山岳白書 - 岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会

山岳白書
平成 25 年中の北アルプス登山者と遭難事故のまとめ
写真:北飛山岳救助隊員 堀畑 浩二
岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会
は じ め に
岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会
会 長 國
島 芳 明
平成25年の幕開けは、富山、長野、岐阜の北アルプス(飛騨山脈)一帯において遭難事
故が続発し、その救助活動は悪天候に阻まれるなど困難を極めました。
岐阜県側の西穂高岳へ至る稜線で発生した遭難事故にあっては、気温マイナス20度、
風速20メートルの悪条件の中、下方から巻き上げる暴風によって隊員達の体は不安定と
なり、さらにはホワイトアウト状態のため視界は遮られ、隊員自身の身の安全も危ぶまれ
るものでした。
この救助活動では、救助要請から2日後、警備隊員の決死の活動によって、残念ながら
1人は亡くなってしまいましたが、2人は両手にひどい凍傷を負いながらも生還すること
ができました。
昨年の北アルプス岐阜県側においては、遭難事故は52件発生し、遭難者64人、死者9人、
行方不明者1人、負傷者34人、無事救助20人を数え、遭難事故の統計が記録されている昭
和34年以降において、遭難事故件数、遭難者数ともに過去最高を記録してしまいました。
特に未組織登山者の割合が76.9パーセントと非常に高く、また、50代∼70代が全体の
65.6パーセントを占めるなど、依然として中高年登山者の遭難事故が多発しております。
近年は、ヘリコプターの機動力を駆使するなどして、救助活動は安全で迅速に行えるよ
うになってきましたが、救助活動の裏側には、隊員一人ひとりの苦難と日々の厳しい訓練
の積み重ねがあってこそ成り立っているものであり、現場に出動する人、それを支援する
人など多くのマンパワーに支えられているのが現状であります。
今春から、当協議会事務局は、新しく竣工する
「(仮称)新穂高センター」に事務所を移し、
新たな活動拠点としてさらなる遭難事故防止対策に努めていくこととなりました。
私達はこの北アルプスの地元住民として、また現場で活動する隊員達の思いと同じく悲
惨な遭難事故をなくすため、今後とも関係機関と連携を取りながら、各種遭難事故防止対
策を力強く推進していきたいと考えております。さらなるご支援、
ご協力をお願い致します。
平成26年2月 目 次
第1 登山者の状況
1
登山者数と過去 10 年間の推移 ………………………… 1
2
シーズン別及び年齢別等登山者数の状況 ……………… 2
第2 山岳遭難事故の状況
1
遭難事故の状況と特徴的傾向 …………………………… 3
2
過去 10 年間の発生状況 ………………………………… 4
3
月別発生状況 ……………………………………………… 4
4
山岳別発生状況 …………………………………………… 5
5
原因別 ・ 遭難者の性別発生状況 ………………………… 5
6
遭難者の山岳会所属状況 ………………………………… 6
7
登山届の提出状況 ………………………………………… 6
8
遭難パーティーの人数構成状況 ………………………… 6
9
遭難事故の届出状況 ……………………………………… 7
10
遭難者の年齢別状況 ……………………………………… 7
11 遭難者の職業別状況 ……………………………………… 8
第3 山岳警備活動の状況
1
山岳警備活動の概況 ……………………………………… 8
2
安全登山指導活動の状況 ………………………………… 8
3
山岳遭難救助活動の状況 ………………………………… 9
4
ヘリコプターの活用状況 ……………………………… 11
5
山岳遭難救助訓練の状況 ……………………………… 12
6
広報活動等の状況 ……………………………………… 13
7
手記 ……………………………………………………… 14
別表 1 平成 25 年 ・ 山岳遭難事発生一覧表
別表 2 平成 25 年 ・ 山岳遭難事故発生分布図
第 1 登山者の状況
1 登山者数と過去 10 年間の推移
平成 25 年中の登山届による岐阜県側からの北アルプスへの登山者は、
17,062 パーティー、37,620 人
を数え、前年よりパーティー数では 380 パーティー(2.1%)
減少、登山者数についても 2,318
人
(5.8%)減少したが、過去最高を記録した昨年に次ぐ過去 2 番目の登山者数となっている。
また、このうち単独登山者は、
7,395 人
(前年比+ 319 人)
となり、単独登山者数については過去最高を数え、登山者全体に占める割合は 19.7%と
なった。
【パーティー数の推移】
18,000
17,000
16,000
15,000
14,000
13,000
12,000
11,000
10,000
9,000
8,000
パーティー数
平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年
8,858 8,639 9,267 9,172 9,825 11,242 13,003 13,832 17,442 17,062
【登山者数の推移】
42,000
7,500
40,000
7,000
38,000
6,500
36,000
6,000
34,000
5,500
32,000
5,000
30,000
4,500
28,000
4,000
26,000
3,500
24,000
3,000
22,000
2,500
平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年
登山者数
(人) 23,635 23,380 25,281 24,551 25,885 27,647 30,948 32,311 39,938 37,620
単独登山者数
(人) 2,973
7,395
5,148
5,694
7,076
3,080
3,214
3,445
3,662
4,294
注・パーティー数、登山者数は提出された登山届による。
1
2 シーズン別及び年齢別等登山者数の状況
【シーズン別登山者数】
総登山者数 37,620人
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
登山者数(人)
春 山
夏 山
秋 山
冬 山
2,991
20,775
11,893
1,961
【パーティー ・ 単独登山者別】
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
パーティー登山者数
うち 単独登山者数
パーティー数
17,062
ー
登山者数(人)
37,620
7,395
【過去 10 年間の推移】
1,664
40,000
1,961
35,000
1,052
30,000
25,000
20,000
1,191
5,792
838
6,606
1,171
7,638
1,266
7,567
1,591
14,438
11,893
1,092
1,270
10,243
10,971
秋山
9,995
8,025
冬山
夏山
春山
15,000
10,000
17,738
14,816
14,168
14,962
14,141
15,061
15,172
1,836
1,768
1,510
1,577
1,529
1,388
18,151
21,672
20,775
5,000
0
23,635
平成16年
23,380
平成17年
25,281
平成18年
24,551
平成19年
25,885
平成20年
27,647
平成21年
2
1,915
30,948
平成22年
1,598
32,311
平成23年
2,164
39,938
平成24年
2,991
37,620
平成25年
【年齢別 ・ シーズン別登山者の状況】
20 未満
20 代
(人)
30 代
40 代
50 代
60 代
70 以上
不詳
春山期間中
40
212
595
621
536
423
102
462
夏山期間中
1,177
1,505
3,087
3,225
3,214
3,645
929
3,993
秋山期間中
193
927
2,114
2,002
1,882
2,185
526
2,064
冬山期間中
23
202
451
415
333
221
31
285
1,433
2,846
6,247
6,263
5,965
6,474
1,588
6,804
合
計
中 高 年 別
総
合
10,526(28.0%)
(18.1%)
20,290(53.9%)
37,620
計
第 2 山岳遭難事故の状況
1 遭難事故の状況と特徴的傾向
平成 25 年中の遭難事故は、
発生件数 52 件(前年比+ 9 件)、遭難者数 64 人(前年比+ 11 人)
となり、遭難事故件数及び遭難者数ともに過去最高となり、遭難者の内訳は、
死者 9 人、行方不明者 1 人、負傷者 34 人、無事救出者 20 人
となった。
遭難事故の特徴としては、
遭難者 64 人のうち 47 人(73.4%)が、40 歳以上の中高年層であった。
年代別では、50 代∼ 70 代での遭難者が 30 人(65.6%)
と多発した。
遭難者における男性の割合が 44 人(68.8%)
と高い。
単独、2 人パーティーの少人数での遭難事故が 36 件(69.2%)
と多い。
未組織登山者によるもの 40 件(76.9%)
と高い比率を占めた。
これまで、遭難事故の過半数が登山届未提出であったが、23 件(44.2%)と未提出率が
低かった。
年 別
平成 25 年
平成 24 年
発生件数
(件)
52
43
+9
+ 20.9
遭難者数(人)
64
53
+ 11
+ 20.7
亡
9
9
0
0
行 方 不 明
1
0
+1
傷
34
30
+4
+ 13.3
無 事 救 出
20
14
+6
+ 42.9
区 分
内
訳
死
負
増減数
増減率(%)
平成 25 年中に発生した山岳遭難事故の概要は、別表 1「平成 25 年遭難事故発生一覧表」
及び、別表 2「平成 25 年山岳遭難事故発生分布図」のとおりである。
3
2 過去 10 年間の発生状況
平成 25 年中は、発生件数 52 件、遭難者数 64 人と過去最高となり、遭難件数では平成 23
年、遭難者数では平成 19 年の最高記録をそれぞれ上回った。
区 分
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
発 生 件 数( 件 )
28
32
46
48
40
40
44
51
43
52
遭 難 者 数( 人 )
28
37
56
62
49
45
56
61
53
64
死
亡
1
7
14
8
5
12
3
5
9
9
行方不明
0
0
1
0
1
1
2
0
0
1
傷
16
17
24
27
23
17
27
25
30
34
無事救出
11
13
17
27
20
15
24
31
14
20
内
訳
H16
負
3 月別発生状況
1 月から 3 月まで毎月死亡事故が発生した他、夏
山最盛期の 8 月に 21 件を数え、近年登山者の増加
傾向にある 9 月や 10 月も遭難事故が発生している。
区 分
季節別
冬
春
月 別
発生件数
(件)
遭 難 者 数 (人)
死 亡
行方不明
1
計
4
1
2月
2
2
3月
1
1
4月
2
5月
4
1
1
2
4
7月
7
2
3
5
10
8月
21
1
15
10
26
9月
8
8
1
9
10 月
3
1
1
1
3
52
9
34
20
64
山
3
無事救出
1月
山
1
負 傷
1
6
3
1
2
2
6月
夏
秋
山
山
11 月
冬
山
12 月
合 計
1
4
4 山岳別発生状況
依然として槍穂高連峰での遭難事故が多く、槍穂高連峰で全体の 39 件(75.0%)が発生
しており、死亡事故も 6 人(66.6%)が槍穂高連峰となっている。
区 分
山域別
乗
焼
鞍
槍穂高連峰
西
奥
涸
北
南
槍
奥
双
弓
抜
笠
錫
北
穂
穂
高
高
沢
穂
高
ヶ
丸
六
折
戸
ヶ
杖
ノ
俣
合 計
発生件数
(件)
岳
岳
岳
岳
岳
岳
岳
岳
山
岳
岳
岳
岳
岳
岳
1
1
14
11
1
4
5
4
1
2
2
2
1
2
1
52
遭 難 者 数 (人)
死 亡
行方不明
1
4
1
負 傷
無事救出
2
11
7
1
2
4
1
2
4
1
4
2
3
1
2
1
2
1
1
1
1
1
9
1
2
1
20
34
計
2
1
17
13
1
6
7
4
1
3
2
2
1
3
1
64
5 原因別 ・ 遭難者の性別発生状況
遭難者に占める男性の割合が 44 人(68.8%)と高い。また、登山道上で石等につまずい
て転倒し骨折するなど、初歩的なミスが目立っている。
原因別
転落
滑
・ 落
転 倒
発 病
落
悪
疲
道
熊
区 分 発生件数
(件)
バランス崩し
流 さ れ る
滝つぼに飛込
踏 み 外 し
つ ま づ き、 ス リ ッ プ
原 因 不 明
ス リ ッ プ
バランス崩し
つ ま づ き
高
山
病
心
疾
患
過
呼
吸
熱( 日 ) 射 病
石
天
候
労
迷
い
に 襲 わ れ る
合 計
4
1
1
3
6
4
4
1
7
2
1
1
1
4
2
2
7
1
52
死 亡
遭 難 者 数 (人)
行方不明 負 傷 無事救出
4
2
1
2
4
5
3
1
4
1
7
2
1
1
1
1
1
3
2
2
1
1
34
9
1
5
2
3
9
20
計
6
1
2
4
5
4
4
1
7
2
1
1
1
4
5
3
12
1
64
遭難者の性別(人)
男性
女性
3
3
1
2
3
1
1
4
4
3
1
1
6
1
2
1
1
1
2
2
4
1
2
1
8
4
1
44
20
6 遭難者の山岳会所属状況
遭難事故 52 件のうち、山岳会等に所属していない未組織登山者による遭難事故は 40 件
(76.9%)
と高い割合を占めている。
所属別
社会人山 岳会
8
ツアー及びガイド登山
4
未
組
遭 難 者 数 (人)
発生件数
(件)
区 分
織
合 計
死 亡
行方不明
2
40
7
52
9
負 傷
1
1
無事救出
計
比率(%)
6
4
13
15.4
4
2
6
7.7
24
14
45
76.9
34
20
64
100
7 登山届の提出状況
本年は、遭難事故の半数以上で登山届がきちんと提出されていたが、未提出も 23 件発
生しており、今後も継続的な提出呼びかけを行う必要がある。
区 分
提出別
提
未
提
発生件数
(件)
遭 難 者 数 (人)
死 亡
出
29
5
出
23
4
52
9
合 計
行方不明
1
1
負 傷
無事救出
計
20
13
39
14
7
25
34
20
64
8 遭難パーティーの人数構成状況
単独、2 人パーティーの少人数で遭難事故が
36 件(69.2%)と多くなっているが、ツアー及び
ガイド登山中の遭難事故が 4 件発生した。
区 分
構成別
発生件数
(件)
遭 難 者 数 (人)
死 亡
単
独
17
4
2
人
19
3
人
4
5
6人
11 人
行方不明
無事救出
計
8
4
17
3
14
6
23
8
1
7
8
16
人
1
1
人
1
∼ 10 人
3
2
3
3
以
合 計
上
52
1
負 傷
1
9
1
6
34
1
1
1
3
3
20
64
9 遭難事故の届出状況
遭難事故発生の一報は、本人から携帯電話による直接救
助がある他、別の登山者からの目撃情報、家族からの届出
等がある。
山岳地域では沢筋などの不感地帯が多く、特に単独登山
者は救助要請が遅れがちになるため、万が一の際に備え登
山届を確実に提出することが安全につながる。
通 報 者
区 分
届出方法
本人
携
帯
電
話
加
入
電
話
口
頭
10
同行者
一般登山者等
9
山小屋
8
家族・職場
警備隊員 所属山岳会
4
3
1
4
4
計(件)
4
35
1
4
1
10
アマチュア無線
そ の 他( 目 撃 等 )
合 計
2
11
13
12
7
1
3
3
1
5
52
注・遭難者の届出方法で計上
10 遭難者の年齢別状況
遭難 64 人のうち、47 人(73.4%)が 40 歳以上の中高年登山者層によるもので、特に 50 代∼
70 代で多かった。
最年少は 8 歳(小学生)で高山病を発症、最高齢は 82 歳(無職)で疲労等からくる行動不
能であった。
区 分
年齢別
遭 難 者 数 (人)
死 亡
行方不明
負 傷
20 歳未満
20 代
計(人)
無事救出
1
1
4
5
9
5
1
7
2
1
5
30 代
1
40 代
1
50 代
5
6
2
13
60 代
2
9
6
17
8
4
12
34
20
1
70 歳以上
合 計
9
1
7
17
(26.6%)
47
(73.4%)
64(100%)
11 遭難者の職業別状況
遭難者の高齢化に伴い、無職者や主婦層の事故が会社員に次いで多発している。
遭 難 者 数 (人)
区 分
職業別
死 亡
会 社 役 員・ 会 社 員
公
務
4
負 傷
13
員
医
者・
看
護
師
教
員・
保
育
士
自
行方不明
営
2
業
無事救出
7
24
1
1
1
3
3
3
4
団 体 職 員・ 派 遣 社 員
4
2
1
4
専 門 学 校 生・ 学 生
1
1
2
パ ー ト・ ア ル バ イ ト
1
無
職
・
そ
主
の
1
計
婦
2
11
他
1
2
合 計
9
1
34
1
6
19
3
20
64
第 3 山岳警備活動の状況
1 山岳警備活動の概況
北飛山岳救助隊
(岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会附置機関、以下「救助隊」という。
)
と、岐阜県警察山岳警備隊飛騨方面隊(以下「警備隊」という。)は、共に年間を通して新穂
高登山指導センターの開設、山岳パトロール、穂高常駐活動等を実施し、山岳遭難事故の
防止を図るとともに、大型連休や遭難事故の発生が予想される時期には、岐阜県警察航空
隊(以下「航空隊」という。)の応援・協力を得て、遭難防止に資する山岳情報の収集と遭難
者の救助活動に当たっている。
2 安全登山指導活動の状況
⑴ 新穂高登山指導センターの開設
北アルプス岐阜県側登山口に当たる新穂高温泉において、各
登山シーズン中
「登山指導センター」
を開設し、登(下)山届の受
理、分析、山岳情報の収集・提供等登山者に対する安全指導を
実施した。
また、穂高常駐、山岳パトロール、遭難事故出動時における
無線中継や各種情報の収集・伝達等に当たる前進基地としての
役割を果たしている。
⑵ 山岳パトロール活動
登山者の最も多い夏山シーズン中には、北アルプス岐阜県側を中心に山岳パトロールを
8
実施し、登山者への安全指導、登山ルートの整備、遭難者の救助活動等に当たっている。
また、夏山警備期間中のみならず、ゴールデンウィークや紅葉期、年末年始等に随時山
岳パトロールを実施し、遭難事故防止を図った。
⑶ 穂高常駐活動
警備隊は、穂高岳山荘を拠点として、特に険しいルート・地形を持ち、遭難事故の多発
する穂高連峰の常駐パトロールを実施し、登山者の安全指導と遭難者の救助活動等に当た
るほか、救助隊は槍穂高連峰のパトロールを実施している。
区 分
活動別
延活動日数
(日)
延活動人員(人)
救助隊
警備隊
計
登山指導センター常駐
55
134
134
268
山 岳 パ ト ロ ー ル
30
71
34
105
穂
55
6
193
199
140
211
361
572
高
常
駐
計
3 山岳遭難救助活動の状況
捜索が長期化する行方不明事案は 1 件のみであったため、遭難事故 1 件当たりの平均出
動日数は 1.23 日、平均出動人員は 13.1 人(救助隊 1.9 人、警備隊 11.2 人)
となっている。
区 分
年 別
延出動日数
(日)
延活動人員(人)
救助隊
警備隊
計
平 成 21 年
55
54
334
388
平 成 22 年
60
181
446
627
平 成 23 年
63
112
423
535
平 成 24 年
65
123
574
697
平 成 25 年
64
97
582
679
【主な活動事例】
1 月 1 日、3 人パーティ(男性・44 歳、50 歳、女性・60 歳)が西穂高岳南方コル付近で
1 人が低体温症のため行動不能となり救助要請。
通報を受けすぐさま救助に向かったものの、風速 20 メートル以上の暴風と荒れ狂う
吹雪で断念。現場でビバークを指示し、西穂山荘で待機中の警備隊員が翌日救助に向か
い、西穂高岳から南方のコル付近で遭難者を発見したが、1 人は凍死、2 人は凍傷など
で重傷であったが自力歩行が可能であったため警備隊員がサポートしながら下山し、病
院へ搬送した。
2 月 10 日、夫婦 2 人(男性・63 歳、女性 58 歳)で独標から下山中、吹雪で視界不良のた
めルートを見失い妻が岐阜県側へ滑落。妻本人からの 110 番通報で事故を認知し、その
9
後、捜索のため夫が沢に入り妻を発見し再び 110
番通報があったもののその後消息を絶った。
悪天候でヘリが飛べなかったため、警備隊員と
北飛山岳救助隊山小屋班の隊員で現場に向かうも
暴風により発見に至らず、翌日も捜索を開始した
が風速 15 メートル以上で視界不良となり再び発
見に至らなかった。
12 日になり天候が回復し、早朝から警備隊と
航空隊で捜索を開始、航空隊により標高 2,500 メートル付近で上着を発見、その後隊員
を降下させ付近を捜索したところ、2 人の遺体を発見し、収容した。
4 月 29 日、穂高岳山荘従業員が山荘南側の鎖場から滑落する遭難者を目撃し、救助要
請すると共に、救助隊山小屋班である隊員が現場へ急行、山荘内へ怪我人を収容し、そ
の後、要請を受けた航空隊と警備隊により遭難者を病院へ搬送した。
遭難者(男性・36 歳)は夫婦 2 人パーティーで上高地から入山、妻は疲れていたことか
ら涸沢ヒュッテで待機し、夫が 1 人で奥穂高岳へ向けて登山を開始、鎖場付近でバラン
スを崩して滑落したもの。
遭難者は、右腕の開放骨折、頸椎骨折、頭部裂傷など重傷で、病院搬送時には意識不
明の重体であったが、数日後意識を取り戻し一命を取り留めた。
7 月 6 日、3 人パーティー(男性・27 歳 3 人)
で、白出沢から奥穂高岳へ向けて登山予定
であったが、渡渉点が大雨による増水で渡れないことを知り、西穂高岳から奥穂高岳へ
の縦走コースに変更した。
しかし、3 人は北アルプスの登山は初めてであり、西穂高岳から奥穂高岳へのルート
がエキスパートルートであることを知らずに入山、ガスや雨、強風などで体力が低下し
行動が遅れはじめ、夜間になり視界も閉ざされ道に迷ったため山小屋へ自ら救助要請。
一報を受け夜間であるにも関わらず、救助隊山小屋班である隊員が現場へ出動し、奥
穂高岳山頂付近で行動不能になっている遭難者を発見、サポートしながら下山させ、午
後 10 時 30 分に山小屋へ収容した。
7 月 7 日、槍平小屋支配人から「増水した南沢で流されていく人を見たという届出を
受けた」と通報があった。
届出者は、南沢が増水し川幅約 4 ∼ 5 メートルに
なっていたため渡るか引き返すか悩み立ち止まって
いたところ、後から下山してきた登山者がザイルを
取りだし樹にくくりつけ渡り始めたが途中で流され
たところを目撃したものであった。
一報を受け、救助隊山小屋班である槍平小屋の支
配人等が現場付近を捜索したが発見できず、天候が
回復した翌日、航空隊、警備隊で捜索をしていたと
10
ころ、右俣谷の川の中央付近において岩に引っかか
りうつぶせに倒れ死亡している遭難者
(男性・30 歳)
を発見し、収容した。
8 月 5 日、6 人パーティーで南岳小屋から南岳新道
を下山中、1 人(女性・54 歳)が濡れた岩場で足を滑
らせ約 3 メートル滑落し左腕を骨折、現場は携帯電
話が通じないことから同行者が槍平小屋へ向い救助
要請。
現場付近をパトロール中だった北飛山岳救助隊と槍平小屋従業員が現場へ出動、サ
ポートしながら小屋へ収容、天候が悪くヘリコプターでの救助が見込めないが、遭難者
の自力歩行が可能であったため、パトロール隊員が付き添い下山し救急車へ引き継いだ。
妻から「8 月 17 日の下山予定日を過ぎても夫が帰宅しない」との届け出を受理、8 月 15
日に南岳小屋から送られたメールが最後であったため、航空隊と警備隊が稜線上を捜索
していた所、一般登山者から「ピークの飛騨側 100 メートル付近に人が落ちている」との
通報を受理、西穂高岳をパトロール中の救助隊員もピラミッドピークから岐阜県側へ
100 メートル下方で動かない状況の遭難者(男性・51 歳)を確認し、その後、航空隊と警
備隊により死亡している遭難者を収容した。
10 月 1 日、4 人パーティーで登山中に、鏡平山荘手前で 1 人(男性・53 歳)が苦しそう
にして嘔吐し倒れたため、同行者が救助要請。また、休暇を取って登山中に通りがかっ
た消防署員が心臓マッサージを施し、更に同行者の 1 人が鏡平山荘へ救助要請、救助隊
山小屋班である従業員も現場急行し心肺蘇生を継続、その後航空隊と警備隊により現場
から救助し病院へ搬送したが心筋梗塞により死亡。
4 ヘリコプターの活用状況
近年の山岳遭難救助活動には、遭難者の一刻も早い救助活動はもちろん、現場の隊員達
にとっても、安全で迅速な救助活動に必要不可欠である。
平成 25 年中の遭難事故における出動回数は、52 件中 40 件(76.9%)と、過半数の遭難事
故に出動し、多くの命を救っている。
区 分
発生件数(件)
ヘリコプター出動件数(件)
出動率
(%)
平 成 21 年
40
25
62.5
平 成 22 年
44
27
61.4
平 成 23 年
51
27
52.9
平 成 24 年
43
34
79.1
平 成 25 年
52
40
76.9
年 別
※ 1 件で 1 出勤として計上
11
5 山岳遭難救助訓練の状況
遭難現場での救助活動は、悪天候や夜間
に及ぶこともあり、必然的に人力に頼る部
分が多くなっていることも事実である。
そのため、そのような厳しい現場で安
全で迅速な救助活動を実施するため、救
助隊や警備隊は合同訓練を実施する他、
縦走訓練、ヘリコプターとの合同訓練、
飛驒警察署神岡警部交番庁舎壁面の人工
登はん壁を活用した訓練等を実施し、個々
の救助技術の向上や登はん技術の向上を
図っている。
救助隊
種別
実施月
冬山
2月
2
高山消防署上宝分署
救命講習及び訓練棟での登は
ん訓練
夏山
6月
1
西穂高岳・焼岳
縦走及び遭難者搬送訓練
1月
3
脇谷山・猫岳・猪臥山
雪上訓練
2月
6
西穂高岳・高山消防署上宝分署他
〃
3月
5
四ツ岳・猿ヶ馬場他
航空隊合同訓練他雪上訓練
4月
4
御嶽山・神岡警部交番人口登はん壁
登はん訓練・雪上訓練
5月
6
籾糠山・流葉山他
縦走訓練
6月
6
槍ヶ岳・国見山他
縦走訓練
7月
8
槍ヶ岳・双六岳・笠ヶ岳他
縦走訓練・高山消防合同訓練
9月
4
神岡警部交番人口登はん壁・岩坪谷他
登はん訓練・沢登り訓練
10 月
3
御嶽山・錫杖岳他
縦走訓練他
11 月
2
神岡警部交番人口登はん壁・位山
登はん訓練・縦走訓練
12 月
3
西穂高岳・焼岳
県警航空隊との合同訓練及び
縦走訓練
冬山
警
備
隊
春山
夏山
秋山
冬山
日数
訓 練 場 所
12
訓 練 内 容
6 広報活動等の状況
広 報 活 動
山岳情報の提供
「山岳白書」
の発行
概 要
登山指導センター常駐、山岳パトロール、穂高常駐活動等を通して気象
情報、山岳情報を提供
航空隊の協力で撮影した航空写真及びビデオを山岳情報として登山指導
センターで活用するとともに報道機関へ資料提供
インターネットにより、登山者に向けて山岳情報、知識を提供するとと
もに登山届
(計画)をメールで受理
各県山岳連盟及び関係機関、団体に送付
山岳情報等広報紙の
発行、配布
県に協力し、三県危険マップ作成
登山届提出一声運動の実施
春山、冬山の山岳情報等チラシの配布
ミニ広報紙へ山岳情報等を掲載
啓蒙ポスター、
チラシの掲示配布
啓蒙チラシ等を指導センター、登山口の登山ボックス、観光案内所に掲
示、配布
英語・韓国語の登山届用紙を、登山指導センターに常備
山岳遭難事故発生場所
図面の活用
山岳遭難事故の発生状況を地図上に示し、登山指導センター前の掲示板
に表示
危険地域登山者に対する
指導・警告活動
県山岳遭難防止対策協議会が危険地域に指定している「滝谷」
「穴毛谷」へ
の登山者に対する指導・警告を登山指導センターで実施
小中学校登山への
指導員の派遣
高山市北稜中学校の全校登山に指導員を派遣
同栃尾小学校の親子登山に指導員を派遣
同本郷小学校の親子登山に指導員を派遣
その他
山岳雑誌
「山と渓谷」、
「岳人」への資料提供
テレビ、ラジオ、新聞等広報媒体への資料提供
登山指導センターにおけるマイク広報の実施
各種会合における安全登山の一口広報
山岳救助活動に功労のあった部内外者の表彰
13
7 手記
厳冬の北アルプス
槍穂高連峰での救助を目指して
岐阜県警察山岳警備隊飛驒方面隊
高山警察署 佐
々 木
拓 磨
1 はじめに
私は現在、高山警察署の丹生川駐在所に勤務しています佐々木と言います。山岳警備隊
員になってから 9 年目になります。今回、昨年(平成 25 年)正月に起きた西穂高岳の山岳
遭難について書こうと思うのですが、私はあまりひとつひとつの現場を覚えていません。
それというのも現場に出動する隊員にとって大切なのは、今後起きる山岳遭難に対処で
きるかどうかであり、過去は今後のステップアップや反省、教訓のためにあると思うから
です。
それでも振り返ってみると、西穂高岳の現場は、厳しい条件の下、やるべきことはやっ
たという自負があります。現場に到着した時、1 名の方は既に亡くなっていましたが、 残りの 2 名は無事に救助することができました。ただこれはあくまで結果です。気象条件
や遭難者の状況によって、結果が良くなることもあれば、悪くなることもあると自覚して
います。
2 厳冬の北アルプス槍穂高連峰での迅速的確な救助を目指して
∼山岳警備隊の基本は地上からの救助∼
西穂高岳の山岳遭難に触れる前に、私の山
岳救助の考えを話したいと思います。
現在山岳救助の主流は、ヘリコプターによ
るものであることは、どこの国や県でも変わ
りないと思います。気象の変化が激しい中で、
パイロットや整備士の方々には、相当な負担
があると思いますが、遭難者の生命身体に対
する負荷や人力搬送する場合の労力、搬送時
間等を考えれば、ヘリで救助できるに越した
ことはありません。
しかしながら、気象条件からヘリが飛べない場合もありますし、ピンポイントでピック
アップできない場合もありますので、山岳警備隊についてはそのような場合も想定して、
地上での活動ができなければならないと思います。
この北アルプス岐阜県側では、日本を代表する穂高連峰、槍ヶ岳とその稜線の険しい
場所が続きます。そして冬には相当な降雪もあり、夏と比較すると格段に難易度が上が
ります。
14
よって管内全ての山岳遭難事故に対応するためには、最も厳しい条件である「厳冬の北
アルプス槍穂高連峰」で活動できることが必要であり、目標であると考えています。
3 山にベテランはいない
それでは、私の山岳警備隊での活動につい
て話します。
一昨年の平成 24 年ゴールデンウィークに
発生した涸沢岳直下での大量遭難、奥穂高岳
間違い尾根における収容、そして夏場には滝
谷における収容等に出動し、改めて地上での
救助活動の必要性を認識し、またそのような
現場を経験して自信も付いてきました。
そのような中、昨年正月の西穂高岳の遭難
の一報を聞いた時、天候がしばらく悪くヘリのフライトが望めないことや、3 人が行動不
能に陥っていることから厳しい現場になることは予想がつきましたが、一方で岐阜県警察
山岳警備隊が、そして自分自身が、どこまでできるのかとの思いがふつふつと沸き上がり
「やってやるぞ」という気持ちになりました。
結果は先に書いた通りですが、
終始岐阜県側から吹き上げる強風とホワイトアウトの中、
西穂高岳山頂直下の遭難者のもとにたどり着き、2 名の遭難者は自力で歩行できたため、
ロープを結びつつ安全確保して無事下山させることができました。
この遭難事例は、遭難者が自力歩行できたから良かったものの、もし行動不能であった
ならば、あの場所から背負うことは不可能でしたので、食料等を置いて帰り天候回復を待
つ予定でした。
できるだけのことはするが、それ以上のことはできない。遭難者を前にして、山岳警備
隊員として色々やってあげたい気はありますが、実力以上のことはできません。自然に打
ち勝つことはできませんし、山岳警備隊だけ特別ということはありません。 私が参考にしている考え方で「ハインリッヒの法則」と「マーフィーの法則」と呼ばれるも
のがあります。前者が重大事故の背景には多数の軽微な事故が発生しているということ、
後者が失敗の可能性があるならいずれ失敗するということです。
多くの登山者にとって、登頂という結果を重要視するかと思いますが、山岳警備隊の活
動目的はもちろん登頂ではありません。救助が目的です。しかし、結果が出れば過程が疎
15
かであっても良いという訳では決してありま
せん。先の法則に当てはめれば、過程も重要
であり、危ない面があれば改善していく、よ
り良い内容での救助活動ができるようにして
いくことが山岳警備隊にとって必要であり、
より良い結果にも結びつくことだと私は信じ
ています。
私も山岳警備隊 9 年目になり、たまに「ベ
テラン」と呼ばれることもありますが「今まで
大丈夫だったから、今後も大丈夫」という確信はありません。コツコツと訓練や現場を積
み重ねてより安全に活動ができるようにしていきたいと思います。
4 最後に
山岳警備隊の視点から手記を書かせていただきました。しかし山岳遭難というと、世間
ではどうしてもヘリコプターや山岳警備隊がクローズアップされますが、ひとたび遭難が
発生すると北飛山岳救助隊や各山荘のスタッフの皆さんに本当に数多く出動してもらって
います。また新穂高ロープウェイの皆さんにも遭難発生時には早朝夜間を問わず臨時便を
出していただいたりする等、関係機関の協力無くして私達は満足な活動が出来ません。山
岳警備隊員として信頼されるよう努力していきますので、今後ともご協力よろしくお願い
致します。また、これを読んでいただいた登山者の方々も事故のないよう慎重に登山され
ることを心から願います。
16
3月2日
4月28日
4月29日 奥穂高岳
5月5日
〃
5月8日
5月9日
7月6日
7月7日
7
8
9
10
11
12
13
14
15
南岳
奥穂高岳
北ノ俣岳
〃
〃
〃
槍ヶ岳
錫杖岳
〃
2月24日
奥穂高岳
6
〃
4
〃
2月10日 西穂高岳
1月12日
3
〃
5
1月7日
2
西穂高岳
〃
〃
無所属
社会人山岳会
〃
〃
無所属
社会人山岳会
〃
〃
無所属
社会人山岳会
〃
無所属
社会人山岳会
単
3
単
2
単
単
2
2
単
2
2
単
単
2
3
構成
人員
有
有
無
無
有
有
有
有
有
有
有
有
有
無
有
届出
1月1日
所属山岳会名
男
会社員
会社員
会社員
会社員
男
男
男
27
27
27
30
会社員
医師
教員
会社員
会社員
会社員
会社員
男
男
男
男
男
女
男
団体職員
無職
医師
派遣社員
会社員
無職
会社員
会社員
銀行員
職 業
三重県
神奈川県
東京都
東京都
岐阜県
岐阜県
愛知県
愛知県
神奈川県
東京都
東京都
東京都
静岡県
静岡県
群馬県
千葉県
広島県
神奈川県
神奈川県
神奈川県
住 所
1
1
1
2
1
1
1
1
1
1
1
2
3
1
1
1
死亡 不明 負傷 その他
死 傷 別
1
1
3
2
1
1
1
1
1
1
1
1
2
単独で西穂高岳に登山中、出発遅れで山頂から下山する際午後3時を過ぎてお
り、独標付近でホワイトアウトになりさらに遅延。日没になったがヘッドランプが
故障し行動不能となり救助要請。
単独で、1月11日から北アルプス長期縦走計画で入山したが、下山予定日の
1月30日を過ぎても家族への連絡が無いため、所属山岳会を通じて届出。
2人パーティーで独標から下山中、吹雪による視界不良でルートを見失い妻が滑
落。 本人からも110 番通報があったが、同行者の夫も捜索のため滑落した沢
に入り以後消息不明となった。 12日に捜索中のヘリが遺体を発見。
2人パーティーで入山し、翌日山頂を目指したが、独標付近で吹雪に見舞われ1
人が先に下山、1人が山頂へ向かったが下山途中で道に迷い、同行者へ「ルー
トを間違えた」と連絡を入れた後音信不通となったため、同行者から救助要請。
単独でアイスクライミングのため錫杖岳へ入山し、翌日前衛フェースへ取り付い
たが登はん中に転落。4日後に入山した別パーティーが、前衛フェース取り付き
付近で死亡している遭難者を発見し通報。
2人パーティーで登山中、飛騨乗越手前付近の稜線上で浮き石でバランスを崩
し、凍った岩場で足を滑らせ約50メートル滑落。 同行者が槍ヶ岳山荘へ通報し、
救助要請。 右手首、右眼窩底骨折で重傷。
穂高岳山荘従業員が、奥穂高岳側の岩場から滑落する遭難者を目撃し救助要
請。 夫婦2人パーティーで入山したが、妻が疲れていたことから夫が単独で奥穂
高岳へ登山したが、鎖場付近でバランスを崩して滑落。
単独で登山中、ジャンダルムの岩壁をトラバースする際、足場が確保できない状
態となり、岩をつかんで姿勢を保持していたものの手の力が尽きて約200メート
ル滑落して右足を骨折し、自ら救助要請。
発病
ていたものの、徐々に体調不良が顕著となり、血中酸素濃度も低く、病状も改
(高山病) 善されないことから救助要請。
2人パーティーで山スキーのため入山、白出沢の穂高岳山荘手前で落石が発生
して遭難者を直撃し、約900メートル滑落。 同行者から救助要請。
単独で、スノーボードで山スキーをするために入山したが、日帰りの予定が帰宅し
ないことから家族から救助要請。 遭難者は下山中に道に迷いビバークし、翌早
朝から行動を開始したところ、捜索中の隊員と合流。
3人パーティーで白出沢から奥穂高岳へ向かう予定であったが、白出沢の状態
が悪く危険という案内により、西穂からの縦走コースに予定を変更。しかし、北
アルプスが初めての登山の上、エキスパートルートであることを知らず、悪天候な
どから行動も遅れ始め体力も低下し、夜間となったため救助要請。
単独で槍ヶ岳に登山し、下山中の南沢で増水した沢を渡渉しようとしたが流され
て行方不明となり、目撃者の通報で救助要請。
滑落
道迷い
道迷い
落石
滑落
滑落
滑落
転落
道迷い
道迷い
滑落
道迷い
単独で穂高岳山荘到着後、高山病の症状が出たため連泊して山荘で様子を見
1
2人パーティーで西穂高岳からの下山中、山頂から西穂山荘側へ100メートル
下った付近でバランスを崩して約300メートル滑落。 同行者が別の登山者の携
帯を借りて救助要請。
滑落
悪天候
出 動 状 況
別表 1
29
2
10
17
12
11
14
12
12
16
30
16
1
14
40
2
5
1
9
2
1
4
7
2
3
12
1
2
1
1
2
6
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
日数 警察官 救助隊 その他 ヘリ
5
遭 難 状 況
3人パーティーで登山中、西穂高岳南方コル付近にて、1人が低体温症のため
行動不能となり救助要請。 翌日、救助活動に向かうも悪天候で断念。2日目に
警備隊が救助に向かったところ1人の死亡を確認、2人は歩行可能であったため
警備隊がサポートしながら下山。
原 因
平成 25 年 山岳遭難事故発生一覧表
34
49
63
32
36
52
50
男
女
男
58
63
29
男
男
女
男
女
男
40
42
40
44
60
50
年齢
1
発生月日 発生場所
性別
〃
8月7日
25
26
槍ヶ岳
乗鞍岳
南岳
〃
〃
無所属
社会人山岳会
〃
〃
〃
32
33
34
双六岳
北穂高岳
西穂高岳
〃
〃
無所属
ガイド登山
31 8月14日 北穂高岳
〃
〃
涸沢岳
30 8月12日 西穂高岳
29 8月11日
無所属
8月5日
24
弓折岳
無所属
28 8月11日 西穂高岳
〃
23
西穂高岳
社会人山岳会
ガイド登山
〃
22
南岳
27 8月10日 奥穂高岳
8月3日
21
20 7月31日 西穂高岳
ツアー登山
〃
錫杖岳
19 7月29日
〃
〃
南岳
17 7月10日
無所属
18 7月26日 北穂高岳
焼岳
7月8日
16
5
2
7
3
2
2
単
6
単
2
6
3
2
3
22
2
単
単
単
有
無
無
有
無
無
無
有
無
無
有
有
無
有
有
有
有
有
無
8
71
男
男
男
男
女
男
50
56
70
20
女
女
男
女
37
51
33
72
男
男
女
82
77
76
女
男
54
69
女
女
女
女
71
64
62
53
男
男
男
62
69
73
男
男
男
56
70
60
埼玉県
東京都
神奈川県
埼玉県
愛知県
神奈川県
神奈川県
兵庫県
東京都
愛知県
神奈川県
神奈川県
秋田県
東京都
大阪府
大阪府
島根県
福井県
神奈川県
小学生
会社員
会社員
群馬県
神奈川県
広島県
山岳ガイド 東京都
団体職員 神奈川県
歯科医師
東京都
主婦
会社員
会社員
無職
不動産業
無職
無職
無職
会社員
パート
無職
保育士
無職
無職
教員
無職
会社員
無職
無職
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
1
2
3
2
1
1
1
単独で西穂高岳から下山中、掴んだ岩が浮き石だったため自分の左足の太もも
に当たり、回復を待っていたが腫れが引かず、さらに回復を待とうとしていたが別
の登山者が見かねて登山を中止するよう促し救助要請。
2人パーティーで南岳から穂高岳山荘へ向けて縦走中、涸沢岳山頂付近で疲
労から過呼吸となり、全身がけいれんするなどし行動不能となったため救助要請。
2人パーティーで西穂高岳へ向けて登山中、ピラミッドピーク付近で上方から落ち
てきた落石が当たり挫創、遭難者がその付近を別の怪我で皮膚移植した直後で
あったことから救助要請。
転倒
日・熱射病
家族5人パーティーで双六岳へ登山中、双六小屋に到着後に小学校2年生の
1
1
ガイドを含めた6人パーティーで登山中、メンバーの一人が足を滑らせ下方を通行
していた遭難者に体当たりし、遭難者が約1メートル滑落し骨折等の重傷。
発病
児童が頭痛、嘔吐により診療所に受診。 医師により、点滴及び酸素ボンベに
(高山病) て治療を受けたが回復しないことから救助要請。
1
単独で槍ヶ岳からの下山中、登山道上で石につまづいて転倒し右手指を骨折。
自力で槍平小屋まで下山し自ら救助要請。
1
1
夫婦2人パーティーで青年の家から乗鞍へ入山、途中の避難小屋で宿泊し、翌
日剣ヶ峰を目指して登山を開始したが、折からの雨で寒さと疲労が重なり山頂付
近で行動不能となっていたところ、別の登山者に発見され、いったんは避難小
屋で暖を取らせて回復させたが、肩の小屋までの下山中に再び動けなくなったた
め救助要請。
2人パーティーで穂高岳山荘から槍ヶ岳へ向けて縦走中、長谷川ピークガレ場
付近で石につまずき転倒、岩で左足すね付近を切り歩行困難となっていたところ、
通りががった登山者が救助要請。
1
6人パーティーで南岳新道を下山中、濡れた岩で足を滑らせ約3メートル滑落し
腕を骨折。 携帯が通じないことから、同行者が槍平小屋へ救助要請。
1
1
3人パーティーで登山中、登山道上で熊と遭遇し、前足で引っかけられ、双六
小屋診療所で治療を受けパトロール中の山岳警備隊員が聞知したもの。
6人パーティーで西穂高岳へ登山中、ピラミッドピーク付近の稜線上で1人が気
分が悪くなり、一時意識を失うなど行動不能となったため救助要請。
1
夫婦2人パーティーで独標からの下山中、妻がスリップして転倒し頭部を負傷。
右膝も負傷し、ガス等から下山が困難となり救助要請。
1
2
女性3人パーティーで槍平から南岳へ向けて登山中、雪渓を登った所でルートを
外れ道に迷い救助要請。
1
ツアー登山で入山し、西穂高岳からの下山中、ピラミッドピーク付近稜線上にお
いてつまづき約30メートル滑落。
1
単独で槍平小屋から新穂高に向けて下山中に登山道上の石につまづき転倒、頭部を
石に打ちつけ裂傷を負い、座り込んでいたところを別の登山者に発見され救助要請。
2
1
単独で新穂高から入山したが、南岳新道の雪渓上で転倒し頭部を負傷、ガスで
ルートを見失い現場でビバークし低体温症で動けなくなり、通りがかった別の登
山者から救助要請。
2人パーティーで笠ヶ岳からクリヤ谷ルートで下山中、折からの豪雨でクリヤ谷が
増水し渡渉できず、山荘に戻る体力もなくなり救助要請。
1
焼岳に登っていた別の登山者が、登山道を外れたところで血を流して倒れている
遭難者を発見し救助要請。
山岳ガイドとして3名パーティーで滝谷を登はん中、岩に足をかけたところ岩が欠
けてバランスを崩し、約6メートル滑落し骨折。 同行者2人も岩壁初心者であっ
たことから自力で稜線まであがれないため山岳警備隊及び救助隊にて救助。
滑落
その他
落石
発病
落石
滑落
転倒
疲労
滑落
その他
(熊)
転倒
道迷い
滑落
悪天候
転倒
転倒
滑落
10
9
9
12
9
10
10
12
7
5
3
3
11
24
8
9
2
10
14
1
3
9
2
3
2
2
3
1
1
6
1
1
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
〃
〃
〃
〃
〃
槍ヶ岳
双六岳
9月7日
44 9月17日
45 9月21日 西穂高岳
46 9月22日 奥穂高岳
〃
〃
43
47
48
弓折岳
南岳
50 10月1日
51 10月6日
無所属
社会人山岳会
〃
〃
〃
無所属
社会人山岳会
2
2
4
単
2
2
2
3
2
単
2
単
3
3
12
単
単
19
有
無
無
無
無
有
有
有
無
無
無
無
有
無
有
無
無
有
60
28
53
53
64
24
33
男
男
男
男
男
女
女
女
男
男
26
27
女
男
男
東京都
大阪府
兵庫県
無職
公務員
会社員
団体職員
無職
大学院生
会社員
会社員
会社員
会社員
無職
大阪府
東京都
愛知県
岐阜県
神奈川県
東京都
東京都
埼玉県
岐阜県
岐阜県
大阪府
千葉県
京都府
個人
タクシー
無職
神奈川県
福岡県
無職
男 電気工事業
男
61
画家
会社員
無職
女 小売雑貨業 神奈川県
女
男
男
68
60
65
70
78
68
76
51
66
遭難事故発生件数 52 / 遭難者数 64 人
52 10月7日 奥穂高岳
笠ヶ岳
49 9月30日
〃
西穂高岳
奥穂高岳
9月4日
42
〃
抜戸岳
〃
41
〃
奥丸山
40 8月29日
奥穂高岳
〃
〃
39
〃
無所属
ツアー登山
〃
抜戸岳
西穂高岳
槍ヶ岳
38 8月26日 北穂高岳
37 8月18日
36
35 8月16日
9
1
1
1
1
1 34 20
1
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
家族から「帰宅予定の夫が帰ってこない」との届出を受理し、捜索をしていたと
ころ、ピラミッドピーク付近を登山中の別の登山者から、飛騨側約100メートル
付近に人が落ちていると通報を受け現場を確認したところ、倒れて動かない登山
者を発見。
単独で笠ヶ岳から下山中、杓子平より1時間くらい下った地点で岩に足を挟み転
倒、
その際右肩を打撲し、ザックの重みから行動が遅延していたところ、通りがかっ
た別の登山者が見かねて救助要請。
12人パーティーで槍ヶ岳から北穂高岳へ向けて縦走中、大キレット付近でス
トックがガレ場の石の間に挟まりバランスを崩し転倒、左手と胸骨を骨折し救
助要請。
孫と3人パーティーで登山し、奥穂高岳山頂からの下山中、稜線上で岩につまづ
き転倒し、岩の角で顔面を負傷。山荘まで自力下山したが、支配人から救助要請。
3 人パーティーで槍ヶ岳から奥丸山経由で下山中、稜線上の岩で足を滑らせ右
足首を捻挫し救助要請。
一般登山者から「笠新道を血を流しながら下山してくる人がいる」と通報があり、
山岳警備隊が現場へ急行、笠新道入り口から200メートル登った地点で、両手
首を骨折し頭部に裂傷を負って下山してくる遭難者を発見、サポートしながら下山
し救急車へ引き継ぎ。
2人パーティーで涸沢から北穂高岳へ登山中に滑落して腰部を強打したが行動
可能であったためそのまま登山を続行し穂高岳山荘で宿泊。しかし、翌朝になっ
て疲労と腰の痛みで行動不能となり救助要請。 骨盤骨折で重傷。
単独で新穂高から入山したが、降雨にも関わらず軽装であったため足などが動か
なくなり、倒れ込んでいたところを別の登山者に発見され救助要請。
2 人パーティーで双六谷へ沢登りで入山したが、誤って打込谷へ入りビバーク、
翌日、誤った谷から引き返し下山を始め滝壺へ飛び込んだが浅く、1 人は足首を
骨折し、1 人は臀部を強打し負傷。そのうち、1人の会社の上司から「会社に
出勤しない」
と通報受け捜索を開始。2 人は携帯電話の不感地帯で通報できず、
一晩掛けて下山してきた所、双六ダムの従業員に発見されたもの。
3 人パーティーで西穂高岳からの下山中、独標手前のピーク付近の稜線上でつ
まづき、約 100メートル転落し同行者から救助要請。
夫婦 2 人パーティーで登山中、山荘横のはしご場において、こぶし大の落石を
頭部に受け負傷。
2 人パーティーで奥穂高岳へ向けて縦走中、西穂高岳山頂付近で浮き石を踏
み外し約 100メートル滑落。 後続にいた別の登山者が救助要請。
2 人パーティーで奥穂高岳から西穂高岳へ向けて縦走中、西穂高岳山頂付近
で浮き石を踏み外し、約3メートル転落して左足首を骨折、同行者から救助要請。
単独で笠ヶ岳からの下山中、岩の上で滑り左足を負傷。自力下山を試みたが痛
みで歩くことが出来ず救助要請。 左足首骨折。
発病
4 人パーティーで鏡平山荘へ向けて登山中、1 人が苦しそうにして嘔吐し倒れた
(心筋梗塞) ため同行者から救助要請。
2 人パーティーで南岳新道を下山中、南沢をトラバースする際、先頭と離れてい
たため道に迷い、同行者は小屋で待つも到着しないことから救助要請。
2人パーティーで奥穂高岳から下山中、はしご場下の岩でスリップし約2メートル
転落。目撃していた山荘従業員が山荘まで収容したが頭部を負傷していることか
ら救助要請。
転落
道迷い
転倒
滑落
滑落
落石
転落
転落
疲労
滑落
転倒
転倒
転倒
転倒
転倒
滑落
8
4
9
10
8
10
13
10
17
10
9
5
9
13
9
4
12
9
5
1
3
5
4
3
1
警察
警察
民間
警察
警察
警察
警察
警察
1
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
22 防災
3
2
1
64 582 97 50
1
ツアー登山で入山し、槍ヶ岳から新穂高へ下山中に飛騨沢登山道上のガレ場
において石につまずき転倒、左足を骨折し救助要請。
転倒
至 有峰
北ノ俣
避難小屋
黒部五郎岳
(2,840)
飛越トンネル
寺地山
(1,996)
三俣山荘
黒部五郎小舎
和佐府
打保
双六谷
双六岳
(2,860)
双六小屋
三俣蓮華岳
(2,841)
南岳
(3,033)
わさび平
小屋
至 飛驒市神岡町
笠ヶ岳
(2,897)
穴毛谷
中崎山
(1,744)
1
47
道
国
錫杖岳
(2,168)
号
新穂高登山
指導センター
中尾高原
新穂高
ロープウェイ
国
道
15
8号
乗鞍岳
(3,026)
別表 2
至 高山市街地
その他(無事救出等)
負傷事故
行方不明
死亡事故
山小屋
避難小屋
ロープウェイ
車 道(バス道路)
車 道(林 道)
登山道
凡 例
至 長野県松本市
安房トンネル
焼岳小屋
焼岳(2,455)
西穂山荘
西穂高岳(2,909)
間ノ岳
(2,900)
前穂高岳(3,090)
穂高平
避難小屋
白出小屋跡
涸沢岳 奥穂高岳
(3,110)
(3,103) (3,190)
滝谷避難小屋
滝谷
北穂高小屋
北穂高岳
(3,106)
笠ヶ岳山荘
打込谷
抜戸岳
(2,813)
鏡平山荘
奥丸山
(2,439)
槍平小屋
中岳
(3,084)
大喰岳
(3,101)
弓折岳
(2,592)
樅沢岳
(2,755)
槍ヶ岳山荘
槍ヶ岳
(3,180)
山岳遭難事故発生分布図
南岳小屋
北ノ俣岳
(2,662)
平成 25 年
穂高岳山荘
編 集 後 記
平成26年1月、念願の「(仮称)新穂高センター」が完成し、今春から当協議会も
事務所を移転し、救助活動及び山岳警備全般の活動拠点として、新たな体制作り
をしていくこととなりました。
歴史を紐解いてみますと、北飛山岳救助隊が発足した昭和34年当時は、地元
の派出所で「登山相談所」
を開設し、夏山には新穂高温泉の登山口にテントを設営
して前線基地としており、その後、少しずつ環境も整えられ、昭和41年には、新穂
高旧営 林 署 事 業 所 飯 場を借 上げ「北 飛山岳 救 助 隊 連 絡 所」
を開 設、そして昭 和
44年に「旧新穂高登山指導センター」が竣工され、平成24年までの間、私達の活
動を見守ってきました。
当時、山から下ろしてきた遭 難 者のご遺 体は、登山指 導センターの裏で安 置し
ていたと聞いていますが、旧新穂高登山指導センターでは、遺体が安置されていた
場所が仮眠室付近だったためか、隊員の中には少々怖い体験をする人がいたり、
水はけが悪いために仮眠室がカビだらけになったりと、思い出は尽きません。
この春から
「(仮称)新穂高センター」
として新たな歴史を刻み、隊員達の悲喜こも
ごもを見守ってくれると思いますが、登山者の安全、安心の為、現場へ出動する隊
員達のために、強固な体制作りをしていきたいと思います。
事務局 中畠
山 岳 白 書
発 行
平成26年2月
発 行 者
國島 芳明
編集責任者
中畠 美奈子
発 行 所
岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会
印 刷 所
URL
http://www.kitaalpsgifu.jp/
Mail
[email protected]
高山印刷株式会社
美奈子