心肺停止症例と全自動体外式除細動器(AED) - J

●特集 「人工臓器と救急・集中治療」
心肺停止症例と全自動体外式除細動器(AED)
千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学
仲村 将高,織田 成人,貞広 智仁,安部 隆三,篠崎 広一郎,平澤 博之
Masataka NAKAMURA, Shigeto ODA, Tomohito SADAHIRO, Ryuzo ABE,
Koichiro SHINOZAKI, Hiroyuki HIRASAWA
事者の一般市民でも即座に除細動が実施できるようになっ
1. はじめに
た(public access defibrillation: PAD)5)。
心肺停止(cardiopulmonary arrest: CPA)とは,その言葉
本稿では,この AED について,CPA 症例における有用
が意味するように,肺のガス交換機能と心臓のポンプ機能
性,AED に備わっている内蔵機能,さらに改良点を含めた
が停止した状態である。救急領域では最も緊急性を要し,
将来的な展望などにつき解説する。
かつ重篤な病態である。心肺停止は心電図波形上,心静止
(asystole),無脈性電気的活動(pulseless electrical activity:
2. CPA 症例における AED の有用性
PEA)
,心室細動 / 無脈性心室頻拍(ventricular fibrillation/
病院の中では CPA が発生した場合,医療従事者は心電図
pulseless ventricular tachycardia: VF/pulseless VT)の 3 つ
を自身で判読し,通常の除細動機能のみが備わったマニュ
に分類される(図 1)。このうち VF/pulseless VT に対して
アルタイプの体外式除細動器を用いた電気的除細動を従来
は,電気的除細動を行うことにより正常の心拍リズムに回
より実施していた。しかしながら,突然の CPA は病院の外
復することが期待できる 1)
。
この電気的除細動は 1956 年に Zoll ら 2) が 60
でも高頻度に発生しており,米国では 1 年間に約 25 万人が
Hz の交流通
電を用いて経胸壁的に心室細動の除細動に成功したのが最
初である。その後,Lown ら 3) が直流通電を用いて除細動
を行うようになり,それが臨床応用されるようになった。
さらに除細動器の性能は進化し,心電図波形を自動解析
(a)
し,VF/pulseless VT であれば除細動実施を指示すると
いった,非医療従事者でも簡単に作動できる全自動体外式
除細動器(automated external defibrillator: AED)が開発さ
れ,病院外で救急隊員を中心にその使用が始まった 4)。図
(b)
2 に本邦で発売されている代表的な AED を呈示する。AED
は重さ数 kg と軽量で持ち運びが容易であり,かつ音声指
示に従ってボタンを押すといった,操作が容易であること
から,非医療従事者でも簡単に使用できる。最近ではこの
AED は病院以外の様々な公共のスペースに設置されるよ
うになり,病院外で発生した心肺停止に対して,非医療従
(c)
図 1 心電図波形からみた心停止の分類
■著者連絡先
千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学
(〒 260-8677 千葉県千葉市中央区亥鼻 1-8-1)
E-mail. [email protected]
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(a)心静止(asystole)
:ポンプ活動も電気的活動も消失した状態
(b)無脈性電気的活動(pulseless electrical activity: PEA):ポンプ活動は消失
したが,電気的活動が残存した状態
(c)心室細動 / 無脈性心室頻拍(ventricular fibirillation/pulseless ventricular
tachycardia: VF/pulseless VT)
:心室が痙攣した状態
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図 2 代表的な AED 機種
(a)
(b)
(c)
(a)PHILIPS 社製 HEARTSTART FR2
(b)Medtronic Physio-control 社製 Lifepack LP500B
(c)NIHON KODEN 社製 CardioLife AED-1200
図 3 救命の連鎖 ̶the chain of survival
発症していると言われている。殆どの CPA 傷病者は心停
止の過程で VF を呈していると言われている。本邦におい
ても総務省消防庁の統計によれば,全国で年間約 10 万人の
院外 CPA が発生しており,欧米ほどその割合は多くない
が,VF も含まれている 6) 。
この院外 CPA の救命率を上げる為には,病院に搬送し
てからの高度医療よりも,CPA 発生現場に居合わせた者
(bystander)が速やかな救命処置を実施することが極めて
重要である。このような背景下で,2000年,American Heart
Associ ation(AHA)とInternational Liaison Committee on
Resuscitation(ILCOR)が中心になってこの救命処置法を標準
図 4 心室細動による心停止後の退院に至る救命の可能性と心
停止から除細動までの時間の関係(文献 8) より)
化し,非医療従事者にも普及できるような活動を開始した 7)。
CPA 症例に対する救命処置には,救命の連鎖(the chain
的除細動の効果は心停止発生から時間が経つにつれて減弱
of sur vival)が一連の処置の流れとして提唱されている(図
する傾向をとり 8),卒倒してから 5 分以内に電気的除細動
3)
。すなわち,bystander はいち早く 119 番通報し(early
を行えば蘇生は最も効果的である。しかしながら,卒倒
access)
,人工呼吸と閉胸式心マッサージを組み合わせた心
してから救急隊が現場到着するまでに 5 分以上かかる為,
肺蘇生法(cardiopulmonary resuscitation: CPR)を行わなけ
救 命 率 を 向 上 さ せ る 為 に は,救 急 隊 の 到 着 を 待 た ず に
ればならない(early CPR)。さらに AED が手元に届けば
bystander による CPR と除細動を実施することが極めて重
AED を装着し,音声の指示下に電気的除細動を早期に施行
要であると言われている。
することも重要である(early defibrillation)
。さらにその後
この為には,医療従事者でない bystander でも,CPR と
の二次救命処置をできるだけ早く行う(early advanced
電気的除細動を実施できる体制が必要である。そこで,先
care)
,といった流れで行うことが重要である 7) 。
述したように AHA/ILCOR が中心となって心肺蘇生と救急
3 種の心電図波形(図 1)を呈する CPA 症例のうち,即座
心血管治療の為のガイドラインが 2000 年に発表され,心
の処置により心拍再開が最も期待できるのは VF/pulsless
肺蘇生法の標準化と一般市民への普及活動が行われるよう
VT である。この VF/pulsless VT には電気的除細動が効果
になった。現在ではその改訂版が 2005 年に発表され 9),そ
的であることは既に述べた。また図 4 に示すように,電気
の内容もさらに充実している。また AED は当初,病院内や
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表 1 米国のカジノにおける PAD の治療成績 11)
調査期間:1997 年 3 月∼ 1999 年 10 月
対象施設:全米 32 施設(Las Vegas, Lake Tahoe, etc.)
除細動実施者:6 時間の講習を受講したカジノ警備員
CPA total 148 症例(うち目撃者のある VF 90 症例)
目撃者ありの VF 症例の検討
CPA 発生から
除細動器装着までの時間
初回除細動までの時間
救急隊到着までの時間
3.5 ± 2.9(分)
4.4 ± 2.9(分)
9.8 ± 4.3(分)
生存退院症例数(率)
53(59%)
な AED 機種である PHILIPS 社製 HEAR TSTAR T FR2 と,
Medtronic Physio-Control 社製 LP500B の心電図波形解析法
について述べる。
(1)HEARTSTART FR2 の心電図解析法
HEARTSTART FR2(図 2a)は SMART 解析システムと称
する解析法を導入している 13) 。SMAR T 解析システムでは
除細動が必要な調律かどうかを判断する為に 4.5 秒分の心
電図ストリップについて 4 つのパラメータを解析している。
4 種類のパラメータとは振幅,心拍数,伝導性(QRS 波形の
形状)
,調律の安定性(波形パターンの反復精度)である。
SMAR T 解析では心電図の振幅が 100 μV を上回ってい
救急隊員の所有物であったが,非医療従事者の一般市民も
なければ心静止とみなし,ショックが不必要と判断される。
使用可能となるように,病院外で人の往来の激しい公共の
心拍数が高くなるほどショックの必要性が高くなるが,調
場にも設置されるようになった(PAD)
。特に欧米では
律が正常な状態に近づくほど,心拍数がより高くなければ
1990 年代頃から,空港,航空機内,ショッピングモール,
ショックが必要とは判断されない。また QRS 波形の幅が
競技場やカジノで AED が設置されており,訓練された職員
狭い調律(上室性頻拍など)では,心拍数にかかわらず
や除細動経験の全くない一般市民によっても除細動がなさ
ショックは行われないように設定されている。
れ,一定の治療成績を得ている 10),11)
。
伝導性は心室への電気的刺激の伝播に関連するパラメー
表 1 に米国のカジノにおける PAD の治療成績 11) を呈示
タである。健常な心臓では左右の心室は同時に収縮する。
する。1997 年 3 月∼ 1999 年 10 月の全米 32 施設のカジノに
この状態は,心電図波形では振幅の変化が急な幅の狭い
おける調査では,CPA 148 症例中 90 症例が目撃者のある
QRS 波形となって現れる。しかし,脈拍のない調律は変化
VF であった。これに対し 6 時間の事前講習を受けた警備
が緩やかな幅の広い QRS 波形となって現れる。従って,
職員が AED による除細動を行った。53 症例が救命され救
SMAR T 解析では幅が広く振幅の変化が緩やかな調律に対
命率は 59%と高い数字を維持し,PAD の有用性が示唆さ
してはショックの必要性が高くなるよう設定されている。
れた結果となった。また興味深いことに,殆どの除細動は
安定性とは心電図波形の反復精度のことで,脈拍のある
救急隊到着前に行われていた。
調律の場合は連続する波形の形状にばらつきがない,すな
本邦ではこの PAD システムの普及が欧米に比較してや
や遅れていたが,現在では一般市民が使用でき,その結果,
救命に至った症例も珍しくなくなってきている。
わち安定した反復精度をもつ傾向があることから,この安
定性も心電図波形解析に用いられている。
(2)Medtronic Physio-control 社製 LP500B の心電図解析法
Medtronic Physio-Control 社製 LP500B(図 2b)の心電図
3. AED に備わっている内蔵機能
解析は shock advisor y system(SAS)と呼んでいる 14) 。
AED を一言で説明すると「心電図解析機能を備えた体外
SAS は 2.7 秒の心電図を 1 セグメントとして,合計 3 セグメ
式除細動器」である。実際には内蔵されている音声の指示
ントの心電図を解析し,その中で多数決によって通電の対
に従って電極パッドを患者の胸部へ貼り付けると,コン
象となるか否かを決定する。当然のことながら最初の 2 セ
ピュータが心電図を解析し,VF/pulseless VT であれば,除
グメントが連続して通電対象,或いは非通電対象であれば
細動実施が指示され,使用者はそれに従ってショックボタ
3 セグメントの解析は行われない。心電図の解析に当たり,
ンを押す,というのが一連の使用方法である。操作は簡便
SAS は①心電図内のフラットな部分が占める割合,②平均
であり,一部に手動操作を含むが,本項では AED の心電図
振幅,③平均周波数,④心拍数,⑤ R 波カウントの 5 つのセ
解析機能と除細動時の通電機能のメカニズムを中心に解説
グメントを評価している。
する。
(3)心電図波形解析における敏感度と特異度
1)AED の心電図解析機能
AED の心電図波形解析における敏感度とは,除細動の対
AED には心電図を解析して,VF や pulseless VT を識別
象となる波形を正しく認識する割合である。一方,特異度
する機能が備わっている。この心電図波形解析は AHA の
とは除細動の対象とならない波形を正しく認識する割合で
定める基準 12) に則って行われているが,ここでは代表的
ある。理想的には敏感度・特異度共に 100%であることが
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人工臓器 37 巻 1 号 2008 年
望ましいが,容易に想像がつくように敏感度を上げようと
関するメタアナリシスを行ったところ,5 文献 17) ∼ 21) の検
すると特異度が低くなる。一般に AED の心電図波形解析
討 結 果 を ま と め た 除 細 動 の 効 果 は,単 相 性 除 細 動 器 が
能力は敏感度よりも特異度の方が高くなるように設定され
78.8%であったのに対し,二相性除細動器が 90.1%と有意
。これは安全性の面から,除細動が行われ
に高い心拍再開率を示した(図 6)
。また除細動直後の心筋
てはいけない心電図波形を認識することを優先しているか
障害を表す心電図波形の ST 変化を比較した 2 文献 22),23) の
らである 12) ∼ 14) 。
検討結果では,2 文献とも単相性波形では除細動直後の心
ている 12) ∼ 14)
2)AED による除細動(電気ショック)のメカニズム
電図上の ST 変化は著明であったが,二相性波形では除細動
直後の ST 変化は殆どみられなかった(図 6)
。すなわち有効
(1)除細動の原理
多くの頻拍(上室性頻拍,心房粗動など)は旋回路が比較
性・安全性共に,単相性波形よりも二相性波形の方が優れ
的安定している単一興奮波のリエントリ(マクロリエント
ており,そのため最近の AED 機種の殆どは二相性波形が主
リ)であるが,心室細動などでは数個以上の興奮波(細動興
流となっている。
奮波)が複雑な回路を形成し,その回路も刻々と変化する
状態(ランダムリエントリ)である 1) 。電気的除細動はこ
4. AED,さらなる進化を求めて
の細動興奮波に影響を与え効果を発揮するが,そのメカニ
以上,CPA 症例における AED の有用性と,AED のメカ
ズムには 2 つの理論,すなわち critical mass 理論(細動興
ニズムについて述べたが,本項では,さらなる機能向上を
奮波の数が除細動により critical level 以下の数に減少す
目指した AED の今後の展望につき述べる。
る)15),心室受攻性の上限理論(電気的除細動により細動
1)心電図波形解析のさらなる発展
興奮波が消失し,かつ受攻期に細動興奮波が誘発されな
VF が AED によって除細動され心拍再開に至るチャンス
い)16) が提唱されている。
(2)除細動に影響する因子
経胸壁に加えたエネルギーのうち 4 ∼ 5%が心臓に加わ
る 1) 。通常の除細動器では 50 ∼ 360 ジュールまで出力可
能である。360 ジュール以上のエネルギーを用いない理由
は,これ以上のエネルギーを加えても除細動の成功率は変
わらず,かえって心筋障害を起こし,新しい他の不整脈を
発生させる可能性が高くなるからである。
(3)単相性波形と二相性波形
従来,電気的除細動は直流通電を用いている単相性波形
であったが,近年二相性の通電波形を有する除細動器が登
場した(図 5)
。筆者が二相性除細動器の有効性と安全性に
図 5 単相性波形と二相性波形の比較
図 6 単相性除細動器と二相性除細動器の有効性・安全性に関する meta analysis
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のはいささか乱暴であると言える。すなわち,遭遇した
VF が「除細動されやすいのか,そうでないのか?」を判断
できる客観的な方法が必要と考えられる。
その一つの手段として,近年,VF 波形を解析する研究が
なされている 24) 。この VF 波形の解析法として①周波数解
析,②振幅の解析,③ゆらぎ解析が行われているが,現時
(a)
点ではどれが最も精度が高いと言えるものではない。しか
し,将来的にはこれらの VF 波形解析法が確立され,臨床応
用されれば,除細動の適否判断の大きな参考となると言え
る。さらに VF 波形解析が AED に内蔵されれば,心電図波
形解析の時点で「この VF は除細動が効果的です。ショッ
クボタンを押し除細動を実施して下さい」とか「この VF は
除細動されにくいものです。適切な CPR を 2 分間実施した
後に再度 AED による心電図波形解析ボタンを押して下さ
(b)
図 7 Fine VF から CPR 実施により coarse VF に変化し除細動が
成功した症例
(a)除細動 1 回目,(b)除細動 2 回目(CPR 2 分間施行後)
い」とアナウンスすることにより,より効果的な除細動が
実施されることが期待できる。
2)除細動時の通電波形パターンの進歩
先述したように,除細動時の通電波形パターンは単相性
は時間経過と共に低くなることは既に述べたが 8),近年,
のものよりも二相性のものの方が有効性,安全性に優れて
VF の心電図波形が時間経過と共に変化することが判明し
いると現時点で言われている 17) ∼ 23) 。しかし,二相性の
ている 24) 。すなわち,心停止発生後まもない時点での VF
通電波形においても機種によって様々なものがあり,どの
波形は比較的きめの粗いものであり(coarse VF),時間経
通電波形が優れているかは不明である。また近年では三相
過と共にきめの細かい VF(fine VF)へ変化する。両者のう
性波形や四相性波形の有効性に関する研究も行われるよう
ち,AED による除細動が効果を発揮しやすいのは coarse
になっている 26) 。さらに最も効率的なエネルギーについ
VF である。
ては一定の成果が得られておらず,今後のさらなる検討課
興味深いことに,心停止発生後,時間が経過し fine VF を
呈していても,適切な CPR(人工呼吸+心臓マッサージ)を
題と言える。
3)小児への応用
実施すれば,VF 波形が fine VF から coarse VF へ変化する
小 児 の CPA は 呼 吸 障 害 に 起 因 す る こ と が 多 く,VF/
ことが指摘されている 25) 。その機序として,適切な CPR
pulseless VT は成人ほど多くはないが,全 CPA の 5 ∼ 15%
により冠循環が保持され心筋への酸素供給がなされた結
に VF がみられると言われている 9) 。現在では 1 ∼ 8 歳の小
果,VF 波形が元気のある coarse VF に変化することが考え
児に対しては専用のパッドを用い,AED 本体の固定されて
られている。図 7 の症例は病院外での CPA 症例であるが,
いるエネルギー出力を減衰させる形で除細動を行うことが
救急隊が駆けつけた時点では心停止発生から 7 分経過して
推奨されている 9) 。しかしながら,1 歳未満の乳児におけ
おり,心電図波形は既に fine VF であり,電気的除細動は効
る AED の使用は現時点では推奨されておらず,安全性を駆
果がなかった。しかし,救急隊により適切な CPR を 2 分間
使した機器の開発が望まれる。
実施した結果,心電図波形は coarse VF へと変化し,2 回目
4)PAD から home AED へ
の AED による除細動で VF から洞性リズムへ復帰し,心拍
公共の場でより多くの AED を設置するといった PAD シ
再開に至った。
ステムを充実させることはもちろん重要であるが,CPA の
長時間経過した VF は fine VF であり,除細動成功のチャ
殆どは屋外ではなく住居内で発生していることも忘れては
ンスが低下する。これらを受けて,最近の心肺蘇生ガイド
いけない。現在,欧米諸国では家庭内に AED を設置する動
ラインでは「心停止後 4 分以上経過している VF は AED に
きがみられており,この home AED についての大規模研究
よる除細動を優先させるのではなく,CPR を 2 分間行った
が始まっている 27) 。心疾患発症のリスクが高い患者やそ
後に除細動を行う」と変更している 9) 。しかしながら,除
の家族が積極的に AED を購入している。この home AED
細動のタイミングを心停止発生の時間経過のみで判断する
は極めて画期的なものであるが,その使用がより安全に行
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人工臓器 37 巻 1 号 2008 年
われる為には,より充実した機器の改良が必要となるであ
ろう。
5. おわりに
以上,心肺停止症例と AED について解説した。AED は
開発当初より「誰にでも手軽に行える除細動」を目指し,広
く普及されたことから,CPA 症例の救命率向上にある程度
寄与したと考えられる。しかしながら,現在の AED の意義
はオートマチック化したことによる手軽さにとどまってい
るのみである。今後もさらに機能が進化し,例えば,VF/
puslseless VT で除細動と CPR のどちらを優先すべきかの
判断の一助となる機能が AED に備わることも期待したい。
救急領域における人工臓器として AED がさらに改良され
ることを筆者は期待している。
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