2007年10月

ロンドン事務所
【 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し と 追 加 的 ビ ジ ネ ス・レ イ ト 白 書 、地 方 自 治 体 の 新 業 績 指 標
などが発表に】
英国
財 務 省 は 10 月 9 日 、「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し( Comprehensive Spending Review、
CSR)」を 発 表 し た 。「 包 括 的 支 出 見 直 し 」と は 、1998 年 以 降 、毎 年 の 予 算 と は 別 に 発
表 さ れ て い る 省 別 の 予 算 3 ヵ 年 計 画 で あ り 、今 回 の 2007 年 版 は 、2008 年 度 か ら 2010
年度までをカバーする。当初は7月の発表が見込まれていたが、6月末の首相交代と
国会の夏期休暇のため、秋まで遅れることになった。
財 務 省 は 2006 年 3 月 か ら 、コ ミ ュ ニ テ ィ ー・地 方 自 治 省 な ど と 協 力 し て 、「 2007 年
包括的支出見直し」にその内容を反映させることを目的に、イングランドにおける経
済 開 発 、地 域 開 発 の 見 直 し 作 業( Sub-National Review)を 行 っ て い た 。こ の 見 直 し 作
業 の 結 果 報 告 書 が 7 月 に 公 表 さ れ た こ と で 、「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し 」 の 内 容 の 一
部は、今回の発表に先立って周知されていた(イングランドの経済開発、地域開発の
見 直 し 作 業 結 果 報 告 書 は 当 初 、「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し 」 と 同 時 に 発 表 す る 予 定 だ
っ た が 、 実 現 し な か っ た )。
今回の「包括的支出見直し」はまた、地方自治と公共サービス関連で幾つかの重要
な 発 表 が 併 せ て 行 わ れ た と い う 意 味 で も 大 き な 意 味 を 持 っ て い る 。 な お 、「 2007 年 包
括 的 支 出 見 直 し 」 は 、 予 算 の 中 間 報 告 で あ る 「 予 算 編 成 方 針 ( Pre-Budget Report)」
と同時に発表された。
以下その内容のいくつかを紹介する。
2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し
コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ 地 方 自 治 省 の 予 算 は 、 2008 年 度 か ら 2010 年 度 ま で 毎 年 、 前 年 度
比 2.9% 増 と な る 。 こ れ に よ り 、 2007 年 度 は 103 億 ポ ン ド ( 約 2 兆 3,690 億 円 ) だ っ
た 同 省 の 予 算 は 、2010 年 度 に は 121 億 ポ ン ド( 約 2 兆 7,830 億 円 )に ま で 引 き 上 げ ら
れ る 。 予 算 の 内 訳 は 、「 地 域 復 興 ・ 再 開 発 」 に 3 年 間 で 20 億 ポ ン ド ( 約 4,600 億 円 )、
「 コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 融 合 ・ 結 束 」 に 同 5,000 万 ポ ン ド ( 約 115 億 円 ) な ど 。 ま た 、 地
方 自 治 体 に よ る 業 務 効 率 化 と 費 用 削 減 を 目 指 し て 同 省 が や は り 10 月 9 日 に 発 表 し た
「 効 率 化 実 現 計 画 ( Efficiency Delivery Plan、 EDP)」 の 達 成 に 向 け 、 1 億 5,000 万
ポ ン ド ( 約 345 億 円 ) が 新 た に 計 上 さ れ た 。
同 省 は 、 予 算 増 に よ っ て 、「 2020 年 ま で に 300 万 戸 の 新 規 住 宅 を 建 築 す る 」 と い う
政府の目標を達成できる見込みになったと述べている。
ま た 、3 年 間 で 50 億 ポ ン ド( 約 1 兆 2,500 億 円 )に 上 る 地 方 自 治 体 へ の 政 府 補 助 金
の使途について、中央政府の規制の幾つかを撤廃し、補助金制度を合理化する旨も盛
り 込 ま れ る 。 一 方 で 地 方 交 付 金 ( Revenue Support Grant、 RSG) と ビ ジ ネ ス ・ レ イ
1
ト( Business Rate) 1 の 地 方 自 治 体 へ の 分 配 額 の 合 計 は 、2008 年 度 が 240 億 8,100 万
ポ ン ド( 約 5 兆 5,386 億 円 )、2009 年 度 が 249 億 2,000 万 ポ ン ド( 約 5 兆 7,316 億 円 )、
2010 年 度 に は 257 億 6,300 万 ポ ン ド( 約 5 兆 9,254 億 円 )と な る 見 込 み で あ る が 、伸
び 率 自 体 は 2008 年 度 か ら 2010 年 度 ま で で 約 7 % 増 と 低 い 。 な お こ の 中 に は 、 PFI 事
業 へ の 支 援 金 が 2008 年 度 で 6 億 7,700 万 ポ ン ド ( 約 1,557 億 円 )、 2009 年 度 で 8 億
5,300 万 ポ ン ド ( 約 1,961 億 円 )、 2010 年 度 で 10 億 6,900 万 ポ ン ド ( 約 2,458 億 円 )
含まれている。また、英全土を対象としたバス料金割引制度導入に向けた運輸省から
コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・ 地 方 自 治 省 へ の 特 定 補 助 金 ( specific grant) は 、 2008 年 度 が 2 億
1,200 万 ポ ン ド( 約 487 億 円 )、2009 年 度 が 2 億 1,700 万 ポ ン ド( 約 499 億 円 )、2010
年 度 に は 2 億 2,300 万 ポ ン ド ( 約 512 億 円 ) と な る 見 込 み で あ る 。「 2007 年 包 括 的 支
出 見 直 し 」 で は ま た 、 ア ダ ル ト ケ ア サ ー ビ ス 2の 改 革 に 関 す る 緑 書 作 成 に 向 け て 一 般 か
らの意見集約作業を行うことも明らかにされた。
追 加 的 ビ ジ ネ ス ・レ イ ト
「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し 」 の 一 部 と し て 財 務 省 は 、「 追 加 的 ビ ジ ネ ス ・ レ イ ト
( business rate supplements)」 の 導 入 に 関 す る 白 書 も 同 時 に 発 表 し た 。
追加的ビジネス・レイトは、現在構想中の新地方税で、地域経済活性化プロジェク
トへの資金調達を目的として、通常のビジネス・レイトの付加税として、地方自治体
が地域の企業へ課すというもの。地域で徴税され、税収は自治体が留保し、それぞれ
の 追 加 的 ビ ジ ネ ス ・レ イ ト の 課 税 期 間 と 税 収 の 使 途( ど の プ ロ ジ ェ ク ト に 使 う か )も 地
方自治体が決定できる。
追 加 的 ビ ジ ネ ス ・ レ イ ト 課 税 の 権 限 は 、 カ ウ ン テ ィ 3及 び ユ ニ タ リ ー 4の み に 限 ら れ 、
デ ィ ス ト リ ク ト は 課 税 権 を 持 た な い 。し か し カ ウ ン テ ィ は 、全 て の 追 加 的 ビ ジ ネ ス ・レ
イ ト 課 税 案 に つ い て 、 域 内 の デ ィ ス ト リ ク ト 5と 協 議 す る こ と が 義 務 付 け ら れ る 。 ロ ン
ド ン で は 、 グ レ ー タ ー ・ ロ ン ド ン ・ オ ー ソ リ テ ィ ー ( GLA) が 追 加 的 ビ ジ ネ ス ・ レ イ
ト の 課 税 権 を 有 し 、税 収 の 使 途 は ロ ン ド ン 横 断 鉄 道「 ク ロ ス レ ー ル 」( 後 述 参 照 )の 工
費に限定される。
追 加 的 ビ ジ ネ ス ・ レ イ ト は 、所 要 の 法 整 備 の 後 、 2010 年 4 月 に 導 入 予 定 。新 税 に 対
する産業界の懸念緩和策として、最高税率は2%に抑えられ、課税評価額が5万ポン
ド ( 約 1,150 万 円 ) 以 下 で あ る 資 産 は 課 税 対 象 か ら 外 さ れ る 。 更 に 地 域 経 済 活 性 化 プ
ロジェクトの費用の3分の1以上が追加的ビジネス・レイトで賄われる場合は、地域
1
居 住 用 以 外 の建 物 に課 せられる税 金 。以 前 は地 方 税 だったが、1990 年 に国 税 化 された。
2
老 人 、成 人 の身 体 障 害 者 、精 神 疾 患 患 者 、学 習 障 害 を持 つ人 などに対 するケアサービス。
3
日 本 の都 道 府 県 に相 当 する広 域 自 治 体
4
一 層 制 の自 治 体
5
日 本 の市 町 村 に相 当 する自 治 体
2
の企業から課税への承認を得なければならないというものである。
クロスレール
クロスレールは、ロンドンを東西に横断すべく建設が予定されている新しい鉄道で
あ る 。最 初 に 構 想 が 発 表 さ れ た の は 1974 年 で あ る が 、資 金 不 足 の た め 計 画 は 現 在 ま で
遅れてきた。
ブ ラ ウ ン 首 相 は 、「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し 」 発 表 の 数 日 前 、 下 院 に 対 し 、 政 府 が
クロスレールへの最後の資金提供を承認したことを明らかにした(資金提供は数回に
分 け て 行 わ れ て い る )6 。更 に 、ダ ー リ ン グ 財 務 相 は「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し 」発 表
の 際 の 声 明 で 、 ク ロ ス レ ー ル の 総 工 費 160 億 ポ ン ド ( 約 3 兆 6,800 億 円 ) の う ち 、 50
億 ポ ン ド ( 約 1 兆 1,500 億 円 ) は 中 央 政 府 の 補 助 金 で 賄 い 、 残 り は ロ ン ド ン 市 内 の 企
業に対する追加的ビジネス・レイトの税収と民間企業からの出資で工面することを明
らかにした。ロンドンの追加的ビジネス・レイトの税率は2%に設定される。
ク ロ ス レ ー ル の 建 設 工 事 は 来 年 2008 年 か ら 2015 年 に か け て 行 わ れ る 。開 通 は 2017
年 を 予 定 し て お り 、 設 備 管 理 は ロ ン ド ン 交 通 局 ( Transport for London) が 、 運 行 は
民間企業が請け負う。西はバークシャー州メイデンヘッド駅を出発し、ロンドン中心
部を抜けて二手に分かれ、東側はエセックス県シェンフィールド駅及びロンドン南東
部のアビー・ウッド駅が終点となる。西側にはヒースロー空港行きの支線も建設され
る。
地方自治体向け新業績指標
政 府 は 、「 2007 年 包 括 的 支 出 見 直 し 」 と 同 時 に 、 地 方 自 治 体 が 提 供 す る サ ー ビ ス の
評 価 を 目 的 と し た 198 項 目 の 新 た な 業 績 指 標 も 明 ら か に し た 。昨 年 10 月 の 地 方 自 治 白
書 「 コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 強 化 と 繁 栄 の た め に ( Strong and Prosperous Communities)」
で 、 従 来 の 1,200 の 指 標 を 200 程 度 に ま で 大 幅 に 削 減 し 、「 業 績 指 標 の 大 胆 な 簡 素 化 」
を行うと提案したことを受けたものである。
新 た な 業 績 指 標 は 、2008 年 4 月 よ り 、「 地 域 協 定( Local Area Agreements、LAAs)」
及 び「 包 括 的 地 域 評 価 制 度( Comprehensive Area Assessment、CAA)」の 運 用 に 組 み
込 ま れ る こ と に な る 。包 括 的 地 域 評 価 制 度 は 、「 包 括 的 業 績 評 価 制 度( Comprehensive
Performance Assessment、CPA)」に 代 わ っ て や は り 2008 年 4 月 か ら 導 入 さ れ る こ と
が予定されている、地方自治体によるサービスの評価制度である。
新 た な 業 績 指 標 は 、 地 域 協 定 を 通 じ て 、 国 民 医 療 制 度 ( NHS) の 初 期 治 療 ト ラ ス ト
( PCT) 7 と 警 察 組 織 に も 適 用 さ れ る 。 地 域 協 定 に お け る 達 成 目 標 は 、 中 央 政 府 が 課 す
6
この時 期 、政 府 は総 選 挙 の実 施 を検 討 しており、選 挙 を意 識 して発 表 したものと受 け止 められている。
7
トラストとは、NHS の運 営 母 体 である公 益 法 人 のことで、初 期 医 療 トラスト、救 急 搬 送 トラストなど 5 種 類 ある。初
3
の で は な く 、 地 域 政 府 事 務 所 ( Government Offices) を 通 じ て 中 央 政 府 が 各 自 治 体 と
交渉し、決定されることになる。包括的地域評価制度の導入には、中央政府による監
視がもたらす地方自治体への負担を軽減し、自治体の業績評価に自治体自らのデータ
を用いることによって、地域の自治権を強化する狙いがある。
こ れ ま で 使 わ れ て い た 1,200 項 目 の 業 績 指 標 は 、そ の 大 半 が 、1999 年 導 入 の ベ ス ト・
バ リ ュ ー 制 度 で 用 い ら れ て い た ベ ス ト ・ バ リ ュ ー 業 績 指 標 ( Best Value Performance
Indicator、 BVPIs) を 流 用 し た も の で あ る 。
新たな業績指標の一例は下記の通りである。
分野
業績指標の一例
コミュニティーの権限強化
・地域の活動への住民の参加率(選挙での
投票率、地方自治体またはボランタリーセ
クターの組織が開催する会合、活動への参
加率など)
・成人によるスポーツ活動への参加率
・公立図書館の利用率
コミュニティーの安全強化
・若者の犯罪者の再犯率
・傷害事件発生率
・反社会的行動及び地方自治体や警察組織
による犯罪に対する地域住民の懸念への対
処状況
子供と若者
・学校給食を食べる生徒の割合
子供の安全
・子供の間でのいじめ発生状況
生徒の学習到達度、素行等
・中学校における長期欠席率
成人の健康と福利
・全ての年齢、死因を考慮に入れた総合的
な死亡率
・ 16 歳 以 上 の 喫 煙 率
・病院から地方自治体運営の老人ホームへ
の転院が遅れている高齢者患者の割合
社会的疎外への取り組みと
・学習障害者が被雇用者に占める割合
平等の促進
・児童養護施設出身者のうち適切な住環境
を得ている者の割合
・児童養護施設出身者のうち、働いている
か、教育機関で教育を受けているか、また
は職業技術訓練を受けている者の割合
期 医 療 トラストは、地 域 に根 差 した医 療 サービス提 供 を担 う。
4
地域経済
・地域全体の雇用率
・労 働 年 齢( working age)人 口 の 失 業 手 当
受給率
・バスの定時運行率
環境の持続可能性
・地方自治体の業務による二酸化炭素
( CO2) 排 出 量 削 減 率
・気候変動に対する対処状況
・洪水および海岸線の浸食への対策
(参考)
http://www.communities.gov.uk/news/corporate/506120
http://www.communities.gov.uk/news/corporate/503127
http://www.hm-treasury.gov.uk/pbr_csr/documents/pbr_csr07_businessrate.cfm
http://www.londonfirst.co.uk/documents/CSR_PBR_highlights.pdf
【悪徳家主を罰し、賃借人の権限を強化する公営住宅の新監視機関が設立へ】
英国
コ ミ ュ ニ テ ィ ー・地 方 自 治 省 は 10 月 15 日 、公 営 住 宅 の 監 視 機 関 と し て 独 立 組 織「 賃
借 人 ・ 非 営 利 家 主 監 督 局 ( Office for Tenants and Social Landlords、 OfTSL)」 を 新
設すると発表した。今年6月に発表された、公営住宅の供給・運営制度の見直し作業
結 果 報 告 書 (「 ケ イ ブ 報 告 書 」) 8 の 中 で 提 案 さ れ て い た も の で 、 か ね て か ら 行 わ れ て い
るコミュニティー関連の政府組織再編の一環として創設される。同局が手掛けること
に な る 業 務 に つ い て は 、当 初 、監 査 委 員 会( Audit Commission)が 担 当 し た い 旨 を 表
明していたが、政府は新組織を設置する道を選んだ。
今回の決定に先立ち同省は今年1月、イングランドにおける住宅供給と地域再生に
関 す る 業 務 を 担 う 新 た な 執 行 機 関 「 コ ミ ュ ニ テ ィ ー ズ ・ イ ン グ ラ ン ド ( Communities
England)」 を 設 置 す る こ と を 発 表 し て い る 。 現 在 の 公 営 住 宅 監 督 機 関 で あ る 「 住 宅 公
団 ( Housing Corporation)」 と 、「 イ ン グ リ ッ シ ュ ・ パ ー ト ナ ー シ ッ プ ス ( English
Partnerships)」( 詳 細 は 下 記 参 照 )の 合 併 に よ っ て 設 立 さ れ 、2009 年 に そ の 機 能 を 開
始する。現在、コミュニティー・地方自治省が担当している住宅供給関連の業務も幾
つ か 引 き 継 ぐ こ と に な り 、 そ の 役 割 は 、 今 年 7 月 に 発 表 さ れ た 住 宅 緑 書 9に も 盛 り 込 ま
れていた。
8
ウォーリック大 学 のマーティン・ケイブ教 授 が執 筆 した「全 ての賃 借 人 を尊 重 する: 公 営 住 宅 の規 制 システム見
直 し(Every Tenant Matters: A review of social housing regulation)」。
9
「未 来 に向 けた住 宅 づくり: より適 正 価 格 の、より持 続 可 能 な住 宅 建 設 に向 けて(Homes for the future: more
affordable, more sustainable)」
5
「 住 宅 公 団 」 は 、「 1964 年 住 宅 法 ( Housing Act 1964)」 に よ っ て 、 1964 年 に 設 立
された。主な機能は、イングランドの新築公営住宅への資金提供と、登録非営利家主
( Registered Social Landlords、 RSLs) 10 の 監 督 で あ り 、 中 央 政 府 と 地 方 自 治 体 に 対
して、公営住宅政策についてアドバイスする役割もある。
「イングリッシュ・パートナーシップス」は、地域再生関連業務を担う政府の執行
機関である。特に産業用の土地、建築物を多く所有し、地域再生目的の政府補助金の
監 督 業 務 を 手 掛 け て い る ほ か 、コ ミ ュ ニ テ ィ ー ・地 方 自 治 省 と 共 に 、2003 年 度 に 新 設
さ れ た 3 つ の 都 市 開 発 公 社 の 業 務 を 監 督 し て い る 。 創 設 は 1999 年 で 、「 ニ ュ ー タ ウ ン
委 員 会 ( Commission for the New Towns)」 と 「 都 市 再 生 庁 ( Urban Regeneration
Agency)」 の 合 併 に よ り 設 置 さ れ た 。 こ の う ち ニ ュ ー タ ウ ン 委 員 会 は 、「 ニ ュ ー タ ウ ン
開 発 公 社 ( New Towns Development Corporations )」 11 の 業 務 監 督 を 目 的 と し て 、
「 1959 年 ニ ュ ー タ ウ ン 法( New Towns Act 1959)」に よ り 、1961 年 に 設 立 さ れ 、1998
年 に は 、ロ ン ド ン の ド ッ ク ラ ン ズ 地 域 を 含 む 脱 工 業 化 都 市 で 1980∼ 90 年 代 に 創 設 さ れ
た 「 都 市 開 発 公 社 ( Urban Development Corporations)」 の イ ン フ ラ 整 備 プ ロ ジ ェ ク
トを引き継いでいる。また都市再生庁は、地域再生関連の政策立案とサービス提供を
担 う 全 国 組 織 と し て 、「 1993 年 借 地 改 革 ・ 住 宅 ・ 都 市 開 発 法 ( Leasehold Reform,
Housing and Urban Development Act 1993)」 の も と 、 1993 年 に 設 置 さ れ た 12 。
今 回 新 設 さ れ た OfTSL の 権 限 に は 、 家 屋 の 修 繕 を 怠 る な ど 、 家 の 管 理 ・運 営 状 況 が
悪い登録非営利家主を処罰できることなどが含まれる。新組織設置により、優秀な登
録非営利家主に対する規制を緩和すると共に、賃借人に対しては、サービス改善を要
求できる権限を新たに与える。賃借人は、住宅の管理・運営水準について同局に苦情
を申し立てても改善が見られなかった場合、登録非営利家主の交代を要求することが
できるようになる。
英国では、公営住宅は地方自治体が直接供給するか、または登録非営利家主によっ
て 提 供 さ れ て い る 。保 守 党 が 政 権 を 取 っ た 1979 年 以 降 、地 方 自 治 体 に 対 し て 、保 有 す
る公営住宅を登録非営利家主へ移譲するよう促す二つの動きが見られる。一つは、賃
借人による投票で公営住宅の保有権が地方自治体から登録非営利家主へ移譲すること
が可決された場合、住宅の修繕費用などとして政府から登録非営利家主に補助金が支
給 さ れ る よ う に な っ た こ と で あ る 。 二 つ 目 は 、「 1989 年 地 方 自 治 ・ 住 宅 法 ( Local
Government and Housing Act 1989)」に よ り 、地 方 自 治 体 に よ る 公 営 住 宅 売 却 金 の 使
10
住 宅 公 団 に登 録 している非 営 利 家 主 を指 す。その大 半 は住 宅 組 合 (Housing Associations)である。
11
ミルトン・キーンズなどのニュータウンを建 設 したことで知 られる。
12
「1993 年 借 地 改 革 ・住 宅 ・都 市 開 発 法 」では、「都 市 再 生 庁 」との名 称 で設 立 が定 められたが、当 時 から「イング
リッシュ・パートナーシップ」との呼 称 を使 っていた。
6
途 が 厳 し く 限 定 さ れ 13 、自 治 体 に よ る 新 規 公 営 住 宅 の 建 設 が 事 実 上 、不 可 能 に な っ た こ
とである。
この他、前述の「ケイブ報告書」に盛り込まれていた提言のうち、政府が実施に合
意したのは下記の二つである。
・
住宅の水準、賃借人の満足度、運営費、家賃などの項目で登録非営利家主
を点数評価し、その結果を公表する。これにより、賃借人が登録非営利家
主の質を比較できるようにする。
・
公 営 住 宅 の 賃 借 人 で 構 成 さ れ る 団 体 「 全 国 賃 借 人 の 会 ( national tenant
voice)」を 新 設 し 、地 域 、地 方 、全 国 レ ベ ル で 、公 営 住 宅 に 関 す る 政 策 と 意
思決定に賃借人の声を反映させるようにする。
(参考)
http://www.communities.gov.uk/news/corporate/509978
【最後の住民投票での直接公選首長制否決】
英国
イ ン グ ラ ン ド 北 東 部 ダ ー リ ン ト ン 市 ( Darlington) 14 で 9 月 27 日 、 直 接 公 選 首 長 制
導 入 の 是 非 を 問 う 住 民 投 票 が 行 わ れ 、 58.6% が 反 対 票 を 投 じ て 否 決 さ れ た 。
10 月 30 日 に「 2007 年 地 方 自 治 、保 健 サ ー ビ ス へ の 住 民 関 与 法( Local Government
and Public Involvement in Health Act 2007)」が 成 立 し た こ と に よ り 、イ ン グ ラ ン ド
の地方自治体は、住民投票なしで直接公選首長制を導入することが可能になった。こ
のため、ダーリントン市は、直接公選首長制導入を巡る住民投票を実施したイングラ
ンドの最後の自治体となった(ただし同法は、住民からの要望がある場合に限り、住
民 投 票 を 実 施 す る こ と を 自 治 体 に 義 務 付 け て い る )。
直 接 公 選 首 長 制 は 、「 2000 年 地 方 自 治 法 ( Local Government Act 2000)」 に よ っ て
導 入 さ れ た 。同 法 で は 、「 住 民 は 自 治 体 に 対 し 、直 接 公 選 首 長 制 導 入 の 是 非 を 問 う 住 民
投票の実施を要求することができる。有権者の5%以上が署名した請願が提出された
場合、自治体は住民投票を実施しなければならない」と定めていた。ダーリントン市
で は 、 今 年 2 月 に 4,500 人 の 署 名 が 提 出 さ れ た こ と で 住 民 投 票 の 実 施 に 至 っ た 。
13 公 営 住 宅 売 却 金 の 75%は債 務 の返 済 金 としてのみに使 うことが許 可 されている。しかし地 方 自 治 体 が債 務 を
負 うのは特 別 な場 合 に限 られ、中 央 政 府 の許 可 が必 要 であるため、自 治 体 が債 務 を負 っていることは稀 である。残
り 25%は、理 論 上 は新 規 公 営 住 宅 の建 設 に使 うことが可 能 だが、十 分 な額 ではないため、実 際 に新 たな公 営 住 宅
建 設 に使 われていることはない。このため、公 営 住 宅 売 却 金 は長 年 の間 、手 を付 けられずに蓄 積 されているのが現
状 である
14
一 層 制 であるユニタリーの自 治 体 。
7
イングランド北東部では、現在までに3つの自治体が直接公選首長制を導入してお
り 、 そ の う ち の 2 つ が テ ィ ー ズ ・ バ レ ー ( Tees Valley) 地 域 15 に あ る 。 ダ ー リ ン ト ン
市に隣接するミドルズブラ市では、クリーブランド警察の元警視であるレイ・マロン
氏 が 2001 年 、 無 所 属 候 補 と し て 市 長 に 立 候 補 し て 当 選 し 、 2005 年 に は 再 選 を 果 た し
た。しかしマロン氏は、警視として勤務していた当時、自身と自身が率いていた捜査
班が、自白や犯罪情報と引き換えに容疑者や密告者に麻薬を提供していたなどの疑惑
が持たれ、停職処分を受けた過去があり、市長への就任は物議を醸した。ダーリント
ン市の直接公選首長制反対派は、住民投票実施前、このミドルズバラ市の例を引き合
い に 出 し 、「 相 応 し く な い 人 物 が 市 長 に 就 任 す る 可 能 性 が あ る 」と 訴 え て 反 対 キ ャ ン ペ
ーンを展開したが、賛成派からは「脅し戦術」であるとして批判された。
ダ ー リ ン ト ン 市 の 自 治 体 構 造 は 、「 リ ー ダ ー と 議 院 内 閣 」制 度 で あ り 、支 配 政 党 は 労
働党である。保守党と自由民主党の同市市会議員は、直接公選首長制には反対の意を
表明していた。
同市の住民投票の結果は下記の通りであった。
直接公選首長制導入に賛成
7,891 票
直接公選首長制導入に反対
11,226 票
24.7%
投票率
「 2000 年 地 方 自 治 法 」 の 施 行 以 後 、 計 36 の 自 治 体 で 直 接 公 選 首 長 制 導 入 の 是 非 を
問 う 住 民 投 票 が 実 施 さ れ た が 、賛 成 多 数 で 可 決 さ れ 制 度 導 入 に 成 功 し た の は 12 の 自 治
体に過ぎない。
(参考)
http://www.darlington.gov.uk/Democracy/mayoralreferendum/mayoraware.htm
【自治体のリーダーシップ強化は業績改善につながる旨の報告書】
英国
政 府 の 委 託 で 「 2000 年 地 方 自 治 法 」 の 影 響 を 調 べ て い た 調 査 の 結 果 報 告 書 が 10 月
5 日 、発 表 さ れ 、「 同 法 の 施 行 に よ り 、地 方 自 治 に お け る 意 思 決 定 の 迅 速 化 と サ ー ビ ス
改善が実現した」と結論付けている。マンチェスター大学、サルフォード大学及びロ
ンドン大学ゴールドスミス・カレッジの教授らで構成される研究チームが5年間にわ
15
ハートルプール市 、ミドルズブラ市 、レッドカー・アンド・クリーブランド市 、ストックトン・オン・ティーズ市 、ダーリント
ン市 で構 成 されるエリア。正 式 な行 政 単 位 ではない。
8
たって手掛けた調査は、下記の内容を分析したものである。
・
イ ン グ ラ ン ド の 主 要 自 治 体 を 対 象 に し た 、行 政 機 構 に 関 す る 2002 年 及 び
2006 年 の 調 査
・
同 法 が も た ら し た 変 化 や 新 た な 役 割 な ど に 対 す る 意 識 に つ い て 、 40 自 治
体の議員、職員、利害関係者を対象に実施した2つの調査
・
40 の 自 治 体 に お け る ケ ー ス ス タ デ ィ
「 2000 年 地 方 自 治 法 」は 、新 た な 行 政 形 態 と し て 、① リ ー ダ ー と 内 閣 制 、② 直 接 公
選首長と内閣制、③直接公選首長とカウンシル・マネージャー制の3つのモデルを提
示 し 、 こ れ ら の う ち 一 つ を 選 択 す る よ う 自 治 体 に 義 務 付 け た 16 。
報告書は、これらの行政形態を導入したことで、●より実効性があり、より住民の
目が行き届くリーダーシップを実現する
●民主的制度における地方自治体の政治的
機能が住民により受け入れられるようにする
●地方自治体と住民の間のチェック・
アンド・バランス(相互牽制)の仕組みを十分に機能させる―という政府の目的が達
成されたと述べた。また、リーダーにより多くの権限を与えている自治体は、目に見
え て 業 績 が 改 善 し て お り 、「 包 括 的 業 績 評 価 制 度 ( CPA)」 の ス コ ア 上 昇 に も つ な が っ
ていると指摘したほか、地方自治体のサービスに対する住民の満足度は、自治体の指
導体制が安定している場合に最も高くなると記した。
報告書はまた、地方議会議員より自治体職員、議員の中では一般議員より内閣構成
員の方が、同法により導入された新たな行政形態を支持しており、党別では労働党の
議 員 か ら の 支 持 が 最 も 高 い と 報 告 し て い る 。 し か し 、 全 体 と し て 、「 地 域 の 展 望 形 成 、
公共サービス改善の促進、政策の方向性決定、確実な公共サービス提供、予算策定、
中 央 政 府 に 対 す る 補 助 金 請 求 な ど を 行 う 上 で 、新 た な 行 政 形 態 は 有 効 に 機 能 し て い る 」
というのが地方議会議員、自治体職員の一致した意見だという。
(参考)
http://www.communities.gov.uk/news/corporate/500389
【 ド イ ツ で の 住 宅 建 築 は EU 内 の 最 低 レ ベ ル 】
ドイツ
ド イ ツ に お け る 住 宅 の 建 築 は 、 EU 諸 国 の 中 で 最 低 の レ ベ ル で あ る 。 2006 年 に 建 設
さ れ た の は 25 万 戸 ( 全 て の 住 宅 形 態 を 含 む ) に 過 ぎ な か っ た 。 国 民 1 千 人 当 た り 3.0
戸 は 、EU 諸 国 の 中 で 最 も 少 な い 住 宅 建 築 指 標 で あ る 。他 に 水 準 が 低 い 国 と し て 、英 国
で は 1 千 人 当 た り 3.3 戸 、ス ウ ェ ー デ ン は 3.5 戸 、と オ ラ ン ダ で は 4.5 戸 が あ る が 、そ
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ただし、人 口 8 万 5,000 人 未 満 の小 規 模 自 治 体 については、従 来 からの委 員 会 制 を修 正 した「修 正 委 員 会 制 」
を採 用 できるとした。
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の 中 で も ド イ ツ は 極 め て 低 い 。高 い 水 準 の 国 と し て は 、ア イ ル ラ ン ド が 21.3 戸 で ト ッ
プ で あ り 、 ス ペ イ ン も 16.0 戸 と 二 桁 の 数 字 と な っ て い る 。
住 宅 建 設 の 統 計 は 、 ド イ ツ 都 市 計 画 ・ 住 宅 ・ 住 宅 貯 蓄 関 連 機 構 (Institut für
Städtebau, Wohnungswirtschaft und Bausparwesen)が 毎 年 発 表 し て い る 。 同 機 構 に
よ れ ば 、 2007 年 度 と 2008 年 度 の 数 字 は 更 に 低 下 す る こ と が 見 込 ま れ て お り 、 戦 後 初
め て 20 万 戸 を 下 回 る 可 能 性 が あ る 。そ の 背 景 に あ る の は 、ド イ ツ の 人 口 構 造 上 の 変 化
だ け で は な い 。人 口 の 減 少 は す で に 2004 年 か ら 始 ま っ た が 、同 機 構 に よ れ ば 、政 策 の
転換が住宅建築市場により大きい影響を与えたとされる。その中には、住宅建設のた
めの税金控除措置、または賃貸物件に対して段階的に減少する減価償却措置の廃止が
挙げられる。
しかし、ドイツ国内では、州間に大きな差も見られる。バイエルン州(1千人当
た り 4.6 戸 )、 ブ ラ ン デ ン ブ ル ク 州 ( 4.2 戸 )、 及 び バ ー デ ン ・ ヴ ュ ル テ ン ベ ル ク 州 と
シ ュ レ ス ヴ ィ ヒ ・ ホ ル シ ュ タ イ ン 州 ( 両 方 3.5 戸 ) は 全 国 平 均 を 上 回 っ て い る が 、 テ
ュ ー リ ン ゲ ン 州 ( 1.7 戸 ) と ザ ク セ ン 州 ( 1.5 戸 ) は 平 均 よ り も 低 い 。 そ の 中 で も 特 に
低 い の は ベ ル リ ン 都 市 州 で あ り 、 2006 年 は 0.6 戸 し か 建 設 さ れ な か っ た 。 州 別 の 数 字
を見ると、ある程度は地方の経済状況を反映していることは明らかであるが、州内地
域間でもまた格差がある。テューリンゲン州とザクセン州内にも、経済的に成功して
いる都市はある。しかし、ベルリンにおいては、住宅建築数は都市の経済状況を象徴
している。ドイツの首都であるにも関わらず、経済的には難しい状況が続いており、
立ち直るまでには多くの障害を越えなければならない。ベルリン郊外では団地の縮小
も行われていることを考えれば、低い住宅建設数も驚きではない。ちなみに日本の住
宅 建 築 戸 数 は 2006 年 で 人 口 1 千 人 当 た り で 10.7 戸 で あ る 。
(参照)
Institut für Städtebau, press release 27.9.07
http://ifs-staedtebauinstitut.de/
【ブランデンブルク州は州開発戦略の方針を変更する予定】
ドイツ
ド イ ツ の 州 で は 、 州 内 包 括 的 な 開 発 計 画 を ほ ぼ 10 年 ご と に 策 定 し て い る 。 1996 年
以降、ベルリン都市州とブランデンブルク州は共同で計画を策定することを決定し、
両 州 全 体 を カ バ ー す る プ ロ グ ラ ム を 作 り 上 げ て き た 。 共 同 広 域 計 画 庁 ( Gemeinsame
Landesplanung) と い う 行 政 組 織 は ベ ル リ ン と ブ ラ ン デ ン ブ ル ク の 共 同 機 関 で あ る 。
現 在 で は 州 開 発 戦 略( LEPro 2007)と い う 新 開 発 政 策 案 が 議 論 さ れ て お り 、立 法 化 へ
の手順が進められている。枠組みの概略を決めるこの州開発戦略に基づき、開発計画
が 定 め ら れ る 。 2008 年 か ら 具 体 的 な こ と を 決 定 す る 共 同 開 発 計 画
Landesentwicklungsplan ( LEP B-B) は 、 現 在 ま で 存 在 し て い る 複 数 の ブ ラ ン デ ン
ブルク州に当てはまる計画の後継計画となる予定である。現在地方自治体などの関係
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者との議論・調整が進んでいる。
こ れ ま で の 開 発 計 画 で は 、中 心 的 な 役 割 を 果 た す「 中 心 自 治 体 」と い う 概 念 が あ り 、
上 位 中 心 自 治 体 と 中 位 中 心 自 治 体( Ober-und Mittelzentren)、更 に 最 も 小 さ な 基 礎 的
中 心 自 治 体 と 小 規 模 中 心 自 治 体( Grund-und Kleinzentren)が 存 在 し 、そ れ ぞ れ の レ
ベ ル に 合 わ せ た 開 発 計 画 が 策 定 さ れ て い た 。し か し 、2008 年 以 降 に 目 指 し て い る の は 、
上位中心自治体と中位中心自治体のみを開発計画に盛り込む新しいアプローチである。
開発計画とそれに伴う財政援助を分野別と地方別の中心地に集約させることによって、
開発のペースを速め、ブランデンブルク全体の開発につなげるという考え方である。
しかし、このような政策変更には、反対意見も多い。ブランデンブルク州には、州
開発戦略の基に地域計画を担当する5つの広域計画連盟がある。法人格を持つ公的機
関 で あ り 、当 該 地 方 の 郡 と 市 町 村 が 加 盟 し て い る 。決 定 機 関 は 郡 長 や 市 長 で 構 成 さ れ 、
地方の他の利害関係者、たとえば企業や大学などにも発言権があるが、この広域計画
連盟及び多くの地方自治体はこのような上位中心自治体と中位中心自治体だけを対象
にする開発戦略には反対意見を表明している。
ま た 、 ド イ ツ 市 町 村 連 盟 ( Deutscher Städte-und Gemeindebund) は 、 こ の 政 策 を
担当している州大臣との会談で地方自治体の懸念を明らかにした。都市部と地方部の
生活水準をほぼ同じにすることは依然として重要な目標であるが、基礎的中心自治体
と小規模中心自治体に対する開発援助が無くなれば、地域ごとの生活水準に大きな差
が生じるとの懸念を示した。また、州の郡長と市町村長は、大臣宛に再考をうながす
書簡を送った。その中では、州開発計画で今まで基本的中心自治体や小規模中心自治
体として指定されていた小さな自治体が開発の可能性を失う恐れを指摘し、州レベル
でないまでも、せめて地域レベルで、従来通りの基礎的中心自治体や小規模中心自治
体の概念を利用するよう開発戦略と開発計画を変更することを要求した。しかし、両
州政府がこの要求に耳を傾けるかどうかは不明である。
(参照)
Deutscher Städte- und Gemeindebund, “Rheinhold Dellmann: Infrasturktur ist
ein Anker für Lebensqualität und Voraussetzung für wirtschaftliche
Entwicklung“;
http://www.dstgb.de/homepage/pressemeldungen/reinhold_dellmann_infrastruktur
_ist_ein_anker_fuer_lebensqualitaet_und_voraussetzung_fuer_wirtschaftliche_ent
wicklung/index.html
Berlin-Brandenburg Gemeinsame Landesplanung Website;
http://gl.berlin-brandenburg.de/regionalplanung/index.html
Regionale Planungsgemeinschaft Havelland-Fläming, “Daseinsvorsorge 2007-2020
in Brandenburg“;
http://www.havelland-flaeming.de/index.php?n=2&id=20310&sw=1280
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【エネルギー市場における刺激調整規則】
ドイツ
EU 委 員 会 は 長 ら く 、 ド イ ツ の エ ネ ル ギ ー 市 場 は 閉 鎖 的 で 、 競 争 が な い と 主 張 し て き
て い た 。 10 月 12 日 に 連 邦 議 会 は 、 こ の EU の 市 場 開 放 の 要 求 を 受 け 入 れ 、 エ ネ ル ギ
ー 市 場 に 対 す る 規 則 を 可 決 し た 。 こ の 市 場 刺 激 調 整 規 則
Anreizregulierungs-Verordnung は 、2009 年 か ら 施 行 と な り 、ネ ッ ト ワ ー ク 所 有 者( 企
業)がガスや電気ネットワーク利用に対して徴収可能な料金を制限するものである。
そ の 背 景 に は 、 2000 年 か ら エ ネ ル ギ ー の 使 用 料 が 30% も 上 昇 し た こ と が あ げ ら れ る 。
新しい規則は、エネルギー市場における競争を促すことで、コスト上昇を抑えること
が目的である。新たにエネルギー市場調整・監視庁が設立され、エネルギー供給会社
は、これから決定される効率化基準に従わなければならない。
現 在 、全 国 規 模 の ネ ッ ト ワ ー ク は 4 つ の 大 企 業 が 所 有 し て い る が 、地 域 レ ベ ル で は
消 費 者 に 直 接 ガ ス や 電 気 を 供 給 す る 約 1,600 の 企 業 が あ る 。 エ ネ ル ギ ー 市 場 に お け る
競争を高めるための何らかの枠組みの必要性については広く認められているところで
はあるが、今回の規則については、反対意見や効果を疑問視する声が大きい。
労働組合は、料金引下げの必要性に直面している企業は、コスト引き下げのため大
規模な人員削減に走る恐れがあるという見方を示している。また、地方自治体からの
反対意見も多い。ドイツにおいては日本と同様、地方自治体が公営企業を通して直接
エネルギー供給を行っていることが少なくない。大企業においては、規則に対応する
ことはそれほど問題ではないと考えられるのに対して、中小規模の公営企業は、手続
きが簡素化されるとしても、難しい状況に直面すると予想されている。公営企業の収
入が減ると、人員削減だけでなく、ネットワークへの投資も減少する可能性がある。
それにより、供給の質に問題が発生し、停電などが増える恐れもある。
ドイツの地方自治体にとってもう一つ深刻な問題がある。公営企業からの収入が減
ると、財源補助を必要としている公共交通や文化施設などの維持が困難となることで
ある。エネルギー供給に係る公営企業の利益を他のサービスの財源にするという横断
的 財 政 利 用 ( Querfinanzierung) は 長 い 間 ド イ ツ の 公 共 交 通 等 を 支 え て き て お り 、 多
くの都市に質のよい公共交通、プールと文化施設等が存在する理由でもある。ドイツ
都市会議や他の地方自治体代表団体は、エネルギー分野等の利益を流用する横断的財
政利用が不可能となれば、公共交通料金が値上げされるか、税金の引き上げにつなが
る と 警 戒 し て い る 。し か し 、規 則 が 施 行 と な る の は 2009 年 で あ る た め 、効 果 が 現 れ る
まではしばらく時間がかかる。
見方を変えれば、現在の高いエネルギー価格は、公共交通や公共施設の財源を集め
るための税金として見なすこともできる。エネルギー価格が下がれば、必要な財源を
他から確保することとなるが、どの方法が住民のためになるかは明らかではない。公
共交通の真のコストを認識するためには別な財政制度が良いという見方もできる。し
かし、最終的には住民、または納税者の負担になることは間違いない。
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(参照)
Ad-hoc-news, ‚Anreizregulierung kommt – Bundesrat beschließt Maßnahmen für
niedrigere Strom- und Gaspreise – Abschwächungen verhindert’;
http://www.ad-hoc-news.de/Marktberichte/de/13722363/(Zusammenfassung-Neu-B
undesratsentscheidung)
Bayerischer
Städtetag,
press
release
20.9.2007;
‘Strompreispolitik:Ministerpräsident
soll
Stadtwerke
vor
schleichender
Enteignung bewahren!’
http://www.bay-staedtetag.de/
【ザクセン州首相の日本訪問】
ドイツ
ザ ク セ ン 州 の 首 相 、ゲ オ ル ク・ミ ル ブ ラ ッ ト 氏 は 10 月 3 日 の ド イ ツ 統 一 記 念 日 を 機
に日本を訪問した。ドイツ統一記念日を祝う式典とレセプションは毎年在日本ドイツ
大 使 館 で 開 催 さ れ 、今 年 は ザ ク セ ン 州 と 大 使 館 の 共 催 で 、ザ ク セ ン 州 が 中 心 と な っ た 。
この日のイベントにちなんで、州首相は忙しい日程をこなし、ザクセン地方の伝統と
文化をアピールすると同時に、高い技術力と企業拠点としての魅力もテーマに取り上
げた。世界中に知られているマイセン磁器の展示会が東京のデパートで行われ、ザク
セ ン 拠 点 の 精 密 時 計 メ ー カ ー 、 ラ ン ゲ ( Lange) の 展 示 、 そ し て ゲ ー テ ・ イ ン ス テ ィ
テュートとの協力でザクセンの映画上映も行われた。ミルブラット首相は、東京大学
で開催された気候変動と再生可能エネルギーを考えるシンポジウムで講演を行い、そ
してナノテクノロジーについてのパネル・ディスカッションにも参加した。
ミルブラット首相の今回の日本訪問は、ザクセン州と日本の間にすでに存在する数
多くの関係を強調し、それ以上に深めることが目的であった。日本はザクセン州の精
密機械製造企業や自動車関連産業にとって重要な市場であるとともに、日本からの直
接 投 資 の 対 象 に も な っ て い る 。日 本 の 企 業 の 20 社 が ザ ク セ ン 州 に 投 資 し 、約 2,400 人
の雇用を生み出している。この事実を考えれば、ミルブラット首相が今回の滞在の間
に5つ以上の日本企業を訪問したことも不思議ではない。ザクセン州の首都ドレスデ
ン に 駐 在 員 を 派 遣 し て い る 日 本 貿 易 振 興 機 構 JETRO と の 対 談 も 日 程 に 含 ま れ て い た 。
ま た 、ザ ク セ ン 州 と 特 に ド レ ス デ ン 市 は 日 本 で も 観 光 地 と し て 人 気 を 集 め つ つ あ る 。
日本からの訪問者が増えれば増えるほど、日本語に関するインフラ、または日本人が
求める高いレベルのサービスも揃うことが期待できる。
(参照)
Land Sachsen Homepage, press releases 29.9. and 2.10.2007
http://www.medienservice.sachsen.de/
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