トイザらスと赤ちゃん本舗の比較

流通科学大学卒業論文
崔ゼミ
トイザらスと赤ちゃん本舗の比較
38010739
中川
雅子
12月18日提出
・目次
Ⅰ・はじめに
Ⅱ・業界の現状
1. マーケットの市場規模
2. 商品の生産計画について
3. 少子化による影響
Ⅲ・トイザらスの日本進出に関する考察
1.何故日本に進出したのか
2.トイザらス進出による日本の小売店、卸売業への影響
Ⅳ・トイザらスと赤ちゃん本舗との比較
1.物流システムの違い
2.販売方法
3.サービスの違い
Ⅴ・結びに
1
Ⅰ・はじめに
トイザらスと赤ちゃん本舗を比較しようと考えた理由は、同じ玩具の小売店であるが、
歴史、物流システム、販売方法などに違いがある点に興味を持ったからである。
トイザらスは、アメリカに本拠を置く玩具のカテゴリーキラーであり、総売上は一兆円
前後という大企業である。1990 年に日本に参入した。大量一括仕入れ、アメリカ式の、メ
ーカーとの直接取引により商品を仕入れているため、「エブリデーロープライス」といった
低価格での商品提供を実現している。また、コスト削減とサービス水準の平均化を狙い、
従業員を必要最小限にしたセルフ販売を行っている。
対する赤ちゃん本舗は、元々玩具卸売業であり、会員制卸売りで実績を残していた。し
かし 1995 年に、トイザらスから、大店法違反(卸売業だと、大店法の規制を受けないから)
の訴えを受け、小売業に本格進出した。卸売機能を抱えているため低価格を実現している。
会員制だったこともあり、充実したサービスを提供しており、リピーターを多く抱えてい
るところに強みがある。
トイザらスは、低価格を実現する為に、「ロープライス保証」といった、トイザらスより
低価格で商品を提供している店があれば、トイザらス価格との差額を返金するといったサ
ービスを行っている。適用するにあたって、様々な規定があるのだが、赤ちゃん本舗の商
品に関しては、無条件で差額を返金している。このように、トイザらスは、日本国内で、
唯一赤ちゃん本舗をライバル視しているのである。
以下の文章では、トイザらスと赤ちゃん本舗の違いをもっと詳しく検証したい。
Ⅱ・業界の現状
1. マーケットの市場規模
まず、日本の玩具のマーケットがどれくらいのものなのか、ここ10年の統計
をグラフで表してみる。以下のグラフは玩具・テレビゲームを合わせたものであ
り、2002年度の玩具業界の総出荷市場規模は、テレビゲーム市場の不振が大
きく影響し、前年比3.1%減の1兆120億円と算出されている。2003年
2
度の見通しは、更に減少ぎみで、前年比の8.5%減の9263億円と算出され
ている。小売市場規模では、2002年度が、前年比5.3%減の1兆2,991
億円、2003年度は同7.9%減の1兆1,961億円と推計される。
<玩具市場規模推移>
(単位;億円)
国内出荷市場規模 国内小売市場規模
1992 年
8,484
13,180
1993 年
8,692
13,129
1994 年
9,415
13,996
1995 年
10,228
14,845
1996 年
10,761
15,492
1997 年
11,340
16,253
1998 年
10,932
15,611
1999 年
10,576
14,774
2000 年
9,739
13,190
2001 年
10,443
13,723
2002 年
10,120
12,991
9,263
11,961
2003 年(予)
(玩具産業白書
2004年版による)
グラフからは、1997年から、日本における玩具業界の市場規模が小さくなっ
ている事がわかる、この原因として、ひとつは少子・高齢化が考えられるが、果た
して少子・高齢化が、玩具業界の市場規模を小さくしている原因のかという事につ
いては、Ⅱ章の(3)「少子化による影響」で、詳しく検証する。
3
2.商品の生産計画について
商品としての玩具の特徴は、そのライフサイクルが非常に短いことが挙げられる。ライ
フサイクルの短さは、商品にテレビなどのキャラクターを使用しているものが多いため、
放送が終了してしまうと一気に売れ行きが鈍化してしまうことにある。
日本の玩具で最も多く売れていると考えられているのが、テレビ等で使用されているキ
ャラクター商品であり、日本でのテレビ番組の放映は通常 3 ヶ月∼半年、長い場合でも 1
年と言われている。アメリカではクリスマス商戦を前に、一斉に新製品が発売される他は、
日本ほど商品の入れ替わりが激しくない。そのため、日本の玩具専門店は需要の見誤りで
大量の在庫を抱えてしまう危険を常に持っている。
従って、卸を通さないトイザらスは、在庫を自社倉庫に抱えるため、不良在庫を抱えて
しまうといった問題がある。生産については、見込み生産と欠品の多さが挙げられる。生
産計画は、トイショー等のイベントの反響や、小売業者からの注文から予測される。この
ため需給予測が難しく、ヒット商品は欠品になる一方で、売れなかった商品はそのまま在
庫になるという状態の店が多い。また、追加生産についても、商品の入れ替わりの激しさ
から、再出荷する頃には全く売れなくなっていることが多いと考えられ、この点からも、
生産計画の難しさがわかる。そのため、よほどのヒット商品でなければ初回生産の他は追
加生産をしない売り切り型の生産、販売が玩具業界の特徴と言える。
トイザらスでは、毎年クリスマス前に各メーカーのバイヤーを招き、「見本市」といっ
た、メーカーの新作発表会を行う。「見本市」によって、その年の売れ筋を把握し、発注
に役立て、また、各店舗でも、「見本市」で学んだ商品知識を生かした売り場作り、接客
を行う事により、不良在庫を少なくする努力を行っている。このように、商品の不良在庫
を減らすためには、今後、メーカーが何を売りたいのかという事を、小売店が理解し、実
際に消費者の意見を聞くことのできる小売店が、売れるかどうかという事を、判断する事
がより求められてくると考えられる。
4
3.少子化による影響
<15歳未満、65歳以上人口の推移>
25,000
20,000
15,000
15歳未満人口
65歳以上人口推移
10,000
5,000
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
0
(単位:千人・年度)
少子化・高齢化の現状として、総務省統計局によると、2002年10月時点で
の総人口は1億2743人5千人となった。そのうち、15歳未満人口は、前年比
18万2千人減の1801万2千人と、前対年比0.9%の減少となり、1974年
以降29年連続の減少となった。
65歳以上の人口は、前年比75万9千人増の2362万8千人と、前対年比3.
3%増となっており、少子高齢化が進行している。
少子化が進む中、玩具業界は縮小されていくと考えられていた。しかし、現在の
子供は、6 ポケットを持っていると言われており、一人の子供に、多くの大人がお
金をかけるという現象が起こっている。それは、上のグラフを見てもわかるように、
少子化と共に、高齢化が進んでおり、一人の子供に多くの大人がお金をかけるとい
う減少が起こっているからである。
5
しかし、2002年から2003年にかけて、玩具業界は不調であった。その理
由として、少子・高齢化の影響だけが反映しているというわけではないのではない
だろうか。玩具業界が不調な理由の一つとして、強力なヒット商品がない事があげ
られる。癒し系ブームの商品として、トミーのマイクロペット、セガトイズのお茶
犬がヒットしたり、デュエルマスターズや遊戯王のカードゲーム、昭和のレトロブ
ーム昭和をモデルとしたフィギア、玩具菓子、入浴剤などの商品のヒットはあった
が、往来の「ドラゴンクエスト」や「たまごっち」のような大ブームをまきおこす
よなヒット商品が排出されなかった事も原因の一つと考えられる。
また、「癒し系商品」や、「レトロ商品」がブームになっているという事は、近
年、子供がブームをつくる主役ではなくなっている事を表している。つまり、子供
だけでなく、大人むけの商品も多く作られている点から、近年の玩具業界の不調は、
少子・高齢化だけの問題ではないと考えられる。
Ⅲ・トイザらスの日本進出に関する考察
1. 何故日本に進出したのか
アメリカ小売業全体の戦略をみてみると、アメリカ国内では競争が激化しているなかで、
業界の1位、2位しか生き残れない市場の寡占化が進んでいた。従って、国外に進出して
いると考えられる。
では、何故日本に進出してくるのかという点について考えてみると、その理由として、
日本の小売環境が変わってきたことがあげられる。バブル崩壊後の地価・建設費の低下、
加えて大店法運用等の規制緩和による日本への出店余地も増え、流通システムも変わりつ
つあるということで、アメリカは日本に着目していた。消費マーケットとしては、アメリ
カの小売総販売額が 205 兆円に対して、日本は 143 兆円(日本小売業協会の調べによる)
と日本のマーケットサイズも大きく、販売効率も高いので日本進出ラッシュが続いていた
と考えられる。消費者のライフスタイルや購買行動が変わってきていたのも大きなポイン
トである。
また、日本の小売企業は中小商業者が多いため、アメリカのチェーンオペレーションシ
ステムの専門店企業がシェアを拡大できると計算されていたのである。こういった点に、
6
トイザらスも注目し、日本に進出したのである。
しかし、日本に進出している海外小売業は、あまり日本で成功している企業は多くはな
い。例えば世界のウォルマート、カルフールなどが例にあげられる。これらの企業は、ト
イザらスと同じく、卸を通さないメーカーとの直接取引を行っている。しかし、なぜトイ
ザらスだけが成功しているのだろうか?大きな理由として、取り扱っている商品が違う点
が考えられる。ウォルマートやカルフールなど、食品を扱う場合、海外とは違って、日本
にはあまりの多くのメーカーがあるため、卸を通した方が、コストがかからないのである。
日本は食文化に関しては、長い歴史があり、その日本の食文化や、流通ルートを変える
という事は、そう簡単な事ではないのである。その点玩具は、メーカーの数が食品ほど多
くないため、直接取引が成功していると考えられるのである。
しかし、Ⅰ-3少子化で述べたように、1997年以降、玩具業界のマーケットは縮小さ
れている。従って、在庫をすべて自社で抱えているトイザらスは、売れ残った商品も全て
自社の不良在庫となる恐れがあり、卸を賭さず、直接取引が今後も成功し続ける事ができ
るのかという事は、疑問となる点である。
2.トイザらス進出による日本の小売店、卸売業への影響
1)小売店への影響
一点目に、店舗面積の大きさが挙げられる。「トイザらス」の参入以前、玩具業界では大
手量販店の玩具売場は平均150㎡、郊外型玩具チェーン店でも平均350㎡∼500㎡
ほどであった。
しかし、「トイザらス」は参入にあたって店舗面積3000㎡を確保した。こうした「ト
イザらス」の主張は、当時の玩具業界では理解されず、玩具店でそこまで大きな店は必要
ないのではないかという考えが中心であった。それは既存の玩具店がメーカーから供給さ
れる商品をただ消費者に提供するだけという考え方で主流あったためである。
しかし、1991年、茨城県荒川沖に第1号店が開店したとき、アメリカでの「トイザ
らス」の店舗を見ていなかった業界人、及び消費者は非常に驚いた。今まで日本の消費者
が体験したこともないような超大型の店舗を展開したからである。平均売場面積は300
0㎡と従来の玩具専門店と比べ桁違いに広く、中心カテゴリーである玩具商品の品揃えの
豊富さに消費者は圧倒された。今までにないスケールだったため、トイザらス店舗は話題
性を持って伝わっていった。
7
しかし、スケール以上に重要だったのは、開店した「トイザらス」に品揃えされた商品
群は、ただ単に大量の玩具ではなく、その他に自転車・菓子・ベビーフード・紙おむつ・
スポーツ用品・ベビーベッド・子供衣料品などにも及んでいたことである。「トイザらス」
の店舗には「子供のデパート」というコンセプトがあったのである。 「カテゴリー・キラ
ー」である「トイザらス」の特徴として、「玩具を中心とした子供に必要なモノ」というコ
ンセプトを取り、そのコンセプトにそって商品群を揃えたのである。
「トイザらス」が標準
店舗として店舗面積3000㎡を徹底して主張したのは、
「子供のデパート」を展開してい
く上で、どうしてもそれだけの広さが必要だったからである。
二点目に、玩具店が減少していくといった事態が発生した。近年の玩具小売店の状況と、
トイザらスの売上高・店舗数推移を以下に表で示す。
<玩具・小売状況
>
(単位・店)
商店数
20,000
15,000
10,000
商店数
5,000
74
年
76
年
79
年
82
年
85
年
88
年
91
年
94
年
97
年
99
年
01
年
0
(経済産業省「商業統計H14年版」による)
8
<トイザらス売上高推移>
(単位・年度、億円)
売上高
2000
1500
売上高
1000
500
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
0
<トイザらス店舗数の推移>
(単位・年度、店)
店舗数
20
02
20
01
20
00
19
99
19
98
19
97
19
96
店舗数
19
95
19
94
160
140
120
100
80
60
40
20
0
(ベビーザラスを含む)
(玩具産業白書
2004年版による)
商店数からは、1999年から2001年にかけて、玩具商店が1508店舗も減少し
た事がわかる。2年でこれだけの減少は過去最大である。
9
売上高からは、トイザラスは、売上高、店舗数共に、右上がりの状態が続いている事
がわかる。この事は、トイザラスが年々独占化している事を表している。
2002年度は、トイザラスもあまり売り上げがあがっていないが、これは、ヒット商
品があまりなく、玩具業界全体の売り上げが鈍かったからであると考えられる。
店舗数からは、トイザラスは、主要な都市についての店舗設置をほぼ終えており、現在
は、店舗改装などを開始している事がわかるこのことは、地方拡大が一通り終え、全国の
玩具中小業者の殆どがトイザラスの商圏下にはいり、シェアを奪われている事を意味して
いる。
このように、トイザらスは玩具業界のリーダーといえるポジションにあり、多くのメー
カーは、トイザらスの売り場コンセプトにあわせた商品開発を手がけるようになってきて
いる。従って、玩具業界はトイザらス主導の時代となっている。トイザらスが独占状態に
なる分、中小商業者は、価格競争、仕入先の確保に益々苦しんでいる状態である。近年玩
具のヒット商品が少なくなっている事からも、中小商業者は益々減少されていくと予測さ
れる。
2)卸売業への影響
トイザらス参入以前の我が国の玩具業界は、メーカーから問屋へ、問屋から小売店へと
商品が流れており、その各段階でメーカーの決めた価格がほぼ守られる「メーカー主導型」
の業界といわれており、安売りができない仕組みになっていた。従って、トイザらスの日
本進出は、今までになかった「メーカー直接取引」を実現し、卸売業の存在を危うくさせ
る事となった。
米国では、1980 年代前半に約 20 社の玩具問屋があったが、現在では3社しか残ってい
ない。「メーカー直接取引」を掲げるトイザらスが急成長し、問屋の存在を許さなくなって
しまったからである。日本においても、1994年には100社以上あった玩具問屋が、
2004年現在では、70社しか残っていない。つまり、日本においても、トイザらスの
「直接取引」は玩具問屋に大きな影響を与えており、問屋の存在を危うくさせているので
ある。以下に玩具主要卸問屋業績推移をグラフで表す。
10
<卸売り企業売上推移>
(単位・百万円
99 年度
00年度
01年度
%)
02年度
経常利益 前年比 経常利益 前年比 経常利益 前年比 経常利益 前年比
ハピネット
100,823
91.5
126,670
107.5
140,888
111.2
122,515
87
河田
31,652
94.6
32,556
102.9
35,908
110.3
30,828
85.9
モリガング
18,005
95.5
16,868
93.7
18,271
108.3
18,732
102.5
石川玩具
12,800
82.6
11,800
97.1
10,600
89.8
11,600
109.4
ヤマグチ
27,463
110.7
26,071
94.9
28,067
107.7
30,119
107.3
ツクダ
24,155
98.4
20,234
83.7
17,034
84.2 -
デジキューブ
39,204
87
44,966
114.7
29,711
66
<卸売り企業利益推移>
22,874
76.9
(単位・百万円
99 年度
00年度
01年度
%)
02年度
経常利益 前年比 経常利益 前年比 経常利益 前年比 経常利益 前年比
ハピネット
河田
2,087
92.6
2,090
72.6
1,518
72.6
1,380
90.9
146
38.7
313
214.4
1,145
365.8
169
14.8
モリガング
57 -
584 -
石川玩具
1-
65
650
40
61.5
40
100
ヤマグチ
7-
15
214.3
18
120
23
127.8
35 -
645 -
125 -
1,734 -
116 -
ツクダ
デジキューブ
456
27.3
240 -
-
-
-
742
639.7
ツクダに関しては、2003年4月に破綻。デジキューブに関しては2003年11月
に破綻している。
玩具問屋の近年の問題点を以下にまとめる。
①大型玩具業者の破綻が相次ぐ
2002年度後半から、2003年にかけて一般玩具、TVゲームに大ヒット商品が見
当たらず、卸売業者も大きな影響をうけた。また、2003年4月には大手問屋のツクダ
が民事再生法を申請、デジキューブも2003年11月に債務超過による自己破産をする
11
等、玩具業界における卸売業界における卸売業界の構造を大きく変えかねない大倒産がお
こった。
②小売業者の発注が小出しになり、オペレーションが複雑化
近年の不況の影響もあり、小売店側が、在庫リスクを減らすため、大量仕入れから、小
出しに発注をかける動きが主流となっている。卸売業者にとっては、在庫管理をより細か
くする事が求められ、オペレーションがより複雑になっている傾向がある。
③得意先の小売業者の減少
トイザらスの寡占化により、玩具中小小売業者の数が減少している。そのため、卸売業
者にとっては、得意先の数が減少している事態が発生している。
以上の問題点があげられる。
①大型玩具業者の破綻について、破綻経緯、破綻による影響を詳しく述べる。
<ツクダの経営破綻の経緯について>
ツクダは1935年に創業した業界の老舗で「だっこちゃん」「オセロゲーム」「ルービ
ックキューブ」などでヒットをとばした事で知られている、業界の中でも最有力事業者の
一つであった。その後、74年には、オリジナル商品の開発部門をツクダオリジナルとし
て分社化し、ツクダは卸事業者として、大手の一角を占めていた。
破綻の大きな要因となったのは、2000年12月に取引が多かった玩具・靴のチェー
ンテン大手のマルトミが倒産した事で、不良債権が6億6000万円発生し、資金繰りが
悪化したことにある。これに加えて、長年ヒット商品に恵まれなかった事もあって、除々
に体力を消耗し、2002年7月にはツクダオリジナルを約4億5000万円でバンダイ
に売却し、リストラを進めたものの、本業に復調の兆しが見られず、最終的に2003年
4月に、負債総額約80億円で東京地裁に民事再生法手続きを申請した。
ツクダの経営破綻の影響として、
卸問屋の中核の一つが失われた事で、益々中小の専
門小売店は、仕入先の選択肢が限られ、苦境に立たされる事業者も出てきており、この影
響は大きいものである。模型問屋の三ツ星商店の倒産、専門店問屋の鳥居屋の廃業もあっ
て、業界における卸問屋のプレゼンスが益々小さくなってきている。業界は一部大手メー
カーと、トイザらスが主導する業界へと変貌しつつある状況となってきている。
<デジキューブ破綻の経緯について>
デジキューブは1996年に、スクウェアの100%出資で設立され、コンビニエンス
ストア向けのゲームソフト卸売りを中心に、音楽・DVD、ゲーム雑誌等の取り扱いを拡大
12
し、1998年には株式を店頭公開する等、急成長を遂げた。営業基盤をコンビニエンス
ストア向けの商材していることや、コンビニのキオスク端末を活用した音楽配信事業等の
ユニークな事業は、業界内外から注目を集めた。1998年にはスクウェアの「ファイナ
ルファンタジー」シリーズが大ヒットしたこともあり、最盛期(1997年度)の売上高
468億円を計上した。
その後、ゲームソフト市場が急速に悪化し、在庫負担が重なり、財務が悪化、キオスク
端末からの撤退、物流拠点の集約化等、リストラを進めてきたが、2003年3月期の売
上高は228億円と最盛期の半分以下に落ち込み、更に TV ゲーム市場の悪化が進んだ事で、
業績回復の見込が薄くなり、債務超過に陥る可能性がでてきたことから2003年11月
に廃業に至った。負債総額は95億円となっている。
このように、玩具問屋が少なくなる事により、トイザらスの寡占化と、単価のデフレ化
が進んでいる。この事により、力を弱めていた中小小売店は、仕入れチャネルがますます
限定され、仕入れ値を抑える事が難しくなり、利益が減少してくるといった事態につなが
る。このようにしてトイザらスの参入により、往来の日本の玩具中小小売店が姿を消して
しまう事になったのである。
このように、厳しい状況にたたされている玩具卸業界だが、メーカー→卸→小売という、
流通構図が壊れたわけではないので、卸売業としての役割は、今後も玩具業界には必要で
ある。しかし、生き残っていくためには、小売店の小出しの発注に対して、どれだけコス
トを抑え、細かくオペレーションができるかという点と、ヒット商品に恵まれない状況の
中、卸のみとしての機能でなく、自社で、商品開発も行う、メーカー機能もふまえる事が、
今後生き残っていくために重要となるのではないだろうか。
Ⅳトイザらスと赤ちゃん本舗との比較
1.物流システムの違い
<トイザらスの物流システム>
トイザらスは、商品の低価格提供を実現するため、卸を通さず、メーカーとの直接取引
を行っている。発注された商品は、自社の物流センター(市川または神戸)に納入され、
そこから全国の店舗へ配送されるというシンプルかつスピーディなシステムを活用してい
13
る。
(http://www.toysrus.co.jp/truj/intro/system01.html)
また、品切れをなくすための、徹底した在庫管理と発注システムをとりいれている。全
国の店舗が扱う全商品の在庫管理や取引先への商品発注、売れ筋情報の分析に至るまで、
一連の業務を本社でおこなっている。
本社、各店舗、物流センターは、POSを通じてつながっており、日々の売上をはじめ、
商品出入荷、在庫などに関するあらゆるデータのやりとりが行われている。そして、それ
らのデータを本社で統括し、売れ筋商品の分析と合わせた上で、最適なタイミング、最適
な量の商品発注を行う仕組みになっている。
(http://www.toysrus.co.jp/truj/intro/system01.html)
<赤ちゃん本舗の物流システム>
対する赤ちゃん本舗も、自社で物流センターをもっており、北海道物流センター、関東
物流センター、関西物流センターがある。赤ちゃん本舗では、物流のシステムが3パター
ンあるので、以下に紹介する。
14
TC(通過型センター)
<A パターン>
商品ア
→
商品イ
→
商品ウ
→
商品エ
→
店舗 A
A パターンは、商品がそのまま店舗あに届く。トラックが何十台と店舗にばらばらに納品
し、また、時間も決まっておらず、商品がいつ到着するかわかっていない。検品において
も店舗で行う。
<B パターン>
商品ア
→
商品イ
→
商品ウ
→
商品エ
→
商品オ
→
物流センター
→→→
店舗 B
B パターンは、商品がそのまま店舗 B に届くわけではなく、一旦全ての商品が物流セン
ターに入荷し、内容検品を行う。店舗 B に届く時にはそのまま陳列できるように開梱し、
オリコンやカゴ車を使用し配送する。到着時間も決まっている。
<C パターン>
商品ア
→
商品イ
→
商品ウ
→
商品エ
→
商品オ
→
物流センター
→→→
店舗 C
C パターンは、商品がそのまま店舗 C に届かずに、一旦全ての商品が物流センターに集
約され、検品しやすいように売り場毎に分けられます。検品は行わないが、店舗に届く時
15
には検品をすぐ行える状態で届く。店舗に商品が届く時間は決まっており、ばらばらに店
舗に納品されることはない。
このような3パターンに分かれるが、赤ちゃん本舗の殆どの店舗が A パターンである
インショップ型と呼ばれる神戸阪急店や、西宮北口店などは、バックヤードが狭い、周
辺環境上バラバラ納品認められない等の都合上、B パターンになる。C パターンは久御山店
で使われている。
商品を積んだトラックが何十台と店舗に納品すると、交通渋滞の原因となり、近隣に迷
惑をかけてしまう事になり、また、店舗の従業員も何時商品が入荷するかわからないため、
販売に集中できる環境ではなくなってしまう。このような問題を解決するためには、B・C
パターンが理想である。
2社を比べてみると、両社とも、自社に物流センターを持っており、メーカーとの直接
取引を行っている事が分かる。両社とも卸を通さないため、コストを削減する事ができて
いる。
トイザらスは、アメリカ方式での直接取引を日本でも実行しており、赤ちゃん本舗も、
昔、卸売り業であった事からもあり、メーカーとの結びつきが強いため、メーカーとの直
接取引を実行する事ができている。このように、卸を通さない直接取引は、コストを抑え
る事ができる。
しかし、日本の流通に適しているかというと、疑問に感じる問題点もある。卸を通さな
いという事は、在庫を全て自社の倉庫に保管する事になるので、不良在庫を抱えてしまっ
た際、売れ残りの商品が増え、売れののこった商品が売り場に占める割合も増してくる。
また、新商品が入荷しても、新しく売り場に設置するスペースが狭くなってしまうなどの
問題があり、果たしてメーカーとの「直接取引」は、商品の入れ替わりが激しい日本の流
通システムに適しているのかという点については、疑問に感じる点が多くあるのである。
2.
販売方法
トイザらスは、セルフ方式をとっている。ここで、従業員の数を必要最低限におさえ、
人件費を削減している。また、商品の取り置きを以前は行っていなかったが、近年、売れ
筋のものでない商品などは、積極的に取り置くようになった。
またトイザらスでは、以下の3つの運営ポリシーを基本に、販売を行っている。
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(http://www.toysrus.co.jp/truj/intro/policy02.html)
ベビーザらスでは、①世界中の厳選された商品を 12,000 点以上取り揃えるワールド・ク
オリティー、②専門知識を持ったスタッフがお客さまをお迎えするベビーズ・スペシャリ
スト、③店内イベントを積極的に開催するコミュニティスペース、の3つをモットーとし、
販売に取り組んでいる。
赤ちゃん本舗は、もともとが卸売り業であったため、CSが得意でないという問題を抱え
ていた。従って、CS向上を目標に掲げており、CS向上委員会を発足させている。CS向上
委員会とは、各店のCSリーダー・CS委員・本社の事務局で組織的にCS活動を行うた
めの機関である。
CS 向上委員会には、いくつかの役割があるので紹介したいと思う。
①CS 委員
各店にはCS委員が2∼3名いる。店でのCS向上に中心となって取り組み、より消費
者に喜んでもらえる店づくりのために何が必要か考え取り組んでいる。
②CS リーダー
各地区から選抜された社員が半年間のCSリーダー研修を受講し、社長からCSリーダ
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ーに認定される。 接客スキルやコミュニ各地区代表のCSリーダーが、本社に集まり毎月
CS会議を開催している。
③CS 会議
各地区のCSの取り組み報告や情報交換、現場で起こっている問題の共有や課題解決の
ための会議である。また、全店の取り組み事例を掲載した、「それいけ!アカチャンホンポ
GO!」というCSニュースも作成している。CS向上委員会事務局は人事部内にあり、C
S会議の議事進行をすると共に、本部として現場をサポートするのが役割である。ケーシ
ョンスキル・OJT スキルを身につけ、地区や店舗でのCSを推進する機関車役になってい
る。
3.サービス
トイザらスは、1997 年 11 月より、イオンカードとセゾンカードと提携し、
「トイザらス・
カード」を発行している。「トイザらス・カード」は、毎月第 2 金曜日に全品 5%割引する
「ジェフリー・フライデー」、ポイント制による割引券プレゼント、カード利用額に応じた
キャッシュバックなど、多くの特典がある。会員数は、180 万人を突破(2003 年 1 月末現
在)している。その他、ギフト需要を見込んでの「こども商品券」や「トイザらスギフト
カード」の取扱いを行っている。
また、「エブリデー・ロープライス」を実現するため、「ロープライス保証」といった、
トイザらスより低価格で商品を提供している店があれば、広告を預かり、トイザらス価格
かのら差額を返すといったサービスをおこなっている。
「Ⅰ・はじめに」でも述べたように、
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「ロープライス保証」を適用するにあたっては、広告の有効期限内である、数量が限定さ
れていない商品である事、などといった規定があるのだが、トイザらスは、日本国内で、
唯一赤ちゃん本舗のみをライバル視しているため、赤ちゃん本舗の商品に関しては、無条
件で「ロープライス保証」を適用している。
対する赤ちゃん本舗は、当初ベビー用品からスタートした経緯もあり、店舗名からもベ
ビーのイメージが強いが、序々にターゲットを拡大しつつある。玩具に関しては、3歳児
までをコアターゲットとした上で、子供を中心としたファミリー層へアピールしている。
また、赤ちゃん本舗は、製造小売業である。小売業態であると同時に、商品づくりも行っ
ている。消費者に、安全で価値のある商品を低価格で提供している。
市場に無いものは、自らが作り、提供している。いわゆる SPA 方式を取り入れている。
SPA とは、自社で商品の企画、製造、販売を行う事である。創業当初より、変化するライ
フスタイルを反映し、消費者のニーズにマッチしたものをつねに求め続け、オリジナル商
品として開発している。さまざまなオリジナル商品を使う方の立場で発想、商品化を行っ
ている。
また、消費者の要望をダイレクトに商品に反映させる「アイデア 365」にも取り組んでい
る。
「アイデア 365」とは、消費者が、こんな商品があったらという要望を目安箱に投函し、
そのアイデアを商品化するというものである。
販売方法、サービスについては、トイザらスは、より価格の低い商品をお客様に提供する
ためのサービスが多く、対する赤ちゃん本舗は、CS に力をいれ、
「アイデア365」のよ
うに一人一人のお客様の声を商品化するなど、お客様の意見を大切にしていこうといた傾
向がみられる。
Ⅴ・結びに
今回トイザらスと赤ちゃん本舗を比較して、今後赤ちゃん本舗が、トイザらスにとって、
今以上に強いライバルとなるのではないかと予想する。現在、少子高齢化が進んでおり、
安売りすれば売れるという傾向から、サービスがよく、付加価値のある商品が売れるので
はないだろうか。それは、
「Ⅱ-3少子化」で述べたように、一人の子供に多くの大人がお金
をかけるといった現象がおこっており、現在の子供は6ポケットをもっているため、大人
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達は、かわいい我が子供のためなら、安さよりも、少しお金がかかっても、サービス、付
加価値を求めるからである。従って、安さと品揃えを強調するトイザらスより、一人一人
の消費者の声を聞こうとする、サービスの充実した赤ちゃん本舗が、今後成長をみせるの
ではないだろうか。
トイザらスは、「エブリデー・ロープライス」を掲げてきたが、近年では、他店との価格
の差があまりなくなってきている。また、CS に力をいれてはいるが、人件費削減のため、
従業員を必要最低限に抑えている。従って消費者に充分な CS ができているとはいえないの
ではないだろうか。価格だけでは生き残れない今、品揃えに加えた新たな方法が求められ
てくる。
また、トイザらスは、現在、売上においては右上がりの状況だが、これは、一年内に多
くの店舗を出店しているからであり、実は一店舗における売上は、3年目までは順調に売
上の伸びをみせても、4年目以降は売上が下がっている店が多い。今年トイザらスは20
0店舗出店の目標を達成し、国内の主要都市には、ほぼトイザらスの店がある状態になっ
ている。そのため、今後は売上が下がる可能性がある。
そこでトイザらスは、ベビーザラスの出店に力をいれている。しかし、強力のライバル
である赤ちゃん本舗は、ベビーの専門からはじまった企業であり、ベビー用品に関する知
識、メーカーのつながりには、古い歴史があるため、ベビーザラスが成功するのかどうか
といった店に関しても疑問な点がある。
赤ちゃん本舗からすれば、トイザらスは、まだまだ売上も多く、店舗数、品揃えからい
っても、強い企業である。現在においては、どちらが勝ち残るか全くわからない状況であ
り、トイザらスと赤ちゃん本舗の戦いは、当分続くと考えられるが、少子・高齢化が進む
今、最終的には、サービスがよく、付加価値のある赤ちゃん本舗が今以上に力を伸ばして
いくのではないだろうか。
<参考文献>
佐藤洋平著「流通業界が危ない。トイザらス上陸」
矢野経済研究所「玩具産業白書2004年版」
http://www.toysrus.co.jp/truj/
http://www.akachan.jp/top.cfm
ovr@rhttp://www.rinku.or.jp
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