第9期東京都生涯学習審議会 都立高校部会 第1回

第9期東京都生涯学習審議会
都立高校部会 第1回
会議録
平成26年11月19日(水)
午後6時から午後8時12分まで
都庁第二本庁舎31階
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特別会議室26
○出席委員
岡 昇 委員
小川 愛 委員
古賀 正義 委員
村上 徹也 委員
柳 久美子 委員
渡辺 由美子 委員
○オブザーバー
太田 篤 委員
河野 久忠 委員
山田 由美子 委員
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第9期東京都生涯学習審議会 都立高校部会(第1回)
会議次第
1 開会
2 議事
(1)「社会的・職業的自立」支援教育プログラム及び中途退学者等進路支援事業の
到達点と課題について -都立青井高等学校を事例に-
(2) 都立高校が外部資源と効果的に連携を進めるための方策について
3 その他
次回の予定
4 閉会
【配付資料】
資料1
資料2
資料3
都立青井高校におけるキャリア教育を通じた学校改革の取組
(都立青井高校における)転退学状況推移及び在籍状況推移
都立普通科高校における「社会的・職業的自立」支援教育プログラムを効果的
に進めるための方策の検討
資料4
中途退学未然防止の取組と中途退学者等への「切れ目のない支援」の在り方に
ついて[課題整理]
資料5-1
都立高校が外部資源と効果的に連携を進めるための課題整理
資料5-2
学校外における学修単位認定について
参考資料
平成 26 年度
都立青井高等学校『学校要覧』
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第9期 東京都生涯学習審議会 都立高校部会 第1回
平成26年11月19日(水)
開会:午後6時00分
【主任指導主事】 定刻になりましたので、
第9期東京都生涯学習審議会 都立高校部会 第
1回を開催させていただきます。本日は、6名の専門部会委員に加え、太田委員、河野委
員、山田委員に御出席いただいております。
まず、机上の配付資料を確認させていただきます。次第、座席表、資料1「都立青井高
校におけるキャリア教育を通じた学校改革の取組」
、資料2「都立青井高校における転退学
状況推移及び在籍状況推移」
、資料3「都立普通科高校における「社会的・職業的自立」支
援教育プログラムを効果的に進めるための方策の検討」、資料4「中途退学未然防止の取組
と中途退学者等への「切れ目のない支援」の在り方について[課題整理]」
、資料5-1「都
立高校が外部資源と効果的に連携を進めるための課題整理」、資料5-2「学校外における
学修単位認定について」
、参考資料「平成26年度 都立青井高等学校 学校要覧」――事務
局が用意した資料は、以上です。本日は都立青井高校から御報告いただきますが、学校か
らは、学校案内、進路の手引き、PTA広報誌の3点を御提供いただいております。
それでは、村上部会長、議事の進行をお願いいたします。
【村上部会長】
き たん
こんばんは。この都立高校部会は全体会より人数も少ないですし、忌憚
あいあい
無く、自由に意見交換するということで、和気藹々とした雰囲気で進めていきたいと思い
ます。よろしくお願いいたします。
現在、第9期生涯学習審議会ということで会議を行っておりますが、前期である第8期
の提言を基に策定された都立高校改革推進計画の第一次実施計画の中に、現在実施されて
いる社会的・職業的自立支援教育プログラム事業と、中途退学未然防止及び中途退学者等
への支援事業についての記述が盛り込まれています。この部会では、それらの事業を今後
どのように進めていくべきかについて、皆さんに御意見を頂きたいと思います。事務局か
ら、この部会の進め方について御説明をお願いします。
【主任指導主事】
それでは、次第を御覧ください。こちらにありますように、
「社会的・
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職業的自立」支援教育プログラム及び中途退学者等進路支援事業の到達点と課題について
都立青井高等学校から御報告いただいた後、都立高校が外部資源と効率的に連携を進める
ための方策について審議していただきたいと考えております。
【村上部会長】
了解いたしました。それでは、議事に入りたいと思います。ただいま、
事務局から説明がありましたように、本日は、都立青井高等学校の藤田校長、浦部主幹教
諭、青井高校で中途退学の未然防止、進路未決定生徒の支援等に取り組まれているNPO
法人青少年自立援助センターの五十嵐さんに、お越しいただいております。
まず、都立青井高校の藤田校長から、青井高校における取組の全体像を御説明いただき
たいと思います。藤田校長、お願いいたします。
【藤田校長】
はい。改めまして、青井高等学校の校長の藤田でございます。日頃は関
係の皆様方にいろいろと御支援を賜りまして、本当にありがとうございます。私からは、
かん
この間の取組について、お手元の資料を基に御説明させていただければと思います。
資料1「都立青井高等学校におけるキャリア教育を通じた学校改革の取組」を御覧くだ
さい。青井高校は全日制の普通科高校で、各学年6クラス規模の学校でございます。学力
的には、全都的に見ても最も厳しい学校の一つという状況でございます。
生徒の居住地域は、足立区が約6割、隣の葛飾区が約2割、その他の近隣区が約2割で
す。特に、足立区から通学する生徒たちは、足立区に生まれ育ち、その後も足立区で生活
をしていくというケースが非常に多いです。
「1、都立青井高校に求められる人材育成」に
ありますように、地域の中で、地域を活性化する人材の育成を図ること、地域に貢献でき
る人材の育成を図ることを目標として、生徒たちを育てていくことが大事だと考えており
ます。
「2、都立青井高校生の実態と課題」についてですが、私が本校に赴任した平成22年
度の卒業生は150名で、
入学時の定員は240名に対し転退学率が37.5パーセントと
いう状況でした。その前年度はさらに転退学が多く、135名しか卒業生がいませんでし
た。平成22年3月の卒業生150名のうち、進路未決定のまま卒業した者、浪人、フリ
ーターやニートが31パーセントで、転退学だけでなく進路未決定卒業者を減少させてい
くことも、本校に課せられたミッションであると考えました。ただ、それまで、本校でも
何も手を打たないでいたかと言うと、必ずしもそうではありません。進路指導部や担任を
る
る
通して、
フリーター生活が将来いかに不利になるかについて、
縷々説明してきております。
ですが、生徒の中には論理的に理解するということが苦手な者や、学校以外の人の考えの
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影響が強かったりする者がいて、なかなか学校側が考えるような進路選択状況になってお
りませんでした。生徒たちの意識を変えていくためには、3年間かけてじっくりと彼らの
意識改革を図っていく必要があるのではないかと考えました。
「4、キャリア教育による意識の改革」ということで、現代社会に求められる能力を4
点挙げております。人間関係形成能力、情報活用能力、将来設計能力、意思決定能力とい
うことですが、これらの力を付けて、生徒たちに将来の展望を開かせ、就職後も会社に定
着して働き続けられるようにしていくためには、実際の体験等を通して彼らに物事を考え
させていく必要性があるのではないかということで、外部人材を活用した体験的キャリア
教育の推進という方法を考えました。では、キャリア教育を教育課程の中にどのように位
置付けるかと考えたとき、総合的な学習の時間を使って3年間継続的に指導していくだけ
でなく、全ての教科、科目、特別活動の年間計画の中にも位置付け、推進していくのが効
果的だろうと考えました。
体験的なキャリア教育の推進という観点からすれば、外部人材の活用は必須となります。
例えば、本校には高校生活の目標を自力で定められない生徒も多いため、NPO法人キッ
ズドアに御協力いただき、大学生が語る自身の高校生活や将来の目標についての話をヒン
トに自分の目標を設定させるプログラムを実施したり、社会や職業についてイメージが持
てない生徒たちに対しては、専門学校コンソーシアムTOKYOの御協力を得て、仕事を
するということを体感させたりと、いろいろな取組を行っております。また、本校の生徒
いと
は体を動かすことを厭わず、作業に非常に熱心に取り組みますが、周りの人と力を合わせ
たり、周囲の人の気持ちを読み取ったりすることは苦手なので、コミュニケーション能力
を身に付けさせるための取組も、演劇の要素を取り入れた体験型のワークショップを提供
するNPO法人ドラマケーション普及センターに御協力いただき、進めてきております。
ただ、進路未決定卒業者を減らしていくためには、キャリア教育だけを行っていれば良
いわけではないと考えております。基礎学力をしっかり身に付けさせることが大切ですし、
生活指導の面で言えば規範意識を持たせることも重要です。また、進路決定に向けて具体
的に行動させることも必要です。これらについては、以下の5番、6番、7番に項目とし
て掲げております。
「5、基礎学力の定着を図る取組」としては、授業に臨む基本的な姿勢が身に付いてい
ない生徒が授業に前向きに取り組めるよう、工夫しております。教員の授業力向上といっ
た点では、年間で3、4回、初任から4年目くらいまでの若手教員に研究授業を行わせ、
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ベテランの教員によるOJTという形で授業力を高めさせていく取組を行っています。ベ
テランの教員にとっても、若手から刺激を受ける機会になっています。また、年に3回、
授業観察を実施しています。普段の授業だけでは理解が追い付かない生徒たち対しては、
試験1週間前に考査前補習を実施しています。さらに、土曜補習ということで、今年度に
ついては年間15回ほどの土曜補習を実施しており、現在40名ほどの生徒たちが参加し
ております。資格取得も推進しており、英検、漢検、パソコン検定に加え、ニュース検定
なども実施しているところです。
頑張って英検準1級を取得した生徒も出てきていますし、
漢検は2級合格者が数名いる状況でございます。
「6、社会に通用する生活規範の確立等」ということでは、例えば、徹底した頭髪指導
に取り組んでおります。また、今年度から、ピアス禁止指導を全面的に行っております。
また、挨拶運動ということで、毎朝、生徒会の生徒たちと生活指導部の教員が校門に立っ
て、登校してくる生徒たちを出迎えるという取組も行っております。さらに、本校には家
庭の問題やメンタル面の課題を抱えている生徒たちが多くおり、そういった生徒たちへの
対応も求められます。そこで、教員一人一人がカウンセリングスキルの向上を果たしてい
くために、カウンセリング委員会が研修会を企画をしております。今年度は、アンガーマ
ネージメントということで、生徒たちの怒りの感情をどのようにコントロールするかとい
う研修会を、1学期に実施しました。また、12月には教員自身のアンガーコントロール
についての研修会も実施する予定です。それ以外には、自殺念慮を持つ生徒への対応や学
さん
習障害のある生徒にどのように対応していくか、研鑽を積んでいるところです。
「7、進路指導の充実」ということでは、浦部主幹教諭が本校に赴任してから、進路カ
ードの導入を行い、進路指導部と担任等との情報の共有化を図ってきております。インタ
ーンシップも充実してきていて、参加生徒数は一昨年が15名、昨年が23名、今年は2
8名と、徐々に増加してきていますし、
「早めの進路指導」ということで、4月、9月、1
月に面談を実施し、進路決定を促す機会を早い段階から設けております。6月頃には、三
者面談を行っております。外部機関との連携としては、企業見学会等の取組において足立
区の就労支援課の御協力を賜り、生徒たちの進路決定を進めているところでございます。
また、学校が行う進路指導に乗らない生徒については、NPO法人青少年自立援助センタ
ーの五十嵐さんに御協力いただき、毎週火曜日に面談等の支援を行っていただいています。
全般的な学校の変化というところでは、意欲的な生徒が増えてきたかと思います。先ほ
ど説明しました土曜補習についても、当初は130名の参加希望がありました。また、今
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年度からJETプログラム(事務局注:語学指導等を行う外国青年招致事業)による外国
人指導者が配置されておりますが、早速、英語クラブが発足し、英語力を高め合っていま
す。生徒会の役員選挙についても、私が赴任した22年度から、いつも信任投票を行って
いたのですが、今年度は定数7に対して11名が立候補するという状況になりました。ま
た、都教育委員会の留学生支援事業の次世代リーダー育成道場に応募した2年生が、1月
からオーストラリアに留学するなど、いろいろなことに意欲的に取り組む生徒が増えてい
ます。テスト期間中の登校風景にも変化が出てきておりまして、勉強しながら登校してく
るような生徒は、一昨年は一人もおりませんでした。昨年度は1名いたようなところ、今
年は5、
6名になったということで、
徐々に勉強に目が向いてきているかと感じています。
キャリア教育の授業は、生徒たちの評価が高いです。授業評価アンケートでは、全ての
必修科目の中で、1年生のキャリアデザインの授業が、一番評価が高いです。質問に対し
て「そう思う」
、
「まあそう思う」という肯定的な回答を選択した生徒のパーセンテージは、
「学習内容が分かりやすく工夫されているか」という質問については79.9パーセント、
「もっと学習したくなるような意欲を湧かせてくれるか」
が76パーセント、
「授業の用意
をきちんとして臨んでいるか」が80.9パーセント、
「先生の指示に従って授業を受けて
いるか」が82.8パーセントとなっております。
最後に、資料2「都立青井高校における転退学状況推移及び在籍者状況推移」を御覧く
ださい。
「2、在籍人数の推移」ですが、平成21年度から平成25年度までの各学年の在
籍者数を示しております。斜めに並んだ同じ色のセルが、同一の学年を示しており、各年
度に入学した学年の在籍者数が、卒業までの3年間でどのように推移したかを見ることが
できます。平成21年度入学の学年は、第1学年の年度末には192名、第2学年の年度
末には170名と推移し、160名が卒業しました。平成22年度入学の学年は、入学時
の240名から217名、203名と推移し、202名で卒業しております。ここ2、3
年は、約200名の卒業生を送り出すというところで推移している状況です。
以上でございます。
【村上部会長】
藤田校長、ありがとうございました。皆様、藤田校長の御説明に質問
がありましたら、自由に御発言ください。
【太田委員】
土曜日の補習で、当初130名ほどの希望者がいたのを40名にしぼっ
たということですが、これはどういう背景でそうされたのか、教えてください。
【藤田校長】
これは1年生がほとんどでした。130名もの生徒を、3、4名の教員
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と6、7名の大学生とで面倒を見ていくというのも難しいですし、最初はきちんと参加し
ていても途中で参加しなくなってしまう生徒が過去にいたりもしましたので、年間を通し
て参加できるか意思確認を行ったところ、最終的には40名ほどに落ち着いたというとこ
ろです。
【太田委員】
それは、生徒が辞退したということですか。
【藤田校長】
そうです。
【太田委員】
主に教科の補習で、ここにはキャリア教育は含まれていないですか。
【藤田校長】
それは入っていません。学び直しとして自習し、分からないところを教
員や大学生に聞けるというシステムになっています。
【太田委員】
【事務局】
ありがとうございます。
その点に関しては、資料3の説明の際に、事務局からも問題提起させてい
ただきたいと思っております。
【村上部会長】
実は、専門部会の委員の中にも、青井高校を支援されている方がいら
っしゃいまして、この後の議事の中でも、取組については随時、御説明いただけると思い
ますので、議事を進めていきたいと思います。
先ほども説明したとおり、社会的・職業的自立支援教育プログラム事業と、中途退学未
然防止及び中途退学者等への支援事業という二つの枠組みで、青井高校に対する支援が行
われています。まずは、資料3に基づいて、社会的・職業的自立支援教育プログラム事業
についての説明を事務局からお願いいたします。
【事務局】
生徒の「社会的・職業的自立」を、都立高校改革推進計画の第一次実施計
画の中に盛り込み、社会的・職業的自立支援教育プログラムを系統的に導入する高校を増
やそうと、これまで取組を進めてきたという経緯があります。
そうした取組に最初に賛同してくださったのは、柳委員が当時学校長を勤めていた芦花
高校でした。私どもの中では、芦花高校での取組は非常にうまくいったと評価しておりま
すし、生徒たちの様子も良い方に変容していったと思っています。その手法を、より多く
の高校で展開できないかと考え、次の対象校として青井高校への支援を開始したという経
緯がございます。芦花高校でうまくいった方法を、いわゆる進路多様校でも通用するよう
にするにはどうすべきか、ということを考えながら、藤田校長、前任の根本副校長、現任
の加藤副校長、浦部主幹教諭と私とで、3年間を通して行う系統的なキャリア教育プログ
ラムを作ってみようという試みを、平成25年度から始めました。
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資料3右側に、キャリアデザインという名称で実施している総合的な学習の時間の内容
を記載しております。1単位の時間なので、基本的には35コマが持ち時間で、それらを
どのように割り振るかということになります。場合によっては、2時間続きで行う授業も
あります。藤田校長、浦部主幹教諭、私で相談をして、年間35時間の組立てを考えてい
きました。
1年生のプログラムで最も力を入れたのが、
ドラマケーションプログラムです。
ノンバーバルなコミュニケーションから始まり、ドラマ的な手法を用いて徐々にお互いを
理解していき、人間関係を形成することの意味を体感してもらうプログラムです。このプ
ログラムは継続して実施するほど効果があるのではないかということで、2時間続きで4
回ほど実施します。先ほどの藤田校長の御報告にもありましたように、生徒にも好評のプ
ログラムでした。先日、ドイツの職業教育プログラムの指導者たちが青井高校を訪問した
際、昨年度にこれらのキャリア教育プログラムを受けた2年生の6名に、ドイツの指導者
の前でキャリア教育プログラムの感想を語ってもらったのです。6名の生徒のうち4名は、
一番印象に残っているプログラムはドラマケーションだと話していました。同じクラスで
も、なかなか生徒同士で話ができず、半年たっても話をしたことがないクラスメイトもい
たような状況であったのが、ワークに取り組み、クラスメイトの意外な一面を見付けてい
く中で相互理解が深まり、クラスの結束が深まったと、生徒たちが話していました。印象
的だった感想に、
「クラスのみんなで、これほどまで心から笑ったのは、初めてだった」と
いうものがありました。
キャリア教育と言っても、1年生の時点では、具体的な職業を意識させるよりも、学校
を生徒たちの生活の拠点にさせるということに重点を置きます。中途退学者調査の結果を
見ても、これは非常に重要なことです。生徒同士の関係性を培うことが、第一だろうと考
えています。生徒相互の関係が形成されれば、友達同士で影響し合いながら、恒常的で良
好な人間関係を築いていけるのではないかという期待もあり、関係性を深めることに主眼
を置いたプログラムを作成しました。ただ、学年が上がれば卒業後の進路についても考え
ていく必要が出てきますし、普通科は職業学科と異なり、職業教育に関する取組が弱いと
いうこともありますので、限られた時間の中でも意識付けを行っておく必要があるという
ことで、3学期の後半に、NPO法人育て上げネットの御協力の下、金銭基礎教育という
プログラムを実施いたしました。1年生の最後には、NPO法人キッズドアに登録してい
る大学生に来てもらい、2年生としての学校生活の目標を設定させました。本当ならば、
順次、2年生、3年生とプログラムを積み上げていきたかったのですが、今年度は1年生
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のプログラムのブラッシュアップをしてきたというのが現状です。
本日、審議していただきたいテーマは3点ございます。
まず、総合的な学習の時間の3単位は各学年に1単位ずつ振り分け、3年間かけて系統
的な学習を進めていくようにしておりますが、系統的なキャリア教育の実施を考えたとき
に、学年が上がるにつれて、カリキュラムをどのようにステップアップさせていけば良い
かということについて、御意見を賜りたいと考えています。
2点目は、普通科のカリキュラムの中に、キャリア教育、職業教育をいかに位置付ける
かという問題についてです。高校卒業には74単位以上が必要ですが、普通科のカリキュ
ラムの中では、キャリア教育や職業教育、働くことや社会的に自立するということを意識
的に学ぶ機会を得にくいという指摘が多くあります。この問題をどう乗り越えていくのか
ということも、課題となります。普通科の就職希望の生徒を見ていると、3年生の4月、
5月頃に先生に急かされて、夏前には何とか志望先を決め、夏休みの間に企業見学を行い、
9月16日の解禁日から、就職選考を受けたり、ハローワークの斡旋就職に入ったりして
いくという形になります。そういった一連の流れにうまく乗ることができる生徒と、そう
でない生徒が出て来るわけですが、うまくいっている生徒についても、非常に短期間で集
中的に就職活動をしますから、自分の将来について、しっかりと考える時間が取れないと
いう問題もあります。あれだけの短い期間で、高校生が自分の今後の人生について考えを
まとめるというのは、やはり難しいです。ですから、そうしたことについて考える機会を
早い段階から提供するために、キャリア教育、職業教育的な要素を教育課程にどのように
取り入れていくべきか、課題として議論していただきたいと思います。例えば、2年生で
は2単位の必修選択があり、3年生では2単位から10単位の自由選択がありますが、そ
れらの選択科目にはキャリア教育、職業教育的な要素を十分に取り入れられていないとい
うのが現状です。こうした選択科目にキャリア教育、職業教育的な要素を入れ込めないか
と考えたとき、選択科目の設定の仕方や生徒の進路希望に応じた科目提供の在り方などに
ついて、審議していただけたらと思います。
ここまではどちらかと言えば、正規の教育課程内の話でしたが、3点目は、教育課程外
の部分も含めた学校活動全体で、外部人材の支援を活用するための方策について御検討い
ただきたいと考えております。授業の中で外部人材と出会うということも、もちろん有効
ではありますが、それ以外の部分でも、様々な形で良きロールモデルとなるような大人た
ちと出会える機会を、何とか作っていきたいという考えから、先ほど話題に上りました土
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曜補習講座なども実施してきております。藤田校長に御説明いただいたとおり、授業の補
習という意味合いも、もちろんありますが、良きモデルとなる大学生に出会い、いろいろ
な話をすることで、自分の目標を考える良いきっかけになるのではないかと期待しており
ます。渡辺委員が理事でいらっしゃるNPO法人キッズドアにも御協力いただき、実施し
ております。また、外部連携の例としては、小川委員が所属されていらっしゃる日本アイ・
ビー・エム株式会社に御協力いただき、若手社員の方にメンター的な役割で3年生対象の
進路ガイダンスにサポートに入っていただいています。大変良い効果が上がっていると聞
いています。
そのようなことを含めて、外部資源の導入で学校がどのように変わったのかということ
や、今後の課題について、浦部先生からお話しいただければと思います。
【浦部主幹教諭】
改めまして、都立青井高校進路指導部主任の浦部と申します。よろ
しくお願いいたします。本日は、青井高校を支援してくださっている、NPO法人キッズ
ドア、日本アイ・ビー・エム株式会社、NPO法人青少年自立援助センターのみなさんが
いらっしゃるということで、日頃、大変お世話になっております。ありがとうございます。
ただいま、いろいろと御説明いただいていたところですが、私が着任して以来、本校で
は様々なことが劇的に変わってきております。今まで学校の中で起こり得なかったという
ようなことが、たくさん起こってきています。
具体的には、外部資源と連携したキャリア教育を実施したことです。大学生約40名を
招いて教室内でグループワークを実施したり、専門学校に職業体験講座を実施していただ
いたり、ドラマケーションというコミュニケーション能力育成プログラムを継続的に取り
入れたり、金銭基礎教育を行ったりしました。キャリア教育に割く時間の約半分に、外部
人材の協力を得ました。生徒たちの反応は、すこぶる良いものでした。生徒たちが記入す
る感想文からも、生徒たちの印象に強く残っていることが確認できました。
しかし、教員の中には、このキャリア教育の取組を必ずしも好意的に受け止めていない
者も、少なからずおります。その理由は様々ですが、
「外部の者が教育活動に関わること自
体、教員が行う生徒指導に悪影響を与える」とか「本校の生徒の実態を外部の人たちの目
に晒すこと自体が、恥ずかしいことである」とか、
「そもそも外部人材を入れること自体、
余計な仕事を増やすことである」というのが大方の意見かと思います。
外部資源を活用した授業は、学校長が策定した学校経営計画に基づき、進路指導主任で
ある私と教育庁地域教育支援部生涯学習課の担当の方とで相談しながら、具体的な内容を
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詰めてきたものです。ただ、多くの教員の目には、平成25年度当初から何の予告もなく
導入されたもののように映り、そのことに対する驚きがあったのかもしれません。それで
も、若手や中堅の教員たちの中には、外部資源を活用したプログラムを生徒とともに体験
していく中で、これまでの学校の教育活動の中では見ることができなかった生徒の変容に
気付き、自らの認識を改めようとする者も出てきました。しかし、教員全体では共有でき
ていないというのが現状です。当初は、外部資源を活用した教育プログラムを3年間で系
統的に実施していくという方針だったのですが、平成26年度は、学年団の合意を得られ
じ くじ
ず、現2年生のキャリア教育プログラムを発展させることができず、忸怩たる思いを持っ
ています。つくづく、教員側の意識が変わらなければ、真の学校改革は進まないと痛感し
ているところです。
【事務局】
浦部先生、ありがとうございます。御発言の最後にもありましたように、
校内体制の整備は、事務局としても課題だと考えています。この点について、是非、岡委
員や柳委員からもコメントを頂けたらと思います。
【村上部会長】
ありがとうございました。ただいまの御報告を受けて、いかがでしょ
うか。実際、青井高校に支援に入っていらっしゃる委員もいらっしゃいますので、御自身
の取組の説明、補足でも結構ですし、御質問でも結構です。また、先ほど事務局から問題
提起のあった三つの課題についてでも結構です。自由に意見交換したいと思います。
【小川委員】
審議に当たって、青井高校など重点支援校に指定されている学校での方
策を考えていくべきなのか、それとも都立高校全体に普遍的に横に展開していけるような
案を考えていくべきなのか、どちらに主軸を置けば良いでしょうか。
【事務局】
基本的には、前者だと思っています。やはり、学校ごとの個別具体的な課
題を解決していくことの積み重ねによって、一般的な方策が導き出されるのではないかと
思います。学校は組織立っているようで、そうではないので、個別課題を考えていくこと
の積み重ねの中で、改善の糸口を見付けていきたいと考えています。
【村上部会長】
今日の次第にもあるように、前半は青井高校での事例についての議論
を行い、後半に横展開についての議論も少し行えればと思います。ただいまの時間は、個
別、具体の話ということで、お願いいたします。
【小川委員】
青井高校に支援に入ってみて、
個別対応が非常に大変だなと思いました。
弊社のアメリカ本社では、高卒以上、大卒以下の人たちの就労支援に取り組みはじめてい
て、
新しい教育モデルを作っているのですが、日本には既に高等専門学校などがあるので、
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それができません。何が課題になるのか、生涯学習課の担当の方に相談したところ、青井
高校を御紹介いただき、担当の先生ともいろいろお話をさせていただきました。
弊社はIT企業でグローバルに展開しているので、スーパーサイエンスハイスクールや
スーパーグローバルハイスクールで講話をさせていただくことが多いです。今回お話いた
だいた青井高校は、これまで弊社があまり支援に入ってこなかったエリアの学校でしたの
で、どんな話ができるのか、誰を連れていけば良いのか非常に悩みました。人選が非常に
大切だと思いましたので、いろいろな方と相談して決めましたが、ちょうど適任だという
社員がいて、実際に学校で話をしてみても、うまく生徒たちに興味を示してもらえていま
した。
質問しておいて何なのですけれど、そう考えると、やはり都立高校全体で普遍的に何か
できるというわけではなく、その学校に必要ものが何なのかを考え、どのような人を企業
としても派遣できるのかということをカスタマイズして丁寧にやっていかないと、解けな
い課題なのだろうと、このエリアについては強く思っています。
【村上部会長】
実際に学校に入っていただいた方は、たくさんいらっしゃる社員の中
う
でも、
キャリアパスが複雑だったり、
紆余曲折を経て今があるといったような方でしたか。
【小川委員】
キャリアパスが複雑というよりも、
「学校の進路が真っ直ぐ来なかった人
だね」と言われるぐらいにユニークな進路を辿ってきた方です。青井高校の生徒と同じよ
うな環境にいらしたこともあったようですが、一念発起をして、その高校で初めての国立
大合格者になったような努力をした人でした。
【渡辺委員】
青井高校の支援に入らせていただいているNPO法人キッズドアの渡辺
です。
昨年と今年のキャリアデザインの授業の中で、
「高校生活を考える」というワークを実施
させていただいています。大学生が入るワークなのですが、大学の時間割が確定するまで
は大学生の都合がはっきりしないので、最初にこのお話を伺ったときには、できれば2学
期に実施したいと申し上げました。しかし、入学直後の緊張感が無くなり気持ちが浮いて
しまう前に、高校時代の経験を大学生に語ってもらうことで、高校を有意義に過ごしてい
くための意識付けをしたいという学校の考えを伺い、それならばということで、頑張って
4月に実施しています。大学生にとっても非常に勉強になりますし、生徒さんも本当に真
面目に聞いてくれています。授業後、別の部屋に大学生を集めて反省会をやらせていただ
くのですが、授業を受けた高校生が大学生と話したくて反省会が終わるまで待っていたと
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いうようなことがあると、
授業に入らせていただく価値があったのだとうれしく思います。
また、土曜日に授業補習の学習会を行っているのですが、昨年は参加人数が一桁だった
ところ、今年は130名もの希望者がいると聞いて、とても驚きました。ボランティアの
大学生5名から10名ほどで実施していますので、面倒を見られる生徒は40名が上限か
と思います。生徒に、いかに多く声掛けをできるかというところが重要になるので、分か
らないところがあって手を挙げた生徒を教えるというやり方では駄目で、様子をずっと見
て回って、こちらから声を掛けるというやり方にするには、やはり適正な配置数がありま
す。そうは言っても、1学期が終わって夏休みが過ぎると、参加者が一気に減ってしまう
のではないかと思っていたのですが、2学期も継続してたくさんの生徒が来てくれたので、
大学生も喜んでいました。私が様子を見ていても、非常に真面目に取り組んでいて、勉強
する場としてきちんと機能していると思います。大学生が他の生徒の対応をしている時な
どに、生徒同士で教え合う場面もあったりもして、非常に良いと思っています。
1年生のキャリアデザインの取組が成功しているのは、まさしく浦部先生がおっしゃっ
ていたように、自分たちのために何かをしてくれる大人がいるということに、生徒が気付
けるということが大きいと思います。それまで、あまり脚光を浴びずに過ごしてきた生徒
たちが青井高校に入学して、大人が自分たちに対していろいろなことを一生懸命にしてく
れるということを経験すると、とても心に響くのだろうと思います。この1年生のカリキ
ュラムの設計は本当にすばらしいと思いますし、1年生で土台を作った上で、2年生、3
年生で、職業意欲や進学意欲など将来に対する意識につなげていくことができれば、その
積み重ねが大きな効果を生むのだろうと思います。やはり、3年間継続して、いろいろな
外部の大人が働き掛けをしてあげれば、本当にすごい成果が出るのではないかと、実際の
現場を見ていて思います。
配付していただいたPTA広報誌に、平成25年度の進路状況報告があり、女子の「そ
の他」が39名いて、恐らく、この生徒たちが進路支援のターゲットになるのでしょうが、
何故進路が決まりにくいのか、
どうすれば良いのか、具体的に考えていければと思います。
そういったアプローチをすることで進路未決定者が減少していけば、それが学校のスタイ
ルとして定着していくと思うので。
【事務局】
そちらについても、資料4との関係で議論を深めていただけると、ありが
たく思います。
【村上部会長】
他に、ございますか。次の議事に入ってよろしいでしょうか。また後
-15-
で御意見を頂いても構いませんので、進めていきたいと思います。
それでは、進路未決定者支援や中途退学未然防止の取組について、資料4の説明をお願
いいたします。
【事務局】
続いては、実際に青井高校に入って活動していただいている、NPO法人
青少年自立援助センターの五十嵐さんに御報告いただきます。その前に、中途退学未然防
止及び中途退学者等への支援事業について、説明させていただきます。
こちらの事業は、都立高校生の中途退学を未然に防止するとともに、中途退学者や進路
未決定卒業者に対して切れ目のない支援を行おうというもので、第8期生涯学習審議会の
提言を基に施策化されました。
施策化に当たり、まずは実態を把握しようということで、中途退学者を対象にアンケー
ト調査を行い、また、古賀委員に御尽力いただき約50名の方にインタビューをさせてい
ただきました。そうして得られた知見を踏まえ、平成25年度から、区部と市部で5校ず
つ対象となる高校を選定し、中途退学の未然防止と進路未決定者の在学中の進路決定を目
指した取組を、モデル事業として始めました。区部に所在する学校については、河野委員
が所属されているNPO法人青少年自立援助センターに事業を委託し、五十嵐さんをスタ
ッフとして派遣していただいています。
事業実施によって把握した課題を整理したものが、資料4です。平成25年度は10月
から事業を開始し、約半年間、取り組んできました。平成26年度は、4月当初から開始
しております。就職活動中の生徒や進路未決定の生徒に、在学中の進路決定を目指して支
援を行い、昨年度は、進路が決定していなかった生徒の約6割が、卒業までに進路を決定
することができました。
普通科高校における進路指導において、就職指導というのは、なかなか大変な問題のよ
うです。浦部先生のように、就職指導もできる進路指導の主幹教諭は、それほど多くない
です。初めて進路指導の担当になったという先生も多く、進学指導は得意な先生も多いと
思いますが、就職指導には手が行き届かないという学校も少なくありません。商業高校や
工業高校と比べると決定的に弱いと感じております。教員が指導力を向上させることが第
一ではありますが、30人から40人ほどもいる進路未決定の生徒の対応を担当教員が一
あっせん
人で行うというのも限界があります。高校の就職斡旋は非常に短期間で行われるため、ど
うしても就職希望の意思が明確な生徒のサポートが優先されます。進路未決定の生徒の全
員にサポートが行き渡らない場合もあり、個別支援という観点から五十嵐さんに頑張って
-16-
いただいている状況です。
進路未決定者への対応については、それなりに成果が上がってきたと評価できるのです
が、もう一つの大きな課題である中途退学未然防止の取組については、あまり進んでいな
いというのが現状です。進路未決定の生徒には一定の対応ができているのに対し、中途退
学者への対応が進んでいない理由は、端的に言うと、進路未決定者になりうる生徒を層と
して把握できる仕組みが校務分掌上、整えられているのに対し、中途退学者を組織的に把
握し、対応していくための仕組みは存在していないためです。
3年生の年度当初に進路希望を調査し、大学進学希望、専門学校進学希望、就職希望、
希望が定まっていないという四つに大きく分類されます。進路未決定卒業が予測される生
徒の層については進路指導部で把握できるため、組織的な対応が行いやすくなっています。
進路未決定者の中にも、教員で対応可能な生徒と、外部人材の支援が必要な生徒とがいま
すので、後者に対して集中的に支援を行っています。個別支援として、面談や気軽に話を
する機会を設けたりすることで、進路未決定者については対応していけることが分かりま
した。外部資源との連携の際には、進路指導部が窓口として機能し得るというということ
が確認できたのも、モデル事業の成果と言えると思います。
その一方で、中途退学者に関しては、基本的にはその都度、クラス担任が対応すること
になります。1年生の早い時点で退学してしまうケースも多く、個々の担任を通じてしか
アプローチできないという課題が、モデル事業を進める中で見えてきました。入学後、す
ぐ学校に来なくなり、欠時数超過で進級不可となった時には、ほとんど連絡がつかなくな
っているというような弱いつながりしか無い状態で、中途退学者にアプローチするという
のは非常に難しいです。
担任の先生は、生徒に向かって仕事をしているという意識が強く、
外部との窓口になりにくいということもありますし、そこにいかに切り込んでいこうかと、
課題意識を持って取り組んではおりますが、なかなかうまくいっていないという状況です。
こうした課題をどう克服するか、御意見を頂きたいと思います。
就職ということで言えば、青井高校は生徒の進路が多様な学校ですが、約3分の1もの
生徒が就職を希望します。先ほども申しましたように、選択科目や総合学習に工夫をする
ことで就職を意識した個別アプローチを実現できないかと考えています。就業に関する意
識付けについて言えば、都立足立東高校の取組では、実際の就職前に職業体験をして経験
値を高めていると、早期離職が抑えられるようです。職業体験の機会をどのようにして作
るかということや、意欲がない生徒を現場に出すというのは難しいので、生徒のモチベー
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ションをどのようにして高めさせるかということも、大きな課題かと思っています。本日
の審議会に、産業労働局雇用就業部能力開発課の職員が同席しておりますのは、職業体験
の機会提供という点について職業能力開発センターの協力を得られるということなので、
今後さらに調整を進めていこうと考えております。今後、政策提案を行う際には、職業訓
練機関の活用等も議論に乗せていきたいと考えている次第です。事務局からの説明は以上
です。
それでは、五十嵐さんに御報告いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
【五十嵐氏】
はい。では、改めまして、学校の訪問をさせていただいております五十
嵐と申します。よろしくお願いいたします。
まず、進路指導のラインに乗ってこない生徒の支援について、お話しさせていただきま
す。どのような生徒を対象としているかというと、進路指導室に一人で行けない生徒が、
ほとんどです。一人で行けない理由としては、「今まで入ったことのない場所だから怖い」
といったものや、
「何故だか分からないが、今までの学校生活の中とは雰囲気が違う場所な
ので、入るのは怖い、嫌だ」というものが多いです。そういった生徒の多くは、将来設計
ができておらず、今、この瞬間を楽しみたいという思いから、アルバイトや遊びに走って
しまいます。アルバイトでお金を稼ぎたい生徒が、会社見学や就職試験を「アルバイトの
方が大事だから、そこにぶつからないように、何とかお願いして日付を決めてくれないか」
といったことを平気で言うこともありますし、ゲームが好きな生徒が、
「ゲームの大会がこ
の日にあるから、学校には行かない」と言ってきたりもします。今を楽しみたいがために、
将来について全く考えず、進路指導室に行かないのだろうと思います。
生徒の特徴としては、すぐに答えを求めることが多いです。就職活動では、自分で将来
について考え、業種・職種を決めていきますが、生徒たちにとってはそれが苦痛で、大変
な作業なため、すぐに答えをもらえないと「求人探しなんかもういいや、就職なんかしな
くていいや」と考えてしまう生徒も多くいます。就職希望の生徒だけではなく、専門学校
や大学への進学を希望する生徒の場合も、同様です。相談を受けた生徒の中で、そうした
傾向が特に顕著だった子は、専門学校のパンフレットを突然持ってきて、
「この中からいい
ところ探して。私そこ受けるから」と言ってきました。
「僕が行くわけじゃないから、君が
考えないといけないよね」という話はしたのですが、なかなか納得しない状態でした。
また、知識不足ということもあります。仕事内容が分からない。例えば、接客などは分
かるようなのですが、営業がどんな仕事をするか知っているか尋ねてみると、もう疑問符
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しか出てこない。営業くらいは知っていてほしいと思ってしまうのですが、こういった具
合で基本的な職種すらも分からないため、なかなか決めるのが難しいということはありま
す。
また、そういった生徒たちは、就職や進学の話についての相談を、1回の面談でまとめ
てできません。何故かと言うと、先ほど藤田校長がおっしゃったように、集中力が続かな
いからです。1時間の面談の中で、就職についての話をできるのが長くても15分から2
0分で、残りの40分は雑談をするというのが大半です。
場合によっては55分が雑談で、
進路相談は5分だけということもあります。もちろん生徒の中には、たくさん就職の話を
して1時間丸々使ったということもあるのですが、そういった生徒は、次の相談につなが
らず、進路指導室にもつながらなくなります。
「働けって何度も言われる、もう面倒くさい
から就職なんか考えなくていいや」と考えてしまう場合があるので、常に生徒の様子を見
ながら、やる気を上げさせている状態です。また、進路指導部から面談の予約をしてもら
っていますが、無断キャンセルが当たり前です。6人の予約が入っていても、実際に来た
のは3人だけだったということもあります。来ない生徒を無理矢理ぐいっと引っ張ってき
たとしても、その時は話せますが、次につながらない。面談にも進路指導室にも来なくな
ってしまうと支援が難しくなってしまうため、そういったところは傍観するしかないかと
思ってやっています。ここまでが進路指導についてです。
中途退学防止については、青井高校では、午前中に保健室で待機し、いらいらしてしま
って授業に出られない生徒や、遅刻して来た生徒の対応をしています。そこで、アルバイ
トの働き方や、日常生活、学校生活の悩み、人間関係、恋愛のことなど、いろいろ話をし
ています。
何故、アルバイトについて話すのかと言うと、目先のことにしか集中できないため、働
けるときは働きたいという考えで、学校があるにも関わらず13連勤といったシフトをこ
なす生徒がたくさんいるのです。そういった生徒に対して、
「アルバイトを頑張りすぎて学
校を遅刻したら、もったいないよね」ということで、こういうときには休みを入れた方が
良いのではないかなど、アドバイスしています。
日常生活、学校生活については、一人親家庭で保護者が自分たちをサポートしてくれな
いといった相談を受けます。子供が生徒一人だったらいいのですけれども、その生徒に弟
や妹がいると、その子たちの世話をしなければならなくなり、そちらの方を優先して、学
校に来なくなってしまうことがあります。
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人間関係については、SNSなどによる問題が多いです。人との関わりが苦手なため、
すぐにトラブルが起きてしまうため、修復の仕方をアドバイスしたり、それが原因で精神
的に落ち込んでいる生徒に対してアドバイスしたりしております。恋愛については、振ら
れたりした時のダメージがものすごく大きいので、学校内でそういったことがあると、
「あ
の人と会いたくないから、もう学校に行けない、クラスにいられない」という感じになっ
てしまうことがあるので、そこについての考え方などをアドバイスします。また、人との
関わりがそもそも苦手な人同士が付き合っているので、
けんかもかなり多いです。
例えば、
1週間前にけんかしていたのが1週間後に仲良くなって、「ああ、じゃあ、よかったね」っ
て言ったにも関わらず、その1週間後に訪問したら、またけんかしているということがあ
るので、そこについての考え方というのも、少しお話させてもらっています。
以上のような取組をしていますが、先ほど事務局の方がおっしゃったように、どれが中
途退学防止につながっているかということは、こちらも分からない状態です。私自身は週
に1回の訪問ということもあり、引きこもりや不登校になっている生徒の登校のタイミン
グと、僕の訪問日がちょうど重なって会えるということは、ほとんどありません。また、
突発的に退学してしまう生徒もいて、話を聞いた1週間後には退学していたということも
あるので、つながりを持つこと、維持することに手を焼いている状態です。そういったと
ころで、中途退学防止というのは、まだまだうまくいっていない、難しい状態であると感
じております。
【事務局】
ありがとうございました。
青井高校においては、中途退学防止を中心に据えて動いているというよりも、中途退学
等の問題が発生したときに初めて生徒と接触しても意味が無いだろうと考え、日頃から生
徒との関係を作ろうと、五十嵐さんが自らアイデアを出して様々な取組をしてくれていま
す。例えば、朝の8時には学校に行き、登校の時間帯には校門に立って生徒に顔を覚えて
もらおうとしたり、また、養護教諭が非常に協力的なので、面談時間の前に保健室にいて、
保健室を利用する必要がある生徒や、話し相手が欲しくて保健室に来ている生徒たちの対
応をして、そうしたところから関係を作っていったりと、努力されています。個別面談を
行うだけでなく、学校のいろいろな場面に入り込んで活動しているのが、非常に効果的だ
と思います。例えば、神奈川県の田奈高校は、若い外部スタッフがいて他愛もない話がで
きるフリースペースのようなものを、図書室に設けています。学校の中にありつつ教室で
はない空間をうまく利用する方法も、効果的だと思います。いずれにしても、他の4校に
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比べ、青井高校では様々な方法でのアプローチができているといえます。
【村上部会長】
五十嵐さん、ありがとうございました。御質問、御意見など、いかが
ですか。
【古賀委員】
非常に様々な方法で取り組まれていて、それ自体を、まず評価しなくて
はと思います。また、資料4にあるように、私は常々、中途退学防止の実践だけに特化で
きず、
「インテーク」というか、相手の状況を把握して対処法を考えるといった作業が必要
になっていくと言っていましたが、それに見合うようなものを行っていただきうれしいで
す。進路未決定の生徒の多くを、進路決定に結び付けることができたということも、評価
したいと思います。
今の話を聞いていても、やはり「中退者支援」は短期決戦型です。恐らく、入学後の2
か月間――僕の予測では連休明けの1か月間、6月までに全てが特化していると思います。
もともと、不登校の経験者や非常に深刻ないじめの体験者も多い。それは、いじめていた
方もいます。やられていた方ばかりとは限りません。いずれにしても、学校における「外
傷体験」のようなものを抱えた生徒が多く、最初の1、2か月で学校に見切りを付けて、
明日行くのが嫌だと思えば来なくなってしまう人たちも多い。こういった人たちを捕捉し
て何かしたいなら、率直に言ってアウトリーチするしかないです。「家にも出向く」という
ことです。学校だけで対応するというのは難しいので、彼らのいるところへ行った方が早
いというのが、インタビューした時に受けた印象です。そういう点では、ある種のケース
ワーク的な作業になっていくので、そうした発想を持って取り組んだ方がうまくいく可能
性があると思います。中学時代の情報から、ある程度の予測をして対象を定め、いわゆる
「ターゲットアプローチ」を行い、そこに特化したアウトリーチ戦法で対応するというこ
とになるだろうと思われます。ですから、今、五十嵐さんが取り組んでいる場では大変な
作業になるところもあると思うので、もしかしたら、既存の仕事の範疇で言えばスクール
ソーシャルワーカーを使っていくという方法もあるかもしれないと、話を聞きながら思い
ました。
ただ、先生方も五十嵐さんも、非常に適切に生徒の状況を把握していらっしゃると思い
ます。生徒の状況を知るということでは、私は必ず『桐島、部活やめるってよ』という映
画を見ろと言っています。あの映画のドラマ性の無さにドラマを見出せない限り、絶対に
カウンセリングはできません。あの話の中に出てくる、枝葉末節な日々の事々の一つ一つ
の中に、
何かにこだわって学校への関わり方が変容してしまうということが描かれている。
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桐島が部活をやめたということは単に幻想で、やめたかやめないかも分からないまま終わ
っていくわけですが、何か少し変なことが起きたというだけで、みんなこそこそと動き回
る。桐島のガールフレンドは迷い、桐島がいなくなったバレー部はスクールカーストの揺
らぎに迷い、一方で桐島と全く縁のない映画部の連中はオタッキーに自分たちの勝手なこ
とをし、その一つ一つを教師がつないでいくという構造になっている。あの映画で、生徒
でありつつも生徒であることに関心を持たない子供たち――「脱生徒役割」と言っていま
すが、友達との楽しいエピソード、昨晩のドラマの評価についてのエピソードなど、生活
のアイテムとしてのエピソードを拾いに学校に来ている子供たちの姿を見ることができま
す。そうした「学校消費者」としての子供たちを、見ていただくことも必要です。昨日も
授業で少し視聴して、この映画から何が読み取れるか学生に尋ねたのですが、およそ「い
やあ、桐島がいないと大変ですね」といった感想で、
「おまえら駄目じゃないか」という感
じです。笑わせようと言っているわけではなくて真剣に言っているのですが、要はそのぐ
らいの非常に小さい日常生活なのです。社会学では「現在指向」、
「今ここ指向」という言
葉を使います。左右されやすい彼らの価値観や生き方を知り、それに見合う対応をしなけ
ればならないでしょう。そういう意味で、先ほど居場所づくりという話もありましたが、
学校消費者としての彼らの学校消費のイメージの中に、進路に関するいろいろな情報や考
え方を埋め込むという、反転した作業が要求され始めていると思います。世話を焼いてい
かざるを得ないということになりますが、同時にいろいろなメッセージを込めないといけ
ないという、なかなか難しいところがあります。例えば、コミュニケーション能力を向上
させようと、社会的・職業的自立支援教育プログラムのドラマケーションを実施すること
になったとして、その価値のようなものを、彼らのアイテムのどこへ置いてやるかが問題
です。彼らの持つ価値序列の中に、教育実践の見方というようなものを形成していくとい
うことが、非常に重要になってきます。彼らは意外にも真正直ですから、こちらの言うメ
ッセージを正面から受け止めてしまう要素も強いです。間接的に受け止めたり、1980
年代頃までの学校に非常に強く反抗していた連中のような皮肉な見方をしたりしません。
そのまま素直に受け止めていくと思って良いので、我々がメッセージをどのように加工し
て出すのかという問題も逆に出てきて、こちらの方が大きくなっています。そういう意味
では、世話の焼き方を工夫する必要が出てきてしまっているという印象があります。
長くなりましたが、ついでに言いますと、今回のことは、職業能力開発センターにとっ
ては非常に良い話ではないでしょうか。僕は、職業能力開発センターの存続の危うさを、
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その時々に思っておりました。周辺地域の職業能力開発センターに行くことがありますが、
そこで出会う人たちの印象は、進路未決定卒業者のゾーンにインタビューしたときに受け
あ いまい もこ
た印象と全く同じものでした。つまり、非常に曖昧模糊とした目的意識の中で生きている
ので、能力開発を行うという段階にまで到達できていない。他に行き場が無いから、職業
能力開発センターに行っている、そうした人が集まっている状態です。ですから、今回の
話は、職業能力開発センターを本来の目的に近づけていく作業になるのではないかと思っ
ています。ここでノウハウを培って、相互にトレーニングされたらいいと思います。職業
能力開発センターの方々にも、今の若者のいろいろな状態を把握していただいて、訓練プ
ログラムを改善する作業をしていただかないと、と思います。
【事務局】
実は、プログラムの改善に取り組まれている最中だとのことです。
【古賀委員】
【事務局】
そうでしょうね。
機会があれば、今後の専門部会で情報提供していただこうという相談もし
ております。
【古賀委員】
分かりました。別に、悪気があって辛辣な言い方をしているのではあり
ません。教育と労働とが重なり合い、その認識の中でやらなくてはいけないことが増えて
いるにも関わらず、行政は未だに縦割り意識が強い。これは両方に責任があります。両者
を近付ける、非常に良い機会になるのではないかと思います。さらに言えば、福祉分野を
関連させる作業も必要になってきているのではないかとも思っています。
ですから、先ほどから紹介されているように、いろいろな取組がかなり効果を発揮して
いるので、それを先生方にも理解してもらう方法が必要になるかと思います。やはり、先
生方は教科指導に特化してきたキャリア経験を持っているので、そこを離れることの怖さ
は依然として強く感じていると思います。先生方の意識付けということについても取り組
んでいただく必要があるかと思います。モデルスクールは、常にこういう問題を抱えてき
たのではないかと思いますので、成功例だけではなく、経験したいろいろな苦労もきちん
と伝えていくことで、本当の意味でモデルになれるのではないかと思います。
今日の話を聞いてエールを送りたいと思いますし、もう1回言っておきますと、職業能
力開発センターにもエールを送っておりますので、頑張っていただければと思っています。
【村上部会長】
ありがとうございます。終了時刻も迫ってきていますので、まだ御発
言いただいていない委員の方、感想でも結構ですので御発言いただければと思います。
【柳委員】
非常に厳しいと思いながら聞いていました。芦花高校でキャリア教育を中
-23-
心にしたプログラムを導入したときも、同じような状況が、もちろんありました。
それでも、1年間実施する中で生徒が変わっていく様子を見て、
「やって良かった。今後
も継続しても良いかな」と考えるようになった教員はいました。上級生が一つ下の学年の
生徒たちに対してプレゼンテーションを行う機会があるのですが、異動してきた教員も含
めて、
「うちの生徒たちが、こんなことができるようになるのか」というような反応で、
「そ
れならば、もう少し、みんなで協力してやっていこう」というように、学年の教員の意識
が少しずつ変わっていきました。キャリアガイダンス部がイニシアチブを取り、教員も各
自、工夫しながら取り組んでいくようになりました。本当に生徒の様子が変わって意欲的
になるので、それを見ると教員もさらにやる気になります。当時は単位が取れる出席時数
を計算して授業を休む生徒もいたのですが、そういう生徒たちも含め、学校を休む生徒が
少なくなり、授業に取り組む姿勢まで変わってきたということで、ホームルーム担任の教
員以外の、教科担当の教員からの評価も高くなっていきました。ただ、古賀委員がおっし
ゃったように、教科から離れられない教員もおりました。導入2年目に、企業と連携して
進めるクエストエデュケーションというプログラムを新たに導入するために2単位分のコ
マが必要になったのですが、英語科からも国語科からも「教科のコマが欲しいのに、何故
こんなことに2単位も使うんだ」というような話になったことがありました。プログラム
を実施することによって教科の勉強も一生懸命するようになり、一つ上のランクの大学を
目指してみようと思う生徒も増えていったので、結果的には良かったのですが、やはり、
教科とのせめぎ合いは最後まであったと思います。ただ、生徒がいろいろなことに積極的
に取り組むようになったことについては、教員も評価しておりました。また、クエストエ
デュケーションなどについては学校外で紹介されたので反響もあり、外からも学校の取組
を評価していただき、今こうしてやってこれているのだと思っていますし、良い方向に向
かっていると思います。
生徒にとって良い効果があると理解していても変われない教員がいると、厳しいです。
プログラムをやりたくないと言うならば、代わりに何をしようというのか、一体、何によ
って子供たちを伸ばそうと考えているのか、そういった教員に聞いてみたい気もしますが。
授業のその先が見えてくると、そうした教員たちも変わってくるのではないかとも思いま
す。お話を聞いて、非常に厳しいと思った次第です。
【村上部会長】
【岡委員】
ありがとうございました。岡委員、いかがでしょうか。
本当に良くやっていらっしゃると思います。私も、チャレンジスクールの
-24-
校長を経験して、ニートや引きこもりになることが懸念される生徒も見てきました。この
審議会でも話したかもしれませんが、
「一人救えば3億円」と良く言っていました。一人の
人間が生涯で稼ぐ賃金が約2億円、一方で生涯にわたって生活保護を受給した場合の社会
の負担額が約1億円ですから、一人の人間が生活保護を受給し続けた場合と納税者であり
続けた場合で、社会保障費にかかるコスト差は約3億円です。そんなに単純な話ではあり
ませんが、40人の中途退学者が出た場合、120億円もの国負を生産してしまっている
ということになります。
チャレンジスクールの場合、教員としても、ある程度そういうものだという心構えでい
るわけですが、普通科では先生方もいろいろと大変な苦労をされているのではないかと思
います。やはり、生徒だけではなく教員も、外部から来ていただく方に、こういうものだ
と教えてもらう機会を作るのが良いかと思います。今まで何十年間も、普通科教育、教科
教育だけをやってきた教員もいるので、簡単なことではないでしょうが、例えば、計画を
作るときに、何回に1回かは学年主任に外部講師を呼ぶ授業に入ってもらうなど、いろい
ろなところで工夫をすることが一番必要なのかと思います。一部の人だけで決めたことを
言われてやるというのを、教員は一番嫌がる部分がありますので。実際には良いと思って
いる生徒もいるわけですから、生徒や保護者の意見をうまく集めて、データとして示した
りして、なかなかすぐにはうまくいかなくても、是非、継続していただけると良いと思い
ます。
こういったプログラムを実施していく中で、私が感じているのは、一つ一つのプログラ
ムの目的は別にあるのだけれども、良きモデルとなる先輩、大人と会う機会が増えると、
それ自体が生徒の全人格的な成長に非常に役立つということです。ですから、2年次、3
年次以降も、新しいことをたくさん入れることはできないでしょうが、生徒が市民講師や
外部人材が会う機会を増やしていただくことが、遠回りのように見えて、良い方向へ進む
一つのきっかけになる可能性があると思っています。いろいろと課題は多いでしょうが、
頑張ってください。
【村上部会長】
ありがとうございます。河野委員、山田委員からも何かございました
ら、お願いいたします。
【河野委員】
いろいろと御意見が出ていますが、やはり、五十嵐が学校に入っていて
も、いろいろと難しく感じることはあります。中途退学後のアウトリーチが重要だという
話もありましたが、学校に来なくなったからといって、突然見知らぬ人間が訪ねて行った
-25-
ところで、なかなか受け入れてもらえないでしょう。やはり、在学中からの顔つなぎが必
要だと思います。そういった点については、2年目に入って、前年度から作っていた下地
が活きてきていると感じています。やはり、ある程度の関係性が普段から作られていて、
学校来られなくなったのであれば訪問して支援していく、というような形が望ましいです。
必ずしも学校へ戻るよう説得するのではなく、次の進路としてどのような選択肢があるの
かということや、支援制度などについて情報を提供するのが良いと思います。非常に早い
時点で中途退学してしまった場合などでは、他の社会資源について伝える暇もなかったと
思うので、訪問時の危機管理なども含め、支援側のスキルも向上させていく必要がありま
す。
また、先ほどケースワークという言葉が出ましたが、幅広く相談に乗ることができる人
材――精神面の相談だけではなく、就労など、生活面の相談にも乗ることができるような
人材が必要だと思います。例えば、心理士の場合は、ある一部分について傾聴するような
ところもあり、先ほども少し話したように、どうしても生徒たちは具体的なアドバイスを
求めますので、はっきりした答えが出ないと、もやもやした気持ちのまま相談が終わって
しまう場合もあります。いろいろなタイプの人材が必要だと感じます。
また、進路未決定の生徒たちについても言えることですが、目的意識をいかに持たせる
かということが非常に重要になってきます。我々は、ニートや引きこもりの支援も行って
いて、公共職業訓練校なども活用しています。ただ、そうしたところに目的も無く行かせ
てしまうと、想像していたものと違ったと言って途中で辞めてしまったりするので、入校
前に、何をする場所なのかをきちんと説明し、職場体験や先輩たちの体験談のようなもの
も行った上で、
「これだったら何とかやれそうかな」
と本人が納得した上で、参加させます。
そうすると、結構、本人も踏ん張りがきいて、最終的には就労につながっています。そう
したことを、在学中も含め、段階的に伝えられるような機会が必要です。自分からいろい
ろなところに目を向けて、今回のお話にもあったような外部プログラムなどに参加できる
子は良いのですが、支援の網からどうしてもこぼれてしまうような子については、個別に
すくい上げていくことで、中途退学未然防止や、もし中途退学してしまったとしても、次
の進路に向かうための支援に途切れずにつながっていくのではないかと思います。
調査の結果を見ても、中途退学した学校に相談に来ている方は、少なからずいます。恐
らく、行き場所もないし、どこに支援を求めたら良いか分からないのでしょう。もっと分
からなくなってしまうと、心の相談の窓口や医療施設を訪ねてみたりしている場合もあり
-26-
ますが、本人の求める支援がそこに本当にあるかどうか。どんな場合に、どこに相談に行
けば良いかということを明確に示していれば、支援が必要になった時には訪ねてくるので
はないかと思います。今後、そういったことができる人材が育成され、スクールカウンセ
ラーのように当たり前の存在として学校に配置されるようになると良いと思います。
【山田委員】
今日は衝撃的なお話も多かったと思いますが、古賀委員や五十嵐さんか
ら、生徒たちが非常に受動的に、ごく短期間で消費されるエピソードを求めて学校に来て
いるということ、生活の一部である学校を、そのように近視眼的に捉えているということ
を伺い、驚きました。
藤田校長や皆さんから、青井高校での取組についてのお話もありましたが、短いエピソ
ードではなく、高校3年間通しての長いエピソードを自分で作っていこうとすると、学校
生活がさらに楽しくなるということを、生徒たちが早い段階で感じることができれば、す
ごく変わるのではないかと感じました。ですから、先ほど古賀委員もおっしゃっていまし
たが、ゴールデンウィーク明けまでの期間や夏休みまでの期間――つまり、2学期に入る
前までをうまく過ごすことができれば、非常に良いのではないかと感じましたし、外部連
携も非常に意味があるのだと改めて感じました。1年生のうち8割もの生徒たちが、いろ
いろな意味合いで肯定的にキャリア教育を捉えているということも非常に印象的でしたし、
そうであるならば、せっかくなので、何らかの方法で外部連携やプログラム導入を継続し
ていければ良いと思いました。
【村上部会長】
【渡辺委員】
ありがとうございました。皆様、よろしいでしょうか。
青井高校についての話で、とても言いたいことがあるのですが、よろし
いですか。先ほど、職業意識が無いという話がありましたが、彼らが今まで生きてきた中
では、働くことについての情報を得られる機会が非常に少なかったのだと思います。青井
高校に支援に入った大学生ボランティアが、非常に印象的な話を聞かせてくれました。
「高
校生活を考える」という1年生向けのワークで将来の夢を書かせるのですが、その大学生
が「自分が高校生のときは、医者になりたいとか、英語が好きだから海外で仕事をしたい
だとか考えていたな」と思いながら、ある男子生徒を見ていたところ、その生徒は「バイ
ク買うこと」と書いたそうです。仕事をしている自分の将来像が、全くイメージできてい
ないのですね。その理由には、親戚などの身近な大人が、どんな会社で働いているとか、
大学でどんな勉強をしてきたのかといった話を聞く機会も無く、定職に就いている人を身
近に感じる機会がほとんど無い環境で暮らしてきたということがあります。また、人に褒
-27-
められることがほとんど無いまま育ってきたということも、関係していると思います。習
い事もしてこなかったでしょうし、学校で「数学得意なんだね、理系に向いてるんじゃな
いの」とか、
「絵が上手いから、デザイナーになれるんじゃないの」といったように褒めら
れた経験が無いので、自分の適性が全く分からない。適性が分からないから、何に向いて
るかとか、何になりたいかとか言われても想像ができないのです。
私の息子が中学1年生のときに、学校で職業適性検査を受けたのですが、自分が何に向
いているか分からない状態でも、検査をして、機械的に、擬似的にでも向いている仕事を
割り振られると、途端にその仕事が身近になるようで、興味を持つようになります。今ま
で考えていなかったような適性に気付かせてあげるというか、疑似的にでも夢を割り振っ
てあげると、自分が働いている様子を想像することができて、それに向けてどう行動しよ
うかと考えることが出来ます。最終的にその職業を目指すかは別として、適性に気付かせ
たり、疑似的にでも目標を見付けさせると良いのではないかと思っています。
私たちが思っているよりもずっと、働くことが身近でなく、
「働かなきゃいけないだろう
な」とは思っていても、働く姿が見えず、夢も持てないでいる子たちです。働くことにつ
いてのイメージを持たせられると、就職や進路について考える助けになるかもしれないと
思いました。
【村上部会長】
ありがとうございました。
本日は、青井高校での取組について御報告いただくということで、藤田校長、浦部主幹
教諭、五十嵐さんにお越しいただきました。最後に、一言ずつ御感想を頂きたいと思いま
す。
【藤田校長】
今日は本当にありがとうございました。委員の皆様から、本校の今後を
考える上での非常に貴重なアドバイスを頂きました。持ち帰って、今後、検討させていた
だければと思います。ありがとうございました。
【浦部主幹教諭】
ありがとうございました。
「学校がそこまでやるのか」と言う方もい
るかもしれませんが、
「じゃあ、学校以外のどこがやるの」と思います。こうなった以上は、
私も頑張りたいと思います。子供たちを育てるのは学校の教員だけではないと強く思いま
すので、是非、多くの人に関わっていただき、一緒に子供たちを育てていただければと思
っています。今日はありがとうございました。
【五十嵐氏】
今日は、貴重な御意見をありがとうございました。自分の中で課題は多々
あると思っており、頂いた意見をしっかり持ち帰って、学校ができないことを僕はやって
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いかなくてはいけないと思っています。これからも努力していきたいと思っていますので、
よろしくお願いします。
【村上部会長】
ありがとうございました。
皆さんの意見を聞いて、最後に一言申し上げます。皆さんに共通するところは、
「我々が
向き合っていこうとしている子供たちは、
みんな可能性を持っているのだ」
という前提で、
その上でどのような支援が必要なのかを建設的に考え、努力しているところだと思います。
そういった意味で、同じ舞台に立っていると思っておりますので、今後も、貴重な意見を
交換しながら、より良い施策作りにつなげていきたいと思っています。
本日、お配りした資料の5-1、5-2については、次回以降に具体的な説明をしつつ、
議論に使用したいと思っております。
それでは、議事はこれで終了いたします。事務局に締めくくりをお願いします。
【主任指導主事】
貴重な御意見を頂きまして、委員の皆様には感謝申し上げます。あ
りがとうございました。また、藤田校長、浦部先生、五十嵐さん、御報告いただきまして、
ありがとうございました。
次回は、12月17日水曜日に開催いたします。引き続き、都立高校の課題について御
審議いただきたいと思っております。次回は、都立田柄高校に御報告いただく予定です。
次回も、よろしくお願いいたします。
【村上部会長】
皆様、お疲れ様でした。ありがとうございました。
閉会:午後8時12分
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