その47 体重の話あれこれ

LIAJ NEWS-101 06.11.29 0:02 PM ページ35
体重の話あれこれ
家畜改良アドバイザー 佐藤末太郎
UV法の目標値と許容範囲
乳牛の体調を見極める一法
ステージ
目標
許容範囲
乾乳器
3.50
3.25∼3.75
のため、以前は体調を見極める手だての一つとして体
泌乳前期
3.00
2.50∼3.25
重を測るのが常識であった。多頭化された最近では手
泌乳中期
3.25
2.75∼3.25
泌乳後期
3.50
3.00∼3.50
牛馬など大型家畜で、1日の体重はどの位変わるの
であろうか。乳牛では±10
前後といわれている。そ
間暇がかかって測れないとして敬遠されるようになっ
た。これが実態とは思われるが、体重測定の効用は多
くあろうから、少なくとも泌乳ステージが変わる節目
▲
には体重を把握して牛群の管理に生かして欲しいもの
である。
検定成績表に示されるように、必要な養分要求量は
体重・乳量・乳脂率により示され、それを目安にして
実際のエサくれでは充足率105%、110%などの給餌を
寛骨がV字に見えたら≦3.00
腰角と坐骨を見る
(腰角の脂肪が先に抜ける)
心掛けておられる方が少なくないものと思われる。体
重の報告がないと養分要求量の算出はできないが、折
角報告されるのであれば出来るだけ正確な測定値を期
待したい。測尺に当たっては、牛の頭をキ甲部の高さ
に上げさせ、推定尺は指3本が差し込める程度に締め
て測ることが基本である。
また、TMRの給与などで全牛に同じ体重が記入さ
れて報告される事例も見られるが、これでは的確な活
腰角
坐骨
丸め
3.00
2.75
角張る
丸め
2.50
角張る
2.25
骨と皮のみ
用はおぼつかない。
体重測定ができない場合は、観察をこまめに実施し
牛の状態の変化を察知すること、実用的な方法では体
脂肪量の違いが分かるボディコンディション(BC)
寛骨がU字に見えたら3.25≦
尾骨靭帯と仙骨靭帯を見る
(尾骨靭帯に脂肪が先に付く)
による評価などをぜひ心掛けたいものである 。
仙骨靭帯
尾骨靭帯
なぜ過肥牛ではダメなのか
3.25
はっきりと見える
乳牛は健康、泌乳、繁殖が順調に推移している時の
3.50
わずかに見える
見える
栄養状態というものがある。良い栄養状態であれば、
3.75
見えない
わずかに見える
体各部の輪郭が鮮明となって外見上に表れる。輪郭の
鮮明さや毛づや、挙動や活力、食欲や反芻、乳房の色
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4.00
見えない
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下がるほど繁殖は良くない」また「分娩後半月以内に
50
以上もやせる牛は種止まりが悪い」「分娩直後の
体重を1割以上減らさない」など、経験の豊富な先達
から教わったことがある。
卵巣機能遅延牛の共通点はエネルギー不足で、不足
すれば体重が減り、繁殖に関連するP%も下がるので
体重と繁殖は密接に関連しているといえる。
人間でも「体重は女性の生殖機能に影響する」とか
「急に体重が減ると生理不順になる」といわれている
①寛骨
②腰角
③坐骨
④尾骨靭帯
⑤仙骨靭帯
ようである。欠食してスタイルを良くしたいとの願望
ほどほどにしたら、ということではなかろうか。
エサ効率や適正給与を含め、牛群管理で体重の把握
とコントロールは飼養の規模や形態が変わっても基本
的な事項。「たかが体重…されど体重」といえよう。
や張り具合、ふんの状態などを観察する必要がある。
おわりに、体重関連の余談に2∼3触れてみよう。
自群の牛たちが、泌乳ステージから推してちょうど
体重のコントロールが一番シビアなのは、体操選手の
良い栄養状態にあるのか、太っているのか、やせてい
ようである。特に女子のトップクラスではシーズン中
るのかの判断は、よく牛群を観察すれば把握できよう。
の増減は300g以内に抑えるため毎日2回測定するそう
図表で示したように、UV法(骨盤エリアの体脂肪で
である。体重を抑えないと競技成績に響き、ケガにも
BCを客観的に判定する方法)ではやせすぎの牛はス
つながるとして徹底して管理されていると聞く。
コアが2.25以下、太りすぎは4.00以上となる。牛群の
一方、女子マラソンでは走行中に2∼3
中でこれらの牛の割合が15%を上回らないよう栄養管
あり、走る前はベストよりもわずかに重い方が良いの
理の点検を行うことがポイントであろう。
だそう。高橋尚子は次のマラソンで、どう体重調整を
やせすぎの牛は乾乳前からの増し飼いが必要だが、
体重減が
図り、どんな走りを見せてくれるのであろうか。
乾乳期に太りすぎにさせるのは昔の飼い方で、弊害が
もう一つ、アメリカでは超肥満体が多く異常肥満に
多く益するところは何もない。太りすぎの弊害はエサ
よる死亡率が20年間で3倍になり、子供にも及んで大
のムダ使い以上に、代謝病(ケトーシス、乳熱、後産
きな社会問題になっているといわれる。白人と比べて
停滞、四変など)をはじめとするもろもろの疾病の元
われわれは食べたものを脂肪として蓄える倹約遺伝子
凶で繁殖成績遅延の原因ともなろう。最も卑近な例で
を多く持っているので、肥満や糖尿病になりやすい人
は、過肥牛は余分な脂肪が付いて産道が狭くなって難
種なはずだが、超肥満体が少ないのはなぜだろうか。
産のリスクが高まり、難産牛は分娩後100日以内で受
それは、日本人はインスリンの分泌能力が低いためで
胎する可能性が極めて低いことからもうなずけよう。
あるらしい。これが低いと糖をうまく体に取り込んで
肥満牛は白血球数が30%も減少することがあるとい
脂肪として蓄積できないため、体重過多でなくても糖
われ、免疫反応が低下して感染症(乳房炎、ヨーネ病、
尿病になりやすいといわれる。大食漢でも、糖尿病が
サルモネラ症など)やストレスに弱く、そのために乳
進行するとやせてくるのはそのためであるらしい。
房炎、脂肪肝、ケトーシスなどの周産期病にかかるリ
スクは高くなる。最悪なのは、肥満牛が分娩後初期に
食い止まりが起こり急激にやせ衰える脂肪肝、過肥症
候群により併発する重症の臨床型ケトーシス(Ⅱ型)
の発症などであろう。
体重が生殖機能に影響する
「体重は乾乳期に過肥な牛ほど分娩後には下がり、
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