明日から役立つ救急 CT セミナーの講義概要 南ブロック 大阪府立泉州救命急センター 放射線科 西池 成章 救急 CT セミナーでは、外傷患者において CT を使いこなすにはどうしたら良いのか私見 をふまえ解説した。本抄録では紙面の都合上、頭部外傷についての概要を述べる。 脳は頭蓋骨に囲まれた半閉鎖腔であるため、外力が加わった時に生じる頭蓋内損傷の発 生機序は他の臓器と違って特異的である。直接外力が加わった箇所に生じる損傷に加え、 反対側に損傷を生じる場合も多くみられる。前者は直撃損傷、coup injury といい、皮下血 腫、骨折、硬膜外血腫を生じやすい。後者は反衝損傷、contracoup injury といい、硬膜下 血腫や脳挫傷を生じる。また、大脳基底核や脳室周囲では、剪断力によってびまん性軸索 損傷が生じるとされる。このびまん性軸索損傷は神経線維の損傷であるため、CT 画像で診 断するのは困難とされ、画像上確認できるのは外傷性くも膜下出血や脳室内出血といった 二次的な所見である。CT 画像や臨床症状からびまん性軸索損傷を疑う場合には MRI の適 応となる。一方、coup injury や contracoup injury で生じる損傷の多くは、CT 画像上高 吸収領域として描出され、脳表近辺、前頭葉や側頭葉の前部や底部に好発するといった特 徴があり CT 検査を行う上で知っておくべき特徴の一つと言える。ただし、脳挫傷について は、受傷早期の CT 画像では、局所的な脳溝の消失や腫脹のみを認めるだけで、出血などの 挫傷部の全体像を示さない場合がありフォローアップの CT 検査が重要とされる。 頭部外傷における CT 読影として、外傷初期診療ガイドライン JATECTM では、頭皮から 頭蓋骨、脳表、脳実質、脳室、脳槽、正中変位まで系統的手法で行うことを推奨しており、 骨折の有無、血腫の存在(mass) 、脳槽や脳室の圧迫所見(cisterns) 、正中変位(shift) などを評価すべきとしている。これは頭部外傷の CT 分類として用いられている Traumatic Coma Data Bank や Rotterdam CT Score においても同様である。したがって、CT 検査で は血腫や骨折の存在が診断できる撮影条件が重要であり、とりわけ再構成画像は通常の頭 部関数(ビームハード二ング補正あり)と骨関数が必須となる。また、系統的手法では左 右比較診断も重要視していることから、外傷患者であってもポジショニングにおいては可 能な限り左右対象となることが望ましいと言える。 通常、頭部 CT 検査は、MELT Japan や ASIST Japan が推奨する撮影条件が一般的に用 いられているが、これらは、脳梗塞の早期虚血所見の描出に主眼を置いた撮影プロトコル であり、頭部外傷患者に適応するには各施設での検討が必要である。ノンヘリカルかヘリ カルかの議論は割愛するが、いずれにせよ、頭部外傷の病態の特徴を念頭に置くと、ノン ヘリカルスキャンにおいても、薄いスライス厚の画像再構築が可能な装置が望ましいと言 える。薄いスライス厚の画像は、ノイズは増大するものの頭蓋底部の非線形パーシャルボ リューム効果によるアーチファクトや、骨折の描出に影響を及ぼすパーシャルボリューム 効果の影響を少なくするため臨床での有用性は高い。一方、ヘリカルスキャンは、ノンヘ リカルスキャンより短時間での撮影が可能であることや、画像再構成アルゴリズムによる ストリークアーチファクト(体動に伴う)の抑制効果、ボリュームデータの取得など外傷 患者に対するスキャン方法としては有益である。 特に、ボリュームデータから作成する MPR や VR 画像は、病態把握や術前支援画像など多角的な視点からの診断が可能なため、積極的 に作成することを推奨する。反面、ノンヘリカルスキャンと同等の画質を得ようとすると、 被ばく線量の増加につながるばかりか安易な条件設定は、ノイズの増加、ヘリカルアーチ ファクトの発生など、正常組織のみならず問題となる病態の描出に大きく影響を及ぼす可 能性があるため、あらかじめ装置の特性を把握し、診断医あるいは臨床医を交えた評価が 必要であり、総合的な観点からの条件設定が重要となる。また、臨床では CariblationFOV サイズの増大や撮影基準面の逸脱は、撮影線量の増加につながる装置もあるため、可能な限り基 本的な設定を心がける必要がある。 CT 装置を扱う診療放射線技師は、装置の物理特性を把握しておくことが基本原則である。 加えて、救急診療で遭遇する病態とその特徴を把握することは、臨床での撮影方法や画像 構築を考える上での重要な情報となるため、外傷患者において CT を使いこなすための必要 な基礎知識であると考える。
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