第16期 情報化推進懇談会 第5回例会:平成16年2月27日(金) 『ワイヤレスプラットフォームが実現する ネットワークビジネス』 気球ロボットIT基地によるブロードバンド応用 講 株式会社 師 ハイコム 矢田 光治 代表取締役会長 氏 財団法人 社会経済生産性本部 1 『ワイヤレスプラットフォームが実現する ネットワークビジネス』 気球ロボットIT基地によるブロードバンド応用 ― プロフィール ― 株式会社 ハイコム 代表取締役会長 ◆略 や だ こうじ 矢田 光治 氏 歴◆ 昭和 35 年 4月 通商産業省 電子技術総合研究所 入所 昭和 43 年 4月 通商産業省 電子技術総合研究所 計算機室長 昭和 55 年 4月 通商産業省 工業技術院 情報計算センター長 昭和 58 年 10 月 (株)知識情報研究所設立 代表取締役(現) 平成 4年 10 月 (株)PIE を設立 代表取締役 (現) 平成 5年 6月 (株)ハイコム 代表取締役 (現) 平成 9年 9月 英国クランフィールド大学 マルチメディア研究所長(現) その他 (株)CSK,(株)セガエンタープライゼス,リンガフォンジャパンの取締役を歴任 著 書 入門「FORTRAN」(オーム社),「ソフトウェアの知識」(オーム社) 「コンピュータプログラミング 8080 編」「マイクロコンピュータプログラミング 6800 編」 (マイテック),「ホームオートメーション」(コロナ社),「マイクロコンピュータ用語辞 典」(日刊工業新聞社),「初歩エレクトロニクス」(ごま書房),「10 年後人工知能が社会を 変える」(第一企画),「マイクロコンピュータハンドブック」(オーム社),「人工知能のは な し 」( 日 刊 工 業 新 聞 社 ),「 AI 入 門 」( オ ー ム 社 ),「 AI 総 覧 」( フ ジ テ ク ノ シ ス テ ム ), 「PC-9801 機械翻訳プログラミング入門」「ハイパーメディア」(日刊工業新聞社) 他 論 文多数 2 『ワイヤレスプラットフォームが実現するネットワークビジネス』 気球ロボットIT基地によるブロードバンド応用 1.ベンチャービジネスの経験 私はかなり古い時代からずっとベンチャービジネスをやっていました。1960 年 ごろ、国の研究所で今のITの基本になるようなことを手掛け、アメリカに追い つき追い越せをテーマに、ベンチャーのはしりのような仕事をしていました。 エレクトロニクス技術開発では、プラズマ発生装置、イオンビーム発生装置、 マイクロ波誘電特性測定装置。コンピュータ技術開発では、FORTRANコン パイラ/BASICインタプリタ、自動翻訳システム、マイコンの教育用キット、 リアルタイムOS/制御システム、海洋ロボットの開発、大気汚染システム、ジ ョセフソン素子開発用CAD、行政官庁の情報化、JAVAプログラム評価シス テム。ネットワーク技術開発では、計測制御用ネットワーク、光ファイバーネッ トワーク、CATVインターネット、仮想企業体。人工知能の開発では、エキス パートシステム、故障診断システム、PROLOG/LISP。マルチメディア 技術では、オーサリングツール、マルチメディアコンテンツ、ハイビジョンソフ ト、ゲームソフト、バーチャルリアリティ。これらの開発に携わりました。 いずれもブロードバンドが基本ですので、そこからブロードバンドに興味を持 ち、1980 年代は光ファイバーネットワーク、1990 年代はCATVインターネット、 2000 年になって高高度IT基地、プラットフォーム開発などを中心に仕事をして います。 2.気球ロボットIT基地によるブロードバンド応用 映像検索システム 世の中にはロゴがあふれているので、それを映像検索するということで、まず ロゴに絞って図形の検索システムを開発しました。これは、設計図面、登録商標、 家紋などの検索に使っていただこうと開発したものです。ケータイカメラなどが 当たり前になっていますので、それで撮って送り、形で検索するには、このよう な映像検索が欠かせないだろうと思います。 ケータイ用コンテンツ ケータイ用にサービスを始めた「ケータイ塾」では、英語コース、TOEIC コース、ビジネスオフィスコースをやっています。今は単語レベルですが、CD MA、HXで定額料金になってくると、映像や音声も使えるようになります。こ 3 れは、コンパイラ型のBREWという言語を使ってブロードバンドに適した形に しています。 高高度飛行体IT基地の利用 高高度飛行体IT基地は、地上2万mに常時飛行物体を浮かべておくもので、 放送に使えば東京タワーの代わりになります。地上波デジタルであちこちに東京 タワーのようなものを造ろうとすると何百億とかかりますが、これはせいぜい 2000 万ぐらいでできるでしょう。ところが、地上波デジタルがすでに始まってし まい、これはまだ技術が確立できていないので採用されていません。 これはケータイ電話の中継基地にも使え、実験の結果1台の飛行機で直径 100km 圏をカバーでき、実際に測定すると 200km ぐらいはいけることも分かっています。 地上波デジタルの中継基地としても、200∼300km は飛ばせます。この高高度飛行 体が6か月間無人で定位置にいるということが完成すると、非常に有効な応用が 次々に考えられると思います。 地上観測についても、三菱商事がやっているイコノスという、もともとスパイ 衛星に使っていたものは、600∼700km の距離から見て 70cm 程度の精度が出ます。 同じような精度でこれは 20km から見ていますから、理屈上では1cm ぐらい、つま り顔も分かるような地上観測ができます。それができるといろいろな使い方があ るので、興味を持っているかたがたくさんいるようです。 高高度飛行体通信の比較 高高度飛行体通信が地上通信や衛星通信と違うのは、やはり距離です。衛星は 非常に高いところにあるので電波の通りが悪いのですが、これは 20km ですから普 通のFOMAで十分やり取りできます。テレビのほうも、地上波デジタルでテレ ビの規格で受信できます。 環境・防犯・防災・ITサービス ほかに、環境・防犯・防災・ITSサービスにも使えます。いろいろなことに 役に立つ魅力的なものですが、エレクトロニクスと違って予算に制限があってな かなかでき上がるまでに至っていません。その中で、我々はいろいろなチャレン ジをしているわけです。 無人ジェット飛行機 高高度飛行体にはいろいろなやり方がありますが、無人ジェット機を使うもの では、Proteus というもともとスパイ用の飛行機を旋回させて、そこにアンテナを 4 積みます。ただ、これは半年間も回しておくわけにいきませんので、限界があり ます。 有人ジェット飛行機 有人ジェット飛行機は、パイロット2人が交代で 24 時間運行するものですが、 それでも飛行機では2万mを飛びにくいようです。 ヘリオス NASAが開発したヘリオスは、さきおととしの実験で3万mまでいき、ギネ スブックに載りました。日本のFOMAの中継基地とデジタル放送の中継基地を 載せたのはこれです。 これは太陽電池ですから、太陽がある限りどんどん上がっていきます。ただ、 これもやはり飛行機ですから、2万m行くのに4∼5時間かかります。また、夜 中になって太陽電池が働かなくなると、プロペラが回らなくなり落下してしまう ので、燃料電池を積まなければいけません。しかし、水素ボンベを積んで、それ をいちいち取り替えるわけにいきませんから、再生型の燃料電池を開発しなけれ ばいけません。実はこの効率のいい再生型の燃料電池を作ることが非常に難しく、 まだ実験の段階です。 これももともとは軍事目的で、NASAがスポンサーです。当初は日本とアメ リカで共同開発しようという話もありましたが、9・11 のテロ以降、アメリカが 自前でやるといっています。 飛行体IT基地が有効だと分かったので、安全保障の面でいろいろな国が開発 に乗り出していますが、それを平和利用することが我々の目的です。 無人飛行船 日本の場合、それを飛行船でやろうということで、科学技術庁の航空技術研究 所で成層圏プラットフォーム飛行船の開発に取り組んでいます。 気球ロボット 私どもPIEとAES、産業技術研究所(AIST)では、気球ロボットとい うものを開発しています。気球ロボットと飛行船の違いは、飛行船は中に骨組み がある硬式船ですが、気球ロボットは軟式船で、1回あげて6か月たったら消耗 品として廃棄してしまいます。ですから、これは 100∼200 万で安く作るという発 想でやっています。入っているガスはヘリウムです。 飛行機は heavier than air といって、空気よりも重い物を上に持ち上げるので、 5 プロペラが止まれば落ちてきてしまいますが、飛行船や気球は lighter than air なので、黙っていても上がっていきます。そして、飛行機が4∼5時間で2万m いくところを、飛行船や気球は 40 分ぐらいでいっていまいます。また、何か事故 があってプロペラが止まると飛行機は落ちてきますが、これはガスが抜けるのに 時間がかかってすぐには落ちてきませんので、安全性が高いということで、我々 はこの気球ロボットを開発しています。 開発課題 気球ロボットの機体開発におけるミッションは、2万m、長時間滞空、気象条 件の克服です。また、再生型の燃料電池を開発する必要があります。運用技術と しては、6か月の長時間無人運用、ペイロード(搭載する器材)は 500kg を目指 しています。利用技術は、ケータイ、デジタル、地上観測など、いろいろな応用 が考えられます。 国際的視点 国際的には、成層圏の利用はあまりされていません。そこで、日本とアメリカ で最初にやっていこうという話も出ていましたが、それがこれからどうなるかと いう問題があります。それから、航空法、電波法もクリアしなければいけません。 ただ、電波法は国際的にITUに割り当てをもらわなければいけないので、それ を取ろうと頑張っているところですが、中国などから日本とアメリカだけで都合 のいいようにやられては困ると言ってきています。 技術開発協力では、機体開発、燃料電池、運用技術開発を行っています。利用 技術協力としては、防災・防犯利用、農業気象利用などについて国際的なコンソ ーシアムを組んで実験や研究会を実施しています。 ビジネス的視点からいえば、飛行体自身の運用が商売になりますが、最終的な ねらいはブロードバンドなので、その利活用を掲げて今やっています。社会的視 点からは、生活の安心安全保障システム、サイバーコミュニティに使っていこう と考えています。 動画生成システム ブロードバンド通信がきちんとできて、上からカメラで撮ったものを、下で必 要なところを必要な形で見えるようにするのが動画生成システムです。この技術 の応用としては、3次元地図システム、不審船監視システム、災害現場の現状と 状況追跡を行う防災システム、農業の観測システムなどが考えられます。 6 空中撮影データによる地上任意視点の実時間3次元動画生成システム 飛行体は定点にいるのではなく、1km ぐらいの範囲を絶えず動いているので、 下にカメラを向けておくといろいろな形の画像が撮れます。それをブロードバン ドで送り、動画の再生をすると、マルチカメラと同じような画像を作り出すこと ができます。このような空中撮影データによる地上任意視点の実時間3次元動画 生成システムも開発しています。とにかく飛行物体があり、ブロードバンドがあ り、その画像をパソコンに送り込めば、見たいところの動画が生成できるという ことです。 開発内容 ニーズは、任意視点からの映像生成(地図作成、農業への応用)、移動体の認識 と追跡(防災への応用)、自動モニタリング(地上の常時監視への応用)などがあ ります。シーズとしてカメラキャリブレーション、距離計測、形状計測、物体認 識、運動追跡など、ばらばらの技術はすでにあるので、それを組み合わせてうま く作っていこうと考えています。 この技術を応用して、お医者さんが遠隔から、ケータイカメラで症状を見て診 断しようと考えている人が増えています。特に我々の技術では、お医者さんが見 たい部分の画像がきちんと生成できるということで、お医者さんと一緒に実験も しています。ケータイブロードバンドが当たり前になると、応用はさらに広がっ ていきそうです。 3.ブロードバンドの動向 ハイコム/PIE/KIRIのドメイン 私どもはコンピュータと放送通信を融合したシステムのためのハイパーメディ ア商品を開発し、販売しています。ハイコムは映像の会社、PIEは知的個人情 報環境事業、KIRIは知的ソフトウェア開発事業です。この3社で事業領域を 分け、3社が協力していろいろな開発を行っています。 ブロードバンド応用のメリット とにかくマルチメディアにすると使いやすくなります。私はFM-Townsを 開発し、ソフトを 50 タイトルほど作り、セガでビデオゲームも作りましたが、文 字だけの世界とは格段の差で、ブロードバンドのネットワークにすると、今まで にないアイデアが次々に出てきます。 また、マルチメディアブロードバンドになると、言葉でいろいろ説明しなくて も絵で示せるので、文化格差が解消できます。それから、言語障壁、言葉の差が 7 克服できます。日本のソフトが海外であまり売れないのは、言語障壁があるから だと思います。しかし、ゲームやアニメはそのバリアを克服し、世界で通用して います。 e-ラーニングについても、ブロードバンド、マルチメディアで勉強すると、映 像や音声が使えるので、難しい話も比較的分かりやすくなります。双方向システ ムで対話を映像を使って行うことも、ブロードバンド以外ではなかなかできませ ん。 ただ、特にコンピュータを通じて行うとき、知識、価値観、背景、経験がかな り合わなければ、対話が続きません。その辺を工夫しながら、双方向というもの をいかに生かしていくかが、これからの課題です。 また、知的システムで、意味理解というものがそれほど簡単ではありません。 人間の耳は優れていて、いろいろな音が聞こえていても、必要な情報だけを切り 出して聞き、雑音ははずします。そこが音声タイプライタがなかなかできない理 由ですが、意味理解の支援システムはいろいろできていますので、支援システム からいくほうがいいと思っています。 例えば、私どもでは今、ケータイ競輪というものをやっています。これは気球 を競輪場の上にあげ、意味理解支援システムを使ってレースについての知識を補 いながら賭けをするもので、ほかの公営ギャンブルにも知識ベースを変えて作っ ていこうと思っています。 ブロードバンド利用と市場規模 ブロードバンドの利用人口は、2002 年で 2000 万人だったものが 2007 年には 8000 万人に、IP電話は 227 万人が 2000 万人に、市場規模は今の2兆円が 10 兆円に なると予想されています。 ブロードバンドコンテンツ 今見えているコンテンツは、映像、音楽、出版、ゲームで、いずれについても 私どもは手をつけようと考えていますが、いちばん実用的なのはホットスポット での無線LANだと思っています。そのときに 10mしか行かないのではしょうが ないので、遠い距離でも無線LANができるようにという呼びかけを今していま す。 BBコンテンツ事業領域 事業領域には、コンテンツホルダー、コンテンツファクトリー、BBポータル、 プラットフォーム、コンテンツ配信ネットワーク、インターネット接続事業者、 8 高速アクセス回線事業者、ネット広告代理店、システムベンダーなどがあります。 今はコンテンツホルダーやコンテンツファクトリー、システムベンダーもそれな りに仕事をしていると思いますが、最初に事業になったのはインターネット接続 事業者や高速アクセス回線事業者です。売上だけでなく利益を考えると、どれが これからビジネスになっていくかについては議論のあるところかと思います。 BBコンテンツ市場の課題 課題としては、著作権、決済手続、品質保証、ビジネスモデル、セキュリティ などがあります。特にクレジットカードなどによる決済手続は、大変難しいと考 えています。我々が今期待しているのは公式サイトでのコンテンツですが、将来 はホットスポットですぐれたビジネスモデルを作ったところが勝ちだろうと思い ます。 今、コンテンツに課金するには、会費制にするか、または広告で取るか、物販 でやるか、番組販売でやるかというのが主流ですが、そのほかにうまいアイデア があればコンテンツ市場も伸びるのではないかと思っています。 国としても、今、自民党と公明党でコンテンツ市場を活性化させるための法案 を準備しており、そこではとにかくコンテンツで日本産業を大きくしなければい けないという議論がされています。そのための支援の予算をつけようという話も 盛り込まれ、この法案を早めに通して、コンテンツ市場、特にBBのコンテンツ 市場について国を挙げてやっていこうという動きが随分大きくなってきていると ころです。 以 9 上
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