テーマ名:衛星からの高精度高分解能全球降水マップの作成と検証・評価

テーマ名:衛星からの高精度高分解能全球降水マップの作成と検証・評価についての研究
科学技術振興機構 CREST 水の循環系モデリングと利用システム中の「衛星からの高精度高分解能全球降水マップの作成」につ
いての研究(H14-19)ならびに三井物産環境基金「衛星データを用いた全球降水マップの作成と評価」(H20-22)に基づきます。
地球的規模の降水分布とその変動は、人間活動や社会システムに重要な影響を及ぼします。信頼性のある観測データに基
づく地球的規模の高精度高分解能降水マップの作成は、気候変動に伴う降水量変動のモニタリング、水循環モデルの構築、私
達の生活に密接にかかわっている水資源管理および農業生産性予測等の社会基盤にとって必要不可欠なものです。
本研究は、図1に示す様に、信頼できるマイクロ波放射計の降水強度推定アルゴリズムを開発し、衛星搭載のマイクロ波放射
計データ(TRMM/TMI、 Aqua/AMSR-E、 ADEOS-II/AMSR、 DMSP-F13、14、15/SSM/I)のデータを解析します。また、静止衛星の
赤外データより雲移動ベクトルを算出し、複数のマイクロ波放射計データより算出した全球降水マップに応用して、高時間・空間
分解能の全球降水マップを作成します。現在は、緯度経度 0.1 度格子で1時間分解能の全球降水マップを作成しています。開
発中のアルゴリズムの名称ならびに作成した全球降水マップの名称として、GSMaP を用いています。さらに、作成された全球降水
マップの検証と評価を地上で観測されたレーダ・アメダス解析雨量データを用いて行います。検証と評価は GSMaP 以外の NASA、
NOAA 等の外国機関の作成した高精度高分解能全球降水マップについても行います。
図2 作成された日本付近の GSMaP(左図)と
図 1 GSMaP プロダクトの構成
検証・評価用のレーダ・アメダス解析雨量の図(右図)
図2に示すのは、GSMaP の日本周辺の降雨分布図(左図)と、検証・評価用の地上レーダ・アメダス解析雨量の図(右図)です。
この例は、2005 年 7 月 8 日のもので、右図の地上データを真値と考えたとき、左図の衛星データから作成された GSMaP は、相関
係数、0.881 と比較的高い値を示しています。
1
相関係数
0.8
GSMaP
3B42RT
CMORPH
3B40RT
MWCOMB
3B41RT
0.6
0.4
0.2
2009/5/31
2009/5/26
2009/5/21
2009/5/16
2009/5/11
2009/5/6
-0.2
2009/5/1
0
図3 世界の高精度高分解能全球降水マップとレーダ・アメダス解析雨量マップの相関係数の比較
図3にGSMaPを含めた世界の降水マップとレーダ・アメダス解析雨量の相関係数を示します。毎日、日本周辺で観測された世
界の降水マップの評価結果をhttp://www.radar.aero.osakafu-u.ac.jp/~gsmap/IPWG/index.html で公開しています。
テーマ名:次世代の衛星搭載降雨観測センサのシステム設計
科学研究費補助金 基盤研究(C)「新しい衛星搭載複合型降雨観測システムの開発に関する研究」(H19-H20), 日本宇宙フォ
ーラム第 9 回宇宙環境利用に関する地上研究テーマ「宇宙機搭載用の小型軽量なマルチパラメータ降雨レーダの研究」
(H18-20)に基づく。
(1) 熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダは、わが国が世界に先駆けて開発した優れたシステムですが、アンテナビー
ムを高速に電子走査するために、128 個の送受信素子などからなる Active Phased Array 方式を採用しており、重量が非常に
重くなるという問題点があります。本研究では、図1に示すように、高速機械的走査型(コニカルスキャン)のリフレクタアンテナを
用いる宇宙機搭載の小型軽量な降雨レーダシステムの設計を行うことを目的とします。
衛星搭載の高速機械走査型の降雨レーダでは、ADEOS-II 搭載の AMSR-E のようなオフセットパラボラアンテナをコニカルス
キャン(円錐状走査)する方式を対象とします。アンテナビームの走査においては、隣り合う地表面走査線に隙間が出ないように
衛星と衛星の直下点を結ぶ方向を軸としたコニカルスキャンを行い降雨領域を覆って行きます。
z
y
降雨レーダ
送信機
V
送受切替器
η
θ0 ( =k0c / f D )
H
⊿rs
ωt
x
c:光速度
降雨レーダ
受信機
アンテナ
V
x
y
ω
横から見た図
a
b
切替スイッチ
⊿rl
上から見た図
マイクロ波
放射計
受信機
信号
処理
装置
図1 高速機械的走査方式(コニカルスキャン)を用いる
図2 衛星搭載降雨レーダ・マイクロ波放射計
衛星搭載降雨レーダの地上軌跡
複合型降雨観測システム
(2)宇宙からの降雨観測において、降雨レーダとマイクロ波放射計データの複合的な利用についての重要性はますます認識さ
れつつあります。本研究では、図2に示すように降雨レーダとマイクロ波放射計が共通のアンテナを用い、瞬時視野を共有する
人工衛星搭載降雨レーダ・マイクロ波放射計複合型降雨観測システムを将来型の降雨観測センサとして提案し、そのシステム設
計を行うことを目的とします。これによって、両者の観測条件の違いを軽減すると共に、両者のデータを同時利用することによっ
て降雨強度の推定精度を上げることを目指します。
図3の左図は、TRMM 衛星搭載降
雨レーダの降雨散乱電力から求め
た雨滴密度の鉛直方向積算値で、
右図は、TRMM レーダで受信した
降雨から放射される雑音電力
(TRMM レーダをマイクロ波放射計
として利用した場合)で、両者には相
関が見られます。
図3 左図:TRMM 降雨レーダから求めた雨滴密度の鉛直方向積算値
右図:TRMM レーダで受信した降雨から放射される雑音電力
テーマ名:熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載降雨レーダアルゴリズムの研究
宇宙航空研究開発機構からの受託研究 (H22-H24):TRMM 降雨レーダ標準アルゴリズムの高度化についての検討
熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダ(PR)データ解析アルゴリズムを用いて降雨強度等の物理量を算出し、衛星デ
ータや地上雨量計データ等との比較を行い、更なる降雨レーダ(PR)標準アルゴリズムの改良を行います。平成21年度には
Version 7 アルゴリズムの提案を行いましたが、今後は Version 7 アルゴリズムを用いた処理結果の評価を行い、更なるアルゴリズ
ムの改良に取り組みます。
図 1 は、熱帯降雨観測衛星(TRMM: Tropical Rainfall Measuring
Mission) を示します。TRMM は、日米共同の衛星で 1997 年 11 月 28 日
に打ち上げられました。その後、12年を過ぎた現在も順調に降雨観測デ
ータを取得し続けています。今後も 2016 年ごろまでの運用が期待されて
います。TRMM は、日米共同の人工衛星であり、全世界の総降雨量の
約 2/3 を占め、エルニーニョ現象を初めとする地球的規模の気候変動に
影響を及ぼす熱帯および亜熱帯降雨を観測することを目的とします。
TRMM は、降雨観測用センサとして日本が開発した世界初の降雨レー
ダ(PR)、米国が提供したマイクロ波放射計(TMI)、可視・赤外観測装置
写真提供:宇宙航空研究開発機構・情報通信研究機構
(VIRS)を搭載しています。
図 1 熱帯降雨観測衛星(TRMM)
図2は、昨年 8 月 9-10 日に兵庫県佐用町に死者 18 名、行方不明者 2 名、全壊 138 棟を含む 1041 棟の居住被害という豪雨
災害をもたらした台風 9 号を TRMM 搭載の降雨観測センサである PR, TMI, VIRS が観測した映像です。中央の走査幅 210km
の狭い領域を約 5 kmの分解能で観測したのが、PR であり、やや右上の黄色っぽい大きな雨域を 6~50 km の分解能で観測し
たのが、TMI です。背景の白い雲写真が VIRS の観測結果です。TRMM 衛星は、降雨災害をもたらす台風やハリケーンなどの進
路予測等の予警報業務にも利用され始めています。
図3は、日本の 11 都市(東京、名古屋、大阪、福井、鳥取、松江、福山、松山、福岡、延岡、那覇)において気象庁の地上雨
量計と TRMM 降雨レーダが観測した 1997 年 12 月から 2009 年 5 月までの月雨量を比較したものです。図中の赤い線が回帰直
線であり、両者の相関係数は、0.53 でした。TRMM で観測した降雨量が約 150 mm/month の小さい領域では、TRMM は、降雨
量を過少評価し、約 150 mm/month よりも大きい領域では、TRMM は、降雨量を過大評する傾向が見られています。衛星観測固
有のサンプリング誤差の問題を反映していますが、さらなる検討が必要です。
地上雨量計とTRMM降雨レーダの観測した月雨量の比較(1997/12-2009/5)
1000
800
y = 0.4823x + 89.685
R2 = 0.2859
700
R=0.53
地上降雨データ
(mm/month)
900
600
500
400
300
200
100
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
3A25 (mm/month)
図3 国内 11 都市(東京、名古屋、大阪、福井、鳥取、松江、福山、松
山、福岡、延岡、那覇)に於ける地上雨量計と TRMM 降雨レーダが観測
図2 TRMM 搭載の PR、TMI、VIRS で観測した平成 21 年
台風 9 号豪雨災害(2009 年 8 月 10 日 6 時 10 分 JST)
した月降水量の比較(1997 年 12 月~2009 年 5 月)