北米図書館での RDA 実践に関する調査報告

北米図書館での RDA 実践に関する調査報告
村
上
遥
抄録:北米で新しい目録規則 RDA が導入された。本稿では 2013 年 8 月に行った米国議会図書館,シカゴ
大学図書館,コロンビア大学図書館での調査をもとに,RDA 導入後の実態について報告する。調査から,
RDA はスムーズに導入されたことが分かった。この理由としては(1)研修の成果,
(2)RDA テストによ
る段階的な知識の普及に加え,(3)メタデータフォーマットが変更されなかったことが挙げられる。した
がって MARC21 の次のメタデータフォーマット,BIBFRAME の動向は今後もその動きに注意が必要だ。
キーワード:図書館員,研修,目録規則,目録作業,米国,LC(米国議会図書館),大学図書館,RDA
1.はじめに
RDA( Resource Description and Access )は,
AACR2(英米目録規則第 2 版)の後継にあたる目
録 の 新 基 準 で あ る。LC( 米 国 議 会 図 書 館 )が,
2013 年 3 月 31 日にすべての新規書誌レコードを
RDA で作成すると公表したことで,RDA をめぐ
る動きは世界的に大きな展開を迎えている。
1)
RDA は FRBR を概念モデルにしている。FRBR
自体は 1990 年代に作られたもので,さほど新しい
概念ではないが,AACR2 や NCR(日本目録規則)
には用いられなかった。そのため目録の実務では,
これまでかかわりが薄かった。したがって RDA の
導入は,現場にとって発想の転換をともなう,大き
な変更であったと思われる。
そこで筆者は,RDA の導入が図書館の現場にも
たらすインパクトについて,大学図書館の一実務担
当者の立場から調査するために,同年 8 月,北米を
訪れた。
調査は以下のポイントから行った。
(1)どのような研修が行われたのか
(2)RDA を用いた目録登録作業はどのように行わ
れているのか
(3)現在どのような問題があるのか
(4)問題はどのように解決しているのか
現地調査は,国立大学図書館協会の海外派遣事業
を通じ,8 月 3 日から 14 日までの日程で,LC,シ
カゴ大学図書館,コロンビア大学図書館の 3 館を訪
問し,計 24 人にインタビューを行った。訪問先の
大学図書館は,
(1)RDA テストの参加館であり,
RDA に関する十分な経験を持っていること,(2)
CJK(中国語・日本語・韓国語)資料の登録を行っ
ていることから選択し,訪問先との調整を行った上
で決定した。本稿では,その調査報告を行う。
2.日本における RDA 動向
調査時,日本の RDA をめぐる状況は,2013 年 4
月,NDL(国立国会図書館)が,洋図書の目録規
2)
則として RDA を採用した 以外,大きな動きがな
か っ た。日 本 の 大 学 図 書 館 が 多 数 参 加 す る
NACSIS-CAT で も,RDA は 採 用 さ れ て お ら ず,
それは現在も変わっていない。
しかし同年 9 月 30 日,NDL と日本図書館協会目
録委員会が共同で NCR を RDA に対応した形で改
3)
訂することを公表し ,この作業が完了すれば,和
書,洋書ともに目録規則の RDA 化が完了する。そ
うなれば,大学図書館の実務でも,RDA と関わり
を持つ可能性が高まるだろう。
3.RDA の概要
報告を行う前に RDA の概要を整理する。
3.1 開発の経緯
4)
RDA は JSC( Joint Steering Committee ) に
よって開発され,2005 年 4 月に草稿が公開された。
2010 年には,RDA テストが行われた。26 機関
が参加したこのテストでは,2010 年 10 月から 2011
年 1 月までの 3ヵ月で,10,570 件の書誌レコード
と,12,800 件の典拠レコードが作成された。その
後,3ヵ月の検証期間に,8,000 項目以上の検討が行
5)
われた 。
こ う し た 検 討 段 階 を 経 て,2012 年 LC に よ る
RDA 研修が行われた。2013 年 3 月末に,LC は新
規レコードを RDA で作成することを公表し,これ
6)
を受け OCLC でも RDA の新方針を公表した 。
3.2 RDA が規定するもの
RDA の目的は,既存の技術と未来の新しい技術
の 両 方 に 適 し た デ ー タ 作 成 を支 援 す る こ とであ
7)
る 。JSC の公表する目標には,(1)すべてのメ
ディアに対して,効果的な書誌コントロールができ
ること,(2)図書館以外のコミュニティでの利用を
1
北米図書館での RDA 実践に関する調査報告
促進することなどが挙げられている。
RDA はメタデータフォーマットの基準ではな
く,内容の記述基準である。MARC21 に代わる,
メタデータフォーマットとしては,リンクトデータ
8)
へ の対応にむけた,BIBFRAME(Bibliographic
9)
Framework Initiative / BFI) の策定が,別途進め
られている。
3.3 RDA によってもたらされるもの
RDA の実現によってもたらされるものの一つ
は,FRBR モデルによるデータの集中化(Collocation)である。つまり,特定の作品のすべての表現
形(言語のバリエーションなど)や体現形(出版社
のバリエーションなど)
,個別資料(複本など)を,
現在よりも高精度にまとめて検索・表示することが
10)
できることである 。
いが挙げられる。
MARC21 の項目上の変更点は,(1)「出版・頒布
等に関する事項」が,264 に記録されることになっ
たほか,
(2)GMD が 33X(336-338)フィールド
にコンテンツ,キャリア,メディア種別に分けて記
録されることになった点などが挙げられる。
4.調査日程
調査は以下の日程で行った。
8月3日
8月6日
8月7日
成田からワシントン D.C へ
LC 調査(10:00-15:45)
ワシントン D.C から空路でシカゴへ
8 月 8 日 シカゴ大学調査(9:00-17:00)
8 月 9 日 シカゴ大学調査(9:00-17:00)
8 月 10 日 シカゴから空路でニューヨークへ
8 月 12 日 コロンビア大学調査(10:30-11:30)
8 月 13 日 ニューヨークから成田へ(14 日着)
3.4 RDA を読むには
11)
RDA は,RDA Toolkit オンライン版 の契約か,
冊子体を購入することで参照できる。しかし RDA
は頻繁に更新が行われるため,冊子版では最新情報
を捕捉できない場合があるので注意が必要だ。なお
RDA Toolkit オンライン版では,契約を結ばない場
合でも,RDA と MARC21 の対応表など,いくつ
かの無料コンテンツを参照することができる。
5.訪問先
5.1 LC
LC で は,COIN( 協 力・研 修 部 門 Cooperative
and Instructional Program Division)とアジア・中
東収書・目録部門(Acquisitions and Bibliographic
Access Directorate Asian and Middle Eastern
Division)を訪問した。
COIN には,22 名のスタッフが所属し,本調査
ではチーフのカナン(Judith Cannan)氏,RDA 研
修担当のカールトン(Tim Carlton)氏,ほか 2 名
に RDA の研修方法について伺った。
アジア・中東収書・目録部門には,カタロガー
が,30 名所属している。そのうち,日本語のカタ
ロガーは,フルタイム 2 名,パートタイム 1 名,ボ
ランティア 1 名の,計 4 名である。今回は日本語カ
タロガー 2 名と,ペルシア語カタロガー 1 名に,
図ઃ
RDA Toolkit 画面
RDA を用いた目録作業についてお話を伺った。
なお LC ではすべてのカタロガーが,RDA 研修
に参加し,RDA で目録作業を行っている。調査時
に使用していた図書館システムは,Exlibris 社の
Voyager であった。
3.5 これまでとの相違点
RDA と AACR2 の 相 違 点 は,ま ず 構 成 と し て
(1)目次が,資料種別順ではなく FRBR の実体順
(作品,表現形,体現形,個別資料)であることが
5.2 シカゴ大学
シカゴ大学は,イリノイ州シカゴ市にある私立大
学で,本調査では,ジョセフ・レーゲンスタイン図
書 館 の 東 ア ジ ア 部 門( East Asian Technical Ser-
あげられる。次に内容については,
(2)資料の表示
vices)とテクニカルサービス部門を訪れた。
シカゴ大学の全図書館員数は 614 名である。
そのうち東アジア部門は,総勢 11 名から成り,
のまま転記する(略語の不使用,誤字の修正を行わ
ない)
,
(3)
(用例に倣うのではなく)カタロガーが
s judgment)など,方針の違
判断する(cataloger†
2
中国語・日本語カタロガー各 2 名と韓国語アシスタ
大学図書館研究 CI(2014.10)
ン ト 1 名 が 所 属 し て い る。カ タ ロ ガ ー 全 員 が,
RDA を使用して目録作業を行っている。RDA テ
ストには,テクニカルサービス部門のカタロガーと
東アジア部門から,中国語カタロガー 1 名が参加し
た。調査時に使用していた図書館システムは,SirsiDynix 社の Horizon であった。
東アジア部門では,RDA を用いた目録作業を
行った。またテクニカルサービス部門では,システ
ム面から見た RDA 導入後の現状についてインタ
ビュー調査を行った。
5.3 コロンビア大学
コロンビア大学は,ニューヨーク市にある私立大
学 で あ る。本 調 査 で は,東 ア ジ ア 図 書 館( C. V.
Starr East Asian Library)とバトラー図書館で調
査を行った。
東アジア図書館では,エルマン(Sarah S Elman)
氏,森本(Morimoto Hideyuki)氏をはじめとする
4 名に,CJK(中国語,日本語,韓国語)の RDA
を用いた目録登録作業についてインタビュー調査を
行 っ た。バ ト ラ ー 図 書 館 の ハ ー コ ー ト 氏 か ら は
12)
EAD(Encoded Archival Description)レコード
と RDA について,お話を伺った。
図઄ COIN RDA 研修
のメンバーは Webinar(オンライン会議システム)
を用いた,ミーティング形式での研修に進んだ。こ
の中で,RDA の目録作業を実際に体験しつつ,参
加者同士でレビューを行う時間を設けたとのこと
だ。
参考までに,RDA 研修を日本の NII 目録システ
ム講習会(図書コース)と比較すると,目録システ
ム 講 習 会 は,年 間 約 350 名,計 26 時 間( セ ル フ
ラーニング 5 時間,集合学習 21 時間)の参加者・
14)
時間数で行われている 。RDA 研修は,その約 10
6.RDA 研修
RDA を開始するにあたり,北米では,どのよう
な研修をおこなったのだろうか。LC の COIN で調
査をおこなった。
LC では,2012 年 6 月から 2013 年 3 月にかけて
RDA 研修を行った。研修は,LC のスタッフ(約
500 名 )だ け で な く,PCC( 共 同 目 録 プ ロ グ ラ
13)
ム) に参加する大学図書館のカタロガー約 3000
倍の参加者に対して,目録システム講習会より 10
時間長い時間をかけて教育が行われた。RDA 研修
の時間数に,オンラインコンテンツの自習時間が含
まれていない点や,開催期間が,わずか 9ヵ月で
あったことを考えると,LC における RDA 研修が,
非常に大規模であったことがわかる。
これは実務を担当する現場にとっても,かなりの
負担であり,RDA 導入がいかに大きなインパクト
名が受講した。
開催にあたり担当者のカールトン氏は,同期間中
を持つものであったか,本調査からもわかる。
なお,研修で使用された教材は,ウェブで無料公
15)
開されている 。日本でも RDA に準じた規則が導
だけで,プログラムの開発に約 800 時間,クラス
ルーム研修の講師として 276 時間の業務を行ったと
のことである。講師はカールトン氏に加え,COIN
から 2 名,LC の研修担当スタッフ 10 名,RDA テ
ストに参加した,PCC のメンバーも多数担当した。
研修は LC 内で勤務するスタッフ,LC の海外オ
フィスのスタッフ,PCC のスタッフ別に 3 つのプ
ログラムで実施された。
まずパワーポイントと動画を組み合わせた,オン
ラインコンテンツが,すべての参加者に使用され,
各項末の Quiz により,理解の度合いが図られた。
次に,LC 内のスタッフ はクラスルーム研修(1 コ
マ 3 時間,計 12 コマ 36 時間)
,遠隔地のスタッフ
は,icohere というオンライン研修システム,PCC
入されるならば,こうした北米での研修用コンテン
ツを最大限に活用することで,RDA の効率的な知
識の定着をおこなうことができるだろう。
7.RDA とコピーカタログ
目録の現場は,RDA にスムーズに移行できたの
だろうか。この章では,RDA を用いた目録作業に
ついて,筆者がシカゴ大学図書館東アジア部門で
行った,目録登録作業を通じて報告を行う。
シカゴ大学は,既存のレコードが AACR2 で完成
している場合は,RDA での上書きを行っていな
い。しかし,新規レコードや,作成途中のレコード
3
北米図書館での RDA 実践に関する調査報告
は,RDA での登録や上書きを行っているとのこと
だ。今回の目録登録実習では,作成途中のレコード
を RDA で修正した。
一緒に作業を行ったコピーカタロガーは,RDA
研修を受講していないが,受講したオリジナルカタ
ロガーが作成した RDA マニュアルをもとに目録登
録作業を行っているそうだ。
今回行った修正点は,以下のとおりである。
(1)ページ数を表す「p.」を「pages」に変更
(2)著者が 4 名以上の場合は省略せずに記録する
16)
(3)33X フィールド を追記
(4)修正館コードにシカゴ大学の記号を追加し「$e
図અ OCLC Connexion エンコーディングレベル(ELvl)
ま た,NACSIS-CAT で は,最 終 修 正 館 の み レ
コードに表示されるが OCLC では「$JaToTRC$b
eng $c TRCLS $e rda $d OCLCO $ ZCU $d OCLCO
$d OCLCQ $d DLC」のように,コードのかたちで修
rda」の追記
登録を行った結果,作業が非常に機械的なもので
あることが分かった。これは,
(1)今回行った作業
タログを行う際,データの信頼性を判断する材料の
が,コピーカタログ作業であり,情報源の選択など
が,作業に含まれなかったため,また(2)作業対
象が図書に限られたため,33X フィールドに同じ
文言が用いられていたからのように思われる。
現場のコピーカタロガーにもお話を伺ったが,
RDA の導入については業務上,特に問題を感じて
いないとのことだった。
今回,筆者が目録登録作業に充てた時間数は,合
計 1 日に満たなかった。そのためオリジナルカタロ
グを作成する時間は取ることができなかった。オリ
ジナルカタログと RDA については,インタビュー
調査を行ったので次章で述べたい。
一つとして,利用されることがあるようだ。
シ カ ゴ 大 学 図 書 館 東 ア ジ ア 部 門 は,2006 年 に
OCLC に 統 合 さ れ た 旧 RLG( Research Libraries
18)
Group) の参加館の一つである。旧 RLG のレコー
ド:RLIN(the RLIN Union Catalog)は,参加館毎
のレコードを保持してきたため,OCLC において
19)
も IR(機関レコード) というシステムが,設け
られているとのことだ。
IR はマスターレコードをもとに,各機関独自の
項目を追加することができる。作成後は,IR をマ
スターレコードリンクする形で,OCLC に登録す
るとのことだった。
参考:シカゴ大学の目録作業
北米と,筆者が所属する NACSIS-CAT の登録作
業の手順の相違が,RDA 理解の障壁とならないよ
8.RDA とオリジナルカタログ
コピーカタログでは,RDA に変更になっても大
きな問題はないとのことだった。では,オリジナル
カタログでも同様に,問題なく RDA で目録作業が
う,シカゴ大学で教わった目録作業について手順を
整理しておく。
OCLC Connexion での作業は,各機関が共有して
いる OCLC 上のマスターレコードの編集とローカ
ルシステムへのダウンロード,ローカル所蔵データ
正館の履歴が記録される。修正館履歴は,コピーカ
行えているのだろうか。
ここでは,インタビュー調査で挙げられた事例を
いくつか紹介する。
の編集・登録を行うもので,手順自体は日本での目
録作業と共通しているように感じた。
8.1 オプションの選択
RDA では,状況に応じてカタロガーが最適な判
ただし NACSIS-CAT は,参加館が等しく編集の
権 限 を 持 つ の に 対 し て,OCLC で は,参 加 館 に
よって編集権限が異なる。また「エンコーディング
17)
レベル」 が存在する。
断を行う(Cataloger†
s judgment)とし,各項目に
いくつかオプションが提示されている。このオプ
ションの選択に混乱が見られた。
例えば,日本語資料の出版年が,「二〇一三」と漢
数字で書かれている場合の 880(並列フィールド
parallel fields)の表記は,RDA1.8.2 では「作成機
エンコーディングレベル(Elvl)は,目録の完成
度を表すコードで,これ以上修正の必要がない完成
レコード(Full record)はIが入力される。こ
関が適切とする字体を記録する」としている。その
れを目安にコピーカタロガーは,そのレコードが, ため,目録作成機関は,「算用数字に置き換える
コピーが可能か,追加修正が必要かどうかを判断し (= 2013)」,「情報源に表れているとおりの表記(=
ているとのことだ。
二〇一三)」,「情報源の表記+算用数字の補記(=二
4
大学図書館研究 CI(2014.10)
〇一三[2013]
)」の 3 通りの選択肢から選択するこ
とができる。
では入力を行ってこなかった 33X フィールドにつ
いては,入力用フィールドの追加が必要であり,小
調査当時,LC はいかなる言語でも,数字は「情
報源に表れているとおりの表記」を採択することを
作業方針としていたが,漢数字については,慣習的
さな修正を行ったそうだ。
に算用数字に置き換えて,記録しているとのこと
だった。
一方,コロンビア大学は,作業方針に従い「情報
源に表れているとおりの表記」,すなわち漢数字で,
記録している。このように数詞の表現一つとっても
作成されたデータに揺れがあるようであった。
しかし,こうした言語と文字による問題点は,
2014 年現在,各目録作成機関の作業方針(Policy
Statement)で,「ラテン文字種以外の文字」など
別途取り扱いが決められ,解決に向かっているよう
に見える。こうした柔軟な改善を行うことができる
のが,オンラインツールとしての RDA の良さであ
るともいえる。
8.2 追加項目の選択
コロンビア大学の中国語担当者によると,RDA
の導入による改善点として,中国著者名典拠の判別
が簡単になった点が挙げられた。
OCLC の中国人の著者名典拠レコードは,標目
にアルファベット(ピンイン)を採用しているた
め,同音異人レコードが多数存在する。これらは付
記事項があっても区別が難しかったが,RDA では
職業や性別など追加項目の入力が可能となり,区別
ができるようになった。もっとも,追加項目が入力
可能となり,より良いレコードを作成することがで
きるようになる一方,調査に時間がかかり,業務を
圧迫しているとの声も聞かれた。
このように項目が自由に追加できる利点と,業務
上の効率化にかかわる問題は,RDA に限らず現在
でも存在する。RDA は必須項目(Core element)
を定めているが,追加項目の上限は定めていないの
で,RDA の導入時には,目録作成機関ごとに必須
とする項目について,方針を定める必要があるよう
だ。
9.RDA と図書以外
9.1 ローカルシステム
シカゴ大学のシステム担当者に,RDA 導入によ
るローカルシステムへの影響について質問したとこ
9.2
電子ジャーナル・電子ブック
シカゴ大学では,電子資料のメタデータは,ベン
ダ ー か ら 提 供 を 受 け て い る が,購 入 時 の 形 式 が
AACR2,RDA どちらの形式であっても,修正を
行わずそのままインポートを行っているとのこと
だった。データのインポートに,これまで問題が生
じたことはないそうだ。
9.3 アーカイブ資料
コロンビア大学バトラー図書館のハーコート氏か
らは EAD(Encoded Archival Description)レコー
20)
ド に RDA を使用する可能性について伺った。
コロンビア大学は,RDA テストで Non-MARC
21)
レコードのテストに参加した 。その結果,紙媒体
の 図 書,地 図,楽 譜,音 楽 媒 体 資 料 な ど,
MARC21 を用いたレコードに対しては,RDA をガ
イドラインとして使用するが,その他の資料につい
ては,RDA を用いないとしたそうだ。
その理由は,RDA で責任表示がコアエレメント
(必須項目)とされている点が挙げられる。RDA
では,責任表示が記録対象に存在しない場合でも
「 by a group of students with a Korean resource
person」など,なんらかの表示を記入しなければな
らない。写真などが多く含まれる,アーカイブ資料
では,責任表示が明示されていないことも多く,
RDA を使うことで追加項目が増加し,かえって手
間 が か か っ て し ま う。こ う し た こ と か ら,結 局
RDA の利用は断念したとのことだった。
10.ディレクターの視点
ディレクターからの視点として,シカゴ大学図書
館テクニカルサービスのディレクター,クローニン
(Christopher Cronin)氏に,RDA の評価について
お話を伺った。
クローニン氏は,RDA を高く評価するととも
に,Never back to AACR2と述べた。評価の理
由として,(1)目録の表示が FRBR 順であるため,
資料種別順の AACR2 より,新たな媒体に迅速に対
応できる点や,(2)著作権年のように,これまで出
版年のフィールドに付記され,データ格納時に,同
ろ,データの記述規則に RDA を用いたとしても,
メタデータフォーマットは MARC21 なので,大き
じフィールドに登録されていた情報を別フィールド
に登録することが可能となり,データの精度が上が
な影響がないとのことだった。ただし,すでに述べ
たとおり「メディア種別」など,これまで AACR2
る点が挙げられた。
一方,MARC21 の枠組みの中では RDA が十分
5
北米図書館での RDA 実践に関する調査報告
に効果を発揮できないとし,BIBFRAME の動きが
重要であると述べた。
11.問題が起きた時の解決方法
RDA の導入で問題が生じた場合,北米の図書館
るとの指摘もあった。
12.まとめ
本調査で訪れた図書館では,RDA にスムーズに
移行しており,解釈など細かな問題点はあるものの
ではどのように,解決しているのだろうか。調査中
に挙げられた事例を紹介する。
業務を阻害するような大きな問題点は見られなかっ
た。また,RDA によるローカルシステムへの影響
も少なかった。
11.1 作業指針(Policy Statement)
調査では,RDA における課題の一つとして,オ
プションの判断の難しさが多く挙げられた。
RDA では,こうしたオプションの取り扱いにつ
これは,RDA 研修が効果的であっただけでな
く,メタデータフォーマットが MARC21 のままで
あるため,作業手順に変更が少なかったことが大き
いて,各目録作成機関で作業指針を定め,公開する
こ と が で き る。例 え ば,LC と PCC は 作 業 指 針
(LC-PCC PS)を定めており,RDA の提供サイト
RDA Toolkit で公開している。
11.2
効率化
RDA で導入された,コンテンツ,キャリア,メ
ディア種別を表す 33X フィールドは,MARC21 で
はサブフィールド表記rdacontentを追加するこ
とになっている。例えば,記録対象が図書であれ
ば,336 は,
$a text$2 rdacontentのように記録
される。
このように RDA の導入により追加された項目
は,文字数も多く,一見,目録作業の手数を増やす
ように思える。しかし,LC のカタロガーによる
と,33X フィールドの作業は効率化できるとのこ
とだ。
なぜならレコード作成対象の資料は,図書が多
く,336 の文言は定型化することができるからであ
る。LC では,定型化した文言をマクロで自動的に
入力できるよう,図書館システムに補助機能を設
け,効率的な目録作成を行っているとのことであっ
た。
11.3 質問体制
LC のカタロガーは,RDA での判断に迷った場
合,LC 内 の 基 準 部 門( Policy and Standards
22)
Division) に直接質問している。また,コロンビ
23)
ア大学では,RDA に関する wiki を公開してお
いだろう。ただし,BIBFRAME が導入された場合
のインパクトについては,今後も北米の動きに注目
する必要がある。
北米では,RDA 研修に多くのコストを割いた。
研修には,教材開発はもちろんのこと,講師の人員
確保も一つの課題となるようだ。
RDA テストでは,複数の機関が RDA 導入の事
前検証を行ったが,結果としてこれが,段階的な知
識の普及につながり,RDA に習熟したコアメン
バーを育成する機会となったように感じる。日本に
おいても RDA を導入するならば,事前検証を多く
の機関が共同して行い,検証を通じてコアメンバー
を育成することが講師の確保と,スムーズな導入に
繋がるのではないか。
RDA はデジタル環境下のメディアの多様化,メ
24)
タデータ交換に対応すべく策定されたが,谷口氏
が「これまでの伝統的な考え方や処理方法と,大胆
にその変更を求める方向性との折衷案のように見受
けられる」と指摘した通り,現状では完全に対応し
うるか疑問が残る。
し か し,( 1 )RDA は 逐 次 改 訂 さ れ る 点,( 2 )
BIBFRAME が策定されメタデータフォーマットの
改訂が行われる可能性がある点,(3)BIBFRAME
とは別にリンクトデータに向けた統制語の整理が行
われている点から,北米における RDA の現状は,
目標の実現へ向けて,着実に歩みを進めているよう
に思われる。
RDA の目指す世界が実現すれば,我々が日々作
り,現在も頻繁な更新が行われている。そのほか,
メーリングリストなどでも RDA に関する質問が行
われているそうだ。
一方でシカゴ大学の目録担当者からは,メーリン
成している目録が,利用者の資料探索に,現在より
も有効に活用されるだろうし,図書館以外のコミュ
ニティでも活用されるなら,検索だけでなく,新た
なサービスを生むことに繋がるかもしれない。
こうした未来へ向けて,北米をはじめとする国々
グリストやウェブ上での議論が活発なのはよいが,
各情報源に情報が散らばり,しかも頻繁に更新され
が一歩を踏み出したことをまずは評価し,筆者を含
めた日本のカタロガーも変化に向けて,前向きに取
るため,最新情報を補足することが非常に困難であ
り組まなければいけない。
6
大学図書館研究 CI(2014.10)
謝辞
最後に,初めての海外調査を支えてくださった,
シ カ ゴ 大 学 の 奥 泉 先 生,LC の Nakahara さ ま,
イェール大学の Suzuki さま,受入図書館のみなさ
ま,そして調査の機会を与えてくださった国立大学
図書館協会ならびに,長期間にわたる海外調査を支
えてくださった東京外国語大学附属図書館のみなさ
まに,心からお礼を申し上げます。
1)FRBR: Functional Requirements for Bibliographic
Records(書誌レコードの機能要件)については,
日本図書館協会による日本語訳が以下のサイトで
参 照 で き る。http: //www. ifla. org/files/assets/
cataloguing/frbr/frbr-ja.pdf
2)詳しくは国立国会図書館のサイトを参照すること
http: //www. ndl. go. jp/jp/library/data/bib_news
letter/2013_1/article_03.html
3)日本図書館協会.
『日本目録規則』改訂における
NDL との連携について
. http://www.jla.or.jp/Por
tals/0/data/iinkai/mokuroku/renkei. pdf,( 参 照
2014-04-23)
4)JSC(Joint Steering Committee)は AACR2 改訂
のための合同運営委員会だが現在は AACR に代わ
り RDA を開発している(Joint Steering Committee for Development of RDA)
. http://www.rda-jsc.
org/
5)Report and Recommendations of the U.S. RDA Test
Coordinating Committee.( オ ン ラ イ ン )
, http: //
www. loc. gov/bibliographic-future/rda/source/
rdatesting-finalreport-20june2011. pdf,( 参 照 201404-24)
6)OCLC RDA Policy Statement.(オンライン), https:
//oclc.org/rda/new-policy.en.html,(参照 2014-0424)
7)Chris Oliver, American Library Association. Introducing RDA : A Guide to the Basics. kindle ed.
Chicago, American Library Association, 2010, vii,
117 p.,(Special reports(American Library Association)
)
Well-formed以下のように解説している。
統制されたボキャブラリが適切な場所に使用され,
エレメントの値をどのように記録するかインスト
ラクションが提供されていること。
Instructions are provided on how to record the
values of elements, controlled vocabularies are
used where appropriate, and the overall structure
is governed by a formal model.
8)リンクトデータ(Linked Data)
HTML が文章を記述した技術であるのに対して,
データを構造化して記録するための(データの
web)データ。(1)RDF で記述,(2)名前に URI
を使う,(3)名前の参照が HTTP URI で行えるよ
うにするなどの特徴を持つ。
参考:
トム・ヒース, クリスチャン・バイツァー著:武田
英明[ほか]訳. Linked data:web をグローバル
なデータ空間にする仕組み. 近代科学社, 2013,139p
(ISBN 9784764904279)
大向一輝.オープンデータと Linked Open Data
@筑波大学研究談話会(2013.12.18)
http: //www. slideshare. net/ikki. ohmukai/131218tsukuba(参照 2014-04-27)
武田英明.Linked Data(再)入門
http: //www. slideshare. net/takeda/linked-data27004271(参照 2014-04-27)
9)BIBFRAME は,LC が 2012 年 11 月「データのウェ
ブとしての書誌フレームワーク:リンクトデータ・
モデルと支援サービス」の中で提示した MARC に
替わる,ウェブ時代における新たなフォーマット
ためのデータモデルである。
http://bibframe.org/
「データのウェブとしての書誌フレームワーク:リ
ンクトデータ・モデルと支援サービス」は日本語
訳が NACSIS-CAT/ILL のホームページで公開さ
れている。
米国議会図書館.データのウェブとしての書誌フ
レ ー ム ワ ー ク:リ ン ク ト デ ー タ・モ デ ル と 支 援
サービス
.( オ ン ラ イ ン ), http: //www. nii. ac. jp/
CAT-ILL/archive/pdf/Bibliographic_Framework_
as_a_Linked_Data_Model_Translation. pdf,( 参 照
2014-04-25)
10)新しい知識と情報の組織化:RDA の理念と実践:
B.B.ティレット氏によるワークショップ. 樹村房,
2013.9(RDA Workshop Tokyo 2013)
11)RDA Toolkit, http://access.rdatoolkit.org/(参照
2014-04-24)
12)Testing Resource Description and Access(RDA)
with Dublin Core, http://dcevents.dublincore.org/
IntConf/dc-2011/paper/viewFile/45/21
13)PCC: LC と世界中の大学図書館が協力して目録に
関する検討を行う共同プログラムのことで,2013
年時点でスタンフォード大学・シカゴ大学・コロ
ンビア大学・カルフォルニア大学をはじめとする
800 機関以上が参加している。
http://www.loc.gov/aba/pcc/
14)NII.受講者所属機関一覧. 教育研修事業.(オン
ライン)
, https: //www. nii. ac. jp/hrd/ja/apply/list.
html,(参照 2014-04-24)
15 )Library of Congress( LC )RDA ト レ ー ニ ン グ
Materials は以下で公開されている。http://www.
loc. gov/catworkshop/RDA%20training%20materials/LC%20RDA%20Training/LC%20RDA%20cou
rse%20table.html
16)RDA で導入された,コンテンツ,キャリア,メ
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北米図書館での RDA 実践に関する調査報告
ディア種別を表す 33X フィールドは,MARC21 で
はサブフィールド表記rdacontentを追加する
ことになっている。例えば,記録対象が図書であ
れば,336 は,$a text$2 rdacontentのように記
録される。
17)エンコーディングレベルについては以下を参照,
OCLC,ELvl : Encoding Level
, http://www.oclc.
org/bibformats/en/fixedfield/elvl.html(参照 201404-27)
18)RLG については以下を参照,
OCLC, History of the OCLC Research Library
Partnership http: //oclc. org/research/partner
ship/history.html(参照 2014-04-27)
19)IR(機関レコード)については以下を参照Cataloging: Use Bibliographic Institution Records .
OCLC, 2008.(オンライン), http://www.oclc.org/
content/dam/support/connexion/documentation/
client/cataloging/IRrecords/institutionrecords.pdf
20)Testing Resource Description and Access(RDA)
with Dublin Core http: //dcevents. dublincore.
org/IntConf/dc-2011/paper/viewFile/45/21
21)EAD(Encoded Archival Description)とは公文書
館や図書館の目録記述方法をもとにして作られた
機械で可読,検索できるメタデータフォーマット
で,米国議会図書館やアメリカのアーカイブシス
テム,日本の国立公文書館デジタルアーカイブで
も使用されている。http://www.jagat.or.jp/story_
memo_view.asp?StoryID = 9138
22)the Policy and Standards Division は LC で目録規
則の指導や基準を定める部門である。http://www.
loc.gov/catdir/cpso/queries.html
23)コロンビア大学の RDAwiki は以下を参照 https://
wiki.cul.columbia.edu/display/rda2/Home
24)谷口祥一. RDA(Resource Description and Access)
でできることできないこと RDA の理解に向けて.
情報管理. 2014, vol.56, no.11, p.758-765
25)Open Metadata Registry を参照 http://www.rdare
gistry.info/
< 2014.4.27 受理 むらかみ
学学術情報課目録係>
はるか
東京外国語大
Haruka MURAKAMI
A survey on RDA cataloging in North American libraries
Abstract:North American libraries have begun to implement a new set of cataloging rules called RDA
(Resource Description and Access)
. The author reports on a trip she took in August 2013 to investigate the
issues relating to the implementation of RDA at the Library of Congress, University of Chicago, and
Columbia University. According to her investigation, RDA implementation was smooth and she cites 3
reasons for this:(1)the result of training,(2)gradual dissemination of knowledge through RDA testing,
and(3)no changes in the metadata format. For these reasons, careful attention should be paid to the
implementation of BIBFRAME, the metadata format to replace MARC21.
Keywords:library staff / training / cataloging rules / cataloging / Library of Congress / university
libraries / RDA(Resource Description and Access)
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