世界の水産物需給動向が及ぼす 我が国水産業への

世界の水産物需給動向が及ぼす
我が国水産業への影響
(上巻)
平成 20年 3 月
財団
法人
東京水産振興会
はじめに
我が国周辺水域の水産物資源および漁業生産量は昭和59年の1,282万トンをピークに平成18年には567
万トンと半減し、食用魚介類の自給率が長期的に低下減少の傾向をたどってきております。しかしなが
ら、世界的な健康志向の高まりとともに、世界の魚介類消費量は増加傾向にあり、水産物需要の高まり
により、将来の世界的な水産物の需給ギャップ(供給不足)の拡大が危惧されます。
水産物はもはやグローバルな流通のなかにあり、世界の水産物需給動向が変化しているグローバルな
視野を持った対応が必要とされております。
こうした背景を踏まえて、海外での生産、貿易、消費の実態を知り、将来の動向を予測することによ
り、我が国の水産業への影響を考察し、我が国はどのような対応を図っていくかについての調査研究を
実施するため、平成18年度から「世界の水産物需給動向が及ぼす我が国水産業への影響」と題する調
査研究事業に取り組みました。
本報告書は平成18年度、19年度の 2 年間の調査研究をとりまとめたもので、関係各位の参考にして
いただければ幸いです。
なお、この事業の実施に際し、座長の日本大学大学院教授梅沢昌太郎氏をはじめ、委員としてご協力
いただいた各位、並びにご協力いただいた皆様方に厚くお礼申し上げます。
財団法人 東京水産振興会
会長 中澤 齊彬
目 次
(上巻目次)
第Ⅰ部 総括編
序文……………………………………………………………………………………………………………
3
第 1 章 世界の漁業・養殖生産と利用、消費、貿易の概要……………………………………………
6
第 2 章 2020年までの水産物需給見通し………………………………………………………………… 24
第 3 章 世界の水産物需給動向の変化に伴う我が国の対応…………………………………………… 38
第 4 章 各国調査内容の概略説明 ………………………………………………………………………… 45
第Ⅱ部 国別編
第 1 章 韓国 ………………………………………………………………………………………………… 65
第 2 章 中国 ………………………………………………………………………………………………… 83
第 3 章 タイ …………………………………………………………………………………………………137
第 4 章 インドネシア ………………………………………………………………………………………175
第 5 章 フィリピン …………………………………………………………………………………………211
第 6 章 インド ………………………………………………………………………………………………251
(中巻目次)
第Ⅱ部 国別編(続き)
第 7 章 エジプト ……………………………………………………………………………………………313
第 8 章 アメリカ ……………………………………………………………………………………………345
第 9 章 カナダ ………………………………………………………………………………………………399
第10章 メキシコ ……………………………………………………………………………………………465
第11章 ブラジル ……………………………………………………………………………………………489
第12章 オーストラリア ……………………………………………………………………………………537
(下巻目次)
第Ⅱ部 国別編(続き)
第13章 ロシア ………………………………………………………………………………………………595
第14章 ヨーロッパ …………………………………………………………………………………………633
第Ⅲ部 資料編
EU水産政策 …………………………………………………………………………………………………817
OUTLOOK FOR FISH TO 2020 ……………………………………………………………………………825
FAO世界漁業・養殖業白書2006年度(抜粋) ……………………………………………………………857
FAO統計による世界水産業の動向 …………………………………………………………………………821
第Ⅰ部 総 括 編
序 文
日本大学 梅 沢 昌太郎
1 .「世界の水産物需給動向が及ぼす我が国水産業への影響」と題する調査研究事業への取り組みは次
のような背景及び目的によってなされた。
(1)我が国周辺水域の資源は減少し、半数以上が低位水準であり、藻場・干潟の減少や磯焼けの進
行等、水産動植物の生育環境が悪化している。
(2)漁業生産量は昭和59年の1,282万トンをピークに平成18年には567万トンと半減し、近年は、輸
入の減少、輸出の増加等により下げ止まりの傾向になっているが、食用魚介類の自給率(重量ベ
ース)は長期的に低下傾向を辿ってきた。
(3)漁業就業者の減少(平成 7 年の30.1万人から平成18年には21.2万人)
、漁業者の高齢化(65歳以
上の割合が平成 7 年の23%から平成18年には36.2%に増加)、さらに漁船の高船齢化等漁業にお
ける生産構造の脆弱化が進行してきた。
(4)世界的な健康志向の高まりとともに経済発展を背景として、多数の人口を抱えているアジアを
始め世界の魚介類消費量は増加傾向となり、水産物需要の高まりが拡がった。このことにより、
将来の世界的な水産物の需給ギャップ(供給不足)の拡大が危惧されている。
(5)水産物はもはやグローバル(世界的)な流通の中にあり、世界の水産物需給動向が変化してい
る中で、これに適応した体制に切り替え、グローバルな視野を持った対応が必要とされている。
(6)以上のような背景から本調査研究事業は海外での生産、貿易、消費の実態を知り、将来の動向
を予測することにより我が国の水産業への影響を考察し、我が国はどのような対応を為すべきか
を検討するものである。
2 .調査研究の実施概要
(1)調査対象国については当初、人口、経済、水産物の生産・消費・貿易において大きな存在感の
ある国を地域毎に選別し以下のように対象国としていた。
アジア・・・韓国、中国、インド、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、
バングラデシュ
CIS
・・・ロシア
EU諸国・・・イギリス、アイルランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、バルト
3 国、ドイツ、フランス、ベネルクス 3 国、ポーランド、スペイン、イタリア、
ギリシャ、ポルトガル
ヨーロッパ・その他・・・ノルウェー
北米 ・・・アメリカ合衆国、カナダ
中南米 ・・・メキシコ、ブラジル、ペルー、チリ、アルゼンチン
その他 ・・・オーストラリア、エジプト、トルコ、南アフリカ
しかし、上記の内、アジアのベトナム、マレーシア、バングラデシュ、EUのポルトガル、中
南米のペルー、チリ、アルゼンチン及びその他地域のトルコ、南アフリカについては種々の理
― 3 ―
由により調査を実施しなかった。
3 .調査研究の内容
(1)対象国の経済的な背景(人口、購買力等)及び水産物の生産・貿易・消費に影響する政策内容
の分析、検討
(2)対象国の生産における過去の実績( 5 年)、現状、将来予測(2010年、2020年)の調査・分析
生産状況については①対象国の資源管理制度、漁業協定などの漁業政策、②漁業及び養殖別の
生産量・生産金額、魚種別生産量・生産金額、③資源状況、④漁業就業者の動向、⑤食品衛生、
トレーサビリティ等の行政上の管理・規制などを調査項目に掲げた。
(3)対象国の輸出入貿易に関する過去の実績( 5 年)、現状、将来予測(2010年、2020年)の調
査・分析
輸出入貿易については①貿易関係制度(関税、検疫、食品衛生、表示規制等)、②水産物全般
の輸出入量・額及び魚種別輸出入量・額の実績、③加工貿易による原料の輸出入量・額の推計な
どを調査項目として掲げた。
(4)対象国の水産物消費状況について過去の実績( 5 年)、現状、将来予測(2010年、2020年)の
調査・分析
消費状況について①対象国の水産物流通システム(産地、消費地における物流・商流)、②水
産物の需給動向、③水産物の消費量・額(国民一人当たりの消費、外食消費、加工向け消費)、
④消費動向(主要魚種卸売価格・小売価格 3 ヵ年推移、生食など消費の特異性、小売の消費形態
―切り身、惣菜など、外食における消費の特異性―人気メニューなど)を調査項目として掲げた。
調査項目の殆どが現地のヒアリングによる情報収集を主体としているため、情報収集に不備な
点が出てきた。このことは今後の研究テーマとなろう。
(5)対象国の水産物生産、消費における課題とその対応についての調査・分析
(6)対象国の水産物需給における変動に伴う日本への影響についての調査・分析
尚(2)、(3)、(4)においては、過去の実績はFAOのデータもしくは当該国の発表数字を採用し
た。また、調査項目が多く、複雑で全てをカバーするに至らなかった。
将来予測についても当該国の機関、団体、研究者、生産者、商社、小売業者、調査機関等多方面
からのヒアリングにより情報を収集、分析した。そのため、あくまでも本調査研究事業の方向づけ
としての役割を認知していただきたい。
4 .調査研究の体制
研究のため委嘱した委員の方々による委員会を設け、委員会には委員以外に対象国の調査を依頼し
た独立行政法人日本貿易振興機構・農水産調査課の堤佐武郎氏と梶原香織氏及び有限会社バーテック
ス代表取締役 丹羽弘吉氏にもご参画いただき、平成18年度に 3 回、19年度に 3 回開催した。
対象国の調査は現地の調査員に依頼し、委員にはその調査結果を分析、調整する役を担っていただ
いた。
具体的には、荒井信雄氏(北海道大学)はロシア、濱田英嗣氏(下関市立大学)は韓国、山尾政博
氏(広島大学)はタイ、インドネシア、フィリピンの東南アジア 3 カ国、婁小波氏(東京海洋大学)
には中国をそれぞれ担当していただいた。
EU諸国及びノルウェーについては、丹羽氏及びニチレイフレッシュのアムステルダム駐在事務所
― 4 ―
長 杉山清氏に調査協力を願った。
それら以外の対象国(アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、ブラジル、オーストラリア、インド、
エジプト)については日本貿易振興機構に調査依頼をした。
また、赤井雄次氏(有限会社水産経営技術研究所)についてはFAOなどの統計資料の整理及び全
体的な資料の取りまとめ分析を、吉越勝晴氏(財団法人食品産業センター)には全般的な需給動向に
ついての分析・調整を、小野征一郎氏(近畿大学)には水産物需給の変動に伴う我が国の対応につい
ての調査・分析を依頼した。
5 .本報告書は平成18年度、19年度の 2 年間の成果を取り纏めたものである。
報告書の前半の第Ⅰ部は総括編で、①FAOの2006年「世界漁業・養殖業白書」をベースとした世
界の漁業・養殖生産と利用・消費、貿易の概要について、②国際食糧政策研究所(米国ワシントン
DC)及び世界魚類センター(マレーシア・ペナン)による報告レポート「2020年までの水産物の見
通し」をベースとした2020年までの水産物需給見通しについて、③世界の水産物需給動向の変化に伴
う我が国の対応について、④各国調査内容の概略説明、の 4 つの章に区分けし取りまとめた。総括編
に続き、第Ⅱ部は各国調査編として調査対象国の水産物需給動向について、最後の第Ⅲ部は資料編と
して関係する資料を取りまとめた。
6 .本調査研究のため委嘱された委員の方々は別掲のとおりである。
7 .調査研究を委嘱された委員各位及び資料作成と報告書作成に実質的な協力をいただいた(財)東京
水産振興会境常務をはじめとした事務局の皆様に感謝申し上げる。
委 員 名 簿
氏 名
所 属 ・ 役 職
座 長
梅 沢 昌太郎
日本大学 大学院商学研究科 教授
委 員
赤
井
雄
次
(有)水産経営技術研究所 代表取締役
〃
荒
井
信
雄
北海道大学 スラブ研究センター 教授
〃
小 野 征一郎
近畿大学 農学部水産学科 教授
〃
濱
田
英
嗣
下関市立大学 経済学部 教授
〃
山
尾
政
博
広島大学 大学院生物圏科学研究科 教授
〃
吉
越
勝
晴
(財)食品産業センター 審議役
〃
婁
小
波
東京海洋大学 海洋政策文化学科 教授
(平成20年 3 月31日現在)
― 5 ―
第 1 章 世界の漁業・養殖生産と利用・消費、貿易の概要
(有)水産経営技術研究所 赤 井 雄 次
日本大学 梅 沢 昌太郎
世界の捕獲漁業生産は2004年に9,500万トン、1 次販売額推定849億米ドルに達した。エルニーニョの
影響によるペルーのアンチョベータ漁獲による変動を除けば、世界捕獲漁業生産は過去10年間におい
て比較的安定した推移をしてきた。
一方、養殖業生産は1970年以来世界的に8.8%の年間平均成長率で、捕獲漁業の僅か1.2%や陸上の畜
肉生産の2.8%の増加と比べて、他のどの動物性食物を生産する部門よりも急速な成長を続けている。
しかしながら、いくつかの領域と魚種では高成長率が続くとはいえ、世界的な養殖業の成長率が頂点に
達した兆しもみられる。
FAOなども明らかにしているように「自然採取」を主体とする海面の捕獲漁業生産が生態系におけ
る限界に近づきつつあり、現在人類が食用に消費している種類の魚介類については、漁船、漁網の技術
発展や漁業資源探知技術の進歩を以ってしても生産数量を拡大できない状態にあるように思われる。
また、期待されている海面及び内水面における養殖業の拡大も生態系の環境における制約によって頭
打ちになることが懸念されている。さらに養殖用の餌、なかでもフィッシュミールの供給可能性には限
界があり、水産養殖の増産は魚類養殖餌料の需要増加となって、フィッシュミール価格の高騰を招き、
そのことが養殖業自体の成長を阻害する要因になると指摘されている。
一方、水産物の消費は、この数年、世界的な健康志向の拡がり等によって急激な増加傾向にある。特
に人口増の著しい発展途上国において、経済の伸展に伴う収入増、都市化や食事の多様化によって水産
物の需要が拡大しまた、水産物の消費増を反映し、水産物輸出入貿易も世界的な経済発展の上昇と時を
同じくして拡大成長を遂げてきた。こうしたことから、今後、増大する需要に見合う生産の持続性が大
きな問題となってきている。
1.漁業・養殖業生産
(1)全生産量の動向
1995年から2005年までの世界の漁業・養殖業の生産量の動向をFAOの統計によってみたものが表 1
である。
漁業・養殖業の合計生産量は、1995年が 1 億2,481万トン、2000年が 1 億4,252万トン、2005年が 1 億
5,753万トンで、1995年から2005年までの10年間に26.2%、2000年から2005年までの 5 年間に10.5%増加
し、年率にして 2 %を超える増加が見られる。
しかし、漁業と養殖業別の生産量を見ると、漁業は横ばいから減少傾向となり、反対に養殖業は10
年間に約 2 倍に、5 年間に約38%の増加となっていて、水産物生産量の増加は養殖業の発展によるとこ
ろとなっている。
表 1 では魚類・水産動物と海藻類を区分しているが、いずれも漁業は減少傾向、養殖業は大幅な増
加となっている。注目されるのは、藻類養殖生産量の増加率が魚類・水産動物の養殖生産量の増加率を
― 6 ―
表1
近年の世界の漁業・養殖業生産量の動向(千トン)
(資料:FAO統計)
表2
世界地域別漁業・養殖業生産量の動向(千トン)
(資料:FAO統計)
― 7 ―
上回っていることである。これは、後述するように中国での増加が大きいことによる。
次に世界の漁業・養殖業生産量の動向を地域別(大陸別)にみたものが表 2 である。なお、
「その他」
の地域の区分があるが、これは主として南極大陸周辺の海域における生産量である。
漁業・養殖業ともに生産量が多く、増大している地域はアジアであり、合計生産量の世界に占める比
率は1995年が55.5%、2000年61.6%、2005年66.2%と、そのシェアを拡げつつある。特にアジアでは内
水面での養殖の伸びが全体に占める割合も大きく、成長率も高いことが注目される。これは中国の内水
面養殖業の発達と密接な関係を有すると思われる。
続いて生産量の多いヨーロッパは漁業生産量は減少し続け、養殖生産量には増大が見られる。しかし、
漁業生産量の減少をカバーできず、合計生産量はかなり減少が大きい。
また、ヨーロッパと同様に南米でも、養殖生産量は増加しているが、漁業生産量の減少をカバーでき
ず、合計生産量は減少傾向にある。
北米(中米諸国を含む)は、漁業生産量が横ばいであるが、養殖生産量の増加によって合計生産量は
やや増加の傾向である。
アフリカ、オセアニアでは、漁業、養殖業ともに生産量を増加させているが、世界の生産量に占める
シェアは低く、2005年の合計生産量は、アフリカが5.1%、オセアニアが1.0%となっている。
さらに、表 2 によって海面、内水面別に漁業・養殖業の生産動向を地域別に見ることとする。
まず、最も生産量が多いアジアについて見ると、海面の漁業生産量は1995年から2000年までは増加
していたが、2000年以降4,000万トン台で横ばい状態となっている。しかし、内水面漁業は1995年の430
万トンから2005年の617万トンと年率 4 %の増加となっている。
一方、養殖業は、海面、内水面ともに1995年から2005年までの間、約 2 倍前後の増加となっていて、
養殖業のウエイトの増加が顕著である。
ヨーロッパは、内水面での漁業・養殖業のウェイトは低く、また、増加はなく、海面の養殖業だけが
増加しているだけである。
南米は、海面、内水面ともに養殖生産量が増加し、また、内水面漁業生産量もやや増加の傾向にある。
北米は、海面漁業は横ばい、内水面漁業は減少であるが、養殖業は海面、内水面で増大している。
アフリカは、海面、内水面ともに漁業生産量は増加しているが、養殖業の生産量は低い水準にあり、
特に海面は少ない。
オセアニアは、海面の漁業、養殖業ともに生産量が増加傾向にあるが、内水面では、漁業・養殖業の
増加はほとんどなく、僅かな生産量にとどまっている。
以上、世界の地域別のグローバルな生産の動向を述べたが、要約すると次のようになる。
漁業生産量は、最もシェアの高いアジアで内水面漁業生産量の増大にもかかわらず、海面生産量の減
少から横ばい状態となっている。また、ヨーロッパでは明らかに漁業生産量が海面・内水面ともに減少
している。さらに、南米の海面漁業生産量も減少し、北米でも横ばい状況になっており、内水面生産量
を合わせても減少している。
漁業生産量が増大している地域は、シェアの低いアフリカ、オセアニアだけである。
一方、養殖業は、各地域とも海面及び内水面での生産量が増大しており、世界全体の漁業生産量の減
少を補いつつ、合計の生産量を増大させている。
FAOが指摘するように、海面漁業の生産は、特定な漁業資源の変動に関わらず、既に限界に達して
― 8 ―
いることが統計上にも示されている。
また、内水面漁業は、アジア、南米、アフリカでは増加しているが、海面漁業生産を補うには至って
いない。
(2)主要水産物に占める養殖生産の増大
世界の水産物の生産量は表 3 に示すように、1970年まではほとんどが天然資源の捕獲・採捕による
漁業生産であったが、1980年以降は養殖による生産が急速に増大しつつ、現在に至っている。
養殖生産増大は、主として次の要因によるものである。
① 水産物養殖技術の発展に伴う量産方式の確立
② 貿易の拡大に伴う特定水産物の消費国需要への対応
③ 開発途上国等への先進国養殖企業の進出と投資増大
④ 漁業生産停滞の対応としての養殖業の拡大
以上の要因に伴って1980年代以降、漁業先進国、後進国を問わず、養殖生産が拡大するところとな
った。
表3
世界の水産物に占める養殖生産物
の比率(千トン)
(資料:FAO統計)
(資料:FAO統計)
近年の世界の主要水産物の生産量のうち養殖生産量が占める数量を示したものが表 4 であり、養殖
生産物の比率を示したものが表 5 である。表に示した主要水産物の生産量は全生産量の約69∼73%と
― 9 ―
なっている。
主要水産物における養殖生産物の比率も2000年以降漸増傾向で、貝類、藻類及び魚類のコイ類、Cat
fishでは養殖生産物が殆どであり、サケ・マス、ティラピアも養殖が圧倒的に多い。
表4
主要生産物の生産量(千トン)
(資料:FAO統計)
表5
主要水産物に占める養殖生産物の比率
(資料:FAO統計)
魚種別に生産量の動向と養殖生産量の占める比率を見ると、次の通りである。
○ニシン・イワシ
ニシン・イワシの生産地は、世界各地域に分布し、各種水産物の中で最も多い生産量である。しかし、
両魚種とも海洋条件等の変化により生産量が変動し、特にイワシにあっては、1980年前後、大量資源
の増大を受け、魚粉(ミール)産業が日本を主体と
して活況を呈したが、近年では資源の減少が著しい。
用途としては、ニシンの多くは食用向けであるが、
イワシでは家畜飼料、魚類養殖餌料向けが80%以上
を占めている。
なお、現在のところ、ニシン・イワシの養殖は世
界各国で行なわれていない。
― 10 ―
○サケ・マス
サケ・マス類の生産量は、近年増加傾向にあるが、
これは、ノルウェー、チリ等での大量養殖生産によ
ってもたらされたものである。表 5 に示されている
ように、2000年以降は65%以上が養殖生産によると
ころとなっている。
日本においては、この数年、輸入量と国内生産量
がほぼ均衡している。輸入ものについては、従来の
天然ものに加え、近年特に養殖ものの消費が著しい。
一方、国産シロザケの一部は加工原料として中国等へ輸出されている。
○カツオ・マグロ
カツオ・マグロ類の生産量は、近年増大傾向にあ
るが、これは、南太平洋、インド洋等で大型まき網
漁業によって効率的にカツオを中心とする漁獲が行
われているためである。
マグロ類については、この数年、南太平洋のミナ
ミマグロ、大西洋のクロマグロを始めとし、世界的
な天然マグロ資源の減少を防ぐため漁獲規制をさら
に強化する方向にある。一方、クロマグロ等の養殖が地中海、オセアニア、北米、アジア(日本も含む)
地域で行なわれており、今後も増加する傾向ではあるが、魚種が限定されていること、養殖魚の調達を
天然資源に依存していること等から、当分の間、生産量が大幅に増大することはないと予想される。
日本においては、国産のカツオ、および国産または輸入の各種マグロを主に刺身で消費しており、近
年は養殖マグロ(クロマグロやミナミマグロ)の供給・消費が増えている。一方、日本近海で漁獲した
カツオやビンナガの一部は缶詰原料としてタイへ輸出されている。
○タラ類
タラ類は種類は多いが、近年、マダラを中心に天
然資源の減少から生産量は停滞している。タラ類の
中で生産量の多いスケトウダラも同様であり、練り
製品の原料となるスリミ向けは減少し、白身魚の逼
迫からフィレー優先となり、減産傾向が続いている。
練製品の消費については、EU、韓国の増加が著しく、
日本は逆に減少しているがいずれの国も原料のスリミは大半を海外から輸入している。このため、米国
のスケトウスリミをめぐりEU、日本、韓国を交えた 3 者での輸入競合が強まっている。一方、フィレ
ーについては、欧米諸国の需要が強いため、価格も上昇している。
こうしたなかでノルウェーでは、2000年頃からマダラの養殖に取り組み、30万トンの生産を当面の
目標としている。
― 11 ―
○ヒラメ・カレイ
生産量は100万トン前後で推移しているが、タラ類
と同様、世界的に需要のある魚類であること、また、
ヒラメについては人工的に種苗から育成できること
から、アジア地域(日本、韓国など)を中心に養殖
生産量が増加している。
○アジ・サバ
ニシン・イワシと同様、世界的に漁場は分布し、
資源量は多い。近年まで東アジア諸国以外には需要
が少ないことから、小型魚の多くが餌料や魚粉原料
とされていた。最近では、アジ・サバの食用向け需
要が中国、中央アジア、アフリカ等の諸国に拡大し
ている。
なお、日本ではアジやサバの養殖も行なわれてい
るが、他国ではほとんど行われていないため、FAO
のグロス統計には表示されていない。
○カニ類
カニ類の種類は多く、淡水性、汽水性のもの及び
大型のタラバガニ、ズワイガニ等から中型のガザミ、
モクズガニ等、さらに各種の小型ガニがある。生産
量は増大してきているが、ほとんど中国の中型、小
型のカニであり、淡水性のカニが多い。養殖生産量
は増大してきているが、これもほとんどは中国の中
型、小型の生育期間の短いカニが対象とされている
模様である。
○エビ類
エビ類は近年養殖生産量が増加し、2004年以降は
エビ類生産量の40%以上が養殖生産物となっている。
養殖生産地域はアジア諸国、中南米諸国からアフリ
カ諸国にまで及んでいる。
近年の養殖生産増大の要因は、病気に強く、成長
が速いというメリットのあるバナメイ種が養殖の中
心になってきたことによる。エビ類養殖の主要対象
種は1980年まで大正エビ、クルマエビであったが、それ以降2000年までブラックタイガーに替わり、
近年はバナメイが主体となっている。
― 12 ―
日本において、エビの消費は「豊かさの指標」とも言われてきたが、90年初頭から連続して減少し、
97年にはエビ輸入量世界一の座を米国に譲った。その後も米国との格差が拡大し、日本の冷凍エビ輸
入量は07年には21年ぶりの低水準に落ち着いた。
○イカ・タコ
イカ・タコの需要は、アジア諸国を中心に拡大し、
ラテン系諸国や他の欧米諸国にも拡がっている。生
産量は300万トン台で推移しているが、ニシン・イワ
シ、アジ・サバと同様資源変動が大きい。
日本のイカ漁業は、沿岸、沖合、遠洋へと発展し
てきたが、沿岸ではスルメイカが漁獲の過半を占め
る。一方、遠洋では加工向けのアカイカが中心であ
る。
○コイ類
コイ類は、ニシン・イワシに次ぐ生産量であり、
世界各国で生産されているが、主要国は中国とイン
ドである。2005年の世界生産量は2,019万トンである
が、このうち中国が1,511万トン、インドが274万ト
ン、バングラデシュが61万トンとなっている。
これら主要国の生産はほとんどが養殖生産による
ところであり、表 5 に見られるように、世界のコイ
類生産量の養殖生産比率は97%前後となっている。
○ティラピア
淡水魚の中で生産量が増大しているのはティラピ
アであり、増大の要因は養殖生産の拡大によるとこ
ろである。
従前までティラピアは、アフリカ地域、中南米地
域、東アジア諸国で生産、消費されてきたが、近年
では米国、欧州諸国の白身需要が増大したことから、
これら需要に向けての養殖生産が行われ、特に中国
の養殖生産がコイ類に次ぐ生産量を上げている。
2005年の中国のティラピア生産量は98万トンで、すべてが養殖生産によるものとなっている。
○ Cat fish
Cat fishは通常ナマズであるが、種が多く、地域によっては異なった種もCat fishとしているため、こ
こではFAOの分類名によることとした。
― 13 ―
Cat fishの生産量は、1995年に45万トンであったが、
2005年には166万トンと3.7倍に急増した。増大の要
因は、ベトナムにおける養殖業の急速な拡大である。
ベトナムのCat fishは、当初米国向けの輸出であり、
2000年以降年々生産量を増大させた。これに対し中
国も養殖を開始し、2005年にはベトナムを超える生
産量となった。2005年の世界生産量166万トンのうち
中国が49万トン、ベトナムが38万トンとなっている。
その後Cat fishの養殖は、タイ、インドネシア、マレーシアにも波及した。なお、ベトナムの輸出先
である米国でも近年25万∼30万トンの生産をあげている。
世界のCat fishの生産量は急増しているが、2005年の養殖生産比率は86.8%と、コイ類に次ぐ高い比
率となっている。
○貝 類
貝類は淡水域・汽水域を含めて、多様な種類の生
産があるが、近年養殖生産により数量を増大させ、
世界の生産量は2000年に1,127万トンであったが、
2005年には1,404万トンとなった。表 5 にあるように、
これら貝類の80%以上が養殖によるものであり、
2005年には86.8%となっている。
2005年の地域別の生産量は、アジアが1,170万トン
で、次位のヨーロッパ94万トンを大きく引き離して
いる。2005年の主な国別生産量は、中国が985万トン、米国が71万トン、韓国が81万トン、日本が40万
トンであり、中国が世界の87.4%を占めている。
中国の貝類生産は、ホタテ、カキもあるが、多くが淡水域・汽水域の小型 2 枚貝、まき貝である。
○藻 類
藻類の生産量も、表 1 に示したように、年々増大
している。主な生産地域はアジアであり、2005年の
世界生産量1,610万トンのうちアジア地域の生産量は
1,520万トンで、94.4%を占める。同年の主要国別生
産量は中国が1,164万トン、フィリピンが134万トン、
インドネシアが92万トン、韓国が64万トン、日本が
61万トンである。
藻類も90%前後が養殖生産によるものであり、コ
ンブ、ワカメ、ノリ、寒天原料となる紅藻類が多い。
以上、述べたように、世界の主要水産物の中で養殖生産の比率が高い水産物が生産量を増加させてい
― 14 ―
ることが示されている。サケ・マス、エビ類、コイ類、ティラピア、Cat fish、貝類、藻類があげられ
る。
一方、養殖の比率が低いか、行なわれていない水産物は、生産量の変動を伴いつつ、横ばい状況また
は減少傾向をとるものが多い。
2.世界の漁業・養殖業生産と利用・消費
2006年にFAOがとりまとめたレポート「世界の漁業・養殖業白書」による2000∼2005年までの水生
植物を除く漁業・養殖生産量と利用概要は表 6 のとおりである。
表6
世界の漁業・養殖業生産量と利用の動向
表 6 による生産量は、本レポート表 1 の数値とやや違っているが、概数はほぼ合致しているので、
FAOの数値によることとする。
水生植物を除く魚介類等の全生産量は、2000年から2005年の間に 8 %増加してきている。これは、
前述したように、海面、内水面の養殖生産量増加によるものである。
これら生産物の利用について見ると、食用に向けられる数量も2000年から2005年の間に10.6%増加し、
年率にすると約2.2%の増加である。また、非食用向けは、ほぼ横ばいで推移している。
一方、世界の人口は、2000年から2005年の間に61億人から65億人へと6.5%増加し、食用向け水産物
の増加を下回っている。このため、世界人口一人当たりの消費量に換算すると、2000年の16.0kgから
2005年の16.6kg(生体重換算)に増加し、過去最高の消費量になったとFAOレポートは述べている。し
かし、同レポートは、中国の生産量に占めるウエイトが極めて高いこと、また、その統計データが信頼
性に乏しいことから表 7 のとおり中国を除く統計も示している。
中国を除いても水生植物を除く魚介類等の全生産量は、2000年から2005年の間やや増加してきてお
り、これも海面、内水面の養殖生産量の増加によるものである。但し、増加率は2000年の89.5百万トン
から2005年の92.1百万トンへ2.9%の増加と、表 6 より低くなっている。
生産物の利用について見ると、食用に向けられる数量は2000年の63.9百万トンから2005年の69.0百万
トンへと7.9%の増加となり、全生産量の増加率を上回っている。これは、当然のことながら非食用に
向ける数量が減少したことによる。
中国を除く人口は、2000年の48億人から2005年の51億人へと6.3%の増加率であり、食用に向ける水
― 15 ―
表7
中国を除いた世界の漁業・養殖業生産量と利用の動向
産物の増加率よりやや低いため、一人当たりの消費量は2000年の13.3kgから2005年の13.4kgと僅かな増
加となっている。しかし、表 7 による2007年の数値は13.5kgであり、2000年以降、一人当たりの水産物
消費量は横ばいとなっていることが示されている。
全世界の水産物の生産・利用の動向と中国を除いた場合の動向について、表 6 、表 7 の対比によっ
て見ると、次の点が指摘できる。
生産量の増加率は、中国を除くとやや低くなるが、ほぼ同様の傾向を示している。
生産量のうち内水面の漁業・養殖業は、表 6 、表 7 とも増加している。また、海面生産量は、漁業の
減少を養殖業の増加により補っていることも同様である。
一方、利用についてみると、表 6 の全世界の食用消費量の増加率は、中国を除いた増加率を上回って
おり、このことは、中国の消費量の増加が多いことを示している。この結果、中国を除く一人当たりの
消費量は横ばい状況であり、
中国を加えた世界の一人当たりの消費量が増加していることとなっている。
なお、2003年についてFAOが試算した地域別、経済圏別の食用水産物(水生植物を除く)供給量は表 8
のようになっている。
表8
大陸及び経済圏別食用水産物供給量(2003年)
一人当たり
・中米
FAOの白書では、これら各地域及び経済圏別の水産物消費は、過去に比べ増加傾向を示しているこ
とを述べている。その要因として、発展途上国では人口増加は鈍化しているが、都市化の進展と食品流
― 16 ―
通の変化とが複合し、動物性食品の需要が高くなった。また、経済の発展とともに食生活も変化し、多
様化を求めるようになった。従来魚は加工品より鮮魚の方が市場で好意的に受け入れられてきたが、包
装の改善、航空貨物運賃の軽減、効果的な信頼性のある物流によって生鮮水産物の売り場も拡大してき
た。加えて近年発生した鳥インフルエンザ、BSEの影響もあって水産物需要が増大してきたことを指摘
している。
3.世界の水産物貿易
表 9 は世界の地域別水産物輸出入数量と金額の1995∼2005年の動向を示したものであり、表10はそ
の伸び率を見たものである。
世界の合計輸出入数量の増加率は、生産量の増加率を大きく上回ることとなっている。輸出量で見る
と、1995∼2005年の間に37.7%増加し、全水産物生産量の同期間の増加率26.2%(表 1 参照)に対し
11.5%上回っている。さらに輸出金額では51.2%の伸びを示している。
水産物貿易の拡大要因の中心は、生産面から見れば養殖業の発展によるものであり、消費面から見れ
ば各国の水産物需要の選択的拡大があったことによる。
水産物の消費は、漁獲生産が中心であった時代は、自国で漁獲し得る限定された水産物の消費又は輸
出が行なわれた。しかし、養殖技術と育成方式の発展と確立により需要国への輸出目的のための養殖が
広く行なわれるようになった。
表9
世界地域別水産物貿易の動向
― 17 ―
― 18 ―
表10
世界地域別水産物貿易の増加傾向
最も代表的な例として、南半球水域では全く漁獲されなかったサケ・マス類がチリを中心に南米で
2005年には61万トンもの養殖生産量があり、ほとんどが輸出に向けられている。また、中国には生息
していなかったティラピアが2005年には養殖生産量が98万トンにも達し、多くが輸出されている。こ
うした養殖業の発展により世界の先進国、開発途上国、低所得国を問わず、その地域の条件にあった輸
出目的の水産物養殖業が行なわれるようになった。
勿論これら養殖業発展の条件は、各国の需要市場が拡大したことによる。
次に貿易に向けられる水産物の質的変化があげられる。従前の輸出入魚介類は、フィッシュミール、
缶詰以外はラウンド冷凍品、または塩蔵、乾燥品等 1 次加工品が多かった。しかし、近年はドレス、フ
ィレの冷凍から、輸出先のニーズに合わせたコンシューマー・パック製品や調味・調理品となるものも
多くなった。
このため、輸出品のこれら加工のために、労賃の安い国に原料を輸出して加工した上で需要国に再輸
出する方式も多くなってきている。
こうした貿易方式の多様化が水産物貿易量を増加させ、さらにその付加価値分が上乗せされることか
ら貿易金額の増大をもたらすこととなっている。
以上のことを前提としつつ、表 9 、表10に示した世界各地域の水産物貿易について若干の考察を加え
ることとする。
水産物貿易の数量、金額が最も多い地域はヨーロッパである。これは、EUを中心に水産物需要国が
多いこと、また、ノルウェー、アイスランド、スペイン等の水産物輸出国があることから、各国間の水
産物流通が域内で広く行なわれる結果である。但し、数量的には10年間に大きな増加は見られない。
― 19 ―
一方、金額面では2000年以降、輸出、輸入ともにかなり増加率が高くなっている。輸出については、
ノルウェーのサケ・マス、輸入については東アジアからのエビ類の増大が特記される。
アジアは、ヨーロッパについで輸出、輸入の数量、金額ともに多い。輸出量は、1995年以降の増加
率が高く、これは主として中国の各種水産物輸出の増大によるものであり、日本、欧米向けのものであ
る。一方、輸入量の増加率も高く、日本の輸入の他、アジア諸国内の水産物貿易の増大があげられ、こ
の中にはタイ、中国等の再輸出原料の輸入が含まれている。
南米地域の輸出量も多いが、これはペルー、チリのイワシ・アジ類等の魚粉が中心となっている。そ
のため輸出金額は低い水準であったが、2004年以降、チリの養殖サーモンの増加から金額の上昇が見
られる。一方、輸入は数量、金額とも伸長してはいるが低い水準であり、水産物輸出が多いことを示し
ている。
北米地域の水産物貿易は、米国、カナダ、メキシコが中心となっていて、カナダ、メキシコは輸出国、
米国は輸入国の位置にあり、数量ではほぼ等量に推移している。しかし、輸入金額の増加率は高く、エ
ビ類等上位価格の水産物輸入ウエイトが高いことを示している。
― 20 ―
アフリカ地域は、数量では輸入が輸出を上回り、金額では輸出が輸入を大きく上回っている。しかし、
近年は輸入金額の増加率が数量の増加率を上回っている。これは、再輸出を目的とする輸入が増加して
きているものではないかと推測される。
― 21 ―
オセアニア地域は、生産数量が少なく、地域内消費量も少ないため、輸出数量、金額ともに少なく、
また、輸入量も少ない。しかし、近年、輸入金額の増加率が高くなり、これは中国等アジア地域からの
加工製品輸入の増加によるものと思われる。
4.漁業者・養殖業者
FAOの白書による世界の地域別漁業者・養殖業者の推移は表11のようになっている。なお、このデ
ータについては、表11の(注)にあるように1990年、1995年は限られた国の報告によっている。
2004年の漁業者、養殖業者数は41,408千人で、2000年と対比すると4.8%増加し、約 5 %の増加であ
る。
地域別に見ると、アジアが最も多く、2004年は36,281千人で87.6%を占め、次がアフリカの2,852千人
で6.9%である。北中アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ及びオセアニアは合計しても5.5%と少ない。
養殖業者だけについて見ると、2004年は11,289千人で、2000年と比べると29%増加しており、合計増
加率を大きく上回っている。2004年の地域別養殖業者はアジアが10,837千人で、世界の養殖業者の96%
を占めている。
6 カ国だけの統計であるが、表12を見ると、中国、インドネシアの漁業者及び養殖業者の数が多い
こと、また、アイスランド、ノルウェー及びペルーの漁業者又は養殖業者が少ないことが注目される。
以上のように、地域別に見ると、アジアには家族経営による小規模漁業者、養殖業者が多く、ヨーロ
ッパ及び南米等では、企業経営による雇用者が中心となっていることが示されている。
表11
地域別漁業者と養殖業者(千人)
― 22 ―
表12
主要国の漁業者・養殖業者(千人)
FAOの白書では、アジア等の発展途上国の漁業・養殖業(海面及び内水面ともに)は、男女に関わ
らず、重要な雇用及び収入源となっていることを指摘している。
また、漁業・養殖業は、漁船、漁具、養殖餌料の生産や生産水産物の包装、輸送等の分野に貢献して
いることも合わせて指摘している。
― 23 ―
第 2 章 2020年までの水産物需給見通し
日本大学 梅 沢 昌太郎
世界の食用水産物は過去30年において、1973年の4,500万トンから、1997年9,100トン、2000年9,700ト
ン、2005年10,700トンと消費量が増加してきた。先進国の水産物消費は1985年から1997年の間停滞した
が、開発途上国における人口急増と、一人当たりの平均的水産物消費量の増大が世界的な水産物消費の
急激な拡大をもたらした。世界的な健康志向が、肉食から魚食へと食生活を変えている動きに注目する
必要がある。
さらに、最近では石油の代替燃料であるバイオエタノール需要の拡大によって、穀物価格が高騰し、
畜産物の飼料価格が軒並み上昇している。この影響で畜産物価格は高騰し始めており、同じ動物性タン
パク質源である水産物への代替需要が進行する可能性が高い。
今まで増大する需要に応えてきた水産物生産は今後も需要を満たしてくれるのか、このことが論争の
対象となっている。
FAOは、天然魚類の資源枯渇に関して、捕獲漁業の殆どが充分に開発済み、或いは過剰開発である
と繰り返し警鐘を鳴らしてきた。また、開発途上国においても漁業問題により深く係わってくるように
なった。こうした中で世界の捕獲漁業は最大限の能力に恐らく到達しているか、或いはその目前まで利
用されているとの観測がなされている。
養殖業は捕獲漁業に対する圧力を軽減し、
貧困層への食糧としての水産物供給源と考えられてきたが、
養殖業自体が独自の問題を提起してきた。養殖業の発展が土地の利用に変化をもたらし、排水による周
辺環境の汚染、養殖場における魚病の伝染、さらに逃避した養殖魚が野生個体群に潜在的な危険をもた
らすと警告されるようになった。また養殖魚に食べさせる餌の価格上昇も、長期的には深刻な状況を生
むことになるだろう。
そこで、今後2020年までに、国際化する食糧経済の中での水産物の世界市場における需要と供給に
ついて検討することにした。ここでは、2003年に国際食糧政策研究所(米国ワシントンDC)及び世界
魚類センター(マレーシア・ペナン)によって報告されたレポート「2020年までの水産物の見通し」
をベースとして、水産物の生産、貿易、消費が2020年に向けてどのように進展するか分析・検討を行
うことにする。
1.水産物の需要と供給−過去30年の推移
(1)開発途上国における水産物の需要
レポートでは、この30年における水産物供給量の増加は、開発途上国における食糧としての水産物
の需要急増に起因しているとし、世界の水産物消費が1973年以来倍増し、開発途上国がこの増加分の
90%を引き起こしていると説明している。先進国の水産物の消費が先細りになってきたのに対して、
より貧困な国々では逆に消費が増加してきた。中国は1973年には世界の水産物総消費量の僅か11%の
シェアであったものが、1997年には世界のおよそ36%を占めるまで成長した(図 1 )。インドは1973
年以来その合計消費量が倍増している。その一方で、アフリカ中部での一人当たりの水産物の消費量
― 24 ―
は過去30年の間に殆ど増えていない。
水産物は、とりわけ開発途上国にとって重要なタンパク質源である。しかし、開発途上国における
水産物消費量の急増にも拘わらず、1997年の一人当たり消費量の水準は、先進国の水準をかなり下回
っている(表 1 )
。
表1
近年の一人当たり水産物消費量の動向
中国
東南アジア
インド
他の南アジア
ラテンアメリカ
西アジアと北アフリカ
サハラ砂漠以南のアフリカ
米国
日本
EU15ヶ国
東欧と旧ソビエト連邦
その他先進国
開発途上国
中国を除く開発途上国
先進国
World
図 1 水産物の消費量に関する開発途上国の割合変化:1973年及び1997年
― 25 ―
米国、EU15ヶ国では消費量は増加しているが、日本では一人当たりの消費量は多いものの1973年
対比では大きく減少している。また、旧ソビエト連邦が大きく減少しているのは、1985∼1997年がロ
シア連邦への転換期で政治的、経済的にも混乱した時代であり、水産物消費が減少しているのも納得
できる。
世界の水産物消費は人口増があり、経済発展により国民の収入増が見込め、かつ国内の都市化が進
んだ国家において伸展する傾向にある。先進国では過去15年の間に人口が殆ど増加していないのに対
して、開発途上国では急速に増加している。更に、収入増と都市化が人々の食事の好みを変え、水産
物消費の増加を促進してきた。
餌料向けの魚の需要も上昇し、世界の捕獲漁業による魚のおよそ 3 分の 1 がフィッシュミールに還
元され、家畜用及び肉食性魚類の養殖用の餌に使われている。
(2)捕獲漁業生産の開発途上国への移行
1970年代及び1980年代に天然魚類資源の開発が急増し、世界的な捕獲漁業生産は1973年の4,400万
トンから1997年の6,500万トンへと飛躍的に上昇した(表 2 )。日本及び旧ソビエト連邦のように1980
年代後半までに、様々な捕獲漁業によって漁獲された資源は充分に利用しつくされ、更に過剰開発さ
れ、漁獲能力の増大にも拘わらず、漁業生産は低下している。
1980年代以降、開発途上国が天然捕獲漁業生産で主導的立場に立ってきた。この生産移行は、200
海里排他的経済水域の設定に起因している。これらの水域設定が先進国から開発途上国へ漁業生産を
移行させる結果になった。
食用魚類の捕獲で最も注目される傾向の一つは、中国の最大生産国としての台頭と、それと同時に
起きた日本の生産量減少だった。1973年に、日本は全世界生産量の18%を占める天然食用魚類の世界
最大生産国だった。1997年には、日本の割合は 7 %にまで急落した。
表2
捕獲漁業による水産物生産:1973∼1997年
生産量合計(百万トン)
中国
東南アジア
インド
他の南アジア
ラテンアメリカ
西アジアと北アフリカ
サハラ砂漠以南のアフリカ
米国
日本
EU15ヶ国
東欧と旧ソビエト連邦
その他先進国
開発途上国
中国を除く開発途上国
先進国
World
― 26 ―
その一方で、中国は自国の生産割合を 9 %から22%へ向上させ、生産量を400万トン未満から1,400
万トンへ押し上げた。
東南アジア、とりわけインドネシア、タイも1973年から1997年の間に500万トンから1,040万トンへ
倍増させた。
1973年の230万トンから1997年には570万トンへとやはり急成長を遂げた南米においてはペルーとチ
リが生産の主要国であった。東欧と旧ソ連の生産はソ連の崩壊後急激に減少した。これらの地域の総
生産量は1988年から1997年の間におよそ半減した。
天然捕獲漁業の大部分は最大持続可能な開発水準に達しており、2020年まで緩やかにしか成長しな
いことはかなり明白である。需要がこれまで少なかった未開発魚種(基本的に中深海の魚種及びオキ
アミ)の生産に期待できるかもしれないが、消費者の受け入れに関して疑問が残る。より重要なのは、
それが魚種構成に大きな変化を引き起こし、捕食魚種に対して間接的な悪影響を及ぼす恐れがあるこ
とである。
(3)増大する養殖の割合
天然捕獲水産物の生産低迷に伴って、水産物総生産の成長はほぼ全般的に世界中で、とりわけ開発
途上国で急上昇している養殖からもたらされている。養殖は、1973年の僅か 7 %から上昇して、現在
では食用水産物総生産の30%以上に相当する。1985年から1997年までの間に、開発途上国の養殖によ
る水産物生産は年間13.3%の割合で成長したが、その一方で先進国の生産は2.7%の割合で伸張した
(表 3 及び 4 )。アジアが、重量換算による世界的養殖生産量の87%に相当し、中国一国だけで1973年
の32%から1997年には68%を占めるまで驚異的
表3
に増加している。
食用水産物生産量の年間成長率
1985∼97年(%)
天然捕獲漁業の成長鈍化が原因で、養殖生産
が水産物の相対的価格の決定に大きな役割を演
じることになる。しかし、養殖業も幾つかの大
きな課題を乗り越えなければならない。つまり、
天然捕獲魚類の生産による生じるフィッシュミ
中国
中国を除く開発途上国
開発途上国
先進国
World
ールの生産不足による養殖生産への制限、品種
改良、水質管理及び給餌の改善により生産性を
向上する努力が必要である。
(4)水産貿易の方向転換
発展途上国における水産物生産は1970年代初頭から取引仕向け先の転換を引き起こしてきた(表
5 )。1973年に、先進国は食用水産物91万9,000トンの輸出国だったが、1997年には404万5,000トンの
輸入国になった。1990年代後期には水産物輸出の50%以上が発展途上国からであり、その 5 分の 2 が
低所得食糧不足国に由来している。
(5)上昇する水産物価格
多くの動物性食品の価格が、生産の増加と北半球の市場における需要低迷が原因で過去数十年の間
― 27 ―
表4
養殖による水産物生産:1973∼1997年
生産量合計(百万トン)
中国
東南アジア
インド
他の南アジア
ラテンアメリカ
西アジアと北アフリカ
サハラ砂漠以南のアフリカ
米国
日本
EU15ヶ国
東欧と旧ソビエト連邦
その他先進国
開発途上国
中国を除く開発途上国
先進国
World
表5
に急落した。肉類の実質的価格は1980年以来、50%も
食用水産物と純輸出
1973年と1997年
(千トン)
減少している。それとは対照的に、第二次世界大戦以
中国
東南アジア
ラテンアメリカ
日本
EU15ヶ国
開発途上国
先進国
降、生鮮及び冷凍水産物の実質的価格は長期間上昇し
てきた(図 2 )。例外は、水産物の缶詰で、1970年代
前半から先進国の消費において人気が低落した。エビ
やサーモンなどは養殖の影響で生産を大きく増やして
きた。1985∼1987年の価格上昇は、高価格魚類による
需要の拡大と生産低迷が原因で発生したと考えられ
る。
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
1999
1995
1991
1987
1983
1979
1975
1971
1967
1963
1959
1955
1951
1947
0.0
図 2 水産物の米国生産者価格指標:1947∼2000年
― 28 ―
2.2020年への予測及びシナリオ
2020年への水産物の供給、需要、貿易などを予測するに際し、この報告書は国際食糧政策研究所
(IFPRI)の研究者チームによって開発・維持されているIMPACT(International Model for Policy
Analysis of Agricultural Commodities and Trade)と呼ばれるツールを利用している。IMPACTは高価格
魚類(サーモン、マグロ等)、低価格食用魚類(ニシン、コイ等)、甲殻類(エビ、カニ等)、及び軟体
動物類(二枚貝、イカ等)の 4 種類に分類し、修正が加えられ、(これらには魚から造られる2種類の
動物用餌料のフィッシュミールとフィッシュオイルも含まれている)天然捕獲漁業による水産物と、養
殖業による水産物とが区別されている。
このモデルは、①人口及び収入の伸び、政策決定、科学技術、及びその他の要素について一番適切と
考えられる一連の仮説を使った基本シナリオ、②養殖の技術的進歩の割合を基本シナリオより50%速
めた養殖の拡大加速化、③中国の基本的生産水準と成長の数値を下方修正した中国の生産の成長鈍化、
④基本シナリオの 2 倍の速さに高めた餌料転換効率を持ったフィッシュミールとフィッシュオイルの効
率化、⑤養殖の技術的進歩を基本シナリオの半分に留めたことによる養殖拡大の低迷、及び⑥フィッシ
ュミールとフィッシュオイルを含めた天然捕獲魚類全体の生産に年間 1 %の外来栄養減少傾向を適用さ
せた生態系の崩壊、以上 6 つのシナリオにおける水産物の供給、需要、及び貿易の動向を予測している。
(1)水産物価格の見通し
供給、需要及び貿易は価格によって左右される。価格が生産者と消費者双方に対する動機付けの指
標であり、食糧確保に対して重要な意味合いを持っている。高価格では総体的に供給不足となり、商
品を購入する消費者の購買能力が低下するが、その一方で低価格では消費者による購入可能量が増大
する。
水産物は、今後2020年に向けて他の食料品と比べて、消費者に対してより高価であり続ける可能性
が高い。最も可能性があると判断された基本シナリオでは、水産物の実質価格が1997年から2020年の
間に上昇すると予測している(表 6 )
。
表6
様々なシナリオにおける価格の総合変化予測:1997年∼2020年
フィッシュミール及び
養殖拡大
フィッシュオイル
の鈍化
の効率向上
最大の可能性
(基本シナリオ)
低価格食用魚類
高価格食用魚類
甲殻類
軟体動物
フィッシュミール
フィッシュオイル
牛肉
豚肉
羊肉
鶏肉
卵
牛乳
植物性ミール
― 29 ―
高価格魚類と甲殻類については、この価格上昇は15%と16%台になり、フィッシュミールとフィッ
シュオイルについては、価格は更に上昇して18%に、軟体動物類と低価格魚類は、かなり低価格だが、
それでも上向きの実質的な値上げになると予測されている。これらの結果は、殆ど一様に価格が下落
するであろう他の食品価格と比較すると奇異なことと思える。
実際に、フィッシュミールとフィッシュオイルの価格は幾つかのシナリオの下で急上昇する。最悪
の状況は、天然捕獲漁業による生態系崩壊であり、養殖業増産に向けたフィッシュミール需要増大は
2020年までに価格を倍増させることになる。養殖業拡大加速のシナリオもまた、フィッシュミール価
格にかなりの上昇圧力を加えることになる。フィッシュミールの価格微減に繋がる一つのシナリオは、
科学技術の進歩によってフィッシュミールとフィッシュオイルの餌料転換効率の向上によるものであ
る。
養殖の拡大を速めるシナリオは、低価格魚類の価格下落に繋がるが、それは同時にかなり顕著なフ
ィッシュミール価格の上昇を引き起こし、また、養殖拡大の成長低迷のシナリオは、全水産物の大幅
な価格上昇を招くと予測されている。
表 6 に様々なシナリオがあるが、現況は中国での生産鈍化、養殖拡大の低迷、生態系の崩壊の各シ
ナリオが重複した状況のように考えられ、このため価格は相当の高価格に上昇すると予測される。
FAO自体も今後2015年まで年率3.2%の価格上昇はあると言及しており、表 6 の生態系の崩壊シナリ
オを年率換算した場合の数値と比較すれば、FAOの価格見通しがより高い数値を予測している。こ
うしたことから2020年の価格見通しとしては、2010年まで3.0%、2010年∼2015年は3.2%とFAOの見
通しと同様、2015年以降は消費とのバランスから価格調整期間となり、価格上昇は1.5∼2.5%に鈍化
するという見通しから、2005年価格の40∼50%の上昇が予測される。
(2)水産物消費の見通し
基本シナリオでは、開発途上国の人々が、高価格及び低価格の食用水産物双方の総消費量を増やす
ことになるが、先進国での総消費量は殆ど変化がないと予測している(表 7 )。中国を計算から除外
した場合でも、この割合は殆ど変わらず、この消費量増加は、人口増加、都市化及び収入増加によっ
て起こされた広範囲な社会的、構造的な現象であり、基本シナリオでの一人当たり消費量は開発途上
国の大部分で増加すると予測されているが、アフリカ中部及び先進国では変わらないとしている。
表7
食用水産物の予測成長率:1997∼2020年
食用水産物消費量
中国
中国を除く開発途上国
開発途上国
先進国
World
― 30 ―
食用水産物 天然
養殖
生産計
漁獲物 生産物
基本シナリオでは先進国の消費の増加を殆ど見込んでいないが、現況ではこの数年健康志向の広が
りにより開発途上国は勿論のこと、先進国においても魚食が浸透し、価格の上昇にも関わらず消費
の拡大が相当進んでいると推察される。このことは今回の調査においても多くの国で裏付けられて
いる。
こうしたことから、表 7 の基本シナリオによる水産物需要の各数値は若干の上方修正が必要ではな
いかと考える。しかし、FAOの報告では一人当たり食用水産物の年間消費量が1999/2001年の16.1kg
に対し2015年では19.1kgに達するとの見込みをしており、表7の世界全体の需要予測成長率1.5%よ
り低い予測をしている。
第 1 章 2 で述べているように直近の数字、2000∼2005年の世界の食用水産物の供給量は10.6%増、
年率2.2%増となっており、人口一人当たりの消費量(生体重換算)は16.0kgから16.6kgに増加してい
る。
このような直近の数字及び基本シナリオを参考にし、また、この度の調査結果を踏まえ2020年まで
の水産物消費を予測してみる。
地域別食用水産物需要量予測として表 8 に概略をまとめてみた。
表8
一
一
地域別食用水産物需要量予測
104.1
7.0
9.4
3.1
69.3
14.5
0.8
16.5
8.2
18.6
8.7
18.1
19.9
23.5
7,534
1,233
589
434
4,520
719
39
22.7
8.6
20.6
9.4
27.2
28.1
25.4
(37.6)
(5)
(10.8)
(8)
170.9
10.6
12.1
4.1
(50.4) (41)
122.9
20.2
(8)
1.0
2003年の食用水産物供給量、及び一人当たりの供給量は第 1 章 2 の表 8 を参照。
2020年の人口予測は国連の「World Population Prospects;The2006 Revision」を参考にした。
2020年の一人当たりの需要量については、世界的にシェアの大きいアジアは、中国、インド、その
他の 3 ブロックに区分けし検討した。①中国は2010年までは年率 5 %の消費増予測、その後は高価格
により消費の伸びは鈍る。2003年から50∼60%の消費増が見込まれる。②インドは2003年以降2020年
まで年率 3 %を超える消費増が期待され、2020年には年間一人当たりの水産物消費は15kgになる。
2003年から55∼60%の消費増が予測される。③アジアのその他の地域においても、2003年対比で40%
以上の消費増が考えられる。④アジア全体の2020年食用水産物需要は人口比率から2003年対比50.4%
の需要増が見込まれる。
アジアに次いで伸びの大きいヨーロッパについては、2015年までは年率 3 ∼ 4 %の消費増が見込ま
れ、その後は伸びが鈍ると予測されている。これにより、2020年の需要量は2003年対比では41%の伸
びが期待されている。
― 31 ―
北中米、南米の需要増が期待した程でない、元来、主に畜肉、鶏肉を食していたことでもあり、水
産物の高価格に抵抗がある。中でもアメリカ、カナダ等の先進国における現況は健康志向により水産
物の消費が拡大しているが、2020年という中期的予測では数字が平均化されるのであろう。
2020年の食用水産物需要量は、2020年の予測人口に一人当たりの予測需要量22.7kgを乗じたもので、
世界全体で170.9百万トンとなり、これを賄うに必要な水産物生産量は224.9百万トンとなる。(第 1 章
2 の表 6 より食用水産物の全生産量の中に占める割合を76%として計算)
2020年における世界の地域別量的消費をみると最大はアジアで72%のシェアを占め、先進国のヨー
ロパは12%、北中米 7 %、南米 2 %、アフリカが 6 %となり、アジアが伸びた反面その他の地域は低
下すると考えられる。
(3)水産物生産の見通し
イワシ類、アジ・サバ、イカ類、カツオ等の多獲性回遊資源は海流、水温、その他海況によって大
きく変化し、地域的な変動は常に起こる。このため、世界的に資源や漁獲の減少傾向は過大な漁獲努
力によるのか、地球規模の温暖化現象によるのか不明であるが、今後とも捕獲漁業における生産の増
大は期待できない。
一方、年々生産の増加を見せている海面及び内水面の養殖生産はこの数年においても年率 7 %以上
の拡大続け、(2000∼2005年増加37.9%−第 1 章 1 、表 2 )当分の間はこのような成長が続くものと
推察される。しかし、魚類養殖用のフィッシュミール及び一定割合混入している植物性タンパク質の
原料である大豆、トウモロコシなどの価格高騰もみられ、先行きが懸念されている。こうした中で、
コイ類等の草食魚類及び無給餌養殖による貝類の生産拡大に期待が持たれている。
また、ティラピアやCatfishのような内水面魚類養殖は海面魚類養殖を上回る拡大を続け、低価格
食用水産物の生産量は益々増加している。需要は先進国の欧米にも拡大しており、従前の海面魚類養
殖生産物の消費を中心とした国、地域にも拡大する可能性を持っている。
OUTLOOK FOR FISH TO 2020のレポートによれば、最も可能性の高い基本シナリオでは、世界的
な食用水産物の生産が、年間平均1.5%の割合で1997年から40%増えると予測されている(表 7 )
。
また、世界的な水産物生産における養殖の割合は、2020年には41%にまで増え、養殖に由来する食
用水産物生産の中国の割合は66%に増えるとされている。
表 7 における捕獲は年0.7%の成長となっているが、FAOの報告によると、2000∼2005年ではマイ
ナス成長が多く、このマイナス分を養殖生産で補っている状況であり、2000年から2005年の養殖の成
長率は6.8∼5.1%となっている。(第 1 章 1 、表 1 参照)また、水生植物を除く食用水産物の成長率に
ついても同様に2000∼2005年では2.8∼0.5%成長、平均で 2 %成長となっており、(第 1 章 2 、表 6 参
照)基本シナリオの1.5%を越えている。
今後については捕獲漁業の増加は大きく見込めず、横這いもしくは若干の増加で、養殖業の高成長
は徐々に低下することが予測されるが、前項と同様に基本シナリオ及び調査結果を踏まえ、2020年に
おける世界の地域別捕獲漁業・養殖業生産動向を予測する。
世界地域別捕獲・養殖業生産量の予測を表 9 にまとめ説明する。
生産量において鍵をにぎっているアジアについて、中国の捕獲漁業は2010年までは横這い又は若干
のマイナスで推移するが、それ以降は環境面の整備、資源管理の効果が発揮され 5 %の成長が見込め
― 32 ―
表9
合計
捕獲
養殖
世界地域別捕獲・養殖業生産量の予測:2005∼2020年
年
世界計
アフリカ
北中米
南米
アジア
(単位:千トン)
オセアニア
欧州
その他含む
2005
157,532
8,050
8,914
18,317
104,253
16,273
1,725
2020
196,813
10,564
9,906
19,500
137,800
17,126
1,917
増加
24.9%
31.2%
11.1%
6.5%
32.2%
5.2%
11.1%
2005
94,574
7,393
8,052
17,152
46,281
14,133
1,563
2020
98,839
9,611
8,656
16,000
48,595
14,344
1,633
増加
4.5%
30.0%
7.5%
−6.8%
5.0%
1.4%
4.5%
2005
62,958
657
862
1,165
57,972
2,140
162
2020
97,974
953
1,250
3,500
89,205
2,782
284
増加
55.6%
45.1%
45.0%
300.4%
53.9%
30.0%
75.3%
* 第1章1、表2を参照
る。養殖業においては2010年まで 4 %成長が可能だが、これ以降は2.5%程度の成長に鈍り、2020年
では2005年対比45%生産増が予想される。
アジアのその他地域では、捕獲漁業は中国同様 5 %程度の成長が見込まれ、養殖業は中国以上の高
成長が続く、2010年まで 8 %、これ以降は 4 %程度の成長で2020年では2005年対比80%の生産増が期
待できる。
アジア全体では、捕獲漁業で 5 %、養殖業で約54%の生産増が予想され、全体では137.8百万トン
となり、2005年対比32.2%増となる。
欧州については、捕獲漁業は資源の過剰開発により、横這いでの持続生産が続くと見込まれており、
養殖業は技術力により2005年対比30%の生産増が見込まれる。
南米地域は生産量が多いが、内容的には気候変動によって生産の増減が左右される餌料向け等の非
食用水産物が多い。このため捕獲漁業は地球温暖化の影響によるこれらの魚種の生産減少によって
2020年では2005年対比約 7 %のマイナス生産になると予測している。一方養殖業については、まだ開
発されていない地域が多く、年率20%程度の成長が見込まれ、2020年では2005年の 3 倍の生産になる
と予測される。
北中米地域については捕獲漁業は資源管理を行いながら年率0.5%の成長は可能と見込まれ、2020
年では2005年対比で7.5%生産増が予測される。また、養殖業は海面、内水面とも年率 3 %成長は可
能であり、2020年では2005年対比45%増の生産になると予想される。
アフリカでは、捕獲漁業は他の地域と異なり海面、内水面とも未開発な部分があり、年率 2 %の成
長も可能であり、養殖業は年率 3 %の成長が見込まれる。2020年では2005年対比で捕獲漁業は30%増、
養殖業は45%増の生産が予想される。
オセアニアは捕獲漁業が主体で生産量は少ないため、養殖業で需要を賄おうとしている。捕獲漁業
は殆どが開発されており、資源管理を行いながら生産を年率0.3%増大させる見込みであり、養殖業
は未開発の部分もあり年率 5 %の成長が可能と見込まれており、2020年では2005年対比で捕獲漁業は
4.5%、養殖業75%の生産増が予想される。
― 33 ―
以上のことから、世界全体では捕獲漁業は南米の非食用向け水産物の生産が不確定であるが、2020
年では2005年対比で4.5%増、98.8百万トン、養殖業は同様に55.6%増、98百万トンの生産となり、
2020年における世界の水産物生産量は196.8百万トン、2005年対比25%増となる。
前項の水産物消費における2020年の食用水産物需要を賄うに必要な量は224.9百万トンであり、予
想生産量196.8百万トンとの乖離、約28百万トンをどのように埋めるかが問題となる。
2020年における世界の地域別生産をみれば現状と大きく変わらず、アジアが 7 割、ヨーロッパ 1 割
弱、南米 1 割、北中米・アフリカで 1 割の生産割合になると見込まれる。
(4)水産物貿易の見通し
レポートの基本シナリオでは、開発途上国が、1990年後半に水産物の主要な輸出国になり、輸出は
2020年まで続くが、現在よりも低い水準になると予測されている。(表10)
これは主に、人口増加、収入の上昇及び都市化が原因
表10
となり、動物性食品と共に水産物の国内需要が開発途上
食用水産物の輸出変化予測
1997∼2020年(千トン)
国内で上昇しているからである。中国、インド及び南米
が全て、基本シナリオで2020年に輸出国になると予測さ
れているが、南米だけは2020年まで輸出が国内生産の大
きな割合を占めると予測されている。他の開発途上地域
では引き続き需要が供給を上回るとされている。
開発途上国全体としては、低価格の食用水産物の輸入
中国
東南アジア
ラテンアメリカ
日本
EU15ヶ国
開発途上国
先進国
国で高価格食用水産物の輸出国となる。それでも、多く
の開発途上地域が大量の高価格食用水産物を輸入し始め
る。例えば、中国は2020年までに甲殻類の主要な輸入国
になると予測されている。
現況では基本シナリオの予測を超え、養殖業の伸展により水産物貿易は量的に生産量の増加以上に
拡大してきた。今後の動向については世界の生産と消費の動向、及び上昇する価格に影響されるが、
従前の加工貿易が継続され、発展途上国が経済的に伸展すれば食の多様化がさらに増幅され、高級な
水産物を得るため輸入の拡大は伸展していくものと考えられる。
今回の調査結果及びFAOの直近データを踏まえ2020年における世界の地域別水産物貿易の動向を
検討するに際し、輸出額、輸入額については今後の通貨、為替の変動等不確定部分が多く予測し難い
ため輸出量、輸入量に限定する。
表11に2020年における世界の地域別水産物貿易動向の概略をまとめ予測を行う。
2020年を予測するに際し、直近(2000∼2005年)の貿易動向を参考にした。
2000∼2005年の輸出量増加は世界全体17.9%増、年率3.6%であり、地域別の成長ではアジアが最大
で年率8.7%、次いで北中米で6.0%、欧州は1.6%と低い。同様に輸入量増加については世界全体
19.0%増、年率3.8%、成長率最大はアフリカで年率6.1%、アジア4.9%、北中米4.0%、欧州2.7%であ
る。
2020年の見通しについて地域別に説明する。
①
アジアについては、輸出量は2010年まで年率成長は中国 9 %、タイその他の国も 5 %以上が予想
― 34 ―
表11
世界の地域別水産物貿易動向の予測
(単位:千トン、%)
世界合計
アフリカ
北中米
南米
アジア
欧州
オセアニア
2005年輸出量
31,185
1,457
2,891
5,426
9,262
11,508
641
00∼05増加率
(17.9)
(2.2)
(30.2)
(5.1)
(43.3)
(7.9)
(26.9)
〃 〃輸入量
31,588
2,118
3,234
595
12,402
12,867
372
00∼05増加率
(19.0)
(30.7)
(20.1)
(1.0)
2020年輸出量
40,482
1,748
4,047
5,752
15,282
12,659
994
05∼20増加率
(29.8)
(20)
(40)
(6)
(65)
(10)
(55)
2020年輸入量
46,205
3,071
4,689
744
20,215
16,984
502
05∼20増加率
(46.3)
(45)
(45)
(25)
(63)
(32)
(35)
(24.3) (13.7)
(7.2)
* 第1章3、表9、表10を参照。
され、全体では年率 7 %成長が見込まれる。10年以降は生産の減少、需要増に伴い 3 %成長程度に
減少する。このことから2020年では2005年対比で65%増が見込まれる。
また輸入量については2010年まで年率成長は中国 4 %、インド、タイ、その他の南・東南アジア
諸国は 5 ∼10%、日本、韓国については大きな成長は考えられないことから全体では4.5%程度の
成長が見込まれる、10年以降は消費の減少によって 4 %程度の成長になると予測され、2020年では
2005年対比63%増の輸入量になると予測される。
②
欧州については、輸出量の成長は生産増が大きく望めないため、2010年まで年率1.0%、10年以
降については底堅い需要を反映し、0.5%程度の成長しか見込めない。これにより、2020年の輸出
量は2005年対比10%増が見込まれる。
輸入量については好調な消費を反映し、2010年まで年率2.5%の成長、10年以降も年率2.0%程度
の成長が見込まれる。これにより、2020年では2005年対比、32%増が予測される。
③
北中米については、輸出量は2010年まで年率 4 %の成長、10年以降は生産減及び底堅い消費を反
映し、2 %程度の成長に減速すると見込まれる。これにより、2020年では2005年対比で40%増が見
込まれる。
輸入量についても、2010年まで年率 4 %、10年以降は価格の値上がりによる消費減の影響により
成長は2.5%に減少すると予測され、2020年では2005年対比で45%増が予測される。
④
南米の水産物輸出は餌料原料向けの非食用水産物のウェートが大きく、気候変動に伴う不確定な
部分が多いが、2020年における生産量の増加が6.5%見込めることから(前項―水産物生産の見通
しから)2020年における輸出量は2005年対比で 6 %程度の増加が見込める。
輸入量については需要の増大を反映し、2010年まで 1 %、10年以降は 2 %成長が見込める。この
ことから、2020年の輸入量は、2005年対比で25%増が予測される。
⑤
アフリカについては、2020年に向けて生産増が30%以上見込まれることから(前項―水産物の生
産見通し)、輸出量は2010年まで 1 %成長、2010年以降も1.5%成長が見込まれる。これにより、
2020年では、2005年対比で20%増が予測される。
また、輸入量は需要増を反映し、2010年まで 5 %成長、10年以降は価格の高騰により消費が低下
― 35 ―
し 2 %成長に減少する見込みである。これより、2020年では2005年対比、45%増と予測される。
⑥
オセアニアについては、輸出量は2010年まで年率 5 %成長、10年以降は 3 %成長が見込めること
から2020年では2005年対比で55%増が見込める。
輸入量については、需要増を反映し、2010年まで 2 %成長、10年以降は2.5%成長が見込まれ、
2020年では、05年対比で35%増が予測される。
この結果、2020年の輸出量は40,482千トン、輸入量は46,205千トンとなり、それぞれ05年対比
30%増、46%増となる。
地域別に輸出はアジア 4 割弱、欧州 4 割、北中米 1 割、アフリカ0.5割で、輸入はアジア4.5割、
欧州 4 割弱、北中米 1 割、アフリカ0.5割となってアジアの伸展が予想される。
3.考察
(1)将来の水産物生産予測と需要予測の量的乖離
今まで述べてきたように生産予測を超える需要の増大が予想される。この問題の解決策として、第
一に考えられるのは生産された非食用水産物及び食用水産物によって捕食されている資源の食用化
(食品化)である。食用化については食用に向く魚種、サイズの選定、食品としての製造・加工方法
等課題も多いが、こうした食用化が餌料向けの原料である低価格水産物不足の誘因となる。このため、
これらの代替品の開発が重要であり、餌料加工技術の粋を集めた植物ミール等代替品の完成が待たれ
る。
(2)水産物と恵まれない人々
世界的に水産物の生産と消費の両面について検討してきたが、いずれにおいても開発途上国の重要
性が高まっている。これらの国では水産物を生産することで収入を増やし、水産物の消費を増やすこ
とで食事の改善、多様化の機会を貧しい国民に提供してきた。水産物は質が良く、吸収し易いタンパ
ク質と様々なビタミン、ミネラルが含まれており、貧しい人々にとっては、少量の水産物でも貴重な
栄養食品である。
しかし、開発途上国においても水産物は他の食品に比べ相対的に高額になり、生産者は国内で消費
している低額な食用水産物より高額な輸出向け水産物に目を向けるようになってきた。この結果、低
額な食用水産物の価格に上昇圧力が加わり、開発途上国の貧しい人々向けの低価格な食用水産物は、
今まで述べてきたように将来において一層の価格上昇が予測される。この点については、各国におけ
る今後の対応が注目される。
(3)水産分野における科学技術の役割
水産物の需要が増大する中で、供給者はそれに対応すべく生産能力を高める必要に迫られている。
このことに関して、捕獲漁業の管理方法の改善及びフィッシュミール等の生産において、科学技術の
応用に期待が寄せられている。
世界の天然捕獲漁業のおよそ 3 分の 1 が非食用として、魚類、鶏、豚の餌として消費されている。
最近、石油の代替燃料としてのバイオエタノール需要の拡大による穀物価格高騰の影響により、フィ
― 36 ―
ッシュミール価格の上昇がみられる。さらに価格が高騰し、価値の低い食用魚類をフィッシュミール
加工することで、収益が充分上げられるようになると、貧しい人々への動物性タンパク質源を奪うこ
とになりかねない。
こうしたことから、養殖用フィッシュミール等の代替品を提供することで高価格な餌料及び過剰漁
獲の危機を軽減する必要がある。
このため前述したように植物性代替品による、商業的利点を有する品質を伴った餌料の開発に取り
組んでいる。
また、捕獲漁業における管理方法の改善に関しては、人工衛星の遠隔装置その他の情報技術の改善
によって、資源の位置、大きさ、構成及び成長性に関する情報の提供を迅速且つ、情報内容を質量と
もに充実されてきた。さらに、衛星追跡による規制の取り締まり等の漁業活動の監視及び水産物の状
態、原産地についての消費者向け情報の改善に向け大いに貢献してきた。
(4)環境及び食の安全・安心に関する問題
今後、水産部門における汚染と食品の安全性の問題が一層の関心を呼ぶことになる。消費者が裕福
になり、多くの知識を得るようになれば、水産物に蓄積・付着している有害物質に一層の関心を寄せ
るようになる。
食の安全性については漁業者全員が生き残るために重要なことであり、捕獲漁業及び養殖業の両方
に影響を及ぼすダイオキシン、PCB、重金属等の残留物の汚染源に対しての注視を怠らず、万全の策
を労する必要がある。また、過剰漁獲の懸念から生じた環境規制及び生産の持続可能性の問題から表
面化した環境についての諸々の課題、また、水産業のあり方を左右する地球温暖化と海洋・水との関
係をより一層厳しく見つめる必要がある。水産業と環境問題はいずれにしても切っても離せない関係
にあるといえる。
― 37 ―
第 3 章 世界の水産物需給動向の変化に伴う我が国の対応
近畿大学 小 野 征一郎
日本大学 梅 沢 昌太郎
1.日本の水産物需給
我が国と世界の水産物需給に関して、農水省は「食料をめぐる国際情勢とその将来に関する分析
2007」
、の中で次のように述べている。
「世界の水産物需給は一人当りの食用魚介類年間消費量が1999/2001年の16.1kgから2015年には
19.1kgに増加し、人口増加をあわせ世界の水産物需要総量は、同様に1.33億トンから1.83億トンに達す
ると予測する。
一方世界の生産量は1999/2001年の1.29億トンから2015年には1.72億トンに増加するが、需要量と生
産量の需給ギャップはこの時期に400万トンから1,100万トンに拡大する。このギャップは価格により調
整されるほかないが、水産物価格が2010年まで年3.0%、10∼15年まで年3.2%のペースで上昇すると
FAOは見通している。」
日本の水産物需要は世界の動きと異なり、長期的には減少すると考えられる。図 1 は2007年 3 月閣議
決定された水産基本計画の参考資料として、2 つのトレンドに近似させた推計値のグラフであるが、10
年後の2017年の一人当り水産物消費量は2005年を8.4%下回り、1970年の水準まで減少するおそれがあ
る。2004年の12,778万人をピークとして人口がなだらかに減少し、高齢化はいま以上にすすむ。図 1 の
「一人」は平均化された「一人」であり、当然高齢化を反映しているが、ここで食料消費、とくに水産
物消費と年齢の関係を検討する。
図1
魚介類消費量のすう勢
― 38 ―
一般に年齢が中高年以上に達すれば、若年期とくらべ食料の消費量が減る。ところが水産物について
は、年代的に中高年−40歳代以上−の消費が、数量・金額ともに若年期よりも増加することが知られ
ている。この「加齢効果」が50歳代における水産物消費量の増加として、昭和10年代生まれ(現在の
ほぼ60歳代)では顕著に見られるが、昭和20年代生まれ(現在のほぼ50歳代)では緩やかになり、昭
和30年代生まれ(現在のほぼ40歳代)では40歳代の水産物消費が20歳代・30歳代と変わらず、加齢効
果が見られず、また消費量自体も少なくなっている(図 2 )。
図2
年齢階級別生鮮魚介類購入量
このような点については水産物消費拡大策並びに食育推進施策を強力に推し進めていく必要がある。
具体的には、消費者ニーズを汲み取った商品の開発、つまり、価格、調理法、容量等ニーズに沿った商
品の掘り起こしが必要である。また魚介類についての知識、情報の少ない子供や若い主婦層に対しての
情報提供の機会を持つとか魚介類の接触頻度を増やす等々、生産・流通・消費の各段階への取り組みが
必要である。さらに、消費者とのコミュニケーションの促進等を通じた魚食普及活動を息長く、また、
細かな対応を継続していく必要がある。
我が国においては、こうした消費におけるマイナス面もあるが、それ以上に問題なのは、国内生産の
停滞がこの数年続いている一方で、世界的な水産物市場の需給動向により従来のごとく輸入に頼れない
状況になる可能性があるということである。世界の水産物需給は中長期的に逼迫することが予想され、
そうとすれば輸入に対する依存度をさげ、国内供給力を高めていくことをいっそう重視しなければなら
ない。水産基本計画の掲げる自給率=食用魚介類65%は容易ならざる目標のように思われるが、挑戦
しなければならない。農業との協動を図ることなども、需要拡大の方策と考える必要がある。
2.水産物自給率
2007年 3 月閣議決定された新たな水産基本計画は、2017年の持続的生産目標を魚介類(食用)495万
トン、魚介類(全体)568万トン、そして消費の望ましい姿を魚介類(食用)34kg/人・年、海藻類
1.3kg/人・年と設定した(〔国内消費仕向量:魚介類(食用)764万トン、魚介類(全体)1,020万トン、
― 39 ―
海藻類90万トン〕)。その結果、自給率目標は、食用魚介類=65%、魚介類全体=56%、海藻類=70%
となる。34kg/人・年は冒頭で述べたように、従来の消費トレンドを上回る目標値である(前掲図 1 参
照)。計画達成のために多面的な政策展開が準備されているが、その検討に入る前に、2008年において
自給率がどういう状況にあるかを個別に検証する。
(1)第Ⅰグループ:自給率・65%以上の魚種
表 1 に主要18魚種とノリの自給率を自給率の高い魚種から順に掲げた。注記したように輸出入は、
塩干・調製品等の加工水産物もすべて原魚換算してあるので、貿易統計とはズレがある。18魚種を目
標である自給率65%以上の魚種(第Ⅰグループ)、輸入と国内生産がほぼ拮抗していると見なされる
45∼65%の魚種(第Ⅱグループ)、輸入に重心がある45%未満の魚種(第Ⅲグループ)に大別した。
まず自給率が100%以上のサバ・サンマ・ホタテ貝は数量的に輸出超過を物語る。
このうちホタテ貝は貝柱を含め輸出金額が輸入をこえる数少ない魚種であり、香港・台湾向けに干
貝柱が、米国・EU向けに生鮮・冷凍のホタテ貝・貝柱が、輸出され、資源管理型のモデルケースと
して、北海道のオホーツクの地まき漁業と青森県及び北海道噴火湾を中心する養殖業に二分される。
サバは中国が缶詰などの加工用原魚として輸入し、アジア・アフリカの途上国へ再輸出している。
韓国・タイ・エジプトも04年から急増し、輸入国としてほとんど踵を接している。
サンマは養殖主体のブリ・タイとともに、韓国に輸出されている。
表1
食用魚介類の自給率 −2006.4−
(2)第Ⅱグループ:自給率・40∼65%の魚種
国内生産と輸入がほぼ対等にせめぎあっていると考えてよかろうが、5 魚種のうち、ヒラメ・カレ
イ、タコ、アサリは市場規模が小さい。イカ漁業はもともと、70年代前後から沿岸→沖合→遠洋へと
― 40 ―
発展してきたが、スルメイカが漁獲の過半をしめ、業種の主力は沿岸イカ釣、遠洋は加工用のアカイ
カが中心である。
サケ・マスは内水面漁業から定置・養殖、日本・ロシアの200海里内漁船漁業と、国内生産が最も
広範囲に展開する。世界でも有数のサケ・マス輸入国であると同時に、国内的には輸出金額がホタテ
貝につぎ、数量においてサバ・タラの後を追う。
国内生産において、最大である栽培漁業によるアキサケは来遊量に波があるが、通常の20∼24万ト
ンのうち、ドレス換算で 6 万トン前後を中国主体に輸出する。サバにも共通するが、輸入が国内消費
を支え、国内生産の一部が輸出にまわって国内供給量をひき下げることで、結果的に自給率が上昇し
ているのである。
(3)第Ⅲグループ:自給率・40%以下の魚種
ここに属するのは 3 魚種のみであるが、いずれも高価格魚であり、マグロ・カジキ、エビは国内的
にも有数の市場規模をもつ。
マグロは高度回遊性魚種として世界中を漁場とし、日本近海のような漁場的優位性は一般にはない。
日本はこの優位性を発揮し、国際的競争力をいかに強化していくかが課題となる。
カニの国内生産はベニズワイガニ、ズワイガニ、ガザミ類を中心に合計3.6万トン、輸入はタラバ
ガニ、ズワイガニを 7 割前後のシェアをもつロシアから、調製品を 7 割以上のシェアをもつ中国から
輸入する。後述のエビとともに、国内生産を大幅に増加させることは事実上不可能であろう。
エビの 1 世帯当り家計消費は90年代初頭からほとんど連続的に減少してきた(07年=1,900g・
3,632円)。生鮮エビの減少を天ぷらやフライの調理済み食品、あるいは外食の増加で補っているが、
全般的に消費が縮小傾向にある。
以上、食用魚介類の18魚種に即して検討してきたが、国内生産の非食用として以下のような魚種が
ある。イワシ、アジ、サバ、サンマ、さらにブリ、タラ、ヒラメ・カレイ、イカにもごく少量が非食
用として計上されており、これらを量的調整することにより食用向けに加算出来れば各々の国内消費
仕向量は増加する。
18魚種のグルーピングにおいて、第Ⅰグループの自給率が高いのは当然として、第Ⅱ・第Ⅲグルー
プがあまりに低位であり、これをひきあげなければ自給率向上の目標は達成できない。
(4)自給率向上の施策
水産庁は水産基本計画の中で、自給率目標の達成に向け、①低位水準にとどまっている水産資源の
回復・管理の推進、②国際競争力のある経営体の育成・確保と活力ある漁業就業構造の確立、③水産
物の安定供給を図るための加工・流通・消費施策の展開、④水産業の未来を切り拓く新技術の開発及
び普及、⑤漁港・漁場・漁村の総合的整備と水産業・漁村の多面的機能の発揮、⑥水産関係団体の再
編整備、の 6 項目を掲げているが、ここでは核心である①の低位水準にとどまっている水産資源の回
復・管理の推進についての施策の内容項目を列記する。
i
水産資源に関する調査及び研究の推進が挙げられており、資源評価、予測精度の向上を図る、
地球環境変動による水産資源への影響の解明、資源情報の積極的な提供などを行っていくとし
ている。
― 41 ―
ii
我が国の排他的経済水域等における資源管理として、資源水準に見合った漁獲を実現するため
として、漁業管理制度の的確な運用と資源の合理的利用の促進、資源回復計画の一層の推進、
密漁等の違反対策の強化と漁業調整の円滑な推進などを行っていくとしている。
iii
公海域を含む国際的な資源管理の推進として、周辺国・地域との連携や協力の強化と適切な漁
業関係の構築、地域漁業管理機関を活用した資源管理の推進、責任ある漁業国としての適正な
操業の実践などを行うとしている。
iv
海外漁場の維持・開発と国際協力の推進を行う。
v
海面・内水面を通じた水産動植物の生育環境の改善と増養殖の推進を行う。
施策の内容は上記の通りである。また、上記iii の範疇に入ることでもあるが、大切な資源であるが
故に廃棄等無駄な消費をせず、100%利用・活用することを各人が肝に銘ずることが大切である。問
題は自給率向上のためにいかに忍耐強く、その施策を具体化させていくかということである。
3.日本水産業の課題
(1)日本水産業の優位性
①
日本近海が世界 3 大漁場の一つであり、漁場豊度が高く、農業・林業には存在しない恵まれた自
然条件であり、この優位性を最大限に活用することを何よりも考えなければならない。それには、
漁業管理、資源管理を堅実に実行することである。
過去において、世界の捕獲漁業による小型魚類、非漁獲対象魚など混獲物の多くが投棄され、そ
の量が毎年世界で2,000万トンを超えると推定されることから、捕獲漁業による過剰漁獲が天然資
源を危うくしていると問題視された。1)
漁場環境を長期的に保全することが重要であり、こうした視点がなければ大切な財産を失うこと
になる。
② 世界一高度な水産物市場が目の前にあるということが挙げられる。
生鮮食料品の中でも鮮度が最も重要視されるのが水産物であり、距離的、時間的なメリットは生
産品である魚介類の価格に反映される。さらに、世界一の水産物市場に距離的に近いということは
物流にかかる費用、時間においても大きなメリットがある。また、市場にある多くの情報をベース
として戦略を組むに際し、迅速かつ細かな対応が可能である。
(2)攻める水産業
日本の水産業にとって市場がグローバル化したことをむしろポジティブに捉え、海外市場をも視野
にいれた展開が必要である。従来は海外から原料、製品を輸入するという面を主力に海外市場を展開
してきたが、今や、逆に日本の産物、製品を海外に輸出するため海外市場を開発する必要に迫られて
いる。もっとも、他の業界では早くからこうした展開は執られており、水産業界においても早急に追
いつく努力が必要である。重要なのは日本市場についても海外市場に関しても、ニーズに対応できる
柔軟性とそれを実現する戦略・戦術及びそれを実行する能力が必要とされる。2)∼3)
― 42 ―
(3)東アジア水産圏の形成
中国は13億の人口を擁し、世界の水産物消費量の 3 割強を占める。消費量の拡大につれ世界の水産
物輸入量が右肩上がりで成長してきた。
日本、米国、EUが世界経済の 3 極を構成するが、水産物市場においても変わらない。しかし、最
近では中国の伸展に伴い、日本の地位が相対的に低下し水産物市場が分散化してきた。
世界の水産物市場のグローバル化が促進され、いまや、日米欧の 3 極に加え、東アジアが世界の水
産物市場の一翼となり「東アジア水産圏」が形成されようとしている。
世界の水産物需給の中で日本は、中国、韓国、東南アジア諸国を含めた東アジアとの関係を避けて
通れない。東アジアは日本からすれば産地でもあり、消費地でもある。こうしたことから日本は水産
物の生産、加工、消費、貿易においてこれら東アジアの諸国と連携し、お互いの発展のためにネット
ワークの拡大と深化を図っていく必要がある。
(4)水産エコラベル
水産資源を減少させずに利用できる体制を整えるには、実際膨大なコストがかかる。現在、世界の
水産資源が減少し続けているのは資源管理の機能不全があるからである。
資源管理が成功するには、多くの研究者や行政担当者が根気よく労力やコストをかけて係わること
が大切であり、厳しい法律があっても、それが守られているのかというところが重要で、守らせる仕
組みが必要である。
このようなことから水産エコラベルが登場してきた。それは水産基本計画の中で、「生態系や資源
の持続性に配慮した方法で漁獲管理された水産物であることを示すラベル」と定義されている。水産
資源は共有財産であるからこそ漁業管理が必須であり、同時にその管理は至難でもある。
国際的にはMSC−Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)−のロゴマークが著名であり、
京都府機船底曳網漁業連合会が、ズワイガニとアカガレイの漁獲において国内初の認証に向け審査を
うけている過程にある。
(2008年 3 月現在)
また、大日本水産会は2008年度、
「マリン・エコラベル・ジャパン(Marine Eco Label Japan)」
(通
称・MELジャパン)として日本独自の水産エコラベルを立ちあげた。2000年にIUU(Illegal
Unreported and Unregulated)漁業を排除するために設立されたOPRT(Organization for Promotion of
Responsible Tuna Fisheries:責任あるマグロ漁業推進機構)も、類似した内容をもつラベル表示パイ
ロット事業を実施している。
海のエコラベルに対する欧米の小売業の取組みは、日本とは比較にならないほど活発である。2006
年 2 月、アメリカのウォールマート・ストアーズは、鮮魚・冷凍魚を対象に 3 ∼ 5 年かけて、全量
MSC認証をもつ漁業者から調達すると発表した。
認証には取得費用と手間がかかり、水産資源の科学的データを整理し取りまとめる必要がある上に、
漁業管理手法が日本と欧米では異なる。MSCの日本版を目ざすMELに期待がかかる理由である。し
かし北海道漁業協同組合連合会は、アキサケのMSC認証を取得する方針である。漁獲量の半ばを輸
出する中国が、フィレーなど加工品の欧米輸出にMSC認証の取得を求めたからである。世界基準の
MSCがビジネスに必要とされている。
水産資源の適正な管理、つまり過剰漁獲の抑制には、無主物先占=早い者勝ちの供給サイドの漁獲
― 43 ―
規制は容易ではなく、可能ならば、需要サイドから働きかける方がはるかに有効でありコストもかか
らない。とりわけ消費者サイドからチェックできれば影響・効果が大きい。適正な漁業管理下にある
漁獲物を、エコラベルにより市場メカニズムを通してサポートすることができる。それが水産資源の
乱獲を防ぎ、究極的には消費者に利益をもたらすシステムになりうることは確かであり、「消費者の
自己責任」の果たす役割に期待がかかるのである。
(5)食の安全・安心
我が国の水産食品は経済の発展に伴い、多様化、高級化が浸透し、海外からの食品調達によって、
こうした要望を満たす食事メニューを提供してきた、また、水産食品産業は供給の安定性、消費者ニ
ーズへの対応性から、国内だけでは賄いきれず、海外に拠点を設け事業を拡大してきた。
こうしてグローバル化がさらに伸展する中で「食の安全・安心」という問題についての関心が高まっ
てきた。国内においては生産、流通、消費の各段階における対応策は比較的スムーズな展開が可能で
あるが、広く事業活動が行われている海外においては的確、迅速な対応は困難である。このため事前
に様々な場面を想定し、生産から消費に至るまでの「安全・安心」への対応策が必要になってきた。
これに伴い、海外の生産体制における安全・安心をめぐる諸基準の標準化について様々な議論がな
されている。標準としては、過大なコストをかけず、企業、消費者に大きな負担をかけることのない
レベルにとどめ、しかも食品の安全・安心を十分確保するものが必要である。
注 1)
「OUTLOOK FOR FISH TO 2020」International Food Policy Research Institute
2)
「日本漁業の持続性に関する経済分析」多賀出版 有路昌彦
3)
「アクアネット」2007年11月号「日本の人口減少が漁業に与える影響と対応戦略」有路昌彦
― 44 ―
第 4 章 各国調査内容の概略説明
日本大学 梅 沢 昌太郎
1.アジア
(1)韓国
① 水産業に関わる環境条件、人口推移と消費購買力について、2004年現在の人口は4,850万人で、近
年(1990年代に入り)、人口増加率が低下し、日本以上の速度で少子高齢化社会に変貌しつつある。
1996年にOECD加盟国となり、先進国入りしており、2004年現在の一人当たりGDPは18,000ドルで、
世界12位の国となった。
② 貿易制度(関税)については、水産物の基本税率は平均で16%、冷凍魚は10%、生鮮・冷蔵水産
物、甲殻類等は20%となっている。日韓両国で水産物にかけられている関税率は基本税率以外に暫
定税率や特恵税率等があり、大体、韓国の方が関税率は高い。
③ 生産状況について、韓国統計庁、漁業生産統計によると、韓国の漁業生産のピークは1986年で366
万トン、その後は漸減し、2005年では271万トン(沿近海漁業109.7万トン、遠洋漁業55.2万トン内水
面漁業2.4万トン、養殖業104.1万トン)2000年対比108%となっているが、以降増減が続く。減少要
因は沿近海漁業と遠洋漁業の衰退に起因する。沿近海漁業は国内資源の悪化と日韓漁業協定・韓中
漁業協定発効による漁場縮小等が要因となっている。養殖業は1986年の94.7万トンから漸減し2001年
には65.6万トンまで減少したが、その後養殖技術の向上により、2005年には100万トンを超えた。
④ 水産物貿易について、1960年代から対日輸出を念頭に水産物輸出振興政策を推進し、輸出は順調
に推移、水産物貿易黒字は1980年代後半まで続いた。1990年代に入ると水産物の国内生産が減少し、
輸出は頭打ちとなる。反面、水産物輸入が大きく伸長し、これ以降貿易赤字が続く。海洋水産部、水
産物輸出入統計年報によると、2005年の輸入は2,382百万ドル、2000年対比168.8%と大きく拡大して
いるが、輸出は2005年、1,193百万ドルで、2000年対比79.3%となり、縮小している。韓国の貿易黒
字国は日本、スペインなど一部の国で、赤字国は中国をはじめ米国、タイ、ベトナム等で、最近では
ロシアからの輸入が急増している。
⑤ 水産物の需給と消費については、1998年のIMF経済危機以降水産物供給は漸増しているが、国内生
産が減少しているので、その需給ギャップを輸入量が埋めてきた。2005年の供給量は580万トンで
2000年から130万トン増加、この間輸入も100万トン以上増加した。需要についても供給と同様漸増
傾向となり、消費量は1980年の175万トン、1990年の258万トン、2001年の326万トン、2005年、417
万トンと増加してきた。1980年を基点として、約20年で2.3倍の消化増がみられた(海洋水産部、水
産動向に関する年次報告書)。また、韓国農村経済研究院、「食品需給表」によると、水産物の一人
当たり消費量は1980年の27kgから1990年の36.2kg、2001年42.2kg、2004年では48.7kgとなり大きく伸
長している。
(2)中国
① 水産業を取り巻く環境条件として、消費人口と購買力については、総人口は2006年では13.1億人に
達し、男性人口割合が51%を占め、この割合は1952年から維持されている。農村部人口と都市部人
口の割合は徐々に都市部人口が増加し2014年には都市部人口が農村部人口を逆転する予想である。
― 45 ―
また、2010年には人口を14億人に抑制する目標を掲げている。消費購買力は2000年以来、中国経済
の高度成長(7.3∼10.7%)が続き、都市部の一人当たり可処分所得は年平均11.02%、農村部の純所
得も年平均8.06%と高い伸びをみせている。所得に占める消費の割合は都市部が約78%、農村部が約
58%で推移し、最近、都市部では若干低下傾向、農村部は横ばい傾向となっている。
② 漁業管理政策については、1996年国連海洋法条約の締約国となり、1998年に「中華人民共和国排
他的経済水域及び大陸棚法」を発布し、200海里体制へと移行した。1995年以来、国連海洋法条約の
枠組みの下で周辺国との海域境界を画定及び漁業協定締結を協議、日本とは1997年「中日新漁業協
定」を署名、2000年に発効となった。また、1995年より漁業資源保護のため渤海、黄海、東海の海
域で「夏季休漁制度」を実施、1999年には南海海域まで休漁は拡大した。さらに、この10年間、漁
業の持続的発展を目指して生産の質、経営効率を追求する漁業政策の転換を図ってきた。漁業資源に
影響する漁獲力を緩和するため、1999年には海面漁船漁業の生産量「ゼロ成長政策」、2001年には
「マイナス成長」に制限する漁業生産抑制策を打ち出し、漁民の養殖業や非漁業部門への「転船・転
業」政策を図った。
③ 消費者保護の行政として、養殖魚の薬品残留問題等食の安全、食品衛生に関して中国当局は様々な
法整備を進めている。2002年に国家品質監督検査検疫局は「輸出入水産物の検査検疫管理規則」を
施行した。また、2004年に国家認証認可監督管理委員会は「輸出水産物生産企業の登録衛生規範」
を実施した。水産物を含めた一般食品に対しては国家品質監督検査検疫総局の「輸出入食品の衛生監
督規定」
(2006年実施)と国家衛生部の「食品衛生許可証の管理規則」(2006年実施)がある。
④ 輸出入関連制度については、2004年に「中華人民共和国反ダンピング条例」を施行した。これは
対外貿易の秩序と公平競争を擁護するため「中華人民共和国対外貿易法」の関連規定に基づき制定し
たものである。また、国務院は2005年に「中華人民共和国輸出入貨物原産地条例」、「中華人民共和
国輸出入商品検査法実施条例」を施行し、税関総役所は同年に「中華人民共和国税関輸出入貨物の徴
税管理規則」及び「輸出水産物加工原料の供給漁船の検査検疫登録条件と要求」を施行した。
⑤ 漁業資源については、1980年代から始まった漁業自由化政策等を背景に乱獲が進み、近年の資源
管理努力にもかかわらず、資源状態は低水準のままで推移している。内水面の資源は魚類、エビ・カ
ニ類と貝類からなるが、魚類の種類が140種と一番多く、内陸土着の淡水魚と遡河性魚類からなる。
この中でコイ目の種類が一番多く漁業生産においても重要な魚類である。
⑥ 漁業従事者は2001年に1,333.43万人をピークに若干の減少傾向であったが、近年では横ばい推移と
なっている。2005年では1,290.28万人の規模で、内訳は専業従事者が710,01万人(内海面が222.34万
人)、兼業従事者580.27万人(内海面86.57万人)、専業従事者の内訳をみると、漁船漁業177.41万人、
養殖が451.36万人となっている。中国では豊富な労働資源があるために、漁業と養殖業においては後
継者の育成と確保は問題とならず、それどころか現状では過剰供給が深刻な社会問題となっており、
その解決が喫緊な政策課題となっている。
⑦ 水産物の生産状況については、漁船漁業生産が1,700万トン(2000年)から1,695万トン(2005年)
と横ばいであり、漁業生産が殆ど増加していない。漁業種類別の生産ではトロール漁業による漁獲量
が海面漁船漁業の 5 割弱を占めている。養殖業については、2000年の2,578万トンから2005年の3,393
万トンへと拡大し、2005年では水産物生産量の66.7%を占めるに至っている。中国では養殖可能な海
面は260.01万ヘクタールあり、2005年の海水面の養殖利用率は53.69%である。一方、内水面では養
― 46 ―
殖可能水域は675万ヘクタールあり、水面利用率は86.67%に達しており、内水面の養殖利用はほぼ限
界に近づいている。
⑧ 水産貿易の状況について、中国の水産物貿易は2000年以降急速な発展を遂げてきた。水産物貿易
総額が2000年に56.8億ドルであったものが、2005年では120.1億ドルに膨脹している。量的には輸出
は輸入より少ないが、金額では輸出は輸入の 2 ∼ 3 倍となっている。理由としては、輸出水産物は中
高級物又は高付加価値品が多く、輸入水産物は廉価なもの、魚粉が多いからである。しかし、近年で
は、中高級水産物の輸入も増加している。中国の主要輸出市場は日本・韓国・米国・EUで、輸出上
位国に変化はないが、主要市場の占める割合が減少してきている(数量で2000年の80.7%から2005年
の74.6%)。特に、日本の減少割合が大きく、数量で2000年の38.5%から2005年の24.2%まで減少して
いる。一方、中国の主要輸入国はロシア・米国・ペルー・インドであり、4 カ国の占める割合は数量
で2000年の72.9%から2005年の59.9%に減少しているが、金額では2000年の55.9%から2005年の
56.7%に増加している。また、中国水産物貿易の特徴として、一般貿易の他に加工貿易、補償貿易等
があり、その構成は2005年では、一般貿易50.7%、加工貿易43.9%、その他貿易7.3%となっている。
⑨ 中国の水産物流通と消費に関して、流通システムは産地卸売市場段階、消費地卸売市場段階、小売
の 3 段階に分けられるが、養殖水産物、漁船漁業水産物、輸入水産物は生産拠点、供給方法等が異な
るため流通経路も若干異なっている。産地卸売市場段階の流通主体として、生産者、仲買人、仕入業
者、運送業者、輸入業者等がいる。消費地卸売市場段階の流通主体は荷主、消費地卸売業者、外食産
業やホテルの購入者、小売業者等である。中国における消費構造の特徴として、魚介類よりも豚肉類、
家禽類の消費が上回っている。東部地区に移動するにつれ魚介類の消費が増加する傾向にあり、水産
物の消費は淡水魚から海産魚へ、塩干・加工品から鮮魚・冷凍品へ変化してきている。国民一人当た
りの魚介類(鯨、海藻を除く)消費量は1980年5.2kgであったものが1990年では11.5kgと倍増し、さ
らに、2003年では25.4kgと倍以上に増加した。もっとも、一人当たりの消費量は都市・農村のみなら
ず地域間によって大きさ格差があり、また、経済発展によって食生活の構造が変化し、水産物消費形
態が内食から外食・中食へシフトすることにより都市部の消費が著しく拡大した(2003年における
一人当たりの外食・中食による消費は16.4kg)。
⑩ 今後の見通しについて
漁業生産の今後の見通しとして、海面漁船漁業の成長はゼロかマイナス成長の予測、内水面は横ば
いもしくは若干の成長が期待される。他方、養殖業は過去高成長を遂げてきたが成長の程度は鈍化し
つつある。海面養殖は海面利用の開発余地は残っているが、内水面開発は慢性的な水不足と環境汚染
によって不可能に近い厳しい状況におかれている。こうした要素を考慮すると2010年までは養殖漁
業の生産は年率 4 %台の成長率となり、その後の成長は鈍化していくと予測される。水産物貿易の今
後の見通しとして、中国の水産物輸出入は過去急発展を遂げてきた。今後国内市場の拡大を考えれば、
水産物輸出は減速の方向に向かわざるを得ない状況になると予測される。今後2010年までは数量で
年平均 9 %台の成長、その後はさらに減少することになると予測される。水産物輸入については、水
産物価格の国際相場が上昇すると輸入減少に直結すると予想されることから、数量で2010年までは
年平均 4 %台の成長、その後はさらに成長は鈍化すると予測される。水産物消費の今後の見通しとし
て、中国は高度成長を維持し、2010年には国民所得が2,754ドルに達する見通しであり、水産物消費
においても生活水準の上昇を背景に2010年までは年率 5 %台の成長は維持できる見通しで、その後は
― 47 ―
価格の高騰により成長は減少すると見込まれる。
(3)タイ
① 人口は2006年で65百万人、バンコクを中心とする都市部で増大を続けている。
② 経済環境としては、1997年にアジア経済危機に見舞われたが、2000年代に入りGDP 4 ∼ 5 %の成
長率を維持している(1990年代のGDP平均成長率4.1%)
。
③ タイの経済と水産業開発について、東南アジアで最も早く漁業開発が進んだ国の一つで海面漁獲漁
業が多く、沿岸はもとより、沖合、遠洋漁業も盛んである。1980年代にエビ養殖が爆発的に拡がり、
経済波及効果を発揮し、関連産業の発展を促した。1980年代後半には外資に対する投資を積極的に
行い、インフラの整備を急いだことにより輸出志向型の食品産業の資本と技術の集積がなされた。
④ 漁業生産については、1980年代から1990年までは生産量は伸びてきたが、1990年代になると停滞
し始め、FAOの統計では、2000∼2005年で365万∼410万トンの間で生産が増減している。特に漁獲
漁業は2000年の299万トンを境に2005年の259万トンへ減少した。タイの内水面漁獲漁業は僅かで、
海面漁獲漁業はもともとトロール漁業から出発し、過剰開発が続いた結果マイナス成長となってしま
った。一方、養殖業は海面、内水面共に大幅な生産増となった。2000年の73万トンから2005年の114
万トンと年率10%以上の成長を遂げた。海面養殖はエビ養殖を主力にノコギリガザミなどを養殖し、
内水面ではティラピア、キャットフィッシュなどを養殖し近年著しく増大している。
⑤ 水産物貿易の動向については、輸入、輸出ともに漸増傾向にあり、輸出は2005年では153万トン、
447万ドル、2000年対比132%、102%となっており、輸入は2005年では144万トン、146万ドル、2000
年対比178%、176%と大きく増加している(FAO統計による)。魚種別輸入では、台湾、日本、韓国
等からのツナ類が最も多く(50.1%)、次いで主にインドネシアからの鮮魚・冷凍魚が多い。最も重
要な輸入相手国は多くの原料供給を受けているインドネシアであり、タイは原料輸入から加工した後
再輸出する食品製造業が発達している。魚種別輸出については、生鮮・冷凍エビが輸出全体の23%
を占め、米国、日本、韓国向け輸出が多い。最近はEU向けが急増している。また、米国、EU、東南
アジア向けツナ缶詰も多く2005年37万トン輸出した。インドネシア海域で漁獲したイトヨリ等を原
料としたすり身も日本、中国、台湾への輸出が多い。水産物の消費動向については、一人当たりの消
費量は2005年では75.9kgと推計されている(タイ厚生省)
。
⑥ 今後の見通しについては、生産は養殖業の成長により漸増傾向をたどると予測される。また、水産
物消費及び貿易においても経済成長に伴う国民所得の伸びが期待されることから拡大傾向が見込まれ
る。
(4)インドネシア
① 水産業に関係する社会環境について、人口は2005年で218.9百万人となり、1971年からは約 2 倍に
増加してきたが、2000∼2005年では政府の人口を抑制する政策により増加率も1.3%に低下している
(70年代2.3%、80年代1.97%、90年代1.49%)。
② 水産政策、行政管理・規制は海洋水産省漁業局が管轄し、新漁業法が2004年に制定、水産資源利
用に関する責任と権限が中央政府から州、県に委譲され、漁業・資源管理の管轄権については県が沿
岸域 4 マイル以内、州が 4 ∼12マイル、沖合は中央政府にある。
③ 漁業生産については、インドネシア全体で600万トン以上の潜在的資源量にもかかわらず、西イン
ドネシア海域では過剰漁獲、東インドネシア海域及び200海里経済水域では利用率が低く400万トン
― 48 ―
台の漁獲量となっている。2005年生産実績では、漁業・養殖業全体で667万トン(2000年対比130.4%)
となっており、漁獲漁業が国内生産の70.4%を占め、この内、海面漁獲が66.0%を占めている。養殖
業の生産は29.5%にすぎないが、近年の生産量増加は目覚しいものがある。2000∼2005年の年間成長
率は漁獲漁業412万トンから470万トンで2.7%成長、養殖業は99万トンから197万トンで15.1%成長と
なっている。生産面では漁獲漁業が重要な役割を果たしているが、構造的には零細な漁民が圧倒的に
多く、養殖業も小規模漁業者が殆どである。海面で漁獲する主たる魚種はエビ、マグロ、カツオ等で、
内水面ではコイ、ティラピア等である。養殖業では海面養殖ではハタ類と海藻であり、汽水域ではエ
ビ、ミルク・フィッシュ、淡水養殖ではコイ、ティラピア、ナマズ類が主である。
④ 水産物貿易の動向については、輸出に比し輸入は数量、金額とも少なく、近年、輸出が漸増してい
る一方で輸入は逆に増減傾向をたどっている。輸出は2005年では85.7万トンとなり2000年51.9万トン
対比165%と大きく増加しているが、輸入は2005年では15.1万トン、2000年17.9万トン対比で84.3%と
なっている。主たる輸出魚種はエビ、マグロ・カツオ類、ナマズ、ティラピア、コイ、ハタ等である。
⑤ 流通と消費の動向について、水産物の利用状況は生鮮利用が全体の54%を占め、加工向けとして、
塩干加工が21%と多く、近年では流通基盤が整備されて冷凍品加工が急増している。水産物の一人
当たりの消費はこの数年で 6 kg以上増加していると推計される。農村部の一人当たりの消費量は
28.5kg、都市部は33.7kgとなり、都市部が多い要因は調理加工品の消費量が都市部、年間19.8kgに対
して農村部、13.5kgと差がある。今後、経済の発展により、都市人口の増加が予測されることにより
水産物の消費の拡大が見込まれる。
(5)フィリピン
① 島嶼国家フィリピンは総人口87百万人、2010年95百万人、2025年135百万人に増加すると予測され
ている。2006年の国内総生産は 1 兆2,744億ペソ( 1 ドル=51.3ペソ)、うち農林漁業は18.8%のシェ
アを占め第 2 位となっている。完全失業率は 7 %だが、潜在的失業率は20%を超えており、海外出稼
ぎ労働者が多い。1950∼1960年代にかけ周辺諸国に先駆け発展し始めたが、1970∼1980年代にかけ
政治的な混乱に陥り、経済は大きく立ち遅れた。
② 現在の漁業法は1998年に施行、管轄権が地方自治体にある沿岸漁業(マニシパル漁業)は沿岸か
ら15km以内の海域、3 トン未満の漁船操業、農業省が管轄する商業的漁業は沿岸から15km以遠の海
域、3 トン以上の漁船操業の 2 種の漁業に分けられている。商業的漁業の沿岸域での違反操業が多く、
政府は漁業の沖合・遠洋化政策を図っている。
③ 2005年における漁業生産は416万トンで2000年299万トン対比139.1%となり、この数年漸増傾向を
辿っている。漁獲漁業による生産は2005年では113万トンで、漁業生産全体の27.2%となり、2000年
94.6万トン対比119.4%の成長を遂げている。しかし、海面漁業における資源のMSYは190万トンと推
定され、水準をはるかに超えている。今後もさらに生産が増大すれば資源の枯渇が早まると危惧され
ている。養殖業による生産は2005年では189万トンとなり、2000年110万トン対比では171.8%と大き
く拡大している。海面漁獲漁業による主たる魚種はカツオ・マグロ類、マルアジ、インドイワシ等で
ある。また、沿岸漁業ではエビ、カニ、ナマコ、アワビ等の漁獲が多い。養殖業については、汽水域
ではミルク・フィッシュ、エビが多く、海面養殖では海藻類が、魚類ではハタ類の増加が著しい。淡
水養殖ではティラピアが増加している。
④ フィリピンの水産物貿易は輸出、輸入とも停滞しており、2003∼2005年においても増減を繰り返
― 49 ―
している。FAOの統計では、輸出は2005年で18.0万トンとなり、2003年18.8万トン対比95.7%、輸入
では2005年で17.0万トン、2003年15.2万トン対比111.8%となっている。フィリピンの輸出相手国は日
本、米国、香港、韓国、台湾が主力。一方、輸入相手国は中国、パプアニューギニア、日本、台湾、
インドネシアである。
⑤ 2006年における水産物国内消費量は270万トンで、2004年の一人当たりの消費量は31kgと推計され
ており、2004年以前の 5 年間は消費量に殆ど変化がない。
⑥ 今後の見通しについては、海面漁獲漁業は資源管理政策の機能強化により成長率は期待できないた
め、今まで以上に養殖業に依存した生産体制となる。水産物の消費見通しは2005年の270万トンから
2010年には290万トンに増加すると推計されている。水産物貿易については、フィリピンの水産業が
国内供給を中心とした産業であるため、需要増加によって輸入が増えることが予測されるが、輸出が
拡大することは期待出来ない。
(6)インド
① インドの人口は2006年で10億85百万人とされており、今後の人口予測を5年後の2011年では11億
94.5百万人、2016年で12億71百万人、2021年で13億42百万人、2026年で14億01百万人と見込んでいる。
② 漁業政策については、インドの農民、漁民の抱える諸問題を検討し、農畜産漁業の持続的発展と
所得増を実現するため全国農民委員会を2004年に設立し、委員会は漁業水域利用の改革を行うに際
しての討議を踏まえ、2004年末に政府の農畜産漁業局から包括的海洋漁業政策がだされた。インド
では殆どの州に漁業者協同組合があるが、漁業者に対する管理・統治システムはなく、個人、グルー
プが自前で作業している。このため、1,400万人を上回る漁業関連従事者の連携不足が問題。2006年
効果的な行政管理を行うために農業大臣を議長とする全国漁業開発理事会を設立し、インドの漁業、
水産養殖部門の潜在力を十分発揮し、事業の発展を目標とした。
③ 漁業生産については、特徴的なのは、淡水魚が海産魚を上回っており、2004年生産では352万トン
の淡水魚(56%)に対して、海産魚は278万トン(44%)であった。2004年の全生産量は630.4万トン、
2000年565.6万トン対比111.4%で、漸増傾向をたどっている。漁獲漁業は2004年の生産が278万トン、
2000年281.1万トン対比98.8%となっており、近年では2003年をピークに以降は減少傾向にある。一
方、養殖業は2004年では、352.6万トンで2000年284.5万トン対比123.9%となっており、近年生産は急
成長している。
④ 水産貿易について、輸出入のバランスが極端で輸入が圧倒的に少ない。2004年の輸出量は46.1万ト
ンで2001年42.4万トン対比108.7%、近年では生産の状況により増減がある。輸入量は2004年4.6万ト
ンで、2000年1.2万トン対比383.3%と大きく拡大しているが、輸出と同様に国内生産により、増減が
見られる。輸出対象魚種は小エビ、ロブスター、中型エビ、コウイカ、冷凍魚等で、輸出国は欧州各
国、中国、日本、米国である。輸入はバングラデシュからのジギョ(ニシン科Tenualosa属の魚)を
主とする鮮魚が多く、次いで米国からの小エビが多い。
⑤ 流通と消費について、現在、インドの一人当たり魚の年間消費量はインド全体で10kg、地方によ
り消費の格差が 4 kg∼24kgまである。調査によると、中食・外食における水産物の消費量は水産物
総消費量の15%を占めるとされており、都市部では中・外食の割合が多く消費の拡大が進んでいる。
2020年には少なくとも一人当たり15kgの水産物消費はあると予測している。消費動向として、イン
ドでは菜食主義者が人口の 4 割弱存在し、基本的に魚食をしない。その他は水産物の食習慣を有して
― 50 ―
いるが、地域により差が有り、沿海州では海産魚、内陸農村部では淡水魚、海産魚の双方を好む。
2.アフリカ
(1)エジプト
① 2005年の人口は68百万人で、2001∼2005年で 5 百万人、8 %増加している。
② 経済的環境として、家計調査によると、食費、交通費、住宅費が大きな割合を占め、なかでも食費
の支出が大きい。エジプトでの総消費支出は2005年で約7,100万ドルであり、2000年に比べ25%増加
した。
③ 漁業管理政策については、漁業資源開発局(GAFRD)を設立し、漁業基本法が管理されているが、
海洋漁業規制に対する効果的管理の枠組みは定められていない。
④ 漁業生産については、2003年の漁業生産は、漁獲漁業が43万トン、養殖が44.5万トンであった。
2000年∼2003年の生産量をみると、漁獲漁業は38.4万トン(2000年)から43万トンに12%の増加で、
一方、養殖は34万トン(2000年)から44.5万トンに31%の増加となった。主要魚種は海面ではティラ
ピア、ナマズ、ボラ、イワシなど、養殖魚類ではティラピア、ボラ、草魚などである。
⑤ 水産物貿易については、2004年の水産物輸出は5,042トン、輸入は22.5万トンであった。主要輸入
相手国はオランダ、アイルランド、イギリスなどである。
⑥ 水産物の一人当たりの年間消費量は12kgとなっている。国内消費の特徴は鮮魚を伝統的に好むこ
とである。
⑦ 今後の見通しとして、魚の需要は上昇すると予想されるが、漁業による供給の拡大の可能性も厳し
い状況にあることから、今後は養殖生産による国内魚類供給の維持・拡大が必要である。
3.北米
(1)アメリカ合衆国
① 2004年に今後の人口推移として、2000年 2 億82百万人、2010年 3 億 9 百万人、2020年 3 億36百万人
との見通しが発表され、2000年から2020年にかけ54百万人増加(増加率19.0%)する。65歳以上の人
口の比率は2000年の12.4%から2020年では16.3%に増加し、高齢化が進行すると予測されている。人
種別には2000年では白人の比率が約 8 割と高いが、将来的には減少し、逆にヒスパニックの全人口に
占める比率が増加する。
② 漁業政策については、「マグナソン・スチーブンス漁業保存管理法」によって米国の排他的経済水
域における漁業資源の保存・管理にかかる制度を定めている。この法律のもと、米国の各地域に 8 つ
の地域漁業管理委員会が設置されている。同委員会は管轄する水域の漁業を管理するための漁業管理
計画を策定し、連邦政府の規制として実施されている。また、その他の法律として、「絶滅の恐れの
ある種の保存法」、「海産哺乳類保護法」、「レーシー法」(州政府、連邦政府あるいは外国政府の法に
違反して漁獲された水産物の取引を禁じる法律)などがあり、さらに排他的経済水域での養殖業を許
可する「沖合養殖法案」が審議中である。
③ 水産物の輸入関係制度については、連邦食品医薬品局(FDA)は米国への輸入水産物に食品とし
ての安全性、経済的合理性などについて、加工業者や輸入者に課する監督基準を設けている。
④ 漁業資源の状況については、連邦海洋大気庁国家海洋漁業局(NMFS)が作成した資料に基づき各
― 51 ―
海域における漁業資源の状態を述べている。
⑤ 漁業従事者については、連邦労働省によると2004年時点で38,000名と推定され、内半数が漁業を自
ら経営する漁業者である。さらに、漁業者および漁業従事者の数は今後2014年までに減少していく
と予測している。
⑥ 生産の状況については、漁獲漁業の生産量は2001年から2005年の間は430万トン前後の横ばい状況
で推移している(FAOのデータでは500万トン前後推移)。養殖生産量(内水面を含む)については
2001年から2004年の間40万トン前後で推移し(FAOのデータでは48万∼61万トン増加している)、
2004年では生産量合計が480万トンとなった。また生産額については、漁獲漁業では2001年から2005
年にかけ22%上昇し、2005年で39.3億ドルとなり、養殖業では2001年から2004年にかけ14%上昇し、
2004年では10.7億ドルとなり生産高合計で48.2億ドルとなった。魚種別生産量、生産高については、
漁獲漁業ではスケトウダラが生産量では圧倒的に多く、生産高ではカニ、エビなどの甲殻類、ホタテ
貝が上位を占める。養殖業では内水面のナマズが生産量、生産高ともに圧倒的に多い。
⑦ 水産物貿易における輸入については、金額では可食水産物121.0億ドル、非可食水産物130.2億ドル
(2005年)となっており、2001年から漸増傾向に推移している。また、主たる輸入先としては2005年
における金額の多い順で、可食水産物ではカナダ、タイ、中国、チリで、非可食水産物ではインド、
中国、フランス、イタリアなどである。魚種別に多いのは、エビ(冷凍)、ティラピア(冷凍フィレ
ー)、大西洋サケ(冷凍フィレー)、ホタテ貝(生鮮・冷凍)である。加工品ではツナ製品が670百万
ドル、水産ねり製品およびフィッシュスティック加工品96百万ドル(2005年実績)が多い。輸出に
ついては、金額では可食水産物40.7億ドル、非可食水産物113.6億ドル(2005年)となっており、可
食、非可食とも2001年以降漸増傾向である。主たる輸出先は2005年における金額の多い順から可食
水産物では日本、カナダ、韓国、中国、非可食水産物では、カナダ、メキシコ、日本、香港などであ
る。魚種別に多いのは、マダラ(冷凍魚)、大西洋サケ(冷凍魚)、ホワイティングおよびヘイク
(冷凍魚)、冷凍カニ(殻付き)などである。加工品ではスケトウダラすり身が388百万ドルと多い
(2005年実績)。
⑧ 水産物流通システムについては、米国では産地卸売市場が発達していないため、一般的には、漁業
者から直接バイヤー(加工業者)が購入し、加工後、付加価値付けされた商品を加工業者はブローカ
ーなどを介して流通業者に販売する。この流通業者からブローカーなどの仲介により小売業者又は外
食業者に販売され、一般消費者に届けられる。
⑨ 需給動向については、水産物需要の増大を背景として供給量はほぼ増加傾向にあり、2005年の供
給量は550万トンであった。国内生産量は2000年以降約430万トンの横這い状態で、供給量の伸びは
輸入量の増加によるものである。水産物の消費については、一人当たりの水産物消費量は増加傾向に
あり、1980年との比較では2005年の消費量は可食部重量で7.35kg/年で、29.4%増加、2001年対比で
も9.4%増加している。消費量の多い魚種は2004年の実績ではエビ(1.91kg)
、次いでツナ缶(1.50kg)
、
サーモン(0.98kg)
、スケトウダラ(0.58kg)、ナマズ(0.5kg)等である。
⑩ 今後の見通しについて、生産見通しとしては海面捕獲漁業ではアラスカ州などの太平洋岸 4 州(ア
ラスカ、ワシントン、オレゴン、カリフォルニア)で全体の約72%を占めており、これら各州海域
の漁場資源が比較的良好で今後も安定した漁獲が見込まれる。しかし現状の養殖業については内水面
が中心になっており、生産量の拡大は大きくは望めない。EEZにおける養殖業の展開を目する「沖合
― 52 ―
養殖法案」が連邦議会で審議されているが多大な資金と新技術を要するため、それによって生産量が
大幅に伸びることは考えにくいことから養殖業による生産は概ね横ばいに推移すると見られる。貿易
見通しとしては、輸入は増大する水産物の需要を満たすため今後も人気の高いエビや白身魚を中心に
して右肩上がりで拡大していく傾向にある。一方、輸出については世界的に健康志向、グルメ志向に
よって需要の伸びによる魚価の高騰により輸出金額は増大していくが、輸出市場は多様化、分散化し
て日本のシェアは低下していくと考えられる。消費見通しとしては、連邦農務省は人口の増加、なか
でも水産物を最も消化するというヒスパニック人口の増大によって今後10年間で水産物需要は拡大
し、米国人一人当たりの水産物消費量は2020年までに6.58%増加すると予想し、(逆に米国人の高齢
化によって一人当たりの牛肉消費量は2020年までに 3 %減少する)水産物市場は成長する市場であり、
今後の需要を満たすためには、2020年までに181万トン(非可食部を含む)もの供給量を増やす必要
があるとしている。この需要を満たすためには養殖が重要な意味を持ってくる。米国の養殖業は多く
の発展阻害要因に直面しており、沖合養殖をはじめとする海面養殖は発展する余地は存在しているが、
輸入水産物とりわけ養殖水産物の輸入に依存するという予想が妥当と思われる。
(2)カナダ
① カナダは広大な国土に相対的に少ない人口が地域的に集中している。2001年から 5 年間で124.9万
人増加し、2005年では32百万人となった。人口の都市化率が高く、世界でも顕著な国の一つとなっ
ている。また、人口は高齢化し、国民の年齢中央値は高くなる傾向にあり、2011年には41歳になる
と予測されている。2001年から2011年の間に80歳以上の人口が130万人に達し、逆に 4 歳以下の若年
層が減少すると予想されている。高齢化による労働人口の減少による社会的影響を軽減するため、移
民政策をとっている。
② カナダの漁業は漁業海洋省(DFO)が管轄し、漁業政策は大西洋、太平洋、内水面の水域ベース
で実施されており、遊漁、水産養殖についてもDFOが管轄している。海面漁業の資源管理について
は漁獲可能量(TAC)を設定する場合と、漁業者や企業ごとに漁獲割当(IQ)を配分する場合があ
り、魚種によっても異なる。
③ 漁業資源の状況については、カナダの捕獲漁業は大西洋岸、太平洋岸の海面漁業と内水面の淡水漁
業に分かれる。大西洋岸では1990年の130万トン水揚げから1992年の禁漁以降水揚が大幅に減少、
2005年では82.4万トンとなった。魚種別には、エビ、カニなどの甲殻類は2005年では1990年の23万ト
ンから42.7万トンと大きく増加しているが、タラ、カレイ・ヒラメなどの底魚類は64.8万トンから
13.4万トンと激減している。太平洋岸の水揚は1990年以降、全般的に減少、29.8万トンから2002年で
は19.2万トンまで減少しそれ以降は回復し2005年では24.8万トンとなっている。底魚類の水揚が多く、
近年では資源は若干回復している。逆にニシン、サケの資源の減少がみられる。また、内水面漁業に
ついては、小規模で、安定した漁業が行われているが、水揚は減少傾向である。
④ 水産物生産量、生産金額については、カナダの捕獲漁業による漁獲量は1990年代に大きく減少し、
2000年からは減少後の水準で安定している(1990年169万トン、2000年104.4万トン、2005年112.7万
トン)。漁獲高は大西洋岸のエビ、カニ、ホタテ等の高価格魚種が増えたために、漁獲量の減少にも
かかわらず1990年より大幅に増加し、2000年以降安定推移している(1990年15億ドル、2000年22.2億
ドル、2005年21.4億ドル)。養殖漁業については、1990年以降、大西洋、太平洋の両岸で養殖業が発
展、生産量は1990年の3.6万トンから2005年では15.3万トンにまで成長したが、その殆どが「大西洋
― 53 ―
サケ」の養殖であり、貝類(ムラサキイガイ)の養殖も大西洋岸で見られるが量的に多くない。生産
高は類似した傾向だが、1990年に1.96億カナダドルであったものが2005年では7.15億カナダドルと拡
大した。
⑤ 水産物貿易について、輸出は歴史的に米国市場をターゲットとし、輸出量、輸出高ともに圧倒的に
多い。輸出量は2000年以降増加傾向で2005年では70.6万トンとなり、中国、ロシアの増加が著しい。
輸出高はエビやサケの主要な魚種価格の変動によって45億カナダドル前後の変動があり、2005年で
は43.1億カナダドルとなった。主要な輸出魚種としてはエビ、カニ、養殖サケ、ロブスターなどがあ
る。輸入については付加価値のついた製品の輸入が多く、大型のエビ、ツナ缶、サケ等の切り身製品
が多い。輸入量は輸出とは逆に2001年以降減少傾向で、2005年では47.3万トンとなっており、米国が
圧倒的に多く、次いで中南米、中国、タイが主要な輸入先である。注目すべき点は、中国が加工貿易
により約 3 倍に拡大し、ベトナム、タイが付加価値製品の輸出増により伸びた一方で原料供給してい
たロシア、ノルウェー等は大きく減少した。輸入高はこの期間は20億カナダドル前後で安定推移し、
2005年では20.7億カナダドルであった。
⑥ 水産物流通システムは水揚地においての卸売機能はなく、漁業者(漁船)から加工業者、ブローカ
ーを通じて国内の消費地市場もしくは米国などへ輸出される。カナダは消費地である都市間の距離が
離れており、遠方の国内消費地より水揚地に近い米国消費地に生産品が流れる傾向が強い。流通シス
テムの中で重要な役割を果たしているのがブローカー(仲買人)で、彼らが加工業者の販売代理人と
して小売業、外食業(フードサービス業)の最終顧客および卸売業者(物流業者)、さらに輸出業者
に対し営業を行っている。水産物は小売業を通じた消費者への販売よりフードサービス業を通じた販
売の比率が高い(但し、中でもツナ缶は90%が小売店経由で販売されている)
。
⑦ 国民一人当たりの年間水産物消費量は2000年以降、製品重量で 9 kg台を増減しており、2005年で
は9.38kgとなっている。これは人口集中地であるカナダ中心部が長年新鮮な水産物の入手が不可能で
あったことによる食文化に起因するもので、消費量の低さは現在も続いている。
⑧ 今後の見通しについては、海面及び内水面の漁獲漁業の生産は2020年までは楽観的だが、安定状
況を保つと思われ、養殖業は漸増傾向が続くと予測される。水産物消費については、将来予測される
生産コストの増加、世界的な需要増による価格の高騰などのマイナス要因が健康志向の高まりなどの
消費増につながる利点の認識にもかかわらず水産物全般の需要を抑えると考えられる。こうしたこと
から、外食や調理済み製品への依存度の高まり等将来的な変化に適した製品形態を生み出すことがで
きれば、ビジネス機会も増え、消費を伸ばすことが可能であろう。
4.中南米
(1)メキシコ
① 人口は2005年に 1 億 3 百万人に達し、今後2010年 1 億 8 百万人、2020年 1 億16百万人、2030年 1 億
21百万人になると国家人口審議会では予測している。さらに、2005年から2050年までの間に高齢者
層が7.4%から28%に増加するとみている。
② 経済予測として、人口の増加に支えられ、2050年にはGDPは 7 兆8,000万米ドルとなり、一人当た
りのGDPは 5 万3,000万米ドル程度になると予測されている。
③ 漁業政策については、2007年 7 月24日、メキシコ政府は連邦府官報に持続的水産漁業基本法
― 54 ―
(LGPAS)を掲載し、90日後に施行された。新LGPAS法は漁業の乱獲に歯止めをかけ、漁村部に新た
な雇用の選択肢を生み、漁業の生産性を高め、メキシコ国民の食生活改善につながる食料の供給を増
加させるために養殖業が促進されるだろうと述べている。
④ 漁業資源については、1970年代までは経済価値のあるものは僅か20魚種と甲殻類 2 種、貝類 2 種に
過ぎなかったが、現在では遠洋魚、深海魚の利用が進み、これらの魚が国内水揚量(年間150万トン)
の50%以上を占めるようになり、新しい水産資源漁業の多様化が進んだ。
⑤ 漁業生産については、2001年からは150万トンから140万トンへと減少傾向で推移しており、2005
年は145万トンの漁業生産でこの内養殖生産量は11.7万トンであった。主要な魚介類は、イワシ、マ
グロ類、エビ、モハラ鯛(クロサギ科の魚またはティラピア)などである。
⑥ 水産物貿易については、経済省の統計によると、2001年から2006年では輸入は漸増傾向で、1 億米
ドルから 3 億米ドルまで約 3 倍に増加しており、特に消費者の要望を取り入れた魚の切り身が大きく
伸びている。一方、輸出では数量、額は大きいが、漁業インフラの欠如によって 5 億米ドルから 6 億
米ドルと伸び悩んでいる。
⑦ 需要動向については、消費者が価格や栄養を考慮しながら新鮮、良質な魚を買い求める傾向が強く
なり、このような条件を満たす魚が買える場所に足を運ぶ人が増加してきた。
⑧ 水産物消費については、現地の統計がなく、FAOの資料によると、2001年から2005年では 1 日一人
当たり28.09kgから31.69kgに増えている。この数字から2005年では年間一人当たり11.6kg消費してい
ることになる。一方、現地の業界では1990年代に12kg消費していたが今では6.5kgに減少したと言わ
れている。
量的に食されている魚種は、マグロ、モハラ鯛で、イワシは缶詰として消費が多い。
⑨ 今後の見通しについては、漁業生産量は現在世界の1.5%を占めており、今後もこの水準を維持す
るには、2010年までに19∼56%程度の成長が必要である。養殖業についてはこの数年水産養殖セン
ターの設立、養殖業者の育成など投資を行っている。水産物消費については、魚介類が国民の重要な
栄養源であると同時に漁業が地元経済の成長を支えるという点から政府は水産物消費振興プログラム
を実施し、消費を促している。
(2)ブラジル
① 2005年の人口は 1 億80百万人で、2001∼2005年で 9 百万人、5 %増加している。
② 経済的環境として、家計調査によると最近、住居費、食費、交通費が大きな割合を占め、なかでも
住居費の増加が著しい。ブラジル世帯の月平均支出は1,778レアル( 1 レアル=0.54米ドル、2007年9
月換算)で、購買力はここ30年間向上している。
③ 漁業管理政策については、国家海洋資源政策(PNRM)に従い、海洋資源の持続可能な利用目標を
達成するために、様々な法的枠組みを形成している。また、海洋資源部門の計画はこの海洋資源政策
とブラジルが参加している国際協定に合わせて調整されている。
④ 漁業生産については、2005年の漁業生産は100.9万トンで、漁獲漁業が75.1万トン(海面が50.8万ト
ン、内水面24.3万トン)、養殖が25.8万トン(海面7.8万トン、内水面17.9万トン)であった。1990年
∼2005年の生産量をみると、漁獲漁業は62万トン(1990年)から75.1万トンに21%の増加で、一方、
養殖は 2 万トン(1990年)から25.8万トンに1,300%の著しい増加となった。主要魚種は海面ではエビ、
ロブスター、マグロ、カニなど、養殖魚類ではティラピアなどである。
― 55 ―
⑤ 水産物貿易については、2006年の水産物輸出は7.1万トン、351.5百万米ドル、輸入は17.1万トン、
427.4百万米ドルであった。2002年以来現地通貨であるレアルがドルに対して高くなり輸入の増加が
促進された。輸出金額で多い魚種はエビ、ロブスター、魚卵、マグロなどで、輸入金額で多い魚種は、
タラ、サケ、メルルーサ、イワシなどである。主要輸出相手国はアメリカ、スペイン、フランスなど
であり、主要輸入相手国はノルウェー、チリ、アルゼンチンなどである。
⑥ 水産物の一人当たりの年間消費量は 7 kgとなっているが、アマゾン地方(30kg)、ブラジリア
(25kg)、サンパウロ(20kg)など多く食している地域も存在する。水産物の消費量が少ないのは市
場価格が牛肉や鶏肉に比較して高いことに起因している。牛肉は年間平均37.1kg、鶏肉は31.2kgを消
費している。
⑦ 今後の見通しとして、養殖業のコストは海面漁業に比較して低く、消費者は養殖品の方がより入手
し易くなっている。養殖生産量は全動物タンパク質の 5 %に相当する。スーパーマーケット協会のデ
ータによれば各店舗における水産物の販売量は2002年から2003年にかけ23%増加していると報告さ
れている。このことから、今後馴染みのある養殖魚の生産を拡大し消費につなげていくことが重要で
ある。ブラジルは内水面養殖では世界的に独占的な強さを持っている。地球上の淡水の12%を保有
し、開発の余地は十分ある。
5.オセアニア
(1)オーストラリア
① 2006年の人口は約19.8百万人、平均年齢は37歳である。
② 経済的な環境条件としては、オーストラリア全体の購買力は最近10年間で向上しているものの、
継続的なものではない。団塊世代は人口の 4 分の 1 を占めており、最も購買力が高く、この年代の消
費傾向の変化が大きな経済的・社会的影響を生じさせる。
③ 漁業政策および行政管理・規制については、オーストラリア漁業管理局(AFMA)が漁業管理法
1991や漁業法1995に従い、生態学的な観点から持続可能な開発を行うとの原則に従って漁業資源を
管理している。
④ 潜在的な水産資源については、2006年のTACは2.8万トンで、TAC数値は過去数年安定しており、
近年中に増加する見通しはない。
⑤ 漁業生産は2005年で30.7万トンとなっている。2001年の24万トンと比べて28%増であった。主要漁
獲魚種はロブスター、エビ、カキ、マグロである。養殖生産は2005年で5.4万トンとなっている。
2003年の4.9万トンと比べて10%増であった。主要養殖魚種はサケ、カキ、マグロである。
⑥ 水産物貿易については、2005年の輸出は5.3万トン、2002年の 6 万トンに対して11%減であった。
主要輸出相手国は香港、日本、アメリカ、中国などである。主要魚種は、ロブスター、エビ、マグロ
である。2005年の輸入は2.1万トン、2002年の1.7万トンに対して23%増であった。主要輸入相手国は
ベトナム、ニュージーランド、中国、タイである。主要魚種はイカ、タコ、エビ、ヘイクである。
⑦ 需給動向については、水産物に対する国内需要の増加は、タイ、ベトナム、中国などで生産される
低価格の水産養殖の輸入品でまかなわれることが多くなった。
⑧ 水産物消費については、一人当たりの水産物消費量は、1950年の4.1kgから1999年の10.9kgへ増加
している。魚介類の消費量は増加傾向にあり、特に家庭外での消費が大きく伸びている。また高齢に
― 56 ―
なるほど魚介類の消費が増加しており、家庭で消費する割合も高くなる。
⑨ 今後の見通しについて
漁業生産の見通しについては、海洋資源が基本的に開発し尽くされており、厳しい経営管理の対象
となっている。西オーストラリア沖の魚類や甲殻類の遠洋トロール漁業やオーストラリア北部の魚類
など規模の小さな漁業には今後の可能性が残っている。養殖は将来的に発展性があるとみられており、
年率 9 %の成長を遂げている。陸上養殖は今後の可能性が考えられる。水産物消費見通しについては、
消費者は簡便・迅速・新鮮な食品を求めており、健康志向の高まりを背景に今後も魚介類に対する需
要は成長すると予測される。
6.ロシア
① 水産業に関わる環境条件として人口減少が大きな問題点である。2006年での国内総人口 1 億42.8百
万人に対し、2010年 1 億40.3百万人、2030年 1 億23.9百万人、2050年 1 億7.8百万人に減少すると国連
は予想している。
② 経済的な環境条件としては1998年の金融危機を乗り越え、2000年以降は飛躍的な成長を遂げてい
る。今後もこうした成長路線が当分続くものと見込まれている。
③ 漁業政策および行政管理・規制については、ソ連は社会主義国で、1965年から1991年まで漁業コ
ンプレクス(企業集団)を管理していたのはソ連漁業省であった。1991年以降はソ連邦漁業省が再
編、ロシア連邦農業省漁業国家委員会に業務が引き継がれたが、漁業コンプレクスの管理機能は連邦
省庁間に分散、漁業活動の諸問題に携わる管理機関を現地に設立した。2004年ロシア連邦漁業国家
委員会は廃止され、国家政策の管理機能はロシア連邦漁業省に委譲された。これにより、ロシア連邦
漁業国家委員会の機能は四つの連邦執行権機関に配分された。2007年漁業コンプレクスの管理を中
央集権化し、権限の垂直化を強めるため政府直属の機関として、ロシア連邦漁業国家委員会が再組織
された。
④ 潜在的な水産資源については、2005年のTACが646万トンに対し同年の漁獲量が325.8万トンであり、
資源の消化としては49.2%となっている。資源的に余裕があるのか定かではない。
⑤ 漁業生産は2000年の404万トン以降04年の295万トンまで減少傾向が続き2005年には326万トンと増
産に転じた。これは極東漁業水域を中心とする北西部太平洋のスケトウダラ、イワシ、ニシン、マス
の増産によるものである。
⑥ 水産物貿易は輸入、輸出とも2000年以降増加傾向で推移している。2000年対比では輸出では数量
で115%、金額で127%となっており、輸入は数量で209%、金額で651%と圧倒的に伸びている。
⑦ 需給動向については、2005年では国内消費量は180万トンで2004年比較4.6%増、この期間に生産量
は10.8%増、輸出水産物11.4%増、輸入水産物17.6%増となり安定化が見られる。総生産に占める輸
出の比重は2005年で45.8%となり、水産物総消費量に占める消費向け水産物輸入の比重も40.6%とな
る。このことから国産品による水産物供給拡大政策が必要とされている。
⑧ 水産物消費は2005年の国内消費量は180万トンで2001年対比 4 %増、同様に一人当たりの消費量は
2005年12.5kgで2001年対比 6 %増となっている。2005年以降は経済の急成長、健康志向、魚食普及の
伸展により一層の拡大が予測される。
⑨ 今後の見通しについて
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生産見通しは資源管理の徹底と密漁等の国内生産体制の改革により2010年には2005年対比23%増
の400万トンは見込める。2020年生産見通しではロシア経済が成熟期に移行し、漁業環境から生産の
大きな拡大は見込めず、450万トン程度の生産に落ち着くものと予測される。水産物消費見通しにつ
いては2005年以降年率 6 ∼ 8 %の消費増は見込まれ、2010年では230万トン∼245万トンの消費量と予
測される。2020年については経済が成熟するにつれ、食の多様化が浸透することにより2005年∼
2010年の消費拡大に比べて増加は半減し、260万トン∼280万トンの水産物消費になると予測される。
水産物貿易については、経済成長が伸展し、食の多様化によって国内生産で確保できない水産物は輸
入で賄う傾向が強くなり、国内消費の50%は輸入水産物になると予測され、2010年では消費量が純
食品ベースで240万トンとすれば輸入水産物は140万トンとなり、輸出は量的に国内生産量、輸入量、
国内消費量のバランスから190万トンになると見込まれる。2020年見込みについては、国内生産量が
50万トン増加するが、同様な考えから輸入数量160万トン、輸出数量220万トンと予測される。
7.ヨーロッパ
(1)北欧
● アイルランド
漁業生産は2005年に29.2万トンで、2000年の31.2万トンに対して 7 %減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はブルーホワイティング、大西洋サバ、大西洋アジで、総漁獲量の約50%を占めた。養殖生
産は2005年に 6 万トンで、2000年の5.1万トンに対して17%増の傾向を示した。養殖される主な魚種は
ムラサキイガイ、大西洋サケである。水産物輸出数量は2005年に19.8万トンで、2000年の20.7万トンに
対して 5 %減であった。水産物輸入数量は2005年の5.2万トンで、2000年の6.3万トンに対して17%減の
傾向を示した。2003年度の一人当たりの水産物消費量は17.6kgであった。
● イギリス
漁業生産は2005年に66.9万トンで、2000年の74.7万トンに対して10%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種は大西洋ニシン、大西洋サバ、ブルーホワイティングで、総漁獲量の約57%を占めた。養殖
生産は2005年に17.2万トンで、2000年の15.2万トンに対して13%増の傾向を示した。養殖される主な魚
種は大西洋サケ、ムラサキイガイである。水産物輸出数量は2005年に68.7万トンで、2000年の67.4万ト
ンに対して 2 %増であった。水産物輸入数量は2005年の90.1万トンで、2000年の86.7万トンに対して
4 %増の傾向を示した。
● スウェーデン
漁業生産は2005年に25.6万トンで、2000年の38.8万トンに対して25%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はウルメイワシ、大西洋ニシンで、総漁獲量の約83%を占めた。養殖生産は2005年の0.5万ト
ンで、2000年の0.4万トンに対して21%増の傾向を示した。養殖される主な魚種はニジマス、ムラサキ
イガイである。水産物輸出数量は2005年に52.3万トンで、2000年の49.2万トンに対して 6 %増であった。
水産物輸入数量は2005年の37.7万トンで、2000年の21.2万トンに対して77%増の傾向を示した。2003年
度の一人当たりの水産物消費量は33.6kgであった。
● デンマーク
漁業生産は2005年に91.1万トンで、2000年の153.4万トンに対して41%減の傾向を示した。漁獲され
る主な魚種はウルメイワシ、大西洋ニシンで、総漁獲量の約54%を占めた。養殖生産は2005年に3.9万
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トンで、2000年の4.3万トンに対して11%減の傾向を示した。養殖される主な魚種はニジマスである。
水産物輸出数量は2005年に115.1万トンで、2000年の126.5万トンに対して 9 %減であった。水産物輸入
数量は2005年の133.5万トンで、2000年の130.1万トンに対して 2 %増の傾向を示した。2003年度の一人
当たりの水産物消費量は24.2kgであった。
● フィンランド
漁業生産は2005年に13.2万トンで、2000年の15.6万トンに対して16%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種は大西洋ニシン、ウルメイワシで、総漁獲量の約64%を占めた。養殖生産は2005年に1.4万ト
ンで、2000年の1.5万トンに対して 7 %減の傾向を示した。養殖される主な魚種はニジマスである。水
産物輸出数量は2005年に2.5万トンで、2000年の1.6万トンに対して50%増であった。水産物輸入数量は
2005年の9.7万トンで、2000年の8.9万トンに対して 8 %増の傾向を示した。2003年度の一人当たりの水
産物消費量は32.6kgであった。
● エストニア
漁業生産は2005年に9.9万トンで、2000年の11.3万トンに対して13%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はウルメイワシ、大西洋ニシンで、総漁獲量の約77%を占めた。養殖生産は2005年に555トン
で、2000年の225トンに対して146%増の傾向を示した。養殖される主な魚種はニジマスである。水産
物輸出数量は2005年に13.5万トンで、2000年の10.6万トンに対して28%増であった。水産物輸入数量は
2005年の4.1万トンで、2000年の5.5万トンに対して26%減の傾向を示した。
● ラトビア
漁業生産は2005年に15万トンで、2000年の13.6万トンに対して10%増の傾向を示した。漁獲される主
な魚種はウルメイワシ、アジ、大西洋ニシンで、総漁獲量の約74%を占めた。養殖生産は2005年に542
トンで、2000年の325トンに対して67%増の傾向を示した。養殖される主な魚種はコイである。水産物
輸出数量は2005年に11.3万トンで、2000年の9.6万トンに対して17%増であった。水産物輸入数量は
2005年の3.8万トンで、2000年の3.5万トンに対して 8 %増の傾向を示した。
● リトアニア
漁業生産は2005年に13.9万トンで、2000年の7.8万トンに対して77%増の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はアジ、ヨーロッパカタクチイワシで、総漁獲量の約54%を占めた。養殖生産は2005年に0.2
万トンで、2000年の0.19万トンに対して 1 %増の傾向を示した。養殖される主な魚種はコイである。水
産物輸出数量は2005年に10.1万トンで、2000年の3.1万トンに対して220%増であった。水産物輸入数量
は2005年の10.3万トンで、2000年の6.7万トンに対して55%増の傾向を示した。
● ノルウェー
漁業生産は2005年に254.6万トンで、2000年の289.2万トンに対して12%減の傾向を示した。漁獲され
る主な魚種は大西洋ニシン、ブルーホワイティングで、総漁獲量の約60%を占めた。養殖生産は2005
年に66.2万トンで、2000年の49.1万トンに対して35%増の傾向を示した。養殖される主な魚種は大西洋
サケ、ニジマスである。水産物輸出数量は2005年に199.6万トンで、2000年の210.1万トンに対して 5 %
減であった。水産物輸入数量は2005年の59.1万トンで、2000年の90.2万トンに対して34%減の傾向を示
した。年間の一人当たりの水産物消費量は23kgであった。
(2)西欧
● オランダ
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漁業生産は2005年に54.9万トンで、2000年の49.5万トンに対して11%増の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はブルーホワイティング、大西洋ニシンで、総漁獲量の約47%を占めた。養殖生産は2005年
に7.1万トンで、2000年の7.5万トンに対して 5 %減の傾向を示した。養殖される主な魚種はムラサキイ
ガイである。水産物輸出数量は2005年に109.6万トンで、2000年の72.0万トンに対して52%増であった。
水産物輸入数量は2005年の81.7万トンで、2000年の68.7万トンに対して19%増の傾向を示した。2003年
度の一人当たりの水産物消費量は24.3kgであった。
● ベルギー
漁業生産は2005年に2.4万トンで、2000年の2.9万トンに対して18%減の傾向を示した。漁獲される主
な魚種はツノガレイ、ヒラメで、総漁獲量の約38%を占めた。養殖生産は2005年に1,871トンで、2000
年の1,200トンに対して35%減の傾向を示した。養殖される主な魚種はコイ、ニジマスである。水産物
輸出数量は2005年に23.5万トンで、2000年の11.7万トンに対して100%増であった。水産物輸入数量は
2005年の32.6万トンで、2000年の28.6万トンに対して14%増の傾向を示した。
● ルクセンブルク
内陸国であり、漁業、養殖業とも盛んでない。水産物輸出数量は2005年に0.1万トンで、2000年の0.6
万トンに対して76%減であった。水産物輸入数量は2005年の0.8万トンで、2000年の1.2万トンに対して
35%減の傾向を示した。
● ドイツ
漁業生産は2005年に28.5万トンで、2000年の20.5万トンに対して39%増の傾向を示した。漁獲される
主な魚種は大西洋ニシン、ウルメイワシで、総漁獲量の約43%を占めた。養殖生産は2005年に4.4万ト
ンで、2000年の6.5万トンに対して32%減の傾向を示した。養殖される主な魚種はニジマス、コイであ
る。水産物輸出数量は2005年に73.7万トンで、2000年の64.7万トンに対して14%増であった。水産物輸
入数量は2005年の111.4万トンで、2000年の115.4万トンに対して 3 %減の傾向を示した。2003年度の一
人当たりの水産物消費量は14.9kgであった。
● フランス
漁業生産は2005年に59.7万トンで、2000年の70.3万トンに対して15%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はキハダマグロ、カツオ、大西洋ニシンで、総漁獲量の約30%を占めた。養殖生産は2005年
に25.8万トンで、2000年の26.6万トンに対して 3 %減の傾向を示した。養殖される主な魚種は大西洋カ
キ、ムラサキイガイである。水産物輸出数量は2005年に42.4万トンで、2000年の48.1万トンに対して
12%減であった。水産物輸入数量は2005年の113.1万トンで、2000年の101.3万トンに対して12%増の傾
向を示した。
(3)東欧
● ポーランド
漁業生産は2005年に15.5万トンで、2000年の21.7万トンに対して29%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はウルメイワシ、大西洋ニシンで、総漁獲量の約62%を占めた。養殖生産は2005年に3.8万ト
ンで、2000年の3.6万トンに対して 5 %増の傾向を示した。養殖される主な魚種はコイ、ニジマスであ
る。水産物輸出数量は2005年に20.1万トンで、2000年の16.4万トンに対して22%増であった。水産物輸
入数量は2005年の32.5万トンで、2000年の27.5万トンに対して18%増の傾向を示した。2003年度の一人
当たりの水産物消費量は13.1kgであった。
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(4)南欧
● イタリア
漁業生産は2005年に29.8万トンで、2000年の30.4万トンに対して2%減の傾向を示した。漁獲される
主な魚種はヨーロッパカタクチイワシ、ヨーロッパヘイク、ハマグリで、総漁獲量の約31%を占めた。
養殖生産は2005年に18.1万トンで、2000年の21.6万トンに対して17%減の傾向を示した。養殖される主
な魚種はアサリ、地中海イガイである。水産物輸出数量は2005年に14.1万トンで、2000年の14.2万トン
に対して 1 %減であった。水産物輸入数量は2005年の96.2万トンで、2000年の82.7万トンに対して16%
増の傾向を示した。2003年度の一人当たりの水産物消費量は25.8kgであった。
● スペイン
漁業生産は2005年に84.6万トンで、2000年の105.9万トンに対して20%減の傾向を示した。漁獲され
る主な魚種はカツオ、キハダマグロ、イワシで、総漁獲量の約35%を占めた。養殖生産は2005年に21.9
万トンで、2000年の30.9万トンに対して29%減の傾向を示した。養殖される主な魚種はムラサキイガイ、
ニジマスである。水産物輸出数量は2005年に92.1万トンで、2000年の80.1万トンに対して15%増であっ
た。水産物輸入数量は2005年の158.3万トンで、2000年の137.3万トンに対して15%増の傾向を示した。
2002年度の一人当たりの水産物消費量は36.6kgであった。
● ギリシャ
漁業生産は2005年に9.2万トンで、2000年の9.9万トンに対して 7 %減の傾向を示した。漁獲される主
な魚種はヨーロッパカタクチイワシ、ヨーロッパイワシで、総漁獲量の約24%を占めた。養殖生産は
2005年に10.6万トンで、2000年の9.5万トンに対して11%増の傾向を示した。養殖される主な魚種はヨ
ーロッパヘダイ、地中海イガイである。水産物輸出数量は2005年に9.9万トンで、2000年の8.3万トンに
対して19%増であった。水産物輸入数量は2005年の21.1万トンで、2000年の16.0万トンに対して32%増
の傾向を示した。2003年度の一人当たりの水産物消費量は23.3kgであった。
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第Ⅱ部 国 別 編
第Ⅱ部
第1章
韓国
濱 田 英 嗣 下関市立大学
1 .韓国水産業をとりまく基本条件 …………………………………………………………………… 67
2 .生産の状況 …………………………………………………………………………………………… 68
3 .水産物貿易 …………………………………………………………………………………………… 71
4 .流通と消費 …………………………………………………………………………………………… 73
5 .小括 …………………………………………………………………………………………………… 79
6 .地図 …………………………………………………………………………………………………… 82
1.韓国水産業をとりまく基本条件
(1)人口の推移と見通し及び消費購買力
2004年現在、韓国の人口は約4,850万人、世界で第24位の人口規模である。韓国の人口推移は、1960
年代に 3 %以上の増大期を経て、1992年に1.04%、2000年0.89%、2003年0.60%と急速に人口増加率が
下落している。2005年韓国の出生率は1.08(日本は1.25)と世界最低水準となり、未婚女性の急増が社
会問題化している。こうしたことから、他の先進諸国同様に、韓国で今後人口が減少することは間違い
ない。一方、平均寿命が延び、1999年には全人口の 7 %が65歳以上の高齢者で占められ、高齢化社会に
突入しつつある。この点で韓国は、日本以上の速度で少子高齢社会に変貌している国である。
ところで、韓国の消費購買力を検討するにあたり、韓国が1996年に日本に続いてアジアで 2 番目に
OECD加盟国になった点はとくに留意すべきである。今から10年ほど前に韓国は既に先進国入りしてい
ることを強調したい。2004年現在、1 人当たりGDP(名目)は18,000ドルで、世界12位の国である。韓
国経済は日本経済と中国経済の狭間の「中間」に位置し、呻吟しているが、半導体・電子部品及びディ
スプレイ部門では日本に勝るとも劣らない競争力を持つに至っている。IMF体制、WTO加盟以降、グ
ローバル経済の渦中で、国民の間では、経済格差問題が深刻化しているが、国全体の消費購買力は増大
中である。
(2)貿易制度(関税)
2006年の韓国食品のHS品目(世界共通の品目分類)は407であり、03(水産物)が65%を占めている。
この03の基本税率は平均で16%、冷凍魚は10%、生鮮・冷蔵水産物、甲殻類等は20%となっている。
日韓両国で水産物にかけられている関税率は基本税率以外に暫定税率や特恵税率などがあり、実施状況
を加味した加重平均でないと正確に比較することはできないが、表 1 − 1 に示されるとおり、日本では
関税率 5 %未満と 5 ∼10%に品目が集中しているのに対し、韓国は15∼20%レベルに69品目が該当し、
大筋韓国のほうが輸入水産物に課税する関税率が高い。表には示していないが、韓国が日本から輸入し
た水産物10大品目に適応した関税率は14%である。逆に、日本が韓国から輸入した水産物10大品目に
課税した関税率は 7 %と韓国が日本に比べ約 2 倍の関税率を適用している。
表1−1
日韓両国における水産物基本税率の比較(2006年)
単位:品目数
区分
0301
韓
日
∼5%
03
∼10% 16
10
∼15%
∼20%
∼40%
40%∼
合計 16
13
0302
韓
日
04
12
0303
韓
日
31
37
02
19
19
16
37
33
0304
韓
日
6
08
0305
韓
日
03
8
11
6
01
11
8
0306
韓
日
07
05
12
12
12
12
0307
韓
日
01
04
27
12
27
合計
韓
日
001 051
065 057
023
069
32
135
39
131
注:0301(活魚)、0302(生鮮または冷蔵魚類)、0303(冷凍魚)、0304(フィレーその他魚肉)、0305(魚類の乾燥・塩
蔵・燻製・粉末品)、0306(甲殻類)、0307(軟体または無脊椎動物)
資料:韓国海洋水産部、「関税・統計統合品目分類表」2005年、「日本関税税率表2005」等から作成。
― 67 ―
2.生産の状況
(1)沿近海漁業の衰退
韓国の漁業生産量のピークは1986年の366万トンである。その後、漸減し、表 1 − 2 のとおり2005年
は270万トンである。減少要因は、沿近海漁業と遠洋漁業の衰退に起因する。とりわけ、沿近海漁業の
落ち込みが大きい。2005年の沿近海漁業の生産量は、1986年に比べて約63万トンの減少を示している。
遠洋漁業は、2005年生産量が55万トンで、1986年に比べ38万トンの落ち込みであった。沿近海漁業生
産量の落ち込みは、国内資源の悪化、日韓漁業協定・韓中漁業協定発効による漁場の縮小さらに漁業者
の高齢化や投資意欲の減退等が要因である。両協定によって、韓国漁場は40%の縮小となった。遠洋
漁業に関しては、200カイリ経済水域の設定、水産資源の利用に対する規制強化、入漁条件の強化によ
る衰退である。
海面養殖漁業は2001年に66万トンまで減少したが、養殖技術向上と魚病対策強化が功を奏し、2005
年には100万トンを超えた。
表1−2
韓国の漁業生産量の推移
(単位:千トン、%)
年 度
総生産量
‘78
‘86(A)
‘99
‘00
‘01
‘02
‘03
‘04(B)
‘05(C)
C/A
C/B
2,351
3,660
2,911
2,514
2,665
2,476
2,487
2,519
2,714
74.1
107.7
沿近海漁業
生産量
比率
1,361
57.9
1,726
47.2
1,336
45.9
1,189
47.3
1,252
47
1,096
44.3
1,096
44.1
1,077
42.8
1,097
40.4
63.5
−
101.8
−
養殖漁業
生産量
比率
391
16.6
947
25.9
765
26.3
653
26
656
24.6
782
31.6
826
33.2
918
36.4
1,041
38.4
109.9
−
113.3
−
遠洋漁業
生産量
比率
566
24.1
930
25.3
791
27.2
651
25.9
739
27.7
580
23.4
545
21.9
499
19.8
552
20.3
59.3
−
116.2
−
内水面漁業
生産量
比率
33
0.1
57
1.6
18
0.6
21
0.8
18
0.7
19
0.7
20
0.8
25
1
24
0.9
42.1
−
96.0
−
資料:統計庁、漁業生産統計。
韓国漁家人口は、表 1 − 3 にみられるように、2005年現在、約22万人である。2004年よりも増えてい
る。漁家数も8,000ほど増えている。ただ、この増加は、5 年ごとに実施する農林漁業総調査の標本選定
などに誤差が発生したことによるといわれている。また、こうした統計処理上の問題以上に、漁業者以
外の「幽霊漁業者」がカウントされているためといわれている。
つまり、ほとんど漁業活動を行っていないが、水産業協同組合(以下、水協とする。;詳細は後述)
から「営業資金」融資をうけるために名目上、正組合員になっている者が全数の約40%存在するとみ
られ、実数値は約13万人と推定される。数値以上に実際の漁業者、漁家数が激減しているのは間違い
なく、日本以上に「担い手問題」が深刻化している。年齢別分布をみると、50歳以上が76.5%で大部分
を占めている。
― 68 ―
表1−3
漁業人口の推移
(単位:戸、人、%)
年度
漁家
漁家人口
女性人口
(構成比)
戸当人数
2001
77,717
234,434
117,409
(50.1)
3.02
2002
73,124
215,174
107,486
(50.0)
2.94
2003
72,760
212,104
105,720
(50.0)
2.92
2004
72,513
209,855
110,540
(49.9)
2.89
2005
80,016
221,267
104,493
(49.8)
2.77
05/04
110.3
105.4
94.5
95.8
資料:統計庁、2005農林漁業総調査。
表1−4
漁家所得の推移
(単位:千ウォン、%)
年度
2002
漁家所得
21,590
漁業所得
9,060
漁業総収入
17,846
漁業経営費
8,786
漁業外所得
7,944
漁業所得/漁家所得(%)
42.0
移転所得
4,586
農家所得
24,475
都市家計所得
33,509
2003
20,221
10,741
23,114
12,373
8,619
53.1
861
26,878
35,280
2004
22,604
11,959
25,144
13,185
9,168
52.9
1,477
29,001
37,360
2005
23,594
11,950
26,576
14,626
9,399
50.6
2,245
30,503
39,010
2006
24,692
11,603
25,910
14,307
10,361
47.0
2,728
32,303
41,321
06/05
104.7
97.1
97.5
97.8
110.2
−
121.5
105.9
105.9
資料:統計庁、農家および漁家経済統計。
漁家所得は2000年度1,960万ウォン(以下、ウォンはWで表記する。)から徐々に増加し、表 1 − 4 の
とおり、2006年度の漁家平均所得は年間2,469万Wとなり、2005年度に比べて4.7%の増加を示している。
しかし、漁業所得は頭打ちで、2006年度は前年度に比べ漁業所得が2.9%減少し、漁業外所得が10.2%
増加した結果であり、漁業は不振である。漁家所得に占める漁業所得は2006年現在47%であり、漁業
依存度は低下している。また、漁家所得を農家所得及び都市家計所得と比較すれば、順次約760万W、
約1,660万Wほど低く、厳しい状況にある。
(2)水産物供給構造
1998年のIMF経済危機を除いて、韓国の水産物総供給量は増加している(表 1 − 5 )。一方、上記の
とおり、国内生産が右肩下がりに減少しているので、その需給ギャップを埋めるために輸入量が急増中
である。この輸入水産物急増が韓国内の漁業経営力低下を誘発し、産業競争力を弱化させていることは、
日本の例を示すまでもなく明らかである。
2005年度の水産物供給量は、2000年度に比べ、約130万トン増加の580万トンで、うち輸入水産物は、
142万トンから1.8倍の256万トンに増加した。2005年度の水産物総供給量の構成は国内生産46.8%、輸
入44.1%、在庫9.1%となっている。総供給量に占める輸入量の割合は、1980年1.6%( 4 万トン)から
1990年9.7%(38万トン)、2005年44.1%(256万トン)とわずか10∼20年で急増した。日本の水産物輸
入がエビ等国内不足品目を輸入した「補完的輸入」、200カイリ規制に伴う輸入増(200カイリ輸入)や
円高輸入など、いくつかの段階を経た輸入プロセスであったのに対し、韓国は極めて短期間に展開した
「集中豪雨的な輸入ラッシュ」という違いがある。
― 69 ―
表1−5
水産物供給構造
(単位:千トン、%)
供
給
区 分
計(C)
国内生産
輸入(A)
在庫
A/C(%)
1980
2,519
2,410
41
68
1.6
1990
3,931
3,275
380
276
9.7
1995
4,756
3,348
948
460
19.9
2000
4,516
2,514
1,420
582
31.4
2001
4,981
2,665
1,806
510
36.3
2002
5,343
2,476
2,226
641
41.6
2003
5,523
2,486
2,268
769
41.1
2004
5,569
2,519
2,477
573
44.5
2005
5,802
2,714
2,557
531
44.1
04/05
104.2
107.7
103.2
92.7
−
資料:韓国海洋水産部、「海洋水産百書水産業動向に関する年次報告書」、2006年。
(3)水産物需要構造
水産物需要も、IMF危機による水産物消費の大幅減少の1998年を除いて、表 1 − 6 のように、一貫し
て増加している(IMF危機時に水産物消費は240万トンにまで減少)。国内消費量は、1980年の175万ト
ンから1990年の258万トン、1995年322万トンと大きく増加した。IMF危機後の2001年に326万トン、
2003年には358万トン、さらに2005年には400万トンの大台に乗り、417万トンまで増加している。1980
年を基点として、約20年余で韓国水産物消費は2.4倍の伸びを示したのである。
表1−6
水産物需要構造
(単位:千トン、%)
需
要
年 次
計(C)
国内消費
輸出(A)
繰越
A/C(%)
1980
2,519
1,746
696
77
27.6
1990
3,931
2,583
1,058
290
26.9
1995
4,756
3,215
1,170
371
24.6
2000
4,516
2,668
1,338
510
29.6
2001
4,981
3,260
1,080
641
26.8
2002
5,343
3,433
1,140
770
21.3
2003
5,523
3,578
1,202
743
21.8
2004
5,569
3,922
1,116
531
20.0
2005
5,802
4,169
1,121
512
19.3
04/05
104.2
106.3
100.4
96.4
92.5
資料:韓国海洋水産部、「水産業動向に関する年次報告書」。
水産物 1 人当たり年間消費量は、1980年の27kgから1990年の36.2kgへ34%増加した。2001年は42.2kg
と1980年に比べ56%増加、2004年は80%増加の48.7kgとさらに消費量は伸張している(表 1 − 7 )。表
に示していないが、肉類消費は、BSE問題、鳥インフルエンザ問題などで一人当り消費量が2002年
33.3kgをピークとして、2003年31.7kg、2005年31.9kgと頭打ち傾向を示しているので、その分、水産物
消費が増加した可能性がある。
表1−7
水産物一人当り年間消費量
(単位:kg/%)
年 次
魚介類
海藻類
計
1999
30.7
7.6
38.3
2000
30.7
6.1
36.8
2001
35.6
6.6
42.2
資料:韓国農村経済研究院、「食品需給表」。
― 70 ―
2002
36.3
8.3
44.6
2003
38.3
6.4
44.7
2004
40.8
7.9
48.7
04/03
106.0
123.4
108.9
3.水産物貿易
(1)韓国水産物貿易収支の推移
韓国政府が主として対日輸出を念頭に1960年代から水産物輸出振興政策を推進したことは周知であ
る。隣国に世界有数の水産物市場があり、てっとり早く外貨を獲得する手段として水産部門が位置づけ
られた。赤貝やマグロ、その他様々な鮮魚が韓国から日本に向けられ、輸出は順調に推移した。水産物
貿易黒字は1980年代後半まで続いた。
しかし、1990年代に入ると水産物輸出は次第に頭打ちになる。反面、前述のとおり、水産物輸入が
大きく伸張した。結果として、水産物貿易収支は2001年に、3 億 7 千万ドルの貿易赤字を記録する。韓
国経済が発展・成熟化し、漁場喪失も相俟って第一次産業競争力が低下し、逆にウォン高による輸入メ
リットが鮮明化してきた結果である。2006年は2001年に比べ、約 4 倍に当たる16億8千万ドルの貿易赤
字を記録した(図 1 − 8 )(表 1 − 8 )。
(単位:百万ドル)
区 分
輸 出
1991
1993
1996
図1−8
水産物貿易収支の推移
表1−8
水産物貿易収支の推移
1997
1998
1999
2000
2001
(単位:百万ドル)
2002
2003
2004
2005
1,193
2006
1,643
1,496
1,635
1,497
1,369
1,521
1,504
1,274
1,161
1,129
1,279
1,088
輸 入
576
542
1,080
1,045
587
1,179
1,411
1,648
1,884
1,961
2,261
2,382
2,768
貿易収支
1,066
954
555
447
782
342
94
−375
−724
−832
−982
−1189
−1,680
資料:韓国海洋水産部、「水産物輸出統計年報」。
貿易収支が2001年以降、赤字に転じた大きな要因は、増加してきた水産物消費の一方、国内生産が
縮減したことが大きい。水産物輸入の最も大きな要因である国内生産の減少は、長期にわたる国内不法
漁業による乱獲と資源管理の失敗、さらに海洋環境の汚染などによる水産資源の減少、新漁業協定に伴
う漁場喪失による。地理的に近い中国からの安価な水産物輸入が増加したことも一因である。そして、
― 71 ―
このような要因から判断して、韓国の水産物輸入は今後も継続するといってよい。
表 1 − 9 は、韓国の主要貿易国別の水産物輸入金額を示したものである。2000年に対する2006年の比
較では、中国、ロシア、ベトナム、タイなど 2 倍以上の増加を示す国が多く見られる。一方で、アメリ
カからの輸入は2003年からやや減少傾向にある。
なお、2005年ベースでは、韓国が貿易黒字(輸出金額>輸入金額)の国は日本、スペインなど一部
の国にすぎない。一方、赤字を記録している国は、中国をはじめアメリカ、タイ、台湾などである。
表1−9
水産物における貿易国とその輸入金額
(単位:千ドル、%)
年次
計
中 国
ロシア
アメリカ
日本
ベトナム
タイ
カナダ
ノルウェー
インドネシア
チリ
英国
その他
2000
1,410,598
486,841
125,031
145,366
185,109
72,240
67,750
18,637
18,048
28,378
23,710
13,859
299,883
2003
1,961,145
713,538
299,252
152,677
148,699
129,878
95,616
51,355
25,229
26,630
32,362
25,302
260,607
2004
2,261,346
909,535
276,783
136,224
180,619
143,523
106,521
46,581
35,226
29,007
43,934
25,543
327,895
2005
2,382,368
936,315
277,216
152,554
173,140
163,642
124,162
42,473
29,145
33,500
57,075
30,181
362,665
2006
2,768,135
1,034,190
347,078
150,544
224,302
206,482
143,490
50,156
41,609
35,504
83,512
23,593
427,675
06/05
116.1
110.4
125.2
98.6
129.5
126.1
115.5
118.0
142.7
105.9
146.3
78.1
117.9
資料:韓国海洋水産部、「水産物輸出入統計年報」。
(2)韓国の輸入水産物品目
高度成長期以降、水産物輸入国に転じ世界有数の輸入大国となった日本の水産物輸入構造と異なり、
短期間しかも集中豪雨的な輸入ラッシュを特徴とする韓国の水産物輸入構造は、表 1 −10に示されると
おり、活魚も鮮魚も冷凍も全てが増加中である。つまり、多獲性大衆魚も高級刺身向け活魚も同じよう
な増加率で、輸入増を示している。
輸入品目としてHS品目全体の407品目(HS)のうち、314品目が輸入されている。水産物の金額では
スケトウダラ、イシモチ、エビ類、テナガダコなど上位 5 品目が全体の20.9%(重量25.6%)を占めて
いる。また、上位20品目の輸入実績は全体の49.8%(重量48.9%)以上と、特定品目に対する輸入集中
が比較的に高い。
表 1 −10
区分
計
活魚
生鮮・冷蔵
冷凍
その他
2003
数量
金額
1,238
1,961
53
159
112
270
913
1,239
159
292
輸入水産物形態別推移
2004
数量
金額
1,280
2,261
54
201
129
318
904
1,337
192
403
2005
数量
金額
1,255
2,382
38
176
120
330
897
1,406
199
468
資料:韓国海洋水産部、「水産物輸出入統計年報」。
― 72 ―
(単位:千トン、10万ドル)
2006
数量
金額
1,376
2,768
43
197
146
374
977
1,660
210
535
06/05
数量
金額
109
116
112
111
121
113
108
118
105
114
4.流通と消費
(1)韓国の水産物流通構造
韓国の水産物流通機構(市場法による市場組織、取引方法等)は、日本統治時代に日本の中央卸売市
場法がそのまま移設されたこともあり、制度面で酷似している。産地市場から消費地市場や共販所に水
産物が運び込まれ、競売による価格形成が仲卸によって行われ、それを小売り・外食業者が仕入れて消
費者に販売するルートである。
ただ、制度をそのまま韓国に導入しても、受け皿となった韓国市場組織は我々がイメージする卸売市
場になることはなかった。韓国では卸の集荷力が弱く、逆に仲卸の資金力、情報力したがって集荷力が
秀でており、いわゆる仲卸の「直荷引」が多い。制度としては、日本の型を導入したが、当時から仲卸
に力量があり、卸と仲卸の分業体制が日本のように線引きされなかったといってよい。しかし、卸売市
場法の関係で、仲卸は市場内で問屋的にビジネスすることが許されないので、仲卸自らが産地から集荷
した水産物を卸売会社に「委託」する形式をとっている。当然のことながら、それを再度、卸から購入
することはあり得ないので、書類上、卸が集荷し仲卸に分荷する処理をするが、実際は、卸売会社がペ
ーパーマージンを仲卸から徴収している。
むろん、卸売会社が産地から集荷する水産物もあるが、実質的に有力仲卸が産地から集荷している部
分が、数値は不明であるが、相当程度あるといわれている。直荷引きした水産物を全量、仲卸がセリに
上場されることは考えられず、かなりの部分は仲卸から「市場外」に流通している。つまり、韓国水産
物流通は市場流通(市場内でセリ売りされる流通)が弱く、歴史的に市場外流通比率が高い。一時、国
は市場に集荷される水産物にセリ取引を義務づけたが、実態と大きくかけ離れているために、仲卸の協
力が得られず、この施策は失敗に終わっている。こうしたことから、最近国の委託を受けた調査研究機
関では日本型の流通制度でなく、問屋制を活用させているフランスの卸売市場調査を行い、韓国の実態
にあった市場制度のあり方を模索中である。
こうした実態をさらに加速させる動きが小売構造変化である。これも日本との違いであるが、韓国で
はいわゆる鮮魚小売店(魚屋)は発達しなかった。釜山市の林立しているマンション群の近くの食品集
合店で、日本のような魚屋を見かけたが、活魚中心の販売で日本の魚屋とは存立条件が違っていた。高
級マンション向け住民対象に成立している「高級刺身屋」であり、一般消費者向けの魚屋は発達しなか
った。一般消費者は、露天で店開きしている立売り商人(露天商)から、魚を購入し、釜山では家族の
誕生日など特別な日にはチャガルチ市場まで主婦が買い出しに出かけるので、鮮魚専門店が普及しなか
ったのである。
この小売り構造が量販店の登場で激変中である。韓国でウォルマートなどの外資を含む量販店の全国
チェーン化は、1990年代後半に開始された。それ以前は、いわゆるローカルスーパーが細々と店舗展
開していたが、ロッテ、現代、三星、LG(ラッキー金星)などの財閥が小売ビジネスに参入したから
である。2006年現在、なお出店ラッシュは止まることなく大都市から地方都市に浸透中である。とく
に、韓国資本のEマート、ロッテマート、ホームプラスが出店攻勢をかけ、好調さを維持している。
日本と違い、韓国は一軒家よりマンションの人気が高いので、マンション建設(郊外に街があっとい
う間に形成される)と量販店進出がセットとなっており、量販店の出店、店舗展開は大変やり易い。韓
国の古都といわれる晋州市を除けば、量販店進出の反対運動はほとんどなく、むしろ郊外型マンション
― 73 ―
建設では、買い物に便利な大型スーパーの進出は多数の住民から歓迎されている。
韓国では量販店主導の流通構造が急速に進展し、大都市のみならず地方都市にも大型量販店がくまな
く進出し、量販店による全国小売ネットが整備されることは間違いない。量販店の水産物取り扱いは日
本の事例を示すまでもなく、定量・定質・定価格であるから、輸入の冷凍・加工水産物の受け皿である
流通システムが津々浦々に構築されつつあるというのが韓国の状況である。量販店の興隆が、水産物流
通に大きな影響を及ぼしている日本の事例を持ち出すまでもなく、一般的に、量販店興隆は市場外流通
比率を高める傾向にあるが、韓国では日本以上に市場外流通のウェイトが増大するだろう。
(2)日本産水産物の韓国内流通
上記の韓国流通機構の事情に沿って、日本産生鮮水産物の韓国内の流通経路も市場外流通ルートが圧
倒的に多い。日本における生鮮輸入水産物の大半が築地などの消費地卸売市場を経由しているのと対照
的である。何故、韓国の生鮮水産物輸入業者達がソウルのカラクトンやノリャンジンといった東京の築
地市場に類する消費地市場販売を避けているのか、聞き取り調査から得られた理由は以下のとおりであ
る。
理由の第一は、消費地卸売市場の価格変動が著しいことにあった。韓国の輸入業者によれば、市場規
模が大きく、価格変動が相対的に安定しているはずのソウル消費地卸売市場ですら、10kg箱入の輸入
鮮魚の場合 1 ケース 2 ∼ 3 万Wの価格変動があり、韓国の輸入業者にとって国内消費地市場出荷は、1
回で1,000∼2,000万Wの損失が発生する場合があるという。輸入業者は日本の輸出業者と個別に取引を
しているから、そこには一定の仕入れ原価が存在するが、消費地市場出荷価格は日々変動し、その価格
変動リスクは、全面的に彼ら輸入業者が負担しなければならない。つまり、消費地市場出荷は輸入業者
にとってかなりリスクの高いビジネスであり、それを避ける心理が働いている。
第二に、仮に消費地市場出荷によって高価格販売が実現できたとしても、卸売市場出荷の諸経費が高
く、実質的な手取金額は売上高から11∼17%を差し引いた金額といわれている。消費地市場の法定手
数料率は最大11%と定められており、ある輸入業者での聞き取りによれば、釜山からソウルへの物流
コストが 7 %、荷役料 2 %、卸売会社の手数料率3.5%であり、他に仲卸 3 %が追加されていた。手数
料率に何故仲卸部分が入っているのか、恐らく輸入業者が直接「荷受的役割」を演じ 3 %分を徴収し、
その仲卸が市場内の卸売会社に「出荷」する形態で卸売会社が3.5%を徴収しているものと思われる。
要するに、韓国側輸入業者が消費地市場出荷を避けているのは、市場出荷ではこのような無駄な経費
を含む諸経費が高く、実質的な手取り部分が少ないという反感があるからである。むろん、輸入業者が
直接消費地卸売会社に出荷することで諸経費部分の無駄がカットされるが、卸売会社の経済的力量が備
わっていないので彼らに出荷すること自体、リスクが大きいという難点がある。
かくして、輸入業者は自らの仕入れ原価をベースに取引交渉が可能な市場外の問屋を専ら彼らの販売
先としている。周知のとおり、消費地問屋機能は小規模零細小売業者に対する分荷機能や金融機能(代
金決済の猶予等)をはたしていると共に、仕入れ相手(輸入業者)に対しては小売業者がどのような品
物を要望しているか、消費動向を伝達しているので、輸入業者にもこうした売れ筋情報を提供している。
韓国の水産物消費は南東海岸沿いの莞島(ワンド)や西部の木浦(モッポ)
、内陸部の大田(デジョン)
市などでは水産物消費の地域性が存在しており、ソウル以外の各地方の水産物消費動向を問屋からも吸
い上げ、適宜彼らに輸入水産物を販売している。
― 74 ―
これら問屋とは異なり、一部ブローカーやチャガルチ市場内業者も日本産生鮮水産物流通の一端を担
っている。韓国輸入業者の主たる韓国内販売相手は問屋であるが、日々の需給変動から地方問屋ルート
で全ての輸入水産物が処理できるわけではない。問屋販売で処理しきれない場合、仕入原価のある輸入
鮮魚を捌く別ルートがビジネス上必要不可欠である。輸入業者には主要販売先として地方問屋を顧客と
して確保した上で、取扱高の変動に応じた「調整弁」的な流通ルートが必要なのである。
ここに介在するのがブローカーである。ブローカーは小型冷蔵庫や店舗を保有しない、いわば「売買
差益」商人を指すが、日本産生鮮水産物を扱っているブローカーにおいては「売買差益」というよりも、
輸入業者が輸入原価に一定率(10∼20%程度)を上乗せしてブローカーに荷割しているケースが多く、
手数料商人的色彩が強い。
彼らは資金的に恵まれておらず、この点で「自立化した商人」ではなく、少量の輸入鮮魚を取り扱っ
ている小規模零細業者である。むろん、利益は小であるが、消費地仲卸や卸売会社さらに地方問屋の仕
入れ代理機能をはたして生業的営みを維持させている。
チャガルチ市場も輸入業者の数量調整弁として重要な役割を演じている。この場合、チャガルチ市場
に買い出しに来た釜山市内の消費者に輸入鮮魚が直接買われるケースと、市場内業者の中に一部簡易冷
蔵庫を備えている有力業者達が、輸入業者から仕入れた輸入鮮魚を地方のブローカーに販売しているケ
ースがある。むろん、チャガルチ市場内の業者間で転売されることは日常茶飯事である。
輸入業者を経て、日本産生鮮水産物が韓国内のソウル、釜山、その他都市にどの程度流通しているの
かという、地域別流通量分布は聞き取りではかなりのばらつきがあった。日本産生鮮水産物の70%は
釜山広域市に流れているとみる輸入業者、ソウルにもかなり流通しているとみている輸入業者等々、意
見はまちまちであった。ただ、人口700万人を擁し、水産物消費の旺盛な釜山市の消費が最も多いとい
うことは、輸入業者の見解とほぼ一致している。
(3)水産物消費―グルメブームの光と影―
水産物消費量は、1990年から2003年に至る10年余の期間で約40%の伸びを示した。消費量、支出金
額が伸びているだけでなく、活魚ブームや日本産水産物消費の増大等、水産物消費が多様化・高度化し
ている点を強調したい。韓国でも健康志向や食の安全・安心に関心が高まり、高品質化が進展している。
水産物ではないが、通常の野菜売り場とは別に有機農産物の売り場がエアカーテンで仕切られ、その特
設売り場では予想以上の数の消費者が有機野菜を購入しているのが確認できた。つまり、食の安全・安
心ニーズが高まっている。しかし、一方で、低価格な中国産水産物消費も伸張しており、一言でいえば、
韓国水産物消費動向は、経済成長に伴う水産物需要の全般的高まりと、その中で部分的に「選択的消費」
が同時に活発化している。
上記を韓国水産物消費の底流とすると、先端的ケースはグルメブームである。水産物のみならず、食
品全体でこの流れが生じている。水産物ブランドとして、安東(アンドン)サバ、カキ(カキの炊き飯
チェーン店、カキは季節商材から周年商材化した)、後述するアンコウ(アンコウブーム)、さらにカ
ニ料理がある。安東サバは、元々安東で加工され、味に定評のあった寒サバが韓国鉄道の車内で販売さ
れ、最終的にテレビコマーシャルに乗ってブームになった加工品である。真空パックで清潔感と味付け
を訴求したサバが簡便食品として若い主婦達に評判を呼び、全国商品に躍り出たのである。加工メーカ
ーのマーケティング戦略が功を奏したともいわれている。また、カニ料理のケジャンもブームとなって
― 75 ―
いる。高級感を出すために、漁獲後 3 日間は牛肉を餌として与えるケジャン料理が登場し、グルメブー
ムに拍車をかけている。釜山の観光スポットとして有名な海雲台地区のケジャン料理専門店は高級感を
漂わせ、来店客も多い。
ただし、こうしたグルメブームの一方で、逆に低価格輸入品が国民消費に浸透している製品もある。
以下では、カワハギ製品の消費嗜好を紹介したい。
韓国国民はカワハギ加工品(乾物)を好む民族である。子供達は、おやつ代わりにカワハギを食べる
し、酒の肴にこのカワハギ加工品は欠かせない。スーパーマーケットの乾物売り場では、イカ加工品に
勝るとも劣らないボリュームでカワハギ加工品が陳列棚にうず高く積まれている。
韓国のカワハギ加工の主産地は慶尚南道の三千浦(サンチョンポ)地区である。20年ほど前には、
三千浦に従業員30∼50人のカワハギ加工場が100も存在していたという。それが、10年前には半減の50
加工場(従業員15∼20人)となり、2007年現在、4 ∼ 5 名従業員のカワハギ加工場が 4 と激減している。
カワハギ加工場がこの20年間で激減した要因は、韓国国内でのカワハギ水揚量がピークの30万トン
(1980年代)から1,000トン程度に激減したことと、人件費高騰で外国産カワハギ加工品に市場を奪われ
ていることによる。グローバル経済の影響といってもよい。
韓国内で2007年現在、カワハギが水揚げされているのは、釜山共同魚市、三千浦、麗水(ヨス)、統
営(トンヨン)、馬山である。三千浦にはトロール船が 1 隻あり、3 ∼ 7 日操業で帰港している。しか
し、漁獲対象はイカで、カワハギは20kgケースで10∼20程度の水揚げに過ぎない。韓国内カワハギ水
揚げの80∼90%は釜山共同魚市であるが、年間水揚げ数量はわずか800トン程度である。水揚げされた
カワハギは、全てが加工原料に向けられ、釜山から三千浦加工業者に直接100%向けられている。なお、
日本産カワハギよりも韓国産カワハギが原料ベースでkg/200W程度高いが、それでも日本からの輸出
は価格条件から判断して生鮮では伸びそうにない。
こうした状況下で、三千浦カワハギ加工場では10年前は中国産原料を使用していた。しかし中国の
原料輸入も減少し、現在はそのほとんどはベトナム、タイ産である。韓国産原料構成比率は 1 ∼ 5 %程
度に過ぎない。韓国産原料20∼25cm(80,000W/25kg)、15∼20cm(70,000W/25kg)に対し、ベトナム
(フィレーFOB価格)産は、20∼25cm(75,000W/25kg)、15∼20cm(102,500W/25kg)で、ベトナム産
原料が高くなっているが、エラ、腹抜きで処理済み(一次加工品)での価格であるので、実質価格は圧
倒的にベトナム産カワハギが安い。韓国産カワハギ加工品は、原料価格がここ 4 ∼ 5 年間で 2 倍、製品
価格は 3 倍にアップした。つまり、韓国産カワハギ加工品は、ベトナム原料使用製品と 3 倍の価格差が
あり、価格競争で勝つ見込みはほとんどない。韓国産カワハギ加工品はブランド化しないと成立しない
商品となっているのである。
韓国産カワハギ加工品が今後、ブランド品として韓国国民に受け入れられるかどうか、聞き取りによ
れば、難しいと見ている流通・加工関係者が多かった。つまり、釜山共同魚市内の仲卸等は、低価格志
向で量販店による流通支配が進展している中で、酒のつまみ、高級ホテルで土産品として流通している
韓国産カワハギ製品の需要は、高価格故に確実に縮小している、との認識であった。私見を述べれば、
カワハギ製品は韓国人が好む食品の一つであるが、量販店では低価格なベトナム産製品が陳列されてい
る。「高級カワハギ」需要はゼロではないが、今後伸びることは考えられない。恐らく、韓国カワハギ
水揚げ量である800∼1,000トン前後で十分対応可能な市場になりつつあるのではないか。水産物ブラン
ド化の動きがある一方で、品目によっては低コスト、低価格を武器とした途上国産製品に駆逐されてい
― 76 ―
る事例がカワハギで観察できた。グルメブームの「影」の部分である。
(4)韓国アンコウブームと日本の輸出可能性
以下で述べるとおり、グルメブームの中でアンコウも消費が活発化している。アンコウは下関を根拠
とする沖底船が試験操業によって漁場を開発し、下関ではフグに次ぐ下関ブランドとして地域ブランド
化に取り組んでいる。また、日本でのアンコウ需要は冬場に限定され(アンコウ鍋需要)、立春を過ぎ
ると相場が軟調になり、逆に産地市場価格が低迷するという季節需要に規定された価格形成となってい
る。それに対して、韓国のアンコウ消費は周年であり、むしろ夏の盛りでも「辛さがパワーの源」とい
うことから、アンコウ料理(アグチム料理)を食している。したがって、この日本国内の消費が落ち込
み、価格が低迷する時期の対韓輸出が可能になれば、日本産アンコウの浜値は安定的に推移するという
ことが考えられる。
釜山共同魚市での聞き取りによれば、韓国産アンコウ水揚げ地は釜山(60%)、麗水(20%)、統営
(10%)、その他(10%)であるという。釜山での水揚げが過半を占めている。一方、アンコウ消費地
は、釜山及び馬山(60%)、ソウル(20%)、麗水その他(20%)であり、馬山が一大消費地となって
いる。馬山市がアンコウの一大消費地であるのは、アグチム料理(アンコウの蒸し煮料理)の開発地だ
からである。それまで韓国では、アンコウは殆んど消費されず、いわゆる雑魚として処理してきた。そ
のアンコウを馬山の主婦が自然干して食べたら美味で、馬山市内でそれが徐々に食べられ、90年代半
ばに韓国テレビの料理番組で「アグチム料理」として取り上げられ、アンコウブームが起こったのだと
いう。料理開発者は「アグチムおばさん」と呼ばれ、馬山におけるアンコウのブランド化は成功した。
アンコウは家庭内消費でなく、大半は料理屋消費で、かつ周年消費商材である。かつて大衆魚にもな
っていない魚が、グルメブームに乗って、日本人が想像するよりも価値ある魚となっている。アンコウ
の価値がいかに高いかを示すと、釜山共同魚市のタチウオ市場価格(平均)は2005年695W/kg、2006
年748W/kgであった。それに対し、アンコウ価格はそれぞれ、2,592W/kgと3,140W/kgであるから、韓
国ではアンコウがタチウオの 3 ∼ 4 倍の高値であることがわかる。消費増で価格が急上昇したのである。
アンコウの大半は生鮮流通だが、一部船凍品があり、最近では外食向けの他、輸入アンコウが輸入業者、
問屋経由で量販店に流通している。こうした変化の中で、韓国漁場のアンコウ資源は減少していると見
られている。
アンコウ料理で一躍有名になった馬山市には「アンコウ料理店通り(アグチム通り)」があり、特定
地区にアンコウ料理店が並んでいる。ソウル等全国各地からこの料理を食べに人が訪れる。ただ、馬山
水協市場での聞き取りでは、この産地市場はEEZの影響によって、96年の1,300億W水揚げが2006年400
億Wと激減した状態にあった。馬山水協市場のアンコウ水揚げは597トンであり、馬山料理店の需要を
まかなうことができず、アンコウの大半は釜山共同魚市などの産地市場から馬山水協市場に出荷(搬入)
されている。産地市場である馬山水協市場が搬入のための産地市場に変化しているのである。
馬山市のアンコウブランド確立に市水産課が果たした役割も見逃せない。水産課では、2001年から
アンコウのブランド化の取り組みとして、アンコウ料理屋を紹介したパンフを作成している。また、現
在は馬山大学食品学科に独自のアグチムソース開発を依頼している。他の地方都市でもアンコウ料理で
ブランド化を目指す動きが開始され、それら産地との差別化を図るために、地元の大学を動員したので
ある。また、馬山のアグチム料理には、生鮮アンコウが使用されていることを強調し、冷凍アンコウと
― 77 ―
の違いも差別化要因として捉えている(ただし、生鮮アンコウは50%、味は生鮮アンコウを秋∼冬に
干した材料が最高ということで、一次処理したアンコウ使用が50%といわれている)
。
アンコウで一躍観光客が訪れるようになった馬山で一番の懸念材料は
「アグチムブームはなお続くか」
であろう。今後、どうなるか予断は許されないが、韓国での健康食ブームがまだ続き、アンコウにはビ
タミンA、カルシウム、有機アミノ酸が含まれ、胃腸強化、動脈硬化、糖尿病及び癌予防効果がある高
タンパク食品であることを国民に浸透させる戦略が採用されるはずである。
このアンコウブームがいかに凄まじいかは、以下のアンコウ水揚げ量の推移から明らかである。すな
わち、韓国アンコウ水揚量は2000年4,930トン、2002年9,500トン、2004年11,885トン、2006年12,226ト
ンであった。韓国での底引船は、①60トン未満船による中型の東海区底引船―かつてはスケトウダラ、
現在はホッケ狙いの底引船で経営危機に陥っている―と、釜山及びウルサンを基地とした西南海区底引
船、また麗水を基地とした 1 艘底引船、②60トン以上の船で、東経128度以西を漁場とする釜山基地の
大型船で漁獲される。この大型底引は、1 艘引きで、7 日間操業、船主船頭、8 ∼ 9 人乗りの歩合制を
とる船―魚種は雑多、但し平均年齢50歳を超え後継者もいない―と 2 艘引きで、40日繰業、17∼18人乗
りの固定給採用船で―対象はタチウオ、イシモチ、アンコウ等で冷凍水揚げが多い―陸上事務員が 2 ∼
3 人配置されている船に類型される。
韓国全体の底引水揚げ量のうち、大型底引が90%、中型10%で韓国底引の供給量は大型底引が存続
できるかにかかっている。しかし、大型底引経営は資源問題、燃油高騰、人件費上昇のため、さらなる
「構造調整減船」が予測され、供給量は大幅に減少すると見られている。底引船で今後生き残るのは、
日本海入漁(ウルサン根拠)の西南海区 1 艘引と大型 1 艘底引船といわれている。したがって、下関の
沖底船は韓国大型底引船、とりわけ 1 艘引きとの競合が予想される。ただ、韓国大型 1 艘引きの品質管
理レベルは低いといわれ、下関沖底船がしっかりとした差別化戦略をとれば、競争優位にたてると思わ
れる。また、低価格中国産アンコウの韓国輸入は、資源状態からそれほど増えないとみられる。
こうした競合を念頭に、釜山と下関アンコウの価格比較を行った(2006.1∼12月)。結果は、表 1 −
11のとおりである。
表 1 −11
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
年平均
注:(
水揚げ地における月別アンコウ価格の日韓比較(2006.1∼12月)
釜山共同魚市(キロ単価)
2515w(314円)
(123)
2629w(329円)(128)
2188w(274円)(107)
1603w(200円)(78)
1267w(158円)(62)
1880w(235円)(92)
2319w(290円)(113)
2729w(341円)(133)
2378w(297円)(116)
2013w(252円)(98)
2706w(338円)(132)
2046w(256円)(100)
2049w(256円)(100)
下関漁港市場(キロ単価)
457円(138)
248円(75)
174円(53)
142円(43)
223円(68)
−−
241円(73)
180円(55)
256円(78)
389円(118)
380円(115)
484円(147)
330円(100)
)は、年平均価格を基準(100)とした月別価格水準である。
― 78 ―
輸出可能性月
457÷314=146(日本が4.5割高)
133 (韓国が 3 割高)
157 (韓国が 5 割高)
141 (韓国が 4 割高)
71 (日本が 3 割高)
120 (韓国が 2 割高)
189 (韓国が 9 割高)
116 (韓国が1.5割高)
65 (日本が3.5割高)
89 (日本が 1 割高)
53 (日本が 5 割高)
78 (日本が 2 割高)
つまり、韓国と下関では 2 ∼ 4 月等に相当の価格差がある。日本がアンコウの季節別需要に規定され
て価格変動が大きいのに対し、周年需要型の韓国では価格の変動が小であることが要因である。日韓の
月別価格差から判断して、周年輸出は無理でも下関相場が落ち込む時期の対韓輸出は成立する可能性が
ある。
この点で、さらに以下の 2 点を追加して、アンコウの対韓輸出に対する結論としたい。①馬山がアン
コウのブランド地域として有名になり、需要はさらに増大中である。アンコウ料理屋は釜山にも多い。
釜山にはアンコウ有名料理店だけでも10軒ある。来店客も多い。これら有名店はマスコミにのらず、
高価格・高品質を武器に経営を行っている。したがって、季節限定でアンコウをこれら高価格料理店に
売り込むことが一つの戦略になろう。また、必ずしも高価格戦略を採用せずに、②アンコウチェーン店
にアンコウを売り込む戦略がある。現在、全国50店舗にチェーン展開している「馬山ハルメアグチム」
や「玉味(オクミ)アグチム」に季節限定で販売することである。ただし、アンコウそのものの素材提
供では意味がなく、ここでも「ブランド」として販売する必要がある。その際、外食チェーンに日本風
のアンコウ料理レシピを付けて、日本風アグチム料理と提案することが望ましい。韓国への水産物輸出
は新鮮さといったことでなく、日本的な調理要素を少し入れ込んで、素材だけでなくソフトそのものを
差別化するという発想が必要であろう。
5.小括
(1)韓国水産業の現段階をどう評価するか?
1 )漁業生産
1960年代から今日に至る過程で、韓国漁業生産量のピークは1986年の366万トンである。1970年代か
ら外貨獲得を目的とした遠洋漁業振興が講じられ、漁業生産は増産期に入り1975年に210万トンを達成
し、その後も生産量を順調に伸ばし86年に366万トンのピークを迎える。韓国漁業は70年代から80年代
が隆盛期である。
1990年代に入り、韓国漁業の状況は一変する。世界各地で200海里体制が敷かれ、EEZ(排他的経済
水域)による遠洋漁業の頭打ち、衰退が始まり、さらに1998年に日韓新漁業協定、2001年には韓中漁
業協定が締結される。この新たな漁業協定は、韓国に約40%の漁場喪失をもたらし、漁業生産に決定
的なダメージを与えた。漁業生産量は2003年、248万トンと大きく落ち込んでいる。今後とも韓国漁業
が増産に反転する可能性は極めて低い。
この漁場喪失に伴う韓国漁業のダメージは、今なお続いている。つまり、大型トロールや沖合底引船
の漁場が縮小し、これらが韓国沿岸域で操業しようとするために、沿岸・近海漁業と深刻なトラブルが
発生している。釜山広域市を拠点としている60隻の大型トロールは漁獲対象をイカに切り替えている
が、そのイカをめぐりイカ釣漁船との競合が激しく、操業区域の見直し作業に入っている。また、韓国
政府は2006年 9 月に韓国の沖底船総隻数の半分に当たる約1,000隻の減船を発表し、減船処理に乗り出
している。要するに、韓国政府は新漁業協定による後処理に汲々としているのが実態であり、増産に向
けて「攻めの」施策を積極的に講じる段階に至っていない。
さらに韓国では、1980年代当時の日本漁業がそうであったように、集中豪雨のような輸入水産物ラ
ッシュとなっている。とくに、中国からは低価格な水産物が活魚を含め相当程度輸入され、韓国漁業経
― 79 ―
営に大きなダメージを与えている。つまり、韓国漁業は漁場縮小と輸入水産物流入による低価格問題の
ダブルパンチにみまわれ、生産力基盤はさらに脆弱化している。
2 )水産物貿易・流通・消費
1997年に韓国は一時的な外貨準備不足(債務超過による破綻ではない)から、IMF支援体制が敷かれ
る。しかし、実は1996年にOECD(経済協力開発機構)に加盟したことで発展途上国から卒業し、貿易
自由化、規制緩和に積極的に取り組み始めた。韓国政府官僚や水産研究者と話をしても、日本に比べグ
ローバル経済への対応は当然であり、むしろ積極的にその時流に乗って経済を活性化させるという姿勢
が強い。こうした政府の基本方針や漁業生産量激減によって水産物輸入が増加しており、2001年には
水産物輸入金額が輸出金額を追い抜き、今なお水産物輸入は右肩上がりで上昇している。
こうした影響が、最も強く表れているのが流通面である。1990年代後半に外資を含む量販店の出店
ラッシュとなり、2006年現在そのラッシュは止まることなく大都市から地方都市に浸透中である。と
くに、韓国資本のEマート、ロッテマート、ホームプラスが出店攻勢をかけ、好調さを維持している。
日本と違い、韓国ではマンション建設と量販店の進出がセットとなっており、量販店の出店、店舗展開
は大変やり易い。量販店進出の反対運動はほとんどおこっていない。
韓国では量販店主導の流通構造が急速に進展し、大都市のみならず地方都市にも大型量販店がくまな
く進出し、まもなく量販店による全国小売ネットが整備される。量販店の水産物取り扱いは日本の事例
を示すまでもなく、定量・定質・定価格であるから、輸入の冷凍・加工水産物の受け皿である流通シス
テムが津々浦々に構築されつつある。一方、市場流通は低迷している。すでに大規模な卸売会社の倒産
もあった。韓国の卸売市場は価格形成力が弱く、現在の市場機構がパワーアップすることは難しいと思
われる。したがって、量販店がさらに興隆する中で、今後日本以上に市場外流通のウェイトは増大する
だろう。
水産物消費は、1990年から2003年に至る10年余の期間で約40%の伸びを示している。消費量、支出
金額が伸びているだけでなく、活魚ブームや高鮮度な日本産水産物消費の増大等、水産物消費が高度化
している。韓国でも健康志向や食の安全・安心に関心が高まり、水産物の高品質化が進展している。同
時に、上記のように低価格な中国産水産物消費も伸張しており、一言でいえば、韓国水産物消費動向は、
経済成長に伴う水産物需要の全般的高まりと、その中で部分的に「選択的消費」が活発化している。韓
国の食生活は今後も肉類消費も伸びるが、水産物消費も伸び、その伸張分だけ、逆に穀類消費が漸減す
るという段階と思われる。
3 )日本水産物の対韓輸出をどう展望するか
① 韓国水産業の競争力評価
韓国の水産業振興は、1965年日韓漁業協定(李承晩ライン撤廃)により開始された。同協定の締結
に反発した韓国国民・世論に対し、その補償金を漁業にふり向け、日本水産業と対抗させる目的で開
始されたのである(韓国漁業近代化政策)。日本以上に、外貨獲得産業としての性格が色濃く、ノリ
の対日輸出は失敗したが、養殖カキ、マグロ、赤貝など国内市場よりも海外市場向けの漁業振興が図
られた。その分、沖合及び沿岸漁船漁業への施策が当初から手薄であった。有力養殖種類を除けば、
沿岸域に大型底引きなどの漁場利用を許し、沿岸漁業は産業というよりも「自給」部門として位置づ
― 80 ―
けられた。日本において沿岸漁業構造改善事業(沿構)は1960年代に開始されたが、韓国での沿構事
業は1985年以降であり、水産業振興は目先の外貨獲得が最優先された。
② 漁業資本による資本蓄積期間と機会の乏しさ
国策として育成が図られた遠洋マグロ漁業などの対外輸出部門は、1980年代の韓国「民主化宣言」
以降、船員不足による省人・省力化投資に踏み切るものの、人件費高騰が固定費を押し上げ、企業経
営は激減している。養殖に関しても、魚類養殖は海水温が比較的低く適地でなく、対日輸出を念頭に
1960年代に開始されたノリ養殖は頓挫し(国内市場向けに変わった)、赤貝など比較優位種類は沿岸
の埋め立て、汚染の影響で停滞している。カキはむき身作業に不可欠な「打ち子」不足で、企業的経
営は倒産し、残存経営は養殖面積 3 ∼ 5 ヘクタール規模の家族経営に収斂されている。
日本漁業は経済成長期の魚価上昇に恩恵を受けた時期が韓国漁業に比べれば長かったのに対し(コ
スト上昇を超えたインフレ的魚価上昇)、韓国では発展期が1967∼1985年と短く、しかも特定漁業種
類に施策を集中させ、外貨獲得を目指さざるを得なかったという点で、多くの漁業者達は置き去りに
された。日本漁業と異なり、経済成長の恩恵を享受する期間が短く、むしろ韓国漁業は高度成長に伴
う人件費高騰によって悪影響をうけ、今日に至っている。
③ 漁業組織問題
韓国の漁業人口は、全国で22万人とされている。しかし、韓国水協から「営業資金」融資をうける
ために、名目上、正組合員になっている者が約40%といわれ、実際の漁業就業者数は13万人と激減し
ている。この「幽霊組合員」はかなりの数に上るとみられている。韓国漁業は漁場、漁業資源、漁業
者面で、現在「壊滅状態」にあるといっていいのではないか。こうしたことから、組織の脆弱化もま
た進行中である。
韓国水協組織は、系統組織としてソウルに本部を置く水協中央会(日本の全漁連に該当)の他に、
単位水協と業種別水協が配置されている。1979年までは水協中央会と地域水協(日本の漁協に該当す
る)の職員採用試験は同一であった。しかし、1980年代後半以降、地域水協の職員採用は各々の水協
による採用に変わり、組合幹部の子弟が地縁・血縁で採用され、採用試験はなし崩し的になくなった。
最近では農業高校卒業生など水産に全く関係のない者の職員採用が目立っているという。また、1980
年代後半に地縁・血縁で採用された職員は加齢に伴い中堅ポストに配置されているが、能力的に問題
が多く、戦力にならないという批判が組合員などからあがっている。韓国中央会の地域水協に対する
監査権限の弱化も同時に指摘されており、漁業者組織の脆弱化が進行している。
④ 日本水産業への影響について
韓国国内の水産物供給力は大きく低下しているだけでなく、今後も供給増の達成は困難と思われる。
したがって、その需給ギャップを輸入水産物で埋めるほかない。韓国内の水産物流通は、量販店主導
システムで輸入水産物を受け入れる体制整備がさらに進むので、今後なお輸入水産物増加は続くもの
と思われる。韓国産水産物の対日輸出が今後増えることはほぼないと思われる。
一方、韓国国内では水産物によるブランド化が活発化している。テレビの料理番組が火付け役とな
っているが、背景に韓国沿岸水産物の希少性が際だってきたことがある。タチウオやガザミを中心と
したカニ類、アンコウなどがブームとなっている。水産物消費が量的に伸びるだけでなく、消費の質
的水準の高度化が同時進行している。こうしたブランド化、ブランド品志向は、日本人よりも韓国人
の方が積極的といわれている。この点で、日本産水産物を韓国に輸出する場合、高価格でもブランド
― 81 ―
が確立されれば、漫然とした輸出に比べ、成功する可能性が高い。ただし、アンコウに代表されるが、
韓国内水産物ブランド品の多くは水産加工品であり、日本人が嗜好する「天然魚神話」(刺身文化)
とは一線を画していることは留意した方がよい。高鮮度水産物を素材で対韓輸出するのではなく、加
工した輸出商材を韓国の食卓にどう乗せるか、調理レシピの開発をセットとした輸出戦略が必要と思
われる。
6.地図
江原道
ソウル
仁川
(インチョン)
京畿道
忠清北道
忠清南道
安東
(アンドン)
大田
慶尚北道
(デジョン)
大邱
全羅北道
蔚山
慶尚南道
(ウルサン)
光州
釜山
木浦
(モッポ)
全羅南道
馬山
(マサン)
統営
三千浦
(トンヨン)
(サンチョンポ)
莞島
麗水
(ワンド)
(ヨス)
済州道
― 82 ―
第Ⅱ部
第2章
中国
婁 小 波 東京海洋大学
包特力根白乙 大連水産学院
高 健 上海海洋大学
李 欣 東京海洋大学大学院生
1 .中国の水産業をとりまく環境条件 ………………………………………………………………… 85
2 .中国の水産物生産状況 ………………………………………………………………………………100
3 .中国水産物貿易の状況 ………………………………………………………………………………104
4 .中国の水産物流通と消費 ……………………………………………………………………………112
5 .今後の見通し …………………………………………………………………………………………128
6 .付属資料 ………………………………………………………………………………………………132
7 .地図 ……………………………………………………………………………………………………136
1.中国の水産業をとりまく環境条件
1.1 消費人口と購買力の動向
周知のように、中国は世界一の人口を擁し、2006年には総人口は13.14億人に達している。表 1 − 1
が示すように、そのうち男性人口の割合がほぼ51%と女性人口のそれを上回り、その比率は1952年か
らあまり変わっていない。また、都市化の進展と農村部からの人口流出によって、都市部人口の割合が
高まる一方で、同ペースでいくと2014年には都市部人口が農村部人口を逆転すると予測されている。
なお、2000年12月公表の『中国21世紀の人口と発展白書』(国務院)によると、中国は2010年の総人口
を14億人以内に抑制する目標を掲げている。
ちなみに2006年の人口構成を年齢層別にみると、0 ∼14歳層が2.60億人(19.75%)、15∼59歳層が9.06
億人(68.91%)、60歳以上層が1.49億人(同11.34%)であり、そのうち65歳以上層が1.04億人(同
7.93%)となっている。
表1−1
中国における人口の推移と見通し
表 1 − 2 は国民一人当たり所得と消費支出の推移を示している。そこから国民の消費購買力をみるこ
とができる。2000年以来、中国経済は高度成長(成長率が7.3%∼10.7%)が続き、都市部一人当たり
可処分所得は年平均11.02%の伸び率を示し、農村部の一人当たり純所得も年平均8.06%という高い伸
び率をみせている。そして、所得に占める消費の割合は都市部が78%前後、農村部が58%前後で推移
し、都市部の消費支出金額が高く、消費志向が高いことがうかがえるが、所得に占める消費支出額の割
合は低下傾向をみせている。農村部の消費支出額は都市部と比べてきわめて低いが、消費の占める割合
は横ばい傾向となっている。しかし、都市部・農村部ともに消費支出額が年々上昇していることに変わ
りはなく、所得の高い一部の都市地域においては「大衆消費社会」がすでに到来しているとも指摘され
ている。
― 85 ―
表1−2
中国における一人当たり所得・消費支出の推移
1.2 主な漁業管理政策
(1)新国際漁業秩序の成立
2000年10月31日に公布された「中華人民共和国漁業法」(第 1 次改正)の中でTAC(漁獲可能量)制
度が盛り込まれているが、今まで未実施のままである。その原因として、資源評価の難しさ、正確な
漁獲情報収集の難しさ、漁民組織化が立ち遅れていることなどが挙げられている。
TAC制度の導入は「国連海洋法条約」の成立によって各国に要請されているが、中国もその導入に向
けて研究を続けている。というのも、1996年 6 月 7 日に中国も「国連海洋法条約」の締結国となり、
1998年 6 月26日に「中華人民共和国排他的経済水域及び大陸棚法」を発布し、200海里体制への移行を
宣言したからである。
1995年以来、国連海洋法条約の枠組みの下で、中国と周辺国との海域境界画定及び漁業協定締結に
ついて協議が行われた。その結果、「中日新漁業協定」が1997年11月11日に署名、2000年 6 月 1 日に発
効された。「中韓漁業協定」が1998年11月11日に仮調印、2000年 8 月 3 日に正式に署名され、2001年 6
月30日に発効された。「中越北部湾漁業合作協定」が2000年12月25日に署名され、2004年 6 月30日に発
効された。従って、黄海・東海・北部湾において新たな国際漁業秩序が形成されるようになり、中国
漁業もこの新たな国際的な枠組みの中で展開せざるを得なくなっている。
(2)休漁制度
休漁制度は、国の関係部門の批准を経て、漁業行政主管部門が組織し実施する漁業資源の保護に関
する主要政策の 1 つである。同政策では一部の漁業が毎年の一定期間中に、一定の水域内で漁労を従事
してはならないことを規定している。同制度の休漁期間が一般的に毎年の夏に実施されているために、
一般的に「夏季休漁制度」と呼ばれている。
中国政府は、1995年から渤海・黄海・東海の海域でこの夏季休漁制度を全面的に実施しはじめた。
当初は、毎年 7 月から 8 月にかけて、北緯27度から北緯35度までの禁漁区ラインの外側の海域で休漁を
全面的に実施し、9 月から10月にかけて禁漁区ラインから外へ30海里までの海域で休漁を実施し、当休
漁区ライン以東における操業漁船に対しては幼魚比率の検査を義務づけていた。
― 86 ―
1999年、南海の漁業資源の持続的衰退に鑑み、政府は休漁範囲を南海の海域まで拡大した。毎年の 6
月 1 日零時から 7 月31日24時にかけて、北緯12度以北の海域(北部湾を含む)でトロール網、巻き網に
よるすべての漁業活動を禁止することとした。これによって、休漁海域は中国が管轄する 4 つの大海区
すべてをカバーするようになった。
2006年時点現在、政府は数回にわたる休漁政策の強化を経て、休漁の範囲・期間と規制対象漁業を
拡大し、以下のような休漁政策を実施している。
①
渤海海域において、6 月16日12時から 9 月 1 日12時にかけて、網目サイズが90㎜以上の流し網、
刺し網と釣り漁業を除いたその他すべての漁業種類による漁労を休止すること。
②
北緯35度以北の黄海海域において、6 月16日12時から 9 月 1 日12時にかけて、トロール網と張り
網による操業を休止すること。
③
北緯35度から26度30分までの海域において、6 月16日12時から 9 月16日12時にかけて、トロール
網と張り網による操業を休止すること。
④
北緯26度30分以南の東海海域において、6 月 1 日12時から 8 月 1 日12時にかけて、トロール網と
張り網による操業を休止すること。
⑤ 北緯22度30分から23度30分まで、東経117度から120度までの海域(福建省と広東省が接した海域)
において、6 月 1 日12時から 8 月 1 日12時にかけて、東海と南海における休漁規定を準用し、同時
に灯火集魚式巻き網による操業を休止すること。
⑥
北緯12度以北の南海海域(含北部湾)において、6 月 1 日12時から 8 月 1 日12時にかけて、刺し
網、釣り漁業と篭漁業を除いたその他すべての漁業種類による操業を休止すること。
⑦
エビトロール網は 6 月16日12時から 8 月16日12時にかけて休止されるが、その休漁期間を逐次延
長し、最終的にはトロール網と張り網の休漁期間に一致させること。
⑧
すべての海域の定置操業漁業は、毎年少なくとも 2 ヶ月間かけて休止しなければならない。具体
的期間は関係する各省・自治区・直轄市における漁業行政主管部門が規定し、その結果を農業部と
その所属海区漁政漁港監督管理局に報告してその記録に載せること。
(3)漁業生産抑制策
ここ10年間、中国は漁業政策のパラダイム転換を図ってきた。それはかつての生産量を追求する
政策から、漁業の持続的発展を目指して生産の質及び経営効率を追求する政策へと転換することであっ
た。
漁業資源に及ぼす漁獲圧力を緩和するために、中国は漁業構造を戦略的に調整し、1999年に農業部
は海面漁業生産を「ゼロ成長」に制限する生産抑制策を初めて打ち出した。これが地方行政部門に支持
され、社会的にも大きな反響を呼んだ。そして、漁業資源の保護を一層強化するために、2001年には
海面漁船漁業の生産量を「マイナス成長」に制限する生産抑制策を打ち出した。同目標の達成に向けて、
漁業行政主管部門は漁獲努力量を厳格に制御し、減船計画を制定・実施し、資源の破壊を招く操業方式
を制限して、漁民の水産養殖業や非漁業部門への転業を奨励する「転船・転業」政策を打ち出している。
1.3 消費者保護行政の展開
(1)食品衛生をめぐって
近年、中国においてウナギやケツギョなどの養殖魚をめぐる薬品残留問題が相次いで報道されるよう
― 87 ―
になり、消費者の食の安全性への懸念が高まってきている。こうした事件が巨大な経済損失を招くだけ
でなく、消費者の生命や健康をも脅かしかねないのである。これと同時に、国民生活水準の向上に伴っ
て、人々の無公害・純天然・グリーン食品に対するニーズが高まり、食品衛生・食品安全にも大きな関
心が寄せられるようになっている。
そのため、政府部門は食品(水産物食品)の安全確保に関する法整備を進めている。その主なものを
ピックアップすると次のようになる。
国家品質監督検査検疫局は、2002年12月10日に「輸出入水産物の検査検疫管理規則」を施行した。
同「規則」は、輸出入水産物の検査検疫及び監督管理を強化し、輸出入水産物の品質と安全衛生を保証
し、漁業生産の安全と健康を保護するための、
「中華人民共和国輸出入商品検査法」及びその実施条例、
「中華人民共和国輸出入動植物検疫法」及びその実施条例、「中華人民共和国国境衛生検疫法」及びその
実施条例、ならびに「中華人民共和国食品衛生法」などの法律法規に基づいて制定されたものである。
その中で、輸入物の検査検疫に対しては、検査検疫の要求、検疫の審査、登録、事前検査、輸入港、
書類の提出、検査報告の受理、運輸道具、見本の採集、不合格輸入物の返却や処分、残留物質の監視測
定、査証と通過の許可などについて詳しく規定している。また、輸出物の検査検疫に対しては、検査検
疫の要求、残留物質の監視測定、衛生の登録、海外登録、輸出前の検査報告、査証と通過の許可、包装
の監督、有効期限の検査などについてそれぞれ詳しく規定している。そして、リスク予報管理にも触れ
ている。
国家認証認可監督管理委員会は、2004年 1 月31日に「輸出水産物生産企業の登録衛生規範」を実施し
た。同「規範」は、国家品質監督検査検疫総局の「輸出食品生産企業衛生の登録管理規定」(2002年第
20号令)に基づき、国際食品規格委員会(CAC)と輸入国の水産物衛生法規・標準を参照し制定した
ものである。その中で、輸出水産物の原料、工場職場の環境、作業場及び施設設備、生産過程の衛生管
理、加工条件の特殊な要求、包装・運輸と貯蔵、人員衛生、HACCPに基づいた衛生品質システムの制
御と運行、についてそれぞれ詳しく規定している。
国家品質監督検査検疫総局は、2004年 6 月17日に「輸出養殖水産物の検査検疫と監督管理の要求」を
実施した。同「要求」は、輸出養殖水産物の検査検疫と監督管理を強化し、輸出養殖水産物の品質と安
全衛生を保証するため、「輸出入水産物の検査検疫管理規則」に基づいて制定したものである。その中
で、養殖場の主管官庁への報告と登録及び監督管理要求、輸出生産企業の養殖水産物の加工の制御、検
査検疫管理、規則違反とその処理など、についてそれぞれ詳しく規定している。
また、水産物を含めた一般的食品に対しては、国家品質監督検査検疫総局の「輸出入食品の衛生監督
管理規定」(2006年 4 月 1 日に実施)と国家衛生部の「食品衛生許可証の管理規則」(2006年 6 月 1 日に
実施)がある。
上述の法規よりも早期に実施され、なおかつその効力が継続されている法規としては次のようなもの
がある。
国家衛生部は、1990年11月20日に「水産物衛生管理規則」(1996年 5 月29日にその中で掲げている行
政機構名・法律名称などを改称したが、その他内容に変更なし。)を実施した。同「規則」は、「中華
人民共和国食品衛生法」を執行し、水産物の衛生監督管理を強化するため制定されたものである。その
中で、魚類・甲殻類・貝類などの生鮮食品及びその加工品、設備・用具の消毒、生食水産物の安全性、
漁業生産運搬船の積載量、船倉・甲板の衛生、生産運搬船の冷蔵庫、海水魚の塩による品質の保持、淡
― 88 ―
水魚の積載運送、魚の荷卸し、販売水産物の品質、供給・販売水産物の鮮度基準、小売部門の魚の取り
出し、売れ残りの鮮魚の冷蔵または加工処理、急速冷凍魚の質、塩蔵品に用いる塩、乾製品にする原料
魚、熟製品にする原料魚、についてそれぞれ詳しく規定している。
(2)トレーサビリティ・システムの構築
国家品質監督検査検疫総局は、2004年 6 月17日に「輸出水産物の履歴追跡ガイドライン」を実施した。
同「ガイドライン」は、輸出水産物の履歴追跡可能性を確保し、不合格製品回収の迅速性を保証するた
め、「輸出入水産物の検査検疫管理規則」に基づいて制定したものである。その中で、輸出水産物(活
水生動物を除く)のロットの確定、ラベルの確定、識別コードの管理、異なるロットの生産物の分別加
工と作業ラインの分離、生産物の識別符丁計画の制定、履歴追跡のルートなどについてそれぞれ詳しく
規定している。
中国国内において食品安全を図るトレーサビリティ・システムの普及への主な取り組みを見ると次の
ようなものがある。
●
国務院は、2004年 9 月に公布した「食品安全の一層の強化に関する決定」の中で、「国家品質監
督検査検疫総局が食品生産加工段階の監督管理に責任を持つべきであり、農産物(水産物を含む)
の品質安全の基準どおりの監督観測制度の実施と農産物品質安全の履歴追跡制度を設ける」と明
確に打ち出している。なお、2005年に食品監督管理司を設置し、食品安全の監督管理部門を充実
させている。
●
江蘇省南京市は、2004年にICカードを用いて、生産基地と卸売市場・小売市場を繋ぎ、市場入荷
許可制度と全過程で追跡可能なトレーサビリティ制度を設けた。
●
農業部は、2005年 9 月 1 日に施行した「水産養殖の品質安全管理規定」の中で、すべての市場に
おいて品質が問題となる養殖水産物を発見した場合には、関係部門は養殖及び加工場まで追跡・
遡及できるよう措置することを求めている。
●
広東省は、2006年 2 月22日に採択された「広東省食品安全生産の管理条例」の中で、食品安全の
「履歴追跡と承認制度」を設け、生産から小売までの各段階において相互にトレースできるよう
方針を定めている。
●
上海市は、2006年 4 月から食品安全のトレーサビリティ制度を確立し、安全問題の発生源までに
速やかに遡及できるように措置することを通達している。
●
北京市は、2006年 6 月に国際オリンピック大会の食品安全履歴の追跡システムを設け、「畑から
食卓まで」の全過程を監督制御できるように措置することを義務づけた。
●
国家標準化管理委員会・品質監督検査検疫総局・食品薬品監督管理局・農業部などは、2006年 7
月に山東省品質技術監督局標準化研究院に、食品品質の履歴追跡に関する国家標準の制定権限を
共同で授けることとした。同研究院は、食品の安全性をめぐる国際的・国内的諸情勢と諸基準を
踏まえ、実証実験などに基づいて、HACCP方式に依拠した食品の履歴追跡システムを開発した。
現在、同システムを山東省全省に導入させて、省内の銀座、カルフール、大潤発などのスーパー
は端末装置を据え付けている。
●
北京市のいくつかのスーパーでは、自主的な取り組みとして、2006年11月に履歴が追跡できる標
識マークをつけた安全な水産物を試験的に導入した。マナガツオ、スッポン、ソウギョの背びれ
に円形または魚の形をしたタグ標識をつけた。消費者は携帯電話の短信メールなどの方式を利用
― 89 ―
して、魚毎の産地情報・企業情報・検査情報などの履歴を調べることができるようになった。
●
政府は、2006年11月 1 日に施行した「中華人民共和国農産物品質安全法」の中で、農産物品質安
全の履歴追跡制度を順次導入実施すると表明している。
●
広東省深
市は、「深
市自由市場の再編整備事業に関する実施意見」の中で、3 年間から 5 年
間後には、全市のすべての自由市場の衛生管理水準を「スーパーマーケット」レベルまで引き上
げて、農産物品質の履歴追跡制度を設け、農産物の品質安全を確保できる市場入荷許可制度と履
歴追跡制度を実行するよう義務付けている。
●
広東省中山市の中山食品水産物輸出入集団有限会社は、2007年 1 月に水産物の履歴追跡システム
を導入し、同会社の生産物を種苗から成魚にいたるまでのすべての生産履歴を記録し管理するよ
うにしている。
●
福建省福州市農業局は、2007年 2 月に大型スーパー美廉美および華普の 7 店において、タラ、タ
チウオ、スルメイカ、フウセイ・キグチなどの鮮魚の履歴追跡システムを公式に導入させた。消
費者は、スーパーのスキャニング端末や携帯電話のメール短信などの方式を通じて、鮮魚の原
料・加工・運輸・販売にわたる全過程の取扱情報および品質の保証期限などの情報を調べること
ができる。
●
中国水産科学研究院は、2007年 3 月に「水産養殖生産物の履歴追跡技術体系の研究と応用」(国
家科学技術の重点プロジェクト)を完成させた。同研究結果は、農業部農産物品質安全センター
の検品に合格し、納品された。このシステムは、江蘇省の 陽市、広東省の佛山市と湛江市にあ
る 3 つの水産養殖企業に導入されて、実証実験が行われているところである。
このように、中国においてはトレーサビリティ・システムが開発・導入されるようになり、生産者情
報や養殖履歴情報などを開示するシステムが確立されつつある。ただし、以上の事例からも伺えるよう
に、本来の食品のリスク管理に対応した厳密な意味でのトレーサビリティ・システムの導入事例はまだ
少ないのが現状である。
1.4 輸出入関連制度
主な水産物輸出入の関連制度をみると、次のとおりである。まず、2004年 3 月31日に「中華人民共和
国反ダンピング条例」を施行した。同「条例」は、6 章59条からなる。対外貿易の秩序と公平競争を擁
護するため、「中華人民共和国対外貿易法」の関連規定に基づき制定したものである。その中で、ダン
ピングと損害、反ダンピング調査、反ダンピング措置、反ダンピング税と価格承諾の期限及び再審など
について詳しく規定している。
国務院は、2004年 3 月31日に「中華人民共和国反補助条例」を施行した。同「条例」は、6 章58条か
らなる。対外貿易の秩序と公平競争を擁護するため、「中華人民共和国対外貿易法」の関連規定に基づ
き制定したものである。その中で、補助と損害、反補助調査、反補助措置、反補助税と承諾の期限及び
再審などについて詳しく規定している。
国務院は、2004年 7 月 1 日に「中華人民共和国対外貿易法」(修正版)を施行した。同「貿易法」は、
11章70条からなる。対外開放を拡大し、対外貿易を発展させ、対外貿易秩序を維持し、対外貿易経営
者の合法的権益を保護し、社会主義市場経済の健康的発展を促進するため制定したものである。その中
で、対外貿易経営者、貨物の輸出入と技術の輸出入、国際サービス貿易、対外貿易に関する知識財産権
― 90 ―
の保護、対外貿易秩序、対外貿易調査、対外貿易救済、対外貿易促進、法律責任などについて詳しく規
定している。
商務部は、2004年 7 月 1 日に「対外貿易経営者の登録規則」を施行した。同「規則」は、16条からな
る。対外貿易の発展を促進するため、「中華人民共和国対外貿易法」の第 9 条に基づき制定したもので
ある。
商務部・財政部・農業部・人民銀行・国家税務総局・国家品質監督検査検疫総局・国家認証認可監督
管理委員会は、2004年10月18日に「農産物輸出の拡大に関する指導的意見」を共同で発布した。同
「意見」は、「農民増収の促進に関する若干の政策的意見」(中発〔2004〕1 号)における「優勢を持つ
農産物の輸出を促進する政策的措置をさらに完全にする」という要求に基づき打ち出した意見である。
その中で、①統一した計画の要求によって、農産物輸出の発展目標を立案する、②農産物の品質安全管
理を強化し、農産物輸出の競争力を向上する、③輸出商品の構造を優れたものにし、農産物の輸出ブラ
ンドを育成する、④農産物輸出の重点企業を育成し、輸出農産物業界の組織化を速める、⑤国際市場の
開拓に力を入れ、農産物輸出の促進を強化する、⑥農産物輸出促進の政策体系を完備させる、⑦農産物
輸出の信用保険制度を完備させ、農産物輸出企業のリスク防備能力を強化する、の七つの面から指導的
意見を発表している。
国務院は、2005年 1 月 1 日に「中華人民共和国輸出入貨物原産地条例」を施行した。同「条例」は、
27条からなる。輸出入貨物の原産地を正確に確定し、各項目の貿易措置を有効に実施し、対外貿易の
発展を促進するため制定したものである。
中国税関は、2005年 3 月 1 日に「中華人民共和国税関輸出入貨物の徴税管理規則」を施行した。同
「規則」は、7 章85条からなる。国家の税収政策の徹底的な実行の保証や、税関の税収管理の強化、法
律に照らした徴税の確保、国家の税収の保障、納税義務者の合法的権益擁護などのため、「中華人民共
和国関税法」、「中華人民共和国輸出入関税条例」及びその他関連法律、行政法規の規定に基づき制定
したものである。その中で、輸出入貨物税金の徴収、特殊輸出入貨物税金の徴収、輸出入貨物税金の返
却と補足的徴収、輸出入貨物税金の軽減徴収と免除徴収、輸出入貨物税金の保証などについて詳しく規
定している。
中国税関は、2005年 8 月30日に「輸出水産物加工原料の供給漁船の検査検疫登録条件と要求」を施行
した。同「要求」は、施設衛生の要求、作業衛生の要求、従業員衛生の要求などについて詳しく規定し
ている。
国務院は、2005年12月 1 日に「中華人民共和国輸出入商品検査法実施条例」を施行した。同「条例」
は、6 章63条からなる。「中華人民共和国輸出入商品検査法」の規定に基づき制定したものである。そ
の中で、輸入商品の検査、輸出商品の検査、監督管理、法律責任などについて詳しく規定している。
1.5 漁業資源の構成
(1)海洋漁業資源
中国政府の公式発表によると、中国には472.7万平方キロメートルの海域を擁している。大陸棚漁場
面積は280.0万平方キロメートルに達し、そのうち、渤海が7.7万平方キロメートル、黄海が35.3万平方
キロメートル、東シナ海が54.9万平方キロメートル、南シナ海が182.1万平方キロメートルをそれぞれ
占めている。海洋生物の種類は非常に多く、そのうち魚類・頭足類・甲殻類が主な生物資源となってい
― 91 ―
る。
海洋魚類は1,694種に達し、そのうち硬骨魚類が1,519種(89.7%)、軟骨魚類が175種(10.3%)を数
える。魚種の分布をみると、南に種類が多く北には少ないという特徴がみられる。南シナ海の北部大陸
棚海域における魚類は1,064種で、そのうちフウセイ、タチウオ、マルアジ、アジ、イトヨリダイ、ウ
ナギ、ニシン、メナダ、マサバ、ウグイ、マグロなどの経済的に重要な魚類が125種を数える。また、
南シナ海の大陸スロープ海域での魚類は205種、同じく南シナ海の諸島海域は523種に上る。主要種類
としては、トビウオ、カツオ、チョウザメ、カジキ、マグロ、サメ及び珊瑚礁魚類などが挙げられる。
東シナ海の大陸棚海域において魚類は計727種で、そのうちフウセイ、キグチ、タチウオ、マナガツオ、
マサバ、ハモ、カレイ、メナダ、ウグイ、マルアジ、イワシなどの経済的に重要な魚類が100種近くい
る。黄海・渤海の海域の魚類は計291種で、そのうちよく見かけるのが159種、フウセイ、キグチ、タ
チウオ、ヒラ、サワラ、マサバ、マナガツオ、ボラ、ヒラメ、カレイ、ニシン、タラ、マダイ、グチ、
コイチ、スズキ、エイ、メナダなどの経済的に重要な魚類が50種を数える。
図1−1
中国沿海地域
― 92 ―
海洋頭足類は91種しかなく、中国海洋生物資源に占める比率は小さい。主要種類としてハリイカ、
スルメイカ、タコ、ジンドウイカ、ヤリイカ、タンゴイカ、コウイカ、シリヤケイカなどがいる。
海洋エビカニ類は計942種余りあり、そのうちエビ類が約300種、オキアミ類が42種、カニ類が600種
近くいる。エビとカニの種数の分布は北から南へ順を追って多くなる。渤海・黄海においては主要なエ
ビ・カニ類としてはタイショウエビ、アミ、シバエビ、テラオクルマエビ、シャコ、ガザミなどがいる。
東シナ海で見られるエビ類は100種余り、経済的に重要な主要エビ類としてアミ、アカエビ、サルエビ、
ヒゲナガクダヒゲエビなどがいる。東シナ海のカニ類はガザミが圧倒的に多い。南シナ海の北部海域に
生息するエビ類は200種余り、主要種類としてはクマエビ、クルマエビ、テンジクエビ、アカエビ、ヒ
ゲナガクダヒゲエビなどがいる。南シナ海の北部海域では、ガザミ類だけが40種もいる。
しかし、中国沿岸域に広く分布するこのような海洋資源は、1980年代から始まった漁業自由化政策
などを背景に乱獲が進み、近年の多大な資源管理努力にもかかわらず、資源状態は低水準のままで推移
している。以下、中国の近海海洋漁業資源の現状について述べる。
① 中国海域漁業資源の特徴
中国における近海海洋漁業資源には主に三つの特徴がある。すなわち第一に、分布が広く、資源量
が多く、魚種は近海に少ない。世界的に有名な大型海洋漁場の漁業資源量と比べると、中国海域の漁
業資源量は中位レベルよりもやや低い水準となっている。『中国漁業統計年鑑』によると、中国の四
大海域のなかで、単一魚種の年間最高漁獲量が50万トンを超える魚種はタチウオ(Trichiurus)類の
みで、10∼30万トンの魚種はフウセイ(Pseudsciaena crocea)(Richardson)、キグチ(Pseudsciaena
polyactis)、太平洋ニシン(Clupea harengus pallasi)など、10種類にも満たない。その他の魚類の年
間漁獲量は何万トンあるいは何千トン程度である。しかし、世界的に有名な漁場の主要魚種の資源量
は何百万トンにも達する。例えば、ペルーマイワシ(peruvian anchovy)、チリマアジ(Chilean jack
mackerel)、スケトウダラ(Alaska Pollack)、大西洋ニシン(Atlantic herring)、カツオ(Skipjack)、
サバ(Chub)
、南アメリカイワシなどであり、年間漁獲量はそれぞれ150万トンを超えている。
第二に、多種多様な海洋生物で構成されていることである。中国の沿海は、熱帯・亜熱帯・温帯の
三つの気候帯に分布され、熱帯性・温水性・冷水性の海洋生物とも適応する生息環境に恵まれている
からである。ところが、中国沿岸海域では、温水性魚類の種類と数量が最も多く、総漁獲量の2/3も
占めているのに対し、冷水性の魚類が少なく、その資源量の変動も大きい。平年では中国の年間総漁
獲量に対して 7 ∼ 8 %程度になっているが、資源量が最も高い年で黄渤海区において漁獲された冷水
性魚類は総漁獲量の25%にも達したこともある。熱帯魚類にはタウナギ、タイ、カツオなどが主要な
魚種となる。
そして第三に、漁業資源量の分布は地域性が顕著であることが挙げられる。つまり、緯度が低くな
るにつれて漁業資源の種類が多くなるが、密度が低くなるのである。
② 海面漁業資源利用現状
中国の海域は、黄渤海海区、東海海区、南海海区に分けられる。遼寧省・河北省・天津と山東省は、
黄渤海海区の行政管理地区である。江蘇省・上海・浙江省と福建省は、東海海区の行政管理地区であ
り、広東省・広西省と海南省は南海海区の行政管理地区である。
A 黄渤海海区
黄渤海海区は中国沿海漁業開発の最初の重要な漁場である。1950年に黄渤海海区の漁獲量は、中
― 93 ―
国大陸地区の総漁獲量の56%も占めていたが、1980年代以後は、30%前後の割合を維持してきた。
数量ベースをみると、1970年まで漁獲量は69万トン以下にとどまっていた。1971年以後、漁獲量が
大幅に増加し、20世紀中後期にすでに100万トンを超えた。1985年以降には、中国漁業経済体制の
改革により、漁民の生産意欲が高くなった。その結果、1996年に黄渤海海区の漁獲量は400万トン
を超え、さらに1999年には510万トンに達した。しかし、2000年に入ってから漁獲量は、横ばいか
減少の傾向にある。ちなみに、漁獲量の60%∼72%が黄海海区からのものである。
黄渤海海区の最大持続漁獲量は103万トンであり、最適な漁獲強度は76.4万kwと言われている。
1960年代、漁船の平均馬力は9.7万kwであったが、1999年になると300万kwになり、60年代の31倍
であった。ところが、現在、黄渤海海区の年間漁獲量は500万トンに近く、漁獲最適強度と漁獲可
能量をはるかに超えている。過去の40年間、漁獲強度が増大しつつあるに対し、漁船の平均漁獲量
は著しく減少傾向にあった。実は1980年代の初頭から、黄渤海海区は過剰漁獲の状態にあり、さら
に漁獲強度が増大された結果、漁獲物の品質や利益などが大幅に下落した。
また、操業漁船の平均生産能力から漁業資源の密度を知ることができる。機動漁船の年間漁獲能
力をみると、1960年代は4.5t/kw、1970年代は2.2t/kw、1980年代からは 1 ∼1.3t/kw前後の低
い水準で推移している。現在、黄海では主に中上層の小型魚類を漁獲対象とし、漁獲量は平均資源
量の87%を占めている。キグチ、マナガツオ、カレイ類、タラ、サバ、タチウオなどの経済的に重
要な魚類の割合は少なく、低層魚類の漁獲率が著しく低い傾向がみられる。
B 東海海区
東海は、中国において最大な漁業資源生産量を持つ海域である。2000年、中国大陸地区の当該海
域の漁獲量は625万トンであり、大陸地区の海洋総漁獲量の42%を占めている。1967年までに、当
該海区の漁獲量は漁獲強度の増大により増加した。1968年から1974年にかけて、漁船一隻当たりの
漁獲量は横ばいである。1975年∼1988年の間に漁獲強度が急増し、漁獲量も増加したが漁獲強度の
増加速度よりはるかに遅れていた。90年代以来、中国では漁業資源管理や保護などの政策が実施さ
れ、当該漁場の漁業資源もある程度回復されてきた。80年代以後、当該海域の初級生産力と漁獲物
餌の変化から、漁業資源の潜在生産力に対しての評価は、東海海区の最大持続生産量は308万トン
と推定されている。また、34種魚類の平均栄養段階を2.61段階から2.46段階まで下げたことにより、
当該海区の漁業資源持続漁獲可能量は400万トンと判断されている。Schaefer式を用いて計算した
結果、最大持続生産量は279万トン、最適な漁獲強度は217万kwとなっている。しかし、現在、東
海海区の漁獲量と漁獲強度は前述した計算値をはるかに超え、過剰漁獲状態になっている。
1950年代、東海海区で中国大陸地区の操業漁船はほとんど木製船であった。1967年に、漁船は総
馬力が51万kwに過ぎなく、沿岸海域を中心に操業した漁船が多かった。1968∼1974年間、沿岸域
における漁船の平均漁獲量の減少および漁船の操業強度が増大するとともに、操業漁場は沿岸域か
ら沖合、外海までに拡大した。2000年に、東海海区における漁船は合計11万54隻、総馬力は668万
kwであった。建国して以来、東海海区の機動漁船の平均漁獲量は減少する傾向がみられる。1957
年∼1967年で機動漁船の年間平均漁獲能力は1.4∼2.2t/kw、1968年∼1974年は、1967年よりやや
下がったが、1.3∼1.6t/kw程度に維持している。1975年∼1988年の平均漁獲能力は、当該海域の
漁獲強度の急増に伴い低下し、1975年の1.3t/kwから1988年の0.6t/kwまで下がった。90年代に
入り、0.9t/kwまでやや上昇していた。漁場の拡大や対象魚の漁獲サイズの下落は、漁船の平均
― 94 ―
漁獲能力が下がる主要な原因と考えられる。
C 南海海区
南海北部の漁業資源は主に広東省、海南省及び広西省に利用されている。サンプリング調査の結
果によると、南海北部の年間漁獲量は約210万∼250万トンである。中国香港・マカオ地区の多くの
漁船はほぼこの海域で操業し、年間漁獲量は約170万トンである。近海で操業する福建省漁船の実
際年間漁獲量はおよそ36万トンであるが、南海北部での年間漁獲量は20万トンを超えている。ベト
ナムにおける1995年の海面漁獲量及び主要な漁場の分布状況から、現在、ベトナム漁船が北部海湾
の西部での年間生産量は約200万トンだと推測できる。南海北部大陸棚及び北部湾の潜在的な総漁
獲量は180万∼190万トンであるが、近年、南海北部において、中国の各省・区及びベトナムの年間
漁獲量は総計270万∼300万トンとなり、潜在的な漁獲量より大幅に超えていることが分かる。
2000年に南海海区漁船の全面調査の結果によると、上記に述べた三省(広東省、広西省及び海南
省)及び香港・マカオ地区において、漁船漁業の漁獲総動力量は477万kwとなり、南海北部大陸棚
地区及び北部海湾の最適な漁獲強度の 2 倍以上にも及んだ。また、福建省及びベトナム沿海地区の
漁民も当海域で操業をしていた。1980年から2000年までの間に、南海海区の海面漁船漁業の隻数と
動力量はそれぞれ 7 倍と 6 倍も増加した。しかし、80年代の末から、沿海海域での小型漁船の製造
が中国漁業管理部門によって禁止されたため、漁船の隻数を増やすことが難しくなっている。とこ
ろが、改革開放の時期に漁民個々が経済利潤の最大化を追及するため装備の高度化を図ったことに
より、小型漁船の隻数自体は減少しても、海面漁船漁業の総動力量は増加し続けている。
南海海区の漁業史を遡ると、南海北部の操業が沿海海域に集中していることがわかる。1970年代
以来、近海及び沖合漁業資源が相次いで開発されたにも関わらず、操業分布は顕著な変化を見せて
いない。1980年代初、南海沿海地区には漁船の小型化現象も現れた。それは国家漁業経済体制改革
により漁船漁業の経営が私有化され、私有と株式制度を導入した小型漁船の隻数が増加した結果と
考えられる。しかし、その一方、広東、広西及び海南省の動力漁船の平均動力量は減少し続けてい
た。1970年代、三省地域の動力漁船の一隻あたりの平均動力量は60kw前後であったが、1986年に
なると、20kwまで減少した。1990年代以降、中国漁業管理関連部門が積極的にマクロコントロー
ル管理措置を実施し、それにより、南海漁業区の私有型小型漁船の発展が制限された。今でも、一
隻あたりの平均動力量はわずか40kwであり、1970年代当初のレベルまで回復することができない。
80年代初期に新規に建造した漁船の容載トン数が小さいため、沿岸での操業しかできず、以前にも
発生した過度漁獲問題に加え、より沿海漁業資源の枯渇を加速させた。三省地区の漁船の中で、ご
く少ない一部分のトロール網、刺し網、釣漁業の動力量は大きいため、南海の北部外海及び中南部
で操業することができるが、それ以外の漁船のほとんどは水深100mの沿岸及び近海に集中し、操
業する。
異なった時期のトロール網の調査結果によると、南海北部大陸棚地区の漁業資源が衰退し続けて
いることがわかる。そして、現在は過剰漁獲が最も深刻な時代と言える。過剰漁獲の現象は既に70
年代前後に現れていたが、現在の資源状況は特に悪化している。現存の資源密度がわずか0.2t
/km2であり、原始資源密度の1/20及び最適密度の1/10にしか過ぎない。近海及び外海の漁業資源
密度は0.3t/km2 で、原始資源密度の1/7及び最適密度の1/3にしか達してない。また、漁獲漁船の
漁獲率の変化を見ると、1990年代末の漁獲率は1980年代初期の1/6∼1/5となり、大陸棚海域の漁
― 95 ―
業資源が非常に深刻な状態にあることが伺える。漁業資源の顕著な減少以外に、漁獲物も小型化と
低価格化へ転化し、高価な魚類の漁獲率が明らかに減少している。北部海湾は南海区内で漁業資源
の生産力が最も高い地区の一つであった。しかし、沿岸海域の漁業資源及び中南部海域は既に70年
代と90年代に十分に利用されていた。現在、全海湾の漁業資源は過剰に漁獲され、沿岸海域の資源
は枯渇し、深刻に悪化している。
③ 日中韓による集中的な利用と主要魚種の利用現状
A サバ
中国の東海でのサバ漁業の歴史は比較的古く、150年前には浙江省金塘で漁業が始められ、また、
福建省大囲城の福建省、浙江省の沿海でのサバ漁業は60∼70年の歴史を有している。それに比べ、
機船巻き網操業は歴史が浅く、新中国創立初期に黄渤海の「煙威漁場」に誕生したと言われている。
その後、漁場の移転により、船と漁具は東海魚群の特徴に合わず、現在、ほとんどは扱われていな
い状態にある。その代わり、1960年代に試験操業に成功し、1970年代初に発展した集魚灯式機船・
機帆船巻網が広範囲で使用されている。
東海区サバの漁場は主に東海北部、黄海南部沖合、長江口海口及び福建沿海に集中している。毎
年12月から翌年の 2 月にかけ、東海北部及び黄海南部外海に分布しているサバが機船巻き網の主要
な漁獲対象となっている。また、機帆船巻き網及びトロール網の漁獲対象は長江口海域に分布して
いるサバの幼魚となっている。
1953年に黄海のサバ生産量は1,000トンとなったが、その後低い水準で維持し続け、1968年にな
ると、サバ巻き網や刺し網漁法が復活したため、生産量が再び増加し、漁場も東海まで拡大した。
1970年代になると、機船巻き網漁船の投入に伴って、サバ漁獲が定着し、一定の規模もできていた。
1974年、黄海海区のサバ年間生産量は7.2万トンとなり、1975年に生産量が減少し、6 万トンで、そ
の後急速に増加し、11.3万トンにも達した。しかし、その後生産量は年々減少し続けていた。1982
年以降、中国におけるサバの漁獲量は急激に減少して50万トンを下回るようになり、1985年には
8.7万トンにまで落ち込んだ。しかし、90年代中頃から五島の西部漁場、東海中南部漁場さらには
対馬五島漁場が次々に開発されてサバの生産量が増加し始め、1988年には17.3万トンに達した。
1989から1993年にかけての生産量は11万トンから15万トンの間で推移し、1994年から1999年にかけ
ては資源の回復に伴って、17万トンから19万トンになった。2000年以降の生産量は再び減少に転じ
14.3万トンとなった。
1982年、東海で行われていた日本の大中型まき網漁業のサバの漁獲量は約20万トンだったが、以
降、年々減少し、1990年には 9 万トンとなっている。その後、漁獲量は増加し始め1994年には1982
年の水準まで回復した。しかし、翌年から再び減少し10万トンとなったが、1996年には近年の最高
漁獲量の29万トンに達した。
東海近海および沿岸海域は、有機物、無機窒素、無機燐の濃度が基準を超え、富栄養化の問題が
深刻化している。特に深刻なのが長江河口と杭州湾海域で1999年から2000年の無機窒素の平均値は
同類海水標準の5.8倍、無機燐は2.45倍、COD(化学的酸素要求量)は1.69倍だった。干拓、築堤等
の水利工事で、天然漁場及び当該海域を回遊路とする魚種の生態環境が破壊され、また産卵場、生
育場としての役割も縮小あるいは消失した。沿岸海域地区、河口、浅瀬および内湾は程度の差はあ
るが既にゴミの埋立場と化しており、底質・水質環境は悪化した。赤潮の発生頻度と発生面積は
― 96 ―
徐々に拡大し、一部の伝統的な魚介類の産卵場はもう存在しない。工業廃水と生活廃水の大量排出
によって、生育場の生態環境が破壊され、餌になる生物も減少あるいは種類が変わってしまって、
天然漁業資源の有効な加入を得られなかった。養殖業者については資源の持続的利用の意識が欠如
しており、原始的な養殖技術、環境保護措置の遅れ、過剰給餌、種苗の過剰投入等により養殖生態
環境が汚染され、機能も低下した。そのため、魚類の病気が蔓延し、生産量が低下さらには皆無に
なるという事態に至った。また大規模な海域汚染事故は、漁業に直接経済的損失を与えると同時に、
漁業生態環境にも重大な破壊を与える。東海近海海域環境汚染問題は日々深刻化し、今後の海洋漁
業発展を阻害する重大な問題となっている。
現在、中国におけるサバの主な漁法は大型巻網であり、次いでトロール網、刺網となっている。
1980年代の東海区において、機船巻網漁業は28経営体、機帆船巻網漁業は約600経営体も存在して
いたが、現在、この両漁法とも減少傾向が続いている。
B タチウオ
1960年代以来、東海におけるタチウオの資源状況は大きな変化を見せている。未成魚の過剰漁獲
により、高齢魚の数量が減少する一方で、若齢魚の割合は上昇し、魚群構造の不合理、群れの低齢
化及びサイズの小型化などの問題が顕在化してきた。また、タチウオの性熟期の早まり、個体の初
成熟期の最小体長の縮小、産卵期の延長、産卵期の分散、産卵場所の外洋化などの現象も発生して
おり、タチウオの資源破壊の問題は深刻化していた。
『環境統計年報』によると、東部沿海都市の汚水排水量は1990年から年々増加していることがわ
かる。その中には、石油類、浮遊物質、硫化物、発揮性フェノール類、塩化ビフェニル、水素化物、
鉛、水銀などの有害物質が含まれている。沿海地域経済の急速な発展及び人口の急激な増加に伴っ
て、工業排水、生活排水による汚染が進んでいる。それ以外にも沿岸、沿海などの地域においては、
大量の化学肥料と農薬が使用され、排水溝に沿って、そのほとんどが東海に排出されている。この
ような、陸域からの排水量の猛烈な増加はタチウオの生態環境の破壊を深刻化させる最も大きな要
因として取り上げられている。養殖排水などは処理もせずに、ほとんどは海に排出されている。特
に、一部の地区では生簀養殖、池養殖などが無秩序に発展し、養殖廃水の排出量は当地域の決めら
れた容量を超えるため、漁業海域の汚染をもたらし、養殖の自家汚染が深刻化している。
トロール網、定置網及び一本釣り漁業は主要な漁法である。歴史上、大衆機帆船で越冬回遊をし
てくるタチウオを漁獲していた。漁期になると、水温の低下に伴ってタチウオが北から南へ越冬回
遊し始め、均等なサイズで浅い水層に生息し、魚群の密度が最も高くなったときに対網( 2 隻曳網)
で漁獲する。対網は越冬タチウオを漁獲するのに最も理想的な漁法だと考えられていた。さらに越
冬回遊時には、タチウオの資源量が高まるため、中国最大のタチウオ漁獲期と言われている。この
時期の対網による漁獲量は年間漁獲量のおよそ60∼70%の割合を占めていた。
1980年代末から1990年代初頭はタチウオ資源の低下により、漁法を対網からトロール網へ替え、
対網の歴史は幕を閉じた。漁場も近海から外海へと移動していった。以前は外海におけるタチウオ
漁獲量の総漁獲量に占める割合は低かったが、その後、大きな発展を遂げ、豊漁の年だと30∼40%
を占めるようになった。このように漁法の変化や漁場範囲の拡大により、冬漁期のタチウオ漁獲量
は10万トン前後で維持することができるようになった。
底引網漁業は 2 種類の経営形態に大別することができる。すなわち、国営の底引網と民営の底引
― 97 ―
網である。
中国建国以来、国営の機船漁業は急速に発展し、1980年代初頭までに東海区においては国営漁業
公司8社が相次いで設立され、一隻当たり約183.75kWに相当する底引網漁船が約600隻保有される
までになった。しかし、タチウオの漁業資源量の変化と主要漁場の休漁期政策の実施によって、機
船底引網漁業の水揚量にも影響が及び、1990年代初期からタチウオの漁獲量は大幅に減少した。そ
こで、国営漁業公司は産業構造を調整し始め、沿岸から遠洋のイカ漁業に転換することとした。近
年、これらの国営漁業公司は夏秋期タチウオ漁業から撤退した。
一方、民営の機帆船の底引網作業は1960年代中期に開始された。毎年 7 月から10月まで大部分の
漁船は、引網禁漁線近くの海域で操業する。当時、操業していた漁船は数百隻程度で漁獲量は 1 万
トンに過ぎなかった。ところが、70年代になると漁獲量は急増し、出港漁船数も4,000隻まで増え、
すでにタチウオ漁業の主要操業方式となっていた。しかし、70年代中期以降、中国の漁業部門は漁
獲努力量のコントロールを強化し、漁獲努力量を一時的に軽減する方針を打ち出した。そして、
1995年に 7 月から 8 月までの休漁期制度を回復させ、その後さらに 9 月まで延長することによって、
タチウオの稚魚資源を一定程度確保させた。
また、タチウオには釣漁業も存在し、こちらは歴史が古く主に福建省の沿岸海域で操業されてい
た。産卵後のタチウオの索餌魚群と越冬魚群を中心に漁獲し、漁場は引網漁場よりやや外海に位置
している。漁獲された魚体は大きい上、鮮度が良く、経済価値は高い。漁獲量は総漁獲量の 5 %程
度であるが、前述の 2 つの漁法よりも魚価は高く、経営コストが低く、経済利益および社会利益が
ともに高い。ちなみに、釣漁業は主に延縄釣りを指している。タチウオ釣り漁業の漁期は秋冬季で
あり、期間は 8 月から翌年の 1 月までとなっている。
C マアジ
1950年代から現在まで、東シナ海のマアジ資源は最盛期、衰退期、回復期の三つの段階を経てき
た。マアジの漁獲は、日本から西の海域で巻網漁業を中心に行われている。
東シナ海のマアジは資源が減少するにつれて、その分布海域も大幅に縮小し、稚魚資源が中心と
なってしまい、最大漁場であった“口美堆”はほとんど失われてしまった。マアジ資源の回復期に
おける主な漁場には、「五島漁場」が挙げられる。マアジ資源が九州西部の五島周辺海域に分布す
る 1 月から 5 月が主要な漁期である。東シナ海南部の漁場では、1 月から 4 月が主要な漁期となっ
ている。福建省南部から台湾近海( 南∼台浅)漁場においては、周年操業ができ主要漁期は12月
から翌年の 1 月までとなっている。
(2)内水面の水産資源構成
中国は17.47万km2の内陸水域を擁する。そのうち池が1.92万km2、湖沼が7.52万km2、ダムが2.3万km2、
クリークが5.28万km2、その他が0.45万km2となっている。内陸水域の主な漁業資源は魚類、エビ・カニ
類と貝類からなるが、魚類の種類が一番多い。
内陸水域の魚類は、主に内陸土着の淡水魚類と遡河性魚類からなる。前者は800種余りに達し、13目
39科232属に属するが、コイ目の種類が620種余りと一番多く、そしてコイ科の魚類の種類が430種余り
いる。後者は240種に達し、22目73科144属に従属する。経済的に重要な内陸水域の魚類としては140種
余りいる。そのうち揚子江水系が44種、黄河水系が22種、珠江水系が30種余り、黒竜江水系が40種余
り、をそれぞれ占める。分布が広く、そして漁業生産において重要な地位にある魚類は50種余りいる
― 98 ―
が、コイ科のハクレン、コクレン、アオウオ、ソウギョ、コイ、フナ及びヒラウオ、サワラ、タイ、ナ
マズ、サンカクホウなどの魚類が圧倒的に多い。
内陸水域のエビ・カニ類は60種余り、チュウゴクモクズガニ(いわゆる「上海がに」)、コエビ、ヌ
マエビがその代表的なものである。内陸水域の貝類は170種余りで、マキガイ、ドブガイが代表である。
1.6 漁業従事者の状況
中国における漁業従事者数は、表 1 − 3 が示すように、2001年の1,333.43万人をピークに若干の減少
傾向を見せてはいるものの、近年では概ね横ばいで推移している。2002年から海面漁船漁業を対象に
「減船・転業」政策が推し進められてきたために、2002年には1,273.61万人まで減少したが、その後増
減を繰り返しながら、2005年には1,290.28万人の規模をキープしている。その内訳を見ると、専業従事
者が710.01万人(うち海面漁業が222.34万人)、兼業従事者が580.27万人(うち海面漁業が86.57万人)
となる。さらに、専業従事者の内訳をみると、漁船漁業が177.41万人(うち海面漁業が110.26万人)、
養殖が451.36万人(うち海面養殖が78.33万人)、その他が81.23万人(うち海面漁業が33.75万人)とな
っている。
表1−3
中国における漁業生産組織と漁業従事者の推移
1990年代までに、農業部門と比べると漁業部門は収益性が高く、1980年代から90年代にかけて、農
業部門から漁業部門へ大量の労働力が流入された。しかし、先述のように90年代末頃に新国際漁業秩
序の確立による伝統的漁場の喪失と、沿岸域資源の悪化などを背景に、海面漁船漁業は縮小再編をせざ
るを得なくなっており、多くの漁業従事者は漁業部門からの退出を余儀なくされている。
国の推計によると、新国際漁業秩序に伴う二国間漁業協定の締結により、約 3 万隻の漁船が伝統漁場
から撤退し、25万人近くの漁業従事者が職を失う恐れがあり、約100万人の沿海漁村住民の生計に影響
が出ている。そこで、政府は2002年から海面漁船漁業に対して漁業構造調整を行い、海面漁船漁業を
対象に減船を伴う「転船・転業」政策を導入したわけである。これは、2006年までの 5 年間にわたって
3 万隻の漁船を減船し、25万人の漁業従事者を養殖や加工などの他の分野に転業させるプロジェクトで
あった。すなわち、漁船と漁業従事者を、2002年の27.90万隻、115.10万人から、2006年の24.90万隻、
90.10万人まで減らすことを目標としていたのである。そのために、国は最初の 3 年間において毎年2.7
億元の補助金を支出し、各地方政府もそれぞれ一定の予算処置を講じてこの問題に対処することとした。
中国には豊富な労働力資源があるために、漁業と養殖業において後継者の育成と確保は問題とはなら
― 99 ―
ず、それどころか現状では労働力の過剰供給が深刻な社会問題となっており、その問題解決がもっとも
喫緊な政策課題となっている。
2.中国の水産物生産状況
2.1 漁業・養殖別の生産高構成
中国における漁業生産量は、2000年の4,278.99万トンから2005年の5,101.65万トンへと増加し、年平
均成長率は3.58%となっている(表 2 − 1 )。それに対して、生産額は2000年の2,807.72億元から2005年
の4,180.48億元へと、年平均8.29%の伸びをみせている。中国の水産物消費市場拡大に伴う価格上昇に
よる寄与が大きいように思われる。
表2−1
中国における漁獲・養殖別生産高の推移
海面養殖分野と内水面養殖分野は、生産量と生産額を問わずともに成長しており、特に内水面養殖分
野の成長の勢いが強い。海面漁船漁業分野は数量ベースではマイナス成長となっているが、生産額ベー
スでは高い成長をみせ、海水魚の価格が大きく上昇していることを反映している。逆に、内水面漁船漁
業分野は数量的にやや増加しているが、その生産額は減少傾向にあり、淡水魚の価格が低迷しているこ
とがうかがえる。
2.2 漁業種類別生産高の推移
中国における海面漁船漁業生産量は、2000年の1,477.45万トンから2005年の1,453.30万トンへと減少
している。これは1999年から実施された「ゼロ成長」・「マイナス成長」政策による生産抑制策の影
響を受けたことによるものであるが、漁業資源の衰退がその根本的な要因として指摘できる。海面漁船
漁業の漁種別生産量構成をみると、表 2 − 2 の示す通りとなっている。トロール漁業による漁獲量は海
面漁船漁業の 5 割弱を占め、トロール網が海面漁船漁業の主力漁種となっていることが分かる。次いで、
上位から刺網漁業、張り網漁業、巻き網漁業、釣りの順位となる。ちなみに、日本のトロール(底層ト
ロール網)漁業漁獲量が海面漁船漁業の総漁獲量に占める割合は 2 割程度に過ぎない。
― 100 ―
表2−2
中国における海洋漁業種別生産量の推移
2.3 魚種別生産高の推移
中国海面漁船漁業の魚類生産量は、2000年の990.02万トンから2005年の972.93万トンへとやや減少し
ている(表 2 − 3 )。また、海面漁船漁業による貝類生産量は、2000年の178.24万トンから2005年の
88.52万トンへと半減している。
主要生産魚類のうちに、100万トン以上の漁獲量を維持しているのはカタクチイワシとタチウオの 2
種類だけである。しかも、前者は減少傾向にある。50∼100万トンの漁獲量を維持している魚種として
はマルアジだけで、20∼49万トンの漁獲量を維持している魚種はハモ、キグチ、カンダリ、イカナゴ、
イトヨリダイ、マサバ、サワラ、マナガツオ等である。
海面漁船漁業の対象魚種のうち、タチウオ、フウセイ、キグチ、マナガツオ、コイチ、ホンニベなど
は消費者の好みに合った中級魚として消費が急拡大しているが、国内生産だけでは深刻な供給不足状態
がつづいている。特にタチウオは中国では広く消費される魚種であり、その冷凍品は内陸部の都市から
農村まで流通されている。近年、タチウオの需要を国産だけで賄うのは不可能となり、海外市場からの
輸入が増えつづけている。インドネシア、インド、マレーシア、タイなどが中国の主なタチウオ輸入先
国となり、この 4 カ国から中国はタチウオ総輸入量の80%相当を輸入している。
2.4 養殖業
中国における養殖業生産量は2000年の2,578.23万トンから2005年の3,393.25万トンへと上昇し、2005
年においては水産物生産量の66.51%を養殖物によって占めるに至っている。表 2 − 4 は養殖形態別生
産量・養殖面積を示している。
中国では、養殖可能な海面は260.01万ヘクタールあり、そのうち養殖可能な浅海・干潟が242.00万ヘ
クタールある。2005年において海水面の養殖利用率が53.69%、浅海・干潟の養殖利用率は57.69%にそ
れぞれ達している。また、養殖可能な内水面水域は675万ヘクタールあり、2005年における内水面養殖
による水面利用率は86.67%に達している。このように、内水面の養殖利用はほぼ限界に近づいてきて
いるのに対して、海面養殖はまだまだ拡大の余地が残されている。
全国的に広がりつつある中国の水産養殖は大量の飼料あるいは魚粉を必要としている。中国の魚粉生
産量と輸入高は表 2 − 5 に示している。飼料と魚粉の国内生産量は変動を繰り返しながらも上昇傾向に
ある。近年では、魚粉輸入量の増加が目立っている。
中国の水産飼料加工業の発展は漁業先進国に比べ立ち遅れている。水産飼料加工業は1,000社余り数
えられるが、8 割の企業は技術開発力に欠けている。現在20種余りの飼料を開発・加工しているが、多
くの稚魚用飼料や幼魚用飼料を未だに開発できておらず、その大半は台湾や海外からの移入または輸入
に頼っている。また、国内生産の魚粉はこれまで100万トンに及ばず、質的にも悪いために、海外から
― 101 ―
表2−3
中国における海面漁船漁業魚種別生産量の推移
大量の飼料用魚粉を輸入せざるをえなくなっている。2004年の輸入量は世界魚粉生産量の 5 分の 1 に相
当し、世界魚粉貿易量の 4 分の 1 を占めるに至っている。ただし、世界的な魚粉相場の高騰を背景に最
近では輸入マインドは低下している。
近年、中国の水産飼料に調合される魚粉の比率が高すぎるという指摘もみられる。一般の淡水養殖用
飼料の魚粉含有率は10%くらいで、経済的価値の高い淡水魚や海産魚、海産エビ類の飼料の魚粉比率
は50%を超えている。一部の養殖魚種の飼料係数(単位養殖物の生産に必要な飼料の数量比)が1.3∼
2.0であり、多くの養殖魚種の飼料係数が2.1∼4.0に達している。これは養殖先進国における養殖魚の飼
料係数(サケ・マス・ヒラメが1.0∼1.3、その他魚類と甲殻類が1.5∼1.8)を大きく上回るものである。
― 102 ―
表2−4
表2−5
中国における養殖漁業別生産量と面積の推移
中国における魚粉生産量と輸入金額の推移
中国では、配合飼料の普及率が30%程度と低く、毎年水産養殖に直接投餌される天然の雑魚が400∼
500万トンに達している。このような雑魚を餌料とする養殖方式は海面漁業資源に過大な漁獲圧を与え
るばかりでなく、窒素・燐の排出量が配合飼料の養殖方式より 4 ∼ 5 倍多くなり、残餌として大量の有
機物を水域に拡散させて環境の悪化を招いている。
2.5 漁業生産政策の動向
21世紀に入って、中国における漁業生産は漁業の効率化、漁民の所得向上、漁業の持続的発展を目
― 103 ―
標とした。そのため、市場メカニズムに基づいて、産業構造の調整を積極的に推進し、漁業資源と生態
環境の保護を強化している。
漁業の産業構造の調整においては、次の原則が主張されている。すなわち、①漁業資源を合理的に開
発し利用する原則(漁業資源と水域の生態環境をさらに保護し、過去の資源開発を追求し、外延拡張を
主とした経済成長の方式を変え、漁業の持続的な発展を促進すること)、②市場原理を活用する原則
(市場の情報サービスシステムの整備を強化し、市場動向とその発展の潜在力を分析し、広範な漁業従
事者に情報サービスと価格情報を提供し、市場の多様化及び健康かつ安全な消費需要に生産を適応させ
る)、③地域の事情に適した措置をとり、地域の優位性を発揮させる原則(各地は地元の資源・市場・
技術などの比較優位性を発揮し、特色のある漁業生産モデルを構築する)、④科学技術の進歩に依拠す
る原則(品種の改良を通じて先進的実用化技術と最先端の技術を広め、健康的な養殖方式を普及し、病
害を予防・制御し、漁業の技術水準を向上させ、漁業経済の成長モデルの転換を推進する)、⑤漁民・
農民の願いと生産経営の自主権を尊重する原則(行政的指導を通じて構造調整を行うのではなく、情報
開示と先進事例紹介などに基づく自主的な取り組みを強化し、マクロ的な産業政策を通じて政策を展開
する)
、などである。
こうした原則に基づいて、漁業全体、特に養殖業に関してはウナギ、コウライエビ、貝類、ティラピ
ア、フウセイ、チュウゴクモクズガニなどの生産構造調整を推し進めている。その結果として、福建・
広東省においてはウナギ、広東・広西・海南省においてはコウライエビとティラピア、福建・浙江省に
おいてはフウセイ、山東・遼寧・河北省においてはコウライエビと貝類、揚子江中流・下流地域におい
てはチュウゴクモクズガニ、などのそれぞれの地域条件に応じた主産地が形成され、それらの養殖業が
中国の水産物輸出拡大を牽引している。
漁業資源の増殖放流に関しては、国務院の「中国水生生物資源保護行動規定」(2006年 2 月14日に発
布)を実施するため、2006年に農業部は全国水生生物資源増殖放流行動を30の省・自治区・直轄市に
展開した。その結果、海洋と内陸水域に放流した経済的に重要な魚類の種苗が計160億尾に上り、放流
に投入した資金が1.8億元に達し、前年に対しそれぞれ80%、40%と大幅に拡大した。
こうした放流措置の効果は、すでに一部の地域において現れている。例えば、山東省において海面漁
船漁業の76%に当たる2.2万隻の漁船が放流資源の恩恵に預かり、2006年の総生産量が2.63万トン、生
産額が5.92億元に達して、純利益ベースで2.8億元、受益漁民が10万人近く、一人当たりの純利益が
2,800元に達するという試算も報告されている。また、遼寧省においては1.4万隻の漁船が放流資源の回
収的漁獲に参加し、生産量が1.33万トン、生産額が1.13億元に達している。そのうち、遼東湾海域にお
いてクラゲの回収的漁獲が1.21万トン、その生産額が7,200万元に達し、直接投入産出比が 1:18に達し、
沿岸漁民の増収は一人当たり600元以上と推計されている。
3.中国水産物貿易の状況
3.1 貿易高の推移
中国における水産物貿易、とくに水産物輸出は21世紀に入ってから急速な発展を遂げている。水産
物輸出先が2000年の115カ国(地域)から2005年の131カ国(地域)と拡大する一方、水産物輸入先も
2000年の102カ国(地域)から2005年の107カ国(地域)に増加している。水産物貿易総額は、2000年
― 104 ―
には56.80億ドルであったが、2004年になると100億ドル台を突破し、さらに2006年には136.60億ドルに
膨らんでいる。
水産物輸出入の数量・金額は表 3 − 1 の示す通りである。量的には水産物輸出は輸入より少ないが、
金額をみると水産物輸出が輸入の倍以上となっており、中国における水産物貿易は黒字となっている。
平均単価を比較してみると、水産物輸出のほうが輸入の2∼3倍高くなっており、その理由としては、
輸出水産物は中級・高級物または付加価値が高いものであるのに対して、輸入水産物は廉価なものと魚
粉が多いからである。しかし、近年は中級・高級水産物の輸入も増えている。
表3−1
中国における水産物輸出入数量と金額の推移
水産物輸出相手国は131カ国(地域)にのぼるが、主要市場は日本・韓国・米国・EUであり、輸出上
位国に大きな変化はない。しかし、上述の 4 つの主要市場の占める割合は、数量ベースでは2000年の
80.68%から2005年の74.56%に減少し、金額ベースでは2000年の87.87%から2005年の79.23%に減少し
ている。そのうち、日本市場の占める割合の減少幅が大きく、数量が2000年の38.49%から2005年の
24.20%に、金額は2000年の52.95%から2005年の37.15%に減少している。なお、2006年以降、日本の
「ポジティブリスト制度」の実施によって、日本市場の占める割合が更に減少することが予測されてい
る。
一方、水産物輸入相手国は107カ国(地域)数えられ、主要市場はロシア・米国・ペルー・インドと
なっている。上述の 4 つの主要市場の占める割合は、数量ベースでは2000年の72.90%から2005年の
59.88%に減少したのに対して、金額ベースでは2000年の55.95%から2005年の56.67%に増加している。
そのうち、米国市場の占める割合の増加幅が大きく、金額をみると2000年の6.81%から2005年の9.98%
へと増加している。
3.2 魚種別貿易高の推移
中国における主要魚種別輸出入数量と金額の推移は、表 3 − 2 の示す通りである。主要輸出魚種のう
ち、2001年の数量・金額からみた上位 6 品目にはウナギ(製造・保蔵、丸ごと・切り身)、イカ・スル
メイカ(冷凍・干し・塩蔵)、小エビ(剥き身、冷凍)、ワカメ、タコ(冷凍・干し・塩蔵)、フウセ
イ・キグチ(冷凍)が挙げられ、フウセイ・キグチについては右肩上がりの増加がみられるが、その他
― 105 ―
の魚種は上下変動はあるものの頭打ちの状態と言える。
品目別に詳しくみていくと、2005年のウナギ(製造・保蔵、丸ごと・切り身)輸出の主要相手国で
は、日本(3.59万トン、5.03億ドル)が量・金額ともに圧倒的に多く、次いで香港(0.34万トン、0.40
億ドル)、米国(0.14万トン、0.17億ドル)の順となっている。イカ・スルメイカ(冷凍・干し・塩蔵)
の輸出上位国では、日本(2.73万トン、0.80億ドル)が量・金額ともに他の国に大きな差をつけており、
次いで米国(1.53万トン、0.43億ドル)、スペイン(0.87万トン、0.23億ドル)、オーストラリア(0.47万
トン、0.15億ドル)の順となっている。小エビ(剥き身、冷凍)の主要輸出相手国の量・金額をみてみ
表3−2
中国における主要魚種別輸出入数量と金額の推移
― 106 ―
表3−2
つづき
ると、日本が0.59万トン、0.36億ドル、次いでスペインが0.57万トン、0.22億ドル、韓国の0.52万トン、
0.16億ドルとなっている。ワカメは、日本は干しワカメが0.86万トン、0.35億ドル、その他のワカメが
1.63万トン、0.11億ドル、生鮮ワカメが0.03万トン、0.002億ドルとなっており、大半を占めている状態
である。タコ(冷凍・干し・塩蔵)については、韓国が2.24万トン、0.43億ドルと圧倒的に多く、次い
で日本の0.52万トン、0.29億ドルになる。さらに、フウセイ・キグチ(冷凍)についても韓国が断トツ
で多く5.13万トン、1.23億ドルとなっており、次に米国の0.21万トン、0.06億ドルが続いている。
一方、主要輸入魚種のうち、2001年の数量・金額から見た上位 6 品目はタラ(肝臓・卵除外、冷凍)、
イカ・スルメイカ(冷凍・干し・塩蔵)、タチウオ(冷凍)、カレイ(冷凍)、小エビ(殻付き、冷凍)、
サバ(冷凍)が挙げられ、そのうちタラ・カレイだけが増加傾向にあり、その他の魚種は上下変動を伴
いながら趨勢的に上昇している。
2005年の主要輸入魚種の数量及び金額を品目別に見てみると、タラ(肝臓・卵除外、冷凍)は、ロ
シアからの輸入が9.87万トン、7.48億ドルと圧倒的に多く、次いでオランダの5.60万トン、0.33億ドル、
米国の3.25万トン、0.59億ドル、ニュージーランドの1.55万トン、0.18億ドルとなっている。イカ・ス
ルメイカ(冷凍・干し・塩蔵)は、北朝鮮からが3.56万トン、0.25億ドルと多く、次いでペルーの2.83
万トン、0.21億ドル、韓国の2.40万トン、0.33億ドル、ニュージーランドの2.27万トン、0.21億ドル、米
国の2.26万トン、0.18億ドルの順となっている。タチウオ(冷凍)は、インドから4.42万トン、0.27億
ドル、タイから2.68万トン、0.17億ドル、パキスタンから1.15万トン、0.07億ドル、インドネシアから
0.94万トン、0.06億ドル輸入されている。カレイ(冷凍)は、米国から6.73万トン、0.98億ドル、ロシ
アから4.73万トン、0.57億ドルとなっている。小エビ(殻付き、冷凍)は、カナダから2.46万トン、
0.46億ドル、次いでグリーンランドから1.06万トン、0.22億ドル、デンマークから0.45万トン、0.08億ド
ル輸入されている。最後にサバ(冷凍)は、ノルウェーから4.12万トン、0.62億ドル、日本から1.19万
― 107 ―
トン、0.07億ドル、イギリスから1.03万トン、0.14億ドル、オランダから0.96万トン、0.10億ドル輸入さ
れている。
3.3 加工品の貿易高の推移
中国における主要加工品輸出入数量と金額の推移は、表 3 − 3 が示す通りである。主要輸出加工形態
のうち、2001年の金額から見た上位 3 品目にはフレーク(冷凍)、製造または保蔵品(丸ごとまたは切
り身)
、加工養殖真珠が挙げられ、いずれも右肩上がりで推移している。
2005年におけるフレーク(冷凍)の主要輸出相手国への数量・金額は、米国が17.60万トン、4.72億
ドルと圧倒的に多く、次いで日本の13.68万トン、3.95億ドル、ドイツの10.08万トン、2.61億ドルの順
となっている。製造または保蔵品(丸ごとまたは切り身)は、小エビ・タイショウエビの製造または保
蔵品に限ってみると、米国が2.08万トン、1.03億ドルと圧倒的に多く、次いでスペインの1.97万トン、
0.76億ドル、メキシコの1.57万トン、1.01億ドル、日本の1.47万トン、1.10億ドル、香港の1.37万トン、
表3−3
中国における主要加工品輸出入数量と金額の推移
― 108 ―
表3−3
つづき
0.93億ドルとなっている。加工養殖真珠は、香港が21.93万kg、1.15億ドルと圧倒的なシェアを占め、次
いでインドの3.66万kg、0.05億ドル、米国の3.16万kg、0.01億ドルの順となっている。
一方、主要輸入加工品のうち、2001年の金額から見た上位 3 品目には飼料用魚粉、加工養殖真珠、魚
肉(冷凍)が挙げられ、そのうち、加工養殖真珠だけが増加傾向にあり、その他は上下変動しながら上
昇の趨勢にある。
2005年におけるそれぞれの主要輸入相手国別の数量及び金額をみてみると、飼料用魚粉は、ペルー
から104.85万トン、7.13億ドルが輸入されており、次いでチリから27.82万トン、1.99億ドル、米国から
6.75万トン、0.62億ドル、ロシアから3.18万トン、0.28億ドル、アルゼンチンから2.49万トン、0.18億ド
ル、ミャンマーから2.35万トン、0.04億ドル、ニュージーランドから1.85万トン、0.17億ドル輸入され
ている。加工養殖真珠は、韓国から800kg、0.34万ドル、次いで日本から578.94kg、139.78万ドル、タイ
から451.07kg、108.70万ドル、マレーシアから285.43kg、120.89万ドル、インドから189.26kg、54.47万
― 109 ―
ドル、オーストラリアから170.40kg、19.44万ドル輸入されている。最後に魚肉(冷凍)をみてみると、
米国から0.46万トン、0.09億ドル、次いでベトナムから0.41万トン、0.05億ドル、タイから0.16万トン、
0.03億ドルが輸入されている。
3.4 輸出入における内容の変化
中国における水産物輸出入内容の変化としては、3 つの点が挙げられる。
まず 1 つ目に、貿易方式による輸出入金額の比重の変化である。輸出においては一般貿易による金額
の総額に占める比重は、2001年の62.00%から2005年の60.09%へと下降したが、依然として一般貿易方
式が主となっている。これに対して、輸入における加工貿易の金額の総額(魚粉除外)に占める比重は、
2001年の65.80%から2005年の70.20%に上昇し、加工貿易方式が主力として増強されていることが分か
る。国際市場における漁獲水産物の原料価格の上昇が続いているなか、中国の山東・遼寧などの省では
労働力資源及び地理的優位性によって水産物の保税加工の形態が発展し、加工規模を拡大させている。
2 つ目に、主要輸出貿易市場の割合と順位の変化である。主要市場は依然として日本・韓国・米国・
EU・香港が占めているが、5 つの市場の輸出総量と総額に占める割合は2001年の90%と93%から2005
年の80.13%と85.95%に下降している。また、主要市場の順位は、2001年は日本(73.10万トン、20.27
億ドル)・韓国(49.85万トン、6.33億ドル)・米国(18.56万トン、5.65億ドル)・EU(20.76万トン、
4.50億ドル)・香港(12.21万トン、2.18億ドル)であったのが、2005年には日本(61.90万トン、29.30億
ドル)・米国(40.00万トン、12.70億ドル)・EU(36.20万トン、10.60億ドル)・韓国(53.40万トン、
9.90億ドル)・香港(14.30万トン、5.30億ドル)に変わっている。つまり、韓国が 2 位から 4 位に転じ
ており、これは中国の対韓輸出は加工度の低い水産物が多いためと考えられる。
3 つ目に、輸出加工品の高度化・多様化とその比重の変化である。過去の輸出加工品は初歩的な加工
を主としていたが、現在は高度な加工へと変わりつつある。例えば、フレーク・魚肉と製造・保蔵品の
輸出数量に占める比重は2001年に19.82%、15.99%であったのが、2005年にはそれぞれ27.78%と
27.49%に上昇している。そして、加工品種が多様化したばかりでなく、その付加価値も向上している。
3.5 水産物貿易の品目的特徴
中国における水産物貿易は、輸出入品目に特徴がみられる。
2005年においては観賞魚が38カ国に0.52億匹、0.03億ドル、冷凍ティラピアが24カ国に3.88万トン、
0.40億ドル、ワカメ(干し)が19カ国に0.93万トン、0.36億ドル、ロブスター(製造または保蔵)が10
カ国に0.14万トン、0.09億ドル、淡水小ロブスター(製造または保蔵、剥き身)が19カ国に1.60万トン、
1.05億ドル、淡水小ロブスター(製造または保蔵、殻付き)が 9 カ国に0.78万トン、0.19億ドル、クラ
ゲが20カ国に0.23万トン、0.10億ドル、それぞれ輸出されている。
そのうち、観賞魚の主力は金魚であり、北京を中心とした北方生産基地と江蘇・上海・広東を中心と
した東南沿海地域に生産基地が形成されている。
一方、2005年に軟体・甲殻または棘皮動物及びイカの骨粉及びくずを24カ国から1.38万トン、0.04億
ドル、フカひれ(干し)を21カ国から0.33万トン、0.18億ドル、魚の肝臓・イクラ(冷凍)を22カ国か
ら1.65万トン、1.49億ドル、ナマコ(冷凍・干し・塩蔵)を28カ国から2.80百トン、2.25百万ドル、キ
ハダマグロ(冷凍)を 7 カ国から5.56百トン、1.19百万ドル、メバチマグロ(冷凍)を 8 カ国から20.28
― 110 ―
百トン、3.29百万ドル、大西洋サケ(冷凍)を18カ国から33.27百万トン、6.10百万ドル、オヒョウ(冷
凍)を11カ国から0.97万トン、0.18億ドル、をそれぞれ輸入している。
そのうち、ナマコは中華料理の高級食材として珍重され、近年、需要が急増し価格が高騰してきてい
る。これを背景に日本の愛媛県などでは対中輸出のためのナマコ密漁が増えているという。また、フカ
ひれは酒宴において中国の伝統的な「おかず」である。古来「無翅不成席」(フカひれがなければ、酒
席にならない)といわれるように、今のところ、フカひれは高貴な客をもてなす食材として富裕層に人
気が高まってきている。なお、フカひれスープは栄養を補給する効果があるとされ、一茶碗が200ドル
になることもある。このようなフカひれの過剰嗜好によって、アジア海域におけるフカ(サメ)資源は
乱獲され、新たな捕獲海域としてペルー北部から中米に至る太平洋深海海域に関心が向けられている。
ある情報によると、2003年には少なく見積っても、30万匹のフカから取った27.9万ポンド余りのフカひ
れがエクアドルから中国内陸と香港特別行政区に輸出されている。これは1990年代中ごろの 2 倍に相当
するものである。
3.6 中国水産物貿易の全体的特徴
(1)多様な貿易方式
中国の水産物貿易方式としては、一般貿易の他に、加工貿易、補償貿易、国境貿易、バーター取引貿
易などが挙げられる(表 3 − 4 )。近年、補償貿易、国境貿易およびバーター取引貿易などによって構
成されている「その他貿易」が急展開をみせているが、全体に占める構成比はまだ低い。加工貿易はこ
れまで中国の水産物貿易を牽引する役割を果たしてきたが、一時期の低迷を乗り越えて、近年再び増加
傾向を示している。とはいえ、中国の水産物貿易を支えてきたのはやはり一般貿易であり、その構成比
も50%を超えている。
表3−4
水産物貿易方式別貿易額の推移
(2)依然として高い貿易集中度
近年における中国の水産物貿易のもう一つの特徴点として、貿易先国が多様化していることが挙げら
れるが、上位貿易国との貿易集中度は依然として高い。
輸出高構成をみると、アメリカ、日本、韓国、EUなどが依然として中国の主要輸出先国であり、こ
の 4 カ国・地域への輸出量が中国水産物総輸出量に占める割合はおよそ80%前後に達しており、主要輸
出先市場の集中度がきわめて高い。
― 111 ―
輸入先構成をみても、上位国による集中度は高い。中国の水産物輸入品目のなかで、魚粉とシラスウ
ナギが重要な品目として位置づけられるが、国際市場への魚粉供給国はペルーとチリであり、シラスウ
ナギは日本。EUが主要供給国としての役割を果たしている。それに対応するように、中国への主要水
産物輸出国もペルー、チリ、ロシア、アメリカ、日本などに集中している。
(3)沿海地域に貿易基地が集中
中国の水産物貿易基地は基本的には経済発展が著しい沿海地域に集中している。これはそれらの地域
における水産業の発展と表裏一体の関係をなしている。とくに輸出水産物は基本的には海産魚を中心と
しているので、海面漁船漁業が発達している沿海地域の優位性は高い。2005年における水産物貿易額
の上位 5 位の地域は山東、広東、遼寧、浙江、福建であり、この上位 5 地域で中国の水産物総貿易額の
88%を占めている(表 3 − 5 )
。
表3−5
主要地域の水産物貿易高
4.中国の水産物流通と消費
4.1 水産物流通システム
ここ20年にわたる市場流通制度の整備を背景に、中国の水産物流通は抜本的な変化が見られるよう
になった。すなわち、自由市場での零細販売やブローカーなどによるスポット的な買い付けによる流通
に取って代わって、いまでは水産物産地卸売市場と消費地卸売市場を中核として、都市と農村部の公
設・民設市場や定期市などの小売機構を経由する、生産・加工・配送・小売をつなげる新たな市場流通
体系が確立されつつある。現在の中国における水産物流通システムの概念図を図 4 − 1 に示した。
水産物流通システムは、産地卸売市場段階・消費地卸売市場段階・需要段階、の 3 つの段階に分けら
れるが、養殖水産物、漁船漁業水産物と輸入水産物は生産拠点や供給方法、消費形態などが異なってい
るため、その流通経路も若干異なっている。
産地卸売市場段階における流通主体として生産者・仲買人・仕入業者・輸送業者・輸入業者などがい
る。養殖水産物の場合、生産者の出荷方式は生産規模によって異なっている。一般的に、養殖基地ある
いは共同出荷団体(幾つかの養殖漁家より構成)は出荷の量が多く、大規模出荷が可能であるが、小規
模の養殖漁家は出荷の量が少なく、仲買人の集荷による出荷が多い。また、生産者は出荷の過程におい
て商品の等級付けと検査などの役割も果たす。等級付けは、一般的な水産物商品規格と鮮度基準を標準
としている。養殖基地は出荷規模が大きいため、品質検査の技術者と設備を擁し、関連情報をICカー
ドに入力して、消費地卸売市場へ流す場合もみられる。このように水産物商品の品質と安全性を追跡可
― 112 ―
能にし、市場搬入の手続きを簡潔化し、物流の効率を上げる試みも行われている。
仲買人は仲介役として生産者と仕入・輸送業者をつなげて、その取引を成立させるための需給情報な
どを提供するが、具体的な取引や価格の交渉には一切関与せず、取引が成立した後に、一定の比率の手
数料を受け取ることとなっている。
図4−1
中国における水産物流通システムの概念図
仕入業者は、生産地において水産物商品を集荷し、輸送ロットに達した時、商品を消費地卸売市場へ
運ぶ。仕入業者は一般的に 1 人または 2 人を雇って商品の等級付けや積み下しなどに従事させ、輸送業
者を使って商品を消費地市場まで出荷する。
輸送業者は、専門的業者が多く、トラックに水槽を載せ、バッテリーや酸素ボンベ等の設備を取り付
けて商品を品質保証付きで生鮮または活魚輸送する。なお、大型の養殖基地は自分の専用車を持つケー
スが多い。
漁労水産物(漁船漁業の漁獲物)の場合、産地出荷において遠洋漁業の一部の漁獲物は、海外に直接
販売される。遠洋漁業のその他の漁獲物の集散地は、山東、遼寧、浙江、福建、広東、上海などの沿海
地域に集約されている。これに対して、内水面漁船漁業(漁労)の漁獲物の集散地は停船または取引に
便利な岸壁となる。また、漁労水産物のうち、飼料に回される商品は水揚地または消費地卸売市場で加
― 113 ―
工企業に買い付けられる。スーパーマーケットではコールドチェーンが整備されているため、漁労商品
が直接水揚地からスーパーに運ばれるケースもみられる。
漁労漁業の生産者は零細漁民のほかに大規模な漁労企業もある。漁労企業は漁民より資金が豊富で、
かつ設備も整っている。特に、国有漁労企業は一連の冷凍加工設備を擁している。漁労企業は一般的に
自分の岸壁(水揚げ荷捌所)をもち、そこが集散市場として機能し、そこで自社商品の流通と販売が行
われる。それに対して、零細漁民の漁労商品は主に仕入業者・卸売業者などによって末端消費まで流通
される。なお、国有漁労企業の集中度合いは高く、情報の取得・分析力は相対的に高い。
消費地卸売市場段階における流通主体としては、荷主、消費地卸売業者、外食産業やホテルの購入者、
小売業者などがいる。養殖基地や共同出荷団体のメンバー・仕入業者は消費地卸売市場の段階では荷主
として登場する。荷主は、商品を販売する過程において消費地卸売市場側の商品に対する品質検査や卸
売業者側の見本に対するサンプリング検査などに応じる。
消費地卸売業者は、消費地卸売市場において自社の店舗とその営業許可証を持つ。消費地卸売業者が
産地の荷主と取引し、その商品を次の流通主体に売り渡す。また、商品が消費地卸売市場に届いた後、
消費地卸売業者は一般的に商品に対して再び選別・等級付け・包装・鮮度保持処理などを行う。
外食産業やホテルの購入者は、一般に自分の専用車を用いて消費地卸売市場で仕入れをする。幾つか
の卸売業者の商品の品質や価格を比較しながら、水産物商品を選択し購入する。なお、多くの購入者は
固定した取引先を有し、入場した後に特定の固定的な卸売業者のところで商品を仕入れる。
小売業者は、定期市の行商人とスーパーマーケットからなる。小売業者は、一般に自分の専門輸送車
を持ち、入場した後外食産業やホテルの購入者と同様な取引をする。
需要・小売段階において、小売業者は水産物商品を消費地卸売市場から搬入した後、活魚の場合は自
社水槽で蓄養・陳列し、鮮魚や冷凍水産物の場合はすぐに陳列・商品化して販売する。
以上からも分かるように、現段階の中国の水産物流通システムにおいて、多くの水産物は産地から消
費地まで流通するのに、多くの段階を経由することとなっている。以下、さらに水産物流通システムの
起点である産地と終点である消費地について詳しく検討することにする。
(1)主要産地の構成
中国の漁港は計1,177ヶ所ある。そのうち、重点漁港は491ヶ所を数え、それを構成するものとして国
営漁業基地港が35ヶ所、大衆漁業漁港が456ヶ所となっている。大衆漁業漁港の地域分布を見ると、天
津が 4 ヶ所、河北が 9 ヶ所、遼寧が60ヶ所、上海が16ヶ所、江蘇が31ヶ所、浙江が96ヶ所、福建が72ヶ
所、山東が41ヶ所、広東が85ヶ所、広西が12ヶ所、海南が30ヶ所となっている。そのなかでもとくに
漁業生産の拠点基地となっている主要大衆漁業漁港は表 4 − 1 の示す通りである。
中国は、1998年から2005年にかけて計37億元超の公共投資を行い、沿海拠点漁港37ヶ所、1 級漁港94
ヶ所( 1 級大衆漁業漁港83ヶ所を含む)、内陸重点漁港15ヶ所を造って、漁業インフラの整備に力を入
れてきた。
中国漁業の発展は、養殖漁業の発展によるところが大きい。養殖漁業の主産地についてみると、海水
養殖生産量の上位 5 省としては1985年に福建・山東・遼寧・浙江・広東がランクされたが、2005年には
山東・福建・広東・遼寧・広西に変わっている。また、淡水養殖生産量の上位 5 省としては広東・湖
北・江蘇・湖南が依然としてランクされているが、2005年には江西が躍進し浙江にとって代わった。
なお、全国11の沿海省(自治区、直轄市)のうち、10万トン以上の海水養殖生産量をあげた省は、
― 114 ―
1985年の 3 省から2005年の 9 省に増えている。また、全国31省のうち、10万トン以上の淡水養殖生産量
を挙げた省は、1985年の 8 省から2005年の20省へと増え、淡水養殖漁業は、全国的な広がりをみせてい
る。
表4−1
中国における主要大衆漁業漁港一覧
漁船漁業の主産地についてみると、海面漁船漁業生産量の上位5省としては、1985年に浙江・広東・
山東・福建・遼寧がランクされたが、2005年に浙江・山東・福建・広東・遼寧の順に変わっている。
また、内水面漁船漁業生産量の上位 5 省としては、1985年に江蘇・安徽・湖北・湖南・山東がランクさ
れていたが、2005年には湖北・安徽・江蘇・江西・湖南へと変わっている。
なお、全国11の沿海省(自治区、直轄市)のうち、10万トン以上の海面漁船漁業生産量をあげた省
は、1985年の 8 省から2005年の10省に増えている。また、全国31省のうち、10万トン以上の内水面漁船
漁業生産量を挙げた省の数は、1985年の 1 省から2005年の 8 省まで増えている。
(2)主要消費地の構成
水産物を含めた食品消費構造を、中国の「四大経済ブロック」といわれる東部地区(北京・天津・河
北・山東・江蘇・上海・浙江・福建・広東・海南の10省〔市〕)、中部地区(山西・安徽・江西・河
南・湖北・湖南の 6 省)、西部地区(内蒙古・広西・重慶・四川・貴州・雲南・西蔵・陝西・甘粛・青
海・寧夏・新疆の12省〔区、市〕)および東北地区(黒竜江・吉林・遼寧の 3 省)に分けて検討してみ
ることにする。四大地域別の一人当たり家庭内主要食品消費構成を、表 4 − 2 、表 4 − 3 及び表 4 − 4
― 115 ―
に示している。
一人当たり家庭内食糧消費量は、東部地区が一番少なく、東北地区が二番目に少ない地域となってい
る。また、一人当たり家庭内野菜消費量も東部地区が一番少ない。その代わり、一人当たり家庭内果物
表4−2
中国における地域別一人当たり家庭内食料・野菜・果物消費状況(2005年)
表4−3
表4−4
中国における地域別一人当たり家庭内肉類消費状況(2005年)
中国における地域別一人当たり家庭内卵類・乳類・水産物消費状況(2005年)
― 116 ―
消費量は、東北地区と東部地区が比較的に多い。なお、西部地区の一人当たり家庭内野菜消費量は東部
地区に次いで少ないが、それは西部地区の地理的環境、資源状況および気候条件などの自然地理的要素
の影響によるところが大きい。
一人当たり家庭内肉類消費量は、西部地区が豚肉、牛肉・羊肉を問わず最も多く、家禽肉も 2 番目に
多い。東部地区が家禽肉、乳類、水産物の消費量において一番多く、卵類の消費量も 2 番目に多い。な
お、西部地区の乳類消費量が 2 番目に多い。
中国における食品消費構造全般の特徴としては、①魚介類よりも畜肉類の消費が上回り、しかも畜肉
類では豚肉、家禽肉を中心とした消費傾向をもっている(「中華系タイプ」と呼ぶ)。②所得水準が高
いはずの都市部の消費パターンと所得水準が低い農村部の消費パターンがほぼ同傾向を示している。③
東部地区へ移動するにつれ相対的に魚食タイプとなり、逆に東部地区から離れるにつれ豚肉食、さらに
西部地区へ移動するにつれて豚肉から牛肉・羊肉嗜好へと移行する傾向がある。④動物性タンパク質食
品をめぐって、中国経済をリードする東部地区の消費パターンと台湾のそれとは類似性が見られている。
水産物の主要消費地としての東部地区の省別一人当たり家庭内水産物消費状況の推移をみると、表 4 −
5 の示す通りなっている。都市と農村を問わず、全国平均値を上回っている地域として、天津・上海・
江蘇・浙江・福建・広東・海南などが挙げられる。
都市部における水産物の消費支出額は、2003年より福建が上海に取って代わりトップとなっている
(表 4 − 5 )。近年では、福建に次いで上海、浙江、広東、海南などが上位を形成している。農村部での
水産物消費量は、上海がほぼ首位(2004年除外)をキープしており、次いで浙江、海南、広東、福建
などが上位を占めている。
表4−5
中国における東部地区の省別一人当たり家庭内水産物消費の推移
― 117 ―
4.2 需給動向
表 4 − 6 は近年における中国の水産物需給動向を示している。2000年から2006年にかけての年平均成
長率をみると、それぞれ水産物国内生産量が3.47%、水産物輸入量が4.71%、水産物消費量が0.79%、
水産物輸出量が11.92%となっている。また水産物供給量が年平均3.54%の成長をみせているのに対し
て水産物需要量は年平均1.46%の伸びに留まっている。
このように全国的にみると、水産物市場全体は超過供給状態にあるが、水産物生産の地域間不均衡と
水産物加工技術の立ち遅れや物流システムの遅れなどによる地域的な供給不足のケースや個別品目的に
需給が逼迫しているケースもみられる。
表4−6
中国における水産物需給バランスの推移
ただし、需給バランスの数量は純粋ではなく、そのうち非食用需要やロスなども含まれていることに
留意する必要がある。例えば、2005年でみると、非食用需要の加工品が323.11万トン〔=(国産飼料
165.44万トン+輸入飼料用魚粉158.05万トン+輸入非食用粉末0.23万トン+輸入加工養殖真珠0.04万ト
ン)−(輸出飼料用魚粉0.34万トン+輸出非食用粉末0.26万トン+輸出加工養殖真珠0.05万トン)〕を原
魚重量に換算すれば873.27万トン(加工の歩留り率を37%で換算)、輸送や加工工場において発生した
ロスが765.25万トン(生産量の15%で計算)と見込まれ、同年の需給バランスの名目値1,906.98万トン
から控除すれば、需給バランスの実質値は268.46万トンの超過供給に過ぎないという概算になるわけで
ある。さらに厳密的にいうならば、貝類などの貝殻や昆布・わかめなどの加工形態の違いによる影響も
考慮に入れる必要もあろう。
4.3 用途別仕向け構成
中国の水産物消費における用途別仕向け構成(数量ベース)をみると、図 4 − 2 の示す通りとなる。
中国の水産物需要市場は、都市と農村住民の食用消費・加工業原料需要・輸出貿易需要・その他消費か
ら構成されている。そのうち、都市と農村住民の食用消費は住民の家庭内消費(内食)と社会的消費に
分けられ、さらに社会的消費は外食・中食・贈答用需要などに分けられる。また、その他消費としては、
生産者と生産企業の自家消費・餌料・廃棄や運送等によるロスなどが含まれる。
― 118 ―
図4−2
中国水産物消費における用途別仕向量(2005年)
水産物需要市場への供給は、国内(沿岸・沖合漁業)生産・遠洋漁業生産・輸入水産物からなる。そ
のうち、国内生産の大半は養殖生産(2005年の場合は養殖生産の比重が水産物生産量の66.51%を占め
る)によるものである。遠洋漁業生産では一部が直接海外に販売され、残りの部分が中国国内市場に搬
入されている(2005年の場合は国内搬入の割合は遠洋漁業生産量の64.10%である)。そして、輸入水産
物の数量は輸出のそれを上回っているが、その40∼50%が魚粉(2005年の場合は魚粉の比重が輸入量
の43.19%)となっている。
(1)生鮮食用向け
中国において最も好まれる魚の形態は原魚のままのラウンドの姿である。エビなら飛跳ねる活きの良
いものが、魚なら尾頭つきのもの、カニもできるだけ爪や脚がつくものが好まれる。その意味では現時
点において、フレーク・さつま揚げ・缶詰などのような加工品や、頭・尾・殻が除去されたエビ、カニ
缶などが大量消費されるEU・アメリカ・日本などの消費性向とは若干異なっている。
中国において、活魚・氷蔵魚・塩蔵魚の消費が中心であり、推定ではこれらが水産物総消費量の70
∼80%に当たる。このような一尾ものの魚の消費は、加工処理されたものと比べて幾つかのデメリッ
トを指摘できる。第 1 に、迅速な輸送と冷蔵・冷凍処置が必要となり、供給コストを高め、消費市場の
一層の拡大を制限している。第 2 に、家庭内調理における家事労働を増やし、購入から料理までの手間
がかかる。第 3 に、年寄りや子供に意外な傷害をさせる魚の小骨による事故の危険を含み、生ゴミの処
理に手間取り、魚食消費を敬遠する消費者層を生み出している。
(2)加工原料向け
中国における水産加工業は、基本的には水産物のチルド加工(含冷凍、冷蔵、製氷)・乾製品・塩蔵
品・薫製品・缶詰・練り製品・水産薬品、保健製品・調味製品・魚粉と飼料・海藻食品・サメ皮製品・
水産工芸品など多岐にわたる部門に発展している。近年、国際水産物消費市場の拡大により、中国水産
加工業は急速に発展し、加工企業は2005年に9,128社に達し、年加工能力が1,696.16万トン、水産物加工
品総量が1,195.48万トンに達している。こうした加工業の発展を牽引しているのが、加工貿易である。
加工原料向け水産物供給数量の推移は、表 4 − 7 に示している。中国における水産加工率は、2005年
が30.36%と2000年よりほぼ10ポイントの上昇をみせているが、水産先進国とされる国々の水産加工率
― 119 ―
の半分にも達していない数字である。さらに、2005年において中国の淡水生産物が水産物総生産量の
44.37%を占めているが、その加工率が7.90%ときわめて低い。ただし、淡水魚の加工に際しては、①
タンパク質冷凍変性の防止、②魚肉泥臭さの除去、③食品開発と廃棄物の総合利用、④実用的な加工機
械の開発、などの 4 つの技術的問題を抱えており、それらの問題解決なくして淡水魚加工業の発展は見
込めない。
表4−7
中国における加工原料向け水産物数量の推移
4.4 水産物消費量・消費額構成
(1)国民一人当たり家庭内消費量
改革開放以来、中国の食糧(=穀物・豆類・芋を含む農産物)と食料(=主食以外の食品)生産能力
の向上によって国民の食品消費水準と食品消費構造に大きな変化が見られるようになった。中国におけ
る一人当たり家庭内主要食品消費の推移は、表 4 − 8 と表 4 − 9 の示す通りである。
一人当たり食糧消費量は減少の一途を辿っている。これは、主に農村雑穀消費量の減少と都市家庭内
食糧消費量の減少によるものである。食糧消費量の減少は、所得水準の向上によって、食品消費パター
ンが「量的拡大から質的変化」の段階へと変化し、食料消費が「食物連鎖の階段を駆け上がった」結果
である。
表4−8
中国における一人当たり家庭内食糧・野菜・果物消費の推移
― 120 ―
表4−9
中国における一人当たり家庭内肉類・卵類・乳類・水産物消費の推移
副食物としての野菜の消費量も基本的に減少の傾向にあり、減少分が果物と動物性蛋白食品摂取量の
増加によって補われている。野菜消費量の減少も同じく国民の生活水準が絶えず変化していることを意
味している。
果物の消費量をみると、1990年代には急拡大をみせていたが、新世紀に入ってからは停滞傾向とな
っている。世界の一人当たり果物の年間平均消費量が70∼80kgであるが、中国の一人当たり果物消費
量は世界平均水準の半分に過ぎない。果物を消費する食文化の欠如が原因として指摘できる。
中国における一人当たり家庭内肉類食品消費の中で豚肉の比重が60%以上と大きく、国際豚肉の平
均消費比重である30%前後の倍となっている。それに対して、中国における一人当たり家庭内牛肉・
羊肉消費量の全体に占める割合が25%に達せず、世界平均の50%以上(牛肉が30%以上、羊肉が20%
以上)に比べると、半分以下の水準となっている。なお、中国における一人当たり家庭内家禽肉の消費
量は相対的に成長が速く、中国養鶏業の発展と密接に関わっている。しかし、国際的な消費水準と比較
してみると、中国の家禽肉類の消費水準はまだ低い。従って、中国において牛肉・羊肉・家禽肉の消費
― 121 ―
は今後拡大のポテンシャルが高く、将来の肉類食品生産の発展や食品消費構造の調整を考えるうえでき
わめて重要なポイントとなりうる。
中国の一人当たり家庭内卵類の消費量は家禽肉の消費量を上回っている。その要因として、①国民は
一貫して卵類食品を好んで消費する伝統がある(例えば、ピータン・お茶茹で卵など)。また卵類は習
慣的に精進料理(肉類を使わない料理)に用いられている。②卵類の生産コストが低く、生産効率が高
く、市場販売価格が安い。③卵類消費水準の起点が低い。近年では、卵類消費量が急拡大しているが、
その絶対的な消費量は国際的な水準と比べるとまだ低いレベルとなっている。
中国における一人当たり家庭内水産物消費量は、国際水準と比較するとまだ低水準にある。消費対象
物をみると、コイ・ソウギョ・タチウオなどの低級・中級の魚種の比重が大きく、サケ・タイショウエ
ビ・イセエビなどの高価格魚種の比重が低い。水産物消費量の増加は、中国が「小康社会」(衣食が満
ち足りた上で、生活の質がいっそう向上し、生活が豊かになる社会)に到達するのに欠くことのできな
い主要な消費食品である。
(2)国民一人当たり消費量
中国における一人当たり魚介類消費(クジラと海藻類を除く)を見たのが表 4 −10である。一人当た
り魚介類消費量は、1980年に世界平均値の半分に足らずの5.2kgであったものが、1990年に11.5kgと倍
増した。さらに、2003年には25.4kgに増加し、世界平均値16.1kgの1.6倍弱、日本の平均値66.2kgの約 4
割に相当する。
世界平均値をオーバーした9.3kg分だけで、国全体ではなんと1,201.81万トンの増加となる。これは、
日本の魚介類の国内消費仕向け量に相当する量である。このような水産動物性タンパク質の摂取量の増
加は、所得や生産水準の向上を前提とした食生活の構造的変化を色濃く反映している。
もっとも、このような一人当たり消費量は都市・農村間のみならず、地域間によって大きな格差が存
在することを指摘しておきたい。例えば、水産物をよく消費する上海市と全国との平均消費量を比較し
たのが表 4 −11である。それによると、上海の都市部は全国都市部平均より 2 ∼ 3 倍、また上海の農村
部は全国農村部平均より 3 ∼ 4 倍水産物を消費していることが伺える。また、魚をもっとも消費してい
る広東では年間一人当たり消費量は46.03Kg、山東は35.16Kgにも達しているのである。
1980年代末になって、水産物の消費形態は内食から外食及び中食へシフトし、食生活構造は変化し
つづけている。外食・中食における一人当たり水産物消費量の推移を表 4 −10に示している。外食・中
食における一人当たり水産物消費量は、1987年まで内食のそれを下回っていたが、その後は逆転して
いる。特に、1993年からは急ピッチで拡大し、平均にして内食のそれの2.7倍にも相当する。ただし、
FAOの統計は過剰統計による影響を受けているので、実態より若干過大評価となるきらいがある。そ
のため、推計された外食・中食消費量は過大であると思われる。こうした水産物消費の拡大は、主に都
市部または経済先進地域における消費拡大によるところがきわめて大きい。中国では、100万人を越え
る大中都市は40ある。これらの都市は流通インフラが比較的整備されており、その上、ほとんど半分
が経済的に非常に発達した沿海地域に位置している。そのため、大中都市部における水産物消費市場の
潜在力は非常に大きい。
都市部における外食及び中食は、おもに中華料理店・レストランなどで行われ、接待や贈答、あるい
は家族団らんや持ち帰りといった形で消費されている。その根底には、中国で飲食が非常に重んじられ
ていることや礼を受ければ礼を返さねばならないという古くからの伝統的文化が大きく影響していると
― 122 ―
思われる。それゆえ、外食における社会集団的消費の比重が非常に大きい。従って、中国における水産
物消費は都市部を中心に、そして社会集団的消費を主力として拡大している。これはまさに中国におけ
る水産物消費の大きな特質の一つである。
表 4 −10
中国における一人当たり水産物消費量の推移
表 4 −11
中国と上海市の家庭内水産物消費状況
4.5 消費動向
(1)主要魚種の卸売価格・小売価格推移
近年、中国都市部における水産物の消費動向は、淡水魚から海産魚へ、大衆魚から高級魚へ、そして
塩干・加工品から鮮魚・冷凍品へ、といったようなニーズの変化が起きはじめている。主要魚種小売価
格の推移を、表 4 −12と表 4 −13にまとめた。淡水魚よりは海水魚であるタチウオの魚価が上昇してい
ることがうかがえる。また、全般的に淡水魚よりも海水魚の価格が高いことがわかる。
表 4 −12
中国における主要魚種小売価格の推移
― 123 ―
表 4 −13
中国における主要魚種の小売価格
バナメイ
スベスベマンジ
ュウガニ
チュウゴクモクズガニ
2004年において中国のタイショウエビ輸出は、米国から高額な反ダンピング税を徴収された。税率
が50%以上、制裁金額が3.8億ドルに達し、同年下半期における直接輸出企業は 1 ∼ 2 社しか残らなか
った。
その後、チュウゴクモクズガニも香港市場や東南アジア市場において薬物残留の疑いで、輸出が止め
られたことがあった。こうした事件を背景に、タイショウエビとチュウゴクモクズガニは中国国内市場
へ回され、その消費が拡大していった。中国現段階の消費水準は、すでに普通の魚類からタイショウエ
ビとカニへの消費時代に転換したことが市場から発信されている。
タイショウエビとカニは過去において贅沢なものであったが、
現在では中級の食品へと変化している。
中所得・高所得層はタイショウエビとカニの主要消費階層であると同時に、かつてはほとんど消費しな
かった低所得者層も現在では奢侈品として消費しはじめている。その結果、米国の「グリーン障壁」に
よって輸出をストップさせられた時から、中国でのエビ消費市場が急拡大することとなった。
(2)外食の消費動向
① 一般的動向
経済発展に伴う可処分所得の増加が、中国国民の消費構造を大きく変化させてきており、その最も
特徴的な現象の一つとして、外食消費の増加をあげることができる。
表 4 −14によると、家計の中の外食消費金額は1997年の203.44元から2004年の533.39元へと2.62倍
増加している。それに伴って家計に占める外食費比率も10.48%から19.69%へと急上昇している。外
食は豊かさを演出する消費行為の一つであり、中国における外食消費の増加もこのような経済的な豊
かさを追求する社会現象の一つとして捉えられる。
このような外食消費の地域別特徴をみたのが表 4 −15である。各地域とも食品支出に占める外食消
費の割合が高くなっているが、地域によって外食消費の金額や、食品支出に占める割合は大きな格差
が存在していることが伺える。例えば、外食比率が高い北京、広東、上海ではそれぞれ26.97%、
26.2%、25.75%となっているのに対して、チベットでは7.45%しかならない。外食消費に影響を及ぼ
す要因は所得のみならず、価格や嗜好や外食産業の発達程度あるいや生活慣習などさまざま数えられ
るが、このような要因変化が各地域の外食度合いを規定していると思われる。
― 124 ―
表 4 −14
中国の都市部における水産物消費支出と外食消費の動向
表 4 −15
中国の外食消費の地域別特徴
食品支出に占める
食品支出に占める
水産物支出 食品支出に占める 外食支出 食品支出に占める 水産物支出
外食支出
外食支出の割合
水産物支出の割合
水産物支出の割合
外食支出の割合
(元/年)
(元/年)
(元/年)
(元/年)
(%)
(%)
(%)
(%)
陝
西
― 125 ―
② 外食における魚食消費の動向∼ヒアリング調査による∼
淡水魚市場の中級商品、特にそれが流行料理に採用された時は、中所得層が主力消費層となる傾向
が強い。例えば、鍋料理において活タウナギ・活コクレン・活ドジョウ・活フナ・活アメリカザリガ
ニ・活バナメイ・ヨシエビなどが広く使われている。
●
タウナギは伝統的薬用食品として消費層が限定されていたが、タウナギの輪切り醤油煮込み(魚
を油と砂糖を加えて炒めた後、醤油などの調味料で煮込む)は栄養食品として市場に広まり、さ
らにタウナギは鍋料理にも利用され、時代の流行食品として市場に受け入れられている。
●
コクレン料理は流行する前、その市場価格がソウギョ・フナ・ヒラウオに及ばなかったが、頭が
鍋料理(四川料理)に使われるようになってから市場価格が高騰した。また、「椒魚頭」(魚の頭
を、細かく刻んだ唐辛子と一緒に調理した代表的湖南料理)に使われるようになってからは、20
億元の唐辛子市場を創出したといわれている。
●
ソウギョは「水茹でソウギョ」料理を中心に、その消費が揚子江の南北地域に広まった。
●
コイは「コイのちゃんぽん」(コイ・豆腐・平たいひも状のはるさめなどを一緒に煮込んだハル
ビン田舎料理の一種)料理を中心に、その消費が全国に広まった。
●
ケツギョは肉質がきめ細かくて柔らかく、淡水魚の中で指折りの高級品である。古来より「海の
ワタリガニ、江のシギョ、河のケツギョ」(江=大きい川)と言われるように、ケツギョの優れ
た肉質が中国の伝統的な食文化と融合し、各地の消費層に好まれている。ケツギョは市場におい
て大衆化した高級魚種として位置づけられ、現在では全国の水産物市場並びにスーパーマーケッ
トにおいてなくてはならない商品の一つとなっている。
●
アメリカザリガニは江蘇・安徽・浙江省において消費されていたが、外食産業のメニュー(13種
類の香料による炒めと揚げものが流行)に取り入れられて、アメリカザリガニの養殖が一大地域
産業まで発展している。現在、アメリカザリガニの年消費量が 6 ∼ 8 万トンに達し、国内自給率
は33%で、残りの部分は輸入に頼っている。
このように、外食産業に取り入られた水産物が、中国の水産物消費市場に確固たる地位を占めるに
至っているので、外食市場への対応が今後ますます重要なマーケティングポイントとなる。
高所得層に消費される淡水魚は原魚姿のブランド商品しかない。例えば、江蘇省の陽澄湖ガニ(チ
ュウゴクモクズガニの有名ブランド)と浙江省の千島湖コクレン(料理法はコクレンの頭付き部分を
醤油煮込みする)は高い人気を誇っている。
なお、その他の高級水産物はほぼ海産魚と輸入物に独占されている。中国において高級魚市場は、
①一般に養殖魚は高級商品になり難く、高級魚の多くは海産魚、特に底魚であること、②高級魚はほ
ぼ高級レストランや高級ホテルに買われていること、③高級魚は多くが輸入物であること、の 3 点に
よって特徴付けられる。中国において高級商品(水産物)の消費は社会的ステータスを示す重要な方
法となっている。
海産魚は、中国の水産物市場を支えてきたが、その供給は大きな問題に直面している。中国政府は
1999年より資源保護を強化し「ゼロ成長」または「マイナス成長」という生産抑制策を相次いで実施
した。そのために、ここ 7 年間において海産魚類生産量は、海産養殖魚類が増産したにも関わらず、
1,038∼1,058万トン程度で横ばいに推移し、海産魚消費市場需要の拡大に供給が追い付かなくなって
いる。海産魚市場においてタチウオがイラン、インド、ミャンマー、インドネシアから、フウセイや
― 126 ―
キグチなどの天然魚はミャンマー、西アフリカから、ホンニベがアルゼンチンから、マナガツオがイ
ンドなどからの輸入にほぼ頼っている。なお、海水魚市場において氷蔵・鮮魚を除く、冷凍魚類はほ
ぼ輸入物となりつつある。
4.6 水産加工品の消費動向
(1)全体及び魚種別取扱量の増減
中国における加工向け水産物取扱量(加工原魚数量)の推移は前出表 4 − 7 の示す通りである。その
うち、加工向け淡水魚取扱量が2003年の88.67万トンから2005年の178.75万トンへと倍増しているが、
淡水魚加工率は 8 %足らずと依然として低水準にある。主な加工品としてはティラピアや「 」と呼ば
れる小川ナマズ(米国の魚。「 」とも呼ばれるが、本物の「 」より値段ははるかに安い。「 」は中
国揚子江の珍魚で、500g当たり1,000元以上と高い。)などがある。なお、統計データの制約により、
具体的な魚種別取扱量の分析は残念ながらできない。
(2)加工形態
中国における主要水産加工品形態別数量の推移は、表 4 −16に示している。冷凍品(ラウンド、中国
では冷凍処理は加工に含まれる)が飛びぬけて多いが、近年では頭打ちの状態である。次いで、冷凍加
工品が2003年を除いて急成長を見せている。これは国際市場の需要拡大と中国国内加工技術の向上に
負うところが大きい。
表 4 −16
中国における主要水産加工品形態別数量の推移
非食用加工品のうち、真珠が急成長しているが、魚粉が横這い状態である。食用加工品のうち、伝統
的乾製品が横ばい状態にあるが、海藻加工品・練り製品・缶詰は急成長している。練り製品は地方色を
持つさつま揚げ・ちくわ・かまぼこ及びソーセージなどのインスタント食品等多岐にわたっている。
(3)加工品の仕向先
中国における水産物加工品の仕向け先は、海外と国内に分けられる。高度な加工品と高級魚の加工品
の多くは海外へ輸出され、それ以外は多くが中国国内消費に回される。中国国内における水産物消費形
― 127 ―
態は数量ベースでは、冷凍水産物がトップで、それに次いで生鮮水産物、加工水産物となっている。そ
して、冷凍水産物(主に海産物)の主な消費主体は都市住民で、生鮮水産物(活・冷蔵)は主に高級ホ
テルや外食産業での需要が高く、加工水産物のうち高度な加工品は旅行客用に仕向けられ、塩干水産物
(主に海産物)は主として農村住民に消費されている。なお、都市部のライフスタイルの変化と都市化
の進展によって、水産物のインスタント食品も都市住民、特にサラリーマン層に好まれるようになって
いる。
(4)水産加工品の特異性
2005年において水産加工品のうち、練り製品が44.63万トンに達し、2000年の10.77万トンの 3 倍強ま
で拡大していることが分かる。また、缶詰が2005年に17.74万トンに達し、2000年の2.86万トンの 5 倍強
に相当する。中国における水産加工技術の向上を反映したものであるが、先述のように、中国の水産物
市場全体に占める加工品市場のシェアはまだ低く、その一層の振興が望まれる。
5.今後の見通し
5.1 漁業生産の今後の見通し
中国漁業は1997年を境に生産量の追求から持続性の追求へとそのパラダイムを転換させている。そ
の転換を促したのが、農業部『漁業発展をいっそう速めることに関する意見』
(国務院 3 号文書[1997]
、
以下それを「意見」と略す)である。1978年から始まった「改革・開放」政策にもとづく生産自由
化・価格自由化・流通自由化を背景に、中国漁業は急発展を遂げたが、それは同時に魚種構成の劣化、
魚体組成の小型化などの沿岸漁業資源の破壊という代償を払うこととなった。同「意見」はこのような
ことを背景に、新しい時代的要請に応えるべく漁業の持続的発展を実行する戦略方針を示し、資源管理
と環境保護を漁業管理の重点課題として位置づけたのである。
この「意見」にもとづき、1999年に中国農業部は海面漁業生産に関しては成長を求めない「ゼロ成
長」目標を設定し、翌年からは内水面の漁業生産までその対象を拡大したのである。成長目標の廃止は
これまでに有形・無形の増産圧力をかけられてきた地方の政策執行者を、史上はじめて増産第一という
ノルマから解放することとなったのである。この「ゼロ成長」政策をさらに徹底させるために、2001
年には「マイナス成長」目標が設定されるようになり、漁業生産においては資源保護のためならば生産
を減らすことも政策の選択肢の一つとして奨励されるようになったのである。
こうした政策誘導の下で、1999年を境に海面漁業の成長率はほぼゼロかマイナスに転じ、海面漁船
漁業の漁業・養殖生産に占める割合も34.54%まで低下するにいたった。他方、沖合・遠洋漁業に関し
ては、200海里体制への移行と 2 国間漁業協定の発効(2000年 6 月には日中漁業協定が、2001年 6 月に
中韓国漁業協定が、2004年 6 月には中越漁業協定がそれぞれ発効)、さらには国際的な漁業管理の強化
などによって、中国の海面漁船漁業は漁場の縮小と漁獲割当量の削減を余儀なくされてその外延的発展
空間は大きく狭められた。また本格的な新漁業秩序のために採られてきた経過的措置としての操業水域
のEEZへの編入(中韓間の過渡水域が2005年 7 月、中越間の過渡水域が2008年 7 月)が終了し、中国漁
業は縮小再編をせざるを得なくなっている。そのための「減船」政策や「転船・転業」政策が推し進め
られている。
その結果として、実際に中国の海面漁船漁業の生産量は1999年から2005年にかけて年平均マイナス
― 128 ―
0.5%の減少が続いている。「マイナス成長」政策が続くかぎり、このような減産傾向は当面続くものを
予想される。仮に今後の 5 年間において、年平均 1 %の減産が続けば、2010年における中国の海面漁船
漁業の生産量は1,594万トンまでに低下(すなわち2004年に比較して100万トン減産)することが見込ま
れる。
他方、中国における養殖業は養殖振興策や養殖技術の向上によって、1984年から1996年にかけて年
平均16.65%という高成長を続けてきたが、1997年から2005年までにかけては年平均6.78%と成長を持
続してはいるものの、そのスピードは鈍化しつつある。その背景として、養殖漁場環境の悪化や病気の
流行などを指摘することができる。養殖技術の改善や病気予防措置の強化が図られているとはいえ、現
状では魚病問題を根本的に解決できているとはいえない。
養殖漁場の開発利用率を見ると、2005年には海面利用率が65.17%とまだ開発の余地が残されていた
が、内水面の利用率はすでに86.69%に達して、それ以上の内水面養殖業の展開はほぼ不可能に近い状
況となっている。その要因の一つとして水資源問題がある。中国はつねに慢性的な水不足問題に直面し
ており、現在669ある都市のうちの61.2%が水不足に悩まされ、同時に 7 大水系の30%が汚染され、52
の主要な湖の75%は富栄養化しているという厳しい状況におかれている。内水面養殖もその影響を被
っている。
上記の要素を考慮すると、今後 5 年間において中国における養殖業の生産量が年平均 4 %台という低
成長を確保できるならば、2010年には養殖業生産量が4,060万トンに達することが見込まれる。ただし、
実際に2001年から2005年までの養殖業生産量の対前年成長率は4.15∼6.62%までの間で推移している。
このような仮定の下で、中国における漁業生産量の年平均成長率は2.4%となり、2010年の生産量は
5,654万トンに達する計算となる。ただし、これはあくまでも中国の漁業生産統計にもとづく推計であ
り、FAOの拡大統計とは若干異なっていることを付言しておきたい。
5.2 水産物貿易の今後の見通し
この20年間にわたって、中国の水産物貿易は急発展を遂げている。とりわけ1984年から1994年にか
けては輸出入数量・金額とも大幅に増加している。その後拡大のテンポは若干落ちてはいるが、成長傾
向は持続している。それに伴って、水産物貿易黒字も増えつづけている。
水産物輸出の持続的成長の背景には、三つの要素が挙げられる。1 つは、漁業生産の拡大である。中
国の水産物生産量は2005年に5,101.65万トンに達しており、世界一の漁業・養殖生産国としての地位を
キープしている。2005年における 1 人当たり年間水産物消費量は39.02kgまで上昇し、世界平均の12kg
を優に超えている。このような高い生産能力が世界に水産物を輸出する高いポテンシャルを生み出して
いる。しかし、特に海面漁船漁業に関していえば、沿岸漁業資源の破壊や沖合・遠洋漁業をめぐる国際
的規制の強化などを背景に、その供給ポテンシャルは低下しつづけている。代わってティラピア、ナマ
ズ類、エビ類などの養殖魚種による供給力は高まっている。第 2 は、加工貿易の進展である。つまり、
海外から加工技術と原材料を導入し、製品を海外に輸出する加工貿易の発展は1980年代から1990年代
にかけて拡大する中国の水産物輸出を支えてきたのである。ただし、近年ではベトナムの加工貿易政策
の推進や中国の加工貿易に関する優遇措置の見直しなどを背景に、とくに日本などの業者が加工拠点を
ベトナムなどの諸外国に求めるようになり、これまで中国水産物の輸出を牽引してきた中国の水産物加
工貿易も転換点を迎えている。第 3 は、輸出市場の拡大である。中国は2001年からWTOに加盟し、そ
― 129 ―
れによって、国際市場は全面的に中国に開放されて、輸出先市場は大きく拡大されたのである。しかし、
現在中国の水産物輸出は国際貿易におけるアンチダンピング措置の強化、技術障壁やグリーン障壁の人
為的な設置、為替レートの変動などといった諸問題に直面している。
以上のような諸側面ならびに中国国内市場の拡大を総合的に考えれば、今後 5 年間において、中国の
水産物輸出は減速する方向に向かわざるをえなくなり、数量では年平均 9 %台、金額では年平均 5 %台
という控えめな伸びになると仮定すれば、2010年では水産物輸出高は406万トン、93億ドルになる見込
みである。
他方、水産物輸入を急拡大させた背景としては以下の 3 つの要因が挙げられる。1 つ目は、国内市場
の拡大である。中国国内市場を構成する主な需要としては食用需要と非食用需要の二つがあるが、水産
物食用需要はとくに都市部を中心に、そして社会集団的消費(接待消費などを含む)を主体として拡大
してきている。また、水産物非食用需要は主に養殖業の急速な発展によるフィッシュミールの需要や畜
肉生産による家禽・家畜用配合飼料の需要を中心に拡大されている。2 つ目は加工貿易の進展である。
加工貿易の深化は中国の水産物輸入をみかけ上押し上げている。そして、3 つ目は、関税率の切り下げ
による輸入拡大である。中国はWTOに加盟して 7 年目を迎えているが、水産物輸入の平均関税率は
35%から10.5%まで引き下げられている。こうした税率の切り下げは、廉価で品質の良い海外の水産物
の国内市場への流入を促している。とくに、例えばタチウオ、フウセイ、キグチ、マナガツオ、スルメ
イカ、イカ、コイチ、ホンニベなどの中級魚については、国内生産で賄うことができなくなっているた
めに、海外からの補完輸入が進んでいる。さらに、高級魚の80%以上は輸入に頼っている状況となっ
ている。例えば、ロブスターはアメリカ、オーストラリア、カナダから輸入され、大西洋サケはノルウ
ェーから大量に輸入している。
ただし、中国においては水産物は上級財であり、食卓においては日本のような日常的なおかずの一品
としての位置づけというよりは、「ハレの日」の食材としての側面を強く持っている。そのために、価
格の高低は需要の増減に大きく影響することとなり、国際的な相場上昇は輸入減少に直結しやすい。今
後の 5 年間で水産物の国際相場の上昇が予想される中、中国の水産物輸入は数量ベースで年平均 4 %台、
金額ベースで年平均 7 %台成長すると見込むと、2010年では約378万トン、49億ドルの水産物を輸入す
ることになる。
5.3 水産物消費の今後の見通し
中国における水産物需要は大きく、①食用消費需要、②非食用需要、③輸出=海外需要、④その他需
要、に分けられる。そのうち、都市と農村住民の食用消費が消費の主役を演じている。その背景には、
国民の豊かさの実現、急速な都市化、3 大成長エリアの形成及び富裕層の出現という 4 つの要素が挙げ
られる。言い換えれば、中国の水産物消費市場に目を向ける時、次の 4 つの人口数字に特に注目する必
要がある。
1 つ目は、13億人の全国人口である。2004年の中国一人当たりGDPは1,276ドル(10,561元、100ド
ル=827.68元)に上り、1994年に比べ10年間で2.8倍増加した。年平均 8 %の成長が持続すれば、2010年
の国民所得水準は2,754ドルに達する見通しである。それは、2010年の中国の市場規模は94年の 2 倍ま
で拡大することを意味する。
中国国民は魚を高級料理として好んで消費する食文化のあることや、基本的に同じ嗜好をもつ台湾の
― 130 ―
動物性タンパク質食品の消費パターンと類似性があることから、水産物消費においても台湾の消費パタ
ーンが参考になりうる。2002年に台湾における一人当たり水産物消費量が40.3kgに達したのに対して、
中国本土における一人当たり家庭内水産物消費量はたったの8.78kg(都市部が13.20kg、農村部が
4.36kg)に過ぎない。それ故、中国本土における水産物消費の潜在力がかなり大きく、もし経済が発展
し所得が向上すれば、その消費市場は大きく成長する可能性が高い。
2 つ目は、5 億4,000万人の都市部人口である。2004年の中国都市部人口は、1994年に比べ 2 億100万
人も増加した。増加分だけで日本の総人口の 2 倍弱に相当し、消費市場に対するインパクトは大きい。
都市部における水産物消費量の全国に占める比重は、1984年の37.63%から、1994年の43.39%、さらに
2004年の61.42%へと高まっている。
3 つ目は、4 億5,000万人の 3 大成長エリアの人口である。中国では経済成長が最も進み、富裕層が集
中しているエリアは 3 つある。香港と隣接している珠江デルタエリア(広東)、長江デルタエリア(上
海、江蘇、浙江)と環渤海エリア(北京、天津、河北、遼寧、山東)であり、それらのエリアに属する
人口は約 4 億5,000万人を数える。2003年時点では人口100万人以上、一人当たりGDPが3,000ドルを超
える大都市は合計24市あり、そのうちの21市は上記 3 大成長エリア(珠江デルタに 6 市、長江デルタに
9 市、環渤海に 6 市)に集中している。
同 3 大成長エリアにおける水産物生産量の全国に占める比重は、2004年では57.31%に達している。
水産物の安定的供給が可能でその流通も相対的に発達しているため、3 大成長エリアはまさに巨大市場
そのものである。
4 つ目は、5,000万人の富裕層人口である。中国国民の平均所得水準はまだ低い(2004年に一人当た
り可処分所得は746.54ドル)が、所得格差が大きいため、富裕層も大量に出現している。個人資産10万
ドル以上の人口数は既に5,000万人もいるといわれている。物価水準の低い中国では、「10万ドル以上の
資産」という価値はきわめて高い。今後、この富裕層人口は毎年10%のスピードで増加すると見積も
られている。
2004年では、都市住民の一人当たり水産物消費における支出額は、最高所得世帯と最低所得世帯の
相対格差倍率が5.85:1 で、絶対額格差は326.33元(=393.58元∼67.25元)に達している。5,000万人の
富裕層は最高所得世帯であり、その水産物消費量は約 3 億人の最低所得世帯のそれに匹敵するものであ
る。
内需は一国の経済成長を左右する最も重要な要因の一つである。2006年からの中国における「第11
次 5 ヵ年計画」では、経済成長と国民生活水準の同時向上を強調している。これは中国経済が輸出依存
型、投資依存型成長を経て、内需依存型成長に重点を置く経済発展の戦略方針を定めたことを意味する。
こうした政策的誘導の下で、上記 4 つの要素が原動力となって、中国の水産物消費市場は拡大する方向
に向っている。
また、中国では潜在力を持つ 1 つの巨大な消費市場が存在する。それは全人口の72%を占める9.4億
人の農民(実際、農村長期居住者が7.5億人で全人口の58%を占める)からなる農村市場である。現段
階では、農民所得水準が低いため年間一人当たり水産物消費はまだ 5 kgに達せず、有効需要が生まれ
てはいない。しかし、中国では「三農問題」(農業、農村と農民の問題)が重要視されている。同問題
の核が農民問題であり、農民問題の要が所得向上問題である。現在、政府は農民の所得向上を中心に全
力を尽くし、「三農問題」の解決へ取り組んでいる。
― 131 ―
従って、これからの 5 年間でその需要は国民経済の持続的発展に従う国民生活水準の上昇を背景に、
一人当たり水産物消費量の成長率が 5 %台を維持し、2010年に一人当たり水産物消費量が13kg、全国
延べ消費量が1,820万トン(非食用需要などが含まれていない。算出に採用した2010年の全国人口数は
14億人、『中国における21世紀の人口と発展』白書による。)に達することが可能だと見込まれる。な
お、一部の地区においてみられた「鳥インフルエンザ」や「豚の連鎖状球菌」病の発生が今後も度々や
ってくれば、水産物消費量の伸び率はもっと高くなる可能性もある。実際、中国における一人当たり水
産物消費量は、1980年代後半は年平均0.48%と僅かに成長したが、1990年代に入って年平均4.78%と、
近年では年平均4.75%増の成長を維持している。
6.付属資料
中国漁業関係団体リスト
○中華人民共和国農業部漁業局(中華人民共和国漁政漁港監督管理局)
北京市朝陽区農展館南里11号 郵便番号:100026
電話番号:86-10-64192933
○中国農業部東海区漁政漁港監督管理局
上海市真北路2166号漁政ビル 7 階 郵便番号:200333
電話番号:021-57255698
○中国農業部黄渤海区漁政漁港管理局
山東省煙台市環山路73号 電話番号:0535-6226217、6223752
○中国農業部南海区漁政漁港監督管理局
廣州市中山一路50号 郵便番号:510080
電話番号:020-87663878
○中国漁業協会
北京市朝陽区麦子店街農業部北勤務区20号ビル 郵便番号:100026
電話番号:010-64194676
E-mail:[email protected]
○中国水産流通と加工協会
北京市朝陽区麦子店街40号富麗華園A座101(100026)
電話番号:(010)65067766
○上海水産行業協会
会長:湯期慶 秘書長:範守霖 系人:
電話番号:021-5521316
博浪
ファクス:021-35093467
住所:上海市江浦路10号水産城商務ビル 郵便番号:200082
サイト:www.fishery.org.cn
E-mail:[email protected]
― 132 ―
[email protected]
○江蘇漁船検査局、江蘇漁港監督局
南通市青年西路32号 郵便番号:226006
電話番号:3534205
ファクス:0513-3534220
○中華人民共和国漁業船舶検査局
中国北京朝陽区麦子店街22号ビル 郵便番号:100125
○中国水産学会
北京市朝陽区麦子店街22号ビル 郵便番号:100026
電話番号:010-64194237/38
○中国漁業互保協会(China fishery mutual insurance association )
電話番号:010-63452339
ファクス:010-63262788
E-mail:[email protected]
住所:北京市豊台区駱駝湾乙11号 郵便番号:100073
○中華人民共和国税関
電話番号:010-6519114
郵便番号:100730
住所:北京市建国門内大街6号
○中国輸出入検査検疫協会(CIQA)
北京朝陽区華厳北里府中甲 1 号健翔山庄C11
電話番号:(010)82024324
郵便番号:100029
ファクス:(010)02024324
E-mail:[email protected]
○国家品質監督検査検疫総局
住所:北京市海澱区馬甸東路 9 号 郵便番号:100088
[email protected]
○北京輸出入検査検疫局
北京市朝陽区甜水園街 6 号 郵便番号:100026
電話番号:010-58619900
○天津輸出入検査検疫局オフィス
天津市経済技術開発区第二大街兆発新村 8 号
○上海輸出入検査検疫局
住所:上海市浦東新区民生路1208号 郵便番号:200135
電話番号:38620168
○浙江輸出入検査検疫局
住所:浙江省杭州市文三路 2 号 郵便番号:310012
電話番号:0517-8995514
○広東輸出入検査検疫局
住所:広東省広州市珠新城花城大道66号 郵便番号:510623
― 133 ―
○海南輸出入検査検疫局
海口市海秀西路165号 郵便番号:570311
電話番号:0898-68633811
68662505
E-mail:[email protected]
ファクス:0898-68665671
○江蘇輸出入検査検疫局
南京市中華路99号 郵便番号:210001
○湖北輸出入検査検疫局
武漢市漢口万松園路 3 号 郵便番号:430022
E-mail:[email protected]
○中華人民共和国商務部
住所:中国北京東長安街 2 号 郵便番号:100731
業務問い合わせ電話番号:86-10-65121919
○中糧集団有限公司
住所:中国北京建国門内大街 8 号 中糧広場A座11層 輸便番号:100005
電話番号:+86-10-85006688
ファクス:+86-10-65278612
○「中国水産加工貿易企業ランキング(上位25位)
」(08.2)
1 .浙江興業集団有限公司
2 .蓬莱京魯漁業有限公司
3 .浙江省遠洋漁業集団株式有限公司
4 .栄成泰祥水産食品有限公司
5 .大連頌
子島漁業集団株式有限公司
6 .山東東方海洋科技株式有限公司
7 .徐竜食品集団有限公司
8 .中聯水産連合体
9 .湛江国連水産開発有限公司
10.威海市宇王集団有限公司
11.青島国星食品有限公司
12.煙台水星食品有限公司
13.潜江市莱克水産食品有限公司
14.大連応捷食品有限公司
15.高竜集団株式有限公司
16.中国水産舟山海洋漁業公司
17.湛江恒興水産科技有限公司
18.亜洲海産(湛江)有限公司
19.福州百洋海味食品有限公司
20.青島新大地食品有限公司
― 134 ―
21.瑞安市華盛水産品加工場
22.福健遠洋漁業集団公司
23.青島億路発集団
24.青島三洋水産有限公司
25.煙台安新食品有限公司
1.浙江興業集団有限公司
浙江興業集団有限公司輸出入本部
住所:浙江省舟山市普陀区大干
郵便番号:316101
電話番号:0580-3696778 3695015 3695624 3696673
ファクス:0580-3695597
3695619
E-mail:[email protected]
2.蓬莱京魯漁業有限公司
山東省煙台市蓬莱市経済技術開発区哈爾 路 1 号 265609
電話番号:0535-5605609
3.浙江省遠洋集団株式有限公司
住所:中国杭州市慶春路11号凱旋門商業中心27層
電話番号:86-571-87230057
E-mail:[email protected]
87230058
87230059
ファクス:86-571-87227956
サイト:http://www.zheyu.cn
4.栄成泰祥水産食品有限公司
電話番号: 86 0631 7288768
携帯電話: 13754602057
ファクス: 86 0631 7287877
住所: 中国山東栄成市石島鎮漁島路218号 郵便番号:264309
5.大連
子島漁業集団有限公司
住所:大連市中山区人民路26号人寿ビル17、18層
電話番号:0411-82659666
E-mail:[email protected]
6.山東東方海洋科技株式有限公司
住所:中国山東省煙台市莱山区澳柯 大街18号
電話番号:0086-535-6729999
ファクス:0086-535-6729191
Email:[email protected]
7.徐竜食品集団有限公司
住所: 寧
波慈渓市 山街道開発大道568号
電話番号:0086-574-63026181 63026619
ファクス:0086-574-63026182 63023579
― 135 ―
8.湛江国連水産開発有限公司
中国関東湛江経済技術開発区平楽工業区永平南路 6 号
電話番号:759-3153888、3153999
ファクス:759-3399177
9.威海市宇王集団有限公司
住所:山東省威海市漁港路40号 郵便番号:264200
電話番号: +86-631-5322940
ファクス:+86-631-5331929
7.地図
ロシア
カザフスタン
黒竜江省
モンゴル
吉林省
キルギス
遼寧省
北京市
新疆ウイグル自治区
朝鮮民主主義
人民共和国
内蒙古自治区
甘粛省
天津市
パキスタン
山西省
大連
河北省
山東省
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大韓民国
青島
青海省
陝西省
中華人民共和国
チベット自治区
四川省
ブータン
江蘇省
河南省
湖北省
舟山
浙江省
重慶市
ネパール
上海市
安徽省
湖南省 江西省
福建省
貴州省
台湾
インド
雲南省
バングラ
デシュ
ミャンマー
ラオス
タイ
広東省
広西壮族自治区
広州
香港
マカオ
トンキン
湾
ベトナム
カンボジア
― 136 ―
南シナ海
海南省
フィリピン
第Ⅱ部
第3章
タイ
山 尾 政 博 広島大学
はじめに …………………………………………………………………………………………………………139
1 .タイ水産業の動向 ……………………………………………………………………………………140
2 .水産物需給と貿易 ……………………………………………………………………………………144
3 .タイでの水産物消費動向と消費者の購買行動 ……………………………………………………158
4 .流通と市場構造の変化 ………………………………………………………………………………168
5 .タイの水産業をめぐる需給動向予測 ………………………………………………………………172
6 .地図 ……………………………………………………………………………………………………174
はじめに
タイは、東南アジアで最も早く漁業開発が進んだ国の一つであり、現在の漁業生産量は世界第10位
前後の位置にある。海面漁獲漁業の生産性が高く、沿岸漁業はもとより、沖合・遠洋漁業の発展がめざ
ましい。一方、1980年代になって爆発的に広まったエビ養殖業は、その大きな経済波及効果を発揮し
て、さまざまな関連産業の発展を促した。もちろん、周辺諸国でもエビ養殖業が発展し、重要な外貨獲
得産業に成長している。しかし、タイのように輸出志向型の水産食品製造業と一体となってめざましい
発展をとげ、世界最大の輸出国の一つに成長した国は他に類をみない。
1980年代後半からタイは、経済政策を輸入代替から輸出代替へと転換し、自国にある農林水産資源
を有効に活用する資源集約的な方向と、豊富に存在する低賃金労働力を結びつけた産業化を目指し始め
た。軽工業や食品関連など発展の初期条件が比較的整った産業へ、集中的な投資を進めたのである。ま
た、海外から資本・技術を導入しやすいよう、外資に対する投資奨励を積極的にはかった。通貨である
バーツを大胆に切り下げたこと、インフラの整備を急いだこと等の環境が整うと、海外、特にプラザ合
意後の急激な円高に直面して産業構造の転換を余儀なくされていた日本から、投資が集中した。なかで
も、農業と水産業を基盤とした食品産業は、その技術基盤がしっかりしていたこともあって、多数の日
系企業が、資本規模の大小にかかわらずタイを目指し、さながら集中豪雨的な投資を行なった。これを
機に、タイには輸出志向型の食品産業の資本と技術の集積がなされ、周辺の東南アジア諸国に比べて、
速いスピードで海外での市場シェアを拡大していった。中国が世界最大の水産物輸出国になる1990年
代終盤までは、輸出志向型食品産業におけるビジネスモデルの実験場のような役割を果たしたばかりか、
日本の外食・中食産業を対象にした業務用食材を開発・製造し、バブル経済崩壊後の日本の食料品市場
の低価格路線を支えたのである。
2005年の世界最大の水産物輸出国は中国であるが、タイはノルウェーに次いで第 3 位の輸出国になっ
ている1。東アジア周辺国はもとより域外の原料供給国を巻き込んだ、世界的な食品供給ネットワーク
の拠点の一つである。したがって、タイの漁業・養殖業、水産食品製造業の動向を調査しておくことは、
日本の水産物需給を予測する上でかなり重要な作業となる。
また、タイは魚食が一般的で、「田には米、水には魚」という古いことわざ通り、魚介類の消費量も
多い。特に、経済成長が著しい昨今、いままで以上に魚介類消費が伸びていると想像される。バンコク
を中心とする都市部では、刺身や寿司を中心にした日本食ブームが起きている。他の東南アジア諸国と
共通した食習慣をもっていることもあり、今後の行方が気にかかるところである。
本報告書の目的は、タイの水産業の最近の動向を把握しながら、東アジアの水産食品製造拠点の一つ
として、今後の水産物における需給動向を明らかにすることである。詳しくは本論で説明するが、タイ
の供給動向は、わが国の水産物流通消費に大きな影響を及ぼす可能性がある。
したがって、以下では、第 1 に、タイの漁業生産の動向と水産物貿易の動向を概略的に述べながら、
その諸特徴を明らかにする。
第 2 に、タイの水産業を特徴づける輸出志向型の水産加工業の動向について、事例を中心に分析して
みる。
1
2005年のFAO統計によると、第1位の中国の輸出額は7,674百万ドル、第2位はノルウェーの4,922百万ドル、第3位
がタイの4,474百万ドルとなっている。
― 139 ―
第 3 に、国民経済成長とともに大きな変化がみられるという水産物消費の実態について、消費動向ア
ンケート調査をもとに解説する。この調査はサンプル数が少なく、決して全体像を示すものではないが、
バンコク都市部の消費需要に現われている変化には、東南アジア諸都市の水産物消費の動向に共通する
ものがあるかもしれない。これまでの東南アジアの伝統的な食生活のパターンが、経済成長と都市化の
進展によって、急激に変化しているとも言われている。その結果、水産物を供給消費するフードシステ
ムに、大きな変化が起きている可能性がある。
タイの調査報告では、単なる需給動向だけではなく、世界の水産物輸出国であるため、やや幅広い視
点でその供給能力も含めて検討してみることにする。
1.タイ水産業の動向
1.1 海面漁業生産の推移
(1)全体の動向
タイの年間漁業生産量は350万トンから400万トン台で推移している(図 1 . 1 )。内水面による漁獲は
わずかで、全体の10%弱を占めるにすぎない。海面漁業生産の伸びがタイの水産業の成長を支えてき
たといえる。1980年代に200万トン台に達し、その後は振幅を繰り返しながらも、漁業生産量は伸びて
いった。しかし、1990年代になると生産量が停滞し始め、特に、海面漁獲漁業の水揚げ量が減少した。
一方、総生産額は1990年前後から2000年にかけて大きく伸びた。その動きをつくったのが海面養殖業
で、ブラック・タイガーを中心とする汽水域のエビ養殖業である。養殖生産量の伸びは、1994年・95
年頃からは漸増したにすぎないが、金額的には2000年まで急増している。しかし、それをピークに急
減するという激しい動きを示している。
資料:タイ水産局"Fisheries Statistics of Thailand"
図1.1
海面漁業生産の推移
― 140 ―
(2)海面漁獲漁業の動向
1993∼2003年の生産量に大きな変動はないが、魚種によっては動きがかなり異なる(図 1 . 2 )。軟体
動物(イカを除く)生産量の変動は大きく、この間に急激に増加しているが、魚類生産は、1993∼94
年を境に停滞・減少している。一方、イカ類、エビ類の生産量は持続して安定した動きを示している。
漁獲漁業の生産額は、エビの漁獲高に影響されるが、2000年を境に大きく減少している。浮き魚・底
魚とも生産量は減少しているが、生産金額はむしろ上昇している。2000年以降、漁獲金額全体が上昇
傾向にあり、これは魚類の価格上昇によるものと考えられる。
タイの海面漁獲漁業は、もともとはトロール漁業による底魚資源の開発から出発して生産量を増大さ
せたが、1980年代から90年代にかけて、浮魚を軸にした漁業への転換をはかった。特に、カタクチイ
ワシ資源の開発と利用が進んだ。軟体動物(イカを除く)の生産金額が比較的順調に伸びたのに比べ、
主に魚粉原料となるくず魚(trash fish)の金額はあまり変動していない。
軟体動物
(イカを除く)
資料:タイ水産局"Fisheries Statistics of Thailand"
図1.2
海面漁業生産量(種別)の推移
(3)経営体数の変化
タイには日本のように整った水産統計がなく、漁業経営体はもちろん漁業従事者数、さらには漁船隻
数も正確に捉えるのが困難である。漁業センサスが実施されたのは1995年、その後2000年にサンプリ
ングによる中間センサスが発表されている。推計では、全国に約 6 万 7 千経営体あり、漁業従事者人口
は約17万 9 千人である(表 1 . 1 )
。漁業経営体は減少傾向にある。
タイの統計では、漁獲漁業に従事する経営体は、「小規模漁業」と「商業的漁業」に分類されている。
小規模漁業の経営体は、漁船未所有、無動力船所有、船外機付き漁船所有、10トン未満の船内機付き
漁船所有の 4 種類で構成される。これらの経営体が、全体のほぼ90%を占めている。商業的漁業に従事
する経営体は、10トン以上の漁船を所有し、トロール、まき網、落とし網、プッシュ・ネットなど使
用する漁具・漁法によって分類される。ただ、数の少ない商業的漁業経営体が漁獲量全体の 8 ∼ 9 割を
占めるとの推計があり、典型的な二重構造になっている。
漁業経営体が数多く分布しているのは南部のCoastal Zone 3 ∼ 5 の三地域である。小規模な経営体が
― 141 ―
多く、逆に、中央部と東部のCoastal Zone 1・2 では中・大型漁船を所有する商業的経営体の割合が高
い。タイの漁場開発は、タイ湾に面した中央部から開発が始まり、しだいにマレー半島に向かって南下
していったという経緯がある。海区制限がほとんどなかったために、漁船は自由に漁場を開発すること
ができた。それが、企業的漁業の発展を促すとともに、資源の利用度を著しく高めることになった。
表1.1
タイ地域別の1990年から2000年までの漁業者、漁船数の平均
漁業世帯数・雇用労働者
(4)養殖業の動向
養殖業の中心はエビ養殖であるが、1990年代に入るとマングローブを開発する余地がほぼなくなっ
たと言われ、賃金水準等も上昇して生産コスト全体が上昇した。エビ養殖が1998年から99年にかけて
急増したのは、アジア経済危機によるバーツ安による輸出急増に刺激された生産拡大による(図 1 . 3 )
。
ただ、2001年と2002年には病気が発生したためか、生産量が急減している。この時期を境に、タイで
はブラック・タイガーにかえてホワイト系のバナメイ・エビが広く養殖されるようになった。貝類の養
殖が増えているのも大きな特徴である。その意味では、現在はタイの養殖業の転換期にあたる。集約養
殖から粗放養殖に転換する経営体、集約化をいっそう推し進める経営体、マッドクラブ(ノコギリガザ
ミ)などを大規模に養殖する経営体など、さまざまなタイプの経営体が現われている。
資料:タイ水産局"Fisheries Statistics of Thailand"
図1.3
海面養殖生産量(種別)の推移
現在、エビ養殖を中心にした池養殖に従事している業者は、約 3 万 3 千経営体あると推定されている。
数では中央部が最も多く約 1 万 4 千経営体、総面積は16万 6 千ライ(ライ:タイの伝統的な面積の単位。
― 142 ―
日本の坪のようなもの。1 ライ=1,600m2)、そのほとんどでエビ養殖が行なわれており、6 万トンの生
産が記録されている(2004年)。次いで、南部上部(Coastal Zone 4)の 7 千 8 百経営体、総面積 8 万 1
千ライ、生産量は 9 万 1 千トンである。エビ養殖生産量は2000年に31万トンを記録した後、生産量は減
少したが、2003年から2004年にかけて再び増加に転じて36万トンに達している。タイのエビ養殖業は、
1980年代に見せた急激な生産量の伸びこそみられないものの、振幅を繰り返しながらも生産は拡大基
調にある。生産性上昇の限界性が指摘されながらも、それほど停滞しているわけではない。
養殖業の特徴は、エビ養殖に代表される比較的資本集約的な経営が存在する一方、魚類や貝類に代表
される零細規模の養殖経営体が多数存在することである。ただ、零細ではあるが、ハタ養殖のように輸
出産業として発展した魚類養殖業(主に生け簀)がある2。東南アジアの魚類養殖地域の中心地であり、
香港・中国向けのハタ類活魚の最大の供給基地である。ただ、ハタは天然稚魚による養殖のために生産
量には限界があり、年間約2,000トンと推計されている。2004年12月に起きたスマトラ沖地震・インド
洋津波が、南部アンダマン海側諸県の生け簀養殖を壊滅させた事態が記憶に新しい。その後、外部から
の支援があって、養殖産地の生け簀は津波被災以前よりもかえって増えていると言われる。ハタ類は生
産過剰になり、現在はSea catfishやアカメへの魚種転換が急速に進んでいる。
1.2 内水面漁業生産の推移
タイの内水面漁業の中心は養殖業にある(図 1 . 4 )
。特に、1990年代後半から養殖業が著しく伸びた。
漁獲漁業がほとんど増大していないのとは対照的である。養殖生産額は1998年頃には一時停滞するが、
その後は生産量の伸びにほぼ比例する形で伸びていく。特徴的なことは、エビ類の生産がほとんど伸び
ていないのに対し、魚類養殖が著しく増大していることである。主な魚種は、ティラピア(Nile tilapia)、
コモンシルバー(Common silver)、スネークスキングラミー(Snake skin gourami)、ヒレナマズ
(Walking cat fish)、ゴンズイ(Striped catfish)などである。かつて内水面養殖の中心魚種であったテ
ィラピアの生産量を抜いて、ヒレナマズ(Walking catfish)が生産量第 1 位になっている点が注目され
る。
資料:FAO
図1.4
内水面漁業生産の推移
2 山尾政博・スアンラタナチャイ「タイのハタ養殖の経済構造」
― 143 ―
魚種交代も含めて、内水面養殖業が伸びている背景には、次のような事情が働いている。第 1 に、内
水面養殖業をめぐる技術革新が種苗生産はもとより給餌方法でも進み、生産性が高まっていることであ
る。第 2 は、こうした技術革新を引き起こした消費サイドの要因として、大型スーパーでの淡水魚の取
扱いが増えて、川下からインテグレーション的に生産過程へ需要増大が波及している点を指摘できる。
海産魚にしても淡水魚にしても、品質が安定してサイズが揃う養殖物を扱う動きが強くなっている。エ
ビ類の他に、ハタ、シーバス、アカメ、ナマズ、ティラピアなど、消費者が購入する主要魚種のかなり
が養殖ものである。こうしたインテグレーションに大きな役割を果たしているのがチャラーン・プカパ
ーン(CP)に代表されるアグリビジネス・養殖企業で、資本系列および契約関係にあるスーパーなど
に専属的に養殖もの、その加工品を配送するようなシステムをつくりあげている。
第 3 に、海産魚の価格水準が以前に比べて上昇しており、そのため、消費者は海産魚類に比べて価格
面で安い淡水魚を消費する傾向をみせている。淡水魚がもつ臭みなどが少なくなった点も、消費が増え
る要因になっていると言われる。
水産物市場機構(Fish Marketing Organization, FMO)が運営するバンコク卸売市場では、海産魚の
取扱量が減少しているのに対し、淡水魚は増える傾向にある。市場の卸売価格には、あまり大きな変化
はみられない。
2.水産物需給と貿易
2.1 国内消費と貿易
(1)国内消費と拮抗する輸出
統計上確認できるのは(図 2 . 1 )、1970年代から80年代前半にかけては、国内消費が中心であったが、
1980年代半ばからは輸出に回る量がかなり速いテンポで伸び始めた。1980年代後半から90年代前半に
かけては、国内消費と貿易はほぼ拮抗していた。その後は、国内消費が輸出を上回ったり、輸出が落ち
込んだりしている。全体として、国内消費は増加傾向を示している。次章で詳しく検討するが、1997
年のバーツ危機に端を発した経済危機を経ながらも、比較的高い経済成長を実現している。
(2)経済成長と消費行動の変化
1990年代のGDPの成長率は平均4.1%、2000年代に入ってもほぼ 4 ∼ 5 %の成長率を維持している。
人口は約 6 千 5 百万人、バンコクを中心とする都市部の人口が増大を続けている。2006年の家計調査で
は、全国平均の 1 か月当たりの収入は17,122バーツ、2004年に実施された調査時点に比べて14.5%の増
加になっている。もちろん、地域による所得格差は大きく、バンコクでは32,284バーツに達している。
都市部での食生活はこの間に大きく変化しており、ファースト・フードに代表される欧米の外食・中食
企業による多店舗展開がすさまじい。また、様々な種類のレストラン・チェーンの数も増え続けている。
一方、2000年に新外資規制法が施行されて、大型小売業への外国資本の投資が自由化されることに
なり3、ハイパーマーケット、ディスカウント・ショップなどの郊外型大型店舗がバンコクはもとより、
チェンマイやハジャイなどの地方の大都市にも多数立地するようになった。モータリゼーションが急速
3 バンコク日本人商工会議所『タイ国経済概況』(2002/2003年版)
、p.303.
― 144 ―
資料:FAO
図2.1
タイ水産物需給の推移
に進んだこともあり、都市住民を中心に消費行動が大きく変わり始めた。在来的な市場(wet markets)
で生鮮品を買う割合が減り、大型量販店でまとめ買いする消費者が増えている。そうしたなかで、水産
物を購入する消費者の嗜好もかなり変わってきているのではないだろうか。
次章で紹介するが、私たちが実施した消費者アンケート調査(200人)によると、消費者が魚介類を
購入する際に重視するのは、「便利さ」、「手に入りやすい」、「店でさばいてくれる」、「内臓が処理され
ている」などである。その他に、「量(豊富にある)」、「質(品質保証の有無、信頼性)」、「おいしさ」
などがある。特にスーパーで購入する層には、一般の市場で購入する層に比べて、「便利」さを追求す
る傾向が強くみられた。ほとんどの消費者は魚消費を増やすと回答しているが、増やす動機として「便
利さ」を選択する傾向にある。「価格の安さ」が次いで高く、所得が増えるなら消費を増やすと回答す
る人も多かった。
こうした点から判断すると、国内での魚消費が増えているのは、供給側の条件整備によっている。
2.2 水産物貿易の動向
(1)輸入水産物の増大傾向
国内仕向けがすべて国内消費されるわけではなく、タイは東南アジア地域で有数の漁業国でありなが
ら、1980年代後半から水産物輸入が増大している。1990年代半ばにやや減少するが、最近では100万ト
ンに近い量の水産物を輸入している。この中には、国内消費に向かうものや加工して再輸出に回るもの
が含まれる。
輸入水産物の中心は冷凍魚であり、輸入相手先は、インドネシア、台湾、日本、韓国、バヌアツなど
である。全体でみると、2005年実績で約146万トン、金額にして592億7200万バーツ(図 2 . 2 )に達し
ている。これは前年に比べ、量で16.3%、金額で15.6%の増加になっている。
魚種別にみると、ツナ類が最も多くて73.9万トン(全体の50.6%)、金額では297億4,800万バーツ(全
体の50.1%)であった。輸入量は2000年から2001年にかけて減少したあと、その後は増加傾向をたどり、
金額的には漸増している。主な輸入相手先は、台湾20%、日本16%、バヌアツ17%、韓国 7 %、モルデ
ィブとミクロネシアが共に 6 %、アセアン 6 %(インドネシアが中心)の順である。
鮮魚・冷凍魚の輸入量は54.5万トン、16億6,000万バーツ、前年比の量で 7 %、金額で11%であった。
― 145 ―
特徴的なことは、主な輸入相手先は、ASEAN域内に集中しており、量は43.34万トン、これは鮮魚・冷
凍魚の輸入量の79.4%を占める。インドネシアが最大の輸入相手国であり、32.4万トン(ASEANの
74.7%)、次いでミャンマーの10.5万トン(ASEANの24%)になっている。量的には少ないが南アフリ
カからも1.4万トンの輸入がある。
イカ類の輸入は3.6万トン、金額ベースでは24億9,100万バーツに達する。イエメンから18%、モロッ
コ13%、インド 7 %、イラン 7 %の順になっている。
資料:WORLD TRADE ATLAS
図2.2
タイ水産物輸入額の推移
エビ類の輸入は1.5万トン、金額ベースではイカ類よりも大きく、30億5,800万バーツに達している。
輸入量・額とも前年に比べて減少しているが、特徴的なことは、タイのエビ養殖がブラック・タイガー
からバナメイに急速に切り替わる中で、ブラック・タイガーをベトナム、インドネシア、マレーシアな
どから輸入していることである。量は 2 千トン弱と少ないが、今後増える可能性がある。その他のエビ
は1.3万トン、24億4,800万バーツほど輸入されている。グリーンランド、ロシア、デンマーク、ミャン
マーなどが主な輸入相手先である。
国別にみると、最も重要な輸入相手国はインドネシアであり(表 2 . 1 )、量的には全体の 4 分の 1 強
を占めている。タイのツナ缶詰・加工産業を支えているのはインドネシアであることは周知の事実であ
る。また、南部ソンクラ周辺に立地するすり身産業に、イトヨリを始めとする原料魚を供給しているの
もインドネシアである。したがって、その水産業の動向はもとより、インドネシア政府による外国漁船
の入漁政策如何によっては、原料供給基盤が揺らぐ可能性もある。
いずれにしても、タイは水産物輸入量・額とも増加させている。海外原料に依存して、加工して再輸
出する食品製造業の発展がそうした動きを加速している。その一方、1 人当たり国民所得が伸びて、都
市部を中心に魚消費の多様化が進み、サバやサケ・マスなどの輸入魚への需要が高まっている。
― 146 ―
表2.1
Fish and Seafood 上位五カ国からの輸入量
資料:WORLD TRADE ATLAS
表2.2
Fish and Seafood 上位五カ国からの輸入額
資料:WORLD TRADE ATLAS
(2)水産物輸出の推移
タイは今でこそ、中国に次ぐ世界第 2 位の水産物輸出国であるが、以前は世界最大の水産物輸出国で
あった。これまでのタイの水産物輸出の推移を時期区分すると、1980年代から1991年までは急成長期、
1991年から1996年までを停滞期、通貨危機によるバーツの大幅な下落による輸出のミニ・ブーム期が
1997年から1999年、2001年から現在までを再成長期、と特徴づけることができる。もちろん輸出の推
移には凸凹がみられる。
数量では、2000年代に入っても伸びが続き、2005年には77万 8 千トンに達した(表 2 . 3 )。金額では
2005年は800億バーツ、2002年からおよそ100億バーツ増加している(表 2 . 4 )。2002年の時点では、フ
ィレーで輸出する量が多く、次いで生鮮、甲殻類の順になっていた。2005年には、冷凍魚と甲殻類が
ほぼ同量で並び、次いでフィレー、生鮮であった。冷凍魚が 5 万 9 千トンから17万トンへと急増し、ま
た、甲殻類が11万トンから16万 8 千トンへと増えている点も注目される。逆に、フィレーは減少してい
る。金額的には、エビ類を中心にした甲殻類が400億バーツと全体の51%を占めている。各グループと
も量的には変化しているが、金額的にはあまり変化していない。
タイの輸出貿易は、金額ではエビ類が中心に伸びており、量では鮮魚・冷凍魚が伸びている。必ずし
も高付加価値なものばかりではなく、「在来的」な形の商品の輸出が増えているのが注目される。
― 147 ―
表2.3
タイ水産物輸出量の推移
資料:WORLD TRADE ATLAS
表2.4
タイ水産物輸出額の推移
資料:WORLD TRADE ATLAS
表2.5
Fish and Seafood 輸出量における上位相手国の推移
,
,
,
資料:WORLD TRADE ATLAS
(3)輸出貿易の多角化現象
輸出貿易の多角化現象は、次の 2 つの点で確認できる。
大きな変化は主な輸出相手先に現われた(表 2 . 6 )。1990年代、日本向け輸出が金額的には圧倒的な
比率を占めていた。しかし、その後、日本の比率が急速に低下し、2000年にはアメリカが日本を上回
った。2003年には、対日輸出が 3 割を超えてアメリカを引き離したが、2005年には日本とアメリカが再
び同じ割合で並んだ。地域的にみると、日本を含む東アジア諸国への輸出が増えているのが大きな特徴
である。
今ひとつは、EU輸出が増加していることである。金額ベースでも2004年から2005年にかけて、2 %
以上の伸び率を示している。品目によっては、EUの割合が急速に高まっているものがある。
数量ベースでは、2003年を除いてマレーシアがトップに立っている(表 2 . 5 )。これは、陸路で同国
― 148 ―
向けの鮮魚輸出が活発に行われていることによる。順位は低いがシンガポール向けも多い。中国・香港
向けは数量では 1 割を占めている。こうしてみると、地域別では東アジア地域の比率が高いのが特徴で
ある。
品目別にみると、甲殻類の日本向け輸出が急速にその割合を下げている(表 2 . 7 )。2000年には
27.4%であった対日輸出は、2005年には19.0%にまで低下した。一方、エビ類のアメリカ向けは45.3%
から52.5%へと増加した。タイはもともと日系水産企業、食品製造メーカーの製造拠点として、輸出志
向型水産業が発展した国である。水産食品加工業が成熟をとげて、日本以外の国への輸出に重点を移し
ている。
表2.6
Fish and Seafood 輸出額における上位相手国の推移
,
,
,
資料:WORLD TRADE ATLAS
表2.7
Crustaceans 上位5カ国への輸出額の推移
資料:WORLD TRADE ATLAS
(4)エビ輸出の動向
エビ類の輸出をみると、生鮮・冷凍エビが輸出全体の23%を占めている(2005年実績)。アメリカに
は1.2万トン(量で37%)、30億800万バーツ(金額で35%)が輸出されている。日本は第 2 位で23億
5,200万バーツ、次いで韓国、デンマークの順になっている。淡水エビ(fresh water giant prawn)の生
鮮・冷凍エビは、9,200トン、13億7,100万バーツである。量的には多くはなく、エビ類輸出の3.6%程度
である。現在の生鮮・冷凍エビの中心は、その他に分類されるものが圧倒的に多く、全体の金額の
74%に相当する。輸出量は11.8万トン、金額では278億6,600万バーツに達する。種類としてはバナメイ
種がすでに輸出の中心になっている。
エビの加工・調整品の輸出は12.2万トン、337億4,797万バーツである(2005年実績)。その中で最も
― 149 ―
大きいのがその他エビ類(not container)、量は 8 万トン、金額で223億8,900万バーツである。量・金額
とも全体の約66%に相当する。ここでもブラック・タイガーは3.6万トン、金額で100億9,075万バーツ
となり、その比率は 3 割弱と少ない。
エビおよびその製品では、2004年から2005年にかけてEU向けが増大している。これは関税率が生
鮮・冷凍で4.2%、加工品で 7 %にまで下がったことによる。なお、アメリカが最大の市場である。
(5)ツナ缶詰
2005年におけるツナ缶詰の輸出実績は36.9万トン、363億1,500万バーツで比較的好調であった。アメ
リカが最大の輸出国で、金額ベースで約23%を占めている。次いでEUが12.9%、東南アジア諸国の
10.6%と続いている。ここ数年、アフリカ、東南アジア諸国向けの輸出が増えている。
2.3 日本向け水産物輸出企業の動向
タイは日本に大量の冷凍食品を輸出しており、そのシェアは中国に次いで第 2 位である。日本は中国
から812億、タイから402億円をそれぞれ輸入している。それらがすべて水産品ではないが、かなりの
割合を含んでいる。
(1)日系冷凍食品企業 A社 サムット・サコン県
1 )1990年に設立して翌年に操業を開始。資本金は日本円で5,000万円相当、タイの有名食品製造業
グループとの合弁形態である。事実上は、日本の冷凍食品メーカーB社のタイ製造拠点である。
従業員数は約1,500人、日本人数人が派遣されている。現在稼働している工場は 2 棟、全体の冷
凍凍結能力は 1 日に300トンである。HACCPはもちろん、ISO9001も取得している。
2 )製品はB社に対するOEM供給になっている(100%)。したがって、B社の方針に従って、原料
調達から販売までを一貫して管理できる体制をとっている。主な製品は、エビフライ、アジフラ
イを中心にした未加熱冷凍食品のフライ類、加えて、たこ焼き、お好み焼き、点心、ギョーザ類、
かきあげ、中華丼等の加熱済み冷凍食品も製造している。製品の多角化をそれほど進めていない
のは、B社(事実上の親会社)に対するOEM供給に機能を限定しているためだと考えられる。
3 )タイの水産食品製造業の特徴は、自国産原料に固執することなく、海外から原料を買い付けて加
工し、それを再輸出していくプロセスを早くから確立したことにある。しかし、A社は、国内原
料が不足する時以外は、国内原料を調達する方針を維持している。養殖エビについては池買いが
理想だが、現在のところはパッカー(原料供給業者)を通じて調達している。なお、農産物につ
いては契約農家レベルで原料確認を定期的にしている。タイ国産原料の利点はパッカーを通して
も管理が容易であることと、欲しいサイズを無駄なく仕入れられること、選別コストを削減でき
ることにある。なお、水産物はソンクラを中心に買い付けている。
4 )海外原料の比率を低く抑えているのは、①B社ができるだけ生産・加工・販売での一貫体制を維
持していく方針をとっていること、②生産履歴の管理が難しい、③タイ国内原料にこだわったほ
うが高付加価値戦略をとりやすい、等の理由による。
5 )エビ原料はタイ産のバナメイ種が90%を占めている。ブラック・タイガー加工の注文があるとき
は、ベトナム産を輸入することがある。( 3 年前まではブラック・タイガーが原料の90%を占め
― 150 ―
ていた)。
6 )中国・ベトナムとの競争が激化しており、A社では、①フライ類を中心にした生産から商品の多
様化をはかる、②中国との競争を意識した製品作り(中国:最新鋭の機械を導入して、労働力を
大量投入して生産)に努め、タイでは原料の安心感と手作り感をだして付加価値を高めていく、
③作業効率の向上と合わせて衛生管理の徹底をはかる、などの方針をとっている。
(2)タイの水産冷凍食品企業 C社
1 )南部スラタニ県に1982年に設立された同社はタイ資本によるもので、当初は、イカ、キス、カタ
クチイワシ、メアジ、アサリなどの加工を行っていたが、漁獲が安定しないために、1994年頃に
養殖のブラック・タイガーを原料とする加工に切り替えた。4 ∼ 5 年前からバナメイ種への転換
が進んだ。
2 )加工場の 1 日当たりの製造能力(IQF換算)で7トン、高次加工食品を中心に製造している。製
品の中心は、寿司ネタ、テンプラ、フライ類、サラダ・シュリンプなどだが、注文によってはど
のような製品でも対応が可能である。
3 )従業員は約630人、加工部門で働く90%近くの労働者が女性、平均年齢は23∼25歳と若い。8 時
から17時までの 1 交代制で、1 日当たりの平均賃金は200バーツと、スラタニの最低賃金147バー
ツを上回っている。
4 )これまでは、エビ冷凍品(in-box)が中心であったが、アメリカの反ダンピング政策の対象にタ
イが指定されたことから、2003年頃から付加価値の高い製品の製造に切り替えた。IQF製品を中
心にした製品、特に寿司ネタ等を製造している。
5 )養殖エビの集荷は、同社の株主が所有する県内の養殖池、そして、一般養殖場から買い付けてい
る。ブローカーを介して買い付けることもある。自社所有の養殖池はない。
6 )輸出先は、以前は日本とアメリカがほぼ同じ割合であったが、現在は日本が75%、アメリカが
10%と対日輸出の割合が高い。日本向けではIQF製品でないと競争できない。パン粉製品につい
てもここ 2 ∼ 3 年は、中国やベトナムとの競争が激しくなっている。
7 )日本には商社を介して輸出しているが、需要者としては大型量販店の割合が高い。その他には、
レストラン・チェーン、回転寿司チェーン、再加工業者などが取引相手となる。
8 )日本向けでは製品の企画設計を発注者がするのが一般的だが、アメリカ市場向けでは、価格に応
じてC社が提案している。なお、日本食でリジェクトされた製品を国内でさばくブローカーがい
る。また、日本には輸出しないが、スシの全凍結製品も製造している。
9 )販売計画としては、EU向けを増やすことを考えている。EU市場では旧植民地国に対する特恵関
税が削減されており、ベトナムなどとも競争できる条件がでてきている。小売店への直接販売が
できる資格を取得するなどして、高付加価値製品の輸出を増やす意向をもっている。また、労働
生産性をあげ、経費を削減する努力をしている。
(3)タイの総合水産食品企業 D社
1 )南部のソンクラ漁港近くに立地する大規模な水産加工総合企業であるD社の設立は1964年、魚粉
工場からスタートした。1984年にすり身加工を開始し、現在は、冷凍食品全般にまで業務を拡大
― 151 ―
している。従業員数は約2,500人、うち900人がすり身部門で働いている。なお、工場は 2 交替制
である。
2 )すり身工場の原料処理能力は 1 日当たり200トンだが、現在は100∼150トン当たりで処理してい
る。1 日当たりの商品生産量は40∼50トンである。すり身の他に、カニカマ、フィッシュ・トー
フ、ルークチン(すり身・ボール)、すり身を用いたフライ類、フィッシュ・チップス等の商品
を生産している。すり身とすり身製品の割合は半分半分である。すり身製品の生産が増えたのは、
カニカマの生産を始めてからである。
3 )すり身原料魚は、イトヨリ、エソ、カタクチイワシ等であるが、その 8 割はインドネシア海域で
漁獲したものである。ソンクラ漁港には、インドネシアに合弁形態で入漁許可をもつトロール船
が多数所属しているが、それらの船から漁獲物を受け取った運搬船が毎日水揚げしている。自社
では操業していない。原魚は船上で 1 次選別し、漁港で第 2 次選別がなされる。残りの原魚は主
にラノン漁港から陸路で送られてくる。
4 ) 1 か月の輸出量は生産量の半分の600トン程度、仕向け先は日本、中国、台湾が中心であるが、
ここ 2 ∼ 3 年は中国と台湾の割合が増えている。またEU輸出も増加している。香港はチクワ、
台湾はフィッシュ・トーフ、シンガポール及びマレーシアにはフィッシュ・チップなどのフラ
イ類が輸出される。
5 )現在、インドネシア海域での外国船籍の無許可操業の取り締まりが強化されており、また、同国
はすり身加工業を奨励しているために、原料確保が難しくなりつつある。さらに、最近の石油価
格の上昇によって原料価格が押し上げられている。
(4)タイの水産食品製造企業の動向と戦略
タイの水産食品製造業はすでに総合食品メーカーとして脱皮している企業が多く、付加価値の高い業
務用食材や家庭用の調理済み冷凍食品の製造を盛んに行っている。日本はもとより、アメリカやEU向
けに輸出する企業は多い。特徴的なことは、1990年代に入り、海外から大量に安価な加工原料を輸入
し、加工してから再輸出する食品製造ビジネスが急速に成長したことである。これは、輸出産業に対す
る投資奨励と、一定割合以上を再輸出する場合には、輸入原料を無関税で扱うという制度を活用したこ
とによる。保税区型・再輸出水産加工業と性格づけることができる。海外から買い付けた安価な原料と
国内の低賃金労働力を大量に投入して、近代的で衛生的に管理された大規模工場で労働集約的に高付加
価値製品を作るというものである。このビジネス・モデルは、国内での原料確保が次第に難しくなった
ことに対応したものでもあるが、自国には豊富なツナ資源を持たないにもかかわらずツナ缶詰産業が成
長して、世界最大の輸出国になったという成功体験が普及したものである。
これを機に、タイは世界各地から水産加工原料を輸入するようになった。また、東南アジア周辺国の
競争相手に大きく水をあけた。そうした動きを背景に、タイには東南アジア最大の総合食料品産業の拠
点が形成された。
もちろん、日本という巨大な食料品輸入市場に近接している中国が、同じビジネス・モデルを採用し
た時点で、タイに拠点を構えていた企業の多くがその製造拠点を中国に移したことは言うまでもない。
しかし、これまで集積された水産食品産業および総合食料製造業の資本と技術により、タイは今でも中
国に次ぐ競争力を誇っている。中国の生産力は圧倒的だが、そこに投資を集中し、輸入を完全に依存す
― 152 ―
ることによるリスクは大きい。そのため、中国から再びタイに生産拠点を戻す企業もある。
中国に比べて低賃金労働力の確保がネックになるとの指摘があり、事実、賃金水準は上昇している。
しかし、水産加工の一大拠点になっているマハチャイ(サムット・サコン県)周辺では、タイ人労働者
に代えて、ミャンマー人を中心とした外国人労働者を大量に雇用する現地企業が増えている。
(5)タイでの「買い負け」現象
マスコミ等によっても喧伝されている、海外水産物市場での日本企業による「買い負け」現象は、実
は、タイではかなり早くからみられた。「買い負け」というよりも、輸出企業の多くが、水産物価格が
低迷する日本市場に見切りをつけて、アメリカやEU、さらには香港・中国・台湾・韓国などの東アジ
ア諸国や中近東の市場開拓の努力をしていた。輸出の多角化であり、マーケティングの「日本通過(ジ
ャパン・パッシング)」として特徴づけられる。
当初、この動きは日系の水産加工企業ではそれほど顕著ではなかったが、タイ資本の水産加工企業で
は急速に広がっていた。それが対日輸出比率の急激な低下となったのである。
今では、日本を主要な輸出先とする日系水産企業は、日本市場への輸出価格に見合う原料魚を確保で
きなくなっている。原料価格の上昇を製品価格に転嫁できないために、原料魚の買い付けを控えている
というのが実情である。もちろん、石油価格の高騰に伴なう全般的な物価上昇の影響を受けていること
は容易に推測される。
2.4 周辺貿易の拡大傾向と南部タイの漁業
(1)南部タイにみる鮮魚輸出の実態
貿易統計で確認したように、水産物貿易を数量ベースでみると、隣国であるマレーシアが最大の輸出
相手先になっている。市場規模としては小さいが、シンガポールも重要な相手国であり、タイがマレー
半島南部に対する供給基地になっているのがわかる。量的には香港、韓国、台湾、中国といった周辺東
アジア諸国への輸出の比率も高い。金額的には、規模の大きな水産加工業や食品企業が輸出貿易に貢献
する割合がきわめて高く、これらは先進国の食料市場が形成するフードシステムと深く関わっている。
一方、周辺国、特にマレー半島や香港・台湾等への輸出は、生鮮・冷蔵、それに簡単な加工品であるこ
とが多く、輸入量に占める割合も大きい。こうした貿易は、第二次大戦以前から盛んで、取り扱う品目
も在来品が中心である。周辺貿易のかなりの部分は、品目においても、歴史性においても、地域漁業へ
の影響においても、その性格を「在来型」と呼べる(図 2 . 3 )4。
この在来型貿易は、タイ南部の主要水揚げ基地では、きわめて重要な経済活動である。まき網漁業を
中心に、トロール漁業や小型沿岸漁業で水揚げされた水産物のうちサイズが大きい魚類、比較的質のよ
いものが、氷蔵ボックスに入れられて輸出される。
アンダマン海側では、マレーシア国境のサトーンからミャンマー国境の県であるラノンまでが、マレ
ー半島に向けた陸路輸出圏内に入る。タイ湾側では、同じく隣接するナラティワット県からナコンシー
タマラート県、スラタニ県くらいまでが圏内に入る。このように、南部諸県では、バンコク大都市市場
圏には向かない市場流通圏が形成されている。
4
在来型水産物貿易の特徴については、山尾政博「東アジア巨大水産物市場圏の形成と水産物貿易」、漁業経済研究、
第51巻第 2 号、15-42、2006年。
― 153 ―
図2.3
国境貿易(在来型貿易)の特徴
(2)ソンクラを拠点としたマレー半島輸出
マレー半島輸出では、拠点基地に一度荷が集まり、その後輸出されるという形を必ずしもとっていな
い。大きな水揚げ基地であれば、直接ソンクラ県のサダオ(国境のある郡)を通ってマレーシアおよび
シンガポールに配送される場合が多い。そうでない場合は、ソンクラ漁港、ないしはハジャイ市を経由
して国境を超えていく。かつては、両地域が大きな中継基地だったが、現在では高速交通網が発達した
関係で、各地で直接ルートができあがっている。
ソンクラ漁港は、トロール漁船を中心に、まき網漁船による水揚げ量も多い、タイでも最大規模の漁
港である。水揚げをマレーシアの各都市、シンガポールに向けて輸出している。ここでは、マレーシア
向けは主にトロール漁業で漁獲された魚種、シンガポール向けはまき網漁業で漁獲された大型の浮魚類
が中心になっている。なお、マレーシアに輸出される魚種は多種類にわたり、仕向け地によって魚種は
かなり異なっている。ソンクラ漁港からサダオ経由でマレーシアには 1 日、シンガポールまでは 2 日か
かる。梱包は、簡単なクーラーボックスを使っているが、長時間の陸送には耐えられる。
(3)周辺貿易・在来型輸出の特徴
従来からの言い方をすれば、国境貿易という表現のほうが適切かもしれないが、今日的には、産地の
周辺国・地域への日常的なマーケティングと捉えておいたほうがよい。以前に比べ、国境措置は低くな
り、交易の広がりと深さは国境周辺にとどまっていない。マレーシアの諸都市やシンガポールにとって、
タイ南部の水揚げ基地は国内の産地とほぼ同じ機能をもっている。貿易というよりは、ある国の都市の
卸売市場と別の国の産地との結びつきであったり、出荷業者と荷受業者との取引であったりする。
そうした貿易の特徴は、第 1 に、扱っているものは高次な加工製品ではなく、生鮮や塩干もののよう
な在来商品である。第 2 に、多グレード、多段階選別によって、仕向け先を絞り込んでいることである。
選別作業に大量の労働力を投入しているのが大きな特徴だが、アンダマン海側はもとより、多くの水揚
げ基地で、ミャンマー人を低賃金で雇用している。第 3 に、タイ側の輸出業者の規模は大小様々であり、
― 154 ―
業者のタイプも色々である。
ソンクラ漁港を例にとると、「ペープラー」と呼ばれる荷受業者が、登録・未登録含めて150業者い
る。大きなペープラーは何十隻ものトロール漁船との間で、一種の前貸し関係を結んで、排他的に水産
物を集荷している。この中には、輸出に従事している業者もおり、直接にマレーシアやシンガポールに
水産物を移送している。一方、漁船主との間に直接的な関係がなく、ぺープラーを通して特定魚種のみ
を買い付けて輸出する業者、輸出業に特化した業者もいる。場合によっては、図 2 . 4 に示したように、
ペープラーからではなく仲買を通して仕入れることもある。ソンクラ漁港には、現在、輸出業に従事し
ている業者が30社ほどあるが、輸出業者の数は減少していると言われる。
図2.4
ソンクラ漁港にみる輸出チャネル
(4)鮮魚輸出業者S社の場合
ソンクラ漁港でマレーシアとシンガポールに鮮魚輸出を行っているS社は、輸出業に 5 年前に参入し
た、比較的新しい会社である。S社の特徴は、マレーシアに加えて、ソンクラ漁港からはあまり輸出量
がないシンガポール市場にも力を入れていることである(表 2 . 8 )
。
取り扱い魚種は、サワラなどの白身の魚が中心である。マレーシアにはトロールの漁獲物を対象に買
い付けて、サワラ、タイ、エイなど、白身魚を中心に輸出している。4 ∼ 5 都市に送っているが、それ
ぞれ出荷する魚種が違う。ソンクラ漁港はマレーシアに近く、せいぜい 3 ∼ 6 時間程度で出荷できる。
梱包は簡単なプラスチックのケースに特殊なシートを敷いて魚を入れ、その周りに氷を投入して、氷で
いっぱいになった上にビニールシートと木を打ちつけているだけである。取引は市場価格によるが、基
本的には相対で決まる。
一方、シンガポールには、まき網漁獲魚種、特に、サワラ類(Spanish king mackerel)のような高級
魚・大型魚を輸出している。トラック輸送では12時間程度かかる。魚は100キロ容量のプラスチックの
頑丈な保冷ケースに入れられている。
両国とも卸売市場にいる荷受けが取引相手で、電話で注文を受けて目安となる価格を決定するが、シ
ンガポールの場合は、最低取引価格が提示されるため、取引としては信頼がおけるとしている。一方、
マレーシアの場合は実際の価格との差が大きく、支払いをめぐって業者とのトラブルが多い。シンガポ
ールは、取引から 7 日後に入金されるため、S社の場合は、シンガポールへの輸出を選好している。
― 155 ―
表2.8
S社 マレーシア、シンガポール向け輸出の比較
(5)マレーシアの荷受業者(アロースター市)
ソンクラのS社は、ケダ州の州都アロスターにあるペンボロング公設市場にいる荷受業者Wとの取引
がある。同市場にいる荷受業者の中には、輸入鮮魚・冷凍魚のみを扱うものがおり、1952年に設立さ
れたW社はその一つである(図 2 . 5 )。W社はタイ産の鮮魚を中心に扱っており、ソンクラ(ソンクラ
県庁所在地)、ハジャイ(ソンクラ県)、プーケット、ラノンから集荷している。マレーシア産は量が
少ないため一切扱っておらず、タイ産の大型魚を扱う。なお、中国産の冷凍魚も扱うが、これはタイ経
由で入ってくる。
タイからの輸入魚の買付価格は、市場取引価格に連動させて相対で決めるが、シンガポールのように
最低価格の提示はしていない。精算代金は 1 週間分をまとめてタイに送金している。運送費用等は全て
タイの輸出業者の負担となる。輸出業者との会話は主に潮州語を用いていることからもわかるように、
新規取引の場合は潮州系を中心とする華人ネットワークを通じて紹介される。
図2.5
タイのソンクラ漁港とマレーシア市場
― 156 ―
マレーシアの鮮魚市場には、W社のようにタイ産の輸入魚を大量に扱う公設魚卸売市場の荷受業者が
多数存在する。タイ南部の漁業がいかに深くマレーシアやシンガポールの水産物市場とかかわっている
かがわかる。
2.5 カタクチイワシ漁業の拡大と周辺貿易
(1)カタクチイワシ漁の系譜
タイ水産業を特徴づけている漁業のうち、周辺貿易と大きく関係しているのが、カタクチイワシ類を
主な漁獲対象とする浮き魚漁業である。浮き魚の年間漁獲量87.8万トンのうち、カタクチイワシ類はイ
ンドゴマサバとほぼ同じ量の16.3万トンの水揚げがある。漁獲量は1980年代前半頃から著しく増大した
と言われるが、特に1990年代以降の伸びが顕著である。カタクチイワシ資源は、ラヨン、チャンタブ
リ、トラッドなどの東部地域、プラチュアップキリカン、チュンポンからスラタニに至る南部地域に多
く分布する。カタクチイワシと言ってもその種類は多く、タイ湾側では12種類、アンダマン海側では 9
種類が確認されている。ただ、水揚げ量の80∼90%はShort head anchovy(Stolephorus Heterolobus)であ
ると推計されている。
カタクチイワシ漁には様々な漁具・漁法がある。かつては地曳き網やポーと呼ばれる定置網での漁獲
量も多かったが、現在は、まき網、落とし網、棒受け網等による漁獲が大半を占めている。なお、棒受
け網などの漁船は、イカ漁業を兼ねているのが一般的である。カタクチイワシ漁は1990年代になって
急激に広まったが、アジ類を始めとする有用魚種の稚魚を相当に混獲していた。その結果、沿岸零細漁
民の間で、その規制を求める動きがあり、特に、集魚灯を使って沿岸域で操業するまき網船の排除を望
む声が強くなった。現在は、夜間に集魚灯を用いて行うまき網漁業は禁止されている。
(2)カタクチイワシの利用
カタクチイワシは、タイ料理の調味料として欠かせない、ナンプラーと呼ばれる魚醤の原料として広
く利用されている。東部のラヨン及びチャンタブリには、古くから操業を続ける零細な魚醤工場が多数
ある。現在は、サムット・サコン、サムット・ソンクラムなどの大規模工場で製造されることが多い。
推計で 5 ∼ 6 万トンが魚醤の原料として、11∼12万トンが塩干加工に用いられている。
塩干加工される魚種はカタクチイワシ以外にも多く、他のイワシ類(sardinellas)が含まれている。
ボイル施設を備えた船もあるが、沿岸での操業が中心であるため、水揚げされるとただちにボイルされ
る。機械乾燥は少なく、ほとんどが天日干しとなる。干す時間は季節や天候によって変わるが、だいた
いは 1 ∼ 2 日である。
(3)カタクチイワシの流通と貿易
塩干し加工されたカタクチイワシの相当量が輸出されている。塩干ものの輸出金額は、2005年には
24億バーツと、輸出総額の 3 %にすぎない。しかし、輸出量は、2002年の 2 万 9 千トンから2005年の 6
万 4 千トンへと、2.2倍以上に伸びている(図 2 . 6 )。カタクチイワシが、このうちの何割くらいを占め
るかは推計できないが、相当量が輸出されていると思われる。聞きとりによると、主な輸出先はマレー
シアである。同国への鮮魚輸出ルートと同じように、塩干ものの輸出チャネルが存在している。スリラ
ンカ、次いで台湾などへの輸出割合が高い。最近では、ロシアやエストニアへの輸出が活発になってい
― 157 ―
る。
カタクチイワシの塩干ものについては、台湾や韓国などへの輸出が盛んで、最上級のシラス干しは主
に日本向けとなっている。このシラス干しを集荷するルートは、塩干ものの流通チャネルと異なってい
るのが一般的である。小さい容量ながら冷凍庫を備えた産地仲買業者が対応している。
なお、シラス干しを扱う日系企業や現地の輸出企業のなかには、インドネシアからシラス干しを輸入
し、最終選別後にパック詰めにして、日本に輸出している企業がある。
資料:タイ水産局
図2.6
Fish Dried, Salted etc. の上位 5 カ国への輸出額の推移
(4)一村一品運動による加工品作りの広がり
ここ 5 ∼ 6 年、タイでは「一村一品運動(One Tambon, One Product)」5 が各地で盛んになっている。
カタクチイワシ資源は比較的広範囲に分布しており、南部および東部の海岸部では、塩干ものを用いた
加工品が作られている。そういった加工品は、地域内で開催される定期市、近隣の消費市場で販売され
ている。最近、各地の漁村で少人数からなる女性グループが設立されて、伝統的な加工品作りを、商業
ベースで行う努力をしている。中には、販売ルートを地域内に限らず、広く加工品を流通させているグ
ループもある。直販所を開設して、地域住民はもとより、観光客などへの販売を増やすグループもある。
さまざまな試みがなされる中で、
カタクチイワシの加工品に対する国内需要が増えていると予測される。
3.タイでの水産物消費動向と消費者の購買行動
3.1 水産物消費の推計
東アジア各国の水産物供給量とタイ
図 3 . 1 は、東アジア各国の 1 人当たり水産物供給量を示したものであるが、タイは供給量中位グル
5
Tanbomとは、タイ地方行政の最末端の行政単位を示している。英語では、“sub-district”と訳している。いくつかの
Tanbomが集まって、郡を構成している。
― 158 ―
ープに位置している。1990年代前半から中盤にかけて増加し、それ以後は、漸減・横ばい傾向を辿っ
ている。
今、タイの水産局が示している国内供給量(国内生産+輸入)をもとに国内消費量を推計すると、図
3 . 2 のようになる。1990年には19.8kg、1996年31.7kg、経済危機の年の1997年は25.6kg、その後回復し
て2003年には35.4kgになっている(数値は供給量をもとに算出している)。かなり大きな振幅で推移し
ているが、趨勢的には上昇している。
資料:FAO
図3.1
東アジア各国の一人当たり水産物供給量
資料:タイ水産局"Fisheries Statistics of Thailand"
図3.2
タイ水産物国内消費の推移
― 159 ―
(1)1人当たり水産物消費量と支出額の推計
次に 1 人 1 日当たりの水産物消費量の推計をもとに、世帯当たりの消費量および消費金額を推計して
みる(表 3 . 1 )。タイでの 1 人 1 日当たり水産物消費量は75.9グラムと推計されている(タイ厚生省の
資料による)。1 世帯あたり家族人数は4.71人、単純に計算すると世帯あたりの 1 日消費量は357.5グラ
ムとなる。1 月の 1 世帯当たりの消費支出に占める食費の割合は約32%、1 日当たりに換算すると152.7
バーツ、そのうち水産物には23.7バーツが支出される(食費に占める割合は15.5%)。これらはラフな
推計値であり、実際には地域や所得によって、消費量や消費金額には大きな差がある。
表3.1
水産物消費量と消費金額の推移(2005年)
1人1日あたりの水産物消費量
75.9 グラム
1月の1世帯あたり消費支出
14,316 バーツ
食費の割合
32 %
152.7 バーツ
1日の1世帯あたり食費
5.0 バーツ
1人1日あたりの水産物消費額
4.71 人
1世帯あたりの世帯員数
1世帯あたりの消費量
357.5 グラム
1世帯あたりの水産物消費額
23.7 バーツ
15.5 %
食費に対する割合
(資料)国家統計庁「家計消費調査」(タイ厚生省による調査結果)
(2)主に消費されている魚種
1 人 1 日当たりの水産物消費量75.9グラムは全国平均である。なお、ここで参照する統計数値では、
鮮魚も加工も区別していない。その内訳を淡水魚と海産魚にわけると、淡水魚が38.3グラム、海産魚が
37.6グラムとほんのわずかだが、淡水魚の消費量が多い。もっとも、淡水魚で消費されている種類はそ
れほど多くはなく、ティラピアが11.7グラムで淡水魚全体の30.5%を占めている。次いで、Snake-head
(ライギョ)の11.2グラム、Cat fish(ナマズ)の9.6グラムと続く。この 3 魚種の消費で全体の85%を占
める。なお、ライギョの塩干ものの消費が1.7グラムある。
一方、海産魚のほうは、消費される魚種がかなり分散している。国民魚といわれるIndo Pacific
Mackerel(グルクマ;タイ名はプラトウ)が最も多いが、それでも8.9グラム、海産魚全体の24%程度
である。次いで消費量が多いのは、イワシの缶詰の5.1グラムとなっている。その他に、Spanish King
Mackerel(サワラ類;タイ名はプラ・インシー)の4.6グラム、イカの3.0グラムがある。カニカマの2.3
グラムが目を引くが、これに他のすり身商品を加えるとすり身類全体の消費量は多い。
タイのように、海面漁獲漁業および養殖業が相当に発展している国でも、淡水魚の消費量が多い点が
注目される。その理由として、海面漁獲漁業が発展して漁獲量が伸びる以前は、淡水魚中心の魚介類消
費であったので、今日でもその消費が盛んである。また、淡水魚と海産魚の価格水準の違いも指摘され
る。淡水魚で最もよく消費されるティラピアは、バンコクでのキロ当たり平均卸売価格は40バーツ、
ライギョは80バーツである。海産魚で消費量が最も多いプラトウは平均価格30バーツと低いが、その
他の海産魚のなかにはキロ当たり100バーツを超えるものが多い。価格面に加えて、淡水魚 3 種類とも
養殖ものであり、購入のしやすさもある。
― 160 ―
3.2 バンコク消費者調査の結果
(1)消費調査の目的と対象
調査の目的は、バンコク都市住民の水産物消費の実態を把握することであり、具体的な課題は、消費
パターンを抽出し、それを規定する諸要因を分析することにある。一般の小売市場 2 か所とスーパーマ
ーケット 2 か所にて、平日と休日の 2 日間づつ25人を対象に簡単なアンケートを実施した(表 3 . 2 )。
アンケートの主な対象は主婦で、合計サンプル数は200人である。
質問項目は、1)水産物消費の頻度、2)水産物の購入状況、3)購入理由、というように大まかに三
つにわけ、さらにそれぞれを小項目に分けた。なお、このアンケート調査は、タイ水産局水産経済課に
委託して実施した。一般市場およびスーパーマーケットとも、客層は女性中心で、年齢は30∼50歳代
と幅広く、教育水準が高く、高卒以上が大半を占めた(表 3 . 3 )
。
自宅から魚を購入する場所までの距離は、平均7.3kmであるが、一般小売市場までの距離は平均
5.6kmと比較的近い距離にある(表 3 . 4 )。一方、スーパーマーケットの場合、客の自宅からの距離は
8 kmを超え、10km以上離れた場所から来る客が21.5%いた。これは、百貨店に併設されたスーパーと
いう性格から来ているとも推測できるが、すでに述べたように、外資系小売業のタイ進出が盛んになっ
ており、郊外型大型店舗の数が急増していることから考えると、これは一般的な傾向であると思われる。
1 世帯当たりのひと月の収入は 5 万バーツ以下が全体の70%を占め、そのうち 3 万バーツ以下が40%
になる(表 3 . 5 )。ただ、スーパーで購入する世帯の月当たりの収入は、一般小売市場で購入する世帯
に比べて高い。一般市場のサパーンマイ市場では、68%が 3 万バーツ以下、バンケー市場でも44%がこ
の層で占められる。一方、スーパーのバンケー支店では 3 ∼ 5 万バーツの層が50%となっている。ウガ
ムオンワン支店では 3 万バーツ以下層が40%であるが、3 ∼ 5 万バーツの割合も32%と高い。百貨店に
併設されている大型スーパーという性格から、こうした所得分布の違いが現われたのであろう。
平均世帯員数は4.21人、就労人員数は平均で2.32人であった。バンケー小売市場で世帯人数が最も多
かった一方、スーパーで最も少なかった。子供が手を離れた夫婦などが多く、魚介類の質の良さを求め
て購入する傾向があることも予想される。
表3.2
アンケート調査実施場所の概要
ウガムオンワン支店
― 161 ―
表3.3
アンケート回答者の構成
表3.4
表3.5
購入場所までの距離
回答者の世帯情報
― 162 ―
(2)食事をとる場所はどこか?
魚介類の消費傾向を質問するにあたり、食事をとる場所についてたずねた(表 3 . 6 )。タイは、他の
東南アジア諸国に比べて、食費支出に占める外食・中食比率が高いと言われている。平日では、朝食を
自宅でとる人の割合は58.8%と高い。昼食は外でとるという人が圧倒的に多く、逆に夕食は自宅でとる
人が64.6%になる。これが休日になると、朝食・昼食ともに自宅である割合が高くなるが、それでも半
数以上の人が昼食を自宅外でとっている。夕食は自宅でとる人が、平日よりもほんの少しだが少なくな
る。特徴的なことは、昼食は職場周辺で、夕食は自宅以外ですます、つまり外食する人の割合がかなり
高い点であろう。こうした食事のパターンは、当然ながら魚介類の消費に少なからず影響を与えている。
この点は後に詳しく検討する。
なお、調査地によって、食事をとる場所の割合が多少違っていた。例えば、スーパーのバンケー支店
で回答した人の 8 割以上が、平日も休日も自宅で食事をとると回答している。他の 3 か所では、50∼
60%台にとどまっているのと比べると、特徴的であった。しかし、今回の調査ではその要因を詳しく
分析することはできなかった。
表3.6
自宅で食事をする頻度
(3)水産物消費の実態
まず、アンケート結果から、全体の動向を明らかにしておこう(表 3 . 7 )。1 人が水産物を消費する
回数は、1 週間あたり14回となる。自宅にて料理する回数が8.3回、総菜などを外で買って自宅で食べる、
いわゆる中食形態が4.53回、外食では1.17回となる。回数から判断する限り、中食形態で食べる人の割
合が高い点が注目される。結果として、水産物を自宅で食べる回数は12.8回になり、その比率は91.7%
と圧倒的である。外食として食べるのはせいぜい 1 回程度にすぎない。
表3.7
水産物消費の形態(内食、中食、外食)
水産物の消費量の推計は、1 世帯当たりで内食として1.42kg、中食で0.56kg、外食では0.42kgとなり、
合計で週に2.40kgになる。1 人当たりに換算すると0.57kg/週である。これを 1 年間の消費量に直すと、
29.64kgになる。この数値は、既述の水産局が調査した数値とかなり離れているが、バンコクではこの
程度ではないかと推計される。
スーパーで魚介類を購入する人と、一般小売市場で購入する人とを比べると、一概には言えないが、
― 163 ―
スーパーの方がやや外食の比率が高い。特に、バンケー支店での買い物客は、外食の回数が約12%で
ある。ただ、ウガムオンワン支店では、7.8%と低かった。
(4)消費量の推計と魚種
きわめて大雑把な推計ではあるが、1 人当たりの週間消費量は2.40kg、その内訳は海産魚が1.64kg
(68.3%)、淡水魚0.76kg(31.6%)となっている(表 3 . 8 )。アンケートを実施した場所によって、多
少違いがある。一般小売市場のバンケーでは、消費量は1.98kgと少なく、逆に、サパーンマイ市場では
2.84kgと多くなっている。スーパーマーケット間ではそれほど大きな差がみられなかった。
表3.8
週当たり・年当たりの1人当たり消費量
ウガムオンワン支店
海産魚と淡水魚との区別でみると、水産局が行った消費調査資料に比べて、海産魚の割合が高い。バ
ンコクの消費者は、海産魚を好んで食べる傾向がある。また、外食で主に食べられるのは海産魚である。
この傾向は 4 か所とも同じであった。
次に、消費者がよく食べる魚種について、海産魚、淡水魚の区別なく聞いてみた。
アンケートでは、複数回答でよく食べる魚種を選んでもらった。全体としては、海産魚が好んで食べ
られている。最もよく食べる魚種は、海産エビの13.4%、それに淡水魚のティラピア(イズミダイ)の
13.4%である。次いで、イカの12.3%、Indo Pacific Mackerel(steamed)の12.1%、スズキ(Sea bass)
の11.9%と続く。ただ、生鮮および蒸しグルクマを合わせると、国民魚と呼ばれるグルクマがよく食べ
られている。なお、海産エビの種類はブラック・タイガーないしはバナメイが中心であろう。
わずか200人ほどのアンケートから、消費傾向をよみとることは難しいが、FMOが運営するバンコク
卸売市場の担当者や卸売業者等からの聞きとりから判断しても、以下の特徴が挙げられる。
第 1 の特徴は、海産魚ないしは淡水魚を問わず、養殖ものの比率が著しく上昇している点である。海
産エビではブラック・タイガーかバナメイが消費の中心であり、チャブアイと呼ばれるホワイトやバナ
ナは少ない。スズキ(シーバス)はまず100%が養殖魚であるし、消費者がよく食べる淡水魚の人気魚
種のほとんどは養殖魚である。
第 2 の特徴は、淡水養殖魚類の消費が急速に増えていることである。ティラピア(ナイル・ティラピ
ア)にレッド・ティラピアを加えるとその割合は16%に達する。流通業者によると、消費者がティラ
ピアを好むのは、①味がよい、②料理が簡単、③さまざまなメニューに利用できる、などの理由からで
ある。加えて、価格面で海産魚介類に比べて安い点も大きな理由であろう。
― 164 ―
第 3 に、これも数値からだけでは判断がつかないが、これまで大衆魚といわれてきた魚種(サバ類、
プラトゥなど)の消費が減少していることが指摘されている。鮮魚と蒸し魚を合わせると、よく食べる
魚のトップ、約19%近くを占めている(表 3 . 9 )が、バンコク市場の卸売価格は上昇しており、入荷
量も減少している。
表3.9
よく食べる魚種
以上のことより、最近、消費者の魚種選択に大きな変化が起こっているのではないだろうか。
(5)一般小売市場とスーパーマーケットでの魚種の違い
消費者がよく食べる魚種について、一般小売市場とスーパーマーケットで聞くと、いくつかの違いが
ある(表 3 .10)。まず、スーパーマーケットのほうが海産魚の割合が高く、一般小売市場では淡水魚の
割合が高いという特徴をもっている。海産魚の中で違いが出てくるのは、エビ類の購入割合である。ス
ーパーでの回答者の方が、よく食べる魚種としてエビを挙げる。一方、一般小売市場では、ティラピア
やナマズといった淡水魚の比率が高いのが特徴である。海産魚のエビやイカの比率は低い。
すでに見た、小売市場とスーパーマーケットの客層の所得の違いが、よく食べる魚種の違いに反映し
ているか、あるいは、魚種に応じて購入先を変えているとも考えられる。
購入する際に重視するのは、「便利さ」や「量」であり、ついで「質」、「味」の順になっている(表
3.11)。「健康」や「製品の豊富さ」と答えた者はほとんどいない。一般小売市場では、自宅からの距
離の関係か、「便利さ」の割合がスーパーよりも多少高くなっている。スーパーでも郊外にあるバンケ
ー支店では、「健康」の回答が多く、スーパーでの消費者は「質」を求める傾向が強い。
― 165 ―
表 3 .10
よく食べる魚種の割合:一般小売市場とスーパーマーケット
ウガムオンワン
魚種名
支店
海産魚
淡水魚
合 計
表 3 .11
購入する際に重視する点
ウガムオンワン
支店
(6)水産物消費に与える諸要因について
今後の魚介類の消費量については、全体では84%の人が増えるとし、14%の人が現状維持と答えて
いる。一般小売市場とスーパーマーケットの間にそれほど大きな違いはみられなかった。水産物の消費
を増やしたいと考える人が圧倒的に多い。
全体としては、「便利さ」が選択されており、とくにバンケー地区では小売市場もスーパーでも傾向
は同じであった(表 3 .12)。ついで、「価格の安さ」「所得」になっているが、これらは相互に関連した
回答とみなせる。
「価格の安さ」への志向が強いのは、一般小売市場である。スーパーマーケットでは、
「味(おいしさ)」や「健康」の割合が高いという特徴がある。
― 166 ―
分析の結果(表 3 .13)、水産物消費を規定している 8 つの要因のうち、もっとも相関が強いものは、
規定要因 4 )料理にかかる時間、5 )家庭で料理するために持ち帰られる調理品に含まれる水産物の量、
それに、8 )外食先で食べられる水産物の量、であることが分かった。
ただ、市場やスーパーマーケットによって、規定要因は少し違っている。
一般小売市場のサパーンマイ市場では、内食の回数、料理にかかる時間、調理品に使用された水産物
の量、中食食材に含まれる量、外食時の水産物の量、などが規定要因となっている。しかし、同じ小売
市場でも、バンケー市場では、世帯の就労者数(所得)という要因が強く、これが水産物の消費に影響
している点が特徴である。また、料理にかかる時間、調理品に使用された水産物の量も注目される。
一方、スーパーマーケットのウガムオンワン支店では、料理にかかる時間、調理品に使用された水産
物の量、中食食材に含まれる水産物の量、外食時の水産物の量が挙げられる。バンケー支店では、世帯
の構成人数、調理品に用いられた水産物の量、外食時の水産物の量となる。
表 3 .12
消費に及ぼす諸要因(割合)
ウガムオン
ワン支店
表 3 .13
4 か所での消費者の水産物購入に関する規定要因
ウガムオンワン
支店
― 167 ―
水産物は内食として利用される機会が多いが、消費行動を決める強い要因は、消費者の便利さを求め
る行動といえる。調理時間、持ち帰り調理品、外食時に食べる量、などがそのことを端的に表わしてい
る。
(7)アンケート結果のまとめ
回答者の大半が昼食を外でとることが多いため、これを除いた 1 週間 1 人当たりの水産物消費量は
0.57kg、年間消費量は29.64kgと推計できた。1 世帯当たりが 1 週間に消費する量は2.40kg、年間消費量
は124.8kgであった。
平均的な食事パターンは、平日・休日ともに朝食・夕食は自宅でとる。昼食は、平日・休日ともに外
食が多い。水産物消費の形態は、内・中食が92%を占め、中でも食材を購入して自宅で調理する内食
が60%を占めている。よく食べる魚種は海産魚(71%)であり、淡水魚(29%)を大きく引き離して
いる。海産魚の中でも、エビ、イカ、サバ類、スズキなどの人気が高い。淡水魚では、ティラピアの消
費が多く、海産魚を合わせても、エビと同じく最も消費されている。購買時には、購入時・消費時の
「便利さ」が最も重視され(それぞれ28%、32%)、簡単に手に入り、簡単に食べられるものが選好さ
れる傾向にある。
水産物消費の決め手となる要因は様々だが、家庭内では料理食材であり、外食では食材となっている
ことが、消費の動向に大きく影響している。
4.流通と市場構造の変化
4.1 バンコク卸売市場の状況
(1)バンコク周辺の卸売市場の特徴
バンコク周辺には水産物市場機構(FMO)が運営する卸売市場が、バンコク市内のヤナワ地区、そ
れに隣県のサムット・プラカン県にあるアンパー・ムアング(県庁所在地)にそれぞれある。その他に、
民間業者が開設する小規模な取引所が各地にある。しかし、現在、これらの市場の機能は急速に低下し
ている。特に、FMOが運営する二つの市場で顕著である。
ここでは、バンコク水産物卸売市場(以下、バンコク卸売市場)(図 4 . 1 )の動向を紹介するが、そ
れは消費需要の変化を的確に述べたものではない。
バンコク卸売市場の取扱量のピークは1994∼95年頃で、それ以降は大きく減少している。これには
幾つかの要因を指摘できる。第 1 に、一般的な小売市場を中心にした、消費者の魚介類の購入パターン
が次第に崩れ、大型スーパーでの購入割合が高まり、さらに総菜等への需要が増えて、従来的な消費者
に向かうチャネル以外のそれが大きくなったことである。
第 2 に、大量仕入れを必要とする小売形態や調理加工のビジネスが発展すると、伝統的な手法で運営
される卸売市場では、十分に対応できなくなったことである。施設そのものが古く、モータリゼーショ
ンに対応できないバンコク卸売市場から、郊外にあるサムット・サコン、それにサムット・ソンクラム
に荷が集中するようになった。特に、サムット・サコンのマハチャイ地区には、大規模な水産加工場が
集中し、タイ水産業の一大拠点として発展してきた地区である。バンコクの消費者の魚介類の購入・消
費の形が大きく変わり始めると、大量流通を前提にしたシステム化がマハチャイ地区を拠点に形成され
― 168 ―
るようになった。
しかし、FMOが開設しているサムット・ソンクラム漁港は施設が古く、その規模も小さいことから、
十分な役割を果たせなかった。その周辺に集まった大型漁船主や荷受業者(ペープラー)が、個別相対
で取引をしていたが、2003年にこれら業者が出資する形で「タラート・タイ(タイ市場)」を開設した。
広大な敷地に冷凍・冷蔵施設を整え、大量入荷しても取引ができるようなセリ場を建設している。バン
コク首都圏の卸売・小売業者は、現在、ここを中心に魚介類の仕入れを行っている。
資料:タイ水産物市場機構(FMO)「業務報告書」
図4.1
バンコク魚市場における取引量と取引額の推移
(2)バンコク卸売市場にみる最近の動向
図 4 . 1 からわかるように、海産魚の扱いは減少している。一方、量としては少ないが、淡水魚の取
扱量が急速に増えている。
海水魚のなかで最も量が多いのは、Indo-Pacific Mackerel(プラ・トゥ)とIndian Mackerel(プラ・
ラン)と呼ばれるサバ科の魚類である。図 4 . 2 は、最も代表的な魚種であるプラ・トゥの月別取扱量
と卸売価格の変化を示したものだが、この 2 年間にわたって、取扱量が減少し、逆に、価格は上昇傾向
にあることがわかる。
一方、淡水魚全体では、毎月の取扱量に振幅があり、価格もそれほど安定していない(図 4 . 3 )。た
だ、ティラピア、Rohu(コイの一種)は販売が増えている。なお、同じ淡水魚でも、Silver Barbは減
少している。荷受業者によると、ティラピアの販売が伸びているのは、消費者側の要因としては、①低
価格であること、②調理しやすいこと、の二つがある。供給側としては、養殖しやすい、という利点が
ある。最近では、ティラピアの切り身に対する需要が高くなっている。ちなみに、商業省が調査してい
るバンコク市内の卸売価格は、海産魚のように大きな変動はなく、キロ当たり35バーツから45バーツ
の間にある。2006年はキロ当たり42∼43バーツであった。卸売市場価格はきわめて安定している。
バンコク中央市場では、養殖ものティラピアが95%を占めている。主産地はチャッチェンサオ県
(65%)、ナコンパトム県(20%)、スパンブリ県(15%)と、バンコクに近接している諸県であり、ト
― 169 ―
ラックでバンコク市場に出荷される。
資料:タイ水産物市場機構(FMO)「業務報告書」
図4.2
バンコク魚市場の取引量と平均単価の月別推移
(Indo-Pacific Mackerel)
資料:タイ水産物市場機構(FMO)「業務報告書」
図4.3
バンコク魚市場の取引量と平均単価の月別推移
(淡水魚)
(3)小売業での販売動向
バンコクには、卸売市場機能を兼ねた小売市場がいくつもある。今回、消費者アンケート調査を実施
した一般小売市場、サパーン・マイ市場6では、主婦層だけではなく、屋台、レストラン、ホテル、学
校、病院などによる大量の仕入れにも対応している。また、地方で販売する小規模な流通業者の買付も
ある。
6
バンコクの北部にある生鮮市場で、水産物の他に、青果・肉類など食品全般を扱っている。小売機能の他に、卸売機
能も果たしている。
― 170 ―
サパーン・マイ市場でよく売れる海産魚は、プラ・トウ、バナナエビ、ハタ、スズキ、カマス、サメ
などである。
大型量販店を経営しているT社では、小売機能を果たす一方で、卸売業としての役割も果たしている。
特に、レストラン等の外食産業に対して、配送機能を備えている。各店舗への配送センターは、T社だ
けではなくマハチャイ地区にある模様である。図 4 . 4 は、T社の魚介類取扱いチャネルを示したもの
で、仕入れは専属のサプライヤーから行っている。海産魚を扱うサプライヤーは 5 業者、淡水魚は 2 業
者である。
図4.4
T社の魚介類取扱いチャネル
T社が扱う水産物は、鮮魚類、塩干もの、処理済み・調理済みの総菜など多数にのぼる。別会社から
委託された水産物の販売もある。魚種としてみると、海産魚は20種類、淡水魚は10種類である。よく
売れている海産魚は、スズキ、サワラ類である。淡水魚では、レッド・ティラピア、ナイル・ティラピ
アである。なお、同じく大型量販店のK社で扱いの多い魚種は、淡水魚は同じであるが、海産魚になる
と多少異なる。スズキに次いで、ヒラメ類、イワシ類、カツオなどとなっている。T社以外のスーパー
も、取扱い魚種はそれほど多くはなく、扱い魚種をかなりしぼっている。
天然か養殖かという点でみると、具体的な比率は不明だが、養殖ものの扱いが多い。エビでは、ブラ
ック・タイガー、ホワイト、淡水の手長エビである。また、海産魚ではスズキとハタが、スーパーで扱
われる代表的な養殖魚である。特に、スズキは、海産魚で最もよく購入されている魚種である。淡水魚
ではティラピアが多いが、最近は、レッド・ティラピアの割合が増えている。同じサイズ、品質のもの
を大量に揃えるのが容易である点が、取扱いが増える要因であろう。なお、魚種のサイズは、400∼
500グラムが売れ筋となっている。T社は、サプライヤーに対して、サイズ・選別の徹底を強く要求し
ている。
T社の店舗では、新魚種への需要はあまりなく、鮮魚販売が伸び悩んでいる。逆に、2 ∼ 3 年前から
は冷凍品が売れ始めている。
(4)CP関連企業とスーパーによる水産物フードシステム
エビ養殖業を基盤に水産関連産業のすそ野を広げた多国籍企業CP(チャラン・プカパン)は、大型
― 171 ―
郊外店であるテスコを系列企業としてもっており、様々な水産物を供給している。また、フランス資本
のカルフールに対しても、エビ等を供給している。
海産魚では、サバ(300∼500グラム)、焼きサバ、サーモン・ステーキ、サワラ・ステーキなどを供
給している。最近は、内水面養殖業において、種苗生産、生産技術の改良、飼料等の開発をテコにして、
養殖業者に対する垂直的統合(インテグレーション)を強めている。レッド・ティラピアはCPが開発
した改良魚種である。レッド・ティラピア(500∼900グラム)、ジャイアント・シーパーチ(500∼
1,000グラム)、ナイル・ティラピア(350∼500グラム、600∼900グラム)、タムティム(600∼900グラ
ム)などを提供している。
内水面養殖業では、生産力の技術革新などをもとに生産性が上がっている。取扱量の季節変動が少な
く、サイズと品質が揃いやすいという利点を生かして、スーパーや業務用での扱いが拡大している。淡
水魚がもつ独特の臭みなども抑えられているといわれ、調理のしやすいサイズで、海産魚に比べると価
格も安く提供できる。内水面養殖を起点にした新しいフードシステムが、大型小売業の発展とともにで
きあがりつつある。
タイの新しいビジネス・モデルとして注目される。
5.タイの水産業をめぐる需給動向予測
5.1 国内消費の動向と予測
これまでの分析を踏まえて、簡単に、今後の需給動向の予測について述べておきたい。
まず、国内消費の側では、今後も国民所得の伸びが期待できることから、現在の 1 人あたり29kgか
らは 1 ∼ 2 kgは増えていくだろう。ただ、消費形態が大きく変わっていくことが予想される。冷凍食
品や調理済み食品など、全体としては加工品の形で消費が増えていくであろう。実際に、スーパーの水
産物販売の担当者は、消費者が「食の外部化」の傾向を強めていくことを予想している。
一方、水産物の価格水準は、海産魚を中心に今後も上昇していくと思われる。タイ・バーツの為替レ
ート、さらには国内の賃金水準の動き如何によって、描かれるシナリオは異なるが、中国を始めとする
経済成長が高い国々との間で自由貿易が拡大していくとすれば、
タイ産の輸出需要は着実に増えていく。
国内でも中高級魚への需要が増えることは間違いないが、その一方、海面養殖魚や淡水養殖魚のように、
市場小売価格が相対的に安い魚種に対する需要も拡大することが予想される。
ここ20∼30年の間、経済成長には大きな波があったが、タイの 1 人当たり国民所得は着実に伸びてい
る。この過程で、水産物消費は淡水魚から海産魚へとシフトを続けてきたことが確認できる。しかし、
自国の水産資源が減少している現在、海産魚に対する需要増大を支えているのは、ミャンマー、カンボ
ジア、インドネシアなどの周辺諸国からの輸入であろう。タイ国内の消費需要の拡大が、周辺国への輸
入圧力となって作用していくことが予想される。
一方、「食の外部化」、特に「調理の外部化」の傾向が強くなっており、また、大型量販店で水産物
を購入する頻度も高まっている。インタビューした流通業者の多くが指摘していたが、加工品を含めて
淡水魚の消費量が着実に増えている。海産魚の価格水準が上昇したために、淡水魚への需要への逆戻り
がみられる。それを支えているのが、養殖生産性の上昇に貢献し、川上から川下までを統括(インテグ
レート)する枠組を作っている巨大アグリビジネス企業CPである。以前の淡水魚に対する消費者の悪
― 172 ―
いイメージは、この間に相当に払拭されたと言われている。淡水魚がもつ独特の臭みがなくなるととも
に、処理・加工技術が向上して、消費者は食べやすくなったと判断している、との取扱い業者の声をよ
く聞いた。
そうした技術革新を含めて、実際の生産と流通を担っているのは、CPよりも資本規模ははるかに小
さいが、十分に成熟した加工技術をもっている加工企業、流通センター化したマハチャイ等へのネット
ワークに柔軟につながっていける流通業者らである。川下にあるスーパーが主導する、内水面養殖のフ
ードシステム化も急速に進行している。養殖魚が、一般消費者はもとより、業務用としても広く受け入
れられる要因は、調理のしやすさ、サイズの豊富さ(500∼600gが中心)、価格の安さ等にあるだろう。
5.2 輸出ビジネスの動向をどう見るか?
ここ数年間、タイの水産物輸出は中国との間で微妙な関係にあった。かつてタイは世界最大の水産物
輸出国であったが、現在は中国にその地位を譲り、輸出量・金額とも大きく引き離されている。しかし、
最近、中国食品産業をめぐる事件や不祥事が世界的に喧伝されて、そのイメージが急激に悪化している
ことから、短期的には、タイの水産物輸出は上向いていくと予想される。タイから中国に拠点を移した
日系食料品製造企業のなかには、一部の機能を再びタイに戻す動きがある。あるいは、タイにある工場
をより付加価値の高い商品の製造に特化させ、中国に投資をした工場との棲み分けをはかる企業も多い。
したがって、中期的にみても、タイからの日本向け輸出は今の水準を下回ることはない。むしろ、生産
履歴や品質面で管理しやすい環境にあることから、対日輸出はもとより、北米やEU向けの輸出が増加
していくことが予想される。
ただ、タイの水産物貿易市場では、日本は「買い負け」しやすい環境にある。タイは、この10年の
間に日本向け輸出の比率を大幅に下げてきたが、今後も日本市場での取引価格が上昇して輸出価格を引
き上げられない限りは、アメリカやEU、さらには中国向けの輸出比率をさらに増やしていくことにな
る。タイを始めとするASEAN諸国は、中国との間でFTAを締結しており、これがこれらの地域から中
国へ、水産物輸出が増えていく要因になると指摘されている。
世界中から原料魚及び半製品を買い付けて、高次加工を施して再輸出するビジネスは、今後も続いて
いくであろう。労働力の確保が難しくなっている関係で、ベトナム等に移転する企業もでているが、社
会インフラの整備状況ではまだタイとは比較にならない。周辺国からの外国人労働者を雇う動きが水産
企業の間では活発になっている。低賃金労働力を確保できる環境にまだあるといえるだろう。
5.3 全体の需給動向
これまで述べた需給動向を踏まえると、生産・国内消費・輸入はいずれも増加するだろうが、輸出は
振幅しながら漸増していくことが予想される。隣国のインドネシア、ミャンマー、カンボジア等からの
輸入が増えていることから、量的な自給率は次第に低下していく。ただ、タイの需給動向がどう動くか
は、輸出量で最大の相手先となるマレーシア、金額で大きな割合を占めるアメリカの購買力の変化によ
るだろう。
タイの加工水産物の供給能力が今後、どの程度の期間、維持されるかによって、アジアの水産食料品
製造業の立地と発展は大きな影響を受ける。この分野の資本・技術投資国として、日本と並び、あるい
はそれ以上の力を発揮する日も、そう遠くはないだろう。
― 173 ―
6.地図
ミャンマー
チェンラーイ
メーホン
ソーン
ベトナム
ラオス
パヤオ
チェンマイ
ナーン
ラムパーン
ノーンカーイ
プレー
ラムプーン
ウッタラディット
ウドーンターニ サコンナコーン
ルーイ
ノーンブワラムプー
スコータイ
ナコーン
パノム
ピッタヌローク
ターク
カーラシン ムックダーハーン
ペッチャブーン
カムペーン
ペット
コーン
ケーン
ピチット
ヤソートーン
アムナート
チャルーン
ローイエット
マハー
サーラカーム
チャイヤプーム
ナコーンサワン
タイ
ウタイターニー
チャイナート
ロッブリー
ナコーン
ラーチャシーマー
シンブリー
スパン アーン
ブリー トーン
カーンチャナブリ
ウボン
ラーチャーターニー
スリン
スーサケート
ブリーラム
サラブリー
アユタヤ
ナコーン
パトゥム ナヨックプラーチーン
ナコーン
ターニー
ブリー
パトム
ノンタブリー
カケーオ
チャチューンサオ
サムットソン サムット
サムットラーカーン
クラーム
サコン
チョンブリ
ペッチャブリ−
ラヨーン
チャンタブリー
カンボジア
トラッド
★バンコク
プラチュワップキーリーカン
プラチュアップキリカン
タイ湾
チュムポーン
チュンポン
ベトナム
ラノーン
ラノン
スラタニ
パンガー
アンダマン海
クラビー
ナコンシー
タマラート
プーケット
トラン
南シナ海
パッタルン
ハジャイ
サトーン
ソンクラー
ソンクラ
パッターニー
ヤラー
アロースター
マラッカ海峡
ナラーティワート
マレーシア
― 174 ―
第Ⅱ部
第4章
インドネシア
山 尾 政 博
広島大学
Sonny Koeshendrajana
インドネシア・海洋水産省
藤 本 志 保
広島大学 大学院生
インドネシア水産業の概況 −供給構造の変化を中心に−
1 .漁業の社会経済環境 …………………………………………………………………………………177
2 .漁業生産 ………………………………………………………………………………………………185
3 .水産物貿易 ……………………………………………………………………………………………189
4 .流通と消費の動向 ……………………………………………………………………………………194
5 .今後の政策 ……………………………………………………………………………………………196
インドネシアの水産物貿易の動き −水産物輸出の特徴と日本市場での位置づけ−
1 .インドネシアの水産物貿易の動向 …………………………………………………………………198
2 .インドネシア水産物貿易の位置 ……………………………………………………………………203
3 .日系水産企業の活動事例 ……………………………………………………………………………205
4 .インドネシアの水産業と日本輸出 …………………………………………………………………208
地図 ………………………………………………………………………………………………………210
インドネシア水産業の概況
−供給構造の変化を中心に−
1.漁業の社会経済環境
1.1 人口と購買・消費力の成長
この30年間でインドネシアの人口は、1971年の 1 億1,921万人から2005年には 2 億1,887万人のおよそ
2 倍に増加した。表 1 . 1 は人口増加率の推移を表わしており、10年ごとに算出されている。人口の年間
成長率は2.3%(1971∼1980年)から1.3%(2000∼2005年)に減少し、政府の人口増加スピード低下プ
ログラムが成功したことを示している。公的に示された最近の有効なデータはないが、人口増加率はこ
こ 2 年間で年間 1 %以下におさまっているとみられる。人々のライフスタイルの変化と、政府による
「より良い家族計画」が成功したためである。
表1.1
a.人口成長
インドネシアの人口成長と1971∼2005年の人口成長率
b.人口成長率
年
1971−1980
1980−1990
1990−2000
2000−2005
成長率(%)
2.3
1.97
1.49
1.3
資料:Central Bureau of Statistic(2007)
一般消費財の購買・消費力は、2002∼2006年の間で増加傾向を示している(表 1 . 2 )
。
国家のマクロレベルの開発計画には、生産、消費、投資に関するデータが必要とされている。一般的
に考えられているように、生産のほとんどは地域的に消費されているため、消費に関するデータが重要
になってくる。人口の消費パターンは、所得、嗜好、社会経済的な環境によって変化していく。特に食
料については、どのくらい供給されるか、どのように分配されるかによって明確に決定されていくため、
大きくは振幅しない。購買力と消費力に関係していうと、ある特別な商品(あるいは食品)の消費に対
する支出は、消費者がその商品に対して示す所得弾力性のレベルによって決まる。
表 1 . 3 は、世帯が商品グループに対して所得をどれくらい支出しているか、そして、どのくらいの
割合が消費財にあてられているかをみたものである。表 1 . 3 には、食料支出と非食料支出の割合が示
してある。2005年時点では、食料支出はまだ全体の51%を超えている。理論的には、所得が増えると、
飽和点にいたるまで食料消費量は増えるとされる。しかし、この点を超えると、人々は食料消費の質を
高めることを求めるか、非食料である商品に対する需要を満たして満足しようとする。表 1 . 3 の数値
が示すように、所得が増えるにしたがって1、食料消費に支出される割合は減少していく。この意味で
は、家計支出のパターンが世帯の厚生状況、あるいは地域における状態を把握する手段となる。食費の
占める割合が小さいほど、世帯あるいは地域の厚生はよい、と言える。
― 177 ―
表1.2
月
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
インドネシアにおける一般消費価格指標からみた購買・消費力(2002∼2006年)
2002年
096.95
098.11
098.39
098.18
098.96
099.26
099.96
100.32
100.88
101.36
103.22
104.44
2003年
105.37
105.57
105.44
105.66
106.04
106.19
106.23
106.85
107.27
107.93
108.93
109.83
2004年
110.45
110.43
110.83
111.91
112.90
113.44
113.88
113.98
114
114.64
115.66
116.86
2005年
118.53
118.33
120.59
121
121.25
121.86
122.81
123.48
124.33
135.15
136.92
136.86
2006年
138.72
139.53
139.57
139.64
140.16
140.79
141.42
141.88
142.42
143.65
144.14
145.89
資料:Central Bureau of Statistic(2007)
表1.3
インドネシアにおける食料と非食料の月一人当たり平均支出(1999∼2005年)
支出構成
支出(ルピア/月/一人当たり)
非食料(%)
食料(%)
穀物(食料消費に占める割合・%)
根菜(〃)
野菜、豆類、果物(〃)
魚、肉、牛乳(〃)
その他(〃)
惣菜(〃)
酒類(〃)
たばこ(〃)
1999年
137,453
37.06%
62.94%
26.66%
1.24%
17.13%
16.90%
14.46%
15.07%
0.08%
8.46%
2002年
206,336
41.53%
58.47%
21.32%
1.10%
19.34%
16.39%
13.49%
16.58%
0.14%
11.64%
2005年
286,741
48.63%
51.37%
16.62%
1.13%
19.89%
15.41%
13.30%
21.60%
−
12.03%
1.2 水産政策
インドネシアでは1999年に創設された海洋水産省(MMAF2)の漁業局が水産セクターを管轄してい
る。島嶼国家であるインドネシアにおいては、水産セクターの発展は雇用創出、食料資源の確保、貧困
解消、経済開発の点で重要な役割を担っている。特に離島では水産セクターの役割は決定的である。漁
業開発の大きな画期になっているのが、2004年に制定された漁業法No.31/2004である。この法律によ
って、政府は漁業発展を実現していくための権限と法的な支持を国会から賦与された。
この漁業法が目指しているのは、零細漁家や零細養殖漁家の生活状況の改善を目指すべく漁業管理を
確立することである。具体的には次の 8 つを目標として掲げている。
1 )政府歳入の増加と外貨獲得の増加
2 )雇用の拡大
3 )良質なたんぱく質に富んだ水産物の供給と消費の増加
1 一般的には,家計支出の合計がだいたい所得に近いと推定されている。これは家計所得の把握が支出の把握にくらべ
てきわめて難しいことによる。
2 英語:Ministry of Marine Affairs and Fisheries (MMAF)
インドネシア語:Departement Kelautan dan Perikanan (DKP)
― 178 ―
4 )水産資源管理の最適化
5 )生産性の向上、品質の向上、付加価値の拡大、競争性の増加
6 )水産加工業への原材料供給の増加
7 )水産資源、養殖のための区域、水産資源環境の最適化の達成
8 )確実な養殖のための水産資源区域の保存と空間マネージメント
上記の法令に加え、水産政策に深く関係しているのが地方分権化政策である。1999年以降インドネ
シアは地方分権化政策に向けて新しいパラダイムを示し、法律No.22/1999を改正したNo.32/2004を制
定した。この新しい法律のもとで、水産資源利用に関する責任と権限が中央政府から州(province)と
3
に委譲された。州政府は、インドネシア領海内の一部を州海域として管理する権限を有し、
県(district)
水産資源の利用と管理、そして保存の責任を負っている。
1.3 漁業開発政策
様々な障害と問題をそれぞれの行政レベル(中央政府、州、県)で抱えており、漁業管理に影響を与
えている。しかし、漁獲漁業と養殖業に関連して最も注目すべき課題は以下の通りである。
1 )海面および内水面漁場における過剰漁獲
2 )漁獲漁業者および養殖業者の所得が低い
3 )漁業従事者の生活水準が低い
4 )金融的支援の欠如
5 )Monitoring, Control & Surveillance体制が十分に整っておらず、漁業管理能力が低い
6 )漁業に影響をおよぼすサンゴ礁の劣化や海洋環境の悪化
7 )養殖業における生産性の低さ
8 )養殖業管理、特に病気の扱い、種親、人工餌、種苗について
一方、多種多様な魚種や海洋生物を考慮した開発予測によって、広範囲で多角的な漁業行為が可能と
なる。しかし、小規模、中規模、大規模漁業との間で、漁獲行為をめぐる対立が起きないように、適切
に管理運営することも重要となる。
現在でも東インドネシア海域および200カイリ経済水域内での開発可能性はきわめて高い。水産資源
利用の最適化をはかるには、漁船隻数を増加させるなどの漁獲努力をこの海域に向けていかなければな
らない。東インドネシア海域(KTI)では24%、200カイリ経済水域(EEZ)では47%(1998年)と水
産資源の利用率はまだまだ低い。水産資源の利用率の観点から、今後の重点的な開発には何よりもまず、
以下の 3 つの海域と漁業に集中されるべきとされている。
(1)西部スマトラ、南部ジャワ、バリ、ヌサテンガラ海域の延縄と刺網を用いたマグロ・カツオ漁
(2)マカッサル海峡、スラウェシ海のきんちゃく網、刺網、延縄を用いた浮き魚資源、イカ、マグ
ロ、カツオ漁
(3)マルク海、ハルマヘラ海および太平洋の延縄、釣り、底引トロールを用いたマグロ、カツオ、
深海魚の漁獲
3
英語では州はProvince,県はDistrictというように対応している。ここでは英訳をそのまま当てはめた訳にしてある。
― 179 ―
またマラッカ海峡やアラフラ海だけでなく、EEZでも今後さらに開発が進むだろう。
1.4 養殖業
養殖業はインドネシア漁業において重要な構成要素になっている。養殖業は、国家の食糧安全保障、
所得と雇用の創出、そして外貨獲得手段である。さらに天然の水産資源に対する開発圧力、漁獲努力を
減らす点においても重要である。近年、インドネシアにおける養殖業の開発は急テンポで進み、地方の
経済発展を支えている。
インドネシアでは、淡水、汽水、海水の3タイプの水域で養殖が可能である。それぞれで多種多様な
魚種が養殖されている。養殖に用いる生産施設や生産方法も多様である。淡水養殖は1970年代後半に
始まり、その当時は著しく生産量が増えた。それは新しい養殖技術を導入したことによる、つまり種苗
生産技術の発達と合成飼料の生産・利用が可能になったことによる。最も一般的な養殖魚種はコイ、ナ
マズ、ナイルティラピアである。
1978年には、眼柄切除技術によるエビの孵化が成功したため、汽水池での養殖が急激に拡大した。
ミルク・フィッシュも汽水養殖で成功した事例のひとつであり、人工種苗技術の確立によって大量生産
が可能になった。この成功は1990年代初めのゴンドール養殖研究所(GRIM:Gondol Research Institute
for Marine Aquaculture)と国際協力事業団(当時、JICA)の共同研究の成果である。南スマトラとラ
ンポン州では汽水池が民間セクターによって拡大し、Nucleus Estate Systemを用いた大規模養殖池が増
大した。エビ(Penaeid)とミルク・フィッシュは広く消費されている。
海面養殖が発展したのはほんの10年ほどのことである。海藻類の養殖に加えて、ハタ類(Epinephelus
fuscoguttatus:アカマダラハタ、Chromileptes altivelis:サラサハタ)が多いのが特徴である。
1.5 漁村開発
以前からインドネシア政府は最貧困層に対するさまざまな施策を実施し、彼らの生産・生活を向上さ
せようと努力を重ねてきた。だが、貧困解消は相変わらずインドネシア社会にとっては最重要の課題で
ある。2006年、貧困人口は3,940万人で、総人口の17.8%を占めており、貧困層の割合はまだまだ高い。
さらに貧困人口の70%が沿岸地域、特に都市部から離れた遠隔地や、地方でもアクセスの悪い地域に
住んでいる。1999年までの間、インドネシアは目覚ましい勢いで発展を続け、その経済成長は人々に
大きな利益をもたらした。しかし、経済成長がもたらした利益の大部分は、地方ではなく都市部の人々
に吸収された。
このような都市部に偏った経済発展のあり方が、食料資源の持続的な利用に対して深刻な問題をもた
らした。特に水産資源では、過剰な漁獲努力量が投入され、過剰漁獲による資源の減少と枯渇が広く進
んだ。また、汽水池の開発が進んで海洋環境の悪化が深刻となっている。その一方、地方分権化の推進
という政策の大転換によって、地域住民が地方政府を中心に行う資源利用の最適化やマネージメントに
参加し、資源の利用に関する意思決定過程にかかわれるようになった。今後の資源の持続的な利用と管
理体制を確立するという点において、インドネシアは新たな一歩を踏みだしたといえる。海洋漁業省の
創立によって水産セクターでは、様々なコミュニティー開発プログラムが企画、実施されている。具体
的には、汽水池の灌漑施設の充実、漁港インフラの向上、地方への燃料供給(通称SPDN)、バングラ
デシュのグラミン銀行モデルを応用した沿岸域経済開発プログラムなどがあげられる。
― 180 ―
1.6 インフラストラクチャー
水揚量と施設の稼働率に基づいて、インドネシアは漁港を 3 つのタイプに区分している。第 1 のタイ
プは、国際漁港(Aタイプ漁港)で、60トン以上の船が一日当たり100隻以上入港できる漁港である。
AタイプはインドネシアEEZで漁獲している漁船が対象であり、年間で18,000トンから120,000トンの水
揚げがある。第 2 のタイプは、国内大型漁港(Bタイプ漁港)で、15∼60トン(GRT)の漁船が一日当
たり75隻入港可能で、インドネシア領海内とEEZで操業している漁船を対象にしている。Bタイプ漁港
には年間で7,200∼18,000トンが水揚げされている。第 3 のタイプは沿岸漁港(Cタイプ漁港)で、一日
当たり 5 ∼15トン(GRT)の漁船が50隻入港でき、年間水揚量は3,000∼7,200トンである。これらの漁
港は海洋水産省が管理運営している。これらに加えて、Dタイプ漁港、つまり州政府が管轄するfish
landing centre(水揚場)がある。この小規模な水揚場の3/4が西部インドネシアに集中して立地してい
る。漁港インフラの状況は表 1 . 4 に示しておいた。
表1.4
州
2007年インドネシアにおける分類別・州別漁港数(単位:港)
港
国際漁港
総数
スマトラ
漁港分類
国内大型漁港
沿岸漁港
12
46
2
9
1
1
1
1
1
782
5
210
2
67
1
27
1
26
10
4
3
2
13
41
17
2
ジャワ
292
32
1
6
77
1
85
19
73
バリーヌサテンガラ
0
54
12
30
12
カリマンタン
0
89
65
5
4
15
スラウェシ
1
114
16
8
8
48
1
34
マルクーパプア
0
23
7
3
13
資料:Marine and Fisheries Statistics of Indonesia
(DKP, 2007)
― 181 ―
1
1
5
4
24
1
2
1
2
0
1
1
1
1
3
2
1
6
9
1
7
3
1
1
1
4
1
1
1
1
3
2
1
3
2
1
水揚場
719
197
66
24
24
9
4
3
2
11
41
13
261
31
5
69
74
18
64
51
11
29
11
84
63
4
3
14
109
13
7
8
48
33
17
5
12
1.7 漁業と資源管理に関する政策
政府が実施する持続的な資源管理は、漁業開発が経済的に成功可能なもので、社会的・政治的に受け
入れられるものであること、また、環境には最低限のネガティブな影響しか与えないこと、という基本
方針をとっている。地方分権化にむけた新しいパラダイムでは、漁業・資源管理の管轄権を県
(district)レベルと州(province)レベルに分けている。県は沿岸域 4 マイル以内の海域に対して管轄
権をもち、州が 4 マイルから12マイルを管理することになっている。一方、沖合漁業は中央政府によっ
て管轄されている。地方分権化が進み、地方では、参加型や共同型の資源管理システムを発展させる余
地がでてきている。漁業管理や資源の持続的な利用を実現するために、Co-management(共同管理)
手法が広く適用できるようになった。こうした資源管理や海域管理に関する計画・実施方法の変更は注
目に値する。
生物学的には、水産資源の管理はTAC(Total Allowable Catch)に基づいた漁獲割当に依拠している。
TACは予想潜在産出高の80%、つまり年間640万トンと決められ、9 つの漁業海域が設定されてきた。
なお、2006年度末には漁業海域が 9 海域から10海域に再編成された。
漁業管理の実効性を向上させるために、政府は、漁業管理に関する政令No.17/2006を施行した。こ
の法律には、インドネシアのEEZ内における外国漁船の操業を排除する内容が盛り込まれている。外国
漁船が操業する場合、インドネシア企業との共同企業体を設立し、統合漁業投資管理ユニットを通して
陸上をベースとする施設を建設することが義務づけられている。つまり、共同企業体等によって操業す
ることは可能だが、必ずその原料を用いた水産加工業を営むことが求められる。
海面漁獲漁業の生産性は相変わらず低いが、過剰漁獲によって資源が枯渇する可能性がある地域も少
なくない。外国漁船および国内漁船による違法操業が深刻な問題を引き起こし、環境へのダメージを与
えている。水産資源を保全するために、海洋水産省は省令KEP.34/MEN/206を出し、違法操業の取り
締まりと水産加工産業の活性化を推進していくことを宣言した。
1.8 漁業生産の規則と基準
食の安全に関する法的枠組みは、食品に関する条例第 7 号(1996年)に基づいている。条例には食品
加工、保管、包装、品質表示、そして輸送に関する規定が含まれている。食品添加物や遺伝子組み換え
も規制されている。加えて、食品加工施設には品質管理システムを実行することが課せられている。更
に多岐にわたる事項が条例に盛り込まれるべきだが、
残念ながら現時点では含まれていない項目が多い。
2004年漁業法には、項目は少ないが、水産物の安全に関する条項がいくつかある。養殖場と水産加工
施設には次のような品質管理システムの実行を課している。
1 )品質のモニタリングと管理
2 )操作、養殖、加工、施設やインフラのメンテナンスなどの活動において健全な水準の維持
3 )証明システムの適応
統合品質管理プログラムの証明書が、これらの項目を実施している養殖場や加工業に対して賦与され
る。貝類の生産の安全性に関しては、海洋漁業省の法令の貝類公衆衛生システムNo. Kep.17/MEN/2004
という特別な規制がある。収獲時及び収獲後の薬品処理作業について、洗浄、貝殻除去、包装、品質表
示、保管、浄化などが細かく規定されている。また、最低限の見た目と残留物の上限量が消費品質基準
を確保するために定められている。
― 182 ―
1.9 水産物貿易の規則と基準
1995年 5 月23日に規制緩和パッケージが発表されたが、市場の財とサービスに対する政府介入は十分
に削減されていない。しかし、パッケージはインドネシア側の公約を再確認し、2003年までに主な関
税を撤廃するというスケジュールに合わせた貿易関係に関する協定、ASEAN自由貿易地区協定(AFTA)
を完全に実行している。その一方、インセンティブや保護の構造が必ずしも中立的にはなっていない。
国内交易ないしは国際貿易で扱う商品の中には、政府によって厳重に規制されているものがある。輸入
関税件数をみると、1995年以降はたしかに輸入関税率が低下している品目が多い。しかし、輸入関税
率がまだ高い品目も多く、25%、35%に設定されている品目の割合はそれぞれ22%と11%である。こう
した輸入関税の設定によって、輸出に対するバイアスが強く働いていることは容易に想像される。輸入
代替化政策がいまなお強く働き、それにともなって利益を得ている産業がある(表 1 . 5 参照)。水産物
輸出の拡大が阻害されている可能性は今なお残る。
表1.5
インドネシアにおける輸入関税(車を除く)
1.10 水産資源の現状
水産資源は次の 4 つに分類できる。
(1)大型浮き魚 (カツオ、カジキ、サメ類、小型マグロ類)、
(2)
小型浮き魚(アジ類、サメ類、小型マグロ類)、(3)底魚およびサンゴ礁域の魚類(ハタ類、タイ類、
シマアジ類、カタクチイワシ類)(4)エビ類、その他甲殻類、などである。西部インドネシア海域で
は集約的に水産資源が開発されてきたが、東部の水産資源はまだまだ開発の余地がある。海洋漁業域に
関する状況を表 1 . 6 にまとめてある。
1.11 漁業と養殖業の社会経済的条件
インドネシアの水産業は零細規模として特徴づけられる。漁船の95%以上は無動力船か 5 トン未満の
船外機付きの漁船である。一方、内水面漁業もその零細性が特徴である。漁業者の教育水準は低く、小
学校しか卒業していない者の割合が圧倒的に高い。一般的に、漁業者は、専業的に漁業に従事するもの、
漁業への従事を主とするが他産業に従事するもの、他産業への従事を主とするもの、に分けることがで
きる。
― 183 ―
表1.6
漁獲種による海域資源の状況
海 域
浮き魚(大型) 浮き魚(小型) 底魚 サンゴ礁魚類
潜在資源量
27.67
147.3
82.4
5
マラッカ海峡
生産量
35.27
132.7
146.23
21.6
90.09
177.46
432
利用割合(%) 127.47
潜在資源量
66.08
621.5
334.8
21.57
シナ海海峡
生産量
35.16
205.56
54.69
7.88
53.21
33.07
16.34
36.53
利用割合(%)
潜在資源量
55
340.53
375.2
9.5
ジャワ海
生産量
137.82
507.53
334.2
48.24
149.04
89.07
507.79
利用割合(%) 250.58
潜在資源量
193.6
605.44
87.2
15.38
マラッカ・ラウ
生産量
85.1
333.35
167.38
24.11
トフロア海峡
43.96
55.06
191.95
156.76
利用割合(%)
潜在資源量
104.12
132
9.32
32
バンダ海
生産量
29.1
146.67
43.2
6.22
利用割合(%)
27.95
111.11
453.52
19.44
潜在資源量
106.51
379.44
83.84
12.5
セラム海峡・
生産量
37.46
119.43
32.14
4.63
トミニ湾
利用割合(%)
35.17
31.48
38.33
37.04
潜在資源量
175.26
384.75
54.86
3.5
スラウェシ海・
生産量
153.43
62.45
15.31
2.21
太平洋
利用割合(%)
87.54
16.23
27.91
63.14
50.86
468.06
202.34
3.1
潜在資源量
アラフラ海
生産量
34.55
12.31
156.8
22.58
利用割合(%)
67.93
2.63
77.49
728.39
396.26
526.57
135.13
12.88
潜在資源量
インド洋
生産量
188.28
264.56
134.83
19.42
利用割合(%)
48.74
50.24
99.78
150.78
115.43
潜在資源量 1,166.36 3,605.59 1,365.09
インドネシア
生産量
736.17 1,784.56 1,084.78
156.89
合 計
利用割合(%)
63.17
49.49
79.47
135.92
単位:1,000トン/年
エビ ロブスター イカ
合計
11.4
0.4
1.86
276.03
49.46
0.87
3.15
389.28
433.86
217.5
169.35
141.03
10
0.4
2.7 1,067.05
70.51
1.24
4.89
379.93
705.1
310
181.11
35.94
11.4
0.5
5.04
797.17
52.86
0.93
12.11 1,093.69
463.68
186
240.28
137.2
4.8
0.7
3.88
911
30.91
0.65
7.95
649.45
643.96
92.86
204.9
71.29
0.4
0.05
277.89
0.01
3.48
228.68
2.5 6,960.00
82.29
0.9
0.3
7.13
590.62
1.11
0.02
2.85
197.64
123.33
6.67
39.97
33.46
2.5
0.4
0.45
621.72
2.18
0.04
1.49
237.11
87.2
10
331.11
38.14
43.1
0.1
3.34
770.9
36.67
0.16
3.3
266.37
85.08
160
98.8
34.55
10.7
1.6
3.75 1,086.89
10.24
0.16
6.29
623.78
95.7
10
167.73
57.92
94.8
4.8
28.2 6,379.27
253.94
4.08
45.51 4,065.93
267.87
85
161.38
63.74
資料:Capture Fisheries Statistics of Indonesia, 2006
内水面漁業は、全国の漁業生産量に対して占める割合は少なく、10%以下である。しかし、従事者
数でみると、内水面での漁獲漁業に従事している者は全漁業就業者の 4 分の 1 弱を占める。農村住民に
とっては、内水面漁業はきわめて重要な役割を果たしている。洪水の後の湿地、川、湖での漁業は所得
機会を創出するとともに、就業の場にもなっている。インドネシアにおいて、淡水魚は、農村だけでな
く都市の多くの世帯にも重要な動物性タンパク源となっている。
養殖業者も漁業者とほぼ同じような社会経済的背景をもっている。ただし、養殖業者の教育水準は漁
獲漁業者よりも相対的にはかなりよい。内水面養殖業者のほとんどは零細であるが、汽水域および海面
で養殖業を営む者は、ある程度の生産規模をもっている。
― 184 ―
2.漁業生産
2.1 漁業生産の構造
2005年のインドネシア漁獲漁業と養殖業の統計から漁業生産構造をみると、漁獲漁業が国内総水揚
量に占める割合は68.51%である(表 2 . 1 )。そのうち、海面漁獲漁業が総生産の64.18%を占めている。
漁業種類でみると、刺網漁業、釣り漁業がそれぞれ漁獲量の14.28%、14.14%になっている。一方、内
水面漁業は全生産量の4.33%を占めるにすぎない。漁業者が好んで使用する漁具は刺網やカゴ等である
が、それらによる漁獲量の割合は全生産量の1.18%、1.05%にとどまる。
2005年には養殖業の生産量は漁業生産量の26.66%にすぎなかった。しかし、最近 5 年間の成長率は
漁獲漁業よりはるかに高かった。池や水田を利用した養殖業の生産も伸びている(表 2 . 2 )
。
最近 5 年間の漁業生産の成長率は5.48%である。部門別にみると、養殖業と漁獲漁業の漁業生産にお
ける年間成長率はそれぞれ15.14%と2.7%になっている。漁獲漁業と比べて、養殖業の成長率がいかに
高いかがわかる。
漁獲漁業が漁業生産に果たす役割はきわめて重要だが、漁業構造の特徴は、無動力船ないしは 5 トン
以下の船外機付きの漁船を所有する零細な漁民が圧倒的多数を占めていることである。このような小規
模漁業は海面漁業全体の95%にのぼり、内水面漁業では100%を占めている。
表2.1
分類(%)
インドネシアの漁業生産構造(2005)
水面(%)
漁具
トロール網
引網
巾着網
刺網
海洋(64.18)
敷網
釣り針
わな
漁獲(68.51)
その他
刺網
敷網
釣り針
内陸(4.33)
わな
投網
その他
海洋(12.95)
浮きいけす
汽水(9.37)
浮きいけす
池
養殖(26.66)
いけす
内陸(4.33)
浮きいけす
水田
資料:2000年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2000)
2000∼2005年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2006)
2005年インドネシア海洋と漁業統計(DKP, 2006)
2000年インドネシア養殖業統計(DJPB)
2005年インドネシア養殖業統計(DJPB)
注:漁獲と養殖の合計は100%に満たないが、残りは不明分である。
― 185 ―
生産(%)
8.21
7.67
9.36
14.28
5.01
14.14
2.6
2.9
1.18
0.33
0.9
1.05
0.28
0.6
12.95
9.37
4.83
0.99
1.59
1.75
― 186 ―
1994
1995
1996
1997
1998
1999
年
2000
2001
1996∼2005年の主要魚種生産量の推移
5,915,988
4,691,796
4,383,103
308,693
1,224,192
249,242
501,977
281,262
40,394
57,628
93,977
2003
6,119,731
4,651,121
4,320,241
330,880
1,468,610
420,919
559,612
286,182
53,694
62,371
85,832
2004
6,677,559
4,705,869
4,408,499
297,370
1,971,690
890,074
643,975
331,962
67,889
109,421
120,353
2005
単位:トン
15.14
5.45
2.7
2000∼2005
年の成長率
(%)
単位:トン
主要魚種
年
成長率(%)
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2000∼2005 2004∼2005
エビ
187,269
212,252
222,550
238,865
249,032
263,037
241,485
240,438
245,913
208,539
-16.26
-15.2
マグロ
115,549
116,214
168,122
136,474
163,241
153,110
148,439
151,926
176,996
183,144
12.19
3.47
カツオ
182,147
187,206
227,068
244,847
236,275
214,077
203,102
208,626
233,319
252,232
6.75
8.11
スマガツオ
208,504
212,511
236,673
236,111
250,522
233,051
266,955
267,339
310,393
309,776
23.65
-0.2
その他魚類
2,396,310 2,600,461 2,693,188 2,638,255 2,700,437 2,846,151 2,889,364 3,157,465 3,112,025 3,246,788
20.23
4.33
その他
293,677
284,317
176,145
187,892
207,684
257,054
324,161
357,309
241,595
208,020
0.16
-13.9
資料:2000年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2000)
2000∼2005年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2006)
2005年インドネシア海洋と漁業統計(DKP, 2006)
2000年インドネシア養殖業統計(DJPB)
2005年インドネシア養殖業統計(DJPB)
表2.3
資料:2000年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2000)
2000∼2005年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2006)
2005年インドネシア海洋と漁業統計(DKP, 2006)
2000年インドネシア養殖業統計(DJPB)
2005年インドネシア養殖業統計(DJPB)
5,515,447
4,378,495
4,073,506
304,989
1,136,952
234,859
473,128
254,625
40,742
47,172
86,627
2002
1994∼2005年のインドネシア漁業の生産傾向
合計
3,667,617 3,902,348 4,047,923 4,209,507 4,288,459 4,874,162 5,120,487 5,353,469
漁獲漁業
3,991,173 4,125,525 4,276,720
海面漁獲 3,080,168 3,292,930 3,383,456 3,612,961 3,723,746 3,682,444 3,807,191 3,966,480
内陸漁獲
308,729
318,334
310,240
養殖
882,989
994,962 1,076,749
海面
135,969
197,114
221,010
汽水池
346,214
361,239
404,335
370,259
353,750
412,935
430,017
454,710
淡水池
177,622
214,393
222,790
いけす
32,323
25,773
39,340
浮きいけす
29,506
34,602
40,710
水田
94,634
93,063
99,190
漁業形態
表2.2
養殖業では、池、いけす、水田で養殖をしている小規模業者が一般的である。2004年から2005年に
かけて海面養殖を営む漁業者が急に増加した。これは政府が、海面養殖、特に海藻の養殖を強く振興し
たことが大きな要因である。ハタ類も重要な海面養殖の対象魚種であるが、ハタ類養殖は他の養殖に比
べて資金集約的で、比較的規模の大きな漁業者が行っている。対照的に海藻養殖を行っている漁業者は、
ほぼ全てが小規模漁業者(貧困層)に分類される。
2.2 漁業
海面漁業における主要魚種はエビ、マグロ、カツオ、スマガツオなどである。表 2 . 3 に主要魚種の
生産をまとめているが、2000∼2005年にかけてエビとマグロの成長率はそれぞれ−16.26%、12.19%で
あった。カツオとスマガツオは同様にそれぞれ6.75%、23.65%であったが、これらの2004∼2005年の
成長率はそれぞれ8.11%、−0.2%であった。これらのうち、エビとマグロは輸出が多いが、カツオとス
マガツオは国内で消費される。
内水面漁業者にとって重要な魚種は、表 2 . 4 にあるように、コイ、ティラピア、スネークヘッド、
淡水エビ、となっている。表からコイ、スネークヘッド、その他の年間成長率はプラスだが、ティラピ
ア、エビはマイナスになっており、生産量が減少している。このデータは内水面漁業資源が過剰漁獲さ
れていることを示唆している。
表2.4
2001∼2005年における主要魚種における内水面漁業の生産量 単位:トン
年
成長率(%)
2001
2002
2003
2004
2005
2000∼2005 2004∼2005
コイ
8,228
9,460
8,917
9,951
9,012
2.85
-9.44
ティラピア
20,210
17,724
18,059
18,289
13,759
-8.48
-24.77
スネークヘッド
31,274
29,423
30,627
41,014
32,784
3.01
-20.07
その他の魚類
228,353
228,882
231,907
242,871
220,206
-0.76
-9.33
エビ
17,141
15,605
15,350
14,310
16,666
-0.23
16.46
その他
5,034
3,895
3,833
4,445
4,943
0.74
11.2
資料:2000年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2000)
2000∼2005年インドネシア漁獲漁業統計(DJPT, 2006)
2005年インドネシア海洋と漁業統計(DKP, 2006)
主要魚種
2.3 養殖
表 2 . 5 に示したように最近 5 年間で養殖生産が急激に増加している。特に2004∼2005年にかけて著
しく増加している。海面、汽水、そして淡水養殖は2000∼2005年の間にそれぞれ年間で40.97%、
8.49%、11.56%増加している。2004∼2005年にかけて海面養殖は111.46%も増加しており、同様に汽水
養殖と淡水養殖では15.08%、25.35%増加している。
すでに述べたように、海面養殖での最重要商品はハタ類と海藻である。汽水養殖ではエビとミルク・
フィッシュを最も養殖業者が好んで生産している。また淡水養殖では、コイ、ティラピア、ナマズ類が
主要な商品である。これらの魚種以外では、ジャイアントグラミー、ブラックタイガーもよく養殖され
ている。ブラックタイガーの生産は量的には少ないが、市場取引価格が高いために養殖生産額に与える
インパクトは大きい。しかし、政府の水産統計には入っていない。
インドネシアでは海面養殖は比較的新しい養殖技術である。政府統計で海面養殖の生産量が示される
― 187 ―
― 188 ―
単位:トン
水産物商品
成長率(%)
年
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005 2000−2005 2004−2005
合計
626,167 672,142 767,584 674,121 634,879 1,877,814 2,142,759 1,076,749 1,139,148 1,224,480 1,482,805 2,163,674
6.11
45.92
海面養殖
na
na
na
na
na 135,969 197,114 221,010 234,859 249,242 420,919 890,074
40.97
111.46
ハタ類
na
na
na
na
na
na
na
na
7,057
na
na
6,493
na
海藻
na
na
na
na
na
na
na
na 223,080
na
na 866,383
na
その他
na
na
na
na
na
na
na
na
4,722
na
na
17,198
na
汽水養殖
346,214 361,239 404,335 370,259 353,750 412,935 430,017 454,710 473,128 501,977 559,612 643,975
8.49
15.08
エビ
132,406 145,216 151,086 167,117 117,847 140,853 143,177 148,558 159,182 191,966 238,341 254,067
12.45
6.60
ミルク・フィッシュ 153,093 151,256 162,127 142,709 158,666 209,758 222,228 209,525 222,317 227,930 241,438 254,067
2.81
5.23
その他
60,715
64,767
91,122
60,433
77,237
62,324
64,612
96,627
91,629
82,081
79,833 135,841
20.27
70.16
淡水養殖
279,953 310,903 363,249 303,862 281,129 334,085 367,831 402,030 429,166 473,261 502,274 629,625
11.56
25.35
池養殖
140,098 162,198 182,918 171,768 168,478 177,622 214,393 222,790 254,625 281,262 286,182 331,962
9.28
16.00
コイ
67,380
79,768
88,844
79,191
70,589
72,911
90,864
89,725
95,161
na
na
95,371
na
キャットフィッシュ
9,226
12,446
14,765
23,199
18,450
24,991
28,991
na
38,051
na
na
89,135
na
ジャイアントグラミー
3,778
6,300
7,453
7,975
9,004
9,327
13,339
na
15,916
na
na
24,052
na
ティラピア
32,084
36,135
33,839
33,444
33,551
37,555
44,831
na
27,294
na
na
86,899
na
ウシエビ
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
その他
27,630
27,549
38,017
27,959
36,884
32,838
36,368
na
78,203
na
na
36,505
na
いけす養殖
33,011
39,855
44,630
26,186
17,639
32,323
25,773
39,340
40,742
40,394
67,889
67,889
24.68
コイ
28,645
31,159
34,489
11,574
5,082
20,445
7,901
na
11,450
na
na
17,251
na
キャットフィッシュ
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
24,703
na
その他
4,366
8,696
10,141
14,612
12,557
11,878
17,872
na
29,292
na
na
25,935
na
浮きいけす養殖 28,645
31,195
34,489
11,574
5,082
29,506
34,602
40,710
47,172
57,628
62,371 109,421
27.87
75.44
コイ
na
na
na
na
na
na
na
na
42,164
65,498
na
ティラピア
na
na
na
na
na
na
na
na
4,686
35,961
na
その他
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
na
7,962
na
水田養殖
78,199
77,655 101,212
94,334
89,930
94,634
93,063
99,190
86,627
93,977
85,832 120,353
6.79
40.22
コイ
62,447
69,393
87,994
79,571
55,942
73,038
75,712
79,831
69,660
na
na
55,241
na
ティラピア
na
na
na
na
na
na
na
na
10,956
na
na
18,140
na
その他
na
na
na
na
na
na
na
na
6,011
na
na
46,972
na
資料:Statistical of Capture Fishery of Indonesia 2000 (DJPT,2002); Statistical of Aquaculture Fisheries of Indonesia 2000 (DJPB,2002); Capture Fisheries
Statistics of Indonesia 2000-2005 (DJPT, 2006); Marine and Fisheries Statistics of Indonesia 2005 (DKP, 2006)
表2.5 1994∼2005年における養殖生産量の推移(養殖環境・形態別)
ようになったのは1999年からである。ハタ類の養殖技術はそのなかでも優れているが、他の養殖魚種
に比べて、多額の資本投資が必要となる。したがって、地方開発や漁村経済の振興という点では限界が
あり、海藻養殖に比べて停滞している。
汽水養殖は伝統的に漁業者によって行われてきた。かつては、ミルク・フィッシュが汽水養殖では最
も重要な魚種であったが、1980年代初頭からエビ(Udang windu)養殖が急速に普及した。ブラックタ
イガーがエビ養殖の中心であり、この普及がインドネシアの養殖業および水産加工業が飛躍的に発展す
るきっかけを与えた。しかし、マングローブ林の伐採などの環境問題を激化させた。また、多発する病
気の発生は、養殖業経営に深刻な打撃を与えた。近年では、ブラックタイガーに代わり、バナメイ種が
広く養殖されるようになった。淡水養殖では、様々な技術を用いてコイを最も重要な商品として生産し
てきた。しかし、コイヘルペス(KHV)の発生によってティラピアとナマズ類が取って代わった。こ
の傾向は特に養殖にいけすや、浮きいけすを使っていた地域で広く見られた。
3 水産物貿易
3.1 貿易に関する規定と諸手続き
活魚に関する輸出入の要件は、農業省の省令NO.265で詳しく規定されている。これは、1986年に施
行されたインドネシア国内への活魚持ち込みに関する検疫要件、1990年のインドネシアから海外への
持ち出しについて規定した検疫に関する法律、No.245/Kpts/LB.730/90に基づくものである。活魚を国
内に持ち込む場合には、農業省から発行される輸入許可書が求められる。同時に、原産地ないしは発送
元である国の責任機関が発行した“Fish Health Certificate(FHC)”を提示しなければならない。農業
省が危険な魚病が発生していると認定した国・地域から、活魚を輸入ないしは経由させることは原則的
に禁止されている。
1990年の法律では、活魚輸出については、輸出相手先から求められない限り、安全証明書および検
疫書は必要としない。しかし、2004年漁業法では、輸出および輸入ともに人間が消費するのに安全で
あることを証明する必要があると規定している(第21条)。両者は矛盾した規定になっており、新しい
法律にそって関係規則の改定がなされなければならない。
水性動物のインドネシア国内への持ち込み・輸入は、海洋水産省の省令No.Kep.08/MEN/2004によっ
て規定されている。これは、インドネシア国内に新しい種を持ち込もうとする時に適用される。
初めて輸入する外来魚種については以下の必要書類の提出が義務付けられている。
1 )海洋水産省漁業養殖事務局長の当該魚種輸入の推薦状
2 )輸入相手国の管轄権を有する当局が発行する証明書および大臣がまとめた権限を付与された国
のリスト
3 )輸入国の健康規定に準じた技術情報、診断方法と採用されている治療方法
事務局長が申請する水産物輸出推薦状には以下の事項が必要である。
1 )水産物取引免許(SIUP)
2 )輸出国の指定機関が発行した水産物(魚種、特徴、生産地、生産者、血統、世代等)について
記載した証明書
3 )輸出先の指定機関が発行した疫学的特徴、水産物の医学的状態について記載した証明書
― 189 ―
4 )輸入する水産物の計画的利用
推薦状は、社会経済的な側面を含めて輸入リスク分析に基づいて手配する。その承認期間は 1 年であ
る。さらに推薦状は以下の情報が必須である。
1 )魚種、サイズ、量
2 )輸出業者の住所
3 )輸入する港湾もしくは空港
4 )申請者の住所
5 )試験用の標本の数
6 )その他、事務局が要求する証明書
輸入された外来魚種は、まず検疫処置と検疫後の検査を受けなければならない。処置後の検査では臨
床健康検査、当地の病気に対する脆弱性を確定する検査、生物学的・環境的評価と社会経済分析が必要
である。検査結果報告は評価チームによって作成される。これらを経て、当該水産物が許可されたら事
務局長が「流通許可証明書」を発行する。
国内における甲殻類のポストハーベストの輸送については、海洋水産省の省令No.Kep.17/MEN
/2004が示すインドネシア甲殻類衛生システムのなかで、詳しく規制されている。甲殻類の輸送は陸揚
げ地の関係当局が付与した登録文書に準じている。以下、登録文書に記載すべき事柄である。
1 )申請者の身分証明書
2 )漁船の名前と登録番号
3 )漁獲日
4 )育成場所
5 )場所の分類
6 )甲殻類の種類の量
7 )免許番号と送り先
3.2 水産物貿易の動向
インドネシアの水産物輸出・輸入の統計は整合規格コード(HS Code)を用いて分類されている。実
際には、水産物の輸出入の動向が簡単にわかるように、輸出品目については 5 つのグループ、輸入品目
については 8 つのグループに分類している。
表 3 . 1 に示したように、主な輸出品目はエビ、マグロ・カツオ類、その他魚介類(ナマズ、ティラ
ピア、コイ、ハタ、イカ、ザルガイ、イガイ)
、カニなどである。
水産物の総輸出量は、1997年の574,419トンから2006年の926,478トンとなり、過去10年間で1.6倍に増
加した。最近の 5 年間(2002∼2006年)の平均増加率は63.8%と高い伸びをみせている。商品グループ
別にみると、最も高い伸び率を示したものは、その他に分類される商品で、その伸び率は108.3%であ
った。詳しい内訳は示されていないが、ナマズ、ティラピア、コイ、ハタ、イカ、ザルガイ、イガイな
どの輸出が大きく増えたとされている。その次に高い伸び率を示したものはカニとエビであった。グル
ープによって増加率に大きな差がでたのは、グループ間によって平均市場取引価格に大きな開きがあっ
たためと考えられる。
― 190 ―
輸出額をみると、1997∼2006年の10年間ではカニが9.6倍と最も高い増加を示している。また、エビ
は横這いだが、他の品目は増加している。注目すべきは、マグロとエビの輸出価格の推移が対照的なこ
とである。エビは減少傾向にあるのに対し、マグロは増加傾向にある。こうした輸出動向から判断する
と、エビ資源はまだまだ豊富にあるとも考えられる。反対に、マグロの価格上昇は、マグロ資源がすで
に過剰に利用されており、この分野では養殖業がいまだ発展途上であることを示唆している。
インドネシアでは、エビが主要な輸出水産物である。1997年には10.1億ドルを記録し、水産物輸出総
額の60%を占めていた。しかしその後エビの輸出に占めるシェアは徐々に低下した。それは、エビの
輸出市場価格の低下と、エビ以外の水産物の輸出が、量・金額ともに増加したことによる。
表 3 . 2 には、商品分類別によって輸出水産物の内訳を示してある。この分類表によると、輸出商品
は生鮮・冷蔵・冷凍・塩干等が中心になっている。これが全体の75%を占めている。詳細に分類する
と、生鮮、冷蔵、ないしは冷凍のエビ、マグロ、ハタが多く、これらが50%以上あった。これらの輸
出魚種については、輸出相手先の品質基準や需要に的確に応えていく限り、輸出量・輸出金額とも十分
に高い水準が期待される。この点については、インドネシア漁業協会(Masyarakat Perikanan
Nusantara, MPN)および輸出業者によって確認されている。輸出量でみると、加工品が74,153トンで
あるのに対して、生鮮・冷蔵ないしは冷凍魚が477,865トンで加工割合が低いのが大きな特徴である。
水産物輸入の動向で特徴的な点は、第 1 に、量的にはそれほど変化はないが、金額的にはかなり振幅
が激しいことである。第 2 に、輸入品の中心は量的にも金額的にも魚粉が首位を占めている点が注目さ
れる。2006年の輸入額全体に魚粉が占める割合は46.2%である。第 3 に、鮮魚・冷凍魚が増加傾向を示
していることである。魚種を特定することはできないが、ツナ缶の原料や冷凍食品産業が用いる原魚が
含まれているものと考えられる。
― 191 ―
― 192 ―
単 位
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
1997∼2006年のインドネシアにおける魚種別輸出
2005年
2006年
エビ
数量(トン)
93,043 142,689 109,650 116,188 128,830 124,765 137,636 142,135 153,906 169,329
金額(US$1,000)1,011,135 1,011,467 888,982 1,002,124 934,989 836,563 850,222 892,429 948,130 1,115,963
価格(US$/kg)
10.87
7.09
8.11
8.63
7.26
6.71
6.18
6.28
6.16
6.59
数量(トン)
82,868 104,330
90,581
92,958
84,206
92,797 117,092
94,221
91,631
91,822
マグロとカツオ 金額(US$1,000) 189,433 215,134 189,386 223,916 218,991 212,426 213,179 243,938 246,303 250,567
価格(US$/kg)
2.29
2.06
2.09
2.41
2.60
2.29
1.82
2.59
2.96
2.73
その他魚介類(ナマズ、 数量(トン)
332,010 330,288 354,501 216,339 169,583 236,937 470,045 515,834 428,395 493,540
ティラピア、コイ、ハ
タ類、イカ、ザルガイ 金額(US$1,000) 336,730 313,730 328,021 246,546 240,643 297,827 341,494 357,022 366,414 449,812
類、イガイ類)
価格(US$/kg)
1.01
0.95
0.93
1.14
1.42
1.26
0.73
0.69
0.86
0.91
数量(トン)
3,303
3,863
10,409
12,381
11,657
11,226
12,041
20,903
18,593
17,905
カニ
金額(US$1,000) 14,008
25,641
54,402
68,209
87,430
90,349
91,918
14,355 130,905 134,825
価格(US$/kg)
4.24
6.64
5.23
5.51
7.50
8.05
7.63
0.69
7.04
7.53
数量(トン)
63,195
69,121
79,455
81,550
92,840 100,014 120,971 134,877 165,397 153,881
他
金額(US$1,000) 134,862 132,694 144,630 134,279 149,946 133,188 146,730 156,216 221,553 152,305
価格(US$/kg)
2.13
1.92
1.82
1.65
1.62
1.33
1.21
1.16
1.34
0.99
数量(トン)
574,419 650,291 644,596 519,416 487,116 565,739 857,785 907,970 857,922 926,477
合計/平均
金額(US$1,000)1,686,168 1,698,666 1,605,421 1,675,074 1,631,999 1,570,353 1,643,543 1,663,960 1,913,305 2,103,472
価格(US$/kg)
2.94
2.61
2.94
3.22
3.35
2.78
1.92
1.96
2.23
2.27
資料:関税局
品 目
表3.1
1997∼2006 2002∼2006
年の増加率 年の増加率
82.0
35.7
10.4
33.4
-39.36
-1.71
10.8
-1.1
32.3
18.0
19.37
19.21
48.7
108.3
33.6
51.0
-10.14
-27.49
442.1
59.5
862.5
49.2
77.55
-6.44
143.5
53.9
12.9
14.4
-53.62
-25.68
61.3
63.8
24.7
33.9
-22.66
-18.21
表3.2
2006年のインドネシアにおける商品分類別輸出
商品分類
魚類、甲殻類、軟体類(生鮮あるいは活魚)、冷蔵、冷凍、干物、
塩蔵、塩水漬け、燻製
−鮮魚、活魚、冷蔵、冷凍
−干物、塩蔵、燻製
−甲殻類、mollusc fresh、冷蔵、冷凍、乾燥、塩蔵
加工済み、保存あるいはコンテナ入りの魚類、甲殻類、軟体類
−加工済みあるいは保存した魚類
−加工済みあるいは保存した甲殻類や軟体類
水生動物由来の油や油脂
水生動物由来の動物餌料用原料、肥料、食用消費としては不適な商品
水生動物由来のその他の生産物
−カエルの脚
−カエルの肉
−その他
水生植物の生産物
−水生植物
−その他
合 計
資料:関税局2007年
表3.3
魚粉
その他のミール
エビ飼料
魚缶詰
海藻
油脂
鮮魚・冷凍魚
その他
合計
資料:関税局
2000年
117,656
6,588
3,748
914
634
7,549
23,682
18,692
179,463
魚粉
その他のミール
エビ飼料
魚缶詰
海藻
油脂
鮮魚・冷凍魚
その他
合計
資料:関税局
2000年
53,721
2,942
3,710
859
3,052
4,628
15,240
27,324
103,616
693,549.34
1,568,186.81
477,864.92
25,122.20
190,562.22
84,944.24
49,030.71
35,915.52
1,689.86
7,795.96
35,888.93
4,387.92
150.90
31,350.12
102,609.28
2,834.97
99,774.31
926,477.61
456,120.30
61,616.30
1,050,450.21
391,603.80
133,865.82
257,737.97
852.10
4,728.23
74,369.24
16,670.29
467.53
57,231.42
63,730.80
4,403.49
59,327.31
2,103,470.98
インドネシアの水産物輸入(数量)
2001年
98,139
14,166
6,924
976
465
8,654
12,657
20,491
162,472
表3.4
数量(トン) 金額(US$1,000)
2002年
61,301
719
8,492
1,495
825
8,272
18,920
17,557
124,010
2003年
47,746
7,023
11,298
2,473
384
5,832
24,788
8,224
107,768
2004年
69,342
871
22,304
2,350
4,389
2,381
22,979
33,000
157,616
インドネシアの水産物輸入(金額)
2001年
50,346
4,956
4,413
1,414
1,371
5,270
10,254
25,593
103,616
2002年
37,628
4,017
5,327
1,650
898
6,614
12,278
23,900
92,312
― 193 ―
2003年
29,508
4,087
6,621
3,606
392
7,388
26,103
13,105
90,808
2004年
44,746
472
11,828
2,744
1,027
7,266
21,367
76,107
165,557
単位:トン
2005年
85,987
2
13,709
3,483
629
6,758
19,031
24,487
151,086
2006年
88,902
0
8,731
4,898
665
14,364
36,346
30,333
184,240
単位:1,000USドル
2005年
55,166
1
9,135
4,162
502
12,366
16,697
28,927
127,256
2006年
76,548
0
8,476
5,936
762
18,452
23,560
31,986
165,720
4.流通と消費の動向
4.1 水産物の利用動向
インドネシアの海産魚利用状況(表 4 . 1 )をみると、438万トンのうち非食用は 3 万 3 千トン程度と
少ない。これは、全漁獲量の 1 %弱にすぎず、残り99%が食用として利用されている。生鮮利用は全体
の54%を占めており、この比率はここ10年来ほぼ変わっていない。残りが加工用として利用されてい
るが、大半は塩干魚、燻製魚、蒸し魚である。なかでも塩干魚は92万 7 千トンと、全体の21%を占めて
いる。次いで蒸し魚の16万 3 千トン、燻製魚の 8 万 2 千トンである。なお、その他の加工品の量変動が
大きいが、この詳しい内訳はわかっていない。
表4.1
海産魚の利用内訳(1996∼2003年)
単位:トン
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
3,383,457 3,612,966 3,723,746 3,682,444 3,807,191 3,966,480 4,073,506 4,383,103
1,789,255 2,802,568 2,091,261 2,206,480 2,324,488 2,235,264 2,323,886 2,372,261
合計
市場の鮮魚
保存食
−干物、塩蔵
920,949
431,170
882,677
−ボイル
153,156
43,858
151,799
発酵
−making belachan
45,556
5,517
47,212
12,722
3,611
15,420
−making fish peda
−魚醤油
1,454
3
1,083
−燻製
58,633
27,067
66,982
−他
32,986
19,112
38,645
冷凍
283,463
249,695
331,139
缶詰
50,460
11,511
53,434
魚肉用
34,823
18,854
44,094
資料:Indonesia Statistic of Capture Fisheries 2003
漁獲漁業局(海洋水産省)2005年
811,671
137,701
791,297
132,849
852,077
167,798
910,581
164,815
927,246
163,193
53,894
8,767
573
54,024
27,352
333,118
42,280
6,584
51,080
13,660
97
63,166
31,230
353,833
39,710
5,781
59,739
16,222
744
61,698
69,675
432,327
49,837
21,099
29,884
6,849
9
69,262
75,946
377,526
66,333
48,415
3,721
6,048
14
81,615
102,023
613,594
49,637
33,751
一方、近代的な加工製品として利用される割合も高まっている。冷凍魚として利用される量はこの
10年間で急速に伸びている。1996年には28万 3 千トンであったが、2003年には 2 倍強の61万 4 千トンに
まで達している。年によって変動があるので、一概に結論づけることはできないが、冷凍魚を流通させ
る基盤が次第に整ってきているのではないだろうか。缶詰加工産業の発展はインドネシア水産業を特徴
づけるが、原料として利用されているのはせいぜい 5 万∼ 6 万トンである。
4.2 1人当たり消費の動向
この数年の間に、水産物の 1 人当たりの年間消費量は 6 kg以上増えていると推計される。この消費
量は供給量をもとに推定したものであるため正確ではないが、全体として消費量は着実に増えているの
は間違いない。別の推計値では、消費増加量は1.2百万トンに達したことになっている。インドネシア
の人口成長率が1.34%であることから、1 人当たりの消費量が伸びると全体ではそれ以上の伸びになる。
需要の増加から、水産物輸入が増える傾向にあり、2004年から2005年にかけて伸び率は12.5%を示した。
魚種別にみると、マグロ・カツオ類、アジ類、カタクチイワシ類などの海産魚、コイやティラピアな
― 194 ―
どの淡水魚の消費が多い。ただ、都市部、農村部、中間地区の三つに分けて詳しくみると、消費動向に
は大きな違いがあることがわかる(表 4 . 2 参照)
。
表4.2
魚種別にみた一人当たりの消費量と金額(2005年)
農村
量
都市
金額
量
金額
生鮮
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
キハダマグロ
0.416
86
0.416
マグロ類・カツオ
2.2236
377
2.6
サワラ類
0.26
57
0.156
シマアジ類
0.572
93
1.092
アジ
2.132
401
1.2
カタクチイワシ
0.364
54
0.52
ミルク・フィッシュ
1.768
344
1.04
ライギョ
0.312
69
0.676
ティラピア
1.612
25
1.248
コイ類
1.092
228
0.624
ナマズ
0.78
125
0.676
アカメ類
0.156
40
0.052
アイゴ類
0.052
6
0
その他
2.08
278
2.964
小計
13.8196
2183
13.264
エビおよびその他
1 エビ
0.676
223
0.364
2 イカ
0.26
68
0.104
3 カニ類
0.104
23
0.052
4 Kerang/Siput(貝類)
0.156
20
0.052
5 その他
0
3
0.052
小計
1.196
337
0.624
調理加工品
1 アジ類
2.236
59
4.212
2 ヨコシマサワラ
0.26
10
0.26
3 マグロ類・カツオ
3.432
83
4.056
4 カタクチイワシ
4.94
178
7.488
5 シマアジ類
1.144
26
1.872
6 スネイクスキンキノボリウオ
1.508
48
1.924
小計
13.52
404
19.812
合 計
28.5356
2,924
33.7
資料:Research Center of Marine and Fisheries Socio Economics, 2007
単位:kg、ルピア
中間地域
量
金額
48
338
35
144
201
68
175
116
170
152
102
7
3
336
1895
0.416
2.418
0.208
0.017
0.032
0.442
1.404
0.494
0.027
0.016
0.728
0.104
0.026
2.522
8.854
65
356
45
121
293
62
253
94
207
187
112
22
4
309
2130
88
24
7
7
6
132
0.52
0.182
0.001
0.104
0.026
0.833
150
44
14
13
4
225
88
7
82
217
42
54
490
2,517
0.064
0.005
0.073
0.121
0.03
1.716
2.009
11.696
75
8
83
199
34
51
450
2,805
全体的によく消費される魚種は、生鮮・加工品を問わず、マグロ・カツオ類、アジ類、カタクチイワ
シなどである。エビ、カニ、イカなどの消費量はそれほど多くはない。
農村では年間 1 人当たりの水産物消費量が28.5kg、都市部では33.7kgに達している。農村と都市の消
費動向の大きな違いは、まず、消費する鮮魚の種類にある。鮮魚消費量に大きな差があるわけではない
が、農村部ではティラピア、コイ、ナマズ、それにミルク・フィッシュなどの淡水魚の消費が多い。一
方、都市部では淡水魚の消費以上に、海産魚類、特にマグロ・カツオ類、シマアジ類などの消費量が多
い。逆に、エビ、イカ、カニなどの消費量は都市部ではなく、農村部で多くなっている。
― 195 ―
都市部と農村部の今一つの大きな違いは、調理加工品の消費量にある。農村部では年間13.5kgである
のに対し、都市部では19.8kgもの消費がある。とりわけ、カタクチイワシの加工品の消費量は7.5kgと
多い。ついで、アジ類、マグロ・カツオ類となっている。焼き魚、蒸し魚、燻製、塩干魚などの形で
消費されている(写真参照)。物流インフラがまだまだ貧弱であるため、水揚港から都市部まで輸送す
る際の鮮度保持が難しい。そのため、都市部では、生鮮よりも加工品の消費量が多い。
一方、水産物に対する支出金額をみると、都市部では消費量の多さとは逆に、支出金額が農村部に
比べて少なくなっている。家計消費支出の全体像と水産物市場流通をとらえていないため、正確に述
べることはできないが、生鮮品に比べて加工品の価格が低廉であることによる。広く消費されている
加工品は、都市市場では価格競争が激しいと思われる。なお、近年、ジャカルタを始めとする都市部
では、急速な経済成長にともなってファースト・フード産業の成長もいちじるしい。そのため、都市
部では動物性タンパク質の消費が魚類から肉類(主にチキン)にシフトしている。それが、水産物消
費に対する支出金額は今後は減っていくことも予想される。
インドネシアでも、魚介類の消費では淡水魚の比重が高くなっている。特に農村部では、地域住民
にとって重要な動物性タンパク源になっている。予測されるのは、ミルク・フィッシュやティラピア
類の供給が増えて、その需要量も増えていくことである。農村部における消費量が今後増えていくだ
ろう。
写真 1:氷なしで運搬されている
写真 2:カツオ類の蒸し魚。東部の都市
部市場ではよくみかける
写真 3:さまざまな魚種が塩干にされる
写真 4:カタクチイワシなど
5.今後の政策
インドネシアで開催される水産関係のワークショップなどでは、対象とされるグループの広い範囲
で利益となるように、成長と貧困削減が可能な水産技術の開発を奨励していくことをめざしている。
― 196 ―
ASEAN諸国と協力して、水産業振興に関わる政策及び戦略を練っている。この中には、水産系企業の
振興策が含まれており、また、農村部での食料確保を目的とした内水面養殖の育成も含まれている。
水産開発が手がけなければならない課題分野はたくさんあるが、インドネシアが特に重点を置いてい
るのは、貧困の解消と人々の「食料の安全保障」にかかわる事業の開発、同時に国家経済に対して貢献
することが期待できる分野である。具体的な戦略は次のようになっている。
1 )貧困層のために安価な動物性タンパク質としてティラピア養殖を位置づけ、その開発を促進す
ること。ここでいう開発とは、孵化、育成、インフラ整備、人材開発と販売促進など、全ての
領域における技術開発である。
2 )ティラピア同様に、エビ、海藻、ミルク・フィッシュなど、高価で輸出志向型の商品の開発と
生産奨励である。こうした産業を奨励することによって、大勢の貧しい漁民と養殖業者に対し
て収入源を創出し、雇用増加をはかることができる。
― 197 ―
インドネシアの水産物貿易の動き
−水産物輸出の特徴と日本市場での位置づけ−
1.インドネシアの水産物貿易の動向
1.1 水産物輸出にみる多角化現象
インドネシアの対日水産物輸出は、2000年から2003年までの年平均額は31億ドルであった(図 1 )。
この輸出金額は韓国の半分、ベトナムの約 2 倍である。インドネシアは日本にとって重要な輸入相手先
であり、上位 5 か国の中に入る。かつて日本市場ではタイからの水産物輸入が大きな割合を占めていた
が、同国からの輸入は減少を続けている。現在(2007年時点)は、インドネシアとタイからの輸入額
がほぼ同じ水準になっている。
図1
日本と東アジア諸国の水産物貿易
図 2 に示したように、東アジアでは中国が最大の水産物輸出国であり、ついでタイとなっている。イ
ンドネシアの輸出金額は減少しており、水産物輸出国として頭角を現してきたベトナムにもすでに追い
抜かれている。
図 3 には、地域全体の輸出品目多角化指数を示しておいた。輸出品目第 1 位のウエートが下がって品
目が多様化している。インドネシアでは2000年に0.36だった数値が2005年には0.3にまで低下している。
また、輸出相手先第 1 位の比率が低下して相手先が分散しはじめている。この間に水産物輸出の多角化
が急速に進展したことがわかる。
インドネシアの輸出も他の国と同様に多角化する傾向にある(図 4 )。しかし、他の国と比べてイン
ドネシアの多角化は遅れて始まったこともあって、多角化指数は地域の平均水準にまで達していない。
これは、同国の対日水産物輸出がエビとツナを中心としてきていることにも起因している。
― 198 ―
資料:FAO
図2
東アジアの主要水産物輸出国の推移
資料:FAO
図3
東アジア地域の多角化傾向
資料:FAO
図4
主要国にみる多角化指数の動き(2000∼2005年)
― 199 ―
1.2 変動が激しい水産物輸出
インドネシアの水産物輸出には他国にみられない特徴がある(図 5 )。まず、輸出量の変動幅がきわ
めて大きいことである。輸出量は2002年までは減少ないしは停滞していたが、翌年の2003年にかけて
急増し60万トンから70万トンの水準に達した。しかし、その後は再び停滞・減少している。
だが、輸出量が増えたにもかかわらず、輸出金額にはそれほど顕著な増加がみられない。つまり、単
価の低い魚種を中心にした輸出であったと考えられる。図 6 によると、輸出量が大きく伸びたのは冷凍
魚である。輸出金額の動きを左右している甲殻類によるものではない。
資料:FAO
図5
水産物輸出量・金額の推移
資料:FAO
図6
魚介類・水産食品の輸出金額
冷凍魚の輸出相手先はこの数年の間に入れかわった(表 1 )。上位 5 か国に限ると、2002年と2005年
では中国がその比率を14%から47%へと一気に高めた。対中国輸出がインドネシアにとって大きな位
置を占めている点が注目される。逆に、それまで冷凍魚の約 4 割を輸出していたタイが 2 割弱にまでシ
ェアを落としている。ただ、対タイ輸出量は、実際にはそれほど顕著に減っているわけではない。
― 200 ―
表1 冷凍魚の輸出相手先比率の推移
輸出相手国
1 中国
2 タイ
3 台湾
4 韓国
5 シンガポール
6 その他計
資料:FAO
単位:%
2002年
14
39
07
06
07
27
2003年
34
44
07
04
03
07
2004年
39
37
06
07
04
07
2005年
47
18
13
05
05
11
1.3 2005年の主要輸出相手国:多角化の実態
水産物の輸出相手先上位 5 か国(図 7 )をみると、量的には中国が全体の25%を占めている。かつて
1 位だった日本が2005年の時点では 2 位にまで後退し、その比率は15%にまで下がっている。タイへの
輸出量は変動幅が大きいのが特徴で、2000年から2002年の平均は約 8 %であったが、2003年には全体の
25%を占めるまで増加した。2004年も22%と高い割合だったが、2005年は 9 %と急激に減少した。
資料:FAO
図7
水産物輸出相手先の内訳(2005年)
一方、輸出相手先上位 5 か国を金額でみると、その顔ぶれは大きくかわる。日本が全体の35%を占め、
ついでアメリカが29%で続く。シンガポール、ベルギー、香港は 4 ∼ 5 %程度と低く、上位 2 か国のシ
ェアは圧倒的である。ただ、この 5 年間に上位 5 か国の構成比には大きな変化がみられる。2000年には
対日輸出が全体の 5 割を超えていた。1990年代は 6 ∼ 7 割を占めた年もある。したがって、インドネシ
アの輸出志向型水産業の発展が日本市場の存在ぬきには考えられないというのは、容易に想像される。
しかし、2000年代になってインドネシアの対日輸出の比率が急速に低下し、アメリカ輸出の比率が増
えている。このことは主要輸出品目であるエビ類に端的にあらわれている。貿易統計の甲殻類でみると、
2002年の対日輸出金額は 7 億5,756万ドルであったが、2005年には 5 億3,258万ドルへと約 3 割近くまで
表2
水産物輸出金額の上位 5 か国の推移
輸出相手国
1 日本
2 アメリカ
3 シンガポール
4 ベルギー
5 香港
6 その他
資料:FAO
2000年
52
19
06
01
04
19
単位:%
2001年
51
19
06
01
04
19
― 201 ―
2002年
51
21
05
02
03
18
2003年
43
22
04
04
03
24
2004年
38
27
05
04
03
23
2005年
35
29
05
04
04
23
減少している。これは日本市場においてエビ類への需要が停滞し、輸入エビに対する需要が減少したこ
とに起因している。一方、アメリカへの輸出は、2002年の 2 億1,268万ドルから2005年の 3 億3,521万ド
ルへと約1.6倍近い伸びをみせた。
インドネシアで進む水産物貿易の多角化は、実態としては、日本市場の地盤沈下に起因しているとみ
てよいのではないだろうか。
表3
上位 5 力国への輸出額推移
輸出相手国
1 日本
2 イタリア
3 アメリカ
4 香港
5 中国
6 その他
輸出額比率
1 日本
2 イタリア
3 アメリカ
4 香港
5 中国
6 その他
単位:100万ドル
2002年
5.460
0.037
3.101
4.571
4.202
11
2003年
4.059
0.854
4.565
3.153
5.874
14
2004年
3.884
4.435
8.945
3.479
3.629
15
2005年
8.291
6.964
6.851
4.454
4.246
21
19.4%
0.1%
11.0%
16.2%
14.9%
38.4%
12.4%
2.6%
14.0%
9.6%
18.0%
43.4%
9.8%
11.2%
22.7%
8.8%
9.2%
38.2%
16.1%
13.5%
13.3%
8.6%
8.2%
40.3%
資料:FAO
1.4 水産物加工品の輸出:フィレーと塩干もの
一方、フィレー類での輸出が増えている(図 8 )。2002年には 4 万 2 千トン程度であったが、現在は
5 万トンを超えている。仕向け先で増えているのは、アメリカ、シンガポール、イタリアであり、特に
アメリカのシェアが26%から33%へと伸びている。逆に、ここでも対日輸出量が大きく減少し、日本
向けの割合は26%から17%にまで低下している。
フィレーについてみると、インドネシアはアメリカ市場への依存度がきわめて高い。量および金額の
増加がこの間にあったが、アメリカは49%(2002年)から51%(2005年)と半分を占め続けている。
千
資料:FAO
図8
フィレー等の輸出推移
― 202 ―
第 2 位の日本の比率は、2002年には19%、2005年は図 8 で示したように11%である。2002年ではアメリ
カと日本で68%を占めていたが、現在ではアメリカが突出している。
塩干ものについては量的に多少の増減はあるが、他種類ほどは大きな変動はない。対日輸出が2002
年は47%、2005年には42%であった。その他に、スリランカが2005年に23%という高い比率を示して
いた。ついで、シンガポール、マレーシア、中国の順になっている。塩干ものについてはアジア域内貿
易が圧倒的に多い。一方、金額でみると日本向けが全体の 7 割強を占めている。単価の高いチリメン類
が含まれていることによるものと推定される。
資料:FAO
図9
塩干魚の輸出動向
2.インドネシア水産物貿易の位置
2.1 原料および低次加工品の供給
東アジアの水産加工関連産業の発展はめざましい。特にタイと中国は、自国原料はもとより海外から
安価で良質な原料を大量に仕入れて高次加工し、再輸出するというビジネス・モデルを確立している。
こうした輸出志向型の水産食品企業の中には、総合食品企業へと発展を遂げるケースが多い。食品関連
産業が両国の特定の地域に集中し、そこでは、規模の経済が企業間ネットワークの形成を通じて働くと
いう事態が広くみられた。
歴史的には、タイがいち早く海外原料依存型の水産食品製造業へと転換をはかった。一方、インドネ
シア水産業は原料供給の役割を長く担ってきた。本報告書の国別編第 3 章「タイ」で触れたように、タ
イ南部・ソンクラに立地するすり身工場の原料は、インドネシア海域で漁獲されたイトヨリ類である。
インドネシア海域に出漁したタイ漁船から、運搬船によって水揚げされている。
タイ南部のソンクラは東南アジアでも有数の水産加工産業の集積地であるが、海外原料のかなりの割
合がインドネシア産だと言われる。もちろん、インドネシアにもマグロ缶詰工場やすり身工場はあるが、
原料として輸出される割合がかなり高い。このため、インドネシア政府は、漁業管理に関する政令
No.17/2006を施行し、自国のEEZ内における外国漁船の操業を排除する方針を明確に打ち出した。外国
漁船が操業する場合、インドネシア企業との共同企業体を設立し、統合漁業投資管理ユニットを通して
陸上に加工施設を設けることを義務づけた。つまり、共同企業体等によって操業することは可能だが、
― 203 ―
(写真 1 )水揚げされ選別されたイトヨリ類(すり身原料
となる)
(写真 2 )タイの漁船と運搬船。主な操業海域はインドネ
シア近海
(写真 3 )インドネシア海域で漁獲されたカツオ類の選別
作業。近くの缶詰工場に搬送される。
必ずその原料を用いた水産加工業を同時に営むという条件がつけられた。
なお、タイの漁船主及び漁港運営機関等からの聞きとりによると、これまではインドネシアで無許可
で操業する漁船が相当数あったが、現在は取り締まりが厳しくなって違法操業は減少している、とのこ
とであった。それに加えて燃油が高騰しているため、タイ南部のすり身工場は原料の確保が今後難しく
なってくるとの懸念をつのらせている。インドネシアのすり身加工の今後が注目される。
2.2 インドネシアの立ち遅れ
インドネシアの水産加工業の地位は、今日でもわれわれが考えるほどには高くないのではないか。す
り身原料の輸出はもとより、シラスなどを最終製品化するためにも、タイにある機械・施設が整った工
場に移送するケースが散見される。これは東南アジアに複数工場をもつ企業が、工程間の分業をおこな
っていることによるものだが、インドネシアで最終工程を行うことに不安を感じているタイの日系企業
があった。もう少し綿密に調査してみる必要があるが、次のような点を指摘できる。
1990年代終盤の経済危機以前のインドネシア水産加工業は、東南アジアではタイにつぐ位置を確保
していた。しかし、経済危機による国内の政治的・経済的混乱、加えて中国の食品関連産業の急速な台
― 204 ―
頭によって、いわゆる先発国に追いついていくという、雁行形態的な発展をとげる余地がせばまった。
自国原料を用いた低次加工は行なうが、タイや中国で行うような高次な付加価値製品を作る、水産加工
から総合食品企業に脱皮していくという段階にはなかなか到達しない。スラバヤ地域のように、水産加
工の集積がある程度進んだ地域もあるが、中国やタイのように大規模な工場となり総合的な食品製造と
して発展していく、という動きは弱い。中国とタイと棲み分けをしながら、生き残りをはかっていると
いうのが実情であろう。
2.3 日本型水産物フードシステムへの対応
インドネシアの水産食品製造企業の最大の輸出相手先は日本である。日系企業の進出も早く、同国の
漁業開発と資源開発を主導してきたのは日本である。だが現在では資本や技術の現地化が進んで、日系
企業が果たす役割は相対的に低下している。対日輸出を通して培ってきた技術力と開発力を活かして、
商品および輸出先の多角化が進んでいる。この事情は他のASEAN諸国と同じである。
すでに述べたタイと同様に、インドネシアの水産開発は1960年代から1970年代にかけて本格化した。
だが、タイでは1980年代後半から90年代前半にかけて、高次加工品の分野に水産食品製造業をシフト
させ、さらにそれを基盤に海外原料依存型の総合食品企業へと発展をとげた企業が多数現れた。一方、
インドネシアでは、賃金水準および原料価格が相対的に低いにもかかわらず、労働集約的な大規模な食
品産業の発展は遅れている。理由はいくつか考えられる。第 1 に、交通・通信を始めとするインフラ施
設の整備の遅れ、第 2 に、輸出志向型産業に対する奨励策が国内企業を対象としていたこと、つまり、
産業・資源の自国主義がかなり強かったこと、等である。そのために、総合的な食品産業を展開するた
めのネットワーク化が遅れたといえる。
3.日系水産企業の活動事例
3.1 日系水産企業による漁業投資と輸出
日本の他にタイ・韓国・中国などがインドネシアの領海内で操業している。それだけインドネシアの
領海が広く、未だに開発されていない資源が存在しているということだろう。実際、政府の水産開発計
画などでは、西インドネシアの過剰漁獲および資源の枯渇を懸念する一方、東インドネシアでの未利用
資源の開発が強調されている。水産関連インフラの投資も東インドネシア中心におこなわれている。
現在、インドネシアの領海内でエビ・トロール漁業を操業している日系水産企業は 6 社ある。東イン
ドネシアが主要な漁場であり、アルー諸島、イリアンジャヤ周辺が主な漁場になっている。アンボンに
は大きな輸出基地がある。インドネシア海域で操業する魅力は、資源の豊富さに加えて、低価格の燃油
が調達可能なこと、賃金水準が低いこと、対ドルの為替レートが低いこと、操業規制・監視体制が弱い
こと、等だと言われている。エビの種類はバナナ、エンデバー、シー・タイガーが中心である。
A社の場合、100トン以上のトロール漁船を用いて操業している。漁獲後、船上でただちに選別して
生きたまま凍結している。選別はシー・タイガーの場合は1.5kgで13通りあり、バナナでは2.0kgで11通
りである。タイガーでは20尾程度のサイズが多くなる。海産天然のエビを生きたまま凍結しているの
で、日本市場でブランド化しやすいとのことである。A社は冷凍エビのほぼ100%を日本市場に向けて
輸出している。選別がきめ細かく行われるのは、量販店との取引が多いことによる。荷受との取引割合
― 205 ―
が高かった時には、ここまで細かい選別は必要なかったとのことである。
今後も東インドネシアでのエビ・トロール漁業は、日本の輸入海産エビ市場で競争力を持ち続けてい
くものと思われる。
3.2 日系水産加工会社B社:企業内の工程間分業と冷凍食材生産
スラバヤ周辺にあるB社は、日本にある缶詰製造企業の子会社として10数年前に設立された。従業
員数は約200人、年間600トンの製品を出荷している。輸入イワシ類を使った缶詰製造工程の一部を担
当し、日本の親企業に出荷している。また、地元で買い付けられるエビを始めとする魚介類を処理して、
フィレー、エビ・パック、シーフードミックス、開きや煮物用などに加工している。フライ類の製造は
なく、比較的低次な加工品が多い。
この企業は、他の多くの日系水産加工企業と同じように、日本の親企業との間で工程間分業を組んで
いる。親会社による持株比率がきわめて高く、販売先も事実上そのネットワーク向けである。このよう
に、製造過程から販売チャネルにいたるまで、親会社に依存しているケースは珍しくはなく、インドネ
シア以外の国に投資をした日系水産系企業でも広くみられる。原料をインドネシア以外の第三国から買
い付ける場合も、親会社がもつ買付・加工会社との取引になることが多い。
3.3 B社の「買い負け」とその対処
B社もこの間に原料買付で「買い負け」を経験している。B社は、タイ、ハタ、フエダイなどの原料
を買い付けて、フィレー加工に力を入れてきた。しかし、欧米からの引き合いが増えて、こうした魚種
の産地取引価格が上昇し、買い付けできない状況に陥った。魚種によって値上がりの状況は違うが、ハ
タやクロダイのように50%近く値上がりしているものもある(表 4 )
。
表4
魚種名
タイ
ハタ
クロダイ
買い付け価格の上昇の例
単位:ルピア
現在の価格(kgあたり) 値上がり以前(kgあたり)
22,000
28,000
15,000
22,000
10,000
15,000−16,000
(注)2007年 6 月に行なった聞きとり調査による。
こうしたなかで、B社はフィレー原料魚の買い付けを断念し、加工の中止に追い込まれた。そう判断
した最大の理由は、
日本での販売価格を原料魚の上昇部分の転嫁という形で値上げできないことにある。
これは、販売価格の上昇が消費者の買い控えを引き起こしてしまうという判断による。調査時点ではド
ル高・円安に為替レートが動き、現地通貨のルピア高で推移したことも要因になっていた。製品のほぼ
全量を親会社等を通じて日本市場に輸出するB社にとっては、やむを得ない判断であった。
フィレー原料魚の買い付けを中止すると同時に、B社では安定した水準で買い付けできる代替魚種を
探し始めた。この地域で豊富に採捕でき、アサリの代替品にもなるアケガイに目をつけ加工を始めた。
調査時点ではこれが軌道にのってシーフードミックスなどの製品となって出荷されていた。なお、アケ
ガイの殻向き等の前処理は産地の集荷業者等の手によって行われている。
B社によると、アケガイを扱うメリットは、この地域ではまだ扱っている業者が少なく、安価な原料
― 206 ―
が豊富に得られることである。また、中国・タイ・フィリピンなどではあまり加工されておらず、日本
市場で競合することが少ない。賃金水準が低いため、大量の作業員が必要になる貝むき・選別等の作業
をするメリットがある。法律で定められた最低賃金は 1 月750,000ルピア、歩合制を入れている同社で
は、キロあたり1,500ルピアくらいになるとのことであった。
原料魚の価格動向に大きく左右されている同社では、今ある商品を土台にしながらユニークな商品を
開発をしたいという計画をもっている。また、以前行っていたEU・アメリカ向け輸出を再開すること
も検討している。
(写真 4 )貝加工のライン
(写真 5 )貝をいれたシーフードミックス(イカリング、
むきエビと一緒)
3.4 日系水産加工会社C社:エビ類加工を中心にした業務
スラバヤにあるC社は、10数年前に日本の冷食メーカーがインドネシア資本との合弁で設立した企
業である。実際の運営は冷食メーカーのインドネシア工場として機能している。エビフライを中心とす
る商品を主に製造している。月間生産能力は450万尾、従業員は600人強である。販売先はわずかにア
メリカがある他は、そのほとんどが日本向け輸出である。C社には販売部門はない。
この地域に工場を設けたのは、漁獲漁業にくわえてエビ養殖業が盛んであったこと、また、合弁相手
先の企業がここに工場を設けていたこと、などによる。原料となるエビは、粗放養殖によるブラック・
タイガーが多い。C社では色もよく形も大きいブラック・タイガーの特徴を活かした商品を製造してい
る。
スラバヤ周辺は以前からエビ養殖業が盛んであった。多くの池は管理養殖池であり、ブラック・タイ
ガーが集約的に養殖されていた。しかし、管理養殖池ではこの間にバナメイ種への切り替えが急速に進
んだ。そうしたなかでC社がブラック・タイガーにこだわるのは、養殖池が零細であってもなお粗放養
殖のほうが安全性は高いと判断していることによる。また、バナメイに切り替えた場合、バナメイを大
量生産している中国・ベトナム・タイなどとの、価格競争に巻き込まれるおそれが強いとの判断が働い
― 207 ―
ている。ただ、零細規模の粗放養殖での生産となるため、少雨などの気象条件に左右されやすい。また
原料集荷が不安定という悩みもある。
3.5 C社の集荷過程とフライ類生産
ブラック・タイガーの集荷が粗放な零細経営が中心になったためか、集荷業者の数が以前より増えて
いる。増えたのは 2 ∼ 3 年前からと言われる。C社にのみ販売する集荷業者もあるが、2 ∼ 3 社の取引
相手をもっている集荷業者もいる。いずれにしても、C社は集荷業者をほぼ固定して、集荷量の安定性
と品質の一定基準を保とうと努めている。集荷範囲はスラバヤ周辺が多いが、中部ジャワのものが入っ
てくることもある。1 日当たり平均20万尾、最盛期には24∼25万尾が搬入されている。サイズはキロ当
たり40∼50尾が多い。
買い付け価格の設定いかんによっては、「買い負け」することもある。その際には、価格を引き上げ
て対処している。ただ、工場の生産能力をフルに活用できる量を集荷するのがなかなか難しいとのこと
である。
フライ類の生産が中心であるが、パン粉は自社工場で生産している。家庭用冷食向けよりも業務用が
中心になっている。出荷したものが量販店等で再包装されて販売される。また、外食チェーン、惣菜業
者などの販売が多いため、製品の規格や品質管理に対する要求がきわめて厳しい。基本的に生の原料を
使用するのはそのためである。また、衛生管理を従業員に徹底して教育している。そうした日本市場の
細かい要求に丹念に応えていくことが、中国との競争に勝つための必須の条件だと考えている。エビフ
ライ以外では、キハダやメバチを用いた加工品をてがけている。
3.6 C社の今後の活動
B社と同じように、中国、タイ、ベトナムなどとどのように棲み分けをはかるかを検討している。中
国の加工企業のように大規模にはできない以上、高付加価値化、安全性などが製品に反映できるように
することである。そのひとつが、ブラック・タイガーへのこだわりである。ただ、原料集荷がネックと
なることがあるため、原料が豊富にある時期に買い付けて凍結・保管する。それにあわせた製品開発を
はかっていこうとしている。また、第三国から原料を輸入し加工してから輸出する方式の導入も検討さ
れている。
4.インドネシアの水産業と日本輸出
4.1 対日輸出の今後
インドネシアの輸出志向型の水産業は、日本市場向け生産の比重を急速に下げている。インドネシア
の場合、タイや中国ほど食品産業の成熟度が高くないために、多角化のテンポは遅いが、それでも着実
に日本離れしている。一方、インドネシアに投資をしている日系企業(現地化された企業を含む)は、
日本の親会社への完成品および半製品の供給が役割になっていることが多く、製品の大半は日本へ輸出
している。そのため、原料価格が上昇しても、簡単に製品価格に転嫁できないし、違う販売先をみつけ
るといった対応もしにくい。対照的に、インドネシアの現地企業は、この 5 年間に対日輸出の比重を下
げて、EUやアメリカ、さらにはアジア諸国というように、販売チャネルの多角化に努めている。いず
― 208 ―
れにせよ、水産物貿易における日本の比重は今後もますます低下していくだろう。
ただ、留意しなければならないのは、インドネシアで加工品が製造されて、それが輸出されていくわ
けではない点である。タイのすり身工場との分業関係について述べたように、原料および半製品を第三
国に輸出して、迂回で日本に再輸出することは少なくない。東アジア域内の分業関係を経由した貿易と
なっていることを過小評価すべきではない。その意味で、日本とインドネシアとの関係は、多面的な視
点からみておかねばならない。
4.2 日系水産企業の動向をめぐって
インドネシアを拠点に水産食品製造を行っている日系企業の多くが、原料集荷の場面で苦戦を強いら
れている。これは他の国に生産拠点を構えている日系企業もほぼ同じである。
ただ、中国やタイなど、経済成長が著しく、国民所得が伸びている地域では、対日輸出をメインにし
ている日系企業が、国内市場に活路を求める可能性がないわけではない。それだけ、輸出市場と国内市
場との間にある障壁が低くなっている。格付けの低いマグロ類をもちいた刺身・寿司消費が増えている。
都市部を中心に和食が普及していることもあって、規格外の冷凍調理済み食品が国内市場に出回るルー
トもふえている。また、日本以外の市場に輸出するケースもある。
しかし、インドネシアでは、そうした対応が中国やタイに比べて難しいのではないか。結局は、原料
価格の上昇分をいかに日本市場の製品価格に転嫁できるかどうか、にかかっている。それがうまくいか
ない限り、今後も日系企業の「買い負け」はつづくと予想される。また、現地の輸出企業は、日本の取
引価格水準の低さと日本の独自規格に従うことによって生じるコスト高のために、その比率を下げてい
くだろう。
― 209 ―
― 210 ―
メダン
西カリマンタン
マカッサル
海峡
東カリマンタン
トミニ湾
マルク海
北
スラウェシ
ゴロンタロ
セレベス海
太平洋
ハルマヘラ海
ミンダナオ島
(フィリピン)
オーストラリア
中部
北マルク
西パプア
バンカ=
中部カリマンタン
スラウェシ
ブリトゥン
セラム海
(イリアンジャヤ)
南スマトラ
パプア
ジャワ海 南カリマンタン
アンボン
パプア
ブンクル
マルク
南スラウェシ
ランポン ジャカルタ
ニュー
南東スラウェシ
中部ジャワ スラバヤ
バンダ海
ギニア
インド洋
アルー諸島
バンテン
西ジャワ
東ジャワ
ジョグ
バリ 西ヌサ・
ジャカルタ
東ヌサ・
東ティモール アラフラ海
テンガラ
テンガラ
西スマトラ
ジャンビ
リアウ
ブルネイ
マレーシア
リアウ
シンガポール
マレーシア
ソンクラ
北スマトラ
アチェ
マラッカ海峡
タイ
パラワン島
(フィリピン)
第Ⅱ部
第5章
フィリピン
山 尾 政 博 広島大学
岩 尾 恒 雄 JICA専門家
1 .水産業をめぐる環境諸条件 …………………………………………………………………………213
2 .フィリピン水産業の成り立ち ………………………………………………………………………217
3 .水産物流通の実態 ……………………………………………………………………………………224
4 .フィリピンの水産物貿易 ……………………………………………………………………………233
5 .水産関連産業の現状と動向 …………………………………………………………………………245
6 .フィリピン水産業の課題と展望 ……………………………………………………………………248
7 .地図 ……………………………………………………………………………………………………250
本報告の内容は次のようになっている。第 1 に、フィリピンの水産業の成り立ちと生産動向について
分析し、その供給能力の変動要因を明らかにする。第 2 に、輸出産業としての水産業の構造と他の
ASEAN諸国との競争力を比較し、その動向と今後の発展方向について見通すことである。第 3 に、国
内の消費需要について分析し、その上で水産物供給能力を明らかにすることである。
1.水産業をめぐる環境諸条件
1.1 フィリピンの成り立ち
島嶼国家フィリピンは、総人口約8,700万人、労働力人口は約3,600万人である。2006年の国内総生産
(GNP)は 1 兆2,744億ペソ( 1 ドル=51.3ペソ)、うち製造業が24.2%を占めて第 1 位、農業・漁業・林
業は18.8%を占めて第 2 位である。完全失業率は約 7 %強だが、潜在的失業率は20%を超えると推計さ
れている1。海外出稼ぎ労働者が多いのが特徴で、その数は100万人を超え、年間に127億6,000万ドルも
の海外送金がある(2006年)。国内経済が低調な時でも海外送金が個人消費をある程度の水準で維持す
るため、他のASEAN諸国と異なる経済指標を示すことがある。
1950∼1960年代にかけてフィリピン経済は、周辺諸国に比べて早くから発展を始めた。しかし、
1970年代から1980年代にかけて政治的混乱に陥った。この間、他の国は輸入代替型の経済開発から輸
出主導型産業の振興に切り替えて経済成長の軌道に乗ったが、フィリピンは大きく立ち遅れた。基本的
にはこの構造は今も変わっていない。大陸・半島部のASEAN諸国は、比較的順調な発展を遂げ、互い
の経済結合関係を強めている。日本、中国、香港、台湾、韓国などを加えた東アジア経済圏が成立しつ
つあるといわれる中で、後発途上国と先発国との間の格差問題をいかに解消するか、という議論がなさ
れることがある。フィリピンはかつて先発国ではあったが、現在はシンガポール、マレーシア、タイな
どから大きく遅れをとり、かといって後発国ではないという、きわめて中途半端な位置にある。
1.2 フィリピン水産業の役割
ところで、フィリピンの水産業は、海面漁業にしても内水面漁業にしても、その資源種類の豊富さと
多様な漁業種類に特徴がある。国民総生産に占める水産業の割合は約 5 %、漁業従事者は推定で約100
万人、就業人口全体の 4 %程度である。しかし、周囲を海に囲まれた大小無数の島から成り立っている
フィリピンでは、数字が示す以上に水産業は重要な地域の基幹産業である。沿岸域では、漁民であるか
否かを問わず、漁獲行為は人々の生活の一部として日常的に営まれている。家庭内消費を目的にした漁
業の存在がきわめて大きいのが特徴である。ちなみに、フィリピン人一人当たりの動物タンパク質消費
量の半分は魚介類である。このように、水産業は産業として国民経済に貢献するだけではなく、フィリ
ピン人の食生活にはなくてはならない存在となっている。
フィリピン社会は、過剰人口が存在し、貧困層に分類される人口の割合が高いという特徴を持つ。一
人当たりの国内総生産(GDP)は1,345ドル(約69,000ペソ、2006年)で、タイの 3 分の 1 強である。
地域によって、国民所得の水準には相当に開きがある。地域格差とともに、階層間の格差もきわめて大
きい。潜在的失業率が高く、貧困層が多い人口密集地帯では、漁業は日銭を稼げる就業先として、地域
1 フィリピン海外雇用庁、2006年の数値。
― 213 ―
経済にとってなくてはならない存在である。小舟を使って簡単な漁業を半農半漁的に営む者が多数いる
一方、豊富な資源と過剰に存在する低廉な労働力とを結びつけた商業的な漁獲漁業が存在する。養殖業
では様々な種類の魚介類生産が盛んに行われ、塩干ものを中心とした労働集約的な加工業が全国各地に
みられる。輸出志向型の水産加工業の発展が著しく、エビ、ツナ、ミルク・フィッシュ、カニなどを原
料とする。これら産業の雇用創出効果は大きく、地域経済に大きく貢献している。また、有望な外貨獲
得産業として、国民経済の安定に一定の役割を果たしている。ちなみに、2004年の水産物貿易の余剰
額2は、4 億3,300万ドルであった。
ただ、かつてこの国がアジアのツナ缶詰製造業をリードした時代の面影はあまりなく、現在はその地
位をタイやインドネシアに奪われている。輸出志向型の水産業は盛んではあるが、他のASEAN諸国や
東アジア諸国に比べて、技術進歩や資本蓄積の点での立ち遅れは否めない。
1.3 水産政策の構成
現在の漁業法(Philippines Fisheries Code of 1998, Republic Act 8550)は1998年に施行されたもので
ある。水産資源の利用と管理に関する大枠を示したという点では、画期的な法律であると考えられてい
る。漁業については、沿岸漁業(municipal fisheries;マニシパル漁業とも呼ばれる)と商業的漁業
(commercial fisheries)に区別し、前者の管轄権を地方自治体(市町)に与えた。
(1)沿岸漁業
沿岸漁業は、市および町(マニシパル)が管轄する漁業であり、沿岸から15km以内の海域で 3 トン
未満の漁船等を用いて行われる。マニシパル海域内での漁業操業、資源管理、漁民・漁船・漁具の登録
や許可、取り締まり等の権限は、市および町の地方自治体(LGU)に帰属している。つまり、地方自
治体は漁民組織やグループなどに対して、特定の区画を設けて利用権を与えることができる。その対象
は、漁獲漁業はもとより、海面養殖、陸上養殖も含まれる。地方自治体は、漁業法に基づく独自の漁業
条例(Fisheries ordinances)を制定し、条例には漁場利用や使用漁具などの取り締まりを含む様々な操
業規制が盛り込まれている。また、最近では、海洋保護区(Marine Protected Area, MPA)を決めて、
条例化する所が増えている。体制は整ってきてはいるが、違法操業による資源破壊や資源の減少が止ま
ったわけではない。ダイナマイト漁や魚毒漁などの違法操業が今も盛んに行われている。
(2)商業的漁業
商業的漁業に分類される漁船の操業は、沿岸から15km以遠になっている。ただ、場合によっては操
業海域が10km以上沖合に設定されることもある。商業的漁業は 3 トン以上の漁船を用いるが、その操
業規模は千差万別で、大まかには次の三つに区分される。
① 小規模商業的漁業( 3 トン以上20トン未満の漁船で操業する漁業)
② 中規模商業的漁業(20トン以上150トン未満の漁船で操業する漁業)
③ 大規模商業的漁業(150トン以上の漁船で操業する漁業)
商業的漁業に関する登録と許可の権限は農業省(Department of Agriculture)に帰属している。フィ
2 余剰額=輸出額−輸入額
― 214 ―
リピンでは商業的漁業に従事する漁船が沿岸域で違法操業することが多く、零細漁民との間で緊張関係
が高まることがある。政府としては、漁業の沖合化・遠洋化を推し進めており、投資委員会(Board of
Investment, BOI)は遠洋漁業に対する投資奨励を行っている。
1.4 養殖業
(1)養殖池
ミルク・フィッシュやエビ養殖が盛んなフィリピンでは、国有地を利用した養殖池に対する開発許可
の上限は、個人で50ha、企業で250haとなっている。許可の期限は25年、その後さらに25年間期限を延
長して最長で50年間、養殖池として利用ができる。開発許可を受けて 3 年以内に商業規模で生産を開始
できなければ、許可は取り消される。5 年以内に契約に基づいた開発が行われない場合は、すべて植林
して元に戻さなければならない。
(2)生け簀等の設置
海面養殖による生け簀等の設置は、市や町などの地方自治体(LGU)の管理下に置かれている。
また、ハッチェリーなどの養殖施設も自治体に登録しなければならない。どの海域に設置するか等に
ついては、地域の資源管理委員会(Fisheries Aquatic Resource Management Council, FARMC)に任せ
られている。
(3)養殖業のための行動綱領
農業省は、環境省をはじめとする政府機関、さらに利害関係者とともに、養殖業のための行動綱領を
定め、環境に配慮した持続的な養殖業の確立を目指している。特に環境省は、農業省やその他の関係機
関と連携して、廃棄された池や未開発で充分に利用されていない池をマングローブに戻す活動を進めて
いる。なお、養殖業者は農業省に対して年次報告の提出を義務付けられている。
1.5 流通・加工業
(1)流通・加工施設の登録と操業
漁業法の規定に従って農業省が監督権限を持つが、水産関連の流通・加工施設の登録は地方自治体で
行われている。操業と運営に関する事項は資源管理組織との話し合いで決められる。水揚げ施設、荷さ
ばき所、製氷施設、冷凍施設、加工施設など沿岸漁業に関わるものについては、統合的ポスト・ハーベ
スト関連産業計画にのっとって配置される。
(2)水産物貿易
養殖用の種苗や稚魚の輸出は、養殖池およびハッチェリー等で育成した魚類以外は禁止されている。
また、生物多様性を維持するために、農業省は様々な措置を講じている。
(3)水産物の質および計量の適正化
農業省では公正な計量が行われるように指導・監督している。輸出入品はもちろん、国内流通品の質
の向上と標準化を省の定めによって実施し、地方自治体もそれらが守られるように監視する。
― 215 ―
1.6 漁業生産環境
海面漁業の操業海域は200マイル経済専管水域を含めて220万平方km、うち沿岸域が26万6,000平方
kmとなっている。水深200m以内の大陸棚は18万4,600平方km、サンゴ礁海域は27万平方kmと推測され
ている。海岸線の総延長は 1 万7,460kmである。
一方、内陸では、湿地面積が24万606ha、そのうち淡水域が10万6,328ha、汽水域が13万9,735hである。
淡水の池が 1 万4,531ha、汽水の池が23万9,323ha、合計25万3,854haである。その他は25万ha、うち湖が
20万ha、河川が 3 万1,000ha、貯水池が 1 万9,000haとなっている。したがって汽水域での養殖業が盛ん
になる環境を備えている。
フィリピンの地域区分は、マニラ首都圏、1 つの自治地域、15の地方からなっており、全部で79州
(province)ある。水揚げ量が多いのはムスリム・ミンダナオ自治地域の16.2%、ミマロバ地方(IV-B)
の14.2%、サンボアンガ地方(IX)の13.8%となっている。量の多寡は別にして、島嶼国家であるフィ
リピンでは、漁業はどこでも重要な基幹産業であり、住民の生計にはなくてはならない生業である。
1.7 水産資源の状況
フィリピン漁業水産資源局(Bureau of Fisheries and Aquatic Resources;以下、BFARとする)によ
れば、フィリピンにおける海面漁業の最大持続生産量(MSY)は190万トンと推定されている。このう
ち、浮き魚類が120万トン、底魚類が70万トンである。大陸棚の外側の底魚資源量の推計値はなく、
200カイリを越えた海域での漁獲可能量も未知数のままである。BFARによると2005年の海面漁獲漁業
の生産量は226万トンに達していた。したがって、数字の上ではすでにMSYの水準をはるかに超えてい
ることになる。今後もこれまでと同じ生産量の伸びが続くと、フィリピンの水産資源は減少・枯渇の速
度をますます高めていくことになる。全国的な動向を示す数値はないが、各地で行われている資源管理
プロジェクト等の報告書では、CPUE(単位当たり漁獲量)がおしなべて低下していると記述されてい
る。世界銀行は現在のCPUEは1991年レベルの30%程度ではないかと推測している3。
資源量が豊富なものは浮き魚類を中心に、Roundscad(マルアジ)
、Indian Sardines(インドイワシ)
、
Frigate tuna(ソウダガツオ)、Skip jack(カツオ)、Yellow fin tuna(キハダ)、Big-eyed scad(メアジ)
、
Fimbirated Sardines、Slipmouth(ヒイラギ)などで、特にカツオ・マグロ資源が豊富である。
汽水域の養殖業の潜在生産力は高く、近年は海面漁業の生産力の低下を補う形で生産量を伸ばしてい
る。特に、1980年代から90年代にかけてエビ養殖業がブームになって以来、養殖魚類は国内消費はも
とより、重要な輸出品目として経済にも貢献している。ミルク・フィッシュの生産は以前からあったが、
本格的な養殖産業として発展したのはやはり1990年代である。ティラピア(Mozambique Tilapia)の養
殖が開始されたのは1950年代だが、本格化したのはナイル・ティラピアの導入以降のことだといわれ
る。魚類ではその他にコイも養殖対象魚種になっている。海藻類は豊富な種類があるが、Caulerpa(イ
チイヅタ)の養殖が以前から盛んであった。その後、Eucheuma(キリンサイ)の養殖が各地で行われ
るようになっている。
3 World Bank. 2005. Philippines Environment Monitor 2005:Coastal and Marine Resource Management. World
Country Office Philippines, Pasig City.
― 216 ―
Bank
1.8 漁業従事者の状況
フィリピンでは漁業や養殖業への参入が容易であるため、漁業従事者に関する詳しい数値を把握する
ことは難しい。2002年に実施された漁業センサスによると、漁業就業者(漁船等を所有して操業して
いるもの)は161万4,368人(経営体含む)となる。全体の85%は沿岸漁業(municipal fisheries)に従事
している零細漁業者で、商業的漁業従事者は全体の 1 %に相当する 1 万6,497人、養殖業者は22万6,195
人(14%)である。
漁業が農業セクターの総付加価値生産(GVA)に占める比率は15%である。漁業従事者全体に占め
る貧困化率は全国平均で50.8%ときわめて高く、国の貧困化率33.0%をはるかに上回っている4。つま
り、水産業を地域経済の核としている地域では、貧困化率が他の地域に比べてきわめて高いことになる。
これが、沿岸域で過剰漁獲を引き起こしやすい原因の一つである。
後に生産量の動向を詳しくみるが、2005年の総生産量416万トンのうち、沿岸漁業の比率は27.2%に
すぎない。商業的漁業もほぼ同じような比率で、養殖業が実に全体の45.6%を占めている。沿岸漁業に
従事している就業者が全体の85%を占めていることから、典型的な生産の二重構造になっている。し
たがって、沿岸漁業従事者の 1 人当たり漁獲量はきわめてわずかである。所有する漁船は大半が 3 トン
未満の動力船であるが、今でも無動力船の割合が高いと言われる。地域によっては、季節的に簡単な漁
具(例としてプッシュ・ネット)を用いて操業を行う住民が多い。
1.9 漁業者世帯の経済状況
国家統計局が調査した資料では、フィリピンの 1 世帯当たりの平均年間収入は144,400ペソであるが、
漁家の平均年間収入は70,244ペソで、その半分にも満たない(2000年調査)。これを大雑把に計算する
と、1 日当たりの収入は192ペソ、小売価格を基準にすると魚介類約 2 kgに相当する5。1970年代には
20kgあったとされるから、急激に漁家経済が悪化したことが分かる。この調査では貧困化率は61.9%に
なっている。
漁家世帯のエンゲル係数は非常に高く、家計支出に占める食費の割合は59.3%である。一方、教育へ
の支出は少ない。教育水準はかなり低く、漁民の 3 分の 2 は初等教育で終わっている。生活の質は全般
的に劣悪である。家族数は多く、貧困の悪循環が働いている。
以上のことから明らかなように、漁業者世帯の大部分が貧困に喘いでおり、それが資源の過剰な利用
を促す要因になっている。
2.フィリピン水産業の成り立ち
2.1 漁業生産の動向
(1)漁業生産の三部門
フィリピンの漁獲統計は、養殖、沿岸漁業、商業的漁業の三部門に分けて公表されている。前述のと
おり、商業的漁業(commercial fisheries)は、3 トン以上の漁船を用いて操業する漁業であるが、だい
4
National Statistics Coordination Board (NSCB). 2005.Development of Poverty Statistics for the Basic Sectors.NSCB,
Makati City, Philippines. Mimeo.
5 Danilo C. Isreal 2003. Economics and Environment in the Fisheries Sector. In turbulent seas: The status of Philippine
marine fisheries. DA, Philippines.
― 217 ―
たいは海岸から15km以遠で操業することが義務づけられている。10km以遠での操業を認めている地域
もある。3 トン未満の漁船による漁業は、沿岸漁業(municipal fisheries)に分類され、また、漁船を使
用しない沿岸での漁業もこれに該当する(The Philippines Fisheries Code of 1998、フィリピン漁業法)
。
特徴として、マニシパリティと呼ばれる町、市などの自治体が小規模漁業を管理していることが挙げら
れる。自治体を境界線とした海域があり、そこで操業する漁民・漁船・漁具の登録と許可の発行を担当
している。
養殖業には、淡水養殖、汽水域養殖、海面養殖、それに貝類と海藻の養殖が含まれている。フィリピ
ンのミルク・フィッシュ(Chanos Chanos;サバヒー)養殖は有名で、各地で行われている。この養殖
業は経済波及効果の高い、すそ野が広い産業として確立しており、国内の旺盛な需要を満たすとともに、
重要な輸出産業にもなっている。
(2)全体の生産動向
図 1 に示したのは、フィリピンの漁業生産の動向である。1995年には280万トンの漁獲量だったが、
2004年には393万トン、2005年には416万トンにまで増えている。特徴的な点は、第 1 に、1995年の時点
で、沿岸漁業、商業的漁業、養殖業の三部門がほぼ同じ規模の生産量であったことにある(表 1 )。つ
まり、漁獲漁業が全体の 3 分の 2 、養殖業が 3 分の 1 を占めるという構成であった。だがその後、沿岸
漁業、商業的漁業ともに生産量が伸び悩んだ点が第 2 の特徴である。
第 3 に、養殖業がこの間の漁業生産量の伸びを牽引してきたと言える。1995年の94万トンから、2005
年には 2 倍に相当する190万トンにまで生産量を増大させ、商業的漁業、沿岸漁業を大きく引き離して
いる。後で詳しく述べるが、養殖生産量の68%は海藻である。したがって、金額的には養殖の割合は
高くなく、全生産額の約30%である(表 2 )。いずれにしても、商業的漁業・沿岸漁業の生産の伸び悩
みを養殖業が補うという構図となっている。
沿岸漁業
図1
フィリピン漁業生産量の推移
― 218 ―
表1
フィリピン漁業形態及び魚類別生産量の推移
表2
フィリピン漁業形態及び魚類別生産額の推移
商業的漁業
沿岸漁業
商業的漁業
沿岸漁業
2.2 海面漁獲漁業の動向
(1)海面漁業と主要魚種
統計数値で確認する限りでは、海面漁獲漁業の生産量は約200万トン、そのうち商業的漁業生産は
110万トン程度となっている(表 3 )。3 トン以上の漁船を使用し、まき網、Ring net、トロール、
Danish Seine、しき網、釣り・はえ縄、等によって漁獲される。その量は1997年の約87万トンから着実
に増加している。主な魚種は、マルアジ類、インドイワシ、ソウダカツオ、カツオ、キハダ等である。
海面漁業生産の特徴は、カツオ・マグロ漁業の経済的ウェートの高さにある。施網漁法にて漁獲され
るものは主に缶詰原料になる。大型漁業会社による漁船操業が活発で、缶詰工場が立地しているゼネラ
ル・サントスには大量のカツオ・マグロ類が水揚げされる。一方、刺身用マグロは、パンプボートによ
― 219 ―
る手釣り漁法によるもので6、沖合操業するパンプボートが増えている。缶詰および刺身マグロのどち
らも輸出用である。
商業的漁業、沿岸漁業という分類だが、あまり厳密ではない。特に、商業的漁業の中には沿岸域で違
法操業する漁船も多く、また、漁船規模が 3 トン未満で沿岸漁業に分類されていても、経営体としてみ
れば商業的漁業に分類しておいたほうがよいケースも多い。したがって、実際の商業的漁業による漁獲
量は、これらの数値をはるかに上回っているだろう。
沿岸漁業が対象とする魚介類の種類は多種多様(表 4 )であり、漁業者が用いる漁具・漁法も地域や
生態系に応じてバリエーションに富んでいる。輸出用の高級魚種が多いのが大きな特徴で、ハタ類など
のように活魚で輸出される魚種、伝統的な中華食材として輸出されるナマコやアワビ等の漁獲が盛んで
ある。また、エビやカニの生産量も多く、最近ではカニ(タイワンガザミなど)漁が各地に広がってい
る。イカは敷き網の普及で地域によってはかなり漁獲量が増加している模様である。これはフィリピン
の沿岸漁業における一つの特徴と言えるが、輸出向けになる有用魚種については、漁業種類を問わず漁
獲圧力が高まりやすいという構造をもっている7。
沿岸漁業では定置網漁業が盛んである。網の種類は多種多様で、敷き網、むろ網などの規模の大きな
ものから、河口近くに設置する稚エビなどを対象とする小型のものまで、その規模は大小様々である8。
表3
商業的漁業生産量の推移(主な魚種別)
商業的漁業生産量・計
表4
沿岸漁業生産の推移(主な魚種別)
沿岸漁業生産量
(海面)
・計
グルクマ
※総漁業生産量は商業的漁業生産量の表に含む。
2.3 養殖業の動向
(1)汽水域養殖
フィリピンは他の東南アジア諸国と同様に、汽水域養殖が盛んである(表 5 )。特に、ミルク・フィ
6
7
山下東子『東南アジアの輸出志向型マグロ関連産業と輸入国市場』(博士論文、平成17年11月)、p.61。
輸出向けの有用魚種に対する漁獲圧力の高まりは、往々にして違法操業を引き起こすことになる。ダイナマイト漁、
シアン化合物を用いた魚毒漁は現在でも広く行われているが、トロールや巻き網を改良した、種々の違法漁具を用いた
操業が沿岸域でみられる。
8 SEAFDEC 2003. Fishing Gear and Methods in Southeast Asia, III. Philippines Part 1.
― 220 ―
ッシュの生産が広く行われ、その年間生産量は20万トンを超えている。養殖生産量の大半はこのミル
ク・フィッシュによる。一方、ブラックタイガー類の生産量は 3 万トン強と少なく、しかも減少傾向に
ある。ティラピアはさほど顕著ではないが、増加傾向をみせている。
金額でみると、ブラックタイガーが121億ペソ、ミルク・フィッシュが109億ペソである(表 6 )。ホ
ワイトは生産量・金額ともに伸びてはいるが、2003年の時点ではまだまだ小さい。現在、ブラックタ
イガーに代わってホワイトが伸びているが、タイやインドネシアのように、急激な魚種転換はみられな
い。汽水域の養殖生産量は、ミルク・フィッシュの生産動向によって規定されている。
表5
汽水域の養殖生産量の推移(主な魚種別)
表6
汽水域の養殖生産額の推移(主な魚種別)
ノコギリガザミ
ノコギリガザミ
(2)海面養殖生産の推移
海面養殖生産が急激な伸びをみせている(表 7 、8 )。これは、海藻類養殖が盛んになったためだと
考えられる。対象になっているのは、Caulerpa(イチイヅタ)、Eucheuma(キリンサイ)、Gracilaria
(オゴノリ)
、などである。
表7
ハタ海面養殖生産量の推移
表8
ハタ海面養殖生産額の推移
― 221 ―
魚類養殖で代表的なのはハタ類である。これは活魚としての需要が高く、国内需要はもとより、香港
をはじめとする中国の諸都市に輸出されている。統計からみる限り生産量は小さいが、実態としてはこ
れよりも大量に生産されている。同時に、アカメ類(seabass)の養殖も盛んになっているが、他の東
南アジアほどには消費されていない。ハタやアカメの養殖本格化が他の近隣諸国に比べて遅れたのは、
餌に用いられる低価格の「くず魚」
(trash fish)が得にくいためだとされる9。
2.4 内水面漁業の生産動向
1997年から2003年までの内水面漁業の生産量の伸びは小さく、26万 5 千トンから29万 4 千トンへと増
えただけである(表 9 )。しかし、その後急速に生産量が急伸して41万トンに達した。内訳をみると、
漁獲漁業の生産量が減少ないしは微増する一方、養殖生産量が増加している。2002年には、漁獲漁業
と養殖の生産量が逆転していた。金額では当初から養殖生産量が上回っている。
表9
内水面漁業生産の推移
年
年
年
年
年
年
年
年
年
年
内水面養殖池の生産量は、この間に相当に大きな伸びを見せている(表10、11)。1997年に 4 万 3 千
トンであった生産量が、2003年には 7 万 2 千トン、さらに2006年には11万 8 千トンへと急増している。
生産量が増大した大きな要因はティラピア養殖が 3 万 9 千トンから2003年の 6 万 8 千トン、2006年には
その 2 倍弱の11万 4 千トンに伸びたことにある。こうした生産量の伸びはティラピアに対する需要の伸
びを背景にしたものである。ティラピア(Mozanbique tilapia)がフィリピンに持ち込まれたのは1950
年代から60年代にかけてであったが、生産量は伸びなかった。市場に広く出回るようになったのは、
ナイル・ティラピアの生産が本格化した1970年代から80年代にかけてのことである。以来、ティラピ
アの生産および消費需要は着実に増えている。
内水面養殖の増加傾向がみられるのはフィリピンばかりではなく、他の東南アジア諸国でも同じであ
る。海面漁業の水揚量が減少ないしは停滞していること、それに伴なって水産物市場価格が上昇してい
ることなどを受けて、養殖技術が安定しているティラピアへの需要が高まっていることは十分に考えら
れる。
9 FAO Regional Office for Asia and the Pacific "Overview of Philippine Aquaculture". フィリピンでは小魚やくず魚も食
用にされている。タイやマレーシアのように、トロール漁業によるトラッシュ・フィッシュの水揚割合が小さかったこ
とも、生エサを必要とする養殖業が伸びなかった原因であろう。
― 222 ―
表10
淡水域養殖池生産量の推移
表11
淡水域養殖池生産額の推移
2.5 漁業生産の動向と特徴
(1)水産開発をめぐる資源・環境問題
海面漁獲漁業をめぐる資源問題がかなり深刻であると指摘されて久しい。漁船の動力化と漁具・漁法
の近代化が、商業的漁業から沿岸域の零細漁業にまで広がった1980年代半ばを境に、未利用資源の開
発が急速に進んだ。1990年代に入ると、魚種や地域によっては、資源の減少や枯渇といった深刻な事
態がみられるようになった。一方、養殖業では、東南アジア全域に広がったブラックタイガーのエビ養
殖が各地に広がり、ミルク・フィッシュと並んで有望な輸出型水産業として成長をとげ、経済成長に大
きく貢献をしたと評価されている。だが、養殖業がもたらす外部不経済の広がりがすさまじく、特に、
マングローブ林の伐採に象徴される沿岸域生態系の破壊が進んだ。1970年には28万 8 千ヘクタールあっ
たマングローブが、1998年にはわずかに11万 7 千ヘクタールにまで減少している。
こうした水産資源やマングローブ資源の急激な減少は、単に水産業が産業として順調に発展したとい
うことを意味するのではない。むしろ、十分な資源管理と漁業管理を実施しない、或いは、実施できな
かったことを示している。自由な漁業操業やマングローブ開発が可能であったために、持続的に生産量
の増大だけがもたらされたのである。資源破壊的な漁具・漁法による違法操業が日常的に行われるとい
う事態が各地でみられる。例えば、沿岸域では小型トロール漁船( 3 トン以下)の操業が禁止されてい
るが、現在でもそれに近いタイプの漁具・漁法を使った違法操業が各地で行われる。零細漁民の中にも、
ダイナマイト漁やシアン化合物を用いて違法操業をするものが後を絶たない。
全体として、水産資源を管理する法制度やシステムの整備が進んではいるが、実態としては十分に機
能しているとはいえない。
(2)漁村の貧困がもたらす資源問題
フィリピンの漁業開発には、水産資源が過剰に利用される背景や社会環境として、漁村の貧困問題が
ある。もちろんそれだけで説明できるものではないが、農村に比べて漁村の貧困化率は非常に高い。漁
― 223 ―
村は人口が過剰で、利用可能な水産資源とのバランスが崩れている地域が多い。特に、海面漁業は参入
が自由であるため、背後に人口過剰な農村部を抱える地域では、農業就業者による兼業、ないしは転入
が広くみられる。河川の河口付近に設置する各種の小型定置、仕掛け・石日干の類、無動力船を使った
釣りや刺し網、プッシュ・ネットと呼ばれる稚エビや稚魚の採捕など、多種多様な零細漁業が営まれる。
漁村が過密になる今一つの要因は、沿岸域に広がる養殖池の存在である。地域によっては、不在大池
主による所有が広がり、漁村集落の形成をきわめて難しくしている。同時に、漁船漁業のインフラ基盤
を弱いものにしている。山が迫り、海岸沿いにある狭隘な土地に集落ができる場合、漁業以外の生業が
確保しにくいという状況になりやすい。
漁村社会の貧困が沿岸資源の過剰な利用をもたらしているとばかりは言えないが、重要な要因の一つ
であろう。加えて、漁業管理及び資源管理に関する安定した枠組がまだ十分にできあがっていないため
に、資源の乱獲が起きやすい状態にある。そのため、消費需要が増加して市場取引価格が上昇すると、
経済的に有用な資源が過剰に利用されることになる。そうした状況にあって、漁獲漁業の生産力が落ち
て、養殖業へのシフトが生じているものと考えられる。
写真 1
パナイ島バナテ湾にて
写真 2
パナイ島サンホセのプッシュ・ネット
(3)水産物輸出がもたらす資源開発のダイナミズム
フィリピン水産業を特徴づける今一つの点は、水産物輸出の動向が生産に大きな影響を及ぼすことに
ある。ツナ類を対象魚種としている漁業は元々世界市場の動きが直接に反映されやすい。ただ、沿岸漁
業においてもその傾向が強い。地域漁業にカニの漁獲が導入されたことで、生産と流通の構造が大きく
変わった事例がいくつもみられる。また、ハタなどの輸出用高級魚を漁獲して蓄養するために、魚毒が
広く用いられているのも周知の通りである。中国向け食材であるナマコ漁も盛んであるが、最近ではそ
の養殖業が各地に広まっている。水産物輸出がもたらす資源開発への影響は、後に輸出の動向を検討す
るなかで詳しく述べる。
3.水産物流通の実態
3.1 国内水産物流通の実態
(1)主要漁港と産地・消費地市場
フィリピンには、フィリピン市場運営機構(1976年設立)を前身とするフィリピン水産業開発機構
― 224 ―
(Philippines Fisheries Development Authority, PFDA; 1982年に改組)があり、全国に 8 つの大きな直轄
漁港をもっている(表12)。直轄の漁港には、卸売市場及び水産加工施設等を併設している。これとは
別に、全国にPFDAが建設した漁港が47か所あり、自治体単独か、自治体とPFDAが合弁形態で管理を
している。PFDAおよび自治体が管轄する漁港はともに、ルソン島およびその周辺に集中している。フ
ィリピンの漁獲量の相当部分を占めているパラワンには、市が管理するパラワン漁港があるが、その水
揚げの大部分がマニラに向けて出荷される。
表12
フィリピン水産開発公社管轄の漁港水揚量
ちなみに、2003年の商業的漁船漁業の水揚場所は、PFDAが管理する主要漁港が22.2%、民間業者が
もつ漁港が19.9%、残りの55.9%が従来からある水揚場となっている。つまり前浜などの施設が整って
いない場所への水揚げが大半を占めている。
PFDAに水揚げされる量は減少する傾向にある(表13)。1995年には37万トンの水揚げを記録したが、
その後は減少と増加を繰り返し、2002年以降は31万トン前後で推移している。漁港には製氷施設があ
り、約 4 万 3 千トンの氷を生産している。水産加工品の取扱は1997年にピークの 3 万 3 千トンを超えた
表13
PFDA管轄の漁港取扱量の推移
― 225 ―
が、その後は変動を続けながら減少している。2003年には 2 万 8 千トン台にまで回復したが、2005年に
は 1 万 5 千トンにまで減少している。いずれも、漁港施設としては、変動幅が大きく、衰退傾向を示し
ている。
PFDAが管理する漁港での水揚量は約32万トン、全国の漁業生産量の10分の 1 強である。最大の漁港
はマニラ近郊にあるナボタス漁港(Navotas)、2005年の水揚実績は16万 4 千トンである。ついで、ゼネ
ラル・サントス漁港(Gene. Santos)の 7 万 8 千トンである。イロイロ、サンボアンガ、ルセナはほぼ
同じ規模の取扱量がある。特に、後二者の漁港の水揚げが増えているのが注目される。
統計資料によって確認したナボタス漁港の地位低下は、市場関係者からの聞きとり調査によっても確
認できた。これは、1999年に開港したゼネラル・サントスに水揚げが移ったこと、アジ類の漁獲から
ツナ類の漁獲に重点が移り、これに伴なって用いる漁具も変わってきていることによる。また、燃油価
格が上昇して漁船の操業コストが上昇しているのも、水揚量の減少に響いていると言われる。
なお、2006年まで取扱量が減少していたが、2007年には多少回復した。これは、イワシの取扱量が
増えたためである。
(2)ナボタス漁港の取扱魚種
1995年にナボタス漁港での取扱量は30万 9 千トンであったが、その後は多少の振幅をしながらも減少
しつづけ、2005年には16万 4 千トンにまで落ち込んでいる。この港には大きな卸売市場が併設されてお
り、マニラ首都圏への水産物供給ターミナルの役割を果たすとともに、転送機能も持っている。
マニラ首都圏への水産物供給で重要な位置を担っているのは、ナボタス漁港の他に、地方自治体が管
理するマラウロン(Marauron)、プラスルメトロ(Pulauslu Metro)、ロサリオ(Rosalio)の 3 漁港で
ある。その中で、ナボタスは全体の 6 割から 8 割を供給している、と推定される。
2004年と2005年の水揚げ魚種(表14)についてみると、次のような特徴を指摘できる。第 1 に、メア
表14
ナボタス漁港の取扱魚種トップテン
ティラピア
ティラピア
― 226 ―
ジ(scad)類が 6 万トンと、漁港全体の扱い量の 3 分の 1 強を占めている。広く国内消費される魚種で
あることが容易に想像される。次いで多いのがミルク・フィッシュで、2005年の取扱量は 1 万 7 千トン
弱である。海産魚ではなく、汽水域養殖等によるものだが、漁港の市場に持ち込まれて取引される。イ
ワシ類は 1 万 3 千トンである。ソウダガツオ、カツオなどのツナ類の取扱も多く、両者を合わせると 2
万トン近くになる。
一方、ナボタスではミルク・フィッシュに加え、コイやティラピアの取引も盛んである。海産魚以外
の扱いが同時に行われていることから、フィリピンでは、淡水・汽水魚の消費が盛んであることが伺える。
ナボタス漁港は 5 つの市場で構成されている。第 1 市場と第 2 市場が主に商業的漁業による水揚げを
扱う場所になっている。第 1 市場には各地から来る運搬船が接岸する他、漁船が直接接岸して水揚げを
することもある。第 2 市場はトラックで運ばれてきた水産物を扱う。第 3 から第 5 市場は沿岸漁業によ
って漁獲された水産物を対象にしている。水揚げされた海産魚類の大半を取引しているのが、第 1 市場
である。その割合は全体の67%に達し、まき網船によって漁獲された魚種が対象になっている。この
市場には19業者のブローカーが登録されている。取扱量に比べてブローカーの数が少なく、1 業者当た
りの取扱量がきわめて大きい。
全体としてみると、ナボタス漁港の取扱量はまき網漁業に大きく左右されている。2006年まで取扱
量が減少したのはアジ類の扱いが減少したことによるが、2007年に回復したのはイワシ類の水揚げが
増えたことによる。
なお、首都圏の水産物市場におけるナボタス漁港の地位は年々低下している。同港を経由しないで直
接産地から仕入れる小売市場が増えていると言われる。後に述べるクバオ市場はルセナから、マリキナ
市場はカビテから直接仕入れるルートを確立している。
写真 3
ナボタス漁港(取引の光景)
写真 4
ナボタス漁港(取引の光景)
(3)ナボタス漁港にみる流通チャネル
マニラ首都圏における取扱シェアが低下しているとはいえ、ナボタス漁港は現在でもフィリピン最大
の水揚港である。同港には、ブローカーと呼ばれ、荷受け業務とセリを行う112社の卸売業者が登録さ
れている。卸売業者はウィスパー(ささやき)という独特の手法でセリを取り仕切っている。そのセリ
を通して、バイヤー・セラーと呼ばれる仲卸業者が買い取っていく。彼らの売買機能は、市場内に限ら
れている。フィッシュ・ディーラーは仲卸から魚介類を仕入れて、マニラ首都圏および他県の小売業者
や零細なバイヤー・セラーへと分荷、販売していく。加工業者はセリを通して買い付ける場合と、セリ
を経ないで荷受けから直接買い付ける場合の二つのルートを持っている。
― 227 ―
ブローカーは別にして、チャネルの中心的な位置にあるのが、仲卸である。仲卸は100kg単位でセリ
落とし、それを40∼45kgの荷に分けて販売していく。このような分荷機能を果たしながら、取引業者
に対する金融決済のサービスを提供している。ブローカーと漁業者、ブローカーと仲卸業者の間では現
金決済が基本となっている。一方、仲卸業者とディーラーなどの取引はクレジット決済が一般的で、仲
卸業者が決済に伴うリスクを負担している。
図 2 には、ナボタス漁港(市場)の流通チャネルを大まかに示しておいた。
聞き取り調査より作成
図2
ナボタス漁港のマーケティング・チャネル
(4)国内消費市場価格の動向
国内の平均卸売市場価格を示した表15によると、価格動向には大きな特徴があることがわかる。第 1
に、海産魚の価格はおしなべて上昇している。インフレ率はもとより、需給関係を十分に分析しないま
まに述べることになるが、海産魚の卸売価格ははっきりとした上昇傾向にある。1997年から2006年の
間におけるアジ、タイ、エビ、ツナ、カニなどの価格上昇率は特に大きい。その一方、ミルク・フィッ
シュ、ティラピアといった養殖魚の価格には2003年まで変化があまりみられない。ミルク・フィッシ
ュの場合、1997年と2003年の間に振幅はあったが、ほぼ同水準の価格であったし、ティラピアも同様
にあまり価格変化がなかった。しかし、2004年を境に主要魚種の平均卸売価格が大きく上昇している。
ミルク・フィッシュは2003年の59.9ペソから73.5ペソに、アジは60.5ペソから72.1ペソにまで上昇した。
ティラピアもこの間に10ペソの値上がりを示している。
別の統計資料でミルク・フィッシュだけをみると(表16)、振幅はあるが産地取引価格、小売価格と
も 5 ペソ程度の変動幅が記録されているだけである。海産魚に比べると安定している、と言える。
マニラでの卸売市場価格は、ナボタス漁港・市場での取引価格に左右されている。ナボタスでは15
の魚種の価格についてモニタリングしている。付属資料として掲載している月別価格についてみると、
ハタ(grouper)、スリップマウス(slipmouth)、ビスゴ(bisugo)、プシット(pusit)の変動幅が比較
― 228 ―
的大きい以外は、概して小さい。
表15
水産物の平均卸売価格
グルクマ
ティラピア
表16
表17
ミルク・フィッシュの価格の推移
主な魚種別平均小売価格の推移
グルクマ
ティラピア
(5)鮮魚小売市場の動き
マニラ首都圏では、スーパーマーケットが増えて消費者の購買行動はかなり変わってきている。しか
し、加工食品や日用雑貨をスーパーで購入する都市生活者の割合も高いが、生鮮品については、“Wet
market”と呼ばれる従来的な市場で購入する層が圧倒的に多い。
ケソン市クバオ地区は、大きなショッピング・モールを核に早くから発展してきた商業地域であるが、
そこにも大きな生鮮市場がある。そこでは、野菜・青果、肉類、それに鮮魚・水産加工品が販売されて
いる。鮮魚市場の内部は予想した以上に清潔に保たれており、販売されている鮮魚の状態も良い。氷が
ふんだんに使われており、鮮魚は新鮮な状態で販売されている。魚種も豊富で、淡水魚に加えてハタの
活魚販売も行われていた。マグロの刺身販売もあり、主に、日本人などの外国人が主な顧客になってい
るという。この市場は、他の鮮魚市場に比べて特に状態がよいと思われるが、地方の鮮魚市場も比較的
清潔さが保たれていたことから、消費者の鮮度に対する姿勢は、予想以上に厳しいものがある。
クバオ市場では、ツナとブルーマーリン(かじき)などと並んで、サーモンが販売されていた。この
― 229 ―
市場での主な購買者は外国人及び富裕層ということであったが、他の東南アジア諸国と同様にサーモン
が本格的に消費され始めているという点は興味深い。なお、大型量販店ではサーモンの販売がかなり一
般化していると思われた。
大型量販店を核としたショッピング・モールがマニラ首都圏はもとより、全国各地に進出し小売市場
を席捲している。しかし、青果や鮮魚の販売はまだ限られている。首都圏の大手スーパーといえども、
その魚介類の販売コーナーは肉類に比べて格段に狭く、商品種類も限られている。ミルク・フィッシュ、
ハタ類、アジ類、ティラピア、エビ、それに貝類が中心である。肉類をスーパーで求める消費者は多い
が、魚介類は極端に少ない。消費者の多くが魚介類を小売市場(wet market)で購入している。
一方、水産物加工品については、伝統的な塩干ものの種類は豊富とはいえないが、スーパーでも扱わ
れている。冷凍品の中身は、フィッシュ・ボール、テンプラ(イワシ等のディープフライ)、カニ風味
スティックが多い。また、ミルク・フィッシュを冷凍した切り身が広く扱われている。ミルク・フィッ
シュ関係の製品は多く、マヨネーズなどを使った詰め物、ローストなどもある。しかし、大手の量販店
でも水産物冷凍品の売り場面積は、決して大きいとはいえない。水産物をベースにした調理済み冷凍食
品の扱いはまだ少ないといえる。
写真 5
ケソン市クバオの生鮮市場
写真 6
ケソン市クバオの生鮮市場
(6)パラワン、ミンダナオの漁業に依存するマニラ首都圏
詳しい統計はないが、パラワン島における漁業生産がマニラ首都圏で消費される水産物の 6 割近くを
賄っていると述べる関係者がいた。もちろん、この数値はかなりな過大評価であり、ミンダナオ、さら
ヴィサヤ地域のパナイ島周辺から移送されてくる魚介類の割合も多いと推測される。ただ、パラワンの
漁業生産量は、海面漁業だけで30万トンを超えており、マニラ首都圏への出荷が多いのは事実である
(図 3 )。マニシパル漁業とも呼ばれる沿岸漁業が盛んで、表18に示した2004年の資料によると、1 万 5
千隻を超える漁船が登録されており、漁業者も 7 万人を超える。パラワン島が属しているミマロバ地方
(IV-B)の漁獲量は約56万トンと推計される。フィリピンの中では漁業開発の新しい地域であり、資源
が豊富であったことから、ビサヤスを始めとするフィリピン各地からパラワンに移住する漁民が後を絶
たなかった。パラワンは、フィリピン水産業のフロンティアとして独自の地位を保っている。
パラワンには大きな漁港が 9 つあるが、そのうちの一つ中央漁港は2005年まではPFDAの管轄下にあ
ったが、現在プエルト・プリンセサ市が管理している。この漁港は中心的な水揚げ基地であると同時に、
― 230 ―
図3
表18
パラワンの漁業生産量の推移
パラワンの海面漁獲漁業(2004年)
マニラ移送の中心的な役割を担っている。大きな集荷業者が11社あり、氷蔵した魚を大型ボックス
(400kg)にいれて、マニラに定期船で輸送している。週に 3 日、合計70トンもの鮮魚類がここからマ
ニラ首都圏に発送されるが、タコやイカは主に輸出向けとして扱われている(図 4 )。
オークション・ホールにブロック(取引区画)を借りる卸売業者は、仲買や小売業者と相対で取引す
ることが多い。この漁港で水揚げする漁船の数は大小あわせて500隻余り、釣りや延縄が多く、メバチ
などの大型魚種もある。卸売業者は、時には何十人もの漁民との間で、“suki”(スキ)と呼ばれる前貸
し関係を結び、彼らの水揚げを排他的に集荷している。
なお、漁港を運営する市は、漁業者、卸売業者、買付業者からそれぞれ利用料を徴収している。漁業
者からは、kg当たり0.25ペソの水揚手数料、卸売・買付業者からもkg当たり0.25ペソで、生産者から直
接買い付けて地域外に輸送する場合も手数料が徴収されることになっている(「市場規則」より)
。
以上のように、パラワンは首都圏マニラの水産物消費の動向を大きく左右する水揚げ基地として、そ
の比重を増してきている。逆に、他の地域(リージョン)での水揚げは必ずしも伸びてはおらず、それ
を埋める形でパラワンが生産量を伸ばしてきたとも言える。それは、PFDA管轄下の漁港での水揚げ量
が、1992年と2005年の数値がほぼ同一水準にあることをみても、容易に想像される。
― 231 ―
聞き取り調査より作成
図4
写真 7
パラワン市場の水産物流通ルート
プエルト・プリンセサ中央漁港の様子
3.2 消費と需給動向
(1)1人当たり消費量の変化
フィリピンの一般家庭では、食料消費の35%が米に、12.5%が魚介類にそれぞれ支出されている。他
の東南アジア諸国と同じように、米と魚介類を基本にした食事パターンで、タンパク質摂取量の22.4%、
動物性タンパク質の56%が魚介類によるものである。ただ、この数十年の間に所得水準の上昇が著し
く、それに伴って鶏肉を始めとする肉類の消費が伸びてきたと言われる。食のファースト・フード化が
進み、魚介類の消費は減少している。
1 人当たり消費量は1993年に36kgであったが、2004年にBFARが推計した数値は31kgであった。ただ
し、この数値は供給量をもとに算定した数値であるので正確ではない。別の推計によると、純粋に食用
として消費されているのは、2001年には26.80kgであった。それ以前の 5 年間の消費量にはほとんど変
化がない。
(2)生鮮を中心にした消費
大雑把な推計によると、水揚げ量の70%が生鮮・冷蔵の形で流通・消費されている。残り30%が加
― 232 ―
工原料として利用される。生鮮・冷蔵での消費が圧倒的に多いが、加工製品では塩干もの、燻製、発酵
などとして消費されている。
生鮮・冷蔵で消費される割合が高いにもかかわらず、それを支えるインフラ施設はまだ充分に整って
いない。ポスト・ハーベストに問題が多く、輸送のためのコンテナーもいまだに木やかごを用いること
が多い。大型船ではプラスティックや発泡スチロールが用いられるようになっているが、零細規模の漁
船ではほとんど使われていない。また、製氷施設も充分ではない。政府が所有している製氷施設、冷凍
庫のうち実際に操業しているのはそれぞれ48%、28%と言われている(2004年調査)。大都市は別にし
て、地方では今でも伝統的な包装方法(バナナの葉、プラスティック・バッグ、新聞など)で流通させ
ている。生鮮を中心に消費されていることから、改善の余地は大きい。
都市部を中心にして、加工品に対する需要が増えている。首都マニラを始めとする大都市では、スー
パーやミニ・ショップが増えている。こうした店舗では、フィッシュ・ボール、ソーセージ、イカ・ボ
ール、ナゲットなどが広く販売されており、需要も増えている。
(3)需給予測
BFARが2005年から2006年に作成した”Comprehensive National Fisheries Industry Development Plan”
(CNFIDP)によると、2010年には人口が9,500万人となり、単純に国内の水産物需要量を推計すると
290万トンとなる。また、2025年までには人口が 1 億3,490万人となる。現在の食用消費量は270万トン
であり、その供給の内訳は養殖業が18.8%(海藻は除く)、沿岸漁業が39.7%、商業的漁業が41.5%であ
る。年間成長率を養殖業で12%、沿岸漁業3.4%、商業的漁業4.5%として予測すると、2005年から2025
年にかけて合計で840万トンの不足、年間平均で43万トンの不足となる。
CNFIDPでは、この需要予測に対し、三つのシナリオを準備している。第 1 のシナリオは漁獲漁業の
成長率が低い場合、第 2 に漁獲漁業がゼロ成長の場合、第 3 に養殖業が拡大する場合、それぞれ検討し
ている。
いずれのシナリオでも需要が供給を上回ることになり、何らかの対策が必要である。CNFIDPが提起
しているのは、漁獲努力量の適正化である。持続的な資源利用のレベルにまで漁獲努力量を削減する必
要がある。また、市場価値の高い魚種の漁獲量を適正な再生産が行える範囲にまで抑えることである。
生態系に配慮した養殖業の発展はもちろん必要である。現在のポスト・ハーベストでのロスは25∼
40%ときわめて高い比率であるが、これを減少させていくことも有効な方法である。
4.フィリピンの水産物貿易
4.1 水産物輸出の動き
(1)停滞する水産物輸出
フィリピンの水産業は、他の東南アジア諸国の動向が示すのと同じように、特定の漁業種類や魚種に
ついては強い輸出志向性がみられる。ツナ類、エビ類、イカ、タコなどに加え、ハタ類やナマコなど中
華食材として利用される魚種の輸出が盛んである。加えて、ミルク・フィッシュが重要な輸出品目にな
っている。
輸出金額の動向をみると(図 5 )、2002年には 2 億9,800万ドルの輸出額であったが、2005年には 2 億
― 233 ―
4,000万ドルにまで減少している。減少した要因は、甲殻類の輸出が減少したことにあり、この 4 年間
に 1 億6,140万ドルから 1 億790万ドルへと、約33%も減少している。なかでもブラックタイガーの減少
が著しかった。ただ、別の統計数値によると、2004年には19.6%の前年比減であったが、2005年には
17.8%の増加になっている。いずれにせよ、ブラックタイガーに代表されるエビ類の動向は輸出全体に
大きな影響を与えている。なお、鮮魚輸出も減少している。
主要な輸出相手先だが、金額的には一貫して日本が首位の座にある(表19)。だが最近、対日輸出の
落ち込みが著しい。2000年には 1 億4,600万ドルもあった金額は、2005年にはその半分弱の7,850万ドル
にまで落ち込んでいる。このため、水産物輸出額全体に占める日本の割合は44.6%から32.7%へと減少
し、その地位を低下させている。一方、第 2 位の相手先であるアメリカへの輸出も、7,300万ドルから
図5
表19
フィリピン水産物輸出額の推移
魚介類上位 5 カ国への輸出額の推移
― 234 ―
4,750万ドルにまで減少している。第 3 位の香港輸出も減少している。フィリピンの主要な輸出品目で
ある甲殻類の減少が直接に影響しているのだろうが、フィリピンの水産物輸出の基盤が年をおって脆弱
なものになっているのではないかと、想像される。
4.2 種類別にみた輸出動向
(1)ツナ製品の輸出動向
フィリピンの主要な水産物輸出品目は、魚種別には、ツナ、エビ、海藻、タコ、カニ、ハタ活魚、イ
カ、観賞魚、アジ類、ナマコとなっている。これらの魚種が全体の 9 割弱を占めている。上位 3 つのツ
ナ、エビ、海藻の比率がきわめて高いのが特徴的である。後に述べるように、エビ類の輸出は減少して
いるが、ツナの輸出は比較的堅調に推移している。特に、缶詰に代表される調理済みの形で輸出される
金額は増えている。主に日本向けとなる生鮮・冷蔵ツナの輸出が伸び悩んでいるのとは対照的である。
かつて、タイが世界のツナ缶詰生産のトップ・シェアを握る以前は、フィリピンが世界有数の生産国
であった。しかし、現在はコートジボアール、インドネシアなどの新興国にもほぼキャッチアップされ
てしまった。タイがアメリカのツナ缶詰市場で大きな比重を占めるようになる1980年代後半までは、
フィリピンがアメリカ市場の 7 割を独占する時もあった。フィリピンの輸出志向型水産業のうち、マグ
ロ関連産業は旧植民地宗主国であったアメリカ市場との結びつきを深めながら発展した、と言える。
2000年時点のフィリピンのマグロ缶詰の世界シェアは2.62%、国内生産の輸出依存度はほぼ100%であ
ったと推計され、完全な輸出志向型産業として成長・発展してきたことがわかる。
だが、1980年代後半からツナ缶詰生産が始まったタイで、原料を海外に求めた輸入原料依存の再輸
出型が発展すると、フィリピンは原料の確保という点で比較劣位に陥ってしまった。自国原料にこだわ
りすぎたことが裏目にでた。この点は、インドネシアの缶詰生産も同様な傾向にあると指摘できる。ま
た、当時、主要なツナ缶詰生産国であった日本の技術と投資が、フィリピンではなくタイに向かうこと
で、世界貿易に占める地位が急速に低下したと考えられる。フィリピンの輸出向けマグロ缶詰工場は
12社あり、そのうちの 7 社がミンダナオ島のゼネラル・サントスに立地している。日産1,200トン程度
の缶詰生産能力を有している。
なお、この点は検討を要するが、フィリピンのマグロ漁業は他国の缶詰工場に対する原料供給を中心
に再編成が進んでいるのではないかと考えられる。ツナはフィリピン水産業の最大の輸出品目であるが、
原料魚として輸出する割合が高いのが特徴である。輸出型缶詰産業も盛んだが、世界市場では原料供給
国として位置づけられている。F社は大型まき網漁船を操業するフィリピンでも有数の漁業会社である。
対象とする魚種はカツオ、量的にはこれが70%を占める。残りがキハダ、それにアジとなる。漁獲物
の90%が缶詰用の原料になる。フィリピン国内で加工用として提供する他、インドネシア、パプアニ
ューギニア、タイ、EUなどに原料魚として輸出している。この漁業会社が属している企業グループで
は、缶詰生産が始まってまだ間もない。
フィリピンと世界のマグロ市場との関わりをみると、東太平洋海域を中心にしたマグロ漁獲漁業の発
展を軸にした、原料供給の役割を担っているのではないかと思われる。賦存資源量の豊富さから考える
と缶詰産業の発展があってもよいのではないか。
― 235 ―
(2)エビと海藻製品の輸出
マグロ缶詰と同様に、フィリピンには他国との激しい競争に晒されて、思うように伸びていない水
産物の貿易品がある。輸出動向のところで述べたエビがその典型例である。主に養殖エビが輸出されて
いるが、その生産基盤はタイを始めとする主要なエビ生産国ほど安定していない。タイが病気の発生に
対応していち早くバナメイ種に切り替えたのに対し、フィリピンではまだそれほど進んでいない。生産
量の動向で指摘したように、ブラックタイガーは病気の発生などがあったことから、その輸出上位 5 か
国に対する合計金額は、2002年をピークに減少を続けている(表20、表21)
。
表20
エビ類の国別輸出量の推移
表21
エビ類の国別輸出額の推移
一方、海藻は養殖が年々盛んになって、生産量・輸出量とも伸びている。2005年の生産実績は約135
万トンに達したと推計されており、養殖業全体の生産量の71%を占めている。パラワンの生産量が全
体の27%を占め、次いでタウィ・タウィの23%、両県でほぼ半分を生産している。海藻が養殖されて
いる面積は2005年の推計で 2 万9,000ha、前年に比べて 6 %の伸びを示した。だが、輸出は2004年の
9,012万ドルから2005年の7,226万ドルと、約20%も減少している。主要な輸出相手先は、フランス、ア
メリカ、韓国、中国、香港である。なお、輸出する商品の形態は、原材料としてか、粉末のような加工
製品にしてかのいずれかである。原材料ベースの割合が67%、残りが加工製品である。2005年の海藻
関連産業の販売金額は7,230万ドル、そのうち加工部門が 6 割を占めている。
4.3 ミルク・フィッシュの生産と貿易
(1)重要な輸出品になったミルク・フィッシュ
ミルク・フィッシュの輸出は振幅はあるが伸びている。2001年は590トンであったが(全ての製品)、
2004年には11万 1 千トンに達した。2005年に 9 万 2 千トンに下がったが、それでも 5 年前に比べるとほ
― 236 ―
ぼ 2 倍弱の伸びを見せている。金額的には、ピーク時の2004年には336万ドル、2001年の約2.3倍となっ
ている。ミルク・フィッシュの主な輸出先はアメリカ、輸出量全体の43.1%を占める。次いで、カナダ
やイギリスとなっている。冷凍で輸出される割合が高いが、ボーンレス・タイプのフィレー輸出が増え
ていると考えられる。これらの国でミルク・フィッシュが強く需要されるのは、フィリピンからの海外
出稼ぎ労働者が多数居住してしているためだと推測されている。
ミルク・フィッシュの産地は、表22、表23に示したようにブラカン、パンガシアン、キャピズ、イ
ロイロ、ネグロスなどである。パナイ島のイロイロ市に拠点を置く池主協会での聞きとりによると、ミ
ルク・フィッシュの流通構造はこの数年の間に大きな変化を遂げていた。ルソン周辺での生産が盛んに
なり、イロイロからマニラに移送して販売する機会が減っている。以前なら生産量の 6 割をマニラに移
送していたが、現在は皆無に近く、イロイロの生産者協会を通してゼネラル・サントスに出荷している。
イロイロ市場ではミルク・フィッシュの需要と供給関係が崩れているといえる。2006年には産地価格
が低迷しているため、養殖方法を集約的なものから、昔ながらの粗放なものに戻している池主が多い。
その結果、ヘクタール当たりの生産量が1.6トンから500∼600kgへと落ちたと推測される。
ゼネラル・サントスのツナ缶詰加工場では、アメリカへの輸出価格がよくない時には、ミルク・フィ
ッシュの加工を増やしている。本来なら、産地であるパナイ島のイロイロに水産加工場があれば産地価
格が低迷することがないが、フィリピンの場合、加工場の立地に難があり、国際競争力を発揮できにく
い条件があると考えられる。
表22
表23
生産上位州別のミルク・フィッシュ生産量
生産上位州別のミルク・フィッシュ養殖池面積
(2)重点課題となっているミルク・フィッシュ輸出
一方、この間に、ミルク・フィッシュの輸入が経済問題として扱われている。ミルク・フィッシュ養
殖業の波及効果は高く、最近では集約的養殖業の発展にもめざましいものがある。しかし、ミルク・フ
― 237 ―
ィッシュの種苗生産はまだ商業ベースで軌道にのっていない。天然採苗には限界があり、写真 2 で示し
たプッシュ・ネットと呼ばれる小さな網目を使って手動で採捕している。季節になると、海辺にはプッ
シュ・ネットを持った漁民たちであふれかえる。人工種苗の価格が安くなっているために、天然ものの
割合は次第に下がっている模様である。しかし、国全体としてみると稚魚は不足しており、インドネシ
アや台湾から輸入せざるを得ないのが実情である。このため、政府は、国家ミルク・フィッシュ開発計
画(PBDP)を策定し、安定した生産を確保するという目標を掲げて、プロジェクトを実施している。
4.4 輸出貿易の多角化の遅れ
(1)多角化の停滞
すでに述べたように、フィリピンの輸出相手国は、日本(沖縄除く)、アメリカ、香港、韓国、台湾
である。2000年にはこれら 5 か国が輸出総額に占める割合は88%であったが、2005年には81%とわずか
だが低下している。いずれにしても、フィリピンの輸出相手先は日本を中心とする東アジア地域とアメ
リカである。他の東南アジア諸国でみられるような、水産物貿易の多角化の現象はみられない。これは、
表24
ミルク・フィッシュ加工種類別における相手国毎の輸出額の推移
― 238 ―
フィリピンの水産物輸出の「停滞性」とみて間違いないであろう。
一方、製品分類別にみると、活魚の輸出量には変化がみられないが、金額では増えている(表25)。
輸出相手先としては香港が圧倒的に多く、量的には全体の73%、金額では68.5%を占めている。香港を
拠点として中国国内の周辺大都市に移出されるものと思われる。ハタに代表される活魚は今後も増えて
いくのではないだろうか。金額的にアメリカの比重が高いのは、単価の高い観賞魚が含まれていること
による。
写真 8 ミルク・フィッシュの養殖池
(池の底を干出しているところ)
(パナイ島、ダマンガス、2006年 3 月)
表25
写真 9 ミルク・フィッシュの養殖池
(パナイ島、バナテ、2006年 3 月)
活魚の上位 5 カ国への輸出額の推移
(2)鮮魚と冷凍魚の動き
活魚が増える一方、鮮魚(フィレーを除く)の取扱金額が急速に減っている(表26)。これは、主要
な輸出相手先であった台湾向けが急減したこと、同じく香港の減少によるものである。どのような理由
で減少したかは不明であるが、台湾と香港とが中国との鮮魚取引を拡大させたことによるものであろう。
冷凍魚はこの間に大きな変化を見せている。表27に示したように、台湾への輸出量が10倍近く伸び
ている。逆に、日本、インドネシア、アメリカへの輸出は減少している。2002年の輸出量全体のうち、
95%が上位 5 か国に集中していたが、2005年にはこれら 5 か国のシェアは約87%へと下がっている。特
に、日本向けの比率の低下が著しい。これは金額ベースではほとんど変化はない。
― 239 ―
フィレー及びその他は量的には2,700トンと少なく、金額は1,100万ドル足らずである。主な輸出相手
先はアメリカ、スイス、香港、イスラエル、タイである。
表26
表27
フィレーを除く鮮魚の上位 5 カ国への輸出額の推移
フィレーを除く冷凍魚の上位 5 カ国への輸出量の推移
(3)甲殻類の動向
エビを含む甲殻類の輸出量は、3 万 1 千トンから 2 万 2 千トンへと大きく減少している(表28)。主
な取引相手国は、日本、韓国、アメリカ、香港、台湾である。上位 5 か国への輸出量が落ち込んだのが
大きな要因である。特に、日本の落ち込みが顕著である一方、アメリカ向け輸出が伸びているのが注目
される。
日本との取引額は、8,770万ドルから5,140万ドルに低下し、その比重は54.4%から47.7%へと低下し
ている。逆に、アメリカ輸出が伸び、韓国向けも金額では伸びている。最も額が大きい甲殻類の輸出で
みられたこの変化、つまり日本向け輸出の減少ないしは相対的地位の低下は、どの品目でも多かれ少な
かれ観察できる現象である。
― 240 ―
表28
甲殻類の上位 5 カ国への輸出量・額の推移
4.5 冷凍魚の輸入と相手先
フィリピンの水産物輸入の中心は冷凍魚であり、これが全体の 8 割強を占める。しかし、図 6 からも
分かるように、冷凍魚の輸入金額・量の変動は大きく、2002年から2005年にかけて急減と急増を繰り
返している。
輸入相手先として量的に多い上位 5 か国は、中国、パプア・ニューギニア、日本、台湾、インドネシ
アであるが、日本からの輸入が2005年に前年の 6 千トンから 1 万 5 千トンにまで急増している(表29)。
ちなみに、日本にとって、フィリピンは輸出相手先として上位20位以内には入っていない。フィリピ
ンが主要国から輸入する冷凍魚は、缶詰原料となるツナ類が圧倒的に多い。2005年の関税統計による
と、冷凍魚の76%がツナ、次いでアジ類の18%となっている。ツナの輸入相手先は、パプア・ニュー
図6
フィリピン水産物輸入額の推移
― 241 ―
ギニア、台湾、インドネシアの順になっている。冷凍魚と並んで多いのがエビの餌であり、これはアメ
リカ、オランダ、タイから輸入している。全体として、輸入の変動幅が大きいのは冷凍ツナの変動によ
るものである。
なお、統計では確認できないが、ミルク・フィッシュの稚魚・幼魚の輸入が増えていると指摘されて
いる。エビ養殖からミルク・フィッシュ養殖への転換がかなり進んでいることによる。
表29
フィレーを除く冷凍魚の上位 5 カ国からの輸入量の推移
4.6 ツナ缶詰生産と輸入原料
今後、フィリピンのツナ缶詰生産の動向如何によっては、冷凍魚輸入がさらに増える可能性がないわ
けではない。現在のところ貿易統計から判断する限りでは、国内原料の不足分を輸入しているようであ
る。タイのように、輸入冷凍ツナ類に依存した缶詰生産になるかどうかはわからないが、タイは別格と
して当面の競争相手となるインドネシアとの間で激しい資源を繰り広げることになるであろう。
4.7 在来型漁業がもつ強い輸出志向
フィリピンの輸出動向からみる限り、タイやインドネシアのように、水産物輸出の動向がドラスティ
ックに動いていくという状況はあまりみられない。ただし、それは統計上に現われる数値のことで、実
際には、地域漁業が選択する漁業種類や対象とする魚種、さらには流通構造の変化などに反映している。
ツナ缶詰に代表される食品製造業では、近代的な技術を駆使する大型まき網漁法などの漁船漁業、さら
には養殖業が原料を供給するのが一般的である。それ以外の多種多様な魚種は、在来型の漁業種類によ
って漁獲されたもので、その流通・加工に大きな技術革新を必要とするものでもない。
しかし、輸出貿易のあり方は、地域の漁業動向にきわめて大きな影響を与えている。つまり、ハタな
どの活魚類、アワビ・ナマコ・フカヒレなどの中華食材、カタクチイワシやアジ類に代表される塩干も
の、カニ加工品など、在来型漁業で漁獲される水産物を輸出需要に結びつけたものが多い。言いかえれ
ば、在来型の零細漁業でも流通ネットワークさえ整えば、輸出市場には結びついていく、という特徴を
もっている。この点は東南アジアの他の国でもほぼ同様である。
4.8 カニ漁業の動向からみた輸出需要のインパクト
(1)パナイ島の事例
パナイ島のバナテ湾地域では、この数年の間にカニ漁業(対象種はブルースイミングクラブ、
Portunus trituberculatus;ガザミ)が盛んになったが、その大きな要因が輸出需要の盛り上がりであった。
ただし、バナテ地区に大きなカニ缶詰工場ができたわけではない。それにつながる集荷ネットワークが
― 242 ―
できたにすぎない。
図 7 は、バナテ地区に輸出につながるネットワークができて以降の主なチャネルを示してある。第 1
のチャネルは、「パラパラ」と呼ばれる卸売業者が主催するオークションを通じて取引され、あるいは、
その外で彼らを通さない相対取引が漁業者や小売業者との間でなされる。これは、典型的な在来型のチ
ャネルである。第 2 のチャネルは、カニの取扱に特化した集荷・加工業者を通した新しいタイプのネッ
トワークであり、業者が地域のカニ漁業を振興していく役割を果たしている。この業者は、一部の漁業
者に直接カニカゴないしはカニ刺し網の購入に必要な資金を前貸している。或いは、村落内の集荷業者
に対して買い付け資金を貸与している。集荷したカニはサイズに応じて選別され、蒸し器にかけられる。
簡易乾燥した後で発泡スチロールのボックスに氷蔵され、エスタンシアの殻むき工場に搬送されていく。
単純なチャネルではあるが、このチャネルの出現によって、バナテ地区のカニ漁業は大きな変貌をと
げた。まず、わずか 2 ∼ 3 年の間にカニ漁業がきわめて活発になった。ある村では、それまではえ縄漁
業のみで生計をたてていた漁家の多くが、写真10(カニカゴを満載した漁船)のように、カニ漁業を
操業の中に組み込むようになった。カゴは小さく、中にエサとなる小魚をくくりつけるタイプである。
図7
カニの流通ネットワーク −パナイ島バナテ地区の事例−
写真10 カニカゴを満載した漁船
(パナイ島 バナテ湾)
― 243 ―
別の村では刺し網もあるが、カゴ漁業が急速に普及していった。第 2 に、カニを集荷するネットワーク
がバナテ湾全域に張り巡らされた。漁業者からの直接集荷ももちろんあるが、村の集荷業者を通すケー
スが増えた。買付需要が高まり、カニの価格水準が大きく上昇したと言われる。
(2)パナイ島の事例:加工業の発展
バナテ地区では、カニ集荷業を活発に営む業者が出現したことで、漁民の操業面では次のような変化
が現れた。第 1 に、カニカゴを用いた漁家の操業が著しく増えたことで、多くの漁家はカニカゴを組み
合わせた複数漁具の操業を本格化させた。はえ縄や刺し網との組み合わせが多い。第 2 に、カニの集
写真11
集荷したブルースイミングクラブ
写真13
写真15
写真12
集荷業者による加工
写真14
集荷業者によるカニ加工場の立ち上げ
― 244 ―
簡単な蒸し器
カニ集荷業者がエスタンシアに出荷
写真16
カニ・ミートのサンプル
荷・流通体系が完全に変化した。それまでは他の魚種と同じように、卸売市場で販売されていたが、カ
ニは専門の集荷業者に集まるようになった。
第 3 に、カニの産地価格はそれまでのイロイロ市やバナテ地区の生鮮市場によって決まるものではな
く、輸出価格に連動するようになった。カニの産地価格形成で影響力を発揮するのは、卸売業者ではな
くなった。
当然のことだが、卸売業者と漁業者との間にあった前貸し関係は崩れ、新たに登場したカニ集荷業者
との取引関係を築く漁民が増えた。このことは、この地区の流通の仕組みや産地価格の形成に少なから
ず影響を与えている。
なお、カニカゴ漁については具体的な操業規制があるわけではないため、増えすぎた漁獲努力量によ
って資源が減少するのではないかとの懸念が出始めている。また、カニカゴ操業に転換した漁船の操業
コストがこの燃油高のなかで上昇し、これまでのような十分な漁獲を得られないケースもみられる。
カニ生産をめぐる最大の変化は、有力な集荷業者が自ら殻剥き・甲羅はがしをしてカニ・ミートを生
産するようになったことである。図 7 では、エスタンシアの加工業者を経由してセブの缶詰工場に販売
していたが、これを短縮して直接缶詰工場に原料を販売する形にしている。規模は小さいが、最盛期に
は1.4トンのカニを処理する能力をもっている。カニ・ミートに換算すると308kgとなる。
この地域のカニ漁業は、セブ島にあるカニ缶詰輸出工場の需要増に支えられて、活発になっていった。
いわゆる輸出対応型の生産・流通・加工システムがきわめて短期間の間に定着したといえる。しかし、
それはあまりに急激であるがゆえに、カニ資源の過剰な利用による減少を招きやすい性格を持っている。
決して規模の大きな漁業経営ではない、零細な漁民がこうしたグローバルな水産物需要に対応している
のが特徴である。
5.水産関連産業の現状と動向
5.1 水産加工業の動き
フィリピンの水産加工業についての最新の詳細な資料はなく、1999年の古いものしか得られなかっ
た。全体で488工場が登録されていたが、塩干品の工場が207か所、燻製品が177か所と在来的な工場が
全体の79%を占めている。冷凍工場が15か所、缶詰工場が14か所、その他が75か所になっている。塩
干品や燻製品についてはすべてが登録されているわけではない。
全体としてみると、水産加工業の発達は、東南アジア大陸部およびインドネシアに比べて遅れている。
島嶼国家であるフィリピンでは各地で水産業が盛んである。しかし、島嶼国家であるという地理的な制
約が働いて、まとまった量の原料を確保しにくい制約条件が働いている。歴史的に水産物の流通は島内
を中心にしたものであったことから、塩干ものなどの加工品よりも、鮮魚流通がメインになっていたと
いう背景も考えられる。
輸出できる魚種は限られており、需要を上回る水揚げがあるのは、ツナ、エビ、ミルク・フィッシュ
等である。その他の魚種については量的な制限が働いて大規模な加工業が成立するまでには至っていな
い。日本人による投資や起業化はもちろんあるが、大手水産企業による投資はほとんどないとも言われ
る。
― 245 ―
5.2 日本向け水産食品製造業:A社の事例
① A社の概要
A社は日本向け水産物輸出を手がけている日系現地企業であるが、スシネタをはじめとして付加価値
の高い商品開発を手がけている。中国、タイ、ベトナムのように海外原料に依存した再輸出型ではなく、
国内原料による加工である。フィリピンの場合、特別区に投資をして海外原料を輸入して加工輸出する
という水産食品製造業の展開がほとんどみられない。日系の輸出企業であっても原料立地型の加工業を
志向する傾向が強い。様々な理由があるが、水産業だけではなく、輸入に依存した加工貿易型の輸出産
業への奨励が十分には機能していないものと考えられる。投資条件は他の東南アジア諸国とほぼ同水準
にあると言われているにもかかわらずである。A社にも海外原料による委託加工を開始してはどうかと
いう誘いもあったようだが、受け入れてはいない。
A社はマニラの本社と工場に加えて、ルソン島、パナイ島、ミンダナオ島にもそれぞれ工場を構えて
いる。全従業員は1,000人を超える。以前は原料・半製品輸出が主だった。その時の輸出先は日本に加
え、アメリカやヨーロッパ向け輸出もあった。しかし、10年ほど前から国内原料を用いた付加価値の
高いスシネタを中心にした生産体制に切り替えたことから、今は日本向け輸出が中心である。
A社は、フィリピンの国内原料で比較優位を持てるものを中心に加工・生産しており、他の輸出国と
競合するものについてはできるだけ避けるという方針をとっている。エビの扱いを少なくしているのは
そのためである。
現地で加工することにより、島嶼部からマニラまでの運送費を抑えることができる。また、選別コス
トがかからないというメリットもある。工場を分散させることにより、季節による取扱量変動を少なく
することができる。こうした対応は、日本市場で中国・タイ・ベトナムなどの企業と競争していくため
の必要条件になっている。大量生産による低価格製品の供給ができにくいため、原料の質にこだわった
製品作りに努めている。
ただ、原料立地型の加工業は、稼働率を上げるために、利用可能な資源の種類を増やして、原料供給
の季節変動による影響を小さくする必要がある。また、工場が分散していることから、しっかりしたマ
ニュアルを作り、工場間で製品のばらつきがでないようにしなければならない。マニュアルがあれば、
フィリピンでは水産加工はしやすいと言われる。なお、英語でマニュアル作りが行われるため、翻訳コ
ストは他の国に比べて安いのが大きなメリットである。
② 水産食品製造業の制約条件
A社の場合、マニラに製品を集めて輸出しているが、国際運賃に比べて国内運送費がきわめて高いと
の指摘があった。また、輸出型の食品産業の集積が十分になされていないために、必要資材を安価に調
達するのが難しい。同社はフライ類の生産を手がけているが、パン粉はマレーシアから輸入している。
また、日系のスーパーが進出していないこともあって、日本向けの包装用トレイなどの調達も割高にな
っている。
つまり、中国・タイ・ベトナム等と比べて、日系の食品関連産業の進出があまりないために、企業間
の分業関係に基づくコスト・ダウンがしにくい環境にある。他の先発国が企業間取引の拡大によって大
量生産と価格の引き下げを行っているのに対して、フィリピンではそれがほとんど期待できないという
ことである。
― 246 ―
A社が置かれている条件を反映してか、ここ数年、フィリピンに新規投資をしてくる食品製造業関係
の日系企業はほとんどない、とJETROではみている。
③ 販売チャネルの特徴
A社の製品は、日本側の輸入商社を介して問屋経由で回転寿司チェーン、和食チェーン、惣菜チェー
ンなどに販売されている。輸入商社を抜いて問屋と直接取引することもある。量販店への販売はあまり
ないとのことである。中国やタイの企業のように大量生産体制をとっていないため、販売チャネルには
大きな特徴がある。
A社が置かれている条件は、フィリピンにおける日本向けの水産食品製造業をとりまく状況をよく表
している。高付加価値で安価な製品を定時に大量供給する体制が取りにくい分、高次加工による製品差
別化への意欲は強い。原料で比較優位を持つカツオ、マグロ、ミルク・フィッシュ等を用いた新しい商
品開発を進めていく可能性は十分にある。
5.3 国内向け加工業の動き
塩干ものなどの伝統的な加工品はあるが、フィリピンではすり身産業があまり発展していない。これ
は原料が確保できないことによるものであろう。一方、フィッシュ・ボールやケーキなどは都市需要が
拡大するのに伴って大量生産体制が整いつつある。
① フィッシュ・ボールの大量生産
大手漁業会社Bが所属する企業グループでは、3 年ほど前から小規模ながらフィッシュ・ボールの生
産を本格化させている。以前はボンレス、切り身、サイコロ、パティなどの冷凍加工品作りが中心であ
ったが、現在ではそれに迫る勢いで売り上げを伸ばしている。ただ、原料はミルク・フィッシュやカー
プなどの養殖ものである。漁船漁業による水揚げ原料はほとんど用いていない。
フィッシュ・ボールはスーパーやレストランでも販売されるが、大量に需要されるのは一般小売市場
(wet market)やベンダー(揚げ物を販売する行商)である。そのため、B社の工場では、午後 1 時か
ら翌日の午前 3 時までという変則的な操業体制をとっている。これは、できたてを市場に並べたいとい
う小売業者や行商の需要に応えたものである。注文量は日毎に変わるが、冷凍魚を原料として用いるた
めに調整はできる。大手の漁業・加工業者がこのような水産加工品を取扱い始めた点に注目しておきた
い。
② 冷凍品の需要はスーパーと外食業者
一方、B社では切り身を中心にした冷凍水産物の商品化も多数手がけている。ツナ、ブルーマーリン、
イカ、ナマズ(ギンダラと呼ばれる)、ミルク・フィッシュ、エビ、サーモンなどである。サーモンは
ここ 1 年位の間にノルウェーから輸入して加工されるようになった。輸出品と比べると決して衛生的と
は言えないが、骨抜き等もして真空パックで出荷している。
これらの商品の流通ルートはフィッシュ・ボールに比べると単純で、大手のスーパーや外食チェーン
と直接取引が行われている。今後もこうした商品の生産と販売が伸びていくと予想されている。こうし
た商品は切り身、サイコロ、パティ、骨抜き程度の比較的低次な加工が中心となっている。高付加価値
― 247 ―
の加工品にはなっていない。
なお、ナボタス市場では国内産地で冷凍された魚類の扱いが増えている模様である。これは、ゼネラ
ル・サントス、サンボアンガ、イロイロなどが冷凍魚の生産を行うようになったことによる。鮮魚輸送
よりも冷凍魚で運送するほうがコスト的に安く、
ナボタス市場での需給調整ができるという利点がある。
このため、5 年ほど前から小売市場でも冷凍魚が出まわるようになってきた。
6.フィリピン水産業の課題と展望
6.1 需給予測の前提
(1)比重を下げる海面漁獲漁業、増える養殖業
フィリピンでは他の東南アジア諸国と同じように、海面漁獲漁業の比重が低下している。生産統計で
は掴みきれないが、市場関係者等からの聞きとりによると、水揚量を推定できる漁港での取扱量は確実
に減少している。また、各地で実施されている沿岸域資源管理に関する調査やプロジェクトの経験等か
ら判断しても、フィリピン水産業が利用可能な資源量は確実に減少していると推察される。人口が過剰
な漁村地帯では、沿岸域資源の減少はかなり深刻のようである。各地で海洋保護区(Marine Protected
Area, MPA)を設け、マングローブの保全事業を実施し、あるいは違法操業を取り締まる活動を強化す
るなどして水産資源の保全に努めている。しかし、各地で実施されている資源管理に関するプロジェク
トが必ずしも順調に成果をあげているわけではない。海面漁業の水揚げ量については、今後もその成長
率はゼロに近いか、マイナス成長が予測される10。
一方、これまで以上に養殖業に依存する割合が高まってくることが予想される。汽水域等で広く行わ
れているミルク・フィッシュ養殖は今後とも生産量が維持されるだろう。ティラピア類の内水面養殖も
その生産量を増やしている。政府の施策も養殖業の拡大に期待をかけたものになっている。そのため、
基幹産業であるミルク・フィッシュの人工種苗生産技術を確立しなければならない。今もピーク時には
台湾から 3 億6,000尾の種苗が輸入されている。国内で採れる天然種苗では需要をまかなうことができ
ず、ミルク・フィッシュ養殖の成長に足かせになっている。また、天然種苗への依存は、養殖生産に著
しい季節変動をもたらしている。その結果、国内市場では供給過剰と不足が繰り返され、輸出産業とし
て安定していない。
最近、養殖形態が粗放に戻っていると言われ、面積当たりの生産性は決して高くない。また、一部の
地域では、農業の大地主制がそのまま大池主制となって存続し、広大な沿岸域を長期にわたって占有し
ている。沿岸域資源管理が強調されながら、養殖池の利用と管理については手つかずのままになってい
る。養殖業がこの国の水産業にとってきわめて重要であり、ミルク・フィッシュとエビの養殖が重要な
外貨獲得源になっている以上、生産性の向上を可能にする技術的な条件整備とともに、社会構造の改善
も求められている。
他の東南アジア諸国と同様、フィリピンでも注目されるのは、今後の内水面養殖の動きである。国内
消費者への安価な魚食の提供は淡水魚によってまかなわれ、その比率が今後上昇していくと予想されて
いる。
10 BFAR 2005. Comprehensive National Fisheries Industry Development Plan (CNFIDP)
― 248 ―
(2)沿岸漁業生産の停滞と輸出
沿岸漁業生産の停滞が目につくが、海産魚の国内消費の点ではアジ、イワシ、カツオ・マグロ類に対
する需要は相変わらず強い。価格が上昇しているものについては輸入冷凍魚に対する需要が増えること
が予想される。ツナ類以外では、アジ類の冷凍魚が輸入されているが、これは国内の食用に回されてい
るようである。沿岸漁業生産の停滞に国内消費の動向等を加えて考えると、輸出能力が拡大していくこ
とは期待できない。また、東南アジア大陸部の水産物輸出国やインドネシアのように、高次加工生産の
方向を強化していく可能性もそれほど高くはない。中国、タイ、ベトナムなどがもつ高付加価値をつけ
て水産食品を製造する能力と、フィリピンの水産加工業が持っている資本・技術水準には段違いの格差
がある。もはや、フィリピンが輸出志向型の水産食品製造で投資を呼び込むことはあまり期待できない。
もちろん、産業の集積度が高いツナ缶詰は原料が得られることもあって、今後もある程度の競争力は持
つことは確かであろうが。
2 水産業の停滞性と供給不足基調
すでに述べたように、2010年には人口が9,500万人となり、単純に国内の需要量を推計すると290万ト
ンとなる。また、2025年までには人口が 1 億3,490万人となると予測されている。現在の食用消費量を
270万トンとして、供給量の成長が維持されると楽観的に見積もっても、2005年から2025年にかけて合
計で840万トンが不足すると計算されている。年間平均で43万トンが不足することになる。
島嶼国家であるにもかかわらず、漁獲漁業や養殖業はもとより、水産物加工業も含めたフィリピン水
産業には停滞性が色濃くみえる。東南アジアの他の水産国に比べると、その停滞性は顕著である。それ
は島嶼国家という分断された物流条件による制約なのか、あるいは、海外からの投資や技術に対して十
分に反応してこなかったという蓄積の問題なのか、いずれにせよ周辺地域の水産国には大きく水をあけ
られている。
表30
フィリピン国内漁業生産量及び輸出入量
表30は、国内生産量に輸入量を加え、そこか
ら輸出量を減じた量を算出し、それを国内出回
り量とした数値である。この表から想像される
のは、フィリピンの水産業はあくまで国内供給
を中心とした産業としてとどまっているという
ことである。ツナやエビのように国際的な供給能力を充分に備えた水産業はあるが、他国との間で柔軟
に分業関係を結んで、東アジアの水産食料産業の一翼を担っていける力があるとは考えられない。なに
よりも、水産業の発展を可能とするインフラストラクチャーが貧弱であり、持続的な開発が行える社会
経済環境が充分とはいえない。それを促す国内消費需要も他の東南アジア諸国に比べて活発ではない。
中国、タイ、ベトナム、それにインドネシアの一部は、水産食品製造業の拠点化とネットワーク化を
構築し、周辺部を結びつけて分業関係を築いている。しかし、フィリピンはそれら諸国とのつながりが
あまり緊密ではない。原料や半製品の供給という役割分担を担うことはあっても、水産食品製造業の拠
点として発展していく可能性を持っているわけではない。
今後、ASEAN域内のFTA化が実質化していく過程で、フィリピン水産業の行方がはっきりするだろ
う。と同時に、国際競争力をあまり持たない水産加工食品に対して需要が増え、水産物の輸入が拡大し
ていくことが予測される。
― 249 ―
7.地図
ルソン島
ケソン
マニラ
ルセナ
太平洋
カビテ
南シナ海
サマール島
ミンドロ島
パナイ島
イロイロ
パラワン島
レイテ島
セブ
プエルト・プリンセサ
ネグロス島
スールー海
ミンダナオ島
ダバオ
サンボアンガ
セレベス海
ブルネイ
マレーシア
ゼネラル・サントス
タウィ・タウィ島
― 250 ―
第Ⅱ部
第6章
インド
日本貿易振興機構
1 .インドの水産業にかかわる環境条件 ………………………………………………………………253
2 .生産の状況 ……………………………………………………………………………………………266
3 .水産物貿易について …………………………………………………………………………………276
4 .流通と消費 ……………………………………………………………………………………………292
5 .今後の見通し …………………………………………………………………………………………310
6 .付属資料 ………………………………………………………………………………………………310
7 .地図 ……………………………………………………………………………………………………312
1.インドの水産業にかかわる環境条件
1.1 人口の推移と見通しおよび消費購買力
1.1.1 人口の推移と見通し
インドの人口は2004年で約11億人と推定されている(表 1 − 1 )。インド政府によると、年齢層別人
口予測(Exparts Group Recommendation-chaired by Register General of India)を実施した結果、2011年
には11億9,446万人、15年後の2026年には17.3%増の14億138万人に増加すると見込まれている。19歳ま
での人口が年々減少しているのに対し、年齢が高くなるほど増加率が大きく、経済発展に伴い生活の近
代化が進み、先進国にみられる少子高齢化傾向が現れると予測されている。
表1−1
インドの予測人口の年齢別分布
単位:歳、1,000人
年 齢 層
予測人口
2011年
2016年
2021年
2026年
0∼19
470,851
460,828
452,089
441,010
20∼39
388,944
424,919
449,953
459,127
40∼59
235,739
266,357
294,936
326,179
60∼74
75,994
90,303
110,419
133,689
75∼74
22,927
28,691
341,134
41,373
1,194,457
1,271,099
1,341,531
1,401,377
合 計
出所:Exparts Group Recommendation_chaired by Register General of India
労働人口に相当する20∼59歳の年齢層が総人口に占める割合は、増加すると見込まれている(表 1 −
2 )。
表1−2
インドの予測人口に占める割合(20∼59歳)
単位: %
年
人口に占める割合
2011
52.30
2016
54.38
2021
55.52
2026
56.04
出所:Exparts Group Recommendation_chaired by Register General of India
男女比(男性1,000人に対する女性の人数)をみると、女性のほうが少ない傾向は続くが、その差は
次第に縮まっていくと予測している(表 1 − 3 )。
インドの2005年の国民所得(GDP)は前年比116%増加しており、めざましい経済成長が今後も続く
と考えられている。GDPの増加傾向は、都市部において顕著であるが、1 人当たりで計算すると、2005
年は、720米ドルであった(表 1 − 4 )。所得の増加にともない、消費購買力は上がっていくことが予想
される。
― 253 ―
表1−3
インドの予測人口の男女比(20∼59歳)
単位:男性1,000人に対する女性の人数
年
男女比
2011
933
2016
934
2021
935
2026
936
出所:Exparts Group Recommendation_chaired by Register General of India
表1−4
インドの 1 人当たりGDP
(単位:米ドル)
年
GDP
1993
300
1994
NA
1995
340
1996
NA
1997
390
1998
430
1999
450
2000
NA
2001
460
2002
480
2003
530
2004
620
2005
720
出所:世銀「世界開発報告書」
1.2 漁業政策
中国は、漁業だけでなく養殖についても(金額、数量ともに)最大の生産国である(2004年)。金額
からみると、中国の次は日本で、それにインドが肉薄しているが、数量では、インドが中国に次いで
世界第 2 の養殖生産国である。
ただし、世界の需要の大部分を占めているのが海産魚であるのに対し、アジアのインド、バングラ
デシュ、ネパールといった国々においては一般に淡水魚が好まれる。
インドの漁業部門は、2004∼05年度において、GDP総額の 1 %程度に相当する2,321億ルピーを生産
している。実質GDP成長率は、8 %の伸びを示しており、漁業部門においても継続的に生産額が増えて
いる。
インドでは農業省(Ministry of Agriculture)のもと、農水畜産関係の部門が統括されている。農業省
は一次産業を多様化するためのロードマップを作成しており、果実、野菜、花き、乳製品、家禽、漁
業、豆類・油料種子類に重点が置かれることになっている。農業生産においては、既に穀類からその
他の作物への転作を進めている。
2006年10月18∼19日にニューデリーで開催された農業サミットでは、インドの首相は開会の辞で、
― 254 ―
漁業の発展に特に重点を置いていくと述べている。
1.2.1 全国農民委員会の設置
インド政府は2004年 2 月、M.S.スワミナサン博士(Dr. M. S. Swaminathan)を委員長に、全国農民委
員会を設けた(2004年11月に改組)。インドの農民・漁民がかかえる諸問題を検討分析し、園芸、畜産、
酪農、漁業等農水産業の持続可能な発展や、農業所得の倍増を実現するため、適切な政府支援策案を作
成することになっている。
全国農民委員会は、漁業部門について次のように述べている。
●
海面漁業と内水面漁業は雇用や生計手段を提供しており、その効果は、数百万の家計に及ぶ。包括的
に沿岸域を管理すること、養殖・漁獲・加工の分野に科学的手法を導入することにより、持続的な資
源利用を確保しながら、漁業者世帯の所得を引き上げることは可能との観測がある。
●
公共政策分野においては、土地をもたない労働者世帯が水産養殖を行うため、村の池や公有地の貯水
池を利用できるよう、漁業水域利用促進のための改革(Aquarian Reforms)が必要である。
●
全国漁業開発理事会(National Fisheries Development Board)(NFDB)の設立は、歓迎できる措置
である。NFDBの指針には、エコロジー、経済、男女平等、雇用創出の要素が必要である。理事会に
は、漁獲や養殖に携わる生産者組合の代表の参加が必須である。
ほぼ200万平方キロメートルの広がりをもち、インドの利用可能な土地面積の 3 分の 2 にのぼる排他
的経済水域(EEZ)については、経済的利用を推進し管理する積極的な政策が必要であり、NFDBの優
先的任務になり得る。
1.2.2 漁業水域利用促進のための改革
「漁業水域利用促進のための改革(Aquarian Reforms)」は、資源保護も念頭に持続可能な漁業を前
提におきながら、漁船や設備を所有しない漁民が、漁獲と水産養殖といった生産活動によって生活を維
持していくことができることに主眼をおいている。目的達成には次の点がキーワードになる。
i )漁獲・養殖生産から消費までの市場の流れについて、漁業者の知識向上をめざす、訓練・能力構
築センターの設置。
ii )漁獲物をサルモネラ菌やマイコトキシンを生成する感染症から守るなど、管理に必要な質の高い
識字能力。
iii )漁獲物の衛生的な船上加工処理が可能な母船。
iv )水産物の産地市場への水揚げを効率的に行うための小型底曳船。
v )現在一元化されていない漁獲部門と養殖部門をまとめて支援する集中管理サービス。
vi )漁獲物の処理を担当する女性に対する訓練を特別に配慮する。
vii )観賞魚や空気呼吸魚(air breathing fish)などの内水面養殖における所得の増加をめざすため、池
や貯水池に必要なスペースを確保すること。
viii)漁獲量の回復のため、喪失した天然サンゴ礁の代替をする人工サンゴ礁の造成。
ix )沿岸域管理の包括的実施。海面漁業に損失をもたらさないよう、陸上の生産活動によって生じる
廃水や汚染物質について、水面下約10kmの海面と海岸線から10kmの範囲内に注意を払う。
x )2004年12月26日の津波被害を教訓に、サイクロンによる暴風や高潮が生じた際に、沿岸で漁業や
― 255 ―
養殖業を営む漁民の生命と暮らしを守るため、沿岸のコミュニティがマングローブ、モクマオウ、
サリコニア、ハマアカザその他の耐塩生植物から成るバイオシールド(生物体遮蔽装置;この場
合は、防災林的なもの)を育てることも有効である。
xi )国家水産養殖局(National Aquaculture Authority)と国家漁業振興局( N F D B : N a t i o n a l
Fisheries Development Board)は、漁民の社会的生活保障と消費者の栄養改善を進めることとし、
さらに漁獲漁業と水産養殖の相互補完関係を構築することと、漁業関連の組織で女性の能力を活
用し、女性の代表参加を促すとしている。
xii )漁民には、副業として、養鶏、魚の酢漬け調製品や寒天の生産、真珠養殖などに従事するよう促
す。
1.2.3 包括的海洋漁業政策(2004年11月)
2004年11月に、インド政府の農業省畜産・酪農・漁業局(Department of Animal Husbandry and
Dairying and Fisheries, Ministry of Agriculture)から包括的海洋漁業政策が出された。
政策目標は次の通りである。
●
インドの海産物輸出を増大させ、また、一般国民の 1 人当たり魚肉タンパク質の摂取量を引き上げる
ために、責任ある方法をとりつつ、インドの海産物生産量を持続可能な水準まで高めること。
●
漁業を暮らしの糧とする、専業熟練漁師の社会的・経済的な生活レベルを保証すること。
●
生態系の保護と生物の多様性にしかるべき配慮をしながら、海洋漁業の持続可能な発展を保証するこ
と。
政策の柱は次の通りである。
●
海洋漁業資源 − 厳しい管理体制を定めることに加えて、領海における無制限利用という考え方か
らの離脱が必要であることを強調する。
●
収獲 − 生活水準の低い漁師に対する保護・配慮・奨励、小規模部門への技術移転や漁業に対する
インフラ支援を唱道している。機械化されていない伝統的漁船に排他的経済水域を割り当て、これよ
り外の水域は、機械船と原動機付きの船の区画としていく。
●
漁獲後作業 − 漁獲物を食用と非食用に分け全面的に活用する。厳しい食品安全基準を達成するた
めに、漁獲後の取り扱いに関する国際基準順守に向けて努力する。漁獲後の損失を最小限に抑えるこ
とも、政府の関心事である。
●
資源管理 − 水深50メートル以内の生物資源は枯渇の兆候を示している。いくつかの沿岸地帯では
持続可能な最適漁獲水準を超える傾向にあり、厳格な漁業管理制度を定めることが重要である。
●
漁業者の福祉 − 漁業は、沿岸の約100万人の漁業世帯にとって唯一の生活の糧であり、この政策
は漁業者の経済的安定と社会的福祉を保証することを最優先課題とする。
●
環境面 − 汚染された水域から漁獲される魚類の摂取による健康被害の問題が世界の至る所で大き
な懸念事項になりつつある。国際的動向を認識し、環境要因が生物資源に及ぼす影響を考慮する必要
がある。環境汚染に関する法律を策定する機関には、汚染が漁業に与える影響を最小限に抑えるよう、
より厳格な法律の制定が要求される。
●
海洋漁業のためのインフラ開発 − 海洋漁業のためのインフラ開発はきわめて重要であり、総合的
アプローチを必要とする。必要な設備には、桟橋、水揚げセンター、燃料、水、氷、修理や用具の提
― 256 ―
供などが含まれる。漁獲後の衛生的な処理という概念も、プロジェクトに織り込まれる。
●
立法支援 − 授権的な法的枠組は、漁業部門の適正な管理と統制に不可欠な前提条件である。現在
のところ、漁業は憲法第21条に基づき州政府と連邦直轄地の管轄事項である。連邦政府は、排他的経
済水域における領海線を越えての漁業活動の管理と統制を管轄している。
アンダマン諸島とニコバル諸島周辺の水域は魚類資源が豊富で、現在は「開発可能な限度」を超えな
い範囲で利用されている。漁業−水揚げから漁獲後処理、販売までを含む−は、これらの島々の住民に
とって、いまなお重要な生計手段である。従って、これら 2 つの連邦直轄地に関しては今後も政策イニ
シアチブをとることが適切であると考えられている。
内陸部門では、東部諸州と北東部諸州における漁業開発の可能性が莫大であることが認識されている。
1.2.4 国際条約
インドは漁業部門に関係して、歴史的に以下のような国際的な条約や協定を締約している。
略 称
正式名称
1
南極条約協議勧告
南極地域の動植物群保存のための合意措置
2
南極条約
南極条約
3
APFIC
アジア太平洋漁業委員会
4
CCAMLR
南極の海洋生物資源の保存に関する委員会
5
世界遺産条約
世界の文化遺産及び自然遺産に関する条約
6
CBD
生物多様性条約
7
CITES
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約
8
CMS
移動性野生動物の保全に関する条約
9
バーゼル条約
有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約
10
IMO条約
国際海事機関条約
11
ラムサール条約
特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約
12
−
自然状態における動植物保護に関する条約
13
IOFC
インド洋漁業委員会
14
IOTC
インド洋まぐろ類委員会
15
IPFC
インド太平洋漁業委員会
16
MARPOL
73/78 船舶による汚染の防止のための国際条約
17
IPPC
国際植物保護条約
18
IWC
国際捕鯨委員会
19
MP
オゾン層保護のためのモントリオール議定書
20
NACA
アジア太平洋養殖センターネットワーク
21
−
大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約
22
−
核兵器及び他の大量破壊兵器の海底における設置の禁止に関する条約
23
UNCLOS
国連海洋法条約
24
UNFCCC
国連気候変動枠組条約
注:2004年11月現在
― 257 ―
1.3 行政上の管理・規制
1.3.1 食品安全基準
インド政府は水産物の摂取に起因する公衆衛生の問題に責任を負うため、食品関連の法律を施行し、
基準を導入している。基準は、以下の二大カテゴリーに分かれる。
A.安全基準 − 安全基準は、健康を損なう食品から消費者を守ることをを主眼とする。食品に病原
菌がいないこと、また食品添加物の使用が管理され、汚染物質の混入が予防されるように、適切に
衛生基準を順守することが要求される。
B.成分基準 − 混入物がなく、純粋で質が高い食品を示す基準を決め消費者を質の悪い食品から守
るものである。包装には、説明、ラベリング、重量などを正しく表示しなければならない。
市場に高品質で安全な製品を流通させるため、国内外の様々な基準が適用されている。適用されてい
る基準は次の通りである。
Ⅰ 国家規格 −インド規格局(BIS)
−英国規格(BS)
−米国食品医薬品局(USFDA)
Ⅱ 国際規格 −FAO食品規格
−ISO 9000 シリーズ
−HACCPシステム
Ⅲ 企業固有の規格 −大手資本の企業では水産物について、独自の規格と品質基準を設定している。
輸入食品の健康と安全性に関する懸念が世界中で高まっていることを考慮して、HACCP/GMP(適
正製造規範)/GHP(適正衛生規範)のような食品安全管理システムの導入が進められている。
1.3.2 トレーサビリティ
インド国内でも、食品の品質に対する消費者の関心は高まりつつある。輸出指向の企業であれば、品
質基準、ひいてはトレーサビリティを確保することは大変重要である。
インドにおける水産物のトレーサビリティは、輸出企業が先行し、やがて一般的なものになっていく
と考えられ、ここでは 3 つのトレンドを紹介する。
先ず、米国への輸出には、米国のバイオテロ法に基づき消費者向けに商品を出荷する食品施設を登録
することが要件となっている。
2 つ目のトレンドは、食品販売業者が、商品販売時に、サプライヤーに対し損害賠償保証を求めるよ
うになっていることである。大手バイヤーは、問題に遭遇した時にサプライヤーから費用を回収するの
が道理と考えており、その一つの方法が、水産物の各ロットについての履歴を入手することであり、ト
レーサビリティを要求することである。
最後に、トレーサビリティ・システムが一旦導入されれば、追跡の対象となる実際のパラメータを拡
大して、環境や持続可能性の要件をカバーすることが可能である。
MPEDA(水産物輸出開発機構)は2005年12月に、FAOおよびINFOFISH(本部・クアラルンプール)
と共催で、インドの漁業部門とトレーサビリティに関する初の全国規模のワークショップを開催(チェ
ンナイ)した。
― 258 ―
1.4 輸出入関係政策
インドでは、毎年重点業種ごとに輸出入政策を公表しているが、2004年には2009年までの対外貿易
の総合的な振興による経済発展をめざすための戦略をまとめた。その目標は、インドが世界の貿易取引
に占める割合を2009年までに倍増すること、および、特に準都市部や農村部において、貿易の振興に
よる雇用の創出を推進し経済成長の有効な手段としての役割を果たすこととしている。
共通理念は次の通りである。
i )統制の束縛を解くこと。
ii )信頼と透明の雰囲気を醸成すること。
iii )手続を簡素化し、取引コストを引き下げること。
iv )関税と課徴金のかかる輸出をしてはならないということを基本原則とすること。
v )製造、貿易およびサービスの世界的なハブとして、インドの発展を促進するための様々な特別重
点分野を指定し、育成すること。
特別重点分野として、輸出検査協議会の管轄になる水産物のリストは、以下の通りである。
a)中型エビ(水煮缶詰)
b)カニ肉(水煮缶詰)
c)蛙の脚(冷凍)
d)中型エビ(冷凍)
e)ロブスター(冷凍)
f)マナガツオ(冷凍)
g)コウイカ(冷凍)
h)イカ類(冷凍)
i)乾燥フカヒレ
j)干しエビを含む干魚
k)乾燥fishmaw(魚の胃袋)
l)ナマコ
m)魚粉
インドは70ヵ国を上回る国々に海産物を輸出しているが、米国、EUと日本が依然として主要市場で
ある。輸出される水産物は、品質に関する厳格な規定や基準に従わなければならない。品質規定、特に
EUによる規定が導入されたことにより、インド政府は加工プラント、予備処理センター、漁船や水揚
げセンターの改善措置を取らなければならなくなった。不合格品をなくすためには、水産物の加工と取
り扱いの方法を国際規格に合致させる必要がある。インド輸出検査協議会は、「輸出品質管理・検査法」
(Export Quality Control and Inspection Act)に基づいて数度の通達を出した。最先端の加工プラントが
ある一方で、漁港や水揚げセンターには、適切な品質管理システムが導入されていない施設が存在して
いる。
インドは輸入全水産物について、関税率を30%まで引き下げている。さらに2006∼07年の予算
(2006年財政法)では、アトランティック・サーモンに対する関税が30%から10%に引き下げられた。
― 259 ―
1.5 漁業資源の状況
インドの水産物資源の状況を以下に示す(資料:FAO)
。
海岸線の長さ
8,118 km
排他的経済水域(EEZ)
202万平方キロメートル
大陸棚面積
53万平方キロメートル
海洋資源の漁獲可能量
393万トン(2000年)
海洋資源の利用水準
281万トン(2004年)
淡水資源の漁獲可能量
450万トン
淡水資源の利用水準
204万トン
汽水域の面積
124万ヘクタール
内水面積
540万ヘクタール
<海面漁業>
202万平方キロメートルの排他的経済水域は、西海岸の86万平方キロメートル、東海岸の56万平方キ
ロメートルとアンダマン・ニコバル諸島周辺の60万平方キロメートルに分けられる。沿岸の漁村は
3,827、伝統的な水揚げセンターが約1,914ヵ所、小型漁港33ヵ所と大型漁港 6 ヵ所がある。船舶数は、
伝統的な無動力漁船が20万8,000隻、船外機付きの小型漁船が 5 万5,000隻、機械船が1,250隻、遠洋漁船
が約100隻である。
インドの排他的経済水域において、2000年現在漁獲可能とされる海洋水産資源量は393万トンである。
資源量のうち沿岸資源が202万トンで、それに167万トンの沖合資源、24万トンの遠洋資源が続いてい
る。遠洋漁業水域で多様な漁法を取り入れることができれば、生産量を約120万トン増やす余地がある。
インドの水産業関連業者には、登録輸出業、生産加工業、倉庫業があり、EU向け輸出が可能な認証
を取得している工場が152、冷凍保管庫が17ある。
件数
登録輸出業者
761
製造輸出業者
336
販売輸出業者
425
加工工場
372
EUの認証取得
152
それ以外
220
生産能力合計
冷凍保管庫
EUの認証取得
10,569トン
506
17
州・連邦直轄地別で、漁村の数が最も多いのはグジャラート州(851)で、西ベンガル州(652)と
アンドラ・プラデシュ州(508)がそれに続く(表 1 − 5 )。1 漁村あたりの水揚げセンターの数は0.50と
いう結果になる。すなわち、平均して漁村 2 ヵ所ごとに水揚げセンターが 1 ヵ所あるということである。
ケララ州では各漁村に1.02ヵ所の水揚げセンターがある。
内水面漁業資源について、水産物の消費の多い州の中で、河川と運河の距離が最も長いのはアンド
― 260 ―
ラ・プラデシュ州(11,514km)で、それにアッサム州(4,820km)とオリッサ州(4,500km)が続く(表
1 − 6 )。
表1−5
インドの海洋漁業資源−沿岸州
(単位:km、1,000平方キロメートル)
州/連邦直轄地
海岸線の長さ 大陸棚 水揚げセンターの数
漁村の数
アンドラ・プラデシュ
974
33
508
508
ゴア
104
10
88
72
1,600
184
286
851
カルナタカ
300
27
29
221
ケララ
590
40
226
222
マハラシュトラ
720
112
184
395
オリッサ
480
26
63
329
1,076
41
362
446
158
17
65
652
1,912
35
57
45
27
-
7
31
132
4
11
10
ポンディチェリ
45
1
28
45
合 計
8,118
530
1,914
3,827
グジャラート
タミル・ナドゥ
西ベンガル
アンダマン・ニコバル諸島
ダマン・ディウ
ラクシャディープ
出所:州政府/連邦直轄地管理機関
表1−6
インドの内水面漁業資源
(単位:km、100万ヘクタール)
河川と運河
(km)
ため池
貯水池と池
氾濫原湖
汽水域
水塊合計
11,514
0.234
0.517
-
0.060
0.811
アルナチャル・プラデシュ
2,000
-
0.276
0.042
-
0.318
アッサム
4,820
0.002
0.023
0.110
-
0.135
250
0.003
0.003
-
Negl.
0.006
ケララ
3,092
0.030
0.030
0.243
0.240
0.543
マニプール
3,360
0.001
0.005
0.004
-
0.010
オリッサ
4,500
0.256
0.114
0.180
0.430
0.980
トリプーラ
1,200
0.005
0.013
-
-
0.018
西ベンガル
2,526
0.017
0.276
0.042
0.210
0.545
115
0.001
0.003
-
0.120
0.124
12
-
Negl
-
Negl
0.000
-
-
-
-
-
0.000
2.907
2.414
0.798
1.240
7.359
州/連邦直轄地
アンドラ・プラデシュ
ゴア
アンダマン・ニコバル
ダマン・ディウ
ラクシャディープ
インド全体
195,210
出所:2004年漁業統計ハンドブック
― 261 ―
インドの排他的経済水域(EEZ)における海面漁業資源の潜在力は、393万トンと推定されている。
深度別の内訳を表 1 − 7 に示す。
表1−7
インドの排他的経済水域における海面漁業資源の潜在力
(単位:100万トン、%)
番号 細目 深度の範囲
海底
浅瀬
外洋
合計
シェア
A.水深帯(m)
1
0∼50
1.28
1.00
-
2.28
58.15
2
50∼200
0.63
0.74
-
1.37
34.86
3
200∼500
0.03
-
-
0.03
0.71
4
大洋
-
-
0.25
0.25
6.27
1.94
1.74
0.25
3.93
100.00
合計
B.海岸
1
西海岸
1.25
1.11
-
2.36
60.17
2
東海岸
0.66
0.43
-
1.09
27.83
3
ラクシャディープ
-
0.06
-
0.06
1.61
4
アンダマン・ニコバル
0.02
0.14
0.25
0.41
10.39
合計
1.94
1.74
0.25
3.93
100.00
出所:2004年漁業統計ハンドブック
インドの海洋の多様性は、密集したマングローブの林、サンゴ礁や藻場、それにこれらの生態系の中
で繁栄している何千種もの動植物など、目を見張るほど幅が広い。
1.6 漁業従事者
インドでは、現状漁業者に対する管理・統治システムが機能しているとはいえない。漁業者は個人や
グループであり、すべての漁業者が、インドのほとんどの州にある漁業者協同組合に所属しているわけ
ではない。
例えば、ケララ州には、漁業者協同組合の最高峰であるMATSYAFEDがあり、同州の沿岸地区に支
部を置き、エルナクラム地区のフォート・コーチンには輸出用プラント設備を所有している。しかし、
MATSTAFEDが認めた融資は、漁師のニーズの 5 ∼10%をまかなうに過ぎない。
漁業部門における職業「継承」の問題に関する状況(卸売業者/小売業者/漁師/その他の漁業事業
者)をみると、インドにおける他の職業と同様身分が固定されている。漁業部門には、新規性、特異性、
画期的な要素があるとはみなされていないが、一方で職業として確立されているため、子供(男女共に
―実際に、多くの女性が漁業に取り込まれる)はこの仕事に就くことを勧められたり強制されたりする
ことが多い。教育水準が低い家庭では顕著である。
「継承」には、その土地の法律が適用される。
漁業者が直面している主な問題は以下の通りである。
1 .識字能力 − 漁業者の多くは、識字能力がないか、ごくわずかしかないかのいずれかである。こ
― 262 ―
のため、漁業者は市場で相手と意思疎通を行うことが困難である。また、交渉力もなく、だまされが
ちである。
2 .貧困 − 漁師の大部分は、社会の最貧層に属している。その他の漁業関係者も、一般に貧しい。
3 .信用 − 識字能力と経済的地位の低さのため、金融機関を利用することができない。
4 .マーケティング − 価格設定をはじめ、市場開拓が、依然として大きな問題である。
5 .インフラ − 多くが旧態依然とした設備のままである。
6 .社会における地位 − 社会の序列の一員として、漁業者の社会的地位は低い。
表 1 − 8 は、インドで漁業人口の多い10州の状況を示すものである。
表1−8
順位
インドの漁業人口(2003年)
州名
漁業人口
1
ビハール
4,959,516
2
ジャールカンド
1,930,920
3
チャティスガル
1,911,368
4
西ベンガル
911,622
5
アンドラ・プラデシュ
893,365
6
ケララ
747,837
7
マドヤ・プラデシュ
716,974
8
グジャラート
493,255
9
タミル・ナドゥ
476,618
10
アッサム
390,380
11
その他
1,053,499
合 計
14,485,354
出所:インド養殖家畜生産調査
表 1 − 9 は、沿岸州と連邦直轄地における漁船の保有状況を示している。漁業者が自由に使える唯一
の資産は、漁船である。伝統的漁船が漁船全体の65%を占めている。
インドには1,400万人を上回る漁業関連従事者がいる。現在必要なのは、漁業関連従事者の相互連携
不足に対応し、市場変動だけでなく、予測のつかない自然災害にも備える力を育てることである。
これらを念頭に効果的な行政管理を行うため、2006年 9 月に全国漁業開発理事会(NFDB)がスター
トした。NFDBはハイデラバードに置かれており、インドの漁業・水産養殖部門の潜在力を十分に発展
させるために設立された。近代的な研究開発手法を実施する一方で、種々の政府機関や州の部局の活動
を調整することを目標としている。
連邦農業大臣を議長とするNFDBの管理機関は、インド諸州と連邦直轄地を統括する。
1.7 参考資料:インドの漁業概況と将来の見通し
国連食糧農業機関が作成したインドの漁業プロファイル(FID/CD/IND、2006年 7 月)によると、
概要は以下の通りである。
― 263 ―
表1−9
インドの州・連邦直轄地別漁船数
漁船数
州/連邦直轄地
1
アンドラ・プラデシュ
2
伝統的漁船
原動機付きの
伝統的漁船
機械船
合計
53,853
4,164
8,642
66,659
ゴア
1,094
1,100
1,092
3,286
3
グジャラート
9,222
5,391
11,372
25,985
4
カルナタカ
19,292
3,452
2,866
25,610
5
ケララ
28,456
17,362
4,206
50,024
6
マハラシュトラ
10,256
286
8,899
19,441
7
オリッサ
10,993
2,640
1,276
15,854*
8
タミル・ナドゥ
33,945
8,592
9,896
52,433
9
西ベンガル
4,850
270
3,362
8,482
10
アンダマン・ニコバル
1,180
160
230
1,570
11
ダマン・ディウ
252
350
805
1,407
12
ラクシャディープ
594
306
478
1,378
13
ポンディチェリ
7,197
505
560
8,362
181,284
44,578
53,684
合計
280,491*
注:オリッサ州の合計には、FRP製の双胴船810隻と陸揚艇135隻を含む。
出所:2004年漁業統計ハンドブック
1.7.1 海洋漁業
2003年の養殖・家畜調査(Livestock census, 2003)では、漁業人口は約1,450万人おり、海洋資源も淡
水資源も豊富なため、漁業と水産養殖業は雇用、生計、食糧安全保障において重要部門とされる。水産
物は、対外貿易の重要品目でもある。
インド政府が見積もる海洋資源の漁獲可能量は、最新データの2000年で393万トンである。2004年の
海産魚の漁獲量は281万トンで、63%が西海岸から、残りが東海岸から得られたものである。漁船の構
成は20万8,000隻が伝統的な無動力船、5 万5,000隻が船外機船、1,250隻が機械船、約100隻が遠洋漁船で
ある。
沿海では、3,827の漁村と1,914の伝統的な市場がある。漁師になるのは沿海地域の居住者が多い。漁
では、トロール網、地引網、釣り、袋網、立網、敷き網などの多様な漁具が利用されている。
1995年から2004年にかけての10年間、海産の漁獲高は年間280万トン程度で安定し、最低が1995年の
266万トン、最高が2002年の299万トンであった。水揚げされる海産物のなかで商業的に重要なのは258
種ほどである。遠洋水産物と中深海水産物が、総水揚げ量の51.6%を占めている。
海洋漁業部門の開発では、雇用創出、漁業者の社会保障、食糧安全保障の向上、海産物輸出の増加を
達成するための伝統的部門への権限授与、海洋の安全性の向上、未開発の深海資源の合理的開発などを
通じて、持続可能性に焦点が置かれている。漁獲後の損失を最小限に抑え、食品の安全性向上を確保す
るという原則に配慮して、漁獲作業と漁獲後作業のための適切なインフラ開発が始まっている。このプ
ログラムのもとで、6 ヵ所の大型漁港と33ヵ所の小型漁港、158ヵ所の近代的な産地市場を結んだチェ
― 264 ―
ーンを作る計画が進められ、現在は18ヵ所の漁港と46ヵ所の産地市場が建設の様々な段階にある。国
内での魚類販売を改善するため、現在、魚市場が改善され、冷凍・保冷輸送が提供されており、コスト
の低い加工技術の普及が進められている。
インドの淡水資源は、19万5,210キロメートルの河川と運河、290万ヘクタールの小型・大型のため池、
240万ヘクタールの貯水池・池、約80万ヘクタールの氾濫原湖から成る。1995年から2004年の10年間で、
淡水魚の漁獲量は60万トンから80万トンに増加し、現在はインドにおける魚介類総生産量の16.5%を占
めるに至っている。
インドでは、淡水養殖(2004年の生産量が235万2,000トン)が過去30年間にわたる政府のイニシアチ
ブにより、大型の水産システムとして現れた。魚類養殖開発局(FFDA)が各地に設けられ、養殖業者
に対する資金援助の他に、技術、慣行、訓練や相談などをまとめて提供している。国内で活動している
429のFFDAにより、これまでに65万ヘクタールが養魚水域となり、養殖業者が110万人に達し、約80万
人に訓練が施された。現在の年間の平均収量は 1 ヘクタール当たり約3.6トンである。インドは年間に
190億尾を上回る稚魚を生産し、必要な飼料の生産能力もある。コイが、養殖魚の80%以上を占めてい
る。養殖されている主な魚種はロフ(Labeo rohita;コイ科の魚)、カトラ(Catla catla;コイ科の魚)、
ムリガルカープ(Cirrhinus cirrhosus;コイ科の魚)、ソウギョ(Ctenopharyngodon idellus)、コイ
(Cyprinus carpio)、レンギョ(Hypothalmitcthys molitrix)、ヒレナマズ(Clarius catrachus)、シンギ
(Heteropneustes fossils;ナマズの一種)、ニジマス(Onchorynchus mykiss)などである。オニテナガ
エビ(Macrobrachium rosenbergii)が、養殖用の有望な新魚種として出現してきた。冷たい流水やた
め池での養魚の可能性も現在試みられているところである。
養殖に利用可能な汽水域の推定面積は120∼140万ヘクタールで、その内およそ14%が養魚水域とな
っている。エビの養殖は伝統的なものも近代的なものもあり、収量は 1 ヘクタール当たり年間100∼
300kgと幅がある。エビ養殖は小規模なものが主流で、保有水域面積が 2 ヘクタール以下の生産者が
91%、2 ∼ 5 ヘクタールを保有しているものが 6 %である。商品価値が高いブラックタイガー(Penaeus
monodon)が養殖種の主流でインドエビ(Penaeus indicus)がそれに続く。2004年の沿岸養殖による
エビの生産量は、およそ12万トンであった。養殖エビは、インドにおけるエビの輸出量の約60%を占
めている。
漁獲物の約81%はそのままか冷蔵の状態で販売され、沿岸および内陸の産地市場で取引される。約
6 %は乾燥により保存処理される。冷凍魚の生産が5.2%を占める一方で、4.7%は粉砕されて魚粉にな
り、0.7%が内臓加工の対象で、0.53%がその他の種々の目的に利用される。缶詰材料への利用は、総
漁獲量のわずか0.6%にすぎない。ライフスタイルの変化をきっかけに、様々な種類の付加価値商品が
「コンビニエンス食品」として徐々に一般的になりつつある。この種の製品は基本的には輸出市場向け
であるが、国内市場においても将来性が見込まれる。付加価値商品には、押し出し成形品(extruded
products)、フライ、すり身とその加工品、酢漬けや、レトルトパック入りのカレーなどが含まれる。
インドでは、水産加工業は大いに発展している。輸出登録業者が約761件ある(336件が製造輸出業
者で、425件が販売輸出業者)。漁獲後の加工作業用インフラには、215ヵ所の製氷プラント、481ヵ所
のエビの殻むきプラント、371ヵ所の冷凍プラント、495ヵ所の冷凍保管装置、7 ヵ所の缶詰プラント、
16ヵ所の魚粉製造プラント、11ヵ所のすり身製造プラント、1 ヵ所の寒天生産設備などがある。海産物
加工設備の95%は、沿海の 9 つの州にある20の大型プラント団地に集中している。輸出志向の加工プラ
― 265 ―
ントはすべて、食品管理システムであるHACCP認証を受けている。
コーチン市マツヤプリ(Matsyapuri)にある漁業技術中央研究所(Central Institute of Fisheries
Technology)
(CIFI)は、インドの漁業部門の将来見通し(CIFIビジョン2020)を発表した。
CIFIビジョン2020を以下に示す。
1 .インドは2020年までに世界最大の水産国の一つとなり、海洋部門と淡水部門の双方で合計1,300万
トンの魚を生産する。2015年に117万5,000トン、2020年には189万トン程度の海産物輸出の設備を備
える。
2 .インドは国内市場と世界市場における課題に対応可能な、科学的・技術的解決能力を持つ人材を豊
富に確保し、技術を進歩させ、先進国とも肩を並べる。
3 .漁業部門を十分に発展させ、GDPの約 2 %に相当する5,900億ルピーに寄与することを目標とする。
4 .2021年には人口が13億 1 千万人になるとの予測があるが、漁業部門はインドの栄養に対する安全保
障に大いに貢献をし、魚の 1 人当たりの消費量は現在の9.9kgから15kgに増加する。
5 .漁業部門への資本投入を増やしインフラを整備する。推定で1,780億ルピー程度を投入し、水産物
の輸出能力を増強する。2020年には39億米ドルの外貨を獲得する。水産業は付加価値をつけることに
重点を置き、レトルトパウチ入りの調理済み食品といった発展市場のニーズへの対応が可能になる。
6 .マグロのように、将来的には、現在の水産物輸出市場で中心となっているエビに代わることが可能
な海洋資源開発を十分に行う。
7 .インドのマグロ資源を活用するため、漁船団を適切に管理し、遠洋漁船や加工船の開発に重点を置
く。
8 .マグロ蓄養などの分野でいけす養殖と海洋牧場を強化する。低価格の水産物を活用し、漁業経済を
向上させるため、消費者に便利な調理済み製品といった製品の高付加価値化を促進し、国内市場の強
化を図る。
9 .漁業部門は、将来、直接、間接的に2,000万人に匹敵する雇用能力をもつようになれば、農村地域
の社会経済に大きな影響を及ぼし、大勢の人々を貧困ラインより上に引き上げることになる。
10.水産養殖部門は、農村地域の伝統技術に加え、孵化場、魚粉プラント、飼料工場等の改善が進み、
発展していく。
11.観賞魚については、現在、国内外市場の双方で需要が伸びており、ブームが到来しそうである。観
賞魚の生産と輸出によって、今後の10年間に雇用機会創出や、所得の向上が期待される。
12.漁業部門における総合的発展には、大規模なインフラ整備、それに伴う莫大な資本投資が必要とな
る。政府と民間の関連業界は、漁業部門の設備を充実化し、産業を活性化、近代化することに資金を
導入することになる。
現在インドでは、漁業政策作成の最終段階にあり、包括的には、ビジョン2020の文書が盛り込まれ
る予定である。
2.生産の状況
FAOによると、2002年の漁業・養殖生産は、中国が世界最大で、ペルー、インドが続いている。
― 266 ―
表2−1
世界の漁業・養殖生産国上位 6 ヵ国(2002年)
(単位:100万トン)
順位 国名
漁業・養殖生産高
漁獲
1
中国
2
養殖
合計
16.55
27.77
44.32
ペルー
8.77
0.01
8.78
3
インド
3.77
2.19
5.96
4
米国
4.93
0.50
5.43
5
インドネシア
4.51
0.91
5.42
6
日本
4.41
0.83
5.27
93.19
39.80
132.99
合計
出所:FAO
2.1 漁獲、養殖別の生産量、生産高
インドで獲れる魚類の種類数を以下に示す。
魚類 種類数
a.商業上重要な水産物
b.養殖水産物
c.観賞魚
生きたまま輸出される種類
d.釣魚
258
36
356
23
275
2.1.1 漁獲
インド政府発表のインドの水産物生産量は、以下の通りで、2004∼05年度には、年間630万トンの魚
介を生産している。この50年余りで生産量は8.5倍になった。
2004∼05年度は、生産量630万トンのうち、海面漁業生産量が総生産量の44%、内水面漁業が56%を
占めた(表 2 − 3 )。
インドでは、近年、海面漁業の生産量は内水面漁業より下回っている。海面漁業は90年代当初は、
インドで獲れる水産物全体の59%を占めていたが、現在ではその割合は半数を割っている。海産魚の
生産水準はこのままでは頭打ちのようである。MPEDA(海産物輸出振興局)や海面漁業に係わる省
庁・政府機関がこの問題に取り組んでおり、海産魚の生産量を増やすため、漁獲可能量が見込まれる遠
洋漁業において技術的対策を講じているところである。
インドの地域別生産量では、西ベンガル州、アンドラ・プラデシュ州、グジャラート州が上位を占め
ている(表 2 − 4 )。
(1)海面漁業
インドでは、海面漁業生産量を推定することは、きわめて複雑で技術を要するプロセス*である。イ
ンド農業省の発表によれば、1950年から2003年までの間に、海面漁業生産量は5.5倍に増えている。
― 267 ―
表2−2
インドにおける水産物の生産量
(単位:1,000トン)
年度
生産量
1950
752
1960
1,160
1970
1,756
1980
2,442
1990
3,836
2000
5,656
2001
5,956
2002
6,200
2003
6,399
2004
6,304
出所:2004年漁業統計ハンドブック、インド農業省
表2−3
インドにおける海産魚と淡水魚の生産量
単位:1,000トン
年 度
生産量
海面漁業
内水面漁業
合計
1991
2,447
1,710
4,157
1999
2,852
2,823
3,675
2000
2,811
2,845
5,656
2001
2,830
3,126
5,956
2002
2,990
3,210
6,200
2003
2,941
3,458
6,399
2004
2,778
3,526
6,304
出所: インド農業省
表2−4
インドの漁業生産上位 5 州(2003年)
(単位:1,000トン)
順位
州名
生産量
1
西ベンガル
1,169.60
18.28
2
アンドラ・プラデシュ
944.64
14.76
3
グジャラート
654.62
10.23
4
マハラシュトラ
545.13
8.52
5
タミル・ナドゥ
474.14
7.41
その他
2,611.26
40.80
インド全体
6,399.39
100.00
出所:2004年漁業統計ハンドブック
― 268 ―
シェア
表2−5
インドにおける海面漁業生産の推移
(単位:100万トン)
年度
生産量
1950
0.534
1960
0.880
1970
1.086
1980
1.555
1990
2.300
2000
2.811
2001
2.830
2002
2.990
2003
2.941
出所: 1.インド農業省
2.2004年漁業統計ハンドブック
*2005年 4 月に、コーチンにある海洋漁業中央研究所(Central Marine Fisheries Research Institute)が
「インドにおける海面漁業生産量の推定法(Methodology for the Estimation of Marine Fish Landings
in India)」を発表した(ISSN: 0972 - 2351)
。
(2)内水面漁業
インドの内水面漁業生産量は、増加傾向にある。
表2−6
インドにおける内水面漁業生産の推移
(単位:1,000トン)
年度
生産量
1990
1,536.25
2000
2,844.83
2001
3,126.18
2002
3,209.86
2003
3,457.89
出所:2004年漁業統計ハンドブック
インドの地域別で、内水面漁業生産量が最も多いのは西ベンガル州である(表 2 − 7 )
。
2.1.2 養殖
FAOの「世界の水産養殖の現状2006年版(The State of World Aquaculture 2006)」によれば、インド
の水産養殖業生産量は中国に次いで世界 2 位である。水産養殖の生産量は、1950年には 1 万7,910トン
であったが、2004年には247万2,335トンとなり、138倍に増加した(表 2 − 8 )
。
2.2 漁種別生産量、生産高
(1)海面漁業
2004年の海面漁業生産によると、生産量が多いのは、マラバールイワシ(Sardinella longiceps;サッ
― 269 ―
表2−7
インドの内水面漁業生産(2003年)−上位 5 州
(単位:1,000トン)
順位
州名
数量(シェア)
1
西ベンガル
988.00(28.57%)
2
アンドラ・プラデシュ
579.70(19.76%)
3
ビハール
256.38 (7.41%)
4
ウッタル・プラデシュ
254.03 (7.35%)
5
アッサム
166.89 (4.83%)
その他
1,212.89(35.08%)
インド全体
3,457.89 (100%)
出所:2004年漁業統計ハンドブック
表2−8
インドにおける水産養殖の生産
(単位:1,000トン,1,000米ドル)
年
数量
金額
1950
17.910
NA
1960
44.843
NA
1970
121.671
NA
1980
365.180
NA
1984
572.000
479,000
1985
633.250
561,445
1986
686.260
663,634
1987
788.310
826,608
1988
893.330
1,023,412
1989
1,004.500
1,261,705
1990
1,017.136
1,612,550
1991
1,225.261
1,586,460
1992
1,395.444
1,618,145
1993
1,416.702
1,678,704
1994
1,519.528
1,968,941
1995
1,658.807
1,946,459
1996
1,758.739
1,872,489
1997
1,864.322
2,132,553
1998
1,908.485
2,253,581
1999
2,134.814
2,509,328
2000
1,942.204
2,511,180
2001
2,119.839
2,392,400
2002
2,187.189
2,574,584
2003
2,314.977
2,588,468
2004
2,472.335
2,936,479
出所:FAO
― 270 ―
パ属の一種)、ニベなどであった。インドにおける海面漁業の魚種別生産量を表 2 − 9 に示す。
表2−9
インドの海面漁業生産(2004年)
(単位:1,000トン)
順位 魚種
供給
生産量
最大の生産州
シェア
(%)
1
マラバールイワシ
265.929
ケララ
65
2
ニベ
239.113
グジャラート
67
3
その他のイワシ
216.420
タミル・ナドゥ
47
4
テナガミズテング※
170.773
グジャラート
53
5
ブラックタイガー
168.650
ケララ
32
6
その他の甲殻類
134.423
マハラシュトラ
51
7
グルクマ
126.718
ケララ
34
8
タチウオ
124.225
グジャラート
37
9
カタクチイワシ
93.874
ケララ
37
10
頭足類
78.851
グジャラート
27
その他
1,192.328
−
−
合計
2,811.304
−
−
出所:海産物輸出統計 ※テナガミズテングはエソ科の細長い魚
(2)内水面漁業
表 2 −10
順位 州名
インドの内水面漁業生産(2003年)−上位 5 州
主なコイ類 その他の 外来種の Murrel ナマズ類 その他
(カトラ、
ロフ、 コイ
コイ類 (ophloce (ワラゴ、
アッツー、 の淡水
ムリガル、
(コイ、
レンギ
ョ、 phalus パンガスルス、 水産物
カルバス)
ソウギョ)
spp)
バガリウス)
(単位:トン)
その他
合計
1
西ベンガル
652.540
42.100
140.500
12.300
16.000
76.740
47.824
988.004
2
アンドラ・
プラデシュ
429.411
3.379
9.796
8.091
9.285
31.736
88.003
579.701
3
ビハール
125.625
56.404
5.128
17.947
2.564
48.712
-
256.380
4
ウッタル・
プラデシュ
254.030
-
-
-
-
-
-
254.030
5
アッサム
85.398
22.460
1.302
1.510
8.650
46.023
1.550
166.893
475.771
64.438
135.518
33.163
69.783
76.014
358.195 1,212.882
合計 2,022.775
188.781
292.244
73.011
106.282
279.225
495.572 3,457.892
その他
出所:2004年漁業統計ハンドブック
2003∼04年のインドの内水面漁業生産量は、コイ類(ロフ、カトラ、ムリガル、カルバス)が全体
の58.5%を占めている。生産地では、西ベンガル州が最も多い。
表 2 −11は、インドにおける内水面漁業生産のうち、プローンの生産量を示している。2003年のクル
マエビ生産量は、ケララ州が最も多く、全体の26%を占めた。2003年のクルマエビ以外のプローンの
― 271 ―
生産量では、マハラシュトラ州が最も多く、65%を占めた。
表 2 −11
インドにおけるプローンの生産(2003年)−上位 5 州
(単位:1,000トン, %)
生産量
順位 州名
クルマエビ
シェア
クルマエビ以外
シェア
合計
シェア
1
マハラシュトラ
45.442
22.46
56.965
64.93
102.407
35.31
2
ケララ
53.437
26.41
3.364
3.82
56.801
19.58
3
グジャラート
46.330
22.90
9.150
10.43
55.480
19.13
4
タミル・ナドゥ
21.079
10.42
4.671
5.32
25.750
8.88
5
西ベンガル
13.053
6.45
7.950
9.10
21.003
7.24
22.986
11.36
5.622
6.40
28.611
9.86
その他
合計
202.327
100
87.722
100
290.049
100
出所:2004年漁業統計ハンドブック
2.3 養殖漁業について
(1)養殖水域
インドで利用可能な水産養殖水域は、735万9,000ヘクタールある。河川や運河、池、貯水池、氾濫原
湖、汽水などがこれにあたる。概要は以下の通り。
資源
長さ、面積
1
河川と運河
195,210 km
2
池
3
貯水池
241万4,000ヘクタール
4
氾濫原湖
79万8,000ヘクタール
5
汽水
216万ヘクタール
124万ヘクタール
出所:2006年農業調査データブック
FAOの統計によると、インドの2004年の水産養殖生産額を魚種別でみると、ブラックタイガー、ロ
フ・ラベオ、カトラ、ムリガルカープとなっている(表 2 −12)
。
インドは、観賞魚を含む水産養殖生産に潜在的余力があるといわれる。今後、養殖の対象として可能
性のある水産物は観賞魚を含め150種類以上ある。
(2)沿岸養殖
インドの水産養殖は淡水が大半であるが、わずかながら沿岸養殖の実現に向けての取組みが行われて
いる。ベンガル湾プログラム(バングラデシュ、インド、マレーシア、スリランカ、タイがメンバー)
とスウェーデン国家漁業委員会(National Swedish Board of Fisheries)主導の小規模な漁業プロジェク
トが代表例である。
FAOの調査によると、120∼140万ヘクタールの沿岸域が養殖可能と見込まれており、その約14%が
実際に養殖に利用されている。
沿岸域ではエビ養殖が伝統的な方法か近代化された方法で営まれており、
従事者の約 9 割は 2 ヘクタール程度の規模である。
― 272 ―
表 2 −12
インドの水産養殖種別生産
(単位:1,000米ドル)
順位 種
金額
1
ブラックタイガー
789,816
2
ロフ・ラベオ
413,196
3
カトラ
397,767
4
ムリガルカープ
376,363
5
コイ
331,235
6
その他淡水魚
141,645
7
レンギョ
115,558
8
ソウギョ
80,512
9
その他スネークヘッド
35,938
10
インドエビ
20,872
その他
233,577
合計
2,936,479
出所: FAO
2.4 地域別漁業の状況
ケララ州(インド南部)と西ベンガル州(インド東部)について紹介する。
(1)ケララ州
ケララ州では漁業が主要産業で、加工場、輸出業者の数が多い。コーチン港は水産物の主要積出港で
ある。コーチンには海産物輸出振興局(MPEDA)があり、そのほか州内には、主要な海面漁業振興機
関が設置されている。
表 2 −13は、ケララ州漁業局による、1999年度から2003年度までのケララ州の海面漁業生産量を示す
ものである。
(2)西ベンガル州
西ベンガル州には内水面を含めて11,200の漁村があり、その内652ヵ所が海面漁業を営んでいる。同
州の人口8,020万人の内、漁業人口は91.1万人である(2001年の国勢調査)。
西ベンガル州の漁業生産量は表 2 −14の通りで、海水面漁業よりも内水面漁業のほうが盛んである。
2003∼04年度は、内水面漁業生産量が全体の84%を占めた。
西ベンガル州では、水産物の輸出を含む需要が生産を上回っている。表 2 −15は、同州の需給状況を
示す。
西ベンガル州では水産物の需要を満たすため、ほかの州や隣国のバングラデシュから水産物の供給を
受けている(表 2 −16)。
2.5 漁法について
インドでは、漁業技術中央研究所(在ケララ州コーチン)が、魚種や漁獲地域に合った漁法に関する
研究を行っている。従来の漁法による環境への影響について、例えば、漁師がなくした刺し網によるゴ
― 273 ―
表 2 −13
1999年から2003年のケララ州における海面漁業生産量
(単位:トン)
生産量
1999
軟骨魚類
2000
3,681
2001
2,683
2002
2,991
3,197
2003
3,066
ナマズ
127
103
150
121
154
イワシ
179,308
236,112
266,682
209,101
274,003
25,347
21,885
34,925
29,173
35,869
6,181
7,620
5,856
6,817
6,021
36,431
49,589
30,212
40,119
31,020
7,729
1,418
8,863
6,093
9,056
タチウオ
17,401
8,381
18,364
16,082
18,815
アジ
27,417
19,480
25,110
24,855
25,721
サバ
86,530
30,667
42,446
54,537
43,551
2,915
4,798
2,326
3,499
2,389
マグロ
19,807
14,072
11,014
15,444
11,314
エビ
59,782
57,912
56,445
56,977
56,731
651
470
-
891
344
その他
120,413
111,381
88,399
136,380
90,471
合計
593,720
566,571
593,783
603,286
608,525
カタクチイワシ
エソ
スズキ
ニベ
熱帯サワラ
その他の甲殻類
出所:ケララ州漁業局
表 2 −14
西ベンガル州の漁業生産量
(単位:100万トン)
生産量
年 度
内水面
海水面
合計
1980
0.340
0.030
0.370
1990
0.555
0.125
0.680
2000
0.879
0.181
1.060
2001
0.915
0.185
1.100
2002
0.939
0.182
1.121
2003
0.988
0.182
1.170
出所:2005年西ベンガル州漁業統計ハンドブック
表 2 −15
西ベンガル州の水産物需給状況
(単位:100万トン)
年度
需要
生産量
1995
1.02
0.89
1996
1.06
0.94
1997
1.07
0.95
1998
1.09
0.99
1999
1.12
1.04
2000
1.14
1.06
2001
1.16
1.10
2002
1.17
1.12
2003
1.19
1.17
出所:2005年西ベンガル州漁業統計ハンドブック
― 274 ―
表 2 −16
西ベンガル以外からの水産物供給状況(2003年)
(単位:1,000トン)
州/国名
供給量
アンドラ・プラデシュ州
42.5 - 49.0
オリッサ州
25.5 - 30.5
マドヤ・プラデシュ州
2.0 - 3.0
ビハール州
2.5 - 3.5
その他の州(主にマハラシュトラ州)
2.9 - 3.4
バングラデシュ
1.0 - 2.0
合計
76.4 - 91.4
出所:2005年西ベンガル州漁業統計ハンドブック
ーストフィッシングや様々な用具による幼魚の捕獲は資源を枯渇させる要因であり、漁業資源保護のた
め、漁業が環境と生物多様性に及ぼす影響を減らす試みが実行されている。
魚種ごとに用いられている漁法を表 2 −17に示す。
表 2 −17
インドの魚種別の主な漁法
魚種
漁法
1
ホワイトエビ
トロール網、投網、立て網/culine
2
タイガーエビ
トロール網、投網、立て網/ culine
3
Flower Prawn
トロール網
4
アマエビ
トロール網と立て網
5
メキシコエビ
トロール網
6
キング・プローン(king prawn)
トロール網
7
カリカディ(Parapenaeopsis stylifera;小型のエビ) トロール網
8
Jawala(Acetes indiscus;アキアミの一種)
Dol net
9
クルマエビ
投網およびその他の伝統漁法
10
ホッコクアカエビ(Deep Sea Shrimp)
トロール網
11
イセエビ
ワナカゴ、トロール網、すくい網
12
ノコギリガザミ
カニトリカゴ、トロール網、底引き網
13
ジャノメガザミ(Portunus Sanguinolentus)
トロール網、曳き網
14
タイワンガザミ(Portunus pelagicus)
トロール網、底引き網、曳き網
15
コウイカ
トロール網
16
イカ
トロール網
17
マナガツオ
刺し網、Dol net、トロール網
18
グルクマ
刺し網、曳き網、巾着網
19
カツオ
巾着網、釣竿・糸
20
ニベ
トロール網、刺し網
21
アジ
巾着網、トロール網、刺し網、曳き網
22
マラバールイワシ(サッパ属の魚)
巾着網、船引き網、刺し網
23
Deep bodied sardinella(サッパ属の魚)
巾着網、船引き網、刺し網
24
ティラピア
投網
25
シロギス
曳き網
出所:インド漁業技術中央研究所(CIFT)
― 275 ―
3.水産貿易について
FAOの統計によると、2004年に米ドル建て金額でインドは世界第10位の水産物輸出国であった。一
方、2004年のインドの水産物輸入はわずかであった。
3.1 輸出入量・額の推移
3.1.1 輸出
(1)輸出量と輸出額の傾向
世界の水産物輸出のうち、インドは金額で 2 %を占めている(表 3 − 1 )。2000年は世界の輸出量の
2.59%に達した。
表3−1
インドが世界の水産物輸出額に占める割合
(単位:10億米ドル、%)
年度
世界
インド
シェア
1970
2.94
0.05
1.70
1975
6.22
0.12
1.93
1980
15.49
0.28
1.81
1985
17.25
0.31
1.80
1990
35.75
0.48
1.34
1995
52.03
1.08
2.08
2000
55.29
1.43
2.59
2001
56.19
1.26
2.24
2002
58.24
1.42
2.44
2003
63.28
1.31
2.07
出所:『Fishing Chimes』2006年 8 月 www.fishingchimes.com
インドの水産物の輸出状況は表 3 − 2 の通り。1961年から2001年までの10年ごとに225.8%、197.4%、
245.1%、247.0%と伸張してきた。インドの水産物輸出は、生産量に影響を受ける。
(2)相手先別の輸出状況
インドの水産物輸出の主要市場は、数量では中国、EU、日本、金額ではEU、米国、日本である(表
3 − 3 )。
(3)日本向け輸出∼すり身
インドですり身(Surimi)原料として利用されるのは、混獲魚の中でも、ヒメイトヨリ、オニカマス、
タチウオ、エソ、ニベなどである。ヒメイトヨリを使用したすり身プラントは以下の地域にあり、近代
的なプラントで加工された後、日本に輸出されている。
1 グジャラート州 ベラワル
2 マハラシュトラ州 ラトナグリ(Ratnagri)
3 カルナタカ州 マングロレ=ウディプディ(Manglore_Udipdi)
― 276 ―
表3−2
インドからの水産物の輸出
(単位:1,000トン、100万ルピー、ルピー/トン)
年度
数量
金額
単価
1961
15.732
39.2
2,491.74
1971
35.523
445.5
12,541.17
1981
70.105
2,860.1
40,797.38
1991
171.820
13,758.9
80,077.41
2001
424.470
59,570.5
140,340.90
2002
467.297
68,813.1
147,257.74
2003
412.017
60,919.5
147,856.76
2004
461.329
66,466.9
144,077.00
2005
512.164
72,453.0
141,464.45
2006*
297.132
47,453.0
158,323.91
注:*2006年 4 ∼10月
出所:1.2004年漁業統計ハンドブック
2.『Fishing chimes』、2006年 7 月
3.『MPEDA Newsletter』、2006年11∼12月号
表3−3
年度
日本
米国
49.285
51.410
金額①
11,382
金額②
インドの水産物の主要相手先別輸出状況
(単位:1,000トン、金額①-100万ルピー、金額②-100万米ドル)
EU
中国
東南アジア
中東
その他
合計
94.906
128.764
48.320
13.834
25.498
412.017
16,736
14,741
6,782
5,374
1,888
3,654
60,555
246.23
359.51
316.62
146.80
115.67
40.57
78.52
1,303.92
数量 57.832
50.045
117.742
124.826
63.842
16.624
30.418
461.329
金額①
12,024
15,561
18,193
6,932
6,288
2,444
5,024
66,467
金額②
266.96
345.52
405.40
154.10
139.77
54.70
112.03
1,478.48
59.785
55.817
136.842
137.076
60.140
22.270
40.234
512.164
金額①
11,560
16,392
21,343
8,495
5,859
3,077
5,729
72,453
金額②
262.7
372.62
484.02
191.99
132.70
69.64
130.44
1,644.21
40.451
26.793
81.67
77.119
35.781
10.532
24.779
297.132
金額①
8,748
8,877
15,536
4,939
3,207
1,743
3,994
47,043
金額②
191.22
193.59
340.00
108.18
70.13
38.29
87.41
1,028.82
2003年
数量
2004年
2005年
数量
2006年
数量
注:2006年は、2006年 4 ∼10月。
出所:1. 『MPEDA Newsletter』2006年 6 月号
2. 『MPEDA Newsletter』2006年11∼12月号
― 277 ―
4 ゴア州
5 ケララ州 コーチン(アロル島)
ヒメイトヨリは、従来すり身として輸出されていたが、ケララ州、カルナタカ州等では、近年国内需
要が高まっている。日本は、インド産のすり身の主要な仕向け先である。
コーチンに本拠を置くキャッスルロック・フィッシャリーズ・リミテッド(CFL)は、インドですり
身プロジェクトを立ち上げるために、日系企業とジョイントベンチャー契約を締結した。
(4)港別の輸出状況
過去 5 年間におけるインドからの水産物輸出を港別にみると、主要輸出港は以下の通りである(表
3 − 4 )。チェンナイとビシャカパトナム、トゥーティコリンは東海岸、その他は西海岸に位置する。
i )チェンナイ
ii )コーチン
iii)ジャワハラル・ネルー港(JNP)
iv)ヴィシャカパトナム(ビザグ)
v )ピパヴァヴ(Pipavav)
vi)トゥーティコリン
輸出港別に、2004年度に輸出額が最も多かった魚種について、近年の輸出額推移は以下のとおりで
あった(表 3 − 5 )
。
上位 6 港(チェンナイ、コーチン、JNP、ビザグ、ピパヴァヴ、トゥーティコリン)からの輸出額上
位10品目を示す(表 3 − 6 から表 3 −11)。輸出品の構成にはほとんど変化はなく、冷凍水産物が水産
物の約75∼80%を占めている。
3.1.2 輸入
(1)輸入量と輸入額の傾向
FAOの統計によると、インドの水産物輸入量は、1980年から2004年までの間に、1,292トンから 4 万
6,051トンと、35.6倍増加した(表 3 −12)
。
HSコード 4 桁で分類すると、主な輸入水産物は次の通りである。
1 )0302
ジギョ(下記参照)を含めた鮮魚、またはチルドの魚
2 )0306
小エビ、ロブスター、中型エビ類
3 )0307
軟体動物、コウイカ等
4 )0304
魚のフィレ( 3 枚おろしの身)およびその他の魚肉
MPEDAによると、水産物輸入額は表 3 −13の通りである。
(2)相手先別の輸入状況
インド商業情報統計局によると、2005年度の水産物の輸入額は、1 位がバングラデシュで42%を占め
た。バングラデシュから輸入される主な水産物は、西ベンガル州とトリプーラ州の住民にとって欠かせ
ないジギョ(バングラデシュからの輸入量の60%を占める;ニシン科Tenualosa属の魚)である。2 位
が米国で、AFDの冷凍小エビ(米国からの輸入量の79%を占める)が主なものである。
― 278 ―
表3−4
積出港別にみたインドからの水産物輸出
(単位:1,000トン、金額①-100万ルピー、金額②-100万米ドル)
輸出港
年度
チェンナイ コーチン
JNP
ビザグ ビバヴァヴ トゥーティコリン その他
合計
2001年
数量
39.544
69.171
98.143
21.343
69.755
15.615
110.748
424.319
金額①
15,763
9,004
6,929
7,646
3,262
4,391
12,177
59,172
金額②
334.90
191.86
148.18
162.29
69.44
93.29
258.44
1,258.40
53.677
85.832
123.034
25.715
95.837
17.892
95.975
497.962
金額①
20,349
10,881
9,726
9,184
4,838
4,422
10,713
70,113
金額②
421.17
225.72
202.11
190.09
100.59
91.63
221.95
1,453.26
44.576
73.071
95.268
22.999
92.467
19.844
61.503
409.728
金額①
15,343
10,399
8,422
7,150
4,971
5,072
8,861
60,218
金額②
329.42
233.65
182.16
154.32
106.95
109.28
190.90
1,296.68
44.939
26.793
81.67
77.119
35.781
10.532
24.779
2,97.132
金額①
14,695
8,877
15,536
4,939
3,207
1,743
3,994
47,043
金額②
314.03
193.59
340.00
108.18
70.13
38.29
87.41
1,028.82
45.246
95.737
120.492
37.121
115.101
27.172
71.295
512.164
金額①
13,826
12,190
11,730
11,153
7,768
6,132
9,654
72,453
金額②
315.13
277.06
265.59
253.07
174.87
139.27
219.22
1,644.21
23.599
61.517
59.044
21.998
65.473
17.905
47.596
297.132
金額①
7,762
8,544
6,214
8,182
4,649
4,658
7,034
47,043
金額②
169.48
186.99
136.31
178.46
102.43
101.63
153.52
1,028.82
2002年
数量
2003年
数量
2004年
数量
2005年
数量
2006年
数量
注:2006年は、2006年 4 ∼10月。
出所:1.水産物輸出統計
2.『MPEDA Newsletter』2006年 6 月号
3.『MPEDA Newsletter』2006年11∼12月号
― 279 ―
表3−5
主要港別の主要取扱魚種の輸出額の推移
主要取扱魚種
(単位:100万米ドル)
2001年
2002年
2003年
2004年
205.35
172.04
41.26
179.73
チェンナイ
冷凍養殖小エビ
コーチン
冷凍小エビのブロック
87.05
85.22
88.33
85.63
JNP
冷凍小エビのブロック
41.61
56.81
52.81
44.53
ビザグ
冷凍養殖小エビ
120.66
145.67
112.23
164.36
ピパヴァヴ
冷凍タチウオ
15.63
28.93
23.01
32.73
65.59
62.04
74.36
92.63
トゥーティコリン 冷凍小エビのブロック
出所:海産物輸出統計
表3−6
(単位:100万米ドル)
2001
2002
114.35
205.35
172.04
41.26
179.73
4.63
39.57
91.67
58.61
67.26
231.71
73.43
133.06
197.34
49.58
活カニ
4.40
3.16
6.43
5.24
6.33
塩蔵干しクラゲ
0.26
0.82
1.28
13.51
5.08
乾燥フカヒレ
3.18
3.71
2.83
3.45
2.64
冷凍コウイカ
(内臓抜きの丸もの)
0.62
0.44
1.51
0.66
2.20
干したフカの尾びれ
0.00
0.11
0.14
0.32
1.10
干したフカの鰭条
(ひれすじ)
0.22
0.10
0.62
1.16
1.01
冷蔵マナガツオ
1.76
0.89
1.87
1.00
0.90
冷凍養殖小エビ
冷凍小エビ(IQF)
冷凍小エビのブロック
2000
チェンナイ港
2003
2004
出所:海産物輸出統計
表3−7
2000
コーチン港
2001
(単位:100万米ドル)
2002
2003
2004
冷凍小エビのブロック
115.55
87.05
85.22
88.33
85.63
冷凍コウイカ
(内臓抜きの丸もの)
17.43
18.54
31.26
30.05
34.56
IQF コウイカ
24.51
26.11
28.19
24.10
32.36
AFD小エビ
0.05
0.32
9.04
9.61
11.33
冷凍イカ
(内臓抜きの丸もの)
8.78
5.59
6.10
5.74
10.83
12.35
5.70
7.38
2.18
3.91
冷凍コウイカ(丸もの)
6.57
2.01
3.81
2.44
3.88
冷凍イカの胴
3.43
2.65
2.70
2.85
3.28
冷凍タチウオ
出所:海産物輸出統計
― 280 ―
表3−8
ジャワハラル・ネルー港(JNP)
(単位:100万米ドル)
2000
2001
2002
2003
2004
冷凍小エビのブロック
44.17
41.61
56.81
52.81
44.53
すり身
14.65
19.39
39.16
28.84
26.73
冷凍タチウオ
20.57
19.99
30.45
13.35
22.12
養殖小エビ
0.00
0.00
3.22
11.11
18.58
冷凍小エビ(IQF)
5.15
3.90
8.33
11.18
16.75
冷凍マナガツオ
0.00
0.00
0.00
7.36
15.90
冷凍イカ(丸もの)
3.01
7.75
2.92
2.34
5.32
冷凍イセエビ(丸もの)
0.00
0.00
0.44
1.72
4.83
冷凍イカ
(内臓抜きの丸もの)
3.89
5.88
4.60
6.67
4.28
冷凍コウイカ(丸もの)
2.10
1.70
3.04
2.99
2.76
出所:海産物輸出統計
表3−9
ビザグ港
(単位:100万米ドル)
2000
2001
2002
2003
2004
冷凍養殖小エビ
151.02
120.66
145.67
112.23
164.36
57.08
35.97
37.80
31.68
35.31
冷凍小エビ(IQF)
0.58
1.76
1.17
4.79
9.45
冷凍のカットワタリガニ
0.62
0.19
0.14
0.50
1.03
冷凍コウイカ(丸もの)
0.89
0.53
0.88
0.72
0.89
冷凍コウイカ
(内臓抜きの丸もの)
0.00
0.40
0.87
0.26
0.89
冷凍タチウオ
0.51
0.38
0.72
1.47
0.82
カニツメ付き
カット冷凍カニ
0.00
0.00
0.45
0.55
0.77
冷凍カニ(丸もの)
0.00
0.04
0.18
0.19
0.73
冷凍キハダマグロ
0.00
0.00
0.00
0.05
0.32
冷凍小エビのブロック
出所:海産物輸出統計
― 281 ―
表 3 −10
ピパヴァヴ港
(単位:100万米ドル)
冷凍タチウオ
2000
2001
2002
2003
2004
11.69
15.63
28.93
23.01
32.73
冷凍コウイカ(丸もの)
4.06
6.38
13.16
15.07
10.44
冷凍イカ(丸もの)
1.66
3.99
7.82
9.32
8.99
すり身
0.40
1.40
4.48
7.22
8.72
冷凍小エビのブロック
3.77
8.59
5.90
7.67
8.22
冷凍ニベ
2.09
7.14
8.75
9.01
4.91
冷凍コウイカ
(内臓抜きの丸もの)
8.61
2.83
2.64
2.26
3.86
冷凍イカ
(内臓抜きの丸もの)
1.10
1.81
2.71
4.46
3.27
冷凍マナガツオ
0.00
0.00
0.00
0.03
2.89
冷凍かに風味かまぼこ
0.00
0.00
0.83
1.55
2.69
出所:海産物輸出統計
表 3 −11
トゥーティコリン港
(単位:100万米ドル)
冷凍小エビのブロック
2000
2001
2002
2003
2004
71.71
65.59
62.04
74.36
92.63
カニ肉
0.00
0.00
0.00
4.92
7.50
冷凍コウイカ
(内臓抜きの丸もの)
1.67
1.37
1.64
4.24
7.45
冷凍養殖小エビ
4.94
2.56
4.84
0.68
5.83
冷凍イカ
(細かく砕いたもの)
8.70
4.85
5.20
3.30
5.41
IQFコウイカ
(内臓抜き丸もの)
0.00
0.00
0.00
0.00
3.08
冷凍魚(その他)
2.54
2.36
2.15
2.54
2.75
冷凍イカ(丸もの)
0.00
0.00
0.00
0.11
2.56
冷凍イカ(丸もの)
0.17
0.64
0.70
2.06
2.35
カニツメ付きカット
冷凍カニ
0.00
0.00
0.94
1.11
2.20
出所:海産物輸出統計
― 282 ―
表 3 −12
インドの水産物の輸入
(単位:1,000トン,1,000米ドル)
年
数量
金額
1980
1.292
5,807
1990
0.458
608
2000
12.091
17,285
2001
24.296
24,024
2002
40.632
40,268
2003
55.191
50,490
2004
46.051
49,866
出所:FAO
表 3 −13
インドの水産物の輸入
(単位:100万ルピー)
年度
輸入額
2004
734.95
2005
1,067.19
2006
533.80
注:2006年度は、2006年 4 ∼ 8 月。
出所:MPEDA
表 3 −14
インドの水産物の相手先別輸入額
(単位:100万ルピー)
2003
バングラデシュ
2004
2005
248.84
363.29
450.472
米国
47.12
52.61
120.54
ミャンマー
46.72
29.74
51.26
英国
25.37
27.95
39.71
日本
5.10
6.34
22.24
マレーシア
25.65
0.14
6.85
中国
13.71
9.67
5.23
アイスランド
19.63
41.54
3.95
5.10
12.10
2.73
-
20.86
-
その他
156.96
170.71
364.31
合計
594.20
734.95
1,067.19
スペイン
リヒテンシュタイン
出所:インド商業情報統計局
― 283 ―
3.2 魚種別輸出入量・額の推移
3.2.1 輸出
インド商業情報統計局(Directorate of Commercial Intelligence and Statistics)の発表によると、2005
年のインドの水産物輸出額は、HS0306類(シュリンプ、プローン、ロブスター)が輸出総額の57%を
占め、HS0303類(冷凍魚)同15%、HS0307類(軟体動物、コウイカ等)が同14%と続いた。
表 3 −15
HSコード 品目
0301
活魚
0302
生鮮・冷蔵の魚
0303
冷凍魚
0304
魚のフィレ、魚肉
0305
有塩の干し魚等
0306
シュリンプ、プロ
ーン、ロブスター
0307
軟体動物、
コウイカ等
1504
インドの水産物税関コード別輸出状況
2001
2002
2003
2004
(単位:100万ルピー)
2005
2006
66.7
69.6
128.3
63.2
55.4
26.1
616.5
455.2
964.1
916.5
986.9
261.1
11,223.3
13,110.4
5,696.4
7,859.3
10,717.6
1,204.2
866.2 7
40.9
767.2
781.3
1,199.4
395.3
354.6
328.4
611.5
505.9
440.4
149.6
39,720.0
46,602.4
42,346.2
41,273.9
39,938.9
13,177.3
5,224.8
6,382.4
6,295.7
7,640.6
9,581.8
2,325.2
油脂およびその留分
55.6
53.5
41.0
58.7
51.2
30.0
1603
肉、魚、または甲
殻類、軟体動物ま
たはその他の水生
無脊椎動物の抽出
物とエキス
11.4
74.4
36.1
14.2
10.2
30.8
1604
調理済みまたは保
存加工済みの魚
21.7
113.3
506.8
1,208.7
1,362.7
376.3
1605
調理済み、または
保存加工済みの甲
殻類、軟体動物お
よびその他の水生
無脊椎動物
270.5
828.3
3474.9
4,276.8
5,842.4
2,170.6
合計
58,421
68,759
60,868
64,599
70,187
20,147
注:2006年度は、2006年 4 ∼ 7 月。
出所:インド商業情報統計局
(1)日本向け輸出
インドから日本向けに輸出されている主な水産物は、以下のとおりである。冷凍保存加工のエビ類は
米国に次いで多く、以下欧州向けが続いている。調理加工済みについては日本向けが一番多いが、総輸
出額の増加とともに、仕向け先も増加しており、調理済みエビ類は、中国、イタリア、アラブ首長国連
邦など、調理加工の魚については、台湾、中国、東南アジア諸国向けとなっている。
i )調理済み、保存加工済みのエビ類
ii)調理済み、保存加工済みの魚
― 284 ―
2005年度のインドの水産物輸出額について、税関コード 4 桁で分類したときの、輸出先 1 位と日本向
けの対照表は、表 3 −16の通りとなった。
表 3 −16
インドの水産物輸出先 1 位と日本向けの輸出状況(2005年)
(単位:100万ルピー)
HSコード 品目
輸出総額
日本向け
輸出先 1 位
国・地域
0301
生きている観賞魚
55.4
0302
その他の鮮魚/チルドの魚
(肝臓と卵を除く)
0303
その他の冷凍魚
(肝臓と卵を除く)
0304
魚のフィレ
0305
その他の干し魚(有塩か否か、
燻製か否かを問わない)
0306
冷凍の小エビと中型エビ
0307
活、鮮、チルドのコウイカ、
イカ
1504
4.81 シンガポール
金額
13.49
986.9
125.71
ギリシャ
131.47
10,717.6
792.10
中国
4291.05
1,199.4
39.46
中国
115.71
440.4
-
スリランカ
117.49
39,938.9
8281.97
米国
12,552.10
9,581.8
137.61
スペイン
2,369.93
油脂(肝油を除く)
51.2
0.58
ベトナム
11.85
1603
肉等の抽出物とエキス
10.2
-
シンガポール
8.29
1604
その他の調理済みまたは
保存加工済みの魚
1,362.7
651.24
日本
651.24
1605
調理済みまたは保存加工済み
の中型エビ
5,842.4
690.07
日本
690.07
出所:インド商業情報統計局
『MPEDA Newsletter』2006年11∼12月号によると、2006年度(2006年 4 ∼10月)における品目別水
産物輸出状況は表 3 −17の通り。
インドの水産物輸出の主要品目について、各年度における平均シェア(量と額)は表 3 −18のとおり
であった。
2004年のインドの水産物輸出の品目別数量シェアをみると大きく占めるのは冷凍タチウオ、冷凍小
エビのブロック、養殖冷凍エビであった(表 3 −19)。
一方、2004年のインドの水産物輸出の品目別金額シェア(米ドルベース)をみると、占める割合が
大きいのは養殖小エビ、冷凍小エビのブロックとなった(表 3 −20)。
(2)品目別輸出先
インドの冷凍小エビは、主に、米国、日本などに輸出されている(表 3 −21)。
冷凍魚の輸出先は、中国の占める割合が大きく、次いで香港、米国となっている(表 3 −22)。
冷凍イカは、主にスペインに輸出されている(表 3 −23)。
冷凍コウイカは、主にスペインに輸出されている(表 3 −24)。
― 285 ―
表 3 −17
インドの水産物の品目別輸出状況(2006年 4 ∼10月)
(単位:1,000トン, ①100万ルピー,②100万米ドル)
順位
商品
輸出
数量
1
冷凍小エビ
2
冷凍魚
3
金額①
金額②
82.402
27,949.20
610.46
103.337
6,025.70
131.98
冷凍コウイカ
32.363
4,533.40
98.84
4
冷凍イカ
27.863
3,428.30
75.44
5
乾物
10.135
701.50
15.43
6
チルド品
2.571
410.50
8.98
7
活魚類
1.331
348.80
7.65
その他
37.130
3,645.70
80.04
297.132
47,043.10
1,028.82
合計
出所:『MPEDA Newsletter』2006年11∼12月号
表 3 −18
品目
年度
合計
1
2
3
4
5
6
インドの主要品目の平均シェア
冷凍小エビ
冷凍魚
(単位:%)
冷凍コウイカ 冷凍イカ
乾物
その他
1971∼1980
数量
金額
100
100
70.1
85.1
8.5
2.5
1.1
1.0
1.2
0.7
NA
19.1
10.4
1981∼1990
数量
金額
100
100
58.2
80.1
17.4
6.3
6.4
3.7
7.8
3.2
NA
10.2
6.7
1991∼2000
数量
金額
100
100
31.4
69.2
40.8
12.7
9.2
6.0
11.5
6.5
NA
7.1
5.6
2004
数量
金額
100
100
30.0
63.0
35.0
11.0
10.0
7.0
10.0
7.0
2.0
2.0
13.0
10.0
2005
数量
金額
100
100
28.0
59.0
36.0
14.0
10.0
7.0
10.0
8.0
3.0
2.0
13.0
10.0
2006
( 4 ∼10月)
数量
金額
100
100
28.0
59.0
35.0
12.0
11.0
10.0
9.0
8.0
3.0
2.0
14.0
9.0
出所:1)J.ボージャン(J. Bojan)博士、2006年10月18∼19日にニューデリーで開催された2005年農業
サミット
2)
『MPEDA Newsletter』、2006年11∼12月号
― 286 ―
表 3 −19
インドの海産物輸出量の品目別シェア
(単位:%)
順位 品目
シェア
1
冷凍タチウオ
20.01
2
冷凍小エビのブロック
13.71
3
養殖冷凍小エビ
11.75
4
すり身
6.99
5
IQF(バラ冷凍)の小エビ
5.00
6
冷凍イカの丸もの
4.32
7
冷凍コウイカ
(内臓抜きの丸もの)
4.17
8
冷凍コウイカの丸もの
3.04
9
冷凍イカ(内臓抜きの丸もの)
2.22
10
冷凍魚(その他)
1.81
小計
73.02
その他
26.98
合計
100.00
出所:2004年海産物輸出統計
表 3 −20
インドの海産物輸出額の品目別シェア
(単位:%)
順位 サブ分類
割合
1
養殖小エビ
30.67
2
冷凍小エビのブロック
23.96
3
IQF(バラ冷凍)の小エビ
9.07
4
冷凍タチウオ
4.63
5
冷凍コウイカ(内臓抜きの丸もの)
3.55
6
すり身
3.05
7
冷凍イカの丸もの
2.59
8
冷凍マナガツオ
2.19
9
冷凍コウイカの丸もの
1.53
10
冷凍イカ(内臓抜きの丸もの)
1.51
小計
82.75
その他
17.25
合計
出所:2004年海産物輸出統計
― 287 ―
100.00
表 3 −21
インドの冷凍小エビの輸出先上位10ヵ国・地域(2004年)
(単位:100万米ドル、トン)
順位 輸出額
輸出量
1
米国
316.77
37,269.66
2
日本
207.73
28,853.15
3
ベルギー
77.28
24,296.89
4
英国
66.49
10,640.91
5
ベトナム
29.87
4,166.36
6
アラブ首長国連邦
28.80
6,139.22
7
カナダ
27.75
3,214.51
8
オーストラリア
24.06
3,133.30
9
南アフリカ
19.53
4,127.42
10
ドイツ
18.41
2,941.86
出所:2004年海産物輸出統計
表 3 −22
インドの冷凍魚の輸出先上位10ヵ国・地域(2004年)
(単位:100万米ドル、トン)
順位 輸出額
輸出量
1
中国
76.64
86,781.84
2
香港
21.47
18,254.27
3
米国
11.68
5,445.65
4
マレーシア
8.89
9,889.72
5
アラブ首長国連邦
5.16
2,953.33
6
日本
3.11
1,292.29
7
英国
2.87
1,112.40
8
タイ
2.69
3,276.08
9
シンガポール
2.64
2,756.21
10
カナダ
1.71
1,016.80
出所:2004年海産物輸出統計
表 3 −23
インドの冷凍イカの輸出先上位10ヵ国・地域(2004年)
(単位:100万米ドル、トン)
順位 輸出額
輸出量
1
スペイン
34.73
16,676.08
2
米国
16.40
6,768.86
3
ギリシャ
8.94
4,516.47
4
イタリア
7.36
3,503.36
5
日本
7.16
1,833.28
6
フランス
4.65
2,259.75
7
ポルトガル
3.01
1,454.98
8
中国
2.39
1,800.98
9
ベルギー
2.32
1,549.94
10
アラブ首長国連邦
2.02
1,376.19
出所:2004年海産物輸出統計
― 288 ―
表 3 −24
インドの冷凍コウイカの輸入国上位10ヵ国・地域
(単位:100万米ドル、トン)
順位
輸入額
輸入量
1
スペイン
50.56
17,082.03
2
中国
16.15
10,308.65
3
イタリア
10.59
4,497.70
4
ポルトガル
4.13
2,068.37
5
香港
3.90
1,657.09
6
ギリシャ
3.45
1,429.30
7
タイ
3.33
2,122.50
8
米国
3.27
1,315.51
9
フランス
2.29
1,300.09
10
オランダ
1.72
608.70
出所:2004年海産物輸出統計
3.2.2 輸入
インド商業情報統計局によると、2005年度のインドの水産物輸入額は、HS0302類(生鮮・冷蔵の魚)
が輸出総額の30%を占め、HS0306類(シュリンプ、プローン、ロブスター)が同24%、HS0304類(魚
のフィレ、魚肉)が16%、HS0307類(軟体動物、コウイカ等)が11%と続いた(表 3 −25)
。
表 3 −25
インドの水産物税関コード別輸入状況
(単位:100万ルピー)
HSコード 品目
0301
活魚
0302
生鮮・冷蔵の魚
0303
2004
2005
2006
0.008
1.600
-
316.375
339.762
347.070
冷凍魚
27.759
49.216
17.675
0304
魚のフィレ、魚肉
47.345
177.830
24.294
0305
有塩の干し魚等
18.060
29.675
13.231
0306
シュリンプ、
プローン、
ロブスター
156.879
273.636
66.855
0307
軟体動物、コウイカ等
74.210
118.934
19.990
1504
油脂およびその留分
73.082
81.117
30.070
1603
肉、魚、または甲殻類、軟体動物
またはその他の水生無脊椎動物
の抽出物とエキス
2.528
13.496
2.292
1604
調理済みまたは保存加工済みの魚
2.686
9.070
2.530
1605
調理済み、または保存加工済みの
甲殻類、
軟体動物およびその他の
水生無脊椎動物
16.017
33.311
9.779
合計
734.951
1127.650
533.787
注:2006年は、2006年 4 ∼ 8 月。
出所:インド商業情報統計局
― 289 ―
インドの水産物の主要輸入先は、2005年度で、バングラデシュが半分以上を占める(表 3 −14)。
HS1605類の加工度の高い品目については、中国が主な輸入先である。
2005年度の輸入品目別では、HS0302類の生鮮・冷蔵の魚の大半がバングラデシュからの輸入であっ
た。HS0306類については、米国が金額で40%、数量で30%程度を占めており、その他については、欧
米や周辺諸国から少しずつ輸入されている。
3.3 加工品輸出入量・額の推移
3.3.1 輸出
従来からの先進国市場(日本、米国、EU)向けに、より付加価値の高い水産品が輸出されている。
特に欧米の市場では、水産物の消費が増え輸入量が上昇しており、米国の大手小売業者との取引きによ
る収入が12億米ドルに上る。同社は近い将来、インドからの輸入を増やす計画である。欧米では水産
物を使った料理の人気が高いが、消費者は今後ますます簡単に調理できる商品を購入する傾向にある。
東南アジア諸国などの新興市場向けには、これらの市場で好まれる水産加工品が輸出されている。よ
り高価格の水産加工品の販売促進が行われている。
インドの水産物加工品の輸出は、2003年度からの 2 年間で、HS1604類が数量・金額ともに2.7倍、
HS1605類(エビの加工品が大半)が数量で 2 倍、金額で1.7倍に増加している(表 3 −26)
。
表 3 −26
インドの水産物加工品輸出の推移
(単位:トン、100万ルピー)
HSコード 品目
2003
数量
2004
金額
数量
2005
金額
数量
金額
1604
調理済みまたは保
存加工済みの魚
7,191.653
503.78 17,636.857
1,201.32 19,303.536
1,363.58
1605
調理済み、または保
存加工済みの甲殻
類、
軟体動物および 18,210.321
その他の水生無脊
椎動物
3,445.38 29,482.095
4,276.81 37,095.489
5,842.42
合計
3,949.16 47,118.952
5,478.13 56,399.025
7,206.00
25,401.974
出所:インド商業情報統計局
3.3.2 輸入
インドの水産加工品の輸入は、まだわずかであるが、半分以上を韓国や中国から輸入している(表
3 −27)
。
3.4 輸出品の価格
近年インドでは、刺身用になる等級の高いマグロを輸出するための努力が行われている。
マグロでより良い価格を得るためには、傷つけないよう用具や漁の方法を変える必要があり、衛生的
な取扱いも重要である。
いくつかの主要輸出品目について、平均単価(ルピー/kg、本船渡し)を表 3 −28に示す。
― 290 ―
表 3 −27
HSコード 品目
インドの加工品輸入の推移
2003
(単位:トン、100万ルピー)
2004
2005
数量
金額
数量
金額
数量
金額
1604
調理済みまたは保
存加工済みの魚
20.513
1.33
11.581
2.82
36.73
11.06
1605
調理済み、または保
存加工済みの甲殻
類、
軟体動物および
その他の水生無脊
椎動物
4.299
1.51
92.77
16.02
192.097
33.30
合計
24.812
18.84
228.827
44.36
2.84
104.351
出所:インド商業情報統計局
表 3 −28
インドの主要輸出品目の平均単価(2004年)
(単位:ルピー/kg、本船渡し)
品目
最低単価
価格
最高単価
国名
価格
冷凍小エビ
108.59
キプロス
721.33
冷凍ロブスター
105.72
英国
干しエビ
34.89
スリランカ
干魚
12.41
バングラデシュ
1,016.93
404.95
2,185.59
平均単価
日本向け
ハンガリー
304.93
326.94
スペイン
423.70
450.24
南アフリカ
44.31
-
ドイツ
50.62
150.15
国名
出所:2004年海産物輸出統計
3.5 輸出関連の現況
以下、最近の記事を参考に紹介する。
1 )2006年 8 月15日付の『World News』によると、日本に小エビを輸出するインドの業者は商品が品
質基準を満たしていないとの指摘を受けた。日本の輸入検査で、禁止されている抗生物質が微量だが
検知された。インド当局は事件に対応して、出荷に際し商品の輸出を認証した機関に対するライセン
スを撤回した。
2 )2006年 9 月 4 日付の『Fish Information & Services』によると、EUが、インドから輸出された頭足
類にカドミウムなどの重金属が含まれているのを検知したため、海産物の貿易関係に緊張が生じた。
3 )2006年 7 月14日付の『Fish Information & Services』によると、米国商務省はインドの小エビ輸出
業者の上位 3 社を選んで、2 年ほど前(2004年 8 月 4 日)に課された10.17%のダンピング防止関税に
ついての不服審査を行う予定である。
4 )『MPEDAニュースレター』2006年11∼12月号によると、米国国際貿易委員会(ITC)は2005年11月
2 日、インドとタイから輸入されている、数種類の冷凍養殖エビに対して現行のダンピング防止関税
を撤回した場合、合理的に予見可能な期間内に実質的な被害の継続または再発が起こる可能性が高い
と判断した。ITCの判断を受けて、インドおよびタイからのこれら商品の輸入に対する現行のダンピ
ング防止関税は継続される。
― 291 ―
ムンバイにある漁業教育中央研究所(Central Institute of Fisheries Education)のシャム・S・サリム
(Shyam S. Salim)博士とK・パラニサミ(K. Palanisami)博士による研究(『Seafood Export Journal
(海産物輸出ジャーナル2006年 3 月号)』
)で、特定の海産物の輸出増と不安定さが分析された。
著者たちは海産物輸出について、以下の通り分析している。
i )自由化以降の期間(1991∼2002年)における最も著しい特徴は、付加価値のきわめて高い生鮮、
乾燥、活魚などの小規模な取引が出現して、商品が多様化し輸出品目の拡大を生み出したことであ
る。
ii )主要輸出品目である鮮魚と冷凍魚については、中国、シンガポール、マレーシア、香港、ベトナ
ム、タイ等の東南アジア諸国における需要増により、自由化以降最大の伸び率を記録した。
iii)1991∼2002年において、日本はインドの海産物の主要輸出先であった。2001年には為替の影響
(円の下落)で日本向け輸出は減少したが、日本向けが占める割合は、数量、金額、単価ともに、
前年比それぞれ3.73%、5.03%、1.25%拡大した。
iv)自由化以降、輸出市場が拡大し仕向け先が多様化したため、ひとつの仕向け先から受ける影響が
抑えられ、海産物輸出の不安定要因を減ずることになった。輸出が伸びた理由は総じて、商品品目
の多様化や仕向け先の増加であり、海産物輸出品目の付加価値化が進んでいる。
v )自由化以降、冷凍の小エビ、ロブスター、その他エビ類の輸出状況は不安定であった。一方、冷
凍イカ、冷凍コウイカ、鮮魚・冷凍魚の輸出については安定的に推移した。
vi)自由化以前に安定度の高い市場であった日本は、自由化以降、輸出の数量と金額にばらつきが生
じたが、単価の変化は少なかった。米国は、自由化以降、輸出の数量と金額が安定的に推移し、単
価の変化はわずかにとどまった。EUは主要市場のなかでも、自由化以降数量、金額、単価ともに
安定的に輸出が推移している。
4.流通と消費
4.1 水産物流通システム
水産物の流通経路にはいくつかのパターンが存在する。漁獲後、消費者に届けられるまでに複数の業
者を経由することもある。海産魚類と淡水魚類では概ね同じであるが、関与する業者の違いから、流通
の仕方が異なる場合もある。
海産魚類の流通のなかでも一般的によくみられるものを以下に示す(図 4 − 1 )。
1 .漁師−競り売り人−冷凍プラントの取次人−輸出業者
2 .漁師−競り売り人−加工業者(干魚)−卸売業者−小売業者−消費者
3 .漁師−競り売り人−卸売業者(一次市場)−卸売業者(小売市場)−小売業者−消費者
4 .漁師−競り売り人−仲買人−卸売業者−小売業者−消費者
5 .漁師−競り売り人−小売業者−消費者
6 .漁師−競り売り人−消費者
7 .漁師−消費者
淡水魚類については、以下の通りである(図 4 − 2 )。
1 .漁師/養魚家−消費者
― 292 ―
海
漁師
競り売り人
卸売業者
(一次市場) 仲買人
加工業者
(干魚)
冷凍プラントの
取次人
卸売業者
小売市場
卸売業者
卸売業者
輸出業者
小売業者
小売業者
小売業者
消費者
図4−1
海産物の流通ルート
養魚家/
漁師
消費者
卸売業者
小売業者
消費者
ブローカー/
競り売り人
ブローカー/
競り売り人
仲買人
卸売業者
加工業者
魚加工会社
卸売業者
ショッピングセンター/
スーパーマーケット
小売業者/ホテル
レストラン/
ショッピングセンター/ 団体
家庭の消費者
図4−2
淡水魚の流通ルート
― 293 ―
消費者
2 .漁師/養魚家−小売業者−消費者
3 .漁師/養魚家−卸売業者−消費者
4 .漁師/養魚家−ブローカー/仲買人/競り売り人−加工業者−卸売業者−小売業者、ホテル、
レストラン、ショッピングセンター、団体−消費者
5 .漁師/養魚家−ブローカー/仲買人/競り売り人/卸売業者−魚加工会社−卸売業者−
ショッピングセンター−消費者
4.2 消費用途別仕向け
4.2.1 鮮魚の供給
インドの菜食主義者は人口の 4 割弱存在し基本的に魚食をしないが、6 割強の非菜食主義者は水産物
の食習慣をもっている。また、居住地域による違いがあり、ケララ州などの沿海州では、消費者のほと
んどが海産物を好む。チェンナイ、ムンバイ、ビシャカパトナム等の沿岸都市についても同様である。
ただし沿岸州の中でも(マハラシュトラ州など)、内陸農村部の人々は、淡水物と海産物の双方を好
む。
一般に好まれる海産物の種類は、次の通りである。
1 .中型エビ、ロブスター
2 .カニ
3 .スズメダイ
4 .マナガツオ
5 .バラフエダイ
6 .ラワス(Indian Salmon;ツバメコノシロ)
7 .イカ
8 .サメ
9 .シロダイ(White Snappers)
10.カキの剥き身
11.マッドラット(Mudlut)
12.イワシ
13.熱帯サワラ
14.クロホシフエダイ(Black spot)
15.フエフキダイ(Emperor)
16.アイラ(Ayla;グルクマ)
17.サバ
18.マグロ
淡水魚では、以下の需要が多い。
1 .ロフ(Labeo rohita;コイ科の魚)
2 .カトラ(Catla Catla;コイ科の魚)
3 .ムリガル(Cirrhinus Cirrhosus;コイ科の魚)
4 .ティラピア(Tilapia mossambica)
― 294 ―
5 .ジギョ(主に西ベンガル州、トリプーラ州および東部のその他の州で)(Hilsa ilisha)
6 .パブダ(ompok pabda;ナマズの一種)
7 .ベクティ(Bhetki)
(アカメの一種;Lates calcarifer)
インドでは伝統的に生鮮の状態が好まれ、2003年では「生で売られる」魚の割合はおよそ82%であ
る(表 4 − 1 )。生鮮品として供給される水産物の占める割合は増加傾向にある。関係者によると2006
年現在で80∼85%といわれる。
表4−1
インドで鮮魚として販売される魚の割合
(%)
年度
割合
1980
65.17
1990
65.18
2000
76.38
2001
80.56
2002
81.50
2003
82.00
出所:2004年漁業統計ハンドブック
地域別でみても、上述のように、主に好まれるのは生鮮品である。ただし、生鮮品とともに干魚と加
工魚の需要も大きい州がある。一般には次のようなことがいえる。
1 .ケララ州やゴア州のような沿海州− 海産魚、加工魚
2 .マハラシュトラ州のような沿海州− ムンバイに代表される都市部では海産魚を好み、内陸部
は淡水魚を好む
3 .北東地域 − 淡水魚、干魚、加工魚
4 .インド東部 − 淡水魚。西ベンガル州では干魚も大いに需要がある
5 .インド北部の諸州 − 淡水魚
6 .インド南部(ケララ州を除く)
− 海産魚、淡水魚
7 .インド西部 − グジャラート州とラジャスタン州は菜食主義者が多い。
8 .インド中央部 − 淡水魚
4.2.2 水産加工業
インドでは国内における水産加工品に対する需要が高まることが予想されている。水産加工品に対す
る需要は、供給を大いに上回ることが予測され、需給の差は、国内の生産能力向上を推進し、輸入品の
増加をもたらすと考えられる。
(1)加工材料の流通経路
加工業者は、競り売り人や卸売業者などから、加工用原料を購入する。加工品は、卸売業者や小売業
者を通じて消費者に届く。これら卸売業者や小売業者は水産品に限らず他の食品も扱う。日本は海産物、
特に付加価値商品の海産物の加工基盤の拡大に熱心である。EU、米国および日本がインドの加工設備
― 295 ―
に投資してきたのは主に、低コストと、訓練された人材が利用できるという要素があってのことであっ
た。
(2)水産加工品
インドの加工食品輸出で最も多いのは水産加工品であり、大きな外貨収入になる。
インド国内の都市部に住む高所得者も、加工食品への関心が高い。衛生的に加工され、付加価値があ
り、栄養価の高い、魅力的な包装の商品が次々に提案されることを求めている。こういった現象は、以
下に列挙したインド国内の近年の変化によるものである。
● 働く女性の増加
● 可処分所得の増加
● 優れた教育水準
● 余暇の重視の高まり
● 衛生と健康に対する意識の高まり
● 電子レンジ、電気土釜(オーブンの一種)の活用
● 一般家庭における、揚げ物中心からオーブン調理への料理方法の変化
● 新しいコンセプトのショッピングセンターや飲食店の浸透
(3)加工水産物の種類
加工水産物には数多くの種類があり、主にケララ州コーチンにある総合漁業プロジェクト
(Integrated Fisheries Project)によって開発されている。主な水産加工品は魚のフィレ、インスタント
のツナカレー、インスタントのサバカレー、中型エビの酢漬け、魚の酢漬け、練り製品、冷凍小エビ、
エビの粉末、ガーリック風味の中型エビである。
《冷凍品》
1 .ヤスリアカザエビの尾(輸出向け)
2 .深海魚のフィレ
3 .マグロのフィレ
4 .スズキのフィレ
5 .スズキの切り身
6 .ヤスリアカザエビの肉(輸出向け)
7 .サメのフィレ
8 .エイのフィレ/切り身
9 .コウイカのフィレ
10.ロールイカ、サバのフィレ の燻製
11.ナマズのフィレの燻製
12.スズキのフィレ の燻製
13.イカのフィレ
14.イカのブロック
15.コウイカのフィレのブロック
16.Caramのフィレ
17.魚の粉末
― 296 ―
18.半生の中型エビ
19.温燻サバ
20.殺菌済みのホッコクアカエビ
21.アジのフィレ
22.下ごしらえ済みのマグロ
23.下ごしらえ済みのサバ
24.タイのフィレ
25.マグロの切り身
26.サバの切り身
27.魚のキーマ(Kheema)
28.タチウオのフィレ
29.オニカマスのフィレ
30.魚卵
31.マカジキのフィレ
32.バショウカジキのフィレ
33.スズキの頭を原料にしたひき肉状の肉
34.熱帯サワラのひき肉状の肉
35.IQF(バラ冷凍)のカタクチイワシ
36.イワシとサバの業務用包装
37.IQFコウイカとイカのフィレ
38.タチウオの切り身
39.ヒレザメのフィレ
40.冷凍カキ
41.ナマズの切り身
42.サバのフィレ
43.下ごしらえ済みのナマズ
44.ニホンイトヨリの切り身
45.ナマズの卵
46.イカリング
47.サメの再生品
48.下ごしらえ済みのサメ
49.IQF のホッキョクアカエビ
50.冷凍の練り製品
《南極オキアミが主体の製品》
冷凍オキアミのカツ
冷凍オキアミバーガー
冷凍オキアミソース
冷凍オキアミ団子
― 297 ―
冷凍オキアミの酢漬け
オキアミ団子のトマトソース煮の缶詰
《缶詰製品》
1 .アンチョビ
2 .オイル・サーディン
3 .イワシのトマトソース煮
4 .ツナのオイル漬け
5 .ツナのチャンクのオイル漬け
6 .サバのフィレのオイル漬け
7 .イワシのペースト
8 .アンチョビのペースト
9 .カニ肉
10.イガイ
11.カキの燻製のオイル漬け
12.ハマグリの燻製のオイル漬け
13.カキの塩水漬け
14.マカジキのフィレのオイル漬け
15.マカジキのチャンクのオイル漬け
16.ニホンイトヨリのオイル漬け
17.ニホンイトヨリのトマトソース煮
18.ヒメジのオイル漬け
19.ヒメジのトマトソース煮
20.テナガミズテングのフィッシュペースト
21.キントキダイのフィレのオイル漬け
22.キントキダイのチャンクのオイル漬け
23.ハマグリの塩水漬け
24.ハマグリの燻製のオイル漬け
25.イガイの燻製のオイル漬け
26.マグロとグリーンピース
27.マグロと野菜
28.マグロのチャンクのトマトソース煮
29.魚団子のトマトソース煮
30.マカジキとライマ豆
《付加価値商品》
1 .魚のフリッター
2 .魚の粉末
3 .魚の酢漬け
4 .イガイの酢漬け
― 298 ―
5 .魚のスープ
6 .中型エビの酢漬け
7 .ハマグリの酢漬け
8 .練り製品
《フライ製品》
1 .魚のフライ
2 .フィッシュバーガー
3 .フィッシュフィンガー(細長く切った魚のフライ)
4 .イカリング
5 .IQFのエビフライ
6 .IQFの冷凍の魚のフライ
《レトルトパック入り商品》
1 .インスタントのツナカレー
2 .インスタントのサバカレー
3 .インスタントのイワシカレー
(4)水産加工インフラ
インドの水産加工にかかわるインフラ設備は表 4 − 2 の通りである。
表4−2
インドの水産加工にかかわるインフラ設備
(単位:万トン)
項目
漁船(伝統的)
数
能力
1,80,000
-
47,000
-
冷凍プラント*
397
8,497
IQF プラント
102
746
缶詰プラント
13
50
製氷プラント
157
2,969
魚粉製造プラント
12
229
予備処理プラント
579
3,408
運搬装置
498
-
冷凍保管庫
482
106,890
冷凍保管庫(干魚等)
216
11,458
漁港(大型/小型)
29
-
魚の水揚げセンター
114
-
漁船(機械化されている)
注: 冷凍プラントには、IQF装置も含まれる
出所:MPEDA(在コーチン)
付加価値工程は、インドでは比較的目新しい。水産加工産業は主に、小エビという 1 つの商品群に依
存してきた。価値の付加は概して、小エビをベースにする商品で行われてきた。インドから輸出する付
― 299 ―
加価値商品の加工は、1980年代後半にジョイントベンチャーを通じて、先ずは小エビと頭足類から始
まった。
日本の大手スーパーは独自のバイヤー会社を設立して、生産国から直接に商品の輸入を行ってきた。
インド以外で付加価値のある水産品を輸出しているアジアの国には、タイ、マレーシア、ベトナム、中
国、台湾と韓国がある。
1990年代半ばまで、米国の輸入業者はアジア諸国から付加価値商品を買うことに対して、きわめて
保守的な態度をとっていた。彼らが主に心配していたのは、食品の安全性であった。だが小売や既製品
販売店で小エビの人気と消費量が高まるにつれ、米国の輸入業者は徐々に姿勢を変えざるを得なくなっ
た。その結果、小エビをベースとする商品の輸出が増加している。
欧州市場は、付加価値商品に対して限られた機会しか提供していない。欧州の巨大な再加工産業はい
まなお、主に先進市場からの原材料に依存している。
水産加工品と水産保存食品の生産数値を表 4 − 3 に示す。表から、総生産量が100万トンを上回って
いることがわかる。冷凍海産魚が最も多く(2003年で29万6,020トン)、それに無塩の干魚(27万491ト
ン)が続いている。
表4−3
インドにおける水産加工品と水産保存食品の生産
(単位:1,000トン)
品目
2000
2001
2002
2003
冷凍海産魚
250.960
250.164
313.261
296.020
無塩の干魚
348.455
319.145
292.413
270.491
有塩、または燻製の干魚
214.561
238.906
204.432
190.420
0.148
13.186
12.869
12.869
79.956
11.895
48.063
48.063
冷凍の干しエビ
0.821
78.082
91.458
83.877
コウイカのフィレの冷凍
2.877
14.563
14.240
14.237
コウイカのフィレの冷凍
2.348
2.795
17.053
20.167
コウイカのフィレの冷凍
15.757
0.576
2.021
2.021
干しイカ
3.285
13.528
26.795
31.347
魚の缶詰
8.722
11.712
15.533
28.535
冷凍マナガツオ
2.057
1.019
4.860
4.040
冷凍サバ
8.569
5.130
6.872
5.209
干しクラゲ、塩水漬けクラゲ
7.723
10.281
41.189
30.866
雑
3.586
4.826
33.832
35.473
その他
54.47
36.018
12.192
1.83
1,004.295
1,011.826
1,137.083
1,075.465
ロブスターの尾の冷凍
冷凍小エビおよび中型エビ
合計
出所:2004年漁業統計ハンドブック
(5)加工品の輸出入動向
以下のトレンドが観察される。
① 輸出市場
伝統的な先進国市場(日本、米国、EU)のために、より付加価値の高い水産品が加
― 300 ―
工されている。これらの国々では、水産品の消費量と輸入量がすでに増加しており、より価格の高い輸
出品の供給が続こう。米国最大の小売輸入業者であるウォルマートへの販売金額が12億米ドルになっ
ている。ウォルマートは近い将来、インドからの輸入額を30%増やす計画である。消費者には「おい
しい魚料理」の人気がきわめて高いが、消費者はますます、すぐ調理できるようになっている商品を小
売業者から買う傾向が高まっている。
東南アジア諸国などの新興市場向けには、これらの市場の好む水産加工品が輸出されている。より高
価格の水産加工品の販売促進が行われている。
② 国内市場
インドは水産加工品の包装技術においては、いまなお先進国に後れを取っている。
主に都市や大きな町に集中しているインドの国内市場においては、冷凍魚、魚の缶詰、小袋入りの魚
(fish in sachets)等の形で水産加工品が供給され、求められている。
また、コーチン、チェンナイ、ムンバイ、コルカタなどの都市では、より付加価値の高い水産加工品
に対する需要が着実に伸びている。
4.3 消費量・消費額
インドにおける水産物消費量に関する定量的データはない。従って、推定に頼ることになるのだが、
その際に勘案すべき注意点は以下の通りである。
i )生産量の数値が「有頭重量」方式である、すなわち全重量が記録されている。
ii )輸出数値が「有頭」でない(クルマエビ類を除いた魚の場合には、生産量のおよそ65%、クルマ
エビ類については50%)
iii)乾燥による消失分を勘案しなければならない
iv)魚粉 − 消失分を勘案しなければならない
v )魚油 − 消失分を勘案しなければならない
vi)廃棄分 − 10∼15%(ただし、現地で消費される)
上記を勘案した上での、インドにおける推定水産物消費量を表 4 − 4 に示す。
表4−4
年度
インドにおける水産物消費量
水産物消費
量
(単位:1,000トン)
額
(単位:100万ルピー)
1
1970
1,204
48,160
2
1980
1,656
82,800
3
1990
2,588
155,280
4
2000
3,651
255,570
5
2001
3,872
271,040
6
2002
4,013
280,910
7
2003
4,191
293,370
出所:2004年漁業統計ハンドブック
4.3.1 一人当たりの水産物消費
インド政府傘下にある全国標本調査機構(NSSO)は2005年 3 月に公表の報告書において、魚類+
― 301 ―
肉+卵に対する一人当たり月間支出を示している(魚類が主な構成要素であることが理解されている)
。
次の表は、インドにおいて一人当たりの月間平均支出が多い 6 州を示している。
表4−5
魚、肉、卵に対する一人当たりの月間支出
(単位:ルピー)
順位
州/連邦直轄地名
一人当たりの月間平均支出
農村部
都市部
1
メガラヤ
84.78
-
2
トリプーラ
65.81
-
3
ケララ
65.40
72.25
4
マニプール
48.39
-
5
アッサム
47.65
55.13
6
西ベンガル
44.72
72.19
インド全体
17.93
27.25
出所:NSSO報告書、2005年 3 月
他方、インドで水産物の一人当たり月間消費量が多い上位10州を表 4 − 6 に挙げる。
表4−6
インドの一人当たりの水産物の月間消費量(1999年)
(単位:kg,ルピー)
順位
州/連邦直轄地名
農村部
数量
都市部
金額
数量
金額
1
ゴア
2.26
58.62
1.90
71.73
2
アルナチャル・プラデシュ
2.18
16.45
1.19
25.70
3
ラクシャディープ
2.39
79.56
4.04
112.30
4
ケララ
1.75
43.50
1.88
47.68
5
マニプール
1.01
15.06
0.71
25.92
6
アンダマン・ニコバル
1.24
31.56
1.14
34.71
7
トリプーラ
0.85
36.09
0.95
60.48
8
西ベンガル
0.59
21.48
0.86
38.84
9
アッサム
0.52
19.24
0.79
42.55
10
ダマン・ディウ
0.54
16.13
1.19
30.84
インド全体
0.21
6.22
0.22
8.08
出所:2004年漁業統計ハンドブック
関係者へのヒアリングの結果として、インドの主要州における一人当たりの水産物年間消費量は、イ
ンド全体で10kg、西ベンガル州で11kg、ケララ州で24kg、タミル・ナドゥ州で 4 kgと推定される。
また、インドの大都市における一人当たりの水産物年間消費量について、現地の卸売業者、小売業者、
競り売り人、輸出企業等にヒアリングし、コルカタでは12.5kg、ムンバイ10.0kg、デリー4.5kg、チェ
ンナイ5.0kg、コーチン16.5kgと推定された。
― 302 ―
4.3.2 消費量(中食・外食)
中食・外食における水産物消費量を示す統計は存在しないが、外食の習慣は主に都市部や準都市部で
近年急激に伸びている。背景には以下のような生活の変化がみられる。
a.都市部・準都市部では、人口の年齢層別の分布が変化して、青年・若年層の占める割合が増えた。
外食を好み、楽しむ年齢層である。
b.都市部・準都市部では、外食をする習慣が浸透し、若年層が抵抗なく外食をし、若年層の親たち
もこの習慣に取り込まれている。
c.都市部・準都市部の生活は、職場で時間をとられることが多く、家庭での料理にかける時間がこ
れまでよりずっと少なくなっている。
d.インドでは従来家庭で料理をするのは女性であるが、現在では、女性が子供の頃から就学するよ
うになっており(従って、料理に対する意欲や習慣が育たないといわれる)、若い女性は職業をも
ち社会進出をしているため、料理の時間がとれない状況にある。
e.インド全域、特に都市部では人々の生活水準が上がり、外食をする余裕ができるようになってい
る。
f.道路沿いの屋台、大小のレストラン、ショッピングセンター等が急増しており、「供給が自ら需
要を創造す」という言葉通り、大勢の人が利用するようになっている。
g.多くの企業が多種多様な「インスタント食品」を生産し、国内で売られるようになったため、中
食が得やすくなっている。
水産物消費量全体における、中食・外食による水産物消費の割合は、水産物の産地に近いかどうかに
もよるが、都市ではこの割合が高く、町、準町(semi-town)がそれに続く。農村部では、中食・外食
のシステムは普及が遅れている。
4.4 消費動向
4.4.1 卸売価格、小売価格
(1)インドの水産物の卸売価格
インドにおける水産物の卸売価格指数(1993年が基準年)を表 4 − 7 に示す。約10年(1993年から
2004年まで)で、魚介類の卸値はほぼ 5 倍になった。近年は安定推移している。
表4−7
インドにおける水産物の卸売価格指数
年度
魚の卸売価格指数
1996
270.6
1997
337.4
1998
368.4
1999
368.8
2000
429.9
2001
439.3
2002
472.3
2003
464.9
2004
489.4
出所:2004年漁業統計ハンドブック
― 303 ―
主な淡水魚類の平均卸売価格を表 4 − 8 に示す。
主な海産物の卸売価格を表 4 − 9 に示す。
表4−8
インドの淡水魚類の卸売価格
(単位:ルピー/kg)
卸売価格
2004
2005
2006
2007
ロフ
45∼66
50∼70
56∼75
60∼80
カトラ
56∼75
62∼80
65∼85
70∼90
ムリガル
40∼50
45∼52
47∼55
50∼60
パブダ
100∼155
105∼160
110∼170
120∼180
ジギョ
140∼200
150∼215
165∼230
180∼250
べクティ(アカメ)
185∼100
190∼110
195∼110
100∼130
中型 ムキエビ
225∼500
180∼400
180∼420
200∼450
中型エビ(殻つき)
350∼600
265∼445
280∼470
300∼500
出所:ヒアリング調査による
表4−9
インドにおける海産物の卸売価格
(単位:ルピー/kg)
卸売価格
2004
2005
2006
2007
マナガツオ
105∼115
110∼120
115∼125
125∼135
スズメダイ
105∼115
110∼120
115∼125
125∼135
マッドラット(Mudlut)
185∼215
195∼225
205∼235
220∼250
サメ
185∼100
190∼105
195∼110
100∼120
ラワス(ツバメコノシロ)
195∼110
100∼115
105∼120
110∼130
イカ
185∼100
190∼105
195∼110
100∼120
中型エビ、ロブスター
170∼340
180∼360
190∼380
200∼400
バラフエダイ
100∼128
105∼135
110∼140
120∼150
シロダイ(White Snapper)
165∼100
170∼105
175∼110
180∼120
55∼65
60∼70
65∼75
70∼80
コウイカ(内臓抜き)
185∼100
190∼105
195∼110
100∼120
マグロ
195∼110
100∼115
105∼120
110∼130
65∼75
70∼80
75∼85
80∼90
165∼100
170∼105
175∼110
180∼120
カキ(剥き身)
カニ
その他の海産物
出所:ヒアリング調査による
(2)インドの水産物の小売価格
インドには、水産物の小売価格を記録する制度はない。以下はヒアリングによる小売価格動向を示
す。淡水魚類は表 4 −10のとおり。
― 304 ―
海産物の小売価格は表 4 −11の通りである。
表 4 −10
インドにおける淡水魚類の小売価格(非課税)
(単位:ルピー/kg)
小売価格
2004
2005
2006
2007
ロフ
165∼100
170∼100
11175∼1,108
110∼120
カトラ
165∼125
170∼130
175∼135
180∼140
55∼75
60∼80
65∼85
70∼90
パブダ
130∼185
135∼195
11140∼2,051
150∼220
ジギョ
185∼250
195∼265
205∼280
220∼300
べクティ(アカメ)
100∼130
105∼135
11110∼1,401
120∼150
中型ムキエビ
270∼600
225∼495
235∼520
250∼550
中型エビ(殻つき)
450∼750
355∼620
375∼650
400∼700
ムリガル
出所:ヒアリング調査による
表 4 −11
インドにおける海産物の小売価格(非課税) (単位:ルピー/kg)
卸売価格
2004
2005
2006
2007
マナガツオ
130∼140
135∼150
140∼160
150∼170
スズメダイ
130∼140
135∼150
140∼160
150∼170
マッドラット(Mudlut)
215∼230
225∼240
235∼255
250∼270
サメ
185∼100
190∼105
195∼110
100∼120
ラワス(ツバメコノシロ)
110∼130
115∼135
120∼140
130∼150
イカ
100∼115
105∼120
110∼125
120∼135
ロブスター、中型エビ
170∼335
180∼355
190∼375
200∼400
バラフエダイ
100∼130
105∼135
110∼140
120∼150
シロダイ(White Snapper)
165∼100
170∼105
175∼110
180∼120
55∼65
60∼70
65∼75
70∼80
コウイカ(内臓抜き)
100∼125
105∼130
110∼135
120∼145
マグロ
110∼135
115∼140
120∼150
130∼160
75∼85
80∼90
85∼95
190∼100
165∼100
170∼105
175∼110
180∼120
カキ(剥き身)
カニ
その他の海産物
出所:ヒアリング調査による
4.4.2 小売のトレンド
小売における近年の動向は、以下の通りである。
1 .獣肉(特に赤肉)から水産物へのシフトがきわめて目立つ。
2 .魚類の売上が増加している。現在多くの小売業者が、水産物を扱うことで余裕が生まれ家族を
― 305 ―
養えるようになっている。
3 .概して供給は需要を満たしておらず、外部から水産物を持ち込む/輸入することが必須になる。
4 .競争が激しいために(以前と比べて)利幅が低下している。現在は、売上量の増加によって補
われている。
5 .以前、小売業者は商品を受け取るために中間流通業者のもとに出向かなければならなかった。
現在は、中間流通業者が商品を小売業者に配達する例が多くなっている。小売業者の買い手市場
になった。
6 .現在でも商品の受け取りに中間流通業者のもとに出向く小売業者にとっても、輸送手段やコミ
ュニケーション設備の向上により、事情は大幅に改善している。
7 .高価な魚類に対する需要が高まっている( 1 kg当たりの価格が600ルピーもする大型クルマエ
ビ類(giant prawn)に対する需要が実際にあるなど)。高級魚類については、小売業者は中間流
通業者の動向に左右されている。
(1)小売価格
ショッピングセンターやスーパーマーケットでは、水産物は一般にパック詰めや缶詰等に加工され販
売される。
小売向け水産加工品の卸売市場というのはなく、大手企業(IFB、トリベニ、コルネット水産等)が
独自の流通経路をもっている。
パック詰めや缶詰には、メーカー希望小売価格が表示されており、消費者はその価格を支払う。商品
によって4.0%または12.5%の付加価値税が含まれる。
水産加工品のメーカー希望小売価格をいくつか表 4 −12、表 4 −13に挙げる。
表 4 −12
品目
パック詰め小売価格
包装(単位:グラム) 価格(単位:ルピー)
エビの粉末
50
20
エビの粉末
100
26
干しザメ
200
40
冷凍中型エビ
200
60
冷凍エビ(大)
200
90
冷凍エビ(特大)
200
180
ベクティのフィレ
200
60
冷凍べクティ
200
60
べクティの細切り
200
60
べクティの細切れ
200
60
表 4 −13
品目
缶詰小売価格
包装(単位:グラム) 価格(単位:ルピー)
イワシ
450
50
ツナ
218
54
ツナ
450
78
ツナ
180
66(ラクシャディープ産)
― 306 ―
4.4.3 外食における現況
外食の習慣が主に都市部で急速に広がりつつあり、都市化、生活水準の向上、若い世代では料理の時
間がないこと等を主因として、今後も普及のペースが上がるとみられる。
外食の際に消費者に好まれる魚種は次の通りである。
海産魚:エビ類、ロブスター、カニ、マグロ、サバ、サケ、イワシ、マナガツオ
淡水魚:ベクティ、パブダ、ジギョ
インドの外食サービス形態は以下の通りで、様々な種類の水産物(海産と淡水の双方)が提供される。
i .道路沿いの屋台 − 不衛生で汚い
ii .程度の低いレストラン − 熱い料理を出すが環境は悪く不衛生
iii .中程度のレストラン − 一般に衛生的で環境も問題ない
iv .高級ホテル − 優れた環境、衛生的
− 各国料理(日本、中華、タイ、マレーシア、イタリア等)
− 専門のシェフが調理する
v .リゾート地 − 環境は一般に良好、衛生的
− 料理の選択肢がある
vi .ショッピングセンター/ − 大規模レストランか中程度のいずれか
スーパーマーケットのレストラン
レストランでよくみかける水産物を使用したメニューは、魚のフライ、魚のカレー、イガイのフライ、
カツレツ、魚のマサラ、カキのマサラ、魚のステーキ、魚のカバブ、細切り魚のフライ、フィッシュバ
ーガー、焼いたジギョなどである。以下、外食メニューに登場する水産物を使用したインドの料理を紹
介する。
(1)海産物を使ったインドの料理
1 .アンチョビのプットゥ
2 .魚の取り合わせプラオ(ピラフ)
3 .焼き魚Parsi
4 .焼き魚Fish
5 .グリーンチャツネをはさんだ魚の天ぷら
6 .エビのOlathu
7 .チリ風味の揚げイカ
8 .イカフライ
9 .Crumb Fried Pulao
10.Doi Mach(ベンガル州の魚のヨーグルト料理)
11.魚のアヴィアル(ココナツとスパイス入りの料理)
12.ポテトとエビのマサラ添えの焼き魚
13.魚のブリヤニ − ベンガル風
14.魚のカレー − ケララ風
15.魚のフライ
16.魚団子のカレー
― 307 ―
17.魚のパパス
18.フィッシュロールのカバブ(Fish Rolls Kabab)
19.魚の煮込み(ケララ料理)
20.中型エビのフランベ(Flambeyed Prawns)
21.ガーリック風味の中型エビ
22.魚のフィレのグリル焼き
23.魚のグリル焼きグレープソース
24.ジャンボエビのスパイス風味グリル焼き
25.キングフィッシュのココナツ風味カレー
26.Kovalam の魚の鉄板焼き
27.ロブスターのマサラ
28.ロブスターサラダ
29.サバカレー
30.メティ(スパイスの一種)風味の中型エビ
31.Muchi Hariyali
32.イガイのチャウダー
33.マナガツオのカレー
34.中型エビ・ロブスターのカレー − 田舎風
35.中型エビのカレー
36.中型エビのマサラ − ケララ料理
37.中型エビのマサラ
38.ゴーヤのエビ詰め
39.中型エビのココナツ詰め
40.中型エビのVevichathu
41.アカハタのマサラ
42.タチウオのカレー
43.揚げタチウオ
44.クルマエビの揚げ焼き
45.イカのソテー、ココナツ添え
46.イカと野菜のサラダ
47.イカのコルマカレー
48.詰め物をしたカニ
49.詰め物をした揚げマナガツオ
50.タンドリエビ
(2)淡水魚を使ったインドの料理
1 .ロフとカトラのAjoani Maschli
2 .Amsole
3 .揚げたべクティ
― 308 ―
4 .揚げたジギョ
5 .タンドリ・べクティ
6 .ロフとカトラのDopiyanji
7 .ロフとカトラのKalia
8 .ジギョBhapa
9 .ジギョのヨーグルト風味
10.Amsole
なお、水産加工品の仕向け先は、家庭での消費が主体で、外食産業向けに加工食品が使用されるには
到っていない。
4.4.4 中間流通業者における動向
卸売業者、競り売り人等中間流通業者からの聞き取りでは、主に以下のような動向がみられる。
1 )魚類の需要が大幅に増加した。
2 )サプライヤーはかつて、小エビや中型エビを無頭で供給していた。しかし、その加工段階では、
第 1 に、手間と時間がかかった。第 2 に、品質保持のため化学薬品を利用したり、加工中に氷漬
けし人為的に重量を増やす習慣があった。輸出向け出荷品が幾度か不合格になるに至り、この習
慣を捨てざるを得なくなった。現在では、中間流通業者は小エビやクルマエビ類を有頭で供給し
ている。
輸出用包装を行う前に加工を行うのは、輸出業者である。
3 )かつてインドでは、輸出業者は数社によって独占されていた。現在ではその数が増え、供給面
で中間流通業者の負担が軽減されている。
4 )競争原理が導入され、価格設定の透明性、公正さが高まった。かつては、輸出業者が中間流通
業者に対し強い力をもっていた。
5 )現在では輸出業者が独自の取次人を通じて、競り売り人や卸売業者(場所による)との取引き
をすることが多くなった。競り売り人や卸売業者は公明正大なやり方でニッチ市場に参入するよ
うになった。
6 )輸送手段(道路、冷凍自動車等)と通信手段が格段に改善した結果、中間流通業者はますます
新しい市場に参入するようになっており、それが売上と収益力を高めるのに役立っている。
7 )魚類を産出しているほとんどの州で、現在では水産物用冷凍保管庫の利用が可能となっている。
腐りやすい商品である水産物は、かつては無理にでも早いうちに売る必要があった。中間流通業
者はほぼ毎日、需給バランスを分析でき、より高い価格で販売するのに貢献している。
8 )中間流通業者は取引の過程で(輸出会社、銀行、漁業信用組合などから)与信を得ることが多
い。中間流通業者は多くの資金を投資せずに売上を増やすことが可能であった。
9 )中間流通業者は、小売業者に与信を行う立場にもある。電子的設備(ATMやオンライン取引
等)の設置により、小売業者から返済を得られないリスクはかなり軽減された。現在では中間流
通業者は、「e−サービスで今日中に支払いをすませ、代金と引き換えに商品を受け取る」よう要
求することができる。
10)総じて、中間流通業者の業態は、15∼20年ほど前と比べると大きく変化した。
― 309 ―
5.今後の見通し
世界の水産物生産量は、2001年には 1 億2,900万トンであったが、2010年には 1 億5,000万トン、2015
年には 1 億7,200万トンに増加するとみられている(FAOによる)。世界の水産物漁獲量は横ばいになる
と予測されているが、水産養殖生産量は、増加のペースは落ちるものの、今後も伸長すると予測されて
いる。水産養殖は、2015年には世界の水産物生産量の39%を占める(1999/2001年の27.5%から上昇す
る)とみられている。
以下は、インドの漁業生産の現況から導き出された注目すべきポイントである。
1 .水産養殖の重視
2 .水産養殖が生計手段とみなされていること
3 .漁業部門に先端技術や設備が導入されつつあること
4 .生計手段の問題へのアプローチにおけるパラダイムシフト(社会的見地)
5 .有機養殖へのシフトがみられること
6 .遠洋漁業設備が整えられつつあること
7 .付加価値の高い加工水産品が導入されていること
8 .水産物消費量の着実な伸び
9 .インドでは菜食主義者を除くほぼ全員が水産物を食べること
(1)需要/消費予測
世界的に見ると、食用水産物に対する一人当たりの需要は過去30年間で年間10.5kgから16kg近くにま
で増加した。国際食糧政策研究所(IFPRI)・国際水産資源管理センターが世界の水産物需要に関して
最近行った調査は、水産物に対する総需要が1997年の9,130万トンから年率1.47%の割合で伸び、2020
年には 1 億2,780万トンとなり、一人当たりの年間消費量は15.7kgから2020年には17.1kgに増えると予測
している。FAOは、世界の水産物の消費量が一人当たりで19kgから2020年には、IFPRIの予測さえをも
上回る21kgになるとみている。
2020年には人口が13億人になると予測されているインドは、一人当たりの水産物の消費量が現在の
水準の10kgから少なくとも15kgに増えて、漁業部門が国の栄養の安全保障に大いに貢献すると予測し
ている。
インドの今後の水産物の消費量・需要についての正確な推定値は出ていないが、人口予測、食習慣の
変化や一人当たりの消費量の推移から、今後も増加していくことが見込まれる。
6.付属資料
<輸出業者>
1
DEVI SEAFOODS LTD.,
www.deviseafoods.com No. 7-8-20/A, Kasturibha Marg. , Visakhapatnam - 530003
2
FALCON MARINE EXPORTS LTD.,
www.falconmarine.com A/22, Cuttack Road 1st Floor Bhubaneswar - 06, Orissa
― 310 ―
3
Ruchi Saya,
www.ruchisoya.com 301 Mahakosh House 7/5 South Tukoganj, Nath
Mandir Rd. Indore (MP)
4
NEKKANTI SEAFOODS LTD., VIZAG,
10-5-24, Garden Tower, Masav Tank, Hyderbad
5
NAIK FROZEN FOODS P. LTD., 408 EMCA House,289,Shahid Bhagat
Singh Road,Fort, Mumbai 342 00
t: +(91)-(22)-22653052
6
HINDUSTAN LEVER LTD. (MUMBAI)
www.hll.com Hindustan Lever House 165/166, Backbay Reclamation
Mumbai - 400020
7
DEVI FISHERIES LTD., VIZAG,
PENDURTHI MANDAL. ANDHRA PRADESH
8
ASVINI FISHERIES LTD.,CHENNAI
136 & 139 old mahabalipuram road, CHENNAI 600096
91-044-24960844
9
KESHODWALA FOODS.
M G Road, Veraval - 362265, Gujarat,
Phone:, 91-2876-42450.
10
SAGAR GRANDHI EXPORTS P. LTD.,
53, Venkatesa St., Chennai 600002, India
Pho:91-44-28533897, 44-8526707
11
Frostar Frozen Foods Pvt Ltd
505 -a, Galleria, Hiranandi Gardens, Powell, Mumbai -400076
Ph: 91-22-25701716
12
NILA SEAFOODS P. LTD.
137, Pudurpandiarpuram, Tuticorin, Kerala
Ph: 91-461-345707
13
CASTLEROCK FISHERIES LTD.
203, Dalmaal Chambers, New Marine Lines, Mumbai-400 020
Tel:91-22-22085661/22085662
14
NAIK FROZEN FOODS P. LTD., 408 EMCA House, 289, Shahid Bhagat
Singh Road,Fort, Mumbai 342 00
t: +(91)-(22)-22653052
15
CHERUKATTU INDUSTRIES, KOCHI
www.cherukattu.com Arookutty Ferry Road Aroor - 688534, Alappuzha
District Kerala, India
― 311 ―
16
Mangala Marine EXIM P Ltd ,
Amir Complex, Edakochi ,Cochin - 682 006 ;
Ph.0484 2328801, 2328802
17
MAGNUM EXPORTS LTD.
C/O ASWHINI FISHERIES, NARENDRAPUR, 24-PRGS, West Bengal
18
Indian Seafood Corporation
158/1, BPT building, Sasson Dock, Colaba, Mumbai
Ph: 91-22-21826792/22188615
注)MPEDAによれば、海産物の輸出業者はインドに7,000社以上ある。
上記リストの業者だけで、インドの海産物輸出の20%を占める。
7.地図
ヒマチャル・
プラデーシュ州
ウッタラーカンド州
アルナチャル・
プラデシュ州
ラジャスタン州
ウッタル・プラデシュ州
メガラヤ州
マニプール州
トリプーラ州
アーメダバード
グジャラート州
マドヤ・プラデシュ州
コルカタ
チャティ
スガル州
バングラ
デシュ
ピパヴァヴ
ムンバイ
アラビア海
ヴィシャカパトナム
ラトナグリ
カルナタカ州
チェンナイ
ケララ州
タミル・ナドゥ州
コーチン
トゥーティコリン
インド洋
― 312 ―
ベンガル湾
∼ 水 産 に 関 す る 調 査 研 究 事 業 ∼
本会は水産業の振興に寄与するため、昭和43年6月「水
産物の流通事情」を発表して以来、内外漁業問題、水産物の
生産・流通・消費及び漁協・漁家の経営問題等に関する
様々な研究テーマを設定し、それぞれ専門の委員会を設け
て、現在までに30回以上の研究発表(調査研究報告書の刊
行など)を行っている。
財団
法人
東京水産振興会
中 澤
会 長
平成20年 3 月31日印刷・発行
齊 彬
《無断転載を禁ず》
世界の水産物需給動向が及ぼす
我が国水産業への影響
(上巻)
編集
発行
〒104-0055
財団法人
東京水産振興会
東京都中央区豊海町5−9 東京水産会館5階
電 話 ( 0 3 )3 5 3 3 - 8 1 1 1 ㈹
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電 話( 0 3 ) 3 2 2 5 - 1 2 4 1