映像文化論

映像文化論 第6回 物語としてのジャンル映画
その4 アクション 第5回の復習
コメディ=新しい社会への「移行」を描く
スラップスティック=ドタバタの笑劇(ファルス)とユー
モアのある身体運動
キーワード:ミュージック・ホール(19c英)、サ
イレント映画、チャップリン、キートン
スクリューボール・コメディ=風変わりな主人公と機智に
富む会話より成る、恋(性愛)の戯れの物語を描く
キーワード:均質な文明社会の「異端」、トーキー
映画
第5回の復習(2)と補足
(a)コメディの多様化(1960年代/70年代以
降)
ナンセンスからセンスへの傾向
・センス=意味を求める作品例
人情の大切さ・・・山田洋次『男はつらいよ』
戦争の滑稽さ・・・ロバート・アルトマン『マッ
シュ』
家族の絆・・・クリス・コロンバス『ホーム・ア
ローン』
・センスにおさまりきらない作品例
原発労働者と娼婦の結婚と死・・・森崎東『生きてるう
ちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言』
1. アクション映画とは何か (1)アクションとは何か
(a)語義(action)
①映画の個々のシーンで起こる出来事全体
②「アクション映画」
追跡、格闘、離れわざ、激突、爆発など
(2)「アクション映画」の流れ
(a)前史 ・Boy’s Own Papers(1879-1967英)
→少年向けの冒険物語を載せた雑誌=19c後半、 大量に流通 →ヒロイズムと愛国精神を育てるのに貢献
→大衆文化的、かつ右翼的で、低評価
(b)冒険小説的素材の映画化 イギリス
大英帝国讃美映画(British Empire Film)
←アメリカ西部劇との類似: ・フロンティアの消滅というモチーフ ・野生をならす描写 ・大衆小説が原作 戦争映画 スパイ・スリラー映画 (ヒッチコック、007シリーズ等)
(c)作品例:
(c-1)フロンティアもの
マイケル・マン
『ラスト・オブ・モヒカン』
(1992)
独立前夜のアメリカを
舞台に、英軍大佐令嬢と、
モヒカン族酋長の息子との
愛を描く。
(all cinema online)
(c-2)戦争もの
J・リー・トンプソン
『ナバロンの要塞』
(1961)
ギリシャ・ナバロン島に据えつけられた2門の大
砲を破壊するため、6人のメンバーからなる特
殊部隊が結成された。イギリス駆逐艦がここを
通過するまでに、大砲を破壊しなければならな
い。彼らは、ナバロン島南側の、400フィー
トもの絶壁に取りつくが……。(all cinema
online) (c-3)スパイ・スリラーもの
テレンス・ヤング
『007/ドクター・ノオ』
(1962)
自分の意志で殺人を犯すこ
とを認められた、 00 ナ
ンバーを持つ英国情報部員、
ジェームズ・ボンドの活躍を
描く。(all cinema online) (d)冒険小説的素材の映画化 アメリカ
(d-1)1920 1930s ヒーロー像確立期
スワッシュバックラー映画(冒険活劇映画)の流行
『奇傑ゾロ』(1920,ダグラス・フェアバンクス) ←伊達男だが実は義賊。悪党を退治 『ロビンフッドの冒険』(1938, エロール・フリン) ←弱きを助ける好漢の盗賊ロビンがジョン王の奸計に
より玉座を負われたリチャード王を助ける大冒険絵巻 (d-2)1970s
「アクション映画」確立期
ジョージ・ルーカス『スターウォーズ』(1977)
←スワッシュバックラーの伝統
←海賊/盗賊と戦い、失われた王国の再興をはか
る英雄(愛国主義=時のレーガン政体と適合)
←静のSF(『2001年宇宙の旅』等) 動のSFヘ
スティーヴン・スピルバーグ『インディ・ジョーン
ズ』(1981) (d-3)その後のアクション映画の例
ロバート・ゼメキス『バック・トゥ・ザ・フュー
チャー』(1985)
リドリー・スコット『エイリアン』(1979)
トニー・スコット『トップガン』(1986)
その他、『ロッキー』(1976)『ランボー』
(1982)『ターミネーター』(1984)『ダイ
ハード』(1988)『ミッション・インポッシブ
ル』(1996)など
2.日本のアクション映画 (1)黒澤明(1910 1998)
『羅生門』(1951) ヴェネチア映画祭グランプリ
『七人の侍』(1954) ←『荒野の七人』(1960)としてリメイク(西部劇)
『隠し砦の三悪人』(1958)
←『スターウォーズ』のロボットのモデルとなる
『用心棒』(1961)/『影武者』(1980)/『乱』
(1985)
(2)日活アクション(1950年代半ば )
(a)石原慎太郎『太陽の季節』の映画化(古川
卓巳監督、1956)
←戦後の無軌道な若者たちの日常を描く ←戦争による被害者意識(マゾヒズム)とは無縁の、加
害者的サディズムを、ドライ、かつスピーディに表現
(b)石原裕次郎のデビュー(中平康『狂った果
実』(1956))
←新しいアクションスター像 (長身、長い足>端正で目立つ顔) ←戦後日本の個人主義の体現者
(c)石原裕次郎の代表作
井上梅次『嵐を呼ぶ男』(1958)
蔵原惟繕『憎いあンちくしょう』(1962)
また、田坂具隆『乳母車』(1956)、『陽のあたる坂
道』(1958)などの現代ホームドラマの佳品にも出演。
(d)奇才、鈴木清順(1923 )
原色による過剰な色彩、極度のクロースアップ等
の様式美
『野獣の青春』(1963、宍戸錠主演)
『けんかえれじい』(1966、高橋英樹主演)
『殺しの烙印』(1967、宍戸錠主演)
→難解さが社長の怒りを買い、日活を解雇
(e)日活系の映画監督(1970年代 )
1960年代 テレビの普及
映画産業の
1970年代 映画会社の経営再編、倒産
斜陽化
日活はソフトポルノに路線転換
→映画監督、職人(カメラマン、照明など)が技術
を磨く
(e-1)藤田敏八(1932 1997年) 『修羅雪姫』(梶芽衣子主演、1973年)
←タランティーノ『キル・ビル』によるオマージュ
『スローなブギにしてくれ』
(古尾谷雅人、浅野温子主演、1981年)
(e-2)村川透(1937 ) 『白い指の戯れ』(伊佐山ひろ子、荒木一郎主演、
1972年)
『最も危険な遊戯』(東映:松田優作主演、1980年)
『野獣死すべし』(東映:松田優作主演、1980年)
テレビ『探偵物語』シリーズ(松田優作主演、1979
80年)
テレビ『西部警察』シリーズ(石原裕次郎、渡哲也主
演、1979 84年) テレビ『あぶない刑事』シリーズ(柴田恭平、舘ひろ
し、仲村トオル、浅野温子主演、1986 88年)
(e-3)長谷部安春(1932 2009年) 『俺にさわると危ないぜ』(小林旭主演、1966年)
『野良猫ロック マシン・アニマル』(梶芽衣子主演、
1970年)
『女囚さそり 701号怨み節』(東映:梶芽衣子主演、
1973年)
(園子温『愛のむきだし』(2008年)で、
「さそり」のパロディ)
テレビ『あぶない刑事』シリーズ(企画から関わる)
テレビ『相棒』シリーズ(水谷豊主演、2000年 )
『鑑識・米沢守の事件簿』(2009年 遺作)
(f)作品例:蔵原惟繕『憎いあンちくしょう』
北大作(石原裕次郎) ・・・ マスコミの寵児。テレ
ビやラジオの仕事に追われる毎日。マネージャーの典子
とつきあっているが、倦怠感といらだちを感じている。
ジープを熊本まで運ぶ仕事を引き受ける。
榊田典子(浅丘ルリ子) ・・・ 大作のマネージャー
兼恋人。大作が置いて行ったジャガーで、九州まで大作
を追いかけ連れ戻そうとする。「新鮮で美しい愛を保
つ」ため、ふたりのあいだに男女の関係はない。
井川美子(芦川いづみ) ・・・ 熊本の田舎で働く恋
人の医師のために、働いた金で買った中古ジープを送る
ため、新聞にジープを無報酬で熊本へ移送してくれる求
人の広告を出す。
一郎ちゃん(長門裕之) ・・・ テレビ局のディレク
ター。国民に受ける映像を欲しがる。
参考文献 1. 浅沼圭司他編『新映画事典』(美術出版社)
2. 加藤幹郎『映画ジャンル論』(平凡社)
3. 四方田犬彦『日本映画史100年』(集英社
新書)
4. ブランドフォード他『フィルム・スタディー
ズ事典』(フィルムアート社)
5. Konigsberg. The Complete Film Dictionary.
Penguin Reference.