今日の臨床サポート - 急性肺塞栓症

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急性肺塞栓症
#1658
監修:久保惠嗣 ⻑野県⽴病院機構
中村真潮
三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学
概要
疾患のポイント:
急性肺塞栓症とは、静脈系にできた塞栓⼦(⼤部分が⾎栓)が⾎流にのって流れ、肺動脈に詰
まってしまい、その結果、肺動脈の⾎流が障害されて呼吸や循環に障害を来した状態である。
なお、肺塞栓症(pulmonary embolism、PE)は、多くの場合、急性に⾎栓塞栓症を⽣じて速
やかな経過をとる急性肺⾎栓塞栓症を指すが、⾎栓塞栓が⻑期にわたって残存して発症時期が
明らかでない慢性肺塞栓症や肺⾼⾎圧を呈する慢性⾎栓塞栓性肺⾼⾎圧症といった状態も存在
する。以下は、⾎栓による急性肺塞栓症について記載する。
急性肺塞栓症は、早期診断・治療の可否がその後の予後に直結する。よって、診断が難しい疾
患ではあるが、発症リスクを理解して、発症リスクが⾼リスク状態では常に鑑別に挙げる習慣
を⾝につける。なお、急性肺塞栓症と深部静脈⾎栓症(deep vein thrombosis、DVT)は1つ
の連続した疾患であるとの概念から「静脈⾎栓塞栓症(venous thromboembolism、
VTE)」と呼称され、診断・治療・予防は両者を⼀括して⾏われる。
診断:[ID0701][ID0011]
ポイント:
静脈⾎栓症の危険因⼦を有し突然の胸痛・呼吸困難が認める患者で、⼼電図・胸部X線写
真で他の疾患を除外し、Dダイマー⾼値を認める場合に急性肺塞栓症を疑う。確定診断は
肺動脈造影CTで⾏う。
急性肺塞栓症の診断評価は、下記のWellsスコアとDダイマーの結果、また、造影CT評価
などを重症度や疾患の可能性によって適切に選択することが望ましい。循環動態が安定し
ている場合は、以下のような多施設のコホートスタディで有効性が証明されているアルゴ
リズムに則ると効率的である。⾎⾏動態が不安定な症例では、⾎栓溶解療法を検討する。
急性肺塞栓症の診断⼿順:[ID0701]
⾎⾏動態が不安定な場合の緊急対応:[ID0025]
Wellsスコア4点以下の場合:
下記のPERC基準を評価し、いずれも認めない場合は、通常、PEは除外される。PERCの基
準のいずれかを認める場合はDダイマーを評価し、Dダイマーの結果が500ng/mL未満を認
めた場合は、急性肺塞栓症は除外される。⼀⽅、Dダイマーが500ng/mL以上を認める場
合は、造影CTなどの追加の評価を⾏い、急性肺塞栓症の確定診断を⾏う。
Wellsスコア5点以上の場合:
Wellsスコアで5点以上を認める場合は、急性肺塞栓症の可能性は中等度リスク以上を意味
し、通常、造影CT、肺換気⾎流シンチグラム、肺動脈造影等の追加の評価が必要となる。
Wellsスコア:0〜1:低リスク、2〜6:中等度リスク、7以上:⾼リスク
臨床的にDVTの症状を認める +3
PEの診断が鑑別疾患内で⼀番もっともらしい(他の鑑別疾患を認めない) +3
以前にPEかDVTの既往がある +1.5
⼼拍>100 +1.5
最近の⼿術または⻑期臥床 +1.5
喀⾎を認める +1
癌の既往がある +1
4点以上ならPEの可能性あり、4点未満ではPEの可能性は低いと評価する。過去のスタ
ディでは、4点未満の場合、PEの確率は3%で、4点以上では28%であった。
急性肺塞栓症の除外:[ID0012]
ポイント:
下記のPERCのすべてを満たす場合は、感度97〜98%でPEを除外できる。また、「Wells
スコア≦4かつDダイマー検査陰性」を判定基準とすれば、きわめて⾼い確率でPEの除外が
可能と報告されている。
肺塞栓症除外の基準(PERC):
年齢<50歳
⼼拍数<100拍/分
動脈⾎酸素飽和度(SpO2 )≥95%
以下を認めない:
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喀⾎
エストロゲン使⽤歴
DVTまたはPEの既往
⽚側の脚腫脹
前4週間以内に⼊院を要した⼿術/外傷
重症度・予後評価:[ID0013]
主に症状・所⾒と⼼エコー所⾒を組み合わせて重症度分類を⾏う。
急性肺塞栓症の臨床重症度分類:[ID0602]
急性肺塞栓症の死亡率は10%前後であるが、ショックで発症した場合は20〜30%に上昇し、
また診断・治療が遅れた場合の死亡率は著しく⾼くなる。
治療:[ID0702] [ID0014]
抗凝固療法が第1選択である。まず注射薬である未分画ヘパリンあるいはフォンダパリヌクス
(アリクストラ)を禁忌でない限り投与する。ヘパリンは、APTTが対照値の1.5〜2.5倍にな
るように調節し、フォンダパリヌクス50kg未満:5mg、50kg以上100kg未満:7.5mg、
100kg以上10mg1⽇1回⽪下注射する。[ID0501]
注射薬に引き続き経⼝薬であるワルファリン(ワーファリン)ないしはエドキサバン(リクシ
アナ)を開始する。ワルファリンではPT-INRが1.5〜2.5となるように調節投与する。
[ID0502]
抗凝固療法だけでは再発予防効果が少ないと判断される場合に、下⼤静脈フィルターが挿⼊さ
れる。
未分画ヘパリン持続静注⽤の⽤量調節表:[ID0621]
専⾨医相談のタイミング:[ID0017]
急性期治療を適切に⾏っても肺動脈圧が⾼い状態が続く場合には、慢性の肺⾼⾎圧症の評価が
必要であるため、専⾨医に紹介する。
評価・治療の進め⽅
※選定されている評価・治療は⼀例です。症状・病態に応じて適宜変更してください。
■突然の胸痛・呼吸困難の評価例
静脈⾎栓症の危険因⼦を有し突然の胸痛・呼吸困難が認める患者で、⼼電図・胸部X線写真で他の
疾患を除外し、Dダイマー⾼値を認める場合に急性肺塞栓症を疑う。
静脈⾎栓症の危険因⼦:[ID0601]
○ Wellsスコアと1)の結果が陰性であれば肺塞栓症の可能性は低いと評価できる。
1)Dダイマー
2)胸部X線写真
3)⼼電図
4)⼼エコー
5)⾎液ガスないしは動脈⾎酸素飽和度(SpO2 )
■急性肺塞栓症を除外するための評価例
問診で、上述のPERCのすべてを満たす場合、肺塞栓症(PE)は否定的である。
また、「Wellsスコア≦4かつDダイマー検査陰性」を判定基準とすれば、きわめて⾼い確率でPE
の除外が可能と報告されている。
○ Wellsスコアと1)の結果が陰性であれば肺塞栓症の可能性は低いと評価できる。
1)Dダイマー
■急性肺塞栓症の確定診断のための評価例
通常、確定診断は肺動脈造影CTで⾏う。また、肺動脈造影CTで診断が確定できない場合は、肺動
脈造影での診断も考慮する。また、造影剤が使⽤しにくい場合は肺⾎流シンチでも診断が可能で
ある。
○ 通常1)にて診断をするが、必要に応じて2)3)を追加する。
1)肺動脈造影CT
2)肺動脈造影
3)肺⾎流スキャン
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■原因の評価
○ 腎機能障害や⾎⼩板減少の評価⽬的で1)2)を評価し、さらに下肢静脈⾎栓症を疑う場合は3)を、
先天性凝固異常を疑う場合は4)を、⾃⼰免疫性疾患を合併する患者では5)を追加する。
1)CBC
2)BUN, Cr
3)下肢静脈エコー
4)Protein C活性, Protein S活性, アンチトロンビン
5)ループスアンチコアグラント, 抗カルジオリピン抗体 (IgG)
■急性肺塞栓症の初期治療例
第1選択は抗凝固療法であり、禁忌でない限りすべての症例に投与する。
○ 急性肺塞栓症の診断となった場合、また急性肺塞栓症を強く疑う場合は、1)または2)を投与す
る。
1)ヘパリンナトリウム注N5千単位/5mL[5,000単位] 診断後、まず5,000単位を静注し、
時間あたり1,400単位の持続静注を開始。APTTを対照値の1.5〜2.5倍に調節する。
[ID0621] 再発予防にワーファリンを使⽤する場合はPT-INRが1.5〜2.5となればヘパ
リンを中⽌する。[ID0501] 再発予防にリクシアナを使⽤する場合は循環動態が不安定
な期間を中⼼にヘパリンを投与する。
薬剤情報を⾒る
2)アリクストラ⽪下注[5mg] 診断後より1⽇1回⽪下注射を⾏う(50kg未満:5mg、50kg
以上100kg未満:7.5mg、100kg以上10mg)。 再発予防にワーファリンを使⽤する場
合はPT-INRが1.5〜2.5となればアリクストラを中⽌する。[ID0501] 再発予防にリク
シアナを使⽤する場合は循環動態が不安定な期間を中⼼にアリクストラを投与する。
薬剤情報を⾒る
■急性後期の治療例
初期の未分画ヘパリンあるいはフォンダパリヌクスに引き続き、ワルファリン(ワーファリン)
ないしはエドキサバン(リクシアナ)の経⼝投与を⾏う。ワルファリンは初期抗凝固薬と同時に
投与を開始し、ワルファリンの投与量が治療域に達したら初期抗凝固薬を中⽌してワルファリン
単独の投与を継続する。エドキサバンはヘパリン持続静注中⽌の約4時間後、ないしはフォンダパ
リヌクス(アリクストラ)中⽌の翌⽇に投与を開始する。エドキサバンは腎機能や体重、併⽤薬
により投与量を決定する。
○ 急性肺塞栓症の治療後は、ヘパリンないしはフォンダパリヌクスに引き続き1)または2)を投与
する。
1)ワーファリン錠[1mg] 診断時から投薬開始。 まず、2〜3mg 分1 ⼣⾷後(朝⾷後
でもよい)で開始。 PT-INRが1.5〜2.5となるように投与量を調節する。 少なくとも
3カ⽉間は内服し、その後の服薬は⾎栓リスクと出⾎リスクを勘案して決定する。
[ID0502]
薬剤情報を⾒る
2)リクシアナ60mgを、ヘパリン持続静注中⽌の約4時間後、ないしはアリクストラ中⽌の
翌⽇から1⽇1回投与開始。 クレアチニンクリアランス15mL/min以上50mL/min未
満、体重60kg以下、あるいはP糖蛋⽩阻害作⽤を有する薬剤を併⽤している場合は投与
量を30mgに減量する。クレアチニンクリアランス15mL/min未満は投薬禁忌であ
る。 少なくとも3カ⽉間は内服し、その後の服薬は⾎栓リスクと出⾎リスクを勘案して
決定する。[ID0502]
薬剤情報を⾒る
追加情報ページへのリンク
急性肺塞栓症に関する詳細情報
急性肺塞栓症に関する評価・治療例(詳細) (1件)
初診時、フォローアップ時
急性肺塞栓症に関するエビデンス・解説 (3件)
急性肺塞栓症に関する画像 (7件)
※薬剤中分類、⽤法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独⾃に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
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尚、⽤法は添付⽂書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
編集部編集コンテンツ:
関連する医療事故:
術後の突発性の呼吸苦は肺塞栓症を疑い、造影CTを⾏う:
事例:右⼤腿⾻転⼦下⾻折に対し、観⾎的整復固定術施⾏。術前より貧⾎強い
ため、ヘパリンなど抗凝固剤の使⽤はしていない。術後、SpO2 が73%まで低
下したが、単純CTでは肺に⼤きな異常がなかった為、造影CTによる評価は追
加しなかった。5⽇後、呼吸苦が強くなり、胸部X線写真と胸部造影CTを撮
影。肺⾎栓塞栓症の診断となる。その後症状悪化し、蘇⽣を試みるも、死亡し
た。
(詳細情報ページ:医療事故情報 詳細表⽰)
肺⾎栓塞栓症のハイリスクの術後患者では予防策を試みる:
事例:脊髄腫瘍術後20⽇⽬、肺塞栓症により⼼停⽌が発⽣した。直ちに⼼肺
蘇⽣を開始しICUに収容し、PCPSを装着する等の集中治療をおこなったが、
10⽇後に死亡した。(詳細情報ページ:医療事故情報 詳細表⽰)
最終更新⽇ : 2015年6⽉30⽇
<<ページ末尾:#searchDetails4.aspx?DiseaseID=1658>>
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■詳細情報
#1658
急性肺塞栓症
中村真潮
三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学
病態・疫学・診察
疾患情報(疫学・病態) [ID0001]
急性肺塞栓症とは、静脈系にできた塞栓⼦(⼤部分が⾎栓)が⾎流にのって流れていき、最終
的に肺動脈に詰まってしまい、その結果、肺動脈の⾎流が障害されて呼吸や循環に障害を来し
た状態をいう。なお、肺塞栓症(pulmonary embolism、PE)は、多くの場合、急性に⾎栓
塞栓症を⽣じて速やかな経過をとる急性肺⾎栓塞栓症を指すが、⾎栓塞栓が⻑期にわたって残
存して発症時期が明らかでない慢性肺塞栓症や肺⾼⾎圧を呈する慢性⾎栓塞栓性肺⾼⾎圧症と
いった状態も存在する。以下は、⾎栓による急性肺塞栓症について記載する。
⾝体の深いところを流れる静脈にできた⾎栓を深部静脈⾎栓症(deep vein thrombosis、
DVT)という。多くは静脈の弁やふくらはぎの静脈から発⽣し、⾝体の中枢部に向かって伸び
ていく。急性肺塞栓症の原因のほとんどはDVTであり、両者は1つの連続した状態であり、両
者をまとめて「静脈⾎栓塞栓症(venous thromboembolism、VTE)」と呼んで診断、治
療、予防を⼀緒に⾏っている。
静脈⾎栓を誘発する因⼦には、⼤きく分けて①⾎流の停滞②静脈壁の障害③⾎液凝固能の亢進
――の3つがある。これらの因⼦がいろいろな程度に絡み合い⾎栓が作られていく。
⽶国では年間20万⼈が急性肺塞栓症と診断されている[1]。⽇本⼈では少ない疾患と考えられ
ていたが、最近では⽩⼈の4〜5分の1の発症頻度であると考えられている[2]。
急性肺塞栓症は適切な治療の有無が予後を⼤きく左右するため、早期の診断が重要な疾患であ
る[3]。
問診、診察のポイント [ID0002]
ポイント:
急性肺塞栓症、すなわち静脈⾎栓の発症リスクを確認する。[ID0601]
例:⼿術、外傷・⾻折、脳⾎管障害、⾼齢、⻑期臥床、悪性疾患、肥満、抗リン脂質抗体
症候群、妊娠・出産、経⼝避妊薬、炎症性腸疾患、静脈⾎栓症の既往、家族歴など。
呼吸困難および胸痛が最も多い⾃覚症状である。重症例では失神やチアノーゼを認めることが
ある。また、⽚⾜腫脹などの深部静脈⾎栓症(DVT)を疑う所⾒も重要である。あるシステマ
ティック研究では、DVTの患者で肺塞栓症(PE)の有無を評価したところ、約1/3の症例で無
症候性のPEを認めている[4]。
特定の動作に関連して発症することが多い。なかでも、⼿術などでの安静が解除された後の、
初めての歩⾏やトイレに際して多く発症している[5]。
症状:
ポイント:
急性肺塞栓症で⾒られる症状は、いずれも特異的な症状ではなく、鑑別に苦慮することが
多い。特に呼吸困難、頻呼吸、頻拍を合併することが多いが、⾼齢者ではこれらの所⾒を
認めないことも多い。
各症状の頻度:[6][7]
呼吸困難:73%
呼吸困難の多数は急性発症(秒単位:46%、分単位:26%)であることが多いが、
まれに遅発性(週単位)の発症のこともある。遅発性の場合はより、⼤きな⾎栓を認
めることが多い(遅発性:41% vs 急性:26%)。
胸膜炎性胸痛:66%
咳:37%
喀⾎:13%
各所⾒の頻度:
頻呼吸または頻拍:91%
頻呼吸:54〜70%
頻拍:24〜30%
下肢の腫脹、発⾚など:47%
呼吸性ラ⾳:51%
⼼⾳(第四⾳):24%
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⼼⾳(肺性の⼆⾳の亢進):15〜23%
経静脈怒張:13%
発熱:3%
循環虚脱:8%
診断⽅針
0:想起 [ID0010]
突然の胸痛・呼吸困難を呈し、胸部X線写真で明らかな異常を認めない場合に急性肺塞栓症を
想起する。
周術期や周産期、その他のリスクの⾼い状態で呼吸困難を認める場合はさらに疑いが強くな
り、また⽚側の下肢腫脹を認める場合も本症を想起する。
また、低⾎圧と中⼼静脈圧の上昇を認めた患者で、⼼筋梗塞や筋緊張気胸、⼼タンポナーデ、
不整脈が否定された場合は急性肺塞栓症の可能性を疑って精査を開始する。
1:緊急対応 [ID0025]
ポイント:
急性肺塞栓症は、急速な症状の悪化により、⽣命の危険となることもあるため、確定診断がつ
く前に、ある⼀定の条件を満たした場合は、抗凝固薬による治療を開始することがある。治療
は患者ごとに調整をする必要があるが、以下その際に参考となり得る基準を記載する。
⾎⾏動態が不安定な患者の対応:
急性肺塞栓症の患者の約8%程度が⾎⾏動態の悪化を認める。⾎⾏動態の悪化を認める患者で
は、適切な⼼肺蘇⽣、酸素投与、点滴、カテコラミンの投与を⾏う。また、低酸素⾎症や意識
障害を認める場合には、ためらわずに挿管を⾏う。
上記の治療で、⾎⾏動態が安定した場合は、急性肺塞栓症の可能性を評価しながら治療を並⾏
する。下記に記すWells基準で評価を⾏い、急性肺塞栓症の可能性が⾼い場合は抗凝固治療と
してヘパリンの投与を開始し、また、早期に造影CTによる評価を⾏う。
上記の治療にもかかわらずショック状態が遷延する場合(収縮期⾎圧90mmHg未満が15分以
上継続)は、通常、造影CTなどによる診断評価を⾏うことは難しくベッドサイドで⾏える⼼エ
コーや⼼電図などの評価を基に、⾎栓溶解薬による治療や⾎栓除去術の検討を⾏う。
⾎⾏動態が安定している患者の対応:[8][9][10][11][12]
⾎⾏動態が安定している患者では、急性肺塞栓症の可能性に基づいて、診断のプロセスと並⾏
して治療を⾏うかどうかを検討する。急性肺塞栓症の可能性が⾼い患者(Wellʼs スコア 6
点以上)では、可能な限り早期に抗凝固薬を開始する。急性肺塞栓症の可能性が中等度の患者
(Wellʼs スコア 2から5点)では、4時間以内に診断的評価を終えることが困難と考えられ
る場合は抗凝固薬の開始を検討する。急性肺塞栓症の可能性が低い場合(Wellʼs スコア 1
点以下)で、急性肺塞栓症が除外できていない場合は、24時間以内に診断的評価を終えること
が困難と考慮される場合は抗凝固薬の開始を考慮する。
妊婦の対応:
妊婦に関する対応については、下記の「妊婦の肺塞栓症:[ID0031]」を参照にしてほしい。
2:診断 [ID0011]
ポイント:
静脈⾎栓症の危険因⼦を有し呼吸困難を認める患者で、⼼電図・胸部X線写真で他の疾患を除
外し、Dダイマー⾼値を認める場合に急性肺塞栓症を疑う。
静脈⾎栓症の危険因⼦:[ID0601]
確定診断は、通常、肺動脈造影CTで⾏う。また、肺動脈造影CTで診断が確定できない場合
は、肺動脈造影での診断も考慮する。また、造影剤が使⽤しにくい場合は肺⾎流シンチ、MRA
でも診断が可能である。
急性肺塞栓症の肺動脈造影:[ID0603]
疾患可能性を評価するために下記のWellsスコアなどを⽤いることができる。WellsスコアとD
ダイマーや造影CTを組み合わせることにより合理的に肺塞栓症(PE)を鑑別し得る。
評価⽅法:
ポイント:
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急性肺塞栓症の診断評価は、下記のWellsスコアとDダイマーの結果、また、造影CT評価
などを重症度や疾患の可能性によって適切に選択することが望ましい。以下のような多施
設のコホートスタディで有効性が証明されているアルゴリズムに則ると効率的である
[13]。
急性肺塞栓症の診断⼿順:[ID0701]
Wellsスコア4点以下の場合:
下記のPERC基準を評価し、いずれも認めない場合は、通常、PEは除外される。PERCの基
準のいずれかを認める場合はDダイマーを評価し、Dダイマーの結果が500 ng/mL未満を
認めた場合は、急性肺塞栓症は除外される。⼀⽅、Dダイマーが500 ng/mL以上を認める
場合は、造影CTなどの追加の評価を⾏い、急性肺塞栓症の確定診断を⾏う。
Wellsスコア5点以上の場合:
Wellsスコアで5点以上を認める場合は、急性肺塞栓症の可能性は中等度リスク以上を意味
し、通常、造影CT、肺換気⾎流シンチグラム、肺動脈造影などの追加の評価が必要とな
る。
Wells スコア for PE:
0〜1:低リスク、2〜6:中等度リスク、7以上:⾼リスクと評価する。4点より⼤きいならPEの可
能性あり、4点以下ではPEの可能性は低いと評価する。過去のスタディでは、4点未満の場
合、PEの確率は3%で、4点以上では28%であった。
臨床的にDVTの症状を認める +3
PEの診断が鑑別疾患内で⼀番もっともらしい(他の鑑別疾患を認めない) +3
以前にPEかDVTの既往がある +1.5
⼼拍>100 +1.5
最近の⼿術または⻑期臥床 +1.5
喀⾎を認める +1
癌の既往がある +1
肺塞栓症除外の基準(PERC)[14]:
判断:
下記のすべてを満たす場合は、PEの可能性はほぼ除外される。
基準:
年齢<50歳
⼼拍数<100拍/分
動脈⾎酸素飽和度(SpO2 )≥95%
以下を認めない:
喀⾎
エストロゲン使⽤歴
DVTまたはPEの既往
⽚側の脚腫脹
前4週間以内に⼊院を要した⼿術/外傷
⾎液ガス所⾒:
動脈⾎⾎液ガス評価では、多くの症例で低酸素⾎症(74%)と、肺胞気・動脈⾎酸素分圧較差
(AaDO2 )の開⼤(62〜86%)を認める。また約40%に低⼆酸化炭素⾎症や呼吸性アルカ
ローシスを認める[6][15][16]。
これらの所⾒は、どれも感度が⼗分でないため、急性肺塞栓症の除外や診断には有⽤ではない
が、胸部X線写真で異常を認めない低酸素⾎症や肺胞―動脈ギャップを認める場合には急性肺
塞栓症を念頭に置いて評価することが必要になる。
Dダイマー:
Dダイマーは感度が⾼い(98%)が特異度の低い(40%)検査評価⽅法であり、PEの除外に
有⽤である[17]。ただし、Wells score for PEが4点以上の患者では、Dダイマーが陰性であっ
てもPEを除外することはできないことに留意が必要である。
通常、Dダイマーのカットオフは<500 ng/mLが設定されることが多いが、Dダイマーの値は
年齢とともに上昇することも知られており、特異度を上昇させるために、50歳以上の患者で
は、年齢×10ng/mL(70歳では700ng/mL)をカットオフとしてもよいとの報告もある
[18]。
あるスタディでは、Wells score for PEで中等度リスク(2〜6点)、⾼リスク(7点以上)と
評価した患者で、Dダイマーが正常であった患者のうちの中等度リスクの患者では5〜6%、⾼
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リスクの患者では18〜29%の患者で急性肺塞栓症との診断となっている[17][19][20]。した
がって、これらのリスクを認める患者ではDダイマーによる評価を待たずに造影CTなどの評価
を⾏うことが必要となる。
上述したが、Dダイマーは特異度が低い評価⽅法であり、急性感染症、腎機能の悪化、加齢
(50歳以上)、妊婦などで上昇を認めることがあり解釈に留意が必要となることも多い[21]
[22][23][24][25]。
⼼電図:
急性肺塞栓症の患者では、⼼電図の所⾒として、頻拍を認め、また、約7割の症例で⾮特異的
なST-T変化を認める(特にV1-2 でST-T変化を認めることが多い。⼀⽅、前壁の⼼筋梗塞では
V3-4 でST-T変化が極⼤となることが多い)[7]。教科書的によく記載されている、S1Q3T3パ
ターン(I誘導のS波とIII誘導の異常Q波および陰性T波)、不完全右室ブロックなどの所⾒は
まれである(約10%未満)[26][27]。
胸部X線写真:[7][26][27][28][29]
急性肺塞栓症の胸部X線所⾒としては、無気肺(18〜69%)、胸⽔(47%)、⼼拡⼤(〜
50%)など、約7割の症例で何らかの異常を認める[6][7][30]。
古典的な教科書では、肺梗塞の所⾒(Hamptonʼs hump[末梢へと広がる楔状浸潤影])や
Westermarkʼs 徴候(肺⾎管影の減少による限局性透過性亢進)などが挙げられることがある
が、これらの所⾒は、特異度は⾼いが(79〜99%)通常認めることはまれである[6][31]。
造影CT:
造影CTは、迅速で、⾮侵襲的な検査であり、現在、PEの診断において最も有⽤な評価⽅法で
ある。造影CTの結果にて、肺動脈内塞栓⼦(肺動脈内造影⽋損)が描出された場合にはPEの
診断となる。また、Hamptonʼs humpを認めることもある。
⼀⽅、造影CTにて急性肺塞栓症の可能性が否定的な場合は、急性肺塞栓症は除外されたと考え
てよく、通常、さらなる評価は必要としない。
造影CTの禁忌としては、重度の腎機能障害(GFR<30mL/m2を認める場合。ただし透析患者
は除く)、造影剤アレルギーなどが挙げられ、これらの状態を認める場合は、肺換気⾎流シン
チグラムによる評価を検討する。また、造影CTの結果が結論的でない場合は、肺動脈造影によ
る評価を検討する。
肺換気⾎流シンチグラム(V/Q scan):
肺換気⾎流シンチグラム検査は、PEを疑う患者で、特に造影CTが困難な患者の評価として有
⽤な⽅法である。PEの特徴的な所⾒は、V/Qミスマッチ(肺の換気シンチグラムでは⽋損を認
めない部位に、⾎流シンチグラムでは⽋損を認める所⾒)である(感度96%)[32]。ただし、
⾎流シンチグラムでの⽋損は、胸⽔、胸部腫瘤、肺⾼⾎圧症、肺炎、およびCOPDなどの多く
の肺疾患で⽣じることもあるため注意が必要である。
肺換気⾎流シンチグラムの結果は、“正常”、“急性肺塞栓症の可能性が低い”、“急性肺塞栓症の
可能性が中等度である”、“急性肺塞栓症の可能性が⾼い”に分かれる。肺換気⾎流シンチグラム
にて正常所⾒を認めた場合は、急性肺塞栓症は除外されたと考えてよく、通常、さらなる評価
は必要としない。“急性肺塞栓症の可能性が低い”以上の結果の場合は、各患者のWells スコア
により、その後の対応を決定するとよい。Wells スコアが2点未満で“急性肺塞栓症の可能性が
低い”と評価された患者は、通常、それ以降の評価を必要としない。⼀⽅、Wells スコアが6点
以上で“急性肺塞栓症の可能性が⾼い”と評価された場合は治療を開始する。また、それ以外の
ケースでは評価を継続する。
肺動脈造影:
肺動脈造影とは、造影剤を肺動脈に注⼊して、従来のX線透視検査にて肺内部の造影剤を映し
出す⽅法である。PEの診断のゴールドスタンダードであるが、侵襲的な検査であるため、最近
はセカンドチョイスの評価⽅法である。
なお、肺動脈造影法の適応は、PEの検査前確率が中等度または⾼度の場合で、⾮侵襲的検査が
結論的でない場合である。
PEの特徴的な肺動脈造影の所⾒は、⾎管内の充満⽋損や⾎流の突然の途絶である。
MRA:
MRIによる肺動脈造影は、アーチファクトなどの問題があり感度が低く、通常⾏われることは
少ない。
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⼼エコー・下肢静脈エコー:
⼼エコー評価は、感度・特異度ともに造影CT評価と⽐較して劣る間接的な評価である[33]
[34][35][36]。急性肺塞栓症を疑う所⾒として、右室負荷の上昇、右室機能低下、右⼼室内の
⾎栓の同定などが知られている。⾎⾏動態が悪化している場合など、造影CTなどを⾏うことが
できない状況などでは評価の⼀助として⾏われる。つまり、⾎⾏動態が不安定な患者で、造影
CTによる評価が困難であると評価される場合で、⼼エコー評価にて右⼼房の拡⼤や⾎栓を認め
る場合は、暫定的に急性肺塞栓症の診断として、抗凝固薬による治療の開始を考慮する。
下肢静脈エコー評価により、PEの最も多い原因である下肢静脈⾎栓症を評価することでPEの可
能性を間接的に評価することもできる。
3:疾患の除外 [ID0012]
救急外来などで呼吸苦や胸痛を主訴に受診された患者では、PERCのすべてを満たす場合は、
感度97〜98%で肺塞栓症を除外できる(事前確率が15%未満と考慮されるときに有⽤であ
る)。
また、症状や臨床背景が特徴的ではない場合で(Wells score for PEが4点未満)、Dダイマー
が陰性の場合に、急性肺塞栓症は除外される。
4:原因疾患・合併疾患の評価 [ID0021]
明らかな静脈⾎栓症の誘因を認めない場合には、潜在癌など悪性疾患が原因となっている場合
があるため、悪性疾患のスクリーニングを施⾏する。
先天性の⾎栓性素因の検索も必要である。
治療⽅針
5:重症度・予後評価 [ID0013]
ポイント:
主に症状・所⾒と⼼エコー所⾒を組み合わせて重症度分類を⾏う。
急性肺塞栓症の臨床重症度分類:[ID0602]
ショック状態が遷延する⾎⾏動態が不安定な場合は「広汎型」、⾎⾏動態は安定しているが⼼
エコーで右⼼負荷が著明な場合は「亜広汎型」、⾎⾏動態は安定して⼼エコーでの右⼼負荷も
認めない場合は「⾮広汎型」と呼ぶ。
右⼼負荷が認められる「広汎型」「亜広汎型」では死亡率や再発率が⾼い[37]。
急性肺塞栓症の死亡率は10%前後であるが、ショックで発症した場合は20〜30%に上昇し、
また診断・治療が遅れた場合の死亡率は著しく⾼くなる[37][38][39][40][41][42][43][44]
[45]。適切に抗凝固薬が投与された場合の死亡率は2〜11%である。
⾎栓の溶解:
抗凝固薬による治療を開始した急性肺塞栓症の患者の79⼈のコホート研究では40%の症例で1
週間以内に、50%の症例で2週間以内に⾎栓の完全な溶解を認め、4週間より⻑期では81%の
症例で溶解を認めている[46][47]。
肺塞栓症の重症度指数(PESI):[48]
評価項⽬:
年齢:年齢を点数とする
性別:男性の場合10点
癌の既往:30点
⼼不全:10点
慢性肺疾患:10点
脈拍≥110/分:20点
収縮期⾎圧<100mmHg:30点
呼吸数≥30/分:20点
体温<36℃:20点
精神状態の変化:60点
動脈⾎酸素飽和度(SpO2 )<90%:20点
結果の解釈:
低リスク:
クラスI:<66点
クラスII:66〜85点
ハイリスク:
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クラスIII:86〜105点
クラスIV:106〜125点
クラスV:>125点
肺塞栓症の重症度指数(簡易版)(sPESI):[49]
評価項⽬:
年齢> 80年:1点
癌の既往:1点
慢性⼼肺疾患:1点
脈拍≥110/ min:1点
収縮期⾎圧<100 mmHg:1点
動脈⾎酸素飽和度(SpO2 )<90%:1点
結果の解釈:
低リスク:0点
⾼リスク:>1点
6:治療 [ID0014]
ポイント:
肺塞栓症(PE)の治療は、循環動態の確保、抗凝固療法、⾎栓溶解療法、下⼤静脈フィルター
の挿⼊などがある。各ガイドラインでは早期診断・治療開始が推奨されており、疑わしき場合
は確定診断を待つことなく治療を開始することが推奨されている。なお、緊急時の対応につい
ては「緊急対応:[ID0025]」を参照にしてほしい。
蘇⽣・循環動態の確保:
呼吸不全に対しては⼗分な酸素を投与し、循環不全に対する補助的な治療としてはカテコラミ
ンを使⽤する。さらにショック状態が遷延する場合には、⼼肺停⽌に陥るのを防ぐために経⽪
的⼼肺補助(PCPS)の導⼊を考慮する。
抗凝固療法:
抗凝固療法は、急性肺塞栓症の第1選択であり、禁忌を認めない限り積極的に検討される治療
である。まず注射薬である未分画ヘパリンあるいはフォンダパリヌクス(アリクストラ)を投
与する。未分画ヘパリンは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が対照値の1.5〜2.5
倍となるように持続静注あるいは⽪下注射で調節する。フォンダパリヌクスは体重により投与
量を決定し、1⽇1回⽪下注射する(50kg未満:5mg、50kg以上100kg未満:7.5mg、
100kg以上10mg)[50]。[ID0501]
注射薬に引き続き経⼝薬であるワルファリンないしエドキサバン(リクシアナ)を開始する。
ワルファリンは発症初期から服⽤し、プロトロンビン時間の国際標準化⽐(PT-INR)が⽬標
値に達した段階で注射薬を中⽌する。PT-INRが1.5〜2.5になるようにワルファリンの投与量
をコントロールする。エドキサバンはヘパリン持続静注中⽌の約4時間後、ないしはフォンダ
パリヌクス中⽌の翌⽇から投与を開始する。エドキサバンは腎機能や体重、併⽤薬により投与
量を決定する。[ID0502] [ID0503]
⾎栓溶解療法:
⾎栓溶解療法は、⾎栓の溶解による速やかな静脈還流や肺循環動態の改善を⽬的としたもので
ある。現在、わが国では遺伝⼦組換え組織プラスミノゲンアクチベータであるモンテプラーゼ
(クリアクター)が保険承認されている。しかし、⾎栓溶解療法の適応はいまだ議論のあると
ころであり、⻑期予後改善に関するエビデンスは少ない。現状のエビデンスでは、⾎栓溶解薬
の投与により、⾎栓が溶解し⾎⾏動態の改善が早期になることは認められているが、出⾎のリ
スクを増やし、死亡率や⾎栓症の再発の予防ができるという明確なエビデンスは存在しない
[51][52][53]。
⾎栓溶解療法を⾏うと決定した場合は、抗凝固薬の投与をいったん中⽌し、末梢の静脈カテー
テルから2時間未満で投与することが望ましい[54]。また、投与終了後は、定期的にAPTTを測
定しAPTTの延⻑が正常上限の2倍未満になった時点で抗凝固薬の再開を検討する。
⾎栓溶解療法の適応は、急性肺塞栓症により、⾎⾏動態が不安定な場合、重篤な低酸素⾎症を
認める場合、重篤な右⼼不全を認める場合、広範囲の肺塞栓症を認める場合、巨⼤な下肢静脈
⾎栓症を認める場合などである。
⼀⽅、⾎栓溶解療法の禁忌は、頭蓋内腫瘍の存在や、2カ⽉以内の頭蓋内または脊髄の⼿術、
出⾎性梗塞の既往、活動性出⾎などであり、また、⾎圧が⾼値(収縮期⾎圧200mmHgまたは
拡張期⾎圧110mmHg以上)、2カ⽉以内の虚⾎性脳梗塞の既往を認める場合、妊娠、2カ⽉以
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内の⼿術などは相対的禁忌と考えられている。
下⼤静脈フィルター:
抗凝固療法だけでは再発予防効果が少ないと判断される場合に、下⼤静脈フィルターが挿⼊さ
れる。下⼤静脈フィルターには、永久留置型フィルターと必要な期間だけ挿⼊して後に抜去で
きる⾮永久留置型フィルターがある。永久留置型フィルターは⽣涯にわたり抗凝固薬を併⽤し
なければならないため、⼀般には⾮永久留置型フィルターが最初に選択される。
ガイドラインでは、静脈⾎栓塞栓症を有する場合で、抗凝固薬療法禁忌例、合併症・副作⽤発
症例、⼗分な抗凝固夜療法中の⾎栓再発例、抗凝固療法の維持不能例などがよい適応であると
されている。ほかに、循環動態が不安定なPE、⾻盤腔内・下⼤静脈領域の⾎栓症、近位部の⼤
きな浮遊静脈⾎栓症、⾎栓溶解療法・⾎栓摘除を⾏うPE、⼼肺機能予備能の低い静脈⾎栓塞栓
症なども適応と考えられている。
⾎栓摘出術:
⾎⾏動態が不安定な患者で、内科的治療で改善が困難と予想される場合には⾎栓摘出術により
⾎栓の摘出を試みることもある。
⼿術の適応は、⾎栓溶解療法が⾏えない⾎⾏動態が不安定な患者のほかに、右⼼内に⾎栓が認
められる症例などが挙げられる。ただし、⼿術の死亡率は⾼く(6〜46%)、適応は慎重に検
討する必要がある[55][56][57][58][59][60][61][62]。
7:フォローアップ⽅針 [ID0015]
ワルファリンの投与期間は、可逆的な危険因⼦がある場合には3カ⽉間、先天性凝固異常症や
特発性の静脈⾎栓塞栓症では少なくとも3カ⽉間の投与を⾏って、以後の抗凝固薬の継続はリ
スクとベネフィットを勘案して決定する。また、癌などの発症素因が⻑期にわたって存在する
患者や複数回の再発を来した患者では、より⻑期の抗凝固療法を⾏う。エドキサバンの投与期
間も現時点ではワルファリンと同様の考え⽅を⾏うが、ワルファリンより出⾎リスクが低いと
報告されており、より⻑期に使⽤できる可能性がある。
8:治療の中⽌ [ID0016]
静脈⾎栓の再発リスクと抗凝固療法継続による出⾎のリスクを勘案し、総合的に治療継続の可
否を決定する。
9:専⾨医相談のタイミング [ID0017]
下⼤静脈フィルター留置などの⾮薬物療法が必要となる可能性があり、これを⾃施設で施⾏で
きない場合には、専⾨施設への転送を検討する。
急性期治療を適切に⾏っても肺動脈圧が⾼い状態が続く場合には、慢性の肺⾼⾎圧症を来す疾
患、例えば慢性⾎栓塞栓性肺⾼⾎圧症などが合併している可能性があり、専⾨医に紹介する。
10:⼊院適応 [ID0018]
急性肺塞栓症が疑われる場合には、基本的には⼊院治療を⾏う。
11:難治症例の治療 [ID0019]
ショック状態が遷延する症例では⼼肺停⽌に⾄る可能性が⾼く、早期にPCPSの挿⼊や外科⼿術
の必要性を検討する。
各論
12:妊婦の肺塞栓症 [ID0031]
ポイント:
妊婦における急性肺塞栓症は、妊娠に関連する⺟体死の20〜30%の原因となる状態であり、
注意が必要である。症状は多岐にわたり、症状発現時に早期に悪化して死亡する場合もあれば
無症状の場合もある[63][64]。
診断:
肺換気⾎流シンチグラム、造影CT検査はいずれも、少ないものの通常胎児に対する影響が存在
する。したがって、妊婦と妊婦でない場合での急性肺塞栓症の診断のアプローチは異なる。
評価のアプローチの⼀⽅法として、以下のようなアプローチがあると考えられる。
まず、妊婦で肺塞栓症(PE)を疑った場合で、下肢の腫脹を認めるなどの臨床的に下肢静脈⾎
栓症の合併があると想定される場合は下肢静脈エコーによる評価を⾏う。通常、下肢静脈⾎栓
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症の治療と急性肺塞栓症の治療は似た部分が多く、下肢静脈⾎栓症の診断となった場合は、抗
凝固薬による治療を検討する。
下肢静脈⾎栓症の合併を想定しない場合や、エコーの結果⾎栓症を認めなかった場合は、胸部
X線写真をとり、他の疾患可能性を除外する。次に、胸部X線写真で異常所⾒を認める場合は造
影CTによる評価を、異常所⾒を認めない場合は肺換気⾎流シンチグラムを⾏い、PEの評価を
⾏う。
なお、Dダイマーに関しては、妊婦では上昇することが知られており、また、診断や除外にそ
れほど有⽤でないことが知られており結果の解釈に注意を要する[65][66]。
治療:
通常、ヘパリンやワルファリンによる治療が⾏われることが多い。治療の詳細は[[妊娠中の⾎
栓塞栓症]]を参照にしてほしい。
イメージ
[ID0601]
静脈⾎栓症の危険因⼦
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎
栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、
P5、⽇本循環器学会、2008年
[ID0602]
急性肺塞栓症の臨床重症度分類
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎
栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、
P7、⽇本循環器学会、2008年
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[ID0603]
急性肺塞栓症の肺動脈造影CT
左右の肺動脈に⾎栓による造影⽋損像が認められる(⽮印)。(A)⽔平断、(B)前額断。
1: 著者提供
[ID0604]
急性肺塞栓症の肺動脈造影
左下葉枝が⾎栓塞栓により完全閉塞している。
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アルゴリズム
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[ID0701]
急性肺塞栓症の診断⼿順
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎栓塞
栓症および深部静脈⾎栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、P17図6、⽇本
循環器学会、2008年
[ID0702]
急性肺塞栓症の治療アルゴリズムの1例
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎栓塞
栓症および深部静脈⾎栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、P19図7、⽇本
循環器学会、2008年
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鑑別疾患
軽症例:
呼吸器感染症
胸膜炎
術後無気肺
重症例:
急性⼼筋梗塞
⼤動脈解離
⼼タンポナーデ
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いずれの重症度でもみられる:
うっ⾎性⼼不全
気胸
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エビデンス/解説
1. 急性肺塞栓症の患者には、禁忌でない限り未分画ヘパリンを投与する。
詳しく⾒る
2. 急性肺塞栓症の慢性期にはワルファリンを投与する。PT-INRが1.5〜2.5となるよう
に調節投与する。可逆的な危険因⼦の場合には3カ⽉間、先天性凝固異常症や特発性の
静脈⾎栓塞栓症では少なくとも3カ⽉間の投与を⾏う。癌患者や再発を来した患者では
より⻑期間の投与を⾏う。
詳しく⾒る
3. 急性肺塞栓症の適切な初期治療の後にエドキサバン60mgを投与する。腎機能や体
重、併⽤薬により必要であれば30mgに減量する。投薬期間はワルファリンに準ず
る。
詳しく⾒る
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症例検索
[https://clinicalsup.jp/jpoc/SearchExternal.aspx?
s=%E6%80%A5%E6%80%A7%E8%82%BA%E5%A1%9E%E6%A0%93%E7%97%87
症例くん]での検索(急性肺塞栓症)
(「症例くん」は⽇本内科学会地⽅会の症例報告の検索システムです。⽇本内科学会のID、パ
スワードにてアクセスしてください。)
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PMID 1560799 N Engl J Med. 1992 May 7;326(19):1240-5. doi: 10.1056/N・・・
39: Pulmonary embolism mortality in the United States, 1979-1998: an analysis using multiplecause mortality data.
PMID 12885687 Arch Intern Med. 2003 Jul 28;163(14):1711-7. doi: 10.10・・・
40: The natural course of hemodynamically stable pulmonary embolism: Clinical outcome and
risk factors in a large prospective cohort study.
PMID 17296656 Chest. 2007 Feb;131(2):517-23. doi: 10.1378/chest.05-27・・・
41: Deep venous thrombosis and pulmonary embolism: prediction, prevention and treatment.
PMID 13811755 Am J Cardiol. 1959 Nov;4:611-21.
42: Acute pulmonary embolism. II. Clinical.
PMID 6073360 Am Heart J. 1967 Dec;74(6):829-47.
43: Clinical predictors for fatal pulmonary embolism in 15,520 patients with venous
thromboembolism: findings from the Registro Informatizado de la Enfermedad
TromboEmbolica venosa (RIETE) Registry.
PMID 18347212 Circulation. 2008 Apr 1;117(13):1711-6. doi: 10.1161/CI・・・
44: A prediction rule to identify low-risk patients with pulmonary embolism.
PMID 16432084 Arch Intern Med. 2006 Jan 23;166(2):169-75. doi: 10.100・・・
45: Risk profile and clinical outcome of symptomatic subsegmental acute pulmonary embolism.
PMID 23736701 Blood. 2013 Aug 15;122(7):1144-9; quiz 1329. doi: 10.11・・・
46: Resolution of pulmonary embolism on CT pulmonary angiography.
PMID 20410413 AJR Am J Roentgenol. 2010 May;194(5):1263-8. doi: 10.22・・・
47: The rate of resolution of clot burden measured by pulmonary CT angiography in patients with
acute pulmonary embolism.
PMID 23521450 AJR Am J Roentgenol. 2013 Apr;200(4):791-7. doi: 10.221・・・
2015/06/30
Page 17 of 30
48: Derivation and validation of a prognostic model for pulmonary embolism.
PMID 16020800 Am J Respir Crit Care Med. 2005 Oct 15;172(8):1041-6. d・・・
49: Simplification of the pulmonary embolism severity index for prognostication in patients with
acute symptomatic pulmonary embolism.
PMID 20696966 Arch Intern Med. 2010 Aug 9;170(15):1383-9. doi: 10.100・・・
50: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎栓塞栓症お
よび深部静脈⾎栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、⽇本循環器学会、2008年.
51: Streptokinase and Heparin versus Heparin Alone in Massive Pulmonary Embolism: A
Randomized Controlled Trial.
PMID 10608028 J Thromb Thrombolysis. 1995;2(3):227-229.
52: A controlled clinical trial of streptokinase and heparin in the treatment of major pulmonary
embolism.
PMID 352100 Acta Med Scand. 1978;203(6):465-70.
53: Urokinase pulmonary embolism trial. Phase 1 results: a cooperative study.
PMID 5536580 JAMA. 1970 Dec 21;214(12):2163-72.
54: Antithrombotic therapy for VTE disease: Antithrombotic Therapy and Prevention of
Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice
Guidelines.
PMID 22315268 Chest. 2012 Feb;141(2 Suppl):e419S-94S. doi: 10.1378/ch・・・
55: Acute pulmonary embolectomy: a contemporary approach.
PMID 11914247 Circulation. 2002 Mar 26;105(12):1416-9.
56: Outcome of pulmonary embolectomy.
PMID 17261411 Am J Cardiol. 2007 Feb 1;99(3):421-3. doi: 10.1016/j.am・・・
57: Surgical pulmonary embolectomy in a community hospital.
PMID 24418179 Am J Surg. 2014 Mar;207(3):337-41; discussion 340-1. do・・・
58: Pulmonary embolectomy in elderly patients.
PMID 24333199 Am J Med. 2014 Apr;127(4):348-50. doi: 10.1016/j.amjmed・・・
59: Management of unsuccessful thrombolysis in acute massive pulmonary embolism.
PMID 16608956 Chest. 2006 Apr;129(4):1043-50. doi: 10.1378/chest.129.・・・
60: Modern surgical treatment of massive pulmonary embolism: results in 47 consecutive
patients after rapid diagnosis and aggressive surgical approach.
PMID 15867775 J Thorac Cardiovasc Surg. 2005 May;129(5):1018-23. doi:・・・
61: Massive pulmonary embolism: surgical embolectomy versus thrombolytic therapy--should
surgical indications be revisited?
PMID 22466693 Eur J Cardiothorac Surg. 2013 Jan;43(1):90-4; discussio・・・
62: Improved outcome of surgical pulmonary embolectomy by aggressive intervention for
critically ill patients.
PMID 21352987 Ann Thorac Surg. 2011 Mar;91(3):728-32. doi: 10.1016/j.・・・
63: Pregnancy-related mortality surveillance--United States, 1991--1999.
PMID 12825542 MMWR Surveill Summ. 2003 Feb 21;52(2):1-8.
64: Changes in pregnancy mortality ascertainment: United States, 1999-2005.
PMID 21691169 Obstet Gynecol. 2011 Jul;118(1):104-10. doi: 10.1097/AO・・・
65: Reading between the (Guidelines). Management of submassive pulmonary embolism in the
first trimester of pregnancy.
PMID 17707467 Thromb Res. 2008;121(5):705-7. doi: 10.1016/j.thromres.・・・
66: A negative D-dimer does not exclude venous thromboembolism (VTE) in pregnancy.
PMID 18393025 J Obstet Gynaecol. 2008 Feb;28(2):222-3. doi: 10.1080/0・・・
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■エビデンス・解説
#1658
急性肺塞栓症
中村真潮
三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学
1: エビデンス [ID0501]
急性肺塞栓症の患者には、禁忌でない限り未分画ヘパリンを投与する。
1/3
推奨度
Rs
急性肺塞栓症に対して未分画ヘパリンとプラセボを使⽤したRCTは1つの研究だけである。未分画ヘパリンを使⽤
した群では全例予後がよかったのに対し、プラセボ群では5例が死亡し、5例で肺塞栓症の再発が認められた。こ
のように未分画ヘパリンの有⽤性は明らかであり、合計35例の時点で倫理的に試験中⽌となっている[1]。
⼀⽅、APTTが1.5倍以上となった場合の再発率は1.6%であるのに対し、下回った場合は24.5%と有意に⾼いこ
とが報告されている[2]。
以上より、急性肺塞栓症の急性期には、未分画ヘパリンをAPTTが1.5〜2.5となるように調節投与して、ワルファ
リンの効果が安定するまで継続することが強く推奨される。
1: Anticoagulant drugs in the treatment of pulmonary embolism. A controlled trial.
PMID 13797091 Lancet. 1960 Jun 18;1(7138):1309-12.
2: Continuous intravenous heparin compared with intermittent subcutaneous heparin
in the initial treatment of proximal-vein thrombosis.
PMID 3531862 N Engl J Med. 1986 Oct 30;315(18):1109-14. doi:
10.1056/NEJM1986103031・・・
2: エビデンス [ID0502]
2/3
急性肺塞栓症の慢性期にはワルファリンを投与する。PT-INRが1.5〜2.5となるように調節投与
する。可逆的な危険因⼦の場合には3カ⽉間、先天性凝固異常症や特発性の静脈⾎栓塞栓症では
少なくとも3カ⽉間の投与を⾏う。癌患者や再発を来した患者ではより⻑期間の投与を⾏う。
推奨度
Rs
静脈⾎栓塞栓症の再発率は、ワルファリン6週間投与群で18.1%、6カ⽉間投与群では9.5%と有意差を認めてい
る[1]。しかし出⾎性合併症に差はなく、6カ⽉⽬以降での両群の再発率は同等に低下していた。さらにワルファ
リンを無期限に使⽤した群が⽐較され、再発率は6カ⽉間群で20.7%、無期限に使⽤した群で2.6%と有意な差を
認めたが、出⾎が無期限群で有意に多く、効果は相殺されていた。⼀⽅、3カ⽉間ワルファリン投与を⾏った場合
の再発率は、可逆的危険因⼦を持つ群の4.8%に対し、特発性静脈⾎栓症群では24%と報告される[2]。また712
例に対してワルファリンを投与した無作為試験での再発は、術後患者で116例中1例であるのに対し、506例の内
科患者では12週間治療群4.0%、4週間治療群9.1%であった[3]。
PT-INRは海外では2.0〜3.0が推奨されているが、⽇本では通常1.5〜2.5でコントロールされる。しかし、これに
関するエビデンスはない。
1: The duration of oral anticoagulant therapy after a second episode of venous
thromboembolism. The Duration of Anticoagulation Trial Study Group.
PMID 9010144 N Engl J Med. 1997 Feb 6;336(6):393-8. doi:
10.1056/NEJM19970206336060・・・
2: Deep-vein thrombosis and the incidence of subsequent symptomatic cancer.
PMID 1528208 N Engl J Med. 1992 Oct 15;327(16):1128-33. doi:
10.1056/NEJM1992101532・・・
3: Optimal duration of oral anticoagulant therapy: a randomized trial comparing
four weeks with three months of warfarin in patients with proximal deep vein
thrombosis.
PMID 8584992 Thromb Haemost. 1995 Aug;74(2):606-11.
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3: エビデンス [ID0503]
3/3
急性肺塞栓症の適切な初期治療の後にエドキサバン60mgを投与す
る。腎機能や体重、併⽤薬により必要であれば30mgに減量する。投薬期間はワルファリンに準
ずる。
推奨度
R
無作為⼆重盲検⾮劣性試験において、急性静脈⾎栓塞栓症(VTE)の患者が無作為にヘパリンによる初期治療の
後にエドキサバン60mg/⽇内服群、同30mg/⽇内服群(Ccr 30〜50l/minあるいは体重60kg未満の患者の場
合)、ならびにワルファリン内服群に割りつけられた。治験薬は3〜12カ⽉間投与された。主要有効性評価項⽬
は症候性VTEの再発であり、主要安全性評価項⽬は重⼤あるいは臨床上重要な⾮重⼤出⾎である。4,921名の深部
静脈⾎栓症患者と2,219名の肺塞栓症患者が登録された。ワルファリンを投与された患者のTTRは63.5%だっ
た。エドキサバンは主要有効性評価項⽬においてワルファリンに対する⾮劣性を⽰し(P<0.001)、エドキサバ
ンでは130名(3.2%)の患者に、またワルファリン群では146名(3.5%)に再発がみられ、ハザード⽐は
0.89(95%CI 0.70 - 1.13)であった。安全性評価項⽬はエドキサバン群で349名(8.5%)の患者に発⽣し、ワ
ルファリン群の423名(10.38%)よりも有意に低率で(P=0.004)、ハザード⽐は0.81(95% CI 0.71 0.94)であった。その他の有害事象の発⽣率は両者でほとんど同じだった。NT-proBNPで評価された右室機能不
全を有する938名の肺塞栓症患者において、VTEの再発率はエドキサバン群で3.3%、ワルファリン群で6.2%で
あった(ハザード⽐0.52、95%CI 0.28-0.98)。ヘパリンによる初期治療後のエドキサバンの1⽇1回投与は、重
症肺塞栓症を含めた種々のVTEにおいて適切な標準治療に対して⾮劣性を⽰し、出⾎性合併症を有意に減少させ
た。[1]
1: Hokusai-VTE Investigators, Büller HR, Décousus H, Grosso MA, Mercuri M,
Middeldorp S, Prins MH, Raskob GE, Schellong SM, Schwocho L, Segers A, Shi M,
Verhamme P, Wells P. N Engl J Med. 2013;369:1406-15.
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■画像⼀覧
#1658
出典欄記述⽅法
※「作図にあたって参考にした⽂献」「さらに詳しく知るための参考資料」の場合は、出典と区別するために「参考⽂
献:」とご記述いただけましたら幸いです。
※画像出典表記についてご了承のお願い
先⽣に元図をご提供いただき、それを元に弊社にてイラストを描き起こしている場合は、エルゼビア作成のイラストとし
て、出典を割愛させていただいている場合があります。その点ご了承のほどお願いいたします。
※他社出版社発⾏物からの転載は、⾼額の場合や許諾が下りない場合は、掲載できない場合がありますので、ご了承くだ
さい。
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
①ガイドライン
【編者名】編:【ガイドライン名】【策定年度】年版、p【掲載】or【図版番号】、【発⾏元】、【出版年】
②雑誌
著者名:表題. 雑誌名 発⾏年(⻄暦);巻(号):⾴-⾴.
〔例1〕⼭⽥⼀郎:中枢神経の構造的特徴.脳と神経 1998;45(7):12-15.
〔例2〕参考⽂献:Hauenstein EJ, Marvin RS, Snyder AL, et al.: Stress in parents of children with diabetes
mellitus. Diabetes Care 1989; 12(1): 18-23. PMID: 2714163
③単⾏本
著者名: 表題. 編者名. 書名. 発⾏所所在地(⽇本の出版社の場合は不要):発⾏所,発⾏年(⻄暦);掲載⾴.
〔例1〕⼭⽥⼀郎: 脳と脊髄への⾎液供給. 吉⽥次郎編. 神経科学.エルゼビア・ジャパン, 2003;125.
〔例2〕参考⽂献:Kettenmann H, Ranson BR: Neuroglia. New York: Oxford University Press,1955; 154.
④その他
「××⼤学●●先⽣よりご提供」等、明記してください。
急性肺塞栓症
中村真潮
三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学
[ID0601]
静脈⾎栓症の危険因⼦
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎
栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、
P5、⽇本循環器学会、2008年
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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説明
□著者提供
出典
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[ID0602]
急性肺塞栓症の臨床重症度分類
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎
栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、
P7、⽇本循環器学会、2008年
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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説明
□著者提供
出典
[ID0603]
急性肺塞栓症の肺動脈造影CT
左右の肺動脈に⾎栓による造影⽋損像が認められる(⽮印)。(A)⽔平断、(B)前額断。
1: 著者提供
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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説明
2015/06/30
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□著者提供
出典
[ID0604]
急性肺塞栓症の肺動脈造影
左下葉枝が⾎栓塞栓により完全閉塞している。
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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□著者提供
出典
[ID0621]
2015/06/30
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未分画ヘパリン持続静注⽤の⽤量調節表* 1
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告).肺
⾎栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、
P22、⽇本循環器学会、2008年
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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説明
□著者提供
出典
[ID0701]
急性肺塞栓症の診断⼿順
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎
栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、P17
図6、⽇本循環器学会、2008年
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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説明
□著者提供
出典
[ID0702]
急性肺塞栓症の治療アルゴリズムの1例
2015/06/30
Page 24 of 30
1: ⽇本循環器学会編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)肺⾎
栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)、P19
図7、⽇本循環器学会、2008年
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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□著者提供
出典
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最終更新⽇ : 2015年6⽉30⽇
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2015/06/30
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■評価・治療例(詳細)
#1658
急性肺塞栓症
中村真潮
三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学
初診時、フォローアップ時
対象患者・コメントを隠す/表⽰する
※下記は、⼀部を除き、執筆者が過去に診た20⼈の患者で2⼈以上に⾏った事を羅列して頂いています。実際の1⼈の患者に
⾏った内容は、下記の⼀部分であることを了解下さい。
評価⽅針
急性肺塞栓症を診断する。
急性肺塞栓症の重症度と出⾎リスクを検討する。
深部静脈⾎栓症の評価を⾏う。
発症のリスクファクターを評価する。
バイタルサイン
バイタル(⾎圧、脈拍、呼吸数)来院時
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
コメディカルへの依頼
既往歴、家族歴の聴取
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
ワルファリンあるいはエドキサバンの服薬指導
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
検体検査
CBC
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
BUN, Cr
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
Dダイマー
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度2)
⾎液ガスないしは動脈⾎酸素飽和度(SpO2 )
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
Protein C活性, Protein S活性, アンチトロンビン
対象:
先天性凝固異常を疑う患者
ループスアンチコアグラント, 抗カルジオリピン抗体 (IgG)
対象:
⾃⼰免疫性疾患の患者
⽣理・画像検査
胸部X線写真
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
⼼電図
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
⼼エコー
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度2)
下肢静脈エコー
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度2)
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肺動脈造影CT
対象:
急性肺塞栓症を疑う患者(推奨度1)
肺動脈造影
対象:
肺動脈造影CTによる評価が不⼗分な場合や侵襲的処置を⾏う場合
コメント:
ゴールドスタンダードであるが、現在は肺動脈造影CTによる評価で診断
肺⾎流スキャン
対象:
造影CTができない場合など
治療⽅針
抗凝固療法:
出⾎のリスクがなければ、抗凝固療法として未分画ヘパリンあるいはフォンダパリヌクス
(アリクストラ)を開始する。
再発予防にワルファリン(ワーファリン)を使⽤する場合には、発症初期からワルファリン
(ワーファリン)の内服を開始し、PT-INRが1.5〜2.5となれば未分画ヘパリンあるいは
フォンダパリヌクスは中⽌する。
再発予防にエドキサバン(リクシアナ)を⽤いる場合には、未分画ヘパリンあるいはフォン
ダパリヌクス(アリクストラ)を、循環動態などを指標に数⽇間投薬したのちに、未分画ヘ
パリン持続静注中⽌の約4時間後から、あるいはフォンダパリヌクス(アリクストラ)中⽌
の翌⽇からエドキサバン(リクシアナ)の内服を開始する。
ワルファリンやエドキサバン(リクシアナ)は少なくとも3カ⽉間は使⽤し、その後はリス
クとベネフィットを勘案して、投与期間を決定する。
⾎⾏動態への対応:
呼吸循環の改善を図る(酸素投与、必要ならカテコラミン)。
⾎⾏動態が不安定な場合は、⾎栓溶解療法の併⽤を検討する。
循環動態が不安定で下肢深部静脈⾎栓症を認める場合には、下⼤静脈フィルターの挿⼊を検
討する。
循環虚脱状態ではPCPSの装着を検討する。
必要であれば、カテーテル治療や外科的治療も考慮する。
薬 剤
ヘパリン製剤
ヘパリンナトリウム注N5千単位/5mL[5,000単位] 診断後、まず5,000単位を静注し、時間あたり1,400
単位の持続静注を開始。APTTを対照値の1.5〜2.5倍に調節する。[ID0621]
再発予防にワーファリンを使⽤する場合はPT-INRが1.5〜2.5となればヘパリンを中⽌する。[ID0501]
対象:
出⾎リスクの⾼い場合を除く急性肺塞栓症の診断となった患者(推奨度2)
コメント:
再発予防にリクシアナを使⽤する場合でも循環動態が不安定な期間にはヘパリンを投与する。
ヘパリン、アリクストラは通常いずれか1つを⽤いる。
⾮経⼝合成ファクターXa阻害薬
アリクストラ⽪下注[5mg] 診断後より1⽇1回⽪下注射を⾏う(50kg未満:5mg、50kg以上100kg未
満:7.5mg、100kg以上10mg)。
再発予防にワーファリンを使⽤する場合はPT-INRが1.5〜2.5となればアリクストラを中⽌する。
[ID0501]
対象:
出⾎リスクの⾼い場合を除く急性肺塞栓症の診断となった患者
コメント:
再発予防にリクシアナを使⽤する場合でも循環動態が不安定な期間にはアリクストラを投与する。
ヘパリン、アリクストラは通常いずれか1つを⽤いる。
経⼝ビタミンK拮抗薬
ワーファリン錠[1mg] 診断時から投薬開始。
まず、2〜3mg 分1 ⼣⾷後(朝⾷後でもよい)で開始。
PT-INRが1.5〜2.5となるように投与量を調節する。
少なくとも3カ⽉間は内服し、その後の服薬は⾎栓リスクと出⾎リスクを勘案して決定する。[ID0502]
対象:
出⾎リスクの⾼い場合を除く急性肺塞栓症の診断となった患者(推奨度1)
コメント:
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ワーファリン、リクシアナは通常いずれか1つを⽤いる。
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リクシアナ[60mg] 1⽇1回投与を、ヘパリン持続静注中⽌の約4時間後、ないしはアリクストラ中⽌の翌
⽇から開始。
少なくとも3カ⽉間は内服し、その後の服薬は⾎栓リスクと出⾎リスクを勘案して決定する。[ID0502]
対象:
出⾎リスクの⾼い場合を除く急性肺塞栓症の診断となった患者(推奨度1)
コメント:
クレアチニンクリアランス15mL/min以上50mL/min未満、体重60kg以下、あるいはP糖蛋⽩阻害
作⽤を有する薬剤を併⽤している場合は投与量を30mgに減量する。クレアチニンクリアランス
15mL/min未満は投薬禁忌である。
ワーファリン、リクシアナは通常いずれか1つを⽤いる。
組織プラスミノゲンアクチベータ
クリアクター静注⽤[40万国際単位] 13,750IU/kg〜27,500IU/kgを30秒〜3分で静注する。
対象:
循環動態が不安定な重症患者で、出⾎リスクは低い場合
合併症のコントロール
⾮永久留置型下⼤静脈フィルターの留置
対象:
広汎な深部静脈⾎栓が残存する患者で、右⼼負荷のある場合
コンサルト
循環器内科
対象:
循環動態不安定例、下⼤静脈フィルター留置時
⾎管外科
対象:
深部静脈⾎栓症の治療
⾎液内科
対象:
⾎栓性素因の検索時
指 導
ワルファリンの⾷事指導
対象:
ワルファリン服薬の患者
下肢の運度を⼗分に⾏う
対象:
急性肺塞栓症の診断のついた患者(推奨度2)
再診・⼊院の指⽰
PT-INRが安定するまで1週間間隔で受診。
安定したのちは1カ⽉ごとに再診して、PT-INRを測定する。
対象:
ワルファリン服⽤の患者
出⾎性合併症の確認のために初期には2週間間隔で受診。
安定したのちは1〜2カ⽉ごとに再診して、HbやCrを測定する。
対象:
エドキサバン服⽤の患者
推奨度1:明らかに利益が害やコストよりも上回る。必ず⾏う必要があり得る⾏為。
推奨度2:害、コストよりも、利益が上回る可能性が⾼い。半数以上の状況で⾏われ得る⾏為。
推奨度3:利益よりも、害、コストが、上回る可能性が⾼い。半数以下の状況で⾏われ得る⾏為。
推奨度4:明らかに利益が害やコストよりも下回る。医学的に原則禁忌といわれている⾏為。
(詳細はこちら参照)
※薬剤中分類、⽤法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独⾃に作成した薬剤情報であり、著者により作成された情報で
はありません。
尚、⽤法は添付⽂書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
最終更新⽇ : 2015年6⽉30⽇
<<ページ末尾:#situationDetails6.aspx?DiseaseID=1658&situationno=1>>
2015/06/30
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急性肺塞栓症
急性肺塞栓症は、下肢の静脈に血栓(血
の塊)ができ、それが流れて肺の血管を塞
ぐことにより、呼吸困難やショック状態に陥
る疾患です。
胸部X線撮影や肺血流スキャンなどの検査
により重症度を調べ、その結果に応じて治
療法を選択します。
重症の場合は、命に関わることもあります。
特に発症から24時間以内がもっとも死亡率
が高く、発症早期の治療が大事です。
発症したばかりのころは症状が不安
定で危険な時期です。入院して治療
を行い、不測の事態に備えます。
治療法は、入院して血栓を溶かしや
すくする薬を投与します。
適切な治療のため、また再発を防ぐた
めに、治療経過の中で適宜検査をし
ながら、疾患の原因を調べます。
足を動かさないでいるとより血栓ができやすくなり
ます。ウォーキングなどの下肢を使用する軽い運
動をしましょう。
退院後も、再発防止のため、しばらく
は血栓ができにくくなる薬を服用しま
す。
呼吸困難や片足のむくみは再発の兆
候なので、直ちに受診しましょう。
手術をしたり、心臓や肺の病気、悪性
腫瘍などに罹患したりした場合は再
発しやすいので、担当医には本疾患
にかかったことがあることを伝えてお
きましょう。
2015/06/30
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執筆者ご紹介
中村真潮
三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学
2015/06/30
執筆者
中村真潮
専⾨分野
循環器病学(⾼⾎圧、⼼⾎管リスク、⾎栓塞栓症、肺循環、⼼臓核医
学)
専⾨医
循環器専⾨医、⾼⾎圧専⾨医、脈管専⾨医、動脈硬化専⾨医、総合内科
専⾨医
所属学会
⽇本内科学会
⽇本循環器学会
⽇本⼼臓病学会
⽇本⾼⾎圧学会
⽇本動脈硬化学会
⽇本⾎栓⽌⾎学会
⽇本脈管学会
⽇本静脈学会
⽇本肺循環学会
American Heart Associationなど
経歴
昭和63年(1988年)3⽉三重⼤学医学部卒業
昭和63年(1988年)6⽉1⽉ 三重⼤学内科学第⼀講座 ⼊局
平成19年(2007年)3⽉三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学 講師
平成23年(2011年)10⽉三重⼤学⼤学院臨床⼼⾎管病解析学講座 教授
平成26年(2014年)10⽉三重⼤学⼤学院循環器・腎臓内科学 客員教授
村瀬病院 副院⻑ / 肺塞栓・静脈⾎栓センター⻑
治療アドバイス
診断が難しい疾患ですが、診断さえ出来れば救命率は格段にあがるの
で、本症を常に頭の⽚隅に⼊れられて診療にあたって頂ければと思いま
す。
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