ファミリービジネスレ ポート 2006 年 7月 12 日 「フ ァ ミ リ ー ビ ジ ネ ス の 強 み 」 WellSpring 代 表 武井 一喜 目次 ファミリービジネス は能 力 が劣 るのか ? ..................................................... 1 同 族 、世 襲 が 最 も現 実 的 な選 択 肢 ....................................................... 1 ファミリービジネス に問 わ れる問 題 点 ....................................................... 2 ファミリービジネス の3サー クル モデル ....................................................... 2 欧 米 のファミリービジネス ..................................................................... 3 アリとキリギリス(同 族 と 非 同 族 ) ........................................................... 4 ファミリービジネスの強 み ..................................................................... 5 0 ファミリービジネスは能 力 が劣 るのか? ここ数 年 、中 小 企 業 白 書 にはファミリービジネスからの脱 却 を促 す内 容 が多 く見 られ ます 。その主 な論 旨 は、ファミリー ビジネスは非 ファミ リービジネスに比 べ、能 力 のある 人 材 を幅 広 く登 用 できず 、その結 果 、ファミ リー ビジネスの売 上 高 や雇 用 人 数 の伸 び は、非 ファミリー ビジネスに比 べて 劣 っている という ものです。そのため、社 内 、社 外 から の親 族 以 外 の 人 材 の 登 用 、M BO や M&A などによる企 業 の 存 続 を促 す内 容 になって います。 中 小 企 業 白 書 に限 らず、ファミ リー ビジネスと いう言 葉 には否 定 的 なイメ ー ジが付 きま とう ものです。マスコミで親 族 内 の紛 争 、無 能 な後 継 者 による従 業 員 の意 欲 喪 失 、過 剰 な節 税 対 策 など、問 題 点 の指 摘 ばかり されていることもその原 因 にあり、ファミリー ビジネスは前 時 代 的 な甘 い経 営 、という 印 象 が強 いのも事 実 です。 一 方 で、日 本 の中 小 企 業 のほとんどは ファミリービジネスです。中 小 企 業 庁 の調 べで は、世 代 交 代 した企 業 の後 継 者 の63%は前 代 表 者 の同 族 である、とされています。 創 業 後 、世 代 交 代 を行 う前 の企 業 はほとんどがフ ァミリービ ジネスですか ら、 実 際 には 日 本 の会 社 はそのほと ん どが ファミリ ー ビジネスだと 言 っても 差 し 支 えないと思 います 。 また、税 法 上 の同 族 企 業 で見 ると、日 本 の企 業 の95%は同 族 企 業 であるとされてい ます。このレポートでは、①前 代 表 者 と現 代 表 者 が同 族 である(世 襲 )、②取 締 役 会 で同 族 役 員 の割 合 が高 い、③代 表 者 及 びその同 族 の持 ち 株 比 率 が高 い会 社 を同 族 企 業 (ファミリービジ ネス)とし てお話 します。 このようなファミ リービジネスが、本 当 に非 ファミ リービジネスに比 べてその能 力 において 劣 るのでしょうか?このレポートでは、マスコ ミに作 られたイメージに流 されて見 落 としが ちな、ファミリービジネス の強 みについてお話 します。 同 族 、世 襲 が最 も現 実 的 な選 択 肢 事 業 を承 継 するときに、二 つの観 点 での承 継 が 必 要 になります。ひとつは経 営 の 承 継 、 もうひ とつはオーナー シッ プ(所 有 権 )の 承 継 です 。社 内 社 外 の信 頼 が厚 く、経 営 能 力 の高 い非 同 族 社 員 に代 表 を渡 したいと 思 っても、所 有 権 を渡 すことは簡 単 にはい きません 。社 員 で株 を引 き受 けるだけの資 金 がある者 は少 ないものです 。まして、金 融 機 関 からの借 入 れに対 する担 保 や個 人 保 証 まで引 き継 ぐ覚 悟 のある人 はなかなか いないものです。(中 小 企 業 代 表 者 の78%が金 融 機 関 の借 入 れに対 する個 人 保 証 を提 供 :三 菱 UFJ リサーチ&コ ンサルティング調 査 )このようなリスクを背 負 わせること ができる相 手 となると、親 族 の中 から選 ぶ、ということは 現 実 的 な選 択 です。自 分 が苦 労 し て育 てた会 社 という財 産 を、親 族 の者 に引 き継 いで欲 し いと 願 う気 持 ちは自 然 な ものですが、それ以 上 に、実 際 には親 族 に承 継 することはきわめて現 実 的 な選 択 の 1 結 果 でもあるのです。 ファミリービジネスに問 われる 問 題 点 中 小 企 業 白 書 の指 摘 する、有 能 な人 材 の登 用 機 会 が少 ないと いう問 題 以 外 にも、 ファミリービジネス には以 下 のよう な問 題 が付 きまと います。 ・ 相 続 に関 する 親 族 間 の権 力 争 い、いわゆ る跡 目 争 い ・ 親 子 間 の意 見 の不 一 致 ・ 退 任 後 も経 営 に口 出 しする前 社 長 ・ 公 私 混 同 、家 族 、親 族 の問 題 と経 営 上 の問 題 が混 同 する ・ 温 情 主 義 による経 営 の甘 さ これらの問 題 は、特 に事 業 承 継 のタイミングで表 面 化 するものが多 いのですが、ファミ リービジネスの性 格 上 、常 に内 在 する問 題 でもあるのです。 ファミリービジネスの3サークルモデル ここ でハーバー ド 大 学 のデ イヴ ィス、ガー シッ ク、ランズバー グ、ワー ドら の提 唱 す る、「フ ァミリービジネスの3サークル」モデルをご紹 介 します。ファミリービジネスの問 題 を整 理 するうえで大 変 役 に立 つモデルです。一 見 複 雑 に見 えるファミリービジネスの問 題 も、 このモデルで整 理 してみることわかりやすくな ることが 多 いものです。 3 つの輪 は それぞれ、 ① 株 式 、事 業 に提 供 する土 地 、建 物 などの所 有 者 の立 場 、 ② 家 族 、親 族 など、ファミリーメンバーとしての 立 場 、 ③ 会 社 に所 属 し、働 いて報 酬 を得 る立 場 を表 しています。 円 が重 なる それぞれの部 分 は、関 係 する人 の立 場 を表 しています 。どの立 場 にいる か によって、問 題 の見 え方 、利 害 のポイントが異 なります。例 えば株 を持 つが従 業 員 で はない親 族 は、利 益 は出 来 るだけ配 当 にまわし て欲 しいと 考 えますが、株 を持 たない 役 員 は、配 当 よりは賞 与 や社 内 留 保 にまわしたいと考 える でしょう。ファミ リービジネス に特 徴 的 なことは、会 社 の大 部 分 を所 有 する者 がビジネスの責 任 者 を 兼 ねており、フ ァミリーの長 とし ての役 割 を 持 っているという 、3つの 円 が 重 なる部 分 にいること です 。オ ーナー社 長 の役 割 は、この 3 つの輪 が それ ぞれに長 期 にわ たっ て満 足 が いくよう 、成 長 と調 和 を保 つこと 、と もいえるの です。 2 欧 米 のファ ミリービジネス これらの問 題 を克 服 し、成 長 したファミリー ビジネスには、キ ッコー マン、コクヨ、バンダイ、 エー ス、西 濃 運 輸 、村 田 製 作 所 など、上 場 、未 上 場 を問 わず 、数 多 く優 秀 な企 業 が ありますが、海 外 でもたくさんのファミリー ビジネスが活 躍 し ています 。ウォルマート、イケ ア、リー バイ・ スト ラウ ス、 L・ L・ ビー ン、ミ シュ ランなど、 業 界 で 長 期 にわ たってト ッ プクラ スを維 持 しているファミリービジネスが数 多 くあります 。 ここ で、世 界 の 優 秀 なファミリービジネスの統 計 を見 て見 ましょう。 ・ 2003年 の S&P500社 のうち、35%の企 業 で創 業 家 のメンバーが取 締 役 会 に加 わっている。 ・ 1992年 、フォーチュン500社 のうち、37%の経 営 トップが創 業 家 のメンバーか、 創 業 者 の子 孫 である。 ・ 1996年 の米 国 株 式 公 開 企 業 5万 4千 社 のうち、60%が創 業 家 の強 い支 配 下 3 にある。 ・ 1990年 代 、各 国 の株 式 公 開 企 業 トップ20社 のうち、米 国 で20%、カナダで2 5%、イタリアで55%、香 港 で70%の企 業 で、創 業 家 が株 式 の20%以 上 を保 有 する筆 頭 株 主 で、2位 株 主 との差 が2倍 以 上 。 これらの数 字 から、ファミリー ビジネスは非 ファミリービジネスに劣 るものではないことが お分 かり いただけると思 います アリとキリギリス(同 族 と非 同 族 ) 同 族 経 営 企 業 を研 究 す る カ ナ ダ・H EC モ ン トリ オー ル教 授 、 ダニー ・ミ ラー は、卓 越 し た業 績 を上 げる欧 米 のファミリービジネス を調 査 する中 で、これらの企 業 の経 営 者 に 共 通 するものとし て、以 下 の特 質 を見 出 しました。 ・ 説 明 責 任 を果 たすより、秘 密 主 義 を貫 く ・ 四 半 期 ごとの財 務 報 告 には無 関 心 、四 半 期 目 標 を立 てない ・ 市 場 のト レンド を無 視 し、業 界 と大 きくか け離 れ た方 針 を採 る ・ 変 えてはならない伝 統 や創 業 家 の理 念 に固 執 する ・ ダウンサイジングに取 り組 まず、従 業 員 を厚 遇 する ・ 外 部 のパートナーと身 内 同 然 の関 係 と築 き、多 くを与 えすぎ、取 引 契 約 は競 争 原 理 よりも人 間 関 係 で決 まる これらは近 代 的 経 営 手 法 のほとんどを無 視 したような経 営 スタイルであり、いまま での 経 営 戦 略 論 には当 てはまらないものです 。ところが、実 際 にはこ れらの特 徴 が優 秀 な ファミリービジネス の強 みであったのです 。 ミラーはこれらの優 秀 なファミリービジ ネス の調 査 から、著 書 「 同 族 経 営 はなぜ強 いの か?」で4 つのC(4 つの 情 熱 )とし てまとめました。 ・Command (コマン ド、指 揮 権 ) 決 断 とスピードと革 新 の自 由 を求 める強 い指 揮 権 、株 主 の下 僕 ではなく、独 立 し た行 動 ・Continuity(継 続 性 ) 夢 を追 い続 ける情 熱 、長 期 的 視 点 、スチュワードシップ(天 からの授 かり物 の番 人 としての 責 務 )、心 で感 じるミ ッショ ン ・Community(コミュニティ) 社 族 を結 束 させ、 全 員 をミ ッショ ンに向 けて団 結 させる 情 熱 ・Connecti on(コネクション) 金 銭 的 な動 機 付 けではなく、血 族 的 な結 束 の文 化 、たゆまぬ強 化 、全 レベルの従 業 員 に対 するいたわり 、外 部 との 強 い絆 、永 続 的 な「 ウイン= ウイン」の 関 係 。 4 さら に、フ ァミ リービ ジネスを「アリ 型 」、一 般 的 な企 業 の もつ価 値 観 を「 キリギ リス型 」と して、 勤 勉 な社 会 生 活 を営 み、 明 日 に備 えて今 日 を我 慢 す る アリと 、その 日 暮 らし で 自 分 勝 手 なキリギリスの寓 話 になぞら えて、次 のよう にまとめ ています。 1. オーナーシッ プ哲 学 キリギリス型 :トレーダーとしてのオー ナー。短 期 的 な利 益 を求 め、会 社 や従 業 員 への忠 誠 心 はほとんど持 っていない。 アリ型 :スチュワード(授 かり物 の番 人 )とし てのオーナー 。長 期 的 な視 点 から 会 社 に関 与 する。 2. トップの 事 業 哲 学 キリギリス型 :戦 術 的 。利 益 主 導 で早 急 な結 果 を志 向 する。ダウンサイジング、 企 業 買 収 などで四 半 期 ごとの数 字 を管 理 。 アリ 型 :戦 略 的 。 本 質 的 ミッショ ン指 導 型 で 、長 期 的 な結 果 を志 向 する。 3. 人 材 観 と対 外 関 係 キリギリス型 :個 人 主 義 的 、官 僚 主 義 、市 場 主 義 的 な統 制 。外 因 的 な動 機 付 け。社 外 のパー トナー やクライアント とは場 当 たり 的 な関 係 。その結 果 、従 業 員 は狭 い利 己 意 識 で行 動 。不 信 が芽 生 えやすく、協 力 は生 ま れにくい。離 職 率 が高 く、情 報 が外 に漏 れやすい。外 部 との関 係 は競 争 関 係 。 アリ型 :集 団 主 義 的 。価 値 観 の共 有 、一 族 的 意 識 による統 制 。内 因 的 な動 機 付 け。外 部 との永 続 的 な関 係 。その結 果 、従 業 員 は組 織 の利 益 のために 行 動 し、モチベーションと協 力 意 識 が強 く、離 職 率 は低 い。暗 黙 知 が組 織 内 に保 たれる。外 部 との関 係 は「ウイン=ウイン」 ファミリービジネスの強 み 2004年 の中 小 企 業 白 書 に、先 代 の子 供 の後 継 者 に家 業 を引 き継 いだ理 由 を尋 ねた統 計 があり ます。その結 果 は以 下 のとおり です。 ① 家 業 だから(69. 6%) ② 従 業 員 ・取 引 先 への責 任 を果 たすため( 44.7%) ③ 会 社 経 営 に魅 力 を感 じたから(29.7%) ④ 先 代 経 営 者 に説 得 されたから(15%) ⑤ 将 来 性 のある会 社 だから(10.9%) ⑥ 自 分 で新 しく事 業 を始 めるよりも効 率 的 だから( 9. 6%) ⑦ その他 ( 4.2%) ⑧ 今 まで の会 社 や仕 事 に不 満 があっ たから(1.9%) 5 後 継 者 の決 意 と使 命 感 が感 じられる統 計 です。そこには家 業 という形 で創 業 の使 命 感 を尊 重 し、子 供 の頃 から両 親 の姿 を見 て学 ん だ価 値 観 を、経 営 に実 践 する後 継 者 の姿 が見 えてきます。会 社 独 自 のカラーを打 ち出 し、創 業 のミッションを軸 に、強 い 絆 を持 つ組 織 を作 ろうとする後 継 者 の決 意 が感 じられます。 ファミリービジネスにはこのように、創 業 者 のミッションに基 づく、強 い絆 を持 った組 織 を 作 る土 壌 があるのです。これこそまさにファミリービジネスの強 みと 言 えるものでしょう。 ファミリービジネスにかかわる皆 様 には 、いか にフ ァミリー ビジネスから 脱 却 するかで はな く、いかにファミリービジネスの強 みを発 揮 していくかを追 及 していただきたいと思 いま す。 参考 文献 Gersic, Davis, Hampton, Generation Lansberg; to Generati on ,Harva rd Busines s School Press, 1997 「同 族 経 営 はなぜ強 いのか?」ダニー・ミ ラー、イザベル・ル・ブレトン=ミラー、ラン ダム ハウス講 談 社 中 小 企 業 庁 「中 小 企 業 白 書 」2 003 年 版 ∼20 06年 版 6
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