ニッケル 現在不可欠 将来不可欠 周年記念号

今もなお輝く:
建築物のステンレス鋼
中国とインド:ニッケル材料の
国内最終使用量が増加
ニッ ケ ルとそ の 用 途 の 情 報 誌
周年記念号
ニッケル
現在不可欠
将来不可欠
2015年第30号第2巻
輸送と持続可能なエネルギー
グリッドのための改良型電池
ニッケル誌
第1号
2 30周年記念号
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
ニッケルとその用途の情報誌
発行:ニッケル協会
www.nickelinstitute.org
プレジデント:David Butler
編集発行人:Clare Richardson
[email protected]
投稿者:Gary Coates, Catherine Houska,
Bruce McKean, Geir Moe, Eric Partington,
Thierry Pierard, Clive Whittington
発展と革新の30年
デザイン:Constructive Communications
住所:
Nickel Institute
Eighth Floor
Avenue des Arts 13-14
Brussels 1210, Belgium
Tel. 32 2 290 3200
[email protected]
30年前のニッケル誌第1号(裏ページ参照)の内容は、すべてが今もなお真実です。い
や、正しくはほとんどすべてがというべきでしょうか。
「非社会主義者の世界」という表
現は、今ではほとんど見ないものですから。
本誌は読者への一般情報提供を目的としており、
しかるべき
助言を確保せずして、いかなる特定の目的あるいは用途の
ために使用もしくは依拠されるべきではない。本誌は専門的
に見て正確であると信じられるものではあるが、ニッケル協
会とその会員、スタッフ及びコンサルタントはあらゆる一般
的な、
もしくは特定の目的のための適合性について、何ら表
明もしくは保証するものではなく、
また本書に示されている情
報に関して、いかなる種類の義務もしくは責任を負うもので
はない。
ISSN 0829-8351
印刷:カナダ、Hayes Print Group 再生紙使用
表紙:Constructive Communications
表紙写真:30年間のニッケル誌、Constructive
Communications
しかし政治によってニッケルとニッケル含有材料の品質が変化することはなく、その品質
は今も一定です。こうした高品質の製品が、改良された製品と環境を支えるために今どの
ように普及しているかは、1985年に産業界と社会がニッケルについて予想したことその
ままです。
そうした内容の一部を今号であらためて取り上げ、強度、耐久性、強化された耐食性、審
美性、リサイクル可能性などが今もどのように利用されているかを明らかにします。とは
いえ、そこでの利用の仕方は、材料を扱う作業の方法自体がさらに洗練されたことを反
映して洗練されています。
そして発展を扱う以下の記事と図表では、ニッケルの未来がどうなるかという私たちの認
識がなぜ30年前とほとんど変わらないように見えるのかを明らかにします。
ニッケルの用途:1985年と2013年の比較
焦点
編集者記 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
特集
電池とニッケル協会 . . . . . . . . . . . 4-5
ステンレス鋼と建築物 . . . . . . . . . . 6-7
インドと中国:
ニッケル使用から30年 . . . . . . . 10-11
注目される用途
日本のステンレス鋼 . . . . . . . . . . . . . . 8
食品安全 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
表面処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
グーテ小屋 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
フォンダシオン ルイ・ヴィトン . . . . 16
簡略に
新会長 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
ニッケル化合物の説明 . . . . . . . . . .
UNS details . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Nitinolロボット . . . . . . . . . . . . . . . .
形状記憶合金 . . . . . . . . . . . . . . . . .
Web links . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
14
14
14
15
15
15
金属品
18%
|
その他
5%
|
建築建設
7.5%—
その他
6%
輸送
|
15%
|
建築建設
10%—
1985
工学—
27.5%
金属品
18%
|
輸送
21%
|
—電気電子
21%
2013
13%—r
管状製品
出典:PARISER
目次
電気電子,
—11%
— 工学
27%
ほとんど変わらないと書きましたが、まったく同じわけではありません。ニッケルに対す
る需要はこの30年間で3倍近くに増加し、多様な最終利用カテゴリーもカテゴリー内で
数多くの変化が生じています。たとえば硬貨に使用するニッケルは減少し、電池用の化
学品に使うニッケルは増加しています。そしてそれが技術革新をもたらしました。
30年前のNickel誌編集長も、技術や建築における物語のいくつかは想像の範囲内だっ
たかもしれませんが、ニッケルが研究にとっても最終製品にとっても不可欠であるとい
う、基礎研究および応用研究についてのニュースには驚くにちがいありません。
経済と環境に関する誘因によって材料科学は新しいレベルに到達し、それにともなって
ニッケルの新しい用途、場合によって新しい特性さえもが開発、応用され、社会と環境に
役立っています。
Nickel誌は今後も、ニッケル利用の発展と革新をお伝えし続けます。そこにはお伝えすべ
きたくさんの物語があるはずだからです。
Clare Richardson .
ニッケル誌編集長
焦点 3
過去と未来数十年にわたる貢献
現在も電池にニッケルは不可欠
持続可能性という世界の目標にとって電池は重要性を増しつつあり、ニッケルはその一翼を担っています。
最初のニッケル電池(エジソン研究所が1901年に特許を取得したニッケル鉄電池)は1世紀以上にわたって活躍したものの、並列、
直列、またはその両方の接続で電池を構成するセルに関して、直近の30年でその性質と組成に驚くべき変化が生じました。と同時
に電池を利用する用途も、衰えることなく増加し続けています。さらに、ニッケルカドミウム(NiCd)電池やニッケル水素(NiMH)電
池ほど基礎化学は明らかではないものの、固定型、携帯型、移動型のエネルギー源に用いられる革新的なリチウムイオン電池で
も依然ニッケルは不可欠です。
さらに電池はますます複雑になっています。今やセルと電池は、望ましいパラメータを最大化するように設計します。すなわち比
電圧(specific voltage)、電圧の安定性、比エネルギー、比出力(体積または質量当たりで利用可能なエネルギー量)、充電速度、発
熱、以上およびその他のパラメータ間でのトレードオフなどです。現在メーカーは、現代の多様な電池用途で性能を発揮できる電
池を自ら設計するか、電池メーカーに要望を提示します。しかもメーカーは、多様な仕様を実現するための選択肢がますます増え
ています。実にダイナミックな状況です。
スクーターの「テスラ」
台湾企業Gogoroは、スマートスクーターTMの予約を2015
年6月から受付開始すると発表しました。このスマートスク
ーターは、交換可能なバッテリー、無料の専用充電ステー
ション、最高速95km/h、50km/hへの加速4.2秒、先端的
なデザイン、そしてニッケルを用いるNCAバッテリーを特徴
としています。
ニッケルを中心とする
現代の電池化学
ニッケル亜鉛(NiZn):ニッケル系一次電池の充電可能製
品。同等の鉛蓄電池に比べ75%軽量であることから、自己
放電率は高いもののエネルギー対質量比と出力対質量比
に優れています。さらに充電速度も速く、NiCd電池に対し
価格競争力があります。
ニッケルカドミウム電池(NiCd):かつては携帯ツールで主
要な電池でしたが、その後技術的に進歩し、現在でもなお
静止型の緊急時用電源として多くの最終用途があります。
たとえば鉄道の信号、緊急時の照明および送電網の調整
(grid levelling)(電圧の保守)、緊急時の短期的な送電網で
の給電など。
r 2,300万人の市民のうち1,500万人がスクーターに乗る島に生
まれた電動スクーター。バッテリー交換システムはBluetooth®を
利用して登録済みのスクーターを認識する方法で、オープンスロ
ットに配置するバッテリーが消耗すれば、フル充電したバッテリ
ーに交換できます。交換は、バッテリー1台当たり6秒という短時
間で済みます。
無断複製禁止 © 2014-2015 GOGORO INC.
s1 台 のスクー ター は P a n a s o n i c
technologyのNCAバッテリー2台を
積み、重量は合計で約17kgです。
4 特集
ISTOCKPHOTO.COM©KIRSTYPARGETER
一方これが意味するのは、次に何が起きるのか予測できないということです。とはいえただ一つ確実なことは、他の金属または鉱
物と組み合わせるニッケルは、炭素ベースエネルギーからの移行が継続する以上、今後その重要性が増すことはあっても減ること
はないということです。
ニッケル水素(NiMH): これは30年
前に驚きと共に登場した技術です。
現在は成熟した技術となり、なお
多くの役割を果たしています。
トヨタ®のプリウス全車種の
電源となるなど、電気自動車
の電池として従来と同様今も
主要な立場を占めています。
リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物
(NMC):高い比エネルギーを実現するか高い比出力
を実現するかの調整が可能な化学的特性を持ちますが、
両方を実現することはできません。典型的には1/3がニッケ
ル、1/3がマンガン、1/3がコバルトという構成ですが、多く
のバリエーションがあり、それぞれ異なる性能特性を発揮
します。電動工具、電動バイク、電車などで現在選択される
電源がこれです。ただしテスラはちがいます・・・
リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA):テスラ
自動車が選択したバリエーションがこれです。高い比エネ
ルギー、優れた比出力、長寿命という長所はNMCと同じで
す。アルミニウムを加えることで化学的な安定性が増してい
ます。
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
v テスラ・モデルSの隣に掛かっているPowerwall電池。白、青、黒が選択可能。
TESLA MOTORS
どちらの場合も電池の化学組成ではニッケルが主要要素です。
壁際のエネルギー
テスラのPowerwall®を大変革技術と呼ぶだけでは、それが電力の生成、分配、貯蔵に及ぼす衝撃を表すのに足りませ
ん。Powerwallは現行のモデルに戦いを挑む製品であり、送電網の複雑化や環境主導のエネルギー源(風力、太陽光な
ど)の役割増大に、費用対効果に優る形で対応しています。この技術革新にもニッケルは不可欠です。
まだ早期の現段階では技術的な詳細はほとんどわかって
いません。わかっているのはそれがテスラの住宅用静止型
蓄電池であり、重量は100kg(仕様書を参照)、使用するユ
ニット当たりのセル数はテスラ・モデルSをはるかに下回る
ことです。ただしPowerwallユニットの数は数百万台とい
う数に達する可能性があります。
それ以上に重要なこと:産業用および送電網に関する用途
一般市民の関心と想像力は住宅用途に集中しています。そ
うした用途は文字どおりに「なじみがある(家に近い)」もの
で、その設計では設置型電池システムの色の選択も念頭に
置きます。ただしエネルギー産業にとってそれよりはるか
に混乱をもたらす可能性が高いのは、
「パワーパック」と呼
ばれるスケールアップした製品であり、こうした製品は、ピ
ークシェービング(オフピークのエネルギーの貯蔵)、負荷
シフト、電圧の安定化(電圧のレベリング)など従来型の機
著作権:KJWINES
POWERWALLの仕様
技術
壁設置型、充電可能なニッケル含有リチウム
イオン電池と液体温度制御装置
モデル
バックアップ用途の10kWh、3,500米ドル 日常サイクル用途の7kWh、3,000米ドル
保障
10年間
効率
92%のラウンドトリップDC効率
出力
連続2.0kW、ピーク3.3kW
電圧
350-450V
電流
定格5.8A、ピーク出力8.6A
適合性
単相および三相の公益企業送電網に適合
作動温度
-20 °C ~ 43 °C
重量
100kg
寸法
1300mm x 860mm x 180mm
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
能を提供してきた他のエネルギー貯蔵システムと競合しま
す。
Te s l a E n e r g y に よれ ば 、公 益 企 業 規 模 の システム
はそ れ ぞ れ 1 0 0 k W h の 電 池 を グ ル ープとして 使 用
し、500kWh~10MWhまたはそれ以上の出力を供給しま
す。こうしたシステムであれば、停電時の送電網の電力を補
償するだけの実質放電出力を、連続して2~4時間は供給
できます。こうした電力はテスラ自動車と同じニッケル含有
電池によって供給され、その価格は時間当たり1kWの出力
で約250米ドルと、代替エネルギーより少なくとも50%は
割安です。
今はまだごく初期の段階です。性能と経済性は今後厳しく
調査する必要があります。ただし確かなことは、電力の分
配、貯蔵、利用という全体モデルが、エンドユーザー(すべ
ての人)と環境の利益のために崩されようとしつつあること
です。
sカ
リフォルニア州のJackson Family Winesでは、ソーラーアレ
イとパワーパックユニットの組み合わせでエネルギー費用を
40%削減できる見通しです。
特集 5
ステンレス鋼の
建築物と構造物
ニッケルが進歩を計画する
ニッケル協会のコンサルタント、ワークショップ、文献は、30年間、建築建設で仕様を
決定する際の貴重な情報源であり続け、ニッケル協会が資金を提供した研究が新しい
技術革新を可能にしてきました。Nickel誌の紙面はこうした貢献や遍歴を年代順に記録
しており、最初の10年を振り返って見るだけでニッケル協会が果たした役割を知ること
ができます。またそうしたプロジェクトの多くは、ニッケル含有ステンレス鋼が設計の耐
久性と持続可能性に果たした貢献を表す象徴になっています。
建築資材の多くは、たとえ20年という短
期間であっても再塗装や交換といった大
規模な保守を必要とします。適切に仕様
を定めたステンレス鋼であれば、数百年
の寿命を持ちます。ニッケル含有ステンレ
ス鋼が持つ成形可能性、溶接可能性、多
様な仕上げは、全世界の建築家が素材に
選択する十分な理由です。
ゲートウェイ
アーチ
ニッケル協会は、構造研究、仕様および設
計ガイドの作成、仕様書作成者の育成に
資金を提供する支援を行ってきました。そ
してNickel誌は重要な構造修復や新用途
を記録してきました。自由の女神の修復
は、有名な銅の皮膚部分を支えるのにニッ
ケル含有のタイプ316L(UNS S31603)お
よび合金255(S32550)の二相系ステンレ
ス鋼を用いて完成しました。ステンレス鋼
が、ひどく腐食した構造用の鉄材を代替し
たのです(1986年6月、下の図1)。
温室はとても腐食しやすい環境です。イ
ギリス・ロンドンのキューガーデンにあ
る歴史的なパームハウスの修復には、タ
イプ316Lステンレス鋼製の窓ガラスの
桟を17km使用しました(1990年3月)。伝
統的な外 観は白い塗料で保守しました
(図2) 。 イタリアのモノポリにある建築
学的に重要な12世紀のSanta Maria degli
Amalfitani教会の修復でも、外からは見
えないもののタイプ316(S31600)が役立
ちました(1995年3月)。
1987年6月、Nickel誌はゲートウェイ
アーチを「21年が経過した現在も完
成直後のようになおキラキラと輝いて
いる」と称賛しました。Eero Saarinen
の 象 徴 的 なゲ ートウェイアー チ は
2015年10月に50歳になります。銀
色に輝く優雅なアーチは、印象的な
192mの高さを誇る、世界で最も高い
記念碑です。
6 特集
Nickel誌の最初の10年、有名なステンレ
ス鋼被覆の建築物が数多く紙面を飾りま
した。シーザー・ペリが、ロンドンのカナ
リー・ワーフにあるビジネス街の最初のビ
ル、ワン・カナダ・スクエアにタイプ316L
を選んだことも、1990年6月にNickel誌に
発表されました。48階で高さ235mのこの
ビルは、完成時にはイギリスで最も高い
居住可能なビルであり、ヨーロッパで最も
高いビルでした。このビジネス街にある他
のビルのほとんども、壮観な地下鉄入口
の天蓋も、タイプ316Lを使用しています
(図5)。
米国ミネアポリス、ミネソタ大学のワイズ
マン美術館にある研磨したタイプ316の
輝く曲線は、フランク・ゲーリーが彼にと
って初めての人目を引くステンレス鋼被覆
建築物で彫刻と建築設計とを巧みに組み
合わせた成果です。これは環境を反映し
てつねに変化します(1994年6月、図6)。
CATHERINE HOUSKA
Nickel誌は有名な建築物における最先端
MIKE RENLUND
写真提供:CATHERINE HOUSKA
1948年当時この設計は革新的であっ
たため、建設前にステンレス鋼の構造
調査を行い、厚さ6.35mmのタイプ
304(UNS S30400)ステンレス鋼板が
外装の荷重に耐えられる適切な材料
であるかを確認する必要がありまし
た。この調査により、ステンレス鋼に
関して世界初の構造設計基準が生ま
れましたが、これが、完成が13年も遅
れた理由の一つにもなりました。
ステンレス 鋼 の 専 門 家 で あ る
Catherine Houskaは、2014年末にチ
ームでゲートウェイアーチを検査しま
した。そして次のように述べました。
「
ステンレス鋼が汚れているのは産業
汚染物質にさらされているためです
が、変色はごく表層部だけに過ぎませ
ん。ゲートウェイアーチは非常に良好
な状態にあり、これからあと50年活躍
するのに何の問題もありません」
の用途も取り上げてきました。たとえばフ
ランス・パリのルーブル・ピラミッド(1991
年6月、図3)はニッケル含有のタイプ316L
と17-4PH(S17400)を使用し、最初の大型
ガラスカーテンウォール全体をステンレス
鋼で支えました。イギリス・ロンドンのワ
ーテルロー国際ターミナル駅でステンレス
鋼とガラスの屋根を支える構造材も、屋
根やダイヤモンドパターンのフロアプレー
トと同様にタイプ316です(1993年9月、図
4)。
図1 自由の女神、米国ニューヨーク
図2 パームハウス、キューガーデン、イギリス・
ロンドンU.K.
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナ
ル空港は米国の首都に至る入口として名
所になっており、外装内装に無数にステン
レス鋼を用いています。特に目立つステン
レス鋼の屋根は、特別に開発した高度な
ダル仕上げを採用しており、これがその
後、全世界の空港の屋根のトレンドとなり
ました(1995年3月、図7)。
長寿命は持続可能な材料にとって非常に
重要な特性であるため、ニッケル協会はク
リーニングと修復についてもアドバイスを
提供しています。クライスラー・ビルディン
グの有名なステンレス鋼の屋根も、クリー
ニングしたおかげで(1995年3月)今もニュ
ーヨークのスカイラインに輝きを放ってい
ます。
OUTOKUMPU
DAILYMATADOR
ニッケル含有ステンレス鋼は、外から見え
るにせよ隠れているにせよ、他の建築用
金属に比べて圧倒的な性能を発揮してき
ました。Nickel誌が取り上げたプロジェク
トは、ニッケル協会が長年にわたり関与し
てきたプロジェクトのごくわずかな部分に
過ぎませんが、プロジェクトの幅広さはニ
ッケル協会のこれまでの貢献を想像させ
るのに十分です。
NICKELINSTITUTE
図4 ウォータールー駅、イギリス・ロンドン
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
図6 ワイズマン美術館、米国ミネアポリス
図7 ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナ
ル空港、米国ワシントンDC
特集 7
OUTOKUMPU
OVERLYMANUFACTURING
図5 ワン・カナダ・スクエア、イギリス・ロンドン
WIKIMEDIACOMMONS
図3 ルーブル・ピラミッド、フランス・パリ
日本のステンレス鋼
生産、使用、技術革新
30年前のNickel誌第1号は、
日本におけるニッケル含有ステンレス鋼の新しい製品と用途を紹介しています。1985年当時、
日本は世
界最大の生産国でした。
その後、何が変化し、何がトレンドになったのでしょう?
ニッケル含有ステンレス鋼の世界生産はこの30年間増加し続け
ていますが、
日本での増加は鈍化しました。対照的に中国のステ
ンレス鋼生産量が急激に増加し、現在は世界供給量の半分以上
を占めています。中国の台頭にもかかわらず、
日本はなお世界第
2位の生産国の立場を維持し、2014年は世界供給量の8%強を
占めました。
その間、
日本でのニッケル含有ステンレス鋼の用途は大きく変化
しました。1960~70年代は台所用品と取付具(最も多かったの
は流し台)が需要を牽引していました。1980年代以降は建築資
材などの建築用途、輸送用車両、電気器具が成長しました。
自動
車用途も1990年代に需要が増加し、その代表は環境対策の必
要性を背景にして自動車排ガスを制御する製品です。
このトレン
ドがその後も継続し、近年の革新的な用途の多くは先進等級の
ステンレス鋼を利用しています。
土木工学の分野ではステンレス鋼の耐食性に対する注目が増し
ました。非常に長寿命(100年以上)なステンレス鋼鉄筋は、日本
で2008年に規格に採用されました(JISG4322)。
もう一例は海水
耐食性が非常に優れているモリブデン6%のスーパーステンレス
鋼SUS312L(UNS S31254)の使用で、
これは2010年に開港した
東京羽田空港D滑走路の桟橋の被覆に用いられました。それに
加え建設および土木工学の分野で周辺的ながら不可欠な材料
の多くにステンレス鋼が用いられるようになりました。
たとえば集
合住宅のステンレス鋼管、貯水槽、貯蔵タンク、
トンネルの内壁お
よび取り付けハードウェア、電話交換設
v1985年9月の初回号は東京にある釈迦
v
殿の黒色ステンレス鋼タイルを取り上
げています。この建築物は今もなお壮
観を誇っており、1975年の建設時から
実際上外観はまったく変わっていませ
ん。s
…近年、既存建築物の耐震補強
に成形タイプ304ステンレス鋼の
使用が増加
備のコンテナ、避難ばしご、防風柵、
トンネル・ルーバー、木造住
宅の基礎パッキング、外壁の断熱用建築資材、
ステンレス鋼のナ
ットおよびボルトです。
さらに近年は既存建築物の耐震補強に成
形タイプ304(S30400)ステンレス鋼の使用が増加しています。
タイプ316L(S31603)ステンレス鋼は、重大で頻繁な地震活動
に耐えるため東京の配水管系統にも有効に利用されています。
ステンレス鋼の配水管の設置は1980年代に始まり、水漏れ率を
20%からわずか2%にまで低減し、あらゆる大都市圏で最も低水
準の漏水率を達成しました。
この技術は、水の利用可能性に制約
のある世界で巨大な可能性をもっています。多くの都市で、水の
10~20%が配水管の水漏れのため、水処理施設と消費者の間で
失われています。ニッケル協会の目的の一つは東京の技術を他
の国に導入することです。
日本は1970年代以降、内外装両方の用途で着色ステンレス鋼
を特に好んでいます。
これが今や世界の他の地域でも流行して
おり、
たとえばNickel誌が2013年3月号で取り上げたシンガポー
ルのチャイニーズ・スイミングクラブの屋根です。驚くような例は
東京の釈迦殿であり、ここでは黒色のステンレス鋼タイルが
10,000m2の屋根を覆っています。Nickel誌の第1号で取り上げ
たこの建築物は、今もなお壮観を誇っています。
s 羽田空港D滑走路の桟橋は海底上に建設されており、耐食性のある
8 注目される用途
CREATIVECOMMONS©YAMAGUCHIYOSHIAKI
写真提供:霊友会
モリブデン6%のニッケル含有ステンレス鋼で覆われています。
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
安全の確保
ニッケル材料に頼る食品供給
Nickel誌の第1号が1985年に発表された時、エチオピア大飢
饉が多くの人の頭にありました。Nickel誌はニッケル含有ステ
ンレス鋼が食品の安全性に対して、
さらに農家と消費者の間
で発生する食品の損失を減らすのにどれほど重要な役割を果
たしているかという記事を掲載しました。
現在、食料供給システムはますます国際化し、多くの国が欧州
および北米で採用されて成功を収めたのと同様な食品安全性
基準を導入しています。
こうした基準は直近の30年で大きく進
歩し、今なお改善が続いています。
しかし食品および飲料のあ
らゆる加工業務で、食品との接触面に関する第一選択の材料
は今もこうしたニッケル含有ステンレス合金であり、それは今
後も変わることはないでしょう。
複数の挑戦
食品を安全に保つことは一つの挑戦です。適切な材料と適切
な設備設計を選択するだけでなく、危険な汚染物質を排除す
るための厳密に補強したシステムが必要です。
最近における基準改善の一つに製品接触表面の定義があり
ます。
これは食品を加工または貯蔵するコンテナ、コンベヤ
ー、容器などの明確な表面に限定されるものではなく、表面へ
の付着または材料の構成要素のいずれによるかにかかわりな
く、
そこから汚染が食品上にしたたる、飛び散る、吹き飛ぶ可能
性を持つあらゆる表面が含まれています。
さらにこうした表面
のすべてが衛生的でなければならないと定めています。
これ
は単に
「いつもきれいに輝いている」
ことだけを意味するので
はなく、そうであることを保証しつつ、汚染に対して耐性があ
り、使用と使用の間の洗浄が容易なことを意味しています。
ニッケル含有ステンレス鋼としては、
タイプ304(UNSS30400)
、304L(S30403)、316L(S31603)が最も一般的な合金です。
そ
の耐食性はクロムに由来し、ニッケルが強化したもので、全世
界で認められています。牛乳からマスタードに至るあらゆる食
品について適切なステンレス鋼が存在し、
たとえば最も要求が
厳しい醤油などの液体ではモリブデン6%の合金が必要になり
ます。
また時には殺菌用の化学品の方が食品それ自体より腐
食性が強いことがあります。
ISTOCK PHOTO.COM © AGLPHOTOPRODUCTIONS
平滑な表面
適切な洗浄と殺菌を可能にするには、食品と接触する表面が
平滑でなければなりません。EHEDG(欧州衛生工学設計グル
ープ)と3A衛生規格(米国)のどちらも30年以上前に平滑な表
面を推奨しており、現在では表面粗さ0.8μm以下を要求して
います。
この基準をステンレス鋼板の2B仕上げは上回ること
ができます。
また高品質のno.4研磨仕上げもこの要件を満た
します。
さらにステンレス鋼の硬度は、通常の洗浄手順では除
去できないバイオフィルムの強固な付着が生じるほど食品接
触表面を粗くする擦り傷(たとえば乾燥した粒状の食品による)
を寄せ付けません。
欧州および北米以外では、
オーストラリア、ニュージーランド、
日本が今では長年にわたる厳格な基準を維持しているほか、
中国も基準を世界標準にまで高めつつあります。
こうしたすべ
ての国に共通する要素は、選択する材料がニッケル含有ステ
ンレス鋼だという点です。
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
注目される用途 9
大躍進政策:
ニッケルの使用が発展
を支える
インド
BOMBARDIERMOVIAMETRO©2011,BOMBARDIERINC.ORITSSUBSIDIARIES.
ISTOCKPHOTO.COM©ANTON_SOKOLOV
Nickel誌の第1号で言及しなかった2か国に中国とインドがありま
す。
どちらの国も当時は国際ステンレス鋼市場で主要国ではあり
ませんでした。30年でなんという変化でしょう。1985年、
インドは
世界のステンレス鋼生産量の1%強を占めるに過ぎず、中国はそ
れをはるかに下回っていました。現在、中国は圧倒的な世界最大
のステンレス鋼生産国であり、世界生産量の50%強を占め、イン
ドも日本に続く第3位ながら、韓国と米国を上回る非常に重要な
立場にあります。中国とインドについて、標準的なコモディティ製
品および最低価格帯製品の生産国というイメージが強いかもし
れませんが、両国とも高合金のニッケル含有ステンレス鋼および
ニッケル合金を生産するため懸命な努力を行っています。
それぞ
れの国における2例の用途を見れば、それぞれの国のニーズに
合った大規模で革新的な利用がわかります。
インド
ステンレス鋼は1934年に米国で鉄道車両の外殻に初めて用い
られ、その後北米、オーストラリア、日本で広く普及しました。
イン
ドを含む多くの国は、保守の手間が非常に少なく長寿命という特
性は十分にわかっていたものの、高コストという思い込みのため
にステンレス鋼を使用していませんでした。
ステンレス鋼の導入
に最初に成功したのは2002年のデリー・メトロであり、すべての
客車にタイプ301LN(UNS S30153)、駅の装備とハードウェアに
タイプ304(S30400)を使用しました。現在デリー・メトロの路線に
は完全に機能する状態に達した駅が143あり、
それ以上の数の駅
が完成途上にあります。
ジャイプル、チェンナイ、バンガロール、
コ
チなど、他の地下鉄もあとに続き、客車にタイプ301LNを採用し
ました。
さらに現在では高速旅客列車も、その大部分が300シリ
ーズと400シリーズのステンレス鋼の組み合わせであり、それを
新設の2工場で製造し、予想生産量は年間で客車4千台です。
10 特集
写真提供:TERI
もう一つの小規模で、
しかしインドの数億の家庭を助ける革新的
な用途は強制換気コンロであり、その部品を300および200シリ
ーズのオーステナイト系ステンレス鋼で製造しています。薪、農作
物の残り、牛糞などのバイオマスを料理のために燃やすのは、農
村地帯ではごく一般的です。従来のコンロは不完全燃焼を引き起
こします。そのため有毒ガスが発生し、台所の換気が悪いためイ
ンドで年間50万人が不慮の死を遂げていると推定されていま
す。
その多くが女性と子供です。電池を動力源とするファンで強制
換気を行うことにより、煙を70%減らし、燃料消費量を50%削減す
ることが可能であり、
しかも調理時間は半分になります。TERI(エ
ネルギー資源研究所)が設計したこの技術は新・再生可能エネル
ギー省の承認を受け、
コンロメーカーが利用することができま
す。
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
ISTOCKPHOTO.COM©FCKNIMAGES
中国
ガソリンを燃料とする自動車から
電気自動車への切り替えは、主要
都市圏の大気汚染を緩和する一
つの方法です。
中国
中国の急激な工業化は、大気汚染をはじめとして容認しがたい
高レベルの環境汚染をもたらしました。
これは中国が現在取り組
む重要問題の一つであり、李克強首相は2014年3月に
「環境汚染
問題への宣戦布告」
を宣言しました。
ガソリンを燃料とする自動車から電気自動車への切り替えは、主
要都市圏の大気汚染を緩和する一つの方法です。電気自動車の
バッテリーは多くの場合ニッケルを含んでおり、
それはNMH(ニッ
ケル金属水素化物)か特定種類のリチウムイオン電池のどちらか
です(P.4の記事参照) 。中国は早期に電動バイクを導入し、すで
に1億2千万台以上が売れています。バッテリー式電気自動車
(BEV)全体の売れ行きはそれに比べると低調で、2014年は6万台
弱に過ぎませんでしたが、現在中国では40以上の車種を選択す
ることができます。
さらにプラグインハイブリッド自動車も発売さ
れており、
そのバッテリーはほぼ必ずニッケルを含んでいます。
ISTOCKPHOTO.COM©4FR
中国では石炭がなお圧倒的に主流であり、電力の80%を石炭で
生産し(2014年)、石炭火力発電所が今も1週間に1基の割合で建
設されています。汚染負荷を減らす一つの方法は発電所の効率
を高めることです。その解の一つが先進超々臨界(AUSC)蒸気発
生です。
この技術は現在、中国のほかヨーロッパ、米国、
日本で研
究されています(Nickel誌Vol.30 No.1参照)。
この技術を導入した
発電所は蒸気を700℃以上の高温で生成します。それはすなわ
ち、標準的な鉄鋼では適合できないことを意味します。
こうした高
い蒸気温度に適合し、50%以上の効率を実現するには、特殊なニ
ッケル合金と特殊なステンレス鋼の両方が必要です。蒸気発生
器の管には、銅、ニオブ、窒素、ボロンを添加した改良304(ニッケ
ル9%)が、信頼できる長期性能の点で有望視されています。
インドと中国のどちらも30年前のNickel誌第1号以来急激に発展
し、技術革新のレベル向上を実証しています。
そして今後もこうし
た国の経済でニッケルが重要な要素であり続けることはまちがい
ありません。
写真提供:©SIEMENSAG
v 左上:インドで生産したニッケル含有ステンレス鋼の鉄道客車
v 右上:現在の中国で至る所に見られるバッテリー駆動のバイクとスク
ーター
v 左下:オーステナイト系ステンレス鋼で製造した強制換気コンロ。電
動ファンと太陽光電池を備えた充電可能な電池を装備。洗浄しやす
い平滑な表面が腐食を防ぎ、家庭内の調理を安全で低コストで行う
ことができます。
v 右下:Yuhuan発電所にあるタイプSST5-6000の蒸気タービン
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
特集 11
STOCK.XCHNG
明るい
未来
ニッケルの表面仕上げは
変化し続ける
世界でも必要
表面的にはめっきおよび電鋳産業ではさ
食器棚の取付具、金属製の家具、電気器
ほど大きな変革は生じていません。しかし
具、電子器具などに広く用いられていま
表面下、つまりニッケルが存在する場所で
す。
は、プロセスばかりでなく、プロセスに依
存する製品にも驚くべき変化が起きまし
た。30年前には聞いたこともなかったの
に、現在では毎日の産業や家庭生活に欠
かせない製品がニッケルめっきによって可
能になり、改善されているのです。
ニッケル最大の用途は冶金用の合金であ
り、たとえば耐熱耐食性の高ニッケル合
金、ステンレス鋼および低合金鋼、硬貨な
どの非鉄合金、鉄鋳物などです。しかし一
般消費者にとって純ニッケルの用途として
一番目につくのはめっき被覆でしょう。さ
さやかなペーパークリップから魅力的な
自動車の内装に至る幅広いめっき用途
は、コーティングに役立つニッケルの特性
と多用途性を反映したものです。また作
動条件を変えることでニッケルの特性と
外観を変化させ、設計者や消費者の個別
ニーズに適合させることもできます。
ニッケルの電気めっきは、製造した製品
の有用性、価値、魅力を高めるために広く
用いられています。それ以外のニッケルコ
ーティングは、耐摩耗性、耐熱性、耐食性
など物理的な特性を改善します。ニッケル
コーティングは多くの重要な用途におい
て、魅力的な装飾のためのコーティングと
同時に、耐食性その他の機能的な特性を
強化し付与するという二重の役割を果た
しています。
Nickel誌創刊以来の30年、ニッケルめっ
きに関して最も注目すべき変化は、プラス
チックやアルミなどの部品のコーティング
に耐久性のあるニッケルクロムメッキの
利用が増えたことです。輝くコーティング
やサテン、真珠、黒色などのコーティング
が、自動車、オートバイ、商用車の部品な
どのほか、水回りや浴室の取付具、ドアや
ニッケルの重要な用途の一つに電鋳があ
ります。これは、適切なマンドレル上に電
着を行ってニッケルを形成し、その後マン
ドレルを取り外すことで、オリジナルの基
ニッケルコーティン
グ は 磨 耗 、熱 、耐 食
性などといった物理
的性質を向上させる
板と形状および質感がまったく同じニッ
ケル製品を作り出すものです。こうした製
品にはたとえば回転式織物印刷のスクリ
ーン、ニッケル発泡金属のバッテリー電
極、CD/DVDやホログラム形成用スタンパ
ー、紙幣や郵便切手用の偽造防止印刷版
などがあります。
無電解ニッケルめっきはニッケルを基板
上に定着させるもう一つの方法です。これ
は化学的プロセスで、溶液中のニッケルイ
オンを還元し、電流によってではなく、化
学的還元によってニッケル金属を形成し
ます。これによって生まれるニッケル沈着
物は、均一な厚さ、硬度、耐食性、磁気応
答といった独自の特性を持ちます。この方
法の最大の用途はハードディスクドライブ
ですが、それ以外にも、電気めっき用のプ
ラスチック金属化、自動車のブレーキシリ
ンダー、ポンプ、バルブ、その他の工学製
品などがあります。
「ニッケルめっきハンドブック」はニッケルの電
気めっきプロセスの実行と制御について実用的
な情報を提供するほか、安全と環境問題につ
いても重要な情報を提供します。
www.nickelinstitute.orgまたは以下からダウン
v自動車のホイールに
「明るく輝く」外観だけで
なく、優れた耐食性も
12 注目される用途
ロードによって入手可能です。
[email protected]
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
ニッケル含有ステンレ
ス鋼の隠れ家
ヨーロッパ
の屋根
の上で
用、排水のリサイクルなどにより、新しいグ
ーテ小屋はエネルギーと水をほぼ100%自
給することができます。
毎年25,000~30,000人の登山家が宿泊
する新グーテ小屋は、標高3,835m、フラ
ンスアルプス・モンブランに至るメインル
ートにあります。岩の断崖の稜線上に立
つグーテ小屋は、-50℃~+30℃の温度と
300kphに達し得る風に耐える設計です。
高地での組み立て
すべての構造部品は下請け業者が低地で
組み立て、それをヘリコプターでモンブラ
ンの組み立て用プラットフォームに輸送し
ました。ステンレス鋼バンドはZジョイント
で組み立てました。ステンレス鋼の被覆で
あるシェルに十分な空力学的効果を与え
るため、窓とソーラーパネルは各ファセッ
トの同一平面に完璧に配置する必要があ
りました。
2013年にオープンした新しいグーテ小屋
は120名の宿泊が可能であり、もはや目的
を果たせなくなっていた1960年代の避難
小屋に取って代わりました。600万ユーロ
を要したこの小屋は、信じられないほどの
工学技術の偉業であると同時に、ヨーロッ
パの屋根を征服しようとする登山者にとっ
ての避難所になっています。
グーテ小屋の設計者:
DécaLaagearchitectural
agency、Chamonix、GroupeH、ジュネーブ
写真提供:GUDRUN BERGDAHL ‒ PASCAL TOURNAIRE
小屋の形状は卵形で、風の抵抗を可能な
限り少なくするため稜線に対し垂直に立
っています。気流は建物の後部に当たり、
運んできた雪を堆積させます。そうしてで
きる巨大な吹きだまりが、小屋で使う真水
の永久的で再生可能な貯蔵庫です。屋根
上にある集熱装置、ファサードのソーラー
パネル、内部で発生したバイオマスの利
強い機械抵抗、低い反射率
木材は軽量で高地での建設が容易なた
め、建築資材に多用されてきました。しか
し極端な気候条件に耐えられないもろさ
があるため、建設プロジェクトの建築家と
技術者は木造構造物を被覆するという解
決策に到達しました。必要とされる一連の
特性、すなわち低温環境でも長寿命であり
保守の必要がわずかであることを実現した
のはニッケル含有ステンレス鋼であり、そ
の表面は風と雪によって自然にクリーニン
グされます。太陽に対する低反射率ももう
一つ必要な特徴です。それは登山者や航
空機のパイロットの目をくらませないため
でもあり、小屋が雪の環境に融合するため
でもあります。
複雑なファセットの組み合わせ
選ばれた素材は、ニッケルを少なく
とも8.0%含有し、Uginoxの「Top」 仕上
げを行ったタイプ304(EN 1.4301、UNS
S30400)ステンレス鋼の2種類の厚さの製
品で、0.5mm厚のものは屋根用、0.8mm
厚のものはファサード用です。この製品
は両面マット仕上げで表面粗さはおよそ
1.5μmです。小屋の構造は、128のファセ
ットを4層(各層当たり32のファセット)に均
一に分配する複雑なパズルであり、基本
的な4種類の寸法は、2m×4m(16ファセッ
ト)、2m×3m(48ファセット、1.3m×3m(48
ファセット)です。各ファセットはそれ自体
が、長さ2.50mと2.80mであるステンレス
鋼のバンド4~7に分かれています。合計す
ると800枚近いステンレス鋼板を切断しま
した。
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
注目される用途 
ニッケル協会は会長に
David Butlerを指名
は、Fortune 500のクライアント、民間企
業、事業者団体にアドバイスを行う経験
豊富な弁護士です。
ニッケル協会は David Butler を会長に指
名したことを2015年6月1日に嬉しくも発
表しました。David は、25年にわたってニ
ッケル協会に貢献して退いた Tim Aiken
の後継となります。
ニッケル協会議長の Robert Morrisは次
のように述べました。
「Davidがこれから
も会長という新しい立場で貢献してくれ
ることを楽しみにしており、ニッケル協会
の非常に前向きな姿勢が彼のリーダーシ
ップのもと継続することを確信していま
す」
David Butler は25年以上にわたってニ
ッケル 協 会に関 与しており、当初は外
部の法律顧問および事務 部長であり、
その後2013年に常任理事兼相談役とし
てニッケル協会に加わりました。Dav id
ニッケル化合物説明
ニッケル協会は「Nickel Compounds, the inside story...」を刊行しました。これは業界
の専門家が一般読者のために書いたニッケル化合物案内であり、無料の16ページの冊
子です。
「Nickel Compounds, the inside story...
」は、ニッケル化合物が輸送、航空機、海
洋、建築など幅広い産業部門の用途や
多くの消費財の製造にいかに不可欠で
あるかを説明しています。
「ほとんどの人は自動車やエレクトロニ
クスなど日常的に使う製品の機能にニ
ッケル化合物がどれほど大きな役割を
果たしているか認識していません」と
ニッケル協会の広報部長であるClare
R icha rdsonは言います。「この冊 子
は、どのようなニッケル化合物がなぜこ
れほど広く用いられているかを簡単な
言葉で説明しています。さらにニッケ
ルが、事実上すべての技術にとって不
可欠、中心的、補助的な材料であることも
説明しています」
そ し て 最 後 に 加 え て「「 N i c k e l
Compounds, the inside story...」はニッケ
ル化合物が価値連鎖にきわめて重要な貢
献を果たしていることや、どうしてニッケル
が現在とそしてこれからいつまでも社会に
おいて中核的な役割を果たすのかを説明
しています」と述べています。
「Nickel Compounds, the inside
s t o r y. . 」はニッケル 協 会 のウェブサ
イトか ら ダ ウン ロ ード で きる ほ か 、
以 下か ら 注 文 すること が で きま す。
[email protected]
UNSの詳細 本誌で示されているニッケル含有合金及びステンレス鋼の化学的組成(重量パーセント)
C
Co
Cr
Cu
Fe
H
Mn
Mo
N
Nb
Ni
O
P
S
Si
Ti
N01555
p. 15
UNS
0.07
max.
0.05
max.
0.01
max.
0.01
max.
0.05
max.
0.005
max.
-
-
-
0.025
max.
54.057.0
0.05
-
-
-
bal.
S17400
p. 6
0.07
max.
-
15.017.5
3.005.00
bal.
-
1.00
max.
-
-
0.150.45
3.005.00
-
0.040
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
S30153
p. 10
0.030
max.
-
16.018.0
-
bal.
-
2.00
max.
-
0.070.20
-
6.08.0
-
0.045
max.
0.030
max.
1.0
max.
-
S30400
p. 6,8,9,10,13
0.08
max.
-
18.0020.00
-
bal.
-
2.00
max.
-
-
-
8.0010.50
-
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
S30403
p. 9
0.03
max.
-
18.0020.00
-
bal.
-
2.00
max.
-
-
-
8.0012.00
-
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
S31254
p. 8
0.020
max.
-
19.5020.50
0.501.00
bal.
-
1.00
max.
6.006.50
0.1800.220
-
17.5018.50
-
0.030
max.
0.010
max.
0.80
max.
-
S31600
p. 6
0.08
max.
-
16.0018.00
-
bal.
-
2.00
max.
2.003.00
-
-
10.0014.00
-
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
S31603
p. 6,8,9,16
0.030
max.
-
16.0018.00
-
bal.
-
2.00
max.
2.003.00
-
-
10.0014.00
-
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
S31803
p. 16
0.030
max.
-
21.023.0
-
bal.
-
2.00
max.
2.503.50
0.080.20
-
4.506.50
-
0.030
max.
0.020
max.
1.00
max.
-
14 簡略に
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
フレキシブルなNitinolロボットが外科手術を変革する
ドイツ・ハノーバーにあるライプニッツ大学の科学者たちは米国ナッシュビルのバンダービルト大学の研究チームと協力し、小型
のフレキシブルな蛇様のロボットを開発しました。このロボットによって外科医は、到達が困難な部位にも最小限の侵襲でアクセ
スすることが可能になります。このロボットに採用されたのが、形状記憶特性と超弾性を持つNitinol(UNS N01555)であり、生体
適合性のあるこのニッケルチタン合金は、ステント、カテーテール、ブレースなどに多く用いられています。
ライプニッツ大学にあるハノーバー・メカトロニクス・センター
のJessica Burgner-Kahrs博士は、複数の超弾性小型Nitinol管
で製造した触手状のアームを持つロボットにより、どうすれば
繊細な脳外科手術を変革できるかの研究を率いています。バ
ンダービルト大学の研究チームは、脳卒中患者の脳にある血腫
をロボット利用で除去することを研究しており、これは米国国
立衛生研究所が資金を提供するプロジェクトです。
ジョイントと硬い接続部を持つ従来型のロボットと異なり、こ
の「連続体ロボット」は象の鼻や蛇などの生体工学からヒント
を得た連続体構造が特徴です。また小型の管は形状記憶特性
により、曲げても、変形圧力が低下すればまたオリジナルの形
状に戻ります。最終的にはこの弾性によって、ロボットは人体内
の狭い空間内で曲線に沿って移動し、従来は危険でアクセスで
きなかった部位に到達することが可能になると考えられていま
す。Nitinolロボットは、静脈洞、下垂体へのアクセス、脳の出血
または血塊の除去などの用途に利用できる可能性があります。
UNIVERSITYOFKIELINCOOPERATIONWITHAQUANDASGMBH
LEIBNIZUNIVERSITAETHANNOVER
s米国の10セント硬貨(直径約18mm)でNitinolロボットの大きさが
わかります。
これまでで
最高にタフな
形状記憶合金
オンライン版ニッケル誌
www.nickelinstitute.org
ニッケル誌の無料購読とウェブサイト掲載
のお知らせを希望する場合:www.nickel
institute.org/NickelMagazine/Subscription
米国メリーランド大学とドイツ・キール大学
のManfred Wuttig教授とEckhard Quandt
教授は、100万回の屈曲および加熱後でさ
えもオリジナルの形状に戻ることができる
ほどタフな新しい形状記憶合金を作り出し
ました。
こうした特性のため、
この新しい合
金、すなわちチタン、ニッケル、銅の混合物
である合金は、人工心臓弁やソリッドステ
ートのエアコンなど
「高サイクル」用途に最
適だと考えられます。それに対し従来の最
高性能の形状記憶合金は、およそ16,000
回変形すると金属疲労が生じていました。
すべての形状記憶合金は相変化物質で
す。
すなわち、
たとえば水から氷に変化する
ように異なる分子構造に変化できるという
ニッケル誌第30号第2巻(2015年8月号)
r厚
さ50μmのNiTiCu薄膜リニアテンソルア
クチュエータ
ことです。
この新合金の遷移は、その形状
のいずれかで熱を加え、別の形状で張力を
解放することで「活性化」
できます。Wuttig
とQuandt両教授はこの合金の耐久性の鍵
が少量の不純物、すなわちチタンと銅の沈
殿物(Ti2Cu)、の存在であることを発見しま
した。
この粒子は合金のどちらの相にも適
合するため、完全で再現可能な何百万回も
の変形に介在し、疲労を低減することがで
きます。
ニッケル誌を7ヶ国語(英語、中国語、
日本
語、
ロシア語、
フランス語、
ドイツ語、
スペイン
語)
でウェブサイトに掲載
www.nickelinstitute.org/NickelMagazine/
MagazineHome
ニッケル誌のバックナンバーの検索:2002年
7月号以降のニッケル誌を掲載
(英語版のみ)
www.nickelinstitute.org/en/Nickel
Magazine/MagazineHome/AllArchives
携帯 あなたのApple®もしくはAndroid™
の携帯にNickelMagazineのアプリをダウン
ロードして下さい
Twitterでフォローして下さい
@NickelInstitute
LinkedInでつながって下さい‒
ニッケル協会のページをご覧下さい。
ニッケル協会 YouTubeチャンネル
でニッケル関連のビデオが見られます
www.youtube.com/user/NickelInstitute
簡略に 15
r芸 術家/建築家のビジョンを実現すること
は挑戦であり、この挑戦に応えるのが技術
者とニッケル含有材料です。
L.M.DAUZAT
第2の独立構造物には、氷山の周囲およ
び上方を囲む12の曲線的なガラスの帆が
あり、これを二相系ステンレス鋼のグリッ
ドが支えています。技術者はすべてのイ
ンサートおよびノードのほか、グリッド、
樋、ブレース、引張棒、何千個のボルト、
何百個の固定具に、ニッケル4.5~6.5%
の 2 2 0 5 二 相 系 ス テ ン レ ス 鋼 ( E N
1.4462、UNS S31803)を選びました。こ
のステンレス 鋼 は 標 準 的 な タ イ プ
316L(S31603)の2倍の降伏強度を持ち
ながら、重量は30%も少ないのです。この
壮大なガラスの帆を支えるのが1,500トン
の高強度な二相系ステンレス鋼です。合
計するとこの建造物は15,000トンの鉄鋼
を使用しており、これはエッフェル塔の2
倍の量です。
©2014TODDEBERLE
2014年10月にパリで落成した新しいルイ・ヴィトン財団美術館は、プリツカー賞受賞
者である建築家フランク・ゲーリーが自発的に描いたスケッチと、最先端の3Dソフトウ
ェアが作り上げたデジタルモデルによって生まれました。この建築物はフランク・ゲー
リーの直線に対する蔑視をありありと示しています。その結果、12の巨大な波状のガラ
スの帆から成る壮大な空間が生まれ、ガラスの帆を支えるのは、からみあったスチー
ルの柱、木材の桁、横木、ブレース、引張棒です。こうしたすべての要素をつなぎ合わ
せ、
「氷山」と呼ばれる美術館の内部空間を覆う固い殻様の構造物の上にまとめてい
ます。
外側の構造物は、長スパンの薄板状カラ
マツ材の桁と炭素鋼トラスを組み合わせ
た複雑なネットワークです。これがガラス
の帆をしっかりと支えるサスペンションフ
レームになっています。長さ3~35mで多
様な曲線を持つこうした要素すべてが、
帆の下がゆるやかに渦巻く印象を与えて
います。合計で540個の二相系ステンレス
鋼インサートが、木材の桁同士をしっかり
と接合しています。さらに430個の幾何
学的に複雑な独特のノードが、木材と金
属のすべての要素をつなげています。炭
素鋼/二相系ステンレス鋼の厚さ100mm
のハイブリッド鋼板で作ったこのノードが
構造に安定性をもたらし、柔軟性を
与え、完 全 性を維 持する一
方、帆と動きの感覚を
強めています。
FRANKGEHRYFONDATIONLVMH
2014TODDEBERLE
©GEHRYPARTNERS,LLPANDFRANKO.GEHRY
パリ上空のガラスの帆