけた 12 河口に調査サイトを設定し,各サイト
に 3 ステーション,各ステーションに 3 トランセクト(計 108 トラ
ンセクト)を設置した.そして,各トランセクト(15m × 1m)上で
コドラート(50cm × 50cm,6 個)を用いて目視可能な全ての貝類
を採集した.また環境要因として,栄養塩濃度・生元素比等の化学
的性状,地形・水流等の物理環境,サンゴ等基盤形成生物を含む基
質の構成を各トランセクト上で測定した.RDA を基にした分散分割
法を用いて,環境要因と空間配置による貝類群集の支配度の相対的
重要性を評価した.
沖縄島サンゴ礁斜面貝類群集においては,普通種・稀種ともに環
境プロセスだけで説明される割合が,空間配置だけで説明される割
合を大きく上回った(環境 %:空間 %,沖縄島東海岸普通種 26:1,
東稀 8:0,西普通 14:2,西稀 2:1).この結果より,貝類群集は
基本的に環境に強く支配されていることが明らかとなった.しかし
ながら,普通種と稀種では支配している環境の空間スケールが異な
る可能性が示唆された.
陸域からの物質流入は,様々な沿岸生態系の生物地球化学的環境
や食物網構造に影響することが各地で報告されている.サンゴ礁海
域では,人為起源の栄養塩流入がサンゴ優占の系から藻類優占の系
へのいわゆるレジームシフトを引き起こす要因とされる一方,その
サンゴ礁域の食物網構造全般に及ぼす影響についての知見は極めて
限定的である.本研究では,陸域からの窒素流入がサンゴ礁海域の
食物網構造に及ぼす影響を検討した.2011 年夏季沖縄本島の沿岸域
多点のサンゴ礁斜面上(水深約 7 m)において定住性で比較的高次
の捕食者と考えられるニジハタ・ヤミハタ・カンモンハタの 3 種を
捕獲し,炭素・窒素安定同位体比および脂肪酸組成の分析を行った.
さらに,人為的な窒素流入の指標として各地点の海藻類を採取し窒
素安定同位体比を分析した.その結果、ヤミハタおよびカンモンハ
タの窒素安定同位体比は海藻のそれと有意な正の関係がみられ,人
為起源の窒素がこれらのハタによって同化されていることが示され
た.これら 2 種のハタについては,肉食・植物起源脂肪酸の同化指
標とされる 18:1 ω 9/18:1 ω 7 比が海藻の窒素安定同位体比と有意な
負の関係を示し,人為起源の窒素流入増加にともない藻類起源脂肪
酸の同化が増加していることが示唆された.一方,ニジハタの窒素
安定同位体比や 18:1 ω 9/18:1 ω 7 比は海藻の窒素安定同位体比と有
意な関係を示さず,人為起源の窒素流入が餌料を介してこのハタに
は同化されていないことが示唆された.以上より、人為起源窒素流
入に対するハタ種間での異なった応答が明らかになるとともに,そ
のサンゴ礁食物網構造への有意な影響が示唆された.
P2-263
P2-264
鳥類相調査におけるシジュウカラの警戒声の利用とその
魚類群集における種間の個体数 ‐ 分布関係
有効性の検討
* 満尾世志人(龍大・理工),角田裕志(岐阜大),遊磨正秀(龍大・理工)
* 杉田典正(科博・動物),鈴木俊貴(立教大・理)
種間における局所個体数と分布(出現率)の正の相関は様々な分
類群で確認されている。こうした個体数 - 分布関係を説明する主要
なメカニズムの一つとしてメタ個体群理論が挙げられており、局所
的に個体数の多い種は低い絶滅率か高い移住率、またはその両方に
よって広域での分布が可能となると考えられている。一方で、個体
数 - 分布関係に関してフィールドデータからその駆動要因について
検討された事例は多くない。そこで本研究では、ため池に生息する
魚類群集を対象として、個体数 - 分布関係の有無やその要因につい
て考察することを目的とした。
調査対象地は岩手県南部に位置するため池群であり、それらには
周辺水域との接続を欠く、完全に孤立したため池も含む。こうした
周囲との接続の有無で比較を行うことにより、個体数 - 分布関係に
おけるメタ個体群構造の役割等について検討した。
さえずり音声のプレイバックに反応する鳥種を記録する方法は、
鳥類相調査においてよく使われる一般的な方法である。この方法は、
ある地域におけるある鳥類種の生息の有無の調べるときに特に有効
である。さえずり以外にも他種の鳥が反応する音声がある。例えば
警戒声は、他種のモビングを促進する。日本のシジュウカラの警戒
声は 2 種類あり、どちらも他種を引き寄せることが知られている。
本研究では、シジュウカラの 2 種類の警戒声が鳥類相調査に役立つ
かどうか調べた。調査は、2012 年 5,6 月に軽井沢の混合林で行った。
距離を十分に離した 14 地点で行った。警戒声 A と B を各地点 1 回、
それぞれ別の日にプレイバックした。プレイバックの順序はランダ
ムに決めた。プレイバックの長さは 15 分間でその間に訪れた鳥の種
類を記録した。次にプライバックなしで各地点 1 時間センサスを行
った。全地点のデータをプールすると警戒声のプレイバックと無音
のセンサスで、記録された鳥の種類はほとんど異ならなかったが、
種類によっては出現する頻度が異なった。警戒声の種類によって、
記録された鳥の種類は異なった。コゲラなど警戒性に誘引されたが、
センサスでは見つからない種があった。カラ類は、センサスでも見
つかったが著しく出現頻度が低下した。警戒声は多くの鳥を引き寄
せるので、調査時間を短縮することができる。しかし、引き寄せら
れない鳥種もいるので、ポイントセンサスとプレイバックを組み合
わせる方法が推薦される。警戒声の種類によっても他種の鳥の反応
は異なるので、使用する警戒声の選択に注意した方がよい。
308
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-265
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北部日本海開放岩礁性潮間帯の動物群集構造
東北地方太平洋沖地震後の岩礁潮間帯生物群集:地震前
富永伸人,武田哲(東北大・生命)
後のデータを用いた地盤沈下と津波の影響の評価
飯田光穂 *,岩崎藍子,阪口勝行,佐原良祐,萩野友聡,野田隆史.(北大院・
環境)
太平洋の縁海である日本海は、特徴的な潮汐を示す。例えば、青
森県の太平洋の潮位差は 1.5m ほどあるのに対して、日本海では
40cm ほどである。また、日本海では潮位の季節変動が大きく、春の
満潮時の汀線が秋の干潮時の汀線よりも低くなることもある。この
ような日本海沿岸の特徴的な環境は、潮間帯生物の分布に大きな影
響を与えていることが考えられる。本研究の目的は北日本海沿岸の
潮間帯生物群集の特徴を明らかにすることである。
調査は 2012 年 5 月∼ 8 月に、青森県の日本海沿岸と津軽海峡の開
放岩礁性海岸で行った。岩礁の斜面に、海水面から岩礁頂方向に 2
本のラインを引いた。ライン上の海藻の分布上限を起点とし、下は
20cm あるいは 30cm まで、上は岩礁頂、あるいはアラレタマキビの
分布上限までを調査範囲とした。ラインに沿って縦 10cm、横 30cm
のコドラートを順次設定してその中に出現した表生底生動物の個体
数を記録した。
潮間帯群集は、ほとんどの地点で明確な帯状分布を示した。潮間
帯下部からその下の海藻帯にはムラサキインコガイの幼稚体とヨロ
イイソギンチャクが見られた。潮間帯下部から中部にはベッコウガ
サとコガモガイ類が主に出現した。その上にはイワフジツボが疎ら
に見られた。潮間帯上部から潮上帯にかけてはアラレタマキビが出
現した。
固着性のムラサキインコガイは個体サイズから、青森県日本海
沿岸では着底後生残できないことが明らかになった。潮位が周年変
動する日本海では、潮位の変動に合わせて移動できるカサガイ類
が潮間帯で優占することが示唆された。また、群集構造は矢島ら
(1978,1980,1984)の北陸以北の結果とおおむね一致していたことか
ら、日本海北部の岩礁性潮間帯表生底生動物相は、緯度勾配よりも、
対馬海流の影響を大きく受けていると考えられた。
東北地方太平洋沖地震は生物の数や分布に大きな影響を及ぼした
と考えられる。こうした地震の影響を正確に評価するためには同一
地点における地震前後の生物の数と分布の長期観測データが必須で
あるがめったに得られない。本研究の目的はこれらのデータをもと
に岩礁潮間帯生物の個体群への地震の影響と現状を正確に評価する
ことである。
2003 年から 2010 年の 7 月に三陸の 5 海岸のそれぞれ 5 岩礁の計
25 ヶ所に方形区を設置し、固着生物の被度と移動性ベントスの個体
数を計測した。地震直後の 2011 年の 7 月には全方形区を上方に広げ
地震前と同様の調査を行うと共に沈降幅を計測し、2012 年 7 月にも
同様の調査を行った。
地震前の分布潮位のピークが方形区内にある普通種(固着動物 4
種、海藻 4 種、移動性ベントス 4 種)を対象に地震前後の個体群サ
イズの変化を評価するために、地震前後で同一の潮位(平均潮位の
上下 50cm の範囲)(比較法 1)と地震前後で同一の地点(地震前の
方形区の範囲)(比較法 2)で個体群サイズの地震前後の差を求め、
この値を地震前の年変動(標準偏差)で標準化することで効果サイ
ズを求めた。
その結果、地震前と直後を比較すると固着動物ではフジツボ類 3
種は比較法 1,2 の両方で増加し、ムラサキインコガイは激減した。
海藻類では 2 種が比較法 1,2 の両方で減少し、残りの 2 種は比較法
1 で減少し 2 で増加した。移動性ベントスのうち 1 種は両方で減少し、
3 種は地震の影響はなかった。また地震直後とその一年後を比較す
ると、固着生物では直後に減少した種では比較法 1 で増加し 2 で減
少したのに対し、直後に増加した種ではどちらの比較法でも減少し
た。移動性ベントスは減少するものや増加するなど様々であった。
P2-267
P2-268
Environmental factors affecting the distribution of web-
真社会性アブラムシの兵隊に対してスペシャリスト捕食
spiders in a paddy field.
者の卵は対抗的な形質をもっている !?
Fukushima, T. (Tamagawa Univ.)
* 服部 充(信州大院・総工・山岳),市野隆雄(信州大・理・生物)
水田生態系においてクモ類は特に個体群サイズが大きいことから,
害虫防除要因として期待され,これまで様々な研究がなされてきた.
その中で小林ら (1974) は,イネ害虫が大量発生する前に予めクモ類
の個体数蜜度を高めておくことでクモ類からイネ害虫へのトップダ
ウン効果を強く保っておくことが出来れば,より効率的な害虫防除
が可能になるという可能性を指摘した.その実現のためにはクモ類
の個体数密度を高めておく必要があるが,そのためにはまずクモ類
がどのような要因に影響され分布しているのかについて明らかにす
る必要があると考えられる.しかし景観レベルでのそのような研究
はある一方で局所レベルでの研究は少ない.
そこで本研究ではアシナガグモ類に着目し,クモ類の個体数がど
のような環境要因に影響を受けるのかを明らかにすることを目的と
して解析を行った.調査は東京都町田市の谷戸にある 9 枚の水田に
おいて,アシナガグモ類の個体数及び水田内の水平分布の把握を直
接観察により行い,また主要な環境要因の計測も行った.解析はア
シナガグモ類の個体数を応答変数とし,誤差分布が負の二項分布に
従うと仮定した一般化線形混合モデルを用いて行い,モデル選択は
AIC を用いて行った.
その結果「田植え時の重機の使用」,「水田の土壌水位」,「腐食性
昆虫の個体数」を説明変数としたモデルがベストモデルとして選択
され,それぞれ負,負,正の効果を表した.またクモ類の水田内の
分布が多い場所での土壌水位は大凡浅いということが分かり,さら
に土壌水位と腐食性昆虫の発生量には正の相関が見られた.
以上の調査結果を踏まえると,アシナガグモ類は土壌水位を,餌
である腐食性昆虫量に代わる指標として利用しているのではないか
と考えられた.
捕食者は、被食者を効率的に捕食できる形質や被食者の防衛形質
に対して自身の生存を助けるような形質をもっていることがある。
特に、捕食者の無防備な生活史段階(例:卵)において、被食者の
防衛形質に対する対抗的な形質は捕食者の適応度を高めるうえで重
要であると考えられる。そこで、本研究では防衛に特化した兵隊カ
ーストを産出する真社会性アブラムシのササコナフキツノアブラム
シのスペシャリスト捕食者であるセグロベニトゲアシガの卵がアブ
ラムシの兵隊カーストに対する対抗的な形質をもつという仮説をた
て、検証した。兵隊カーストの存在する環境下と兵隊の存在しない
環境下でセグロベニトゲアシガ卵の孵化率が異なるかどうかを調べ
た結果、兵隊カーストの存在下でもセグロベニトゲアシガ卵の孵化
率は、兵隊カーストの不在下における孵化率と有意に変わらず、高
かった。また、本研究において兵隊カーストは、稀にセグロベニト
ゲアシガ卵に対し前脚を開閉し、攻撃行動を示すこともあったが、
この攻撃行動はすぐ中断された。このような攻撃行動の中断は、兵
隊カーストが同種他個体を間違って攻撃したときにも見られる。こ
れらのことは、セグロベニトゲアシガ卵がササコナフキツノアブラ
ムシに化学的に擬態していることを示唆している。本研究の結果は、
スペシャリスト捕食者の兵隊カーストに対する適応の証拠を与える
ものである。
309
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-269
P2-270
潜葉虫の microhabitat 選好性に対する top-down 効果
多様な環境に適応した表現型可塑性:トレードオフと進化
* 綾部慈子,肘井直樹(名大院・生命農・森林保護)
* 道前洋史(北里大・薬),手塚あゆみ,岸田治(北大・北方圏 FSC)
生物の生活史の多様化をもたらす要因の一つとして,他種との相
互作用が考えられる。たとえば,植食性昆虫 - 寄生蜂のような拮抗
的関係において,寄生蜂からの top-down 効果に対する防衛手段の発
達は,植食性昆虫の進化や多様化に影響する要因であると予想され
る。
植食性昆虫の 1 グループである潜葉虫は,幼虫期に葉の内部に潜
入して内部組織を摂食し,マインと呼ばれる,視覚的に目立つ摂食
痕を葉に残す習性をもつ。マインの視覚的目立ちやすさは,寄生蜂
を誘因して高い寄生圧を招くため (Connor & Taverner 1997),潜葉虫
にとって寄生蜂との相互作用は,適応度への影響を通じて潜葉習性
の多様化に影響をもたらす重要な要素であるといえる。
こうした潜葉虫では,種分化の過程で,葉の表よりも裏への潜葉
習性が広く進化している (Lopez-Vaamonde et al. 2003)。この理由とし
て,葉裏のマインの方が視覚的に目立ちにくく,寄生を回避しやす
い可能性が示唆されている (Reavey & Gaston 1991)。したがって,潜
葉場所の違いが,寄生蜂との相互作用を通じて潜葉虫のパフォーマ
ンスに影響を与えるかどうかを検証できれば,潜葉習性の多様化の
解明において重要な手がかりを得られるものと考えられる。
演者らはこれまで,常緑樹ネズミモチの葉を利用する潜葉虫の一
種 Phyllocnistis sp.(ホソガ科)を用い,葉内の潜葉場所 ( 表 vs 裏 )
と寄生率との関係を調査してきた。葉表に形成されたマインは,葉
裏のマインと比べて,寄生率が有意に高く,寄生回避において不利
な場合があることが判明している。本発表では,潜葉場所別に寄生
蜂群集を比較し,葉表のマインがより多くの寄生峰種から攻撃を受
けやすいかどうかを検証する。
理論的研究では最適な表現型が環境で異なる(トレードオフの関
係がある)とき、表現型可塑性が進化することを示してきた。実証
的研究でもこの理論は確かめられてきた。しかしこれらの研究では
生物が遭遇する環境は 2 つの場合に限られてきた(捕食者の存在と
不在など)。環境がこのように単純なことはあり得ず、より複雑な条
件下で表現型可塑性の進化を論ずる必要がある。
北海道に生息するエゾサンショウウオ幼生には標準型形態に加え
て、捕食者(ヤゴ:ルリボシヤンマ)の存在で体長に対して相対的
に尾高が高くなる捕食者誘導型と被食者(オタマジャクシ:エゾア
カガエル)の存在で体長に対して相対的に顎の幅が広くなる被食者
誘導型をもつ幼生が存在する。標準型、捕食者誘導型、被食者誘導
型の幼生を、それぞれ形態別に 3 つの処理(エゾサンショウウオ幼
生のみ、エゾサンショウウオ幼生+ヤゴ、エゾサンショウウオ幼生
+オタマジャクシ)に分けて野外設置したエンクロージャーで飼育
した。各エンクロージャーでは個体別に生存期間、変態までの期間、
変態時の体サイズを記録した。ヤゴ環境では生存期間は捕食者誘導
型>標準型>被食者誘導型の順で長かった。また全ての個体が捕食
で死亡したため、変態までの期間と変態時の体サイズは記録できな
かった。オタマジャクシ環境では変態までの期間は捕食者誘導型>
標準型>被食者誘導型の順で長く、変態時の体サイズは捕食者誘導
型>標準型>被食者誘導型の順で大きかった。また生存期間は標準
型>被食者誘導型>捕食者誘導型の順で長かった。エゾサンショウ
ウオ幼生だけの環境では生存期間、変態までの期間、変態時の体サ
イズは形態間でほとんど差がなかった。
P2-271
P2-272
対抗的な表現型可塑性の種間比較 - サンショウウオ2種
アカウミガメにみる大型海棲爬虫類の成熟戦略
の大顎化とアカガエル3種の膨満化 -
* 石原孝(東大院・農/ウミガメ協),亀崎直樹(東大院・農/須磨水)
* 手塚あゆみ(北大・北方圏 FSC),岸田治(北大・北方圏 FSC),小林
誠(十日町市立里山科学館キョロロ),道前洋史(北里大・薬)
ウミガメ類は現生する科がすべて中生代白亜紀には出現しており,
海洋環境とその変化に適応・対応していることが伺える.本研究で
はウミガメ類の適応戦略を紐解くため,世界の大洋に分布する普遍
種であり,4.5-5 百万年前には出現していたアカウミガメについて,
北太平洋個体群内の成熟戦略を年齢,体サイズとその性比から検討
した.また,北太平洋個体群は太平洋を横断して回遊するものの,
日本の砂浜でのみ産卵し,日本近海は重要な繁殖域ともなっている.
ここでは日本国内で混獲死あるいは死亡漂着した個体を用い,標準
直甲長 (SCL) を計測した後,生殖腺から性判別および幼体・亜成体・
成体への分類をし (n=152),骨年代学的手法によって年齢を推定した
(n=79).性的二型は認められず,亜成体と成体の SCL は 73.8-85.3cm
の範囲で重なっており,50% 成熟甲長は SCL82.1cm であった.平均
的な成熟年齢は 37-43 歳の間にあると考えられたが,成体と亜成体
の推定年齢は 21-61 歳の範囲で重なり,成熟年齢の範囲は非常に広
かった.加えて,小型の成熟個体は必ずしも若いわけではなく,大
型の成熟個体は必ずしも老齢なわけではなかった.また,発生時の
温度で決まる性比も SCL や年齢の違いによる違いは認められなかっ
た.世代交代に長い年月のかかる生物の場合,生まれてから繁殖を
開始する間に成育海域や繁殖域の環境が変化することは起こりえる
ことであり,アカウミガメが産卵地とする砂浜は動的で不安定な環
境でもある.そのため繁殖を開始するタイミングや成育する海域を
分散させ,環境の変化に対するリスクも分散させていると推察され
る.その結果,個体群の中でも多様な成熟戦略が存在するようになり,
多様な成熟戦略は環境の変化への対応を可能にし,氷河期などの環
境変化にも対応できたのであろう.
エゾサンショウウオの幼生とエゾアカガエルのオタマジャクシは
互いの存在に応じて対抗的に形態を変化させる。捕食者のエゾサン
ショウウオ幼生はオタマを丸呑みしやすいよう顎幅を大きくする一
方、エゾアカガエルのオタマは丸呑みされないように皮下組織を厚
くし頭胴部を膨らませる。理論研究からこのような対抗的な表現型
可塑性は軍拡競争のごとく共進化することが指摘されている。互い
の形態変化が選択圧となり、共進化しているならば、捕食者と被食
者の対抗性は遺伝集団間で正の相関を示し、より大顎化できるサン
ショウウオはより強く膨らむことができるオタマと共存すると予測
される。今回私たちは種間比較研究によりこの仮説を検討した。エ
ゾサンショウウオとエゾアカガエルの比較対象として、近縁種で類
似した環境に生息するクロサンショウウオとヤマアカガエル・ニホ
ンアカガエルを用いた。捕食者のサンショウウオ 2 種と被食者のカ
エル 3 種を 1 種ずつペアにした処理区と、ペアにせず 1 種だけで育
てた処理区を用意し、形態を比較した。実験の結果、エゾサンショ
ウウオはクロサンショウウオに比べ、オタマがいなくても顎が大き
いこと、オタマがいるとさらに大きな顎を持つことがわかった。一
方で 3 種のオタマはサンショウウオがいないときには形に違いがな
いが、サンショウウオがいるときには、エゾアカガエルがヤマアカ
ガエルやニホンアカガエルよりも強く膨満化することがわかった。
これらの結果は、捕食者と被食者の対抗的な可塑性の共進化仮説を
支持し、エゾサンショウウオとエゾアカガエルが対抗的な形態の発
現をとおして互いの形態発現能力に強い選択圧をかけあってきたこ
とを示唆する。
310
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-273
P2-274
エゾサンショウウオ幼生の可塑的形態の形態計測学的分析
オトシブミと共生する細菌の探索
西村欣也(北大・水産)
* 三宅崇,高田惟名(岐阜大・教育)
大きく太い嘴や流線型の体型といった生物の形態が何らかの機能
を反映していることを見いだすのは、生物学の基本的な興味の一つ
である。形態はサイズ ( 大きさ ) とシェイプ ( 形状 ) の2つの幾何学
的要素に分解して、生理的あるいは行動的特徴や環境との関係を統
合的に分析することで、その機能が解釈できるようになる。
エゾサンショウウオ (Hynobius retardatus ) の幼生は、生態学的幾つ
かの状況で可塑的に多様な形態を発現することから、環境に対する
生物の表現型の可塑的応答についての研究に適している。エゾサン
ショウウオの幼生は、高密度の生育環境では、大きな顎で口頭部が
幅広の形態で共食いの性質を持つ個体が生じ、形態の異なる型とし
て区別される共食い個体とそれに食われる個体が混ざった2型化集
団となることが調べられている。
共食い個体は大きな顎を有し、同種を食うことで共食いをしない
個体よりも大きくなる傾向があるため、これまでの研究では、集団
中の個体の型は、十分に共食いが起こった発育時期に、サイズとサ
イズで補正した顎幅によって見極めていた。
本研究は、共食いが生じる初期段階で型の分化がどのように進む
のかを調べることを目的とした。孵化数日後、1回の共食いが起こ
って、共食い個体が餌食を消化した直後の同時期に全ての個体の形
態的特徴がどのようになるのかを、幾何学的形態計測学の方法によ
って調べた。幾何学的形態計測学は、形態を幾何学的包括情報とし
て数理的に解析する方法である。発表では、ランドマーク座標によ
って個体の形態特徴を記録し、「プロクラステス変換重ね合わせ法」
によってサイズとシェイプを分離して幾何学情報の比較分析を行っ
た結果を説明し、共食い型や被共食い型の形態について、従来の計
測指標による捉え方と比較考察を行う。
オトシブミ科昆虫は、植物の葉を巻いてその中に卵を産みつけ、
ゆりかごのような“揺籃”を形成し、幼虫は成虫になるまでその中
で葉を採食する。最近(日本生態学会第 59 回大会)、エゴノキ生葉
- オトシブミ成虫間での窒素同位体比の濃縮係数から、オトシブミ
幼虫が葉のみから窒素源を得ているのではなく、空中窒素の固定が
関わっていることが示唆され、窒素固定微生物の関与が推測された。
そこで本研究では、エゴツルクビオトシブミ(エゴ)を用いて、分
子学的な手法から窒素固定に関わる微生物の探索を調べた。
岐阜県内でエゴツルクビオトシブミおよびヒメクロオトシブミの
成虫および形成されていた揺籃を採集した。捕獲した成虫は飼育し
て卵やフンを採取し、その後成虫個体を解剖し、腸を摘出して昆虫
リンガー氏液中で保存した。揺籃からは卵、幼虫を採取した。これ
らから DNA を抽出し、窒素固定微生物がもつ窒素固定に関与する
酵素(ニトロゲナーゼ)の遺伝子である nifH のユニバーサルプライ
マーを用いて PCR を行ったところ、エゴの卵、幼虫およびヒメの幼
虫から、想定されるサイズの増幅が見られた。一方、成虫の腸、フン、
揺籃(葉)からは増幅は見られなかった。増幅がみられたものにつ
いてクローニングを行い、配列解析した結果、複数の配列が得られ
た。それらを Blast 解析したところ、エゴ卵から得られた配列は①大
西洋沿岸の海洋中から単離された生物由来 nifH、②ヤナギゴケ科タ
チハイゴケから単離された生物由来 nifH、③イネ科植物から単離さ
れた腸内細菌科 Raoultella terrigena の nifH と相同性があった。一方、
エゴ幼虫からは卵と同様に①②③と相同性がみられた配列以外に、
④イネ科エンバクの葉から単離された生物由来 nifH、⑤腸内細菌科
Pontoea sp. の nifH と相同性が高い配列が得られた。
P2-275
P2-276
大量増殖系統のアリモドキゾウムシにおけるオスの致死
ナスミバエのメスの配偶者選好性を実験的に進化させる
的交尾形質
* 栗和田隆(九沖農研),原口大,小濱継雄(沖縄農研)
* 城本啓子,熊野了州,豊里哲也(琉球産経),栗和田隆(九沖農研),松
山隆志(沖病防技セ),原口大(沖農研セ)
交尾の際にオスの違いによってメスの適応度が異なる場合、より
利益を与えるオスに対するメスの選好性が進化すると考えられる。
したがって、交尾時の利益とオスの違いとを結びつけて操作し累代
飼育をおこなえば、メスの選好性を実験的に進化させることが可能
になるかもしれない。これは「配偶者選好性の進化」という性選択
の研究における中心的課題に対する直接的な実証となり得る。本講
演ではナスミバエ Bactrocera latifrons という害虫を対象に、不妊虫放
飼法を利用した実験進化学的な研究について発表する。不妊虫放飼
法とは、大量に増殖した害虫を不妊化した後に野外に放し野生のメ
スの正常な繁殖を妨げることで、害虫個体群の抑制・根絶をおこな
う手法である。不妊虫の精子だけでは次世代が全く残せないため、
選択はかなり強く働くと考えられる。今回は不妊オスと正常オスの
入り混じった環境でメスを 9 ∼ 11 世代飼育し、正常オスに対するメ
スの選好性が進化するのかを検証した。また、不妊オスと交尾した
場合と正常オスと交尾した場合とで、メスの再交尾率に違いがある
のかも検証した。さらに、正常オスに対して前翅に人為的に模様を
施し不妊オスとの識別をより容易にした上で選択をかけることで、
人為的な模様に対するメスの選好性が進化するのかも検証した。本
講演ではこれらの結果を基に、メスの配偶者選好性の進化について
議論する。
強い交尾競争環境ではオスはメスの再交尾遅延・抑制を通じてメ
スを操作するような形質が進化しやすく,メスにとってオスの操作
による傷害やエネルギー的なコスト等のリスクが高くなると考えら
れる.不妊虫放飼法 (SIT) による根絶をおこなうには対象害虫を長
期にわたって大量に確保する必要がある.沖縄県では,SIT に用い
るアリモドキゾウムシ Cylas formicarius の累代大量飼育を現在まで
約 15 年(約 95 世代)行っている.本種のメスは一度交尾するとフ
ェロモン分泌を停止するため,野外では再交尾の機会はほとんど無
いとされる.一方,増殖環境では雌雄が大量に狭い空間にいるため,
野外とは違いメスは多回交尾する可能性が高い.この様な増殖系統
において,オスの操作形質等の進化が検証しやすい.
実際,射精物によりメスを早死にさせるという特殊な操作形質が
増殖系統内のオスの一部に現れていることがわかった.野外では,
メスを早死にさせる事はオスにとって次世代を残せないおそれがあ
り,メスを殺す形質が何故あるのか,どのように維持されているのか,
遺伝的な形質なのかはまだ不明である.本研究では,メス殺しの意
義やメスへの影響を解明するために増殖系統内の早死にさせるオス
の交尾頻度や次世代数,生殖付属腺抽出物の濃度によるメスの生存
率などを調べた.その結果,早死にさせるオスの交尾頻度や次世代
数は通常のオスと比べ増加は認められなかった.また,その生殖付
属腺の濃度を減少させる事でメスの死亡率も低下する事がわかった.
このメスを早死にさせるオスの繁殖形質の適応的意義や増殖環境に
おける維持機構について考察する.
311
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-277
P2-278
陸産貝類における射精量(精子数)を決める要因
巣材から見えるトキの環境利用―木材解剖学的分析によ
* 木村一貴,千葉聡(東北大・生命)
る樹種同定―
精子や精液中物質の生産にはコストがかかるため、交尾ごとにそ
れらの授与量を調節することが利益となると考えられている。実際、
そのような射精量の調節は複数の分類群で知られている。その際、
調節の指標として用いられるのは、他のオス個体の存在・密度や交
尾相手の質・交尾経験などがある。さらに、雌雄同体生物の場合、
交尾相手から受け取る精子数も射精量の決定要因になりうると考え
られている。しかし、雌雄同体生物における射精量調節の研究は非
常に少なく、上述した要因を複数考慮した例はほぼ無い。そこで本
研究では、同時的雌雄同体の陸産貝類を用いて、自身の授与精子数
と交尾相手の質・交尾経験・授与精子数との関係性を調べ、その結
果について議論する。
* 金子洋平,上野裕介(新潟大・朱鷺セ),能城修一(森林総研)
,永田尚
志,山岸哲(新潟大・朱鷺セ)
鳥の巣は,種によって異なるが,動物質,植物質など様々な材料
によって作られる.このうち,植物質材料は種類によって含有する
化学成分や物理的強度が異なるため巣の頑強度や耐久度に大きく影
響すると考えられ,巣材として用いる樹種を選択している可能性が
ある.しかし,これまでに green plant を除けば,植物質巣材の樹種
同定を行った研究はない.また,巣材の樹種構成を明らかにするこ
とで,鳥の造巣時における環境利用特性を明らかにできると考えら
れる.そこで本研究では,木材解剖学的解析を用いてトキ(Nipponia
nippon )の巣材の樹種同定を行った.この解析は属レベルで樹種を
同定できるが,巣の周辺植生を考慮することによって種レベルでの
同定を試みた.
巣材の採取は佐渡島にある 8 巣を対象とし,2011 年の繁殖期終了
後に行った.巣は次年度に再利用する可能性があり,巣構造を破壊
しないように合計 81 本を採取した.草本およびタケが 10 本あり、
残り 71 本中 68 本は属レベルで識別できた.また,巣の周辺植生を
考慮することで 59 本は樹種を特定できた.営巣地がコナラ林の場
合はコナラが,クロマツ林ではクロマツが多く使われていた.一方,
スギはスギ林であってもほぼ使われていなかったが,小枝は柔軟で
折れにくいことに加え,枝打ちの不実施により林床に適当なサイズ
の枝が少なかったためだと考えられた.このことから,樹種選好性
は無いと結論づけるが,今後さらに検証の余地がある.また,カキ
ノキの果樹園近くの営巣地ではカキノキが巣材として使われており,
巣の造成に重要なサイトであることが示唆された.また,タケやイ
チョウなど人間活動に関わりのある樹種が多く巣材として使われて
おり,人間活動と営巣活動が密接に関係していることが示唆された.
P2-279
P2-280
婚姻色と精子の質とのトレードオフ : サケ科魚類を用いて
寄生バチの性比を調節して適応度を測定する
山本俊昭 *,鈴木達也,丸田初菜(日獣大),北西滋(水研セ)
* 安部 淳(神奈川大・理・生物),上村佳孝(慶応大・生物)
Parker(1990) は、二次性徴形質が劣る雄ほど強い精子競争にさらさ
れていることから、そのような雄ほど 1) 精巣への投資(精子数およ
び濃度)が増加すること、2) 鞭毛が長く遊泳速度の速い精子を形成
すること、3) 遊泳速度が上がるように投資するため、精子の寿命が
短くなることを理論的に予測した。本研究では、サケ科魚類を用いて、
成熟体サイズおよび婚姻色と精子特性との関連性を明らかにするこ
とを目的とした。
北海道南西部に位置する尻別川において 1 歳魚の成熟オショロコ
マ雄 17 尾 ( 平均 14.5 ± SD 2.3cm) を捕獲した。捕獲した個体は、た
だちに婚姻色を計測するためにデジタルカメラにより撮影を行った。
その後、体長および体重を計測し、腹部の圧迫により精液を採取した。
採取した精液は、保存液にて 100 倍に希釈した後、倒立顕微鏡下で
精子の活性状況を撮影した。そして、撮影した映像から精子の遊泳
速度、寿命ならびに鞭毛の長さを計測した。また、婚姻色の評価は、
画像解析ソフトウェアにより色相、彩度、明度を求めた。尚、血球
計算盤を用いて精子数を数え、各個体の精子濃度(/ μ l)を求めた。
本研究では、体サイズと精子濃度の間に有意な負の相関関係が認
められた。また、精子の速度に関しては、色相値との間に有意な正
の相関、彩度値との間には有意な負の相関関係が認められた。さら
には、精子速度が速い精子ほど寿命が短い傾向も認められ、速度と
寿命の拮抗関係が示された。以上、本研究の結果は、成熟体サイズ
が小さく婚姻色が地味な雄ほど、精子の量および質に対して多くの
エネルギーを投資していることが示され、Parker(1990) の予測を支持
する結果となった。
性比調節の分野は、進化生物学においてもっとも成功を収めてき
た分野のひとつである。様々な状況において最適な性比を求める数
理モデルが考案され、各状況において予測される最適な性比で実際
の生物が産卵・出産していることが実証研究によって示されてきた。
しかし、この分野における大きな問題は、数理モデルで仮定する各
性比に対する適応度が、実際の状況において測られていないことで
ある。
寄生バチ Melittobia は、雄が羽化した寄主から分散しないため、
性比は局所的配偶競争(LMC)モデルに従うと予想されるが、実際
の性比はモデルの予測よりも極端に雌偏向である。例えば、寄主に
2頭の雌親が産卵する場合、LMC モデルが予測する最適な雄率は
21.4% であるが、実際は 2% 程度である。この理由として、本属の
雄成虫間で特徴的にみられる闘争により、後から羽化する雄が殺さ
れやすいため、雌親が殺されやすい雄を産むのを避けている可能性
が考えられる。この効果を含めた動的ゲームモデルは、闘争の効果
が強いほど最適な性比は雌に偏ると予測している(Abe et al. 2007;
Behav Ecol)。そこで今回は、実際の性比(2%)
、LMC モデルによる
最適性比(21.4%)、その中間の性比(10%)でそれぞれ産卵する雌
親を想定し、各雌親の適応度を測定した。マイクロサテライトマー
カーの遺伝子型をそろえて蛹の段階で性比を調節し、その後、雄間
闘争と交尾をおこなわせ、孫の遺伝子型から各雌親の適応度を計算
した。実際に雄間闘争が行われる状況においてどのような性比が進
化するのか、ゲームモデルが想定する状況を実際の寄生バチを用い
て計算し、進化的に安定な性比を考察する。
312
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-281
P2-282
大規模環境改変地周辺におけるオオタカの繁殖状況の推移
九州地方県境部におけるニホンジカの生息密度分布
山田辰美(富士常大・社会環境),* 藤井直紀(富士常大環防研)
,新井真
(日本オオタカ)
* 近藤洋史(森林総研九州),小泉 透(森林総研)
平成元年、静岡県のほぼ中央に位置する丘陵地に空港建設が計画
された。その後平成 8 年に事業計画地内においてオオタカの営巣地
が確認されたことをきっかけに、大規模な環境改変を伴う建設工事
によるオオタカへの影響が大きな問題となった。県ではオオタカ保
護対策の検討委員会を設置し、この委員会による提言をもとに保護
対策を実施することとした。この提言では、事業地内にある営巣地
だけでなく周辺の広範囲に生息する個体の保護、営巣地を保全する
ための地権者との保全協定の締結、採餌環境の改善のための面的な
環境保全など、当時いくつかの先進的な取り組みが提案されている。
提言における保全目標は、対象とする約 4000ha の範囲で「4 つがい
のオオタカが安定的に繁殖活動を継続できる営巣環境の保全・整備」
とされている。
対象範囲のオオタカについて 10 年以上の調査を継続して実施し
た。その結果によれば毎年の繁殖成績は 4 つがいを上回る年もあれ
ば満たない年もあるといったように変動巾は大きいが、工事が始ま
ればオオタカは姿を消してしまうという当初の指摘とは異なるもの
であった。
また対象範囲内での事例の一つとして、改変地から数十から百数
十メートルの場所で営巣・繁殖し、継続してその営巣地を利用して
いるつがいが存在している。
今回は繁殖成績の推移をもとに、環境改変との関連性について考
察を試みることとした。
平成 24 年版森林・林業白書によると、シカ・クマなどの野生鳥獣
の生息域の拡大などを背景として、野生鳥獣による森林被害が新た
な地域で発生する傾向にあり、森林被害面積は全国で年間約 5 ∼ 7
千 ha と報告されている。このうち、ニホンジカによる枝葉や樹皮の
食害が約 70% を占めており、森林の有する多面的機能に影響を与え
る可能性もある。
シカの生息密度の分布状況は、シカを管理していく上で、基本的
な情報と考えられる。近年、kriging 等の地球統計学的な手法を応用
して、シカ生息密度の空間分布を予測する手法が開発されつつある。
しかし、シカの生息密度に関する調査は、特定鳥獣保護管理計画策
定に基づき、地方公共団体である都道府県を単位として実施されて
いる。多くの場合、地方公共団体ごとに、異なる年度で調査が実施
されており、近接の公共団体の生息密度調査データを、単純にとり
まとめただけでは、正確な生息密度分布を求めることはできなかっ
た。さらに、毎年、狩猟捕獲や有害鳥獣捕獲が実施されているため、
それらの捕獲数も考慮する必要がある。そのため、都府県境を超え
た広域の生息密度分布の解析は、ほとんど実施されていなかった。
そこで、九州地方でシカが生息している県境部を対象として、各
公共団体の生息密度調査結果に、調査年度や捕獲数などの調整を行
い、ニホンジカの生息密度分布状況を示した。その結果、大分県と
宮崎県の県境部、大分県と福岡県の県境部、宮崎県と鹿児島県の県
境部などで、シカ生息密度の高い地域の存在が明らかになった。こ
れらの解析を行うことで、地方公共団体の境界を越えた広域のシカ
生息密度分布を把握することが可能になった。
P2-283
P2-284
山 地・ 低 地 湖 沼 に お け る 過 去 100 年 の ミ ジ ン コ 属
ヤマメによるカワシンジュガイ幼生の分散:上流側への
(Daphnia )個体群構造とその変遷の復元
偏りと支流への移動
* 大槻朝(東北大・生命),石田聖二(東北大・国際高等研),加三千宣,
槻木玲美(愛媛大・上級センター),兵藤不二夫(岡山大・異分野コア),
牧野渡,占部城太郎(東北大・生命)
照井慧 *,吉岡明良,宮崎佑介(東大農),角谷拓(国環研),鷲谷いづみ
(東大農)
日本産イシガイ類のうち、流水の冷水環境に生息するカワシンジ
ュガイは、貝礁として視覚的に認識できる局所個体群からなるメタ
個体群を形成し、それらは幼生期(グロキジウム幼生)にヤマメの
鰓に寄生しての受動分散と稚貝期に水に浮遊しての受動分散で連結
していると考えられている。本種のメタ個体群動態を明らかにする
ためには、ヤマメによる幼生分散に関する理解が不可欠である。
本研究では、北海道朱太川におけるヤマメによるグロキジウム幼
生の受動分散プロセスについての知見を得るため、(1)幼生放出期
に 650m の河川区間において標識した 345 個体のヤマメの再捕獲に
よる流呈方向の移動距離・方向、および(2)小型定置網によるヤ
マメの幹河川から小支川への移動個体数を測定した。(1)における
1 ヶ月後に再捕獲された 36 個体のヤマメの移動距離は− 50m(下流
方向)から 500m(上流方向)であり、平均 27.5m であった。移動
距離のヒストグラムの歪度は 3.3 と大きな正の値を示し、上流方向
へ偏った移動が示された。(2)では、任意に選定した 4 支川の河口
に定置網を設置し、それぞれの支川に幹河川から移動してくるヤマ
メの計数および水温測定を行った。その結果、幹河川に対してより
水温の低い小支川へ多くのヤマメが移動する傾向が認められ、グロ
キジウム幼生は水温の低い支流へ効果的に運ばれていることが示さ
れた。これらの結果は、カワシンジュガイの幼生がヤマメに寄生す
ることで、水流による下流への一方向的な分散を補償するとともに、
夏の高水温期により高い生存率が期待できる冷たい支流への分散を
可能にしていることを示唆している。
湖沼生物群集のキーストーン種であるミジンコ属(Daphnia )は、
生息環境の変化に応じて卵鞘でつつまれた休眠卵を生産する。卵が
孵化しても卵鞘は湖底堆積物中に長く保存されるため、長期的な観
測データがない湖沼でも過去の環境変動と関連した個体群の変化の
歴史を解明する手がかりとして利用できる。本研究では東日本の山
地(羅臼湖・ニセコ大沼・ミクリガ池)および低地湖沼(阿寒湖・
渡島大沼・木崎湖)における過去の個体群の変化を復元し、湖沼環
境変遷の解明を試みた。各湖沼で重力式コアサンプラーにより採取
した湖底堆積物からミジンコ休眠卵鞘を深度別に抽出した。それら
の計数および遺伝的解析を行うことで過去個体群の密度や生息種の
変遷を推定し、付近の人間活動の履歴等と照らし合わせ変化を引き
起こした要因を推測した。
平地湖沼のうち、阿寒湖と木崎湖は過去は少なかったミジンコが
近年急速に増加し、渡島大沼では数十年前に大きく増加した後で減
少していた。遺伝的解析から阿寒湖は現在と過去で生息種が異なる
こと、木崎湖は現在2遺伝子型が存在するが過去は一方のみである
ことも確認された。ミジンコの増加・減少は、その時期に行われた
魚類の移入により捕食圧が変化した結果と考えられ、種や遺伝子型
の変化も漁業に伴う移入・絶滅を示すものと推測された。一方、山
地湖沼ではミジンコの生息種変化は確認されなかったが近年やや増
加傾向にあった。過去数十年間の観光開発や観光客の増加と関連し
た富栄養化が影響していると推測される。過去個体群の復元により、
人間の生活圏に近い平地のみでなく山地においても人為的な影響を
受けてきたことを示すことができたと考えられる。
313
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-285
P2-286
ニホンジカの性的二型は生息地の生産性に依存する
鴨川における天然アユの遡上実態
* 寺田千里,齊藤隆(北大・FSC),Bonenfant, C.(UMR CNRS)
* 竹門康弘(京大・防災研),中川光(京大・理),中筋祐司(京の川の恵
みを活かす会)
体サイズの性的二型が顕著に見られる大型哺乳類などの種では、
その二型が地理的にも変異することが知られ、性選択に関わる環境
要因の分析対象として適している。体サイズの性的二型をもたらす
背景に、オスとメスが体サイズの成長や維持に関するエネルギーの
配分について、異なる戦術をとることがある。オスでは、繁殖成功
度が体サイズに依存するので、エネルギーの大部分を成長にあてる
戦術をとる。成長への投資は、餌資源量やエネルギー消費に関わる
環境要因の影響を受けるため、オスの体サイズは餌資源に関わる要
因に依存すると予測される。一方、メスでは、繁殖成功度が体サイ
ズに強く依存しないため、一定の成長を遂げると、繁殖にエネルギ
ーを配分する。そのため、メスの体サイズは、環境の変異に対して
オスより保守的であると予測される。したがって、オスの体サイズは、
メスよりも、餌資源量やエネルギー消費に関わる環境要因の変異に
より強く反応すると考えられる。つまり、性的二型の程度はこれら
の環境要因と関係しているという仮説が立てられる。また、性選択
が起きやすい環境(例えばハーレム形成に影響する環境要因)にも
注目する必要がある。本研究では、日本列島に生息するニホンジカ
を対象に、性的二型の地理的パタンを明らかにし、性的二型の地理
的変異に関わる上記の仮説を検証することを目的とした。性選択に
関与する要因として森林率を用いたが、性的二型の程度との有意な
関係は見られなかった。一方、餌資源量の指標として使った秋 ( も
しくは冬 ) の NDVI( 正規化植生指標 ) と性的二型の程度には、正の
関係がみられた。このことから、秋や冬の餌資源の量が性的二型の
程度に関わっていることが示唆された。
京都市鴨川には,桂川合流点から山地渓流域の雲ヶ畑や八瀬まで
に合計 80 個を越える落差工が存在し,うち落差が大きく魚道の無い
ものが 50 個もある。2010 年 5-7 月には,最下流の龍門堰下流で天
然アユが多数滞留している状況が観察された。そこで,京の川の恵
みを活かす会では,2011 年 5 月 26 日 -7 月 16 日,2012 年 5 月 10 日
-7 月 24 日の間に,龍門堰に仮設魚道を敷設し,2011 年は 27 日間,
2012 年は 40 日間,6 時∼ 17 時のうち 8 時間に毎 30 分に 10 分間ず
つ遡上する魚類個体数を大中小に分けて計測した(放流アユは大,
天然アユは中,小)。また,遡上した天然アユの到達場所を把握する
ために,両年の 8 月に鴨川,賀茂川,高野川の全 13km 区間につい
て潜水目視による魚類相調査を実施した。
2011 年には遡上魚数が計 6,102 尾計数され,未計数の時間帯を補
完した遡上総数は 21,858 尾(うちアユ 19,672 尾),2012 年には計
7.466 尾が計数され,遡上総数は 32,407 尾(うちアユ 29,490 尾)と
推定された。未計測日の遡上数を加味すると 2011 年には 2 万尾(天
然アユ 18,735 尾)以上,2012 年には 3 万尾(天然アユ 25,530 尾)
以上が遡上したと考えられた。
龍門堰を遡上した天然アユは,2011 年 8 月には四条大橋落差工ま
で到達し,ここに魚道を設置した 2012 年には二条大橋落差工まで到
達した。また,2011 年夏には勧進橋から七条大橋の区間,2012 年夏
には水鶏橋より下流区間に多く留まっており,水温が 30℃を越える
夏期の日中には,地下水の湧出する場所に集結することがわかった。
落差工によって遡上が妨げられている鴨川では,湧水が滞留するワ
ンドがアユの生息場として重要になると考えられる。
P2-287
P2-288
炭素・窒素・硫黄安定同位体比解析からみた国後島ヒグ
マイクロサテライトマーカーを用いた九州カササギ個体
マの食生態
群の遺伝的構造解析
* 中下留美子(森林総研),鈴木彌生子(食総研),小林喬子(農工大・
農),伊藤哲治(日大・生資),中村秀次(日大・生資),増田泰(知床財),
Andrey Longuntsev(露クリリスキー保護区),大泰司紀之(北大),
佐藤喜和(日大・生資)
* 森さやか(科博・分子生物),江口和洋(九大・理),長谷川理(エコ・
ネットワーク),西海功(科博・動物)
カササギ(Pica pica )はカラス科の鳥類であり,ユーラシア大陸,
北米大陸に広く分布している.本来日本には生息しないが,佐賀県
南部,福岡県南部の狭い地域に約 400 年前に韓国から移入されたと
推定される個体群が定着,生息していた.九州のカササギは伝えら
れる移入地(佐賀市,柳川市)近辺から長年分布を拡大することは
なく,低密度で個体群を維持して来た.しかし,1960 年代以降にな
って急速に個体数を増加させ,現在では佐賀県全域,福岡県の北九
州市付近を除く全域,および隣接する熊本,長崎両県まで分布を拡
大している.
発表者らは,カササギの遺伝的構造と景観構造,生態的特性の情
報を組み合わせて解析することによって,移入初期から現在の生息
分布域までの拡散過程を推定しようとしている.旧来の分布中心地
である筑紫平野と,最近分布するようになった唐津や伊万里,福岡
の間には,東西方向に筑紫山地が走っている.カササギの分散能力
は低いことが知られており,山地の北部と南部では個体の交流が阻
害されている可能性が考えられ,その場合は地域間で集団の遺伝的
組成が異なる可能性がある.
発表者らはこれまでに,九州電力,佐賀県教育庁,久留米市鳥類
センターの協力を得て,佐賀県と福岡県の広い地域から,DNA 解析
用の血液,羽毛,卵殻の約 150 サンプルを収集することができた.
これらのうち,DNA バーコーディング領域 (mtDNA COI) の解析に
よってカササギと判別できたサンプルを用いて,マイクロサテライ
トマーカーを用いた遺伝的構造解析を行った.本発表では,既存の
マイクロサテライトマーカー(6 遺伝子座)を用いた遺伝的構造解
析の結果を報告するとともに,今後の課題について議論する.
北方領土である国後・択捉島にはヒグマ (Ursus arctos ) が生息して
いるが、その生態はほとんど知られていない。一方で隣接する知床
半島にもたくさんのヒグマが生息しており、その生態研究は盛んに
行われている.本研究では、生元素安定同位体比分析による食性解
析を行い、知床半島のヒグマと比較することで、国後島のヒグマの
食生態を明らかにすることを目的とした。調査は 2010 年 9 月 11 日
から 18 日までの 8 日間,国後島北東部でヒグマの痕跡調査を行い,
樹木等に付着したヒグマの体毛を収集した.これらの体毛は i) 異な
る個体の体毛を 1 本ずつ錫箔に封入したもの ( 個体毎の平均的食性
を推定 ),ii) 毛根側から毛先に向かって 5mm ずつ細断し,その画分
毎に錫箔に封入したもの ( 個体毎の食性履歴を推定 ) を試料として,
炭素・窒素・硫黄安定同位体比を測定した.体毛を 1 本ずつ分析し
た結果,国後島のヒグマは窒素・炭素・硫黄同位体比間に強い正の
相関がみられ,食物資源のバリエーションが小さいことが示唆され
た.また,個体毎の食性履歴を推定した結果,どの個体も春の植物
食から夏秋はサケマスに移行しており,同様の食性履歴パターンを
示した.知床半島のヒグマが植物,サケマス,シカ,農作物を利用
することから様々な食性履歴パターンを示すことと比較すると,国
後島のヒグマは,人間活動の影響が全くない環境下で豊富なサケマ
ス資源に強く依存して生息していると特徴付けられた.
314
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-289
P2-290
アンコウ背鰭の左右非対称性から考える並行捕食の卓越
捕食者個体群内のサイズ変異がエサ種との相互作用を決
メカニズム
める: 捕食者種の共食いと成長に注目して
* 八杉公基,堀道雄(京大院・理)
* 高津邦夫(北大・環境科学院),岸田治(北大・北方圏 FSC)
左右性は種内二型の一つであり、個体群中に右体側が発達する右
利き個体とその逆の左利き個体が存在する。近年の研究から、左右
二型は魚類で普遍的な現象であることが示唆されている。この現象
が魚類の生態に与える影響として、捕食者は自分と同じ利きの被食
者を捕らえる場合(並行捕食)よりも、逆の利きの被食者を捕らえ
る場合(交差捕食)の方が多いことが知られている。これまでに発
表者らは、捕食者の接近行動と被食者の回避開始距離には利きと対
応した左右方向性があり、利きの組み合わせで捕食の成功しやすさ
が変化するため、交差捕食の卓越が生じることを行動観察から明ら
かにした。そして、捕食者が被食者の背後から襲う捕食被食関係で
は交差捕食が卓越し、逆に両者が向かい合う関係では並行捕食が卓
越することを予想した。しかし、後者を示す捕食被食関係はこれま
でに発見されていなかった。
この予想を検証するのに適しているのが、疑似餌で被食者を誘引
するアンコウと、海底付近を浮遊する底層遊泳魚の捕食被食関係で
ある。先行研究および飼育観察から、両者は向かい合う形で遭遇す
ることが分かっている。そこで発表者らは、アンコウとその胃から
得られた底層遊泳魚について利きの対応を検討した。その結果、ホ
タルジャコなど5種との間で予想通り並行捕食が卓越していた。し
かし逆に、アカハゼなど海底に接して生活する底性魚5種との間で
は交差捕食が卓越していた。さらに、これらの偏りが生じるメカニ
ズムを探るため、疑似餌となるアンコウの背鰭に利きに応じた方向
性があるかを検討した。その結果、左利きのアンコウでは頭骨の中
心線より左向きに、右利きでは右向きに背鰭が生えている傾向が見
られた。底層遊泳魚が利きに応じた方向性を持って疑似餌に接近す
る場合、このような背鰭の左右非対称性は並行捕食の卓越を促進す
ると考えられる。
捕食者は共食いをする。共食いが起こると捕食者個体群の様々な
特徴が変わるため、共食いは他種に対しても影響すると予想される。
過去の研究は、共食いによる「個体数の減少」と「共食いされる可
能性のある個体の行動の変化(共食いされないよう動かず餌を獲ら
ない)」が下位の餌種への捕食圧を弱めることを一貫して予測してき
た。一方、今回私たちは共食いが餌種への捕食圧を強めることもあ
ると予測した。共食いが起こると「共食い個体が大型化」し、餌の
好みや獲得量が変わることで、むしろ捕食されるようになる餌種も
あると考えたからだ。本研究ではこの予測を確かめるために、共食
いをするエゾサンショウウオ幼生(以下サンショウウオ)とその餌
種のエゾアカガエル幼生(以下オタマ。大型の餌種でサンショウウ
オは大型化しない限り食うことが難しい)をモデルとした水槽実験
を行った。実験ではサンショウウオ個体群のサイズ変異の大きさを
操作し、「サイズ変異大(共食いが起こりやすい)」と「サイズ変異
小(共食いが起こりにくい)」処理区などを作り、同居するオタマに
かかる捕食圧を比較した。同時にそれぞれの個体群の様々な特徴も
比較し、捕食者の共食いの影響を広く探索した。実験の結果、「サイ
ズ変異大」で確かに共食いが盛んに起こり、大型化した共食い個体
がオタマを活発に捕食し、その個体は大きく早く変態した。また、
この処理は他の処理に比べて、生き残ったオタマの数が少なく、防
御レベルが高く、変態タイミングが遅く、変態時のサイズが大きか
った。一連の結果は、捕食者の共食いが、餌種へのトップダウン効
果を強め、両種のさまざまな特徴に作用することを示している。こ
れらの影響は他種へと波及し、群集レベルで大きな意味を持つかも
しれない。
P2-291
P2-292
クマの出る年はノネズミも多い
定点観察法によるツキノワグマ個体数の長期モニタリン
* 安藤元一,小川博,佐々木剛,高中健(東農大・農)
グ事例~その特徴と課題~
* 有本勲,江崎功二郎(白山自然保護センター),野崎英吉(石川県自然
環境課)
静岡県富士宮市の酪農地帯にある東京農業大学富士農場において、
2001 年から 2012 年にかけて 12 年間、小哺乳類のモニタリング調査
を継続した。調査場所は牧場を帯状に取り囲むように位置する樹高
約 15m のスギ・ヒノキ造林地である。毎年 5-7 月と 8-9 月に各 1 回、
毎年平均延べ 1,800 個のシャーマントラップを設置した。捕獲個体
の大部分はアカネズミとヒメネズミであった。通常年におけるアカ
ネズミの捕獲率は平均 2.0%(0.4-3.3%)であったが、2006 年に 7.5
%、場所によっては 14.5%と高い値を示し、2012 年も 5.0%と通常
年よりも高い値を示した。ヒメネズミの捕獲率も 2006 年に 2.5%と
若干高くなったが、他の年における平均 1.0%(0.3-2.2%)の捕獲率
と比べて、変動幅は少なかった。2012 年における増加はヒメネズミ
には見られなかったが、これは牧草地周辺の樹林面積が 2008 年以降
に減少したために、ヒメネズミが減ったためと思われた。2006 年に
おけるアカネズミの急増は東京都奥多摩地域でも報告されており(小
野ら,2011)、その原因は前年の 2005 年にブナ類堅果が豊作であっ
たこととされる。本調査地内に餌となる堅果はほとんど存在しない
が、約 500m 離れた周辺山地にはブナクラス域代償植生が広がって
いることから、本調査地においてネズミ類が 2006 年と 2012 年に多
かったことは、ブナ堅果が約 6 年周期で豊凶を繰り返すことの影響
が、周辺地域にも及んだためと考えられた。堅果類の豊凶はツキノ
ワグマの行動にも影響を及ぼすとされ、2006 年におけるクマ大量出
没の一因は堅果類の不作が一因とされている。2012 年のクマ捕獲数
(速報値)も例年よりも多い。クマの出る年はノネズミも多いといえ
よう。
近年、ツキノワグマ(以下、クマ)の大量出没が全国各地で発生
している。クマは、生息密度や繁殖率が低いことから、大量出没に
伴う大量捕獲は、クマ個体数の急激な減少を招く危険性がある。し
かし、クマの個体数を同じ手法で長期的に調べている自治体は秋田
県、石川県などに限られる。そこで本研究では、石川県の 1995 ∼
2012 年の調査結果に基づき、2004、2006、および 2010 年の大量捕
獲がクマ個体数に与えた影響を検証した。
調査は、残雪期にクマを直接カウントする定点観察法によって、
1995 ∼ 97 年、2002 ∼ 03 年、2005 ∼ 07 年、2011 ∼ 12 年 の 4 期 に
分けて実施した。
その結果、2004 年の大量出没の際に推定個体数の 24% にあたる
165 頭を捕獲したにも関わらず、第 1 ∼ 4 期の推定個体数は、それ
ぞれ 562 頭、667 頭、689 頭、812 頭と緩やかな増加傾向を示した。
この事例から、大量捕獲があっても個体数は必ずしも急減しないこ
とが示された。石川県では、近年、クマの人里への分布拡大による
人身被害の増加が深刻な問題となっていることから、今後は、絶滅
も増え過ぎも避けた適切な個体数水準に誘導する必要がある。その
ためには、定点観察法による推定個体数は過少と考えられたため、
生息数そのものではなく、相対的な個体数指数の増減に基づき順応
的に管理する方が現実的である。
定点観察法の課題として、低標高域においてはクマ発見率が低か
ったことや、推定個体数の年変動が大きかったことから、精度の低
さがある。そのため、個体数動向判断の誤りを低くするために、赤
外線センサーカメラの撮影頻度など、他の独立した手法によるクロ
スチェックも求められる。
315
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-293
P2-294
ヒグマ頭骨形態の地理的変異-系統的制約と食性の違い
滋賀県の水田地帯におけるゲンゴロウ類 2 種の越冬生態
に注目して-
* 横山大輔(大阪府大・農生),向井康夫(東北大・生命)
* 佐藤喜和(日大・生資),中村秀次(日大・生資),大貫麻衣子(日大・生資),
堤麻衣子(日大・生資),大舘智志(北大・低温),
温帯地域に生息する昆虫にとって、越冬様式は最も重要な生活史
戦略の一つである。昆虫の越冬に関しては室内や準野外の実験で休
眠性や耐寒性などの生理的な研究が多くなされている。しかし、昆
虫の季節適応を考える上で必要である野外での越冬様式や、越冬成
功個体の割合などの基礎的な報告は十分ではない。本研究では、滋
賀県高島市マキノ町の水田に隣接した 2 本の素掘りの水路で、成虫
越冬を行う止水性のゲンゴロウ類を対象に、野外越冬個体の調査を
行った。
調査は 2010 年 10 月から 2011 年 6 月に合計 22 回、予備調査で個
体数が多かったヒメゲンゴロウ(以下ヒメ)とクロゲンゴロウ(以
下クロ)を対象として標識再捕獲法を用いて行った。この水路は湧
水の流れ込みにより、冬季にも涸れることはなかった。
調査方法に先立ち、各水路を等間隔に区分した。毎調査では各区
間内の全域を掬い取る採集を行い、採集個体の前翅にミニルーター
を用いて個体識別用の番号を記入した。標識を施した個体は種名、
個体番号、雌雄を記録後ただちに同じ区間に放逐した。標識個体が
再捕獲された場合は、個体番号を記録し放逐した。越冬場所の環境
条件として、気温と水路の各区間の水温をデータロガーを利用して
2 時間毎に記録した。積雪前に標識した個体のうち、4 月以降に再捕
獲された個体の割合を越冬成功個体とした。なお積雪は 2010 年 12
月 17 日から 2011 年 3 月 18 日まで継続的に見られた。
結果、積雪前の標識数はヒメ 1139 個体、クロ 165 個体で、越冬成
功個体はそれぞれ約 20%、約 50%を占めた。本発表では、各種個体
の水路内での分布パターンと温度条件との関係および、越冬中の水
路内の移動について報告する。
頭骨は摂食器官としての機能を有し,特に歯は食物を切断,粉砕,
磨砕するために用いられるため,その形態は動物の採食生態を反映
する。ヒグマ U. arctos の分布は,ヨーロッパからユーラシア,アジア,
北米まで広範囲にわたり,生息環境の違いに応じて食性の変異が大
きい。サケ類など動物質を多く利用する個体群がある一方で,ほぼ
植物質だけを利用する個体群などがある。こうした違いは,頭骨形
態に違いをもたらしている可能性がある。一方ヒグマの地域個体群
間にはいくつかの分子系統が認められており,形態の差はこの系統
の制約を受けている可能性もある。そこで本研究では,ヒグマの地
域個体群間の頭骨形態に変異が見られるのか,さらにその変異は食
性の違いによるものなのか,それとも系統的な制約によるものなの
かを明らかにすることを目的に,様々な食性と系統をもつ 9 地域個
体群を対象に頭骨形態を計測し,正準判別分析により比較した。そ
の結果,頭骨サイズと臼歯列長に関する変数が大きく寄与していた。
分子系統的に見ると特定の傾向は見られず,頭骨形態におよぼす系
統的制約の影響は少ないと考えられた。食性との関連では,サケ類
を利用する地域では頭骨サイズが大きくなり,臼歯列長が短くなる
傾向が,植物質を中心に利用する地域では頭骨サイズが小さくなり,
臼歯列長が長くなる傾向が見られた。ただし臼歯列長に関しては,
サケ類を利用しないヨーロッパ系の個体群は短くなる傾向にあった。
これらの結果から,ヒグマの頭骨形態は,地域個体群間の採食生態
の違いを反映している可能性が示唆された。
P2-295
P2-296
ツキノワグマの骨形態の特徴
漁獲量を観測データとして用いた状態空間モデルによる
* 中村幸子,横山真弓(兵庫県立大),斎田栄里奈(兵庫県森林動物研究
センター),森光由樹(兵庫県立大)
琵琶湖の魚類個体群動態の推定
* 奥田武弘(国際水研),酒井陽一郎(京大・生態研),近藤倫生(龍谷大・
理工)
近年兵庫県およびその近隣県で捕殺されたツキノワグマにおい
て、骨に重篤な異常を持つ個体が高確率で確認されている(横山ら、
2012 など)。本病変を分析するにあたって、ツキノワグマの骨に関
する基礎情報が不可欠である。本研究では、兵庫県とその近隣県で
捕殺された成獣ツキノワグマ 118 頭(東中国個体群 60 頭、北近畿個
体群 58 頭)および岩手県内にて捕殺された成獣ツキノワグマ 13 頭
を用い、脊椎数とその基本形態の特徴を示した。
ツキノワグマの脊椎数は、頚椎が 7、胸椎が 14、腰椎が 6 が基本
であった。しかし腰椎数不足(4 または 5 椎)を示す個体が 14 頭確
認され、これらは全て東中国個体群の個体であった。また胸椎 15、
腰椎 5 を示す個体が 3 頭確認され、これらは岩手県個体であった。
また、第一腰椎の横突起の伸長・先端部の鋭角化を示す個体が東中
国個体群で 2 頭、北近畿個体群で 15 頭、岩手県で 2 頭確認された。
さらにこれらのうち東中国個体群 1 頭、北近畿個体群 5 頭、岩手県
2 頭では横突起と椎体の分離、または分離はしていないものの横突
起と椎体間に間隙が確認された。
今回岩手県の個体についてはサンプル数の問題から、個体群間比
較をすることができなかったが、上記の胸椎・腰椎の数・形態の違
いを示す割合は捕獲地域ごとに偏りがあったことから、ツキノワグ
マにおいて骨形態は、地域個体群間で異なる特徴を持つ可能性が高
いことが示唆された。
生物資源管理や多様性保全において,現存量の時間変化は必要不
可欠な情報であるにもかかわらず,これらの対象生物は生息密度が
低く,野外の生息状況を正確に反映した観測データを得ることは困
難であることが多い。野外調査による現存量推定精度を向上させる
ために調査努力量を大きくした場合,野外調査に必要なコストが大
きくなってしまう。少ないコストで資源管理や保全に必要な情報を
得る方法として,野外調査以外の大規模データを用いることが有効
であるが,情報量が限られている・調査努力量が偏っているなどの
データの不確実性が野外調査データに比べると大きくなる。本研究
では,琵琶湖に生息する魚類の現存量の時間変化を推定するために,
漁獲量を観測データとみなして,データの不確実性を明示的に考慮
した状態空間モデルによる個体群動態パラメータの推定を行った。
モデルを単純化するために,魚類の現存量に対する漁獲割合は全
期間を通して一定であると仮定して,(1)観測(漁獲)に伴う誤差
を考慮した観測モデル,(2)現存量の時系列変化とそれに影響する
プロセス(個体群増加率)を推定するプロセスモデルの 2 つのモデ
ルから構成される一般化状態空間モデルを作成した。MCMC 法によ
るパラメータ推定の結果,個体群増加率の種間の違いが示されたも
のの,各種の個体群増加率は明瞭な時間変化を示さなかった。その
ため,各魚種の現存量の時間変化は,プロセス誤差によって生じて
おり,実際の個体群動態を的確に表現できていない可能性が示唆さ
れた。より現実的な統計モデリングを行うためには,漁法別漁獲量
や漁獲努力量を組込むことで,漁獲割合の時間変化も推定すること
ができるモデルへと発展させる必要があるだろう。
316
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-297
P2-298
富士地域における捕獲記録から見たニホンジカのオス・
北海道二十四河川におけるシロザケ遡上数の時系列解析
メス分布の特徴
* 大坪澄生,高田壮則,小泉逸郎(北大・環境)
* 大橋正孝,大竹正剛,大場孝裕,山田晋也(静岡県・森林研セ),荒木
良太(自然環境研究センター),坂元邦夫(静岡森林管理署),神戸清和(西
富士山麓猟友会),岩崎秀志,早川五男(NPO 法人若葉),小泉透(森林
総研)
シロザケ (Oncorhynchus keta ) は日本において重要な漁業資源であ
る。本種は河川で孵化後ベーリング海まで回遊し,産卵のため母川
回帰する一方で,他の河川に迷い込む個体が存在することも知られ
ている。したがって,本種の個体群構造は母川回帰と迷い込みによ
って決まっていると考えられる。一方,遺伝的解析からは,北海道
にはオホーツク海,根室湾,太平洋東部,太平洋西部,日本海の 5
つの地域集団の存在が知られている。本種が重要な水産資源である
ということを踏まえると,本種の遡上数が,これらの地域集団間及
び地域集団内でどのような変動を示すかを知ることは本種の資源管
理において重要であると考えられる。そこで本研究では,北海道 24
河川のシロザケ遡上数データを用いて,個体数変動の同調性から本
種の個体群構造を明らかにすることを目的とした。
本研究では 1868~1985 年及び,2001~2010 年におけるシロザケ遡
上数のデータを用いて解析を行った。1868~1985 年のデータにおい
ては,1970 年以降の人工孵化放流事業による個体数増加の影響を取
り除くために,直線近似によるトレンドの除去を行った。その後,
地域集団内,地域集団間ごとに相関係数を算出した。また,全ての
河川間の距離を算出し,河川間距離と同調性との関係を調べた。
解析の結果,1970 年以前では地域集団間で個体数変動は同調しな
かったが,1970 年以降は地域間での個体数変動の同調性が確認され
た。また,距離と同調性の間ではほとんど相関が確認できなかった。
これらのことから,人工孵化放流事業の影響により北海道における
シロザケの個体群構造が変化したこと,また本種の個体数変動の同
調性は遺伝的構造と関わりがない可能性が示唆された。
P2-299
P2-300
侵入生物の分布拡大:周期的環境下における個体群圧力
ニューカレドニアにおける鳥類の水場利用
の効果
* 岡久雄二(立教・院・理),中原亨(九大・院・シス生),佐藤望(立教・
院・理),上田恵介(立教・理)
飯沼万美子(同志社大・文情),重定南奈子(JST・さきがけ),川崎廣吉(同
志社大・文情)
ニューカレドニアは世界で最も固有種の多い地域の一つであり,
それと同時に多くの危惧種が生息する地域である.そのため,動物
の生息環境中の利用資源を記載し,資源の重要性を評価することは
生態学的な基礎情報の整備・保護保全のために重要である.鳥類で
はこれまで重要な資源として餌と営巣環境が着目されてきたが,熱
帯には明瞭な乾季があり,多くの鳥類は渇水期に繁殖を行うことか
ら,地表に停留する水が繁殖期の資源として重要である可能性があ
る.そこで本研究ではニューカレドニアの Parc des Grandes Fougères
において,鳥類の繁殖期インターバルカメラを用いて鳥類の水場の
利用頻度および水場での行動を記録し,鳥類にとっての水場の重要
性を調査した.
その結果,1340 時間の撮影によって 746 回の鳥類の訪問を記録し
た.水場への訪問頻度には鳥類の採餌物や体サイズは影響せず,調
査地で個体数の多い鳥種が水場を頻繁に訪れていた.また,水場の
利用目的の 97% が水浴びであり,給水は 3% のみであった.さらに,
給水を行ったのは種子を採餌するハト類やフィンチ類とカレドニア
ガラスに限られており,ほとんどの鳥種は水を飲むことがなかった.
採餌物に水分が少ない種子食鳥のみが餌から水を摂取できないため
に給水するが,水分の多く含まれる昆虫や果実,花の蜜を採餌する
鳥類は水場を利用して給水を行わずとも餌から水分を摂取できると
考えられる.また,すべての鳥種の訪問頻度が調査地での個体数と
相関していたことから,水浴びの必要性には鳥種ごとの差が小さい
と考えられた.
結論として,乾季に繁殖を行う熱帯の鳥類にとって水は水浴びの
ために重要な資源であり,とくに水を特に必要とする鳥種は種子食
鳥にとっては必須の資源であることが示唆された.
一般的に、生物は、それまで生息していなかった新たな地域で繁
殖するようになる「侵入」とその分布域を拡大させていくことをさ
す「伝播」を繰り返しながら分布域を拡大していく。生物の分布拡
大におけるモデルは、Fisher の反応拡散モデルに始まり、一様な環
境だけではなく、より実際の生息環境に近づけるために、生物にと
っての好適環境と不適環境が交互に周期的に存在する周期的変動環
境における反応拡散モデル、それに加え移流(生物が好適環境に誘
引される効果)を含んだ移流反応拡散モデルも構築されてきた。今
回の研究では、これまでの移流反応拡散方程式に「個体群圧力」を
組み入れ、周期的変動環境において、個体群圧力が分布拡大のパタ
ーンや分布拡大の伝播速度にどのような影響を与えるかについて調
べた。個体群圧力とは、密度が高いほど、個体の分散率が高くなる
効果のことである。
侵入生物は、好適環境と不適環境に応じて個体数が変動する周期
的進行はとして拡がっていく。また、個体群圧力が存在すると、侵
入生物はより速い速度で分布拡大をする。移流の値に関わらず、個
体群圧力の効果が大きくなるに従って伝播速度は速くなるが、移流
がない場合、個体群圧力を変化させても伝播速度にあまり変化は見
られなかった。移流がある場合は、移流と個体群圧力の相乗効果に
より伝播速度が加速され、移流が大きくなればなるほど、個体群圧
力が伝播速度に及ぼす影響が大きくなることが明らかになった。こ
れまでに、アリジゴクの棲息密度についての実験的研究から、実際
の生物において個体群圧力があることが分かっていたが、シミュレ
ーションにおいては、さらに個体群圧力による分布拡大への効果が
明らかになった。
317
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-301
P2-302
個体レベルでの採餌の特殊化
食 物 を め ぐ る 野 生 ジ ャ ワ ル ト ン (Trachypithecus
角田羊平,京大・理・動物
auratus ) とルサジカ (Cervus timorensis ) の種間関係
ある種の動物は,特定の餌動物に特化した採餌を行う.近年,こ
の採餌の特殊化について個体レベルで調べることの重要性が指摘さ
れはじめている.今回,沖縄島に生息するヒメハブの採餌の特殊化
について個体に着目した調査を行った.本調査地のヒメハブは主に
オキナワアオガエルとヒメアマガエルを餌として利用している.野
外調査では個々のヒメハブの時空的出現パタンを 2 種のカエル類の
それと比較した.室内実験では,2 種のカエル類それぞれの匂い刺
激に対する嗜好性について個体ごとに比較した.野外調査の結果,
個体群としてみればヒメハブの出現時期が 1 月から 6 月までの約 6
ヶ月間に及んでいたのに対し,個々のヒメハブの出現期間は概ね 2
ヶ月程度であり,出現時期にも個体差がみられた.この個体ごとの
ヒメハブの季節的な出現パタンは,2種のカエルのうちどちらか1
方の季節的出現パタンに対応した2タイプに分けられた.同様に,
個々のヒメハブの待ち伏せ場所は,特定の1種のカエルの分布と重
なった.さらに,各タイプのヘビは,出現パタンが一致していたカ
エルの匂い刺激に対してより強い反応を示した.これらの結果から,
同所的に生息しているヒメハブの個体は,個体群が利用していた 2
種のカエルのうちどちらか1方に特化した採餌をおこなっている事
が明らかになった.
* 辻 大 和,Islamul Hadi, Kanthi Arum Widayati, Bambang
Suryobroto, 渡邊邦夫
インドネシア・ジャワ島パンガンダラン自然保護区において、ジ
ャワルトン (Trachypithecus auratus ) が樹上から落とした植物を同所的
に生息するルサジカ (Cervus timorensis ) が採食する行動『落穂拾い行
動』を調査した。2010 年 11 月から 2012 年 12 月まで断続的に現地
を訪問し、計 5 回、808 時間の行動観察を行った。『落穂拾い』した
植物と、シカ本来の食物である草本類を採集し、単位重量当たりの
栄養価を評価した。さらに『落穂拾い』中の樹冠下の落下物の量、
ならびに草本類の量を評価した。
『落穂拾い行動』は調査期間中に 93 回観察され、彼らはルトンが
樹上から落とす植物のうち 22 種 25 品目を採食した。その多くは葉
だった。落穂拾い行動は 2011 年 7-8 月にもっとも頻繁に観察され(0.24
回/時間)、2011 年 11-12 月にもっとも頻度が低かった(0.05 回/時
間)。同じ月でも年により発生頻度が異なり、降水量の少ない年に高
い頻度で『落穂拾い』が観察された。落穂拾いに集まるシカの平均
個体数は 2.5 頭と、通常と変わらなかったが、まれに 10 頭近くのシ
カが集まるときもあった。ルトンが落とす植物の単位重量あたりの
カロリー含有量およびタンパク質含有量は、シカの本来の植物であ
る草本類のそれと比較して、いずれも高かった。さらに、落穂拾い
中の落下資源の単位面積あたりの重量ならびにカロリー量は、同面
積当たりの草本類のそれとくらべて高かった。
以上より、『落穂拾い行動』は主として降水量から影響された草本
類の利用可能性の時間的変異に伴うシカの栄養状態の変化によって
引き起こされる現象だと考えられた。
P2-303
P2-304
ハゼ科魚類トウヨシノボリのオスの配偶者選択
ニホンモモンガはなぜ巣内に同居するのか?
高橋大輔(長野大・環境ツーリズム)
小林朋道(鳥取環境大・環境)
多くの動物で雄にみられる顕著な二次性徴形質は、雌を巡る雄間
競争および雌の配偶者選択を通じた性淘汰によって進化することが
数多くの研究結果から支持されている。一方、雄だけでなく雌にお
いても二次性徴形質が発達する動物は多く知られているが、雄と比
べると、雌の二次性徴形質の進化についてはこれまで注意が払われ
てこなかった。近年、雌の二次性徴形質に注目が集まりつつあり、
その二次性徴形質の進化の説明が試みられているが(雄による配偶
者選択を通じた性淘汰など)、未だ不明な点が多い。トウヨシノボリ
は日本の河川や湖沼に広く分布する淡水性ハゼ科魚類であり、雄は
ふ化するまで卵の保護を行う。本種は性的二形を有し、雌よりも雄
の方が体サイズが大きく、また第一背鰭が伸長する。雌は繁殖期に
おいて腹部に青色の婚姻色を示し、雄の体サイズや背鰭のサイズに
基づく配偶者選択を行うことが知られている。今回、トウヨシノボ
リの雌の婚姻色への理解を深めるために、雌の全長・婚姻色の発現
の程度[婚姻色面積比(体側面積 / 婚姻色面積)、婚姻色の色相・彩
度・明度]と体内卵数および生理的コンディション[生殖腺指数(生
殖腺重 / 体重)、肝量指数(肝臓重 / 体重)]との関係性について調べ、
また二者択一実験法を用いて雌に対する雄の配偶者選択性を検討し
た。偏相関分析の結果、雌の全長と体内卵数との間に正の関係性が
みられたが、婚姻色の発現の程度と体内卵数および生理的コンディ
ションとの間に有意な相関はみられなかった。配偶者選択実験にお
いて、雄は雌の婚姻色の発現の程度や、体内卵数の指標となり得る
雌の全長に対する選好性を示さなかった。この結果は、トウヨシノ
ボリの雌の婚姻色の進化を雄の配偶者選択によって説明することが
困難であることを示唆する。発表では、本種の雌の婚姻色の進化の
メカニズムを説明するいくつかの仮説について考察する。
ニホンモモンガは単独生活を行う種と考えられているが、単独性
哺乳類の中では珍しく、複数の成獣が同一巣内に同居する場合があ
ることが知られている。ニホンモモンガで同居が行われる理由をさ
ぐるため、以下の3つの仮説を考え、各々の仮説が正しいとした場
合に想定される、同居の頻度の季節的差異、同居する個体の性の組
み合わせなどについての状況と、実際の調査結果を比較し、各仮説
の妥当性を検討した。仮説1:営巣場所が不足するため。仮説2:
交尾相手を確保するため。仮説3:寒さから身を守るため。調査は
樹木に設置された巣箱で見られる同居行動を対象に行われたが、こ
れまでの調査から以下の結果が得られている。①同居の頻度は、冬
−早春に高く、夏は低い傾向があった。また、同居例の多くは2個
体によるものであったが、冬−早春では3個体の場合も見られた。
②同居する個体の性別については、雌と雄の場合と雄と雄の場合が
同程度の頻度で見られ、雌と雌の同居の頻度は低かった。これらの
結果から、仮説3の妥当性が示唆された。
318
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-305
P2-306
マダガスカルのトカゲ類による未経験の警戒音声に対す
ツチガエル Rana rugosa のニオイがシマヘビの捕食行
る反応
動に与える効果
* 伊藤亮(京都大・霊長研),森哲(京都大・理)
* 吉村友里(九大・シス生),粕谷英一(九大・理)
動物の中には、他種の警戒声を盗聴する種が数多く存在する。他
種警戒声の盗聴行動は、想定された本来の受信者でない動物が発信
者の対捕食者警戒声を盗み聞きして、対捕食者行動を行うような行
動である。マダガスカルに生息する鳴かないトカゲであるブキオト
カゲ Oplurus cuvieri も同所的に生息するマダガスカルサンコウチョ
ウ Terpsiphone mutata の警戒声を盗聴する。本研究では、鳴かないト
カゲ類による「警戒声」の認知という現象において、学習過程がど
のように関与しているのかを明らかにすることを究極的な目的とし、
まず、「ブキオトカゲが同所的に生息する鳥類の警戒声しか盗聴しな
いのか否か」を検証した。実験では、日本に生息するがマダガスカ
ルには生息しないシジュウカラ Parus manor の警戒声とさえずりを、
ブキオトカゲに対して再生し、その反応を比較した。その結果、ブ
キオトカゲはシジュウカラのさえずりよりも警戒声に対して多く警
戒行動を見せ、シジュウカラの警戒声も危険を示す音声として認知
することが示された。一方で、特定のさえずりの音源に対しても警
戒行動を示す個体も確認された。シジュウカラの典型的なさえずり
は「ツ・ツ・ピー」の3つのパートで構成される。「ツ」音は狭い周
波数帯の音で構成されるのに対し、「ピー」音は広範な周波数を含む
音であり、音の構造が警戒声の特徴と似ている。そこで、さえずり
を「ツ」音のパートと「ピー」音のパートに分解して再生し、ブキ
オトカゲの行動を比較したところ、ブキオトカゲは「ピー」音に対
して、より多く警戒行動を行った。これらの結果から、ブキオトカ
ゲは広範な周波数を含む音声を警戒声として認知している可能性が
示唆された。
ツチガエルは「捕まえると臭い」ことで知られ、この特有のニオ
イは本種の皮膚腺から出る分泌物に由来する。この分泌物はヘビが
エサを込むことを妨げる効果があり、分泌物が口内に付着したヘビ
は口を大きく開ける特有の行動を見せる。こうしたヘビの捕食行動
に与える分泌物の効果は、ヘビが本種を咬むなどして分泌物と接触
した際に生じることがわかっている。
一方、咬みつきによる接触が無くても、ヘビが本種のニオイを知
覚するだけで捕食を止める場合がある。たとえば、野外で捕獲した
ヘビに本種を与えたとき、ニオイを確かめるだけで全く咬みつかな
い個体が観察された。こうしたニオイの効果は個体によって差があ
る。我々は、個体間の差が見られるのは、ヘビが本種と接触した経
験を通して本種が食べられない餌であることを学習してニオイだけ
に反応するため、それまでの遭遇経験の違いによる学習の程度の差
によると考えた。だが、ヘビが接触の経験を通してニオイに対する
反応を変えることは明らかでなかった。
そこで今回は、ヘビを本種と接触させ、接触経験の前後でニオイ
に対する反応が変化するかを調べた。本種のニオイがする餌とコン
トロールのヌマガエルのニオイがする餌を与えたときの咬みつきの
有無を観察した。その後、生きたツチガエルまたはヌマガエルと接
触させた後に、再びニオイがする餌に対する反応を観察した。結果、
ツチガエルを経験させた個体はニオイを嗅ぐだけで捕食を止まる割
合が高く、ヌマガエルを経験した場合は経験による変化は見られな
かった。したがって、ツチガエルと接触した経験によってヘビは本
種のニオイを学習し、ニオイを感知するだけで捕食を止めることが
示唆された。
P2-307
P2-308
擬装か隠蔽か?アゲハの幼虫における体色変化の捕食防
選択圧の緩和が及ぼす警告形質の動態
御適応
* 持田浩治(琉大・熱生研),栗田和紀(京大・理),井上英治(京大・理),
戸田守(琉大・熱生研)
* 鈴木俊貴,櫻井麗賀,吉川枝里(立教大・理)
警告色とは,まずさなどと関連した目立つ色彩のことをいう.警
告色をもつ動物は,捕食者に以前経験したまずい餌と同じように自
分がまずいものであることを認識させる必要がある.なぜなら捕食
者は,以前経験した餌の体色を手掛りにまずさを学習し,類似した
餌への攻撃を回避するからである.結果として警告色は,互いに似
通う方向に進化すると期待される(正の頻度依存選択)
.本発表では,
鬱蒼とした琉球列島の林床に生息するイモリの赤黒の腹模様(警告
色)を対象に,捕食圧の緩和がひきおこす警告形質の動態について
説明する.まず私達は,本種が警告色のような色を介したシグナル
伝達に不適な光環境に生息していること,本種が捕食圧から“ほぼ”
解放されていることを明らかにした.またイモリの警告色のシグナ
ル強度は,遺伝形質である赤色部位の面積(シグナルサイズ)と,
可塑的な形質である赤色細胞の反射率(体色の大部分を占める黒色
細胞とのコントラスト)によるが,本種では,シグナルサイズに著
しい個体群内変異があること,コントラストが低下していることが
明らかになった.これらの結果は,捕食圧からの解放にともない,
警告色のシグナルサイズにかかる頻度依存選択が緩和していること
を示唆している.また興味深いことに生息環境がほとんど変わらな
い小島嶼個体群間で,顕著なシグナルサイズの変異がみられた.こ
れらの小島嶼個体群の遺伝的多様性を解析したところ,選択圧に対
して中立的なマイクロサテライト遺伝子座において,その多型性が
低下していることも明らかになった.以上の結果は,本種の警告形
質(シグナルサイズ)が選択圧とは“ほぼ”中立的な形質としてふ
るまうことで,その多様性が維持されている可能性を示唆している.
餌生物が捕食者からの攻撃を防ぐ手段に,背景に体色を溶け込ま
せる隠蔽(crypsis)と餌でない対象物に擬態する擬装(masquerade)
がある。隠蔽は体色を背景に似せることで捕食者からみつかりにく
くする適応であり,擬装は捕食者にみつかっても他の対象物である
と誤認識させることで捕食を回避する適応である。アゲハの若齢幼
虫は鳥の糞にそっくりな色彩パタンで擬装するが,終齢幼虫になる
と隠蔽的な緑色に変化する。小さな若齢幼虫は糞に擬装することで
隠蔽よりも高い捕食防御を成し遂げるが,終齢幼虫ではその大きさ
ゆえに糞に擬装することができず,そのため隠蔽色を呈している可
能性がある。本研究では,このアイデアを野外実験により検証した。
糞色型,緑色型の幼虫モデルを大小それぞれのサイズで作成し,ア
ゲハの幼虫の食草であるミカン類の木に設置した。約7時間後,各
モデルが鳥による攻撃を受けたかどうか確認した。若齢幼虫を模し
た小さなモデルは,糞色型よりも緑色型の方がより高頻度で攻撃を
受けた。一方,終齢幼虫を模した大きなモデルでは,緑色型よりも
糞色型の方がより攻撃を受けた。どちらの色彩でも大きなモデルの
方が小さなモデルよりも攻撃される頻度が高かったが,その傾向は
緑色型よりも糞色型の方で著しかった。これらの結果から,体サイ
ズの増加に伴い徐々に防御効果が薄れる隠蔽に対して,擬装はその
対象物の大きさから逸脱すると一気にその効果を失うことが示唆さ
れた。本研究により,隠蔽と擬装の効果が餌生物の体サイズに応じ
てシフトすることが初めて実証された。
319
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-309
P2-310
Amata 属の配偶行動における視覚能力
Mate contest in the hermit crab: effect of prior experience
* 近藤勇介(岐大院・昆虫生態),中秀司(鳥取大・害虫制御),土田浩治
(岐大・応生)
associated with the individual identification
*Yasuda, C., Wada. S. (Hokkaido Univ.)
カノコガ (Amata fortunei ) とキハダカノコ (A. germana ) はともに昼
行性である。カノコガは早朝に配偶行動を行い、キハダカノコは夕
方に行う。これまでの研究で、両種の雌は腹部末端節から性フェロ
モンを分泌しており、雄はこの嗅覚刺激を頼りに探雌行動を行って
いることがわかっている。また、カノコガは雌に接近した段階で、
嗅覚と視覚刺激の両方を利用して配偶者認識を行っていることがわ
かっている (KonDo et al., 2012)。では、キハダカノコはどの程度、視
覚刺激を利用して配偶者認識を行っているのであろうか?我々はキ
ハダカノコの雄に対して風洞内で様々な視覚刺激を提示し、行動を
観察した。視覚刺激には雌に似せた模型を用いた。模型はエポキシ
樹脂を成型し、水性塗料で塗装し、普通紙にレーサープリンタで印
刷した翅を取り付けた。塗装は黄色の面積を 20 % とし、線の本数を
2、3、5、7 本と増やしていった場合 ( 実験 1) と線の本数を 2 本とし、
黄色の面積を 20 %、40 %、60 %、80 % と増やしていった場合 ( 実
験 2) で雄の行動を比較した。これらの模型は風洞の風上側にキハダ
カノコの雌のフェロモン腺 ( 溶媒 : ヘキサン ) とともに設置した。キ
ハダカノコの雄は風下側に導入し、5 分間の行動観察を行った。こ
れらの結果からキハダカノコの雄が配偶行動の際に、嗅覚、視覚刺
激をどのように利用しているかを考察する。また、近縁種であるカ
ノコガと比較することで Amata 属の配偶行動における視覚能力につ
いて考察する。
Males of Pagurus middendorffii show precopulatory guarding behaviour,
and male-male contests often occur between the guarding male and intruder.
Intruders use self-assessment in the pre-fight phase of contest and mutualassessment during the fighting phase. Males of this species also seem to be
able to identify a specific female when they often encounter with each other.
Intruders may use information of individual identification of opponents
and/or females guarded by the opponents in the past contests to determine
the behaviour during the subsequent contest since such identification
would be beneficial because of reducing the fighting costs. To examine this
hypothesis, we observed mate contests during two consecutive periods.
When intruders lost in the first contest, we used them in the second contest
where the guarding pairs were (1) familiar pair, (2) familiar female and
unfamiliar male with winning experience or (3) unfamiliar naïve pair. In
the presentation, we will discuss the effects of the prior experience and the
familiarity of the opponents on the behavioural decision of intruders.
P2-311
P2-312
ニホンザルはどのような食物をめぐって争うのか
丸形局所選択モデルを利用したニホンザルの生息地選択
* 澤田晶子(京都大・霊長研),半谷吾郎(京都大・霊長研)
評価
* 山田彩(近中四農研),清田雅史,岡村寛(国際水研),室山泰之(兵庫
県立大)
動物の生息地選択解析において、行動圏全体を availability とする
と、利用箇所の独立性の問題から一般的な資源選択性解析ではバイ
アスを生じる可能性がある。一方、移動経路の近傍を availability と
した局所選択モデルも考えられるが、移動経路設定自体があるレベ
ルの選択を表す可能性がある。そこでニホンザル農作物加害群の生
息地選択を題材とし、異なる空間スケールでの選択性と食物豊度の
関係を検証した。
2003 年 1 月から 11 月にかけて、三重県名張市のサル群の利用箇
所を 1 時間毎に記録した。同時に森における食物豊度の指標として
アカマツ林・コナラ林・シイ林・スギヒノキ林の基底面積を月毎に
求め、また集落における食物豊度の指標として田・畑面積と果樹本
数を月毎に求めた。サルの生息地タイプを 4 植生と集落、農地の周
辺林の 6 種に分け、2 つの空間スケールでの生息地選択解析:i) 行動
圏全体を availability、サルの移動軌跡に沿った丸形圏内を usage とし
た Manly の選択指数αの算出; ii) サルの各出現位置の周囲の丸形圏
内を availability、次の出現位置を usage とした局所選択モデルによる
選択指数 w の推定 を行い、それらと食物豊度との関係を解析した。
その結果、2 つのモデルでは生息地選択に影響を与える要因の傾
向が異っていた。したがって、生息地選択について議論する際には
動物にとっての availability と usage の空間スケールについて十分に
吟味する必要性が示唆された。
320
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-313
P2-314
静岡県におけるGPS首輪を用いたニホンジカ行動特性
GPS-ARGOS 首輪を用いたツキノワグマの移動障害と
の解明-伊豆半島・富士山・南アルプスでの違い-
活動パターンの分類
* 大場孝裕,大橋正孝,大竹正剛,山田晋也(静岡県・森林研セ)
* 土光智子(横国大・環情),陳文波(慶大・政メ),一ノ瀬友博(慶大・環情)
行動特性を踏まえた捕獲の効率化と,調査研究の適確な推進に資
することを目的に,静岡県の各地域において,麻酔銃を使って生体
捕獲(南アルプス聖平のみくくりわなを併用)したニホンジカに,
GPS 首輪(Followit 社製 Tellus)を装着して調査を行っている.伊豆
半島では,2008 年 11 月から 2010 年3月までの間に,メス 17 頭を
追跡した.富士山では,2010 年 11 月から 2012 年6月までの間に,
メス7頭,オス4頭を追跡した.南アルプス聖平及び千枚周辺では,
2010 年 10 月からメス5頭,オス6頭を追跡中である.
伊豆半島で,冬季を含む8ヶ月以上追跡できたメス 10 頭の,カー
ネル法による 95%行動圏は 54.4 ± 33.6ha,集中的に利用していたと
見なせる 50%行動圏は 8.2 ± 4.7ha と小さく,明確な季節移動はな
かった.
富士山で,1年間以上追跡できたメス4頭の 95%行動圏は 145.9
± 47.9ha,50%行動圏は 23.6 ± 10.0ha と,伊豆半島のメスの約3倍
の広さがあった.また,行動範囲を大きく変える季節移動が確認で
きた.行動圏内の標高差は平均 1,200 mで,標高差が 1,985 mあった
個体は,標高 730 mの牧草地から高山帯までを利用していた.
聖平(標高 2,300 m)で生体捕獲したメス3頭は,11 月まで聖平
に滞在し,冬季は南アルプス深南部と呼ばれる南側へ移動し,6月
に再び聖平に戻ってきた.既得の位置データのうち,最も離れた2
点の距離は 17.5 ± 3.7km に達した.この移動は,富士山の 11.0 ±
2.4km,伊豆半島の 5.6 ± 3.1km と比べて長かった.
伊豆半島には存在しない,比較的冷涼な高山・亜高山帯の高茎草
原や火山荒原が,植物の生育期にニホンジカが採食場所として好む
環境で,季節移動する理由であることが伺えた.
近年、動物の位置を GPS で自動探査し、位置データを蓄積後、ア
ルゴスシステムを用いてそのデータを回収するという装置(以降、
GPS-ARGOS と呼ぶ)が実用化された。森林に生息する陸域哺乳類は、
現段階において GPS-ARGOS の装着実例がない。本研究は、GPSARGOS から得られる追跡データを用いて、丹沢地域のツキノワグマ
の移動障害と生態行動を明らかにすることを目的とする。神奈川県
の丹沢国定公園内にある宮ヶ瀬湖近辺の広葉樹林帯でツキノワグマ
1 頭を捕獲し、GPS-ARGOS を装着し、追跡を行い、1 ヶ月間のデー
タが得られた。GIS で解析したところ、ツキノワグマは、31 回の道
路横断、24 回の河川横断を行っていた。道路は種類ごとに移動の障
害となっている可能性があり、特に幅員は重要な要素であると考察
された。国定公園内で取られている車両規制はツキノワグマ保全策
として有効なものである。ツキノワグマの渡った河川の構造をフィ
ールド調査で調べたところ、平均値は、川幅 3.5m、水深 13.4cm、流
速 0.29m/ 秒であった。ツキノワグマは、比較的小規模の河川(沢)
をよく利用し、頻繁に渡っており、丹沢地域の河川はツキノワグマ
の移動障害にはなっていないことがわかった。ツキノワグマの位置
データから座標値を計算し、座標値ごとに GIS データから環境情報
を抽出した。クラスター解析により、以下の 4 つの行動区分:採餌、
休息、移動、マーキング他に分類した。ツキノワグマは、採餌をし
ている時間が最も長く(57.1%)、続いて休息(37.5%)、移動(3.6%)、
マーキング(1.8%)が占めた。
P2-315
P2-316
扁形動物カイヤドリヒラムシは、なぜイシダタミガイを
ホンヤドカリのオスの配偶者選択:選ばないのも選択肢
主要な宿主として利用するのか
枷場ゆかり *,安田千晶,和田哲(北大・水産)
* 藤原悠太,武田哲(東北大・生命)
ホンヤドカリのオスは、産卵間近なメスを掴まえて交尾前ガード
するが、ガード中の他のオスからメスを奪うことに消極的だったり、
奪ったメスをガードせず放棄する場合がある。この行動の理由を探
るために、本研究では、本種のオスがメスの体長や産卵までの日数
を基準にして配偶者選択を行うのか、また、過去にガードしていた
メスが配偶者選択に及ぼす影響について検証した。
野外でガードペアとなっていた個体を用いて、元のパートナーと
は異なる組み合わせで、オスを 2 匹のメスと出会わせた。5 分後に
ガードしていたメスを記録し(実験 1A)
、1 時間後に同様の組み合
わせで同様の操作を行なった(実験 1B)
。次に 2 ペアのメスを入れ
替える実験を行なった(実験 2)。実験終了後は元のペアに戻し、各
ペアのメスが産卵するまでの日数と、全個体の体長を記録した。
実験 1A の解析では、オスが大型メスをガードしたか否かを応答
変数とし、オスと大型メスの体長差(SLMF)、大型メスと小型メス
の体長差(SLFF)
、大型メスと小型メスの産卵日差を説明変数の候
補とした複数モデル間で AIC を比較した。その結果、SLMF と SLFF
のモデルが選ばれた。実験 1B では、オスが 1A と同じメスを選択
したか否かを応答変数とし、1A と同様にモデル選択をしたところ、
SLFF のモデルが選ばれた。本種のオスはメスの体長を基準に配偶
者選択をしていると考えられる。実験 2 では、ガードの有無を応答
変数とし、元メスの体長、新メスの体長、各メスの産卵までの日数、
オスの体長を変数候補にしてモデル選択したところ、元メスの体長
と新メスの産卵までの日数を用いたモデルが選ばれた。本種のオス
は、直前まで大型メスをガードしていた場合に、新メスのガードよ
りも元メスの探索を優先するのかもしれない。
扁形動物門渦虫綱多岐腸目に属するカイヤドリヒラムシ
Stylochoplana pusilla は、主にイシダタミガイ Monodonta labio confuse
の外套腔中で見られるとされているが、他の巻貝でも見つかるので、
宿主巻貝との関係は種特異的ではない。それ故潜在的宿主巻貝間に
おける寄居率や寄居個体数などの宿主―寄生者(利用者)の関係の
違いを解明することで、宿主選択に関する情報、すなわち潜在的宿
主巻貝のもつどのような要因が本種の宿主選択の発達に関わってき
たのかを明らかにすることができると考えられる。
青森県陸奥湾夏泊半島において、潜在的宿主巻貝の生態と生息環
境、カイヤドリヒラムシの宿主利用の関係を調べたところ、本種は
イシダタミガイを主要な宿主として利用しており、水気の多い生息
地のイシダタミガイで多くの個体が見られた。また、野外で潜在的
宿主巻貝の行動を観察したところ、イシダタミガイのみが潮間帯を
主な生息域としていることが分かった。次にカイヤドリヒラムシが
入り込んでいる外套腔の上部を覆う外套膜の長さを比較したところ、
イシダタミガイは他の巻貝と比べ相対的に長い外套膜を持つことが
判明した。また、カイヤドリヒラムシによる宿主利用の違いを明ら
かにするために、実験室で行った宿主の選択実験は、カイヤドリヒ
ラムシがイシダタミガイを選択的に利用することを示した。さらに、
実験に用いる宿主巻貝の外套膜の長さを統一するために巻貝の大き
さを変えた実験でも、イシダタミガイを選択することが分かった。
以上の結果から、野外での潜在的宿主巻貝間におけるカイヤドリヒ
ラムシの寄居率の違いは宿主巻貝の選択によるものであり、カイヤ
ドリヒラムシの宿主選択の発達には宿主巻貝の生態が大きく関わっ
ていたと考えられた。
321
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-317
P2-318
ホンヤドカリのオス間闘争:その場にいないメスの影響
イモゾウムシの発音シグナルの機能
谷川大介,安田千晶,* 和田 哲(北大・水産)
* 熊野了州(沖縄病害虫防技セ,琉大・農),立田晴記(琉大・農),栗和
田隆(九沖農研),城本啓子(沖縄病害虫防技セ)
ホンヤドカリ属では、オスが産卵間近なメスを交尾・産卵まで持
ち歩く交尾前ガード行動を示す。ガード中のオスが別のオスと出会
うと、しばしばメスをめぐって闘争が起こる。このような 2 個体間
の闘争には、一般に資源保持能力と資源の価値が影響を与えるとさ
れている。本研究では、ホンヤドカリにおけるオス間闘争の経緯と
結果に影響を及ぼす要因を特定するために、室内実験条件下で連続
観察をおこなった。野外で交尾前ガード中のペアを採集して実験室
に持ち帰り、2 ペアを 1 組にして、片方のペアを水槽に静置した後で、
もう片方のペアからオスだけをメスから引き離して、挑戦者として
水槽に加えた。観察時間は、挑戦者の活動開始時から 15 分間とした。
その後、元のペアごとでメスが産卵するまで飼育して、各メスの産
卵までの日数と全個体の体長を記録した。
その結果、ガード中のオスが大型のときは闘争が起こらず、闘争
が起こるまでの時間を説明するモデルには、挑戦者の体長と、挑戦
者がガードしていたメスの産卵日を説明変数としたモデルが選択さ
れた。一方、15 分後の挑戦者の勝敗(挑戦者がメスをガードしてい
たか否か)には、2 個体のオスの体長と挑戦者のメスの体長を説明
変数としたモデルが選択された。いずれの解析でも、闘争行動の原
因(資源)であるはずのメスの体長や産卵日がベストモデルの変数
に含まれなかったことは興味深い。さらに本実験では、野外でガー
ド中だったオスを用いたにもかかわらず、挑戦者が明らかに闘争に
消極的であった例や、闘争してメスを奪った挑戦者が、その後、自
発的にメスを放棄してしまう例が観察された。これらの行動にも、
その場にはいない(挑戦者が実験直前までガードしていた)メスの
体長が影響を及ぼしていた。
発音や振動を個体間のコミュニケーションとして用いる昆虫の存
在はよく知られている.一部のゾウムシ科の昆虫は鞘翅裏面に発音
器官を有しており,この器官は南西諸島に生息するサツマイモの害
虫であるイモゾウムシ Euscepes postfasciatus にも見られる.本種を含
め,ゾウムシ類の発音器官の詳細な機能は明らかではないが,本種
では交尾前マウントにおける発音器官からの音声シグナルが交尾成
功に関与していると考えられている.本研究では鞘翅裏面後端に位
置する発音器官を実験的に除去する実験を行い,交尾成功(精子輸送)
への影響を調査した.その結果,雄の発音器官のすべてを除去した
場合は,一部を残した場合に比べ繁殖成功が大きく下がることが明
らかになった.この結果は,発音器官の存在する鞘翅裏面後端がイ
モゾウムシで雄の繁殖成功において重要な役割を果たしていること
を示している.発表では除去処理を施したオスの交尾行動の行動観
察の結果と合わせ,発音と交尾前マウントや交尾成功の関係を議論
する予定である.
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トゲオオハリアリにおける順位行動ネットワーク
処女女王に対するワーカーの攻撃性 ー雄遺伝子の利己
* 下地 博之(琉球大),阿部 真人(東京大),増田 直紀(東京大),嶋田
正和(東京大),辻 和希(琉球大)
性が攻撃行動を生み出す?ー OIST 生態・進化学ユニット
中南米を原産地とし、現在世界中に分布を拡大しているコカミア
リ Wasmannia auropunctata は、雌(新女王)と雄が、それぞれ母親と
父親のゲノムのみを受け継いで生産され、完全不妊のワーカーは有
性的に生産される。本研究では、幼若ホルモン類似体(メトプレン)
を処女女王に経皮投与し、強制的に未受精卵生産を促した。その結果、
産卵開始後まもなく、コロニー内のワーカーによる処女女王への攻
撃が観察された。実験では様々な条件下で処女女王にメトプレンを
投与し、ワーカーが、産卵を開始した処女女王だけを特異的に攻撃
することを明らかにした。 2011 年から 2012 年にかけてワーカーの遺伝子発現量を解析した
結果によると、父系遺伝子の方が母系遺伝子よりも強く発現してい
ることが明らかになった。従って、産卵を開始した処女女王に対す
るワーカーの攻撃性は、父系・母系遺伝子の間にみられる発現量の
偏りに起因しているのではないかと考えられる。今後は、ワーカー
の遺伝子発現量を、メチレーション阻害剤により強制的に変化させ、
産卵を行う処女女王に対するワーカーの攻撃性の変化を確かめる予
定である。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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生態系サービスの認知が保全の行動意図におよぼす影響:
魚類群集に対するダムの影響:広域スケールにおけるダ
社会心理学からのアプローチ
ム上下流比較
* 今井葉子,角谷拓(国環研),上市秀雄(筑波大・システム情報系),高
村典子(国環研)
* 加藤康充(自然共生研究セ),小野田幸生(自然共生研究セ),森照貴(自
然共生研究セ),一柳英隆(ダム水源地環境整備セ),萱場祐一(土木研究所)
本研究では、社会心理学の分野で用いられる意思決定モデルを援
用し「生態系サービスの認知」から環境保全の「行動意図」へ至る
市民の意思決定プロセスを定量的に明らかにすることを目的に、市
民を対象とした全国規模のアンケート調査を実施した。アンケート
の設計は、既存の社会心理学の意思決定モデルにもとづき行い、4
つの生態系サービス(基盤・調整・供給・文化的サービス)から恩
恵を受けていると感じていること(生態系サービスの認知)と環境
保全の「行動意図」の関係を記述する仮説モデルを構築した。2011
年 9 月に電子媒体の調査を実施し(対象は調査会社登録の 20 ∼ 69
歳男女、送信 40233 件、回収 6443 件、回収率 16%)、人口構成比比
率を反映した上で 5225 件(男性 2625 名、女性 2600 名)のデータが
得られた。共分散構造分析を用いた解析の結果、4 つの生態系サー
ビスのうち「文化的サービス」のみが「行動意図」との有意な関係
性が認められた。社会認知に関わる要素では、周囲からの目線であ
る「社会規範」や行動にかかる時間や労力などの「コスト感」がそ
れぞれ「行動意図」に影響しており、これらの影響度合いは「文化
的サービス」からのものより大きかった。居住地に対する「愛着」
は「社会規範」や「コスト感」との有意な関係が認められた。さらに、
回答者の居住地の都市化の度合いから、回答者を 3 つにグループ分
けして行った解析結果から、上記の関係性は居住環境によらず同様
に成立することが示唆された。これらの結果は、個人の保全行動を
促すためには、身近な人が行動していることを認知するなどの社会
認知を広めることに加えて、生態系サービスのうち特に、
「文化的サ
ービス」からの恩恵に対する認知を高めることが重要となる可能性
があることを示している。
ダムの存在・運用により、ダム下流を流れる河川では、流砂量の
減少や水質・流況の変化などの河川環境が変化し、河川性魚類に対
して様々な影響を及ぼすことが示されてきた。ただし、日本国内に
おいて魚類群集には地域ごとに独自性が存在し、ダムがもたらす河
川環境の変化に対する応答も、地域差を加味して解析を行う必要が
ある。そこで、本研究では、全国で実施されている河川水辺の国勢
調査(平成 18 年∼平成 22 年の 4 巡目)および GIS データを基に、
各魚種についてダムの上下流における出現状況と流域環境の関係を
解析することで、ダムによる影響を受けていると考えられる魚種の
特定や、地域による影響の差異について検討を行った。最初に、魚
類群集の類似性(Jaccard 指数)を求めクラスター解析(Ward 法)に
より地域を分類した。その結果、北海道、東日本、西日本を反映し
た、3 つの地域に大きく区分されたが、ダムの上流と下流が大きく
区分されることはなかった。クラスター解析で得られた 3 つの地域
それぞれにおいて、各調査場所における各魚種の生息ポテンシャル
について、ロジスティック回帰を用いて推定し、予測種数(E)を求
めた。この予測種数(E)と実際に観察された種数(O)の比である
OE value を求め、ダムの影響の度合いを検証した。さらに在 - 不在
の予測と実際の在 - 不在の乖離が大きい魚種を明らかにし、ダムの
影響を受けやすい種特性を明らかにした。
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農地利用によって喪われる出水撹乱への抵抗性~水生昆
絶滅リスクを抑えるように保護区を選ぶ - 計算ツール
虫群集を用いて~
MeBERA の開発
* 末吉正尚,石山信雄,中村太士(北大農学院)
* 竹中明夫,角谷拓(国立環境研),矢原徹一(九州大学)
出水撹乱は水生昆虫群集にとって、死亡率を増加させる大きな撹
乱となる。多くの研究が出水による個体数・種数の減少を報告して
いるが、一方で出水後の急速な回復も報告されている。加えて、予
測性の高い季節的出水に対しては撹乱による減少自体が小さいこと
が報告されている。この出水撹乱への高い抵抗性の主要因の一つが
河川の複雑性が作り出す避難場であり、水生昆虫は避難場を利用す
ることで出水撹乱を避けることができると考えられている。しかし
ながら、近年農地利用による河川生息場の均質化が世界中で問題と
なっている。河川生息場の均質化は出水時の避難場を喪失させ、出
水撹乱の影響をより大きくすると予想されるが、出水と農地利用の
相互作用効果を検証した研究は非常に少ない。
本研究では、北海道北部の 1 流域を対象に農地影響が様々な地点
において、春の融雪出水の影響評価を行った。農地影響を評価する
ため、各地点の集水域内の農地率を算出し、各地点内 12 コドラート
において水生昆虫採集と流速・水深・河床粒径サイズの計測を行った。
また、河川の異質性を示す指標として各リーチ内の物理環境の変動
係数を求めた。調査時期は出水前の 2011 年 3 月と出水後の 5 月であ
り、出水前後の種数の変化を明らかにした。
出水前データにおいて、農地率と変動係数は負の相関を示し、種
数の減少を引き起こしていた。次に、農地率と出水前後の種数減少
率の関係を明らかにした。農地率と種数減少率は負の相関を示した。
農地が存在しない自然河川では、出水前後の減少率が 0% の地点も
存在したが、農地率が高い地点では約 20% まで種数の減少がみられ
た。以上より、農地利用による河川均質化が自然河川のもつ出水撹
乱への抵抗性を喪失させることが示唆された。
一定の地域を保護区に指定して人間活動を制限することは、自然
環境やそこに生育する生物を保全するために有効な方策である。地
域をまるごと保全することで、生物の暮らしや、人間の認識が行き
届かない種も含めた包括的な保全が可能になる。
保護区に設定できる面積には限りがあるのがふつうである。なら
ば、なるべく保全効果が高くなるように設定場所を選ぶ必要がある。
たとえば日本の場合、種の多様性に緯度勾配があるので、単純に種
の多様性が高いところを選んだのでは北方の自然が顧みられない。
保護区のセット全体で相補いあって広汎な種・生態系を保全すると
いう考え方が必要となる。すなわち相補性に留意した保護区の選択
方法である。
一般的な相補性解析では、ある地域にある種が分布しているかい
ないかにもとづいて保護区の選択を行う。しかし、種の保全を目的
とするならば、単純に多くの種をカバーするという考え方にとどま
らず、種の絶滅リスクを減らす効果に留意して保護区を選定するの
が合理的である。そこで、全国での多種の絶滅リスクを効果的に減
少させるように保護区設定を求める計算ツールを開発した。
地域ごとの個体群サイズとその変化率のデータから局所絶滅確率
を計算できれば、それにもとづいて広域の絶滅の確率も計算できる。
保護区となった地域では局所個体群のサイズの減少が抑制されると
仮定すれば、保護区設定による絶滅リクスの低減効果を評価できる。
開発したツールでは、対象とする種群(たとえば維管束植物のレッ
ドリスト記載種)すべての絶滅リスクの総計を評価関数とし、その
最小化を実現する保護区のセットを求める。広域・多種を対象とす
るとかなりの計算量が必要になるが、数千区画に分布する数千種の
データの場合、パソコンでも数時間程度で保全の優先順位付けをす
ることができた。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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西カリマンタンの保護区における森林劣化の現状
シカ高密度生息地域における皆伐による竹林拡大の抑制
* 鈴木英治(鹿大理),Edi Sambas(LIPI)
* 橋本佳延(兵庫県博),服部保(兵庫県立大自然研)
西カリマンタンにある Mandor 自然保護区と Niut 山自然保護区
境界付近の Serimbu 郡 Berui 山地域において、それぞれ 1987 年と
1993 年に植生を調査していたが、2012 年に再調査して森林の劣化
状況を明らかにした。Mandor は面積 3080ha の小さな保護区である
が、かつてはケランガス土壌の湿地にテンカワンと呼ばれる Shorea
stenoptera などが生育する天然林が見られた。この地域では砂金が取
れるので、1980 年代後半から砂金採掘が進み、大部分の森林が掘り
返されて砂浜のような状態に変わっていた。100ha ほどの面積に森
林が残っていたが、大径木はほとんどが択伐されていた。ただ、残
存林分の種多様性はまだ高く、小面積でも今後の遺伝子資源として
保護していくことが重要と判断された。
Niut 自 然 保 護 区 は 2012 年 に は 面 積 91,700ha と さ れ て い る が、
1990 年代には隣接する伐採区や昔からある村との関係で境界線がい
くつもあり、保護区といってもほとんど名目だけの状況にあった。
それらの境界線付近の Berui 山は、村の水源林として数百 ha が保護
されていた。1ha に直径 4.8cm 以上の樹木が 300 種以上、フタバガ
キ科だけでも 20 種以上存在し、カリマンタンのフタバガキ林の中で
も多様性が高い森林があった。2012 年には大部分の森林が焼畑跡地
に変わっていた。水を取得している小沢に沿った数十 ha だけに、大
径木を抜き切りされた残存林分を見ることができた。そこでは、か
つての森林なみの多様性を維持していた。
西カリマンタンの大部分の地域で自然林が失われた現状において
は、上記 2 ヶ所のように従来は保護区ともならなかった小面積の残
存林分でも保護することが重要であろう。
■はじめに
放棄竹林の面積拡大は周辺植生の植物の種多様性の低下を引き起こす
と懸念されている。皆伐による竹林の面積拡大抑制には再生したササ状
の稈を定期的に刈り取る必要があり、コストがかかる上、管理を怠れば
早期に林に再生してしまう恐れがある。しかし、シカ高密度生息地域に
おいては再生稈がシカが採食される可能性が高く、皆伐によってでも低
コストで竹林再生を抑制・根絶する効果が期待できる。
そこで本研究ではシカ高密度生息地域である兵庫県豊岡市出石町暮坂
において、モウソウチク林内に防鹿柵区を設け、皆伐前後の植生変化を
調査し、シカ採食の有無による皆伐後の竹林再生への影響を明らかにし
たので報告する。
■調査方法
林内に防鹿柵区および無柵区を各 1 区、各区内に 2m × 2.5m の植生調
査区を 6 区設置した。皆伐後に防鹿柵を設置し、植生調査は皆伐前(2010
年 7 月)と皆伐 1 年後(2011 年 11 月)に行った。植生調査では各階層の
階層高 (m)、植被率 (%)、出現種の被度 (%) を記録した。
皆伐前後の種数や各階層の出現種の被度の増減の、防鹿柵の有無によ
る差については GLM を用いて解析した。
■結果
(1) モウソウチクの被度の変化
皆伐により各区の高木層に優占していたモウソウチクは消失したが、
翌年秋にはその平均被度は柵区内では S1 層で 60%、S2 層で 5.8%、H 層
で 0.03%にまで回復した。また無柵区では S1 層、S2 層では確認されず、
H 層で 1.7%であって防鹿柵区よりも回復量が多かった (p < 0.001)。
(2)5m2 あたりの種数の変化
柵区では皆伐前後で 16.0 種から 26.0 種に、無柵区では 18.0 種から 21.2
種に増加したが、その増加量は柵区で有意に高かった (p < 0.05)。
(3) 構成種の被度の増減
当日発表する。
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フジバカマの発芽・生長特性 - 保全のための生理生態学
どのような種や状態の博物館標本の種子が生きている
的解析
のか?
* 石川真一,高橋美絵,青木良輔,松田紗依,荒川唯,都丸希美,塚越み
のり,浦野茜詩(群馬大・社会情報)
* 志賀隆(新潟大・教育),港翼(新潟大・教育),長谷川匡弘(大阪自然史)
博物館の標本庫には 100 年以上前のものから現在に至るまで、数
多くの植物標本が収められており、都市化などにより現在では失わ
れてしまった集団の標本も残されている。このような標本から種子
や胞子を採集し、撒きだすことによって失われた集団を復元したり、
遺伝的に劣化した集団の遺多様性を回復させたりすることができる
可能性がある。そこで、本研究では標本の種子から集団を復元する
ことが可能な種をリストし、その状態を明らかにするために、発芽
試験と種子の染色試験を行った。
調査対象種は絶滅危惧植物を中心に選び、大阪市立自然史博物館
(OSA)において 81 種 255 点の標本から種子・胞子を得た。発芽試
験は段階温度法を用いて行い、未発芽種子はテトラゾリウム 1%溶
液に浸けて胚の酵素活性の有無を確認した。
発芽試験の結果、18 種 33 点の標本種子からの発芽が確認できた(1
番古いものは 1989 年採集のミヤコグサ)。また、テトラゾリウム染
色試験によって未発芽種子の胚が赤色に呈色し、酵素活性があった
標本は 47 種 74 点であった(1 番古いものは 1925 年採集のヒメヒゴ
タイ)。未発芽の生存種子は発芽条件を変えたり、植物ホルモンを添
加したり、生存組織を培養することにより、発芽実生や成長した植
物体を得ることができる可能性がある。発芽や呈色反応が確認され
た標本は採集年からの時間経過とともに減少した。発芽もしくは呈
色反応が確認され、種子が生存していると判断できたものは合計 53
種(全種の 65%)、107 点(全標本の 42%)であった。
以上のことより、標本種子を用いて失われた集団を復元すること
は種によっては可能であり、標本庫に収められている植物標本は野
生植物のシードバンクとして重要な役割を果たせると結論した。な
お、現在も発芽試験を継続しており、これらの結果についても報告
する予定である。
フジバカマ(Eupatorium japonicum )は古来より「秋の七草」の一
つとして、日本人に親しまれてきた多年草であるが、生育地である
河川土手の破壊とコンクリート化により、近年では国・準絶滅危惧種、
群馬県・絶滅危惧 II 類に指定されるまでに減少している。本研究では、
本種の保護増殖のため、発芽特性・生長特性の解明を行った。群馬
県内で採取した種子を用いた発芽実験により、1 ヶ月間以上 4℃で冷
湿処理すると発芽が促進される可能性があること、発芽の最適温度
は 10/6℃∼ 25/13℃(昼 / 夜)と幅広く 45% 程度発芽すること、小
さな個体群で生産された種子は発芽率が低いこと、が明らかになっ
た。挿し穂実験では、60%以上が活着したが、根元に近い部分の方
が活着率は高かった。実生および栽培 2 年目の株を相対光量子密度
3%、9%、13%、100% の被陰区で栽培したところ、いずれも 13% 以
下の区では相対生長速度が著しく低下した。フジバカマの自生地は
土手の上部で日当たりが非常に良く、重量土壌含水率は 24% ∼ 34%
程度とさほど高くなく、土壌水中の三態合計窒素濃度は 47 ∼ 72 mg
L-1 と比較的高かった。フジバカマの保護増殖のためには、実生を育
てて遺伝的多様性を高める必要があり、また常に日当たりが良く、
土壌窒素濃度の高い環境を維持することが不可欠であるといえる。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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岩手県におけるゴマシジミ生息地の保全を目的とした湿
環境データのスコア化が分布予測に与える影響
性群落の刈取り管理
* 平山 寛之,粕谷 英一(九大・理・生態)
新井隆介(岩手県環保研センター)
岩手県では、県条例によりゴマシジミの捕獲等を禁止し、一部の
生息地では、保全のため刈取り管理を実施している。盛岡市のゴマ
シジミ生息地は、ヨシやカサスゲなどが生育する湿生群落であり、
2006 年から毎年 11 月に刈取り管理を実施している。しかしながら、
近年、ゴマシジミの生息数が減少しており、本種の食草であるナガ
ボノシロワレモコウと競合するヨシが繁茂したためと考えられた。
このことから、ヨシの優占程度を低下させる刈取り管理を検討する
ため、生息地周辺の同様な立地環境において、2011 年 6 月に全草の
刈取り処理を実施した。その結果、ヨシの優占度をある程度低下さ
せる効果はあったが、食草の開花シュートに対する負の影響がみら
れたため、2012 年は食草を選択的に残した刈取り処理を同じ時期の
6 月に実施した。調査は、刈取り処理を実施した処理区と実施しな
い対照区において、5 × 5㎡の方形区を設定し、植物社会学的な植生
調査と立地環境調査を行い、さらに食草の開花シュートについて、
その数と花穂数/シュート、植物高を計測した。その結果、処理区
では、対照区に比べて群落下層の相対光量子密度が高かった。また、
ヨシの優占度は 2011 年と同程度であったが、食草の優占度は高くな
る傾向にあり、さらに開花シュート数や花穂数は増加する傾向にあ
った。これらのことから、食草を選択的に残した 6 月の刈取り処理は、
群落下層の良好な光環境を形成するとともに、食草に対する負の影
響が少なく、刈取り管理として有効であると考えられた。対照区で
は、植生遷移が進行したため、食草はヨシや木本類などに被圧され、
2011 年と比べ優占度は低下し、開花シュート数が減少する傾向にあ
った。その一方、花穂数は増加する傾向にあり、これは刈取り処理
の影響を受けないため、一部の個体が充実したためと考えられた。
生物の保全のためにはその生物の分布を把握する必要がある。現
実にはすべての生物の分布を調査することは不可能であるため、分
布推定モデルが広く利用されている。分布推定モデルを使用するこ
とで、特定の調査地点の気候や地形、土地利用などの環境情報の基
礎データから実際には調査していない地点であっても潜在的なハビ
タットを推定し、その保護に活用することができる。近年、このよ
うな分布推定モデルは目覚ましい発展をとげ、様々な手法が提案さ
れている(GLM, Maxent, Random Forest など)。正確な分布を推定す
るためには精度の高い基礎データの使用が必要である。しかし、面
積など連続尺度で計測可能な基礎データであっても、計測の困難さ
からスコアのような情報量の低い順序尺度あるいは名義尺度で記録
され、使用されることがある。こうした基礎データの情報量の低下
は予測精度の低下をもたらすと考えられる。しかし、実際にどの程
度の低下をもたらすのかは明らかにされていない。本講演では連続
尺度で得られた基礎データを順序尺度のスコアに変換し、情報量を
人為的に低下させ、予測精度がどのように変化するかを調査した。
分布予測には GAM、GBM、GLM、MaxEnt、Random Forest の 5 つの
手法を用いた。23 の基礎データのうち、1 つをスコア化することに
よって大多数のケースで予測精度が低下し、予測精度の指標である
AUC が 0.3 以上低下する場合もあった。予測精度の低下は MaxEnt、
GAM、GBM、GLM、Random Forest の順で大きかった。また、スコ
アに変換した変数の予測への貢献度が高いほど予測精度の低下が大
きい傾向があった。一方で、スコアの細かさは予測精度にほとんど
影響しなかった。スコア化された基礎データの使用は予測に用いる
手法や変数の貢献度によって影響の大きさに差はあるが、潜在的な
予測精度を低下させる。
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巣箱を利用する鳥類における巣材の種類と放射線量の関係
シギ・チドリ類の食性からみた干潟生態系の理想像
* 松井 晋,笠原里恵,上田恵介(立教大・理),三上 修(岩手医科大・
共通教育)・渡辺 守(筑波大・生命環境科学)
* 桑江朝比呂,三好英一
鳥類の生息を目的とした干潟の再生事例では,現場環境や制約条
件をふまえ,独自の技術によって再生がすすめられている.しかし
ながら,統一的な干潟の計画設計技術のガイドラインは,いまだ存
在していない.そこで本研究では,小型のシギ・チドリ類が提供す
る生態系サービスの持続的な享受を目標とした場合のサブ目標を提
示した.つぎに,そのサブ目標を具現化するための干潟生態系の再
生計画や設計に資する干潟の理想像,すなわち configuration(形状,
構成,配置)を提案した .
シギ・チドリ類が提供する生態系サービスの多くが,「採餌」によ
って提供されることから,生態系サービスを最大限に享受すること
が目標であれば,「採餌量(採餌個体数×捕捉速度)の最大化」が達
成されればよいことになる.これまでの研究事例により,小型シギ
類がバイオフィルムを餌としていて,その密度が高い泥質干潟ほど,
よりバイオフィルムに依存していること,しかし,バイオフィルム
のみを専食することなく,少なくとも 30% 以上は,従来から知られ
ていた底生無脊椎動物などを餌としていること,そして,最適採餌
理論をふまえると,サブ目標としては,(1)バイオフィルムと底生
無脊椎動物の両方が採餌可能,(2)餌密度の最大化,(3)採餌可
能時間の最大化の3つが重要であると考えられた.
サブ目標を具現化するための,干潟の理想的な configuration とし
て,(1)ラグーン型の干潟形状,(2)複雑な汀線形状,(3)緩い
干潟底面勾配,
(4)潮間帯上部が泥質で潮間帯中下部が砂泥質,
(5)
最干潮時の最大水深が 30 cm 程度以下,(6)淡水の流入,(7)視
界を妨げる障害物がない,の7点を提案した.
2011 年 3 月に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故によ
り、多量の放射性物質が陸域では東北および関東地方を中心に拡散
した。事故後 2 年目の 2012 年の繁殖期に、茨城県と東京都の 2 地域
で、巣箱で営巣するスズメとシジュウカラの巣材の種類と巣箱内の
放射線量の関係を調べた。放射線量の測定には、ガイガーカウンタ
ーおよびゲルマニウム半導体測定器を用いた。スズメは枯草や枯葉
を主な巣材とし、シジュウカラはコケ類を主な巣材として巣箱で営
巣する。ガイガーカウンターを用いた測定の結果、茨城県では巣箱
内の放射線量はスズメ(n=17)よりシジュウカラ(n=3)の巣材が入
っているほうが高かった。一方、東京都では巣箱内の放射線量はス
ズメ(n=12)とシジュウカラ(n=3)で有意な差は見られなかった。
調査を実施した事故後 2 年目の繁殖期には、スズメが巣材として主
に利用する一年生草本の葉や茎の表面に付着する放射性降下物の量
は、事故直後の繁殖期よりも減少していたと考えられる。一方、シ
ジュウカラが主に巣材として利用するコケ類は、雨などによって環
境中の放射性物質が集積されやすい湿った場所に好んで生育してい
る可能性がある。このため陸域で東京都より多くの放射性物質が降
下した茨城県において、コケ類を巣材とするシジュウカラの巣内は、
草本類を巣材とするスズメの巣内よりも、放射線量が高くなったと
考えられる。発表では、ガイガーカウンターを用いて測定した値と、
ゲルマニウム半導体測定器を用いて測定した巣材に含まれる放射性
セシウム量の関係についても議論する。本研究は JST の国際緊急共
同研究・調査支援プログラム(J-RAPID)より研究助成をうけて実
施した。
325
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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P2-334
分布推定モデルは保護区選択の役に立つか?
絶滅危惧種ヒダカソウ属(ヒダカソウ、キリギシソウ)
* 石濱史子,竹中明夫,横溝裕行,角谷拓(国環研)
の繁殖状況と遺伝的多様性
統計モデルによる分布推定は、生物の限られた分布情報に基き、
気候等の環境情報を利用してより広い範囲の分布確率を推定する手
法である。保護区選択においては、検討対象全域で全種の分布が把
握されていることが望ましい。しかし、現実には分布調査は一部の
地域でしか行われていないことが多いため、分布推定モデルによる
補完がよく行われる。モデル補完は、検討対象地域を広げられると
いうメリットがある一方で、モデルの推定には不確実性が伴うとい
うデメリットがある。
本研究では、保護区選択において、分布調査が不十分な場合に分
布推定モデルによる補完を行うことの有効性を評価することを目的
とした。現実のデータでは、真の分布情報が完全には得られないこ
とから、シミュレーションで生成した仮想の生物分布データを用い
て評価を行った。
モデル補完の有効性に影響する要因として、1.調査済みで既知
の分布情報がある範囲、2.得られる環境情報でどれだけ分布が説
明できるか、の 2 つが考えられる。1 については、あまりに調査範
囲が狭い場合、精度の高い分布推定モデルを作ることができず、モ
デルの有効性は低下するだろう。逆に、調査範囲が十分に広ければ、
モデルによる補完は必要なくなるので、中程度の調査範囲のときに
モデルが有効になると考えられる。2については、一般に生物の分
布を完全に説明できるほど詳細な環境情報を得ることはできないの
で、説明力がどれくらいあればモデルが有効なのかを評価する必要
がある。
今回の発表では、これら 2 つの要因を考慮し、どの程度の範囲が
調査されており、どれくらい説明力の高い環境情報が得られていれ
ば、分布推定モデルが有効であるか、検討した結果を報告する。予
備的な解析から、生物の分布パターンもモデルの有効性に大きく影
響することが明らかになってきたため、その影響の仕組みについて
も報告する。
* 阿部晴恵(新潟大・農),佐藤謙(北海学園大・工),西川洋子(北海道
環境科学研),島村崇志(北海道環境科学研),陶山佳久(東北大・農)
地史的環境変動および近年の温暖化リスク下にある高山における
絶滅危惧植物保全を目的とし、2010 年に、絶滅危惧 IA 類に指定さ
れている北海道アポイ岳のみに生育するヒダカソウ及び、崕山のみ
に生育する同属のキリギシソウについて生育状況と遺伝的多様性の
解析を行なった。
ヒダカソウは、株数、開花株数ともに減少しており、特にこの数
年間の開花株の減少が著しかった。一方、キリギシソウは、数十年
前に盗掘の影響で各集団の株数は数十株に減少していたが、2000 年
以降の数の推移は横ばいであった。
15 座のマイクロサテライトマーカーを開発し、開花個体を用いて
遺伝解析を行なった。その結果、両種ともに集団間に遺伝的分化が
見られた。キリギシソウでは、他の集団と反対斜面にある 1 集団で
遺伝的多様性が少ない傾向があり、また大きい生育地では高い傾向
があった。ヒダカソウでは全体的にクローン株の割合が多く、キリ
ギシソウでは、ヒダカソウと比較するとより種子繁殖に偏っている
ことが指摘された。さらにキタダケソウ属の種間比較を行える 5 座
を用いて、絶滅危惧種Ⅱ類のキタダケソウを合わせて比較を行なっ
たところ、ヒダカソウ(4n)、キタダケソウ(2n)、キリギシソウ(2n)
の順に遺伝的多様性が高いことが明らかになった。また、ボトルネ
ック解析(I.A.M)の結果、ヒダカソウ、キリギシソウは最近のボト
ルネックを受け、キタダケソウは受けていないことが示された。
これらの結果から、今後の温暖化(高山地域での乾燥化)等によ
る環境変動の影響を考えると、両種ともに生息域内と生息域外の両
面で保全の必要性が高まっている。今後、それらの保全策として、
適切な人工交配や生息域外保全対象個体の選定を行うに際して、遺
伝情報を有効に活用する必要がある。
P2-335
P2-336
自動撮影カメラによるカモシカの生息状況調査
海鳥繁殖地を考慮した洋上風力発電建設アボイドマップ
* 八代田千鶴,安田雅俊(森林総研九州),栗原智昭(MUZINA Press)
の作成
日本固有の種であるニホンカモシカ(以下、カモシカ)は、狩猟
による著しい個体数減少により、1955 年に特別天然記念物に指定さ
れ保護対策がとられてきた。その結果、本州の中部地方や東北地方
では個体数は回復し分布域も拡大してきたが、九州地方では深刻な
減少傾向が続いている。環境省のレッドリストでは絶滅のおそれの
ある個体群、県のレッドリストでは絶滅危惧 IB 類(熊本県)、絶滅
危惧 II 類(大分県)、その他保護上重要な種(宮崎県)に区分されて
いる。糞塊法による推定生息数は、九州全体で 1994-1995 年の 2209
頭から 2002-2003 年の 643 頭に大幅に減少し、その後の調査でも減
少傾向が続いている。その原因として、近年急増したシカとの競合
が指摘されているが、実態は明らかではない。そこで、九州地方の
カモシカの生息状況を明らかにすることを目的として、自動撮影カ
メラ法による生息調査を実施した。調査は 2012 年 5 月から開始し、
過去にカモシカの生息が確認された熊本県と宮崎県の森林内におい
て自動撮影カメラを設置し、月 1 回撮影された画像を確認した。熊
本県ではカモシカは撮影されず、一方シカは標高にかかわらず高頻
度に撮影された。宮崎県でもシカの撮影頻度が最も高かったが、少
数の地点において 1 ∼数カ月に 1 回の頻度でカモシカの撮影画像を
得ることができた。
* 風間健太郎(名城大・農),伊藤元裕(国立極地研),橋本啓史(名城大・
農),先崎啓究(道央鳥類調査グループ),長谷川理(エコネットワーク)
東日本大震災以降,再生可能エネルギーの一つである風力発電へ
の注目は増している.とりわけ洋上風力発電(洋上風発)は,陸上
の風車建設適地の不足や電力供給のさらなる安定化などを背景に,
大規模導入への期待が急速に高まっている.洋上風発は,建設や運
用に関して多くの経済的利点を有するが,やはり陸上風発と同様,
生態系に様々な悪影響を及ぼすことが想定される.そのため,海洋
生態系への影響が最小限となるような建設地の選定が必要である.
海鳥は洋上風発の影響を受けやすい生物の一つである.洋上の風況
が良く洋上風発が今後建設される可能性のある北海道の沿岸には,
海鳥繁殖地が点在する.そのため,同地では洋上風発の建設地と繁
殖中の海鳥の行動圏が重なる可能性が高い.本研究では,海鳥繁殖
地の位置,繁殖個体数,繁殖する海鳥種ごとの採餌範囲,絶滅リスク,
行動や生態的な特徴を考慮し,北海道沿岸域において洋上風力発電
が繁殖中の海鳥に及ぼす影響を推定し地図化した.繁殖期に洋上で
採餌する海鳥の個体数は,繁殖地の多い道北の日本海側,道東の太
平洋側,知床半島,および渡島半島沿岸で多いと推定された.中で
も,絶滅リスクが高い種や風車と衝突しやすい(体サイズが大きく
飛翔速度が速い)種の繁殖地が点在する道北や道東域では,洋上風
発が繁殖中の海鳥に与える影響がとくに大きいと推定された.しか
し,現状では海鳥の繁殖地や個体数に関する情報が不足している地
域も多く,今後さらなる詳細かつ実用的なアボイドマップ作成のた
めには,海鳥繁殖地に関する最新の情報を収集することが不可欠で
ある.
326
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-337
P2-338
野生菓子の文化的生態系サービスの変遷
大きさが異なる洞窟におけるコウモリの利用種の月別変化
* 永野昌博,白澤佳那子
* 佐藤遼太,青井俊樹
生態系サービスの三本柱の一つである文化的サービス(文化的生
態系サービスと称す)には,生態系によって生み出される芸術,観光,
料理など文化の継承,発展,活用など幅広い事象が含まれる。生態
系保全の啓発・普及を体系的に進めていくには,これら文化的生態
系サービスの変遷や現状の把握は必要不可欠である。しかし,文化
的生態系サービスに関する科学的な研究例は数少ない。そこで,本
研究は,野生菓子(アケビなどの生食可能な菓子的な野生植物)に
対する知識・経験の地域的特徴や時代変遷を明らかにすることで文
化的生態系サービスの現状を把握することを目的とした。
調査方法は,年齢,幼少期の住居周辺の自然環境や遊び方,自然
の知識や知恵を誰に教わったかなど個人の自然との関わり度合に関
するアンケート,ならびに,アケビ,ツバキ,クワ,ノイチゴの 4
種の野生菓子に関する知識や経験などのアンケートを行った。アン
ケート回答者は,20 歳以下,30 代,40 代,50 代,60 代,70 歳以上
の年代区分で各 50 名以上,計 322 名であった。
解析の結果,野生菓子に対する知識は年齢が高くなるにつれて高
くなる傾向を示した。また,それを食べた経験については,50 代を
境に急激に低下した。野生菓子の知識を誰から教わったのかを聞い
た結果では,40 代よりも上の年代では父母祖父母等の割合が高かっ
たのに対し,30 代以下の年代は小学校の教員から教わった割合が高
かった。これらのことから,野生菓子に関する文化的生態系サービ
ス(文化伝承)は 1960 年代頃から急激な低下がはじまり,現在も低
下の一途を辿っていること,その要因として親族内や地域内におい
て文化が伝承されていないことが考察された。また,失われた文化
的生態系サービスを回復させるには学校教育が重要な役割を担って
いると考えられた。
改題「洞窟棲コウモリにおける洞窟利用状況の変化―利用種の個
体数及び性別と温度環境の関係―」
日本の洞穴棲コウモリの多くは初夏から夏にかけて出産、保育を
行い、秋に交尾期を迎えて、冬季間に冬眠をする生活史をとる。そ
して、この生活史に合わせて、いくつかの洞窟を使い分けるとされる。
季節によって移動し、また、一時的な利用もすることから各洞窟に
ついて長期間モニタリングを行わないと、その洞窟を利用している
コウモリ相を正しく把握する事が出来ない。洞穴棲コウモリは広大
な洞窟から岩の裂け目まで、様々な場所を利用するとされるが、広
大な洞窟でも生息がほとんど確認されなかった事例や、新幹線高架
橋の小さなスリット内に 1000 頭以上が生息していた事例があること
から、洞穴棲コウモリは、洞窟の大きさによって利用の有無を決定
せずに、洞窟の温度や湿度といった環境条件の違いによって利用す
る洞窟を選択している可能性がある。しかし、洞穴棲コウモリの生
息場所の環境に関する報告は少ない。何の種が、どういった環境条
件を、いつ利用していたかという基礎的な生態の解明は、生息地の
保全のために不可欠な情報であり、事例を積み上げていく必要があ
る。そこで本研究では岩手県において、環境条件の異なる洞窟 2 か
所で、洞窟を利用しているコウモリの種と性別、及び洞窟内外の温度・
湿度環境の長期モニタリングを行い、環境条件と利用しているコウ
モリの生活史の関係の一端を明らかにする事を目的とした。
結果は冬眠期と活動期に分けた。冬眠期に関しては、コキクガシ
ラコウモリは洞窟内温度が 10 度以下のときに冬眠に入る事、冬眠期
間にも洞窟内の個体数が変動する事についての報告を行う。活動期
に関しては各洞窟の個体数及び性別の推移、各洞窟の洞窟内・外気
温の推移と個体数および雌雄の推移などについて報告する。
P2-339
P2-340
多摩川において最後に残ったカワラノギクの個体群の危機
相補性解析による琵琶湖沿岸生態系の非代替性評価と保
* 倉本宣(明大・農),岡田久子,芦澤和也(明大・知財)
護地域のギャップ解析
2012 年の環境省のレッドリストでは、カワラノギクは絶滅危惧 IB
類からⅡ類に位置付けが変更され、絶滅から遠ざかったという評価
となった。しかし、多摩川におけるカワラノギクの個体群は植栽お
よび植栽起源のものは8つあるものの、ほぼ確実に野生と推定でき
るものは 2012 年には青梅市の1つだけである。人間のかかわった個
体群が多くなり、野生の個体群が衰退していく傾向は、鬼怒川と相
模川でも同じである。野生の個体群の存在は、人為的な活動の手本
になるほか、市民による保全活動の意欲の源となるので、野生の個
体群の存続のための研究は欠かせない。
青梅市の個体群は網状流路の部分の中州に成立し、出水時にも一
部の個体が存続してきた。
2012 年夏に中州の横断方向 50 m、縦断方向 40 mの区域に 5 ×
5m のメッシュを設置し、相観植生を木本、大型草本、小型草本、裸
地に区分して記録したところ、それぞれ、16、35、24、25(% ) とな
っていた。カワラノギクは開花個体(茎を伸ばしていて秋に開花す
る個体)が 16 個体、ロゼット個体が 49 個体確認された。カワラノ
ギクが確認されたメッシュは 7 メッシュで、大型草本優占 3 メッシュ、
小型草本優占 4 メッシュであった。植生遷移の進行によってカワラ
ノギクの生育しにくい大型の植生が多くなっており、このまま推移
すると、カワラノギクの絶滅が危惧される。
カワラノギクの開花個体の 19%、ロゼット個体の 24%は萎れてい
た。青梅市の 8 月の降水量が平均値の 15%に過ぎなかったことが影
響していると考えられる。カワラノギクの開花個体の 63%がクロウ
リハムシの食害を受けていた。
過去には野生の個体群に人為的に延命を図ったこともあるものの、
その評価には個人差があった。多摩川で唯一となった野生個体群に
おける人為的延命は合意形成がむずかしいため、見守るだけにとど
めたい。
* 柴田淳也(京大・生態研),苅部甚一(国環研),酒井陽一郎(京大・生
態研),武山智博(大阪市大・理学),陀安一郎(京大・生態研),佐藤祐
一(琵琶湖環境研セ),谷内茂雄,中野伸一,奥田昇(京大・生態研)
琵琶湖は、61 種の固有種を含む約 1700 種の水生生物が生息する
多様性・固有性の極めて高い貴重な生態系である。しかし、琵琶湖
生態系は過去半世紀の間に、富栄養化や開発、外来種の移入など様々
な影響にさらされ、多様性ホットスポットの一つとして懸念される。
それゆえ多様性保全にむけ多くの関心が寄せられている。しかし、
琵琶湖は大規模湖沼ゆえに全域を保全対象とすることは実現が困難
であり、保全努力を優先すべき重要な地域の選定が、琵琶湖の生物
多様性を効果的に保全していくために重要な課題となる。保全に向
けた保護地域の選定において、対象地域全体の多様性(γ多様性)
に着目し保護地区を選定することが重要である。γ多様性を最大化
する最小の地点の組合せを選択する解析手法として、各地点の群集
構成種の非代替性を評価する相補性解析が提唱されている。本研究
では、陸域と水域生態系の移行帯に位置し特に人為影響を強く受け
る沿岸生態系に着目し、琵琶湖全域の沿岸生態系における生物分布
の調査にもとづく相補性解析により、琵琶湖生態系の多様性維持に
おいて重要性の高い地点の特定を目的とした。また、解析により選
定された地点と、現在設定されている自然保護区を比較(ギャップ
解析)することで、既存の自然保護システムにおける保全効率の改
善にむけた知見の提供を目指す。本発表では、琵琶湖沿岸に生息す
る底生動物・魚類・沈水植物に対する相補性解析とギャップ解析の
予備結果を紹介する。
327
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-341
P2-342
小笠原諸島に広域に分布するタコノキの遺伝構造
韓国南部の離島におけるユーラシアカワウソ Lutra lutra
の生息状況
* 鈴木節子,永光輝義(森林総研),須貝杏子,加藤英寿(首都大・牧野
標本館),吉丸博志(森林総研・多摩)
* 金炫禛(東農大・農),安藤元一(東農大・農),小川博(東農大・農)
小笠原は過去に一度も大陸と繋がったことのない海洋島であるた
め、独自の進化を遂げた固有種が数多く生息しているが、近年、人
間の入植に伴って移入した外来種によって、本来の生態系が崩壊し
つつある。野生化したヤギによって裸地化した場所や、外来樹木の
アカギやモクマオウなどを駆除した跡地に在来の樹木を植栽するこ
とによって本来の植生を回復することが期待されている。タコノキ
はタコノキ科の常緑性の高木で、小笠原諸島の固有種である。種子
は海流散布であるが、オガサワラオオコウモリが種子を運ぶとも言
われている。風衝地や飛砂地、急な斜面でも定着・生長しやすいため、
小笠原諸島での植生回復への活用が期待されている。しかし、この
ような植栽を行う際は対象種において遺伝構造を調べ、遺伝子撹乱
が生じないよう配慮する必要がある。そこで本研究では、小笠原諸
島に広域分布するタコノキ 31 集団計 893 個体を 14 遺伝子座の ESTSSR を用いて解析することによって集団遺伝構造を明らかにした。
31 集団全体の遺伝的分化(F ST)は 0.027 と小さいながらも有意な値
を示した。集団ペア間の地理的距離と遺伝的分化の程度の間には有
意な相関関係が認められた(r 2=0.034)。小笠原諸島全体を対象に行
った STRUCTURE 解析の結果は、小笠原諸島全体に広く分布するク
ラスターと父島で多いクラスターの 2 つに分けられたが、両者はほ
とんどの集団で混合していた。近隣接合樹も列島ごとに高いブート
ストラップ確率でまとまることはなく、列島間ではっきりとした構
造はみられなかった。これらの結果は今後の植栽計画を考える上で
活用できるものと期待される。
韓国南部には小さな離島が多く分布し、その一部にはユーラシア
カワウソ Lutra lutra が生息する。これら離島の多くは本土から遠く
離れているので、本種が日常的に泳ぎ渡れる距離ではないし、面積
も小さいので各島の個体数も限られていると予想される。このため
離島 10 カ所において、本種の生息状況を生息痕跡調査と住民への聞
き込みによって調べた。調査した島の面積は 0.5-17.8km2、各島の海
岸線延長は 3.8-41.8㎞、本土からの直線距離は 8.2-96.3㎞、本種が本
土から島伝いに泳ぎ渡るために必要な最長渡海距離は 1.4-34.5㎞であ
った。本種の生息情報が得られた島は 10 島のうち 7 島であり、情報
の無かった 3 島はいずれも直線距離 41㎞以上、最長渡海距離 19㎞以
上の位置にあった。情報の得られた 7 島は、いずれも本土からの直
線距離 65㎞以内、最長渡海距離 31㎞以内の位置にあった。生息して
いた 7 島のうち最も離れた島は渡海距離 31㎞の黒山島 ( フクサンド
) であった。この島は海岸線延長が 40㎞もあるので、本種が孤立個
体群として生息している可能性がある。生息情報の得られた最小の
島は、小每勿島 ( ソメムルド、面積 0.5㎞ 2、海岸線延長 3.8km)と麗
瑞島 ( ヨソド、面積 2.5㎞ 2、海岸線延長 10km) であった。前者は本
土から 2.5㎞しか離れていないので本土と日常的に交流可能と考えら
れたが、後者は他の島から 18㎞も離れているので、少数の本種が孤
立個体群として生息していると考えられた。後者の海岸における糞
密度は 2.7 個 /500m であり、本土の海岸における糞密度 2.3 個 /500m
と類似した値を示した。本種が生息していた島では、船着場の土手
や養殖筏からも糞がみつかった。さらに、網の中で溺死した個体の
情報を得るなど、本種が人々の生活圏と近い場所で暮らしているこ
とが知られた。
P2-343
P2-344
山間部の水田地帯におけるカエル類の産卵場所選好性
博物館標本から再現する明治から昭和前期の干潟環境 -
金井亮介,* 中西康介,田和康太,沢田裕一(滋賀県大・環境科学)
東京湾と大阪湾を中心に -
カエル類は水田地帯を代表する生物であるが、日本各地で地方版
レッドデータブックに記載されるほど個体数を減少させている。そ
の原因の一つに産卵場所である水田地帯の環境悪化が挙げられる。
滋賀県高島市の水田地帯では 5 種のカエル類の産卵が確認されてお
り、特にモリアオガエル Rhacophorus arboreus 、シュレーゲルアオガ
エル Rhacophorus schlegeli の卵塊が多く見られる。モリアオガエル
は通常水面に張り出した樹上に産卵するが、ここではシュレーゲル
アオガエルと同じように畔の水田に面した部分に産卵を行っている。
しかし、畦塗りにより畦を固めてしまうと、シュレーゲルアオガエル、
モリアオガエル両種の産卵が難しくなると考えられる。そこで本研
究では 2 種が産卵場所として好む水田環境、特に畦塗りを行なった
水田と行なっていない水田で両種の産卵数に違いがあるのか調査を
した。
滋賀県高島市の山間部にある水田地帯で、モリアオガエル、シュ
レーゲルアオガエルが産卵を行った 2012 年 5 月 13 日から 6 月 29 日
までの期間、調査を行った。調査地域の中から畦を 33 箇所、水田に
隣接した水路(堀上)の縁を 24 箇所選んだ。週 3 回午前中に調査水
田・水路に産卵されている 2 種の卵塊をカウントした。同時に、調
査畦において畦塗りの有無を、調査水田、水路の両方において水深
と水温を記録した。これらの要因と 2 種のカエル類の産卵数との関
係を GLMM を用いて解析した。
その結果、モリアオガエルでは、水温が高いほど、また水深が深
いほど、卵塊数が多いという結果が得られたが、畦塗りの効果は有
意ではなかった。ただし、畦塗りを行った畦の方が卵塊数は少ない
という傾向はみられた。シュレーゲルアオガエルの卵塊数は、畦塗
りを行なっていると減少し、また水温が高いほど多くなるという結
果が示された。
* 石田 惣(大阪市立自然史博物館)
日本の自然環境の本来の姿を知るうえで、高度成長期以前の生物
相の把握は重要である。過去の生物相を再構築する情報源としては、
主として文献と標本が挙げられる。文献は生物相を網羅的に記録し
ていることが多い一方で、同定精度の検証や隠蔽種の分離ができな
いといった問題がある。標本は同定を再検証できる一方で、生物相
の記録としては断片的なことが多い。標本につきまとうこの欠点を
補うことができれば、過去の生物相の情報としては信頼性の高いも
のとなる。そこで、博物館等の収蔵標本をできる限り広範囲に探索
することで、高度成長期以前の日本の干潟における生物相がどの程
度再構築できるかを試みた。分類群としては比較的標本が残ってい
る貝類を対象とした。
その結果、現存標本が少ない明治∼昭和前期であっても、活動す
る研究者や採集者が多かった東京湾や大阪湾等では比較的多くの標
本が残っていた。これらにはすでにその海域で絶滅した種や、文献
で記録のない種も含まれていた。その種構成をみると、干潟の残存
面積が大きい海域の現在の生物相と類似しており、当時そのような
自然景観であったと類推される。また、採集数が多く海域内で複数
地点の標本がある分類群(バイやハマグリ等の食用種、ウミニナ類
など)では分布範囲の推定もある程度可能と考えられた。
一方、古い時期に地方・僻地で採集された標本では、多くの場合
採集地情報の解像度は低く(例えば「琉球」など旧国名のみ)、点数
が増えたとしても保全に有用な分布情報にはなりにくいと考えられ
る。全体的な傾向として、ラベルに記される採集地情報の解像度が
上がるのは戦後以降であり、その点では昭和 20 ∼ 30 年代の標本の
重要性が高いといえる。このような標本群から得られた興味深い生
物相情報の例についても紹介する。
328
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-345
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砂浜海岸の人為的改変がスナガニ類の生息場所利用に与
ため池の栄養塩推定モデルの開発
える影響
* 木塚俊和,深澤圭太,石田真也,高村典子(国環研)
和田年史(鳥取県博・山陰海岸学習館)
富栄養化はため池の生物多様性を低下させる主要因と言われてお
り、生物多様性を保全する上で富栄養化の要因の解明が求められて
いる。何らかの環境情報から水域の栄養塩レベルを推定するモデル
は、各地のため池群の栄養塩レベルを広域的に評価するだけでなく、
富栄養化のプロセスや要因を理解する上で有効なツールとなる。し
かし、既存のモデルは河川や湖沼などがほとんどで、ため池などの
小規模でモニタリングデータの乏しい水域を対象としたモデルはほ
とんど見当たらない。本研究では、1)ため池の全窒素と全リン濃度
を推定するモデルを提案すること、2)作成したモデルを用いて富栄
養化の要因を明らかにすることを目的とする。兵庫県南部を対象地
域とし、池の水源タイプ(集水域のみ、ダム水補給、河川水補給、
井戸水補給)と集水域の土地利用(森林、水田、畑地、市街地、ゴ
ルフ場)の各組合せから 3 か所程度ずつ、計 50 か所の池を選定した。
栄養塩類を含むため池の水質調査を 2012 年 4 ∼ 10 月の毎月 1 回実
施するとともに、モデルの作成に必要な集水域情報(集水域面積、
土地利用、水路網など)を GIS 上で整備した。栄養塩推定モデルと
して、集水域における栄養塩排出モデル(原単位法)と池内部での
水質変化モデル(Vollenweider モデル)を統合したプロセスモデルを
作成した。その際、栄養塩の排出負荷原単位と Vollenweider モデル
の沈降係数をパラメーターとし、池の全窒素・全リン濃度の実測値
に最も合うようにベイズ推定した。プロセスモデルの他に、富栄養
化に関わる環境変量を網羅的に探索する統計モデル(一般化線形モ
デル)も作成した。推定精度、出力情報の有用性、汎用性等の観点
からプロセスモデルと統計モデルの利点と難点を整理した。
海岸侵食や人的利用等の影響によって、砂浜海岸の適切な管理と
保全が求められている中で、それらを評価する生物指標としてスナ
ガニ属のカニ類(Ocypode spp.;以下、スナガニ類)が注目されている。
本研究では、ほぼ同じ地域の沿岸域にありながら人為的改変が行わ
れている海岸とそうでない海岸において、スナガニ類の生息場所利
用の違いについて調べた。砂の採取や養浜が毎年行われている海岸
では、人為的改変の影響が少ない海岸に比べて、巣穴数から推定さ
れたスナガニ類の生息密度が明らかに低い値を示した。さらに、人
為的改変が行われている砂浜海岸では、活動期間を通して巣穴開口
部のサイズが小さく、巣穴の分布が汀線付近に集中し、人為的改変
の影響が少ない海岸よりも先に巣穴の出現時期が終わることが確認
された。これらのことから、人為的改変によってスナガニ類の成体
が定着できない砂浜環境となっている可能性が考えられ、毎年新し
く砂浜に着底する幼体のみが養浜後の海岸に生息していることが推
測された。今後は、人為的改変が行われている海岸でスナガニ類の
成体が定着できない要因を解明するとともに、海浜動植物の生活史
や生息環境にも配慮した海岸保全策を検討していくことが望まれる。
P2-347
P2-348
刈り取り残渣は植生復元の材料として有効か?
自生・植栽集団の遺伝構造からみたユキヤナギのマネジ
* 山田晋,根本正之(東京大・農)
メント
近年,生物多様性の回復を図る自然再生において,目標植物種の
導入を通した植生復元が盛んになっている。こうした復元には,専
ら,埋土種子を含む表土が復元材料として用いられてきた。しかし,
草原生植物など埋土種子の形成されにくい種群に対して有効な植生
復元手法は開発されていない。そこで,本研究では,草原生植物の
主要な生育地である二次草地と,植生管理が継続されている二次林
を対象に,結実種子を含む刈り取り残渣という新たな復元材料を用
いた植生復元技術の開発を目指している。この発表では,次の 2 題
について報告する。
復元材料に含まれる目標種の種子量は,植生復元の成否を大きく
左右する。刈り取り時期は結実種子量に影響を及ぼす主要な要因で
あり,多種多量の復元目標種の種子が得られる刈り取り時期の解明
は,植生復元の際,重要な考慮事項である。そこで,第一の研究として,
2 箇所のドナーサイトで時期を変えた刈り取り試験を行い,刈り取
り残渣から発芽する個体数を計測する。
単位面積に撒き出す刈り取り残渣の量が多いほど,植生復元地で
の種子密度が高まる半面,増加する残渣の量は種子の発芽を阻害す
るようになる。種子量とバイオマス量,および両者の比が発芽密度
に及ぼす影響を把握すれば,得られた種子が効率よく発芽する残渣
撒き出し方法を植生復元に利用できる。そこで,複数の撒き出し方
法によって発芽した種子量を比較する。刈り取り残渣の撒き出し方
法と発芽種子数との関係を解明し,刈り取り残渣に含まれる種子が
高い確率で発芽する撒き出し方法を明らかにする。
* 芦澤和也(明治大・研究知財),木村恵(森林総研),練春蘭(東大・ア
生セ),倉本宣(明治大・農)
ユキヤナギ(Spiraea thunbergii Sieb.)は、河川の岩場に生育するバ
ラ科の落葉低木であり、大阪府、岡山県、広島県などの数府県の地
域版 RDB に記載されている。一方で、本種は、庭木としてさまざま
な地域、場所に植栽される植物であり、自生地の周辺に植栽される
場合もある。生育地の保全が求められているが、遺伝子レベルでの
多様性の保全や植栽のあり方については検討されていない。本研究
では、国内に広く植栽されていながら、自生地は限られているとい
う特徴をもつ本種の取扱いを検討するために、8 座の核マイクロサ
テライトマーカーを用いて、本種の自生集団と植栽集団の遺伝構造
を明らかにした。
東北地方から中国地方までの本州の 19 河川と徳島県の 1 河川の計
20 河川の岩場に生育する 312 個体、19 都道府県で植栽、栽培されて
いる 60 個体、および、栽培地域不明の流通個体 10 個体の遺伝子型
を決定した。
ベイズ推定に基づくソフトウェア STRUCTURE を用いて、遺伝
構造を推定したところ、3 つのクラスターが検出された。阿武隈川、
鮫川、久慈川の自生集団は、クラスター 1 に、荒川、手取川、櫛田川、
宮川、吉野川、犬上川、保津川、高梁川、錦川、園瀬川の自生集団は、
クラスター 2 に、多摩川の自生集団は、クラスター 3 に分類された。
植栽集団のうち、58 個体がクラスター 3 に、10 個体がクラスター 2
に分類された。残る 2 個体はクラスター 2 と 3 の割合が混在していた。
自生地付近での植栽は距離を十分に離すなど、慎重に行う必要があ
るが、特に、クラスター 1、2 が優占する自生集団の近くでは、可能
な限り植栽を避ける必要がある。また、ほとんどの自生集団は、集
団間で遺伝的に分化しているため、自生集団間での移動も避けるべ
きである。
329
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-349
P2-350
Age and growth of the endangered Cobitidae fishes,
マイクロチップを用いた小型サンショウウオ類の行動追
Cobitis matsubare and Cobitis sp. Kyushu form
跡と生息地利用の解明
*Kim, E.J. (Univ. of Tokyo), Nakajima, J.(FIHES), Takaku, K.(JWRC),
Onikura N. (Kyushu Univ.)
* 園田陽一,上野裕介,松江正彦,栗原正夫
マイクロチップの装着による個体識別とトランスポンダーを用
いた個体の移動状況の把握は、様々な動物調査で採用されるように
なってきたが、小型サンショウウオ類を対象とした例は多くない。
そこで本研究は、マイクロチップを装着したクロサンショウウオ
Hynobius nigrescens の行動を追跡し、生息地利用を明らかにするとと
もに、本手法の技術的な課題を明らかにすることを目的とした。調
査地は、一般国道 253 号線八箇峠道路(新潟県十日町市)近くの小
型サンショウウオ類の産卵池とその周辺とした。2011 年・2012 年
の 5 月に捕獲調査を実施し、マイクロチップ(Trovan 社製,長さ約
11mm ×直径約 2mm)を装着、各種計測後に放逐した。2011 年の夏
期(7 月)、秋期(9 月)、積雪期前(11 月)、融雪期(3 月)に、サ
ンショウウオの季節移動の実態把握のため、マイクロチップリーダ
ーにより個体を探索した。あわせてマイクロチップリーダーを用い
た小型サンショウウオ類の探索方法の有効性を検証するため、マイ
クロチップリーダーでの探索後、ネストトラップ法、ピットフォー
ルトラップ法、見つけどり法により発見漏れ個体の有無を確かめた。
個体を確認した場合は、マイクロチップ ID(装着個体のみ)と体サ
イズ、確認箇所の位置と環境を記録し、放逐した。マイクロチップ
が未装着の個体については、マイクロチップを装着した。さらに、
道路によって生息地が分断された個所に設置された道路横断施設の
利用状況をモニタリングするために、マイクロチップリーダーアン
テナ(Dorset 社製、縦 500㎜×横 500㎜)と据置型リーダーにより、
マイクロチップ ID と通過日時を記録した。本発表では、これらのデ
ータをもとに報告する。
P2-351
P2-352
東日本大震災後の湧水生態系の回復:岩手県大槌町のト
兵庫県北部の棚田,放棄棚田,圃場整備水田における畦
ゲウオ科イトヨを中心に
畔法面草原の生態的特性の比較
* 久米学(岐阜経済大),北野潤(遺伝研),西田翔太郎(岐阜経済大),
鷲見哲也(大同大),森誠一(岐阜経済大)
* 石田弘明(兵庫県大),黒田有寿茂(兵庫県大),栃本大介((財)ひょ
うご環境創造協会),江間薫(近畿中国森林管理局)
岩手県大槌町が誇る豊富な湧水は,独自の生態系を形成し,豊か
な生物多様性を支えてきた.また当地は,希少魚であるトゲウオ科
イトヨの生息地でもある.そのため大槌町では,湧水地,およびそ
こに生息するイトヨを保全の対象としてきた.しかし,2011 年 3 月
11 日に発生した東日本大震災に伴う大津波により,大槌町の湧水生
態系は壊滅的なダメージを受けた.震災後の湧水生態系,およびそ
こに生息する生物相の変化の調査は貴重な知見であり,大槌町の復
興にも貢献できると期待される.そこで,震災直後から行ったイト
ヨを中心とした水生生物および水環境のモニタリング調査の結果を
報告し,湧水の存在が陸水生態系の回復に果たす役割について考察
する.演者らは 2011 年以前からも当地で調査を行って来たことから
津波前のデータと比較することが可能であり,今後は津波の影響お
よび復元状況を明らかにしていきたい.
330
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-353
P2-354
コウノトリの遺伝解析と個体群管理への適用の可能性
陸ガニ類から放出されたゾエアの回遊と魚類による利用
* 内藤和明(兵庫県立大・自然研)
・西海 功(科博)
・大迫義人(兵庫県立大・
自然研)
* 中山貴将,山岸明日翔,柳井清治(石川県大)
沿岸地帯の照葉樹林に生息する陸ガニ類(アカテガニ Chiromantes
haematochair,クロベンケイガニ Chiromantes dehaali)は夏季夜間に
水辺で放仔を行い,ゾエアは海域で成長し,メガロパになって遡上
する生活史を持つ.しかしその生態には不明な点が多く,放出され
た幼生が河口生態系に与える影響を調べられた例は少ない.そこで
本研究は,ゾエアの回遊とメガロパの遡上までの生態史とこれらを
捕食する魚類との関係を明らかにすることを目的とする.
調査地として石川県と福井県の境界に位置し,陸ガニ類の生息地
として知られている鹿島の森とそれに隣接する汽水湖である北潟湖
を選定した.北潟湖は最大水深 3.5m,水域面積 2.13km2 の汽水湖
であり,鹿島の森の北側で大聖寺川と合流し日本海に注いでいる.
2012 年 8 月から 10 月の夜間,プランクトンネットを用いて幼生の
採集を行い,同時に投網による魚類の捕獲を行った.採集サンプル
はエタノール保存し,実体顕微鏡下でソーティングを行った.また
捕獲した魚類は胃を切除し,その内容物を観察した.
この結果,ゾエアは 7 月下旬から 9 月下旬にかけて継続して出現
した.一方メガロパは,9 月に採集され始め,10 月下旬に最も多く
なった.両者とも夕方から出現し,午後 9 時前後から深夜にかけて
数がピークとなった.魚種はボラ Mugil cephalus が最も多く捕獲され,
次いでマハゼ Acanthogobius flavimanus,スズキ Lateolabrax japonicus
の幼魚などが捕獲された.8 月にはボラの胃から多くのゾエアを観
察され,9 月上旬にはスズキの幼魚から多くのメガロパが採取され
た.以上の結果から陸ガニの幼生は夏季河口域の魚類の重要な餌と
なることが明らかになった.
コウノトリの国内の野外繁殖個体群は 1971 年に一旦絶滅し,2005
年から豊岡盆地において再導入が進められている.2007 年からは野
外で繁殖しており個体数は約 60 個体に達した.しかし遺伝的リソー
スが限られているため,飼育下,野外ともに集団の遺伝的多様性の
確保が依然として課題である.日本で飼育されているコウノトリの
集団の遺伝的多様性については,これまでにミトコンドリア DNA の
ハプロタイプに着目した研究が行われ,その結果は飼育下でのペア
形成の際にも参考にされてきた.一方,核 DNA を対象にした解析
は未だ十分でない.本研究では,豊岡盆地における飼育集団および
野外集団の一部の個体を対象に,マイクロサテライトマーカーを用
いて集団の遺伝的多様性を解析し,遺伝子座毎の多型の有無や程度
を明らかにし,タイピング結果に基づき個体間の遺伝的距離を試算
した.
兵庫県立コウノトリの郷公園で飼育している 18 個体および豊岡
盆地に放鳥された 13 個体を解析対象個体とした(一部は既に死亡).
コウノトリおよび近縁種であるシュバシコウを対象にマーカーが開
発されたものと独自に開発したものの計 12 遺伝子座について,蛍
光標識されたプライマーを用いて PCR を行い,ジェネティックア
ナライザで各遺伝子座の断片長データを得て個体毎にタイピングを
行った.解析対象個体の全組合わせについて個体間の遺伝的距離を
Codom-Genotypic distance を用いて算出し,多次元尺度法を用いて視
覚化した.その結果,遺伝子座当たりの遺伝子型の数は平均 5.08,
ヘテロ接合度の期待値は平均 0.60 であった.ペアになっている個体
は互いに比較的離れた位置に配置されること,すなわち遺伝的距離
が比較的遠い個体の間でペアが形成されていることが明らかになっ
た.
P2-355
P2-356
鉱山荒廃地の森林植生回復について
繁殖北限域におけるサシバの給餌動物としての昆虫の意
目黒伸一(地球環境戦略研究機関 国際生態学センター)
義 - 昆虫の発生消長とサシバの育雛期間のミスマッチ -
鉱山の掘削跡地や精錬場が荒廃地となり、植生回復が難しいケー
スは国内外に多くみられる。その一方、人為の有無を問わず改変さ
れた自然が回復した例は少ない。
本調査地である秋田県小坂町では明治時代から銅や鉛、亜鉛、金、
銀などの製錬が行われてきた。現在では精度の高いフィルターが設
置され、排出されるガスの徹底がなされ、極力低減されている。し
かしながら、過去に製錬課程で生成される亜硫酸ガスや鉱滓、廃石、
鉱屑などによって形成されるいわゆる捨石堆積により、土壌 pH は
時に 3.5 を下回る酸性となり、その土地にあった植生は破壊あるい
は劣化され、対応策としてニセアカシアなどによる植林が行われて
きた。
しかし、外来種による単一植林ではなく生態に配慮した生態保全
を行いたいとの要請を DOWA ホールディングス株式会社から受け、
2005 年から植物社会学的調査を元に生態回復を行ってきた。本発表
では、その方法およびこれまでの経過を報告する。
植栽に用いた樹種は当地の潜在自然植生構成種であるミズナラ、
コナラ、ハウチワカエデ、オオヤマザクラ、シナノキ、ヤマボウシ、
ナナカマドなどの夏緑広葉樹である。種数はこれまでに 25 種にのぼ
り、これらの樹種のポット苗を混植した。植栽地は上記の捨石堆積
場や鉱滓が積み上げられたカラミ山などの開放地のほか、将来の林
層転換を念頭にニセアカシア植林下にも展開され、これまでに 10 万
本を超える樹木が植えられている。
植えられた樹木の生長は、その環境条件によって異なるが、良好
なものは樹高3mを超し、根元直径は5cm 以上になり、種子を結実
する個体も出てきている。生長量と土壌には相関が認められ、盛り
土に用いられた土壌が良いほど、生長量が増大した。植栽された基盤、
斜面方位、樹種、土壌 pH などと生長量の関係について検討する。
* 稲村弘一,東淳樹(岩手大学・農)
サシバは両生・爬虫類、小型哺乳類、昆虫類を捕食し、主に里山
環境で繁殖する猛禽類である。岩手県においては両生・爬虫類の給
餌割合が高いのに対し、関東以西においては昆虫類の割合が高い。
このように、類似した環境であっても、地域によって給餌する動物
の割合に違いがあることがわかっている。これは、本種の育雛期間
と給餌動物の発生消長に関係があると思われる。岩手県において、
育雛期に昆虫類の給餌割合が低い理由としては、本種の育雛期と昆
虫類の発生消長のタイミングにミスマッチが生じているからである
と考えられる。そこで本研究では、給餌割合の高い両生・爬虫類と
岩手県で給餌例のある昆虫類数種の発生消長を比較し、給餌動物と
しての昆虫類の意義を考察した。
調査対象種として、給餌割合の高いトウキョウダルマガエルとニ
ホンカナヘビ、ヘビ類、給餌割合の低い昆虫類としては、トンボ亜
目成虫・幼虫、ガ類幼虫、コウチュウ目、セミ類、バッタ目・カマ
キリ目を選定した。本種の繁殖が確認されている範囲内に調査地を
設定し、各対象種の個体数をカウントした。
両生・爬虫類は、本種の育雛期間である 5 月下旬から 7 月上旬に
発生のピークがあり、トンボ亜目の幼虫を除いた昆虫類は 7 月上旬
以降にピークがあった。このことから、岩手県において昆虫類の給
餌割合が両生・爬虫類よりも低いのは、両生・爬虫類の発生時期が
本種の育雛期間と重なっているのに対し、昆虫類のそれは重複しな
いためであると考えられた。
本種の給餌動物の中では、昆虫類の消化吸収効率は著しく低いこ
とがわかっている。今後予想される地球温暖化によって、岩手県に
おいて昆虫類の発生時期が早期化した場合には、昆虫類の給餌割合
が増加し、本種の繁殖成績に影響が及ぶ可能性が懸念される。
331
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-357
P2-358
東海地方のため池におけるヨシノボリ類の遺伝的かく乱
人工衛星 ALOS を用いた北限域のブナ林のモニタリング
古橋芽,古田莉奈,* 向井貴彦(岐阜大・地域科学)
手法の開発
東海地方の伊勢湾・三河湾周辺には固有の動植物が多く見られ,
トウカイヨシノボリは岐阜県・愛知県・三重県の丘陵地から平野部
のため池と小水路に生息する地域固有のハゼ科魚類である.トウカ
イヨシノボリは 2005 年まで近縁種のトウヨシノボリと混同されてい
たため,詳細な分布や生息状況は把握されていない.しかし,三重
県鈴鹿市のため池群ではトウカイヨシノボリとトウヨシノボリの雑
種化が確認され,トウヨシノボリの分布拡大によって地域固有のト
ウカイヨシノボリの生息地が減少していることが示唆された(向井
ほか,2012).そのため,本種の保全のために伊勢湾・三河湾周辺地
域におけるトウカイヨシノボリの分布と遺伝的かく乱の現状を早急
に明らかにする必要がある.
本研究では,2005 年から 2012 年に岐阜県と愛知県のため池(約
30 地点)と小河川(約 20 地点)でトウカイヨシノボリと近縁種の
採集を行い,色斑とミトコンドリア DNA(mtDNA)による種同定
をおこなった.色斑は個体ごとに生時の写真を撮影して記録した.
mtDNA は ND5 遺伝子の部分塩基配列約 1000bp を決定した.調査地
全体では,トウカイヨシノボリ,トウヨシノボリ,シマヒレヨシノ
ボリ,ビワヨシノボリ,カワヨシノボリ,シマヨシノボリの 6 種の
mtDNA 型が見られたが,種間交雑が生じうる複数種の混在が示され
る場所が 6 地点あった(トウカイ+トウ 2 地点,トウカイ+シマヒ
レ 1 地点,トウカイ+ビワ 1 地点,トウカイ+トウ+シマヒレ 2 地点).
そのうちの 4 地点では,個体の色斑的特徴と mtDNA 型が一致せず,
交雑が進行していることが示された.また,岐阜県可児市のため池
群ではトウヨシノボリの mtDNA のみ見られたが,色斑にはトウカ
イヨシノボリもしくはシマヒレヨシノボリの特徴が現れており,雑
種群の可能性が示唆された.
* 石井潤(東京大・農),大谷雅人(森林総研),齋藤均(黒松内町ブナセ
ンター),鷲谷いづみ(東京大・農)
日本の落葉広葉樹林の主要構成樹種であるブナは、20 世紀には保
全よりも伐採が卓越したが、今日では再生の取り組みも始まってい
る。生物多様性保全に寄与するブナ林の再生においては、森林植生
全体をモニタリングすることが望ましい。たとえば、時に下層で優
占種となるササ類は、更新稚樹に大きく影響する要因として、その
分布を把握する必要がある。
本研究では、北海道南西部の黒松内低地帯周辺のブナ北限地域に
おいて、人工衛星 ALOS のデータを活用したリモートセンシングに
よるブナ林の生物多様性保全のための広域モニタリングの可能性を
検討する。ALOS は、2006 年に JAXA が打ち上げた地球観測衛星で
あり、4 バンド(青、緑、赤、近赤外光)のスペクトルデータを空
間分解能 10 m で取得することが可能で、多様な森林タイプがモザイ
ク状に分布する日本の森林植生のモニタリングに適していると考え
られる。現地調査データは、30 方形区(30 × 30 m)のブナの被度(%)
データと 159 地点の植生タイプデータを用い、ALOS 画像は、ブナ
の展葉が終了する時期(ブナは他の樹種より早い時期に展葉し、そ
の若葉は淡い緑色をして目立つ)である 6 月中旬と、樹木の展葉前
でササ類が上空から直接観察できる 4 月下旬に撮影されたものを用
いる。これらのデータに基づき、対象にふさわしい解析と地図化の
手法を検討した。
P2-359
P2-360
モンゴル・グレートゴビ A 厳重保全地域の植生と絶滅危
里川(能登・熊木川流域)における魚類相:最近 50 年
惧哺乳類による種子散布
の変遷、現状
* 伊藤健彦(鳥取大・乾燥地研),程云湘(鳥取大・乾燥地研),浅野眞希
(農環研),Ts. Narangerel(モンゴル農業大),J. Undarmaa(モンゴ
ル農業大)
* 寺島佑樹(金沢大,理工学域),堀内美緒(金沢大,地域連携推進センター),
粟野秀,岩井紀美子(金沢大,環日本海域環境研究センター),中村浩二(金
沢大),柳井清治(石川県立大学)
モンゴルの南西部に位置するグレートゴビ A 厳重保全地域は、野
生フタコブラクダやゴビグマなどの絶滅危惧哺乳類が生息する保全
上重要な極めて重要な地域である。極乾燥地域に位置するため、保
全地域内では植生がほとんどない地域が大部分を占めるが、山地や
湧水地周辺などに比較的植物が多い地域が点在している。そこで、
湧水地ごとの絶滅危惧哺乳類の利用状況と、種子散布に関する植物
―動物の対応関係を明らかにすることを目的とした。2009 年と 2010
年の 8 月下旬から 9 月上旬にかけて、厳重保全地域内の湧水地 8 地
点(2 年連続調査は内 6 地点)周辺で植生および結実状況調査と、
フタコブラクダ、ゴビグマ、アジアノロバ、コウジョウセンガゼル
の糞採集をおこなった。また、実験室において、採集した糞からの
発芽実験をおこなった。その結果、2 年連続で調査した湧水地では、
年による動物種ごとの糞の発見状況には変化がなく、フタコブラク
ダの糞はすべての湧水地で採集できた。しかし、他の 3 種では糞が
発見できない地点があった。2 年間の発見状況に違いがなかったこ
とから、動物種による分布やよく使う湧水地が異なっている可能性
が示唆された。糞採集時に結実していた植物種は複数存在したが、
発芽実験では、Nitraria spp. のみの発芽が 5 地点で確認された。その
うち、2 年間とも発芽が確認されたのは 2 地点であり、別の 2 地点
では 2009 年のみ、1 地点では 2010 年のみ発芽が確認された。ただし、
2 地点のゴビグマ以外からは、発芽数が少なく、アジアノロバから
は発芽が全く確認されなかった。以上から、動物種による種子散布
者としての貢献度の違いと結実状況の地域差が示唆された。
近年,能登の里山・里海が 2011 年に世界農業遺産に認定されるな
ど,里山・里海がもたらす生物多様性や生態系サービスが注目され,
その保全への関心が高まっている。本研究の目的は里山・里海をつ
なぐ里川に生息する淡水魚類に影響を与える環境要因を現在と過去
(1960 年代以前:圃場整備前)を比較し明らかにすることで,復元
のための目標となる河川環境を明らかにすることである。研究対象
地として,石川県七尾市を流れる典型的里川の熊木川流域を選定し
た。調査区を熊木川本流とその支流4河川に合計 15 ヶ所設定し,各
調査区において魚類調査(投網,電気ショッカー使用)と生息環境
調査(計測項目:水温,水深,川幅,流速,河床構造,カバーの面積,
カバーの水深)をおこなった。次にこれらの調査から得られたデー
タをもとに一般化線形モデルにより,淡水魚類の種数に影響を与え
ている生息環境要因を推定した。過去の生息状況と河川環境につい
ては,地元の高齢者(60 歳以上)を対象とした聞き取り調査を実施し,
魚類相の時間的変化とその要因について解析を行った。
この結果,魚類調査では,流域全体において計 15 種が確認された。
応答変数を種数とする一般化線形モデルによる分析から,流速の変
動幅とカバーの水深と小礫率いうモデルの AIC 値が最小となった。
聞き取り調査から,現在では 1960 年代以前と比較すると淵,河床の
岩,河岸のカバーが消失しており,そのような環境を必要とするウ
ナギ(Anguilla japonica)
,ナマズ(Silurus asotus)の減少が著しいと
いうことがわかった。これらのことから,流速を変化させるような
カバーのある瀬淵構造を作ることが多様な魚類相を確保する上で重
要であると考えられる。
332
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-361
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チョウセンキバナアツモリソウの保全遺伝学的研究
三瓶山火入れ草原におけるオキナグサの生育環境
* 九石太樹,陶山佳久(東北大院・農)
* 井上雅仁(三瓶自然館),高橋佳孝,堤道生(近中四農研センター)
わが国では秋田県のごく一部に自生するチョウセンキバナアツモ
リソウ Cypripedium guttatum (以下本種)は、過去における過度の盗
掘などにより著しく自生個体数が減少し、極めて希少な植物として
絶滅危惧 IA 類に指定されている。秋田県の自生地以外には北海道
大学植物園で現地外保存されており、海外では韓国、中国、ロシア、
アラスカなどに自生する。本種は環境省の「国内希少野生動植物種」
として保護増殖計画の対象種となっており、北大植物園で保存する
株の現地への植戻しや増殖などが検討されている。本研究の目的は、
現地外保存されている株と自生地の株、さらには海外の株との間の
遺伝的な関係を明らかにし、適切な保護増殖計画のための基礎的な
情報を蓄積することである。
調査対象サンプルは、秋田県の自生株、北大植物園の現地外保存株、
およびアラスカの自生地から採取した株とした。これらのサンプル
の DNA 分析を行うことによって、秋田県の自生地のクローン数推定、
遺伝的多様性評価、さらには各サンプル間の遺伝的関係の解析を行
った。その結果、秋田県の自生地には、少なくとも複数クローンが
自生することが明らかになった。また、北大植物園の現地外保存株
と秋田県の自生地株との間には遺伝的に近縁な関係が認められ、こ
れらの現地外保存株はもともと秋田県の自生地に由来する可能性が
高いことが明らかになった。
オキナグサ Pulsatilla cernua Spreng. はキンポウゲ科の多年草で,日
当たりのよい草原や河川敷に生育している.生育場所である草原の
多くは,火入れや放牧などの管理により維持されてきた半自然草原
であるが,管理放棄などによりその面積は著しく減少してきた.こ
のような生育場所の減少や園芸採取などにより,多くの都府県で絶
滅危惧種となっている.
島根県の三瓶山の半自然草原にもオキナグサがみられ,県内に残
る数少ない自生地となっている.同地の西の原と呼ばれる場所には,
毎年春の火入れにより維持されているススキ草原が残っている.こ
の草原の中にはオキナグサの生育がみられるが分布は一様ではなく,
生育環境の違いなどを把握することは,今後の保全を検討する上で
重要と考えられる.
そこで本研究では,三瓶山の火入れ草原におけるオキナグサの生
育環境を把握することを目的とし,植生構造や土壌条件などの調査
を行った.現地では 2m × 2m の方形区を,オキナグサの生育がある
場所に 10 箇所,生育がみられない場所に 20 箇所設置した(それぞ
れ生育区,対照区とする).植生構造の調査としては,各方形区で植
生高,各種の高さと被度などを記録した.土壌条件の調査としては,
方形区周辺から土壌を採取し,土壌 pH や有効態リン酸などを分析
した.
平均植生高は生育区で 0.91m,対照区で 1.47m,優占種であるスス
キの被度はそれぞれ 39.0%,76.6% であった.植生構造の特徴とし
ては,生育区では植生高が低く,優占種であるススキの被度が低い
ことがあげられた.土壌条件については,pH(H2O) は両区で大きな
差はみられなかったが,有効態リン酸は生育区で低い傾向にあった.
火入れ草原の中では,貧栄養で植生高の低い場所が,オキナグサ生
育地として適していることが示唆された.
P2-363
P2-364
滋賀県東部のため池における希少淡水貝類オグラヌマガ
多摩川支流三沢川源流部におけるカワモズクの分布の推
イの継続調査と保全活動 ~地域参画によるモニタリン
移とその要因
グ調査の実践~
* 野呂恵子(明大・農),倉本 宣(明大・農)
金尾滋史(滋賀県立琵琶湖博物館)
多摩川支流三沢川の源流部には、湧水源のある流水中の浅い場所
に生育する淡水産紅藻類であるアオカワモズクとチャイロカワモズ
クの 2 種(以下カワモズクとする)が生育し、冬期に成体が目視で
容易に観察可能になる。明治大学がこれらのカワモズクが分布する
三沢川の源流部に隣接する場所に農場建設を始めた 2010 年 5 月に、
施工者は本種の保全のため「水を切らさない、有毒物を流さない、
濁水を流さない、水温を上げない」ことに配慮した河川改修工事を
おこなった。
前報では、工事半ばである 2011 年冬、本種の保全を目的として、
流程の調査区各地点でのカワモズクの分布状況を、河床の状況、水
面上の植物カバー、水質などとともに調査した。また源流部の特定
の範囲については詳細な分布も調査した。その結果、工事以前はみ
られた下流側での生育は確認できず、保全策は成果をあげなかった
ようにみえた。
農場の建設工事終了直後の 2012 年冬、前年と同じ地点で調査を
おこなった。その結果、広範囲の地点において水面上の植物カバー
が著しく変化し、カワモズクの分布状況にも変化がみられた。川の
南側の斜面において巾 15m、延長約 300m の伐採がおこなわれた上
流部の調査区では、その全ての地点でカワモズクの分布が確認され
た。また、工事以前には本種の生育がみられたものの、河川改修後
の 2011 年冬には確認できなくなっていた下流部でも復活がみられ、
工事にともなう改修で新しく作られた河床にも生育がみとめられた。
2012 年冬の源流部での詳細な分布については、調査開始初期にお
いて 2011 年冬の状況に比べて繁茂がみられ、最終的には調査区内の
水流のある部分全てで生育が確認されるようになった。
2011 年冬と 2012 年冬のカワモズクの分布状況の推移と環境調査
結果とを比較し、変化の要因を検討する。
オグラヌマガイ Oguranodonta ogurae は滋賀県、京都府、大阪府に
生息している琵琶湖・淀川水系固有種の淡水二枚貝である。現在は
大阪府や滋賀県で断片的な生息記録があるのみで、2012 年の環境省
第 4 次レッドリストでは絶滅危惧 I 類に位置付けられている。
そのような中、2008 年 10 月に滋賀県東部で実施されたため池の
自然観察会において、相当数のオグラヌマガイが発見された。その
ため、当日はため池に生息するオグラヌマガイの調査も兼ねて観察
会を実施した。参加者全員で採集したオグラヌマガイは 600 個体以
上に及び、それらの中には当歳個体と考えられる殻長 10mm 程度の
小さな幼貝から、130mm 程度の成貝まで様々なサイズの個体が含ま
れていた。このことから、このため池ではオグラヌマガイの個体群
が健全に維持されていることが示唆された。また、採集されたすべ
ての個体は地域の方々と共に殻長、殻高、殻幅の測定を行ない、そ
れぞれにアクリルマーカーで個体識別の番号を記入した後、池へ放
流した。これらの一部は 2010 年、そして 2012 年に再び実施された
観察会で再捕獲されており、それらの殻長の変化や年輪などから、
各齢の成長量や生息個体数なども明らかになってきた。2 年ごとに
行われる観察会は単にオグラヌマガイを観察するだけではなく、地
域の方々と共に調査を行なうことで、現在ではオグラヌマガイの生
活史を解明する参加型の研究に発展している。
この地域では、ドブガイ類をまとめて「どろがい」と称し、時に
は食用としても利用していた。地域で古くから知られてきた「どろ
がい」が専門的な視点によって新たに「地域の宝物」となったこと
は、この地域における水辺環境への関心を高めるきっかけにもなっ
た。この発表では、地域と専門家が一体となり、継続した調査や活
動する意義についても併せて報告したい。
333
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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野生生物にやさしい都市計画: 保護区、共存、それとも
半島マレーシア丘陵林における過去の伐採履歴と現在の
ハイブリッド?
林分構造・更新状況
* 曽我 昌史(北大・農),小池伸介(農工大・農),山浦悠一(北大・農)
* 大谷達也(森林総研・四国),星野大介(国際農研),Azizi Ripin(GFR),
Abd. Rahman(FRIM)
世界的な都市への急激な人口集中は数十年先まで予測されており、
多様性保全と開発を両立させた都市計画が求められている。本研究
では、近年農地景観において盛んに議論されている「土地の節約・
共有」概念を用いることで、都市において人間は野生生物と共存す
べきか(共有戦略)、それとも保護区を設定すべきか(節約戦略)、
もしくはそれらの折衷案がいいか(ハイブリッド)?という問いに
答えることを目的とした。なお、本手法は生物種の個体数と景観内
の土地利用強度の関係(関数の形状)を用いて、いずれの戦略の景
観がより多種の個体数を維持可能か(最適な土地利用戦略か)明ら
かにする。
調査は、2012 年に東京都全域内の 35 のグリッド(1 × 1 km)で
行った。各グリッドの土地利用強度指数として、前年の 4~9 月の植
生指数(NDVI)を用いた。調査対象分類群には、蝶類、地表性甲虫
類を選定し、それらは森林性種 / 開放地性種、パッチ依存種 / マトリ
クス適応種(蝶類のみ)への機能群分類を行った。
解 析 の 結 果、 蝶 類 の 個 体 数 は NDVI の 増 加 に 対 し て 凸 型( 中
NDVI で最多個体数)に、甲虫類は凹型(高 NDVI で最多個体数)
に反応した。分類・機能群別に解析を行った結果、いずれの場合も
景観内の NDVI が低い時は節約戦略、高い時は共有戦略が最適な種
が多い傾向が見られた。分類群別では、甲虫類の多くは節約戦略が
適した種であったのに対して、蝶類は共有戦略が適した種が多かっ
た。機能群別では、開放地性・マトリクス適応種はほとんどが、景
観内の NDVI に依存せず共有戦略が適する種が多かった一方、森林
性・パッチ依存種は節約戦略が適した種が多かった。本発表では、
上記の分類・機能群間での都市化への対照的な反応を踏まえ、都市
において包括的な多様性保全を行うために求められる土地利用計画
について議論する。
半島マレーシアでは 1980 年代以降、丘陵フタバガキ林におい
て天然林の択伐がすすめられている。択伐施業に際して Selective
Management System(SMS)と呼ばれる管理方法がとられているが、
この方法のもとでは択伐後に残存木は順調に成長し 30 年ほど後には
2回目の択伐が可能になると想定されている。しかしながら、長期
モニタリングの記録からは数十年程度の短期間で種組成や材積が回
復するとは考えられず、持続的に森林資源を利用していくためには
管理方針の改定が必須である。森林を取り巻く環境の変動を考えれ
ばより強固な科学的提言をおこなうために、一地点での長期観測だ
けではなく複数地点での事例も必要である。そのため、伐採履歴の
異なる複数の林班に新たな調査区を設置し、伐採履歴と現在の森林
構造との対応関係について検討した。
調査地は半島マレーシアの中央部に位置するセマンコックおよび
ウルセランゴール森林保護区である。6つの 0.5ha 調査区を、伐採
による攪乱強度および伐採からの経過年数の異なる6つの林班に設
置した。調査区内の胸高直径5cm 以上のすべての立木を対象に毎木
調査を実施した。またこの地域で優占種となり主要な木材資源でも
ある Shorea curtisii (フタバガキ科)については、樹高 30cm 以上で
胸高直径5cm 未満の稚幼樹についても調査区全面において樹高を測
定した。調査区内に残る伐根やトラクター道を記録するとともに、
過去に撮影された空中写真から伐採による攪乱の強度を推定した。
これらの情報から伐採による攪乱と現在の種組成・森林構造・優占
種の更新状況との関係について考察する。
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P2-368
絶滅危惧植物の分布と保全区域とのギャップ:レッドリ
宮城県津波被災地における海浜植生の再生状況
ストランクに注目して
* 岡浩平(広島工大・環境)
* 赤坂宗光(農工大),石濱史子,角谷拓(国環研),藤田卓(日本自然保
護協会)
東日本大震災の津波は、海岸の生態系に大きな変化をもたらした。
甚大な被害を受けた海岸林は、被害状況が詳細に調査されており、
再生に向けた取り組みが実施されている。一方、海岸林より海側に
成立する海浜植生は、海岸林以上の被害が予想されるが、被害状況
は十分に把握されていない。日本の海浜植生は、海岸林造成や海岸
侵食により生育地が減少傾向にあり、津波による被害は早急に把握
する必要がある。そこで、本研究では、宮城県の津波被災地を事例
にして、海浜植生の被害および再生状況を把握することを目的とし
た。
研究対象地は宮城県の仙台湾の井土浜海岸、石巻湾の野蒜海岸と
矢本海岸の合計 3 箇所とした。各海岸の植生および微地形を把握す
るために、海から内陸方向に向かって数本の調査測線を設置した。
調査測線上に 2m × 2m のコドラートを連続して設置し、植生調査と
水準測量を実施した。また、海浜植物の再生状況を把握するために、
コウボウムギの地下部を掘り取り、種子繁殖と栄養繁殖のどちら由
来の個体か判別した。栄養繁殖由来の個体は、地下茎の向きや長さ
を記録し、津波による微地形の変化を推定した。
海浜植生の被害および再生状況は、海岸によって異なることがわ
かった。野蒜海岸は多数の海浜植物が出現したのに対して、井土浜
海岸ではコウボウムギなど一部の海浜植物だけが出現した。コウボ
ウムギの再生状況も海岸や海岸内の立地によって異なっていた。ま
た、被災した海岸林内に海浜植物が侵入・定着しており、海浜植生
の生育地が拡大した海岸もあった。発表では各海岸の海浜植生の再
生状況を解析し、再生状況が異なる要因を考察する予定である。
保全資源の効率的な利用は、限られた資源で最大限生物多様性を
保全するうえで必須である。ある種の分布域が保全・保護区域に含
まれているかどうかは、その種の保全の状態の評価の重要な指標で
あり、新たな保全区を設置する際に含めるべき対象を考える際に良
く使われる。特に全く保全区域に含まれていない種は新たな保全区
域を設置する際に優先的に含められるべきと考えられている。この
保全区域と分布域の重複の有無は、人間の設定した保全区域が、そ
の種の生育地と一致しているかという保全区域のデザインにより第
一義的に決定される。しかし、人間の意図は別として、対象の分布
域の広さも、潜在的にサンプリング効果によって各種の分布域と保
全区域と重複の有無に影響しうる。このことから、保全区域に分布
が含まれない種が、そうでない種よりも分布が減少しやすく、絶滅
しやすければ、現時点で、分布域が狭く保全区域に含まれない種は、
保全区域に含まれにくいことで、分布が狭くなり、さらに保全区域
に含まれにくくなる。という悪循環に陥る可能性があり、特に優先
的な保全対策が必要かもしれない。
本研究では、全国の第四次レッドリスト掲載維管束植物種を対象
とし、1)日本のレッドリスト掲載種はどの程度、保全区域に含まれ
ているのか。2) 各種の分布の保全区域との重複の有無は、分布域の
広さによって変わるのか。3) 保全区域に含まれない種は分布が減少
しやすく、絶滅しやすいのか。をレッドリストランクを考慮しつつ
明らかにする。さらに相補性のアプローチを用いて保全優先区域を
示した上で、優先的に保全すべき対象の種と区域の選定に向けての
考え方について議論する。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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ビオトープ池におけるカワバタモロコの定着過程
風車が鳥類に与える影響を考慮したアセスメント手法の
田中哲夫 *(兵庫県大 自然研),佐藤祐司(兵庫県大 自然研)
検討
* 北村亘,竹内亨(電中研・生物環境)
神戸市北区にあるキリンビール神戸工場のレフュジア・ビオトー
プにコイ科の絶滅危惧種カワバタモロコをはじめとした水生動物を
放流し,その数と環境要因の変動とを 2002 年から 2012 年までの 11
年間継続して調査した.2002 年 5 月に放流した 241 個体のカワバタ
モロコは放流後に急速に増殖し、翌年の 2003 年秋には採集個体数が
4,000、推定個体数は 12,000 個体に増加した.導入直後の爆発的な増
加後ビオトープ池のカワバタモロコの個体数は 3,000 個体前後で安
定している。カワバタモロコと前後して導入したメダカ・モツゴ・
ドンコも定着に成功したが、タモロコ・トウヨシノボリは定着しな
かった.また甲殻類ミナミヌマエビの密度は放流後非常に大きくな
ったが、その後急激に減少し 2009 年には採集できず絶滅した模様。
カワバタモロコの密度と想定競争者・捕食者メダカ・ミナミヌマエビ、
また物理化学的環境要因との関係を探り、カワバタモロコを絶滅に
追いやった要因を明らかにする。また、その後実施した小学校ビオ
トープへの放流結果についても報告する。結論:卵・稚魚の捕食者
(自らの親が真犯人である可能性大)のいない、新たにできた一時的
水域にばら撒けば無尽蔵に増殖する。
近年のエネルギー課題を解決する手段として、再生可能エネルギ
ーである風力発電に注目が集まっている。一方で、風力発電が生物
多様性に与える影響に関しては様々な議論が行われており、中でも
風車と同じ三次元空間を利用する鳥類は風車への衝突といった重大
な影響があることが示唆されている。そうした中、2011 年に環境影
響評価法が改正され、新たに出力 10,000 kW を超える風力発電所を
建設する際に環境アセスメントが義務付けられることとなった。し
かし、国内でのアセスメントの事例は少なく、効果的な手法の確立
は遅れている。そこで本研究では、風力発電建設時の適切なアセス
メントを行うための適切な調査手法の検討を行うことを目的とした。
2012 年 4 月から茨城県神栖市、千葉県銚子市の風況のよい沿岸地
域で調査を行った。風車そばの地点の 1 ヶ所と風車のない仮想建設
地の 2 ヶ所の計 3 ヶ所で月に一度、鳥類の調査を行った。風車が鳥
類へ与える影響を調べるためには、最終的に風車への衝突確率を求
めることが推奨されており、このために鳥類の飛翔した位置と高さ
の両方の情報を取得することが重要となる。一方で、環境アセスメ
ントの現場では十分な調査努力を割けない場合も多い。そこで、現
実的な人員のもと位置と高さのどちらに重点を置くかで 2 通りの調
査を行い比較した。一つ目の手法では、地図に鳥類の飛翔軌跡を描
きながら、風車のブレードの高さを通過したかどうかだけ記録した。
二つ目の手法では、レーザー距離計を用いて正確な鳥類の飛翔高度
を求める一方、風車の周辺を通過したかどうかだけ記録した。
本発表では 2 つの手法の比較の結果を紹介するとともに、年間の
調査回数や一回当たりの調査時間を変動させた場合に結果にどのよ
うな変化が生じるかといった、最適な調査努力量に関する考察も併
せて行う。
P2-371
P2-372
Contrasting Osmolyte Accumulation Strategies in
日本に侵入する鳥インフルエンザのリスクマップから絶
Halophytes Growing in Saline Habitatus
滅危惧鳥類の感染リスクを予測する
*AILIJAING MAIAMITI (Tottori Univ), IWANAGA Fumiko (Kyushu Univ),
MATSUO Naoko (Mie Univ), YAMANAKA Norikazu (Tottori Univ)
* 森口紗千子,大沼学,五箇公一(国環研)
感染症の管理体制を決定する上で、空間的なリスクを評価するこ
とは重要な課題のひとつとされており、感染がまだ確認されていな
い潜在的な地域を示すリスクマップは管理の重点地域を指定する上
で有効なツールとして利用されている。感染症の中でも鳥インフル
エンザの世界的な流行は、家禽生産の大きな脅威となっている。鳥
インフルエンザウイルスの自然宿主は主にガンカモ類などの水鳥類
とされており、日本に飛来する渡り鳥の中ではシベリア繁殖するカ
モ類がウイルスを保有していることが明らかになっている。これま
でに、演者らは渡り鳥のカモ類の分布に着目し日本に侵入する鳥イ
ンフルエンザのリスクマップを作成してきた。一方、鳥インフルエ
ンザの中でも特に病原性が高い高病原性鳥インフルエンザが、日本
では 2004 年 1 月に山口県の養鶏場で確認されて以降、断続的に小規
模な発生が各地で報告されている。そして 2010 年から 2011 年の冬
期には全国で野鳥の死骸および糞から高病原性鳥インフルエンザウ
イルスが確認された。高病原性鳥インフルエンザにより死亡した野
鳥の中には絶滅危惧鳥類も含まれており、鳥インフルエンザの流行
により野生鳥類の絶滅が加速する恐れが指摘されている。
本研究では、鳥インフルエンザの侵入リスクと絶滅危惧鳥類各種
の生息適地を重ね合わせて空間的な感染リスクを評価し、絶滅危惧
鳥類の優先的保全地域を明示することを目的とする。まず絶滅危惧
鳥類 6 種(クマタカ、オオタカ、ハヤブサ、タンチョウ、ナベヅル、
ヤンバルクイナ)の生息適地指数を在地点情報と環境要素を用いて
推定する。先行研究の鳥インフルエンザリスクマップと重ね合わせ、
絶滅危惧鳥類における保全対策の必要な優先地域を明らかにする。
Halophytes are main dominant plants in arid saline area of the world.
Responses of plants to abiotic stress include the synthesis of osmolytes,
which are able to compensate high osmotic pressure without interfering
with plant metabolism, even at elevated concentrations. In this study,
accumulation inorganic and organic osmolytes were investigated in
three kind of halophytes (Crinohalophytes, Succulent Euhalophytes and
Psueduhalophtes) growing around Aiding Lake, XinJiang, China. The results
obtained showed the succulent euhalophytes accumulated a large amount of
Na+, whereas low Na+ concentrations were observed in the other species. For
organic osmolytes, Psueduhalophtes showed high concentrations of soluble
carbohydrates, mainly sucrose, and accumulated a large amount of mannitol.
Succulent Euhalophytes greatly accumulated glycine betaine. Only
Crinohalophytes accumulated γ -butyro betaine with a high concentration.
These findings indicate that any particular species normally accumulated
at least one type of osmolyte with significant amounts to involve osmotic
adjustment in these halophytes. Thus, those halophytes can preserve or
enhance their metabolic abilities via osmoregulation under grown arid saline
environment.
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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高いシカ密度下にある知床半島における海岸植生レフュ
北海道上美唄湿原の植生劣化要因の検討
ージアの分布特性
* 島村崇志(道総研・環境研),高田雅之(法政大)
* 石川幸男(弘前大・白神自然環境研),小平真佐夫(知床財団)
北海道の上美唄湿原は、面積約 6ha の低地帯の小湿原で、かつて
石狩川流域に広がっていた大湿原群の一部である。本来はミズゴケ
湿原であったが、現在は湿原外植物のクマイザサやヤマウルシが一
面に繁茂し、高木にまで生長したシラカンバが湿原中央部でみられ
るなど乾燥化が著しく進行した植生となっている。これらの湿原植
生の劣化要因を明らかにすることを目的として、空中写真判読によ
る植生変化の定量化と、植物群落の空間的な偏在性を明示し、植物
群落と排水路等との位置関係に着目して解析を行った。
空中写真の判読には、1962 年∼ 2007 年に撮影された 9 時期分を
使用し、湿原内を、1) クマイザサ群落、2) 木本群落、3) 湿原植物
群落の 3 タイプに大別した。また、湿原を取り囲む排水路の他、湿
原内に掘られた素堀溝の位置も併せて記録した。クマイザサ群落は
1962 年当初にも認められたが、湿原南側の排水路付近のみであった。
その後群落面積は拡大したが、素堀溝との位置関係により拡大速度
には違いが認められた。また、湿原内に自然侵入したシラカンバと
排水路及び素堀溝の配置にも関連性が認められた。これらの空中写
真から得られた結果に加え、1982 年以降に部分的に調査した植生デ
ータや 2002 年以降に断続的に計測した地下水位データ等の実測値を
用いて植生劣化のプロセスを検討するとともに、モニタリング方法
や保全策について考察した。
北海道東部の知床半島においては 1980 年代よりエゾシカが急増
し、90 年代には冬期に積雪の少ない低標高域を中心に採食による影
響が拡大した。特に知床半島の植生を特徴づける要素の一つである
海岸植生では、シカが集中する越冬地を中心に著しい被害が発生し
ている。知床世界自然遺産の管理にも関連し、激変した海岸植生の
構成要素の現状、レフュージアの有無等を確認する調査を 2006 年か
ら 2009 年にかけて実施したので、レフュージアの分布などに関する
結果を報告する。
知床半島の海岸植生には、波打ち際の海浜群落、それに接近した
断崖上の海浜断崖群落、断崖の上の台地に分布する上部草原群落、
台地の縁に分布する海蝕台地群落、および崩壊地群落がある。この
うち、前 2 群落ではシカの影響が少ないことが分かっているので、
本報では後者 3 群落に関してまとめる。
調査は羅臼側では相泊より先端部分、斜里側ではカムイワッカ川
より先端部分で実施した。これらの地区の海岸部を徒歩で移動しつ
つ、移動困難な難所はボートによるショートカットも活用し、合計
35 地点に約 100 ヶ所の方形区を設けて残存状況を確認するとともに、
シカの採食実態も記録した。
火山活動によって形成された崖が流氷によって削られる知床半島
においては、急峻な地形に起因してシカの接近できない場所が海岸
部の随所にあり、こうした場所で3群落とも小規模レフュージアが
確認できた。しかし、シカが増加する直前である 1980 年代初めに記
録されたこれら群落の構成要素であった 132 種のうちで、40 種が確
認できなかった。急峻な地形のごく限られた範囲でのみ今回の確認
が行われたことを勘案すれば、このことはこれらの種の消失には直
結しないものの、シカの餌資源として重要な多年生の高茎草本が多
い上部草原群落と崩壊地群落では、種構成が劣化している可能性も
考えられた。
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外来種で緑化された造成斜面における半自然草原創出の
南アルプス聖平におけるニホンジカ対策(2) 聖平にお
試行
ける植生変遷
* 澤田佳宏,藤原道郎,首藤健一(兵庫県大・緑環境 / 淡路景観)
* 桑原淳(環境アセスメントセンター),鵜飼一博(南ア・ボランティア
ネット)
年数回の草刈りや火入れによって維持される半自然草原は,草原
生生物のハビタットとして重要である.しかし近年,半自然草原の
多くで植生管理が行われなくなり,遷移が進行することによって草
原が衰退している.一方,公園緑地や圃場整備後の畦畔などの造成
斜面の中には,今後も草刈りが持続しそうな立地がある.しかし,
これらの立地ではもともと在来の草原生植物が乏しく,外来種が優
占していることが多い.こうした状況下で草原生植物を保全する方
法として,管理が持続しそうな造成斜面に半自然草原を創出するこ
とが考えられる.本研究では,外来種で緑化された造成斜面で半自
然草原の創出を試みた.
試験地は,兵庫県立淡路景観園芸学校内の造成斜面とした.この
斜面は 1990 年代に造成され外来牧草類で緑化されている.春にはネ
ズミムギが優占し,夏から秋はセイタカアワダチソウが優占する.
また,学校管理者によって 6 月および 10 月に草刈りが行われている.
2009 年 5 月,この斜面に「A 区(外来種駆除+在来種導入区)」「B
区(外来種駆除区)」「C 区(対照区)」の 3 つの試験区を設けて実験
を開始した.A 区では外来種の抑制(5 月・10 月)に加えて,近隣
の畦畔で採取した草原生植物の種子を播いた(6 月・11 月).B 区で
は外来種の抑制のみをおこなった.C 区では特に何もしなかった.
いずれの区でも,学校管理者による草刈りは従来どおり実施した.
年間の作業時間は調査時間も含めて 12 時間のみとし,2012 年度も
継続中である.
実験の結果,ネズミムギは結実前の刈り取りによって翌年以降の
密度を大幅に低下させられることが分かった.A 区では多くの草原
生植物の定着が認められたが,B 区ではこれらの侵入が見られず,
種子散布のプロセスを人為的に手助けすることで草原創出が可能と
なることが示唆された.
聖平は、南アルプス聖岳の南側、標高約 2,300m の亜高山帯に位
置しており、1979 年頃には「聖平のニッコウキスゲ群落」として記
録されるほどの大群落が成立していたことで知られている。しかし、
ニホンジカ等の影響によって、1994 年頃からニッコウキスゲの開花
が見られなくなり、現在では、シカの不嗜好植物であるキオン、タ
ガネノガリヤスやウシノケグサ等のグラミノイドが優占する草原に
なっている。このような現状を踏まえ、静岡県では、2002 年以降、
ニホンジカの採食圧の影響調査及びニッコウキスゲ群落の復元を目
的に、実験的に植生保護柵を設置するなどの対策を講じている。本
調査では、ニッコウキスゲ群落の復元にあたり、複数地点で採取し
た土壌試料を用いて花粉分析を行い、聖平における植生の変遷を明
らかにすることを試みた。
花粉分析の結果、ワスレグサ属型(ニッコウキスゲと推定)、ウナ
ギツカミ節−サナエタデ節、アサザ属、ガマ属に加え、南アルプス
では分布記録の無いミズバショウ属、ミツガシワ属−イワイチョウ
属の花粉を検出した。これらの花粉組成から、聖平の尾根部では主
に湿性広葉草原、斜面部では微地形の違いによって、湿性から過湿
地まで多様な環境が存在し、それらに対応した様々なタイプの湿性
草原が成立していた可能性があった。また、ワスレグサ属型花粉の
検出状況から、ニッコウキスゲは、聖平の尾根部から斜面部に分布し、
特に斜面部は、尾根部に比べるとより長期にわたって群落を維持し
ていた可能性があった。このような湿性草原が、聖平の潜在自然植
生と考えられるが、聖平の植生全体が湿性タイプから乾性タイプの
花粉組成に変化しているため、湿性な環境を好むニッコウキスゲの
生育適地は減少傾向にあると推察される。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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南アルプス聖平におけるニホンジカ対策(1) 植生保護
多摩川におけるカワラノギクの局所個体群内の開花個体
柵の設置効果
のサイズと分布
* 鵜飼一博(南ア・ボランティアネット),山崎由晴(静岡県自然保護課)
* 横田篤典,倉本宣(明治大・農)
日本を代表する山岳地である南アルプスには、高山植物の南限種
や固有種が多く生育している。近年、南アルプス地域に生息するニ
ホンジカは、お花畑が最盛期を迎える夏季に標高 3,000m まで進出し、
亜高山帯から高山帯に分布する高山植物群落を餌場として利用して
いる。その影響により、高山植物群落は減少傾向にあるといわれて
いる。
南アルプス南部に位置する標高約 2,300m の聖平には、1994 年頃
までニッコウキスゲが群落を形成していたといわれている。ニッコ
ウキスゲの開花が見られなくなった原因は、ニホンジカの採食圧で
あり、一時は消失したと考えられていた。そこで、2002 年、ニッコ
ウキスゲ群落の復元を目標に、金属製の植生保護柵(10m × 10m ×
高さ 1.8m)を試験的に設置した。
植生保護柵の効果やニッコウキスゲ群落復元の達成度を考察する
ために、植生保護柵設置後の柵内外における種数、草丈、被度等を
調査し、柵設置前である 1979 年と 1999 年植生調査結果と比較した。
柵内の種数、草丈、被度等の調査結果は、柵外のそれを上回って
おり、植生保護柵の設置効果が表れている。植生保護柵設置から 4
年後の 2006 年にニッコウキスゲの開花個体が出現した。現在もその
株数は微増傾向にあるが、柵内の被度は 10%未満であり、ニッコウ
キスゲ群落が復元されたとは言いがたい。現在、柵内で優占してい
る種は、1979 年に優占度が低かったり、確認されていなかった種が
多い。柵内の植生が、まったく新しい群落の形成中なのか、それと
もニッコウキスゲ群落に移行する経過段階であるのか、現段階では
判断が難しい。
河川の中流部には丸石河原と呼ばれる円礫の河原が発達すること
が多く、固有の植物が生育する。その 1 つであるカワラノギク(Aster
kantoensis Kitam.)は環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類
に位置付けられている。
本種は河原のなかにパッチ状に分布しており、このパッチを構成
する集団を局所個体群と呼ぶ。局所個体群の内部における開花個体
とロゼット個体の分布は一様ではなく密度に疎密があることが知ら
れている。また、開花個体のサイズは、遺伝系統や土壌の栄養塩濃
度による可塑性が大きいことが知られている。
以上から、生育地ではさまざまなサイズの個体がモザイク状に分
布していることが予想されるものの、その状況を詳細に調査したも
のはまだない。そこで、本研究では開花個体のサイズに着目して分
布の状況を調査した。
調査は、東京都福生市永田の多摩川右岸の丸石河原で行った。
本種の局所個体群内に 25m × 25m の調査区を設置し、全ての開花
個体を対象とした。開花個体のサイズは草丈と茎の地際直径(以下、
地際直径)を測定した。なお、近接する個体が同一の個体であるか
否か判別できない場合は別個体とした。また、開花個体の生育位置
は 10cm 単位の精度で測定した。次に、統計ソフトの R を用いて統
計的な解析を行った。
調査区内における開花個体は 1809 株であった。草丈の平均は 46
± 15cm( 平均値±標準偏差 )、地際直径の平均は 5.72 ± 2.50mm( 平
均値±標準偏差 ) であった。本発表では、統計的な解析手法を用いて、
開花個体サイズと分布についての結果を整理する。
P2-379
P2-380
シャープゲンゴロウモドキ生息地における簡易分析計を
牛用寄生虫駆除薬の環境影響評価:糞虫を用いた毒性試
活用した水質評価と保全実践例
験法の検討
* 田島文忠(水辺環境保全技術士事務所),古川大恭(千葉シャープゲン
ゴロウモドキ保全研究会),西原昇吾(東大・農学生命科学)
吉田信代(畜産草地研)
放牧草地において糞を餌とする食糞性コガネムシ類(以下、糞虫
と略す)は牛糞分解に大きな役割を担っており、植生の維持にも影
響を与えている。一方、放牧牛へ投与される内部外部寄生虫駆除薬(以
下、駆虫薬と略す)の中には糞とともに体外へ排泄されるものがあ
るため、駆虫薬投与は糞虫の生存率を低下させ、ひいては牛糞分解
を抑制する危険性があることが指摘されている。そこで4年間、定
期的に駆虫薬を放牧牛に投与した草地と投与しない草地で牛糞トラ
ップを用いて糞虫を採集し、糞虫相を比較したところ、近接した草
地間であるにも関わらず優占種が大きく異なるとともに、多様度指
数の値は駆虫薬を投与した草地の方で低い傾向が見られた。これら
糞虫の群集構造の違いは競争種間で駆虫薬に対する感受性が異なる
ことが原因の一つと推測されたが、駆虫薬が糞虫に与える影響を定
量的に評価するための毒性試験法は国内では未整備である。そこで
糞虫を用いた動物薬の毒性試験法を整備するため、「幼虫が地上部の
糞を食べるタイプ」の習性を備えた種を用いて、イベルメクチンを
基準薬とした毒性試験を試行した結果を報告する。
337
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-381
P2-382
希少ハゼ類を指標とした河川汽水域の類型化
郷土種による長大法面再樹林化の手法と評価 -富士山
乾隆帝,竹村紫苑(徳島大院工),鬼倉徳雄(九州大院農),鎌田磨人(徳
島大院工)
静岡空港における法面緑化の試み-
山田辰美(富士常大・社会環境),* 関川文俊(富士常大環防研)
,杉野孝
雄(NPO 静岡自然博ネット)
汽水域は生産力が高く,また特有の生物が生息している重要な水
域である.しかしながら,近年の人為的環境改変は,汽水域の機能
や生物多様性に負の影響を与え続けている.汽水域生態系の保全・
再生・管理のためには,それぞれ場所の潜在的な環境や生物相の特
性を知り,生態系の健全性を評価する手法が必要となる.
本研究では,環境指標として,汽水域に適応放散した魚類である
ハゼ類に着目した.対象地である瀬戸内海周辺海域は,大小さまざ
まな多くの河川が流入し,多くのレッドリスト掲載種が生息してい
る保全上重要な水域である.本研究では,それらのうち 10 種(キセ
ルハゼ,クボハゼ,チワラスボ,タビラクチ,エドハゼ,チクゼン
ハゼ,マサゴハゼ,トビハゼ,ヒモハゼ,イドミミズハゼ)の水系
単位での分布パターンを基に河川を類型化し,それぞれのグループ
に属する河川の流域特性を明らかにすることを試みた.
分布調査は,瀬戸内海周辺海域に流入する 220 水系の河口域にお
いて行った.また,採集調査をおこなった河川における各魚種の文
献記録の集積もあわせて行った.流域の特性を表す環境要因として,
流域全体および流域内の低地の面積と平均傾斜,河口流出点から一
定距離内の平均海底傾斜と平均水深,河口流出点の湾面積を算出し
た.
分布調査の結果,220 河川中 154 河川において 1 種以上が確認さ
れた.上記 10 種のハビタットタイプを泥質干潟,泥質塩性湿地,砂
質干潟,礫質の 4 タイプに区分し,それぞれのタイプに属する種の
在 / 不在をもとに,154 河川を類型化した結果,9 グループに区分す
ることができた.それらのグループのうち,前述の 4 つのハビタッ
トが全て存在するグループには 17 河川が含まれ,それらの河川は,
集水域面積がある程度大きく,遠浅な海域に流入し,集水域に占め
る低地の割合が大きくない,などの特徴を持っていることが明らか
になった.
近年、在来種による法面緑化が多く行われるようになったが、在
来種の名でアジア大陸産のハギ類、コマツナギ類が使用され、日本
在来の植物との間の遺伝子汚染が懸念されるようになった。富士山
静岡空港では新たに出現した長大法面の緑化手法として、失われた
植生を復元するために郷土種による再樹林化が試みられた。ここで
いう郷土種とは、「ある地域の現存植生および潜在自然植生を構成す
る植物」と定義され、他地域の同種の植物は郷土種ではない。空港
建設にあたっては、採取不可能な場合を除き、空港周辺(近隣市町
村を含む)で採取した種子(郷土種)からポット苗を生産した。独
自にプラントを設置し、72 種 3 万本以上のポット苗を植栽に使用し
た。
富士山静岡空港盛土法面の緑化の基本的な考え方は、「自然林の植
生遷移の原理を応用し、在来緑化方法(先駆樹種導入、初期浸食防止)
で補助することにより早期に植生を回復させ、多様な生態系の保全
を図る」である。具体的には、潜在自然植生を考慮し、将来中心と
なるシイ・カシなどの常緑樹を主体とし、初期浸食防止等の目的で
アカメガシワなどの先駆樹種や落葉樹を混植した。
法面に方形区を設置し、植栽樹木の生育状況や下層植生の消長に
ついてモニタリングを実施した。また、順応的管理として、下草刈
りやつる切り、除伐などの管理を実施した。
今回、法面に植栽した樹木の生育状況等を 10 年間モニタリングし
た結果をもとに、郷土種による法面の再樹林化の手法について評価
を行った。
P2-383
P2-385
地権者との協定によるオオタカ繁殖地保全
文系学部の生態学-誰が何を教えているのか-
山田辰美,* 法月直也(富士常大環防研),新井真(日本オオタカネット
ワーク)
畑田 彩(京都外国語大学)
「生態学」はもはや理系大学・学部だけの科目ではない。環境問題
との関わりで、生態系機能の重要性が認知されるようになってきた
昨今では、文系大学・学部でも一般教養科目として生態学を扱うこ
とのできる授業科目が開講されている。しかもそのような文系大学・
学部は決して少なくない。全国の小中規模文系大学・学部(在学生
数 5000 人未満)のうち講義概要を Web 上で公開している 223 校を
対象として調査した結果、173 校で環境学系科目が開講されていた
からである(2012 年 10 月現在)。つまり、文系大学・学部でも約 78
%の大学で生態学とかかわりの深い環境学系科目が配置されている
ということになる。
では、一般教養科目としての生態学は誰が教えているのだろうか。
先述の環境学系科目の場合、関西地域の 66 校を対象として、科目担
当教員の専門分野を調査した結果、生態学を専門としている教員は
19 人であった。次に多かったのは環境教育(9 人)で、このほかに、
工学、環境政策学、分子生物学、環境社会学、地球惑星科学、理論
物理学、哲学など教員の専門分野は多岐にわたっていた。つまり、
環境学を担当している教員のすべてが生態学に精通しているわけで
はないこと、どれも環境学に関連のある分野ではあるが、環境学の
ごく一部をカバーしているに過ぎないことがわかる。このような状
況の中、大学の一般教養科目の中でどのように生態学が扱われてい
るかが気になるところである。
そこで、演者は先述の 173 校で開講されている環境学系科目を対
象として、15 回の授業で扱われている生態学的内容を洗い出す調査
を行った。今後、生態学のどのテーマが最も教えられているのか、
逆に重要でありながら教えられていないテーマは何なのか、など分
析していく予定である。分析結果をもとに、一般教養科目で生態学
を扱う上で、必要な支援を考えたい。
本保全策は、生物学知見を用いたオオタカ繁殖地の望ましい森林
への育成・改善と、地権者とのデカップリング(直接補償制度)の
考え方を採用した協定によるオオタカの既存の繁殖地を保全し、安
定的に継続して繁殖することを目的としている。
富士山静岡空港建設の課題として、周辺の自然環境に配慮し保全
していく必要があった。対象の地域に生息するオオタカを保全する
ために、空港事業区域(530ha)だけでなく広域な区域約 4,000ha を
保全対象の範囲に設定し、その地域で同時に営巣が確認された最多
つがい数である 4 つがいのオオタカが、安定的に繁殖活動を継続で
きる営巣環境を保全・整備することを保全目標とした。保全のため
に重要な範囲として管理が必要な地域を営巣環境保全エリアとし、
エリア内は環境改善対策の実施、地権者とのデカップリング(直接
補償制度)の考え方を採用した協定を交わし、保全策が実施されて
きた。
デカップリング(直接補償制度)の考え方として、私有林から材
を得るという主な目的を切り離し、オオタカ保全の観点から評価し
対価を支払うということである。保全協定の内容は、①繁殖期の山
林への立ち入り・地形改変の禁止等、②静岡県が営巣環境改善対策
の実施、③①、②を承認することで所得補償を得ることの 3 点であ
る。平成 14 年には 3 営巣地で合計約 28ha の山林で保全協定を締結し、
現在まで 10 年間協定を更新してきた。残りの 1 ヵ所は、自然保護地
域として公有地化した。
各協定地について 10 年間繁殖状況モニタリングを実施し、オオタ
カの保全に有効であり、地権者とも良好な関係を続けてきた。地権
者との協定により保全してきた協定地のオオタカの営巣状況につい
て報告・検討する。
338
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-386
P2-387
市民協働調査に基づく環境教育教材としてのアリ類の有
バスよりハスを捕りたい - 琵琶湖の汀線踏査の結果から
効性の検討
今村彰生 *,大阪市立自然史博物館
* 岩西哲(十日町市立里山科学館キョロロ),高田兼太(大阪市西淀川区)
生物多様性の危機が深刻化する今日、あらゆる世代の生物多様性
への理解を深めることが必要とされている。アリ類は現存量が多く、
他の動植物と様々な関係を持つこと、食性や営巣場所などが多様で、
地球上の幅広い環境に分布し、かつ植生や土壌などの環境条件に種
組成が敏感に反応することなどから、優れた環境指標動物であるこ
とが知られている。これらの特徴に加え、多くの人にとって馴染み
深く、採集が容易な昆虫であることから、身近な環境の生物多様性
や生物と環境との結び付きについての理解を深めるための学校・一
般向けの環境教育教材として大きな可能性を秘めていると考えられ
る。そこで、アリ類を教材とした環境教育プログラムの開発を目的
として、里山科学館キョロロが主催する市民恊働のアリ相調査を実
施し、年齢を問わず参加できる採集調査方法の考案や参加者へのア
ンケート調査などを行い、学校・一般向けの環境教育教材としての
アリ類の有効性を検討した。
まず、新潟県十日町市内の公園や神社等の緑地 27 地点において、
低年齢の子ども達にも行える簡便な見つけ捕り法によるアリ相調査
を行った。この結果、4 亜科 20 属 39 種のアリが採集され、緑地あ
たりの採集種数は 10.0 種類だった。また、NMDS 法により採集され
たアリの種構成に基づいてこれら 27 地点を序列化したところ、アリ
の種構成が各緑地の景観や周辺環境と関連していることが示された。
また、市民恊働調査の参加者に対するアンケートを行い、調査に
参加しての感想を聞いたところ、年齢や性別を問わず、大部分の参
加者が活動を楽しめていたことや、活動を通して身近な環境におけ
る生物多様性を実感できたことが窺えた。
これらの結果から、アリ相調査が、幅広い世代に身近な環境の生
物多様性や環境と生物との結びつきを実感させる上で有効な環境教
育プログラムとなりうることが示唆された。
琵琶湖は総延長 230km におよぶ汀線をもち、118 の一級河川が琵
琶湖に直接流入している。中小の水路も含めると流入水路は合計で
400 あるとも 450 あるともされるが、護岸の形状や水量などの諸条
件はさまざまであり、魚類などの分布状況との関連については不明
の点も多い。
そこで本研究では、汀線を徒歩によって踏査し、流入水路と琵琶
湖との合流点の悉皆調査に取り組んだ。魚類の調査を目視と釣りに
よっておこない、水路の護岸、河畔林の有無、ヨシ帯の有無といっ
た複数のパラメータと分布する魚類の組成との間の関係を明らかに
することを目指した。
調査は琵琶湖の南西部を中心におこない、2011 年からの約 2 年間
で、汀線の約 50km を踏査し、約 160 の水路(一級河川 50 を含む)
についてデータを収集した。
その結果、琵琶湖南部では外来魚(オオクチバス、ブルーギル)
が卓越し在来魚の検出頻度が低かったが、同時にハスの稚魚の群れ
が南部も含めて広範囲に見られた。その一方で、ハスの成魚やそれ
らの河川への遡上は、「北湖」では豊富に見られたものの南部では見
ることができず、ナマズの検出頻度も南部では低かった。
このほか、合流点付近での断流(表流水がみられない)水路や涸
れ水路が多数認められ、魚類の生息場所としての機能が失われてい
た。断流は一級河川にも見られ、同時に水路の水位が恒常的に低い
ことも判明した。これらには、集水域の環境変化や現在の琵琶湖で
の水位操作による汀線の後退などが影響していると考えられるが、
この断流によって魚類などの潜在的ハビタットが著しく縮小してい
る可能性もあり、汀線周辺の地形図のミクロスケールでの再検討が
必要であることが示唆された。
これら一連の結果について、来聴者と議論したい。
P2-388
P2-389
モデル生態系における生息地破壊による絶滅:分断化と
Predicting Seabird Foraging Areas Using GIS and
移動による影響
Generalised Linear Models(GIS と GLM を 使 っ た
* 中桐斉之(兵庫県立大・環境人間),
海鳥の採餌エリアの推定)
* 大原みさと,Steve Palmer(University of Aberdeen, Ecology)
生物を保護するためには、保護対象種の利用場所を正確に把握す
ることが必要である。特に、繁殖期はコロニーや巣の場所だけでなく、
採餌利用場所も含めた包括的な把握が重要になる。だが、海鳥など
の広域で採餌する生物や、海域など直接観察することが困難な場所
を利用する場所ばし生物に関しては、採餌利用域が保護の対象から
外れているのが現状である。
本研究では、イギリス沿岸部で繁殖する海鳥を対象に、包括的
な利用場所を推定する手法を検討した。国管理データベースの洋上
調査による個体数カウントデータを目的変数とし、海水温や海底質
などの環境データを説明変数として使用し、一般化線形混合モデル
(GLMM)により解析をした。使用データは、調査手法や調査範囲が
異なっていたり、データがない海域もあったため、ArcGIS でグリッ
ドマップを作成し、セルサイズに合わせて全データの解像度を統一
した。
解析対象の海鳥は、異なる採餌方法(潜水・水面)、コロニーから
の飛翔距離により選出した。また、セルサイズ、海域を変えて解析
をすることで推定手法の検討をした。その結果、対象種により大き
く異なる利用場所が示され、同種であってもセルサイズ・対象海域
によって結果が変わった。さらに、調査が実施されていない海域で
も採餌に利用されていることが示唆された。
このことから、正確な利用場所の推定には、対象種にあわせた範
囲や解像度の選択が重要であるといえる。本手法は、限られたデー
タ、異なる手法によるデータで包括的な利用場所の推定を可能にし
た。これは今後増えるであろう海洋保護区の設置検討、海域での環
境影響評価の手法として活かすことができると考えられる。
339
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-390
P2-391
暖温帯における人工林と二次林の発達段階とカミキリム
地表性昆虫を用いたビオトープの評価
シ類の種構成の関係
* 増田理子(名工大・社会工学),榊原里奈(名工大・社会開発)
,杉村な
お(名工大・都市社会)
* 佐藤重穂,松本剛史(森林総研四国),岡部貴美子(森林総研)
四国地域では森林がきわめて高度に利用されてきた結果、森林面
積の 6 割以上がスギ・ヒノキを主とする針葉樹人工林で占められる
とともに、天然林のほとんどが薪炭林として利用された二次林であ
り、老齢の天然林はごく小さい面積でしか残っていない。こうした
地域で森林の生物多様性を保全する方策を立案するためには、それ
ぞれの森林タイプに生息する生物の種の特性を把握するとともに、
今後、森林が時間の経過とともにどのように推移するか予測するこ
とが重要である。カミキリムシ類は森林依存性が強い種群であり、
かつ種数が多いため、森林の生物多様性の指標として適している。
演者らは針葉樹人工林と広葉樹二次林において林齢の変化にカミキ
リムシ類がどのように応答しているか知るために、発達段階・遷移
段階の異なる人工林と二次林のそれぞれに調査地を設定してカミキ
リムシ類の種構成を調べた。
調査地を高知県西部の低山域に設定し、5 年生から 100 年生まで
の発達段階の異なるヒノキ人工林、遷移段階の異なる広葉樹二次林、
老齢天然林の合計 20 箇所において、2010 年と 2011 年の 6 月から 10
月にマレーズトラップを設置し、カミキリムシを捕獲した。合計で
92 種のカミキリムシが捕獲された。人工林では、発達段階の初期の
若齢林でカミキリムシの種数がもっとも少なく、林齢の増加ととも
に種数が増加し、下層植生の発達した 80 年生以上の高齢人工林では
もっとも多かったが、複層林として下層に針葉樹が植栽された林分
では少なめであった。一方、二次林では若齢林で壮齢林よりも種数
が少ないものの、人工林と比べるといずれの段階でも種数が多かっ
た。これらの結果から、ヒノキ人工林、広葉樹二次林のいずれにお
いても、林齢の増加に伴う発達段階・遷移段階に対応して、カミキ
リムシの種構成が変化するとともに、下層植生にも影響を受けてい
るものと考えられた。
庄内川水系に設置された二つのビオトープがどのように自然再生
するのかについての評価を地表性昆虫を用いて行った.
平成 22 年に行った調査ではビオトープ建設後 2 年経過したビオ
トープ,1 年経過したビオトープについての調査研究を行った結果,
建設後の期間によって地表性昆虫の回復度が違うことが示され,河
川敷における生態系の評価に地表性昆虫を用いることが適切である
ことが示唆された.
平成 23 年に庄内川水系では大出水があり,ビオトープ内にも大き
な攪乱が引き起こされた.その結果植生がはぎ取られ土砂が堆積し
広い面積の裸地が形成された.そこで平成 24 年春から地表性昆虫の
出現の経時的な調査を行うことにより,河川の生態系の回復の状況
についての検討を行った.
平成 24 年 4 月から 11 月にかけて,庄内川(清須市)右岸におい
て草原,湿地,河畔林の三つの植生,および矢田川(名古屋市北区)
右岸の草原および河畔林の二つの植生において調査を行った.調査
にはピットフォールトラップを用い,各色成句分ごとに 10 個のトラ
ップを毎週 24 時間設置し,回収を行い,捕獲された種の同定計数を
行った.
その結果以下のような事が示唆された.4 月上旬には裸地が多く
形成されており,地表植生がほとんど見られなかった時期の地表性
昆虫相は非常に貧弱であり,ほとんど多様性が認められなかった.
これは平成 23 年秋の出水が植物相および昆虫相に非常に大きなダ
メージを与えたことを示していると考えられた.しかし,その後植
生が回復するにつれて,移動性の地表性昆虫が増加し,個体数も増
加した.春の出現ピークにはほとんど多様性は認められなかったが,
夏の出現ピークにおいては平成 22 年の調査と同様の個体数が確認で
きた.しかし平成 22 年に認められたような種の多様性は確認できず,
植生が回復した直後には地表性昆虫の回復はまだ行われていないこ
とが示された.
P2-392
P2-393
放牧草地の生物多様性が有する畜産的生態系サービス
ブルーギル(Lepomis macrochirus )の個体群モデルを
吉原佑(東北大・農)
用いた駆除対策への示唆
生物多様性は生態的、文化的サービスの根幹をなすものであり、
その重要性は世界の共通認識となっている。わが国では近年特に農
業生態系における生物多様性の保全の重要性が認識されている。そ
の一方で、草地や牧場においては生物多様性保全の場としての認識
が希薄である。その要因の一つとして、草地が生産の現場として重
要であり、農家によって生物多様性のメリットが理解されていない
ことがある。したがって、生物の多様性が家畜生産性の向上につな
がることを示す必要がある。
ミネラルは五大栄養素の一つであり、体内の恒常性維持に働くこ
とを通じて家畜の生産性に影響を与える。ミネラルは要求量を満た
す必要があるだけでなく、中毒限界量以内に抑える必要がある。ミ
ネラルは種内・種間で変動が大きいことから、摂取する種が乏しい
場合、ミネラルバランスが崩れる可能性がある。そこで、放牧草地
に多様な植物種が存在することで、ウシのミネラルバランスを維持
することができるという仮説を立て、これを検証した。
草地内の植物種数が異なる場合のミネラルの摂取量を、シミュレ
ーションにより推定した。種の組み合わせを種数ごとに 1000 通り想
定し、各ミネラルの摂取量を推定した。すべての種を同一量摂取し
たと仮定したシミュレーションと、ウシの選択性を加味し、摂取量
が種によって異なるシミュレーションの両方を行った。シミュレー
ションに供した種は、草地性の牧野草を中心に、森林性の野草や灌
木も加えた 17 種類である。シミュレーションに供したミネラルは、
ウシに必要な主要無機物と微量要素 12 種類とした。
シミュレーションの結果、植物種が足りなかった場合、P、Na、
Fe、Cu は不足する可能性があり、Mg、K、Mn は過剰摂取する可能
性がある。ミネラル全体を平均した結果、摂取する種が増加すると
正常範囲内のミネラルを摂取することのできる可能性が平均で約 17
%増加することを示した。
* 岩崎雄一(東工大・理工),秋田鉄也(総研大・先導研),加茂将史(産
総研・安全科学)
外来種管理において,実施する対策が対象生物の個体数低減また
は根絶にどの程度有効かについての情報を得ることは有用である。
本研究では,全国各地で生息が確認されている外来魚ブルーギルを
対象に,米国 Hyco 湖で構築された個体群モデルを利用し,卵,未成魚,
成魚の駆除割合がブルーギルの平衡個体数に及ぼす影響を評価した。
卵,未成魚,成魚の駆除を個別に実施した場合に平衡個体数を 1 未
満にするには,年あたり 84 ∼ 92% の高い駆除割合が必要であった。
一方,卵を一定の割合で除去する条件下において,成魚または未成
魚の駆除を加えることで,個別に駆除対策を実施するよりも少ない
駆除割合で根絶に導くことができることが示された(駆除に要する
総コストが必ずしも減少するとは限らない点に留意)。さらに,卵及
び成魚を個別に駆除する場合それぞれ約 80%,60% 未満の駆除割合
までは平衡個体数が増加し,それを超えると個体数が減少するとい
う一山型の応答を示した。これは本研究で用いた個体群モデルにお
いて産卵数と 0 歳魚の個体数との関係にリッカー型の密度効果を仮
定しているためである。したがって,実際に管理を実施する際にお
いて,ブルーギル個体群の動態に作用する密度効果の影響を把握・
推定することも重要であると考えられる。本研究の結果が日本にお
ける現実の駆除事例にどの程度適用できるかは留意が必要であるが,
個体群モデルを用いることで複数の駆除対策の効果を予測・比較す
ることができ,より効果的な対策の選択を支援することが可能にな
るだろう。なお,本研究の結果は,岩崎ら(印刷中,応用生態工学)
にまとめられたものである。
340
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-394
P2-395
降水量と放牧の違いがモンゴルの牧畜業 - 牧草地生態系
表土剥ぎ取りによる除染作業が水田土壌およびトウキョ
の持続性に与える影響
ウダルマガエル幼生の放射能汚染に与える影響
* 加藤聡史,藤田昇,山村則男
* 境 優(農工大・農),五味高志(農工大・農),若原妙子(農工大・農),
恩田裕一(筑波大・生命環境)
乾燥地の草原植生は降雨等の気象変動の影響を受けて時間的にも
空間的にも大きく変動するので、一次生産の分布の予測が立てにく
い。こうした地域では定住的な農業を行うのはリスクが高く、広域
の草地を機会的に利用する遊牧が伝統的に行われてきたと考えられ
ている。しかしモンゴルでは、近年の民主化にともなう市場経済化・
市場にちかい都市周辺部での家畜頭数の急激な増加と集中化・現在
議論中の新たな牧地法による将来的な定住的牧畜へ移行する可能性
などによる植生環境の劣化が懸念されている。
本研究では、どのようなシステムが牧草地全体での牧畜業の生産
性や牧畜民の利得を最大化できるか?さらに、草原生態系を長期間
持続的に維持できるための牧畜業の規模はどのようなレベルか?と
いう環境と経済の両方の要因に着目し、シミュレーションモデルを
用いて、異なる牧畜様式(遊牧/定住)、異なる降水量と降雨パター
ン、異なる放牧圧に対して、それぞれの条件下での牧畜業の持続可
能性の予測と比較を行った。このモデルでは、モンゴルでの牧畜に
関して収集したさまざまなデータを初期値として利用した。
その結果、牧草地生態系の牧養力(環境収容力)は、従来いわれ
てきた降雨量とあわせて、牧畜の移動性でほぼ決定される可能性が
あること、牧民世帯数は牧養力には影響しないが草地環境の劣化に
は大きく関係すること、などを明らかにした。また、牧畜民が自分
の利得を最大化しようとふるまうような場合でも、植生バイオマス
が大きく回復力の高い箇所を利用することで、生態系利用の持続性
はむしろ高くなる場合がある一方で、移動性が低下すると脆弱な箇
所へのダメージがより蓄積されやすくなることを示した。
自然湿地生態系の代替地として注目される水田は、福島県下にお
ける主要な景観ユニットである。東日本大震災後、福島県下の水田
地帯の広い範囲が福島原発事故により大規模な放射性セシウム汚染
に見舞われ、除染作業が行われている。本研究では、表土剥ぎ取り
作業 ( 表層 0~5 cm) による放射性セシウム除去が、水田土壌とその上
に生息するカエル幼生にどのような効果をもたらすのかを調査した。
福島県川俣町に位置する 2011 年 6 月に除染された除染水田と対照水
田を調査地とし、2012 年 7 月に採集した土壌コアサンプルと、カエ
ル幼生 ( トウキョウダルマガエル ) の乾燥重量中の Cs-137 濃度をそ
れぞれ測定した。
深度 0~20 cm までの水田土壌の総 Cs-137 濃度の平均値は、除染水
田、対照水田それぞれで、2015, 8028 Bq/kg であった。一方、カエ
ル幼生の Cs-137 濃度は、それぞれ 880 ± 91 (SE)、4500 ± 266 Bq/kg
であった。カエル幼生の Cs-137 濃度は、表層土壌 (0~5 cm) より高く
なっており、食物を介した生物濃縮プロセスが起こっていることが
推察された。また、表層土壌とカエル幼生では、それぞれ除染水田
の Cs-137 濃度が対照水田の 21, 20% であった。これらの結果は、水
田における表土剥ぎによる除染作業が土壌およびカエル幼生に一定
の効果をもたらしたことを示している。しかしながら、除染水田に
おける表層土壌の Cs-137 濃度は、2012 年試料採集時では 2011 年の
除染直後と比べ約 4.4 倍となっていた。以上のことから、水田と同
じく汚染された周辺環境 ( 例えば、用水路、集水域 ) からの放射性
セシウムの移動、生物濃縮プロセスのモニタリングの重要性が示唆
された。
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西中国山地におけるナラ類集団枯損の被害拡大に与える
亜高山帯植生におけるニホンジカ摂食からの保全優先度
環境要因
の検討
* 亀井幹夫(広島総研林技セ),林晋平(島根中山間研セ)
* 長池卓男,飯島勇人(山梨県森林研)
カシノナガキクイムシが媒介する病原菌によって引き起こされる
ブナ科樹木の枯死(ナラ枯れ,ブナ科樹木萎凋病)が,近年各地で
問題となっている。西中国山地においても 2000 年代前半までは島根
県西部にとどまっていた被害が,2012 年には島根県のほぼ全域と広
島県北部に広く分布しており,両県の一部の地域では,森林の公益
的機能に大きな影響を及ぼすことが危惧される大規模な集団での枯
死が確認された。これまでに全国各地で行われてきた調査から,被
害の発生程度は樹種によって異なり,特にミズナラでは枯死被害が
多いことや,標高や斜面方位の影響を受けることなどが指摘されて
いる。ただし,被害の発生確率に関する予測はいくつかの地域で行
われているが,被害の規模に着目した広域での予測はほとんどない。
両県では防除事業を行っているが,激害になる危険度の高い場所を
広域的に事前に予測することで,防除において限られた労力や資材
を効果的,集中的に配置することが可能となる。
本研究では Maxent を用いて,島根県と広島県において激害となっ
た地域と環境要因との関係を解析し,被害の規模に影響を与える環
境要因を明らかにするとともに,今後被害が増加すると予測される
地域を抽出することを目的とした。激害となった地域は,島根県と
広島県がそれぞれ作成した被害分布図から基準地域メッシュの区画
ごとに枯死本数を集計し 26 本以上の区画とした。環境要因には気候
(気温・降水量),地形(標高・斜面傾斜・斜面方位),土地利用・植
生を用いた。得られたモデルからは降水量が重要な要因であること
が明らかとなった。また,2012 年まで枯死被害が確認されていない
広島県の北東部に激害となる可能性の高い地域が存在することが示
された。
ニホンジカによる高山・亜高山帯植生への過大な摂食の影響が各
地から報告されている。その総合的な対策には、個体数管理・生息
地管理・防除が必要であるが、高山・亜高山帯においては遠隔地に
あることなどから、個体数管理・生息地管理を行うには現状では多
くの困難が伴う。したがって、植生防護柵などの防除中心の対策が
行われている。ニホンジカによる植生への摂食が近年顕著になりつ
つある南アルプス北岳亜高山帯において、その影響の 2 年間の変化
を明らかにし、植生保護柵設置の際などの保全優先度について考察
した。調査は、標高 2200 ∼ 2800 mまでの通称右俣および草すべり
の登山道沿いでダケカンバ林および高茎草原を対象とした。登山道
沿いの約 30 mおきに長さ 20 mの調査区を設定し(ダケカンバ林 16
調査区、高茎草原 26 調査区)、登山道の両側に 5 m間隔で 1 × 1 m
の植生調査区を設置した(1 調査区あたり 10 植生調査区。合計 420
植生調査区)。2010 年および 2012 年に、各植生調査区に出現した植
生高 2 m以下の維管束植物種を記録し、ニホンジカによる摂食の有
無も記録した。摂食率(各調査区の全出現種の出現頻度に占める摂
食されていた種の出現頻度の割合)は両年ともダケカンバ林で高か
った。2012 年は、両植生タイプの調査区平均でみると、摂食率は低
下しており、高茎草原でより低下していた。しかし、調査区によっ
ては摂食率が上昇しており、調査区の状況によって摂食率の変化が
左右されることが示唆された。また、出現種数・頻度や種多様度( H’)
は、両植生タイプで減少していたが、ダケカンバ林でより減少して
いた。非嗜好性植物種(イネ科、カヤツリグサ科、シダ)の優占度は、
ダケカンバ林の方が高く、2012 年は両植生タイプとも増加していた。
これらの結果を基に、植生保護柵を設置する際の保全優占度を検討
する。
341
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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生物多様性フットプリント:木材消費国が引き起こす海
小規模自治体におけるレッドデータブック作成事例
を越えた森林破壊の影響
白川勝信(高原の自然館)
* 古川拓哉(横国大・環境情報),角谷拓,石濱史子(国環研),Kastner
T.(Univ. Klagenfurt),加用千裕(農工大・農),本藤祐樹,松田裕之,
金子信博(横国大・環境情報)
北広島町(人口約 2 万人)が作成した「北広島町レッドデータブ
ック 2012(RDB)」について,その作成過程および利用・管理の展
望を報告する.
生物多様性基本法の施行以来,各地方自治体においても生物多様
性地域戦略の策定が進められている.戦略策定の動きが特徴的なの
は,都道府県や政令指定都市のような,規模の大きな自治体だけで
なく,財政や人口の規模が小さな基礎自治体においても早い段階か
らの取り組みが見られることである.その背景には,環境省の支援
事業や CBD-COP10 の開催など,地方自治体が取り組みやすい状況
が整った事も要因であるが,「戦略の策定」が,例えば「農村振興計
画」や「文化財管理保護計画」のように,自治体の事業として馴染
みやすいことが大きかったと考えられる.
一方で,生態系に関する情報の整備については,「一部の例外」を
除いてモニタリングの体制が整っていないため,多くの基礎自治体
では,戦略の策定が困難なことや,策定された戦略が形骸化するこ
とが予測される.生物多様性を保全する上で,基礎自治体による取
り組みが欠かせないが,全ての基礎自治体がモニタリングの体制を
整えるには,いくつものハードルを越える必要があり,既存の生物
情報を活用するための「効率的な」方法が求められる.
北広島町は,過去からの調査記録が蓄積されていることや,小規
模ながら博物館施設を有していることなどから,基礎自治体として
は比較的モニタリング体制が整っている「一部の例外」に含まれる.
しかしながら,人的・物的資源は限られており,生物情報の「効率
的な」活用方法が求められるという課題は他の自治体と共通である.
北広島町での RDB 作成事例を通して,生物多様性情報を基礎自治体
の施策に反映させる際の課題や,科学的正確さと現実社会との折り
合いについて考えたい.
人間社会による資源消費は、世界的な生物多様性減少の大きな要
因の一つである。経済のグローバル化が進んだことで、資源の生産
地と消費地の距離は遠ざかり、その関係も複雑化しているが、資源
貿易による国境を越えた生物多様性損失はほとんど明らかにされて
いない。このため、マクロスケールの資源生産・消費パターンと生
物多様性データを直接的に結びつけ、資源貿易が引き起こす生物多
様性損失を定量的に評価する必要がある。
そこで、資源消費の環境負荷を評価するエコロジカル・フットプ
リント(EF)の概念を拡張し、国際貿易による資源流通量を推計し、
ある国が消費する資源量を原産国別の生産に必要な土地面積に換算
した上で、その国の消費活動によるグローバルな生物多様性インパ
クトを求める「生物多様性フットプリント(BF)
」の枠組みを考案
した。本研究では、生物多様性減少の主要因の一つである森林伐採
を対象に、木材生産によって生じる生物多様性損失と国境を越えた
消費活動の生物多様性への影響を推定した。
結果、国外への木材資源供給による EF の「輸出」はカナダやロシア、
北欧など北方の木材生産国で特に高く、
「輸入」は米国、日本、中国、
西ヨーロッパ諸国が高かった。一方、国外への木材資源供給にとも
なう自国内での生物多様性損失、すなわち BF の「輸出」はインド
ネシアやマダガスカルなど熱帯地域で高く、「輸入」は中国と日本が
突出し、米国、韓国、西ヨーロッパ諸国の順に続いた。EF と BF の
輸入の順位の変化は、木材輸入量の総量だけでなく、熱帯地域から
の輸入量の違いが BF に反映されたためである。
P2-400
P2-401
阿蘇東外輪山における樹林の伐採による草原再生に伴う
メコン中流域の魚類の移動と寄生虫感染率の変化
植生の変化
* 船津耕平,丸山敦,神松幸弘,源利文,門司和彦
* 横川昌史(大阪市立自然博),井上雅仁(三瓶自然館),堤道生(近中四
農研),白川勝信(高原の自然館),高橋佳孝(近中四農研),井鷺裕司(京
都大・農)
近年、公衆衛生分野において、有害生物の被害を生態学的視点か
ら管理する手法が注目され直している ( エコヘルス )。我々は、東
南アジアを中心に生息し、肝硬変や胆管癌を引き起こすタイ肝吸虫
(Opisthorchis viverrini )のリスク管理を目指すプロジェクトの一環と
して、その第二中間宿主である魚類の季節移動とそれに伴うタイ肝
吸虫の分布拡大を把握するために、メコン河中流域の水田地域で調
査を行った。タイ肝吸虫は、水田地域の水田、貯水池、用水路に生
息する Bithynia 属巻貝に潜伏し、雨期に大・中河川から遡上する魚
類を介して終宿主のヒトに寄生する。そのため、雨季の魚類の分布
拡大が、タイ肝吸虫の生活環の維持、および分布拡大に貢献してい
ると考えられる。本報告では、メコン河中流域の支流に流れ込む川
に隣接する 6 つの農村(ラオス、サワンナケート県)の水田、貯水
池、用水路で 2012 年 6 月(雨季直前)、9 月(雨期終盤)に魚類を
採取し、種組成、密度、およびタイ肝吸虫の感染率の変化を調べた。
魚類は形態による同定を行った後、形態による同定が困難な種、お
よび DNA 配列情報が不足している種については、DNA を抽出して
mtDNA、Cyt-b 領域のシーケンスに供した。また、吸虫感染を確認
するため、胸鰭周辺を顕微鏡下で観察して感染の有無を調べ、陽性
の魚体からは DNA を抽出して吸虫の種特定を行った。2012 年 6 月
に採取した魚類は 39 種 274 個体、9 月に採取した魚類は 52 種 744
個体であり、雨期になると捕れる魚類の種数、個体数ともに大きく
増えた。吸虫のメタセルカリアの感染個体数は、雨季直前(21 /
274 個体)から雨季終盤(45 / 744 個体)と増加したが、感染率そ
のものは減少した。本発表では種特定の結果と併せて報告し、エコ
ヘルスの視点にたったタイ肝吸虫症の管理法を提案したい。
半自然草原は人為的な管理によって維持されてきた二次的な植生
であるが、管理放棄や土地利用の転換によって面積が大きく減少し
ている。各地で草原植生の再生の取り組みが行われているものの、
植生データに基づく再生の取り組みはまだまだ少なく、基礎的なデ
ータの蓄積が必要である。本研究では、熊本県の阿蘇東外輪山にあ
るかつて半自然草原であったミズキが優占する樹林を伐採し、毎年
の草刈・持ち出しを行う処理を行い、4 年間の草原植生の変化を評
価した。調査地において 12 m × 12 m の調査区を 2 ヶ所設置し、各
調査区内に 2 m × 2 m の植生調査区を 9 ヶ所設置した。2009 年の 10
月に樹林の伐採を行い、2010 年から 2012 年の 10 月から 12 月の間
に草刈・持ち出しを行った。2009 年から 2012 年のそれぞれ 5 月と 8
月に各植生調査区内の植物の種名と被度・高さを記録した。
樹林の伐採によって種組成が大きく変化し、植生調査区あたりの
植物の種数が上昇した。これらの変化は、優占種が入れ替わったこ
とと、草原性の植物が新たに定着したことによるものと考えられた。
また、散布特性ごとの相対優占度を評価したところ、風散布植物の
優占度が伐採後に急速に増加していたが、重力散布植物の優占度は
増加していなかった。これらのことから風散布植物の植生変化への
貢献度が大きく、重力散布の草原性植物の定着には時間がかかると
考えられた。今回の調査区と周辺の半自然草原の植生データを比べ
ると優占種の相対優占度や種の出現パターンが大きく異なるため、
今後も植生が変化していくものと予想された。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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どこまで減らせば木が育つ?ニホンジカの密度と無立木
伐採とシカの採食が薪炭二次林のリター分解過程に及ぼ
地の更新の関係
す影響
* 立脇隆文(兵庫県森林動物研究セ),岸本康誉,藤木大介(兵庫県大・
兵庫県森林動物研究セ)
鈴木牧(東大新領域)*,伊藤江利子(森林総研北海道),三次充和(東
大演習林),塚越剛史(東大演習林)
兵庫県におけるシカ密度と森林更新の関係を明らかにするため、
衛星画像の差分抽出によって 2000 年から 2005 年の間に森林が消失
した地域を選定し、2012 年に現地調査をすることで胸高直径以上の
樹木の本数密度を調べた。
衛 星 画 像 に よ る 森 林 消 失 地 の 抽 出 に は、2000 年 と 2005 年 の
LANDSAT_ETM のバンド 7 を主成分分析し、第2主成分値を使用し
た。森林消失地選別の閾値には、2004 年の台風による風倒被害地の
航空写真を教師として、閾値を変化させながら精度評価を行い、最
も精度が高くなる閾値を採用した。
本数密度の調査では、樹種タイプによってシカの影響が異なるこ
とが予想されたため、針葉樹・林冠木、広葉樹・林冠木、広葉樹・
低木の3タイプに分け、樹種タイプごとに一般化線形混合モデルを
作成し、AIC によるモデル選択を行った。モデルの目的変数は本数
密度とし、説明変数にはシカの目撃効率の平均値、開空度、針葉樹
の植栽有無、前植生、防鹿柵の有無、気温の平年値および積雪量の
平年値の7変数を用いた。ランダム変数は調査地に固有なものとし、
応答変数はポワソン分布に従うと仮定した。針葉樹・林冠木のモデ
ルには、目撃効率の平均値、開空度、針葉樹の植栽有無が選択され
た。一方、広葉樹・林冠木および広葉樹・低木では、針葉樹・林冠
木で選択された変数に加え、前植生が選択された。目撃効率の平均
値の係数はどの樹種タイプでも負の値を示したが、針葉樹・林冠木
で影響が弱く、広葉樹・林冠木で影響が強かったため、樹種タイプ
によって同じシカ密度でも更新可能性が違うことが示された。また、
森林更新についてのシナリオを立て、作成したモデルを基に適切な
森林更新に向けたシカおよび森林の管理方法について考察した。
大型草食動物の密度増加によるリター分解過程への影響は草本植
生においては顕著であり、植生の遷移段階により異なることが知ら
れている。しかし、微生物相や土壌動物相の相互作用がより複雑な
森林生態系においては、分解速度への影響の知見は確立されていな
い。本研究では、シカが林床植生に顕著な影響を及ぼしている二次
林において、リター分解に対するシカの影響が植生の遷移段階によ
ってどう異なるか検討した。
房総半島南部の常緑広葉樹二次林内に設置した、無処理・上層木
伐採(伐採区)・防鹿柵設置(柵区)・上層木を伐採し柵を設置(両
処理区)の、4 通りの実験区で測定を行った。柵区と無処理区の植
生に差はなく、両処理区では遷移初期樹種が優占し、伐採区では草
本と低木が優占していた。現地で優占する常緑樹種と落葉樹種のリ
ターを、それぞれリターバッグに詰めて林床に固定し,逐次回収し
て内容物の乾重と C/N 比を測定した。バッグには土壌動物の侵入を
許す 4 mm 目と 2 mm 目の二種類のメッシュサイズを使用し,メッシ
ュサイズによる分解速度の違いを検討した。
常緑種リター、落葉種リターとも、乾重の減少と C/N 比の増加は
柵区と両処理区の方が無処理区より速く、シカの高密度化に伴いリ
ター分解が減速することが示唆された。リターの乾重減少と C/N 比
の増加は伐採区で最も遅く、これはシカの影響でギャップ形成後の
植被回復が妨げられ、地表面が乾燥がちだったためと考えられる。
なお、バッグのメッシュサイズの大きさも乾重減少と C/N 比の増加
に度々正の影響を与えていたが、サンプルの物理的破砕は実験終期
まで殆どみられなかった。したがって、大型動物の分解速度への影
響は土壌動物を介した間接効果ではなく、微生物活性への直接的影
響と考えられた。
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P2-405
二次林から天然林への遷移に伴う生態系サービスの変化
縞枯れ林におけるシカ食害の現状とその 10 年間の変化
* 直井陽代(京都大・農),北山兼弘(京都大・農・森林生態),小野田雄
介(京都大・農・森林生態)
* 鈴木智之(信大・山岳総研),竹田謙一,小林元(信大・農)
「縞枯れ林」は世界でも限られた場所のみで見られる景観である。
長野県北八ヶ岳縞枯山の縞枯れ林では、近年、シカによると思われ
る樹皮剥ぎや稚樹の枝葉食害が数多く見られるようになってきた。
本来、風による枯死と樹木の更新の微妙なバランスによって維持さ
れている縞枯れ現象であるが、樹皮剥ぎによる成木の死亡率の増加
や稚樹の食害による更新阻害が起きればこのバランスが崩れ、将来
的に縞枯れが維持されなくなる可能性がある。そこで、本研究は、
縞枯れ林における近年のシカの分布や食害の現状およびその変化を
明らかにすることを目的とする。
2002 年 に、 林 野 庁 南 信 森 林 管 理 署 に よ っ て 縞 枯 山 南 西 斜 面 の
530m トランゼクトに沿って 10m おきに毎木調査が行われた。この際、
当時増加し始めていたシカによる樹皮剥ぎの有無が記録されている。
本研究では、2012 年にこのトランゼクトに沿って毎木調査および樹
皮剥ぎの有無、枝葉食害、シカ糞塊数を調査した。
2002 年は、斜面下部で 1-2 割程度の樹皮剥ぎ率(全幹数の内の樹
皮剥ぎのあった幹の割合)で、斜面上部に行くほど樹皮剥ぎ率は下
がり、下部より 500-530m の区間では樹皮剥ぎは見られなかった。一
方、2012 年は、斜面下部で 5-6 割程度の樹皮剥ぎ率で、斜面上部に
行くほど樹皮剥ぎ率は下がるものの、500-530m の区間で 2 割程度の
樹皮剥ぎが見られた。糞塊数は、斜面下部で 2 × 100m あたり 20-30
塊程度であったが、斜面上部で 10 塊程度であった。稚樹の枝葉食害
は全体として、頻度は少なかったが、場所によっては大半の稚樹に
枝葉食害が見られる場所もあった。
明らかに 10 年前よりもシカによる食害が増加しており、今後、こ
れが縞枯れ更新に与える影響を評価する必要がある。
里山は農林業など人と自然の長年の相互作用を通じて形成された
自然環境であり、多様な生物の生息環境としても重要である。しか
し里山の管理が放棄されると遷移が進み里山風景が失われる。その
ような地域では現在、間伐などの手入れを施して「昔ながら」の風
景を守ろうとする動きが始まっている。しかし、このような景観保
持の目的による森林管理は生態系にどのような影響を与えているの
かはよく分かっていない。
生態系からの恩恵(生態系サービス)は水や空気の清浄作用、気
候の調節、燃料としての利用、遺伝子資源の保存、土壌栄養塩類保持、
倫理的な価値など多面的であり、これらを複合的に評価することが
重要である。本研究ではこの概念を用いて、京都府と大阪府の府境
に位置するポンポン山にて、景観維持のために管理されているアカ
マツ林、放棄二次林、そして原生林に近い天然林の異なる三つの林
分を比較評価する。多様な生態系サービスを評価するために樹種数、
現存量、有用樹種数、下層植生、枯死率、土壌栄養塩量、土壌硬度、
土壌含水率、CN 比、開空度などを指標とし、管理されている里山か
ら放棄二次林を経て原生林まで遷移していく中で、各サービスがど
のように変化するかを追った。
今回の調査ではいくつかの指標間でトレードオフの関係がみられ
た。例えば、アカマツ林では強間伐が行われているため、開空度、
下層植生の種数は最も大きかったが、現存量や成木種数は他の林分
に比べて小さくなっていた。一方原生林に近い天然林では開空度や
下層植生の種数が他の林分より小さくなる傾向があったが現存量は
最大だった。したがって、評価基準によっては管理された里山林よ
りも遷移が進んだ林分のほうが優れたサービスを提供するため、景
観維持の目的のみで管理を行うと生態系サービスが減少する恐れが
ある。
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ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
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異なる森林施業が生物多様性に与える影響
京丹後市におけるコウノトリとモリアオガエルの誘致に
* 太田 藍乃,森 章,北川 涼(横浜国大・環境情報)
よる地域活性化
近年では,これまで日本で多く行われてきた,優れた材木を作る
ための林業よりも,森林の多面的機能の発揮や木材価格の低迷など
の理由により,長伐期や針広混交林施行へと移行を開始している.
以前は皆伐が主流だったが,伐採強度や伐採方法(帯状伐採),択
伐など新しい人工林の管理方法が検討されている.森林の多面的機
能の一つとして,生物の生息地として生物多様性の維持に貢献して
いることが挙げられる.ヨーロッパでは,間伐割合やその方法がそ
こに生息する生き物にも配慮した伐採を行う政策が行われているが,
日本では施業技術や施業施策に関する十分な検討はまだなされてい
ない.そこで本研究では,森林管理を行う上で,間伐がそこに生息
する植物の多様性へどのような影響を与えるのか,メタ解析を行っ
た.
間伐と種数に関して記載された論文を収集し,間伐率と種数の推
移などの情報を抽出した.その後,無間伐区に対する多様性の変化
率を示す値(Hedges' d )を求め,間伐率と多様性の関係について解
析を行った.
その結果,間伐を行った方が何も行わなかった場合と比較して,
有意に植物の多様性が上がることが示された.これは,伐採される
ことにより,光条件が良好になること,生息スペースが増加するこ
となどから特に下層植生など,侵入する種が多くいるからだと考え
られる.しかし,間伐率と Hedges' d での分散分析の結果,間伐率強
度を上げると多様性は増すが,中規模の間伐がもっとも Hedges' d の
値が大きくなることから,中規模撹乱仮説の傾向が見られた.森林
施業を行う上で,どれほどの間伐率,どのような間隔で伐採するの
かなど,人と生き物が共存する持続可能な森林管理方法を検討する
ための礎となると考えられる.
* 森豊彦(京大生態研・京丹後市支援員),坪倉国男(京丹後市仲禅寺),
野村重嘉(コウノトリネット京丹後)
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P2-409
Change of a growth situation of Viola raddeana for 5
河川整備計画の策定を支援する生態系評価手法の開発
years in Sugao-Numa, Ibaraki Prefecture
* 三橋弘宗(兵庫県立大・自然研),浅見佳世(兵庫県立大・自然研)
* 澤田みつ子(筑波大・院・生命環境),小幡和夫(茨城県自然博物館),
上條隆志(筑波大・生命環境系),中村徹(筑波大・生命環境系)
生物多様性情報を解析して、その成果を生態系管理の計画論に反
映させる方法論と実践事例について、兵庫県におけるいくつかの事
例をもとに、評価のフレームワークを構築した。この評価フレーム
では、生態系の評価だけに終始するのではなく、他の計画との整合
を踏まえ、実現可能な保全・再生対策の数値目標を位置づけた計画
論として、法定計画として位置付けた武庫川水系河川整備計画の方
法論を精査した。武庫川水系河川整備計画では、環境に関する 2 原
則として、「流域内から種の絶滅を引き起こさない」、「優れた環境に
関する総量を維持する」といった方針を定め、これを実現するため
の複数の指標を定めて数値目標の設定を行った。本発表では、これ
らの手続きについて紹介する。
生き物と共生する地域づくりを推進する目的で、京都府京丹後市
網野町仲禅寺 ( モリアオガエル ) と京丹後市久美浜町 ( コウノトリ )
で取り組んでいる地域活性化プロジェクトの現状を報告する。本報
告では、①生き物との共生における住民意識の向上、②自然環境保全、
③地域と産物の生態的ブランドカの3点に重点をおいた。
( 1) モリアオガエル
①産卵池の整備、②生態調査、③自然観察会、④農産物の市販化、
⑤地域イベント開催等による広報を重点課題とした。産卵池周辺を
エコパーク化するために、樹木ラベル、掲示板等を設置し、自然観
察会を実施した。産卵数・幼体数の季節変化、幼体の分散と密度等
の生態調査を行った。自然の豊かさのシンボルとしてのモリアオガ
エル米の市販化を試みた。地域住民の意識向上と地域の宣伝のため
に、2010 年から3回の仲禅寺・生命の里・写真コンサートを開催した。
( 2) コウノトリ
①コウノトリネット京丹後の組織化、②生息分布調査・餌付け、
③コウノトリの住民登録、④人工巣塔・冬期エサ用の養魚池の造成、
⑤農産物の市販化、⑥写真展・インターネットによる広報等を重点
課題とした。久美浜町を中心に58名の組織を立ち上げ、広報・人
工巣塔設置等を行った。人工巣塔を4基設置し、1基に京都府初の
営巣とヒナが誕生した。冬期のエサ不足解消のために、ニジマスの
養殖池を造成して、餌付けを行った。「コウノトリ見守り隊」として
京丹後市中の生息分布調査を行い、野外個体の分布を把握した。京
丹後市へコウノトリの住民登録を申請し、認可された。米・黒豆等
の農産物を市販した。
以上の結果により、生き物をシンボルとした地域活性化は、地域
住民の意識の向上と経済的活性化を推進する原動力になったと考え
られる。
Viola raddeana is a perennial wetland species listed as endangered
species (Category II: vulnerable) in the Japanese Red List. We examined
yearly changes of its density at the grassland maintained by prescribed
burning. We also conducted a study site of 5 year interruption of burning.
Interruption of the prescribed burning resulted in rapid reductions in the
density of V. raddeana , especially that of seedlings. However, the density
of V. raddeana decreased under annual prescribed burning. Furthermore,
increase in the rate of large sized over-wintered individuals was observed
especially in the interrupted site. It is expected that a large individual has the
large seed quantity of production. These results indicate that conservation
of V. raddeana requires promotion of not only seedling recruitment by
prescribed burning which promote improvement of environment such like
light condition, but also the maintenance of populations which include large
individuals capable of producing seeds. Hence, fire-free intervals may be
required.
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6 年間で植生はどう変わったか - シカ密度の異なる 3 地
霧多布湿原におけるエゾシカの行動と植生に対する影響
域の比較 -
* 志田祐一郎(北大院・農,
(株)野生生物総合研究所),石井健太,芹澤裕二,
白井哲也,石田裕一,安細元啓((株)野生生物総合研究所),河原淳(NPO
法人えんの森),金田哲也(浜中町)
* 幸田良介(地球研),藤田昇(地球研)
近年日本各地でニホンジカの生息密度増加による森林植生の衰退
や森林更新の阻害が問題となっている。鹿児島県屋久島においても
ヤクシカの生息密度が増加しており、森林への影響が指摘され始め
ている。一方でどの程度のヤクシカ生息密度で、どのような樹種に
影響が生じ始めるのかといった詳細な情報は明らかになっていない。
屋久島の貴重な自然を保全するうえでこのような情報を得ることは
非常に重要である。そこでヤクシカ生息密度の異なる 3 ヶ所の森林
において 6 年間の稚樹動態を調べ、ヤクシカが森林植生に与える影
響を考察した。
2006 年に島内の低地林 3 ヶ所を調査地として選定し、樹高 30 −
130cm の木本樹種の毎木調査を行った。2009 年及び 2012 年に再調
査を行い、各調査地において樹種ごとに生長率、死亡率、新規加入
率を計算した。またヤクシカの食痕頻度から嗜好性を判別し、嗜好
性グループごとに動態を比較した。
各調査地での樹木個体群動態をみると、ヤクシカ生息密度の最も
高かった調査地では、特に嗜好性の高い樹種において高い死亡率や
低い生長率、樹木本数の減少がみられた。またヤクシカ密度が中程
度の調査地では、2009 年までは稚樹動態に大きな変化は見られなか
ったものの、2009 年から 2012 年にかけて嗜好性が最も高い樹種の
個体数が減少するなど、種組成が一部変動し始めていることが明ら
かになった。一方でヤクシカ密度が 5 頭 /km2 程度と最も低い調査地
では、6 年間を通して稚樹動態に大きな変動は見られなかった。今
後は稚樹植生とヤクシカ生息密度のモニタリングを引き続き行って
いくとともに、これらの情報を管理目標の制定などに役立てていく
ことが必要だろう。
北海道東部浜中町の霧多布湿原では、近年、町の花であり観光資
源でもあるエゾカンゾウの花が少なくなってきており、この原因が
エゾシカの採食ではないかと疑われていた。浜中町はこれをきっか
けとして、湿原に対するエゾシカの影響を把握して必要な対策を検
討するために、2010 ∼ 2012 年に調査を実施した。
霧多布湿原の南東部に、大きさ 12m × 12m・高さ 2m の防鹿柵を
2010 年 6 月に 3 個設置した。それぞれの場所に調査区(囲い区と対
照区)を設け、植物の種組成とエゾシカによる採食状況を調べた。
また空中写真および現地踏査による痕跡の確認、赤外線カメラによ
る無人撮影、ライトセンサス、定点観察によって、調査区周辺に生
息しているエゾシカの数と行動を把握した。
エゾシカの食痕はエゾカンゾウ、タチギボウシ、ノハナショウブ、
ノリウツギで顕著だった。エゾカンゾウでは主に花が採食され、採
食された花茎の本数割合は調査区あたり最大で約 90% であった。し
かし 2010 年から 2012 年にかけての種組成の変化は顕著ではなかった。
夏季のエゾシカは、夜は調査区付近で、朝夕は内陸側の湿原で多
く確認された。すなわち昼は内陸側の湿原や森林にいて、夜に調査
区付近に移動してくると推察された。夏季のライトセンサスにより
調査区付近で確認されたエゾシカは 1 晩あたり最大で 30 頭であり、
これらが調査区付近の植物を採食していると考えられた。
以上の結果を踏まえて、採食に関与する個体の排除や、電気柵を
使用しての防除など、とるべき対策について現在協議している。
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人間の関与を考慮したカワウとアユの生態系シミュレー
不耕起・草生畑に成立する土壌生物群集の多様性と機能
ション
* 金子信博,南谷幸雄,廿楽法,三浦季子,荒井見和(横浜国大環境情報)
* 井土幸夫(富士通研),小森谷均(富士通研)
近年ようやく、生物多様性が生態系機能を通して生態系サービス
の供給に正の効果があることが認められるようになってきた。しか
し農業では、以前として農地そのものではなく、まわりの森林など
の影響を調べる研究が多く、農地に生息する生物の多様性が持つ効
果についての研究は少ない。農地では耕起や施肥、農薬散布といっ
た撹乱が頻繁に生じるので、自然草原や森林に比べると土壌の生物
多様性は低い。一方、農地保全を目的として不耕起や省耕起、無施
肥や有機農業の採用などさまざまな農法が試されている。不耕起で
地上部の雑草を刈り取りによって管理する自然草生・不耕起栽培は、
作物の生産量が慣行農法より劣るので、ほとんど普及していないが、
土壌への撹乱が最も少ない農法である。一般に農家では処理間の比
較ができないので、自然草生・不耕起栽培と慣行農法における土壌
生物群集の多様性と機能を比較するために、試験圃場を設定した。
処理は、耕起もしくは自然草生・不耕起と、有機肥料の有無の2要
因である。長年草地として管理されてきた学内の一部を 2009 年から
耕起し、夏季はダイズ、冬季はコムギを栽培した。2012 年6月のコ
ムギ収穫量は、施肥を行った自然草生・不耕起で最も多く、無施肥
の自然草生・不耕起で最も少なかった。耕起の開始によって、大型
ミミズは生息できなくなったが、不耕起区では 30 g/m2 を越すミミズ
が生息していた。節足動物、土壌微生物群集にも耕起の影響が大き
かった。表層 0-5cm の炭素濃度は3年間の耕起により 8%から 6% に
減少し、2mm 以上の耐水性団粒も減少していた。自然草生・不耕起
栽培で十分な施肥を行うと、雑草の根バイオマスが多くなり、土壌
生物の資源として有効であり、団粒形成を通して土壌炭素濃度が高
く維持されていた。
最近、カワウによる淡水魚(主に、アユ)の大量の捕食が漁業関
係者において問題になっている。現在、様々な方法が試みられてい
るが、この問題を解決する有効な手段はまだ確立していない。そこで、
我々はこの問題の解決のために、カワウとアユの生態系の時間的推
移を予測するためのプログラムを作成している。今回は、以前に開
発したプログラムを発展させて、この生態系に人間の関与の効果を
取り入れて、解析を行ったので、それについて報告する。
このプログラムは、ミクロな個体ベースモデルに基づき、個々の
カワウ、淡水魚(アユ、フナ)、及び釣り人の行動を記述するアルゴ
リズムでできている。また、このプログラムは、Java 言語で書かれ
ている。これらの個体は、互いに相互作用しながら、個体数を変化
させていく。今回、検討したのは、一辺 7.5km の正方形の領域にカ
ワウ、釣り人、アユ、及びフナがランダムに存在する環境である。
カワウは、アユとフナを捕食するが、釣り人は、アユのみを釣る。
また、カワウは釣り人の近傍には警戒して近づかないとする。
その結果、以下のことが分かった。
(1) 釣り人の人数と釣り人の釣るアユの数には一定の閾値があり、
それ以下では、カワウとアユの数は定常状態で推移するが、それを
越えるとアユとカワウの数が減少する。
(2) 釣り人によるカワウの追払い効果により、アユの減少を抑制で
きる。
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新潟県におけるブナの開花率からみたツキノワグマの出
ワンド類型と動物相から見た木津川砂州の生態系管理に
没リスク評価の可能性
ついて
* 小林誠(十日町市立里山科学館キョロロ),田辺慎一(国際自然環境ア
ウトドア専門学校),澤畠拓夫(果樹研究所),山岸洋貴(弘前大学・白神),
永野昌博(大分大学・教育),長野康之(新潟ワイルドライフリサーチ),
山本麻希(長岡技術科学大学)
高畑宥吾・前川孝太・* 石田裕子(摂南大理工)・竹門康弘(京大防災研)
ワンドとは河道と水面が連結している止水域であり,止水性の水
生生物の生息場所,また仔稚魚期の成育場所や増水時の避難場所と
なる。砂州が発達している京都府木津川には,自然に形成されたワ
ンドが多く見られるが,砂利採取,ダム堆砂,河道掘削等による土
砂供給の減少とともにワンドの形状も変化してきている。そこで,
本研究では木津川 0-25km 区間について,地形特性に基づくワンド類
型と動物相の対応を調査するとともに,各ワンドの形成される砂州
条件を分析することによって,木津川砂州の生態系管理における目
標像を提示することを目的とした。
調査の結果,開口部が上流側を向いているか下流側を向いている
かによって,砂州頭ワンド,砂州尻ワンドに分けることができた。
また,それぞれについて,植生が被覆している割合の高い植生ワン
ドと水際が開けている裸地ワンドに分類された。各類型の動物相を
調査した結果,砂州頭裸地ワンドは,ニゴイの稚魚・カゲロウ目・
カワゲラ目,カワヨシノボリなどに,砂州頭植生ワンドは,ヌマチ
チブ・メダカ・オオクチバス・ブルーギルなどに,砂州尻裸地ワン
ドは,オイカワ,カマツカなどに,砂州尻植生ワンドは,アメリカ
ザリガニ,ユスリカ科,チビミズムシ,トンボ目などに特徴づけら
れた。また,増水後には砂州尻ワンドで多くの生物が確認され,避
難場所としての価値が示唆された。
砂州頭ワンドの個数は,低水路沿いが低い砂州,比高分布が一様
な砂州,高水敷化した砂州の順に多かった。また,砂州全体の植被
率は,比高分布が一様な砂州が他の砂州に比べて有意に低かった。
これらの結果より,砂州頭ワンドが形成される砂州の条件として,
比高も植被率も高すぎず低すぎないことが示された。特に砂州頭裸
地ワンドが形成されるためには,低水路沿いの植生管理や伐採が必
要であると考えられた。
ブナ科樹木の種子生産量の豊凶は、それに強く依存したツキノワ
グマ(以下、クマ)の出没指標となることが報告されている。新潟
県では、クマの主要な餌資源の一つであるブナの凶作年に、行政サ
イドでクマ出没に対する注意喚起が行われる。しかしブナの結実調
査は夏以降に実施されるため、注意喚起から 9 月から迎えるクマの
出没ピークまでの時間的猶予は十分とは言えず、クマ出没への対策
やクマの保護管理を行う上で、より早期の出没リスク評価が望まれ
る。本研究では、結実調査よりも早期のクマ出没リスク評価の実現
を目指し、ブナの開花状況からみたクマの出没リスク評価の可能性
について検討した。
新潟県十日町市の標高約 300m のブナを主体とした約 80ha の里山
において、2006 年より 120 個体のブナの開花状況を調査した。7 年
間の開花率は 0 ∼ 0.91 と大きく変動し、変動パターンは県内全域と
ほぼ同調した。2011 年までの 6 年間の開花率とクマの出没数(目撃・
痕跡件数)との関係を見ると、出没のピークを迎える 9 月以降のク
マの出没数とブナの開花率とに負の相関関係が見られた。また 2011
年までの結果から、ブナの開花率が 0.2 を下回ると、クマ出没リス
クが急増する傾向が見られた。ブナの優占林が比較的広く分布する
新潟県において、ブナの開花率がクマの出没リスク予測の指標にな
ることが示唆された。
また 2012 年のブナの開花率は 0 であったため、秋のクマ出没リス
クが高いことが春の段階で予測された。そこで、県内初の試みとし
て同年 7 月に 4 機関共同の早期の注意喚起を開始した。有効なリス
ク評価手法の使用と複数機関連携の体制により、早期の注意喚起が
実現した。
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里山における鳥獣害 GIS データベースの応用と課題
淀川淡水域における魚類相の現状
高橋俊守(宇都宮大・農)
内藤馨 *,石橋亮,金丸善紀,宮下敏夫 大阪府水生生物センター
里山では、農林水産業の衰退、人口の流出、高齢化、耕作放棄地
の増大、そして鳥獣害が全国各地で課題となっている。鳥獣害は、
経済的な損失をもたらすことに加えて、農家の営農意欲を減退させ
る原因となり、ひいては里山の諸課題をさらに悪化させる原因とな
ることが指摘されている。里山における野生鳥獣による被害の管理
は、地域における農村環境の維持や生活安全のためにも重要である。
野生鳥獣による被害管理には、事業活動の管理で応用されている
PDCA サイクルを適用することができる。この際に、地理情報シス
テム(GIS)を活用し、現場で発生した被害や、設置した防護柵、加
害獣の捕獲といった対策を、整理・分析しようとする試みが行われ
ている。筆者はこれまで、栃木県や鳥獣害対策協議会に加盟する市
町のデータベースの作成や分析を支援してきた。本研究では、これ
らの経験の中から見えてきた里山における鳥獣害 GIS データベース
の応用と課題について報告する。
淀川は天然記念物イタセンパラをはじめ多様な魚類が生息する河
川である.当所では 1972 年から本流域およびワンド域で約 10 年ご
とに魚類相調査を実施し,現状把握に努めてきた.2012 年 7 月から
9 月にかけて最新の調査を行い,外来魚の減少が見られたので,そ
の概要を報告する.
本流域では 18 種が確認され,オイカワ 22%,コウライニゴイ
13.3%,カネヒラ 13.2% の順となった.前回調査でオオクチバス,ブ
ルーギル合わせて 30% 程度を占めていたが ,11.9% に減少した.また,
ワンド域では 29 種が確認され,コウライニゴイ 18.9%,オオクチバ
ス 17.2%,ブルーギル 13.9% となり,前回調査でオオクチバス,ブ
ルーギル合わせて約 40% を占めていたが,31.1% に減少した。本流
域では外来魚駆除は実施していないため,自然減少によるものと考
えられる.
外来魚の地曳網 1 回あたりの平均採取個体数は,オオクチバス(本
流域 :2004 年 12.6 個体,2012 年 6.5 個体,ワンド域 :2004 年 31.6 個体,
2012 年 18.4 個体),ブルーギル(本流域 :2004 年 10.2 個体,2012 年
6.5 個体,ワンド域 :2004 年 74.3 個体,2012 年 14.8 個体)ともに減
少した(p < 0.01, ANOVA)
.一方,在来魚の地曳網 1 回あたりの平
均採取種数は,本流域では 2004 年 ,2012 年ともに 4.5 種と差はみら
れなかったが,ワンド域では 2004 年 5.4 種,2012 年 6.6 種と増加し
た(p < 0.01, ANOVA).
同じ水域のワンドで,継続して駆除を実施している所,一時駆除
を行った所および駆除を実施していない所に分けて比較すると,平
均外来魚比率はそれぞれ 47.9%, 60.5%, 67.5% となり,平均採取在来
魚種数がそれぞれ 7.3 種,5.8 種,5.3 種で,外来魚駆除が多様性の
回復維持に一定の効果を示した(p < 0.05, U-test).
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浮遊アオサによる極端な優占現象は干潟の生態系機能を
水稲栽培における農法履歴の違いが水田の植物種多様性
低下させているのか?
に及ぼす影響-不耕起 V 溝直播農法に着目して
* 矢部徹,有田康一,玉置雅紀,中村雅子,林誠二(国環研),石井裕一(都
環研),芝原達也(UMS)
* 伊藤浩二,中村浩二(金沢大・環日本海域環境研究セ)
水稲の不耕起 V 溝乾田直播農法(以降、V 直)は、経営規模の拡
大に対応した省力技術として、東海・北陸・東北地方の農業法人や
担い手農家を中心に普及が進んでいる。これまで著者らの報告によ
り V 直の水田雑草の種組成は、近隣の慣行水田と比較して乾田化に
より減少している希少湿生植物種が多い等の特色があることがわか
ってきた。一方で、現場における V 直の導入は特定の圃場に固定的
ではなく、水もちや雑草の生え方などの圃場特性を見極めながら、
慣行栽培や転作大豆との入れ替えが起きている。農法の入れ替りは
生産期間中の雑草群落組成に影響を与えるのみならず、埋土種子や
栄養繁殖体を通じて農法入れ替え後の種組成にも影響する可能性が
ある。そこで農法変遷パターンと雑草群落に関係性が認められるか
を明らかにするため、石川県珠洲市 N 地区において、過去 2 年間の
同地区内の水田圃場単位での作付内容の変遷について農業法人から
聞き取りを行い、パターン①:2 年連続 V 直、パターン②:2 年連
続慣行(移植)、パターン③:転作大豆から V 直に変化、を含む 5
つのパターンを見出した。そのうち調査可能だった上記 3 つのパタ
ーンをたどった水田を対象に、収穫直前の 2012 年 9 月下旬に併せて
20 圃場において植生調査を行い、種組成の特徴を明らかにした。
INSPAN の結果、パターン①においてオオクサキビ、ヤナギタデが、
パターン②でイヌホタルイ、タケトアゼナ、タマガヤツリが指標種
として見出された一方で、パターン③では指標種は認められなかっ
た。また、これまで V 直水田に特徴的だったミズオオバコやキクモ
といった希少湿生植物は移植水田内にもわずかに出現することが分
かったが、代かき時に均平とならずに窪地になった部分に限定的で
あった。
本研究では谷津干潟におけるアオサ類のグリーンタイドを通じて,
侵入種による優占現象にともなう一次生産者の変化が干潟の生態系
機能に及ぼす影響を検討することを目的としている。かつては一連
の前浜干潟で,現在でも底質の鉱物組成や供給される海水組成がほ
ぼ等しい千葉県の谷津干潟と三番瀬干潟を対象として研究を開始し
た。特に目視では困難とされるアオサ類の種組成を明らかにし,谷
津干潟におけるグリーンタイドの主要な形成種は侵入種ミナミアオ
サであることを明らかにした。種別の生物量の季節変化を明らかに
し,グリーンタイド通年発生地である谷津干潟では 11 月に最大値を,
9 月に最小値を示した。対照地とした三番瀬では近年大規模なグリ
ーンタイドの発生は見られず,そこでは在来種のアナアオサが優占
していた。この結果,谷津干潟における一次生産者はほぼ通年で底
生微細藻類からアオサ類へと変化していたことが明らかとなった。
谷津干潟における底質中の底生生物種数は夏期に最少となり,三
番瀬よりも少なくなった。一方で堆積しているアオサ類の隙間に生
息する種を含めると夏期でも両干潟に差は無く,アオサ類が多くな
る冬期には谷津干潟で約 2 倍の種数が出現した。個体数も夏期で約
3 倍,冬期で約 25 倍に増加した。侵入種ミナミアオサが優占するこ
とで干潟の生態系機能のうち生息場供給機能については少なくとも
量的に正の効果を示した。
底質環境については,間隙水中の栄養塩濃度等に両干潟間の差が
確認されただけでなく,グリーンタイドが衰退する時期に増加する
項目も複数確認され,グリーンタイドの底質環境への影響が示唆さ
れた。これらの結果より,侵入種ミナミアオサによる優占現象であ
るグリーンタイドが干潟の生態系機能に及ぼす多面的な影響につい
てさらに研究を進めることが必要であることが示された。
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ガボン国における国家森林資源インベントリーシステム
生物多様性の主流化を視野に入れた里山農産物の市場調査
構築の概要
* 小西 繭(信州大・SVBL),俵 悠斗(信州大・繊),中川陽平,松村嘉之(信
州大院・工),小西 哉(信州大・SVBL)
* 笹川裕史,富岡士郎,鈴木圭,久道篤志,水品修,古田朝子(日本森林
技術協会)
国土の 4 割を占める里山は、農生産の場、国土保全、情操教育
および生物多様性保全など多様な公益的サービスを我々に提供する
が、その里山では過疎高齢化に伴った管理放棄により荒廃が急速に
進行している。しかしながら、里山の役割や保全を要する現状は多
くの一般市民に浸透しているとは言い難い。本研究では、仮想市場
法(CVM)によるアンケート調査により、里山農産物の市場価値ポ
テンシャルを評価することにより、里山保全の新たな価値を見出す
ことを目的とした。
調査は 2011 年 12 月に実施し、長野県(里山および市街地)と東
京都に在住する計 2300 名を対象とし、紙面およびウェブアンケート
を併用した。本里山地域には絶滅危惧種シナイモツゴが生息する。
CVM では「里山が荒廃し、絶滅危惧種の生息地が失われる」という
シナリオに対し、そのような事態を避け現状を維持するために表明
された募金額を支払意思額(WTP)とした。WTP を従属変数として
里山や農産物に関する回答結果との関係性をステップワイズ重回帰
分析により調べた。
里山地域では、里山に高い価値を認める住民ほど商品化に意欲的
であり、所得に左右されない WTP を表明した。市街地では豊かな里
山環境が訪問・購入意欲を促しブランド価値に寄与することが示唆
された。市街地住民の 8 割が里山農産物を安全・安心と感じるのに
対し、里山住民は 6 割にとどまり、生産者は里山農産物のイメージ
を過小評価していた。市街地住民の 7 割が里山農産物の購入に意欲
的であったが、里山住民の 6 割は農産物の良さが理解されていない
と感じていた。以上より、豊かな生物多様性は農産物の付加価値向
上に寄与すること、また里山では保全と資源活用の両立を視野に入
れた市場開発の可能性のあることが強く示唆された。
国土面積約 267,000km のうち約 80% を森林が占めているガボン国
では,現在,持続可能な森林経営および全国の森林資源現況を把握
する目的で,国家森林資源インベントリーシステムの構築が進めら
れている。同国ではこれまで,生産林に対してや,地域を限定した
森林調査は行ってきたものの,全国の森林地域を対象として,同一
手法で調査を行う,いわゆるインベントリー調査の経験はなく,森
林タイプ別蓄積量などの詳細な森林資源量は明確ではなかった。そ
こで,本プロジェクトは同国自らによる森林資源インベントリーの
実施および継続的なモニタリングを可能にすることを目的とし,最
終成果を,1. 全土の森林基盤図の作成,2. 国家森林資源インベント
リーの調査手法と手順の開発,3. 国家森林資源データベースの構築,
4. 国家森林資源インベントリーシステムの構築および運用計画の策
定とした。ここで,森林基盤図とは森林タイプ区分図やコンセッシ
ョン分布図,社会基盤情報など森林管理に関する様々な空間情報お
よび属性情報を包含するものとしている。本プロジェクトの実施期
間は 2012 年 8 月∼ 2015 年 8 月の予定であり,リモートセンシング,
GIS・データベース,インベントリーの各チームで構成している。1
年次においては,技術移転計画書の作成,森林タイプ区分の検討,
LANDSAT 画像をもとにした過去の森林タイプ区分図の作成,イン
ベントリー調査手順の作成およびプレインベントリーの実施,その
結果を受けてのサンプリング方法の検討,各チームにおける On the
Job Training,ガボン国担当者の本邦研修などを計画している。本発
表ではプロジェクトの概要および 1 年次の成果について報告する。
2
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除草剤切株塗布処理によるハリエンジュ林の萌芽再生抑
捕獲による集落防護柵内へのシカ侵入抑制効果の検証
制効果
* 豊田鮎,阿部豪,坂田宏志(兵庫県立大 / 兵庫県森林動物セ)
* 赤松史一,槙島みどり,田屋祐樹,中西哲,三輪準二,萱場祐一(土木
研究所)
我 が 国 の 多 く の 河 川 で 外 来 種 で あ る ハ リ エ ン ジ ュ(Robinia
pseudoacacia L.)の樹林面積が拡大している。このため、治水安全上
懸念される河道内樹林は伐採処理などが行われている。しかし、短
期間で樹勢が回復してしまう事例が多く、より効果的な樹林管理手
法が求められている。本研究は、河道内のハリエンジュ林伐採後の
萌芽再生抑制を目的に、現行の河川管理に従った形で、除草剤(グ
リホサート)の切株塗布処理による萌芽抑制効果と土壌へ溶出した
グリホサート濃度を検証した。河道内樹林管理が行われる冬季に天
竜川の中州に繁茂しているハリエンジュ林を伐採し、切株にグリホ
サートを塗布した。塗布後に土壌(30 cm 深)へ溶出したグリホサ
ート濃度の経時変化を調べ、夏季に萌芽状況を調査した。グリホサ
ートの土壌への溶出は、塗布後 1 日目が最も高い値を示し、2 日目
以降は、検出限界以下の濃度となった。グリホサートは切株塗布処
理後に土壌へ溶出しても速やかに分解されていることが確認された。
グリホサートの切株塗布処理は、株からの萌芽を完全に抑制した。
しかし、水平根からの根萌芽に対しては効果が低く、対照区に比べ
て 1/3 の萌芽数の減少にしかならなかった。処理区における根萌芽
の密度は、株の密度が高い場所ほど低くなる傾向があった。加えて、
種子からの発芽も観察された。伐採作業時の人為攪乱によって発芽
を刺激した可能性がある。冬季の河道内のハリエンジュ林へのグリ
ホサートの切株塗布処理による萌芽再生抑制は、切株に対しては有
効だが、水平根からの萌芽および種子からの発芽を抑制するには至
っておらず、その効果は限定的である。
近年、シカ・イノシシによる農作物被害が激増し、その対策とし
て被害の多い地域では集落防護柵の設置が進められている。しかし
ながら、防護柵で封鎖できない公道や河川などによって柵が分断さ
れた部分(以下、開口部)を通過して集落側の農地へ出没するシカ・
イノシシは少なくない。こうした侵入を抑制するために開口部では
威嚇装置の設置や柵の折り返し、グレーチングの敷設などによる対
策が進められているが、その有効性や効果の持続時間については十
分な見解が得られていない。さらに、これらの侵入抑制策は、対象
となる野生動物の個体数自体を減少させるものではないため、問題
の根本的な解決につながらないという指摘もある。
そこで本研究では、開口部周辺における捕獲実施が集落側への野
生動物の出没を減少させる効果があるかを明らかにすることを目的
とし、兵庫県多可郡の集落防護柵開口部周辺においてニホンジカ(以
下、シカ)を対象に調査を行った。2012 年 9 月から 10 月までの約 2
ヶ月間の捕獲期間中に 11 頭のシカが捕獲され、最初に捕獲された 9
月 22 日を境に集落側への出没は大幅に減少した。とくに捕獲期間後
半の 2 週間および最後に捕獲された 10 月 25 日から 1 週間後までの
捕獲期間終了後を含めた計 3 週間は集落側の出没は一度も確認され
なかった。捕獲期間後、11 月下旬までは 2011 年の出没傾向と比較
して集落側への出没回数が少なかった一方で、それ以降、12 月は前
年と同程度の出没がみられた。
今回の結果から、開口部周辺における捕獲実施は集落側へのシカ
出没に対して一定の抑制効果をもつことが分かった。また、その効
果は捕獲期間の後半および捕獲期間後、約 1 ヶ月間に限定してみら
れたことから、集落出没個体への対応策を実効性のあるものとする
ためには、農作物被害の多い時期を含め持続的に防護柵周辺の捕獲
を実施する必要があることが示唆された。
P2-424
P2-425
佐渡島の環境保全型稲作が捕食者密度に及ぼす影響
GIS を用いた水稲交雑率推定指標の開発
* 小林頼太,西川 潮(新潟大・朱鷺自然再生セ)
* 岩崎亘典,米村正一郎,芝池博幸(農環研)
佐渡島では 2008 年より、環境保全型稲作:「朱鷺と暮らす郷作り」
認証制度が開始され、その普及率は 2012 年には全耕作水田の 2 割を
超えた。認証には、減農薬・減化学肥料に加え、生きものを育む農
法として、「冬期湛水」、「江(水田内水路)の設置」、「ビオトープ」、
「魚道の設置」のいずれかの実施が必要である。しかしながら、こう
した農法による生物多様性への影響に関する知見は少ない。「冬期湛
水」や「江」は、慣行農法では水が乏しい冬場や中干し期の水環境
を変えることで水田内生物の生存率や生活史に影響し、食物連鎖を
とおして、上位の捕食者密度に影響することが考えられる。そこで
本研究は、「冬期湛水」や「江の設置」が水田の代表的な捕食者であ
るクモ類やカエル類密度に及ぼす影響を明らかにすることを目的と
した。生活史の課程で周辺環境を利用する水田生物の地域差を考慮
するため、佐渡島の平野部 8 水田(江有 4、江無 4)および中山間地
8 水田(江有 4、江無 4)を調査地とした。2012 年 5 月から 9 月にか
けて、方形枠からの採集(徘徊性クモ類)、すくい取り(造網性クモ
類)、畦のルートセンサス(カエル類)により調査を行った。同時に
混獲された潜在的な餌生物や畦の草丈、水深などの局所データを記
録した。その結果、カエル類では明瞭な傾向がみられなかった一方
で、造網性クモ類の総個体数は平野部より中山間地で多く、潜在的
な餌生物(ハエ目・ウンカ類)と関係性は平野部のみでみられるなど、
農法だけでなく、周辺環境からの影響も考えられた。クモ類のなか
では、アシナガグモ科、カニグモ科、コガネグモ科など、種類によ
って農法や地域・季節による傾向が異なっていたことから、局所デ
ータや農法と餌生物密度の関係性を踏まえて考察を行った。
GM 作物の導入にあたっては,どの程度の交雑や混入が起きるか
推定し,基準を超えないように適切な対策を取ることが必要である。
景観スケールで GM 作物と非 GM 作物との間に生じる交雑を推定す
るためには,開花時期や風向・風速などのデータを準備し,高速な
コンピュータを用いて複雑なシミュレーション計算を行う必要があ
り,多大な労力が必要である。そこで本研究では,水稲を対象とし
て地図情報から広域の交雑率を簡便に推定できる指標を考案し,従
来のシミュレーション計算結果と比較してその有効性を検証した。
本研究では,以下の二つの指標を検討した。
1)ある地域における全ての水田ほ場一筆毎に,(他の水田ほ場と
の接線長)/(水田ほ場面積)を算出し,その平均値を求めたもの
2)地域においてある割合で GM 水稲が作付けされたとした場合,
GM ほ場に隣接した非 GM ほ場について,(風向と GM・非 GM ほ場
の位置関係についての係数)×(GM 圃場と非 GM 圃場の接線長)/(非
GM 圃場の面積)を算出し,その平均値を求めたものである。
上記の指標の有効性を検証するために,関東地方の 11 地区を対象
として 1/2,500 国土基本図から土地利用図を作成し,GM 水稲が 30%
作付けされた場合のシミュレーション計算を行い,二つの指標との
相関関係を検討した。その結果,両方の指標で有意な関係が認めら
れた。
これらの指標のうち,前者は地域間で潜在的な交雑の発生につい
て,比較・評価を行う場合に利用できると考えられる。後者の指標は,
特定の地域を対象として,GM 作付け率や風向が変わる場合,交雑
率がどの様に変化するのかを検討するのに有効である。
348
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-426
P2-427
The effect of vegetation restoration models on the
デジタルカメラによる高山生態系のモニタリング手法 --
distribution of soil nutrients on the Loess Plateau, China
雪融けと植生フェノロジーの検出
*Zhang, J. (Tottori Univ.), Liu G.B. (ISWC of CAS), Yamanaka N. (Tottori
Univ.)
* 井手玲子(国環研),小熊宏之(国環研)
1.目的:極めて厳しい環境条件に存在する高山帯では、気候変
動による生態系への影響が危惧され、高山生態系のモニタリングの
重要性が認識されている。本研究では、高山生態系において重要な
要因である積雪・融雪過程や植生のフェノロジーの空間分布を高時
空間解像度で把握するため、従来の現地調査を補うモニタリング手
法として、デジタルカメラを利用した新しい観測手法の検討を行っ
た。
2.方法:北アルプス立山室堂を対象とし、市販のデジタル一眼
レフカメラ(Canon EOS5D Mark Ⅱ)による約 3 年分の定点撮影画像
を解析した。画素毎に記録されている RGB 三原色のデジタルカウン
ト値を用いて、統計的手法により積雪画素と非積雪画素に判別し融
雪過程を調べるとともに、植生フェノロジーを反映する指標値(Green
Ratio)を算出した。この指数が展葉に伴って最大増加率を示すこと
から、画素内の植生の生育の開始時期が推定できる。また、指数の
低下から紅葉・落葉や積雪による生育終了時期が検出される。これ
らの解析と写真判読や現地調査に基づき、植生の生育時期を把握し、
生育時期の年次間差異を面的に求める手法を開発した。
3.結果:個体∼群落単位でのフェノロジーの空間分布を把握し
画像化した。その結果、生育開始日や植生の種類は生育場所の融雪
時期に強く影響を受けること、融雪時期は積雪の状況などにより年
変動が大きいものの、微地形(凹凸)と関連することが示された。
また、生育終了日は植生種に依存し、植生の生育期間と融雪時期や
植生種との関連が判明した。このように、高解像度の定点カメラの
画像解析は、高山植生のフェノロジーの変動抽出やその要因の解明
に有効であることが示された。今後さらに多地点で解析し比較を行
う予定である。
Soil and water conservation is one of important and urgent tasks on the
Chinese Loess Plateau. Since the 1950s, lots of soil and water conservation
measures, especially the vegetation restoration, have been carried out on this
region. This study evaluated the effects of different vegetation restoration
patterns on soil nutrients among three south-north gullies: artificial Robinia
pseudoacacia forest gully, artificial Caragana microphylla shrubland gully,
and natural restoration grassland gully, respectively. Soil samples were
sampled from five gully slope positions of each gully (East-slope upper,
East-slope lower, Bottom, West-slope upper, and West-slope lower), with ten
replications of each topographic position. The results showed that different
vegetation restoration patterns diversely affected on different soil nutrient
properties, and those soil nutrient properties changed along topographic
positions. Artificial vegetation restoration patterns may effectively improve
the vegetation construction and soil nutrients in the gully landform on Loess
Plateau.
P2-428
P2-429
熱帯林における林道建設が生態系機能に与える影響―フ
希少生態系・湧水湿地来訪者の属性と意識: よりよい
ン虫の事例
普及の場にするために
* 保坂哲朗(首都大・都市環境),新納雅裕,山田俊弘,奥田敏統(広島大・
総合科学)
富田啓介(名古屋大・環境)
希少種を含む生態系を持続的に保全するためには、その生態系を
維持する機構を明らかにしその劣化を防ぐことだけでなく、保全に
ついての社会的賛同を得ることが不可欠である。そのための方策と
して、多くの近隣住民に当該生態系に触れてもらい、その魅力や重
要性について広く啓発することが挙げられる。それを実りあるもの
にするためには、来訪者層や有効な生態系の見せ方、見学後の来訪
者の意識について十分な検討が必要である。
本発表は、上述の視点から愛知県の湧水湿地を事例として来訪者
の属性と見学後の意識を明らかにした。湧水湿地は、貧栄養の湧水
が地表を湿潤化することによって形成された、泥炭の蓄積に乏しい
小面積の湿地である。対象とした武豊町の壱町田湿地には、シロバ
ナナナガバノイシモチソウやシラタマホシクサなど複数の地域固有
種・絶滅危惧種が自生し、県天然記念物に指定されている。2012 年
の夏季から秋季に設けられた 5 日間の一般公開日のうち、8 月上旬
の 2 日間の来訪者に対して現地でアンケート調査を行い、169 名か
ら回答を得た。
来訪者は 40 代∼ 60 代の夫婦や親子連れが中心だった。交通手段
としては車利用が圧倒的だった。来訪理由(複数回答)は植物観察
が 6 割を占めたが、散歩散策や環境教育もそれぞれおよそ 2 割を占
めた。満足した点として、ボランティアによる実地解説が多数挙げ
られた。一方、不満足な点は概して少なかったが、観察路上からし
か眺められないこと、湿原環境の悪化への懸念、公開日の少なさな
どが挙げられた。
希少生態系を一般公開する上で、実地解説の重要性が改めて明ら
かとなった。また、課題として、若年層への PR、多様な来訪目的へ
の配慮、交通手段への配慮、保全のための制限への理解促進などが
挙げられた。
木材搬出道や基幹林道、山土場など(以下まとめて林道)の建設
による森林環境のかく乱は、択伐が熱帯林生態系に与えるインパク
トの中でも大きなものの一つである。著者らはこれまでの研究で、
これらの林道建設が森林依存性の動物群集に大きな影響を与えるこ
とを、食糞性コガネムシ類を例に明らかにしてきた。生物相の変化
はそれが持つ生態系機能の変化につながる可能性がある。そこで本
研究では、林道建設による食糞性コガネムシ類の群集構造の変化が
生態系機能(フンの埋設による養分循環機能や土壌耕起機能とフン
内種子の二次散布機能)にどのような影響を及ぼすのか明らかにす
るため、半島マレーシアの生産林において、森林内と搬出道上、基
幹林道上、山土場上にて、フンの埋設速度およびフン内種子(疑似
種子としてプラスチック製のビーズを使用)の散布距離について調
査を行った。
設置 48 時間後のフンの消失率は、林内>搬出道>基幹林道>山土
場とかく乱規模が大きくなるほど低下する傾向があり、フン虫のア
バンダンスの減少と一致した。一方、ビーズの埋設深度は山土場に
おいて他のサイトよりも大きくなった。これは、フンを深く埋める
大型トンネラーの相対アバンダンスが山土場において高いためであ
ると考えられる。一方、フンに混ぜたビーズの平均運搬距離はサイ
ト間に有意な差はなかったものの、50cm 以上運ばれたビーズの割合
は林内で有意に高かった。これは、フンの運搬能力の高い大型ロー
ラー種の個体数密度が林外では大きく低下するためであると思われ
る。
以上より、林道建設による熱帯林のかく乱はフン虫群集の変化を
通し、フン虫のもつ生態系機能の変化につながる可能性が示された。
349
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-430
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ウトナイ湖北岸におけるオオアワダチソウ駆除
文系学部における生態学教育を考える
* 櫻井善文((株)ドーコン,原田修(日本野鳥の会),矢部和夫(札幌市
立大学),安田千夏,中村聡(日本野鳥の会)
橋本みのり(大東文化大・環境)
北海道苫小牧市東部に位置するウトナイ湖では、北岸の草原や樹
林地において外来生物のオオアワダチソウが進入し、これらが旺盛
に繁茂することで、ホザキシモツケ等の在来植物が被圧されている。
ウトナイ湖保全対策実行委員会では、ウトナイ湖の在来植生と生態
系を保全することを目的として、2009 年以降オオアワダチソウの生
育分布調査、市民参加によるオオアワダチソウの駆除、防除試験と
生育状況調査による効果的な抑制管理手法の検討を行った。
分布調査の結果、オオアワダチソウは約 20 年間で急激に分布が
拡大していたことから、対策が望ましいと考えられる 3,900㎡の範囲
を設定し、公募型のイベントや小学生の環境学習等により、2009 年
以降毎年約 200 人∼ 300 人の参加者による駆除を実施した。これと
あわせて生育環境(林内・林縁及び草原、日向・日陰)ごとに 3 種
類の異なる処理方法(①地際での刈取、②地上 10cm 程度での刈取、
③根を含む引き抜き)による約 2,000㎡の範囲での駆除試験とモニタ
リングを行った。
市民参加によるオオアワダチソウの駆除では、「③根を含む引き抜
き」を主体に行った。作業成果は参加者が作業を熟練することによ
り年々増加し、3 年目では開始時の 4 倍以上の駆除本数(約 83,000 本)
に達した。
駆除試験の結果、
「③根を含む引き抜き」が駆除の効果が最も高く、
次いで「②地上 10cm 程度での刈取」で生育本数及び生育高の抑制
と在来草本の被度向上が確認された。
以上より、ウトナイ湖では、市民参加による駆除と機械力等によ
る駆除を効果的に組み合わせながら、安全かつ継続的に対応してい
くプログラムの構築が可能であることが把握された。
文系学部に進学し、そこで学ぶ学生の場合、高校までに生態学に
関わる知識を学ぶ時間が少なかったことやそれらへの関心も低いこ
とが多い。一方、社会では環境問題やエネルギー問題への関心も高く、
学生が将来就職を希望する企業等でも、環境へ配慮する取り組みを
行うことは不可欠となっている。これらのことから、文系学部の学
生であっても、生態学を学び、その基礎的な知識を身につけ、考察
する力をつけることは重要と考えられる。
しかし、私立文系学部の大学生にとって「生態学」は専門科目で
はなく、学生の資質や知識にもばらつきがあるために、その教育方
法には工夫が必要であることが指摘されている。ソフト・ハード面
での問題や生態学に関する学生の資質等、様々な点での課題があり
生態学が学生自身の生活や周囲の環境と結びついたものであること
の実感が持てないこともその1つである(畑田 2012)。また講義で
学ぶ理論と、今我々の身近な自然の中で起こっている生態系の変化
とを関連付けて考える力が乏しいという点も、生態学教育の1つの
障害となっていることがうかがえる。
このことから、大東文化大学環境創造学部(人間を取り巻く様々
な環境を視野に、社会科学に基盤を置いて学ぶ文系学部)の「生態学」
の講義において、『生態学ニュース』の時間(各 10 分∼ 15 分程度)
を設け、毎週その時々の生態系に関わる話題を紹介することを試み
た。単にニュースを紹介するだけでなく、その背景にある課題や関
連する話題も取り上げ、講義の際にもその話題を例として用いる等、
理論と実際とをつなげるように工夫したことにより、学生の意識や
関心が高まったと考えられる。本報告では、この取り組みによる学
生の意識や生態学・生態系への関心度合の変化とこの取り組みの効
果について考察する。
P2-432
P2-433
遊牧における寛容戦略の効用と進化
回遊性生物の管理手法について
* 佐藤恵里子(同志社大・文情),山村則男(同志社大・文情)
岩田繁英(国水研)
モンゴルの遊牧民には旅人のような突然の訪問者でも、ゲルに招
き入れてもてなすというしきたりがある。日本では顔見知りではな
い、突然やってきた客を家に招き入れることはほぼないだろう。モ
ンゴルの遊牧民はなぜこのような寛容な対応をするようになったの
だろうか?遊牧民が寛容戦略をとることでどのような効用があり、
寛容戦略はどうして進化することができたのか、数理モデルで明ら
かにしたい。日本とモンゴルの牧畜を比較すると、日本は定住型で
モンゴルは移動型である。日本の国土は狭く、降水量が多く、草が
充分成長する環境なので定住型が適している。モンゴルは逆に、国
土が広大で降水量の変動も大きいため、移動型の遊牧が適している。
このことから、広い国土をもつモンゴルの自然環境とそこで飼育さ
れる家畜に着目し、数理モデルを構築した。はじめに、モンゴルの
遊牧を理解するために、環境変動の大きさとそこで飼育できる家畜
数の関係について数理モデルで明らかにする。次に、環境変動の大
きさをさまざまに変化させたとき、遊牧民が隣の遊牧民の家族と自
分のなわばりにある好適環境の土地を共有する場合と、隣の遊牧民
を排除した場合に得られる効用を比較する。つまり、遊牧民のとる
戦略として、他を寄せ付けない厳格な戦略と相手を受け入れる寛容
な戦略の2つを比較し、環境変動の大小と遊牧民のとる戦略の効用
がどのように関係しているのかを示す。最後に2次元の格子空間上
で厳格な戦略や寛容な戦略をとる遊牧民を配置した場合に遊牧民が
得る効用を計算し、高い効用を持つ戦略が次世代に広がっていくと
いう進化ダイナミクスの計算機シミュレーションを行う。遊牧民同
士の付き合いは囚人のジレンマ型になっているので、効用の計算に
は囚人のジレンマゲームの枠組みを用いる。
生物資源を利用する際の目標として永続的に可能な限り収量を最
大化する目標が掲げられる。特に、生物資源の中でも水産物は資源
の状態を把握するのが難しく、対象となる資源の生物・生態情報が
不足していることが多い。回遊に関する情報は不足している生態情
報の一つである。 回遊行動を伴う生物を漁獲対象とし管理を行う
場合,産卵時期や産卵場所により `` どこで漁獲が行われるか " と `
漁獲対象となる個体の年齢 ( 体長としてもほぼ同義 ) はどのくらい
か " という問題が起こり、これらの問題は関連する。
本研究では,回遊生物の漁獲管理を行う場合、どこでどのような
年齢の個体を漁獲することが持続的であるか,漁獲量を最大にする
ことができるか,利益を最大化できるかの 3 点について検討するこ
とを目的とする。
方法は回遊行動を含む年齢構成モデルを構築し漁獲がない場合の
個体群動態について解析を行う。その後、漁獲戦略をいくつか検討
する。漁獲戦略については未成魚、成魚を漁獲する戦略、また回遊
経路上で先に漁獲する場合と後に漁獲する場合などいくつかの漁獲
戦略について検討する。その後,現実に考えられる魚価を仮定した
場合にどのような戦略であれば利益を最大化できるか検討を行う。
以上の解析を行ったうえで最適な漁獲戦略について考察した結果
を報告する。特に,管理方策としてどのような管理手法を行えば水
産資源として利用できる状態を保つことができるかについて検討を
行い考察する。
350
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-434
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神奈川県におけるアライグマの定着状況によるタヌキへ
島嶼への外来雑草の侵略可能性を社会的要因で説明する
の影響
高倉耕一(大阪市環科研)・藤井伸二(人間環境大学)
* 岩下明生,西村貴裕,安藤元一,小川博(東京農大 野生動物)
外来種アライグマの侵入によって在来種タヌキがどのような影響
を受けるか調べるため、アライグマの侵入時期が異なる神奈川県下
の 47 調査地の緑地において、自動撮影調査によりアライグマとタヌ
キの相対密度を調べた。調査地をアライグマが侵入して 10 年以上を
長期侵入地域(20 調査地)、10 年未満を新規侵入地域(14 調査地)、
まだ確認されていない地域を未侵入地域(13 調査地)にそれぞれ区
分した。自動撮影調査は 1 調査地につき自動撮影カメラを 3 地点以
上設置し、1 調査地 200 カメラ日以上の調査量を確保した。調査期
間は 2003 年 3 月∼ 2012 年 2 月で、複数の季節にまたがるように調
査した。調査は全調査地で延べ 23,416 カメラ日の調査量だった。ア
ライグマは長期侵入地域の 95%、新規侵入地域の 79% の調査地で
それぞれ確認できた。アライグマの撮影頻度は長期侵入地域で 12.2
回、新規侵入地域で 2.8 回、未侵入地域で 0.0 回となり、アライグマ
の侵入から期間が経過した地域ほど撮影頻度が有意に高くなった (p
< 0.01)。タヌキは長期と新規の侵入地域ではすべての調査地におい
て確認できた。未侵入地域においては 69%調査地でのみ確認できた。
タヌキの撮影頻度は長期侵入地域で 18.0 回、新規侵入地域で 21.6 回、
未侵入地域で 2.9 回となり、アライグマが侵入した地域の方が未侵
入地域よりも有意に高かった (p < 0.01) が、長期侵入地域と新規侵
入地域ではタヌキの撮影頻度に有意な差はみられなかった (p=0.88)。
アライグマが侵入してから 10 年以上が経過する地域においてもタヌ
キの相対密度は高いレベルにあることから、タヌキはアライグマに
よる競争による影響を受けていないと考えられた。
繁殖過程における種間相互作用である繁殖干渉は、その頻度依存
的な作用のため、近縁種間の置き換わりを強力に駆動する原動力と
して注目されている。これまでにも、室内実験個体群での検証や野
外個体群のシミュレーション解析などから、過去に生じた種の置換
において繁殖干渉が主要な役割を果たしてきたことが示唆されてき
た。しかし、野外個体群での検証は困難であった。
本研究では、外来草本オオイヌノフグリ(以下オオイヌ)を対象
の一つとした。オオイヌは種間送粉を介した繁殖干渉によって、在
来種イヌノフグリの種子生産を顕著に阻害することがすでに知られ
ており、オオイヌの侵入は在来種を駆逐する主要因であると考えら
れている。しかし、野外での個体群レベルにおける検証はなされて
いなかった。在来種がすでに稀少になっている本州本土地域でこの
検証は困難だが、多数の島嶼環境を独立した試行とみなすことで、
外来種侵入と在来種存続の関係、さらには外来種侵入可能性を規定
する要因の解析が可能になるだろう。そこで、主に瀬戸内海におけ
る島嶼環境を対象として、オオイヌを中心とした外来草本植物の侵
入と、近縁在来種個体群の存続の関係を解析し、さらに外来種の侵
入可能性における過去のヒト・モノの動きの影響を分析した。本講
演ではこの結果について報告する。
従来の島の生物地理学の中では、生物種の侵入・定着を説明する
要因として中心的役割を果たしてきたのは、侵入先の地理的要因や
環境条件、あるいは侵入種の生態的特性であった。しかし、現在で
は人間活動の影響は無視できないどころか、おそらく最大の移入経
路であろう。このことから、生物種の移動分散過程を解析する上で、
侵入可能性を左右する要因としてヒトやモノの流通を明示的に組み
込むことが不可欠であろう。
P2-436
P2-437
同所的に生息する外来魚食魚ハスとオオクチバスの食性
極乾環境における外来植物メスキートの分布拡大の戦略
比較:山梨県河口湖の事例
-スーダンの事例
* 角田裕志(岐阜大・野生動物セ),浦野隆弘(農工大・院),大平充(農
工大・連農),千賀裕太郎(農工大・農)
星野仏方(酪農学園大・農食環境)
アフリカ大陸に位置するスーダン共和国では砂漠緑化・砂丘の固
定、及び燃料などの目的で熱帯アメリカ原産のマメ科常緑の潅木(ま
たは樹木)のメスキート (Prosopis juliflora) の木が導入されたが、メ
スキートは極乾環境での適応能力があまりにも優れていて、河川を
主な種子散布の媒体として、その分布が主要河川、ワジ、灌漑農地、
及び道路沿いに拡大している。現在東部アトバラ河川流域ではメス
キートの旺盛な繁殖力と高い耐乾性などの特性により、分布拡大の
コントロールが利かなくなっている。そこで、本研究では一年中水
が流れ続ける河(河川)と時期によって水が流れる河川(ワジ)に
よる、1985 年∼ 2011 年の時系列人工衛星画像を用いて分布の拡大
速度、拡大範囲などを解析した。その結果、メスキートの分布・拡
大の傾向は、河川のカーブの内側に密集して分布し、河川から 500m
以内、ワジからは 20m 以内の範囲で最も集中分布していることを明
らかになった。そして、メスキートによる他の植物への影響(アレ
ロパシー、Allelopathy)は、メスキートの高密集分布地域とその周
辺で、他の植物を減少させる傾向があることを明らかになった。本
研究は総合地球環境学研究所縄田プロジェクトの一環として現地調
査と研究が行われたものである。
特定外来生物であるオオクチバス(以下、バス)による捕食が日
本の在来生物群集に与える影響については多数の報告がある。しか
し、バスと同じニッチを占める在来肉食性魚類との種間競合につい
てはほとんど検討されてこなかった。そこで、日本固有亜種の魚食
性魚類であるハスとバスの餌資源を巡る種間関係について検討する
ことを目的として、ハスの非在来個体群が生息する河口湖において、
両種の胃内容物の比較を行った。両種の採捕調査は、2011 年 5 月か
ら 10 月にかけて、遊漁権を購入した上でルアー釣りによって実施し
た。捕獲個体から得られた胃内容物について、餌項目ごとに相対重
要度指数比を求めた。また、帰無モデルテストを用いて両種の食性
の重複度を検証した。胃内容物分析の結果から、バス(n=49)は主
に甲殻類と魚類を、ハス(n=83)は主に昆虫類、動物プランクトン、
魚類を採食していた。両種の食性の重複度は 0.23 で、帰無モデルテ
ストでは有意な重複は認められなかった。本研究で観察されたバス
の食性は国内の先行研究と同様であった。その一方で、既往研究では、
バスが同所的に生息しない水域におけるハスは魚類を専食すること
が報告されており、本研究結果と大きく異なった。河口湖では漁業
権魚種であるバス成魚の放流が行われており、バスの高密度状態が
維持されている。このため、餌資源を巡る二種間の種間競争が生じ
ていると考えられる。同じニッチを占める 2 種が同所的に共存する
場合、競争能力のより低い種においてニッチシフトが起こると考え
られている。ハスに比べて体サイズが大きく、攻撃性が強いとされ
るバスは、競争的に優位であると推察される。このことから、ハス
が魚食性から昆虫食へとニッチシフトし、両種の餌資源分割が起き
たと考えられた。
351
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-438
P2-439
大阪周辺での雑種タンポポの遺伝的多様性
小笠原西島におけるトクサバモクマオウ駆除が大型土壌
水貝翔太,* 伊東明,名波哲(大阪市大院・理),松山周平(京都大・フ
ィールド研)
動物群集に与える影響
* 長谷川元洋,川上和人(森林総研),伊藤雅道(駿河台大),八巻明香(自
然環境研究センター),阿部真(森林総研)
在来タンポポと外来タンポポの交配で出来た雑種タンポポは、す
でに日本中に拡がっており、日本でセイヨウタンポポに見える個体
の多くは雑種タンポポである。しかし、雑種タンポポの形成と拡大
の過程は良くわかっていない。雑種タンポポは、無融合生殖で種子
をつくるため、雑種の形成頻度と移動・定着の過程が、雑種個体群
の遺伝的多様性(クローン多様性)と遺伝構造に強く影響すると考
えられる。日本で出来た少数の適応的な雑種が無融合生殖で無性的
に広範囲に拡大したとすれば、雑種集団のクローン多様性は集団内、
集団間ともに低いことが期待される。そこで、大阪周辺の 10 地点の
雑種タンポポ集団の遺伝的多様性を 9 種類の SSR マーカを用いて調
べた。その結果、各雑種タンポポ集団には多様なクローンが含まれ
ており、集団内の遺伝的多様性は高いこと、高頻度で広範に分布す
るクローンは見つけられず、集団間の遺伝的違いが大きいことがわ
かった。また、在来種(カンサイタンポポ)が混生しているかどう
かで雑種集団を 2 グループに分けたところ、在来種が混生する集団
には三倍体雑種が、混生しない集団には四倍体雑種が多いことがわ
かった。さらに、Nei の遺伝距離に基づいた系統樹解析から、これ
ら 2 つのグループの雑種集団が遺伝的に異なっている可能性がある
ことが示唆された。これらの結果は、大阪周辺では、少数の雑種ク
ローンが無融合生殖で拡がったのではなく、雑種形成が何度も繰り
返されて多様な雑種クローンが形成され、それらが拡がったことを
示唆する。
小笠原西島において、外来生物除去の一環としてトクサバモクマ
オウ(以下、モクマオウ)の薬剤注入による駆除が実験的に行われ
ている。モクマオウは、在来植物の定着やそれに依存する生物の生
存を脅かすとされる一方、その落葉層は土壌動物の住み場所餌資源
ともなる。本研究では、モクマオウを駆除した林分と、維持した林
分において、大型土壌動物相を比較し、その影響を把握することを
目的とした。
モクマオウ優占林分、および在来種優占林分にそれぞれ 10 箇所の
プロットを設けた。そのうち、モクマオウ駆除区、及び非駆除区を、
それぞれに 5 箇所を設けた。モクマオウ駆除は本調査の2年前に行
った。
ミミズ、等脚類、陸産貝類が個体数で優占した。ミミズは全てが
外来種である一方、等脚類および陸産貝類には固有種が含まれると
される。今回の調査では、ミミズの個体数は、モクマオウ優占、在
来種優占の双方で、モクマオウ駆除の影響が明瞭でなかった。等脚
類の個体数はモクマオウ優占林のモクマオウ除去区では土壌層にお
いて多かった。陸産貝類は、モクマオウ優占林、在来種優占林の双
方で、落葉層の個体数はモクマオウ駆除区で少なくなるが、土壌層
の個体数がモクマオウ駆除区で多くなった。以上から、大型土壌動
物の全体の個体数に対して、モクマオウの駆除から 2 年の時点では
その影響は明瞭でなかった。しかし、落葉層と土壌層の個体数配分
が駆除の影響を受ける分類群が見られ、これらの分類群では種組成
が変化した可能性がある。今後、こうした分類群において、種レベ
ルの解析を行う必要がある。また、1 区のみ行った駆除後 4 年経過
した林分の調査では、大型土壌動物の個体数が非常に少ない地点が
観察された。今後、植生回復とともに、大型土壌動物群集の経年変
化を追跡する必要がある。
P2-440
P2-441
京都周辺におけるカンサイタンポポと雑種タンポポの遺
衰退ナギ林におけるナンキンハゼの侵入と開空率との関係
伝的多様性と類縁関係
* 前迫ゆり(大阪産大大学院・人間環境),稲田友弥(京大大学院・農・
熱帯環境)
* 松山周平(京都大・フィールド研),名波哲,伊東明(大阪市大院・理)
ナギ(Podocarpus nagi)は山口県小郡町が自生地北限であるが,奈
良市春日大社境内御蓋山には 700 年代に献木された後,拡散したと
考えられるナギ群落(天然記念物)が成立している。ナギはシカが
採食しないために,春日山照葉樹林にも侵入している(Maesako et
al., 2007)。しかし近年,御蓋山のナギは種子生産リズムが崩壊して
おり(塩見ほか,2008),ナギ林へのナンキンハゼ(外来種)の侵入
が顕著である。本研究はナギ林の変化を約 40 年前の植生資料(菅沼・
河合,1978)と比較検討するとともに,ナギ林の開空率と林分構造・
種組成との関係性を明らかにすることを目的とした。
毎木調査,実生調査および開空率の測定は御蓋山 5 プロット,春
日山原始林 1 プロットで行い,植物社会学的手法による植生調査は
全 26 プロットで行った。季節変化をみるために,ナンキンハゼの
展葉期(6 月 2 日),生長期(8 月 2 日),落葉期(11 月 28 日)に開
空率を測定した。開空率の測定は Open-sky Reference Methods (Tani
et al. 2011) により行い,画像解析ソフト Gap Light Analyser ver. 2.02
(Frazer et al., 1999) を用いて算出した。
その結果,展葉期と生長期で大きな変化を示したのは,ナンキン
ハゼが材積比 22.2% を占める御蓋山のナギ林で,開空率は展葉期
13.4%,生長期 8.4%,落葉期 9.8%であった。一方,開空率の変化が
小さかったのは,春日山原始林のナギ林(ナンキンハゼ 0%) で,そ
れぞれ 3.5%,2.5%,3.1%と,1 年を通して低い値を示した。ナギ
林の出現種数は前者が 32 種,後者が 9 種で,開空率と種数との関係
性が示唆されたが,シカの採食が種数の制限要因として働いている
と考えられた。
近年、在来タンポポと外来タンポポの雑種の存在が日本各地で報
告されている。雑種は無性的に種子生産できることから、特定の雑
種のクローンが増加してきたとする見方があるが、各地で雑種形成
が起こったためとも考えられる。特定のクローンが増加してきたの
であれば、同じ遺伝子型を持つ雑種タンポポが複数サイトにわたっ
て高頻度で見つかることが予想される。一方、各地で雑種形成が起
こったのであれば、雑種タンポポはサイト内の在来タンポポと遺伝
的に近いことが予想される。これらの予測を検討するため、複数サ
イトのカンサイタンポポ(以下、カンサイ)、セイヨウタンポポ(以
下、セイヨウ)、雑種タンポポ(以下、雑種)についてクローン多様
性と類縁関係を解析した。
京都府の4サイト(京都市内2カ所、綾部市、亀岡市)において、
カンサイとセイヨウ様タンポポ(セイヨウと雑種)をそれぞれ 20 個
体ずつ選び、葉を採取した。セイヨウ様タンポポはフローサイトメ
トリ―によりセイヨウと雑種を区別した。葉から DNA を抽出し、7
つの SSR マーカーにより遺伝子型を決定した。これらの遺伝子型デ
ータは GenoDive、STRUCTURE を用いてクローン多型とサイト内外
のタンポポの類縁関係を解析した。
雑種、セイヨウにはそれぞれ同じ遺伝子型をもつクローンが存在
し、雑種では、同じ遺伝子型をもつクローンが異なるサイトからも
検出された。しかし、これらの出現頻度は少なく、特定のクローン
が増加しているのではないことが明らかになった。また、サイト内
のカンサイやセイヨウと対立遺伝子組成が似ている雑種が存在した
が、雑種の多くはサイト内のカンサイ、セイヨウとは異なる対立遺
伝子組成であると推定された。したがって、京都周辺の雑種は他の
サイトでたびたび形成されたものが起源であると考えられる。
352
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-442
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外来種スイセンハナアブと同属在来種の遺伝的多様性の
静岡県における外来種ヤンバルトサカヤスデの分布状況
比較
と遺伝子多型
* 須島充昭,伊藤元己(東大・総合文化)
* 神谷貴文,飯田奈都子(静岡環衛研),村上賢(麻布大学)
スイセンハナアブ属 Merodon は、地中海沿岸域を中心に世界で約
160 種が知られているハナアブ科の一属である。本属の自然分布域
の東端は日本であり、日本には関東以西に在来種カワムラモモブト
ハナアブ M. kawamurae が分布している。また 1990 年代以降、ヨー
ロッパ原産の外来種スイセンハナアブ M. equestris の東日本における
侵入、定着が確認されるようになった。本研究では DNA バーコード
(mtCOI、658bp)を用いて両種の遺伝的多様性を比較した。サンプ
リング地点及び個体数は以下の通りである。スイセンハナアブ:横
浜(15)、東京(16)、仙台(16)、埼玉(6)、八王子(3)、計 56 個体。
カワムラモモブトハナアブ:埼玉(26)、八王子(2)、兵庫(4)、計
32 個体。なお、埼玉と八王子では両種が同所的に発生している。
これらの DNA バーコードを調べたところ、スイセンハナアブでは
大半(56 個体中 55 個体)が同一ハプロタイプであり、横浜からは 1
塩基相違する別ハプロタイプも 1 個体見つかったが、日本における
本種の遺伝的多様性は低かった。なお、Marcos-Garcia et al.(2011)は、
ヨーロッパ南部に本種の複数の COI ハプロタイプが分布しているこ
とを示している。そのため本種の遺伝的多様性の低下は、本種がヨ
ーロッパ北部へ分布を拡大した際、または人為を介して日本を含む
海外へ侵入した際のいずれかで生じたと推測される。一方カワムラ
モモブトハナアブでは関東から 5 つ、関西から 2 つ、計 7 つのハプ
ロタイプが見つかった。関東産と関西産を比較した場合には 7-10 塩
基の相違が見られ、同一種内の個体群間としてはやや高い遺伝的分
化(遺伝距離約 1.3%)が認められた。
台湾で初記載された外来種ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius
hualienensis Wang,1956)は,秋の繁殖期に異常発生して人に不快性
被害を及ぼす.本種は 1983 年に沖縄本島で確認された後,南西諸島
を北上し,九州や四国,本州にも生息地域を拡大している.静岡県
内では 2002 年頃より静岡市で異常発生が問題となっていたが,2008
年度から県内の保健所,市町関係課に発生状況の聞き取り調査を行
なった結果,2009 年には浜松市や伊豆半島の市町(2009),東伊豆
町(2010),藤枝市(2011)で新たに異常発生の情報が寄せられるな
ど,県下全域に分布域が拡大する傾向が認められた.
全国各地に生息するヤンバルトサカヤスデの侵入経路や分布状
況を把握する一助として,ミトコンドリア DNA の塩基配列の変異
に基づいた分類を試みた.COI 領域の一部である 240 塩基対に注目
し,静岡県の他,沖縄県,鹿児島県,高知県,東京都(八丈島)で
採取した 42 地点 413 匹のヤスデの塩基配列の変異を観察した結果,
6 ヶ所で塩基置換による多型が見つかり,これにより 4 つの DNA 型
(a,b,c,d タイプ)に分類できた.地域的にみると,ヤンバルトサカヤ
スデが最初に発見された沖縄県では 4 つ全ての DNA 型が検出され
たのに対し,その他の都・県では単一の DNA 型を示す地点が多く,
このことから,ヤンバルトサカヤスデは,多様な DNA 型をもつ沖
縄県から各地へ広まった可能性が示唆された.ただし静岡県内では,
伊豆半島東部において d タイプ単一の個体群が占めるのに対し,静
岡市内は a タイプ単一や a,b,c タイプ混合個体群など,調査地点によ
って遺伝子タイプに様々なパターンがみられたことから,複数の侵
入・拡散経路が存在すると考えられた.
P2-444
P2-445
滞留時間の短いダム湖における外来付着性二枚貝カワヒ
熊本県宇土半島で捕獲された外来種クリハラリスの腸管
バリガイの定着防止方法の検討
内蠕虫類の寄生状況
馬場孝(滋賀県立大・院・環境科学),浦部美佐子(滋賀県立大・環境科学)
* 宮部真吾,横畑泰志(富山大院・理工),安田雅俊(森林総研・九州)
カワヒバリガイは利水施設等で汚損被害を引き起こす外来付着性
二枚貝である。本種は受精後約1日で D 型幼生となり、約 2 週間の
浮遊期間を経て基質に定着する。昨年までの研究から、宇治川にお
ける本種の浮遊幼生は、前日の天ヶ瀬ダムのダム湖(鳳凰湖)の中
層水温が 25℃以上で、放流量が 70m3/s 未満の時に多いことが判明し
ている。また、放流量が約 70m3/s 以上の時には湖水の滞留時間が 1
日未満になるため、本種の幼生は湖内に定着できずに流下すること
が示唆された。従って、放流量の増加によって本種の湖内への定着
と汚損被害を減らせる可能性がある。しかし、水資源は有限である
ため、放流量を最少にする必要がある。そのため、本種が繁殖を行
う時期を正確に予測することが重要である。
宇治川における本種の浮遊幼生密度は、鳳凰湖の中層水温が直前
3 日間に急上昇(約 2℃)した時に増加した。水温上昇は多くの二枚
貝の産卵刺激となることが知られており、本種も同様であると考え
られる。従って、水温が急上昇した時に放流量を増やすことで、湖
内への本種の定着量を効果的に減少できると考えられる。また、殻
長組成と文献から、鳳凰湖において、本種は成熟に約 2 年を要する
と推定されたため、2010 年に多くの浮遊幼生が確認された日の前日
を起点、基準水温を 10℃として、2012 年に浮遊幼生密度が高くなっ
た日の前日までの有効積算温度を算出した。その結果、本種の産卵
に要する有効積算温度は約 5400 日度であると推定された。この値と
2012 年の水温を用いて、2011 年に生まれた個体の産卵日を予測した。
その結果、産卵日は 2013 年 6 月 21 日、7 月 9 日、8 月 5 日頃と予測
された。今後、本年の水温を参照しつつ有効積算温度からの産卵日
予測の可能性を検証することによって、放流量を増やす期間をより
早期に決定できる可能性を検討する。
クリハラリス(Callosciurus erythraeus )は中国∼東南アジア原産の
外来性齧歯類であり、熊本県宇土半島では 1990 年代後半から定着し
ている(安田、2012)。日本における本種の寄生蠕虫(多細胞性の内
部寄生虫)の調査には松立ら(2003)、Sato et al. (2007)などがあり、
原産地に記録のある種や新たに見つかった種が報告されている。今
回は 2010 年 10 月に宇土半島で捕獲された本種 55 個体の腸管内を検
査した。
その結果、25 個体から Strongyloides callosciuri (クリハラリスに
固有)、Rictularia cristata (日本産野ネズミに普通に寄生)など 114 虫
体、3 属 3 種の寄生線虫類が検出され、いずれも公衆衛生上問題に
なる種ではなかった。107 虫体(93.9%)を S. callosciuri が占めてい
た。一般化線形モデルを用い、S. callosciuri の宿主ごとの虫体数を目
的変数、各宿主の計測値(頭胴長、尾長、前足長、後足長、耳介長、
体重、水晶体重量)、性、成熟度(Tang and Alexander(1979)を参考
に、頭胴長が 20cm 以上を成獣)を説明変数、AIC を指標として最
適モデルを作成した。最適モデルの説明変数は後足長(短いと減少、
0.05 < P < 0.1)と性(オスで増加、P < 0.01)となった。クリハラ
リスのオスは行動圏を他の個体と重複させているが、繁殖メスの行
動圏は排他的である(Tamura et al. 、1988)。宿主の性が有意な因子
になった理由は、このような雌雄の行動圏の違いが他個体との接触
機会の違いに繋がり、蠕虫類の感染機会にも影響したと考えられる。
353
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-446
P2-447
状態空間モデルによるアライグマの個体数推定と農作物
グリーンアノールを減らすと昆虫が増える? ~小笠原
被害モデルの構築
母島における外来トカゲ防除の効果~
* 栗山武夫,長田穣(東大・農),浅田正彦(千葉県生物多様性セ),宮下
直(東大・農)
* 森英章(自然研・小笠原),八巻明香,今村彰伸,岸本年郎(自然研),
澤邦之(環境省),鋤柄直純(自然研)
アライグマは北米原産の外来中型哺乳類で、在来生物への捕食に
よる影響や、人家や寺社への侵入、人獣共通感染症の媒介や農作物
被害など様々な問題を起こし、現在、特定外来生物として捕獲事業
が進められている。本研究で対象地とした千葉県は、1990 年代に野
外での個体目撃情報が複数あり、1996 年代に房総半島南東部(御宿
町)で初めて自然繁殖が確認されて以降、全県へと分布が拡大して
いった。2003 年頃からは農作物被害が発生し、有害獣捕獲が開始さ
れ、2009 年度は狩猟と有害獣捕獲あわせて 1111 頭が捕獲された。
アライグマの農作物被害を軽減させるためには、各地域の許容生息
密度を推定し、管理目標を設定することが重要である。さらに、農
地周辺の景観構造が地域によって均一ではないため、生息密度と被
害程度の関係が局所的に異なることが予想される。
そこで本研究では、アライグマの被害許容密度を、農地周辺の景
観構造から1㎞四方で空間明示的に予測することを目的に、まず①
個体群動態を明示的に扱った状態空間モデルを用いて個体数推定を
行い、②推定された個体数と景観構造を独立変数とした(順序)ロ
ジスティック回帰を行うことで被害程度との関係を明らかにした。
①の状態空間モデルは、県内の捕獲事業による捕獲効率(CPUE)を
もとに構築し、市町村単位で生息密度を算出した。②の被害予測
モデルの応答変数とした農作物の被害程度(4 段階)は、千葉県が
2010-2011 年に全県の農家を対象に実施した「野生獣の生息状況・農
作物被害状況アンケート調査」の結果を使用した。被害地域周辺の
景観構造は、森林・耕作地・耕作放棄・市街地・河川面積等を用いた。
小笠原諸島に侵入した特定外来生物グリーンアノールの捕食によ
って、母島の昆虫群集は大きな被害を受け、既に絶滅したと考えら
れる種も存在する。環境省は 2008 年より母島新夕日ヶ丘地域におけ
る約 2ha の二次林と草原において拠点防衛型の防除を開始した。フ
ッ素樹脂シートを用いた遮断フェンスと粘着トラップを組み合わせ
た手法により、数か月のうちにアノールの密度は 10% 以下となり、
その後も低密度の状態を維持している。
アノールの密度を低減した際の昆虫類の回復状況を把握するた
め、昆虫類の生息密度に関してモニタリングを実施した。森林に
生息し飛翔力がない小笠原諸島固有のハハジマヒメカタゾウムシ
(Ogasawarazo mater )の柵内の生息密度は、防除開始時には柵外と同
様であった(2008 年:0.05 個体 /trap/day)が、その後は柵外に比べ
て顕著に増加した(2012 年:0.8 個体 /trap/day)
。また、草原に生息し、
小笠原固有と考えられるグンバイウンカの一種(Kalitaxilla sp.)等の
カメムシ目やバッタ目の種数や個体数が柵外の草原に比較して多い
ことが確認された。これら、飛翔力のないゾウムシや草原性の昆虫
は柵内のみで世代交代が可能と考えられる。一方で、分散力が比較
的高く柵内外を移動するか、周囲に供給源となる個体群が存在しな
いと考えられる飛翔性のコウチュウ目やハナバチについては、今の
ところ柵の内部での増加は確認されていない。
以上の結果から、ヒメカタゾウムシ類やバッタ・カメムシ類等、
柵内で生活史が完結できる昆虫類の保全には柵設置による拠点防衛
が有効な手段になると考えられた。しかし、まだ増加の見られない
昆虫の保全再生や広域的なグリーンアノールの防除については、引
き続き検討していく必要がある。
P2-448
P2-449
グリーンアノールのいない自然再生区をつくる! ~小笠
希少樹種ハナノキ自生地域への近縁外来種アメリカハナ
原母島における外来トカゲ防除の実践~
ノキの植栽混入と侵入の実態
* 髙橋洋生,秋田耕佑,戸田光彦(自然研),澤邦之(環境省),鋤柄直純
(自然研)
* 金指あや子(森林総研),菊地賢(森林総研),大曽根陽子(首都大),
澤田與之(シデコブシと自然が好きな会),野村勝重(みどりの会)
北米原産のトカゲ類であるグリーンアノールは、小笠原諸島の父
島に 1960 年代に、母島に 1980 年代にそれぞれ侵入した。両島全域
に高密度に生息するようになると、在来昆虫類を大規模に捕食し、
多くの昼行性昆虫類が絶滅ないしそれに近い状態となった。環境省
は、母島本来の生態系を再生することを目指し、2008 年から母島の
新夕日ヶ丘地区に自然再生区(約2ha)を設置してグリーンアノー
ルの集中防除を行なっている。再生区の周囲にはアノールの乗り越
えを防ぐフッ素樹脂シートを用いた柵を設置し、またその柵沿いの
植生を約2mの幅で刈り取ることで、地上および樹上からの侵入を
防いでいる。その上で再生区内部では約 5000 個の粘着トラップを常
時稼働させて、アノールに高い捕獲圧をかけ続けている。再生区に
おけるアノール密度は、防除開始前は数千個体 /ha と推定されてい
たが、防除開始後数ヶ月で大幅に低下し、現在までその状態が維持
されている。再生区の大部分の面積を占める林内と草原では、アノ
ールはほとんど目撃されなくなった。また、本種の好適な生息環境
となる柵沿いの林縁部でも、目撃頻度が防除前の1∼2割程度にま
で低下している。昆虫類にかかるアノールの捕食圧は大幅に低下し
ていると考えられ、実際にモニタリング調査により、一部の昆虫類
の種数及び個体数が増加していることが確認されている。以上のこ
とから、遮断柵と粘着トラップを用いた防除手法は、アノールの低
密度管理に有効であることが示された。本自然再生区では、アノー
ル防除を継続することで、在来昆虫群集から成る生態系が再生して
いくことが期待される。一方、前述の方法を5年間用いているが、
依然として再生区からのアノールの根絶には至っていない。今後も、
より効率の高いアノールの防除技術の開発を継続していくことが重
要である。
落葉性高木のハナノキ(ムクロジ科カエデ属)は、日本固有の東
海丘陵要素植物である。近年の土地開発による自生地の消失・分断
化が進み、現在、絶滅危惧種(II 類)に指定されている。雌雄花や
紅葉が美しいハナノキは街路樹などにしばしば植栽されるが、植栽
個体の中に近縁外来種であるアメリカハナノキとみられる個体が混
入している事例がみられる。近縁外来種による侵入は、絶滅危惧種
の生存に深刻な影響を及ぼす可能性がある。そこで、本研究では、
ハナノキが分布する長野県南部・岐阜県南部・愛知県北部の地域(恵
那山を中心とする半径 60km 内)を踏査し、街路樹等としてハナノ
キが植栽されたカ所と外来種の混入の現状を明らかにした。
踏査対象地域内の 26 カ所でハナノキの植栽を確認した。これらの
うち、葉の形態的特徴をもとにアメリカハナノキタイプと判定され
た個体が混入している植栽地は 9 カ所であった。アメリカハナノキ
タイプが混入している植栽地と自生地/自生個体との距離が最も近
いのは豊根村の 1.9km であった。その他、5km 以内が飯田市・恵那
市に 2 カ所、5-10km 内が恵那市・可児市に 3 カ所、
10km 以上が瀬戸市・
豊田市に 3 カ所であった。また、恵那市では植栽場所に、土岐市で
は近接する湿地において、アメリカハナノキタイプの実生の発生ま
たは稚樹の定着を確認した。今後、種間雑種の形成や雑種の識別、
外来種や雑種の実生の侵入性を評価する必要がある。さらに、ハナ
ノキ種苗の生産流通における外来種混入の経路を明らかにし、近縁
外来種の非意図的混入を防ぐ対策を講ずる必要がある。
354
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-450
P2-451
国立公園における外来緑化植物の逸出場所の広域的な推定
沖縄島における外来ハブ類(タイワンハブとサキシマハ
* 細木大輔・楠本良延・早川宗志・徳岡良則・三上光一(農環研)・高橋
秀夫(農水省)・山本勝利(農環研)
ブ)の効率的捕獲方法の検討
* 寺田考紀(沖縄県衛生環境研究所),松井創(沖縄県公衆衛生協会)
沖縄島には2種の外来毒ヘビが生息している。タイワンハブは名
護市の一部とその周辺及び恩納村の一部に、国内外来種のサキシマ
ハブは糸満市の一部に分布している。両種とも、分布域の拡大や密
度増加が懸念されており、咬傷事故も発生していることから早急な
駆除対策が必要である。沖縄県では平成 25 年度から駆除及び防除対
策方法の確立を目指しモデル実験を開始する予定だ。モデル実験で
採用する捕獲方法はより効率的であることが望ましいことから、今
回これまでに得られた各トラップ(ベイト、三角壁、誘導網、刺し
網の計4種)の捕獲率を比較した。さらにラインセンサスと同ルー
ト上に設置したベイトトラップの捕獲数を比較し、直接捕獲の効率
についても検討した。
各トラップの捕獲率を比較すると、タイワンハブはベイトトラッ
プが最も効率良く、次いで三角壁トラップ、サキシマハブは誘導網
トラップが最も効率良く、次いでベイトトラップであった。ライン
センサスとベイトトラップの比較実験では、タイワンハブはベイト
トラップ、サキシマハブは直接捕獲の方が捕獲数が多く、トラップ
の比較と同様で種により効率的な捕獲方法が違うことが示唆された。
特にサキシマハブでは直接捕獲の効率が良いと思われる。捕獲時の
危険性や予算化の難しさなどの理由により従来からのハブ対策とし
てはあまり検討されなかったが、「買い上げ」することにより住民の
士気向上が期待できることや、密度推定のための指標のひとつとな
るなど利点も大きいと思われる。外来ハブ類のモデル実験において
は、住民の理解と協力が得られるのであれば「買い上げ」もひとつ
の手法として採用し、その効率性について調査し検討していくべき
と考える。
P2-452
P2-453
長野県のダム湖におけるシグナルザリガニ駆除を目指し
生物多様性の高いため池群に侵入した侵略的外来種ウシ
た取組
ガエル個体群に対する排除の効果
* 北野聡(長野環保研),岸部大輔(信州大・理)
* 西原昇吾(東大・農学生命科学),佐藤良平(久保川イーハトーブ自然
再生研究所),須田真一(東大・農学生命科学),千坂嵃峰(久保川イー
ハトーブ自然再生研究所),鷲谷いづみ(東大・農学生命科学)
シ グ ナ ル ザ リ ガ ニ( ウ チ ダ ザ リ ガ ニ )Pacifastacus leniusculus は
2006 年に特定外来生物に指定された後も北海道や本州の冷水域に
おいて分布を拡げており,最近になって長野県のダム湖でも新規定
着が確認された.水域は標高約 900m に位置する湛水面積 10ha の多
目的ダムで,その一部はワカサギやイワナの釣り場としても利用さ
れている.我々は 2010 年に本種を現地において確認したのに続き,
2011 年から月に1回程度、カゴ罠によるザリガニの駆除を継続して
いる.ここでは,これまでの捕獲調査で分かった分布様式,個体数
動向,生活環,駆除に向けた課題についてまとめる.
捕獲調査では素材・形状の異なるいくつかの種類のカゴ罠(餌は
魚類フレーク)を使用し,全長約 8cm 以上の個体を捕獲することが
できた.ただし,カゴの種類によって捕獲効率は異なり,暗色で開
口部の狭いカゴで比較的良好な捕獲成績が得られた.本種は湖内に
広く分布するほか,落差約 30m のダム直下の渓流区間でもわずかな
がら生息が確認された.2011 年夏季に油性マジックインキによる標
識−再捕獲調査を実施したところダム湖の主要調査区で約 1,400 匹
(湖全体で 4,200 匹)が生息していると推定された.一方,その後の
一年で少なくとも 1,300 匹を駆除したが,2012 年に実施した同様の
調査では推定数 4,400 匹となり,我々の駆除活動によって個体数を
減少させることはできなかった.その要因として繁殖期に活動性の
低下する雌を効果的に捕獲できなかったことが考えられる.今後は
ダム湖からの流下分散について監視するとともに,湖内での生息数
を低減させるために繁殖期前を中心に捕獲強度を高める必要がある
だろう.
侵略的外来種の侵入は淡水生態系の生物多様性を低下させる複合
的な要因の 1 つである。淡水生態系の生物多様性を保全するために
は、侵略的外来種の生物間相互作用を考慮した計画的かつ早期の排
除が重要となる。しかし、生物多様性の高い地域へ侵入した侵略的
外来種の初期段階における排除が侵略的外来種の個体群の減少に及
ぼす効果についての研究例は少ない。
本研究では、生物多様性の高いため池群に侵入したウシガエル個
体群に排除が及ぼす効果について明らかにすることを目的とした。
岩手県南部の丘陵地に位置する久保川流域には、生物多様性の高
い 600 以上のため池が残存するが、2005 年頃からオオクチバス、ア
メリカザリガニ、ウシガエルが侵入し、中でもウシガエルは急速に
分布を拡大している。そのため、2009 年に設立された「久保川イー
ハトーブ自然再生協議会」による自然再生事業として、ため池群に
おけるウシガエルの排除が 2010 年より本格的に開始された。生物多
様性の高い 120 の池でもんどり型トラップ 600 個を設置し、地域と
協働で 4 月∼ 12 月の毎週の排除が実施された。その結果、ウシガエ
ル幼生 50343 頭、成体♂ 1266 頭、成体♀ 1180 頭、新成体 7183 頭、
卵塊 12 個が 3 年間で捕獲された。中でも、保全上重要な水生生物が
残存するため、集中して排除を実施した、侵入の最前線となる地域
では、個体群の大幅な縮小がみられた。
以上より、生物多様性の高いため池群における早期からの集中的
なウシガエル排除は、ウシガエルの局所個体群の減少に効果を及ぼ
す可能性が示唆された。今後、保全上重要な地域における排除の継
続の効果が期待される。
355
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-454
P2-455
上高地における外来植物の侵入と分布
温帯ヒノキ林における木質リター分解呼吸速度の環境応
* 渡邉修,松本壮平(信大農),村上靖典,松尾野里子(環境省)
答性と基質特性の評価
本研究は中部山岳国立公園の上高地公園内に侵入した外来植物の
詳細な分布域を明らかにするために行われた。GPS カメラの EXIF
ファイルの緯度経度情報は,写真同定が容易で植物標本を集めにく
いエリアでの簡易分布調査を行うときに有用である。2012 年に外来
植物の調査を大正池から横尾の範囲で実施した結果,12 科 40 種の
分布を確認した。エゾノギシギシ,カモガヤ,シロツメクサ,ムラ
サキツメクサ,ナガハグサなど草地雑草が多く確認された。上高地
では 1884 年から 1934 年の間に徳沢周辺で牧畜が行われており,草
地雑草が多い理由の一つと考えられた。また,ヒメジョオン,メマ
ツヨイグサなど荒地の雑草も多く確認された。大正池,ウエストン
園地,河童橋周辺において,高い密度で外来植物が確認され,エゾ
ノギシギシ,ヒメジョオン,シロツメクサ,ムラサキツメクサ,セ
イヨウタンポポ,オランダミミナグサ,カモガヤは横尾まで分布し
ていた。生態系や生物多様性に極めて大きな影響を及ぼす特定外来
種のオオハンゴンソウ,要注意外来種のハリエンジュ,イタチハギ,
オオアワダチソウ,コセンダングサなどが大正池周辺で確認された
が,発生地点数は少なく,分布域は限定されていた。分布が集中す
るエリアを固定カーネル法(h=100m)で推定したところ,ウエスト
ン園地と河童橋周辺でエゾノギシギシの集中班が 7 つ確認され,集
中班の合計面積は 0.37km2 であった。分布が集中するエリアと固定
カーネル法による観測密度 50% 範囲は地図上でよく一致した。
GPS ポイントデータは外来植物の今後の分布拡大を評価するため
のデータベースを構築するために有用である。特定外来生物の侵入
や拡大防止に向けた上高地地域の保全活動を進めるために,継続的
なモニタリングが必要である。
* 真嶋光一郎,小杉緑子,牧田直樹,安宅未央子(京大院・農)
木質リターの分解にともなう炭素の動態を理解することは、森林
での正確な炭素循環の解明の上で重要である。多くの木質リター分
解に関する研究は、長期間にわたる重量減少や、化学性の変化を扱
っている。しかし、このような研究だけでは、詳細な環境応答性や
基質特性は求め難い。近年では、環境要因や基質特性をパラメータ
ーとし詳細な応答を記述するモデルや、林分レベルでの分解呼吸量
の推定のために、詳細な環境応答性や、基質特性の解明が求められ
ている。
そこで本研究では、木質リター分解呼吸速度をチャンバー法によ
り直接測定し、環境応答性、基質特性が与える影響の評価を試みた。
測定を滋賀県大津市、桐生水文試験地において行った。測定期間
は 2010/7/17-2012/10/3 で、2-3 週ごとに定期的に測定を行なった。試
験地の優占樹種であるヒノキ(Chamaecyparis obtusa )の、枯枝後
2 年以内の個体を伐倒し、直径ごとに 5 つの階級 (-5mm、5-7mm、
7-12mm、12-60mm、60mm-) に分け、サンプルとした。サンプルを
自然区と乾燥区に 2010/6/28 に設置した。IRGA(LI-840, Licor) を用い
た閉鎖循環式チャンバー法により、木質リター分解呼吸速度を測定
した。測定した木質リター分解呼吸速度と、サンプル表面温度、含
水率、直径の関係をモデル化した。
その結果、ヒノキ林における木質リター分解呼吸速度は、サンプ
ル毎のバラつきが大きいものの、直径が大きいほど減少した。さらに、
表面温度が上昇するほど指数関数的に増加し、含水率が減少すると
減少した。また得られたモデルにより分解呼吸速度を約 60%を説明
することができた。
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P2-457
石灰窒素が灰色低地土からの N2O 放出に与える影響
Effect of experimental soil warming on soil respiration
* 山本昭範(農環研),秋山博子(農環研),直川拓司(電気化学工業),
八木一行(農環研)
in deciduous broad-leaved forests in Takayama and
Tomakomai, Japan
石灰窒素は施用すると、主成分であるカルシウムシアナミドが主
にシアナミドと石灰成分に分解される。その後、シアナミドはいく
つかの反応を経てジシアンジアミド(DCD)と尿素に分解される。
このように生成された DCD が硝化抑制剤として作用することで、一
般的な肥料に比べ施肥効率が高まり、N2O 放出が削減されると考え
られる。しかし、石灰窒素の N2O 放出削減効果に関する研究はこれ
までほとんど行われていない。そこで本研究は、石灰窒素の N2O 放
出削減効果を明らかにすることを目的として、灰色低地土の圃場に
おける栽培実験を行った。
圃場実験では、①慣行肥料区(化成肥料)、②石灰窒素区(施用窒
素の全量を石灰窒素で施用)、③ DCD 入り肥料区(DCD 入り化成肥料)
の 3 処理を 4 連で設け、コマツナを栽培した。窒素施用量は茨城県
栽培基準(120kg ha-1)に従った。その結果、N2O 放出の時間変化パ
ターンは施肥区間で明らかに異なった。慣行肥料区と DCD 入り肥
料区では、土壌水分が高い状態で数日間持続した後に数回の大きな
N2O 放出のピークが観測された。石灰窒素区では、他の施肥区で見
られた N2O 放出のピークは観測されず、施肥 20 ∼ 40 日後に大きな
N2O 放出の減少が見られた。慣行肥料区に対する各処理区の総 N2O
放出量(63 日間)は、石灰窒素区で 64.6% 減(P < 0.05)、DCD 入
り肥料区で 19.4% 減であった。また、石灰窒素区と DCD 入り肥料
区における土壌の硝化活性(アンモニア酸化活性)は、慣行肥料区
に比べ抑制されていた。石灰窒素区では、DCD 入り肥料区よりも硝
化活性が長期間抑制されていた。以上から、灰色低地土において、
DCD が硝化を抑制することで N2O 放出に影響しているのに対し、石
灰窒素は、硝化と脱窒の両方の過程を抑制することで N2O 放出に影
響している可能性が高いと考えられた。
*Noh NJ (Gifu Univ.), Inoue T (Waseda Univ.), Kuribayashi M, Saitoh TM
(Gifu Univ.), Nakaji T, Hiura T (Hokkaido Univ.), Muraoka H (Gifu Univ.)
We investigated the response of soil respiration (RS) to soil warming
in cool-temperate deciduous broad-leaved mature forests dominated
by Quercus crispula in Takayama (TKY, 36 °08´N, 137 °25´E) and
Tomakomai (TOEF, 42°40´N, 141°36´E), which belong to the JaLTER
network. The experimental soil warming systems were established using
heating cables in 2011 for TKY and 2007 for TOEF and automatically
warmed up soil temperature by 3℃ . Daily mean RS of mid and late growing
seasons were measured using portable IRGA CO2 sensors in Aug. and Oct.,
2012. Warming treatment enhanced RS by 9.1% in TKY and 10.0% in TOEF
at mid-growing season and by 15.7% for TKY and 64.3% for TOEF at
late growing season. The Q10 values as temperature sensitivity of RS were
2.89 and 2.64 in control and warmed plots at TKY and 2.44 and 1.55 in
control and warmed plots at TOEF, respectively. Temperature sensitivity of
RS acclimatized under warming treatment and acclimatization was greater
in TOEF than in TKY. This preliminary study demonstrated the warming
effects on R S in two cool-temperate forests and differently derived Q 10
values will be used to model future carbon budget of forest ecosystems.
356
ポスター発表 3 月 7 日(木)10:30-17:30
P2-458
P2-459
半自然ススキ草原における炭素動態モニタリング
群落レベルの植物バイオマス、窒素、リン量の全球メタ
関川清広
分析
炭素固定などの生態系機能は,気象など環境要因の変動に依存し
て年々変動すると考えられる.生態系機能の年々変動を明らかにす
るには,同一の生態系における長期モニタリングが手法として有効
である.本研究は半自然ススキ草原を対象に,葉群動態に基づいて
炭素吸収(純一次生産)を,土壌呼吸に基づいて炭素放出をモニタ
リングし,草原の炭素動態と気象要因の関係を明らかにすることを
目的とする.調査対象は,冷温帯域に位置する筑波大学菅平高原実
験センター(長野県上田市)の半自然ススキ草原であり,この草原
は毎年 10 月中旬の草刈りによって維持されてきた(刈り取られた
地上部は系外に持ち出される).葉群(LAI)動態は自動魚眼デジタ
ルカメラを用いた全天写真解析および葉群内外の光量子測定によっ
て,土壌呼吸は自動開閉チャンバーを用いた通気式赤外線分析法に
よって,生育期間を通じて測定された.本草原の地上部は,例年,5
月下旬に成長を開始し,6 月∼ 7 月にかけて急速に成長し,7 月下旬
∼ 8 月上旬に LAI がピークに達し,8 月中旬以降にススキの花穂が
出穂,9 月以降には順次葉が黄化・枯死し,地上部葉群は衰退する.
この地域では例年,冬期には約 1 m の積雪があり,3 月中旬から下
旬に雪融けが始まり,その後1カ月以内に草原の雪はほぼ融け終わ
る.冬期の積雪量と雪融けの早晩(春期の地温と土壌水分に影響)
および雪融け後∼梅雨期∼夏期にかけての日射量・降水量・土壌水
分などの環境要因(作用)は葉群動態(成長開始期,最盛期,衰退期)
に影響を持ち,また,葉群内の光強度などの環境要因は葉群動態(反
作用)によって変動すると考えられる.本発表ではこれまで得られ
た成果の概要を紹介し,上記手法によるモニタリングの有効性と問
題点を検証する.
* 飯尾淳弘(国環研),彦坂幸毅(東北大),Niels Anten(Wageningen
大),中河嘉明(筑波大),伊藤昭彦(国環研)
P2-4