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No.12-045
2012.10.1
レピュテーショナル・リスクニュース<第 2 号>
「ソーシャルメディア炎上のメカニズムと企業に求められる対策」
1.はじめに
近年におけるSNS(ソーシャル・ネットワーク・サイト)を中心としたソーシャルメデ
ィアの隆盛には目覚ましいものがある。この背景には、コンピュータの性能の向上、クラウ
ドコンピューティングなどの新しい技術の浸透、スマートフォンユーザーの拡大、などがあ
る。他方、こうした利用者の急激な拡大に対し、
「リスク」への対応・対策が追いついていな
いことを露呈する事態がたびたび垣間見られる。いわゆる「炎上」という現象もその1つで
ある。ソーシャルメディア上での「炎上」は、個人への悪影響のみならず、企業の「レピュ
テーション」にも悪影響を及ぼしかねないケースが発生している。最悪の場合、「信用失墜→
抗議・不買運動→株価下落→経営破綻」といったシナリオもあることを想定しておく必要が
あるのではないだろうか。特に、大企業、有名企業、BtoC企業などは注意が必要である
今や、企業におけるリスク管理上、このソーシャルメディア炎上は無視できない問題である
と認識すべきである。
本稿では、過去の著名な炎上事例をもとにソーシャルメディアにおける炎上のメカニズム
と、今後企業が取り組むべき対策について解説する。
2.過去の炎上事例
表1に近年における著名なソーシャルメディア炎上の事例を取りまとめた。各事例の内容を
精査すると、炎上の原因、内容によって、3つのパターンに分類できる。以下、各パターンの
特徴と炎上までの経緯について解説する。
<表1>
発生時期
1999年6月
情報発信元
パターン
WEB
【放言、暴言】
2006年5月
ブログ
2005年9月
WEB
2007年12月 WEB
2009年4月
WEB
2009年12月 TW
2011年1月
TW
2011年5月
TW
【放言、暴言】
【コミュニティー、慣習、規則の軽視】
【悪のり】
【悪のり】
【コミュニティー、慣習、規則の軽視】
【放言、暴言】
【放言、暴言】
概要
電機メーカーA社の顧客対応の悪さがネットで露呈し掲示板が炎
上!
東京のアトラクション施設でのイベントでアルバイト女性の心無
いコメントでブログが炎上!会社は謝罪!
B社のキャラクター著作権についてのコメントで掲示板が炎上!
会社はキャラクタの商標登録断念!
飲食会社C社の店員が悪のり!「悪のり商品」の投稿動画に批判
が続出して動画サイトで炎上!
米国ピザチェーンD社の店員が掲載した不衛生動画に批判殺到
し、動画サイトが炎上!
飲料メーカーE社のキャンペーンが「スパム」とみなされ批判殺
到!ツイッターが炎上!
都内のFホテル店員が来店・宿泊した芸能人情報を暴露し批判殺
到!ツイッターが炎上!
スポーツ店G社の店員が契約選手夫妻を中傷し批判殺到!ツイッ
ターが炎上!
(1).「コミュニティー、慣習、規則の軽視」パターン
本パターンは企業におけるソーシャルメディアの取組みが、コミュニティー内の慣習やロ
ーカルルールを逸脱したものと判断され、多数から批判を浴びて炎上するのが特徴である。
主に企業が直接批判の対象となる。代表的な事例とその経緯は以下のとおりである。
1
事例:飲料メーカーE社のキャンペーンが「スパム」とみなされ批判殺到!
<きっかけ>キャンペーン応募促進のために Twitter を活用
「コーヒーがくれた素敵な話」を投稿して最優秀賞に選ばれると最高 200 万円
がもらえる」といったキャンペーン促進の切り札として、Twitter を活用。
自動でつぶやくプログラム(bot)を利用して大量投稿していた。
<炎上> 批判が盛り上がる!
フォローしていないアカウントから一方的に宣伝リプライが届いたため
「E社がスパム的なリプライを送っている」と批判の的になる。
特に広告・ネット業界の Twitter ユーザーが素早く反応し、
批判が拡大した。
<終息>
批判の盛り上がりを受けて早期に対応
キャンペーン事務局は Twitter 上で批判が高まっていることに気付いて、自
動投稿プログラムを停止。批判の声が寄せられる一方、
「事態の認識から 2 時
間でのおわびリリース公開はスピーディな対応だった」、
「公式 Twitter でも
お詫びのコメントが掲載されたのは真摯な態度である」として評価の声もあ
がった。
(2).「放言・暴言」パターン
本パターンは企業の行動としてではなく従業員個人が何気なく投稿した内容が、極度に「身
勝手」、「節度を欠く」、「不謹慎」といった内容であったため、多数から批判を浴びて炎上
するものである。投稿者に対しての「制裁」として個人情報が特定されるのみならず、企
業にまで批判が及ぶこともある。代表的な事例とその経緯は以下のとおりである。
事例:スポーツ店G社の店員が契約選手夫妻を中傷し批判殺到!Twitter が炎上!
<きっかっけ>スポーツ店G社の店員が契約選手の来店について Twitter で投稿
<投稿内容(xxxxxは原文から修正)>
「そいえば今日XXXXXXXXXXが来た。 ビッチを具現化したような女
と一緒に来てて、 何かお腹大っきい気がしたけど結婚してんの(^ω
^)?? 」
「帰化したからXXXXXXか w xxxxxxxxxx劣化版みたいな男
が xx劣化版みたいな女連れてきたよ w とりあえずデカイね、ホントに
www 」
<炎上>
ネット上で投稿者が特定される投稿内容への批判が過熱し、2日後には投稿者
が特定されてしまった。その後、投稿者の個人情報がネット上に流出していっ
た。
<終息>
ネット上で投稿者が特定される3日後に企業がお詫びを自社HPに掲載
「本日、弊社社員が、XXXX店へご来店された 弊社契約選手の情報を
Twitter に書き込み、流出させていたことが判明いたしました」
と状況を報告した上で、
2
「この件で、同選手、同選手のご家族をはじめ関係者の皆様及びお客様には多大
なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます」
と謝罪。問題となっている社員については「経緯を聴取し事実関係を調査中」
とし、「処分については、調査結果に基づき、会社規定に従い厳正なる処分を検
討いたします」とした。
(3).「悪のり」パターン
本パターンも従業員個人の行動によるものである。多くの場合、
「注目を浴びたい」、「世間
にアピールしたい」との目的から投稿した内容が、極度に「身勝手」
、「節度を欠く」、「不
謹慎」といった内容であるため、多数から批判を浴びて炎上するのが特徴である。「放言・
暴言」と似ているが、こちらのほうがより「意図的」な行為である。
「放言・暴言」同様に
投稿者に対しての「制裁」として個人情報が特定・流出され、多く場合は企業にまで批判
が及んでいる。代表的な事例とその経緯は以下のとおり。
事例:米国ピザチェーンD社の店員が掲載した不衛生動画に批判が殺到し、動画サイトが
炎上!
<きっかけ>店員が「悪ふざけ」で不衛生な内容の動画を動画サイトに投稿
米国宅配ピザ大手のD社のオーストラリアの店舗で働く店員2名が
自分の鼻の中に入れた食材をピザ生地に混ぜたり、ピザ生地に唾を吐きかけ
たりするシーンを撮影し、そのビデオを YouTube に投稿した。
<炎上>
ネット上で批判殺到!
批判の声は、口コミ→ソーシャルメディア→主要メディア→ニュースといっ
たルートでまたたくまに広がり炎上する。結果として D社 でグーグル検
索した結果、1 ページ目に「騒動」が登場する事態に発展。この時点で閲覧
回数は 100 万回を超え,多くの人々がこのイタズラを直接自らの目で体験し
た。YouTube には「二度と頼まない」「これからは自分で料理を作る」とい
ったコメントが多数寄せられた。そして炎上から間もなく不買運動にも似た
現象が起こることとなった。
<終息>
信用回復への秘策!
動画公開から 48 時間後に CEO 自らが動画でメッセージを伝える。
また、Twitter(メインアカウントを事件直後に開局)で利用者と対話をはじ
めた。さらに3日後に企業が「お詫び」を自社HPに掲載。
3.炎上のメカニズム
「2.過去の炎上事例」で紹介した事案は炎上までに概ね以下のような共通のプロセスをた
どっている(図1参照)
。
第一段階:ブログ・SNSでの投稿内容に批判的な反応がかえってくる(小火)
第二段階:大手掲示板に投稿内容とそれに対する批判を言い合う「場(例:スレッド)
」が
立ち上がる(中火)
。」このあたりから投稿者も特定され、ネット上の公開情報が
流出していく。また、この段階から「祭り(インターネット上で特定の話題など
にコメントが集中し、盛り上がりを見せること )」が発生することもある。
第三段階:大規模なインターネットニュースサイト(例:ヤフー)、TV(例:ワイドショー)、
3
新聞、などで取り上げられる(大火)。この時点で、「まとめサイト(事件関連の
情報はひとまとまりになっているインターネットサイト)
」が立ち上がることが多
い。また、
「電凸(組織活動について直接電話で意見を問いただす行為 )」が発生
することもある。
ブログ/SNS
図1
大手掲示板
(例:2ch)
大規模ニュース
(例:ヤフー、TV)
こうした炎上にいたるプロセスの中心となっているのが、不特定多数の「批判者」であ
る。では、なぜ、ソーシャルメディア上で、こうした批判の輪が圧倒的なスピードで広が
っていくのだろうか。
ソーシャルメディアの世界では、「自分の欲しい情報を獲得し、議論や対話を行った結果、
特定の言説パターン、行動パターンに集団として流れていく」といったムーブメントが生
まれる場合が少なくない。つまり、特定のブログへのコメントの集中、集団での特定対象
の情報の収集、特定企業についての集団論議、特定商品の集団購入、特定コンテンツへの
集団アクセス、などといった行為が発生した場合、次々とそれに同調する動きが拡大して
いくのである。
ソーシャルメディア炎上のメカニズムを理解するためには、こうした炎上のプロセスと
ソーシャルメディア特有の利用者の集団行動を理解することがポイントであるといえよう。
4.企業が取り組むべき対策
上述の「炎上の事例とメカニズム」を踏まえて、ソーシャルメディア炎上のターゲットにな
らないために、これから企業が取り組むべき4つの対策について解説する。
(1)ソーシャルメディアポリシーの策定
取り組むべき対策の1つ目は、「ソーシャルメディアポリシーの策定」である。過去の事
例でも明らかなとおり、
「ソーシャルメディア」に潜むリスクを十分に認識していなければ
いずれ自社にも火の粉が振りかかってくる可能性がある。そうならないためにも、リスク
を十分認識したうえで、
「企業としてソーシャルメディアとどう向き合うのか」を明確化し、
そのメッセージをステークホルダー(顧客、取引先、従業員、等)に伝達することが肝要
となる。組織としても、また従業員個人の活動においても「不用意な失敗」を引き起こさ
ないために、ソーシャルメディア利用の場面で、拠り所となるべき会社としての取組み方
針を示しておくとよい。こうしうた方針は「ポリシー」として盛り込まれることが多く、
積極的にHP上で「ソーシャルメディアポリシー」を公開している企業での記載例もあわ
せてご紹介する。ポイントは次の3つである。
●情報発信に関しての「自覚と責任」を宣言する
例:製造メーカーA社
「インターネットへ発信した情報は不特定多数の利用者がアクセスできること、いった
ん発信した情報は完全に削除することができないこと、個人の発信が当社の評価とな
4
り得ることを理解し、相手の発言を傾聴する姿勢を持ち、責任ある行動を常に意識し
ます。」
●コンプライアンス遵守を宣言する
例:製造メーカーB社
「法令や「B社グループ行動規範」ならびにB社グループ各社が定めた規程を遵守する
とともに、良識をもった社会人として、自己の行動に責任を持って、ソーシャルメデ
ィアを利用します。」
●適切なコミュニケーションをはかることを宣言する
例:住宅メーカーC社
「ソーシャルメディアを通じ、社員と、ユーザーをはじめとする社会とがコミュニケー
ションを通じて良い関係を構築し、C社のブランド向上に多大な貢献をもたらすこと
を常に認識します。」
(2)従業員のソーシャルメディア・リテラシーの向上
取り組むべき対策の2つ目は、「従業員のソーシャルメディア・リテラシーの向上」であ
る。「ソーシャルメディア炎上」の発端は圧倒的に個人の投稿である。企業として極力炎上
を起こさないためには、従業員への啓発活動を徹底するのが得策である。
具体的な取り組みとしては、まずソーシャルメディア利用に関するガイドラインの策定
をお勧めする。このガイドラインは、ソーシャルメディアポリシーで謳われた取組み方針
を具体的な行動レベルまで落とし込んだものとして位置づけられる。その上で、実際に留
意すべきポイントが明確化されていることが望ましい。具体的な事例を交えて「危ない行
為」、「禁止すべき行為」が解説されていると読み手にとっても理解しやすいうえに、実践
的に活用してもらえることが期待できる。
策定されたガイドラインは、ハンドブックなどの形で冊子化して、個人レベルに配布す
るのが良いだろう。
次に実施すべき取組みは、教育・研修の実施である。教育・研修実施に際してのポイン
トは次の3点である。是非参考にしていただきたい。
<教育・研修のポイント>
・「ソーシャルメディアポリシー」、「ガイドライン」で規定した会社としてのルールを
周知・徹底する
・特に若手層に向けては階層別研修で意識啓発を促す
・定期的に実施する
(情報セキュリティ、個人情報保護研修などに折込むのも効果的)
(3)公式アカウントの公開
取り組むべき3つ目の対策は、「なりすましに対する防衛策、及び鎮火対応のための公式
アカウントの公開」である。事例は少なくないものの、いわゆる「なりすまし」で企業が
被害に見舞われたり、炎上するケースもある。また、本稿で紹介した事例にも見られるよ
うにソーシャルメディアの公式アカウントの活用は有効である。ソーシャルメディアの公
式アカウントの公開は、
「こうした不正ななりすましとの区別が明確化される」という効果
がある。すなわち、「謝罪のコメントを炎上メディアに直接投下できる」といったメリット
が享受できるわけである。
5
(4)モニタリングの実施
取り組むべき4つ目の対策は、「モニタリングの実施」である。ソーシャルメディアの炎
上についは、実際の火事同様に「初期消火」が鍵を握っている。「3.炎上のメカニズム」
で紹介した図1でいえば、第三段階(大火)になった場合は速やかな「鎮火」はほぼ不可
能といってもよい。「初期消火」実施のポイントは「第一段階」で適切な手立てが講じられ
るかどうかにかかっている。具体的には、モニタリングによって、より早い段階で、公式
アカウントで、失言やネットユーザーからのクレーム・問いかけの迅速な察知が求められ
る。
現在では、自社企業内に専門部署を設けてモニタリングを実施している企業もでてきて
いる。また、外部の専門会社にモニタリング業務を委託している企業も増えている。いず
れにしてもある程度の「コスト」と「業務負荷」は避けられない。このため、どのレベル
のモニタリングをどのように実施していくかについては、会社として「ソーシャルメディ
ア炎上」リスクが発生した場合の影響と対策に要する費用対効果を考慮した上で判断して
いくことが大切である。
3.まとめ
近年のソーシャルメディアの利用者の増加にともない、ソーシャルメディアにおけるリス
クが顕在化した事例件数も増加傾向にある。特に Twitter は注意を要するメディアである。
今後もますますソーシャルメディアが身近になっていくことが予想される中、これまで発生
した事例を「反面教師」とし、今から対策を講じておくことが重要である。ソーシャルメデ
ィアと会社との関係をみつめ、リスクを自覚する良い機会として本稿がきっかけとなれば幸
甚である。
インターリスク総研 コンサルティング第二部 BCM 第一グループ
マネジャー・上席コンサルタント 江尻 明隆
<参考文献>
・ ソーシャルメディア炎上事件簿 (日経BP社 小林直樹著)
・ ウェブ炎上 ネット群集の暴走と可能性(ちくま書房 萩上チキ著)
・ ネット炎上で会社が潰れる(WAVE出版 伊地知晋一著)
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