高 校 地 学 火砕流と液状化の簡単モデル実験の開発と指導 岐阜県立各務原高等学校 目 林 讓 治* 的 地学の対象とする自然は、複雑で、かつ、時空的に も様々なスケールを有するので、その本質を掴むモデ ル実験が重要である。そこで、野外での観察が困難な 火砕流と、地震の際に大きな被害の一因となる液状化 について、アクリル透明容器を用いた比較的簡単なモ デル実験により、発生しやすい条件や運動像などを探 究する。 概 要 実験は、何れも、自作の一辺 25cm のアクリル透明 容器を用いる(写真 1)。火砕流モデル実験は、食塩 水中に研磨剤の混濁液を噴出し、噴煙柱崩壊型の火砕 流の挙動や発生条件などを探究する。空気中に噴出さ 写真 1 火砕流モデル実験の装置 液状化の時は、砂を 10cm程度入れる。 れる火砕物質に対応させ、教育上の実践としては本邦 初のものである。液状化モデル実験は、粒度の異なる 砂に様々な量の水を加えた後、手による振動を与え、 液状化までの時間や液状化した砂の性質などを探究す Ⅱ.タ 実験方法 る。 実験は、各現象に関係の深い下線部を変化させる。 何れのモデル実験も、生徒自らの手において実施す 1. 火砕流モデル実験 るため、実感が得られ易く、また、透明の大型容器の (1)径 5mm のゴムチューブの一端を容器の底面の中心 ため多人数での観察が可能である。 に上向きに固定して、もう一端にゴム管を繋ぐ(写 真 1)。 教材・教具の製作・実験方法 (2)容器に深さ 20cm の水と少量の食塩を加える。 (3)アランダムまたはカーボランダム 10g を水 500mℓ ノ Ⅰ.ソ 材料の準備 1. 共通する道具 混濁させ、素早く、浣腸器に混濁液 50mℓ 吸う。 アクリル透明容器( 25 × 25 × 25 cm:厚さ 2mm (4)直ちに、浣腸器の口にゴム管を接続し、混濁液をでき のアクリル板で作製したが、市販の小型アクリル水槽 るだけ一定の速度で押し出し、その所要時間を測る。 でも可能)、ビデオカメラ、ストップウォッチ、メス (5)混濁液の挙動を分類し(写真 2,3,表 1)、単位時 ℓ ニ 50m ℓ シリンダー(1ℓ 、ビーカー(500m ) 各 間あたりの流出量(流出速度) と噴煙柱崩壊型の火砕 1 ∼ 2 ヶ)、電卓、定規、自動上皿天秤、ビニール袋 流の発生条件との関係について考察する(図 2)。 2. 火砕流モデル実験 大型浣腸器、ゴムチューブ(直径 5mm と 6.5mm を各 60 ㎝ 程度)、ゴム管、アランダム(#2000)、カ ーボランダム(# 800)、食塩 100g 程度、ガラス管、 浮き計り、ゴム栓、薬包紙、薬さじ、油粘土(水に溶 けないもの) 3. 液状化モデル実験 細粒砂と粗粒砂(各数 ㎏)、陶芸用粘土 * はやし じょうじ 岐阜県立各務原高等学校 教諭 〒 504-8585 岐阜県各務原市蘇原新生町 2-63 ☎(0583)83-1015 @ E-mail [email protected] 写真 2 タイプ 3 ・噴煙柱崩壊型の“火砕流” 写真 3 上方からみた噴煙柱崩壊型の“火砕流” 四方に“火砕流”が一団となり移動する。 2. 液状化モデル実験 (1)アクリル透明容器に深さ10cm 程度の乾いた細粒砂 を入れる。 (2)水を 100mℓ ずつ加えた後、 手で打撃、または揺らし、 液状化までの時間を測定する。時間省略のため、一 度液状化した砂を移植ごてなどでよくかき混ぜ、水 を追加する。また、過剰な水は、測った後、取り除 く。 (3)密度や大きさの異なる物体を砂の上、または、中に 沈め(写真 4)、浮沈速度などを測定する。 (4)砂の中に薄い粘土層を挟在させ、噴砂や砕屑性岩脈 などを形成させる(写真 5)。 (5)粒度、含水率、振動方法等による液状化までの時間、 及び、砂や水の挙動について考察する(図 1)。 表 1 噴煙柱の分類表 タイプ 1 が低圧吹きこぼれ型、タイプ 3 が噴煙柱崩壊型の 火砕流に相当する。 タイプ 模式図 特 徴 タイプ 1 混濁液が噴煙柱を作らず、すぐに噴出 口から下降し、噴出口を中心にして混 混 濁液が水槽の底を一塊りに移動する。 タイプ 2 途中まで混濁液が噴煙柱を作り上昇す るが、水槽全体に粒子が拡散して落ち る。 タイプ 3 噴煙柱となってまっすぐ上昇するが、 途中から噴煙柱が下方に崩れて、水槽 の底を一塊りになって移動する。 タイプ 4 噴煙柱は少し真っ直ぐ上昇するが、水 槽の中ほどの位置から水平方向に広が る。 タイプ 5 噴煙柱になって上まで上昇するが、粒 子が全体に拡散して落ちる。 図 1 振動方法・含水率・粒度と液状化の関係 打撃の方が、また、細かい方が、より少ない時間と含水 率で液状化した。 学習指導方法 Ⅰ.ソ 理数科の課題研究 タイプ 6 噴煙柱となって上昇し、水槽の水面近 くで広がる。 このモデル実験は、理数科における課題研究のなか で実施した。理数科 1 ・ 2 年生 80 名が 5 ∼ 6 人のグ ループを組み、数学、物理、化学、生物、地学から選 択し、主体的に課題の設定、実験、報告書の作成、発 表までを 10 ∼ 20 時間程度かけて行った。 写真 4 沈む鉄球と浮き上がるピンポン玉 鉄球は約 10 秒で沈み、ピンポン玉は約 50 秒で浮いた。 実践効果 Ⅰ. 火砕流モデル実験 1. 形成された噴煙柱を 6 タイプに分類した(表 1)。 2. タイプ 3 が噴煙柱崩壊型の火砕流と同様な挙動を 示した。タイプ 3 の発生した条件から、噴煙柱崩壊 型の火砕流は、噴出速度が中程度の噴火の時(図 2)、 噴出物の粒子が大きい噴火の時、火口径の大きい噴 火の時に発生しやすいことが解明できた。 写真 5 噴砂と形成された砕屑性岩脈 Ⅱ.タ 一般の探究活動における実験 一般の授業においては、前項のように多くの時間が 割けないが、仮説や条件を絞ることにより、1 ∼ 2 時 間の授業時間内でも、実験し、グラフ化や考察などが 行える。また、大きな透明容器であるので、演示によ っても現象を印象づけることができよう。 図 2 噴出速度による噴煙柱のタイプ別頻度 径 5mm のチューブを示す。中程度の噴出速度でタイプ 3 が発生しやすい。 3. 生徒は、混濁液が容器の底に作った数 cm の高まり を越えるのを見て、実際の火砕流が数百 mの山も越え てゆくと結論づけるとともに、そのすごさを実感した。 Ⅱ. 液状化モデル実験 1. 液状化は、若干湿った砂においても発生した。振 動より打撃の方が、粗粒砂より細粒砂の方が、短時 間で、また、少ない含水率で発生した(図 1)。 2. 液状化した砂に対し、密度 1.08g/cm3 のスーパ ーボールは動かず、それより密度の小さい物体は浮 き上がり、重い物体は沈んだ(写真 4)。 3. 粘土層を挟んだ場合、容器との隙間を通って水が 表面にあふれ出て噴砂が形成された。壁面との境に は、砕屑性岩脈と同様な構造が観察された(写真 5)。 4. 生徒は、自分の手で振動を与えているので、若干 湿った砂ですら完全に液状化して物体が容易に浮沈 するのを見て、液状化の結果引き起こされる災害に ついて実感した。更に、発表会において、ビデオな どの映像を見ただけの他の生徒にも印象的であった。 その他補遺事項 現在、火砕流モデル実験の噴出装置を、底を切った ペットボトルに改良した(図 3)。この方法は、混濁 液の量、濃度、種類、ガス性成分の混入、高さによる 噴出速度の変更など、様々に条件を変化させることが 可能であり、また、再現性が高い点で優れている。 図 3 改良した噴出装置 再現性が高く、また、条件の変更が容易である。 参考文献 1)下鶴大輔,荒牧重雄・井田喜明編集:火山の事典 (朝倉書店),(1997).
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