若者の 離れ

2012 年度後期 経験社会学1(月3)期末小論文
若者の○○離れ
0.はじめに
今日、
「若者の新聞離れ」
「若者のテレビ離れ」
「若者の車離れ」など「若者の
○○離れ」が社会的な議題として各メディアで取り立たされている。これらは、
かつては大きな需要があり盛んに消費されていたものの、現在の若者世代(10
代後半~30 代前半)においてはそれまでと比べて需要が減っている・あまり消
費されないコンテンツについて言われる言葉だ。吉見(1996)によれば、私達
の日常を覆っているファッションや情報機器、流行品に至るリアリティのコマ
ーシャルに構造化された状況を「消費社会」と呼ぶという。ではなぜ若者はこ
の消費社会において消費しなくなったのか、また「若者の○○離れ」という言
葉が使われる背景には何があるのか、これらについて考察していきたい。
1.若者はなぜ「離れ」るのか
若者が「離れ」ているとされるコンテンツは非常に多いが、ここでは代表的
な例を挙げ、その傾向を考えていく。
まずは車である。私の友人にはすでに免許を取得している人がいる一方で、
免許を取ってもどうせ車に乗らないから、免許は大学を出てからでいいなど車
に対し消極的な人も多々いることは確かである。都市部の交通機関の発達によ
って車で移動するよりも地下鉄・電車で移動したほうが早いことも若者が免許
の取得を渋る一つの要因だろう。また「旅行離れ」とも言われるように、以前
と比べ若者がわざわざ遠出して遊興しようとはせず、結果として車の利用機会
が減っているとも言えそうだ。こうしてみると「車離れ」は若者の内向的志向
が原因だとされそうだが、若者が内向的志向を取らざるを得ない理由を求める
べきだと私は考える。まずここ数年は不況の連続で安定した雇用が望めない・
就職できたとしても賃金が低いなど、生活のために娯楽に当てる費用がかつて
に比べ限られているというのが現状だろう。高度経済成長期において「若者」
だった世代(現在の団塊世代に当たる)の人々は比較的容易に車を購入するこ
とができ、その潤沢な資金から誇示的消費をすることも少なくなかっただろう
が、現代の若者はそうはいかないのである。このような社会的な背景に加え、
車業界にも要因があると思われる。高い車検代や税金がそれだ。また、地方で
は車は必需品なので需要は保たれており、言うならば「新車離れ」だと指摘す
る声もある(磯島,2012)。
次に頻繁に目にするのが「テレビ離れ」である。各局番組の視聴率が軒並み
低下しており*1、「テレビ離れ」は確かにあると言えそうだ。これには主に次の
二つの理由が考えられる。一つ目は、テレビ自体が若者を含め大衆からして面
白味に欠けるものとなってきているからだ。同じような内容の番組ばかり、ど
のチャンネルを点けても似たような容姿のアイドルが映る、雛壇で騒ぐだけの
タレント――中には面白い番組があることは確かだが、このような状態では視
聴者が離れていくのも致し方ないだろう。二つ目はインターネットの発達であ
る。少し前まではニュースやスポーツ、天気、芸能界の情報などはテレビを通
じて得ることが多かったが、現在ではそれらすべてをインターネット上で閲覧
することができる。しかもテレビならニュース番組の時間に画面の前に居なく
てはならないが、インターネットを利用すれば好きなときにスマートフォンや
パソコンから情報を得ることができて
しまうのだ。情報を得る媒体としてわ
ざわざテレビを見る必要性が薄くなっ
てきたのである。
「若者の新聞離れ」についても考え
ておきたい。新聞通信調査会は 2010
年 9 月、18 歳以上の男女 5000 人に訪
問調査を行った。その際得られた統計
によると、10 代後半・20 代の閲読頻度
数が他の世代に比べ低く落ち込んでい
ることが分かる(図1)。このような状
況となっている理由は、テレビの場合
と同様インターネットの台頭にあると
言っていいだろう。新聞通信調査会の
取ったアンケートでこのことはほぼ裏
付けられている(図2)。しかしインタ
図 1
ーネットでニュース
を見るとダイジェス
トのように要点を簡
潔にまとめた記事が
多い一方、新聞では詳
しく記述されており
一つのニュースを掘
り下げて知ることが
できるという利点が
ある。また、他の「新
図 2
聞離れ」の要因として次の側面が挙げられる。新聞各社の思想が異なっており
(右寄り/左寄り・原発賛成/反対・自民党支持/批判など)、閲読することでその
新聞社の傾向に同調してしまうことを悪として、新聞など読むものではないと
する意見がネット掲示板などで見受けられるようになった。これに加え選挙な
ど政治的問題を扱う記事では国民を煽るような文面(自民党から民主党への政
権交代時に顕著か)、原発問題をはじめとする社会問題については風評被害を生
むような表現を使用するなど、読者の信用を失うような報道をする場合があっ
たことを考慮すると、
「新聞離れ」の原因の一端は新聞社自身にあると推測でき
る。
2.「若者の○○離れ」という言葉の背景
以上の具体的な例から次のような傾向が見て取れる。
「若者の○○離れ」とい
う言葉は、不況でお金を落とされなくなった・自身のマイナス要素から若者が
離れつつあるコンテンツ側が「離れることは悪だ」という印象を与えるレッテ
ルを貼り、消費を促進するために作り出されたものが多いということだ。また
「○○離れ」に当てはまるコンテンツへの消費が抑えられているのは、やはり
続く不況による影響が大きいだろう。こうした傾向が考えられる一方で、若者
が全体として消費を抑えているのではなく、他の新規のコンテンツに消費を移
行させているとも取れる。最近ではインターネット上でのネットゲームや SNS
上でのソーシャルゲームへの課金が話題になっているし、スマートフォンやモ
バイル型 wifi ルーターの通信費もそれなりにお金がかかる。若者が内向的志向
にあるとするならば、個人の趣味にかける費用も増えているだろう。消費の形
態がかつてと現在では大きく変容しているのだ。
3.今後の課題
ここまでで見てきたように、現在ではかつての価値は通用しにくくなってい
る。若者が「離れ」ているとされるコンテンツは既存の価値観を見つめなおし、
人々が興味を向け、消費に値すると評価されるようなサービスを提供するため
新しい思考へとシフトしていかなければならないだろう。一方若者も既存の価
値を古い、時代遅れのものと無碍にするのではなく、自らその上に新しく価値
を作り上げていくべきだ。またいつまでも上の世代が生んだ不況に自身の内向
的志向の原因を求めるのではなく、自分たちが今後の社会を動かしていくのだ
という気概を持って経済発展に尽くすことが重要となってくるだろう。
「若者の
○○離れ」は新たな価値体系による、新たな消費社会のきっかけとなるかもし
れない。
〔注釈〕
*1 主要テレビ局の複数年に渡る視聴率推移をグラフ化してみる(2012 年 8 月時
点版),Garbagenews.com, http://www.garbagenews.net/archives/1965598.html
〔参考文献〕
池井望,「消費社会としての現代文化」,井上俊『現代社会を学ぶ人のために』世
界思想社,2004
磯島大,『「クルマ離れが起きている」はウソ』オルタナティブブログ,2012/2/23,
http://blogs.itmedia.co.jp/isojima/2012/02/post-3107.html
土井義則,『若年層で“新聞離れ”が浮き彫りに……読まない理由は?』Business
Media 誠,2011/1/24,
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1101/24/news049.html
吉見俊哉,「消費社会論の系譜と現在」,『デザイン・モード・ファッション』岩
波講座現代社会学 21,1996