課題曲の中の課題 2009

2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲分析
課題曲の中の課題 2009
櫛田胅之扶
昨年と同じように、違ったスタイルの曲が提出されました。5 曲用意されているわけですが、
さて昨年度はどのように選択されたでしょうか。実際に統計をとってはいませんので解りません
が、選択に偏りはなかったのでしょうか。もし、どの曲かに偏りが多く見られたとしたら、この
課題曲の提出の仕方は、あまり意味がありません。さて、今年もう一度注目していくことにしま
しょう。
最初に取り上げられている、「16 世紀のシャンソンによる変奏曲」は課題曲として大変意義
があります。管楽アンサンブルの基本的な形を見ることが出来ます。大編成・大音量で威嚇する
といった、甲子園吹奏楽(ブラバンに逆戻り)と違って、音楽的・音楽性といった意味です。少
子化・小編成化といった、現在の、またこれからの吹奏楽の考え方も見えて来ます。音楽的な表
現の幅を広げる意味で、Oboe・Bassoon を加えた編成を促す、といったウィンド・アンサン
ブルの考えもあります。この考え方が、吹奏楽維新になっても良いのでは、と思います。
マーチの 2 曲は、昨年と同じように、生活・感性・希望・愛といった、日常を歌い込んだ、
いわば「私音楽」です。仲間と演奏する中で、人との繋がりや共感を得ることが出来ます。この
曲の作曲者お 2 人の、良い意味でのアマチュアリズムに敬意を表したいと思います。
シルクロード第 2 弾「ネストリアン・モニュメント」は、一つの叙事詩としての味わいがあ
ります。楽器編成も大編成で、充実した編成が求められますが、ドラマティックな変化もあって
魅力的です。
現代音楽のカテゴリーに入る 5 番目の曲は、日本語の題名より、英語訳された「The Restless
Soul」の方が、この曲には合っていると思います。
音のお遊びを優先させて、音遊人(?)たちには歓迎されるかもしれません。こんな風に楽し
むのも悪くありません。
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© 2009 by Tetsunosuke KUSHIDA ( Kyoto, JAPAN )
課題曲の中の課題 2009 - 2
櫛田胅之扶
Ⅰ 16 世紀のシャンソンによる変奏曲/諏訪雅彦
吹奏楽の活動は、学校の部活動を中心に発展してきました。現在でもこの方向性は、ずっと引
き継がれています。このことから考えて、課題曲には、吹奏楽コンクールを通して音楽を学べる
何かが必要だと思っています。課題曲には教科書的な意味が存在してしかるべきものだ、と思い
ます。その意味でこの課題曲は、作曲者の意図は解りませんが、中世ルネサンスから古典派まで
の音楽、いわゆる古楽(Early Music)に取り組むことの意義は、充分にあると思います。
シャンソンといえば、音楽史の上では、デュファイに始まり、ジョスカン・デ・プレそしてジ
ャヌカンへと継がれる、フランス・ルネサンス音楽の多声(ポリフォニー)世俗声楽曲を指すの
ですが、日本では「枯葉」
「ばら色の人生」
「ラ・メール」などの、少し前のフランスのポピュラ
ー音楽・ヒットソングを指しています。日本的な意味での、16 世紀(ルネサンス時代)のシャ
ン ソ ン と 呼 べ ば 良 い の で し ょ う か こ の 曲 の 主 題 に さ れ て い る 曲 は 、 1576 年 Jehan
Chardevoine 作曲の“Une Jeune Fillette”と思われます。フランスの古楽に少しでも触れた
人なら、誰もが知っているポピュラリティーのある曲です。
Une Jeune Fillette
Une jeune fillette
A young maid
De noble Coeur,
Noble minded
Plaisante et joliette,
Amiable, pretty,
De grand’ valeur,
And of great merit,
Outre son gre on l’ a rendu nonette,
Was made a nun against her will.
Cela point ne luy haicte,
And as it pleased her not,
D’ ou vit en grand douleur.
She lived in great sorrow.
この歌曲に作曲者が手を加えて器楽曲に作り替え、主題にされています。曲全体を通して、声
楽ポリフォニー(15~17 世紀ごろ)から、17 世紀以降の器楽ポリフォニー(ポリフォニーと
ホモフォニーの中間)のスタイル(対位法)で作られています。後半は小さな古典交響曲のそれ
ぞれの楽章の様相を呈して、この辺りの音楽史を体験することが出来て、とても面白いです。た
だ、内容がそのようなものですから、50 人の奏者が寄って集って演奏する音楽ではありません。
「小編成でも演奏可能」ではなくて、
「小編成で演奏すべき」曲です。全体の構成は、第 3 変奏
を中間部においた、3 部構成になっています。
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課題曲の中の課題 2009 - 3
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<Theme>
先に記しましたように、16 世紀頃に歌われていた曲が主題になっています。原曲は、エオリ
アン(自然短音階)で出来ていますが、ここでは G のドリアンで、導音は半音上げられた形で、
器楽用の曲として提示されています。その主旋律が変奏の主題になるのですが、曲全体はルネサ
ンス時代に最盛期を迎えた、ポリフォニーと呼ばれる様式をもって書かれています。このテーマ
全体は、原曲として元々あるのではなくて、その時代の曲のように作曲されたものです。ポリフ
ォニー音楽的に、各声部が均等に絡み合って、全体に音の綾を作り出す、という形になっていま
すから、各声部とも、独立した旋律という意識で、表現する必要があります。合奏する場合、各
声部(パート)が歌うとともに、他声部とのバランスにも、充分に留意しなければなりません。
ポリフォニー音楽としての表現には、多くの Early Music の CD が出ていますので参考にし
て下さい。上記しましたジャヌカンのシャンソンの演奏(声楽アンサンブル)なども、様式雰囲
気・拍節の取り方、ravvivando の表現など参考になると思います。
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課題曲の中の課題 2009 - 4
櫛田胅之扶
<Var.Ⅰ>
器楽ポリフォニーの形(対位法)をとっています。主題旋律を Bass に持って来ていますが、
これが Bass ラインを作って、和声が進行するといったことではありません。各声部が独立して、
自主的に線運動を進めます。伴奏部分が付されていないわけですから、アカペラ合唱の妙味とで
も云いましょうか、それぞれ歌いかけながら各パートの適切なバランスを保つことが重要です。
長・短 2 度を主とした、美しい旋律の声部が作られています。フレーズが、拍子感の不明確な、
いわば散文的でありますから、流れる様な一息での演奏が望まれます。フレーズの対照性(変化)
は見られません。
<Var.Ⅱ>
ここでは一変して垂直に積み上げられた、和声によって支えられるといった構造になります。
これは、ポリフォニー音楽が発展して行く過程で複雑になり、それに反発するように、アンチテ
ーゼとしてホモフォニー音楽に進んで行く歴史を見るようです。主題旋律に付けられたであろう、
18 世紀初めを思わせる、シンプルな和声です。
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課題曲の中の課題 2009 - 5
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<Interlude(Var.Ⅲ),dolce(甘く柔らかに)>
サラバンド風のリズムで、美しい旋律が書かれています。変ホ長調に転調されています。主題
のもつ哀しさへの、優しさの愛の歌でしょうか。少し主題から離れた、作曲者の自分自身への間
奏曲でしょう。主旋律が鮮明になり、ポリフォニー音楽のようにも書かれていますが、主旋律以
外はあくまで副旋律としての役割になっています。ここでは、パートを渡るように書かれた主旋
律の、いわゆる音色旋律の表現が課題になります。
<Var.Ⅳ,leggiero(軽快に)>
交響曲の第 3 楽章を思わせる、メヌエット・スケルツォのような部分に当たります。対比す
るリズム音形が、うまく絡み合って、しっかり進行して行かなくてはなりません。そのためには、
同一音形のパートは絶対的にリズム・フィーリングを合わせましょう。
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課題曲の中の課題 2009 - 6
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<Var.Ⅴ,alla turca(トルコ風に)>
終楽章を思わすような、トルコ軍楽隊のような堂々とした、行進曲風のものです。18 世紀に
トルコの軍楽が西洋に入って来て、一時流行したようで、多くの作曲者が、自分の音楽の中に取
り入れています。2+2 の 4 小節でリズムが構成されます。このリズムを叩き出す打楽器(Tenor
Drum か Floor Tom)は、充分その雰囲気を作り出し、この部分を支える役割があります。ド
ラムの打ち出すトルコ風のリズムの表現(雰囲気)も大切ですが、広がりのある堂々とした旋律
の美しさ、ポリフォニー的に書かれた後半、調性を持った和声の流れ、多くの要素を持った終曲
です。
<Coda>
第 1 変奏から逆に主題に戻るような洒落た形のコーダです。第5変奏からごく自然なテンポ
感を持ってコーダへ入ります。コーダの中で、多くの poco が与えられていますが、その部分を
充分意識することで、古楽としての演奏様式を体験する、といった学習目標が考えられているの
でしょうか。
この曲で使われている、あまり一般には見ない楽語について、記しておきます。
Tambour:小太鼓を一般に指すが、ここではプロバンス地方の長太鼓 (Tambourin)を
意味しているよう
Crotales:古代エジプトで祭祀に用いた小型シンバル
ma, non tanto:しかし過ぎぬように
ma, poco meno:しかしより少なく
quasi lontano:ほとんど遠くで響いているように
l.v.(laissez vibrer, lasciare vibrar)
:鳴らしたあと響きをそのまま残す
perdendosi:次第に消えて行くように(morendo と同じ)
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課題曲の中の課題 2009 - 7
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Ⅱ コミカル★パレード/島田尚美
明るさに包まれた、ハッピーなパレード・マーチです。そう考え込むことも、悩むこともなく、
楽しくやれば済むわけですから、部活動の楽しい日々を表現すれば良いと思います。コンクール
の金賞をとることを、金科玉条のようにして部活動に励んでいる方々は、この曲は遠慮された方
が良いと思います。本当のところは、勝ち負けの深刻さ・悩みなどを、打ち払うためには良いの
ではないでしょうか。
<導入部>【A】までの 4 小節
冒頭の木管群と Trumpet セクションの、2 つの旋律的な動きと和声(クリシェ風に動きます)
を、鮮明に捉えましょう。
【A】への入りの C-D♭-C(D♭は属和音の置換コード) は、こ
の曲のムードを創りだします。
<主部>
【A】
:旋律を形作るリズムの流れ・変化が、とても楽しくなります。この 8 小節のリズムの
流れを、1 つの流れとして一気に捉えたいですね(Tempo も指定より幾分速い方が良いでしょ
う)。和声は、とくに課題はありませんが、9 小節目からの Am7(♭5)-D7-Gm のトゥ・フ
ァイブを生かして POPS 感覚の心地よい流れを作りたいものです。行進曲においてもイメージ
を創るのは、やはり和声だと思います。
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課題曲の中の課題 2009 - 8
櫛田胅之扶
【B】
:ここでもリズムの流れが巧妙で、とくに後半の 17 小節目からの、木管・金管の掛け
合いで、コミカルさを出せればと思います。
【C】
:中間部(いわゆるサビです)は、短 3 度の転調で、気分良く空へ飛んで行くようなイ
メージで、アニメ感覚が感じられるのですが、いかがでしょうか。和声も面白いので(わりと厚
くオーケストレーションされています)、しっかり表現したいものです。Alto.Sax.・Tenor
Sax.・Euphonium のカウンター・メロディは洒落ていますので、思いきって前へ出ます。
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課題曲の中の課題 2009 - 9
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【D】
:【B】が全合奏で繰り返されます。
<Trio>
【E】
、【F】
:旋律・和声ともに、落ちついた美しさを持っています。コミカル★パレードと
いう標題の滑稽な・戯けたということよりも、幸せの笑顔あふれる心から楽しい、ハッピー★パ
レードとでも云えるのではないでしょうか。旋律のリズム・ラインが、静かな動き(2拍三連)
で、語りかけるような(ポリフォニー音楽のような)柔らかな雰囲気を持っています。クリシェ
を持った和声は、気持ちよく動き、ベース・ラインが 2 分音符で跳躍を持たず、全ての動きが
静かです。Tempo そのものも、前半よりも少し遅い方が、曲想に合っているように思います。
【F】では、2拍三連の要素が、8分・4分に変わって、浮き立つ気持ちになっています。こ
の変化もうまく表現したいですね。
【G】:ブリッジの部分ですが、コミカルなリズムが戻って来ます。この部分の後半は、レガ
ートやテヌートで前半に対比させて、取り留めなく動く気分・気ままな情景を。表現できると思
います。
【H】:多くの人が集まり、取り囲むように、賑やかなパレードが進みます。まっすぐ直進的
な行進ではなく、何となく体が揺れるような行進です。Trio の旋律を多くのパートが演奏しま
すから、ものすごく厚く・熱くならないで、espr.という発想表記に留意して下さい。
【I】
:ファンファーレが響いて、終盤に向かいます。最後の molto rit.は充分に、いささか
大げさにとって、【J】
(【A】
)、
【K】(
【D】)へ a tempo で終わりへ向かいます。
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課題曲の中の課題 2009 - 10
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Ⅲ ネストリアン・モニュメント/平田智暁
東洋から西洋へ、西洋から東洋へ、2 つの文化を結んできたシルクロードからは、悠久の時の
流れが聴こえてきます。古(いにしえ)の時に出会うかのような、夢はるかなロマンに心動かさ
れます。昨年の「天馬の道」に続くシルクロード第 2 弾です。私たちが旅をするシルクロード
は、中国・西安から西へ向かって敦煌へ、というのが普通ですが、この曲は、逆に西から東へと
旅をします。シルクロードの終着点が日本という考えからすると、この方が、古代音楽は西洋か
らやって来たという思いがします。正倉院御物の琵琶はアラボン(阿羅本ペルシャ人司祭)らに
よってとか……。この曲の主人公は、古代キリスト教・ネストリウス派(公会議で破門)の人々。
東への旅の中で、シルクロードの叙事詩を描いています。
曲は大きく、主部・中間部・再現部(展開部)の 3 つの部分で出来ています。雄大なロマン
を感じさせる曲想を持ち、なお Oboe・Bassoon の使い方からも、オーケストラの色彩感を持
った、大編成での表現が期待されます。
<導入部:(異端宣告;ローマ帝国領エフェソス)>
エフェソスでの公会議、ネストリウスへの異端宣告。4 分の 4 ですが、8 分音符単位の
3+3+3+7(3+4)のフレーズで、in tempo からたたみかけるように、威嚇するような厳然と
した表現になります。映画のタイトル音楽にあたります。
<主部:
【A】~(ネストリウス派の人々;苦難な旅路のはじまり)>
ネストリウス派の人々は、遊牧集団となって東への旅につきます。旋律は自然短音階と、ある
1 音を半音揺らしたアラブ音階を使用して、時代・環境の設定、雰囲気のある風景などを描き出
しています。苦しげに・悲痛に、という表情標語で、背景には、それを思わす重苦しいリズムが
設定されています。
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課題曲の中の課題 2009 - 11
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<(幻影)【D】>
イメージとしては、何かに追われる・おびえるといった、不安さが漂います。
「ステンドグラ
スが割れるように」とイメージされている、Wind Chime などの金属打楽器の表現が興味ある
ところです。いっそガラスそのものを使用しては、と思いますが。
<中間部:【E】~(砂上の城)>
Andante cantabile 「砂上の城」とイメージが示されています。砂上ですから、延々と続く
砂漠の中に。それは、タクラマカン砂漠でしょうか。城は、トルファンの高昌故城か高河故城で
しょうか。タリム盆地の乾燥化で滅亡の憂き目にあった、かの桜蘭の何処かの……。月光の下に
輝く城壁・静かな宴……。
古代の打楽器を想像させる、
【E】入りの響きとリズムが、幻想を駆り立てます。3+3+2 の
リズムが、静かに何処から聴こえて来ます。2 音は、色々な音程を作りながら、その響きを際立
たせながら、光を投げかけています。
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課題曲の中の課題 2009 - 12
櫛田胅之扶
Alto Sax.で始まる主旋律は、馬頭琴のような楽器で奏される、民俗色の濃い素朴な味わいが
あります。次のような旋律が、基本形ではないでしょうか。変ニ長調ですが、A♭-D♭-E♭
-F が中心になって構成されていますので、A♭のミクソリディアンのような感じです。
Bassoon・Clarinet・Alto.Sax.との対位的な流れの中での和声構成、特に時間差を持った、
解決には充分意識した表現が必要です。
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課題曲の中の課題 2009 - 13
櫛田胅之扶
【F】からは、リズム動機を伴って、Alto Sax.と Horn が和声を作ります。この部分は、充
分に調性を感じさせるところです。そのことよりも、Tenor Sax.・Euphonium のカウンター・
メロディは、主旋律以上にイメージが強く、特に 16 分音符の動きは雰囲気を感じさせます。
<再現部(展開部)
:【H】~(旅の続き)>
【H】は、主部のリズム・旋律の再現。
【I】からは【C】の主題に、
【A】の主題が転換され
て大きく展開します。
<(敦煌入場)>
この部分への入りが、この曲(ドラマ)のクライマックスです。トルファンを過ぎ、延々と続
く過酷な砂漠の中に、雄大な砂の山、鳴沙山(めいさざん)を南に見て、漢の最西端の砦、敦煌
に入る、突然、目の前に敦煌・莫高窟(ばくこうくつ)を見る、といったドラマが欲しいですね。
76 小節目からの多くのリズム要素のるつぼを演出して、一瞬「間」を置いてアウフタクトへ入
ります。そこで西からの旅人は一息をつぐのでしょう。
<コーダ:【J】(さらに東へ)>
高音部の最初に出てくるリズム動機をしっかり刻み、確固たる歩みの中に東を目指す思いでエ
ンディングを迎えます。
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課題曲の中の課題 2009 - 14
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Ⅳ マーチ「青空と太陽」/藤代敏裕
題名通りの爽やかな軽快なマーチです。雲一つない真っ青な空、太陽の光は暖かに、人を包み
込むように。その自然の暖かさの中に生きる、幸せ感を思わせる曲です。青空と太陽と自分と…
…といった、
「私音楽」とでも云える音楽です。演奏する側の日常が、存分に描かれている曲で
す。
曲全体の構成は大変解り易く、内容も捉えやすく、良い意味でこだわりのない演奏が出来ます。
さっと通り過ぎて行く、といったパフォーマンスになりますので、コンクールの課題曲だからと
いって、深く掘り下げて何かを、といった曲ではありません。演奏者も聴衆も、爽やかな気分に
なれば OK ということでしょう。
<導入部>
Trumpet の変ロ長調・トニックが響く中に、Trombone の和声が対比する、この入りは大変
良いです。サスペンデット・コードから属和音・半終止へと、和声の流れが良いのでこの流れは
上手く生かしたいですね。
<主部:
【A】~>
中間にブリッジを持った、歌謡形式のマーチ。
【A】の主題旋律は、A+A’の形で、A’の部分ではカウンター・メロディを伴っています。
この主題旋律は、1 拍目のウラからシンコペーデッドされる跳躍部分に、弾む心の動きを感じま
す。この部分の主題旋律のリズムのパフォーマンスは、「コミカル★パレード」と同じような動
きを持っています。この辺り、課題曲として少し違った選択の余地・工夫は無かったのでしょう
か。設定された和声は、上手につけられていますので、大変気持ち良く流れて行きます。
マーチでも和声をおろそかにせず、うまく雰囲気を表現しましょう。
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課題曲の中の課題 2009 - 15
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この主題旋律には、
【B】から Euphonium のはカウンター・メロディ、
【D】では Trombone
の和声カウンター、
【E】からは Piccolo ・Flute などの高音部での装飾コードと、次々と色々
な装飾が付けられて進行します。そこから生まれてくるイメージは、青空と太陽の下での、小鳥
や花といった自然でも良いし、集いや語らいといった生活でも良いし、色々なイメージを皆さん
で創りだすといいですね。
<中間部:【C】>
ファンファーレの前半と対位的な横の流れの後半で出来ていますので、短い部分ですが、この
部分のメリハリの付いた表現が、一つの挿絵のような効果を創っています。最後の小節では、テ
ンション・ノートのきいたコード進行が待っています。
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課題曲の中の課題 2009 - 16
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<主部・再現【D】~>
先にも記しましたように、主部 A+A’が装飾を施された形で再現されます。主題旋律ライン
の表情が、いろんなパフォーマンスを求めていきます。
【A】
【B】
【D】
【E】のそれぞれの表情
をどう表現させるか、楽しみな課題といえます。主旋律に付けられた、色々な装飾が、そのパフ
ォーマンスの演出に生かされると良いですね。
導入部のファンファーレを持ちながら、後半形をかえて、Trio へ入ります。
<Trio>
主部と全く同じ構成の A+A’の Trio 旋律に、中間部【H】
(この部分も旋律・リズム構成が
主部の中間部と同じ)を経て、A+A’が再現する、といった解りやすいシンプルな構成になっ
ています。内容も主部のところで記しましたように、A+A’再び A+A’と、各部分が装飾され
て進行して行く形をとっています。
Trio 主部前半の和声は、1つの流れ(パターン)を持っています(大変上手な設定の仕方で
す)ので、これを充分生かして表情を創ると良いでしょう。
【G】の Horn のカウンター・メロディは、充分にクレシェンド・デクレシェンドを付けて
存在感を示します。
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課題曲の中の課題 2009 - 17
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<Trio 中間部:【H】>
太陽の輝きのような、Horn のベル・トーン風の音型を生かして。
<Trio 再現部:【I】
【J】>
カウンター・メロディが何とも良いです。Euphonium が中心の表現になります。
【K】からは、Trio 旋律が転調され、もう一度繰り返されます。勿論、施された装飾も違っ
た姿を見せます。主題旋律もレガートせず、しっかりとした歩みを示すように。各パート・セク
ションの役割が理解しやすく、またバランス良く表現できるかどうかが課題となります。
<コーダ:【M】>
導入部のファンファーレの和声・音形を繰り返し終わります。
一つの旋律ラインが基本的にあり、それに色々な装飾が加わって、発展・変化して行く、とい
う構成で仕上げられ、旋律・和声とも理解しやすく、課題曲としては大変的を射た、優れた曲だ
と思います。
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課題曲の中の課題 2009 - 18
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Ⅴ 躍動する魂/江原大介
いわゆる現代音楽というジャンルに入る作品です。調性という枠組みの中で、作曲されたもの
ではありませんので、機能和声・対位法といった、曲を統制する要素は全く違ってきます。この
曲の場合は、音列・音型・音程など、音楽の要素から、いくつかの素材を作り、それを組み立て
て行(構成して行く)で、作曲されています。表現したいことは、題名通り「魂の躍動感」です。
その目的とするもの・躍動する姿は、演奏する側の問題です。吹奏楽自体が充分なエネルギーを
持っていますから、演奏することで、躍動するということを、聴衆の側に与えてしまうこともあ
り得るわけです。
各パート・セクションが、色々組み合わされ、それらが絡み合ったり、掛けあったり、音色旋
律を作り上げたり、といった色々なシーンを表出します。
全体の構造は、湧き上がるように始まり、一度静まり再びゆっくりとしたスタンスを取りなが
ら、燃えるように躍動して行くといった形です。考えようによっては、案外単純なコンセプトな
のですが、その燃え方・躍動感には、色々な表現が期待されるだけに、面白い曲だと思います。
ただ、演奏する側の技術に余裕がないと、単に演奏したというだけで、終わってしまいます。
主な音素材は、積み重ねられた「短 3 和音」、跳躍する「増 4 度音程」
、フレーズ(定型され
た音型)の中の「短 2 度」
、そのフレーズを積み重ねた「トーン・クラスターの分散」などが、
使われています。
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課題曲の中の課題 2009 - 19
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躍動感を視覚的にも反映させるために、細分化された記譜になっていますが、2倍、4倍に引
き延ばした記譜に書き換えてみると、良く理解できると思います。
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課題曲の中の課題 2009 - 20
櫛田胅之扶
2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲分析
課題曲の中の課題 2009
監修・著作:櫛田胅之扶
編集・制作:株式会社ウィンズスコア
配布・公開日:2009 年 6 月 1 日(2009 年 6 月 8 日一部改訂)
楽譜引用元:
諏訪雅彦・島田尚美・平田智暁・藤代敏裕・江原大介
『2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲』全日本吹奏楽連盟、2009 年 2 月 1 日発行
※本書の著作権保有者は、著作者である櫛田胅之扶であり、櫛田胅之扶の協力・許諾のもと、
株式会社ウィンズスコアが本書を制作・配布・公開しております。
※本書に掲載されている楽譜の一部は、
『2009 年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲』からの
引用であり、全日本吹奏楽コンクール課題曲の権利は、全日本吹奏楽連盟に帰属します。
※本書の配布・コピー等の利用については、本書の内容・目的を理解した上で、金銭の受け渡し
が発生しない場合に限り許可いたします。
※本書を使用しての、第3者との紛争・トラブルが発生した場合、著作者・制作者、及び全日本
吹奏楽連盟は一切責任を負いません。
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