08-10 - 栃木県障害施設・事業協会

強度行動障害と医療
2016.10.18.
栃木県強度行動障害支援者養成研修
護国会館
日本発達障害ネットワーク
市川宏伸
対応の難しい知的障害児者とは?
・対応の難しい知的障害児者は、発達障害を抱えている
人が多い
・知的障害入所施設にいる人は、知的障害を伴う発達障
害児者である
・新たな医学的診断基準では、発達障害と言う概念の中
に知的障害が含まれている
・彼らは動く重心(重症心身障害児者)と呼ばれることも
ある
大島の分類(重症心障害児・者)
(IQ)
21
20
19
18
17
走れる
動く重心
22
13
12
11
10
歩ける
23
14
7
6
5
24
15
8
3
2
歩行障害 座れる
25
16
9
4
1
寝たきり
重症心身障害児(者)
80
70
50
35
20
0
対応の難しい行動障害
1 概念:
社会生活を阻む持続的な行動の逸脱
2 主な行動障害
・異食(消化できないもの、重度に多い)
・常同行動(反復的な非機能的運動)
・自傷(重度に多い、自己刺激、強迫性、 神経
化学的背景など、発症についての 仮説がある
が、詳細は不明)
強度行動障害
1 福祉療育上の療育概念
2 精神遅滞の人が示す、「自傷、他傷、破壊行動、感情
爆発、飛び出し、多動、こだわり行動など、一連の行動
が激しく、かつ頻度も高く発現し、本人も混乱し、周囲も
通常のかかわりでは対応しきれず、関係者に与える影
響が極めて深刻な状態」
3 判定基準表によってチェックした結果、家庭において
通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても、過
去半年以上、さまざまな行動障害が継続している場合、
10点以上を強度行動障害とし、強度行動障害特別処
遇事業対象としては20点以上とする
強度行動障害判定基準表
行動障害の内容
1点
3点
5点
1 ひどい自傷
週に1、2回
1日に1、2回
1日中
2 強い他傷
月に1、2回
週に1、2回
1日に何度も
3 激しいこだわり
週に1、2回
1日に1、2回
1日に何度も
4 激しい物壊し
月に1、2回
週に1、2回
1日に何度も
5 睡眠の大きな乱れ
月に1、2回
週に1、2回
ほぼ毎日
6 食事関係の強い障害
週に1、2回
ほぼ毎日
ほぼ毎食
7 排泄関係の強い障害
月に1、2回
週に1、2回
ほぼ毎日
8 著しい多動
月に1、2回
週に1、2回
ほぼ毎日
ほぼ毎日
1日中
絶え間なく
9 著しい騒がしさ
10 パニックがひどく指導困難
あれば
11 粗暴で恐怖感を与え、指導困難
あれば
14年度と16年度の結果比較(パサージュいなぎ)
140
120
14年度 16年度
100
80
60
40
20
0
多飲
問題
の乱
水
睡眠
奔火
奔便
異食
盗癖
性的
出し
徘徊 ク
ッ
パニ
飛び
れ
多動
奇声 損
破
器物 為
行
他害 為
行
自傷 だわり
こ
強い
強度行動障害の行動とは?
・必ずしも生まれつき存在している分けではない
・置かれる環境や、周囲の対応で変わってくる
・問題行動とは、主観に基づくものである
・本人にとっては意味のあるものかもしれない?
・多くは本人から語られることはない
・周囲はその意味を推測するしかない
・推測に基づいて対応して解決すれば、推測は正しい
・無理やり行動を止めさせるのは得策ではない
強度行動障害の背景にあるものは?
・知的障害が重いと背景が見えにくいことがある
・演者の経験では、70~80%は自閉症が存在する
・器質的障害が15~20%か?
脳炎後遺症、結節性硬化症、脳性麻痺、ダウン
症、てんかんなど
・知的障害のみの人はいるのだろうか?
・背景を考えることは支援策への第一歩
強度行動障害再考ー杉山登志朗(奥山班)-
特徴
1 対象は入所処遇で困難を生じる事に限定
2 入所施設を対象にし、処遇の場も入所施設
3 行動障害の80%は自閉症の青年期パニック
*対象の中心は知的障害ではなく発達障害
*背景を考慮しない不十分な行動障害分析
*医療との係わり合いの不十分さ
*チック、気分障害、トラウマ
対策
1 自閉症者、家族へのサポート(愛着形成の遅れ)
2 多方面からの検討、医療と福祉の協働
強度行動障害再考(2)ー川村昌代(奥山班)ー
石井班の報告より(平成2~9年度)
属性:対象施設の3.1%に激しい行動障害
60%に自閉症、男性が3倍、 80%が最重度・重度精神遅滞
原因:家族の問題、指導員の専門性、環境障害
分類:自傷・攻撃性G、常同行動・固執G、精神運動・興奮G、
多動G
年齢:60%が11~25才(16~20才が頂点)
因子尺度:運動感覚的常同行動、刺激固執、対応拒否、身体
的問題、睡眠異常、自傷行動、非現実的言語行動、精神運
動興奮、状況逸脱、不適切な対応、他害行動
特別処遇事業:約80%が自閉症特徴、在宅者(80→30%)
施設入所へ繋げる役割、終了後70%が事業実施施設へ
強度行動障害再考(2)ー川村昌代(奥山班)ー
療育の目標:自閉症児を人として尊重、こころを大切にし
て交流、人との関係の中で療育
療育への提言:自閉症の内面を見る、脅威的な世界を支
える、積極的な交流や関係、見かけの行動にひるまない
主導性、納得づくの交流に導く、感情の表出を助ける、
手を添えて課題達成、言語コミュニケーションを支援、自
己主張を援助
処遇段階:安定期、交流期、課題交流期、関係形成期、
強度行動障害再考(3)ー寺尾孝士(奥山班)ー
個別支援計画:長期目標(年)と短期目標(2ヶ月)
課題設定・働きかけ:障害特性に基づく一貫性ある支援、成
功に導く適切で必要な支援、一人で適切に過ごす支援
コミュニケーション支援:受診能力、発信能力
行動障害への対応:背景、客観的把握、継続期間、発達水
準など
利用者状況:男子>女子、70%思春期以降、95%が重度遅
滞以下、26点以上33%、固執・興奮・破壊、他害、不眠が
頻発
医療:90%が服薬
強度行動障害再考(3)ー寺尾孝士(奥山班)ー
進路:改善と移行は非相関、40%施設移行、17%継続入
所>成人施設
家庭引取り困難
予防:障害特性、支援を熟知したスタッフ養成
学校・福祉・医療・行政など地域全体での支援体制
症例 NK 男子 初診時:29才
主
訴:行動上の問題を減少するために薬物の調整が
できないか?
家族歴:父母共に育てる気はなく,祖母が養育。
その死後,叔父が面会に来る。
生育歴:出生時仮死あり(鉗子分娩)。始歩21月,始語
24月。気に入らないと引き付け(憤怒けいれん?)。
幼少時から全汎的な精神遅滞を認め,簡単な指示
には従えた。多動で保護されることもあった。(重
度精神遅滞:5才時に療育手帳2度)6才時,精薄施
設児童部に入所,26才時に成人部へ移る。
来院時の様子:生活の流れは一応理解しているが,身
辺処理の指導には拒否が強く,興奮して走る,叩く,手
を咬むなどが出現する。能力的にも興味的にも作業に
参加しにくい。
•
•
•
•
•
要求語はあるが,ちょっと難しい問いには反響語となる。
職員とのみ係わりを持ち,他の園生には興味ない。
歩く,走るなど粗大運動はできるが巧緻性に欠ける。
知覚的には,触覚,嗅覚が発達してる。
周囲の刺激に反応し易く,注意の持続が難しい。
• 本のページめくり,水道を流す,尻の匂いを嗅ぐ,他人の髪を嗅
ぐ,自分の手や腹を叩く,耳に棒を入れるなど。
• 場面の変更が苦手で,自己統制が難しい。
• 衝動性,興奮性,攻撃性が認められる。
発達障害とNK君の位置
精
広汎性発達障害
特
自閉症
異
NK
遅
滞
的
発
達
多動症候群
障
(注意欠陥多動障害)
害
神
“叩き”と対応・・・スタッフからの情報
1)外見上の“予兆”の存在
3)誘因の存在
不安定な生活リズム(生活の中心が必要)。
ギロリと眼を見開く。
環境の急激な変化(非日常的な出来事)。
急に走りだす。
半覚醒の状態(情報の混乱)。
黙りこんで,難しい顔をする。
非難されていると感じた時。
拳を握る。
以前の嫌なことを思い出した時(?)。
高笑い。
2)経験的な目安
指示に従い難くなる。
拒否の発語がみられる。
昔のことを何回も訴える。
喉の奥からの発声。
こだわりの増加。
4)“叩き”の起きるとき
次の行動へ移る時
不快,不満の表現
受入れて欲しい時
瞬間的な欲求表現
処方内容の変化(NK君)
ドパゾール
1×朝
50mg
150mg
75
30
0
メレリル 3×食後
7.5gr
柴胡加竜骨牡蠣湯 3×食後
0
600mg
400
リーマス 3×食後
0
600mg
400
テグレトール 3×食後
0
12
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
投薬後と行動上の問題・・・スタッフからの情報
1)処遇と対応
ⅰ)作業班を変える。
ⅱ)不必要な競合を避ける。
ⅲ)叩かれる側への対応。
ⅳ)特性の把握。
ⅴ)職員・利用者からの働きかけ。
2)興奮の変化
ⅰ)程度と所要時間の改善。
(納め易い。後まで続かない。)
ⅱ)器物の破壊が減少。
ⅲ)職員との関係が作り易い。
(生活面が構造化し易い。)
ⅳ)“こだわり”の減少。
(生活リズムの改善)
ⅴ)不快からの短絡行動の減少。
3)その他の変化
ⅰ)棒を耳に持っていくことの減少。
ⅱ)トイレ,風呂での行動改善。
ⅲ)“咳払い”の減少。
ⅳ)意味不明の発語が減少。
ⅴ)“眼瞼いじり”の減少。
4)変化しないこと
ⅰ)急に走りだす(叩きに繋がり易い)。
ⅱ)我慢できない(刺激への過敏さ)。
ⅲ)気候と不眠(暑さが苦手)
ⅳ)周期的なこだわりの増大
(叩きに結びつき易い)。
月別 『叩き』 の回数
1991.4-1995.3
(回)
30
25
20
15
10
5
0
4
8
12
4
8
12
3
7
11
3
7
11
3
(月)
月別 『叩き』 の回数
1991年
1992年
1993年
1994年
合計
(回)
60
50
40
30
20
10
0
4
6
8
10
12
2
(月)
年間の期間別 『叩き』 の回数
(回数)
200
150
1991年
1992年
1993年
1994年
100
50
0
4-6月
7-9月
10-12月
1-3月
日内時間帯別 『叩き』 の回数
(回数)
200
1991年
1992年
1993年
1994年
150
100
50
17:30
17:30
不明
-
12:30
12:30
-
8:30
8:30
-
6:30
-
0
22:00
(時間帯)
期間(年間)と時間(日内)
(回数)
200
150
6:30-8:30
8:30-12:30
12:30-17:30
17:30-22:00
100
50
0
4-6月
7-9月
10-12月
1-3月
(期間)
場所別 『叩き』 の回数
(回)
140
1991年
1992年
1993年
1994年
120
100
80
60
40
20
0
食堂
自室
デイルーム
廊下
洗面所
棟外
風呂場
その他
投薬前後の変化
2. 投薬後の問題点
1. 投薬前の問題点
① 興奮程度の軽減,欲求不満型叩きの増加
① 興奮(突発性,閾値の低下)
他人への叩き,器物の破壊
突っ走り,飛び出し
周囲への危険
本人への危険
② 徘徊・不眠
多少の眠気があるが,生活・作業意欲は
② 徘徊・不眠
夜間の動きまわり,入眠困難
周囲への迷惑
保持されている
③ こだわり行動
③ こだわり行動
常同反復行動
突っ走り,飛び出しの軽減
行動緩慢・停止,パターン化
感覚障害(知覚過敏)
自傷行為
行動緩慢・自傷行為は持続
想起的こだわり,感覚刺激に没頭時は
パターンを崩さない
薬物への耐性が認められる
副作用は出にくい
受診を楽しみにしている
環境の調整について
1. 食事
食事場所の変更:大食堂
ミニ食堂
2. 集団行動
個別行動を中心にした対応(時間的強制の減少)
旅行ではマンツーマンの対応
3. 居室の調整
4人部屋
3人部屋(就寝の安定)
夏の温度調整
4. デイルームの調整 リビングスペースのセッティング(明確な仕切り)
安心感と落ち着きの獲得
5. 作業の明確化
年間を通じての作業日の設定(学期制
本人にわかりやすい制度
環境調整(改善)の成果
安定した日課,作業への参加
興奮・叩き
タッチ
年間制)
季節的変動(叩き回数)
(回数)
50
40
91
92
96
97
30
20
10
0
4-6月
7-9月
10-12月
1-3月
精神遅滞と自傷行為
1. 行動と器質仮説
2. 心理的仮説
5. 神経化学仮説
1)ドーパミン仮説
2)セロトニン仮説
3. 行動(学習)仮説
6. 強迫行動仮説
1)正の強化仮説
1)強迫行動と脳の傷害
2)負の強化仮説
2)精神遅滞の重篤さと脳の障害
3)行動仮説は自傷に特異的ではない
3)強迫性障害と自傷の共通性
4)行動仮説は一般化を妨げる
4)効果的な介入
4. 生理的仮説
1)生理的仮説と他の人々
7. 強迫行動理論
8. 予言
一症例 X氏 入所時 27才 男性
・強度行動障害が激しく、いくつかの施設を経て入所
診断名:精神遅滞(中度) 自閉症 療育手帳2度(知的障
害)
・突発的な自・他傷行動や、器物破損が激しく、支援が困難
・不適応行動の原因をデータ分析し支援プログラムを導入
・適切な抗精神病薬の使用
行動の特徴
◆社会性:
特徴≪場面に合わせた行動,共同注意,共感性(イメージ
力),限定的な関係性≫
◆コミュニケーション:
特徴≪言語理解・一方的関わり・要求(限定的)>理解・拒
否の弱さ・視覚優位≫
◆常同行動・固執等
特徴≪パターンや法則性を好む・特定の物に対する執着
≫自傷等の不適応行動がパターン行動に変容
• ◆知覚の異常と非恒常性
爪はぎ・膝突き・激しい顔叩き・喉にティッシュを詰める等
の自傷が頻繁に見られる(痛覚の異常)。
◆能力・理解度と発達段階の不均衡
生育歴「療育機関・支援サービス等」
・ 出産時仮死状態 始歩1才 初語4才5ヶ月
• 自閉症療育施設に通所(3才) 病院デイケア利用(4才~6才)
• 幼稚園入園(5才) 小学校通常学級入学(6歳) (情障学級に週2回
通級)
• 自閉症療育施設通所(6才~9才) 養護学校中等部入学(12才)
• 大学病院小児精神科に通院(12~15才) 知的障害児入所施設に一
時入所(15才)
• 障害児相談センター通院(16才~)養護学校高等部に転入(17才)
• 知的障害児入所施設に一時入所(17才時) 知的障害児入所施設に
一時入所(17才)
• の自閉症療育施設に一時入所(18才時)
• 知的障害者入所施設に入所 (21歳時1年間) 「強度行動障害特別
処遇事業」の措置
⇒外泊中に飛び降り整形外科(複雑骨折)に入院
• 知的障害者入所施設に数回一時入所。
• 居宅介護事業所外出支援を受け通所訓練施設に通所(26歳時)
• 知的障害者入所施設に一時入所。
⇒入所中に飛び降り整形外科(複雑骨折)に入院
生育歴「不適応行動発生エピソード」
• 【奇声・不眠状態】 (パターン変更に対する弱さ)
14才、自宅の引越・転居があり、奇声・不眠
• 【所在不明】 ( エレベーターの階数表示=限局的な興味)
15才、学校から抜け出し、マンションのエレベーターで遊び、叱られ
ると階上から物投げ
• 【自傷】(作業能力は高い、辛い事が言えない)
17才、作業量が増えると自傷が始まる。
• 【飛降り】(混乱時の呼び掛けと衝動性の高さ)
①24才、帰宅中に自宅マンションより飛び降り入院 。
• ②26才、一時保護利用時に施設より飛び降り骨折⇒当日深夜、火
災報知機鳴らし、コップ割り・食器棚倒しあり、職員が強く叱責したと
ころ飛び降り
• 21~23才「強度行動障害特別処遇事業」の措置
• ◎当時の状態 (強度行動障害の判定評価点53点:満点55点)
• ⇒不適応行動の背景に「対人関係上の不安」
施設入所利用当初(26才~)
・ 初日より皿割り見られる
・ パニックの背景:
スケジュール変更による激しい不安、
原因が特定できないパニックも多数
・ 突発的に机倒し・物壊し・他傷・爪はぎ等
・ 夜間の覚醒、時々パニック
居室の窓ガラス割り 天井材はがし 蛍光灯割り
家電破壊 リビングテーブル破壊 爪はぎ等
施設環境の改善
利用開始時
3年後
・ユニット出入口施錠
・パニック時には安定剤服用
・2階の窓ガラス・ドアは全て施錠
(飛び降り行為)
・個室は金属製の天井に改造・・・①
・食器は全て強化食器使用
・ユニット外の移動は全て職員が付き添い
・テレビは木製カバーで固定・・・②
・日中活動中は職員見守り対応
・キッチン周囲に壁を作り施錠・・・③
・食堂では職員が1対1対応
(食器割り)
ユニット個室天井の改造①
・居室窓ガラス⇒強化ガラスに,ユニットリビング窓ガラ
ス⇒飛散防止フィルム加工
テレビを床に固定② ユニット居間の台所を改造③
3年目以降の支援
• 支援アプローチの為、本人行動のデータ収集・分析
• 記録フォーマットを作成し、毎日の不適応行動を記録
• ①発生時間
②発生場所
• a)爪はぎ b)食器破壊 c)机倒し d)扉はずし
e)棚倒し f)ビデオテープ破壊 g)顔叩き
h)カーテン外し・棚倒し・顔叩き(夜間覚醒時)
i)棚倒し・顔叩き(就寝前薬服用後) j)その他
• ③行動内容詳細・回数 ④行動の背景・付帯状況
⑤入眠時間 ⑥起床時間 ⑦中途覚醒時間
行動サンプル記録例(不適応行動フォーマットより抜粋)
行動内容
⑥ビデオテープ破壊
行動内容
発生日
行動内容
⑧カー テ ン 外し・ 棚倒し・ 顔叩き
( 夜間覚醒時)
発生場所
背景として考えら れる要因(仮説)
9月6日
17:00 居室
不明・行為そのも のへの衝動
9月12日
17:00 居室
不明・ 同内容のビ デ オテ ー プ ( 2 本ある ) を壊している ・ 行為そのも
のへの衝動
9月19日
10:20 居室
不明・ 行為そのも のへの衝動
発生日
9月5日
⑦顔叩き
発生時間
発生時間
発生場所
14:50 休憩エ リア
9月12日
10:40 作業場面
9月27日
15:10 休憩エ リア
発生日
発生時間
発生場所
背景として考えら れる要因(仮説)
不明
スケジ ュ ール・ 環境に対する不明確さ
パニッ クに伴う表出・ 不明
背景として考えら れる要因(仮説)
9月9日
2:00
覚醒時のパター ン行動(棚倒しのみ)
9月10日
1:06
覚醒時のパター ン行動(棚倒しのみ)
9月14日
1:00
覚醒時のパター ン行動(棚倒しのみ)
9月15日
0:15
覚醒時のパター ン行動(棚倒しのみ)
9月17日
1:00
9月23日
3:15
覚醒時のパター ン行動(棚倒し+顔叩き)
9月24日
2:40
覚醒時のパター ン行動(棚倒し+顔叩き)
9月27日
1:10
覚醒時のパター ン行動(棚倒し+顔叩き)
9月30日
2:00
覚醒時のパター ン行動(棚倒しのみ)
9月30日
23:30
居室
覚醒時のパター ン行動(棚倒しのみ)
覚醒時のパター ン行動(棚倒し+顔叩き)
データー収集開始から4ヶ月間(12件)
• 今回のパニック行動の定義:
「10分間以内に4種類以上の不適応表出が見られた場
合,あるいは窓ガラス割りやその他の深刻な危険性が
ある自傷・他傷・器物破損行為があった場合」
• 0月パニック1件 (居室窓ガラス割り1件)
• +1月パニック4件 (居室窓ガラス割り1件)
• +2月パニック6件 (居室窓ガラス割り1件)
• +3月パニック1件
• +4月パニック1件 (内抜歯1件 居室窓ガラス割り1
件)
• +4月のパニック後、緊急ケース会議で対策を検討
• ⇒それまで収集していた本人行動のデーターより、不安
要因や行動傾向を分析
パニック行動のデーター(入所3年後) より抜粋
発生日
発生時間
発生場所
5月 9日
11:40
作業場面
5月 11日
16:45
居室
爪はぎ・棚倒し・テレ ビ破 ス ケ ジ ュ ー ル ・ 堀内
損・居室の窓割り・声 を出 環 境 に 関 す る 不
しての顔叩き・ジャン プし 明確さ
ての膝つき
帰宅パターン変更
広島旅行(-2日)
5月 17日
18:40
居室
帰宅パターン変更
広島旅行(+2日)
5月 23日
15:50
居室
6月 3日
10:00
作業場面
6月 3日
12:00
食堂
棚倒し・カーテン外し ・テ
レビを叩く・スケジュ ール
ボード破損・膝つき・顔叩
爪はぎ・カーテン外し ・手
袋を破る・テレビを叩 く・
ビデオデッキを蹴る・ スケ
ジュールボードを壊す ・他
傷行為(対スタッフ)
机 倒 し ・ 顔 叩 き ・手 袋破
き・帽子破き・作業教 材破
き・後ろに倒れる
テーブル倒し・弁当箱 落と
し・顔叩き・激しい膝突き
表出の種類
背 景 と 考 え ら れ 宿直St. パターン変更・イベント
る仮説
机倒し・顔たたき・腕 を噛 ス ケ ジ ュ ー ル ・ 内田
帰宅パターン変更・13日
む・手袋破き・帽子破 き・ 環 境 に 関 す る 不
金曜10:00
作業材料破き・他傷・ 爪剥 明確さ
広島旅行(-4日)
ぎ・激しい膝つき・後 ろに
倒れる
無くし物・不明
堀内
ス ケ ジ ュ ー ル ・ 堀内
環境に 関す る不
明確さ
帰宅パターン変更
帰園11:00(当日)
ス ケ ジ ュ ー ル ・ 斉藤
環境に 対す る不
明確さ
不 明 ・ ス ケ 斉藤
ジュー ル・ 環境
に対す る不 明確
さ
帰宅パターン変更
帰宅19:00(当日)
蓼科旅行
帰宅パターン変更:帰宅
19:00(当日)蓼科
旅行
データー分析(4ヶ月)より
• 総パニック件数12件
• ①9件が帰宅パターン変更±4日以内:
パターン変更に対する不安(75%) ⇒「帰宅パターンの変更」(毎週
末帰宅)
• ②生活時間帯(15:30~翌9:30)にパニック:
同じ宿直スタッフの次回 ・次次回の宿直時同じ場所で再発
パニック8件のうち7件が同じパターンで発生(87.5%)
⇒ スタッフに対してのパターン行動
• ③パニック発生時は高い確率で予兆行動
行動予測が可能⇒高い奇声を伴う顔叩き後、ジャンプし両膝を床
に(71%)
• ④パニック以外の不適応行動も同じ時間・場面で同じ行動⇒不適
応行動のパターン化→「認知の障害」(理解の仕方の特異さ)
• ⇒不適応行動・パニック行動はデーター収集と分析の結果から本
人独自の不安要因や法則性
◆支援プログラム立案(データー・仮説に基づき導入)
A)生活・帰宅日のパターン化(家族に相談・連携をする)
⇒【ルーティン化】
B)不定期イベントの減少,事前の分かり易い伝達。
⇒【変更の予告・視覚的情報伝達】
①旅行・施設内検診等の不定期イベントに関しては前日の夜に伝達
②生活習慣の変更は3日~1週間前に伝達。
⇒【本人認知に即した情報伝達タイミングの使い分け】
〔変更の予告は、視覚的(文字・写真・絵)で具体的に伝達する。〕
C)データーで判明したパニックの初期兆候について基準を明確にし、
不穏時適切なタイミングで安定剤を服用。
パニック初期兆候:奇声を伴う激しい顔叩き+ジャンプ膝突き。
⇒【つまづきを事前に予測、失敗させない】
D)プログラムの効果については半年・1年後にデーター分析に基づい
て評価・振り返りを行う。⇒【プログラムの評価・再アセスメント】
支援プログラム立案
A)生活・帰宅日のパターン化(家族と連携) ⇒【ルーティン
化】
B)不定期イベントへの事前説明⇒【変更の予告・視覚的情
報伝達】
①旅行・施設内検診等の不定期イベントは前夜に伝達
②生活習慣の変更は3日~1週間前に伝達。
⇒【本人認知に即した情報伝達タイミングの使い分け】
〔変更の予告は、視覚的(文字・写真・絵)で具体的に伝達〕
C)パニックの初期兆候について基準を明確化
不穏時適切なタイミングで安定剤を服用。
初期兆候:奇声を伴う激しい顔叩き+ジャンプ膝突き。
⇒【つまづきを事前に予測、失敗させない】
D)プログラムの効果は半年・1年後に分析し評価・振り返り
パニック行動 (支援プログラム導入前後)
7
6
5
4
支援プログラム導入
3
2
1
0
2年後
1 2 3
4
5 6
7
8
9 10 11 123年後
13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 4年後
24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36
支援プログラム導入の結果、パニックの軽減が見られた。
以降継続して帰宅日程のパターン化・事前の情報伝達・不穏時の早期の安定剤使
用を行った結果、翌年度のパニック発生数も上記の通りの結果が出ている。
発達障害を対象とする医療機関の現状(1)
外来:
“発達障害の治療”を掲げる医療機関の増加
東京では約60数カ所?(この数年で増加)
精神科医師に加え、小児科医師も参加
療育も行なう医療機関も数箇所
入院:
子どもの精神科専門病床は900~1000床?
成人の病床は?
国公立精神医療機関?(施設化)
発達障害を対象とする医療機関の現状(2)
成人になった場合はどうなっているのか?
・児童青年精神科医がそのまま診察
・一部の成人対象の精神科医の診察
どうしてか?
・成人の場合は統合失調症、気分障害などの治療が中
心
・発達障害は、長らく治療対象外であった?
長期在院発達障害者②
在院期間
69
2 34
43
93
218
99
2年~
3年~
5年~
10年~
20年~
30年~
40年~
結果(長期在院患者について)
• 回答を得た21機関中、発達障害者病棟を持つのは10機
関
• 全10機関で長期在院発達障害者数は558名、PDD167名、
AD/HD1名、精神遅滞270名
• 在院期間は、2年~34名、3年~43名、5年~93名、10年
~99名、20年~218名、30年~69名、40年~2名
• 全20機関中長期在院の理由は、家人の拒否(11機関)、
医療上入院加療が必要(12)、福祉施設の不足(10)、専
門病院の不足(8)、家人の死亡(4)など
• 長期在院者の処遇として、「他にない」(11機関)、「家人
の希望」(9)、「病院の施設化」(11)、「入院医療の必要
のない」(11)、「職員の士気低下」(6)など
長期在院のデメリット
児童青年精神科における長期在院とは・・・
成人精神科で対象にしていない発達障害者
長くなるのは・・・
自宅における居場所のなさ
入院時の“治療契約”の欠如
公的扶助のあいまいさ
親から兄弟への保護者の変化
⇒短期間の入院の徹底を!
キャリーオーバー(1)
・ 医療だけでなく、福祉でも起きている
障害児施設に、強度行動障害の障害者が在籍
・ 病院側の姿勢の問題
医療以外のファクターの存在(政治など)
福祉支援の内容(障害年金の行方)
・ 小児の病院でありながら、50歳代も在籍
病院全体で努力しても、年に1~2名の退院
キャリーオーバー(2)
・ 梅ヶ丘病院における解決
昭和57年入都時、68人/180人
千載一遇の機会:都立病院の再編成
小児3病院の移転統合
小児総合医療センターには過年児病棟はない
平成16年の計画発表以降徐々に周知
平成22年3月の移転までにキャリーオーバー
をゼロに
2月28日の夕刻にゼロになる
障害者の医療の位置付け
・精神科的治療
広汎性発達障害を含む知的障害者に医療は必要
福祉内の医療だけでは十分ではない!
*医療への不信感(専門家の不足)
*医療側の及び腰(根本治療の困難さ、医療保険上の問題など)
積極的に治療は難しくとも、短期の医療が必要な場合は
ある!
・合併症治療
広汎性発達障害を含む知的障害が、身体科医師には知
られていない
一部医師の奮闘・疲労!
入院を必要とした自閉症児(1)
・・・専門病床の必要性
男子 来院時 15才
発達初期より言語遅滞(要求語のみ)
他児との交流なく、心身障害児学級へ通う
小学校高学年より、“こだわり”が強まり、動作緩慢で、
食事に時間を要した
中学進学後、食事が遅いことを叱責され不登校
自宅では、拒食・不眠が続き体重が15kg減少
母が対応に困り、近所の精神科へ入院する
入院後も唸り声を出し続け、同室者から恨まれる
病院から、「対応しきれない」と言われる
演者の病院に転院となる
全身に、無数の火傷の跡がある
入院直後は、すべての働きに拒否的
男子の思春期病棟で過ごすうちに落ち着く
拒食・不眠は改善し、半年後に退院となる
自閉症、精神遅滞(重度)
成人精神科での発達障害治療の限界
強度行動障害者の身体科医療は?
・多くの強度行動障害者は自ら訴えない
・周囲が気付かないと見逃される
・身体症状が悪化してから気付かれることもある
・多くの医療機関は診察に積極的でない
・限られた医療機関でのみ診察
・システム化された治療は存在しない
・知的障害医療一般にも認められる
入院を必要とした自閉症児(2)
・・・身体科治療の必要性
男子 初診時 15才
幼少時から自閉症特有の症状があり、言語はな
かった。
養護学校に進学して安定していた
高等部進学後、奇声・“パニック”が強まり、演
者を受診
奇声を発しており、問いかけには会釈する
薬物を使用して安定する
生活実習所に通い、比較的安定していた
23才の1月、うずくまって苦しそう
近くの医療機関複数に電話をするが、「今日は自閉症を
診れる医師がいない」と断られる
救急車で総合病院に運ぶが、血液検査とXpで
「異常なし」とされる。
ある総合病院の精神科に入院して身体検索してもらう
NMRIや内視鏡検査で、腸よりの出血が確認され、その
後の検査で血液疾患が見つかる
ステロイド治療で、2ヵ月後に退院
合併症治療の難しさ
治療を必要とした自閉症児
・・・身体科治療の必要性
女子 初診時 12才
幼少時から自閉症特有の症状が見られた。
要求は単語レベル。簡単な指示は理解できる。
推定IQ:30~40
自分の要求を一方的に通そうとする。
小学校は身障級に通うが、体力があるため、担任は角材
を手に授業する
家庭でも、学校でも暴力がひどく、小6の2学期に女子病
棟に入院。入院後数日より暴力は消失
「押して駄目なら引いてみろ」として対応
1ヶ月後に退院。中学は身障級に進学して卒業。
その後通所施設へ通うが、外傷(皮下出血)が絶えない。
自宅でも暴力ひどく、多量の抗精神病薬、気分安定薬を
使用(家人が受診)。
26才時、歩行困難、脱力、失尿が出現。
本人が14年ぶりに来院して血液検査。
低Kが判明、内科的治療を開始する。
カリウムを補充していることで元気になる
自閉症、精神遅滞
強度行動障害への対応
・まず背景を推測して、適切と思われる対応をする
・仮説に基づく対応を反復して結果を見る
・薬物治療は主たる治療手段とはなりえない
ただし、応急的な補助手段になることがある
背景がある程度解明されてから使用する
使われる薬は向精神薬が中心である
抗精神病薬、気分安定薬、抗鬱薬など
主な非定型抗精神病薬
一般名
製品名
特徴・働き
リスペリドン
リスパダー
ル
わが国初の非定型
ドーパミン、セロトニン系遮断
ペロスピロン
ルーラン
パーキンソン症状が少ない
ドーパミン、セロトニン系遮断
クエチアピン
セロクエル
陽性・陰性症状に効果がある
オランザピン
ジブレキサ
陽性・陰性症状に効果がある
アリピプラゾール*
エビリファイ パーシャルアゴニスト
ブロナンセリン*
ロナセン
下線:小児の自閉症(乱暴、興奮)
*:小児の統合失調症
国内での報告が大部分
心と脳の関係(融 道男著)より改変
抗精神病薬とその他の副作用
副作用の内容
悪性症候群 筋肉の硬直、高熱、
発汗など
対応
薬の中止、補液、ダンスロレ
ンの投与など(CPK正常化)
乳汁分泌
乳汁分泌、生理不順、 薬物の変更、ブロモクリプチ
射精不能など
ンの投与など(プロラクチン
の正常化)
水中毒
多飲水、全身痙攣、
食欲不振、嘔気など
薬物の減量、塩分の補充(ナ
トリウムの正常化)
*症状の発現には不明な点も多い
*非定型抗精神病薬の方が生じにくい
気分安定薬と種類
一般名
製品名
特徴
副作用
炭酸リチウム
リーマス
優れた抗躁作用
再発予防効果
効果発現が緩徐
リチウム中毒
(高熱、粗大振
戦、筋肉攣縮)
血中濃度測定
カルバマザピン テグレトール 優れた抗躁作用
皮疹、めまい、
貧血など
バルプロ酸
ラモトリギン
デパケン
バレリン
ラミクタール
炭酸リチウムに追 食欲低下、嘔吐
加して使用
など
改善及び予防に
有効
皮疹
*抗躁作用と抗うつ作用
心と脳の関係(融 道男著)より
第3世代、第4世代の抗うつ薬
一般名
製品名
フルボキサミン
特徴
S
S
R
I
パロキセチン
サートラリン
ルボックス
うつ病以外の症状(強
デプロメール 迫症状など)にも効果
がある
パキシル
吐き気などの副作用
薬の併用に注意
J-ゾロフト
S
N
R
I
ミルナシプラン
トレドミン
効き目が出やすい
副作用が少ない
心と脳の関係(融 道男著)より
強度行動障害に関する私見(1)
・ どうして強度行動障害事業を始めなければいけなかっ
たか?
→知的障害の重さと対応の困難さは並行しない
(知的障害の程度と手帳の度数は関連)
IQが上がれば対応は楽になるのか?
多くの困難さは発達障害に基づいていた!
強度行動障害に関する私見(2)
・どうして強度行動障害特別処遇事業はうまくいかなかっ
たのか?
→福祉だけの事業として行うことに無理がなかったか?
・ 発達障害が強度行動障害の本質であることを理解して
いなかった?
・ 特定の施設に移って対応することに無理はなかったの
か?
強度行動障害に関する私見(3)
どうして医療の中で、強度行動障害は扱われなかったの
か?
・ 福祉関係者の中にある医療忌避感
・ 医療関係者も知的障害が本質と誤解していた
・ 福祉に良質な医療が提供されてこなかった
→ 激しい強度行動障害には、一定の割合で医療
が関与する必要性がある!
強度行動障害に関する私見(4)
どうして強度行動障害者に医療は関与できなかったのか?
・ 強度行動障害は知的障害の問題であると考えたため、
長期在院者を作り、施設化を起こした
・ 保護者にとって都合の良い部分もあった
・ 医療関係者にとっても都合よい部分があった
→発達障害者の一部には、一定期間の専門的医療が必要
であることを認め、医療制度を確立するべき
* 成人の発達障害医療が確立されていない
強度行動障害への望ましい対応
・スタッフ一人で対応しない
・行動障害の意味を皆で考える
・事例検討会を定期的に開き、話し合う
・うまく行った事例を積み重ねることで、スキルアップして行く
・なるべく多くのスタッフに共通認識してもらう
・柔軟性ある対応こそ重要である
医療と福祉の連携(1)
医療の課題:
福祉現場への理解不足
医療の優越という幻想
この分野の医師不足
福祉の課題:
医療への過剰な期待
医療を導入することへの抵抗感
スタッフの多忙
医療と福祉の連携(2)
重度心身障害(脳性麻痺など):
福祉と医療の緊密連携
連携して社会への働きかけ
知的障害など:
福祉と医療の連携不足
別々に社会へ働きかけ
*障害児支援の検討会における現状
現状は利用者のためになっているのであろうか?
ノーマリゼーションと医療
発達障害があってもなくても同等の医療を!
そのためには:
専門医の増加を
経済的裏づけを
各分野の連携を
障害関係者はもっと声を出すべきでは!