PCC 症例検討 「利尿剤の大量内服 をしている事例」 函館稜北病院 後期研修医 川俣 美帆 2011年7月27日 ①特発性浮腫の中でも特に、利尿 剤誘発性の浮腫 ②高度の利尿剤抵抗性(耐性) の両者が悪循環を生み、大量の利 尿剤内服に至った事例を経験し た。 A 全身性浮腫 全身的な原因によって生じ、両下腿浮腫、仙骨部浮腫、 腹水、胸水、肺水腫、眼窩周囲浮腫を呈する � 1: a b c 心臓性 収縮or /and 拡張機能不全 収縮性心膜炎 肺高血圧 肝性(肝硬変) � 3: 腎性 � 2: a 進行した腎不全 b ネフローゼ 栄養欠乏性 � 5: 薬剤性 � 6: 特発性浮腫 � 7: 栄養再投与症候群 � 8: 粘液水腫 � 4: B 肢の浮腫 非全身的な原因によって生じ、片側または両側に起こる浮腫 � 1: 静脈疾患 (1) DVT (2)リンパ節腫脹 (3)骨盤内腫瘤 � 2:リンパ路閉塞(リンパ浮腫) a. 一次性 (1) 先天性(Milroy病など) (2) 早発性リンパ浮腫や遅発性リンパ浮腫など b. 二次性 (1) 腫瘍性疾患 (2) 手術(特に乳房切除術後や骨盤内手術後) (3) 放射線治療 (4) その他(結核、再発性リンパ管炎、フィラリア症) C 限局性浮腫 � 1: 熱傷 � 2: 血管性浮腫、蕁麻疹 � 3: 外傷 � 4:蜂窩織炎、丹毒 � NSAIDS � ステロイドホルモン � 降圧薬 グルココルチコイド 蛋白同化ステロイド エストロゲン プロゲステロン � 動脈/細動脈に直接 作用する血管拡張薬 Hydralazine Clonidine Methyldopa Guanethidine Minoxidine カルシウム拮抗薬 α遮断薬 チアゾリジン系 � Cyclosporine � 成長ホルモン � 免疫療法 IL-2 OKT3モノクローナル抗体 ハリソン内科学書 第3版 � 血管収縮(NSAIDSやCyclosporine) � 細動脈拡張(血管拡張薬) � 腎臓でのNa再吸収の増加(ステロイドホルモン) � 毛細血管の障害(IL-2) ハリソン内科学書 第3版 もっぱら女性 � 好発年齢は20~40才 (15~60才) � 浮腫は一過性ないし持続性、立位で増悪 � 全身性、特に足首や下肢に強い � 腹部膨満を訴える � 健康な女性の BW の日内変動は 0.6Kg 程度だが、 特発性浮腫では 1.4Kg 以上の変動と尿量低下が ある � 多彩な不定愁訴 (腹痛・頭痛・胸部不快感・狭心 症様症状・不安焦燥・神経質・うつ状態 ) を伴う � 診断は他の浮腫の原因疾患の除外 � ハリソン内科学書 第3版 ハリソン内科学書 第 心臓、肝臓、腎疾患などがない閉経前女性に生じ る、顔面、体幹、手足などのむくみ � 糖尿病や肥満、精神的な問題(うつや症状精神病 などを含む)がしばしばこの疾患の一因を占める。 � 体重を減らすための Purging behaviors (瀉下的な 行為;食事量の大幅な変動、利尿剤や下剤の乱用 や嘔吐)と関連もある。 � 精神的なアンバランスの存在がある。 � 未だに解明されていない多因子疾患 � up to date:idiopathic edema � 3つの理論が提唱 ①毛細血管漏出 ②栄養再投与症候群 ③利尿薬誘発性の浮腫 � 直立姿勢をとった時の異常な反応が生じる � 正常では、立位により下肢の細胞外液が貯留 することで、血漿量の減少が生じ、結果的に 尿中ナトリウム排泄が減少し、日中の体重は 平均0.5~1.5kg増加する。 up to date:idiopathic edema � 一方で特発性浮腫患者は、立位時に血管から大量の 液体漏出が生じ、循環血液量減少時に増加するレニ ン、ノルエピネフリン、ADHの上昇をきたす。 � 毛細血管からの体液漏出に関与する因子は未解明 � 視床下部機能の障害、毛細血管の血行動態の変化な どによって、Na排泄の増加に関与するドパミンが減 少することも浮腫をきたす。 � 特発性浮腫の患者はしばしば視床下部機能に障害が あり、プロラクチン、黄体形成ホルモン(時には他 のホルモン)の放出にも障害があることがある。 :idiopathic edema up to date date: � 特発性浮腫の患者の中には体重を落とすため に食事量を極端に減らす人がいる。 � その後元通りに食べ始めると、①インスリン の放出量の増加や、②レニンアンギオテンシンアルドステロン 系の活性化が起こる。 � ①インスリンは集合管を刺激してNa再吸収を 促進する。 � ②レニンアンギオテンシンアルドステロン系もNa貯留に作用す る。 up to date :idiopathic edema � 利尿剤の乱用によって逆説的に生じる浮腫 � 慢性的な利尿剤内服による循環血漿量の減少 が、レニンアンギオテンシンアルドステロン系などのNaを貯留 しようとするメカニズムを活性化させる。 � 利尿剤が中止されると、急激に浮腫が増強す るため、利尿剤をなかなか中止できない結果 となるが、1~3週間もすれば浮腫の改善とと もに自発的な利尿が生じてくる。 up to date:idiopathic edema 下記3項目をすべて満たしたとき特発性浮腫 と診断する。 � 朝夕の体重差が1.4kg以上。 � 浮腫をきたす器質的疾患の除外。 � 精神障害がある、または、感情が不安定。 本症例では 3項目を満たす 本症例では 21点!! 下記ポイントの合計が16点以上のとき特発性浮腫と診断する。 � 月経と無関係に顔面、体幹or上肢に非圧痕性の浮腫 →5点 AM8~PM8で0.9kgの体重増加が少なくとも3日に1回 →5点 月経と無関係に一日4ポンド(=1.8kg)の体重増加 →4点 浮腫の期間に神経緊張、落ち込み、いらいら、頭痛 →4点 月経機能不全の既往 →3点 糖尿病、過熟児、尿糖、流産or 機能性低血糖の既往 →3点 糖尿病or過熟児の家族歴 →2点 神経質な性分かつ/あるいは自律神経失調 →2点 肥満 →1点 � 発症が20~60歳 � � � � � � � � →1点 � 塩分摂取の制限 � 毎日数時間の仰臥位での臥床 � 弾性ストッキングの着用 Up to date の 引用論文には カプトプリル が有効だと書 いてある。 � ACE阻害薬 通常の治療 に反応しな い患者で 有効例あり � プロゲステロン � ドパミン作動薬:bromocriptine � 交感神経作用アミン:dextroamphetamine � 利尿薬 …投与を続けると効力を失うことがあり、使うなら控えめにすべき! ハリソン内科学書 第3版 � 利尿薬はNa再吸収を抑制し ,循環血液量を減少させる ヘンレ係締の上流の 方がNa再吸収率が高 く、下流が低くなっ ている 上流に作用する 利尿薬(ループ利尿薬 ) の方が利尿作用が 強い ①ループ利尿薬を使用すると、ヘンレループの 下行脚では逆にNa再吸収量が増える。 ②尿細管ではそれまでの利尿剤の濃度が減少す ると、次に利尿剤の濃度が高まるまでNa濃度 を維持しようとする。 ③ループ利尿薬を長期間使用することで、細胞 外液量が減少したり、腎尿細管自体が構造的、 機能的に変化することで利尿剤が効きにくく ンなる。 Diuretic resistance: physiology and therapeutics. Semin Nephrol. 1999 Nov;19(6):581-97. 名古屋市立大学 第三内科講義資料 「Lasix」は 「la st six hours」 last に由来する。 添付文書にも、 「利尿効果は経口投与 後1時間以内に発現し、 約6時間持続する」と 記されている。 � 中には複数の病院を受診して利尿剤をもらい、 600mg/日ものフロセミドを内服する症例もあ る。 � 著しい低K血症や循環血漿量の減少が遷延化 すると、横紋筋融解症や慢性腎不全などの重 大な合併症をもたらす。 up to date:idiopathic edema 本症例は、 ①特発性浮腫の中でも特に、利尿剤誘発性の浮腫 ②高度の利尿剤抵抗性(耐性) の両者が悪循環を生み、大量の利尿剤内服に至っ たと考えられた。 � 自宅での家事、介護などのストレス、長時間の立 位負荷も浮腫の形成に大きく関与している可能性 があった。 � 生活背景の改善はすぐには困難であるが、何らか の調整策を提案できるよう、今後もご本人と相談 していく必要がある。 � 本症例のような特発性浮腫の実際の病態を把握、 評価することは、外来診察の場面のみでは困難と 考えられた。 � 精神的な面でも利尿剤への依存状態にあることが 疑われ、最終的に利尿剤の継続を行うこととして しまったが、今後の重大な合併症を防ぐためにも、 他の治療法の併用と利尿剤の漸減を試みる必要が ある。 � 「利尿剤」を処方する際は、耐性化や利尿剤誘発 性の浮腫もあることを踏まえ、慎重になるべきで ある。 � � up � � � to date 《idiopathic edema》 Diuretic resistance:physiology and therapeutics. Semin Nephrol. 1999 Nov;19(6):581-97. Thorn GW: Approach to the patient with "idiopathic edema" or "periodic swelling". JAMA 206: 333,1968. McKendry JBR, Mc MacLaren and GM Bloom, Idiopathic intermittent edema of women and interpersonal conflict. In: Psychosomatic medicine. Excerpta Med Int Congr Ser,1966 名古屋市立大学 第三内科講義資料 � ハリソン内科学書 第3版 � 考える技術 �
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