微細気泡混入による地盤改良体の品質改善に関する研究 粘性土を対象

20270
日本建築学会大会学術講演梗概集
(九州) 2016 年 8 月
微細気泡混入による地盤改良体の品質改善に関する研究
- 粘性土を対象とした基本検討 -
深層混合処理工法
一軸圧縮強度
微細気泡
変動係数
正会員 ○ 奥山誠也* 正会員
下村修一**
〃
笹田
寛*
〃
水谷羊介***
〃
中村
博***
〃
平野
④
①発生器 ②撹拌器
聡***
粘性土
分散剤
1.はじめに
深層混合処理工法では均質な地盤改良体を造成するた
め、施工時に機械的な対策が図られている他に、粘性土
地盤において粘土粒子とセメント粒子の表面電位の違い
により生じる凝集体の形成を防ぐために分散剤を用いた
化学的対策も取られている 1)。
一方、近年多くの分野で微細気泡(マイクロバブル、
ナノバブル等)が盛んに活用されている。微細気泡は直
径数十μm 以下で水中では上昇速度が遅く消泡し難いな
ど様々な性質を持つ 2)。地盤工学の分野では、これらの特
性を生かし地盤の不飽和化による液状化対策として、微
細気泡を含んだ水を地盤中に注入する方法が試みられて
いる例えば 3)。
微細気泡は水溶液中で負に帯電していることが知られ
ている 2)。このことはセメントスラリー中に微細気泡を混
入させた場合、微細気泡は正に帯電しているセメント粒
子と互いに引き合い、セメント粒子の表面電位の低下が
期待できる。これにより、ソイルセメントスラリー中で
はセメント粒子と粘土粒子との凝集体の形成を防ぎ、分
散剤の使用時と同様の効果が期待できると考えられる。
本研究ではセメントスラリーに微細気泡を使用した場
合の効果について一軸圧縮強度とそのばらつきを対象に
既往の研究結果 4)と比較検討した。
2. 微細気泡発生装置
図 1 及び写真 1 に微細気泡の発生装置と微細気泡を水
道水に吐出した様子を示す。微細気泡の発生方法は各種
提案されている 2)が、本研究ではセメントスラリーに微細
気泡を混入させる事を主な目的としているため、撹拌せ
ん断方式を採用した。本装置は主に微細気泡の発生器と
その外周部に設けた撹拌器から構成されている。微細気
泡は発生器内のインペラを高速回転(本研究では 4000rpm)
させ、負圧によって内部に外気を自吸し、その外気をイ
ンペラによりせん断することで生成される。同時にイン
ペラ外周部に設けた多孔板からセメントスラリー内に吹
き込まれ、撹拌翼でセメントスラリー全体に拡散される。
3.実験条件
本研究では試料土に粘性土を用いた。表 1 に試料土の
配合および固化材の条件、図 2 に土の粒径加積曲線を示
す。試料土はカオリン粘土(ρs=2.748、IP=30.2)と珪砂 5 号
(ρs=2.667)をそれぞれ乾燥状態の質量比 7:3 で混合した
後、含水比調整を行った。固化材には一般軟弱土用のセ
メント系固化材(以下、固化材)を用い、試料土の質量
に対して 10%添加した。表 2 に実験ケースを示す。Case1
は分散剤および微細気泡を混入しない、比較検討を行う
基本となる条件である。
Improvement of soil cement quality by fine bubble
-Fundamental study for cohesive soil-
③通気管 ④空気取り込み口
②
多孔板
インペラ内蔵
③
①
発生器拡大
図 1 微細気泡発生装置
(a)吐出前
(b)吐出中
写真 1 微細気泡の吐出状況(水道水)
表 1 試料土の配合及び固化材の条件
試料土
固化材
カオリン粘土 珪砂5号 含水比 W/C 添加率
(kg)
(kg)
(%)
(%)
(%)
3.6
1.6
70
60
10
100
90
通過質量百分率 (%)
80
70
60
50
40
30
カオリン粘土
珪砂5号
試料土
20
10
0
0.001
0.01
0.1
1
10
100
粒径(mm)
図 2 粒径加積曲線
表 2 実験ケース
Case
1
2-1
2-2
3-1
3-2
微細気泡
混入対象
セメントスラリー
固化材用水
-
分散剤
添加率 (%)
添加対象
材齢
(日)
7,28
-
7
0.2
0.6
固化材用水
7,28
Seiya Okuyama, Shuichi Shimomura, Hiroshi Sasada,
Yousuke Mizutani, Hiroshi Nakamura and Satoshi Hirano
― 539 ―
*日本大学大学院
**日本大学生産工学部
***兼松日産農林
ることで従来著者らが同様の目的で使用してきた分散剤
と同程度もしくはそれ以上に期待できる強度のばらつき
への低減効果が確認された。本実験では外気を自吸して
おり、気泡径及びその分布範囲は制御していないため、
今後はばらつきや強度発現に対して最適な制御方法を検
討するとともに、各種土質に対する効果の検証も進める
予定である。
謝辞
本研究の実施に当たり、日本大学生産工学部の松本真和准教授に
有益な助言並びに実験の協力を頂きました。ここに記して謝意を表
します。
-参考文献1)水谷羊介:界面活性剤添加によるソイルセメントパイルの品質改
善に関する研究,日本大学博士論文,2004.1
2)柘植秀樹監修:《普及版》マイクロバブル・ナノバブルの最新技術,
シーエムシー出版,2015.5
3)山田ほか:マイクロバブル混入工法による液状化対策の検討,第
41 回地盤工学研究発表会,pp.855-856,2006.7
4)笹田ほか:グルコン酸系分散剤による地盤改良体の品質改善に関
する研究-室内配合試験に基づく強度のばらつき検討-,日本建築学
会大会学術講演梗概集,構造Ⅰ,pp.535-536,2015.9
Case
1
平均一軸圧縮強度(kN/㎡) 445
変動係数(%)
45.1
2-1
521
17
2-2
490
11
3-1
624
23
3-2
505
13
1000
一軸圧縮強度(kN/m2)
800
600
400
200
0
1
2-1
2-2
3-2
3-1
Case No.
a)材齢 7 日
Case
1
平均一軸圧縮強度(kN/㎡) 1223
変動係数(%)
24
2-1
805
16
2-2
3-1
964
9
2000
一軸圧縮強度(kN/m2)
Case2 シリーズは微細気泡を混入させた条件であり、セ
メントスラリーに混入させた Case2-1 と固化材用水に混入
させた Case2-2 の 2 ケースとした。Case3 シリーズは分散
剤を用いた条件である。なお Case1 及び Case3 シリーズは
既往の研究結果 4)を用いた。
微細気泡を混入させた供試体の作製方法は以下の通り
である。
①カオリン粘土と珪砂 5 号を混合し、含水比調整水(水
道水)を加えた後、ミキサーで 5 分間撹拌混合し試料
土を作製する。
②セメントスラリーは固化材用水(水道水)に固化材を
入れ、ハンドミキサーで撹拌混合し作製する。この際、
固化材用水に微細気泡を混入させる場合は、あらかじ
め微細気泡発生装置で固化材用水に 5 分間微細気泡を
混入させる。
③セメントスラリーに微細気泡を混入させる場合、②で
作製したセメントスラリーに微細気泡発生装置で 5 分
間微細気泡を混入させる。
④試料土にセメントスラリーを投入後、ミキサーで 1 分
間撹拌混合しソイルセメントスラリーを作製する。
⑤ソイルセメントスラリーを直径 5cm、高さ 10cm のモー
ルドに 3 層に分けて詰め、各層タッピングを行い、供
試体を作製する。
供試体は 20℃、60%の恒温恒湿下で 7 日または 28 日養
生した後、一軸圧縮試験(20 供試体)を行った。
4.実験結果
図 3 に実験ケース毎の全供試体の一軸圧縮強度とその
平均及び変動係数を示す。材齢 7 日においてセメントス
ラリーに微細気泡を混入した Case2-1 は分散剤および微細
気泡を混入していない Case1 と比較して平均強度は大きく、
ばらつきは低下していることが確認できる。固化材用水
に微細気泡を混入した Case2-2 は Case2-1 と比較して平均
強度及びばらつきともに若干低下していることが確認で
きる。固化材用水に微細気泡を混入させると、固化材と
の撹拌混合の過程で比較的大きい気泡径の微細気泡は消
泡することから、ソイルセメントスラリーの凝集を抑え
る効果は視認できない程度の小さい気泡径の微細気泡に
より発揮されると考えられる。また、微細気泡を混入し
た場合、分散剤を 0.6%添加した Case3-2 とほぼ同程度の
効果となることが確認できる。
材齢 28 日においてセメントスラリーに微細気泡を混入
した Case2-1 は Case1 と比較してばらつきは低下したが、
平均強度も低いことが確認できる。分散剤を 0.2%添加し
た Case3-1 と比較するとばらつきはほぼ変わらず、平均強
度は若干小さいことが確認できる。強度発現の遅延効果
を発揮する分散剤と同様に、微細気泡も強度発現に対し
て影響している可能性がある。ただし、微細気泡につい
ても材齢 7 日に対して材齢 28 日では 1.5 倍以上の強度増
加が認められる。
5.おわりに
本研究では、粘性土を対象とした深層混合処理工法に
おいてソイルセメントスラリーの撹拌性能を向上させ、
強度のばらつきを抑えることを目的とし、微細気泡に着
目してその効果を検討した。その結果、微細気泡を用い
1600
1200
800
400
0
1
3-1
2-1
3-2
Case No.
b)材齢 28 日
図 3 平均一軸圧縮強度と変動係数の関係
*Graduate School, Nihon University
** College of Industrial Technology, Nihon University
***Kanematsu-NNK Corporation
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3-2
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24