優秀なプロジェクト人材(タレント)を育成する

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Project Talent
優秀なプロジェクト人材(タレント)を育成する
組織を優秀にするのは、最新の製品、株価、フォーチュン 500 に名を連ねるといったことではないことは忘れられがちです。
本当に優れた組織は、――特にプロジェクトで成り立っている組織は――人材が際立っているのです。
最高経営責任者(CEO)からプロジェクトのチーム・メンバーまで、組織を大きく左右するのは、人材(タレント)のポート
フォリオです。雇用する従業員が、そしてどのように彼らを育成するかが、今日と言わず数年後の組織の繁栄を決定します。
IBM による 2012 年の調査では、71 パーセントの最高経営責任者が人材こそが持続的経済価値の重要な源だと回答しました。注 1
真のタレント・マネジメントを行うには、注意深くさらに思慮深く計画することが必要です。それは、最も優秀な人材が、地
球上のどこにいようが組織図のどこに位置していようが、トップの座に登りつめられるよう企業全体レベルでのキャリア・パ
スを確立することを意味します。組織は従業員がプロジェクトマネジメントや専門能力を磨くだけでなく、仕事を成し遂げる
に必要なリーダーシップ、戦略的マネジメント・スキルやビジネス・マネジメント・スキルを習得するよう手段を講じる必要
があります。
人材コンサルタントであるノースゲートアリンソ社による調査によれば、90 パーセント近くのリーダーが「組織のビジョンを
実現するには『適材を適所に適時で確保すること』が肝要だと確信している」と述べています。さらに、85 パーセントが、「組
織の成功は『逸材の発見と彼らの雇用の留保』にかかっている」と述べています。注 2
戦略的目標に整合した人材(タレント)ポートフォリオを構築することにより、適材適所が保証されます。特に、業種や地理
的な境界を越えたプロジェクト・ポートフォリオを持つ分散化した組織にとっては不可欠です。
タレント・マネジメントを組織に織り込んでいるエグゼクティブは十分に報いられます。PMI の Pulse of the Profession ®
詳細レポート:タレント・マネジメン
ト によれば、タレント・マネジメントと組織戦略を整合させている組織は、平均 72 パー
セントのプロジェクト成功率ですが、うまく整合できていない組織の成功率は 58 パーセントにすぎません。注 3
ト)を育成するにあたり、組織は、変化してい
くプロジェクト・パラダイムの中で秀でる能力
を人材に身につけさせなければなりません。も
ソリューション:次世代 PM スキルのタレント・トライアングル
ほとんどの組織が、技術を
66 パーセントの組織が、リーダー
持つ人材を見つけるのは最
シップを教えることはできないが、
も難しいが、技術を教え
ト、スコープと考えられてきましたが、今、組
るのは最も簡単である
織はプロジェクトマネジメント技術、リーダー
と述べています。
果を生み出すことのできるスキルと能力を身に
つけたプロジェクト・マネジャー達です。
マネ
クト
プロ
ジェ
と述べています。
戦略的マネジメントと
ビジネス・マネジメント
プ
あります。今日から将来にかけて、卓越した成
ーシップが最も重要である
シッ
プのプロジェクト・エグゼクティブが現れつつ
いて早く成功するにはリーダ
ダー
ることに焦点を当てているのです。新しいタイ
プロジェクトマネジメントにお
リー
シップ、戦略的マネジメントとビジネス・マネ
ジメントのタレント・トライアングルを構築す
ジメ
ともとプロジェクトの三大制約はタイム、コス
技術
ではありません。次世代の優秀な人材(タレン
ント
これは頭の切れる人材を雇うという単純なもの
このような変化は人材の最前線でも新しい考え方を
要求しています。PwC 社による 2013 年の調査では、
グローバル企業の最高経営責任者(CEO)の 77 パー
セントがタレント・マネジメント戦略の変革を想定
しており、23 パーセントが大規模な変更を計画中で
す。注 4
組織の 83 パーセントが、昨年度、空いているプロジェ
クトマネジメント職のポストを埋める適材候補を見つけ
るが困難であったと報告しています。
100%
22%
同時に、組織はプロジェクトマネジメント人材不
足の真っただ中にあります。
Pulse of the Profession ® 詳細レポート:タレント・
マネジメントのデータによれば、5 社のうち 4 社が、
空いている職を埋める適任のプロジェクト・マネジ
ャーを見つけることは容易ではないと報告していま
す。
そして、そのような人材の制約は大きくなる一方で
す。PMI とアンダーソン・エコノミック・グループ
による 2012 年の調査によれば、2020 年までに毎年
157 万のプロジェクトマネジメント職が世界的に創
出されます。注 5
昨年、あなたの組織は、空いてい
るプロジェクトマネジメント職の
ポストを埋める適材を見つけるこ
とが困難だったでしょうか。
50%
43%
はい、かなりの程度
18%
はい、中程度
はい、わずかな程度
いいえ
0%
17%
存亡にかかわる大きな課題です。適材をいつでも割り当てられることができなければ、会社の競争力はそがれます。
Pulse
of the Profession® 詳細レポート:タレント・マネジメント
によれば、複数の組織が適材の不足により、以下
のようなことが生じると報告しています。
品質の低下(31 パーセント)
効果的なイノベーションが実施不能(29 パーセント)
戦略的イニシアティブの中止や延期(27 パーセント)
競争力を維持するため、組織はタレント・マネジメント・プログラムをビジネス戦略全体と整合させなければなりません。
米国テキサス州アーヴィングにあるグローバル建設エンジニアリング会社であるフルオール社は、プロジェクト専門家の
グローバル・ポートフォリオを将来のニーズに合わせるため、5 年から 10 年の戦略的ビジネス目標とタレント・マネジ
メントの取り組みを同期させています。PMI グローバル・エグゼクティブ評議会のメンバーであるフルオール社は、現在
いる従業員が将来の役割を引き受けるにたる訓練、資格、経験を有しているかどうかを調査し、新規雇用によりスキル・
ギャップを埋めています。「一夜にして優秀なプロジェクト・マネジャーを作り出すことはできません」と人事・管理部
門担当上級副社長のグレン・ギルキー氏は言います。
また、フルオール社は、高い業績をあげている従業員を対象とした学習機会を作り、組織内で成功するために必要とされる技
術とリーダーシップを培っています。「私たちは、百年の間生き残っていたい」とギルキー氏は言います。「人材(タレント)
のパイプラインに焦点を当てることで実現するのです。」
このように戦略的に計画することは、良いプロジェクト・マネジャーやプログラム・マネジャーを見つけることがますます困
Pulse of the Profession® 詳細レポート:タレント・マネジメント
難になっている業種や地域では特に重要です。 の回答者の
4分
の 1 以上が、新興成長市場ではプロジェクトマネジメント経験を培うことが必要だと述べています。
フルオール社にとって、マーケットが拡大する今日、絶対に避けられない厳しい現実 なのです。
「私たちがいるグローバル市場で、特に新興成長市場で、成長し続けていきたいならば、今、人材パイプラインを作り上げて
おかなければなりません」とギルキー氏は言います。「プロジェクトを開始する時、その場に適材が必要だからです。」
Pulse
of the Profession® 詳細レポート:タレント・マネジメント
のデータによれば、資質を持ったプロジェクト専門家は、以下
のような人材マネジメント・イニシアティブを持つ、将来を見据えた会社に集まります。
はっきりと定義されたキャリア・バスとスキル要求事項
シニア・マネジメントによる業績優秀者の識別の育成
定期的業績評価
戦略的目標、プロジェクト・ポートフォリオ、人材の方向性整合
若手プロジェクト・リーダーのスキル、知識、ネットワークを広げる機会を提供するストレッチ・アサイメント
メンタリングとコーチング
CASESTUDY
事例研究 実施中のタレント・マネジメント
組織:MD アンダーソン癌センター 米国テキサス州ヒューストン
業種:ヘルスケア
教訓:キャリア・パスを定義すると、競争の厳しい雇用状況で優秀な人材の維持をしやすくなり、プロジェク
トマネジメント人材の価値を上層部経営者に示すことができる。
テキサス大学 MD アンダーソン癌センターは、2004 年にプロジェクトマネジメント・オフィス(PMO)を立ち上げた時、
組織のプロジェクト専門家として要求されるコンピテンシー(業務/役割遂行能力)、スキル、実務経験を定義しました。
その後、これらのスキルや実務経験を組織の IT プロジェクトマネジメント・キャリアの階段に整合させました。
PMO は、プロジェクトマネジメント経験に応じた階層構造を作り、以下のように、各層において要求される特定のコン
ピテンシー、タスク、実務経験、訓練を定めました。
1. アソシエイト・プロジェクト・マネジャー:すでに定義されているプロジェクト、プロジェクトの拡張やサブ・®
プロジェクトの実施に必要となる小規模チームの計画立案、プロジェクト組織化、監視やリードをする。4 年間の
実務経験(プロジェクトマネジメントの経験 1 年を含む)に加え、PMI が認定するプロジェクトマネジメント認
定アソシエイト資格(CAPM®)または、プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP®)資格を持つこ
とが望ましい。
2. プロジェクト・マネジャー:2 つ以上の組織にまたがる、ある程度複雑な、中規模から大規模プロジェクトの全
局面をマネジメントする。8 年間の実務経験(プロジェクトマネジメントの経験 4 年を含む)に加え、CAPM® 資格
または PMP® 資格を持つことが望ましい。
3. プログラム・マネジャー:企業全体にまたがるプログラムとプロセスを監督し支援する。7 年間の経験が必要で
ある。
4. シニア・プロジェクト・マネジャー:3 つ以上の組織にまたがる、非常に複雑な、中規模から大規模プロジェク
トの全局面をマネジメントする。10 年間の経験(5 年間のプロジェクトマネジメントの経験を含む)に加えて、
PMP® 資格が必要である。
上記の職から、従業員は、複数の相互に関係しあうプロジェクト実行の指揮をとりマネジメントするプロジェクト・ディ
レクターに昇進するか、ガバナンス、プロジェクトマネジメント・プロセス、手法やツールをマネジメントするポートフ
ォリオ・マネジャーに昇進することができます。いずれの職も 10 年のプロジェクトマネジメント経験と PMP 資格を必要
とします。
同センターは、最近、純粋な技術者だった 3 名の従業員をアソシエイト・プロジェクト・マネジャーに、アナリストだっ
た 5 名をプロジェクト・マネジャーに、2 名のプロジェクト・マネジャーをシニア・プロジェクト・マネジャーに昇進さ
せた後さらにポートフォリオ・マネジャーへと昇進させました。
「キャリア・パスの定義を確立させることは、プロジェクト専門家に、自分たちが組織の価値ある一部だということを示す
ことになります」と同センターのプロジェクト・サポートおよび調整サービス部門長で PMP 資格を持つパッティ・レイン
氏は言います。「キャリア・パスの確立は、従業員に自分のキャリアを設計するためのツールを提供し、彼らがマネジャー
と共に、コンピテンシーで不足している箇所を埋めるための綿密な計画を立てる助けにもなるのです。」
組織は、強固なタレント・マネジメント・プログラムと定義済みのキャリア・パスにより、多くの場合、最も優秀な人材
を引き抜こうとしているライバル会社よりも優位に立つことができます。「この市場では、せっかく育てたプロジェクト・
マネジャーを失ってしまうことは、めずらしいことではありません。」とライン氏は言います。
訓練、受講料補助や成長の機会を提供することで、彼らを会社にとどまる気にさせることができます。「従業員の留保を
助けるのは、ソフト・ベネフィットです。」とライン氏は言います。
また、プロジェクトマネジメントのキャリア序列やタレント・マネジメント・プロセスを定義することは、どれだけプロ
ジェクト専門家が企業にとって重要な意味を持つかをリーダーたちに示しました。「私たちはどんな仕事をする場合にも、
その役割を認知させなければなりません。」とライン氏は言います。「つまり、役割とは付加価値を生み出す重要なコンピ
テンシーを持つ個人の集合だということを組織に啓蒙するのです。」
より良い人材、より良いプロジェクト
効果的なタレント・マネジメントが職員の満足につながり、さらに重要なことには、より良い結果につながります。
The Corporate Executive Board の調査によれば、所属する組織に非常に注力した従業員は 57 パーセントさらに努力を注
いでおり、自分は手があいていたと思う従業員に比べて 87 パーセント辞職する可能性が少なかったのです。注 6
「米国航空宇宙局(NASA)は、タレント・マネジメントとプロジェクトの成功は直接的な関係があると考えています。」と、
米国ワシントン DC の NASA アカデミー・オブ・プログラム/プロジェクト・アンド・エンジニアリング・リーダーシッ
プ(APPEL)のディレクターで最高知識責任者(CKO)であるエド・ホフマン博士は言います。
NASA のタレント・マネジメント・プログラムは、4 つの段階があり、訓練で補いつつ実地での実務経験に焦点を当ててい
ます。職員は、通常、NASA でのキャリアをチームの一員として始め、各自が専門知識と経験を持ちよってより規模の大き
いプロジェクトを支援します。その後、数名がサブシステム・プロジェクトまたはコンポーネント・アクティビティをリー
ドする役に移ります。これは、能力基盤の早期テストと学習の機会となります。「この段階をうまくこなせれば、より複雑
な任務でリーダーシップを必要とされる役割に向けての軌道に乗ったことになります。」とホフマン博士は説明します。
次の段階では、彼らはプログラム・レベルで働き、プロジェクトを監視し成功に導くため支援します。さらに、各プロジェ
クトがプログラムの方針に整合するよう徹底させます。最後の段階となるポートフォリオ・レベルでは、彼らは組織の戦略
と整合するようにポートフォリオを定義し、周知徹底するように働きます。
「どのチームでも、チーム・パフォーマンスのオンライン・アセスメントを通してプロジェクトへの支援を要請できます。
さらに、チームの要求に応じた 3 日間のワークショップを要請することもできます。」とホフマン博士は言います。APPEL
は、1990 年代に一連のプロジェクト失敗の後、結果改善のために開始されました。「私たちの支援体制が、必ずしも彼らが
成功するために必要なものになっていないことに気付いたのです。」と彼は言います。
このアカデミーは、機能しているチームにプロジェクトマネジメント専門家を参加させ、チームが問題を見つけ出し、チー
ム全体のパフォーマンスを向上させるプロセスを作り出すのを支援します。「チームにとってプロジェクトマネジメント専
門知識を使用できることが不可欠です。」とホフマン博士は言います。「チームがどれだけうまく一緒に働けるかが、プロジ
ェクトの成否を決定するのです。」
このプログラムの効果を正確に測るため、支援チームは、まず初期のプロジェクト・パフォーマンス評価を実施し、その後、
ある期間にわたってパフォーマンスを再評価して、改善しているかどうかを追跡します。ホフマン博士は、「毎年約 200 チーム
がこの支援制度の恩恵にあずかっており、フォローアップをすると、プロジェクトが順調に進行していることがわかります。」
と言います。
MD アンダーソン癌センターの PMO は、プロジェクトマネジメント人材(タレント)の数にこだわって投資しています。同
PMO はフルタイムのプロジェクト・マネジャーを用いてあるプロジェクトを実施し、次に、パートタイムのプロジェクト・
マネジャーによって実施された過去の複数プロジェクトから、スコープ、スケジュール、予算の違いをクローズアップしなが
ら成果のベースラインを作成して評価しました。「フルタイムのプロジェクト・マネジャーが、スコープ、スケジュールそし
て予算において、はるかに良い成果を示しました。加えて組織のプロジェクトマネジメント職のキャリア・パスがより強固に
なる助けとなるのです。」とライン氏は言います。「経営陣は、私たちのタレント・マネジメントに対する努力がプロジェクト
の成果を向上させていることを認めています。」
Pulse
of the Profession® 詳細レポート:タレント・マネジメント のデータは、これらの考え方を反映しており、新規雇用のプ
ロジェクトマネジメント職に向けてのキャリア・パス確立が、プロジェクト成功率を調査平均の 64 パーセントから 67 パ
ーセントに引き上げていることがわかります。
専門知識を積み上げるために、そしてパフォーマンスを増大させるために、教育を施すことが、効果的な人材(タレント)
Pulse of the Profession® 詳細レポート:タレント・マネジメント
ポートフォリオを作り上げるための基本です。 によれば、
72 パーセントの組織が従業員研修は優先度の高い事項だと述べているにも関わらず、44 パーセント組織しかプロジェクト
・マネジャー向けの正式な研修プログラムを持っていません。さらに、48 パーセントの組織が、従業員研修プログラムは最
近の経済状況を反映して規模縮小していると報告しています。
スペインに拠点を置く IT システムおよびエンジニアリングを扱う企業のインドラ社では、特にマドリッドの分散化した
環境下では、組織全体にわたってスキル育成を組み込むことが非常に重要です。「各ビジネス・ユニットは、部門内のキャ
リア全体を通じてプロジェクト専門家を育成し、独自の人材を確保しています。」と PMP 資格を持つコーポレート PMO デ
ィレクターのエンリケ・セヴィラ・モリナ氏は言います。
インドラ社の人事部門とコーポレート PMO は、必要性が発生した時に部門や地域を越えて人材を異動するのではなく、
日常的に人材を育成する機会を提供し、各部門のプロジェクトマネジメント人材のプールがビジネス・ユニット内の全て
のプロジェクト要求を満たすことができるようにしています。
人事部門とコーポレート PMO は、プロジェクトマネジメント専門技術の各レベルに必要とされる特定のスキルとコンピ
テンシーについて概要をまとめており、この定義に照らし合わせてプロジェクト・マネジャーを評価します。
「毎年のパフォーマンス(業績)評価は、職務明細書、これまでに達した成熟度、役割に対して期待されるパフォーマンス
と実際のパフォーマンスとのギャップに基づいて行われます。」とセビラ氏は説明します。
各レベルでの訓練の必要性も、特に各自の担当分野、職務、言語能力を対象にしたコースと照らし合わせて確認されます。
また、MD アンダーソン癌センターでは、どこで人材プールのパフォーマンスがプロジェクトのニーズと一致し、どこで
逸脱するかを、注意深く監視し続けています。
「人材(タレント)育成プロセスを調査すれば、プロジェクトの成功に必要なスキルを持たない人に優先順位の高いプロ
ジェクトを任せることを未然に防ぐことができます。」と、ライン氏は言います。場合によっては、組織は最適な候補者
が利用できるようになるまで主要プロジェクトを遅延させることさえあり得ます。
CASESTUDY
組織
業種
教訓
事例研究 実施中のタレント・マネジメント
米国航空宇宙局 (NASA)、米国ワシントンDC
航空宇宙産業
経営陣のサポートが次世代のプロジェクト・リーダー育成の一助となる。
新進気鋭のリーダーとなる人材を確保しようと、PMI グローバル・エグゼクティブ・カウンシルのメンバーである NASA は、
プロジェクト HOPE(実践的プロジェクト体験学習)を実施しました。このイニシアティブは、経験の少ないチーム・メンバ
ーに、1年間のコースを通じて、プロジェクトの提案から実行に至るまでを運営してもらうというものです。
「NASA では能力(ケーパビリティ)が成果を左右します」と NASA アカデミー・オブ・プログラム/プロジェクト・アン
ド・エンジニアリング・リーダーシップ(APPEL)のディレクターで最高知識責任者(CKO)であるエド・ホフマン博士は
言います。「私たちは、実践的体験が能力における重要な要素であるという基本的見解に従っています。」
従業員による提案の中から受賞プロジェクト案から選ばれ、予算とステークホルダー・グループが割り当てられるのです。
その後、結果に対して責任を負うプロジェクト・マネジャーが選ばれます。2010 年は、NASA 職員ジェニファー・ダンガ
ン氏と彼女のチームが HOPE プロジェクトを立ち上げ、沿岸水域のデータを収集する航空機搭載用リモート・センシング
機器を開発しました。目標は、沿岸水域の環境についてもっと知ること、そして技術上の実現可能性をテストすることで
した。
当初プロジェクトマネジメントの知識がほとんどなかったため、ダンガン氏は、最初に、この経験が手ごわいものである
ことに気付きました。「スケジュールを立てることや予算を立てることは、科学研究者の得意分野ではないのです。」と彼
女は言います。
最初の 2、3 カ月は四苦八苦でした。チームは小さく、役割分担はきちんと定義されていませんでした。ダンガン氏は 2
週間ごとにディレクターたちに進捗報告書を提出するよう求められていました。
計画通りに物事が進んでいないと見てとったエグゼクティブたちが助けに入りました。チーフ・エンジニアが彼女のスタ
ッフに、チームにメカニカル・エンジニア 1 名とプロジェクト・スケジューリングの専門家を参加させるよう指示したの
です。そしてリサーチ・ディレクターが、チームにとって重要な役割を果たす、その他のエキスパートを提供してくれま
した。
「それがプロジェクトの流れを変えました。」とダンガン氏は言います。「彼らの助けがなかったら私たちは成功しなかった
でしょう。」
ダンガン氏は継続してカリフォルニア州の NASA 研究所で働いており、研ぎ澄ましたプロジェクトマネジメント・スキル
を、予算管理やスケジュール管理の改善や、提案書の作成に発揮しています。また、彼女はプロジェクトマネジメントの
訓練をさらに受けるための申請をし、NASA 内のプロジェクト参画の機会にも応募しました。APPEL プログラムの究極の
目標を実現したといえます。
「それは、学習過程の重要な一部ですが、その経験を自分の仕事に役立て、さらにそれ以外へも展開することを期待してい
ます。」とホフマン博士は言います。
逸材をスカウトする
広範囲な地域と多業種にまたがったプロジェクト・ポートフォリオを持つ組織は、スキル向上を促進するタレント・マネ
ジメント・プログラムを作成にあたり、いっそうの圧力にさらされています。このような組織は、所属するプロジェクト
専門家を適した仕事に、しかも多くの場合が短期間の通知で、割り当てることができなければなりません。
「NASA 内部で認定された約 120 名のプロジェクト・マネジャー有資格者のうち 10 パーセントから 15 パーセントは、常に
柔軟性を維持する目的で、プロジェクトの指揮をしていません。」とホフマン博士は言います。「NASA は必要とされるより
も多くのプロジェクト・マネジャーを望んでいます。何か新しく必要性が生じれば、私たちは即座に適材を配置することが
できるのです。」
最も効果的なタレント・マネジメントに関する努力は、会社の日々変化するニーズに応えて、対応することができるよう
にすることです。
フルオール社では、人材(タレント)ポートフォリオを会社の成長予測に合わせるため、オンライン・タレント・マネジ
メント・フォーラムを組み合わせて使用し、リーダーたちが高い業績をあげている従業員のメンタリングと追跡をしてい
ます。会社の従業員のおよそ 10 パーセントにあたる 4500 人がこのフォーラムを通してモニターされています。これには
プロジェクトマネジメント職のキャリア・パスにいる多くの従業員が含まれています。
「このようにタレント・マネジメントを監督することで、会社はどこに最も優秀な人材がいるのか、どこにギャップがある
のかを一目で理解することができます。」とギルキー氏は言います。「例えば、会社は現在、南アメリカとアジアにおける人
材のパイプライン構築に重点的に取り組んでいますが、今後 10 年間でこれらの地域で期待される事業拡大を支援するため
です。」
フルオール社は、自社のプロジェクトマネジメント要員を必要になるまで待ってから雇用するのではなく、自ら育成するよ
うにしています。「このやり方であれば、プロジェクトが新しく起こる時に適材を適所に配置できるとわかっています。」と
ギルキー氏は言います。当初、フルオール社は人材(タレント)不足が生じた時は、指導役として海外駐在員を赴任させて
いましたが、次第に現地で人材(タレント)パイプラインを構築することができるようになったのです。
「例えば、インドラ社の経営部門は、人材(タレント)育成をより短期間で実現するため、ひときわ優れたプロジェクト専
門家をノミネートします」と人事部マネジャーであるマリア・デル・カルメン・モネヴァ・モンテロ氏は言います。「私た
ちは最も難しい仕事を彼らに与え、内部での経験を積ませることに注力します。そうすることで、彼らは社内で昇進する
中でビジネスにおけるグローバルな視野を養うことができるのです。」と彼女は言います。
しかし、優秀な人材をこのような出世コースに乗せることは、PMO や人事部門だけの領域なのではありません。経営陣も
高い潜在能力を持った社員を認識していなければなりません。そのような社員を発見したら、上級レベルの優秀者に彼ら
Pulse of the Profession® 詳細レポート:タレント・マネジメント に
を指導させ、成長する機会を与えてやる必要があります。 よれば、39 パーセントの組織がメンタリング・プログラムを持っており、さらにその 53 パーセントは現在よりも
もっとメンタリングを活用すべきだと言っています。
フルオール社では、プロジェクトを率いる次世代のスーパースターたちにメンタリングすることは、経営陣の正式な職責
です。「私たちのタレント・マネジメント・プロセスは、大金を必要とはしませんが、指導者チーム側に多大な時間を必要
とするのです。」とギルキー氏は言います。
選ばれた一握りの業績優秀者は、グローバル・ビジネスのリーダーとしての出世コースに入れられます。そこでは、経営幹
部のリーダーによってメンタリングが行われ、さらに、プロジェクトマネジメントについての集中トレーニング・プログラ
ムに送り込まれます。また、彼らは新しいプロジェクトに交代制で入る機会を与えられ、彼らのスキルと経験を拡大するよ
う設計された、体系的なプログラムの中で、ストレッチ・アサインメントを与えられます。
人材(タレント)ポートフォリオがプロジェクトのニーズとより確実に一致したものとなるよう、フルオール社では、指
導者たちに、プロジェクト・マネジャーを部門間で移動させることを奨励しています。たとえそれが他グループに最優秀
人材を与える場合であったとしてもです。
「ここにいる社員は、人材を輸出することで報酬を与えられているのです。これが私たちの文化の一部なのです。」とギルキ
ー氏は言います。実際、リーダーたちは自分のチーム・メンバーのために、どれだけの体系的な機会を作っているかで評価
されます。「彼らは自分のチーム・メンバーの育成に責任を負っているのです。リーダーたちが人材を共有しない時には、出
世が頭打ちになるのを見てきました。」
CASESTUDY
組織
業種
教訓
事例研究 実施中のタレント・マネジメント
フルオール社、米国テキサス州アーヴィング
エンジニアリング、建設
集中的な訓練と背伸びをする機会を与えることがプロジェクト・リーダーの育成に貢献している。
フルオール社は、マーク・T・ブラウン氏に可能性を見いだしました。一方、会社は彼が真のプロジェクトマネジメントに
おけるスーパースターの座を得るには、いくらか助けを必要としていることもわかっていました。
それで、ブラウン氏は上級プロジェクト・マネジャーによって選ばれ、フルオール社のグローバル・ビジネス・リーダー
シップ・コースに参加することになりました。育成チームが最初にやったことは、ブラウン氏のスキルを評価することで
す。彼はすでに建設とエンジニアリングの豊富な経験があったので、彼の訓練は、プロジェクトの計画スキルと実行スキ
ルの向上に集中されました。フルオール社は、また、対人スキルの必要性も認め、顧客やチーム・メンバーと一緒に働く
うえで重要な、リーダーシップ能力とコミュニケーション・スキルに磨きをかける支援をしました。
この集中訓練は、石油/ガス・プロジェクトの営業部門での役割から始まりました。「私は、顧客調査やプロジェクト実行
スキルを始めとして、プロジェクトのライフサイクル全体の知識を広げる必要がありました。」とブラウン氏は言います。
彼は、どのように会社がプロジェクトを獲得するのかを学ぶのに 18 カ月を費やしました。プロポーザルの段階で、入札書
類を作成し顧客のための実行計画を立てたのです。
このローテーションが終了した時、年次の人材(タレント)分析パフォーマンス・レビューで、スケジューリング、リス
クマネジメントおよびプロジェクト遂行能力の面でまだ向上の余地があることが示唆されました。そこで、ブラウン氏は、
空港拡張用の場所を確保するために化学プラントを移転させる、オランダでの 10 億ドルのプロジェクトを担当するチーム
に加えられました。
この動きは、会社にとっても、前途有望なブラウン氏にとっても勝利でした。
「それは、ただ単にフルオール社が新しい役割を果たす機会を私に与えてくれたということではありませんでした。」と彼
は言います。「私も過去の経験を活かして、プロジェクトとプロジェクト・チームに価値を付加したのです。」
そのプロジェクトが実際に開始された時、ブラウン氏は、資金繰りパッケージの開発とオランダ内におけるガス貯蔵プラ
ント建設の事前計画作成で、指揮をとっていました。彼は、全ての顧客とフルオール社のステークホルダー間のコミュニ
ケーション、指揮、法的問題および財務マネジメント上の問題において責任を負っていました。「それは明らかに自分の居
心地のいい領域からは外れていましたが、私のスキル・セットを広げる機会を与えてくれた素晴らしい経験でした。」と彼
は言います。
ブラウン氏は、さらに 1 年そのプロジェクトに従事しました。その後、テキサスに戻り、今はフルオール社の企業ポート
フォリオ・グループの一員となって、フルオール社が実施する建設をプロジェクトマネジメントへのアプローチと連携させ、
究極的には建設ビジネスを改善し拡張するためのプロセスの開発支援をしています。
現在、建設部長として、彼はフルオール社の次世代プロジェクト・リーダーたちのメンターをしています。
「私が営業グループにいた時、あるコーチが『あなたの成功は、あなたの周囲の人たちの成功にかかっているのです。』と
言いました。今はそれが私のモットーになっています。そして、私は、他の人に経験を積む機会を与えられるよう、でき
る限り手を尽くします。」とブラウン氏は言います。
・
プロジェクトマネジメント職のタレント・マネジメント・プログラムの実施や改善にあたって、組織は以下のことをする
必要があります。
指導者たちに次世代育成の責任を負わせること。「フルオール社では、600 人のエグゼクティブが、他者の成功を助け
る文化を持った、組織内人材発掘係となっていることは軽視できません。」とフルオール社のギルキー氏は言います。
業績優秀者の兆しである情熱と自信を持った人材を探すこと。「指導者たちは、訓練と新しい種類の機会を提供しなけ
ればなりませんが、理想的な職員は、自ら教育、資格、経験を追及しようとするものです。」と NASA のホフマン博士
は言います。
若い人材の育成を支援する仕組みを作ること。「誰もが間違いを犯します。新しいプロジェクト・マネジャーがストレ
ッチ・アサインメントに就いた時は、失敗のリスクは増大します。助けが必要な時には誰かを頼りにできるよう、必ず
彼らがネットワークを持ち、指導者たちによるガイダンスを受けることができるようにしておくことが必要です。」と
ギルキー氏は言います。
戦略的ゴールを満たすためのプロジェクトマネジメント・スキルの価値について組織を教育すること。「会社が人材育成
に向けた努力をビジネス結果と整合させると、皆が注意を払うようになります。」と MD アンダーソン癌センターのライ
ン氏は言います。
将来に向けて計画をすること。「人材パイプラインを構築するには何年もかかります。会社は、常に、適切なスキルを適
切な地域で育成していなければなりません。」とフルオール社のブラウン氏は言います。
一流のプロジェクト人材を育成することは一朝一夕ではできません。組織は、時間とリソースを費やして、有望なプロジ
ェクト・マネジャーやプログラム・マネジャーを見つけ出し、彼らが成長するための、訓練と機会を提供しなければなり
ません。早期に着手し、各自のキャリアを通じて継続すると、このプロセスがうまく機能します。
「一人の素晴らしい上級プロジェクト・リーダーを育成するには 10 年、あるいはそれ以上かかります。」とフルオール社
のギルキー氏は言います。「各自のキャリアの、最初の 3 年から 10 年が、彼らを望ましい軌道に乗せる時です。」
会社がプロジェクト専門家に対して、彼らのキャリアの初期に投資をすると、各自がより早くスキルを向上し経験を積む
ことになり、将来のより大きな利益を約束するとともに、現在の会社にも価値をもたらします。
「最も優秀な人材をプロジェクトやビジネスのニーズのある所に配置することは、会社の成功にとって極めて重要です。
」
とインドラ社のセヴィラ氏は言います。
「さらに、人材(タレント)ブランドが強化され、将来のプロジェクト専門家を
引き付けるのです。
」
注 1 2012 Global CEO Study , IBM, 2012. Based on interviews with more than 1,700 CEOs.
注 2 Global Talent Management Survey 2013, NorthgateArinso, 2013. Based on interviews with more than 1,100 executives
and human resources practitioners.
Pulse of the Profession® In-Depth Report: Talent Management
注 3 , Project Management Institute, 2013. Based on research
conducted in January 2013 with 277 project, program, and portfolio management directors, managers, and practitioners
who make or strongly influence hiring decisions for project, program and portfolio managers for their organization or
who design and/or administer their organization s talent management program.
注 4 16th Annual Global CEO Survey: Dealing with disruption, Adapting to survive and thrive, PwC, 2013. Based on interviews
with 1,330 CEOs in 68 countries.
注 5 Project Management Talent Gap Report, Project Management Institute and Anderson Economic Group, 2012.
注 6 The Role of Employee Engagement in the Return to Growth, Corporate Executive Board, Bloomberg BusinessWeek,
August 2010.
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