OOH 広告が消費者の企業イメージに与える影響について ― はじめに 4. 分析結果 ─ 序論 (1)広告の分類 ①研究テーマ (2)広告イメージの評価項目の確認 ②現状分析 (3)広告イメージと企業イメージの関係性 1. 若者のテレビ離れについて 2. 若者の外出時間の増加 3. OOHメディアの可能性 4. 企業イメージの重要性 モデル (4) 因子得点による広告比較 5. 分析結果まとめ ④新規提案 ─本論 ─結論 ①既存文献レビュー ①今後の展望と課題 1. 広告の定義 ②おわりに 2. 消費者の広告評価に関する研究 ③謝辞 3. イメージに関する研究 参考文献 4. 広告イメージに関する研究 補録―――アンケート調査票 5. 企業イメージに関する研究 6. 広告に関わる態度に関する研究 ②仮説の提唱 1. 対象財の選定 2. モデルの提唱 3. 仮説の設定 ③仮説の検証 1. 調査内容と調査方法 (1)調査概要 (2)調査内容 2. アンケート(1部・3部)結果解釈 3. 分析手法 (1)MDS (2)確認的因子分析 (3)構成概念スコア計算 (4)共分散構造分析 五十田昇吾 増田淑乃 桝田羽奈子 直井秀哉 ―はじめに る。数ある広告の種類の中でも OOH 広告に注目し たのは、屋外広告や電車の中吊り広告のような 企業は、消費者に伝えたいことを伝えるために OOH 広告は、無意識的に目に飛び込んでくる広告 広告を打つ。広告は商品やサービスの内容を知ら だからである。テレビ CM やインターネット広告 せる商品広告や、企業理念等を示し企業への理解 は、テレビをつける、インターネットを開くなど や支持を求める企業広告などに分類できるが、い 自分から行動を起こさなければ触れることはない。 ずれも消費者に何かを伝えるという大きな目標は 近年若者のテレビ離れも叫ばれ、実際我々大学生 共通である。しかし、日頃目にする広告の中で、 の感覚としてもテレビ視聴時間の減少、さらにそ 何の広告か、何を伝えたい広告かよくわからない れに伴うテレビ CM 接触時間の減少を感じる。ま ものに出会ったことはないだろうか。消費者に伝 たスマートフォンの普及によりインターネットに えたいことがあってコストをかけて広告を打って 触れる機会が増えた一方、インターネット上の広 いるにも関わらず、それが伝わらなければ企業に 告は小さかったり邪魔な場所に出てきたりしてあ とって意味がない。我々はそこに問題意識を持ち、 まり注目して見ることがないという印象もある。 本研究を始めた。 その一方で、信号待ちや電車待ちなどの時間に、 では、伝わらない広告があるのはなぜだろうか。 特に興味はなくてもぼんやりと眺めることが多く、 そう考えたときに我々は、企業の意図と消費者の 生活パターンなどにより繰り返し目に入る機会も 捉え方にずれがあるからではないかという考えに 多いのが OOH 広告ではないだろうか。多くの人に たどり着いた。そこで本研究では消費者の目線か 触れる身近な広告として影響力が高いと考え、本 ら広告を分析し、消費者はどのような広告を見る 研究では OOH 広告を研究対象とすることにした。 とどのような感情を抱き、またその企業に対して 本研究では、10 種類の OOH 広告から受ける印 どのようなイメージを抱くのかを明らかにしてい 象とその企業に対するイメージを被験者 222 人に く。消費者の広告の捉え方とそこから形成される 評価してもらい、共分散構造分析を用いてその関 企業イメージを明らかにしそこから逆算すること 係を探っていく。はじめに述べた「伝わらない広 で、企業が意図する影響を消費者に起こすにはど 告があるのは企業と消費者に認識の差があるから のような広告を打つのが効果的なのかを示したい。 ではないか」という問題意識のもと、消費者の広 企業と消費者の認識のずれを減らした、より消費 告の捉え方(イメージ)とそこから形成される企業 者に伝わりやすい広告を打つためのマーケティン イメージを明らかにする。それにより企業が意図 グ上有用な示唆を得ることを本研究の目標とした。 する影響を消費者に起こすために効果的な広告を 明らかにすることが本研究の最終的な目的である。 ─序論 ①研究テーマ ②現状分析 本研究では、広告の中でも対象を「OOH 広告」 我々は本研究において18~25歳の若者を調査対象 に絞り、消費者の目線から分析していく。OOH(ア としてOOHメディアと企業イメージの関係性を明 ウト・オブ・ホーム)広告とは、屋外広告のことであ らかにするため、その妥当性を確認する必要があ る。そこで本章では、研究を始めるにあたり、1. 若 (出典:総務省 情報通信政策研究所「平成 25 年 情報 者のテレビ離れ、2. 若者の外出時間の増加、3. 通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」) OOHメディアの可能性、4. 企業イメージの重要性 の四点について現状分析をしていく。 株式会社大和総研ホールディングスのデータで も「テレビ番組を録画視聴する頻度」で「ある(よ 1.若者のテレビ離れ 近年、 「若者のテレビ離れ」がささやかれている。 く+ときどき)」は 43%となっており、テレビ録画 の利用率の高さがうかがえる。また、株式会社リ 実際、総務省「社会生活基本調査」の統計(図 1) サーチ・アンド・ディベロプメントの調査では「録 を見ても、10 代や 20 代のみならず、30 代や 40 画視聴時に CM をスキップしますか?」という質 代もテレビの視聴時間を減らしていることがわか 問に対し、「飛ばす(いつも+ときどき)」が 88%と る。テレビ離れの背景には、メディア端末や余暇 圧倒的である。若い人ほどスキップする割合は高 の過ごし方の多様化が挙げられる。 くなっており、18~24 歳では 92%がスキップする ■図表―――1 としていた(図表 3)。 テレビの視聴時間の推移 ■図表―――3 録画視聴時のCMスキップについて (出典:総務省「社会生活基本調査」より大和総研作成) 図表 2 は「主なメディアの平均利用時間」を表 (出典:リサーチ・アンド・ディベロプメント) している。赤色がテレビのリアルタイム視聴時間 であるが、若者ほどリアルタイムでの視聴時間が 短いことがわかる。 ■図表―――2 主なメディアの平均利用時間(平日)<H25年度> CM をとばす行為は録画時のものだけではなく、 すぐにチャンネルを変える「ザッピング」や、CM の間に用事を済ますなど、CM を見ない視聴者は他 にも多く存在していると考えられる。 広告を研究するにあたって我々の中で一番初め に浮かんだ広告の種類はテレビ CM であった。し かしこのような現状を受け、テレビ CM よりもよ く見られて影響力が大きい広告があるのではない かと考え、本研究ではテレビ CM を対象から外す こととした。 2.若者の外出時間の増加 前節では若者のテレビ離れの現状とそれに伴う CM スキップに起因する CM の影響力低下の可能 研究対象の広告を OOH 広告に設定した。OOH 広 告については、次節で詳しく述べる。 性について述べたが、本節では若者の外出時間の 増加について記述していく。 3. OOH メディアの可能性 NHK 生活者調査の「2010 年国民生活時間調査 報告書」によると、人々の外出時間が増加してい 前節では若者の外出時間の増加について記述し る(図表 4)。 た。本節では、外出時間の増加に伴い接触が増え ■図表―――4 ると考えられる OOH(アウト・オブ・ホーム)メデ 在宅時間(男女年層別・職業別)について ィアの可能性について述べていく。 OOH とは、屋外広告のことである。現在、注目 に値する機能や役割をもっていると期待されてお り、最も注目されている点は安価なことと認知の 持続性である。「OOH メディアの可能性を探る対 談」において城西大学の清水は、媒体や広告の露 出度が 1000 世帯(または個人)に到達するために必 要なコストを見ると、OOH メディアはテレビの七 分の一にすぎないと述べている。また、屋外広告 は細かいメッセージよりはブランド名や企業名の (出典:NHK 放送文化研究所) 告知が中心にはなるが、これを最低でも一カ月、 具体的な数値を見てみると、2000 年、2005 年、 2010 年の 5 年間の在宅時間の推移は 10 代女性で 14 時間 12 分、13 時間 25 分、13 時間 15 分、20 代女性では 14 時間 11 分、14 時間 17 分、14 時間 13 分となっており、 10 代男性では 13 時間 41 分、 13 時間 13 分、13 時間 6 分、20 代男性では 12 時 間 3 分、12 時間 7 分、12 時間 11 分となっている。 20 代男性は少しずつ増加しているが、それ以外の 10 代女性、20 代女性、10 代男性では在宅時間が 年々減少している。さらに、学生全体を見ても、 14 時間 6 分、13 時間 22 分、13 時間 14 分という ように、在宅時間は減少傾向にあり、これは有職 者や主婦、無職と比較しても、減少傾向が大きい ことがわかる。以上のことから若者の外出時間は 増加していると言える。 このことから、OOH 広告(屋外広告)に若者が 接触する機会も増加していると考え、本研究では さらに三カ月、六カ月と露出すると、一過性では なく掲出の持続性がある、すなわち認知持続性を 可能にするメディアであるといえる。 同対談からは上記以外にも OOH メディアの二 つの優位性が確認できた。一つ目として、テレビ やインターネットだと、狭いスペースでメッセー ジが提示されるが、OOH 広告は大きなスペースを 利用できるため非常にクリエーティブで、特色を 出しやすい。つまり、クリエーターのアイディア を発揮する度合いが大きいため、非常にインパク トを与える可能性を秘めた媒体であるといえる。 二つ目として、テレビや雑誌などの OOH メディア 以外の伝統的なマス媒体では、受け手がそのメデ ィアから情報を取ろうという意思を持ってはじめ てその機能を発揮するのに対して、OOH メディア は人間が家から外に出れば、自分の意思とは関係 なしにその情報が偶発的に入ってくる。偶然に気 づかされるメッセージは記憶に残りやすく、大き だが、その訴求力を担保するのが企業イメージで なインパクトを与えるメッセージになり得、今後 あるため、企業の収益のためにも良い企業イメー OOH メディア自体をメインとした広告の新しい ジを作ることが重要である。 展開も期待されるという。 さらに、企業イメージは、その会社についての 以上のことより近年 OOH 広告への注目が高ま パブリック・オピニオン(世論)に与える影響が大 っていることがわかり、本研究では OOH 広告を研 きい。パブリック・オピニオンは、会社の是非、 究対象として設定することとした。 善悪、道徳性などを最終的に判断するものである。 さらにインターネットや SNS が普及した現在の社 4. 企業イメージの重要性 会においては悪いニュースはあっという間に拡散 され、悪い企業イメージも簡単に形成されてしま 前節では OOH 広告の可能性について述べた。本 うため、パブリック・オピニオンは企業が遭遇す 節では、企業イメージの重要性について記述して る厄介な現象の一つといえる。だからこそ企業に いく。 とって、パブリック・オピニオンに影響を与える 本研究開始にあたっての我々の問題意識は、 「広 企業イメージを革新的にコントロールすることは 告にはそれぞれ企業が伝えたいことがあるはずな 非常に重要である。消費者に好ましいイメージを のに、伝わらない広告がある。それは、企業と消 与えて商品の販売を向上させるためには自社がど 費者に認識のずれがあるからではないか」という のような会社なのかという一貫した企業イメージ ところにあった。一般に、企業の伝えたいことが を、広告等を用いて築き上げることが重要である。 商品やサービスの内容であればその広告は商品広 しかし先述したように企業が伝えたいイメージが 告、企業全体のことであれば企業広告に分類され 消費者にうまく伝わらない現状もあり、それでは る。商品広告、企業広告と分けられてはいるが、 コストをかけてうつ広告も意味がなくなってしま 消費者は商品広告を見たとしても、その企業に対 う。そこで本研究では企業イメージと消費者の広 してなんらかのイメージを持つことになると我々 告に対するイメージとの関係に焦点を当てること は考えている。というのも、たとえば、とくに企 とした。 業名は主張せず個別のブランド名で宣伝している ブランド(例:シャンプー)があったとして、自分はそ のブランドに愛着があるがどこの企業のブランド ─本論 かは知らなかったとする。それでも、そのブラン ①既存文献レビュー ドに好意を持っていれば、そのブランドを出して 本研究の目的は、消費者の広告の捉え方(イメー いる企業名がわかったときに、その企業に対して ジ)とそこから形成される企業イメージを明らかに も良いイメージを抱き、親しみを覚えるというこ し、そこから遡って考えることで、企業が意図す とは往々にしてあるのではないだろうか。 る影響を消費者に起こすために効果的な広告を明 流通用語辞典によると、 「企業イメージ」は、消 費者にとって、商品イメージやブランドイメージ らかにしていくことである。本章では、研究を進 める上で参考にした既存研究について述べていく。 より上位の概念である。また企業にとっては、広 告における商品やサービスの訴求ももちろん重要 1. 広告の定義 はじめに、広告の定義について述べる。 は、そのような広告評価の枠組みに対して、広告 マーケティング研究の歴史上、広告の定義につ の企業イメージとの一致度合いや企業好意度を示 いて多数の見方がされている。コトラーはマーケ し、また、消費者の広告評価と企業に対する態度(好 ティング・コミュニケーション・ミックスとして 意度、企業イメージの評価)との関係を示すため、二 の四つのツール(広告、販売促進、パブリック・リレ つの分析をした。一つ目は消費者の広告評価と広 ーション、人的販売)を構成し、端的に広告を「有料 告の内容の企業イメージとの一致度合いとの関係 の媒体を使って、提供者名を明示して行う、アイ を分析することで、企業イメージに合った広告の ディア、製品、サービスの非人的提示とプロモー 方が広告好意度や広告接触後の製品の関心が高く ション」としている。また、数多くの代表的な定 なる、即ち企業イメージに合った広告は消費者と 義を整理し、共通点ないし共通点ないし強調され の関係を強化する機能を果たすことを明らかにし ている点を拾い上げているものも見受けられる。 た。そして二つ目の分析で企業への好感度が高い それは、 「広告とは、非人的メッセージの中に明示 人の方がより広告評価が高いことを明らかにする された広告主が所定の人々を対象にし、広告目的 ことで、企業との関係性が強い消費者が広告の影 を達成するために行う商品・サービスさらには、 響でさらにその関係性を強める可能性があるとい アイディア(考え方、方針、意見などを意味する)に うことを示した。 ついての情報伝搬活動である」としている。近年 以上の結果より、企業イメージに合った広告に では、ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーが よって、さらに企業との関係性を深めることが可 「広告コミュニケーションはどちらかといえば間 能であるということが明らかになった。 接的な形で消費者への説得を行うものであると考 えており、製品の便益を、情報あるいは情緒的訴 3. イメージに関する研究 求に基づいて消費者に伝え、消費者の選好を喚起 し、購買へと“気持ちを向けさせる”ものである」 としている。 第二節において広告評価と企業イメージの関係 について述べたが、本研究においても「イメージ」 以上より、広告は製品やサービス、アイディア というあいまいなものを扱うため、本節ではその 等の情報を消費者に伝えるものであると捉えられ 「イメージ」に関する理解を深めるべく既存文献 る。 レビューをする。 ボウルディング[1962]は、人が信じている主観的 2. 消費者の広告評価に関する研究 な知恵がイメージであり、人の行動を支配するの はこのイメージであることを強調している。嶋村 我々は本研究を開始するにあたり、まず消費者 [1983]も「生まれてきたイメージは、本人が意識し の広告評価と企業イメージの関係に関して記述さ ているか否かにかかわらず、次に入ってくる情報 れた既存研究に注目した。 を解釈するとき、新たな行動を起こすときなどに 一般的に、優れた内容の広告によって広告に対 どうするべきかの指示を与える」と述べており、 する好意度を高め、広告で訴求している製品・サ また松田・花上・鈴木[1995]は「人の理解(脳の認 ービスに関心のある消費者を増やし、購買につな 識)はイメージを媒介として行われ」 、 「その後の人 げていくという考え方がある。そこで日戸[1995] の行動(意思決定)に対し、最大のよりどころとし て機能するものである」と記述している。これら 12 項目で広告イメージを測定するが、そのまま の文献より、イメージは主観的であいまいな知識 使用すると変数が多く、相関の高い変数を組み入 でありながら、その人の行動を動かす力を持つも れる懸念があるため、竹内は因子分析で四つの次 のであることが読み取れる。 元に整理している。 ■図表―――6 4. 広告イメージに関する研究 広告イメージの因子分析の結果 (出典: 『広告コミュニケーション効果』[2010]) 本節では、 「広告イメージ」に関する既存研究に ついて述べていく。 竹内[2010]は広告への反応を「広告イメージ」 と定義し、評価的要素を含む認知的反応と感情的 反応が混合されたものであるとしている。従来、 広告への態度を一次元の評価的概念であると考え て、広告に対する全体的評価として測定すること が多かったのに対して、阿部[1987]は広告への態 度を多次元的に測定する必要があると主張してお り、同様に広告イメージも多次元的に測定する必 第一因子は「印象的な」「心の残る」「新鮮な」 要があるといえる。 「説得力がある」 、 「わかりやす の因子得点が高く「平凡な」が低い「インパクト い」などは認知的反応を測定する項目であり、 「親 因子」、第二因子は「親しみのある」「飽きがこな しみがある」、「情緒のある」などは感情的反応を い」「面白い」が高い「親しみ因子」、第三因子は 測定する項目として分類できる。 「わかりやすい」 「説得力のある」が高い「説得力 竹内[2010]は広告のイメージの短期的効果を測 因子」 、第四因子は「しつこい」が高く「あっさり 定するために広告イメージの抽出・類型化を行っ した」が低い「しつこい因子」と命名している。 た。広告イメージの調査上の項目は図表 5 に示す この因子分析の結果を基にして作成された広告イ ように 20 項目あるが、一対になった項目もあるた メージ評価の項目が、図表 7 に示すものである。 め、あらかじめ因子分析を行い、その結果に基づ ■図表―――7 き、竹内は 12 項目 (新鮮な、面白い、情緒のある、親 広告イメージの評価項目 しみのある、わかりやすい、説得力のある、心に残る、 印象的な、平凡な、飽きがこない、あっさりしている、 しつこい) に絞り込んで、分析を進めている。 ■図表―――5 広告イメージ評価項目 (出典: 『広告コミュニケーション効果』[2010]) 本研究においても広告イメージを測定する必要 があるため、この評価項目を参考にすることにし (出典: 『広告コミュニケーション効果』[2010]) た。この中には一対になった項目(心に残る⇔心 に残らない、説得力のある⇔説得力がない等)が存 ることが多く、ブランドに対する態度を考える上 在したため、今回の我々の研究ではそれらを省き、 でもこの枠組みは有用であると述べている。我々 12 項目の評価項目を作成した。評価項目の詳細に の研究で扱う企業への態度、企業イメージはブラ ついては第三章「分析結果」の四節「確認的因子 ンドに対する態度よりも上位の概念であるため、 分析」で記述する。 「認知」と「感情」で消費者のイメージを捉える この枠組みは本研究でも利用できると考えた。 5. 企業イメージに関する研究 6. 広告に関わる態度に関する研究 本節では、 「企業イメージ」について既存文献を もとに述べていく。 企業イメージとは、 「企業を取りまく人々の、企 業への思い込み(八巻[1984])」である。嶋村[1983] 本節では、本研究で用いる構造モデルの参考に する研究として、 「広告に関わる態度」に関する既 存研究についてまとめる。 は、企業イメージのような固定観念が一度形成さ 広告に関わる態度は多くの研究がなされてきた れると人がものを見たり聞いたりするときのエモ が、媒体への態度、広告全般への態度(AG)、広告 ーショナル・フィルターとして働くとし、事実で 表現への態度(Aad)に大別できる。 「媒体への態度」 あろうとなかろうとこのフィルターは自分の性に に関する研究では、情報源としての媒体に期待す 合うものは受け入れ、合わないものは拒絶させる ることとそれに対する使用経験との関係が扱われ、 としている。また下村[2000]によると、企業イメー 多くの場合で利用と満足の理論が用いられる。ま ジは企業から発信される情報や意味的刺激(人・ た「広告全般への態度」に関しては広告主の活動 もの・メディアによるコミュニケーション)によ や広告という仕組み自体への関心から研究が行わ って形成される。企業が意味を持つ広告を送り、 れ、 「広告表現への態度」に関する研究では、特定 消費者が広告の意味を解釈したときそれがイメー の広告の広告表現を対象にしたものが多い(広瀬・ ジとなるため、企業は、消費者の企業イメージに 朴[2006])。 ついても自社の経営資源として管理の対象とする 本研究では、この三つの広告に関わる態度のう ことになる。企業は消費者の企業イメージを管理 ちの「広告表現への態度」に注目していく。 する手段の一つとして、広告を利用するのである。 Lutz[1985]によると、広告への態度(以下 Aad と略 しかし企業広告は企業イメージの向上を狙うもの す)とは、広告のオーディエンスが「特定の広告と であるのにも関わらず、企業広告から企業イメー の接触状況において、好意的あるいは非好意的に ジへの影響の研究はほとんど行われていない(下村 その広告に反応する先有傾向」と定義できる。Aad [2000])。そこで本研究では、 「どのような広告から が対象とするのは広告全般ではなく、特定の広告 どのような企業イメージが形成されるのか」を明 である。Aad は広告コミュニケーションの情報処 らかにしていく。 理過程の中で、様々な要因との関係が指摘されて また杉谷[2013]はブランド態度における感情と きた。多くのモデルでは、Aad は広告認知とブラ 認知の研究において、消費者の態度の構成要素は ンド態度を媒介する変数として説明されている。 「認知」(客観的な指標に基づく評価)と「感情」 (消 Aad を媒介変数とする様々な研究から、Aad を高 費者の主観的経験に基づく評価) の二つに分けて捉え めることができれば、より高いブランド態度や購 買意図に結びつき、高い広告効果が期待できると プを「クール系広告」「機能訴求系広告」「スタイ いうことがわかる(広瀬・朴[2006]) 。Aad が購買 リッシュ系広告」「メッセージ系広告」「疑問系広 行動において重要な役割を果たすのであれば、そ 告」と命名した。グループの名前はその広告群の の前段階としてのブランドイメージ、さらにその 特徴を表している。「クール系広告」「機能訴求系 上位概念である「企業イメージ」に Aad が与える 広告」 「スタイリッシュ系広告」は言葉の通りの内 影響を研究することは重要な意味を持つと考えた。 容であり、 「メッセージ系広告」は何かしらの企業 また本研究では「広告への態度」を「広告へのイ からのメッセージが感じられる広告、 「疑問系広告」 メージ」とし、 「広告へのイメージ」が「企業イメ は一見何の広告かわからない広告、と本研究では ージ」に与える影響を明らかにしていく。 定義する。 次に、アンケート調査時に使用する広告として、 グループの特徴をよく持っている広告 (図表 8-12) を各グループから 2 枚ずつ、計 10 枚選出した。 ②仮説の提唱 本章では、前節でレビューした文献をもとに、 「印刷広告に対する印象」と「企業イメージ」の ■図表―――8 <グループ 1> クール系広告 関係についてモデルならびに仮説を提唱する。 1. 対象財の選定 本研究の調査で使用する広告は、公益社団法人 日本広告写真家協会(APA)が主催する APA アワ ード 2014 の入賞作品集である『年鑑 日本の広告 写真 2014』広告作品部門より選出した。APA アワ ードの募集対象広告は 2013 年 1 月1日から 2014 年 8 月 31 日までに実際に制作発表された印刷物で、 左:資生堂(PERFECT ROUGE) 「心を動かす作品」という観点から審査が行われ 右:日本航空 る。本研究ではこの APA アワードの入賞作品全 ■図表―――9 130 作品の中から選出した 10 枚の広告についてア <グループ 2> スタイリッシュ系広告 ンケート調査を行った。 アンケート調査に使用する 10 作品の選定方法は 以下の通りである。まず『年鑑 日本の広告写真 2014』広告部門に掲載された入選作品を全て印刷 し、1 作品ずつ切り離して机に並べ本論文の著者 4 人により全広告を類似性でグループ分けを行った。 本研究での対象となるのは OOH 広告であるため、 入選作品の中でも新聞広告、雑誌広告、CD ジャケ ットなどははじめに除外した。分類の結果五つの 左:VANQUISH グループに分けることができ、それぞれのグルー 右:UNIQLO ■図表―――10 左:加藤酒食料品店 <グループ 3> 機能訴求系広告 右:大塚製薬(Gerlinea) これらの分類の信頼性を確保するため、第 3 章 3 節で MDS(Multi-dimensional scaling)を行う。 2. モデルの提唱 前節「既存研究レビュー」の六節で記述した広 瀬・朴[2006]の研究で、「広告表現に対する態度 左:kanko (Dry Wash) (Aad)」が「ブランドへの態度(Ab)」に影響を与 右:TOSHIBA (REGZA) えることを示した。 ■図表―――11 ■図表―――13 <グループ 4> メッセージ広告 広瀬・朴のモデル(一部抜粋) (出典:広瀬盛一・朴亨烈[2006],「媒体態度が広告への 態度におよぼす影響」より筆者作成) 本研究では広告の種類を限定して OOH 広告と し、「広告表現に対する態度」改め「OOH 広告に 対するイメージ」とする。また、本研究で扱いた 左:日本郵便 いのはブランドへの態度ではなくそれより上位の 右:日本ハム 概念としての企業イメージであるため、 「ブランド ■図表―――12 への態度」改め企業への態度としての「企業イメ <グループ 5>疑問系広告 ージ」とする。このようにして「OOH 広告に対す るイメージ」→「企業イメージ」を本研究での基 本モデルとして設定することとした。 ■図表―――14 本研究での基本モデル (出典:筆者作成) 次章三節で詳しく述べるが、OOH 広告に対する イメージを測定するにあたり、既存研究で示した メージ評価項目を参考にしながら、下記の六つの 認知的企業イメージ: 竹内[2010]の広告イメージ評価項目を参考にして 先進的である、積極的である、 12 項目による評価項目を作成した。竹内による広 洗練されている 告イメージの因子分析結果にならい本研究でも四 つの次元に整理し、その上で確認的因子分析を行 って妥当性を確認した。本研究で使用する広告に 感情的企業イメージ: 信頼できる、親近感がある、愛着がある 評価項目を作成した。 対する印象の評価項目は以下の通りである。 <本研究における広告イメージの評価項目> 第一因子(インパクト因子): 新鮮な/印象的な/心に残る 以上を総合すると図表 16 のモデルが作成できる。 ■図表―――16 修正後モデル 2(確定版) 第二因子(親近性・共感性因子): 親しみのある/共感できる/情緒のある 第三因子(理解・説得力因子): わかりやすい/説得力のある/信頼感のある 第四因子(わくわく感因子): 面白い/飽きがこない/上品な これをもとに図表 14 を修正すると、以下のよう になる(図表 15 参照)。 (出典:筆者作成) ■図表―――15 修正後モデル 1 本研究では、このモデルを使用して「OOH 広告 に対するイメージ」と「企業イメージ」の関係を 検証していく。 3. 仮説の提唱 本節では、前節で構築した「OOH 広告に対する イメージ」と「企業イメージ」の関係について以 下の仮説 1-8 を提唱する。 (出典:筆者作成) 次に、企業イメージを設定するにあたり、既存 研究で示した杉谷[2013]の「認知」と「感情」でイ メージを捉える枠組みと、竹内[2010]のブランドイ H1:「インパクト」は「認知的企業イメージ」 関心度合いなど広告への態度を聞いている。これ に正の影響を与える。 は、様々な角度からのアプローチを可能にするこ H2:「親近性・共感性」は「認知的企業イメー とを目的としている。広告への関心度合いについ ジ」に正の影響を与える。 ては「とても関心がある」から「全く関心がない」 H3: 「理解・説得力」は「認知的企業イメージ」 の 5 段階尺度とし、広告を見る前後でその企業に に正の影響を与える。 対する印象が変わることがあるかについては「は H4: 「面白・過剰感」は「認知的企業イメージ」 い」 、 「いいえ」の 2 段階尺度とした。また、広告 に正の影響を与える。 には商品の品質や値段、またはサービスの内容や H5:「インパクト」は「感情的企業イメージ」 値段などを知らせているものと、会社の名前や商 に正の影響を与える。 品のイメージを写真や絵で表しているものがある H6:「親近性・共感性」は「感情的企業イメー が、どちらの広告の方が企業への印象に対する影 ジ」に正の影響を与える。 響が強いと思うかについては、そのどちらか一方 H7: 「理解・説得力」は「感情的企業イメージ」 か、一概には言えない、わからない、の中から選 に正の影響を与える。 択してもらった。最後に、印刷広告と聞いたとき H8: 「面白・過剰感」は「感情的企業イメージ」 に思い浮かべるもの、一番注目して見るものにつ ③仮説の検証 に正の影響を与える。 いては、看板・ネオン、駅構内、電車の中吊り、 折り込みチラシ、新聞、雑誌、その他の中から、 1. 調査内容と調査方法 前者は複数、後者は一つを選択してもらった。こ (1)調査概要 れは、消費者にとって印刷広告の一つである OOH 本研究では独自のインターネット調査を実施し た。調査対象は 18 から 25 歳の男女とし、対象財 広告がどの程度重要な位置にあるのかを明らかに するために行った調査である。 は先述した通り 5 グループに分類した 10 枚の広告 第二部は、本研究において最も重要である、 「広 とした。調査期間は 2014 年 10 月 13 日から 19 日 告イメージが企業イメージに与える影響」につい で有効回答数 222 サンプルを得た(図表 17)。 ての設問である。事前に分類した五つの広告グル ■図表―――17 ープから、 そのグループを代表する各 2 枚を集め、 アンケート調査の概要 計 10 枚の広告について画像を見せて回答してもら テーマ 印刷広告が企業イメージに与え った。その広告を見たことがあるか、その広告を る影響についての調査 見て良いと思うかを聞いた後に、広告に対するイ 調査手法 インターネット調査 メージ、その広告を見た後の企業に対するイメー 調査対象 18 から 25 歳の男女 ジを「とてもそう思う」から「全くそう思わない」 有効回答数 222 名 の 5 段階尺度で答えてもらった。 調査期間 2014 年 10 月 13 日から 19 日 第三部では、どのような広告が良いと思うか、 また、どのような広告が悪いと思うかについて自 (2)調査内容 由記述の形式で回答してもらった。自由記述の形 本研究におけるアンケートは三部構成である。 式をとった理由は、我々のアンケート項目で不足 第一部では、デモグラフィック要因や広告への している部分を補いたいと考えたためである。 2. アンケート(第一部・第三部)結果解釈 1%という結果になった。このことより、半数以上 の人が企業広告の方が企業への印象が変わると答 本節では、アンケートの第一部と第三部の回答 内容をもとに、解釈を行う。 第一部では、デモグラフィック要因や広告への 関心度合いなど広告への態度を聞いている。広告 えていることがわかった。 ■図表―――19 企業イメージへの印象が強いと思う広告 ( 全体 n=222) への関心度合いについて「とても関心がある」か ら「全く関心がない」の 5 段階尺度で尋ねたとこ ろ、関心がある(評価が 4 以上の)人は 113 人で、 一概に 言えない 18% わからない 1% 過半数の人が広告にある程度関心を持っているこ とがわかった。また、広告を見る前後でその企業 に対する印象が変わることがあるかについては 「はい」 、 「いいえ」の 2 段階尺度で質問したとこ 商品広告 29% 企業広 告 52% ろ、87%の人がはいと答えた(図表 17)。この結果 から多くの人が広告から影響を受けていることが わかった。 最後に、印刷広告と聞いたときに思い浮かべる ■図表―――18 もの、一番注目して見るものについては、看板・ 広告で企業への印象が変わる(全体 n=222) ネオン、駅構内、電車の中吊り、折り込みチラシ、 新聞、雑誌、その他の中から、前者は複数、後者 いいえ 13% は一つを選択してもらった。全体と広告への関心 がある人(評価が 4 以上) のみの 2 種類を集計した ところ図表 19 と図表 20 のような結果となった。 はい 87% 図からわかるように関心がある人特有の特徴はあ まりなく、最も注目して見られているのは電車の 中吊り、続いて駅構内、看板・ネオン、雑誌、折 り込みチラシとなっている。この結果より、印刷 広告には商品の品質や値段、またはサービスの 広告の中でも OOH 広告(屋外広告)の重要性が確 内容や値段などを知らせているもの (以下商品広告) 認できた。 と、会社の名前や商品のイメージを写真や絵で表 ■図表―――20 しているもの (以下企業広告) があるが、どちら 印刷広告を注目して見る場所(全体 n=222) の広告の方が企業への印象に対する影響が強いと 思うかについては、そのどちらか一方か、一概に は言えない、わからない、の中から選択してもら った。図表 18 より、企業広告と答えた人は全体の 52%、商品広告と答えた人は 29%、一概には言え ないと答えた人は 18%、わからないと答えた人は 折込チラシ 2% 雑誌 4% 新聞 1% うだ。一方良くないと思う広告に関しては、 「伝わ らない広告」、「ごちゃごちゃしている広告」に大 きく分類でき、 「伝わらない広告」が圧倒的に多か 看板・ ネオン 14% った。その他の意見としては、ありきたりなもの、 駅構内 28% 電車の 中吊り 51% インパクトばかりにこだわっているものなどがあ げられた。これは、良い広告としてわかりやすさ、 シンプルさがあげられていたのに対してその逆の 意見であることがわかる。 3. 分析手法 ■図表―――21 印刷広告を注目して見る場所(広告関心度 4-5 の人 n=113) 本節では、分析の大まかな手順と、分析方法を 述べる。 折込チラシ 3% 雑誌 3% 看板・ ネオン 16% (1)MDS 第二章「仮説の提唱」の第一節「広告の分類」 で述べたように、我々は、 『年鑑 駅構内 23% 電車の 中吊り 55% 日本の広告写真 2014』広告部門に掲載された約 100 個の広告を類 似性でグループ分けしたため、この分類に客観的 な信頼性を与える必要がある。そのために、企業 ごとにアンケート結果における各広告イメージの 平 均 値 を 算 出 し 、 そ の デ ー タ を も と に MDS 第三部では、どのような広告が良いと思うか、 (Multi-dimensional scaling)を行った。マクロミル どのような広告が良くないと思うかについて自由 によると、MDS とは、多次元尺度構成法の略称で 記述の形式で答えてもらった。結果にはそれぞれ ある。いくつかのブランドなどがあって、そのブ いくつかの傾向が見られた。良いと思う広告に関 ランド同士が似ているかどうかという度合いのデ しては、「コンセプトや伝えたことがわかりやす ータが一覧表になっているもの(ブランドの類似度マ い・伝わる」、「心に訴える・心に残る・メッセー トリクス)から、ポジショニングマップを作ること ジ・親近感・共感」、「見た目のインパクト・斬新 である。 さ・意外性」、「印象的さ」の四つに大きく分類す 本研究では、我々が行った広告の分類の信頼性 ることができた。その中でも「コンセプト・伝え を MDS で実証した後、その広告グループごとで広 たいことがわかりやすい・伝わる」という要素が 告イメージが企業イメージに与える影響がどのよ 最も重視されており、続いて「心に訴える・心に うに異なるのかを比較していく。 残る・メッセージ・親近感・共感」、「見た目のイ ンパクト・斬新さ・意外性」、「印象的さ」の順で (2)確認的因子分析 あった。その他の意見としては、シンプルさや美 我々は広告イメージの評価項目として、第一章 しさなども人々の広告評価に影響を与えているよ 四節に示した竹内[2010]の分類を使用したため、本 研究においてもこの分類が妥当であるか確かめる AGFI、RMSE 値を利用してモデルの妥当性評価を 必要がある。そこで我々は実際に行ったアンケー 行い、潜在変数間のパスの値、有意確率の値によ ト結果を基にプロマックス回転させ、確認的因子 り仮説の支持・棄却の判断をする。 分析を行い、平行分析により因子を抽出した。 プロマックス回転とは、縦軸と横軸をそれぞれ (4)構成概念スコア計算 別々に回転させる方法の一つで斜交回転といい、 次に、分類した五グループのそれぞれの因子得 プロマックス回転は因子間に相関があっても構わ 点で広告を比較する。因子得点とは、パス図で仮 ない。本研究において、我々は広告イメージ間に 定した構成概念スコアについて、各回答者が個別 相関があることを想定していたため、プロマック にもっている値のことである(豊田[2007])。因子得 ス回転を行った。確認的因子分析とは観測変数の 点が正の値をとればとるほど、回答者はその構成 相関に基づいて因子を抽出・説明する分析であり、 概念をより評価していることとなり、反対に因子 因子分析の一つである。探索的因子分析は、ある 得点が負の値をとればとるほど回答者はその構成 程度の事前仮説はあるものの、観測変数間にどの 概念を評価していないということとなる。本研究 ような因子が存在するかが判然とせず、データに では、アンケート回答者が「資生堂」「日本航空」 基づいて因子をあぶりだしていく分析であるのに 「VANQUISH」 「UNIQLO」 「Kanko」 「TOSHIBA」 対して、確認的因子分析は、事前にある程度明確 「日本郵便」 「日本ハム」 「加藤酒食料品店」 「大塚 な仮説が設定されており、観測変数に基づいて仮 製菓」の各印刷広告において、「インパクト」「親 説としてたてた因子構造が正しいといえるかどう 近性・共感性」 「理解・説得力」 「わくわく感」 「認 かを確証する分析である。また、平行分析とは、 知的企業イメージ」 「感情的企業イメージ」という データに含まれている誤差を推定して、誤差より 各因子をどの程度評価していたかを示す値になる。 も大きな情報を持った因子数を抽出する分析のこ 因子得点の算出方法としては、まず初めに実際 とである。平行分析では、データと同じサンプル のアンケート回答者の値から、各質問項目におけ サイズの乱数をたくさん発生させ、その乱数同士 るアンケート回答者全員の平均値を引いて求めた の相関行列の固有値を計算して、データと同様に 平均偏差データを作り出す。そして作り出した平 プロットする。乱数による相関行列の固有値とデ 均偏差データと 各質問項目の因子得点ウェイト ータの固有値の推移が交わったところ以上の因子 を掛けて合計すると因子得点が求められる。因子 を「意味のある因子」として判断できる。 得点ウェイトは統計パッケージ Amos が算出した ものを直接使用することとする。 (3)共分散構造分析 統計パッケージ「IBM SPSS Amos 22」を用い 4. 分析結果 て共分散構造分析を行うことで、確認的因子分析 (1)広告の分類 によって導き出された潜在変数間の因果関係を明 前節で述べたように、本研究にあたって我々は らかにし、仮説検証を行う。共分散構造分析とは、 広告を類似性によって五つのグループに分類した。 調査により観測された変数をもとに観測できない その分類の信頼性を確保するために行った MDS 潜在変数を導き、データとモデルの適合度を調べ の結果が図表 22 である。 る分析手法である(豊田[2007])。適合度指標の GFI、 ■図表―――22 スクリープロット 図表 19 より、我々が事前に同じグループに分類 した資生堂と日本航空、VANQUISH と UNIQLO、 Kanko と TOSHIBA、加藤酒食料品店と大塚製薬 図表 20 に示したスクリープロットより、乱数に は類似性があることがわかる。ただし、日本郵便 よる相関行列の固有値とデータの固有値の推移が と日本ハムは我々の考えに反して位置が離れてい 交わったところ以上の因子である「意味のある因 ることがわかる。メッセージ系広告というのは他 子」が五つ検出された。 の広告に比べて第一印象での評価ではなく、その さらに分析結果より詳しくその中身を見てみる 広告自体が持つ性質、メッセージが大きく評価に (図表 24)。因子 1 は「親しみのある」 、 「共感でき 影響を与えている可能性が高い。そのため、メッ る」 、 「情緒のある」 、因子 2 は「新鮮な」、 「印象的 セージ系広告と一つの広告グループに分類するこ な」 、 「心に残る」 、因子 3 は「わかりやすい」 、 「説 とは難しいのかもしれない。 得力がある」 、 「信頼感がある」 、因子 4 は「面白い」、 以上 MDS の結果より、各グループの代表として 「飽きがこない」 、因子 5 は「上品な」 、の数値が 選出した 2 枚ずつの広告が 5 グループ中 4 グルー それぞれ高く出ている。各因子間で重複している プで類似性が高いことが明らかになり、我々の分 項目があることから、互いに相関があることが推 類にある程度の信頼性が確認できたため、本研究 測される。ただし、因子 5 が高いのは「上品な」 ではこの 5 グループの分類を使用することとした。 のみで、因子 5 の潜在変数を説明する観測変数は 一つになってしまうため、広告イメージの評価項 (2)広告イメージの評価項目の確認 目分類としては不適切であると判断できる。 我々は広告イメージの評価項目として、第一章 四節に示した竹内[2010]の分類を使用したため、本 研究においてもこの分類が妥当であるかを確認的 因子分析によって検証した。図表 23 は確認的因子 分析の結果である。 ■図表―――23 ■図表―――24 確認的因子分析の結果 第一因子(インパクト因子): 新鮮な/印象的な/心に残る 第二因子(親近性・共感性因子): 親しみのある/共感できる/情緒のある 第三因子(理解・説得力因子): わかりやすい/説得力のある/信頼感のある 第四因子(わくわく感因子): 面白い/飽きがこない (3)広告イメージと企業イメージの関係性モデル 本節では、共分散構造分析を用いて、広告イメ ージと企業イメージの関係性を考察していく。 前節で述べたように、因子 5 という潜在変数を 説明する観測変数は「上品な」の一つであるため、 広告イメージの評価項目としては棄却することに 以上の確認的因子分析の結果より、本研究では 以下の広告イメージの評価項目を採用する。 ■図表―――25 共分散構造モデル した。よって、最初に提示した共分散構造モデル を訂正する。訂正後のモデルは以下の通りである。 ここで、本研究での共分散構造分析の内容と手 順について説明していく。共分散構造分析は図表 で表した。 GFI 値が .882、AGFI 値 が.828、 RMSEA 値が.101 であった。 25 のモデルを用いて計 6 回行う。順番としては 図表 27 にモデルのパス係数を示した。まずパ 抽出した広告 10 個での分析→クール系広告での ス係数の有意水準を確認する。「インパクト」か 分析→スタイリッシュ広告での分析→機能訴求 ら「認知的企業イメージ」、 「親近性・共感性」か 広告での分析→メッセージ広告での分析→疑問 ら「認知的企業イメージ」、 「親近性・共感性」か 形広告での分析である。本研究では分類した広告 ら「感情的企業イメージ」、 「理解・説得力」から グループによって、広告を見て抱いたイメージが 「認知的企業イメージ」 、 「理解・説得力」から「感 企業イメージに与える影響度が異なるのではな 情的企業イメージ」 、 「わくわく感」から「認知的 いかと考えたため、各グループで分析を行うこと 企業イメージ」へのパスは 0.1%の水準で有意と で、パス図における係数を比較していきたい。な なった。「インパクト」から「感情的企業イメー お仮説の支持については、本研究では有意水準 ジ」へのパスは 5%の水準で有意となり、「わく 10%までの標準化推定値を支持し、10%以上の標 わく感」から「感情的企業イメージ」へのパスは 準化推定値については棄却するものとする。ここ 高い有意水準により棄却することとした。次にパ で適合度について述べる。一般的には GFI(適合 スの係数の大きさについての考察をする。「イン 度指標)、AGFI(修正適合度指標)はそれぞれ 0.9 パクト」から「感情的企業イメージ」、 「親近性・ 以上であり1に近いほど説明力のあるモデルと 共感性」から「認知的企業イメージ」のパス係数 して証明できる。また、GFI と AGFI の値の差 は負の値をとり、それ以外のパス係数は正の値を が小さいほどモデルの適合度は高いとされてい とる。「親近性・共感性」が「認知的企業イメー る。さらに RMSEA は 0.1 以下で 0 に近いほど ジ」に負の影響を与えていることに関しては、親 良いとされている。以下に記述することであるが、 しみがある、共感できる、情緒のあるといった「親 本研究における共分散構造モデル計 6 回の GFI、 近性・共感性」と先進的である、積極的である、 AGFI は す べ て 0.9 を 下 回 っ て お り 、 ま た 洗練されているといった「認知的企業イメージ」 RMSEA もすべて 1.0 以上であるためモデル適合 は相反するイメージであると考えられる。さらに、 は低いと考察できる。そこで Amos によって算出 「理解・説得力」は「認知的企業イメージ」 、 「感 される修正指数と改善度を参考にモデル修正を 情的企業イメージ」対してあまり大きく影響して 検討したが、その場合広告グループごとでパス図 いないことがわかる。わかりやすさ、説得力、信 に相違が出てしまい、前章で提示した同一の共分 頼感というのは先述した通り良い広告の条件で 散構造モデルでの検討が不可能になり、本研究の あるのは間違いない。しかし、そういったものは 意義が損なわれてしまうと考えたため、適合度に 広告を見る人が当たり前に広告に求めているも ついては現状の数値を用いることとする。 の、すなわち前提条件であって、そういった性質 がなければ企業のイメージ低下につながる可能 a. 広告 10 枚での分析 広告 10 枚での共分散構造モデルは、図表 26 性はあるが、特に企業イメージ向上に大きく影響 することはないのだろう。また「わくわく感」に いたっては「認知的企業イメージ」 、 「感情的企業 品部門より選出しており、同書は「心を動かす作 イメージ」対してほとんど影響していないことが 品」という観点から審査されているということも わかる。本研究で抽出した 10 枚の広告は先述し ありアンケート回答者が面白いと感じられる広 たように『年鑑 日本の広告写真 2014』広告作 ■図表―――26 広告 10 枚での共分散構造モデル GFI=.882 AGFI=.828 RMSEA=.101 ■図表―――27 広告 10 枚での共分散構造モデル パス係数 告がほとんどなかったのだと思われる。 情的企業イメージ」へのパスは 0.1%の水準で有 意となった。「親近性・共感性」から「認知的企 業イメージ」 、 「わくわく感」から「認知的企業イ メージ」へのパスは 5%の水準で有意となった。 「かっこいい系」から「感情的企業イメージ」へ のパスは 10%の水準で有意となり、 「わくわく感」 から「感情的企業イメージ」へのパスは高い有意 水準により棄却することとした。次にパスの係数 の大きさについての考察をする。「インパクト」 から「感情的企業イメージ」、「親近性・共感性」 から「認知的企業イメージ」のパス係数は負の値 をとっていることから、それぞれが負の影響を与 えていることがわかる。それ以外のパス係数は正 の値をとる。 「クール系広告」を広告全体の結果と比較する と、「親近性・共感性」という広告イメージから 「感情的企業イメージ」への影響の値が低いこと、 b. 「理解・説得力」という広告イメージから「感情 クール系広告での分析 クール系広告での共分散構造モデルは、図表 28 で表した。GFI 値が.877、AGFI 値が.821、 モデルのパス係数は図表 29 に示した。まずパ ス係数の有意水準を確認する。「インパクト」か ら「認知的企業イメージ」、 「親近性・共感性」か ら「感情的企業イメージ」、 「理解・説得力」から 「認知的企業イメージ」 、 「理解・説得力」から「感 ■図表―――28 クール系広告での共分散構造モデル AGFI=.821 る。前者に関しては、かっこいい系広告である資 生堂、日本航空の広告は背景が黒で製品を一面に RMSEA 値が.098 であった。 GFI=.877 的企業イメージ」への影響の値が高いことがわか RMSEA=.098 載せるといったもので、「親近性・共感性」の高 い広告ではないためだろう。後者に関しても、 「親 近性・共感性」の値が極端に小さいため、相対的 に値が高くなっているためであると考える。 ■図表―――29 クール系広告での共分散構造モデル パス係数 c. スタイリッシュ系広告での分析 スタイリッシュ系広告での共分散構造モデル は、図表 30 で表した。GFI 値が.898、AGFI 値 が.851、RMSEA 値が.082 であった。 図表 31 にモデルのパス係数を示した。まずパ ス係数の有意水準を確認する。「インパクト」か ら「認知的企業イメージ」、 「親近性・共感性」か ら「感情的企業イメージ」、 「理解・説得力」から 「認知的企業イメージ」 、 「理解・説得力」から「感 情的企業イメージ」へのパスは 0.1%の水準で有 意となった。「親近性・共感性」から「認知的企 業イメージ」 、 「わくわく感」から「認知的企業イ メージ」 、 「わくわく感」から「感情的企業イメー ジ」へのパスは 5%の水準で有意となった。「イ ンパクト」から「感情的企業イメージ」 、 「親近性・ 共感性」から「認知的企業イメージへのパスは高 い有意水準により棄却することとした。次にパス の係数の大きさについての考察をする。「インパ ことがわかる。このグループに関しては、四つの クト」から「感情的企業イメージ」 、 「親近性・共 広告イメージも二つの企業イメージもあまり高 感性」から「認知的企業イメージ」 、 「わくわく感」 くないため、お互いの影響としての絶対値が小さ から「感情的企業イメージ」のパス係数は負の値 くなっていることが考えられる。また、「理解・ をとっていることから、それぞれが負の影響を与 説得力」という広告イメージが他の広告イメージ えていることがわかる。それ以外のパス係数は正 に比べて高くなっていることにより相対的に影 の値をとる。 響も大きくなっていると考えられる。また「わく 「スタイリッシュ系広告」を広告全体の結果と わく感」から「感情的企業イメージ」へのパスは 比較すると、「親近性・共感性」という広告イメ 全体では棄却されているのに対して支持された。 ージから「認知的企業イメージ」 、 「感情的企業イ 「スタイリッシュ系広告」では「わくわく感」の メージ」への影響の値が低いこと、「理解・説得 値が全体の平均と比べても低くなっていること 力」という広告イメージから「認知的企業イメー から相対的に適合度が上がっているのだと考え ジ」 、 「感情的企業イメージ」への影響の値が高い られる。 ■図表―――30 スタイリッシュ系広告での共分散構造モデル GFI=.898 AGFI=.851 RMSEA=.082 ■図表―――31 スタイリッシュ系広告での共分散構造モデル パス係数 なった。「インパクト」から「認知的企業イメー ジ」へのパスは 5%の水準で有意となった。「わ くわく感」から「認知的企業イメージ」へのパス は 10%の水準で有意となった。 「インパクト」か ら「感情的企業イメージ」、 「親近性・共感性」か ら「認知的企業イメージへのパスは高い有意水準 により棄却することとした。次にパスの係数の大 きさについての考察をする。「親近性・共感性」 から「認知的企業イメージ」、 「わくわく感」から 「感情的企業イメージ」のパス係数は負の値をと っていることから、それぞれが負の影響を与えて いることがわかる。それ以外のパス係数は正の値 をとる。 「機能訴求系広告」を広告全体の結果と比較する と、「インパクト」という広告イメージから「認 知的企業イメージ」への影響の値が高く、「感情 的企業イメージ」への影響の値が全体では負にな っているのに対して正の値になっていること、 「理解・説得力」という広告イメージから「認知 d. 的企業イメージ」への影響の値が低くいことがわ 機能訴求系広告での分析 機能訴求系広告での共分散構造モデルは、図表 32 で表した。GFI 値が.803、AGFI 値が.713、 図表 33 にモデルのパス係数を示した。まずパス 係数の有意水準を確認する。「親近性・共感性」 から「感情的企業イメージ」、 「理解・説得力」か ら「感情的企業イメージ」へのパスは 0.1%の水 準で有意となった。「理解・説得力」から「認知 的企業イメージ」へのパスは 1%の水準で有意と ■図表―――32 機能訴求広告での共分散構造モデル AGFI=.713 くなっているため認知的企業イメージへの影響 は大きくなっているのだろう。また、先述した通 RMSEA 値が.119 であった。 GFI=.803 かる。「機能訴求系広告」は「インパクト」が高 RMSEA=.119 り、インパクトだけにこだわっている広告は良く ない広告であると感じられやすいということが わかったが、「インパクト」の他に「理解・説得 力」が高くなっているため「感情的企業イメージ」 において負の影響が相殺されているのだと考え られる。 ■図表―――33 機能訴求系広告での共分散構造モデル パス係数 e. メッセージ系広告での分析 メッセージ系広告での共分散構造モデルは、図 表 34 で表した。GFI 値が.834、AGFI 値が.759、 RMSEA 値が.115 であった。 図表 35 にモデルのパス係数を示した。まずパ ス係数の有意水準を確認する。「インパクト」か ら「認知的企業イメージ」、 「親近性・共感性」か ら「感情的企業イメージ」へのパスは 0.1%の水 準で有意となった。「親近性・共感性」から「認 知的企業イメージ」 、 「わくわく感」から「認知的 企業イメージ」へのパスは 1%の水準で有意とな った。「理解・説得力」から「認知的企業イメー ジ」 、 「理解・説得力」から「感情的企業イメージ」 へのパスは 10%の水準で有意となった。 「インパ クト」から「感情的企業イメージ」 、 「わくわく感」 から「感情的企業イメージ」へのパスは高い有意 水準により棄却することとした。次にパスの係数 の大きさについての考察をする。「インパクト」 から「感情的企業イメージ」、「親近性・共感性」 認知的企業イメージへの影響が低いことがわか から「認知的企業イメージ」のパス係数は負の値 る。「メッセージ系広告」では「インパクト」の をとっていることから、それぞれが負の影響を与 値は高いのだが、選定した広告を見るとわかる通 えていることがわかる。それ以外のパス係数は正 り先進性などの要素が含まれる「認知的企業イメ の値をとる。 ージ」が低いため、このような結果になったのだ 「メッセージ系広告」を広告全体の結果と比較 すると、「インパクト」という広告イメージから ■図表―――34 メッセージ系広告での共分散構造モデル GFI=.834 AGFI=.759 RMSEA=.115 ■図表―――35 メッセージ系広告での共分散構造モデル パス係数 と推測できる。 まずパス係数の有意水準を確認する。「インパク ト」から「認知的企業イメージ」 、 「親近性・共感 性」から「感情的企業イメージ」、 「理解・説得力」 から「認知的企業イメージ」 、へのパスは 0.1%の 水準で有意となった。「理解・説得力」から「感 情的企業イメージ」 、 「わくわく感」から「認知的 企業イメージ」へのパスは 10%の水準で有意と なり、 「インパクト」から「感情的企業イメージ」 、 「親近性・共感性」から「認知的企業イメージ」 、 「わくわく感」から「感情的企業イメージ」への パスは高い有意水準により棄却することとした。 次にパスの係数の大きさについての考察をする。 「親近性・共感性」から「認知的企業イメージ」 のパス係数は負の値をとっていることから、それ ぞれが負の影響を与えていることがわかる。それ 以外のパス係数は正の値をとる。 「疑問系広告」を広告全体の結果と比較すると、 「インパクト」という広告イメージから「感情的 企業イメージ」への影響の値が全体では負になっ ているのに対して正になっていることがわかる。 これは「機能訴求系広告」のところでも述べたの f. 疑問系広告での分析 疑問系広告での共分散構造モデルは、図表 36 で表した。 GFI 値が .897、AGFI 値 が.850、 だが、「インパクト」というのはそれだけでは高 い広告評価にはつながらない。しかし「疑問系広 告」では「インパクト」と「わくわく感」の値が RMSEA 値が.083 であった。 図表 37 に示すのがモデルのパス係数である。 高くなっていることから正の影響を及ぼし、負の 影響を相殺しているのだと考えられる。 ■図表―――36 疑問系広告での共分散構造モデル GFI=.897 AGFI=.850 RMSEA=.083 ■図表―――37 疑問系広告での共分散構造モデル パス係数 (4) 因子得点による広告比較 本研究では被説明変数である「認知的企業イメ ージ」「感情的企業イメージ」と、説明変数であ る「インパクト」 「親近性・共感性」 「理解・説得 力」「わくわく感」の二つに分けてグラフにプロ ットし、考察していく。 a. 「認知的企業イメージ」「感情的企業イメー ジ」の因子得点 被説明変数は二つであったため、二次元のグラ フで表すことができる。下記のグラフは縦軸が 「認知的企業イメージ」、横軸が「感情的企業イ メージ」である。全体的に右肩上がりにプロット されており、「認知的企業イメージ」が高い企業 は「感情的企業イメージ」も高いことがわかる。 その中でも TOSHIBA と日本郵便の広告が両者 の値が高いことがわかった。 ■図表―――38 「認知的企業イメージ」 「感情的企業イメージ」の因子得点プロット b. 「インパクト」 「親近性・共感性」 「理解・説 の三つである。また、凹型には VANQUISH、 得力」 「わくわく感」の因子得点 UNIQLO、日本郵便と、企業広告がまとまって 説明変数は四つであることから、グラフにプロ おり、凸型には資生堂、JAL、TOSHIBA、加藤 ットを載せると四次元になってしまい、非常に見 酒食料品店、大塚製薬と、商品広告がまとまって づらく考察しにくいものとなってしまうため、各 いる。企業広告は企業イメージを高め、商品広告 OOH 広告を折れ線グラフに表し、縦軸の値を因 は売上を上げるというイメージが強い。実際にア 子得点、横軸の整数値を各説明変数とすることで ンケート調査の第一部でも過半数が企業広告の 二次元グラフに表した。その結果、折れ線グラフ 方がより企業への印象が強いと述べている。しか の形から 3 種類に分類できた。「インパクト」、 し今回の研究において商品広告によっても企業 「わくわく感」の因子得点が高い凹型、 「親近性・ イメージの向上につながることが明らかになっ 共感性」、「理解・説得力」が高い凹型、そして たことは企業にとっても有益なことだろう。 「インパクト」、「理解・説得力」が高い凹凸型 ■図表―――39 「インパクト」 「親近性・共感性」 「理解・説得力」 「面白感」の因子得点グラフ ル系広告」 「スタイリッシュ系広告」 「機能訴求系 広告」 「メッセージ系広告」 「疑問系広告」の五つ に分類し、各グループから 2 枚ずつの計 10 枚の 広告を選出した。MDS により我々が行った広告 分類にある程度の信頼性を確認することが出来 た。次に「広告 10 枚」、 「かっこいい系広告」 「ス タイリッシュ系広告」 「機能訴求系広告」 「メッセ ージ系広告」「疑問系広告」のそれぞれにおいて 共分散構造分析を実行し、モデル検証を行った。 図表 40 に示すように、仮説 1,3,4,6,7 については 全グループにおいて仮説は支持された。仮説 2 については「メッセージ系広告」においてはパス が棄却され、それ以外のグループでは標準化推定 値が負となり仮説が棄却された。仮説 5 について は「広告 10 枚」 「クール系広告」 「スタイリッシ ュ系広告」においては標準化推定値が負となり仮 説は棄却され、それ以外のグループではパスが棄 5. 分析結果のまとめ 却された。仮説 8 については「スタイリッシュ系 広告」においてのみ仮説が支持され、それ以外の 本研究ではまず、 『年鑑 日本の広告写真 2014』 に掲載されていた広告を類似度に基づいて「クー グループではパスが棄却された。 ■図表―――40 仮説検証結果 また、先述したとおり広告グループごとの共分 に最も影響を与える因子である「インパクト」の 散構造モデルを全体のモデルと 比較することで 因子得点の高い広告は、「認知的企業イメージ」 異なる点を見出すことができた。全広告グループ 因子の得点も高いことが明らかになった。 において共通して「認知的企業イメージ」にもっ 下記に示すのが分析結果のまとめである。広告 とも影響を与える因子は「インパクト」であり、 イメージのうち「わくわく感」は認知的企業イメ 「感情的ブランドイメージ」に最も影響を与える ージ、感情的企業イメージの双方に対してほとん 因子は「親近性・共感性」であることがわかった。 ど影響していないことがわかったため、「インパ 最後に広告グループごとに因子得点を計算し、考 クト」 「親近性・共感性」 「理解・説得力」の三つ 察を行った。企業イメージの因子得点で認知的企 の広告イメージが企業イメージに与える影響に 業イメージ、感情的企業イメージがどちらも高く ついてまとめた。ここには「インパクト」「親近 なっている日本郵便、TOSHIBA、Kanko、大塚 性・共感性」 「理解・説得力」の広告イメージと、 製薬らの企業は、他の企業に比べ広告イメージの 「認知的企業イメージ」「感情的企業イメージ」 各因子得点が全体的に高くなっていることがわ 「総合的企業イメージ」についてそれぞれ上位 5 かった。共分散構造分析によって明らかになった、 社について記載している。分析により「インパク 「感情的企業イメージ」に最も影響を与える因子 ト」から「認知的企業イメージ」 、 「親近性・共感 である「親近性・共感性」の因子得点の高い広告 性」から「感情的企業イメージ」、 「理解・説得力」 は、「感情的企業イメージ」因子の得点も高いこ から「総合的企業イメージ」への影響が強いとわ とが明らかになり、同様に「認知的企業イメージ」 かったように、各イメージにおけるランキングを 見てもほとんど一致していることがわかる。 っているため、消費者目線での広告評価が行われ ■図表―――41 ている広告賞であるといえる。我々はこの「消費 分析結果のまとめ 者のためになった広告コンクール」に注目し、新 たな広告賞を提案する。 本研究の分析結果より、認知的企業イメージに はインパクトが、感情的企業イメージには親近 性・共感性が大きく影響していることがわかった。 しかし、インパクトが高い広告と認知的企業イメ ージが高い広告、親近性・共感性が高い広告と感 情的企業イメージが高い広告の上位五社をそれ ぞれ比較すると、ほとんどが一致しているのだが、 中にはインパクトは高いにもかかわらず認知的 企業イメージは低い UNIQLO や親近性・共感性 は高いにもかかわらず感情的企業イメージは低 い資生堂といった例外が存在していることがわ かる。そこで我々は認知的企業イメージと感情的 企業イメージの高い広告においてインパクト、親 近性・共感性の他に共通の特徴について考えたと ころ、それらには理解・説得力も高い傾向がある ことが明らかになった。すなわち、UNIQLO、 次章では、共分散構造分析と因子得点による分 析結果を主に用いてマーケティングインプリケ ーションに繋げていく。 資生堂の広告がインパクト、親近性・共感性は高 いのにもかかわらず認知的企業イメージ、感情的 企業イメージが低くなってしまった原因として 理解・説得力が低いことが考えられる。またアン ④新規提案 以上の分析結果から我々が提案するのは、「イ メージアップ広告賞」である。 我々が本研究の対象財として使用した APA ア ワードをはじめ、日本には広告電通賞、新聞広告 賞、朝日広告賞、読売広告賞など多くの広告賞が あるが、それらのほとんどが広告作品を広告主や 製作者の視点で捉え評価しているものである。そ の中で唯一消費者の視点でとらえ、評価している 広告賞として「消費者のためになった広告コンク ール」という広告賞が存在する。この広告賞の審 査員には広告関係者は審査員に含まれておらず、 学職経験者、各消費者代表等の審査員が審査を行 ケートの第三部の結果からも、人々はわかりやす い広告を良いと感じることが明らかになってい ることから、我々はわかりやすい、説得力のある、 信頼感があるといった「理解・説得力」をまず広 告イメージの土台として重視すべきであると考 えた。 そこで我々は「理解・説得力」をテーマにした 消費者視点の「イメージアップ広告賞」を提案す る(図表 42)。この広告賞の目的は、企業に消費 者の視点を意識させ、企業と消費者の間にある広 告への認識の差を縮めることである。我々はこの 広告賞に認知的企業イメージ部門、感情的企業イ メージ部門を設け、企業にはそれぞれが高めたい の結果より、人々が最も注目して見る広告は中吊 企業イメージに応じて応募してもらう。部門を設 り広告であることが明らかになり、JR の線路別 けた理由としては、本研究において使用した広告 利用状況(2009~2013 年度)のデータより平均通 の企業の中にも TOSHIBA のように認知的企業 過人員の順位が最も高いのが山手線であること イメージを高めたい企業がある一方で、日本郵便 がわかっているためである。広告貸切電車では電 のように感情的企業イメージを高めたい企業も 車一編成の車内全ての広告面を独占展開という あると考えたためである。「消費者のためになっ 究極のメディアジャックが可能で、そのパワフル た広告コンクール」に倣い、審査員として学職経 な訴求力は乗客の目を釘付けにし、理解浸透、販 験者、各消費者代表等を起用する。審査員にはそ 売促進効果だけでなく、話題性などの相乗効果も の企業が認知的企業イメージ、感情的企業イメー 生まれ、企業のイメージアップにもつながるとさ ジのどちらを高めたいのかのみを知らせ、先入観 れている。 を与えないためにそれぞれの企業が具体的に向 このイメージアップ広告賞で最優秀賞に選ば 上させたい企業イメージ(先進的、親近感がある等) れた広告、すなわち消費者視点で良いと考えられ はあえて知らせずに審査してもらう。実際に世の ている広告をこのような非常に有効な媒体に掲 中に出た広告を消費者が見る時には企業が何を 載することで、企業イメージのさらなる向上が促 伝えたいのか具体的に知っているわけではない 進 ため、それと同じ状況で評価してもらうことで、 ■図表―――42 より実際の消費者の感覚を見ることができると 広告賞の募集要項のイメージ されると考えられる。 考えた。また、審査員には本研究の広告イメージ の評価項目に沿って審査してもらい、評価結果は 全応募企業にフィードバックされるようにする ことで、企業は自社が伝えたかった企業イメージ が実際に消費者に伝わっているかを確認するこ とができる。評価項目は本研究と同じものを使用 し、具体的には認知的企業イメージ部門において は「インパクト」として”新鮮な”、”印象的な”、” 心に残る”と「理解・説得力」として”わかりやす い”、”説得力がある”、”信頼感がある”の六項目を、 ■図表―――43 感情的企業イメージ部門においては「親近性・共 広告貸切電車 感性」として”親しみのある”、”共感できる”、” 情緒のある”、 「理解・説得力」として先述した三 項目を合わせた六項目を使用する。 この広告賞には認知的企業イメージ部門、感情 的企業イメージ部門それぞれの最優秀作品に特 典として山手線の広告貸切権利を用意する(図表 43 参照) 。 これは我々のアンケート調査の第一部 (出典:交通広告ナビ) ─結論 と企業イメージの関係性をモデルとして提唱し、 広告イメージは企業イメージに影響を与えるとい 今回我々は、 「何を伝えたい広告かよくわからな う知見が得られた。さらに、企業イメージは理解・ い広告に出会うことがあるが、企業は消費者に伝 説得力という広告イメージを基盤として形成され、 えたいことがあって広告を打っているのにも関わ インパクトという広告イメージは認知的企業イメ らず、それが伝わらないのでは企業にとって意味 ージに、親近性・共感性という広告イメージは感 がないのではないか」と感じたことがきっかけで、 情的企業イメージに影響を与えるということがわ 研究を始めた。そこで本研究では、 「伝わらない広 かった。このような結果が得られた一方で、本研 告があるのは企業と消費者に認識のずれがあるか 究に残された課題は多い。 らではないか」という問題意識のもと、消費者の まず、広告の分類の信頼性についてである。メ 「広告に対するイメージ」と「企業イメージ」の ッセージ系広告に対する評価は確認的因子分析で 関係に着目して研究を行った。 も明らかになったようにそれぞれの広告に依存す 分析により、広告の「インパクト」が「認知的 るため、一概に一つにくくることはできず、細か 企業イメージ」に、広告の「親近性・共感性」が く分類する必要があったということである。本研 「感情的企業イメージ」に強い影響を与えること 究における広告イメージの評価項目はメッセージ が分かった。また、広告の「理解・説得力」は広 系広告にあまり適しておらず、日本郵便と日本ハ 告を見る人が当たり前に広告に求めている前提条 ムの広告評価がそれぞれ 1 位と 10 位であったこと 件であり、その性質がなければ企業のイメージ低 からもわかるように、今回どのようなメッセージ 下につながる可能性はあるが企業イメージ向上に 系広告が好まれるのかを明らかにすることはでき 大きく影響するわけではないということが考察さ なかった。 れた。よって我々の当初からの問題意識であった さらに、広告イメージの評価項目の選定が不十 「伝わらない広告」は企業にとって良くないもの 分であったと考えられる。本研究において「わく であるということが証明され、本研究は一定の成 わく感」という広告イメージはあまり企業イメー 果を挙げることができたと言えるだろう。また新 ジに影響していないことが明らかになったが、 「イ 規提案では、研究結果をもとに「認知的企業イメ ンパクト」 、 「親近性・共感性」 、 「理解・説得力」 ージ」と「感情的企業イメージ」に注目した「消 以外に企業イメージに影響を与える広告イメージ 費者目線の広告賞」を提案した。我々の研究目標 が存在したかもしれない。 であった「企業と消費者の認識のずれを減らした、 そして、今回の研究においては若者に注目した より消費者に伝わりやすい広告を打つためのマー ため対象を 18 歳から 25 歳に絞ってしまったため ケティング上有用な示唆」も得ることができ、有 研究としての汎用性が一部欠落してしまったこと 意義な研究ができたと考える。 も反省点である。今後は調査対象をより広くとっ た上で調査を行い、今回の研究の汎用性を確認す る必要がある。 ①今後の展望と課題 しかし、今回の研究によって今まであまり研究 されてこなかった広告イメージと企業イメージと 今回の我々の研究では、消費者の広告イメージ の関係を明らかにすることができたため、本研究 はマーケティング分野の研究として意義あるもの のマーケティング活動に少しでも役立てられれば になったと言えるだろう。 幸いである。 ②おわりに ③謝辞 我々は本研究において、企業の意図とそれに対 最後に、本研究を行うにあたり、丁寧にご指導 する消費者の認識に着目し、消費者の OOH 広告 くださった里村教授をはじめ、アンケート調査に に対するイメージが企業イメージに与える影響に ご協力いただいた皆様、的確なアドバイスをくだ ついて研究をした。当初予定していた研究からの さった先輩方、互いに高め合い、競い合った同期 変更点も多く、また、想定していた仮説の中でい の仲間、そして本研究を完成させるにあたって協 くつか支持されなかったものがあったが、分析結 力してくださった全ての方々に、この場を借りて 果と既存研究の考察をもとに得られた結果は非常 多大なる感謝の辞を申し上げ、この論文の結びと に興味深いものであると言えるだろう。関東学生 したい。 マーケティング大会 2014 のテーマである「明日、 話したくなるマーケティング」を念頭に置きつつ 進めてきた本研究であるが、本研究が今後、企業 参考文献 阿部周造[1987],『マーケティング理論と測定―LISREL の適用』,中央経済社 下村直樹[2000],「企業広告から得られる消費者の企業イメージ分析 手段一目的連鎖モデルに基づくイメー ジ構造化」 広瀬盛一・朴亨烈[2006],「媒体態度が広告への態度におよぼす影響」 高橋伸夫・白井美由里・日戸浩之[1995],「新しい企業広告効果モデル構築の試み ~従業 員満足と顧客満 足(CS)の統合モデル~」 松田義郎・花上雅男・鈴木昭男[1995],『信頼と好意の企業イメージ創造』, 日本経済新聞社 杉谷陽子[2013]「新規ブランド構築における消費者の感情の役割」 竹内淑恵[2010]『広告コミュニケーション効果』,千倉書房 嶋村和恵[1983]「企業イメージが広告の受け手に与える効果について」 八巻俊雄[1984], 『企業イメージ戦略と CI』, 産能大学出版部 豊田秀樹[2007], 『共分散構造分析 [Amos 編] 』, 東京出版株式会社 Kenneth Ewart Boulding[1956], The Image: Knowledge in Life and Society, University of Michigan Press, 大川信明訳[1962]『ザ・イメージ』 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