2.都市物流施策の立案から評価まで 2008年1月8日 「都市内物流施策ベストプラクティスセミナー」 今西 芳一 (株)公共計画研究所 1 1.都市物流施策導入の一般的な手順 2.国内事例:東京都渋谷区の荷捌きスペース設置手順 3.海外事例:フランス・パリ市の貨物車規制改正の手順 4.まとめ 2 1.都市物流施策導入の一般的な手順 現状把握と課題設定 P D C A サ イ ク ル イメージ作成 (貨物車の望ましい走行・荷捌・積載の姿) 施策パッケージを構成 (望ましい姿を実現するための施策群) 施策効果の推計(事前評価) 施策の試行と改善(社会実験など) キャンペーンによる広報 公 民 連 携 組 織 に よ る 活 動 施策の本格実施 モニタリングと改善 3 2.国内事例:東京都渋谷区の荷捌きスペース設置の手順 背景・課題 社会実験 本格実施 モニタリング による評価 4 背景・課題 東京都+警視庁 「スムーズ東京21」 社会実験 本格実施 都内の慢性的な交通渋滞 背景 モニタリング •時間的・経済的損失 •環境の悪化 対策 東京都+警視庁 •違法駐車対策 •道路改善(荷捌きスペース確保、路外荷捌きスペースの設置 など) •駐車場の有効利用(誘導案内、短時間料金無料化など) 1. 交通の円滑化 期待される 効果 2. 経済的損失の改善 3. 都市環境の改善 4. 交通事故の減少 対象箇所の一つと して渋谷区へ打診 5 背景・課題 社会実験へ 社会実験 本格実施 モニタリング 渋谷区の状況 商業、業務機能の高度集積がもたらす多大な交通需要による渋滞 看板等による歩道狭小化、違法駐車車両・駐輪自転車による車道へのはみ出し歩行 歩行者空間の安全性・円滑性の悪化 エリア周辺には公営地下駐車場などがあるものの、無秩序な路上駐車が慢性化 「スムーズ東京21」 渋谷区がスムーズ21の一環として、区が各商店街に呼びかけ H12年春 社会実験のための協議会を結成 参加メンバー:東京都、渋谷区、国交省、警視庁、商店街 6 背景・課題 社会実験へ 社会実験 渋谷区がスムーズ21の一環として、区が各商店街に呼びかけ 本格実施 モニタリング H12年春 社会実験のための協議会を結成 参加メンバー:東京都、渋谷区、国交省、警視庁、商店街 行政側がアイデアを提案し、商店街側がそれに対する意見を述べるというスタイル 協議会(東京都、渋谷区、国交省、警視庁、商店街) 討議結果を協議会に提出 物流対策部会 荷捌き関連施策を検討 駐車駐輪対策部会 住民懇談会 駐車場誘導施策を検討 実験について意見交換 検討課題 【公園通り】 違法駐車が多く、バスが通れない(通行に30分以上かかる場合もあった) 【井の頭通り】 歩行者が多く、歩道が狭いため、常に歩行者天国のような状態で危険 7 社会実験「スムーズ渋谷」概要 背景・課題 社会実験 本格実施 モニタリング 実験期間:平成12 年10 月10 日 ∼11 月30 日 目的:各実験施策の効果検証 施策内容: ①路上・路外荷捌きスペース設置 ②歩道環境改善 ③駐車場への案内・誘導 ④循環バス運行 ⑤駐車場30分以内無料 8 社会実験「スムーズ渋谷」実施風景 背景・課題 社会実験 本格実施 モニタリング 井の頭通りの路上荷捌きスペース利用風景。 利用時間の目安を15分と設定、7割近くの車 両によりルールが守られた。 オルガン坂に設置した路外荷捌きスペース。 実験では利用時間の目安を30分と設定、9割 以上の車両によりルールが守られた。 渋谷(宮下公園)駐車場に設置された臨時停 留所と、停車中の連絡バス。路線としては既 存のバス路線を利用。運行に際し民間バス 会社が協力した。 井の頭通りに設置された駐車場案内板。現 場の係員が満空情報を本部から受け、変更 指示に従って「混」「満」表示への切り替えを 行うシステム。 歩道空間整備のために道玄坂で実施された 自転車整序。実験前期は巡回管理員が放置 自転車をカラーコーンバー内へと移動して整 理した。 実験中に開催された住民協議会・部会(合同 開催)。実験途中段階での効果検証、実験継 続・本格実施の可能性を探る議論が交わさ れた。 9 社会実験「スムーズ渋谷」結果 背景・課題 社会実験 本格実施 ①路上・路外荷捌きスペース設置 ・利用時間は概ね守られ、物流ドライバーの大半が継続を希望 ・約2∼3割(100台程度)の路上駐車が削減 路外荷捌きスペースでは1日80 台の利用 路上荷捌きスペースでは1日1,000∼1,200 台の利用 ・荷捌きの平均横持ち距離が44mから39mに短縮 モニタリング ②交通の円滑化 区間の所要時間がそれぞれ2/3、1/2 に短縮 (両側駐車が片側駐車になった公園通り・井の頭通りで) ③駐車場への案内・誘導 利用者からも高い評価 ④循環バス運行 一般車を駐車場へ導く効果は検証できなかった ⑤駐車場30分以内無料 路上から駐車場への一般車誘導に効果があることが判明 10 社会実験「スムーズ渋谷」後の展開 背景・課題 社会実験 本格実施 •実験後半時にはボランティア参加者等の約7 割が実験継続を希望 モニタリング •路外荷捌きスペースは費用の面から永続的に借り上げることは困難 •路上荷捌きスペースは継続したい意思 H13年 井の頭通りに住民連絡会が発足 5回の会議を開催(メンバー:区、都、警察、商店街) 本格実施へ ・ 路上荷捌きスペース:実験の成果を活かし本格実施 ・ 路外荷捌きスペース:借り上げは断念。しかし、その重要性が認識され、延 べ面積の大きなデパート等に荷捌き駐車場を義務付けるよう条例を改正 11 社会実験「スムーズ渋谷」後の展開 路上荷捌きスペース(公園通り:H13年整備開始→H14年完了) 背景・課題 社会実験 本格実施 モニタリング ○公園通りは区が主導になって本格実施となった。 ○車道の幅を縮小し、常設の有料荷さばき専用スペースを正式に導入 ・区役所に向けた上り坂の全長約300メートルが実施区間 ・幅9メートルの道路の車線部分を7メートルに縮小 ・残り2メートル幅の一部を歩道拡幅、一部に荷さばきスペース全7ヶ所を設置 路上荷捌きスペース(井の頭通り:H13年住民連絡会発足→H16年整備完了) 12 背景・課題 モニタリング 社会実験 本格実施 モニタリング 本格実施をした施策の評価 •整備1年後にバスの旅行時間と運転手からのヒアリングによって評価 評価時期 公園通り: H15年 井の頭通り: H17年 評価結果 旅行時間*: 減少した ヒアリング**: 通行しやすくなった *小田急・京王バスのバスロケーションシステムを使用し て、各バス停のストップ時間から旅行時間を割り出した。 **バスの運転手に対するヒアリング調査 13 3.海外事例:フランス・パリ市の貨物車規制改正の手順 ◆ 背景・課題 − 荷捌きスペースの不足が発端 貨物車規制全体の見直しへ発展 ◆ 対話による協議 − パイロット委員会の設立 憲章の成立 パリ市と47団体が署名 ◆ 施策実施 − 停車時間表示板、30分が上限 事前・事後のキャンペーン実施 ◆ モニタリング − モニタリング委員会の設置 背景 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング • 2000年:イル・ド・フランス 地方圏交通計画(PDU)の成立 • 2001年:社会党ドラノエ氏がパリ市長 に選出され左派政権が誕生 →自動車に代替する交通手段を優遇 する政策の推進 • 2002年:セーヌ河岸の道路で「バス+ 自転車専用レーン」が整備 荷捌き用スペースが整備されていない ことに対する配送業者からの強い反発 これがきっかけとなって、パリ市の貨 物車規制全体の見直しに発展 15 背景・課題 協議委員会の設置 対話・憲章 ◆ 2002年:パリ市の公民貨物協議パイロット委員会の設立 施策実施 モニタリング 委員会の構成メンバー - パリ市の代表者(道路・交通局、経済開発・雇用局) - 貨物輸送管理業者団体(企業連盟、輸送連盟、輸送組合等) - その他(パリ商工会議所、商業連合、利用者協会等) - パリ警視庁 委員会 y 委員会は平均して半年おきに計6回開催 y 作業グループを通して認識の共有 道路 鉄道 3つの作業部会 河川 y 市と業者がコストを共同で負担して調査 16 委員会で議論された主要テーマ 背景・課題 対話・憲章 施策実施 • 都市内における貨物交通の重要性 の認識 • 配達に必要とされるツールの改善 (荷捌きスペース、交通規則) • 鉄道や河川への交通モードの転換 • 環境や経済への影響 モニタリング 17 協議の結果、提唱された指針 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング • 3年間に渡る協議 • 2005年4月のパリ市と物流関連業者による共同記者会見で、以 下のような7つの指針が発表された 1. 道路上の荷捌きスペースの位置づけの改善 2. パリ市内のすべての荷捌きスペースの利用を30分以内に制限する(以前は荷 捌きに必要な時間) 3. バスレーン、商店の密集した地区の荷捌きスペースの利用を物流専門業者の みにする 4. パリ市の貨物車規制を簡略化する 5. 配送監視システムを強化する 6. パリ市と物流関連業者の間で憲章を成立させる 7. 環境への配慮をパリ市の貨物車規制に反映させる 18 指針による主な改善点1 ◆ 貨物車規制の簡略化 これまで : • 現在の複雑な規則(1999年制定) 実際にはほぼ適用不可能 • イル・ド・フランス地方圏内の統一不 可能 旧規制 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング 目的 : 簡素化、環境への配慮 例:5つの時間帯を3つの時間帯に 簡素化 低公害車は17∼22時も停車可 新規制(2007年1月1日以降) 19 指針による主な改善点2 背景・課題 対話・憲章 施策実施 ◆荷捌きスペースの利用時間の制限 モニタリング パリ市路上のすべての荷捌きスペースの利用時間は30分以内 に制限される(以前は、荷物の積み降ろしに必要な時間内の停 停車時間表示板の使用義務 車が認められていた) 「荷捌きスペースでの停車は30分以内」 現在の荷捌きスペースの利用条件は次の 通り: 1 – 車両からの貨物積み降ろしが目的 2 – 最大利用時間は30分 (フロントガラス裏に表示板が置かれる) 20 憲章の成立(2006年) 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング 2006年6月、「パリにおける貨物交通と 配達の良好な慣行憲章」がパリ市と47者 の間で締結された。 中央がパリ市長ベルトラン・ドラノエ氏 21 憲章署名者(47団体) ・パリ市 ・イル・ド・フランス地方圏議会 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング ・パリ警視庁 ・設備省イル・ド・フランス地方圏局 ・環境・エネルギー抑制局 ・パリ商工会議所 ・職業団体、組合 :貨物輸送利用者協会など ・鉄道と河川港のインフラ管理者と事業者:パリ交通公団など ・電気・ガス公社:仏電力・ガス公社 ・企業: スーパーマーケット:CARREFOUR, MONOPRIX 貨物輸送関連会社:TNT EXPRESS, UPSなど 22 施策実施前のキャンペーン(2006年10月) パリ市は、新しい貨物車規制の実施に当たり、2006年10月 からパンフレットを配布して広報キャンペーンを行った。 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング 「貨物規制が新しくなります」 23 施策実施後のキャンペーン(2007年1∼4月) フロントガラス内側に停車時間表示板の未表示者に対して、罰則を 伴わない警告を実施 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング 「停車時間表示板をお持ちではないのですか?」 停車時間表示板 • 10万個 • 無料配布 24 憲章モニタリング委員会の設置 背景・課題 対話・憲章 施策実施 モニタリング 憲章モニタリング委員会は、パリ市公民貨物協議パイロット委員会 に置き換わるものである。 構成メンバー • パリ警視庁 • 憲章に署名した職業団体と商工会議所 • 交通公社(国鉄、パリ自治港等) • 地方圏、設備省地方圏局、研究機関 • パリ市:都市計画局など 活動 • 相互の約束を明確化し、実践する • 約束実行を支援、追跡調査する • 状況変化に応じて憲章を調整・改正する 25 モニタリング活動 背景・課題 対話・憲章 施策実施 主要行動 モニタリング - 憲章モニタリング委員会は、6ヶ月おきに会合を開き、状況 を調査する。 - 成果に対する具体的な評価は今後。(貨物車規制を施行 してから、いまだ一年しか経過していないので) パリ市の関与 ・フィージビリティー調査への支出 ・モニタリングと評価調査への支出 26 4.まとめ 円滑な推進のための鍵 1.都市全体の施策の枠組を設定、 その中で当面の施策を位置づけ 2.公民連携組織を設立、 多数の関係者が参加 3.キャンペーンや社会実験で、 広報や試行 一般的手順 現状把握と課題設定 P D C A サ イ ク ル イメージ作成 (貨物車の望ましい走行・荷捌・積載の姿) 施策パッケージを構成 (望ましい姿を実現するための施策群) 施策効果の推計(事前評価) 施策の試行と改善(社会実験など) キャンペーンによる広報 4.モニタリングと改善のサイクル 公 民 連 携 組 織 に よ る 活 動 施策の本格実施 モニタリングと改善 27 ご静聴、ありがとうございました。 28
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