2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲分析 課題曲の中の課題 2009 櫛田胅之扶 昨年と同じように、違ったスタイルの曲が提出されました。5 曲用意されているわけですが、 さて昨年度はどのように選択されたでしょうか。実際に統計をとってはいませんので解りません が、選択に偏りはなかったのでしょうか。もし、どの曲かに偏りが多く見られたとしたら、この 課題曲の提出の仕方は、あまり意味がありません。さて、今年もう一度注目していくことにしま しょう。 最初に取り上げられている、「16 世紀のシャンソンによる変奏曲」は課題曲として大変意義 があります。管楽アンサンブルの基本的な形を見ることが出来ます。大編成・大音量で威嚇する といった、甲子園吹奏楽(ブラバンに逆戻り)と違って、音楽的・音楽性といった意味です。少 子化・小編成化といった、現在の、またこれからの吹奏楽の考え方も見えて来ます。音楽的な表 現の幅を広げる意味で、Oboe・Bassoon を加えた編成を促す、といったウィンド・アンサン ブルの考えもあります。この考え方が、吹奏楽維新になっても良いのでは、と思います。 マーチの 2 曲は、昨年と同じように、生活・感性・希望・愛といった、日常を歌い込んだ、 いわば「私音楽」です。仲間と演奏する中で、人との繋がりや共感を得ることが出来ます。この 曲の作曲者お 2 人の、良い意味でのアマチュアリズムに敬意を表したいと思います。 シルクロード第 2 弾「ネストリアン・モニュメント」は、一つの叙事詩としての味わいがあ ります。楽器編成も大編成で、充実した編成が求められますが、ドラマティックな変化もあって 魅力的です。 現代音楽のカテゴリーに入る 5 番目の曲は、日本語の題名より、英語訳された「The Restless Soul」の方が、この曲には合っていると思います。 音のお遊びを優先させて、音遊人(?)たちには歓迎されるかもしれません。こんな風に楽し むのも悪くありません。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA ( Kyoto, JAPAN ) 課題曲の中の課題 2009 - 2 櫛田胅之扶 Ⅰ 16 世紀のシャンソンによる変奏曲/諏訪雅彦 吹奏楽の活動は、学校の部活動を中心に発展してきました。現在でもこの方向性は、ずっと引 き継がれています。このことから考えて、課題曲には、吹奏楽コンクールを通して音楽を学べる 何かが必要だと思っています。課題曲には教科書的な意味が存在してしかるべきものだ、と思い ます。その意味でこの課題曲は、作曲者の意図は解りませんが、中世ルネサンスから古典派まで の音楽、いわゆる古楽(Early Music)に取り組むことの意義は、充分にあると思います。 シャンソンといえば、音楽史の上では、デュファイに始まり、ジョスカン・デ・プレそしてジ ャヌカンへと継がれる、フランス・ルネサンス音楽の多声(ポリフォニー)世俗声楽曲を指すの ですが、日本では「枯葉」 「ばら色の人生」 「ラ・メール」などの、少し前のフランスのポピュラ ー音楽・ヒットソングを指しています。日本的な意味での、16 世紀(ルネサンス時代)のシャ ン ソ ン と 呼 べ ば 良 い の で し ょ う か こ の 曲 の 主 題 に さ れ て い る 曲 は 、 1576 年 Jehan Chardevoine 作曲の“Une Jeune Fillette”と思われます。フランスの古楽に少しでも触れた 人なら、誰もが知っているポピュラリティーのある曲です。 Une Jeune Fillette Une jeune fillette A young maid De noble Coeur, Noble minded Plaisante et joliette, Amiable, pretty, De grand’ valeur, And of great merit, Outre son gre on l’ a rendu nonette, Was made a nun against her will. Cela point ne luy haicte, And as it pleased her not, D’ ou vit en grand douleur. She lived in great sorrow. この歌曲に作曲者が手を加えて器楽曲に作り替え、主題にされています。曲全体を通して、声 楽ポリフォニー(15~17 世紀ごろ)から、17 世紀以降の器楽ポリフォニー(ポリフォニーと ホモフォニーの中間)のスタイル(対位法)で作られています。後半は小さな古典交響曲のそれ ぞれの楽章の様相を呈して、この辺りの音楽史を体験することが出来て、とても面白いです。た だ、内容がそのようなものですから、50 人の奏者が寄って集って演奏する音楽ではありません。 「小編成でも演奏可能」ではなくて、 「小編成で演奏すべき」曲です。全体の構成は、第 3 変奏 を中間部においた、3 部構成になっています。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 3 櫛田胅之扶 <Theme> 先に記しましたように、16 世紀頃に歌われていた曲が主題になっています。原曲は、エオリ アン(自然短音階)で出来ていますが、ここでは G のドリアンで、導音は半音上げられた形で、 器楽用の曲として提示されています。その主旋律が変奏の主題になるのですが、曲全体はルネサ ンス時代に最盛期を迎えた、ポリフォニーと呼ばれる様式をもって書かれています。このテーマ 全体は、原曲として元々あるのではなくて、その時代の曲のように作曲されたものです。ポリフ ォニー音楽的に、各声部が均等に絡み合って、全体に音の綾を作り出す、という形になっていま すから、各声部とも、独立した旋律という意識で、表現する必要があります。合奏する場合、各 声部(パート)が歌うとともに、他声部とのバランスにも、充分に留意しなければなりません。 ポリフォニー音楽としての表現には、多くの Early Music の CD が出ていますので参考にし て下さい。上記しましたジャヌカンのシャンソンの演奏(声楽アンサンブル)なども、様式雰囲 気・拍節の取り方、ravvivando の表現など参考になると思います。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 4 櫛田胅之扶 <Var.Ⅰ> 器楽ポリフォニーの形(対位法)をとっています。主題旋律を Bass に持って来ていますが、 これが Bass ラインを作って、和声が進行するといったことではありません。各声部が独立して、 自主的に線運動を進めます。伴奏部分が付されていないわけですから、アカペラ合唱の妙味とで も云いましょうか、それぞれ歌いかけながら各パートの適切なバランスを保つことが重要です。 長・短 2 度を主とした、美しい旋律の声部が作られています。フレーズが、拍子感の不明確な、 いわば散文的でありますから、流れる様な一息での演奏が望まれます。フレーズの対照性(変化) は見られません。 <Var.Ⅱ> ここでは一変して垂直に積み上げられた、和声によって支えられるといった構造になります。 これは、ポリフォニー音楽が発展して行く過程で複雑になり、それに反発するように、アンチテ ーゼとしてホモフォニー音楽に進んで行く歴史を見るようです。主題旋律に付けられたであろう、 18 世紀初めを思わせる、シンプルな和声です。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 5 櫛田胅之扶 <Interlude(Var.Ⅲ),dolce(甘く柔らかに)> サラバンド風のリズムで、美しい旋律が書かれています。変ホ長調に転調されています。主題 のもつ哀しさへの、優しさの愛の歌でしょうか。少し主題から離れた、作曲者の自分自身への間 奏曲でしょう。主旋律が鮮明になり、ポリフォニー音楽のようにも書かれていますが、主旋律以 外はあくまで副旋律としての役割になっています。ここでは、パートを渡るように書かれた主旋 律の、いわゆる音色旋律の表現が課題になります。 <Var.Ⅳ,leggiero(軽快に)> 交響曲の第 3 楽章を思わせる、メヌエット・スケルツォのような部分に当たります。対比す るリズム音形が、うまく絡み合って、しっかり進行して行かなくてはなりません。そのためには、 同一音形のパートは絶対的にリズム・フィーリングを合わせましょう。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 6 櫛田胅之扶 <Var.Ⅴ,alla turca(トルコ風に)> 終楽章を思わすような、トルコ軍楽隊のような堂々とした、行進曲風のものです。18 世紀に トルコの軍楽が西洋に入って来て、一時流行したようで、多くの作曲者が、自分の音楽の中に取 り入れています。2+2 の 4 小節でリズムが構成されます。このリズムを叩き出す打楽器(Tenor Drum か Floor Tom)は、充分その雰囲気を作り出し、この部分を支える役割があります。ド ラムの打ち出すトルコ風のリズムの表現(雰囲気)も大切ですが、広がりのある堂々とした旋律 の美しさ、ポリフォニー的に書かれた後半、調性を持った和声の流れ、多くの要素を持った終曲 です。 <Coda> 第 1 変奏から逆に主題に戻るような洒落た形のコーダです。第5変奏からごく自然なテンポ 感を持ってコーダへ入ります。コーダの中で、多くの poco が与えられていますが、その部分を 充分意識することで、古楽としての演奏様式を体験する、といった学習目標が考えられているの でしょうか。 この曲で使われている、あまり一般には見ない楽語について、記しておきます。 Tambour:小太鼓を一般に指すが、ここではプロバンス地方の長太鼓 (Tambourin)を 意味しているよう Crotales:古代エジプトで祭祀に用いた小型シンバル ma, non tanto:しかし過ぎぬように ma, poco meno:しかしより少なく quasi lontano:ほとんど遠くで響いているように l.v.(laissez vibrer, lasciare vibrar) :鳴らしたあと響きをそのまま残す perdendosi:次第に消えて行くように(morendo と同じ) © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 7 櫛田胅之扶 Ⅱ コミカル★パレード/島田尚美 明るさに包まれた、ハッピーなパレード・マーチです。そう考え込むことも、悩むこともなく、 楽しくやれば済むわけですから、部活動の楽しい日々を表現すれば良いと思います。コンクール の金賞をとることを、金科玉条のようにして部活動に励んでいる方々は、この曲は遠慮された方 が良いと思います。本当のところは、勝ち負けの深刻さ・悩みなどを、打ち払うためには良いの ではないでしょうか。 <導入部>【A】までの 4 小節 冒頭の木管群と Trumpet セクションの、2 つの旋律的な動きと和声(クリシェ風に動きます) を、鮮明に捉えましょう。 【A】への入りの C-D♭-C(D♭は属和音の置換コード) は、こ の曲のムードを創りだします。 <主部> 【A】 :旋律を形作るリズムの流れ・変化が、とても楽しくなります。この 8 小節のリズムの 流れを、1 つの流れとして一気に捉えたいですね(Tempo も指定より幾分速い方が良いでしょ う)。和声は、とくに課題はありませんが、9 小節目からの Am7(♭5)-D7-Gm のトゥ・フ ァイブを生かして POPS 感覚の心地よい流れを作りたいものです。行進曲においてもイメージ を創るのは、やはり和声だと思います。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 8 櫛田胅之扶 【B】 :ここでもリズムの流れが巧妙で、とくに後半の 17 小節目からの、木管・金管の掛け 合いで、コミカルさを出せればと思います。 【C】 :中間部(いわゆるサビです)は、短 3 度の転調で、気分良く空へ飛んで行くようなイ メージで、アニメ感覚が感じられるのですが、いかがでしょうか。和声も面白いので(わりと厚 くオーケストレーションされています)、しっかり表現したいものです。Alto.Sax.・Tenor Sax.・Euphonium のカウンター・メロディは洒落ていますので、思いきって前へ出ます。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 9 櫛田胅之扶 【D】 :【B】が全合奏で繰り返されます。 <Trio> 【E】 、【F】 :旋律・和声ともに、落ちついた美しさを持っています。コミカル★パレードと いう標題の滑稽な・戯けたということよりも、幸せの笑顔あふれる心から楽しい、ハッピー★パ レードとでも云えるのではないでしょうか。旋律のリズム・ラインが、静かな動き(2拍三連) で、語りかけるような(ポリフォニー音楽のような)柔らかな雰囲気を持っています。クリシェ を持った和声は、気持ちよく動き、ベース・ラインが 2 分音符で跳躍を持たず、全ての動きが 静かです。Tempo そのものも、前半よりも少し遅い方が、曲想に合っているように思います。 【F】では、2拍三連の要素が、8分・4分に変わって、浮き立つ気持ちになっています。こ の変化もうまく表現したいですね。 【G】:ブリッジの部分ですが、コミカルなリズムが戻って来ます。この部分の後半は、レガ ートやテヌートで前半に対比させて、取り留めなく動く気分・気ままな情景を。表現できると思 います。 【H】:多くの人が集まり、取り囲むように、賑やかなパレードが進みます。まっすぐ直進的 な行進ではなく、何となく体が揺れるような行進です。Trio の旋律を多くのパートが演奏しま すから、ものすごく厚く・熱くならないで、espr.という発想表記に留意して下さい。 【I】 :ファンファーレが響いて、終盤に向かいます。最後の molto rit.は充分に、いささか 大げさにとって、【J】 (【A】 )、 【K】( 【D】)へ a tempo で終わりへ向かいます。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 10 櫛田胅之扶 Ⅲ ネストリアン・モニュメント/平田智暁 東洋から西洋へ、西洋から東洋へ、2 つの文化を結んできたシルクロードからは、悠久の時の 流れが聴こえてきます。古(いにしえ)の時に出会うかのような、夢はるかなロマンに心動かさ れます。昨年の「天馬の道」に続くシルクロード第 2 弾です。私たちが旅をするシルクロード は、中国・西安から西へ向かって敦煌へ、というのが普通ですが、この曲は、逆に西から東へと 旅をします。シルクロードの終着点が日本という考えからすると、この方が、古代音楽は西洋か らやって来たという思いがします。正倉院御物の琵琶はアラボン(阿羅本ペルシャ人司祭)らに よってとか……。この曲の主人公は、古代キリスト教・ネストリウス派(公会議で破門)の人々。 東への旅の中で、シルクロードの叙事詩を描いています。 曲は大きく、主部・中間部・再現部(展開部)の 3 つの部分で出来ています。雄大なロマン を感じさせる曲想を持ち、なお Oboe・Bassoon の使い方からも、オーケストラの色彩感を持 った、大編成での表現が期待されます。 <導入部:(異端宣告;ローマ帝国領エフェソス)> エフェソスでの公会議、ネストリウスへの異端宣告。4 分の 4 ですが、8 分音符単位の 3+3+3+7(3+4)のフレーズで、in tempo からたたみかけるように、威嚇するような厳然と した表現になります。映画のタイトル音楽にあたります。 <主部: 【A】~(ネストリウス派の人々;苦難な旅路のはじまり)> ネストリウス派の人々は、遊牧集団となって東への旅につきます。旋律は自然短音階と、ある 1 音を半音揺らしたアラブ音階を使用して、時代・環境の設定、雰囲気のある風景などを描き出 しています。苦しげに・悲痛に、という表情標語で、背景には、それを思わす重苦しいリズムが 設定されています。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 11 櫛田胅之扶 <(幻影)【D】> イメージとしては、何かに追われる・おびえるといった、不安さが漂います。 「ステンドグラ スが割れるように」とイメージされている、Wind Chime などの金属打楽器の表現が興味ある ところです。いっそガラスそのものを使用しては、と思いますが。 <中間部:【E】~(砂上の城)> Andante cantabile 「砂上の城」とイメージが示されています。砂上ですから、延々と続く 砂漠の中に。それは、タクラマカン砂漠でしょうか。城は、トルファンの高昌故城か高河故城で しょうか。タリム盆地の乾燥化で滅亡の憂き目にあった、かの桜蘭の何処かの……。月光の下に 輝く城壁・静かな宴……。 古代の打楽器を想像させる、 【E】入りの響きとリズムが、幻想を駆り立てます。3+3+2 の リズムが、静かに何処から聴こえて来ます。2 音は、色々な音程を作りながら、その響きを際立 たせながら、光を投げかけています。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 12 櫛田胅之扶 Alto Sax.で始まる主旋律は、馬頭琴のような楽器で奏される、民俗色の濃い素朴な味わいが あります。次のような旋律が、基本形ではないでしょうか。変ニ長調ですが、A♭-D♭-E♭ -F が中心になって構成されていますので、A♭のミクソリディアンのような感じです。 Bassoon・Clarinet・Alto.Sax.との対位的な流れの中での和声構成、特に時間差を持った、 解決には充分意識した表現が必要です。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 13 櫛田胅之扶 【F】からは、リズム動機を伴って、Alto Sax.と Horn が和声を作ります。この部分は、充 分に調性を感じさせるところです。そのことよりも、Tenor Sax.・Euphonium のカウンター・ メロディは、主旋律以上にイメージが強く、特に 16 分音符の動きは雰囲気を感じさせます。 <再現部(展開部) :【H】~(旅の続き)> 【H】は、主部のリズム・旋律の再現。 【I】からは【C】の主題に、 【A】の主題が転換され て大きく展開します。 <(敦煌入場)> この部分への入りが、この曲(ドラマ)のクライマックスです。トルファンを過ぎ、延々と続 く過酷な砂漠の中に、雄大な砂の山、鳴沙山(めいさざん)を南に見て、漢の最西端の砦、敦煌 に入る、突然、目の前に敦煌・莫高窟(ばくこうくつ)を見る、といったドラマが欲しいですね。 76 小節目からの多くのリズム要素のるつぼを演出して、一瞬「間」を置いてアウフタクトへ入 ります。そこで西からの旅人は一息をつぐのでしょう。 <コーダ:【J】(さらに東へ)> 高音部の最初に出てくるリズム動機をしっかり刻み、確固たる歩みの中に東を目指す思いでエ ンディングを迎えます。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 14 櫛田胅之扶 Ⅳ マーチ「青空と太陽」/藤代敏裕 題名通りの爽やかな軽快なマーチです。雲一つない真っ青な空、太陽の光は暖かに、人を包み 込むように。その自然の暖かさの中に生きる、幸せ感を思わせる曲です。青空と太陽と自分と… …といった、 「私音楽」とでも云える音楽です。演奏する側の日常が、存分に描かれている曲で す。 曲全体の構成は大変解り易く、内容も捉えやすく、良い意味でこだわりのない演奏が出来ます。 さっと通り過ぎて行く、といったパフォーマンスになりますので、コンクールの課題曲だからと いって、深く掘り下げて何かを、といった曲ではありません。演奏者も聴衆も、爽やかな気分に なれば OK ということでしょう。 <導入部> Trumpet の変ロ長調・トニックが響く中に、Trombone の和声が対比する、この入りは大変 良いです。サスペンデット・コードから属和音・半終止へと、和声の流れが良いのでこの流れは 上手く生かしたいですね。 <主部: 【A】~> 中間にブリッジを持った、歌謡形式のマーチ。 【A】の主題旋律は、A+A’の形で、A’の部分ではカウンター・メロディを伴っています。 この主題旋律は、1 拍目のウラからシンコペーデッドされる跳躍部分に、弾む心の動きを感じま す。この部分の主題旋律のリズムのパフォーマンスは、「コミカル★パレード」と同じような動 きを持っています。この辺り、課題曲として少し違った選択の余地・工夫は無かったのでしょう か。設定された和声は、上手につけられていますので、大変気持ち良く流れて行きます。 マーチでも和声をおろそかにせず、うまく雰囲気を表現しましょう。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 15 櫛田胅之扶 この主題旋律には、 【B】から Euphonium のはカウンター・メロディ、 【D】では Trombone の和声カウンター、 【E】からは Piccolo ・Flute などの高音部での装飾コードと、次々と色々 な装飾が付けられて進行します。そこから生まれてくるイメージは、青空と太陽の下での、小鳥 や花といった自然でも良いし、集いや語らいといった生活でも良いし、色々なイメージを皆さん で創りだすといいですね。 <中間部:【C】> ファンファーレの前半と対位的な横の流れの後半で出来ていますので、短い部分ですが、この 部分のメリハリの付いた表現が、一つの挿絵のような効果を創っています。最後の小節では、テ ンション・ノートのきいたコード進行が待っています。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 16 櫛田胅之扶 <主部・再現【D】~> 先にも記しましたように、主部 A+A’が装飾を施された形で再現されます。主題旋律ライン の表情が、いろんなパフォーマンスを求めていきます。 【A】 【B】 【D】 【E】のそれぞれの表情 をどう表現させるか、楽しみな課題といえます。主旋律に付けられた、色々な装飾が、そのパフ ォーマンスの演出に生かされると良いですね。 導入部のファンファーレを持ちながら、後半形をかえて、Trio へ入ります。 <Trio> 主部と全く同じ構成の A+A’の Trio 旋律に、中間部【H】 (この部分も旋律・リズム構成が 主部の中間部と同じ)を経て、A+A’が再現する、といった解りやすいシンプルな構成になっ ています。内容も主部のところで記しましたように、A+A’再び A+A’と、各部分が装飾され て進行して行く形をとっています。 Trio 主部前半の和声は、1つの流れ(パターン)を持っています(大変上手な設定の仕方で す)ので、これを充分生かして表情を創ると良いでしょう。 【G】の Horn のカウンター・メロディは、充分にクレシェンド・デクレシェンドを付けて 存在感を示します。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 17 櫛田胅之扶 <Trio 中間部:【H】> 太陽の輝きのような、Horn のベル・トーン風の音型を生かして。 <Trio 再現部:【I】 【J】> カウンター・メロディが何とも良いです。Euphonium が中心の表現になります。 【K】からは、Trio 旋律が転調され、もう一度繰り返されます。勿論、施された装飾も違っ た姿を見せます。主題旋律もレガートせず、しっかりとした歩みを示すように。各パート・セク ションの役割が理解しやすく、またバランス良く表現できるかどうかが課題となります。 <コーダ:【M】> 導入部のファンファーレの和声・音形を繰り返し終わります。 一つの旋律ラインが基本的にあり、それに色々な装飾が加わって、発展・変化して行く、とい う構成で仕上げられ、旋律・和声とも理解しやすく、課題曲としては大変的を射た、優れた曲だ と思います。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 18 櫛田胅之扶 Ⅴ 躍動する魂/江原大介 いわゆる現代音楽というジャンルに入る作品です。調性という枠組みの中で、作曲されたもの ではありませんので、機能和声・対位法といった、曲を統制する要素は全く違ってきます。この 曲の場合は、音列・音型・音程など、音楽の要素から、いくつかの素材を作り、それを組み立て て行(構成して行く)で、作曲されています。表現したいことは、題名通り「魂の躍動感」です。 その目的とするもの・躍動する姿は、演奏する側の問題です。吹奏楽自体が充分なエネルギーを 持っていますから、演奏することで、躍動するということを、聴衆の側に与えてしまうこともあ り得るわけです。 各パート・セクションが、色々組み合わされ、それらが絡み合ったり、掛けあったり、音色旋 律を作り上げたり、といった色々なシーンを表出します。 全体の構造は、湧き上がるように始まり、一度静まり再びゆっくりとしたスタンスを取りなが ら、燃えるように躍動して行くといった形です。考えようによっては、案外単純なコンセプトな のですが、その燃え方・躍動感には、色々な表現が期待されるだけに、面白い曲だと思います。 ただ、演奏する側の技術に余裕がないと、単に演奏したというだけで、終わってしまいます。 主な音素材は、積み重ねられた「短 3 和音」、跳躍する「増 4 度音程」 、フレーズ(定型され た音型)の中の「短 2 度」 、そのフレーズを積み重ねた「トーン・クラスターの分散」などが、 使われています。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 19 櫛田胅之扶 躍動感を視覚的にも反映させるために、細分化された記譜になっていますが、2倍、4倍に引 き延ばした記譜に書き換えてみると、良く理解できると思います。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN) 課題曲の中の課題 2009 - 20 櫛田胅之扶 2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲分析 課題曲の中の課題 2009 監修・著作:櫛田胅之扶 編集・制作:株式会社ウィンズスコア 配布・公開日:2009 年 6 月 1 日(2009 年 6 月 8 日一部改訂) 楽譜引用元: 諏訪雅彦・島田尚美・平田智暁・藤代敏裕・江原大介 『2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲』全日本吹奏楽連盟、2009 年 2 月 1 日発行 ※本書の著作権保有者は、著作者である櫛田胅之扶であり、櫛田胅之扶の協力・許諾のもと、 株式会社ウィンズスコアが本書を制作・配布・公開しております。 ※本書に掲載されている楽譜の一部は、 『2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲』からの 引用であり、全日本吹奏楽コンクール課題曲の権利は、全日本吹奏楽連盟に帰属します。 ※本書の配布・コピー等の利用については、本書の内容・目的を理解した上で、金銭の受け渡し が発生しない場合に限り許可いたします。 ※本書を使用しての、第3者との紛争・トラブルが発生した場合、著作者・制作者、及び全日本 吹奏楽連盟は一切責任を負いません。 © 2009 by All Japan Band Association © 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA (Kyoto, JAPAN)
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