附檔 File - National Chengchi University

現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
柯 玉 枝
(政治大学国際関係研究センターアシスタント・リサーチ・フェロー)
【要約】
ラテンアメリカ地域は、現在台湾が国交を有する国が集中する地
域であり、台湾と中国は国際舞台でゼロ・サム外交にしのぎを削っ
ているが、これは両岸が分裂統治に入って以降、経常的に見られる
状態である。国家利益の角度から観察すると、台湾のラテンアメリ
カ外交政策における最大の利益は「友好国の維持と関係の開拓」と
いう政治的利益にある。台湾の友好国を奪取して台湾の孤立を図り
たいとする中国の外交手段に対応するため、台湾はかつて経済外交
を主とした柔軟な実務外交戦略を採っていたが、近年の中国の経済
力増強に伴い、台湾経済外交の効果と魅力はもはや失われた。ラテ
ンアメリカ地域では、近年来、中国・ラテンアメリカ貿易額の急速
な増加に伴い、中国の経済外交力はすでに台湾のそれをはるかに超
え、台湾の対ラテンアメリカ外交政策展開にも影響を与えている。
台湾は外交の劣勢を改善するため、「金銭外交」などの援助外交政策
を採らざるを得ないが、不透明な援助外交政策により台湾は国際社
会から不利な疑念をかけられるばかりでなく、両岸の熾烈な外交の
しのぎあいは双方を疲労困憊させる結果となった。
こうした情勢に直面し、馬英九総統は「活路外交」戦略を打ち出
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問題と研究
第 37 巻 4 号
し、就任後「両岸の和解・外交の休戦」という具体的内容で以って
台湾の外交政策を新たに制定した。同戦略では、両岸の国際的な対
抗レベルを引き下げ、両岸関係が緩和された状況下で、台湾に有利
となる国際空間拡大の契機を創造することに期待を寄せている。現
在、両岸間にはラテンアメリカ地域において個別案件的な「外交休
戦」の黙約が存在しているようであり、将来の発展がひとえに両岸
関係の方向を定めることとなり、将来における台湾のラテンアメリ
カ政策の成果と効果も両岸関係と相互に影響すると考えられる。
【キーワード】
ラテンアメリカ、中華民国(台湾)、活路外交、外交休戦、中国のラ
テンアメリカ政策文書
-72-
2008 年 10.11.12 月号
一
1
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
はじめに
研究動機
-情勢の変化と両岸関係-
2000 年以前の中国国民党(以下、国民党と略す)政権時代であれ、
2000 年以降の民主進歩党(以下、民進党と略す)政権時代であれ、
台湾と中国(両岸)は常に国際社会でゼロ・サム的な外交競争を繰
り広げてきた。中でもラテンアメリカは、中華民国(以下、台湾と
称す)が外交関係を有する国が半数以上も集中する地域であり、よ
って経常的に両岸が外交競争を展開する国際地域となった。民進党
が政権を握った 8 年間では、2007 年 6 月に中華人民共和国(以下、
中国と称す)が、台湾との国交関係が 60 年以上にも及び且つ中央ア
メリカに位置するコスタリカと国交を樹立したため、ドミノ現象が
生じるのではないかと懸念するほど、台湾は深刻な外交危機に直面
した。
2008 年、国民党は 1 月 12 日に実施された第 7 回立法委員選挙で
81 議席(総議席数 113)を獲得したのみならず 1、国民党から出馬し
た馬英九候補が 3 月 22 日の総統選挙で、765 万票を獲得し、220 万
票差をつけ民進党の謝長廷候補を下した 2。その後、台湾と国交のあ
る中南米のパラグアイとドミニカ共和国で、それぞれ 4 月 20 日と 5
月 16 日に大統領選が実施された。パラグアイでは 61 年ぶりに政権
交代が行われ、政治的立場が左派寄りで元カトリック司教のフェル
ナンド・ルゴ(Fernando Lugo)が 40.82%の得票率を獲得し、61 年
1
「ニュース・リリース:中選会委員会議審定第 7 届立委当選名単」台湾中央選挙委
員会ウェブサイト、2008 年 1 月 18 日(http://www.cec.gov.tw/files/20080118172850_
970118-3.doc)。
2
「第 12 任総統副総統選挙結果(総表)
」台湾中央選挙委員会ウェブサイト、2008 年
3 月 28 日(http://www.cec.gov.tw/files/20080328160531_rpt01.pdf)
。
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問題と研究
第 37 巻 4 号
に及んだ保守右派・国民共和協会党(ANR-PC - Asociación Nacional
Republicana-Partido Colorado、赤党)の代表的な人物による執政は終
わりを告げ、ドミニカ共和国では与党を代表して立候補した現職の
レ オ ネ ル ・ フ ェ ル ナ ン デ ス ( Leonel Fernández 、 ド ミ ニ カ 自 由 党
Dominican Liberation Party, PLD)が 55%近くの得票率を獲得し、再
選された 3。
フェルナンド・ルゴがパラグアイの大統領に就任後、当選後初め
ての国際的な記者会見で、中国大陸(China continental)との関係発
展に意欲があると改めて触れたため、台湾にとっては台湾・パラグ
アイ関係を維持できるか否かが、馬英九総統の外交休戦政策の試金
石となった 4。台湾外交部部長・欧鴻錬は、仮に台湾が南米唯一の友
好国であるパラグアイを失うことになれば、中国には元々「外交休
戦」する意図がないことを意味し、その際には台湾外交部も引き続
き外交戦を繰り広げていくと述べた 5。台湾が中南米の友好国を重視
していることをアピールするため、馬英九総統は 2008 年 8 月中旬、
3
David Vargas, “PARAGUAY: Historic Elections End Six Decades of Rule,”(http://www.
ipsnews.net/news.asp?idnews=42057);陳世欽,「巴拉圭変天 窮人主教魯戈当選総統」
『聯合報』
(台北)2008 年 4 月 22 日第 AA1 版;Latin American Newsletters, “Fernández
wins in first round,” Caribbean & Central America, 2008.05.22, pp. 1-3.
4
“Posible relación con China continental,” ABC Colors, 2008.04.23, (http://www.abc.
com.py/articulos.php?pid=409027&fec=2008-04-23&ABCDIGITAL=6c9920c1f9258af6392
edebb8cf4a9ba);黄明興「駐巴拉圭大使:台巴未来関係
魯戈仍評估中」『中央社新
聞』2008 年 4 月 24 日(http://www.chemnet.com.tw/information/news_detail.asp?sno=
31794&ntable =TABLE13)
、郭篤為「『救火』留待五二○後 魯戈親中 新政府首樁外
交考題」『中国時報』(台北)2008 年 4 月 22 日(http://news.chinatimes.com/2007
Cti/2007Cti-Focus/2007Cti-Focus-Content/0,4518,9704220151+97042210+0+092341+0,00.
html)。
5
林庭瑤・何榮幸「欧鴻錬:巴拉圭若失守 将掀外交戦」
『中国時報』2008 年 7 月 14
日、第四版。
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現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
パラグアイとドミニカ共和国両大統領の就任式典に参加出席すると
いう名目で、8 日間に及んで中南米友好国を訪問する「親睦の旅」を
計画した。これは馬英九総統が就任後初めて友好国を訪問したもの
であり、外界からは同訪問スケジュールを馬政府の「外交休戦」政
策を計る重要な訪問と見なされた。
現在、馬英九の総統就任から半年が経ち、両岸は徐々に「外交休
戦」の黙約を形成しつつあるが、台湾は依然として 23 の友好国を維
持しているばかりでなく、前副総統・連戦が前例を突破して、特使
として馬英九総統を代表してペルーでのアジア太平洋経済会議
( APEC) の 非 公 式 首 脳 会 議 に 参 加 し た 6。 ま た 、 胡 錦 濤 が コ ス タ リ
カを訪問した際には、中国新聞社「中新社」が「中国国家元首の中
米訪問には台湾に対する意図はない」とする記事を掲載した。外界
は中国がすでに国際空間において台湾と対抗するレベルを徐々に引
き下げ始めたと受け止め、台湾外交部のスポークスマン・章計平も
両岸は外交休戦の善意的な雰囲気にあり、胡錦濤の中米訪問を心配
しておらず、相互に相手の友好国を奪い合うといった問題もないと
語った 7。
しかし、中国の胡錦濤はラテンアメリカ訪問前の 11 月 5 日、三番
目の外交文書「中国の対ラテンアメリカおよびカリブ政策」を公布
した。文書では「一つの中国」原則という政治的基礎について依然
6
張永泰「連戦亞太会議與胡錦濤談多項議題」『美国之音中文網』2008 年 11 月 14 日
( http://www.voafanti.com/gate/big5/www.voanews.com/chinese/w2008-11-14-voa40.cfm )。
7
齊彬「中国国家元首首訪中美洲
無 針 対 台 湾 意 図 」 2008 年 11 月 17 日
(http://www.cns.hk:89/gn/news/ 2008/11-17/1452395.shtml);張德厚「胡錦濤訪中美洲
我不担心外交挖牆角」
『中広新聞』
『今日晩報(電子報)
』より、2008 年 11 月 18 日
( http://news.chinatimes.com.tw/2007Cti/2007Cti-News/2007Cti-News-Content/0,4521,13050
2+ 132008111801044,00.html)。
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問題と研究
第 37 巻 4 号
として触れているだけではない。将来における中国の対ラテンアメ
リカ政策について、今後の中国の対ラテンアメリカ関係の明確な方
向を示すために、政治・経済・人文・安全保障分野および 34 の具体
的領域に関する協力を計画すると共に、ラテンアメリカおよびカリ
ブ諸国と平等・相互利益および共同発展の全面的協力パートナーシ
ップ関係を構築・発展させることに期待を寄せた。同外交文書は馬
英九総統就任後、初めて発布された中国の外交政策文書であり、政
策の対象が台湾の友好国が半数以上集中する地域であることから、
両岸のラテンアメリカにおける国際競争に影響がもたらされるか否
か、さらに一歩進んで両岸に出現した「外交休戦」の暗黙が破られ
るかが注目に値する。
2
研究アプローチ
-国家利益と外交政策-
前述したように、ここ最近の様々な情勢の変化が、筆者が台湾の
対ラテンアメリカ政策ビジョンを検討するきっかけとなった。外交
政策は国家利益に関わる政策の公示と実施の実現を助けるものであ
り、一方では哲学的なイデオロギーの国家偏向を反映し、一方では
現在の国家目標や意図、政策優先順位の影響を受ける。国家の行動
を駆り立てる要因は国家利益であり、その目的には国家安全保障の
確保、経済繁栄の促進、社会正義の増進が含まれる 8。よって筆者は
この点から台湾のラテンアメリカ外交政策の内包と変化を観察する。
外交政策決定の過程論についていえば、国家が各政策を決定する
際、通常は政策決定環境と政策決定利益の両面から、各政策の利害
8
Michael K. Hawes, “Canada, the United States and Asia: shifting patterns and preferences in
Canadian foreign policy,” conference paper, delivered at International Conference on Canada,
NAFTA and Regional Economic Integration held by Center for WTO Studies, College of
International Affairs, National Chengchi University, December 06 2007, p.1.
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現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
を評価する。政策決定環境には内外二つのレベルがあるが、内部あ
るいは外部システムの要素の変動にかかわらず、みな国家の対外政
策に対し一定の影響をもたらす。利益の評価とは、国家によるその
他重要な利益に対する認知と評価であり、外交政策実施の効力は、
国家の政策への期待および能力と関連している。ジェームズ・ロー
ズノウ(James N. Rosenau)が指摘するように、国家(政府)は環境
変化に直面した際、行動を起こすものであり、外交政策は政治シス
テムが内部あるいは外部環境の課題や変動に直面した時に採る具体
的行為である 9。よって、台湾のラテンアメリカ政策もおのずと環境
要因の変化による衝撃を受ける。
国家利益の主要成分の如何については、学者によって見解が異な
るものの、政治・経済利益を主要な国家利益成分とする点は概ね一
致している。ドナルド E・ヌークターライン(Donald Nuechterlein)
はアメリカの国家利益を分析するにあたり、まず国家利益を不変・
可変に二分類し、同時に議題の性質に基づき国家(生存)安全保障、
政治経済利益に関わるか否かで分けた。その上で、その影響度によ
って国家利益を生存(survival)、緊要(vital)、主要(major)、周辺
( peripheral ) 等 の 利 益 に 区 分 し た 10 。 フ レ デ リ ッ ク S ・ ピ ア ソ ン
( Frederic S. Pearson ) お よ び マ ー テ ィ ン ロ チ ェ ス タ ー ( Martin
Rochester)は、政策目標の角度から切り込み、国家利益は基本的に
以下を含むとした:①国家生存の維持・保護、人民の安全と国土の
完整を含む、②人民の経済福祉の増進、③国家独立自主の維持・保
9
James N. Rosenau, The Study of Political Adaptation (London: Frances Pinter, 1981), pp.
45-47.
10
Donald Edwin Nuechterlein, United States National Interests in a Changing World
(Lexington: University Press of Kentucky, 1973), pp.7-29.
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問題と研究
第 37 巻 4 号
護 11。しかし、宗教・文化などその他の利益の内容が政治利益と関わ
るものは別論とする。というのも、こうした利益は一旦政治や安全
保障利益と結びつくと、その重要性が大幅に高まるだけでなく、 サ
ミュエル ・P・ハンチントン(Samuel P. Huntington)のいう文明の衝
突の根源になる可能性があるからである 12。両岸は 1949 年の分裂統
治以降、それぞれに「中国を代表する」と主張したり、「民主主義対
共産主義」の政治理念を際立たせるなどして、数十年にもわたり国
際社会で対抗してきており、その地域の一つがラテンアメリカであ
る。
よって、筆者は国家利益の角度から、台湾のラテンアメリカ外交
政策に影響を与える国家利益の優先順位を観察することで、台湾の
ラテンアメリカ外交政策の成果と効果を論述・検討する。加えて、
馬英九総統が打ち出した「和解休戦」の政治理念および中国が提起
した「中国の対ラテンアメリカおよびカリブ政策文書」から、将来
における台湾のラテンアメリカ政策に与えうる影響の分析を試みる。
まず 2000 年前後の台湾・ラテンアメリカ関係を振り返った上で、馬
英九総統の「和解休戦」を主とした「活路外交」政策の要点を論じ
る。続いて、最近発表された「中国の対ラテンアメリカおよびカリ
ブ政策文書」の内容を分析して、同文書と 2006 年に発表された「中
国の対ラテンアメリカおよびカリブ政策文書」の差異を比較するこ
とで、中国外交政策の微妙な変化を観察し 13、これらが台湾のラテン
11
Frederic S. Pearson & Martin Rochester, International Relations, 胡祖慶訳、
『国際関係』
12
Samuel P. Huntington, The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order (New
(台北:五南、1992 年 5 月)57 頁。
York : Simon & Schuster, 1996).
13
中華人民共和国外交部「中国対拉丁美洲和加勒比政策文件」中華人民共和国外交部
ウェブサイト、2008 年 11 月 5 日(http://www.fmprc.gov.cn/chn/wjdt/wjzc/t472628.htm)
、
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現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
アメリカ政策に与えうる影響について分析を加え、最後に結論づけ
る。
二
1
台湾・ラテンアメリカ関係の歴史を振り返って
-国家利益と二国間関係-
背景
東アジアとラテンアメリカの地理的距離ははるかに遠く、両者は
太平洋を越えなければ接触できない。しかし、清朝時代にはすでに
中国人労働者がラテンアメリカ地域にわたり契約労働に従事してい
た。中国人労働者の労働権益を守るため、清朝はメキシコ、キュー
バ、ペルーと国交を結び、初代駐メキシコ大使・梁誠は初代駐キュ
ーバ大使を兼任し、初代スペイン大使・陳蘭彬がペルー大使を兼任
した 14。
表 1 と表 2 が示すように、中華民国建国から 1949 年に至るまで、
17 のラテンアメリカ諸国が中華民国と相次いで外交関係を構築した。
しかし、1949 年の分裂統治という事実により、両岸は相互に相手を
反乱集団と見なすようになり、緊張した両岸では 1950 年代に 2 度の
台湾海峡危機が発生したばかりでなく、両者は国際舞台における外
交競争で熾烈にしのぎを削り、外交競争はヨーロッパ、アジア、ア
フリカで繰り広げられた。1960 年に中国がキューバと国交を結んだ
ことにより、両岸の外交競争は初めてラテンアメリカ地域にも足を
踏み入れた。
「中国対非洲政策档(全文)
」『新華網』2006 年 01 月 12 日。
14
熊 建 成 「 跨 越 三 世 紀 古 巴 華 人 之 研 究 」( http://www.lib.cuhk.edu.hk/conference/occ/
xiong.pdf)、「清朝外交」ウィキペディア、(http://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%
E6%9C%9D%E5%A4%96%E4%BA%A4)。
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問題と研究
第 37 巻 4 号
表 1 両岸とラテンアメリカ諸国の国交樹立・断交一覧
国名
ガイアナ
トリニダード・トバ
ゴ
スリナム
キューバ
ブラジル
メキシコ
ペルー
チリ
ボリビア
*パナマ
*ニカラグア
*ドミニカ共和国
*エルサルバドル
*グアテマラ
コスタリカ
ベネズエラ
*ホンジュラス共和
国
アルゼンチン
コロンビア
エクアドル
*ハイチ
*パラグアイ
ウルグアイ
ジャマイカ
バルバドス
*セントビンセント
アンティグア
ドミニカ国
*セントクリストフ
ァー
*セントルシア
バハマ
台湾との国交
樹立時期
台湾との断
交時期
中国との国
交樹立時期
1972.06.27
1974.06.20
1913.04.05
1913.04.08
1913.05.02
1913.05.05
1915.02.18
1919
1922.12.15
(1) 1930
(2) 1990.11.05
1932
1933
1933.06.15
1941.04.09
1941.04.09
1944
1960.09.03
1974.08.15
1971.11.16
1971.11.02
1971.01.05
1985.07.11
1976.05.28
1960.09.02
1974.08.15
1972.02.04
1971.11.02
1970.12.15
1985.07.09
1985.12.07
1985.12.07
2007.06.07
1974.06.28
2007.06.01
1974.06.28
1945.08.15
1947.11
1947.07.11
1956.04.25
1957.07.08
1957.11.25
1962.08.09
1967.09.04
1981.08.15
1981.11.27
1983.05.10
1983.10.09
1972.02.19
1980.02.07
1971.11.17
1972.02.16
1980.02.07
1971.11.17
1988.02.03
1972.11.01
1977.01.11
1988.02.03
1972.11.21
1977.05.30
1983.01.01
2004.03.30
1983.01.01
2004.03.23
1997.08.29
1997.08.30
1997.05.18
1997.05.23
(1) 1984.05.07
(2) 2007.04.30
1989.01.10
-80-
中国との断
交時期
1990.11.05
2007.05.02
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
2008 年 10.11.12 月号
1989.10.13
1989.07.20
*ベリーズ
グレナダ
2005.01.27
1987.02.06
1985.11.01
1989.10.24
1989.08.07
注:*は台湾の友好国。相次いで独立し新しい国が建国されたため、ラテンアメリカ諸
国の数は 1972 年には 24 カ国であったが、1988 年には 33 カ国まで増加した。
資料出所:Francisco Luis Perez Exposito(白方濟)著、柳嘉信など翻訳、
『台湾與拉丁美
洲関係』
(台北:麗文文化事業,2005 年)76-77 頁;邱稔壤「後冷戦時期台海
両岸在拉丁美洲的外交競逐」
『問題與研究』第 35 卷第 2 期(1996 年 2 月)61
頁;中華民国外交部ウェブサイト外交情報「国家與地区」資料(http://www.
mofa.gov.tw/webapp/ct.asp?xItem=71&ctNode=1142&mp=1)
;中華人民共和国外
交部ウェブサイト「二国間関係」資料(http://www.fmprc.gov.cn/chn/gjhdq/
default.htm)。
表 2 台湾の駐ラテンアメリカ諸国外交機構およびラテンアメリカ諸国の
駐台湾外交機構一覧
国名
台湾の駐ラテンアメリカ諸国機構
名称
ラテンアメリカ諸国の駐
台湾機構名称
友好国
ベリーズ
ドミニカ共和国
エルサルバドル
中華民国駐ベリーズ大使館
中華民国駐ドミニカ共和国大使館
中華民国駐エルサルバドル大使館
グアテマラ
ハイチ
ホンジュラス
中華民国駐グアテマラ大使館
中華民国駐ハイチ大使館
中華民国駐ホンジュラス大使館
ニカラグア
パナマ
セントクリスト
ファー
セントルシア
セントビンセン
ト
パラグアイ
国交のない国
アルゼンチン
中華民国駐ニカラグア大使館
中華民国駐パナマ大使館
中華民国駐セントクリストファー
大使館
中華民国駐セントルシア大使館
中華民国駐セントビンセント大使
館
中華民国駐パラグアイ大使館
ベリーズ大使館
ドミニカ共和国大使館
エルサルバドル共和国大
使館
グアテマラ共和国大使館
ハイチ共和国大使館
ホンジュラス共和国大使
館
ニカラグア共和国大使館
パナマ共和国大使館
セントクリストファー・ネ
ーヴィス大使館
無
無
ボリビア
駐アルゼンチン台北商務文化事務
処
駐ボリビア台湾商務事務処
-81-
パラグアイ共和国大使館
アルゼンチン商務文化事
務処
ボリビア商務および金融
代表処
問題と研究
ブラジル
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チリ
コロンビア
エクアドル
メキシコ
駐ブラジル台北経済文化事務処
駐セントパウロ台北経済文化事務
処
駐チリ台北経済文化事務処
駐コロンビア台北商務事務処
中華民国駐エクアドル商務処
駐メキシコ台北経済文化事務処
ペルー
ベネズエラ
駐ペルー台北経済文化事務処
駐ベネズエラ台北経済文化事務処
ブラジル商務センター
チリ商務事務処
無
無
メキシコ商務事務処
メキシコ入国査証文書お
よび文化処
ペルー駐台北商務事務処
無
資料出所:中華民国外交部ウェブサイトより筆者が作成。
(http://www.mofa.gov.tw/webapp/ct.asp?xItem=11624&CtNode=1143&mp=1)。
現在、ラテンアメリカは台湾外交の要であり、台湾が国交を有す
る友好国のうち、12 カ国が同地域に集中している。なかでも、中米
とカリブ地域は特に重要であり、中米地域の友好国は 6 カ国、カリ
ブ海の友好国は 5 カ国となっている。南米ではパラグアイが依然と
して台湾と正式な外交関係を維持しているのみで、国交のない 9 カ
国のラテンアメリカ諸国には 10 カ所の代表処が設けられている。同
時に、ラテンアメリカの友好国のうち 10 カ国は台湾に大使館を設け、
国交のない 6 カ国は台湾に 7 つの代表処を設けている。逆に、中国
はラテンアメリカ地域において 21 カ国と国交を結んでおり、南米地
域が 11 カ国、中央・北米地域が 10 カ国となっている。
2
政治経済利益の影響
前述したように、国家が外交政策を制定する目的は政治経済利益
を主とした国家利益の維持と拡大にあり、外交政策の内包および成
果・効果と国家が置かれた内部・外部環境は密接な関係にある。歴
史的に見れば、内外政策環境の影響下で、1949 年以来、台湾のラテ
-82-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
ンアメリカ政策は概ね台湾の総体的な対外政策の方向を遵守してお
り、主要目標は中国による台湾外交関係維持・拡大の阻止を打破し、
またこれから脱することにある。そして、台湾の対外政策の重要性
においては、政治的利益がその他の利益よりも重要となる 15。
政治および経済の利益から観察すると、政治的利益は常に台湾の
対外政策において政府から高く重視されてきた。早い時期には、国
交と国連議席の維持を主とすると強調し、国連脱退および米台断交、
中米国交樹立以降には、台湾は徐々に実務外交の価値と重要性を認
識し、柔軟な外交や実務外交の重要性を強調し始めた。加えて、国
交のない大国との「実質的」な関係を重視し、李登輝元総統にいた
っては、二重承認の可能性を排除しなかった。経済的利益では、チ
リ、ブラジル、ペルーなど南米諸国で産出される原材料は台湾が必
要とするところであり、また一部のラテンアメリカ諸国が経済的利
益の見地から、台湾との二国間関係強化を望んでおり、台湾は経済
外交を利用してラテンアメリカ国家との関係を維持・開拓せざるを
得なかった。しかし、近年における中国の急速な経済力膨張、急速
な成長、1000 億米ドルを超す中国・ラテンアメリカ間の貿易実績は、
台湾の経済外交の効果を相当に抑制しており、同地域における台湾
の経済外交は重圧に直面している。
3
政策環境の影響
政策環境について、筆者は台湾のラテンアメリカ政策に影響を与
える内部環境要因を以下三つに分類した。一つ目の要素は、1949 年
に両岸が分裂統治したという歴史的事実であり、これは国民党が台
15
趙建民「1990 年代中華民国的務実外交」『問題與研究』第 32 卷第 1 期(1993 年 1 月)
1-16 頁。
-83-
問題と研究
第 37 巻 4 号
湾に移って以降、両岸が外交競争を絶えず展開する根源であり、ま
た、台湾の対外政策に影響を与える不変的な要素でもある。同時に、
国交維持という政治的利益は常に台湾の外交政策において最重要利
益と見なされてきた。経済的利益の重要性は、台湾の国家発展レベ
ルの向上に伴って日増しに重要となり、台湾のラテンアメリカ政策
は基本的に台湾の総体的な対外政策の下に展開され、国交の維持お
よび経済発展が外交利益の重点となった。2000 年に台湾で政権交代
がなされて以降も、中国は依然として台湾外交活動の囲い込み工作
を引き続き強化ている。中国による孤立(囲い込み)政策は台湾の
国際生存空間を相当に制限しており、台湾が国際社会に参与する上
で、最も大きな制約要因となっている。
二つ目の要素は、民主化および選挙の結果である。台湾は 1987 年
8 月から、徐々に「党禁」の解除、国会の全面改選を進め、1996 年
には初の普通総統選挙を実施し、立候補者は選挙戦で様々な政見を
提起した。また、当選後の政見内容を実践する行動力は、往々にし
て対外政策など公共政策を含む台湾変革の発端となった。なかでも、
2000 年の大統領選挙で政権交代した結果、その後 8 年間における台
湾の対外政策目標が徐々に台湾の主体的地位を際立たせるよう偏向
していったばかりでなく、「のろし外交」戦略を採ることで中国によ
って外交的に孤立する台湾のジレンマを突破しようとした。2008 年
に馬英九総統が打ち出した「活路外交」の主張は、就任後、徐々に
台湾の新外交政策指導の原則となっている。
三つ目の要素は、両岸の総体的な経済力の相対性が台湾のラテン
アメリカ政策に与える影響である。1980 年代、台湾の急速な GDP
成長率、急速に累積する外貨保有率および対外投資力は、台湾に経
済外交手段を運用して対外的な友好関係を強固にし、国交がない国
との「実質的」な関係を開拓せざる得なくさせた。また、台湾の国
-84-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
際空間の拡大を創造する必要性は、台湾と中国の差異を際立たせ、
友好国や国交のない国と台湾が政府間あるいは非政府間の関係を維
持・増進する意思を高め、外交関係を利用して両岸関係のカードを
増やすこととなった。
しかし、中国経済の日増しに高まる飛躍と成長加速の過程で、経
済外交の優勢はすでに中国の外交カードとなった。図 1、図 2 が示す
ように、1990 年代初期から、両岸のラテンアメリカ貿易には逆転現
象が生じ、表 3 のデータは当時の両岸の世界貿易額およびラテンア
メリカ貿易額の差をはっきり示している。さらに、近年来の中国の
各輸出入貿易成長率は、総じて台湾を上回っている。総額が及ばず、
成長率も比較的低い状況下で、台湾はすでに貿易によって中国と貿
易外交戦を交えることは難しくなった。表 3 データの計算に基づく
と、2001 年における中国の対外貿易総額は台湾対外貿易総額の 2.2
倍で、中国・ラテンアメリカ貿易総額は台湾・ラテンアメリカ貿易
総額の 3.1 倍、中国の対ラテンアメリカ輸出額は台湾の 2.6 倍、中国
のラテンアメリカからの輸入額は台湾の 4.4 倍となっている。2007
年は、中国の対外貿易総額は台湾の対外貿易総額の 4.8 倍、同期の中
国・ラテンアメリカ貿易総額は台湾・ラテンアメリカ貿易総額の 9.8
倍、中国の対ラテンアメリカ輸出額は台湾の 9.4 倍、中国のラテンア
メリカからの輸入額は台湾の 10.3 倍となっている。2008 年 1 月から
9 月までにおける、中国の対外貿易総額は台湾の対外貿易総額の 5
倍、同時期における中国・ラテンアメリカ貿易総額は台湾・ラテン
アメリカ貿易総額の 10 倍、中国の対ラテンアメリカ輸出額は台湾の
9.5 倍、中国のラテンアメリカからの輸入額は台湾の 10.7 倍となっ
ている。
-85-
問題と研究
第 37 巻 4 号
図1 台湾・ラテンアメリカ貿易状況(1990-2008)
億米ドル
台湾・ラテンア
メリカ貿易額
120
100
80
台湾の対ラテン
アメリカ輸出額
60
40
20
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
20080109
台湾のラテンア
メリカからの輸
入額
年度
図 1 台湾・ラテンアメリカ貿易状況(1990-2008)
図2 中国・ラテンアメリカ貿易状況(1990-2008)
億米ドル
中国とラテ
ンアメリカ
貿易額
1200
1000
800
中国の対ラ
テンアメリ
カ輸出額
600
400
200
0
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
20080109
中国のラテ
ンアメリカ
からの輸入
額
年度
図 2 中国・ラテンアメリカ貿易状況(1990-2008)
表 3 近年における両岸の対外貿易と対ラテンアメリカ地域の貿易状況
単位:万米ドル
両岸の対外貿易状況
年度
2008/01-09
2007
2006
2005
2004
2003
国別
輸出入額
輸出額
輸入額
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
39,035,453
196,712,875
45,328,168
217,383,301
41,475,731
176,068,645
37,099,332
142,211,761
34,189,060
115,479,162
27,141,982
85,120,729
19,511,284
107,405,809
23,505,472
121,801,452
21,316,433
96,907,284
18,939,313
76,199,914
17,400,770
59,336,863
14,417,393
43,837.082
19,524,170
89,307.066
21,822,696
95,581,850
20,159,299
79,161,361
18,160,020
66,011,847
16,788,291
56,142,299
12,724,590
41,283,647
-86-
前年同期比成長
輸出入額
輸出
輸入
18.078 14.667
21.69
25.2
22.2
29.0
9.288 10.269
8.251
23.5
25.7
20.8
11.796 12.551 11.009
23.8
27.2
20.0
8.512
8.842
8.171
23.2
28.4
17.6
25.964 20.693 31.936
35.7
35.4
36.0
11.642 10.400 13.084
37.1
34.6
39.9
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
2008 年 10.11.12 月号
2002
2001
2008/01-09
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
台湾
中国
24,311,568
13,059,278 11,252,290
5.657
62,076,808
32,556,501 29,520,307
21.8
23,009,831
12,286,588 10,723,243
-20.194
50,976,813
26,615,464 24,361,349
7.5
両岸の対ラテンアメリカ地域貿易状況
1,106,038
572,845
533,193
49.034
11,146,110
5,447,745
5,698,366
51.7
1,045,121
547,362
497,759
17.880
10,261,110
5,154,295
5,106,815
46.2
886,599
459,403
4,271,96
17.886
7,021,755
3,602,870
3,418,885
39.1
752,082
393,945
358,138
7.948
5,045,740
2,368,250
2,677,490
26.1
696,705
338,977
357,728
32.403
4,002,703
1,824,205
2,178,498
49.3
526,202
287,037
239,165
9.378
2,680,644
1,187,913
1,492,730
50.4
481,084
291,929
189,155
1.259
1,782,604
948,959
833,645
19.3
475,104
322,235
152,869
-21.139
1,493,890
823,674
670,215
18.6
6.289
22.3
-17.160
6.8
4.934
21.2
-23.408
8.2
49.102
48.6
19.147
43.1
16.616
52.1
16.216
29.9
18.095
53.6
-1.676
25.2
-9.405
15.2
-17.828
14.6
48.961
54.8
16.518
49.4
19.283
27.6
0.115
23.0
49.574
45.9
26.439
79.1
23.737
24.2
-27.313
23.9
資料出所:中華民国国際貿易局および中華人民共和国商務部ウェブサイトの経済貿易統
計データに基づき筆者が作成。台湾の貿易データには再船積み資料の貿易デ
ータを含まない。
しかし、表 4.1 および表 4.2 が示すように、両岸はラテンアメリ
カ地域への投資を総じてタックスヘブンとしての重要な投資対象と
見なしており、租税控除となる投資額を除くと、2007 年までの台湾
によるラテンアメリカ投資額は累計 19.3 億ドルに及び、中国のラテ
ンアメリカ投資累計額 12.6 億元を上回っているが、現在、両岸のラ
テンアメリカの投資額には大きな差はない。
外的環境についていえば、国際情勢の急速な変化が各国の外交政
策の思考および行為に影響を与える重要な外的要因である。例えば、
朝鮮戦争の勃発が台湾と日本の戦後講和条約の調印を早め、そして
-87-
問題と研究
第 37 巻 4 号
1969 年のダマンスキー島事件後、中ソの二国間関係が悪化したこと
は、共産主義グループ封じ込め戦略における台湾の戦略的地位を変
えた。さらにこれはアメリカに中国の戦略的地位を見直させること
となり、国連脱退と米中の国交樹立により台湾は前代未踏の外交的
ジレンマに直面し、友好国の数も一時 21 カ国にまで減少したため、
台湾は実務外交および経済外交戦略を採用することで外交のジレン
マを突破せざるを得なくなった。
表 4.1 近年の中国の対ラテンアメリカ非金融対外直接投資状況
単位:万米ドル
各年の貿易投資額
全地域
ケイマン諸
島
イギリス領
ヴァージン
諸島
ブラジル
アルゼンチ
ン
メキシコ
ベネズエラ
ペルー
ガイアナ
キューバ
スリナム
チリ
バハマ
パナマ
エクアドル
ボリビア
セントビン
セント
グレナダ
コロンビア
当年の累計投資額
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
490,241
260,159
2006 年
末
1,969,437
1,420,919
2007 年
末
2,470,091
1,681,068
103,815
80,661
176,272
128,613
646,616
516,275
846,874
783,272
20,968
38,552
122,608
53,811
187,614
475,04
667
100
643
112
1,509
35
1,009
622
5,113
13,669
3
622
12
-
143
65
20
-103
1
27
-
560
2,71
433
22
-
-
113
55
4,356
10
30
-
-
355
740
55
-
158
277
180
2,295
836
907
8
282
-369
1,836
540
-
3,037
-
658
272
-
246
1,8
291
-
-
-
453
-
96
-
-336
-88-
累計投資ラ
ンキング
2006 2007
年
年
1
1
662,654
2
2
13,041
1,134
18,955
15,719
3
14
3
4
1,716
6,953
671
6
658
1,757
383
3,899
833
358
197
588
12,861
7,158
13,04
860
5,991
3,221
1,084
1,752
3,692
3,904
2,106
1,492
15,144
14,111
13,711
6,86
6,649
6,528
5,68
5,651
5,531
4,918
2,303
2,08
5
6
4
16
7
10
15
12
9
8
11
13
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
-
22
403
528
753
677
19
18
17
18
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
2008 年 10.11.12 月号
バルバドス
ウルグアイ
アンティグ
ア
ホンジュラ
ス
トリニダー
ド・トバゴ
共和国
ドミニカ国
ベリーズ
ジャマイカ
-
55
-
-
-
-
-
-
-
185
-
-
41
48
-
201
163
125
242
211
125
20
21
22
19
20
21
13
138
-
-
-438
528
90
18
22
-
-
-
-
-
80
80
23
23
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
70
2
2
70
2
2
24
25
25
24
25
25
資料出所:中華人民共和国商務部ウェブサイトの資料に基づき筆者が整理。
表 4.2 最近の台湾の対ラテンアメリカ直接投資状況
単位:千米ドル
貿易投資額の推移
累計投資額
2003
2004
2005
2006
2007
2006
2007
年度
件数 金額 件数 金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
全地域 169 2,263,869 103 1,321,527 105 1,300,259 109 1,848,764 112 1,816,576 2,163 22,900,347 2,275 24,716,923
2 29,155 0
86,706
1
3,997
0
2.24
4
119,349
95 2,392,308
99 2,511,657
バミュ
ーダ
イギリ 150 1,997,245 95 1,155,198 90 1,261,566 92 1,822,361 83 1,578,468 1,819 18,695,555 1,902 20,274,023
ス領ヴ
ァージ
ン諸島
3 169,091 0
55,566
0
0
2
8,987
6
88.6
61 1,110,318
67 1,198,918
パナマ
0
7.4 1
505
0
0
1
318
4
3.95
10
59,066
14
63,016
ブラジ
ル
0
3,255 1
1,879
3
953
1
500
2
286
23
50,407
25
50,693
エルサ
ルバド
ル
1
7.18 1
800
1
1.5
2
6,116
0
156
27
128,865
27
129,021
ニカラ
グア
20,873 10
32,244 11
8,242 13
25,766
128
463,828
141
489,594
その他 13 50,543 5
地域
資料出所:中華民国経済部投資審議委員会が発表した「96 年統計年報」に基づき、筆者
が 整 理 し て 作 成 。( http://www.moeaic.gov.tw/system_external/ctlr?PRO=
PublicationLoad&id=1)。
第二次世界大戦後の台湾にとって、台湾の対外政策に影響を与え
る最大の外部要因はアメリカである。アメリカがグローバルシステ
-89-
問題と研究
第 37 巻 4 号
ム環境および政治経済戦略において如何に台湾を位置づけるか、現
実的なアメリカの国益にとっての中国の価値をいかに評価するか、
両岸関係および台湾の対外政策への影響の大きさが重要となる。例
えば、アメリカが対中政策を明らかに転換した例は、1950 年代に朝
鮮戦争をめぐる対抗から、国際システムにおいて中国が大国として
の役割を果たすことを肯定したことであり、この変化は非常に大き
い。台湾は両岸の外交競争で先手を打ったり「封鎖」されないこと
を望んでいるが、常にアメリカの「関心」の下にあり、部分的な外
交政策の内容や操作方式を変更するにもアメリカの怒りに触れぬよ
うにしなければならない。
三
1
馬英九総統の「活路外交」と台湾・ラテンアメリ
カ関係
活路外交の主な内容と性質
「活路外交」は馬英九総統が選挙戦中に打ち出した外交政策理念で
あり、表 5 に列挙した馬英九氏の総統選挙における外交白書の内容
に基づくと、馬総統は新たな思考を創造して両岸と国際社会が受け
入れられる「3ウィン」の方法を模索することで、新たな対外関係
を展開する必要があると認識している。馬総統は、「尊厳」、「実務」、
「柔軟性」を基本原則とする台湾の「活路外交」は共同の利益を出
発点とし、「92 年コンセンサス」に基づいて、双方が相手の存在を否
定しない状況下で、中国との実務協議を展開し、双方がウィンウィ
ンとなるバランスポイントを見出していくべきと主張している。馬
総統は、将来における二国間関係あるいは国際組織への参与では、
両岸は衝突したり相互に資源を消耗する必要もなく、却ってお互い
にできることをして、共に進み、共同で国際社会に貢献することが
でき、さらには台湾の利益を損なわない限り、友好国がその他の国
-90-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
や地域との関係を発展させることにも反対しないとしている。
表 5 馬英九が提起した活路外交の要点
基本理念
活路外交の
原則
対外二国間
開拓の目標
1. 「活路外交」が「のろし外交」に取って代わることを期待し、台湾
が新たな道を見出し、両岸と国際社会が受け入れられる「3 ウィン」
の新局面を創造することを期待する。
2. 尊厳に配慮し、共同利益を出発点とし、「92 年コンセンサス」の基
礎の下に、双方が相手の存在を否定しない状況下で両岸が実務協議
を行い、双方がウィンウィンとなるバランスポイントを見出す。
3. 台湾は「尊厳」、「実務」、「柔軟性」を対外関係の基本原則とし、よ
き「グローバル市民」としての責任を果たすべきである。国際社会
が、台湾が経済発展と自由民主主義を成し遂げたことを理解するこ
とを望む。そして、台湾が、理念を受け入れ、利益が一致する国と
ともに、平和で繁栄する国際環境創造のために奮闘できる機会を得
られることを望む。
1. 主権の維持・保護:未国交国との関係の向上に力を入れ、正式な外
交関係の樹立し、国際社会で中華民国国旗・国号・国歌など主権を
代表する標識が掲揚できるよう策を講じる。
2. 経済力:経済力をうまく利用して外交を開拓する。
3. 柔軟な実務:台湾の利益という前提の下、柔軟性のある名称で国際
組織に参与する。
4. 平等と尊厳:いかなる名称で国際活動に参与するにせよ、すべて平
等互恵の原則を遵守し、台湾の尊厳を堅持する。
1. 互恵互助によって友好国との関係を強化する。「活路モデル」の範
囲内で、中華民国の利益を損なわない限り、友好国がその他の国や
地域と関係を発展させることに反対しない。
2. 台米相互信頼を回復し、両者の関係を確固としたものとする。アメ
リカが「台湾関係法」および「6 項目の保障」を引き続き着実なも
のとするよう促し、一方で、台湾自身も「責任ある利害関係者」
(responsible stakeholder)として自身の国家安全の責任を担う決心
をし、必要な防衛性武器を購入する。
3. 日米安保を支持し、日台関係を改善する。日台間には争議のある問
題がいくつかあるが、台湾は主権維持の原則の下、客観的・理性的・
事実に基づいて真実を求める立場で、日本との協議を展開する。
4. 近隣諸国との親睦を深め、アジア太平洋関係を開拓する。
5. EU の成果を重視し、対 EU 関係を深化させる。
6. 国際組織へ加入する。①国連への復帰、②「国際復興開発銀行」
(IBRD)、「国際通貨基金」(IMF)、「世界保健機構」(WHO)の三
大国際組織に狙いを定める。
-91-
問題と研究
外交新手段
第 37 巻 4 号
台湾のソフトパワーをうまく利用する:台湾の地理的優位性、人文の
素養、民主主義制度、自由経済、開放された社会、親切でもてなし好
きな性格、広く活躍する民間組織(NGO)、および世界中にいる故郷
を愛する華僑の人々はみな台湾のソフトパワーの重要な資源となる。
「活路外交」に勢いをつけるため、こうした資源をうまく利用し、ま
た「人の苦しみは我が身の苦しみ」の精神を発揮して、急難に窮する
国や国民に必要な人道援助の手を差し伸べる。
資料出所:「馬英九、蕭萬長外交政策」
(http://www.ma19.net/policy4you/diplomacy)。
2008 年 8 月初め、ラテンアメリカを訪問する「親睦の旅」に先立
って、馬総統は海外からの来賓の接待や、歴代外務大臣の招宴、外
交部への視察などの機会を利用して、「活路外交」が今後の台湾の外
交基本戦略となることを表明した。主な内容は「両岸和解」、「外交
休戦」の二つであり、両岸の和解を「外交休戦」の根本とし、
「外交
休戦」が両岸関係発展の重要理念となることを強調した。馬総統は
「活路外交」と台湾が過去に推進してきた「実務外交」の精神は一
貫して一致しており、どちらも実務主義を原則としたものであって、
外交はある種の「ゼロ・サムゲーム」ではなく「実務主義」である
べきと述べた。馬総統は個人的に、両岸がそろって「議論を棚上げ
し、小異を残して大同に就き、現実を正視し、ウィンウィンを共に
創造する」べきであると認識しているならば、国際社会で一種の共
通認識に達するチャンスがあってしかるべきで、これこそが二国間
関係でウィンウィンを追求するやり方であり、両岸の国際的な対抗
レ ベ ル が 引 き 下 が ら れ る こ と か ら 、 悪 循 環 な 競 争 を 避 け 、「 金 銭 外
交」のジレンマに陥らずにすむと信じている 16。
16
「総統訪視外交部並闡述「活路外交」的理念與策略」中華民国総統府ニュース・リ
リース、2008 年 8 月 4 日(http://www.president.gov.tw/php-bin/prez/shownews.php4?_
section=3&_recNo=360)
。
-92-
2008 年 10.11.12 月号
2
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
「活路外交」により生じうる影響
「両岸和解」が両岸「外交休戦」情勢の形成に役立つか否か、さ
らに一歩進んで国際空間創造という台湾の目標を達することができ
るかについては、両岸内部の各政治勢力で依然見方が一致していな
い。
まず、国際的な現実に基づいて考えれば、①友好国が「誰のため
に戦うか」という疑念を抱くことは間違いないため、台湾の「外交
休戦」戦術は台湾の国際空間に一定のリスクをもたらす、②成功す
る外交政策は十分な国力に支えられるべきであって、両岸の「外交
休戦」が依然そのチャンスを待たなければいけない時点では、台湾
は友好国と中国との政治的接触の内容とその形式に関心を払う必要
がある。また、台湾の政治経済力の向上について早急に考えること
も必要となる。つまり、国家利益の擁護からすれば、敵国の善意へ
の依存はきわめてリスクの高い戦術といえる。
このほか、中国政府の「外交休戦」に対する姿勢は、現在のとこ
ろまだ明確に定まっていない。かつて胡錦濤は台湾の国際活動空間
の問題について考慮すると述べているものの、現中国国務院台湾弁
公室主任・王毅や中国駐国連代表・王光亜など中国高官の発言内容、
および国際社会では中国は台湾に対して「善意」を示し、ある時に
は挑発するといった矛盾した状況から見れば、台湾にどの程度の国
際空間を享受させるかについて、中国当局は意見が一致していない
ようである。
よって、筆者は短期間における両岸の「外交休戦」の性質を、両
岸が外交競争の激戦レベルを低下させるために、個別案件的な外交
「黙約」の構築に力を注ぐに過ぎないものと見ている。国交樹立競
争と国際組織の加盟をめぐる激戦レベルを低下させることで、限定
的な「外交休戦」の「善意」を示し、例えば、両岸による友好国の
-93-
問題と研究
第 37 巻 4 号
奪い合いを避けるため、「小異を残してた大同に就く」方式によって
両岸が同時に参与できる実行可能な方式を見出す程度ではなかろう
か。
四 「中国の対ラテンアメリカおよびカリブ政策文書」
の比較分析
1
文書発表の目的と意義の明示
(1)
胡錦濤のラテンアメリカ訪問前に発表することで、将来にお
ける中国・ラテンアメリカ関係発展の準則とする
2008 年 11 月 5 日、中国外交部ラテンアメリカ局局長・楊萬明は、
外交部による内外メディア記者会見において正式に「中国の対ラテ
ンアメリカおよびカリブ政策文書」(以下では「中国のラテンアメリ
カ政策文書」と略す)を発表した。楊萬明は記者会見で、「中国政府
が制定・発布した同文書の主要目的は、対ラテンアメリカ政策目標
をさらに明確にして、今後一定期間における中国・ラテンアメリカ
協力の指導原則を打ち出し、中国・ラテンアメリカ関係の健全かつ
安定的な全面的発展を引き続き推進することにある。我々は同文書
を着実なものとするため真剣に取り組み、ラテンアメリカおよびカ
リブ諸国と共に協力し、中国・ラテンアメリカ関係が絶えず新たな
段階へ邁進するよう推進する」と述べた。胡錦濤のラテンアメリカ
訪問前の時期を選んで発表したことについて、楊萬明は「胡錦濤の
ラテンアメリカ訪問に一役買える」ことを期待すると述べている。
中国外交部部長・楊潔篪はメディアのインタビューに対し、同文書
を「中国・ラテンアメリカ関係の新たなスタート地点における新た
な飛躍を実現する」ものと位置づけた上で、中国・ラテンアメリカ
関係発展の潜在力は大きく、前途も広く、双方は平等・相互利益、
共同発展のよきパートナーとなることができると強調した。
-94-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
2004 年、中南米諸国が熱烈に胡錦濤訪問を歓迎する情景が報じら
れ、中国がラテンアメリカに踏み入れる現象とその影響の大きさは、
アメリカの政界・学界・マスコミからの高い関心を集めた。2008 年
11 月 16 日から 26 日、胡錦濤は三度目となったラテンアメリカ訪問
で、11 月 15 日に開かれた G20 会議に参加後、コスタリカ、キュー
バ、ペルーのラテンアメリカ 3 カ国を正式訪問した。22 日、23 日に
開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会議に参加
後、ギリシャを訪問して帰国の途に着いた。かかるがゆえに、中国
外交部が胡錦濤のラテンアメリカ訪問前に発布した「中国のラテン
アメリカ政策文書」は確かに必要性がある。両岸関係が大幅に緩和
した後も、両岸の友好国はそろってラテンアメリカ政策の内容に関
心を示しており、中国の友好国が、中国のラテンアメリカ政策が過
去のそれと異なるのか大きな関心を抱いても当然である。
(2)
中国外交当局は両岸関係の平和発展の継続的な推進を、国交
のない国との関係発展の大前提とする
「中国のラテンアメリカ政策文書」では依然として「一つの中国
の原則がラテンアメリカ諸国および地域と関係を構築・発展する政
治的基礎である。中国政府は当該地域の大多数の国が一つの中国の
原則を守り、台湾との政府関係の発展や政府間の往来を進めず、中
国の統一事業を支持していることを賞賛する。中国は一つの中国の
原則の基礎の上に立ち、ラテンアメリカ諸国と国家関係を構築し発
展していくことを期待する。」としている。しかし、楊萬明は記者会
見での質問に対し、「中国のラテンアメリカ政策」でまだ示されてい
な い 内 容 に つ い て 触 れ 、「 中 国 側 は 両 岸 関 係 の 平 和 発 展 を 引 き 続 き
促進するという大前提の下、国交のない国とも正常な国家間関係を
発展させたいと考えており、国交のない国が台湾地区との民間的な
-95-
問題と研究
第 37 巻 4 号
文化および経済貿易関係を発展することに異議を唱えない。」と述べ
た。楊萬明のこの発言内容は注目に値するメッセージを発している。
すなわち、中国外交当局が「両岸関係の平和発展を引き続き推進す
る」ことを中国・ラテンアメリカ関係発展の大前提としている点で
あり、こうした現象は過去数年には見られなかった。通常、中国は
両岸関係と対外関係を政策的な連結が存在しない二つの領域におい
ている。中国は通常、両岸関係においては外交競争が比較的柔軟な
政策基調を採り、台湾の同胞に期待を寄せる一方、国際社会では台
湾の国際生存空間を包囲し、時には台湾の友好国を奪取することで
台湾の政策行為に「報復」したり、「懲罰」したりする。よって、楊
萬明が中国が国交のないラテンアメリカとの関係を発展させると表
明しても、二重承認を認めたわけではない。したがって、依然過去
の一貫した言い方で以って、中国との正式な関係の樹立に興味があ
る未国交国と台湾との民間的な文化および経済貿易関係には異議を
唱えないとした。しかし、筆者は中国の外交当局が両岸関係緩和の
促進を中国・ラテンアメリカ関係の大前提とする状況下では、両岸
が外交競争のレベルを下げ、「外交休戦」の雰囲気を徐々に創造して
いくチャンスがあると見ている。
2
「中国のラテンアメリカ政策文書」内容の分析
中国は「中国のラテンアメリカ政策文書」を「中国・ラテンアメ
リカ政策の総体的な目標を明確にし、今後一定期間における中国・
ラテンアメリカの各領域における友好協力を全面的に計画した」重
要政策文書と見なしている。よって、筆者は全文 5000 字からなる同
政策文書の内容を紐解き、将来における中国とラテンアメリカ地域
の 国 家 発 展 に 起 こ り う る 情 勢 を 観 察 す る こ と と す る 。「 中 国 の ラ テ
ンアメリカ政策文書」は、前文、「ラテンアメリカおよびカリブの地
-96-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
位と役割」、「中国とラテンアメリカおよびカリブの関係」、「中国の
対ラテンアメリカおよびカリブ政策」、「中国とラテンアメリカおよ
びカリブの全方位協力の強化」、「中国とラテンアメリカおよびカリ
ブの地域組織の関係」の 5 項目で構成されている。同文書の意義を
解読した中国人学者の多くは、これは経済貿易関係を主とした外交
政策文書であると見ている 17。「中国のラテンアメリカ政策文書」の
内容をさらに分析した結果、筆者は以下いくつかの点に着目した。
(1)
文書内容の構造と配列:まず政策の認識を論じた上で、具体
的な政策目標と行為を説明
中国外交部はまず、前文、第一部および第二部で現在の国際情勢
下における中国のラテンアメリカ政策に関する認識について概ね論
じ、中国の対ラテンアメリカの具体的な政策目標と実質については、
第三部および第五部でそれぞれ論じている。次に、文書の第三部分
では中国のラテンアメリカ政策の総体的な政策思考を提示し、中国
が戦略的かつ大局的な計画によって将来のラテンアメリカ政策を実
施するとした。平等・相互利益、共同発展という協力的なパートナ
ー関係の構築と発展に尽力することを戦略目標とし、中国の総体的
なラテンアメリカ政策目標を、①相互尊重・相互信頼、共通認識の
拡大、②相互利益・ウィンウィン、協力の深化、③共に歩み、密接
に交流する、とするとした。このほか、同部分では一つの中国の原
則に改めて触れている。そして、文書第四部では中国の発展とラテ
ン ア メ リ カ 諸 国 と の 二 国 間 関 係 の 具 体 的 政 策 項 目 を 示 し た 。「 中 国
のラテンアメリカ政策文書」では、明らかにここに最も大きな分量
17
諶園庭「拉美所召開『中国対拉丁美洲和加勒比政策檔 』座談会」2008 年 11 月 14 日
(http://ilas.cass.cn/cn/xwzx/content.asp?infoid=8397)。
-97-
問題と研究
第 37 巻 4 号
を割いており、中国・ラテンアメリカ二国間協力と交流を強化する
ための将来的な中国のラテンアメリカ政策の具体的思考を、政治、
経済、人文・社会・平和、安全保障・司法など四項目にわたって詳
しく述べ、最後の第五部では簡単に中国とラテンアメリカ地域組織
の関係について論じている。
(2)
将来の中国・ラテンアメリカ発展について、二国間・多国間
の具体的な構想
文書第四部の論述によると、中国は以下四つの方面において中
国・ラテンアメリカ二国間関係を発展させようとしている。まず、
政治面では、中国は伝統的な双方のハイレベル、立法機構、政党に
よる相互訪問の重要性を重視しているばかりでなく、地方政府間の
往来や二国間協議メカニズム機能の強化、国際問題における協力の
重要性の強化を強調している。続いて経済面では、中国は相互利益・
ウィンウィンの基礎の上に、ラテンアメリカ諸国あるいは地域で一
体化した組織との自由貿易協定の締結を積極的に考慮すると強調す
るほか、投資、金融、農業、工業、インフラ、エネルギー資源、税
関、品質検査、観光などにおいても協力を進めるとした。また、ラ
テンアメリカ諸国が関心のある債務削減、経済技術援助などに関し
ては、中国政府は既定の債務減免政策に基づき、「力の及ぶ」範囲内
でラテンアメリカ関係国と対中国債務問題についての解決方法を積
極的に模索すると表明し、中国・ラテンアメリカ双方は多国間経済
貿易メカニズムに対応する中で、比較的大きな影響力を得られるよ
う協力を強化すべきだと強調した。このほか、構築されたばかりの
「中国・ラテンアメリカ企業家サミット」と「中国・カリブ企業家
サミット」の両商業協会が、交流のプラットホームとしての役割を
担うことも認めた。そして、人文・社会面では、中国は 11 の領域に
-98-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
おける交流と協力の強化を提起し、11 項目には伝統的な文化、体育、
ニュース、領事、医療衛星、環境保護、民間交流などを含むほか、
気候変化に対する協力、人材と社会保障協力、債務削減、災害援助
と人道主義援助、貧困協力なども盛り込んだ。平和・安全保障と司
法面では、軍人、司法、警察業務、非伝統的安全保障の三方面にお
ける交流の強化を強調し、最後の第五部では、非常に短く中国とラ
テンアメリカ地域および地域組織の関係について論じ、中国は関連
する組織と各領域における交流・協議・協力を引き続き強化してい
くとした。
(3)
「中国のラテンアメリカ政策文書」と「中国のアフリカ政策
文書」の内容比較
二つの政策文書の内容を比べると、比較的大きな差異は「中国の
ラテンアメリカ政策文書」と「中国のアフリカ政策文書」の説明方
式が異なる点にある。「中国のラテンアメリカ政策文書」では、「一
つの中国の原則の基礎の上に、ラテンアメリカ諸国との国家関係を
構築・発展させたい」と暗に示すことで、中国と国交のないラテン
アメリカ諸国との関係発展についてその政治的基礎を示した。しか
し、文書の構成について見ると、全方位協力の二国間関係を発展さ
せる具体的方法は、社会、人文、平和、安全、司法、警察業務など
の交流と協力であり、その内容はほぼ同じである。といっても、ラ
テンアメリカ政策文書の発布がアフリカ政策文書の発布よりも若干
遅かったことから、内容はより完備されたものとなっている。二つ
の政策文書の内容は、胡錦濤が中国共産党第 17 回全国代表大会政治
報告で述べた発展途上国戦略とほぼ一致しており、同政策が中国の
-99-
問題と研究
第 37 巻 4 号
発展途上国戦略に対する重視から制定された政策であることは明ら
かといえる 18。
この政策文書に基づくと、中国・ラテンアメリカの将来における
発展関係は、概ね依然として相互信頼・相互利益によって、お互い
の共通認識と協力空間を拡大し、政治・経済関係の深化という成果
を達成することにある。このほか、国際社会が徐々に人文・社会の
交流と協力の重要性に関心を寄せるに伴って、中国・ラテンアメリ
カ関係もこうした議題において交流していくであろう。また、中国
は同文書では「力の及ぶ」範囲内でラテンアメリカ諸国が関心を抱
いている債務削減や貧困援助、経済援助などの議題において中国の
力で貢献するとしており、経済力が十分な中国に対する国際社会か
らの高い期待に「善意」で応えるだけでなく、想定以上の援助をコ
ミットすることを巧みに避けている。
3
将来、中国のラテンアメリカ政策に影響を与える変数:優勢と
弱勢
18
胡錦濤は中国共産党第 17 回全国代表大会における政治報告で、政治戦略的には「発
展途上国との団結と協力を引き続き強化・拡大し、伝統的な友好を深化させ、実務
協力を拡大して力の及ぶ範囲で援助を行い、発展途上国の正当な要求や共同利益を
擁護する」とし、経済戦略的には①「相互利益・ウィンウィンの開放戦略を採る。
引き続き中国の発展によって、地域と世界の共同発展を促進し、各利益の集約点を
拡大する。国家の発展を実現する一方、その他の国、特に発展途上国の正当な関心
にも配慮する」
;②「引き続き国際経済貿易規則に則り、市場受け入れを拡大し、法
に基づいて協力者の権益を保護する。発展途上国の自主発展能力増強、民生の改善、
南北格差の縮小に対する国際社会の支援を支持する。国際貿易と金融メカニズムの
完備を支持し、貿易と投資の自由化・便宜化を推進し、経済貿易摩擦は協議によっ
て適切に処理する。
」と指摘した。胡錦濤の中国共産党第 17 回全国代表大会政治報
告 全 文 に つ い て は 『 中 国 網 』( http://www.china.com.cn/17da/2007-10/24/content_
9119449_11.htm)を参考のこと。
-100-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
ラテンアメリカ政策文書が中国の将来の政策に与える影響を分析
するため、筆者は政治、経済の二つの側面から中国のラテンアメリ
カ政策の優劣を検討することとする。政治面においては、中国は国
連安全保障理事会の常任理事国であり、すでにラテンアメリカ諸国
が普遍に参与する重要な国際地域組織・米州機構(OAS)の常任オ
ブザーバーであり、米州開発銀行(IDB)への加盟も達成し、東アジ
アでは日本、韓国に続く三番目のメンバーとなり、政治的に優勢で
ある。しかし、アメリカの態度、距離的な遠さ、両岸関係の方向お
よびラテンアメリカ政府の政権交代状況が中国のラテンアメリカ政
策において把握しにくい問題となる。
当然ながら、国民党が政権に返り咲いてから、両岸関係は目下徐々
に緩和される方向に向かっている。よって、中国は両岸関係が暖ま
る前に、両岸関係安定に不利となる政策を採るべきでなく、これこ
そが楊萬明局長が記者会見で述べた「両岸関係の緩和がラテンアメ
リカ政策の大前提」である。両岸関係緩和の雰囲気に影響が出るの
を避けるため、ラテンアメリカ地域で両岸外交休戦の黙約が形成で
きるよう、相対的に自制した政策を採るべきである。例えば、胡錦
濤がコスタリカ訪問時、中国外交部は中新社を通じて胡錦濤の訪問
は「台湾に対する」ものではないと示し、相当な自制と善意を示し
た 19。
経済面では、近年来の中国の急速な経済発展で累積された豊富な
国力、中国・ラテンアメリカ貿易額の急速な成長、中国・チリ自由
貿易協定の発効以降、双方の経済貿易実績上昇の事実は顕著なもの
で、その経済は優勢である。しかし、中国はラテンアメリカから原
材料を大量に輸入すると同時に、ラテンアメリカを中国製商品の市
19
劉煥彦「胡錦濤訪哥斯大黎加」『経済日報』2008 年 11 月 18 日、第 A6 版。
-101-
問題と研究
第 37 巻 4 号
場とするやり方は、中国・ラテンアメリカ貿易関係発展の前途を相
当に複雑化している。原料およびエネルギー輸出を輸出品目の核と
するラテンアメリカ諸国、例えばブラジル、チリ、ベネズエラ、ニ
カラグアは中国を大口の取引先とみなし、中国がラテンアメリカ地
域に多額の投資をすることを期待している。しかし、中国の低価格
製品が大量にラテンアメリカに輸出されるという事実は、中国・ラ
テンアメリカ貿易関係において、国によって輸出超過、輸入超過の
貿易構造を生じさせる結果となった。たとえば中国はメキシコとの
貿易で大幅な輸出超過にあるが、ブラジルなどの国に対しては逆に
例年輸入超過を呈している。このほか、中国の低価格商品が大量に
ラテンアメリカ市場に入り込むことが、徐々にラテンアメリカ地域
の関連産業の運営に衝撃を与えている。例えば、ラテンアメリカの
紡績業は中国・ラテンアメリカ貿易において衝突する可能性を秘め
ている。
五
台湾によるラテンアメリカ外交政策の行為と制限
を展望して
1
政策基礎:活路外交・外交休戦の基礎の上、友好国との友情を
強固なものとし、友情を創造する
馬総統の外交政策理念は外界から過度に理想化しすぎていると疑
問視される。しかし筆者は、仮にこれを「協調的安全保障」や「共
通 の 安 全 保 障 」 と い っ た 新 安 全 保 障 の 角 度 か ら 論 じ れ ば 、「 活 路 外
交」と「外交休兵」の理念が強調しているのは、相手と相互信頼を
構築し協力の空間を創造することを通じて安全保障のコストを低減
させる概念であって、政策理念に一致していると考える。よって、
-102-
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現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
両岸関係と国際情勢の大環境が適切な状況にあれば、「活路外交」と
「外交休戦」が実行される条件が具わっていることになる 20。
馬総統が指摘するように、「活路外交」と「外交休戦」が成功する
基本要素とは、すなわち両岸間である一定のコンセンサスを構築す
ることであり、双方が両岸関係を改善する意欲を示し、もし台湾が
争議を棚上げし、相互信頼の構築と小異を残して大同を求めたなら、
ウィンウィンの局面を迎えることができるのである。「活路外交」
の基本理念は、両岸が「和解休戦」できることであり、双方が相手
の友交国と悪循環の競争をせず、資源を無駄にして対岸の友交国を
奪い取らないことを期待し、同時に、自分の友交国が相手の人民に
関する事務を処理する際、人道的原則に則って行うことを期待する
ものである。次に、馬総統も明確に指摘している通り、台湾の外交
政策の総体的な目標は「活路外交」戦略の登場によって変化するの
ではなく、依然として「友好国との友情を確固たるものとし、友好
を拡大し、国際社会へ参与して尊厳を擁護すると同時に、台湾の外
交状況がさらに良好なものとなることを信じる」ことにある。そし
て、両岸が悪戯な争いを避けるという背景の下で、台湾は「友好国
20
台湾外交部の公布によって台湾外交部ウェブサイトに掲載された「中国による台湾
の国際空間包囲の事例」資料によると、2008 年 5 月 20 日に新政府が引き継いでから
9 月末までの、中国による台湾の国際社会参与に対する阻止の状況は前年同期(2007
年 5 月 20 日から 9 月末)に比べ、明らかに減少している。2008 年は 14 件で、2007
年同期は 20 件となっている。馬英九が総統に就任以来、中国は国際社会で台湾との
外交共栄の新情勢をいかに進めていくかという問題に直面し、相互に抵触したり矛
盾したりする行為が若干あったとしても、例えば台湾の APEC 会議代表リーダーの
格上げなど、一途に台湾の交際空間抑圧姿勢を見せていた過去とは異なる善意を示
しており、こうした動きは軽視できないものである。外交部の統計に基づくと、中
国の台湾に対する善意の回答例は 5 月 25 日から今日までにすでに 61 件もある。中
華民国外交部「外交部期盼両岸持続在国際場域良性互動」文号:158,2008 年 11 月
21 日(http://www.mofa.gov.tw/webapp/content.asp?cuItem=33972&mp=1)
。
-103-
問題と研究
第 37 巻 4 号
の強化、友好の拡大、国際社会への参与」という政策目標をさらに
達成できことになる。
前述したように、馬総統の就任半年を経て、両岸の外交休戦の黙
約はすでに固まりつつあり、両岸は相互に善意を示している。両岸
交流の再開、両岸相互信頼の回復と構築、共通認識の凝集といった
議題においては、確かに部分的に意義のある突破も見られ、例えば
2008 年の APEC 非公式首脳会議の段取り、台湾が「中華台北」の名
称でオブザーバーとして政府間国際組織「国際貿易情報センター」
(Agency for International Trade Information and Cooperation, AITIC)
に加入したことなどが挙げられるが、一種の矛盾した変化も生じて
いる 21。
2
政策行為:地域や国の違いに基づいて、対外政策・援助綱領・
政策報告を制定し、台湾と友好国の関係を確固たるものとして、
国交のない国との友好も発展させる
台湾が国連を脱退して以降、主要国が相次いで中華人民共和国を
中国唯一の合法政府と承認(認識、理解)したため、これに伴って
台湾の国際空間は日増しに縮小していった。友好国との二国間関係
の維持や友好国が台湾のために国際社会で声をあげるよう促すとい
った外交活動を展開する上で、常に劣勢で受身のジレンマに置かれ、
台湾の外交政策は常に「受身の対応」、「火消し」あるいは「友好国
から法外な額の援助を要求される」などの不利な状況に追いやられ、
せいぜい「自発的出撃」や「全力で目標を達成する」といった程度
21
郭篤為「外長欧鴻錬:APEC 両岸釋善意」
『中国時報』2008 年 11 月 17 日、第 A8 版;
王銘義「連戦参加 APEC 大陸仍高挙一中」
『中国時報』2008 年 11 月 21 日、第 A13
版;劉尚昀「国際政府組織 AITIC 通過「中華台北」為贊助会員」『中国時報』2008
年 11 月 16 日、第 A1 版。
-104-
2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
である。
現在、両岸がすでに「外交休戦」の黙認を有するという有利な時
機に乗じて、台湾の政府関係機関は、現在 23 ある友好国と台湾の関
係を改めて検討しなおし、異なる地域、異なる国の特性に基づき、
相互コミュニケーションの精神に則って、相対的な地域政策要綱や
国別政策文書を制定して二国間関係の共同目標を発展させるよう、
友好関係を確固たるものとし、友好の効果を増進させるべきである。
次に、中国がボリビアの部分的な債務削減をすでに決定しているこ
とから、この情勢によって台湾のラテンアメリカ友好国に対し一定
の影響を与え、台湾に対しても同様に債務削減を要求してくる可能
性もある。よって、台湾の外交援助効果と影響力を高められるよう、
台湾は比較的透明化・制度化された援助政策要綱を改めて制定する
必要がある。
3
政策の限界
(1)
中国の「活路外交」に対する見解は未だ定まっておらず、依
然両岸の黙約によるもので、議題によって違いがある
両岸が国際社会での対抗を低下させるとする「外交休戦」の理念
は、目下、両岸の黙約であり、相手に善意を示すというやり方であ
って、協議を通して確認されたものではない。よって、「外交休戦」
の黙約を過度に重視したり、依存し過ぎて外交政策を推し進めるな
らば、情勢を軽視し過ぎたために台湾の国家利益を損なってしまう
可能性もある。ゆえに、現在両岸には部分的な「外交休戦」の黙約
があるとしても、台湾は依然として中国の台湾に対する真の「善意」
をあまりに楽観的に受け止めることはできない。特に「国際空間」
拡大の問題については、元米国務次官補代理で東アジア・太平洋問
題を担当したランドール・シュライバー(Randall G. Schriver)が指
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問題と研究
第 37 巻 4 号
摘するように、米学者の観察によると、台湾と世界保健機構の問題
に関していえば、現在のところ何の進展も見られないばかりか、短
期間のうちに中国はいかなる譲歩もしないと考えられる。よって、
台湾による国際空間拡大を追及する努力は、少なくとも今後1年間、
何の楽観的な希望もないとしている 22。
(2)
現在、台湾はラテンアメリカ政策の実施を成功させる有利な
環境要因と政治・経済カードを欠いている
外交政策の執行は国家の実力を後ろ盾にしたものであり、両岸の
60 年に及ぶ外交対抗プロセスでは、国際環境の変化に伴って、台湾
が実施に成功したラテンアメリカ政策の制限は徐々に多くなった。
ラテンアメリカの軍事政権は民主化過程で徐々に勢力を弱め、台湾
は国連を脱退したことで大国と断交し、国際システムは「冷戦(cold
war)」、「冷たい平和(cold peace)」から「ポスト冷戦」へと移行し、
中国の経済力が増長したことで、台湾はラテンアメリカ政策の外交
カードを徐々に失った。ラテンアメリカの軍事政権終結とポスト冷
戦時代への移行で、反共イデオロギーカードはもはや重要性を具え
なくなり、国連から脱退したことで、例えば、安全保障理事会非常
任理事国、国連平和維持部隊の派遣などで、台湾は国連でラテンア
メリカ友好国の政策目標の実現を手助けすることもできなくなった。
次に、中国が徐々にその急速な経済成長の成果を顕にするに伴って、
台湾は経済カードの影響力を失っていった。当然ながら、民主主義、
人権といったレベルでは台湾は依然として部分的な国際社会の注目
を集めているが、こうした議題において発揮できる影響力には相当
22
劉煥彦「我争取国際空間 大陸暫不譲歩」『経済日報』2008 年 11 月 18 日、第 A6 版、
(http://udn.com/NEWS/MAINLAND/MAI1/4605357.shtml)。
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2008 年 10.11.12 月号
現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
の限界があるため、国交関係を確固としたものにしたり、外交の効
果・利益を開拓することは難しい。
(3)
「中国のラテンアメリカ政策文書」が与え得る影響
総体的に見れば、楊萬明局長が記者会見で述べたように、仮に中
国が両岸関係の平和発展を中国とラテンアメリカの未国交国との関
係発展の大前提と見なしているならば、また胡錦濤がコスタリカ訪
問時に発表した「胡錦濤の中南米訪中は台湾に対する意図はない」
というプレスリリース 23からすれば、確かに中国は台湾との外交休戦
や対抗しないという黙約を相当に示しており、中南米地域において
コスタリカと台湾の断交がドミノ倒し的な連鎖反応を起こす圧力を
緩和することができる。よって、「中国のラテンアメリカ政策文書」
が示した中国のラテンアメリカ政策の内包は、短期的には現在の台
湾とラテンアメリカ諸国の関係に衝撃を与えるには至らない。
しかし、長期的な視野から観察すれば、「中国のラテンアメリカ政
策文書」は中国がすでに戦略的かつ大局的な見地からラテンアメリ
カ関係をとらえていることを示しており、よって将来的には国際戦
略のスケールからラテンアメリカ政策を制定していくことが明らか
である。筆者はこのような政策思考は台湾にとって利害半々である
と考えている。利点は両岸によるラテンアメリカ外交競争の重要性
が、両岸関係が緩和された後には低下する点であり、国際戦略のス
ケールの下、特に経済関連の議題において、例えば、フライト、貨
物船、人的相互支援などで協力空間が拡大し、メーカーの国際競争
力が増加する可能性もある。しかし、中国が政策文書の内容を徐々
23
「中国国首訪中家元首美洲 無針対台湾意図」『中国新聞網』2008 年 11 月 17 日
(http://www.cns.hk:89/gn/news/2008/11-17/1452395.shtml)。
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問題と研究
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に着実なものとし、そのラテンアメリカへの影響力を持続的に拡大
すれば、長期的には中国の学者・郭震遠が言うような情勢、すなわ
ち台湾の友好国の「自然な転換」現象が生じる可能性もあり、そう
なれば台湾の外交的立場にとっては深刻な衝撃となる 24。
六
結論
総じていえば、台湾のラテンアメリカ政策の国家利益とその政策
環境を検討すると、台湾は現在、当該地域に 12 の友好国を有し、ま
た馬英九が総統就任後、両岸関係の緩和によりもたらされた個別案
件式の「外交休戦」の黙約があるものの、中国が打ち出した「中国
のラテンアメリカ政策」といった新情勢もみられ、目下、台湾のラ
テンアメリカ政策は依然として深刻な課題に直面している。中国の
政治的挑戦に対応し、友好国を大幅に失うという政治的利益の損失
を避けるため、現在、台湾は「友好国の維持、関係の開拓」をラテ
ンアメリカ政策の重要な政策利益と目標にしているほか、総体的な
台湾・ラテンアメリカ関係を向上させるため、実務外交強化の成果
と効果によって共同の経済利益を創造しようとしている。政策実施
においては、台湾は経済外交により友好国を繋ぎとめ、その政策手
段を対外援助、貿易を軸にした投資のサポートとしている。
将来の台湾・ラテンアメリカ政策を展望すると、両岸の国力の対
比による制限もあって、国際環境発展の趨勢は台湾に不利となる。
24
郭震遠は「将来、台湾の友好国が減少する情勢は予想できるが、これは中国が『封
鎖』した結果ではなく、現実の外交規則を示したものである。一定のレベルでは、
これは両岸の意志が転換したのではなく、正常なものである。客観的かつ冷静にこ
の情勢が生じる可能性を認識する必要がある」と語った。
「胡錦濤訪中美『非針対台
湾』
」『聯合報』2008 年 11 月 18 日、第 A10 版、(http://udn.com/NEWS/MAINLAND/
MAI1/4605395.shtml)。
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現在の中華民国の対ラテンアメリカ外交政策
中国は積極的にラテンアメリカ地域の国際組織の試みや行為に参与
している上、「中国のラテンアメリカ政策文書」の発表といった要因
により、将来における台湾のラテンアメリカ政策の実施と成果・効
果は重圧を受けると考えられる。まず、両岸が外交政策実施に投入
する政治経済力の相対からみれば、現在の台湾の経済力は中国の経
済力にはるか及ばない。次に、1960 年代末からの国際システム環境
変遷の趨勢は、概ね中国に有利な方向に発展しつつあり、この期間
には 64 事件や前ソ連の崩壊が起きたが、国際社会の主要国が関与政
策を中国政策の基調とし、中国が徐々に責任ある大国として国際社
会に参与し貢献するにつれ、台湾の対外関係開拓を制約する環境要
因となっている。さらに、中国が近年来ラテンアメリカの地域組織
に相次いで加盟している事実、例えば米州機構(OAS)の常任オブ
ザーバーや米州開発銀行(IDB)へのオブザーバー参加などは、中国
が台湾の友好国と接触する懸け橋となるばかりでなく、台湾の友好
国の外交的選択に影響を与える可能性もある。最後に、「中国のラテ
ンアメリカ政策文書」の内容からみれば、これは経済貿易協力を主
とした政策文書であるが、中国のラテンアメリカ政策の将来的発展
に対し、広範で全面的な見解を示していることから、台湾外交部の
ハイレベル関係者が注目する価値がある。
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『聯合報』
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『美国之音中文網』
『今日晩報(電子報)』
中華民国外交部
台湾中央選挙委員会ウェブサイト
中華民国総統府ニュース・リリース
中華人民共和国外交部ウェブサイト
ウィキペディア
訳:浅中三貴子(翻訳家)
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