ホイップドクリーム構造と保形性との相関解析 - SPring

http://support.spring8.or.jp/Report_JSR/PDF_JSR_27B/2015B1896.pdf
2015B1896
BL19B2
ホイップドクリーム構造と保形性との相関解析
Analysis of the Relationship between the Structure of Whipped Cream and
its Shape Retention Ability
井原 啓一 a, 西村 康宏 a, 佐藤 眞直 b, 佐野 則道 b, 梶原 堅太郎 b
Keiichi Iharaa, Yasuhiro Nishimuraa, Masugu Satob, Norimichi Sanob, Kentaro Kajiwarab
a
森永乳業㻔株㻕, b㻔公財㻕高輝度光科学研究センター
a
Morinaga Milk Industry Co., Ltd., bJASRI
放射光を用いた X 線 CT により、ホイップドクリームの気泡分散構造を観察し、従来、真空下
で測定するため昇華による構造変化が懸念される、走査型電子顕微鏡観察の妥当性が検証できた。
その結果、ホイップドクリームの構造、特に気泡が保存中に大きくなることが判明した。更には、
保存中のホイップドクリームの構造変化が小さいものほど、保形性が保持され、ホイップドクリ
ームの構造維持が保形性に大きな影響を及ぼしていることが示唆された。
キーワード: ホイップドクリーム、X 線イメージング、気泡分布、物性
背景と研究目的:
ホイップ用クリームは、液体のクリームをホイップすることで硬さが付与された状態にし、ス
ポンジに塗ったりデコレーションをしたりしてケーキ製造に利用される。その際、ホイップドク
リームの保形性㻔重力によっても形が変わらない程度の硬さを維持する性質㻕が重要な物性となる。
一方、ホイップドクリームは凝集脂肪球を含むクリーム中に同体積もしくはそれ以上の気泡が分
散している構造を取っており、保形性にはその構造、特に気泡分散状態が重要な役割を果たして
いると考えられる。従来は、走査型電子顕微鏡㻔SEM㻕を用いてホイップドクリーム構造を評価して
おり、冷蔵保存中のホイップドクリームの気泡含有量が多いものほど気泡分散状態の変化が少な
く、更には保形性が良好であると報告されている[1]。しかし、SEM 観察では、凍結固定した試料
を真空下で観察するため、測定中に試料が乾燥してしまい、本来の構造が維持されているのかに
ついては疑問がもたれる。非破壊検査である X 線 CT 観察は、SEM 観察での懸念点を解決するこ
とができる手法であるが、ホイップドクリームを凍結したままでの試料環境制御技術は実験室装
置ではまだ開発が進んでいない。これに対し、SPring-8 の BL19B2 では近年冷凍食品の X 線 CT
観察技術の開発が進み、冷凍試料を凍結したまま X 線 CT 観察を行いことが可能な装置が整備され
ている。本実験では、この技術を本研究に応用することにより、今までの知見の妥当性を検討した。
実験:
実験は、BL19B2 の X 線 CT 装置を用いた。クリーム試料は、気泡導入量を変えてホイップし、
ホイップ直後および 1 日冷蔵後のものを用意し、凍結固定した。試料水準の種類は空気導入量 2
種類㻔①対クリームで 150%、②対クリームで 240%㻕とした。試料は、ビームラインの実験ハッチ
横に設置した冷凍庫の中で、最大 5×5×15 mm3 程度の切片に切断した。この試料はドライアイスで
冷却された試料ホルダーにセットした。X 線 CT 観察において使用する X 線のエネルギーは 12.4
keV に設定し、高調波除去のため X 線ミラーをミラー角 4 mrad に設定した。実験ハッチ内に設置
された X 線 CT 用の回転試料ステージに、上記冷却試料ホルダー設置用のマウントと、試料を冷
却するための液体窒素蒸気吹き付け装置をセットした。試料ステージ下流側には X 線 CCD カメ
ラを設置し、試料から X 線 CCD カメラまでのカメラ長については 10 cm 程度とした。画像デー
タのピクセルサイズは、2.94 µm である。冷却試料ホルダーにセットした試料をこの回転試料ステ
ージ上にセットし、液体窒素蒸気吹き付けで約-30°C 程度に冷却し、回転させながら試料の X 線
透過画像を X 線 CCD カメラで測定した。露光時間は 120 ms 、試料回転速度は 1.2 °/s とし、262
枚の透過像を得た。また、ホイップ直後及び 1 日冷蔵後の試料の硬さを以下に述べるペネトロ針
入度㻔Pe㻕測定した。先端角 40°、質量 12 g のアルミニウム製の円錐型コーンを試料表面から自重で
落下させた時にコーンが試料に貫入した深さを mm 単位で測定し針入度とした。この値は大きい
ものほど柔らかいことを示す。本検討では、1 日冷蔵後の Pe とホイップ直後の Pe の差㻔⊿Pe㻕を冷
蔵保存中の硬さ変化の指標とした。
結果および考察:
図 1 に気泡含有量が対クリームで 150%の試料の、図 2 に気泡含有量が対クリームで 240%のホ
イップ直後および 1 日冷蔵後のサンプルの断面図を示した。
1㎜
図 1.気泡含量 150%試料の断面図
㻔a㻕ホイップ直後、㻔b㻕1 日冷蔵後
図 2.気泡含量 240%試料の断面図
㻔a㻕ホイップ直後、㻔b㻕1 日冷蔵後
図 1,2 より、両気泡含有量条件とも、冷蔵保存するとホイップドクリーム中の気泡が大きくな
っていることが分かった。また、気泡含量 150%の試料のほうが 240%の試料と比較して、大きな
気泡の個数が多いことが観察された。これは、井原らの報告[1]と一致した。
次に、冷蔵保存中の硬さ変化㻔⊿Pe㻕を表 1 に示した。
表 1.気泡含量違い試料の冷蔵保存中の硬さ変化㻔⊿Pe㻕
⊿Pe
66
気泡含有量 150%
13
気泡含有量 240%
冷蔵保存後に大きな気泡が多かった気泡含有量 150%品は気泡含有量 240%品と比較して⊿Pe が
大きく、これは井原[1]の報告と一致した。これは、ホイップドクリームの構造変化、特に気泡径
変化が、硬さ変化に影響を及ぼしていることを示唆する。この考察に関しては、今後検証してく
必要がある。
今後の課題:
ホイップドクリームの構造と物性に関する相関解析を進めるためには、気泡の 3D 形状㻔大きさ、
ひずみなど㻕を定量的に評価する手法の開発を今後進めていく必要がある。
参考文献:
[1] 井原啓一 他、日本食品科学工学会誌, 52 㻔12㻕, 553–559 㻔2005㻕.