第 28 回植物脂質シンポジウム 主催:日本植物脂質科学研究会 日時:平成 27 年 9 月 9 日(水)13 時 ~ 10 日(木)13 時 会場:上智大学四ッ谷キャンパス 紀尾井坂ビル 5 階 東京都千代田区紀尾井町7−1 JR 四谷駅、地下鉄丸ノ内線四ッ谷駅 より徒歩3分 9月9日(水) 12:00 受付開始 開会挨拶 13:00 世話人:齊藤玉緒 セッション1 (座長:石川 寿樹) 13:10 光 合 成 生 物 に お け る PG と SQDG の 機 能 (O1) 小林康一1、遠藤嘉一郎1、和田元1,2 1 東京大学・院・総合文化研究科, 2JST・CREST 13:30 リン欠乏条件を活用した植物の葉や根における油脂生産 (O2) 下嶋美恵1、円由香1、藤原亮太1、村川雅人1、吉竹悠宇志1、池田桂子2、小 泉遼太1、太田啓之1, 3, 4 1 東京工業大学・大学院生命理工学研究科・生体システム専攻,2 東京工業 大学・技術部・バイオ技術センター,3 東京工業大学・地球生命研究所 (ELSI)、4CREST・JST 13:50 ガ ラ ク ト 脂 質 合 成 経 路 の 進 化 (O3) 脇山有紀1、粟井光一郎1,2 1 静岡大学大学院・総合科学技術研究科・理学専攻,2 静岡大学・電子工学 研究所 ショートブレイク 14:10~14:30 セッション2 (座長:中村 友輝) 14:30 ク ラ ミ ド モ ナ ス の 脂 質 合 成 系 の 多 様 性 (O4) 佐藤直樹1,2、森山崇1,2、豊島正和1,2、平嶋孝志1,2, 1東京大学大学院・総合 文化研究科・広域科学専攻,2,JST, CREST 1 14:50 ラ パ マ イ シ ン 処 理 に よ る 微 細 藻 類 Euglena gracilis の 脂 質 生 産 の (O5) 増 加 向田志保1、小川拓水2、谷澤靖洋1,3、大石加寿子1、太田大策2、有田正規1,4 1 国立遺伝学研究所・生命情報センター,2 大阪府立大学・生命環境科学研 究科, 3 東京大学・新領域創成科学研究科,4 理化学研究所・環境資源科学 研究センター 15:10 炭 疽 病 菌 感 染 時 の 侵 入 菌 糸 嚢 膜 に お け る 膜 脂 質 (O6) 島田 貴士1,高野 義孝2,植村 知博1,中野 明彦1, 3,上田 貴志1, 4 1 東京大・院理,2 京都大・ 院農,3 理研・光量子工学,4 さきがけ ショートブレイク 15:30~15:50 セッション3 (座長:今井 博之) 15:50 細 胞 内 で の 代 謝 が 植 物 の か お り 吸 収 を 担 っ て い る (O7) 村本祥子1、杉本貢一1,2、肥塚崇男1、谷晃3、高林純示4、松井健二1 1 山口大学大学院・医学系研究科(農学系),2 ミシガン州立大学,3 静岡県 立大学食品栄養科学部、4 京都大学生態学研究センター 16:10 細胞性粘菌の生存戦略とポリケタイド (O8) 齊藤玉緒 上智大学 理工学部 16:30 ナ ン ノ ク ロ ロ プ シ ス NIES-2145 で の ク ラ ミ ド モ ナ ス 由 来 リ ン 欠 乏 応 (O9) 答 プ ロ モ ー タ ー を 用 い た 油 脂 合 成 岩井雅子1、堀孝一1,2、関本(佐々木)結子3、下嶋美恵1、太田啓之1,2,3 1 東京工業大学・生命理工学研究科・生体システム専攻, 2JST・CREST, 3東京 工業大学・ELSI ショートブレイク 16:50~17:10 招待講演(座長:齊藤 玉緒) 17:10 マ メ 科 植 物 の 傾 性 運 動 解 明 へ の 取 り 組 み 神澤 信行 上智大学理工学部 2 9 月 10 日(木) 幹事会 8:30 上智大学紀尾井坂ビル 5 階 9:30 開場 ポスター発表 9:35 奇数番号 10:05 偶数番号 セッション4(座長:森田直樹) 10:40 種 皮 の ク チ ク ラ 形 成 を 制 御 す る 転 写 因 子 の 機 能 解 析 (O10) 大島良美1、鳴海貴子2、金子康子3、石川寿樹4、川合真紀4、高木優1,5、光 田展隆1 1 産業技術総合研究所・生物プロセス研究部門,2香川大学・農学部,3埼玉 大学・教育学部, 4埼玉大学大学院・理工学研究科, 5埼玉大学・環境科学研 究センター 11:00 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に お け る コ リ ン・エ タ ノ ー ル ア ミ ン キ ナ ー ゼ の 機 能 解 (O11) 析 林映辰1、劉昱志1、中村友輝1 1 アカデミアシニカ・植物及微生物研 11:20 植物に見出されたグリコシルイノシトールホスホセラミド特異的ホ (O12) ス ホ リ パ ー ゼ D の 性 質 田中保1、伊藤葵1、木村朱里1、松岡久嗣1、喜田孝史1、Sheuli Afroz1、今井 博之2、徳村彰3 1 徳島大学薬学部,2甲南大学理工学部,3安田女子大学薬学部 11:40 細 胞 性 粘 菌 に お け る ポ リ ケ タ イ ド DIF-1 作 用 機 序 の 解 明 に 向 け て (O13) 荒木 剛 ダンディー大学 生命理工学部 シ ョ ー ト ブ レ イ ク 1 2 : 0 0 〜 1 2 : 1 5 総 会 お よ び ポ ス タ ー 賞 受 賞 者 表 彰 式 12:15 3 ポ ス タ ー 発 表 ( 9 月 1 0 日 ( 木 ) 9 : 3 5 ~ 1 0 : 3 5 ) P1 新 規 ハ イ ブ リ ッ ド 型 ポ リ ケ タ イ ド 合 成 酵 素 SteelyB の 産 物 多 様 性 機 構 の 解 明 山中彩夏 1、飯島知之 2、品川知則 1、深澤汐香 1、齊藤玉緒 2 1 上智大学大学院理工学研究科理工学専攻生物科学領域 2 上智大学理工学部物質生命理工学科 P2 リ ン 欠 乏 時 お よ び リ ン 再 供 給 時 に お け る シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 脂 質 転 換 機 構 の 解 析 藤原亮太1、円由香1、太田啓之1,2,3、下嶋美恵1 1 東京工業大学・生命理工学研究科,2JST・CREST,3 東工大・ELSI P3 リ ン 脂 質 ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン 蓄 積 緑 藻 Chlamydomonas asymmetrica に お け る 油 脂 蓄積条件の検討と、油脂増産株作出の試み 山田達也1、栗田朋和2、佐藤直樹2,3、西田生郎1, 2 1 埼玉大学大学院理工学研究科・生命科学部門、2JST, CREST、3 東大・総合分化研究科 P4 利 他 行 動 メ カ ニ ズ ム 解 明 に 向 け た ポ リ ケ タ イ ド 合 成 酵 素 遺 伝 子 pks26 機 能 解 析 松本郁加 1、齊藤玉緒 2 1 上智大学大学院・理工学研究科・理工学専攻,2 上智大学・理工学部・物質生命理工学科 P5 植 物 ス フ ィ ン ゴ 脂 質 の 代 謝 と 機 能 に お け る 長 鎖 塩 基 不 飽 和 化 の 役 割 石川寿樹、川合真紀 埼玉大学大学院・理工学研究科・環境制御システムコース P6 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に お け る ホ ス フ ァ チ ジ ン 酸 ホ ス ホ ヒ ド ロ ラ ー ゼ 過 剰 発 現 体 に お け る窒素欠乏耐性機構の解析 吉竹悠宇志1、佐藤諒一1、円由香1、村川雅人1、駿河航1、杉浦大輔2、中村友輝3、 野口航2、太田啓之1, 4, 5 、下嶋美恵1 1 東京工業大学・大学院生命理工学研究科、2東京大学・大学院理学系研究科 3 アカデミアシニカ・植物及微生物研究所、4東京工業大学・ELSI 、5J ST・CREST P7 窒 素 栄 養 欠 乏 下 に お け る 緑 藻 ク ラ ミ ド モ ナ ス の 脂 質 蓄 積 変 異 体 tar1-1 の 解 析 梶川 昌孝、新川 はるか、椹木 裕里、山野 隆志、福澤 秀哉 京都大学大学院・生命科学研究科 4 P8 緑 藻 ク ラ ミ ド モ ナ ス に お け る 脂 質 蓄 積 制 御 因 子 TAR1 の 関 連 因 子 の 探 索 小川真梨菜、新川はるか、梶川昌孝、福澤秀哉 京都大学・生命科学研究科 P9 好 熱 性 シ ア ノ バ ク テ リ ア に お け る 酸 性 脂 質 の 機 能 遠藤嘉一郎1、小林康一1、和田元1,2 1 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻,2,JST・CREST P10 植 物 の 色 素 体 分 化 に お け る MGDG 合 成 の 役 割 藤井祥1,小林康一1,和田元1 1 東京大学大学院・総合文化研究 P11 植 物 オ キ シ リ ピ ン 生 成 に 関 与 す る CYP74 フ ァ ミ リ ー の 分 子 進 化 肥塚崇男1、石崎公庸2、Cynthia Mugo Mwenda1、堀孝一3、佐々木(関本)結子4、太田啓之3,4、 河内孝之5、松井健二1 1 山口大学大学院・医学系研究科(農),2 神戸大学大学院・理学研究科,3 東京工業大学・大 学院生命理工学研究科,4 東京工業大学・地球生命研究所,5 京都大学大学院・生命科学研究科, P12 ミ リ ス チ ン 酸 を 多 量 に 含 む シ ア ノ バ ク テ リ ア に 関 す る 研 究 齋藤勝和1, 2、遠藤嘉一郎1、小林康一1, 2、渡辺麻衣1、池内昌彦1、 村上明男3、村田紀夫4、和田元1, 2 1 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻,2CREST,3 神戸大学・ 自然科学系・内海域環境教育センター,4 基礎生物学研究所 P13 不 等 毛 植 物 門 の デ ィ ク テ ィ オ カ 藻 に お け る 高 度 不 飽 和 脂 肪 酸 合 成 の 解 析 三谷英李1、市育代1、川端篤志2、河地正伸2、加藤美砂子1 1 お茶の水大・院・ライフサイエンス, 2国立環境研究所・生物資源保存研究室 P14 ク ロ レ ラ に お け る ト リ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル 蓄 積 – 低 温 と 混 合 ス ト レ ス の 有 効 性 林泰平 1、平井一帆 1、都筑幹夫 1,2、佐藤典裕 1,2 1 東京薬科大学生命科学部、2JST・CREST 5 P15 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の ス フ ィ ン ゴ イ ド 1 - リ ン 酸 の 代 謝 動 態 に 及 ぼ す フ モ ニ シ ン B 1 の影響 柳川大樹 1,2、今井博之 1,2 1 甲南大学大学院・自然科学研究科・生命・機能科学専攻 2 甲南大学・統合ニューロバイオロ ジー研究所 P16 DGA1 活 性 型 変 異 体 を dga1 破 壊 株 に 過 剰 発 現 さ せ た 脂 質 蓄 積 性 出 芽 酵 母 株 で の 糖 新生の解析 神坂 泰1、木村和義1、植村 浩1、Rodrigo Ledesma-Amaro1,2 1 産業技術総合研究所・生物プロセス,2,サラマンカ大学・微生物遺伝 P17 緑 藻 Chlamydomonas debaryana NIES-2212 を 用 い た 効 率 的 な 油 脂 生 産 の た め の 培 養 条 件の検討 豊島正和、佐藤直樹 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻,JST-CREST, P18 細 胞 性 粘 菌 に お け る 分 化 誘 導 因 子 4-methyl-5-penthylbenzen-1,3-diol(MPBD)の 構 造 活 性相関解析 近藤杏奈1、岩崎なつみ1、成田隆明2、村田ちひろ1、小倉徹大1、臼杵豊展2、齊藤玉緒2 1 上智大学大学院・理工学研究科・理工学専攻、2,上智大学・理工学部 6 招待講演要旨 7 特別講演 マメ科植物の傾性運動解明への取り組み 神澤 信行、西谷淳、大塚裕士、高原正裕 上智大学大学院・理工学研究科・生物科学専攻 植物で見られる運動には屈性と傾性があり、傾性運動には花の開閉のような成長 運動や孔辺細胞の開閉のような膨圧運動がある。マメ科植物オジギソウは同じ運動 器官で刺激に応答した素早い運動である接触傾性運動と、マメ科植物の葉の開閉運 動で知られる就眠運動という二つの異なる膨圧運動を行っている。このオジギソウ の就眠運動への興味から、現在広く知られる生物時計の概念が見つけ出されたのは 有名な話である。我々がオジギソウの研究を始めた時には、電気生理学的な研究以 外には、生化学や分子生物学的なアプローチは極めて限定的であり、今なおオジギ ソウの運動の分子メカニズムは明らかにされていない。就眠運動全体を見渡すと、 孔辺細胞の開閉に関与する分子メカニズムの詳細が明らかにされつつあり、その中 でも日本人研究者の貢献が際立っている。我々は、当初オジギソウの接触傾性運動 を主なターゲットとし、その後、対比的な観点からマメ科植物の葉の開閉運動で知 られる就眠運動へと興味の枠を広げている。オジギソウの接触傾性運動と就眠運動 はどちらも膨圧の調節がキーとなり、多くの共通因子の関与が考えられている。し かし、接触傾性運動特有の現象も見られ、これらを比較解析することで、何がオジ ギソウの傾性運動一般に共通する調節であり、何が接触傾性運動特異的なのかを明 らかにできると考えている。本発表では、我々のこれまでの取り組みと、最近の取 り組みまでをお話しさせていただく予定である。 接触傾性運動の際に何が起こっているか、我々はまずは細胞の中を見ることから 始めた。その過程でアクチン細胞骨格の再編が起こっていること、また、その再編 にはアクチンのチロシン残基のリン酸化が重要であることを明らかにした。同じ現 象は、細胞性粘菌のアクチン細胞骨格の再編でも報告されており、私の知る限り、 この 2 例だけである。主要なモデル植物の全ゲノム配列が解析された現在でも、チ ロシン特異的リン酸化酵素は見つかっておらず、どのような調節が関与しているの かは未だに解明されていない。上記に引き続き、細胞骨格再編に関与するアクチン 結合タンパク質や、膨圧の変化に関与する水チャネル・アクアポリンなどについて、 その遺伝子の発現やタンパク質レベルでの局在等について研究を行ってきた。多く の生物でも報告されている様に、植物の傾性運動にもカルシウムシグナルを介した 調節とセリン・スレオニンのリン酸化を介した調節が重要であることを明らかにし た。さらに、東北大学の上田実教授との共同研究により、就眠に関わる糖を含む化 8 合物と、その受容体に関する研究も行っている。しかし、いくら傍証を積み上げて もなかなか真実に近づけず、近年では新しい取り組みにチャレンジしている。 モデル植物では、リソースセンターからの変異体の入手が可能であるなど、興味 ある遺伝子の機能を知るため、多くのオプションが存在するが、マメ科植物では必 要な変異株を手に入れることも大変な仕事になる。また、モデル植物で再現性良く 行われている遺伝子組換えも、マメ科植物では技術的な問題から困難な場合が多い。 非モデル植物であるオジギソウの遺伝子組み換えに関してはつい昨年、基礎生物学 研究所の長谷部光泰教授らのグループによって初めて報告がなされた。我々も、長 谷部教授の研究室で開発された技術にならい、オジギソウの形質転換体作出に努力 している。また、これまで傾性運動との関与が示唆された時計遺伝子などの因子に ついて、その真偽を明らかにするため、マメ科モデル植物であるミヤコグサを用い て分子生物学的な解析を進めている。時計遺伝子を起点とした様々な生理現象はよ く知られるところだが、マメ科植物の葉の開閉が時計遺伝子の支配下にあるかは、 知っている様で知られていない。明確な答えを得るべく、現在解析を進めている。 オジギソウの研究は、昔から多くの人が興味を持っていることから、なんとなくわ かっていることが多く、どうしてなのかという分子メカニズムの解明が後追いする かたちとなっている。 最後になるが、オジギソウの研究をしているともう一つの「どうして」という疑 問、つまり「何の目的で動く」ということについて聞かれることがある。答えの一 つとして、多くのマメ科植物で見られる葉の調位運動をあげることにしている。要 は効率的に太陽光を使って光合成をするためということになるが、オジギソウの葉 も朝の弱い光に葉を開き、昼間の強すぎる光では葉を閉じている。進化のいたずら で様々な刺激に応答し、膨圧が変化するすべを手にしてしまったのではないか。さ らに、結果的には南米原産のオジギソウは、スコールの様な急激な物理変化にも対 応できる能力を獲得したのではないかと考えている。最後は根拠もなく書いている ことなので、何か良いご意見をお持ちであればぜひお教えいただきたい。 9 口頭発表要旨 10 O1 光合成生物における PG と SQDG の機能 小林康一1、遠藤嘉一郎1、和田元1,2 1 東京大学・院・総合文化研究科, 2JST・CREST リン脂質のホスファチジルグリセロール(PG)と糖脂質のスルホキノボシルジ アシルグリセロール(SQDG)は、シアノバクテリアや葉緑体のチラコイド膜に特 徴的な脂質であり、どちらも負電荷を持ち酸性脂質に分類される。PG はシアノバ クテリア、植物のどちらにおいても生育に必須であり、その欠損は光合成活性の著 し い 低 下 を 引 き 起 こ す 。 一 方 、 SQDG の 必 要 性 は 生 物 種 に よ っ て 異 な り 、 Synechocystis sp. PCC 6803 やクラミドモナスでは SQDG の欠損は光合成の阻害を引 き起こすが、Synechococcus elongatus PCC 7942 やシロイヌナズナでは通常の生育に 大きな影響を与えない。しかしこれらの生物で SQDG がまったく不要なわけでは 無く、リン欠乏条件下では PG の減少に伴い SQDG が増加すること、SQDG 欠損変 異体ではそのような脂質転換がおこらずに生育が阻害されることが分かっている。 このことから、チラコイド膜の酸性脂質の総量を一定に保つことが重要であると考 えられているが、SQDG が PG の機能のうちのどの部分を相補でき、どの部分を相 補できないのかは明らかでない。また、シロイヌナズナでは SQDG に加えグルク ロノシルジアシルグリセロール(GlcADG)という別の酸性糖脂質がリン欠乏時に 合成されることも報告されているが、PG の機能との関わりは不明である。 これらの酸性脂質の役割を明らかにするために、我々は PG や SQDG の合成に関 わる遺伝子について種々の変異体を用いた解析を行っている。 シロイヌナズナの解析から、葉緑体の PG 合成を欠損すると光合成活性はほぼ無 くなるが、芽生えはある程度生育できることが分かった。しかし、SQDG 合成も同 時に欠損すると胚発生の段階から異常を示し、発芽後はほとんど成長できなかった。 このことから、SQDG は PG の光合成機能は部分的にしか相補できないが、それ以 外の部分で酸性脂質として重要な役割を果たすと考えられる。また、各種の変異体 比較から、GlcADG は PG の機能相補には関与していないことが示唆された。 SQDG の重要性は生物種によって多様であるが、PG との相補的な関係は多くの 種で共通しているようである。我々は、シアノバクテリアの Thermosynechococcus elongatus BP-1 においても PG が生育に必須であること、SQDG は必須ではないが リン欠乏時に重要な役割を担うことを明らかにした。SQDG 欠損変異株では PG の 割合が大幅に増加するため、この種においても酸性脂質の総量を一定にするしくみ が働いていると考えられる。 11 O2 リン欠乏条件を活用した 植物の葉や根における油脂生産 下嶋美恵1、円由香1、藤原亮太1、村川雅人1、吉竹悠宇志1、池田桂子2、 小泉遼太1、太田啓之1, 3, 4 1 東京工業大学・大学院生命理工学研究科・生体システム専攻,2 東京工業大学・技 術部・バイオ技術センター,3 東京工業大学・地球生命研究所 (ELSI)、4CREST・JST 通常光条件下で生育させた植物では、光合成で生じたエネルギ―は、葉では主に デンプンとして貯蔵されるため、油脂(トリアシルグリセロール、TAG)は極めて 微量にしか蓄積しない。我々はこれまでに、シロイヌナズナ、タバコ、イヌビエ、 トマトなどの植物を用いて、リン欠乏にさらされた植物の葉や根では、デンプンの 蓄積に加えて、顕著な TAG の蓄積が起こることを見出した。さらに、デンプンを ほとんど蓄積しないシロイヌナズナ変異体 pgm_1 では、リン十分条件下でも野生 株より TAG 蓄積量が多く、リン欠乏に晒されるとその蓄積量はさらに増大するこ とを見出した。そこで我々は、リン欠乏時に高発現する糖脂質合成酵素遺伝子 MGD3 のプロモーターと TAG 生合成の 3 つの主要酵素遺伝子(DGAT1, DGAT2,ま たは PDAT1)を組み合わせてシロイヌナズナ野生株または pgm-1 に導入した形質 転換体を作出した。その結果、それらの形質転換体では、特にリン欠乏生育時の葉 における TAG 蓄積量が通常生育時の野生株の約 20 倍以上に、根では約 6 倍以上に 増加することがわかった。また、リン欠乏条件下での各形質転換体の生育は、野生 株や pgm-1 と同程度以上であり、このシステムの導入はリン欠乏下の植物の生育に は悪影響を与えないことがわかった。今後、このシステムにさらに改良を加え、油 脂含量をさらに増大させるとともに、油脂に含まれる脂肪酸をより付加価値性の高 い脂肪酸に改変することで、国内外に広がる農作不適地とされているリン欠乏土壌 の有効活用した植物の葉や根における油脂生産の実用化に結び付くことが期待で きる。 Shimojima, M., Madoka, Y., Fujiwara, R., Murakawa, M., Yoshitake, Y., Ikeda, K., Koizumi, R., Endo, K., Ozaki, K. and Ohta, H. (2015) An engineered lipid remodeling system using a galactolipid synthase promoter during phosphate starvation enhances oil accumulation in plants. Front. Plant Sci. doi: 10.3389/fpls.2015.00664 12 O3 ガラクト脂質合成経路の進化 脇山有紀1、粟井光一郎1,2 1 静岡大学大学院・総合科学技術研究科・理学専攻,2 静岡大学・電子工学研究所 ガラクト脂質モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)とジガラクトシ ルジアシルグリセロール(DGDG)は,シアノバクテリアから陸上植物まで,すべ ての酸素発生型光合成生物に保存されている。これらの膜脂質はチラコイド膜の構 築だけでなく,光合成タンパク質複合体の機能にも関与していることから,チラコ イド膜に重要であると考えられている。しかし,シアノバクテリアと陸上植物では, MGDG と DGDG の合成経路が異なり,それぞれの反応に関わる酵素も異なること がわかっていた。最近,これらの酵素をコードする遺伝子がすべて同定されたこと で,光合成生物におけるガラクト脂質合成経路の分布を調べることが可能となった。 そこで,ゲノム配列の明らかとなっている光合成生物で,シアノバクテリア型,植 物型どちらのガラクト脂質合成経路を利用しているか調べた。 まず,1次植物である灰色藻,紅藻,緑藻のゲノム配列を調べたところ,すべて の種で植物型の MGDG 合成経路を利用していることがわかった。一方,DGDG 合 成経路では分布が異なっており,灰色藻と原始紅藻ではシアノバクテリア型の DGDG 合成酵素を,真正紅藻や緑藻では植物型の DGDG 合成酵素を利用している ことがわかった。灰色藻や原始紅藻で利用されているシアノバクテリア型 DGDG 合成酵素が実際に DGDG 合成を行っているか,灰色藻の遺伝子を単離して調べた ところ,DGDG 合成活性を確認することができた。以上の結果から,植物型 MGDG 合成酵素遺伝子は1次共生の直後に,植物型 DGDG 合成酵素遺伝子は原始紅藻か ら真正紅藻へと分岐する過程で獲得されたと予想された。 2次植物では,一部例外(ポーリネラ)を除き,調べた限りの種(渦鞭毛藻,珪 藻,褐藻,真正眼点藻,ハプト藻,クリプト藻)で植物型のガラクト脂質合成経路 を持つことがわかった。これらの種は紅藻を共生することで葉緑体を獲得したと考 えられている。紅藻のうち,原始紅藻はシアノバクテリア型の DGDG 合成酵素を 持つ。このことから,おそらく植物型の DGDG 合成経路を持つ単細胞性の紅藻, 例えばチノリモなどの単細胞性紅藻と共通起源を持つものが取り込まれ,2次植物 の葉緑体となったのではないかと考えられた。 13 O4 クラミドモナスの脂質合成系の多様性 佐藤直樹1,2、森山崇1,2、豊島正和1,2、平嶋孝志1,2, 1 2, 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻, JST, CREST クラミドモナス属の緑藻は二本のべん毛をもつ遊泳性の単細胞生物で,光独立栄 養条件でも光混合培養条件でも生育する。多くの種が存在するものの,遺伝学的な 研究に用いられてきた種は限られており,なかでもゲノム解読が行われた C. reinhardtii が標準的な株として用いられている。ところがこの名前の株にも大きく 分けて3系統あり,最もよく使われる Levine の 137c 系統(cc-124, 125, cw15 など) は硝酸塩の利用ができず,アンモニアを要求する。Cambridge line (CC-1010 など), と Sager line (C9 など)は,硝酸塩を含む培地中で,光独立栄養条件で生育できる。 C. reinhardtii の株はどれもホスファチジルコリン(PC)を合成できない。国立環境研 究所で保存されているクミドモナス属の約 80 株についてつくられた系統樹に基づ いて 12 株を調べた結果,4株が PC をもつことがわかった。これらの株について, イルミナ MiSeq によるドラフトゲノム配列解読を行い,リン脂質合成系の酵素群 の存在を調べた結果,2株において,ホスホエタノールアミンをメチル化する酵素 (PEAMT)をコードすると思われる配列が検出された。また,32P をトレーサーとし たリン脂質ラベル実験の結果,このうちの1株(C. asymmetrica)が,PE のメチル化 とは異なる,早期に PC にラベルを取り込む経路をもっていることがわかった。こ れは PEAMT によるホスホコリン合成を介する経路と考えられる。PEAMT をコー ドすると思われる cDNA を取得したが,他の生物の酵素にはない余分な配列を含ん でおり,大腸菌で発現したタンパク質に活性はなかった。ところが,C. aplanata に は,余分な配列を含まない PEAMT がコードされていることがわかり,この cDNA を大腸菌で発現したところ,所期の活性が検出された。これに対して,C. debaryana と C. sphaeroides には,既知の PC 合成系酵素をコードする遺伝子は見いだされな かった。 これらの株について,含まれる脂肪酸の種類を詳しく調べた結果,これまで C. reinhardtii で特徴的とされた 18:3(5,9,12)をもつものと,18:3(6,9,12)をもつものに分 けられた。さらにこの両者の分布は重なることがなく,系統関係とよく一致してい た。これらの情報をもとに,クラミドモナス属の緑藻の脂質に関する多様性を議論 したい。 14 O5 ラパマイシン処理による微細藻類 Euglena gracilis の 脂質生産の増加 1 向田志保 、小川拓水2、谷澤靖洋1,3、大石加寿子1、太田大策2、 有田正規1,4 1 国立遺伝学研究所・生命情報センター,2 大阪府立大学・生命環境科学研究科, 3 東京大学・新領域創成科学研究科,4 理化学研究所・環境資源科学研究センター 免疫抑制剤ラパマイシンの標的遺伝子である TOR1 は全ての真核生物に保存さ れており、我々の EST 及び RNA-seq データ解析により、微細藻類 Euglena gracilis も TOR1 及びその関連遺伝子を有することが分かっている。ラパマイシンは、TOR1 の活性を阻害することによって、オートファジーを誘導することがよく研究されて いる。動物や酵母などの生物種は、ラパマイシンに対して感受性を示し、増殖阻害 や細胞内脂質の増加などがみられる。ラパマイシンは TOR1 シグナル伝達経路を介 して、超長鎖脂肪酸(VLCFA)の伸長酵素(VLCFAE)を阻害するという報告 1 もある。一方、高等植物は非感受性であり、著しい表現型の変化はみられない。微 細藻類は、感受性と非感受性のものに分かれており、ラパマイシン処理に関する知 見の蓄積は十分でない。 我々は、VLCFA を有する藻類(E. gracilis,Chlamydomonas reinhardtii)と、そう でないとされる藻類(Cyandiioshyzon merolae)にラパマイシン処理を施し、その影 響を調べた。その結果、E. gracilis と C. merolae は、共に最終濃度が 10 µM の高濃 下でも増殖にそれほど影響はなく、クロロフィル量の低下がみられた。E. gracilis は脂質量の増加がみられたが、メタボローム解析の結果からは脂質組成にはほとん ど変化がみられず、VLCFAE には影響を及ぼしていない可能性が示唆された。さ らに、最終濃度が 50 µM 以上で増殖及び脂質量の低下がみられた。一方、C. merolae には脂質量の変化はみられなかった。C. reinhardtii は、最終濃度が 100 nM で著し い増殖阻害がみられ、脂質量は増加したが、クロロフィル量の低下はみられなかっ た。ただし VLCFA が増えているとするメタボローム解析結果もある。 このように、微細藻類においては、応答が種によって大きく異なる。微細藻類の 多くは窒素欠乏など細胞増殖が抑制された環境下で脂質を蓄積するが、E. gracilis はラパマイシンにより TOR1 シグナル伝達経路を制御することで、窒素欠乏と同様 の表現型を示すことが分かった。 1) Zimmermann, C. et al; Cell Reports, 5, 1036 (2013). 15 O6 炭疽病菌感染時の侵入菌糸嚢膜における膜脂質 島田 貴士1,高野 義孝2,植村 知博1,中野 明彦1, 3,上田 貴志1, 4 1 東京大・院理,2 京都大・ 院農,3 理研・光量子工学,4 さきがけ 病原性糸状菌は植物組織に感染する際に,侵入菌糸を伸ばして植物から栄養を吸 収している.生きた細胞から栄養を吸収する活物寄生段階においては,侵入菌糸は 植物細胞を壊すことなく,植物細胞内に陥入していく.侵入菌糸嚢膜は侵入菌糸を 取り囲む植物側の膜である.病原菌細胞と植物細胞を隔てる侵入菌糸嚢膜は,植物 ―病原菌相互作用のインターフェイスとして機能する重要な役割を持っていると 考えられる.しかしながら,侵入菌糸嚢膜がどのようにして伸展していくか,その 機構は明らかになっていない. 本研究では,病原性糸状菌として作物に大きな被害を与えている炭疽病菌を用い て,侵入菌糸嚢膜がどのような性質を持つ生体膜であるのかを明らかにし,侵入菌 糸嚢膜の伸展機構の解明を目標とした. 侵入菌糸嚢膜のアイデンティティを決定するために,シロイヌナズナの様々なオ ルガネラマーカーを用いて,侵入菌糸嚢膜の観察を行った.その結果,侵入菌糸嚢 膜には,細胞膜局在型アクアポリンや,細胞膜局在型の SNARE である SYP121 が 局在していた.このことから,侵入菌糸嚢膜は細胞膜としてのアイデンティティを 持っている可能性が示唆された. 侵入菌糸嚢膜の膜組成についてさらに詳しく調べるために,ホスファチジルイノ シトールリン酸の可視化ラインを用いて観察を行った.その結果,ホスファチジル イノシトール 4,5-ビスリン酸が侵入菌糸嚢膜に顕著に集積していることが明らか になった.このことは,侵入菌糸嚢膜が細胞膜とは異なるアイデンティティを持つ ことを示唆している. ホスファチジルイノシトール 4,5-ビスリン酸の合成酵素である PIP5 kinase も,侵 入菌糸嚢膜に集積していることがわかった.興味深いことに,PIP5 kinase の過剰発 現体では,炭疽病菌の感染に弱くなることが明らかとなった.これらの結果から, 炭疽病菌はホスファチジルイノシトール 4,5-ビスリン酸が集積した侵入菌糸嚢膜 を作らせることで,侵入菌糸の伸展を可能にしていることが示唆された. 今後は侵入菌糸嚢膜に局在する他の因子を探ることで,侵入菌糸嚢膜伸展メカニ ズムを解明していくことを考えている. 16 O7 細胞内での代謝が植物のかおり吸収を担っている 村本祥子1、杉本貢一1,2、肥塚崇男1、谷晃3、高林純示4、松井健二1 1 山口大学大学院・医学系研究科(農学系),2 ミシガン州立大学,3 静岡県立大学 食品栄養科学部、4 京都大学生態学研究センター 植物には嗅覚器はないようだが、いくつかの植物でその生育環境に漂うかおり成 分を受容している例が報告されている。例えば、セージブラッシュは傷害を受ける と特有のかおり成分を放出するが、隣接する野生タバコがそのかおりを受容すると 植食者に対する抵抗性を高める。また、ライマメは維管束系が直接連結していない 枝間での効率的なシグナル伝達にかおりを用いている。我々も近年、食害を受けた トマトから放散されたかおりに無傷トマト植物を曝露すると曝露植物のその後の 食害に対する抵抗性が高まることを明らかにした。このように植物がかおりを受容 し応答する例が多く報告されているが、植物がどのようにかおりを受容するのかは ほとんど明らかでない。 そこで、私たちは植物のかおり受容機構解明の一環として食害特異的かおり成分 に曝されたトマトの代謝物解析を行った。その結果、かおり曝露トマトで二糖配糖 体のひとつ、ヘキセニルビシアノシドが特異的に蓄積していることを見いだした。 この配糖体のアグリコン部(ヘキセノール)は食害トマトから放散されるかおりの 主要成分で、同位体標識したヘキセノールを用いた検討によりこの配糖体のアグリ コンは全て気相から取り込んでいることが明らかとなった。配糖体化はグリコシル トランスフェラーゼによる糖転移反応が担っており、細胞内での反応であろう。気 相を漂ってきたヘキセノールは気孔を介したガス交換に伴い、植物組織内間隙に取 り込まれ、細胞表面に到達する。その一部は細胞内との気液分配により細胞内に浸 潤するが、細胞内での配糖体化が進むと気液分配平衡が液相側に傾き、より多くの ヘキセナールが細胞内に浸潤することとなる。 かおり成分の代謝はヘキセナールの還元、メタクロレインのグルタチオン化など で確認できた。いずれの場合もこうしたかおり成分代謝がかおり成分の気相からの 吸収を促進している機構と考えられる。トマト二糖配糖体は昆虫毒性を示し、代謝 産物そのものがかおり応答を担っていた。一方、還元やグルタチオン化は NADPH やグルタチオンを消費することから細胞内レドックスバランスが変化すると予想 され、これが引き金になって防衛反応が惹起されている可能性が考えられる。この ように植物のかおり受容の少なくとも一部はかおり成分の細胞内代謝によるかお り吸収促進が担っていると考えられる。今後この仮説の実証が必要である。 17 O8 細胞性粘菌の生存戦略とポリケタイド 齊藤玉緒 上智大学理工学部 細胞性粘菌 D. discoideum のゲノム中には 45 個にも及ぶポリケタイド合成 酵素(PKS)遺伝子が存在することが知られており、これまでに知られるどの生物 よりも多くの PKS 遺伝子を持つ。このことは、細胞性粘菌が土壌という環境の中 で生き残るために盛んに化学物質を介したコミュニケーションを取っていること を反映していると考えられる。 それでは、どのように生存戦略としてのポリケタイドが機能しているのか。この問 題を解き明かす最初のステップとしてこれまで、細胞性粘菌でのみ見られるハイブ リッド型 PKS である Steely 酵素の産物と機能に関する研究を主に行ってきた。ま ず SteelyB 酵素は発生中期にあっては柄細胞分化誘導分子 DIF-1 の骨格を合成する が、発生の最終段階では Late Chlorinated Compounds (LCCs) を産物として与える。 一方 SteelyA 酵素の産物である 4-methyl-5-pentylbenzene-1,3-diol (MPBD)は発生の最 終段階に胞子成熟を誘導する。更に MPBD は発生初期において cAMP に対する粘 菌アメーバの走化性を調整していることが解った。つまり Steely 酵素の産物である ポリケタイドは細胞性粘菌の子実体形成の鍵となるステップを制御していると考 えられる。 細胞性粘菌にとって子実体形成は、飢餓状態を生き抜く生存戦略で、休眠胞子を 作ることにより飢餓環境を耐える。始原的な種では集合した細胞の全てが胞子に分 化するが、より進化したグループでは集合体のうちの約2割を柄細胞として分化・ 空胞化させることによって全体の8割を占める胞子を地上から持ち上げ、運び屋 (vector)との接触の可能性をあげる生き残り戦略をとる。柄細胞分化は細胞性粘菌 を社会性アメーバとして考えた場合には胞子細胞の生き残りのための利他行動と 考えられ、細胞性粘菌は進化とともに利他行動を発達させてきた。細胞性粘菌の変 異体の中には利他行動をとることを拒否し fair share 以上に胞子になる cheater や、 より柄になる傾向が強い loser と呼ばれるものがある。これらの行動の一部もポリ ケタイドによって制御されていることが分かりつつある。 ポリケタイドがどのように細胞性粘菌の生存に関わっているのか、その可能性につ いて検討したい。 18 O9 ナンノクロロプシス NIES-2145 での クラミドモナス由来リン欠乏応答プロモーターを 用いた油脂合成 岩井雅子1、堀孝一1,2、関本(佐々木)結子3、下嶋美恵1、太田啓之1,2,3 1 2 東京工業大学・生命理工学研究科・生体システム専攻, JST・CREST, 3東京工業大 学・ELSI 多くの藻類は窒素欠乏などの栄養欠乏条件下でトリアシルグリセロール (TAG)を蓄積することが知られており、近年藻類が生産するTAGやTAGに含まれ る脂肪酸が化学工業用油脂やバイオ燃料の原材料として注目されている。その一方、 窒素欠乏条件では光合成や新規脂肪酸合成が抑制され、藻類の生育が著しく阻害さ れることから、有用油脂の生産においては、生育しながら油脂を貯める手法の開発 が課題となっている。我々はこれまでに緑藻クラミドモナスを増殖させながら光合 成の場である葉緑体を維持してTAG蓄積をできる条件を探索し、リン欠乏条件では 窒素欠乏条件ほど劇的な細胞増殖抑制は見られないことを見出した。さらにその条 件下でのTAG蓄積を遺伝子操作によって強化することに成功した。しかし、クラミ ドモナスは、栄養欠乏時にTAGだけでなくデンプンも蓄積し、また高密度での培養 が難しい。今回、我々は高密度培養でき、細胞中に油脂だけを多量に貯める海産性 の真正眼点藻ナンノクロロプシスを用いて、リン欠乏条件は窒素欠乏条件と比べ、 生育を維持しながら油脂を高蓄積することを見出した。そこでクラミドモナスなど の藻類や植物がリン欠乏に適応する際に起こすリン脂質から糖脂質への膜脂質の転 換が、 二次共生藻であるナンノクロロプシスでも機能していると予測し、リン欠乏 時の膜脂質の変動や膜脂質転換に関わる遺伝子の応答を調べた。その結果、ナンノ クロロプシスでもリン欠乏時に糖脂質合成酵素遺伝子の発現が誘導され、リン脂質 と糖脂質が置き換わることでリン欠乏に適応することを見出した。そこで緑藻クラ ミドモナスから取得したリン欠乏応答性プロモーターとTAG合成遺伝子DGTT4を結 合してナンノクロロプシスに導入した結果、脂質の蓄積を強化し、脂肪酸の組成を 改変することに成功した。今回の結果は、緑藻とは分類上も全く異なる二次共生藻 ナンノクロロプシスで、緑藻クラミドモナス由来のリン欠乏応答性プロモーターを 用いることによりTAG蓄積の増強と脂肪酸組成の改変ができることを示している。 19 O10 種皮のクチクラ形成を制御する転写因子の 機能解析 大島良美1、鳴海貴子2、金子康子3、石川寿樹4、川合真紀4、高木優1,5、 光田展隆1 1 産業技術総合研究所・生物プロセス研究部門,2 香川大学・農学部,3 埼玉大学・ 教育学部, 4 埼玉大学大学院・理工学研究科, 5 埼玉大学・環境科学研究センター クチクラは植物の地上部表皮細胞表面を覆っている脂質性の構造であり、主にワ ックスとクチンから構成されている。クチクラは植物を乾燥や外敵の侵入から保護 するとともに、発達段階における組織の癒着を防いでいる。植物の各組織や発達段 階では様々な形態、厚さ、機能をもったクチクラが形成される。それぞれのクチク ラがどのように形成制御されているかについては未だ不明な点が多い。シロイヌナ ズナの R2R3 MYB サブグループ 9 には花弁やおしべ、トライコームなどのクチク ラ形成を制御する MYB106, MYB16 に加え LATE MERISTEM IDENTITY2 (LMI2) が属する。LMI2 は花芽の発生運命決定に関わることが知られているのに対し、茎 頂以外にも未熟種子の表面や果実で発現していることから、これまで知られていな い機能を持つことが示唆されている。 本研究では、LMI2 の新規機能を明らかにするため、CRES-T 法を用いた。CRES-T 法は転写因子に強力な転写抑制ドメイン(SRDX)を融合して植物で発現させること により、機能重複した転写因子が存在する場合でも任意の転写因子の機能欠損の表 現型を誘導することができる。35S プロモーター下で MYB17-SRDX を発現させた ところ、葉や花表面の癒着、表面の水分透過性の上昇、茎のエピクチクラワックス の減少などクチクラ欠損の表現型を示した。さらに、トレニアホモログ TfMYBML3 の CRES-T 適用トレニアも同様なクチクラ欠損を示したことから、LMI2 タンパク 質は種間で共通してクチクラ形成を制御する機能を持つことが示唆された。 シロイヌナズナ種子形成における LMI2 の生理機能を調べた。T-DNA 挿入ライン lmi2-2 では種子表面が癒着し、癒着が原因と見られる珠柄の断裂などが起こった結 果、1 さや当たりの成熟に至る種子数は野生型の半分以下に減少した。lmi2-2 未熟 種子の表皮細胞の TEM 観察の結果、クチクラが野生型と比較して薄くなっている ことが明らかになった。さらに、種子表面ワックスの分析及びクチンを含むポリエ ステルの分析等の結果から、LMI2 は未熟種子の正常なクチクラ形成を誘導するこ とにより、種子の成熟を促す機能をもつことが明らかになった。 20 O11 シロイヌナズナにおけるコリン・ エタノールアミンキナーゼの機能解析 林映辰1、劉昱志1、中村友輝1 1 アカデミアシニカ・植物及微生物研 コリンキナーゼおよびエタノールアミンキナーゼは、植物のコリン化合物やリン 脂質(ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン)の代謝に関わる リン酸化酵素である。シロイヌナズナには、哺乳類や酵母のコリンキナーゼおよび エタノールアミンキナーゼと相同性の高い4つのキナーゼ遺伝子が存在するが、そ れらのノックアウト体を用いた機能解析はこれまで報告されていなかった。そこで、 我々はこれらのキナーゼを Choline/ethanolamine kinase (CEK)として、まず、CEK1, CEK2, CEK3 および CEK4 の T-DNA 挿入変異体を取得して解析した。その結果、 CEK1, CEK2, CEK3 のノックアウト体はいずれも脂質組成に変化を与えなかったも のの、CEK4 のホモ接合体は取得できなかった。遺伝子相補実験および相反交雑実 験の結果、CEK4 のホモ接合体は胚性致死であることがわかった。GUS レポーター を用いた CEK4 の組織別発現を調べたところ、CEK4 は花粉や胚を含む様々な組織 で発現していることがわかった。また、Venus 蛍光タンパク質をレポーターとした 細胞内局在解析を行ったところ、CEK4 は細胞膜に局在する可能性が示された。 CEK4 は胚発生の後期に高発現することがわかり、CEK4 のホモ接合体は心臓型胚 の時期以降の発生が正常に進行しないことがわかった。35S プロモーターを用いて CEK4 を過剰発現する形質転換体を作製したところ、成熟した鞘におけるホスファ チジルコリン含量に上昇がみられ、またトリアジルグリセロール量も野生株に比し て乾燥重量あたり 2 倍程度増加した。これらの結果から、CEK4 はグリセロ脂質の 生合成および胚発生に必要な酵素であることが明らかとなった。 参考文献 Lin et al, 2015 Plant Cell 27:1497-1511. 21 O12 植物に見出されたグリコシルイノシトールホスホ セラミド特異的ホスホリパーゼ D の性質 田中保1、伊藤葵1、木村朱里1、松岡久嗣1、喜田孝史1、Sheuli Afroz1、 今井博之2、徳村彰3 1 徳島大学薬学部,2 甲南大学理工学部,3 安田女子大学薬学部 キャベツ葉をすり潰すと、植物型セラミド-1-リン酸(フィトセラミド-1-リン酸) が生じた。この現象について調べた結果、キャベツ葉には植物スフィンゴリン脂質 であるグリコシルイノシトールホスホセラミド(GIPC)のリン酸—イノシトール間 を水解するホスホリパーゼ D 活性が存在することが明らかになった(Tanaka, et al., FEBS J 2013)。今回、この酵素活性(GIPC-PLD)の性質と分布を調べた。GIPC-PLD はグリセロ型リン脂質やスフィンゴミエリンには全く作用せず、専ら GIPC を加水 分解した。この酵素活性はキャベツ、ダイコン、シロイヌナズナなどアブラナ科植 物の根で高かったが、リョクトウやニンジンの根でも検出された。また、調べたほ とんどの植物において、葉では高い GIPC-PLD 活性が検出されなかったが、キャベ ツの内側の若い葉は例外的に高い活性を示した。さらにリョクトウではモヤシの段 階で高い活性を示すが、生育するに従って活性が低下していくことがわかった。 GIPC の役割の一つは GPI アンカーとしての機能である。GIPC-PLD は植物が成長 する際に必要となるアンカー蛋白の切り放しを担っているのかもしれない。 22 O13 細胞性粘菌におけるポリケタイド DIF-1 作用機序の解明に向けて 荒木 剛 イギリス ダンディー大学 生命理学部 細胞性粘菌 D. discoideum は、飢餓条件下に置かれると多細胞体制を構築し 最終的に柄と胞子の2種類の細胞からなる子実体を形成するという発生様式の単 純さから細胞分化研究のモデル生物として用いられている。ポリケタイド DIF-1 は、 ポリケタイド合成酵素(III 型 PKS: SteelyB)により細胞性粘菌自身によって生成さ れ、発生過程における柄細胞への分化に機能している事が明らかになっているが、 その作用機序はその多くが未解明のまま残されている。 細胞性粘菌 STAT 転写因子(Signal Transducer and Activator of Transcription) STATc は DIF-1 によって活性化される転写因子の1つであり、その活性化スイッ チであるチロシンリン酸化は TKL(Tyorsine Kinase-Like)タンパク質 Pyk2 とチロ シン脱リン酸化酵素 PTP3(Protein Tyrosine Phosphatase-3)によって調節されてい る。ここで DIF-1 は PTP3 の脱リン酸化活性を阻害することで STATc 転写因子のチ ロシンリン酸化量の増大/活性化を引き起こすことが明らかとなり、ポリケタイド DIF-1 の細胞内シグナル伝達経路の一部が示された 。また、DIF-1 処理によりアク チン繊維が非常に早くまた一過的に脱重合されること、薬剤処理による人為的なア クチン繊維の脱重合によって STATc 転写因子の活性化が起こることから、アクチ ン細胞骨格系が DIF-1 の受容機構もしくはシグナル伝達経路の一部として機能し ていることが示唆される。 加えて、最近行った Phospho-SILAC 法(質量分析)によるタンパク質リン 酸化変化の網羅的解析からは、DIF-1 に応答して多くのタンパク質にリン酸化量の 変化が確認されており、これは DIF-1 の作用機序の解明に重要な手掛かりとなるも のと考える。 今後、タンパク質リン酸化とアクチン細胞骨格、これら2つに注目してさ らなる解析を行っていくことで、未だ明らかになっていない DIF-1 受容体の同定を 含め、ポリケタイド DIF-1 の作用機序の解明を目指したいと考えている。 23 ポスター発表要旨 24 P1 新規ハイブリッド型ポリケタイド合成酵素 SteelyB の産物多様性機構の解明 山中彩夏 1、飯島知之 2、品川知則 1、深澤汐香 1、齊藤玉緒 2 1 上智大学大学院理工学研究科理工学専攻生物科学領域 2 上智大学理工学部物質生 命理工学科 【目的】細胞性粘菌のもつ SteelyB はマルチドメイン構造を持つⅠ型ポリケタイド 合成酵素(PKS)のチオエステレースドメインがケトシンセースであるⅢ型 PKS に置き換わった構造を持つ新規のポリケタイド合成酵素である(Austin et al., 2006 )。 先行実験により、stlB 遺伝子は発生中期では予定胞子細胞領域で発現し、予定柄分 化 誘 導 因 子 で あ る Differentiation Inducing Factor-1 (DIF-1) の 前 駆 物 質 で あ る phlorocaprophenone (PCP)を合成すると示された(Austin et al., 2006 )。一方、発生後 期では柄で発現していることが分かっている。またその際、Ⅲ型 PKS が切り離さ れて単独で働いて phloroglucinol を合成し、DIF-1 が脱塩素化された DIF-3 の代謝物 とカップリング反応を起こすことにより Late Chlorinated Compounds (LCCs)を合成 していると推測された(Kita et al., unpublished data)。この仮説を立証する為、本研究 では、stlB 欠損株に対しⅢ型 PKS を子実体期の柄でのみ発現させるコンストラクト をトランスフォームした形質転換体を作製し、DIF-3 を外部から与えることにより LCC が合成されるかを確かめることで SteelyB が発生後期でⅢ型 PKS を切り離し、 単独で働いて LCC の合成に関与していることを示すことを目的とした。また、主 要な LCC の構造決定も目的とした。 【方法】細胞性粘菌の柄の部分でのみ発現する ST プロモーターに、Ⅲ型 PKS と TAP tag をつなげたコンストラクトを作製し、このコンストラクトを stlB 欠損株に 導入した。作製した株を発生させ、発生段階ごとにサンプルを作製し、western blotting を行った。また、構造決定は子実体の柄細胞を回収し、エタノールにより 抽出したものを分離精製する。 【結果】stlB 欠損株においてⅢ型 PKS と TAP tag を発現する株を得ることが出来た。 また、western blotting によりⅢ型 PKS と TAP tag が柄において発現していることが 確かめられたが胞子においても発現していることが分かった。また、柄において目 的サイズよりも小さいサイズのバンドが出ていることが分かった。このことから柄 においてⅢ型 PKS 内でも酵素の切り離しが起こっていることが示唆される。構造 決定では、stlB 欠損株で存在しない化合物を2つ含むサンプルを分離中である。 25 P2 リン欠乏時およびリン再供給時における シロイヌナズナの脂質転換機構の解析 藤原亮太1、円由香1、太田啓之1,2,3、下嶋美恵1 1 東京工業大学・生命理工学研究科,2JST・CREST,3 東工大・ELSI 植物はリン欠乏時に生体膜中のリン脂質を糖脂質へと転換し、無機リン酸を他の 必要な生体内の反応へと供給する。また葉において、通常微量にしか存在しない貯 蔵脂質であるトリアシルグリセロール (TAG) がリン欠乏時に高蓄積することが近 年明らかになった (Pant et al., 2015; Shimojima et al., 2015) 。これらの脂質転換の機 構および生理学的意義を解明するため、リンを再供給した時の膜脂質組成および貯 蔵脂質量の変動を解析した。 リン欠乏下で生育させたシロイヌナズナ野生株にリンを再供給して生育させる と、膜脂質組成に変化が生じ、通常条件下で生育させた場合とほぼ同じ膜脂質組成 に戻ることが分かった。糖脂質をリン脂質へ転換する、リン欠乏時とは逆の膜脂質 転換機構の存在が示唆された。リン欠乏時の膜脂質転換が正常に行われない変異体 (pah1pah2) ではリン欠乏下でモノガラクトシルジアシルグリセロール (MGDG) が 減少し、リンを再供給してもさらに減少した。MGDG 特異的な 16:3 脂肪酸の割合 もリン欠乏時に減少し、リン再供給時にさらに減少した。このことから、リン欠乏 時の膜脂質転換が、リン再供給時の膜脂質転換にも重要である可能性が示唆された。 リン欠乏時の葉において蓄積した TAG は、リン再供給時には減少した。TAG の 脂肪酸組成を解析したところ、リン欠乏時では 18:1 と 18:3 脂肪酸の割合が高く、 リン再供給時では 16:0 と 18:0 脂肪酸の割合が高かった。蓄積した TAG が一様に分 解される場合、脂肪酸組成はリン欠乏時と変わらないはずである。すなわち、リン 再供給時には TAG の脂肪酸種特異的に分解が起こっている可能性が示唆された。 リン欠乏時に、TAG 生合成の最終段階を担う 3 種類の主要酵素遺伝子 (DGAT1, DGAT2, PDAT1) の発現量は増加しなかった。一方、TAG の分解に関わるリパーゼ (SDP1) の発現量がリン欠乏時に減少し、リン再供給時に増加することが分かった。 これらの結果から、植物はリン欠乏にさらされると、SDP1 の発現量を抑えること で、膜脂質転換経路で供給される DAG から生成された TAG を蓄積すると考えら れる。また、リン再供給時では SDP1 の発現量を再び増大させ、地上部で蓄積され た TAG を分解することで成長を促進していると考えられる。 26 P3 リン脂質ホスファチジルコリン蓄積緑藻 Chlamydomonas asymmetrica における油脂蓄積条件 の検討と、油脂増産株作出の試み 山田達也1、栗田朋和2、佐藤直樹2,3、西田生郎1, 2 1 埼玉大学大学院理工学研究科・生命科学部門、2JST, CREST、 3 東大・総合分化研究科 真核単細胞藻類のモデル生物である Chlamydomonas reinhardtii は、窒素、リン酸、 硫黄の欠乏や強光、塩など、様々なストレスに応答して細胞内に多量の油脂を蓄積 する。油脂は細胞質中に脂肪滴 (lipid droplet、LD) という形で蓄積され、その 95% 以上がトリアシルグリセロール (TAG) により構成される。TAG はバイオ燃料の原 料として注目されている。 ホスファチジルコリン (PC)は高等植物において TAG 合成に用いられる主要な脂 質である。C. reinhardtii は PC を持っておらず、主に、葉緑体膜脂質を介して TAG を合成すると考えられている。PC を介して TAG を合成すれば、葉緑体が損なわれ ず、光合成活性を維持したまま TAG を蓄積できると期待される。Chlamydomonas asymmetrica は PC を 蓄 積 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Sakurai et al., 2014) が C. asymmetrica における TAG 蓄積の経路は、これまで明らかになっていない。本研 究 で は C. asymmetrica の 成 長 過 程 と ス ト レ ス 条 件 下 で の 脂 質 を 分 析 し 、 C. asymmetrica における TAG 蓄積経路について考察した。。 C. asymmetrica は、対数増殖期、定常期、窒素欠乏条件とリン酸欠乏条件の各段 階で細胞を回収し、脂質解析を行った。定常期、窒素欠乏条件、およびリン酸欠乏 条件で TAG の蓄積が見られたが、そのときの TAG の脂肪酸組成は、いずれの条件 においてもよく似ており、葉緑体膜脂質である MGDG、DGDG、PG に由来すると 思われる脂肪酸の割合が高かった。したがって、PC を持つ C. asymmetrica におい ても、葉緑体膜脂質を分解し TAG を合成していることが示唆された。今後、C. asymmetrica において PC を介した TA 合成を可能にする方策を検討する。 27 P4 利他行動メカニズム解明に向けた ポリケタイド合成酵素遺伝子 pks26 機能解析 松本郁加1、齊藤玉緒2 1 上智大学大学院・理工学研究科・理工学専攻, 2 上智大学・理工学部・物質生命理工学科 【目的】細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum は、利他行動を示す『社会性アメーバ』 である。利他行動とは自己の損失を顧みずに他者の利益を図る行動であり、アリ、 ミツバチなどの社会性昆虫を始めとする動物や、植物に至るまで、広く偏在してい る。しかし、多くの生物では分子生物学的解析が難しいため、利他行動に関する研 究は現在、数理学的なものに留まる状態である。一方、細胞性粘菌は利他行動を示 すと共に、遺伝子操作法が確立しており、これまで不可能であった分子生物学的解 析が可能である。細胞性粘菌において、2008 年に利他行動関連遺伝子の大規模探 索が行われ、いくつかの REMI mutant が解析された。その中でポリケタイド合成酵 素遺伝子 pks26 の REMI mutant は loser であると報告されている。そこで本研究で は、pks26 遺伝子について解析を行うことで、利他行動の機構及び、ポリケタイド との関連性の解明を目指した。 【方法】D. discoideum を用いて pks26 遺伝子破壊株(pks26-株)を作製し、その表現型 の解析を行った。また、野生株と pks26-株を混合したキメラにおいて、各株の空間 的分布を追跡することで、細胞型の比率を評価した。さらに、同様のキメラを発生 させ継代し、全体に対する pks26-株の割合の変化を Q-PCR を用いて解析した。 【結果】Homologous recombination を用いて、D. discoideum を背景とする pks26-株 を作製した。表現型を解析したところ、野生株と pks26-株とでは、細胞増殖には差 はない一方、発生過程に違いが確認された。また、野生株と pks26-株のキメラを 2 パターンのアプローチから解析したところ、pks26-株は子実体の柄に分化しやすく、 loser としての性質を持つことが示唆された。以上より、pks26 は利他行動に関連し た遺伝子であり、利他行動メカニズムの一端として、ポリケタイドが関与する可能 性が示された。今後は、pks26 と利他行動との相関について、再現性を確認すると 共に、表現型の差異及び実際の産物を解析することで、利他行動を引き起こす作用 機構を明らかにしていきたい。 28 P5 植物スフィンゴ脂質の代謝と機能における 長鎖塩基不飽和化の役割 石川寿樹、川合真紀 埼玉大学大学院・理工学研究科・環境制御システムコース スフィンゴ脂質は真核生物に普遍的な生体膜構成脂質で、生体膜上のマイクロド メイン構造の形成を介して様々な細胞機能に関与すると考えられている。スフィン ゴ脂質の疎水性セラミド骨格を構成する長鎖塩基 (LCB) および脂肪酸、また多様な 親水性糖鎖構造は、膜脂質としてのスフィンゴ脂質の動態や分子機能を規定するこ とが予想されるが、その分子機序には未解明な点が多い。シロイヌナズナ変異体を 用いた先行研究において、LCB Δ8 位の不飽和化が細胞膜流動性の維持と低温耐性 に寄与することが明らかとなり、スフィンゴ脂質疎水部の不飽和構造がストレス環 境下における膜機能の維持に重要な役割を果たすことが示唆された。また我々は LCB Δ8 不飽和結合の cis/trans 比が植物ごとに顕著に異なることを見出した。LCB Δ8 位の cis 型不飽和結合は植物特異的な構造であり、trans 型や飽和型と比較して 生体膜流動性を高める効果が高いと考えられる。特にイネに含まれる LCB および イネ由来不飽和化酵素 OsSLD の産物は極めて高い cis/trans 比を示し、シロイヌナ ズナ等の trans 型植物とは異なる機能を有することが考えられた。そこで OsSLD の 機能を明らかにすることを目的として、過剰発現イネ系統を作出しその表現型を解 析した。総 LCB 組成分析の結果、OsSLD 過剰発現イネでは高い cis/trans 比を保っ たまま LCB 不飽和度が大きく上昇していることが確認された。また全スフィンゴ 脂質分子種を一斉に定量分析するスフィンゴリピドミクス解析を行ったところ、野 生型イネにおいて不飽和型 LCB が選択的に含まれる glucosylceramide (GlcCer) クラ スにはほとんど変化が見られず、逆に通常は飽和型が大部分を占める glycosylinositolphosphoceramide (GIPC) クラスにおいて不飽和型 LCB の顕著な蓄積 が認められた。この結果は、SLD による LCB 不飽和化がスフィンゴ脂質合成系全 体に複雑な影響を及ぼすことを示唆している。さらに、細胞膜流動性との関連が知 られるアルミニウム毒性に対する耐性を解析したところ、OsSLD 過剰発現イネで は有意な耐性向上が認められ、スフィンゴ脂質不飽和化による生体膜流動性の向上 が低温に加えアルミニウム耐性にも寄与することが示唆された。以上の結果は、 SLD を利用した植物スフィンゴ脂質の代謝系改変が技術的に可能であり、新たな 植物ストレス耐性向上の分子育種標的として有望であることを示している。 29 P6 シロイヌナズナにおけるホスファチジン酸ホスホ ヒドロラーゼ過剰発現体における窒素欠乏耐性 機構の解析 1 吉竹悠宇志 、佐藤諒一1、円由香1、村川雅人1、駿河航1、杉浦大輔2、 中村友輝3、野口航2、太田啓之1, 4, 5、下嶋美恵1 1東京工業大学・大学院生命理工学研究科、2東京大学・大学院理学系研究科 3アカデミアシニカ・植物及微生物研究所 4東京工業大学・ELSI、5JST・CREST リン酸は植物が生育する上で欠かすことの出来ない重要な栄養素の一つである。 しかし、土壌中の多くのリン酸は植物が吸収出来ない難溶性の塩になっているため、 植物はよくリン欠乏に陥る。この際、植物は生体膜のリン脂質を糖脂質に変換する ことでリン酸を得ている。この膜脂質転換において、リン脂質のホスファチジン酸 ( P A ) を脱リン酸化する酵素ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ(PAH1,PAH2) がシロイヌナズナで同定されている(Nakamura et al., 2009)。この二重欠損体はリン 欠乏耐性が著しく低下することが分かっていたが、我々はこの欠損体がリン欠乏耐 性だけでなく、窒素欠乏耐性も著しく低下すること、またこの二重欠損体をバック グラウンドに作成したPAH1及びPAH2の過剰発現体は窒素欠乏時でも光合成能を 維持でき、窒素欠乏耐性が高くなることをこれまでに見出した。 今回我々は、PAHの過剰発現体では窒素欠乏時に、チラコイド膜の主要構成膜脂 質であるモノガラトシルジアシルグリセロールのターンオーバーが活性化されて いることを明らかにした。さらに、窒素欠乏時でもPAHの過剰発現体は葉緑体チラ コイド膜のスタッキングを維持していることを電子顕微鏡による観察で明らかに した。このことから、PAHを介した小胞体から葉緑体へのジアシルグリセロール供 給は光合成膜のターンオーバーに重要な役割を担っていること、そして窒素欠乏時 の植物体における光合成膜のターンオーバーの活性化は、窒素欠乏耐性に大きな影 響を与えることが示唆された。 30 P7 窒素栄養欠乏下における緑藻クラミドモナスの 脂質蓄積変異体 tar1-1 の解析 梶川 昌孝、新川 はるか、椹木 裕里、山野 隆志、福澤 秀哉 京都大学大学院・生命科学研究科 微細藻における窒素欠乏での中性脂質(TAG)蓄積制御機構の解明を目指して、 TAG 低蓄積変異体を単離し、TAG 蓄積制御因子として Dual-Specificity Tyrosine Phosphorylation-Regulated Protein Kinase をコードする TAG accumulation regulator1 (TAR1)遺伝子を見出した。tar1-1 は混合栄養(酢酸資化/光合成)かつ窒素欠乏 2日目で培地からの酢酸の取り込みが低下し、TAG 蓄積量も野生型の 10%に低下 した。一方、光合成活性、クロロフィル量また複数のクロロフィル生合成関連遺伝 子の発現が野生型より高く維持されていた。TAR1 は酵母のグルコース欠乏時の細 胞分裂抑制に関わる Yak1 タンパク質リン酸化酵素と相同性を示し、in vitro でカゼ イン、ミエリン塩基性タンパク質および自己タンパク質に対してリン酸基転移活性 を示した(Kajikawa et al., 2015, Plant Physiol.)。一方、tar1-1 変異体は、光独立栄 養かつ窒素欠乏条件で、通気する CO2 濃度が増加すると酢酸存在下とは逆に TAG を蓄積した。窒素欠乏処理後2日間 0.001%CO2 通気したとき野生型レベルだった TAG 蓄積量は、5% CO2 通気で野生型の 2.7 倍に増加した。また、光合成活性なら びにクロロフィル量は、混合栄養かつ窒素欠乏条件下と同様に野生型より高く維持 されていた。以上の結果から、TAR1 は窒素欠乏時に外環境中の炭素源の量・種類 に応じて、タンパク質リン酸化および遺伝子発現を介して TAG 蓄積・光合成活性 の制御を行っていると考えられる。 31 P8 緑藻クラミドモナスにおける 脂質蓄積制御因子 TAR1 の関連因子の探索 小川真梨菜、新川はるか、梶川昌孝、福澤秀哉 京都大学・生命科学研究科 多くの微細藻は窒素欠乏ストレスに応答して、トリグリセリド(TAG)やデンプ ンを蓄積する。光合成で固定した炭素を脂質へと変換する代謝制御の機構について は未解明な部分が多い。この制御に関わる因子として、Dual-specificity Tyrosine phosphorylation-Regulated Kinase(DYRK)型タンパク質リン酸化酵素をコードする 遺伝子 TAG accumulation regulator 1(TAR1)を報告した(Kajikawa 他, Plant Physiol. 2015)。この遺伝子の変異体 tar1-1 は、光混合栄養(酢酸資化/光合成)かつ窒素 欠乏条件下で、培養液あたりの TAG 蓄積量が野生型の約 10%に減少し、培地から の酢酸の取り込みが抑制される。一方、光独立栄養かつ窒素欠乏条件で2日間培養 すると TAG 蓄積量が野生株の 2.7 倍に増加し、クロロフィル分解が抑制され、光 合成活性が野生株よりも高く維持されていた。これらの事実から、TAR1 は窒素欠 乏条件下において、光合成活性の抑制と炭素源の種類に応じた TAG の蓄積制御に 関わっていると考えられる。しかし、TAR1 がどのようなタンパク質のリン酸化を 介して TAG 蓄積や光合成活性を制御しているのかは不明である。そこで本研究で は、窒素欠乏条件において tar1-1 変異体と共通する表現型を示す変異株を単離する ことで、TAR1 の上流あるいは下流で働く因子を同定し、窒素欠乏への感知と炭素 代謝の制御機構を明らかにすることを目的とする。 これまでに、中性脂質を染色する蛍光試薬 BODIPY を用いて、約 66,000 株の挿 入変異体から、セルソーター分取システムにより、光混合栄養かつ窒素欠乏条件に おいて蛍光強度が低下した変異体を選抜した。そのうち 307 株について、同じく中 性脂質を染色する AdipoRed 蛍光染色により二次選抜を行い、光混合栄養かつ窒素 欠乏条件で2日間培養した場合に、野生株の 50%以下の蛍光強度を示す変異体 11 株を選抜した。さらにこの 11 株から、光独立栄養かつ窒素欠乏条件で2日間培養 した時に、培養液あたり野生株の2倍以上 TAG を蓄積する株を8株選抜した。こ のうちの7株が野生株の2倍以上のクロロフィル蓄積量を示し、さらに2株につい ては tar1-1 変異体と同程度にクロロフィルが残存していた。今後はこれら7株につ いて変異原因遺伝子の同定を進める。 32 P9 好熱性シアノバクテリアにおける酸性脂質の機能 遠藤嘉一郎1、小林康一1、和田元1,2 1 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻,2,JST・CREST, 植物の葉緑体やシアノバクテリアのチラコイド膜は、主に 4 種類の脂質で構成さ れており、これらの脂質の中でスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG) とホスファチジルグリセロール(PG)は、極性基にマイナスの電荷を持つ酸性脂 質に分類される。好熱性シアノバクテリア Thermosynechococcus vulcanus の光化学 系 II(PSII)複合体の X 線結晶構造解析により、SQDG は PSII にモノマーあたり 4 分子存在しているが、その役割は詳しくわかっていない。これまでにシアノバクテ リア、緑藻、シロイヌナズナなどで SQDG 欠損変異株が作製されている。それら の変異株を用いた解析から、PSII の電子伝達反応への関与、チラコイド膜の維持な ど、SQDG 欠損の影響は生物種によって様々であることがわかっている。また、 SQDG と PG はお互いの機能を相補できると考えられているが、その詳細な仕組み はよくわかっていない。 本研究では、好熱性シアノバクテリア Thermosynechococcous elongatus BP-1 にお いて、SQDG の合成に関わっている UDP-スルホキノボース合成酵素を欠損させた ΔsqdB 株を作製した。この変異株の増殖速度は、野生株に比べて若干遅くなって いるものの光独立栄養的に増殖した。変異株では、SQDG が欠損していたが、その 欠損に見合った PG の増加が見られ、SQDG が PG に置き換わっていることが明ら かとなった。このことから、T. elongatus BP-1 では、SQDG の機能を PG で補って いることが示唆された。また、野生株でも PG は全脂質の 4%程度しか存在してお らず、T. elongatus BP-1 は必要最低限の PG しか持っていないことが予想された。 野生株と変異株の PSII 活性も測定したが、両者に大きな違いはなかった。 シアノバクテリアや植物では、リン欠乏状態の培地で生育させるとリン脂質が減 少し、糖脂質が増加することが知られている。T. elongatus BP-1 でも同様の現象が 見られたが、ΔsqdB 変異株ではリン欠乏状態に移すと、3 日ぐらいまでは増殖でき るものの、それ以上培養を行うと、細胞が死んでしまうことが判明した。変異株が リン欠培地で増殖できない原因を、現在解析中である。 33 P10 植物の色素体分化における MGDG 合成の役割 藤井祥1,小林康一1,和田元1 1 東京大学大学院・総合文化研究科 モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)は葉緑体のチラコイド膜にお ける代表的なガラクト脂質であるが,暗所で発芽した黄化芽生えの色素体であるエ チオプラストにも豊富に存在している。エチオプラストは,プロラメラボディ (PLB)とよばれる格子状の構造をもつ。PLB にはプロトクロロフィリド(Pchlide) と NADPH,NADPH:Pchilde 還元酵素(POR)からなる複合体が多量に存在する。 この複合体に組み込まれた Pchlide は,光が照射されると POR のはたらきにより中 間体であるクロロフィリド(Chlide)を経てクロロフィルへと変換される。この反 応は,エチオプラストから葉緑体が発達するうえで不可欠である。Pchlide:NADPH: POR 複合体が結合する PLB の膜は MGDG に富んでおり,MGDG はエチオプラス トで重要な役割を担っていると考えられる。しかし,これまでに単離された MGDG 合成欠損株は,胚形成が不完全で黄化芽生えを観察できないため,エチオプラスト における MGDG の機能は明確にされてこなかった。 そこで本研究では,デキサメタゾン誘導性の人工マイクロ RNA によって,MGDG 合成酵素 MGD1 の遺伝子発現を抑制する系(amiR-MGD1)を用いた。amiR-MGD1 を組み込んだシロイヌナズナにデキサメタゾンを処理し,暗所で発芽させると,非 処理株に比べて MGD1 の発現が 34%にまで抑制された。このとき,MGDG 含量は 56%まで減少しており,POR をコードする遺伝子の発現も 50%程度に抑制されて いた。また,黄化芽生えに光を照射した際に Chlide へと変換される Pchlide の量は, MGD1 の抑制によって 50%程度減少した。以上のことは,暗所での MGD1 による MGDG 合成が,エチオプラストへの分化に重要であり,とくに Pchlide を Chlide に変換する Pchlide:NADPH:POR 複合体の形成に必要である可能性を示している。 さらに,MGD1 を抑制した黄化芽生えに光を照射すると,その直後は非抑制株と 同様に光合成関連遺伝子の発現が急激に誘導された。しかし,この誘導は時間が経 過するにつれて弱まり,クロロフィルの蓄積も著しく阻害された。このことから, MGD1 の発現は,エチオプラストが葉緑体へと分化する初期段階には大きく影響し ないが,その後の発達過程において,チラコイド膜の形成と光合成関連遺伝子の発 現やクロロフィルの合成を協調させるしくみに関わってくると考えられる。 34 P11 植物オキシリピン生成に関与する CYP74 ファミリーの分子進化 肥塚崇男1、石崎公庸2、Cynthia Mugo Mwenda1、堀孝一3、佐々木(関本) 結子4、太田啓之3,4、河内孝之5、松井健二1 1 3 山口大学大学院・医学系研究科(農),2 神戸大学大学院・理学研究科, 東京工業大学・大学院生命理工学研究科,4 東京工業大学・地球生命研究所, 5 京都大学大学院・生命科学研究科, 植物ホルモンであるジャスモン酸や特徴的な芳香を持つ「みどりの香り」、抗菌 活性を示すビニルエーテルは、脂肪酸が酸化して作られる植物オキシリピンとして 知られている。これら植物オキシリピンは、脂肪酸ヒドロペルオキシドを共通の基 質として、シトクローム P450(CYP)74 ファミリーに属するアレンオキシドシン ターゼ(AOS)やヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)、ジビニルエーテルシンタ ーゼ(DES)によって生合成される。それ故、CYP74 はオキシリピン経路の分岐に 位置し多様な化学構造を制御する鍵酵素と考えられ、多数の AOS や HPL、DES が 被子植物で同定、機能解析されてきた。しかしながら、ヒメツリガネゴケ (Physcomitrella patens)を除くコケ植物や藻類においては CYP74 が存在するかど うかさえも全くの未知であった。 そこで、本研究では陸上植物進化の基部に位置する苔類のゼニゴケ(Marchantia polymorpha)、車軸藻植物門のクレブソルミディウム(Klebsormidium flaccidum)か ら CYP74 遺伝子の探索、同定を行った。既知の CYP74 アミノ酸配列をもとにゼニ ゴケおよびクレブソルミディウムのゲノムデータベースを検索したところ、ゼニゴ ケから 2 つ(MpAOS1, MpAOS2)、クレブソルミディウムから1つの候補遺伝子 (KfAOS)が見つかった。In silico 解析の結果、いずれの遺伝子ともにヘム結合領 域や I-ヘリックス領域、EXLR モチーフを有し、MpAOS2 及び KfAOS においては N 末端領域に葉緑体移行シグナルペプチドを有することが予測された。なお、これ らは既知の CYP74 ファミリーと共通する特徴であった。大腸菌発現系を用いて MpAOS、KfAOS の酵素機能解析を行った結果、いずれもリノール酸およびリノレ ン酸の 13-ヒドロペルオキシドに対して高い AOS 活性を示し、MpAOS においては アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸の 15-ヒドロペルオキシドに対しても AOS 活性を示した。なお、クラミドモナスやラン藻では CYP74 遺伝子が見つから ないことから、植物進化の過程で最初に AOS が出現し、その後、HPL や DES へと 酵素の機能進化がおこったと考えられた。 35 P12 ミリスチン酸を多量に含むシアノバクテリア に関する研究 齋藤勝和1, 2、遠藤嘉一郎1、小林康一1, 2、渡辺麻衣1、池内昌彦1、 村上明男3、村田紀夫4、和田元1, 2 1 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻,2CREST,3 神戸大学・ 自然科学系・内海域環境教育センター,4 基礎生物学研究所 シアノバクテリアは、不飽和化酵素による脂肪酸の不飽和化に基づいて、4つの グループに分類される。グループ1に属する株では、不飽和化酵素により sn-1 に 結合した脂肪酸のΔ9 の位置で不飽和化がおこる。グループ2では、sn-1 に結合し た C18 脂肪酸のΔ9, Δ12, Δ15 および sn-2 に結合した C16 脂肪酸のΔ9, Δ12 の位置 で不飽和化がおこる。グループ 3 では、sn-1 に結合した C18 脂肪酸のΔ6, Δ9, Δ12 の位置で不飽和化がおこる。グループ4では、sn-1 に結合した C18 脂肪酸のΔ6, Δ 9, Δ12, Δ15 の位置で不飽和化がおこる。本研究で用いた Cyanothece sp. PCC 8801 は、ゲノム上にΔ9 とΔ12 の位置に二重結合を導入する不飽和化酵素の遺伝子のみ を有するため、上記の4つのグループには分類されないシアノバクテリアであるこ とが予想された。そこで、この株について脂質分析を行い、脂肪酸の不飽和化につ いて検討した。 Cyanothece を 23℃、30℃、38℃の培養温度で生育させ、増殖を調べたところ、 23℃では 30℃と 38℃に比べて生育が遅かった。酸素発生活性も培養温度で測定し たところ、30℃と 38℃で培養した細胞では同程度の活性であったが、23℃で培養 した細胞では 30℃や 38℃で培養した細胞に比べて低かった。各培養温度で培養し た菌体から脂質を抽出して GC により、脂肪酸分析を行ったところ、ガラクト脂質 では 14:0 と 18:2(9,12)を多く含んでいた。酸性脂質(SQDG と PG)では、14:0、16:0、 18:2(9,12)を多く含んでいた。一般にシアノバクテリアでは、脂質の sn-2 の位置に は C16 脂肪酸が結合しているが、Cyanothece では C16 脂肪酸の割合が低く、C16 以外 の脂肪酸が sn-2 位に結合している可能性が考えられた。そこで、ポジション分析 を行ったところ、sn-2 の位置に 14:0 が多く結合していることが明らかとなった。 Cyanothece の他に海洋性シアノバクテリアの Synechococcus sp. WH 8102 や Synechococcus sp. CC 9311 などの脂質分析も行ったので、それらの分析結果につい ても合わせて報告する。 36 P13 不等毛植物門のディクティオカ藻における 高度不飽和脂肪酸合成の解析 三谷英李1、市育代1、川端篤志2、河地正伸2、加藤美砂子1 1 お茶の水大・院・ライフサイエンス, 2国立環境研究所・生物資源保存研究室 ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6)などの高度不飽和脂肪酸は、胎児や幼児にお ける神経系の発達に必要であり、成人における心循環系の病気や炎症性の病気に有 効だと考えられている。これらの高度不飽和脂肪酸は化学合成することができず、 精製品を必要とする場合は魚油を分離源としている。また、養殖魚の餌料における 高度不飽和脂肪酸の必要性も知られており、餌料藻類の多くは DHA などの高度不 飽和脂肪酸を含有している。本研究では、独立行政法人国立環境研究所微生物系統 保存施設(NIES コレクション)に保存されている微細藻類の中から高度不飽和脂肪 酸含有量の高い不等毛植物門のディクティオカ藻を選抜し、微細藻類を用いた高度 不飽和脂肪酸の生産技術開発に必要な基礎的な知見を明らかにすることを目的と している。 選抜したディクティオカ藻綱では 18:4 や 18:5 や 22:6 の高度不飽和脂肪酸が高い 割合で検出された。このディクティオカ藻の Florenciella sp.(NIES-2304)と Pseudopedinella pyriformis(NIES-1381)を用いてこれらの高度不飽和脂肪酸結合脂質 の解析を行った。その結果、18:4 は MGDG や DGDG などのガラクト脂質や、DGTA などのベタイン脂質といった多様な脂質から検出された。一方で、18:5 のうち 90% 近くはガラクト脂質から検出され、22:6 は DGTA や DGCC、ステロールと考えら れる未同定脂質 A から 90%近く検出された。ディクティオカ藻における脂肪酸合 成に関しては、18:4 は 18:5 に代謝される経路と 20:4 から 20:5、22:5 を経て 22:6 に 代謝される経路が報告されており(Simon et al.2012)、今回の結果からこの経路がそ れぞれ葉緑体と細胞質基質で行われているということが推定される。今後はこれら の脂肪酸合成経路の解析を行い、ディクティオカ藻における高度不飽和脂肪酸合成 の生理学的意義について明らかにしていきたい。 37 P14 クロレラにおけるトリアシルグリセロール蓄積 – 低温と混合ストレスの有効性 林泰平 1、平井一帆 1、都筑幹夫 1,2、佐藤典裕 1,2 1 東京薬科大学生命科学部、2JST・CREST 種々の藻類では、窒素欠乏ストレス下、トリアシルグリセロール(TG)が蓄積 することが知られている。私たちはこれまでにクロレラ等の緑藻の細胞を用いて、 硫黄欠乏、空気乾燥、高浸透圧の各単独ストレスにより、TG 蓄積が誘導されるこ と、さらに弱い高浸透圧ストレスでも全栄養素の欠乏と同時に負荷されれば、大き な TG 蓄積効果が出ることを報告してきた(1, 2, 3)。今回は、TG 蓄積を誘導する さらなる新規条件を探索する目的で、培養温度の低下がクロレラの TG 蓄積におよ ぼす影響を調べた。クロレラを 30℃で3日間培養すると、細胞の生育は培養開始 時の 20 倍に達した。このような通常細胞での TG 量は脂肪酸ベースで全脂質の 1.5 mol%と微量であった。一方、培養温度を 20℃に下げると、細胞の生育は3日間で 培養開始時の 9 倍の増加に抑えられた。この場合、TG 量は1日で全脂質の 41.9 mol%に増加し、その後、2日間、その高い値が維持された。一方、培養液中での TG 量は経時的に増加し続け、脂肪酸ベースで 160μM に達した。ところが、乾燥 細胞における TG 量の割合は、生育温度の低下により最初の1日で 0.2 % (w/w)から 17.9 % (w/w)に増加したが、その後、逆に減少し、3日後には 5.5 % (w/w)となった。 以上の結果から、クロレラでは生育温度の低下が TG 蓄積を誘導する新規環境因子 であることが見出された。さらに、TG は、低温移行後の初期には他の細胞内化合 物全般と比べると、より優先的に蓄積するが、中・後期では、その蓄積速度は相対 的に低下することが示された。次に、生育温度の低下と同時に全栄養素の欠乏を同 時に細胞に負荷したところ、生育は3日間で培養開始時の4倍の増加に留まった。 同時に、全脂質当たりの TG の割合、そして培養液での TG 量はいずれも経時的に 増加し、3日後には各々、77.9 mol%、326μM にまで増加した。この混合ストレス 下では、培養温度の低下のみの単独ストレスの場合と異なり、乾燥細胞における TG の量的割合が経時的に増加し、3日後には 34.2% (w/w)にも達した。したがって、 生育温度の低下は、全栄養素欠乏との組み合わせで、その TG 蓄積効果が大きく増 大することが明らかとなった。 (1)Shiratake et al. (2013) PloS One 8: e79630. (2)Sato et al. (2014) Front Plant Sci. 5; 444. (3)第 56 回日本植物生理学会年会(2015): 3aI05 38 P15 シロイヌナズナのスフィンゴイド1-リン酸の 代謝動態に及ぼすフモニシンB 1 の影響 柳川大樹 1,2、今井博之 1,2 1 甲南大学大学院・自然科学研究科・生命・機能科学専攻 2 甲南大学・統合ニューロバイオロジー研究所 スフィンゴ脂質は、スフィンゴイドとよばれる長鎖塩基(long-chain base、以下 LCB と略す)を基本骨格にもつ一群の脂質である。スフィンゴ脂質代謝系の分解 産物であるスフィンゴイド 1-リン酸(LCBP)は、LCB キナーゼ(LCBK)によ って合成され、LCBP ホスファターゼ(SPP)により脱リン酸化されて LCB にリサ イクルされるか、もしくは LCBP リアーゼ(DPL)により C16 アルデヒドとホスホ エタノールアミンに分解される。したがって、生体内における LCBP のレベルは、 これら LCBP の合成系と分解系に働く酵素の相対活性によって制御されていると 考えられる。 セラミド合成酵素(LCB-N-アシルトランスフェラーゼ)の阻害剤であるフモ ニシン B1(FB1)を植物組織に処理すると、LCB が蓄積されるとともに、過敏感細 胞死が誘導されることが報告されている。一方、FB1 処理の際は、LCB の蓄積を回 避するために、LCBK による LCBP の合成と、DPL による LCBP の分解というスフ ィンゴ脂質の異化経路の反応が強く働くと考えられるが、その働きの詳細について は、まだ不明な点が多い。そこで、本研究では、シロイヌナズナの LCBP 代謝に関 わる形質転換体を用いて、FB1 処理した際の細胞死の判定に基づく表現型解析と LC-MS/MS による LCB および LCBP の定量分析を行った。具体的には、シロイヌ ナズナの LCBP 代謝に関係する3つの遺伝子(LCBK1、SPP1、DPL1)について LCBK1 を過剰発現、または抑制させた形質転換体(AtLCBK1-OX、AtLCBK1-KD)、およ び、ノックアウトミュータントの spp1, dpl1 を用いて解析した。FB1 処理したロゼ ット葉をトリパンブルー染色によって観察したところ、AtLCBK1-KD および dpl1 では野生株に比べて染色された細胞が多く観察されたが、AtLCBK1-OX および spp1 ではほとんど観察されなかった。LCB の解析において、AtLCBK1-KD および dpl1 では野生株と比較して、ジヒドロスフィンゴシン(d18:0)が蓄積したために、 全 LCB 量は増加したが、AtLCBK1-OX および spp1 においては減少した。一方、LCBP の解析では、spp1 および dpl1 において、野生株と比較して全 LCBP 量は増加した が、AtLCBK1-OX および AtLCBK1-KD では減少した。これらの結果から、FB1 に よって誘導される細胞死は、LCB の蓄積が原因であり、LCBP は細胞死を回避する 代謝産物であることが分かった。よって、LCB をリン酸化する経路は、細胞死を 制御するのに不可欠であることが示唆された。 39 P16 DGA1 活性型変異体を dga1 破壊株に過剰発現させ た脂質蓄積性出芽酵母株での糖新生の解析 神坂 泰1、木村和義1、植村 浩1、Rodrigo Ledesma-Amaro1,2 1 産業技術総合研究所・生物プロセス,2,サラマンカ大学・微生物遺伝, 我々は、出芽酵母 S.cerevisiae を用いて脂質蓄積機構の解明及び油脂生産系の構 築をめざしている。これまでに、出芽酵母の貯蔵脂質合成酵素ジアシルグリセロー ルアシル基転移酵素である Dga1p の N 末端欠失活性型(Dga1ΔNp)を、DGA1 の 破壊株に過剰発現させて、10%グルコースでの培養で、脂質含量が 45%程度に達 することを見出した。また、DGA1 の破壊株では、隣接する遺伝子でヒストンアセ チル基転移酵素をコードする ESA1 の発現が低下することが脂質蓄積に重要である ことも見出した。この形質転換株では、非発酵性の炭素源である 2%グリセロール/ 乳酸での増殖が低下しており、Esa1p が糖新生の律速酵素であるホスホエノールピ ルビン酸カルボキシキナーゼ(Pck1p)をアセチル化して、活性化するという報告 から勘案して、Esa1p の機能低下により、Pck1p を介して糖新生を低下させたため に増殖が低下したと推測された。今回は、この dga1 破壊株由来の脂質蓄積性株で の糖新生について、さらに検討を行った結果を報告する。 まず、pck1 破壊株に Dga1ΔNp を過剰発現させた形質転換株に、Pck1p あるいは Esa1p を発現した株を作製し、2%グリセロール/乳酸で培養したところ、Pck1p を発 現した株でのみ増殖したことから、Esa1p は、Pck1p を介して糖新生を亢進させて いることが確認された。また、10%グルコースで培養した時の in vitro PCK 活性を 測定したところ、Dga1ΔNp を発現させた dga1 破壊株では、野生株に比べて顕著に 低下するのに対し、この株に Esa1p あるいは Pck1p を過剰発現させると PCK 活性 が増加し、dga1 破壊由来の脂質蓄積性株での糖新生の役割が裏付けられた。しか しながら、pck1 破壊株に Dga1ΔNp を過剰発現させた形質転換株を 10%グルコース で培養しても、脂質含量の増加は認められず、糖新生の低下だけでは脂質蓄積しな いことも明らかになった。一方、dga1 破壊由来形質転換株に、Δ9不飽和化酵素 Ole1p を過剰発現させたところ、2%グリセロール/乳酸での増殖低下を抑制した。 dga1 破壊株では、パルミトオレイン酸/オレイン酸比が増加しており、Ole1p の過 剰発現でオレイン酸が増加することが、増殖を改善していると考えられた。以上の 結果から、dga1 破壊由来株では、Esa1p の発現低下による糖新生の低下とともに、 Ole1p の機能低下もおこり、脂質蓄積に寄与していることが推測された。 40 P17 緑藻 Chlamydomonas debaryana NIES-2212 を用いた 効率的な油脂生産のための培養条件の検討 豊島正和、佐藤直樹 東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻,JST-CREST, 緑藻 Chlamydomonas debaryana NIES-2212 は、ホスファチジルコリン(PC)を持つ クラミドモナス属の株であることが 2014 年に当研究室で同定された。昨年の本シ ンポジウムでは、C. debaryana NIES-2212 が通常の光独立栄養条件下、定常期にお いて、多量にトリアシルグリセロール(TAG)を蓄積することを明らかにした。本研 究では C. debaryana NIES-2212 を用いた効率的な油脂生産に向けて、至適な培養条 件と簡便な油脂回収法について検討した。まず、さまざまな光強度(50~400 µmol m-2s-1、MBM 培地、25 ˚C、1%CO2)に対する TAG 蓄積を調べた。倍加時間は光強度 が強い方が短かったが、定常期になったときの細胞濁度(OD750)にはほとんど違いが なかった。120 時間培養したときの TAG 量を比べると、200 µmol m-2s-1 のときが一 番多く、約 200 fmol cell-1 (54 pg cell-1)だった。また、デンプンの蓄積量も一番多く、 72 時間で約 400 pg cell-1 に達した。この条件で TAG を蓄積しているときの細胞が 栄養欠乏になっているのか確認するために、定常期で TAG を蓄積している細胞に 栄養源である硝酸塩やリン酸塩を与えた。しかし、細胞はほとんど増殖せず、脂質 も蓄積したままだったので、栄養欠乏によって TAG が蓄積しているのではないと 考えられた。C. debaryana が細胞質の最外層辺縁にオイルボディを蓄積することか ら、簡便な油脂回収法として目開き 1 µm のナイロンメッシュに通すことを考えた。 多量に油脂を蓄積した細胞をナイロンメッシュに 3~10 回通すことで、細胞から TAG を抽出できた。今後は、通気 CO2 濃度を変えるなどしてさらに効率的に油脂 を生産できる条件を検討する。 41 P18 細胞性粘菌における分化誘導因子 4-methyl-5-penthylbenzen-1,3-diol(MPBD)の 構造活性相関解析 近藤杏奈1、岩崎なつみ1、成田隆明2、村田ちひろ1、小倉徹大1、 臼杵豊展2、齊藤玉緒2 1 上智大学大学院・理工学研究科・理工学専攻、2,上智大学・理工学部 細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum はそのゲノムの中に 45 個ものポリケタイド 合成酵素遺伝子をもち、そのうち 2 つはⅠ型 PKS とⅢ型 PKS が融合した、新規の ポ リ ケ タ イ ド 合 成 酵 素 の Steely 遺 伝 子 で あ る 。 4-methyl-5-pentylbenzene-1,3-diol(MPBD) は D. discoideum の分化誘導因子として同 定され、SteelyA 酵素の産物であることが示された。MPBD の機能としては細胞性 粘菌の発生初期段階に細胞集合を、発生後期においては胞子成熟を制御しているこ とがこれまでの研究で示された。細胞集合と、胞子成熟という一見すると全く異な る発生過程を同一の分子がどのように制御しているのかを解析するため、MPBD お よび MPBD 修飾化合物を用いてその構造と活性の関連を明らかにすることを目指 した。 細 胞 集 合 の 機 能 に つ い て 調 べ る 為 に 行 っ た two dropped assay に お い て 、 4-ethyl-5-pentylbenzene-1, 3-diol (EtPBD)は WT と同じレベルまで chemotaxis を回復 し た 。 ま た 、 1,5-dimethoxy-2-methyl-3-pentyl-benzene (Me protected MPBD) 、 4-methyl-3-pentyl-phenol (Dehydroxy-MPBD)は、WT より低いレベルではあるが回復 を 示 し た 。 し か し な が ら 、 4-propyl-5-pentylbenzene-1,3-diol (PrPBD) 、 5-pentyl-1,3-benzenediol (Olivetol)、5-methyl-1,3-benzenediol (Orcinol) は chemotaxis を 回復させることができなかったことから細胞集合においては MPBD の4位の側鎖 の長さが重要であることがわかった。胞子成熟については今後検討していきたい。 図 1. 4-methyl-5-pentylbenzene-1,3-diol (MPBD) 42
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