アイデンティティスタイル尺度第 5 版(ISI-5)日本語版の

アイデンティティスタイル尺度第 5 版(ISI-5)日本語版の作成
○中間玲子 1・杉村和美 2・畑野快 3・溝上慎一 4(非会員)・都筑学 5
(1 兵庫教育大学大学院学校教育研究科・2 広島大学大学院教育学研究科・3 大阪府立大学高等教育開発センター・4 京都大学高等教育研究開発推進センター・5 中央大学文学部)
キーワード:アイデンティティスタイル・自己・青年期
Development and Validation of the Japanese version of Identity Style Inventory (ISI-5)
Reiko NAKAMA1, Kazumi SUGIMURA2, Kai HATANO3, Shinichi MIZOKAMI4#, and Manabu TSUZUKI5
(1Grad. Sch. of Educ., Hyogo Univ. of Teacher Education, 2Grad. Sch. of Educ., Hiroshima Univ., 3Development Ctr. for Higher Educ., Osaka Pref. Univ., 4Ctr for the Promotion of Excellence in Higher Educ., Kyoto Univ., 5Faculty of Letters, Chuo Univ.)
Key Words: identity style, self, adolescence
目 的
青年期のアイデンティティ発達においては,アイデンティ
ティ達成の程度と共に,アイデンティティ探求の様相も重要
な意味をもつ。認知発達に伴い,青年は自己に関する様々な
情報を収集することが可能になっているが,それらを積極的
に取り入れた新たなアイデンティティの構築を目指す者もあ
れば,既存の自己観の維持に専心し,アイデンティティの更
新を求めない者,あるいはアイデンティティ探求自体を可能
な限り回避しようと先延ばしにする者など,その様相には個
人差がある。この個人差を Berzonsky(1989)は“アイデン
ティティスタイル”と概念化した。それは,青年期に訪れる
様々な自己観を揺るがす経験に対する人の対処方略の傾向,
すなわち問題解決や意志決定の仕方などを3つの特性として
とらえるものであり,先述のような個人差は,それぞれ,情
報スタイル,規範スタイル,拡散/回避スタイルとよばれ
る。個人において優勢なスタイルの相違は,アイデンティテ
ィ発達の相違はもちろん(Berzonsky & Neimeyer, 1994)
,
Locus of Control や不安や経験への開放性などの相違とも
関連し,個人の経験過程に対する認知を反映するものとされ
る(Berzonsky, 1989)
。よってアイデンティティスタイル
は,青年期の経験過程がアイデンティティ形成にとっていか
なる意味をもつかを考える上で重要な観点といえる。
本研究は,アイデンティティスタイル尺度第5版(ISI-5:
Berzonsky, Soenens, Luyckx, Smits, Papini, & Goossens,
2013)の日本語版を作成し,その信頼性・妥当性を検討する
ことを目的とする。
方 法
項目作成 ISI-5(Berzonsky, et al., 2013)の第一著者か
ら翻訳の許可を得た後,日本語訳を行った。日本語訳は,英
語を母語とするバイリンガルの者によるバックトランスレー
ションおよび共著者全員による協議を経ながら進めた。
手続き 大学生 363 名(M=135, F=200, 不明 28 名)に対し
て質問紙調査を行った。授業時間の一部,あるいは,休み時
間を利用して配布し,いずれにおいてもその場で回答を求
め,回収した。調査時期は 2013 年 5 月であった。
調査内容 a)ISI-5 日本語版:上記手続きによる。情報,規
範,拡散/回避の各スタイルの項目とコミットメントに関す
る項目からなる。各9項目の計 36 項目,5件法。b)DIDSJ:Luyckx, et al.(2008)の日本語版(中間・杉村・畑
野・溝上・都筑, 2014)
,アイデンティティ発達を探求とコ
ミットメントの多次元から問う。25 項目,5 件法。c)情報処
理スタイル尺度:内藤・鈴木・坂元 (2004)による合理的・
直観的思考の特性を問う。24 項目,5 件法。d)自尊感情尺
度:Rosenberg(1965)の日本語版(桜井, 2000)。10 項
目,4 件法。e)EPSI-5th:Rosenthal, et al.,(1981)の日
本語版(畑野・杉村・中間・溝上・都筑, 2014),アイデン
ティティの統合・混乱の程度を問う。12 項目,5 件法。
結 果
ISI-5 のスタイルに関する 27 項目について,理論に基づ
く3因子モデルを想定し,確認的因子分析を行った(Table
1)。モデル適合度は十分であり(CFI=.903, RMSEA=.044),
各因子に高く負荷する項目間の内的一貫性も確認された。
情報スタイルは DIDS-J の全 5 下位尺度(r=.24-.52***),
合理的思考(能力 r=.26***, 態度 r=.44***),自尊感情
(r=.13*),EPSI 統合(r=.32***)と正の,規範スタイルは
DIDS-J のコミットメント(形成 r=.13*,同一化 r=.21***)お
よび深い探求(r=.16**),直観性能力(r=.17**),EPSI 統合
(r=.25***)および混乱(r=.16**)と正の,拡散/回避スタ
イルは DIDS-J のコミットメント(形成 r=-.17**,同一化
r=-.17**)および広い探求(r=-.12*),合理的思考(能力
r=-.20***, 態度 r=-.21***),自尊感情(r=-.22***),EPSI 統
合(r=-.23***)と負の,DIDS-J の反芻的思考(r=.24***)お
よび EPSI 混乱(r=.46***)と正の有意な関連を示した。
ISI-5 日本語版の信頼性・妥当性がある程度示された。
Table 1 ISI-5 日本語版の項目と CFA における標準化推定値
項 目 内 容
S.E.
【情報因子】 α=.81
02.何か重要な決定をするときには、いくつかの選択肢について時間をかけてよく考えたいと思う。
.63
05.人生の決断に向き合う時には、選択する前にいろいろな見方を考慮する。
.70
08.人生の大事な決断をする前に、いろいろなところからの情報を集めたり価値づけしたりすることが私に .76
は重要だ。
11.大事な決断をする時には、できるだけ多くの情報を集めておきたい。
.62
14.人生の決断に向き合う時には、その状況を細かく検討して理解しようとする。
.71
16.他の人と話すことは、自分の個人的な信念を考えたりはっきりさせたりするのに役立つと思う。
.51
18.私は、人生の問題について、これまでのことをもとに色々と考えをめぐらせて対応している。
.51
20.私は、自分の価値観と人生の目的とがくいちがっていないかどうか、時々考えたり検討したりしている。 .40
26.納得できる価値観をもつために、本を読むことや他の人と話すなどのことに時間をかけている。
.30
【規範因子】 α=.63
03.私は、育つ中で与えられてきた価値観を特に気にせず取り入れて、それに従っている。
.43
06.私は、新しい考えをどんどん取り入れるよりは、信念をしっかりもっている方がいいと思う。
.32
09.他の価値観について考えていくことよりも、決まった価値観を守る ことの方がよいと思う。
.52
10.自分の将来について決断する時、私は、親しい友達や身内の人たち が自分に何を期待しているかにその .50
まま従っている。
15.社会の決まりや基準をよりどころにして、状況に対応したい。
.42
19.自分が何を信じ何を信じていないのか、私はいつも分かっていて、その信念を疑うことはほとんどない。 .25
22.私は、大切な人たちの期待に従って行動することが多いので、自分が人生で何をしたいのかを疑うこと .35
はない。
24.個人的な価値観や信念が反対されると、私はすぐにそれを無視する。
.38
25.私は、家族や友達が 私に抱いている目標を達成できるようがんばっている。
.23
【拡散/回避因子】 α=.78
01.個人的な問題が起こったとき、私は、行動するのをできるかぎり後回しにしようとする。
.49
04.自分が人生でどう進もうとしているのかはよくわからないが、なんとかなるだろうと思っている。
.33
07.私がどんな人であるかは、状況ごとに変わる。
.23
12.私は、問題について考えたり対応したりすることを、できるかぎり後回ししようとする。
.66
13.個人的なことについて自分でよく考えたり対処したりしなければならない状況は、避けるようにしてい .64
る。
17.何か決断をしなければならないときには、どうなるのか様子を見るために、できるだけそのままにして .49
おこうとする。
21.価値があるものが何かを前もって気にしても仕方がないので、なりゆきにまかせて決める。
.49
23.違う相手と話すたびに、私の人生の計画は変わる傾向がある。
.56
27.私は今、本当は、将来について考えていないし、それはずっと先のことだと思っている。
.63