原発を好材料と仮定した金融分析は有効だったか?

グリーンピース・ブリーフィングペーパー
「原発を好材料と仮定した金融分析は有効だったか?」
-革新的エネルギー・環境戦略の発表をうけて
ギョルギー・ダロス*
グリーンピース・インターナショナル エネルギー投資シニアアドバイザー
2012 年 9 月 22 日
日本は現在、新しい重要なエネルギー政策を策定しようとしており、予断や先入観のない中立で客観的な分
析や助言を必要としている。
しかし金融アナリストや評論家の発言は、
「原子炉の再稼働、新設、運転年数の延長は日本の電力会社にとっ
て好ましい」という予断の下でなされることも多く、
「電力会社の未来にとって自然エネルギーは重要ではな
い」と考えているかのようである。彼らは、 原子炉の閉鎖の長期化や、日本の電力事業に原子力発電の占め
る割合が下がる兆しを、懸念すべき材料と捉える傾向がある。だが果たしてこのような旧来の型にはまった
予断(先入観)は本当に有効だろうか?
知名度のある金融アナリストや評論家の意見は、個々の株価に大きく影響することが多く、その意見自体が
筋書きと化して未来を左右しかねない。 例えば 2012 年 3 月 19 日、シティグループの否定的な報告書を受
けて、会社自体に重大な実質的要因が発生したわけではないにもかかわらず1、東北電力株(9506:TYO)は
4.3%、関西電力株(9503:TYO)は 4.2%下落した。
【大飯原発の再稼働: アナリストの予想と現実】
原子力に関する予断はアナリストを惑わせかねない。再稼動を巡る議論、そして野田首相が 6 月に下した関
西電力大飯原発再稼働の決定に関連するアナリストらの意見と現実とを比較してみよう。
ムーディーズは再稼働を好材料としていた2。再稼働決定前後の 6 月中旬、ロイターのアナリストの提言は、
「買い」が 2、 「アウトパフォーム(運用成績が指標を上回りそう)
」が 3、
「ホールド」が 5 、
「アンダー
パフォーム(運用成績が指標を下回りそう)
」が 3 、
「売り」が 0 でわずかに肯定的であった3。同時期、フィ
ナンシャル・タイムズ紙の アナリストの 13 の提言の内訳は、
「買い」が 2 、
「アウトパフォーム」が 3 、
「ホ
1
Bloomberg: Japanese stocks gain as trading companies climb in Tokyo, 19th March, 2012:
http://www.bloomberg.com/news/2012-03-19/japan-stocks-advance-as-oil-companies-climb-utilities-decline.html
2
Moody`s: Announcement: Moody`s: Restart of two nuclear reactors in Japan encouraging, 18th September, 2012:
http://www.moodys.com/research/Moodys-Restart-of-two-nuclear-reports-in-Japan-encouraging--PR_248677
3
http://in.reuters.com/finance/stocks/analyst?symbol=9503.T
ールド」が 4 、
「アンダーパフォーム」が 4 、
「売り」が 0 であった。5 月以前の意見がさらに肯定的であっ
たことはファイナンシャルタイムズ紙の次の文章から分かる。
「これは、2012 年 5 月 30 日に投資アナリスト
の意欲が落ちて以来のコンセンサス予想。 前回のコンセンサス予想では関西電力はアウトパーフォーマンス
が予想されていた4。」
しかしこれまでのところ、こうした再稼動を好材料とした「買い」
「アウトパフォーム」
「フォールド」の提
言は、いずれも不十分な情報よる推測であったことが判明した。実際には、関西電力株(9503:TYO)は 5
月末には 1,134 円、今から 3 カ月前の 6 月 22 日には 945 円で引け、その後さらに 500 円を下回るまで大幅
に下げ、9 月には中間配当の見送りが発表された5。関西電力の無配当は 32 年ぶりのことであった。
再稼働の決定が行われた 6 月中旬から野田首相が原発ゼロを発表した 9 月中旬までに、原子力発電所をもた
ない沖縄電力を除く、日本の電力会社の株価は軒並み 大幅に(19 %~43%)下がった。理由は様々である
としても 、総体的に見て投資家には再稼働の影響に対する失望感があったようである。関西電力の場合、 最
大の悪材料(石油と液化天然ガス価格の高騰)は 6 月より大分以前から分かっていたし 、新しい好材料(関
西の電力消費の大幅減少による停電回避)が あったにもかかわらず株価の下落が最も大きかった。
【アナリストと 9 月中旬の混乱】
企業に経済的利害関係を持つ可能性がある投資銀行のアナリストのみならず、ブルームバーグやロイターと
いった「中立の」情報源にも原発の推進が好材料だとの仮説があるようだ。例えば 、9 月 18 日にブルーム
バーグは(9 月 15 日に枝野大臣が、建設の進んでいる原発の建設継続を容認したのをうけて)
「国は原発建
設を止めないという思惑から、日本の株価は電力会社主導でほとんどが上がった」とコメントしている6 。
モーニングスターも、
「政府には原発建設を停止する計画はない、と閣僚が言ったと伝えられたのを受けて電
力会社が大幅に伸びた」と伝えた
7
。
確かに、9 月 18 日の株価は、 関西電力(9503:TYO)
、四国電力(9507:TYO)
、九州電力(9508:TYO)がい
ずれも 7%、北陸電力(9505:TYO)が 6%、中国電力(9504:TYO)が 5%、東北電力(9506:TYO)が 4 %
上げた。 同じ日に日経主要銘柄平均株価は 0.4%下げていた。
しかし、この株価回復に先だって、様々な重要な出来事があった。9 月 18 日は、9 月 14 日(金)に野田総
理を中心とするエネルギー・環境会議で新エネルギー戦略が採択されてから初めての取引日だったのである。
野田総理は、この政策の発表に際し、
「2030 年代までに原発稼働ゼロを可能とするようあらゆる政策資源を
4
Kansai Electric Power Co Inc at FT: http://markets.ft.com/Research/Markets/Tearsheets/Forecasts?s=9503:TYO
Kansai Electric Power: Notice regarding interim dividend of FY ending March 31, 2013:
http://www1.kepco.co.jp/english/ir/brief/__icsFiles/afieldfile/2012/09/20/2012_sep_1_2.pdf
6
Bloomberg:
Most
Japan
stocks
rise
on
utilities;
18th
September,
http://www.bloomberg.com/news/2012-09-18/japan-stocks-swing-from-gains-losses-on-stimulus-china.html
7
th
Asia Stocks Retreat; Focus Turns to Global Issues, 18 Sept, 2012 http://news.morningstar.com/articlenet/article.aspx?id=568009
5
2012
投入する」と発言している8。そして 9 月 18 日の株価は上述のように上昇し、特に、東電に続く最大の原子
力発電量を誇る関西電力と九州電力が最も上がった。これはどういうことだろうか。むしろ、工事継続が容
認された島根原発をもつ中国電力の株価の上昇は、他の原発電力会社 4 社よりも小さかった。また、原子力
発電所を持っていない沖縄電力の株価の上昇はわずか 2%だった。
以上から、
「市場は枝野大臣の建設継続容認発言のみに反応していた」という見方には疑問が生じる。そうで
はないと見るべきであろう。日中の緊張や、欧州中央銀行や米連邦準備制度理事会の相次ぐ金融緩和措置に
追随する形で日本銀行も量的緩和の拡大を決定9 したことなどの大きな展開についても考慮されていない。
【原発推進派の予断と原発の経済性】
「原発は日本の電力会社にとって大変好ましい」という仮定は、発電所の経済性という面からも疑問視され
ている。競争の熾烈な欧米などの電力市場では、福島事故以前から原発新設は明らかに敬遠されるようにな
っている。 日本でも現在、電気事業法を改正して電力市場を大幅に規制緩和する準備が進められている。ま
た世界の原発新設プロジェクトの大半は巨額の国庫補助を想定したものであり、日本の債務や欧州の公的債
務危機を考えると、原発が電力会社にとって好ましいという仮定はもはや現実的ではない。
福島事故以来、原発新設の経済性はさらに悪化した。安全対策への投資を増加せざるをえなくなり、耐用年
数が原則 40 年と決定されたことなどが既存の原発、ひいては考えられる耐用年数の延長に大きな影響を与え
ている。 たとえばフランスでも、安全性の向上のためフランス電力公社(EDF)では 100 億~150 億ユーロ
(約 1~1.5 兆円)の追加的経済負担が生じ10、原子炉 1 基の耐用年数の延長に 6 億 8000 万~ 8 億 6000 万ユ
ーロ(約 680~860 億円)が必要になっている1112。この状況をムーディーズは次のようにまとめている。
「3
月 11 日の地震後、原発の総運営費は、未知数ながら大幅な増加が予想され、それによって原発の経済性は大
きく損なわれるか、ひいては無になる可能性がある。
」13
日本の場合、原子炉は地震活動が活発な地域に 24 基、地震発生の危険度が高い地域に 24 基あり、そのほと
んどが 海から 1.5~3km 以内のところにあり14、よって電力会社の負担する上述の追加費用ははるかに大き
くなるだろう。使用済み核燃料と核廃棄物の処理に必要な膨大な金額などはまた別である。もし解決方法が
見つかればの話だが、フランスの場合、その金額は 280 億ユーロ(約 2 兆 8000 億円)に達すると試算され
8
The information Daily: Japan aims to scrap nuclear by 2040, 15th September, 2012:
http://www.theinformationdaily.com/2012/09/15/japan-aims-to-scrap-nuclear-power-by-2040
9
New York Times: Japan Central Bank acts to aid fragile growth, 19th September, 2012:
http://www.nytimes.com/2012/09/20/business/global/japanese-central-bank-expands-asset-buying-to-bolster-economy.html?_r=0
10
Reuters (2012b). EDF pegs French reactors upgrade at around €10bn. 3rd January, 2012:
http://www.reuters.com/article/2012/01/03/nuclear-edf-idUSWEA701020120103
11
Les Echoes:. EDF va devoir injecter de 10 à 15 milliards d'euros pour adapter ses centrales après Fukushima, 4th January, 2012:
http://archives.lesechos.fr/archives/2012/LesEchos/21094-096-ECH.htm
12
13
原子炉はフランスが 58 基、 日本が 50 基(福島第一原発 1~4 号廃炉後の数)である。
Moody`s: Announcement: Moody`s: Restart of two nuclear reactors in Japan encouraging, 18th September, 2012:
http://www.moodys.com/research/Moodys-Restart-of-two-nuclear-reports-in-Japan-encouraging--PR_248677
14
Wall Street Journal: Score of reactos in quake zones, 19th March, 2011:
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703512404576208872161503008.html
ている15。
【アナリストが見過ごしがちな要素: 自然エネルギーと電力会社】
金融アナリストと評論家が見過ごしがちな要素、即ち自然エネルギーの可能性を検討する必要がある。日本
では 7 月に新しく自然エネルギー固定価格買取制度導入され、導入後 2 カ月で原発一基分に相当する 130 万
kw の自然エネルギー発電設備が制度の対象と認定された。
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによれば、この固定価格買取制度で確実に 44~51%の投
資収益率が得られるという。また、新エネルギー政策の土台となっているエネルギー・環境会議の報告書に
は、省エネ型技術に 84 兆円、コージェネレーションシステムに 6 兆円など、膨大な省エネや自然エネルギ
ーの追加予算について記載されている。また、政府は、この 90 兆円の投資とは別に、太陽光発電や風力発電
16 17
, などの自然エネルギーに約 38 兆円を投じる計画を発表した。この計画についてみずほインベスターズ証
券のエネルギーアナリストは、
「やってみる価値はあるが、早晩不可能であることがわかるだろう」と18、
「電
力会社に及ぼす影響について考えなければ不可能」という見方を示した。
金融アナリストや評論家は、
「関西電力などの電力会社は、
(導入された制度、そして将来の電力システム改
革で)どれ程の利益をつかむか、そしてつかむべきか? 」という問題提起を忘れているようだ。これまで 欧
州およびその他の国では、電力会社が自然エネルギー投資の好機への対応が遅れ、絶好の機会を逃す例が多
かった。 また、 発電容量不足をかかえる日本の電力会社の場合、火力発電所の建設に 7~10 年を要する中
で 1~2 年以内に新しく太陽光発電や風力発電能力を強化できることは重要である。
以上を、電力に投資する投資家たちに向けて、原発が推進されることを好材料とみる予断が正しいとは限ら
ないということに留意した上で、何が、今後の電力会社とその投資家にとって最も好ましいか、中立的な判
断をする重要性を改めて指摘したい。
以上
*執筆者について:ギョルギー・ダロス (Gyorgy Dallos)
グリーンピース・インターナショナルのエネルギー投資シニアアドバイザー。世界的コンサルティング会社「ボス
トン・コンサルティンググループ」
、WFP 国連食糧計画のシニアエコノミストを経て 2011 年より現職
15
Cour des comptes. Les couts de la filieres electronuclaire, Rapport public thematique.
http://www.ccomptes.fr/Publications/Publications/Les-couts-de-la-filiere-electro-nucleaire
16
The Daily Information: Japan aims to scrap nuclear power by 2040, 15th September,
http://www.theinformationdaily.com/2012/09/15/japan-aims-to-scrap-nuclear-power-by-2040
17
Japan`s Energy and Environmental Strategy: http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120914/20120914_1.pdf
18
Bloomberg: Japan draws curtain on nuclear energy following Germany, 14th September, 2012:
http://www.bloomberg.com/news/2012-09-14/japan-draws-curtain-on-nuclear-energy-following-germany.html
2012: