3 ドイツの職業教育制度と開発協力

3
ドイツの職業教育制度と開発協力
ドイツの職業能力開発分野における開発協力の理解には、ドイツ国内の基礎
教育ならびに職業教育についての予備知識が不可欠である。なぜなら、ドイツ
の開発協力には同国内の職業教育制度が色濃く反映されているからだ。ドイツ
の強い経済力は質の高い人材養成制度に支えられているという認識のもと、多
くの開発途上国が自国の職業教育制度の構築に際してドイツにアドバイスを求
めている。そしてドイツ自身も、職業教育分野における開発協力の実績と優位
性をさらに高める努力を惜しまない。
ドイツ国内で実施されている職業教育の最大の特徴は、「デュアルシステム
(二元制度)」に反映されているといえよう。この制度は、端的に言えば、理
論と実技の二本立てで職業能力を身に付ける仕組みである。特に、職業訓練が
学校や訓練施設内だけで完結せず、企業実習を豊富に取り入れ、出来る限り実
際の現場での実務に直結した訓練ができるというのがメリットである。つまり
「デュアルシステム」では、理論的バックグラウンドと実務能力の両方を兼ね
備えた人材の育成が体系化されている。さらに修了時には試験によって資格を
取得し、一定レベルの職業能力が証明できるようになっている。こうすること
によって、訓練そのものが実務に近いという利点に加え、企業側にとっても修
了者の職業能力レベルを判断する基準が明らかに提示されるため、就業に結び
つきやすい。「デュアルシステム」が優秀な人材を育て、雇用を促進し、ひい
ては一国の経済状態全体の改善に寄与する効果的な制度であるとドイツが自負
する所以である。
ドイツ政府は開発協力分野に限らず「デュアルシステム」の国際的認知度を
高め、ドイツの人材養成制度の質の高さを内外にアピールしているが、開発協
力においても相手国の制度整備を支援しながら、この「デュアルシステム」の
要素を積極的に取り入れる努力をしている。ただし当然のことながら、相手国
の文化、歴史、社会的背景はドイツのそれと大きく異なり、長い伝統に裏打ち
されたドイツの「デュアルシステム」をそのまま他国に持ち込むことは困難で
ある。ドイツの開発協力の 40 年余の歴史の中で、初期の時代にはドイツの
「デュアルシステム」をそのまま他国に「輸出」しようとした時期もあったが、
現在ではそこでの経験や反省をもとに、新たな方法を展開している。この点に
ついては、以下のページでより詳しく見ていく。
まずは、ドイツ国内の学校教育と職業教育を概観し、ドイツの開発協力にお
ける人材養成を理解する予備知識とした上で、開発教育分野での活動について
紹介する。
58
3-1
ドイツの教育制度
3-1-1 学校教育
ドイツの教育制度の基本的な構造 1)
年齢
18∼23
15∼19
・・・
継続教育
↑
企業内教育、夜間学校、
コレーク、専門学校
職業資格取得後、就職
↑
デュアルシステムによる職業訓練
(職業学校通学と企業内訓練)
10∼16
特殊学校
6∼10
特殊学校
3∼6
特殊幼稚園
基幹学校
大学、専門大学、
総合制大学
ギムナジウム
上級段階
↑
ギムナジウム
実科学校
オリエンテーション段階
↑
基礎学校
↑
幼稚園
*
職業専門学
校、専門高等
学校
総合学校
は義務教育
ドイツで普通教育を施す学校は大部分が公立学校である。また、ドイツの憲
法にあたる連邦基本法第 7 条に基づき、学校制度全体は国の管轄下にあるもの
の、教育制度に関する立法および行政については権限の大部分が州に帰属する
2)
。したがって、学校制度は基本的に州が定めており、結果としてその内容は
州によって若干の相違が生じている。
ドイツの義務教育は満 6 歳の基礎学校通学から始まる。基礎学校の修了年限
は、通常 4 年間。その後、オリエンテーション期間を経て、12 歳くらいまで
の間に、その上の基幹学校、実科学校、ギムナジウム、総合学校のいずれに進
学するかを見極める。
進路の決定は児童の能力に応じて、主として学校の教師が決定する。非常に
おおざっぱな言い方をすれば、基幹学校または実科学校に進学した者はその後
職業訓練に入り、大学に進学することなく就業する。ギムナジウムに進む生徒
は、ギムナジウム上級段階を経て大学へ進学する。つまり、12 歳までの段階
で子供の潜在能力を測り、将来の職業やキャリアを含めてある程度の進路を決
定する。
59
とはいえ、いったん実科学校、あるいはギムナジウムに入学しても、その後、
児童の能力が不足する場合は、より下級の学校へ転向ができるし、上級の学校
に進む能力があればそれも可能である。
また、最近では、ギムナジウムに進学してもストレートに大学まで進むので
はなく、あえて若い時期に職業訓練を受け、職業資格を取得してからじっくり
と大学での勉強に入るケースも増えている。
ドイツでは普通学校通学義務は 6∼15 歳の前期中等教育修了までであるが、
さらにその後 3 年間の職業学校通学義務が課されている。従って、ドイツの就
学義務は合わせると 12 年間に及ぶ。
3-1-2 職業教育
初期職業教育と継続教育
前述の通り、約 9 年間の普通学校通学義務を果たした後には、約 3 年間の職
業学校通学義務があるため、ギムナジウム∼大学進学への道へ進まない約 7 割
の青少年は職業訓練に入る 3) 4)。
学校卒業からデュアルシステムへの道 5)
*
数字は 2000 年
デュアルシステム
19
18
17
16
15
14
13
12
11
10
年齢
↑
2.4%
学卒資格を有
しない者
↑
36.6%
↑
32%
中級卒業資格
(実科学校
卒業資格)
中級卒業資格
(基幹学校
卒業資格)
↑
15.8%
↑
13.2%
大学入学
資格
(ギムナ
ジウム修
了後)
職業
専門学校
職業教育は、1)初期職業教育と2)継続教育に 2 分して考えられる。1)
は学校教育の後、何らかの職業を身に付け一人前の職業人として社会に出るま
でに受ける教育であり、初期職業教育(Erstausbildung)または単に職業教育
(Ausbildung)と呼ぶ。
ドイツでは1)の職業教育を受けることは国民の義務である。つまり、学校
教育を終えた後、すべての人が何らかの職業に結びつく教育を受けた上で社会
人となる。これは同時に、国が国民全員を一人前の職業人となるところまで面
倒を見る責を負っていることをも意味する。従って、職業教育は国、州、地方
60
などのあらゆるレベルで制度化されており、経済界も訓練生の育成に多大な貢
献をしている。
2)は社会人として仕事を始めた人がさらなる能力開発を図るために受ける
教育で継続教育(Weiterbildung)または向上教育(Fortbildung)と呼ばれる。
1)の制度は国をはじめとする公的機関が全面的なバックアップをして支えて
いるが、2)については基本的に本人の努力で行うもの、または会社が業務の
必要上行うものと捉えられており、国の関与は一部の教育費用貸付制度を除き
ほぼない。ただし、失業者が再就職に必要な新しい職種(転換教育)や技能
(継続教育)を身につける場合は連邦雇用庁が教育訓練費を負担している。従
って、継続教育の必要性が叫ばれながらも、国家レベルの職業能力開発行政は
1)の初期職業教育が中心となる。
「デュアルシステム」の骨格
普通教育終了後に、職業学校通学義務を果たすには、
1)「デュアルシステム」による職業訓練
→ 350 職種の公認訓練職種で実施され、全体の 7 割が進む。
2)学校だけで行われる職業訓練
→ デュアルシステムでは教えるのが難しい保健衛生・医療分野を中心と
した少数の職種で実施される。
3)ギムナジウム通学
→ 修了後は主に大学へ進学。
の方法がある。
「デュアルシステム」は、ドイツ以外の多くの国で行われている純粋に学校
のみで実施される職業教育とは以下の 2 点で大きく異なる 6)。
・ 「デュアルシステム」では、学習の場の大部分が実際の生産現場、または
事業所となる。つまり、職業教育を受ける者(職業訓練生)は、基本的に
実際の職場に所属し、職業学校に通う時だけ一時的に職場を離れる。職業
訓練生は、通常 1 週間のうち 3∼4 日を職場で過ごし、残りの 1∼2 日を職
業学校で過ごす。
・ 「デュアルシステム」では、実技訓練はそれぞれの事業所が、理論教育は
職業学校が担当する。企業実習には連邦法が適用され、理論教育には州法
が適用される。
世の中には数え方によっては 3 万もの職種があるとされているが 7)、ドイ
ツでは青少年が職業として学ぶにふさわしい職種として約 350 種が定められて
おり(公認訓練職種)、「デュアルシステム」による職業訓練はこの 350 職種
すべてに対して行われている。青少年は、これらの職種から適性に合った 1 職
61
種を選び、その職種で一人前の職業人となるために 2 年∼3 年半の職業訓練を
受ける。訓練期間は、職種および訓練生の学歴や能力によって増減する。
公認訓練職種は時代の要請に応じて常に見直しがされているため、毎年その
数は変化する。新規職種が追加されることもあれば、廃止、統合される職種も
ある。いずれにせよ、350 余の公認訓練職種すべてに対して訓練実施のアウト
ラインとなる「職業訓練規則(Ausbildungsverordnung)」が法律として作成さ
れており、訓練を実施する各事業所はここに規定された訓練内容に準拠しなれ
ばならない。訓練職種の増減、法律の制定や改訂に際しては、連邦教育研究省
の監督下にある連邦職業教育研究所が調整役となり、関係省庁、州、労使を交
えて行う。
この訓練規則にのっとって正しく職業訓練が実施されているかを監督するの
は商工会議所を始めとする各種会議所である。会議所はドイツで最も重要な経
済団体のひとつであるが、ドイツでは職種や企業規模に応じて、すべての企業
はいずれかの会議所に所属することが義務付けられている。大企業の場合はほ
ぼすべて商工会議所、手工業分野の事業者は手工業会議所の監督下に入る。
企業内における訓練は、「訓練規則」に定められた内容に従って行われなけ
ればならず、例えば「自動車整備工」の職種を選んだ場合、この職種を選んだ
若者はドイツ国内のどの企業で訓練を行ったとしても、最終的には「訓練規
則」に記された訓練内容を網羅し、一定のレベルの知識と技能を備えるように
訓練されなければならない。会議所は中間試験と修了試験を実施し、第 3 者と
して職業訓練生の企業内訓練の進捗状況をチェックする。
デュアルシステムを支える基本的要素 8)
学校教育
企業内教育
連邦教育研究省(BMBF)
全体の管轄
連邦職業教育研究所(BiBB)
訓練全体の
職業教育法
各州の学校法
法的根拠
手工業令(手工業職種の場合)
実施のため
教育計画
職業訓練秩序
の法的根拠
(州文部大臣委員会が作成)
(BiBB が作成)
商工会議所、手工業会議所、
監督
行政府長官ないしその他の官庁
その他の機関
養成訓練
職業学校の教師
企業内訓練指導者
担当者
財政負担
連邦各州、郡、市町村
養成訓練実施企業
職業学校での理論教育は州の管轄になる。ただしドイツ国内で教育内容にば
らつきが生じるのを防ぐため、ドイツ 16 州の文部大臣によって構成される州
文部大臣委員会によって教育内容の調整がなされている。
62
訓練を受ける職場探し
「デュアルシステム」で職業訓練を受けるには、一方で職業学校に通学し、
他方で実務訓練を受ける職場に通わなければならない。その際問題となるのは、
訓練を希望する職種や企業において訓練生として採用してもらえるかである。
一般的な雇用状況も厳しい昨今、企業内訓練を受けるためのポストも十分に提
供されているとはいえない。
職業訓練生を採用する義務は企業にはない。企業は自社にとって必要な数の
訓練生を自由に決め、採用する。つまり、訓練生採用の枠が広いか狭いかは、
その年の訓練生の数ではなく、その時点の経済状況に大きく左右されるのが現
実である。当然、人気企業には応募者が殺到し、狭き門になる。
職業学校通学義務がある限り、職業訓練はドイツ国民の義務であるが、実務
訓練の職場が決まらずに訓練を受けることができなければその義務を果たすこ
とができない。この問題に対応しているのが職業安定所である。職業安定所に
は職業コンサルタントという相談員がおり、まず、職業適性についての相談か
ら始まり、最終的には訓練先企業の仲介も行う。あまりに高い望みを抱く若者
の方向性を修正したり、企業側に訓練生採用数を増やすよう交渉したりしなが
ら、両者のマッチングを行っている。
職場での実習
デュアルシステムで実務訓練の一翼を担うのは企業である。ただし、企業は
これを義務付けられているわけではない。したがって、当然、訓練生を採用す
る企業もあれば採用しない企業も出てくる。また、企業内訓練で発生するコス
トは、訓練生に対する手当ての支給も含めすべて企業側が負担しなければなら
ない。
事業所は自由意志から、しかも、公的な助成金を受けずに、自ら費用を負担
して訓練生の訓練に当るが、その理由は事業所が必要とする専門職が自ら職業
訓練を訓練生に施すことで最も楽に、そして確実に確保できるからである。
企業が訓練生を採用する理由:
・ 訓練生を専門的にも人事的にも自社の特殊性に合わせて教育できる。
・ 訓練生の作業能力、作業スタイル、同僚との付き合い方、個人的な態度な
ど、仕事に対する姿勢と能力をあらゆる角度から見極められる。これは職
業訓練が修了した後の採用に際して、企業にとっては重要な判断要素とな
る。
訓練生は、自分の希望する職種で職業訓練を行っている会社に応募し、採用
されればその企業との間で職業訓練契約を結ぶ。この契約は、訓練期間中のみ
63
有効であり、職業訓練修了後に企業がその訓練生を正式採用する義務もなけれ
ば、訓練生がその企業に就職しなければならない義務もない。
このため、企業が訓練生の教育のためにかけた時間と費用は無駄になる場合
もある。つまり、優秀に育て上げた訓練生が他の会社に応募、就職したり、あ
るいは大学進学や兵役義務などの理由によりすぐに就職をしない場合があるか
らだ。反対に、自らは訓練生を養成しない企業が、他の会社で一人前に育て上
げられた人材を採用するチャンスもある。
多くの企業は、訓練が終了する約 3 年後の人材ニーズを見極め、必要とされ
る人員より若干多めの人数を訓練生として採用する。訓練生採用に合格し、会
社が親身に指導をすれば、ほとんどの訓練生は 3 年後には充分に一人前の社員
として仕事をこなすだけの能力を身に付けている。しかし、中にはどうしても
能力の不足する者、社風に合わない者、優秀であってもすぐには就職しない者
などがおり、これらを差し引いて最終的に必要人員を正式採用している。
職業訓練が企業にとって単なる負担と考えるのは早計だ。訓練生といえども
生産活動やサービス活動に従事しており、利益に貢献しているからだ。企業に
よっては、むしろ大量の職業訓練生を採用して安い手当で働かせておきながら、
そのうちのほとんどを正式採用しないというところもある。
訓練の質という意味からすると、企業内訓練のメリットは大きい。実際の企
業の生産現場には最新の設備が備えられており、それらの機器を訓練中から使
いこなせるようになっていれば訓練修了後にもすぐに現場で即戦力として働け
る。学校の設備は、老朽化しても予算的な理由から、すぐには新しいものを取
り入れられないことがある。企業内の訓練指導者も最新の設備の取り扱いを熟
知している。
実際の現場での作業には、当然のことながら生産性が求められる。これによ
り余計なコストが削減され、訓練生の学習意欲も高まる。
企業内訓練を担当する指導者は、相応の資格を有していなければならない。
言い方を変えれば、指導者としての資格を持つ社員がいない企業では、訓練生
は採用できない。多くの場合、商工会議所管轄の企業では「工業マイスター」、
手工業会議所管轄の企業では「手工業マイスター」の資格を有する社員が訓練
生の指導を担当する。ドイツの「マイスター」の資格はしたがって、卓越した
技能を証明するためだけのものではない。それ以上に重要なのは、指導者とし
ての能力、つまり、職業経験のない若者に限られた期間内で一つの職種を身に
付けさせ、彼らを精神的にも一人前の職業人として育てる資質である。
64
企業内訓練に適用される職業訓練規則の例 9)
「自動車メカトロニック/乗用車」
訓練期間全体
訓練 1∼2 年目
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
訓練 3∼4 年目
企業内訓練
職業教育について、労働法、賃金法
訓練企業の組織について
労災防止に関する知識
環境保護
作業工程の計画と準備、成果の管理
と評価
品質管理
システムの計測と検査
企業内の技術コミュニケーション
企業内外の受注者とのコミュニケー
ション
自動車およびシステムの操作
自動車、システム、工場内設備の保
守、点検、調整
自動車、コンポーネント、システム
の組立、解体、修理
チューンアップ
交通規則に即した自動車の点検
職業学校での理論教育
企業内訓練に沿う授業内容
(職種に関連する専門知識
ならびに一般科目)
・ 自動車およびシステムの
点検と保守
・ 自動車技術に関わるコン
ポーネントやシステムの
解体、修理、組立
・ 電気および電子系統の検
査と修理
・ ステアリングおよび制御
システムの検査と修理
・ エネルギー供給とスター
トシステムの検査と修理
・ エンジンメカニックの検
査と修理
・ エンジンマネージメント
システムの診断と修理
・ サービス業務と排気シス
テム修理作業の実施
中間試験
訓練 1∼2 年目で学習した内容の掘り下 訓練 1∼2 年目で学習した内
げ、さらに以下の乗用車技術に関するテ 容の掘り下げ、さらに以下
ーマの学習
の乗用車技術に関するテー
マの学習
・診断、保守、チューンアップ
・ パワートランスミッショ
ンシステムの保守
・ 走行・制動システム
・ 付属システムのチューン
アップと試運転
・ ネットワークシステムの
検査と保守
・ 車体・コンフォート・安
全システムの診断と保守
・ 車検のためのサービス業
務と修理作業
修了試験
・ この職種の訓練期間は 3 年半(42 ヶ月)。
・ 中間試験および修了試験は訓練企業を監督する商工会議所または手工業会
議所が実施する。
・ 修了試験合格者には「自動車メカトロニック/乗用車」の資格が与えられ
る。
65
職業学校での理論学習
職業訓練中の訓練生は、公立の職業学校に通わなければならない。職業学校
の役割は、企業内訓練を補完し、実践的な学習目標を理論的に基礎付けること
にある。こうして職業学校の授業の約 60%は実技訓練で学ぶ職種に直接関係
する内容となる。しかし同時に、職業学校では、ドイツ語(国語)、数学、社
会、体育等の一般教科も盛り込まれている。
職業学校のカリキュラムは、職種ごとに「学習大綱計画」として各州が作成
する。これは実技訓練と連動するように内容的な調整がされている。
職業学校は訓練職種の分野別に分類される場合が多い。例えば、手工業分野
の職業学校、営業分野の職業学校、家政分野の職業学校、農業分野の職業学校
などがある。類似の職種どうしであれば、専門教科で使う設備を共有できるか
らである。
第 3 の学習の場
同じ職種であれば、訓練修了者はドイツ中どこでも同じレベルの能力を有し
ていなければならない。なぜなら、訓練内容はドイツ中で適用されている法律
によって定められており、修了試験の合格基準も統一されているからだ。会議
所の発行する修了資格は国家資格であり、その職種で一人前の職業人であるこ
とを証明するものである。
しかし、同じ「自動車メカトロニック」でも、国際的にも有名な大規模自動
車メーカーで訓練をする者もいれば、中小規模の会社で訓練を受ける者もいる。
その場合、どうしても中小企業では設備が十分でなかったり、規定にある項目
のいくつかを業務として取扱っていなかったりすることがある。これに対する
措置として、会議所は第 3 の学習の場として、企業外訓練施設を運営している。
これは実技訓練を補完する措置であるため、経済界の管轄となる。それ故、
会議所がこのような施設を運営するが、機械や設備を常に技術の発展にあわせ
るため、連邦政府も補助金を出して支援している。
修了資格
訓練期間は 2 年∼3 年半である(職種によって異なる)。訓練半ばで中間試
験があり、それまでの学習内容がチェックされる。訓練修了時には修了試験が
あり、合格すれば職人(手工業職種)または専門職員(事務系、技能系、情報
系などの職種)としての国家資格が得られ、これが職業人としての第一歩を踏
み出すための重要な証明書となる。
66
試験は、職種に応じて、商工会議所、手工業会議所などの会議所が行い、証
明書も会議所から発行される。
3-2
ドイツの職業教育分野の開発協力
3-2-1 BMZ の姿勢
以上がドイツで行われている職業教育の概要である。これまで見てきたよう
に、ドイツ国内のデュアルシステムはドイツの社会的、文化的背景の中で培わ
れ、国全体を巻き込んだ大掛かりな制度である。これは、国、州、学校、労使
双方、経済団体などの関係者全員が計画立案、実施、継続的発展に対して共同
責任を負って初めて成り立っている制度でもある。しかし、この制度がドイツ
国内で完全に機能しているかというとそうではない。最大の問題は、国際競争
の激化から企業が訓練生の採用を手控える傾向が強く、希望する職種で職業訓
練ができない、希望を変えても訓練先企業が見つからないといった若者が増加
していることである。
では、ドイツ国内の制度と状況がどのように同国の開発協力に反映されてい
るのか。まず、基本的な状況を理解するために、BMZ でのインタビューを紹
介する。10)
聞き手:
ドイツの開発協力戦略の概要と職業教育分野における協力の位置
付けについてお話下さい。
Kühn 氏:
ドイツの開発協力の全体的な方針は BMZ が定めます。BMZ は
「セクターコンセプト」というペーパーを出していますが、ドイ
ツの開発協力資金で活動を行う機関・団体は、必ずこの方針に沿
うことが義務付けられています。なお、同時に「ポジショニング
ペーパー」というものもありますが、これは義務ではなく、活動
の際の指針とすべきものです。
ドイツは開発協力の中で職業教育は大変重要な分野です。金額に
すると 2002 年には約 6,500 万ユーロが使われていますが、これは
国際的に比較しても際立って大きい数字です。
なお、ドイツの開発協力戦略についてもう少し詳しく話しますと、
BMZ は 2000 年に開発協力に対する姿勢を大きく見直しました。
開発協力の対象となる 10 の重点項目を設定し、職業教育は「経済
改革および市場経済の構築(いわゆる WiRAM、12 ページ参
照)」の中の一領域となりました。それまでは、ドイツの典型的
な「デュアルシステム」を相手国にも取り入れようという努力が
あったのですが、それは「コストがかかりすぎる」、「経済界に
一緒に訓練を行うという姿勢がなければできない」といった難し
67
さが指摘され、今日では職業教育をいくつかの切り口からモジュ
ール化して相手国に適用していこうという流れになっています。
また、職業教育が経済発展に不可欠な一要素として捉えられたこ
とにより、職業教育は何よりも市場のニーズに合ったものでなけ
ればならず、さらに、施設を始めとする道具の提供と同時に人的
な貢献も重視されています。
聞き手:
では、現在の職業教育協力はどのように行われているのでしょう
か。
Kühn 氏:
日本やドイツは世界の中でも高い技術力を誇る国ですので、技術
分野の職業教育において貢献しているところが多いと思います。
しかし、先進の技術を教えるにはまずお金がかかります。そして、
相手国では基礎教育(初等∼中等教育)と職業教育の間に大きな
溝ができているという問題があります。これに対しては、やはり、
できる限り実際の現場に近い職業訓練を行えるようにすること、
そして一時期の職業訓練だけで終わらせるのではなく、職業人生
が続く限りはずっと学びつづけなければならないという「ライフ
ロングラーニング」の考えと仕組みを作らなければならないでし
ょう。職業訓練を効果あるものにするには、労働市場が求めてい
るニーズに合致する教育内容を提供できるようにすることが必須
です。
さらに言えば、現在は「貧困の克服」が開発協力の重大なテーマ
になっています。この関連で職業教育を捉えると、職業教育の対
象は若い人々で、彼らが仕事を見つけ、収入を得るための手段を
身につけてもらうということが重要な目標になります。
以前は、職業教育のために何らかのプロジェクトを立てても、一
握りの人々に高度な内容、例えば、「400 名しか収容できないが、
設備は素晴らしい訓練施設」を提供するという形が多かったので
す。つまり、受益者一人当たりにかかる費用が非常に高く、ふた
を開けてみると、その人たちは恵まれた家庭の出身の子供たちだ
ったということが起こっていました。しかし、今問われているの
は、本当に貧しい人々に何が提供できるかということです。
特にアフリカに対する協力では「貧困の克服」がクローズアップ
されます。また、国連のミレニアム目標との関連からも、プロジ
ェクト実施にあたっては、みせびらかすためのプロジェクトでは
なく、さまざまな職業分野の人々に届く教育訓練を提供すること
が求められています。ここでも、職業教育協力は、どちらかとい
68
うと教育の延長線上というよりは、経済促進の一手段として行わ
れます。また、女性に対しても教育の機会が平等に与えられるよ
うに、特に女性に適しやすい職種でも教育訓練が提供できるよう
に留意されてきています。
聞き手
ドイツの職業教育分野における開発協力の強みは何でしょう?
Kühn 氏:
確かに、開発協力におけるドイツの職業教育分野での取り組みは
他国と比較して「強い」と言われることがしばしばあります。こ
れはドイツの経済力が強いから、ドイツの人材育成制度も優れて
いるだろうと思われていることによるのではないでしょうか。
ドイツ国内では「デュアルシステム」による職業訓練が実施され
ていますが、実は過去 10 年来、ドイツの開発協力においてはもう
「デュアルシステム」はやらないということになっているのです。
ドイツが開発協力を始めて間もない頃、ドイツはラテンアメリカ
の国々に対する協力に重点を置いていました。これらの国ではド
イツで行っている「デュアルシステム」が比較的取り入れやすか
ったのです。ところが、後にアフリカ諸国でも協力が強化されま
すと、そこには「デュアルシステム」を受入れるストラクチャー
がなく、困難に直面しました。「デュアルシステム」はコンセプ
トとしては分かりやすいので、政府レベルのプランとしては通り
やすいのですが、実際に専門家が現地でそれを実用化しようとす
ると難しかったのです。
聞き手:
最近の新しい動きについて教えてください。
Kühn 氏:
まず、新しい手法が取り入れられ始めている例として、eLearning
があります。例えば、人材を育成するために、相手国から人をド
イツに呼び、ドイツ語を学んでもらい、機械技術を習得するとい
う協力方法がありますが、これに eLearning を取り入れる動きが
あります。
それから、PPP (Public Private Partnership)はドイツの開発協力にお
ける重要なキーワードです。「経済発展につながる教育」を前提
にした場合、経済界も自分たちが必要とする人材だけではなく、
広く後継者育成に関わらなければなりません。PPP は開発協力の
様々な分野で導入可能な方法だと思いますが、ドイツの開発協力
においては職業教育分野でのこの動きが活発です。
最後に、他国との協力です。例えば、他のドナー国と協力してプ
ロジェクトを行う例はすでにあります。フランスが初等教育で強
69
みを発揮し、ドイツは職業教育というように、ある一カ国に対し
て、複数のドナー国が協力する例等が考えられるでしょう。
3-2-2 BMZ のコンセプト
BMZ はいくつかの文書を通じて、ドイツの職業教育分野における開発協力
の姿勢を明らかにしている。ここでは最も重要な以下の 3 文書から、過去 10
数年にわたる BMZ の基本的なコンセプトの流れを掴みたい。
・ 「職業教育セクターコンセプト」(1992 年 3 月)11)
ドイツの開発協力における職業教育分野の活動の方針を明らかにしたもの。
BMZ の予算で開発協力活動を行う団体、機関、企業はプロジェクトの過
程で生じる様々な決定に際し、この方針に沿わなければならない。それ以
外の団体、機関、企業はこれを活動の参考とすることが望ましい。
・ 「特報 96 号」(1999 年 4 月)12)
1999 年 4 月 26∼30 日にソウルで行われた「第 2 回 UNESCO 職業教育会
議」の際に発表された資料。
・ 「ポジショニングペーパー(草案)」(2004 年 9 月)13)
セクターコンセプトとは違い、協力実施団体に対する拘束力は弱い。開発
協力プロジェクトのコンセプト作成から実施に至る過程において参考とす
べき指針である。2004 年 9 月 14 日現在のペーパーが手元にある最新のも
のだが、これはまだ草案であり、2005 年秋頃を目処に正式版が発表される。
開発協力団体が活動を行う際には、第一に「職業教育セクターコンセプト」
の方針に準拠しなければならないが、それと合わせて、特に最近の国際開発協
力で新たに求められている点については「ポジショニングペーパー」を参考に
する必要がある。
まず「職業教育セクターコンセプト」であるが、職業教育分野における協
力活動を以下のように意義付けている。
・ 個人にとっては能力開発のチャンス
・ 企業にとっては生産に必要な優秀な労働力の確保
・ 社会的成長という意味においてはヒューマンキャピタルとしての人材への
投資
これらを実現するための目標設定は以下の通り。
・ 人々の基本的な生活基盤を確保し、自立のための支援をする。
・ 長期的な経済基盤の確立と自立した経済成長を図る。
・ 地域間の協力を促進し、国の経済が世界市場へ進出するための手助けをす
る。
70
活動のターゲットは、
1)
専門家、リーダーに対するさらなる教育訓練
2)
インフォーマルセクターに属すまたは、弱い立場にある社会層に対する
基本的な教育訓練
に 2 分される。
上記の切り口を実施に移す際のターゲットと方法については以下のように書
かれている。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
協力相手国の職業教育事情に関する詳細な事前調査
フォーマルおよびインフォーマルな職業訓練(特に国営以外の教育機
関)、職業教育と基礎教育の関係、経済、社会システムとの関係、女性
の立場について現地事情を調査、分析する。
実施に際する他領域との関連付け
職業教育対策は、それが実施される複数のレベルをネットワーク化して
行われるべきである。例えば、政治・意思決定のレベル、職業訓練の計
画・開発のレベル、実施のレベルのそれぞれにおいて同時にアプローチ
がなされるべきである。
さらに、職業教育以外のセクター(中小企業振興、農村・地域開発、都
市開発等)における諸対策とも関連付ける。
十分なオリエンテーション期間の設定
プロジェクト実施中は十分な適用期間が設けられていなければならない。
プロジェクト後のフォロー体制も十分に考慮される必要がある。
インフォーマルセクターへの対策に際する留意点
社会的に弱い立場にある層に対しては、領域をまたぐ課題である「自助
による貧困克服」や「女性支援」に特に配慮すべきである。
様々な支援国との間のコーディネーション
比較的広範囲にわたる制度開発に関わる案件では、複数の支援国による
活動を調整する必要がある。
諸対策のコーディネーション
様々な資金協力、人的協力、技術協力等の措置もそれぞれ調整が図られ
なければならない。
具体的な協力方法として以下が挙げられている。
1)
システム開発の支援
国全体の職業教育制度を確立する際の政治的意思決定の支援。
2)
訓練施設および訓練プログラム
訓練施設の設置や拡充、ニーズに合った教育を長期的に提供するための
整備。
3)
インフォーマルセクターのグループに対する支援
職業訓練を受ける機会に恵まれていないインフォーマルセクターの人々
に対して、ニーズに合った職業訓練を提供する。基礎教育から建て直す。
71
4)
5)
人材の育成と指導/学習教材の調達
職業訓練指導員の養成、適切な指導/学習教材の調達、運営スタッフの
育成。
中小企業に対する支援
特に小企業に対して職業教育を実施し、その発展を促進する。
以上の「職業教育セクターコンセプト」では主に協力の枠組みについて定
めているが、1999 年の「特報 96 号」および 2004 年の「ポジショニングペー
パー」では、さらに具体的な問題点が指摘されており、また「貧困の克服」、
「広い層に対する支援」、「不利な立場にある人々への支援」という課題がよ
り意識されている。
例えば、「特報 96 号」では、開発途上国における職業教育の傾向として以
下の 3 点について言及している。
・ 二極化の傾向
高い能力を最初から身に付け、優秀な人材として活躍している人は安定し
た仕事に就き、さらに高い能力を身に付けるための継続教育の機会が与え
られていることが多い。つまり、できる人は資金を準備してもらえたり、
自分で資金が用意できるためより高度な能力を身に付けることができるが、
できない人は全く職業訓練の機会に触れないままで自己の能力を高めるこ
とができない。
・ 学校教育と就業との間の溝
学校教育を終えた若者は多くの場合、職業訓練を受ける機会がない。財政
事情の厳しい途上国で、職業訓練を強化する場合、以下の問いに直面する。
1)より多くの人々をより安いコストで養成できるか。
2)長期失業や若年失業を克服することができるか。
3)市場や技術の変化に対応できる人材を養成できるか。
・ 民間企業の協力姿勢
職業訓練に1)雇用主、2)被雇用者、3)国の 3 者の立場があるとすれ
ば、開発途上国では特に組織形成がしっかりとできていない場合、1)と
2)のニーズを捉えることが難しい。
職業訓練を雇用に結びつけるためには、職業訓練で行っている措置を他の
政策と関連付ける必要がある。例えば、企業内訓練を促進するために助成
金を支給したり(ただし依存体質を植え付けてはいけない)、訓練修了後
の就職を踏まえた職業相談の制度も確立したりする。
「ポジショニングペーパー」ではさらに、「国連のミレニアム目標」とそ
こから導きだされた政府の「行動プログラム 2015」を軸に、職業教育協力の
目標を設定し直している。
72
基本的に重要性が強調されているのは以下の点である。
・ 教育訓練の対象グループは近代的、フォーマルなセクターに留まらず、多
元的、インフォーマルなセクターにも広げていく。
・ 職業教育を経済推進と雇用促進の一環として組み込む。
・ ライフロングラーニングの視点から職業教育を捉える。
・ ジェンダーの観点から、特に女性の参加が促進されるよう配慮する。
・ 貧困の克服につながるように、最も貧しい人々に対策が届くようにする。
3-2-3 GTZ の姿勢
GTZ は技術協力の範囲内で、職業教育に関する多くのプロジェクトを手が
けている。それらは当然のことながら、BMZ のコンセプトに沿った形で行わ
れているが、GTZ として職業教育分野における開発協力について述べたポジ
ショニングペーパーも出している。
まず、2005 年 2 月 18 日に GTZ で経済改革および市場制度開発を担当する
Häbig 氏と職業教育を担当する Grunwald 氏にインタビューした内容から、
GTZ の立場と職業教育分野における協力活動について説明する。さらに、職
業教育活動に対する GTZ の姿勢を文書でまとめた上記のポジションニングペ
ーパーの全文を掲載したい。
GTZ の立場と職業教育分野の協力活動 14)
聞き手: ドイツの開発協力における GTZ の立場、予算などについて教えて
ください。
Häbig 氏: GTZ は GmbH、つまり有限会社組織ですが、その活動内容も目的
も公的な利益に寄与するためのものです。BMZ との間では独占的
な関係があり、BMZ の予算の枠内に GTZ 予算が組まれています。
BMZ から受託した協力活動は、1)GTZ 内で実施する場合と、
2)GTZ からそれ以外の他の開発協力実施機関に委託する場合の 2
通りのパターンがあります。
「独占的関係」と言いましたが、GTZ は BMZ だけの所有物ではな
く、ドイツ政府全体によって維持されている機関ですので、BMZ
からの仕事だけをしているわけではなく、他の連邦省庁を始めとす
る別の機関からも仕事を受けています。特に 80∼90 年代以降は、
BMZ 以外の省からの仕事も増えました。例を挙げますと、バルカ
ン半島にドイツ軍を派遣した際、現地事情に詳しい GTZ がサポー
トを頼まれた事がありますが、これは国防省からの委託です。ある
いは、石油産油国が一時期開発協力に力を入れたことがあり、その
際に GTZ が委託を受けた事もあります。開発協力関係の銀行や EU
73
からの仕事もありますので、BMZ 以外の委託事業は、現在、予算
でみると、全体の 20%程度を占めるに至っています。
また、さらに新しい傾向として、民間企業からの委託もあります。
例えば、最近のスマトラ島沖で発生した津波被害では、何らかの支
援をしたいと思っている企業が、どのような貢献をどういう方法で
行うのが一番適切かといったアドバイスを私たちに求めてきたりし
ます。または、現地で開発協力活動をする民間企業とのジョイント
ベンチャー、EU などとの共同資金協力など、事業委託主のバリエ
ーションは広がってきています。
聞き手:
具体的にどのような方法で GTZ が活動を行っているかお聞かせ下
さい。
Häbig 氏: 最近の活動には、さまざまなアプローチが取り入れられてきていま
す。まとめると以下の 3 つの方法に分類できるでしょう。
一つ目は、技術センターに代表されるもの。つまり、相手国の技術
力を高め、国際競争力をつけるための施設で、まずそのような施設
を設置し、研修を行い、施設内の指導員の教育も行うといった活動
です。これはどちらかというと、ターゲットとなる受益者が狭い範
囲に限られるため、マクロ∼メゾレベルの協力方法といえます。
二つ目は、より広い層を対象としたもの。これは特に貧困の克服と
いうコンテキストから出てくる協力方法ですが、インフォーマルな
領域にある人々にも教育訓練を施す試みです。
三つ目は、相手国の職業教育制度そのものをすべて、あるいは一部
分改革する際の協力です。
基本的に、ドイツとしては一番目の方法はもう積極的に行っていま
せん。理由は、一人あたりコストが高すぎるからです。多額のお金
を投資し、高度な設備を作っても、そこでは数十人の指導員と技能
工が養成できるだけです。現在は、同じだけのお金を使って、広く
多数の人々に雇用のチャンスを与えるために協力をしようという二
番目の方向に重点がシフトしてきています。
聞き手:
GTZ の職員は現地でどのようにプロジェクトに関わりますか。
Häbig 氏: ある GTZ のプロジェクトが外国で行われる場合、GTZ の職員はそ
の国に赴任し、プロジェクトのマネージメントを行います。現地で
はその国のパートナーと共に仕事をしますが、GTZ のリソース
74
(予算等)は GTZ で、パートナー機関のリソースはパートナー機
関で管理することになります。ただし、目標に対しては共に協力し
て働きます。ドイツの貢献をいかにパートナー機関と分け合いなが
ら活かせるか、専門のコンサルタントなどと話合いながら、決定を
し、管理をしていきます。
私の経験から言いますと、この 20 年の間で、現地に派遣される
GTZ 職員の人数も変わってきました。私は 1989 年∼1992 年までエ
クアドルに派遣されましたが、1989 年当時は GTZ 職員が私を含め
て 5 名いたのに、1992 年には 3 人になり、私の後任として派遣さ
れた職員は一人でこの仕事を引き継ぎ、他はすべて現地スタッフに
なりました。全体的に言っても、海外に派遣される職員の人数は減
少傾向にあります。
一度、仕事で海外にいたときに、一緒に仕事をしたスイス人とよく
議論を交わしました。スイスからは、オフィススタッフが 1 名現地
に派遣されているのみで、他はすべてローカルスタッフが仕事をし
ていました。そうすると結局スイス人はお金の管理をするだけで、
プロジェクトそのものは現地の NGO 等に任せているのです。私は
それではあまりにスイス人スタッフが少なすぎると言ったものです。
GTZ はスイスのようにはならないと思いますが、GTZ からは、ジ
ェネラリストとしてプロジェクトをマネージメントできると同時に、
さらにそのプロジェクトに関連する分野や地域の専門的なバックグ
ラウンドも備えている人を派遣し、実際にプロジェクトにも関わり
ながら、外部の専門家が足りない点を補完するという態勢ができれ
ば良いと思います。
聞き手:
GTZ 職員が海外に派遣される際のビザについて教えてください。
Häbig 氏: GTZ が二国間協力の目的で現地に派遣される場合は公用旅券にな
ります。外交官旅券でもなければ、一般旅券でもありません。相手
国がドイツとの間で特別な外交的合意を結んでおり、それが BMZ
からの仕事であれば、GTZ 職員は特別な立場として公用旅券で派
遣されます。どういうステータスで相手国に入るかは、現地の法律
にもよります。
民間や EU などドイツ政府以外からの委託の場合は、GTZ 職員であ
っても公用旅券は持ちません。
聞き手:
現在のドイツの開発協力において、「デュアルシステム」は取り入
れられているのでしょうか。
75
Häbig 氏: ドイツの「デュアルシステム」を 1 対 1 で相手国に「輸出」できる
と信じていたのは、開発協力の第 1 世代でしょう。70 年代には、
アジア、特に韓国でこの試みがありました。
現地で実際に仕事をする人たちがどれだけフレキシブルかというこ
とにもよりますが、他国に 1 対 1 でこのシステムを移植するのは無
理ということが数年もすれば分かってきます。これは前提となる経
済構造などがドイツと全く違うからです。
しかし、ドイツの制度から「示唆を得る」ことはできるでしょう。
チリなどはその好例です。経済界を巻き込んだ職業教育制度を作る
という意味で、チリはドイツから学び、「デュアル」という名前ま
で残ったようです。
確かに、職業教育に「実務に即した」という発想を取り入れるとい
う意味では、それがドイツの「デュアルシステム」のコピーではな
くても、「デュアルシステム」の考えが活かされた制度を作ること
は可能でしょう。
そこでどれだけ企業側からの協力を取り込めるかということが問題
になりますが、これは各国の事情によって違います。例えば、コロ
ンビアで企業実習を取り入れようとした際、そこではもともと日本
やドイツと違って、人材の流動性が高く、企業側に協力を動機づけ
るのが難しかったのです。「せっかく 2 年かけて人を育てても、半
年もすればすぐに別の会社に移ってしまう。投資をしても無駄だ」
というわけです。そこで、コロンビアの場合は、企業には訓練生に
よる投資がすぐに収益に結びつく分野で受入れてもらうに説得する
必要がありました。ですから、実務訓練を職業教育に取り入れるた
めに、どういう理由を付けて経済界からの協力を取り付けるかとい
うのは国の状況によって様々になるでしょう。
ドイツはこれまで自分たちの職業教育は素晴らしいと思い過ぎてき
て、他に目を向けてきませんでした。EU で起こっている事にも関
心を示してきませんでしたが、最近、少しずつそれが変化してきて
いるように感じます。
76
ポジショニングペーパー15)
「職業教育分野におけるドイツの開発協力のアプローチ」
職業教育の領域
過去 30 年以上にわたり、職業教育制度の推進は、開発途上国や中進国におい
てドイツの開発協力活動の登録商標ともいえる領域であった。この分野の活動
も相手国のニーズを満たすために実施されるのはもちろんであるが、個人が就
業の機会と充分な収入を得るための前提条件として職業資格を取得するに留ま
らず、被雇用者であれ雇用主であれ、あるいは自給自足経済下であれ、人々の
経済生活に重要となる社会的・政治的姿勢や行動の仕方を身に付けることも目
的とされる。職業教育はしたがって、ひとりひとりのニーズや期待にも合致す
るものでなければならない。
職業教育は、一個人から世界経済までのあらゆるレベルを包括し、あらゆる経
済および社会領域にまたがる複雑なサブシステムであり、最終的には人間の潜
在能力を全ての人々の福利に還元する制度として機能することが求められてい
る。その意味で、職業教育は個人に対して生活の糧を得るチャンスを与えるだ
けでなく、労働という生産の一要素の質と経済性を決定付けることでもある。
職業能力を身に付けることは、一企業内ばかりでなく一国の国内外の経済的競
争力に本質的な影響を及ぼすのである。
以上のように職業教育は広範囲にまたがるテーマであり、職業教育の推進はド
イツの二国間技術協力においても非常に重要視されている。さらに、資金協力
の領域においても職業教育制度の開発は高い実績を残している。
ドイツの技術協力では、既存の職業教育制度を効率良く改善し、質を高め、さ
らにそれを経済成長に組み込むためのコンサルティングを行っている。例え
ば、フォーマルおよびインフォーマルなセクターにおける職業教育のために国
が果たす業務や整える条件についてアドバイスをする。これには、いかに国と
経済界が協力するべきか、教育施設をどうサポートするかといったテーマが含
まれてくる。このようなコンサルティングは、各国の経済的・社会的条件に応
じた様々なかたちで適用される。
実際に適用されるアプローチでは、学校内で行われる訓練(国立学校、認定学
校、または市立学校)から、正規の学校外訓練(企業外訓練施設、国の監督下
にある企業内訓練)、正規ではない学校外訓練(インフォーマルで伝統的な訓
練、OJT)までカバーしている。
コーポラティブ・アプローチに対するニーズ
ドイツが職業教育で行うコンサルティングで特に価値が高いのは、複数の実施
機関(学校、企業、企業外訓練施設)が互いに協力し合うコーポラティブモデ
ルの提供である。これには、ドイツで実際に行われている「デュアルシステム
による職業訓練」がまさにコーポラティブモデルの実例であるということと、
77
労使双方の長い伝統と努力に裏打ちされたこの「デュアルシステム」が、広範
囲で質の高い初期職業訓練を可能にしている点で際立っているからに他ならな
い。これまでの開発教育の中でも、ドイツの「デュアルシステム」による経験
が活かされてきたが、これは世界中の様々な地域の教育政策に携わる政治家か
らポジティブな反応を得てきたと言ってよい。何より、「デュアルシステム」
があるからこそ、ドイツの経済と教育制度が緊密な関係を築けているのであ
り、そこで養成された質の高い人材が国の経済競争力を決定的に支えているか
らである。したがって、今日でも、複数の学習環境(企業、学校、企業外訓練
施設)を組み合わせながら、経済界と国が責任を共有し合うコーポラティブな
職業教育モデルは、多くの開発途上国、中進国、ドナー機関が関心を寄せてい
る。
教育制度に求められているのは、教育の質と採算性を持続可能な形で改善し、
定着させることである。社会的なニーズに合わせられるだけの資金と人材が不
足する途上国および中進国では、国の負担が大きくなりすぎるという問題に直
面している。それでも出来る限り若い人々に質の高い職業教育を広範囲に提供
し、状況を改善したいという希望がある。この問題は、経済界の努力だけでは
解決できない。民間企業は社会全体のニーズを考えて職業訓練を行うわけでは
ないからだ。しかも、企業の中には自社のニーズを満たすだけの教育訓練すら
行うことができない、あるいはその費用を工面できないところも多いのだ。
このように見ると、職業教育の問題は国と経済界が共に協力して初めて解決で
きるといえよう。ここからコーポラティブモデルの発想も生まれてくる。しば
しば、開発途上国の側から、ドイツを模範とした「デュアルシステム」を取り
入れたいという要望が出されている。そして、過去には、ドイツの政治家やド
イツ経済界はこの要望を積極的に支援してきた。
ドイツの「デュアルシステム」による職業訓練の特徴
学術的、あるいは教育政策的な意味合いで「デュアルシステム」について語ら
れる場合、それは常にドイツ連邦共和国で実施されている「デュアルシステ
ム」を意味するといっても過言ではないだろう。その一番の特徴は、民間企業
と公立の職業学校が互いに、職業訓練内容の作成ならびに試験の実施に対して
共同で責任を負うという点である。
多くの開発途上国や中進国で伝統的に行われている学校や施設内で完結する職
業教育に対して、「デュアルシステム」には以下のようなメリットがある:
・ 企業の視点から見て必要と思われる労働力が育成される。これは、純粋な
職業能力という意味だけでなく、仕事に対する姿勢という点においても言
えることである。(即戦力が養成できるメリット)
・ 国は職業学校の運営と教師の人件費をまかなうだけで済み、負担が軽減で
きる。それ以外のコストは企業が負担するからである。国としては、数字
で見れば比較的多くの若者を高い専門レベルで育成できる。(コストが抑
えられるメリット)
78
・ 企業には近代的な機械や設備が備わっており、それが実務に即した職業訓
練を可能にする。若者は実際の現場で、現実に起こりうる状況を目の当た
りにしながら学習できる。(実務に即した訓練ができるメリット)
・ 習得した専門性が社会的に高く認められることにより、職業訓練終了後に
個人が労働市場において就業できるチャンスが高まる。(エンプロイアビ
リティーを高められるメリット)
・ 指導や試験の内容を一国内で標準化することにより、修了者が学んだ職種
において仕事を得る確実性が高まる。また、訓練で身に付けた内容が客観
化され、付与された資格内容が第 3 者にとって分かりやすくなる。(職業
能力の融通性と透明性が高められるメリット)
・ 国営ならびに民間の施設における訓練を共に構築し、結びつけることによ
り、「デュアルシステム」は社会的な統合モデルとして機能できるように
なる。
ドイツの「デュアルシステム」は、90 年代以降、国内的にも国際的にも議論の
俎上に上っている。それはとりわけ、経済の構造変化とグローバル化によって
「デュアルシステム」による職業訓練の有効性が疑問視されてきていることに
よる。例えば、経済界の様々な領域から出されている新しいニーズに対応する
ために、職業訓練の内容に手を加えようとする場合、「デュアルシステム」の
枠内では手間ひまがかかりすぎる、あるいはフレキシビリティーに欠けるとい
う意見が出ている。新しい訓練職種を取り入れるには多大なコストがかかるに
も関わらず、その分野はほんの一握りの若者しか対象とならないいわゆる近代
的セクターであったりする。そして開発途上国では、近代的セクターよりはイ
ンフォーマルなセクターが圧倒的なのである。
このようなフレキシビリティーの問題に対しては、国際的には、職業訓練また
はコンピテンシートレーニングのモジュール化がその解決策であるとされ、各
制度の中で適用されている。この領域では、国際的な職業教育マーケットとも
呼べるものが出来上がってきており、競合するシステム同士が互いに優劣を競
争し合っている。つまり、先進工業国のほとんどが、開発途上国および中進国
における職業教育制度の構築に何らかの影響力を行使すべく、しのぎを削って
いる。例えば、制度確立に関するコンサルティングに始まり、資格プロフィー
ルの開発、教育訓練の指導用・学習用教材の開発に至るまで、より質の高いサ
ービスを相手国に提供できるようドナー国同士が競い合っているのだ。
このような動きの中で、ドイツの職業教育を代表する専門家たちは、国内的に
も国際的にもこの競争を受けて立ち、ドイツのモデルに常に新しい意味付けを
加えていかなければならない。今日でもドイツにおいて「職業」という概念の
重要性は変わらないが、例えば、訓練職種に柔軟性を持たせたり、国際的な整
合性のある内容を盛り込んだり、国際的に通用する修了証を授与したりしなが
ら、「デュアルシステム」をより効果的に、そして競争力のあるものにする努
力がなされている。まずは、ドイツ国内の職業教育制度の透明性を向上させる
ことが、国際的な職業教育市場におけるドイツの地位を確固たるものにする前
提条件となるであろう。
79
ドイツの職業教育の適用可能性
職業教育制度が「輸出」できる類のものではないというコンセンサスは、一般
に広く通用している。それぞれの国によって、社会経済、あるいは文化的な条
件が大きく異なるというのがその理由である。しかも、職業教育制度は社会的
な制度であり、革命的な社会変化のプロセスから生まれ出るものである。しか
しだからといって、技術協力において、ある国の経験が他の国に活かされない
ということにはならない。一般にどの国にも通用する解決法はないが、好んで
引き合いに出される「ドイツの道」が唯一というわけでもない。
相手国の期待と潜在性にかなう解決法を提示するためには、ドイツの技術協力
が職業教育の分野で重ねてきた経験をもとに、いくつかのエレメントを組み合
わせた形を作らなければならない。これには、コーポラティブモデルが望まし
い形となるだろう。職業訓練のいくつかの部分的要素、訓練の実施場所、コス
ト抑制の仕方、複数の能力レベルの設定といった特徴が相手国に最適な形で組
み合わされ、提供されるべきである。
つまり、「制度の輸出」は不可能である。「輸出」というよりは、様々な制度
の部分部分を、相手国の状況に合致させて組み合わせる作業が必要不可欠であ
るといえよう。これが、職業教育制度の作用性と効率性を高めるために重要で
ある。ドイツ国内および国外でのノウハウを活かし、それぞれの条件や目標設
定に応じた「テイラーメイド」による解決法が求められる。また、この試みは
中央集権化を回避するための地方分散の観点にも留意して取り組まなければな
らない。
持続性と幅広い有効性という視点からドイツの職業教育分野における開発協力
を考えた場合の重要な特徴として、さらに以下の点も挙げられよう:
・ モデル試行を行ったり、現存の構造やキャパシティーをできるだけ利用し
ながら、マクロレベルでコンセプトのはっきりした政策提言をする。
・ 職業能力開発の構築と実施に際し、教育分野と製造分野との間の協力関係
を強固なものにする。
・ 職業教育を他の開発政策に組み込む。例えば、経済促進、技術移転、地
域・農村開発、地方分散、市民社会の形成、環境保護、自然資源保護な
ど。
・ 国の管轄下にない領域も取り込む。
・ 開発政策的に重要なターゲットグループにも配慮する(特にジェンダーの
視点を考慮)。
ドイツの職業教育分野における開発協力の実績
職業教育分野の技術協力は、各国の社会経済ならびに文化的条件、開発政策に
おける目標設定、同時進行中の他の経済・社会政策プログラム、既存の構造の
有効性、関係者間の関心の所在など様々なテーマと結びつきながら、いまや世
界のほぼあらゆる地域で実施されている。
80
アジア、ラテンアメリカ、カリブ海諸国、アフリカ、近東、マグレブ、南東
欧、NIS 諸国の 77 カ国において、150 の職業教育関連プロジェクトが進行中で
ある。ここには、いつかの国にまたがった広範囲な地域で実施されているプロ
ジェクトも含まれる。
これらのプロジェクトのほとんどは、副次的あるいは副副次的な領域であった
としても、相手国の経済界のニーズに合わせたコーポラティブな職業教育を実
現することを目指している。扱うのは以下の内容である:
・
・
・
・
・
職業教育分野の制度改革に際するコンサルティング
研究所や監督機関の設立支援
訓練施設の再活性化や拡充の支援
管理職ならびに指導員に対する教育
指導用/学習用教材の調達と開発
現在実施中の職業教育関連プロジェクトのほとんどは、上記の項目のいくつか
を組み合わせて行われている。必ず、国営と非国営の実施機関(例えば、あら
ゆる規模の民間企業、経済団体、労働組合)を協力させ、両者を調整するよう
な試みがされている。さらに、ドイツの職業教育制度と競合するような制度か
ら得られた経験であっても、相手国の教育制度の構築に有用であると判断され
たものは取り入れられている。個々のプロジェクトがどのように行われるか
は、しかしながら、最終的にはそれぞれの相手国に委ねられる。というのも、
われわれの提供する協力内容の質は、結局のところ、受容者のニーズに合うか
どうかというところで判断されるからである。
しかし、ドイツがコンサルタントとして協力をする際に重要なのは、職業教育
を構成する要素(カリキュラム、インフラ、施設、指導員の資格・能力、指導
用/学習用教材、試験、資格認定)、そして職業能力資格(フォーマル、イン
フォーマル、初期職業教育、継続教育)の整合性を改良しながら、その国の社
会経済状況に合わせて効率性と有効性を高めていくことである。
81
3-2-4 これからの職業教育協力
「デュアルシステム」からの脱却と新しいアプローチ
ドイツは 1960∼70 年代にかけて、開発協力の枠内で、ドイツで行われてい
る「デュアルシステム」を開発途上国に確立しようとしていた。「現在はどう
か」と尋ねると、専門家は口を揃えて、「ドイツのシステムをそのまま前提条
件の違う他国に持ち込むことは不可能であり、現在は違ったアプローチで理論
と実務の双方の能力を備えた人材育成を行っている」と答える。これは上記に
紹介した BMZ や GTZ の姿勢からも既に明らかである。
この流れを、これまでの意見をもとにまとめると以下のように言えよう。
・ 施設を建てることを目的にするような事業は行わない。
・ 最終的には現地の人々の自助を促すための協力を行う。そのためには、制
度の維持、設備の管理、施設の経営等を含めたマネージメント力を養う訓
練も行う。
・ 各国の事情を見極めた上で、コンサルタントとしての立場からオーダーメ
イドの対策案を提示する。
・ ターゲットはおおまかに言って、1)少数のリーダー、専門家、技術者層
と2)多数の弱者に 2 分される。最近は1)に対する支援は一人当たりコ
ストが高すぎるという理由で積極的に行われず、「貧困の克服」を目的に
した2)に対する対策に力が入れられている。
・ いくつかの領域をお互いに結びつけながら、相互に作用するような仕組みを
作る。
・ 学習効果、コスト軽減等のメリットを考えれば、職業教育には実際の職場
における実習は不可欠である。その意味で、民間企業を巻き込むという
「デュアル」的な要素は多いに活用されるべきである。
世界経済の変化と途上国における職業教育
InWEnt の「職業教育における技術協力・システム開発・マネージメント
部」部長の Dr. Wallenborn 氏は、特に TVET(技術・職業教育・訓練トレーニ
ング)の専門家・研究者として、開発協力活動での豊富な経験を有すると同時
に、数々の研究発表をしている。2005 年 2 月 22 日のインタビューといくつか
の執筆から、開発協力における職業教育の動向と今後の方向性に対する同氏の
意見をまとめたい。
開発協力におけるドイツの職業教育活動は他国と比較した場合、非常に活発
に行われているが、将来的には以下の領域でこれまで以上に貢献が求められる
であろう。
・ 就業に重要な個別の教育ニーズを満たす、よりフレキシブルな職業訓練を
提供する。
82
・ 自立を可能にするために、技術的な実技訓練や事務系の知識を基礎教育に
組み入れて教育内容を改善する。
・ 個別またはグループ形式の教育訓練を確立する。
・ 不利な立場にある人々が雇用のチャンスを得ることができるような実際的
な能力を付与する。
・ 持続性のある経済プロセスにおける職業の習得を促す。
そこで、ドイツは以下の方法によってその強みを発揮するべきであろう。
・ ドイツの強みは、労働市場分析、職業教育分析、職業情報システム等の複
数の専門テーマにおけるノウハウを組み合わせながら、国全体の政策とし
ての提案を行えるところである。内容的に近い複数の領域(基礎教育も含
む)を結び合わせる際に、ドイツで実際に行われている民間によるイニシ
アティブや企業内訓練の活用は有益になろう。
・ ドイツ人の目から見ると、職業教育は労使双方がぶつかり、刺激し合い、
ダイナミックな変革を促しながら行われるものである。これによって、民
間の入る隙のない官僚的な制度からは考えられないような活発な教育活動
が生まれる。基礎教育に力を入れる国にとっては、この観点は新鮮に映る
であろう。
・ 技術的技能を職業教育学や職業学校の教師養成と結びつけるというモデル
はドイツ特有のものである。しかし、世界市場に進出しようとしながらそ
れが独自には実現できない国々にとって、このモデルは非常に重要な意味
を持つ。
また、最近の世界の情勢変化に目を向けて、その視点から開発協力に何が必
要かを捉えてみると、まず言えるのは、ここ 10 数年来、社会の「グローバル
化」が進んでいるということである。経済循環、環境問題、人口移動、文化交
流、ニュース配信等が国境を超えて進行している。また、情報通信技術の進展
がこれらの傾向に拍車をかけている。世界社会は情報社会になり、同時に知識
社会にもなった。これらの動きに開発途上国も無縁ではいられない。
現在起こっている重要な社会的変化は、
・ 経済のグローバル化
・ IT 社会の定着
・ 情報化された経済活動
・ 環境・自然資源保護の動き
・ 世界政治の状況変化
等であるが、開発途上国においてもこれらの変化に対応できる人材の育成がよ
り必要とされてきている。
これらの背景を踏まえると、今後の職業教育分野における開発協力活動は以
下のような傾向を見せていくであろう。
83
・ 社会が複雑化するに従い、国の制度よりも民間市場における動きが重要性
を増していくであろう。
・ 「ライフロングラーニング」の立場に立ったフレキシブルな教育が、若年
層の初期職業訓練より重要性を持つようになろう。
・ 技術協力、資金協力、人的協力の方法が相手国にとって最適な形で組み合
わされながら協力活動が行われる必要が高まるであろう。
・ 職業教育を、例えば中小企業振興と組み合わせるようなハイブリッドな目
標の到達が求められるようになろう。ただし、小さな組織にあまりに複雑
で多岐の分野に渡る課題を背負わせない配慮も必要である。
・ 国家をまたぐコミュニケーションの重要性が高まり、複数言語を操る社会
性のある人材が求められるようになろう。
・ どの国の人材であっても、新しいメディアによって得られるようになった
情報を、自分のニーズに合わせて新しくアレンジし、活用できる能力が求
められるようになろう。
・ 教育は、経済、技術、社会の変化や挑戦にフレキシブルに対応できるもの
でなければならない。
・ 一度に最大の効果を得るためには、どこが最適な学びの場となるかという
問いにタブーはなくなるであろう。その場はどこででもありうる。
84
脚注/出典
1) ドイツ連邦教育研究省「ドイツのデュアルシステムによる職業教育」1997 年 4 月、
P7 を参考に作成。
„Berufsausbildung im dualen System in Deutschland“, Bundesministerium für Bildung und
Forschung, April 1997, Seite 7
2)
ドイツ連邦外務省「ドイツの実情」日本語版、2003 年、p313-314
„Tatsachen über Deutschland“, Auswärtiges Amt, 2003, Seite 313-314
3)
ギムナジウムでの教育は特定の職業に直結するものではないが、将来の職業に通じ
る教育であり、職業教育であるとみなされる。
4)
ドイツ連邦教育研究省「ドイツのデュアルシステムによる職業教育」1997 年 4 月、
p8
„Berufsausbildung im dualen System in Deutschland“, Bundesministerium für Bildung und
Forschung, April 1997, Seite 8
5)
連邦教育研究省「目で見て分かる職業教育」2003 年、p5 をもとに作成
„Berufsausbildung sichtbar gemacht“, Bundesministerium für Bildung und Forschung, 2003,
Seite 5
6)
ドイツ連邦教育研究省「ドイツのデュアルシステムによる職業教育」1997 年 4 月、
p8
„Berufsausbildung im dualen System in Deutschland“, Bundesministerium für Bildung und
Forschung, April 1997, Seite 8
7)
8)
「職業名索引−平成 11 年改訂版」、日本労働研究機構、2000 年 3 月
連邦教育研究省「目で見て分かる職業教育」2003 年、p19
„Berufsausbildung sichtbar gemacht“, Bundesministerium für Bildung und Forschung, 2003,
Seite 19
9)
ドイツ連邦雇用庁、ホームページ内、「職業ネット」
„Berufenet“ auf der Internet-Homepge der Bundesangetur Arbeit
http://berufenet.arbeitsamt.de/
10) 2005 年 2 月 24 日、BMZ、Kühn 氏からの聞き取りによる
11) ドイツ連邦経済開発協力省、「職業教育セクターコンセプト」1992 年 3 月
„Sektorkonzept, Berufliche Bildung “, BMZ, März 1992
12) ドイツ連邦経済開発協力省、「特報 96 号」1999 年
„BMZ Speziail 96 “, BMZ, 1999
13) ドイツ連邦経済開発協力省、「開発協力における職業教育―ポジショニングペーパ
ー草案」2004 年 9 月 14 日
„Berufsbildung in der Entwicklungszusammenarbeit “, BMZ, Entwurf vom 14.09.2004
14) 2005 年 2 月 18 日、GTZ での聞き取りによる
15) ドイツ技術開発会社、「職業教育分野におけるドイツの開発協力のアプローチ―ポ
ジショニングペーパー」
„Positionspapier: Ansätze deutscher Entwicklungszusammenarbeit im Bereich der
beruflichen Bildung“,GTZ
85
参考資料
1)
労働省委託事業「諸外国における産業構造の転換に対応した人材育成の調査研究―
ドイツのデュアルシステムとマイスター制度について」1995 年、(社)日本カー
ル・デュイスベルク協会
2)
ドイツ連邦教育研究省「職業教育報告書 2003 年」2003 年 5 月
„Berufsbildungsbericht 2003“, Bundesministerium für Bildung und Forschung, Mai 2003
3)
「今後の南北協力における職業教育」、マンフレート・ヴァレンボルン
„Die berufliche Bildung in der zukünftigen Nord-Süd-Kooperation“, Manfred Wallenborn
4)
「世界社会における教育」、マンフレート・ヴァレンボルン、雑誌「E+Z」2001 年
5 月号への寄稿、フランクフルト
„Bildung
in
der
Weltgesellschaft
–
Zur
strategischen
Reformulierung
von
Fortbildungsprogrammen für Entwicklungsländer“, in: Zeitschrift „Entwicklung und
Zusammenarbeit“, 42. Jg. 2001:5, Mai, Frankfurt 2001, Manfred Wallenborn
5)
「ニーズに応じた教育」、マンフレート・ヴァレンボルン、雑誌「E+Z」2004 年 5
月号への寄稿、ボン
„Bildung nach Bedarf“, in: Zeitschrift „Entwicklung und Zusammenarbeit“, Mai 2004, Bonn,
Manfred Wallenborn
6)
「『職業教育セクターコンセプト』から 10 年‐継続教育から国際人材開発へ」、マ
ンフレート・ヴァレンボルン、2002 年 4 月、マンハイム
„Zehn Jahre ‚Sektorkonzept Berufliche Bildung‘‚ – von der Fortbildung zur internationalen
Personalentwicklung“, in „Internationale Personalentwicklung in der beruflichen Bildung“,
April 2002, Mannheim, Manfred Wallenborn
86