4.各セッションでの発表の概要 6/14(火)~6/16(木)には各セッションでの論文発表があった.興味深い発表が多かった が,3つの部屋での同時進行のため講演の選択を強いられた.結局,今回の調査の目的でもあ る軌道(Trajectory)準拠運航や交通同期(Traffic synchronization)・待ち行列管理などに 関係するもの,その他,興味を抱いたものを選び聴講した.以下,日毎に聴講した発表と,そ れらの一部の概要または感想を記述する. 4.1 6 月 14 日(火) <08:30-09:15> 本会議 議長の Ms. Hodge(FAA)と Prof. Duong(EEC)からの事務連絡と来賓挨拶は前述のとおり. <09:45-12:45> 午前のセッション 以下に聴講した発表論文の番号,題名,発表者名などを示す. 飛行の降下フェーズにおけるATM効率プールの推定(Estimating ATM Efficiency Pools in the [116] Descent Phase of Flight) 空側のパフォーマンスの比較:Frankfurt(FRA)とNewark(EWR)の場合(Benchmarking Airport [112] Airside Performance: FRA [76] D. Knorr(FAA) vs EWR) A. Odoni(MIT) 速度調整を用いた交通制御における不確定性の影響(The Influence of Uncertainties on Traffic Control using Speed Adjustments) [103] N. Durand (DSNA) 自動間隔確保アルゴリズムにおける軌道推定誤差の相対的重要性(Relative Significance of Trajectory Prediction Errors on an Automated Separation Assurance Algorithm) T. A. Lauderdale (NASA ) (a) 図4 FRA のスケジュールと遅延の分布 (b) EWR でのスケジュールと遅延分布 Frankfurt と Newark における実機(Movement)数と Arrival 遅延の分布例(出典:文献[112]) 上記講演で,[112]の米国 MIT の Prof. Odoni の発表は明快で興味深いものだった.欧州と米 国の代表的な空港(Frankfurt(FRA)と Newark(EWR))の遅延などパフォーマンスを比較したも のである.図4のように両者の遅延には著しい差異が見られ,その原因を欧州のスロット制御 の存在,米国の VMC 方式の採用としていた.説得力のある講演だった. 1 <12:45-14:00> 昼食(Hotel 内のレストラン) <14:00-17:30> 午後のセッション 聴講した論文を以下に示す. [144] 管制官のタスク負荷の最小化のための情報の価値の評価:グラフに基づく手法 (Determining the Value of Information for Minimizing Controller Taskload: A Graph-Based Approach) [15] A. Vela(Georgia Tech) 空域フロープログラム(Airspace Flow Program)における航空会社のアクションによる遅 延コスト関数の評価(Evaluating Delay Cost Functions with Airline Actions in Airspace Flow Programs) M. Bloem (NASA Ames) [150] 軌道ベース運航の実施の諸問題(Issues for Near-Term Implementation of Trajectory Based Operations) J. Lacher(San Jose State Univ.) [131] ターミナル領域のTA実施のためのデータ通信の使用:実行可能性の検討(Using Data Communications to Manage Tailored Arrivals in the Terminal Domain: A Feasibility Study) R. S. Chong(MITRE) ここで,[114]のタスク負荷(taskload)とは,管制官がコンフリクト回避動作をする頻度の 指標である.また,[15}で,Airspace Flow Programとは米国でFAAが用いている交通流制御の ため出発機に出発を課す仕組みである. 4.2 6 月 15 日(水) 以下に聴講した発表を示す. [153] 柔軟な空域管理概念の実現性と便益:役割,方式,ツールの人間系を含めた評価(Benefits and Feasibility of the Flexible Airspace Management Concept: A Human-in-the-loop Evaluation of Roles, Procedures, and Tools) [49] P. U. Lee (NASA Ames) 航空交通の複雑度マップに基づく交通状況の解析のための方法(Method to Analyse Air Traffic Situation Based on Air Traffic Complexity Map) Zhao Yifei (Civil Aviation University of China) [141] 空域の相転移と相互作用のある4次元軌道の物理(Airspace Phase Transitions and the Traffic Physics of Interacting 4D Trajectories) B. K. Sawhill(NextGen AeroSciences, LLC) [157] 4次元コンフリクト回避の最適化のための地上待機とフライトレベル割当の統合処理 (Combining Flight Level Allocation with Ground Holding to Optimize 4D-Deconfliction) C. Allignol (DSNA) [45] 航空会社の便数競争下での計画的路スロット割当の複数関係者による評価(A Multi-stakeholder Evaluation of Strategic Slot Allocation Schemes under Airline Frequency Competition) V. Vaze(MIT) 2 [123] 航空路交通流管理最適化モデルの応用への協調的手法(Collaborative Approaches to the Application of Enroute Traffic Flow Management Optimization Models) C. Glover(Univ of Maryland) 上記の発表で,興味深かったのは[141]である.実際の講演では,論文名とは異なる「String Theory and the Traffic Interacting 4D Trajectory」という題で発表した.この論文は米国空域システ ム(NAS)での緊迫した問題解決と将来の4D軌道ベースの運用のための解析とシミュレーションの ための基盤(ソフトとハード)開発の報告と,関連分野,特に複雑科学(Complex Science)と交通 物理学の動向を紹介したものである.このシミュレーションでは,NASにおける数千から数万の多 様な航空機に集合力学の概念を用いる.このNASのシミュレーションでは,ノイズや不確実性のもとでパ フォーマンスの最適化と軌道コンフリクトの回避を行いつつ,絶え間なく4D軌道の再計画が行われる.この 能力を持たせるのに航空機自体でなく拡張物体(Trajectories)について擬似ポテンシャル法と修正遺伝的アル ゴリズムを結合したアルゴリズムを用いている. 講演では,交通流で渋滞時の現象を相転移として捉えたりすることや過去の交通モデルの紹介を 含めていた.何よりも,聴衆の興味を引いたのは題名の紐理論(String Theory)だと思うが,軌道 を拡張したObjectとして扱うらしい(図5).詳細は論文[141]を参照されたい. 図5 Charged String の概念(出典:文献[141]) この日の発表は 13:30 までで,その後は,昼食とネットワーク作りのための自由時間であっ た. 4.3 6 月 16 日(木) <08:30-12:00> [30] 午前のセッション 気候変動のATMへの影響の可能な適応(Potential Adaptation to Impacts of Climate on Air Traffic Management) [20] Change A. Melrose(EUROCONTROL) 放出源間のトレードオフに基づく航空機軌道の設計(Design of Aircraft Trajectories based on Tradeoffs between Emission Sources) B.Sridhar (NASA Ames) [90] MINLPを用いた通過ウェイポイントの拘束がある航空路の最適飛行計画(En-Route Optimal Flight Planning Constrained to Pass Through Waypoints using MINLP) M. Soler (Universidad Rey Juan Carlos) [47] 飛行技術誤差がある確率的4-D軌道交通流の幾何学的構造に固有なタスク負荷(ATC 3 Taskload Inherent to the Geometry of Stochastic 4-D Trajectory Flows with Flight Technical Errors) V. Popescu (Georgia Tech.) [20]の講演も良くまとまっており明快だった.内容は最適な軌道作成の問題を扱ったもので ある.一般に,最適化のための評価関数には多くの要素(時間,燃料消費,排出物など)を考 慮する必要がある.この発表では,そのうち航空機の排出物の影響の部分を考察している.特 に,気候変動に対してはCO2,NOx,SOxなどに加え飛行機雲(Contrails)の影響も無視できない という.これらの要素を考慮して,軌道生成のシミュレーションを行っている.図6には,文 献[20]でのORD(シカゴ)とIAD(ワシントン・ダレス)間の経路計算例の概略を示す. 図6 ORDとIAD間の最適軌道の様子(C_rは評価関数中のコスト係数の一つ) (出典:文献[20]) <13:30-17:00> 午後のセッション [25] 航空機のための機能強化した風予測(Enhanced Descent Wind Forecast for Aircraft) J Bronsvoort (Airservices Australia) [40] ターミナル空域精密スケジューリング・スペーシング・システム軌道とキュー管理の設計と評 価(Design and Evaluation of the Terminal Area Precision Scheduling and Spacing System Trajectory and Queue Management) [41] 交通同期におけるトレードオフと諸問題(Trade-offs and Issues in Traffic Synchronization) [19] H. N. Swenson (NASA Ames) C. Gwiggner (ENRI) 管理到着時刻(CTA)スペーシングの解析 (Controlled Time-Of-Arrival Spacing Analysis) J. K. Klooster (GE Aviation Systems) [138] 混合した装備状況にある空域での交通流に基づく軌道管理の人間を系に含めた評価(A Human-in-the-Loop Evaluation of Flow-Based Trajectory Management in Mixed Equipage Airspace) N. Smith(NASA Ames) [25]の講演はAirservices Australiaで行っている連続降下進入(CDA)における風情報処理 システム(TDWT:Taylored Descent Winds Tool)に関する報告である.これは,「オーストラ リアのATMシステムは世界最高」という言葉で始まった.これはFANS(CPDLC, ADS-C),ADS-B 4 などの導入を考えると「そうか!」と思う.このCDAで降下開始点(TOD)を定めるには風ベク トルの予測値がいる.FMSは,データ数の制限から,図7のように4つの高度における(赤字) の風予測情報に基づき,高度間を内挿して求めた予測値に基づき各高度の風ベクトルを計算す る.この風予測情報の精度を高めるためTDWTを開発した.このシステムでは,FMS側で各高度 における風ベクトル(図7の緑の部分に相当)を全体として正確に表現できるように,4つの 高度における風ベクトルの値を作る.そして,TDWTの出力であるその4点での情報をFMSに送 る.この性能の評価は,就航中のA340-500型機(1機)を用いて行っている(EK406便は普通 の方式で,そしてEK408便はTDWTによる風予測で飛行).その結果,TDWTにより高精度の軌道 が実現できたとしている. なお,内容はEIWAC2010に投稿されたものと同様な内容であった.発表者の一人によると EIWAC(ATM/CNSに関するENRI国際ワークショップ)は旅費の関係で参加を取りやめたとのこと だった. 図7 4 点での風ベクトルからの風予測の考え方(出典:文献[25]) 以上のように,この 3 日間で,69 件の発表のうち 23 件を聴講した.総じて,内容もレベル が高い(高度な技法を用いている)ように思えた. 参考までに,ATM Seminar の全ての論文は ATM Seminar の Web サイトからダウンロードでき る. <18:30-23:00> Gala Dinner 市内の川沿いの館で晩餐会.このときは,会議には出席していなかった同伴者なども参加し ていた. 4.4 6 月 17 日(金) <8:00-10:00> 3 つのグループ(容量,環境,安全性)に分かれて特定のテーマで意見交換.長岡は「環境」 のグループに参加.昨日までと異なり参加人員はまばらな感じであった.議題は「環境研究・ 開発のための最適な作品集(Portfolio)は何だろうか?」というものであった. 5 <10:30-13:30> パネル討論,特別講演と閉会式など ■パネル討論: 「いかにして確固たる ATM の研究・開発ポートフォリオ(実施方法書)を作成・管理するか?」 が課題で,4人のパネリストがそれぞれの思うところを述べた.パネリストは K. Toner(JPDO), Bo Redeborn(EUROCONTROL) ,R.J. Hansman(MIT),J. Hoestra(Delft 工大)の四名であった. その後,3つのグループでの議論の結果に関して,幾つかの質疑応答があった.内容として はどこでも同じような議論で特に目新しいことは無かった. 図7 パネリスト達 各人が言っていたことで印象に残ったのは以下のとおり. ・優先順位をつける規準を見出すことが課題(K. Toner) ・技術の革命的発展と進化的発展について解説.ボトムアップ/技術はイノベーションを刺 激する研究を押し上げる(Hoestra) ・ATM の遷移モデルの説明.研究開発は意思決定プロセスと実施を支える. (Hansman) ・SESAR 等での多くの作業は研究よりは実証.NextGen は NowGen で長期的研究は 2050 年ご ろを目指す.NextGen/SESAR は今後の研究の基盤となる.Top-down よりはむしろ Bottom-up の研究となる.システムの革新には長い時間を要する.(Bo Redborn) 司会者(T.Edward)の「必要な容量を満たすための自動化においていかに突破口を見出す か?」の議論では以下のような意見があった. ・ここ 10 年で必要なのは PBN(性能準拠航法).(Bo) ・人間と天候が不確定要素(Hoestra) ・システムにおける非効率は人間に起因(Hansman) ・自動コンフリクト回避がキー(Schroeder) ・自動コンフリクト回避が容量増加につながるか疑問(Hansman) 各グループからの課題では,環境関連の研究に運用データを利用できるようにするのが問題 だとの指摘があった.これに対して EUROCONTROL の Redborn 氏は, 「データの所有権の問題が あって期待にそえてない部分があるが,BADA のように特定の研究目的のために解放しているも 6 のもある. 」とコメントしていた. この他, 「Total end to end の安全性評価では誰が責任を持つのか?」との疑問が出された. これについては Redborn 氏は「共通のリスク評価法を使う必要がある. 」といっていた. これ以外に,「Centralized or Decentralized?」や「連続上昇出発」などの話題が出た. [特別講演] NextGen の研究パートナーシップ (K. Toner) NextGen の歴史の説明.まず,2003 年の Vision100(4 ヵ年で6百億ドル)法案の成立には じまる.NextGen は政府間の強力な連携の下で実施されている.システムの目標とパフォーマ ンス特性を考慮し,航空会社,産業界とも提携している. その後,NextGen 実施の課題などに触れた.以下のようなことを言っていた. ・しっかりとした研究実施方策が安定した科学的成果を生み出す ・研究での挑戦が今後の残る課題 ・航空で天候の研究についてどれだけの正確度が必要だろうか? ・人間とシステムの統合が重要. ・NextGen では相互運用性が重要. [特別講演] 将来を見つめて(Looking to the Futute) (B. Miaillier) 最近,欧州委員会(EC)は 3 つの文書を出した.それらは以下に関するもので, ①Research & Innovation Policy ②運輸政策 ③民間航空の研究 具体的には ①は"Green Paper: From Challenge to Opportunities: Towards a Common Strategic Framework for EU Research and Innovation funding", http://ec.europa.eu/research/csfri/index_en.cfm?pg=documents ②は"Roadmap to a Single European Transport Area-Towards a competitive and resource efficient transport system"という白書, http://ec.europa.eu/transport/strategies/2011_white_paper_en.htm ③は"Flight Path 2050-Europe's Vision for Aviation" http://ec.europa.eu/transport/air/hlg_aviation_aeronautics_en.htm と題するものである.これらは上記の EC のホームページ等からダウンロードできる. 次に ICAO の Aviation System Block の新版に触れた.これは新しい Global Air Navigation Plan の基礎になっている.この文書は 2012 年の第 12 回航空会議で正式承認される予定になっ ているという.この Block はシステムのパッケージで,Block0(2013)から Block3(2028)まで の4つがある.これにより世界的な調和とシステムの相互運用性が図られる. 今後の課題として挙げられたことには以下のようなものがあった. ・我々は概念,専門語などについて明確に早く意思疎通ができるか? ・協同の必要性: 構造が研究を殺さないか? 相互信頼の無さが駄目にしないか? 7 「良い判断は経験から来る.そして,経験は悪い判断から来る.―Murphy's law-」 ・研究の問題: 優先順位,バランス(管理と自由,与えられた問題解決と広範な調査) この他,EUROCONTROL が直面している組織上の問題などに触れた. 図8 B. Miaillier 氏の講演 [連絡事項] 毎年,EUROCONTROL 実験センター(EEC)で 12 月に開催されていた"Innovative Research Workshop"が名前を変えて SESAR WP E の下で開催されることになった.新名称は”SESAR Innovation Days"で,次回は 2011 年 11/29~12/01 日まで Toulouse で開催とのこと. ATM R&D Seminar と交互に 2 年毎に開催される ATM 研究の会議に ICRAT(航空輸送研究に関す る国際会議)がある.次回会議 ICRAT2012 は 2012 年 5/22 日から米国(カリフォルニア大学, Berkeley)で開催される予定とのこと.これには大学院生には旅費等の補助制度がある. 8
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