CMP Technical Report No. 30 「Kleinman-Bylander 完全分離型ポテン シャルにおけるゴーストバンド 」 白井光雲 大阪大学・産業科学研究所 2003年5月22日 Department of Computational Nanomaterials Design ISIR, Osaka University 目次 1 はじめに 1 2 擬ポテンシャルの理論 2.1 非局所ポテンシャルの理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.2 KB 完全分離型ポテンシャルの問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1 4 3 Mo での例 3.1 原子擬ポテンシャルの特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3.2 局所成分による違い . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 7 8 4 KB パラメータの比較 12 5 pwm のテクニック ー KS 準位の解析ー 13 6 まとめ 13 0 1 はじめに 擬ポテンシャル法では計算速度を上げるため Kleinman-Bylander 型完全分離型ポ テンシャルがしばしば使われる。しかしこのタイプのポテンシャルは計算速度の向 上と引き換えに transferability を犠牲にされることがあることが指摘されている。最 悪の場合は全く物理的には意味のないバンド(ゴーストバンド)を引き起こす。こ こではこのゴーストバンドが起きる条件について議論し、そのようなゴーストバン ドが起きないような指針作りについて述べる。 図中の単位は特に断りのない限り原子単位である。 2 2.1 擬ポテンシャルの理論 非局所ポテンシャルの理論 半局所ポテンシャル(SL)、Kleinman-Bylander の全非局所ポテンシャル(KB) の違いについてまとめておく。 一般的に擬ポテンシャルは非局所的で、各原子軌道 l ごとに射影される。つまり それを演算子として表すと X X X |liVl (r)hl| (1) Vl (r)Pl = V̂l = V̂ = l l l である。ここに Pl は原子軌道 l への射影演算子である i。 ほとんどの擬ポテンシャルは参照状態として孤立原子状態を用いている。この場 合の V̂l の波動関数への作用は X V̂l ϕ(r) = Vl (r)ul (r) Ylm (r̂) (2) m となる。ここに ul (r) は ϕ(r) の Ylm で展開した時の展開係数である。式(2)は左か ら右へ次のように読む。 V̂l が波動関数 ϕ(r) に作用すると、まず対象となる原子を中心にその波動 関数 ϕ(r) の角度成分が調べられ、そのうち l 成分、すなわちその角度依 存部分が Ylm (r̂) であるところの成分、ul (r) だけが抜き出される。ポテ ンシャル Vl (r) はその成分 ul (r) に対して作用する。すなわち動径方向に 関しては局所的に作用する。 1 それゆえこの形は半局所型(SL)と呼ばれる。 次に固体中での擬ポテンシャルの作用をより具体的に見るため、その平面波波動 関数 hr|ki = ψk (r) = exp(ık · r) への作用を位置座標表現で表す。その平面波展開の 行列要素は、規格化因子 1/Ω を除いて1 Z Z 0 hk |V̂l |ki = hk0 |r0 ihr0 |V̂l |rihr|kidr0 dr Z Z = hk0 |r0 ihr0 |liVl (r)δ(r0 , r)hl|rihr|kidr0 dr Z Z X = exp(ık0 · r0 ) Ylm (r̂0 )Vl (r)δ(r0 , r)Ylm (r̂) exp(ık · r0 )dr0 dr m (3) 式(3)の2から3番目の行は次のように読める。 V̂l は波動関数 ψk (r) に作用すると、その中で角度依存に関して Ylm (r̂) 成 分を抜き出し、その動径成分に Vl (r) を掛ける。最後に動径成分はその ままにして、角度依存に関して Ylm (r̂0 ) として戻してやる。 式(3)は Z (2l + 1) 2 0 0 2 jl (k r )jl (kr)Vl (r)r dr XZ m ∗ Pl (cos θ0 )Ylm (r̂0 )dr̂0 Z × Z = (4π) 2 jl (k 0 r0 )jl (kr)Vl (r)r2 dr Pl (cos θ)Ylm (r̂)dr̂ X ∗ Ylm (k̂0 )Ylm (k̂) (4) m となるが、式(4)の中の球面調和関数の和はその和法則より簡単になる。規格化因 子 1/Ω も入れて最終的に Z 4π(2l + 1) ∞ SL 0 Vl (k , k) = jl (k 0 r)jl (kr)Vl (r)r2 dr Pl (cos γ) (5) Ω 0 を得る。ここに γ は k̂ と k̂0 のなす角度である。式(5)を使うと k + G と k + G0 と 2 の積分演算 の行列成分は、この積分をまともに実行しなければならずだいたい Npw が必要である。 1 以降、k と k 0 のペアは k + G と k + G0 を意味するものと読み替えていただきたい。 2 一方の Kleinman-Bylander 型では式(1)の演算子 V̂l は V̂lKB = |Vl (r)ϕl (r)ihVl (r)ϕl (r)| (6) で置き換えられる。式(6)の右辺の関数の引数が r の絶対値でなく r そのものであ ることに注意。式(6)は次のように読める。 V̂l は波動関数 ψk (r) に作用すると、その中で角度だけでなく、動径に関 しても元の原子状態の波動関数 ϕlm (r̂) 成分に射影する。最後の出力も、 動径と角度併せて ϕlm (r̂) の射影成分として戻される。 KB 型での行列要素を規格化因子も含めて書き下すと 1 I(k 0 )I(k) X ∗ 0 KB 0 Vl (k , k) = Ylm (k̂ )Ylm (k̂) Ω I0 m ここに Z I(k) = 4π Z I0 = ∞ 0 ∞ jl (kr)Vl (r)ul (r)r2 dr Vl (r)|ul (r)|2 r2 dr (7) (7a) (7b) 0 である。式(7)の分解のおかげで、非局所ポテンシャルの波動関数への作用は規格 化因子を除くと ) ( X X X 0 ∗ 0 KB 0 I(k)Ylm (k̂)ψ(k) (8) I(k )Ylm (k̂ ) Vl (k , k)ψ(k) = k k lm となり、式(5)のような k と k 0 との混ざりが無くなり、全部で Npw ある k0 成分の 2 計算には Npw でなく LM × Npw の演算で足りるということになる。 この KB 型を使うと、擬ポテンシャルを作ったときの元の原子軌道 ϕl (r) に対して、 V̂lKB |ϕl i = |VlSL ϕl i (9) となるが、式(9)は元の原子軌道 ϕl (r) に対して成り立つものであり、そうでない ときは保証の限りではない。 なお実際の計算では、式(1)の形はそのまま用いられるより、 X V̂ = Vloc (r) + |li∆Vl (r)hl| (10) l と各 l 成分から共通項 Vloc (r) を抜き出し、それとの差だけを非局所ポテンシャルと して扱うことが行われている。 3 2.2 KB 完全分離型ポテンシャルの問題 以上が KB 完全分離型ポテンシャルの一般論である。結晶の計算でこの KB 完全分 離型ポテンシャルの有効性がしばしば議論になった。transferability が落ちるだけで なく、ghost バンドと呼ばれる偽のバンドが現れることがあるとの指摘がなされた。 この ghost バンドの問題に対して、Kleinman-Bylander は「賢い Vloc の選び方を することで transferability を保つことができる」としている。その Vloc の選び方と してどうすれば良いか。彼らは具体的な条件として次の、 1. ∆Vl はできる限り短距離力でかつ小さくすること。 2. もし ∆Vl の内どれかが小さくできなければ、正の ∆Vl の値はできるだけ小さ くすること。 3. |hu0lm |∆Vl |u0lm i| /hu0lm | |∆Vl | |u0lm i はできる限り 1 に近づけること。 という三つ挙げている [4]。これらの条件はかなり本質をついているが、しかし定量的 には満足のゆくものではない。実際に数値的評価をしてみるとなかなかその criteria が一筋縄ではゆかない。 その後 Gonze らは KB 完全分離型ポテンシャルの特性を詳しく調べ、ghost バン ドの由来を明らかにした。Gonze らによると [5]、式(9)は規格化した固有ベクトル |ϕKB l i = |∆VlSL ϕl i 1/2 (hϕl ∆VlSL |∆VlSL ϕl i) (11) を使うと、 KB KB ∆V̂lKB |ϕKB l i = El |ϕl i (12) と書き直される。ここに ElKB は Kleinman-Bylander のエネルギーパラメーターで、 ElKB = hϕl ∆VlSL |∆VlSL ϕl i hϕl |∆VlSL |ϕl i (13) となる。このパラメータは基本的には l 成分非局所ポテンシャルがどれくらい大き さであるかを物語る。つまりこれが大きければ大きいほど、非局所成分によるエネ ルギー寄与は大きくなる。 ところがこの ElKB が真の非局所成分の大きさを偽ることもある。それは式(13) が分数の形をしていることにより、すなわち分母がたまたま非常に小さい場合に起 4 こりうる。この分母の大きさを相対的に比較するため、次の量を用いるのが良い。 ClKB ¡ ¢1/2 hϕl |(∆VlSL )2 |ϕl i ∆Vlrms = = ElKB ElKB hϕl |∆VlSL |ϕl i = 1/2 (hϕl |(∆VlSL )2 |ϕl i) = hϕKB l |ϕl i (14) つまり KB 型の固有ベクトル |ϕKB l i と元の原子状態の固有ベクトル |ϕl i とがたまた ま直交しているとき問題が起きると理解される。これは元の Kleinman-Bylander の 解析 2.2 と整合性がある。 しかしながら実際問題として、上で定義された KB パラメータで ghost バンドが 起きるかどうかを判断するのは難しい。このレポートの数値例で示されるが、実際 には ClKB がかなり小さいもの、EKB がかなり大きいものでも必ずしも ghost バンド が出現するわけではないからである。ghost バンドが出現するかどうかの誤りのな い判断基準を Gonze らは以下のように構築した。 先に、元の原子軌道 ϕl (r) に対しては式(9)が成り立つと述べたが、Gonze らは 非局所的な射影演算子の性質により元の孤立原子に対してさえも ghost が現れるこ とを示した。それで ghost が起きるかどうかは元の孤立原子に戻って考えれば良い。 系のハミルトニアンは式(11、12)を使って書き直すと KB KB ĤlKB = Ĥlloc + |ϕKB l iEl hϕl | (15) となる。式(15)右辺の第一項 Ĥlloc は局所ポテンシャルおよび運動エネルギー項を 含めた局所ハミルトニアンである。これを使うと ghost バンドの出現する判断基準 は次のようになる。 1. ElKB > 0 のとき、原子の参照固有エネルギーが局所ハミルトニアンの励起準 位エネルギーより高いとき、そしてそのときのみ、 2. ElKB < 0 のとき、原子の参照固有エネルギーが局所ハミルトニアンの基底状 態エネルギーより高いとき、そしてそのときのみ、 その参照エネルギーより低いエネルギーで ghost が生じる。 この判断基準は性格であるが、しかしこれを適用するには Ĥlloc を構築してその固 有値を求めなければならないので余計な仕事が増えてしまう。 5 1.5 wd ws wp wfn 1.0 0.5 0.0 0 2 4 6 8 10 r 0 -50 vd V vs vp -100 -150 0 2 4 6 8 r 図 1: Mo の擬波動関数と擬ポテンシャル 6 10 3 Mo での例 3.1 原子擬ポテンシャルの特徴 Mo の価電子の全電子計算による真の波動関数は n = 4 n = 5 n = 5 l a r r r = 2 s = 0.0 extr 0.349 extr 0.262 zero 0.526 90/99 % 3.238 l a r r r = 0 s = 0.0 extr 0.064 extr 0.018 zero 0.047 90/99 % 5.542 -0.108 0.107 0.185 7.963 0.165 0.328 0.513 -0.265 0.878 1.378 l a r r r = 1 s = 0.0 extr 0.069 extr 0.079 zero 0.162 90/99 % 8.165 -0.107 0.315 0.518 12.180 0.180 0.944 1.557 -0.465 4.079 -0.746 1.374 5.338 0.582 3.009 のようである。それに対し以下のパラメータで擬ポテンシャルを作成する。 Mo pseudopotential generation using the Improved Troullier and Martins method -----------------------------------------------------------nl s eigenvalue rc 3d 1s 2p 0.0 0.0 0.0 -0.330399 -0.313460 -0.099906 2.197463 2.857107 3.197317 cdrc 0.683112 0.301060 0.155927 delta 0.560456 -2.623940 -2.950594 固有値も併せて示されている。 図 1 に価電子軌道の擬波動関数、擬ポテンシャルを示す。d 軌道に関して波動関 数はほとんど 4 [a.u.] の範囲に局在、またポテンシャルは 2 [a.u.] くらいの外である と他のポテンシャルとほとんど同じであるが、その中に入ると急に深くなることが 分かる。d ポテンシャルはかなり深く、Cr に比べてもさらに深い。だからこそ s 軌 道と重ならないといえる。 図 2 にはそのフーリエ成分も示されている。これからみると d ポテンシャルに関し ては平面波展開での収束が遅くなることがわかる。他のポテンシャルであれば q = 4 (1/Bohr) であれば収束するが、d に関してはその倍くらい取る必要があることが分 かる。 Mo の擬ポテンシャルの深さ、あるいは反発の強さは、inip や pwm の out や etot ファイルのポテンシャルの項に書かれている。 7 1 vql_d vql_s vql_p V(q) 0 -1 -2 0 5 10 15 q 図 2: Mo の擬ポテンシャルのフーリエ成分 V (q)。V (q) は 4πZion /q 2 で規格化され て示されている。 === PostPPotData === l mo 0 1 2 rcut mesh = 1163 2.8571 3.1973 2.1975 Vmin -5.0771 -6.5746 -20.5157 repulsiveness of nonlocal potentials 0 - inf rut - inf at r 2.1702 0.0000 0.0000 13.34083 13.27115 -2.05477 -0.05452 -0.02398 -0.23974 これで評価すると、l = 0 と l = 1 では裸のクーロンポテンシャルに比べ正に大きく、 従って大きな反発力があることがわかる。一方 l = 2 ではほとんど反発力は無い。つ まり深い。 3.2 局所成分による違い 結晶の計算における計算条件を示す。 ==================== PW_Expansion ============================== Cutoff in the reciprocal space am = 5.10000 (rel. units) kcut = 7.62050 (ab^-1) with 2Pi Ecut = 58.07200 (Ry) UNIT of K 1.49421 (a.u.) Planewave expansion with NHDIM = 791 Name: DT 1 -1 -1/ 4 Nstr= 6 WTK= 0.750000 NPW= Name: P -1 -1 -1/ 4 Nstr= 2 WTK= 0.250000 NPW= Sum over WTK 1.000000 771 784 INV= 2 INV= 0 SCF 計算の結果は lloc をどう取るかで大きく違いが出る。いち早く結果をバンド 図で見ると図 3 のようになる。lloc = 0, 2 とすることでバンド図が非常に異なってく 8 Energy \Ry\ lloc =0 2.5 1 3 1 1 5 3 1 3 2.0 4 1 5 1 6 1 1.5 1 1 5 3 4 1 3 1 3 1 3 1 3 3 1.0 9 1 3 7 1 3 4 5 1 1 1 3 Λ P 4 5 4 5 3 4 5 EF 1 3 ∆ Γ 7 1 3 1 1 0.5 1 9 H Energy \Ry\ Mo (lloc=2) 2.0 1 5 1.0 1 1 3 4 1 3 4 3 1 1 3 3 1 3 1 1 3 3 1 3 3 1 3 1 3 1 1 9 7 6 1 1 3 4 5 1 5 1 1 4 5 1 5 3 1 1 4 5 1 5 3 1 1 1 4 1 5 1 5 7 6 3 1 9 1 1 6 0.0 -1.0 -2.0 1 P 1 1 1 1 1 Λ Γ 1 ∆ H 図 3: Mo のバンド図。lloc = 0 としたときと 2 としたときとで比較している。 9 2 1 1.5 1 2 0.5 10 0 -0.5 0 0 0 0.5 1 1.5 1 2 2 2.5 図 4: lloc = 2 としたときのゴーストバンド。Γ 点のバンド1と2の波動関数の実部 のラインプロファイル。ある Mo 原子を原点にそこから最近接 Mo 原子(2.72 Å)ま でをスキャンしている。 ることがわかる。 lloc = 2 と取ったときには、低いエネルギー −2.0 Ry くらいに明らかに非物理的な バンドが起きている。いわゆるゴーストバンドである。 正しいバンドは、Γ 点ではエネルギーの低い順に、Γ1 (s バンド)、Γ7 と Γ9 の d バンドが来る。lloc = 0 としたときはこの正しいバンド図が得られている。ところ が lloc = 2 とすると、Γ1 の下にもっと低いエネルギーの Γ1 が現れている。それらの 2つの Γ1 バンドの波動関数分布を図 4 に描く。正しいバンド1の波動関数の動径方 向分布は図 5 に示されている。正しいバンド1に比較して、ゴーストバンドは、1 であればノードが一つありかつ原子中心付近に非常に大きな極大がある。一方バン ド2はノードこそないが原子中心付近に極大がある。バンド1は擬ポテンシャルの 精神に二重の意味で反している。一つは擬ポテンシャルは節の無い緩やかな波動関 数を描くはずなのに節がある。二つに擬ポテンシャルは原点中心に強い斥力ポテン シャルがあるはずでそのため波動関数は原点付近から遠ざけられるようになるはず のものである。 KS 準位の内訳を調べてみる。今度は Γ 点ではないが、SCF 計算での2点で見る。 k 点は違っても、バンド1はほとんど分散がないので同じである。 ==================== Analysis of KS levels ============================== kn = 1 No kin har exc loc nlc sum ------------- ---------- ---------- ---------- ---------- ---------1 5.128293 3.216517 -1.797402 -10.646150 1.983447 -2.115294 2 1.275158 -0.022945 -0.832128 -0.088359 0.354781 0.686507 3 2.159633 0.052238 -0.823667 -0.454336 0.000000 0.933868 kn = 2 No kin har exc loc nlc sum 10 eks ----------2.115294 0.686507 0.933868 eks 2 1.5 1 0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 図 5: Mo のバンド1。lloc = 0 としたときの正しいバンド。 ---1 2 3 ---------5.144940 2.604940 2.604941 ---------3.228032 0.222600 0.222600 ----------1.800752 -0.859406 -0.859406 ----------10.684570 -1.133992 -1.133993 ---------2.000752 0.019822 0.019822 ----------2.111597 0.853964 0.853964 ----------2.111597 0.853964 0.853964 一見してバンド1の特徴は、局所ポテンシャル成分は −10 と非常に大きいことであ る。今の場合局所ポテンシャルは深い d 成分であるのでこれはその通りなのである が、本来 s 軌道はそれに斥力の非局所ポテンシャル成分が加わり波動関数が原子原 点付近から遠ざけられるはずのものである。ところがなぜかその斥力非局所成分が 働いていないのである。 これを lloc = 0 の正しいときの KS 準位の分解と比較するともっと明確になる。 ==================== Analysis of KS levels ============================== kn = 1 No kin har exc loc nlc sum ------------- ---------- ---------- ---------- ---------- ---------1 1.337071 -0.007654 -0.855345 1.613574 -1.331434 0.756213 2 3.226032 0.174154 -0.930380 2.094771 -3.743438 0.821139 3 3.788691 0.251817 -0.954678 2.213103 -4.336809 0.962125 kn = 2 No kin har exc loc nlc sum ------------- ---------- ---------- ---------- ---------- ---------1 2.805380 0.150870 -0.915295 1.972266 -3.201768 0.811453 2 2.805380 0.150870 -0.915295 1.972266 -3.201768 0.811453 3 2.805380 0.150870 -0.915295 1.972266 -3.201768 0.811453 eks ---------0.756213 0.821139 0.962125 eks ---------0.811453 0.811453 0.811453 と今度は局所成分と非局所成分は同程度の大きさとなっている。 元の擬ポテンシャルの図 1 をみると、lloc = 2 とした場合、非局所ポテンシャルの s 成分 ∆V0 は 1.3 Å の近距離範囲に押し込められていて、かつ符号は常に正である。 同じ図の擬波動関数も併せて参照すると、KB ポテンシャルの s 成分 |V0 (r)ϕ0 (r)i は やはりそれくらいの範囲で常に正であることが分かる。図 4 のゴーストバンド波動 11 関数の形をみると、バンド1の波動関数は 0.75 Å くらいを境に符号を反転させてい る。従ってこの波動関数に KB ポテンシャルが作用すると、hψk (r)|V0 (r)ϕ0 (r)i の積 分は、符号の違ったものでほとんどキャンセルしあい 0 に近い値となる。つまりこ の波動関数 ψk (r) にとって近距離正の斥力ポテンシャルは実質的にはたらなくなる ことになる。このため強い引力型の局所成分だけを感じて原子中心付近に寄ってき たわけである。 ゴーストバンドの由来を、gonze に従い、式(13、14)で評価してみる。lloc = 2 と取ったときは local orbital = d l orb sign 0 s 1 1 p 1 <u|DV|u> 0.3105 0.1020 <u|DV^2|u> 1.6874 0.3203 EKB 5.4343 3.1387 COS_KB 0.2390 0.1803 KB エネルギーパラメータ EKB は sp ともに正で、かつ cos θKB は小さい。これが もっとも危険な状態である。果たしてゴーストバンドが出現している。 一方、lloc = 0 と取ったときは local orbital = s l orb sign 1 p 1 2 d -1 <u|DV|u> 0.0212 -4.1724 <u|DV^2|u> 0.0207 37.5967 EKB 0.9803 -9.0109 COS_KB 0.1469 -0.6805 と、あいかわらず s 成分の cos θKB は小さいが、しかし KB エネルギーパラメータ EKB は小さい。d 成分の EKB は大きいが符号は負である。 ところで、lloc = 2 と取ったとき ghost が生じることを上で見たが、どちらの l に 関する ghost だろうか?上の数値を見ると EKB も cos θKB も、sp ともににたような 値である。バンド図 3 で見ると ghost バンドは Γ1 となっているから、s 成分という ことになるが、しかし cos θKB の値から見ると p のほうがより疑わしい。これをど う解釈したら良いか?それは l ごとに分解できるのは孤立原子状態に関してであり、 固体中になると SCF 計算の中で全ての l 成分ポテンシャルが混ざり合うので ghost はどの l のものかを同定するのは難しい。 4 KB パラメータの比較 ここでさまざまな原子での KB パラメータを比較してみる。目的とすることは、 これにより [5] にあるようにゴーストバンドの出現に関する判断基準を見いだそうと することである。 l B orb sign <u|DV|u> local orbital = p <u|DV^2|u> 12 EKB COS_KB 0 C 0 Si 0 Al 0 Fe 1 2 Cu 1 2 Ce 1 2 3 Au 1 2 s 1 local orbital s 1 local orbital s 1 local orbital s 1 local orbital p 1 d -1 local orbital p 1 d -1 local orbital p -1 d -1 f -1 local orbital p 1 d -1 0.6031 3.8134 6.3235 0.3088 0.8944 11.4175 12.7655 0.2647 0.1782 0.5882 3.3013 0.2323 0.1100 0.2840 2.5808 0.2065 0.0099 -9.0561 = s 0.0057 -12.0069 = s -3.4301 -1.4895 -10.8438 = s 0.0227 -6.1213 0.0362 135.0222 3.6505 -14.9095 0.0521 -0.7794 0.0279 246.9519 4.8906 -20.5676 0.0341 -0.7641 13.5855 4.9329 158.4905 -3.9607 -3.3118 -14.6157 -0.9306 -0.6706 -0.8614 0.0265 64.2112 1.1639 -10.4897 0.1397 -0.7639 = p = p = p = s しかしこれらの KB パラメータで ghost バンドが起きるかどうかを判断するのは難 しい。確かに EKB が大きく、かつ cos θKB が小さい場合は、ghost が起きる可能性 を秘めるが、しかしだからといっていつでも起きているわけではない。結局理論の 項で述べたようにスペクトル解析をしなければならない。 5 pwm のテクニック ー KS 準位の解析ー 3.2 節にあるような KS 準位の解析はデフォルトではやってくれない。それを行う にはソースファイル pw main.f90 で ! main part ! electronic convergence IF (jobNo/=7) THEN write(*,*) ’main loop’ CALL Find_Optimum_WFs END IF !CALL KS_analysis とあるが、それの CALL KS analysis にかかっているコメントアウトを外す。 6 まとめ 参考文献 [1] Technical Report No. 22 「非局所ポテンシャルと擬波動関数 − Ge の内殻 d 軌道の場合ー」 13 [2] Technical Report No. 15 「半局所ポテンシャルの使用」 [3] Technical Report No. 24 「Cr の場合」 [4] D. M. Bylander and L. Kleinman, Phys. Rev. B 41 907 (1990). [5] X. Gonze, R. Stumpf, and M. Scheffler, Phys. Rev. B 44 8503 (1991). 14
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