コロナウイルス(HCoV-EMC)重症感染症 新型コロナウイルス(nCoV)の概要と文献に関する更新 (2013年5月8日) Novel coronavirus summary and literature update – as of 8 May 2013は こちらから→ 2013年5月8日時点で、新型コロナウイルス(nCoV)ヒト感染の検査診断例30名が世界保健機関 (WHO)に報告された。ヨルダン2名、カタール2名、サウジアラビア23名、英国2名、アラブ首 長国連邦1名である。患者の多くは男性で(79.3%、性別の報告された29名中23名)、年齢は24 歳から94歳(中央値56歳)であった。初発患者は2012年3月末または4月初めに発症し、最後に 報告された患者の発症日は2013年5月1日だった(13例は2013年4月14日から5月1日にかけて発 症した)。多くは入院の必要な重症急性呼吸器症状を示し、最終的には人工呼吸やその他の高度な 人工呼吸器療法を要した。患者18名が死亡した。 集団発生も認められる。2012年4月にはヨルダンの医療機関で集団発生があり(確定症例2名と疑 い症例11名、10名は医療従事者)、英国ではサウジアラビアから帰国して間もなく発症した患者 の家族も発症した。ヨルダンの集団発生により医療機関でのウイルス感染拡大の可能性が示され、 英国の集団発生は濃厚接触者間でのウイルス伝播の可能性が確認された。どちらの事例においても 感染が市中へ急速に拡大はしていない模様である。 2013年4月14日以降、サウジアラビアでは新たに13症例が確定され報告された(男性10名、女性 3名、年齢の中央値58歳)。このうち7名が死亡し、4名が重症で集中治療を受け、2名は入院して いるが臨床的には回復している。すべての症例で少なくとも1つ、多くの場合で複数の併存疾患が 報告されている。患者の多くは単一医療施設の患者である。患者2名は、その施設の患者2名の家 族である。医療従事者は発症していない。感染源についての調査は続けられているが、これまでの ところ、発症前に動物と接触していたのは症例のごくわずかであることが示唆されている。 英国(n=2)、サウジアラビア(n=1)、ヨルダン(n=1)、ドイツ(n=1)からの分離ウイルス 計5株の培養が行われ、遺伝子配列が公開されている。最新の集団発生からは配列情報はまだ入手 できない。5株の間では、遺伝子配列の高い相同性がみられた。これまでの解析では、コウモリ由 来のウイルスとある程度類似していることがわかっている。しかし、類似しているとはいっても、 必ずしもコウモリがヒトウイルスの保有宿主であることを意味するものではなく、コウモリやその 排泄物への直接的な曝露が感染の原因とも限らない。これまで、nCoV自体は動物の個体からみつ かっていない。 臨床の専門家による国際ネットワークが治療の選択肢について討議した。それによると疾患特異的 治療の臨床的エビデンスはないものの、回復期患者からの血清療法(convalescent plasma)がも っとも有望な治療法であると結論した。回復期血清の採取や共有ができるように、WHOから流行 地域の各国保健省に対して、国際的ないし地域での血清センターの立ち上げに関する勧告を記した メモが回覧されている。 WHOと国際重症急性呼吸器・新興感染症協会(International Severe Acute Respiratory and Emerging Infection Consortium)は、病因や薬理学的研究に役立つよう に、研 究プロトコー ル・症例報告様式を作成し 、共有した。これらは以下で閲覧可能であるhttp://www.prognosis.org/isaric/。 WHOは、新型コロナウイルス感染症の疑いもしくは確定症例に対する医療機関における、感染予 防やコントロールの暫定的なガイダンスを作成した。この勧告は、WHOの世界感染症予防・コン トロールネットワーク(WHO Global Infection Prevention and Control Network (GIPCN) )や他の国際的な専門家の審査を受けている。この暫定ガイダンスは以下で閲覧可能である。 http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections /IPCnCoVguidance_06May13.pdf Phoca PDF コロナウイルス(HCoV-EMC)重症感染症 前回更新後に発表された最近の査読論文 米国国立保健研究所(National Institutes of Health)は、リバビリンとインターフェロンα 2b(interferon-alpha 2b)の、認可されている二つの抗ウイルス薬併用療法が、培養細胞におい てウイルス増殖を抑制したことを確認した。Reference: Falzarano et al. Inhibition of novel human coronavirus-EMC replication by a combination of interferon-alpha2b and ribavirin. Scientific Reports 2013, doi: 10.1038/srep01686. 進行中の研究と疫学調査に関して 新型コロナウイルスに関連した進行中の研究の一部を以下にあげる 既存の方法と新しい方法を利用したnCoV血清検査法の更なる開発。異なるウイルスタン パクへの血清学的反応と抗体反応動態の確定。 nCoV急性感染例を確認するPCRによる検査法の更なる開発。 ウイルスの結合部位とヒトの呼吸器組織におけるnCoVの発症能力に関する研究。 発病機序や治療戦略の評価を動物モデルで行うこと(抗ウイルス薬や候補ワクチンを含む )。 ヒト肺培養細胞のnCoVへの反応に関する研究 分離ウイルスが利用できることを受けたさらなる遺伝子配列の評価により、nCoVの進化 と他のコロナウイルスとの関係をより理解し、新型ウイルス遺伝子において適応した変異 を同定すること。 既知の症例に曝露した個人や医療従事者の接触者調査により感染性を決定すること。 流行地域での重症急性呼吸器感染症患者からの検体の検査。 ウイルスの保有宿主と想定される動物を決定づける実地調査。 まとめ このウイルスの再出現と現在のサウジアラビアでみられている感染パターンから、この新病原体へ の関心が高まっている。喫緊の疑問はヒトへの感染を起こした曝露、伝播のしかた、ウイルスの起 源、そして市中での感染の範囲であり、サウジアラビア保健省が積極的に調査している。単一の医 療機関が流行と関連していることから院内感染が示唆される。併存疾患により感染しやすくなった り、重症化しやすくなったりしているのかもしれない。しかし、2例の家族内感染が院外で起こっ ているため、市中でのより広範な感染の可能性が懸念される。確定症例の特徴(男性に多いことや 年齢分布)は曝露源についてのヒントとなるかもしれない。疫学的な疑問に加え、新型コロナウイ ルス感染患者を最適に管理する戦略を決め、治療法の可能性について評価するためにさらに努力す る必要がある。 このウイルスがコウモリ類から由来しているとする状況証拠はあるものの実際の動物からウイルス が見つかるまでは確定的とはいえない。しかし、マレーシアでの二パウイルスや中国でのSARSの 経験から、中間宿主の方がヒトへの感染において重要な役割を演じ、自然宿主への直接の曝露は必 ずしも必要ではない場合がある。したがって、起源、曝露および感染様式を調べる作業は公衆衛生 に加えて獣医、食品安全、環境保健を巻き込んだ複数の専門領域で行われる必要がある。 感染地域に限らず世界中で異常な呼吸器患者の集団発生を警戒して積極的に監視する必要があり、 特に医療機関での集団発生は注意を要する。確定例および疑い例はすべて24時間以内にWHO地域 事務局のIHRコンタクトポイントを経由して通告されるようWHOから要請するものである。 Phoca PDF Powered by TCPDF (www.tcpdf.org)
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