パラジクロルベンゼン 0.概要 1.名称 [一般名] ・パラジクロルベンゼン P-dichlorobenzene 1-4-ジクロルベンゼン パラジクロルベンゾール パラゾール袋入り、ネオパラ、モスノー等 2.分類コード 1-77-1803-010 1-77-1803-020 4-74-1257-000 4-74-1273-010 CAS 106-46-7 防虫剤:パラジクロルベンゼン単剤 防虫剤:パラジクロルベンゼン合剤 単剤有機塩素系殺虫剤 有機塩素系+その他の殺虫剤合剤 3.成分・組成 防虫剤のP-ジクロルベンゼン(PDBと略)製剤は、通常PDB100% 碁石型 ネオパラ 3.5g/1T パラゾール 4.0g/1T モスノー 4.0g/1T 角柱型 パラゾールノンカットすみっこタイプ 25g/1コ その他大きいものは110g~190gまで様々 球状トイレ用芳香剤 トイレボール 40g/1コ 4.製造会社及び連絡先 防虫剤 白元 03-3835-7561 (消費者相談室) 03-3835-2245 (開発課) 製 造 呉羽化学、住友化学等 5.性状・外観 1)2) 無色、特有の強い刺激性の臭気を有する。板状晶、揮発性 [化学式] C6H4Cl2 [分子量] 147.01 [比 重] 1.4581(20.5℃) [屈折率] 1.5285(60℃) [融 点] 53.5℃(αー型) 54℃(βー型) [沸 点] 174℃ [蒸気圧] 0.64mmHg(20℃) [引火点] 66℃ [溶解性] エタノールに易溶、エーテル、クロロホルム、ベンゼンに可溶、 水に不溶 [蒸気の気中濃度の換算値] 1mg/1L → 166.3ppm、1ppm → 6.01mg/m3 6.用途 2) 防虫剤(塩化ビニールやスチロール・アクテリック樹脂に対しては、溶かした り変形させるので不適。ポリエチレンとポリプロピレンはOK) 殺虫剤、防臭剤 染料中間体の合成原料、農薬 7.法的規制事項 1) 労働安全衛生法 施行令別表第1危険物(引火性のもの) 危規則 第3条告示別表第8有害性物質 (危険物船舶運送及び貯蔵規則) 航空法 施行規則第194条告示別表第9毒物 8.毒性 ヒト 経口最小中毒量 300mg/kg 2)4) 成人男子推定致死量 25g 5) (男子成人20g服用例で異常は認められない)5)9) 推定最小致死量 221mg/kg 6) 眼刺激発現濃度 50~80ppm 4)7) LD50 経口 ラット 500mg/kg 2) 2500mg/kg 7) マウス 2950mg/kg 2) イヌ 1500mg/kgで症状無し 7) 9.中毒学的薬理作用 3)5) 中枢神経系抑制作用:頭痛、めまい、アルコール中毒様の興奮、全身倦怠 刺激作用:特に眼球水晶体の混濁が起こる 肝機能障害、腎機能障害:組織蛋白と結合し、ミクロソームによる変換をうけ て生じるエポキシ中間体が壊死を引き起こすと考え られている。PDB変換によるエポキシ中間体生成 は比較的少ないので、毒性は低いと考えられている。 7) 動物実験による急性中毒の特徴は、粘膜の充血、流涎、流涙、興奮に引き続い て傾眠(sleepiness)、呼吸麻痺である。7) 10.体内動態 [吸収] 経口及び吸入により速やかに吸収される 2)7) 皮膚からはほとんど問題にならない。 2) 分布 :脂肪組織中に高濃度に分布する 7) [代謝] 酸化され、フェノール化合物となり、速やかに硫酸及びグルクロン酸抱合を 受け代謝される。 主な代謝物は2,5-ジクロルフェノールであり、少量が2,5-ジクロルキノール になる 7) メルカプツール酸は生成されない(ウサギの動物実験による) 2) [排泄] 91~97%が5日間以内に尿中に排泄される 2日間以内は50~60%が胆汁排泄される 11.中毒症状 [経口] ・重篤な中毒例は報告がない。7) 消化器系症状として、嘔気、口内違和感 5)、嘔吐、下痢、腹痛など 血便、皮膚の点状出血、アレルギー性紫斑 大量では、不安、興奮、運動失調、ふるえなどの報告あり 6) 動物実験では、大量により肝障害、振せん、5)8) ・3才男児がPDB経口摂取(量不明)で、4日後黄疸、メトヘモグロビン血症、 溶血を来たした1例がある。尿中のPDB代謝物の存在が根拠とされている。 (1959年) 7) [吸入及び接触] ・スプレーした場合、鼻咽頭及び眼が刺激されるが一過性である 9) ・蒸気は皮膚や眼、のどに対して刺激がある 8) 眼球水晶体の混濁がおこる 1) 皮膚に接触すると、その部位に熱感を生じるが、刺激は軽度である 2) 気中濃度 2) 15~ 30ppm 臭気を感じる 80~160ppm 大部分の人が眼、鼻に痛みを感じる 160ppm以上 耐えられない ・衣類を防虫して、手、足、くるぶしの腫脹きたした例あり。 2) [慢性中毒] 吸入及び経口 7) 呼吸器系: ・53才女性が、大量にPDBを3年間使用、蒸気にさらされ、肺肉芽腫を生じ た報告では、肺の生検でPDBに似た結晶が見つかっている。 (1953年) ・ウサギ、ラット、ブタの実験では、長期の吸入で肺の浮腫と充血が報告さ れている。 神経系: ・19才女性が、PDBモスボールを1日4~5コ、2年半にわたり摂取した例 では、摂取中止後緩慢な動作(sluggish)と振せんがみられている。 ・致死量投与マウスの実験では、DDTと同様の振せん症状の報告がある (1976年) 肝臓障害 ・PDB含有の防虫剤販売に従事していた31才女性が、中毒性の肝炎と食道静 脈瘤をきたした報告あり。(1952年) 腎臓障害 ・ウサギ、ラット、ブタの実験では、尿細管と糸球体の変性を伴う腎障害の 報告あり。(1949年) ・69才男性がPDBで処理されている椅子を使用し、呼吸困難を呈した。 2日後、アレルギー性紫斑を来たし、糸球体腎炎を併発した。(1965年) 血液障害 ・21才女性が妊娠中に、1週間に1~2コのトイレ用防臭剤を摂取し、鉄剤 に反応しない低色素性小球性貧血を呈した。症状はPDBの使用中断ととも に消失した。子供に影響はなかった。 (1970年) ・68才黒人女性、PDBとナフタレン含有の防虫剤貯蔵庫勤務39年後に、再 生不良性貧血を発症した報告あり。発症時期は特に蒸気になりやすい高温 の夏期であることから、 著者は、発症が防虫剤に関連していると示唆して いる。 (1978年) ・10~725ppmの濃度で平均4.8年間 PDBに暴露された58人の労働者には血 液上の異常はなかった。 その他: オルトジクロルベンゼンでの報告例 7) ・2例の慢性白血病、2例の骨髄芽球性白血病、1例の骨髄増殖性の症候が報 告されている。(1982年) ・皮膚に対して、水疱形成と色素過剰を引き起こす恐れがある 催奇性 ・800ppm以上の濃度の吸入実験では、ラット及びウサギに対して催奇性はな かった。 [病理組織学的には]2) 慢性中毒の動物実験で 肝臓の混濁腫脹、中心性壊死、腎尿細管上皮に混濁腫脹があり、ウサギで若 干の肺変化がみられている。 オルトジクロルベンゼンに比べると、肝臓、腎への影響は低い。 12.治療法 [経口] 防虫剤として:「中毒の救急処置(中外医薬連載)」6)より引用 なめた程度ならなんの心配もない。 1才以下でかじって食べた事が確かならば、水を飲ませて吐 かせる事を試みる。 吐けば安心だが、もし吐かなくても食べた量が半分以下なら そのまま様子をみて差し支えない。 まれに、嘔気、嘔吐など軽い中毒症状があらわれるかも知れ ないが、それ以上は悪化はしないと考えて良かろう。 万が一症状が悪化するようだったり、食べた量が半分以上な ら胃洗浄、吸着剤や下剤の投与を行う。 基本処置:脂溶性のため牛乳、油脂、脂肪食は避ける ヒマシ油など油性下剤も禁忌。 大量嚥下時には催吐、胃洗浄のあと吸着剤(活性炭60g)と塩類下 剤(硫酸マグネシウム20~40g)を投与 5) 胃洗浄時には破片が吸引できるよう太い管使用(子供24~28フレ ンチサイズ) 特異的処置:血液透析、DHP、腹膜透析の効果は期待できない 拮抗剤なし [吸入] 新鮮な空気の所へ移動 呼吸状態をモニター、要すれば気道確保、加湿酸素投与 咳や呼吸困難が生じれば、気管支炎や肺炎を考慮し、対症療法 13.中毒症例 未ファイル 14.分析法 ガスクロマトグラフィー(未ファイル) 15.その他 参考資料 1)10889の化学商品 2)産業中毒便覧 3)Poisoning(Dreisbach) 4)RTECS 5)救急中毒マニュアル 6)中毒の救急処置、中外医薬 37:10,1984 7)Poisindex V.60、1989 8)Clinical Toxicology of Commercial Products 9)救急医学(特集:中毒)、12(10):1349,1988 16.作成日 920123
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