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障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ―EU諸国

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41
障害者雇用における割当雇用アプローチと
差別禁止アプローチ
―EU 諸国からの示唆―
川 村 宣 輝
鴨 澤 小 織
1 はじめに
国際的に人権意識が高まる中で,2006 年に国連の障害者の権利に関する条約(以下,
「障
害者権利条約」
)が採択された。障害者権利条約は,障害者のアクセシビリティー,家族,
教育,労働などの様々な分野にわたり,障害による差別を禁止し,障害者の権利や尊厳を保
護しようとする包括的な国際条約である。労働・雇用分野の障害者雇用に係る障害者権利条
約の内容は,同条約第 27 条の「あらゆる形態の雇用におけるすべての事項に関する差別の禁
止」をはじめとして,障害に基づく差別の禁止,職場における合理的配慮の提供,その侵害
に対する権利保障等が盛り込まれている。
わが国は,2007 年に同条約に署名を行ったが,いまだ障害者権利条約の批准には至ってお
らず,批准に向けて必要となる国内法の整備を進めているところである。労働・雇用分野に
おいても障害を理由とした差別を禁止し,合理的配慮の提供を事業主に義務づけること等に
ついて,障害者雇用施策の中にどのように取り入れ実現させていくのか,また厚生労働省に
おいて検討されている「障害を理由とする差別の禁止に関する法律(仮称)
」との関係の整理
について議論が進められている(厚生労働省 2012)
。
わが国の障害者雇用は,障害者の雇用の促進等に関する法律(以下,
「障害者雇用促進法」
)
に基づき様々な施策が講じられている。障害者雇用促進法においては,民間企業,国,地方
公共団体はそれぞれ雇用している労働者中に占める障害者を一定割合の雇用率(法定雇用
率 1)2))以上になるように障害者の雇用を義務化し,雇用を促進する障害者雇用率制度いわ
ゆる割当雇用制度(Quota System)を柱として施策が進められている。
1960 年に障害者雇用促進法の前身である身体障害者雇用促進法においてこの制度が制定
され半世紀以上が経過する。これまで同法の改正により法定雇用率は次第に引き上げられて
きているが,実際の雇用率が法定雇用率に達することはなかった。しかし,雇用される障害
者は着実に増加してきており,同制度をはじめとして障害者雇用促進法による各種施策に
よって障害者雇用の一定の成果は現れているものと思われる。
このように,わが国の障害者雇用施策は,割当雇用アプローチにより施策が展開されてい
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障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
るが,障害者権利条約の批准に伴い差別禁止アプローチによる施策の検討が進められてい
る。差別禁止アプローチとは,アメリカ,イギリス,カナダなどで導入され,機会の均等と
人権に焦点を当て,障害者も積極的に社会参加をすることが重要とするアプローチであり,
雇用条件や職務内容での差別を禁止し,差別が認められた場合には罰則規定を設けている。
この差別禁止アプローチが取り入れられることにより,従来の割当雇用アプローチと併せて
わが国における障害者雇用施策は大きく変化することが予想される。
本稿は,障害者雇用分野において,差別禁止および割当雇用アプローチを中心とした多様
な施策を経験してきた EU 諸国のこれまでの障害者雇用施策の経緯と課題を確認し,そうし
た EU 諸国の経験を学ぶことにより,今後わが国が割当雇用アプローチに加えて,差別禁止
アプローチを取り入れた障害者雇用施策を円滑に進めていくための方策と課題を明らかにす
ることを目的とする。
2 わが国における障害者雇用制度の現状
(1)障害者雇用制度
障害者雇用促進法に基づくわが国の障害者雇用施策は,障害者雇用率制度と障害者雇用納
付金制度 3)を基本としている。障害者雇用率制度(割当雇用制度)は,企業等に対して全従
業員の一定の割合(法定雇用率)の障害者を雇用することを義務として課している。また,
障害者雇用納付金制度は,雇用率が未達成の企業から不足数に応じて納付金を徴収する制度
で,実質的なペナルティを設け障害者の雇用を促している。その納付金を財源として,法定
雇用率を超えて障害者雇用を積極的に進めている企業に対して,調整金や報奨金を支給して
いる。また,新たに障害者を雇用する企業に対しても職場の施設・設備の整備や雇用管理の
ための各種助成金を支給している。障害者雇用の多寡に係る経済的負担の調整を図り,社会
全体として障害者雇用を促進していこうとする理念を根拠として本制度が制定されている。
また,未達成企業に対しては納付金の徴収と併せて,障害者の雇入れ計画作成命令を行い,
それでも改善が見込まれない企業に対しては企業名の公表といった社会的な制裁措置も講じ
ている。
障害者雇用率制度および障害者雇用納付金制度は,社会連帯の理念の下にすべての企業に
対して雇用義務を課するもので,企業がこうした社会的責任を果たすためには,雇用環境の
整備を行うとともに,雇用対象障害者の範囲が明確であるといった公平性の担保が必要とさ
れている。
1960 年に成立した障害者雇用促進法の前身である身体障害者雇用促進法では,身体障害
者のみが雇用率の対象とされた。その後の法改正により,身体障害者に加え知的障害者が雇
用義務とされ,2005 年の改正では精神障害者についても雇用義務ではないが雇用率に算定さ
れることとなった。さらに,2008 年の改正により短時間労働者である障害者についても適用
されている。
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障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
このように,障害者雇用促進法の改正ごとに雇用対策の対象となる障害者の範囲が広がる
とともに法定雇用率は引き上げられている。それに合わせて実雇用率 4)も徐々に上昇し,そ
の結果雇用される障害者数についても年々増加し,2011 年の民間企業における障害者雇用者
数は 36 万 6,199 人と過去最高を更新している。
(表 障害者の雇用状況の推移)
障害者の雇用数が年々増加している状況を受けて,厚生労働省は 2013 年度から民間企業
に義務付けられている法定雇用率を,現状の 1.8%から 2.0%へ引き上げることを決定してい
る。また,これまで身体障害者および知的障害者に義務づけられていた雇用義務化について
も,2013 年度から精神障害者にも範囲を拡大適用することを検討しており,こうした法改正
によりさらに障害者の雇用が加速されることが期待される。このように,わが国の障害者雇
用を取り巻く環境は近年大きく変わりつつある。
ただ,障害者雇用率制度ができてから半世紀以上にわたり,民間企業全体としては一度も
法定雇用率を超えることはなく経過しているが,わが国においては障害者雇用率制度および
障害者雇用納付金制度が障害者の雇用促進に大きく寄与し,着実に働く障害者数の増加につ
ながっているものと思われる。
また,わが国の障害者雇用制度は,労働分野の障害者雇用促進法に基づく施策と,福祉分
野の障害者自立支援法(以下,
「自立支援法」
)等に基づく施策の両面から各種支援制度が展
開されている。ただ,両者とも雇用・就労支援を目的とした制度でありながら根拠となる法
律の違いによりサービス内容が異なり,利用者の間で不公平感が生じている。福祉行政と労
働行政の連携の不十分さもあり,福祉分野の施設等から一般企業へ移行する障害者数が停滞
している状況が長年続いている。こうした労働・福祉の縦割り行政の弊害を解消し,サービ
スを一元化することにより,就労を希望する障害者が福祉分野から労働分野へ円滑に移行す
表 障害者の雇用状況の推移
年度
新規求職
申込件数
2003
88,272
前年度比
2.6
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
93,182
97,626
103,637
107,906
119,765
125,888
132,734
148,358
5.6
4.8
6.2
4.1
11.0
5.1
5.4
11.8
就職件数
32,885
前年度比
16.0
35,871
38,882
43,987
45,565
44,463
45,257
52,931
59,367
9.1
8.4
13.1
3.6
△ 2.4
1.8
17.0
12.2
障害者雇用数
(人)(注 1 )
実雇用率
(%)
247,093.0
1.48
257,939.0
269,066.0
283,750.5
302,716.0
325,603.0
332,811.5
342,973.5
366,199.0
1.46
1.49
1.52
1.55
1.59
1.63
1.68
(注 2 )
1.65
(注 1 )
障害者雇用数は,身体,知的,精神障害者の計であり,短時間労働者以外の重度身体障害者,重度知的障害者に
ついては 1 人を 2 人に相当するものとしてダブルカウントを行い,重度以外の身体,知的,精神障害者である短
時間労働者については,1 人を 0.5 人に相当するものとして 0.5 カウントとしている。
(注 2 )
本論の注 3 のとおり,
前年に制度改正があったため,条件が異なり単純に比較することはできない(厚生労働省「ハ
ローワークにおける障害者の職業紹介状況」及び「民間企業による障害者雇用の状況」(各年 6 月 1 日現在)か
ら作成)
。
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障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
ることが可能となるような制度改革が求められる。本稿のテーマである差別禁止アプローチ
がそのきっかけの一つになることが期待される。
(2)障害者権利条約批准に向けての国内の動向
現在,障害者権利条約の批准に向けての準備や,自立支援法に代わる障害者総合支援法が
成立し 2013 年度から施行されるなど,新たな障害者雇用施策の動きが出てきている。
障害者権利条約の批准を踏まえた労働・雇用分野の準備として,2008 年 4 月から厚生労働
省に「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」
(高齢・障
害者雇用対策部障害者雇用対策課)が設置され検討が進められている。また,同条約の批准
に係る法整備の課題の一つとして,施策の対象となる障害者の範囲についての定義を見直す
必要があることが指摘されている。これについては「障害者雇用促進制度における障害者の
範囲等の在り方に関する研究会」
(同)が,同じく厚生労働省において検討されている。
障害者権利条約に基づく差別禁止アプローチでは,障害を外部に存在する様々な社会的障
壁によって構築されたものとする社会モデルの考えに基づいている。現状の障害者雇用促進
法における障害者の範囲は,機能的障害に焦点を当てた医学モデルに基づく障害者手帳の所
持者が中心であり,このため障害者権利条約による障害者の概念の範囲は広く限定された範
囲ではない。こうした狭い範囲の障害者の定義では差別禁止アプローチによる障害者の範囲
がカバーしきれないことになる。このため,わが国が差別禁止アプローチを取り入れる際に
は,障害者の範囲の定義についての見直しも併せて求められることになり,今後の障害者雇
用制度改革のポイントの一つとなるものと思われる。
3 EU 諸国の障害者雇用制度
これまでわが国における障害者雇用制度の現状についてみてきたが,次に EU 諸国を中心
に,障害者雇用施策の変遷と現状について概観する。
(1)障害者の雇用を通した社会的包摂への動き
少子高齢社会となった欧州を活力に満ち,持続可能な成長を目指すために,近年の EU 加
盟国は,均等・非差別法施策が重要な要素として位置づけられている。その一環として障害
者雇用施策も活発に展開され,障害による差別の削減に向けての EU の取り組みが進んでき
ている。
その背景として,EU 諸国は 1980 年代から,社会的に不利な立場にある人々の主に所得に
着目する貧困概念と再分配政策から,
「社会的排除」
(social exclusion)という概念を使って
社会的支援のあり方を問い直している。社会的排除を克服した状態を「社会的包摂」とし,
教育や住環境,医療などが課題となり,雇用もその一つとして重要であり,特に障害者の就
労は経済的な面だけでなく,社会とのつながり,技能,尊厳を得る点で社会的包摂を実現す
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
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るには欠かせないとし議論が活発になった。
1990 年代に入ると,アメリカで「障害を持つアメリカ人法」
(the Americans with Disability
Act)
( 以下,「ADA」)が障害者差別禁止法として 1990 年に成立し,EU 諸国にも大きな影響
を及ぼした。EU 基本条約を改正し,障害に関わる労働分野の差別禁止法制をアムステルダ
ム条約 5) 第 13 条に導入した。さらに,2000 年に入ると,労働分野の差別禁止から生活全般
の差別禁止へと展開されていく。アムステルダム条約第 13 条を根拠とする二次法 6)として,
EU 指令「雇用と職業における均等待遇のための一般的枠組み設定に関する指令」
(以下,
「雇
用均等一般枠組み指令」
)7)が 2000 年に採択された。EU 初の均等法であり EU 加盟国に法制
定の整備を求め,加盟各国は着実に法制化を進めた。
2010 年には「貧困と社会的排除を撲滅する欧州年」
(2010 European Year for Combating
Poverty and Social Exclusion)としてキャンペーンを行い,欧州障害戦略 2010 - 20208)が進め
られている。2010 年 12 月 23 日には障害者権利条約に EU 組織として批准したことにより,条
約と相互関係性のある取り組みとして,個人の社会参画に機会の均等を保障し,実質的な権
利を享受できる法体制をめざすこととなった。ヨーロッパの伝統的な割当雇用を中心とした
「福祉モデル」を残しながらも,均等法・差別禁止法の導入によって障害者の権利擁護に重
点を置いた「市民権モデル」を共存させていく形で,EU 加盟国は協働して障害者雇用に取り
組むように求められた。このように 80~90 年代の障害者雇用政策は,福祉から就労へ,そし
て社会的包摂へと政策転換が大きく動いた時代といえる。
(2)ドイツ,フランスの割当雇用制度をめぐる状況
ヨーロッパの障害者雇用の伝統である割当雇用制度は,第一次世界大戦直後に始まった。
それは大戦後の傷痍軍人への雇用の確保が一般労働市場では困難を極めたこと,傷痍軍人団
体などからも雇用機会改善のための圧力がかけられた事が理由であった。1920 年にドイツ
(ワイマール共和国)が最初に傷痍軍人障害者の雇用義務を法律で定め,対象をドイツ国民
の障害者全てに拡大させ,雇用率および法律違反には罰金制度が定められた(小野 1990)。
2003 年の調査では,OECD の三分の一以上の国の障害者施策が義務的割当雇用制度に基づ
いている。たとえばイタリアは労働力の 7%,フランスとポーランド 6%,ドイツ 5%などで
ある(OECD 2003)
。
EU の中でもドイツは,これまで障害者の雇用促進はリハビリテーションと社会参画を重
視する割当雇用制度のもとで図られ,割当雇用制度を中心とした政策をとっていた。ドイツ
の割当雇用制度は 9),特定の産業や雇用主を対象とした留保職種を設けていないこと,雇用
主に配置の自由を重度障害者のみ認められていて,その上で割当雇用率に達しない雇用主に
は,調整負担金の支払いが義務づけられている。 その資金は重度障害者の雇用促進のため
の支援や付随的援助のために使用する。しかし,調整負担金の支払いにより重度障害者の雇
用義務が免れる訳ではない。
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障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
現在は,EU からの雇用均等一般枠組み指令を受けて社会法典の整備を進めている。2006
年には一般均等待遇法が制定され,障害者に対する就労支援と雇用差別禁止施策が両立して
進められている。
フランスも,雇用均等一般枠組み指令を受けて,2005 年に雇用差別禁止法(障害のある人々
の平等・機会の平等,参加,市民権に関する法)を制定し,割当雇用制度を維持しながら差
別禁止原則を導入し,両制度を並存させる障害者雇用政策を展開している。20 人以上の企業
が対象で,法定雇用率は公的機関・民間企業ともに 6%である。
このように,近年,先進国における障害者対策は,所得保障を中心とした消極的政策から,
障害者の労働市場への統合を目標にした積極的政策へと移行してきている(工藤 2008)
。そ
して,障害者の雇用促進を図る制度として障害者差別禁止法と割当雇用制度の二つのアプ
ローチが採用されている(Thornton and Lunt 1997)。
これは,障害者権利条約においては,積極的差別是正措置や奨励措置を通じ障害者の雇用
を促進することが認められていることから,EU は割当雇用制度はその範囲とし差別には当
たらないという解釈をし,それを受けてドイツやフランスは割当雇用と差別禁止の二つのア
プローチが両立可能と判断した。雇用均等一般枠組み指令は,加盟国による積極的差別是正
措置(ポジティブアクション)の実施を許容していることから,割当雇用制度が現在ある障
害者の就業率の格差を埋めることを目的として制度設計に組み込まれている。障害を理由と
する差別の禁止を含む 2000 年の雇用均等一般枠組み指令が大きな原動力となり,歴史的に
も慣れ親しんだ割当雇用アプローチに新たに差別禁止アプローチを組み合わせて法改正など
を進めてきたといえる。
(3)イギリスの障害者雇用政策
ドイツやフランスが従来から採用していた割当雇用制度に差別禁止法を融合させて障害者
雇用政策を進めている一方,イギリスは 1940 年に導入された割当雇用制度を,遵守率の急
速な低下を主な理由として 1996 年に廃止に踏み切った。障害者への調査では強制的な割当
雇用制度の維持に大多数が賛成していたのにも関わらず(Glendinning 1991),EU 加盟諸国
の中で唯一イギリスは,割当雇用制度を廃止し包括的な障害者差別禁止法 1995(Disability
Discrimination Act1995)(以下,
「DDA」
)を制定して,そのなかで障害を理由に雇用上の差
別をすることを禁止する方向へ進んだ。
イギリスの割当雇用制度は,1944 年の「障害者
(雇用)
法」(Disabled Persons(Employment)
Act)(以下,
「DPEA」
)において確立された。この法律における割当雇用制は,ドイツと同
様の罰金制度を導入し,強制的に雇用確保しようとした目的とは基本的に異なる視点に立つ
ものといえる。法的義務として強制する雇用制度に批判的な立場をとっていたイギリスの割
当雇用制度の評価は低い(Waddington 1995,野村 2002)。Waddington(1995)は,イギリス
の割当雇用制度の廃止の理由について,政府の消極的姿勢と運営上の問題を指摘している。
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
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政府の関心は障害者を採用することより,労働組合(trade union)や雇用主の思惑のよっ
て進められ(Bolderson1980)
,その結果として政府はその思惑に押される形で雇用率の達成
にも消極的であった。雇用率達成のために,罰金を設けているにも関わらず実際には割当雇
用率が未達成による罰金の額は,法律施行以来総額で 434 ポンド,起訴事案は 10 件のみとな
り,法律上の実効性が確保されているとはいえない状況にあった。割当雇用制度の機能不全
状態で,達成率は 1961 年には 61%あったものが,1993 には 19%にまで落ち込んでいる。
一方,運営面では障害者登録の失敗を挙げている。登録障害者になるためには障害者登録
証明書(Green Card)を交付される必要があり,また,登録障害者は一般労働市場における
労働能力があると見なされた者(effective worker)と保護雇用に託されるとされた者(ineffective worker)の 2 種類に分けられた。この登録制は強制的義務を障害者に課すものではな
いが,条件に適合していなければ法律上の利益を受けることはできないことから,原則的に
雇用主は非登録障害者を雇うことは許されない(野村 2002)。
結果として,登録したことによる障害者にとっての利益は,登録障害者としてラベル付け
されるスティグマより低かったといえる。そのため実際に登録する障害者は,登録する資格
のある者の 3 割程度だとし,登録制は失敗だったとしている。一方ドイツでは,重度障害者
法での登録する利益は明らかであると言われている(Waddington 1995)
。しかしイギリスよ
り有効性が高いと評価されているドイツの割当雇用制度にも弱点がある(Waddington1995)。
課徴金の額が低いことにより,障害者を雇うより課徴金を払う方を選ぶ雇用主がいるという
問題がある。金額を上げれば経済的な負担が多くなり,達成不可能となりかねないこと,質
より量を問題にしている弊害があることが指摘されている。また,経済停滞期における運用
には問題が残る。
長所としては,障害者の雇用機会を増やす点に重点を置き,雇用主に法的義務があり,さ
らにドイツの調整負担金の使い方も障害者の雇用を支援するために収入を産むことより社会
に統合するための資金となっている。主な運営財源は連邦,地方政府からの資金である。
このような理由からイギリスの割当雇用制度の廃止は,制度の問題というより運営,管理
上の問題が多いことが見えてきた。そしてイギリスは,実効性の乏しかった割当雇用制度か
ら,1995 年の DDA により差別禁止法制へと転換する一方,障害者に雇用と所得保障のサー
ビスを効率的に実施するための施策を実施せざるを得なくなった。
(4)イギリスにおける障害者差別禁止アプローチ
イギリスの障害者の人権保障は,DPEA(1944 年)の制定を期に,割当雇用制度において
障害者の雇用促進をすることで図られてきた。しかし実情は前述のように割当雇用制度が存
在したにもかかわらず,当時障害者の失業率は一般労働者に比べて高く,障害者の雇用には
差別が依然として存在し,教育や社会生活一般においても,様々な差別が多く見られた。こ
のような状態を受けて,当時の障害者の人権擁護制度の実効性に疑問が提起された。そして,
48
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
1980 年頃から障害者差別を総合的に禁止する制度を求める動きが政府内部や当事者団体,
市民運動から出てくるようになった。
このような状況の下,アメリカで 1990 年に ADA が制定された。その 5 年後の 1995 年,イ
ギリスは既に制定されていた 1975 年性差別禁止法(Sex Discrimination Act 1975)や 1976 年
人種関係法(Race Relations Act1976)などと同様に,イギリス法体系の基本原理である契約
自由を差別禁止という範囲において規制する法律として DDA を制定した。障害者差別禁止
法の仕組みは 1944 年障害者(雇用)法の下で実施されていたような割当雇用制度を許容する
ものであるが,同法は多くの批判を浴び,効果的に運用されることなく(Waddington 1995)
障害者差別禁止法の発効に伴い廃止された。
DDA の成立に当たってはいくつかの要因が考えられる。まず,1979 年からの保守党政権
による経済引き締め政策により,福祉国家からの脱却を図るために障害者の経済活動への参
加に積極的だったこと,コミュニティ・ケアを推進したことで施設から地域へのケアを進め
るため,障害者のアクセスの確保が進んだ事,そしてイギリスの経済が良好な時期であった
事などが重なり,結果として差別禁止アプローチを進める推進力としての DDA が成立した。
DDA の第 2 編では,雇用関係における障害者差別の禁止,雇用主の義務,例外規定等に
ついて規定されている。
新しい DDA に対しては,障害当事者団体から,例外規定が多く,目標に達していない,
という指摘が出てきた。特に,全国障害評議会(National Disability Council)は DDA によっ
て設置された組織だが,他の機会均等委員会や人種平等委員会と異なり,所管大臣への助言
を行うのみであること,障害者個人に助言する権限などが与えられていないなど改善を求め
られた。
その後,1997 年 5 月に誕生した労働党政権により,障害者政策の方針の見直しが進み,障
害者差別禁止法の規定を再検討するため,そして DDA の完全実施のために障害者権利検討
委員会(Disability Rights Task Force)を設置した。委員会による 1999 年 12 月の最終報告書
では,DDA の改善案は 156 項目に及んだ。
DDA は,雇用主が障害者を従業員の募集や採用,訓練,昇進,解雇等において差別する
ことを違法としている。ここでの差別とは,障害に関連した理由によって,障害を持たない
人に比べて「不利な扱い(less favourable treatment)」を障害者が受けることを言う。しかし,
特定の場合においてその扱いが不可欠で,また重要だとすれば,その扱いは「正当化(justified)
」されると 5 条に規定されている。
また,雇用主に「合理的調整(reasonable adjustment)
」として,調整義務を求めた。これ
により合理的な理由なく障害者との契約を拒否したり,故意に遅延することが出来なくなっ
た。調整として,建物の改造,障害者の職務の一部を他の職員への振り替える,勤務時間の
変更,マニュアルの修正などを例として挙げている(第 6 条)。
雇用均等一般枠組み指令に従って,障害者の雇用分野における差別禁止の徹底を求めて
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
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2003 年まで改正が行われた。さらに,2010 年には,DDA も含む包括的な差別禁止法である
平等法を制定し,効率的な障害者雇用施策を模索している。
以上のように,イギリスは DDA によって,障害者自身の社会参加への努力を求めながら,
社会的包摂を理念に社会に変革を求め,差別禁止アプローチを基本に障害者の雇用推進を
図っている。
(5)EU の経験から
我が国だけでなく,世界中で 20 世紀に主流であった障害者支援の考え方は「医学モデル」
であった。1980 年代から世界各国の障害当事者が声をあげ,障害の問題は社会的不利の事で
あり,障害者の自立や社会参加を求め,変わるべきは当事者ではなく社会である,という「障
害の社会モデル」に移行してきた。障害者権利条約は,この「社会モデル」を取り込んだ画
期的な条約である。本章では,国際的な人権意識の高まりを背景に障害者権利条約に批准し,
積極的な制度設計を進めてきた EU の経験を比較検討してきた。 その結果,割当雇用アプローチと差別禁止アプローチが矛盾しないものとして,各国に
合った形で共存し障害者の雇用政策を展開していること,そのために各国の法律を改正しそ
れぞれの事情に合わせて制度を設計していることが明らかとなった。言い換えれば,割当雇
用制度の弱点ともいえる,不完全就業や低賃金という質的な障害者の雇用の問題を,障害者
差別として捉え,障害者の社会的包摂をより進めるには,差別禁止アプローチによっての補
足が不可欠だということである。
差別禁止法と併用していくためには,まずは割当雇用制を採用するには障害者の範囲の
はっきりした定義が必要であり,障害の概念についての見直しが重要である。しかし障害の
定義をすることは多くの困難が伴うと考えられる。EU では「ヨーロッパにおける障害の定
義 : 比較分析」
(2002)において,日常生活動作の支援,所得再分配,雇用施策,差別禁止法
制の4分野の定義についてそれぞれ論じている。そこでの目的は一つの定義の設定ではなく,
異なる定義の比較が可能になることで国際比較できる枠組み作りであり,また定義を決めて
しまうことに疑問を投げかけている。つまり障害者の定義をすることにより,障害はないが
似たような支援の必要な人を差別することにつながることになるのではと問いかけている。
4 わが国における差別禁止アプローチの意義
前章では,ドイツやフランスの EU 諸国を中心に先進国の障害者雇用施策について概観し
てきた。国際的に障害者の雇用施策については,割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
による施策が主流となっていて,EU 諸国においても同様である。各国の障害者雇用施策に
ついては,政治的,経済的な事情や歴史的な経緯により異なり,それぞれの国の状況や思惑
によって施策が展開されていることが確認された。
ドイツやフランス等においては,両アプローチを併用しながら雇用施策が行われている。
50
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
ドイツやフランスにおいては,従来まで雇用割当アプローチのみの施策であったが,2000 年
の EU 指令により差別禁止アプローチも併せて取り入れることとなった。また,イギリスに
おいては,当初割当雇用アプローチによる雇用施策が進められてきたが,国内事情により割
当雇用アプローチを廃止し差別禁止アプローチへの転換を余儀なくされ現在に至っている。
こうした EU 各国の経験は,割当雇用アプローチに加えて差別禁止アプローチによる施策
を取り入れようとしているわが国にとって大きな示唆が与えられるものと思われる。わが国
においては,障害者権利条約の批准に伴う差別禁止アプローチを新たに取り入れるにあた
り,「人権」
,
「差別」
,
「平等」等についての概念に,これまで高い意識が向いていたとは言
いがたい。改めてこうした差別禁止の概念を再検討し,時間をかけた入念な社会的合意と理
解が求められる。さらに,差別禁止アプローチの対象とする障害者の範囲の定義についても
改めて議論する必要があろう。
また,割当雇用アプローチについては,イギリスの失敗の経験から学び,実効性のある制
度設計と施策の運営能力の重要性を再確認する必要がある。日本やドイツにおいて割当雇用
制度が効果を上げたのは,第二次世界大戦後の経済発展が大きな要因の一つと考えられる。
割当雇用制度の効果については景気などの経済的な要因が大きく影響すると考えられるが,
今後世界的に大きな経済成長が見込めない中,景気停滞期における制度の運用についても検
討が必要である。
5 障害者雇用における今後の課題
(1)割当雇用アプローチと差別禁止アプローチの併存
わが国の障害者雇用施策においては,これまで障害者雇用率制度および障害者雇用納付金
制度により,いかに障害者の雇用数を増やしていくかといった「量」を求める施策を中心に
進められ一定の成果をあげてきた。障害者権利条約の採択により,雇用・労働施策において
も国際的に障害者の権利の遵守が大きく注目されている。障害者権利条約の批准を踏まえた
法整備を進めるなかで,同条約の中で謳われている差別禁止や合理的配慮を取り入れること
によって障害者雇用の「質」の面も併せて求めていく施策への変換が求められている。前述
のとおり,障害者雇用においてわが国は量的な面では雇用割当アプローチにより徐々に効果
を上げてきている。アメリカは差別禁止アプローチのみの雇用施策をとっているが,障害者
雇用の効果は必ずしも現れてはいないことが指摘されている(長谷川 2008)。また,差別禁
止アプローチの効果を検証するためには,差別を救済するシステムを保障することが重要と
なり,導入にあたってはこうしたシステム作りについても検討が必要とされる。
わが国は割当雇用および差別禁止の両アプローチを取り入れて障害者の雇用施策をより充
実させていくこととしているが,障害者雇用率制度によりこれまで以上に働く意欲のある障
害者の雇用の場を確保するとともに,差別禁止アプローチを取り入れることにより今後はさ
らに障害者一人ひとりがより充実し,意義のある職業生活が送れるような障害者雇用の「質」
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
51
の問題をいかに担保していくかが課題となろう。EC 諸国の経験からも,それぞれのアプロー
チのメリットを活かしながら,互いのデメリットの部分を補足し合うことの必要性が指摘さ
れている。
(2)雇用施策の対象となる障害者の範囲
割当雇用アプローチに加えて,差別禁止アプローチを取り入れる際の課題として,両者の
アプローチの対象となる障害者の範囲の違いが課題となってくる。
わが国の雇用施策である障害者雇用率制度(割当雇用制度)の対象となる障害者は,障害
者手帳の取得者を中心としている。障害者手帳制度は医学的・機能的制限からの狭い範囲で
の障害を規定する医学モデルをベースとしており,この基準を雇用率の対象となる障害者の
定義として準用している。
また,障害者権利条約の障害者の範囲は「障害が機能障害のある人と態度及び環境に関す
る障壁との相互作用であって,機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全
かつ効果的に参加することを妨げるものから生ずること」と社会モデルの視点から広く規定
されており,医学モデルから規定されている雇用率制度の適用となる障害者よりも範囲は広
くなっている。このため,両アプローチの対象者を同じ定義で括ることは無理があり,社会
モデルから規定される障害者の中の一定範囲の障害者について,割当雇用アプローチの対象
とするのが実際的な対応と考えられる。
さらに,医学モデルに拠る障害者雇用率制度における障害者についても,職業的な就労困
難度から障害者規定をすべきであることは以前から指摘されていた。わが国の雇用率制度に
おいては重度障害者が規定されており,雇用率の算定に際し重度障害者 1 人を重度以外の 2
人分とする,いわゆるダブルカウントとして重度障害者の雇用促進を図ってきた。ただ,医
学モデルから規定されている重度障害者の就労能力が必ずしも低いとは限らない。現状では
障害の実態にあった適切な雇用支援サービスが提供されているとは言いがたく,今後は職業
的な観点からの就労の困難さに着目した見直しが求められる。つまり,障害者を従来の機能
的な視点からみる医学モデルからの障害者規定ではなく,実際の職業能力から評価できるよ
うな障害者規定への転換を今後図っていく必要がある。障がい者制度改革推進会議において
も障害者権利条約の批准に合わせて雇用対策上の障害者の定義について見直すよう提言がな
されている。
(3)障害者雇用における労働・福祉施策の一元化
わが国の障害者雇用施策においては,障害者雇用促進法と自立支援法の労働,福祉のそれ
ぞれの法律に基づき別個に制度やサービス内容が定められているが,障害者権利条約の批准
に係る動向と併せて整理が必要となってくる。
また,障害者手帳の交付を受けた者が雇用施策の中心的な対象者であり,手帳の対象とな
52
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
らない発達障害者や高次脳機能障害者等については,一部の雇用援護制度を受けることはで
きるもののサービスの不公平感は大きい。機能障害による医学モデルにより規定されている
現在の障害者の範囲を見直すことによって,こうした障害者間のサービス格差も解消するこ
とになろう。
労働・福祉分野の利用する制度によってサービス内容が異なるといった不公平感をなく
し,障害者雇用や就労支援に係る法制度を一元化し,当事者が利用しやすい系統的な制度・
サービス体系に変えていくことが求められている。
また,わが国の障害者雇用においては,福祉的就労の場から一般雇用への移行率が極めて
低いことが指摘されている。こうした流れを強化するため,近年自立支援法における就労移
行支援事業を始めとして様々な施策が講じられてきたが,必ずしも十分な成果は上がってい
ない。障害者権利条約の差別禁止アプローチを新たな施策として取り入れることにより,障
害者の差別禁止や人権意識が高まり,福祉分野から雇用への移行が加速されることを期待し
たい。
6 まとめ
本論は,障害者権利条約の批准を踏まえて,EU 諸国の障害者雇用施策の動向を概観し,
わが国の障害者雇用施策の現状と今後の課題について提言を試みた。わが国で実施されてい
る割当雇用アプローチのメリットを今後も継続しながら,障害者権利条約で謳われている差
別禁止をどのように取り入れ,割当雇用制度との折り合いをつけていくのかについて,ドイ
ツ,フランスや英国など EU 諸国を中心に障害者雇用施策の変遷や現状の比較を通して示唆
を得ることができた。
今後のわが国の課題については,雇用割当制度を維持しながら国際的な潮流である差別禁
止を踏まえた施策を,社会的な合意を得ながらいかに取り入れていくのか,また,両アプロー
チを併存させ進展させていくために,その対象となる障害者の定義についても見直しを行う
必要があることが挙げられる。さらに,福祉から雇用への流れを促進させるため,労働分野
と福祉分野の雇用施策の統合の必要性などに言及した。
わが国でこれまで進められてきた割当雇用アプローチによる障害者雇用の「量」の問題と,
新たに権利条約の批准により取り入れられることになる差別禁止アプローチによる雇用の
「質」の問題と,その両者のメリット,デメリットを考えながらバランスよく施策の中に取
り入れていくことが障害者の雇用を促進し,さらに障害者にとって意義のある就労を実現す
ることになろう。
なお,本論においては,障害者権利条約における雇用分野の差別禁止や合理的配慮につい
て,その意義や実際の就労場面での具体的な対応,問題点等に言及できなかったが,今後の
研究課題としたい。
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
53
注
1) わが国の障害者雇用率制度については,民間企業,国,地方公共団体は,「障害者の雇用の促
進等に関する法律」に基づき,それぞれ以下の割合(法定雇用率)に相当する数以上の障害者
を雇用しなければならないこととされている。雇用義務の対象となる障害者は,身体障害者
又は知的障害者である。なお,精神障害者は雇用義務の対象ではないが,精神障害者保健福
祉手帳保持者を雇用している場合は雇用率に算定することができる。(平成 24 年度現在の各
法定雇用率は次の通り 一般の民間企業:1.8%(56 人以上規模の企業),特殊法人等(独立行
政法人,国立大学法人等): 2.1%,国,地方公共団体;2.1%,都道府県等の教育委員会:2.0%)
2) 一般民間企業における障害者雇用率の設定基準については,障害者に健常者と同水準の雇用
を保障するとの観点から,次のように定められている。
障害者雇用率 =(身体障害者及び知的障害者である常用労働者の数 + 失業している身体障害者
及び知的障害者の数)÷(常用労働者数 + 失業者数)
3) 障害者雇用納付金制度は,法定雇用率が未達成の企業から納付金(障害者一人につき月額 5 万
円)を徴収し,障害者を多く採用している企業の経済的負担の軽減を図るものである。障害
者雇用に伴う事業主の経済的負担を,社会全体としてバランスよく負うことにより,障害者
雇用の水準を引き上げることを目的としている。
4) 障害者雇用の指標である実雇用率は,平成23年6月1日現在1.65%であり前年の1.68%から0.03
ポイント低下している。仮に,本年について改正前の制度に基づいて計算したとすると 1.75%
程度となるものと推計される。これは,平成 22 年 7 月に制度改正により,身体障害者及び知
的障害者の短時間労働者の算入や除外率の引き下げ等があったためであり,本年と前年の数
値を単純に比較することは適当ではない状況である。
5) アムステルダム条約は 1997 年署名,1999 年発効。第 13 条は人権非差別条項である。この条項
の新設によって,
「性別,人種的又は民族的出身,宗教又は信条,障害,年齢,性的志向」といっ
た広範な領域にわたる非差別規定が設けられた。これによって障害を含む差別を撲滅する適
切な措置を加盟各国が採択する根拠を与えた。また,条約は EU 基本法として全加盟国に拘
束力を発揮する。
6) Council Directive 2000/78/EC of 27 November 2000: EU の第二次法源である指令は,形式及び
方法は加盟国に委ねられるが,達成されるべき結果が,命じられた加盟国に対して拘束力を
有し,加盟国には国内法の制定や改正等の義務が生じる。
7) この EU 指令は,2000 年 11 月に理事会によって採択された「雇用および職業における均等待
遇のための一般的枠組を確立する EC 2000 年 78 号閣僚理事会指令・・以下,均等待遇枠組指
令と略称する・・」である。本指令は,雇用及び職業の分野において,障害者差別を撤廃し
ていくための法整備を行う義務を EU 構成国に課そうとするものであり,EU レベルとしては,
障害者問題に関連する初めての本格的立法である。
8) European Disability Strategy 2010 - 2020: A Renewed Commitment to a Barrier - Free Europe: こ
のなかで EU 加盟国 27,人口約 5 億人,その中で 6 人に一人の 8 千万人に何かしらの障害があ
るとし,差別禁止,主流化(すべての方政策とその実施における包摂)アクセシビリティを三
つの柱として労働分野の差別から生活全域への補遺的整備が進み,均等法・差別禁止法へと
進めている。
9) 「 重度障害者法 」(1974)の枠組みの中にあり,6%の割当雇用率を 16 人以上の従業員がいるす
54
障害者雇用における割当雇用アプローチと差別禁止アプローチ
べての雇用主(公的・民間企業)に対して求めていたが,法改正により(2001 年)20 人以上,5%
になった(社会法典第 9 編 71 条 1 項)。
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