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応96−1
液晶性エポキシ樹脂硬化物の接着性
高分子応用材料研究室
赤田嘉兵
1.
1.我々は、これまでメソゲン基を骨格とする液晶性エポキシ樹脂では、メソゲン基の配向によっ
て硬化物が優れた熱的・力学的性質及び非常に大きな接着性を示すことを報告してきた。1) しか
し、これまで合成してきた液晶性エポキシ樹脂は硬化に伴う内部応力の発生が大きく接着強度が低
下することと、融点が非常に高く樹脂が扱いにくいという2つ欠点を持っている。そこで、本研究
ではそれらの欠点を改善するため、脂肪族鎖を導入したツインメソゲン型エポキシ樹脂の合成を行
い、その接着性について検討した。
2.
2.エポキシ樹脂には、テレフタリリデン型エポキシ樹脂(以下 DGETA Mw=428 mp=209℃)及
び、メソゲン基間に脂肪族鎖を導入したツインメソゲン型エポキシ樹脂(以下 DGE4MA ,DGE5MA
Mw=620, 634 mp=178℃,88℃)を用いた。生成物の構造及び融点は IR、1H-NMR 及
び DSC 測定により確認した。硬化剤には 4,4
T a b le . C h e m ic a l s t r u c t u r e o f e p o x y r e s in s a n d c u r in g a g e n t .
- ジアミノジ
E p o x y res in
・T erep h th a ly lid en e-b is -(p -a m in o p h en o l) D GE (D G E T A )
フェニルメタン(以下 DDM)を用いた。硬化物の引張せん断
C H 2 C H C H2 O
N CH
CH
N
O C H2 C H
C H2
O
O
接着強度測定は、ASTM D1007-72 に準じ、インストロン型
l
・1 ,4 -b is{ 4 -[2 -a za -2 -(2 -m e th y l-4 -h y d ro x y p h en y l)v in y]
p h en o x y } b u ta n e D GE (D G E 4 M A )
CH3
C H3
引張試験機(AG-2000E, 島津製作所社製)により測定した。
C H2
C H C H2 O
N
CH
O CH2 O
4
CH
N
O CH2 CH
CH2
O
O
l
・1 , 5 -b is{ 4 -[2 -a za -2 -(2 -m eth y l-4 -h y d ro x y p h en y l)v in y]
p h en o x y } p en ta n e D G E (D GE 5 M A )
C H3
C H3
C H2 C H C H 2 O
3−1.
3−1.メソゲン基間に脂肪族鎖を導入したことにより、エ
ポキシ樹脂の融点は約 120℃低下した。この融点の低い液晶
度は増加するが、それと同時に樹脂は体積収縮を生じ、接着
界面に内部応力を生ずるため、極大値を示した後、低下する
NH 2
る。
N
O
CH2 CH
C H2
O
CH2
NH2
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
Time(min)
Fig.1 Lap shear strength of cured epoxy resins with aromatic
(▲)
amine.(
▲)DGE5MA/DDM,(
■)DGE4MA/DDM
(■)
,(●)
●)DGETA/DDM.
,(
●)
20
ことが接着強度の向上に有効に働くことを示している。
生する内部応力が小さくなったためと考えられる。この内部
応力の低下が図1の接着強度の増加を導いたものと考えられ
CH
45
着強度は DGETA 系よりも全硬化領域において大きな値を示
した。これは、液晶性エポキシ樹脂中に脂肪族鎖を導入する
18
Internal stress(MPa)
ることで、硬化物のガラス転移温度が低下し、冷却過程で発
5
50
ものと考えられる。また、DGE4MA 系及び DGE5MA 系の接
3−2.
3−2.図2にそれぞれの硬化系の内部応力を示した。
DGE4MA 系及び DGE5MA 系の内部応力は DGETA 系に比べ
て非常に小さい。これは、メソゲン基間に脂肪族鎖を導入す
O CH2 O
・4 ,4 '-D ia m in o d ip h en y lm eth a n e
Lap shear strength(MPa)
は、硬化が進行しエポキシ樹脂が固化するのに伴って接着強
CH
C u rin g a g en t
性エポキシ樹脂の接着性を調べるために、それぞれの樹脂を
DDM で硬化した時の引っ張りせん断接着強度の変化を図1
に示した。いずれの硬化系も接着強度は硬化の進行に伴って
増加し、一旦極大値を示した後一定値に達した。この結果
N
O
16
14
12
10
8
6
4
2
0
0
5
10
15
20
25
30
Time(min)
Fig.2 Internal stress of cured epoxy resins with aromatic
(▲)
(■)
amine.(
▲)DGE5MA/DDM,(
■)DGE4MA/DDM
(●)
,(
●)DGETA/DDM.
1)M.Ochi,T.Shimazu,T.Nakanshi and T.Murata:J.polym.Sci,:Part B:Polym.Phys.,35,397(1997)
応 96‑110
芳香族ポリアミドで硬化したエポキシ樹脂の
ミクロ構造と硬化物の熱機械的性質
高分子応用材料研究室
松尾
賢司
1 . エポキシ樹脂は電気的、力学的性質に優れているが、その反面硬くて脆いという欠点を
持つ。この欠点を改善するため、液状エラストマーやエンジニアリングプラスチックなどに
よる変性が行われている。1 ) 我々の研究室でも、エポキシ樹脂の硬化剤にフェノールノボ
ラックと共に剛直棒状分子であるアラミド樹脂を用いることで、耐熱性と強靭性を共に改
善できることを確認した。本研究では、この強靱性と耐熱性の改善機構を主に相構造の点
から検討した。
2 . 試料エポキシ樹脂には、ビスフェノール A 型エポキシ樹脂を、硬化剤にはフェノール
ノボラックと、アルコール可溶性アラミド樹脂 H A S を用いた。また、硬化促進剤として
TPP を用いた。
3‑1. 図 1 に HAS の添加に伴う破壊靱性強度と Tg の変化
を示した。H A S の添加量の増加に伴い、両者ともに向上
している。また、T g は、破線で示したゴードンテーラー
式で求めた理論値よりも高い値を示している。このよう
に耐熱性が理論値よりも大きく改善されるのは、実際の系
では、理論式に考慮されていない分子の絡み合いや化学
結合などの相互作用が存在し、更に非常に剛直な分子が
ネットワークに組み込まれることで分子鎖が強く拘束さ
れたためであると考えられる。
3‑2. 図 2 に硬化物の破断面を A F M(原子間力
顕微鏡)で観察した結果を示した。図のよう
に H A S の添加に伴い破断面はより平坦になっ
た。一般に、エポキシ樹脂は架橋密度が高く
強靱なミセルとミセル間の脆い部分で構成さ
れ、破壊は脆い部分に沿って起こると言われ
ている。2 ) この考えに従えば、図 2 に観察される試料表面の凹凸はミセルを示しており、
HAS の添加に伴いミセルが小さくなると考えられる。一般に、熱硬化性樹脂は反応生成物が
未反応モノマーに対して相溶性を失って収縮し、分子内架橋を優先的に生じることによりミ
セル(ミクロゲル)を形成すると言われている。周囲のモノマーに対して相溶性の悪い HAS
を添加した系では、反応生成物はわずかに反応した状態で容易に相溶性を失ってミセルを形
成するため、ミセルは小さくなったと考えられる。HAS 分子はこの小さなミセルより長いた
め、ミセル間をつなぐ HAS 分子が存在することによって強靭性が向上したと考えられる。
4 . HAS の添加に伴う耐熱性の改善は、剛直棒状分子がネットワークに組み込まれることで
ネットワークが拘束されることに加えて、HAS がネットワークの一部になるため化学結合、
分子の絡み合いなどの相互作用が働くことによると考えられる。また、強靭性の改善は、ミ
セル間をつないでいる HAS 分子が亀裂の進行を妨げることによると考えられる。
1)R.A.Pearson, A.F.Yee, Journal of Materials Science ,21,2462‑2474 (1986)
2)Jovan Mijovic, J.A.Koutsky, Polymer ,20,1095‑1107 (1979)
応96−124
UV硬化したオキセタン / シリカハイブリッドの熱機械的性質
高分子応用材料研究室
祐嶋
健太
1.有機 / 無機ハイブリッド材料の調製にはゾル−ゲル法が多く用いられている。1)しかし
ながらゾル−ゲル法を用いたハイブリッド材料の調製には長い時間と多くの反応ステップが
必要である。そこで本研究では、光カチオン重合における重合性の高いオキセタン樹脂を紫
外線照射により反応させると同時に、シランアルコキサイドを加水分解・脱水縮合することで
非常に短時間でハイブリッド材料を調製した。またこの紫外線照射により調製したオキセタ
ン / シリカハイブリッド体の相構造及び熱機械的性質についても検討した。
2.試料オキセタン樹脂にはビスエチル(3−オキセタニル)メチルエーテルを、シリカ系無
機物としてオキセタニルエトキシシランを用いた。また、光カチオン開始剤としてスルホニウム
塩型硬化触媒を、塩基性触媒として水酸化ナトリウム水溶液を用いた。硬化物の機械的性質は
ビッカーズ硬度試験機(hsv‑30 ㈱島津製作所製)により評価した。
3−1.紫外線の照射に伴うオキセタン/シリカ及び
エポキシ/シリカハイブリッド系の硬化をIRで追跡し、
その結果を図1に示した。両系共に、アルコキシ基は前
反応によりおよそ50%反応し、最終的には両系とも
70%反応した。また、エポキシ基は600秒の紫外線
照射でも約30%しか反応していないのに対し、オキ
セタニル基は紫外線照射時間180秒で約90%反応
した。この結果は有機成分にオキセタン樹脂を用いて
紫外線照射することにより非常に短時間でハイブリッ
ド体を調製できることを示している。
3−2.紫外線照射により得られたオキセタン/シリ
カハイブリッド系のシリカ含有量とビッカーズ硬度の
関係を図2に示した。シリカ含有量の増加に伴い硬化
物の硬度が飛躍的に向上していることが分かる。これ
はオキセタン樹脂に硬度の高いシリカをハイブリッド
化することでオキセタン樹脂全体がシリカネットワー
クにより拘束されたためと考えられる。
4.オキセタン樹脂を有機成分とし、光カチオン開始
剤を用いて紫外線硬化しながら、シランアルコキサイ
ドを塩基性触媒で脱水縮合することにより非常に短時
間で有機/無機ハイブリッド体を得ることができた。ま
たこのハイブリッド化により少量のシリカ含有量で、
オキセタン樹脂の熱機械的性質を大幅に改善すること
ができた。
1)安田徳元
科学と工業、70(5)
70(5),pp205 〜 209 1996
70(5)
応96−97
偏光顕微赤外分光分析によるシリカ充填エポキシ樹脂の
界 面 近 傍 での網目鎖配向の解明
高分子応用材料研究室
原田
美由紀
1.
1.無機粒子の充填によりエポキシ樹脂硬化物の力学的性質が向上することは良く知られ
ており1) 剛性や強度の改善のためシリカ粒子の充填が幅広く行われている。本研究ではこ
の力学物性の向上の原因を追及するため、シリカ充填系に応力が作用したときのシリカ粒
子近傍の網目鎖の分子配向について偏光顕微赤外分光分析法を用いて検討した。
2.
2.試料エポキシ樹脂には骨格にメソゲン基を持つビフェニル型エポキシ樹脂(YL6121)、
硬化剤にはフェノール−p−キシレンジオールノボラックを用いた。また、充填材には球
状シリカを用い、γ−グリシドキシトリメトキシシラン(GPS)、1,1,1,3,3,3 −ヘキサメチ
ルジシラザン(HMDS)で表面処理をした。硬化物の網目鎖の配向観察は偏光顕微鏡(BHSP・
オリンパス製)を用いた。また、配向の分布は偏光子を挿入した顕微フーリエ赤外分光光
度計(FT‑IR SPECTRUM ONE,
•@
AUTO IMAGE SYSTEM,
PERKIN ELMER 社製)を用いて測定した。
3.
1 HMDS で表面処理し、界面を接着しないようにし
た球状シリカ充填硬化物の延伸後の偏光顕微鏡写真を
図1に示した。この試料中のシリカ近傍で延伸方向およ
びそれに直交する方向と、それらから45°ずれた方向
で干渉色が異なっている。これは、一様な応力を試料に
与えても、弾性率の異なるシリカ粒子近傍では方向に
よって網目鎖の配向度に差があることを示している。
3.
2
網目鎖配向をさらに詳しく調べるた
Fig.1 Polarized microgragh of deformed sample
filled with silica particle
め、偏光顕微 IR 測定を行った。測定結果から
得られた二色比の分布を図2に示した。シリカ
近傍で延伸方向とそれに直交する方向で二色比
が大きく、応力と平行および直交方向で網目
鎖の配向度が高くなることを示している。シ
リカ充填系ではこのような粒子周辺でのマト
リックスの配向に外部エネルギーが消費され
るため、破壊エネルギーなどの力学的性質が
向上するものと考えられる。
Fig.2 Dichroic ratio map near the silica particle
4. シリカ充填系に応力を作用させると応力の
方向とそれに直交する方向に網目鎖の配向が観察された。充填系の力学的性質向上の要因
は粒子近傍での網目鎖の配向に多くのエネルギーが消費されるためであると考えられる。
1) 中村 吉伸、山口 美穂、大久保 政芳、日本接着学会誌 Vol.29.No.2(1993)