紫外線消毒装置 - 日本下水道新技術機構

紫外線消毒装置(UV システム) 技術提案者:㈱西原環境テクノロジー
1.技術概要
1.1 技術概要
本消毒技術は,紫外線の持つ消毒作用を利用して,
合流式下水道における雨天時簡易放流水等を消毒し,
放流水の大腸菌群数を 3.0×103 個/cm3 未満とするため
の技術である。
図−1に光の波長領域の区分を示す。可視光線は約
400∼800nm の波長であり,400nm 以下の波長が紫外線
と呼ばれている。波長 300nm 以下の紫外線には,病原
性微生物に対し消毒効果があることが知られており,
下水処理の分野においては,主に二次処理水の消毒手
法として使われている。
0
280 315
UV-C
X線
γ波
宇宙線
真空紫外線
10
100
短波
200
254
UV(253.7nm)を吸収
細胞膜
塩素
381
UV UV-A
-B
中波 長波
300
図−2に細菌類に対する紫外線消毒のメカニズム
を示す。塩素系の消毒剤が微生物の細胞膜や細胞壁を
破壊して効果を発現するのに対し,紫外線は細胞の核
酸(DNA)に直接作用し,核酸に光化学的損傷を与える
ことによって,細胞を増殖不能にし,死滅させる。
一般的な二次処理水を対象とした場合,塩素による
消毒では 15 分以上の接触時間を必要とするのに対し
て,
紫外線消毒では 10 秒以下の照射時間で十分な消毒
効果を示す。
細胞壁
可視光線
400
波長(nm)
国際照明学会におけるUVの分類
図−1 紫外線の波長領域
核酸(DNA)
図−2 紫外線消毒のメカニズム
1.2 適用範囲
本技術は,合流式下水道における雨天時の下水処理
場からの簡易処理水等を対象とした消毒技術である。
図−3 装置の概要
表−1 必要性能及び判断基準
技術評価対象項目
必要性能
判断基準
処理性能
排出水中の大腸菌群数について,
常時 3,000
3
個/cm 以下を達成すること。
実証実験により,処理水の大腸菌群数が,
常時 3,000 個/cm3 以下を達成することを確
認する。
消毒の能率化
紫外線消毒装置の接触時間として,消毒時
消毒効果を得るための時間が短時間である
間が1分以内で消毒可能であることを確認
こと。
する。
下流側水域の
安 全 性
従来技術との比較から,処理水が下流側の
消毒の結果,下流側水域の水棲生物に与え
水棲生物に与える影響が軽微であることに
る影響が小さいこと。
ついて,遺伝毒性試験により確認する。
そ の 他
電力量等の低減化を図ること。
φ80VP
実証実験により,電力量等のユーティリテ
ィを定量的に確認し,ランニングコストの
経済性について検討を行う。
FIC
(流入管)
P
U
V
アナライザー
実験原水
低圧実験装置
サンプリング
タ ン ク
中圧実験装置
消毒原水
採水位置
処 理 水
採水位置
φ200VU
(処理水管)
実験装置ユニット架台
実験処理水
図−4 実験装置フロー
2.開発研究方法
SPIRIT21 における必要性能と技術評価の判断基準
を表−1に示す。
2.1 実験場所及び期間
実装置と同様の紫外線ランプを有する実証実験装置
を,東京都葛西水再生センターに設置し,実証運転を
行った。
なお,予備実験では,主に晴天時汚水を主体とした
沈砂池流入を対象とし,実負荷実証実験では,雨天時
における最初沈殿池流出水を対象とした実験を行った。
表−2に実証実験の実験概要,図−4に実験装置廻
りのフローを示す。
表−2 実証実験概要
対 象
原 水
最 初
沈殿池
流出水
実 施
期 間
使 用
ランプ
消
毒
反応時間
H16.6. 9
∼H16.7.29
中 圧
約 0.4∼1.8 秒
H16.7.29
∼H16.8.17
低 圧
約 14.1∼28.3 秒
2.2 実験方法
2.2.1 実負荷実証実験
実証実験は,実降雨の発生を現地で確認した後,実
験設備を手動操作で起動させて行った。
採水の間隔と分析項目を表−3に示す。
表−3 実験方法概要
項
目
摘
要
測定間隔
初期 10 分,中期 20 分,後期 60 分
大腸菌群数
デソキシコール酸塩培地法
紫外線透過率
ハンディ計測器
濁
度
自動連続計測
処理水量
自動連続計測
pH・温度
ハンディ計測器
SS
下水試験法
CODMn
下水試験法
BOD
下水試験法
※ 採取後のサンプルは、冷暗所に保冷し、分析機関
で分析。
2.2.2 下流側水域の安全性の検証
下流側水域の安全性を検証するため,遺伝毒性計測
試験の一種である umu 試験を,原水,本技術処理水,
次亜塩素酸ナトリウム処理水(対照系)について実施
した。
3.開発研究結果
本研究内で行った開発研究の結果を以下に示す。
3.1 実証実験結果
実験実施日の降雨状況等を表−4,消毒結果の一覧
を表−5に示す。
実験結果より,処理水の大腸菌群数は全て 3,000 個
/cm3 以下となっており,最初沈殿池流出水を対象とし
た場合には,
必要性能を満足できることが確認できた。
3.2 下流側水域の安全性の検証
本装置による消毒の安全性を検証するために,実験
装置で消毒を行った場合と,ビーカーテストで次亜塩
素酸ナトリウム消毒を行った場合の変異原性試験を行
った。
試験の方法は,遺伝毒性試験の一種である umu 試験
とした。
結果を表−6に示すが,
今回実施した umu 試験では,
全ての試料において変異原性の発現は認められなかっ
た。
したがって,紫外線消毒が次亜塩素酸ナトリウム消
毒より安全性が高いという証明にはならなかったが,
紫外線消毒による下流側水域への安全性は確保できる
という結果が得られた。
表−6 umu 試験結果
試 料 名
消毒原水
中圧紫外線
消毒水
低圧紫外線
消毒水
次亜塩素酸
ナトリウム消毒水
濃縮倍率
S9 非添加
S9 添加
125
陰性
陰性
250
陰性
陰性
500
陰性
陰性
125
陰性
陰性
250
陰性
陰性
500
陰性
陰性
125
陰性
陰性
250
陰性
陰性
500
陰性
陰性
125
陰性
陰性
250
陰性
陰性
500
陰性
陰性
3.3 経済性比較
表−7に、処理水量 10,000m3/h の処理場を対象とし
て,本消毒技術を処理場における簡易処理水の消毒に
適用した場合の年間ランニングコストと,通常の高級
処理における次亜塩素酸ナトリウムの年間ランニング
コストとの比較例を示す。
表−4 実験実施日の概要
実施日
実施時間帯
最大降雨強度
総降雨量
先行晴天日数
使用ランプ
2004.6.11
14:30∼00:30
5.0mm/h
13.0mm
1日
中圧
2004.6.21
15:00∼20:00
6.5mm/h
9.0mm
9日
中圧
2004.6.30
11:30∼16:00
4.5mm/h
10.5mm
4日
中圧
2004.7.29
11:00∼15:00
7.0mm/h
7.5mm
23 日
中圧・低圧
2004.7.30
16:00∼19:30
2.0mm/h
3.0mm
1日
低圧
2004.8.17
20:00∼22:00
1.5mm/h
3.0mm
2日
低圧
(NTU)
紫外線
透過率
(%)
2004.6.11
(中圧 0.4 秒)
37∼54
29∼51
2004.6.21
(中圧 1.3 秒)
42∼64
23∼31
2004.6.30
(中圧 0.4 秒)
39∼53
26∼44
2004.7.29
(中圧 1.8 秒)
37∼63
23∼32
2004.7.29
(低圧 18.9 秒)
37∼63
23∼32
2004.7.30
(低圧 28.3 秒)
40∼54
27∼32
2004.8.17
(低圧 14.1 秒)
46∼48
27
実施日
(接触時間)
濁 度
表−5 消毒実験結果
大腸菌群数(個/cm3)
原 水
処理水
(個/cm3)
(個/cm3)
2.7×102
5.5×103
∼
∼
5.6×104
2.8×103
8.9×102
2.6×104
∼
∼
4
6.5×10
1.7×103
4
5.3×102
2.5×10
∼
∼
4.4×104
1.1×103
8.5×101
4.2×104
∼
∼
8.9×104
3.5×102
3.3×102
4.2×104
∼
∼
4
8.9×10
8.4×102
4
1.6×102
4.2×10
∼
∼
9.2×104
6.8×102
3.1×102
5.6×104
∼
∼
8.0×104
5.7×102
SS
(mg/L)
CODMn
(mg/L)
BOD
(mg/L)
30∼55
30∼72
44∼106
38∼79
70∼100
78∼125
38∼51
52∼76
64∼115
34∼75
44∼82
58∼110
34∼75
44∼82
58∼110
22∼46
53∼81
65∼82
24∼34
55∼68
103∼113
表−7 年間ランニングコスト比較
項
目
消毒対象
紫外線消毒装置
次亜塩素消毒
簡易処理水
5
備
考
高級処理水
3
消毒原水大腸菌群数
最大 7.0×10 個/cm
−
消毒諸元
紫外線照射量
50mW・s/cm2 とする。
次亜塩素注入率
平均 3.0mg/L とする。
消毒単価
電気使用料金として
11 円/kWh とする。
次亜塩素消毒剤として
30 円/kg とする。
処理水量当たりの
ランニングコスト
中圧ランプ:2.5 円/m3
低圧ランプ:1.0 円/m3
0.75 円/m3
年間処理水量
1,200,000m3/年
(2×Qm3/h×3h×20 日/年)
87,600,000m3/年
(Q×24h×365 日/年)
基本料金を含まない
年
間
ランニングコスト
中圧ランプ:3,000,000 円/年
(2.5 円/m3×120Qm3/年)
低圧ランプ:1,200,000 円/年
(1.0 円/m3×120Qm3/年)
65,700,000 円/年
(0.75 円/m3×8,760Qm3/年)
①
年間基本電気料金
中圧:50,220,000 円/年
低圧:20,460,000 円/年
微少であるため
考慮しない。
②
年
間
ランニングコスト比
中圧ランプ:81.0
低圧ランプ:33.0
100
(①+②)/65,700,000
×100
次亜塩素酸ナトリウムは
有効塩素濃度 12%とする。
(注記)
1.Q は、処理場の設計処理水量(m3/h)を示す。
2.簡易放流の発生頻度については、2Q 相当量で継続時間 3 時間の簡易放流が、年間 20 回行われるものと
仮定した。
3.次亜塩素酸ナトリウムの注入率は、下水道施設計画・設計指針と解説(2001 年版、日本下水道協会)の
2∼4mg/L より仮定した。
4.原水大腸菌群数の値は、実証実験結果(他社含む)を参考にして設定した。
3.4 評価結果
本研究における開発目標(必要性能)に対する評価
結果を表−8に示す。
4.技術の特徴
紫外線を用いた消毒技術は、従来の次亜塩素酸ナト
リウムによる消毒と比較して以下の特長がある。
① 数秒∼数 10 秒程度の短時間で未処理下水等の消
毒が可能であるため、塩素混和池等といった十分
な接触時間を確保できる施設が無い場合にも適応
可能である。
② 光を照射するだけの消毒手法であり、薬品等の添
加を行わないため、副生成物の発生等による環境
への負荷を考慮する必要がない。
③ 消毒のために薬品等を使用しないので、保存によ
る劣化・補充に配慮する必要がなく、維持管理性
を高めると共に、全降雨に対して確実な対応が可
能である。ただし、ランプの洗浄のために薬液を
使用するので、定期的な補充作業が必要である。
④ 設備がコンパクトであるため、既存施設への組込
みが容易である。
5.適用方法
本技術は,合流式下水道における終末処理場からの
簡易処理水を対象とした消毒技術である。
本装置の適用に際して留意すべき事項を以下にまと
めた。
・ランプの洗浄
ランプを連続点灯することにより,保護管の表面に
汚れが付着することが確認された。
したがって,本装置を適用する際には自動洗浄装置
が必須であり,運転の継続時間によって自動的に洗浄
工程を実施するように配慮する必要がある。
・ランプの立ち上がり時間(中圧ランプの場合)
中圧ランプの場合,通電を開始してから発光が安定
するまでに 10 分程度の時間を要する。
したがって,降雨による越流開始前に,ランプを先
行点灯して待機しておく等の対策が必要になる。
表−8 開発目標及び評価結果
技術評価
対象項目
処理性能
消毒の能率化
下流側水域の
安 全 性
そ の 他
開発目標(必要性能)
評価結果
簡易処理水に対し,中圧ランプ,低圧ランプ
排出水の大腸菌群数が 3,000 個/cm3 以下であ ともに1分以内の接触時間で,処理水の大腸
ること。
菌群数を 3,000 個/cm3 以下とすることがで
き,必要性能を有すると認められる。
消毒効果を得るための時間が短時間である なお,実証時の原水性状は,紫外線透過率
23%以上,大腸菌群数 9.2×104 個/cm3 以下で
こと。
あった。
簡易放流水等に対し,消毒を十分できうる接
触時間で紫外線を照射した場合に,変異原性
消毒の結果,下流側水域の水棲生物に与える
の発現等は認められず,従来技術による消毒
影響が小さいこと。
と比較した場合にも,安全性が同等以上と判
断され,必要性能を有すると認められる。
薬品量・電力量の低減化を図ること。
電力量が実用範囲であり,しかも設備がコン
パクトで既存施設への組み込みが容易であ
ると認められる。