下水道法の改正と持続的な事業管理に向けた制度改正の動向

水坤
寄稿
下水道法の改正と持続的な事業
管理に向けた制度改正の動向
本田康秀
国土交通省/下水道事業課/企画専門官 ■1.社会資本整備審議会答申
「新しい時代の下水道政策のあり方」
◦「施設(モノ)の管理」のみならず、その機能
を持続的に維持していくための「管理体制
(人)」、
「経営(カネ)」も重要な要素として一
我が国の下水道は、昭和40年代以降、本格的な
体的にとらえ、最適化するアセットマネジメ
整備がなされ、平成25年度末の下水道処理人口普
ントを確立すべきである。
及率は約 77% に至っている。その結果、管渠延長
◦このため、人・モノ・カネの持続的なマネジ
は約 46 万㎞(平成 25 年度末)
、処理場数は約 2,200
メント計画である「事業管理計画(仮称)」を
箇所(平成 24 年度末)に達するなど膨大なストッ
制度化し、当該計画を実行・改善するために
クが存在し、今後は老朽化により、改築更新費が
必要な自己診断等のツールとなる「下水道全
増大することが見込まれる。具体的には、改築更
国データベース」、執行体制の強化に向けた
新費については、平成 25 年度の約 0.5 兆円に対し、
「事業管理の補完制度」を一体的に確立するこ
今後予防保全的管理により施設の長寿命化と事業
とで事業主体のアセットマネジメントの実
の平準化を図ったとしても、平成45年度には約1.0
行・改善を支援すべきである。
兆円に増大すると推計されている。
と提言された。
近年では、下水管渠の損傷等に起因すると考え
られる道路陥没が毎年全国で約 4,000 件発生して
おり、そのうち3割が老朽化や腐食等による本管
の損傷に関連するものである。これらの道路陥没
■2.下水道法等の改正
(水防法等の一部を改正する法律)
は、これまでのところ小規模なものが大部分であ
同答申を受け、政府は、持続的な機能確保のた
るが、一部では人身・物損事故や汚水の溢水につ
めの下水道管理などを目的とした下水道法等の改
ながるケースも発生している。一方で、管渠の点
正案(水防法等の一部を改正する法律案)を第189
検・調査については、約7~8割の地方公共団体
回国会に提出、衆議院、参議院ともに全会一致で
が計画的に実施していないのが現状である。
可決され、5月 20 日に公布された。
このため、本年2月の社会資本整備審議会答申
「新しい時代の下水道政策のあり方について」
(以
下、「同答申」という。
)では、
平成24年12月の笹子トンネル天井板落下事故を
◦施設の新規整備に加え、予防保全を軸とした
踏まえ、平成25年12月の社会資本整備審議会答申
維持管理・改築までを一体的に最適化し、管
「今後の社会資本の維持管理・更新のあり方につい
理していくことが必要である。
◦このため、下水管渠の維持・修繕に関する基
準を設けるべきである。
との提言がなされた。さらに、
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① 維持修繕基準の創設
て」においては、地方公共団体が管理する施設を
含め、維持管理・更新が的確に行われるよう、国
が基準等を整備・制度化すべき、と提言された。
これを受け、道路法、河川法、海岸法等の公物管
理法においては、既に維持修繕基準が設けられて
的な事項については、今後、施行通知やマニュア
いる。
ル等で周知したいと考えている。
一方で、下水道においては、管渠の老朽化、腐
改正下水道法(下線部が追加)
食等に起因する道路陥没が頻発している中、計画
(事業計画に定めるべき事項)
的な点検を実施している地方公共団体は約2割に
第二十五条の十二 前条第一項の事業計画にお
とどまっている。下水道に起因する道路陥没の約
いては、次に掲げる事項を定めなければなら
7割は取付管が原因とされており、陶管等古いも
ない。
のから順次交換されている一方、残りの約3割に
一 排水施設(これを補完する施設を含む。)の
ついては本管関連となっており、人身・物損事故
配置、構造及び能力並びに点検の方法及び頻
や汚水の溢水事故につながっている事例もある。
度
このため、予防保全を中心とした戦略的な維持管
理・更新により下水道の機能を持続的に確保する
とともに、維持管理・更新に係るトータルコスト
③ 広域化・共同化を促進するための協議会制度の
創設
を抑制する観点からも、下水道についても定期的
地方公共団体の下水道の管理体制の脆弱化が懸
な点検を含めた維持修繕基準を創設するものであ
念される中、広域的な連携により管理の効率化を
る。なお、法律では、定期的な点検を含む技術的
図ることが重要と考えている。これまでも、一部
な基準を政令で定めることとしているが、政令で
の地方公共団体では、複数の市町村等による汚泥
は、特に管渠の腐食の恐れのある箇所については
処理の広域化や維持管理業務の一括発注などが行
5年に一回以上の頻度で点検を行う旨などを規定
われているが、このような取組を今後より一層促
する予定である。
進することを目的として、本規定を設けるもので
改正下水道法(新規)
ある。
(公共下水道の維持又は修繕)
現在でも、地方自治法に基づく一部事務委託や
第七条の二 公共下水道管理者は、公共下水道
協議会等の制度が設けられているが、
を良好な状態に保つように維持し、修繕し、
◦地方自治法に基づく一部事務組合や協議会
もつて公衆衛生上重大な危害が生じ、及び公
は、地方公共団体が下水道管理など事務の一
共用水域の水質に重大な影響が及ぶことのな
部を共同して実施するための「事業主体」と
いように努めなければならない。
して設けられるものであり、設立にあたり、
2 公共下水道の維持又は修繕に関する技術上
総務大臣又は都道府県知事の許可等の手続き
の基準その他必要な事項は、政令で定める。
や規約を制定するための議会の議決等を必要
3 前項の技術上の基準は、公共下水道の修繕
とする。
を効率的に行うための点検及び災害の発生時
◦これに対し、下水道法改正案の協議会制度は、
において公共下水道の機能を維持するための
複数の下水道管理者による広域的な連携、役
応急措置の実施に関する基準を含むものでな
割分担についての方向性や具体的な方策を
ければならない。
「協議する場」として設けるものであり、総務
大臣等の許可、議会の議決等が不要である。
② 事業計画の拡充
としている。国土交通省としては、広域化・共同
改正前の下水道法における事業計画について
化を具体的に進めていくための支援方策等につい
は、施設の配置・構造・能力や予定処理区域等を
て、今後(公社)日本下水道協会と共催予定の「下
定めることとされているが、①の維持修繕基準の
水道事業の執行体制強化方策に関する懇談会」
創設に伴い、定量的な基準の対象とする管渠の腐
(3.③参照)等において地方公共団体のニーズや
食点検の方法や頻度についても記載することとし
民間事業者からの提案等を聴きつつ、検討してい
ている。腐食の恐れのある部分の選定方法等技術
く予定である。
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改正下水道法(新規)
の策定促進と、当該計画の実行・改善のための支
(協議会)
援制度が提言されている。国土交通省としては、
第三十一条の四 二以上の公共下水道管理者、
地方公共団体や関係業界等との意見交換も積極的
流域下水道管理者又は都市下水路管理者は、
に行いながら具体的な検討を進めていく。主な事
それぞれが管理する下水道相互間の広域的な
項に関する検討方針を以下に記す。
連携による下水道の管理の効率化に関し必要
① 事業管理計画(仮称)
な協議を行うための協議会(以下「協議会」
人・モノ・カネの持続的なマネジメント計画で
という。
)を組織することができる。
ある「事業管理計画(仮称)」については、事業計
2 協議会は、必要があると認めるときは、次
画の策定に併せ、別途、下水道事業の施策目標や
に掲げる者をその構成員として加えることが
施設全体の機能確保の計画、執行体制の確保等に
できる。
向けた取組方針を定めるものとして策定を促すこ
一 関係地方公共団体
ととしている。下水道法に基づく事業計画が、構
二 下水道の管理の効率化に資する措置を講ず
造の基準や維持修繕の基準に適合しなければなら
ることができる者
三 学識経験を有する者その他の協議会が必要
と認める者
3 協議会において協議が調つた事項について
ないものであるのに対し、事業管理計画(仮称)
は、地方公共団体の下水道事業全体のマネジメン
トのための計画として自主的に策定し、マネジメ
ントの改善につなげて頂くことを想定しており、
は、協議会の構成員は、その協議の結果を尊
その内容についても画一的なものではなく、事業
重しなければならない。
の進捗や管理の実状等を踏まえ、自主的に判断し
4 前三項に定めるもののほか、協議会の運営
に関し必要な事項は、協議会が定める。
つつ策定して頂く前提で検討を進めている。具体
的には、通知等で周知する予定である。
④ 日本下水道事業団の支援方策の充実
② 下水道全国データベース
今後、老朽管の更新や維持管理のニーズが高ま
下水道事業を持続的にマネジメントしていく上
ることを受け、
で、自らの施設管理や経営等の強み・弱みを分析
◦高度の技術を要する又は高度の機械力を使用
し、改善策の検討に結びつけることが重要である。
して行うことが適当と認められる管渠の建設
下水道全国データベースは、現行の下水道統計
◦浸水被害が発生した場合において再度災害を
((公社)日本下水道協会)や国土交通省で集計・公
防止するため緊急に行うべき管渠の建設
◦管渠の維持管理
表している施策別の指標データを、全国的かつ経
年的に格納するとともに、様々な分析機能を付加
を支援業務に追加するとともに、工事の際の道路
することで、地方公共団体のマネジメントの支援
占用の許可申請、公共ますの設置のための測量等
ツールとするとともに、国においても、地方公共
に伴う私有地への立入り等の下水道管理者として
団体の支援方策の立案や下水道事業の「見える化」
の事務を、事業団が代行する制度等を設けた(日
に活用することとしている。地方公共団体からシ
本下水道事業団法の改正)
。
ステムに直接アクセス可能とすることにより、こ
れまでの毎年度のデータ提出等に係る事務も簡素
■3.持続的な事業管理の支援制度について
(事業管理計画制度)
化する。現在、国土交通省と(公社)日本下水道協
会を事務局として検討会を実施しており、平成 28
年度からの運用開始を目標として構築作業等を進
同答申においては、2.に掲げた下水道法等の
めているところである。検討会で指摘されている
改正の項目のみならず、人・モノ・カネの持続的
課題は以下の通りである。
なマネジメント計画である
「事業管理計画
(仮称)
」
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◦一般に公開するデータ、地方公共団体ごとに
個別に提供する分析結果などの「データの区
業務
分」や民間事業者へのデータ提供のあり方な
◦国として検討すべき具体的な枠組み・制度(例
どの運用ルール(現行の下水道統計等の運用
えば、広域化・共同化に向けた取り組みに対
状況をベースに検討)
する財政支援、発注関連制度(歩掛・積算基
◦
(指標の考え方が個々の地方公共団体でバラ
準、発注方式、資格等)の改善など)
つきがあるという現状や、データ分析は地方
公共団体が各々の考え方で自由に行うべきと
の意見を踏まえ、
)分析結果として表示する標
準的な指標のあり方
◦運用後のシステム改善の検討体制(現行の検
討会をベースに検討)
■4.さいごに
国土交通省としては、下水道法等の改正を契機
に、人・モノ・カネの一体的なマネジメントによ
る下水道の持続的な事業管理を実現させたいと考
えています。事業管理計画制度についても、地方
③ 下水道事業の執行体制の強化方策に関する懇
談会
公共団体や民間事業者の皆様との多くの意見交換
を通じて、より実効性のあるものにしたいと考え
地方公共団体の事業執行体制の脆弱性が懸念さ
ており、各都道府県下水道協会の研修等の場面に
れる中、地方公共団体が実状に応じて選択できる
国土交通省の職員がお邪魔し、市町村の方々にも
多様な支援策が必要となっている。下水道法等の
直接情報提供・意見交換をお願いしたいと考えて
改正案においては、広域化・共同化の促進のため
いますので、積極的にお声かけ頂ければと考えて
の協議会制度の創設や日本下水道事業団の支援策
います。一方で、官民を問わず、下水道事業に従
の充実を規定しているが、この他、民間事業者の
事する職員の減少が危惧されており、下水道事業
ノウハウのより一層の活用なども含め、地方公共
の多角的な取組や魅力を訴えることにより新たな
団体の立場から見た補完・支援方策のあり方につ
人材を呼び込む努力も重要であり、各地方公共団
いて幅広に検討し、個別の制度化検討につなげて
体、国、及び GKP(下水道広報プラットホーム、
いくことを目的として、地方公共団体等から構成
http://www.gk-p.jp/index.html)等で展開してい
する懇談会を、近々、
(公社)日本下水道協会と共
る学生等への PR 活動にも期待が寄せられるとこ
同で発足させ、定期的に開催する予定である。
ろです。同答申においても言及されているように、
検討事項
管理運営の時代に向け、
「総力を結集する」ことが
◦地方公共団体の抱える事業管理の課題(事業
計画、施設管理、経営問題、執行体制等)
不可欠と考えています。引き続き各位のご協力、
ご指導をお願い申し上げます。
◦地方公共団体として補完・支援を期待したい
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