1995 年 1 月 29 日「第 2 回ティーボールセミナー」より ティーボールの魅力と将来展望 吉村正氏(早稲田大学教授・協会副会長) おはようございます。只今ご紹介いただきました吉村正です。 「ティーボールの魅力と将来展望」ということで約 30 分ほど話をさせていただきます。 まずティーボールの魅力といいますと、次の 4 点を挙げることができるだろうと考えて おります。まず 1 つに、生涯スポーツ・健康スポーツとしてのティーボールであります。 生涯スポーツといいますと、我々はキーワードとして「いつでも・どこでも・誰でも」手 軽に楽しく笑顔でプレーできる、というものでなければならないと考えております。人が 集まるとき、3 つの「間」というものがとても大事だと、社会学や教育学の方では言います。 3 つの「間」とは何か。 「時間・空間・仲間」の「間」です。それはまさしく「いつでも・ どこでも・誰でも」だろうというふうに考えます。 では「いつでも」という点について、どういう特徴があるかといいますと、このゲーム は 30 分間で大体終了するようにいたしました。それは学校教育正課体育の場で将来扱って いただきたいという大きな気持ちと、それから産業レクリエーションの場では例えば昼休 みです。30 分間は昼食をいただく、残りの 30 分はこのゲームをやる。また、アフター5 で 1 試合か 2 試合、野球に極めて類似したティーボールをやり易いようにする。そのためには 30 分前後のボールゲームが妥当だろうと考えたわけです。地域で、親子でやる場合もこれ からの時代は 30 分、もっとやりたければダブルヘッダーにすればよろしいではないかとい うことです。 次に「どこでも」 、つまり場所・空間の点については、只今ビデオをご覧になっておわか りのように、東京ドーム・千葉マリンであれば 8 面やらせていただきました。普通の野球 場であれば 4 面、非常に狭い場所で大勢の人が楽しくできるという魅力があるだろうと思 います。東京都の狭い校庭であってもこのティーボールなら可能であろう、体育館でもで きるだろう、というふうに我々は考えております。そういうようなボールを種々考案いた しました。バットも同じです。もっとわかり易く言いますと「18 対 960」 、これは何を意味 するのかと言いますと、野球場で野球を 3 時間やりますと 18 人がプレーできる。しかしこ れをティーボールに切り替えますと、3 時間で 960 名の人が、野球・ソフトボールの持つ運 動基本動作(打ったり投げたり走ったり捕ったりする活動)を行えるということです。 4 面しか取れなかった場合でも 480 名の人が楽しむことができる。18 対 960、18 対 480 と いう大きな魅力がティーボールにはあるのではないだろうかと考えております。 次に、 「誰でも」という点についてですが、これは幼児から老年まで。幼児・児童・中学 生・高校生・大学生・中高年、もちろんその中には女性も障害者も含まれます。全ての人 がやれるボールゲームにしたい、できるものであろう、というふうに考えております。 また、近い将来は、親子(母子)三代で一緒にやるということも考えております。また、 障害者のルールも作り上げていかなければならないと考えています。これはティーボール の先進国とも言うべきオーストラリア、ニュージーランドでは既に成文化されているから であります。事実、日本のティーボール協会では、昨年、所沢の国立リハビリテーション センターで耳の悪い人のためのティーボールをやりました。また情緒障害のある人、知的 障害のある人を対象にやりました。すごいリアクションがありました。「5 セット借りたい 6 セット借りたい」 、 「そういうボールゲームなんてできるんですか」という感嘆の声を多々 聞かせていただきました。更に我々は、これからいろいろな障害者の人に合わせたルール を考案していかなければならないと考えています。 また一方、情緒障害児・学習障害児(ラーニング・ディサビリティー)の人たちのため にも、東京都では私の仲間の人が中心になって三鷹、八王子、調布、武蔵野等で実験的に ティーボールをやってくださっています。このリアクションも極めていいものをいただい ている次第です。 「スポーツ・フォー・オール」、全ての人にスポーツをしていただきたい、 というのが我々の願いです。これが、まず最初の、生涯スポーツ・健康スポーツとして我々 がこのティーボールを普及したいという大きな願いです。 2つ目は、野球・ソフトボール・ゴルフの底辺拡大に貢献・寄与したい、というふうに 考えております。運動の基本動作、「打つ・捕る・投げる・走る・歩く」、これは先ほどの ビデオで稲生さんの話にもありましたけれども、野球系ボールゲームの持つ非常に大きな 特徴であると考えております。なるほどサッカーも魅力的です。素晴らしいと思っていま す。ファミコンも楽しいゲームだと思います。でも、野球も楽しい、魅力的なんです、そ れを今の子供たちにわかってもらいたい、そういうふうに考えています。今、小学生 100 人に「スポーツは何が好きか」と聞きますと、90 人近くが「サッカーだ」というふうに言 います。我々40、50、60 歳になりますと、そういう反応に比較的鈍くなるんですけれども、 小学校の現場、中学校の現場にはまさにその動きがあるということです。それを救うには 野球・ソフトボールをしている年代の人間が手を貸さねばならないのではないだろうかと 思います。 3 つ目は、プロスポーツとアマチュア・スポーツの交流が可能になることだろうと思いま す。人的交流です。このセミナーでも、稲尾さんがここで語られます。私のような立場の 者も語れます。今までそういう場はなかったように思います。特に私は野球界のことはあ まり詳しくわかりませんけれども、高校野球、大学野球、社会人野球、プロ野球それぞれ 大きな組織で大変魅力的な活動をなされているように思います。それに加えて軟式野球と いうとてつもない大きな組織もあります。それらが別々に活躍されているような気がして なりません。これからはそういう時代ではないでしょう。ベースボール、野球と言えば 1 つにならなければならない時代だと思います。それを 1 つににできるのは、それぞれの組 織にいる方が努力されることも大切ですが、手っ取り早いのはニュースポーツをつくり上 げることだろうというふうに思います。更にそれが進んで、野球連盟、ソフトボール協会、 ゴルフ連盟という垣根も低くしたい。ニュースポーツだからできる、そういうふうに思う んです。 4 つ目の魅力は、国際交流だろうと思います。日本にも多くの方がお越しになるようにな りました。現在、世界のティーボールの流れは 2 つあると言っても言い過ぎではないと思 います。1 つの流れはオーストラリア、ニュージーランド、オセアニアの流れ、もう 1 つは アメリカの流れです。前者は 16 年前から小学校 1 年生~6 年生までをターゲットにして、 非常にしっかりしたティーボールのプログラムが誕生いたしました。その結果、今オース トラリアのベースボールはとても強いチームを持つに至りました。もうご存知だと思いま すけれども、オーストラリアとニュージーランドはクリケットの国です。ベースボールの 国ではありません。イギリス系と言っても言い過ぎではない。そこでベースボールが強く なってきたんです。同じように、ニュージーランドでも 16 年間、小学生にティーボールの プログラムがきちんと組まれました。ニュージーランドはベースボールはほとんど普及し ていないんですけれども、ソフトボールは男子・女子の間に非常に普及しています。 一昨年、そこの男子のソフトボールの 4 番バッターがアメリカのメジャー・リーグにドラ フトされた。それだけ「投げる・捕る・打つ・走る」という基本動作をソフトボールの選 手は持っているわけです。それをアメリカのメジャー・リーグのスカウトマンが目をつけ た。これは何を意味するか。それほどまでに小学生にきちんとした運動の基本動作を教え ることは、将来スポーツ選手になり得る場合でも極めて役に立つということだろうと思い ます。このような大きな流れがニュージーランド、オーストラリアにあります。今、ニュ ージーランド、オーストラリアは夏です。今行かれましたら、あちこちで子どもたちがテ ィーボールをやっている光景に出会えるだろうというふうに思います。 もう 1 つは、アメリカの流れです。ニュージーランドやオーストラリアの加速度的な普 及を見て考え出したのかどうかはわかりませんけれども、アメリカはもうあちこちで、日 本で言う戦前・戦中・戦後からバッティング・ティーを置いて打つということが行われて いました。しかしゲーム化はされていませんでした。それが、1988 年、国際野球連盟(IB A)と国際ソフトボール協会(ISF)の合同プロジェクトで 6 歳、7 歳と、8 歳の 7 月 31 日 までに生まれた子どもたちのみを対象に、ティーボールをやらせるプログラムが誕生した わけです。皆さん方の資料に入れておきましたけれども、アメリカの子どもたちのティー ボールも加速度的に普及しております。 そして、日本です。我々は生涯スポーツとして日本流のティーボールを思考していくと いうふうに申し上げましたけれども、これから国際化の時代ですので、6 歳~8 歳に関しま しては、できるだけアメリカのルールと整合性を持たせていくということをご理解いただ きたいと思います。と同時に、6 歳~12 歳まで、オーストラリア、ニュージーランドのル ールと似たルールにいたしました。そして日本で、3 つ目の流れを、アジアから世界へとい う流れを皆さん方の力をお借りしながら共に歩んでいきたいと考えています。 では日本のティーボールはいかにして育ってきたのだろうか。4 点の魅力を言い終えた後 に、このティーボールの簡単な歴史を尐し披露させていただこうと思います。 一昨年 11 月 22 日、ここでティーボール協会を発足するまでに我々は、14 年間の研究成 果・実践生活を経て今日に至りました。それは何がきっかけになったかといいますと、実 は昭和 52 年、戦前・戦中・戦後、野球系のボールゲームが小学校・中学校・高等学校で正 課体育の中に入っていました。学校教育のソフトボール、ハンド・ベースボール、キック・ ベースボール等の授業がベースになって、社会体育では野球・ソフトボール・ゴルフをや る人が誕生してきたわけですが、昭和 53 年からピタッと野球系の授業がなくなりました。 私どもは「これは 10 年後、15 年後に大変なことになるぞ。野球界・ソフトボール界の危機 が来る」というふうに勝手に判断いたしました。その 2 年後、この協会の専務理事を務め られていらっしゃいます丸山克俊東京理科大学助教授、それから東大の可部さん、教員・ 学生が中心になりまして、大学スロービッチ・ソフトボール研究会―ソフトボールをベ ースボールと読み替えていただいて結構です―を発足させました。どういうことかとい いますと、ピッチャーはゆっくり打ち易いボールを投げようじゃないか、それをバッター が打てば、尐々ボールでもバッターは打ちたいですから打ってくる。打球は内外野に頻繁 に飛ぶ。そういうボールゲームをつくろう。そのためにはどういうボールが必要か、どう いうルールが必要か、何人でやるか、どういう場所が必要かということをズーッと考えて まいりました。その後、明治大学・日本体育大学・学芸大学が参加し、関西では京都大学・ 同志社大学・立命館大学・龍谷大学・関西大学というところの大学の先生・学生が参加し て、十数大学で約 10 年近く実践活動をやってまいりました。その活動は、その都度ベース ボールマガジン社・ソフトボールマガジン・大修館等で発表してまいりました。それがこ の研究会のベースになりました。そして平成元年、実は文部省の方で平成 4 年から小学校 の 3~4 年生でハンド・ベースボールを復活させる、 5~6 年生でソフトボールを復活させる。 平成 5 年から、中学校でソフトボールを復活させる、平成 6 年から高校でソフトボールを 復活させる、体育課を持つ学校では、野球やゴルフをやってもよろしい、というメッセー ジが平成元年に下ったわけです。私はたまたまいろいろな出版社から本を出しているとい う非常に恵まれた環境にいたものですから、多くのところから「では野球・ソフトボール を初心者、小学生に教えるにはどうしたらいいのか書いてくれ、話してくれ」といことで、 全国で結構講習会を持って話しました。随分、論文も評論も書きました。しかしインパク トは弱かったですが、1 つだけ整理できたのは次のことだろうと思います。 平成元年『セット・トス・ミニピッチソフトボール、セット・トス・ミニピッチベース ボール』という論文を発表しました。これは何を意味するかというと、ベースボールやソ フトボールを系統的に教える必要があるのではないだろうか。そのためには、セット・ト ス・ミニピッチだということなんです。セットとは何か。置いたボールを打つなら誰でも 打てるだろうと。これが野球の、ソフトボールの、ゴルフの最初の導入段階だろうと。セ ット・ソフトボール、セット・ベースボールがまず最初にあるだろうと。もう 1 つ、ホー ムプレートの上にボールを置いてそれを蹴ればいい。セットする、キック・ベースボール。 今テレビでやっていますように、ピッチャーがあの重たいボールを転がすのではなくて、 セットしてそれを蹴る。幼児でも小学生でも蹴れるだろうと。そして、そのボールを内野 手・外野手が捕れば、野球・ソフトボールの学習ができるだろう。それがまず導入段階だ というふうに考えたわけです。2 つ目は、トス・ソフトボール、トス・ベースボールという ものを考えました。トスとは何か。座ってポンと投げれば、小学校の女性の先生でもスト ライクが入るだろう。そうすると打てるだろうと。バットで打てなかったらラケットで打 てばいい。打つ喜びは味わえるだろうというボールゲーム。もう 1 つは、自分でトスをす る。そして打つ。ハンドベースもこれならできるだろう。文部省が言われるように、3~4 年生の教材にあるように、それができるだろう。その次に考えたのは、ミニピッチ・ベー スボール、ミニピッチ・ソフトボール。短い距離から投げれば、ストライクがなかなか入 らない人でも、お兄ちゃんでも、同級生でも入り易くなる。また、ボールもある。よりソ フトボールや野球に似てくるだろうというふうに判断した。そして卒業すれば次にソフト ボールをやればいい、野球をやればいい、軟式野球でもいい、更にうまくなれば硬式をや ってもいい、競技に行けばよろしいというふうになります。結構インパクトがありました。 それが今、ソフトボール協会ではグリーン・ソフトボールという形で、ソフトボール協会 が受け継いで普及しようと努力してくださっています。そして我々は更に突っ込んで研究 を進めて、最終的にはティー・ベースボールとティー・ソフトボールを一緒にしたティー ボールがいいだろうと思いました。私どもはオーストラリア、ニュージーランドの流れ、 アメリカの流れを知っていましたから、先ほど 4 点の特徴を申し上げましたようにそれに 合わせた形でつくるのが望ましいだろうというふうに判断いたしました。そして海部先生 が言われましたように、このような協会を多くの野球関係者・ソフトボール関係者・教育 関係者・医学関係者・政治家・経済界、野球を愛する全ての方が一緒になって協会にしよ うということでスタートしたわけであります。 これから将来に向けて、ここに出席されている皆さん方と共にティーボール協会を日本 全土に、そして世界に、トフラーの『第 3 の波』というベストセラーがありましたけれど も、そのようなものにしていかなければならない。そのためにはまず学校の正課体育にも 入るような魅力的なボールゲームに、我々は用具やルールを考案していかなければならな い。やっているときも楽しい、終わった後にはいい汗をかいて笑顔がでるような、また会 話も持てるような安全で楽しいボールゲームを皆さん方と一緒につくっていくこと、これ がまず大きな使命かなと思っています。 2 つ目は、これを社会体育の場で普及しなければインパクトはないだろうと。そのために は連盟だろうと。東京都連盟・神奈川県連盟・埼玉県連盟、47 都道府県連盟だろうと。そ して連盟ができたならば、そのまた地方の、例えば東村山連盟というように考えているわ けです。そのためには、皆さん方の大きな力が必要だろうと思っております。その結果、 冒頭申し上げましたように、生涯スポーツとか野球・ソフトボール・ゴルフの底辺拡大と か、プロ・アマの壁の打破、国際交流、そういう夢が実っていくであろうというふうに思 います。今日はお集まりの皆さん方の強い力、豊富な知識、熱い情熱、経験、野球・ソフ トボール・ゴルフへの愛、そういうものを一緒にさせていただいて、日本で大きな波を起 こしてみようじゃありませんか。我々はもっともっと大きな夢を追いたいというふうに思 っております。ありがとうございました。
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