マスロー心理学研究会

マスロー心理学研究会
第51回定例会
('15/07/11)
発表者
上田吉一(著)
Ⅰ
要
『精神的に健康な人間』
川島書店
1968
中川
昌信
氏
p.35 ~ 37
約
以上の主な臨床心理学者の健康な人間に関する考え方を取り上げたが、このほか「精神的に健康な人格」
「成熟をとげた人格」として諸家が取り上げている人格特質について。
(1) 1929、アメリカにおける児童の健康と保護に関する第 3 回ホワイトハウス会議で精神医学者によ
って決定せられた結論として、
「精神の健康は、個人が自己自身ならびに世界全体に最大限の有効性、満足感、明朗性をもって、
しかも社会的に承認せられる行動で適応することである。」
(2) ワリン
「公正で社会的に有効な行動は、精神の健康の最も決定的な常識的基準である。そのおかれた物理的、
社会的環境に効果的で一貫した統合的様式で反応することのできる個人は、精神的に健全で有為であ
ると考えられる。個人の精神的健康性は、心理学的水準あるいは社会学的水準におけるかれの行動様
式が、妥当であるか「合理的であるかによって判断せられる。」
(3) ベルナルド
精神の健康は、個人的にも社会的にも満足すべき有効な仕事を為すことのできる人にみられる。そ
れは個人の能力を最大限に発達せしめて、能力に応じた成功を収めさせ、また人の感情を統制し、楽
しい気分を表現し、他人を尊重することを可能ならしめるものである。さらに成功、失敗、順境、逆
境のいかんを問わず、現実に直面し、知性と安定した情緒でこれに対応できることを意味する。
(4) ブラウ
健康な場合、個人は自分自身についても、また世間との間についても、比較的平和に感じ、自由に
満ちたりていて、成熟や成長、満足の感を抱く。かれはさして苦痛や不安やその他の徴候に悩まされ
ることもなく、病気の様子も認められない。かれは能力の限界内で十分に働き、創造するが、仕事の
後でくつろいで、レクリエーションを楽しむことができる。睡眠、食事、排せつなどの生物学的機能
を何らの障害や不快感を伴わずに営むことができる。物理的、社会的環境によく適合し、慣習上の制
約と衝突しないでこれを受け入れることができるが、しかも十分進取的で自由の感覚をもち、新しい
場と取り組もうとする。生涯のうちには、不満や不適応、不調の時期もあるであろうが、適切な反応
でこれに対応し、しばらくにして落ち着きを取り戻す。
(5) リンドゲルン
「成熟した人間である。情緒的に成熟し、自立的な個人は、困難な状況や厄介な条件に取り組むこ
とができる。かれは自身についても他人についても恐れるところがない。かれの判断ないし決定は、
かならずしもつねに正当なものではないかもしれないが、しかし、かれは自分の不完全なことを認め
ることができ、また、進んでそうすることによって、自己の過誤をより学ぼうとする。かれは自己の
葛藤問題を解決することができるのである。」
(6) 井坂行男
「環境を積極的に克服し、統一を保ち、世界と自分自身とを正しく理解し得ること」
(7) 村松常雄
「自我がよく統合されていて、安定性があり、極端な情緒的変化もなく、行動に自主性かつ連続性
を保ち、自己をありのままに客観的に評価することができ、他の人と調和的な行動も可能で、社会か
らも承認を獲得することができ、自らも満足しているようなパーソナリティをもつ人が理想とされる。」
〈上田氏の総括〉
これらを要するに、精神の健康は、人格内外の諸機能の間に、調和と統一が見られ、そのエネルギーは
効率的に行動推進に利用せられ、最高度の人格発達と最大限の生産性をもたらすような人格の状態を意味
するものと考えられるのである。
Ⅱ.報告者から
・ 道徳学の立場でも、以上の人間性心理学者の見解は重く引用されており、
「品性」が人格の中心として、
人間の力のすべてを統合するものとしている。品性の涵養こそが教育の最大かつ究極の目標である。教育
基本法でも「教育の目標は人格の完成である」とうたっている。
・ 「統合」の意味
・
掛け算効果
(知識+財+権力+体力+その他)×品性=理想的人間=真の幸福実現
・ 「品性」(品格)を形づくる徳性 至誠・慈悲・寛大・自己反省
・ 「克己」「熱心」「勤勉」「忍耐」「正直」「真面目」「正義」などは一見賞賛される道徳的行為だが、そ
れが自己保存を願うだけの努力であれば、どこかに無理が生じ、他人との間に争いを招くことがある。
永続性・継続性・審美性を備えた実質的な幸福を実現するためにはどうするべきだろうか。最高の自己
実現者である世界の諸聖人の教えに学ぶ。
・ 累代教育の考え方
歴史的社会的責任の自覚し、役割を果たす。個人の誕生から死までの道徳的発達だけでなく、親から
子、子から孫へと世代を重ねて、全人類の道徳的能力を漸進的に増大させていくという遠大な理念。
臨床心理学者の見解
・
・
現実の人間の観察や臨床結果から精
神的に健康な人間、理想的な人間とし
て解釈した結論
人間のある姿を記述
東西の諸聖人の教え
・
現実の人間や社会との接触からの苦
難やそれを乗り越えようとする苦行や
救済を求める心からから得た悟りまた
は教説(宗教)
・
人間のあるべき姿を教え諭す
いくつかの価値ある言葉に集約(愛、
慈悲、仁、自己反省)
・
羅列的ではあるが心理学の術語や日
常語で表現
(キ一ワードがある)=会報 24 号参照
・
・
努力をすれば全体的でなくても部分
的には到達可能であるし、現実に存在
する。
・
諸聖人でなければ達し得ない。普通
の人間には努力目標。
・
理想的人間像として修身に代わる新
しい道徳教育の目標にすべき。
(上田先生の主張)
・
倫理学や哲学、道徳の基礎的規範や
徳目として重視。
(修身教育に利用された)
・
ボトルアップ(下からの目線)
事実からの積み上げ。帰納的。科学。
・
トップダウン(上からの目線)
理念先行。演繹的。神仏からの啓示。
シュルツによれば、フロムもオルポートもその精神的健康性の概念は過去の偉大な精神的指導者の教え
に似ており、その類似性はかれらの概念の妥当性を支えるものだとしている。
「精神的に健康な人間」とは「品性の高い人間」と置き換えられる。オルポートは「成熟した人格とは
人生を統一する一つの哲学をもち、のびやかな心をもって人々と温かい関係を結ぶことができ、自己を客
観的に見つめ、洞察力とユーモアをもって人生を生き抜く人々である」としている。このような人こそ品
性・品格ある人ではないか。品性は徳ともいえる。個人の道徳的な強さ、生命力である。人格は品性によ
って統合された全体的なもので人柄が良い人ともいえる。エマーソンやスマイルズの「品性論」は有名で
ある。「精神的に健康な人間」は、臨床心理学者の「品性論」と考えたい。
〈ちょっと一服〉
「最も期待されず、しかも最も愛された男一寅さん」について
〔紹介〕 塩沢実信著 『昭和歌謡 100 名曲パートⅡ』(北辰堂出版 2013)p.214 ~ 216
「男はつらいよ」 昭和 45 年 星野哲郎作詞 山本直純作曲 渥美清唄
(セリフ)
私生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天でうぶ湯を使い、姓は車名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。
♪♪ 俺がいたんじゃ お嫁に行けぬ わかっちゃいるんだ 妹よ
いつかおまえの よろこぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の 今日も涙の日が落ちる 日が落ちる
ドブに落ちても 根のある奴は いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ 泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら こんな苦労も こんな苦労もかけまいに
かけまいに
男というもの つらいもの 顔で笑って 顔で笑って 腹で泣く 腹で泣く
(セリフ)
とかく西に行きましても 東に行きましても 土地土地のお兄貴さん お姐さんに
ごやっかいかけがちになる若造です 以後 見苦しき面体 お見知りおかれまして
今日こう万端ひきたって よろしく おたの申します
見事なタンカバイ口調で始まる「男はつらいよ」はフーテンの寅こと渥美清が歌って一大ロングヒット
になる映画の主題歌である。
昭和 44 年山田洋次の脚本・監督、渥美清主演で「男はつらいよ」の題名でスタ一トした映画であった。
渥美清が肺ガンのため死去する平成八年まで 26 年間にわたって 48 作制作されているが、渥美清はそのす
べてに主演した。
ストーリーは、毎回同じパターンで、寅次郎が生まれも育ちも葛飾柴又の家を出奔し、足の向くまま、
気の向くままに、テキ屋稼業をやりながら、西に東に旅をする。その間に女に惚れて稚拙なプロポーズを
するが、最後はきまってフラれてまた在所に戻ってくるといったシチュエーションもストーリーも同じパ
ターンのシリーズだった。それでいて「男はつらいよ」によって、渥美清と車寅次郎は完全に一致してし
まい、本人自身が本名の田所康雄を忘れてしまったなどという伝説が流布されたこともあった。渥美清は、
それらの伝説に対して次のように答えていた。「これは別に演技をしているんじゃなくて、おれそのものと
思ったりね。だんだん長くなってくると、ものすごく無精な人がずっと着替えないできたメリヤスのシャ
ツを自分の皮膚の一部だと思ってフロにはいっちゃって、アレ、シャツ着たまま入っちゃったみたいなね、
(笑い)そしてこの松竹映画「男はつらいよ」と同名の主題歌を作詞したのは星野哲郎、作曲は山本直純
という異色のコンビだった。フーテンの寅という喜劇のヒーローにされた男の哀歓をしみじみとした曲に
まとめあげた。これを渥美清はメリハリがあって、寅さん特有のギャグで、いえば聞くもののケツまで届
く口迹で歌い、プロ歌手とは一味も二味も違うユニークな風情に仕上げたのだった。歌碑ではないが、寅
さんのふるさと、東京は葛飾柴又にある寅さん記念館は寅さんフアンなら必ず訪れる名所となっている。