公平審査 - 人事院

第 1 節 不利益処分についての審査請求
第
7章
公平審査
公平審査には、懲戒処分、分限処分など不利益処分についての審査請求、勤務条件に関する
行政措置の要求、災害補償の実施に関する審査の申立て等及び給与の決定に関する審査の申立
ての仕組みがあり、それぞれ職員から人事院に対してなされた場合に、準司法的な所定の審査
手続に従って、迅速かつ適切に事案の処理を行っている。人事院は、事案処理に関する目標を
定め、その進捗状況等を定期的に把握するとともに、手続面での効率化を進めるなど、事案の
早期処理に取り組んでいる。このほか、職員からの苦情相談を受け付け、各府省に対する働き
かけを含め必要な対応を行っている。
これらの公平審査の仕組みは、中立第三者機関である人事院が、職員の利益の保護、人事行
政の公正の確保、ひいては公務の能率的な運営に資することを目的とするものである。また、
第1編
第
勤務条件に関する行政措置の要求の仕組みは、給与勧告・報告の制度等と並び、職員の労働基
本権制約の代償措置の一つとして位置付けられ、勤務条件の改善と適正化のため重要な意義を
部
3
有するものでもある。
平成
年度業務状況
27
不利益処分についての審査請求の口頭審理において、
公平委員会(正面)
、請求者側(左)
、処分者側(右)が出席し、
証人尋問を行っている様子(模擬審理)
。
第
1節
不利益処分についての審査請求
不利益処分についての審査制度(国公法第 90 条)は、職員からその意に反して降給、降任、
休職、免職その他著しく不利益な処分又は懲戒処分を受けたとして審査請求があった場合に、
人事院が、事案ごとに公平委員会を設置して審理を行わせ、公平委員会が作成した調書に基づ
き、処分の承認、修正又は取消しの判定を行うものである。
人事院は、処分を修正し又は取り消した場合には、その処分によって生じた職員の不利益を
回復するための処置を自ら行い、又は処分者に対し必要な処置を行うように指示することとさ
れている。なお、人事院の判定は、行政機関における最終のものである。
不利益処分の審査は、規則 13 - 1(不利益処分についての審査請求)に定められた手続に
従って行われ、集中審理を行うなどして事案の早期処理に努めている。
179
第7章
公平審査
1 行政不服審査法改正等を踏まえた制度改正
公正性や利便性の向上等を図る観点から行政不服審査法の全部改正が行われたこと等を踏ま
えて、不服申立ての審査請求への一元化に伴う用語の整理、審理の終了等の手続の整備、審理
における証人保護のための措置の導入等を内容とする規則 13 - 1 等の一部改正を行った(平成
27 年 11 月 26 日公布、平成 28 年 4 月 1 日施行)
。
2 不利益処分審査請求の状況
平成 27 年度の係属件数は、前年度から繰り越した 10 件を加えて 23 件となった。その処理状
況は、判定を行ったもの 12 件(処分承認 11 件、処分取消し 1 件)
、取下げ・却下等 5 件であり、
平成 28 年度に繰り越したものは 6 件である(表 7 - 1、資料 7 - 1)
。
表 7-1 平成 27 年度不利益処分審査請求事案判定一覧(計 12 件)
(1)懲戒処分
指令番号
判定年月日
判定
審理方式
13-19
27. 6.12
停職 2月(欠勤、職場内秩序びん乱行為)
原処分等
承 認
審 尋
13-26
27. 7. 1
戒告(交通法規違反、報告け怠)
承 認
公 開
13- 3
28. 1.29
懲戒免職(所得税還付金詐取)
承 認
審 尋
13-14
28. 3.23
減給 3月(セクシュアル・ハラスメント)
承 認
審 尋
13-16
28. 3.30
懲戒免職(横領)
承 認
審 尋
判定
審理方式
(2)分限処分
指令番号
判定年月日
原処分等
13-24
27. 6.24
分限免職(心身の故障)
承 認
審 尋
13-27
27. 9. 4
分限免職(適格性欠如)
承 認
審 尋
13-11
28. 3.18
分限免職(勤務実績不良、適格性欠如)
承 認
審 尋
(3)その他
指令番号
判定年月日
判定
審理方式
13-15
27. 4.17
辞職承認
原処分等
承 認
審 尋
13-19
27. 6.12
短期介護休暇の取消し
承 認
審 尋
13-35
27.10. 2
辞職承認
承 認
非公開
13- 4
28. 2.24
転任
取 消
審 尋
(注)
「審理方式」のうち、
「公開」及び「非公開」はそれぞれ公開口頭審理及び非公開口頭審理を示し、「審尋」は審尋審理(両当事者を対
面させずに非公開で行う審理)を示す。請求者が「公開」、「非公開」、「審尋」のいずれかを選択する。
第
2節
勤務条件に関する行政措置の要求
行政措置要求の制度(国公法第 86 条)は、職員から勤務条件に関し、適当な行政上の措置
を求める要求があった場合に、人事院が必要な審査をした上で判定を行い、あるいはあっせん
又はこれに準ずる方法で事案の解決に当たることで、職員が勤務条件の改善と適正化を能動的
に求めることを保障するものである。
行政措置要求の審査は、規則 13 - 2(勤務条件に関する行政措置の要求)に定められた手続
に従って行われる。
平成 27 年度は、新たに受け付けた 4 件と前年度から繰り越した 10 件の計 14 件が係属したが、
その処理状況は、判定を行ったもの 4 件、取下げ・却下 7 件であり、平成 28 年度に繰り越した
180
第 3 節 災害補償の実施に関する審査の申立て及び福祉事業の運営に関する措置の申立て
ものは 3 件である(表 7 - 2、資料 7 - 2)
。
表 7-2 平成 27 年度行政措置要求事案判定一覧
判定年月日
要求内容
判定
27. 5.29
パワ-・ハラスメント等の排除
棄 却
27. 5.29
施設使用等の職場環境の改善
棄 却
27.11. 4
専門スタッフ職の処遇改善
27.12. 9
昇格差別の是正
第
3節
一部容認
棄 却
災害補償の実施に関する審査の申立て及び福祉事業の運営に関する措置の申立て
第1編
第
災害補償の審査申立制度(補償法第 24 条)は、実施機関の行った公務上の災害又は通勤に
よる災害の認定、治癒の認定、障害等級の決定その他補償の実施について不服のある者から審
部
3
査の申立てがあった場合に、また、福祉事業の措置申立制度(補償法第 25 条)は、福祉事業
平成
の運営について不服のある者から措置の申立てがあった場合に、それぞれ人事院が事案を災害
補償審査委員会の審理に付した上で判定を行うものである。
災害補償の審査等は、規則 13 - 3(災害補償の実施に関する審査の申立て等)に定められた
手続に従って行われる。
平成 27 年度は、新たに受け付けた 9 件と前年度から繰り越した 39 件の計 48 件が係属したが、
その処理状況は、判定を行ったもの 33 件、取下げ・却下 3 件であり、平成 28 年度に繰り越し
たものは 12 件である(図 7 - 1、表 7 - 3、資料 7 - 3)
。
図 7-1 平成 27 年度判定事案の内容別内訳
障害等級
3件
精神疾患
3件
福祉事業
1件
休業補償
2件
容認
6件
(18.2%)
総数
33件
(100.0%)
棄却
27件
(81.8%)
障害等級
3件
疾病
1件
治癒認定
1件
精神疾患
15件
負傷
3件
脳・心臓疾患
1件
181
年度業務状況
27
第7章
公平審査
表 7-3 平成 27 年度災害補償審査等申立事案判定一覧(計 33 件)
指令番号
判定年月日
13-16
27. 4.17
鬱病等に係る公務上の認定
棄 却
13-17
27. 5.15
左脛骨骨幹部骨折等に係る障害等級の決定
棄 却
13-18
27. 5.15
振動障害に係る休業補償の実施
棄 却
13-20
27. 6.12
鬱病に係る公務上の認定
棄 却
13-21
27. 6.12
右肩打撲傷に係る公務上の認定
棄 却
13-22
27. 6.19
不安神経症及び鬱状態に係る公務上の認定
棄 却
13-25
27. 6.24
抑鬱状態、双極性気分障害等に係る公務上の認定
棄 却
13-25
27. 6.24
躁転及び双極性気分障害に係る公務上の認定
棄 却
13-28
27. 9. 4
鬱病に係る公務上の認定
棄 却
13-29
27. 9.11
脊髄損傷に係る公務上の認定及び頸椎捻挫等に係る障害等級の決定
棄 却
13-30
27. 9.11
抑鬱神経症及び鬱病に係る公務上の認定
棄 却
13-31
27. 9.18
右変形性膝関節症に係る公務上の認定
13-31
27. 9.18
顔面挫創傷及び右大腿骨骨折に係る障害等級の決定
13-31
27. 9.18
右股関節部異所性骨化に係る障害等級の決定
容 認
13-32
27. 9.18
腰椎捻挫等に係る治癒の認定及び不安鬱症等に係る通勤災害の認定
棄 却
13-36
27.10.14
鬱病に係る公務上の認定
棄 却
13-37
27.10.30
心身不調状態、適応障害等に係る公務上の認定
容 認
13-38
27.10.30
鬱病に係る公務上の認定
棄 却
13-39
27.11.20
適応障害等に係る公務上の認定
棄 却
13-40
27.12. 2
縊死(自殺)に係る公務上の認定
棄 却
13-41
27.12. 2
心室細動による院外心肺停止(死亡)に係る公務上の認定
棄 却
13-42
27.12. 4
鬱病に係る公務上の認定
容 認
13-47
27.12.22
両尺骨神経断裂等に係る治癒の認定及び障害等級の決定
13-49
27.12.25
鬱状態に係る公務上の認定
棄 却
13- 1
28. 1.22
振動障害に係る休業補償の実施
棄 却
13- 1
28. 1.22
振動障害に係る休業援護金の実施(福祉事業)
棄 却
13- 2
28. 1.22
右手外傷性末梢神経障害に係る障害等級の決定
棄 却
13- 6
28. 2.24
頭蓋骨骨折による脳挫傷(自殺)に係る公務上の認定
棄 却
13- 7
28. 2.24
失踪宣告による死亡に係る公務上の認定
棄 却
13- 8
28. 2.26
両変形性股関節症に係る公務上の認定
棄 却
13- 9
28. 3. 4
鬱状態に係る公務上の認定
棄 却
13-12
28. 3.18
右第3指関節脱臼及び全身打撲に係る障害等級の決定
棄 却
13-15
28. 3.23
一酸化炭素中毒死(自殺)に係る公務上の認定
容 認
第
4節
申立内容
判定
棄 却
一部容認
一部容認
給与の決定に関する審査の申立て
給与の決定に関する審査制度(給与法第 21 条)は、給与の決定(俸給の更正決定を含む。
)
に関して苦情のある職員から審査の申立てがあった場合に、人事院が事案を審査した上で、決
定という形でそれに対する判断を示すものであって、規則 13 - 4(給与の決定に関する審査の
申立て)に定められた審査手続に従って行われている。
このうち、人事評価結果に基づく給与の決定に関する申立事案の審査においては、申立人の
人事評価について必要な事実関係等の調査を行い、人事評価の妥当性等を検証しつつ、当該給
与の決定が法令の規定に合致しているか否かについての判断を行っている。
平成 27 年度は、昇給や勤勉手当に関する申立てを中心に 15 件の申立てがあり、これに前年
度から繰り越した 40 件を加えて、係属件数は 55 件となった。その処理状況は、決定を行った
もの 31 件、取下げ・却下 6 件であり、平成 28 年度に繰り越したものは 18 件である(表 7 - 4、
資料 7 - 4)。
182
第 5 節 苦情相談
表 7-4 平成 27 年度給与決定審査申立事案決定一覧
指令番号
決定年月日
申立内容
決定
13-23
27. 6.19
平成 25 年 1月1日の昇給区分
平成 26 年 1月1日の昇給区分
13-33
27. 9.18
平成 25 年 12月期の勤勉手当の成績率
棄 却
13-34
27. 9.25
広域異動手当の支給
棄 却
13-43
27.12. 4
平成 22 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 23 年 1月1日の昇給区分
平成 25 年 6月期の勤勉手当の成績率
平成 25 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 26 年 1月1日の昇給区分
棄 却
13-44
27.12. 9
初任給の決定(平成 17 年 8月1日復帰(採用))
初任給の決定(平成 22 年 4月1日復帰(採用))
棄 却
13-45
27.12. 9
平成 22 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 23 年 1月1日の昇給区分
棄 却
27.12. 9
平成 24 年 1月1日の昇給区分
平成 25 年 1月1日の昇給区分
平成 26 年 1月1日の昇給区分
平成 23 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 24 年 6月期の勤勉手当の成績率
平成 24 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 25 年 6月期の勤勉手当の成績率
平成 25 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 27 年 1月1日の昇給区分
平成 26 年 6月期の勤勉手当の成績率
平成 26 年 12月期の勤勉手当の成績率
棄 却
棄 却
28. 3. 4
俸給表異動
13-13
28. 3.18
平成 27 年 1月1日の昇給区分
平成 27 年 6月期の勤勉手当の成績率
第
5節
27
年度業務状況
13-10
平成
27.12.22
3
部
13-48
平成 24 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 25 年 1月1日の昇給区分
平成 25 年 12月期の勤勉手当の成績率
平成 26 年 6月期の勤勉手当の成績率
第1編
第
13-46
棄 却
一部容認
棄 却
苦情相談
苦情相談制度は、職員から勤務条件その他の人事管理に関する苦情の申出及び相談があった
場合に、人事院が指名した職員相談員が職員に対し助言を行うほか、関係当事者に対し、指
導、あっせんその他必要な対応を行うものであって、規則 13 - 5(職員からの苦情相談)に定
められた手続に従って行われている。
このような職員からの苦情を迅速かつ適切に解決するための苦情相談業務は、能力実績重視
の人事管理が求められている中で、公務能率の維持・増進の観点からもますます重要になって
きている。
平成 27 年度に受け付けた苦情相談件数は 1,012 件で、前年度より 13 件減少となった(図 7 -
2)。
苦情相談の内容は、依然としてパワー・ハラスメント、いじめ・嫌がらせなど、職場の人間
関係に起因した複雑な相談をはじめ多岐にわたっている(図 7 - 3)
。
また、人事院の本院及び各地方事務局(所)では、苦情相談の対応に際して必要な情報の交
換など各府省との連携協力体制の充実を図るための「苦情相談に関する府省連絡会議」を開催
するとともに、各府省において苦情相談業務を適切に遂行できるよう必要な知識の習得や技能
の向上を目的とした「各府省苦情相談担当官研修」を実施した。
183
第7章
公平審査
図 7-2 苦情相談件数の推移
(単位:件)
1,200
1,000
945
1,025
1,012
26
27
943
866
800
600
400
200
0
平成23
24
25
図 7-3 平成 27 年度苦情相談の内容別件数
その他 68件(6.7%)
人事評価関係 59件(5.8%)
パワハラ以外のいじめ・嫌がらせ 34件(3.4%)
任用関係
184件
(18.2%)
パワー・
ハラスメント
252件
(24.9%)
総計
1,012 件
(100.0%)
健康
安全等関係
154件
(15.2%)
セクシュアル・ハラスメント 24件(2.4%)
184
給与関係
80件
(7.9%)
勤務時間、休暇、
服務等関係
157件
(15.5%)
(年度)
第 7 章 補足資料
資料 7-1 不利益処分審査請求事案関係
1 処理状況
区分
年度
(単位:件)
処理件数
受付件数
判定
承認
修正
取消
23
21
8
0
24
20
10
25
20
54
26
16
27
13
取下げ・
却下等
計
合 計
繰越件数
1
9
13
22
96
0
1
11
16
27
89
0
25
79
16
95
14
11
2
1
14
6
20
10
11
0
1
12
5
17
6
第1編
第
2 平成 27 年度の判定例(要旨)
(1)懲戒減給処分(処分を承認したもの)
3
部
(事案の概要)
請求者は、職場の送別会に参加し、二次会終了後、期間業務職員として勤務していた女性 A の私用車で官舎まで送ってもらっ
た後、A を官舎に招き入れ、下着姿となり、布団を敷き、A の手を握るという性的関係を迫ったと捉えられるようなセクシュアル・
ハラスメント(以下「セクハラ」という。)を行ったことから、処分者は、懲戒減給(3月間俸給の月額の 10 分の 1)の処分を行っ
た。
平成
(不服の要旨)
1 A は、再採用されず退職することとなった不満から請求者に報復をしようとして虚偽の申出をしたものであり、請求者が A に性
的関係を迫った事実はない。
2 下着姿となり、布団を敷き、A の手を握ることはしたが、下着姿となり布団を敷いたのは A が官舎の部屋にいることを知らずに
帰宅時のいつもの行動をとったものであり、また、A の手を握ったのは、室内で A を励まし、駐車場に向かうA を引き止めるた
め行ったものであって、相手を不快にさせるものではないからセクハラではない。
年度業務状況
27
(判定の要旨)
○不服の要旨 1 について
A の供述は、具体性があり、当局に対する供述及び本件審理における証言は一貫しており、供述の内容にも特段の不自然さ
は認められない。加えて、必ずしも請求者を一方的におとしめる内容とはなっていないことからすると、その供述には全体とし
て十分信ぴょう性があるものと認められる。また、退職の 8 か月後にセクハラの申出を行ったとしても、特段不自然とは認められ
ない。
他方、請求者の供述は、不自然さがあることは否めず、曖昧であり、また、一貫していない。
以上のことからすると、請求者は、深夜、官舎内で A の手を握り布団を敷いた部屋の方に引っ張り性的関係を迫ったと見るの
が相当である。
したがって、請求者の主張は認められない。
○同 2 について
請求者は、前記の行為を行ったほか、下着姿となり、布団を敷き、駐車場に向かう際に A の手を握ったものである。A はこれ
らの行為について、請求者の下着姿に目のやり場に困った、布団を敷いた部屋の方へ引き込まれそうになりその場を逃げ出し
たかった、恐怖があった、駐車場に向かう際に手を握られたことは嫌で嫌でたまらなかったと供述しており、恐怖心、不快感を
抱いていたと認められ、請求者の一連の行為は他の職員を不快にさせる性的な言動でありセクハラに該当すると認められる。
したがって、請求者の主張は認められない。
(平成 28 年 3月23日 指令 13 - 14)
(2)分限免職処分(処分を承認したもの)
(事案の概要)
処分者は、請求者が、精神疾患により病気休暇及び病気休職を繰り返してそれらの期間の累計が 3 年を超え、一旦復職した後も
再び勤務できない状況に陥り、指定医 2 名から更に休務を要すると診断されたため、分限免職の処分を行った。
(不服の要旨)
1 本件処分は、指定医の診断がなされてから2 か月後(病気休暇中)に行われているが、処分を行うにはその直前に改めて指
定医の診断が必要である。
2 復職後再び出勤できなくなったのは職場の人間関係に起因するもので、他部署への異動等の適切な措置がなされれば、職務
を遂行することが十分可能であった。
3 本件処分に係る病気休職等は、処分者が職場環境を整備しなかったために累積したものである。
185
第7章
公平審査
(判定の要旨)
○不服の要旨 1 について
本件処分は、指定医の診断から処分発令までに約 2 か月を要しているが、これは当局が、診断結果を踏まえ、請求者につい
て国公法第 78 条第 2 号に該当するか否かを慎重に検討し、処分発令のための手続を進めていたことによるものである。また、
この間の病気休暇については、病気のため勤務できないと認められる請求者について、その申請に基づいてこれを承認したも
のにすぎないことから、処分直前に改めて指定医の診断が必要であったとする請求者の主張は認められない。
○同 2 について
当局は、請求者の復職に際し、施設運営の事情も考慮しつつ、請求者が抱えていた人間関係の悩みに関係する職員のいない
職場に異動させ、勤務軽減の措置を採り、請求者の心身に対する負担を考慮した仕事を付与し、また、所属の部における人間
関係の悩み等についても相談者を設けて適宜相談に応ずるなどの種々の措置を講じたことが認められる。しかし、請求者は、
そのような状況下においても職務の遂行に支障があり、対人関係に関する葛藤などから勤務が続かず、短期間で再び休務する
に至ったことが認められる。また、請求者は、過去に外部の関係者に暴言を吐くなどの問題行為があり、請求者が求める外部
の関係者と恒常的に接する部門には配置できないこと、請求者の病気や性格について所属の部の職員には既に理解があること
等を踏まえ、請求者を他部署へ異動等させることは困難であると判断したことも認められる。以上のような経緯等に照らし、当
局が、種々の措置を講じても請求者は勤務に堪え得なかったと判断したことは妥当性を欠くものとは認められない。
したがって、請求者の主張は認められない。
○同 3 について
職員が心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合には、公務能率の維持の観点から、同法第
78 条第 2 号に該当するものとして、これを免職とすることができるものであり、請求者の主張は認められない。
なお、本件において当局は、請求者に対し、勤務復帰のための職場環境の整備を含む種々の対応を慎重に行ってきたことが
認められる。
(平成 27 年 6月24日 指令 13 - 24)
(3)分限免職処分(処分を承認したもの)
(事案の概要)
請求者は、A 所 B 部 C 官として勤務していたところ、失踪し、1か月以上にわたり勤務を欠いたことから、処分者は、分限免職の処
分を行い、1か月後にその効力が発生した。
(不服の要旨)
請求者は、以下のとおり、耐え難い勤務環境に置かれ、精神的限界からやむを得ず勤務を欠いたものであり、請求者は官職に必
要な適格性を欠くものではない。
1 請求者は、繁忙期に過重な業務を強いられるとともに外部からの電話にも対応しなければならず、疲労が蓄積し、事務処理に
混乱を来す状況にあった。
2 上司であるD 官は、休暇の了承の取り方という軽微なことで請求者を叱責し、また、請求者は英語研修を受けたり、職員団体
の用務を行ったりする必要はないなどと発言し、請求者の人格や尊厳を傷つける言動を繰り返す状況にあった。
(判定の要旨)
○不服の要旨 1 について
請求者が担当していた事務は、定型的な事務であり、繁忙期である4 か月の間、超過勤務は、1 か月ごとの時間数で数時間
から40 時間余であり、また、1日の時間数は最大で 3 時間であり、さらに、毎週水曜日は定時で退庁し、週休日及び休日にお
ける勤務はなかったことなどが認められる。加えて、外部からの電話への対応についても、請求者は原則として免除され、時折
電話に出る状況にあったにとどまることが認められる。これらのことからすれば、請求者が仮に業務を通じて疲労感をもっていた
としても、A 所当局は業務配分に相当程度配慮していたことが認められ、過重な業務を強いられたとの請求者の主張は認められ
ない。
○同 2 について
業務運営の支障の有無の確認の必要から、上司が直接休暇の了承を求めるよう職員に指導することは適切な業務上の対応で
あり、D 官は業務の円滑な運営を確保する観点から研修受講や年次休暇の取得の必要性や緊急性を確認したものと認められ、
通常の業務遂行の範囲と認められる。
○請求者は官職に必要な適格性を欠くものではないとする請求者の主張について
仮に請求者が欠勤の是非を弁別する能力を欠くような場合には、分限処分に当たって慎重な手続や判断が求められるところ、
念のため、この点を検証すると、請求者は、主治医より通院の必要はないと診断された後、失踪するまで特段変わった様子は
認められないこと、請求者は、欠勤を続けると免職になることを認識しつつ職場に連絡を取らなかった旨陳述していることなど
からすれば、欠勤の是非を弁別できたと見るのが相当である。したがって、請求者は、1 か月以上にわたり失踪し、勤務を欠い
たものであり、ほかに考慮すべき諸事情等は認められないことから、国家公務員としての官職に必要な適格性を欠くと見るのが
相当である。
したがって、請求者の主張は認められない。
(平成 27 年 9月4日 指令 13 - 27)
(4)分限免職処分(処分を承認したもの)
(事案の概要)
処分者は、A 所 B 官として勤務していた請求者に対し、事務処理誤りや C に対する誤指導を繰り返すなどして、2 年間の人事評価
(能力評価 2 回及び業績評価 4 回)の全体評語が全てD(5 段階のうち最下位)となり、また、道路交通法違反による現行犯逮捕
等による懲戒処分を受け、上司に対して言い訳や反抗的な態度を繰り返し、職務命令を拒否するなどの言動を行い、警告書によ
り勤務実績不良及び適格性欠如の状態について改善を求めたが、改善されることがなかったとして、分限免職の処分を行った。
(不服の要旨)
1 2 年間、事務を適切に処理しており、勤務実績不良又は適格性欠如と評価されるような行動はとっていない。
2 請求者に対して警告書の交付が 3 回行われているにもかかわらず、弁明の機会は 1 回しか付与されておらず、本件処分の手続
には瑕疵がある。
186
(判定の要旨)
○不服の要旨 1 について
請求者の勤務状況は、定められた事務処理手順に従わず、C 等に対して誤った回答や指導を行い、事務処理の初歩的な誤り
を発生させ、上司に対し言い訳をし、反抗的な態度をとったものと認められることから、6 回の評価の全体評語を全てDとされ
たことには相応の理由が認められ、請求者の勤務実績が不良なことは明らかであったと認められる。
また、請求者は、交通事故について虚偽の報告を行い、免許証提示義務に違反して現行犯逮捕され、報告義務に反して適
切に報告しなかったものであり、また、上司からの再三にわたる注意や指導にかかわらず、警告書を 3 回交付されてもその言
動に改善が見られないことからすると、もはや矯正することは不可能であって、国家公務員としての官職に必要な適格性を欠い
ていると見るのが相当である。
○同 2 について
弁明の機会については、警告書が複数回交付される場合であっても、処分の前に 1 度与えられればよいものと解されており、
これは、処分の内容及び理由を示した上で弁明を聴取することにより処分の適法性、妥当性を担保することがその目的であるた
めである。処分者は、最後の警告書で勤務実績不良及び適格性欠如の具体的事実並びにその状態が改善されない場合には分
限免職処分になる可能性がある旨を記載し、その際、弁明の機会を付与する旨を伝えており、また、実際、請求者は、これに
対して弁明書を提出し、説明の機会を付与されていることからすると、本件処分の手続に何ら違法、不当な点は認められない。
(平成 28 年 3月18日 指令 13 - 11)
(5)転任処分(処分を取り消したもの)
第1編
第
(事案の概要)
処分者は、A 所長として勤務していた請求者に対し、平成 27 年 4月1日付けで B 局 C 部 D 課 E 官への転任の処分を行った。
(不服の要旨)
請求者はこれまで B 局において課長級の職制上の段階に属する官職を経てきているが、本件転任処分によって就くこととなった
E 官は B 局において課長補佐級の職制上の段階に属するものであり、請求者は了承していないこと等から、本件転任処分は請求者
の意に反して行われた降任又は著しく不利益な処分に該当する。
部
3
平成
(判定の要旨)
本件転任処分は、規則 8 - 12(職員の任免)第 26 条第 3 項において、職員の同意が得られた場合等を除いて回避義務が課せ
られている、「職員がかつて属していた部局又は機関等で占めていた官職より当該部局又は機関等の下位の職制上の段階に属す
る官職」への転任に該当する。当該転任の同意は必ずしも書面による必要はないが、請求者のメールの文言や、処分者側が不適
切な説明をしていたことからすれば、請求者が明確な同意の意思表示をしたと見ることは困難である。また、仮に、処分者側が
同意があったと受け止めたとしても、処分者側から請求者に対して不適切な説明がなされたことは明らかであり、請求者が本件転
任処分の内容について十分に理解した上で自由な意思に基づき同意したものと見ることは到底できない。本件転任処分は、必要
な手続を経ることなく職員の意に反する降任処分に相当する著しく不利益な処分を行ったものであり、違法、不当であるため、取
り消すのが相当である。
(平成 28 年 2月24日 指令 13 - 4)
年度業務状況
27
資料 7-2 行政措置要求事案関係
1 処理状況
区分
年度
(単位:件)
処理件数
受付件数
判定
容認
棄却
取下げ・
却下
計
繰越件数
合 計
23
8
0
0
0
8
8
6
24
12
0
0
0
8
8
10
25
7
0
2
2
6
8
9
26
7
2
0
2
4
6
10
27
4
1
3
4
7
11
3
(注) 容認には、一部容認を含む。
2 平成 27 年度の判定例(要旨)
(1)パワー・ハラスメント等の排除要求事案(要求を棄却したもの)
(事案の概要)
要求職員は、上司からパワー・ハラスメントや嫌がらせ(以下「パワハラ等」という。)を受けているとして、上司のパワハラ等
をやめさせることを要求している。
(要求の理由)
上司(部長、室長及び所長等)からのパワハラ等をやめさせること。
(判定の要旨)
1 当院が、関係者からの証言、要求職員から提出のあった録音などに基づき調査した結果からすると、部長、室長及び所長から
要求職員に対してパワハラ等がなされたり、現在においてもなされているとは認定することができない。
2 任命権者ないし当局においては、パワハラ等のない職場環境の整備に常に取り組む必要があることは当然のことであるが、要
求職員に対する上司の言動がパワハラ等に該当するとは認められないことから、本件行政措置の要求については、これを認める
ことはできない。
(平成 27 年 5月29日判定)
187
第7章
公平審査
(2)専門スタッフ職の処遇改善要求事案(要求を一部容認したもの)
(事案の概要)
要求職員は専門スタッフ職俸給表適用職員(以下「専スタ職員」という。)であるところ、同人の給与、勤務環境等の改善及び
専スタ職員に係る各種制度の改善を要求している。
(要求の理由(主なもの))
1 要求職員の給与について、専スタ職員に異動する直前に受けていた給与と比較して不利益が生じない給与水準とすること。
2 人事評価の面談を適切に実施すること。
3 外勤や出張をする場合に必要とされている許可の手続を緩和し、専スタ職員として必要な外勤等ができるようにすること。
4 専スタ職員への異動に際して十分な説明と意向打診を行うこととする事前手続等を整備すること。
5 専スタ職員の勤務時間について、裁量勤務制を導入すること。
6 専スタ職員の兼業について、営利企業一般を対象とするなど兼業先の範囲の拡大を図ること。
(判定の要旨)
1 専スタ職員への異動に伴う給与の減少は、要求職員の職務と責任の内容に変更がなされたことに伴うものであることから、国
公法第 62 条に定める職務給の原則に照らして相応なものである。
2 要求職員と当局が裁判で係争中であることを理由に期末面談の実施時期を遅らせることや、期首面談を実施しないことは認め
られず、要求職員に対する人事評価の面談は適切に実施されてきたとはいえない。当局は、今後の人事評価において、要求職
員に対する面談を適切な時期に実施すべきである。
3 専スタ職員は、行政の特定の分野における高度の専門的な知識経験に基づき調査、研究等を行う職員であるものの、外勤等
を自由に行うことまで当然に認められるものではなく、当局が外勤等の趣旨、目的について事前確認を行うことには合理性があ
る。
しかしながら、当局が、要求職員からの全ての外勤等の申出について、その趣旨、目的が外勤命令簿等の記載内容から詳細
に確認できなかったとして不許可としたことから、それ以降は、要求職員が外勤等の必要性を感じながら、もはや外勤等は許可
されないとしてその申出自体を行っていない状況は、専門スタッフ職制度の趣旨に照らして望ましい状態とはいえない。
今後、要求職員からの外勤等の申出があった場合には、当局は、それに対して一律に厳しく対応するのではなく、要求職員に
対して必要な職務上の命令又は指導を行った上で、それぞれの申出内容に応じた必要な範囲内での確認を行い、業務上必要と
認められる外勤等については、それができるよう配慮すべきである。
4 人事異動は、任命権者がその裁量において行うべき事項であり、派遣など身分関係の基礎に大きな変動がある場合を除き、
職員の同意を前提として当局の裁量を法的に制約することは適当ではない。また、任命権者が円滑な人事管理に資すると認める
場合に意向打診等を行うことは望ましい運用であるが、各行政機関の人事管理の実情は大きく異なることから、それを任命権者
に一律の手続として課すことは適当とは認められない。専スタ職員への異動に限らず、給与の減少を伴う場合も含めて、国家公
務員の異動には様々なものがある中で、専スタ職員について特別に一律の手続を整備する必要性は認められない。
5 専スタ職員は政策の企画及び立案等を支援する業務に従事する者である以上、行政機関の業務体制や、政策の企画及び立案
等を行う職員の勤務時間との関係についても考慮する必要がある。専スタ職員については、制度においても各府省の判断でフ
レックスタイム制による弾力的な運用やテレワークを活用した在宅勤務も可能となっている。これらのことからすると、専スタ職員
については、まずは各府省において、それぞれの実情を踏まえ、現行制度の枠内で必要な対応を検討することが適当であり、専
スタ職員について直ちに裁量勤務制を適用する必要性は認められない。
6 国公法第 103 条及び第 104 条の兼業規制が設けられた趣旨は、職務専念義務、職務の公正な執行及び公務の信用の確保にあ
り、減収の補填のために兼業規制を緩和することは認められない。
(平成 27 年 11月4日判定)
資料 7-3 災害補償審査等申立事案関係
1 処理状況
区分
(単位:件)
処理件数
受付件数
判定
繰越件数
容認
棄却
計
取下げ・
却下
23
30
5
12
17
3
20
66(1)
24
14
5(1)
7
12(1)
2
14(1)
66
年度
合 計
25
16
8
15
23
2
25
57
26
22(1)
4
34
38
2
40
39(1)
27
9(1)
6
27(1)
33(1)
3
36(1)
12(1)
(注)1 ( )内の数字は福祉事業措置申立事案の件数を内数で示す。
2 容認には、一部容認を含む。
2 平成 27 年度の判定例(要旨)
(1)心身不調状態、適応障害等に係る公務上の災害の認定(申立てを容認したもの)
(事案の概要)
申立人は、心身不調状態、適応障害等と診断されたが、実施機関に、長時間の超過勤務を行った時期が発症時期の直前では
ないこと等から、従事した業務と当該疾病の発症との間に相当因果関係は認められず、公務上の災害ではないと認定された。
(申立ての要旨)
部下に対する配慮を欠く厳しい上司の下で深夜勤務を含む長時間の超過勤務等を強いられるなどの過酷な勤務状況に置かれ、
疲労が蓄積して疾病を発症したのであるから、公務上の災害と認められるべきである。
188
(判定の要旨)
・ 申立人は、係のシステム関連業務を主に 1 人で担当し、また、他の係のプログラム修正等をサポートする役割も担い、正確
性等が求められ、日常的に一定の精神的負荷の下、業務を処理していたことが認められる。また、上司からの威圧的発言等が
あった可能性は否定できず、申立人は精神的緊張を強いられながら業務を行っていたものと認められる。
・ このような中、申立人は、平成 14 年度において、当時の人事院通知に基づく超過勤務の上限の目安時間を大幅に超える850
時間超の超過勤務を行っており、同年 7月には月200 時間程度、同年 8月には月150 時間を超える超過勤務を行うなど同年 6月
から9月にかけて終電で帰れない状態や週休日の出勤が続き、その後も引き続き深夜勤務も含めて相当程度の超過勤務を行っ
ており、さらに同年末から発症月である同 15 年 2月にかけて超過勤務時間数が増加しており、業務上の負荷は極めて大きかっ
たと認められる。
・ 加えて、申立人は、平成 14 年 8月頃、上司の指示による急きょのデータ作成等通常行わない困難な業務に従事したことが認
められ、当該時期に極度に長時間の超過勤務を行っていることからすれば、これらの作業により、申立人は強度の精神的負荷
を受けていたと認められる。さらに、同年 10月以降も、新規調査プログラム作成業務を通常業務に加えて担当することとなり、
その後も一定の負荷を受けていたと認められる。
・ これらのことから、申立人が本件精神疾患発症前に従事した業務は過重なもので、申立人は精神的及び肉体的に強い負荷を
受けて本件精神疾患を発症したと認めるのが相当であり、申立人の申立てに係る災害は、公務と相当因果関係をもって発生し
たものと認められるので、公務上の災害と認定すべきである。
(平成 27 年 10月30日 指令 13 - 37)
第1編
第
(2)鬱病に係る公務上の災害の認定(申立てを容認したもの)
(事案の概要)
申立人は、新設した教育課程を担当する主任教官として勤務していたところ、鬱病と診断されたが、実施機関に、体制整備が
できていたこと、超過勤務時間は著しく多くはないこと等から、従事した業務によって精神疾患を発症及び増悪させたものとは認
められず、公務上の災害ではないと認定された。
部
3
平成
(申立ての要旨)
申立人は、慣れない中での業務量の多さに加え、業務体制の不備や上司の言動等を要因として、長時間に及ぶ超過勤務の継
続による疲労と過重なストレスがあったために本件精神疾患を発症したものであり、公務上の災害と認められるべきである。
(判定の要旨)
・ 申立人は、教育課程の開講当日に主任教官として新規採用され、新しい教育課程の主担当となったところ、相当程度の業務
量の負荷があったこと、外部教授からの指導や他部の併任者による協力はあったが、新規採用者である申立人に新規事業を主
担当として行わせるには支援体制が不十分であったこと等が認められる。
・ 申立人の超過勤務時間は、採用から本件精神疾患発症の 6 か月前までの半年間は 146 時間 30 分とされているものの、鍵受渡
時間でみた在庁時間は、多くの月で 150 時間を大きく超え、30日の週休日等における出勤を含め、計約 900 時間にも達してお
り、また、本件精神疾患発症前 6 か月間についても、277 時間 45 分とされているものの、在庁時間は、申立人が研修に参加し
た同年 8月を除き、各月100 時間を超え、19日の週休日等における出勤を含め、計約 730 時間にも上っている。
・ 申立人及び関係者の供述からすれば、申立人は、多くの業務作業を抱えながら、仕事に対する責任感から職場に残って何と
か業務を処理しようとしていたものと認められ、このような在庁の多くは、上司の具体的職務命令ではないとはいえ、業務の必
要性に基づくものであると見ざるを得ない。
・ 長時間の在庁が漫然と許容されてきたのは、申立人の勤務時間を管理する上司は教育課程の内容に関わる具体的な運営に
携わっておらず、他方、外部教授らは申立人の勤務状況を把握する立場にないという関係の下で、申立人の勤務状況について
これらの者の間で連携を図る体制が組まれていなかったことに大きな要因があると認められ、このような当局の人事管理上の対
応には問題があったと言わざるを得ない。
・ 上司等の言動については、申立人を育てていこうという真意からのものであったとしても、採用後間もない、業務に習熟して
いない申立人にとって、一定の精神的な負担となった可能性は否定できず、また、通常の業務指導の範囲を逸脱しているとは
いえないものの、仕事が思うように進まない中で長時間の在庁を続けていた申立人にとって、一定の精神的負荷となったものと
認められる。
・ 以上を踏まえると、申立人は、厳しい職場環境の下、従事した業務によって、強度の精神的及び肉体的負荷を受けて本件精
神疾患を発症したと認めるのが相当であり、申立人の申立てに係る災害は、公務と相当因果関係をもって発生したものと認めら
れるので、公務上の災害と認定すべきである。
(平成 27 年 12月4日 指令 13 - 42)
年度業務状況
27
(3)鬱病に係る公務上の災害の認定(申立てを棄却したもの)
(事案の概要)
申立人は、上司からのパワー・ハラスメントや従事した業務によって鬱病を発症したとしているが、実施機関に、鬱病の発症は
公務との間に相当因果関係はなく、公務上の災害ではないと認定された。
(申立ての要旨)
上司であるA 課長からのパワー・ハラスメントや慣れない仕事により精神疾患を発症したものであるから、公務上の災害と認め
られるべきである。
189
第7章
公平審査
(判定の要旨)
・ 申立人が A 課長から怒鳴られたり、「辞職願書け。」と言われたりしたところを見た者はいないが、関係者の供述によれば、A
課長は誰に対しても注意や指導をする際の言い方がきつい管理職であるといわれていることから、そのような事実があった可能
性は否定できない。
・ しかしながら、①申立人は、業務の処理スピードが遅く、非常勤職員を指導する立場でありながら指示ができなかった旨供述
していること、②「辞職願書け。」との言動については、申立人が A 課長から執拗に迫られて辞職した事実は認められないこと、
③申立人の供述からも同課長から業務上の注意や指導を超えたひぼう中傷があったとは認められず、当時の関係者も同課長の
言動を日常の業務指導の範囲内であると認識していることから、申立人が A 課長からの注意や指導に関して、一定の負担感を
もったことは認められるが、A 課長の言動を本件精神疾患を発症させるに足る強度の精神的負荷として評価することはできない
ので、申立人の申立てに係る災害は、公務と相当因果関係をもって発生したものとは認められない。
(平成 27 年 10月14日 指令 13 - 36)
(4)心室細動による院外心肺停止(死亡)に係る公務上の災害の認定(申立てを棄却したもの)
(事案の概要)
申立人の夫(以下「本人」という。)は、自宅で倒れているところを申立人に発見され、救急搬送された病院で死亡し、心室細
動による院外心肺停止(以下「本件疾病」という。)と診断されたが、実施機関に、公務と心室細動との間に相当因果関係が認
められないので、本件疾病は公務上の災害ではないと認定された。
(申立ての要旨)
本人は長期間にわたる長時間労働、担当する業務の精神的ストレス等により本件疾病を発症したものであるから、本件疾病は
公務上の災害と認められるべきである。
(判定の要旨)
・ 本人は、昭和 61 年以降、高血圧の治療を継続し、また飲酒及び喫煙の生活習慣があり、健康診断でも指導されていたことか
ら、本件疾病発症に係る素因を有していたと認められる。
・ 業務の質的な過重性について見ると、特に困難度の高い業務、ないしは本人が全てに対応しなければならない状況にあった
とは認められないこと等から特に過重なものであったとは認められない。
・ 業務の量的な過重性について見ると、超勤命令簿上本人の死亡前 6 か月間の超過勤務時間は、最も多い月でも50 時間未満、
死亡日前 3 か月間は 1 か月当たり10 時間未満にとどまっており、常態的に長時間の超過勤務の実態があったものとは認められず、
また、本人は作業の一部を持ち帰って行っていたと考えられるものの、常態的に自宅で長時間に及ぶ超過勤務を行っていたとは
認められない。
・ 以上のとおり、本件疾病発症前に本人が従事した業務により、強度の精神的又は肉体的な負荷を受けたものとは認められな
いことから、申立人の申立てに係る災害は、公務と相当因果関係をもって発生したものとは認められない。
(平成 27 年 12月2日 指令 13 - 41)
(5)左脛骨骨幹部骨折等に係る障害等級の決定(申立てを棄却したもの)
(事案の概要)
申立人は、勤務終了後、託児所に預けた子供を迎えに行く途上において、自転車で交差点を横断中に自動車と衝突し、左脛骨
骨幹部骨折等と診断され、実施機関に、通勤による災害と認定され、治癒時において残存する障害については、障害等級第 14
級に該当すると決定された。
(申立ての要旨)
左下肢の痛みのために左足に荷重をかけられなくなり、重い物を持つことができないなどの障害の実情を踏まえれば、左下肢
の疼痛等感覚障害の程度は、障害等級第 12 級に決定されるべきである。
(判定の要旨)
・ 疼痛等感覚障害については、障害等級第 12 級と判断するには、治癒時において残存した障害の程度が、「通常の労務に服す
ることはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの」に該当する必要があり、申立人がそのような疼痛
を申し立てていることを前提に、エックス線画像等において症状を裏付ける他覚的所見が基本的に必要となる。
・ 申立人の左下肢の疼痛については、本件のような骨折が治癒した場合、医学経験則上、通常の労務にある程度差し支えのあ
るほどの強度の疼痛が生じることは通常はないとされており、治癒時のエックス線画像においても、左脛骨等は完全に骨癒合し
ており、治療部位を含めて変形等も認められず、通常の労務にある程度差し支えのあるほどの強度の疼痛を裏付ける他覚的所
見は認められないので、障害等級第 12 級と判断することはできず、したがって、障害等級第 14 級となる。
・ 左膝関節の機能障害については、左膝関節の可動域の測定において、主要運動である屈曲・伸展(他動)で約 18.5%の可
動域制限が認められるが、これは 4 分の 1 未満の制限であることから、等級外となる。
・ 左下肢の醜状障害については、後遺障害診断書によれば、左下肢の膝関節以下の部分に色素沈着が 1 か所、線状痕が 5 か
所認められ、これらのうち、色素沈着については、10 × 15cmとされていることから、手のひらの大きさの醜い痕を残すものに
該当し、障害等級第 14 級となる。そのほかに、8cm の線状痕が 1 か所、4cm の線状痕が 4 か所あるが、色素沈着と合わせて
見ても、準用等級第 12 級とされる一下肢の露出面の全面積に及ぶ程度の醜状を残したものには該当しない。したがって、申立
人の左下肢の醜状障害については、障害等級第 14 級となる。
・ 以上のとおり、本件災害に係る障害は、それぞれ左下肢の疼痛等感覚障害(第 14 級)及び左下肢の醜状障害(第 14 級)と
なり、障害等級に該当する程度の障害が 2 以上ある場合の障害等級は、重い障害に応ずる障害等級によるとされていることから、
障害等級第 14 級となるので、申立人の申立てを認めることはできない。
(平成 27 年 5月15日 指令 13 - 17)
190
資料 7-4 給与決定審査申立事案関係
1 処理状況
区分
年度
(単位:件)
処理件数
受付件数
決定
容認
棄却
23
27
1
24
21
0
25
27
1
26
25
0
27
15
1
取下げ・
却下
計
10
繰越件数
合 計
11
16
27
29
6
6
7
13
37
10
11
9
20
44
17
17
12
29
40
30
31
6
37
18
(注)容認には、一部容認を含む。
2 平成 27 年度の決定例(要旨)
第1編
第
(1)昇給区分の決定(申立てを棄却したもの)
(事案の概要)
・ 申立人は、平成 25 年 1月1日付け昇給に関し、同 24 年 4月1日から9月30日までの評価期間の業績評価の全体評語を Cとさ
れたことから、昇給区分を Dと決定された。
・ 申立人は、平成 26 年 1月1日付け昇給に関し、同 24 年 10月1日から25 年 9月30日までの評価期間の能力評価、同 24 年 10
月1日から25 年 3月31日までの評価期間の業績評価及び同 25 年 4月1日から9月30日までの評価期間の業績評価の全体評語
をいずれもCとされたことから、昇給区分を Eと決定された。
部
3
平成
(申立ての要旨)
日々休むことなく真面目に仕事に取り組んでおり、業績評価及び能力評価の全体評語を下位の区分とされる理由はなく、昇給区
分を D 及び Eと決定されたことは不当である。
年度業務状況
27
(決定の要旨)
・ 申立人は、業績評価の評価期間において、関係課からの各種依頼作業を確実に行うこと、ホームページの英訳見直しを行う
こと等が求められていたところ、作業依頼に対する適切なスケジュール管理ができていない、ホームページの英訳の見直し作業
が相当遅れていることが認められ、この点、申立人も自己申告において認めている。このため、当局が、当該期間に求められ
た役割を一部しか果たしていなかったとして、全体評語を Cとしたことには、相応の理由が認められ、平成 25 年 1月1日付け昇
給に関し、勤務成績がやや良好でない職員に該当するとして昇給区分を Dと決定したことは、適法かつ妥当であると認められる。
・ 申立人は、業績評価の評価期間において、関係課からの依頼作業に対する対応の遅れ等が引き続きあったこと、ホームペー
ジの英訳見直しがほとんどできなかったこと、周知啓発作業に関して業者に不適切な指示を行うなどにより作業日程に遅れを出
したことが認められ、当局が、これら期間に求められた役割を一部しか果たしていなかったとして、全体評語をいずれもCとし
たことには、相応の理由が認められる。
能力評価の評価期間における申立人の勤務状況については、意欲的な姿勢は評価しつつも、課題への的確な対応や計画的
な業務遂行ができず、業務におけるミスが多く、上司が注意、指導しても改善が見られなかった事実が認められ、当局が、求
められる行動が一部しかとれておらず、十分な能力発揮状況とはいえないとして、全体評語を Cとしたことには、相応の理由が
認められる。
以上のことから、平成 26 年 1月1日付け昇給に関し、勤務成績が良好でない職員に該当するとして、昇給区分を Eと決定した
ことは、適法かつ妥当であると認められる。
(平成 27 年 6月19日 指令 13 - 23)
(2)広域異動手当不支給の決定(申立てを棄却したもの)
(事案の概要)
申立人は、平成 23 年 4月1日、人事異動により勤務官署の所在地が A 市からB 市に変わったことから、当局は、申立人の広域
異動手当の支給要件の確認を行い、異動前後の官署間の距離は支給要件を満たすものの、異動直前の住居と判断した B 市内の
自宅と異動直後の在勤官署との間の距離が支給要件を満たさないことを確認し、申立人に対して同手当を支給しないこととした。
(申立ての要旨)
B 市内の自宅における居住は療養のための一時的なもので、異動直前の住居は異動直前まで宿舎費等を負担していた A 市内の
宿舎であり、異動直前の住居である宿舎と異動直後の在勤官署との間の距離は広域異動手当の支給要件を満たすにもかかわらず、
同手当を支給しないのは違法である。
(決定の要旨)
広域異動手当における異動等の直前の住居については、住民票の住所が職員の居住の実態を反映していない場合には居住の
実態をもって判断することになる。
申立人は、従前から転居を伴う異動があっても住民票の転出等の手続をとっていなかったところ、平成 22 年 12月下旬から異動
日まで住民登録のあるB 市内の自宅に 3 か月以上継続して家族と同居しており、その間、宿舎費等の負担は行うものの、退去時の
立会いを除いて、宿舎に立ち寄った実績もなく、かつ、単身赴任手当についても申立人の届出を経て、同 23 年 3月から不支給と
されていることからすると、同月には生活の本拠は B 市内の自宅となっていたと見るのが相当であって、広域異動手当を申立人に
支給しなかったことには何ら関係法令の適用誤りは認められない。
(平成 27 年 9月25日 指令 13 - 34)
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