On making the right choice

On making the right choice: The
deliberation-without-attention effect∗ .
Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., & van Baaren, R. B.
Science, 311, 1005-1007.
問題と目的
意識的思考 vs. 無意識的思考
一般的に,よく考えるほどいい選択 (right choice) ができるとされ
ている.特に,属性がたくさんあって複雑な選択ほど,よく考えるほどよいと思われがちである.
実際,意思決定に関する科学的な論文では,古典的なものから近年に至るまで,意識的に熟考する
ことの利点が強調されていた (e.g, Janis & Mann, 1977; Kahneman, 2003; Simon, 1955).
一方,意識的に考えないほうがよいという,無意識の思考の有用性を訴える主張も昔から存在し
た.ここでの “無意識な思考” とは,“問題に対して意識的な注意を向けていないときの考え” とい
う意味である.逆に “意識的な思考” とは,“問題に意識的な注意を向けている考え” である.たと
えば,旅行の行き先を決めないといけない場合のことを考えてみよう.このとき,他の作業に従事
していて,旅行の行き先を考えていなくても,あるとき突然 “やっぱトスカナ地方でしょ!” と閃
くことがある.この閃きは意識的なものであるが,その閃きに至るまでの過程は無意識的な思考だ
と考えることができる.
こうした無意識的思考の有用性は,単なる “古人の知” 以上のものではなかった.ほとんど研究
されることはなかった (but see Schopenhauer; Bowers et al., 1990; Dijksterhuis et al., 2004).しかし,
私たちは必ずしも意識的な思考がよい意思決定を導くとは限らないと考える.
そもそも,意識的思考による意思決定は安定した結果をもたらさない (not always lead to sound
choice).たとえば,お気に入りのポスターを選択させるとき,事前に熟考する機会を与えると,同
じ対象に対する評価が一貫しないことが示されている (Levine et al., 1996).意識的思考は,容量に
制約があったり (Miller et al., 1956) や,特定の情報の重要性を課題に見積もってしまうことがあっ
たり (Wilson & Schooler, 1991) するため,その有用性には限界があるのである.近年の私たちの研
究では,アパートの部屋を選ぶ課題で,1) アパートの情報をみたあとすぐに選択する群,2) 意識
的に熟考する時間を与える群,3) その時間の間は他の課題に従事してもらい,意識的に熟考する
機会を与えない群を比較した.その結果,3 番目の群が残りの群よりも,よりよいアパートの選択
をしていた (Dijksterhuis et al., 2004; van Olden & Dijksterhuis, in press).ここでの “よい選択” とは,
規範モデルにおけるもっとも適切な選択のことである1 .
無意識的思考理論
近年,私たちは無意識的思考理論 (Unconscious Thought Theory; UTT) を提出
した (Dijksterhuis & Nordgren, in press).この理論では,意識的思考と無意識的思考の長所と短所
∗ Rep:
村山航(日本学術振興会,東京工業大学社会理工学研究科) mailto: [email protected]
1 期待効用などが高いことだと思われる.
1
を考えている.特に本稿に関係する点は,以下の 2 点である.
• 意識的思考はルールベースであり,非常に正確である.一方,無意識的思考は繰り返し起き
るようなパターンに対しては,ある程度はルールに従うことができる2 .
• 意識的思考は容量に制約がある.従って非常に複雑な課題には適していない.一方,無意識
的思考にはそうした容量の制約がない.
この理論から deliberation-without-attention 仮説を導くことができる.すなわち,意識的思考は
単純な課題ならよい意思決定を行うことができるが,課題が複雑になると処理容量の制約のため意
思決定の質が落ちるだろう.一方,無意識的思考はあまりよい意思決定をできないが,容量の制約
がないため,複雑な課題の場合にも意思決定の質が落ちない.その結果,複雑な課題では意識的思
考よりよい意思決定を行うことができるだろう.ここで “課題の複雑さ” とは,選択のときに考慮
すべき情報の多さだと定義する.
研究 1
80 人の大学生.2(思考モード:意識的・無意識的)× 2(課題の複雑さ:単純・複雑)の
4 群にランダムに割り当てられた.
被験者
手続き
被験者は,4 つの仮想的な車に関する文章を次々と読み,一番よいと思う車を選んだ.複
雑条件ではそれぞれの車に対して 12 個の属性が,単純条件では 4 個の属性が提示された.それぞ
れの属性はポジティブもしくはネガティブのどちらかである.4 つの仮想的車のうち 1 台は 75%が
ポジティブ属性であった.1 台は 25%がポジティブ属性であり,残りの 2 台は 50%がポジティブ属
性であった.75%の車を選択することがよい選択になる.
それぞれの属性は,コンピュータ画面上に,ランダムな順序で 8 秒ずつ提示された.使用した文
章は Appendix 1 に示してある.意識的思考条件では,文章を提示し終わったあと 4 分間,熟考す
る機会が与えられた.無意識的思考条件では,文章を提示し終わったあと 4 分間,アナグラムを解
くことに従事した.
結果
Figure 1 にある通り.交互作用が有意であった.単純主効果の検定で無意識的思考条件では,
単純な課題と複雑な課題に差はなかったが,意識的思考条件ではこの両者に有意な差が見られた.
単純な課題では意識的思考の方が無意識的思考より適切な選択をしていたが,複雑な課題では逆に
無意識的思考の方が,よい選択をしていた3 .
研究 2
研究 2 は,研究 1 の従属変数を “車に対する態度” に変えて追試する.
被験者
59 人の大学生.先ほどの 4 群にランダムに割り当てられた.
2 例えば潜在学習などを例に挙げている.
3 ただ,絶対値で見ると無意識的思考群ではよい選択をする率がそれほど高いわけではない点にも注意する必要があるだ
ろう.
2
手続き
車に関する文章を読み終わった後,それぞれの車に対する態度(ポジティブ−ネガティブ
のアナログ双極尺度)を評定すること以外は研究 1 と同じ.態度の評定順は,被験者間でランダム
にした.
結果
Figure 2 にある通り.y 軸は 75%ポジティブ属性の車に対する態度から 25%ポジティブ属性
の車に対する態度を引いたもの.やはり単純な課題では意識的思考の方が,複雑な課題では無意識
的思考の方が,適切な態度を示していた.
研究 3
研究 3 は,本研究の仮説を,より生態学的妥当性の高い状況で検証する.
予備調査
40 個の商品リストを作成し,61 人の大学生に調査を行った.具体的には,それらの商
品を購入するとき,どれだけの側面を考慮に入れるかということを質問し,それらを平均して,そ
れぞれの商品に対する “複雑さ得点” を算出した (Appendix 2 参照).
被験者
93 人の大学生.
手続き
被験者は 40 個の商品リストのうちから,最近購入したものを 1 つ選んだ.そしてまず,
その商品を買う前にその商品のことを知っていたかを回答した.次に,その商品をはじめてみたと
きから購入に至るまでの間,どの程度熟考したかを 7 件法の尺度回答した.最後に,その商品に現
在どの程度満足しているかについて 7 件法の尺度で回答した.
結果
まず,商品をその場ではじめてみた被験者は除外した.残りの被験者数は 49 人であった.満
足感を従属変数に,熟考の程度4 と商品の複雑さを独立変数にした重回帰分析を行ったところ,い
ずれの主効果も得られなかった.しかし,熟考の程度と商品の複雑さとの間に交互作用が得られ
た.具体的には,熟考の程度と満足感との相関が,1) 中程度の複雑さの商品ではみられなかった
が (r(18) = −0.03),2) 複雑さが低い課題では正の相関が見られた (r(15) = 0.57, p < 0.03).さらに,
複雑さが高い課題では負の相関が見られた (r(16) = −0.56, p < 0.03).これは仮説どおりの結果で
ある.さらに Figure 3 には,熟考した人と熟考しなかった人に分けて,課題の複雑さと満足感の相
関を記している.
研究 4
研究 4 は,さらに生態学的妥当性の高い状況で本研究の仮説を検討する.
手続き
まず,研究 3 の予備調査の結果に従い,複雑な商品を売っている店として IKEA(家具用
品店),単純な商品を売っている店として Bijenkorf(衣服やアクセサリーを売っているデパート)
を選出した.店の出口で,買い物客に,何を買ったのか,その商品を買う前にどの程度知っていた
のか,はじめてその商品を見てから買うまでにどの程度熟考したのかを尋ねた.熟考については
10 件法であった.数週間後,同じ買い物客に電話をかけ,その商品を買ったことにどの程度満足
しているのかを 10 件法で尋ねた.
4 これが意識的思考,無意識的思考の指標となる.
3
結果
IKEA では 46 人,Bijenkorf では 69 人の買い物客に質問をした.そのうち,はじめてみた商
品を買った買い物客を除外した.その結果,分析対象は IKEA が 27 人,Bijenkorf が 27 人であった.
熟考した買い物客とそうでない買い物客を中央値分割によって 2 群に分けたところ,Bijenkorf の
商品に対しては熟考した買い物客の方が,熟考しなかった買い物客より満足度が高かった.一方,
IKEA の商品に対しては熟考しなかった買い物客の方が,熟考した買い物客より満足度が高かった.
これは仮説どおりの結果である.
考察
deliberation-without-attention 仮説は支持されたと言えるだろう.意識的思考は,単純な課題に対
してよい選択をもたらし,無意識的思考は複雑な課題に対してよい選択をもたらす.実験室実験か
らフィールドスタディまでに及ぶ,多様な手法で本仮説の妥当性が示された.それぞれの手法は弱
点を持っているが,それらを組み合わせることで知見の一般化可能性を高めることができただろう.
本研究では,“選択” を “商品の選択” に絞った.しかし deliberation-without-attention 仮説は他の
選択(選挙,経営など)にも適用可能であろう.
Appendix 1 Materials used in studies 1 and 2. Note that in actual experiments, the information was
presented in random order. In the simple conditions, a subset of the information was used. In the original
study, the information was in Dutch.
The Hatsdun has good mileage
The Hatsdun has good handling
The Hatsdun has a large trunk
The Hatsdun is very new
The Hatsdun is available in many different colors
For the Hatsdun service is excellent
The Hatsdun has poor legroom
With the Hatsdun it is difficult to shift gears
The Hatsdun has cupholders
The Hatsdun has a sunroof
The Hatsdun is relatively good for the environment
The Hatsdun has a poor sound system
The Hatsdun is very new
The Kaiwa has good mileage
The Kaiwa has poor handling
The Kaiwa has a large trunk
The Kaiwa is available in many different colors
For the Kaiwa service is excellent
The Kaiwa has plenty of legroom
With the Kaiwa it is easy to shift gears
The Kaiwa has no cupholders
The Kaiwa has no sunroof
The Kaiwa is fairly good for the environment
4
The Kaiwa has a poor sound system
The Kaiwa is old
The Dasuka has poor mileage
The Dasuka has good handling
The Dasuka has a small trunk
The Dasuka is available in very few colors
For the Dasuka service is poor
The Dasuka has little legroom
With the Dasuka it is easy to shift gears
The Dasuka has cupholders
The Dasuka has a sunroof
The Dasuka is not very good for the environment
The Dasuka has a good sound system
The Dasuka is new
The Nabusi has poor mileage
The Nabusi has poor handling
The Nabusi has a small trunk
The Nabusi is available in many different colors
For the Nabusi service is poor
The Nabusi has plenty of legroom
With the Nabusi it is difficult to shift gears
The Nabusi has no cupholders
The Nabusi has a sunroof
The Nabusi is not very good for the environment
The Nabusi has a poor sound system
The Nabusi is old
Appendix 2 Complexity scores of forty different products
1. Car 4.03
2. Computer 3.93
3. Room (Rent) 3.88
4. Camera 3.49
5. Cell phone 3.38
6. CD player 3.28
7. Plane ticket 3.17
8. Bicycle 3.11
9. Couch 3.03
Winter coat 3.03
11. Bed 2.98
12. Closet 2.95
13. Desk 2.93
14. Shoes 2.91
15. Watch 2.82
5
16.
17.
18.
19.
20.
21.
Table 2.64
Chair 2.61
Book 2.56
Trousers 2.55
Dress 2.54
Curtains 2.52
22.
23.
24.
25.
26.
27.
28.
29.
30.
Shirt 2.48
Skirt 2.48
DVD 2.44
Bedding 2.34
Lamp 2.34
CD 2.28
Mirror 2.26
Pot 2.25
Silverware 2.23
31.
32.
33.
34.
35.
36.
37.
38.
39.
40.
Glasses (drinking) 2.11
Alarm Clock 2.11
Vase 2.03
Shampoo 1.90
Detergent 1.83
Towel 1.79
Toothpaste 1.75
Oven mitts 1.66
Umbrella 1.64
Dishwashing brush 1.28
6