メディア情報工作全開総選挙後日本の不安禁 メディア情報工作全開総選挙後日本の不安禁複写 金 利 ・ 為 替 ・ 株 価 特 報 ( 2012 年 12 月 14 日 号 ) 1 7 0 スリーネーションズ スリーネーションズリサーチ 代 表 植 草 一 秀 <目次> 1 .【 概 観 】 公 共 事 業 バ ラ マ キ ・ 金 融 緩 和 強 制 の 連 想 ゲ ー ム 2 .【 政 局 】 メ デ ィ ア 情 報 工 作 は 何 を 目 的 に 動 い た か 3 .【 政 策 】 行 き は よ い よ い 帰 り は 怖 い 日 本 経 済 4 .【 株 価 】 1 9 3 7 年 と 1 9 7 2 年 の 教 訓 5 .【 米 国 】 オ バ マ は 財 政 の 崖 を 転 落 す る か 6 .【 金 利 】 日 本 金 利 の 米 国 金 利 離 れ 7 .【 為 替 】 欧 州 危 機 は 最 悪 期 を 脱 し た か 8 .【 中 国 ・ 原 油 】 調 整 持 続 の 中 国 9 .【 投 資 戦 略 】 ミ ニ バ ブ ル と 反 動 年内最終レポートは12月25日発行の予定です。 新年は第1号発行が1月12日土曜日。その後は、1月25日、2月8日、 2月22日、3月8日、3月22日の第2、第4金曜日に発行予定です。 な お 、経 、経 済 統 計 日 程 と 政 治 経 済 金 融 情 勢 に よ り 、予 告 な く 発 行 日 を 小 幅 変 更 することがありますのであらかじめご了承ください。 年 明 け 後 、 2 月 1 8 日 月 曜 日 の 午 後 6 時 よ り 9 時 の 日 程 で 、「 第 2 回 T R I 政 経 塾 」を 開 催 い た し ま す 。前 回 は ご 参 加 申 し 込 み が 定 員 に 達 し た た め に 、多 くの皆様のご参加希望に沿うことができませずお詫び申し上げます。 定 員 2 1 名 の 勉 強 会 で 先 着 順 に お 受 け 付 け さ せ て い た だ き ま す の で 、ご 参 加 希望の皆様は早めにお申し込みくださいますようご案内申し上げます。 会 場 は 新 宿 野 村 ビ ル 4 8 階「 野 村 コ ン フ ァ レ ン ス プ ラ ザ・ボ ー ド ル ー ム 」で 、 午 後 6 時 よ り 午 後 8 時 ま で 。参 加 費 は お 食 事・資 料 費 込 み で 1 万 円 に な り ま す 。 参 加 ご 希 望 の 方 は info@uekusa - tri.co.jp 、または、 FAX020-4623-8897までお申し込みをお願い申し上げます。 1 1 .【 概 観 】 公 共 事 業 バ ラ マ キ ・ 金 融 緩 和 強 制 の 連 想 ゲ ー ム 1 2 月 1 6 日 に 第 4 6 回 衆 議 院 議 員 総 選 挙 が 実 施 さ れ る 。本 レ ポ ー ト 執 筆 は 1 2 月 1 3 日 で あ る の で 、現 時 点 で 結 果 は 判 明 し て い な い 。メ デ ィ ア が 発 表 し て い る 調 査 結 果 で は 自 民 圧 勝 が 示 さ れ て い る が 、多 分 に 情 報 操 作 が 行 わ れ て い る 形 跡 が あ る 。情 報 操 作 が 有 権 者 の 投 票 行 動 に 影 響 を 与 え る 面 を 否 定 で き な い 。 メ デ ィ ア の 情 報 工 作 は 次 の 二 点 を 柱 と し て い た 。 第 一 は 、選 挙 が 民 ・ 自 ・ 維 新 の 三 極 で 行 わ れ る と の イ メ ー ジ を 刷 り 込 む こ と 。第 二 は 、民 主 党 の 本 来 の 主 流派である小沢一郎新党に関する報道を封殺すること。 そ の 狙 い は「 既 得 権 益 の 政 治 」の 堅 持 に あ る 。メ デ ィ ア が 執 拗 に 小 沢 - 鳩 山 体 制 を 攻 撃 し 続 け て き た の は 、小 沢 - 鳩 山 体 制 が「 既 得 権 益 の 政 治 」を 破 壊 し 、 「主権者国民の政治」を指向していたからだ。 日 本 の 既 得 権 益 と は 、「 米 ・ 官 ・ 業 ・ 政 ・ 電 」 の 五 者 で あ る 。 既 得 権 益 ペ ン タ ゴ ン だ 。小 沢 - 鳩 山 体 制 は 、既 得 権 益 に と っ て の 重 大 な 脅 威 で あ っ た 。そ の 脅 威 を 取 り 除 く た め に 、既 得 権 益 は 謀 略 を 張 り 巡 ら し 、こ の 勢 力 の せ ん 滅 に 全 力を注いできたのである。これを第一の目的として今回総選挙が実施された。 メ デ ィ ア は 次 の 三 つ を 繰 り 返 し 流 布 す る こ と に よ る 情 報 操 作 を 実 行 し た 。第 一は、自民党圧勝予想を流布して有権者の「勝ち馬に乗る」行動を誘導した。 第 二 は 、選 挙 結 果 が 確 定 的 で あ る と の 印 象 を 刷 り 込 み 、投 票 率 の 引 き 下 げ を 誘 導 し た 。 第 三 は 、「 日 本 未 来 の 党 」 支 持 率 を 著 し く 低 く 発 表 し て 、 反 民 自 票 が 「日本未来の党」に集中することを阻止した。 こ の 策 略 が 目 論 み 通 り の 結 果 を 生 み 出 す の か ど う か 。現 時 点 で は 明 ら か で な い が 、日 本 の 情 報 空 間 を 支 配 す る マ ス メ デ ィ ア の 不 正 な 情 報 工 作 が 強 い 影 響 力 を発揮したことは間違いない。 公 職 選 挙 法 は ネ ッ ト を 活 用 し た 選 挙 運 動 を 禁 止 し て い る が 、マ ス メ デ ィ ア の 投票誘導行動が野放しになっていることは、明らかにバランスを欠いている。 ネ ッ ト を 活 用 し た 選 挙 運 動 を 禁 止 す る な ら 、マ ス メ デ ィ ア の 偏 向 報 道 、不 正 報 道を取り締まるのが当然である。 反 民 自 勢 力 の 連 携 が 構 築 さ れ る 前 に 解 散・総 選 挙 に 突 入 し た こ と で 、反 民 自 勢 力 が 著 し く 不 利 な 状 況 に 置 か れ た こ と は 事 実 で あ る 。他 方 、自 民 党 は 前 回 落 選 組 が 3 年 間 の 活 動 を 継 続 し た 状 況 に あ り 、い わ ゆ る「 次 点 バ ネ 」が 強 く 働 き やすい環境にある。この結果として、自民党が政権に復帰する可能性が高い。 2 円・ユーロレートの推移(2007年12月~2012年12月) 日経平均株価の推移(2007年12月~2012年12月) 自 民 党 党 首 の 安 倍 晋 三 氏 は 、1 0 年 で 2 0 0 兆 円 の 公 共 事 業 実 施 と 日 銀 の 金 融 緩 和 政 策 強 制 を 公 約 と し て 提 示 し て い る 。金 融 市 場 は 安 倍 政 権 誕 生 を 先 読 み して、公共事業拡大、金融緩和=円安政策推進を織り込み始めた。 本 レ ポ ー ト で は 、1 、1 0 月 2 9 日 号 第 5 節 に「 米 国 株 価 連 動 で な く 為 替 連 動 の 日 本 株 価 」 と 題 し て 、「 日 本 円 が 米 ド ル や ユ ー ロ に 対 し て 下 落 基 調 に 転 じ る な ら 、 日 本 の 株 価 上 昇 を 期 待 で き る 」 と 記 述 し た 。 第 1 節 【 概 観 】「 日 本 円 下 落 3 日経平均株価の推移(2011年12月~2012年12月) 落 が 引 き 起 こ す 大 き な 変 化 」 に は 、「 日 本 の 金 融 政 策 に お い て さ ら に 量 的 な 緩 和 措 置 が 強 化 さ れ る 可 能 性 が 生 ま れ る こ と 、を 考 慮 す る と 、日 本 円 の 中 期 ト レ ン ド が「 円 高 」で は な く「 円 安 」に 転 じ る 可 能 性 を 否 定 で き な い 」と 記 述 し た 。 つ ま り 、金 融 緩 和 政 策 が 強 制 さ れ 、金 利 低 下 = 円 安 = 株 価 上 昇 の 反 応 が 生 ま れる可能性が高いことを予測したのである。 上 記 グ ラ フ に 示 さ れ て い る よ う に 、1 、1 1 月 1 3 日 を 転 換 点 に 予 測 通 り の 金 融 変動、金利低下=円安=株価上昇の流れが現実化した。 新 政 権 は 1 2 月 2 6 日 に 発 足 の 見 通 し で あ る 。7 年 間 で 8 つ 目 の 政 権 の 誕 生 である。毎年の恒例行事になった首相の交代が今年もまた実施される。 安倍晋三氏が新首相に就任するなら、首相への返り咲きということになる。 ご 祝 儀 相 場 で 高 支 持 率 で の 発 足 が 予 想 さ れ 、金 融 市 場 は 足 元 で 金 利 低 下 = 円 安 =株高を期待しており、当面はこの反応が予想される。 し か し 、そ の ま ま バ ラ 色 の 未 来 が 広 が る と 考 え る の は 時 期 尚 早 だ 。政 府 ・ 財 務 省 に よ る 日 銀 支 配 、消 費 税 大 増 税 に は 大 き な 副 作 用 が あ る 。目 先 と そ の 先 の 中期を峻別して金融市場変動を洞察することが不可欠である。 2 .【 政 局 】 メ デ ィ ア 情 報 工 作 は 何 を 目 的 に 動 い た か 1 2 月 1 6 日 に 総 選 挙 が 投 開 票 日 を 迎 え る 。追 い 詰 め ら れ た 野 田 佳 彦 氏 が つ い に 解 散・総 選 挙 を 決 断 し た が 、野 田 氏 が 再 重 視 し た の は 民 主 党 の 敗 北 を 縮 小 4 す る こ と で は な か っ た 。野 田 氏 が 意 図 し た の は 、小 沢 新 党 の せ ん 滅 で あ る 。 日 本 を 支 配 す る 既 得 権 益 で あ る 米 ・ 官 ・ 業 ・ 政・ 電 の 中 心 に 位 置 す る の は 、言 う ま で も な く 米 国 で あ る 。米 国 は 既 得 権 益 の 政 治 を 破 壊 す る 存 在 を 許 さ な い 。米 国が標的にした攻撃対象は小沢新党である。 振 り 返 れ ば 、2 0 0 9 年 に 政 権 交 代 を 実 現 し た 中 核 に 位 置 し た の が 小 沢 一 郎 氏 と 鳩 山 由 紀 夫 氏 で あ る 。小 沢 一 郎 氏 は 西 松・陸 山 会 の 二 つ の 政 治 謀 略 事 件 が な け れ ば 、2 0 0 9 年 以 降 、日 本 の 内 閣 総 理 大 臣 に 就 任 し 、日 本 政 治 の 刷 新 を 実現していたはずの人物である。 この小沢一郎氏を標的に、3年半にわたって小沢一郎氏攻撃が実行された。 その結果として、鳩山政権は倒閣され、2010年9月の民主党代表選でも、 小沢一郎氏の新代表就任が不正選挙で阻止された。 今 回 総 選 挙 は 、本 来 、民 自 維 新 の 既 得 権 益 勢 力 と 小 沢 新 党 を 軸 と す る 主 権 者 国 民 勢 力 と の 間 で 繰 り 広 げ ら れ る も の で あ っ た 。こ の 図 式 を 破 壊 し て 、総 選 挙 の 位 置 付 け を 改 変 し た の が マ ス メ デ ィ ア で あ る 。マ ス メ デ ィ ア の 情 報 工 作 が 今 回総選挙の基本性格を根本から捻じ曲げたのだ。 野田佳彦氏は民主党が惨敗することを踏まえて今回総選挙実施に踏み切っ た 。そ の タ イ ミ ン グ は 、小 沢 新 党 の 選 挙 態 勢 が 整 っ て い な い こ と 、小 沢 新 党 の 選挙資金がもっとも減少する時期を選定して決定された。 総 選 挙 の 本 来 の 争 点 は 、原 発 、消 費 税 、T P P の 三 つ で あ る 。総 選 挙 は こ れ ら の 重 要 政 策 課 題 に つ い て 、主 権 者 で あ る 国 民 が 最 終 判 断 を 示 す「 す「 政 策 選 択 選 挙 」と 呼 ぶ べ き も の で あ っ た 。こ の 三 つ の 重 要 政 策 に つ い て 、民 主 、自 民 、維 新 の 間 に 大 き な 相 違 は な い 。民 主 が 惨 敗 し て 自 民 が 議 席 を 増 や し て も 、既 得 権 益の政治を守る勢力が政権を維持する限り、既得権益の実害はないのである。 こ う し た 基 本 判 断 に 基 づ い て 総 選 挙 実 施 が 決 定 さ れ た が 、こ の な か で マ ス メ ディアは、徹底した情報工作を展開した。メディアが実行した情報工作とは、 前 節 に も 記 述 し た よ う に 、① 自 民 圧 勝 予 測 の 意 図 的 な 流 布 、② 選 挙 結 果 が 確 定 的 で あ る と す る こ と に よ る 投 票 率 引 下 げ 工 作 、③「 日 本 未 来 の 党 」支 持 率 の 人 為的抑制、の三つであった。明らかな選挙妨害活動である。 同 時 に 実 行 さ れ た の が 、争 点 す り 替 え で あ る 。メ デ ィ ア は「 景 気 対 策・雇 用 」 が 再 重 要 争 点 だ と 喧 伝 し た が 、 本 来 は 、「 景 気 ・ 雇 用 ・ 消 費 増 税 」 が 主 要 争 点 な の だ 。「 景 気 ・ 雇 用 」 を 重 視 し て 「 消 費 増 税 推 進 」 は 完 全 な る 自 己 矛 盾 で あ 5 る 。消 費 税 増 税 を 財 政 再 建 と セ ッ ト に し て 主 要 争 点 か ら 外 す 工 作 が 実 行 さ れ た 。 ま た 、原 発 政 策 が 突 然 、主 要 争 点 か ら 消 し 去 ら れ た 。福 島 の 事 故 を 踏 ま え て 日 本 の 主 権 者 国 民 が 原 発 ゼ ロ に 向 け て 立 ち 上 が っ た 。官 邸 前 示 威 行 動 の 盛 り 上 がりは、日本の主権者国民の自発的な行動であった。 原 発 推 進 派 は 原 発 ゼ ロ を 実 現 す れ ば 電 力 料 金 が 上 昇 す る と 反 論 す る が 、原 、原 発 が 低 コ ス ト の 発 電 方 式 で あ る と い う の は 虚 偽 で あ る 。原 発 事 故 の 損 害 賠 償 費 用 を発電コストに算入するだけで、原発はもっとも高コストの発電方式になる。 日 本 は 国 策 と し て 、再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー に よ る 電 力 供 給 体 制 の 確 立 に 進 む べ き で あ る 。ま た 、現 行 の 電 力 料 金 は 総 括 原 価 方 式 で 、異 常 に 高 価 な L N G 購 入 価 格 な ど が 前 提 と さ れ て い る 。ド イ ツ で 電 力 料 金 が 1 .8 倍 に な っ た こ と な ど が 引 き 合 い に 出 さ れ る が 、こ れ ま で の 高 コ ス ト 体 質 の 見 直 し を 進 め れ ば 、電 力 料金の大幅引き上げは必ず回避できるはずである。 既得権益の政治死守を目的にしたメディアの情報工作全開を見落せない 3 .【 政 策 】 行 き は よ い よ い 帰 り は 怖 い 日 本 経 済 仮 に 安 倍 晋 三 政 権 が 発 足 す る と し て 、日 本 経 済 の 展 望 は ど の よ う に 変 化 す る で あ ろ う か 。安 。安 倍 晋 三 氏 が 選 挙 期 間 中 に 示 し た 経 済 政 策 に は 自 己 矛 盾 が 数 多 く 含 ま れ て い る 。金 融 市 場 は 、あ る 意 味 で「 い い と こ 取 り 」を し て 金 利 低 下 = 円 安=株高の反応を示したが、政権が発足すれば「いいとこ取り」を中断して、 冷静な思考を試みることになるだろう。 N Y ダ ウ の 推 移 (2 0 0 8 年 1 2 月 ~ 2 0 1 2 年 1 2 月 ) 6 金 融 市 場 は 、安 倍 氏 が 日 銀 法 を 改 正 し て 金 融 緩 和 政 策 を 強 制 す る と 発 言 し た ことに反応した。この結果として、金利低下=円安=株高の反応が生まれた。 し か し 、他 方 で 安 倍 氏 は 、1 0 年 で 2 0 0 兆 円 の 公 共 事 業 を 提 案 す る と と も に 消 費 税 大 増 税 に 原 則 賛 同 す る 意 向 を 表 明 し た 。ま た 、民 主 党 政 権 の 予 算 編 成 における予算規模拡大を批判もした。積極財政、緊縮財政、予算規模縮小と、 同時には成り立たない政策をごちゃまぜにして発言していたのである。 金融市場は現在の金利低下=円安=株高の流れの限界をトライする可能性 が高い。つまり、現在の金融市場変動が当面は持続する可能性が高い。 し か し 、そ れ が 持 続 す る 可 能 性 は 低 い 。他 方 で 、建 設 国 債 増 発 = 日 銀 の 国 債 購 入 増 額 の 方 策 を 示 し て い る か ら で あ る 。他 方 、2 0 1 4 、1 5 年 度 に は 超 巨 大 増 税 を 実 施 す る 可 能 性 が 高 い 。1 。1 9 9 6 年 も 橋 本 政 権 が 消 費 税 増 税 の 方 針 を 閣 議 決 定 し た 瞬 間 に 株 価 は 下 落 ト レ ン ド に 転 じ た 。2 0 1 3 年 後 半 に 消 費 税 大 増税を決定すれば、これを契機に先行き景気後退不安が一気に強まるだろう。 ま た 、安 倍 政 権 は 2 0 1 3 年 春 の 日 銀 総 裁 人 事 で 財 務 省 O B の 武 藤 敏 郎 氏 の 日 銀 総 裁 就 任 を 容 認 す る と 見 ら れ る 。日 銀 の 独 立 性 は 著 し く 低 下 し 、長 期 的 に 日 本 円 の 信 認 は 揺 ら ぐ こ と に な る 。金 融 緩 和 強 制 派 の 主 張 は 歴 史 の 視 座 を 欠 い て い る 。小 泉 ・ 竹 中 政 治 の 流 れ を 汲 む 勢 力 が 背 後 で 蠢 い て お り 、こ の 勢 力 が 再 び経済失政を誘導することが予想される。 こ の 意 味 で 、新 政 権 は「 行 き は よ い よ い 帰 り は 怖 い 」の 展 開 に 陥 る 可 能 性 が 高い。目先と中期を峻別した経済動向洞察が求められる。 4 .【 株 価 】 1 9 3 7 年 と 1 9 7 2 年 の 教 訓 新 年 の 金 融 市 場 を 展 望 す る に 当 た り 、二 つ の 歴 史 教 訓 を 念 頭 に 入 れ て お く こ とが有用である。1937年の教訓と1972年の教訓だ。 1937年の教訓とは、米国の経済政策が大緊縮に転じたことを意味する。 1 9 2 9 年 に 始 ま る 世 界 大 恐 慌 。こ の 不 況 を 深 刻 化 さ せ た の が 共 和 党 の ハ ー バ ー ト ・フ ー バ ー 大 統 領 だ っ た 。私 が 在 籍 し た ス タ ン フ ォ ー ド 大 学 の フ ー バ ー 研 究 所 の 創 設 者 で も あ る 。フ ー バ ー 大 統 領 は 世 界 恐 慌 に 直 面 す る な か で 財 政 均 衡 主義を重視し、また保護貿易政策を実行して恐慌を深刻化させた。 こ の 政 策 を 修 正 し た の が 民 主 党 の フ ラ ン ク リ ン・ル ー ズ ベ ル ト 大 統 領 だ っ た 。 ニ ュ ー デ ィ ー ル 政 策 を 提 唱 し て 積 極 財 政 で 恐 慌 に 対 処 し た 。1 9 3 3 - 3 6 年 7 1970-1974年の日経ダウ平均株価推移 にかけて、積極政策が効果を発揮して米国経済は浮上した。 と こ ろ が 、ル ー ズ ベ ル ト 大 統 領 は 1 9 3 7 - 3 8 年 に か け て 財 政 政 策 を 超 緊 縮 に 転 向 し た 。そ の 結 果 、回 復 途 上 の 米 国 経 済 は 底 割 れ を 起 こ し て 、世 界 不 況 を 深 刻 化 さ せ て し ま っ た 。 2 0 1 3 年 に 始 動 す る 米 国 の 「 財 政 の 崖 」、 2 0 1 4 - 1 5 年 に 予 定 さ れ る 日 本 の 巨 大 増 税 が 、1 9 3 7 年 の 米 国 経 済 政 策 と ぴ た りと符合するのである。 も う ひ と つ の 教 訓 が 日 本 の 1 9 7 0 - 7 4 年 の 経 験 で あ る 。時 代 は 田 中 角 栄 首 相 の 列 島 改 造 の 時 代 で あ る 。日 銀 総 裁 の 職 に あ っ た の が 佐 々 木 直 氏 で あ っ た 。 佐 々 木 総 裁 は 政 府 の 金 融 緩 和 要 請 に 対 抗 で き ず 、行 き 過 ぎ た 金 融 緩 和 政 策 を 実 行した。日銀が政府に蹂躙されたとの教訓である。 上 記 グ ラ フ に 示 さ れ る よ う に 、日 本 の 株 価 は 1 9 7 2 年 に 暴 騰 し た 。過 剰 流 動性の供給が資産価格上昇を生み出したのである。 し か し 、こ の タ イ ミ ン グ で 第 一 次 石 油 危 機 が 発 生 す る 。日 本 は 狂 乱 物 価 に 見 舞われ、その後の強烈な金融引き締め政策により、日本経済は未曽有の不況、 株価下落、インフレ残存の三重苦に見舞われたのである。 こ の 教 訓 を 踏 ま え て 、金 融 政 策 に お け る 政 府 か ら の 独 立 性 が 改 め て 強 く 認 識 さ れ る こ と に な っ た 。爾 来 、4 0 年 の 時 間 が 経 過 し て 、い ま 、再 び 、安 倍 晋 三 氏が日銀の政府支配下への移行を提唱している。 初 め は 資 産 価 格 上 昇 の 順 風 が 吹 く と 予 想 さ れ る が 、そ の ツ ケ は 後 か ら 返 っ て くる。歴史の教訓を踏まえない経済政策論議はいつの時代にも繰り返される。 日銀の独立性を奪う政策対応が長期的に大きな禍根を残す点を見落とせない。 8 金価格の推移(2007年12月~2012年12月) 東証リート指数(2007年12月~2012年12月) 「 金 」に 対 し て 日 本 円 は 、過 去 4 年 間 に 半 値 に 下 落 し て い る 。不 動 産 価 格 は 底 入れの様相を強めており、ミニバブルの兆候が観測されているのだ。 9 5 .【 米 国 】 オ バ マ は 財 政 の 崖 を 転落するか 2013年に予定されている米国 の「 財 政 の 崖 」が も た ら す G D P 抑 制 効 果 は 、G D P 比 約 3 % の 規 模 で あ る 。 オバマ大統領は富裕層に対する増税 な ど を 提 案 し て い る 。昨 年 同 様 に 、政 府債務上限引上げ措置の取り扱いが 財 政 収 支 が 経 済 に 与 え る 影 響 ( 一 般 会 計 決 算 計 数 ) の 推 移 (単 位 : 兆 円 ,億 円 ,% ) 歳出規模 (A) 税収 (B) 歳出 -税収 (A-B) 1995 75.9 51.9 24.0 1.4 21.2 4.3 27.9 497,740 1996 78.8 52.1 26.7 2.7 21.7 4.3 27.5 509,096 1997(当) 77.4 57.8 19.6 ▲ 7 .1 16.7 3.3 21.6 513,613 1997 78.5 53.9 24.6 ▲ 2.1 18.5 3.6 23.6 513,613 1998 84.4 49.4 35.0 10.4 34.0 6.8 40.3 503,324 1999 89.0 47.2 41.8 6.8 37.5 7.5 42.1 499,544 2000 89.3 50.7 38.6 ▲ 3 .2 33.0 6.5 37.0 504,119 2001(当) 82.7 50.7 32.0 ▲ 6 .6 28.3 5.7 34.2 493,645 2001 84.8 47.9 36.9 ▲ 1 .7 30.0 6.1 35.4 493,645 2002 83.7 43.8 39.9 3.0 35.0 7.1 41.8 489,875 2003 82.4 43.3 39.1 ▲ 0 .8 35.3 7.1 42.8 493,748 2004 84.9 45.6 39.3 0.2 35.5 7.1 41.8 498,491 2005 85.5 49.1 36.4 ▲ 2 .9 32.3 6.4 37.8 503,187 2006 81.4 49.1 32.3 ▲ 4 .1 27.5 5.4 33.8 510,899 2007 81.8 51.0 30.8 ▲ 1 .5 25.4 4.9 31.1 515,824 2008 88.9 46.3 42.6 11.8 33.2 6.7 37.3 497,714 2009 97.0 38.7 58.3 15.7 52.0 11.0 53.6 474,037 2010 99.3 41.5 57.8 ▲ 0 .5 42.3 8.8 45.7 479,200 2011(補) 109.0 42.0 67.0 9.2 44.3 9.4 47.9 470,100 2012(当) 92.9 42.3 50.6 ▲ 16.4 44.2 9.2 47.8 479,600 前年差 国債発行額 GDP比 公債依存度 GDP 計数は決算値。ただし(当)は当初、(補)は3次補正後。2009年度補正の4兆円を2010年度に計上。 2011年度第4次補正の2.5兆円を2012年度に算入。 10 絡 ん で お り 、2 0 1 3 年 2 月 に か け て 、金 融 市 場 が 再 び 動 揺 す る 可 能 性 が 高 い 。 米 国 株 価 は 高 値 圏 内 で 推 移 し て い る が 、緊 縮 財 政 に よ る 景 気 減 速 を 見 越 し て ピ ークアウトする可能性が高いと考えられる。 6 .【 金 利 】 日 本 金 利 の 米 国 金 利 離 れ 米 国 1 0 年 国 債 利 回 り 推 移 ( 2011 /12/13 ~ 2012/12/12 ) 日 本 1 0 年 国 債 利 回 り 推 移 ( 2011/12/13 ~ 2012/12/13 ) 日 本 の 長 期 金 利 の 米 国 長 期 金 利 連 動 が 一 時 的 に 崩 れ て い る 。理 由 は 、日 本 で 金 融 緩 和 政 策 が 強 化 さ れ る と の 見 通 し が 強 ま っ て い る た め で あ る 。日 本 の 長 期 11 米国10年国債利回りの推移(2007年12月~2012年12月) 円ドルレートの推移(2007年12月~2012年12月) 金 利 の 低 下 が 持 続 し て い る 。こ の た め に 、米 国 長 期 金 利 と 円 ド ル レ ー ト と の 連 動 関 係 も 崩 れ て い る 。米 国 長 期 金 利 が 上 昇 し て い な い の に 、ド ル が 上 昇 = 円 が 下 落 し て い る の だ 。日 本 円 下 落 の 主 因 は 米 金 利 上 昇 で な く 日 本 金 利 低 下 で あ る 。 し か し 、日 本 の 1 0 年 国 債 利 回 り は 0 .7 % に ま で 低 下 し て お り 、金 利 低 下 の 余 地 は 狭 ま り つ つ あ る 。米 国 長 期 金 利 の 上 昇 が な け れ ば 、円 安 = ド ル 高 が 長 期 間 持 続 す る 可 能 性 は 低 い 。日 本 金 利 低 下 = 円 安 = 日 本 株 高 の 図 式 が 永 続 す る と 判 断 す る の は 間 違 い で あ る 。相 場 の 転 換 点 が 到 来 す る こ と を 警 戒 す る べ き だ 。 12 7 .【 為 替 】 欧 州 危 機 は 最 悪 期 を 脱 し た か ド ル ・ ユ ー ロ レ ー ト の 推 移 (2 0 0 7 年 1 2 月 ~ 2 0 1 2 年 1 2 月 ) ユーロが日本円に対してだけでなく、米ドルに対しても堅調な地合いを示 し始めている。欧州の政府債務危機、ユーロ分裂の危機に対して、ECBと EUは積極的な対応を示した。ECB(欧州中央銀行)は南欧国債の無制限 購入を決定し、EUは金融機関に対する資本増強、財政協定、ESM創設な どの対応を示した。金融市場はこれらの対応に好意的な反応を示している。 しかし、ECBは2013年のユーロ圏実質経済成長率を-0.3%と発 表した。景気情勢は極めて厳しく、南欧諸国を中心に政府が進める緊縮財政 政策に対する国民の反発が強まっている。スペインの財政状況が不安定化し ており、EUの中心国ドイツも2013年9月の総選挙を控えて大胆な財政 対応の余地が狭まっている。金融市場の不安定感は残存する可能性が高い。 8 .【 中 国 ・ 原 油 】 調 整 持 続 の 中 国 中国では11月に習近平を新しい共産党総書記とする新体制が発足したが、 政治情勢は安定化していない。江沢民元首席を軸とする保守派が政権幹部に 残留し、汚職排除などの改革が急速に進展する見通しが立っていない。 2011年末以降の金融緩和政策が効果を発揮する時期を迎えているが、 株価の底入れはまだ確認されていない。日中経済関係の悪化が新たな要因に 13 上 海 総 合 株 価 指 数 (2 0 0 7 年 1 2 月 ~ 2 0 1 2 年 1 2 月 ) WTI原油先物価格の推移(2007年12月~2012年12月) に 加 わ り 、社 会 の 不 安 定 化 が 強 ま る 恐 れ が 高 い 。日 本 と の 国 境 紛 争 が 拡 大 す る 可能性も高く、政治上のリスクは高いままで推移する見通しだ。 9 .【 投 資 戦 略 】 ミ ニ バ ブ ル と 反 動 総 選 挙 = 新 政 権 発 足 に 対 す る 先 読 み が 強 ま っ て い る 。当 面 は 、安 、安 倍 政 権 誕 生 = 金 融 緩 和 政 策 強 化 を 軸 に 金 融 市 場 の 変 動 が 形 成 さ れ る 可 能 性 が 高 い 。い わ ゆ る 「 金 融 相 場 」の 色 彩 が 強 ま る 可 能 性 が 高 く 、不 動 産 関 連 銘 柄 が 物 色 の 中 心 に 14 位 置 す る 可 能 性 が 高 い 。そ 。そ の 後 の 反 動 を 警 戒 し つ つ チ ャ ン ス を 見 逃 さ な い 対 応 が大切な局面である。2013年央までが重要チャンスとなるのではないか。 参考銘柄 投資判断は厳格な自己責任に基づかれますようお願いいたします。 ① 8058 三菱商事 12月13日終値 1,567円 総 合 商 社 は 円 高 よ り も 円 安 で の メ リ ッ ト が 大 き い 。ま た 債 務 残 高 が 大 き い た め 金 利 低 下 も 増 益 要 因 に な る 。当 面 は 、株 価 堅 調 地 合 い を 維 持 す る 可 能 性 が 高 い 。 ②8802 三菱地所 12月13日終値 1 ,7 1 9 円 「 金 融 相 場 」が 生 ま れ る 場 合 、主 力 に な る 銘 柄 。不 動 産 価 格 の 調 整 が 一 巡 し て 東 証 R E I T 指 数 も 上 昇 傾 向 を 示 し て い る 。予 測 通 り の 動 意 が 観 察 さ れ て い る 。 15 ③9005 東急 12月13日終値 428円 不 動 産 株 同 様 に 、「 金 融 相 場 」 に お け る 主 力 銘 柄 候 補 の ひ と つ 。 株 価 チ ャ ー ト はすでに地合いが大きく変化していることを示唆している。押し目買い継続。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 有 料 メ ル マ ガ 「 植 草 一 秀 の 『 知 ら れ ざ る 真 実 』」 も 併 せ て ご 購 読 く だ さ い 。 次 号 の 『 金 利 ・ 為 替 ・ 株 価 特 報 』 発 行 予 定 日 は 1 2 月 2 5 日 (火 )に な り ま す 。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 『金利・為替・株価特報』2012年12月14日号=170号 発行日 月2回発行(原則として毎月第2、第4金曜日に発行) 料 毎号3部 年間4万8000円 毎号1部 年間2万9800円(いずれも送料・消費税込み) 金 発行元 スリーネーションズリサーチ株式会社 FAX 020―4623-8897 メール info@uekusa - tri.co.jp 振込先 スリーネーションズリサーチ株式会社 三菱東京UFJ銀行 or 新丸の内支店 050-3444-9587 代表取締役 普通口座 植草一秀 4356254 本誌のご購読開始から1年経過後は1年単位の自動継続のお取り扱いをさせ て い た だ い て お り ま す 。ご 購 読 継 続 を 希 望 さ れ な い 場 合 に は 、新 規 年 度 に 入 り ます前にFAXかメールにてご連絡くださいますようお願い申し上げます。 小 社 の 許 可 の 無 い 、複 写 、複 製 、転 載 、電 子 的 な 手 法 に よ る 入 力 等 を 禁 じ ま す 。 16
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