図書館における貸与問題についての見解

図書館における貸与問題についての見解
2004年3月5日
社団法人日本図書館協会
図書館は資料提供を通じて人びとの知る権利を保障する機関として、広くそ
の公益性が認められてきました。そのため、法制上も図書館業務のさまざまな
面で著作権者の権利行使が一定程度制限されています。この制限については、
図書館が作家をはじめとする創造的な活動をする方々を支援していることや、
市民の生活や仕事を支えることにより地域の活性化を促し、ひいては社会の発
展に寄与する機関であることから、権利者の方々からも深いご理解をいただい
ているところです。一方公益的な要請による営為であっても、それが権利者の
権利の侵害や経済的な損失のもとに行われるべきではないことについては、権
利者の方々の主張を待つまでもないことであります。
近年図書館の活動が権利者の権利を侵し、経済的な損失を生んでいるとの指
摘があることから、図書館界では、様々な議論が行われてまいりました。当協
会は、文化審議会著作権分科会、同法制問題小委員会に委員を派遣するととも
に、さまざまな場において権利者等との協議を積極的に重ねてまいりました。
また、図書館界における問題点の理解と意見集約を図るため、研修会を各地で
開催するとともに、法的な調査研究と課題対応の機関として当協会の著作権委
員会のもとに「貸与問題特別検討チーム」を設置いたしました。今後も同チー
ムを中心に館界への情報提供及び意見集約に努め、当協会に課せられた社会的
責任を果たしてまいります。
また、この間当協会は、社団法人日本書籍出版協会と合同で公共図書館にお
けるベストセラー等の所蔵・貸出の実態調査を行ない、客観的なデータを得ら
れたことは大変意義深いことと考えます。調査の結果については、概ね図書館
界の認識に近いものであったと思っておりますが、経済的な損失の有無につい
ては、さらなる調査研究の必要があると考えます。これには図書館がもつ読者
層を広げる機能や読者の購買意欲を高める働きなど、売上げに貢献する面の分
析も不可欠であると考えます。
一方、経済的損失の有無については、すでに公共貸与権という考え方を導入
している諸外国の状況を精査し、比較して判断するのが妥当な考え方であると
思われます。しかしながら、こうした観点から公共貸与権制度を導入している
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諸外国の図書館の状況を見てみたとき、日本の公共図書館の水準の著しい貧し
さを考えずにはいられません。また、近年の自治体財政危機の影響からする資
料費や職員の削減は深刻な打撃を公共図書館に与えています。これに加えて、
一部の自治体で行われているサービス拠点の縮小、自治体合併による未設置自
治体の見かけの減少による図書館設置の抑制など、図書館は現在、冬の時代を
迎えたと言っても過言ではありません。
このような危機的な状況は、ひとり図書館だけではなく、出口の見えない「出
版不況」に耐えている著作者、出版社、書店においても等しく存在します。さ
まざまな逆風下にあっても、活字文化は社会の知的発展や安定に欠かせないも
のであり、衰退に向かわせるようなことがあってはならないものです。この点
で、権利者の方々や我々図書館界に課せられた任務は軽いものではありません。
図書館の課題の第一は、図書館の数を増やし、資料と専門職を確保し、利用
者にとって欧米並みの水準を達成することにあります。この点については、権
利者の方々とも意見の一致をみているところであります。第二には、作家の方々
の活動ばかりでなく、創造的な活動全般に対する文化政策の立ち後れに対して、
図書館界は、権利者と連帯し、国民とともに積極的な政策の提言と世論形成に
取組むべきものと考えます。第三に、従来の図書館サービスをさらに拡大する
とともに国民のニーズに合った新しいサービスを積極的に展開し、権利の制限
もやむをえないと権利者も認める公益性の高い図書館を実現することが求めら
れます。
文化を担うという役割において、権利者と図書館は本来対立すべき存在では
ないと考えます。文化を享受し、また創造するという観点から、この問題は、
国民一人一人の問題でもあります。これからも、日本図書館協会は、権利者の
方々との協議を続けるとともに、広く国民がこの論議に参加できる機会を提供
し続ける所存です。
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