品質管理技術 第 1 話 「みえる化」は改善の原点です! 担当 津守正己

品質管理技術
第1話
「みえる化」は改善の原点です!
担当
津守正己
2014 年 10 月 22 日
品質管理(TQM)技術を担当しております開発技術部の津守正己と申します。
仕事柄、ものづくりの現場へ出かける機会が多く、家内工業に近い零細企業から中小企業・メーカーと企
業規模も様々で、扱っている製品も、電気・自動車関係等々、これもまた種々多様!
つくり方も種々多様で、どれが良くて、どれが悪いかではなく、こんなやり方もあるのかと感心する場面
もあって、これも楽しい。
例えば、小さな部品にプロジェクションナット 1 つ溶接する作業 1 つとっても、ナットフィーダーも使わ
ず全て手作業で行う現場もあれば、全自動での無人工程もある。
これも受注部品が少量多種か、多量少種か、また、経営者や現場の考え方等々もあって、どこも現状では
最善のやり方で操業していると理解しているが、1 つ気になるのは、現場の 2S(整理・整頓)。設備は古くと
も、現場が整理・整頓され、油漏れも水漏れも無い現場で働いている人達は楽しそうでイキイキしている様
に見える。逆に設備・道具は新しくても 2S が雑で設備も汚れていれば、ここの品質は大丈夫かと心配して
しまう。
そろそろ「みえる化」の話に入りましょう。私は時々、現場で「何か問題はありませんか?」と何となく
聞いてみるが、「特に問題はありません」と答える会社が多くある。この様な会社に共通するのは、どこを
見ても、仕事の遅れ/進み・品質の実績等、何も掲示物が無い。外部からの訪問者どころか、そこで働いてい
る人にも現状が何も見えていないのではないか…と心配になる。何も見えなければ問題の無いのは当然で、
改善活動の必要性も生じない。
昔ある会社で 5 工程のミニラインを見たが、ライン上に本日のシグマ CT 目標○○○秒(昨日より○秒改
善)と、手書きで掲示されていた。これはレベルが高すぎる。
2 時間毎の生産個数の目標と実績、それに品質は、不良率よりも、最低限、同じく 2 時間毎の不良個数を
「みえる化」しておけば、それだけで改善は進む。1ヶ月毎のグラフを掲示していても過去には戻れない。2
時間毎ならその日の内に改善は可能である。
要するに「みえる化」が改善の原点であり、「みえる化」無くして改善は無い!
最後に、今年 10 年ぶりにマイカーを乗り換えたが、瞬間燃費・平均燃費・アクセル開度等々、これでも
か!と「みえる化」されており急発進・急加速は自然と減少!
これこそ「みえる化」による燃費改善のわかりやすい事例。
今度は、機会を見て、工程内不良「0」の話をしましょう。
№Q001
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品質管理技術
第2話
「TQM」って何? 担当
津守正己
2014 年 11 月 17 日
私の名刺には、QMC 担当(Quality Management Coaching)と肩書きがある為に、QM と QC はどう
違うの? 又、前回のコラム(「みえる化」は改善の原点です!)にも TQM 担当とあった為に TQC との違
いは? との問い合わせも頂きました。そこで、今回は私流に TQM(Total Quality Management = 総合的
品質管理)と TQC(Total Quality Control = 全社的品質管理)との違いついて触れてみました。
TQM (総合的品質管理)は、製品の品質・サービスの品質のみならず、経営の質・業務の質等、会社経営の
質を追求する品質管理の方法で、もちろん人材育成も含まれます。
いっぽう TQC (全社的品質管理)は一般的には現場の改善を 4~5 名の小集団で QC 手法を用い活動する場
合が多い。この QC サークル活動を全社規模で展開するのを TQC と理解しています。
ですから、TQM の評価項目の 1 つに「TQC 活動は行われているか?」も含まれています。大手企業では
10 年ほど前まで、「全○○○TQC 大会」との名称で講演会や改善事例発表会が行われていましたが、現在
「全○○○TQM 大会」と名称変更している企業が多い。事実私は、QC が苦手です。発生した問題を QC 手
法で解決するよりも、問題を発生させない為にはどうすれば・・・の方に興味があって、それを実践して来たか
らでしょうか。
TQM 活動の企業評価項目で、最初に聞かれるのは、「トップのリーダーシップ」です。これは、トップの
果たすべき役割が定められ、方針があって下部への展開がされているか? から始まり、人材育成では教育体
制の整備と計画的実施が問われています。
ですから TQM 活動が展開されている企業では工場に入っても社長(会社)方針からそれを展開した工場長方
針 → 部長方針・・・ と各種計画書が「みえる化」されております。
TQC 活動の盛んな企業では製造現場はもちろん事務系も含め全社員が何らかの QC サークルに参加し、業
務改善に加えリーダーの育成を含めて活発に活動しています。
仕事柄、日本いや世界を代表する企業の TQM 大会で改善事例発表会を聞く機会が多くありましたが、さす
がに内容・発表は高レベルでいつも感動していました。
皆様方もまずはしっかり反省し、今度(来年)はこの方針でここまで向上させよう・・・と計画書を構築させる
ことから始めましょう。計画ないところに反省なく、反省なくして成長は無いのですから。
№Q002
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品質管理技術
第3話
工程内不良「0」への挑戦
担当
津守正己
2014 年 12 月 17 日
第 1 話「みえる化」は改善の原点です! の中で製造品質について少しふれましたが、品質を甘くみて消え
て行く企業も少なくありません。
■ 不良品を流出させると信用も流出します
自動車部品を例にしますが、自動車メーカーで発見される部品不良を部品製造側は「流出不良」と呼びま
す。これを発生させると在庫品の選別を行う必要が発生します。また、現地へ呼び出され、叱られ謝り、再
発防止資料の作成、挙げ句の果てには調達部署から評価点まで下げられる厳しいものです。
■流出防止で不良はとまりません
この流出不良を「0」にしようと人を投入し全数目視での出荷検査を行っても所詮人がからめばミスもあ
り流出不良は、それほど簡単に止まるものではありません。
■工程内での手直しは不良を隠します
流出不良を「0」にする近道は「急がば回れ」です。部品を製造する工程内に検査工程を設け良品のみを
次工程へ送ります。それも工程間に中間在庫をもたないように 1 個づくりを行えば、たとえ不良が出ても1
個ですみます。
板金工程であれば多くとも 4~5 工程と思われます。工程毎の不良をみえる化すれば、不良の出ない工程
と多く発生する工程が見えてきます。この不良が多く発生する工程を「ネック工程」と呼び「ネック工程」
のカンバンを掲げれば改善も進みます。
不良品を工程内で手直ししてしまえば不良がみえなくなります。「臭いものに蓋」の発想です。
■標準作業と手直し作業の明確化
工程内での検査工数は標準作業としてST(標準時間)に入れますが、手直し工数は品質損失コストとし
てカウントします。
標準作業と手直し作業が曖昧では、改善が全く進みません。
効率上どうしても工程内での手直しが必要なら「手直し工程」とカンバンを掲げ、ここで見つけた不良は
不良部位・不良名・個数をイラスト等でみえる化します。
■工程内不良が目にみえて減少すれば
この様にして工程内不良「0」を達成すれば、最終工程へ不良品は流れて来ませんから当然検査も必要あ
りません。
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こうなれば管理・監督者の皆様も、やっと夜おいしいお酒が飲めます。
トヨタ自動車ではこれを「完結工程」と呼びます。不良「0」でないと「カンバン方式」は成立しません。
№Q003
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品質管理技術
第4話
ナット溶接不良の撲滅
担当
津守正己
2015 年 1 月 6 日
明けましておめでとうございます。
旧年中は格別のご厚情を賜り、誠にありがとうございました。本年も変わらぬお引き立ての程よろしくお願い
申し上げます。
■ ナット溶接不良はメーカーにとっては重要品質問題です
自動車の組立ラインでは、多くの人達がインパクトレンチ片手に手際よく部品を結合していますが、その先に
は必ずナットがあります。それに比べ部品のモジュール化やクリップ化が進みボルトは減りましたが、やはり主
役はボルト×ナットでの結合です。そのナットの殆どは、2次・3次の協力仕入先で溶接されるケースがほとん
どです。
ナット溶接不良が重要問題となるのは、発見されるのが組立ラインであり既にボディーはキレイに塗装され
ている為にナット 1 個の手直しでも容易ではないからです。
ナット欠品なら必ず発見されますが、サイズ違い等は市場へ流出する可能性もあります。特に袋内のナット
では手直し出来ず車両廃却となり、シートベルト(ユニファイネジ)ならリコールにもつながり、ナット溶接不良に
悩む会社が多いのです。
■ ナット溶接不良を発生させない方策とは?
この様なナット溶接不良を撲滅させるにはどうすればよいのか? 特効薬は有りませんが、まずは職場の4
S(整理・整頓・清掃・清潔)です。2S(整理・整頓)すら不充分な職場に不良が多いのは確かです。床にナット
が散乱している職場では必ず不良が出ます。毎日終業時に床のナットを集めビニール袋に入れ日付を記入し
て吊り下げておくだけでナットに対する意識も変わります。ナットにも原価があり、工数のロスも発生しているの
です。
ポカヨケ(当社ではナットテスター)を設置しても、その使い方が雑だと宝の持ち腐れです。ポカヨケがNGを
出した時、リセットを行えばすぐに作業は再開できますが、チョコチョコとNGを出す場合は工程の完成度が低い
のです。すぐに改善が必要です。そうしなければオペレータは、ポカヨケをOFFにしてしまいます。ポカヨケは、
工程改善の為にあるのです。
また、ナットフィーダーにナットを入れ間違うことも多くあります。拾い込み防止も含め必ず蓋を開け正規のボ
ルトを固定し、投入時は必ずボルトを通し確認する様にしましょう。
更に、袋を開封すれば全て投入し袋に残さないようにします。その為には袋の適正化も必要です。
ナットの一時置き場では類似ナットを隣接して置くのは危険です。
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■ 最後に最重要なのは
ナット溶接不良を発生させない人は通電時に目線をナットから離しません。目線を外している人は必ず不良
を作ってしまいます。溶接の基本知識を教育すると共に、何があってもナットから目を離さない集中力を鍛えま
しょう。
№Q004
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品質管理技術
第5話
良品しか出来ない工程づくり!
担当
津守正己
2015 年 2 月 16 日
■ 品質は経営成り
ものづくりに携わっている人は誰でも不良品をつくろうとは思っていない、全てが良品と信じ仕事をしている。
しかし、現実には 100%良品でなく 1 日に数個・数%の不良が出来てしまい生産効率を阻害する。また、それだ
けでなく手直し工数の増加・廃却品の増加等々で品質損失コストをUPさせてしまっている。何とか不良を減ら
そうと日々努力するがモグラ叩きで時間を浪費するも不良「0」にはならない。また、昨今自動車関係ではコスト
改善策として部品の共通化が進み、リコールともなれば数百万台と信じられない数値を目にする。それもあっ
てかメーカーは増々要求する品質を厳しくせざるを得ないのが現実である。
企業として存続して行く上で品質は避けては通れない。昔から私は「品質は経営成り」といい続けてきたのは
間違ってはいなかった。
■ 発想を変えての品質改善
それでは、不良品をつくろうと思っても出来ない工程づくりはどうすれば出来るのか? 発想を変えて考えて
みよう。
目標が不良率の半減・桁ちがい品質 ―― と言ったものであれば、モグラ叩きでもある程度の改善は見込
める。しかし、目標「0」となると改善の発想を根本から改め「良品しか出来ない工程づくり」が必要となる。
■ 守りの品質から攻めの品質へ
不良の現物を解析し手を打つ(モグラ叩き)改善から逆に多く出来ている良品は何故良品になったのか??
良品が生まれた条件を見つけ出し(これが良品条件)この条件を管理すれば必ず良品が出来る筈 ―― この
発想である。
しかし、多くの企業ではこの様な活動を展開するだけの人的余裕もない。そこで特に不良を無くしたい工程を
選び、これをモデル工程(モデルライン)としてカンバンを掲げみんなで活動する「モデルライン活動」を推奨した
い。これは、人材育成にも効果が大きく、モデルラインで実施した事例は自分の工程に持ち帰り横展開する事
も出来る。まさに一石二鳥である。
良品条件を守っているのに不良品が出来た場合は良品条件に抜けがあった為で、すぐ条件に追加すれば
良い。
この積み重ねは企業の財産となって行くが、モグラ叩き方式では財産となるノウハウも人材も育ちにくい。
次回は少し趣向を変えて「へら鮒釣り」を例に、究極のムダについての話をしましょう。
№Q005
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品質管理技術
第6話
究極のムダ?へら鮒釣り
担当
津守正己
2015 年 3 月 16 日
今回は、これ程の「ムダ」は無いという「へら鮒釣り」の話で感性を磨こう!
① へら鮒と一般のふな(真鮒)との違い
昔から「釣りは、鮒に始まり鮒に終わる」と言われますが、子供の頃、古里の小川や池で小鮒を釣った想い
出をお持ちの方も少なくないと思います。
この鮒は一般的な真鮒でミミズ等をエサに簡単に釣る事が出来ます。一方「へら鮒」と言われる鮒は、食糧
難の時代に琵琶湖に生息する鮒を大阪の河内で食料用に品種改良された鮒で、体高があり色白で鱗の並び
も非常にキレイで真鮒より姿形が立派です。この様に外観的に一般の鮒と見分ける事は容易です。が、見かけ
以上に大きく異なるのは、内臓と主食です。一般の鮒には胃袋があってミミズ・昆虫などの固形物を食べます
が、へら鮒には胃袋が無く固形物は食べず水中に発生する藻等を主食にします。ですからへら鮒は、水と太陽
があれば食べ物に困らず非常に進化した生き物と言えます。
② へら鮒釣りの難しさ
この様にへら鮒は流動食をエサとしている為に、これを釣ろうと思えば基本的に水に溶けるエサが必要です。
一般的にはマッシュポテトを水で練った団子を使いますが、練る時の水加減は気温・湿度等で変化し、練りすぎ
ると溶けず練り不足ではハリにつけられません。エサ練り 3 年とも言われます。また、溶けるエサを口に入れ溶
けた部分を吸い込むと瞬間に吐き出してしまいます。
一般の鮒や鯉は固形のエサを食べて走りますから竿先に鈴でも付けて居眠りしていても釣れますが、へら
鮒はエサ(ハリ付き)を吸い込んだ瞬間にあわせ(竿を上げる)ないと吐き出した後ではハリに掛かりません。ま
た、非常に用心深く糸が太くてもダメ! 仕掛けもウキも繊細なものが必要です。
それに、へら鮒は池とか川の水深 1.8m 前後を群れで回遊しています。練りエサは、そのタナ(深さ)までに溶
けてしまってもダメ! そうかといって目標のタナで溶けなければ全く興味を示しません。「へら釣りはノンビリし
て良いですね」と言われる方もおられますが、1 分程でエサは溶け落ちますから、すぐに新しいエサをハリに付
け同じポイントへ投げ込む事が必要です。1 時間に 60 回、1 日数百回と繰り返す為、非常に忙しい釣りなので
す。また、エサは時間とともに粘りが増しいつも調整しなくてはなりません。現在は、種々の麩系のエサが市販
されておりますが、やはり釣果はその池のへら鮒に合ったエサづくりで決まります。
③ へら釣りに師がつくのは?
釣りの中でも鮎釣りとへら釣りは、釣師と呼ばれます。時にへら鮒は鮎と違って傷が付かない様に釣り上げ
すぐに放してやります。釣り上げた魚は食べません。ただ釣るのが目的で高価な竿・ウキ等を使うムダな釣りで
す。
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へら釣りに凝る人は一般的なサラリーマンよりも職人さんが多いようです。職人さんは手先が器用で拘りま
す。ですから道具を見ても非常に凝った人が多いです。昔、京都の釣り堀で直径 8mm 程度のウキの胴体にも
水草にたわむれるへら鮒の絵を画いていた人がおりましたが職業は友禅の絵師と言っていました。
使用する竿もへら竿は凝っています。資金の潤沢な方は竹竿を使いますが、これは和歌山県橋本市に有名
な竿師が多く、その大半を注文生産しており 1 本 100 万円程度するらしい。橋本市に有名な竿師が多いのは、
高野山に近く、竿の材料に欠かせない高野竹が採れるためです。高野竹は、風雪に耐えてコシが強いのが特
長だそうです。
一般の人が手にするカーボン素材の竿でも高級なものはカーボン 99%、仕上げは本漆仕上げで天然竹の
節模様まで表現されています。近年材料の竹が手に入りにくく竿師もカーボンを素材とした手づくりを行ってい
るらしい。これでも尺 5,000 円程度、10 尺で(約 3m)で 5 万円です。(へら竿は今でも長さの単位は尺(約 30cm)
で 7 尺~30 尺程度まで尺刻みです。)
ウキにも凝ります。これもウキ師と呼ばれる職人さんがクジャクの羽で手づくりし、1 本数万円します。ちなみ
に私もつくったウキは数百本、素材はカヤ材で表面仕上げはカシューと呼ばれる人工漆で金粉をふりかけてご
まかしていますが 30 年程前につくったウキもそのままの姿で人工漆もすごいものです。
他にもへら釣りの道具には竿受け、玉網等々色々ありますが、どれも漆塗りが基本です。
ウキを入れるケースはウキ 1 本 1 本が曲がらない様に独立させた桐箱が使われます。
この様に釣った魚はすぐ放すのに竿 1 本、ウキ 1 本に拘り、おしみなく道具に金をつぎ込む道楽 ―― これ
がへら鮒釣りなのです。
よって人は、漁師ではなく釣師と呼ぶのです。
今回あえて業務から離れ「へら鮒釣り」の話をさせて頂くことで、ものづくりの現場で日々ムダを省く活動に多
忙な皆様に「何がムダで、何がムダでないか」を改めて御一考頂く一助になればと思います。
明確な目的に基づく動きはムダではなく、同じ動きでも目的が無ければムダとなる。
次回は「工程のFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モードとその影響の解析)」の話をしましょう。
№Q006
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品質管理技術
第7話
工程のFMEA
担当
津守正己
2015 年 4 月 13 日
■ 「工程のFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モードとその影響の解析)」 との出会い
もう随分と昔の話ですが、私が生産技術部門に籍を置いていた頃、会社が東大の先生を招いて「工程のFM
EA」 入門という聞き慣れない勉強会が計画され数人の生徒が選抜されました。その中に生産技術代表として
私の名前がありました。他は設計など技術部門の方でした。
私は過去に品質保証部門の経験もあって「FTA」「FMEA」という言葉だけは知っていて車両等の故障解析
に使うツールと認識していましたので「工程のFMEA」に少なからず興味があり又、東大の先生と話が出来るな
んて夢のようで若さもあってかやる気満々で参加しました。
■ 「工程のFMEA」を必要とした背景
生産技術は大きくユニット関係と車両関係に分かれます。その中で私は車両生産技術・品質保証を経験し、
車の 5 大不具合 「走る・曲がる・止まる・車両火災・急発進」の基本品質は身につけていたつもりです。
ちなみに車両組立ラインで 1 台に組付けられる部品は約千点。それを「第 1 工程ではこの部品を、第 2 工程
ではこの作業を・・・」と工程計画し、ほぼ全作業を人の手で最終完成車両に仕上げるのです。
当時私の主業務はモデルチェンジの度に追加される新機構・新機能および増々厳しくなる要求品質を量産
までに確立する事、図面・試作段階から検討に入り、改善提案する件数は 1 車種で数千件に及ぶこともありま
した。
そこでテーマを「次期開発車で採用予定の新材料・新工法」に決めて勉強会に参加しました。
■ 展開のプロセスとその後の進化
「工程のFMEA」では先程の新型車生産準備(図面検討)段階で工程・設備計画し、組立作業を要素作業単
位に分解し、その作業毎に予想される不具合(不良モード)を徹底して摘出します。
ここで一番大事な仕事は過去トラ(過去に類似した構造・設備で経験した失敗例)を全て網羅する事です。で
すから、かなりの経験が無ければ図面を見て発生するであろう不良モードの摘出は困難です。
不良モードが出揃うと後は、モード毎に発生頻度・発見の難易度・ダメージから重要度をつけて重要度の大
きい順に設計変更・設備計画変更等で事前に対策の手を打ちます。どうしても対策出来ず人の手に頼らざるを
得ない場合もありますが、その場合には作業環境改善や作業訓練で対応します。
勉強会を終えて先生方・社長の前で発表会がありました。私は先生に「工程のFMEA」を理解し使いこなせ
たと評価されましたが、他の方はQC手法による不具合対策と大差無しとの厳しい評価も・・・。
ここで学んだ「工程のFMEA」をベースにし、その後車両組立工程のみならず鋳造・鍛造工程にまで「工程の
保証度評価法」というかたちに進化させ展開し、若者も育ちました。
皆様方も問題が発生してから行動するのでは無く、事前に予知して行動するクセを養いましょう。
№ Q007
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品質管理技術
第8話
溶接品質保証の難しさ!
担当
津守正己
2015 年 5 月 18 日
■ 溶接品質ほど厄介なものは無い
ボルト×ナットの結合で保証しなければならないのは締付トルクですが、インパクトレンチで締付後、トルクレ
ンチで増し締めを行うことによりトルクの保証は可能です。特に重要な部位なら設備投資を伴いますが、焼付
防止機能付きで締付トルク値をデータとして保存できる優れた装置もあります。
それに比べ特に抵抗溶接(スポット溶接)ではナゲット径 6mm 以上といわれても目視で外観を確認してもナ
ゲットが形成されているかどうかすら見えません。
現状ではナゲット径の確認方法はタガネによる破壊検査に頼っており全数検査は出来ません。しかし、スポ
ット外れは絶対にあってはならない重要品質の為、多くの人が頭を悩ませております。
■ 過去に経験した溶接不良と改善事例
① 電極研磨不良による溶接外れ
電極研磨をオペレータ任せにしていた現場で充分な研磨技能の無い新人に任せた結果、大量のスポット
外れを流出させました。その後、電極研磨は集中管理方式により保全係が行い、オペレータは決められた打
点数で研磨済み電極に交換する方式としました。
しかし、近年防錆鋼板の使用拡大と共に再び増加傾向にあり、何打点で研磨が必要なのか再度検証が
必要です。
② 電極の冷却不足による不良
冷却水は流れているといっても安心できません。ホース内部の水垢等で、流量が不足する場合もあり流量
計を設置した例もあります。
③ 加圧不足による不良
エアー圧は正常でもシリンダーのパッキン老化等で圧が上がらない事もあります。始業前点検項目に加
圧力測定項目を入れれば安心できます。
④ 溶接条件の誤り
特に混流工程では基本となる溶接条件を間違える事もあります。常時目の前に作業標準書/作業要領
書を備え、小物部品なら良品サンプルを目の前に置くのも効果があります。
■ 安心して生産を行うには
重要なのは初物(その日の始業直後に生産された製品)・終物(その日の終業直前に生産された製品)の管
理体制を確立する事です。
これらのチェックは、オペレータに任せるのではなく品質担当が破壊検査も含めて実施し、不良発見時は生
産停止・出荷停止等の処置が行える体制整備が必要です。
折角不良を見つけてもオペレータ任せで溯りチェックを怠った為に不良品を流出させてしまった例もありま
す。
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この初物・終物の管理が不充分だと、万が一不良を流出させてしまった時、対象範囲が絞り切れずリコール
ともなれば対象台数が広がり経営に影響します。
他にも部品精度・治具の保全等々溶接に関する良品条件はいくつもあります。
全社的な体制を整え
発生防止×流出防止
(※1) で
不良「0」にチャレンジしましょう。
(※1)
発生防止 ・・・ 不良をつくらない
流出防止 ・・・ 不良を流出させない
№ Q008
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品質管理技術
第9話
製造原価の「みえる化」について
担当
津守正己
2015 年 6 月 15 日
Ⅰ はじめに
コラム第 1 話で「みえる化は改善の原点です!」の話しをさせて頂きましたが、今回は、製造現場で発生する
製造原価とそのみえる化について一緒に考えてみましょう。
Ⅱ 製造原価とは
製造原価と一口にいっても種々あるが、今回はアーク溶接工程を例に現場で管理すべき原価とそのみえる
化方法に絞って考えてみたい。
まず、管理すべき原価の 1 つ目はアーク溶接設備本体
① 電力使用量
② シールドガス使用量
③ ワイヤー使用量
④ コンタクトチップ使用量(消耗品)
⑤ ノズル使用量(消耗品)
2 つ目に治具関係
① 電力使用量
② エアー使用量
③ その他 消耗品(ピン・シリンダーetc)
3 つ目にオペレータの仕事
① ワークセット工数
② 設備起動工数
③ ワーク搬出工数
④ 完成品箱詰め工数
⑤ その他付帯作業(頻度と工数)
注意 :
実作業 ・・・ アーク溶接では、火花が飛んでいる時間。
(組立作業では、インパクトレンチが回転している時間。)
付随作業 ・・・ ワークセット、搬出
付帯作業 ・・・ コンタクトチップ交換、ノズル清掃等
仕事している時間(正味作業時間) = 実作業時間 + 付随作業時間 + 付帯作業
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一般的にオペレータの作業と治具関係については工程単位で管理されているが、電力・ガス等については
工程単位で管理されている現場は少なく、多くは工場単位でドンブリ勘定の現場が多いと思われる。その場合、
改善してもその効果を算出するのが困難である。
Ⅲ 製造原価をみえる化するには
① 電力・シールドガス・エアーの台当り使用量
工場単位の使用量から少なくとも課単位工程単位へ、出来れば溶接機 1 台単位に積算計を設置し、ワーク 1
台当たりの使用量を把握する。
ここでシールドガスについて少し詳しくみてみると一般的にエコノダイヤル等で溶接の初めに出るガス量の制
御と、1 分間に流れるガス量がアナログでみえる化されているが台当りに使用されるガス量の積算計はない。
例えば、当社のレギュラーシステムではシールドガス量を最適化すると同時に台当りの使用ガス量(積算計)
も見る事が可能である。このレギュラーシステムは、ガス使用量の低減はもとより、CO2 削減による環境改善を
図ることができる。その点を考慮し導入を決定する会社も増加傾向にある。また、ガス量の適正化による、スパ
ッタ量の低減効果も注目されている。
② 各種消耗品
コンタクトチップの交換頻度と工数及びノズル清掃頻度と交換工数
台当りワイヤー使用量については、簡単に取り付け可能な測定器で原単位(1 ワーク当りの使用ワイヤー量
m)を整備し、設計図面値のビート長と実際のワイヤー使用長の差異について検証しておく事を提案したい。
③ 何といっても製造原価に大きく影響するのは品質
第 3 話で工程内不良「0」への挑戦で話したが不良品をつくってから手直ししたり、廃却したりの品質損失コス
トは会社の信用にも影響し、手直しは当たり前となってしまっては従業員全体の士気も上がらない。
不良率のグラフでなく日当たり・時間当たりの不良個数をみえる化し、「損失コストを全員で改善する」・・・ と
の意識付けが大切である。
Ⅳ 最後に
製造原価のみえる化には初期設備投資が必要なものもあるが、みえる化による従業員全員の改善活動に
よってすぐに回収出来る範囲であり、何といっても改善活動によって育つ人財は本当の財産となる。
№ Q009
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品質管理技術
第 10 話 工程の保証度評価
担当
津守正己
2015 年 7 月 13 日
前回までの話しの中で「工程の保証度」という言葉を何度か使ったが、今回はこの「工程の保証度」について
少し詳しく考えてみよう。
ものづくりのプロと呼ばれる人が工程を見た瞬間に「これはダメだ! 工程の保証度が低すぎる!! 不良が
出るのは当然だ・・・」と、ご指摘されるのを見て・・・ この人は何をもって保証度の高低を評価し判断しているの
か? と興味を持った。
Ⅰ 工程に人が介入すれば保証度は低いのか?
一般的に人の手作業よりも全自動化された工程の方が保証度は高いと思われるが、大した道具も使わず殆
ど昔のままの姿でものをつくっている人間国宝と呼ばれるような名工の手作業をみて保証度が低いとは見ない
だろう・・・ それは何故か?
以前、テレビで見たが刀鍛冶が焼戻し温度 800℃±2℃を温度計も使わず鋼の赤い色で判断、サーモグラフ
ィで確認すると何とその差は僅か 1℃!
これは永年の修行でごく一部の人のみが身に付けた技であって、1/1000 ㎜を旧型の旋盤で削り出す人も同
様に手作業だからといって保証度は低いとは限らないのではないか。しかし、現在の企業では数千人の社員
の中に名工と呼ばれる人は 1~2 名おれば良い方。また、数年かけて技を磨いてからものづくり現場へ投入す
る程日本の企業に余裕は無い。
Ⅱ 即戦略(新人)の時代での保証度確保
設備(道具) × 環境 × 人 で保証度は成立する
<設備>

工程能力が検証されている

定期的にPM(preventive maintenance:メンテナンス、予防保守)されている

異常があれば停止する
<環境>

職場の4S(整理・整頓・清掃・清潔)、最低でも2S(整理・整頓)

適正な明るさ(全自動なら不要)

適正な室温、雑音(集中力の維持)
<人>

作業訓練されている(最低1万回)

製品について教育されている(機能・品質)

異常処置の決め事と定期的な訓練実施
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上記は、一般的な考え方で実際には製造する製品・要素作業・生産量などによって保証度の評価項目と判
断基準は違ってくる為、工程別に保証度評価基準を構築する必要がある。この評価項目とその基準を考える
事によって逆に、こうすれば保証度が 1 ランクアップするという改善策が見えてくる。これによって人の能力も向
上していく。
要素作業別保証度評価の例 A:ナット溶接
① ワークセット作業
手作業よりもパーツフィーダー使用の方が保証度レベルは高い(位置決め、裏表識別検知があればよ
り高い)
② ナット供給(セット)
手作業よりナットフィーダー使用の方がレベルは高い(ナット溶接穴以外をカバーしていればより高い)
③ 溶接
当社のナットテスターを使用していれば最高レベル(裏打ち、ナットサイズ違い、芯ズレ等を検知し異常
があれば通電しない)
④ 収納
バラでポリケースに投げ込むより専用の収納箱に方向を決め入れた方がレベルは高い(数、キズ防止、
誤品等々)
要素作業別保証度評価の例 B:アーク溶接(ロボット使用)
① ビードズレ
原点確認をサイクル毎に行っていれば保証度は高い(発生防止で満点)
出来た製品をオペレータが目視でビードズレを確認していてもレベルは低い(人はミスをする)。目視で
なくイメージセンサー等で確認し、NGならライン停止をする場合は保証度が高い(流出防止で満点)。
これらの保証度のレベルは、レベル 5(最高)~レベル 1(最低)の 5 段階評価が望ましい。
以上の様に要素作業もしくは不良モード別にどうすれば保証度がアップするのか現地・現場で改善する事に
より全自動設備でなくとも保証度は確保できる。
人に関しても計画的教育と定期的な作業観察を実施し、決め事をしっかりと守る習慣を維持しておくことが重
要です。(ベテランほど良かれと思って標準作業を飛ばす確率が高い)
Ⅲ 最後に
不良発生するパターンは専任者が急に休み、班長などが工程に入った時が殆ど、日頃から数人のチームで
工程間をローテーションし1人で数工程をこなせる訓練をしておく事も大切。
№ Q010
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品質管理技術
第 11 話 『人づくり(人財育成)』
担当
津守正己
2015 年 8 月 17 日
Ⅰ 時代を問わず組織を支えるのは 『人』 である
「人は石垣、人は城・・・」 で有名な武田信玄は 23 人の部下に本人を加えた武田二十四将、戦って負けたこ
とは生涯一度も無いといわれるほどである。軍師黒田官兵衛も又、黒田二十四将と呼ばれた優秀な部下で戦
乱の世を勝ち残って行った。昔から立派なリーダーは、優秀な部下を育て歴史に名を残している。
これは現在の企業も同じで世界相手に勝ち残る為には人の育成が第一! 優秀な社長でも一人では戦えな
い。昔から「企業は人なり」といわれ、「人事を尽くして人財を待つ!」という社長も多い。
Ⅱ 人づくりには人間性の尊重された職場が必要
人間性の尊重された職場とは、キレイな環境で楽な仕事をいうのではない。
昔、「鋳物・金型・ハエ取り紙」といって鋳造会社の社長を怒らせたが・・・
鋳造工程も金型製作もキツイ仕事であるが、一度その仕事に入り込めばハエ取り紙にくっつい
たハエの様に離れられない程に奥が深く魅力のある職種という事ですと説明し、事無きを得た事
があります。
それでは、人間性の尊重された職場とは? 新人受入教育から役員教育まで計画的な教育制度があって資
格なり昇進によって、より責任ある仕事を任される職場である。教育も訓練もせず結果だけを求める企業は、
昨今取沙汰されるブラック企業に等しいものがあるのではないだろうか?
ノルマだけでは人は育たず企業の発展もない。
Ⅲ 人づくり(人財育成)に大切なものは
一般的な企業では入社後、本社の人事部門での研修があり、その後配属部門での研修(教育)、それらが
終了するとやっと正式な配属がされ先輩の下で実務を行うケースが多いと思われる。
新人にとってどんな先輩(上司)の下で働くか宝くじみたいなもの!
目的を教えず「あれしろ、これしろ」と指示する先輩の下では知らず知らずのうちに指示待ち人間となってしま
う。目的を明確に説明し手段については考えさせてくれる先輩の下では人は育つ。また、些細な失敗を取り上
げ小言を並べる先輩の下では挑戦する人は育たない。
最初から大きい仕事は任されない。少々失敗しても会社に大きな損害を与えない。若い時の失敗は大きな
経験となり、うまく使えば会社にとっても財産となる事が多い。(失敗すると表彰してもらえる企業もある)
昔、自動車の部品をプレスし溶接している現場で、これは自動車のどこに付く部品でその機能は? との質
問に答えられない会社が多かった。そこで、廃却車両を準備し、この部品は、ここにアッセンブリされてシートベ
ルトが取付けられる重要な部品であると教えてあげると、若者は「俺は毎日、こんな重要な部品を任されている
のだ」と自覚し、その後の不良が「0」になった例もある。この時は、教育の大切さを再認識した。設備も同じで
自分の使っている設備の構造まで教えないと品質不良も事故も止まらない。
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Ⅳ リーダーを育てる
全職場にいえる事ですがリーダーを育てるのがリーダーの役割、次のリーダーを育てないと、そのリーダー
はいつまでもリーダー、但し誰でもリーダーになれるものではなく、資質を見抜かないと逆に潰れることも多い。
メンバーも含めた改善力・現場力を向上させるのがリーダーの仕事、立派なリーダーの下で人は育つ!
人財とは、自らが改善できる自立型人間で行動化能力に優れた人
(行動化能力とは人を動かす力)
『やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ』
山本 五十六
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