パフォーマンスレベルからみたバスケットボールの

スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
パフォーマンスレベルからみたバスケットボールのフリースローにおけるボール到 達 位 置
Ball arrival position in basketball free throw from performance level
元安陽一
1)
,栗 原 俊 之
2)
福永哲夫
1)
3)
3)
,勝 亦 陽 一
上智大学保健体育研究室,
早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 学 術 院 ,
5)
2)
4)
,金 久 博 昭
,矢 内 利 政
4)
,倉 石 平
3)
,川 上 泰 雄
3)
3)
立命館大学スポーツ健康科学部,
鹿屋体育大学体育学部,
5)
鹿屋体育大学
キーワード: 成 功 率 ,偏 り,ばらつき
Key words: success rate, accuracy, consistency
要 約
本 研 究 は,バスケットボールのフリースローにおけるボール到 達 位 置 について,パフォーマンスレベ
ルの違 いによる特 徴 を明 らかにすることを目 的 とした.被 験 者 は健 常 成 人 男 性 30 名 であり,競 技 経
験 年 数 が 10 年 以 上 (以 下 ELT, n=10),10 年 未 満 (以 下 REC, n=10)および競 技 経 験 無 し(以 下
UEX, n=10)の 3 群 とした.被 験 者 にはフリースロー30 本 を行 わせた.分 析 項 目 として,ショット成 功 率
とボールのリングに対 する到 達 位 置 の前 後 成 分 および左 右 成 分 を算 出 した.その結 果 , 1)ボール到
達 位 置 の偏 りは前 後 成 分 が左 右 成 分 より大 きく,ELT が UEX より小 さい, 2) パフォーマンスレベル
が高 い群 ほどショット成 功 率 が高 く,ボール到 達 位 置 の前 後 成 分 におけるばらつきが小 さい,および
3) ELT のみボール到 達 位 置 の左 右 成 分 におけるばらつきが前 後 成 分 のばらつきよりも小 さいことが
明 らかとなった.
Abstract
The purposes of this study were to investigate the success rate and the accuracy and the
consistency of the ball arrival position in basketball free throw and to compare them among
the players of different performance levels. Thirty males were recruited as subjects and
divided into three groups: elite basketball players (ELT, n=10), recreational basketball players
(REC, n=10) and unexperienced (UEX, n=10). Each subject performed thirty free throw shots.
The shot success rate and anterior-posterior component and lateral component of ball arrival
position were measured. We found 1) that for whose shot success rate was higher, the ball
arrival positions were more narrowly scattered in the anterior-posterior direction, 2) the ball
arrival positions were deviated to a greater extent in the anterior-posterior direction than in
the lateral direction, and the ball arrival position for UEX was deviated to a greater extent
than that for ELT, 3) for ELT, the consistency in the lateral component of the ball arrival
position was higher than that in the anterior-posterior component.
155
スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
スポーツ科 学 研 究 , 8, 155-165, 2011 年 , 受 付 日 :2010 年 3 月 10 日 , 受 理 日 :2011 年 5 月 20 日
連 絡 先 : 元 安 陽 一 〒102-8554 東 京 都 千 代 田 区 紀 尾 井 町 7-1 上 智 大 学 7 号 館 213
Tel : 03-3238-3674 E-mail: [email protected]
Ⅰ.緒 言
の距 離 のみに着 目 しており,方 向 を含 めたボー
バスケットボール競 技 では競 技 時 間 内 により
ル到 達 位 置 の再 現 性 を評 価 していない.また,
多 くの得 点 を獲 得 したチームが勝 者 となる.得
現 在 のバスケットボール競 技 におけるフリースロ
点 は シ ョ ッ トの 成 功 に よ っ て 獲 得 さ れ る た め ,選
ーの主 流 はボールを片 手 で投 射 するワンハンド
手 にとって正 確 なショットを放 つ技 術 の習 得 は
ショットであるにもかかわらず,実 験 試 技 としてボ
重 要 である.フリースローはバスケットボール競
ールを両 手 で投 射 するボースハンドショットを 採
技 に おい て 唯 一 ディ フ ェンス に妨 害 さ れず に 放
用 している.そこで本 研 究 では,ワンハンドショッ
つことのできるクローズドスキルのショットであり,
トによるフリースローの成 功 率 およびボール到 達
8)
その成 功 数 は競 技 の勝 敗 と強 く関 係 する .そ
位 置 の 再 現 性 に つ い て, パ フ ォー マン ス レ ベル
れゆえ,フリースローの成 功 率 の向 上 は,バスケ
との関 連 で明 らかにし,それぞれの段 階 の者 が
ットボール競 技 で勝 利 を収 める上 で重 要 な要 素
上 達 するた めの方 策 に つい て の 研 究 する こ とを
といえる.
目 的 とした.
ショットパフォーマンスの評 価 指 標 としては,
成 功 率 が用 いられる場 合 が多 い(Elliott 1992,
Ⅱ.方 法
Hudson 1985, Toyoshima 1982).しかし,同 じ
A.被 験 者
成 功 試 技 であっても,リングに対 するボール到
被 験 者 は , 健 常 な 成 人 男 性 30 名 ( 身 長
達 位 置 は一 点 のみに定 まるわけではなく,リング
175.6±7.6cm,体 重 72.1±8.0kg,年 齢 25.2±
中 心 からのボールのずれは前 後 方 向 および左
3.4 歳 ;平 均 値 ±標 準 偏 差 )で,全 員 が右 利 き
右 方 向 にも起 こりうる.これまでのところ,ショット
であった.被 験 者 を競 技 経 験 の有 無 ならびに競
動 作 およびショットの軌 跡 に着 目 した研 究 は被
技 年 数 別 に Elite(ELT),Recreational(REC),
験者の側方から見た矢状面のものが多く
Unexperienced(UEX)の 3 つのグループに分 け
( Button et al. 2003, Hay 1993, Toyoshima
た.Elite は関 東 大 学 バスケットボール連 盟 1 部
1982 ) , ボ ー ル の リ ン グ に 対 す る 左 右 方 向 の ず
リーグに所 属 するバスケットボール選 手 で週 6 日
れが計 測 できていない.被 験 者 の後 方 から見 た
の練 習 を行 っている競 技 選 手 10 名 とした(身 長
ボール到 達 位 置 に着 目 した例 は岩 本 ら(2004)
182.5±7.0cm,体 重 79.0±6.5kg,年 齢 21.9±
の研 究 に限 られる.その知 見 によると,成 功 率
0.3 歳 , 競 技 経 験 年 数 12.3 ± 1.7 年 ) .
上 位 群 は成 功 率 下 位 群 に比 べてボールが再 現
Recreational は週 1 から 3 日 程 度 の練 習 を行 っ
性 高 くリング中 心 に集 まる傾 向 が高 いことが明 ら
ている者 10 名 とした(身 長 171.1±4.5cm,体 重
かになっている.このような報 告 は,成 功 率 に加
68.5±6.9kg,26.8±3.8 歳 ,競 技 経 験 年 数 6.8
えボール到 達 位 置 の再 現 性 を分 析 することで,
±2.7 年 ).Unexperienced は課 外 活 動 でバスケ
パフォーマンスレベル別 のショットの特 徴 をより
ットボールを競 技 として行 った経 験 がない者 10
明 確 にできることを示 唆 するものといえる.しかし,
名 と し た ( 身 長 173.8 ± 5.9cm , 体 重 69.6 ±
岩 本 ら(2004)はリング中 心 からボール中 心 まで
6.5kg,年 齢 26.1±3.7 歳 ,競 技 経 験 年 数 0.0
156
スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
±0.0 年 ).
た.試 行 を行 う前 にウォーミングアップとしてシュ
実 験 に先 立 ち,被 験 者 に対 して本 研 究 の目
ーティングやストレッチを行 わせた.被 験 者 の任
的 および 実 験 への参 加 に伴 う危 険 性 の十 分 な
意 で試 行 中 に休 憩 を取 り,疲 労 の影 響 が出 な
説 明 を行 い,書 面 で実 験 参 加 の同 意 を得 た.
いようにした.
なお,本 研 究 は,早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 学
バックボードから被 験 者 の後 方 28m およびリ
術 院 倫 理 委 員 会 の承 認 を得 て行 った.
ング中 心 から右 側 方 28m にそれぞれデジタルビ
デオカメラ(DCR-TRV900,SONY 社 製 ,Japan ,
B.実 験 試 技 および実 験 設 定
NV-DJ100,Panasonic 社 製 ,Japan)を設 置 した
各 被 験 者 には,国 際 バスケットボール連 盟 公
( Fig.1 ) . 毎 秒 30 フ レ ー ム , シ ャ ッ タ ー 速 度
認 12 面 体 バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 7 号 球 ( 半 径
1/2000 秒 でリング付 近 のボールの軌 跡 を撮 影
122.5mm,650g,molten 製 ,Japan )を用 いて,
した.カメラレンズの高 さは,1.8m となるように調
ワンハンドショットでフリースローを 30 本 行 わせ
節 した.
Fig.1 Experimental Set-up
C.分 析 方 法
やリングに当 たった試 技 を不 成 功 試 技 とした.リ
本 研 究 で は ,正 確 に リング 中 心 にボールを 投
ング中 心 からどれだけ離 れた位 置 にボールをリ
射 できるかどうかを測 定 するためボールを直 接 リ
リースしているかを定 量 するため,ボードやリング
ングに入 れるようにリング中 心 を狙 うよう指 示 した.
に当 たった場 合 も,当 たらなかったものとして推
ボールが被 験 者 の手 から離 れて何 にも触 れず
定 した.
にリング内 を通 過 した試 技 を成 功 試 技 とし,リン
2 台 のデジタルビデオカメラより得 られた映 像
グ内 を通 過 しなかった試 技 およびバックボード
を分 析 ソフト(image J1.36b,National Institutes
157
スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
of Health ,USA) を用 いてボールの中 心 をデジ
ドに触 れるまでの 5 点 の座 標 から最 適 多 項 式 を
タイズし,ボールの軌 跡 を三 次 元 座 標 の時 系 列
求 め,ボールがリングやボードに接 触 しなかった
として 求 め た.ボ ール 到 達 位 置 は ,リン グと 同 じ
際 にボール中 心 が通 過 したと想 定 される位 置 を
高 さ(地 上 から 3.05m)をボールが通 過 した時 の
補 外 して推 定 した.算 出 されたボール到 達 位 置
ボールの中 心 の座 標 として算 出 した.成 功 試 技
は,原 点 がリング中 心 に位 置 し,リングの高 さの
およびリングやボードに当 たらなかった不 成 功
水 平 面 を定 義 する二 次 元 直 交 座 標 系 (リング
試 技 については,リングの高 さ通 過 時 を含 む 5
座 標 系 )を用 いて表 した.ボールがリング中 心 よ
点 の座 標 から最 適 多 項 式 を求 め,ボール中 心
りも後 方 向 ( ボード寄 り) に到 達 した場 合 には y
がリングを通 過 する 瞬 間 の座 標 を補 間 してボー
成 分 が正 の値 を、右 方 向 に到 達 した場 合 には x
ル到 達 位 置 を算 出 した.リングやボードに当 た
成 分 が正 の値 を取 るように定 義 した(Fig2).
った試 技 については,ボールがリングまたはボー
Fig.2 Distribution Map of Ball
D.分 析 項 目
た本 研 究 においては、各 被 験 者 についての
分 析 項 目 は,各 被 験 者 のショット成 功 率 (%)
系 統 誤 差 を表 す指 標 となる.
に加 え,各 被 験 者 が投 射 した全 ショットにおける
② 各 被 験 者 のショット標 準 偏 差 :これは、各 被
ボール到 達 位 置 から左 右 (x)、前 後 (y)成 分 の
験 者 のショット平 均 到 達 位 置 と各 ショットの
それぞれについて算 出 した以 下 の変 数 とした.
到 達 位 置 との差 分 から求 めた標 準 偏 差 で、
その被 験 者 が繰 り返 し放 ったショットの再 現
性 を表 す指 標 となる.
① 各 被 験 者 のショット平 均 到 達 位 置 :これは、
各 被 験 者 が行 った全 試 行 (30 本 )について
計 測 した ボ ール到 達 位 置 の平 均 値 であり 、
さらに、上 記 変 数 のグループ別 平 均 値 を求
リング中 心 を狙 ってショットを放 つよう指 示 し
め,各 グループの被 験 者 が放 ったショット到 達
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位 置 の偏 りとばらつきを示 す代 表 値 とした。各
のショット平 均 到 達 位 置 およびショット標 準 偏 差
被 験 者 のショット平 均 到 達 位 置 の各 成 分 につ
を Table.1 に示 した.
いては、被 験 者 によって値 の正 ・負 が分 散 して
各 グループにおけるボール到 達 位 置 の偏 り
おり各 グループの平 均 値 が0に近 いことから、符
には,グループと方 向 の間 に交 互 作 用 は確 認 さ
号 を削 除 した絶 対 値 を用 いてグループ別 平 均
れなかった(F 値 1.237,自 由 度 2,P=0.306)が、
値 を算 出 した.
グループと方 向 による主 効 果 は認 められ(グル
ープ:F 値 7.258,自 由 度 2,P<0.01,方 向 :F
値 5.197,自 由 度 1,P<0.05),多 重 比 較 の結
E.統 計 処 理
各 グループにおけるボール到 達 位 置 の偏 り
果 ,ELT(x 成 分 17.2±11.9mm, y 成 分 33.4±
およびばらつきについての群 間 差 の検 定 には,
29.4mm)が UEX(x 成 分 50.3±38.4mm,y 成 分
グ ル ー プ ( ELT , REC , UEX ) と 方 向 ( 前 後 成 分 ,
106.4 ± 106.2 ) と 比 べ て 有 意 に 小 さ か っ た
左 右 成 分 )を要 因 とした二 元 配 置 の分 散 分 析
(P<0.05)(Fig.4).
を用 いた.グループ 要 因 が有 意 であり, 交 互 作
各 グループにおけるボール到 達 位 置 のばら
用 が確 認 された場 合 は,一 元 配 置 分 散 分 析 を
つきには,グループと方 向 の間 に交 互 作 用 が確
行 い,各 グループ間 の差 の有 意 性 は Scheffe の
認 された(F 値 5.765,自 由 度 2,P<0.01).ボー
方 法 により検 定 した.グループ要 因 が有 意 であ
ル 到 達 位 置 の ば ら つ きの 前 後 成 分 は , 多 重 比
り,交 互 作 用 が確 認 されなかった場 合 は,多 重
較 の 結 果 , ELT ( 92.4 ± 18.1mm ) , REC ( 135.0
比 較 を行 い,各 グループ間 の差 の有 意 性 は
±26.3mm),UEX(290.0±119.5mm)の順 で有
Games-Howell の 方 法 に よ り 検 定 し た . シ ョ ッ ト
意 に 小 さ い 値 を 示 し た ( P<0.05 ) ( Fig.5 ) . ボ ー
成 功 率 の群 間 差 の検 定 は,一 元 配 置 分 散 分
ル到 達 位 置 のばらつきの左 右 成 分 においては,
析 を行 った後 に Scheffe の方 法 により検 定 した.
ELT ( 54.9 ± 7.5mm ) の み 他 の グ ル ー プ
有 意 水 準 は 5%未 満 とした.
( REC:97.3 ± 33.1mm
&
UEX:151.3 ±
31.2mm ) と 比 べ て 有 意 に 小 さ い 値 を 示 し た
( P<0.05 ) ( Fig.5 ) . す な わ ち , ボ ー ル 到 達 位 置
Ⅲ.結 果
シ ョ ッ ト 成 功 率 は ELT ( 86.3 ± 3.7% ) , REC
のばらつきを両 成 分 間 で比 較 すると,ELT はボ
( 50.3 ± 11.0% ) , UEX ( 20.7 ± 9.4% ) の 順 で 高 く ,
ール到 達 位 置 のばらつきの左 右 成 分 が前 後 成
グループ間 の差 は有 意 であった(P<0.01).各 被
分 に比 べて有 意 に小 さかったが,REC と UEX は
験 者 が放 った全 試 行 におけるボール到 達 位 置
ボール到 達 位 置 のばらつきの左 右 成 分 と前 後
を 全 被 験 者 に つ い て 図 示 し ( Fig3 ), 各 被 験 者
成 分 に有 意 な差 は見 られなかった.
159
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Fig.3 The distribution of ball for 30 times free-throw shots by all subjects.
Table.1 Average ball arrival position and Standard Deviation of 30 free-throw shots executed
by each subject(sub.1~sub.30)
(mm)
Average Ball Arrival position(x,y)
Standard Deviation(x,y)
Average Ball Arrival position(x,y)
Standard Deviation(x,y)
Average Ball Arrival position(x,y)
Standard Deviation(x,y)
sub.1
15
31
60 117
sub.11
EXP
20
13
42
77
sub.21
UEX
34
2
118 155
ELT
sub.2
-24 -13
56 103
sub.12
1 -14
86 149
sub.22
15
27
118 182
sub.3
17
90
60
98
sub.13
-11
37
47 147
sub.23
36
20
166 316
sub.4
12
3
63
80
sub.14
-22
54
101
119
sub.24
81 -247
209
540
160
sub.5
4
80
45
75
sub.15
3
37
116 114
sub.25
112 -85
130 263
sub.6
10
20
47
77
sub.16
-10
34
112 159
sub.26
27 229
146 353
sub.7
7
-25
61
63
sub.17
-3
69
101
157
sub.27
13 -224
184
419
sub.8
-15 -25
63 105
sub.18
60
21
102 127
sub.28
75
5
119 246
sub.9
22
40
48
92
sub.19
49
58
154 161
sub.29
-8
19
155 232
sub.10
46
-7
46 115
sub.20
9 -55
111 139
sub.30
101 205
170 196
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Distance from ring center (mm)
lateral component
anterior- posterior component
*
200
150
100
※
50
0
ELT
REC
UEX
Fig.4 Ball ariival position
The group-by-direction interaction was not significant.
* :ELT vs UEX in anterior -posterior component (P<0.05)
※ :significant main effect of the direction (P<0.05)
lateral component
*
*
400
Standard Deviation
of the ball arrival position (mm)
anterior-posterior component
*
350
300
250
200
150
100
†
50
☆
☆
0
ELT
REC
UEX
Fig.5 Standard Deviation of the ball arrival position
The group-by-direction interaction was significant.
* :ELT vs REC, ELT vs UEX, REC vs UEX in anterior-posterior component(P<0.05)
☆ :ELT vs REC, ELT vs UEX in lateral component(P<0.05)
†:lateral component vs anterior-posterior component in ELT(P<0.05)
Ⅳ.考 察
置 の結 果 として,1)パフォーマンスレベルが高 い
本 研 究 の目 的 は,パフォーマンスレベルの違
群 ほどショット成 功 率 が高 く,ボール到 達 位 置
いに よる ボ ール 到 達 位 置 の 特 徴 を 明 ら か に し,
に お い て ば ら つ き の 前 後 成 分 が 小 さ い こ と , 2)
それぞれの段 階 の者 が上 達 するための方 策 に
ボール到 達 位 置 の偏 りにおいて前 後 成 分 は左
ついて明 らかにすることであった.ボール到 達 位
右 成 分 よりも大 きく,ELT が UEX に比 べて偏 り
161
スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
が小 さいこと,3)ELT のみボール到 達 位 置 にお
ー成 功 率 の成 功 率 に有 意 な差 がみられたこと
いてばらつきの左 右 成 分 が前 後 成 分 よりも小 さ
から本 研 究 で対 象 とした各 被 験 者 群 はパフォー
いことが明 らかとなった.
マンスレベルの比 較 を行 う集 団 として妥 当 であ
先 行 研 究 に お い て , Elite , Expert , skilled ,
ったと考 えられる.全 てのグループにおいて前
あるいは熟 練 者 として選 出 された大 学 バスケット
半 と後 半 の成 功 率 には有 意 な差 は見 られなか
ボール選 手 のフリースロー成 功 率 の平 均 値 は
ったため,疲 労 や運 動 経 験 による力 発 揮 調 整
74 ~ 86% の 範 囲 に あ り (Hudson 1982, Hudson
の影 響 はなかったと考 えられる.
1988) , 未 経 験 者 で あ る
ボール到 達 位 置 の偏 りが小 さいことは,30 本
unskilled として選 出 さ れた被 験 者 のフリースロ
のショットの到 達 位 置 に系 統 的 な誤 差 がなく,リ
ー 成 功 率 の 平 均 値 は 7 ~ 15% の 範 囲 に あ り
ング中 心 に向 けてボールがリリースされていたこ
( Toyoshima & Hoshikawa. 1982, 渡 辺 ら
とを示 す.ボールをリング中 心 に向 けてリリース
1988),その差 は 70 ポイント程 度 である.先 行
で き る と , リ リー ス 時 の 投 射 ス ピ ー ドや 投 射 角 に
研 究 で示 されたフリースロー成 功 率 は,バスケッ
誤 差 が生 じたとしてもショットが成 功 する確 率 が
ト ボ ー ル 競 技 の ル ー ルに 従 っ て リン グ 内 を 通 過
高 い(Hay 1993, Mortimer 1951).リングの半 径
し た か ど う かに よ っ て 示 さ れ て い る .本 研 究 の フ
(225mm)はボールの半 径 の約 2 倍 であり,リン
リースロー成 功 率 の結 果 を同 様 の指 標 で示 すと,
グ中 心 をボール中 心 が通 過 する時 に最 もリング
ELT のフリースロー成 功 率 の平 均 値 は 92.3%,
の内 縁 からボールの表 面 までの距 離 が大 きくな
UEX のフリースロー成 功 率 の平 均 値 は 24.7%で
るため,ボールがリング中 心 に近 づくほどショット
あった.いずれも先 行 研 究 を上 回 る成 功 率 であ
の成 功 に繋 がりやすいといえる.UEX は,ELT と
ったが,グループ間 の差 は 70 ポイント程 度 であ
比 べて偏 りが有 意 に大 きく,REC と比 べて大 き
り,ELT,REC および UEX の 3 群 間 にフリースロ
い傾 向 にあった(Fig.6).
1985, 渡 辺 ら
450
(mm)
225
0
Center of ring
0
225
450 (mm)
Fig.6 Average values for the anterior-posterior and lateral component of the distances
between center of the ring and ball of 30 times free-throw shots by each subject of
different groups. The curve line indicates the ring of the basket.
Black line: Elite, Dark gray line: Recreational, Sickly gray line: Unexperienced
162
スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
これらの結 果 から,パフォーマンスレベルが高
成 分 よりも有 意 に小 さいことが明 らかとなった.リ
いほど偏 りが収 束 できており,リング中 心 に近 い
ングの半 径 は 225mm であり,ボールの半 径 は
位 置 にボールをリリースできていると考 えられる.
122.5mm であるため,ボール中 心 がリング中 心
方 向 に主 効 果 が認 められ,前 後 方 向 の偏 りが
を通 過 する 際 のボール 表 面 からリング内 縁 ま で
左 右 方 向 よりも大 きかったのは,リングに対 する
の距 離 は 102.5mm である.ボールの到 達 位 置
左 右 の中 心 は目 視 により確 認 できるが,リングに
のばらつきの左 右 成 分 においては 30 人 中 25
対 して前 後 の中 心 は目 で直 接 確 認 することは
人 の被 験 者 が正 規 分 布 をしていた. ELT のボ
困 難 であることによる影 響 が考 えられる.ボール
ール到 達 位 置 のばらつきの左 右 成 分 は 53mm
を正 確 にターゲットに向 けて投 射 するには、ター
であり,-1.9≦Z スコア≦1.9 の範 囲 でボール表
ゲットの位 置 を前 後 ・左 右 方 向 共 に正 確 に認 識
面 がリング内 にあるため,ボールがリングから左
する視 覚 認 知 能 力 とターゲットに向 けてボール
右 方 向 にのみばらついて到 達 した場 合 にショッ
を正 確 に投 射 する動 作 の習 熟 が必 要 である.し
トは約 5%の確 率 で外 れる.一 方 ,ボール到 達 位
かし、対 象 物 の奥 行 の正 確 な知 覚 は大 きさの
置 のばらつきの前 後 成 分 においては 30 人 中 23
知 覚 よ り も 困 難 で あ る ( 長 田 1997 ) た め , 直 接
人 の 被 験 者 が 正 規 分 布 を し て い た . ELT の ボ
目 視 することのできないリングの奥 行 を認 知 し、
ール到 達 位 置 のばらつきの前 後 成 分 は 90mm
その中 心 となるターゲットに向 けてボールを正 確
であり,-1.1≦Z スコア≦1.1 の範 囲 でボール表
に投 射 する際 により大 きな誤 差 が生 じた可 能 性
面 がリング内 にあるため,ボールがリングから前
が考 えられる.
後 方 向 にのみにばらついて到 達 した場 合 に約
成 功 率 とボール到 達 位 置 におけるばらつきの
25%の確 率 で外 れる.これらのデータは ELT に
前 後 成 分 に全 てのグループ間 で有 意 差 が認 め
おいては,左 右 のばらつきによるショットのミスが
られた.ボール到 達 位 置 のばらつきの小 ささは,
起 きる確 率 が非 常 に低 いことを示 している.
リリースされ たボール 到 達 位 置 の 再 現 性 の高 さ
本 研 究 結 果 は,ショット指 導 におけるバスケッ
を示 す.バスケットボールのショット動 作 は,一 般
トボールのパフォーマンスレベルに応 じた課 題
的 な投 動 作 と異 なり,投 球 腕 がほぼ矢 状 面 上
設 定 の必 要 性 を示 唆 する.すなわち,未 経 験
を移 動 する運 動 である .そのため, 動 作 が習 得
者 はボール到 達 位 置 の前 後 方 向 のばらつきを
できていれば,ボールリリース時 の投 射 スピード,
小 さくするように練 習 課 題 にすることが成 功 率 を
投 射 角 度 ,投 射 高 のボール到 達 位 置 に対 する
レクレーションレベルの成 功 率 に向 上 させるため
影 響 は矢 状 面 と同 一 面 上 にある前 後 方 向 に出
の方 策 と考 えられる.その際 にボールの偏 りの
やすいと考 えられる.投 射 スピードの調 整 がボー
収 束 に努 めるように練 習 をすることが次 の段 階
ル到 達 位 置 の前 後 成 分 に強 い影 響 を及 ぼすと
へと繋 がる.レクレーションレベルの選 手 は方 向
の報 告 (Toyoshima & Hoshikawa. 1982)を考 慮
に関 わらず中 央 に向 けての再 現 性 を高 めていく
すると,投 射 スピードの調 整 能 力 の差 異 が群 間
ことでより高 い成 功 率 を獲 得 できると予 想 される.
のショット成 功 率 の差 異 に影 響 した可 能 性 が考
一 方 ,1 部 リーグレベルの選 手 は前 後 方 向 の飛
えられる.
距 離 の調 整 によりばらつきの前 後 成 分 をさらに
ボール到 達 位 置 におけるばらつきの左 右 成
収 束 させるように練 習 することで,より高 いショッ
分 は ELT のみ他 のグループとの有 意 差 が認 め
ト成 功 率 の獲 得 が可 能 になると考 えられる.ショ
られた.更 に ELT はばらつきの左 右 成 分 が前 後
ットのば らつ きにおいて ,未 経 験 者 からレクレー
163
スポーツ科学研究, 8, 155-165, 2011 年
Button, C. , MacLeod, M. ,Sanders, R. ,
ションレベルへの上 達 には前 後 成 分 の収 束 の
みが課 題 となるが,更 に成 功 率 を向 上 するため
Coleman,
S.
:
Examining
movement
にはより中 心 へ正 確 に投 射 できることが課 題 と
variability in the basketball free-throw
なる.
action at different skill levels , Research
Quarterly for Exercise and Sport , 74(3) :
257-269,2003.
Ⅴ.まとめ
これまでバスケットボールのショットの研 究 で
Elliott, B.:A kinematic comparison of the
は成 功 率 のみを評 価 指 標 としたものや矢 状 面
male and female two-point and three-point
上 のボールの軌 跡 を分 析 したものが多 かったが,
jump shots in basketball , The Australian
ボール到 達 位 置 の前 後 および左 右 方 向 の分 析
Journal of Sciences and Medicine in Sport,
によっ て,こ れまで 評 価 できなかっ たパフォーマ
24:111-118,1992.
Hay,
ンスレベル別 のショットの特 徴 を見 出 すことがで
J. : The
Biomechanics
of
sports
techniques,fourth edition,Prentice-Hall,
きた.
New Jersey,pp.225-249,1993.
Hudson, J. : A biomechanical analysis by
1) ボール到 達 位 置 の偏 りは前 後 成 分 が左 右
成 分 よりも大 きく,ELT が UEX に比 べて偏 り
skill
level
of
free
throw
が小 さいこと.
basketball , International
shooting
in
Symposium
of
Biomechanics in Sports,95-102,1982.
2) パフォーマンスレベルが高 い群 ほどショット
Hudson, J. : Prediction of basketball skill
成 功 率 が高 く,ボール到 達 位 置 のばらつき
using
の前 後 成 分 が小 さいこと.
biomechanics
variables , Research
Quarterly for Exercise and Sport,56 (2):
3) ELT のみボール到 達 位 置 においてばらつき
115-121,1985.
の左 右 成 分 が前 後 成 分 よりも小 さいこと.
石 垣 尚 男 , 真 下 一 策 , 遠 藤 文 夫 : トップレベ
以 上 の結 果 から,得 られた知 見 をもとにショッ
ルのス ポ ー ツ 選 手 の 視 覚 機 能 と 競 技 力 の関
ト指 導 につ いて考 える と,パフォー マンスレベル
係 ,愛 知 工 業 大 学 研 究 報 告 ,27-A:43-47,
に応 じたショットにおけるコーチングが必 要 なこと
1992.
岩 本 良 裕 ,門 多 嘉 人 :バスケットボールにお
が示 唆 された.UEX は偏 りと前 後 方 向 のばらつ
きを小 さくすること,REC は前 後 左 右 のばらつき,
けるフリースローの正 確 さと投 射 方 向 との関
特 に左 右 方 向 のばらつきを小 さくすること,ELT
係 , ス ポ ー ツ 方 法 学 研 究 , 17(1) : 9-16 ,
は前 後 方 向 の飛 距 離 の調 整 により,ばらつきの
2004.
前 後 成 分 をさらに収 束 させることが課 題 である.
牧 野 茂 :バスケット・ボールのゲーム分 析 :ゲ
以 上 のようなパフォーマンスレベルの段 階 に応
ームの概 要 およびフリースローの実 態 につい
じたショット技 術 の習 得 課 題 の明 確 な設 定 は,
て,駒 澤 大 学 保 健 体 育 部 研 究 紀 要 ,2:
ショット成 功 率 を向 上 するうえで必 要 であると提
13-32,1980.
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