公契約条例の意義、現状と課題

連合東京
公契約条例シンポジューム
2014年11月12日
公契約条例の意義、現状と課題
弁護士
【自己紹介】
経歴
1979(昭和54)年4月 弁護士登録
古
川
景
一
(日本労働法学会所属)
国会からの参考人招致・意見陳述
(1) 参議院厚生労働委員会 2003(平成15)年6月11日
労働基準法一部改正案について
(2) 参議院法務委員会 2002(平成14)年12月5日
会社更生法改正案について(労働分野への影響)
(3) 参議院労働・社会政策委員会 1999(平成11)年6月1日
労働者派遣法・職業安定法一部改正案について
公契約に関する経験
(1) 1994(平成6)年 『公契約条例(法)要綱試案』作成
委嘱者/全国建設労働組合総連合(全建総連)
(2) 2009(平成21)年 『公共工事報酬確保法案』作成
委嘱者/民主党の小規模事業対策議員連盟
共同作業者/参議院法制局
(3) 2010(平成22)年 『川崎市契約条例改正案』作成の助言、及び、
条例改正後の職員研修
委嘱者/川崎市長
(4) 2011(平成23)年 『多摩市公契約条例案』作成
「多摩市公契約制度に関する審査委員会」委員長/条例案準備
2012(平成24)年 多摩市公契約審議会会長/条例施行・検証
委嘱者/多摩市長
(5) 2011(平成23)年 『相模原市公契約条例案』作成に関する助言
委嘱者/相模原市長
最近5年間の著作
(1) 共著
『労働協約と地域的拡張適用 -UIゼンセン同盟の実践と理論的考察-』(201
1 信山社)川口美貴教授との共著
(2) 論文【公契約関係】
2012年
「公契約を媒介とする雇用と労働条件の規整」(2012.12季刊労働法239号217頁)
2011年
「公契約規整の歴史と到達点、そして課題」(2011.8労働の科学66巻8号4~7頁)
「公契約規整の到達点と課題」(2011.7 季刊労働者の権利290号84~91頁)
2010年
「公契約規整の到達点と当面の課題」(2010.5 労働法律旬報1719号7~14頁)
- 1 -
はじめに/本日の報告の3つの重要ポイント
1
公共サービスを供給する行政の在り方を巡る基本的対立軸
品質確保に気配り
←→
安上がり優先
従事者の働き方に気配り
←→ 「民々問題」として放置
事業者・地域経済に気配り ←→
無関心 民間=買い叩きの対象
2
公契約条例の目的
公共工事・公共サービス等を民間事業者に発注して行う際に、低賃金を背
景とするダンピング受注を排除することによって
① 公共サービスの品質確保
② 事業者相互間での公正競争の実現
(= 健全な経営をする事業者、まともな労賃を支払う事業者がダ
ンピング受注する業者に負けないで、経営を続けられる。)
☆ 地方自治体と住民と事業者と就労者がウィン・ウィンの関係(×政治的対立)
3
連合が制定を目指す公契約条例の基本構造
公権力規制型
典型例 :
=
ILO94号条約型
労働基準法、最低賃金法、公害規制の諸立法
国・地方自治体
<統治権>
事業者の営業の自由を規制
事業者に義務付け
違反/刑罰・行政取締
事
業
者
千葉県野田市公契約条例
行政指導型
典型例
:
/
「最低賃金法を条例で上乗せ」
建設業法その他の多数の「業法」
国・地方自治体
<統治権>
事業者に行政指導
事
業
者
東京都世田谷区公契約条例 埼玉県草加市公契約条例案
受注者や下請企業が報酬下限額の支払いを怠ったときの措置
〇 行政指導
× 労働者が裁判所で賃金請求訴訟
× 労働組合が団体交渉で解決
- 2 -
ILO94号条約型
「第三者のためにする契約」(民法537条)の活用/合意による義務発生
発 注 者
(契約当事者)
(自治体)
公契約
【契約条項】
労働条件確保
下請と連帯責任
受注者
(契約当事者)
労働者
(第三者)
下請企業
労働者
(第三者)
等
(第三者のためにする契約)
労働協約との類似性
労働組合
(協約当事者)
Ⅰ
労働協約
【協約条項】
労働条件
使用者
(協約当事者)
労働者
日本における公共工事・公共サービスを巡る問題
1
ダンピング受注の状況(落札率を巡る問題)
落札価格÷予定価格(入札失格となる上限価格)=落札率
(1) 物品購入、役務提供
最低制限価格(入札の下限額規制)がない自治体が多い
→ 底なしのダンピング受注の横行
→ 事業者の窮乏化 (小金井市の事業者アンケート結果
(2) 公共工事分野
公契約条例の実践結果
①
2013.03)
90%前後であれば適正賃金の支払は可能
(野田市、川崎市、多摩市、相模原市等)
85% (直方市、足立区等)
5%
ダンピング問題の発生
差
東京東部の各区の工事落札率
(連合東部ブロックによる調査結果
- 3 -
2011年)
②
ウ
2
工事落札率
葛飾区
90.6%
江東区
90.2%
江戸川区 89.3%
荒川区
88.5%
台東区
88.4%
墨田区
87.0%
足立区
86.0%
<平成25年9月に公契約条例成立>
全国における平成22年度の競争入札の落札率
国土交通省・総務省・財務省の三省共同「入札契約適正化法に
基づく実施状況調査の結果について(平成24年6月25日)
(47都道府県全部、19指定都市全部、1727市区
町村のうち5市町を除く1725市区町村が回答)
都道府県全部の平均 89.5%
落札率85%以下の都道府県と政令市 11、うち6が近畿圏
大阪府
76.2%
◎
広島市
76.9%
堺市
82.0%
◎
奈良県
82.7%
◎
岩手県
83.0%
滋賀県
83.2%
◎
大阪市
83.8%
◎
横浜市
84.0%
京都市
84.1%
◎
三重県
84.5%
埼玉県
84.9%
落札率が非常に高い自治体も存在
『入札制度改革』に伴うブローカーやギャングの横行
(1) 公共工事分野
① 自社施工能力のない事業者による入札
札幌市・横浜市・四日市市等/公共工事入札
最低制限価格(=予定価格の85%)での入札40社 籤引き
入札者がブローカーやギャングであることが少なくない
東京都足立区/一部にブローカーやギャング → 落札率低下
② 積算能力のない口利き屋の横行
例:千葉県内の自治体発注の機械設備改修のための人工出し
<2014年発生の賃金不払い問題>
一次下請:大阪市
- 4 -
二次下請:三重県四日市市 (ブローカー、ギャング)
三次下請:大阪府吹田市
(現場監督)(従業員0)
四次下請:静岡市
(就労者)
五次下請:横浜市
(就労者)
建設業の人手不足 → ギャングやブローカーの一層の横行
<設計労務単価上昇分の多くが吸い上げ>
(2) 業務委託・外注等
① 長野県/広報紙を巡る問題
受注者:東京の印刷設備を持たない業者 下請:長野県の印刷業者
② 福岡市/市民施設管理の民間委託を巡る問題
市
発注者
A社
受注者
委託
雇用
労働者
(労組)
年度更新の際に別事業者B社がダンピング受注
B社は自社処理の能力なし A社に下請となるよう提案
市
発注者
委託
B社
受注者
下請
A社
下請
雇用
労働者
(労組)
B社がサヤ抜きしA社は低価格で受注⇒ 労働者の時給を大幅切下げ
(福岡県の最低賃金スレスレ)
組合は雇用を守るため受諾
業務委託契約書の中の下請禁止条項の実効性
3
品質を巡る問題
(1) 公共工事の品質を巡る問題
<殆ど表面化していない/闇>
(2) 公共サービスの品質を巡る問題
① 埼玉県ふじみ野市流水プール事故(2006年)
受注事業者が下請に丸投げ
受注事業者は、ダンピング受注しても、利益確保
日本水泳連盟・日赤での受講経験のないアルバイト監視員
発注額の推移
1996(平成8)
1883万円
2006(平成18)(事故発生)1150万円
② 大阪府泉南市砂川小学校プール一般開放事故(2011年)
プール監視員/高校生の素人アルバイト(時給780円)
市の予定価格算定の際の明細
プール監視員 時給900円
最低制限価格の設定
予定価格×0.85
- 5 -
( → 時給900円 × 0.85 = 765円)
(cf この当時の大阪府の最低賃金 時給779円)
市の事故調査委員会報告書
「プール一般開放の民間委託については、予算から開放の範囲・程度
を決めている。安全の観点からではなく、最初に予算ありきの決め
方であった。」
「(入札制度について)委託料は、安全性の観点からは考えられてい
ない。人件費は適正だったのか、少なくとも時間給が高ければ、い
い人材が集まる筈である。」
4
事業者と就労者の所得を巡る問題
(1) 地方自治体発注の業務委託による就労者・事業者の窮乏化
2009年6月24日 読売新聞・神戸新聞
大阪市営地下鉄 駅清掃員 7時間勤務53歳男性
時給760円(月収14万円)
大阪市が生活保護支給決定(保護基準との差額 月額2万4221円)
なぜ低賃金労働が発生したか
予定価格2億4千万円
落札価格約1億1600万円
(2) 公共工事分野での労賃相場下落・中小企業の経営基盤の脆弱化
① 建設業就労者の労賃水準の大幅下落
基礎資料:設計労務単価
(予定価格を積算するための資料)(47都道府県・51職種毎)
1998年度全国平均
2011年度全国平均
型わく工
25,000円
15,470円
38%下落
鉄筋工
23,570円
15,226円
35%下落
普通作業員
18,198円
12,560円
31%下落
建設産業の受注総額の約4割が公共部門の発注
ダンピング受注
→
労賃相場下落
→
設計労務単価下落
<<悪循環>>
cf
cf
②
震災復興に伴う労賃上昇は一時的現象
例 阪神淡路大震災
東京オリンピックの工事に伴う労働力需要の高まりも一時的
最近の設計労務単価の引き上げ
労働者不足 → ブローカーの横行(中抜きの横行)
→ 設計労務単価が上昇しても就労者に届かない
建設業就労者の雇用・労賃の不安定化
- 6 -
基礎資料:国土交通省が財団法人建設業振興基金に委託して行った調査結果
1997年度
2008年度
就労形態「常雇」
80.8%
63.6%
給与支払形態「月給制」(固定給) 57.6%
29.3%
③
5
建設業における中小企業就労者の貧困化&中小事業者の窮乏化
基礎資料:国税庁「民間給与実態統計調査」 資本階層別 平均給与額
1999年
2011年
全業種平均 資本金十億円以上
564万円
534万円
5%下落
資本金二千万未満
347万円
302万円
13%下落
建設業
資本金十億円以上
701万円
689万円
2%下落
資本金二千万未満
425万円
357万円
16%下落
発注者(自治体)の「横暴」
追加工事、修正工事等がある場合
<たてまえ>建設業法、国土交通省のガイドライン
自治体は契約変更し、追加代金支払の義務
<現実>
Ⅱ
公契約規整の目的
19世紀以降の世界各国での公契約規整の歴史的沿革
公共工事・公共サービス等を民間事業者に発注して行う際に、低賃金を背
景とするダンピング受注を排除することによって
① 公共サービスの品質確保
② 事業者相互間での公正競争の実現
1
目的その1
低賃金を背景とするダンピング受注の排除による公共サービスの品質確保
(1) 公契約規整の原型
フランス・パリ市 1888年
水道工事について低賃金を背景としたダンピング受注の横行
→ 工事の品質劣化・補修工事の続発
→ 低賃金を背景にしたダンピング受注の排除
→
1899年までに、フランス、イギリス、米・カンザス州
- 7 -
(2) 日本における公契約条例制定による実践
① 公共サービス
多摩市 :学童保育(2012~) 学校給食調理員(2013~)
時給903円以上
相模原市:学校給食調理員(2013~)
時給885円以上
背景
多摩市・学童保育 条例制定前には時給900円未満も
相模原市・給食
条例制定直後に低価格受注 時給850円も
両市の基本的考え方
品質確保・安全確保の前提
= 低賃金労働を背景にしたダンピング受注の排除
= いい人材の確保/発注者が適正な予算措置
→ 公共サービスのために就労する人の労賃水準
= 各市の生活保護水準を下回らない
② 公共工事の品質と公契約条例
川崎市公契約条例建設連絡会による聴き取り調査結果報告
対象 川崎市中原図書館整備工事(契約者 西松・ジェクト共同企業体)
調査日 2012年8月13日
工事監督からの聴き取り結果
「公契約条例の適用現場で働く職人は民間より高い賃金なので、下請
業者はそれに見合った職人を提供するようになってきた。」
「工事現場は、公共図書館部分(5~6階)と民間店舗・住宅(それ
以外)に分かれており、公共図書館部分の作業従事者は黄色い腕章
を着用している。黄色い腕章着用者の方が腕がいい。」
「西松建設としては、腕のいい職人が集まれば仕事も早く安心して任
せられる。条例の目的はここにあると理解し、評価している。」
(3) 日本における公契約条例の役割 / 市民&事業者&就労者の要求
発注者(自治体)は予算を組む際に、公共工事や公共サービスの品質確保のた
めに必要な経費を調査し積算する。
従来型(入札額・見積額の安い方に発注)なら、担当職員の仕事は楽
→ 予算を組む際に担当職員に汗をかいてもらう
※
※
※
2
公契約条例制定に関する自治体職員の抵抗やサボタージュの例
地方公務員のあり方についての意識改革が進んでいる例
公契約条例制定後の自治体職員教育の重要性
目的その2
低賃金を背景とするダンピング受注の排除による公正競争の実現
- 8 -
(1) 公契約規整の本格的発展
アメリカ合衆国 ディビス・ベーコン法 1931年~現在
内容
公共工事の予算組みは地域相場の労賃を基準
地域相場の労賃を末端就労者に支払う事業者でなければ受注できない
受注者の労賃支払義務の発生原因=発注者と受注者の契約上の合意
目的① 公共工事による景気回復政策
(後に、ケインズの「有効需要創出」論として整理)
公共工事予算のうち労務費部分のピンハネを禁止し、末端労働者
に予算組みされている労務費が行き渡る → 労働者が消費財を購
入する → 消費財生産の拡大 → 景気回復
<<労務費のピンハネは景気回復効果を阻害するもの!!>>
目的② ダンピング受注の排除
アメリカ南部の黒人労働者(低賃金)を使った南部の建設事業者
が、北部の公共工事に殴り込みをかけていた。これを規制するため、
受注者に地元相場賃金の支払を義務付け。
(北部の業者の要求を受けて共和党議員が提案し立法化)
→
昭和20(1945)年
昭和24(1949)年
日本政府が進駐軍に提供した基地労務者の賃金に
関して公契約規整が実施
ILO(国際労働機関)第94号条約の制定
(2) 日本における公契約条例制定による実践
① 公共工事分野の平均落札率
川崎市 平成24年度86.0% → 平成25年度88.8%
多摩市 平成24年度90.6% → 平成25年度95.0%
② 川崎市の公契約条例適用現場の現場事務所の対応
<川崎市公契約条例建設連絡会による現場事務所訪問聴き取り>
○ ダンプの見積が市の定める下限報酬額以下だったので、下限報酬以上で
再見積するよう指導した(大成建設 川崎市下水処理場解体工事)
○ 下請から提出された賃金台帳に労務報酬下限額以下の賃金があったので、
下請業者に下請代金を追加支払をして、定められた賃金を支払わせた(西
松建設 川崎市中原図書館)
③ 多摩市公契約条例適用事業の事業者に対するアンケート調査結果(市が実施)
○ 公契約条例適用ではない民間からの受注の仕事に関しても、時給903
円を下回らないように賃金水準を改訂した。
④ 相模原市
平成24年度の学校給食の民間委託に関してダンピング受注の問題が発
生し、給食調理員の時給が850円となる例が発生したので、平成25年
- 9 -
度から給食事業を公契約条例適用対象に加えて、ダンピング受注を排除す
るようにした。
(3) 日本における公契約条例の役割 / 事業者・就労者側の要求
① 工事関係の落札率との関係
従来の落札率(90%前後)の維持 / 神奈川県川崎市、東京都多摩市
千葉県野田市など
落ち込んだ落札率(86%前後)の引き上げ/東京都足立区、福岡県直方市
② ブローカーやギャング対策
入り込むことの予防 / 東京都多摩市
神奈川県のビルメンテナンス業界から要望)
一部既にくい込んでいる者の排除/東京都足立区等
③ 重層下請構造の解消
現場端就労者への賃金支払をするためには中間ピンハネは不可能
結果的に、原則型=二次下請まで(アメリカ、ドイツ、フランス)
元請は、得体の知れないブロカーが中間に入ることによるリスクを回避
④ 発注者(自治体)との関係の正常化
「追加や修正があった場合に、その分の労賃を払うには、発注者が契約代金
の増額をしてくれなければ不可能。増額してくれなければ赤字倒産」
/東京都多摩市(検討委員会答申、条例の中に対等原則を盛り込む)
/東京都足立区
Ⅲ
公契約規整の理論と実践
1
公契約規整の理論
<フランス、イギリス、アメリカ合衆国、及び、ILO条約の考え方>
(1) 「第三者のためにする契約」(民法537条)の活用
発注者
公契約
(契約当事者) 【契約条項】
(自治体)
労働条件確保
下請と連帯責任
受注者
(契約当事者)
労働者
(第三者)
等
(第三者のためにする契約)※
下請企業
労働者
(第三者)
この内容の契約締結に同意した事業者は受注者となることができる。
この内容の契約締結に同意しない事業者(=低賃金を背景にしたダンピング受注
- 10 -
を狙う事業者)は、公契約の受注者となることができない。
(2) 公権力的規制(労働基準法・最低賃金法等)との相違
受注者の決定・判断に基づき受注者の義務が発生
統治権に基づく公権力的な規制ではない
受注者の営業の自由を犯すものではない
/アメリカ合衆国連邦裁判所判決(1930年代に複数)
ドイツ憲法裁判所決定(2006年)
/日本ではこれまでなじみのなかった考え方
(→ 旧来型の権力的な「規制」や行政指導に慣
れ親しんだ公務員のとまどいや無理解)
2
実例 / 多摩市公契約条例(2012年4月施行)
(1) 目的(第1条)
目的 当該業務に従事する者の適正な労働条件等の確保
→ 生活安定、質の確保、地域経済と地域社会の活性化に寄与
(2) 対象労働者等(第2条)
受注者・下請が雇用する労基法上の労働者
受注者・下請が使用する派遣労働者、自ら労務提供する請負人(一人親方)
(3) 適用対象(第5条)
ア 予定価格が5000万円以上の工事又は製造の請負契約
イ 予定価格が1000万円以上の請負契約で市長が指定するもの
(市役所・公園・運動施設の管理、施設清掃、街路樹維持、樹木剪定、可
燃物等の収集運搬、送迎バスの運行業務、学童クラブ・一時保育等子育
て支援、デイサービス通所介護その他高齢者支援、障害者支援)
ウ 指定管理協定のうち市長又は教育委員会が必要と認めたもの
(駅前駐輪場、温水プール、福祉センター)
エ その他市長が特に必要と認めたもの
(4) 市長による労務報酬下限額の設定(第7条)
ア 公共工事
原則 公共工事設計労務単価(51職種)の9割
例外 各職種毎に総労働時間の2割分まで 時給903円
イ 公共工事以外
時給903円
(5) 実効性確保/請負契約及び指定管理協定に盛り込むべき条項(第8条)
労務報酬下限額を受注者及び受注関係者(下請・派遣)が支払う
労働関係法令遵守
継続雇用の努力義務
受注者の連帯責任(受注関係者の支払額不足の場合)
台帳整備
- 11 -
労働者への周知 (掲示、書面交付)
労働者の申出権
不利益取扱禁止
報告、立入り調査
是正命令、是正報告
契約解除
損害賠償・違約金
(6) 公契約審議会(第9条以下)
公1
労2
使2
報酬下限額に関する諮問、施行状況の調査・検証・意見具申
3
全国における制定状況
(1) 「公契約条例」の定義
○ ILO条約型 ①受注者の義務内容に労働条項(労働者の権利)
②受注者の義務が発注者との契約<合意>で発生
× 公権力的規制型・行政指導型
(2) 全国状況
平成21(2009)年
平成22(2010)年
平成23(2011)年
平成24(2012)年
平成25(2013)年
平成26(2014)年
①千葉県野田市公契約条例
(全国の先駆者、突破口を開いた)
(内容に若干問題/ILO条約型ではない部分)
②神奈川県川崎市契約条例(改正)
(ILO条約・各国法制に準拠した初の本格的条例)
③東京都多摩市公契約条例、
④神奈川県相模原市公契約条例
⑤神奈川県厚木市公契約条例、
⑥東京都渋谷区公契約条例(内容に問題)
⑦東京都国分寺市公共調達条例
⑧東京都足立区公契約条例
⑨福岡県直方市公契約条例
⑩兵庫県三木市公契約条例
⑪東京都千代田区公契約条例
(3) 条例案が議会に提出されたが条例制定に失敗した自治体
北海道札幌市、埼玉県川越市、山形県山形市
4
東京都世田谷区の条例に関する評価と今後の課題
(1) 「これで終わり」か「これから始まる」か
(2) 本格的な公契約条例にどう発展させていくか
- 12 -
Ⅳ
まとめ
1
/
より良い公契約制度をどのようにして作るか
公契約を巡る問題状況は各地方自治体毎に千差万別
① 自治体の財政力、民間委託の進行状況
② 民間委託事業における労務報酬支払状況
③ 落札率(低価格受注の横行の程度)
④ ブローカーやギャングの浸透度合
⑤ 入札の対象業務と随意契約の対象業務の仕分け
⑥ 入札に付す場合、一般競争入札か、指名競争入札か
⑦ 最低制限価格の設定の有無、事前公表・事後公表の有無
⑧ 自治体中での事業者の業種別・規模別の分布状況
⑨ 自治体が行ってきた地元業者育成政策
⑩ 地元事業者団体の議会に対する影響力、有力議員の団体に対する影響力
⑪ ダンピング受注に対する各事業者団体役員の危機感
⑫ 自治体が行う建設業法違反(追加・修正等の踏み倒し)の頻度・程度
⑬ 自治体の首長、幹部職員、中間管理職の条例制定に向けた熱意、意欲
⑭ 自治体職員の仕事の仕方(「仕事が増えるのは嫌」というタイプの支配度)
⑮ 条例制定に熱意のある人材の有無とその分布
その他
各地方自治体毎に問題状況をつかみ、それに対応した解決策を考え出す必要
=「モデル条例」はない。
⇒ 各自治体らしい『臭い』のある条例
2
条例の成否を決めるもの
首長の決断と事業者団体の理解が決定的に重要
3
制度設計の方法
制度設計段階で、自治体職員だけでなく、労使の代表が参加する必要
現場の実情を行政に伝える
地域の各組合がバラバラに動くと逆効果
「特定の組合とだけ接触すると、別組合から突き上げられる」
「審議会の委員をどこにも委嘱しないのが安全」」
行政との懇談会
「一人親方とは?」等イロハのイから
自治体職員だけで作る条例案 = ○自治体職員に都合のよい条例案
×事業者が遵守しやすい条例案
東京都多摩市、福岡県直方市での労使参加の成果
- 13 -
【参考
/
全国各地から出されてきた共通の疑問と先行自治体の対応】
1「受注者・下請企業の経営権に対する介入ではないか?」
(1) 制度の構造
ア 公契約規整
イ
ウ
×権力的な規制(合意や同意を必要としない規整)
(労働基準法や最低賃金法)
○合意・同意を媒介とする規律
発注者が受注者に対する発注条件を設定
<あらゆる民事契約で発注者は発注条件を自由に設定できる。>
発注条件に不服である事業者には受注しない自由
<契約の強制や義務の強制はしない>
受注者が発注条件を承諾した以上、受注者はこれを履行する民事的義務
(2) 制度の目的との関係
地方自治体としての基本政策
公共工事・公共サービス等を民間事業者に発注して行う際に、低賃金
を背景とするダンピング受注を排除することによって
①公共サービスの品質確保
②事業者相互間と労働者相互間での公正競争の実現
この基本政策を理解し協力して戴ける事業者に発注
(3) 多摩市における事業者アンケート結果
2「他市町村の就労者に報酬下限額以上の賃金を支払うのは不合理ではないか?」
(1) 公契約条例の直接の目的
×「条例を制定した自治体に居住する労働者の賃金引き上げ」
○「低賃金を背景にしたダンピング受注の排除」
(2) 具体的には、
アメリカ合衆国 南部の低賃金労働者(黒人)を使う事業者
北部で受注できる。
しかし、デービス・ベーコン法により、北部の公共事業を受注したと
きには北部の相場の賃金を支払わなければならない。
→ 南部の労働者を使うのは旅費・宿泊費の分だけコストアップ
→ 同じ労賃を支払うなら地元労働者の方が経費が安く、効率的
東京都足立区
茨城・千葉の賃金相場の低い労働者を使う事業者
足立区で受注できる(二次・三次下請に多数入っている)
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しかし、足立区公契約条例により、東京都足立区の公共事業を受注し
たときには東京都の相場の賃金を支払わなければならない。
→ 茨城・千葉の労働者を使うと交通費等の分だけコストアップ
→ 同じ労賃を支払うなら地元労働者の方が経費が安く、効率的
3「サービスの質が向上するか?」
「公契約に従事する労働者とそれ以外の仕事に従事する労働者との間で賃金格差が生
じるのは不都合。同一労働同一賃金原則に反する」
多摩市公契約制度検討委員会における事業者代表の意見
「経営者は、1時間当たり1000円で受注した仕事については、それ
に見合う能力のある労働者を配置する。1時間当たり850円で受注し
た仕事については、それに見合う能力の労働者を配置する。
このように受注した仕事の金額に応じてそれに見合う能力の労働者を
配置するのは、経営者としては当たり前のことである。また、能力に応
じて賃金設定をするのも経営者として当然のことである。
金額の高い仕事を受注したのに、労働者の配置を誤まり、提供する労
務の質が低いと、金額の高いよい仕事を受注し続けるのは難しくなる。、
また、能力に応じた賃金決定をしなければ、採算がとれなかったり有能
な社員が退職する危険が生じる。」
4「報酬下限額を設定すると、未熟練の者の賃金を上げて、熟練労働者の賃金を下げな
ければならなくなり、不合理ではないか?」
(1) 熟練と未熟練の区別が必要
① 見習いを使わない → 後継者養成ができない
② 見習いを使ってこれに高い労賃 → 熟練者の労賃を下げる
(2) 実践的には/自治体毎に工夫が必要
多摩市公契約検討委員会での労使合意
見習い等について報酬下限額を一律に適用した場合には、問題が発生
熟練とそれ以外の者(見習い、高齢者)を区別する必要
各職種毎に総労働時間の8割以上は熟練の者
この者に関する報酬下限額=設計労務単価の9割
各職種毎に総労働時間の2割までは熟練以外の者を使える
この者に関する報酬下限額=時給903円
区別は、使用者に委ねる
5「労務報酬額を全面開示させられると経営が丸裸にされる。また、労働者のプライバ
シー保護の上からも問題があるのではないか?」
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(1) 各自治体毎に様々な工夫
例:川崎市 賃金支払実額を全部報告。
但し、労働者の同意を得られない場合、氏名にマスキング
多摩市 賃金支払実額の報告は不要
但し、労働者の氏名、就労時間、月間の報酬下限額を記入し、月
間報酬下限額以上の支払の確認印を事業者が押して、提出
(2) 重層下請の場合には、受注者(元請)が下請の賃金支払状況を掌握する必要
例:川崎市の現場事務所
6「賃金台帳作成のための事業者の事務負担が大。その分の費用を加算するのか?」
(1) 各自治体毎に様々な工夫
川崎市、多摩市、相模原市
市役所が賃金台帳のエクセル・ファイルを提供
事前に簡素化の努力
(2) 案ずるより産むが易し
多摩市の条例施行1年目のアンケート調査結果
事務負担に関する不満がなく、審議会は拍子抜け
7「賃金支払状況について自治体が監視したり監督するのか?」
(1) 原則
契約上の合意を媒介とする制度なので、問題が生じたとき(労働者からの申
告等)があったときに、事後的に対応
契約上の合意を媒介としている点で労働協約(労働組合と使用者
が締結)と類似の制度
賃金の労働協約を締結すれば、使用者は自発的に遵守。労働組合
も使用者を信頼。万が一問題が生じた場合には、その時点で対処
(2) 制度の実効性確保の方法
報酬下限額と連絡先について 労働者に周知(ポスター掲示、文書交付)
多摩市の場合、公契約条例適用事業について、市役所のHPに掲載
8「地方自治法第2条第14項( 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住
民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければ
ならない。)違反ではないか?」
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(1) 「最大の効果」とは何か
公共サービスの品質確保に問題や危惧があれば「最大の効果」と言えない
例:プール事故
安全確保に必要な監視員の配置、そのために必要な予算措置
(2) 建設工事分野
予定価格の引き上げは不要=現行制度の範囲内での運用の問題
9「財政負担が増えて、自治体の予算上の不都合が生じるのではないか?」
(1) 公共工事
公契約条例適用対象の割合(総予算の中での比率=カバー率)
川崎市・多摩市・相模原市の場合 公契約条例のカバー率 5割超
足立区の場合 公契約条例のカバー率
低い(年間十数件)
将来徐々に広げる
(2) 業務委託関係
多摩市
適用範囲は学童保育や送迎バス運転、駐輪場等広範囲
予算増は年間約700万円<総予算400億円>
足立区
23区内で財政事情が最も苦しい → 徹底した民営化・コストカット
公契約条例の適用範囲は限定的とせざるを得ない。将来徐々に広げる
直方市
適用分野を限定。将来徐々に広げる。
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