表計算ソフトを使用した「需要予測」のシミュレーション

表計算ソフトを使用した「需要予測」のシミュレーション
概要
私たちの周りには、駅売りの新聞、イベント会場での弁当、生鮮食品の鮮魚など 、「どれだけ売れ
るか」を見込んで仕入や生産計画を立てている事柄が種々なところにある。これらは 、「需要予測」
という技法で「在庫過剰や品切れ」という現象を解決できる。ここでは、「需要予測」の基本的な考
え方を学習する。なお、前提として「表計算の操作」を学習しておくことが望ましい。
キーワード
需要予測、需要量、確率、表計算
1.学習活動
以下モデルをつくって解析することにより、
需要予測を規定するには、まず商品の1個の
次の値が求められる。
仕入単価と販売単価が分かっているとして、そ
・乱数に基づく需要量
の商品の需要分布(需要量とその出現確率)を
・販売数
知らなければならない。この需要量の中には売
・売上高
り切れで断った数も含める必要がある。また、
・仕入高
この商品の発注は毎日行い、その日の内に売れ
・利益
なければ、まるまる損失となる。
・平均利益
さらに、過去の需要分布値から、販売数、販
売高、仕入高、利益を求め、利益を最大にする
(1)問題
ための毎日の仕入数を求めるものである。これ
岐阜メモリアルセンターでは、弁当屋のポッ
らを整理すると、需要予測を規定する要因とし
カポッカ亭と契約してスポーツイベントの行わ
て次の点が上げられる。
れる日は弁当を販売している。弁当の販売単価
①仕入単価と販売単価
は1つ700円、仕入単価は1つ400円である。仕入
②需要量と出現確率の分布
れた弁当がすべて当日売れれば問題はないので
需要量
1
2
3
4
5
確率
0.01
0.03
0.06
0.14
0.19
需要量
6
7
8
9
10
確率
0.30
0.15
0.08
0.03
0.01
図1
あるが、売れ残った場合は、ただで残飯業者が
引き取っている。したがって、仕入量の見積も
りを誤ると 、大きく損をすることになる。さて、
過去の統計を見ると、弁当の需要は1日100食か
ら800食の間で、それぞれの確率は下記のとおり
需要分布表
である。
需要分布
0.4
0.30
0.3
確
0.2
率
0.19
0.01
0.03
2
3
0.03
4
5
6
7
需要量
図2
200
300
400
500
確率
0.05
0.10
0.20
0.25
0.20
需要量
600
700
800
−−
−−
確率
0.10
0.08
0.02
−−
−−
一日何食仕入れると、利益は最大となるか求
0.08
0.06
0.01
0
1
100
0.15
0.14
0.1
需要量
8
9
10
めなさい。ただし、100食を1単位として1日の
仕入個数を決めなければならない。
需要分布グラフ
- 1 -
(2)モデル化
③処分単価
上記の問題文より、数値データをモデル化す
「ここでは考慮しない」
る。
④需要分布
①仕入単価
「需要は1日100食から800食の間で、100
「仕入単価は1つ400円」
食を1単位」
②販売単価
⑤確率分布
「販売単価は1つ700円」
「資料参照」
(3)シミュレーション
A
B
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
C
仕入単価
販売単価:
処分単価:
F
G
仕入数
平均利益
需要分布
確率分布
過去の経験による需要
100
0.05
0.00
∼
200
0.10 (式1) 0.05
∼
300
0.20
0.15
∼
400
0.25
0.20
∼
500
0.20
0.45
∼
600
0.10
0.65
∼
700
0.08
0.75
∼
800
0.02
0.83
∼
0.85
∼
A
200
(式10)53,700
0.05
0.15 (式2)
0.20
0.45
0.65
0.75
0.83
0.85
0.85
100
200
300
400
500
600
700
800
0
データの入力と算出結果
B
回数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
C
D
E
F
G
H
乱数
需要量
販売数
売上高
処分高
仕入高
利益
(式3) (式4) 500 (式5) 200 (式6)140,000 (式7)
0 (式8)80,000 (式9)60,000
0.20752516
300
200
140,000
0
80,000
60,000
0.31594737
300
200
140,000
0
80,000
60,000
0.13045624
200
200
140,000
0
80,000
60,000
0.42210328
400
200
140,000
0
80,000
60,000
0.68763532
500
200
140,000
0
80,000
60,000
0.47782088
400
200
140,000
0
80,000
60,000
0.89017312
600
200
140,000
0
80,000
60,000
0.6014979
500
200
140,000
0
80,000
60,000
0.52223361
400
200
140,000
0
80,000
60,000
図4
200
200
140,000
140,000
∼
700
200
∼
99 0.94795764
100 0.1033144
∼
∼
117
118
E
400
700
0
図3
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
D
0
0
80,000
80,000
60,000
60,000
乱数による需要量のシミュレーション
(4)作業の手順
⑧「処分高」(式7 )。
①上記図3の「仕入単価 」「販売単価 」「処分
⑨「仕入高」(式8 )。
単価 」「需要量」「確率」の五項目に、モデル化
⑩「利益 」(式9)。
した値を入力し、③∼⑪の値を求める。
⑪「平均利益 」(式10 )。
②仮の仕入数を入力する。
③「確率分布の累積」(式1・2)。
上記②「仮の仕入数」に対する⑪「平均利益 」
④「乱数」(式3)。
を図5の「仕入数と平均利益の関連表」に記録
⑤「需要量 」(式4 )。
してグラフ化することにより、このモデルにお
⑥「販売数 」(式5 )。
ける重要予測の現象が解析できる。
⑦「売上高 」(式6 )。
- 2 -
試行\仕入数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
平均利益
100
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
200
54,400
55,800
58,600
54,400
57,200
58,600
60,000
55,800
57,200
55,800
56,780
300
70,400
77,400
77,400
80,200
70,400
76,000
80,200
69,000
78,800
73,200
75,300
図5
400
72,400
73,800
94,800
69,600
92,000
90,600
80,800
94,800
89,200
69,600
82,760
500
66,000
61,800
64,600
50,600
61,800
80,000
49,200
71,600
94,000
59,200
65,880
600
33,000
52,600
58,200
35,800
19,000
38,600
75,000
33,000
51,200
34,400
43,080
700
44,800
12,600
19,600
2,800
-5,600
15,400
7,000
15,400
29,400
23,800
16,520
800
-42,800
-30,200
-35,800
-48,400
-20,400
-14,800
-21,800
-70,800
-31,600
-20,400
-33,700
仕入数と平均利益の関連表
円まで引き下げることが可能となった。このと
仕入数と平均利益の関連グラフ
き、一日何食仕入れると、利益は最大となるか
100,000
80,000
求めなさい。ただし、仕入単価以外の条件は、
60,000
平
均
利
益
変わらないものとする。
40,000
②諸物価高騰につき、仕入単価の引き上げと
20,000
0
100
200
300
400
500
600
700
なり、500円となった。このとき、一日何食
800
-20,000
仕入れると、利益は最大となるか求めなさい。
-40,000
仕入数
図6
ただし、ただし、仕入単価以外の条件は、変わ
仕入数と平均利益の関連グラフ
らないものとする。
③残飯業者が引き取り代を求めてきて、1食
また、同一仕入数であっても、乱数の発生に
あたり100円の処分単価が必要となった。こ
より平均利益は常に変動するため、上記②∼⑪
のとき、一日何食仕入れると、利益は最大とな
を繰り返し平均利益を求める。
るか求めなさい。ただし、処分単価以外の条件
は、変わらないものとする。
(5)課題
④別の残飯業者は、売れ残った弁当を家畜の
上記、作業手順①の各項目における数値デー
飼料用に1食あたり100円で買い取ってくれ
タをそれぞれ変更し、待ち行列がどのように変
ることとなった。このとき、一日何食仕入れる
化するか確認しなさい。
と、利益は最大となるか求めなさい。ただし、
処分単価以外の条件は 、変わらないものとする。
①仕入単価の値引きを検討した結果、300
試行\仕入数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
平均利益
100
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
20,000
200
37,200
38,600
35,800
37,200
28,800
34,400
30,200
38,600
35,800
31,600
34,820
300
53,000
43,200
50,200
46,000
41,800
40,400
34,800
44,600
39,000
46,000
43,900
図7
400
43,600
42,200
32,400
40,800
43,600
35,200
28,200
39,400
46,400
43,600
39,540
課題②の例
- 3 -
500
38,400
20,200
10,400
18,800
6,200
32,800
2,000
34,200
16,000
37,000
21,600
600
-38,200
-11,600
-13,000
-20,000
-38,200
-31,200
-4,600
-32,600
-3,200
-8,800
-20,140
700
800
-63,000 -72,400
-49,000 -96,200
-51,800 -103,200
-47,600 -96,200
-57,400 -96,200
-63,000 -108,800
-39,200 -86,400
-63,000 -85,000
-50,400 -120,000
-68,600 -111,600
-55,300 -97,600
2.備考
(5)売上高
現代社会において、将来の予測なしに今後の行
動を決定することはほとんどなく、計画や見通
「販売数」と「販売単価」を掛けて求める。
式6
=D19*$C$3
しなしでは何もできないといってもよい。
計画や決定を行う時には常に危険が伴い、よ
(6)処分高
り的確な予測を行うことができれば危険を小さ
くすることができる。予測の意義とは、いかに
売れ残った数と「処分単価 」を掛けて求める。
式7
=($F$2-D19)*$C$47
して危険を小さくするかということである。
たとえば、製品を生産する場合、どれくらい
(7)仕入高
需要があるのか分からず、でたらめに生産計画
を立ててしまうと、作り過ぎれば製品が売れ残
「仕入数」と「仕入単価」を掛けて求める。
式8
=$F$2*$C$2
り損失を出してしまうし、需要よりも生産量が
少なければ、売上をのばす可能性をみずからつ
(8)利益
ぶしてしまうことになる。
「売上高」と「処分高」と「仕入高」から求
鮮魚の場合、朝その日に売る分を市場から仕
入れてくるが、多すぎても少なすぎてもいけな
める。
式9
=E19+F19-G19
い。多すぎた場合は、売れ残ってしまい捨てる
ことになる。逆に少なすぎる場合は、客が買い
(9)平均利益
に着ても売るものがないため、せっかくの客を
逃してしまうことになる。このように、多から
「利益」100件の平均値を求める。
式10
=AVERAGEA(H19:H118)
ず少なからずちょうどいい量を仕入れてくるた
3.情報活用内容(学習実践方法と情報活用内
めに 、「需要予測」が大切である。
我々の社会や生活のほとんどは予測の上に成
り立っているといっても過言ではなく、予測を
容)
(1)ワークシートのダウンロード
行うための重要な情報として、データは不可欠
である。
シミュレーションで使用するExcelワークシー
トは、http://www.gdpec.smile.pref.gifu.jp/
s07/or/
(1)確率分布の累積
からダウンロードできる 。(ただし、
SMILE端末のみアクセス可能)
需要分布に応じた確率分布を累積することに
より 、後に乱数を発生した値の度合いを求める。
式1
=F7
式2
=F7+C8
(2)演習問題
①岐阜駅構内での駅売り新聞店では毎朝スポ
ーツ新聞を売っている。新聞は1部50円で仕
入れて150円で販売している。売れなかった
(2)乱数
新聞は10部50円で古紙回収業者に買い取っ
0.00<乱数<1.00の範囲で乱数を発生する。
式3
=RAND()
てもらっている。毎日の需要を調べたところ次
のようなデータを得た。今後は毎日何部仕入る
と、利益が最大となるか求めなさい。ただし、
(3)需要量
仕入は10部を1単位として行い、需要も10
「乱数」により、需要量を求める。
式4
部を1単位としての統計である。
=VLOOKUP(B19,$D$7:$G$16,4)
需要量
確率
(4)販売数
「仕入数 」と「需要量」の内小さい値をとる 。
式5
=IF(C19>$F$2,$F$2,C19)
- 4 -
80
100
110
120
130
140
0.02 0.03 0.03 0.06 0.08 0.12 0.15
需要量 150
確率
90
160
170
180
190
200 −−
0.20 0.15 0.08 0.06 0.01 0.01 −−